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テイルズオブリバース(PS2、PSP) ヴェイグ・リュングベル 檜山修之 マオ 渡辺明乃 ユージーン・ガラルド 石塚運昇 アニー・バース 矢島晶子 ティトレイ・クロウ 山口勝平 ヒルダ・ランブリング 大原さやか ザピィ 住友優子 クレア・ベネット 安田未央 アガーテ・リンドブロム 篠原恵美 ジルバ・マディガン 真柴摩利 ミルハウスト・セルカーク 三木眞一郎 サレ 菊池正美 トーマ 郷里大輔 ワルトゥ 大塚芳忠 ミリッツァ 水谷優子 シャオルーン 朴ロ美 ランドグリーズ 筈見純 フェニア 兵藤まこ ウォンティガ 大川透 イーフォン 中田譲治 ギリオーヌ 一城みゆ希 ゲオルギアス 堀内賢雄 ギンナル 浜田賢二 ドルンプ 増岡太郎 ユシア 前田このみ マルコ 水内清光 ラキヤ 堀越真己 ポプラ 滝沢ロコ キュリア 引田有美 ミーシャ 佐藤ゆうこ ドクター・バース 市川治 セレーナ・クロウ 荒木香恵 ナイラ 速見圭 アムジル 岡崎雅紘 フランツ 楠見尚己 スカラベ 田口昂 トミッチ 菅原淳一 ドバル 石井康嗣 ジベール 長克己 ハック 白石稔 オックス 笹沼晃 ヨッツァ 山崎たくみ
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喧騒の中そこだけぽっかりと切り取られたように静寂に包まれた教室。他に誰もいないそこで、少女がただ一人席に座り佇んでいる。 放課後の学園のワンシーンとして考えれば実に良く馴染むこの光景が、その主役たる少女の存在により違和感に満ちたものとなっていた。 (うえっ) 音もなく顔を向けた少女の他者からの視線を意識しない化粧っ気のない容貌と、なにより何かにとり憑かれたようなその瞳に辟易する陸だったが、そういう感情を女性の前で表に出さないのは最早本能に限りなく近く無意識レベルで実行できる能力である。 首の動きだけで座る場所を指し示す少女に「初めまして、よろしくお願いします!」と深々とお辞儀をし、陸は幾つか並べられた机の少女と向かい合う場所に腰を下ろした。 「いらっ…しゃい…ここが…『紙牌の…難業』…よ…」 とようやく口を開いた少女は机に積み上げられたカードを愛しげに撫でながら話を続ける。 「見ての…とおり…トランプ…を…使う…ポーカー…で…勝負を…するわ…ルールは…知ってる…?」 「はい、分かりません!」 「…仕方ない…わね…ルールを…教えて…あげるわ」 勿論嘘である。陸としてはこんな理不尽な相手とまともに勝負する気などない。自慢の口説きで骨抜きにして試合を放棄させるのがベストだったが、いかな彼であっても僅か五分で相手を落とすのは難事である。何が何でも時間を稼いでその間に何とかする腹積もりだった。 「その前にお姉ちゃんの名前教えてよ。ぼくの名前は相島陸っていうんだ」 「私の…名前は…三墨…ちさと…よ」 「どう書くの?教えてよ」 「…待って…て」 子供相手に邪険にするのも躊躇われたのか、少女…ちさとはノートを一枚破ってゆっくりと名前を書き付けた。 「おねえちゃん、きれいな字だね」 「…そう?」 「うん。このくるっとしたカーブのあたりなんかとてもいいと思うよ」 「そう…かな」 そういえば、こうやって素直に褒められたのはいつ以来だろうか。そんな思考がちさとの脳内をゆっくり巡っていく。 「あ、ばくだってちゃんと名前漢字で書けるんだよ」 陸はちさとから破ったノートを受け取ると、ちさとの名前の下に自分の名前を書き付けた。 「ほら。陸ってむずかしい漢字だけどちゃんと書けるんだよ」 「…偉い…わね」 「ホント?おねえちゃんありがとう!」 (こうやって…お礼…言われる…のも…久しぶり…) 何気ない一言に全身で喜びを表す陸の姿に何かを感じつつも、ちさとは小さく息をつき、話を元に戻した。 「まずは…ゲームの…流れ…から…説明…する…わね…」 克巳が入った教室は机や椅子が隅によけられて中央に空間を作っているだけの普通の教室だった。 「やあ、始めまして。そう緊張しなくていいよ。こんななりだけど別にとって食うわけじゃない」 その空間の真ん中にいる恰幅のいい大男――修が柔らかい口調で克巳を迎え入れる。 「…はあ」 「僕はこの『天秤の難業』の番人、金立修。よろしく、いいゲームをしよう」 修の友好的な態度にどこか引っかかる思いを感じる克巳だったが、ここで揉めても事が進まないので今は話を合わせておくことにした。 「こちらこそよろしくお願いします、先輩」 「じゃあゲームの説明をするよ。まずはそこの中で出来るだけ安定した姿勢で立ってもらえるかな」 克巳は言われるままに修が指差したビニールテープで囲われた二メートル四方ほどのエリアの中に入る。 「それでいいかな?」 再度の確認に克巳が頷くと、脇に控えていた生徒が彼に近寄り、靴を縁取るようにチョークで床に線を引いた。 「?」 突然の事にびっくりする克巳。すると修もエリアの中に入り、「この辺りでいいかな」と言うと克巳に正対する位置でやや足を広げて立った。 二人の距離は克巳がその場から手を伸ばせばちょうど修に届く程度。先ほどの生徒が修の方にもチョークで靴の周りに線を引き元の位置に下がると、再び修は説明を続けた。 「こんな感じの状態で押したり引いたりしながら相手のバランスを崩しあう、一言で言えばそういうゲームだよ。靴以外の部分が床に触れるか、足の位置がずれてチョークで囲ったところから靴が外に出てしまったら負け。禁止事項は直接攻撃と異能による直接的な干渉。あと、異能で足を床に固定したり宙に浮いたりとかそういうゲームを損ねるような行為もしないでほしい。何か質問はあるかな?」 「相手に直接何かするものでなければ異能は使ってもいいんですか?」 ここは克巳としては最も重要な箇所であった。 「構わないよ。例えば身体強化系でも本人の能力が上がるだけなら全く問題はないしね」 よし、と心中ガッツポーズをとる克巳。 「ああ、そうだ。大事なことを言うのを忘れていたよ」 崇志の企画書には無かったが修がごり押しして認めさせたここだけの特別ルール。それをうっかり忘れていたと冷や汗をかきながら修は口を開いた。 「この難業に限り、五分経過時に決着がつかなければ挑戦者側の勝ちになる。心に留めておいてほしい」 番人側に絶対有利な環境で挑戦者を蹂躙する、そんな合理的ではあるがフェアではない七の難業に対する、それはスポーツマンとしての修のせめてもの抗議に似た行為だった。 (あ、そういうことか) だが、僅かとはいえラルヴァと戦場で命のやりとりをした経験を持つ克巳の考えはまた異なるものである。 修のフェアさにこだわる姿は克巳から見れば「ぬるい」としか感じられない。それこそがさっきからずっと感じていた違和感の正体だった。 戦力としては他の裏醒徒会メンバーに比べ一段落ちると自分でも自覚しており、それ故に勝つ為に徹夜で策を練ってきた。その努力が相手側のそれとつりあわないことへの憤り。だがそれはすぐにならばその隙をおもいきり突いてやればいいという冷静な思考に置き換わった。この辺りは流石という男を敬愛するだけの事はある、と言えるだろう。 ともあれ、お互いに言うべき事は言い、聞くべき事は聞いた。後のことは戦いによってのみ決する。そして、克巳は自分の、自分なりの必勝の策を解き放った。 「『ジャイロ・スパイダー』、スタートアップ!」 その声が起動キーとなり、ずっと背負い続けてきたリュック、いや、リュックに偽装した「それ」が展開し真の姿を現す。 背中から放射線状に広がりゆらゆらと揺れる八本の金属製の脚のような物。完全自動で動くその脚によりいかなる時でも一定の範囲でバランスを維持する、それがこのジャイロ・スパイダーの能力だ。失敗作を転用して文字通り一晩で作り上げたそれは彼の現在での最高傑作、鋼鉄の毒蛇に比べればあらゆる点で及ぶべくも無いが、ことこの場での有用さという意味では充分に満足できる出来だった。 「相手に直接何かしなければいいんですよね?」 克巳は自分より大きな修を見下ろすような気でそう問いかけた。 「ああ、勿論だよ」 そして開始の合図が響き、二人は勢いよくお互いの腕を取り合いはじめた。 一口にポーカーといっても無数の種類があり、役の強弱や解釈にも違いがあるため、毎回ゲームの流れと役の説明は行っていた。 形式はジョーカーをワイルドカードとするクローズド・ポーカー(自分の手札は全て隠して行う。カード交換は一回)。但しチップは一切使用せず制限時間五分間で勝数が多いほうが勝ちというルールである(なお、役に関してはファイブカードが最上位)。 もっとも、時間も押している都合もあり、なにより一刻も早く勝負したいという思いから、これまでできる限り説明は簡潔にとどめてきたちさとであったのだが。 「……という…ように…時には…できている…役を…崩す…勇気も…必要…言うのと…できるの…と…では…大違い…だけど…ね」 「うん、わかったよ。頑張ってやってみる。それでね、さっき言ってた役の説明なんだけど…」 「…うん…なに…?」 いつの間にやら問われるままにポーカーの戦術や薀蓄まで語ってしまっていた。 目の前の少年は合いの手を入れるタイミングや話の繋ぎ方が異様に上手い。ちさとは話を切りたくても切れない状態にあった。 (でも…不思議) なかなかゲームを始めさせてもらえないのに、ちさとの心には不快感は微塵も浮かんでこない。 「…それはね…例えば…」 とちさとは適当に五枚カードを抜き取り、無造作に置く。するとそこにはこれまでと同じく右から高いランクできちんと順繰りに並んだ形でちさとが望む役が出来上がっていた。 「すごーい!おねえちゃんすごい!」 トランプのゲームに限り絶対勝利の強運をもたらす異能、〈54フェローズ〉。昨日高見留花にその一端を見せたときのように、たとえ他者にカードを委ねてでも一発で望むカードを引き寄せる規格外の強運は周りに気味悪がられるのが常だった。 特に対戦相手として相対する立場となるとその思いもひとしおなのか、半分以上の相手が捨て台詞と共に試合放棄する事態になっていたのだ。 だが、この少年は違った。 それが今から戦う相手にもかかわらず、ちさとの異能の発露にいちいち目を輝かせて喜びを見せていた。気味悪さなど微塵も感じていないようなその様子に眉をひそめるちさとであったが、彼女も人の子であり、褒められて悪い気などしない。 (そういう…こと…ね) と現状に腹を立てる気にならない理由をそう納得し、ちさとはしばらく陸の話に付き合ってやろうと決めた。 どの道、どうなろうとこの『紙牌の難業』での自分の勝利は揺るぎはしないのだ。 この時点で既に昨日までのちさとが見れば驚くほどの変化であったが、変化の渦中にある当の本人自身はそれを知る由もない。 そしてまた一つ石が投じられ、事態は更なる変化を迎える。 「…なに…?」 陸との話の最中、彼に請われて話し始めたポーカーの名勝負の逸話が丁度佳境に入ったあたりで突如ちさとの携帯が鳴り響いた。 「少し…待ってて」 そう陸に告げ、背を向けてその相手、崇志と話を始めるちさと。 「……何?」 『何じゃない。いくらなんでも遅すぎるんじゃねぇか?』 「仕方…ないわ…よ…向こう…は…ルールも…知らない…子供…いくら…なんでも…少しは…教えて…あげない…と…気が…咎める…わ」 『冗談じゃない、これはれっきとした勝負だぜ。大体あの裏醒徒会が送り込んできた刺客がそんなマヌケ晒すなんてこたぁありえねえ』 「…だから…何…?…『紙牌の…難業』の…番人…として…どう…戦う…かは…私が…決める…それに…結局…どう…あろうと…私が…『ムーン…シューター』…の…私が…勝つ………切るわ」 「おい、待て!」 崇志の言葉を待たず電源ごと切ってしまうちさと。 「どうしたの?」 「ううん…なんでも…ないわ…話が…途中…だった…わね」 こちらを気遣う少年を見ると苛立っていた心が癒されるようだった。 (苛立って…た…?…早く…勝負を…する…よう…急かされて…) ちさとは否応なく気付かされる。話を終わらせたくても終わらせてくれないんじゃない、自分自身が話を終わらせたくないのだと。 (どう…して…) この異能を得てから、思うままに動いてくれるトランプとの蜜月に耽溺し続けていた。この素晴らしさを理解できない他者などどうでも良かったはずなのに。 外と切り離されていたが故に凪が続いていたちさとの心に、徐々に波が立ちつつあった。 (うん、いい感じ) 表情の薄いちさとの僅かな顔の動きからその動揺を読み取り、陸は密かにほくそ笑んだ。 しっかりと相手を見、よき聞き手であることに努める。可愛らしいと定評のある容貌とこの態度を組み合わせれば、女性の心を揺らすことなど実に容易なことだと陸は自らの経験で確信していた。 相手が男性慣れしてないこともあり短い時間にしては上々の成果を上げることができた。心の中のトロフィーとして飾っておいてもいいだろう。だが親玉が焦れてるみたいだしそうぐずぐずもしていられないみたいだ。 (それじゃあ、そろそろ落としにいこうかな) 開始から四分が経過していたが、『天秤の難業』は依然膠着を続けていた。 (なんなんだ、これは…) 修は目の前の少年の力に愕然とした思いを抱いていた。まるで地中深く根を張った柳の木のように、引き込んでも左右に揺さぶってもしなやかに元に戻りバランスを崩せる気がしない。 異能の素質ありとして双葉学園に入ったものの、変に異能に覚醒してしまえば公式戦に出られなくなる恐れがあるため、修は異能には全く関心がなかった。 それもあってかあまり異能がらみのことに関わることも無くこれまで過ごしており、それ故に異能の力をありありと思い知らされたこの事態は修にとって大きな衝撃だった。 攻めきれないのは克巳の方も同様だった。ジャイロ・スパイダーはどうしてもその性質上守りに特化した装備である。ジャイロ・スパイダーに守りを任せて全力で遮二無二攻め立てれば活路は開けると思っていたが、目の前の男はそこまで甘くはなかった。しかし、今回はこの膠着は克巳にとって福音である。 (このままなら勝てる…!) (このままなら負けるね…) 当然、その状況は修にも痛いほど良く理解できていた。だが、自分の技術ではどうしようもない以上、ここはそれにしっかりと向き合うしかない。 「僕の学んだ柔道の力では君に勝つことはできないみたいだ」 「ギブアップ宣言ですか、先輩。こっちは大歓迎ですよ」 ついに勝利がすぐ手の届くところまで来た。克巳は喜びに打ち震える心を押さえ込み、冷静に修に呼びかける。 「いや、それはルール上できないしね。それに僕はこの『天秤の難業』の番人で、それよりなによりこのN組の委員長だ。最後まで諦めることなどできない…!」 言うや否や、修は克巳の両肘の辺りをつかみ腕を引き付けながら思いっきり腰を下ろした。 「分かりました。それならこっちも最後まで守りきらせてもらいますよ」 素人が下手に攻めるよりジャイロ・スパイダーと共に守りに徹した方がいい、そう決断しつつ腕を抜こうとする克巳だったが、まるで肘から先が壁に塗り込められたかのようにびくともしない。 「何…!?」 「そう、プライドを捨てても…勝たせてもらうよ!」 今までの穏やかな調子が嘘のように咆哮する修。 (いよいよ本気ってわけ?でももう遅いよ、先輩) もう既に残り時間は三十秒を切っている。そしてジャイロ・スパイダーのおかげで今の大きく引き込まれた今の状態でも体は実に安定している。克巳には微塵も負ける気はしなかった。 (彼の重さとジャイロ・スパイダーの重さを足してもせいぜい百キロ…もないだろうね) 修はそんな克巳には構わず、脇を強く締めたままゆっくりと上体をそらせつつ腕に力を入れた。 「…?」 最初は戸惑っていた克巳だったが、やがて修が何をしようとしているのか気付く。 (まさか、この状態からおれを力づくで持ち上げようとしてるんじゃ…) ジャイロ・スパイダーは両足がしっかり地面についていることが前提の装備である。もし片足だけでも浮いてしまえば流石にその状態でのバランスの維持は保障できない。いや、おそらくは想定外の事態に誤作動を起こしてしまうだろう。 (しかし、正気か…?) 克巳を持ち上げるために修は随分と無理な体勢になっている。いつ自分がバランスを崩して倒れてもおかしくないだろう。 (…なんでだ?) それにもかかわらず、修は構うことなくより無理な体勢に移りつつあった。そのくせ、実に安定したバランスで克巳を持ち上げることのみに全力を集中している。 「!」 そして、克巳は致命的なミスに気がついた。 (ジャイロ・スパイダーが…) 健気にバランスを――克巳と、現在彼にほぼ密着している修の二人の――取ろうと動き続けているジャイロ・スパイダーに意識を向ける。