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anko1548 よわいものいじめはゆっくりできないよ!(前編) anko1744 よわいものいじめはゆっくりできないよ!(中編-1) anko1745 よわいものいじめはゆっくりできないよ!(中編-2) anko2170 よわいものいじめはゆっくりできないよ!(後編-1) anko2171 よわいものいじめはゆっくりできないよ!(後編-2)
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家族を作るということは、ゆっくりにとって最上の生存目的である。 人間と同じく、身体的精神的な快楽を求めて生きるのがゆっくりだが、 その中でも、つがいを見つけて子供を作り、家族で団欒する幸福は、 大多数のゆっくりにとっては、ゆん生において何よりもゆっくりできる至高の幸せだ。 愛しい夫と、妻と、愛の結晶である子供を成し、 互いに愛を確信しながら、身を寄せ合って共に生きる。 少なくとも、あまあまも玩具も知らない野生のゆっくりにとっては、 それ以上のゆっくりは想像できないのが通常だ。 飼いゆっくりを訓練する際も、 「家族を作る」という目的意識を「人間をゆっくりさせる」にすり替える過程において、 大多数の時間と労力が費やされる。 実際のところは、こうしたゆん生観の大転換が成功するほうが稀であり、 ほとんどのゆっくりが、ゆっくりとしての本能を捻じ曲げることに失敗して他の用途に回される。 ゆっくりショップに並んでいるような、多種の生物である人間の幸福を望み奉仕するゆっくりのほうが異常な洗脳饅頭なのだ。 それでさえ、多くは飼われているうちに種族の本能がぶり返して自分の子供を作ろうとし、 その結果人間に「ゲス」と呼ばれ、処分されることになる。 それほどにゆっくりにとって、自分で作る家庭とはかけがえのないものなのだ。 今、両親にとってその家庭は地獄そのものだった。 自らの手で、せせら笑いながらゆん生をズタズタにしたわが子が、 家族から離れて佇み、いつも氷のような視線で自分たちを見つめていた。 帽子と左目のない、全身傷だらけの子まりさは、 いつも意思とは無関係にうんうんとしーしーを垂れ流し、そこらに打ち棄てていた。 「おちびちゃん……きれいきれいしようね……」 垂れ流される便を、両親はかいがいしく処理した。 丹念にぺーろぺーろして床の便をかき集めて庭に捨て、子まりさの体表にこびりつく汚れを舌で落とした。 かつて赤ゆっくりだったころにもそうしてあげていたものだが、 「お前らが原因なんだから当然だ」というように、無表情でされるがままになっている子まりさの介護は、 とてもかつてのように心楽しいものではなかった。 両親のどちらかが近づくたびに、子まりさはナイフのような言葉で心をえぐってきた。 「やっちょころしちぇくれりゅの?」 「きょんどはみぎのおめめもとりゅの?」 「ぷーすぷーすしゃんはもうあきちゃの?」 その度に、両親は何度も何度も詫びるのだったが、子まりさは聞きもしなかった。 ただ死を望むばかりだった。 食事は日に二度、お兄さんが持ってきてくれた。 持ってくるのは二度だが、ゆっくりは通常、日に四、五回ほど食事をする。 充分な量の食事を、両親がきちんと配分して分配した。 もちろんのこと、子まりさにも平等どころか、むしろ多めに分配した。 持っていくたびに、生きる気力のない子まりさに両親は頭を下げて何度も食事するよう懇願し、 もはや家族を責め立てることにしか生き甲斐を見出していないらしい子まりさは、そうしてようやく口をつけるのだった。 楽しかるべき家族の食事はもはや団欒のときではなく、 こちらを睨みながら隅で佇んでいる子まりさに気兼ねしながら耐える苦痛のときでしかなかった。 自分達でずたずたにした我が子の前で、呑気に「しあわせーっ」などと叫ぶことなどできるはずもない。 食事時に「しあわせ」と発声できないことは、ゆっくりにとって想像以上のストレスである。 憎悪の篭った視線に射られながら口に運ぶ食事に味はなかった。 必死に詫び、乞い、なだめ、すかし、 両親は子まりさを家族の輪に入れようとしたが、 「またぷーすぷーすしゃんすりゅの?」 「まりちゃをこんにゃにしちゃゆっくちたちと、にゃにをしゅればいいにょ?」と言われては、 それ以上強いることもできなかった。 確かに、ゆん生がめちゃくちゃになるほどの暴行を受けた相手に囲まれ、さあ仲良くしろなどとは言えない 子供たちも、最初の頃こそ子まりさに詫びて泣いていたが、 子供は正直なもので、はっきりと口にこそ出さないものの、 時間がたつごとに便にまみれて臭気を放つようになった子まりさを疎んじる素振りが見えはじめた。 今では親以外、子まりさを食卓に誘う気配は見えない。 それどころか、言葉の端々に不穏なものが見え隠れしはじめた。 「じびゅんでこにゃいっていっちぇるんだから、あんにゃのほっといちぇいいのに……」 「おきゃーしゃん、まりちゃのごひゃんしゃん、おおしゅぎにゃい? どうしぇじぇんぶたべにゃいよ」 「おわっちゃこちょはしょうがにゃいよ!もういいきゃら、れいみゅたちだけじぇゆっくちちようよ!!」 そんな些細な失言にも、両親は強くたしなめ、叱りつけた。 善悪の道理の感覚がまだまだ薄く、贖罪の覚悟がない子供たちは、 両親のそんな叱責を窮屈に感じ、常時ふてくされ気味の態度で、 両親と子まりさから離れて子供たちだけで遊ぶようになっていった。 ベランダの隅から憎悪の視線を向けてくるうんうんまみれの子まりさ。 食事の時以外は両親から離れ、逆側の隅で身を寄せ合ってぼそぼそ喋っている子供たち。 子まりさに対して詫び、他の子供たちを叱りつける以外の会話はほとんどなくなった両親。 あんなに仲睦まじかった家族が、どうしてこんな事になってしまったのか。 夜毎に両親は身を寄せ合い、涙した。 誰を恨むこともできない、全面的に自分たちのせいであり、 あの子まりさがいる限り、家族のゆん生には贖罪しか残されていなかった。 当然、そこに一片のゆっくりもあろうはずはない。 あの時、お飾りのないゆっくりをあれほどに苛めなければ。 せめて目を潰さなければ、ぺにぺにを潰さなければ、まだ子まりさは許してくれたのかもしれない。 いや、きっと許してくれた、あんなにゆっくりできるいい子だったから。 親のまりさとれいむは歯噛みし、涙にくれて後悔しながら、 今は遠い彼方のものになってしまったゆっくりを偲ぶばかりだった。 しかし、それでも救いはあった。 少しずつバラバラになっていく家族の中で、 末っ子の子れいむだけが、根気強く家族を繋ごうとしていた。 姉妹たちに煽られて仕方なしに流されていた末れいむだったが、 この状況に耐えられなかったようで、必死に改善の努力をしはじめた。 両親と一緒になって、子まりさの排便の面倒を見ようとした。 ゆっくりできないうんうんの臭いは末れいむにとって涙が出るほど辛いものだったが、 誠意を見せたい一心で、懸命に口の中にうんうんを詰め込んで運搬した。 両親は止めたが、子れいむは毅然として言った。 「おねーしゃんはもっちょもっちょゆっくちできにゃいよ!! れいみゅのしぇいだきゃら、れいみゅがゆっくちできにゃくてもいいんだよっ!!」 子まりさは何も言わなかったが、 末れいむが自分の世話に参加するようになってからは、両親を責め立てる口数が心なしか減っていった。 姉妹たちと遊びながら、末れいむはこまめに子まりさの方にも顔を出した。 今日はこんなことを話した、こんな面白いことがあった。 返事をしない子まりさに向かって、末れいむは懸命に楽しい話をした。 他の姉妹も、強いて赤れいむを止めようとはしなかった。 通常、こうした目立った単独行動に出る仲間がいれば、 何も行動しない自分たちの後ろめたさを糊塗するために、 「いい子ぶっている」という理屈で攻撃性を剥き出し、苛めの標的にするケースが多いのは人間もゆっくりも同じだ。 しかし、元々性根が家族思いのこの姉妹にはそのようなことはなく、 引け目を感じながらも、子まりさの元に跳ねていく末れいむを黙って見送るにとどまった。 「あのにぇ、あのにぇ、きょうはにぇ、れいみゅおねーしゃんがね……」 「………れいみゅはゆっくちちてていいにぇ」 「ゆっ!?ゆゆっ、ゆっくちちてりゅよ!!まりちゃおにぇーちゃんも…」 「まりちゃのおめめとぺにぺにをつぶちて、みんにゃとゆっくちちちぇ、たのちいよにぇ」 「ゆぐっ…………」 ごく稀に子まりさが口を開いたかと思えば、辛辣な皮肉だった。 その度に末れいむは涙を浮かべて黙り込み、すごすごと引き下がるのだが、 それでも次の日には、また子まりさの元へ跳ねていく。 「おにぇーしゃん、しゅーりしゅーりちていい……?」 「……………」 「……しゅーり、しゅーり………ゆっくち、ゆっくちぃ……」 懸命になって子まりさを元気づけようとする子れいむを、両親は涙を浮かべて見守っていた。 あんなにゆっくりしている子がいれば、子まりさの心の氷もいつか溶けるのではないか。 この家族も、いつか、いつかきっと昔のようにゆっくりできる。 子まりさの心を氷で閉ざしたのはいったい誰なのか、 それは努めて考えないようにし、両親はかすかな希望にすがった。 「しゅーり、しゅーり……ゆぅ、おにぇーしゃんのおはだしゃん、ゆっくちしちぇるにぇ………」 「ゆっくちしちぇにゃいよっ!!」 子まりさが叫んだ。 「こんにゃにきじゅだりゃけでっ!!うんうんまみりぇのおはだしゃんが、ゆっくちしちぇるわけにゃいでしょっ!!」 帽子を捨てて以来初めて、子まりさが感情を剥き出しにしていた。 鬱屈した感情を正面からぶつけられ、末れいむは涙をこぼし、悲しげに目を伏せ、それでも答えた。 「ゆっくち………しちぇるもん……… まりちゃおにぇーちゃんの、おはだしゃん………きじゅだりゃけでも、うんうんでも……ゆっくち、しちぇるもん」 「うしょつくにゃ!!うしょちゅき!! だっちゃられいみゅもぷすぷすしゃれてみちぇよ!!ぺにぺにしゃんつぶちちぇよ!!おかじゃりしゅててよ!!」 「ゆ、ゆ………?しょんにゃ………」 「できにゃいよにぇ!!しょんにゃゆっくちできにゃいこちょ、じぇったいできにゃいよにぇ!! しょんにゃゆっくちできにゃいきゃらだになっちゃら、もうだりぇもいっちょにゆっくちちてくれにゃいもんにぇ!! まりしゃのこちょもゆっくちできにゃいっておもっちぇるくちぇに、ちらぢらちいよっ!!」 「………おにぇー、しゃん………」 末れいむはうなだれ、しばらく黙っていたが、 やがてゆっくりを向きを変えて家に向かっていった。 「もうきょにゃいでにぇっ!!」 子まりさは捨て台詞を吐いたが、その目には何日ぶりかの涙が浮かんでいた。 「おぢびぢゃん!!なにじでるのおおぉぉ!!?」 「やべでっ!!やべでね!!ゆっぐりがんがえなおじでね!!ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛だべえええええ!!!」 ボール箱で作られた我が家のほうから悲鳴が聞こえてきた。 何事かと子まりさが顔をあげると、あの末れいむが家族の制止を振りほどいてこちらへ向かってきているところだった。 その口には、あのぷすぷすさんが咥えられていた。 急速に冷めていく感情を視線に込め、妹の歩みをじっと待つ。 ぴょんぴょんと跳ねながら目の前にたどり着いてきた妹の顔とぷすぷすさんを交互に見て問う。 「しょれが、れいみゅのこちゃえ?」 「ゆっ!しょうだよっ!!」 「………わかっちゃよ。もう、どうでみょいいよ。はやきゅしちぇにぇ」 「ゆっ?ゆーっ、れいみゅ、できにゃいよ」 「……いましゃらにゃにいっちぇるの?」 「れいみゅ、じびゅんをぷーすぷーすできにゃいよ。おにぇーしゃん、おにぇがいにぇ!」 「ゆ?」 子れいむはそう言い、ぷすぷすさんを差し出してきた。 この妹は何を言っているのだ? 自分をぷすぷすして殺すのではなかったのか? それどころか自分に向かって、己を傷つけてくれと頼んでいる。 「れいみゅ、おにぇーちゃんといっちょがいいきゃら。 おにぇーちゃんといっちょにゆっきゅりしちゃいきゃら、ぷすぷすしちぇにぇ。 いっぴゃいぷすぷすしちぇ、おめめちょぺにぺにをちゅぶしちぇね」 「…………!!」 キラキラと目を輝かせ、笑顔で末れいむはぷすぷすさんをもう一度自分のほうに押しやってきた。 こいつはわかってない。 ぷすぷすさんがどれほど痛いのか、赤ちゃんを生めなくなることがどれほどの絶望かわかってない。 だから気軽にこんなことが言えるのだ。 思い知らせてやる。子まりさはぷすぷすさんを取り上げた。 しかし、できなかった。 ぶるぶる震えるぷすぷすさんの先を末れいむに向けながら、どうしてもあんよを踏み出すことができなかった。 「……おにぇーちゃん?どうしちゃにょ?」 「……………………」 「………なんぢぇ、ないちぇるの?」 「おぢびぢゃああああああん!!!」 両親が、姉妹たちが、駆け寄ってきていた。 「やべでっ!!おぢびぢゃんはいいがら!! ばりざおぢびぢゃんっ!!でいぶを、でいぶをぷすぷすしでねえええ!!」 「ごべんねっ!!ごべんねっ!!いままできづかなくてごべんねっ!! おどうざんが、いうべきだったのに!!おとうさんが!!ごうじでづぐなうべぎだっだのに!! ゆ゛ぐっ、おぢびぢゃっ!!おどうざんをずぎにじでいいよ!!ごべんねええええ!!」 「おねえじゃーっ!!でいびゅをぷずぷずしちぇえええ!!」 「ばりじゃも!!ばりじゃもおおお!!!」 家族全員が、子まりさに向かって腹を突き出す。 そして口々に、自分を傷つけてくれ、お前と同じようにしてくれと願った。 それを聞くうち、子まりさの口からぽとりとぷすぷすさんが落ちた。 「………お、とーしゃ………おきゃー………しゃ………」 「ハイハイハイ、ご立派!!お見事!!!」 お兄さんの声がした。 「いやあ、すばらしい家族愛でした。スバラシイッ! 償いのために、自らの体を差し出す自己犠牲の精神。ウツクしい。マネできない。 君たちのうるわしすぎる愛情に、お兄さん、涙がとまらないよ」 目元をハンカチで押さえながら、お兄さんは震える声で褒め称えてくれた。 お兄さんの前に並ぶ家族は、互いに視線を交わしながら「ゆふふ」と笑いあう。 子まりさも、まだ表情は硬かったが、一応は両親の傍に並んでいる。その傍らで末れいむがすーりすーりしていた。 「お帽子をなくして、傷だらけになってゆっくりできなくなった子まりさに対して、 決していじめたりせず、分け隔てのない愛を注ごうとする君たちの心根はホンモノだ。 認めざるをえないようだね………今の君たちは、弱い者苛めなどしない、本当にゆっくりしたゆっくりだ!」 「「「ゆゆーっ!!」」」 お兄さんに認められ、一同は満面の笑顔でもみあげやお下げを上げてガッツポーズをした。 「約束どおり、君たちを苛めることはもうしない。 こんな美しい家族を苛めるなんてできるはずがないじゃないか。 明日、森に返してあげよう。沢山のあまあまもお土産に持たせてあげよう。 今日はもう遅いから、あと一晩だけそこでゆっくりしていってくれ」 「ゆっくりりかいしたよっ!!」 「おにいさん、ありがとう!!」 「お礼なんて。むしろお礼を言うのは僕のほうさ。 こんなに心温まる家族愛を見せてもらってとってもゆっくりできたんだからね!」 「ゆーっ!それほどでもあるよっ!」 「おちびちゃん、それをいうなら「ないよっ」でしょ!ゆふふ」 試練を乗り越え、家族たちはこのうえなくゆっくりしていた。 これで家に帰れる。しかも沢山のあまあまを携えて。 子まりさはこんな体になってしまったが、そのおかげで、家族たちのつながりはより強固なものになったのだ。 子まりさを囲んで、これから沢山ゆっくりしよう。愛を交わそう。 両親のれいむとまりさは、万感の思いを込めて頬を交わした。 その夜は、久しぶりに子まりさを家に迎えて、みんなで語り合ってからゆっくりと眠った。 子まりさはまだ口数が少ないが、たっぷり時間はある。ゆっくりと仲直りしよう。 両親は寝る前に、子まりさと、そして末れいむを特別いっぱいぺーろぺーろしてあげた。 皆が寝静まった頃、親まりさはただ一匹、空のお月様を見上げていた。 お月様はまんまるさんだった。それは、今の自分たち家族を象徴しているようだった。 「ゆっくりしていってね………」 親まりさは穏やかな笑みを浮かべて、お月様に挨拶をした。 「「「ゆっくちおきちゃよっ!!」」」 「ゆふふ、おちびちゃんたちはおねぼうさんだね!」 ボール箱の家の中で、目を覚ましたおちびちゃんたちをぺーろぺーろしてあげる。 くすぐったそうに笑うおちびちゃんたちの表情に陰はない。 子まりさは強張ってはいるが、抵抗はしない。 この家で暮らすのも今日で最後だ。 終わってみれば、雨風はしのげるしご飯はお兄さんが持ってきてくれるしでなかなか快適な家だったが、 やっぱり、自分達で狩りをしてこそのゆっくりできる家族だ。 森へ戻れば、沢山の仲間達がまた迎えてくれるだろう。心配をかけちゃってごめんね、ぱちゅりー。 家族は箱を出て並び、お兄さんが出てくるのを待った。 出立が待ち遠しい。 帽子の内側を払ったりしながら、どれだけあまあまを運べるかの胸算用をする親まりさを見て、 親れいむが「ゆふっ」と笑った。 そうこうするうちに引き戸が開いた。 全員がそちらに向き直り、お兄さんに朝の挨拶をする。 「「「「「ゆっくりしていって「じゃおーん!」 「「「「「「ゆゆっ?」」」」」 出てきたのはお兄さんではなかった。 人間さんの頭部に合わせて見上げていた視線を、床すれすれに下げる。 「じゃおーん!じゃおーん!」 少しだけ開けられた引き戸の隙間から現れ、 鳴き声を上げながらこちらに跳ねてくる小さなゆっくり。 「ゆゆっ!ぐずのめーりんがいるよっ!!」 ――――――― 「じゃおーん!じゃおーん!」 「ゆーっ!!めーりんはゆっくりしてないね!!ぐず!!」 「じゃおーん!じゃおーん!」 「れいみゅのぷーすぷーすによいしれちぇいっちぇね!!」 「じゃおーん!じゃおーん!」 「それしかしゃべれないの?ぐず!!のろま!!ゆっくりしね!ゆっくりしね!!」 「じゃおーん!じゃおーん!」 「ゆーん!おちょーしゃん、ちゅぐにきょろしちゃもっちゃいにゃいよっ!! まりちゃ、いっぴゃいあちょびちゃいよ!!」 「じゃおーん!じゃおーん!」 「ゆゆっ、そうだね!おとうさんうっかりしちゃったよ!! ことばもしゃべれないのろまはたっぷりあそんであげないとね!!」 「じゃおーん!じゃおーん!」 「ちゃべれにゃいにゃらおくちにゃんかいらにゃいよにぇ~~? ゆーっ!こうぢゃよ!!ゆーっ!!ゆーっ!!」 「じゃおーん!じゃおーん!」 ゆっくり共が、小さなゆっくりを取り囲んで罵詈雑言を吐き、執拗に痛めつけている。 傷を負ったあの子まりさを除き、八匹全員がリンチを楽しんでいた。 親れいむが子めーりんのもみあげを噛んで持ち上げ、びたんびたんと床に叩きつける。 執拗に口を狙っていた。 「ゆっ!ゆっ!ゆっくりしね!!ゆっくりしね!!」 「ことばもしゃべれないぐずめーりんなんかしかいにはいってこないでねっ!! こどものじょうそうっきょういくっにわるいよ!!」 「「「ぐーじゅ!!ぐーじゅ!!」」」 「じゃおーん!じゃおーん!」 「おめめしゃんぷーす!ぷーす!!ゆっくちくるちんでいっちぇね~♪」 「じゃおーん!じゃおーん!」 子めーりんの両目に爪楊枝が差し込まれ、砂糖水したたる眼球が一気に両方ともえぐり出される。 眼球でサッカーをしながら子ゆっくり共はゆきゃきゃと歓声をあげた。 ふと、親まりさが気づき、爪楊枝を咥えて子まりさのもとへ跳ねていった。 「ゆっ!おちびちゃんもいっしょにあそぼうね!!」 「…………やぢゃ」 「ゆーっ?どうして?とってもたのしいよっ!!」 「………いじみぇて、たのちいの?」 「ゆん!とってもたのしいよ!!おちびちゃんもいっしょにあそぼうよ!!」 「………まりちゃ、やぢゃ。いぢめちゃく、にゃいよ」 「ゆゆぅ?どうしてぇぇ?! おとうさんも、おかあさんも、おちびちゃんといっしょにあそびたいよっ! みんなでいっしょにあそぶからゆっくりできるんだよっ!!」 「そうだよ、おちびちゃん!」「「おにぇーちゃん!」」 親れいむと姉妹たちも、子まりさに駆け寄って必死に誘う。 「ね、いっしょにあそびましょう?おちびちゃんにも、ゆっくりしてほしいの」 「………………たのちくにゃいもん」 「ど、どうして?まえはあんなにたのしく………」 「まりちゃ、やぢゃ!なんかやぢゃ」 「ゆぅぅ………ね、いもうとたちも、おねえちゃんとあそびたがってるよ」 「ゆーっ!おにぇーちゃん、いっちょにゆっくちちようよ!!」 「いぢめ、やぢゃ……わるいこちょだよ……」 「ゆー、れいむ………」 「ゆ、そうだね………かんちがいしちゃったんだね。 ね、おちびちゃん。ゆっくりよくきいてね。 もちろん、よわいものいじめはゆっくりできないことだよ。 おぼうしがなくてゆっくりできないゆっくりだって、いじめちゃいけないよね。 おとうさんもおかあさんも、とってもはんせいしてるんだよ。 でもね、おちびちゃん。むずかしいかもしれないけど、よくきいてゆっくりりかいしてね。 あのね、ぐずのめーりんはれいっがいっ!なんだよ。 のろまで、ことばもしゃべれないめーりんが、だれをゆっくりさせられるの? いきててもめいっわくっしかかけないでしょ?じゃあなんのためにいきてるのかな?かんがえてみようね。 ね、おちびちゃん。あれはいきものじゃないの。おもちゃなの。 めーりんがやくにたつことといったら、みんなのおもちゃになることだけじゃない? だから、めーりんをおもちゃにしてあげることは、とってもゆっくりできることなんだよ!!」 「ゆーっ!!しょうだよっ!!」 「おにぇーちゃん!!いっちょにあちょぼ?」 「ね、おちびちゃん………」 「…………やぢゃ!!やぢゃやぢゃやぢゃああ!!ごわいいいいいぃぃ!!」 「お、おちびちゃん…………」 ついに泣き出した子まりさを囲み、オロオロしだす家族。 僕はそこで出ていくことにした。 「おい、お前ら」 「「「「ゆゆっ?」」」」 一斉にこちらを向き、にぱっと満面の笑顔を浮かべて挨拶してくる。 「「「「ゆっくりおはようっ!!ゆっくりしていってね!!!」」」」 あの時と同じだった。 全く後ろめたさのない、真っ直ぐな瞳。 自分達のする事に一片の疑問ももたず、家族愛に自己陶酔して満ち足りた表情。 吐き気がした。 「いいお目覚めだな」 「ゆーっ!!やっともりにかえれるひだよっ!!きぶんそうかいっ!!だよっ!!」 「あー、その件だけどな、取り消しだ」 「ゆ?……………ゆゆゆゆゆゆゆううぅぅぅぅ!!!?」 不穏な台詞に、ゆっくり共が叫ぶ。 「なんでっ!?なんでなんでなんでええぇぇ!!?やくそくがちがうよおおぉ!?」 「おにーさんっ!やくそくまもってねっ!!うそつきはゆっくりできないよぉ!!!」 「僕は何も約束を破っていない。 言ったはずだ、お前らが弱い者苛めをしないゆっくりになったら、ってな」 「そうだよっ!!まりさたち、もうよわいものいじめなんてしないよっ!!」 「れいむたちをうたがってるのおぉ!?」 「じゃあ、それは何だよ?」 両目をえぐり出され、やはり全身に爪楊枝を突き立てられている子めーりんを指差す。 そんな姿でも、まだ「じゃおーん」と鳴き続けている。 「ゆゆっ?」 きょとん、と子めーりんを見つめる家族。 二回目ともなるとすぐに僕の発言が飲み込めたようで、すぐに難詰してきた。 「ゆゆーっ!!まさか、おにーさんっ!!これもよわいものいじめっていうきなのおぉ!?」 「当たり前だろ………」 「いいがかりだよおぉ!!むちゃくちゃだよおおおぉ!!! こんなのまでいじめちゃいけないのぉ!?なかよくしなきゃいけないのおおぉ!!? だったらっ!!いしさんだっておはなさんだってうんうんとだってなかよくしなきゃいけなくなっちゃうよぉ!! おにーさんっ、きょくたんすぎるでしょおおおぉぉ!!?」 「極端かい?」 「じょうっしきっ!!でかんがえてね!! いじめはよくないけど、こんなのまでだいじにしてたら、ゆっくりいきていけないよっ!!!」 「僕だって生類哀れみの令を発布したいわけじゃない。 同じゆっくりを、苛めるなと言うのが、どうしておかしいんだ?」 「ぐずめーりんなんかゆっくりじゃないでしょおおおぉ!?」 「こんなのゆっくりじゃないよっ!!ごみくずだよ!!! ことばもしゃべれないで、じゃおじゃおいってるだけのごみく――」 僕はそれに被せていた帽子を取り上げ、本来の――末れいむのリボンを取り付けてやった。 「ゆえっ?」 状況を認識するまでに十数秒。このとろさでよく野生で生きているものだ。 いや、死亡率はそうとう高いらしいから妥当か。 「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!」 「………あ゛………あ゛………あ゛…………あ゛………………!!!」 「おでえぢゃあああああああーーーーーーーーーっ」 あとは前回の再現だった。 末っ子れいむの惨状にながながと悲鳴を上げ、パニックを起こし、嘆き、詫び、 ぺーろぺーろできないだのおにいさんなおしてくださいだのと連呼した。 「どうしてわからないんだ、お前らは」 「ゆぐじでっ!!ゆぐじでぐだざいいいいいい!! ばりざが!!ばりざ!!まだいじべばじだああああ!!いじべでじばいばじだああああああ!!!」 「でいぶをごろじでぐだざいいいい!!おじおぎじでぐだざいいいいいい!!!」 「じゃおーん!じゃおーん!」 両目を失ってぴくぴく痙攣している末れいむを持ち上げ、見せ付ける。 「いいか。お前らがこいつをめーりんだと思ったのは、この帽子があるからだな」 緑色の小さい帽子を、もう一方の手でひらひらさせる。 ペットショップで購入した子めーりんの帽子を、ちょっと拝借してきたものだ。 「そして僕が細工した。こいつの口をテープでふさいだんだ」 末れいむの口に貼り付けたマスキングテープを、慎重に引き剥がす。 どうにか唇を破らずに済んだが、執拗に攻撃された口内は歯茎がずたずたに砕け、 ほとんど全て粉砕されたらしい歯の破片が大量に、きらきらと光りながらこぼれ出した。 「……ゆ゛……ぐ…………ゆ゛げぇ……」 「あ゛………あ゛………あ゛あ゛あ゛あ゛…………あ゛………お゛……ぢび、ぢゃ……」 「じゃおーん!じゃおーん!」 めーりんの帽子をひっくり返し、中に仕込んでおいた超小型のボイスレコーダーを見せる。 「じゃおーんの鳴き声は、このレコーダーに記録してループ再生させたものだ。 それだけで、お前らはこの黒い目黒い髪の、しかも我が子をめーりんだと思い込み、虐待した」 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁ………ごべ………ごべんだざ………」 「ぐずのめーりんはれいっがいっ!だってな? 喋れないからゆっくりできない、だから苛めてもいい。そう言ってたな。 じゃあ、もう喋れないこのれいむも潰していいわけだ。さ、いっくぞー」 「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!! ぢがいばずっ!!ぢがいばずううううう!!!べーりんもいぎでばずっ!!ゆっぐじでぎばずうううう!!! じゃべれだぐでぼいぎでる、おなじゆっぐじでずううううううううごべんだざああああいいいいいい!!!!」 「でいぶをごろじでぐだざい!!おでがいじばず!!ぜいっざいじでぐだざい!!おでがいじばず!! でいぶはいぎるがぢのないげずでずっ!!おぢびぢゃんは!!おぢびぢゃんはあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 「いい加減にしろよ、お前ら」 僕に帽子を投げつけられ、びくんと震える家族。 「弱い者苛めはゆっくりできない。ただし帽子のないやつは「れいっがいっ」。 で、子供を苛めてしまい、反省したと思ったら今度は喋れないやつは「れいっがいっ」。 今回のことでもうめーりんは苛めないのかもしれんが、また理由つけて他の「れいっがいっ」で遊ぶんだろう。 髪の色が変だ、目の色が変だ、喋りが変だ、飾りが変だ、いくらなんでもこいつは、いくらなんでもこいつは。 なんとか理由を見つけて苛めを楽しむわけだ、本っ当に苛め好きだなあ、お前ら。 人間の中には虐待お兄さんってのが少なからずいるが、 お前らゆっくりは全員が虐待趣味抱えてんだなあ。まったく、頭が下がるよ」 「………ゆ゛ぐっ………………う゛う゛う゛う゛う゛う゛ぅ……………!!!!」 「詰みだよ、お前ら。たっぷり時間をかけて制裁し、惨たらしく殺してやる。全員な………あ、一匹だけは助けてやる」 「ゆ゛っ!!?」 満身創痍の妹を見つめながら震えている傷だらけの子まりさを取り上げてやる。 「こいつだけは助けてやる。こいつはめーりんを見ても苛めなかった。 自分の身にならなきゃわからなかったとはいえ、なかなか立派なものだ。 こいつだけはもはやゲスじゃない。助けてやろう。 あ、そこの末れいむも検討の価値はあるかな?」 「ゆ゛っ………あじがっ……おに、おにいざ……」 「何だよ」 「おねがい、じばず………ほがの、ほかの………おぢびぢゃんも………」 「駄目だ。見てなかったのか?大喜びでぷーすぷーす。弱い者苛め大好きゲスゆっくりだ。制裁すべきだな」 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛おでがいじばずおでがいじばずおでがいいいいいいい!!! おぢびぢゃんだげは!!ばりざだぢがぜんいんぶんぜいっざいざればず!!おぢびぢゃんだげはああああ!!!」 「いくら子供思いの親アピールされたって、こいつとそいつをここまで痛めつけたのお前らだしなあ」 「あ゛ーーーーーーーーーーっ!!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーーーーーっ!!!!」 完全に八方塞がり、しかも全面的に自分達で退路を断ったその状況に追い込まれ、 両親はもはや泣きながら絶叫するしかないらしかった。 ――――――― 「…………ゆっくり……おはよう……」 目覚め、家族を見回してから挨拶する。 返事は返ってこない。 ただ、疲れきった視線がひととき自分に集まるだけだ。 今日も目覚めてしまった。 もっと長く眠っていたかった。 眠りのまどろみから浮き上がった今、また現実をその目に映さなければならない。 「ゆぅ…………」 親れいむだけが、呻きで反応を返した。 それきり家族の視線は離れ、別の一点に改めて集中する。 「はふっはふっ!!うっみぇ!!まじうっみぇ!!ぱにぇぇ!!」 「まじやべっ!!うみぇっ!!とみゃんにぇっ!!あみゃあみゃ!!あみゃあみゃ!!」 家族が食い入るように見つめるその先では、二人の子ゆっくりが山盛りのあまあまに顔を埋めている。 ベランダには一日かけても食べきれないような量のあまあまが山積みになっていた。 クッキーやチョコレートやプリンを食べ散らかし、一口ごとにあまりの旨さにうれちーちーを漏らす子まりさと末れいむ。 かたや左目とまむまむを失い、かたや両目を失った状態だったが、 極上のあまあまの快楽に脳髄を痺れさせた今、もはや悲壮感は全くなく、 この世の栄華を極めたがごとき恍惚の表情を浮かべていた。 末れいむの砕けた口と歯はお兄さんが再生していた。 「こいつにはお前らにたっぷり言いたいことがあるだろうからな」、それが理由だった。 少しでもあまあまが減れば、お兄さんがすぐに追加する。 二人は昼夜の区別なく、のべつまくなしにあまあまを咀嚼する。 一方、残りの家族は、狭い水槽に閉じ込められていた。 透明な壁が四方を遮る空間に八人のゆっくりがみっちりと詰め込まれ、ほとんど動く余地はない。 あの日から、食事は一切与えられなかった。 唯一、子まりさと末れいむのうんうんとしーしー以外は。 「ゆぷー☆きゃわいいまりしゃがうんうんしゅるよ!!」 「れいみゅのしゅーぴゃーうんうんちゃいみゅだよっ!!きゃわいしゅぎてごみぇんにぇ!!」 子まりさと末れいむはそう宣言すると、わざわざ家族のいる水槽まで這いずっていき、 水槽に向けて尻を上げた。 透明な壁に向かって、二人のしーしーが叩きつけられ、うんうんがひり出される。 子まりさの方は常時うんうんとしーしーを垂れ流している状態だが、 意識して排出すると、こうして勢いよく噴出すのだった。 「おい、どれい!!ごみくじゅどみょにごひゃんしゃんをめぎゅんであげちぇにぇ!!」 「はい、ごしゅじんさま」 二人の傍に常時侍っているのは、ゆっくりさくやだ。 舌ともみあげでスコップと雑巾を器用にてきぱきと使い、専用の容器にうんうんとしーしーを集めていく。 「やしゃちいれいみゅのほどきょしだよっ!!ありがちゃくおもっちぇにぇ!!」 「なんちょかいえ!!ごみくじゅ!!」 二人の罵声に涙を浮かべながら、それでも家族は答えた。 「「「「あり………がどう、ございば……ず………」」」」 「ゆふんっ!!ゆっくちちてにゃいよ!! しょんにゃきょきょろのこもっちぇにゃいおりぇいで、ほどきょしはあげられにゃいよっ!!」 「どれい!!ごひゃんしゃんはぬきぢゃよ!!しゃげちぇにぇ!!」 「ゆ゛あああああ!!ありがどうございばず!!ありがどうございばず!! ばりざざまとでいぶざまのおがげで、ぎょうもごみぐずだぢはゆっぐじでぎばずっ!!!」 家族の懇願を聞きながら、二人の子ゆっくりはにやにやと笑みを浮かべる。 「しょんにゃにうんうんにゃんてたべちゃいにょ?ゆぷぷぅ~~☆」 「うんうんずきのごみくじゅにゃんてゆっくちできにゃいにぇ~~☆」 「ゆ゛ぐう゛う゛う゛う゛ぅ……………!!」 ひとしきり罵倒され、嘲笑され、それをじっと黙って耐えてからようやく食事が与えられる。 さくやが水槽の上部からうんうんとしーしーを一緒くたにして流し込み、 極度の空腹を抱えた家族がそれにかぶりつく。 「うんうんたべちぇるよ!!ごみくじゅがうんうんたべちぇるよぉ!!ゆぴゃぴゃぴゃぴゃ!!」 「くちゃいくちゃい~~♪こんにゃすがちゃでよくいきちぇられりゅにぇ~~☆」 始めの頃は、子供たちが泣き、怒り、反抗したが、 少しでもこの二人に逆らおうものなら、お兄さんの制裁が行われた。 『お前らに怒る権利があるのか、え? 弱い者を苛めて喜ぶゲスのゴミクズに、なんの権利があると思うんだ? こいつが子供を作れないのは誰のせいだ?こいつの目が見えないのは誰のせいだ? お前らがこいつらに向かって、いったいなにを要求する権利があんだよ。言ってみろ』 『ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ごべんだざい!!ごべんだざい!!ごべんだざい!!ごべんだざい!!』 『お前らが自分で言った通り、本当のゴミクズに生きる価値はない。 そんなゴミクズはせめて他のゆっくりのオモチャになったほうが幸せなんだろ? 幸せって言えよ、コラ』 『ゆぶぎゃばああああ!!じ、じあばっ!!じあばぜぇ!! ごんだごびぐずでだのじんでぐれでっ、あじがどっ、ごじゃばじゅうう!!がんじゃじばじゅうううううやべぢぇえええ!!!』 家族の体には、多くの傷が刻み込まれている。 ぷすぷすさんで刺された傷、あつあつさんで焼かれた傷、ぺちぺちさんで皮が破れるまで叩かれた傷。 体表がでこぼこになるほどに傷だらけになった家族は、 今日もお兄さんの制裁に怯えている。 ベランダには数々のゆっくりできる玩具が転がっており、 奴隷としてお兄さんがあてがったゆっくりさくやが、子まりさと末れいむの世話をなにからなにまでしてくれる。 ふかふかしたクッションに横になりながら、二人はさくやの子守唄を聞いて寝息を立て始めた。 うんうんを咀嚼しながら、家族は枯れる気配のない涙をまた一筋流した。 〔続〕
