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書き込めるかな? 509の待っている人ではないが、投下させてもらいます。 4設定の御剣×茜 やさぐれ茜が嫌な人はスルーしてください。 近頃いいことがない。 じゃらじゃらしたアイドル検事の担当になることが多いからか、そのファンからやっかみを受けているらしい。 おまけにそのじゃらじゃら検事が裁判で負けた場合など、「初動捜査が杜撰だから」「新人弁護士に情報を横流ししたんじゃないの」などと非難を浴びる始末だ。 あたしが何をしたってのよ。 心中で毒づきながら、さくさくとかりんとうをかみ砕く毎日が続いている。 あー、雨が降りそう。 空を見上げて茜は憂鬱になった。すぐそこで強盗殺人が起こったらしく、現場へ向かわなきゃいけないのに、折り畳み傘を置いてきてしまった。 「ついてないなあ。一度戻んなきゃ」 こんな小さなことでも手はショルダーバッグの中のかりんとうに伸びる。 ストレスたまってるのかな、あたし。かりんとうを齧りながら愚痴るという芸当をしながら、茜は署内に引き返した。 小走りに階段を駆け上がったところで思わず足踏みをする。赤いスーツが、目に入った。 「そういうアレゆえ、手間をかけるが」とかなんとか、茜の直属の上司、課長と喋っているのが聞こえる。 主席検事となっている御剣怜侍は当然ながら、検事局のお偉いさん。 こんな風にわざわざ現場担当のところへ顔を出すような人間ではない。よって茜も顔を見るのは久しぶりだ。 今日はどうしたんだろうと茜が思っていると、課長と話していた御剣がこちらに気づいた。 「宝月刑事」 「お久しぶりです、御剣検事!あの、急ぎますので、あたしはこれで」 「ああそうだ、宝月君」 敬礼して前を通り過ぎようとした茜を、なぜか課長があわてて呼び止める。 「例の強盗殺人なら君は行かなくていいから。担当を外れてもらう」 「ええっ!?」 「次の現場は追って指示するから、とりあえず待機しておいて。えーとほら、調書のファイリングも溜まってるし」 「……では課長、よろしく頼む」 呆然とする茜を残して課長も御剣もどこかへ立ち去ってしまった。 現場を、外された。 一気に重くなった足取りで刑事課へ向かうが、部屋はがらんとして誰もいない。 鼻の奥がつんと痛くなった。あたし以外、みんな働いてる。 そりゃあ別に好きでやってる仕事じゃないけど。文句言いながらだったけど。そんなにあたし、ダメかな。 初動捜査と現場保存をしながら、こっそり科学捜査してたんだけどな。 「宝月刑事」 「きゃああっ!!……え?あ、御剣刑事」 「……驚きすぎだ」 「スミマセン。てっきり帰られたものだと」 心臓が止まるかと思った。御剣はいつの間に戻ってきたのだろう。 「ちょうど君と話をしなければと思っていたのだよ」 「あたしと、ですか?」 「時間はあるだろう。ついて来たまえ」 たった今現場をはずされた手ぶらの身だ。断ることもできず後をついていくしかない。 泣きそうだった涙は引っ込んだけれど、泣き損ねたことで消化できない鬱屈が大きくなるのを自分でも感じる。 おまけにダメなところを御剣に見られたのも追い打ちだ。 久しぶりに会ったのがよりによって現場を外されたところだなんて、恰好が悪すぎる。 連れてこられたのは御剣の執務室だった。 「どうぞ。入りたまえ」 失礼しますと蚊の鳴くような声で呟くと、茜は室内に足を踏み入れた。 ここに入るのはこれが二度目だ。一度目は刑事課への配属が決まってすぐ、報告と挨拶に訪れたとき。 科学捜査官になれなかったのはショックだったけれど、いずれ異動もあるだろうと、望みを捨てていなかった頃。 『茜さん。いや、宝月刑事』 ずっと敬語だった御剣の言葉遣いが変わった。刑事と検事、厳しい上下関係の中とはいえ、身内と認められたように。 『私は知人だからといって特別扱いはしない。だが君の努力や信念には大いに期待させてもらおう』 胸を張って御剣と向かい合えたあの時とは違う。 今の自分は、その期待に応えられている自信がない。 カーテンの引かれる音で茜は我に返った。 雨がますます近くなっているのだろう。カーテン越しにも空は嫌な色をしている。 窓から離れた御剣が茜の元へ戻ってくる。睨みつけられているわけでもないのだろうが、顔が険しい。 早くここから出ていきたい。息苦しさに負けて茜は御剣に尋ねた。 「あの、あたしに話ってなんでしょう」 「うむ。君の職務に関することだ。そう……先ほど課長に、君を現場から外すように言ったのは、私だ」 「御剣検事、が……?」 「無論それには理由がある」 目の前が真っ暗になるって表現は本当だったんだ。そう思うくらい、この何年かで一番のショックかもしれなかった。 直属どころか上の上からお達しがあるくらい、何か問題視されることをしてしまったんだろう。 「そっか……あたし、そんなにダメなんですね。そこまでのこと、しちゃいましたか」 「宝月刑事?」 「でもあたし、科学捜査で弁護士に協力した形になったこと、後悔はしてません」 「……君は何か誤解をしているようだ。理由があると、私は言ったはずだが?」 御剣が理由を説明しようとしているが、茜には自分を慰めようとしているとしか思えなかった。 「あた……あたしのことなんて、どうでもいいじゃないですか」 「む?」 泣きそう。違う、もう泣いている?子供みたいに自分の理屈ばかり並べ立てて、言い訳ばかりして、好きな人の前でボロボロだ。 「あれだけみんなに応援されても、留学しても、試験一つ通らない女なんて。ずっと科学捜査官になりたかったのに、結局なれなくて」 ショルダーバッグは置いてきてしまった。気を紛らわせるためのかりんとうがない。 無意識に白衣をまさぐった手が冷たいものに触れる。 指紋検出に使うアルミパウダーのビン。大事な科学捜査の道具。 それをとっさに投げ捨てそうになった自分に驚く。 御剣にもそれは伝わったのだろう。いっそ冷笑の域とさえ言える眼差しで茜を射抜いた。 「それで?君は逃げるというのかね」 御剣に腕をつかまれ、痛みに思わず顔をしかめる。 真正面からその険しい顔を見据えるだけの信念などもう茜には残っていない。 目を伏せた茜には見えなかったが、一瞬御剣は痛みを堪えるような表情を浮かべると、強く茜を引き寄せ抱きしめた。 「…………あ、の」 「私も経験したからこそ言おう。逃げても構わない」 驚きのあまり硬直した茜の肩口に顔をうずめ、御剣は低くうめくように言った。 「だが君はわかっているはずだ。アメリカで科学捜査官の試験を受けることもできた。それでも君が日本で刑事になることを選んだのはなぜか」 突き刺さる正論が痛い。抱きしめられている背中が痛い。耳をふさぎたくても動けない。 けれど裏腹に御剣の腕の中は心地よかった。張りつめていたものがゆっくりと溶け出していく気がする。 「あた、し……」 御剣の力が緩んだ。 少し身体を離し、茜を見つめる目には自嘲的な色が浮かんでいる。 「こんな正論を言うのは簡単だ。だが正論も慰めも、今の君を追いつめるだけだろう」 「それなら」 突き刺されたのは茜のはずだ。なのになぜか御剣の方がそんな顔をするのか。 それを見ているとぐちゃぐちゃだった頭が一気に冷えて、なのに、凍りついたように何も考えられなかった。 「言葉以外で慰めてください」 このまま抱きしめていてほしい、と。 茜をソファに倒し、御剣は覆いかぶさるようにその両側に手をつく。 暗さが増していく部屋で茜はじっと御剣を見上げていた。互いに無言。 ますますヒビが深くなっている。なんでこんなことに……とか思っているのだろう。軽蔑されている可能性だってある。 「御剣検事、さん?」 カーテン越しの稲光が一瞬その気難しい顔を鮮やかに照らす。いつ雨が降り出したのかもわからなった。 御剣はちらりと窓の方を見やった。 「雷は、今でも?」 茜のトラウマを覚えて、気遣ってくれることに驚いた。 冷静そうに見えたとおり、本当に冷静だ。こんな状況に流されているのは自分だけなのだろう。 「今でも怖いし、キライです。でも……今は、御剣検事の方が怖い」 「……どういう意味だろうか」 僅かな沈黙を挟んで、御剣は静かに茜に口付けた。 一度唇を離し――それが「始まり」の合図だったのだろう。 躊躇いを捨てたかのように御剣が再び唇を重ね、少しずつ深くなる行為に茜は緩く目を閉じる。 ファーストキスもそうだし、憧れの御剣とこういうことになるだなんて、昨日どころか一時間前の自分ですら思わなかった。 だから、怖い。 あたしは自棄でこんなことができる女だと思われるのも、これくらいのストレスで自棄になってると思われるのも。 何より、これまで我慢してたことが全部崩れてしまいそうだ。全力で寄りかかってしまいそうになる。 目を泳がせると、さっき脱ぎ捨てた白衣が目に留まる。これだけは皺になったら嫌だからと、自分でソファの背もたれにかけた。 こんな状況でも「これだけは」って思ったのは、やっぱり譲れないから、なんだろうか。 見ていると泣きそうになって、茜は手を伸ばして白衣を掴んだ。 『これで大体の手筈は整ったか。あとは早急にテストの実施に移らねばならないな』 『あー……そういや僕、まだ茜ちゃんに話してなかったんだ』 『む?彼女を推薦したのは貴様だろう。まだ話をつけてなかったのか』 『裁判員の調整に意外と時間くっちゃってさ。彼女はアメリカ帰りで陪審員制度にも詳しいから後回しでも間に合うかなって。悪いけど御剣、これから頼めないか』 『なに?』 『刑事課に話を通して彼女を空けてもらうのはお前の担当だっただろう。ついでに本人にも話せば話が早い。それとも彼女に会いたくない理由でもあるのかい』 『……貴様、何を企んでいる』 『別に。この件で彼女が立ち直ればと思うだけだよ』 君が僕を引っ張り出したようにね。そう成歩堂は続けた。 成歩堂の思わせぶりな口調は今に始まったことではないが、今日ほどわざとらしいのは初めてだ。 何のカードを握っているのか、彼女への説明を怠ったことは故意のように感じられてならない。 そして彼女と二人きりになった途端、これだ。 なぜ彼女とこんなことになっているのだろう。唇を重ねながら、確かに御剣はそう思っていた。 それ以前に、思わず彼女を抱きしめてしまった自分にも苛立ちと疾しさが積もるばかりだ。 『私は知人だからといって特別扱いはしない』 そう言った手前積極的に関わることはしなかったが、茜のことは気にかけていた。 かつての上司の妹だからではない。何度か彼女の科学捜査に助けられ、明るさに励まされたときから。 いつの頃からか、一人異国に留学する心細さを思いやるようになっていた。 彼女が夢を叶え、科学捜査官として戻ってくるのを、御剣とて待っていたのだ。 白衣が床に落ちた。 ボタンを外し露わになった肌は薄暗い部屋でも白く浮き上がる。 柔らかな膨らみに手を這わせると、小さく戦慄きが伝わってくる。 先ほどのキスもどこかぎこちなかった。単なる緊張なのかはたまた。茜の様子から御剣にある疑念が湧き起こる。 「君は初めてなのか」 ぎくりとしたように茜が身じろぎをした。御剣が身体を起こそうとするのをとっさに引き留める。 「……そうだ、って言ったらやめちゃうんですか?」 「質問に質問で返すのはやめたまえ」 「う~。ハジメテ、です」 気づかないフリするのが優しさだと思いますけど、と茜は口を尖らせる。 その言葉も仕草も、御剣の脳裏から疚しさを吹き飛ばすには十分すぎた。それだけの覚悟があるというのならば。もうどうにでもなってしまえ。 「……それは、失礼した」 腕に絡まる指を一本ずつ外し、御剣は茜を再び組み敷いて、言葉を奪うように口づけた。 口腔を蹂躙する御剣を茜は受け止めるのが精一杯といった様子で。 「ぅ、ふ……っく……ぁ」 息を荒げる茜の首筋をきつく吸い上げながら御剣は囁いた。 「今更やめられると思わないことだな。君が煽ったのだ」 滑らかな肌はどれだけ触れても飽きそうにない。 手で触れ、舌で刺激するうちに少しずつ茜の緊張が解けてきたのか、吐息交じりの声が上がり始める。 もっと声を聞きたいと御剣も半ば愛撫に夢中になっていた。 服の上から下半身を撫ぜ、腰のベルトを外そうと手をかけると、茜は少し我に返ったようで不安そうに御剣を見つめてくる。 「あ、の……」 「すまないが腰を浮かせてくれないだろうか。脱がせられない」 淡々としている(ように見える)御剣を茜はどう思ったのだろうか。切なげに瞳を揺らせると御剣の首に抱きつき、自ら唇を重ねる。 浮いたその腰からすべてを取り去り、御剣は茜の中心に触れた。十分とは言えないが潤んでいる。 「ひ…、っ……あ、や……」 とっさに茜は脚を閉じようとするが、片膝を割り入れて防ぎ、「やだ」か「やめて」のどちらかを言いかける口をふさいだ。 どちらにせよ、聞いたところで同じことだ。やめることなどできない。 花芯に触れ、秘所に指を差し入れる度に跳ねる腰。甘い嬌声が耳を打つ。 茜の媚態に御剣も余裕がなくなってくるのを感じた。 固くなった自身を取り出すと、本能的に逃げようとする茜の腰を捉える。彼女が欲しくてたまらない。 「く……あかね、くん」 やはり苦痛なのだろう。身体を強張らせる茜の中はきつい。涙を浮かべている茜の髪を指で梳かすと、彼女は眼を開いた。 何か言いたげな茜の口元に耳を寄せると、御剣の頭を抱きしめて茜はうわ言のように囁く。 「いいんです。忘れたいって言ったの、あたし、だから……っ」 「……………………」 「優しく、しないで、ください」 その言葉に甘えたわけではないが、御剣は茜の中で少しずつ動き始める。 茜が望んだとおり、何も考えられなくなればいい。 日本で警官になる道を選んだのは、異動で科学捜査官になれる可能性がまだ残されているからだ。 彼女はただ科学捜査官になれればいいのではない。大切な人がいる日本で、皆の役に立ちたいのだ。 けれど自分に期待する人たちには今の鬱屈した状況を打ち明けられない。 弁護士バッジを剥奪された成歩堂に、罪により検事ではなくなってしまった姉に、まだ可能性がある人間の泣き言など聞かせられるはずがないのだから。 一人立ち尽くす彼女は、御剣に昔の自分を思い起こさせた。 目指した道が身内の罪によって揺らぎ、それでもこの道を歩みたいのだと、自分の持つ信念を何度も確かめなければならなかったこと。 そうして立て直した心が折れてしまうほど今が辛いのならば、逃げても構わない。彼女は戻ってくると信じている。 君が落ち着くまで抱きしめたい。 私が、君のそばにいよう。 考えているだけのつもりだったのに、気づけば御剣こそうわ言のように口に出していた。 だが、初めての痛みと刺激に翻弄される茜には聞こえていないのかもしれない。 時折差し込む稲光も、それより怖いといった御剣も。 やがて茜は一際大きく声を上げ、御剣の腕の中に力なく落ちた。 10月9日 某時刻 御剣は別室で関係者とモニターを眺めていた。 成歩堂の悪運の強さには感服せざるをえない。 最初は別の事件を選んでいたところに、土壇場でこの事件が起き、どう転ぶかわからぬまま成歩堂はテスト内容の変更に踏み切った。 その結果はどうだ。七年の雌伏を経て悪夢から蘇えろうとしているではないか。 成歩堂だけではない。この事件に関わった者は大なり小なり何かを得て、取り戻して大きく変わろうとしている。 その渦の中に彼女――宝月茜も含まれていると、御剣は信じていた。 以上です。 5が出て、新しい設定が増える前にと焦って書いてしまった。 自分も全裸で待機組に戻ります。
