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279:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 00 46 47.26 ID hpeqfj4Jo―――翌朝 エルフの里 牢屋 兵士「出ろ」 勇者「……」 僧侶「ついに……」 魔法使い「ふぅー……」 兵士「ついてこい」 勇者「……」 僧侶「まさか……こんな森の奥で死ぬことになるなんて……」 魔法使い「はぁ……怖くなってきたわ……」 僧侶「わ、私も体の震えが……止まりません……」 勇者「……」 魔法使い「アンタは?」 勇者「え?」 魔法使い「怖いでしょ?」 勇者「僕だけなら相当怖かったですが、貴女たちがいるなら怖くありませんね。むしろ、緊張できなくて困るぐらいです」 280:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 00 51 38.18 ID hpeqfj4Jo魔法使い「また強がり言って」 勇者「本当ですよ」 僧侶「相手はエルフですよ?!」 勇者「僕は勇者です。そして貴女たちは有能な魔法使いと僧侶です」 僧侶「そ、そんな真顔で言われても……」 魔法使い「いい?!今までの魔物みたく本能で向かってきたり、魔法が簡単に通じる相手じゃないのよ?!」 勇者「でしょうね。だからこそ、戦術が大事になります」 僧侶「えぇ……」 魔法使い「無理よ……。今度ばかりは……」 勇者「できますよ」 僧侶「どうして……そこまで断言できるのですか……?」 勇者「貴女たちがすごい術者だからです」 魔法使い「はぁ……なんの根拠もないってことね……」 僧侶「うぅ……」 勇者「絶対勝つぞー!!おー!!」 281:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 00 56 45.96 ID hpeqfj4Jo―――処刑場 長老「ではこれより、洗礼の儀を執り行う!!」 長老「罪人よ。聖地へ足を踏み入れることを許可する」 兵士「上がれ」 勇者「……」 僧侶「……っ」ガクガク 魔法使い「できるだけ、苦しくない方法で殺して欲しいわね」 僧侶「そ、そうですね……」 長老「罪を流す者よ、聖地へ」 神官「……」 勇者「あの人たちが……神官ですか……」 神官「……準備は整っております」 神官「右に同じ」 神官「いつでも、どうぞ」 長老「罪深き者たちに洗礼を!!!」 282:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 01 02 57.69 ID hpeqfj4Jo勇者「では、手筈通りに」 魔法使い「ほ、本当に大丈夫なんでしょうね?」 僧侶「勇者様……本当に私は抱きついているだけでいいのですか?」ギュゥゥ 勇者「ぬほほぉ。―――はい」キリッ 魔法使い「なんで私が矢面に……」 勇者「貴女の能力なら大丈夫です」 魔法使い「信じられないけど」 勇者「向こうは魔法のプロフェッショナル。だからこそ、貴女たちの苦しみなど絶対に分からない」 僧侶「それって……」 神官「では……洗礼を始める」 勇者「来ます!!」 魔法使い「ええい!!もうどうせ死ぬなら……!!!」 神官「炎よ!」ゴォォォ 魔法使い「―――はぁ!!!」コォォォ 神官「な……!!炎を掻き消した……?!」 283:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 01 08 03.14 ID hpeqfj4Jo長老「ん……?!なんだ……今のは……?」 エルフ(まさか……全力ではないとはいえ、いとも簡単に……神官の魔法を……) 魔法使い「ほ、炎なんて私には効かないわ!!」 魔法使い(冷気を纏っただけだけど……) 神官「面白い……では……!!―――凍れ!!!」コォォォ 魔法使い「氷も効かない!!」ゴォォォ 神官「なんだと……」 神官「中々の能力者。注意せよ」 神官「うむ」 魔法使い「……っ」 勇者「よし。警戒を強めた」 僧侶「それって……本気にさせたってことですよね?」 勇者「さあ、次行きますよ」 僧侶「は、はい!」ギュゥゥ 神官「では、手加減はしない。―――雷よ!!」バリバリ 284:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 01 12 37.33 ID hpeqfj4Jo勇者「雷!?」 神官「終わりだ」 僧侶「きゃぁぁ!!!」 勇者「絶対に離れないでください!!」 僧侶「は、はい!!」ギュゥゥゥ ―――ドォォォォン!!!! 長老「―――終わったか」 エルフ「……」 神官「儀式は終了」 神官「では、死体の回収をおこな―――」 勇者「―――はぁぁ!!!」ゴォッ 神官「なに……!!」 勇者「せいっ!!」ザンッ 神官「バ……カ……な……」ドサッ 勇者「砂塵を巻き上げては、敵を見失う。状況によっては今みたいに隙をつくることになります。覚えておいてください」 285:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 01 19 29.45 ID hpeqfj4Jo神官「理解不能」 神官「何故、無傷でいる……。確かに直撃したはず……」 勇者「結構痛いですよ。でも、僕は無敵なんで」 僧侶「うっ……」ギュッ 勇者「(大丈夫ですか?)」 僧侶「(は、はい……)」 長老「どうなっている……!?」 エルフ「そんな馬鹿なこと……」 勇者「これだけははっきり言っておきます。僕を倒すことはできないぞ!!!」 神官「思考中」 神官「魔力を解放する。肉体を滅裂させれば再生も不可能のはず」 勇者「ああ、やっぱり力があるとそういう力押しができていいですねえ!!全くぅ!!」 僧侶「(勇者様、流石に治癒が追いつかない傷を負えば……)」 勇者「(分かっています)」 魔法使い「(ちょっと、あれは多分指定した空間を爆発させる魔法よ?!どうするの?!)」 286:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 01 24 22.05 ID hpeqfj4Jo勇者「指定した空間を?」 魔法使い「そうよ!!」 勇者「やったー!!」ダダダッ 僧侶「えぇ?!特攻?!」 神官「なに……?!」 勇者「爆発させる魔法は近距離では使えない。それは以前に聞きました」 魔法使い「あ……」 神官「くっ……!!」バッ 勇者「遅いっ!!!」ズバッ 神官「がっ……?!」ドサッ 勇者「二人目だぁ!!!」 神官「……」 勇者「ふん。いくら魔法ができるからって、やりようはいくらでもある!!」 神官「……」 勇者「もう声も出ませんか?!ええ、おい!!」 287:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 01 29 56.02 ID hpeqfj4Jo神官「……」 勇者「あーん?」 神官「爆発」 勇者「え―――」 ドォォォォン!!!! 僧侶「きゃぁ?!」 魔法使い「なっ……!?自爆?!」 勇者「うっぁ……ずっ……」 僧侶「勇者様ぁ!!!」タタタッ 神官「損傷甚大……」 勇者「まさ……か……捨て身……とは……」 僧侶「今、治癒を……!!」ギュッ 勇者「あ、ありがとうございます」 神官「治癒開始」 魔法使い「一撃でしとめないと、向こうも回復しちゃうわね……」 288:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 01 33 51.14 ID hpeqfj4Jo神官「爆炎放出」ゴォォォ 僧侶「きゃぁ?!」 魔法使い「炎なら!!」コォォォ 神官「……」 魔法使い「効かないわ」 神官「氷塊放出」 魔法使い「無駄よ!!」ゴォォォ 神官「……」 魔法使い「はぁ……はぁ……」 勇者(これ以上はまずい……タネがバレたら……) 僧侶「うぅ……」ギュゥゥ 神官「解析完了」 魔法使い「え……?」 神官「炎、継続放出開始」ゴォォォ 魔法使い「なっ……!!」コォォォ 289:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 01 39 26.11 ID hpeqfj4Jo神官「貴殿、魔法放出不可」 魔法使い「ちょっ……!!」 勇者「まずい……!!早くトドメを……!!!」ダダダッ 僧侶「勇者様!!」 勇者「うおぉぉぉ!!!!」 神官「爆炎放出」ゴォォォ 勇者「うぁ!!」 魔法使い「馬鹿!!なにやって―――」 神官「最大出力」ゴォォォォ 魔法使い「やめて……よ……!!もう……魔力が……!!!」コォォォ 僧侶「ど、どちらに抱きつけば……!!」オロオロ 神官「貴殿、魔力残量皆無」 魔法使い「うる……さい……やれる……これぐら、い……!!!」 神官「諦観推奨」 魔法使い「そ、そんなこと……奨めないでよ……!!」 291:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 01 53 15.22 ID hpeqfj4Jo長老「どういうことだ……これは……?」 エルフ「あの二人の術者。少し様子が変ですね」 長老「うむ。神官の魔法を相殺できるほどの魔力を放出しておいて、それを攻撃に転換しないとは」 エルフ「しないというより、できないのでは?」 長老「む……それは……」 エルフ「できるのであれば、治癒も抱きつくほど密着する必要はないですし、魔法で攻撃するのも安全な遠距離で行うはず」 長老「相手との力量が違いすぎるから奇をてらった方法を用いているのではないか?」 エルフ「攻撃魔法を防御に使うのはありえますが、それなら先ほど神官が弱っているときに追撃をかけないのが不自然です」 長老「そういえばあの術者たちは魔法について学びたいを言っておったな……」 エルフ「魔法を上手く使いこなせないということでしょうね」 長老「そういうことか。分かってしまえばどうということはないな」 エルフ「ええ。時間をかければ終わります。エルフの魔力量は人間の数十から数百倍ですからね」 長老「ああ……。人間にとっては無限に等しいだろう」 エルフ「儀式終了も時間の問題ですね……」 エルフ(悪く思わないで……。これも全て貴方たちが魔王と戦おうとするから……) 297:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 21 22 48.89 ID hpeqfj4Jo勇者(このままじゃ……!!) 神官「……」ゴォォォ 魔法使い「くぅ……ぁ……ん……!」コォォ 僧侶「……っ」タタタッ 魔法使い「え……?」 僧侶「……」ギュッ 魔法使い「あんた……!!」 僧侶「うぅ……」ガクガク 魔法使い「……もう!!」コォォォ 神官「無意味」ゴォォ 魔法使い「死にたくないから足掻くのよ!!悪い?!」 僧侶「うぅぅ……ぅ……ぐすっ……ゆう……しゃさま……たすけて……」 勇者「あ……!!」 勇者(あ、いや……上手くいくかはわからない……それ以前に二人を危険な目に合わせてしまう……) 勇者(だが……迷ってはいられない……!!) 298:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 21 27 34.01 ID hpeqfj4Jo勇者「わかった!!諦める!!」 神官「……」ピクッ 魔法使い「ど、うし……て……」 僧侶「そ、んな……」 勇者「もうお二人を苦しませないでください」 神官「……」 魔法使い「まだ……やれる……のに……」 勇者「もう無理ですよ。やめましょう。お二人とも、もう魔力が……」 僧侶「あぁ……うぅ……」ガクッ 魔法使い「しっかりして!」 僧侶「私たち……ここで……終わり……なんですね……」ウルウル 勇者「残念ですが……治癒する術が無い以上、勝ち目はありません」スッ 僧侶「……」 勇者「申し訳ありません。僕が不甲斐ないばかりに……」 僧侶「いえ……」 299:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 21 34 02.58 ID hpeqfj4Jo魔法使い「やめて……」 勇者「……」 魔法使い「アンタはいつも諦めなかったじゃない……!!」 勇者「勝算があったからですよ」 魔法使い「何よ……今はないっていうの……?」 勇者「はい」 魔法使い「どうしてよ!?綺麗なお嫁さんと側室を10人はべらせるんでしょ?!」 勇者「志半ばで力尽きる人が殆どですよ」 魔法使い「なんで……やめて……」 勇者「本当に申し訳ありません。自分が馬鹿なことをしなければ、貴方達を巻き込むこともなかったのに……」 魔法使い「……」 勇者「僕から処刑しろ」 神官「……」 魔法使い「本気なの……」 僧侶「勇者様……」 300:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 21 38 30.61 ID hpeqfj4Jo長老「観念したのか……致し方ないな……。所詮は人間だったか……」 エルフ「……」 神官「処刑容認」スッ 勇者「魔法で殺すのか……?」 神官「肯定」 勇者「できるだけ痛くないように頼みます」 神官「了解」 勇者「ふぅー……」 魔法使い「いや……だ……め……」 僧侶「……」 神官「―――爆破」 勇者「……っ」 僧侶「―――やめてぇ!!!」バッ 神官「!?」 ドォォォン!!! 301:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 21 43 23.75 ID hpeqfj4Jo魔法使い「なっ……!!」 長老「どうした!!」 エルフ「庇ったの……?」 僧侶「ぅ……ぁ……」 勇者「……!!」 神官「失敗」 勇者「……」 魔法使い「いやぁぁぁ!!!!」 神官「処刑開始」スッ 勇者「くっ……!!」ジリジリ 神官「撤退不可。抵抗無意味」スタスタ 勇者「……っ」 魔法使い「あぁ……ぁ……!!!」ガクガク 神官「処刑開始」スッ 勇者「……」 303:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 21 50 17.96 ID hpeqfj4Jo僧侶「……」スクッ 長老「なに?!」 エルフ「え……!?」 神官「……?!」バッ 僧侶「……」 神官「理解不能……!!」スッ 勇者「―――でぁぁぁ!!!」 神官「……!!」 勇者「あぁぁぁぁ!!!!」ザンッ 神官「はっ……ぁ……!?」 勇者「はぁ……はぁ……戦闘中に背中を向ける奴が……あるか……ど素人め……!!」 魔法使い「え……どうして……?」 僧侶「や……やりま……し……」フラッ 勇者「危ない!!」パシッ 僧侶「ゆう……しゃ……さま……」ニコッ 306:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 21 56 27.63 ID hpeqfj4Jo長老「馬鹿な……神官の魔法を受けて……立ち上がるなんて……!!」 勇者「彼女は常に治癒魔法が漏れている状態なんです」 エルフ「え?」 勇者「だから、魔力さえ残っていれば自動的に自分を治癒する」 魔法使い「でも……もう治癒できるだけの魔力は……」 勇者「魔力を回復させれば問題はありません。たとえ雀の涙ほどでも魔力があるなら、多少なりとも傷は癒えます」 魔法使い「それはそうだけど……どうやって回復させたわけ……?」 勇者「大丈夫ですか?」 僧侶「気絶しなかったのが……奇跡……ですね……」 勇者「本当に。だから、危ない賭けでした」 僧侶「ふふ……私でも……お役に……立て……ましたか……?」 勇者「ええ……」 僧侶「うれ……し……ぃ……」 魔法使い「大丈夫なの!?」 勇者「気を失っただけです。問題ありません。でも、絶対安静ですね……」 307:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 22 02 11.87 ID hpeqfj4Jo長老「馬鹿な……人間に……負けるとは……」 エルフ「こんなことって……」 勇者「まずは彼女の休む場所を用意してください」 魔法使い「大丈夫!?ねえ!!」 僧侶「うぅ……」 勇者「魔力はもう残っていないでしょうね。傷が殆ど癒えていない」 長老「そんな……こんなことあってはならん……!!」 エルフ「長老……」 長老「人間に……我々が……!!」 エルフ「長老、しっかりしてください」 勇者「慢心した結果だ。人間は貴方たちが思っているほど、弱くはない」 長老「数の暴力しか知らぬ……野蛮な種族……のはず……なのに……」 勇者「お願いします。今は一刻も早く、彼女を休ませてあげたいのです」 エルフ「……こちらに」 僧侶「ぁ……ぅ……」 308:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 22 05 01.60 ID hpeqfj4Jo―――エルフの家 エルフ「……」パァァ 僧侶「うぅ……ぅ……」 エルフ「これで大丈夫でしょう」 勇者「本当ですか?」 エルフ「ええ」 魔法使い「よかったぁ……」 エルフ「だけど、しばらくは安静にしておかないと……」 勇者「……」 エルフ「それでは、ボクはこれで」 勇者「待ってください」 エルフ「なに?」 勇者「……ありがとうございました」 エルフ「……ごゆっくり」 勇者「……」 309:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 22 10 35.29 ID hpeqfj4Jo僧侶「すぅ……すぅ……」 魔法使い「本当によかった……」 勇者「いやー、死ぬかと思いましたね」 魔法使い「ねえ……どういうことなの?この子は魔力がなくなってたはずなのに」 勇者「以前、彼女に携帯させた物を使ったのですよ」 魔法使い「え?」 