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尋問 ~事件と少女の関係~ 【証言者:メグンダル】 証言内容 ゆさぶる:全ての証言 (あの馬車の“モノ入れ”の、中。どうだっただろうか‥‥?) 選択:どれでも可(調べてなかった/カラだった/カラではなかった) 尋問 ~少女が見た《事件》~ 【証言者:ジーナ】 証言内容 ゆさぶる:「それで、このオジサンに見つかったの。~」 ゆさぶる:「あの“隠れ場所”の中って、まっ暗で。~」 といつめる:「アタシ、暗いトコ、ニガテなの。~」でメグンダルをといつめる ※「それで、このオジサンに見つかったの。~」をゆさぶった後でないと、「といつめる」ができない(メグンダルの吹き出しが出ない)。 (今の、ジーナさんのコトバ。どうだろう‥‥?) 選択:非常に重要 証言追加 ゆさぶる:「だから、ずっと耳をすませてた。~」 (どうだろう‥‥今の、このジーナさんの《証言》は) 選択:ムジュンしている (しかし。他にも『聞こえたはず』の“音”があった。それは‥‥) 選択:《人物》を提示 ※「《証拠》を提示」の後に何をつきつけてもミスになるので、ミス後に「《人物》を提示」を選ぶこと。 「やめておく」を選ぶと尋問まで戻るので、ゆさぶりからやり直すこと。 彼女は、この人物に関する“音”を聞いていなければオカシイのです! つきつける:三度焼きのモルター(54) 被害者が、馬車の中に“現れた”。考えられる“可能性”は‥‥! 選択:トビラ以外の場所から乗った 被害者は、いったいどこから馬車に乗りこんだのか‥‥! つきつける:天窓 尋問 ~《告発》への反論~ 【証言者:フェアプレイ、レディファスト】 証言内容 ゆさぶる:「《天窓》は、いつも閉まってます!~」 といつめる:「あの《天窓》は、開かないんです!~」でジーナをといつめる 龍ノ介が(‥‥開く《天窓》‥‥か。確認しておいたほうがいいかな)と言った後で、 証拠品「乗合馬車オムニバス」の詳細画面で、ドアを調べて中に入り、「天窓」を調べて開く。 天窓を開いた状態で、隅に僅かだが血痕があるのでそれを調べると、証拠品「乗合馬車オムニバス」のデータ更新 つきつける:「被害者が《天窓》から落とされたのなら。~」に「乗合馬車オムニバス」 ※このつきつけは、「乗合馬車オムニバス」のデータ更新後でないと成功しない。 被害者が、《天窓》から馬車の中に“落下”したことを示すのは‥‥! つきつける:天窓の血痕 この審理中。何者かが、あの馬車に“血痕”をデッチ上げるのは‥‥ 選択:どれでも可(不可能だった/可能だった) 他に、不自然と思われる《痕跡》は、ございませんでしょうか‥‥? 選択:どれでも可(心当たりはない/心当たりがある) この事件現場に“現れた”という、もうひとつの不自然な《痕跡》とは! つきつける:床の血痕 弁護側の、最終的な主張は‥‥ 選択:どれでも可(《無罪》を主張する/《有罪》の可能性を提示) 第3話終了
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探偵1-5 野呂井神社 境内へ移動。 板川、登場。 人物ファイルに「板川 淳二」登録(syo[44]) 会話 A「オカルトサークル」(kaiwa[7]) B「キモだめしのこと」(kaiwa[8]) Bの話を聞いて、 「北墓地」を移動先に追加(ev[6]) ↓ ↓ 探偵1-6 北墓地へ移動。 ショボ、登場。 人物ファイルに「ショボ」登録(syo[41]) 会話 A「キモだめし殺人事件」(kaiwa[9]) B「被害者のこと」(kaiwa[10]) C[逮捕した理由」(kaiwa[11])←B「被害者のこと」を聞いて追加 Aの話を聞いて、 法廷ファイルに『野呂井神社見取り図』(syo[4])、『浅墓 章太郎の解剖記録』(syo[3])を登録。 この時点でRボタンで証拠品が見れるようになる。(ev[7]) Bの話を聞いて、 人物ファイルに「浅墓 章太郎」登録(syo[42]) この時点でRボタンで人物ファイルが見れるようになる。(ev[8]) Cの話を聞いて、 法廷ファイルに『杏子の写真』(syo[5])、『浅墓の携帯電話』(syo[6])を追加。 調べる 墓石を調べると、法廷記録に『ガラスのかけら』(syo[8])を追加。 地面に落ちている千枚通しを調べると、法廷記録に『千枚通し』(syo[9])を追加。 現時点の証拠品リスト: 『弁護士バッジ』『ふしあなさん』『浅墓 章太郎の解剖記録』『野呂井神社の見取り図』『杏子の写真』『浅墓の携帯電話』『ガラスのかけら』『千枚通し』 『しぃ』『流石 妹者』『ショボ』『浅草 章太郎』『西 杏子』『板川 淳二』
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主な登場人物 御剣怜侍(26) 主人公 上級検事 糸鋸圭介(32) 所轄の刑事 シリーズ常連 天野河丈一郎(51) 天野河コンツェルン総裁 天野河光(21) 丈一郎の息子 被害者 一条美雲(17) 自称大ドロボウ 狼士龍(27) 国際捜査官 シーナ(??) 狼の秘書 小倉真澄(50) 天野河家の執事 原灰ススム(24) 総務課の巡査 シリーズおなじみ 織戸姫子(19) 光のガールフレンド 概要 帰国早々、誘拐事件に巻き込まれるハメになった御剣。しかも身代金の受け渡し役として… 監禁場所 【捜査開始】 調べる:落ちている着ぐるみの頭 証拠品入手:ワルホくんのアタマ 調べる:御剣が拘束されていた柱 ロジック「拘束されていた柱」発生 調べる:落ちている白い小さな物体(携帯電話) 調べる:倒れている看板 証拠品入手:タイホくんフォトラリー 調べる:ロッカー ロジック「ロッカー」発生 ダンボールが並んだ棚を調べると棚のUP画面に切り替わる 棚のUP画面 証拠品入手:タイホくん図鑑 ロジック「キグルミ」発生 調べる:左にかかっている鍵 ロジック「ちいさなカギ」発生 以上を済ませると、美雲の「話す」に「誘拐犯」が追加される 話す:「誘拐犯」 美雲が移動してドアを調べられるようになる ドアを調べるとドアのUP画面に切り替わる ドアUP画面 調べる:床の穴 ロジック「開いている床板」発生 ロジックモード 「拘束されていた柱」「開いている床板」をまとめる 床のビニールシートが剥がされる 調べる:床板 ロジック「地下への扉」発生 ロジックモード 「地下への扉」「ちいさなカギ」をまとめる ロジック「地下へのハシゴ」発生 ロジックモード 「地下へのハシゴ」「ロッカー」をまとめる 【捜査終了】 ウエスタンエリア イトノコに「話す」 話す:「ロウ捜査官」「今後の捜査」 美雲に「話す」 話す:「今後の捜査」「“たったひとつ”」 丈一郎登場、丈一郎に「話す」 話す:「誘拐事件」「天野河光」「小倉真澄」 【捜査開始】 タイホくん(原灰ススム)に「話す」 話す:「原灰ススム」「タイホくん」「手がかり」 「手がかり」中の選択肢 原灰巡査の証言とムジュンしているのは? つきつける:タイホくんフォトラリー ロジック「2人目のタイホくん」発生 調べる:画面左の足跡 ロジック「クツの形が分かれば」発生 ロジックモード 「キグルミ」「2人目のタイホくん」をまとめる ロジック「キグルミを着て逃走」発生 証拠品入手:誘拐犯に盗まれたキグルミ ロジックモード 「キグルミを着て逃走」「クツの形が分かれば」をまとめる 調べる:画面左の足跡 原灰が移動して、シャッターを開けることができるようになる 調べる:シャッター ロジック「被害者は誘拐犯?」発生 証拠品入手:殺害状況メモ 車庫UP画面 調べる:傷口(肩と腹どちらでも良い) 証拠品入手:殺害状況メモ 調べる:ペンダント 推理コマンド発生 推理 ペンダントにカーソルを合わせて「推理」 つきつける:殺害状況メモ 証拠品入手:小倉のペンダント 【捜査終了】 対決~狼 士龍の推理~ 【証言者:狼士龍(ロウ)】 証言内容 ゆさぶる:「原灰巡査のような、~」 証言追加 つきつける:「原灰巡査は、この車庫で被害者を~」に「殺害状況メモ」 証拠品入手:タイホくんカー 対決~原灰巡査の証言~ 【証言者:原灰ススム(ハラバイ)】 証言内容 つきつける:「タイホくんカーとともに夢を売り、~」に「タイホくんカー」
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完成品 実際に使用する完成品(もしくはそれに準じるもの)をまとめているページです。 シナリオ キャラクターデザイン 背景 証拠品 その他・イラストカット aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa
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成歩堂&みぬき編 見えざるダイイングメッセージ 調べる場所:「おみやげ」の店の前の長椅子 ヒント:タイトルがヒント。ダイイングメッセージが全て「書かれた」ものとは限らない。 正解:画面右上のラジカセ 絞殺魔の凶器 調べる場所:「九尾村」の看板のキツネ ヒント:首を絞めることができるのなら、「ヒモ」でなくても良いのである。 正解:女性の髪の毛 迷いの記号 調べる場所:「いらっしゃいませ」の看板 ヒント:この記号が何の記号かが問題だ。小中学校の授業で習ったはずだけど‥‥? 正解:タバタ 地図記号 孤島の事件 調べる場所:「おみやげ」の看板の上の蜘蛛 ヒント:問題文がヒッカケ。 正解:警官 殺人予告 調べる場所:「九尾村」の看板右の提灯 ヒント:ハガキではなく封書であることがポイントだ。 正解:自分に手紙を送る 封筒の宛名 遺書 調べる場所:「九尾村」の看板左下の矢印の看板 ヒント:「遺書ではない」のであれば、切れている場所はだいたい予測できるだろう。 正解:「死で」の上付近 必 古文書の謎 調べる場所:画面左のお稲荷さん(キツネ) ヒント:地球は球だから地球なのである。 正解:地球は平らな板になっており 地球は丸いから 奈落の底 調べる場所:「妖怪豆腐」の旗の前の人形 ヒント:被害者がなぜ落下してしまったのか、なぜインク切れのペンでメッセージを書いたのかを考えると‥‥ 正解:暗くて周囲が見えなかった ライト 毒はどこから? 調べる場所:「化け猫そば」の屋台の看板 ヒント:ケーキの食べ方がヒント。犯人は毒のついていた「場所」がわかっているはず。 正解:ナイフ 刃の片面 へそ曲がりの死 調べる場所:「化け猫そば」の屋台の猫の顔 ヒント:場所はサウナ、つまり熱い。そして水が入る器がなければ水死はできない。 正解:床の上の水 器を氷でつくって水を張った 親の気持ち 調べる場所:「九尾村」の看板 ヒント:ドアの外にも血があること、ドアは外から鍵をかけられないこと、このふたつを考えると、ドアを閉めた人物と、その時の状態がわかるはず。 正解:被害者男性 犯人をかばうため 凶器は犯人を知っている 調べる場所:「おみやげ」の店の前の唐傘 ヒント:3人の絵を見てわかることは何だろう? 3人とも商売道具を持っているが。ゴルフの知識があった方が正解を見つけるのは簡単かもしれないが、なくても大丈夫。 正解:美容師 王泥喜&牙琉響也編 なぜわかった 調べる場所:宇宙センターの「GYAXA」の看板 ヒント:人間には視覚以外にも色々な感覚がある。 正解:香水 幸せな結婚生活? 調べる場所:宇宙センター入口の左のブース ヒント:この6人の感情は抜きにして、「婚姻届」「離婚届」について考えてみると? 