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「まず、舞ちゃんは今お嬢様のお手伝いの仕事をサボッていますね。これでは寮生としての義務を放棄していることになりますので、早急に復帰していただきます。」 おおっ!と嬉しそうに拍手する舞美を制するかのように、サキさんがまっすぐに挙手をする。 「はい、えりこちゃん。でも今の状態の舞ちゃんをお嬢様に近づけるのはあんまり・・・どうなのかと思うんですが。お嬢様も気の弱い方ではないから、取っ組み合いにでもなったら大変じゃない?」 「ああ、それは大丈夫。舞ちゃんには、お嬢様専属のお仕事は振らないから。」 「どういうこと?」 エリカさんの手招きで、みんながいっせいにテーブルの真ん中に顔を近づける。声をひそめて内緒話が始まった。 「・・・・・というわけで、ここはめぐぅちゃんに頑張ってもr」 「それは厳しい。」 だがしかし。せっかくだけれど、その作戦の詳細を聞いて、私は即座に手で×を作った。 「ええ?どうして?」 「・・・理由その1。私はキレやすい。そういうことになると、マイさんに穏やかな対応ができるか保証できないです。こんなことしちゃったりして、とかいってw」 私の空中張り手に、サキさんがひぇっと声を上げた。 「理由その2。正直、他のメイドに説明するのが面倒です。それに、私としてはお嬢様のプライベートな問題をあまりおおっぴらにしたくないんです。まあ、なんていうか噂話の好きな人もいるんで。」 「うーん。」 同い年ぐらいの子たちとこうして大勢で話し合ったりするのは久しぶりだから、さじ加減がわからなくてキツイ言い方してしまったかもしれない。でも寮のみんなはふむふむとうなずきながら、みんな熱心に私の意見を聴いてくれた。 「なるほどね。めぐの言うこともわかる。ちょっと強引だったかも。」 「あ、で、でも、別に全部に反対ってわけじゃないの。もちろん私もマイさんとお嬢様がもとどおり仲良くなったらいいなって思うし。」 「・・・じゃあ、もう少し練り直してみようか。これじゃあ肝心の舞ちゃんからも反発きそうだしね。ありがとう、めぐぅさん。」 カンナさんもそう呼んでたけど・・・めぐぅさんて。 「めぐでいいですよ。年、近いんで。」 「あ、本当に?じゃあ私もえりかとかえりでいいよ!もちろん敬語なしで!」 エリカさん、もといえりからの申し出に、皆が私も私もと続く。フレンドリーな寮生たちは、自然に私を輪の中に加えてくれた。 「私、めぐといっぱいおしゃべりしてみたかったんだー。これからもよろしく!キュフフ♪」 「あ、うん。こちらこそ!」 その後も、私たちは前からずっと親しかったかのように話し合いを続けた。ごく簡単な自己紹介からメイド業務の話、お嬢様の裏話。 昔の出来事が起因になって、誰かと深く付き合うことに少しばかり臆病になっていたけれど、この人たちとなら、ゆっくりリハビリをするように人間関係を構築できそうだと思った。 「結構長くなっちゃったねー!」 「だねー」 寮からお屋敷に帰る道すがら、栞菜とたわいもないおしゃべりに花を咲かせた。 「何にも聞かないんだね。」 「んぅ?」 「私が全日制の高校行かないで、この年でメイドしながら通信の高校選択してる理由とか」 この手の話題を自ら人に振ったことはなかったけれど、今日はとてもいい夜だったから、何となく勢いでそんなことを言ってみた。 「うーん・・・だって、もし話したくなったら、そんな前置きなしに自分から話してくれるでしょ?めぐぅはそういう人だと思うもん。今じゃなくたっていいし、話したいって思ってくれたならそのタイミングで。」 そんな風に言って、栞菜は私に笑いかけてきた。 やっぱり頭のいい子みたいだ。言葉を一つ発したら、そこからこっちの気持ちをできるかぎり汲み取ろうとしてくれる。 「栞菜は優しいね。変態だけど。」 「ちょぉ、それ一言余計だから!変態じゃないし!ていうかね、ぶっちゃけ私めぐぅが1個上って聞いてびっくりしてるんだからね!てっきり25歳ぐらいかと思ってた。あはははー」 「何だとー!ちょっと待て、このレズっこが!」 肩パンを喰らわせ合いながらはしゃいでお屋敷に戻ると、玄関でネグリジェ姿のお嬢様が仁王立ちしていた。 「・・・・どこへ行ってたの。どうして千聖が目を覚ました時に居ないの。め・・・村上さんまで。2人で私に隠れて出かけるなんて!」 「それは内緒です、ねっ栞菜?」 「ふっふっふ、まあそゆことです。」 「ずるいわ。そうやって私を仲間はずれにするのね。意地悪!」 お嬢様はすっかりいじけてしまったみたいで、地団駄を踏んでからクルッと後ろを向いて去っていこうとした。 「お嬢様。」 絶妙のタイミングで、栞菜さんはお嬢様の手首を掴んで後ろから引っ付いた。 「きゃっ!もう、どうして栞菜はそうやって抱きつくの!離してったら!」 お嬢様はじたばた暴れるけれど、栞菜はすっぽんみたいに食いついて離れようとしない。そういえば、プロレスごっこだってかなり体が触れ合うはず。栞菜のショック療法(?)は、お嬢様には有効みたいだ。 「ねえお嬢様、もうすぐお嬢様の今一番の願いが叶いますよ。めぐぅと栞菜たちに任せてください♪」 「一番・・・・・・本当に?私の一番の望みがわかるの?」 やっと解放されたお嬢様は、きらきらした黒目がちの瞳で私たちを交互に見つめた。 「そりゃあお嬢様のことならなんでも。ちなみに今お嬢様が栞菜にしてほしいことはぁ・・・・・トイレ付き合って欲しいんでしょ!それで待ってたんでしょう!」 「!・・・ちっ違うわ!・・でも栞菜が行きたいっていうなら付き合って差し上げてもいいのよ。だって今日のドラマは怖かったから、一人でお手洗いに行くのは嫌でしょう?」 「栞菜そのドラマ観てないからわかんな~い」 「うぅ~・・・」 お嬢様をからかいながらも、栞菜はちゃんとおトイレの方へ足を運んでくれた。 さあ、明日は早番だしさっさと寝よう。にぎやかな声を前方に聞きながら、私はさっきの会議の内容を心の中で反芻した。 これから寮生と協力して、がっつり頑張らないと。大好きな千聖お嬢様の一番の笑顔を取り戻すために。 ―それにしても25歳て。私、そんなに所帯じみてるのか。やっぱり同い年ぐらいの子たちとの交流って大事なのかもしれない・・・・・ 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「おねえちゃんさ、誕生日何が欲しい?」 「えぇ?」 オフの日曜日、私は舞とお買い物デートを楽しんでいた。舞のお気に入りの安くて可愛いアクセサリーショップで、おそろいのネックレスを買おうかなんて話しているときに、唐突にそう切り出された。 「事前に聞いちゃうの?それ。」 「だってぇ。」 舞は目の前でプラプラ揺れてる、ものすごい色使いのドレスを着たどでかいクマちゃんのストラップを指差した。 「例えばさ、舞が誕生日にこれあげたらどう思う?」 うーん。 ケータイのストラップとしてはかなり大きすぎる気もするけれど、もしかしたら私のキラキラデコ電にはしっくりくるかもしれない。 せっかくもらうんだったら、そのストラップに合わせてケータイをカスタムしなおしてもいい。 「嬉しいよ。」 少し考えて私が答えると、なぜか舞は難しい顔になってしまった。 「じゃあ、これだったら?」 次に舞が手に取ったのは、き●んしゃトーマスのトートバッグ。全面プリントされたトーマスが、笑ってない目で微笑しながら私を見つめる。 「えー!びっくりするけど、やっぱり嬉しいと思うよ。エコバッグに使わせてもらうかも。」 「うんこ型ボールペン。」 「もらったら使うよ。友達にウケそうだし!」 「赤ちゃん向けのおもちゃ。ガラガラとか」 「部屋で1人で遊ぶかも。」 「・・・そう、そうなんだよねお姉ちゃんは。」 「な、何?」 舞は大きな目をくるっと私のほうへ向けた。多分これは、ちょっと真面目な話をしたいってサイン。 「お姉ちゃんて、何あげても喜んでくれるでしょ。気を使ってとかじゃなくて、本当に嬉しく思ってくれる。」 「そうかな?うーん・・・そうかも。確かに、プレゼントをもらうってこと自体がもう嬉しいって思うかな。」 「それってさ、逆に選びづらいんだよね。だって、舞はお姉ちゃんのものすっっっごく喜んだ顔が見たいのに、せっかくの誕生日もリアクションが一緒じゃ味気ないよ。」 うっ。 そういえば、何日か前にも同じようなことを千奈美に言われた気がする。「舞美はさ、喜びの沸点低すぎだよ!」