勇者「すぐに魔力が枯渇する彼女にとって最大の武器に成り得る……これを」スッ 魔法使い「それ……非常食?」 勇者「僕を庇う直前に食べるように言っておきました。魔力は睡眠か食事を取ることで回復するとのことですので」 魔法使い「死んだらどうするつもりだったの?」 勇者「そのときは……諦めるしか……」 魔法使い「……」 勇者「申し訳ありません。僕は最低の手段を選び、彼女を危険に晒しました。どんな罰も受けるつもりです」 魔法使い「私に言われても……困るわ……」 勇者「申し訳……ありません……」 310:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 22 18 44.04 ID hpeqfj4Jo―――長老の家 長老「魔王様……」 魔王『結果は?』 長老「勇者は生きております」 魔王『殺し損ねたか。下等種族では荷が勝ちすぎていたか?』 長老「勇者らの体質を知っていれば、負けはしませんでした」 魔王『言い訳はよい。して、体質とはなんだ?』 長老「勇者は魔法の類を一切使えぬ人間であり、剣術に長けています」 魔王『ふむ……』 長老「そして二人の術者ですが……こやつ等が一癖ありまして……」 魔王『早く言え』 長老「一人は魔力の放出ができず、相手に接触しなければ傷を負わせることが叶いません」 長老「治癒魔法を操る者は常に魔力が漏れている状態で、魔力が尽きぬ限りは自身と自身に触れた者を癒します。ですが、魔力はすぐに尽きてしまいます」 魔王『欠陥の特異体質というわけか。ふはははは……そうか……感謝するぞ、エルフの長よ。これで我の勝利は約束された』 長老「はい……」 311:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 22 24 08.84 ID hpeqfj4Jo―――エルフの家 僧侶「……」 勇者「……」 魔法使い「いい加減、休んだら?」 勇者「……」 魔法使い「目が覚めるまでもう少しかかるわよ」 勇者「ですが……」 魔法使い「いいから。もしかしてアンタ、無意味に服を脱がせたりしようなんて考えてないわよね?」 勇者「そんなこと考えていません」 魔法使い「本当かしらぁ?」 勇者「僕の所為で……彼女は……」 魔法使い「……いいから、休んで。アンタだって、傷ついてヘトヘトのはずよ?」 勇者「……」 魔法使い「これは命令。休め」 勇者「わかりました……」 313:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 22 31 15.38 ID hpeqfj4Jo―――エルフの里 勇者「……」 エルフ「何をしている?」 勇者「……」 エルフ「怒っているの?」 勇者「はい」 エルフ「でも、貴方たちだってボクたちに対して……色々と酷い仕打ちを……」 勇者「自分が許せません」 エルフ「え……?」 勇者「僕が囮になるべきだった……!!」 エルフ「……」 勇者「生き残れる可能性があると分かったとき……僕は最も可能性が高い方法を手にとってしまった……」 勇者「二人を守る立場にいる僕が……」 エルフ「でも、誰が囮になっても失敗したらみんな死んでいた。なら、成功率が高い手段を選ぶのは当然だと思うけど……」 勇者「誰が囮になってもよかったのなら……僕がなるべきだったんです……!!」 314:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 22 38 47.20 ID hpeqfj4Joエルフ「……」 勇者「すいません。貴女にこんなことを言っても……仕方ないですね……」 エルフ「別に……」 勇者「……」 エルフ「貴方達三名は現時刻をもって、解放されることになりました」 勇者「ありがとうございます」 エルフ「できればすぐにでも立ち去ってもらいたいのですが」 勇者「それは……」 エルフ「わかっています。一人は重傷ですから、暫くの間は面倒を見ます」 勇者「もしかして僕だけを……?」 エルフ「ええ。元はといえば、貴方が騒ぎを大きくしたわけですから。貴方がこの里からいなくなれば、誰も文句はいいません」 勇者「わかりました。なら彼女たちだけでも―――いや、それはしないほうがいいですね……」 エルフ「え?」 勇者「こちらの弱点は魔王を通じて他の魔族にも伝わっているはず。彼女たちだけを置いていくことは……もう出来ません」 エルフ「そうですか……」 315:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 22 44 35.08 ID hpeqfj4Jo勇者「……」 エルフ「道中、お気をつけて」 勇者「はい?」 エルフ「それでは」 勇者「ちょっと待ってください!!」 エルフ「なんですか?」 勇者「おかしいなことを言わないでください」 エルフ「は?」 勇者「貴女がどうして旅の成功を祈る側にいるのですか?」 エルフ「だって……」 勇者「貴女は祈られる側ですよね?」 エルフ「なんで?!」 勇者「あれー?約束……忘れたなんて言わないですよね?誇り高きエルフ族が、そんな馬鹿なこと……」 エルフ「な、なんのこと……?」 勇者「僕たちが勝てば貴女は僕の側室になるって約束……しましたよね?」 316:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 22 49 36.00 ID hpeqfj4Joエルフ「あ……!!!」 勇者「ぬほほぉ!!」 エルフ「ボクは……!!」 勇者「ダメ」 エルフ「待って!!ボクはエルフだ!!人間と関係を持つことは許されない!!そういう戒律がある!!」 勇者「あっそ。いや、でも、約束は守ってくださいね」 エルフ「待って!!エルフ族に伝わる妖精の剣と鎧を貴方に差し上げるから!!!」 勇者「そんなのいりません」 エルフ「じゃあ、盾もつける!!」 勇者「いりませんて」 エルフ「兜もあげるぅ!!!」 勇者「僕はね……貴女が欲しいのですよ」キリッ エルフ「そんなぁ……」 勇者「では、すぐに支度を整えてください」 エルフ「待って!!お願い!!あれはなかったことにぃ!!!」 317:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 22 58 15.98 ID hpeqfj4Jo―――エルフの家 魔法使い(アイツ……大丈夫かしら……) 魔法使い(すごく自分を追い詰めてたみたいだけど……) 魔法使い「はぁ……ああいうとき……どう声をかけたらよかったの……?」 魔法使い「ねえ……?」 僧侶「すぅ……すぅ……」 魔法使い「私って……やっぱり……ダメね……」 魔法使い「気の利いたことも言えないなんて……」 勇者「ただいま戻りました」 魔法使い「あ。さっきは―――え?」 エルフ「おねがいしますぅぅ!!!許してくださぁぁぁい!!妖精の妙薬もあげますからぁぁぁ!!!」ギュゥゥゥ 勇者「だから、貴女以外いらないのですよ。分からない人ですねぇ」 エルフ「戒律を破るとボクが処刑されるんですよぉ!!!」 勇者「なら僕が生涯をかけて匿ってあげます。ほら、解決した」 エルフ「ちがうぅぅ!!!そういう問題じゃないぃぃ!!!」 320:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 23 06 56.47 ID hpeqfj4Jo魔法使い(元気そうね……) 勇者「まだ、目覚めてないのですか?」 魔法使い「ええ」 勇者「少々酷ですがいつでもここを発てるようにしておいてください」 魔法使い「え……!!でも!!」 勇者「エルフ族は仲間意識が非情に強いですから。ここに留まることは危険です。色々と」 魔法使い「それって……他の魔物を呼んで私たちを……」 エルフ「そんなことはしない!!」 魔法使い「でも……魔族は魔族でしょ?―――あと、ソイツから離れてくれない?」 エルフ「あ……」パッ 勇者「ちっ」 エルフ「我々は人間と友好関係を築いていた過去がある。そのため、他の魔族からは敵視されているぐらいだ」 魔法使い「じゃあ、魔王とも敵対関係なの?」 エルフ「中立……といいたいところだけど、魔王が何か命令してきたら逆らえない。逆らえばきっと……一族が滅びるから」 勇者「それは酷い。こんなに美しい一族を葬るなんて……魔王!!許さん!!」 321:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 23 13 41.27 ID hpeqfj4Jo魔法使い「まあ、いいわ。要するに魔王には絶対服従なのね?」 エルフ「……」 勇者「僕たちは魔王に目をつけられていますからね。処刑命令が出てもおかしくありません」 魔法使い「わ、私は嫌よ!!もう一度、エルフと戦うなんて!!」 勇者「それは僕もです。だから、彼女が目覚め次第、いつでも動けるようにしておきましょう」 魔法使い「……仕方ないわね」 勇者「貴女もですよ」 エルフ「ちょっ……!?」 魔法使い「え?どういうこと?」 勇者「彼女とは約束しましたからね。僕たちが勝てば僕の側室になると」 魔法使い「あー……」 エルフ「だ、だからぁ!!!あれはその場の勢いで……!!!」 勇者「約束も守れないのか!!!それでも誉れ高きエルフ族か?!えぇ!!おい!!!こっちは命かけたんだ!!お前も命かけろ!!!」 エルフ「め、めちゃくちゃじゃないですか……」ウルウル 勇者「おっと。すいません。つい熱くなってしまいました。でも、大丈夫です。僕の側室になれば将来は約束されたようなものですから」 322:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 23 18 56.07 ID hpeqfj4Joエルフ「いやぁ……なんで……こんなことにぃ……」メソメソ 勇者「僕に惚れられたのが運の尽きですね」 エルフ「全くです……」 魔法使い「ちょっと……ということは、このエルフもこれから一緒に行動するの?」 勇者「はい」 魔法使い「それって……あの……」 エルフ「あの……妖精の笛もつけますから」 勇者「そんなに嫌ですか?」 エルフ「はい……」 勇者「わかりました……」 エルフ「えっ?!」 勇者「そこまで嫌だというなら……僕も考えましょう」 エルフ「ほ、ほんとうに?!」 勇者「無理強いなんてさせたくありませんからね」 エルフ「よ、よかった……理解ある人間で……」 323:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 23 25 45.47 ID hpeqfj4Jo勇者「貴女が一緒にこないというなら、僕たちはこの里のことを号外で人間たちに伝えます」 エルフ「えぇぇぇ?!」 魔法使い「それは流石に……!!」 勇者「そうなったらこの森に何万という人員が投入され、貴方達は……喰われますよー!!がおー!!!」 エルフ「いやぁぁぁ!!!」 勇者「さぁ!!!どうする?!貴女一人が犠牲になって里を救うか、それとも人間たちから逃げ隠れる道を選ぶか!!!」 エルフ「そんなの酷いっ!!」 勇者「好きなほうを選んでください。無理強いなんてさせたくないですから」 魔法使い「あんた……悪魔なの……?」 勇者「さぁ?どうするんですかぁ?」 エルフ「くっ……」ウルウル 勇者「ぬほほぉ……」 エルフ「……ます……」 勇者「え?」 エルフ「行きます!!ボクも連れて行ってぇ!!!」 324:NIPPERがお送りします(岡山県):2012/06/13(水) 23 29 06.34 ID ZE2EHKqao容赦なくなってきたな 325:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 23 30 12.87 ID hpeqfj4Jo―――夜 魔法使い「一応、いつでも出発できるようにはしておいたわ」 勇者「ありがとうございます」 魔法使い「……」 勇者「軽蔑しますか?」 魔法使い「いや……アンタらしくないなと思って……」 勇者「どうしても必要でした」 魔法使い「側室に?」 勇者「……はい」 魔法使い「あきれた……」 勇者「……」 魔法使い「ねえ……それじゃあ……私たちはここまでなの?」 勇者「え?」 魔法使い「エルフがいるなら……私たちはいらない……でしょ?エルフ一人で攻撃も治癒もできる……し……」 勇者「何を言ってるんです?」 326:NIPPERがお送りします(東京都):2012/06/13(水) 23 30 33.94 ID wMTPuDUAo鬼畜にも劣る下種だなこの勇者…… やはり変態紳士の名は伊達ではないということか 328:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 23 36 45.33 ID hpeqfj4Jo魔法使い「だって……」 勇者「お二人も必要ですよ。無論、連れて行きます」 魔法使い「でも……一回、別れてるし……」 勇者「こうして再会できました。これも赤い糸で結ばれている証拠ですよ」 魔法使い「はぁ!?」 勇者「それに一緒に行動してもらわないと困ります。魔王は僕たち三人を狙っているわけですから」 魔法使い「そうだけど」 勇者「もう休んでください。彼女の看病は僕が引き受けましょう」 魔法使い「……」 勇者「どうしました?」 魔法使い「あ……ありがとう……」 勇者「何に対してですか?」 魔法使い「バーカ」 勇者「……?」 勇者「まあ、いいか」 329:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 23 41 56.00 ID hpeqfj4Jo勇者「……」 僧侶「……」 勇者「……申し訳……ありません……」 僧侶「……勇者様……自分を責めないでください……」 勇者「……!!」 僧侶「あのときはああするしか……無かった……」 勇者「しかし……」 僧侶「貴方は最善の策を……」 勇者「違う。貴女を危険に晒すことなく突破できた……のに……」 僧侶「それだと……勇者様が……私のような目に……」 勇者「……」 僧侶「いつもそうですね……」 勇者「なにがですか?」 僧侶「貴方はいつも……全部一人で解決しようとしていました……。わざと別行動をとったのも……」 勇者「やめてください。あれは僕の失言が原因です。意図もなにもありません」 331:NIPPERがお送りします:2012/06/13(水) 23 53 07.42 ID hpeqfj4Jo僧侶「エルフを探そうと考えたのは……私たちだけではドラゴンに……魔王に勝てないと判断したからですよね?」 勇者「魔王。今まで誰も魔王と対峙することが叶わず散っていったために、その力は未知数でした」 勇者「ですが、おとぎ話の怪物を従えていると分かり、愕然としました。恐らく……いや、確実に人間では敵わないと悟った」 僧侶「……」 勇者「貴女たちの能力が劣っているから、僕が勇者としては未熟だからなんて理由ではない。絶望的な力の差がある」 僧侶「だから……私たちを突き放して……同じおとぎ話のエルフ族を仲間に……?」 勇者「貴女たちの目的が復讐だと聞き、きっと簡単には別れてくれないと思いました。だから……」 僧侶「勇者様……」 勇者「あの時は酷いことを……そしてこの度も……」 僧侶「よかった……」 勇者「何がでしょうか?」 僧侶「少しだけ……あれは本心だったのではないかって疑っていました……でも……勇者様はやはり……お優しい……」 勇者「……」 僧侶「好きです……そんな勇者様が……。だから……傍にいさせてください……」 勇者「……何を言っているのですか。貴女は側室候補。傍にいてもらわないと僕が困りますよ、はい」 332:NIPPERがお送りします:2012/06/14(木) 00 03 19.30 ID hpeqfj4Jo僧侶「ふふ……嬉しい……」 勇者「え?」 僧侶「私は側室で構いません……よ……?」 勇者「えっ?」 僧侶「……」 勇者「あの……」 僧侶「すぅ……すぅ……」 勇者「……おやすみなさい」 エルフ「あのー」 勇者「おや、どうされました?」 エルフ「いつ出発するの?」 勇者「明朝にします」 エルフ「わかった。ボクは森の外で待ってるから……」 勇者「こっそり出るのですね」 エルフ「当然でしょ!?見つかれば極刑だし……。もうこの里には戻れないし……うぅ……」ウルウル 339:NIPPERがお送りします:2012/06/14(木) 23 26 18.34 ID hpeqfj4Jo―――翌朝 魔法使い「起きて……ねえ……起きて……」ユサユサ 勇者「ん……?」 魔法使い「ほら、顔でも洗ってきて」 勇者「あ……はい……」 魔法使い「もう……」 僧侶「おはようございます」 勇者「おお!!もう大丈夫なのですか?」 僧侶「はいっ。勇者様が一晩中、お傍にいてくれたおかげです」 勇者「それはよかった」 僧侶「ふふ……」 勇者「……」 僧侶「あの……なにか?」 勇者「いえ。では、洗顔してきます。そのあと、すぐに出発しましょう」 僧侶「はい」 340:NIPPERがお送りします:2012/06/14(木) 23 32 59.69 ID hpeqfj4Jo魔法使い「顔色もいいし、もう大丈夫みたいね」 僧侶「ご心配をおかけしました」 魔法使い「いいのよ。―――それよりも……アイツが心配だわ」 僧侶「勇者様がですか?」 魔法使い「あんたを傷つけたって、すごく落ち込んでたから」 僧侶「そうみたいですね……」 魔法使い「まだ引き摺ってなきゃいいけど……」 僧侶「……」 勇者「―――お待たせしました」 魔法使い「はい、荷物」 勇者「ありがとうございます」 魔法使い「さ、行きましょ」 勇者「そうですね。きっとボクっ娘さんも待っていますし」 僧侶「え?誰ですか?」 魔法使い「エルフよ。こいつ、ついに人外にまで手を出したのよ。