克巳の背を冷たい汗が流れた。 成程、ジャイロ・スパイダーにバランスを預けているならあんな無茶な体勢ができるのも納得だ。 一見冷静な思考は、逆に克巳の思考が混乱をきたしつつある何よりの証だった。 (おいおい、なんか手はないのかよ) ジャイロ・スパイダーを停止する…駄目。途中で急停止する事態になる可能性はそもそも考えてなかった。それじゃジャイロ・スパイダーで先輩を攻撃する…駄目。そもそもルール違反。相手の体勢を崩すために揺さぶりをかける…どう考えても裏をかかれる。 (蛇蝎さん、おれ、一体どうすれば…) 勝利を目前にしていたはずが一転して窮地に追い込まれた克巳はいまやパニックに陥っていた。 もう「何もしない」という選択肢を選ぶしかないまま、残り時間は十秒を切り、そして…。 「ねえ…君…ええと…相島…君」 「陸でいいよ、おねえちゃん」 あの後崇志が何度もクラスメートを伝令に送り込み、ついに根負けしたちさとは勝負を始めることを余儀なくされた。 だが、どうにも気が乗らない。 (こんな…子に…逢ったの…初めて) 思い起こせば、この異能を手に入れてから人は遠ざかるばかりだった。最初にこの異能を披露した両親は不気味に思ったのか学園から話が来るとこれ幸いと自分のことを放り出した。両親から拒絶された穴を埋めるようにはまったネット上のトランプ系コミュニティからも勝負にならないとのことでことごとく追い出された。やってきたここでも出会う人に片っ端からポーカー勝負を仕掛けて知り合いも失った(ポーカーが嫌いな人もいるだろうと他に十七種類もゲームを覚えてきたのに、いくらなんでも理不尽ではないだろうか?)。 そんな自分に、〈54フェローズ〉を知ってなお近づくこの陸という少年。それを徹底的に蹂躙しひょっとしたら泣かせるのかもしれないと思うと手が止まってしまう。それに、 (もし…嫌な…思いを…させずに…帰って…もらえれば…陸君…が…また…来て…くれる…かも…) そんな自分の思考にちさとは戸惑いを隠せなかった。 「ねえ…陸君…私は…勝負に…なったら…手加減…できない…わ…ルールを…知らなかった…陸君…が…勝てなく…ても…仕方が…ない…酷い…目に…あう…前に…棄権…しない…?」 「ありがとう。優しいね、おねえちゃん。でも…」 そっと目を伏せる陸。ちさとの心がまた強く波立つ。 「どう…したの…?」 「蛇蝎おにいちゃんは本当はいい人だけど貧乏だからいつもカリカリしてるんだ。喉から手が出るほど賞金がほしいからぼくに『死んでも勝ってこい』って…。もし負けちゃったら『この無能が』ってぶたれちゃうよ」 「…そんな…」 「おにいちゃんは悪くないんだ…!でも、怒ると人が変わったようになってぼくが泣いても許してくれないんだよ…」 愕然とするちさとを前にわっと泣き崩れる陸。 「おねえちゃん…。一生のお願い、おねえちゃんの方が棄権できない…?」 おろおろしながら駆け寄るちさとを涙で濡れた瞳で見上げ、陸は甘えた声でそうねだる。 「私も…そう…したい…わ」 自然に、その言葉が口から放たれていた。自分を慕う少年と比べれば一勝負ぐらいなら我慢することはなんでもない。ましてや番人としての仕事など彼と比べれば吹けば飛ぶ埃程度にしか過ぎない。 「…だけど…できない…の…よ…」 精神操作系異能への対策として、全ての難業でこちらからの棄権はいかなる理由があっても無効となっている。そして、 「私の…異能は…自動…発動…型…私…自身…にも…制御…できない…のよ…」 それを聞いた陸はがっくりとうなだれた。 (ちぇっ) 表情が見られないようにガードできているか確認してから、陸は不満げに口を尖らせる。 (あーあ、やっぱりもう一働きしないとダメかー) ルール上できない棄権をまず提示して、譲歩した(その実こっちが本命)八百長での負けを飲ませるという計画は成功する自信はあったのだが、異能の性質という意外な横槍によって阻まれてしまった。 「…ごめん…ね…ごめん…ね…」 自分の領域の中なら最強を自負していた能力もまるで役に立たない。自分の無力さを初めて痛感して涙ぐむちさとの様子を見て取り、陸は頭を上げた。 「ぼくのほうこそ無理言ってごめんなさい、おねえちゃん。…こわいおにいちゃんがガミガミうるさいからもう始めよう?」 「わかっ…た」 肩を落とし席に戻るちさと。重い沈黙の中、お互いに五枚のカードが配られる。自分の異能を疑いもしないちさとは見もしないままカードを雑然と机に並べた。 対して陸の方はカードを開いたり閉じたり腕を振ってぐるぐる回したりと落ち着きのない様子だったが、やがてぴたりと動きを止めカードをちさとと同じように机に並べると、決然とした表情でとてとてとちさとの元に駆け寄った。 「どう…したの?」 「正直に言うね。…おねえちゃん、とても辛そうだよ」 そうよ、と反射的に心が頷いていた。そうなるともう、今あったばかりの子供を叩きのめす程度のことで、などと目をそらすことはできない。 「今のおねえちゃん、ぼくには自分の異能に縛られて身動きとれないように見える…」 予想だにしない方向の言葉だった。だが、自分の瞳をじっと見上げながら熱っぽく語る姿を見ると無碍にも切り捨てられない。 (私が…私の…力に…縛られて…いる?) 大好きだったトランプゲーム。それに勝利を与えてくれるこの異能のことをずっと愛し続けてきた。だが、その結果としてゲームの相手にも恵まれない今の状態になってしまったのではないのか?それなら、私は――。 「ちさとおねえちゃん!」 初めて名を呼ばれた。その強い衝撃がちさとの意識を瞬時に引き戻す。 「ぼく、かみさまに祈るから。ちさとおねえちゃんを助けるために一度だけ力を貸してくださいって。だからちさとおねえちゃんもぼくを信じて、お願い」 「…はい…」 見つめる瞳に、逆らえない。出あったときからずっとそうやって自分を見続けていたのだと気付いたちさとには、それがごく自然なことのように思えた。 (ふふ…陸君…あなたは…まるで…) 囚われの姫君を助け出す王子様みたい。お互いの年齢を考えると不謹慎な想像だと自覚はしつつも、浮き立つ心を抑えることができないまま、ちさとはこちらに背を向けて覚悟を決めるように小さく首を振ってからゆっくりと席に戻る陸の背中をじっと見続けていた。 後ろに倒れこんだ修は、その場に尻もちをついた。 咄嗟に後ろに手を伸ばして体を支えようとするが、限界を超えて酷使した腕はもはやその用も成さず、修は無様に後ろに倒れこんだ。 その場に立ち尽くす克巳と、辛うじて受身は取ったものの立ち上がることもできない修。 審判役の生徒から見ても、二人の勝敗は明確だった。 「畜生」 僅か数センチ。修の全ての体力をもってしても、克巳の体を数センチしか動かすことしかできなかった。 しかしそれで十分。修が尻もちをつく前に成し遂げた成果としては十分だったのだ。 「畜…生」 チョークで囲まれた枠からほんの少しだけはみ出した足が、指先まで手をかけながらみすみす取り逃がした勝利が心をよぎり、克巳は悔しさにきつく唇を噛んだ。 一方、勝利した修もまた忸怩たる思いだった。 元々少年相撲の選手だった修だったが、その頃から抜きん出ていた体格のせいで「でかいから勝てるんだ」と陰口を叩かれるのが腹に据えかねて、「柔よく剛を制す」を旨とする柔道への道に進んだ過去がある。 そんな彼にとって研鑽を重ねてきた柔道の技を捨て力に頼らざるを得なかったのは、覚悟していたとはいえ辛い。 もしこの場に誰もいなければ大声で泣き叫んでいたかもしれないほどの屈辱感だった。 ある意味では両方ともが敗者とも言え、そして、敗者にかけるに相応しい言葉など何もない。 だから、無言のままとぼとぼと出て行く克巳にも、目を見開いて天井を睨みすえる修にも、見守るものはただ沈黙のみだった。 「…申し訳ないです、蛇蝎さん」 体を震わせ、俯きながら謝る克巳。裏醒徒会に初の敗北を与えてしまったことに今すぐにでも消え去ってしまいたいくらいの思いだった。 「我が裏醒徒会に惰弱な人間の席は存在しない」 兇次郎の返答は克巳が想像していたとおりの峻厳なものだった。 「…特に、たかが一度の戦術的敗北で気力を喪失し前を向くこともできないような人間の席はな」 「はい……え?」 萎縮しきり、彼の足手まといになるくらいならいっそ辞めてしまおうと思いつめていた克巳は続けられた言葉に呆けた声を上げた。 兇次郎ははあ、と深いため息をつき、苛立たしげに早口で問いただす。 「まさか聞き逃したのか?我輩は同じことを何度も言わされることが虫唾が走るほど嫌いだと何度も言っているはずだが?」 「い、いえ。決してそんなことはありません」 克巳は慌てて顔を上げ、涙をぬぐってぶんぶんと首を強く横に振る。 「工克巳、今回の反省を生かし、次こそは蛇蝎さんが満足する成果をあげてみせます!」 「美辞麗句は必要としない。我輩が求めるのは結果だけだ」 変わらぬ冷たい口調だったが、その言葉は克巳に染み入り、その心を確かに暖かく満たしていた。 席に戻った陸は緊張の面持ちでカードを二枚交換した。 「それじゃ…カードを…開く…わ…ね…」 ちさとは陸が〈54フェローズ〉に勝てることができるとは思っていなかった。だが、ひょっとしたらという一縷の希望は消し去ることはどうしてもできない。異能を手に入れてから初めての喉がからからになるほどの緊張の中、ちさとはハンドを公開する。 自分の矛盾した感情に決着をつけるのを無意識に恐れたのか、ちさとはまず陸のハンドに目をやった。 ジョーカーとスペードのジャックのワンペア。〈54フェローズ〉相手には不安なことこの上ない。 ちさとはこわごわと自分のハンドに視線を移す。常に高いランクの順に右からカードが並んでいるため、自然と右から見るようになっていた。 スペードのエース。スペードのキング。スペードのクイーン…。 (ああ…やっぱり…) ワンペアとは比べ物にならない高位のハンド、ロイヤルストレートフラッシュの流れだ。 (これが…私の…運命…なのね) 「見て!ちさとおねえちゃん!」 諦めかけたちさとを陸の声が揺さぶり、それがちさとにある事実を思い出させた。 (あれ…でも…) このハンドを成すためには続けてスペードのジャックが必要だ。だがそれは今…。 ちさとは瞬時に陸のハンドに再び目を向ける。スペードのジャックがそこにあった。今度は自分の四枚目と五枚目のカードを見やる。…スペードの10、そしてハートの10。 「え…?」 あまりの衝撃に呆然とするちさと。ちさとのハンドは10のワンペア。…陸の勝利であった。 「やったよ、ちさとおねえちゃん!かみさまに祈りが届いたんだ!よかったね!」 陸がちさとの胸に飛び込んでくる。敗北を喫したはずなのに、彼の言うとおりちさとは喜びの感情に満たされていた。いや、それは〈54フェローズ〉の呪いから解き放たれたというだけの理由ではない。 (私…陸君…のこと…) 自分の感情に向き合い心臓が飛び出そうな衝撃を味わっているちさととは正反対に、ちさとの胸に顔をうずめる陸は冷めた目で昨日のことに思いを馳せていた。 (蛇蝎おにいちゃんは貧弱で女の子の心がまるで分かってないけど、頭だけはとてもいいんだよなあ。ここまで上手くいくとは思わなかったよ) どんな強運であろうと、起こり得ないことは決して起こすことはできない。 それが、陸に作戦を伝える兇次郎が発した最初の一言だった。 その意味を体現するため、陸は勝負前の長い話の時にこっそりジョーカーとハートの10の二枚のカードを抜きさって隠しておいた(役を教えたりする時にもちさとの異能で高いハンドばかり来るので実に楽だった)。これでファイブカードがありえなくなるので、ちさとのハンドはハート以外のロイヤルストレートフラッシュに限定される。 次にカードが配られたらカードをいじくる振りをしながら陸の異能〈カットアンドペースト〉でジョーカーを配られたカードに混ぜ、あまった適当な一枚を外して隠す。それが終わったらハートの10を袖に隠し持ってちさとのところに向かい、視線がカードから外れた瞬間に透明な小さな袋に入れた高圧空気を〈カットアンドペースト〉で左から二番目のカードの前に移動させて(高いランクの順に右からカードが並んでいる癖はもろ分かりだった)机から吹き飛ばし、即〈カットアンドペースト〉で手元に移動させる。並び順で不審に思われないように同様の手順で左端のカードを空いた場所に移動させ、次いで他のカードと向きを合わせるように手元のハートの10を下に落とし、左端のカードが空いたスペースの真上からそろりと落とす。最後にカード交換の間に何食わぬ顔で奪ったスペードのジャックをカードに混ぜてまた一枚を外して隠し完成。 確実に勝利できるがその分強引さのある手順であり、陸の精緻な異能の制御能力とちさとの判断能力や注意力を奪い取る口説きのテクニックがあればこその勝利であった。 (しかしなー、匂いもあんまりいい匂いじゃないし、胸も柔らかくないし、そんな期待してたわけじゃないけどやっぱりがっかりだなあ) 「……あのね…陸君…聞いて…くれる…かな…私ね…」 「ちさとおねえちゃん、本当にありがとう!あーあ、ちさとおねえちゃんみたいな人が本当のおねえちゃんだったらよかったのになあ…」 「…!」 (そうか…そうよね…) 結局、舞い上がっていたのは自分一人。考えてみれば、あらゆる意味で不釣合いなのだ。 (それでも…この…一時は…本当に…楽しかった…わ…) 心を強く揺さぶる思いを断ち切り、ちさとは陸にぎこちない笑顔を見せた。 「どうしたの、ちさとおねえちゃん?」 「…私も…ね…陸君に…ありがとう…って…お礼が…言いたかった…の…」 かつて、学園有数の女好きとして鳴り響く体育委員長、討状之威(うちじょう ゆきたか)と「最高のプレイボーイとしてもっとも必要な能力を一つだけ挙げるとしたら何か?」という議論になったとき、陸は「いらなくなった女の子を後腐れなく切ることのできる能力」と答えて之威をドン引きさせた過去がある。 そう、確かに彼、相島陸は彼自身が信じるところの最高のプレイボーイであった。 「…三墨が負けた?本当か?あの『ムーンシューター』が?」 崇志の元に届いた報告は彼を驚愕せしめるのに十分なものだった。 「一佐男に続いて三墨まで敗北を喫するとはな…」 「どうした、また負け越してしまったぞ?」 苦虫を噛み潰した表情の崇志を悪意たっぷりにからかう兇次郎。 確かに、彼の言うとおり過半数の四つの難業を終えて現在戦績はN組側の一勝二敗一分。崇志にしてやや想定外と言わざるを得ない苦戦だった。 「後二つ、今出て行った笑乃坂と清廉が勝てば我輩の出る幕もなく終わるな。これまでの四人も決して弱兵ではないが、奴らはそれ以上だぞ?笑乃坂は我が裏醒徒会の副将格、そして清廉は、そうだな…」 と兇次郎は珍しく口ごもり、ほんの少しだけ考え込み、そして唇をにい、と吊り上げ実に楽しそうに告げた。 「清廉唯笑。言うならばあれは…そう、魔物だ」 「魔物…」 常に崩れることのない柔らかな笑みと、同様に柔らかな(と目されている)たわわな胸、そして高純度なお姉さんキャラ。男女問わず人気の高いその姿にまるでそぐわないおどろおどろしい言葉に眉をひそめる崇志。 と、そこにメールの着信音が響く。兇次郎宛のそれを一瞥し、兇次郎は「ふん」と鼻を鳴らし文面を崇志に突きつけた。 『人のことを魔物だなんてひどいわ。しかも陰口なんて男らしくないと思うの』 「どこが陰口だ」 盗聴器の存在が一瞬意識を占拠し思わず教室を見渡す崇志に、兇次郎の乾いた笑いがかぶさる。 「まあいいさ」 平静を取り戻した崇志はペースを取り戻そうと口を開く。 「残る難業が俺たちのだけな以上、もうここに居ても仕方ねぇだろ。『縦横の難業』の会場…といっても隣の教室なんだがな、に移動しようや」 「果たしてその必要があるのか?」 嘲るように返す兇次郎に、だが崇志は動じない。席を立ち肩越しに兇次郎を見下ろして自信たっぷりに諾を告げる。 「あるから言ってんのさ。俺が作り上げた七の難業は完璧だ。最後まで楽しませてやることを約束しよう」 「ふん。我輩もここに来るまでに下準備に少なからぬ時間を費やした。その時間が無駄になることのないように期待したいものだな」 皮肉げに答えつつも、兇次郎も続けて席を立ち、崇志に続いて歩き出す。 「黒田は無名だが限定状況では並みの異能者など意にも介せぬほどの強さを誇る逸材だ。そしてミステリアス・パートナー、俺が見出した奴は…あれは特別だ」 「ほう?」 兇次郎の眉がぴくりと動く。ミステリアス・パートナー、六番目の難業『円舞の難業』の番人。彼(男ではないかもしれないが)だけは裏醒徒会が八方手を尽くして情報収集したにもかかわらず、何一つ情報を得ることができなかった。 