正解:中央のカップル 不自然な自殺 調べる場所:画面右の記念写真用パネル ヒント:不謹慎な話だが、高い枝に縄をぶら下げて、首をつって自殺する場合は何が必要だろうか。 正解:現場にあるべきものがない 死体の真下 移動した死体 調べる場所:横倒しのロケットの右下の看板 ヒント:もし石が長いこと置いてあったのなら‥‥ 正解:「C」の文字近くのかきわけられた草むら 偽装工作 調べる場所:右の黄色い旗 ヒント:ポイントは「雨」。 正解:車の下の乾いた地面 犯人はモンスター 調べる場所:横倒しのロケットの噴射口(上の噴射口) ヒント:後ろから噛み付かれたこと(歯形)と身長から考えると? 正解:狼男 証言したのは 調べる場所:宇宙センターの電光掲示板 ヒント:問題文がヒッカケ。「生徒は通っていない」。 正解:和泉 真琴 容疑者の年齢 銃弾はどこに 調べる場所:左の黄色い旗 ヒント:選挙に当選した政治家がよくやっているのを見かけるはずだ。だが、この画像は、当選前のものなのだが? 正解:ひとつだけ左目(画面上では右)が描かれたダルマの左目 チェックメイト 調べる場所:ふたつの黄色い旗の間のヤシの木付近 ヒント:チェス盤に不審なところはないか? 正解:チェスの駒 被害者の血液 自作自演誘拐事件 調べる場所:右の黄色い旗の真下付近、画面奥三角錐の物体 ヒント:文章に目がいくが、おかしいのは内容ではなく‥‥画像をよく見よう。 正解:脅迫状の状態 封筒の切り口 ムジュンした写真 調べる場所:宇宙センターのアルファベットの看板 ヒント:この写真を見ただけで、テーブルの上の「あるもの」が何なのかすぐにわかるだろうか? 正解:アイコ 手帳 証拠写真のウソ 調べる場所:宇宙センター入口の右のブース ヒント:エレベータ上の表示からして、地下2階はこのビルの一番地下のはずだが‥‥ 正解:左のエレベータの呼び出しボタン 最終問題 最後の伝言 調べる場所:画面左のポット ヒント:まず、被害者にダイイングメッセージが残せたのか。そして、漢字の書き順を考えよう。このダイイングメッセージは被害者以外の複数人が‥‥?なお、指摘ポイントの判定は、ややシビアなので注意。 正解:被害者の血のついた指先 松本 知也
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神乃木×千尋① 2012年 2月16日 某時刻 星影弁護士事務所 私の最初の法廷が終わった。 依頼人・尾並田美散の自殺という、余りにも悲しい結末で‥‥。 諸々の手続きや検察との長い協議を終え、私は事務所に戻ってきた。 星影先生とは現場で別れ、本格的な事後処理は明日からだ。 日が変わりかけた街のネオンはやや大人しめに光り、窓には私の 青白い顔が映っている。 部屋の中に視線を戻せば、鞄と一緒に今日の資料が投げ出されている。 資料の合間から、私を見つめているものがある。 尾並田さんの瞳。彼の写真だ。 私が‥‥私がもっと上手くやっていれば‥‥!! と、私の頬を暖かい指がそっと撫ぜた。 「しけたツラは似合わないぜ、コネコちゃん」 見上げると、神乃木さんがコーヒーを差出し笑っている。 ‥‥‥‥こんな夜中でもやっぱりコーヒーなのね‥ 「今日の悔しさを、一緒に飲みこむのさ。骨まで染みる苦さと、 髪の先まで燃え上がる熱さをな。そうすりゃ、一生忘れねぇ‥。 呑み込んだモンを、いつか必ず奴に返せる‥。」 マグカップを受け取り、一口飲む。‥‥が、 「ぶっ‥‥‥‥ぐぶるほほほおおおおおォォォッ!」 「フッ。どうだ?」 「な、なんですかコレ!!」 「オリジナルブレンド01号‥‥苦味は骨髄まで、熱さは脳天まで‥‥よ」 「い、異議あり!何をどうすればこんな味になるんですか!?」 「これが、敗北の味だ。この味を何回味わい、何回呑みほし、 何回噴出すかで、男の器量ってモンが変わるのさ」 そう言って、彼は鬼のように不味いコーヒー、いや、既にコーヒーと 呼ぶには値しない、豆の煮汁をとことん濃縮しブードゥーの呪いを封じ 込めたかのような液体を飲み干した。 うっ、うううう‥‥‥‥。 勢い、私も飲み干す。そしてやはり‥‥ 「ぐぶるほほほおおおおおォォォッ!!!!!!!!!」 神乃木さんは、明るい笑い声をたてて、むせかえる私の背中を叩く。 「ははは、コネコちゃんにはカフェーのモカの方が良かったかな?」 「‥‥い、いぃえ!! おかわりをお願いします!」 神乃木さんは、笑ってコーヒーサーバーからオリジナルブレンド01号を 注ぐ。 ‥‥‥‥うっ、まだ残っていたなんて‥っ! ハッタリが窮地を呼んだ。なみなみと注がれたオリジナルブレンド01号。 彼は、意地悪な笑みを浮かべている。 くっ‥ここで負けちゃ駄目よ千尋! 私は勢い良く立ち上がり、仁王立ちで恐るべき液体を飲み干した。 喉は苦味と灼熱でこの世の地獄。だが、体の隅々から、心の奥底から、 力が湧き上がる。私は空のカップを彼に突き出す。 「‥‥この味! 忘れません! 必ず彼女にも味合わせてやります!」 「それでこそチヒロだ」 彼は、私の頭をくしゃっと撫でる。 その掌の温かさ、私を見つめる瞳の温かさ。 立ち上ったばかりの力が、そこに行き場を求めている。 「‥‥どうした?」 今日一日抑えていた感情が、そのはけ口を見つけ、心の鍵を叩いている。 「‥‥‥‥どうした? チヒロ‥」 彼の指が、私の頬を撫で、今にも爆発しそうに震える瞼を抑える。 「‥‥無理するな、チヒロ」 「‥‥『泣くのは全てを終えた時だけ』って‥‥」 「ん?」 「あなたが言ったじゃないですか。『オトコが泣いていいのは 全てを終えた時だけだぜ』って‥。ほら、メモにもあります。」 「くっ‥。新米はペンを走らせる‥だが、その本質は掴めずじまい、か」 「なんですかそれ!!」 私は彼を突き飛ばし、背を向ける。 「ちょっと感動して、座右の銘にしようと思ってメモして、信じて、 実践しようと思っていたのに‥嘘だったんですか!?」 「あれはオレの哲学だ。お前はオレじゃねぇし、男でもねぇ」 「わ、私は法廷に立つ以上、男性と同じ気合と責任を有するべきであって、 先輩がそうするなら私も‥‥」 私の体を、ふわりと彼の逞しい腕が包む。 「違うな」 耳元で囁かれる。 「お前は女だ。‥‥オレの大事な女だ。 オレのチヒロが泣いていいのは‥‥‥‥オレの胸の中だけだぜ」 その言葉で、私の頭は爆発した。 私は彼にしがみついて、泣いた。 生まれて初めて、大声をあげて泣いた。 尾並田さんを救えなかったこと、美柳ちなみの罪を立証できなかったこと、 D16号事件の弁護士すら出来た、疑惑の無罪ひとつ勝ち取れなかったこと‥。 そして今ここに、私のすぐそばに彼がいてくれることに、泣いた。 彼は、私を強く抱き締めてくれた。 彼の唇が、私の涙を掬い取ってくれた。 私の口唇は、あさましくも彼の口唇を求め、彼は与えてくれた。 激しいキスの合間に、私は恋人の名前を呼び続けた。 「ん‥‥んふっ‥はぁ‥はぁ‥‥‥‥」 千尋は貪欲に神乃木の舌を求めた。互いに体を押しつけ合い、熱さを伝え合う。 じゅぶっ‥‥じゅるっ‥‥ 唾液の交じり合う音が、人気の無いオフィスに響く。 千尋はいつのまにか、ストッキングに包まれた肉感的な脚を 片方上げて、神乃木の腰に絡みつけていた。 神乃木の体はゆっくりと、唇を繋げたまま密着した千尋を 後方のデスクに押し倒した。 (くっ‥‥ジャマだぜアンタ) 千尋の体を置く前に、神乃木はデスクに散らばった今日の資料を叩き落した。 尾波田の写真は、音も無く視界から消え去った。 がたんっ‥‥‥‥! 千尋の体がデスクに押し倒される。少し離れた神乃木を求め 両腕は宙に投げ出し、両脚を立ったままの男の腰に絡みつける。 「リュウさん‥‥お願い‥‥」 「お願い‥‥? 何をだ?」 涙と唾液で濡れた顔を両手で包み、ついばむようにキスをした。 千尋はもっと神乃木を引き寄せようとするが、男はその力を こらえ、唇と掌だけを彼女に与えた。 「あ‥‥‥あん‥‥お願い‥‥」 千尋は脚の力を強め、自分の腰を押しつけた。神乃木の男根は すでに準備完了し、服の上からもはっきりと情熱を伝えてくる。 腰を動かしひと擦りするごとに、千尋の股間は自分でも恥ずかしく なるほどに、自然と潤んでいった。神乃木にも、千尋の変化は 伝わって行く。服ごしに、女の潤いが敏感な器官を刺激する。 男は右手でストッキングを引き裂き太腿を上下に撫でた。女の 肌は汗で湿り、男の指までも離さぬかのように吸いついてくる。 「あんっ‥‥!!」 「どうした‥? こういうお願いじゃなかったのか‥?」 「あっ‥ちがっ‥‥」 「やめてほしいのか?」 「いやっ‥! やめないで‥‥でも‥‥あんっ‥お願い‥」 「何をお願いしてるんだ‥? 言ってみな。聞いてやるぜ‥」 神乃木の我慢も限度がある。しかし、普段のSEXでは恥じらいがちで 自分から股を開くことなど無い恋人が、自分から腰を押し付け ねだってきているのだ。服を脱ぎ執拗に愛撫する前から秘所を濡らし、 半開きの口で自分を求めている。こんな面があったのかと驚くほどだ。 (もっといやらしくなれ‥。引き出してやるぜコネコちゃん‥‥) しかし、千尋の反撃はあまりに強固だった。 千尋はきっと唇をかみ締め、自分のブラウスを引き裂いた。ブラジャーを ぐっと下に引っ張り強引に弾き飛ばすと、たわわな白い乳がぽろりとこぼれた。 ピンクの乳頭はぴんと天を仰ぎ、神乃木を誘うかのように呼吸とともに揺れている。 「‥‥して‥。お願い‥‥‥‥めちゃくちゃにしてぇぇ!!!!」 神乃木のお楽しみ計画は一瞬にしてふっとんだ。 「う‥うおおおおお!!!!」 神乃木は千尋にのしかかり、乳の谷間に顔をうずめた。 「あっ、あぁぁん!!!!」 唇、舌、そして神乃木の髭が千尋の乳を攻撃する。 「あっ、はぁ、んっ、あくっ、ううぅぅん!!!」 神乃木が乳の先端にしゃぶりつくと、千尋はびくんと体を振るわせた。 しゃぶりついたまま、舌で転がすと、彼女は男の頭を抱き締め喘いだ。 男はそのままの姿勢で女の腰に手をかけ、残ったストッキングと下着を 引き剥がした。そして、望みのものが手に入るとわかった女が両足の 緊縛を緩めると、あわただしくベルトを抜き取り、己の剛直をさらけ出す。 「リュッ‥‥‥‥はぐぅぅぅぅっ!!」 言葉もかけず、秘所に触れることもせず、神乃木は一気に男根を突き立てた。 腰の摺り寄せで潤んでいたとはいえ、神乃木の巨根を受け入れるには準備不足だった。 「うぐっ! あぅ‥‥い‥‥ひぃっ、あっ、んんんっ!!」 男は千尋の苦痛に構わず、乱暴に腰を動かした。みっしりと絡みつく 肉壁に、男の理性はもうひとかけらも残っていなかった。 「めちゃくちゃに‥‥してやるぜ!!」 逃げようとする千尋の脚をつかみ上げ、M字に開きデスクに押しつける。 ずぶっ‥‥ぐじゅっ‥‥ずぶっ‥‥ずぶっ‥‥ 「あっ‥! ひぃっ‥‥! いぃぃぃぃっ!!!」 千尋の手が男の肩を掴んだ。そして、震える指で男の服をひっかける。 「んっ、んんんんん!!」 ボタンが弾け、男の裸の胸が外気に晒される。女は狂ったように男の 衣類を剥ぎ取り、褐色の逞しい胸に手のひらを這わせた。 体の奥に、脚に、掌に男の熱気が注がれる。 「とんだオイタするコネコちゃんだな‥‥」 男はにやりと笑うと、首からぶらさがったネクタイを外した。そして、 男の熱を求めてさ迷う女の腕を、女の頭の上まで引き上げネクタイで縛る。 「あ‥‥あぁ‥‥」 「器物破損で有罪だぜ‥‥!」 縛られた手首を抑えつけ、男は女の上半身の上に乗りかかった。 