って。 私はあんまり物事に対して不満を持ったり激怒したり、逆にテンション上がりすぎておかしくなっちゃうみたいなことがない。 ちっさー・なっきぃとメイドさんで遊んだときはかなり盛り上がったけれど、そういう時だって、例えば前のちっさーみたく「うひゃひゃひゃひゃひゃ!」ってMAX状態にはならない。 「私が欲しいものかぁ・・・何だろうな・・・」 「あ、待って。やっぱりいいや。」 真剣に考え出したところで、舞がストップ!のジェスチャーで私を止めた。 「そうだよね、考えてみたらこういうの本人に聞いたって仕方ないよね。ごめん。舞、お姉ちゃんにめっちゃ喜んでもらえるように頑張るから!」 「そ、そう?私も舞へのプレゼント考えておくね」 そんな感じで一旦会話は終わったのだけれど、私は舞からの指摘に、内心動揺していた。 私って、何が嬉しいんだろう・・・?こんなにいろんなことを簡単に嬉しがるのは、変なのかな?心から喜んでないってことになるのかな? 普段あんまり物事を深く考えない分、一度気になるとそのことばっかり考えてしまう。 そんなわけで、私は少々自分の喜怒哀楽の“喜”と“楽”が、よくわからなくなってしまったのだった。 次の日、雑誌の取材の休憩中に楽屋でくつろいでいると、なっきぃとちっさーがニコニコしながらやってきた。 「はい、みぃたん!このお菓子ね、今コンビニで売ってたんだ!みぃたん好きそうだったから、2人で買ってきたケロ♪」 「あんまり甘くないみたいなので、舞美さんのお口にも合うと思うわ。よかったら、召し上がってください」 「わ・・・わぁ~!!!おいしそー!!ありがとうー!!!」 うわうわ、何このリアクション!自分でもどうかと思うぐらい、私はわざとらしい大声で、2人にお礼を行っていた。 「あ・・・嬉しくない?ごめん、無理させちゃった?」 みるみるうちに、なっきぃの顔がしょんぼりしてしまった。 「舞美さん?」 「あっ違う違うの!ごめんねなっきぃ!本当に、これおいしそう。ありがとう!」 慌ててフォローしようとしたけれど、うまい言葉が見つからない上に余計わざとらしい感じになってしまった。肩を落としたなっきぃは、そのままちっさーと歩いていってしまった。 「はぁ~・・・」 浮かない気持ちのまま、私は仕事を終えて電車に乗り込んだ。 いつも一緒に帰る舞は、今日は家族で出かけるらしい。ちょっと寂しい気持ちのまま、ドア付近の手すりにもたれて景色を眺める。 「舞美さん。」 「うわっ!」 しばらくボーッとしていると、突然背後から名前を呼ばれた。 「びっくりしたあ、ちっさーかぁ!一緒の電車乗ってたんだ。最初から一緒に帰ればよかったね。」 「あ・・・えと、お元気がないようだったので、千聖が話しかけてもいいものかわからなくて。あの、でも、もし私でお力になれれば、何でもお手伝いします。」 「ちっさー・・・」 ちっさーは、お姉さんモードで笑いかけてくれた。無性に甘えたくなった私は、ぎゅっとちっさーを抱きしめてみた。 「グチってもいい?」 「ええ。もちろん」 ちっさーのちっちゃい体は、あったかくて柔らかくて、ふわふわいい匂いがした。優しい声のトーンに促されるように、私は今の自分の気持ちをちっさーに打ち明けた。 「・・・そうだったんですか。それで、本当にご自分が喜んでいるのかわからなくなってしまったのですね」 「さっきはごめんね、私本当に、なっきぃとちっさーがお菓子くれて嬉しかったの。でも、変な感じになっちゃった。」 「あぁ、それはもうお気になさらないで。早貴さんも、落ち込んでいるというより、舞美さんが元気ないことを心配していらっしゃったわ。」 背の低いちっさーの声は、抱きしめているとちょうど私の胸の辺りにダイレクトに響いてくる。 声と一緒に、ちっさーの優しさもしみこんでくるようで、ちょっとだけウルッときた。 「舞美さん。私、舞美さんには今までどおり、嬉しいと思った時には思いっきり喜んでいただきたいです。 舞美さんの笑顔を見ていると、とても元気になるわ。舞さんは、きっとそんな舞美さんのもっともっと素敵な笑顔を引き出したいって思ったのではないかしら。」 「いいのかな・・・これからも単純で何でも喜ぶ私のままで」 「私は、これからも舞美さんがたくさん笑顔でいてくださったら嬉しいわ。」 ちっさーは目を三日月にして、私の顔を見上げて笑ってくれた。 「よーし、ちっさー!励ましてくれたお礼に、今からご飯行こう!」 「えっ・・・あら?でも、私、家族と・・・」 「ラーメン、おごってあげる。」 耳元で囁くと、ちっさーはお嬢様らしからぬニヤリ笑いで「・・ご馳走になります。」と返してきた。 「さ、ちっさーの最寄り駅で降りよう!前においしいって言ってたところ、連れてって!」 「ええ。ギョーザもおいしいんですよ。」 「ほんとー!?私今ギョーザ気分なの!嬉しいっ!」 ギョーザ一つで元気になれちゃう私は、悩んだところで、結局嬉しがりな性格は変えられないみたいだ。 「お誕生日、楽しみにしてくださいね。千聖も舞美さんにうーんと喜んでいただきたいわ。」 クフフと笑いながらホームへ降り立つちっさーの背中を、私は晴れやかな気持ちで追いかけた。 ―後日談― 「なっきぃ!あれ見て!山!おっきくない?」 「みぃたんはしゃぎすぎ~キュフフ」 今日は私の17回目の誕生日。 予定入れないで、絶対に開けておいて!とみんなに言われて、朝早くに呼び出された私はそのままわけもわからず電車に乗せられた。 「お誕生日、おめでとーう!」 オフの日だというのに、メンバー全員がそろっている。私の誕生日を祝うために、みんなで集まってくれたんだ。 電車の中だから声は小さめだけれど、ハッピーバースデーの歌を歌ってくれた。 「舞美には、キュート全員からこちらを差し上げます。」 かしこまったえりから、封筒が手渡される。 「・・・旅行券?」 「みんなでお金出し合って買ったんだよ。舞美、ずっとメンバーで旅行したいって言ってたでしょ?まぁ、一泊だけなんだけど、今から温泉に行くんだよ。」 「覚えててくれたんだ・・・・!」 「舞美さんのお荷物は、こちらで用意してますから。おくつろぎくださいね。」 胸の奥から熱い感情がじわじわとこみあげてくる。私は顔中くしゃくしゃにしながら笑って、「ありがとう!」と一人一人にハグしながお礼を言った。 「ねえ、舞。」 「なぁに?」 私の隣で、ちっさーのかばんから取ったお菓子をポリポリ食べてる舞に話しかける。 「舞さ、私が本当に喜ぶポイントがわからないって言ってたでしょ」 「あぁ、あれは・・ごめん、なかったことにして。そんな風に言ったらだめだって、千聖に怒られちゃった。」 チロッと舌を出して、舞は肩をすくめた。 「そうなんだ・・・。でもね、私思ったんだけど、私が一番嬉しいことって、私だけじゃなくみんなも一緒に嬉しく思ってくれることなんだと思う。家族や友達にも誕生日プレゼントもらったけど、正直、このプレゼントが一番嬉しいもん。」 舞は目をパチクリさせて「・・何かおねえちゃんらしいね。」と笑った。 「もうすぐ着くよー!準備できてる?ほらほら、みぃたんと舞ちゃんお菓子しまって!」 なっきぃの呼びかけで、私たちはいっせいに立ち上がった。 「あらあら、舞美お嬢様。お荷物をお持ちしますわよ。とかいってw」 「お足元にお気をつけて。とかいってw」 「ちょっとー、私の口癖まねすんなよー!とかいってw」 こんな素敵なメンバーに囲まれているんだから、私がいつでも嬉しそうな顔になってるのは、当たり前のことなんだよね。 「舞美ちゃん?早くおいでよー」 「はーい」 楽しい旅行になるといいな。そう思いながら、私はみんなの元へ走っていった。 TOP コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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前へ その夜。 「え・・・お嬢様、いないの?」 「うん。何かね、千聖のパパとかママ達が、仕事の都合で微妙に近くまで来てるから、今日は一緒に滞在先の別荘に泊まるんだってさ。学校はそっから直行するみたい。もちろんあっすーもね」 「んー、そっか」 寮のロビーにいた舞ちゃんとなっきぃからもらった情報は、ほんのり私を落胆させた。・・・佐紀に頭を整理してもらって、今が一番上手く話せそうだったんだけどな。 「・・・舞ちゃん。明日菜お嬢様にそんな呼び方・・・ケホケホ」 注意しかかって、なっきぃは軽く咳き込んだ。 