呆れちゃうでしょ?」 341:NIPPERがお送りします:2012/06/14(木) 23 39 13.91 ID hpeqfj4Jo僧侶「その方も……側室候補なのですか?」 勇者「はい」 僧侶「そうですか」 魔法使い「それだけ?もっと批難すべきよ、これは」 僧侶「いえ。人間とエルフの恋は実際にあったと聞きます」 魔法使い「え?」 僧侶「それは悲恋だったようですが……。でも、勇者様ならきっとエルフとも純愛を貫けると思います」 魔法使い「ちょっと!!側室10人って時点で不純じゃないの!!」 僧侶「私は……勇者様のお傍に居られたら……」 魔法使い「はぁ?!」 僧侶「あ……すいません。失言ですね」 魔法使い「……」 勇者「ふっ。僕は正妻と10人の側室を区別しません。変わらぬ愛情を注ぐ覚悟があります」 僧侶「それで十分です……勇者様……」 魔法使い「あの……え……?」 342:NIPPERがお送りします:2012/06/15(金) 00 03 53.80 ID hpeqfj4Jo―――エルフの森 勇者「それでは色々とお世話になりました」 僧侶「ありがとうございました」 魔法使い「本当、色々とお世話になったわね」 長老「……もう会うことはないだろう」 勇者「あの、一つだけよろしいですか?」 長老「なんだ?」 勇者「この里、随分と見つかりやすい場所にあったようですが……今まで、人間に見つかったことはないのですか?」 長老「おぬしらが倒した神官たちの力を合わせれば、結界を張り集落そのものを不可視にすることも可能だ」 魔法使い「不可視ですって?」 僧侶「そんな……でも……私たちには今もこうして見えてますよね?」 勇者「そのようなことができるのに、僕たちの侵入を許したのですか?」 魔法使い(そうよね。こんなにあっさり見つけられるんじゃ、大勢の人間に見つかっているはず……) 長老「……」 勇者「やはり魔王ですか?」 343:NIPPERがお送りします:2012/06/15(金) 00 12 55.34 ID hpeqfj4Jo長老「魔王から勇者一行が近くにいると伝えられた。そして勇者が目の前に現れれば、その能力を測れともな」 勇者「やはりそうでしたか」 長老「初めは一人だけだったから、また我らの身柄を狙う不貞の輩と思ったがな」 勇者「不可視にできるのに拉致されるのですね」 長老「人物そのものを透明にすることはできん。特定の場所に結界を張ることで初めて不可視になるのだからな」 勇者「透明人間……というわけではないと?」 長老「そんな魔法ありはせん。誘拐されるエルフは決まって狩りの最中だからな。結界の中に居続けるのは難しいからな」 勇者「優秀な神官がいるからこそ広範囲で不可視にできるが、個人だと範囲が狭まると?」 長老「そういうことだ。その範囲も人一人で限界だろう」 勇者「……」 魔法使い「覗きに使えるとか思ってないでしょうね?」 勇者「どうして僕はエルフじゃないのでしょうか。神様は酷いことをしますね」 魔法使い「この……!!」 長老「さぁ、もういいだろう。早く行ってくれ」 勇者「はっ。それでは、お元気で」 344:NIPPERがお送りします:2012/06/15(金) 00 19 39.30 ID hpeqfj4Jo勇者「里が見えなくなっていく……」 僧侶「すごい……」 魔法使い「あー!!!」 勇者「どうしました?下着を着忘れたとか!?」 魔法使い「違うわよ!!私たちの重大な欠点を直して貰うっていう目的があったじゃない!!」 僧侶「そうでした。色々あって忘れていましたね」 勇者「欠点?」 魔法使い「魔力を上手くコントロールできるようになるかもって思って、私たちはこの森にきたのよ」 勇者「僕の側室になるために追ってきたのではないのですか?」 魔法使い「違うわよ!!あんたからも言ってあげて!!」 僧侶「……」モジモジ 魔法使い「え?」 勇者「まあまあ、とにかく今は森を出ましょう。―――外でエルフが待っているのですから」 魔法使い「そうよ……そうだったわ。エルフが仲間になったのよね」 僧侶「そうですね。ボクっ娘さんというエルフが仲間になってくれたのなら、私たちの欠点を改善することも―――」 345:NIPPERがお送りします:2012/06/15(金) 00 24 35.00 ID hpeqfj4Jo―――フィールド エルフ「無理」 魔法使い「え……」 僧侶「本当ですか?」 エルフ「貴女たちはそういう特異体質だから。魔力を調整することで改善されることはないよ」 魔法使い「そんなぁ……」 勇者「残念でしたね」 魔法使い「他人事だと思って……!!」 エルフ「でも……補強はできるかもしれない」 僧侶「補強?」 エルフ「定期的に魔術による補強を行えば魔力が一時的に漏れないようにすることはできる」 魔法使い「それでもいいわ」 僧侶「お願いします」 エルフ「かなり面倒だけど……。まあ、これから先のことを考えれば―――」 勇者「ゆるさんっ!!!!」 346:NIPPERがお送りします:2012/06/15(金) 00 30 50.22 ID hpeqfj4Jo魔法使い「なっ?!」 僧侶「ひぐっ」ビクッ エルフ「どうして?」 勇者「ならん!!!お母さんから貰った体を大切にしないやつなんて、俺は嫌いだ!!!」 魔法使い「何言ってるのよ?!旅を続けるなら―――」 勇者「ダメー!!!!絶対にノー!!!ノォォォ!!!!」 エルフ「ど、どうしてそこまで……」 僧侶「勇者様……?」 魔法使い「どうしてよ!?私たちが一般的な魔力の扱い方ができれば、戦いだって劇的に楽になるわよ?!」 勇者「貴女たちの体質が改善される……それすなわち、他の魔法使いや僧侶と同じになるということ」 僧侶「そ、そうですね」 勇者「つまり、治癒をするとき対象の人物に触れなくても大丈夫になるってことですね?」 僧侶「はい」 魔法使い「いちいちくっつきに行くのはタイムロスだし、離れた場所からでも治癒ができるって相当いいことじゃない」 勇者「没個性じゃん!!!なにいってんのぉ?!」 347:NIPPERがお送りします:2012/06/15(金) 00 37 05.33 ID hpeqfj4Joエルフ「没個性って……。そんな考えで魔王と戦うつもりだったの?」 勇者「何か問題でも?」 エルフ「いや……」 魔法使い「ちょっと。アンタの足りない脳みそでよく考えなさいよ」 勇者「僕の頭には欲望がぎっしり詰まってますが」 魔法使い「いい?私たちは基本的に前線で戦えない」 勇者「当然です。前に出て戦うのは僕の役目ですから」 魔法使い「でしょ?なら、離れたところから治癒ができるってすごく便利よね?」 勇者「そうですね」 魔法使い「分かってくれたのね」 勇者「はい」 魔法使い「じゃあ、補強を―――」 勇者「ならんっ!!!」 魔法使い「なんでよ?!」 勇者「するなら魔力が漏れないようにするだけ!!治癒は今までどおり抱きつかないとできないようにしなさい!!!」 348:NIPPERがお送りします:2012/06/15(金) 00 42 48.41 ID hpeqfj4Jo魔法使い「なんの解決にもならないでしょ!?」 僧侶「それに魔力の漏れを防いでしまうと、密着しての治癒は不可能になりますよ」 勇者「そうなのですか?!じゃあ、だめ!!今のままでいい!!自然体っていいですよね!!!」 僧侶「え……」 勇者「ね!?」 僧侶「は、はい……」 勇者「さあ、いざ行かん!!魔王の城!!!」 エルフ「え?結局、補強はしなくてもいいってこと?」 魔法使い「ちょっと!!デメリットが消せるのよ!?」 勇者「黙ってくださいよぉ!!」 魔法使い「拒む理由を言って!!」 勇者「理由?そんなの……一つしかないですよ……」 エルフ「あ……もしかして、二人の特異体質を利用して相手の意表を突く作戦を色々考えているとか?」 魔法使い「そうなの?」 勇者「違う。―――僕がぁ!!!いや、俺がぁ!!!合法的に女体に触る機会が減るでしょう!?分かってくださいよぉ!!!」 351:NIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/06/15(金) 00 46 44.42 ID HYAX4iBooゲスっぷりが素晴らしいな 352:NIPPERがお送りします:2012/06/15(金) 00 50 48.30 ID hpeqfj4Joエルフ「は……?」 勇者「普段からガード固いくせに……更に強化するとか……マジで勘弁してくださいよぉぉ……」ウルウル 魔法使い「……」 僧侶「勇者様……私に抱きつかれるの……お嫌いじゃないんですか?」 勇者「なんで?!むしろ好きですよぉ!!!」 僧侶「そ、そうですか……よかった……」ホッ 魔法使い「待って」 勇者「なんですか?」 魔法使い「あの……その……なんて言ったらいいか……分からないんだけど……」 エルフ「サイテー……こんな人間が勇者って……」 僧侶「あの……きっと勇者様にもお考えがあってのことでは?」 魔法使い「考えって!!たった今、本音を語ったじゃない!!!」 僧侶「目に見えること全てが本質とは限りません」 エルフ「やけに肩持つね。何かあったの?」 僧侶「い、いえ……私は勇者様のことを信頼しているだけでして……」 353:NIPPERがお送りします:2012/06/15(金) 00 59 09.07 ID hpeqfj4Jo勇者「流石ですね。貴女の側室度が5ポイント上がりました」 僧侶「わーい」 魔法使い「ちょっと!!!なによその不愉快なポイントは!!」 勇者「ええい!!とにかく、今のままで何も問題はありません!!!」 魔法使い「嘘でしょ……」 勇者「本当です」 エルフ「ボクはどっちでもいいけど……どうする?」 勇者「……」 魔法使い「……私はまだいいわ。でも、こっちはどうするのよ」 僧侶「わ、私ですか?」 魔法使い「この子は常に魔力が漏れている状態、休んだり食事をとったりしないと1時間ほどで魔力が無くなるのよ?」 勇者「……」 魔法使い「今後、内部が複雑な塔や洞窟を探索するようなことがあればどうするの?」 勇者「そのためにエルフ族を仲間にしたのですが?」 魔法使い「おい!!!いい加減にしなさいよ!!!」 354:NIPPERがお送りします:2012/06/15(金) 01 07 07.62 ID hpeqfj4Jo僧侶「えっと……勇者様……私は……不必要ということですか?」 勇者「何を言っているのですか。貴重な側室候補なのに、必要ですよ」 僧侶「ゆうしゃさまぁ……」 エルフ「あのー……」 魔法使い「あのねえ!!!!」 勇者「とまあ、冗談はこれぐらいにして」 エルフ「どういうこと?」 勇者「定期的に魔術を施しても一時的にしか効果が得られないのであれば、労力の無駄遣いでしょう」 エルフ「それは……」 魔法使い「……」 勇者「もっと効率のいい方法はないですか?―――例えば普段は魔力漏れを完全に遮断し、治癒が必要なときだけそれを解放させるとか」 僧侶「いいですね」 勇者「ええ。それなら長時間の活動もできるようになります」 エルフ「なるほど。うん。それなら魔力を封じる装飾品を身につければできるかもしれない」 魔法使い(反論したいけど……できないわ……悔しい……) 355:NIPPERがお送りします:2012/06/15(金) 01 13 48.05 ID hpeqfj4Jo勇者「では、その方法で試してみましょう」 エルフ「わかった。じゃあ、作業に集中できる場所に行きたいのだけど」 勇者「それなら街に向かいましょう。宿屋で道具の製作を」 エルフ「街……か……」 勇者「……?」 僧侶「この道をまっすぐいけば着くはずです」 魔法使い「これからのこともそこで考えたほうがいいわね」 勇者「はい。情報収集もしないといけませんし」 僧侶「あの……勇者様」 勇者「なんでしょうか?」 僧侶「人身売買を行っている組織のことご存知ですか?」 勇者「人身売買?」 魔法使い「ちょっと」 僧侶「今から行く街にその組織があると……噂で……」 勇者「……」 357:NIPPERがお送りします:2012/06/15(金) 01 21 20.79 ID hpeqfj4Jo魔法使い「それ今、言っても仕方ないでしょ?」 僧侶「でも、私は放っておけません」 勇者「人身売買……ですか。組織ぐるみでそんなことを」 僧侶「もしかしたらエルフ族を拉致している人もいるかもしれません。いえ、きっと居ます」 エルフ「だろうね。人間はそういう生き物だ。見方によってはボクだって誘拐されたようなものだし」 勇者「営利誘拐です」 エルフ「はっきり言わないで」 勇者「わかりました。勇者としてもそのような非人道的行為を看過することは出来ません」 僧侶「ありがとうございます」 魔法使い「でも、裏世界の話よ?どうやって調べるの?」 勇者「裏世界の人物に聞けばいいだけの話です」 僧侶「どうやって……?」 勇者「こちらには今、いいエサもありますし。ね?」 エルフ「え?」 魔法使い「まさか……」 www57.atwiki.jp/matome_ssm/pages/12.html
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147:NIPPERがお送りします:2012/06/07(木) 21 18 48.59 ID hpeqfj4Jo―――黄金の国 村 勇者「……」 僧侶「えと……」 魔法使い「黄金なんてどこにも無いわね」 勇者「なんてことだ……」 僧侶「掘ればでるかもしれません!!金は土ですし!!」 勇者「なるほど!!」 魔法使い「馬鹿か……」 村人「あの……貴方たちは?」 勇者「どうも。遠路遥々やってきました。金をよこしやがれ」 村人「旅の人……。悪いことはいいません。すぐに立ち去りなさい」 僧侶「え……?どうしてですか?」 村人「この国は魔王の手に落ちたのです」 魔法使い「魔王に……?」 勇者「詳しい話を聞かせてもらえますか?」 148:NIPPERがお送りします:2012/06/07(木) 21 27 53.38 ID hpeqfj4Jo―――村長の家 勇者「失礼いたします」 村長「旅の人か。村民から聞いておる。座りなさい。これ、茶を」 村娘「は、はい」パタパタ 僧侶「お構いなく」 村長「この国のことはお聞きになりましたかな?」 勇者「はい。魔王に占領され、酷い圧政を受けていると」 村長「若い者は皆、連れて行かれ……どこかで奴隷のような扱いを受けていると聞きます」 僧侶「酷い……」 勇者「女性もよく連行されているようですが?」 村長「この国を取り仕切っている魔物が女を好んで喰らう」 勇者「いい趣味をしていらっしゃる」 魔法使い「皮肉に聞こえないわよ?」 村長「月に数人、女は生贄にされている。この村だけでなく、他の村でも同じのようだ」 僧侶「許せませんね……」 149:NIPPERがお送りします:2012/06/07(木) 21 34 42.90 ID hpeqfj4Jo勇者「いや、全くです。僕の天敵となる魔物だ。絶対に排除せねば」 魔法使い「はぁ……」 村娘「ど、どうぞ、お茶です……」 勇者「……」パシッ 村娘「え……?」 勇者「僕の側室になってくれませんか?」 村娘「えぇ……?」 魔法使い「ねえ?手を貸して?」 勇者「はい」ギュッ 魔法使い「ありがとう」ギュッ 勇者「あづぃぃ!?!?」 魔法使い「痴漢。国境を越えてすぐに馬脚を露せないで」 勇者「やけどしたぁ……。―――応急措置」ムニュ 僧侶「きゃぁぁぁぁ!!!!!」 魔法使い「胸を揉むなぁ!!」 150:NIPPERがお送りします:2012/06/07(木) 21 40 33.98 ID hpeqfj4Jo村長「あの……。あなた方は一体?」 勇者「ただの勇者です」キリッ 村娘「勇者……様?」 村長「まあ、よくわかりませんが、ともかくこの国には長居しないほうがよい」 勇者「そうですね。ご忠告ありがとうございます」 村長「いえ」 勇者「行きましょう」 魔法使い「どこに?」 勇者「そうですね……」 村娘「あ、あの……」 勇者「なんですか?」 村娘「勇者様……この国を救っていただけませんか……?」 村長「これ!何を言っておる!他国の者を巻き込んでいい話ではない」 勇者「貴女に頼まれては断れない。この国を恐怖に陥れている元凶はどこにいるのですか?」 村長「な……!?本気ですか?!」 151:NIPPERがお送りします:2012/06/07(木) 21 48 34.86 ID hpeqfj4Jo勇者「どちらにせよ、僕の夢を脅かす存在は消さねばならないので」 村長「なんという……」 魔法使い「まあ、ものすごい不純な動機よね」 僧侶「でも、その想いこそが勇者様の原動力なわけですし」 魔法使い「そんな原動力、燃えてしまえばいいのに」 勇者「燃えているからこうして行動に移しているのではありませんか」 魔法使い「はいはい。―――で、その支配者はどこに?」 僧侶「ふふっ」 魔法使い「なによ?」 僧侶「あ、ごめんなさい。討伐することには反対じゃないんだなって思って」 魔法使い「見てみぬフリはできないわ」 僧侶「そうですね」 魔法使い「ふんっ」 村長「みなさん……ありがとうござます。では、お教えします」 勇者「はい、お願いします」 153:NIPPERがお送りします:2012/06/07(木) 22 01 15.63 ID hpeqfj4Jo勇者「地図を」 僧侶「は、はい」 勇者「場所からしたら……この辺りに問題の洞窟があるのですね」 村長「ええ」 僧侶「なるほど」 魔法使い「ここからならそう遠くないわね」 勇者「では、明日の朝向かいましょう。こちらも万全にしておくべきです」 僧侶「はい」 魔法使い「わかったわ」 勇者「では、村長様、よそ者の僕たちに色々とありがとうございます」 村長「気にしないでください。それより、もしよければ、今日はこの家で休んでいくといい」 勇者「え……?」 村娘「勇者様。是非、そうしてください」 勇者「……なるほど。