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『よわいものいじめはゆっくりできないよ!』前編 バチィン! 「ゆびゃあああぁぁぁん!!いぢゃいっ!!いぢゃいよおおぉぉぉ!!」 「ゆあああああああ!!おちびぢゃああああああん!!」 バチィン! 「ゆっぴゃあああああああ!!ぼうやぢゃあああ!!おぢょうじゃんだじゅげぢぇぇぇ!!!」 「やべでっ!!やべでねっ!!おぢびぢゃんがいだがっでるよっ!?やべであげでぇぇ!!」 バチィン! 「いぢぃいいいいいいいっ!!?」 ぷしゃあ、という勢いのいい音を立てながら赤まりさは失禁した。 それを見た親ゆっくり共がますます声を上げて赦しを乞う。 「やべでぇぇえええ!!どぼぢでごんなごどずるのおおぉぉ!!?」 「おぢびぢゃんいだがっでるよおぉぉ!!ぼういぢべないでええぇぇ!!!」 「まりちゃおにぇーちゃんをいぢめにゃいでよぉぉ!!ぷきゅーしゅるよっ!!ぷきゅーっ!!」 子ゆっくり共が泣き叫び、膨らんで威嚇してくる。 タコヤキのようにまん丸になっている子ゆっくり共は総勢十匹近く、数えてみたら八匹だった。 手に握りこんだ赤まりさの尻に、さらにデコピンを叩きこむ。 バチィン! 「ゆびゃんっ!!?ゆびゃあぁぁぁ!!いぢゃあああいいいいぃぃぃ!! だじゅげぢぇぇぇ!!だじゅげでよぉぉぉぉ!!!」 「なんでえぇぇ!!?どぼぢでごんなごどずるのおおぉぉ!!?」 「楽しいからだよ」 僕はそこで答えてやった。 「ゆぅぅ!?」 「なんでぇ!!?なんでこんなことがたのしいのおぉぉ!!?」 「楽しいからやってるんだ。お前達みたいなクソ饅頭が、痛い目に遭わされて泣きわめくのを見るのが楽しくて仕方ない。 アホ面歪ませてゆぴーゆぴー泣いて、本当に醜い、弱いクソ饅頭。 お前達を見てると、人間様に生まれることができた幸せを噛みしめていられるんだよ。 いやあ、本当に虐待は楽しいなあ!!」 胸を反らして笑ってみせる僕に対し、親まりさが涙を流しながら反撥してきた。 「ぞんなっ……ぞんなのおがじいよっ!! まりさたちだっていきてるんだよっ!? ちいさなおちびちゃんたちだって、みんなみんなせかいにひとつしかないかけがえのないいのちなんだよっ!!? にんげんさんにくらべればよわいかもしれないけど、ゆっくりだってがんばっていきてるんだよ!! いたいいたいをされたらゆっくりできないよ!!それをよろこぶなんて、ぜったいまちがってるよおおぉ!!!」 「なんでー?なんで間違ってるの?ねぇねぇ教えてー」 バチィン!! 「ぎゃぴいぃっ!!?ぼういや!!おうぢがえるうぅぅ!!!」 「まぢがってるよおぉ!!」 今度は親れいむが声をあげた。 「どぼぢでっ!!?よわいものいじめはゆっぐりでぎないんだよっ!!! みんなしってるよ!!こどものころから、みんなおとうさんとおかあさんにおしえてもらうでしょ!? よわいものをいじめるのはゆっくりできない、わるいことだってえぇぇ!!」 「なんで悪いの?僕は楽しいもん」 「にんげんさんだって、ゆっくりだって、おなじいきものだよっ!! みんないきてるんだから、みんなでいっしょにゆっくりしなきゃいけないんだよっ!!! よわいからいじめていいなんてわるいことだよっ!!!」 「人間なら苛めないよ。人間なら敵対するより協力したほうが得だし、 相手にやり返されたらこっちも被害が出るしね。 でも、お前らなんて役に立たないし、反撃されたって痛くもかゆくもないもん。 はい、もう一発」 バチィン!! 「おぎゃあじゃあああああーーーーっ」 「やべでぐだざいいいぃぃ!!おでがいじばずううぅぅ!!」 「ばりざだぢなんにもわるいごどじでないのにいぃぃ!!」 「弱者は存在自体が悪なんだよ!いじめられても文句は言えないよ!ゆっくり理解してね!!」 「どぼじでぞんなびどいごどいうのおぉぉぉ!!?」 それから、僕はゆっくり共を苛めつづけた。 定規で執拗に尻を叩いたり、爪楊枝でぷすぷす刺したり、髪をつかんで引きずり回したり。 致命傷は与えないように、特に子ゆっくり共を重点的にやる。 子ゆっくりが悲鳴をあげるたびに、親ゆっくりはさらに大きな悲鳴を張り上げた。 「やべでええぇぇ!!おぢびぢゃんだぢをいじべだいでよおおぉぉ!!!」 「なんでっ!!なんでなにもしてないおちびじゃんだぢにこんなにびどいごとがでぎるのおぉぉ!!? おにいざんにはりょうっしんっがないのおおぉぉ!!? ぜったいおかしいよぉぉ!!おにいざんはふつうじゃないよおぉぉ!!」 「そんなに僕はおかしいかな?」 「おかしいよっ!!ゆっくりしてないよっ!!! いきものをいじめてたのしむなんてふつうじゃないよぉぉ!!」 「そうかな?」 「いきものさんはっ!!みんなっ、みんなみんなおともだちっ!なんだよっ!! よわいからっていじめるより、みんなでいっしょにゆっくりしたほうがぜったいゆっくりできるよ!! じぶんだけゆっくりできればいいなんてまちがってるよ!!おにいさんはまちがってるよぉぉ!!」 「あっ、そう」 僕は立ち上がると、 泣き疲れてゆぴぃゆぴぃと呻いている子ゆっくり共を大きなダンボール箱に放り込んだ。 続けて親ゆっくりも投げ込む。 「ゆびぃっ!!」 総勢十匹のゆっくり共が入っても、 もともとはパソコン一式を収納していた箱はスペースにだいぶん余裕があった。 そして、ゆっくり共が痛みにうずくまっているうちに、 箱の隅にケース入りの爪楊枝の束を入れる。 「さて」 僕は、ゆっくり共の入った段ボールをベランダに持ち出し、側面を床に接して置いた。 もう一方の側面が屋根となり、開いた部分が外に面して入り口となる。 野良ゆっくりがよくこのようにして、箱を家にしている。 「ゆゆぅ……?ゆっくちできりゅおうちしゃんだにぇ……」 比較的余裕のある一匹の赤まりさが、涙を浮かべながらもボール箱を見回して鳴いた。 にぱっと顔をほころばせ、お家宣言を行う。 「きょきょをまりちゃたちのゆっくちぷれいちゅにしゅるよっ!!」 「じゃ、君かな」 声をあげた赤まりさを取り上げる。 「ゆぴぃぃっ!?おしょらをとんぢぇるみちゃいっ……にんげんしゃんはいやああぁぁ!!」 「おちびちゃああぁぁん!!?」 「今日からそこがお前達の家だから。あと、この子はもっと苛めるから」 「ゆあああああ!!?やめてくださいっ!! いじめるならまりさにしてくださいいいぃぃ!!そのこはまだちいさなこどもなんですうぅぅ!!」 「れいむをいじめていいですからあぁ!!おちびちゃんだけはあぁぁ!!!」 「やめてにぇっ!!いもうちょをいじめないでにぇええ!!」 「おねーさんのまりさがかわりになるよっ!!まりさはたすけてね!!」 「れいみゅがみがわりになりゅううう!!まりしゃああぁぁ!!」 口々に身代わりを申し出る家族共。 要するに、こいつらは、善良ということなんだろうか。 僕は苦々しい思いでその様子を眺めていた。 「お前たちに決定権ないから。とにかく貰ってくよ。まりさちゃん、一緒にゆっくりしようね~~」 「ゆぴゃあああああぁぁ!!!ゆっぐぢでぎにゃいいいいぃぃぃ!!!」 「おぢびちゃああああああーーーーーーーんっ!!!」 ぎゃんぎゃん泣き喚く家族共を尻目に、 僕は赤まりさを持って家に入るとベランダに面したガラス戸を閉めてしまった。 ――――――― 「ゆうううう……ゆっぐうううぅぅ………どぼじで……どぼじで…… まりさたちなんにもわるいことしてないのにぃぃ………」 「おちびちゃん………おちびちゃあぁぁん………」 「きょわいよぉ、おきゃーしゃぁぁん!!」 ゆっくりの家族は、ダンボールの中で互いに身をすり寄せながら泣いていた。 「ゆっぐ、ゆっぐ……まりさ……まりさ……ぶじでいてねぇ……」 「ごめんね………ごめんね………かぞくをまもれないだめなおとうさんでごめんねぇ………!」 「ゆ、ゆぅぅ……れいむもおなじだよ……れいむも、なにもできなかったよ……… おちびちゃんたち、ごめんねぇ、ごめんねぇ……ゆっくりできないおかあさんたちをゆるしてね……」 「ゆゆーん、どぼしてそんなこちょいうにょぉ~?!」 「おきゃーしゃん、なかにゃいでにぇ!しゅーり、しゅーり……」 「ぺーりょぺーりょしゅるよ!ぺーりょ、ぺーりょ」 「ゆゆぅぅぅ………!ありがとう、ありがとうね……すーり、すーり……」 「おとうさん、がんばるからね………きっとおちびちゃんをとりかえして、 このゆっくりできないにんげんさんのおうちからにげだそうね!」 「まりさ……やっぱり、まりさはれいむのかけがえのないおっとだよぉ……!」 「おちょーしゃん、かっきょいいー!!」 「ゆゆぅ、ありがとうなのぜ…… まりさはいっかのだいこくっばしらっ!だよっ!!まかせてねみんな!!」 「おきゃーしゃん、おうちゃうたっちぇ……」 「ゆ、そうだね。おちびちゃんたち、みんなでうたってげんきをだそうね! ♪ゆっくり~のひ~、まったり~のひ~、すっきり~のひ~……」 「♪ゆゆゆ~ゆ~、ゆんゆゆゆ~ゆ~……」 「(まりさのだいじなだいじなれいむとおちびちゃんたち…… おとうさんが、ぜったいにまもってあげるからね……!!)」 まりさ達は森に棲んでいた。 森の中の木のうろに家を作り、家族で仲睦まじく暮らしていた。 すぐ側に人里があったが、群れのいいつけをよく守り、まりさ達は人間に関わろうとはしなかった。 群れの掟に従ってすっきり制限も守り、冬籠りも危なげなく乗り越えた。 そうして春になると、たっぷりすっきりをして子供を作った。 子供の数はかなり多かったが、 献身的に餌を集める親まりさと、子供から目を離さずによく面倒を見る親れいむのおかげで、 一匹の脱落もなく今日まで育ててこれた。 人当たりのよい夫婦で、子供たちの躾もよく、 この家族は群れのみんなからも「ゆっくりしている」と褒めそやされていた。 だが、悲運は理不尽にも訪れた。 今日の朝のこと、まりさが楽しいオモチャを家に持ってきたのでみんなで遊んでいたところ、 突然家にやってきた人間のお兄さんが家を壊し、家族を丸ごと袋に詰めて攫ってしまったのだ。 そして人間の家に連れてこられ、たっぷり苛められ、今に至る。 明日からの自分たちの運命を思うと、親まりさは内心暗澹たる思いにかられる。 しかし親まりさは希望を捨ててはいなかった。 まりさには素敵なれいむがいる。可愛いおちびちゃん達もいる。 冬籠りも、長雨も、ゆっくりできない犬さんに遭ったときも、 家族みんなで協力して切りぬけてきたじゃないか。 この愛しい家族がいれば、どんな困難も乗り越えられる。 まりさはきりりと眉を引き締め、家族に向かって叫んだ。 「ゆっくりしていってね!!」 「ゆっくりしていってね!!」 「「「「ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!!」」」」 すぐに返事が返ってきたが、家族はふくれっ面をした。 「もう、まりさったら!おうたのとちゅうで、じゃまをしないでね!!」 「おちょーしゃん、ひぢょいよっ!!」 「ゆふふ、ごめんねっ!!」 「ゆーん……よくわからないけど、まりさはゆっくりしてるね!!」 「ほんちょだ、おちょーしゃんとっちぇもゆっくちしちぇるよ!!」 「ゆゆぅ~~ん!まりちゃのじみゃんのおちょーしゃんだよっ!!」 家族たちの笑いさざめきに囲まれてまりさは目を細め、決心を固くするのだった。 「おちょーしゃんっ!!おきゃーしゃああぁん!!!」 声がした。 身を寄せ合っていた家族達は、声のしたほうに向きなおった。 一匹の子まりさが、泣き叫びながらこちらに駆け寄っていた。 「ゆわあぁぁぁん!!きょわかっちゃよおおぉぉ!! おちょーしゃんっ!!おきゃーしゃんっ!!ゆっくち!!ゆっくちぃぃ!!」 涙を流してぽいんぽいんと跳ねてくるその子まりさを認め、親れいむは叫んだ。 「ゆゆっ!!ゆっくりできないゆっくりがいるよっ!!!」 親まりさも続いて叫ぶ。 「ゆっ!!ほんとだよっ!!おかざりがなくてゆっくりしてないよっ!!」 「おちょーしゃぁぁん!!しゅーりしゅーりしちぇええぇぇ!!」 「ぷくうぅぅ!!」 「ゆぴいいぃぃぃぃぃぃっ!!?」 向かってくる子まりさに対し、親まりさは威嚇のぷくーで応えた。 風船のようにまん丸に膨らんだ父親の姿に、子まりさは恐怖し、即座に失禁する。 「なんぢぇえええぇぇ!!?なんぢぇぷきゅーしゅるのおおぉぉ!!? いやあああぁぁぁぷきゅーはいやあああぁぁぁゆっくちできにゃいいいぃぃぃ!!!」 「うるさいよっ!!おかざりのないゆっくりできないこはあっちいってね!! でないとせいっさいっ!するよっ!!」 「ゆええええぇぇ!?まりしゃはおぼーちしゃんもっちぇるよおぉぉ!! ゆっくちできにゃいおにーしゃんにとられちゃだけだよおぉぉ!!! しゅーりしゅーりしちぇよおぉ!!おちょーしゃああん!!!」 子まりさの頭には帽子がなかった。 先だって人間の家に拉致された際に奪われている。 ゆっくりは、飾りのない同族を強く忌み嫌う傾向がある。 まりさ種なら帽子、れいむ種ならリボンといった頭部の飾りは個体識別に必要なシンボルであり、 それがなくなるということは、同族とのコミュニケーションに深刻な問題をもたらす。 また、ゆっくりという種族は本能的に自分の飾りを大切にする習性があり、 飾りをなくすことに死ぬよりも辛い苦痛を感じる。 その反動で、飾りを失ったゆっくりには人格(ゆん格)を認めず、徹底的に迫害する。 「ふざけないでねっ!!まりさのおちびちゃんはおまえみたいなゆっくりできないこじゃないよっ!!」 「そうだよっ!!しつれいなこといわないでねっ!! おまえみたいなゆっくりできないこが、れいむのまりさをおとうさんなんてよばないでね!!ぐず!!」 「おきゃーしゃああん!!?どぼぢでぞんなごぢょいうにょおおお!!」 「だれがおまえなんかのおかあさんなのおおおおぉぉ!!?」 親れいむもぷくーで威嚇し、子まりさはますます号泣してしーしーを撒き散らした。 「いやああぁぁぁ!!!やめちぇええええゆんやああああああ!!!」 「ゆーっ!!ゆっくちできにゃいゆっくちだにぇ!!」 子ゆっくり達も家から這い出してきて、子まりさを取り囲み、罵声を浴びせる。 「おかじゃりがにゃいくちぇにいきちぇるにゃんてはじゅかちくにゃいの?おお、あわれあわれ!!」 「みちぇるだけじぇゆっくちできにゃいよっ!!ゆっくちきえちぇにぇ!!いまちゅぐでいいよっ!!」 「ゆええええぇん!!にゃんでっ!?にゃんでしょんなこちょいうにょおおぉぉ!!? おにぇーちゃあああん!!ゆっくちちちぇよおぉぉぉ!!」 「おみゃえにおねーちゃんなんちぇよばれちゃくにゃいよっ!!」 「ゆっくちできにゃいくせににゃれにゃれしいよっ!!ぷきゅーっ!!」 「ゆびゃああああああああ!!」 家族全員に取り囲まれ、更にぷくーをされる子まりさ。 泣き喚きながら逃げ出そうとするが、どこを向いても肉親のぷくーに突き当たる。 いくら助けを求めても、実の親はいよいよ大きく膨らむばかりだった。 逃げ惑う子まりさを取り囲む子ゆっくり達は、面罵しながら徐々に包囲を狭めてゆき、 ついにはその内の一匹が体当たりを喰らわせた。 「ゆっくちできにゃいゆっくちはゆっくちちにぇっ!!」 「ゆびぃ!!?」 衝撃で転がされ、子まりさは肉体的な痛みと精神的な痛みに悶える。 「ゆんやあぁぁ!!おねえじゃんっ!!どぼぢでごんなっ!!?」 「ゆっくちだまりぇ!!」 すぐに他の子ゆっくりも加わり、体当たり、踏みつけ、噛みつきと、寄ってたかって痛めつけ始めた。 「おみゃえにゃんかがれいみゅのいもうちょなわけにゃいでしょ!!?」 「まりちゃのいもうちょはもっちょゆっくちちてるんだじぇ!!うしょちゅきゆっくちはちにぇ!!」 「うすぎたないごみくずがゆっくりみたいにしゃべらないでね!!」 「ゆああぁーーーーっ!!ゆびゃああーーーーーっ!!!」 絶望と苦痛に、子まりさは泣き喚き絶叫する。 救いを求めて両親のもとに這いずり寄るが、両親はにやにやと笑みを浮かべているばかり。 「ゆぷぷ!ゆっくりできないごみくずはなきがおもゆっくりできないね!おお、あわれあわれ」 「まりさのおちびちゃんたちはせいっさいっもゆっくりしてるよぉ~~♪ おちびちゃんたち、もっとせいっさいっしてあげようね!!たくさんでいいよ!!」 「「「ゆっくちりきゃいしちゃよっ!!」」」 延々と私刑は続けられた。 子まりさの懇願は聞き入れられず、執拗に打擲が繰り返される。 やがて、一匹の子ゆっくりが、家の中にあったそれを手に取る。 「ゆゆっ!!ぷすぷすしゃんがありゅよっ!!」 先ほどの男が入れておいた爪楊枝のケースを引っ張り出し、横に倒す。 爪楊枝の束がこぼれ出して散らばった。 その一本を舌で取り上げ、その子れいむは眉をキリリと引き締めて宣言した。 「このぷすぷすしゃんでしぇいっしゃいっしゅるよっ!! かしきょくっちぇごみぇんにぇ~☆」 「ゆゆっ!!ゆっくりできるぷすぷすさんだね!!」 「れいむのおちびちゃんはかしこいね!!おかあさんははながたかいよぉ~!」 「ぷーす!ぷーす!」 「ゆぎゅああああ!!?」 口に咥えた爪楊枝で、子れいむは子まりさの頬を突き刺した。 それまでとはレベルの違う鋭利な苦痛に、子まりさは飛び上がる。 「いぢゃい!!いぢゃい!!いぢゃよおおおぉぉぉ!!! やべでよおおおぉぉ!!ほんどにいぢゃいいいいいぃぃ!!!」 「ゆゆ~んっ!!こうかはてきっめんっだよっ!!」 「まりしゃもぷしゅぷしゅしゃんしゅるよっ!!」 「れいみゅもっ!」 「まりしゃもっ!!」 七匹の子ゆっくり達がそれぞれに爪楊枝を咥え、子まりさの全身を突き刺していく。 一突きごとにびくんっ!と身を震わせ、子まりさは涙を撒き散らして懇願した。 「やべぢぇ!!やべぢぇ!!いぢゃいいいぃぃ!! どぼじでごんなっ!!ゆぎいぃぃ!!いぢゃああああぁぁあ!!! だじゅげじぇっ!!おぎゃあじゃああああん!!いぢゃいっ!!ばりじゃいじゃいよおぉぉ!! ぺーろぺーろじでっ!!あぎゃっ!!!ゆんやあああぁぁおうぢがえりゅうううう!!」 「おかあさんなんてよばないでっていってるでしょおお!!?」 「どぼじでっ!!おぎゃーじゃっ!!ばりじゃがぎゃわいぐにゃいのおおぉぉ!?」 「なんでおまえなんかがかわいいのおぉ!?おかざりのないゆっくりのくせに!! れいむのおちびちゃんはとってもゆっくりしたおかざりがあるよっ!!」 「ゆっ!ゆぐぅぅ!!でぼ、でぼおぉ!!」 「おかざりだけじゃないよっ!!ほっぺさんもふっくらしてるし、へあーさんもきゅーてぃくるっ!だし、 おめめさんはくりくりだし、おはださんもつやつやしてるゆっくりしたびゆっくりだよっ!! おまえみたいなごみくずがかわいいれいむのおなかからうまれるわけないでしょおぉ!!ゆっくりりかいしてねぇ!!」 「ばりじゃはがわいいよおぉ!!どぼじでぞんなごどいうのおぉぉ!!?」 「ゆふぅぅ~~~………」 親れいむはため息をつき、爪楊枝を舌で掴むと子まりさの前に進み出た。 慕わしい母親の顔を見上げ、子まりさは救いを求めて呼ぶ。 「お……きゃあ、しゃ………」 「ぷーすぷーす!だよっ!」 「ゆぴきゃああああああああぁぁぁあっ!!!?」 親れいむの爪楊枝が、子まりさの左目を突き刺していた。 眼球を貫かれる激痛に、子まりさはびたんびたんと身をよじる。 「あぎゃあああああいぢゃあああああああああああ!!! ぬいぢぇぬいぢぇぬいぢぇぬいぢぇぬいぢぇえええええええ!!ゆっぐじでぎにゃああああああ!!?」 「ぐ~り☆ぐ~り☆」 「ゆぎょおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!?」 丹念に眼球を抉られ、ムンクのように絶叫しながらますます身をよじる子まりさ。 「ゆっゆ~~ん♪かわいいれいむのかわいいせいっさいっ☆だよっ!!」 「ゆぅ~……れいむはほんとにかわいいよっ!すーりすーり!」 「ゆんっ!もうっ、まりさったらぁ……おちびちゃんたちがみてるよっ///」 「ぎゅっ!!あぎゅっ!!いぢゃいぢゃいぢゃいいぃぃ!!ゆぎぇえええええ!!!」 親れいむは夫といちゃつきながらも爪楊枝の動きを休めない。 「ゆゆーっ!しぇいっしゃいっはゆっくちできりゅにぇ~~!」 「まりしゃももっちょしぇいっしゃいっしちゃいよっ!!」 「ゆっ、じゃあみんなでなかよくせいっさいっしようねっ!! すぐにころしちゃだめだよ!!えいえんにゆっくりしないように、まんなかのあんこさんはきずつけないでね!!」 「ゆっくちりかいしちゃよっ!!」 再び子ゆっくり達が子まりさに群がり、口に咥えた爪楊枝を突き刺しはじめた。 「ゆびゅ!!ゆびゅ!!ゆぎいぃいぃ!!いぢゃいぢゃいいいいぃ!! やべぢぇ!!やべぢぇえ!!ぼういやおうぢがえりゅうううぅ!! だじゅげぢぇっ!!おどうぢゃっ!!おがあぢゃっ!!どぼぢでっ!! ゆぎょあっ、あっ、びぃ!!ゆぎゅううぅぅ!!!ゆっぐぢ、じぢゃいいぃ!!ゆっぐぢ!ゆっぐぢびぃぃ!!!」 ――――――― 「おい」 声をかけてやると、ゆっくりの家族はすぐにこちらに気づいたようだ。 ぴょんぴょん跳ねてきて僕の足元に群がり、頭を下げて頼んできた。 「おにいさんっ!!かえしてねっ!!まりさのおちびちゃんをかえしてねっ!!」 「まだなにもわからないこどもなんですうぅう!!おちびちゃんだけはゆるしてくだざいいいい!!!」 「おにぇーしゃんをかえちてにぇ!!かえちてにぇ!!」 「おにぇーしゃんをいじめにゃいでよぉぉ!!ゆええぇん!!」 「んー?いや、あいつは僕が苛めるために飼うことにしたし」 「ゆんやあああぁぁぁ!!やべで!!やべでええぇぇ!! おぢびぢゃんだげはああああぁぁぁ!!!」 「どっでもいいごなんでず!!おがあざんおぼいでっ!!いぼうどだぢのめんどうをよぐみでっ!! いづもあがるぐで、おうだもじょうずでぇっ!!どっでもどっでもゆっぐじじだ、がぞぐのあいどるなんでずうぅぅ!! おぢびぢゃんをいじべぢゃだべえええぇぇ!!」 「さっきも言ったけど、別にいいだろ。お前らゴミクズなんか苛めたってさ」 「どぼじでぞんなごどいうのおおぉぉ!!?ばりざだぢはごびぐずじゃだいいいい!!!」 「ひとのいやがることはしちゃだめなんだよっ!!いじめなんてぜったいよくないよおぉぉ!!!」 「ふーん……あれはいいの?」 そう言い、僕はそれを指差した。 「……………ぴぃ………………ぴ……ぃ」 その子まりさはひどい有様だった。 頬と言わず頭と言わず足と言わず全身にありったけの爪楊枝を突き刺されており、 特に潰された左目を中心的に刺されてその部分で束になっている。 引きずり出された舌にも何本も突き立てられ、口内も蹂躙されているようだった。 ほじり出されたらしい歯が何本も散らばっている。 さらに悲惨なことには、あにゃると強引に勃たせられたらしいぺにぺにの先にも数本貫き通されていた。 うつろな右目から涙を流し、子まりさはぴくぴくと小刻みに痙攣していた。 ゆっくりらしからぬ器用さで絶命させるのを避け、苦痛を長引かせて楽しんでいたようだ。 「ずいぶんひどいことをするじゃないか。あれは苛めじゃないのか?」 「ゆゆっ?」 何を言っているのかわからないという様子で、ゆっくりの家族はきょとんと僕を見つめた。 僕の顔を見上げ、ハリネズミ状態の子まりさを見やり、それを交互に何回か繰り返してから、 ようやく親れいむが答えた。 「ゆっ、おにいさん、ゆっくりりかいできないよ?もういっかいいってね」 「だから、あれは、弱い者苛めじゃないのか?」 「ゆぅ~~?」 子まりさのほうを少しの間見つめてから、親まりさが笑顔を浮かべて答えた。 「ゆゆっ!おにいさん、よくみてねっ!! あのごみくずにはおかざりさんがないよっ!!おにいさんはあわてんぼうだね!!」 「……だから何だよ?」 「ゆーっ?おかざりさんがないとゆっくりできないよ?」 「だから?」 「おにいさん、なにいってるの?ゆっくりしてね?」 「あれは弱い者苛めじゃないのかって言ってるんだ。 ゆっくりできないのかなんなのか知らないが、だからってあんなひどいことをしていいのか?」 ゆっくりの家族はお互いに顔を見合わせ、「ゆふふっ」と笑った。 その笑顔だけを見ると、なんとも善良そうな穏やかな表情だった。 親れいむがすまし顔で、もみあげを振りながら諭してきた。 「おにいさん、れいむのいうことをよくきいてゆっくりりかいしようね! あれはおかざりのない、ゆっくりできないゆっくりなんだよ。 ゆっくりできないゆっくりをいたいいたいするのは、いじめじゃないんだよ。 せいっさいっなんだよ。ゆっくりりかいしてね?」 「飾りがないとなんで痛めつけていいってことになるんだよ?」 「ゆっくりできないからだよ!あたりまえのことだよ?」 「あのな、そいつだって生きてるだろう。 いくらゆっくりできなくても、そいつも一生懸命生きてるかけがえのない命じゃないか。 同じ生き物だろ?生き物同士、みんなで協力してゆっくりしなきゃいけないんだろ? お前たちが言ってたことだぞ」 「ゆぷぷぷっ!!」 黙って聞いていた親まりさが噴き出した。 「ゆゆぅ~ん!まりさったら!わらっちゃかわいそうだよぉ~~☆ゆぷっ!!」 「ゆぷぷぷ、れいむだってわらってるよ!! おにいさんはいくらなんでもじょうっしきっがなさすぎるよ! わるいとはおもったけど、ついがまんできなかったんだよ!!ごめんね、おにいさん!!」 「「「おにゃじいきもにょだっちぇ~~!!ゆっきゃっきゃっきゃっ!!!」」」 子ゆっくり達は思う存分笑い転げている。 「僕の言ってること、そんなにおかしいかい?」 「ゆふふ、おにいさん、おかざりのないゆっくりはいきものなんかじゃないよ。 ゆっくりできないごみくずなんだよ! いっしょうけんめいいきてるとか、きょうりょくしてゆっくりするとか……ゆぷぷぷぅ!!おもしろすぎるよぉ~~♪」 「あんなのをいきものとよんであげるなんて、おにいさんもものずきだね! みるだけでゆっくりできない、あんなごみくずはれいっがいっ!だよっ!! いくらなんでもあんなのだけはなかまにできないよねぇ~~?」 「「「できにゃいよっ!!みゅり、みゅり~♪」」」 「飾りがないっていうだけで、そんなに迫害できるのか。 そいつだって親がいただろうし、姉妹だっていただろう。 ゆっくりしたい気持ちはお前らと変わりはないし、何か悪いことをしたわけでもない。いい奴だったかもしれない。 それなのにそんな目にあって、かわいそうだと思わないのか」 「かぞくっ!しまいっ!ゆぷっぷーっ!!そうぞうしただけでわらっちゃうよぉ~~!!」 「あんなののかぞくなんてよっぽどゆっくりできないんだろうね!!あわれあわれ!!」 「おにいさん、ゆっくりできないゆっくりはいきてるだけでわるいんだよ。 おかざりをなくすようなゆっくりだから、おつむさんもわるいし、ぶさいくゆっくりだし、にくたらしいよ。 そのすがたでみんなをゆっくりできなくさせてきたんだから、 さいごにまりさたちのおもちゃになってやくにたててしあわせーっ!なんだよっ!!」 「僕も、そうなんだけどな」 「ゆゆっ?」 「僕にとっても、お前らゆっくりは何の役にも立たないゴミクズで、ゆっくりできない。 ほとんどの人間がそう思ってるよ。 だったら、苛めておもちゃにしてやったほうがお前らは幸せなんだよな?」 「ゆーーっ!!?どぼぢでぞうなるのおおぉぉ!!?」 ゆっくり達がまた騒ぎ始めた。 「いいすぎでしょおおぉぉ!!? まりさたちはにんげんさんにくらべればよわいよっ!!やくにたたないかもしれないよっ!! でも、でもぉ!!あんなごみくずにくらべればずっとずっとずっとちゃんとしてるよおおぉぉ!!」 「へんだよおおぉぉ!!なんでれいむたちゆっくりがあれとおなじになるのおおぉぉ!!? おにいさんのいってること、ゆっくりりかいできないよおおぉぉぉ!!!」 「理解できるさ。 そうだな、とてもいい教えを賜ったお礼に、お前らのおちびちゃんを返してあげようか?」 「ゆゆーっ!!?かえしてくれるの!!?おちびちゃんかえしてくれるのおおぉ!!?」 「ありがとうございます!!ありがとうございます!!ありがとうございます!!おにいさんありがとううぅ!!」 「やっぱりはなせばわかってくれるんだよおおぉ!! おにいさんっ!!ゆっくりありがとうねえぇ!!おちっ、おちびちゃんはぶじですかっ!?」 「あー………そうでもないかな」 「ゆゆっ!!?なにをしたのおぉぉ!!?ゆっくりできてないのおぉ!!?」 「ひどいいぃぃ!!がえじでっ!!ばやぐがえじでねええぇぇ!!」 「はい」 僕は、おちびちゃんを返してあげた。 ――――――― 「ゆっ?」 目の前に現れたそれを認識するのに、たっぷり十数秒かかった。 全身、おめめやほっぺやべろやぺにぺにやあにゃるにぷすぷすさんを突き刺され、ぴくぴくと痙攣している小さな子まりさ。 お兄さんがその頭にちょこんと帽子を載せたことで、 れいむ達家族は、それが誰なのかをゆっくりと理解した。 叫び出したのはほとんど全員同時だった。 「「「「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!???」」」」 衝撃のあまり身動きもできず、咽喉も裂けんばかりにひたすら叫び続けた。 「あ゛ーーーーーーーーーーーーーっ!!!?あ゛あ゛ーーーーーーーっ!!?あ゛ーーーーーっあ゛ーーーーーーっ!!!!!」 「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 意味のある言葉を発するまで少しかかる。 「でいぶのおぢびぢゃんがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!?」 「ばじじゃあああああああああああぁぁぁぁーーーーーーー!!!あ゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」 「おでえぢゃ!!おでえぢゃ!!いやぢゃあああああーーーーっおでえぢゃああああーーーーーー」 「ゆっぐぢ!!ゆぐっぢ!!ゆぐううううううぢいいいいいいいいいいいがああああああああ!!!!」 「ばりざがどぼぢでごんなめにいいいぃぃ!!?」と叫ぶ者は誰もいなかった。 それをしたのはまぎれもない自分達なのだから。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛じだだいで!!じだだいで!!おぢびぢゃんじだだいでえええええええ!!!!」 「だべえええええええええいえんにゆっぐじじぢゃだべえええええええ!! おでがいいいいいおべんじじでええええええええゆぎゃあああああああああ!!!!」 「おでえぢゃあああああん!!ゆっぐじじで!!!ゆっぐじじでよおおおぉぉぉ!!!おうぢゃうだっでよおおおぉぉお!!!」 大量の涙を床にこぼしながら這いずり寄っていき、家族で必死にぺーろぺーろしようとする。 しかし、ほとんど隙間なく突き刺された爪楊枝に遮られて舌が届かない。 全員どうすることもできず、ただ目をむいて泣き喚くしかなかった。 「でぎだいいいい!!!でぎだいよおおおぉぉ!!べーろべーろでぎだいいいいいぃぃぃぃ!! おぢびぢゃんじんぢゃう!!えいえんにゆっぐじじでゃうううううううううーーーーー!!!!」 「ゆ゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!いやだっ!!いやだいやだいやだあああああ!!!じだだいでええええ!!!」 「だぢゅげでよおぉぉ!!おでがいいぃ!!おでえぢゃんをだぢゅげでよおおぉぉ!! おでえぢゃんいにゃいどゆっぐぢでぎにゃいよおおおおおぉぉぉ!!!」 「でぎだいっ!!でぎだいよぉ!!おがあざんだずげであげられだいよおおぉぉ!!」 「よかったじゃないか」 「ゆぐううぅぅぅっ!!!?」 声のしたほうを向くと、人間さんがにこにこ笑っていた。 「ゴミクズを制裁したんだろう?そいつ、そのまま死ぬよ。やったな!」 「ぢがうっ!!ごびぐずじゃだいっ!!がわいいがわいいばりざのおぢびぢゃんだよおおぉぉ!!」 「へーえ?そんな可愛い可愛いおちびちゃんを、なんでそんな目に遭わせたんだい?」 「ゆぐーっ!!ゆぶーっ!!う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛ぅぅ!!!」 答えられず、まりさは呻くしかない。 「ひどいよなあ。お目目をえぐり出して、ぺにぺにをわざわざ立たせてぷすぷすして。 あにゃるもまむまむももう使い物にならないな、もし助かっても一生おちびちゃん作れないぞ」 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛おぢびぢゃ!!おぢびぢゃ!! ごべんね!!ごべんね!!ごべんでえええええええ!!!」 「舌にもいっぱい突き刺して、歯もえぐり出して、もうお歌も歌えないな。 「ゆっくりしていってね!!」さえ言えないなあ。二度とゆっくりできないね!」 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛いやだ!!いやだ!!いやだあああぁぁ!! ごんなっ!!おぢびぢゃああああごべんだざいいいいぃぃぃ!!!」 「今更なに謝ってんだよ。あんっなに楽しそうに制裁してたのに」 「ゆげええええぇぇ!!!」 自分たちがした行為のあまりのおぞましさに、家族が餡子を吐きはじめた。 あんなにゆっくりしていたおちびちゃん。 ゆっくりしたお歌を歌い、家族をゆっくりさせてくれたおちびちゃん。 お父さんとお母さんを慕い尊敬し、将来お父さんたちみたいになると言っていたおちびちゃん。 親をいたわって、家の手伝いを進んでやってくれたおちびちゃん。 時にはわがままを言う妹たちを、優しく辛抱強く面倒を見てくれたおちびちゃん。 目を輝かせて、ゆっくりした家族を作る将来を夢見ていたおちびちゃん。 その未来を、すべて、自分達の手で粉々にしたのだ。 「あれー?何が悲しいのー?なーに泣いてんのー?」 「おぢびぢゃっ、おぢびぢゃんっっ!!ゆぐじでぇぇ!!おがあざんをゆぐじでえええぇぇ」 「いいじゃん別に。ゴミクズなんかどうなったって」 「ごびぐずじゃだいよおおぉぉ!!おぢびぢゃんはごびぐずだんがじゃだいいいぃぃ!!」 「ゴミクズじゃん、お前らが言ったんだよ。あーそうか、ほら」 痙攣している子まりさの頭から、お兄さんはまた帽子を取り上げた。 「ほーら、もうお帽子がないよ。お飾りがなければゴミクズなんだろ?悲しくないだろ?」 「ぢがうっ!!おかっ、おがざりがだぐでも!!がわいいだいじなばりざのおぢびぢゃっ!!」 「へー?そうなんだ。 あのさー、なんで僕に反論してんの?やったのお前らじゃん。なんでやったの? その子、ずっとお前らをお父さん、お母さんって呼んでたのに」 「ゆぐうぇええええええ!!!」 またも餡子がこみ上げ、吐き出してしまう。 それだけで他の子ゆっくりは息も絶え絶えだった。 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛………」 「あああああおぢびぢゃっ!!だべええ!!あんごばいぢゃだべええええ!!!」 「お飾りをなくすようなゴミクズの家族なんてゆっくりしてないんだろうな。 そう言ってたよな、お前ら。ほら、存分に見たらいいさ。確かにゆっくりしてないね!」 「ゆ゛ぐう゛ーっ!!う゛う゛う゛う゛ーっ!!!」 「ゆっくりできないゆっくりは生きてるだけで罪悪なんだろ?視界に入るだけでも周りが迷惑してたんだろ? よかったな、これでもうそのゴミクズに悩まされなくてすむぞ!さすがの制裁だったね!」 「おぢびぢゃっ!!おぢびぢゃんはああぁぁぁ!!!」 おちびちゃんはゴミクズなんかじゃない。ゆっくりできないゆっくりなんかじゃない。 そう叫びたかった、否定したかった。 しかし、確かに自分たちがそれを制裁したのだ。 もはや何を言うこともできず、まりさ達はただ泣き叫ぶしかできなかった。 「だじゅげぢぇっ!!だじゅげぢぇええぇ!!おにいじゃああん!!」 「ん?」 末の子れいむが、人間さんに助けを求めていた。 人間さんはゆっくりできるお薬を持っている、いつか言って聞かせたその噂にすがったらしい。 「おにぇえじゃん!!おでえじゃんをだじゅげぢぇええ!!おでがいじばじゅううぅぅ!!」 「なんで助けんの?なんで僕に助けてって頼むの?やったのお前らなのに。ねえねえおかしくない?」 「おでがいじばじゅ!!おでがいじばじゅ!!れいみゅがばぢがっでばじだ!!