「大丈夫?」 「ん、ごめんごめん。それより、夕食どうしようか?お嬢様が留守にしていらっしゃるのに、お屋敷で食べるのはちょっと・・・」 最近は寮生皆、夕食はお屋敷で食べさせてもらっているけれど・・・もともとは、みんなで寮のシステムキッチンを使って、交代で作ったりしていた。 あんまり使われなくなってしまった高級システムキッチン、密かにもったいないなあと思っていたところだから、これは腕を振るうにはいい機会だ。 「ウチ、なんか作るよ」 「本当?舞、チャーハン食べたいな。キムチと納豆のやつ」 「オッケー。ちょっと荷物置いてくるから待ってて」 お屋敷から食材をもらってこなきゃな・・・と思いながら、私は一先ず部屋に戻ろうと大階段に足をかけた。 ――ズルズル、ドサッ 「ん?」 あまり聞き覚えのない音。 振り返ると、なっきぃがソファのすぐ下の床に手をついていた。 「なっきぃ?」 「なっちゃん!?どうしたの」 向かいのソファを立って、舞ちゃんも駆け寄ってくる。 「ご、ごめん。何か、クラクラして・・・」 苦笑いで立ち上がろうとするも、なっきぃは細い腕で力なく手すりを掴んだだけで、また顔をしかめてへたり込んでしまった。 「ど、ど、どうしよう。救急車?それともお嬢様の主治医さんに・・・で、でも連絡先がわかんないし」 私はパニックになって、無意味にバッグの中をかき回したり、ケータイを触って取り落としたりとおかしな行動を取ってしまった。 今まで、寮に居てこういう事態に見舞われたことがなかったから、対処方法が思いつかない。涙目で舞ちゃんの方を見ると、私とは対照的に、いつもの冷静な顔のまま、大きな瞳でなっきぃを見つめていた。 「落ち着いて、えりかちゃん。・・・たぶん疲労と風邪の引き始めなんじゃないかな。まだ熱出てないけど、呼吸荒いし、唇の色悪くなってる。部屋に戻ったほうがいいよ」 「舞ちゃん、大丈夫だから。そんな大事にしないで」 「何言ってんの。今、胃も痛いんでしょ?いろいろ弱ってる時は安静にしてなきゃダメだから。 えりかちゃん、なっきぃを部屋に運んでくれる?舞、お屋敷の医務室にある薬の箱持ってくるから。っていうか、忙しくなさそうだったら、執事さんかメイドさん連れてくる」 舞ちゃんは一気にそう言うと、早足で中庭の方へ駆けて行ってしまった。・・・情けない。私の方が年上なのに、判断も行動もモタモタしている自分に自己嫌悪を覚えた。 そりゃあ、舞ちゃんは普通よりずっと優秀な子だし、よく周りが見えているから、機転が利くっていうのもわかってるんだけど・・・。 せっかく佐紀に相談に乗ってもらったのに、お嬢様のことは何も進展せず、それどころかまた別の問題を誰かに頼ってしまったっていう現実は、確実に私を打ちのめした。 「・・・なっきぃ、とりあえず二階行こう」 せめて、肩を貸すぐらいのことはしなければ。 萎えそうになる気持ちをどうにか奮い立たせながら、私はなっきぃの腕を取って、再び階段を上がり始めた。 ***** 「じゃあウチお茶入れるから、コンロ借りるね。その間に着替えておいて」 「うん・・・」 ベッドまでなっきぃを誘導してから、私は逃げるように備え付けのキッチンへ向かった。 オレンジ色のやかんにお湯をたっぷり注いで、ボーッとしてたらまた泣きそうになってしまった。 嫌だな。寮長の癖に、私はどうしてこうなんだろう。泣き虫で頼りなくて、誰にでもいい顔したがり。 新聞部事件の時だってそうだった。私がもっと要領よく動いていれば、きっともっと早く、お嬢様も舞ちゃんもあんなに傷つくことなく解決していたはず。 「えりこちゃん・・・」 背後から力ない声で名前を呼ばれて、振り向くとなっきぃが立っていた。 「あ、な、なっきぃ。だめだよ、寝てないと。ね?」 ぎこちなく笑いかけると、なっきぃは無言でギュッと抱きついてきた。 「なっきぃ?」 「・・・違うの、えりこちゃん」 「ん・・・何?」 なっきぃは小さく震えて、違うの、と細い声で繰り返す。 触れた体はとても熱くなっていて、舞ちゃんの言うとおり、風邪の引きはじめだったみたいだ。 「なっきぃ、大丈夫だから。ベッドに戻ろう」 そう言って少し体を離そうとしても、首を横に振って、しがみついたまま動いてくれない。 「・・・私、違うの。私は、お嬢様の邪魔をしたいんじゃなくて・・・そうじゃないの」 「うん、うん。わかってるよ。みんなも、お嬢様もわかってるから」 いつも強気で、寮生にだってめったに泣き言をいわないなっきぃが、苦しい胸のうちをポツポツと吐き出している。 その痛々しい姿に胸が痛む。きっと、どんな言葉を並べても、今のなっきぃには響かない。そんな気がした。 「あ・・」 いつのまにか、舞ちゃんが廊下の真ん中ぐらいにポツンと立っていた。大きな薬の箱を持って、まっすぐに私となっきぃを見ている。声をかけるべきか、考えているんだろう。目が合うと、少しだけ首を傾げる仕草をしてきた。 だから、私は無言で、首を横に振った。 (ごめん、舞ちゃん・・・) きっと、なっきぃは年下の子にこういう姿を見られたくないはず。舞ちゃんも察してくれたみたいで、一度大きくうなずくと、薬箱を置いて静かに玄関の方に消えていった。 「えりこちゃん・・・?」 「ん?大丈夫だよ、なっきぃ。ちょっと、そこ座って待っててくれる?ウチ、ちゃんとそばにいるからね」 「ん・・・」 少し落ち着いたのか、なっきぃは小さなテーブルセットの椅子に座ってくれた。 コンロの前に立っていると、背中越し、なっきぃが私をじっと見つめているのを感じた。 「私ね」 しばらくすると、今度は少し落ち着いた声で喋りだす。 「いっつもお嬢様のやることに文句つけてばっか・・・何で私ってこうなんだろう。嗣永さんにも“頭固い”って言われちゃったし。 でもね、じゃあ私がお嬢様と一緒にギャルメイクを楽しめばいいのかっていったら、それは違うと思うの。お嬢様の行動を否定してるわけじゃないけど、何かいろいろ考えてたらわけわかんなくなっちゃって。」 「・・・何か、わかるなそういうの」 さっきより饒舌な様子のなっきぃ。もう落ち着いて話せるかなって思って、私は2人分のスープボウルを持ってなっきぃの隣に座った。 「いい匂い・・・」 「コンソメと生姜溶かしただけだけど、胃に優しいから飲んで。ぽかぽかするよ」 なっきぃは一口口に含むと、「おいしい」とつぶやいてやっと笑ってくれた。 「・・・さっきの、なっきぃの話だけどね。実は最近、ウチも・・・」 私は佐紀に相談したそのままの内容を、今度はなっきぃにも話してみた。 さすが生徒会副会長と言うべきか、なっきぃはさっきまでの動揺をスッと引っ込めて、真剣な顔で私の話に耳を傾けてくれた。 「・・・そっか、えりこちゃんもいろいろ悩んでたんだ」 「なんかね、ウチはずるい人間なんじゃないかって・・・」 「ううん、それ絶対違うから」 ピシャッと遮られて、私は思わず姿勢を正した。 「えりこちゃんはずるい人なんかじゃない。絶対。えりこちゃんがいなかったら、寮生会議とか成り立たないから。みんな自分勝手にいろんなこと言って、収拾つかないでグダグダになって終わっちゃう。 えりこちゃんみたいに、全体の事見て、みんながちゃんと納得できることを考えてくれる人がいるから、私たちは平和な寮生活を送れるの。」 「いやいや、ウチみたいなどっちつかずなことばっか言ってたら、いつまでたっても何にも進展しないだけだし!なっきぃみたいにビシビシ意見くれる人ってすごく尊敬するし、うらやましいとも思うよ」 「えりこちゃん・・・」 「なっきぃ・・・」 私たちは無言でガシッと抱き合って、泣き虫コンビの名に恥じないぐらいオイオイと泣き出した。 「・・・もう、心配してもっかい来てみれば・・・なにやってんの」 苦笑する舞ちゃんが、愛理と舞美ちゃん、栞菜を連れて戻ってくるまでに、私たちはティッシュボックスを空っぽにしてしまった。 ***** それから1時間後。 感情を昂ぶらせたせいか、本格的に熱が出てきてしまったなっきぃを寝かせてからロビーに集まっていると、すぐ近くで、車が急停車する音が響いた。 「千聖・・・」 舞ちゃんがつぶやいて立ち上がると同時に、入り口の大扉がバーンと音を立てて開かれた。 血相を変えたお嬢様が、小さな体から正体不明のオーラを出しながらこっちに向かって歩いてくる。 「え・・・お、お嬢様?どうして?」 「舞からメールをもらって帰ってきたの。・・・なっきぃは!?体調を崩したのでしょう?」 それ以上話すのも面倒と言った様子で、お嬢様は階段を睨みつけて大またで上がろうとする。 