唯一分かったことといえば、当のN組ですら崇志以外は誰も何も知らないだろうということだけ。より確実に、より劇的に罠に嵌めるため敵の情報に知悉しておきたい導花が極度に機嫌を悪くしていた姿が兇次郎にはありありと思い起こすことができた。 「清廉唯笑が魔物というなら奴は…」 扉を開き『縦横の難業』の会場の教室に足を踏み入れながら、崇志はくつくつと含み笑いを浮かべ続きを言う。 「…怪物だ」 唯笑が『円舞の難業』の会場である教室の扉を開くと、そこには闇が広がっていた。 「あらあら」 全周を暗幕で覆われた闇。その中に唯笑は不用心とも思えるほどに気負いなく足を踏み入れる。 扉を閉めた唯笑が周囲を見わたすと、四方に一本づつ立てられた蝋燭が弱々しく揺らめく光で闇に濃淡の彩りを与えていた。 目が慣れてくると、屋内にあるものの輪郭が浮き上がってくるのがはっきりと分かる。 机などは片付けられており、幾つかだけが小さな丘のように中央に集められている。その側には鋭い峰のような存在があった。その高さと輪郭から考えてそれは椅子に座る人間――これが『円舞の難業』の番人なのだろう。 「こんな所でゲームなんかしちゃ目が悪くなっちゃいますよ」 それはまるで暗がりでゲームにふけっている子供を叱りつけるかのような口調だった。 その言葉に答えたわけではないだろうが、闇の中で何かが動き始める。 唯笑には見て取れないが、この教室には全周に幾十もの電球が配置されていた。 電気は通っているものの、ソケットにしっかりはまっていないために光を発することのない電球。それが一つ残らず同時に動き始めたのだ。 螺旋状のレールに沿って、電球はゆっくりとしかし確実に回転しソケットの底を目指す。 あっという間に電球はソケットの底に到達し、そのフィラメントに電流の脈動が流れ瞬時に教室の闇が駆逐された。 白光に満たされる教室。目が慣れるのを待ち、唯笑は目の前の情景に目をやる。 教室の中央には幾つもの机が並べられたその上に、碁盤目に区切られた中に一つ一つ数字が記されたボードが置かれている。 そのボードを挟んで唯笑の反対側、その左手には上部がすり鉢状になりその中に底に数字が記された小区画がリング状に配置された回転盤があった。 「ルーレットね。うーん、学生としてこういう不健全な遊びはどうなのかしら?」 困ったような顔を見せ首を傾げる唯笑。回転盤を手で軽く回し、その横に座っていたフードの男が小さく顔を上げ初めて口を開いた。 「そない深刻に考えんでも、所詮はお遊び、ただのゲームやろ?」 「確かにそうよね。あなたがここの番人さんなのかしら?」 納得したように大きく頷き、唯笑はにこやかな笑みと共に男に問いかける。 「そうや、俺がこの『円舞の難業』とやらの番人、ス…やなかったな、ミステリアス・パートナーや」 陽気に答える男、ミステリアス・パートナー。しかしてその正体は双葉学園とも度々交戦したラルヴァ信仰団体“聖痕(スティグマ)”に所属する殺し屋にして異能者、コードネーム・回転する黄金軸(スピニング・スピンドル)のスピンドル。 スピンドルはフードの下でにい、と口だけの笑みを作り、実に愉しげに宣戦を布告した。 「よろしゅうな、お嬢ちゃん」 七の難業 対裏醒徒会 途中経過 『颶風の難業』 皆槻 直 △ ― △ 竹中 綾里 『競愚の難業』 陣台 一佐男 × ― ○ 市原 和美 『天秤の難業』 金立 修 ○ ― × 工 克巳 『紙牌の難業』 三墨 ちさと × ― ○ 相島 陸 『幻砦の難業』 黒田 一郎 ― 笑乃坂 導花 『円舞の難業』 ミステリアス・パートナー ― 清廉 唯笑 『縦横の難業』 百目鬼 崇志 ― 蛇蝎 兇次郎 七の難業 三 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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登録日:2014/08/11(日) 13 48 58 更新日:2024/04/26 Fri 10 58 34NEW! 所要時間:約 8 分で読めます ▽タグ一覧 でんぢゃらす・らいおん どうしてこうなった グラップラー刃牙 ケンカ空手 サンドバッグ バキ バキシリーズ 克巳の師匠 加藤清澄 勝杏里 史上最高のオドロキ役 吉野裕行 室園丈裕 引き立て役 弟子 本部の相方 狂犬 田中和実 神心会 空手家 驚き役 加藤(かとう)清澄(きよすみ)は、板垣恵介のギャグ漫画格闘漫画バキシリーズの登場人物の一人。 フルコンタクト系神心会空手3段の空手家であり、愚地独歩の愛弟子の一人。 CV 田中和実(OVA)/室園丈裕(アニメ1作目)/吉野裕行(BeeTV)/勝杏里(アニメ2作目) 【来歴】 ○ 地下闘技場編 初登場は古く、第一部『グラップラー刃牙』の序章、地下闘技場編まで遡る。 範馬刃牙と末堂厚との試合を観戦して刃牙に興味を持ち、似た立場のモブキャラを始末して刃牙の前に登場する。 「あんなママゴトルールで何連覇しようが強さとはなんの関係もねェ」と刃牙を挑発。 刃牙も「加藤さんが出場いたらもっと楽しめたのに…」と応えるが、本部以蔵の出現で水入りとなる。 本部の名も無き弟子を始末し、本部本人と対峙するが、「飛び込めねェッ」と若干ビビる。 その後、愚地館長登場で中断。このころは、加藤も本部もまだ強キャラとしての風格を漂わせていたのだ…このころまでは。 その後、愚地館長と中華レストランの個室でお食事。三年ぶりのご対面であるらしく、その間加藤はヤー公の用心棒をしていたらしい。 「こちとら拳銃(チャカ)と日本刀(ポントウ)で磨かれた本物(モノホン)のケンカ空手だぜ」と自慢げだが、「オレの空手は…ぴすとるの10倍はスリリングだぞ…」との館長の挑発を受けて突っかかる。 しかし、「オレに金的はキマらンよ(はぁと)」。 …刃牙も似たようなことを後でしていたのだが、この二人が愚地先生を尊敬している理由って、まさか金的が決まらないからじゃあないだろうな…? その後、もう一度独歩と組み、刃牙と同じ土俵=地下闘技場に登ることになる。 ちなみに、この回のサブタイトルは「狂犬を飼う」。 ……狂犬って、まさかムサシ(刃牙の飼い犬)のことじゃないよね? その後は道場で独歩の他の弟子と組手。 指導員の高木(*1)との試合となるが、相手の目潰しを手刀で斬り裂いて撃退、勝負あり。 試合後(デコピンはもらったけど)、独歩とともに東京ドーム地下闘技場に赴き、範馬刃牙と鎬昂昇との試合を観戦。 この頃からもう彼は後述の役割が姿を見せ始めた…。 その後、刃牙vsマウント斗羽の試合を経て、物語は範馬勇次郎vs愚地独歩の試合へと移ってゆく。 この時も師匠の試合なんで当然観戦していたのだが、鬼の貌まで出されて窮地の独歩を見て、「空手が敗けてたまるかァアアアアアッ」と涙ながらにオーガに突っ込んだ末堂に対し、彼はビビって何もできなかった。…イチバン師匠思い? その後、独歩は負けちゃったので地下闘技場編での加藤の出番はなし。 ○最大トーナメント編 その後は最大トーナメントにも出場を果たす。 御老公の目の前で花田純一との試合を展開し、金玉を一個潰して勝利。「親友(ダチ)がこう言ッてんだけどよ御老公」と強引に出場を承認させる。 だが、このことが後述の出来事のフラグになるとは知る由も無い。 「暗黒街で磨いた実戦カラテ!!」 「神心会のデンジャラス・ライオン加藤清澄だ!!!」 試合前、愚地克巳と独歩との組手を見て、彼の才能を思い知らされる。 独歩の愛息子で「自分より強い」と太鼓判を押される克巳の登場に、「刃牙のライバルポジションの空手家」としての立場を奪われるか、と危惧されたが、「忘れるな刃牙Bブロックからあがるのはこの俺だ」「坊ちゃん空手に見せてやるぜ 雑種のしたたかさってやつをな」とカッコイイ台詞。 トーナメント初戦の相手はパナマの鉄拳、ロベルト・ゲラン(*2)。 「パナマの鉄拳だァ!?」「八ツ裂きにしたるわいッ」と威勢のいい加藤。「とっぽいなァ」と刃牙は呆れ気味。 だが、試合場に姿を現したのは巨大な猿…あの夜叉猿だった…!! 四年前に刃牙が既に勝利していることを御老公に聞かされた加藤は、猿退治に乗り出すが、まるで通用しない。 アクビまで見せられた挙句、刃牙のいる所まで投げ飛ばされる憂き目に遭う。 なおも挑みかかろうとする加藤だが、刃牙の静止の手が。 加藤「まさか『アンタじゃムリだオレがかわる』…なんて言い出すんだねェだろな 刃牙ちゃん」 刃牙「アンタじゃムリだオレがかわる」 その後目潰しを敢行するも、壁まで叩きつけられて失神。夜叉猿ジュニアは、愚地克巳にあっさり退治されてしまいましたとさ。万事メデタシメデタシ♪ 憤る刃牙に対し、加藤は「この人はよ刃牙…オレと違ってちゃんと上まで登ってくる人だ」と宥めた。…ありゃありゃありゃ。 結局彼の役目は、夜叉猿ともども新登場の愚地克巳の引き立て役だったってことかいッ! その後は最大トーナメントを最後まで観戦。驚き役として最後まで試合を盛り上げてくれた。 同期(出場回的な意味で)の本部以蔵を「地上最強の解説役」と呼ぶなら、彼は「史上最高のオドロキ役」と呼ぶのが相応しいだろう。 ……花田(=本部の弟子)の親友(ダチ)になったのって、まさか作者はこの結果を狙ってたからじゃないだろうな? ○最凶死刑囚編 こんな不甲斐ない戦績だったので、当然最凶死刑囚と戦う五人のメンバーにも選んでもらえず。 というか、第二部『バキ -BAKI-』での再登場自体が危ぶまれていた。だが、彼は意外な形で再登場した…愚地克巳の師匠として(!) 徳川邸での柳龍光戦反省会に乱入してきたドリアンに対し、克巳はガソリンをぶっ掛けて火をつける暴挙を見せる。 その後、「俺の師匠」という言葉を受けてドヤ顔で加藤登場。 実戦性の不足を痛感した克巳が反省して選んだ師匠なのだが、直前の「空手家じゃなくていい」発言も併せて「トチ狂った」だの「若様ご乱心!」だの散々な評価を受けることになる その加藤にしても、ドリアンの耳をテグスで落としたところまではよかったのだが、弟子(?)の克巳と一緒にアラミド繊維で絡みとられてしまう。 その後、独歩が手刀で繊維を斬り落とし、克巳ともどもキビシイお説教を受ける。 ドリアンは爆弾を利用して徳川邸を脱出。アジトまで逃げ込むが 「みっけ~~」 加藤登場。しかし… 「君か…」 あからさまにザンネンそうな顔のドリアン。読者もな。 まあ、それでも戦闘開始。直後にドリアンの中国拳法の崩拳で壁までぶっ飛ばされる。 その後、ドリアンは拳にグリースをまぶし、ガラス片を手につける。 アル・カポネの時代の決闘方法だったらしく、相手にも真似る様に言うが、加藤はこれを拒否。素手のまま突っこむが、当然通用しない。 「たしかにデキがワルい…ドッポ・オロチが嘆くワケだ…」と呆れるドリアンに対し、「昔からな 館長にイチバン叱られたのが俺だ…だからこそ俺がイチバン--師匠思いッ!」と返す。 何かを悟ったかのごとく「キモチいいや」(←ドM)と呟く加藤に対し、ドリアンは「わたしが思うより…あるいはもっと優秀な戦士なのかもな」と珍しくお褒めの言葉。彼にとっては数少ない(というよりこれしかない)見せ場である。 その後、ガラス片で顔面を切り刻まれ、「オ・トワ・ラヴィ~~♪」の歌とともにドリアンのトドメの一撃を食らう。 だが、加藤は渾身の飛び蹴りを放つ。 「愚地独歩にとっての空手とは--」 「道ッッ」 「俺にとっての空手とはッッ」 「道具だッッッ」 これを突破口に、加藤はドリアンを全力で打ちのめしていく。 命乞いまでするドリアンに対し、必殺の目潰しまで決めて勝負あり、かと思われたのだが…。 「錯覚だ」(キリッ) ドリアンが使ったのは催眠術だった。(それ中国拳法なの?)つまり、加藤の見ていたのはただの幻覚。 最後はアラミド繊維で喉を切り裂かれ、完全敗北。 最後はサンドバッグの中に一晩中放置されていましたとさ。 第一発見者の烈海王の「カトオォォォッッ」の叫び声も結構有名。 加藤の負傷は、 「頭蓋骨骨折及び脳挫傷」 「鼻骨骨折」 「第7歯から第4歯欠損」 「第1歯及び第2歯欠損」 … 多すぎるので以下略。 ちなみに作中で紹介されたのも半分程度。要するに、「滅茶苦茶にヤラれたンだよメチャクチャに」ということである。 その後、神心会は全支部道場を動員してドリアンを捕縛。最終的には、師の愚地独歩がドリアンを徹底的に破壊する。そして… どこから手を回したのか、車椅子に乗った加藤登場。 「あそこでヘバってるでっかい白人を加藤がとどめを刺すのさ」と独歩。 仰天する医者に対し、 「意識のない患者が通るぜ」 重態のまま立ち上がる加藤。「ダメージは五分といったところだ 加藤」「ブチのめしてやれいッッ」と独歩が煽る。 ここにきてドリアンは遂に自らの敗北を認めた。 わたしの敗けだァァッッッ 最後は独歩に花を持たせてもらった感はあるとはいえ、加藤は名誉の負傷の甲斐あって、自らの手で決着をつけることができたのである。やったね♪ だが… ドリアンは病院で復活。独歩の顔面を爆破させ、そのまま逃亡。 最後は烈がキッチリ決着をつけたのだが…イチバンおいしいところを盗られてしまった。あの苦労はなんだったんだろう… 常人なら何回死んだかという重傷を負った加藤だが、その後無事復帰できたらしく、第二部の終盤は克巳や烈とともに刃牙のリアルシャドーを観戦している。 それにしてもほっぺが破裂しちゃった花山さんに顔面爆破された愚地館長、大火傷で良い男台無しの克巳、そして加藤と、第二部は顔が傷だらけの人が多すぎである。 ○それ以降のシリーズ 第三部では、同じく生死不明だった末堂と共に道場のジムで仲良く身体を鍛えている場面が描かれている。 第四部「刃牙道」では、ピクルVS武蔵戦の観客の一人として他のグラップラーと一緒にちゃっかり登場。 第五部「バキ道」では、四段に昇格。愚地独歩との組手を刃牙の前で行い、目潰し狙いでファイトスタイルの健在を見せた。なぜか あだ名が「デンジャラスボーイ」と格落ちしていた。 【余談】 腕を磨くためにヤクザ世界に入って武闘派の極道と空手で渡りあった経歴のある男だが 同じくステゴロ最強で現職のヤクザ組長である花山薫とは今のところ接点がなくお互いに言及すらしていない。 当時の加藤の性格なら花山の噂を聞いたら喧嘩を売りに行きそうなものだが…。 そうしていた場合の勝敗はなんとなく想像できるが…。 『加藤清澄』という名前は作者・板垣が陸上自衛隊第1空挺団に籍を置いていた頃の先輩のもの。 自伝漫画『200000歩2夜3日』でも登場し、後先考えず水を飲んでいた板垣青年をライフルでぶん殴っている。こえぇ~! wiki篭りにとっての追記・修正とは-- 道ッッ アニヲタにとっての追記・修正とはッッ 道具だッッッ △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 作成完了。郭海皇の項目でも書いたのだが、あっちの騒動に巻き込まれたせいで自分の申請した項目がこんなに遅れることに… -- 名無しさん (2014-08-11 13 53 53) お疲れ様です。こうなると末堂の項目も見たくなりますね -- 名無しさん (2014-08-11 15 20 43) 第三部に加藤出てなかったっけ? -- 名無しさん (2014-08-11 15 30 34) ↑真マッハ完成させたところで道場でトレーニングしてるのがそうじゃないか? -- 名無しさん (2014-08-11 17 49 27) ↑ほい追記。あそこはむしろ末堂が生きてたってことのほうがサプライズだったな。 -- 名無しさん (2014-08-11 18 21 27) 清く・・・澄みわたる程に・・・キャオラ枠ッッ!! -- 名無しさん (2014-08-11 23 49 52) 最トー編で克己のピンチに瞬間移動して末堂と「とりあえず正拳突き」やったシーンで好きになった -- 名無しさん (2014-08-12 00 25 33) 「キャオラッ」とか「ケイッ」とかなんとなくカラテ・シャウトが独特。 -- 名無しさん (2014-08-12 07 16 35) 超人と言うか人外が殆どの作中で、クリリン(地球人では最強)に続くヤムチャ(強いんだけど“一番役に立ちそうもない”)的ポジション。 -- 名無しさん (2014-08-15 09 35 05) ↑因みにクリリンは克巳ね。 -- 名無しさん (2014-08-15 09 35 54) 克巳が骨折を淡々と読み上げるシーンが独歩VS勇次郎を思い出してやっぱり親子だねえと思った -- 名無しさん (2015-04-23 03 32 12) 末堂と一緒に応援正拳突きくらいさせてあげてよ -- 名無しさん (2016-08-07 15 47 43) 新アニメ版では一番CVの声がキャラと合っていたと思う。ヤバさをひけらかしてへらへらしてるんだけど、根っこの部分は真面目で師匠想いってところが伝わってきてジンときた -- 名無しさん (2020-06-09 09 03 42) 最終的にはデンジャラスベイビーに格下げッ!! -- 名無しさん (2021-07-23 23 59 18) 「ブチのめしてやれいッッ」の所は正直スゲェカッコイイ。烈に美味しいところ取られたとか茶化して欲しくないくらいに。 -- 名無しさん (2021-07-24 01 30 26) スピンオフで用心棒時代の話をやっても面白いかも。 -- 名無しさん (2023-08-26 21 21 44) デンジャラス・ライオンに戻れる日はいつ…? -- 名無しさん (2024-04-16 23 32 55) 用心棒やってた設定掘り起こして花山の外伝に出せないかな? -- 名無しさん (2024-04-26 10 58 34) 名前 コメント