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でこつん(響也×茜) 「あれっ、君も来てくれたんだ」 ドアをノックすると、久しぶりに見る牙琉響也が中から顔を出した。 ライブの後の、ガリューウエーブの楽屋を訪ねた茜は、にこりともせず両手に抱えていた紙袋を差し出して言った。 「招待券、もらっちゃいましたからね。一応挨拶に来ました。はいこれ、差し入れ」 「わざわざありがとう、刑事クン。中へ入りなよ。お茶くらいは出すからさ」 紙袋を受け取った響也は、営業スマイルを浮かべながら茜を中に招き入れた。 「どうぞ、その辺に座ってて」 雑然とした室内に置かれたパイプ椅子に、茜は腰掛けた。壁際のソファの上には、ファンからのプレゼントと思しき包みや花束が、無造作に置かれている。 響也は一旦楽屋の奥に引っ込んだ。少し待つと、彼は片手に湯気の立つ紙コップが二つ乗ったお盆を持って戻って来た。 「あとね、せっかくだから、これも食べちゃおうか」 紙コップを傍のテーブルに置くと、茜が差し入れた紙袋をごそごそと探って、かりんとうの袋を取り出した。紙皿にざーっと開けると、茜に勧めてくる。 「じゃ、まあ、いただきます」 茜はかりんとうをさくさくと無言で食べ始めた。 「あのさあ。前から思ってたんだけど」 立ったままその様子を見ていた響也は、両手を腰に当て、茜の顔を覗き込んだ。 「そんなにかりんとうばっかり食べてて、太らないかい?」 「……う……」 思わず、かりんとうを運ぶ手が止まる。 「それって、結構甘いよね。君、いつも片手に持ってるよね。虫歯とか大丈夫なのかい?」 「…………」 こつん。 「イタッ!」 「太りません。見りゃわかるでしょ」 「あっはっはっは」 赤くなってかりんとうをぶつける茜に、響也は硬い営業スマイルを崩して笑った。 「そうそう、おデコくん達も招待したんだ。さっきここにも来てくれたよ。とっくに帰ったけどね」 それはそうだろう。ライブが終わってから、すでに二時間は経っている。茜も響也も、まだここにいるのが不思議なくらいだ。 「刑事クンは今までどこにいたんだい? まさか、ライブが終わってから来たってワケじゃないだろう?」 茜は口を尖らせながら、しぶしぶ答えた。 「……人がはけるの、待ってたんです。ファンの人達、楽屋に殺到してたでしょ。一応お礼は言っとかなきゃなーと思ったから」 「そう」 「検事さんは、なんでまだ残ってるんですか? 他のメンバーの人は?」 「ああ、もう帰ったよ。僕は、夜中になってから出るつもりだけど」 「なんでまた」 「まあ、色々あってね。夜中なら道も空いてるし。追い掛け回されるのは、さすがにもうウンザリだから」 響也は茜の近くにパイプ椅子を持って来て、ドサッと座り込んだ。天井を仰いで、深いため息をつく。 「大変ですねえ、キャーキャー騒がれるのも」 皮肉のつもりで言ってみたが、聞こえているのかいないのか、響也は答えなかった。相当疲労が溜まっているように見える。 「……じゃ、私、もう帰りますね。どうも、ごちそうさまでした」 その空気になんとなく気まずさを感じて、茜はそそくさと立ち上がった。 「待ちなよ。もう遅いからさ、送っていくよ」 「へ?」 響也は、窓際に行ってブラインドの隙間から外を見た。 「今君一人で外へ出たら、すぐに囲まれるよ。『牙琉響也とはどういう関係ですか』って。もういないかと思ったけど……懲りずにまだ張り込んでいるみたいだし」 「だっ、誰が?」 「僕を追い掛け回してる奴らさ。残念ながら、ファンじゃないみたいだけどね」 茜もその窓から、外を覗いてみた。確かに、会場の出入り口に人影が見える。暗がりでよくわからないが、ちょっとした人数のようだ。 茜が今日のライブで目にした、ガリューウエーブのファン達のようなそわそわした雰囲気ではなく、じっとこちらの様子を伺っていたり、何かの機材をいじっている様子がわかる。 「……テレビ局とか?」 「ああ。雑誌とか新聞とか……色々かな。どれでも同じことだけど」 響也は窓から離れると、テーブルに置いたままのかりんとうをひとつ取って、かじった。 「やっぱり、甘いねこれ」 「べ、別に、無理に食べなくたっていいです。誰か食べてくれる人にあげてください」 「でも嫌いじゃないよ、かりんとう」 「…………そうですか」 会話が微妙に噛み合わないような気がする。元々、何を考えているのかよくわからない人だけど。 茜は話を元に戻そうと思った。 「追い掛け回されてるのって、やっぱり……あの裁判のことで?」 お兄さんのことでとは、あえて言わなかった。 「…………まあ……そんなとこかな」 やっぱりそうなんだろうなあ、と茜は納得した。 新しい試みを取り入れたということで、ただでさえ世間から注目を浴びていた裁判だったのだ。 そこで暴かれた真犯人の実弟、しかもその法廷で検事席に立っていた男、そしてもっと言えば、その人物は人気絶頂のロックバンドのリーダー兼ボーカルなのだ。マスコミの格好の標的になるのは、考えてみれば当たり前だった。 もしかして、あれからずっとこんな調子なんだろうか……。 「ホントに、大変そうですね」 「まあね」 「いつもの調子も出てないみたい」 「ああ、それは、風邪引いちゃったみたいだから」 「風邪?」 ……似合わない。 そう思ったが、口には出さないでおいた。本当かどうかはわからないが、別にどうでもよかった。 響也は窓から離れると、ドアへは向かわずに、なぜかソファを埋めるプレゼントの山をどかして、そこに仰向けに寝転んだ。 「あの……何やってるんですか」 響也は目を閉じて、長いため息をつきながら答えた。 「ちょっと仮眠を取ってから行くことにしたよ。君はその辺で適当にくつろいでて」 「またそんな勝手な……」 茜の抗議を聞かず、響也は本格的に寝入ることに決めてしまったようだった。茜が立ち尽くしたままでいると、すぐに深い寝息が聞こえてきた。 「まったくもー……」 そのまま一人で帰ろうかとも思ったが、しつこいマスコミに捕まるのはごめんだと思い直し、響也が起きるまで待つことにした。どうせ、そんなに長い時間眠っているわけではないだろう。 すでに真夜中近い時間になっていることもあって、人気のない帰り道を一人で行くのが、心細いと思えないこともない。 しばらく手持ち無沙汰にうろうろと楽屋の中を歩き回ったが、特に興味を引くものもなく、結局は元の椅子に腰掛けてじっと待つことにした。 そうなるとどうしても、ソファで眠りこける響也に目が行ってしまう。 「…………」 なんだか、ただ座っているだけなのも馬鹿らしい。 茜はそっと立ち上がり、響也を起こさないように忍び足でソファに近づいた。ポケットからルーペを取り出し、観察する。 最初に会った時から、この検事は苦手なタイプだった。法廷でも、大事なことを茜に教えてくれなかったせいで恥をかかされたりと、散々だったこともあるのだ。 この機会に、何か弱点を見つけてやろう。 眠っている時の恥ずかしい癖とか、何かないだろうか。 「うーむ……こうして見ると、結構キレイな顔してんのよね」 顔を観察するついでに、つい片方の瞼を二本の指でこじ開けた。 「うわっ!!」 途端に悲鳴を上げて、響也が飛び起きる。茜はビクッとして、急いでルーペをしまった。 「なんなんだよ!! 何するんだ君は!!」 「あれー、狸寝入りだったんですか」 素直に謝るのもシャクなので、そっぽを向いて茜は意地悪く言った。 「眠ってたよ! 見ればわかるだろ」 響也はムスッとした顔で茜の顔を睨むように見たが、再び仰向けになって目を閉じた。 「もう邪魔しないでくれよ」 それっきり、また静かになる。 ……やっぱりもう、帰ろうかな。 この人には、いつも振り回されているような気がする。 どっと疲れが出てきて、茜は楽屋を出ようとした。 「う……」 背後から、苦しげな呻き声がした。振り返ると、目を閉じたままの響也の顔が、苦しげに歪んでいる。 「……ふふーんだ。騙されないんだからね」 腕組みをして、背中を向ける。 ……が、足がその場から動かない。 「うう……」 背中を引っ張られるような、うなされた声が聞こえる。 「…………」 肩越しに振り返り、散々迷った後、茜は響也の横たわるソファへ戻った。 屈み込んで、今度はルーペを使わずに見ると、うっすらと額に汗が滲んで、顔全体が赤くなっている。 「や、やっぱり、ホントに熱があるのかしら」 疲れていそうに見えたのは、それが原因だったのかもしれない。追い掛け回されたストレスが、溜まっていたのだろうか。この人でも本当は、やっぱりそういうことがあるんだろうか。 じっと響也の顔を見ながら考え込んでいると、突然両肩を掴まれた。 「……また何か、企んでるね」 響也が不適な笑みを浮かべて、茜を捕らえていた。思いの他、強い力だ。驚いて振りほどこうともがくが、がっちりと掴む響也の手はびくともしない。 「な、なんだ。元気じゃないですか」 虚勢を張りながらも更にもがくが、響也の指が両の二の腕に食い込んできて、どうしても外れない。 「元気じゃないよ。さっきも言っただろう? 風邪を引いたって」 響也は半身を起こして、茜に顔を近づけてくる。 「! ちょ、ちょっと……!!」 あたふたとパニックに陥る茜を、響也はぐいっと引き寄せた。 ごつん。 「痛ッ!?」 「ほら。ちゃんと熱はあるだろう」 響也は自分の額を茜の額に押し付けて、至近距離で両目を覗き込んでくる。 唖然として声も出せずにいると、響也は額をくっつけたまま、すっと茜の肩を放した。 「そうはいかないよ」 すかさず体を引こうとする茜に、今度は響也が意地悪く笑う。 一度離した両手で、今度は茜の両頬を挟んだ。 響也は、焦ってじたばたと暴れる茜の唇を自分の口で塞いだ。 「んんんッ!!!」 目を白黒させて、拳でドンドンと響也の胸を叩くが、まったく効いていない。 「ん――――ッ!!!」 何度目かのパンチで、ようやく響也の唇は離れた。男物の香水の匂いが、茜の鼻先をくすぐる。思わずクラクラとするが、必死で響也を睨みつけた。 「……ごめんね。風邪うつしちゃったかもしれないね」 いつもの余裕の笑みで言う響也に、ふつふつと怒りがこみ上げてくる。 「こ……この……ッ」 体がわなわなと震えだす。 「さて、そろそろ帰ろうか。君のおかげで眠気も覚めたしね」 「バカアアアァァァァァァ――――ッッ!!!」 ゴッッ。 のけぞって思い切り反動をつけた茜の頭突きが、響也の額を直撃した。 「……くっ…………」 「アンタってやっぱり最悪ッ!!」 怒りに任せて怒鳴ると、そのまま勢いよくドアを開けて楽屋を飛び出す。 「刑事クン!」 呼び止める響也の声に、殴ってやろうかとキッと振り向く。 「刑事クン、帰るの? 送るよ」 「結構ですッ!」 「そうかい? 無理にとは言わないけどね」 響也は朗らかな笑顔を浮かべた。 「ごちそうさま。かりんとうも、ね」 「……知りませんッ!!」 叩きつけるようにドアを閉める。 ゆでだこのようになって猛然とその場を走り去った茜は、今ならどんなにしつこい追っ手だろうと蹴散らせるような気がしていた。
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ちなみ×千尋① 心に刻み込められた傷は、癒されはしない。 満たされる物など、何一つ無い。 だからこそ、傷つける事を決める…… -婬雨- (ながあめ) 二月のある寒い日。 寒空の下、一人の女性が風に当たりながら立っている。 綾里 千尋。 弁護士生活の第一歩を、癒えない心の傷によって、めちゃくちゃにされた女性。 千尋は辺りを見回した。 (確か、この辺りのはずなんだけど……) 冷えた手をもみほぐしながら、そう思った。 こんな日に、寒空の下に立っているのには、訳が在る。 千尋はポケットから紙を取り出す。 薄ピンク色の紙には丁寧な字が書かれていた。 『綾里 弁護士 様 ごきげんよう、弁護士さん、美柳 ちなみですわ 急なお手紙に、驚いていらっしゃいそうですわね 実はわたくし、あなたに、お話しなくてはならない事がありますの つきましてはお会いしたいのですが、よろしいでしょうか? ご都合が付きましたら、二月○日にお会いしましょう 時間は○○時○○分 ××××前でよろしくお願いしますわ』 美柳 ちなみ。 千尋が癒えぬ心の傷を負った原因とも言える人物。 手紙は続く。 『二月十六日は本当に残念な事になりましたわね 胸中察しますわ、綾里弁護士さま?』 ぐしゃ、と千尋は手紙を握り潰した。 (胸中察しますわ、ですって?) 唇をかみしめ、千尋は法廷をにこやかに微笑んで出て行ったちなみの事を思い浮かべた。 彼女の魔性の『美』のために、一人の人間が死んだと言うのに。 無念を晴らしたい。 千尋は自分の依頼人の無念を晴らすべく、また自分の無念を、自分の先輩の無念を晴らすべく、こうしてちなみの呼んだ場所に立っている。 自分の先輩である神乃木は、千尋の事を止めようとした。 絶対何かが在る、行くな、と。 しかし、千尋は行くと決めた。 売られた喧嘩は買う、と言う訳ではないのだけれど、もしかするとこれは、ちなみの事を掴み取るチャンスなのかもしれないと、千尋はそう思ったからである。 そして、時間通り来てみたのだが。 ちなみは、居ない。 (約束をすっぽかして喜ぶような相手じゃないと思うんだけど……) 確かに、ちなみは性格が良いとは言えない。 千尋に対しても良い感情は抱いていないだろう。何せ、二月十六日の裁判の証人として出た彼女の事を追い詰めかけたのだから。ちなみにとっては良い迷惑だっただろう。 しかし、こんな些細な嫌がらせで満足するような人物ではない事くらい、千尋には分かっていた。 (絶対、追い詰めてみせる……) 「ごきげんよう、弁護士さん」 「きゃあっ!」 後ろからいきなり声を掛けられ、思わず悲鳴を上げる千尋。 「って、美柳 ちなみさん……」 そこには、約束をした人物、ちなみが居た。時計を見てみると、時間ぴったりだ。遅刻、ではない所が悔しい。 「お寒い中を、お待たせてしてしまいましたようですわね」 ちなみの言葉に、「いいえ、わたしも今来た所ですから」と、千尋は嘘を吐いた。 別にちなみの事をかばい立てする積もりは無かったのだが、まあ要するに、決まり文句みたいな物である。 「それで、わたしに話さなければならない事って、一体何?」 「くす……」 ちなみは微笑んだ。あの時、法廷で見せた微笑みと同じ顔で。 「……」 その笑みに、千尋は何も言わなかった。しばらく黙った状態が続いたが、ちなみが唇を開いた。 「まあ、取りあえず、お食事でもいかが? 弁護士さん」 「弁護士さん、は止めて貰えない?」 千尋の言葉に、ちなみは冷ややかに笑った。 「そう……お嫌なのですね。自分が弁護士だ、と言う事に」 「!」 その冷ややかな目で見据えられた時、千尋は見透かされているのではないかと思った。 「でも、わたくし……あなたの事、はっきり言ってお名前でお呼びしたくありませんの」 (結構な嫌われ方ね……) 千尋は内心、嫌になった。 けれど、どうして彼女が自分の事を呼んだのか分からない。 取りあえずそれだけでも聞き出さなければならない。 上手く行けば、チャンスなのであるから。 「それでは、どうぞついて来て下さいな」 「良いけど、何処に?」 「わたくし、レストランにご予約をいたしましたの。そこでお食事でも取りながら、ぽつりぽつりとお話しいたしますわ」 ちなみの言葉に、千尋は眉をしかめた。 何故、彼女が、自分と食事を取ろう、何て思ったのだろうか。 彼女にとって、メリットは無いはずだ。 「お疑いですのね。このわたくしを」 ちなみが微笑む。 読めない笑顔だ。 「けれど、わたくし一緒に食べたいと思いましたのよ。あなたと」 ぞくり、とした。 その笑みは冷ややかさを通りすぎて残忍であったから。 千尋は心の何処かで恐れる。 (駄目よ、千尋! ここまで来たら、後には引けない!) ごくり、と生唾を飲んでから、「分かったわ」と千尋はかろうじてそれだけ言った。 その言葉に、ちなみは優しく微笑む。 千尋は知っている。 その笑顔は、決して親愛を表してなどいないと言う事を。 それでも、千尋は先を歩き始めたちなみの後を、黙ってついて行った。 温かなデパートの高層部。 千尋は目の前に現れた高級レストランの姿に、ひるんだ。 (こ、こんな所、一度も来た事無い!) 寂しい事に、神乃木ともこんな所には来た事が無かった。 流石は、美柳の人間だけは在る。 美柳の言えと言うのは、大金持ちだと言う事が、二月十六日の裁判で判明した事だ。きっとちなみにとって、こんなレストランなど当たり前の範疇なのだろう。 (何てうらやましい……じゃなかった、無駄な生活してるのよ!) そんなんだったら、少しは今の社会に貢献しなさいよ、などと心の中で愚痴りながら、さっさと中に入って行ったちなみの後に千尋も続いた。 中を照らす証明が、少々まぶしいくらいだ。そして、床にはじゅうたんなどが敷いてある。 (うっ……よ、汚せない) 本当、神乃木を呼ばなくて良かった、と心底思った。 神乃木は千尋が行くのを止めないと分かると、今度は「俺も行くぜ」などと言い始めたのだ。 それを何とかして来ないように千尋は神乃木の事をなだめ、ここに居る。 そのための代償は、夜通し神乃木の色々な相手をする事であったのだが。 とにかく、千尋が神乃木を呼ばなくて良かった、と言うのには訳が在る。 先日事務所にて些細な事を千尋に突っ込まれた彼は「突っ込まれたらダメージを受ける、それが俺のルールだ!」などと訳の分からない事を言い、事務所のじゅうたんに向けてコーヒーを吹いたばかりであったのだ。 コーヒーの染みは落ちない。 それがましてやこんな高級レストランのじゅうたんであったら、もはや千尋は監督不行届を言われてしまう。 「こちらですのよ、早くおいでなさいな、弁護士さん」 ちなみの声に、千尋は我に返った。 こんな時にも神乃木とのやり取りを思い出している自分が恥ずかしくなり、黙って千尋はちなみが手招きする部屋へと入った。 結構離れた所にぽつんと位置する部屋。 そう、部屋だ。 個室だ。しかも、VIPと書かれている。 『Very Important Person』、だ! 高級レストランで、個室、しかもVIPなどとは……千尋は正直言うと、金持ちだと言う事をひけらかされているような気がしてならなかった。 コーヒーの一杯や二杯、こぼしてやろうかと思ったが、ひけらかしているのは美柳 ちなみであって、ここのレストランには何も罪は無いのだ。そんな事を思って、千尋はコーヒーをこぼそうとする事を思い直した。 ちなみはそんな千尋の胸中を察しているのかいないのか、とにかくにっこりと微笑んだまま、黙って部屋に入り、そこに在る椅子(これも結構豪華な物である)に腰かけた。 千尋もひるみながらも部屋の中に入ると、椅子に同じように腰かけた。 「今、フルコースが参りますわ」 (こ、この女!) 法廷の時のように、机をばしんっ! と叩いて異議を申し立てようかと思ったが、場所が場所なだけに、千尋はマナーを守って黙っていた。 (よりによって、フルコースと来たか……) これはもう、嫌がらせとしか言いようが無い。 言いようが無いが、こちらは四歳も年上なのだ。年上は年上らしく、年下に花を持たせたほうが良い。 怒りを沈めようと密かに深呼吸をする千尋を見て、ちなみは微かに口の端を持ち上げた。 「お酒は飲めますの?」 「のの、飲めるわよ! それくらい!」 小馬鹿にしたようなちなみの言葉に、千尋は思わず声を上げた。そして「あ……」と言ってから、赤面して口を閉じた。 一方のちなみは、「それは良かったですわ」と言って微笑んだ。 「楽しみにしていて下さいね」 「そんな事より……どうしてわたしを呼んだの? わたしに話したい事って何?」 「まあ、わたくし、こう言いましたわ。『お食事でも取りながら』と。お聞こえになっていませんでしたの?」 いちいち気に障るような言い方をされ、「ぐっ……」と千尋は唸った。とは言っても、ちなみの言っている事は本当で、先程から『食事をしながら』喋るとは言っているのだ。 だが、こちらも慣れあっている積もりなど無い。千尋は何とかして早く話しておかなければならない事を聞き出し、早々に切り上げようと思っているのだ。(まあ、そうは言ってもこうした高級レストランのフルコースなどと言うのは、なかなか魅力的なのであるが) (く、悔しい……こんな子に、馬鹿にされ続けるなんて) 唇を千尋が噛みしめた時、扉が開いて、ワゴンが運ばれて来た。 「お待たせしました」 「ほら、お待ちになっていたフルコースが来ましたわよ、弁護士さん」 ウェイターの言葉に、何とか千尋が爆発するのを抑える事が出来、ちなみの言葉に、再び爆発しそうになる千尋。 そうしている間にも、ウェイターは迅速に料理をテーブルの上に配置させて行く。 