「いけません、お嬢様!」 やっと追いついてきた執事さんとメイドさんが、2人がかりで止めにはいった。 「離して!お見舞いに伺うだけよ!」 「お嬢様、寮に足を運ばれるのはもちろん構いません。ですが、中島さんは体調を崩されているのでしょう?」 「そんなことっ・・・」 言いかけて、お嬢様は唇を噛んだ。 お嬢様はちゃんと理解している。 執事さんやメイドさんが、意地悪で自分をなっきぃを会わせてくれないんじゃないことも、もし自分に風邪が移れば、いろんな人に迷惑や心配をかけてしまうということも。 それでも大好きななっきぃに会わせてもらえないことは、あまりに悔しくて、とても納得しきれるものではないみたいだった。 「・・・わかったわ。千聖は具合の悪いお友だちに会うことも許されないのね。もういいわ」 普段のふわふわした雰囲気からは考えられないぐらい、お嬢様は刺々しい口調でそう言い捨てると、執事さんたちを押しのけるようにして寮から出て行こうとした。 「あ・・・!」 とっさに、私はお嬢様の手首を掴んだ。バシッと派手な音がして、みんなの視線が集中する。 「・・・えりかさん?」 「あ・・・えーと・・・」 また自分の悪い癖で、この期に及んでゴチャゴチャ考え出しそうになるのをどうにかこらえる。 「あ、あの!なっきぃの部屋はダメでも、ウチの部屋ならいいですよね!ね?」 「ええ・・それは、もちろん」 「じゃあ、お嬢様お借りしますんで!行きましょう!」 「いってらー」 寮の皆は手を振りながら、快く送り出してくれた。 「え・・あの、えりかさん?あら?あの・・・・」 いきなりの展開に、目を白黒させてるお嬢様を連れて、私は自室へと戻った。 次へ TOP
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関連ブログ @wikiのwikiモードでは #bf(興味のある単語) と入力することで、あるキーワードに関連するブログ一覧を表示することができます 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_161_ja.html たとえば、#bf(ゲーム)と入力すると以下のように表示されます。 #bf
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「舞さん。」 いきなり名前を呼ばれて振り返ると、数メートル先に大人びた表情で微笑むお嬢様の千聖がいた。 「なあに?」 近づいてしばらく無言で見つめ合う。すると、千聖はいきなりなっきぃにもらったワンピース(通称ちょうちょのワンピ)をガバッと脱いだ。 「はぁ!?」 続いて、薄いピンクの下着にも手をかけて、一糸纏わぬ姿になってしまった。 「な、何やってんの・・・」 目の前には見事なたゆんたゆん・・じゃなくて。そんなことはどうでもよくて。 「舞さん、お誕生日おめでとう」 「えっ。うん・・いや、今それ言うタイミング?」 「うふふ。私、舞さんの一番欲しいものをあげるわ」 千聖はとろんとした目つきになって、裸のまま私に抱きついてきた。 「欲しいんでしょう?」 胸にぷにゅっと柔らかい感触が押し当てられた。 囁く甘い声と、妙に生暖かい息が耳をくすぐる。頭がカァッと熱くなった。 「ちっ・・・ちしゃとおおおおおおおおおおおおおおお おおおおおおおおっイデッ!」 後頭部に衝撃を感じて、目が覚めた。 身体を反転させると、頭上に栞菜の足が投げ出されている。 「夢・・・」 「んが」 ええい、邪魔だ!まとわりついてくる足をどかしながら、徐々に意識が戻ってきた私は毛布にくるまって悶絶した。 ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。何てバカな夢を見てしまったんだろう。思春期の男子か私は。まだちょっと身体が火照っている。 今私は、舞美ちゃんのお誕生日のお祝いに、キュートのみんなと一泊旅行へ来ている。私のバースデーパーティーも一緒でいいよと言ったのに、「それはまた別にやるから。」とみんなに押し切られてしまった。 今日は観光地を巡って、温泉に浸かって、ゲームして、すごく楽しい時間を過ごしたというのに。旅行の締めがこんな夢だなんて、どうかしている。 まだ日は昇っていない。私以外、みんなすやすや安らかな寝息を立てている。 いっぱいのプレゼントに囲まれて、夢の中でも幸せそうな舞美ちゃん。どういう寝相なのか、私を蹴りながらえりかちゃんにチョップをくらわせて寝ている栞菜。 ウーウーとうなされながらも深い眠りについているえりかちゃん。そのえりかちゃんに場所をとられて壁際に追い詰められ、半分顔を枕に埋めながら、スピースピー寝息を立てるなっきぃ。 「千聖・・?」 ふと姿の見えない中2コンビを探してみると、我関せずと言った感じで、ドア側の端っこで眠り込んでいた。布団はひとつ、枕はふたつ。喋ってるうちに眠ってしまったのか、向かい合った2人は顔がくっついちゃいそうだった。 何だよー、千聖はえりかちゃんLOVEじゃなかったの?いつぞや仕事で行ったコテージで、やらしーことしてたのに。・・・私があんな夢をみたのは、多分あれのせいなのに。 いやいや、よく考えたら千聖は愛理とも何かあったんだっけ(栞菜談)。ということは、愛理かえりかちゃんか決めかねてるってこと? …何か面白くない。多分、千聖のこと一番好きって思ってるのは私なのに。 私だって、千聖と2人で逃避行したり、ちゅーまではしてるっていうのに、何だろうこの敗北感。 ランデブー+キス<<<<<超えられない壁<<<トイレで触りっこ<<<<<<コテージでセッk 「うおぁ!」 いけないいけない、何を考えかけた、私。奇声を上げて頭を振ると、えりかちゃんが寝言で「フヒヒwww」と笑った。 くそー、えりかちゃんめ。誰が元祖千聖の相方だと思ってるんだ! 「千聖、千聖。」 「んぅ・・・」 愛理を起こさないよう注意しながら、千聖の肩を掴んで強めに揺する。しばらくすると、長いまつげの下からきらきらの黒目が現われた。 「あ・・・舞さん?おはよごじゃましゅ」 千聖は寝起きが悪い。ろれつの回らない口で私に挨拶すると、もう一度布団に顔を埋めようとする。 「ちょっと!起きてよ。」 「んー・・・まだ皆さんも寝てらっしゃりゅわ・・・」 「いいから。一緒に来て。」 両脇を持って引っ張り上げると、観念した千聖はやっと起き上がってくれた。 「静かにね。」 廊下に出ると、千聖の手を引っ張って、エレベーターまで連れて行く。 「舞さん・・・?どちらへ行くんれすか」 相変わらず眠そうな千聖。仕方ないなあ。私は自販機でりんごジュースを一つ買うと、千聖の口に押し付けた。 「あら、舞さんがごちそうしてくださるの?珍しいのね。」 「うっさいな。舞も飲むんだから、早くして」 「ん・・」 千聖の顎を押さえて、赤ちゃんにあげるみたいにペットボトルを傾けていく。 ジュースを飲むたびに、皮膚の薄そうな喉がこくこく音を立てて動いた。 悩ましくひそめられた眉。飲みきれなくて口の端からこぼれる液体。 ――あ、ヤバイ。さっきの夢でのことが頭をよぎる。 「はい!はい!もう終わり!後は舞の!」 私は何かをごまかすように、ペットボトルを思いっきり千聖の口から離した。 「もう・・・今日の舞さんは乱暴なのね。」 「ふんっ」 困った。千聖の顔をまともに見ることができない。今からあんなところに行くっていうのに、大丈夫か、私。 「・・・着いた。降りて。」 「あら、ここは?」 カードキーを差し込んで、千聖の背中を押して中に入ってもらう。 「お風呂・・・」 ホテルの最上階。ドアの向こうには、共同浴場とは違う、ちょっと高級感のある脱衣所が備わっていた。 「そ、温泉。夜さ、みんなで共同の入ったでしょ。本当は、この貸切のお風呂を使う予定だったんだけど、7人じゃ狭かったからね。でも使わないのもったいないし、ここで朝風呂しようよ」 「ふふ、いいわね・・・楽しそう。」 お嬢様になっても好奇心旺盛なところは変わらない。千聖はパジャマ変わりのジャージのまま、脱衣所を抜けてすりガラスの向こうへ行こうとした。 「千聖、着替えなきゃだめでしょ」 「きゃんっ」 首根っこを掴んで引き戻すと、千聖は照れくさそうに目を半月にして笑った。・・まったく、しっかりしてるんだか天然なんだかわからない。 千聖はよっぽどお風呂が気になるのか、テキパキと服を脱いでいく。へー、本日の下着は薄いピンクか。って 「うおおい!」 