貴女の入浴中に僕が間違って入ってしまうという展開ですね?」 魔法使い「いい加減にして」 154:NIPPERがお送りします:2012/06/07(木) 22 10 05.49 ID hpeqfj4Jo―――客間 勇者「……」 僧侶「勇者様?どうかされましたか?」 勇者「黄金の国にしては随分とオープンだなと思いまして」 魔法使い「どういうことよ?」 勇者「自分が聞いた話では他国の人間に対しては排他的な態度を取るということだったのですが」 僧侶「あまり隣国とも交流しない国だって言われてますね」 勇者「得体の知れない僕たちの話を簡単に信用しているのが解せない」 魔法使い「考えすぎじゃない?私たちだって黄金があるとかいう風説を信じてたわけだし」 勇者「だといいですけど」 魔法使い「……」 勇者「まあ、でも、今はそんなことなど瑣末事ですね。なにせ、今日は相部屋ですし。これは間違いが起こる予感。いや、起きろ」 僧侶「ま、間違いって……」 魔法使い「早く寝てよ。明日は大変なんだから」 勇者「馬鹿な……。同じ部屋で寝るのにぱふぱふも無しだと……?」 155:NIPPERがお送りします:2012/06/07(木) 22 18 32.57 ID hpeqfj4Jo―――翌朝 勇者「一食一飯の恩、忘れません。魔物の討伐をもって、返します」 村長「それはおつりが出るぐらいだな。お願いします」 勇者「はっ」 僧侶「では、行きましょう」 魔法使い「お世話になったわ」 村娘「お気をつけて、勇者様」 勇者「はい。貴女の笑顔を取り戻すために行って参ります」 村娘「そ、そんなぁ……照れます……」 魔法使い「……」ガシッ 勇者「つめたぃ!?」 僧侶「あの……仲良くしてください……」オロオロ 村長「……では、行って参ります」 村娘「できるだけ奴らの実力を引き出せ」 村長「はい」 156:NIPPERがお送りします:2012/06/07(木) 22 22 36.03 ID hpeqfj4Jo―――洞窟 勇者「ここか……」 魔法使い「嫌な空気ね。魔物の巣窟だと思ったほうがいいかもしれないわ」 勇者「ええ。十分に警戒して進みましょう」 僧侶「は、はい……」 勇者「僕の腕にしがみついていてもいいですよ?」 僧侶「で、では……」ギュゥゥ 勇者「ああ、癒される」 魔法使い「……もう文句を言う気力もないわ」 魔物「グルルル……!!」 勇者「早速ですね」 僧侶「ひっ……」 魔法使い「……」パシンッ 勇者「お二人は僕の後ろにいてください」 魔物「ガァァァァ!!!」ダダダッ 157:NIPPERがお送りします:2012/06/07(木) 22 33 17.31 ID hpeqfj4Jo勇者「―――随分と歩きましたね」 僧侶「そうですね」 魔法使い「休憩にする?」 勇者「ええ。それがいいでしょう」 僧侶「はぁ……申し訳ありません。私のために……」 勇者「僕も疲れてますし。お互い様です」 僧侶「そうですか……?」 魔法使い「私もつかれた―――きゃっ!?」ビクッ 勇者「どうしました?僕の魅力に興奮してしまったのですか?!」 魔法使い「水滴が首筋に当たったの」 僧侶「水滴……?そういえば、ここ鍾乳洞なんでしょうか?」 勇者「地形的にそうでしょうね。きっと最深部に行けば綺麗な水がいっぱいあるのでしょう」 僧侶「こういうところのお水は絶品だって聞きますよ」 勇者「身を清めるのには打って付けですね。お二人とも、ここは僕を気にせず全裸になって泳ぐことをお勧めします」 魔法使い「こういうところの水温がどれだけ低いか知ってて言ってるの?」 158:NIPPERがお送りします:2012/06/07(木) 22 37 54.04 ID hpeqfj4Jo―――最深部 勇者「む……?」 僧侶「誰か……いる?」 魔法使い「もしかして……」 勇者「奴の足下を見てください」 僧侶「え……?な、なんですか……あれ……?」 魔法使い「骨ね」 僧侶「うっ……?!」 勇者「神聖な水場でこのような蛮行を行っているとは、僕も驚きを隠せませんね。これではお二人を泳がせるわけにはいかない」 魔法使い「泳ぐ気なんて更々ないけど」 魔人「―――来たか」 勇者「貴様がこの国を支配している魔物か」 魔人「その通りだ。矮小なニンゲンどもめ。自ら餌になりに来るとは殊勝な心がけだな」 勇者「この二人は僕が食べる!!手を出すな!!」 魔法使い「真面目にやって……お願いだから……」 159:NIPPERがお送りします:2012/06/07(木) 22 44 04.58 ID hpeqfj4Jo魔人「カカカカ!!可笑しなことをいう。今から八つ裂きにされる者が私に命令するか?」 勇者「まあ、手を出す隙なんて与えないけどな」 魔人「減らず口を……」 僧侶「く、くる……!!」ササッ 魔法使い「いいわね、盾」 僧侶「勇者様、がんばってください」 勇者「お二人もサポートお願いします」 魔法使い「出来ればいいけど……」 魔人「行くぞぉ!!!」 勇者「こいっ!!」 村娘「さて、その実力いかほどか」 村娘「色々と見せてもらおうか……」 村娘「ん……?あの後ろにいる二人は何もしないのか……?」 村娘「それとも……何か狙いがあるのか……?」 161:NIPPERがお送りします:2012/06/07(木) 22 58 39.14 ID hpeqfj4Jo勇者「せぇぇい!!!」ギィィン 魔人「カカカカ!!!なんだそれはぁ!!」ドゴォ 勇者「がっ?!」 魔人「私の体を切り裂くには力量が足りないようだな」 勇者「ふっ!!」シュッ 魔人「きかぬわぁ!!」 勇者「化け物め。トロルでも掠り傷程度のダメージはあったのに」 魔人「カカカカ!!!」ドガァ 勇者「づっ!?」 魔人「カカカカカ!!!期待ハズレだな。ここで終わりにしてやろう!!」 勇者「―――それはどうかな?」 魔人「なに?」 勇者「気がついていないのか?この空間の空気が凍りつつあることに」 魔人「貴様ぁ!!何をしているぅ!!!」 魔法使い「内緒に決まっているでしょ?」 162:NIPPERがお送りします:2012/06/07(木) 23 05 24.29 ID hpeqfj4Jo勇者「ここは鍾乳洞だ。色々と水が多い。それが寒さで凍れば……」 魔人「くだらぬ。私を氷柱で殺すとでもいうのか?」 勇者「そうだ!!もう天井は無数の氷柱だらけだ!!見てみろ!!」 魔人「なんだとぉ?!」バッ 勇者「かかったな!!」ダダダッ 魔人「―――ひっかかるか、アホがぁ!!!」ドゴォ 勇者「がはっ!?」 僧侶「勇者様!!」ダダダッ 魔法使い「……っ」 魔人「この程度の温度で氷柱ができるわけないだろうが!!」 勇者「ごもっとも……」 魔人「コケにして……死ねぇ!!!」 勇者「ちっ!!」ギィィン 魔人「飛び散れっ!!」ゴォォォ 勇者「魔法か……!!」 163:NIPPERがお送りします:2012/06/07(木) 23 14 46.97 ID hpeqfj4Jo魔人「ハーッハッハッハッハ!!!」 僧侶「―――やぁぁぁ!!!」ダダダッ 魔人「はっ!?」 僧侶「シールドアタック!!」ガキィィン 魔人「うおぉぉ?!」 勇者「僕に集中しすぎたな」 魔人「ふん。これしきで―――」ダッ 魔法使い「あ、そこ凍ってるわよ」 魔人「なっ―――」ツルッ ドボンッ!! 勇者「よし。リムストーンプールに落ちた」 魔法使い「私が凍らせられるのは手で触れられるところだけだから」ピトッ 魔人「ぷはっ!!―――力では敵わぬから溺死させようとするのか?カカカカカ!!!!実に浅はかだな!!」 魔人「魔物を舐めるのも大概にしておけぇぇ!!!ニンゲンがぁぁぁ!!!床に転がっている塵芥の骸となれぇ!!」 魔法使い「この巨大な水溜りと一緒に凍りなさい」コォォォ 164:NIPPERがお送りします:2012/06/07(木) 23 24 12.05 ID hpeqfj4Jo魔人「こ、これは……!!!凍っていく……!!」 ピキ……ピキピキ…… 僧侶「やりました!!」 勇者「魔物はすぐに熱くなるからわかり易くていいな」 魔人「おのれぇ……!!これしきで私の動きを封じたと思っているのか!!」 勇者「いいや。思ってない。だけど……すぐには身動きが取れないはずだ。これだけ深く、広い水源が一気に凍ればな」 魔法使い「……」スッ 魔人「なに……を……」 魔法使い「物理攻撃に強くても魔法ならどうかしらね?」ギュッ 魔人「きさまっ……」ゾクッ 魔法使い「燃えろぉ!!」ゴォォォ 魔人「ガァァァ……ァ……ァァ……」 勇者「ここで凄惨な死を遂げた人たちにせめてもの手向けを」 僧侶「はい。僭越ながら……祈らせていただきます……」 魔法使い「疲れた……。なんでいつも大量の魔力を使わせるの?」 165:NIPPERがお送りします:2012/06/07(木) 23 28 31.29 ID hpeqfj4Jo勇者「それは貴女が―――」 村娘「実に有能な魔術師を連れているようですね」 勇者「なっ!?」 僧侶「え……」 魔法使い「貴女は……村長さんのところにいた……」 村娘「勇者様。全て見させてもらいました」 勇者「もしかして……僕の側室になってくれるのですか?」 村娘「私がニンゲンであれば……貴方に惚れていたでしょうね」 僧侶「人間で……あれば……?」 魔法使い「あんた……だれなの?」 村娘「ふふふ……実力をもう少し見せてもらおうか……勇者よ!!!」メリメリ 勇者「な……ななな……!?」 ドラゴン「―――予想以上に部下が使えなかったのでな。行くぞ?」 僧侶「あ……あぁぁ……」ガクガク 魔法使い「う、うそでしょ……?」 166:NIPPERがお送りします:2012/06/07(木) 23 36 44.76 ID hpeqfj4Jo勇者「バ……バカな……」プルプル 僧侶「伝説の魔物が……いる……なんて……」ヘナヘナ 魔法使い「しっかりして!!」 ドラゴン「ふふふふ……。どいつも同じだな。俺の姿を見れば驚愕し萎縮する」 ドラゴン「魔王様は魔物を統べる王。ドラゴンが傍にいても可笑しくはないだろう?」 勇者「な……なんてことだ……そんな……ありえない……!!」プルプル ドラゴン「ふふふふ……。さあ……その力を見せろ。魔王様の脅威となる存在なのかどうか……!!」 ドラゴン「ただし、勢い余って殺してしまうことになるだろうけどな」 魔法使い「そんな……」 僧侶「死ぬ……わたしたち……ここで……」 勇者「く……そ……!!!」ギリッ ドラゴン(ふんっ。なんだ、他のニンゲンどもと変わらないようだな。恐怖に身を震わせ、絶望している。魔王様の杞憂だったか―――) 勇者「くそぉぉぉぉ!!!!ふざけんなぁぁぁぁぁ!!!!!!てめぇぇぇ!!!!!」 ドラゴン「……!?」ビクッ 勇者「さっさと女の子の姿に戻れよ!!!俺はあの女の子を側室候補にしてたんだぞ!!!なのにそんな醜い姿になりやがってぇぇ!!!」 167:NIPPERがお送りします(チベット自治区):2012/06/07(木) 23 39 29.62 ID KF/058IMoブレないなあ、勇者 168:NIPPERがお送りします:2012/06/07(木) 23 42 56.77 ID hpeqfj4Joドラゴン「み、醜いだと……!?」 魔法使い「な、なにいってるのよ!?そんなこと言ってる場合!?」 僧侶「そ、そうですよ!!勇者様ぁ!!」 勇者「俺を裏切りやがってぇぇ……!!絶対に……!!絶対に許さん!!!」 ドラゴン「き、貴様……!!俺の姿を見てなんとも思わないのか?!」 勇者「醜いトカゲに用はないんだよぉ!!!」 ドラゴン「きさ……ま……ニンゲンの分際で……!!!この俺に罵詈雑言を……!!」 勇者「俺の側室候補返せぇぇ!!!」 魔法使い「にげるわよ!!早く!!!」 僧侶「勇者様!!お気持ちは分かりますがここは退きましょう!!」 勇者「早く女の子に戻れ!!今なら一緒にお風呂で許してやらぁ!!!」 ドラゴン「ぬかせぇ!!ニンゲンがぁぁ!!!灼熱の業火にやかれろぉぉ!!!!」 勇者「こっちはとっくに腸煮えくり返ってるんだよぉ!!オオトカゲが!!」 ドラゴン「殺すっ!!―――焼け死ねぇ!!!」ゴォォォォ!!! 僧侶「きゃぁぁぁ!!!!」 169:NIPPERがお送りします:2012/06/08(金) 00 02 59.55 ID hpeqfj4Jo勇者「お願いしますっ!!」 魔法使い「もうアンタと出会ってから毎日のように魔力が空になるのはなんでなのよぉ!!」コォォォ 魔法使い「―――凍れ!!」 ボゥン!! ドラゴン「霧?!」 勇者「退却!!!」ダダダッ 魔法使い「賛成!!」ダダダッ 僧侶「異議なしです!!」ダダダッ ドラゴン「これしきの目くらましなど……俺の両翼で!!!」バサバサ ドラゴン「―――くっ。逃げられたか」 ドラゴン「まさか俺の灼熱を利用して霧を発生させるとは……。この水溜りを一気に氷漬けにできるなら、不可能ではないか……」 魔人「おぉぉ……ドラゴンさま……お、た……すけ……く―――」 ドラゴン「役立たずは不要だ」ゴォォォ 魔人「ギャァ……ァァァ……!!!」 ドラゴン「確かに注意が必要かもしれないな」 170:NIPPERがお送りします:2012/06/08(金) 00 11 32.38 ID hpeqfj4Jo―――フィールド 勇者「はぁ……はぁ……」 僧侶「はぁ……追っ手はいない……ようですね」 魔法使い「ねえ……もしかして……この国には……」 勇者「生きている人間はいないでしょうね」 僧侶「そ、そんな……」 勇者「魔王め……僕の理想郷成立を邪魔するのか……」 魔法使い「アンタねえ……」 勇者「完全に魔王の手によって落とされた国は、どこも同じと見ていいでしょうね」 僧侶「許せない……」 魔法使い「ええ。気分が悪いわ。私の力がどこまで通用するかわからないけど……」 僧侶「勇者様……私も……がんばります。できるだけのことはします」 魔法使い「人間を皆殺しなんてさせたくない。アンタは?」 勇者「勿論、皆殺しなんて見過ごせません。―――それって美人な人もいなくなるってことですからね」キリッ 魔法使い「……はぁ。はいはい。そうですね」 171:NIPPERがお送りします(関西・北陸):2012/06/08(金) 00 26 27.49 ID mfR8KEvAOモンスターっ子に興味はない、か… 172:NIPPERがお送りします(熊本県):2012/06/08(金) 00 59 36.71 ID 0/O30EmPoつまり変態レベルは俺達が上と 173:NIPPERがお送りします(岡山県):2012/06/08(金) 01 09 09.21 ID beIJcq5Ao俺たちの高みまで来れるか?勇者よ 185:NIPPERがお送りします:2012/06/09(土) 17 49 23.93 ID hpeqfj4Jo―――魔王城 ドラゴン「魔王様、ただいま戻りました」 魔王「どうだった?」 ドラゴン「はい。魔王様の想像通り、中々の使い手でした」 ドラゴン「勇者と思われる男は自分の姿を見ても冷静さを失わず、したたかに行動していました」 ドラゴン「後方支援者と思しき術者も、空間を一瞬で凍らせるほど熟練された魔法を駆使していました」 魔王「なるほど」 ドラゴン「我が炎すらも掻き消すことができるニンゲンが存在するとは思いませんでした」 魔王「……よく無傷で帰ってこれたな」 ドラゴン「いえ。流石にそれだけでは勝てないと判断したのでしょう」 魔王「お前の炎を相殺できるだけの力量を持ちながら、即時撤退をしたというのか?」 ドラゴン「ええ、その通りです」 魔王「竜族を間近で見ても冷静な行動を取れるだけの思考能力と行動力があり、しかも対抗できる術を持っていて逃亡を即断するか……?」 ドラゴン「魔王様?」 魔王「炎を凌ぐ以上のことはできないのか……それとも……。どちらにせよ、もう少し知りたいな……勇者一行のことを……」 186:NIPPERがお送りします:2012/06/09(土) 17 57 48.90 ID hpeqfj4Jo―――夜 夜営地 勇者「テント、張れましたよ」 僧侶「いつもありがとうございます」 勇者「いえ。これぐらいのことは喜んでします」 魔法使い「不思議ね。あのドラゴン、追ってくると思ったのに」 勇者「初めから殺す気はなかったのでしょう」 僧侶「どうしてですか?あんな熱そうな火まで吐いてきたのに」 勇者「殺すなら僕たちが魔人と戦っているときに頭上かた灼熱の炎を吐けばいいだけですからね」 魔法使い「それは仲間を巻き込みたくなかったからじゃ……」 勇者「あのドラゴンは村娘に扮して僕たちをあの洞窟に誘いました。なら待ち伏せして丸焼けにだってできたはず」 魔法使い「あ……言われてみればそうね」 勇者「きっと力量を見ていたのでしょう」 僧侶「でもどうしてそんなことを?私たちでは絶対に太刀打ちできないのに」 勇者「あのドラゴンはきっと誰かに命令されて、あんなことをしたのでしょう。でなければ僕たちなんて瞬殺ですし」 魔法使い「ちょっと待って。それってつまり……ドラゴンを指示している……魔王が私たちのことを警戒をしているってこと?」 187:NIPPERがお送りします:2012/06/09(土) 18 07 26.43 ID hpeqfj4Jo勇者「はい」 僧侶「ど、どうして……」 勇者「トロルの一件が魔王を慎重にさせているのかもしれませんね」 魔法使い「そっか。側近を倒したから、無理な特攻がしにくいのね」 勇者「だと思います。トロルも魔王の側近だとするなら、トロル以上の強者は恐らくあまり居ない。あのドラゴンぐらいかもしれません」 僧侶「そのトロルを倒したから、魔王は警戒して力押しで来ようとしないのですか」 勇者「魔王からしてみればトロルが人間に倒されたことは予想外だったはずですから」 魔法使い「魔王にとって私たちは未知の相手ってわけね」 勇者「トロルより力がある者を嗾け、万が一、その者がやられてしまっては事です。相手は今、情報収集の最中なのでしょう」 魔法使い「なら、ボロがでちゃったら……」 僧侶「一気に攻めてくる……?」 勇者「そうなっては無残に死ぬしかありません」 魔法使い「……」 僧侶「そ、そんな……」 勇者「でも、安心してください。僕は死なない。貴女たちを側室に迎え入れ、楽しい隠居生活を満喫するまではっ!!」 188:NIPPERがお送りします:2012/06/09(土) 18 16 09.44 ID hpeqfj4Jo魔法使い「かっこつかないわね……いちいち……」 僧侶「そ、そうですか?」 魔法使い「えぇ!?」 勇者「格好の良い理想なんてありません。理想とはエゴ、私欲の塊。口にするだけで嫌悪される。それが理想というものです」 魔法使い「アンタの場合は野望でしょ」 勇者「願望も野望も夢も理想も全部同じですよ。人間の醜悪な部分ですね」 僧侶「そ、そうでしょうか?」 魔法使い「だから、アンタはそれを隠そうとしないから余計に気持ち悪く見えるんでしょう!!?」 勇者「バカな。勇者なのに気持ち悪いとは、これいかに」 魔法使い「あんたねえ……」 僧侶「でも、勇者様にはその強い野望が生命力に転換されているようですし、良い事ではないでしょうか?」 勇者「流石は神に仕えるお人だ。理解が早くて助かります」 僧侶「い、いえ……そんなぁ」 勇者「そう!!多くの美人をはべらせること!!それが僕の原動力!!魔王を倒す力となる!!」 魔法使い「そんな想いで倒される身にもなりなさいよね」 189:NIPPERがお送りします:2012/06/09(土) 18 22 48.82 ID hpeqfj4Jo僧侶「まぁまぁ。でも、将来の夢を持つことはいいことですよ?生きる糧になることは間違いないですし」 魔法使い「否定はしないけど……」 勇者「そういえばお二人とも魔王を倒すのが夢だと言っていましたね」 僧侶「は、はい」 勇者「どうしてそのような夢を?」 魔法使い「……」 僧侶「えっと……」 勇者「お金ですか?それとも名声?」 魔法使い「いいえ、違うわ」 僧侶「あ……」 魔法使い「復讐よ」 勇者「……」 僧侶「勇者様……あの……」 勇者「なるほど。合点がいきました。それで貴女たちは、自ら才能がないと認めながらも魔法使いと僧侶で居続けたのですね?」 僧侶「は、はい……」 190:NIPPERがお送りします:2012/06/09(土) 18 33 29.64 ID hpeqfj4Jo魔法使い「私たちみたいな境遇の人は珍しくないわ。孤児になる理由の七割以上は魔王の軍勢による侵攻のためだもの」 僧侶「私たちの国も魔王の軍勢に支配され……そして、親類を殺されました」 勇者「……」 魔法使い「だから、なんとしても魔王に一矢報いたい。そう思って、修行したわ。結果はこうだったけど」 勇者「半ば諦めていたのでは?」 魔法使い「ええ。最初のうちは反骨精神みたいな感じでがんばってきたけど、現実を突きつけられるうちにやっても無理だって思うようになった」 僧侶「きっと誰かが倒してくれる。仇討ちは見知らぬ勇者様に任せてしまえばいいって……そんなことを考えたこともあります」 魔法使い「誰についていっても役立たずでしかないし……」 勇者「なるほど」 魔法使い「幻滅した?」 僧侶「も、もちろん……世界平和のためでも……」 勇者「世界平和を盾に自分の私欲を隠さないでくれますか?」 魔法使い「なんですって……!?」 勇者「他人に任せてもいいと考える程度の願いでは、叶うことはないでしょうね」 魔法使い「ちょっと……今はきちんと自力で叶えようって思ってるわよ……」 191:NIPPERがお送りします:2012/06/09(土) 18 39 22.09 ID hpeqfj4Jo勇者「本当にそうですか?」 僧侶「も、もちろんです……」 勇者「まさかとは思いますが、僕に全てを託していませんか?」 魔法使い「何がいいたいの?」 勇者「貴女たちは僕を復讐の道具として見ているのではないですか?」 魔法使い「……っ」 僧侶「そ、そんなこと思ってません!!い、いくら勇者様でも……酷いですっ!!」 魔法使い「アンタだって……」 勇者「なんですか?」 魔法使い「アンタだって私たちのことを理想ための道具にしか見てないくせによく言うわ」 勇者「そうですよ?」 魔法使い「なっ……!?」 勇者「貴女たちは僕にとって理想郷を作るための材料に過ぎません」 僧侶「そ、そんな……こと……な、仲間じゃ……?」 魔法使い「最低ね。そんな男だなんて思わなかったわ……」 192:NIPPERがお送りします:2012/06/09(土) 18 43 44.30 ID hpeqfj4Jo勇者「初めに言ったはずです。僕は体目当てだと」 僧侶「そ、それはそうですけど……!!」 勇者「まさか嘘か冗談だと思っていたのですか?」 魔法使い「……」 勇者「でも、いいではありませんか。僕は貴女たちの体が欲しい。そして貴女たちは僕を復讐のために利用する」 僧侶「ち、違います!!」 勇者「交換条件としては悪くありません」 魔法使い「……本気で言っているの?」 勇者「はい」 僧侶「……」 魔法使い「分かったわ」 僧侶「あの……」 勇者「どうかされましたか?」 魔法使い「私は抜ける」 僧侶「え……!?」 193:NIPPERがお送りします:2012/06/09(土) 18 48 45.13 ID hpeqfj4Jo勇者「故郷に帰るのですか?」 魔法使い「馬鹿。ここまで来て帰る訳ないでしょう?」 勇者「な……」 僧侶「あの!!やめてください!!」 魔法使い「アンタのおかげで私なりの戦いかたが分かったし、独りでもやれるわ」 勇者「何を言っているんですか。相手はドラゴンですよ?」 魔法使い「体を張ればあのドラゴンにだって対抗できることは実証されたわけだしね」 勇者「む……」 僧侶「ど、どうして喧嘩になるのですか!?」 魔法使い「まさかアンタがそういう目で見るとは思わなかった」 勇者「……」 魔法使い「……おやすみなさい」 僧侶「あ、まってください!!」 勇者「……」 194:NIPPERがお送りします:2012/06/09(土) 18 55 03.74 ID hpeqfj4Jo―――テント内 僧侶「あの……仲直りしましょう?」 魔法使い「……」 僧侶「勇者様の発言には確かに問題はありました。ですけど、私たちの理由を知ればそう思われても……」 魔法使い「違うわ」 僧侶「え……?」 魔法使い「アイツがあんなことを言ったのが許せないの」 僧侶「……」 魔法使い「自分に正直で、言ってることは変態だけど……筋が通ってて……」 僧侶「あの……」 魔法使い「私たちの欠点を長所に変えてくれて……嬉しかったのに……」 僧侶「もう一度、話をすればいいじゃないですか」 魔法使い「もういいわ。あんな奴……」 僧侶「そんなぁ……」 魔法使い(どうしてあんなこと……言うのよ……ばか……) www57.atwiki.jp/matome_ssm/pages/10.html
https://w.atwiki.jp/ranoberowa/pages/52.html
第029話:姐さんと魔法使いの…… 作:◆a6GSuxAXWA とりあえず身を隠しつつ林を通り抜け、できるだけ見晴らしの良い平地などの場所を迂回し、森へ。 その移動に一時間以上もかけてしまったのは、やや動きが慎重すぎたためか、周囲の地形の把握に手間取ったためか。 加えて景が森林地帯での行動に慣れていなかったこともあるだろうか。 「さて、この地形、地図で言えば……G-6からF-5の地区へ、斜めに動いた事になるわけか」 青いウィンドブレーカーの分厚い生地を利用して光を遮り、懐中電灯で地図と方位磁針を照らす。 探し人の情報を集めるにも物資を集めるにも、D-3周辺に表示された街へ行くのが最善だろうと、僅かな協議の末に決まった。 当然、ゲームに乗った者たちに襲われる危険は増すだろうが――それを言い出すならば、そもそもこの島で安全な場所など無いだろう。 「このままE―4を経由して行けば良い、わね。まだゲーム開始直後二時間と経っていないし、乗り気になっている馬鹿にも罠を仕掛けるほどの時間的余裕は無いと見ていいわ」 銃器も配布されている以上、むしろ遮蔽物の多い森を突っ切る方が安全だろうとは、風見の判断だ。 ちなみに景は――武器がスプーンでは流石にどうしようもない。 己の靴下を脱いで重ね、中にそこらで拾い集めた小石を詰めて、それを武器としていた。 ブラックジャックならば、甲斐と戦った際に用いた経験があるのだ。 「しかし、ただのモヤシかと思ってみれば――意外と慣れた感じね」 森の中を、二人で死角を補いながら移動していると、風見が呟いた。 「……流石に殺しあった経験は無いけどね」 夜の街で『ウィザード』として悪魔を駆り出していた頃に積んだ、様々な経験。 ――まさか今更になって役に立つとは思わなかった。 地図とコンパスを仕舞いつつも、そう思う。 「それじゃ、行くわよ……っ、何?」 「――?」 歩き出した風見の足が、何か柔らかいものを踏んだ。 確認しようと、景が懐中電灯を向けると―― 「…………ッ!!」 それは――頭の潰れた少女の亡骸だった。 二人は知る由も無いが、それは朝比奈みくると呼ばれた少女のものだ。 自分が踏みつけたものの正体に気付き、驚きの声を噛み殺す風見。 景も目を見開いたが、しかし彼は風見に比しても更に冷静だった。 声を無視して亡骸に触れれば、まだ微かな温かみが残っている。 それはつまり―― 「……まだ近くに犯人が居る。隠れろ――ッ」 声を潜めて風見に囁き、懐中電灯の光を消しつつウィンドブレーカーを翻し、手近な茂みへ飛び込む。 次いで風見が傍らの別な茂みに飛び込み、息を潜める。 茂み越しに目を合わせ、頷きあう。 「やる気になっている馬鹿が居る。しかも、下手をするとすぐ傍に――」 風見が、口の中で呟いた。 どうする――? 「頭骨があれほど潰れている点から見て、犯人はそれなりに威力のある武器または能力を所持、か――」 景が、口の中で呟いた。 どうする――? 暗闇で一瞬照らしたのみなので、大口径の銃器かそれとも鈍器による傷なのかも判別はつかなかった。 自分は悪魔が使えなければ、銃器も撃った経験は無い。 武器はブラックジャックの劣化品。 いざとなれば、風見の銃の腕を信じて囮になるか――? と、そこまで思考し景は苦笑。 「……いつの間に、信頼してしまっているんだろうな」 口の中だけで、そう呟く。 あの強気な口調が、幼馴染の少女を思わせるからだろうか。 ともあれ、自分一人では勝てない可能性が高い。 風見と二人でも危ういかも知れない。 一刻も早く―― 「やっぱり、逃げの一手――ね」 風見の声に、景は頷いた。 少女の亡骸に数秒だけ黙祷を捧げると、風見はその手からデイパックを拝借。 「ごめん。貴女の仇を取るなんて言えないけれど……どうか、安らかに」 「……冥福を」 二人は慎重に、茂みに紛れて移動を開始した―― 【残り110人】 【F-5/森の中/一日目、01:55】 『姐さんと騎士(物部景/風見・千里)』 【物部景(001)】 [状態]:正常 [装備]:ブラックジャックもどき(靴下二枚を重ねて小石を詰めた自作品) [道具]:デイパック(支給品入り)、スプーン [思考]:1.現在地よりの離脱。 2.カプセルと海野千絵の捜索。 【風見・千里(074)】 [状態]:正常 [装備]:グロック19(ハンドガン) [道具]:デイパック(支給品入り) 、デイパック(朝比奈みくるの亡骸より。未開封のため内容物不明) [思考]:1.現在地よりの離脱。 2.出雲・覚、新庄・運切、佐山・御言の捜索。 ←BACK 目次へ(詳細版) NEXT→ 第028話 第029話 第030話 第082話 時系列順 第018話 第002話 物部景 第065話 第002話 風見・千里 第065話
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YZQ/085 U 魔法使い? りら/シスターコンプレックス 女性 パートナー V・りら・F/シスターコンプレックス 女性 レベル 2 攻撃力 3000 防御力 4000 【成る程、お仕置きが必要みたいね】《手品》《妹》 【スパーク】【自】あなたのリタイヤ置場の、名前に“りら”か“じゅり”を含むカードが合計3枚以上なら、あなたは相手のフィールドのカードを1枚選び、相手の控え室に置く。 作品 『夜桜四重奏-ハナノウタ-』 備考 2013年12月23日 今日のカードで公開 このカードをパートナーにしているカード 取得中です。 関連項目 取得中です。
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つかさ「こなちゃんって、笑ってること多いよね。」 とある冬の放課後、学校の帰り道をいつものメンバーで歩いていると、不意につかさがそんなことを言い出した。 みゆき「言われてみれば、そうですね。」 こなた「いや~、そうでもないよ。かがみの鋭い突っ込みに何度涙を流したことか。うぅ、ホロリ。」 かがみ「ほぉ、その涙とやらを見せていただきましょうか?」 かがみはこなたを見下げながら(身長的な意味で)こぶしをボキバキと鳴らした。いち早く危険を察知したこなたはみゆきの後ろに素早く隠れた。 こなた「も~、かがみったら、冗談に決まってるじゃん。」 かがみ「まったく・・・。」 こなた「あはははは、・・・・・・ふぅ・・・。」 つかさ「どうしたの、こなちゃん?」 こなた「え?あ、いや、・・・ちょっと、昔のこと思い出しちゃって。」 みゆき「昔のこと、ですか?」 かがみ「どうせ、くだらないことなんでしょ。」 こなた「う、うん、まぁ・・・ね・・・。」 いつもと様子の違うこなたにかがみたちは一瞬戸惑った。 かがみ「ど、どうしたのよ、あんたらしくないじゃない。」 つかさ「こなちゃん?」 みゆき「あまり思い出したくないことでもあったのですか?」 こなたの様子が変わったのは、“昔のことを思い出した”というあとである。そのことから、みゆきのような結論に達するのは至極当然であろう。 こなた「あ、いや、えと・・・。」 かがみ「言いたくないことなの?」 こなた「・・・」 つかさ「こなちゃん・・・」 みゆき「泉さん・・・」 かがみ「・・・」 こなた「まぁ、べつに隠さなきゃいけないことでもないし、話しちゃうよ。」 こなたたちは近くの公園のベンチに座わった。こなたの左にかがみ、右につかさとみゆきがそれぞれ座っている。手には途中で買ったらしい紙パックの飲み物がある。こなたとみゆきはココア、つかさはオレンジジュース、かがみはお茶が入っていた。中身から察するに、かがみはダイエット中のようだ。 こなた「4年前の中学2年生の時にね、約束したんだ。笑ってるって・・・」 こなたと魔法使いの約束 こなた「さぁ、帰ろうか、魔法使いくん。」 魔法使いくん「おぅ!」 とある中学校に仲の良い男女がいた。女の方はこなたである。そして、男の方は魔法使いと呼ばれていた。 魔法使いくん「ところでこなた。」 こなた「何、魔法使いくん?」 魔法使いくん「その魔法使いくんって言うのやめてくんない?かなり恥ずいんだけど・・・。」 こなた「え~、だってこの間の授業参観の時に将来の夢は魔法使いですって言ったじゃん。」 魔法使いくん「た、たしかにそう言ったけど・・・。」 こなた「だから、君は魔法使いくん!あなたに拒否権はありません!以上!!」 こなたは魔法使いと呼ぶ男に“ビシッ”と指を突き立てて言い放った。 魔法使いくん「なんじゃそりゃ・・・。」 魔法使いと呼ばれる男も少々呆れぎみだった。 魔法使いくん「まぁ、いいや。とっとと帰るか。」 こなた「うん!」 そう言うとこなたは、魔法使いと呼ぶ男の腕にしがみついた。そして、二人はそのまま教室を出て行った。 (((((お熱いことで・・・))))) 教室に残っていたクラスメイトはそんなことを考えるのであった。 魔法使いくん「ふぁ~」 こなた「どうしたの、そんな大きな欠伸しちゃって。」 魔法使いくん「いや、昨日お前に付き合わされてずっとネトゲやってたから。」 こなた「ふ~~ん。」 魔法使いくん「しかし、よくお前は平気だな。俺と一緒にネトゲやってたのに。」 こなた「大丈夫、その辺のところは鍛えてあるから。」 魔法使いくん「もうちょっと有意義なことしろよ。」 こなた「えっへん!」 魔法使いくん「ほめてないから・・・」 極小な胸を突き出して威張っているこなたに、呆れて溜息を吐く魔法使いくん。 魔法使いくん「時々お前の将来が心配になるよ・・・。」 こなた「うん?」 魔法使いくん「そういや、お前、この間の授業参観の時に将来の夢、なんつったっけ?」 こなた「私?私はねぇ・・・誰かに寄生して生きたい、だよ。」 魔法使いくん「なんじゃそりゃ。」 こなた「え~、誰だって憧れるでしょう、そういう生活。」 魔法使いくん「憧れねぇよ。て言うか、寄生された方はものすごく迷惑だ。」 こなた「やっぱり、料理ができる人がいいよね。それともお医者さんがいいかな。」 魔法使いくん「待て待て、誰もそんなこと聞いてないから。」 こなた「それとも・・・弁護士がいいかな。」 魔法使いくん「いやいやいやいや、ちょっっと待て。お前、なんかやらかす気満々か!?」 こなた「さぁ、どうだろうねぇ。」 魔法使いくん「・・・」 ニマニマと笑うこなたに、魔法使いくんはかなり引き気味になってしまった。 こなた「冗談だよ、冗談。いくら私でも、警察のお世話になるようなことはしないよ。」 魔法使いくん「そうであってほしいな・・・。」 こなた「で、君の将来の夢は魔法使いだったね。」 魔法使いくん「いや、あれはうけねらいで・・・」 こなた「そっか。じゃ、将来は“ピー○カ・ピリ○ラ・○ポリナ・ペー○ルト”とか言うわけだ。」 魔法使いくん「おい!それ、魔法使いじゃなくて魔女だし!!しかも見習いの!!!」 こなた「ん?それとも“汝のある○き姿に戻れ”?」 魔法使いくん「それも魔法使いとは少し違うって!まぁ、さっきのよりはメジャーだろうけど・・・。」 こなた「“テクマ○マヤコン”?」 魔法使いくん「古い!!」 