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雨が降り出した。 蛇蝎兇次郎にとっては、ひどく間の悪い雨であった。弁当を広げた直後だったからである。 あわただしくタッパーを包みなおし、席を蹴って立ち上がる。テラスのあちこちから椅子を引く音が響き、それに悪態が混ざる。食堂への入り口はひどく込み合い、それは中の方でも同様のようである。 ――あの様子では、座って食うのも難しかろう。 蛇蝎は走り、適当な屋根の下に飛び込んだ。雨脚は徐々に強さを増し、なかなか止む様子もない。 雨の中喰うことも蛇蝎にとってはよくある話であったが、今日ばかりは例外であった。 ――そういえば、傘を忘れたな。 痛恨のミスに、蛇蝎は思わず舌打ちした。濡れて帰ることは苦痛ではない。ただ、天気を読み誤ったという事実が、蛇蝎の内心に影を落としていた。蛇蝎の予測能力を持ってすれば、天気予報などは朝飯前であるが、今日は、その朝飯前を失敗してしまっている。そのことが、蛇蝎の心をくじくのである。 蛇蝎はふと、灰色の空を振り仰いだ。 大機を失した翌日とあって、惨めな気持ちもひとしおであった。 蛇蝎兇次郎はかつて醒徒会選挙に出馬し、一敗地に塗れて涙を呑んだ。 だが志までが折れたわけではない。蛇蝎はあくまで学園支配を志向し、捲土重来を期して裏醒徒会なる組織を立ち上げた。 そうした裏醒徒会の元には現在の体制に不満を持つ者たちが集い、蛇蝎は彼らの協力を得て、学園支配への策をめぐらすようになった。 機をうかがっていた蛇蝎の元にチャンスが飛び込んできたのは、つい昨日のことである。 蛇蝎は渾身の策を練り、それを実行に移した。裏醒徒会の重鎮二人に加え、自らもまた手を下す。戦力の十全な投下によって間違いない成功が約束され、それによって、裏醒徒会の力は大きく進展するはずであった。 だがしかしふたを開けてみれば、結果は大失敗に終わった。 ほんの些細な偶然によって、つめにつめた計画が崩される。蛇蝎の未来予測能力をしても、読みきれなかった結末であった。 事態は進展どころか、大きな後退を余儀なくされたのである。 日を改めても、蛇蝎の心には重いものがのしかかったままであった。 ――教室で食うことにするか。 理想的な選択肢とは言いがたかったが、ほかに手がないのもまた、事実である。 蛇蝎は地面を観察した。すでにあちこちがぬかるみ始めているが、かといってゆっくりと道を探していては制服が濡れるばかりである。じっくりと機を測り、雨脚が弱まったところを見計らって、蛇蝎は足を踏み出した。 さっと差し出された傘が、蛇蝎を降りしきる雨から守った。 「蛇蝎さん。こんにちわ」 「――工か」 「よかったら、入っていかれませんか」 傘の主、工克巳は人懐こそうな笑みを浮かべた。 「すまんな」 「いやいや、これぐらい当然ですよ」 克巳はしきりと、蛇蝎のほうに傘を差し出してくる。自分が濡れることには構わない様子である。傘をさりげなく押し返しながら、蛇蝎はゆっくりと校舎のほうに脚を進めた。なかなかに、面映いものであった。 工克巳は、裏醒徒会の一員である。蛇蝎が風紀委員の横暴から助けたことがきっかけとなり、自ら参加を申し出てきたのである。克巳が正面きって「部下にしてください」と頭を下げてきたとき、蛇蝎は面食らうとともに、ひどく頼もしいものを覚えたものであった。今では、工克巳は蛇蝎を慕う忠実な部下となっている。 「ところで蛇蝎さん、もう飯は食べられました?」 「まだだ」と空を見やり「下の都合を考えん雨だ」 「全くですね。おれもです」 重々しくうなずいた克巳が、不意に間の抜けた声を上げた。 「蛇蝎さん、部室行きましょう、部室。部室で食いましょうよ」 「部室?」 「はい。我らが裏醒徒会の拠点ですよ。こっちです」 あっけに取られる蛇蝎をよそに、克巳は向きを変えた。蛇蝎は抗議の声を上げようとしたが、濡れまいと傘を追ううちに、それはあいまいになってしまった。 向かう先はどうやら、課外活動棟のようである。蛇蝎はおとなしく、克巳に従うこととした。 「あ、看板は気にしないでください。一応、書類上は野鳥研究会ですんで」 乱雑に物が置かれた廊下を歩み、いくつものドアの前をよぎりながら、克巳はひたすら饒舌であった。場所が奥まっててごめんなさいと謝り、ゴミの撤去が大変でしたとため息をつき、どうやって部室を入手したのかという手管については鼻を高くして述べ立てる。どうやら、休眠状態の部活動に目をつけ、関係者を説得してひきついだものらしい。いやおうなく聞かされた細かい手段を吟味して、蛇蝎はその細やかさに感心を覚えた。こういうことが出来る人間だとは思っていなかった。評価を見直す必要があるらしい。 「――それで横のエスペラント研からテーブルをパクってきたんですけどこれがまたおおごとで」 「工」 「はい!」 その一言で、克巳は蛇蝎に向き直った。背筋を伸ばし、顔に浮かべるのは満面の笑みだ。褒めてもらえる事を疑ってもいないらしい。まるで犬のようだと、蛇蝎は内心ため息をついた。忠実で、頭もそれなりによいが、どこか間抜けな顔つきの犬。 「その部室とやらを手に入れたのはいつだ」 「一週間ぐらいまえです」 「何故報告しなかった」 蛇蝎の言葉は静かなものであったが、克巳は打たれたようにその身を震わせた。 「あ、あの、準備を整えてからびっくりさせようかと思い、まして」 「そんな配慮はいらん」 しどろもどろの弁明を、蛇蝎は一言で切って落とした。 「お前がお前の責任で何をしようと勝手だが、それが我々、裏醒徒会にかかわるものであるなら、何があろうと報告を怠るべきではない。ただでさえお前たちは独断専行しがちだが、さらに情報伝達に齟齬が生じるようでは組織立った行動など到底望むべくもない。これでは学園支配などおぼつかんのだ。よく覚えておけ」 「――はい」 「二度は言わん」 蛇蝎が言葉を並べるほどに、克巳は見る見るしぼんでいく。そんな克巳をよそに、蛇蝎は廊下の奥にむかってどんどんと歩みを進めた。うろたえた様子の克巳があわてて付いてくるのを横目に見ながら、蛇蝎はそのドアの前に立った。 野鳥研究会と書かれた表札は古ぼけて埃が積もり、眉をしかめる蛇蝎の前で、限界といわんばかりにドアから外れて落ちた。 なるほどな、と蛇蝎は顎をさすった。 「それはそれとして、工」 びくん、と克巳が姿勢を正した。 「よくやってくれたな。このような部屋を手に入れるとは中々の快挙だ。褒めてやろう」 なんといっても、たまり場がなくて困っていたのも事実である。実のところ、蛇蝎は大いに満足していた。ことさらに冷たい事を言ったのは、釘を刺すためである。 克巳がぱっと顔を輝かせ、ポケットを探ると鍵を取り出した。鷹揚に頷きを返すと、蛇蝎は鍵を差し込んで回し、ゆっくりとドアノブに手を掛けた。 開かない。 蛇蝎は眉をしかめたが、それもほんのわずかな間であった。 ドアの向こうから漏れ出した女の嬌声に、蛇蝎は思わず目をむいた。 「工」 「はい!」 克巳が、制服のボタンを外して襟を広げた。取り出された金属のギミックが、魂源力をはらんでうなりを上げた。 ――あきれて物も言えん。 うろたえさわぐ半裸の女を、一瞥して追い払う。克巳の〈鋼鉄の毒蛇〉がくりぬいたドアノブを蹴飛ばして脇にやりながら、蛇蝎はことさらに大きなため息をついた。 女と行為に及びかかっていた相手は、悪びれる様子もなく半ズボンを引っ張り上げている。ひじに巻かれた包帯には血がにじんでひどく痛々しいが、それでも全体の印象を拭い去るには至らない。なにしろ内側から鍵をかけ、逢引にいそしんでいたのであるから、弁護の余地は皆無である。 蛇蝎は苦虫を噛み潰すような想いであった。 「相島、どうやってここにはいった」 「合鍵もらった」 「誰にだ」 「放送委員のおねえさん」 「何故あいつがそんな鍵を……。まあいい。昨日から様子はどうだ」 「ひじすごく痛いよ。お泊りにいってることにして本当によかった。おかあさんにみせたらきっと心配されるよ。病院行きたかったのに。なんでだめなのさ」 「目を付けられては困るからだ。我輩なら、お前を探すために病院に網を張るからな。むくれるな。昨日我輩が包帯巻いてやっただろうが」 「だって、せっかく看護師さんや女医さんとなかよくなれるところだったのにさ」 「そっちかよ」 蛇蝎の内心を、克巳が代弁した。相島はぷいと顔を背けると、椅子によじ登って脚をぶらぶらさせた。むくれた顔には、反省の念は見出せない。しかられた子供そのままである。 餓鬼は餓鬼か。蛇蝎は暗澹たる思いを押し殺した。 「なんでもいい、今後はこの部屋を逢引に使うな。よそでやれ」 「はあい」 「きちんと返事しろ」 「――はい」 気のない返事を正しても、手ごたえはほとんどない。全く、相島陸は蛇蝎にとって扱いづらい人間であった。 相島陸はわずか11歳でありながら、ドンファンをして顔色なからしめるほどの色情狂である。その愛らしいしぐさと外見で多くの女性と浮名を流し、しかもトラブルを起こしたことがない。無邪気な顔の裏に潜むのは計算高い本性であり、手を付けても大丈夫な獲物だけを選び出しているのだ。こと相島にとって、万事は女遊びのために存在している。かつて醒徒会に立候補したことすら、女の気を引くためであったと聞かされたときには、蛇蝎はめまいを覚えたものだ。 子供であり、単純であり、それゆえに、ひどく手綱を取りにくい。 しかし、相島を手放すわけにも行かなかった。相島の具える異能は『カットアンドペースト』。空間を切り取り、視界内のどこにでも貼り付ける。単なる転移ではなく、ある程度の時間なら切り取ったまま保持することも可能。あるいは欲しいものを手元に引き寄せ、あるいは邪魔者を遠ざける。襲い掛かる敵を空中に放り出し、窮地に陥った味方を安全圏へと送り込む。いかに堅固な物体も、それが属する空間ごと切り取られればなす術もなくえぐられる。小さい空間を切り取って保持すれば、それは誰にも見つかることがない完璧な隠し場所となる。 悪用すればきりがない、強力極まりない異能である。 昨日蛇蝎が実行した作戦も、中心にあったのは相島の能力であった。 作戦とはすなわち、自作自演でラルヴァを退治するというものである。 部室の中心に鎮座するテーブルの最奥に陣取ると、蛇蝎は手早く弁当を広げた。 時刻は既に12時30分を回っている。ゆっくりと食事を取っている余裕はもはやない。 もそもそと卵焼きを口に運び、梅干のすっぱさに口を尖らせる。飯をかっ込み水筒を傾け、弁当箱が空になると、蛇蝎は新たに手に入った部屋を眺め回した。 相島はゲーム機を取り出し、克巳はパンをほおばりながら、ドアの立て付けを直そうとして四苦八苦している。テーブルの上はむやみに広く、ロッカーはうつろな中身を晒し、床には誰が置いたのか埃っぽい毛布が転がっている。工は少しばかり掃除をしたようだが、それにしても、居心地がいいとは言いかねる現状である。 それにしても、床に毛布とは! 蛇蝎はあきれ返り、拾い上げようと手を伸ばした。なんとなく膨らんだ部分をつかんだ蛇蝎の手が、毛布の下に感触をとらえた。むやみに柔らかいものであった。 「ふにゃ!?」 毛布が跳ね除けられ、その下にいたものが天井までも飛び上がった。 壁を蹴って中空をすべり、部屋の反対側に着地して息を荒げる。室内にはにわかに緊張が走った。 だがそれも、彼女が蛇蝎を認めるまでのほんの短い間であった。 「あれ、なんだ、兇ちゃんか。びっくりしたー」 緊張から完全弛緩への鮮やかな変貌。緩みきった笑みを浮かべ、ふらふらと椅子に座ってテーブルに突っ伏す。顎をテーブルに預けたまま、なにやら幸せそうな笑みを浮かべて蛇蝎を上目遣いに見上げたかと思えば、すぐさま首を倒して安らかな息を立て始める。脳内これお花畑を体現したような有様に、蛇蝎はこめかみを強く強く揉み解した。 相島陸と違った意味で、蛇蝎は竹中綾里の扱いに手を焼いている。 指示に従わないというわけではなく、むしろその逆である。竹中綾里は極度の面倒くさがりであり、その心はもっぱら眠ることと、体を動かすことにのみ向けられている。日常における場面のほとんどで脊髄反射的に行動しており、自発的に何かをすることはめったにない。異能によって驚異的な身体能力を持っていながら、それはもっぱら、「面倒くさい事を考えないように体を動かす」ためだけに使われている。 こうした理由から周囲にもてあまされていた彼女に、蛇蝎は自ら指導を施した。その結果として、綾里は蛇蝎のの意のままに動かすことの出来る戦闘人形へと仕立て上げられた。血のにじむようなその過程で何か思うところがあったのか、綾里もまたいつのまにやら、蛇蝎になついてしまっていた。蛇蝎にしてみれば、便利な力を手に入れた反面、この問題少女の面倒を見る必要に迫られることとなった。居眠りで赤点を取り、追試をさらなる居眠りですっぽかす綾里のフォローをするために、蛇蝎はこのところ結構な時間を費やす羽目になっている。 負担であるが、捨てるわけにもいかない。蛇蝎にとって、竹中綾里はなんとも面倒なことこの上ない存在である。 幸せそうな笑みを浮かべたまま眠りに入ろうとしていた綾里を、蛇蝎は無理やり揺さぶって起こした。 「今寝るな! 午後の授業があるだろうが! それにお前、昼飯は食ったのか?」 「食べた……気がする」 「気がするとは何だ。ちゃんと食え。そうでなくても身体強化系の能力者は栄養をしっかり取らないと体を壊すんだからな。お前の体は半分我輩のものみたいなものなんだから、責任持ってしっかり管理しろ……相島、何がおかしい」 にらみつけられて、相島が手元のゲーム機に目を落とした。克巳はといえば、なにやら複雑な表情である。聞いているのかいないのか、問いただそうとした蛇蝎を見上げ、綾里はあろうことかさっと頬を染めた。 「兇ちゃんにおっぱいもまれちゃった……」 「その呼び方をやめろ。もう何度も言っている。それと話をそらすな。我輩は『飯をちゃんと食え』といったんだ。わかったらちゃんと返事をしろ」 「うんー」 「返事は『ハイ!』だ! 元気よく『ハイ!』! あとな、我輩は確かにお前の胸を触ったかもしれんが、それはあくまで不可抗力だ。それをことさらにおっぱいおっぱい言い立てるな。見苦しい。おい相島、何か言いたいことがあるのか!」 にらまれて、相島がさっと顔を背けた。克巳もまた、思い出したようにドアとの格闘を再会している。蛇蝎は頭をかいた。 「ところで綾里、お前いつからここで寝ている? そもそもどうやってここに入った?」 「清廉さんが鍵くれたー」 「ぼくが来たときには転がってたよ。午前9時ぐらいだったと思うけど」 綾里が無邪気に鍵を打ち振り、気のない様子で相島が蛇蝎の疑問に答える。事情を見定めるべく蛇蝎は思考をめぐらそうとしたが、幾らもしないうちに肩から力が抜けていく。代わって浮かび上がってきたのは、清廉に対する苛立ちである。 「全く、清廉の奴はうちの鍵をなんだと思っているんだ! そもそもなんであいつが鍵を……」 言いかけた言葉が、途中で空に消えていく。蛇蝎の脳裏に、ある可能性がよぎった。 「おい、工。まさかと思うが」 「すみません」 工がうなだれた。 「思ってらっしゃる通りです。清廉先輩にこの部屋のこと紹介してもらいました」 「あいつに気を許すなとあれほど言っただろうが! まさか直接会ったりしたんじゃなかろうな!?」 「すみません。なんかその、押し切られちゃって」 しおしおと縮んでいく克巳になおも言葉を投げつけようとした蛇蝎であったが、携帯の着信音にさえぎられて果たせない。メールの発信者を確認すると、それはあろうことか清廉であった。 『そんなに怒らないで。鍵はたくさんあったほうが便利だし、部屋は役に立ったでしょう? 