それ、夢と一緒じゃん! 「ひえっ!ま、舞さん?」 「・・ごめん、本当すいません。気にしないで。」 別に、千聖の下着姿なんて見慣れてる。コンサートでもレッスンでも、着替えなんて日常茶飯事だから。 お嬢様化した当初はコソコソ着替えていた千聖も、一度舞美ちゃんにガーッと剥かれてからはもうどうでもよくなったらしい。 そういうアバウトなところは前の千聖っぽいなぁ。 とはいえ、さすがに真っ裸には抵抗があるらしく、ブラを取ると同時にすばやくタオルを巻きつけてしまった。すごい、何も見えなかった。 「もう、そんなに見ないで。恥ずかしいわ。お先に行ってるわね。」 愛理みたいに身体をクネクネさせながら、千聖は私の視線を逃れるようにお風呂場へ入ってしまった。 TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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クレープにホットドッグ、綿菓子に焼きそば。 ダイエット中の身にはなかなか厳しい出店たちが、私を誘惑している。 「はー、どうしよっかな・・・」 午前8時半。 クラスの店番の確認が終わってから、私は給水塔によじ登って、桜色のパンフレットをパラパラと眺めた。 学園祭の間中、千聖を独占しようかと思ってたんだけど、さっきあっすーと約束しているのを見たばっかりだから、今日は引き下がっておくことにしましょう。 「でもなぁ・・・舞別にやることないしなぁ」 クラスの出し物といっても、ジューススタンドの会計を1時間程度やるだけだし、他の時間はどうしよう。 寮のみんなはクラスだけじゃなく生徒会や委員会、部活の関係で忙しいだろうし、何かちょっと誘い辛いな・・・。 「あー、何かめんどくさっ」 私は軽く舌打ちして、ゴロンと寝返りを打った。 以前の私だったら、適当に食べ物を調達して、ここで一日ダラダラ過ごすという選択をしていただろう。あるいは、寮に戻っちゃうとか。 でも、私はもう、大好きな人達と過ごすかけがえのない時間を知ってしまった。 友達なんかいらない。一人でも大丈夫だったはずの私は、こんなささいなことに戸惑って、寂しさを憶えるようになってしまった。 「・・・情けないなぁ」 まったく、天才少女の名が泣きますよ。進化したんだか退化したんだか、よくわからない。 88 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2010/05/31(月) 22 52 30.19 0 手持ち無沙汰になって、ケータイから適当にメルアドをチョイス。 “あ”行の先頭にあったその名前に、“ばーかばーか”ってメールを送信してみる。・・・いいんだもーん、どうせ舞はガキですよっ! そのままダラダラしていると、女の子特有のキャッキャとはしゃぐ声や、吹奏楽部の奏でる音楽が耳に入ってきた。・・・そろそろ、学園祭の開始時間なのかもしれない。 最初ぐらいは教室にいたほうが良かったかな・・・と思ったけど、今更戻るのも何か照れくさい。 クラスの子たちも私のサボり癖はよく知っているだろうから、わざわざ探しに来たりはしないだろう。こういうの、何ていうんだっけ。自業自得、じゃなくて因果応報、じゃなくて・・・。 「もしもし、そこの可愛いお嬢さん」 「うおっ」 いきなり、背中を指でチョンチョンとつつかれた。しかもブラ線を的確に・・・こういうことする℃変態といえば、もう一人しか該当者はいない。 「・・・なんだよっエロ魔人」 「あーあー、そういう言い方はひどいかんな!ていうかさっきのメールなんだよー!いきなりバーカとか言ってさ、ヒドイじゃーん!」 私の体をよっこいしょと転がして、ちゃっかり自分のスペースを作っちゃったのは、言わずもがな。日夜千聖をめぐり、血みどろの戦いを繰り広げている好敵手・栞菜だった。 「舞は縄張りでリラックスしてただけだし。ここ千聖と舞以外立ち入り禁止なんですけどぉ」 ――ええ、言われなくてもよーくわかってます。自分が嬉しそうな顔しちゃってるのは。 「またまたー、私と遊びたかったんでしょ?全力でイこうぜ!女の子は素直が一番だかんな、ジュルリ」 「うっさいな、どこ触ってんだよっこの℃変態め!」 「か・ん・ちゃ・ん!」 金網デスマッチより危険な給水塔キャットファイトに興じる私たちの背後から、いつものキャンキャン声が響いた。 89 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2010/05/31(月) 22 54 21.51 0 「んもー、一人でいいなんて言うから任せたのに、遊んでる場合じゃないでしょうが!」 わしわしと梯子を上ってきたのは、今日も今日とて風紀委員の腕章がまぶしいなっちゃんだった。 「ちょっとー、舞のテリトリーなのに、みんな勝手に」 「テリトリーって舞ちゃんあのね、ここは学校の設備であって・・・まぁ、とりあえず今はいいケロ。それより、時間がないから簡潔に言うね」 なっちゃんは私たちの腕を引っ張って立たせ、自分も正座になって向き合う。 つられて背筋を伸ばすと、なっちゃんはぷっくりした唇をゆっくり開いた。 「本日より、萩原舞さんを、生徒会補助役員に任命いたします!!」 「・・・は?」 優等生モードで微笑む2人は、「おめでとーう!」とかいって拍手を送ってくる。 「ちょ、ちょっと待ってよ。勝手に決めないでよね。舞毎日結構忙しいんだけど」 慌てて言い返すも、2人は年上っぽく、余裕綽々って感じに笑いかけてくる。 「だって舞ちゃん、委員会も部活も特に何にもしてないでしょ?時間いっぱいあるでしょ?何が忙しいの?」 「・・・べ、勉強?とか」 「いや、してないでしょ」 「えーと・・・読書とか」 「舞ちゃんなら大抵のものは5分あれば読み終わるでしょう」 「・・・だって、そんな急にさぁ」 私ちょっと眉をしかめた。 おっしゃるとおり、別にこれといって多忙なわけではない。むしろ暇人な方だと思う。 でも、私は協調性がないし、束縛されたくないし、自分の行動をきっちり決められるのも苦手だった。そんな私が学園の、しかも最重要機関の生徒会の仕事に携わるなんて、思ってもみないことだった。 90 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2010/05/31(月) 22 55 25.27 0 「キュフフ、あのね、舞ちゃん。私たちには、舞ちゃんの力が必要なの」 「もうすぐ、舞美ちゃんもえりかちゃんも、佐紀先輩も卒業しちゃうでしょ?3人が安心して巣立っていけるように、いきなり役員とか幹部じゃなくていいから、まずは補佐として手伝いをしてほしいんだ。お願い。」 ――卒業。 心臓がズキンと鳴った。・・・そっか、いなくなっちゃうんだ。お姉ちゃんもえりかちゃんも。 わかっていたつもりだったけど、どこか遠い話のように考えていた。 だけど、生徒会のお仕事を一緒にやっている栞菜やなっちゃんたちにとっては、私よりもずっと身近で深刻な話なのかもしれない。 とりわけ、責任感の強いなっちゃんのことだ。こうして私に頭を下げに来るまでにも、いろんな思いが錯綜していたことだろうと推察できる。 「・・・どうかな?私、舞ちゃんが生徒会に来てくれたら心強いんだけどな」 「ダメ?お願い、舞ちゃん」 2人がかりの説得で、私の心はかなり揺れていた。というか、実際もうほとんど、引き受ける方向に傾いている。 それなのに、素直にウンとうなずけない理由。それは・・・ 「何かさ・・・、栞菜となっちゃんに説得されて就任ってなると、ちょっとカッコ悪くない?あの子何様?とか思われないかな」 口を尖らせてそう言うと、二人はキョトンとした顔をした後、ちょっとイヤーな感じの含み笑いを浮かべた。 「キュフフ、舞ちゃんそういうとこ可愛いよねぇ」 「からかうなよぅ」 「だったらさ、舞ちゃんが立候補したってことにすればいいじゃん?みんな喜ぶよ」 「でも、舞そういうキャラじゃないし」 ――うわ、めんどくせえ・・・。 我ながら困ったちゃんなゴネかただとは思うけど、どうも信頼している&年上という条件が揃っていると、甘えん坊が発動してしまう。 「もー、ま・い・ちゃ・ん!!」 とうとう、焦れた栞菜がガシッと肩を掴んできた。 91 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2010/05/31(月) 22 56 17.45 0 「あのね、認めたくないけどね、舞ちゃんが生徒会入ったらお嬢様も絶対喜ぶから!」 