れいびゅがわるがっぢゃんでじゅ!! おにいいざああんおでがいじばじゅううううう!!!」 床に頭を打ちつけながら懇願する末っ子れいむ。 その姿を見て、家族たちは目が覚めたように叫び始めた。 「ばりざもっ!!ばりざもばぢがっでばじだ!!ごびぐずじゃありばぜえええん!!」 「でいぶもわるがっだでずううぅぅ!!おぼうじがないだげでいじべでごべんだざいいいいい!!!」 「おぢびぢゃんをなおじでぐだざああああいおにいざんおでがいじばずうううう!!!」 しかし、お兄さんの返答はつれないものだった。 「知らないよそんなの。自分でやったんだろ、自分でなんとかしなよ。 僕は返したもん、あとは関係ないもんね」 「ばりざだぢはぐずだがらっ!!ゆっぐじでぎないがらっ!!おぢびぢゃんだぢをなおじであげらればぜええん!!」 「治さなくていいでしょ、ゴミクズだし。ゴミクズは苛めてもいいんだろ?制裁なんだろ? というか、これからお前らも僕が制裁するし。お前らゴミクズだからね。これから潰すのにわざわざ治さないだろ?」 「ゆびぃいいいいいっ!!?」 「あ゛っ!!あ゛っ!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!! い゛っ!!いいでずっ!!ばりざはどうなっでもいいでずがら!!でいぶどおぢびぢゃんだげはだずげでぐだざいいい!!」 「でいぶもどうなっでもいいでず!!ぜいっざいっをうげばず!!でもおぢびぢゃ、おぢびぢゃんはあああ!!」 「おーおー、殊勝だこと。でも駄目」 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 「子供だからって見逃す理由はないね。お前達だって小さなおちびちゃん相手にそこまでしたろ? 小さくて弱いからって見逃さない、っていうか、小さくて弱いから苛めるんだもん。お前らもそうだろ?」 「ごべんだざい!!ごべんだざい!!ばりざがげずだっだんでず!!ごべんだざい!! おかざりがないっていうだけで、よわいものをよろこんでいじべるげずでずっ!!でぼ、でぼ、おぢびぢゃんはあああ!!」 「げずでいぶをぜいっざいっじでぐだざい!!ゆっぐりでぎなぐじでぐだざい!! でぼ!!おぢびぢゃんだぢだげは!!なにもわがっでないんでず!!でいぶだぢのまねじでだだげなんでずううう!!」 「ふ~~ん……よし、わかった。チャンスをやろう」 「ゆえっ?」 予期せぬ返答に、まりさ達は顔をあげた。 「とりあえず、そのまりさは治してあげよう。ちと手間だが、オレンジジュースとかでなんとかなるだろ。 まあ、まむまむとかはもう使い物にならないだろうが、死にはしないさ」 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!あ゛じがどうございばずううううう!!」 「………後になって「やっぱり死なせておけばよかった」なんて言っても知らないけどね」 「ゆ゛!?ゆ゛ゆ゛う゛ぅ!!がんばりばずっ!! ばりざだぢがぜぎにんをぼっでおぢびぢゃんをゆっぐじざぜばずううう!!!」 「そういう意味じゃないんだけどね。 で、チャンスというのは、お前達が弱い者苛めを二度としなければ、ってこと。 弱いからって苛めたり痛めつけたりしない、本当に他ゆんを思いやるゆっくりになれたなら、 感服いたしましたってことで、僕もお前達をもう苛めない。森に返してあげよう」 「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!!あじがどうございばずう゛う゛う゛う゛う゛う゛!! ばりざだぢばんぜいじでばずっ!!ぼうにどどいぎぼのをいじべだりじばぜええええん!! おにいざんっ、ぼんどうに!!ぼんどうにぼんどうにあじがどうございばずう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛」 まりさ達家族は、床に頭を押し付けて何度も何度も礼を述べた。 お兄さんが子まりさを取り上げて家の中に引っ込んでいくまで、まりさ達は頭を下げ続けていた。 ――――――― 子まりさの治療には手間がかかった。 小麦粉と餡子とオレンジジュースの三種の神器があれば、生命維持自体はたやすい。 しかし細かい修復となると話は違ってくる。 体中の無数の穴は、オレンジジュースに漬けてから小麦粉を塗りこむ程度で済む。 あにゃるのほうは単純な穴があればいいので簡単だが、 ぺにぺに、まむまむ周辺の器官は完全に破壊されており、機能を修復させるには至らなかった。 さんざんに蹂躙された左目は、眼窩がぼろぼろに崩れており、球体を収めるスペース自体がもうない。 ここは餡子を詰め、完全に小麦粉で穴をふさいでしまった。 こじり抜かれた歯は、面倒なので放っておいた。 結果から言えば、子まりさは一命をとりとめた。 しかし、全身に痛々しい傷跡が残り、左目が消失し、口はほとんどがスキッ歯となり、 まむまむとあにゃるは締める機能が失われ、しーしーとうんうんを意思とは関係なしに垂れ流す、 大変ゆっくりしていない姿になってしまった。 まあ、この方がいいだろう。 机の上に敷かれたハンカチの上で、寝苦しそうにうなされる子まりさを眺めながら、 僕は煙草に火をつけた。 禁煙を解き、五年ぶりに吸う煙草の紫煙を肺にたっぷりと染み込ませる。 「これでやっと下拵えが終わったよ、ありす」 僕は呟いた。 子まりさのさらに奥、机の上の写真立てに納まった一葉の写真。 そこには僕と、金バッジをつけたゆっくりありすが頬を寄せ合って写っている。 金バッジのありすが姿を消したのは、一昨日のキャンプのことだった。 連休を利用し、ゆっくり同伴で湖畔のキャンプに赴いた。 躾の行き届いた、しかし子供っぽい可愛げも併せ持った僕のありすは、 「とかいは」を連呼しながら楽しげにはしゃぎまわり、僕に何度もお礼を言っていた。 そのありすが、ちょっと目を離した隙にいなくなっていた。 お飾りのカチューシャのほうはすぐに見つかった。 急坂の坂道の中途で雑草に引っかかっており、ありすは坂道を転げ落ちていったのかと思われた。 夜を徹して森中を探した。 夜明けまでかかってさんざん探したあげく、ついに点々と地面に染み込んだカスタードの跡を見つけ、 それをたどっていくうちに、このゆっくり共の家に行き着いた。 入り口のバリケードを開くと、そこにはありすがいた。 否、ありすだったものがあった。 「むーしゃむーしゃ!!むーしゃむーしゃ!!しあわせーっ☆」 ゆっくり共が群がり咀嚼しているその表面には、痛々しい大小何十、あるいは何百もの傷が刻み付けられており、 いまだ残っている顔面には枝が何本も突き刺さってこのうえもない苦痛を浮かび上がらせていた。 夜を徹して陵辱されていたのか。 どれだけ苦しかったろう。どれだけ私に救いを求めただろう。 「ゆっ?おにーさん、ここはまりさのおうちだよっ!ゆっくりしていってねっ!!」 家長らしきまりさが、罪悪感の欠片もない陽性の笑顔を僕に向けて叫んだ。 「おかざりがなくてゆっくりできないごみくずをせいっさいっしてたんだよっ!!」 僕の質問に対し、ゆっくりの家族は明るく笑ってそう答えた。 そうか。 僕はそのとき、心を決めた。 〔続〕
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概要 こわいもの係特製ファンブックとは、2015年12月~2016年1月にかけて募集された『こわいもの係特製ファンブック』の賞品として製作された小冊子である。 内容 五年霊組こわいもの係⑥までのキャラクターを紹介する「こわいもの係ほぼ全キャラクターリスト」や、こわいもの係の特殊用語を解説する「霊組用語集」、何気にここでしか明かされていない設定も多いミニSS「歴代こわいもの係三人娘スペシャル対談」、正真正銘ここでしか見られない著者本人による漫画「霊こわ四コママンガ」が記載されている。 余談 この小冊子はキャンペーンによるものであり、筆者の記憶では200名のみの当選だった(100名?)。前述した通り、キャラクターの名前の由来や、当初考えていたストーリー展開など、レアな情報が多く記載されていた。「作者より」では、『ほんの一瞬「これ、売れたんじゃね?」という、よこしまな考えがよぎった』と発言しているが、是非その邪な考えを通して頂きたかったところである。当たらなかった子どもたちのことを考えてほしいところである(なお、⑨~⑪にかけて「こわいもの係キャラクター大事典」なるコーナーが救済として行われている。これはこれとして良いものだが、問題の根本的な解決にはなっていない)。 コメント 名前
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お ま え が い う な と言いたくなってしまう研のセリフ。 少なくともコロを苛めてたガキが弱いものいじめをしてるのは事実だが研の口からこのセリフが出るのは違和感しか感じない。
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家族を作るということは、ゆっくりにとって最上の生存目的である。 人間と同じく、身体的精神的な快楽を求めて生きるのがゆっくりだが、 その中でも、つがいを見つけて子供を作り、家族で団欒する幸福は、 大多数のゆっくりにとっては、ゆん生において何よりもゆっくりできる至高の幸せだ。 愛しい夫と、妻と、愛の結晶である子供を成し、 互いに愛を確信しながら、身を寄せ合って共に生きる。 少なくとも、あまあまも玩具も知らない野生のゆっくりにとっては、 それ以上のゆっくりは想像できないのが通常だ。 飼いゆっくりを訓練する際も、 「家族を作る」という目的意識を「人間をゆっくりさせる」にすり替える過程において、 大多数の時間と労力が費やされる。 実際のところは、こうしたゆん生観の大転換が成功するほうが稀であり、 ほとんどのゆっくりが、ゆっくりとしての本能を捻じ曲げることに失敗して他の用途に回される。 ゆっくりショップに並んでいるような、多種の生物である人間の幸福を望み奉仕するゆっくりのほうが異常な洗脳饅頭なのだ。 それでさえ、多くは飼われているうちに種族の本能がぶり返して自分の子供を作ろうとし、 その結果人間に「ゲス」と呼ばれ、処分されることになる。 それほどにゆっくりにとって、自分で作る家庭とはかけがえのないものなのだ。 今、両親にとってその家庭は地獄そのものだった。 自らの手で、せせら笑いながらゆん生をズタズタにしたわが子が、 家族から離れて佇み、いつも氷のような視線で自分たちを見つめていた。 帽子と左目のない、全身傷だらけの子まりさは、 いつも意思とは無関係にうんうんとしーしーを垂れ流し、そこらに打ち棄てていた。 「おちびちゃん……きれいきれいしようね……」 垂れ流される便を、両親はかいがいしく処理した。 丹念にぺーろぺーろして床の便をかき集めて庭に捨て、子まりさの体表にこびりつく汚れを舌で落とした。 かつて赤ゆっくりだったころにもそうしてあげていたものだが、 「お前らが原因なんだから当然だ」というように、無表情でされるがままになっている子まりさの介護は、 とてもかつてのように心楽しいものではなかった。 両親のどちらかが近づくたびに、子まりさはナイフのような言葉で心をえぐってきた。 「やっちょころしちぇくれりゅの?」 「きょんどはみぎのおめめもとりゅの?」 「ぷーすぷーすしゃんはもうあきちゃの?」 その度に、両親は何度も何度も詫びるのだったが、子まりさは聞きもしなかった。 ただ死を望むばかりだった。 食事は日に二度、お兄さんが持ってきてくれた。 持ってくるのは二度だが、ゆっくりは通常、日に四、五回ほど食事をする。 充分な量の食事を、両親がきちんと配分して分配した。 もちろんのこと、子まりさにも平等どころか、むしろ多めに分配した。 持っていくたびに、生きる気力のない子まりさに両親は頭を下げて何度も食事するよう懇願し、 もはや家族を責め立てることにしか生き甲斐を見出していないらしい子まりさは、そうしてようやく口をつけるのだった。 楽しかるべき家族の食事はもはや団欒のときではなく、 こちらを睨みながら隅で佇んでいる子まりさに気兼ねしながら耐える苦痛のときでしかなかった。 自分達でずたずたにした我が子の前で、呑気に「しあわせーっ」などと叫ぶことなどできるはずもない。 食事時に「しあわせ」と発声できないことは、ゆっくりにとって想像以上のストレスである。 憎悪の篭った視線に射られながら口に運ぶ食事に味はなかった。 必死に詫び、乞い、なだめ、すかし、 両親は子まりさを家族の輪に入れようとしたが、 「またぷーすぷーすしゃんすりゅの?」 「まりちゃをこんにゃにしちゃゆっくちたちと、にゃにをしゅればいいにょ?」と言われては、 それ以上強いることもできなかった。 確かに、ゆん生がめちゃくちゃになるほどの暴行を受けた相手に囲まれ、さあ仲良くしろなどとは言えない 子供たちも、最初の頃こそ子まりさに詫びて泣いていたが、 子供は正直なもので、はっきりと口にこそ出さないものの、 時間がたつごとに便にまみれて臭気を放つようになった子まりさを疎んじる素振りが見えはじめた。 今では親以外、子まりさを食卓に誘う気配は見えない。 それどころか、言葉の端々に不穏なものが見え隠れしはじめた。 「じびゅんでこにゃいっていっちぇるんだから、あんにゃのほっといちぇいいのに……」 「おきゃーしゃん、まりちゃのごひゃんしゃん、おおしゅぎにゃい? どうしぇじぇんぶたべにゃいよ」 「おわっちゃこちょはしょうがにゃいよ!もういいきゃら、れいみゅたちだけじぇゆっくちちようよ!!」 そんな些細な失言にも、両親は強くたしなめ、叱りつけた。 善悪の道理の感覚がまだまだ薄く、贖罪の覚悟がない子供たちは、 両親のそんな叱責を窮屈に感じ、常時ふてくされ気味の態度で、 両親と子まりさから離れて子供たちだけで遊ぶようになっていった。 ベランダの隅から憎悪の視線を向けてくるうんうんまみれの子まりさ。 食事の時以外は両親から離れ、逆側の隅で身を寄せ合ってぼそぼそ喋っている子供たち。 子まりさに対して詫び、他の子供たちを叱りつける以外の会話はほとんどなくなった両親。 あんなに仲睦まじかった家族が、どうしてこんな事になってしまったのか。 夜毎に両親は身を寄せ合い、涙した。 誰を恨むこともできない、全面的に自分たちのせいであり、 あの子まりさがいる限り、家族のゆん生には贖罪しか残されていなかった。 当然、そこに一片のゆっくりもあろうはずはない。 あの時、お飾りのないゆっくりをあれほどに苛めなければ。 せめて目を潰さなければ、ぺにぺにを潰さなければ、まだ子まりさは許してくれたのかもしれない。 いや、きっと許してくれた、あんなにゆっくりできるいい子だったから。 親のまりさとれいむは歯噛みし、涙にくれて後悔しながら、 今は遠い彼方のものになってしまったゆっくりを偲ぶばかりだった。 しかし、それでも救いはあった。 少しずつバラバラになっていく家族の中で、 末っ子の子れいむだけが、根気強く家族を繋ごうとしていた。 姉妹たちに煽られて仕方なしに流されていた末れいむだったが、 この状況に耐えられなかったようで、必死に改善の努力をしはじめた。 両親と一緒になって、子まりさの排便の面倒を見ようとした。 ゆっくりできないうんうんの臭いは末れいむにとって涙が出るほど辛いものだったが、 誠意を見せたい一心で、懸命に口の中にうんうんを詰め込んで運搬した。 両親は止めたが、子れいむは毅然として言った。 「おねーしゃんはもっちょもっちょゆっくちできにゃいよ!! れいみゅのしぇいだきゃら、れいみゅがゆっくちできにゃくてもいいんだよっ!!」 子まりさは何も言わなかったが、 末れいむが自分の世話に参加するようになってからは、両親を責め立てる口数が心なしか減っていった。 姉妹たちと遊びながら、末れいむはこまめに子まりさの方にも顔を出した。 今日はこんなことを話した、こんな面白いことがあった。 返事をしない子まりさに向かって、末れいむは懸命に楽しい話をした。 他の姉妹も、強いて赤れいむを止めようとはしなかった。 通常、こうした目立った単独行動に出る仲間がいれば、 何も行動しない自分たちの後ろめたさを糊塗するために、 「いい子ぶっている」という理屈で攻撃性を剥き出し、苛めの標的にするケースが多いのは人間もゆっくりも同じだ。 しかし、元々性根が家族思いのこの姉妹にはそのようなことはなく、 引け目を感じながらも、子まりさの元に跳ねていく末れいむを黙って見送るにとどまった。 「あのにぇ、あのにぇ、きょうはにぇ、れいみゅおねーしゃんがね……」 「………れいみゅはゆっくちちてていいにぇ」 「ゆっ!?ゆゆっ、ゆっくちちてりゅよ!!まりちゃおにぇーちゃんも…」 「まりちゃのおめめとぺにぺにをつぶちて、みんにゃとゆっくちちちぇ、たのちいよにぇ」 「ゆぐっ…………」 ごく稀に子まりさが口を開いたかと思えば、辛辣な皮肉だった。 その度に末れいむは涙を浮かべて黙り込み、すごすごと引き下がるのだが、 それでも次の日には、また子まりさの元へ跳ねていく。 「おにぇーしゃん、しゅーりしゅーりちていい……?」 「……………」 「……しゅーり、しゅーり………ゆっくち、ゆっくちぃ……」 懸命になって子まりさを元気づけようとする子れいむを、両親は涙を浮かべて見守っていた。 あんなにゆっくりしている子がいれば、子まりさの心の氷もいつか溶けるのではないか。 この家族も、いつか、いつかきっと昔のようにゆっくりできる。 子まりさの心を氷で閉ざしたのはいったい誰なのか、 それは努めて考えないようにし、両親はかすかな希望にすがった。 「しゅーり、しゅーり……ゆぅ、おにぇーしゃんのおはだしゃん、ゆっくちしちぇるにぇ………」 「ゆっくちしちぇにゃいよっ!!」 子まりさが叫んだ。 「こんにゃにきじゅだりゃけでっ!!うんうんまみりぇのおはだしゃんが、ゆっくちしちぇるわけにゃいでしょっ!!」 帽子を捨てて以来初めて、子まりさが感情を剥き出しにしていた。 鬱屈した感情を正面からぶつけられ、末れいむは涙をこぼし、悲しげに目を伏せ、それでも答えた。 「ゆっくち………しちぇるもん……… まりちゃおにぇーちゃんの、おはだしゃん………きじゅだりゃけでも、うんうんでも……ゆっくち、しちぇるもん」 「うしょつくにゃ!!うしょちゅき!! だっちゃられいみゅもぷすぷすしゃれてみちぇよ!!ぺにぺにしゃんつぶちちぇよ!!おかじゃりしゅててよ!!」 「ゆ、ゆ………?しょんにゃ………」 「できにゃいよにぇ!!しょんにゃゆっくちできにゃいこちょ、じぇったいできにゃいよにぇ!! しょんにゃゆっくちできにゃいきゃらだになっちゃら、もうだりぇもいっちょにゆっくちちてくれにゃいもんにぇ!! まりしゃのこちょもゆっくちできにゃいっておもっちぇるくちぇに、ちらぢらちいよっ!!」 「………おにぇー、しゃん………」 末れいむはうなだれ、しばらく黙っていたが、 やがてゆっくりを向きを変えて家に向かっていった。 「もうきょにゃいでにぇっ!!」 子まりさは捨て台詞を吐いたが、その目には何日ぶりかの涙が浮かんでいた。 「おぢびぢゃん!!なにじでるのおおぉぉ!!?」 「やべでっ!!やべでね!!ゆっぐりがんがえなおじでね!!ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛だべえええええ!!!」 ボール箱で作られた我が家のほうから悲鳴が聞こえてきた。 何事かと子まりさが顔をあげると、あの末れいむが家族の制止を振りほどいてこちらへ向かってきているところだった。 その口には、あのぷすぷすさんが咥えられていた。 急速に冷めていく感情を視線に込め、妹の歩みをじっと待つ。 ぴょんぴょんと跳ねながら目の前にたどり着いてきた妹の顔とぷすぷすさんを交互に見て問う。 「しょれが、れいみゅのこちゃえ?」 「ゆっ!しょうだよっ!!」 「………わかっちゃよ。もう、どうでみょいいよ。はやきゅしちぇにぇ」 「ゆっ?ゆーっ、れいみゅ、できにゃいよ」 「……いましゃらにゃにいっちぇるの?」 「れいみゅ、じびゅんをぷーすぷーすできにゃいよ。おにぇーしゃん、おにぇがいにぇ!」 「ゆ?」 子れいむはそう言い、ぷすぷすさんを差し出してきた。 この妹は何を言っているのだ? 自分をぷすぷすして殺すのではなかったのか? それどころか自分に向かって、己を傷つけてくれと頼んでいる。 「れいみゅ、おにぇーちゃんといっちょがいいきゃら。 おにぇーちゃんといっちょにゆっきゅりしちゃいきゃら、ぷすぷすしちぇにぇ。 いっぴゃいぷすぷすしちぇ、おめめちょぺにぺにをちゅぶしちぇね」 「…………!!」 キラキラと目を輝かせ、笑顔で末れいむはぷすぷすさんをもう一度自分のほうに押しやってきた。 こいつはわかってない。 ぷすぷすさんがどれほど痛いのか、赤ちゃんを生めなくなることがどれほどの絶望かわかってない。 だから気軽にこんなことが言えるのだ。 思い知らせてやる。子まりさはぷすぷすさんを取り上げた。 しかし、できなかった。 ぶるぶる震えるぷすぷすさんの先を末れいむに向けながら、どうしてもあんよを踏み出すことができなかった。 「……おにぇーちゃん?どうしちゃにょ?」 「……………………」 「………なんぢぇ、ないちぇるの?」 「おぢびぢゃああああああん!!!」 両親が、姉妹たちが、駆け寄ってきていた。 「やべでっ!!おぢびぢゃんはいいがら!! ばりざおぢびぢゃんっ!!でいぶを、でいぶをぷすぷすしでねえええ!!」 「ごべんねっ!!ごべんねっ!!いままできづかなくてごべんねっ!! おどうざんが、いうべきだったのに!!おとうさんが!!ごうじでづぐなうべぎだっだのに!! ゆ゛ぐっ、おぢびぢゃっ!!おどうざんをずぎにじでいいよ!!ごべんねええええ!!」 「おねえじゃーっ!!でいびゅをぷずぷずしちぇえええ!!」 「ばりじゃも!!ばりじゃもおおお!!!」 家族全員が、子まりさに向かって腹を突き出す。 そして口々に、自分を傷つけてくれ、お前と同じようにしてくれと願った。 それを聞くうち、子まりさの口からぽとりとぷすぷすさんが落ちた。 「………お、とーしゃ………おきゃー………しゃ………」 「ハイハイハイ、ご立派!!お見事!!!」 お兄さんの声がした。 「いやあ、すばらしい家族愛でした。スバラシイッ! 償いのために、自らの体を差し出す自己犠牲の精神。ウツクしい。マネできない。 君たちのうるわしすぎる愛情に、お兄さん、涙がとまらないよ」 目元をハンカチで押さえながら、お兄さんは震える声で褒め称えてくれた。 お兄さんの前に並ぶ家族は、互いに視線を交わしながら「ゆふふ」と笑いあう。 子まりさも、まだ表情は硬かったが、一応は両親の傍に並んでいる。その傍らで末れいむがすーりすーりしていた。 「お帽子をなくして、傷だらけになってゆっくりできなくなった子まりさに対して、 決していじめたりせず、分け隔てのない愛を注ごうとする君たちの心根はホンモノだ。 認めざるをえないようだね………今の君たちは、弱い者苛めなどしない、本当にゆっくりしたゆっくりだ!」 「「「ゆゆーっ!!」」」 お兄さんに認められ、一同は満面の笑顔でもみあげやお下げを上げてガッツポーズをした。 「約束どおり、君たちを苛めることはもうしない。 こんな美しい家族を苛めるなんてできるはずがないじゃないか。 明日、森に返してあげよう。沢山のあまあまもお土産に持たせてあげよう。 今日はもう遅いから、あと一晩だけそこでゆっくりしていってくれ」 「ゆっくりりかいしたよっ!!」 「おにいさん、ありがとう!!」 「お礼なんて。むしろお礼を言うのは僕のほうさ。 こんなに心温まる家族愛を見せてもらってとってもゆっくりできたんだからね!」 「ゆーっ!それほどでもあるよっ!」 「おちびちゃん、それをいうなら「ないよっ」でしょ!ゆふふ」 試練を乗り越え、家族たちはこのうえなくゆっくりしていた。 これで家に帰れる。しかも沢山のあまあまを携えて。 子まりさはこんな体になってしまったが、そのおかげで、家族たちのつながりはより強固なものになったのだ。 子まりさを囲んで、これから沢山ゆっくりしよう。愛を交わそう。 両親のれいむとまりさは、万感の思いを込めて頬を交わした。 その夜は、久しぶりに子まりさを家に迎えて、みんなで語り合ってからゆっくりと眠った。 子まりさはまだ口数が少ないが、たっぷり時間はある。ゆっくりと仲直りしよう。 両親は寝る前に、子まりさと、そして末れいむを特別いっぱいぺーろぺーろしてあげた。 皆が寝静まった頃、親まりさはただ一匹、空のお月様を見上げていた。 お月様はまんまるさんだった。それは、今の自分たち家族を象徴しているようだった。 「ゆっくりしていってね………」 親まりさは穏やかな笑みを浮かべて、お月様に挨拶をした。 「「「ゆっくちおきちゃよっ!!」」」 「ゆふふ、おちびちゃんたちはおねぼうさんだね!」 ボール箱の家の中で、目を覚ましたおちびちゃんたちをぺーろぺーろしてあげる。 くすぐったそうに笑うおちびちゃんたちの表情に陰はない。 子まりさは強張ってはいるが、抵抗はしない。 この家で暮らすのも今日で最後だ。 終わってみれば、雨風はしのげるしご飯はお兄さんが持ってきてくれるしでなかなか快適な家だったが、 やっぱり、自分達で狩りをしてこそのゆっくりできる家族だ。 森へ戻れば、沢山の仲間達がまた迎えてくれるだろう。心配をかけちゃってごめんね、ぱちゅりー。 家族は箱を出て並び、お兄さんが出てくるのを待った。 出立が待ち遠しい。 帽子の内側を払ったりしながら、どれだけあまあまを運べるかの胸算用をする親まりさを見て、 親れいむが「ゆふっ」と笑った。 そうこうするうちに引き戸が開いた。 全員がそちらに向き直り、お兄さんに朝の挨拶をする。 「「「「「ゆっくりしていって「じゃおーん!」 「「「「「「ゆゆっ?」」」」」 出てきたのはお兄さんではなかった。 人間さんの頭部に合わせて見上げていた視線を、床すれすれに下げる。 「じゃおーん!じゃおーん!」 少しだけ開けられた引き戸の隙間から現れ、 鳴き声を上げながらこちらに跳ねてくる小さなゆっくり。 「ゆゆっ!ぐずのめーりんがいるよっ!!」 ――――――― 「じゃおーん!じゃおーん!」 「ゆーっ!!めーりんはゆっくりしてないね!!ぐず!!」 「じゃおーん!じゃおーん!」 「れいみゅのぷーすぷーすによいしれちぇいっちぇね!!」 「じゃおーん!じゃおーん!」 「それしかしゃべれないの?ぐず!!のろま!!ゆっくりしね!ゆっくりしね!!」 「じゃおーん!じゃおーん!」 「ゆーん!おちょーしゃん、ちゅぐにきょろしちゃもっちゃいにゃいよっ!! まりちゃ、いっぴゃいあちょびちゃいよ!!」 「じゃおーん!じゃおーん!」 「ゆゆっ、そうだね!おとうさんうっかりしちゃったよ!! ことばもしゃべれないのろまはたっぷりあそんであげないとね!!」 「じゃおーん!じゃおーん!」 「ちゃべれにゃいにゃらおくちにゃんかいらにゃいよにぇ~~? ゆーっ!こうぢゃよ!!ゆーっ!!ゆーっ!!」 「じゃおーん!じゃおーん!」 ゆっくり共が、小さなゆっくりを取り囲んで罵詈雑言を吐き、執拗に痛めつけている。 傷を負ったあの子まりさを除き、八匹全員がリンチを楽しんでいた。 親れいむが子めーりんのもみあげを噛んで持ち上げ、びたんびたんと床に叩きつける。 執拗に口を狙っていた。 「ゆっ!ゆっ!ゆっくりしね!!ゆっくりしね!!」 「ことばもしゃべれないぐずめーりんなんかしかいにはいってこないでねっ!! こどものじょうそうっきょういくっにわるいよ!!」 「「「ぐーじゅ!!ぐーじゅ!!」」」 「じゃおーん!じゃおーん!」 「おめめしゃんぷーす!ぷーす!!ゆっくちくるちんでいっちぇね~♪」 「じゃおーん!じゃおーん!」 子めーりんの両目に爪楊枝が差し込まれ、砂糖水したたる眼球が一気に両方ともえぐり出される。 眼球でサッカーをしながら子ゆっくり共はゆきゃきゃと歓声をあげた。 ふと、親まりさが気づき、爪楊枝を咥えて子まりさのもとへ跳ねていった。 「ゆっ!おちびちゃんもいっしょにあそぼうね!!」 「…………やぢゃ」 「ゆーっ?どうして?とってもたのしいよっ!!」 「………いじみぇて、たのちいの?」 「ゆん!とってもたのしいよ!!おちびちゃんもいっしょにあそぼうよ!!」 「………まりちゃ、やぢゃ。いぢめちゃく、にゃいよ」 「ゆゆぅ?どうしてぇぇ?! おとうさんも、おかあさんも、おちびちゃんといっしょにあそびたいよっ! みんなでいっしょにあそぶからゆっくりできるんだよっ!!」 「そうだよ、おちびちゃん!」「「おにぇーちゃん!」」 親れいむと姉妹たちも、子まりさに駆け寄って必死に誘う。 「ね、いっしょにあそびましょう?おちびちゃんにも、ゆっくりしてほしいの」 「………………たのちくにゃいもん」 「ど、どうして?まえはあんなにたのしく………」 「まりちゃ、やぢゃ!なんかやぢゃ」 「ゆぅぅ………ね、いもうとたちも、おねえちゃんとあそびたがってるよ」 「ゆーっ!おにぇーちゃん、いっちょにゆっくちちようよ!!」 「いぢめ、やぢゃ……わるいこちょだよ……」 「ゆー、れいむ………」 「ゆ、そうだね………かんちがいしちゃったんだね。 ね、おちびちゃん。ゆっくりよくきいてね。 もちろん、よわいものいじめはゆっくりできないことだよ。 おぼうしがなくてゆっくりできないゆっくりだって、いじめちゃいけないよね。 おとうさんもおかあさんも、とってもはんせいしてるんだよ。 でもね、おちびちゃん。むずかしいかもしれないけど、よくきいてゆっくりりかいしてね。 あのね、ぐずのめーりんはれいっがいっ!なんだよ。 のろまで、ことばもしゃべれないめーりんが、だれをゆっくりさせられるの? いきててもめいっわくっしかかけないでしょ?じゃあなんのためにいきてるのかな?かんがえてみようね。 ね、おちびちゃん。あれはいきものじゃないの。おもちゃなの。 めーりんがやくにたつことといったら、みんなのおもちゃになることだけじゃない? だから、めーりんをおもちゃにしてあげることは、とってもゆっくりできることなんだよ!!」 「ゆーっ!!しょうだよっ!!」 「おにぇーちゃん!!いっちょにあちょぼ?」 「ね、おちびちゃん………」 「…………やぢゃ!!やぢゃやぢゃやぢゃああ!!ごわいいいいいぃぃ!!」 「お、おちびちゃん…………」 ついに泣き出した子まりさを囲み、オロオロしだす家族。 僕はそこで出ていくことにした。 「おい、お前ら」 「「「「ゆゆっ?」」」」 一斉にこちらを向き、にぱっと満面の笑顔を浮かべて挨拶してくる。 「「「「ゆっくりおはようっ!!ゆっくりしていってね!!!」」」」 あの時と同じだった。 全く後ろめたさのない、真っ直ぐな瞳。 自分達のする事に一片の疑問ももたず、家族愛に自己陶酔して満ち足りた表情。 吐き気がした。 「いいお目覚めだな」 「ゆーっ!!やっともりにかえれるひだよっ!!きぶんそうかいっ!!だよっ!!」 「あー、その件だけどな、取り消しだ」 「ゆ?……………ゆゆゆゆゆゆゆううぅぅぅぅ!!!?」 不穏な台詞に、ゆっくり共が叫ぶ。 「なんでっ!?なんでなんでなんでええぇぇ!!?やくそくがちがうよおおぉ!?」 「おにーさんっ!やくそくまもってねっ!!うそつきはゆっくりできないよぉ!!!」 「僕は何も約束を破っていない。 言ったはずだ、お前らが弱い者苛めをしないゆっくりになったら、ってな」 「そうだよっ!!まりさたち、もうよわいものいじめなんてしないよっ!!」 「れいむたちをうたがってるのおぉ!?」 「じゃあ、それは何だよ?」 両目をえぐり出され、やはり全身に爪楊枝を突き立てられている子めーりんを指差す。 そんな姿でも、まだ「じゃおーん」と鳴き続けている。 「ゆゆっ?」 きょとん、と子めーりんを見つめる家族。 二回目ともなるとすぐに僕の発言が飲み込めたようで、すぐに難詰してきた。 「ゆゆーっ!!まさか、おにーさんっ!!これもよわいものいじめっていうきなのおぉ!?」 「当たり前だろ………」 「いいがかりだよおぉ!!むちゃくちゃだよおおおぉ!!! こんなのまでいじめちゃいけないのぉ!?なかよくしなきゃいけないのおおぉ!!? だったらっ!!いしさんだっておはなさんだってうんうんとだってなかよくしなきゃいけなくなっちゃうよぉ!! おにーさんっ、きょくたんすぎるでしょおおおぉぉ!!?」 「極端かい?」 「じょうっしきっ!!でかんがえてね!! いじめはよくないけど、こんなのまでだいじにしてたら、ゆっくりいきていけないよっ!!!」 「僕だって生類哀れみの令を発布したいわけじゃない。 同じゆっくりを、苛めるなと言うのが、どうしておかしいんだ?」 「ぐずめーりんなんかゆっくりじゃないでしょおおおぉ!?」 「こんなのゆっくりじゃないよっ!!ごみくずだよ!!! ことばもしゃべれないで、じゃおじゃおいってるだけのごみく――」 僕はそれに被せていた帽子を取り上げ、本来の――末れいむのリボンを取り付けてやった。 「ゆえっ?」 状況を認識するまでに十数秒。このとろさでよく野生で生きているものだ。 いや、死亡率はそうとう高いらしいから妥当か。 「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!」 「………あ゛………あ゛………あ゛…………あ゛………………!!!」 「おでえぢゃあああああああーーーーーーーーーっ」 あとは前回の再現だった。 末っ子れいむの惨状にながながと悲鳴を上げ、パニックを起こし、嘆き、詫び、 ぺーろぺーろできないだのおにいさんなおしてくださいだのと連呼した。 「どうしてわからないんだ、お前らは」 「ゆぐじでっ!!ゆぐじでぐだざいいいいいい!! ばりざが!!ばりざ!!まだいじべばじだああああ!!いじべでじばいばじだああああああ!!!」 「でいぶをごろじでぐだざいいいい!!おじおぎじでぐだざいいいいいい!!!」 「じゃおーん!じゃおーん!」 両目を失ってぴくぴく痙攣している末れいむを持ち上げ、見せ付ける。 「いいか。お前らがこいつをめーりんだと思ったのは、この帽子があるからだな」 緑色の小さい帽子を、もう一方の手でひらひらさせる。 ペットショップで購入した子めーりんの帽子を、ちょっと拝借してきたものだ。 「そして僕が細工した。こいつの口をテープでふさいだんだ」 末れいむの口に貼り付けたマスキングテープを、慎重に引き剥がす。 どうにか唇を破らずに済んだが、執拗に攻撃された口内は歯茎がずたずたに砕け、 ほとんど全て粉砕されたらしい歯の破片が大量に、きらきらと光りながらこぼれ出した。 「……ゆ゛……ぐ…………ゆ゛げぇ……」 「あ゛………あ゛………あ゛あ゛あ゛あ゛…………あ゛………お゛……ぢび、ぢゃ……」 「じゃおーん!じゃおーん!」 めーりんの帽子をひっくり返し、中に仕込んでおいた超小型のボイスレコーダーを見せる。 「じゃおーんの鳴き声は、このレコーダーに記録してループ再生させたものだ。 それだけで、お前らはこの黒い目黒い髪の、しかも我が子をめーりんだと思い込み、虐待した」 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁ………ごべ………ごべんだざ………」 「ぐずのめーりんはれいっがいっ!だってな? 喋れないからゆっくりできない、だから苛めてもいい。そう言ってたな。 じゃあ、もう喋れないこのれいむも潰していいわけだ。さ、いっくぞー」 「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!! ぢがいばずっ!!ぢがいばずううううう!!!べーりんもいぎでばずっ!!ゆっぐじでぎばずうううう!!! じゃべれだぐでぼいぎでる、おなじゆっぐじでずううううううううごべんだざああああいいいいいい!!!!」 「でいぶをごろじでぐだざい!!おでがいじばず!!ぜいっざいじでぐだざい!!おでがいじばず!! でいぶはいぎるがぢのないげずでずっ!!おぢびぢゃんは!!おぢびぢゃんはあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 「いい加減にしろよ、お前ら」 僕に帽子を投げつけられ、びくんと震える家族。 