しばらくすると、全て出し終わったウェイターが、最後にワインを取り出した。 「あ、それはわたくしが注ぎますわ」 「し、しかし……」 「わたくし、このフルコースが待ち遠しくてたまらない弁護士さんと仲良しさんになりたいんですわ」 ちなみの言葉にウェイターは「そうですか」と言って、蓋を開けるまでをして、ちなみに手渡した。 「ふふ……ロマネコンティですわよ」 挑発するように、その価値を言って来るちなみ。言われ続けている千尋の脳内は、もはや切れる寸前の綱がみしみしと悲鳴を上げている。 (お、落ち着くの、千尋! こんな所で怒ったら、相手の思うツボなんだから) 数回深呼吸をすると、千尋はふてぶてしく笑った。 もうピンチである。 「まあ、ごゆるりとお食べになりましょう」 (敬語、間違ってるわよ!) 声でこそ言わなかったものの、千尋は思わずちなみに突っ込んだ。 ちなみは微笑んでワイングラスに赤ワインを注ぐと、千尋に手渡した。 千尋は「ありがとう」とだけ言い、そのワイングラスを受け取る。 「でも、食事にダージリンって、合わないんじゃないかしら」 「まあ! お食事は見た目にも細心の注意をお払いにならなければなりませんのよ。不細工な寸胴のコップに入れたお水なんて、この場にはお合いになりませんわ」 そう言って、ちなみはカップを美しく摘まみ上げると、千尋の方に向けた。 「一応、乾杯をなさらないと始まりませんわね」 それが、『完敗をしないと始まらない』と言う風にも捉えられて、千尋は思わず拳を作った。 完敗。 二月十六日の、あの虚しい完敗。 判決こそ下されなかったものの、千尋の中には依頼人を助けられなかったと言う敗北感が拭えなかった。 「……」 千尋は黙ってワイングラスを掲げた。 明るすぎる程の部屋の明かりに、赤ワインは明るい部分とくぐもった部分とに光源が分かれた。くぐもった部分は、まるで血のように見えた。 ナイフとフォークが奏でる無機質な音楽に包まれ、千尋とちなみは黙って食事を口にしていた。 千尋は待っていた。 ちなみが口を開く、その時を。 話さなければならない事、が一体何なのか。 一方のちなみは口を開こうともしない。 何の為に千尋を呼んだのか、千尋には理解出来なかった。 「……」 ちらちらとちなみを見る千尋の目は何時しか鋭くなって行った。 「……」 「……弁護士さん、目が怖いですわよ」 くすり、とちなみが笑った。その言葉に千尋ははっとして、慌てて目許をほぐす。 「睨みつけるなんて、よっぽどお疑いのおマナコをお持ちですのね」 「そ、そんな事無いです!」 そう言って、千尋は赤ワインをぐっと飲んだ。 やはり牛肉と赤ワインは合って良い。 これが11年前なら、こうしたホテルでは牛肉は出なかっただろう。 (……でも、国産なら出るかしら?) 「そうそう、このお牛さん、国産ですわよ」 ぴったりのタイミングで言われた物だから、千尋は思わずむせた。 「お疑いのおマナコをお持ちでしたので……もしかして、安っぽいお肉を食べさせられているんじゃあ、って言う感じに見えましたから、一応言っておきますわ」 (そんな事の為に疑ってた訳じゃないわよ!) ちなみの言葉に、むせながら千尋は突っ込んだ。しばらくむせ続けていたが、持っていた赤ワインを千尋は飲み干す。赤ワインのお陰で何とか落ち着いた千尋は、痺れを切らしてちなみを見た。 「それで、話さなければならない事、言って貰えないかしら?」 しばらくちなみは目を丸くしていたが、やがて「ああ」と言う目をした。 「それでお睨みになられていたんですね」 「……」 「わたくし、実はあなたについて調べましたの」 「……え?」 その意図がさっぱり分からず、千尋は間抜けな声を上げる。 話したい事とは、そんな事なのだろうか。 調べるも何も、弁護士生活をして、初めての裁判にすら勝敗も無かったような弁護士だ。 それ以外に、どんな情報を得られると言うのか? 目を白黒させている千尋を見て、ちなみは柔らかく笑う。 法廷で見せた、あの微笑みだ。 「お霊媒師さま、ですわよね」 「!」 霊媒師、と言う言葉がちなみの口から出て来た時、千尋はぎょっとした。思わず身体が緊張のために熱くなり、手が汗ばんで来た。 千尋は弁護士時代では霊力を使ってなど居ない。それは、二月十六日のあの裁判でもそうだし、それ以前もそんな事はしなかった。そして恐らく、今後もしないだろう。 「もっと詳しく言うと……」 微笑みはそのままで、ちなみは冷たい目で千尋を見た。 その目で射られ、千尋はますます緊張に身体が熱くなった。 それこそ、異様なくらい。 「倉院流霊媒術の家元のお娘さま、ですわよね」 ぞくり、と千尋は何か悪寒を感じた。 身体はこんなにも緊張して熱いと言うのに。 「何で……あなたが……」 それを、と言おうとした時、千尋が手に持っていたワイングラスが、急に重たく感じられた。 千尋は慌ててワイングラスをテーブルの上に置く。と同時に、千尋は目の前がくらくらした。 (え……?) 何が起こったと言うのだろうか。 頭がぽーっとして、身体中が熱い。 緊張から来る熱さとは違う、何か。 「やっと……効いたようね」 冷ややかに笑いながら、ちなみが口を開く。 そう、本性を表した時のような、冷たい口調で。 ちなみはそのまま椅子を立ち上がり、千尋の方に向かって歩き始める。 「な……にを?」 何処か恐ろしさを感じ、何かをちなみにされたのだ、と言う事だけが分かった千尋は、ぼんやりとしながらちなみに尋ねた。ちなみは千尋の目の前まで立つ。 「はん……さっきの赤ワインに媚薬を入れさせてもらったの。分かる? び・や・く」 媚薬、と言う言葉に合わせ、ちなみが千尋の胸をつついた。千尋の身体がひくついた。 「あたしがアンタのワインを注ぐ時にね、手の中に持っていた媚薬を入れたのよ」 そう言って、ちなみは掌をひらひらと揺らす。 千尋は恨めしそうにグラスを一瞥した。 「けど、アンタも馬鹿よね。まさか本当に来るなんて。あたしの事知ってて来たの? それとも、本当に何も知らないで来たお馬鹿さんなのかしらね」 (どうせ、お馬鹿さんよ……) もはや言い返す事も出来ないくらい頭がぼんやりとしている千尋は、かろうじて頭の中でちなみに突っ込んだ。 だが、彼女にそれで届くはずも無い。 ちなみは無防備になった千尋の胸に掌を押しつけた。 「ン、う……あっ……」 ひた、と胸に張りつく手の感触に、千尋は思わず声を漏らす。 「あ、なた……こんな、所で……何、考えて、るのよっ……」 頭はぼんやりとしながらも、このまま流されてはいけない。そう思った千尋は何とか声を絞りだして、ちなみに言った。 その言葉の覇気の無さに、ちなみは千尋を見下す形で笑った。 「アンタこそ、忘れてるんじゃないの? ここはホールよりも離れたVIPルームよ。人が来るにはあそこのボタンを押さない限りはありえないのよ」 そう言って、ちなみは千尋の服の前のジッパーを、わざと音を立てて胸の下まで下ろした。 「ちょっ……や、止めなさいっ!」 「アンタ……何も知らなかったのね。あたしの事」 (……?) 何を言われているのか、さっぱり分からなかった。 ちなみの事なんて、何も分からない。 それなのに、どうしてこうもちなみは関係があるように関係があるように言うのだろうか。 ただの嫌がらせか? それとも訳の分からない事を言って翻弄させようと言うのだろうか? いずれにしても、ちなみの言葉は千尋には理解出来ない事だった。 そんな千尋の事を見ながら、ちなみは千尋の服に隠れていた胸を乱暴に掴むと、そのまま揉み始めた。 「あっ、ン……ふうっ……や、止め、なさい!」 「何が『止めなさい』よ。少し揉んだだけでこんなに声を上げてるのに」 そう言って、ちなみは千尋の胸の突起部分をぴんっ、と指で弾いた。 「ああっ……!」 電流が流れたように、千尋の身体がびくんっ、と震えた。 「もしかしてアンタ、この上なく感じてる? 女にされるのって、もしかして初めてなの?」 指先で千尋の胸を弄びながら、冷ややかにちなみが言う。 (初めてじゃなかったら怖いわよ!) 千尋は叫びたかったが、あえぎ声でもはや口が使われてしまっているため、心の中でしか突っ込めない。 「あたしはね、初めてじゃないわよ。女相手にって」 「!」 「あたしには妹が居るの。『アンタと同じよう』にね」 何で、それを…… 千尋の唇だけがそう動く。妹が居る事なんてそうそう人に言うような事でもないから、あまり周りには言っていなかった。ちなみは何故千尋に妹が居る事を知っていたのだろうか。 やはり、成人してこちらに来るより前の記録を見たのだろうか。 「真宵、だったかしらね。あたしは知らないけど」 「ん、ふあっ……あんっ……」 先程よりもいやらしい手付きでちなみは千尋の事を弄ぶ。指先で何度もその先端をこね回し、そのたびに千尋があえぐのを見ては鼻で笑う。 「とにかく、妹にもしてあげるから、あたしは慣れてる訳。こんな風に……」 そう言って、ちなみは乳首を唇で挟むと、そのまま舌を使って幾度と無く刺激をした。 かと思えば、その歯で軽く噛む。 「ああんっ……ひっああぁ!」 途端、千尋の身体にしびれるような快楽が襲い掛かった。千尋は身体をのけぞらせ、思う様にあえぎ声を上げる。 媚薬の効果で千尋の理性は徐々にほぐされて行った。 しばらく舌と歯で刺激を送ったちなみが、口を離し、冷徹に笑う。 「どうすればより感じるのか、何処が一番高まるかを知ってるのよ」 残忍な言い方に恐れを抱いたけれども、それ以上千尋は何もする事が出来なかった。ちなみは千尋の耳たぶに顔を近付けた。 「や…め………」 とろんとした目で、それでも千尋が訴える。そんな千尋の言葉を振り払い、ちなみは千尋の耳に付けられたイヤリングに舌を這わせた。 舌が動くたびにちなみの唾液がイヤリングを伝って千尋の耳たぶにじわ、と広がった。 「くふ、うっ………」 生温かい液体に、千尋は鳥肌が立った。 生まれて初めての恥辱に、千尋はどうすればよいのかも分からず、ただ襲い来る恐怖と快楽に身を委ねるしかない。 ちなみは千尋のそんな表情と反応を楽しみながら、イヤリングを舐め続けて行く。 そのざらざらした舌は、イヤリングの弧の通りに動き、やがてそれは付け根の部分まで来た。 すなわち、ちなみの舌は、千尋の耳たぶを舐め上げたのである。 「ひあっ!」 生温かい液体から、急に柔らかな感触の舌が滑り込まれ、千尋は叫んだ。 舌が、耳たぶをなぞる。 「う、んんっ……ぁ、はあっ……」 陵辱に対する悔しさと、襲い来る快楽に揉まれ、千尋の意識が溶けて行く。 ちなみはそんな千尋をあざ笑いながら耳たぶを舐め上げ、終いには耳たぶを甘噛みした。 微妙な力の入れ具合と、耳たぶにあたるちなみの歯の感覚が、千尋を更に高めて行く。 普段神乃木と及ぶ行為とは違った行為に、千尋は背徳感と束縛感を覚えて行く。 そんな千尋の表情を見て、感じ取ったのだろう。ちなみは千尋の耳たぶを甘噛みしながら空いている手の内の片方で千尋の乳房を再びいじくり始める。 「あ、んっ……ぁ……っ!」 ちなみの腕の飛び入り参加に、千尋は身体をのけぞらせる。 と、舌を這わせていたちなみが急に顔を離した。 「あたしがアンタを呼んだのはね……」 そのまま千尋の顎に空いている手を添え、持ち上げて目を合わせる。 「何も知らないであろうアンタに教えに来たのよ」 「ふ……ぁ、な、にを……?」 くらくらしながら、千尋はちなみの言葉に答える。 その様子を見て、冷たい表情のまま、ちなみは千尋の唇を、自らの唇で塞いだ。 「んっ……」 目の前に、ちなみが居る。その事実に千尋は思わず瞳を閉じる。 だが、五感の内の一つ、視覚を遮った分、聴覚と触覚は敏感になる。 千尋の口内に、ちなみの舌が無理矢理挿入され、その舌によって千尋の舌が絡み取られる。そのために、千尋の口内はお互いの唾液にまみれた。 「んふっ、ふぅっ……んぅ……っ」 口内を荒らされているために、上手く呼吸も出来ず、声を上げる事も出来ない。 うめき声が、敏感になった聴覚に捉えられ、千尋は自身の声に陵辱されて行った。 そんな中、ちなみの指先が、千尋の乳房から離れた。 そして、そのまま下腹部に向けて進み始める。 (いやっ! 止めてっ……!) 声を出せない状況の中で、千尋は何とか拒絶しようとした。ちなみの手をフラフラな手で振り解き、そのまま千尋は携帯を取り出した。 千尋はボタンを数回押した。 それをちなみは振り払う。千尋の手から、携帯が弾き飛ばされた。 ちなみは千尋の携帯の画面を見る。 そこには何の変哲も無い、ただの画面だけが映っていた。 「電話でも入れようとしたのかしら」 「………」 「まあ、電話だろうとメールだろうと、今の時間じゃ何も出来なかっただろうけどね」 そう言って、再びちなみは千尋に近付くと、強引に床に押し倒した。 「うくっ……」 背中に広がる痛みに、千尋はうめいた。何とかして千尋はちなみから逃れようとするが、ちなみはそれをさせない。 そのままちなみは千尋の身体に再び手を掛ける。千尋は足を閉じようとした。だが、先程から頭はぼーっとしているし、身体はちなみが与える快楽を待ち望む状態に徐々になりつつある。 先程と同じく、ちなみは千尋に口付けた。今度は優しく、甘く。 千尋の理性をしびれさせてしまうほどに。 ちなみは千尋の表情を楽しみ、指を更に下部へと移動させた。 スカートの裾まで、ちなみの細い指が届く。 「んんーっ!」 千尋が叫ぼうとしたが、その前にちなみがその舌を絡め取ってしまう。 ちなみの指が、そのままスカートの中へと侵入した。そして、千尋のショーツにまで届く。 千尋は慌てて両足を閉じようとした。 それを見ると、ちなみは唇を離し、自分の足を千尋の両足の間に挟み、それ以上閉じられなくなるようにした。 「そんなにつれなくしなくても良いじゃないの」 ちなみは指を進め、ショーツの上から千尋の敏感な部分に指を押し付けた。 「ひっ……」 「あたし達……従姉妹(いとこ)なんだから」 その言葉に、千尋の頭は真っ白になった。 今、彼女は何と言った? 誰が、何だと言った? 「気付かないアンタに教えるために、呼んだのよ」 呆然とする千尋の事を見ながら、ちなみは冷たく言う。 「アンタとあたしが、『従姉妹』だと言う事を」 「や……」 ちなみの口から出た真実に、千尋は首を横に激しく振る。 「アンタも、あたしと似てるのよ。誰かを殺してしまうの。アンタが受け持った依頼人を見殺しにしてしまったように」 「いやああああああああっ!」 千尋は泣き叫んだ。 絶望のあまり、身体が上手く動かない。 傷付いた千尋の身体に鞭を打つかのように、ちなみは再び指先を動かした。 「あひぃ……っ」 何とか千尋を支えていた理性も、今や途切れ、千尋の口からは快楽の反応のあえぎ声が絞り出された。 ちなみの指が、千尋の『部分』をショーツ越しに幾度と無く刺激を与えて行く。 時に優しく、時に残忍に。その部分が緊張をほぐすまで、ちなみは何度も安定しない愛撫を繰り返した。 じわり、とショーツが湿る感覚が現れる。 「んくっ…はぁんっ!」 それが千尋自身にも分かるのだろう。小刻みに身体を振るわせ、顔は紅潮しきった千尋が、千尋の陰部をなぞり続けているちなみの指をせがみ始めた。 ちなみは千尋の表情と、身体の反応に満足し、千尋のショーツに手を掛けた。 「あ……」 もはやちなみの行為に抵抗する気力さえも残っておらず、とろんとした目でちなみの事を見詰めている千尋が、かろうじて甘い声を上げた。 それを楽しみながら、ちなみは千尋のショーツを膝頭辺りまで下げた。そして、そのショーツを見てから、千尋の方へと視線を向ける。 「薬は偉大よね。少しの愛撫で、こんなに濡らさせるんだから」 「……っ」 言葉で犯されていく千尋。 「どんな味がするのかしらね。家元の娘のって」 「は、ぅ……」 涙目になり、甘い吐息を吐く千尋を後目に、ちなみは両足の間に顔を近付けた。そして、舌を出す。 秘部に、ちなみの舌が近付く。 「あっ、だ……だめぇっ……」 弱々しくそう言うものの、千尋の両足には力が入らず、その部分を露わにしていた。 ちなみは千尋の秘部を舐め上げる。 「あ、ああぁんっ!」 電流が走ったような、そんな感覚に、千尋はのけぞった。思わずあえぎ声も悲鳴にも似た声になってしまう。 女性に、舐められている。 そんな慣れない状況と感覚が、千尋の閉ざしていた感情を掘り起こす。 「あふ、あああっ……い、いいのっ! は、ううっ!」 身体はますます熱くなりながら、千尋は舐め続けるちなみの舌に合わせ、声を上げる。 「んくっ、そ、こ……もう、ぐちゃぐちゃに濡れちゃううううっ!」 普段絶対に言わないような淫靡な言葉を遂に吐く千尋。 「イ、イクっ、イっちゃうううううううっ!!」 その言葉に、自分自身が感じてしまっているのだろうか。千尋の秘部は、千尋の愛液で濡れて行く。その愛液を舌で拭ってから、ちなみは顔を上げ、千尋の方を見る。 「ここまで感じるなんて……淫乱なのね、アンタ」 喋りながら、ちなみは指を再びそこになぞらせ、刺激を与える。 「ん、ひぃっ……」 目を閉じて、押し寄せる快楽に微かな悲鳴を混ぜたあえぎ声を上げる。 「じゃあ、アンタのここは、感じるかしら?」 ちなみは更に千尋の両足を広げさせると、雛尖(ひなさき)を指で摘まんだ。 「ひっ、ああっ! い、痛っ……!」 急に押し寄せた痛みに、千尋は眉をしかめる。その様子を見て、ちなみは驚いた顔をする。 「へえ……ここは痛いの……アンタ、まだ子供ね」 「あっ、かはっ……」 雛尖をいじり続けるちなみに、千尋は痛みを訴えるように激しく首を横に振った。 「普通、ここは女は感じる部分なのよ」 「く、ふうっ……やっ……痛い、あふっ…!」 「流石は家元の娘様ね。思った事をすぐ口に出来るんだから」 そう言って、冷ややかな目でちなみは千尋の方を見た。 「あたしは分家だったのよ。母親の名前はキミ子。とは言っても、もう籍も違うけど」 「お、ばさま……の……」 痛みと、快楽に揉まれながら、ぼんやりと千尋はちなみの言葉を反芻する。 「家元と言う下らない物のせいで、アンタ達のせいで、あたし達はめちゃくちゃにされたのよ! 何もかもを!」 憎々しげにそう言うと、ちなみは立ち上がり、赤ワインのボトルをテーブルから持って来た。 