体勢が変わり、男根は膣の腹側をこすり上げ、更にみっちりと 奥まで侵入した。男の腹で肉芽が押し潰され、厚い胸に豊かなバストが包まれる。 「あひぃっ‥‥!!」 男の舌が女の顔を這い回る。耳たぶを吸い上げ、涙が止まらぬ頬をなめ上げ、唇を犯す。 腕を縛り上げられた屈辱的な体勢ながら、いや、だからこそか、千尋の性感はかきたてられた。 体全体に彼の呼吸を感じ、 彼を受け入れるだけの存在。彼を求めるだけの存在意義に 千尋は溺れ、男の男根に熱い波をかぶせる。 じゅぷっ‥‥じゅぷっ‥‥じゅぶっ‥‥じゅぷっ‥‥ 「あっ、はぁっ、はくっ、んっ、んっ、んっ、んっ、ううんっ」 「くっ、ハァッ、ハアッ、ハァッ、うっ‥‥」 二人の喘ぎ声と、水気を増した下半身の結合音だけが部屋に響く。 「んっ‥‥‥‥はぅぅぅぅぅっ!!!!!」 先に達したのは女だった。千尋の壁がきゅうっと締まり、体から力が抜ける。 「どうした‥? 言わなきゃわかんねぇだろうがよ!!」 「ひぃぃぃぃぃぃっ!!」 男はピストン運動を緩めなかった。達したばかりの敏感な肉芽が、 内壁が、突き上げるペニスに攻めたてられ、千尋の体は何度も痙攣した。 「あぁぁぁぁぁ!!! い、いやぁぁぁぁっ!!!!」 「どうした? 何があった? 言ってみな、聞いてやるぜ!!!!」 「あうっ! はっ、はぁぁぁんっ! あっ、イッ、 イッちゃった、イッちゃったのぉぉ!! あうっ! うっ、またっ‥‥!」 「またイッちゃったのか? 良かったじゃねぇか、ドンドンイキな!!」 「はぐぅぅぅぅっっっ!! うっ、あっ、い、イィィ!!」 「イイのか? どこがイイんだ? 言ってみな、聞いてや――」 「全部ぅっ! イイのぉ! ぜんぶっ、リュウさんのぜんぶぅぅっ!!!」 「あぁ、オレもサイコーだぜ!」 男は太い両腕で女の体を抱き締めた。女は縛られた腕を男の背中に回し、 白い脚を絡みつける。最大限に密着した二人は、快楽の海にとろけきった。 じゅぶっ、じゅぷっ、じゅぷっ、じゅぷっ 男の腰の動きが早くなる。早く、そして女の奥底までかき乱す。 「あっ! あっ! あっ! いっ! イィっ!」 「もう一度言ってみな! "お前の"どこがいいんだ!?」 「あっ、はぁっ! 全部‥! 全部‥!」 「どこが一番イイんだ? ここか?」 子宮口を突き上げると、女の悲鳴は高まった。髪を振り乱し、男を強く抱き締める。 男の絶頂は目の前まで来ていた。が、 「お‥‥‥‥奥の院がいぃっ! して! して! もっとしてぇ!! 奥の院でしてぇっ!!!」 (おくのいん‥‥‥‥って何だぁ?) 聞きなれない単語に、男は一瞬、快楽の海辺から戻った。せがまれることも 初めてだったが、今までの優しいSEXでは、淫靡な単語を無理に言わせなかった。 (‥‥珍しい表現だな‥‥‥‥) スピードの落ちたペニスを、女は強く締め上げた。 「うおぬっ!?」 「して‥。‥‥‥奥の院に、して‥‥‥。奥の院に‥ぶちまけてぇぇ!!!」 「う、うぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」 男は"奥の院"にぐっと押し入り、熱い情熱を吐き出した。 ちゅっ‥‥ちゅっ‥‥ちゅっ‥‥ 二人は繋がったまま、軽いキスを交わしていた。 女の顔はまだ涙で濡れていたが、ゆるんだ笑みを浮かべている。 「チィ‥‥」 「リュウさん‥‥‥‥」 こんな時でないと恥ずかしくて呼べない名前で愛しい人を呼ぶ。 「あっ‥‥‥‥」 男の硬度が徐々に蘇り、愛液と精液でたっぷりと濡れた女の肉路を 塞いでいった。 「あっ‥‥‥‥」 今日の裁判のことなど、二人の頭からはとうに消えうせていた。 ただ、相手の熱気だけを貪り、新たに熱を発し、とめどもない永久機関と化していた。 朝日が昇り、愛弟子の最初の泥仕合に労働意欲をかき立てられた星影所長が 定時前に出所してくるその時まで―――― 2019年 2月9日 某時刻 地方裁判所 第X法廷 ナルホド「異議あり!!!!!」 ゴドー「調子に乗ってるな…まるほどう だがアンタののってる調子は‥‥‥‥」 葉桜院で起こった殺人事件の審議。 あの人は検事として立ち、私の弟子が弁護をし、 被告人は私の妹、被害者は母‥‥。 死者の私は謎の美人弁護士補佐‥‥。 ナルホド「異議あり! 今の証言はこの証拠品と矛盾しています!!」 ねぇなるほどくん。気付いている? 今日の彼は、一度もコーヒーを噴出していないの‥。 彼はもう負けないのよ。 彼の勝負は終わっているの。 終わりを‥‥つきつけてあげて! 彼のために‥‥! ゴドー「オトコが泣いていいのは‥‥ すべてを終えたときだけ、だぜ。」 2016年 某月 某日 某時刻 XX刑務所面会室 私は今、ガラス越しに彼と向き合っている。 検事と弁護士補佐ではなく、一人の男と女として。 「‥‥‥‥オイ」 刑務所暮らしで今まで以上に性格が楽しくなったのだろうか、 彼の声は少しくぐもった。 「その、前から言おうと思っていたが‥‥‥‥」 彼の指が私を指して揺れる。あぁ、そうか。今の私は春美ちゃんに 霊媒してもらっている身だ。髪型も髪の色も違う。特に、乙姫様のような 髪型は、子供がやれば可愛らしいかもしれないが、私くらいの女が やるとちょっと趣味に走りすぎかもしれない。 「あぁ、この髪? はみちゃん、この髪型作るのに時間かかるらしいの。 毎朝一時間くらいかけているから、壊すの可愛そうで‥‥。 でも、私だってこと、わかってくれるでしょう?」 彼は、フェイスガード越しに頭を抱えてしまった。 ‥‥そんなにおかしいかしら? ‥ま、まさか、若作りしすぎ!? 「いや、それはどうでもいいが‥‥その、だな‥‥」 調子が出ないみたいね。そこで‥‥‥‥ く ら え !! 「はい、差し入れのコーヒー」 例のカフェーからテイクアウトしてきたモカ・マタリに、彼の表情が 和らぐ。指し入れ口からカップを入れると、彼はまず嬉しそうに匂いを 堪能し、ゆっくりとコーヒーを味わった。 「ふぅ‥‥これが無くっちゃ落ちつかねぇ」 「毎日は無理だけど、また持ってくるわ。それで、さっきの話は?」 「‥‥男が表に出ると7人の敵に出会う‥」 始まったわね。 「だが、女が表に出ると、必ず一人の詐欺師に出会う。 イイ女が表に出ると、7人のナンパ師に出会う! そして格別イイ女のお前がそんな格好をしていれば、 70人のナンパ男と777人のブルービデオのオジサンが寄ってくるぜ!!!」 「あら、そんなの蹴散らせないほどヤワじゃないわよ?」 「フッ‥だが、オレの極上のコネコちゃんに舌なめずりする奴は 一人残らず去勢してやるぜ。そんな身勝手な男なのさ、オレは‥‥‥」 「もう‥‥リュウさんたら‥‥危ない人ね」 「チィ‥‥。お前の魅力がそうさせるんだぜ。 オレは今も昔もお前に首ったけなのさ」 どがぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!! 「な、なんだぁ?」 「いいの、気にしないで。それよりリュウさん‥‥」 面会室の前で待たせていたなるほどくん達かしら。何かにけつまづいた らしいわ。いいムードの時に邪魔してくれるわね。 ようやく恋人同士として再会したお熱い二人の逢瀬なのに。 「チィ‥‥‥‥」 恋人同士の秘め事の時だけの呼び方で彼が私の名前を呼び、ガラスに手を当てる。 私も手を差し伸べ、冷たいガラス越しに彼のぬくもりを求める。 ガラス越しに額を合わせ見詰め合う。 「リュウさん‥‥‥‥リュウさん‥‥‥‥っ」 7年間、行き場を失っていた涙が溢れる。 恋人を失った悲しみ、綾里の宿業、綾里が犯した罪。 自分の死にすらこぼれなかった涙が、 7年間隠されてきた涙が、滝のように溢れてくる。 「チィ‥‥‥‥すまなかった‥」 「‥違うの、違うのよリュウさん。私‥‥‥‥‥私‥‥ あなたのそばにいることが、とても、嬉しいの‥‥‥‥」 だって、女が泣いていいのは、恋人の腕の中だけだから‥‥‥。 その頃のなるほど君@面会室前。 な、ななななななんだってぇぇーーーー!! リュ、リュウさん&チィ!? く、首ったけぇぇ!? 「い、いたたたたた! いたいよなるほど君! なんでぶつの!!」 「はっ、ごめんよマヨイちゃん。なんか、なんというか‥‥ 他人の口から聞くと、こ、こんなにここまで 気恥ずかしいセリフだったなんて‥‥!!」 「ふぅむ。なにか心ときめきますな」 「あんたなんでここにいるんですか裁判長!!!」 おまけ 2016年 某月 某日 某時刻 ?????? 舞子『まず私がちなみを霊媒しますでしょう。何せ、ブランクがありますから 抑えられなかったら‥‥』 ゴドー「その時はオレが抑えるさ。」 舞子『えぇ、お願いいたします。もし抑えられなかったら、私の命など 構いません。どうとでも始末して下さい。葉桜院にはあやめさんもいますし、 奥の院でしてしまうよりも、ダメな時はすぐに‥‥』 ゴドー「い、今なんと?」 舞子『は? ですから霊媒で押さえられない時はすぐに――』 ゴドー「い、いや、その前だ!」 舞子『奥 の 院 で し て しまうより――』 ゴドー「奥の院でしてしまいましょう!!!!!」 舞子『えっ? で、でも、奥の院には娘が行くでしょうし――』 ゴドー『奥の院で娘がイクのは当たり前だろうよ!』 舞子『はっ? あ、あの、でも行くのが大変なんですよあそこは』 ゴドー「‥‥女の幸せの為に労力を惜しむ‥ それはオレの流儀じゃねぇぜ奥さん!!」 舞子『あ、あの‥‥微妙に会話が成り立ってませんが‥‥?』 数々のリスクを超え、奥の院にて犯行に及んだのはひとえに、 中枢神経をズタズタにやられた男の暗いリビドーの表われだったかもしれない――――
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成歩堂×真宵⑥ 冷たい霊洞の中で、刹那に導かれた想いが、やがて二人を向き合わせる。 誰も楽をして生きられないように、誰も無理をして生きられない。 ただ、そこに在る真実と共に。 -太虚- (こくう) 肌に触れる寒さが、思わず身を震わせた。 ごくり、と唾を飲みこんでから、隣を成歩堂 龍一は見た。 そこには同じく身を震わせている綾里 真宵が居た。 (・・・・はあ・・・・ はあ・・・・ ・・・・くそっ! なんでぼくがこんな目に・・・・) 成歩堂は唇を噛んだ。 (・・・・あのとき・・・・ぼくはどうして、あんなコトを!) 脳裏に、数日前の会話が思い出された。 ぱたぱたと、駆け寄って来る足音に、成歩堂は目を向けた。 そこには、何か紙を持った真宵が居た。 「なるほどくんなるほどくん! ちょっと良いかな!」 「え? あ、ちょっと待ってて。今、トイレ掃除が……」 「何時までトイレ掃除してるの! もう一時間もトイレ掃除してるでしょ!」 そう言って、真宵が成歩堂の腕を引っ張る。 「うわわ、ちょ、ちょっと真宵ちゃん! み、水がっ、水があぁぁっ!」 「あーもう、そんなのクリーニングに出せば良いでしょ! それより聞いてよ! ビキニさんが、あたしを招待してくれたんだよ! あの時の、スペシャル・コース!」 真宵は騒ぐ成歩堂に、持っていた紙を突き付けた。 突き付けられた成歩堂はしばらくそれに目を通し、「ふうん。良いんじゃないかな」と言った。今の成歩堂には、紙よりもトイレの水に少し濡れてしまったスーツの方がショックである。 「じゃ、なるほどくん。例によってよろしく」 両手を前に持って来て、真宵がにこにこ笑いながら言った。 「え?」 「ホラ、前もそうだったでしょ? 二十歳以上の人と同伴じゃないと行けないの」 「な! ま、またかよ! 大体それ、ぼくじゃなくても、御剣と行けば良いじゃないか!」 