「いや、それとこれとは話g」 「舞ちゃんはお嬢様の喜ぶ顔を見たくないの?」 「だ、だからぁ」 「見たいか見たくないのかどっち!二択!」 「み、見たい、です」 「なら、生徒会のお手伝いしてくれるよね?ね?はい決定!」 憎たらしいほど満足げな栞菜。 でも、まあ悪い気はしなかった。こんなに全力で、仲間に入れてくれようとするなんて。 「・・・℃変態の癖に、交渉は上手いんだから」 「本当、℃変態でさえなければね・・・。それより、いいの?強引に決めちゃったけど」 さすがに、なっちゃんは投げっぱなしにしないでくれるみたいだ。 「うん、いいよ。さっきは素直になれなかっただけ。でも、あくまでお手伝いなんだからねっ」 「はいはい。とりあえず、みんなのとこ行こう。学園祭開始の合図は、生徒会全員で放送でするの。 もう舞ちゃんは、生徒会の一員だから、居てもらわなきゃ困るんだからね」 さらさらロングの髪をたなびかせながら、なっちゃんは私の少し前をスキップ交じりに歩いていく。 「ん?」 ふと、手が温かい感触に包まれた。 背丈に比べて小さめな、栞菜の手が私と繋がっていた。 「舞ちゃんさ」 いつものふざけた調子じゃないと、ちょっと戸惑う。 栞菜は静かに、私の目を見つめていた。 92 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2010/05/31(月) 22 57 35.95 0 「な・・・に」 「寮と同じだから。属してる、なんて思わなくていいからね。いつも舞ちゃんが、好きなときに帰れる居場所だって考えてくれれば」 私より身長も低いくせに、お姉ちゃんぽく頭をポンポンなでてくれる。・・こういう時の栞菜って、憎たらしいほど鋭い。心臓がキュッと掴まれるような感覚をごまかして、「・・・栞菜のくせに、心の中覗くのやめてくれる」って毒づいてみせる。 「猫、大好きだからね。舞ちゃんみたいな猫科の生態はよくわかるんだよん」 「何それ。じゃ、犬科のちしゃとのことは諦めてよね」 「それはそれ、これはこれ。お嬢様は奥が深いから一概に犬科とは・・・まあ、それはまた後日。ほら、なっきぃ待たせてるし、行こ」 「はいはい。・・・仕切んなよぅ」 何か、強引に事を進められてしまったけど、心は不思議と軽やかだった。 栞菜に手を引かれていく先には、ほぼいつもどおりの・・・でもちょっとだけ形の違う、新しい私の場所が待っている。 ただそれだけのことに、溢れてしまう笑顔を必死に噛み殺しながら、私は屋上を後にした。 TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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前へ 朝。 寝起きで働かない脳みそのまま、私は寝癖のついた前髪と格闘していた。 「あーん、全然ダメ!あとでヘアアイロンで伸ばそうっと」 言う事を聞いてくれないお毛毛はひとまずおいといて、今度は大きな姿見の前でくるっとターン。 「もーちょいスカート短いほうがいいかな。あ、とグロス塗らなきゃ・・うん、舞、かわいーぞー!とかいってw」 ん?なーに?舞様が学校にオシャレしてくなんて珍しいって?ふふん、乙女心がわかってないなあ。 今日は学園祭1日目。 千聖以外の人は興味なし!なんて言い切ってる私でも、外部からいろんな人が来るとなると、ちょっとばっかし張り切ってしまう。 大体、本妻(自称)がみすぼらしい格好してちゃ、千聖に恥じかかせちゃうしね。 あんまり得意じゃないネクタイも今日はうまく結べたし、とりあえず前髪以外はバッチリ。 あとは・・・せっかくだから、美容のプロに身を任せるとしよう。 「えりかちゃーん、入るよー。・・あれ?」 舞美ちゃんお手製の【℃-uty工房・ERIKA】というプレートがかかったドア。 ノックとともに開けると、ふわっとバニラの香りが漂ってきた。 「あら、早いのね。舞、ごきげんよう」 「おはよー、舞ちゃん。ごめんね、ちょっと今手が離せなくて。待っててくれる?」 髪をクリップでまとめたエプロン姿のえりかちゃんと、制服の上からケープをかぶった千聖。 2人は顔を近づけて、至近距離で微笑み合っていた。 「うん、でもこれは階段編じゃないから大丈夫でしゅ」 「舞?」 「いえいえ、こっちの話。メイクと髪やってもらってるんでしょ?舞もお願いしにきたの。℃-uty工房・ERIKAが早朝から開いててよかった」 「あはは、ウチの店大盛況じゃーん」 手先が器用でオシャレなえりかちゃんは、卒業後は美容関係に進むらしい。 メイクとか、服とか、モデルさんになる勉強のできる学校に行くって言うもんだから、寮生みんなが協力体制。 メイクの実験台になったり、私服のコーディネートを考えてもらったり。 特に、千聖は毎朝通いつめるほど熱心なご様子で・・・ま、でもこれは階段編じゃ(以下略。 千聖の番が終わるまで、雑誌でも読んでようかなとベッドの方に行くと、そこにはすでに先客がいた。 「おはよっ、あっすー」 「あ・・・お、おはようございます」 千聖とはあんまり似てない顔を赤らめて、あっすーは口ごもった。・・・うん、喋り方はそっくりだ。 「明日菜ったら、寮の皆さんがいらっしゃると大人しくなるんだから。内弁慶なのね、ウフフ」 「っ・・・お、お姉さま!余計な事はおっしゃらないでくださる?」 「そーだそーだ!千聖何お姉ちゃんぶってんのー?昨日だって夕食の時はしゃいでスープこぼしちゃったくせに」 「そ、それは今は関係なフガフガフガ」 とりあえずあっすーの方に加勢してみると、千聖はすぐに唇を尖らせてフガフガ言い訳を始めた。 「はいはい、お嬢様じっとしててくださいねー。変なメイクになっちゃいますよー」 私と千聖の痴話喧嘩なんて慣れっこなえりかちゃんは、そのままマイペースにアイペンシルを動かしている。 「・・・えへへ」 はにかんだあっすーがチラッと私の方を見て、ちょっとだけど心が通じ合った気がする。 人見知りさんみたいだけど、これからもっと近づきたいな。何せ将来的には私の義理妹になるわけですから。 「なんねーYO」 「うおっ」 いきなり、ベッドの下から這い出てきたmyエネミー。 「もー、栞菜そんなとこにいたの?明日菜お嬢様の次やってあげるから、大人しく待ってなさいって」 「下からのアングルで、メイクを施されていくお嬢様を堪能していたかんな。ジュルリ」 「・・・℃変態め」 私のつぶやきに、栞菜の眉がピクッと上がる。 「またまた、何をおっしゃいますやら。舞様のストーカーっぷりには敵わないですわ。舞様がお嬢様にあげたぬいぐるみ、夜中にジージー電子音がするのはなんでやろなあ?ガハハハ」 「はて、不思議なこともありまんなあ。そんなことより、栞菜殿の痴漢行為を合法ギリギリに収める見事なテク!さすが、筋金入りのアレでんがな。小生なんて栞菜殿に比べたら小物も小物ですわ。ガハハハ」 「いやいやいや、ご謙遜を」 「いやいやいやいや」 「・・・やっぱり、お姉さまのお友だちは個性的な方が多いのね」 あっすーのつぶやきに、ヤンキーの喧嘩のごとくおでこをくっつけて威嚇し合っていた私たちはやっと我に返った。 「もう、2人とも騒いではだめよ」 「「はぁーい・・・」」 薄化粧の千聖に微笑まれて、双方ノックアウト。 ま、今日のところはドローということで引いてあげましょう。 「はい、お嬢様完成!かわいいですよー」 「ありがとう、えりかさん。・・舞、栞菜、明日菜。どうかしら?」 ケープを外して、私たちの方へ振り返った千聖。 さらさらストレートヘアの両サイドに作られた細い三つ編みを、頭の後ろでまとめるヘアスタイル。 千聖が気合をいれてるときによくやる髪型で、口に出して言ったことはないけど、よく似合ってると思う。 しかも、今日は私がホワイトデーにあげた、緑と黄色の色石のバレッタを使ってくれている。 「うん、可愛いよ。それ、やっぱり似合ってる」 普段はおサルとか犬っころとか憎まれ口を叩いちゃうけど、嬉しくて今日は素直になれた。 「あら。舞が褒めてくださるなんて、何だか不思議だわ」 千聖も嬉しそうに笑ってくれるし、たまにはあまのじゃくも抑えたほうがいいのかも・・・。 あっすーと私、そして宇宙の有原皇帝も可愛いメイクを施してもらって、5人そろって寮の玄関に赴く。 「おはよう!あれー、何か今日可愛いね!」 