そのまま、ちなみは千尋の両足の間に、赤ワインのボトルの口を向ける。 一瞬、何をしたいのかが分からなかった千尋は、差し向けられたボトルの先を見、ぞっとした。 挿れられる……! そう思った時には、もうボトルは千尋の中に在った。 「あ、あああっ!!」 いきなり冷たい液体がどくり、どくりと入って来る感覚に、千尋はがくがくと震えた。 ボトル内にまだ残っていた赤い液体は、傾けられた角度に忠実に従い、千尋の内部へと流れ込んで来る。 「あんっ、く、はあああっ!」 そうした物を普段絶対に入れない千尋にとって見れば、いきなりの冷たい来訪者に声高く反応せざるを得ない。 ちなみはそれを楽しみながら、どんどん赤ワインを入れて行く。 「心配しなくても、ワインには何もしてないわ。媚薬なんかも入れてないから」 耳元に口を近付け、吐息が掛かるようにしながらちなみが言う。 「でも、急性アルコール中毒になるかもしれないわね」 そう言ってから、ちなみは千尋の耳たぶを軽く舐め上げ、目じりから流れた涙を舌で拭った。 ぞくり、と悪寒と快感の混ざった寒気が千尋の背筋を撫でる。 「ひああっ、んぅっ!」 舌で舐め上げられ、下部はワインが注がれ、千尋の頭の中はもはや真っ白になっている。 「あたしは……アンタとの関係を教えると同時に、アンタを傷付けに、壊しに来たのよ」 ボトルの角度を更に上げ、急速にちなみは千尋の中に赤ワインを注ぐ。 「あひぃ……っ!」 「白ワインの方が良かったかしら? 何だかこれだと血を流しているみたいね」 冷淡に言いながら、それでも注ぐのを止めようとしない。 千尋の秘部は、受け入れきれなかったワインにまみれ、あふれ出た赤ワインによって一帯を濡らされていた。 「けど……あたしにとってはこんなの、全然たいした事無い恥辱よ。あたしがアンタ達一族に付けられた心の傷は、こんな物じゃ癒えない」 ちなみはそう言って、千尋からワインボトルを引き抜いた。 ごぼ、ごぼり、と残っていたワインが、千尋に、千尋の服に、じゅうたんに落ちる。 血のような跡を残して。 「汚しちゃったわね。赤ワインと、アンタの蜜で」 「あふっ……んんん……」 言葉で再び犯され、千尋は涙を浮かべて首を横に振った。 媚薬は、効果が薄れて来たらしい。千尋の身体が在る程度言う事を聞くようになって来た。 けれど、戻るにはもうすでに遅かった。 千尋は精神も身体も犯され、残ったのはわずかな快楽と多大な恐怖であった。 それでも、ちなみは千尋の事を掴むと、千尋の秘部に向けて指を進めた。 「い、いやっ……あっ」 もはや逃れられないのか、と言う恐怖に、千尋は首を激しく横に振った。 ちなみは残忍な笑みを浮かべ、千尋の内部をその指で貫こうとした。 「それ以上は強姦罪、だぜ」 扉の外から声が掛けられ、ちなみは驚いて顔を上げた。 その隙に、千尋は何とかしてちなみの手を振り解く。だが、そこまでで千尋は床に座り込む形になった。 その時、扉が開く。 「!」 千尋はその人物の姿に、息を飲む。一方のちなみも呆然とする。 「アンタ……どうして!?」 「連行されちまったコネコちゃんを連れ戻しに来たのさ」 「な……」 ちなみが驚きの声を上げる。 「どうして……それを……」 「クッ……てめえが何かしようとしている事なんざ、最初からお見通しだ。この、神乃木 荘龍にはな」 「神乃木さん……!」 「もっとも、見通せないコネコちゃんも居たらしいがな」 そう言って、神乃木は千尋の方を見た。 あられもない姿であるのと、見通せなかったと言うのとが、千尋の羞恥心を掻き立てる。 ちなみはいまいましそうな顔をする。 「あたしは待ち合わせ場所しか書かなかったわ。それに、時間まで見張っていたけどアンタは居なかった。それなのに、何故ここが分かったと言うの!」 どおりでちなみの来る時間が遅いと思ったら、そんな事をしていたのか。千尋はぼんやりとそう思った。 「確かにあの場に俺は居なかった。だが……俺達はある約束をした」 「約束、ですって……」 「何かが起こったら、メールを送るってな」 そう言って、神乃木はポケットから携帯を取りだし、画面を見せた。 そこには、千尋が指し出し人で、題名も何も無い白紙のメールが映っていた。 あの時か、とちなみは思った。 一度だけ、千尋が携帯を持った瞬間。 あの時、何の変哲も無いただの画面だと思ったのは、メールを送信した後、メニューに戻った画面だったのだ。 「でも! そこには場所は書いてない。それなのに、ここだと言う事を絞り込めるはずが……」 「あるさ。圧力を掛けたいのなら、普通の人間が滅多に行かない所に連れて行けば良い」 そう言って、神乃木は(何処から取り出したのか)コーヒーカップを取り出し、ごきゅ、と飲んだ。 「アンタの挑発的な手紙を見れば、一目瞭然、だぜ。圧力も同時に掛けるような性格だ、とな」 神乃木は千尋の方に向かって歩いた。 千尋の方も、何とかして神乃木に近付こうとしている。しかし、恐ろしさからなかなか座り込んだ状態のまま動く事が出来ないで居た。 そんな千尋の元まで辿り着くと、神乃木は千尋の事を抱き締め、かばうような形になった。 「恨むぜ。何せここに入るためだけに、俺は高いコーヒーを頼んだんだからな」 「……ぐ……っ」 ちなみはうめいた。その手は震え、その瞳は二人を睨み付けている。 しばし、沈黙が続いた。だが、先に沈黙を破ったのは、ちなみの溜息だった。 「……良いわ。今日はこの辺りにしといてあげる」 ちなみの言葉に、神乃木が睨みつける。 「待て。てめえがした事は……」 「はん……あたしは『いや』と言われた後、そこの女を犯してなど居ないわ。それ以前に一回言われたけど、それはこう言う行為に対して言われた訳でもない。つまり……強姦罪にはならないわよね」 小賢しい事を言うちなみ。神乃木はうっと詰まった。 「クッ……なかなか、嫌な所をつついて来やがる」 神乃木は唇を噛んだ。 「はん…………それじゃあ、これ以上ここに居ても仕方在りませんし、そろそろわたくし、帰りますわ」 「ま、待てっ……」 「お勘定はわたくしがお払いいたしますわ。ご心配なく」 そう言って、ちなみは扉まで歩いた。そこで、振り返る。 「それではお二人とも、ごきげんよう」 あの時と同じように、法廷の時と同じように、ちなみは美しく微笑むと、何も無かったかのように部屋を出て行った。 神乃木は追い掛けようとしたが、千尋が神乃木の服を掴んで阻んだ。 「離れないでっ! 傍に、居て……」 未だ恐怖の中に居る千尋の言葉に、神乃木はしばらく黙っていたが、やがて千尋の方を振り向き「ああ」と言うと、千尋の事を再び優しく抱き締めた。 (許せねえ……) 神乃木は徐々に強く千尋の事を抱き締めていきながら、心の中で思う。 (千尋をこんな風にした代償、高く付くぜ。美柳 ちなみ……) そして、神乃木はそっと千尋に口付けた。 レストランを出たちなみは、いまいましそうにレストランを振り返った。 (後少し、後少しであの女を壊す事が出来たと言うのに……) ちなみは突然の乱入者を思い出し、唇を噛み締めた。 何故、あの女にばかり、救いの手が差し伸べられると言うのか。 自分はあの女のせいで、何もかもがめちゃくちゃになったと言うのに。 だから、ちなみは千尋が許せなかった。 何の苦労も無く育ち、どんな意図があったにせよ、あっけなく家元の座を捨てた千尋を。 その家元の座のために、自分達は弄ばれたと言うのに。 「良いわ、綾里 千尋。今回はあたしの負けで」 そう呟き、冷淡にちなみは微笑んだ。 あの時。 神乃木が千尋に近付き、千尋も神乃木にすがり寄った時。 ちなみは確信したのだ。 「アンタが一番傷つく方法を見付けたのだから」 そう言って、ちなみは高らかに笑い飛ばした。 雨の音が微かに聞こえて来る。 外は、雨が降っていた。 長い雨に、なりそうだった…… (終わり) 自分の中じゃちなみは誰に対しても攻めな気がするんですね。だからあやめに対しても攻め。義姉さんに対しても攻めなんですよ。 つまり小悪女。(ちなみスキーさん、ごめんなさい) こんな事書いている自分ですが、自分はカミチヒ大フィーバー中です。 もっとカミチヒ書いて欲しいです。自分にはエロの表現がまだ足りないので。 それと、無茶苦茶ネタばれでしたね。本当にご迷惑をおかけしました。 ネタばれ解禁になるまでは、自粛します。 m(_)m
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成歩堂×冥(5) 車道と歩道を隔てる街路樹から、蝉時雨がしとど降りそそいでいる。 少女は長く緩やかなカーブを描く坂道を独りで登っていた。 膝丈から大分短い、上等な黒絹のスカートからすんなりした足を伸ばし、ようよう交互に動かしていく。 その足取りはトボトボと覚束ない。 蝉の声は暑さを和らげてくれるどころか、少女の不快感と疲労感をますます助長させ増幅させる。 少女は時雨に濡れた髪を鬱陶しげに肩の後ろへと払った。 行く手には夏の西日に炙られたアスファルトから陽炎が立ち上り、睨みつけた少女の視線は自ずと目的地へと向けられた。 丘の頂上近くにひっそり建っているホテル、そこを少女は目指していた。 (あの男、いったいどういうつもりなの) 状況が把握できずに苛立ってくる気を落ち着けようと、見えない鞭の柄を握りしめる。 しかし、体の一部のように馴染んでいたそれは、今や少女の手の中にない。 ホテルのロビーで彼女を待っているはずの人物に奪われ隠されてしまったのだ。 歩いていくうちに、木立の間から建物の全容が見えてきた。 大きな三角屋根のスイス観光地風の外装は少女の趣味に合うものだったが、彼女は全く目に留めず、まっすぐ入口を見つめて入っていった。 静かに開く自動ドアをくぐった少女は首を巡らした。たちどころに目的の人物は見つかった。 冷房のせいか、この真夏に背広を着込んでいるくせに涼しげな笑顔で、少女に向けてラウンジ奥の席から片手を上げている。その笑顔が無性に少女の気に障った。 ツカツカとその男の座っているソファに歩み寄り、正面から指を突きつけて言い放った。 「さっさと返しなさい、成歩堂龍一!」 するとどうだろう。男―――成歩堂龍一は人の持ち物を隠しておきながら相変わらず笑みを絶やさず、テーブルを挟んだ向かいの席を指して言った。 「まず座ったら。歩いてきて疲れたんじゃないの」 「余計なお世話よ! だいたい、車を使うなと脅迫したのはキサマの方でしょう」 「脅迫・・・ひどいなあ。もうちょっと違う表現してよ、狩魔冥」 ひどく楽しげに、汗の浮いたグラスからアイスコーヒーをすする。 普段であればここで鞭の2、3発も食らっているところだ。だがその切り札は己の手の中にある、と思いながら成歩堂は少女―――狩魔冥の拳を流し見た。 力の限りに握りしめられた冥の黒い革手袋がギリギリと音を立てている。素手ならば掌に爪が食いこんで血が滴るであろうほどに。 もともと色素の薄い顔色が、今や紙のように白くなっていた。成歩堂はそれを目にし、さすがにからかい過ぎたかと襟を正した。 「じゃ、はいコレ」 ソファの背に立て掛けられた書類鞄から長さ30cmほどの紙袋が取り出され、テーブルの上に己から離して置かれる。 冥は立ったまま紙袋を手に取った。その感触は間違いなく愛用の鞭だった。 苦労して取り戻した分身に、しかし冥は安堵できずに立ちつくした。 やけにすんなり返しすぎる。 冥のあまりの怒りように怖じ気づいたとも考えにくかった。成歩堂がそれくらいのことで恐れるような肝の持ち主ではないと、冥はよく知っていた。 では何故、何のためにこんな卑怯な行動に出たのであろうか。 あともう一つ思えば成歩堂の言う通り、暑い中を登ってきた体は、休みもせず屋外に出ていくことを拒否している。 そこで冥は成歩堂の向かいの席に腰を下ろした。成歩堂は手を挙げてウェイターを呼び、アイスティを頼んだ。 郊外の丘の上、森の中に建つホテル。そのラウンジで待ち合わせたスーツ姿の青年と理知的な美少女。 という状況にも関わらず、2人の周囲は緊張感でピンと張りつめていた。 いくつか用意された客席は互いに見えないよう植え込みで仕切られており、そのため他の客も店員たちも2人の異様な空気に気づくことはなかった。 注文の品を運んできたウェイターだけが、その空気に怯えて逃げるように厨房に戻っていった。 冥は成歩堂の方から切り出されるまで待つつもりでいた。 気が短い性質の彼女には苦行であったが、法廷の外でまで答えを求めて縋りつくような真似はしたくない、そう思い決めていたのだ。 その甲斐あってか、氷がすっかりコーヒーを薄めてしまった頃、成歩堂がため息をついて口を開いた。 「今日来てもらったのはさ、今日の、というか今回の君は何かおかしいって思ったからなんだ」 今回の裁判では、努めて普段通りに被告人の有罪を立証したつもりだった。自分自身そう思い込もうとした。 実はそうではないと、わかってはいたのだ。 冥にはそれを見抜かれたくない人物が2人いた。それは弟弟子の御剣怜侍と、宿敵の成歩堂龍一。 だから担当弁護士が成歩堂ではないと知ったとき安心したのだった。 それがまさか傍聴席から見られていて、しかも隠していた秘密を見抜かれていたとは。 見えない手によって丸裸にされてしまったような気がした。頬がカッと燃え上がった。 「な、何かおかしいって、何がどうおかしいと言うの」 平静を装うこともできず、グラスに伸ばした手はカタカタと震えている。成歩堂は冥の様子に言いよどんだ。 「いや・・・何がってハッキリとわかったわけじゃないけど」 「そんな曖昧な好奇心でこんな所まで呼ぶな!」 冥はホテルのロビーだということも忘れて叫んだ。鞭の入った紙袋を思いきり攫うように取り上げて腰を浮かせた。 「あ」 成歩堂が一声発するのと、冥の脳裏に警報が鳴るのは同時だった。 取り返しのつかない出来事を目撃する時、目撃者の目にはその出来事はスローモーションに見えるのだという。 紙袋に弾かれたグラスが倒れていく様、テーブル板に倒れたガラスが砕け散る様、投げ出されたアイスティが冥の服めがけて叩きつけられる様まで、2人の目には確実に焼きつけられた。 音を聞きつけたウェイターが布巾を手に飛んでくる。 「お客様、お怪我ありませんか!?」 「あ、大丈夫です。すいません、グラス割っちゃって」 成歩堂が濡れたテーブルを手早く紙ナプキンで拭いていく。 その光景は落ちついて座ったままの冥を置き去りに展開されている。 否、金縛りにあったように動けずにいる冥の。 「・・・大丈夫? 狩魔検事」 「あ。え、ええ。何でもないわ」 パサリという音とともに膝の上に布が掛けられた感触、それと気遣わしげな成歩堂の声で我に返った。 見下ろすと成歩堂のものらしいハンカチが濡れたベストとスカートを隠していた。グラスの破片とウェイターはすでに姿が見えない。 度重なる羞恥に冥は唇を噛んで俯いてしまった。成歩堂はそれを知ってか知らずか、指で頬を掻いて独り思案を始めた。 「困ったなあ。ここらへんは服屋もないし、ホテルの人にクリーニングしてもらうしか・・・いやいや、でも着替えもないし、服屋もないし・・・」 放っておけば冥の意識をよそに何時までもどうどう巡りを続けそうに見えた。 しかし唐突に結論が出たらしく、笑顔で口を開いた。 「今日泊まっていくってのはどうかな。あ、もちろん君だけ。代金はぼくが出すから」 冥は面食らった。何がどうなっているのか。 事態は目まぐるしく移り変わり、ついていけない。 「なぜ私がこんなところに泊まらなければならないの!」 「いや、だってその服じゃ帰れないんじゃ」 「それは・・・」 冥の聡明な頭脳はたちまちここに泊まった場合のタイムテーブルを組み立てた。 必要な資料は全て検事局に置いてきた。今日のうちにクリーニングを急かして終わらせ、明日は早めにチェックアウトすれば通常どおりに仕事に戻れるだろう。 そこには何も問題はないように見える。しかし大きな問題が一つ。 「あなたに出してもらう義理などない」 すっかり余裕を取り戻した冥の冷ややかな目が成歩堂を見上げる。 「鞭も返ってきたことだし、私は休んでいくからあなたは帰りなさいな」 「・・・え」 <スレにて連載中>