「御剣さんは冥さんと仲良くしてるから、駄目だと思うな」 あっさりと言われたし、容易に想像出来て、成歩堂はそれ以上勧められない。 「くっ……じゃ、じゃあイトノコ刑事と……」 「マコちゃんと一緒に、留守番するんだって。吐麗美庵で」 幸せそうな顔をするイトノコが想像出来る。 (客の入りも悪いのに、良くやるよ、イトノコ刑事) それも愛の成せる技なのだろうか。 「うっく……じゃ、じゃあ……じゃあ……」 「ヤッパリさんと?」 「それは絶対駄目ーっ!」 真宵のこれからが心配になり、成歩堂は間髪を入れず異議を申し立てる。 「じゃあ、誰も居ないじゃん」 「さ、裁判長が居るだろ!」 「あの寒さは、裁判長さんには無理だよ」 確かに言えている。 言えているが、心の何処かで、あの裁判長なら平気な気がすると思っている成歩堂。 しかし確信も無いのに裁判長を勧め、裁判長がそれで死んでしまったら、夢見が悪い。仕事で忙しいだろうし。 「うう……じゃ、じゃあ春美ちゃんに、千尋さんを霊媒して貰えば良いだろ」 「駄目だよ。はみちゃんに負担掛けちゃうし、心配掛けちゃうから」 (ぼくなら良いのかよ……)と突っ込みたくなる成歩堂。 「……! そうだ! 真宵ちゃんが千尋さんを霊媒すれば……」 「この紙、あたし宛てだから無理だよ」 そう言って、真宵は紙の上部を指差した。 確かに、そこには『綾里 真宵 様』と書かれている。 「ね、ね。良いよね! なるほどくん!」 正直「うへえ……」とも思ったが、ここまで来たら仕方ない。 しぶしぶではあるが、成歩堂は「分かったよ……」と言った。真宵はそれを聞いて、「やったあ!」と喜ぶ。 「じゃあ、なるほどくんも参加してね!」 「………………え?」 魔の抜けた声で、真宵の言葉に反応する成歩堂。 「折角ビキニさんが招待してくれたんだもん! ほら、今なら春の大セールで二人以上申し込みの場合、二人で一人分の料金で良いって、書いてあるんだよ!」 「あーあー、それは良かったね。春美ちゃんと一緒にすれば良いだろ?」 「はみちゃんは、しばらく里に帰るって」 (何で帰っちゃうんだよ、春美ちゃーん!!) 「だ・か・ら! 決定だね」 「ま、まままままま、待った! 大体ぼくが参加しなくても料金は変わらないし………」 「それに……」 そう言って、真宵が目を伏せる。 「本当は、一人では入りたくないんだ。あそこ」 (あ……) 「ね、なるほどくん。一緒に修行しようよ」 真宵の物言いに、成歩堂は黙った。 そう。真宵はある事件に巻き込まれ、あの場所に一人でずっと居たのだ。 生と死の境目で。 その時の恐怖は、恐らくどんなに言葉に表せる事が出来ても、表せしきる事は出来ないだろう。 「……お願い、なるほどくん」 真宵がもう一度、成歩堂に懇願した。 そうだ。 護ってやらなくてはならない。 かつて、護り切れなくて危ない目に遭わせた事は沢山在る。 だからこそ、今度こそ成歩堂が護ってやらなければならないのだ。 「…………分かったよ、真宵ちゃん」 「やたっ!」 そう言って飛び跳ねる真宵の姿に、成歩堂は苦笑した。 そして、その結果がこれである。 ここは、おぼろ橋を渡った対岸。 修験者が霊力を上げるための、霊境である。 そこでは、修行用の服をまとった真宵は震え、何とかしてスーツ姿のまま修行が出来る許可をもらった(修験者の服は寒そうであったし、殺人級に似合わないだろうと思ったからだ)成歩堂は、過去の事を思い出している。 「ま、ま、真宵ちゃん。ほ、本当に入るの? あそこ」 成歩堂は奥に在る奥の院を指差して言った。真宵は震えながらこくこくとうなずく。 (か、勘弁してくれ……) 正直、ここまで身体的に追い詰められたのは初めて(精神的にはそうではないのだが)で、成歩堂はスーツの上から腕をさすりながら心の中でそう思った。 「そ、それじゃあ、入ろっか。じゃ、なるほどくん、お先にどうぞ」 「え! こ、こう言う時はやっぱり、専門家であり本家本元、家元さまの真宵ちゃんからどうぞ」 「あたしは家元だから、まあ、じゅ、重役出勤?」 「訳分からない事言うなよ!」 「ぜ、ぜんとるめんふぁーすと、ってヤツだよ」 「何だよそれ! 大体それはレディーファーストだろ!」 「男女差別良くない!」 「真宵ちゃんが先に言って来たんじゃないか」 などなどと口喧嘩をしている内に、身を切るような冷たい風が吹く。 「……」 「……」 「喧嘩している場合じゃないよな」 「そだね」 二人の意見は合致した。 確かに、この気温の中、争い続ける事さえ不毛だし、百害在って一理無し、である。 「それじゃあ、早速行くか」 「ちょっと待って、なるほどくん」 成歩堂が歩き出そうとした時、真宵がそれを止める。成歩堂は呼び止められて、振り返った。 そこには、中庭に目を向ける真宵が居た。 そう。中庭。 (あ……) 成歩堂はつい最近弁護した裁判を思い出していた。 その時の現場は中庭で。 そこで、真宵は……その事件に巻き込まれた。 この中庭は、沢山の思いが詰まった場所だ。 妬み、恨み、迷い、苦しみ……思慕。 全ての結果、迷いが今こうして成歩堂の隣に居る。 「少し……お参りさせて」 真宵の言葉に、成歩堂はうなずいた。 そして、一緒に中庭に入る。 灯ろうの周りは、雪がどけられたままだった。 真宵は目を細め、その雪の在る場所と、無い場所に交互に触れる。 「……あたし、色んな人に助けられたから、ここに居るんだよね」 「そう、言ってたね」 「……」 黙って真宵は目を閉じ、手を合わせた。 本当に長い間、その格好のまま、真宵は立ち尽くした。 きっと、真宵の中にも色々な思いが在るだろう。 「……だから、あたし……強くならなきゃいけないの」 「うん。それも、言ってた」 真宵の背中が、小さく見えた。 「あたし……時々思うんだ。あたしだけ、取り残されちゃった、って」 「……」 「あたしのお父さんも、お母さんも、おねえちゃんも……皆、居なくなっちゃった。あたしだけになっちゃった、って」 「でも…君には春美ちゃんも居るじゃないか」 「うん……そうだけど………」 沈んだようにそう呟いてから、真宵は顔を上げた。 「……そう、だよね。あたしにはまだ、はみちゃんも、なるほどくんも居るもんね!」 あはは、と真宵はそう言って笑った。 その笑顔を見た瞬間、成歩堂は後悔した。 真宵のその笑みが、あまりにも虚しかったからだ。 「………よしっ! じゃあじゃあ、早速修験堂に行こっか」 虚しい笑みであるけれど、満面の笑みを浮かべながら、真宵が成歩堂の方を振り返り、そう言った。 「え、あ…そ、そうだね」 言われた成歩堂は、多少何処か取り残された感を拭えないまま、うなずいた。 そして、二人は中庭を後にし、奥の院の修験堂へと向かった。 「アンタたち、やっと来たね。わは、わはは、わははははは」 「お久し振りです、ビキニさん!」 けらけらと笑うビキニに、真宵が声を掛ける。 「もお、オバさん、準備は出来てるし。何時でも修行が出来るわよ」 「うわあ。ありがとうございます」 「そこのアンタも、しっかり修行して、霊力をぐっぐーんと伸ばしなさいね」 「ええ!? ぼ、ぼくもですか!?」 「なるほどくん! 光栄な事なんだよ? あたし達倉院の里の人間も、なかなかスペシャル・コースには拝めないんだからね」 (光栄、なのか……? 一般人にとって) あえて口で言わなかったけれども、成歩堂はそう突っ込んだ。 そう。 こんなにギザギザな頭と眉毛をしているが、成歩堂はれっきとした一般人なのだ。 周りにとって見ればそうは思えないのが、哀しい事なのだが。 「それにしても、残念だねえ。しゃんとした修験者の格好をした方が、一層身も引き締まって、霊力が上がる要因にもなるのにねえ。今時それをスーツなんて……」 「ま、まあ殺人的に似合いませんからね、ぼくがそれを着ると」 「ま、それも言えてるけど」 ビキニはさらりとそう切り返す。 「しっかりご飯は食べたんだろうね」 「はい! そりゃあもう、お腹が悲鳴を上げるまで食べましたよ!」 (それってスゲェ!) 以前、真宵は甘い物とステーキは別腹、などと言うすさまじい『別腹』宣言をした。 そこから考えると、真宵の腹部が悲鳴を上げるほどの食糧と言うのは、かなりの量、と言う事になる。 少なくとも、常人には食べ切る事の出来ない量であろう。あくまでも、常人の話だが。 「少しは暖かくなって来たし、もう修行を初日から始めても構わないね?」 (何処が暖かいんだ!!) 成歩堂は異議を唱えようとしたが、どうにもこの寒さではなかなかツッコミを入れる事が出来ない。 一方のビキニはこんな寒さなど慣れているのだろうか、相変わらずけらけらと笑っている。 成歩堂は真宵の方をちらりと見たが、一方の真宵も寒さに震え、表情も凍り付いていた。 やはり初日から始めるとは思っても居なかったらしい。 「それじゃあ、早速始めましょうか。未来の家元さん」 「は、はひぃ……」 もはや寒さに反対する気力すら凍り付き、真宵は鼻声でビキニの言葉に答えた。 「死なない程度に頑張るんだよ。わは、わはは、わははははは」 笑いながら、ビキニは奥の院の扉を開けて、成歩堂達を中へ促した。 もはやこれまでと言った感じで、成歩堂と真宵は顔を見合わせた後、諦めたように密かに溜息を吐き、案内された奥まで入って行った。 ひやり、とした風が肌を撫でるたび、成歩堂は、真宵は、身震いをした。 ビキニは途中まで案内すると、成歩堂に申し訳程度の明かりを手渡し、「ここから先は修験者さんが自分で行く事になっているんだよ」と言って、やはりわはわは言いながら帰って行ってしまったのだ。 「ま、真宵ちゃんは、一度ここに入ったんだよね?」 「うん……そ、そうだね」 二人とも奥の院の修験堂の寒さに震えながら、言葉さえも凍り付いているのではないかと思ってしまうくらい覇気の無い声で語り合った。 「じゃあ、迷う事も、無いよね?」 「う、うん。迷わない、けど……や、やっぱり寒いなあ」 「あの時と、今と、ど、どっちが寒い?」 「うーん、ど、どっちも寒いよ。た、多少暖かくなったと言っても、や、やっぱり奥まで、暖かさは、来ないし」 そう言いながら、真宵は腕をさすり続ける。 真宵の言葉を聞きながら、成歩堂は寒さを覚悟した。 「それにしても、物寂しい所だな」 「うん……やっぱり、修行って、寂しい所でやった方が、何となく雰囲気出るでしょ?」 そう言う問題なのか、と成歩堂は真宵に突っ込みたくなったが、突っ込めば突っ込むほど体力が消耗されそうな気がしたので、体力温存も兼ねて黙っていた。 やがて、一番奥まで辿り着く。 お互いの顔が、見えるとは言えないが見えないとも言えない、本当に微妙な薄暗さである。明かりが無ければ、恐らくは全く見えなかっただろう。 「こ、ここ?」 「うん。一番奥が、ここだよ」 寒さに慣れたと言う訳ではないが、始めに感じた寒さよりは寒くは無くなっていた。 とは言っても、霊氷の上に正座して呪詞を三万回唱える修行をすると言うのだから、生半可な寒さではないだろう。 「あ、あの時は修行どころじゃなかっただろう? い、いや、修行すら出来なかったか」 肌を刺す寒さに成歩堂は震えながら、数ヶ月前の事件を思い出していた。 真宵が、殺されそうになった時の事を。 「ううう、それにしても、本当に寒いなあ」 氷が在るからだろう。尽きる事無く、冷たい空気は成歩堂達に訪れた。 「まま、真宵ちゃん。本当に、するつもり?」 笑みが凍っているのは、成歩堂自身でも分かった。 もはや普通に立っていても、身体中の皮膚と言う皮膚が、まるで痙攣しているかのように寒さを訴えている。 先程から鳥肌は立ちっぱなしだし、歯もがちがちと鳴っていた。 「…………」 成歩堂の言葉に、真宵は何も答えなかった。 「ま、真宵ちゃん?」 