工くんが掃除を終えるまでは秘密にしたがっていたようだから、掃除が終わったのを見計らって、皆に教えてあげました。作戦が失敗したからってあまりいらいらしちゃだめよ』 最後に添付されているのは、幸せそうに眠りこける子猫の写真であった。なんとも愛らしい画像であったが、蛇蝎はそれを即座に消去した。文面を読むにつけ、湧き上がる苛立ちを押さえきれなくなったのである。 これはどう見ても、今しがたの罵声を聞いているとしか思えない内容である。盗聴か、はたまた何かの異能持ちをたらしこんだのか。いずれにせよ、この部屋で起きている事を直接把握しているらしい。蛇蝎は怒りにと歯を鳴らしたが、深呼吸してその苛立ちを押さえ込んだ。上に立つものは人前でうろたえるべきではなかったし、清廉の態度はこちらを舐め腐ったものであったが、直接電話を掛けてこないだけましであった。腹を立てたところで、容易に扱える相手でもなかったのである。 清廉唯笑と蛇蝎のかかわりは、傍目にも奇妙なものである。その始まりは共に醒徒会選挙戦を戦い、敗れ去ったというものであった。 だが得票数の差か、蛇蝎が野に捨て置かれる一方で、清廉唯笑は放送委員のポストを獲得している。その異能は弱い催眠能力であり、声を聞かせる事で人をいともやすやすとたらしこんでしまう。常に笑みを浮かべて表情を読ませず、誰に対しても保護者然として振舞いながら、粛々と放送委員の職務を果たす。蛇蝎にとっては、何を考えているのかよくわからない女以上のものではなかった。 だがしかし、清廉の側からしてみればそうではないらしい。何かと蛇蝎に便宜を図り、ときには醒徒会の内部情報をもらそうと持ちかけてくることすらある。露見すれば問題になるだろうが、清廉がそれを気にかける様子はない。 とんでもない食わせものであるはずだが、さりとて利用できないわけではない。向こうも、なにやら考えがあるらしい。二人の関係は、お互いに気の抜けないものである。 意図が読めないという理由で、蛇蝎は清廉のもたらす情報のほとんどを固辞していた。 だが、昨日の昼に清廉がもたらした情報は例外であった。蛇蝎にとっては、充分に利用価値のあるものであったからである。 「今朝、醒徒会がラルヴァを一体倒したが、完全に退治できたわけではない。親が最期に生んだ幼生がまだ生きていて、しかも醒徒会はそれに気がついていない」 詳しいところを問いただせば、その場所はほかでもない、破壊された蛇蝎お気に入りの休憩所であった。半信半疑のまま蛇蝎は夕日の落ちる工事現場を訪れ、そこに力なくうごめくラルヴァの幼生を見出した。まったく、清廉の情報どおりであった。 清廉に意図を問うても、返る答えは言を左右にしてあいまいであった。はじめのうちこそ、退治して食費の足しにでもするかと考えた蛇蝎であったが、幾らもしないうちに事態が意味するところを理解した。これこそまさに奇貨であった。 このラルヴァこそは、醒徒会の怠慢を示す証左にほかならない。ラルヴァを捕捉し、しかも退治したと宣言しながら、実際には完全に葬り去ったわけでもなく、しかもその確認を怠っている。このラルヴァの存在を喧伝すれば、醒徒会の信用に傷をつけることが出来るだろう。加えてこのラルヴァを始末し、醒徒会の不手際を誰が処理したかということが知れ渡れば、支持を広げることも出来るに違いない。少なくとも、醒徒会に対しては一つの貸しとなるはずである。磐石たる醒徒会にとっても、この貸しは無視できないほころびとなるはずだ。 蛇蝎の思考はうなりを上げ、瞬時に計画を練り上げた。 相島を呼び寄せ、ラルヴァを空間ごと切り取らせる。『カットアンドペースト』によって作り出される完璧な隠し場所にラルヴァを仕舞いこみ、出来るだけ人目につきやすい場所まで移送、開放。周囲にとって充分な脅威であるとアピールしたところで、ころあいを見計らって完膚なきまでに粉砕する。笑乃坂が適任だろう。足りないようなら、綾里をサポートにつけてもよい。以前から計画していた、笑乃坂を風紀委員として採用させる計画の助けにもなる。戦闘能力とラルヴァ退治の実績を同時にデモンストレーションすれば、否やの声は上がるまい。 ほくそ笑む蛇蝎の足元で、ラルヴァの幼生がか細い鳴き声を上げた。ふるふると震えるラルヴァが、力なくその触腕を地に這わせた。その様子はいかにも頼りなく、死に掛けの小動物を思わせるものであった。 ここで死なれては計画が台無しである。かといって、この場で世話をするわけにもいかない。相島を呼ぶ時間も惜しいと、蛇蝎は止むなく、ラルヴァを自ら安全な場所に移す手に出た。蛙ほどの大きさを持つラルヴァにこわごわと手を伸ばし、何とか抱え上げたところで、蛇蝎のズボンが落下した。 ラルヴァの仕業であった。きつく締め上げたベルトのバックルを、ラルヴァがもぎ取ったのである。思わぬ事態に蛇蝎は小さく悲鳴を上げ、ついで瞠目した。ラルヴァはバックルの表面を削り取り、自らの内部に取り込んでいた。バックルが磨り減るほどに、ラルヴァは生気を取り戻していく。そのことで、蛇蝎はこのラルヴァが何を喰うのかを理解した。右手でズボンを引き上げ、左腕でラルヴァを抱え込みながら、蛇蝎はその場を後にした。 暴れるラルヴァをなだめるうちに、蛇蝎は計画の細部を修正することにした。 このラルヴァを使うのは、ある程度まで育ててからにしよう。適当な金属を与え、充分な大きさにまで育てれば、それだけ得られる効果も大きくなるはずだ。相島の能力との兼ね合いもあるが、当分は問題なく隔離し、飼育することができるはずである。 ラルヴァすら、己が策の道具とする。蛇蝎は自らの冴えに大きく気をよくし、必死にズボンを引き上げながら高らかに笑った。いまや学園支配への道すら、いともたやすいものに思われた。 しかし、結果は惨憺たるものであった。 夜間、蛇蝎がちょっと目を放した隙に、ラルヴァに餌をやろうとした相島はたまたま通りかかった風紀委員のひとりに撃たれ、身柄を拘束された。蛇蝎は風紀委員の巡回スケジュールを調べており、本来ならば安全なはずであった。このほころびが、全てに波及していった。異変を察知した蛇蝎が駆けつけようとしたときには、既にラルヴァは制御不能に陥り、手をこまねく蛇蝎の前で、よりにもよって風紀委員によって破壊されてしまった。蛇蝎に出来たことは、気絶した相島を醒徒会から奪還することだけであった。目を覚ましてびーびーと泣く相島をなだめ、病院には行かないよう言い聞かせて治療を施しつつ、蛇蝎は無念のあまり涙を流した。 悔しさのあまり噛み切った唇にオロナインを塗り、蛇蝎はその夜を、せんべえ布団の中でごろごろと転がってすごしたのであった。 玉座への道はいかにも遠い。機を生かせぬようではなおさらである。 「思ったより貧相な部屋ですのね」 清廉に抗議のメールを返し、不意にぶり返した無念を押さえ込んでいると、皮肉な声を上げるものがあった。 入り口で不満そうな顔を浮かべているのは、笑乃坂導花。裏醒徒会の一員であり、蛇蝎にとっては相島と並ぶ腹心の一人でもある。克巳がおずおずと頭を下げたが、笑乃坂はそれを完全に無視した。蛇蝎の見るところ、克巳は綾里とともに、笑乃坂からはいないも同然の扱いを受けていた。克巳は大いに不満そうだが、それを気に病む笑乃坂ではない。その程度では、蛇蝎の腹心は勤まらない。 「笑乃坂、鍵だがな」 「もう無意味みたいですわね」 笑乃坂の右掌に、手品のように鍵が現れた。 その脚が床に転がるドアノブを蹴り上げ、目の高さ程に上がったところで右手が一閃。悲鳴のような音を伴ってドアノブが二つに断ち割られ、床に転がって耳障りな音を立てた。 「笑乃坂、ゴミを作るな」 「ごめんなさいね。少々いらいらしていたものですから」 蛇蝎の抗議も、笑乃坂にはどこ吹く風である。 「清廉か」 「わざわざ鍵を届けるように言われましたわ。この私がパシリだなんて業腹ですけど。でもこんなことなら届ける必要はなかったようですわね。本当、腹が立つこと。せっかくの昼休みが台無しですわ」 その掌から鍵が飛び、テーブルに深々と突き立った。すぐそばには綾里が眠っていたが、目を覚ます様子もない。目をむいたのは克巳ただ一人である。いかなる金属をも刃に変える笑乃坂の能力を持ってすればなんでもないことだが、克巳には見慣れぬものであるらしい。 「まあ落ち着け。あいつが何を考えているのか知らんが、使えることは間違いない。おさめろ」 「最初からあの人は気に入りませんでしたわ。大体、キャラかぶってるんですもの」 「あー確かに。笑顔の裏で何考えてるかわからないあたりがそっくりですよね」 納得したように声を漏らした工に、笑乃坂が笑顔を振り向けた。 「もう一度言ってくださるかしら? よく聞こえませんでしたわ」 「い、いのちだけはたすけてください」 「あら、命以外はいいのかしら。ゴミみたいなものだと思ってましたけど、思ったよりは人の役に立てるようね。ぜひストレス解消に付き合っていただきたいわ」 「ひ、ひいっ」 「笑乃坂、止せ」 蛇蝎は声を荒げた。つまらなそうに息をついて、笑乃坂が克巳を解放する。振り向けられた殺気が蛇蝎の頬を撫でたが、蛇蝎は努めてそれを無視した。たまらずしりもちをついた克巳に、相島が哀れむような目を向けた。いかなる夢を見ているのか、綾里の体が急に波打ち、また元のように戻った。 図らずも、裏生徒会の面々が一堂に会した格好である。 蛇蝎はため息をついた。 全くなんという顔ぶれだろう。 一体誰が、この筋金入りの問題児たちを従えようと思うだろう。 思うがままに振舞い、主人に牙を向けることすら辞さないこの気まぐれな狂犬たちを、いったい誰が制御できるというのだろう。 それは我輩をおいてほかにない。 痛いほどの自負心が、蛇蝎の思いを駆り立てる。 彼らは皆、いずれ劣らぬ強力な力をその身に秘めている。そして同時に、その力を振るう目標をも求めている。蛇蝎に必要なのは、ただそれを与えてやることだけ。いたずらに撒き散らされる力を押さえつける必要はない。たんに、向きを揃えて束ねればよいのだ。心からの忠誠を求める必要はない。ただ、己の野望を果たすための道具としてのみ、有用でありさえすればよい。蛇蝎の才を持ってすれば、そうしたことは、充分に可能なはずである。 学園の支配は、既に夢物語ではない。蛇蝎兇次郎の力は、いまや醒徒会の喉元にすら手を掛けうるものなのだ。 高笑いが、蛇蝎の喉からすべりでた。怪訝そうに見返してくる暗黒醒徒会の面々に鷹揚な笑みを向けながら、蛇蝎はなおも笑い続けた。策をしくじり、萎え果てていた自信が、徐々に勢いを取り戻しつつあった。 遠く予鈴が鳴り響き、午後の授業開始まであと五分であることを知らせた。課外活動棟から蛇蝎の教室までは、走ってもぎりぎり間に合うかというところである。蛇蝎は弁当箱を仕舞いこむと、もの言いたげな面々にむかって顎をしゃくった。 「お前らもさっさと授業にでろ。遅れるぞ」 「今日は休むつもりできたからいやだ」 「私もかったるいからさぼりますわ」 「あ、俺はちゃんと行きますよ」 「ねるー」 皆、思い思いの返事であった。 このままでは先が思いやられると、蛇蝎はため息をついた。だが、その顔に浮かぶのは笑みであった。 放課後にまたこの部屋に戻り、少し掃除をしよう。必要なものを運び入れ、新たな鍵を取り付けよう。防諜に関しては、工にゆだねればいいだろう。その性格こそ若干頼りないが、工の技は確かである。 そうして腰をすえた後には、次の一手を打つとしよう。 部下たちを後に残して蛇蝎はドアをくぐり、廊下を悠々と歩んだ。痩躯に力と自信を宿し、それはまさしく王者の歩みであった。 トップに戻る 作品投稿場所に戻る
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「SUNRISE」(さんらいず)は、アイドリング!!!の3枚目のオリジナルアルバム。 1 リリース 発売日 2010年3月3日 ジャンル J-POP 収録時間 56分54秒 レーベル ポニーキャニオン オリコン最高順位 14位 2 販売形態 型番 エディション 内容 PCCA-03106 プレミアムエディション CD+DVD(A-type)+Photo Book+ジャケカード+真島ヒロ書き下ろしBOX仕様、封入特典オリジナルトレカ1枚封入 PCCA-03107 スタンダードエディション CD+DVD(B-type) PCCA-03108 ロープライスエディション CD+期間限定封入特典オリジナルトレカカード2枚封入 3 収録曲 曲順 収録曲 時間 作詞 作曲 編曲 1 Prologue ~reminiscent of moonlight~ 1 22 T.MORI T.MORI、ATSUSHI YOSHIDA - 2 SUNRISE 3 13 森田文人 真下正樹 真下正樹 3 機種変エクスタシィ 4 05 酒井健作 日比野裕史 日比野裕史 4 手のひらの勇気 4 17 川嶋あい 川嶋あい K-LaB(佐藤一雪) 5 U 3 55 7chi子♪ 佐薹一雪(佐藤一雪) K-LaB(佐藤一雪) 6 砂時計 4 03 Kana 則行大将 R・O・N 7 Snow celebration -everlasting story- 4 55 溝口貴紀 D・A・I RYOJI 8 3度目の記念日 5 55 leonn BOUNCEBACK ats- 9 等・等・等 等のSONG 4 17 升野英知 大西克巳 大西克巳 10 ラブマジック♥フィーバー~ラブラブマジックハイパーミックス~ 4 03 青木さやか Funta7 Funta7 11 放課後テレパシィ ~居残り補修Mix~ 3 42 shino Cell no.9 hiroki 12 レイニィガール 4 29 leonn 大西克巳 大西克巳 13 Don t be afraid -Director s cut- 4 38 leonn BOUNCEBACK 渡辺徹 14 S.O.W. センスオブワンダー 4 00 leonn 日比野裕史 日比野裕史 4 参加メンバー 曲順 収録曲 参加アーティスト 1 Prologue ~reminiscent of moonlight~ アイドリング!!! 2 SUNRISE アイドリング!!! 3 機種変エクスタシィ アイドリング!!! 4 手のひらの勇気 ときめきアイドリング!!! (遠藤舞、外岡えりか、横山ルリカ、森田涼花、三宅ひとみ、橘ゆりか、大川藍) 5 U 遠藤舞、谷澤恵里香、フォンチー、河村唯、酒井瞳、菊地亜美 6 砂時計 外岡えりか、フォンチー、酒井瞳、長野せりな、三宅ひとみ、橘ゆりか、大川藍 7 Snow celebration -everlasting story- アイドリング!!! 8 3度目の記念日 遠藤舞、外岡えりか、フォンチー、横山ルリカ、河村唯、朝日奈央 9 等・等・等 等のSONG 遠藤舞、谷澤恵里香、森田涼花、朝日奈央、菊地亜美、橋本楓 10 ラブマジック♥フィーバー~ラブラブマジックハイパーミックス~ ぷよぷよアイドリング!!! (谷澤恵里香、フォンチー、河村唯、長野せりな、酒井瞳、朝日奈央、菊地亜美、橋本楓) 11 放課後テレパシィ ~居残り補修Mix~ 外岡えりか、横山ルリカ、森田涼花、長野せりな、朝日奈央、三宅ひとみ、橘ゆりか、大川藍、橋本楓 12 レイニィガール アイドリング!!! 13 Don t be afraid -Director s cut- アイドリング!!! 14 S.O.W. センスオブワンダー アイドリング!!! 5 クレジット 1.Prologue ~reminiscent of moonlight~ VOX T.MORI、Toshimi Hayashi MIX Coji Kawamoto 2.SUNRISE EG 堀崎翔 MIX 喜多島ヒロノブ 3.機種変エクスタシィ Guitar Programming 日比野裕史 Bass HR-FM MIX 福島浩和 4.手のひらの勇気 All Programming K-LaB Guide Voice 佐藤彩、笹島麻理安 MIX 福島浩和 5.U All Programming K-LaB Guide Voice 佐藤彩 MIX 福島浩和 6.砂時計 Flute 山本拓夫 Upright Bass 川島弘光 MIX 小寺秀樹 7.Snow celebration -everlasting story- Guide Voice 笹島麻理安 MIX 福島浩和 8.3度目の記念日 Chorus arrange BOUNCEBACK Keyboards Programming ats- Guide Voice 笹島麻理安 Creator Coordination Yuki Iwabuchi(tearbridge production) MIX 福島浩和 9.等・等・等 等のSONG Guitar Programming 大西克巳 Guide Voice Akira、笹島麻理安 MIX 福島浩和 10.ラブマジック♥フィーバー ~ラブラブマジックハイパーミックス~ REMIX 小嶋"ojjy"淳一朗 11.放課後テレパシィ ~居残り補修Mix~ All Programming Hiroki Drum Yu-ya Bass 藤野翔之 Alto Sax 栗栖幸喜 Trumpet 戸田吉尚 Tromborn 齋藤邦彦 REMIX 小嶋"ojjy"淳一朗 arranged by HOROKI from Dragon Ash 12.レイニィガール Guitar Programming 大西克巳 Creator Coordination Yuki Iwabuchi(tearbridge production) MIX 喜多島ヒロノブ 13.Don t be afraid -Director s cut- Keyboard Programming 渡辺徹 Guitar Bass 日比野裕史 Creator Coordination Yuki Iwabuchi(tearbridge production) MIX 喜多島ヒロノブ 14.S.O.W. センスオブワンダー Guitar Programming 日比野裕史 Bass HR-FM Creator Coordination Yuki Iwabuchi(tearbridge production) MIX 喜多島ヒロノブ