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成歩堂×冥(5) 車道と歩道を隔てる街路樹から、蝉時雨がしとど降りそそいでいる。 少女は長く緩やかなカーブを描く坂道を独りで登っていた。 膝丈から大分短い、上等な黒絹のスカートからすんなりした足を伸ばし、ようよう交互に動かしていく。 その足取りはトボトボと覚束ない。 蝉の声は暑さを和らげてくれるどころか、少女の不快感と疲労感をますます助長させ増幅させる。 少女は時雨に濡れた髪を鬱陶しげに肩の後ろへと払った。 行く手には夏の西日に炙られたアスファルトから陽炎が立ち上り、睨みつけた少女の視線は自ずと目的地へと向けられた。 丘の頂上近くにひっそり建っているホテル、そこを少女は目指していた。 (あの男、いったいどういうつもりなの) 状況が把握できずに苛立ってくる気を落ち着けようと、見えない鞭の柄を握りしめる。 しかし、体の一部のように馴染んでいたそれは、今や少女の手の中にない。 ホテルのロビーで彼女を待っているはずの人物に奪われ隠されてしまったのだ。 歩いていくうちに、木立の間から建物の全容が見えてきた。 大きな三角屋根のスイス観光地風の外装は少女の趣味に合うものだったが、彼女は全く目に留めず、まっすぐ入口を見つめて入っていった。 静かに開く自動ドアをくぐった少女は首を巡らした。たちどころに目的の人物は見つかった。 冷房のせいか、この真夏に背広を着込んでいるくせに涼しげな笑顔で、少女に向けてラウンジ奥の席から片手を上げている。その笑顔が無性に少女の気に障った。 ツカツカとその男の座っているソファに歩み寄り、正面から指を突きつけて言い放った。 「さっさと返しなさい、成歩堂龍一!」 するとどうだろう。男―――成歩堂龍一は人の持ち物を隠しておきながら相変わらず笑みを絶やさず、テーブルを挟んだ向かいの席を指して言った。 「まず座ったら。歩いてきて疲れたんじゃないの」 「余計なお世話よ! だいたい、車を使うなと脅迫したのはキサマの方でしょう」 「脅迫・・・ひどいなあ。もうちょっと違う表現してよ、狩魔冥」 ひどく楽しげに、汗の浮いたグラスからアイスコーヒーをすする。 普段であればここで鞭の2、3発も食らっているところだ。だがその切り札は己の手の中にある、と思いながら成歩堂は少女―――狩魔冥の拳を流し見た。 力の限りに握りしめられた冥の黒い革手袋がギリギリと音を立てている。素手ならば掌に爪が食いこんで血が滴るであろうほどに。 もともと色素の薄い顔色が、今や紙のように白くなっていた。成歩堂はそれを目にし、さすがにからかい過ぎたかと襟を正した。 「じゃ、はいコレ」 ソファの背に立て掛けられた書類鞄から長さ30cmほどの紙袋が取り出され、テーブルの上に己から離して置かれる。 冥は立ったまま紙袋を手に取った。その感触は間違いなく愛用の鞭だった。 苦労して取り戻した分身に、しかし冥は安堵できずに立ちつくした。 やけにすんなり返しすぎる。 冥のあまりの怒りように怖じ気づいたとも考えにくかった。成歩堂がそれくらいのことで恐れるような肝の持ち主ではないと、冥はよく知っていた。 では何故、何のためにこんな卑怯な行動に出たのであろうか。 あともう一つ思えば成歩堂の言う通り、暑い中を登ってきた体は、休みもせず屋外に出ていくことを拒否している。 そこで冥は成歩堂の向かいの席に腰を下ろした。成歩堂は手を挙げてウェイターを呼び、アイスティを頼んだ。 郊外の丘の上、森の中に建つホテル。そのラウンジで待ち合わせたスーツ姿の青年と理知的な美少女。 という状況にも関わらず、2人の周囲は緊張感でピンと張りつめていた。 いくつか用意された客席は互いに見えないよう植え込みで仕切られており、そのため他の客も店員たちも2人の異様な空気に気づくことはなかった。 注文の品を運んできたウェイターだけが、その空気に怯えて逃げるように厨房に戻っていった。 冥は成歩堂の方から切り出されるまで待つつもりでいた。 気が短い性質の彼女には苦行であったが、法廷の外でまで答えを求めて縋りつくような真似はしたくない、そう思い決めていたのだ。 その甲斐あってか、氷がすっかりコーヒーを薄めてしまった頃、成歩堂がため息をついて口を開いた。 「今日来てもらったのはさ、今日の、というか今回の君は何かおかしいって思ったからなんだ」 今回の裁判では、努めて普段通りに被告人の有罪を立証したつもりだった。自分自身そう思い込もうとした。 実はそうではないと、わかってはいたのだ。 冥にはそれを見抜かれたくない人物が2人いた。それは弟弟子の御剣怜侍と、宿敵の成歩堂龍一。 だから担当弁護士が成歩堂ではないと知ったとき安心したのだった。 それがまさか傍聴席から見られていて、しかも隠していた秘密を見抜かれていたとは。 見えない手によって丸裸にされてしまったような気がした。頬がカッと燃え上がった。 「な、何かおかしいって、何がどうおかしいと言うの」 平静を装うこともできず、グラスに伸ばした手はカタカタと震えている。成歩堂は冥の様子に言いよどんだ。 「いや・・・何がってハッキリとわかったわけじゃないけど」 「そんな曖昧な好奇心でこんな所まで呼ぶな!」 冥はホテルのロビーだということも忘れて叫んだ。鞭の入った紙袋を思いきり攫うように取り上げて腰を浮かせた。 「あ」 成歩堂が一声発するのと、冥の脳裏に警報が鳴るのは同時だった。 取り返しのつかない出来事を目撃する時、目撃者の目にはその出来事はスローモーションに見えるのだという。 紙袋に弾かれたグラスが倒れていく様、テーブル板に倒れたガラスが砕け散る様、投げ出されたアイスティが冥の服めがけて叩きつけられる様まで、2人の目には確実に焼きつけられた。 音を聞きつけたウェイターが布巾を手に飛んでくる。 「お客様、お怪我ありませんか!?」 「あ、大丈夫です。すいません、グラス割っちゃって」 成歩堂が濡れたテーブルを手早く紙ナプキンで拭いていく。 その光景は落ちついて座ったままの冥を置き去りに展開されている。 否、金縛りにあったように動けずにいる冥の。 「・・・大丈夫? 狩魔検事」 「あ。え、ええ。何でもないわ」 パサリという音とともに膝の上に布が掛けられた感触、それと気遣わしげな成歩堂の声で我に返った。 見下ろすと成歩堂のものらしいハンカチが濡れたベストとスカートを隠していた。グラスの破片とウェイターはすでに姿が見えない。 度重なる羞恥に冥は唇を噛んで俯いてしまった。成歩堂はそれを知ってか知らずか、指で頬を掻いて独り思案を始めた。 「困ったなあ。ここらへんは服屋もないし、ホテルの人にクリーニングしてもらうしか・・・いやいや、でも着替えもないし、服屋もないし・・・」 放っておけば冥の意識をよそに何時までもどうどう巡りを続けそうに見えた。 しかし唐突に結論が出たらしく、笑顔で口を開いた。 「今日泊まっていくってのはどうかな。あ、もちろん君だけ。代金はぼくが出すから」 冥は面食らった。何がどうなっているのか。 事態は目まぐるしく移り変わり、ついていけない。 「なぜ私がこんなところに泊まらなければならないの!」 「いや、だってその服じゃ帰れないんじゃ」 「それは・・・」 冥の聡明な頭脳はたちまちここに泊まった場合のタイムテーブルを組み立てた。 必要な資料は全て検事局に置いてきた。今日のうちにクリーニングを急かして終わらせ、明日は早めにチェックアウトすれば通常どおりに仕事に戻れるだろう。 そこには何も問題はないように見える。しかし大きな問題が一つ。 「あなたに出してもらう義理などない」 すっかり余裕を取り戻した冥の冷ややかな目が成歩堂を見上げる。 「鞭も返ってきたことだし、私は休んでいくからあなたは帰りなさいな」 「・・・え」 <スレにて連載中>
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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 元ネタ:逆転裁判 ※AA多用 2013/03/20 無名 ◆4xyA15XiqQ http //jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/14921/1363769381/ 戻る 名前 コメント すべてのコメントを見る お菓子な逆転でしょ -- (名無しさん) 2013-03-24 09 34 45 「可笑しな」についてはよくわからないけど面白かった -- (名無しさん) 2013-03-24 06 18 10
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※615からの流れを参考にしており、いくつかのレス内容そのまま頂いております。 ※エロのみ。 ※恐らく逆裁4前後のどこか。設定はとても適当。 ※成歩堂の一人称形式。 ※二人の間に子供あり。成歩堂が鬼畜でド変態で30代無職。 ***** 「……ぃ……んぁ……っ」 ぼくの下で真宵ちゃんは必死に痛みに耐えている。 うっすらと汗ばんだ額に苦悶の皺を寄せ、耳まで赤く染めて固く目を閉じる姿はぼくの興奮をひどく煽った。 本能のまま、がむしゃらに動きたくなる衝動を押さえ込み、むしろゆっくりと真宵ちゃんの中を味わう。 『今度こそ女の子が欲しいから、今日は絶対イカないようにする!なるほど君も協力してよね!』 なんて言い放った真宵ちゃんの剣幕に圧され、性急に、ほとんど前戯なしに挿入させられたのがついさっきのこと。 無理やりこじ開けた真宵ちゃんの中はまだ固く、濡れてないせいで少し痛い。 初めて体を重ねたときみたいだな、なんて思って苦笑を漏らすと、真宵ちゃんが微かに目を開けてこちらを見ていた。 「な、るほど、くん……?」 「なんでもないよ」 そっと頭を撫でてやると真宵ちゃんは少しくすぐったそうな顔をした。 出会ってから約10年、体を重ねるようになってもう5年以上が経つ。 子供っぽさの残る少女の体はいつしか女性らしい丸みを帯び、特に子供を産んでからは胸や尻もずっしりと質感を増した。 肉が付いたね、なんて言って怒られたこともあったけど、 柔らかく成長した肢体は少女時代のほっそりしたそれとはまた別の良さがあってぼくは気に入っている。 真宵ちゃんの中も、固く締め付けてきた10代の頃とはまた違った、 柔らかく包み込むような感触が心地良いのに。 跡取り娘が必要だからって、入れてただ出せだなんて種馬扱いは正直少し面白くなかった。 そんなぼくの気持ちに気づかないのか、真宵ちゃんはじっとぼくを見上げる。潤んだ瞳で見つめられて一瞬息が止まった。 「なるほど君……イキそう?」 「……いやいやいや、まだ全然だよ」 答えて、じっくりとほぐすように中を行き来する。 女の子を産むために愛撫は禁止と言い渡されたけど、中で動くことに関しては特に言及されなかったし、 第一ぼくが気持ち良くならなければ子供を授かることだって出来ないしな。 そう心の中で言い訳して、ひたすら真宵ちゃんの弱いところを重点的に擦りたてた。 長い付き合いで彼女の弱点は全て把握している。浅いところでゆっくり動かして、 真宵ちゃんが気を緩めたところで大きくスライドする。 わざと動きを止めて真宵ちゃんが息を整えるのを待ち、整えきる前に最奥を抉る。 中がほぐれ、水気を帯びてくるまでにたいした時間はかからなかった。 「ぁ……っ、ちょ、ちょっと、な、なるほどくん……っ……」 耳まで赤く染めて、真宵ちゃんが必死で声を押し殺す。 既に真宵ちゃんの中はどろどろに溶け、いつも以上に熱くぼくのものを締め付けていた。 抗議を無視してひたすら真宵ちゃんを攻め立てる。 少しの間、粘着質な音と、真宵ちゃんの噛み殺した嬌声だけが室内に響いた。 ふと、悪戯心が沸いてぼくは真宵ちゃんの耳に顔を近づけた。 「凄いね。きみの中、いつもよりずっと熱いよ」 ほら聞こえるだろう?と囁くと、すすり泣くような声で 「やめて……」 とだけ返し、真宵ちゃんは唇を噛みしめる。 その姿がまたぼくの劣情を呼び起こす。 見た目はすっかり大人の女性なのに、恥らう表情は少女の頃のままだ。 さっきの意地悪な気持ちがまた鎌首をもたげ、そっと耳元に唇を寄せた。 「『女の子が欲しいから今日は感じないようにする!』じゃなかったのかい?」 「や、あぁ……!言わな……でぇ……」 泣き出しそうな声にぼくのものが一層硬度を増す。 「はは、大丈夫だよ。ぼくも協力は惜しまないからね」 笑顔で動きを止めてやる。そのまま身じろぎせずにいると、真宵ちゃんは戸惑いの表情を浮かべた。 「ほら、イカないようにしないと」 「う、うぅ……」 汗に濡れて上気した顔が泣きそうに歪み、次第に俯いていく。上り詰める途中で焦らされて、かなり辛そうだ。 けれどその声も表情も、ぼくの劣情を煽るだけで……実のところこの状態はぼくとしても結構辛い。辛いが、弁護士はピンチの時ほどふてぶてしく笑うものだ。 と、そう教えてくれた師匠の妹をぼくはこうして散々弄んでいるわけで、 当の本人にバレたら怒られるどころじゃ済まないな……。 そんな風に気を散らしてイクのを我慢していると、いつしか真宵ちゃんの腰が少しずつ動いていた。 「……っ……んぅ……ぁ……」 無意識なのだろう。蕩けた瞳で、一生懸命にイイところを探す真宵ちゃんはひどく色っぽかった。 亡き姉を髣髴とさせる美しい顔に、苦悶とも喜悦ともつかない表情を浮かべ、 必死でぼくにしがみついてぎこちなく腰を揺らす。 (うう……カワイイなあ……) 我ながら変態くさいとは思うのだが、真宵ちゃんの嫌がる姿を見るとつい興奮してしまう。 普段は押しが強くて時々ナマイキで、しょっちゅうぼくを振り回している癖に、こういう時だけは従順で恥じらい深くなる。 そのギャップがたまらないし、いつもの立場を逆転しているようでなんだか少しだけ嬉しい。 それに何より羞恥に悶える真宵ちゃんは本当に可愛らしかった。 (とても子供がいるようには見えないな……) 子供たちの前でお母さんしている真宵ちゃんもいいけど、 やっぱりぼくの前で……ぼくの前だけでこうして乱れてる真宵ちゃんが一番好きだ。 「なるほど君、ねえ、お願い……お願いだから……ッ」 我慢できなくなったのだろう。目に涙さえ浮かべてか細くオネダリをしてくる。 その姿にぼくの心臓が大きく跳ねた。 そのまま感情の昂ぶりに任せて突き上げる。お互いの息が荒くなる。真宵ちゃんの中が締まる。 無意識になのか背中に回された細い腕に、心地良さと愛しさを感じる。 「イクよ……」 真宵ちゃんは必死で首を振る。刹那、最奥まで突き上げて、欲望の証をぶちまけた。 それに反応するように真宵ちゃんの中もぎゅっと締まる。 最後まで余さず中に注ぎ込むと真宵ちゃんが細く息を吐いた。 「はは、イっちゃったんだね?」 「……なるほど君のエッチ!スケベ!ヘンタイ!オニ!アクマ!アクダイカーン!」 隣に寝転んで軽く頭を撫でてやると、涙声で顔といわず体といわずばしばし叩かれた。うう、結構イタイぞ。 「悪かったって……そんなに拗ねないでくれよ」 「もう知らない!」 どうやらかなり怒らせてしまったみたいだ。ぷいと背中を向けてしまった真宵ちゃんの小さな体を後ろから抱きしめる。 「調子に乗ってごめん。でもさ、子供なら男の子でも女の子でもいいじゃないか。 どちらでも可愛いし、無理に産み分けることはないって」 「それはそうだけど」 「そのうち女の子も出来るよ。無理する必要はないだろう?」 「そう言ってもう4人続けて男の子だったじゃない……」 「うう、ま……まあ大丈夫だよ。真宵ちゃんはまだ若いしそのうち出来るさ」 「なるほど君はもう若くないけどね」 「ぐっ……」 さらっと放たれたキツい一言に心を抉られる。確かにぼくは若くないし30代無職だけど。 「真宵ちゃんの為ならたとえ火の中、水の中、だからね。 いくらでも頑張れるよ」 「……なるほど君のエッチ。スケベ」 呟いて、腕をほどくと真宵ちゃんはくるりと振り向いてぼくの胸の中に飛び込んできた。 俯いたままの真宵ちゃんをもう一度抱き寄せる。 「……も」 「ん?」 「あたしも……なるほど君の赤ちゃんなら、何人産んでもいいよ」 今日みたいなのはもう嫌だけどね。そう付け加えてぼくを抱きしめてきた。 その仕草にどうしようもなく愛しさがこみ上げてくる。 「まったく、真宵ちゃんには敵わないなあ」 「まあね、なにしろ家元で元影の所長でお母さんだからね」 「関係あるのか、それ」 二人してくすくす笑いあい、軽く口付けを交わす。 「女の子が生まれるまで頑張ってね、パパ」
https://w.atwiki.jp/gspink/pages/228.html
前 ウエディングドレス姿のみぬきちゃんがオレの前に立っている。 顔を赤くして、下から見つめてくるその姿がとてもかわいらしい。 日差しが差し込み、オレたちの影を伸ばしていた。 誰もいない教会。二人だけの世界だ。 国ではオレたちは一緒になることができない。 ここは誰でも結婚をさせてくれる町、ラスベガス。 Minuki Naruhodo と Hosuke Odoroki と書かれた婚姻証明書の前で オレ達の影が重なる。 漢字で書かれたそれを手にすることは、生涯できない。 祝福する何者もいない中で体を離したオレの耳元に、小さく声がかかる。 聞き取れなかったその言葉を聞きなおすと、少しだけ大きな声で言ってくれた。 「やっぱり、王泥喜みぬきになりたかったな、って」 「みぬきちゃん‥‥」 あいかわらず、彼女は決して泣くことはない。その切なそうな顔のままに させておきたくはなくて、もう一度唇を近づけた。 「発想を逆転させるんだ、オドロキ君!」 「きゃあっ!」 大きな声がして、みぬきちゃんが飛び上がった。 「せ、先生?」 これはたしかに牙琉先生の声だ。きょろきょろと見回すがどこにもいない。 そうだ、先生は刑務所のはずだ。こんなところにいるはずがない。 「結婚をし、成歩堂みぬきが、王泥喜みぬきになることができないなら!」 先生の声はさらに高い。どこにいるんだ、あの人は。 「彼と同じことをもう一度すればいい!」 彼? 彼って誰だ。 神父の姿をした先生がどこからともなく現れると、オレに指をつきつけた。 「成歩堂みぬきを養子縁組することで、王泥喜みぬきにすればいいんです!」 「な、なんだって!」 「パパっ!」 みぬきちゃんがオレに走りよってくる。見たこともない姿だが、 小学校くらいのころのみぬきちゃんだろうか。これはこれでやっぱりとてもかわいい。 「みぬきちゃ‥‥いや、みぬき」 抱きあげ、ぎゅっとしがみついてくるみぬきちゃんの体を抱きしめる。 「これでみぬき、王泥喜みぬきになれたんだよねっ」 「ああ、そうだね」 「みぬきねっ、大きくなったらパパと結婚するの!」 「ははは、みぬき、大きくなるのを待ってるぞっ」 そのままオレたちは教会を出て行く。後ろから先生の声が響く。 「オドロキ君、きみの未来に幸があるように!」 ありがとう、先生! 「牙琉! キミのそれは逆転とは言わない!」 「な、なにっ!」 それにかぶさるように声が響いた。教会のドアを開けて入ってくるのは成歩堂さんだ。 「発想を逆転させるとは、こういうことをいうんだ!」 先生に指を突きつける。さすがに似合っているな、場違いながらそう思う。 「成歩堂みぬきが、王泥喜みぬきになることができないなら! 王泥喜法介が成歩堂法介になればいい!」 「な、なんだってぇ!」 元通りの姿になったみぬきちゃんがオレにしがみついてくる。 「これでオドロキさん、本当のお兄ちゃんになれたんだねっ!」 「いや、最初から本物だから!」 「ホースケ、大きくなったらパパと結婚するのっ」 「オレ、そんなこといってないよ!」 「ははは、法介、男同士は結婚できないぞっ!」 「なああああああああるううううううううほおおおおおおおおおどおおおおおおお!!」 (なんて夢を見てるんだ‥‥オレは) どんよりと顔に縦線をいれながら、オドロキはため息をつく。 (だいいち、養子縁組をしたところで、問題はなんにも解決しないよ。 