「ケッケッケ、気合入ってますなぁ」 私たちの出で立ちを笑顔で受け入れてくれる二人も、色つきリップとほんのりチークで少しだけオシャレを楽しんでいる。 「・・・お嬢様」 その後ろから、ちょっと唇を尖らせたなっちゃんが顔を覗かせた。 パリッと着こなした制服。 髪型で遊んだりする事もなく、“いつもどおり”のなっちゃん。 「あ・・・」 なっちゃんは、千聖の頭から足先までを無言でジーッとながめる。 「なっちゃん、あのさ・・・」 思わず口を挟もうとすると、なっちゃんは表情を崩してキュフフと笑った。 「・・・もう、学園祭の間だけですよ?お嬢様」 「なっきぃ・・・」 そう言って、優しい手つきで千聖のブレザーの襟を直してあげるなっちゃんは、少しだけ照れくさそうだった。 ――ま、これはしょうがないか。親衛隊の中で、こういう風に千聖を喜ばせてあげられるのはなっちゃんだけなんだし。 「・・・なっちゃんも、先週みたいな格好すればよかったのにぃ」 「そ、そりは禁句だケロー!」 「風紀委員でマンバって、素敵だかんな」 「ひぎぃ!」 とはいえ、やっぱり千聖ポイント(千聖を喜ばせると、ポイントが加算されるよ!)を稼がれてしまったことは悔しいので、少々手荒にからかってやることにした。 だいぶ早い時間に寮を出たというのに、もう林道には同じ学校の生徒たちの姿があった。 私たちと同じく、みんないつもより若干オシャレに装っているように見える。・・・さすがに、ヤマンバさんはもういないけど。 「舞美、おはよー」 「愛理早いねー、一緒に行こう!」 そのうち、それぞれの友だちもワラワラと合流しだして、寮生列はどんどん崩れだしていく。 私はえりかちゃんとお喋りしながら、千聖は誰と居るのかな?とひそかに視線を送ってみると、どうやら学園祭パンフレットを手に、あっすーと談笑しているみたいだった。 「お姉様、今日のご予定は?明日菜のクラス、綿菓子を販売するのよ。ぜひ立ち寄ってほしいわ」 「ええ、もちろん伺うわ。明日明後日は忙しいから、今日明日菜とお店を回る時間がほしいのだけれど・・・どうかしら?」 「本当?私もお姉様と過ごしたいわ。後でシフトを確認するから、先に他の方と約束を入れてはだめよ!」 ――なーんだ、お姉ちゃん扱いされないとかしょっちゅう言ってるけど、結構仲良しじゃん。 さすがの私でも、身内のあっすーは嫉妬の対象にはならない。むしろ、姉妹で仲良くしてる姿は微笑ましくていいなって思う。 ふと、しばらく会っていない自分のお姉ちゃんのことが頭に浮かんだ。今日は、久しぶりにメールでも送ってみようかな、なんて思った。 次へ TOP
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IDOLDEATHGAME TV チーム・ハッピー チーム・スマイル チーム・パッション チーム・ライジング その他 コメント ウィッチクラフトが開発し、ディースリー・パブリッシャーより2016年10月20日に発売されたPlayStation Vita用ゲームソフト。公式サイトではアイデスTVの呼称も用いられている。 チーム・ハッピー エムリットorハピナス:茅ヶ崎千春 ドリパクから付けられた際のキャッチコピーは「偽りだらけの幸福」から アグノム:蒲田真理子 デスライブではプレゼントの箱に閉じ込めれその後に爆発するのでだいばくはつを覚えさせたい ユクシーorトゲキッスorキテルグマ:筑波しらせ トゲキッスはキャッチコピーは「祝福の女神」、キテルグマはデスライブでは熊の着ぐるみから チーム・スマイル ゴルーグ:天王寺彩夏 デスライブでは夢合体☆ドリームロボから ドンカラス:烏丸理都 名前から チーム・パッション ウインディ:諫早れん デスライブでの警察官から チーム・ライジング シャワーズorアシレーヌ:旭川姫 デスライブではどりむ童話☆から その他 ムンナ:ドリパク 「ポケモン不思議のダンジョン マグナゲートと∞迷宮」での位置が似ているので コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る
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≪ゲーム概要≫ あの大ヒットメッセージアプリ風恋愛ゲームが思わぬ方向に・・・!? 歴史上の偉人達とちょっとだけ会話が楽しめちゃう! 信頼される事が出来れば、本当の偉人達が垣間見えるかも・・・。 誰でも安全にモテモテ体験できるメッセージアプリ風恋愛ゲーム(笑)「返信ください」が、遂に恋愛から手を引いた! あの時代にもしもスマホがあったら、もしもあの人とメッセージが出来たら・・・。 そんな願望を見事に叶える事が出来るぞ! 自分の名前と性別を選ぶだけ。 現実では会話できない様な偉人達から、いろんなメッセージが届くよ! メッセージに返信しながら、うまいこと相手と仲良くなって信頼関係を築こう。 要は相手を手玉にとればとるほどいいってこと。言葉のキャッチボール上手を目指そう! ただ、相手の期待に応えられない返事をすると印象ダウンしちゃうので、返すメッセージは慎重に選ぼう。 それでは、偉人達との会話をお楽しみください。。。 ※実際の歴史上の人物とは関係ありません。広い心で遊んでください。
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その悲壮な声に驚いて、私は早貴さんの隣の席まで移動した。 「・・・こんなに、話が大きくなるとは思ってなかったの。」 搾り出すような声でそう言うと、早貴さんは目元をおしぼりでぬぐった。 「千聖、ユニット組みたいってずっと言ってたでしょ?ほら、コンサートのバックステージで、ももちゃんと二人で、組んでくれる人探したり。」 「ええ。」 半ば恒例となっている、桃子さんと私のユニットメンバー探し。特典映像としても人気があるらしく、私も毎回楽しく皆さんと交流を図っていた。 「なかさきちゃん、なんで言っちゃうの?まだ千聖なんにも答えてないのに」 友理奈さんが唇を尖らせる。 「ごめん。ちょっともう、無理。話させて。 ――千聖は今、キュート以外のユニットには参加していないでしょ。だから、単発でもいいから、千聖が誰かとユニット組んだり、どこかのユニットに参加することは出来ないかなって。 それを誕生日プレゼントの一つにできたらいいなって考えて、キュートのみんなに相談したの。」 少ししゃくりあげながらも、早貴さんはしっかり私を見ながら話を続けてくれた。 「もちろんみんな、賛成してくれたよ。それで、スタッフさんにもいっぱい頼み込んで、夏コンの時に一曲・・・ それが無理なら、MCの時の1コーナーとして、あるいはDVDになった時の特典として、千聖をどこかでフィーチャーしてもらえるかもってところまで取り付けたの。」 「そんな・・・私のために、そこまで・・」 「でもね、私、だんだん怖くなってきちゃったの。ほんのお遊び企画のつもりだったのに、人によっては・・・たとえば新垣さんたちはかなり本気になっちゃってね、岡井ちゃんにはキュートから娘。に移籍してもらおうかなー、なんて真顔で言われて。 あっすーとかスマイレージのみんなも、私が考えてたよりずっと真剣に考えてたっぽいし。 ももちゃんも、にこにこしてるけど、本当は結構本気なの、なっきぃわかってるんだから。」 「えー?うふふ」 桃子さんは何も言わなかったけれど、無言の微笑が答えになっているような気がした。 「・・・お願い、どこにも行かないで。千聖は、モーニング娘。さんも、ベリーズも大好きでしょ?でも、私は千聖がいなくなったら嫌だよ。お嬢様の千聖ってふわふわしてて、すぐにどっか飛んで行っちゃいそうで怖いの。 企画者なのに、こんな勝手なこと言ってごめん。でも、もう我慢できない。」 しきりに目の下をぬぐっていた早貴さんは溢れ出てくる涙が抑えられなくなってしまったようで、ついには顔を覆ったまま、黙り込んでしまった。 「千聖ぉ・・・」 重い沈黙が流れて、皆さんの視線が私に集まっていた。 伝えたいことはたくさんあるけれど、何から言ったらいいのかわからない。それでも、私のために心を痛めている早貴さんをこのままにしてはおけなくて、私は意を決して口を開いた。 「早貴さん、千聖のお話を聞いてもらえますか。」 「うん・・・」 「ありがとうございます。・・・えと、まず、早貴さん、そして皆さん。