こなたに対する突っ込みの連続のせいか、魔法使いくんは疲れだしたようであった。 魔法使いくん「はぁ~」 こなた「くすくすくす・・・」 魔法使いくん「な、なんだよ、なに笑ってんだよ。」 こなた「ん~ん?いやぁ、なんだかんだ言っても魔法使いくんは私にあわせてくれてるなぁ、と思ってね。」 魔法使いくん「へ?」 こなた「こうやって私の言うことに突っ込んでくれるし、買い物にも一緒に行ってくれるし、ネトゲもそうだしね。」 魔法使いくん「そ、それは・・・」 こなた「まぁ、だから好きなんだけどね、魔法使いくんのこと。」 いきなり、なんのためらいもなく“好き”と言われて魔法使いくんの顔が赤くなる。確かに、二人は付き合っている、という仲なのだが、不意にそんなことを言われれば顔が赤くなるのも当然かもしれない。 魔法使いくん「や、べ、別に、お、お前にあわせてるわけじゃなくて、ち、違うものを違うと言ってるだけで、買い物だって、お、俺が行きたい所がたまたま一緒なだけで、その、えと・・・」 こなた「ニヤニヤ。」 魔法使いくん「こ、こなた?」 こなた「男のツンデレっていうのもけっこう乙だね。」 魔法使いくん「こ・な・た~!!」 こなた「いや~ん、魔法使いくんにおっそわれる~ん。」 こぶしを握って怒りを表している魔法使いくんに対して、キャハキャハとはしゃぐこなたなのであった。 魔法使いくん「まったく、お前は。」 こなた「にゃははは、怒らない怒らない。あ、そうだ、今日もネトゲしよ。一緒に森の怪物を倒しにさ。」 魔法使いくん「は?いや、今日は無理だろ。」 こなた「え?なんで?」 魔法使いくん「だって今日、英語の宿題出ただろ。明日提出の。ネトゲしてる時間ないって。」 こなた「そっか・・・。じゃ、明日、写させて。」 魔法使いくん「自分でしようという選択はないんかい。」 こなた「ない!」 魔法使いくん「即答かい・・・。でも、それも無理だぜ。提出は明日の1時限目だから写してる時間はないと思うぞ。」 それを聞いたこなたはピタリと歩くのが止まった。魔法使いくんが振り返ると、そこにはなにやらごそごそと自分のかばんを漁っているこなたがいた。 魔法使いくん「こなた、もしかして英語の教科書置いてきたのか?」 こなた「英語に限らず全部置いてってるけどね。」 魔法使いくん「おいおい・・・。」 こなた「ごめん、一回教室に戻って取ってくる。」 そう言うとこなたは、来た道を戻り始めた。 悲劇はその時に起きた。 こなたが戻り始めた道の先の交差点はあまり見通しの良い所ではなかった。 それゆえにこなたは自分に近づいてくる車に気が付かなかった。 車の方もこなたに気が付いていないようだった。 車はスピードを緩めずこなたも交差点を飛び出す形となってしまった。 結果・・・ キーーーーー、ドン!! こなたは突き飛ばされてしまった。 しかし、痛みはほとんどなかった。 車に撥ねられたような感覚はなく、どちらといえば人に押し飛ばされたような感じであった。 こなた「あ・・・あれ?」 こなたは自分の置かれている状況がつかめずにいた。自分は車に轢かれたのではないのか、と考えていたが、そうではないのだとすぐに分かった。こなたは後ろを振り返った。 こなた「え?」 そこには先ほど走っていた車があった。そして、その先には、 こなた「そ、そん・・・」 こなたを車に突き飛ばされるのを助けた、ついさっきまで一緒に話していた魔法使いくんの姿があった。 こなた「いやぁぁぁあああぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・」 黒い制服の一部を赤くして・・・。 ピーポーピーポーピーポー・・・ こなたと魔法使いくんを乗せた救急車が病院に向かって走っていた。魔法使いくんの体には脈を計るためにコードが付けられている。魔法使いくんはまだ、意識がなかった。 こなた「ねぇ、起きて・・・お願い、死なないで・・・」 救急隊員「患者を揺すらないでください、脳震盪を起こしている可能性があります。」 泣きながら魔法使いくんの揺すっているこなたを救急隊員が止めた。 魔法使いくん「う・・・あ・・・」 魔法使いくんが意識を取り戻したようだ。 こなた「あ!起きたの!!」 魔法使いくんはその声のする方、つまりこなたのに向かってゆったりと顔を向けた。 魔法使いくん「ひでぇ顔してんな、こなた。」 魔法使いくんはクスリと笑いながらそう言った。 こなた「え?」 魔法使いくん「すっげぇ泣き顔だぜ。」 魔法使いくんは弱々しい声になっていた。 こなた「だって、だって・・・」 こなたはその先何も言わなかった。否、言えなかった。それは、魔法使いくんがゆっくりと手を伸ばして、こなたの頬に触れたからである。そして、触れている手の人差し指で優しく涙を拭き取った。 魔法使いくん「笑え。」 こなた「え・・・?」 魔法使いくん「こなたに泣き顔なんか似合わない。」 こなた「・・・」 魔法使いくん「だから、笑ってくれ。こなたに一番似合ってるのは笑ってる顔だから。」 こなた「・・・うん!」 こなたは笑顔で答えた。さっきまで泣いていたのだからうまく笑えなかったが、それでも精一杯の笑顔を見せた。そして、頬に触れている魔法使いくんの手をそっと両手で掴みながら言った。 こなた「私、笑っているよ。だから、だから・・・」 魔法使いくん「こなた、俺少し寝るわ。」 こなた「え!?だ、だめだよ、寝ちゃ。もし寝ちゃったら・・・」 魔法使いくん「おやすみ、こな、た・・・」 魔法使いくんは再び意識を失った。こなたが掴んでいた手が滑り落ち、ベッドの下に落ちた。と、同時に脈を計っている機械から“ピー”という無情な音が響いた。 こなた「・・・うそ、だよね?ねぇ、ねぇ・・・う、わああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・」 こなたの泣き声が救急車の中を支配したのであった。 こなた「それでねその後、」 つかさ「もういいよ、こなちゃん!!」 かがみ「こなた!!」 こなたの隣で話を聞いていたかがみとつかさはこなたに抱きついた。二人とも泣いているようだ。みゆきもハンカチを取り出して涙を拭っている。 つかさ「辛かったよね、こなちゃん。好きな人が目の前で死んじゃって。私だったらたぶん立ち直れないよ。」 こなた「あの、つかさ・・・」 かがみ「あんたはいつも楽しく笑ってるんだから、きっと天国の魔法使いって人も安心して見守ってるわよ。」 こなた「えと、かがみ・・・」 みゆき「私たちはその方の変わりにはなれません。しかし、泉さんのことを親友だと思っています。ですから、泉さんを悲しませるようなことはしません。私たちも泉さんには笑っていてもらいたいですから。」 こなた「み、みゆきさん?」 かがみ「そうよ、私たちはこなたを悲しませるようなことは絶対にしないわ!」 つかさ「そうだよ、こなちゃん!」 こなた「ああ・・・えっとぉ・・・」 つかさやみゆきだけでなく、いつもは突っ込みをいれるかがみまでもこなたの話しに感傷的になっていた。こなたはなにか言いたいようだが、言うタイミングを逃してしまっているようだった。 “しばらく連絡とってないけど、今何してんのかな” かがみ(あれ?) かがみは前にこなたがそんなことを言っていたのを思い出した。先ほどの話しの流れからいくとそのようなセリフはおかしいのではないか、と疑問を持ち始めた。 かがみ「ねぇ、こな」 ?????「あれ、こなたじゃねえか?」 不意に同学年くらいの男子がこなたに話しかけて来た。 ?????「やっぱりこなただ。ひさしぶりだな!」 こなた「あ、魔法使いくん!ひさしぶり。」 かがみ「・・・は?」 みゆき「・・・」 こなたのセリフに呆けているかがみとみゆき。つかさはなぜか怯えていた。 みゆき「つかささん、どうなされたのですか?」 我に返ったみゆきが様子のおかしいつかさに話しかけた。 つかさ「だ、だって、魔法使いくんって車に跳ねられて死んじゃった人でしょ?と、ということは、ゆ、ゆ、ゆうれぇぇぇぇぇ!?」 かがみ「違うわよ!ていうか、こなた、あんたさっきの話し、うそ!?言っていいうそと悪いうそがあるでしょ!なに考えてるのよあんたは!!」 こなた「ちょ、ちょっと待ってかがみ、落ち着いてよ。」 怒っているかがみをこなたはどうにか宥めようとした。かがみはうそを言ったことよりも人を勝手に死なせたことを怒っているようだった。ちなみに、「え?ゆうれいじゃないの?」「はい、違います、そもそもゆうれいというのは(中略)ということなのです。」「どんだけ~」という会話がつかさとみゆきの間で交わされていたが、ここでは割愛させてもらう。 魔法使いくん「えっと・・・」 話しについていけずに置いてきぼりを食らってしまっている魔法使いくん。 かがみ「あんたもなんか言ってやんなさい。こいつ、あんたのこと交通事故で勝手に死なせてるのよ。」 そんな魔法使いくんの様子に気づいたのか、それとも無意識か、かがみは魔法使いくんに話しを振った。 魔法使いくん「交通事故?もしかして4年前のことか?」 かがみ「え?え、えぇぇぇ?」 かがみは話しが分からずにこなたと魔法使いくんを交互に見ていた。 つかさ「や、やっぱり、ゆうれぇぇぇぇぇ!?」 こなた「つかさも落ち着いてよ。みんな話し、最後まで聞かないんだから。」 かがみ「ど、どういうことよ。」 こなた「この話しには続きがあってね、」 こなた「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」 “バコッ!!” こなた「ふが!?」 突然、泣いているこなたの頭に衝撃が来て、間抜けな声を出してしまった。なにが起こったのか分からずにキョトンとしていると、魔法使いくんは上半身を起こした。 魔法使いくん「うるさいぞこなた、おやすみって言ったのが聞こえなかったのか!?あいててて・・・」 魔法使いくんは体を抑えて再びベッドに倒れ込んだ。 こなた「え?え?ええ??」 状況が掴めずこなたはオロオロしていた。 魔法使いくん「昨日はお前に付き合わされてずっとネトゲしてて寝みぃんだ。寝かせてくれ。」 こなた「え?いや、だって、いま、ピーって・・・」 救急隊員「すいません、抜けたコード付け直したいので少し退いていただけますか?」 こなた」「・・・はい?」 救急隊員が魔法使いくんの手に引っかかっているコードを機械に付け直すと、魔法使いくんの脈が正常であることを示し始めた。こなたはそれを引きつった顔で見ていた。 魔法使いくん「頼むからうるさいしないでくれよ、マジで寝むいから。」 魔法使いくんは欠伸をしながら言った。 “ブチッ!!” そんな音が聞こえてこなたの方を見ると、ものすごい顔でこちらを睨みつけていた。 魔法使いくん「こな・・・た?」 こなた「そっかそっか、寝たいのか。OK、OKぐっすり寝かしてあげるよ。」 こなたはこぶしをバキボキと鳴らしながら表情を変えずにそう言った。 魔法使いくん「こ、こなた?こなたさん??こなた様???」 こなた「おやすみ・・・」 そう言うとこなたはこぶしを振り落とした。 “ドスッ!!” 魔法使いくん「ぐえ!?」 救急隊員「あ・・・」 小さい頃合気道をしていて、運動神経も良いこなたのこぶしは強力だった。しかも、振り下ろした所は・・・ 魔法使いくん「こなた、どう、して・・・」 こなた「私を心配させたバツです!」 魔法使いくん「ぐ・・・、ガクッ、チ~ン・・・」 救急隊員「えっと・・・死因は“キン打撲”でいいでしょうか?」 こなた「はい、いいと思います。」 こなたはハンカチで手を拭きながら答えた。 こなたと魔法使いくんを乗せて走っている救急車のサイレンが、さみしく響いていたそうな。 かがみ「・・・」 つかさ「・・・」 みゆき「・・・」 魔法使いくん「・・・」 こなた「・・・あは。」 かがみ「あは、じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」 こなたはその場の雰囲気を変えようとかわいらしく言ってみたが、どうやら逆効果だったようだ。 かがみ「なんじゃそりゃ、どういうオチだ!どこの漫画ネタだそれは!!」 こなた「オチって・・・別にネタとかじゃなくて、全部本当の話しだよ、ねぇ?」 魔法使いくん「あ?ああ、全部本当の話しだが。」 こなた「ほらね。」 かがみ「なによそれ。隠すほどの話しでも思い出したくないほどの話しでもないじゃないの。」 こなた「隠してはなかったけど・・・思い出したくないことではあったけどね。」 かがみ「なんでよ。」 こなた「私のせいでさ、魔法使いくんけがさせちゃったわけだしさ。」 かがみ「あ・・・」 こなたは毒舌ではあるが、とても友達思いである。そんなこなたにとって、自分のせいでけがをさせてしまった、ということはあまり良い思い出ではないようだ。 魔法使いくん「気にすることないって。大したケガでもなかったし、跡が残ったわけでもないんだから。」 こなた「それは、そうなんだけど・・・」 こなたはうつむいてしまった。表情はよく見えないが暗くなっているように見える。 魔法使いくん「こなた・・・」 かがみ「こな、た?」 こなた「そうだよねぇ、気にする必要ないよねぇ。」 顔を上げたこなたはいつもの猫口に糸目でニヤニヤとしていた。 つかさ「わ、こなちゃん立ち直り早!!」 こなた「いつまでもうじうじしてちゃダメなのだよ、皆の衆。」 みゆき「それは、そうですが・・・」 こなた「むふふ。あ、そうだ、魔法使いくん。」 魔法使いくん「ん?」 こなた「君はちゃんと魔法の修行してるかね?」 魔法使いくん「するか!てか、どうやってするんだよ!!」 こなた「え~、してないの?“ファンファ○ファイン・ラン○ンレイン”とか。」 魔法使いくん「しません!しかもマイナーすぎだろ。」 こなた「じゃ、“魔法変身マー○・マジ・マ○ーロ”とかは?」 魔法使いくん「意外と古いぞ、それ!まぁ、俺は“ボ○ケンジャーVSマ○レンジャー”を見てみたかったがな。」 こなた「“メタモ○フォーゼ!!”」 魔法使いくん「猫ですか?蝶ですか?」 こなた「いえ、薔薇です。」 魔法使いくん「蝶と変わんないから!てか、魔法関係なくなってるし!!」 こなたと魔法使いくんのそんなやり取りをかがみとつかさは意味が分からないような感じで呆けていた。みゆきはニコニコしながらおもしろそうに聞いていたようだが。 つかさ「えっと・・・こなちゃんと魔法使いくんって仲良いね。今でも付き合ってたりするの?」 魔法使いくんがこなたへの突っ込みに疲れてゼェゼェいい始またところにつかさが話しかけてきた。 魔法使いくん「え?あぁ・・・それは」 こなた「いえ、もう別れました。」 つかさ「ほぇ?な、なんで?」 こなた「あんな紛らわしい寝方する人とは付き合ってられません。」 かがみ「なによそれ・・・」 こなた「ん~、まぁそういうもんだよ。あ、もうみんな飲み終わってるね。私捨ててくるよ。」 そう言うとこなたはかがみたちからコップを(ほぼ強引に)受け取り、自販機横のゴミ箱へ捨てにいった。 かがみ「無理しちゃって・・・。」 つかさ「え?」 みゆき「かがみさん?」 かがみ「わざと明るく振舞って心配させないようにしてさ、別れた理由だってたぶん違うんでしょ?」 かがみは魔法使いくんを横目で見ながら言った。 魔法使いくん「ああ、たぶん、負い目があるんだろうな。気にする必要もないのにさ。」 かがみ「こなたはあんなのだからね。」 魔法使いくん「そうだな。毒舌で、」 かがみ「人のことおちょくって、」 魔法使いくん「楽天的で、」 かがみ「セクハラまがいのことして、でも、」 魔法使いくん「元気で、」 かがみ「友達思いで、」 魔法使いくん「少し寂しがりなとこがあって、」 かがみ「ちょっと甘えん坊なところがある。それが、」 魔法使いくん「そう、それが、」 「「すごくかわいらしい。」」 かがみと魔法使いくんはクスリと笑った。ここまで同じ考えの人はめずらしいだろう。 かがみ「まぁ、振られちゃったのは残念だけどね。」 魔法使いくん「そうだな。でも、まだ諦めてないけどな。」 かがみ「え?」 魔法使いくん「いつかもう一度振り向かせてやるよ。こなたは俺の嫁だからな。」 魔法使いくんは親指を自分に向けて言った。その言葉にかがみはムッとした。 かがみ「残念だけど、それは無理ね。」 魔法使いくん「ん?なんでだ?」 かがみ「私がこなたの嫁だからよ。」 魔法使いくんは一瞬呆気にとられたが、すぐにその意味に気付いた。 魔法使いくん「なるほど、こなたがそう言ってわけだ。」 かがみ「ええ、そうよ。」 魔法使いくん「つまり、俺たちは一種のライバル、というわけだ。」 かがみ「そういうことね。」 二人はお互いの目を離さずにいた。表情こそ穏やかに見えるがその裏では一歩も譲ることのない戦いが繰り広げられているようだ。 つかさ「ゆ、ゆきちゃん、お姉ちゃんたち、どうしたんだろう?」 みゆき「さ、さぁ、よく、分かりませんね・・・。」 そんな二人をつかさとみゆきは半ばおびえるように見ていた。 こなた「お~い、みんな、そろそろ帰ろ。」 こなたがカップを捨てて戻ってきた。しかし、戻ってみると、かがみと魔法使いくんの様子がおかしいことに気が付いた。 こなた「どうしたの、かがみ?」 かがみ「なんでもないわよ、こなた。」 かがみはこなたの方を向いてそう答えた。だが、目はチラチラと魔法使いくんの方に向けられていた。 こなた「そう?それならいいんだけど・・・。」 こなたは少々納得できないようだった。 魔法使いくん「それじゃ俺、もう帰るわ。」 こなた「え?あ、そう。じゃあね。」 こなたは軽く手を振った。魔法使いくんも片手を軽くあげてそれに答え、そのまま後ろを向いて歩きだした。 かがみ「待ちなさい。」 魔法使いくんはその言葉に足をピタリと止めた。しかし、振り向くことはしなかった。 こなた「か、かがみ?」 つかさ「・・・」 みゆき「・・・」 つかさとみゆきは無言で見守っていた。 かがみ「私の名前は柊かがみ。あなたの名前も教えてもらえるかしら?」 魔法使いくんはクルリと振り返った。そこには不敵に笑うかがみがいた。魔法使いくんも相応の表情で返した。 魔法使いくん「宣戦布告、というわけだ。いいぜ、教えてやるよ。」 こなたをめぐる二人の戦いが静かに始まろうとしていた。 魔法使いくん「俺の名は・・・・・・ ~おわり~
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通常放送 話数 1 2 3 4 5 1 57.7 22.1 13.5 4.2 2.4 2 55.3 19.8 13.4 8.0 3.4 3 67.7 15.3 11.9 3.4 1.6 4 62.5 17.8 14.0 3.6 2.0 5 70.1 16.3 7.2 4.3 2.1 6 68.8 16.2 10.6 3.2 1.2 7 68.5 17.8 8.9 3.2 1.7 8 67.2 14.6 10.9 5.2 2.1 9 67.8 17.2 11.3 2.1 1.6 10 72.0 16.3 8.3 2.3 1.1 11 74.4 12.3 7.1 4.2 1.9 12 79.0 12.5 3.7 2.2 2.6 平均 67.58 16.52 10.07 3.83 1.98
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上級3 混沌 師匠2 下級18 マシュマロン ダンディ クリッター 沼地 セイマジ 時の魔術師、創世の預言者、薄幸の美少女 カイクウ 見習い2 熟練3 執念 偵察者2 メタモル 魔法15 ディメマ3 マジクロ 黒魔術のカーテン 黒魔導 光の護封剣 サイク 大嵐 スケゴ 早すぎ 洗脳 ライボル、地砕き、ハンマーシュート 罠 4 マジサークル 激流 ミラフォ リビ
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魔法学院の朝は早い。(※学生諸君を除く) でもその日はいつもと少しだけ違った。 寮塔のとある部屋でそれに匹敵する早起きがいたのである ~魔法使いと召喚師~ それは例えるなら、遠足の朝に児童が早起きするのに似ている。 早い話、彼女は人生初めての学校生活が楽しみだったのだ。 両親を師と仰いで修行してきた身では、絶対に体験できないことなのだから。 借り物であっても、学院の制服に袖を通すだけでテンションは上がる。 さてやるべきことはなんだろう? * * * やることその1「お洗濯」。 感覚の共有はできないし、秘薬の材料を集めようにも土地勘がない。 護衛をしようにもここは全寮制の学院で警備付き……。 使い魔らしいことをしようと思えば雑用くらいしかないのである。 そしてやることその2 「召喚術の確保、ですね」 優先順位はむしろこっちのほうが高いかもしれない。 すでに昨日の段階で、身の証を立てるために使用している。 ただ、一種類では手数が足りない。 幸いにして、儀式用に用意されていたサモナイト石がいくつか巻き添えになっていた。 有限な上に属性の関係で使えない物のほうが多いが、ごまかし用には十分だろう。 護衛をするなら攻撃用と治癒用で最低でも二種類。 今後を考えれば霊属性の石は温存したい。 使い勝手を考えると小規模であることも重要。 「ロックマテリアルとリプシーくらいしか……」 当面は大丈夫だろう。タブン…… 召喚術。 それはリィンバウム、つまりはクラレットの故郷で発展した特殊な魔術だ。 異世界からの侵略者を強制的に送り返すために、世界の意思より与えられた力である送還術。 その送還術を逆利用することで生まれ、異界との戦いの中で進化した力。 対象が持つ「真の名」を支配することで服従を強いる術。 故に、召喚師の家系を支えるのはその一派が確保している「真の名」の数と質なのであったりする。 最強の召喚師である「エルゴの王」は付けた名前がそのまま「真の名」になるというが 生憎、クラレットにはそれほどの力はない。 自分の家系が保持している霊界サプレスのものと、特定の属性を持たないものだけが頼りとなる。 儀式を終え、前日のポワソとあわせて三種類。 「真の名」が刻まれたサモナイト石、召喚石は誰でも使える危険物だが 術を使用するたびに石を使い捨てにするのも、状況が許してくれない。 しっかり管理するのは、召喚師たる自分の務めだろう。 まずは昨日の傷を癒すためにリプシーを…… 「あの……貴族様?」 げに間が悪きかなシエスタ嬢。 召喚師の秘伝のひとつ、召喚石の使い方が異世界に漏れた瞬間であった。 * * * 魔法学院の片隅に朝から疲れた少女が二人。 何故自己紹介だけで、こんなに息が上がっているのやら。 双方パニックになっていたのが原因なのは、間違いなかろう。 それに加えて、クラレットが纏っていたのは学院の制服。 おまけに得体の知れないふわふわ生物召喚中。 これで杖を持っていたら完璧に貴族である。 というか、杖持ってなくても貴族にしか見えない。 「え~と、つまりクラレットさんは、ミス・ヴァリエールの使い魔として召喚された方である、と」 「はい」 「で、さっきのは、使い魔になっても魔法が使えるかの確認だった、と」 「……はい」 「そして、自分の使い魔を呼んでいるところでもあった、と」 「…………はい」 「ミス・ヴァリエールのお洗濯物を私に頼みたい、と」 「よろしくお願いします……」 「あああ、顔はあげてください! 私の仕事ですから!」 召喚石が誰にでも使えることは、なんとか隠した。 杖を持っていなかったことは「異国の術だから」と逃げた。 恐るべきは貴族の権威である。 「実は家名持ちでした」なんて言ったら失神しそうな勢いだ。 城の前を歩くだけでも職務質問がくるリィンバウムと、どっちがましなのだろう。 雰囲気が似ているから油断していたが、常識がずれている可能性もありそうだった。 これはこれで深刻な問題、とついつい考え込んでしまうクラレットである。 「あの、クラレットさん、この子はどうしたら……」 シエスタの呼び声がクラレットを思考の海から呼び戻す。 目の前には、ふわふわもこもこの謎動物を頭に載せたメイドがいた。 召喚されたのに命令無しで放置されたリプシーである。 陽気な聖精は待つのに飽きて、シエスタにじゃれつきはじめたらしい。 そこに浮かび上がるのはひとつの違和感。 本来、召喚術は対象が現界し続けている限り魔力を消費し続けるものである。 役目を終え次第送還するのは、伝統だけでが理由はない。 長期にわたって現界させ続ける場合は召喚と同時に儀式を行い、魔力の消費を防ぐのが通例だ。 そして、召喚師は魔力の制御技術を叩き込まれているものである。 己の魔力が流出し続けていれば、普通に気がつく。 (……つまりリプシーは現界しているにもかかわらず、私の魔力を消費していない?) これなら、このままリプシーを使い魔代わりにすることも可能だろう。 原因はおそらく、右手に刻まれたルーンだ。 こちらからは違和感を感じないが、それだけ深く結びついていると理解しておく。 ルイズの、自分の主の側にいるためになら、この力きっと役に立つ。 それがクラレットの確信だった。 * * * その日、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーも (彼女の感覚から見て)かなり早起きしていた。 ひとえに、隣室の新住民が気になったからだ。 気をうしなったメイジの少女、折れた杖に宝石に剣に、果てはゼロのルイズの使い魔である。 なんとも面白そうなオモチャ……もとい、なんともドラマがありそうではないか! これは存分にいじらねばなるまい。 新たなる相棒、サラマンダーのフレイムと共に身支度を整えいざ出陣。 お~ぷんざどあ~ ――ドアをあけたらそこにいるとか、不意打ちですよお嬢さん……。 至近距離で突然扉が開き、且つ扉から飛び出してきたモノと目が合う。 これで動きが止まらなかったら、たぶんその人物はどこか壊れている人種だろう。 キュルケの目の前の人物は、そういった意味ではマトモと言えるらしい。つまらん。 「あなたがルイズの使い魔ちゃんであってるかしら?」 「えっ、あ~、はい」 「今、お時間よろしい?」 多少の逡巡の後、使い魔の少女は「ルイズを起こして」と、もふもふした生物を部屋に放り込んだ。 * * * 「杖は折れてるけど異国のメイジで、体系はちょっと違う。でも先住魔法じゃない。 どこまでが嘘で、どこからが本当なのかしら」 「やっぱり怪しいですか?」 「当然。」 怪しくないわけがない。 ファーストネームしか名乗らず、家名を尋ねれば「主人を守るために教えられない」と返された。 キュルケの親友といえる某メイジも、家名を名乗らない人種だしそういうこともあるかもしれない。 使い魔をつれているからメイジだというのは認めよう。 だが、自分が召喚されて素直に使い魔になれるかと聞かれれば、キュルケは「否」と答える。 貴族とは誇りでもって生きているようなもの。 目の前の少女からは、その誇りというものが感じられないのだ。 「けれど、平民と言い張るのもありえない」 平民が持つ貴族への畏れ。それを彼女から感じられないのもまた事実である。 かといって、それを知らないわけでもないのもわかる。 あえて例えるなら、メイジ同士での上下関係に近いのだ。 その上で、クラレットは「嘘を信じろ」と言っている。 (お家騒動か、政略結婚か……、帰りたくない理由があるのね) これがキュルケの出した結論であった。 学院はクラレットを隠す腹積もりなのだろう。 バレれば国際問題かもしれないが、系統魔法とも先住魔法とも違う魔法を持つ国は、まだ地図上にない。 つまり、バレる先がそもそも存在しないのだ。 「ヴァリエール家の三女を留年させる」よりは、よほど波風が立たなさそうである。 何より、キュルケ自身の留学の理由が「縁談の話に嫌気がさしたから」なのも大きい。 目の前の大人しそうな少女では、親に正面から歯向かうことなどできまい。 ならば取る道はひとつ。 「いいわ。あなたの嘘、手伝ってあげる。そのかわり……」 彼女の協力者となるかわりに出した条件。 「あたしのことはキュルケって呼んで。友人以外の共犯者になるつもりはないから」 「では、改めまして……」 挟まれたのは小さな咳払い。 「これから、隣人として友人として、よろしくお願いします。キュルケ」 「これはご丁寧に。こちらこそよろしくお願いします。クラレット」 「ぎゅっ!」 「フレイムもよろしくね」 「ぎゅぎゅっ」 使い魔に手を振るクラレットと、それに尾で応える使い魔。 嘘はついてても彼女は善良な人間なのだろう。 幻獣に、それも質の高さで名を馳せる火竜山脈の生まれのサラマンダーが気を許すのだから。 ~後会話~ 「ピピピッ」 「はえっ? ……クラレット?」 「ピッ」 「なんで、そんな丸くてもふもふになってるの?」 「ピピッ!」 「ま、いっか」 「ピ~~~~~」 「ZZzzzzz.......」 ※参考 リプシー サプレスの召喚獣。癒しの力を持つ陽気な聖精。力はまだ弱い。序盤で活躍する回復役。 ロックマテリアル 無属性の召喚術。地上に落ちた小さな流れ星のかけら。誰でも扱えるため序盤の攻撃の要。 ポワソ 天使のお供として働く精霊。好奇心が旺盛。ユニット召喚獣としては優秀な性能。 ヴィンダールヴのルーン ゲーム的処理だと技能欄に「全召喚獣ユニット化」追加。 でも、サモナの公式小説だと戦闘終了までだしっぱなしが基本なので 実質的にリプシーを浮かべておくためだけのスキル。
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▼ 里保と衣梨奈の眼前には不思議な光景が広がった。 海の上に無数の岩がじっと浮かんでいる。 それが月光の影を帯びて、黒々と空を埋め尽くしていた。 辺りには不思議な魔力が漂っている。 そして岩岩の間の遥か向こうに、僅かに目的の島の影が見えた。 いよいよ、三大魔道士”西の大魔道士”の島に辿り着いた。 そこで今いったい何が起こっているのかは分からない。 さゆみは当然もう到着しているだろう。 果たして聖と香音はそこにいるのだろうか。 西の大魔道士とはいったいどんな人物なのか。 改めて緊張感を増しながら、二人はやや速度を落とし 浮かぶ岩を避け島を目指した。 と、前方に魔力を感じる。 巨大な魔力。 島よりも手前に、まるで二人を待ち受けるようにその魔力はじっと存在を主張していた。 里保と衣梨奈はいよいよ速度を緩め、顔を見合わせた。 そこにある魔力はさゆみの物ではない。 となると、これほど巨大な魔力は、この島の主である”西の大魔道士”のものだろうか。 だけどそこにいる人物と、辺りに漂う魔力の種類は違うようにも思えた。 里保も衣梨奈も、聖たちを連れ帰るという目的以外の態度を決めかねていた。 さゆみは明らかに大魔道士に敵意を持っているようだった。 けれども、里保たちは相手を知らないから、敵と決め込んで来たわけではない。 さくらのことも、敵と思いたくは無い。 だけどもし相手がはっきりと里保達を敵と認識して待ち受けているとすれば あまりにも無策に、正面から来過ぎたということになる。 自分たちが相手を認識しているように、相手ももう二人が島に近づいていることは分かっている。 場合によってはこのまま有無を言わさず戦闘になる。 さゆみはいったいどうなっているのか。 状況が、把握できていないことが多すぎる。 周囲の岩を警戒するも、ただ浮いているだけに思える。 さゆみがそうであるように、やはり大魔道士というのは不可思議な存在だと改めて思う。 どちらにせよ、もう逃げも隠れも出来ない。 知るために、進むしかない。 「行こう」 「うん」 二人が再び前進する。 その時、遥か前方に光が見えた。 「危ない!」 里保が叫び、衣梨奈を突き放す。 その瞬間、二人の間を、淡い紫色の閃光が走った。 それはまるで鞭のようにしなり、鋭い音と共に周囲の岩を縄目状に抉って引いた。 寸でのところで躱した二人は、第二撃に備え魔力を開放し構える。 数秒遥か向こうを睨み付け、追撃が無いことを確認して再び顔を見合わせた。 「西の大魔道士…かな」 里保の呟きに、衣梨奈が眉を寄せ首を振った。 里保が神妙な面持ちで首を傾げる。 はっきりと敵意を持って、里保と衣梨奈を叩き落とそうとした。 しかもまだ姿を目視出来ないくらいの距離から、恐ろしく速く、正確に攻撃してきた。 それほどの魔法を使う『敵』がいる。 だけどその魔法をみた瞬間、衣梨奈には気付いたことがあった。 初めて感じる魔力だけれど、その淡い紫の魔力の光を見たことがある。 間違い無く、衣梨奈が会いたいと思っていたうちの一人が、そこにいた。 「あれは、さくらちゃん…」 「え…?」 衣梨奈の言葉に、里保が驚きの声を上げる。 覚悟はしていたけれど、こんなに早くさくらに会って 何も言葉を交わさないうちに攻撃されたことは少なからずショックだった。 だけど気を取り直す。 まだ、決めつけない。さくらが「敵」なのだと。 『正解』を目指すために里保はここに来た。 みんなが幸せになれる『正解』を。 戦うことが嫌なわけじゃないけれど、それでも頭を固くして決めつけて、戦いに来たわけじゃない。 里保が表情を引き締める。 衣梨奈も強い目で答えた。 二人は肯き合い、ゆっくりとその相手との距離を近づけた。 やがて衣梨奈たち視界の彼方に人影が映る。 岩の上にちょこんと立っている。 月の光を受け、仄かに髪を揺らし佇むその姿は まるで少女の姿をした音楽のようだと思った。 じっと衣梨奈達を見ている。 その魔力は恐ろしく巨大で、だけど静かだった。 とても鋭く、だけど繊細。 衣梨奈は初めて海で出会ったさくらと、今視界に立っているさくらとを比べていた。 魔道士としてのさくらを初めて見る。 顔にも、何度も見た笑顔が今は浮かんでいなかった。 無表情に、真っ直ぐに前を見ている。 だけど衣梨奈は、やっぱり海で出会った時と同じ、可愛らしい女の子だと思った。 もうはっきりと姿が見える所に来ても言葉は無かった。 里保と衣梨奈はそぞろに近づき、さくらの間合いを感じて止まった。 「速かったですね。生田さん、鞘師さん」 さくらが温度の無い声で言う。 衣梨奈の目には、さくらの無表情も声も、努めて感情を抑え作ったもののように思えた。 だけどどういう感情が隠れているのかは分からない。 「さくらちゃん…」 衣梨奈の呟きに、さくらが僅かに身動ぎした。 「小田ちゃん…。一体どういうことなのか教えて。 ふくちゃんと香音ちゃんはどこ?」 里保が低い声を出した。 互いに魔力を溜め警戒している。 衣梨奈も里保も、そのことが嫌で堪らなかった。さくらは、どうなのだろうか。 「説明したとして、今更私の言葉が信じられますか? 私だったら無理ですね」 さくらが皮肉めいた冷笑を漏らす。 衣梨奈はさくらの顔を、その表情や仕草をじっと見ていた。 そしてその言葉に耳を傾ける。 隠している、その気持ちは分からない。 だけど衣梨奈は確信した。さくらはやっぱり『敵』じゃない。 「嘘でもなんでもいいよ。さくらちゃんの言葉が聞きたい。さくらちゃんと話したい」 ハッキリとした声で衣梨奈が告げた。 さくらの顔から笑みが消え、一瞬瞼を落とす。 「ね、さくらちゃん教えて。聖と香音ちゃんに何があったん? あの時話してたこと、どういうことなん?」 いくらか優しい口調で衣梨奈が続けると、さくらの視線がますます下がった。 それからまた、パッと顔を上げる。表情を引き締めて。 「お二人に、私の先生の実験の協力をお願いしたんです」 「実験…因子の…?」 呟いた里保に、さくらがちらりと視線を向けた。 「やっぱり知ってたんですね。因子のこと」 道重家で推察した状況、それがこの短いやりとりの中でほぼ肯定されることになった。 さくらは”西の大魔道士”の弟子で、聖と香音を探しにM13地区にやってきた。 その目的は二人の持つ「因子」であり、それを実験に使うこと。 だけどまだ分からない。 何が分からないのかも判然としないけれど。 