そもそも、性的関係にある場合は養子縁組は認められないはずだ。 ‥‥たしか。それにしても、それをどうやってみぬくんだろう。どうでもいいけど) もう一度深く息をして、疑問とともに夢の残滓を外へと追いやる。 枕元の時計は普段の起床時間よりもかなり早い。 寒さは日に日に厳しくなっているはずだが、そんなことは二週間前から微塵も感じなくなっている。 体中から熱気を発散しているような少女とともにいるようになってから。 暗くなりはじめた思考を遮るように、目の前にある愛しい少女の顔を見る。 夢の中のそれと変わらず、オドロキの見慣れた、幼い表情が吐息を立てている。 あいかわらず起きる気配はない。感触を思い出し、唇に目がいく。 なんとなく手を伸ばす。 (ぷにゅ、ぷにゅ、と) 張りのある小さな唇を指先でいじる。はじくような感触の、手触りを楽しむ。 「おいーっす」 下唇を手前に引き、小さく声を出してみる。整った顔が崩れて、かなり変な表情だ。 頬を両脇から押しつぶしたり、鼻を上向きに向けてみたり、後で知られたらかなり 怒られそうな表情をさせてみたりした。 「はははは、はは」 笑い声が漏れた。部屋の中にすぐに消えてしまったけれど。 (そういえば昨日は、みぬきちゃんの前で、ほとんど笑えなかった) 相変わらず崩した顔から指を離すことなく、神妙な表情でオドロキはみぬきを見る。 そのまま、ベッドの上に、裸のまま半身を上げ、背筋を伸ばす。 くだらない夢と、目の前にいる面白い顔の少女のせいで、少しはすっきりしたようだ。 オドロキは持ち前の強いまなざしを取り戻す。涙のあとはもう見えていない。 (泣いていても解決なんかしないよな) (みぬきちゃんのために、オレのために、より良い方法を考え、選択しよう) みぬきと同じように、オドロキも本来前向きと勢いが信条だ。 大きく息を吸う。最近忘れていた。元気を出すためには、これが一番だ。 「王泥喜法介、大丈夫ですっ!!」 「朝からうるさいなぁ、オドロキさんは」 耳元でとんでもない声を聞かされ、それによって叩き起こされたみぬきはふてくされている。 そんな声が聞こえていないのか、返事もせずに朝食の用意をしているのはオドロキだ。 化粧の時間がほとんどないみぬきは朝にあまり時間がかからないが、 シャワーなどを浴びている間に作っている。 着替えたみぬきが食卓についた後、オドロキはさっそく用件を切り出した。 「みぬきちゃん、今日は時間はある?」 「えっと、今日は学校が終わったらその後は何もないですけど」 「そうか。じゃあ帰りはすぐに事務所に寄って」 「うん、わかった」 仕事でもあるのかな、とみぬきは思った。 昨日よりはずっと元気そうなオドロキをみて、みぬきは口に出さずにほっとする。 オドロキに言ってはいなかったが、昨日のオドロキはとても憔悴しているように見えたのだ。 そのままにするのが忍びずに、だから、恥ずかしかったけれど、元気を出してもらおうと 自分から積極的にしてみた。 昨夜を思い出し、食事をしながらみぬきは赤面する。オドロキには何を見られてもいいとは 思っているが、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。 普段は朝の早いみぬきが先に出るが、朝の早かった今日は二人で一緒に部屋を出る。 糊のきいたシャツにトレードマークの赤いスーツを身にまとったオドロキを間近で見る。 力強く前を見るオドロキの横顔は、いつからかみぬきの胸を熱くさせるものになっていた。 視線に気がついたオドロキが、みぬきの顔を見る。その視線に昨日のようなぶれはない。 「行こうか、みぬきちゃん」 部屋からさほどかからず、分かれ道に近づく。 みぬきは握っていた手をはなし、足を止めて、男を見た。 「いってらっしゃい、みぬきちゃん」 「いってきます、オドロキさん」 人のいないほうから、そっと頬にキスをして、学校へと向けて駆け出した。 事務所についたオドロキは、昨日は目を通す時間のなかった成歩堂が残した書類を読み始めた。 内容は、やはり別の法律事務所や弁護士の紹介状がメインだ。 中にはアメリカのものもある。手回しのいいことに、ペアでの宿舎が用意される ということまで書いてある。この国からいなくなることまで想定しているのだろうかと、 オドロキは思った。 それ以外にも、王泥喜法律事務所を設立するパトロンになってくれるという 書類まであったのには驚いた。 あやしげな商売のようだが、そんなに儲かるものなのかなと不審がる。 他にも、専属弁護士契約の予約もはいっている。なんとかマシスという署名だ。 画家のようだが、そんな職業に弁護士が頻繁に必要なのだろうか。 かなりの分量のあった書類をすべて読み終わり、オドロキは一息つく。 二週間でまとめるにはかなり大変だったろう。成歩堂に感謝の意がおきる。 成歩堂への怒りはあった。最初から言ってくれていれば、みぬきとは仲の良い兄妹として ずっと過ごせていたことだろう。 こんなことになる必要はなかったはずだ。 ただ、それでもオドロキは、みぬきを一人の女性として愛せたことと、 その時間をくれた成歩堂に、ある意味では感謝もしている。 この二週間はオドロキにとって、代えようもなく大切なものだった。 オドロキは全てを過去形で考える。 みぬきと別れることは、彼の中ですでに既定事項となっていた。 「みぬき、ただいま帰りました!」 事務所のドアが開く。 多くの書類がのった机の前で、オドロキはいつものように声を返した。 「お帰り、みぬきちゃん」 こわばった表情のみぬきを見るのは悲しい。その思いは表情に見せず、オドロキは続ける。 オドロキの謄本をまず見せてから、言葉をなくしてしまったみぬきへ、 成歩堂の2つの話、4つの選択を聞かせた。 「オレの話はこれで終わりだ。昨日の昼、成歩堂さんにここまで聞いたんだ。 みぬきちゃんに話を聞かせない、という選択はなくなったわけだけど」 最初にオドロキが消去したのは、みぬきに真相を伝えない、というものだ。 何も言わずにそのままつきあうことは、自分が許せなかった。 何も言わずに消えることは、考えはした。それも取らない。 他の、わざと自分を嫌わせる、などの選択肢も考えた。 全ては捨てた。自分は弁護士だ。全ては対話のなかでしか生まれない。 誤魔化しや逃げで、それを否定することはできない。 「それで‥‥オドロキさんの結論はどうなったんですか」 固い表情はくずさない。名前を呼ぶ前のためらいは、兄と呼ぶ行動だったのだろうか。 「昨日抱いてくれたのは‥‥そういうことですか?」 「オレの望む選択は、みぬきちゃんとは別れることだ」 揺ぎない発言に、表情が固くなる。告白の、その時よりもなお。 「そして、オレは、この成歩堂なんでも事務所でそのまま働いていきたい。 みぬきちゃん、キミとも二週間前までのように、付き合いたい」 ひどく自分勝手なことを言っているな。オドロキは思う。 捨てた上で、元通りにつきあっていきたいと言っているのだ。 ひどい男だ。 「みぬきちゃんが、オレがそばにいることを許せないといっても、出て行くつもりはない」 (首だとでも言われればどうしようもないけど) 後の台詞は口に出さずに、閉じる。みぬきの発言を待つために。 それは、さほど待つこともなく、返された。 「‥‥パパは、選択はオドロキさんに任せるっていったんですよね」 「ああ」 「じゃあ認めます」 あっさりとそう言った。表情もぬぐったように元に戻っている。 「そう」 みぬきの許諾に、無感動な返答を口に出す。 「はい。でも」 「でも?」 「でも、今日までは恋人ですよね」 「え?」 「だって、一緒に働いてても、友達でも、そうじゃなきゃ兄妹でも、裸で一緒のベッドに 寝てるのは変ですよね」 「まぁ、そうだけど、それは今朝までということなら」 「ダメです。ものごとには区切りってものが必要なんです」 強い口調でみぬきは詰め寄る。もごもごと反論を口にしようとしたが、 昨晩体を合わせた弱みに、オドロキはいい答えを探すことができず、しかたなく折れた。 「‥‥わかったよ。じゃあ、どうしようか。恋人らしく、デートでもしようか」 みぬきはふるふると首を振る。 「手を繋いだり、一緒にごはんたべたり、お買い物したりなら、2週間前までも ずっとしてましたよね」 「まぁ、たしかに」 「オドロキさんの部屋に行きましょう」 「何をするの?」 「決まってるでしょ」 みぬきはオドロキに指をつきつけて、宣言した。 「Hです」 オドロキは飲み物とできあいの食料を買ってアパートへと向かっている。 みぬきは着替えてから薬局へと行くという。 一緒にいこうよとオドロキは誘ったが、それは明日からでもできますといって意に介さなかった。 自宅への道中で、冷たい風にさらされながらオドロキは先ほどまでは見せなかった迷いの表情で 自問を続けていた。 (これでよかったのかな) 考えても答えが出ることではない。というよりは、考えたら答えはひとつしかなかった。 結局は、セックスと愛だ。 オドロキは、セックスと、それ以外を比べたときに、あまりにも失うものが 多すぎると感じた。理性的に言うと、全てを敵に回すもう一方は選ぶことは不可能だ。 セックスがなくとも、みぬきを愛せることはオドロキは自負している。 今までの関係についても、みぬきの年齢や、二人が会っていたのはアパートやその周辺に 限られることが良い方向に働く。もともとよくくっついていた二人だ。 気づかれることはないだろう。まことや茜には説明すればいい。 まだ肉体関係にまで及んだとは思っていないならば、なお好都合だ。 オドロキは、なにか暗くなり始めた考えをやめる。それを考えるのは明日でいい。 今日の自分は、恋人とやりまくるために料理をしなくてすむ買い物をしている バカップルの片割れだ。眉間の皺を寄せるよりは、鼻の下を伸ばすべきだろう。 その時、ちょうどいいタイミングで携帯の着信音が鳴った。 非通知のディスプレイを見ながら受ける。 「はい、もしもし」 「やあ、オドロキくん」 「‥‥成歩堂さん?」 成歩堂の声だ。オドロキは不思議に思う。 この人はこっちの行動をずっと見ているんじゃないだろうか。 「オレに任せるんじゃなかったんですか」 「いや、すまない、気になったんでね。で、どうかな。決まったかい」 「ええ、決まりました」 「へえ、さすがに早いね。それで、どういうふうにしたの」 「みぬきちゃんには話しました。そして、彼女とは別れます。 ただし、事務所からは出ていきません。みぬきちゃんのそばにはいますよ」 「そう、か」 「今さら成歩堂さんがダメだとかいうのは認めませんよ。 それと、成歩堂さんがみぬきちゃんに今回の件で嫌われても、オレは助けませんからね」 「‥‥ああ、そうか。それは困るな。だけど、ま、大丈夫だろう」 「余裕ですね」 「そうかな。余裕なのは、キミのほうだと思うけどね。ぼくは、オドロキくんが 『みぬきが好きだもん‥‥別れたくないもん!』 とかいうのかと思っていたが」 「成歩堂さん、ネタが古いですね」 オドロキは軽口に乗ってこずに冷たい口調のまま続ける。 「ごめん、真面目に話すよ。そんなにトゲトゲしないでくれ」 「そうしてください」 「オドロキくん」 「なんですか」 「みぬき‥‥のことだけを考えたんじゃないよな」 「違います」 「即答だね」 「恋人じゃないとしても、オレは彼女のそばにずっといられるんですから」 「恋人じゃなくなってもかい」 「一緒に働いている同僚としても、友達としても、兄としても、です」 「みぬきは、悲しまないだろうか。そういうふうになっても」 「みぬきちゃんのことはわかりません。でも、オレはそれでいいんです」 「それでキミは充分なのかな。心から、そう思えるかい?」 「おかしなことをいうんですね、成歩堂さん」 「?」 「あなたは、みぬきちゃんのことを心から愛してないんですか?」 「‥‥ああ、これは一本取られたな」 「オドロキくん」 「はい」 「ありがとう。これからも、みぬきのことをよろしく頼む」 通話の切れた携帯をしまい、オドロキはアパートへと再度歩き出した。 部屋の簡単な掃除をしている間に、いつものシルクハットをかぶったみぬきが帰ってくる。 「ただいま~」 「お帰り、みぬきちゃん」 視線を向けたオドロキは、抱えた袋の中のコンドームの数と栄養ドリンクを見てげんなりした。 (オレたちはこれから何をするんだろう?) ベッドの上で互いに向き合う。すでに身にまとうものはない。 恋人としての最後の時間。しばらく互いの瞳を見つめ、やがてみぬきが声を漏らす。 「はじめて会ったときから、好きでした」 「それは嘘だよ」 即座に返した。 「オドロキさん、空気読んでください」 「いや、嘘だってすぐわかるし」 力を使ったわけでもないが、当たり前のようにすぐわかる。 「じゃあ質問を変えます」 むっとしたみぬきはオドロキに指をつきつけた。 「えっ、今の質問だったの?」 「おっぱいは大きいほうが好きですか」 「しかもその質問、全然関係なくない?」 「いいから答えてください」 「‥‥ええと、みぬきちゃんくらいのが」 「嘘ですね」 汗が出た。 「まことさんをHな目で見たことがありますね」 「ははは、そんなことが」 「嘘ですね」 だらだらと汗が出る。 「茜さ」 「待った! ちょっと待って。 じゃ、じゃあ、質問を返すよ。牙琉響也のことをかっこいいと思っている」 「はい」 (‥‥まぁ、本当にかっこいいからな) 「オレよりも、牙琉響也のことをかっこいいと思っている」 「はい」 (‥‥すこしくらいは反応してくれてもいいと思うんだけど) 「じゃあ、牙琉響也のことを‥‥Hな目で見たことがある」 「いいえ」 反応は0だった。 「今度はみぬきの番ですね。まことさんとHしたいと思ったことがある」 「‥‥」 「オドロキさん」 「すいません、あります」 「‥‥もう一つ、質問しますよ。今、まことさんとHしたいと思っている」 「思ってない」 「茜さん」 「みぬきちゃん以外の誰とも、そうしたいと思ってない」 「最後に一つだけ。 みぬきを、連れて逃げたいと思ってませんか」 「心の底からそう思ってるよ」 唇があわさる。朝触ったときのように、初々しい感触を同じもので感じ取る。 「ん‥‥ふぁ‥‥」 舌先は二人の歯茎をめぐる。唾液がこくこくと溢れ、互いの口内を満たす。 胸元へこぼれた雫を使い、オドロキはみぬきの乳首へまぶそうとする。 それを押しとめると、かわりに唇をはずしたみぬきの舌がオドロキの胸へと近づいた。 舌先で申し訳のようについている乳首をこすりあげる。 ひくんと反応するオドロキを見て、みぬきはにっこりと笑う。 (ひょっとして、いじめる方が好きなのかな) みぬきは今更ながらにそんなことに気がついた。 (いまさら、じゃないよね) 時間はまだ、たくさんある。 みぬきが上になり、シックスナインの体勢でオドロキはみぬきの 色づきの少ない性器を愛撫する。 ほんの少し広げ、口の部分を指先でこにこにとこねる。 クリトリスは刺激が強すぎるのか、みぬきは前戯にはあまり好まないようだ。 いつも一番最後の時に、若干触るようにしている。 みぬきは逆側でオドロキの先端を小さく舐めている。 口はよく回るというのに、舌先はやっぱりぎこちない。ちろちろと反応の良い場所を 攻めている。 ある程度潤ったと思った頃、オドロキは体を起こした。 みぬきは申し訳なさそうな顔をしている。 「気持ちよくないですか?」 それに返すことはなく、ベッドの横に腰掛けると、みぬきの細い腰を持ち、 自分の膝に股間をあわせた。 「な、なに、オドロキさん」 オドロキはそのままみぬきの腰を前後に動かした。 にちゃにちゃと音を立てて、膝の摩擦によってみぬきの幼い陰唇も前後へ動かされる。 「いい音だね、みぬきちゃん」 「やっ、やだ」 みぬきの手がオドロキの肩にかかる。かわりにオドロキは膝を前後左右に動かした。 みぬきの腰を固定したまま、ロデオのように動かす。 あいている唇で乳房への愛撫も重ねる。ちゅみちゅみと動きにあわせて 舌先と乳首が小さく触れ合う。 「こんなの、恥ずかしい!」 みぬきは顔を赤くして嫌がる。音はより強く、摩擦も薄く、膝にぬめりがあらわれ、 よりみぬきの羞恥が強まる。 ひきめくられた花はぬらぬらといやらしく開き、オドロキを猛らせる。 「やだ、みぬきも何かしたいです」 「ダメだよ」 みぬきは肩に手をおいたまま、支えの手を動かせない。 股間で赤くはれ上がるそれを見て、みぬきは何かしてあげたくてたまらない。 いつしか気づかないうちに、みぬきは自分で腰を振っていた。 「んっ、だめっ、オドロキさん、だめ」 みぬきが口から声を漏らすが、オドロキはもう体を動かしてはいない。 自らの腰を振り、オドロキの膝にこすりつけ、果てるまで自身で体を慰めていた。 「オドロキさんって、けっこうヘンタイだよね」 「一人でいっちゃうみぬきちゃんこそ‥‥ごめん、嘘」 ふりあげたこぶしを下げて、みぬきはオドロキに冷たい声をなげかけた。 「みぬき、15歳なのにHなことするし」 「それは、オレだけのせいじゃ‥‥いえ、すいません」 「まことさんにも色目を使ってたみたいだし」 「色目なんて使ってないよ! 美人だし、ほんのちょっとそう思ったことがあるだけだってば!」 「まことさんも、オドロキさんのこと、ちょっといい、って思ってたみたいだし」 「え、ほんと?」 つられた言葉に今度は冷たい目が返ってくる。 「オドロキさん、ちょっと目をつむって」 「痛いのはイヤだよ」 「コドモみたいなこと言わない。いいから早く」 仕方なく目を閉じる。緊張で少し肩が上がっている。 「‥‥オドロキさんって、ヘンタイだったんですね」 「うわあ!」 聞いたことのある人の声に、あわてて目をあけてもそこにはみぬきがいるばかり。 「い、今のは?」 「魔術師ですから、みぬき」 とくいそうなみぬきを前に、呼吸を落ち着かせる。 ‥‥声帯模写か。オドロキはそう思った。ボウシくんの腹話術もたしかに見事な男声だ。 「オドロキ君、アンタ、ヘンタイだね」 「いや、茜さんの声真似もうまいのは認めるからさ。 その発言をさせるのはやめてよ」 「おデコくん、キミってヘンタ」 「やめなさい」 「ひゃあ! きゅ、きゅうに胸に触らないでください!」 