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逮捕 529 名前:全選手逮捕!:2008/12/07(日) 16 37 58 ID Kgl1Ygmo0 光成「地上最恐の事態を知りたいか――――ッ」 乗客「オ――――――――――――――!!!!」 光成「手入れじゃ 警察の手入れじゃみんな!!」 光成「警官隊入場!!!」 アナウンサー「ついに地下闘技場の存在がばれ 機動隊がやってまいりました!!!!」 虎殺しはバレていた!! 更なる追及を重ね人間凶器が捕まった!!! 独歩!! ワシントン条約違反で逮捕だァ――――!!! 総合軍事力はすでに我々が完成している!! 日本国憲法第9条違反の稲城文之信だァ――――!!! 組み付きしだい投げまくったら粗大ゴミも投棄していた!! ロジャー・ハーロン 産廃不法投棄で逮捕だァッ!!! 素手の掘り合いならイカサマの歴史がものを言う!! 神の手のムエタイ ネツゾウジャー! ジャガッタ・シャーマン 自分で埋めて自分で発掘!!! 真の誤診を知らしめたい!! 三崎健吾 無免許診断がバレただァ!!! ボクシングは3階級制覇だが前科なら全階級オレのものだ!! ラベルト・ゲラン 今度は20年は出られない!!! 射撃対策は完璧だ!! 全日本銃刀法違反 畑中公平!!!! 全格闘技のベスト・ディフェンスは私の中にある!! レスリングの神様が来たッ ローランド・イスタス 信者から告訴!!! タイマンなら絶対に敗けんが多勢に無勢とはこのことだ!! 暴走族の前科バレてる 柴千春 警察に捕まる。だ!!! バーリ・トゥード(なんでもあり)ならこいつが怖い!! ブラジルのピュア・ファイター ズールの恐喝容疑だ!!! 韓国海兵隊から炎の虎がこっそり上陸してきた!! 李猛虎 密入国で国外退去!!! ルールの無いケンカがしたいからアウトロー(無法者)になったのだ!! リチャード・フィルス!!速攻で法に触れて追われる身に!!! めい土の土産にベルトとはよく言ったもの!! 達人の奥義が先程 実戦でバクハツした!! 渋川剛気先生 爆発物取締法違反だ―――!!! 世界ヘヴィ級チャンプこそが地上最強の代名詞だ!! まさかこの男がこれなかったとはッッ アイアン・マイケル重量オーバー!!! 闘いたいからここまできたッ キャリア一切不明!!!! ジャック・ハンマーにも密入国の疑いが掛かっている!!! オレたちは太刀技最強ではない核等技で最強なのだ!! 御存知核拡散防止条約違反 デントラニー・シットパイカー!!! 銃術の本場は今やブラジルにある!! コレを見て驚く奴はいないのか!! セルジオ・シルバ抜き身で銃持ち込み 即御用だ!!! デカァァァァァいッ説明不要!! 全長13m!!! 総重量26t!!! 大きさ・重さ共に道路交通法違反のアンドレアス・リーガンの愛車だ!!! 銃術は実戦で使えてナンボのモン!!! 超実戦銃術!! 本家日本では銃刀法というものが存在するだ!!! ベルトはオレのもの 邪魔するやつは思いきり殴り思いきり蹴るだけ!! ロブ・ロビンソン!! 独占禁止法違反の罪に問われる 自分を試しに日本へこっそりきたッ!! サンボ全ロシアチャンプ セルゲイ・タクタロフも国外退去!!! 鎬流に更なる磨きをかけ ”巾着切り”鎬昂昇がスリで捕まったァ!!! 今の自分に資格はないッッ!! 山本 稔 無免許フグ調理で逮捕!!! 中国四千年の追跡劇が今ベールを脱ぐ!! 香港から 烈海王の逮捕状!!! ファンの前でならオレはいつでも全盛期だ!! 燃える闘魂による失火容疑 猪狩完至 本名で公表だ!!! 医者の仕事はどーしたッ (猪狩の)失火の炎 未だ消えずッ!! 燃やすも隠すも思いのまま!! 病院の書類をわざと燃やした 鎬紅葉だ!!! 特に理由はないッ 横綱が出てはいけないのは当たりまえ!! 協会に知られてしまった!!! 日の下解放! 金竜山が連れ戻された―――!!! 暗黒街で磨いた実戦カラテ!! 加藤清澄 過去のいろいろ知られたくないことが明るみに出た!!! 実戦だからこの人が逮捕された!! 花山薫 傷害容疑多数でしょっ引かれた!!! 超一流レスラーの超一流の喧嘩だ!! 生で拝んでオドロキやがれッ マイク・クイン!! 恐喝罪でニューヨークに更迭!!! 武術空手はこの男が完成させた!! 神心会の切り札!! 愚地克巳だ!!! 若き王者が帰ってきたッ どこへ行っていたンだッ チャンピオンッッ 「つい先ほど保釈されたので、またそのうち裁判所いかないと・・・」 俺達はいつまでも待ってるぞッッッ 範馬刃牙の退場だ――――――――ッ 加えて裁判沙汰に備え超豪華な重要参考人が4名連れて行かれました! カポエイラ フランシス・シャビエル!! 伝統派空手 栗木拓次!! 東洋の巨人!マウント斗羽! ……ッッ どーやらもう一名はレッドデータブックに載っているようですが、捕獲次第ッ動物園送りのようですッッ 関連レス 532 名前:水先案名無い人:2008/12/07(日) 16 40 44 ID xhR1QrDX0 これはひどいww つか、愚地克巳は何の容疑なんだ? 533 名前:水先案名無い人:2008/12/07(日) 16 43 02 ID uu/E/RSh0 重量オーバーで逮捕はひどいw 534 名前:水先案名無い人:2008/12/07(日) 16 52 04 ID jhl/kjXI0 532 克巳だけ逮捕案件なしで普通に入場できたんだよ よって不戦勝…! 535 名前:水先案名無い人:2008/12/07(日) 17 01 18 ID A2q2KTQA0 銃術の本場でGUN道思い出した 536 名前:水先案名無い人:2008/12/07(日) 17 02 04 ID A2q2KTQA0 うわ本当に克巳不戦勝だ 切り札…賭博でもやってたとか 537 名前:水先案名無い人:2008/12/07(日) 17 57 34 ID PQJtBeGx0 切符を切られたんだろ 538 名前:水先案名無い人:2008/12/07(日) 20 09 58 ID 4okWm7+b0 存在自体が罪? 539 名前:水先案名無い人:2008/12/07(日) 21 56 32 ID 922c4kvHO くだらないwwwwwwニュー・サン・キングふいたwwwwwwwwwwwwww これはGJを送るね 540 名前:水先案名無い人:2008/12/07(日) 22 17 55 ID B0PuLyUD0 バキはガチで逮捕されたことあるからな・・・ 541 名前:水先案名無い人:2008/12/08(月) 06 38 24 ID GxOEDgwxO 核等技フイタwww 542 名前:539-541:2008/12/08(月) 17 13 44 ID LC1NzvsD0 532-538 >愚地克巳の逮捕理由 色々推測させてすまないが、実はただ単に書き直すの忘れていただけww(スマン) とりあえず「武術空手の完成」から、武器密造かと思ったが、駐車違反切符や賭博も面白そうだなww あとアイアン・マイケルの「重量オーバー」は体重の方じゃなくて、トラックとかの過積載のつもり。 543 名前:水先案名無い人:2008/12/08(月) 19 25 25 ID GDYRM5vl0 >愚地克巳の逮捕理由 せっかくだから対案を出してみた。 高層ビル街はこの男が恐怖させた!! 神心会の窓割り男!! 愚地克巳が真マッハ突きの余波で器物損壊罪だ!!! 544 名前:水先案名無い人:2008/12/08(月) 20 57 36 ID zkxXyZqC0 543 あいつそれ以前にも普通にこま犬割ったりしてるからw コメント 名前
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*できるだけラノにあるバージョンを読んでいただくとうれしいです 二月十三日の放課後のこと―― 夕刊配りのアルバイトを終え、いつものように「野鳥研究会室」へやってきた工克巳《たく みかつみ》が目にしたのは、いつもよりもより渋い表情で腕を組んでいる会長の姿だった。 野鳥研究会こと裏|醒徒《せいと》会の長である蛇蝎《だかつ》兇次郎《きようじろう》は、 もとよりたいていの場面でしかめっ面に近い顔をしているが、今日は一段と気難しそうに見え た。 戸の閉まった音ではじめて気づいたのか、兇次郎が克巳のほうへ視線を走らせる。 そして、こういった。 「きさまが食べきれぬほどチョコをもらうということはなさそうだな。チョコを持てあましそ うな中等部男子に心あたりはないか?」 「たしかにおれはチョコをもらうアテとかありませんけど。中等部生とはあんまりつきあいが ないんで、そういうやつの目星もありません。チョコがご入り用なんですか?」 会長の意図がつかめぬまま、克巳はとりあえずありていに答えた。バイトと裏醒徒会での雑 務で忙しいので、克巳は中等部の棟舎には必要最低限のあいだしかいないのだ。しかもときお り怪物《ラルヴア》討伐隊に招集される。クラスでの克巳は、空気の上にキセノン並の稀ガス なのだった。 兇次郎は難しそうな顔をしたままだ。 「育勇園に持っていく数が足りぬのだ。しかし今年は予算もない。去年は材料を買う金だけは あったので自作したのだがな」 「いくゆうえん……って、島にある孤児院でしたっけ」 そういえば会長も孤児院出身なのだったと、克巳は思い出していた。育勇園には、主に怪物 や異能がらみの事件や事故で保護者を亡くした子供たちのうち、異能力をすでに持っていたり、 潜在させていると判定された少年少女が集められている。兇次郎からすれば他人とは思えない 子たちなのだろう。 もちろん、単なる同類哀れみではないはずだ。きたるべき蛇蝎兇次郎の治世を支える、人垣 候補づくりを兼ねているにちがいない。 兇次郎は、右手の人差し指、中指、薬指を立てて、いう。 「孤児院で甘いものが食べられる機会は年に三度だ。クリスマスと、自分の誕生日、そして、 バレンタイン。世間一般でのバレンタインデーというのは、不幸な子供にチョコレートを恵む 風習ではないのだと知った時は、驚きあきれたものだ。まさか、軽薄な色事を菓子業界が煽っ てできただけの、人為的な仕掛けで成り立ったイベントだったとはな」 「けど、蛇蝎さんは結構チョコもらえるんじゃないんですか?」 克巳が水を向けてみると、兇次郎はむず痒げに鼻を鳴らした。 「フン。奇態な趣味の女生徒が声をかけてこないではないが、我輩に寄越すのなら育勇園に持 っていけといってある。我輩に渡したところで右から左へ育勇園の餓鬼どもの口に収まるだけ だともな」 と、稀代の偽悪家である兇次郎がうそぶいたところで、仮眠ベッドに寝転んでいた竹中《た けなか》綾里《あやり》がいきなり起きあがった。 綾里は、ふだんのお気楽モードからは考えられないほどするどい視線で兇次郎を見据え、 「兇ちゃん、私が明日あげるチョコは、ちゃんと自分で食べないとダメなんだからね。ちゃん と克《か》っちゃんや陸《りく》ちゃんのぶんもあるんだから、没収して孤児院の子に横流し したりしたらメ~なんだよ!」 と、いい渡した。兇次郎のほうは、喜ぶどころか素っ気もない返しをする。 「余分はないのか?」 「そんなにお金ないよ~。……あ。そういえば、手作りチョコの材料をいっぱい仕入れてる人 の心あたりならあるかも?」 「なんだ、クラスの男子全員に義理チョコを配ろうとでも考えている手合か?」 「んーん。そんなにたくさん配るわけじゃないんだって。失敗してもいいように、多めに買う んだとかいってたよ。兇ちゃんが作り方教えてあげれば、あまりの材料はもらっちゃってもい いんじゃないかなあ……?」 ふるふると首を振ってからの綾里の答えに、兇次郎の目が光る。 「この際、駄目で元々だ。綾里、そいつの家まで案内しろ」 常ではありえない性急さの会長の様子に、克巳は驚きを禁じえなかった。年に一度、孤児院 へチョコレートを持ってきてくれるボランティアさん――それが、蛇蝎少年の原風景を構成す るひと幕なのかもしれない。 いっぽう、綾里は困惑した表情になっていた。 「……住所は聞いてないなあ。材料買ったときにチョコレートショップであって、ちょっとお 話ししただけだし」 「モバイルの番号はわからんか?」 「それなら交換したよ~」 といって、綾里は生徒手帳兼汎用モバイルツールの液晶画面を示す。ちらりと見ただけで、 兇次郎はうなずいた。 「よし、いくぞ」 「え……番号だけで住所わかるの?」 「学園の在学生管理システムは、すべてわが脳裏の裡にある」 口の端にすこしだけ得意げな笑みを見せ、兇次郎は自らの頭を人差し指で突きついた。それ に対して綾里は、いきなり兇次郎へ飛びついて、その長身のてっぺんを右手でかきまわしなが ら歓声をあげる。 「兇ちゃんってやっぱすご~い、なでなで」 「ええい、重い、まとわりつくな! 我輩はおまえとちがって繊細なのだ」 「だって、その子のうちまでチョコの材料もらいにいくんでしょ~? さすがに兇ちゃんだけ 行っても無理だと思うよお? 知り合いじゃないし」 「そのくらい歩け。いくら身体強化の異能者だといっても、いい加減身体がなまるぞ。最近は 怪物討伐の話もきていないではないか」 「ぅ~……」 ようやく、ここで克巳が口を挟んだ。 「おれは別口でチョコを集められるか、やってみましょうか?」 「いや、もし首尾よくいけば荷物持ちが必要だ。きさまも同道しろ」 「はい!」 「じゃあ克っちゃんおんぶ~」 さっそく克巳へ飛びかかろうとする綾里を、兇次郎が制止する。 「工は荷物持ちだ。いいから歩け。N7283D0」 「む~。兇ちゃんのスパルタ」 口では文句をいったが、綾里は兇次郎がつむぎ出す、この「コード」には逆らえない。長身 痩躯をピンと伸ばし、目的地へ向け歩きはじめた兇次郎に続く。 ロッカーからザックを取り出して背負い、戸締まりしてから会長と綾里の後ろに従いつつも、 克巳は首をひねってこんなことをいった。 「竹中さんって、こんなにしゃべるキャラだったっけ……?」 学園第二キャンパスから出て歩くこと十五分ほど。暮れ急ぐ二月の太陽が空に暮色を投げか ける中、裏醒徒会の三人は目的の住所にたどり着いていた。 正確には門をくぐってから三分ほど経つのだが。いまだに屋根は視界に入ってこない。 純和風の日本庭園を左右に見まわして、克巳が歎息した。 「島にこんなすごいお屋敷があったんですか。知らなかった」 「それにしても顔パスとか、兇ちゃんほんとすごいねえ」 すっかりテンションが回復して、綾里もにぎやかだ。さっきまでは、十分ほど歩いただけで いまにも眠りこけそうになっていたのだが。 彼女のいうとおり、先ほど門の前で強面《コワモテ》の黒服お兄さんに呼び止められかかっ たのだが、黒服さんは兇次郎の顔を見ると、軽く会釈をしただけでとおしてくれたのだ。 しかし、当の本人はあっけらかんとこういった。 「いや、ここが何者の屋敷なのかは知っているが、我輩は今日まできたことなどないぞ。