遂に寒さに、立ったまま気絶してしまったのだろうか、と成歩堂は心配した。 真宵の傍まで行き、顔を覗き込む。 「!」 薄暗くて、お互いの表情はあまり良く見えなかったけれども。 「ま、真宵ちゃん……」 それでも、たった一つ分かった事は。 「……泣い、てるの?」 真宵が、声を立てずに泣いている事だった。 「え、ええと。ぼく、何かいけない事、言ったかな?」 全く心当たりが無い。もしかすると無意識の内に真宵の事を傷付けてしまったのかも知れない。とにかく成歩堂は何とかしてこの泣いている少女の支えになりたいと思い、尋ねた。 だが、真宵はふるふると首を横に振った。 「ううん。なるほどくんは、何も悪くないの……」 そう言われるものの、やはり突発的な真宵の涙に動揺し、成歩堂は真宵に呼び掛けたり、肩を軽くさすってあげたり、とにかく真宵の事をなだめようとした。 「真宵ちゃん……そんな、どうして…ぼくが、やっぱり何か……?」 「……違うの。なるほどくんが何か言ったとか、そんなのじゃ、ないの」 鳴咽混じりに言いながら、真宵は微かに首を横に振り、涙をその指で拭った。 「ただ、何もかもが遅かったんだ、って……」 「遅かった?」 どう言う意味なのだろうか。 真宵が何かに付いて、何もかもが遅いと感じたと言う。 それは一体、何を指し示していると言うのだろうか。 「そんな。ぼくだって行動を起こすのが遅い時だって、在るよ」 「違うの。そうじゃないの。そう言う事じゃ…ないの」 泣きながら、真宵はそれでも成歩堂の言葉を否定する。何が何をどう言われているのか、さっぱり分からずに、成歩堂はただただ焦燥感に駆られていた。 「じゃあ、どうしたって言うんだよ」 焦燥感に駆られるあまり、ついつい成歩堂は強い口調で真宵に問いただしてしまう。そして、強い口調で問いただしてから、(しまった……)と成歩堂は思った。 「…………」 強い口調に押され、真宵は黙ってしまう。 しかし焦燥感に駆られ続けている成歩堂は、どうしても素直に真宵に謝る事も出来ずに、黙っていた。 「…………」 「…………」 冷たい修験堂は、成歩堂達の心を表しているようであった。 冷たくて、そして空っぽな。 「…………」 どちらも黙ったままで、時が流れるだけ。 徐々に冷えて行く身体は、まるで今の二人をあざ笑うかのよう。 どうしても、どちらからも言い出せない。 その一言を。 二人は黙ったまま、やがて目を逸らした。 何も言う事が出来ないまま、二人は修行を始めるに至ってしまったのだった。 身も心も凍り付いて、そのまま凍死してしまうのではないかと成歩堂は思ったくらいだ。 それくらい、修行は過酷な物であった。 がちがちと歯を微かに鳴らしながら、それでもなるべく何も言わないようにして(どう言う呪詞を言えば良いのか分からなかった事も在る)、成歩堂は霊氷の上に真宵を隣にして正座をしていた。はっきり言って死ぬ。本気で。 ちらり、と成歩堂は真宵の方を見た。 「…………………」 黙ったまま、目を閉じて正座をし続ける真宵の姿が、そこに居る。 先程の口喧嘩を、涙を、修行をする事で忘れようとしているのだろうか。 そんな無理をし続ける彼女を見て、成歩堂は先程の自分の言葉を、後悔した。 今までから見ても、真宵は無理をし過ぎである。 初めて成歩堂と真宵が逢った時…真宵が容疑者となった時も、面会に来た成歩堂に嫌な思いをさせないために、明るさを何とか保とうとしていた。 ある事件の最中で真宵が霊媒を上手く出来なくなって、役に立てなくなりかけた時も(そうは成歩堂は思わなかったのだが)、身体を張って証拠品を、真相を引き出してくれた。 再び容疑者となった時だって、不安で何も分からない状態であっても笑おうとしていた。 誘拐された時だって、伝言で成歩堂の事を真っ先に励ました。 つい最近の事件も、自分が殺されかけた時に、真宵の事を助けてくれた犯人を護ろうとしていた。 そして、その事件の真相を知って傷付いた春美の事を励ました。 何時だって、そうだった。 何時だって、真宵は何よりも他人の為に自分を犠牲にしていた。 自分を犠牲にして、何時だって無理をして生きている。 多少、おどける時もあるかもしれない。 けれど、そんな物はちっぽけと感じてしまうくらい、それくらい目に見えず、気付きにくい真宵の犠牲は大きかった。 「…………」 二人は黙ったままだ。 (ううう……あんな風に言わなければ良かった) もっと、違う言い方が在っただろう。 なのに、自分が疎外されているような気になって、勝手に焦燥感を感じて。 そして真宵の事を抑え付けてしまった。 (謝りたい……でも…) そうできないのが、成歩堂の不器用さ。 何処かで、意地を張っている自分が居た。 それでどうなる訳ではないのに。 ぶるっ、と成歩堂は身体を震わせた。 寒さは、成歩堂の集中力を下げて行く。 そしてその集中力が下がれば下がるほど、成歩堂の体感温度はどんどん低いものになって行った。 「………」 ぶるぶると震えながら、成歩堂はじっと真宵の事を横目で見ていた。 自分はこんなに寒いのだ。 とうぜん、素肌が成歩堂よりも見えている真宵は、もっと寒いに違いない。例え普段真宵が着ている修行中の霊媒師が着る装束よりも裾や袖が長いとしても、所詮はその程度なのだ。 「……ま、真宵ちゃん」 たどたどしく、成歩堂が声を掛けた。 薄明かりの中、はっきりとは見えない視界の中で、微かに真宵がこちらを向いた気がした。 「…その……さっきは、ごめん」 あんなに言うのをためらっていた言葉を、一言を。 成歩堂はこんなにもすんなりと言える自分に驚いた。 永遠に言う事が出来ないのではないかと心配さえしたと言うのに。 「……あ、ええと…うん」 真宵がうなずいたのが分かった。その顔に、もう傷付いた色は無い。 隠しているだけなのかもしれない。 「……その、嫌じゃなかったらどうして泣いていたか、教えてくれないかな」 ぽつり、と成歩堂が尋ねた。真宵は困惑した表情で黙り、うつむいた。 「い、嫌なら良いんだ! その、誰にだって聞かれて困る事は在るし」 うんうんとうなずいて、成歩堂は明るく笑った。 その様子を見て、真宵は柔らかく微笑んだ。 「……あのね」 真宵が自分の手元に視線を落とし、静かに口を開いた。 「さっきも、言ったよね。何もかもが遅かったんだ、って」 「…うん」 「……あたし、初めてここに来た時の事、思い出してたの」 「初めて、って……2月7日の?」 成歩堂の言葉に、真宵はうなずいた。 心無しか、酷く疲れ、そして辛そうな、寂しそうな表情をしているように見える。 「あたし……心の何処かで、分かってたの」 「え……?」 成歩堂が聞き返すと、真宵が成歩堂の方へ顔を向けた。 「あたし、あたしのお母さんっ! あの時、何処かで分かってたのに!」 「ま、真宵ちゃん?」 「お母さん……あの時、あたしの事、呼んでくれたの。『真宵』さんって……」 真宵の言葉に成歩堂ははっとした。 脳裏に、2月7日の事が蘇る。 -春美ちゃんも手伝ってくれるかしら?- -わあ! わたくし、なんでもやりますとも!- -あ。じゃ、あたしも……- -…いいえ。気にしないでいいのよ。真宵さんたちは、ゆっくり遊んでらっしゃいな- あの時、確かに彼女は呼んだ。 『真宵』さん、と。 初めて逢ったばかりで、名乗ってもいなかったと言うのに。 なのに……彼女は呼んだ。真宵の事を。 「でも、あたし……何の確証も無くて…お母さんだったのに、何処かで分かってたのに……」 真宵の目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。 成歩堂が何か行動を起こすよりも前に、真宵は成歩堂にすがりついた。 「呼びたかった!」 「!」 「お母さん、って……逢いたかったよ、って!!」 胸元に顔を擦り付ける真宵の目から流れる涙が、成歩堂の衣服に染み込まれて行く。 「他にもいっぱい言いたかった。ずっと待ってたよとか、大好きだよ、って」 「……」 「なのに……あたしが、勇気が足りなくて、一歩踏み出せなくて……確信が持てた時にはもう、遅かった……」 泣きじゃくり、すがりついて真宵が成歩堂に身を寄せる。 そんな真宵に、一体自分は何が出来るのだろうと思った。 ただ、彼女の泣く姿を見て。 それに対して、どう言う事も出来なくて。 ただただ、彼女の後悔を、真宵自身に対する責めを見詰める事しか出来ないのか。 「お母さんが失敗を全部背負って、居なくなって……でも、それはお母さんのせいじゃないよ、って言いたかった。これからはずっと一緒だよって、一緒に生きようねって…そう、言いたかった……」 慟哭は続いた。成歩堂の目の前で。 懺悔は続いた。成歩堂の腕の中で。 ただひたすら、後悔の念だけが真宵の事を縛り付けて。 何もかもが手遅れだった事が、真宵の事を責めていた。 成歩堂はそんな真宵の事を、じっと見詰めていた。 やがて、成歩堂は唇を噛み締める。 (ぼくが彼女の一番傍に居るから……) 寒さに今までなかなか動かなかった腕が、ぴくりと動いた。 (彼女の事をぼくが護らなければならないんだ!) 腕は、真宵の身体を抱きすくめた。 「っ!」 抱きすくめられた真宵は、目を見開いた。 やはり、真宵の身体は冷え切っていて、震えていた。 「真宵ちゃん……きみの証言には、ムジュンがある」 「え……」 腕の中で、抱きすくめられながら、真宵は成歩堂の目を見詰めた。 「きみは言った。『何もかもが手遅れだった』と」 「う、うん」 「でもね、真宵ちゃん。きみは何処かで予感していた。きみのお母さんの事を」 「そうだけど……でもっ! あたしはお母さんに何も伝えられなかった。結局気付かなかったし……」 「異議あり!」 裁判所で言う成歩堂の声とはいささか違い、声は震えていたけれど。 成歩堂はそれでもまっすぐに真宵の事を見詰め返していた。 「きみが予感した事は、真実だ。そして真宵ちゃんのお母さんも、真宵ちゃんの事を分かった。お互い、顔も分からなかったであろう状況で、予感は当たったんだ。それが言葉にならなかったとしても、真宵ちゃんの想いは、真宵ちゃんのお母さんに、絶対届いていたはずだ」 「なるほどくん……」 「真宵ちゃんには、真宵ちゃんのお母さんの、あの優しさが伝わらなかったの?」 「……ううん…」 涙を再び激しく流し、真宵は首を横に振る。 「とっても……温かくて、優しくて……お母さんは、思ってた通りだった」 顔を成歩堂の胸にすりつけ、ほう、と真宵は溜息を吐いた。 「ね……伝わっただろう? きみのお母さんの優しさが。それと同じくらい、真宵ちゃんのお母さんだって、きみの温かさと優しさが、伝わっているはずさ」 そう言って、成歩堂はきつく真宵の事を抱きしめた。 「だから……もう、自分に無理をさせないで。自分だけを責めないで」 「!」 「きみはいつだってそうだ。無理をして、その無理を感じさせないようにしてる」 そう言って、成歩堂は額を真宵の額と合わせた。 「ぼくにも、きみの負担を背負わせてよ」 「……っ」 真宵の目が見開かれた。 目の前には、成歩堂の顔が在る。 その成歩堂の目は、真剣な色で。 「真宵ちゃん……ぼくは、真宵ちゃんの事が、好きだよ」 「え……っ」 「何処かで、ぼくは言い訳してた。きみはぼくの助手だから、千尋さんの妹だから、傍に居て、護らなきゃいけない。でも……そんなの、ちっぽけな事だったんだ」 抱きしめる腕が、感情の高ぶりによって震えた。 「真宵ちゃんが……真宵ちゃんの事が好きだから…だから、ぼくは……」 「……なるほど、くん」 目を細め、微かに真宵が成歩堂の名を呼んだ。 「あたし…も、なるほどくんの事は好きだよ。でも、あたしは幸せには……」 「異議は認めない。