「やっぱり、その声がいいよ」 真顔でそう言うと、オドロキは抗弁を遮るように、唇をあわせた。 「そろそろいいかな」 今日のオドロキは容赦なく、みぬきを攻めている。そろそろ自身も限界だ。 くったりとしたみぬきをベッドへ横たえ、買ってきた未開封のコンドームに手を伸ばす。 「ま、待って」 「?」 みぬきが止める。その視線にこめられた想いを感じて、オドロキが少し声を低くする。 「みぬきちゃん‥‥」 「違うの、みぬきがつけたいんです」 袋を丁寧に切り、コンドームを取り出す。袋は枕元に置き、オドロキの股間へと近づいた。 みぬきははじめての時のように、仰向けに横たわってオドロキを迎える。 オドロキはみぬきの足を持ち、自身を分け入らせた。 首に腕を回し、また、唇を合わせる。その頃には全て埋めていた。 唇を離し、腰を動かす。みぬきの顔をみつめながら、前後へと蠢く。 しばしの律動の果てに、オドロキは達した。 しおれないうちに性器から引き抜き、ゴムを廃棄する。 「次、です」 みぬきは体を起こし、まだ焦点が合わない目のまま、白濁にまみれたオドロキの性器をくわえた。 「み、みぬきちゃん」 時計は刻々と過ぎていく。 何回か休憩を挟み、時間帯はすでに深夜。 そろそろ限界かなというオドロキの前で、みぬきは驚きの発言をしていた。 「みぬきちゃん、もう一回いってもらっていい」 「あの、おしりの、ほうをお願いします。 何もつけないで、え、えっとだいじょうぶです! ちゃんと調べて、綺麗にしておきましたから!」 自分で言っておいて顔を真っ赤にする。 そういえば薬局の袋の中にエネマなんとかというよくわからないのが入っていた。 あきれたオドロキはすぐには言葉が出ない。少しして出た言葉は、からかいの言葉だ。 「馬鹿だな、みぬきちゃんは」 「馬鹿っていうな!」 「そんなことなら最初から言えばよかったのに」 「言えるわけないでしょ!」 「大丈夫だよ、一回目から毎回ちゃんとほぐしてきたんだから」 「へんたい! へんたいへんたい!」 指先と舌でみぬきをいつくしみ、さらにみぬきをダメにした後。 いよいよそのときが近づいた。 「この体勢いやです」 「だって、普通の格好じゃ」 「オドロキさんの顔見えないのいや」 みぬきは駄々をこねる。やはり後背位はいやだというのだ。 「それくらいなら、みぬきが上になります」 オドロキはあきらめて横たわる。 みぬきのあまり豊かではない、それでもとても美しいからだが大きく広がった。 オドロキの性器を手に取る。 みぬきの股間に近づく。そのまますすめれば、オドロキの体がみぬきに埋まる。 何もつけていない今ならば、着床することもありえるだろう。 「オドロキさん‥‥」 オドロキは何もいわない。みぬきのするがままに任せている。 ここで彼女が正しいほうにいれたとしても、それでかまわないのかもしれない。 感情はそれを拒まない。直接、彼女の体とこすりあい、吐き出すことができたなら、 それはきっと果てしない喜びだろう。 みぬきは大きく息を吐き、自身の後ろに差し込んだ。 「くうっ」 「いっ!!」 強烈な締め付けと、強烈な痛みが襲う。ぎりぎりとしめつけ、オドロキを絞り上げる。 ほどなく精液を吐き出されるだろう。 時刻はもうすぐ24時を回る。 つづく
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・牙琉兄による真宵強姦 ・なるほどと真宵は、付き合ってはないけど、うっすら両想いな感じ ・2019年、成歩堂資格剥奪から1ヶ月後くらい ・真宵→家元・20歳になったあと ・強姦なので、もちろん救いはない ・ついでにオチもない 「もしもし、冥さん?…あたし、真宵です。綾里真宵。…うん、ちょっと聞きたい事があって。」 初夏と言っても、日が落ちてしまうとまだ少し肌寒い、倉院の夜。 屋敷の片隅で、声を潜めるように真宵は電話をしていた。 『マヨイ?珍しいわね。どうしたの?』 声の主は多忙なのだろう。 電話の向こうでペラペラと書類を捲る音が微かに聴こえる。 執務中の電話に申し訳なさを感じながら、 真宵は出来るだけ手短に用件を伝えようと、 予めシミュレーションしておいた通りに切り出した。 「牙琉検事って、どんな人なのかなと思って。冥さん、知ってる?」 『ガリュウ…?』 真宵から発せられた言葉を繰り返しながら、冥の脳裏に二人の人物の顔が過ぎった。 ハリネズミのように尖った頭の男、弁護士・成歩堂龍一。 そして、もう一人。 ジャラジャラした軽そうな男、牙琉響也。 ── あれは、そう。 2月に葉桜院の事件で訪日した時に、資料整理の為に立ち寄った検事局で耳にした名だ。 春に入職する予定の新人検事の中で「サラブレッド」だと騒がれていた男。 オリエンテーションに来ていたらしい男と廊下ですれ違った際に、 妙に馴れ馴れしい笑みを浮かべて冥に会釈した姿を思い出し、 それこそが真宵の尋ね人だと記憶が蘇り、同時に苦々しさが胸に込み上げて来た。 成歩堂龍一の弁護士バッジを奪った男、牙琉響也。 今にして思えば、証拠捏造を問われた成歩堂が、誰かに罠に嵌められたのは明白だった。 冥や、同じく葉桜院の事件後に渡欧した御剣にその情報が入った時には、 既に成歩堂の弁護士資格は査問委員会により剥奪されたあとで、冥達には力を貸す事すら出来なかった。 ライバルと言えども、幾つもの法廷で争った戦友の失脚を、手を拱いて見ているしかなかった悔しさ。 牙琉は正当な任務を果たしただけとは言え、やはり冥が抱く彼の印象は良いものではなかった。 『サラブレッドだか何だか知らないけど、軽薄そうな男だったわ。』 冥は吐き捨てるように言う。 「…サラブレッド…。」 『そう騒がれてたわ。…でも私も直接は知らないから、こちらで調べてみるわ。また電話する。』 「うん。ありがと。」 真宵の声にはどこか元気がなかった。 理由は考えるまでもないだろう。 冥には真宵がどんな用件で電話をして来たのか、分かる気がしていた。 ライバルであった自分ですら、成歩堂の資格剥奪が齎した衝撃は大きかったのだから、 数年間を共にした真宵達が受けたショックは、察するに余りあった。 受話器を置いて書類に目を戻し走らせかけたペンをふと止めて、冥は顔を上げた。 「(…成歩堂龍一が動き出したのかしら。)」 捏造の濡れ衣を着せられたまま、成歩堂がこのまま黙っているとは思えなかった。 恐らく、あの男なら納得の行くまで真実を探すだろう。 そして、真宵も成歩堂のためなら助力を惜しまないであろう。 もちろん冥だってやぶさかではないし、御剣だってそうだろうが、 海外にあって協力出来る事は限られている。 遠い日本で真実を求めて動き始めた仲間達に思いを馳せ、冥はNYの空を見上げた。 『── マヨイ?』 冥から連絡があったのは、それから3日後の昼前だった。 異国の地で忙しい合間を縫って調査してくれた事を感謝しつつ、真宵は受話器の声に耳を傾ける。 緑色の葉を生い茂らせている庭の桜が風に揺れて、木漏れ日をチラつかせて眩しい。 『牙琉響也…兄がいるのね、弁護士の。』 「え…。弁護士?」 『そう。しかもね、例の事件の前任弁護士よ。』 「…!」 『この事、成歩堂も知ってるんでしょう?』 「────。」 『…マヨイ?』 「あ、ごめんなさい。」 『牙琉が関わってるのは間違いないでしょうね。でも、何が目的なのか…。』 「うん…。」 『十分気を付けなさい。成歩堂龍一にもそう言っといて。』 「ん。冥さん、忙しいのにありがとう。」 携帯電話の終話ボタンを押すと、真宵は分厚い電話帳を自室に持ち込みペラペラと捲り始めた。 「(法律事務所…ガリュウ…。ガ…ガ…。あ…。)」 目的の項目を見つけると、電話番号と住所を手帳に書き写してそのままスケジュールのページを開く。 家元を襲名したばかりの真宵は、冥に負けず劣らず多忙だ。 たった数ヶ月の間に全く様変わりしてしまった、 自らを取り巻く環境を恨めしく思いながら、書き込まれたスケジュールを睨む。 覚悟の上での襲名とはいえ、以前とは格段に違う制約の多さ。 あの裁判の日だって、それまでと同様に自分がいれば、或いは最悪の事態は防げたかもしれない。 傲慢だろうが、それでも真宵はそう思えば思うほど自分を責める他なかった。 そして、その思いは成歩堂を嵌めた犯人への憤りとなり、真宵を突き動かす原動力となる。 「(── 許さない…!)」 テレビであの事件を知って、取る物もとりあえず事務所へ駆けつけた、あの日。 電気も点いていない薄暗がりの中で見た、成歩堂の疲れきった顔──。 それは彼と共に過ごした三年という月日の中で、初めて見るものだった。 傷ついている成歩堂の姿にまた傷ついた真宵は、 成歩堂にそんな顔をさせた犯人、そして自分が許せない。 笑顔の似合う童顔は、瞳に険しさを浮かべて遠くの何かを見つめていた。 ****** 数日後。 真宵は都心のオフィスビル前の広場で、よく晴れた空を睨んでいた。 20階立てのビルの15階に居を構える牙琉法律事務所。 洗練されたインテリアに囲まれたオフィスは、その繁盛振りをよく表しているようだった。 通された応接室でソファに腰掛けて待っていると、 目的の人物は穏やかな笑みを浮かべて真宵の向かいに腰掛けた。 如何にもインテリ、といった雰囲気で眼鏡を光らせているその笑顔に、 真宵は底知れぬ不気味さと胡散臭さを本能的に感じ、思わず身構える。 「弁護士の牙琉です。」 「倉院流霊媒道宗家、綾里真宵と申します。」 家元襲名からこの数週間ですっかり板についた挨拶。 元気に膝小僧を出した見習い霊媒師の装束は卒業し、 丈の長い、かつて母親が着た家元用の衣装を纏う真宵。 その衣装にはちょんまげは似合わなくて、ここ最近は長い黒髪を綺麗に結い上げていた。 「今日はどういったご用件でしょう…?」 真宵は微かに俯いて躊躇うような仕草を見せたが、それでもしっかりと顔を上げて牙琉を見据えた。 「率直に言います。…あたし、成歩堂法律事務所で、なるほどくん…、いえ、成歩堂弁護士の助手をしていました。」 「成歩堂元弁護士の…?」 わざわざ「元」を付ける辺りに、微妙な不快感を感じ、真宵は眉を顰めた。 「牙琉さんは、或真敷事件でなるほどくんの前任だったと聞きました。」 しっかり目を捉えて離さない真宵の視線を、牙琉はほんの僅かに顎を挙げて受け止める。 「確かに、私が前任でした。それが何か…?」 「…お話を聞かせて下さい。」 「話、とは…?」 反射する蛍光灯が映り込む眼鏡が遮る向こうで、 牙琉の瞳がどんな表情を湛えているのか、真宵には窺い知れなかった。 だが、牙琉が自分を試しているような気がして、 負けてなるものかと、真宵は心の中で自身を鼓舞し、ふわりと笑った。 「あの公判の担当検事、牙琉さんの弟さんだったそうですね…?」 「…分かりました。それでは資料をお見せしましょう。」 そういうと、牙琉は自分のオフィスへと入っていった。 「(ふぅ…。緊張するなあ。)」 考えてみれば、元々関係の深かった成歩堂や星影以外の弁護士の所へ、単身で乗り込む事など初めての事で、 それに加えて倉院流の家元として、恥ずかしい振る舞いがないようにと意識することは、 真宵にはちょっとした努力が必要だった。 詰めていた息をふうっと吐き出した所に、牙琉が戻ってきて、真宵は緩めかけた背筋を、再びピンと伸ばした。 「申し訳ありません。どうやら自宅へ置いてきたらしい。ここから10分くらいなのですが…。」 そういうと、牙琉はチラリと腕時計に目をやった。 「もう今日はアポイントもありません。 宜しければ一度マンションに寄らせて頂いて、その後どこかのカフェででもお話しましょうか。」 「………。」 (家に入らなければ、大丈夫…だよね。) ここで怖気づいたら女じゃない。 「── 分かりました。」 真宵は静かに頷いた。 ****** 都内でも一等地と名高い場所にある、高層マンション。 その一室が牙琉の自宅だという。 オートロックで厳重に管理されたその建物の前で、真宵は思わず立ち止まった。 「…凄いですね。なるほどくんなんて、アパート住まいなのに。」 牙琉はその言葉には答えず、にっこりと笑みを浮かべている。 やっぱり胡散臭い笑顔だな、と真宵は思う。 穏やかな笑みではあるものの、どこか冷酷な印象を受けるのはどうしてだろう? その時の真宵にはその正体が分からないでいた。 29階にある牙琉宅の玄関の前で、真宵は待った。 5分、10分と時間が過ぎ、中の様子が気になり始めた頃、 おもむろに玄関の扉が開き、中からひょっこりと牙琉が顔を出した。 「──お待たせしてすみません。今、成歩堂くんと電話しているのですが、あなたに替わって欲しいそうですよ。」 「え、なるほどくんですか?」 牙琉が柔らかく微笑む。 「あ…すみません。」 「── 親機で話してるんです。どうぞ。」 牙琉に案内されるままに、真宵は室内へ足を踏み入れる。 成歩堂の名前を出されて、真宵は完全に油断していた。 あの日。 成歩堂が酷く傷ついていたあの日から、真宵は成歩堂と連絡を取っていなかった。 彼に余計な心配を掛けたくなくて、真宵は黙って一人で行動に移したのだった。 だから、成歩堂が現在どういう状況にあるのかを真宵は知らなかったし、 成歩堂もまた、真宵が何をしようとしているのか知る由もなかった。 「あの、電話は…?」 真宵が振り向こうとしたその時、肩に何かがぶつかり真宵のその身体がよろめいた。 「……!」 “何か”が牙琉の手であり、それは当たったのでなく押されたのだという事を理解するまでの僅かな間に、 真宵は牙琉に組み敷かれていた。 「キャ…ッ!」 悲鳴を上げようと開いた口に、間髪無くハンカチを詰め込まれる。 「ぐ…ぅ…ッ!!」 手足をバタつかせて必死に抵抗を試みる真宵だが、小柄な真宵の抵抗を牙琉は物ともせず、 難なく覆い被さって耳元に口をつけた。 「…何をしてるんですか。」 「……!」 「成歩堂の差し金でしょう?」 「……。(ち、ちが…!)」 真宵はぶんぶんと首を振る。 「…例の疑惑については存じ上げないが、協力してあげても良いですよ…?」 「……!」 「ただし…条件がありますが。」 そう言うと、牙琉の手が真宵の乳房を鷲掴みにした。 「!」 「場合によっては弁護士復帰だって…。」 (── う、嘘だ…。弁護士会の決定事項がそんなに簡単に覆るわけがない…!) 「私、こう見えてそっちの方に顔が利くんですよ…。」 「── ……。」 (“関係ない”なんて言ってるけど、絶対嘘だ…!) (この人、何か知ってる…。だからそんな都合の良い事をチラつかせてるんだ…。) 「成歩堂の為になりたいんでしょう?」 (これが本当になるほどくんのためになる…?そんな訳ない…!) (そうだ、お姉ちゃん…!) 咄嗟に千尋を霊媒しようとして、我に返った。 女性である千尋を霊媒した所で危険に変わりはないのだ。 (誰か、男の人…男の人…!) 焦りと恐怖に脅かされ、真宵は黄泉の国にいる男性を思い出せないでいた。 頭をフル回転してなんとか逃れようと考え焦る真宵に、牙琉は最終通告をつきつけた。 「…それとも成歩堂に危害を加えられても良いんですか…?」 「!!」 「…まあ、どちらにしても。こういう状況である以上、このまま帰すわけには行きませんが…。」 「……!」 真宵は恐怖に竦む身体を強張らせた。 冷たい光を湛えた牙琉の視線を避けるように固く瞳を閉じ、深く眉を顰めた。 ****** 真宵の柔らかな耳から白い首筋、そして華奢な鎖骨と、牙琉は唇と舌を滑らせる。 牙琉の通った道筋から背中に悪寒が走り、嫌悪感から鳥肌が立った。 牙琉の手が、装束の上から乳房を包み込むように揉みしだき、爪でその先端を掻くように刺激する。 真宵の意思とは裏腹に、その先端はぷくりと屹立を始めていて、 装束の布越しにもその存在を可愛らしく主張していた。 牙琉は装束の胸元から遠慮なく手を差し入れると、グッと合わせを開き、二の腕を半ばまで露出させた。 小振りだが形の良い真宵の乳房を、牙琉の手が弄ぶ。 自在に形を変えるそれに、牙琉は舌を這わせ、敏感な先端を避けるように情交の証を付けていく。 ふと牙琉は顔をあげた。 真宵は無表情のまま、顔を背けている。 全ての感情を殺して屈辱を受け入れる真宵。 そんな真宵の健気さが、牙琉の嗜虐心に火を点けた。 口に詰め込んでいたハンカチを抜き取ると、牙琉は真宵の唇を奪った。 「──ッ!」 真宵は眉を顰めて微かに抵抗する。 唇は硬く閉じられていて、牙琉の侵入を拒んでいる。 だが、牙琉はそんな事は意に介さなかった。 真宵の身体に電流が走った。 牙琉の骨ばった指が、真宵の両の乳房の敏感な先端を爪弾いたのだった。 その衝撃で思わず緩んだ一瞬を逃すまいと、牙琉の舌が真宵の口内へと忍び込む。 歯列や上顎をなぞられ、舌を絡めとられた真宵は、 生温かいその感触に吐き気が込みあがってくるのをひたすら耐えていた。 その内呼吸が苦しくなり、酸素を求めて喘ぐように口を離すが、それを追うように再び口内を貪られる。 (── 気持ち悪い。気持ち悪いよお…。) 真宵の瞳に涙が溜まる。 「── 成歩堂はどんなキスをするのですか?」 「!?」 真宵は驚き、悲愴な色を浮かべた瞳を大きく見開いた。 「──…おや、その様子ではまだ何もしていないらしいですね。」 牙琉はこれまで、何度か成歩堂の法廷を見てきた。 例の事件の発端となるポーカーゲーム以前の事だったので、 それは純粋に裁判の一例として参考にする為の見学だった。 そんな時に、この少女が成歩堂と共に弁護人席にいるところだったり、 時には裁判所帰りのじゃれ合う姿を見掛ける事もあった。 そこから受けた印象では、この少女は成歩堂が大切にしている女…。 つまり、恋人だと思っていたのだが。 職業柄、人間の心理を見抜くのを得意とする牙琉には、 成歩堂の、この少女を見つめる眼差しには特別なものを感じたし、 少女もまた、笑みの中に成歩堂を慕う気持ちがよく表れていた。 だがそれは思い違いだったらしい。 ── いや。 決して予想は外れてはいないはずだ。 ただ、そこまで関係が進んでいなかった、というだけの話で。 野蛮な方法で無罪をもぎ取るあの男。 自他共に認める我が国No.1の弁護士であるこの私に、屈辱を味わわせたあの男。 