「弱い者苛めはゆっくりできない。ただし帽子のないやつは「れいっがいっ」。 で、子供を苛めてしまい、反省したと思ったら今度は喋れないやつは「れいっがいっ」。 今回のことでもうめーりんは苛めないのかもしれんが、また理由つけて他の「れいっがいっ」で遊ぶんだろう。 髪の色が変だ、目の色が変だ、喋りが変だ、飾りが変だ、いくらなんでもこいつは、いくらなんでもこいつは。 なんとか理由を見つけて苛めを楽しむわけだ、本っ当に苛め好きだなあ、お前ら。 人間の中には虐待お兄さんってのが少なからずいるが、 お前らゆっくりは全員が虐待趣味抱えてんだなあ。まったく、頭が下がるよ」 「………ゆ゛ぐっ………………う゛う゛う゛う゛う゛う゛ぅ……………!!!!」 「詰みだよ、お前ら。たっぷり時間をかけて制裁し、惨たらしく殺してやる。全員な………あ、一匹だけは助けてやる」 「ゆ゛っ!!?」 満身創痍の妹を見つめながら震えている傷だらけの子まりさを取り上げてやる。 「こいつだけは助けてやる。こいつはめーりんを見ても苛めなかった。 自分の身にならなきゃわからなかったとはいえ、なかなか立派なものだ。 こいつだけはもはやゲスじゃない。助けてやろう。 あ、そこの末れいむも検討の価値はあるかな?」 「ゆ゛っ………あじがっ……おに、おにいざ……」 「何だよ」 「おねがい、じばず………ほがの、ほかの………おぢびぢゃんも………」 「駄目だ。見てなかったのか?大喜びでぷーすぷーす。弱い者苛め大好きゲスゆっくりだ。制裁すべきだな」 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛おでがいじばずおでがいじばずおでがいいいいいいい!!! おぢびぢゃんだげは!!ばりざだぢがぜんいんぶんぜいっざいざればず!!おぢびぢゃんだげはああああ!!!」 「いくら子供思いの親アピールされたって、こいつとそいつをここまで痛めつけたのお前らだしなあ」 「あ゛ーーーーーーーーーーっ!!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーーーーーっ!!!!」 完全に八方塞がり、しかも全面的に自分達で退路を断ったその状況に追い込まれ、 両親はもはや泣きながら絶叫するしかないらしかった。 ――――――― 「…………ゆっくり……おはよう……」 目覚め、家族を見回してから挨拶する。 返事は返ってこない。 ただ、疲れきった視線がひととき自分に集まるだけだ。 今日も目覚めてしまった。 もっと長く眠っていたかった。 眠りのまどろみから浮き上がった今、また現実をその目に映さなければならない。 「ゆぅ…………」 親れいむだけが、呻きで反応を返した。 それきり家族の視線は離れ、別の一点に改めて集中する。 「はふっはふっ!!うっみぇ!!まじうっみぇ!!ぱにぇぇ!!」 「まじやべっ!!うみぇっ!!とみゃんにぇっ!!あみゃあみゃ!!あみゃあみゃ!!」 家族が食い入るように見つめるその先では、二人の子ゆっくりが山盛りのあまあまに顔を埋めている。 ベランダには一日かけても食べきれないような量のあまあまが山積みになっていた。 クッキーやチョコレートやプリンを食べ散らかし、一口ごとにあまりの旨さにうれちーちーを漏らす子まりさと末れいむ。 かたや左目とまむまむを失い、かたや両目を失った状態だったが、 極上のあまあまの快楽に脳髄を痺れさせた今、もはや悲壮感は全くなく、 この世の栄華を極めたがごとき恍惚の表情を浮かべていた。 末れいむの砕けた口と歯はお兄さんが再生していた。 「こいつにはお前らにたっぷり言いたいことがあるだろうからな」、それが理由だった。 少しでもあまあまが減れば、お兄さんがすぐに追加する。 二人は昼夜の区別なく、のべつまくなしにあまあまを咀嚼する。 一方、残りの家族は、狭い水槽に閉じ込められていた。 透明な壁が四方を遮る空間に八人のゆっくりがみっちりと詰め込まれ、ほとんど動く余地はない。 あの日から、食事は一切与えられなかった。 唯一、子まりさと末れいむのうんうんとしーしー以外は。 「ゆぷー☆きゃわいいまりしゃがうんうんしゅるよ!!」 「れいみゅのしゅーぴゃーうんうんちゃいみゅだよっ!!きゃわいしゅぎてごみぇんにぇ!!」 子まりさと末れいむはそう宣言すると、わざわざ家族のいる水槽まで這いずっていき、 水槽に向けて尻を上げた。 透明な壁に向かって、二人のしーしーが叩きつけられ、うんうんがひり出される。 子まりさの方は常時うんうんとしーしーを垂れ流している状態だが、 意識して排出すると、こうして勢いよく噴出すのだった。 「おい、どれい!!ごみくじゅどみょにごひゃんしゃんをめぎゅんであげちぇにぇ!!」 「はい、ごしゅじんさま」 二人の傍に常時侍っているのは、ゆっくりさくやだ。 舌ともみあげでスコップと雑巾を器用にてきぱきと使い、専用の容器にうんうんとしーしーを集めていく。 「やしゃちいれいみゅのほどきょしだよっ!!ありがちゃくおもっちぇにぇ!!」 「なんちょかいえ!!ごみくじゅ!!」 二人の罵声に涙を浮かべながら、それでも家族は答えた。 「「「「あり………がどう、ございば……ず………」」」」 「ゆふんっ!!ゆっくちちてにゃいよ!! しょんにゃきょきょろのこもっちぇにゃいおりぇいで、ほどきょしはあげられにゃいよっ!!」 「どれい!!ごひゃんしゃんはぬきぢゃよ!!しゃげちぇにぇ!!」 「ゆ゛あああああ!!ありがどうございばず!!ありがどうございばず!! ばりざざまとでいぶざまのおがげで、ぎょうもごみぐずだぢはゆっぐじでぎばずっ!!!」 家族の懇願を聞きながら、二人の子ゆっくりはにやにやと笑みを浮かべる。 「しょんにゃにうんうんにゃんてたべちゃいにょ?ゆぷぷぅ~~☆」 「うんうんずきのごみくじゅにゃんてゆっくちできにゃいにぇ~~☆」 「ゆ゛ぐう゛う゛う゛う゛ぅ……………!!」 ひとしきり罵倒され、嘲笑され、それをじっと黙って耐えてからようやく食事が与えられる。 さくやが水槽の上部からうんうんとしーしーを一緒くたにして流し込み、 極度の空腹を抱えた家族がそれにかぶりつく。 「うんうんたべちぇるよ!!ごみくじゅがうんうんたべちぇるよぉ!!ゆぴゃぴゃぴゃぴゃ!!」 「くちゃいくちゃい~~♪こんにゃすがちゃでよくいきちぇられりゅにぇ~~☆」 始めの頃は、子供たちが泣き、怒り、反抗したが、 少しでもこの二人に逆らおうものなら、お兄さんの制裁が行われた。 『お前らに怒る権利があるのか、え? 弱い者を苛めて喜ぶゲスのゴミクズに、なんの権利があると思うんだ? こいつが子供を作れないのは誰のせいだ?こいつの目が見えないのは誰のせいだ? お前らがこいつらに向かって、いったいなにを要求する権利があんだよ。言ってみろ』 『ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ごべんだざい!!ごべんだざい!!ごべんだざい!!ごべんだざい!!』 『お前らが自分で言った通り、本当のゴミクズに生きる価値はない。 そんなゴミクズはせめて他のゆっくりのオモチャになったほうが幸せなんだろ? 幸せって言えよ、コラ』 『ゆぶぎゃばああああ!!じ、じあばっ!!じあばぜぇ!! ごんだごびぐずでだのじんでぐれでっ、あじがどっ、ごじゃばじゅうう!!がんじゃじばじゅうううううやべぢぇえええ!!!』 家族の体には、多くの傷が刻み込まれている。 ぷすぷすさんで刺された傷、あつあつさんで焼かれた傷、ぺちぺちさんで皮が破れるまで叩かれた傷。 体表がでこぼこになるほどに傷だらけになった家族は、 今日もお兄さんの制裁に怯えている。 ベランダには数々のゆっくりできる玩具が転がっており、 奴隷としてお兄さんがあてがったゆっくりさくやが、子まりさと末れいむの世話をなにからなにまでしてくれる。 ふかふかしたクッションに横になりながら、二人はさくやの子守唄を聞いて寝息を立て始めた。 うんうんを咀嚼しながら、家族は枯れる気配のない涙をまた一筋流した。 〔続〕
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過去作 anko1548『よわいものいじめはゆっくりできないよ!』前編 anko1744『よわいものいじめはゆっくりできないよ!』中編-1 anko1745『よわいものいじめはゆっくりできないよ!』中編-2 「よう、元気でやってるか?」 「!!!!」 お兄さんがやってきた。 引き戸を開け、家族に声をかける。家族は答える余裕もなく、ぶるぶるがたがた震え出した。 「ゆゆっ!おにーしゃん、ゆっくちちていっちぇにぇっ!!」 「おにーしゃん?ゆっくちちていっちぇにぇ!!」 飾りのない二人がクッションから飛び上がり、お兄さんの足元を目指してぴょんぴょん跳ねていく。 「おう、ゆっくりしているか?」 「ゆんっ!まりしゃ、ゆっくちちてりゅよっ!!」 「れーみゅもゆっくちちてりゅよ!!おにーしゃん、いちゅもありがちょう!!」 「よしよし、いい子だな。お飾りがなくたって本当にゆっくりしているよ、お前らは」 「ゆゆ~~んっ♪」 「それにひきかえ……」 お兄さんの視線が、じとりとこちら側に移る。 家族はいよいよがたがた震え、背面のガラス壁に体を押し付けた。 「こっちのゴミクズ共ときたら……なッ!」 ガァン!! 「ゆびいぃっ!!」 お兄さんに蹴られ、水槽が激しく揺れる。 頑丈な水槽はそうそう割れることはないが、それでも安全を保障してはくれない。 「お飾りがないだけで、口がきけないだけで、 自分の子供さえ大喜びで苛めるクソゲスなんだからなぁ………なんでおめおめ生きてられんの?」 「ごめんなさい!!ごめんなさい!!くそげすでごめんなさい!!いぎででごべんなざい!!」 「ゆーっ!!まだまだはんちぇいがたりにゃいよっ!!」 「おにーしゃん、はやきゅ!!はやきゅはじめようにぇっ!!」 「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!ゆぐじでぐだざい!!ゆぐじでぐだざい!!」 「おう、今日も楽しい楽しい制裁タイムの始まりだ。 たっぷりこいつらで遊んでやろうな」 「ゆゆーんっ!!」 「おでがいでず!!ぼうやべでぐだざい!がらだじゅうがいだいんでず!!ゆっぐじでぎだいんでずぅぅ!!」 「あのなあ、お前らはゴミクズなんだろ?自分で認めたんだろ? ゴミクズは玩具になるしかねえもんなあ。さ、きりきり働こうか」 「ばぢがっでばじだ!!でいぶだぢがばぢがっでばじだ!!ゆっぐじざぜでええぇぇ!!」 「ゆーっ!きょうはぷきゅーしゃんをしゅるよっ!!」 「お、いいな、それでいこう」 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぷぐーざんはゆっぐじでぎだいいいいいぃぃ!!!」 毎日の日課、お兄さんからの制裁が今日も始まった。 子ゆっくりの注文に応える形で、ありとあらゆる責め苦が家族に課せられ、それを見て飾りのない二人は楽しむ。 今日の制裁は「ぷくーさん」だった。 口をテープで塞いだあと、透明なラップで全身を厳重にくるまれ密封される。 次にラップの隙間から、先端に風船のついたホースをあにゃるに突っ込まれ、 ポンプでホースから風船に空気を注入される。 体内の風船に押されて全身がまん丸に膨れ上がるが、ラップでくるまれているために、遮られて破裂はできない。 風船は容赦なく膨れ上がり、体内の風船と体外のラップに挟まれて体中の餡子が圧迫まれ、想像を絶する苦痛がえんえんと続く。 「ゆ゛ぶぶぶぶぶぶっぶぶぶぶぶぶっぶぶぶぶぶぶう゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!!!」 「ゆーっきゃっきゃっきゃっ!!ぷきゅーきょわ~~い☆」 「たのちい?たのちい?ねえねえぷきゅーたのちいぃ?ゆっくちゆっくちぃ~~♪」 笑い転げる二匹の前で、家族が一匹ずつぷくー責めを受ける。 十数分も続けて餡子を押しつぶされたゆっくり達は、その日一日は動くこともできない苦痛と疲労に悶えることになる。 今また、親れいむが責められていた。 全身を真っ赤にして涙を流し、膨れ上がる。 まん丸に見開かれた両目は半ば飛び出し、慈悲を求めてわが子を見つめ震えていた。 それを見て、二匹の子供はますます笑い声をあげるのだった。 地獄のような毎日。それでも、ただひとつの救いがあった。 まがりなりにも、家族が一緒にいるということだ。 ほとんど会話はなく、そのうち二匹はこのうえもない怨嗟と憎悪と侮蔑を向けてきてはいるが、 家族はたしかに揃っていた。 「ゆぅ……ぺーろ、ぺーろ……」 水槽の中で、ほとんど唯一といえる楽しみ。 家族とのすーりすーりとぺーろぺーろだけが、親まりさ達の正気を保っていると言ってよかった。 「ぺーろ、ぺー………おちび……ちゃん?」 しかし、家族は少しずつ狂いはじめていた。 ぺーろぺーろしていた子まりさが全く反応を返してこないのに疑問を感じ、その顔を覗き込む。 しかし、その子まりさは何も応えず、ただ視線を一点のみに向けていた。 壁の一点。何もない、ただの壁。しかしそれを、日がな一日、食事もとらず動きもせずに見ている。 親まりさがどれだけ呼びかけても、その子まりさが応えることはなかった。 死んでいるのかと思って焦ったが、目はたしかに開いていた。 「だずげでぐだざい!!おぢびぢゃんがゆっぐじでぎでないんでず!!」 「ん?知るかよ。自分でなんとかしろ」 「おでがいじばず!!ばりざだぢじゃだずげであげられだいんでず!!おぢびぢゃんを!!おぢびぢゃっ」 「何をいまさらわめいてんだよ。子供なんかどうでもいいんだろ?なあ、れいむ、まりさ」 「ゆーっ!!れいみゅをこんにゃにしたくちぇに、いましゃらあちゅかまちいよっ!!」 「にゃんでまりしゃはたちゅけにゃかっちゃの!?しょいつもいじみぇればいいでちょっ!!」 「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛ぅぅぅ………!!!」 お兄さんに助けを求めるが、すげない答えが返ってくるばかり。 それどころか子供たちにまぜっかえされ、罵倒されるばかりだった。 ぴくりとも動かなくなった子供を、家族は涙にくれながら夜通しぺーろぺーろするしかなかった。 「ゆぢっ!!ゆぢーっ!!ぎゅぐげげげげげ!!びょぢぢ!!」 次の日には、子れいむの一人がおかしくなっていた。 もみあげをひっきりなしにばたばたばたばたばたつかせ、涎と糞尿を垂れ流す。 口にする言葉はもはやほとんど意味をなさない、歯軋りのように不快な雑音に変じていた。 焦点の合わない視線をしきりに泳がせながら、狭い水槽の中で暴れ周り、家族を困らせた。 「うー☆あみゃあみゃだっどぅー!おぜうしゃまのぶりゃんちににゃるんだどぅー☆」 「ゆびっ!!いぢゃいっ!!やべでぇおにぇえじゃんん!!」 子まりさの一人が、れみりゃの声色を真似て姉妹の頬をかじり始めた。 噛む力が弱くなかなか噛み千切るまでにはいかないが、 それでも姉妹は苦痛に泣き、何よりそのゆっくりできない声が家族を苛んだ。 両親がその度にきつく叱り押さえつけることでなんとか事なきを得てはいたが、 子まりさの口調はもはや戻らず、ずっとれみりゃの声色で喋り、隙をついては家族を捕食しようとした。 「んほぉぉぉ!!んっほおおおおぉぉぉ!!!」 子れいむの一人がれいぱーになった。 涎を垂らして小さなぺにぺにを誇示するように突き出し、おぞましくも実の姉妹とすっきりに及ぼうとした。 両親がいくら叱ってもやはり治る気配はなく、、一日中半ば拘束するように押さえつけていなければならなかった。 親のもみあげに押さえつけられていてすら、壁や床にぺにぺにをこすりつけてひとりすっきりーに及ぶわが子を前に、 両親はまたも苦い涙を流した。 「じゃおーん!じゃおーん!」 あの日の苛めに対するあてつけだろうか? 子まりさの一人が、「じゃおーん」しか言わなくなった。 それしか喋れないゆっくりを見てももう苛めないと誓った手前、あまり強くは叱れなかったし、 やたらに楽しげに連呼するわが子を見ながら、両親は、 こんな生活でも楽しんでいられるなら、狂ったほうがよかったのかもしれないと後ろ向きな安堵をさえ覚えた。 「ちーんぽ!でかまら!ぺにす!!」 最後に残った子れいむが狂ったとき、両親は大声で泣き喚いた。 水槽の中に一緒に閉じ込められた愛しい子供たちはどの子も狂い、 もはや意思疎通も適わず、わけのわからないことを言いながら蠢く狂い饅頭となり果てた。 残った二匹は、水槽の外で自分たちをせせら笑っている。 それでも両親は、帽子のない二匹の子供たちにすがろうとした。 「……ゆっくり……ゆっくりしていって……ね…」 「ゆ?ゆゆーん?にゃにいきにゃりはなちかけちぇきちぇるわきぇ~?」 「れーみゅちゃちをぷーすぷーすしちゃごみくじゅがにゃにかいっちぇるよっ!!」 「ごべんね………ごべんね………ゆぐじで………おがあざんをゆぐじで……」 「ごべんにぇ~♪ゆぐじじぇ~♪うんうんぴゅりぴゅり~~♪」 「はんっちぇいっがたりにゃいよ!!ごみくじゅ!!ちにぇ!!」 こんな会話でも、唯一意思の疎通ができる子供達と、 両親はなんとか仲直りしようとわずかな望みをつないだ。 あんなにゆっくりしていた子供たちだから。 根は素直な子供たちだから、きっといつか、きっといつか。 「おちびちゃ………おちびちゃ…………」 「ちにぇ!!ごみくじゅ!!くそげしゅ!!」 「いっしょに………いっしょに、ゆっくり……おがあざん、ど……… ながよぐ、じで…………おでがい…………おでがいだがら……がぞぐ、みんなで……」 「ゆっはああああぁぁぁああああぁぁ!!?にゃにいっちぇるにょおおおおぉぉぉ!!!? しょのかぞきゅをぷーしゅぷーしゅしちゃのはどこのだりぇなんぢゃあああぁぁぁ!!!」 「何やってんだよ、お前ら」 「ゆひぃぃ!!」 お兄さんが、その様子を見咎めてきた。 「ゆーっ!!おにーしゃん!!きょのごみくじゅどみょが、にゃかにゃおりしちゃいっちぇ~~♪」 「ああ?そんな事言ったのか? お前らをこんな目に遭わせといて、どの面下げてそんな事言えるんだか」 「ゆ゛ぐぅぅぅ………」 「可愛い子供たちなら、そこに一杯いるじゃねえか。 そこで一家団欒してりゃいいだろ?え?」 「………みんな、みんな………ゆっくりしてないよ……… ゆっくりできなくなっちゃったよ…………」 「はあ?」 全く動かない妹の頬をかじっている子まりさ。 自分のもみあげの下で暴れているれいぱーの子れいむ。 小さなもみあげをふりみだして何やらわからない言葉を連呼している子れいむ。 「じゃおーん」を連呼する子まりさ、「ちーんぽ」を連呼する子れいむ。 誰一人としてゆっくりしていなかった。 もはやこの水槽は、壊れたゆっくりを収容する精神病院と化していた。 両親でさえ、明日にも発狂寸前の状態だ。 「ふーん?で、そいつらは壊れちゃったから捨てちゃおうと。 最後に残った二匹の子供といちゃいちゃしたいと」 「ゆぷぷ!あちゅかまちーにぇ!!」 「「…………………………」」 「じゃあ、ひとつだけ質問しようか。 その答えによっては、お前らにチャンスをやらんでもない」 「ゆ゛ぅっ!?」 この期に及んで、まだ希望が見えてきたというのか。 両親はお兄さんを食い入るように見つめた。 「子供を作れない子まりさ、目の見えない子れいむ、ともにお飾りのないこの二匹。 一方、お飾りはあるけど壊れちゃったそこの六匹。 さーて、ゆっくりできるのはどっちかな~~?」 「……おかざりのないおちびちゃんのほうがゆっくりしてるよぉっ……!!」 両親の答えに迷いはなかった。 「バーカ」 「ゆ゛っ!?」 お兄さんは、六匹の子供たちを水槽から取り出して床に並べ、 その頭から次々とお飾りを取り上げた。 「「ゆっ??」」 飾りがなくなったとたんに、個体識別の術がなくなり、 六匹はどこの誰とも知れず得体の知れないゆっくりと化す。 それでも、その動きや喋りを見ていると、ようやく確信が持てた。 こいつらは絶対にまりさたちのおちびちゃんじゃない。 深くため息をつき、お兄さんが解説してきた。 「こいつはただの饅頭に目鼻をマジックで書き込んだだけ。 こいつは野良ゆっくりに捨てられてた未熟児。 こいつらはそれぞれれみりゃ、レイパーありす、めーりん、みょんの子供。 毎日一匹ずつ、お前らが寝てる隙にすり替えさせてもらった」 「…………………!!」 「おい、入っていいぞ」 「「「「「「ゆっくちりきゃいしちゃよっ!!」」」」」」 引き戸の向こうから、六人の子ゆっくりがぴょんぴょん跳ねてきていた。 「ゆーっ!!おきゃーしゃん、まだゆっくちできにゃいの?」 「まりちゃたちはゆっくちちてりゅよっ!!」 「みゃいにちあみゃあみゃをむーちゃむーちゃできりゅんだよ!!ゆっくち!ゆっくち!!」 「おにぇーちゃんたちもゆるちてくれちゃよっ!!」 「ゆあ…………あ……………おちび、ちゃん……?」 傷だらけで、お飾りのない子供たち。 しかし、その表情はこのうえもなくゆっくりできるものだった。 本来、飾りのないゆっくりは大きな不快感を伴って目に映り、他のゆっくりに強い嫌悪感を抱かせる。 だがこの数日で、家族の価値観には大きな変化が起こっていた。 飾りがないのに、むしろ飾りがないからという理由でちやほやされていた二人の子供。 飾りがあっても、ついには精神に異常をきたした子供たち。 それらを目に写しているうちに、家族たちの精神にはある種の刷り込みが行われていた。 「これで三回目。 僕の言いたいことがわかるか?」 「……………………」 「お前らは、飾りしか見ていない。 あれだけ可愛がっていた子供でも、飾りがなければ赤の他人に見え、 全く見ず知らずの、しかも捕食種の子供が、飾りさえ乗っていれば可愛い子供に見える。違うか?」 「…………ちがい、ばぜん………」 「その程度なんだ。 お前らは家族思いのつもりでいるかもしれないが、結局、外見も性格も見ちゃいない。 ひたすらお飾りしか見ていない。子供の頭の上にのっかってるお飾りだけを可愛がっていたんだ。 どうだ、認めるか?」 「………………みどべばず……」 お兄さんは屈み込み、両親の前で指を振って言った。 「いいか。お前達に最後のチャンスをやろう」 「ゆ゛っ!?」 「帽子だけの絆でいいのか? 互いの本質なんて見ずに、お飾りだけを愛でる、そんないびつな家族でいいのか?」 「…………っ!!いや、でずっ………!」 「なあ、やり直さないか。 本当にお互いのことを見て、そのいいところ、悪いところを隅々まで知りあって、 互いのゆん格を認め合ったうえで思いやれる、そんなゆっくりできる家族を目指さないか」 「おにっ、いざん…………」 「ゆっぐじ、じだい…でず……… ……ゆっぐじ、でぎる、がぞぐざんに………なりだい、でずぅぅ……!!」 「いいだろう」 そう言うと、お兄さんは夫婦を水槽から取り上げて床に置いた。 「……おにいさん……?」 「一からやり直しだ。これはもういらない」 まりさとれいむ夫婦のお飾りが取り上げられる。 「ゆぅっ…………!!!」 「こんなものがあるからお互いが見えなくなるんだ。 これは預かっておく。飾りなんかに惑わされずに、本当の意味でお互いを見るんだ。できるな?」 「ゆぐっ…………やり、ばず…………!!」 「よし。さあ、家族同士で改めて挨拶しようか」 お兄さんの手で、総勢十匹の家族が円陣を組んで並べられた。 全員が飾りを失い、互いにほとんど見分けがつかない。 その中心に、れいむとまりさ夫婦、そして最初に虐められた子まりさと子れいむが向かい合っている。 おずおずと、夫婦が口を開いた。 「………おち、びちゃ……………」 子まりさと子れいむは互いに頷き合い、二人で両親に向かって叫んだ。 「「ゆっくちしちぇいっちぇね!!!」」 それは、今までで一番の、 二人がこの世に生まれ落ちたときの初めての挨拶よりも、もっともっとゆっくりできる挨拶だった。 やり直そう。 みんなで、また一から始めよう。 おちびちゃんたちも、おとうさんもおかあさんも、今日この時、再び生まれ落ちたのだ。 涙でびしょびしょに濡れた頬を子供に押しつけながら、 まりさとれいむ夫婦はゆっくりしていってねと何度も何度も叫び続けた。 ――――――― 二週間が経ち、我が家のベランダはすっかり賑やかになっていた。 「ゆっ!ゆっ!おちびちゃん、ゆっくりおかあさんのべろさんにのってね!」 「ゆーっ!おしょらをとんでりゅみちゃ~~い!!」 「れいみゅおねーしゃんじゅるい!まりちゃも~~!!」 「ゆふふ、ゆっくりじゅんばんだよ!ゆっくりしていってね!!」 「れいみゅ、こっちぢゃよっ!ゆっくちついてきちぇにぇ!!」 「ゆっくちおにぇーしゃんについていきゅよっ!!ゆっくち、ゆっくち……ゆゆっ?こりぇ、にゃあに?」 「ゆふふ、あててみちぇね!あてられちゃら、れいみゅのもにょだよ!!」 「ゆっ!ぺーりょぺーりょしゅるよ!!………ちあわちぇ~~~!!ゆゆっ、ちょこれーちょしゃんだよっ!!」 「よきゅわきゃっちゃね!!ゆっくちたべちぇいっちぇね!!」 「おにぇーしゃん、ありがちょ~~!!ぺーりょ、ぺーりょ………あみゃあみゃちあわちぇ~~~!! ゆっ、おにぇーしゃん、いっちょにぺーりょぺーりょちようにぇっ♪」 「ゆゆっ!?ありがちょうにぇ!!いっちょにぺーりょぺーりょたいみゅ、はじまりゅよっ☆」 「「「「ゆっくりしていってね~~♪」」」」 例の家族は、飾りがないまま、しかし仲むつまじく団欒していた。 初めのころは飾りがないことでお互いに認識できなかったが、 必死に相手の表情や声、外見を注視することで、少しずつ少しずつ個体識別ができるようになっていった。 今では、十匹の家族はお互い完璧に識別できている。 当たり前だ、識別できないほうがおかしい。 「見分けがつかない」という思い込みを「見分けがつく」という思い込みにすり替えればいいだけの話だ。 見分けがつくと思えば、見分けはつくに決まっている。識別しようという意思、努力が致命的に欠けていたということか。 「ゆーっ、れいむのびせいによいしれていってね!!ゆ~ゆ~♪」 「れいみゅおばしゃんのおうちゃはゆっくちしちぇるにぇ!!」 「ゆっ!ゆっ!まりしゃのだんしゅをみちぇいっちぇにぇ~~」 「おばしゃんもまりしゃもゆっくちしちぇりゅねっ!!」 「じゃおーん!」 「まりしゃとおいきゃけっきょちようにぇっ!!ゆっくち!ゆっくち!」 「じゃおーん!!じゃおーん!!」 「みぇーりんははやしゅぎるよぉ!!でみょ、きょうこちょはまけにゃいよっ!!ゆっくち!!ゆっくちぃぃ!!」 ベランダでゆっくりしているのは家族だけではない。 世話係のさくやの他、帽子すり替え実験のために買ってきたもろもろのゆっくりも仲間に入っている。 野良だったのを拾ってきた飾りのないれいむ、ペットショップで買ってきた子めーりんはすっかり家族と打ち解けていた。 同じくすり替えるために集めてきた当て馬達も、厄介者ではありながら夫婦たちの手で分け隔てなく世話を受けている。 みょん種の赤ゆっくりは子めーりんと同じく一家の団欒に参加できているが、 そもそも捕食種である赤れみりゃや知能に欠陥がある未熟児とレイパーはなかなか難しいようだ。 それでも文句ひとつ言わず、家族たちはかいがいしく世話をしていた。 赤れみりゃなどは、このごろではたどたどしくも家族の輪に入っていきたそうな表情さえ見せている。 初めは家族だけで暮らさせ、互いの識別ができるようになってから、 ゆっくりの数を増やして難度を上げようという意図で余所者のゆっくりを参加させたのだが、 一旦飾りなしの識別ができるようになればあとは早かった。 余所者を虐めたり見下すようなこともまったくない。 自分たちが飾りを失って底辺の存在に堕ちたこと、 そもそも余所者を虐めたばかりにこんなことになってしまったこと、 個体識別のために相手の性格をよく吟味するようになった結果、根拠なく見下すことがなくなったこと。 要因はいろいろ思いつくが、他種への差別心は、少なくとも表に出さなくなったようだ。 ゆっくりがあれだけ執着する頭の飾りだが、こうなってみればないほうがずっといいんじゃないか。 今、僕の目の前では、ゆっくりたちがこのうえもなくゆっくりした笑顔で笑いさざめいている。 飾りを失い、傷だらけの家族たち。 希少種、捕食種、通常の言葉を喋れないめーりんやみょん。 どれも通常の群れにいれば真っ先に差別、虐めの対象にされるはみ出し者だが、 ここではなんの差別もなく、互いに認め合い、慈しみあっている。 ちょっとしたユートピアだ。 下拵えには時間をかけた。 初めに家族に苛められた子まりさと子れいむには、 さんざんに家族を見下し、貶めてやるようにそそのかした。 本人たちも充分に家族を恨んでいたので喜んでやってくれたが、 毎日寝る前には二匹を家に引き入れ、釘を刺した。 「お前達だって前はそうだった、飾りのないゆっくりを虐めていたはずだ」 「お母さんたちも反省すればお前達と同じようにゆっくりできる」と、毎日繰り返し念を押した。 ゆっくりとしては善良な個体であるはずという僕の試算は当たり、 飾りを捨てた家族を、二匹は温かく迎え入れた。 一日ごとに子ゆっくりたちの帽子を奪い、家に招き入れてあまあまを振る舞い、 初めに虐待された二匹からはうってかわった歓迎をもって当たらせ、 飾りがないとゆっくりしている、飾りがないからゆっくりできると教え込んだ。 最後に両親に種明かしをし、家族全員から飾りを取り上げたとき、 すでに飾りに頼らない価値観の下地はできていた。 今、家族に差別心はなく、飾りのないゆっくりこそゆっくりできると信じ込んでいる。 屈託のない団欒を楽しむ家族を眺め、僕は確信した。 頃合いだ。 「ゆっ!おにいさん、ゆっくりしていってね!!」 「「「ゆっくちしちぇいっちぇね!!ゆっくち!!ゆっくち!!」」」 ベランダに出ると、家族たちが僕に笑顔と挨拶を向けてくる。 どの顔も非常にゆっくりした幸福感に満ち溢れていた。 「やあ、みんなゆっくりしているな」 「ゆーんっ!!おにいさんのおかげだよ!!」 「おかざりさんがないとゆっくりできるよっ!!ゆっくり!!ゆっくり!!」 「おにいちゃんありがちょー!!」 「そうなのかい?」 「ゆんっ!まりさ、いままではおかざりさんしかみてなかったよ。 でも、おかざりがないと、おちびちゃんやれいむのことをよくみるようになったよ。 みればみるほど、みんなちがうんだよ!おかおも、おこえも、うごきかただって、みんなちがうし、 ちがうけど、みんなみんなかわいいんだよ!!いままできづかなかった、いろんなかわいいところがあったよっ!! きずだらけだけど、まりさのかぞくさんはいままでよりずっとずっとかわいいんだよぉ!!」 「ゆゆぅ~~ん、まりさぁぁ~~♪れいむ、てれちゃうよっ///」 「「「おちょーしゃんゆっくち!ゆっくちぃ!!」」」 「そうか。うん、素晴らしい。みんな本当にゆっくりしているな」 「ゆふ~ん♪」 僕は頷き、ベランダのゆっくり達に声をかけた。 「みんな、今日はまりさたちの家族だけに大事な話があるんだ。 悪いけど、まりさたちだけこっちに来てくれ」 「ゆんっ?ゆっくりりかいしたよ!!」 十匹のまりさ、れいむ家族を、ガラス戸を開けて屋内に迎え入れる。 「ゆっくり!ゆっくり!」「ゆっくち!ゆっくち!」 楽しげに跳ねる家族たちを、僕は奥まった和室に案内した。 和室は僕の寝室であり、隅にたたまれた布団とテレビの他は殺風景なものだ。 家族を並ばせると、僕は家族たちに話しはじめた。 「改めて、みんな。本当にゆっくりしているね」 「ゆふんっ☆てれちゃうよ!」 「お飾りなんかなくても、ちゃんとお互いがわかる。お互いのことをよく見てる。 弱い者苛めなんかするゲスはここには一人もいない。 今度こそ僕は確信して言おう、みんな、本当にゆっくりしたゆっくりだ!」 「ゆゆぅぅぅ~~~~んっ!!まりさ、かんむりょうっ!!だよぉぉ~~~!!」 「おにいさんのおかげだよぉぉ!!ありがとう、おにいさんっ!! おちびちゃんたち、みんなでゆっくりおにいさんにおれいをいおうね!!」 「「「「おにいしゃん、ゆっくちありがちょ~~~~!!」」」」 「うん、うん。僕も本当にうれしいよ。だから…………」 間を置き、笑顔で家族たちを見渡してから僕は言い渡した。 「今度こそ約束を果たしたいと思う。君たちを、森に帰してあげよう!!」 「「「「「「「「「「ゆっ?」」」」」」」」」」 家族の笑顔が止まった。 一瞬の静寂の後、家族の表情はみるみるうちに青ざめていった。 ――――――― 「おでがいじばず!!おにいざん!!ごごにおいでぐだざい!!おいださないでぐだざいいぃ!!」 「もりにがえりだぐだいぃぃ!!ごごがいいよぉ!!ごごじゃないどゆっぐじでぎだいよおおぉぉ!!」 「やぢゃ!!やぢゃ!!いじべられるのやぢゃあああぁぁ!!ゆっぐじじだいいいぃ!!!」 「ぎょわいぎょわいぎょわいいぃぃ!!ゆっぐじ!!ゆっぐじざぜでええぇぇ!!!」 全身から恐怖の汗をしたたらせ、家族一同はお兄さんに懇願していた。 ここに住まわせて、森に帰さないで。 しかし、お兄さんは不思議そうに首をかしげて言った。 「あっれぇ~~~?どうしたんだい、みんな?ようやく元の家に帰れるんじゃないか。もっと喜んでいいんだぞ!」 「やだ!!やだああぁぁ!!もりにがえりだぐない!!ゆっぐじでぎない!!ごごにおいでええぇ!!!」 「おいおい、何を言ってるんだ。もともとあそこでゆっくりしてたんだろ?遠慮しなくていいんだぞ、さあ出発だ!」 「やぢゃやぢゃやぢゃやぢゃやぢゃあああああぁぁ!!!ごご!!ごごぎゃいい!!ごごでゆっぐぢずりゅううぅぅぅ!!!」 飾りを失い、全身を傷だらけにし、おめめやまむまむを失った子まで混じっているこの一家が、 今森に帰されればどうなるかは火を見るより明らかだった。 すぐに他のゆっくりに見咎められ、たちまちのうちにいじめ殺されてしまうだろう。 この家を一歩でも出ることは、自分たちにとって即、死を意味していた。 それがわかっていた一家は、ここを先途とお兄さんにすがりついた。 「ごごでゆっぐりじだいでず!!もりにがえるど、ぼがのゆっぐじにいじべらればず!! ばりざだぢはごごじゃだいどゆっぐじでぎばぜん!!おにいざん!!おにいざああああんおでがいじばずうううう!!!」 「あ、そうなのか。しまった、そうだよな、虐められちゃうよな。それじゃゆっくりできないなあ」 「ゆっ!!そうだよっ!!だからここでゆっくりさせてねっ!!」 「いや、約束だから。約束は守らなきゃいけないもんな、森に帰すよ。しょうがないよね!」 「いいよおおぉぉぉ!!ばぼらだぐでいいいいぃぃぃ!!!ごごにおいでえええぇぇ!!!」 「やだよ、だってここ、僕の家だもん。 お前らがいるから、僕ベランダ使えないんだよね。洗濯物とか干したいし」 「ゆ゛っ!!じゃあぼがのおべやざんでいいでず!!ごのおうぢざんならどごでぼいいでず!!ぼんぐいいばぜええん!!!」 「あのね、僕が文句言ってるの。この家、狭いの。お前らに居座られてると迷惑なの。出てってくれない?」 「ごごがらおいだざれだらばりざだぢじんじゃうよおおおおぉぉぉ!!!」 「だから?知らないよ、そんなこと。自分でなんとかしてね!」 必死にお兄さんの足にすがりつき、涙と涎を撒き散らして懇願するまりさ。 しかしお兄さんは一向に首を縦に振ろうとはせず、それどころか楽しんでさえいるようだった。 夫の無様な姿を見ながら、それまでお兄さんに抱いていた感情が急転していくのをれいむは感じていた。 「………おにい、ざんが……………」 「ん?」 「おにいざんがでいぶだぢをごごにづれでぎだんでじょおおおおおお!!?」 れいむは叫んでいた。 全身をぶるぶる震わせ、怒りをあらわに声をはりあげる。 「おにいざんがっ!!でいぶだぢをもりがらざらっでぎでっ!! おぢびぢゃんだぢをいじべでっ!!ごんながらだにじだんでじょおおおおぉぉ!!?」 「いやまあ、いろいろ制裁したけど。生活に支障が出るほどの傷は負わせてないよ。 この子まりさのまむまむと子れいむのおめめは別だけど、これやったのはき・み・た・ち☆」 「ゆ゛ぐぅっ…………!!」 