認めなくない」 成歩堂は首を横に振って、真宵の事を見詰めた。 「沢山の人の想いの上に生きているからこそ、きみは幸せになるべきだ」 そう言って、成歩堂はそっと、真宵に口付けた。真宵は困惑したような表情をしていたが、やがて目を静かに閉じ、身体中の力を抜いて成歩堂に預けた。 ふるふると震える真宵のまぶたは、いまだに涙をこぼしていたけれど。 薄暗がりで、相手の表情は見えなかったけれども、確かに二人は気持ちが一つの表情をしていた。 成歩堂はそっと顔を離した。 「好き、だよ。真宵ちゃん」 もう一度、真宵に言ってやる。 真宵はしばらく黙っていたが、やがて静かにうなずいた。 「あたしも、なるほどくんが好き。ずっと前から」 微かな返答に、それでも成歩堂は嬉しく、愛しく思った。 だが、心が温かくなっても、身体的には二人ともかなり冷え切っていた。 ぶるっ、と真宵が身体を震わせる。 「……寒い、ね」 真宵の言葉に、成歩堂はうなずく。 「真宵ちゃん……」 そっと、成歩堂は真宵の名を呼んだ。 ずっと、気付かないふりをしていた二人。 ふりを続けて月日が経ち。 二人はようやく向き合えた。 それが、冷たい霊洞の中で、刹那に導かれた想いが、やがて二人を向き合わせたかのようだった。 成歩堂は霊氷から降りると、真宵の事も降ろした。 「まだ修行中なのに、良いのかな」 不安そうな表情をする真宵に、成歩堂は「大丈夫だよ」と言って、真宵の頭をそっと撫でた。 コトを行うのに、やはり氷の上でやる勇気は、成歩堂には無かった。 「ホラ、要するに寝ずに頑張れば良い訳だろ?」 「霊氷の上でだよ。しかもお経を三万回唱えなきゃならないし」 「早口言葉なら任せておいてよ。って言うか、お経じゃなくて、呪詞だろ」 「……早口なんかじゃ、霊力は上がらないよ」 「心を込めれば上がるってモンじゃないだろ?」 「そ、そうだけど」 何時の間にやら漫才になってしまうのは、普段のノリからだろうか。 その漫才を引き止めたのが、霊洞の冷ややかな空気だった。 「……漫才してる場合じゃ、無いな」 「……そだね」 二人は顔を見合い、うなずいた。 きっと明かりが無ければ、相手が何処に居るのかも分からなかっただろう。 成歩堂はそんな事を思いながら、真宵の身体を引き寄せた。 そして、再びキスをする。 ただ、先程と違うのは、より長く、より深い所。 成歩堂の舌が真宵の舌を求め、口内へと侵入しようとする。 「んんっ……」 そうしたキスをした事も無い真宵は、少し眉をしかめながら、成歩堂の舌に困惑した。 成歩堂の舌は、真宵の唇に割り込み、歯を押し上げさせ、そして、真宵の舌まで辿り着く。 そのまま成歩堂は、真宵の事を貪った。 始めは困惑した表情の真宵だったが、やがて成歩堂の舌を受け容れ、真宵の舌もまた成歩堂の舌に合わせ、ぎこちなくではあるが答えて行った。 二人は、互いの温もりを貪った。 ここが神聖な霊穴である事をすっかり忘れてしまったかのように、二人は互いの温もりに高まって行く。 だが、寒さを忘れるため、辛さを忘れるために、二人は今こうして行為に及んでいるのである。 やがて、二人は唇を離した。つ、と互いが受け容れていた名残が糸を引いて静かに落ちる。 それが、淡い明かりに妖艶に反射し、二人の目に映った。 真宵は思わず頬を赤らめ、目を逸らす。 そんな真宵を見ながら、成歩堂は真宵の修行服の上から、胸の膨らみに手を置く。 ぴくり、と真宵が微かに身体を震わせて反応した。 「あ…っ、なるほどくん……」 とても恥ずかしそうな顔で、おずおずと真宵が成歩堂の名を呼んだ。 「どうしたの、真宵ちゃん?」 「…その、あたし……」 もぞもぞとくすぐったそうに、恥ずかしそうに身体を動かしながら、成歩堂の手を何とか離そうとしている。 「あたし、こうした事、初めてで……だから、その………」 「大丈夫。怖くないよ」 ぼくに任せて、と成歩堂が言って、真宵の身体をより引き寄せた。 そして、指先で真宵の膨らみをそっと掴む。 真宵の胸は、覚悟していた(思っていた?)よりも大きかった。恐らく、千尋の胸を見たりしていたから、無意識に比較していたのだろう。 全く無いのだろうか、と思っていた成歩堂にとって、その膨らみは大きくないにしても、思わず目を丸くするくらいの大きさはあった。 「そ、そんな顔、シツレイだと思うなっ!」 真宵が頬を膨らませて、成歩堂の方を見る。成歩堂は「ごめんごめん」と言って、真宵の頭を空いている手で撫でてやった。 真宵はしばらく黙っていたが、やがて頬を元の大きさに戻した。 どうやら機嫌を直してくれたようである。 成歩堂は安心して、再び指先を動かした。 「ふ、ぁ……」 とろん、とした目で真宵は成歩堂の方を見る。そして、冷たい指先で成歩堂の腕を掴む。 その必死さに、成歩堂は愛しさを覚えた。 「真宵ちゃん……可愛い」 成歩堂が小さくそう言ってやり、指の動きをやや激しくする。 それに対して、真宵は敏感に反応し、成歩堂の腕にすがり付いた。 「んんぅっ…!」 切なげな声を上げ、真宵が頬を染めながら、あえぎ声を上げる。 その反応を楽しみながら、成歩堂はするりと真宵の装束の隙間に指を入れ、素肌に触れた。 「あっ……」 びくりと身体を震わせる真宵。 冷たい指先に、身体が震えたのも在るだろうし、不意の肌の感覚に困惑したのかもしれない。 「ご、ごめん。冷たかったかな?」 「う、うん……でも、大丈夫」 頬を先程よりも赤く染めながら、おずおずと真宵が言った。 未知の感覚に対する不安と、それを越える成歩堂に対する愛しさ。 それが、真宵の中でぐるぐると回る。 成歩堂が触れ続けると、だんだんと真宵の鼓動が速くなって来た。 「あっ……ぅ…」 恥ずかしさと、冷たさの中に在る温もりと快楽に真宵の声は切なげに上げられる。 指先を動かしながら、成歩堂は空いている手で真宵の冷えた身体を抱きしめる。 けれど、二人の身体は先程から始まった行為に、熱くなって行った。 「真宵ちゃん……」 成歩堂は真宵の名を呼び、その胸の先端を、しきりに撫で、時に押し付ける。 徐々に、その先端が堅く、立って行くのが分かる。成歩堂が高まるのと同じように、真宵もまた高まって行く。 如実に真宵の身体が素直にそれを表している。 「ほら、すぐに立っちゃった」 先端をいじり続けながら、成歩堂は真宵に言った。 「や…だぁ……っ」 成歩堂の言葉に、真宵は首を横に振ってその言葉を振り払う。 「真宵ちゃん、感じてる?」 「う……くぅっ」 慌てて真宵は胸をまさぐる成歩堂の腕を止めようとしたが、それを成歩堂は強く抱きしめる事で阻む。 だんだん、真宵の身体が熱くなって来るのが分かる。 「……ね、真宵ちゃん」 成歩堂が真宵の耳元で言葉を発する。 「ぼく、真宵ちゃんの可愛い反応にもう…」 「やっ……!」 それ以上成歩堂に言わせないように、真宵は首を激しく横に振り、紅潮しながら、成歩堂の方を見詰めた。 その瞬間、すかさず成歩堂は真宵の唇を塞ぐ。 成歩堂はその間にも、真宵の胸の先端を摘まんだ。 ひくり、と真宵の身体が震えた。 「んっ、ふ……」 口を塞がれたままの状態で、真宵はかすかにあえぐ。 胸の先端はしこりとなっており、摘まんでも優しく撫でても指先にはっきりとその形を伝えていた。 成歩堂は唇を離すと、そのまま真宵の事を見詰めながら、胸の先端を攻め続けていたが、しばらくしてから一旦止めて、帯にゆっくりと手を掛けた。 「ぅ……なるほど、くんっ…恥ずかしいっ……」 目をきつく閉じて訴える真宵に、成歩堂は微笑んで頬ずりをしてやった。そして、帯を緩めて行った。 しゅるしゅる、と静かな霊洞に帯が解けて行く音が静かに響いた。 やがて、真宵の装束を固定していた帯が完全に解け、自然と真宵の装束も微かにはだけた。 真宵の白い肌が、ビキニから手渡された淡い光にぼんやりと照らされた。 止める事の出来ない衝動に駆られながら、成歩堂は思わず真宵の見え隠れしていたうなじに口付ける。 「あふっ…!」 成歩堂の行為に、真宵は身体を震わせる。 その様子をちらりと見ながら、成歩堂はそのうなじに舌を這わせた。 生温かい感触に、成歩堂の胸板にすり寄り、くすぐったさと微弱な快楽にすがった。 その2
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すっかり秋めいて来たなあ……。 成歩堂はパーカーのポケットに手を突っ込んで、俯きがちに田舎道をゆっくりと歩いていた。 サンダルを直穿きした素足がひんやり寒い。 自然が多い山里は、成歩堂が普段暮らす都心の街よりも、いくぶん季節の進み具合が早いよ うだ。 視界の前方に広がる山の頂上付近は、かすかに朱に黄色に色付き始めている。 これから寒さが厳しくなって来るに連れて、山裾に向かって彩り鮮やかに染め広げて行くの だろう。 そんなことを思いながらのんびり歩いていると、背後から小さな足音が近づいて来た。 成歩堂がゆっくりと振り返ると、少女が二人、息を切らせて駆けて来るところだった。 路線バスが一台通れる程度の道幅はあったが、一歩左に寄って立ち止まり、進路を譲ってや る。 こちらを向いて道を開けている人物に気付いた少女達は、各々小さな口を「あ」と開けて驚 きの表情を見せたあと、ニッコリ微笑み「こんにちは!」と挨拶した。 反射的に「ああ、こんにちは」と返す彼を、軽やかな風と共に追い抜いて行く。 その背中で、赤いランドセルが揺れていた。 少女達の体格では少し重そうな革のランドセルの中に、一杯に詰まった教科書やノート、そ れに筆箱や、その中で揺れる鉛筆達が、カタカタと音を立てていた。 視線で追った少女達のラベンダー色の上着と、小さな膝小僧が丸見えの装束の裾が向かい風 に翻る。 少女達は少し行ったところで速度を緩め、やがて速足になると、未だその場所で佇む成歩堂 の方をチラリと振り向いた。顔を寄せ合い、ヒソヒソと何かを話して、クスクス、 キャッキャと笑っている。 首を傾げて笑んでやると、少女達はパッと顔を見合わせて一際高い笑い声を上げて、駆けて 行ってしまった。 「……なんだ?」 気のせいか、笑われた気がして成歩堂は首を捻った。 笑い話のネタにされるようなおかしなところでもあったか……? そう言えばまたこの数日ひげを剃っていなかったが、それがだらしなく映ったのだろうか。 それとも女ばかりの山里に向かおうとしている男の存在自体が珍しかったのだろうか。 コソコソと少女特有の噂話でもしたのか、もしくは陰口でも叩いたのか、とにかく少女達は 確かに成歩堂を見て笑った。 笑われるような心当たりはないんだけどな……。 いささか不愉快ではあるが、本気で腹を立てるほど成歩堂は子どもではなく、むしろ数年前 の娘を見ているようで懐かしさすら覚えながら再び歩き始めた。 少女達が姿を消した先が目指す場所だ。彼女達の独特な和装がそれを示していた。 西の空が少しずつ茜色に染まり始め、夕焼けの色を反射したいわし雲が気持ち良さげに泳い でいる。 いつの間にか、空が高くなっていた。 ああ、秋の空だ。 こうして空を見上げるのは、いつ以来だろう……? 成歩堂はトレードマークのニット帽を脱ぐと、左手に握り締めた。 彼が目指す先は、もうすぐそこだった。 ****** 若き家元は、すぐに見つかった。 成歩堂と同世代と思しきスーツ姿の男と玄関先で立ち話していたからだ。 成歩堂は邪魔をしないように、少し離れた門の柱に背を預けてその様子を見ていた。 来客だろうか、それとも知り合いなのだろうか。 話の中身までは聞こえて来ないものの、真宵は時折声を立てて笑っていて、随分と楽しそう だ。 背の低い真宵が男を見上げて眩しそうに笑う姿が面白くない。 何、話してるんだよ……。 