成歩堂が最も大切にしているものを、先に汚してやる。 あの男にとって、これほど屈辱的なことがあるだろうか…? そこまで考えが及ぶと、牙琉は楽しいオモチャを見つけたとでも言わんばかりにククッと笑った。 ****** 真宵の左の乳房に鎮座する桃色の突起を捉えた牙琉の舌が、可愛らしい屹立を促すように転がし始めた。 より硬度を増したそれを、甘噛みしたり吸い上げたりと執拗に刺激を加え続ける。 もう片方の乳首にも、摘んだり、爪で掻いたり手のひらで転がしたりと、愛撫を続ける。 そっと視線を上げると、真宵は相変わらず顔を背け、眉を顰めて目を閉じていた。 舌での愛撫を右の乳房に移して突起に唾液を塗しながら、牙琉は右手で真宵の着物の裾を探った。 以前見かけた時は、膝丈の装束を着ていたと記憶しているが、 今、自分の下で上半身を露にしている真宵は、足首までしっかりと隠れる長さの装束を着ている。 乱れた裾から覗く白い肢体が艶めかしい。 荒々しく真宵の左の大腿を捉えると、抱え上げるように脚を割り開き、 腰骨に沿って手を滑らせて、露になった下着の中心部分を親指でスッと撫で上げた。 その瞬間、真宵の身体が強張った。 筋に沿って指を這わせ、可憐な真珠があるであろう場所に親指を押し付ける。 爽やかなサックスブルーの下着の中心が微かに湿り気を帯びていた。 牙琉は下着を摘み上げると、わざと食い込ませるように布を持ち上げ左右に揺らす。 秘所に食い込む下着に眉根を寄せる真宵の頬は僅かに上気し、薄っすらと桜色に染まっていた。 それでも強固な意志を崩すまいと言わんばかりに、大きな瞳は固く閉じられている。 そんな真宵の表情を楽しむように眺めながら、牙琉は真宵の下着の中に手を差し入れた。 ── くちゅっ 小さな音だった。 だが確実にそこは潤んでいて、牙琉は嘲るような笑みを浮かべて真宵を見た。 敏感な真珠を揺さぶり、時には捏ねるように弄ぶ。 真宵はギュッと目を瞑り、唇を噛み締めて耐えているが、呼吸の度に肩と胸が大きく波打っている。 そんな真宵を見下ろしながら、牙琉はフッと鼻で笑った。 「随分強情ですね…。でも、いつまで我慢出来るかな…?」 硬く屹立し、ぷっくりと顔を出した真珠の皮を剥き、 中から溢れる蜜を指に掬い取りそれを塗りつけるように真珠を摩ると、 爪先はくるりと丸まり、開かれた下肢はガクガクと震えた。 真宵の瞳から涙が溢れ出し、目尻から耳へと伝ったそれは、乱れた黒髪に吸われていく。 (なるほどくん…なるほどくん…!) 秘所から湧き上がり、次第に全身を蝕んでいく感覚と戦いながら、 真宵は心の中で成歩堂の名前を叫んでいた。 牙琉は胸の頂きにキスすると、するすると顔を下ろしていき、 もう片方の大腿も抱え込んで秘所を大きく露出させ、そのままそこに顔を埋めた。 ピチャ…ピチャ… 真宵のソコを、淫らな音を立てながら蹂躙する。 尖りきった真珠を舌で転がし、誰も踏み入った事のないであろう内部へ指を差し込んだ。 キュウっと締め付けて来るそこは、予想以上に狭い。 蜜を掻き出す様に指を抽送して掻き回すと、中からトロリと更に蜜が溢れ出して来た。 真宵の白い大腿は細かく痙攣し、申し訳程度に纏っている装束を、手が白くなる程強く握り締めている。 本人の意思とは無関係なのだろう。 時々ピクッと腰が浮き上がる。 その度に真宵の中を犯す指は締め付けられ、入り口がひくつくのを感じる。 手首まで真宵の蜜を滴らせた牙琉は、内部の前壁を探るように二本の指を往復させた。 「──ッ!」 ザラザラしたソコを刺激した瞬間、真宵の腰が跳ね上がった。 やっと見つけた、とでも言いたげな笑みを浮かべると、牙琉はそこを攻め始めた。 なんとか逃げようと、身を捩って悶える真宵。 だが小柄な真宵には、牙琉を跳ね除けるほどの力は無いばかりか、 身体に力が入らず、今の状態では立ち上がる事も困難に思えた。 呼吸は荒く乱れ、瞳には涙が滲む。 牙琉の指と舌が執拗に刺激する場所。 そこから沸き起こる経験した事のない熱さと疼きが、真宵を支配していく。 「…る…ほどくん…なるほどくん…!」 初めて真宵が声を発した。 牙琉が目をやると、頬を紅潮させた真宵は閉じた瞳から涙を溢れさせ、呟くように成歩堂の名前を口にしていた。 そろそろ頃合かと、牙琉は指の抽送を一気に速めた。 真宵の腰はすっかり浮き上がり、フローリングの床にまで蜜を滴らせている。 「く…っ!」 自身の意思とは無関係に、牙琉の指を包むそこがヒクヒクと痙攣しているのを真宵も感じていた。 甘く、それでいて熱く鋭い感覚は、真宵をどんどん高みに追い詰める。 頭の先から爪先まで、真宵の全てがその感覚に支配されそうになった瞬間、牙琉が抽送を止めた。 「……!」 あと少しで絶頂を得るところだった真宵の秘所は、 腰を揺らめかせたまま、物欲しげにパクパクと口を開いている。 「どうです?疼いて仕方ないでしょう?」 そう言うと、牙琉はスラックスのベルトを外してそそり立った物を取り出して秘所に押し付けた。 今までと違う感覚に気付いた真宵は、ハッと目を開ける。 その瞳には、ありありと絶望の色が浮かんでいた。 「…目を閉じたまま、成歩堂が相手だと思っていれば良いですよ…。」 耳元でそう囁くと、一気に真宵を貫いた。 「うあ…っ!」 今までに経験した事のない、身体の中心を引き裂かれるような痛みと、 下から内臓を突き上げられる圧迫感に、真宵は思わず呻く。 だが牙琉はそんな事はお構い無しに、容赦なく真宵を突き上げた。 肉体と肉体がぶつかり合う“パンパン”という乾いた音が、広いリビングに響く。 激しく出入りする牙琉が、真宵の狭い処女穴を抉じ開ける。 痛みと不快感を必死に堪えながら、 真宵は目の前にある牙琉の冷笑を見るまいと、顔を背けていた。 牙琉は自らの抽送に合わせて揺れる真宵の乳房を鷲掴みにし、親指でしこった突起を摩った。 「…っ!」 真宵は顔を顰めて、口に手を当てる。 そんな真宵の大腿を抱え上げ、膝を牙琉自らの肩に掛けさせた。 そうした事で、抽送がより奥まで届くようになる。 「く…あっ…あ…!」 真宵は子宮を突かれる何とも言えない不快感に苦悶していた。 深い部分を突かれた時に堪えきれずに漏れてしまう声が恨めしい。 それは快感から発せられる喘ぎではなく、 内臓を圧迫される事で否応なしに漏れてしまう類のものなのだが、 男の牙琉にはこの感覚は分からないだろうと真宵は思う。 だが真宵のそんな心中を嘲り笑うかのように、牙琉は言った。 「そろそろ痛みが落ち着いて来たんでしょう?強姦されて感じるとは驚きましたよ。」 「そんなこと…!」 牙琉は目を見開いて必死に否定する真宵を鼻で笑った。 「…弁護士には証拠が全てなんですよ。…ほら。」 先ほどから真宵の中を行き来する牙琉自身に纏わりつくように、蜜が溢れて来ていた。 乾いた音の中に、グチュグチュと水音が混ざる。 牙琉はわざとその水音を立てるように、大きく腰をグラインドさせた。 「ああ…ッ!」 「聞きなさい、この音を。…私は誰かさんと違って証拠の捏造なんてしませんよ。」 (なるほどくん…!) 破瓜の痛みにも耐えたのに、牙琉に齎された屈辱によって真宵の白磁の頬に涙が一筋流れる。 しかし、真宵自身もその変化を感じていた。 牙琉に寸前で止められたあの感覚に、再び火が点いたような…。 その波に呑まれないように、我れを見失わないように真宵は唇を噛む。 牙琉はそんな真宵に更なる屈辱を与えようと、自身が抜けないように真宵をうつ伏せにし、 細腰を抱えて激しく抽送を始めた。 華奢な背中から腰のラインと、成熟しかけた白くて柔らかい少女の尻。 その中心に牙琉自身が突き立っている様は、酷く淫猥な光景だった。 体勢を変えられた事で、膣の中で牙琉を感じる場所も変わり、 ちょうど指で刺激された敏感な部分に当たっていた。 牙琉は勿論計算づくだった。 ザラザラしたあの部分が、真宵を深い絶頂に導く性感帯なのは一目瞭然である。 自分のプライドを傷付けた男、成歩堂から大切なものを奪う。 ただ抱くだけでは意味がないのだ。 成歩堂が大切にしている真宵を女として目覚めさせてこそ、 成歩堂のプライドをズタズタに傷付けられるのだから。 牙琉は真宵の中の敏感な部分に、自身の先端を擦り付けるように抽送を続けながら、 真宵を部屋に連れ込む前に準備したモノを、 すぐそばのチェストの一番上の引き出しから取り出した。 四つんばいで抽送を受け入れている真宵の真珠にそれを押し当て、スイッチのダイヤルを回す。 すると、ブーンという羽音のような音と同時に、真宵の嬌声が響いた。 「やあああ…っ!」 背中を弓なりに撓らせる真宵。 「──…おやおや。素晴らしく感度が良いですね。」 「や…!何ソレ…!?いやあ…っ!」 「これはローターというものです。」 だが、そんな牙琉の言葉も今の真宵の耳には届いてはいなかった。 真宵の膣がキュウと、抜き差しする牙琉自身を締め付け、 まるで牙琉を引き止めては奥へと欲するように、ヒクヒクと入り口が痙攣する。 それは真宵の意思とは無関係の反応で、自分ではどうにもならないものだった。 止めたいのに、そこは言う事を聞いてくれない。 真宵はその反応が、牙琉の悦楽に繋がるものだとは知らずに、何度も止めようと力を入れた。 不随意な収縮と随意的な締め付けに、牙琉は思わず溜め息を漏らす。 「あなたのココ、凄く良いですよ…?」 「ああ…あ…あ、あっ…あ…!」 「初めてでこれだけよがるなんて、きっとあなたは生まれつき淫乱なんでしょうね。」 「やぁ…ッ!あっ…あんっあんッ!」 牙琉の言葉を切欠に、ずっと堪えていた声が堰を切ったように、真宵の赤く濡れた唇から漏れ出した。 可愛らしいよがり声を溢す真宵の口元は、既に力を失ってだらしなく開き、 声を堪えようとする努力も見られなくなっていた。 うっすらと桜色に染まった真宵の身体が淫らに揺れる。 「んっあっあ、あっ…あぅ…なる…ほ…どく…ああっ…!」 艶めいたその声が、冷たいフローリングの部屋に木霊する。 すすり泣くような声に混ざって、途切れ途切れに成歩堂を呼ぶ真宵を、牙琉は容赦なく攻め立てて行く。 繋がった部分から溢れる液体が、グチュグチュと卑猥な音を立てながら白く泡立ち、牙琉に絡み付いていた。 真宵は、機械的な振動を与えられている可憐な真珠と、 自身の中で蠢く牙琉が伝える刺激に完全に捕らえられ、急速に昇り詰めていった。 「あ、あ…ダメ、なるほ…ど…く…、なるほどくん…っ…あああ…ッ!」 甲高い悲鳴を上げて成歩堂を求めながら、真宵は陥落した。 そして、細かく痙攣するソコに搾り取られるように、牙琉は真宵の子宮口に白濁を叩き付けた。 続き
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亜内×千尋① 亜内武文は一流のベテラン検事である。 今日はいつになく署内は忙しそうだ。 みんな脅迫観念に駆られるかのように机に齧り付いて書類とにらめっこしていた。 思わず脅迫罪を適用したくなるほどのにらめっこだ。 亜内は来客用の椅子に腰掛け、刑法222条をなぞりながら被害者兼被告人達を眺めていた。 と、気づけばすまし顔の婦警がお盆を携えて亜内の前に影を落とす。 「亜内検事、コーヒーどうぞ」 「あぁ、ありが…」 「仕事ですから。では」 言葉尻は思い切り噛み砕かれた。 「…ありがとう」 婦警はもう明後日にいたが、一応噛み砕かれた言葉尻を反芻した。 (いつぞやに検事モノのドラマが流行った時は、少しは人受けも良かったんですけどねぇ。) 相撲番付入りの湯飲みに淹れられたインスタントコーヒーを啜りながら色んな苦味に口をすぼめる。 きっと御剣検事になら、豆から挽いて小洒落た磁器に淹れて出すのだろうと考えれば、 ご自慢だったあの髪を取り戻せばワタシだってと育毛剤をまぶす作業にも気合がみなぎるというものだ。 「まだ出てないんですか!人の一生がかかっているんですよ!」 急に、張り詰めた空気を壊すかのような一際高い声が響く。 何か揉め事だろうか。 厄介な事には関わりたくないので気にせず番付表を目でなぞりながらもう一啜りした。 そこで随分と年代の入った湯のみである事が発覚したが余り気にしない。 そんな事なかれ主義を批判するかのように強く打ち鳴らすヒールの音が近づいてきてしまう。 「まったくもう…」 声の主は少し頬を上気させ憤懣やるせぬといった表情のまま、亜内の前に腰を下ろした。 綾里千尋だった。 コーヒーに新たな苦味が加わる。 それでもそこは年長者かつゼントルメン。 法曹界の大先輩として、目の前で熱くなっている後輩に声を掛ける。 「どうしたのですかな、綾里千尋クン」 「え、あ、はい」 掛けられてようやく気づきましたと言わんばかりに彼女はこちらを見てきた。 一瞬、彼女の眉間に山脈が隆起する。 「えっと、亜内検事……ですよね」 「え、えぇそうですよ」 ちょっと胃が痛むのはコーヒーの飲み過ぎなのかもしれない。 うん、今度からはお茶に切り替えて貰おう。 そう無理やり解釈をする亜内に視線を合わせる事無く、千尋は周囲にわざと聞こえるよう理由を述べた。 「昨晩の密室パラパラ殺人事件の解剖記録が、まだ出てないんです」 朝からお茶の間を濁らす世にも恐ろしき怪奇事件だ。 被害者の死に様は壮絶の一言に尽きたらしい。 どうやら、彼女は容疑者の弁護を受けて必死に事件をあらっている最中なのであろう。 「それならもうすぐ糸鋸君が持ってくる筈ですよ。暫くお待ちなさい」 「ええ、そうします」 怒気の溜まった息を吐き出しながら千尋は頷く。 深い椅子の為か背もたれに身を任せず、しゃなりとした姿勢で平静を取り戻そうとしながらも 軽く弾ませる息遣いが亜内の耳を撫でる。 (……綾里千尋、か。) 自称家事手伝いのパラサイト娘と大差無い年齢であるにも関わらず、亜内の目にさえ彼女は魅力的に写る。 どこか初々しさの残る面立ちでありながらも、法廷で見せるあの力強さは本物だと認めざるを得ない。 もう塩を送らずとも、亜内にしょっぱい味付けを突き出してくるので少し塩加減を調整して貰いたいくらいだ。 何故、初対峙した時彼女に目を向けられなかったのだろうか。 「ちょっと机お借りします」 そんな亜内の考えをよそに千尋は前置きした上で机に書類を広げ、ペンを走らせる。 手に持った湯飲みが置けなくなったが、そんな憂慮は一気に吹き飛んだ。 軽く前屈みになった千尋のスーツからこぼれんばかりな胸の谷間が亜内の目を奪う。 「……」 どうして、今まで気付かなかったのか。 法廷の広さは人間同士の距離に溝を開けてしまう悪築だ。 暫く眠り込んでいた海綿体がむっくりと起き上がりそうになりつつも平静を装い、 湯飲みを口に運ぶ偽装工作をしながら、目に蜘蛛の巣を張らせ双丘を凝視する。 目の前に広がるのはちょっとしたアルプス大自然の恵みだ。 これに比べれば亜内の娘は豪族の古墳位にしか思えない。 妻のは贔屓目に見ても公園の崩れかけた砂山程度だ。 しかし、目の前の大渓谷は谷間どころではないが……、ノーブラなのだろうか。 一昔前に流行ったヌウブラという奴かもしれない。 マンネリ生活に刺激を加えようと妻が以前付けた時は有り難味に欠けたが、今は眼球を突き刺すような刺激だ。 正直、触れてみたいと思うのはゼントルメンであろうと致し方無い。 あの突付けば弾き返されそうな膨らみに見とれ、湯飲みで跳ね返る鼻息が少し眼鏡を曇らせる。 触れてしまったら最後、一気に三面記事と被告席にのってしまうだろう。 亜内は今すぐにでも彼女と満員電車に乗り込んで車体が揺れるたびに体のラインを感じたり、 サラサラとした髪の匂いを過呼吸になる寸前まで吸い込みたくなる衝動に駆られる。 勿論、触ったりなんかはしない。満員だからしょうがない事ってあるのだ。 暫く凝視しながら妄想に耽っていた亜内だが、ハッと気付いて慌てて視線を逸らす。 いくらなんでも見続けるのは怪しまれる。 (ベテラン検事たるワタシとした事が……日ごろの疲れが溜まっている証拠ですかね。) やれやれ、と意味も無くニヒルな笑みを浮かべ、少し落ち着こうじゃないかと視線を下のほうに落とす。 「……」 どうして、今まで気付かなかったのか。 足が見えないよう弁護席の前に机を置くのは人間観察こそが重要な法廷において悪築でしかない。 千尋の白くスラッと伸びた足が目に眩しいが、それだけじゃない。 彼女は前スリットの入ったスカートだったのだ。 亜内は踝ふくらはぎ膝裏太腿を滑るように何度も見返す。 カモシカの足というのはこういう時に使うのだろう。 これがカモシカなら亜内の娘は食欲旺盛なロバだ。 妻のは自慢じゃないがカピパラのような足だ。 細いのだけには無い胸を張っているが、加えて短いのでカモシカには及ばない。 もしこのカモシカが書類を落としたら、下心の塊で拾い上げる男が群がるだろう。 急に野球の練習がしたくなってスライディングに精を出すかもしれない。 亜内も例外無く、魅惑の三角地帯を拝みたい衝動に駆られる。 椅子により深く沈むが、眼鏡が少しずれて思うようにいかない。 いくら現場の死体写真でしか若い女性のパンツを見ていない亜内と言えども、それ以上の行為は踏みとどまった。 (…でもちょっとだけなら。) 姿勢を直すフリをしながら見てて哀れなくらいジリジリと懸命に沈む。 「お待たせしたッス!お待ちかねの解剖記録ッスよ!」 急に背後から体育会系の声が響き、ビクッと亜内は椅子から落ちる。 「イトノコ刑事!それっ、早く下さいっ」 思わぬ衝撃に脂汗が浮いて薄ら寒い頭皮の毛穴が開ききる。 「それじゃ、失礼します!」 起き上がろうともがく亜内を尻目に、千尋は受け取るや否や颯爽と立ち去る。 「あれ、亜内検事どうかしたッスか?」 「……」 (糸鋸刑事、今度の給与査定を覚えておきなさい…) 勿論亜内にそんな権限は無い。 「そういえば明日の裁判、亜内検事の相手は綾里千尋ッスよね。その、大丈夫ッスか?」 少し窺うようにして糸鋸が気を使うが、亜内は千尋の歩く姿を見やりながら軽く笑みを浮かべる。 スラリと伸びた足が小気味良い音を立てながら遠ざかっていく。 「ふふふ、楽しみですよ」 法廷には、検事として有罪判決をもぎ取るよりも大事な事がある。 齢五十を前に、心新たにした亜内であった