「おぼうちっ!!おぼうちしゃんがえじぢぇえええ!!」 「ゆっ!!れいみゅもっ!!れいみゅのおりぼんしゃんがえじでにぇ!!」 「ゆゆっ!!そうだよっ!!おかざりさんがあればあんっしんっ!だよっ!!!」 子供たちの声に笑みを取り戻し、まりさはお兄さんに向きなおって言った。 「ゆっ!!まりさたち、もりにかえってもいいよっ!! でもおかざりさんかえしてねっ!!あまあまもいらないよ!!おかざりさんがあればすぐにでていくよっ!!」 「あー、お飾りかあ………ちょっと待ってね。押し入れにしまってあるから」 お兄さんが部屋の壁をずらすと、中に小さなお部屋があり、 その中に、前にみんなで入っていた透明な箱が置いてあった。 お兄さんがそれを取り出して家族たちの前に置く。 見ると、箱の中にみんなのお飾りが山になって入っていた。 家族が狂喜乱舞する。 「ゆぅぅぅ!!あったよ!!まりさのおぼうしあったよおおぉぉ!!」 「よかったぁ!!よかったよおおぉぉ!!れいむのおりぼんさんよかったああぁあ!!」 「まりちゃのおぼうちっ!!おぼうちぃ!!」 「ゆーっ!!ゆっくち!!おりぼんしゃんゆっくちちていってにぇ!!ゆっくちいぃぃ!!」 飛び跳ねながら喜び合っているうちに、光がお飾りの山の上に落ちた。 「ゆゆっ?」 「…………どぼじでおりぼんざんぼえでるのおおおぉぉぉっ!!!?」 お兄さんが落としたものは火だった。 小さな棒の先についていた火は、たちまちのうちにお飾りの山に燃え移り、赤い炎をめらめらと躍らせている。 まりさたちは恐慌をきたして叫び狂った。 「ゆあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛だべええだべえええええぼえぢゃうおぼうじじゃんぼえぢゃああああ!!!」 「だんでええええ!!?だんでごんだごどずるのおおおおおおおおおあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 「ゆんやあああああーーーーーーっ!!!ゆびゃああああああーーーーーーーっ!!!」 「だじゅげぢぇ!!だじゅげぢぇ!!おぼうじじゃんだじゅげぢぇええええええっ!!!」 「おにいじゃーーーーーっ!!おにいじゃああああーーーーーーーーっおにいいいいいい」 いくら体当たりしても箱はびくともせず、お兄さんに体当たりしても同じくびくともせずににやにや笑っているばかりである。 ひとときの狂乱を経て、ついにすべてのお飾りは黒い消し炭と化した。 「ゆ゛あ゛……あ゛……あ゛あ゛あ゛…………おぼうぢ………ばりじゃ、の……」 「どぼじで…………どぼじで………どぼぢで…………どぼじ……で」 水槽の壁を力なくぺーろぺーろしながら涙に暮れる家族たち。 その背中に、お兄さんが明るい声をかけた。 「いやー、お飾り燃えちゃったね。でもいいよなっ、お前達はもうお飾りなくてもわかるもんな!」 「おがざりざんがだいどいじべられるでじょおおおおおおおお!!!!?」 「でいぶだぢじんじゃうんだよおおおおぉぉぉぉ!!ごろざれぢゃうんだよおおおおおお!!?」 「うん、そうだね。だから?」 「………っぐ…………ゆっぐじでぎだいおにいざんはゆっぐじじねええええええ!!!」 涙を振り絞り、れいむがお兄さんの足をめがけて突進した。 渾身の突進を受けてもお兄さんは動じず、冷やかにれいむを見下ろしているだけだ。 ぎりぎりと歯軋りし、れいむは慟哭しながら体当たりを繰り返した。 まりさはただただ泣きじゃくりながらその光景を見つめ、子供たちはひたすら燃えカスを囲んで泣き喚いていた。 その時、お兄さんが何かを床に落とした。 「ゆっ?」 涙に濡れた目で、まりさがそれを視界に捉える。 それは、赤いカチューシャだった。 「いじめ殺されるだって?」 足元にまとわりつくれいむを、足でごろんとカチューシャの方に転がしながらお兄さんは言った。 「ちょっと、一緒に面白いビデオを見ないか」 『きょーろきょーろしゅるわっ!きょーろ、きょーろ!』 『はは、落ちないように気をつけろよ』 『おにーしゃんのおちぇちぇはとっちぇもときゃいはにぇ!』 『ふーかふーか!ふーかふーか! このべっどさんとってもとかいはよ!おにいさん、ありがとう!』 『どういたしまして。銀バッジを取ったごほうびだよ』 『ゆんっ!おにいさんのしどうのおかげよっ! これからはもっともっとおにいさんをとかいはにゆっくりさせるわっ!!』 『いちにっ!いちにっ!』 『何してるんだ、ありす』 『ゆっ!だいえっとさんよ!このごろたいじゅうがゆっくりしすぎてるから……』 『ははは、そんなこと気にしてるのか。可愛いやつだな』 『ゆっ、もう!しらないっ!!』 『ゆわあああぁぁ!!とかいは!!とかいはだわあぁ!!』 『そんなにはしゃぐなよ。迷子にならないようにな』 『ゆーんっ!こんなゆっくりできるとかいはなばかんすさんにつれてきてくれてありがとう、おにいさんっ!!』 『ついに金バッジを取れたからな。これからはどんどんいろんなところに遊びに行こうな。 そうだ、約束だったな、今度お婿さんを連れてくるよ。おちびちゃんも作ったらいい』 『とかいは!!とかいはだわぁぁぁ!!おにいさんのかいゆっくりで、ありす、しあわせよおおぉぉ!!』 お兄さんが何やら細工すると、部屋の隅にあった黒い箱の中に映像が流れ始めた。 この家で過ごしているうちに知った、あれはテレビさんというものだ。 そこに流れているのは、一人のゆっくりありすの姿だった。 ビデオの中に姿は映っていないが、 個体の特徴に鋭敏になった今の家族には、ありすに話しかける声がお兄さんのものであることはすぐにわかった。 お兄さんとありすの、幸福そうな生活がながながと流された。 そのありすは気立てがよく、身だしなみも整い、どこから見てもゆっくりできる美ゆっくりだった。 思わず自分の妻と比べそうになり、まりさはつい頭を振った。 「この子は僕の飼いゆっくりだった。とても可愛い、聞き分けのいい子だった」 お兄さんが説明を加えた。 「赤ゆっくりの頃に、捨てられて死にかけていたのを気まぐれで拾ってきたんだ。 ゆっくり飼いの勝手がわからない僕を、むしろありすの方がサポートしてくれた。 至らないところの多い僕に文句を言わず、 助けてもらった感謝を繰り返し、僕をゆっくりさせるために尽くしてくれた。 ついには金バッジまで取得するほど優秀な個体だった。宝クジに当たるくらいの拾い物だったんだ。 赤ゆっくりの頃に捨てられた経験が、いい方向に作用したのかもしれない」 「ゆうぅぅ……………」 流れる映像を見ても、「ゆっくりしてるね!」などとは漏らせなかった。 ありすがすでに鬼籍に入っていることは、すぐそこに転がっているカチューシャを見れば想像できた。 最初から悲劇として語られているこのエピソードがどこに行くのか、にわかには読めなかった。 「ありすの愛情に僕も報いたかった。 ありす自身の安全を考えてバッジ試験も受けさせた。辛い勉強も不満を言わずにやってくれたよ。 ただひとつ、ありすが一度だけ漏らしたわがままは、子供が欲しいということだった。 子供を作ったゆっくりはリスクを抱えている。ゆっくりの生態を調べるうちにそれを知った僕は、 金バッジを取るまでおあずけだと言った」 「ゆぅ………おちびちゃんはゆっくりできるのに……」 まりさが思わず口をはさんだが、お兄さんは全く無視して先を続けた。 家族に話しているというより、ただ独白しているようだった。 「いまでは後悔してる。すごく後悔している。 ありすの望みをすぐに叶えてやらなかったことを。 僕に言われたありすは、それまでの何倍も勉強に身を入れ、とうとう金バッジを取った。 僕は約束通り、つがいを与えて子供を作らせてあげるつもりだったが、 赤ゆっくりができればそうそう外出もできなくなる。 その前に、ご褒美でキャンプに連れていってあげることにしたんだ。 そこで、ありすはゆっくりに殺された」 「ゆううぅ!?ゆっくりごろしはゆっくりできないよ!!」 思わず叫んだれいむに、お兄さんはすぐに屈みこんで答えた。 「そうだよな。ゆっくりできないよな! こんなゆっくりできるありすを殺すなんてひどいことだよな」 「ゆーっ!ゆっくりしてないよ!ありすがかわいそうだよ!!」 「もうすぐおちびちゃんがつくれたのにぃぃ!!」 「ありちゅおにぇーしゃん、きょろしゃにゃいでええぇ!!」 「ありすはひどい殺され方だった。 全身を枝でぷーすぷーすされて、目を潰されて髪もむしられて、最後には生きたまま食われて死んだんだ」 「ゆううぅぅぅ!!きょわいよおおぉぉ!!」 「ひどいよおおぉぉ!!ゆっくりできないよおおぉぉ!!」 「こんなにゆっくりしたありすなのにいぃぃ!!」 現在の状況も忘れて、つい感情にかられて叫ぶ家族たち。 お兄さんは何度も頷いて続けた。 「そんなひどいことをするゆっくりはゆっくりできないよな!」 「ゆっくりできないよ!!」 「ありすが死んだのに、そいつらは今ものんびりゆっくりしてるんだ。許せないよな!」 「ゆるせないよっ!!ゆっくりごろしはせいっさいっしなきゃいけないよ!!」 「苦しんだありすのためにも、たっぷり苦しめて、ゆっくりできない目に遭わせなきゃ割に合わないよなあ!」 「ゆーっ!!かたきうちだよおおぉ!!そんなひどいゆっくりはゆっくりしちゃいけないんだよぉ!!」 「そうか、そうだよな!そう言ってくれるか!!お兄さんは嬉しいよ、みんな!」 「「「「ゆーっ!!」」」」 「まさか、まさか……ありすを殺したやつらが、自分から喜んで罰を受けてくれるなんて!」 「ゆぇっ?」 足元のカチューシャを拾い上げて見つめながら、お兄さんは淡々とした口調に戻って続けた。 「森のそばの川でキャンプをしたとき、ありすは迷子になった。 その時に、カチューシャを落としてしまったんだ。 飾りをなくしてしまったありすを、そこに住んでいたゆっくりの一家が見つけて、 「ゆっくりできないゆっくり」呼ばわりして、なぶり殺しにした」 そこまで言って言葉を切り、お兄さんは笑顔を浮かべて家族をゆっくりと見渡した。 家族は、小刻みに震えはじめた。 「僕がどうして、お前たちを家に連れてきたんだと思う? 野良ゆっくりの家族なんかわざわざ攫ってきたってなんの得にもならない。 見ず知らずのゆっくりを、飾りがなくてもお互いを識別できる、ゆっくりした家族にする。 そんな七面倒臭いことを、純粋な善意でやると思うか? お前らみたいな薄汚いゴミクズを、なんで僕がわざわざゆっくりさせてやらなきゃならないんだ?」 「………………おに、い、さ………ん……」 「お前たちには知ってもらわなければならなかった。 お飾りがなくても、お前らが殺したありすは素晴らしいゆっくりだったということを。 お前らは、罪のない、思いやりの深いゆっくりできるゆっくりを、 ただお飾りがないという、くだらない些細な理由で虐めた。 ゆっくりに満ちた未来が待ち受けていたゆっくりを、喜色満面でなぶり殺しにした。 『せいっさいっ』なんかじゃない、同族殺しのリンチ、暴力だった。 お前らが恃みとする正当性、「お飾りがなかった」という理由は、なんの意味ももたないこじつけだ。 それをお前たちには知ってもらわなければならなかった」 「ゆ゛………ゆ゛………ゆる……ゆるじ………」 「そうでなければ、僕が何をしても、「まりさたちなんにもわるいことしてないのにいいぃ!!」とお前たちは叫ぶだろう。 僕は、ゆっくりできる善良なお前たちにいわれのない暴力を加える悪漢ということになり、 お前たちは誇りと家族愛で自分たちを慰めながら死んでいくだろう。 そんなことは許さない。絶対に許さない。 お前たちが僕の愛する家族にしたことを、僕はお前たちにやり返してやるんだ。 お前達が叫ぶのは毅然たる抗議でも非難でもなく、みじめったらしい謝罪と懇願、命乞いでなければならない」 「あ゛……あ゛……あ゛あ゛あ゛あ゛………………!」 「いやあ、でもよかった!自分から罰を受けてくれるなんて! ありすをなぶり殺しにするような奴はゆっくりしちゃいけない、苦しめなければいけない。 お前達自身の口からそう言ってもらえてよかったよ! もし抵抗されたら面倒だと思っていたんだ。いや、スムーズに進んでよかったよかった」 「ゆ゛るじでぐだざいいいいぃぃぃ!!!」 まりさは床に頭を打ちつけて叫んでいた。 何度も何度も頭を打ち、喉を震わせて叫ぶ。 「ごべんだざい!!ごべんだざい!!おにいざんのありずをいじべでごべんだざい!! おがざりがだいだげでいじべで、ごろじでごべんだざい!! ぼんどうにぼうじわげありばぜんでじだ!!ばりざだぢがっ、ゆっぐりじでばぜんでじだ!!」 「ああ、そうだね」 れいむもまりさに続いて頭を下げた。 「じらだがっだんでず!!ありずが、あんだにゆっぐじじでだだんで!!あんだにやざじいびゆっぐじだっだだんで!! おがざりがだいがら、わがらだがっだんでずううぅ!! ごべんだざい!!ごべんだざい!!ゆっぐじじでだいでいぶでごべんだざい!!」 「本当だねえ」 親に倣い、子供たちも詫びはじめた。 「ゆびぇええええん!!ぎょべんなぢゃいっ!!ぎょべんなぢゃいいい!!」 「ばりじゃがわりゅがっだでじゅうぅぅ!!ゆるじぢぇえええ!!」 「ぼうじばじぇん!!ぼうわりゅいごどじばじぇえん!!ゆっぐぢぃぃぃ!!」 「うんうん、もう二度とやっちゃだめだぞ」 お兄さんは腕を組んで笑っていた。 まりさは顔を上げ、おずおずと頼んだ。 「お、おに、いざん……ゆぐじで、ぐだざい…………?」 「え、駄目だよ。絶対に許さないよ。何言ってるのかな?」 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ごべんだざあああいいいいい!!!」 「うんうん、さあ、罰を受けようね! みんなで森に行って、森のゆっくりたちに虐めてもらおうな!それが罰だよ、ゆっくり理解してね!!」 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛やべで!!おでがい!!でいぶだぢはどうなっでぼっ!! おぢびぢゃ!!おぢびぢゃんだげはあぁぁ!!」 「またそれかい?おちびちゃんだけは、か」 「ばいっ!!ばりざどでいぶがいじべらればず!!ごろざればずうぅ!! おぢびぢゃ、だげはっ!!おでがっ!!ごごでぐらざぜでぐだざいいいいぃぃ!!」 「ふざけんなよ、コラ」 低い声で返答し、お兄さんはまりさの頬を蹴り抜いた。 「あぶぎゅうっ!!?」 「ば!!ばりざああぁあ!?」 「ん、なに注文しちゃってんの?罰を受ける立場なんだろ? 一番大事なものだけは見逃してくださいって、なにそれ?お前たちはありすの何を見逃したの?ねえ?」 「ごべんだざい!!ごべんだざい!!ゆぐじでぐだざいいい!!」 「お前たちがありすを許していれば、僕も考えたんだけどねえ」 「ばんぜいじばじだっ!!でいぶだぢはげずでじだっ!!ぼうにどどじばぜん!! ごごろを、ごごろをいれがえっ!!おぢびぢゃんだぢはっ!!」 「うんうん、本当に悪いことをしちゃったねえ。だから罰を受けようね!」 「おぢびぢゃだげはっ!!おぢびぢゃっ!!」 「しつこいんだよ!」 「ゆぎげべぇ!?」 れいむの頭が勢いよく踏みつけられる。 衝撃でうんうんが漏れてしまうが、意に介する余裕はなかった。 「反省しましたとか、心を入れ替えるとかさ、だからなんなの? 本当に、ほんっと~~~~に悪いことをしたと思って反省してるんならさ、 どんな罰を与えられても喜んで受けるのが筋だろ?やったことの責任をとろう、ってまず考えるのが本当だろ? それが何?反省したから罰は勘弁してくれって?責任をとるのは嫌ですって? それって反省したって言うの?ねえ?ねえねえねえねえ」 「あぎっ!!いびぎぃ!!ゆぎひいいいぃいいびいいいい!!」 「ごべんだざいっ!!わるがっだでずっ!!びどいごどいっでるのはわがっでばずっ!! でぼ、でぼ、ばりざの、おぢびぢゃんは、どっでぼ……ゆっぐじじででっ!!」 「僕のありすもとってもゆっくりしていたよ。 そうかなるほど、ちょうどいいや、とってもゆっくりしているおちびちゃんたちなら僕のありすと見合うね!」 「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛やべでえええええぇぇ!!!」 「え、本気で言ってんの? 僕の一番大事なものを壊しといて、お前たちの一番大事なものは見逃してって頼んでるのお前ら? そんなことして僕になんか見返りあんの?」 「ごべんだざい!!ごべんだざい!!ゆぐじでぐだざい!!ゆぐじでぐだざい!!」 お兄さんの言うとおりだということはわかった。 何から何までお兄さんは正しく、お兄さんの言う罰をみんなで受ければ筋が通ることもわかった。 ここで逃げるのはゆっくりできない。ここで逃げるのは卑怯者だ。 でも、でも、それでも、それだけは。 おちびちゃん。 まりさたちの、ゆっくりした、おちびちゃんたちだけは。 「ゆぐじでぐだざい!!ゆぐじでぐだざい!!おでがいじばず!!ぼんどうにおでがいじばず!!ゆぐじでぐだざいいいぃ!!!」 「へえ……それがお前らのルールなんだ」 言いながら、お兄さんはむしるように子れいむの一人を取り上げた。 「おしょらをとんでりゅみちゃいぃ!?」 「ゆああぁぁ!!おぢびぢゃ、おぢびぢゃあぁ!!」 「たとえばこんなことをしても許されるんだよな!!」 「ゆっびゃあああぁぁぁぁっ!!!?」 ガリガリガリガリ お兄さんが子れいむの顔面を壁に押し付けて擦り付けた。 「ごぎょおおおおおぉぉぉびびゃああああぁぁいぢゃばばばばばぎゅううううーーーっ」 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛やべでやべでやべでやべでええええぇぇ!!!」 「こんなことをしてもっ!!」 勢いよく振りぬき、子れいむの顔面を家族に見せ付ける。 子れいむの顔の右半分は痛々しい擦過傷にまみれ、口の右側が裂けて砕けた歯がこぼれ出し、 右の瞼がけずり落とされて眼球が消失していた。 「ゆ゛………いぢゃ………いぢゃ……あ゛………………びぎゅい゛い゛ぃぃ…………」 「おぢびぢゃーーーーっ!!おぢびぢゃあああああぁぁ!!」 「お前らは許してくれるんだよな! お兄さん悪いことしちゃったよ!かわいいおちびちゃん虐めちゃったよ! でも反省したからね!許してね!ゆっくり許してくれるよね!!ねえ!!」 「………!!………………!!!」 「ゆっくり許してもらったから次にいこうね!次も許してくれるよな!!反省するからさ!!」 「やべでええええぇぇぇおでがいいいいいぃぃぃ!!!」 次の子供を手に取ろうとしたお兄さんを、まりさが必死に制する。 肩で息をしながらお兄さんは手を止め、まりさに向き直ってつぶやくように言った。 「……選べ。 森に行って罰を受けるか、ここで僕の暴力をすべて許すか」 「…………………………!!!!」 まりさはぶるぶる震えて歯を食いしばり、大量の涙を流しながら、やがてがっくりとうなだれた。 (後編2へ)
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『よわいものいじめはゆっくりできないよ!』前編 バチィン! 「ゆびゃあああぁぁぁん!!いぢゃいっ!!いぢゃいよおおぉぉぉ!!」 「ゆあああああああ!!おちびぢゃああああああん!!」 バチィン! 「ゆっぴゃあああああああ!!ぼうやぢゃあああ!!おぢょうじゃんだじゅげぢぇぇぇ!!!」 「やべでっ!!やべでねっ!!おぢびぢゃんがいだがっでるよっ!?やべであげでぇぇ!!」 バチィン! 「いぢぃいいいいいいいっ!!?」 ぷしゃあ、という勢いのいい音を立てながら赤まりさは失禁した。 それを見た親ゆっくり共がますます声を上げて赦しを乞う。 「やべでぇぇえええ!!どぼぢでごんなごどずるのおおぉぉ!!?」 「おぢびぢゃんいだがっでるよおぉぉ!!ぼういぢべないでええぇぇ!!!」 「まりちゃおにぇーちゃんをいぢめにゃいでよぉぉ!!ぷきゅーしゅるよっ!!ぷきゅーっ!!」 子ゆっくり共が泣き叫び、膨らんで威嚇してくる。 タコヤキのようにまん丸になっている子ゆっくり共は総勢十匹近く、数えてみたら八匹だった。 手に握りこんだ赤まりさの尻に、さらにデコピンを叩きこむ。 バチィン! 「ゆびゃんっ!!?ゆびゃあぁぁぁ!!いぢゃあああいいいいぃぃぃ!! だじゅげぢぇぇぇ!!だじゅげでよぉぉぉぉ!!!」 「なんでえぇぇ!!?どぼぢでごんなごどずるのおおぉぉ!!?」 「楽しいからだよ」 僕はそこで答えてやった。 「ゆぅぅ!?」 「なんでぇ!!?なんでこんなことがたのしいのおぉぉ!!?」 「楽しいからやってるんだ。お前達みたいなクソ饅頭が、痛い目に遭わされて泣きわめくのを見るのが楽しくて仕方ない。 アホ面歪ませてゆぴーゆぴー泣いて、本当に醜い、弱いクソ饅頭。 お前達を見てると、人間様に生まれることができた幸せを噛みしめていられるんだよ。 いやあ、本当に虐待は楽しいなあ!!」 胸を反らして笑ってみせる僕に対し、親まりさが涙を流しながら反撥してきた。 「ぞんなっ……ぞんなのおがじいよっ!! まりさたちだっていきてるんだよっ!? ちいさなおちびちゃんたちだって、みんなみんなせかいにひとつしかないかけがえのないいのちなんだよっ!!? にんげんさんにくらべればよわいかもしれないけど、ゆっくりだってがんばっていきてるんだよ!! いたいいたいをされたらゆっくりできないよ!!それをよろこぶなんて、ぜったいまちがってるよおおぉ!!!」 「なんでー?なんで間違ってるの?ねぇねぇ教えてー」 バチィン!! 「ぎゃぴいぃっ!!?ぼういや!!おうぢがえるうぅぅ!!!」 「まぢがってるよおぉ!!」 今度は親れいむが声をあげた。 「どぼぢでっ!!?よわいものいじめはゆっぐりでぎないんだよっ!!! みんなしってるよ!!こどものころから、みんなおとうさんとおかあさんにおしえてもらうでしょ!? よわいものをいじめるのはゆっくりできない、わるいことだってえぇぇ!!」 「なんで悪いの?僕は楽しいもん」 「にんげんさんだって、ゆっくりだって、おなじいきものだよっ!! みんないきてるんだから、みんなでいっしょにゆっくりしなきゃいけないんだよっ!!! よわいからいじめていいなんてわるいことだよっ!!!」 「人間なら苛めないよ。人間なら敵対するより協力したほうが得だし、 相手にやり返されたらこっちも被害が出るしね。 でも、お前らなんて役に立たないし、反撃されたって痛くもかゆくもないもん。 はい、もう一発」 バチィン!! 「おぎゃあじゃあああああーーーーっ」 「やべでぐだざいいいぃぃ!!おでがいじばずううぅぅ!!」 「ばりざだぢなんにもわるいごどじでないのにいぃぃ!!」 「弱者は存在自体が悪なんだよ!いじめられても文句は言えないよ!ゆっくり理解してね!!」 「どぼじでぞんなびどいごどいうのおぉぉぉ!!?」 それから、僕はゆっくり共を苛めつづけた。 定規で執拗に尻を叩いたり、爪楊枝でぷすぷす刺したり、髪をつかんで引きずり回したり。 致命傷は与えないように、特に子ゆっくり共を重点的にやる。 子ゆっくりが悲鳴をあげるたびに、親ゆっくりはさらに大きな悲鳴を張り上げた。 「やべでええぇぇ!!おぢびぢゃんだぢをいじべだいでよおおぉぉ!!!」 「なんでっ!!なんでなにもしてないおちびじゃんだぢにこんなにびどいごとがでぎるのおぉぉ!!? おにいざんにはりょうっしんっがないのおおぉぉ!!? ぜったいおかしいよぉぉ!!おにいざんはふつうじゃないよおぉぉ!!」 「そんなに僕はおかしいかな?」 「おかしいよっ!!ゆっくりしてないよっ!!! いきものをいじめてたのしむなんてふつうじゃないよぉぉ!!」 「そうかな?」 「いきものさんはっ!!みんなっ、みんなみんなおともだちっ!なんだよっ!! よわいからっていじめるより、みんなでいっしょにゆっくりしたほうがぜったいゆっくりできるよ!! じぶんだけゆっくりできればいいなんてまちがってるよ!!おにいさんはまちがってるよぉぉ!!」 「あっ、そう」 僕は立ち上がると、 泣き疲れてゆぴぃゆぴぃと呻いている子ゆっくり共を大きなダンボール箱に放り込んだ。 続けて親ゆっくりも投げ込む。 「ゆびぃっ!!」 総勢十匹のゆっくり共が入っても、 もともとはパソコン一式を収納していた箱はスペースにだいぶん余裕があった。 そして、ゆっくり共が痛みにうずくまっているうちに、 箱の隅にケース入りの爪楊枝の束を入れる。 「さて」 僕は、ゆっくり共の入った段ボールをベランダに持ち出し、側面を床に接して置いた。 もう一方の側面が屋根となり、開いた部分が外に面して入り口となる。 野良ゆっくりがよくこのようにして、箱を家にしている。 「ゆゆぅ……?ゆっくちできりゅおうちしゃんだにぇ……」 比較的余裕のある一匹の赤まりさが、涙を浮かべながらもボール箱を見回して鳴いた。 にぱっと顔をほころばせ、お家宣言を行う。 「きょきょをまりちゃたちのゆっくちぷれいちゅにしゅるよっ!!」 「じゃ、君かな」 声をあげた赤まりさを取り上げる。 「ゆぴぃぃっ!?おしょらをとんぢぇるみちゃいっ……にんげんしゃんはいやああぁぁ!!」 「おちびちゃああぁぁん!!?」 「今日からそこがお前達の家だから。あと、この子はもっと苛めるから」 「ゆあああああ!!?やめてくださいっ!! いじめるならまりさにしてくださいいいぃぃ!!そのこはまだちいさなこどもなんですうぅぅ!!」 「れいむをいじめていいですからあぁ!!おちびちゃんだけはあぁぁ!!!」 「やめてにぇっ!!いもうちょをいじめないでにぇええ!!」 「おねーさんのまりさがかわりになるよっ!!まりさはたすけてね!!」 「れいみゅがみがわりになりゅううう!!まりしゃああぁぁ!!」 口々に身代わりを申し出る家族共。 要するに、こいつらは、善良ということなんだろうか。 僕は苦々しい思いでその様子を眺めていた。 「お前たちに決定権ないから。とにかく貰ってくよ。まりさちゃん、一緒にゆっくりしようね~~」 「ゆぴゃあああああぁぁ!!!ゆっぐぢでぎにゃいいいいぃぃぃ!!!」 「おぢびちゃああああああーーーーーーーんっ!!!」 ぎゃんぎゃん泣き喚く家族共を尻目に、 僕は赤まりさを持って家に入るとベランダに面したガラス戸を閉めてしまった。 ――――――― 「ゆうううう……ゆっぐうううぅぅ………どぼじで……どぼじで…… まりさたちなんにもわるいことしてないのにぃぃ………」 「おちびちゃん………おちびちゃあぁぁん………」 「きょわいよぉ、おきゃーしゃぁぁん!!」 ゆっくりの家族は、ダンボールの中で互いに身をすり寄せながら泣いていた。 「ゆっぐ、ゆっぐ……まりさ……まりさ……ぶじでいてねぇ……」 「ごめんね………ごめんね………かぞくをまもれないだめなおとうさんでごめんねぇ………!」 「ゆ、ゆぅぅ……れいむもおなじだよ……れいむも、なにもできなかったよ……… おちびちゃんたち、ごめんねぇ、ごめんねぇ……ゆっくりできないおかあさんたちをゆるしてね……」 「ゆゆーん、どぼしてそんなこちょいうにょぉ~?!」 「おきゃーしゃん、なかにゃいでにぇ!しゅーり、しゅーり……」 「ぺーりょぺーりょしゅるよ!ぺーりょ、ぺーりょ」 「ゆゆぅぅぅ………!ありがとう、ありがとうね……すーり、すーり……」 「おとうさん、がんばるからね………きっとおちびちゃんをとりかえして、 このゆっくりできないにんげんさんのおうちからにげだそうね!」 「まりさ……やっぱり、まりさはれいむのかけがえのないおっとだよぉ……!」 「おちょーしゃん、かっきょいいー!!」 「ゆゆぅ、ありがとうなのぜ…… まりさはいっかのだいこくっばしらっ!だよっ!!まかせてねみんな!!」 「おきゃーしゃん、おうちゃうたっちぇ……」 「ゆ、そうだね。おちびちゃんたち、みんなでうたってげんきをだそうね! ♪ゆっくり~のひ~、まったり~のひ~、すっきり~のひ~……」 「♪ゆゆゆ~ゆ~、ゆんゆゆゆ~ゆ~……」 「(まりさのだいじなだいじなれいむとおちびちゃんたち…… おとうさんが、ぜったいにまもってあげるからね……!!)」 まりさ達は森に棲んでいた。 森の中の木のうろに家を作り、家族で仲睦まじく暮らしていた。 すぐ側に人里があったが、群れのいいつけをよく守り、まりさ達は人間に関わろうとはしなかった。 群れの掟に従ってすっきり制限も守り、冬籠りも危なげなく乗り越えた。 そうして春になると、たっぷりすっきりをして子供を作った。 子供の数はかなり多かったが、 献身的に餌を集める親まりさと、子供から目を離さずによく面倒を見る親れいむのおかげで、 一匹の脱落もなく今日まで育ててこれた。 人当たりのよい夫婦で、子供たちの躾もよく、 この家族は群れのみんなからも「ゆっくりしている」と褒めそやされていた。 だが、悲運は理不尽にも訪れた。 今日の朝のこと、まりさが楽しいオモチャを家に持ってきたのでみんなで遊んでいたところ、 突然家にやってきた人間のお兄さんが家を壊し、家族を丸ごと袋に詰めて攫ってしまったのだ。 そして人間の家に連れてこられ、たっぷり苛められ、今に至る。 明日からの自分たちの運命を思うと、親まりさは内心暗澹たる思いにかられる。 しかし親まりさは希望を捨ててはいなかった。 まりさには素敵なれいむがいる。可愛いおちびちゃん達もいる。 冬籠りも、長雨も、ゆっくりできない犬さんに遭ったときも、 家族みんなで協力して切りぬけてきたじゃないか。 この愛しい家族がいれば、どんな困難も乗り越えられる。 まりさはきりりと眉を引き締め、家族に向かって叫んだ。 「ゆっくりしていってね!!」 「ゆっくりしていってね!!」 「「「「ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!!」」」」 すぐに返事が返ってきたが、家族はふくれっ面をした。 「もう、まりさったら!おうたのとちゅうで、じゃまをしないでね!!」 「おちょーしゃん、ひぢょいよっ!!」 「ゆふふ、ごめんねっ!!」 「ゆーん……よくわからないけど、まりさはゆっくりしてるね!!」 「ほんちょだ、おちょーしゃんとっちぇもゆっくちしちぇるよ!!」 「ゆゆぅ~~ん!まりちゃのじみゃんのおちょーしゃんだよっ!!」 家族たちの笑いさざめきに囲まれてまりさは目を細め、決心を固くするのだった。 「おちょーしゃんっ!!おきゃーしゃああぁん!!!」 声がした。 身を寄せ合っていた家族達は、声のしたほうに向きなおった。 一匹の子まりさが、泣き叫びながらこちらに駆け寄っていた。 「ゆわあぁぁぁん!!きょわかっちゃよおおぉぉ!! おちょーしゃんっ!!おきゃーしゃんっ!!ゆっくち!!ゆっくちぃぃ!!」 涙を流してぽいんぽいんと跳ねてくるその子まりさを認め、親れいむは叫んだ。 「ゆゆっ!!ゆっくりできないゆっくりがいるよっ!!!」 親まりさも続いて叫ぶ。 「ゆっ!!ほんとだよっ!!おかざりがなくてゆっくりしてないよっ!!」 「おちょーしゃぁぁん!!しゅーりしゅーりしちぇええぇぇ!!」 「ぷくうぅぅ!!」 「ゆぴいいぃぃぃぃぃぃっ!!?」 向かってくる子まりさに対し、親まりさは威嚇のぷくーで応えた。 風船のようにまん丸に膨らんだ父親の姿に、子まりさは恐怖し、即座に失禁する。 「なんぢぇえええぇぇ!!?なんぢぇぷきゅーしゅるのおおぉぉ!!? いやあああぁぁぁぷきゅーはいやあああぁぁぁゆっくちできにゃいいいぃぃぃ!!!」 「うるさいよっ!!おかざりのないゆっくりできないこはあっちいってね!! でないとせいっさいっ!するよっ!!」 「ゆええええぇぇ!?まりしゃはおぼーちしゃんもっちぇるよおぉぉ!! ゆっくちできにゃいおにーしゃんにとられちゃだけだよおぉぉ!!! しゅーりしゅーりしちぇよおぉ!!おちょーしゃああん!!!」 子まりさの頭には帽子がなかった。 先だって人間の家に拉致された際に奪われている。 ゆっくりは、飾りのない同族を強く忌み嫌う傾向がある。 まりさ種なら帽子、れいむ種ならリボンといった頭部の飾りは個体識別に必要なシンボルであり、 それがなくなるということは、同族とのコミュニケーションに深刻な問題をもたらす。 また、ゆっくりという種族は本能的に自分の飾りを大切にする習性があり、 飾りをなくすことに死ぬよりも辛い苦痛を感じる。 その反動で、飾りを失ったゆっくりには人格(ゆん格)を認めず、徹底的に迫害する。 「ふざけないでねっ!!まりさのおちびちゃんはおまえみたいなゆっくりできないこじゃないよっ!!」 「そうだよっ!!しつれいなこといわないでねっ!! おまえみたいなゆっくりできないこが、れいむのまりさをおとうさんなんてよばないでね!!ぐず!!」 「おきゃーしゃああん!!?どぼぢでぞんなごぢょいうにょおおお!!」 「だれがおまえなんかのおかあさんなのおおおおぉぉ!!?」 親れいむもぷくーで威嚇し、子まりさはますます号泣してしーしーを撒き散らした。 「いやああぁぁぁ!!!やめちぇええええゆんやああああああ!!!」 「ゆーっ!!ゆっくちできにゃいゆっくちだにぇ!!」 子ゆっくり達も家から這い出してきて、子まりさを取り囲み、罵声を浴びせる。 「おかじゃりがにゃいくちぇにいきちぇるにゃんてはじゅかちくにゃいの?おお、あわれあわれ!!」 「みちぇるだけじぇゆっくちできにゃいよっ!!ゆっくちきえちぇにぇ!!いまちゅぐでいいよっ!!」 「ゆええええぇん!!にゃんでっ!?にゃんでしょんなこちょいうにょおおぉぉ!!? おにぇーちゃあああん!!ゆっくちちちぇよおぉぉぉ!!」 「おみゃえにおねーちゃんなんちぇよばれちゃくにゃいよっ!!」 「ゆっくちできにゃいくせににゃれにゃれしいよっ!!ぷきゅーっ!!」 「ゆびゃああああああああ!!」 家族全員に取り囲まれ、更にぷくーをされる子まりさ。 泣き喚きながら逃げ出そうとするが、どこを向いても肉親のぷくーに突き当たる。 いくら助けを求めても、実の親はいよいよ大きく膨らむばかりだった。 逃げ惑う子まりさを取り囲む子ゆっくり達は、面罵しながら徐々に包囲を狭めてゆき、 ついにはその内の一匹が体当たりを喰らわせた。 「ゆっくちできにゃいゆっくちはゆっくちちにぇっ!!」 「ゆびぃ!!?」 衝撃で転がされ、子まりさは肉体的な痛みと精神的な痛みに悶える。 「ゆんやあぁぁ!!おねえじゃんっ!!どぼぢでごんなっ!!?」 「ゆっくちだまりぇ!!」 すぐに他の子ゆっくりも加わり、体当たり、踏みつけ、噛みつきと、寄ってたかって痛めつけ始めた。 「おみゃえにゃんかがれいみゅのいもうちょなわけにゃいでしょ!!?」 「まりちゃのいもうちょはもっちょゆっくちちてるんだじぇ!!うしょちゅきゆっくちはちにぇ!!」 「うすぎたないごみくずがゆっくりみたいにしゃべらないでね!!」 「ゆああぁーーーーっ!!ゆびゃああーーーーーっ!!!」 絶望と苦痛に、子まりさは泣き喚き絶叫する。 救いを求めて両親のもとに這いずり寄るが、両親はにやにやと笑みを浮かべているばかり。 「ゆぷぷ!ゆっくりできないごみくずはなきがおもゆっくりできないね!おお、あわれあわれ」 「まりさのおちびちゃんたちはせいっさいっもゆっくりしてるよぉ~~♪ おちびちゃんたち、もっとせいっさいっしてあげようね!!たくさんでいいよ!!」 「「「ゆっくちりきゃいしちゃよっ!!」」」 延々と私刑は続けられた。 子まりさの懇願は聞き入れられず、執拗に打擲が繰り返される。 やがて、一匹の子ゆっくりが、家の中にあったそれを手に取る。 「ゆゆっ!!ぷすぷすしゃんがありゅよっ!!」 先ほどの男が入れておいた爪楊枝のケースを引っ張り出し、横に倒す。 爪楊枝の束がこぼれ出して散らばった。 その一本を舌で取り上げ、その子れいむは眉をキリリと引き締めて宣言した。 「このぷすぷすしゃんでしぇいっしゃいっしゅるよっ!! かしきょくっちぇごみぇんにぇ~☆」 「ゆゆっ!!ゆっくりできるぷすぷすさんだね!!」 「れいむのおちびちゃんはかしこいね!!おかあさんははながたかいよぉ~!」 「ぷーす!ぷーす!」 「ゆぎゅああああ!!?」 口に咥えた爪楊枝で、子れいむは子まりさの頬を突き刺した。 それまでとはレベルの違う鋭利な苦痛に、子まりさは飛び上がる。 「いぢゃい!!いぢゃい!!いぢゃよおおおぉぉぉ!!! やべでよおおおぉぉ!!ほんどにいぢゃいいいいいぃぃ!!!」 「ゆゆ~んっ!!こうかはてきっめんっだよっ!!」 「まりしゃもぷしゅぷしゅしゃんしゅるよっ!!」 「れいみゅもっ!」 「まりしゃもっ!!」 七匹の子ゆっくり達がそれぞれに爪楊枝を咥え、子まりさの全身を突き刺していく。 一突きごとにびくんっ!と身を震わせ、子まりさは涙を撒き散らして懇願した。 「やべぢぇ!!やべぢぇ!!いぢゃいいいぃぃ!! どぼじでごんなっ!!ゆぎいぃぃ!!いぢゃああああぁぁあ!!! だじゅげじぇっ!!おぎゃあじゃああああん!!いぢゃいっ!!ばりじゃいじゃいよおぉぉ!! ぺーろぺーろじでっ!!あぎゃっ!!!ゆんやあああぁぁおうぢがえりゅうううう!!」 「おかあさんなんてよばないでっていってるでしょおお!!?」 「どぼじでっ!!おぎゃーじゃっ!!ばりじゃがぎゃわいぐにゃいのおおぉぉ!?」 「なんでおまえなんかがかわいいのおぉ!?おかざりのないゆっくりのくせに!! れいむのおちびちゃんはとってもゆっくりしたおかざりがあるよっ!!」 「ゆっ!ゆぐぅぅ!!でぼ、でぼおぉ!!」 「おかざりだけじゃないよっ!!ほっぺさんもふっくらしてるし、へあーさんもきゅーてぃくるっ!だし、 おめめさんはくりくりだし、おはださんもつやつやしてるゆっくりしたびゆっくりだよっ!! おまえみたいなごみくずがかわいいれいむのおなかからうまれるわけないでしょおぉ!!ゆっくりりかいしてねぇ!!」 「ばりじゃはがわいいよおぉ!!どぼじでぞんなごどいうのおぉぉ!!?」 「ゆふぅぅ~~~………」 親れいむはため息をつき、爪楊枝を舌で掴むと子まりさの前に進み出た。 慕わしい母親の顔を見上げ、子まりさは救いを求めて呼ぶ。 「お……きゃあ、しゃ………」 「ぷーすぷーす!だよっ!」 「ゆぴきゃああああああああぁぁぁあっ!!!?」 親れいむの爪楊枝が、子まりさの左目を突き刺していた。 眼球を貫かれる激痛に、子まりさはびたんびたんと身をよじる。 「あぎゃあああああいぢゃあああああああああああ!!! ぬいぢぇぬいぢぇぬいぢぇぬいぢぇぬいぢぇえええええええ!!ゆっぐじでぎにゃああああああ!!?」 「ぐ~り☆ぐ~り☆」 「ゆぎょおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!?」 丹念に眼球を抉られ、ムンクのように絶叫しながらますます身をよじる子まりさ。 「ゆっゆ~~ん♪かわいいれいむのかわいいせいっさいっ☆だよっ!!」 「ゆぅ~……れいむはほんとにかわいいよっ!すーりすーり!」 「ゆんっ!もうっ、まりさったらぁ……おちびちゃんたちがみてるよっ///」 「ぎゅっ!!あぎゅっ!!いぢゃいぢゃいぢゃいいぃぃ!!ゆぎぇえええええ!!!」 親れいむは夫といちゃつきながらも爪楊枝の動きを休めない。 「ゆゆーっ!しぇいっしゃいっはゆっくちできりゅにぇ~~!」 「まりしゃももっちょしぇいっしゃいっしちゃいよっ!!」 「ゆっ、じゃあみんなでなかよくせいっさいっしようねっ!! すぐにころしちゃだめだよ!!えいえんにゆっくりしないように、まんなかのあんこさんはきずつけないでね!!」 「ゆっくちりかいしちゃよっ!!」 再び子ゆっくり達が子まりさに群がり、口に咥えた爪楊枝を突き刺しはじめた。 「ゆびゅ!!ゆびゅ!!ゆぎいぃいぃ!!いぢゃいぢゃいいいいぃ!! やべぢぇ!!やべぢぇえ!!ぼういやおうぢがえりゅうううぅ!! だじゅげぢぇっ!!おどうぢゃっ!!おがあぢゃっ!!どぼぢでっ!! ゆぎょあっ、あっ、びぃ!!ゆぎゅううぅぅ!!!ゆっぐぢ、じぢゃいいぃ!!ゆっぐぢ!ゆっぐぢびぃぃ!!!」 ――――――― 「おい」 声をかけてやると、ゆっくりの家族はすぐにこちらに気づいたようだ。 ぴょんぴょん跳ねてきて僕の足元に群がり、頭を下げて頼んできた。 「おにいさんっ!!かえしてねっ!!まりさのおちびちゃんをかえしてねっ!!」 「まだなにもわからないこどもなんですうぅう!!おちびちゃんだけはゆるしてくだざいいいい!!!」 「おにぇーしゃんをかえちてにぇ!!かえちてにぇ!!」 「おにぇーしゃんをいじめにゃいでよぉぉ!!ゆええぇん!!」 「んー?いや、あいつは僕が苛めるために飼うことにしたし」 「ゆんやあああぁぁぁ!!やべで!!やべでええぇぇ!! おぢびぢゃんだげはああああぁぁぁ!!!」 「どっでもいいごなんでず!!おがあざんおぼいでっ!!いぼうどだぢのめんどうをよぐみでっ!! いづもあがるぐで、おうだもじょうずでぇっ!!どっでもどっでもゆっぐじじだ、がぞぐのあいどるなんでずうぅぅ!! おぢびぢゃんをいじべぢゃだべえええぇぇ!!」 「さっきも言ったけど、別にいいだろ。お前らゴミクズなんか苛めたってさ」 「どぼじでぞんなごどいうのおおぉぉ!!?ばりざだぢはごびぐずじゃだいいいい!!!」 「ひとのいやがることはしちゃだめなんだよっ!!いじめなんてぜったいよくないよおぉぉ!!!」 「ふーん……あれはいいの?」 そう言い、僕はそれを指差した。 「……………ぴぃ………………ぴ……ぃ」 その子まりさはひどい有様だった。 頬と言わず頭と言わず足と言わず全身にありったけの爪楊枝を突き刺されており、 特に潰された左目を中心的に刺されてその部分で束になっている。 引きずり出された舌にも何本も突き立てられ、口内も蹂躙されているようだった。 ほじり出されたらしい歯が何本も散らばっている。 さらに悲惨なことには、あにゃると強引に勃たせられたらしいぺにぺにの先にも数本貫き通されていた。 うつろな右目から涙を流し、子まりさはぴくぴくと小刻みに痙攣していた。 ゆっくりらしからぬ器用さで絶命させるのを避け、苦痛を長引かせて楽しんでいたようだ。 「ずいぶんひどいことをするじゃないか。あれは苛めじゃないのか?」 「ゆゆっ?」 何を言っているのかわからないという様子で、ゆっくりの家族はきょとんと僕を見つめた。 僕の顔を見上げ、ハリネズミ状態の子まりさを見やり、それを交互に何回か繰り返してから、 ようやく親れいむが答えた。 「ゆっ、おにいさん、ゆっくりりかいできないよ?もういっかいいってね」 「だから、あれは、弱い者苛めじゃないのか?」 「ゆぅ~~?」 子まりさのほうを少しの間見つめてから、親まりさが笑顔を浮かべて答えた。 「ゆゆっ!おにいさん、よくみてねっ!! あのごみくずにはおかざりさんがないよっ!!おにいさんはあわてんぼうだね!!」 「……だから何だよ?」 「ゆーっ?おかざりさんがないとゆっくりできないよ?」 「だから?」 「おにいさん、なにいってるの?ゆっくりしてね?」 「あれは弱い者苛めじゃないのかって言ってるんだ。 ゆっくりできないのかなんなのか知らないが、だからってあんなひどいことをしていいのか?」 ゆっくりの家族はお互いに顔を見合わせ、「ゆふふっ」と笑った。 その笑顔だけを見ると、なんとも善良そうな穏やかな表情だった。 親れいむがすまし顔で、もみあげを振りながら諭してきた。 「おにいさん、れいむのいうことをよくきいてゆっくりりかいしようね! あれはおかざりのない、ゆっくりできないゆっくりなんだよ。 ゆっくりできないゆっくりをいたいいたいするのは、いじめじゃないんだよ。 せいっさいっなんだよ。ゆっくりりかいしてね?」 「飾りがないとなんで痛めつけていいってことになるんだよ?」 「ゆっくりできないからだよ!あたりまえのことだよ?」 「あのな、そいつだって生きてるだろう。 いくらゆっくりできなくても、そいつも一生懸命生きてるかけがえのない命じゃないか。 同じ生き物だろ?生き物同士、みんなで協力してゆっくりしなきゃいけないんだろ? お前たちが言ってたことだぞ」 「ゆぷぷぷっ!!」 黙って聞いていた親まりさが噴き出した。 「ゆゆぅ~ん!まりさったら!わらっちゃかわいそうだよぉ~~☆ゆぷっ!!」 「ゆぷぷぷ、れいむだってわらってるよ!! おにいさんはいくらなんでもじょうっしきっがなさすぎるよ! わるいとはおもったけど、ついがまんできなかったんだよ!!ごめんね、おにいさん!!」 「「「おにゃじいきもにょだっちぇ~~!!ゆっきゃっきゃっきゃっ!!!」」」 子ゆっくり達は思う存分笑い転げている。 「僕の言ってること、そんなにおかしいかい?」 「ゆふふ、おにいさん、おかざりのないゆっくりはいきものなんかじゃないよ。 ゆっくりできないごみくずなんだよ! いっしょうけんめいいきてるとか、きょうりょくしてゆっくりするとか……ゆぷぷぷぅ!!おもしろすぎるよぉ~~♪」 「あんなのをいきものとよんであげるなんて、おにいさんもものずきだね! みるだけでゆっくりできない、あんなごみくずはれいっがいっ!だよっ!! いくらなんでもあんなのだけはなかまにできないよねぇ~~?」 「「「できにゃいよっ!!みゅり、みゅり~♪」」」 「飾りがないっていうだけで、そんなに迫害できるのか。 そいつだって親がいただろうし、姉妹だっていただろう。 ゆっくりしたい気持ちはお前らと変わりはないし、何か悪いことをしたわけでもない。いい奴だったかもしれない。 それなのにそんな目にあって、かわいそうだと思わないのか」 「かぞくっ!しまいっ!ゆぷっぷーっ!!そうぞうしただけでわらっちゃうよぉ~~!!」 「あんなののかぞくなんてよっぽどゆっくりできないんだろうね!!あわれあわれ!!」 「おにいさん、ゆっくりできないゆっくりはいきてるだけでわるいんだよ。 おかざりをなくすようなゆっくりだから、おつむさんもわるいし、ぶさいくゆっくりだし、にくたらしいよ。 そのすがたでみんなをゆっくりできなくさせてきたんだから、 さいごにまりさたちのおもちゃになってやくにたててしあわせーっ!なんだよっ!!」 「僕も、そうなんだけどな」 「ゆゆっ?」 「僕にとっても、お前らゆっくりは何の役にも立たないゴミクズで、ゆっくりできない。 ほとんどの人間がそう思ってるよ。 だったら、苛めておもちゃにしてやったほうがお前らは幸せなんだよな?」 「ゆーーっ!!?どぼぢでぞうなるのおおぉぉ!!?」 ゆっくり達がまた騒ぎ始めた。 「いいすぎでしょおおぉぉ!!? まりさたちはにんげんさんにくらべればよわいよっ!!やくにたたないかもしれないよっ!! でも、でもぉ!!あんなごみくずにくらべればずっとずっとずっとちゃんとしてるよおおぉぉ!!」 「へんだよおおぉぉ!!なんでれいむたちゆっくりがあれとおなじになるのおおぉぉ!!? おにいさんのいってること、ゆっくりりかいできないよおおぉぉぉ!!!」 「理解できるさ。 そうだな、とてもいい教えを賜ったお礼に、お前らのおちびちゃんを返してあげようか?」 「ゆゆーっ!!?かえしてくれるの!!?おちびちゃんかえしてくれるのおおぉ!!?」 「ありがとうございます!!ありがとうございます!!ありがとうございます!!おにいさんありがとううぅ!!」 「やっぱりはなせばわかってくれるんだよおおぉ!! おにいさんっ!!ゆっくりありがとうねえぇ!!おちっ、おちびちゃんはぶじですかっ!?」 「あー………そうでもないかな」 「ゆゆっ!!?なにをしたのおぉぉ!!?ゆっくりできてないのおぉ!!?」 「ひどいいぃぃ!!がえじでっ!!ばやぐがえじでねええぇぇ!!」 「はい」 僕は、おちびちゃんを返してあげた。 ――――――― 「ゆっ?」 目の前に現れたそれを認識するのに、たっぷり十数秒かかった。 全身、おめめやほっぺやべろやぺにぺにやあにゃるにぷすぷすさんを突き刺され、ぴくぴくと痙攣している小さな子まりさ。 お兄さんがその頭にちょこんと帽子を載せたことで、 れいむ達家族は、それが誰なのかをゆっくりと理解した。 叫び出したのはほとんど全員同時だった。 「「「「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!???」」」」 衝撃のあまり身動きもできず、咽喉も裂けんばかりにひたすら叫び続けた。 「あ゛ーーーーーーーーーーーーーっ!!!?あ゛あ゛ーーーーーーーっ!!?あ゛ーーーーーっあ゛ーーーーーーっ!!!!!」 「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 意味のある言葉を発するまで少しかかる。 「でいぶのおぢびぢゃんがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!?」 「ばじじゃあああああああああああぁぁぁぁーーーーーーー!!!あ゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」 「おでえぢゃ!!おでえぢゃ!!いやぢゃあああああーーーーっおでえぢゃああああーーーーーー」 「ゆっぐぢ!!ゆぐっぢ!!ゆぐううううううぢいいいいいいいいいいいがああああああああ!!!!」 「ばりざがどぼぢでごんなめにいいいぃぃ!!?」と叫ぶ者は誰もいなかった。 それをしたのはまぎれもない自分達なのだから。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛じだだいで!!じだだいで!!おぢびぢゃんじだだいでえええええええ!!!!」 「だべえええええええええいえんにゆっぐじじぢゃだべえええええええ!! おでがいいいいいおべんじじでええええええええゆぎゃあああああああああ!!!!」 「おでえぢゃあああああん!!ゆっぐじじで!!!ゆっぐじじでよおおおぉぉぉ!!!おうぢゃうだっでよおおおぉぉお!!!」 大量の涙を床にこぼしながら這いずり寄っていき、家族で必死にぺーろぺーろしようとする。 しかし、ほとんど隙間なく突き刺された爪楊枝に遮られて舌が届かない。 全員どうすることもできず、ただ目をむいて泣き喚くしかなかった。 「でぎだいいいい!!!でぎだいよおおおぉぉ!!べーろべーろでぎだいいいいいぃぃぃぃ!! おぢびぢゃんじんぢゃう!!えいえんにゆっぐじじでゃうううううううううーーーーー!!!!」 「ゆ゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!いやだっ!!いやだいやだいやだあああああ!!!じだだいでええええ!!!」 「だぢゅげでよおぉぉ!!おでがいいぃ!!おでえぢゃんをだぢゅげでよおおぉぉ!! おでえぢゃんいにゃいどゆっぐぢでぎにゃいよおおおおおぉぉぉ!!!」 「でぎだいっ!!でぎだいよぉ!!おがあざんだずげであげられだいよおおぉぉ!!」 「よかったじゃないか」 「ゆぐううぅぅぅっ!!!?」 声のしたほうを向くと、人間さんがにこにこ笑っていた。 「ゴミクズを制裁したんだろう?そいつ、そのまま死ぬよ。やったな!」 「ぢがうっ!!ごびぐずじゃだいっ!!がわいいがわいいばりざのおぢびぢゃんだよおおぉぉ!!」 「へーえ?そんな可愛い可愛いおちびちゃんを、なんでそんな目に遭わせたんだい?」 「ゆぐーっ!!ゆぶーっ!!う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛ぅぅ!!!」 答えられず、まりさは呻くしかない。 「ひどいよなあ。お目目をえぐり出して、ぺにぺにをわざわざ立たせてぷすぷすして。 あにゃるもまむまむももう使い物にならないな、もし助かっても一生おちびちゃん作れないぞ」 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛おぢびぢゃ!!おぢびぢゃ!! ごべんね!!ごべんね!!ごべんでえええええええ!!!」 「舌にもいっぱい突き刺して、歯もえぐり出して、もうお歌も歌えないな。 「ゆっくりしていってね!!」さえ言えないなあ。二度とゆっくりできないね!」 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛いやだ!!いやだ!!いやだあああぁぁ!! ごんなっ!!おぢびぢゃああああごべんだざいいいいぃぃぃ!!!」 「今更なに謝ってんだよ。あんっなに楽しそうに制裁してたのに」 「ゆげええええぇぇ!!!」 自分たちがした行為のあまりのおぞましさに、家族が餡子を吐きはじめた。 あんなにゆっくりしていたおちびちゃん。 ゆっくりしたお歌を歌い、家族をゆっくりさせてくれたおちびちゃん。 お父さんとお母さんを慕い尊敬し、将来お父さんたちみたいになると言っていたおちびちゃん。 親をいたわって、家の手伝いを進んでやってくれたおちびちゃん。 時にはわがままを言う妹たちを、優しく辛抱強く面倒を見てくれたおちびちゃん。 目を輝かせて、ゆっくりした家族を作る将来を夢見ていたおちびちゃん。 その未来を、すべて、自分達の手で粉々にしたのだ。 「あれー?何が悲しいのー?なーに泣いてんのー?」 「おぢびぢゃっ、おぢびぢゃんっっ!!ゆぐじでぇぇ!!おがあざんをゆぐじでえええぇぇ」 「いいじゃん別に。ゴミクズなんかどうなったって」 「ごびぐずじゃだいよおおぉぉ!!おぢびぢゃんはごびぐずだんがじゃだいいいぃぃ!!」 「ゴミクズじゃん、お前らが言ったんだよ。あーそうか、ほら」 痙攣している子まりさの頭から、お兄さんはまた帽子を取り上げた。 「ほーら、もうお帽子がないよ。お飾りがなければゴミクズなんだろ?悲しくないだろ?」 「ぢがうっ!!おかっ、おがざりがだぐでも!!がわいいだいじなばりざのおぢびぢゃっ!!」 「へー?そうなんだ。 あのさー、なんで僕に反論してんの?やったのお前らじゃん。なんでやったの? その子、ずっとお前らをお父さん、お母さんって呼んでたのに」 「ゆぐうぇええええええ!!!」 またも餡子がこみ上げ、吐き出してしまう。 それだけで他の子ゆっくりは息も絶え絶えだった。 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛………」 「あああああおぢびぢゃっ!!だべええ!!あんごばいぢゃだべええええ!!!」 「お飾りをなくすようなゴミクズの家族なんてゆっくりしてないんだろうな。 そう言ってたよな、お前ら。ほら、存分に見たらいいさ。確かにゆっくりしてないね!」 「ゆ゛ぐう゛ーっ!!う゛う゛う゛う゛ーっ!!!」 「ゆっくりできないゆっくりは生きてるだけで罪悪なんだろ?視界に入るだけでも周りが迷惑してたんだろ? よかったな、これでもうそのゴミクズに悩まされなくてすむぞ!さすがの制裁だったね!」 「おぢびぢゃっ!!おぢびぢゃんはああぁぁぁ!!!」 おちびちゃんはゴミクズなんかじゃない。ゆっくりできないゆっくりなんかじゃない。 そう叫びたかった、否定したかった。 しかし、確かに自分たちがそれを制裁したのだ。 もはや何を言うこともできず、まりさ達はただ泣き叫ぶしかできなかった。 「だじゅげぢぇっ!!だじゅげぢぇええぇ!!おにいじゃああん!!」 「ん?」 末の子れいむが、人間さんに助けを求めていた。 人間さんはゆっくりできるお薬を持っている、いつか言って聞かせたその噂にすがったらしい。 「おにぇえじゃん!!おでえじゃんをだじゅげぢぇええ!!おでがいじばじゅううぅぅ!!」 「なんで助けんの?なんで僕に助けてって頼むの?やったのお前らなのに。ねえねえおかしくない?」 「おでがいじばじゅ!!おでがいじばじゅ!!れいみゅがばぢがっでばじだ!!れいびゅがわるがっぢゃんでじゅ!! おにいいざああんおでがいじばじゅううううう!!!」 床に頭を打ちつけながら懇願する末っ子れいむ。 その姿を見て、家族たちは目が覚めたように叫び始めた。 「ばりざもっ!!ばりざもばぢがっでばじだ!!ごびぐずじゃありばぜえええん!!」 「でいぶもわるがっだでずううぅぅ!!おぼうじがないだげでいじべでごべんだざいいいいい!!!」 「おぢびぢゃんをなおじでぐだざああああいおにいざんおでがいじばずうううう!!!」 しかし、お兄さんの返答はつれないものだった。 「知らないよそんなの。自分でやったんだろ、自分でなんとかしなよ。 僕は返したもん、あとは関係ないもんね」 「ばりざだぢはぐずだがらっ!!ゆっぐじでぎないがらっ!!おぢびぢゃんだぢをなおじであげらればぜええん!!」 「治さなくていいでしょ、ゴミクズだし。ゴミクズは苛めてもいいんだろ?制裁なんだろ? というか、これからお前らも僕が制裁するし。お前らゴミクズだからね。これから潰すのにわざわざ治さないだろ?」 「ゆびぃいいいいいっ!!?」 「あ゛っ!!あ゛っ!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!! い゛っ!!いいでずっ!!ばりざはどうなっでもいいでずがら!!でいぶどおぢびぢゃんだげはだずげでぐだざいいい!!」 「でいぶもどうなっでもいいでず!!ぜいっざいっをうげばず!!でもおぢびぢゃ、おぢびぢゃんはあああ!!」 「おーおー、殊勝だこと。でも駄目」 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 「子供だからって見逃す理由はないね。お前達だって小さなおちびちゃん相手にそこまでしたろ? 小さくて弱いからって見逃さない、っていうか、小さくて弱いから苛めるんだもん。お前らもそうだろ?」 「ごべんだざい!!ごべんだざい!!ばりざがげずだっだんでず!!ごべんだざい!! おかざりがないっていうだけで、よわいものをよろこんでいじべるげずでずっ!!でぼ、でぼ、おぢびぢゃんはあああ!!」 「げずでいぶをぜいっざいっじでぐだざい!!ゆっぐりでぎなぐじでぐだざい!! でぼ!!おぢびぢゃんだぢだげは!!なにもわがっでないんでず!!でいぶだぢのまねじでだだげなんでずううう!!」 「ふ~~ん……よし、わかった。チャンスをやろう」 「ゆえっ?」 予期せぬ返答に、まりさ達は顔をあげた。 「とりあえず、そのまりさは治してあげよう。ちと手間だが、オレンジジュースとかでなんとかなるだろ。 まあ、まむまむとかはもう使い物にならないだろうが、死にはしないさ」 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!あ゛じがどうございばずううううう!!」 「………後になって「やっぱり死なせておけばよかった」なんて言っても知らないけどね」 「ゆ゛!?ゆ゛ゆ゛う゛ぅ!!がんばりばずっ!! ばりざだぢがぜぎにんをぼっでおぢびぢゃんをゆっぐじざぜばずううう!!!」 「そういう意味じゃないんだけどね。 で、チャンスというのは、お前達が弱い者苛めを二度としなければ、ってこと。 弱いからって苛めたり痛めつけたりしない、本当に他ゆんを思いやるゆっくりになれたなら、 感服いたしましたってことで、僕もお前達をもう苛めない。森に返してあげよう」 「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!!あじがどうございばずう゛う゛う゛う゛う゛う゛!! ばりざだぢばんぜいじでばずっ!!ぼうにどどいぎぼのをいじべだりじばぜええええん!! おにいざんっ、ぼんどうに!!ぼんどうにぼんどうにあじがどうございばずう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛」 まりさ達家族は、床に頭を押し付けて何度も何度も礼を述べた。 お兄さんが子まりさを取り上げて家の中に引っ込んでいくまで、まりさ達は頭を下げ続けていた。 ――――――― 子まりさの治療には手間がかかった。 小麦粉と餡子とオレンジジュースの三種の神器があれば、生命維持自体はたやすい。 しかし細かい修復となると話は違ってくる。 体中の無数の穴は、オレンジジュースに漬けてから小麦粉を塗りこむ程度で済む。 あにゃるのほうは単純な穴があればいいので簡単だが、 ぺにぺに、まむまむ周辺の器官は完全に破壊されており、機能を修復させるには至らなかった。 さんざんに蹂躙された左目は、眼窩がぼろぼろに崩れており、球体を収めるスペース自体がもうない。 ここは餡子を詰め、完全に小麦粉で穴をふさいでしまった。 こじり抜かれた歯は、面倒なので放っておいた。 結果から言えば、子まりさは一命をとりとめた。 しかし、全身に痛々しい傷跡が残り、左目が消失し、口はほとんどがスキッ歯となり、 まむまむとあにゃるは締める機能が失われ、しーしーとうんうんを意思とは関係なしに垂れ流す、 大変ゆっくりしていない姿になってしまった。 まあ、この方がいいだろう。 机の上に敷かれたハンカチの上で、寝苦しそうにうなされる子まりさを眺めながら、 僕は煙草に火をつけた。 禁煙を解き、五年ぶりに吸う煙草の紫煙を肺にたっぷりと染み込ませる。 「これでやっと下拵えが終わったよ、ありす」 僕は呟いた。 子まりさのさらに奥、机の上の写真立てに納まった一葉の写真。 そこには僕と、金バッジをつけたゆっくりありすが頬を寄せ合って写っている。 金バッジのありすが姿を消したのは、一昨日のキャンプのことだった。 連休を利用し、ゆっくり同伴で湖畔のキャンプに赴いた。 躾の行き届いた、しかし子供っぽい可愛げも併せ持った僕のありすは、 「とかいは」を連呼しながら楽しげにはしゃぎまわり、僕に何度もお礼を言っていた。 そのありすが、ちょっと目を離した隙にいなくなっていた。 お飾りのカチューシャのほうはすぐに見つかった。 急坂の坂道の中途で雑草に引っかかっており、ありすは坂道を転げ落ちていったのかと思われた。 夜を徹して森中を探した。 夜明けまでかかってさんざん探したあげく、ついに点々と地面に染み込んだカスタードの跡を見つけ、 それをたどっていくうちに、このゆっくり共の家に行き着いた。 入り口のバリケードを開くと、そこにはありすがいた。 否、ありすだったものがあった。 「むーしゃむーしゃ!!むーしゃむーしゃ!!しあわせーっ☆」 ゆっくり共が群がり咀嚼しているその表面には、痛々しい大小何十、あるいは何百もの傷が刻み付けられており、 いまだ残っている顔面には枝が何本も突き刺さってこのうえもない苦痛を浮かび上がらせていた。 夜を徹して陵辱されていたのか。 どれだけ苦しかったろう。どれだけ私に救いを求めただろう。 「ゆっ?おにーさん、ここはまりさのおうちだよっ!ゆっくりしていってねっ!!」 家長らしきまりさが、罪悪感の欠片もない陽性の笑顔を僕に向けて叫んだ。 「おかざりがなくてゆっくりできないごみくずをせいっさいっしてたんだよっ!!」 僕の質問に対し、ゆっくりの家族は明るく笑ってそう答えた。 そうか。 僕はそのとき、心を決めた。
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『よわいものいじめはゆっくりできないよ!』中編 過去作 anko1548『よわいものいじめはゆっくりできないよ!』前編 「まりしゃのゆっくちしちゃしぇいっしゃいっ!をうけてにぇっ!! ぐーり!ぐーり!!」 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛いだいいだいいだいいぃぃ!! やべ!!やべでえええやべでぐだざいいい!! ごんなのどがいばじゃだいいいいいい!!!」 「ゆぷぷっ☆ごみくずがいっちょまえにいたがってるよっ!! みんな、みてみて!!ゆっくりしてないおかおでおもしろいよぉ~~!!」 「ゆーっぷぷぷ!!しゅっごいばきゃづらだにぇ~!! ゆゆっ!?きょれぐりゃいでちーちーもらしちぇるよっ!!」 「ゆっきゃきゃきゃっ!!ちーちーありちゅっ!!ゆっくちしちぇにゃいにぇ~~♪」 「かわいいれいむがおめめをつぶしちゃうよ~?ほーら!ほーら!」 「ゆびぃいいいいゆぐじで!!ゆぐじでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!! やべでっ!!ごんなっ!!ごんなのまぢがっでるわっ!! おぢびぢゃんだぢっ!!ごんなゆっぐりでぎないごどやべでっ、 いっじょに!!いっじょにゆっぐじじばじょう!?」 「ゆぴゃぴゃぴゃ!!くしょぶきゅろがにゃにかいっちぇるよぉぉ~~!!」 「ゆがーっ!!れいむのおちびちゃんにきやすくはなしかけないでねっ!! ごみくずのくせに!!ごみくずのくせにいぃ!!」 「あ゛ーっ!!あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーっ!!?あんよざんがっ!!あんよざんやべでえぇぇ!! だじゅげでっ!!だずげでおにいいざあああああん!!」 「こにょおかじゃりがにゃいごみくじゅめ!! まりしゃのすーぱーしぇいっしゃいったいみゅでゆっくりさせちぇやりゅよっ!! ゆーっ!!ゆーっ!!」 「ゆびゃあああああん!!たしゅけちぇええええ!!」 「おい、まりさ」 「いちゃいいちゃいしにゃいでぇぇ!!まりちゃをいじめにゃいでよおおぉ!!」 「聞けって、まりさ。家族のところに帰してほしいか?」 「ゆゆっ!?かえしちぇくれるにょっ!? おにいしゃんありがちょう!はやきゅ~~!!」 「でも、お父さんもお母さんももう逃げ出しちゃってるかもしれないぞ~」 「ゆーっ!?しょんなわきぇにゃいよっ!! おちょーしゃんもおきゃーしゃんも、まりちゃのこちょがとっちぇもきゃわいいんだよ!! じぇったいまりしゃをたしゅけにきちぇくれりゅよっ!!」 「だって来ないじゃん。人間が怖くて、しーしー漏らして逃げ帰っちゃったんじゃない? お前達ゴミクズなんて薄情だもんなあ、子供なんてさっさと見捨てるだろ」 「おちょーしゃんはじぇったいまりしゃをみしゅてにゃいもんっ!!ぷきゅーっ!! おにーしゃんはへんにゃこちょいわにゃいでにぇ!!まりしゃおこりゅよっ!?」 「だって、さっき僕がお前をさらったときも助けなかったじゃん。なんでだろうね?」 「ゆゆっ!?ゆ……ゆー……きっちょ、ちゃんすしゃんをまっちぇたんだよ!!」 「そうかなー。あれは、いつお前を見捨てて逃げ出そうかとタイミングを見計らってる目だったけどなあ」 「ゆんやーっ!?へんにゃこちょいわにゃいでにぇ!!へんにゃこちょいわにゃいでよぉぉ!! おちょーしゃんはまりしゃをゆっくちしちゃこだっちぇいってちゃもんっ!!みしゅてにゃいもん!!」 「ホントかな~~。都合が悪くなれば子供なんてさっさと捨てるのがゆっくりだしな~~。 たとえばさー、こうなったら……?」 「ゆっ!!?ゆやあああぁぁ!!おぼうちしゃん!!まりしゃのゆっくちしちゃおぼうちしゃんっ!! かえちてにぇ!!かえちてにぇ!!まりしゃのおぼうちしゃんかえちちぇえええぇぇ!!」 「こんなふうにお飾りがなくなってゆっくりできなくなったら、お父さんもお母さんもお前を見捨てるんじゃないかい?」 「ゆゆーっ!!しょんなこちょにゃいよ!! まりしゃはゆっくちしちぇるもん!!おかじゃりがにゃいごみくじゅとはちぎゃうもん!!」 「だから、お飾りがなくなってんじゃん」 「おかじゃりがにゃくちぇもごみくじゅじゃにゃいもん!!おちょーしゃんもおきゃーしゃんもしっちぇるもん!! まりちゃはゆっくちしちぇるっちぇ!!みゃいにちねるみゃえに、そういっちぇしゅーりしゅーりしちぇくれりゅもん!!!」 「眉毛キリッて……自信あるのね。 そうかー、ごめんな。お兄さん意地悪言っちゃったよ!じゃあ、お父さんとお母さんのところに帰してあげような!」 「ゆゆっ!?おぼうち!!おぼうち!!おぼうちしゃんかえしちぇよおおぉぉ!!」 「さ、ここから帰りな。家族と仲良くやれよ!」 「ゆーっ!!まりしゃのおぼうちしゃああん!! ゆんやああああおちょーしゃあああん!!おきゃーしゃん!!きょわかっちゃよおおぉ!!」 「ゆんびゃああああぁぁ!!やべぢぇえええええ!!どぼぢぢぇごんにゃごぢょじゅるにょおおお!!? ばりじゃだよおおおぉぉ!!おねーじゃんっ!!いぼうどぢゃんっ!!にゃかよちのばりじゃだよおおおぉぉ!!」 「うるちゃいよっ!!ごみくじゅはだまっちぇにぇ!!」 「ぷーすぷーす!!ぷーすぷーす!!だよっ!!」 「いぢゃいぢゃいぢゃい!!いぢゃいよおおおぉぉ!!だじゅげぢぇおぎゃーじゃああぁぁん!!おぢょーじゃあああ!!」 「まだれいむをおかあさんってよぶのおぉ!!? ずうずうしいこだよ!!いいかげんにしてねっ!!ぐーりぐーり!!」 「ゆごぎょおおおおおおいぎゃああああああおべべぐりぐりじにゃいでえええぇぇ!!!」 「おまえなんかにおとうさんとよばれるなんてまりさのおてんっ!だよっ!! まりさがおまえなんかのおやにみえるのおぉ!? ごみくずのおちびちゃんなんかつくる、ゆっくりしてないくずまりさにみえるっていうのおお!!? とりけしてねっ!!とりけせぇぇ!!」 「ゆ゛あ゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」 「ゆゆっ!れいむ、いいことをおもいついたよっ!!みんなでごみくずをゆーさゆーさしようねっ!!」 「ゆーっ?ゆっくりりかいしたよ!!」 「ゆっ?ゆっ?やめぢぇね!?にゃ、にゃにしゅるにょおおおぉ!!? ゆーっ!ゆぅーっ!!ゆーさゆーさ、しにゃい、でっ、ゆっ、ゆっ、ゆぐっ、ゆっ、ゆふほぉぉ!?」 「ゆゆっ!!ごみくずのおそまつなぺにぺにさんがでてきたよっ!!」 「ゆんやああああぁぁ!!?みにゃいで!!みにゃいで!!みにゃいでよおおぉぉ!!!」 「ゆーっ、みてるだけではきけがするうすぎたないぺにぺにさんだね。 ちびのくせにもうれいぱーなんて、いきててはずかしくないの?ばかなの?ほんもののばかなの?なんでいきてるの?」 「「「ぴぇーにぴぇーに!!ぎーんぎーん!!ゆっぴゃっぴゃ~~♪」」」 「いや゛っ、ゆぐっ、ゆぐぇえええええん………どぼっ、どぼぢぢぇ……… ばりじゃ………れいびゃーなんがじゃ、だいよおぉぉ………やべぢぇよおぉ………おでがいぢゃがりゃああああ………」 「ゆふふ、あんしんしてね、ごみくずさん! おまえみたいなゆっくりできないごみくずがもううまれないように、ぺにぺにさんをせいっさいっしてあげようね!!」 「うあっ?あ゛っ!?ゆ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!やべぢぇえええええええ!!! おでぎゃいっ!!やべぢぇっ!!あがぢゃっ!!あがぢゃんぢゅぐれにゃぐにゃっぢゃうううう!! いや゛っ!!い゛や゛だあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!がわいいあがぢゃんぢゅぐっぢぇ!!おぎゃーじゃんにみじぇでっ!! おどーぢゃんど、おぎゃーぢゃんどっ!!ばりじゃどっ!!あがぢゃっ!! みんにゃでゆっぐぢっ!!ばりぢゃの、ゆべっ!!ゆめにゃのにいいぃぃぃ!!!やべでええええおぎゃーじゃああああ!!!」 「ゆふー。れいむ、ごみくずをだまらせてあげてねっ☆」 「ぷーす!ぷーすっ!だよぉ~~♪」 「ゆ゛んっぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!」 「んーまあ、こんなもんかな。おい、まりさ、生きてっか?」 「………………………」 「もしもーし?治療できた?お、こっち見たな。生きてりゃいいか。聞こえる?僕の言ってることわかるか?」 「………………………」 「しかしひどくやられたもんだな。まさかここまでやるとは思わなかったよ。 ぺにぺにの先から突き刺すなんてぞっとするわ。お前らに比べたら、僕の虐待なんてまだまだだなあ」 「………………………」 「口聞く元気もないか。そりゃそうだな、実の親にあそこまでやられちゃな。 まあ、お前も自分がやられる立場になってさすがにわかったろ。 飾りがないからゆっくりできないってお前ら言うけど、 飾りがなくたって、心も思い出も家族もある、どこにでもいる普通のゆっくりなんだぜ。お前と同じさ」 「………………………ち、ぎゃ………」 「ん?あ、もう喋れるの?なんだよ」 「………ちぎゃ……ぅ………ば……り……」 「落ち着いてゆっくり喋っていいぞ」 「………………ばりじゃ…………ちぎゃ………ごびぐ、ずじゃ………ない……」 「………お前ね、あれだけやられてまだ言ってんのか。 家族全員がゴミクズ認定してたじゃないか。飾りがなければ無条件でゴミクズ扱いするのがゆっくりなんだよ。 毎日一緒にゆっくりしてたお前でも、だ」 「……………ちぎゃ、う………おどー、ぢゃ………おがー………ばぢがえ、だん、……だよ…… ぼがの………ごびぐずど………うっがり、じぢゃ…………っだん……だよ……」 「お前、…………驚いたな、ここまでされてもまだ信じられるのか」 「おぼうぢじゃん………おぼうぢ、じゃんが、ながっだがら………」 「信じるっていうより、藁にもすがる思いってとこかな、こりゃ。 でもさー、それじゃ、あいつらが言ってる「かわいいおちびちゃん」ってのは、 つまるところ、帽子ってことにならない?」 「ゆ゛?」 「だって帽子しか見てないじゃん。たった今ここでゆーゆー呻いてるお前なんかどうでもいいわけだろ。 単純な引き算だな、おちびちゃんマイナスお帽子イコールゴミクズ、と。 そうか、じゃ、この帽子イコールまりさを返してやればおちびちゃんが全員揃うわけだ。なーんだ、簡単にハッピーエンドじゃん。 じゃあこの帽子返してくるから、お前もういらないから。潰していいよな?」 「ゆ゛!?や゛っ!!や゛だや゛だや゛だあぁぁぁ!!じにぢゃぐにゃい!!じにぢゃぐにゃいいい!!」 「別にまりさは死なないよ、返すから。まりさのオマケのゴミクズは傷だらけになっちゃったから捨てようね~~」 「あ゛ーっ!!?あ゛あ゛ーっ!!ぢがうっ!!ばりじゃはばりじゃだよおおぉぉ!!おぼうぢじゃんじゃにゃいよおおぉぉ!!」 「ふ~ん?本当?お父さんたちに聞いてみよっか?このお帽子とお前、どっちがまりさかって」 「ばりじゃはばりじゃだよっ!!ばりじゃはばりじゃだよ!!ばりじゃはばりじゃだよおおおおぉぉぉ!!!」 ――――――― 「ほんとっ!?おにいさん!! おちびちゃんゆっくりなおったのおぉ!?」 「ああ、なんとか治った。まあ、全快とはいかないが……」 「ゆ、ゆゆううぅ……」 「まりさ……でも、でも、えいえんにゆっくりしなくてよかったよ! ゆっくりいきてさえいれば、またゆっくりさせてあげられるよっ!!」 「ゆーっ、そうだね……ゆっくりがんばろうね!! おにいさんっ!!おちびちゃんをなおしてくれてありがとうございますううぅ!!」 「ほんとうにありがとうございますうぅ!!このごおんさんはいっしょうわずればぜんっ!!」 「じゃ、早速会うかい?」 「ゆっ、ゆゆぅぅ……れいむ、こころのじゅんびさんはできてる?」 「ゆぅ、きがおもいね……あんなにひどいことしちゃったもんね…… おちびちゃん、おかあさんをゆるしてくれないよね……」 「みんにゃでごめんにゃしゃいしゅれば、きっちょゆるちてくれりゅよっ!!」 「しょーだよ!!いっぴゃいごめんにゃしゃいしちゃらゆるちてくれりゅよ!! だっちぇまりちゃおにぇーしゃんは、とっちぇもゆっくちしちぇるもんっ!!ね、おきゃーしゃん!!」 「お、おちびちゃんたち……… ゆっ……そうだね………れいむたちはかぞくだもんね!」 「こんかいのことは、まりさおとーさんがいっしょうせきっにんっ!をもって、 おちびちゃんをゆっくりさせるよ。 おちびちゃんにみんなでいっぱいあやまって、またかぞくでいっしょにゆっくりしようね。 まりさたちは、もりでもじまんのなかよしかぞくっ!だからね!!」 「ゆゆゆゆ~~っ!!」 「そうか。じゃ、連れてきていいんだな?」 「ゆっ!!ゆっくりおちびちゃんにあわせてねっ!!!」 家族で口を揃えて叫ぶと、お兄さんは深くうなずき、家の中に入っていった。 「ゆゆ、きんちょうっするね……」 「みんな、おちびちゃんをゆっくりさせてあげてね!!」 「ゆっくちりきゃいしちぇりゅよっ!!おきゃーしゃんはしんぴゃいしょうだよ!!」 すぐに引き戸が開き、お兄さんがまた出てきた。 その手には……見紛うことなき、ゆっくりした子まりさが乗っていた。 「さあ、ご対面だ」 お兄さんが屈み込み、手に乗せていた子まりさを床に置く。 「ゆっくりしていってねっ!!」 「…………ゆわああああぁぁ………………!!!」 まりさ達は呻いた。 苦悶からではない、喜びと驚嘆からだった。 子まりさは全快していた。 あれほどに深く傷つけられていた全身も、 何本も折られ抜かれた歯も、えぐり出した左目も、すべてきれいに再生している。 そして、なんの屈託もない、太陽のように明るくてゆっくりした笑顔で、 ころころと可愛い声を転がし、眩いばかりのゆっくりした挨拶をしてくれたのだ。 あんなにゆっくりできないことをした家族に向かって。 「おとうさん、おかあさん?ゆっくりしていってね!!」 「「ゆ、ゆゆっ…………ゆっくりしていってねえええぇ!!!」」 うれし涙を流し、れいむとまりさは全身の力を込めて挨拶を返した。 「ゆっくりしていってね!!ゆっくりしていってね!! まりさといっしょにゆっくりしようねっ!!」 大喜びで跳ね回り、嬉しくてたまらないという様子で何度も挨拶する子まりさ。 まるで大輪の花のごとく咲き乱れるわが子を、姉妹を、 家族全員が踊らんばかりにして出迎え、何度も何度も挨拶を返した。 「「「ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!!ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!!」」」 「おにぇーちゃん、ゆっくちしちぇる!!ゆっくちしちぇるよおおぉ!!」 「ごめんねっ!!ごめんねぇ!!おちびちゃんっ、おちびちゃああぁん!! あんなゆっくりできないことをしたおかあさんをゆるしてねえぇ!!」 「ゆっ?なんのこと?」 「ゆゆゆゆっ!!? だ、だって……あんなことしたよ……おかあさんたち……」 「おちびちゃん!!ゆっくりだいじょうぶなの!? もう、どこもいたくない!?ゆっくりできないところはないっ!!?」 「ゆーっ!!まりさ、ゆっくりしてるよお~~!! いたかったけど、もうだいじょうぶだよっ!! しんぱいしてくれてありがとうね!!おとうさんとおかあさんはゆっくりしてるね!!」 「あ、あああ………ゆるして……ゆるしてくれるんだね…… おちびちゃんはやさしいね……ゆぐっ、ゆっ……ありがとう……あじがどうぅ………!!」 「ゆゆっ?すーり、すーり!!ゆっくりできるよぉ~~!!」 感涙にむせびながら頬をすり寄せてくる親れいむに、子まりさはまた破顔する。 「ありがとう!!ありがとう!!おちびちゃん、ゆっくりね!!ゆっくりしようねぇ!!」 「ずっと、いっしょだよ……だいじなだいじなおちびちゃん……… おかあさんと、ずっとゆっくり………ありがとう……うまれてきてくれてありがとうね……」 「おにぇーちゃん、ゆっくちーっ!!ゆっくち!!ゆっくち!!」 「れいみゅうれちいよぉ!!まりちゃがゆっくちしちぇるちょみんにゃがゆっくちだよぉ~~☆」 「ゆーっ、いもうとたちがいっぱいだね~~!! みんなでゆっくり~~♪ゆっくりしていってね~~♪」 「「「「ゆっくちしちぇいっちぇにぇ~~~!!」」」」 子まりさを中心に、家族みんなが集まって存分にすーりすーりを交わす。 家族にとってかつてないほどの喜びがそこにあった。 ひとしきり涙ながらのすーりすーりを味わってから、 親まりさがその輪から離れ、お兄さんに向きなおって頭を下げた。 「おにいさん………ほんとうに、ほんとうにありがとうございます。 ゆっくりできないまりさの、ゆっくりしたおちびちゃんをたすけてくれて、ありがとうございます」 「ゆっ!!そうだよっ!!おにいさああんありがとおおおおお!!!」 親れいむも飛び出し、お兄さんに何度も頭を下げた。 「にんげんさんはゆっくりしてるよ!! あんなにゆっくりできてなかったおちびちゃんをなおしてくれてありがとう!!ありがとう!! ゆっくりかんしゃしますっ!!いっしょうごおんはわすれませええん!!!」 「いや、大したことじゃないさ。なあ、ちゃんと治ってるかな? ちょっと自信がないんだ。隅々までよくチェックしてくれないか?」 「ゆゆっ!!ゆっくりりかいしたよ!!じーろ、じーろ」 「じーろ、じーろ!」 「「「じーりょ、じーりょ。じーりょ、じーりょ」」」 家族で子まりさを取り囲み、目をこらしてその体をまじまじと見つめる。 「ゆゆっ?まりさ、はずかしいよっ!!じーろじーろしないでね!!」 「おちびちゃん、ゆっくりがまんしてね!! おちびちゃんがゆっくりできてるかどうかかくっにんっだよっ!!」 「ゆっくりりかいしたよ♪かくっにんっ!かくっにんっ!」 「ゆーっ!!ゆっくりできてるよぉ~~!!」 さんざんチェックして満足したまりさが叫んだ。 「本当に大丈夫かい?どこか傷になっているところはないか?」 「ゆっ!どこにもないよっ!!ぴっかぴかのおはださんだよっ!!」 「肌?」 「まりさおちびちゃんのおはださんは、みずみずしいつるつるすべすべおはださんだよっ!!」 「髪はどうだい?足りなくないか?」 「ゆっくりだいじょうぶだよ!!きゅーてぃくるできらきらした、さらさらきんぱつさんだよ!!」 「お目目はどうだい。ちゃんとしてるか?」 「ぱっちりくりくり、ほうせきさんみたいにかがやくおめめ!みてるだけでまぶしいねっ!!」 「歯は?治せてるか?」 「すっごくゆっくりしてるよぉぉ~~!!しんじゅさんのようにひかりかがやいてるよ!! どこからどうみても、あのゆっくりしていたおちびちゃんだよぉぉぉぉ!!!おにいさんありがとおおぉぉ!!」 「あっそ。それ、まりさじゃないけどね」 「「「「ゆっ?」」」」 ――――――― 本物の子まりさを連れていき、家族の前に置いてやる。 「はい、本物のまりさ」 「ゆっ?」 目の前に置かれた我が子を見て、家族はきょとんと口を半開きにしていた。 「で、これはただの野良ゆっくり。しかもまりさじゃなくてれいむ。しかも成体」 「ゆっ?ゆゆゆ??」 野良れいむの頭から子まりさの帽子を取り上げて、本来の持ち主の頭に戻してやる。 野良れいむが騒ぎはじめた。 「ゆゆっ!!ゆゆゆっ!!かえしてね!!まりさのおぼうしさんかえしてねぇ!!」 「お前の帽子じゃねーだろ。ああ、もう演技はいいよ、れいむ」 「ゆーっ!!?れ、れれれれれいむじゃないよ!!れいむはれいむじゃないよ!!れいむはまりさだよっ!!」 「はいはい、ゆっくりゆっくり」 「ゆ?ゆゆ?ゆゆゆゆゆぅぅ!?」 状況が認識できないようで、家族は野良れいむと子まりさを交互に見ながらぐるぐると目を回している。 それはそうだろう。 ついさっきまで愛しい我が子だと思って頬ずりしていたゆっくりが、 実は子まりさでもなんでもなく、 全身にカビと汚れをこびりつかせた成体の野良れいむだったのだから。 そして、今帽子をかぶって目の前に立っている子まりさは、 体中生々しい傷痕だらけで、左目にあたる部分はまっさらに埋められ、 歯軋りしている口内はほとんど隙間だらけ、挙句の果てにまむまむからしーしーをちょろちょろと垂れ流していた。 認めたくない要素しかない現実を目の前に突きつけられ、 完全にパニックを起こして硬直している家族の前で手を叩き合わせ、我に返らせる。 パァン!! 「ゆ゛っ!?」 「起きてるか、おい?」 「ゆっ!!ゆゆゆっ!?おに!!おにいさっ!?これ、これはどういうっ」 「ああ説明してあげます。 こいつはそのへんで拾ってきたただの野良。まあ、比較的頭のいいやつを探して用意してあったんだけどね。 リボンが千切れてなくなったとかで苛められて、ずっと一人で生きてたんだとさ。 この帽子をかぶってまりさになりすませば、飾りも手に入るし、あったかい家族も迎えてくれるぞって言ってやったら、 大喜びで僕のイタズラに協力してくれたよ」 「ゆ゛!!ゆ゛んや゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!? どぼじでばらじじゃうのお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!???」 「いやー、あっはっは。面白かったね!」 「や゛っど!!や゛っどゆっぐじでぎるどおぼっだどにいいいいいい!!! いっじょにゆっぐじじでぐれるがぞぐがでぎるどおぼっだどにいいいいいいいい!!! や゛だ!!ぼうびどりぼっぢはや゛だあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 「このクソ汚い、大きさも全然違う野良れいむを、お父さんとお母さんは君だと思ってすーりすーりしていたわけだけど。 気分はどうだい、まりさ?」 子まりさは答えない。 しかし、全身をぶるぶると震わせているのが見てとれた。 「瑞々しいつるつるすべすべのお肌。 キューティクルでさらさらした金髪。 宝石みたいに輝くお目目。 帽子を乗せただけでこの言われようだ。なーんだ、やっぱり帽子がまりさなんじゃん! お前、いらないじゃん!ゴミクズじゃん!」 「あ゛っ………あ゛っ………………あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 両親がわめき始めた。 自分達がこの子まりさの前で演じた茶番劇、その意味するところがようやくわかったらしい。 「ぢがうっ!!ぢがうっ!!ぢがうっ!!ぢがうううううぅぅ!! おぢっ!!おぢびぢゃんぢがうのおおおおおおぉぉぉぉ!!!」 「なーにが違うんだか。こんな汚い、しかもれいむをあんなにゆっくりしてると褒めてたくせに。 帽子だけありゃいいんだろお前ら?ほら、これでこいつがおちびちゃんだぞ」 「ゆぐっ……ゆぐっ……ゆぇ?ゆっ、ゆゆゆっ!! まりさだよっ!!れいむはまりさだよっ!!おとーさん、おかーさんっ!!ゆっくりしていってねぇぇ!!」 再び子まりさの帽子を取り上げ、野良れいむの頭に載せてやる。 「ぢがうっ!!ぢがうよおぉ!!ぞいづはおぢびぢゃんじゃだいよおおぉぉ!!」 「なんでー?さっきあんなにおちびちゃんおちびちゃん言ってたじゃん。 こっちはいらないよね?ねえねえまりさ、お前もういらないってさ。どんな気持ち?どんな気持ち?」 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぢがうの!!ぢがうのおおぉぉ!! おぢびじゃんっ!!ぎいでっ!!おがあざんのばなじをゆっぐじぎいでねえええぇ!!?」 目の前で帽子を移動させればこのとおり判別がつくのに、 最初から子まりさの帽子をかぶせてあればなんでも子まりさに見えるらしい。 しかも、これだけ大きさも外見も違う成体のれいむを、たしかに子まりさと認識していた。 つくづく、ゆっくりの認識基準というものがさっぱりわからない。 最初に帽子を見て識別したら、あとは適当に認識しているのだろうか。 せいぜい目がある、口がある、髪がある、程度の認識だろうか? そして、いざそれが自分の子供だと思えば、目も口も髪もすべてリアルタイムで美化されまくって認識されるというわけか。 思い込みの生き物だと言われているゆっくり、そういうものなのかもしれない。 ともあれ、無理に理解しようとしない方がいいだろう。あまりにも人間と違いすぎる。 こいつらの目に映っている景色と人間が見ている景色は、実は全く違うものなのだろう。 林立するビル群は「灰色の山」、道路を行き交う車は「大きい人間さんのすぃー(車のついた板)」、 ぼんやりした色とりどりの巨人(人間)がうろついている中で、 下部に目口のある饅頭をくっつけた帽子が動き回っている世界。 想像して少し気分が悪くなった。よそう。 そういえば、子まりさがさっきから喋っていない。 「おかあさんのおはなしをきいてねっ!?ねっ!?おちびちゃんっ!! ちがうよっ!!ちょっとかんちがいしてただけだよっ!!あんなのおちびちゃんじゃないよおおぉ!!」 「きいてねっ!!おちびちゃんっ!! そのっ、あのっ、だれにでもまちがいはあるんだよっ!!おと、おとーさんにもあるよっ!! ちょっとだけ、ちょっとだけまちがえちゃったんだよっ!!ごめんね、おちびちゃん!! おねがいだからおへんじしてえぇ!!」 「…………ゆ゛っぐぢだばりぇえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!!」 こっちが気圧されるほどの咆哮が子まりさの口から発せられた。 「ゆ゛びぃっ!!?」 「なにぎゃおぢびじゃんだっ!!なにぎゃおがあじゃんだ!!おどうじゃんだっ!! おぼうぢじがみでにゃいじゃにゃいがっ!!ごのおぼうぢがづいでれびゃ、なんでみょばりじゃっ!! おぼうぢがなげれびゃ、ばりじゃはごびぐじゅにゃんじゃにゃいがあああああぁあ!!!」 「お、おぢびぢゃっ………ゆっぐ、ゆっぐりおぢづいでねっ!?」 「だばりぇだばりぇだばりぇえええぇぇ!! ごんにゃぼの!!ごんにゃぼにょおおおお!!」 子まりさは自分の帽子を床に叩きつけ、ぼんぼん踏みつけはじめた。 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛おぢびぢゃんなにじでるのおおおおお!!?」 「だりぇがおぢびじゃんだ!!おぼうぢじがみでにゃいぐぜに!! ばりじゃなんじぇいらにゃいぐぜに!!おぼうじじがぼじぐにゃいぐぜに!! ごろじでやりゅっ!!おばえらのおぢびぢゃんにゃんがじぇいっじゃいじでやりゅっ!! ぢにぇっ!!ばりじゃよりだいじにゃおぼうじにゃんがぢにぇぇ!!!」 「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛やべでね!!やべでね!!おぢびぢゃああん!!」 「ゆんやああああああやべでええええ!! ぞのおぼうじざんがないどでいぶがおぢびじゃんになれないよおおぉぉぉゆびぇ!!!」 全く空気の読めていない野良れいむをつまみ上げて家の中に放り込む。 しかし、自分でやったこととはいえなかなか珍しい光景だ。 自分の飾りを、殺意をこめて壊しにかかるゆっくり、しかもほんの子供。 あることないことさんざん吹きこんで親への疑念を植え付けてやったとはいうものの、ここまで効果覿面とは。 ゆっくりを洗脳するのは恐ろしく簡単なんじゃないだろうか? 「ゆぐぎぎぎいいいいいい!!!」 自らの帽子に歯を突き立て、引き裂きにかかっている。いよいよ本気だ。 家族は恐慌をきたして必死に止めようとしている。 「やべでっ!!やべでえええ!!おぢびぢゃああああんどぼじでぞんなごどおおお!!」 「おがざりがないどゆっぐりでぎだいよおおおおお!!?」 「しょうだよにぇっ!!ゆっくちできにゃいよにぇっ!!!」 憎しみを込めた視線で両親に挑みかかる子まりさ。 「おかじゃりがにゃいとせいっさいっされるもんにぇっ!!! おとーしゃんも!!おかーしゃんも!!みんにゃもっ!! おぼうしがにゃかったらまりしゃをいじめりゅんだもんにぇ!!! おちょーしゃんとおかーしゃんにきょろしゃれるもんにぇっ!!!」 「ゆ……あ………ああ……おち、おちびちゃ………」 「ご……ごべん、ね………ごべんだざい………おぢびぢゃ………」 「いいよっ!!きょろしちぇよ!! まりしゃはごみくじゅだもんにぇっ!!いきちぇるかちのにゃいくじゅだもんにぇ!! まりしゃだっちぇもういきてちゃくにゃいよ!! しゃあ、きょろしちぇねっ!!しゃあ!!しゃあ!!しゃあああ!!!」 帽子を打ち捨て、子まりさは唾を飛ばして怒鳴り親に詰め寄る。 「ごべんなざい!!ごべんなざい!!おぢびぢゃんごべんなざあああいい!! ぼう!!ぼういじべだいがら!!ぼうにどどあんだごどじだいがらあああああ!!」 「ゆ゛ぅうううううおぢびぢゃ!!おぢびぢゃんっ!!ゆっぐじじでよおぉ!!!」 「ゆっくちしちぇ!?ゆっくちしちぇだっちぇえええぇ!!?」 叫んだ親れいむに向かって、子まりさは自分のまむまむを突き出して吼えた。 その傷跡生々しいまむまむからは、だらしなくしーしーが滴っている。 「こにょまむまむをみちぇよ!!もうまりしゃ、まむまむとじらりぇにゃくにゃっちゃよ!! あにゃりゅもひりゃきっぱにゃしぢぇ、しーしーとうんうんがかっちぇにでちぇくりゅんだよっ!! ひぢゃりのおめめしゃんもにゃいよ!!はしゃんもいっぴゃいなきゅなっちゃよっ!! しーしーまみりぇのうんうんまりしゃがどうやっちぇゆっくちできりゅにょっ!!?」 「ゆあ………ゆ………あああああ………ごべ……ごべんだ………ざ…」 「まりしゃ、あかちゃんちゅくれにゃくなっちゃよっ!! よかっちゃね!!おきゃあしゃん、あんにゃにうれちしょうにまむまむつぶしてちゃもんにぇ!! もうまりしゃ、じぶんのあかちゃんとしゅーりしゅーりもできにゃいよ!! ゆっくちしちぇだっちぇ!?ゆっくちしちぇっていっちゃの!? ごんなぐぞばりじゃがどうやっちぇゆっぐぢでぎるっでいうんだあああ!!! ごだえりょおおおおおおおお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!」 「ゆぐじでええええ!!!ゆぐじでおぢびぢゃああああああん!!!」 「ごべんだざい!!ごべんだざい!!でいぶがわるがっだでず!!ごべんだじゃあああいい!!!」 「「「「ゆええええええん!!ゆうぇえええええええーーーーーーん!!!」」」」 「ゆぐぎゃああああああああああーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」 さんざんに難詰して家族一同を泣かせたあげく、 ついに子まりさ自身も大粒の涙を流して慟哭した。もはやどこにも救いがない。 僕は子まりさの背中をつついて言った。 「はいはい、もういいかな?」 「…………」 「こんなお父さんとお母さんなんだけど、君のことを責任を持ってゆっくりさせるって言ってたんだ。 やっぱり親子の絆は断ち切れないもんだし、これからも面倒見てもらわないと。仲良くしていってね!」 「………しょんなこちょいっちゃの………?」 目を見開き、子まりさが親ににじり寄った。 「まりしゃを、ゆっくちさしぇるっちぇ………? じゃあ、じゃあ、なんぢぇ、ぷーすぷーすしちゃの………?まむまむつぶしちゃの……?」 「ゆひいいいぃぃ!!」 「はいはい、キリがないからそこまで。ちょっとお兄さんに質問させてくれ。 ねえ、お母さん?お父さん?」 「ゆぐっ………?」 帽子を打ち捨てた傷だらけの子まりさと、無傷の家族たちを交互に指差して僕は聞く。 「片や、お飾りのない傷だらけの子ゆっくり。 片や、自分の可愛いおちびちゃんを喜んでぷすぷすして、おちびちゃんを生めなくした家族。 さあ質問だよ。『ゴミクズはどっちでしょう?』」 「…………!!!」 「おかざりのないゆっくりは視界に入るだけで迷惑をかける、と君たちは言った。 では、罪のない可愛い子を、あんなに親思いでゆっくりできた子をぷすぷすさんで傷だらけにする君たちはどうかな? 飾りがないというだけで、自分で生んだかけがえのない命を苛め、弄ぶ君たちは? 言っとくけど君たちの答え次第で、森に帰れるかどうかが決まるからね。 さあ、正直に答えてくれ。ゴミクズはどっちかな?ゲスはどっちかな?ゆっくりできないのはどっちかな?」 「あ゛……あ゛………あ゛あ゛あ゛あ゛…………!!!」 ぶるぶる震えながら、悲壮そのものの表情を浮かべる家族。 これなら正答を答えてくれるだろう。 「ば、………ば……ばりじゃだぢでじゅうう………!!」 「でいぶだぢだよ……でいぶだぢが、ごびぐずだったよ…………ごめん、な…ざい……」 「「「「ごべんなじゃい………ごべんなじゃい………ごべんなじゃい………」」」」 僕は満足し、子まりさに笑いかけた。 「さあ、お母さんたちは反省してるようだけど。許してあげようか?」 「………はんちぇい?」 暗い右目で僕を見上げ、子まりさは聞いてきた。 「はんちぇいってにゃに? しょれ、まりちゃがまたあかちゃんちゅくれるようになりゅ?」 「あはははは!聞いてのとおりだよ、お父さんにお母さん。 ま、あとは君たち家族の問題だからゆっくり話し合ってくれ」 子まりさを家族のほうに押しやるついでに、帽子を拾い上げて尋ねる。 「あ、これ、いる?」 「いらにゃい」 「おぢびぢゃっ……!!」 「おぼうちがにゃければ、おきゃーしゃんがころしちぇくれりゅもん。 まりちゃ、ちにちゃいから、おぼうちいらにゃい」 「お、ぢび、ぢゃ………………」 ぼろぼろと涙を流して突っ伏す親れいむ。 死を望むほど生に絶望した我が子、自らの手でそこまで追いやった我が子と暮らしながら、 いったいこの家族がどんな団欒を見せてくれるのか見ものだ。 しかし、呑気なゆっくりがここまで悲壮感を漂わせるとはもはやギャグだ。 何よりも親の庇護を求め、愛されることを求めることにかけては人間の比ではないゆっくり。 自分の親から肉体を破壊されたうえに帽子以外の存在意義を全て否定されるという体験を経ると、 ここまで面白く捻じ曲がるというわけか。 「さて、昨日も言ったとおりだ。 君たちがしっかり反省して、弱い者苛めをしなくなったと確認できたら、みんな森へ帰してあげよう。 そのお帽子がなくなった子供をどう扱うか、お兄さんがしっかりチェックしてるからな。 餌は毎日お父さんとお母さんに渡すから、家族にどう分配するかも含めてそっちで考えてくれ。 じゃ、ゆっくりしていってね!!」 言い渡し、僕は後ろ手にベランダの引き戸を閉めた。 (中編2へ)
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過去作 anko1548『よわいものいじめはゆっくりできないよ!』前編 anko1744『よわいものいじめはゆっくりできないよ!』中編-1 anko1745『よわいものいじめはゆっくりできないよ!』中編-2 「よう、元気でやってるか?」 「!!!!」 お兄さんがやってきた。 引き戸を開け、家族に声をかける。家族は答える余裕もなく、ぶるぶるがたがた震え出した。 「ゆゆっ!おにーしゃん、ゆっくちちていっちぇにぇっ!!」 「おにーしゃん?ゆっくちちていっちぇにぇ!!」 飾りのない二人がクッションから飛び上がり、お兄さんの足元を目指してぴょんぴょん跳ねていく。 「おう、ゆっくりしているか?」 「ゆんっ!まりしゃ、ゆっくちちてりゅよっ!!」 「れーみゅもゆっくちちてりゅよ!!おにーしゃん、いちゅもありがちょう!!」 「よしよし、いい子だな。お飾りがなくたって本当にゆっくりしているよ、お前らは」 「ゆゆ~~んっ♪」 「それにひきかえ……」 お兄さんの視線が、じとりとこちら側に移る。 家族はいよいよがたがた震え、背面のガラス壁に体を押し付けた。 「こっちのゴミクズ共ときたら……なッ!」 ガァン!! 「ゆびいぃっ!!」 お兄さんに蹴られ、水槽が激しく揺れる。 頑丈な水槽はそうそう割れることはないが、それでも安全を保障してはくれない。 「お飾りがないだけで、口がきけないだけで、 自分の子供さえ大喜びで苛めるクソゲスなんだからなぁ………なんでおめおめ生きてられんの?」 「ごめんなさい!!ごめんなさい!!くそげすでごめんなさい!!いぎででごべんなざい!!」 「ゆーっ!!まだまだはんちぇいがたりにゃいよっ!!」 「おにーしゃん、はやきゅ!!はやきゅはじめようにぇっ!!」 「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!ゆぐじでぐだざい!!ゆぐじでぐだざい!!」 「おう、今日も楽しい楽しい制裁タイムの始まりだ。 たっぷりこいつらで遊んでやろうな」 「ゆゆーんっ!!」 「おでがいでず!!ぼうやべでぐだざい!がらだじゅうがいだいんでず!!ゆっぐじでぎだいんでずぅぅ!!」 「あのなあ、お前らはゴミクズなんだろ?自分で認めたんだろ? ゴミクズは玩具になるしかねえもんなあ。さ、きりきり働こうか」 「ばぢがっでばじだ!!でいぶだぢがばぢがっでばじだ!!ゆっぐじざぜでええぇぇ!!」 「ゆーっ!きょうはぷきゅーしゃんをしゅるよっ!!」 「お、いいな、それでいこう」 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぷぐーざんはゆっぐじでぎだいいいいいぃぃ!!!」 毎日の日課、お兄さんからの制裁が今日も始まった。 子ゆっくりの注文に応える形で、ありとあらゆる責め苦が家族に課せられ、それを見て飾りのない二人は楽しむ。 今日の制裁は「ぷくーさん」だった。 口をテープで塞いだあと、透明なラップで全身を厳重にくるまれ密封される。 次にラップの隙間から、先端に風船のついたホースをあにゃるに突っ込まれ、 ポンプでホースから風船に空気を注入される。 体内の風船に押されて全身がまん丸に膨れ上がるが、ラップでくるまれているために、遮られて破裂はできない。 風船は容赦なく膨れ上がり、体内の風船と体外のラップに挟まれて体中の餡子が圧迫まれ、想像を絶する苦痛がえんえんと続く。 「ゆ゛ぶぶぶぶぶぶっぶぶぶぶぶぶっぶぶぶぶぶぶう゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!!!」 「ゆーっきゃっきゃっきゃっ!!ぷきゅーきょわ~~い☆」 「たのちい?たのちい?ねえねえぷきゅーたのちいぃ?ゆっくちゆっくちぃ~~♪」 笑い転げる二匹の前で、家族が一匹ずつぷくー責めを受ける。 十数分も続けて餡子を押しつぶされたゆっくり達は、その日一日は動くこともできない苦痛と疲労に悶えることになる。 今また、親れいむが責められていた。 全身を真っ赤にして涙を流し、膨れ上がる。 まん丸に見開かれた両目は半ば飛び出し、慈悲を求めてわが子を見つめ震えていた。 それを見て、二匹の子供はますます笑い声をあげるのだった。 地獄のような毎日。それでも、ただひとつの救いがあった。 まがりなりにも、家族が一緒にいるということだ。 ほとんど会話はなく、そのうち二匹はこのうえもない怨嗟と憎悪と侮蔑を向けてきてはいるが、 家族はたしかに揃っていた。 「ゆぅ……ぺーろ、ぺーろ……」 水槽の中で、ほとんど唯一といえる楽しみ。 家族とのすーりすーりとぺーろぺーろだけが、親まりさ達の正気を保っていると言ってよかった。 「ぺーろ、ぺー………おちび……ちゃん?」 しかし、家族は少しずつ狂いはじめていた。 ぺーろぺーろしていた子まりさが全く反応を返してこないのに疑問を感じ、その顔を覗き込む。 しかし、その子まりさは何も応えず、ただ視線を一点のみに向けていた。 壁の一点。何もない、ただの壁。しかしそれを、日がな一日、食事もとらず動きもせずに見ている。 親まりさがどれだけ呼びかけても、その子まりさが応えることはなかった。 死んでいるのかと思って焦ったが、目はたしかに開いていた。 「だずげでぐだざい!!おぢびぢゃんがゆっぐじでぎでないんでず!!」 「ん?知るかよ。自分でなんとかしろ」 「おでがいじばず!!ばりざだぢじゃだずげであげられだいんでず!!おぢびぢゃんを!!おぢびぢゃっ」 「何をいまさらわめいてんだよ。子供なんかどうでもいいんだろ?なあ、れいむ、まりさ」 「ゆーっ!!れいみゅをこんにゃにしたくちぇに、いましゃらあちゅかまちいよっ!!」 「にゃんでまりしゃはたちゅけにゃかっちゃの!?しょいつもいじみぇればいいでちょっ!!」 「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛ぅぅぅ………!!!」 お兄さんに助けを求めるが、すげない答えが返ってくるばかり。 それどころか子供たちにまぜっかえされ、罵倒されるばかりだった。 ぴくりとも動かなくなった子供を、家族は涙にくれながら夜通しぺーろぺーろするしかなかった。 「ゆぢっ!!ゆぢーっ!!ぎゅぐげげげげげ!!びょぢぢ!!」 次の日には、子れいむの一人がおかしくなっていた。 もみあげをひっきりなしにばたばたばたばたばたつかせ、涎と糞尿を垂れ流す。 口にする言葉はもはやほとんど意味をなさない、歯軋りのように不快な雑音に変じていた。 焦点の合わない視線をしきりに泳がせながら、狭い水槽の中で暴れ周り、家族を困らせた。 「うー☆あみゃあみゃだっどぅー!おぜうしゃまのぶりゃんちににゃるんだどぅー☆」 「ゆびっ!!いぢゃいっ!!やべでぇおにぇえじゃんん!!」 子まりさの一人が、れみりゃの声色を真似て姉妹の頬をかじり始めた。 噛む力が弱くなかなか噛み千切るまでにはいかないが、 それでも姉妹は苦痛に泣き、何よりそのゆっくりできない声が家族を苛んだ。 両親がその度にきつく叱り押さえつけることでなんとか事なきを得てはいたが、 子まりさの口調はもはや戻らず、ずっとれみりゃの声色で喋り、隙をついては家族を捕食しようとした。 「んほぉぉぉ!!んっほおおおおぉぉぉ!!!」 子れいむの一人がれいぱーになった。 涎を垂らして小さなぺにぺにを誇示するように突き出し、おぞましくも実の姉妹とすっきりに及ぼうとした。 両親がいくら叱ってもやはり治る気配はなく、、一日中半ば拘束するように押さえつけていなければならなかった。 親のもみあげに押さえつけられていてすら、壁や床にぺにぺにをこすりつけてひとりすっきりーに及ぶわが子を前に、 両親はまたも苦い涙を流した。 「じゃおーん!じゃおーん!」 あの日の苛めに対するあてつけだろうか? 子まりさの一人が、「じゃおーん」しか言わなくなった。 それしか喋れないゆっくりを見てももう苛めないと誓った手前、あまり強くは叱れなかったし、 やたらに楽しげに連呼するわが子を見ながら、両親は、 こんな生活でも楽しんでいられるなら、狂ったほうがよかったのかもしれないと後ろ向きな安堵をさえ覚えた。 「ちーんぽ!でかまら!ぺにす!!」 最後に残った子れいむが狂ったとき、両親は大声で泣き喚いた。 水槽の中に一緒に閉じ込められた愛しい子供たちはどの子も狂い、 もはや意思疎通も適わず、わけのわからないことを言いながら蠢く狂い饅頭となり果てた。 残った二匹は、水槽の外で自分たちをせせら笑っている。 それでも両親は、帽子のない二匹の子供たちにすがろうとした。 「……ゆっくり……ゆっくりしていって……ね…」 「ゆ?ゆゆーん?にゃにいきにゃりはなちかけちぇきちぇるわきぇ~?」 「れーみゅちゃちをぷーすぷーすしちゃごみくじゅがにゃにかいっちぇるよっ!!」 「ごべんね………ごべんね………ゆぐじで………おがあざんをゆぐじで……」 「ごべんにぇ~♪ゆぐじじぇ~♪うんうんぴゅりぴゅり~~♪」 「はんっちぇいっがたりにゃいよ!!ごみくじゅ!!ちにぇ!!」 こんな会話でも、唯一意思の疎通ができる子供達と、 両親はなんとか仲直りしようとわずかな望みをつないだ。 あんなにゆっくりしていた子供たちだから。 根は素直な子供たちだから、きっといつか、きっといつか。 「おちびちゃ………おちびちゃ…………」 「ちにぇ!!ごみくじゅ!!くそげしゅ!!」 「いっしょに………いっしょに、ゆっくり……おがあざん、ど……… ながよぐ、じで…………おでがい…………おでがいだがら……がぞぐ、みんなで……」 「ゆっはああああぁぁぁああああぁぁ!!?にゃにいっちぇるにょおおおおぉぉぉ!!!? しょのかぞきゅをぷーしゅぷーしゅしちゃのはどこのだりぇなんぢゃあああぁぁぁ!!!」 「何やってんだよ、お前ら」 「ゆひぃぃ!!」 お兄さんが、その様子を見咎めてきた。 「ゆーっ!!おにーしゃん!!きょのごみくじゅどみょが、にゃかにゃおりしちゃいっちぇ~~♪」 「ああ?そんな事言ったのか? お前らをこんな目に遭わせといて、どの面下げてそんな事言えるんだか」 「ゆ゛ぐぅぅぅ………」 「可愛い子供たちなら、そこに一杯いるじゃねえか。 そこで一家団欒してりゃいいだろ?え?」 「………みんな、みんな………ゆっくりしてないよ……… ゆっくりできなくなっちゃったよ…………」 「はあ?」 全く動かない妹の頬をかじっている子まりさ。 自分のもみあげの下で暴れているれいぱーの子れいむ。 小さなもみあげをふりみだして何やらわからない言葉を連呼している子れいむ。 「じゃおーん」を連呼する子まりさ、「ちーんぽ」を連呼する子れいむ。 誰一人としてゆっくりしていなかった。 もはやこの水槽は、壊れたゆっくりを収容する精神病院と化していた。 両親でさえ、明日にも発狂寸前の状態だ。 「ふーん?で、そいつらは壊れちゃったから捨てちゃおうと。 最後に残った二匹の子供といちゃいちゃしたいと」 「ゆぷぷ!あちゅかまちーにぇ!!」 「「…………………………」」 「じゃあ、ひとつだけ質問しようか。 その答えによっては、お前らにチャンスをやらんでもない」 「ゆ゛ぅっ!?」 この期に及んで、まだ希望が見えてきたというのか。 両親はお兄さんを食い入るように見つめた。 「子供を作れない子まりさ、目の見えない子れいむ、ともにお飾りのないこの二匹。 一方、お飾りはあるけど壊れちゃったそこの六匹。 さーて、ゆっくりできるのはどっちかな~~?」 「……おかざりのないおちびちゃんのほうがゆっくりしてるよぉっ……!!」 両親の答えに迷いはなかった。 「バーカ」 「ゆ゛っ!?」 お兄さんは、六匹の子供たちを水槽から取り出して床に並べ、 その頭から次々とお飾りを取り上げた。 「「ゆっ??」」 飾りがなくなったとたんに、個体識別の術がなくなり、 六匹はどこの誰とも知れず得体の知れないゆっくりと化す。 それでも、その動きや喋りを見ていると、ようやく確信が持てた。 こいつらは絶対にまりさたちのおちびちゃんじゃない。 深くため息をつき、お兄さんが解説してきた。 「こいつはただの饅頭に目鼻をマジックで書き込んだだけ。 こいつは野良ゆっくりに捨てられてた未熟児。 こいつらはそれぞれれみりゃ、レイパーありす、めーりん、みょんの子供。 毎日一匹ずつ、お前らが寝てる隙にすり替えさせてもらった」 「…………………!!」 「おい、入っていいぞ」 「「「「「「ゆっくちりきゃいしちゃよっ!!」」」」」」 引き戸の向こうから、六人の子ゆっくりがぴょんぴょん跳ねてきていた。 「ゆーっ!!おきゃーしゃん、まだゆっくちできにゃいの?」 「まりちゃたちはゆっくちちてりゅよっ!!」 「みゃいにちあみゃあみゃをむーちゃむーちゃできりゅんだよ!!ゆっくち!ゆっくち!!」 「おにぇーちゃんたちもゆるちてくれちゃよっ!!」 「ゆあ…………あ……………おちび、ちゃん……?」 傷だらけで、お飾りのない子供たち。 しかし、その表情はこのうえもなくゆっくりできるものだった。 本来、飾りのないゆっくりは大きな不快感を伴って目に映り、他のゆっくりに強い嫌悪感を抱かせる。 だがこの数日で、家族の価値観には大きな変化が起こっていた。 飾りがないのに、むしろ飾りがないからという理由でちやほやされていた二人の子供。 飾りがあっても、ついには精神に異常をきたした子供たち。 それらを目に写しているうちに、家族たちの精神にはある種の刷り込みが行われていた。 「これで三回目。 僕の言いたいことがわかるか?」 「……………………」 「お前らは、飾りしか見ていない。 あれだけ可愛がっていた子供でも、飾りがなければ赤の他人に見え、 全く見ず知らずの、しかも捕食種の子供が、飾りさえ乗っていれば可愛い子供に見える。違うか?」 「…………ちがい、ばぜん………」 「その程度なんだ。 お前らは家族思いのつもりでいるかもしれないが、結局、外見も性格も見ちゃいない。 ひたすらお飾りしか見ていない。子供の頭の上にのっかってるお飾りだけを可愛がっていたんだ。 どうだ、認めるか?」 「………………みどべばず……」 お兄さんは屈み込み、両親の前で指を振って言った。 「いいか。お前達に最後のチャンスをやろう」 「ゆ゛っ!?」 「帽子だけの絆でいいのか? 互いの本質なんて見ずに、お飾りだけを愛でる、そんないびつな家族でいいのか?」 「…………っ!!いや、でずっ………!」 「なあ、やり直さないか。 本当にお互いのことを見て、そのいいところ、悪いところを隅々まで知りあって、 互いのゆん格を認め合ったうえで思いやれる、そんなゆっくりできる家族を目指さないか」 「おにっ、いざん…………」 「ゆっぐじ、じだい…でず……… ……ゆっぐじ、でぎる、がぞぐざんに………なりだい、でずぅぅ……!!」 「いいだろう」 そう言うと、お兄さんは夫婦を水槽から取り上げて床に置いた。 「……おにいさん……?」 「一からやり直しだ。これはもういらない」 まりさとれいむ夫婦のお飾りが取り上げられる。 「ゆぅっ…………!!!」 「こんなものがあるからお互いが見えなくなるんだ。 これは預かっておく。飾りなんかに惑わされずに、本当の意味でお互いを見るんだ。できるな?」 「ゆぐっ…………やり、ばず…………!!」 「よし。さあ、家族同士で改めて挨拶しようか」 お兄さんの手で、総勢十匹の家族が円陣を組んで並べられた。 全員が飾りを失い、互いにほとんど見分けがつかない。 その中心に、れいむとまりさ夫婦、そして最初に虐められた子まりさと子れいむが向かい合っている。 おずおずと、夫婦が口を開いた。 「………おち、びちゃ……………」 子まりさと子れいむは互いに頷き合い、二人で両親に向かって叫んだ。 「「ゆっくちしちぇいっちぇね!!!」」 それは、今までで一番の、 二人がこの世に生まれ落ちたときの初めての挨拶よりも、もっともっとゆっくりできる挨拶だった。 やり直そう。 みんなで、また一から始めよう。 おちびちゃんたちも、おとうさんもおかあさんも、今日この時、再び生まれ落ちたのだ。 涙でびしょびしょに濡れた頬を子供に押しつけながら、 まりさとれいむ夫婦はゆっくりしていってねと何度も何度も叫び続けた。 ――――――― 二週間が経ち、我が家のベランダはすっかり賑やかになっていた。 「ゆっ!ゆっ!おちびちゃん、ゆっくりおかあさんのべろさんにのってね!」 「ゆーっ!おしょらをとんでりゅみちゃ~~い!!」 「れいみゅおねーしゃんじゅるい!まりちゃも~~!!」 「ゆふふ、ゆっくりじゅんばんだよ!ゆっくりしていってね!!」 「れいみゅ、こっちぢゃよっ!ゆっくちついてきちぇにぇ!!」 「ゆっくちおにぇーしゃんについていきゅよっ!!ゆっくち、ゆっくち……ゆゆっ?こりぇ、にゃあに?」 「ゆふふ、あててみちぇね!あてられちゃら、れいみゅのもにょだよ!!」 「ゆっ!ぺーりょぺーりょしゅるよ!!………ちあわちぇ~~~!!ゆゆっ、ちょこれーちょしゃんだよっ!!」 「よきゅわきゃっちゃね!!ゆっくちたべちぇいっちぇね!!」 「おにぇーしゃん、ありがちょ~~!!ぺーりょ、ぺーりょ………あみゃあみゃちあわちぇ~~~!! ゆっ、おにぇーしゃん、いっちょにぺーりょぺーりょちようにぇっ♪」 「ゆゆっ!?ありがちょうにぇ!!いっちょにぺーりょぺーりょたいみゅ、はじまりゅよっ☆」 「「「「ゆっくりしていってね~~♪」」」」 例の家族は、飾りがないまま、しかし仲むつまじく団欒していた。 初めのころは飾りがないことでお互いに認識できなかったが、 必死に相手の表情や声、外見を注視することで、少しずつ少しずつ個体識別ができるようになっていった。 今では、十匹の家族はお互い完璧に識別できている。 当たり前だ、識別できないほうがおかしい。 「見分けがつかない」という思い込みを「見分けがつく」という思い込みにすり替えればいいだけの話だ。 見分けがつくと思えば、見分けはつくに決まっている。識別しようという意思、努力が致命的に欠けていたということか。 「ゆーっ、れいむのびせいによいしれていってね!!ゆ~ゆ~♪」 「れいみゅおばしゃんのおうちゃはゆっくちしちぇるにぇ!!」 「ゆっ!ゆっ!まりしゃのだんしゅをみちぇいっちぇにぇ~~」 「おばしゃんもまりしゃもゆっくちしちぇりゅねっ!!」 「じゃおーん!」 「まりしゃとおいきゃけっきょちようにぇっ!!ゆっくち!ゆっくち!」 「じゃおーん!!じゃおーん!!」 「みぇーりんははやしゅぎるよぉ!!でみょ、きょうこちょはまけにゃいよっ!!ゆっくち!!ゆっくちぃぃ!!」 ベランダでゆっくりしているのは家族だけではない。 世話係のさくやの他、帽子すり替え実験のために買ってきたもろもろのゆっくりも仲間に入っている。 野良だったのを拾ってきた飾りのないれいむ、ペットショップで買ってきた子めーりんはすっかり家族と打ち解けていた。 同じくすり替えるために集めてきた当て馬達も、厄介者ではありながら夫婦たちの手で分け隔てなく世話を受けている。 みょん種の赤ゆっくりは子めーりんと同じく一家の団欒に参加できているが、 そもそも捕食種である赤れみりゃや知能に欠陥がある未熟児とレイパーはなかなか難しいようだ。 それでも文句ひとつ言わず、家族たちはかいがいしく世話をしていた。 赤れみりゃなどは、このごろではたどたどしくも家族の輪に入っていきたそうな表情さえ見せている。 初めは家族だけで暮らさせ、互いの識別ができるようになってから、 ゆっくりの数を増やして難度を上げようという意図で余所者のゆっくりを参加させたのだが、 一旦飾りなしの識別ができるようになればあとは早かった。 余所者を虐めたり見下すようなこともまったくない。 自分たちが飾りを失って底辺の存在に堕ちたこと、 そもそも余所者を虐めたばかりにこんなことになってしまったこと、 個体識別のために相手の性格をよく吟味するようになった結果、根拠なく見下すことがなくなったこと。 要因はいろいろ思いつくが、他種への差別心は、少なくとも表に出さなくなったようだ。 ゆっくりがあれだけ執着する頭の飾りだが、こうなってみればないほうがずっといいんじゃないか。 今、僕の目の前では、ゆっくりたちがこのうえもなくゆっくりした笑顔で笑いさざめいている。 飾りを失い、傷だらけの家族たち。 希少種、捕食種、通常の言葉を喋れないめーりんやみょん。 どれも通常の群れにいれば真っ先に差別、虐めの対象にされるはみ出し者だが、 ここではなんの差別もなく、互いに認め合い、慈しみあっている。 ちょっとしたユートピアだ。 下拵えには時間をかけた。 初めに家族に苛められた子まりさと子れいむには、 さんざんに家族を見下し、貶めてやるようにそそのかした。 本人たちも充分に家族を恨んでいたので喜んでやってくれたが、 毎日寝る前には二匹を家に引き入れ、釘を刺した。 「お前達だって前はそうだった、飾りのないゆっくりを虐めていたはずだ」 「お母さんたちも反省すればお前達と同じようにゆっくりできる」と、毎日繰り返し念を押した。 ゆっくりとしては善良な個体であるはずという僕の試算は当たり、 飾りを捨てた家族を、二匹は温かく迎え入れた。 一日ごとに子ゆっくりたちの帽子を奪い、家に招き入れてあまあまを振る舞い、 初めに虐待された二匹からはうってかわった歓迎をもって当たらせ、 飾りがないとゆっくりしている、飾りがないからゆっくりできると教え込んだ。 最後に両親に種明かしをし、家族全員から飾りを取り上げたとき、 すでに飾りに頼らない価値観の下地はできていた。 今、家族に差別心はなく、飾りのないゆっくりこそゆっくりできると信じ込んでいる。 屈託のない団欒を楽しむ家族を眺め、僕は確信した。 頃合いだ。 「ゆっ!おにいさん、ゆっくりしていってね!!」 「「「ゆっくちしちぇいっちぇね!!ゆっくち!!ゆっくち!!」」」 ベランダに出ると、家族たちが僕に笑顔と挨拶を向けてくる。 どの顔も非常にゆっくりした幸福感に満ち溢れていた。 「やあ、みんなゆっくりしているな」 「ゆーんっ!!おにいさんのおかげだよ!!」 「おかざりさんがないとゆっくりできるよっ!!ゆっくり!!ゆっくり!!」 「おにいちゃんありがちょー!!」 「そうなのかい?」 「ゆんっ!まりさ、いままではおかざりさんしかみてなかったよ。 でも、おかざりがないと、おちびちゃんやれいむのことをよくみるようになったよ。 みればみるほど、みんなちがうんだよ!おかおも、おこえも、うごきかただって、みんなちがうし、 ちがうけど、みんなみんなかわいいんだよ!!いままできづかなかった、いろんなかわいいところがあったよっ!! きずだらけだけど、まりさのかぞくさんはいままでよりずっとずっとかわいいんだよぉ!!」 「ゆゆぅ~~ん、まりさぁぁ~~♪れいむ、てれちゃうよっ///」 「「「おちょーしゃんゆっくち!ゆっくちぃ!!」」」 「そうか。うん、素晴らしい。みんな本当にゆっくりしているな」 「ゆふ~ん♪」 僕は頷き、ベランダのゆっくり達に声をかけた。 「みんな、今日はまりさたちの家族だけに大事な話があるんだ。 悪いけど、まりさたちだけこっちに来てくれ」 「ゆんっ?ゆっくりりかいしたよ!!」 十匹のまりさ、れいむ家族を、ガラス戸を開けて屋内に迎え入れる。 「ゆっくり!ゆっくり!」「ゆっくち!ゆっくち!」 楽しげに跳ねる家族たちを、僕は奥まった和室に案内した。 和室は僕の寝室であり、隅にたたまれた布団とテレビの他は殺風景なものだ。 家族を並ばせると、僕は家族たちに話しはじめた。 「改めて、みんな。本当にゆっくりしているね」 「ゆふんっ☆てれちゃうよ!」 「お飾りなんかなくても、ちゃんとお互いがわかる。お互いのことをよく見てる。 弱い者苛めなんかするゲスはここには一人もいない。 今度こそ僕は確信して言おう、みんな、本当にゆっくりしたゆっくりだ!」 「ゆゆぅぅぅ~~~~んっ!!まりさ、かんむりょうっ!!だよぉぉ~~~!!」 「おにいさんのおかげだよぉぉ!!ありがとう、おにいさんっ!! おちびちゃんたち、みんなでゆっくりおにいさんにおれいをいおうね!!」 「「「「おにいしゃん、ゆっくちありがちょ~~~~!!」」」」 「うん、うん。僕も本当にうれしいよ。だから…………」 間を置き、笑顔で家族たちを見渡してから僕は言い渡した。 「今度こそ約束を果たしたいと思う。君たちを、森に帰してあげよう!!」 「「「「「「「「「「ゆっ?」」」」」」」」」」 家族の笑顔が止まった。 一瞬の静寂の後、家族の表情はみるみるうちに青ざめていった。 ――――――― 「おでがいじばず!!おにいざん!!ごごにおいでぐだざい!!おいださないでぐだざいいぃ!!」 「もりにがえりだぐだいぃぃ!!ごごがいいよぉ!!ごごじゃないどゆっぐじでぎだいよおおぉぉ!!」 「やぢゃ!!やぢゃ!!いじべられるのやぢゃあああぁぁ!!ゆっぐじじだいいいぃ!!!」 「ぎょわいぎょわいぎょわいいぃぃ!!ゆっぐじ!!ゆっぐじざぜでええぇぇ!!!」 全身から恐怖の汗をしたたらせ、家族一同はお兄さんに懇願していた。 ここに住まわせて、森に帰さないで。 しかし、お兄さんは不思議そうに首をかしげて言った。 「あっれぇ~~~?どうしたんだい、みんな?ようやく元の家に帰れるんじゃないか。もっと喜んでいいんだぞ!」 「やだ!!やだああぁぁ!!もりにがえりだぐない!!ゆっぐじでぎない!!ごごにおいでええぇ!!!」 「おいおい、何を言ってるんだ。もともとあそこでゆっくりしてたんだろ?遠慮しなくていいんだぞ、さあ出発だ!」 「やぢゃやぢゃやぢゃやぢゃやぢゃあああああぁぁ!!!ごご!!ごごぎゃいい!!ごごでゆっぐぢずりゅううぅぅぅ!!!」 飾りを失い、全身を傷だらけにし、おめめやまむまむを失った子まで混じっているこの一家が、 今森に帰されればどうなるかは火を見るより明らかだった。 すぐに他のゆっくりに見咎められ、たちまちのうちにいじめ殺されてしまうだろう。 この家を一歩でも出ることは、自分たちにとって即、死を意味していた。 それがわかっていた一家は、ここを先途とお兄さんにすがりついた。 「ごごでゆっぐりじだいでず!!もりにがえるど、ぼがのゆっぐじにいじべらればず!! ばりざだぢはごごじゃだいどゆっぐじでぎばぜん!!おにいざん!!おにいざああああんおでがいじばずうううう!!!」 「あ、そうなのか。しまった、そうだよな、虐められちゃうよな。それじゃゆっくりできないなあ」 「ゆっ!!そうだよっ!!だからここでゆっくりさせてねっ!!」 「いや、約束だから。約束は守らなきゃいけないもんな、森に帰すよ。しょうがないよね!」 「いいよおおぉぉぉ!!ばぼらだぐでいいいいぃぃぃ!!!ごごにおいでえええぇぇ!!!」 「やだよ、だってここ、僕の家だもん。 お前らがいるから、僕ベランダ使えないんだよね。洗濯物とか干したいし」 「ゆ゛っ!!じゃあぼがのおべやざんでいいでず!!ごのおうぢざんならどごでぼいいでず!!ぼんぐいいばぜええん!!!」 「あのね、僕が文句言ってるの。この家、狭いの。お前らに居座られてると迷惑なの。出てってくれない?」 「ごごがらおいだざれだらばりざだぢじんじゃうよおおおおぉぉぉ!!!」 「だから?知らないよ、そんなこと。自分でなんとかしてね!」 必死にお兄さんの足にすがりつき、涙と涎を撒き散らして懇願するまりさ。 しかしお兄さんは一向に首を縦に振ろうとはせず、それどころか楽しんでさえいるようだった。 夫の無様な姿を見ながら、それまでお兄さんに抱いていた感情が急転していくのをれいむは感じていた。 「………おにい、ざんが……………」 「ん?」 「おにいざんがでいぶだぢをごごにづれでぎだんでじょおおおおおお!!?」 れいむは叫んでいた。 全身をぶるぶる震わせ、怒りをあらわに声をはりあげる。 「おにいざんがっ!!でいぶだぢをもりがらざらっでぎでっ!! おぢびぢゃんだぢをいじべでっ!!ごんながらだにじだんでじょおおおおぉぉ!!?」 「いやまあ、いろいろ制裁したけど。生活に支障が出るほどの傷は負わせてないよ。 この子まりさのまむまむと子れいむのおめめは別だけど、これやったのはき・み・た・ち☆」 「ゆ゛ぐぅっ…………!!」 「おぼうちっ!!おぼうちしゃんがえじぢぇえええ!!」 「ゆっ!!れいみゅもっ!!れいみゅのおりぼんしゃんがえじでにぇ!!」 「ゆゆっ!!そうだよっ!!おかざりさんがあればあんっしんっ!だよっ!!!」 子供たちの声に笑みを取り戻し、まりさはお兄さんに向きなおって言った。 「ゆっ!!まりさたち、もりにかえってもいいよっ!! でもおかざりさんかえしてねっ!!あまあまもいらないよ!!おかざりさんがあればすぐにでていくよっ!!」 「あー、お飾りかあ………ちょっと待ってね。押し入れにしまってあるから」 お兄さんが部屋の壁をずらすと、中に小さなお部屋があり、 その中に、前にみんなで入っていた透明な箱が置いてあった。 お兄さんがそれを取り出して家族たちの前に置く。 見ると、箱の中にみんなのお飾りが山になって入っていた。 家族が狂喜乱舞する。 「ゆぅぅぅ!!あったよ!!まりさのおぼうしあったよおおぉぉ!!」 「よかったぁ!!よかったよおおぉぉ!!れいむのおりぼんさんよかったああぁあ!!」 「まりちゃのおぼうちっ!!おぼうちぃ!!」 「ゆーっ!!ゆっくち!!おりぼんしゃんゆっくちちていってにぇ!!ゆっくちいぃぃ!!」 飛び跳ねながら喜び合っているうちに、光がお飾りの山の上に落ちた。 「ゆゆっ?」 「…………どぼじでおりぼんざんぼえでるのおおおぉぉぉっ!!!?」 お兄さんが落としたものは火だった。 小さな棒の先についていた火は、たちまちのうちにお飾りの山に燃え移り、赤い炎をめらめらと躍らせている。 まりさたちは恐慌をきたして叫び狂った。 「ゆあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛だべええだべえええええぼえぢゃうおぼうじじゃんぼえぢゃああああ!!!」 「だんでええええ!!?だんでごんだごどずるのおおおおおおおおおあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 「ゆんやあああああーーーーーーっ!!!ゆびゃああああああーーーーーーーっ!!!」 「だじゅげぢぇ!!だじゅげぢぇ!!おぼうじじゃんだじゅげぢぇええええええっ!!!」 「おにいじゃーーーーーっ!!おにいじゃああああーーーーーーーーっおにいいいいいい」 いくら体当たりしても箱はびくともせず、お兄さんに体当たりしても同じくびくともせずににやにや笑っているばかりである。 ひとときの狂乱を経て、ついにすべてのお飾りは黒い消し炭と化した。 「ゆ゛あ゛……あ゛……あ゛あ゛あ゛…………おぼうぢ………ばりじゃ、の……」 「どぼじで…………どぼじで………どぼぢで…………どぼじ……で」 水槽の壁を力なくぺーろぺーろしながら涙に暮れる家族たち。 その背中に、お兄さんが明るい声をかけた。 「いやー、お飾り燃えちゃったね。でもいいよなっ、お前達はもうお飾りなくてもわかるもんな!」 「おがざりざんがだいどいじべられるでじょおおおおおおおお!!!!?」 「でいぶだぢじんじゃうんだよおおおおぉぉぉぉ!!ごろざれぢゃうんだよおおおおおお!!?」 「うん、そうだね。だから?」 「………っぐ…………ゆっぐじでぎだいおにいざんはゆっぐじじねええええええ!!!」 涙を振り絞り、れいむがお兄さんの足をめがけて突進した。 渾身の突進を受けてもお兄さんは動じず、冷やかにれいむを見下ろしているだけだ。 ぎりぎりと歯軋りし、れいむは慟哭しながら体当たりを繰り返した。 まりさはただただ泣きじゃくりながらその光景を見つめ、子供たちはひたすら燃えカスを囲んで泣き喚いていた。 その時、お兄さんが何かを床に落とした。 「ゆっ?」 涙に濡れた目で、まりさがそれを視界に捉える。 それは、赤いカチューシャだった。 「いじめ殺されるだって?」 足元にまとわりつくれいむを、足でごろんとカチューシャの方に転がしながらお兄さんは言った。 「ちょっと、一緒に面白いビデオを見ないか」 『きょーろきょーろしゅるわっ!きょーろ、きょーろ!』 『はは、落ちないように気をつけろよ』 『おにーしゃんのおちぇちぇはとっちぇもときゃいはにぇ!』 『ふーかふーか!ふーかふーか! このべっどさんとってもとかいはよ!おにいさん、ありがとう!』 『どういたしまして。銀バッジを取ったごほうびだよ』 『ゆんっ!おにいさんのしどうのおかげよっ! これからはもっともっとおにいさんをとかいはにゆっくりさせるわっ!!』 『いちにっ!いちにっ!』 『何してるんだ、ありす』 『ゆっ!だいえっとさんよ!このごろたいじゅうがゆっくりしすぎてるから……』 『ははは、そんなこと気にしてるのか。可愛いやつだな』 『ゆっ、もう!しらないっ!!』 『ゆわあああぁぁ!!とかいは!!とかいはだわあぁ!!』 『そんなにはしゃぐなよ。迷子にならないようにな』 『ゆーんっ!こんなゆっくりできるとかいはなばかんすさんにつれてきてくれてありがとう、おにいさんっ!!』 『ついに金バッジを取れたからな。これからはどんどんいろんなところに遊びに行こうな。 そうだ、約束だったな、今度お婿さんを連れてくるよ。おちびちゃんも作ったらいい』 『とかいは!!とかいはだわぁぁぁ!!おにいさんのかいゆっくりで、ありす、しあわせよおおぉぉ!!』 お兄さんが何やら細工すると、部屋の隅にあった黒い箱の中に映像が流れ始めた。 この家で過ごしているうちに知った、あれはテレビさんというものだ。 そこに流れているのは、一人のゆっくりありすの姿だった。 ビデオの中に姿は映っていないが、 個体の特徴に鋭敏になった今の家族には、ありすに話しかける声がお兄さんのものであることはすぐにわかった。 お兄さんとありすの、幸福そうな生活がながながと流された。 そのありすは気立てがよく、身だしなみも整い、どこから見てもゆっくりできる美ゆっくりだった。 思わず自分の妻と比べそうになり、まりさはつい頭を振った。 「この子は僕の飼いゆっくりだった。とても可愛い、聞き分けのいい子だった」 お兄さんが説明を加えた。 「赤ゆっくりの頃に、捨てられて死にかけていたのを気まぐれで拾ってきたんだ。 ゆっくり飼いの勝手がわからない僕を、むしろありすの方がサポートしてくれた。 至らないところの多い僕に文句を言わず、 助けてもらった感謝を繰り返し、僕をゆっくりさせるために尽くしてくれた。 ついには金バッジまで取得するほど優秀な個体だった。宝クジに当たるくらいの拾い物だったんだ。 赤ゆっくりの頃に捨てられた経験が、いい方向に作用したのかもしれない」 「ゆうぅぅ……………」 流れる映像を見ても、「ゆっくりしてるね!」などとは漏らせなかった。 ありすがすでに鬼籍に入っていることは、すぐそこに転がっているカチューシャを見れば想像できた。 最初から悲劇として語られているこのエピソードがどこに行くのか、にわかには読めなかった。 「ありすの愛情に僕も報いたかった。 ありす自身の安全を考えてバッジ試験も受けさせた。辛い勉強も不満を言わずにやってくれたよ。 ただひとつ、ありすが一度だけ漏らしたわがままは、子供が欲しいということだった。 子供を作ったゆっくりはリスクを抱えている。ゆっくりの生態を調べるうちにそれを知った僕は、 金バッジを取るまでおあずけだと言った」 「ゆぅ………おちびちゃんはゆっくりできるのに……」 まりさが思わず口をはさんだが、お兄さんは全く無視して先を続けた。 家族に話しているというより、ただ独白しているようだった。 「いまでは後悔してる。すごく後悔している。 ありすの望みをすぐに叶えてやらなかったことを。 僕に言われたありすは、それまでの何倍も勉強に身を入れ、とうとう金バッジを取った。 僕は約束通り、つがいを与えて子供を作らせてあげるつもりだったが、 赤ゆっくりができればそうそう外出もできなくなる。 その前に、ご褒美でキャンプに連れていってあげることにしたんだ。 そこで、ありすはゆっくりに殺された」 「ゆううぅ!?ゆっくりごろしはゆっくりできないよ!!」 思わず叫んだれいむに、お兄さんはすぐに屈みこんで答えた。 「そうだよな。ゆっくりできないよな! こんなゆっくりできるありすを殺すなんてひどいことだよな」 「ゆーっ!ゆっくりしてないよ!ありすがかわいそうだよ!!」 「もうすぐおちびちゃんがつくれたのにぃぃ!!」 「ありちゅおにぇーしゃん、きょろしゃにゃいでええぇ!!」 「ありすはひどい殺され方だった。 全身を枝でぷーすぷーすされて、目を潰されて髪もむしられて、最後には生きたまま食われて死んだんだ」 「ゆううぅぅぅ!!きょわいよおおぉぉ!!」 「ひどいよおおぉぉ!!ゆっくりできないよおおぉぉ!!」 「こんなにゆっくりしたありすなのにいぃぃ!!」 現在の状況も忘れて、つい感情にかられて叫ぶ家族たち。 お兄さんは何度も頷いて続けた。 「そんなひどいことをするゆっくりはゆっくりできないよな!」 「ゆっくりできないよ!!」 「ありすが死んだのに、そいつらは今ものんびりゆっくりしてるんだ。許せないよな!」 「ゆるせないよっ!!ゆっくりごろしはせいっさいっしなきゃいけないよ!!」 「苦しんだありすのためにも、たっぷり苦しめて、ゆっくりできない目に遭わせなきゃ割に合わないよなあ!」 「ゆーっ!!かたきうちだよおおぉ!!そんなひどいゆっくりはゆっくりしちゃいけないんだよぉ!!」 「そうか、そうだよな!そう言ってくれるか!!お兄さんは嬉しいよ、みんな!」 「「「「ゆーっ!!」」」」 「まさか、まさか……ありすを殺したやつらが、自分から喜んで罰を受けてくれるなんて!」 「ゆぇっ?」 足元のカチューシャを拾い上げて見つめながら、お兄さんは淡々とした口調に戻って続けた。 「森のそばの川でキャンプをしたとき、ありすは迷子になった。 その時に、カチューシャを落としてしまったんだ。 飾りをなくしてしまったありすを、そこに住んでいたゆっくりの一家が見つけて、 「ゆっくりできないゆっくり」呼ばわりして、なぶり殺しにした」 そこまで言って言葉を切り、お兄さんは笑顔を浮かべて家族をゆっくりと見渡した。 家族は、小刻みに震えはじめた。 「僕がどうして、お前たちを家に連れてきたんだと思う? 野良ゆっくりの家族なんかわざわざ攫ってきたってなんの得にもならない。 見ず知らずのゆっくりを、飾りがなくてもお互いを識別できる、ゆっくりした家族にする。 そんな七面倒臭いことを、純粋な善意でやると思うか? お前らみたいな薄汚いゴミクズを、なんで僕がわざわざゆっくりさせてやらなきゃならないんだ?」 「………………おに、い、さ………ん……」 「お前たちには知ってもらわなければならなかった。 お飾りがなくても、お前らが殺したありすは素晴らしいゆっくりだったということを。 お前らは、罪のない、思いやりの深いゆっくりできるゆっくりを、 ただお飾りがないという、くだらない些細な理由で虐めた。 ゆっくりに満ちた未来が待ち受けていたゆっくりを、喜色満面でなぶり殺しにした。 『せいっさいっ』なんかじゃない、同族殺しのリンチ、暴力だった。 お前らが恃みとする正当性、「お飾りがなかった」という理由は、なんの意味ももたないこじつけだ。 それをお前たちには知ってもらわなければならなかった」 「ゆ゛………ゆ゛………ゆる……ゆるじ………」 「そうでなければ、僕が何をしても、「まりさたちなんにもわるいことしてないのにいいぃ!!」とお前たちは叫ぶだろう。 僕は、ゆっくりできる善良なお前たちにいわれのない暴力を加える悪漢ということになり、 お前たちは誇りと家族愛で自分たちを慰めながら死んでいくだろう。 そんなことは許さない。絶対に許さない。 お前たちが僕の愛する家族にしたことを、僕はお前たちにやり返してやるんだ。 お前達が叫ぶのは毅然たる抗議でも非難でもなく、みじめったらしい謝罪と懇願、命乞いでなければならない」 「あ゛……あ゛……あ゛あ゛あ゛あ゛………………!」 「いやあ、でもよかった!自分から罰を受けてくれるなんて! ありすをなぶり殺しにするような奴はゆっくりしちゃいけない、苦しめなければいけない。 お前達自身の口からそう言ってもらえてよかったよ! もし抵抗されたら面倒だと思っていたんだ。いや、スムーズに進んでよかったよかった」 「ゆ゛るじでぐだざいいいいぃぃぃ!!!」 まりさは床に頭を打ちつけて叫んでいた。 何度も何度も頭を打ち、喉を震わせて叫ぶ。 「ごべんだざい!!ごべんだざい!!おにいざんのありずをいじべでごべんだざい!! おがざりがだいだげでいじべで、ごろじでごべんだざい!! ぼんどうにぼうじわげありばぜんでじだ!!ばりざだぢがっ、ゆっぐりじでばぜんでじだ!!」 「ああ、そうだね」 れいむもまりさに続いて頭を下げた。 「じらだがっだんでず!!ありずが、あんだにゆっぐじじでだだんで!!あんだにやざじいびゆっぐじだっだだんで!! おがざりがだいがら、わがらだがっだんでずううぅ!! ごべんだざい!!ごべんだざい!!ゆっぐじじでだいでいぶでごべんだざい!!」 「本当だねえ」 親に倣い、子供たちも詫びはじめた。 「ゆびぇええええん!!ぎょべんなぢゃいっ!!ぎょべんなぢゃいいい!!」 「ばりじゃがわりゅがっだでじゅうぅぅ!!ゆるじぢぇえええ!!」 「ぼうじばじぇん!!ぼうわりゅいごどじばじぇえん!!ゆっぐぢぃぃぃ!!」 「うんうん、もう二度とやっちゃだめだぞ」 お兄さんは腕を組んで笑っていた。 まりさは顔を上げ、おずおずと頼んだ。 「お、おに、いざん……ゆぐじで、ぐだざい…………?」 「え、駄目だよ。絶対に許さないよ。何言ってるのかな?」 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ごべんだざあああいいいいい!!!」 「うんうん、さあ、罰を受けようね! みんなで森に行って、森のゆっくりたちに虐めてもらおうな!それが罰だよ、ゆっくり理解してね!!」 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛やべで!!おでがい!!でいぶだぢはどうなっでぼっ!! おぢびぢゃ!!おぢびぢゃんだげはあぁぁ!!」 「またそれかい?おちびちゃんだけは、か」 「ばいっ!!ばりざどでいぶがいじべらればず!!ごろざればずうぅ!! おぢびぢゃ、だげはっ!!おでがっ!!ごごでぐらざぜでぐだざいいいいぃぃ!!」 「ふざけんなよ、コラ」 低い声で返答し、お兄さんはまりさの頬を蹴り抜いた。 「あぶぎゅうっ!!?」 「ば!!ばりざああぁあ!?」 「ん、なに注文しちゃってんの?罰を受ける立場なんだろ? 一番大事なものだけは見逃してくださいって、なにそれ?お前たちはありすの何を見逃したの?ねえ?」 「ごべんだざい!!ごべんだざい!!ゆぐじでぐだざいいい!!」 「お前たちがありすを許していれば、僕も考えたんだけどねえ」 「ばんぜいじばじだっ!!でいぶだぢはげずでじだっ!!ぼうにどどじばぜん!! ごごろを、ごごろをいれがえっ!!おぢびぢゃんだぢはっ!!」 「うんうん、本当に悪いことをしちゃったねえ。だから罰を受けようね!」 「おぢびぢゃだげはっ!!おぢびぢゃっ!!」 「しつこいんだよ!」 「ゆぎげべぇ!?」 れいむの頭が勢いよく踏みつけられる。 衝撃でうんうんが漏れてしまうが、意に介する余裕はなかった。 「反省しましたとか、心を入れ替えるとかさ、だからなんなの? 本当に、ほんっと~~~~に悪いことをしたと思って反省してるんならさ、 どんな罰を与えられても喜んで受けるのが筋だろ?やったことの責任をとろう、ってまず考えるのが本当だろ? それが何?反省したから罰は勘弁してくれって?責任をとるのは嫌ですって? それって反省したって言うの?ねえ?ねえねえねえねえ」 「あぎっ!!いびぎぃ!!ゆぎひいいいぃいいびいいいい!!」 「ごべんだざいっ!!わるがっだでずっ!!びどいごどいっでるのはわがっでばずっ!! でぼ、でぼ、ばりざの、おぢびぢゃんは、どっでぼ……ゆっぐじじででっ!!」 「僕のありすもとってもゆっくりしていたよ。 そうかなるほど、ちょうどいいや、とってもゆっくりしているおちびちゃんたちなら僕のありすと見合うね!」 「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛やべでえええええぇぇ!!!」 「え、本気で言ってんの? 僕の一番大事なものを壊しといて、お前たちの一番大事なものは見逃してって頼んでるのお前ら? そんなことして僕になんか見返りあんの?」 「ごべんだざい!!ごべんだざい!!ゆぐじでぐだざい!!ゆぐじでぐだざい!!」 お兄さんの言うとおりだということはわかった。 何から何までお兄さんは正しく、お兄さんの言う罰をみんなで受ければ筋が通ることもわかった。 ここで逃げるのはゆっくりできない。ここで逃げるのは卑怯者だ。 でも、でも、それでも、それだけは。 おちびちゃん。 まりさたちの、ゆっくりした、おちびちゃんたちだけは。 「ゆぐじでぐだざい!!ゆぐじでぐだざい!!おでがいじばず!!ぼんどうにおでがいじばず!!ゆぐじでぐだざいいいぃ!!!」 「へえ……それがお前らのルールなんだ」 言いながら、お兄さんはむしるように子れいむの一人を取り上げた。 「おしょらをとんでりゅみちゃいぃ!?」 「ゆああぁぁ!!おぢびぢゃ、おぢびぢゃあぁ!!」 「たとえばこんなことをしても許されるんだよな!!」 「ゆっびゃあああぁぁぁぁっ!!!?」 ガリガリガリガリ お兄さんが子れいむの顔面を壁に押し付けて擦り付けた。 「ごぎょおおおおおぉぉぉびびゃああああぁぁいぢゃばばばばばぎゅううううーーーっ」 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛やべでやべでやべでやべでええええぇぇ!!!」 「こんなことをしてもっ!!」 勢いよく振りぬき、子れいむの顔面を家族に見せ付ける。 子れいむの顔の右半分は痛々しい擦過傷にまみれ、口の右側が裂けて砕けた歯がこぼれ出し、 右の瞼がけずり落とされて眼球が消失していた。 「ゆ゛………いぢゃ………いぢゃ……あ゛………………びぎゅい゛い゛ぃぃ…………」 「おぢびぢゃーーーーっ!!おぢびぢゃあああああぁぁ!!」 「お前らは許してくれるんだよな! お兄さん悪いことしちゃったよ!かわいいおちびちゃん虐めちゃったよ! でも反省したからね!許してね!ゆっくり許してくれるよね!!ねえ!!」 「………!!………………!!!」 「ゆっくり許してもらったから次にいこうね!次も許してくれるよな!!反省するからさ!!」 「やべでええええぇぇぇおでがいいいいいぃぃぃ!!!」 次の子供を手に取ろうとしたお兄さんを、まりさが必死に制する。 肩で息をしながらお兄さんは手を止め、まりさに向き直ってつぶやくように言った。 「……選べ。 森に行って罰を受けるか、ここで僕の暴力をすべて許すか」 「…………………………!!!!」 まりさはぶるぶる震えて歯を食いしばり、大量の涙を流しながら、やがてがっくりとうなだれた。 (後編2へ)