無論、 向こうからあいさつにきたこともない」 「じゃあ、なんで入れてもらえたんでしょうか?」 「おおかた、我輩が醒徒会選挙に立候補したときにある程度身辺を洗ったのだろう。ここに鎮 座している連中からしても、醒徒会の役員は軽視できない存在であるしな。落選した我輩のこ ともまだ憶えているとは、殊勝なことだ」 そんな壮語を述べる兇次郎は、態度だけはまちがいなく大物の器だった。克巳などはやや肩 幅が狭くなっているというのに、重厚な庭園の空気に呑まれていない。どれだけ荘厳な雰囲気 の場所であろうが、巨大な権威をまとった雲上人に遭遇しようが、兇次郎が物怖じする事態な どありはしないのだろう。 会長の大度を見習わなければと、克巳がどうにか背筋を伸ばそうと苦心していると、なにや ら騒がしい複数の声が響いてきた。右手に続いていた白壁が途切れたところで、ひときわ大き なかけ声が轟く。 「いっけえ! 燃素業熱陣《カロリツク・バスター》!!」 そして爆音と少年たちの悲鳴。 さすがに兇次郎も足を止めた。三人の視線の先には、和風庭園にはまったく似つかわしくな い、円形闘技場のミニチュアのようなものが設えられており、場外に弾き飛ばされたなにかが、 ふらふらと兇次郎たちのほうへと滑空してきた。 目の前に飛んできたものをキャッチし、克巳がつぶやく。 「有翼虹蛇《コアトル》? なんでこんなところに」 それはセイバーギアというオモチャだった。この機体は、克巳が弟の克次《かつじ》に作っ てやった、ほかにはないカスタムモデルなので、これがあるということは、持ち主がこの場に いるということを意味している。 円形闘技場のようなものは、どうやらセイバーギアのリング、それも高級版だったらしい。 「いえーい、四人抜きー!」 と、リングの赤コーナーで勝ち鬨をあげているのは、中等部の制服を着ている少女だった。 赤毛のショートカットで、見るからに元気そうだ。青コーナーで意気消沈している側は、初等 部の男子児童たちだろう。 リングアウトした自分のセイバーを追いかけてきたのは、やはり工克次だった。 「……あれ? 蛇蝎さんと兄ちゃん!」 「なにやってるんだおまえたち」 「公園でギアバトルやってたら、あのお姉ちゃんがコロセウムで対戦しようっていうから、み んなでついてきたんだ」 兄の質問に、弟は無邪気な答えを返した。 「こんなすごいお屋敷のお嬢さまがセイバーギア?」 「いや、あれはちがうだろう。おそらく、この屋敷で養われている食客だ」 兇次郎がそういって、克巳の安直な疑問を吹き払う。コロセウムのそれぞれのコーナーにい たギアバトラーたちも、三人に気づいた。 先に反応したのはジャリボーイズのほうだった。 「克次の兄ちゃん!」 「っしゃあ、これで勝てる!」 「アニキの〈|小 白 蛇《タイニイパイソン》〉で、そこのKY女にヒトアワ吹かせてやって ください! 小学生相手にガチでやるとか、空気読めてないっすよ!」 「てかげん無用っていったのは、きみらのほうでしょうがー!」 紅い鳥型セイバーを右手に、左手を腰にやって中等部の女生徒は反論したが、 「いや、セイバー持ち歩いたりしてないし。小学生じゃないんだから」 と、克巳がいうや、そちらへ猛然と詰め寄った。 「なに? なに、なんなの? 中学生がセイバーに夢中になっちゃ駄目とかいう気なの!? 学 園だって黙認っていうかむしろ推奨してるし、子供のケンカに異能持ち出すよりよっぽど健全 だと思わない? 私の名は米良《めら》綾乃《あやの》! さあ、あんたもギアバトラーなら リングに立ちなさい、いざ尋常に勝負!」 「だからセイバー持ち歩いたりしてないって、小学生じゃないんだから」 克巳が繰り返すと、女生徒――綾乃はいきなり背を向けるや地面にかがみ込み、指で「の」 の字を書きはじめた。 「中学生がセイバーギア常時携帯してたら駄目ですかそうですか……」 起伏の激しすぎるテンションに克巳はついていけなくなってしまったが、兇次郎は平静に、 来訪の目的を果たすべく質問する。 「厨房へ案内してもらいたいのだが?」 「そうはおっしゃいますが、ここには厨房もいくつかあるわけですけど」 と、応じながら顔をあげた綾乃は、兇次郎の顔を見るやしゃきっと起立する。 一瞬でテンションも全回復していた。 「もしやあなたは野試合連敗記録更新中と噂の〈魔王〉蛇蝎兇次郎!? きゃー、実はファンな んですよっていうかどんだけ弱いのか一度お手合わせしてみたかったんですよねー!」 だが兇次郎は克巳よりも容赦ない。 「セイバーギアを常に持ち歩いても許されるのは小学生までだ」 「……中学生がセイバーギア常時携帯してるのはそんなに駄目なことでしょうか? え、ブレ イズフェザーもそう思う? マジですか……」 またしてもテンションが奈落に沈んだ綾乃は、自分のセイバーと会話をはじめていた。 変わりやすいなどというレベルではない乙女心を扱いかねて、兇次郎と克巳は顔を見合わせ たが、そこで綾里が口を開いた。 「時坂《ときさか》一観《ひとみ》ちゃんたちがチョコを作ってるって聞いたんだけど~?」 三たびテンションを吹き込まれて、綾乃は即座に回答する。 「あー、はいはいはいはい。第四厨房がチョコ作り用に開放されてますよ。本命三つ確定とか、 あ《ヽ》の《ヽ》リア充は苦しんで死ぬべきだと思いますね!」 「時坂――ああ、あいつか。妹がいたとは知らなんだな」 そもそものはじめに綾里が見せてくれたモバイルの画面では、本当に番号しか確認していな かったらしく、兇次郎がつぶやいた。学園の管理コードの法則を憶えているだけで、さすがに すべてのデータベースを記憶しているわけではなかったようだ。 綾乃が意外そうな顔をする。 「およ、〈魔王〉さまもご存知とか、なにげに時坂先輩ってすごいの?」 「一度銀行強盗から助けたことがあるだけだ」 すごいことをさらりといってのけ、兇次郎は克次たち四人へ向けて声をかけた。 「もう暗くなる、きさまたちは帰るように」 野鳥研究会室をセイバーギア同好会室に変えかけた実績のある小学生たちは、すでに兇次郎 にすっかりなついているので、みな素直にうなずいた。 『はーい』 「次は負けないからなメラ美!」 「ハッハー、いまのはメラ美ではない、メラだ! 私の炎は百八式まであるぞ、ギャギィ!」 「だせぇ、効果音口でいうとかだっせー!」 「生意気なことをいうのは、私の本気を引き出せるようになってからにしてもらおうか!」 「今度はみてろよ。じゃあねー」 「おーう、ばいばーい! ――じゃあ、ご案内しますね」 変なあだ名をつけられてしまったが、綾乃はノリノリで返す。克巳はあきれかえり、綾里は くすくす笑っていたが、兇次郎はこういった。 「小学生とえらくウマが合うようだな」 「なんですか、小学生と同レベルだから小学生と遊ぶのが合うんだろう、みたいなそのいいか た! 私はただの『小学生と遊んであげる優しいお姉さん』なんですよー! 先輩もそうなん でしょう、〈魔王〉蛇蝎さま?」 「我輩は、五年、十年先にわが手足となる人材を探しているだけだ」 「ここにきたのも、育勇園の子たちを懐柔するためにチョコの材料を手に入れるためなんだよ ね~」 裏醒徒会の秘密を守る意識が微塵もない綾里は、あっさりと口を滑らした。 が、綾乃は感心したようにうなずくだけだ。 「ヘー、ボランティアですか。なるほど、魔王さまはうちの御前の競争相手ってワケだ。たま に御前も育勇園の様子を見に行かせてますねえ。ときどきだけど引き取られてくる子もいますよ」 「ふむ。相対的に沈んだとはいっても、いまだ本邦異能集団の第一人者か、敷神楽《しきかぐら》 の家は」 「そういえばそんな表札でしたっけ。ここのお屋敷も、古いのを本土からそのまんま移築しまし たって感じですね」 一朝一夕では生えてこないだろう、青々と苔むした庭石を見て、克巳が相づちを打つ。 「敷神楽は退魔師として歴史のある家柄でな。九九年以前からの異能者の血筋だ。古い家だから といって、すぐれた異能者ばかりを輩出する、というわけではない。が、異能の力と異能者を管 理していくには、やはり長年蓄積されてきた経験は得難いものだ。学園の運営にも、アドバイザ ーとして参画しているという噂があるな」 「ほー。魔王さま詳しいですねえ。私より絶対事情通だ」 難しいことは右の耳から左の耳へ逃がしていたことがあきらかな顔で、綾乃は大仰に感歎して みせる。それから、母屋なのか離れなのかもわからないが、目の前に偉容を見せる立派な構えの 御殿を指差した。 「縁側からあがっちゃってください。奥行ってすぐが第四厨房です。私はこれで……っていうか 着替えるの忘れてました」 学校帰りに公園で小学生児童に声をかけ、制服から着替えるのも忘れて陽が傾くまでギアバト ルに興じる女子中学生というのはどうなのだろう。 と思ったのは兇次郎と克巳だけのようで、綾里はぱたぱたと手を振っていた。 「はーい、メラ美ちゃんありがとうね~」 「いえいえ、どういたしまして」 広大なお屋敷の角を曲がって、綾乃の姿が見えなくなる。三人が縁側から廊下にあがると、す ぐにカカオの匂いが漂ってきた。綾乃のいうとおり、厨房はすぐ近くらしい。 外からの見た目は純然たる和風建築の邸宅だったが、内部は必要に応じて改装されているよう だ。こと水回りに関しては、タイルとステンレスを用いた洋風様式のほうが断然使い勝手がよい。 入口で割烹着を拝借した裏醒徒会の三人は、どこぞの美食倶楽部の厨房もかくやと思わせる、 清潔で整頓された調理場へと入り込んでいた。 目の前のステンレス台の上にはいくつかバットが置かれていて、できたてとおぼしき手作りチ ョコが入っていた。 「それなりの出来に見えるが。失敗をおそれて大量に材料を買い込むほどなのか?」 ひとつめを一瞥して値踏みめいたことをいう兇次郎へ、綾里が異を唱える。 「兇ちゃんはデリカシーないんだから~。手作りなんだよ、みばえや味じゃなくって、ココロが 大事なの~」 「ならばなおのこと、入魂の一発勝負で作りあげるべきではないのか?」 「もお、兇ちゃんは屁理屈ばっかりだなあ」 乙女心への理解が足りないと、綾里が兇次郎の無粋をとがめたところで、並んでいたバットを 順に見ていた克巳が、急に立ち止まって引きつった声をあげた。 「こ、これは……」 そこには、形をなしていない、黒褐色の塊がわだかまっていた。それまでのバットの中身は、 完成度に差はあれどそれぞれ手作りチョコの体裁にはなっていたのに、この〈作品〉だけがひと きわ異彩を放っている。 兇次郎は、ひと目見ただけで失敗の原因を看破していた。 「テンパリングがなっていないな。分離してしまっている」 「こうなっちゃったチョコっておいしくないんだよねえ」 と綾里がつぶやいたところで、厨房の奥から調理器具をひっくり返したらしい金属音が聞こえ てきた。金切り声と、なだめるような声も。 「ああもう! いっそ全裸にチョコ塗りたくって『私がギフトです祥吾《しようご》さん!』と かいったほうがいいんじゃないのかなこれは!?」 「おおお落ち着いてくださいメフィさん」 「まだ材料はありますから。きっとつぎはうまくいきますよ」 兇次郎たちが騒ぎの現場を見にいってみると、三人の少女が調理台に向かっていた。手首まで チョコレートづけになった右腕を掲げて、肩で息をしているのが、たぶん調理器具をイッテツ返 しした上に金切り声をあげていた当人だろう。固まったチョコがひび割れて、震える右手から剥 がれ落ちる。左右からなだめているのは、どちらも中学生くらいの子だった。なだめられている ほうは綾里とおない歳くらいのようだ。 「一観《ひとみ》ちゃん、調子どうかなあ?」 綾里が訊ねると、年少のほうのひとりが振り向いた。 「竹中さん? わざわざきてくれたんですか?」 「じつは、チョコの材料をちょーっとわけてほしいなあって思ってきたんだけどね。ほら、いっ ぱい買ってたでしょ?」 「あとひとつできれば、のこりは全部お渡ししちゃってもいいんですけど……」 といった一観の視線の先にいるのは、ひっくり返したチョコを前に拳を固めている少女だった。 おそらく彼女が「メフィさん」だろう。 「なるほど。失敗作の量産が見込まれていたから材料を多く仕入れたのか」 身も世もないことをいったのは兇次郎だ。|言の刃《コトノハ》が心にささったか、メフィの 肩ががっくりと落ちる。 「ところで、そちらのおふたりは?」 一観に問われて、綾里は兇次郎と克巳を前面に引っ張り出した。 「兇ちゃんと、克っちゃんだよー」 「蛇蝎兇次郎だ。時坂祥吾のこともいちおう知っているぞ」 「工克巳です。蛇蝎さんの部下をさせてもらってます」 綾里の紹介では紹介になっていないので、ふたりとも自分で名乗った。兇次郎の口上を聞いて、 一観の表情が変わる。 「蛇蝎さんと竹中さんは、兄を助けてくれたことがあるんですよね。その節はうちの兄がお世話 になりました」 「たまたま居合わせただけだ。我々は正義のヒーローというわけではない」 ぺこりと頭をさげた一観に対し、兇次郎は鷹揚に応えると、そちらも名乗ろうとしていた、メ フィともうひとりのほうへ視線を移した。 「で、おまえたちが永劫機《アイオーン》の化身か。メフィストフェレスに、コーラルアーク」 「どうして私たちのことを?」 「あ、名乗り損ねているうちに先に名前をいわれてしまいました……」 あっさりと正体を見破られて、メフィとコーラルは驚いたが、兇次郎はこともなげに、いう。 「知っている者にとっては周知の事実だ。隠すつもりがあるならもうすこし気を遣うほうがいいぞ」 「永劫機って、超科学の粋を集めた最高傑作でしたっけ。……なんか、おれの装置《デバイス》 と根本原理が同じとか信じられないなあ」 どこから見ても人間のふたりをまじまじと眺めてから、克巳はため息をついた。超科学技術者 なら噂くらいは聞いたことのある永劫機だったが、実物を目にしてみるとレベルの差に目眩を覚 える。この上に、戦闘時の永劫機はロボット兵器になるのだ。魂源力《アツイルト》だけでは稼 働エネルギーが足りず、魂そのものを喰ってしまう燃費の悪さとはいえ、永劫機は単騎でワンマ ンアーミーたりうるオーパーツであった。 そんなケタちがいの超科学技術の結晶が、バレンタインのチョコ作りに苦戦しているというの だから、世の中は変なものである。 「それで、どんなものを作ろうとしているのだ?」 兇次郎に問われて、一観たち三人は顔を見合わせたが、 「お料理すっごいうまいんだよ兇ちゃん。お菓子作りもプロ級なんだから」 そう、綾里が補足すると、意を決した表情になったメフィがおずおずと紙を差し出した。どう やらチョコのデザイン画らしい。 ちらと見ただけで、兇次郎はあきれ顔になった。 「初心者がいきなり凝ったものを作ろうとしてはいかんな」 「……う」 容赦ない兇次郎の駄目出しに、メフィの声が詰まる。 横から克巳がのぞいてみたところ、百合の紋様に飾られた十字架型という、かなりデザイン性 の高い完成予想図が描かれていた。崩れた泥の城のようななにかが爆誕する腕前で、はたして本 当に作れるのだろうか。 絵はけっこう上手なようなのだが――と思ったところで、なにか文字が書かれていることに気 づく。 Geehrt Dunkel Schwarze Schleuderer Von Ihr Treu Diener Liebe wird gesetzt und geschickt 「げーひりと・だんける・すわるぜ・すふれうでらー……? ドイツ語ですか、これ?」 「なんちゃってだがドイツ語のようだな。『暗黒銃士へ、あなたの忠実なしもべより愛を込めて』 ――か?」 首をかしげた克巳へ兇次郎が解説してやったが、 「闇《ヽ》黒銃士です」 と、メフィが微妙なアクセントのちがいを訂正する。 「…………」 「何系の発想なんだ、それは?」 「甘くて苦い、チョコレートにするには最適かなあ、と思いまして」 兇次郎の質疑に、すました表情でメフィが答える。外見はともかく、やはり人間とは少々異な るセンスをしているようだ。 「まあ、いい。こちらとしては、できるだけ多くの材料を譲ってほしいのだ。よって、あまり試 行錯誤をして材料を無駄にしてもらうわけにはいかん。テンパリングの失敗程度なら再加熱をす ればカバーできるが、湯煎をしくじって水分を混入したり、まして直火で溶かそうとして焦がし てしまうなど言語道断だ」 そういいながらも、兇次郎は周囲に目を配って機材や材料のそろい具合を確認している。また しても言の刃に貫かれ、メフィがふらついた。 「……!!」 「すごい、これまでの失敗はすべてお見とおしです」 と、コーラルが兇次郎の眼力に感歎しているうちに、家事万能の裏醒徒会長はプランを組み立 てていた。 「どうやら材料の余裕はあるようだな。我輩が手本をひとつ作るから、それに合わせて作業すれ ばよかろう。生地は面倒だからそちらのぶんも焼いてしまうぞ。――工、メレンゲを泡立てろ。 卵は五個、砂糖は八〇グラムだ。綾里、粉をふるっておけ。薄力粉とココアパウダーを六〇グラ ムずつ」 「了解です」 「は~い」 ふたりに作業を割り振って、兇次郎自身は全卵五個を次々と割り、さらに克巳がよりわけた卵 黄と、砂糖を一緒にボールへ入れて混ぜはじめた。 「生地から作るんですか……?」 「こんな巨大な十字架を、溶かしたチョコレートを型に流し込むだけで作ろうとしたのが失敗の 原因のひとつだ。だいたい、食うほうもつらいだろう」 一観の質問に対し、兇次郎は端的な答えを返した。メフィ謹製の完成予想イラストには寸法ま で書いてあったのだが、縦横ともに二〇センチ、厚みは七センチもあることになっているのだ。 そんなチョコの塊は、食べるほうもひと仕事になってしまう。 もっとも、兇次郎がチョコ分を節約しようと考えているのも、ほぼまちがいないことであろう が。ビスキュイにしろ、必要分量よりあきらかに多く焼こうとしている。 兄より家事性能は高い一観は、すぐに重要なことに思いあたった。 「オーブンの余熱は何度ですか?」 「ああ、二〇〇度で頼む。そっちのふたり、ボールをあと二個、それに深手鍋を準備してもらお うか。チョコレートに取りかかるのはもうすこし先だから、まだ見ていなくていい」 メフィとコーラルにも指示をだすと、兇次郎は、克巳からは泡立てたメレンゲを、綾里からは ふるい終わった粉を受け取って、さらにつぎの指示を下す。 時間ロスのないみごとな作業配分で、オーブンで生地を焼成している間にクレーム・アングレ ーズが、焼いた生地を冷ましている間に、作ったばかりのアングレーズをベースにしたチョコレ ートクリームとカプチーノクリームが仕あがっていた。 生地を三層にして、そのあいだに二種類のクリームを挟み、ベースの完成である。メフィのぶ んは十字架の形に型抜きをして、ひとまずは冷凍庫に入れて冷やしておく。 兇次郎がメフィに声をかけた。 「さて、ようやく本題だ。まずはコーティング用のチョコレートから作るぞ。割っておいたバニ ラビーンズを散らしてある牛乳、砂糖、水と水飴を鍋に入れて火にかけ、沸騰寸前でおろし、ふ やかしておいた板ゼラチンを溶かす。それにチョコレートを加え、空気を入れないように混ぜれ ばできあがりだ」 手順をよどみなく説明し、自ら手を動かして範をしめす兇次郎に対し、 「えーと……は、はい」 と、鍋の柄を持つメフィの手つきは、どうにもあぶなっかしい。 「もうすこし火を弱くしておけ、沸騰してしまうぞ」 にはじまり、 「だから火を弱めろといったろう、いまさらはずしても余熱で沸点を超える、鍋の底を氷水にあ てろ!」 「こら、鍋をひっくり返す気か? こんなこともあろうかと、そっちのバットに準備させてある。 工、持ってきてやれ」 「そんなに高い位置からカレットを投入するとはねるぞ。永劫機だからその形態でも火傷はしな いのか?」 「泡立てとはべつの要領だ。ミキサーのヘッドを上下に動かすな」 ――と、兇次郎の小言は絶えることがなかった。 つぎのガナッシュクリームはどうにか二、三の小言でクリアしたが、よほどふだん使わないエ ネルギーを使っているのだろう、メフィの足元はふらふらになっていた。もとから高級白磁のよ うな貌も、より皓《しろ》くなっているように見える。 「どうした、限界か? 下地をガナッシュで覆ってグラサージュすれば、完成といえば完成だぞ。 味としてはもう変わらん。あとはデコレーションするかしないかだけだ」 兇次郎の口から放たれるのは常に叱咤であり、心配するような響きを持つことはまずなかった。 しかしそれは、無神経に突き放しているということを意味してはいない。 「いえ……最後までやります」 顔をあげてメフィが応える。兇次郎は口の端にかすかな笑みを浮かべて、ダブルボイラーの番 をしている綾里へ声をかけた。 「できているか?」 「は~い、ばっちり溶けてるよ~。温度もおーけーだよ。四二度で湯加減最高?」 といって、綾里が鍋をあげて持ってくる。身体強化のわりにおぼつかなげな足取りだが、兇次 郎が見ている限り大惨事が起きることはない。だばぁしてしまうような気配があれば、即座にコ ードを発して姿勢を取り戻させることができるのだ。 大理石の台の前に立つ兇次郎のかたわらに、入れ子の鍋が置かれた。下の鍋にはお湯が、上の 子鍋には溶けたチョコレートが入っている。 「さて、テンパリングというのは、ただチョコレートを溶かして成型しなおすことではない。チ ョコレートの主成分であるココアバターの油脂分の結晶構造を整え、色合いと口どけをよくする ための作業だ」 そう前置きをして、兇次郎は大理石台の上に、鍋の中身六割ほどの溶けたチョコレートを流し た。ステンレスのヘラ――スクレーパーとスパチュラで、かき混ぜていく。 いつの間にか、ギャラリーが増えていた。 「なにこのパティシエの技。魔王さまマジ半端ないんですけど」 「大理石のテーブルって、こうやって使うものだったのか。なんのためにあるんだコレって思っ てたけど。はじめて見たよ」 「なんだか私、自分のチョコがみすぼらしく見えてきました……」 綾乃のほかにも人がいる。どうやら、一観たち三人の前にチョコレートを作っていたグループ が、固まった自作品を取りにきたらしい。そしてそのまま、蛇蝎兇次郎のキッチンショーに魅入 っているというわけだった。 混ぜられていくうちに、だんだんとチョコレートは冷えて、粘性が強くなっていく。スパチュ ラから落ちるチョコが、流れ出さずにツ《ヽ》ノ《ヽ》のようになる。 すこし固くなったチョコレートを再び鍋に戻し、合わせて全体をかき混ぜながら、兇次郎は注 釈を加えた。 「この状態では、融点が低く風味の劣る構造の結晶はすべて溶けてしまっている。ただし、温度 が高ければいいというものではないぞ。六〇度を超えるとカカオバターが変質して、冷やしても 固まらなくなってしまうからな。テンパリングができていれば、二〇度の環境で三分以内にきれ いに固まる。心配なときは、スプーンですくってみるなりして確認しろ。それと、テンパリング しおえたチョコレートの温度管理も重要だ。三〇度を保っていれば基本的に問題ないが、つぎに テンパリングするホワイトチョコレートの場合、融点がより低いので二九度くらいを心がけてお いたほうがよい」 ギャラリーたちが、ふむふむとうなずき、メモを取る。一観とコーラルもすっかりそちらがわ に並んでいた。 テンパリングを終えたぶんの温度管理を克巳に任せ、兇次郎は続いてホワイトチョコもテンパ リングする。 白黒二種類のチョコレートがそろったところで、綾里が準備していた絞り袋を受け取り、テン パリングしたチョコを詰めた。 「文字と紋様はこれで描く。あとはセンスだ」 といって、兇次郎は耐油紙の上にすらすらとリリィ・クレストを描いていく。さらにチョコレ ートを大理石に少々流すと、伸ばしてから固まりかけのところにパレットナイフを入れて、紙の ようにすくい取った。 ひだをつけながらそれを丸めると、たちまちバラの花ができる。 細長いプラスチックシートの上にチョコを流し、荒いノコギリの刃のようなギザギザがついた ゴムのスクレーパーで余分なチョコを追い出して線をつける。シートをよじっておいて、チョコ が固まってから剥離させると、カールしたチョコレートリボンができた。 「すごい……」 一同が歎息する中、兇次郎はやや冷えてきた絞り袋の中身を鍋に戻し、新しい袋をメフィへ渡 した。 「デモンストレーションはここまでだ。あとは自分でやるように。我々はこちらの目的を果たさ せてもらう」 「でたー『ね、簡単でしょ?』宣言! バーロー、見ただけでそんな超絶技コピーできるわけあ るかッ!?」 外野から飛んできた綾乃のヤジは、ひょっとするとメフィの心の叫びを代弁していたかもしれ ない。 しかし兇次郎は「必要なぶんは見せたということだ」とばかりに、綾里と克巳へてきぱきと指 示を下し、育勇園へ持っていくためのチョコレートを作りはじめてしまった。 クリームを挟んだビスキュイにガナッシュとグラサージュをかけて、チョコレートケーキを仕 あげる行程ではメフィももう一度アドバイスをもらえたが、その後は見事なまでに放任された。 大事なのはみばえや味じゃなくてココロ――と綾里に指摘されたので、では一番ココロがこも るデコレーション部分以外は、完璧でケチのつけようのない旨いものをくれてやろうじゃないか、 という、兇次郎なりの心意気だったのだが、もちろんそんなことを公言する蛇蝎兇次郎ではない。 裏醒徒会の三人が帰ったあとも、二月十四日に日付が変わるころまで、敷神楽邸の第四厨房に は灯りが点っていたという。 二月十四日の放課後―― 育勇園の子供たちは、去年よりも豪華なバレンタインギフトに大喜びしていた。 育勇園には美人のお姉さん職員がいるので、ふだんは裏醒徒会のイベントに参加をしない相島 《あいじま》陸《りく》も顔を出す。とはいえ、学園きってのプレイボーイである陸は当然なが ら本日のスケジュールが詰まりに詰まっており、チョコレートを渡しにきたはずの育勇園で逆に 女性職員からいくつかチョコをもらい、ホワイトデーのお返しを約束しただけでさっさと行って しまった。 兇次郎としては、陸のもとに集まってきたチョコレートの中から、本人が食べきれないぶんを ここの子供たちに渡すことができるので、今日のところはそれで充分なのだが。 むしろ意外だったのは、最近ほとんど顔を見せなかった笑乃坂《えみのさか》導花《みちか》 がやってきたことだった。しかも、チョコレートを携えて。 「どういう風の吹きまわしだ、笑乃坂」 「今日のわたくしは|冴ノ守《さえのもり》ですわ、会長。父の名代としてまいりましたの」 「ほう。最近は旧家の鞘あてが活発だな。門閥の再結成でもするつもりでいるのか?」 チョコレートを持たされていたのはそういうわけかと、兇次郎は得心した。育勇園にちょっと した援助や寄付を申し出てくる個人や団体が、このところ増えているようだ。そして園内のこと を見学したがっている。ここから優秀な異能者が続けて出ているのかもしれない。 しかし導花は、そういう裏事情のことなど一顧だにしていなかった。 「興味ありませんわ。〈家〉の単位での集まりなど、他人に比べて信がそれほど置けるというわ けではないのに、頼りになるかといえば大してなりませんもの」 「ではなぜきたのだ?」 「会長のお考えと同じですわ。わたくしは使う人間を、〈家〉ではなく〈個〉で選びます。異能 の強さで」 「単純に強いだけの人間はいらん。そちらで引き取ってもらうと面倒が減っていい。学園の一生 徒、一異能者となるぶんにはいずれ我輩の配下になるが、|聖 痕《ステイグマ》やオメガサー クルの手先になられると始末に悪いからな」 「父に話しておきますわ。藤神門《ふじみかど》に取られるよりはましか、とでもいいだすかも しれません」 そういうと、導花はコートのポケットから右手を出す。その手には、小さな包みがにぎられて いた。もちろんなにかは察しがつくが、兇次郎はあえて訊ねてみる。 「なんだそれは」 「会長のぶんのチョコレートですわ」 「不要だ。あっちの餓鬼の群れに投げてやれ」 すげない調子で、兇次郎はあごをしゃくった。そちらでは、綾里と克巳が歓声をあげる子供た ちにチョコレートを配っていた。最大の目玉であるホールのチョコレートケーキは、夕食のあと にでも細かく切られて全員にすこしずつ振る舞われるのだろう。 導花の柳眉が、わずかにつりあがる。 「これはわたくしのポケッポマネーで買ったものですわ。受け取ってもらわないと困ります。わ たくしが洋菓子を食べないことはご存知でしょうに。あっちの子供らにあげるには数がたりませ ん、不公平ですわ」 いやに理屈っぽく反駁する導花に、兇次郎は怪訝げな顔を向けた。 「工と相島のぶんはどうした」 「もう渡しました。同じものですから、どうぞご安心になってお収めください。たとえ中元や歳 暮と同レベルの贈物であろうと、渡そうとした鼻先を折られるのはよい気分ではありませんわ」 「それは悪かった。だがじつをいうとだな、返礼の予算を考えるのが面倒なのだ」 どうやら、これが兇次郎の本音だったらしい。導花は華やかに笑う。 「いやですわねえ、貧すれば鈍すというではありませんか。蛇蝎兇次郎ともあろうおかたが、そ んなことに脳髄を絞ってはいけませんわ。金銭をかける必要はないのです、気持ちさえ伝われば。 極端な話、三月十四日にメールを一本入れるだけでもよろしいんですのよ、それで本当に気持ち が通じれば、ですけれど」 「それが一番難しい。千金を費やしても、心が入っていないことはある。しかしたいていは、高 価な贈物で入ってもいない気持ちを買うことができるだろう」 「ですがそれは、本当ではありませんわ。会長は、偽りのない心をつかめていますわよ、すくな くとも、いまのところは」 導花の視線の先には、兇次郎に忠実なふたりの学園生の姿があった。いずれ、ここの子供たち の中からも、兇次郎を支える人材が出てくるだろうか。 兇次郎は腕を組んで、だれにともなくこういった。 「すべての人間と心通わすことはできん。むしろできない相手のほうが多かろう。だが、理屈と 法規と損得勘定だけでは、決して人を治めることはできぬのだ」 しかし己にならばすべての人間を治めることができる——そう信じることができるだけの不遜 な自負を、兇次郎は持っていた。 他方―― 時坂祥吾が、契約者たるメフィストフェレスの心と、蛇蝎兇次郎のパティシエとしての腕前、 そのどちらにより感動したのかは、本人に訊いてみないとわからない。 〈おしまい〉 トップに戻る 作品投稿場所に戻る
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年度 頭 タイム 1着 騎手 2着 騎手 3着 騎手 1着馬の父 成績 1994 15 3 04.6 ナリタブライアン 南井克巳 ヤシマソブリン 坂井千明 エアダブリン 岡部幸雄 ブライアンズタイム ◆ 1995 3 04.4 マヤノトップガン 田原成貴 トウカイパレス 佐藤哲三 ホッカイルソー 蛯名正義 ブライアンズタイム ◆ 1996 3 05.2 フサイチコンコルド 藤田伸二 ロングカイウン 角田晃一 マウンテンストーン 高橋明 Caerleon ◆ 1997 3 07.7 マチカネフクキタル 南井克巳 ダイワオーシュウ 柴田善臣 メジロブライト 河内洋 クリスタルグリッターズ ◆ 1998 13 3 03.2 セイウンスカイ 横山典弘 エモシオン 松永幹夫 メジロランバート 吉田豊 シェリフズスター ◆ 1999 11 3 07.8 ナリタトップロード 渡辺薫彦 テイエムオペラオー 和田竜二 ラスカルスズカ 蛯名正義 サッカーボーイ ◆ 2000 3 04.7 トーホウシデン 田中勝春 エリモブライアン 藤田伸二 ケージージェット 佐藤哲三 ブライアンズタイム ◆ 2001 3 07.3 マイネルデスポット 太宰啓介 エアエミネム 松永幹夫 ジャングルポケット 角田晃一 ペンタイア ◆ 2002 15 3 05.9 ヒシミラクル 角田晃一 メガスターダム 松永幹夫 アドマイヤドン 藤田伸二 サッカーボーイ ◆ 2003 10 3 05.6 チャクラ 後藤浩輝 トリリオンカット 佐藤哲三 シルクチャンピオン 幸英明 マヤノトップガン ◆ 2004 3 05.9 ホオキパウェーブ 横山典弘 オペラシチー 佐藤哲三 コスモバルク 五十嵐冬樹 カーネギー ◆ 2005 5 3 06.0 フサイチアウステル 藤田伸二 マルブツライト 松岡正海 エイシンサリヴァン 吉田豊 Stormin Fever ◆ 2006 4 3 03.4 メイショウサムソン 石橋守 マンノレーシング 小牧太 パッシングマーク 四位洋文 オペラハウス ◆ 2007 9 3 05.1 ロックドゥカンブ 柴山雄一 タスカータソルテ 福永祐一 ヒラボクロイヤル 武幸四郎 Red Romsom ◆
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年度 頭 タイム 1着 騎手 2着 騎手 3着 騎手 1着馬の父 成績 1994 16 2 01.9 ナムラコクオー 南井克巳 ヤシマソブリン 坂井千明 セントギャロップ 田中勝春 キンググローリアス ◆ 1995 2 01.7 マイネルブリッジ 田中勝春 マイネルガーベ 木幡初広 エイティグロー 田島信行 ルション ◆