ただ大魔道士の実験を阻止し二人を連れ帰ればいいのならとるべき行動は簡単なのに そう単純にもいかない気がしてならなかった。 「道重さんは…?」 ふと里保が呟いた。 さくらがじっと里保を見る。 「道重さんが先に来てるはずだよ」 言ってから、里保は口を滑らせたと思った。 そもそもさゆみが来ているはずなのに、さくらがここに立っている状況はおかしくは無いか。 もしかしたらさゆみは冷静になって、相手に気付かれないよう島に忍び込んだかもしれないのだ。 もしそうだとすれば、今の発言も自分たちが馬鹿正直に正面から来たことも 全部さゆみの行動を台無しにする。 だけどさくらの次の言葉はそんな里保の懸念を払ってくれた。 「道重さゆみさんなら来ています。今、島で先生と対峙しているはずです。 だからこれ以上、先生の邪魔を増やすわけにはいかないんです」 さくらが魔力を練り始めた。 淡くその身体が光り出す。 「お引き取り下さい。生田さん、鞘師さん」 「待って。実験って何なん?聖と香音ちゃんは協力するって言ったと? やけん、さくらちゃんの方に行こうとしたん? めっちゃ悩んどったんは…」 話を切り上げ戦おうとするさくらを、衣梨奈がおしとどめる。 まだ戦うわけにはいかない。 もし実験の協力が二人の意思なら、そしてその実験が二人の身の安全や生活の害にならないものなら 衣梨奈と里保の方に戦う理由が無くなるのだ。 もっとも魔法の実験にリスクの無いものなんて殆どありえないけれど。 暫く沈黙した後、さくらがぽつりと呟いた。 「魔道士を作る実験です。これで、分かりますよね」 夜風に乗って届いた呟きは、衣梨奈と里保に想像以上の衝撃を齎した。 魔道士を作る。 つまり、魔法使いでない人が魔法使いになる。 聖と香音が魔法使いになる実験ということ。 衣梨奈はそれを、これまでまるで想像もしていなかったことに気付いた。 二人が魔法使いになる。それは普通不可能だということも勿論ある。 だけど、魔法使いでない二人が、それでも自分たちの側に居てくれて、笑ってくれて、友達でいてくれることを当たり前に思っていた。 受け入れてくれたことを、ただただ嬉しく思っていた。 もし二人が「魔法使いになるかならないか」の選択であれ程に悩んでいたとするならば 自分の認識に間違いがあったことにはならないか。 ――それを選ばなければ何もないけれど、望みは一生叶わない場合、生田さんならどんな風に考えますか?―― さくらにかけられた言葉。 もしあれが聖と香音の状況を現した言葉だったとしたら 二人は魔法使いになることを望み、逡巡していた。 なぜ魔法使いになりたいと思うのか。 衣梨奈や里保、さゆみ達の側にいたことが影響していないはずがない。 衣梨奈は、魔法使いである自分たちに変わらぬ友情を示してくれた二人に感謝しながらも どこかで巻き込みたくないと考えていた。 どうしても、魔法使いに関わるということは危ないことが出て来る。 特にみんなM13地区で暮らしている以上、何があるかも分からないのだ。 多分里保も、さゆみも同じ考え方をしていたと思う。 二人の「因子」の話を聞いたとき、そう思った。 自分はもしかしたら二人に寂しい思いをさせていたのではないか。 「ふくちゃんと香音ちゃんが魔道士になるかもしれない実験ってこと…? どんな実験なの?」 沈黙を破り里保が言った。 衣梨奈は、里保もまた酷く動揺しているのだとその声を聞いて思った。 さくらが鋭い目つきに変わる。 里保の質問には答えず、また魔力を高め始めた。 さくらの周囲に薄っすらと淡い紫に光る縄状の魔力が廻りはじめる。 「これ以上お話することはありません。 というか、今の話だって全部デタラメかもしれないのに、よくそんな風に聞いていられますね」 攻撃が来る。 そう悟った里保が刀を取り出そうと髪に手を伸ばす。 その手を衣梨奈が掴み、止めた。 「えりぽん?」 訝し気に里保が衣梨奈を見る。衣梨奈は小さく笑った。 衣梨奈の中で急に、糸口が閃いた。 やっぱり、何も知らないよりも少しでも知った方がいい。それが辛いことだったとしても。 聖のこと、香音のこと、さくらのこと。 少しだけ分かった気がした。 「やっぱり聖とも香音ちゃんともちゃんと話さんとね。 魔法使いになるにしてもならんにしても」 そう笑う衣梨奈の顔に、里保は根拠の無い自身を見た。 何かが閃いたらしかった。 自分はまだ考えが纏まらないうちに、さくらとの戦いに突入しようとしていた。 それを止めた衣梨奈の考えに、今は従おうと思う。 だから衣梨奈の言葉に、里保も小さく笑って頷いた。 「さくらちゃんとももっとちゃんと話したいけん、こんなとこで睨みあってじゃ無理やもんね」 衣梨奈が笑顔をそのままさくらに向ける。 さくらは里保が武器を取り出せなかったから、攻撃しようにも出来ずまごついているらしい。 そんなさくらを、里保は場違いにも少しだけ可愛いと思った。 「やけんさくらちゃん、えりと『勝負』しよ?」 さくらが神妙な顔をする。 その言葉が衣梨奈らしいと、里保は妙に納得してしまった。 ▲ ▼ 『勝負』それは魔道士の約束事。 協会では公然と定めているルール。 協会員以外でも、暗黙のルールとしてほぼ全ての魔道士が共有している。 といって、決まりは大きく二つだけ。 原則一対一であること。『奪う』ことが決着であること。 それぞれが個々に魔法の探究をする魔道士たちは、みんなそれなりの矜持を持っている。 プライドと自信を持っているから、『勝負』は成立する。 里保は執行魔道士として、過去に何度も『勝負』を受けてきた。 だからその言葉の重さを承知している。 『勝負』に負けるということは『奪われる』ということ。 魔力を失い、費やした時間と研究の成果を一瞬にして失う。 勝負を申し出、相手がそれを受ければ、必ずどちらかがそうなるのだ。 だから普通、軽く口に出せることではない。 だけど衣梨奈の口からは、まるで散歩にでも誘うようにその言葉が出た。 里保は、何となく衣梨奈の意図、考えを察していた。 衣梨奈が『勝負』の持つ意味の重さを理解していないということではない。 負けることがどういうことか、その恐ろしさも理解しているだろう。 だけど衣梨奈は、勝っても、負けてもいいと思ってその言葉を口にした。 里保にはそんな気がしてならなかった。 「なんですか突然。 もしかして、私のこと侮ってますか?」 さくらが不愉快そうに眉を寄せた。 「そんなんやないとよ」 衣梨奈が笑う。 衣梨奈の意図を、さくらはまるで汲めないらしかった。 里保も決してさくらを侮っているわけでは無かった。 一対一で戦って、勝てると断言できる相手で無いのは 先程僅かに見た魔法や、今感じている魔力からも分かる。 可愛らしい普通の女の子だと思っていたから、というのこともあるけれど それを抜きにしてもさくらは魔道士として規格外の力を持っている。 だけどやはり、衣梨奈と二人がかりでさくらと戦う気にはなれなかった。 さゆみや聖たちが心配だし、ここでいつまでも留まっているわけにはいかない。 だけどそうまでして、さくらと戦って勝たなければいけないとも思えない。 ただ、話したいだけなのだ。 だから衣梨奈は『勝負』を持ちかけた。 魔道士の『勝負』には終わりがあるから。 奪い、奪われた後では争いを継続することは出来ない。必然的なノーサイドが訪れる。 さくらが依怙地になって話そうとしてくれないなら、強引に争いを終わらせて、落ち着いて話す。 それが衣梨奈の意図だった。 勝っても負けても、終わりさえすればいいのだ。 里保は突飛だけれど衣梨奈らしいと思った。 いつも強引で、駆け引きなんて微塵も無い。 きっと衣梨奈の中ではもう決まっていて、例え負けて大事な物を失うことになっても 「世界一の魔法使い」から遠のくことになっても、笑って語り掛けられる。 それくらいには、さくらのことが好きなのだ。 「勝負なんて必要ありません。どうぞお二人で来てください。 ここは、通しません」 さくらが言い、再び構えを取る。 里保は逆に、ふっと笑って力を抜いた。 「分かった。任せるよえりぽん。うちは先に行くね」 衣梨奈はそれを聞いて、心底嬉しそうな笑顔になった。 「うん、任せといて。道重さんの方頼むけんね」 里保も笑顔で肯く。 それから衣梨奈の側を離れた。 「ちょっと!ちょいちょいちょい、無視ですか私のこと。 通さないって言ってるじゃないですか!」 里保は飛び立ち、さくらの脇を抜けようと進んだ。 さくらが魔法を発動させる。 光の鞭の魔法が里保に襲い掛かった。 里保は構わず飛び続ける。防御も、反撃もしない。 自分はもうさくらには手出ししないと決めたから。 顔を手で庇い、衝撃と痛みに備える。 弾き飛ばされるか抉られるか。分かっていれば魔力で防御しなくても気絶して墜落するまでにはならないだろう。 痛いだろうけれど。 だけどさくらの鞭は里保に触れる寸前で止まり、引き戻された。 里保が顔を上げると、さくらと目が合う。 睨まれている。 だけどさくらの顔は、動揺しているようにも拗ねているようにも見えた。 やっぱり可愛い子だな、と思う。 里保はまた少し笑い、それから一気に加速してさくらの脇を抜け、島に向かった。 ・ さくらが見えなくなった里保の後ろを呆然と眺める。 それから諦めのため息を一つ、衣梨奈に向き直った。 「あまちゃん」 衣梨奈はニヤニヤと笑ってさくらを見ていた。 ムッとして睨み付ける。だけど衣梨奈は笑っていた。 「生田さんには言われたくありません」 衣梨奈が小さく声を出して笑う。 それからスッと表情を引き締めた。 「改めてもう一回。さくらちゃん、えりと『勝負』しよう」 さくらも一度目を閉じ、気持ちを切り替えて表情を戻した。 「お受けします」 二人は互いに間合いを測りながら、戦いの魔力を開放した。 ▲ ▼ 里保は衣梨奈とさくらの元を離れ、島に向かい飛んでいた。 さくらのことを衣梨奈に任せる。 そのことをすんなりと受け入れた自分に小さな驚きがあった。 多分衣梨奈は、今まで『勝負』なんてしたことがない。 戦うのが苦手だと、本人の口からも聞いたこともあった。 もしさくらと衣梨奈の力が拮抗しているなら、優しい衣梨奈に全力を出すことが出来るだろうか。 だけど里保が衣梨奈の顔を見た時、そこには強い意思が浮かんでいた。 負けることが前提なのではない、勝ちたいという意思。 元来衣梨奈は負けず嫌いなのだ。 そしてさくらにも、その棘のある言葉、態度の隙間から 闘志と共に優しさが漏れ出していた。 多分二人は似ている。 だから、きっと二人の勝負がどんな結果であろうと、その結果を気持ちよく受け入れられると そう思った。 里保の心に少しだけ余裕が出来ていた。 さくらが、その気持ちを隠していたとしても自分たちが知るままの彼女だと思えたことが嬉しかったから。 もしかしたらさくらの師である『西の大魔道士』も 想像しているよりずっと話が出来る人物で、さゆみとも争うことなく対話しているのかもしれない。 じっくり互いの考えを伝え合うことが出来れば、聖や香音にとってもそれが一番いい。 だけど里保の期待は程なく打ち破られた。 島の上空に辿り着く。 島と、その上に広がる巨大な建物。 そこに漂う魔力の禍々しさに、里保は身震いした。 明確な敵意、明確な殺意が恐ろしい巨大な塊となって横たわっている。 今この中にさゆみと『西の大魔道士』がいるのならば そこで行われているのは間違いなく殺し合いだった。 大魔道士本人から直接感じている魔力ではない。 そのことがより、恐ろしさを増幅させていた。 里保は戦いに身を置いていた経験から、力量を測る感覚に自信を持っている。 その感覚が理性に訴えた。 ”危険だ、逃げろ”と。 額には冷や汗が浮かんでいた。 もしこれが任務ならば、決して突撃したりはしない。 応援を要請し、策戦を要求するため退避する。 執行魔道士として、無謀に危地に飛び込むことは愚行だと分かっている。 だけど、逃げるわけにはいかなかった。 ここにはさゆみがいる。聖と香音がいる。 この”殺意の嵐”の中に3人はいるのだ。 なんとしてでも助けなければならない。 そしてその為には、自分の命を掛けなければならない。 たぶんそれが、何かのせいにするのでなく、自分の為に生きるということなのだろうと思った。 もしここで逃げ出したならば、多分二度と自分の為に魔法を使うことは出来なくなる。 さゆみの家を出て来る時に、亜佑美たちに『覚悟』を説いた。 それは想像以上の物。 決して低くない確率で、死が眼の前に黒い口を開けていた。 緊張感を漲らせ、考える。 闇雲に突入するわけにはいかない。死の確率を格段に上げる。 目下必要な情報は、さゆみの居場所、西の大魔道士の居場所、聖と香音の居場所。 そしてこの城を覆う魔力の性質。 外から、出来るだけの情報を集めることが賢明だと考える。 さくらが待ち受けていたことからも、里保がここにいることは大魔道士に感じ取られているとみるべきだ。 なんらかのアクションを起こされる可能性も十分にありえる。 どんな場合にも対処しなければならない。 里保は全神経を集中し、魔力で身体を纏い 城の直ぐ上を周回しはじめた。 。 『千客万来やな』 つんくは、相変わらず弾んだ声でさゆみに言った。 さゆみはいつしか、鏡とガラスが折り重なった迷宮に入り込んでいた。 そこかしこに無人の甲冑が徘徊し、さゆみを狙っている。 それは恐ろしく厄介な空間だった。 相変わらず城全体の魔力で動いているために、それぞれの甲冑や罠の動きを魔力を辿ることが出来ない。 その上折り重なった鏡とガラスは、瞬間的な視覚の混乱も招いた。 嫌がらせの天才ではないかと思う。 魔道士を熟知し、その苦手とする物を存分に利用して作られた城。 『弟子のアスレチック』というならば、確かにここ以上に力を伸ばせる場所は無いかもしれない。 命があれば、だが。 嫌がらせの天才、さゆみ自身にもその自覚があった。 やはり長く生きていると魔法の考え方は似通ってくるのか。 ただ単に、さゆみとつんくが似ているというだけなのか。 お株を奪われたように、受ける側に回っていることが只管不快だった。 つんくの言葉に返事はしない。 さゆみも、城のすぐ側まで里保が来ていることに気付いていた。 そのこともつんくにはバレている。 城の内部から外の様子を窺う魔法は効力を発しない。 それを見越して、自身の翼を散らしその羽を城の外に舞わせておいたのだ。 これでまた状況は変化した。 つんくが里保へと矛先を向ける可能性がある。 聖や香音と違って、さゆみにとって里保がどんな存在であろうと攻撃しない理由は全く無い。 持久戦も難しくなってきたかもしれない。 さゆみはまた、考えを巡らせ始めた。 今ここでつんく本人が里保の元へ向かえば、里保を守る為には城を破壊するしかない。 その行動はつんくにとって読みやすく、瞬く間に足元をすくわれる危険があった。 つんくの行動に合わせて確実に受けの対応をしなければならない。 その上、こちらから攻めに転じることは依然難しかった。 爪を噛む。 羽を通して感じた里保の魔力が、懐かしく愛おしい。 『アイツは何や?お前の弟子か?』 「違うわ」 『ふーん』 何を言った所で、変わりはしないだろう。 つんくは既に里保を『異物』と認識している。 救いは里保が城に飛び込む気配が無いこと。自分よりもよっぽど冷静だ。 恐らく状況の把握につとめ、襲撃にも備えているだろう。 『なあ道重、いい加減飽きてこうへんか?』 つんくの声色が変化した。 いよいよ、何か仕掛けてくるのか。 さゆみは全身に緊張を走らせた。 「だったら出て来なさい」 『それは勘弁や』 また、半笑いの声に戻った。 先ほどの言葉に不気味さだけが残る。 と、視界につんくが立っていた。 だけどそれは幻影。 分かっていた。 その隣に聖と香音が居る。縛られて、跪いて。 それも幻影、そう分かっていたのに。 つんくが二人に向けて刀を振り下ろした瞬間、身体が勝手に動いた。 「ふくちゃん、香音ちゃん!」 警戒していたはずだった。 子供だましだとも分かっているはずだった。 それなのに。 衝撃。 胸に広がる鈍い感覚。 眼前のガラスが割れるとそこには鏡。 さゆみ自身が映っていた。 背後に無人の甲冑。 そしてさゆみの胸には深く刀が突き刺さっていた。 血が流れる。 閉め忘れた蛇口のように、真っ赤な血が刀を伝い床にどんどんと溜まっていく。 さゆみは呆然と、流れ続ける血を見ていた。 自分の血を見たのなんて、随分久しぶりだと思いながら。 『はは、おいマジかお前!大魔女さまが引っかかるような手がコレ』 つんくの馬鹿笑いが耳に響く。 さゆみはそのまま、血だまりの中に膝をついた。 甲冑が強引に刀を引き抜く。 一気に血が溢れ出し、辺りの鏡を赤く染め上げた。 そのままもう一度、さゆみに剣を振り下ろす。 甲冑が刀を振り下ろす直前、その胴体は真っ二つになった。 さゆみの髪が鞭のようにうねり、バラバラに引き裂いた甲冑をガラスに叩きつける。 そのまま暴れ出した黒い髪は、迷宮を成していた全ての鏡とガラスを粉々に砕いた。 無数のガラス片が降り注ぐ白い空間の真ん中で さゆみは血だまりの中に膝をついていた。 血はとめどなく溢れだし、口の端からもせり上がった血が漏れ出していた。 ・ 「…こっちのセリフよ。よくまあこんな情けないこと出来るわね」 『引っかかるとか思わんやろ普通。冷血無比の大魔女さまがなぁ。ほんまおもろいわお前』 さゆみが俯き目を閉じる。 何かが切れた。 血だまりの中から不意に植物の蔓が伸び上がる。 恐ろしい速度で次々と伸び上がり、美しい七色の花を咲かせ城の壁を這い上がった。 『やっと本気か。そうやないとな』 太く長くどんどんと延びていく。 蔓は城の魔力で枯らされる。枯らされた側からまた伸び花を咲かせた。 さゆみが美しい花に覆われる。 城の魔力を”枯らし”ながら、花は徐々に城を覆っていった。 ▲ ←本編27 本編29→
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〈魔法使いにおける出産についての考察〉概要 著者:『結晶の華(フリージングフラワーズ)』葉仙氷華 /『降星々の消影者(シューティング・スターアラナイズ』葉仙星影