かつてカレーをぶちまけられた掛け軸にあった彼女の母親と同じように、一族の中でただ一 人だけ丈の長い装束を身に着け、背筋をしゃんと伸ばし、豊かな黒髪をさらさら と風に靡かせるその姿は、成歩堂の助手をしていた女の子と同一人物だとは思えなかった。 風に吹かれて装束の裾が優雅に舞う。 真宵はどこか天女にも思える神秘的な雰囲気を纏うようになっていて、成歩堂は七年という 歳月の重さを改めて知った。 少女から女性へと目覚しく変化する時期に離れたからだろうか。 会う度に優美さや清艶さを増して大人の女性になって行く真宵の姿に、ただただ成歩堂は驚 かされ、一方で子どもが巣立ってしまったような寂しさを感じたことすらあった。 その時、ぼんやりと目で追っていた真宵が、何かを言いながら男の腕をパシンと叩いた。 冗談を言われたのか、お世辞の一つでも言われたのか、真宵はわずかに頬を赤らめて笑って いる。 ふーん。楽しそうじゃないか。 成歩堂は帽子を被り直しながらひっそりと舌打ちした。 いよいよ面白くなかった。 成歩堂は真宵のことをとても大切に思っている。 友人として、妹として、一人の女性として。 その真宵が自分以外の男に笑いかけている姿は、見ていて気持ちの良いものではなかった。 ひそかに向かっ腹を立てていた成歩堂が何気なく門の外を見遣ると、ちょうどそこを歩いて いた少女と目が合った。 娘のみぬきと同じ年頃か、もしくはもう少し年少かもしれない。栗色がかった髪をおさげに して、古ぼけた本とノートを腕に抱えている。独特な衣装から、一目でこの少女 もまた、倉院流の修験者だとわかった。 パーカーのポケットに手を突っ込んだまま門柱によりかかって屋敷の中の様子を窺う怪しい 男に、少女はじろじろと遠慮のない視線を投げかけて来る。澄んだ瞳に警戒と敵 意が浮かんでいた。 成歩堂は苦笑した。 昔はスーツ姿であればこれほど警戒されることなどなかったし、万が一身分を怪しまれたと しても、襟に付けた弁護士バッジを見せれば皆が一様に納得と安堵の表情を見せ たものだ。 だが今はヒゲは生やしたままだし、着の身着のまま、素足にサンダルだ。 これで家の中を覗かれれば、そりゃあ通報の一つもしたくなるというものだ。 警察を呼ばれなかったことに感謝しつつ、成歩堂は言い訳がましく言った。 「……ああ、ぼくは真宵ちゃん……、いや、家元さんの友達なんだ」 まじまじと成歩堂を見つめていた少女は、ハッとなにかを思い出したかのように目を丸くし、 小走りで近寄って来てまっすぐに彼を見上げた。 「あのっ、“ナルホドクン”ですよね?」 「え。……そうだけど」 見覚えのない少女の顔が、「やっぱり!」と言わんばかりに輝いた。 「あの。家元さまの未来の旦那さま、とか」 「え。ええっ?」 「さすが、家元さま。こんなに大人の男性と……! あの、あの。家元さまを、よろしくお願 いしますね!」 一方的に告げると、少女ははにかんだ笑みでペコリと頭を下げ、外へ駆けて行ってしまった。 成歩堂は走り去って行く少女の後ろ姿を半ば唖然として見送った。 昔から、真宵と彼との関係を勘違いしていた春美が願望混じりで似たようなことを言ってい たので、そう言われること自体には慣れっ子だったが、見知らぬ少女からの突然 の言葉には面食らった。 倉院の里は、一体どういう教育をしてるんだよ……。 不意を衝かれて目を瞬かせていた成歩堂の背中に、背後から素っ頓狂な声が飛んで来た。 「あれっ? なるほどくんッ!?」 成歩堂に気付いて驚きの眼で見ている真宵は、男と二言三言言葉を交わすと、こちらに駆け 寄って来る。 真宵の肩越しに、彼女のあとを遅れて歩いて来る男と目が合った。 すれ違う瞬間、男はチラリと成歩堂を見て口元に微笑を浮かべた。 小さく会釈をした切れ長の目が、瞬時に成歩堂を値踏みしたように見えた。 成歩堂はまっすぐにその視線を受け止める。一瞥して目礼を返して、それから余裕を見せつ けるようにゆっくりと真宵に目を移した。 走り寄ってきた愛嬌たっぷりの笑顔が、無邪気に腕を絡めて来る。 「突然どうしたのっ? 久し振りだねえ!」 「いや、なんとなく。顔が見たくなったんでね、遊びに来たよ」 「そっかそっか。とりあえず入りなよ、ねっ!」 もう20代後半になったというのに、真宵のその姿はコロコロとじゃれ付く仔犬のようだ。 人懐っこさは10代の頃と何ら変わりなくて、成歩堂は思わず笑んでしまう。 真宵に引っ張られて連れて行かれた先は、控えの間だった。 倉院の里に遊びに来ると、大抵成歩堂はここに泊まっていた。 真宵は座卓に差し向かいで座ると丁寧な手つきでお茶を淹れた。 わずかに渋みのある香ばしい香りを漂わせる緑茶が、これ以上ないくらいにトノサマンが存 在を主張している湯呑みに吸い込まれていく。 これは、倉院の里の綾里屋敷における成歩堂専用の湯呑みだった。 弁護士を辞して間もない頃、久し振りに里を訪ねて来た彼に、真宵は嬉々として湯呑みを差 し出しこう言ったのだ。 『この前ね、いいモノ見つけちゃったっ! なんとね、サイズ違いでお揃いのお湯呑みが、二 個セットでお買い得だったんだよ! これ、一つはなるほどくん用ね』 「……(おいおい、これ夫婦茶碗じゃないか)」 彼女の辞書に『夫婦茶碗』という言葉はなかったらしい。 お買い得の湯呑みセットを見つけた時の真宵の喜びようが目に浮かぶようだった。 それは決してセットでお買い得だったのではないよ、と教えてあげようかと思ったけれど、 やめた。 真宵が嬉しそうだったから、それはそれで良いかと思ったのだ。 ──あの頃よりも使い込まれて風格を増した湯呑みを成歩堂の前に置きながら、真宵は笑っ た。 下校中と思しき少女達に道を譲ってあげたのに笑われたこと、そして先ほど門のところで話 しかけて来た少女の話を聞かせたからだ。 ただし、“未来の旦那さま”の話は伏せて。 「あはは。その子達、なるほどくんのコト知ってるんだよ」 クルクルとよく動く瞳を三日月型にして朗らかに笑う真宵を尻目に、成歩堂は後頭部をポリ ポリと掻いた。 「ぼくは知らないんだけどな」 「なるほどくんは知らないだろうけどさ。はみちゃんが吹聴して回ってるからね、『真宵さま の大切な方』って。だからなるほどくん、この一帯では有名人だよ? 里の子達 はみんな、なるほどくんのコト知ってるんだから! はみちゃんの影響受けちゃってさ、『家 元さまの王子さま』とかなんとか言ってるみたい」 「……相変わらずなんだね、春美ちゃん」 「うん。背と胸ばっかりあたしより大きくなっちゃったけど、性格はあのまんま。あたしに似 て、素直な良いコに育ったよ」 真宵は小首を傾げて笑って見せると、漆器に盛り付けられた饅頭を一つ手に取り頬張った。 茶目っ気たっぷりの表情と物言いは、真宵の八面玲瓏の性格をよく表していた。 あっという間に一つ目の饅頭をたいらげた真宵は、二つ目の饅頭に手を伸ばしながら言った。 「ところでなるほどくん。何か用があって来たんじゃないの?」 お茶を啜っていた成歩堂が、ピタリと動きを止めた。 真宵がじっと見つめている。 「用がなきゃ来ちゃいけないのかな」 「別に良いけど。でも、なーんか変だなあ」 「変?」 「うん。憑き物が落ちたような顔してるよ。こんななるほどくん、久し振りに見る気がする」 彼の心臓がドキンと一度高鳴った。 心理錠が見える勾玉も、王泥喜やみぬきのように“みぬく”ことが出来る能力があるわけで はないのに、真宵は成歩堂のことはいつもお見通しだった。 直感が鋭いのか、洞察力が磨かれたのか、“絶対”と言われる倉院流家元の霊力の一種なの か、それとも長年の付き合いで彼を知り尽くしているからなのか、とにかくよく 分からないけれど、ポーカーフェイスばかりが上手になった成歩堂でも真宵には嘘は通用しな かった。 「真宵ちゃんに隠し事は出来ないなあ」 成歩堂はお茶を飲み干してテーブルに湯呑みを置くと、真宵をまっすぐに見つめた。 彼の手から離れたトノサマンが、コトン、と可愛い音を立てた。 「……実は、ね。昨日全部片付けて来たんだ」 「え、本当?」 真宵は嬉しそうに胸の前で合掌し、ニッコリ笑った。 ずっと気がかりだったのだ。 何故かトイレ以外の場所を掃除しようとしない成歩堂と、幼いみぬきだけになってしまった 事務所が。 デスクの上が山積みの書類で酷いことになっているにも関わらず、かたくなに片付けようと しない成歩堂には手を焼いたものだ。 そんな面倒くさがりの彼が心を入れかえたのだから、事ある毎に口を酸っぱくして来た甲斐 があったというものだ。 「えらいえらい。やっと重い腰上げたんだ?」 「まあ、ね」 「確かに、ちょっと雑然とし過ぎてたもんね。 せっかくみぬきちゃんが片付けても、ダメな パパが散らかしちゃってさ」 「……え。」 雑然? 散らかす? ……なんの話だ? 成歩堂はようやく二人の会話が噛み合っていないことに気が付いた。 まったく別の話題にも関わらず、まるでコントか漫才のように上手く歯車があっていた。 嬉しそうにうんうんと頷いている真宵に、成歩堂もまた、微苦笑を浮かべる。 「いや、そーいうことじゃなくて」 「なに?」 「七年前の、あれ」 真宵はキョトンと成歩堂を見つめ返した。 「七年前って……七年前……?」 「うん、七年前。心配するだろうから、全部終わってからと言おうと思ってたんだけど」 「それってつまり……ど、どういう……」 真宵の心臓が、まるでトノサマンシリーズ最新作の初回放送を目前にしている時のようにド キドキと高鳴って行く。 そこにあるのは、期待と不安をごちゃ混ぜにした、ある種の予感。 己の鼓動を確かめるように胸元に置いた手を、知らず知らずの内に真宵は握り締めていた。 成歩堂の目がほのかに笑っている気がするのは気のせいだろうか。 息を呑んで成歩堂の言葉を待つ。 「全部、終わった」 「終わった……?」 「ああ、終わったんだよ」 「つまり……つまり……。それは、なるほどくんの無実が証明された、ってコト?」 「──うん、そうだよ」 成歩堂が口元を綻ばせると、真宵は一気に相好を崩した。 そして彼の隣に迫り寄ると、バシンっと思いっきり背中を叩いた。 成歩堂の背中に熱を伴った痛みがジンジンと走る。 小さな手で叩かれると痛みも大きかった。 「きゃわわああっ! すごい! やったね、なるほどくん! すごいよッ! よくやった! おめでとう……!」 「い、痛いよ、真宵ちゃん……」 「こりゃ今日はお赤飯だね! お赤飯炊こうっ!」 成歩堂は顔を歪めて叩かれた場所を擦り、真宵の小さな手が生んだ熱を冷ます。 そんな成歩堂の背中をこれでもかと満面の笑みを浮かべてバンバン叩いていた真宵が、ふと 手を止めて彼のダークグレーのパーカーの袖を握った。 「そっかあ……。とうとう……」 成歩堂が視線を落とすと、頭頂部で綺麗に結ったちょんまげが、彼にしがみつくように俯い ている。 真宵は今でもあの日のことを忘れられなかった。 翌朝の新聞で事件を知った時の衝撃。 電車に飛び乗ってもなお、半信半疑だったこと。 駆けつけた事務所で見た、疲れきった成歩堂の姿。 ある事ない事、でたらめばかりを並べ立てるマスコミ。例の事件だけでなく、成歩堂がこれ まで扱って来た裁判までも持ち出して、捏造の証拠が使われたのではないかと言 い出したのには心底呆れた。 今まで彼が積み重ねて来た信頼は、一瞬にして崩れ去った。 あの日、いつものように一緒にいれたら良かったのに。 そしたらこんなことにはならなかったかもしれない。 当時家元を襲名したばかりで多忙を極めていた真宵は、わずかばかりの自由になる時間を 遣り繰りしては事務所を訪ねた。 手のひらを返す者達の薄汚さを見せつけられて、やり場のない怒りに震える真宵とは対照的 に、成歩堂は日に日に表情を失っていく。 怒りもしなければ、泣きもしない。 以前とは別人のように快活さを消し、次第に周囲から心を閉ざして行く成歩堂の姿が未だに 脳裏に焼きついて離れない。 まともに人の目を見なくなってしまった成歩堂に、少なからず真宵はショックを受けた。そ して自分を責めた。 それに、事件のあったあの日。成歩堂から事件を知らされなかったことも悲しかった。 姉を亡くして一人になってから、誰よりも真宵のそばにいてくれたのは成歩堂だった。 成歩堂がいてくれたから今、自分は笑えているのだと真宵は思っていた。 それなのに、支え続けてくれた成歩堂の人生に関わる重大な危機に……、一番大切なその場 面でそばにいることが出来なかった。 成歩堂が、幼い頃に濡れ衣を着せられてクラスで孤立した苦い経験から、孤独な人の味方に なりたいと弁護士を志したことを真宵は知っていた。 それほどまでに孤独を嫌う成歩堂を、絶対に一人にしてはならない場面で一人にしてしまっ た。 独りぼっちの辛さを味わわせてしまった。 だから今こそ、かつて成歩堂がそうしてくれたように、彼のそばで少しでも支えになれたら と思った。 だが、家元の名前はそれすら許してはくれなかった。 家元という身分で得た権力は彼を助ける為に役に立つこともあったが、真宵には単なる足枷 にしか思えないことの方が多かった。 申し訳ない。 真宵は少なからず彼に対する罪悪感を抱いたまま、この七年を過ごして来た。 昔のように手伝うことが出来ないのであれば、せめて……。 真宵は祈った。 なるほどくんがまた笑えますように。 こんなコトに負けませんように。 いつか真実を見つけられますように。 なるほどくんの無念が報われますように。 この七年、願わない日はなかった。 雨の降る朝も、太陽が照り付ける昼日中も、風の強い夕暮れも、雪の舞う夜も。 ──いつだって祈っていた。 お姉ちゃん、なるほどくんがやったよ。 バッジを失っても、たった一人で真実を暴いたよ。 やっと、終わったんだ。 なるほどくんの、長い長い夜が……。 「真宵ちゃん……?」 呼び掛けられた真宵は「なんでもないよ」と言って、面を上げた。 顔は笑っていたが、声がかすかに震えていた。 成歩堂は不意に鼻の奥がツンと痛くなって、慌てて唇を噛み締めた。 予想外に訪れた逆転のチャンス。 引きずり出した真実。 七年探し続けていたものが、余りにも呆気なく終焉を迎えてしまい、正直なところ、成歩堂 の中に実感は湧いていなかった。 が、自分のために声を震わせてくれる真宵に終幕を報告出来た今、ようやく全てを終えられ た気がした。 真宵は成歩堂の右隣にちょこんと正座して、彼を見上げた。 パーカーの袖を握ったまま、離そうとしない。 「……今日どうするの? 泊まっていくなら準備しなくちゃ」 「お願いするよ」 「わかった。ゆっくりしてってね」 そう言って、ニッコリ笑った。 成歩堂は真宵の媚びない笑顔が大好きだ。 その笑顔が不意に神妙な顔つきになった。 おや、と思う間もなく真宵は一歩後退りして居住まいを正すと、畳に三指をついて深々と頭 を下げた。 「なるほどくん。……長い間、お疲れ様でした」 「え。ちょ、ちょっと真宵ちゃん……!」 真宵の長い髪が、サラサラと畳に流れた。 思わずうろたえてしまった。 まさか真宵にそんなことをされるとは思わなかった。 端然と姿勢を正した真宵のそれは、とてもさまになっている。 堂々とした振る舞いはさすが名家を束ねる当主というところだろうか。 いつもニコニコと天真爛漫な真宵だとは思えないほど凛としていた。 これが真宵ちゃんの家元の顔か……。 初めてだった。 今までこんな威厳を見せられたことなどなくて照れくさい上に、妙な迫力に気圧されて成歩 堂は咄嗟に気の利いた答えが浮かばなかった。 「……三指なんて、初めて見た」 やっと顔をあげた真宵はもう普段通りになっていた。笑いながら涙ぐんでいた。 「よく頑張ったね、なるほどくん」 「……ん。真宵ちゃんのお陰だ」 「あたしなんて何もしてないよ。本当に良かったねえ」 「……ありがとう」 労われて万感の想いが胸を過り、不意に目頭が熱くなり真宵の肩に顔を埋めた。 面食らいながらも真宵は優しく「よしよし」と頭を撫でる。 「昔はさ、『あたしがなるほどくんとはみちゃんのお姉さんがわりだから』なんて言ってたよ ね」 「……言ってたな、そんなコト」 懐かしかった。 七つも年下の真宵が言うものだから、成歩堂は苦笑したものだ。 その真宵が、大真面目な顔で言う。 「……泣いても良いよ、七年分。あの時、泣けなくてツラかったでしょ?」 何が何だか分からないまま弁護士として最後の法廷が終わり、マスコミには好きなように書 かれ、酷く傷ついていたあの頃。 心ない誹謗中傷から隠れるように過ごした日々。 いつの間にか心の痛みを感じなくなっていることに気が付いた。 人間の心はこうやって死んでいくのか……とぼんやり思ったものだった。 ──あの時も、真宵は言った。『泣いても良いよ』と。 だが成歩堂は泣かなかった。泣かない代わりに、こう言った。 『泣きたいんだけどね、涙が出ないんだ。まるで心が麻痺しちゃったみたいだ』 真宵は経験で知っていた。 涙が出ない……、それは心の叫びだと。 傷ついた心が、これ以上傷つかないように自分を閉ざしてしまおうとしている。 泣きたいのに涙が出ない、それは心の悲鳴なのだと。 「ははっ。泣かないよ。──もう、良いんだ」 おどけたように言うわりに、悲しさの色が透けて見える瞳。 全てを悟って諦めたような寂しげな表情は、以前の成歩堂には無かったものだ。 こんな成歩堂を見ると、決まって真宵は胸が締め付けられるような切なさを覚えた。 「まったく、なるほどくんは意地っ張りだねえ」 そう言って、上目遣いで睨んで見せた。 そうでもしないと本格的に目から水滴が零れ出しそうだった。 ──涙目で自分を見つめて不貞腐れる真宵を見た時、成歩堂の中で何かが弾けた。 変わらないなあ、真宵ちゃんは……。 あの頃と同じように弟扱いして、自分は姉のように振る舞う。 外見はすっかり大人びてしまったのに、中身はそのままだ。 あの事件を境に、風貌も、物事の捉え方すらもどこか卑屈に変わってしまった自覚があるの に、今、目の前の真宵の網膜に映っているのは、あの頃と何ら変わらない自分な のかもしれなかった。 ──ふと、成歩堂の顔から力が抜けた気がした。 いや、実際は表情に変わりはなかったのかもしれない。 成歩堂がまとっていた、どこか他者を寄せつけぬ空気が緩んだように真宵は感じた。 成歩堂は俯いて、ポツリと言った。 「……じゃあ、さ。このまましばらく、肩、貸しててくんない?」 「肩? どーぞどーぞ」 薄い肩に顔を埋めて華奢な背中に腕を回すと、猫の毛のようにしなやかな真宵の髪の毛先が、 天使の羽根のような肩甲骨の位置で、成歩堂の手をくすぐる。 「……」 片手に納まりそうなほどに小さな後頭部から背中まで、絹のようにサラサラの髪を撫でる。 漆黒だと思っていた髪は、障子から射し込む西日に透けて栗色がかって見えた。 ふんわりと柔らかな真宵の髪は、いつまでも触れていたいと思うほど心地良かった。 「昔はもう少し長くて、腰のトコでまとめてたよね。前髪も一直線に『パッツン』って切り揃 えてさ」 「うん、家元になって“いめちぇん”してやめたけどね」 頬の辺りまで伸びた前髪を中心よりも右で分けて、サラリと顔に落ちるそれを手で流す。 その横顔から幼さはスッカリ影を潜めていた。 真宵の温もりを感じながら深呼吸すると、懐かしい香りが胸の中に広がった。 髪から漂うシャンプーと、服に焚き染められたお香の香りが優美な梅の花を思わせる。 滑らかな髪の毛がそよそよと成歩堂の頬をくすぐる。 背筋をピンと伸ばして正座した真宵は、肩に寄り掛かったまま顔を埋めている成歩堂の背中 を、むずかる赤ん坊をなだめるように叩いてあやす。 ポン…ポン…という優しく温かい調べが彼の心の殻を一枚ずつ剥がしていき、柔らかく丸く なったそこから堪えていた想いが溢れ出しそうだった。 この七年に想いを馳せた。 時折、無性に真宵に会いたくなっては、何だかんだと理由をつけて遊びに来る生活。日陰の 生活を送る成歩堂には、真宵のお日さまのような笑顔は疲労回復の特効薬で、会 えばいつだって元気をもらえたし、発破をかけられたこともあった。 会う度に女性らしくしなやかに成長して行く娘盛りの真宵がどれだけ眩しかったか。 ずっと言いたかった。 でも言えなかった。 黒い噂の付きまとう自分では相応しくないから。 危険に巻き込んでしまうかもしれないから。 だから、いつか疑惑を晴らしたら……。 ──ああ。その「いつか」がやっと来た。 無邪気に笑う真宵は自分をどう思っているのだろう? 元弁護士と元助手? 兄妹? 姉弟? 友達? ほんの少しでも異性として見てくれているのだろうか。 若かった頃の関係を打破出来るだろうか。 成歩堂の鼓動は緊張で高鳴り、いつの間にか手のひらは汗でじんわり湿っていた。 みぬきや王泥喜がいればたちまち異変を見抜き、成歩堂らしくないと目を丸くして驚いただ ろう。 すっかりスレてしまったと思っていたけれど、まだ自分にもこんな初々しい一面が残ってい たのが意外だった。 それほどまでに募らせた想い。 「あはは、大きい子どもみたいだね」 「……うるさいなあ」 真宵は愉快そうに笑う。 三十路も半ばに差し掛かろうとしている大柄な男が、一回りも二回りも小さな自分の肩に頭 を預けてその背中をポンポンされているのだから、真宵にとっては面白い絵面で あることは間違いない。 だが今の成歩堂には、自分をからかう笑い声すら愛しかった。 背中に回した手をすっと驚くほどに薄い肩に置く。 その手を支えにして成歩堂はゆっくりと顔を下げて行く。 装束越しに触れる鎖骨。 そして、その下の女性の膨らみ。 二つの丘の狭間に耳を付けるとトクトクトクトク…と規則正しい鼓動が少し速めのテンポで 刻まれていた。 頬に乳房の柔らかい感触が当たる。 もちろん触れたことなどなかったが、事務所にいた頃よりも幾分豊かになっているようだっ た。 そのまま右の盛り上がりに頬を寄せると、その頂点を布地越しに正確にとらえて、大きく食 んだ。 「ぁ……ッ……!」 胸の先端から走った電気のような感覚に、反射的にか細く鳴いてしまった真宵は、突然のこ とに目を白黒させて息を引いた。 震える声。 「え……? なるほ……どく……ん……?」 だが成歩堂は真宵の戸惑いなど気にかけることなく唇でそこを甘噛みし続け、瞬く間に装束 に丸い唾液の染みを作り上げた。 湿って透けた装束の下に息吹く、淡い桜色の突起がうっすらと浮き出ている。 成歩堂の唇は、より精度を高めて突起をつかまえて行く。その動きに合わせて真宵は肩をピ クッピクッと小さく跳ねさせた。 真宵は視線を宙にさまよわせながら切なげに吐息を漏らす。 装束越しに形を変えた突起を認めると、成歩堂は口を離して真宵を抱き締めた。 「ダメかな……? ずっと我慢してたんだ。……もう、何年も」 「なるほどくん……」 真宵はしばしためらったあと、吐息を震わせながらおずおずと彼の背中に腕を回した。 真意を確かめるように覗き込むと、頬を赤らめて困ったような表情で目を逸らす。 その仕草は予想外に大人の女性の艶っぽさを秘めたもので、成歩堂は胸を締め付けられるよ うな妙な気分になった。 無言の受容を得て、ゆっくりと体重を掛けて畳の上に押し倒すと、真宵は呟いた。 「ここまでして、ダメも何もないよ……」 切なげに見つめる真宵を、成歩堂はたまらず抱き竦めた。 次へ