この度は私のために、いろいろとお気をまわしていただき、ありがとうございました。 私がどのユニットに所属するのか、あるいは何方とユニットを組むのかという予想、楽しく拝見いたしました。 先ほど、早貴さんは私の導き出した答えを聞きたくないとおっしゃっていましたが、こうしてたくさんの方々にお関わりいただいた以上、このまま結論を申し上げずに、終わらせてしまいたくありません。」 私はそこで一息ついた。 心臓が痛いぐらいに高鳴っている。それは簡単な言葉に変えればただ一言ですむことだけれど、そうはしたくなかった。 前の千聖に比べて、大人しくなった。遠慮がちになった。私はよくそんな風に言われるけれど、伝えるべき言葉は、精一杯の誠意を持って伝えたい。その気持ちだけは、今も昔も変わっていないつもりだった。 隣で舞さんが、私にだけ聞こえるぐらいの声で「ちーさーまい、ちーさーまい、」とテンポよくコールしている。思わずこぼれた笑いを噛み殺して、私はまた話を続けた。 「最初にモーニング娘。の皆さんからお話を伺ったときから、私の答えはもう決まっていました。 私は、どのユニットにも入りません。今は、℃-uteの岡井千聖で。それだけで、いいです。」 私の言葉を受けて、一呼吸おいてから、「えーっ!!」と声が上がった。 「千聖ぉ、なんでー・・・?ベリーズは嫌?」 「私が、余計なこと言ったから・・・?」 次々に質問が飛んでくる質問をよく噛み砕いて、答えを頭の中でまとめる。 「いいえ、早貴さんのお話を聞くずっと前から、出していた結論です。 私は、ベリーズの皆さんも、娘。の皆さんも、もちろん舞さんのことも、今回お声をかけてくださった皆さんのこと、本当に大好きです。 その上で、今の私が仲間に入れていただけるユニットは、ないのではないかと思います。 愛理や舞さんはご存知かと思いますけれど、私は歌うことがとても好きです。もっともっと歌を勉強したいし、いろいろな人に聞いていただきたい。 どこかに所属させてもらえれば、それは叶うことかもしれません。 だけど、今の私ではどう考えても未熟すぎて、仲間に入れていただくことなんて、恐れ多くて考えられません。 まずはもっとしっかりして、自分自身に自信を持つことが出来るまで、私は今のままで・・・いえ、今のままがいいです。それが、私の答えです。 せっかく企画していただいたのに、申し訳ありません。」 そこまで一気に話すと、私は勢いよく頭を下げた。 こんなに心の深い部分を、人に話したことはなかった。それでも、ここにいる皆さんになら、打ち明けてもいい。そう思えたから、私は迷うことなく自分の思いをぶつけた。 「ケッケッケ、そんな難しく考えなくていいのに。」 「・・・ええ、そうよね。自分でも、固い頭だと思うわ。でも、大好きな皆さんの考えてくださったことですから、私も一番素直な気持ちで答えたかったの。」 重い空気になってしまうかもしれない。そう思ったけれど、私を見る皆さんの顔には笑顔が浮かんでいた。まだ早貴さんだけは、少し辛そうな顔をしていたけれど。 「千聖ぉ・・・、ごめんね、私が勝手なことばっかしたから」 小さくてひんやりした早貴さんの手が、私の手の中で震えていた。 「そんな風におっしゃらないで。私、嬉しかったのよ。私のために、こんなに力を注いでくださって。早貴さんの優しさがいっぱい伝わってきました。 ほら、伝わりすぎて、涙が出てきてしまいました。本当にありがとうございます。私、こんなに幸せでいいのかしら」 語尾は震えて言葉にならず、私は早貴さんと抱き合ってしばらく泣いた。 一体何の涙なのか、自分でもよくわからなかった。 いつも私をお姉さんのようにかわいがってくれて、悩んだり辛くなったりしながら計画を進めてくれた早貴さんの涙が悲しくて。 私のために、こんな素敵な企画を立ててくれたキュートの皆さんの気持ちが伝わってきて。 お忙しいだろうに、時間を作ってくださった桃子さん、梨沙子さん、友理奈さんへの感謝の思いがあふれて。 こんなにたくさんの人たちに必要としてもらえたことが嬉しくて。――それでいて、どこか切なくて。 「泣かないでよ、千聖ぉ。なかさきちゃんもー。うちも泣きたくなっちゃうじゃん」 「そ、そうだよー、りぃこういうの弱いんだから、ほんとやめてよー」 見守る皆さんの声も少し濡れていて、私の感傷をまずまず煽る。 「もう、泣き虫コンビ!こんなことで泣くなよー。・・・舞の愛だって、ちゃんと感じてくれたの?」 「もちろん、いっぱい感じたわ。」 「そう?・・・えへへ。」 少し強めの力で私の目元を擦っていた舞さんは、ふっと表情を緩めて、いつもの私の大好きな、可愛らしい笑顔をのぞかせてくれた。その顔を見て、私もようやく落ち着きを取り戻してきた。 「・・・ま、千聖がそういうなら仕方ないかぁ。でもいつかは中3トリオでユニット組みたいよね!」 「ええ。ありがとう、梨沙子さん。」 「じゃあ、うちはタンポポ井に期待するかぁ。」 「あら、それは私も楽しみです。」 「ウフフ。まあ、桃姉はなんとなくこうなるんじゃないかって思ってたよ。千聖は案外ガンコ者だからねー」 そう言って再度目の前に出された予想表(?)をよく見ると、一番下に「千聖は誰も選ばないし、どこにも属さないと思いまーす♪ 匿名希望」なんて書いてあった。 「もぉは千聖のことは何だってお見通しなのさ。でもね、もし気が変わったらいつでも言ってよね。もぉ、ちさももユニット探しのときは毎回本気なんだから。」 ちょっと、ちさまいが先だもん!と叫ぶ舞さんと桃子さんが、仲のいい言い争いを始めた。それを笑いながら見ていたら、愛理につんつんと背中を突かれた。 「あのね、ここまでバラしちゃったから言っちゃうけどー、もうすぐえりかちゃんと舞美ちゃんがここにくるの。 それから、今まで千聖に声をかけた人たちも、少し遅れて登場してくれるはず。ベリーズは全員出席じゃないかな?」 「まあ・・・」 「でね、本当は、そこで正式に“千聖はどのユニットを選ぶの?”って聞くつもりだったんだ。 それで、選ばれたユニットの人たちを中心に、引き続きちょっと早めの千聖の誕生日パーティーって流れになるはずだったーのにー!そういうドッキリだったーのにー!まさかの該当者ゼロ!ケッケッケ」 「キュフフ、これじゃあ逆ドッキリだね。きっとえりかちゃんやみぃたんなんて、テンパッちゃうんじゃない?」 赤い目をした早貴さんが笑う。少し申し訳ないけれど、確かに「えっ!そんな!どっか入りたいユニットあるでしょ?」と慌てるお二人を想像すると、自然と笑いがこみ上げてきてしまう。 「こうなったら、どういう風にびっくりさせようか考えようよ。」 「いいねー!」 ノリのいい皆さんと輪になって、新たな会合が始まる。 「舞さん。」 「ん?」 少し盛り上がってきたところで、舞さんに声をかけて、二人で後ろを向く。まだ、大切なことを伝えていなかった。 「もう少しだけ、待っていてね。」 「ん?」 「私も、ちさまいユニットを目指して頑張りますから。そのときは、よろしくお願いします。 さっきはどこにも属さないと言ったけれど、私がこの先、自分に自信が持てたときに組ませていただきたいのは・・・」 「―待って、千聖。それ以上言わなくていいよ。」 舞さんの手が、私の腕を強く掴んだ。慌てたときのいつもの癖。じんわり痛くて、とっても暖かい。 「・・・ありがとう。」 「ウフフ。」 顔を真っ赤にした舞さんと視線がぶつかって、2人で微笑みあった。 「ちょっとー、聞いてるの千聖も舞ちゃんも!2人で後ろなんか向いちゃってぇ」 「あら、ごめんなさい。」 再びテーブルに向き直ると、私たちはテーブルの下で手をつないで、話し合いに耳を傾けた。 「ヤバッ。あれ舞美たちじゃない?もう来た!」 「早っ!でもいいか、じゃ、作戦通りで!」 綺麗な黒髪をなびかせながら、笑顔の舞美さんが駐車場を横切っていく。 後ろに続くのは、大きな紙袋を持ったえりかさん。少し胸がドキドキしてきた。 「店んなか入ってきたよ。千聖、準備OK?」 「はい。」 今まで、キュートの皆さんの誕生日には、いろいろなサプライズでおもてなしをさせてもらった。それが、自分の誕生日にまで、“逆”ドッキリをしかけることになるなんて・・・ 「千聖。」 「ええ。」 つないだ手に無意識に力が篭もる。 大きく深呼吸した後、私は満面の笑みで振り返り、お2人へ第一声を投げかけるべく、唇を開いた。 前へ TOP コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -