約 47,058 件
https://w.atwiki.jp/takanotume/pages/1.html
@wikiへようこそ ウィキはみんなで気軽にホームページ編集できるツールです。 このページは自由に編集することができます。 メールで送られてきたパスワードを用いてログインすることで、各種変更(サイト名、トップページ、メンバー管理、サイドページ、デザイン、ページ管理、等)することができます まずはこちらをご覧ください。 @wikiの基本操作 用途別のオススメ機能紹介 @wikiの設定/管理 おすすめ機能 気になるニュースをチェック 関連するブログ一覧を表示 その他にもいろいろな機能満載!! @wikiプラグイン @wiki便利ツール @wiki構文 バグ・不具合を見つけたら? お手数ですが、こちらからご連絡宜しくお願いいたします。 ⇒http //atwiki.jp/guide/contact.html 分からないことは? @wiki ご利用ガイド よくある質問 @wikiへお問い合わせ 等をご活用ください
https://w.atwiki.jp/neko_no_tume/pages/5.html
更新履歴 @wikiのwikiモードでは #recent(数字) と入力することで、wikiのページ更新履歴を表示することができます。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_117_ja.html たとえば、#recent(20)と入力すると以下のように表示されます。 取得中です。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6487.html
前ページ次ページ毒の爪の使い魔 日も落ち、ラ・ロシェールに夜の帳が下りる頃、 フーケの襲撃を何とか凌いだジャンガ一行は、『女神の杵』亭へと移動していた。 『女神の杵』亭の外で待っている間、ギーシュとキュルケはタバサとモンモランシーから話を聞いていた。 「つまり、タバサは目が覚めて彼…ジャンガが居ない事に気が付いて、モンモランシーに事情を聞かされた。 それで心配になったから、着替えてシルフィードでここまでやって来たと?」 ギーシュの言葉にタバサは頷く。 「そして、モンモランシーはその付き添いで付いて来たのか」 モンモランシーは小さくため息を吐いた。 「しょうがないじゃない? 止めても聞かないんだから。無理をして倒れられても困るから、付いてくる他無かったのよ」 「しかし、タバサの母上の事は…」 「オールド・オスマンと、ジャンガと仲のいい給仕の子に頼んできた」 ギーシュの問いにタバサは静かに答えた。 ジャンガと仲のいい給仕、と聞いてギーシュは以前、自分が八つ当たりをした少女が頭に浮かんだ。 そう言えば仲が良かったな、とギーシュは一人納得。 「ふぅん。…でもタバサ、本当に良かったの?」 タバサはその声に一瞬、ドキリとした。 「…良かったって?」 「あなた、あんなにお母さんの事を心配してたじゃない。…あんまり蒸し返すような事じゃないけど」 キュルケの言葉にタバサは彼女が何を考えているかを悟った。 要するに、一度は彼女達を裏切るような事をするほど、自分は母を大切にしているのに、 何故母を置いて此処にやって来たのか? と、そう言いたいのだ。 タバサは逡巡し、口を開く。 「あの人はわたしと母さまを助けてくれた。だから、今度はわたしがあの人の力になる。 恩も返さずに自分の事ばかり考えるのは……身勝手だから」 「…そう。なら、あたしはもう何も言わないわ。あなたの好きになさい…」 キュルケの言葉にタバサは静かに頷いた。――その時だ。 バンッ、という大きな音と共に、勢い良く扉が開かれた――否、蹴り飛ばされた。 一体なんだ? と言った表情で全員が一斉に振り返る。 開け放たれた扉からジャンガが飛び出してきた。 彼の姿を認め、ギーシュは声を掛けようとし―― 「オイッ!? 桟橋ってのは何処だ!?」 ――いきなりジャンガに怒鳴られた。 「一体どうしたと言うんだね?」 「いいから答えやがれ!!! 桟橋は何処だ!!?」 ジャンガの物凄い剣幕にギーシュはたじろぐ。 何とか気持ちを落ち着かせながら、答える。 「今から桟橋に行っても無駄だよ」 「あン!? そりゃどう言う意味だ!?」 怒鳴り散らすジャンガ。 ギーシュは唐突に、ジャンガの背後の空を見上げながら指差す。 つられてジャンガも夜空を見上げる。 見上げた先、夜空を一隻の大型船が飛んでいくのが見えた。 遠ざかっていく船を見つめながら、ジャンガは呟く。 「まさか…」 「そうさ。あれがぼく達が乗るはずだった船さ。今夜のような二つの月が重なる晩は『スヴェル』の月夜と言ってね、 その翌朝、浮遊大陸のアルビオンはこのラ・ロシェールに最も近づくんだ。だから今の時間は最も出港に良いのさ」 そんなギーシュの説明を聞きながらジャンガは今し方、店の主人とのやりとりを思い返す。 ――とっくに此処を発っただーーー!?―― ――は、はい。お供の方々はここで帰る手筈になっていると…―― ギリッ、と歯を噛み締める音が響く。 そこで説明をしていたギーシュは、ジャンガに尋ねた。 「あ、そうだ。ワルド子爵とルイズは?」 ジャンガはそれに答えず、タバサに向き直る。 「タバサ、シルフィード出せ! とっととあの船を追いかけるぞ!!」 あの速度ならシルフィードで追いつける。そして、追いかけるのならばまだ目視できる今がいい。 そう考え、ジャンガはタバサにシルフィードで追撃する旨を伝えた。 しかし、タバサは首を横に振る。 その返事にジャンガはタバサの両肩を思わず掴んでいた。 「何でだよ!? テメェの使い魔なら楽に追いつけるだろうが!?」 「まだ怪我が治りきっていない」 静かな口調だったが、良く聞き取れた。 タバサの言葉にジャンガは、ハッとなる。 シルフィードがジョーカーによって負わされた怪我は、ジャンガのそれと同じ位酷い物だ。 あれから十日ほどが経過し、ある程度は癒えてきてるとは言え、完治にはまだ至っていない。 加えて、今回のタバサとモンモランシーを乗せての飛行でも消耗している。 故に無理がきかないのは至極当然と言えるだろう。 ジャンガは小さく舌打ちし、タバサの肩を掴んでいた爪を離す。 背を向け、帽子で顔を隠しながら一言呟く。 「…すまねェ」 「気にしてない」 タバサがそう返答すると、今度はキュルケがジャンガに尋ねた。 「ねぇ、それよりもルイズとワルド子爵はどうしたの?」 「そうだ、ぼくもそれが聞きたかったんだ」 暫くジャンガは船が消えた方向を静かに睨み、やがて大きくため息を吐いた。 その様子を怪訝に思ったモンモランシーが聞く。 「どうしたの?」 「…あいつらなら、もういねェ。多分、あの船に乗ってたんだろうな」 「「「「え?」」」」 四人は一斉に声を上げる。 ギーシュが驚いた調子で聞き返してくる。 「ど、どう言う事だね? ルイズと子爵が今の船に乗っていたと言うのは?」 「言ったまでの意味だ。…俺達ゃ、除け者にされたんだよ。ご丁寧に足止めまで残しやがってよ…」 「あ、足止め?」 何の事か解らない、と言った表情をするギーシュ。その横でタバサが静かに答えた。 「フーケの事」 「フーケ?」 先程の事が思い返される。 タバサは頷き、言葉を続ける。 「彼女が去り際に言っていた、”足止めはできた”と」 「そ、それって…フーケと子爵は、裏で通じていると?」 「多分、間違いない」 あっさりと肯定され、ギーシュは顔が僅かに青ざめる。 「そ、そんな…あのワルド子爵が…」 「ま、これであの男があんなにやたら冷たい目をしているのも解ったわ。獅子身中の虫だったわけね」 つまらなさそうにキュルケは言った。しかし、その内では熱い炎が燃え始めていた。 自分達を騙していた事に対する怒りもあったが、 何よりほんの少しとは言え、そんな男に見惚れてしまった自分に対する苛立ちもまた大きかった。 そんなギーシュとキュルケを他所に、ジャンガは地団駄を踏んだ。 「クソッ! クソックソックソッ! あのヒゲヅラ…舐めた真似しやがってェェェーーー!」 苛立ち、悪態を吐くジャンガの腕をタバサが掴む。 「ン?」 「とりあえず、桟橋に行く」 「行ってどうするってんだ? もう船は出ちまってるだろうが!」 「次の便の出港時間を聞く」 「うっ…」 頭に血が上っていてそこまで考えが回らなかった。 タバサの至極当然な考えにジャンガは口篭る。 「…チッ、まァ確かにここで喚いてても仕方ねェな…」 そして、ギーシュへと向き直る。 「オイ、桟橋に行くぞ! とっとと案内しろ!」 ギーシュはまだショックから立ち直れていなかったが、ジャンガの声に我を取り戻した。 「あ、ああ…解った」 そして一路、一行は桟橋へと向かった。 桟橋へと着くや、一行は船の出港予定を確認する。 案の定、先程見かけたのが乗る予定の船だった事が解った。 その船にルイズとワルドが乗ったかどうかの確認もしたが、人の顔など一々覚えていない、との事で解らずじまい。 そして、次の出港は明け方との事らしく、今夜は『女神の杵』亭に泊まる事となった。 「フゥ…」 部屋のベランダに出たジャンガはため息を吐く。 手すりに頬杖を突きながら重なり、一つとなった月を見上げる。 赤い月が青い月の後ろに隠れ、青白い輝きを放っている。 それはもう見る事の叶わない、帰りたいとも思わない世界の月をジャンガに思い出させる。 無論、ジャンガがため息を吐いたのは”向こう”を思い返したからではない。 本当の理由は…… 「ルイズが心配?」 「…なんでそうなるんだ?」 「ため息を吐いてばかりだから」 「あのな…」 …自分の隣に立つ青髪の少女だ。 本来ならば、ギーシュとモンモランシー、キュルケとタバサが同室となり、 自分は一人きり(デルフリンガーは数に入れていない)になるつもりだったのだ。 だが、タバサはジャンガとの同室を望んだ。ジャンガが駄目だと言っても、頑なに拒否。 結局、ジャンガが折れる形で渋々了承したのだった。 ジャンガは再度ため息を吐いた。 (ったく、なんだって、毎度毎度こうなるんだ?) ――どうして自分は、こうつくづく年下の少女に懐かれるのだろうか? ジャンガは自分の境遇を素直に疑問に思った。 いや、勿論自分が懐かれるような事をしたと言うのもある。 あるが……それでもやはり納得が行かない。 大体、”あいつ”と会った時だって―― 「……チッ」 ジャンガは脳裏に浮かんだそれを振り払うべく、首を振った。 忘れられない事だと言うのは解っているが、軽々しく思い返していい身分でもない。 自分は罪人…、”あいつ”とは最早、違う場所に居るのだ。――閑話休題。 隣に立つ少女=タバサを横目で見る。 「どうして、俺と同じ部屋にしたいと言ったんだよ?」 「一緒がいいから」 「あの雌牛と談笑してりゃいいじゃねェか…。と言っても、テメェは滅多に笑わねェか」 そこまで話して気が付く。タバサの表情が曇っている事に。 気になり、ジャンガは聞いた。 「どうしたよ? まさか、親友のあいつと同室が嫌だった――とか言う訳じゃねぇだろうな?」 「嫌じゃない」 「じゃ、なんで俺の所に来た?」 「……」 口篭るその様子にジャンガは怪訝な表情になる。 タバサは静かに口を開いた。 「わたしは裏切り者だから…」 「……ハァ?」 目が見開かれ、間の抜けた声が口から漏れる。 そんなジャンガの様子を気にも留めず、タバサは手にした本を手渡す。 手渡された本をジャンガは繁々と見つめる。 それがアーハンブラ城で、タバサが読んでいた本だとジャンガは気付く。 「『イーヴァルディの勇者』ねェ…。で、この本が何だってんだ?」 本をちらつかせながらタバサに聞き返す。 「その話…『イーヴァルディの勇者』は原点が存在しない。 だから、話の筋書きや登場人物も色々と違う物がたくさん在る」 「だから、何だって――」 「その中に、この話にも出てる女の子が友達を裏切った話が在る」 「……」 「結局その子はイーヴァルディに助けられ、裏切りを赦されて話は終わるの」 「…何が言いたい?」 返事は無い。タバサは黙ったままだ。 暫くの間沈黙が流れ、タバサは口を開いた。 「現実は物語じゃない…」 「…ああ」 「壊れた友情が簡単に戻るなんて、現実にはありえない」 「…そうだな」 「わたしは皆を裏切った」 「…結果的にはな」 「裏切り者は赦されないのが普通」 「…そりゃそうだ」 「だから…、わたしは彼女と一緒の部屋にはいられない」 そこでタバサは俯いた。頬を一筋の涙が伝う。 肩を震わせ、小さく嗚咽を漏らす。 「おい…」 ジャンガが声を掛けたが、タバサにはもう返事をするだけの余裕は無かった。 ――怖い、怖い、怖い そんな事、あるはずがない。 彼女は言った、自分は親友だと。決して見限らないと。 言葉だけでなく、行動でもそれを証明した。 だから、そんな事はないと解っている。解っているが……それでも怖い。 自分は実は既に嫌われているのではないか? 恐れられているのではないか? …そんな不安が今でも心の中に残っている。 振り払おうとしても、心の中に残り続ける。 だから、さっきも彼女の声で怯えてしまった。 ずっと一緒だった親友を、信じ切れない……なんて酷いんだろう。 自分は親友の気持ちを踏み躙ってる。 そう考えると、更に涙が溢れてきた。 ――そんなタバサの考えは、頭を乱暴にぐしゃぐしゃとやられて停止させられた。 顔を上げると、ジャンガが半ば呆れた表情で自分を見下ろしている。 「ったく…、乳離れできてないガキの分際で、小難しく物事考えてるんじゃねェよ」 「……」 「テメェは親救いたくて、悩んだ末の結果だろうが? 結果的に裏切りだとしてもな、あーだこーだ非難される理由は無ェ。 大体、テメェは最後には、あのクソガキ助けたじゃねェか。つまり、裏切りきれてねェって事だ。 ハンッ…、そんな奴が裏切り常々で悩もうなんざ、百年早いんだよ。 同じ裏切りなら、俺の方がよっぽど刺激的で、ドロドロしてるってもんだゼ。 それに比べりゃ…テメェの裏切りなんざ、子供のウソと同レベルだな」 タバサは呆然とジャンガを見つめる。 そんな彼女の鼻先にジャンガは爪を突きつけた。 「いいか? 下らない事でもう悩むんじゃ無ェ。 裏切りの罰なら、テメェはもう十分すぎるほど受けてんだ。 これ以上テメェに罰を望むんなら…それは、そいつの傲慢だってんだよ。 だから、テメェはもう悩むな。普通にしろ。――いいな?」 ジャンガはタバサの眼前に顔を近づけ、半ば脅すような感じの口調で言った。 タバサはそんな口調に怯えるそぶりも見せず――否、寧ろ慰められて安堵した表情を見せた。 涙を拭い、ジャンガに向かって笑顔を返す。 「ありがとう」 「ハァ~……ったく、本当に世話の焼ける奴だゼ…」 迷惑そうに呟くも、実際はそれほど悪くは思っていない。 そして、もう一度大袈裟なまでに大きなため息を吐く。 「明日は雌牛とちゃんと真っ直ぐに向き合えよ?」 「うん」 頷くタバサを見て、ジャンガは小さく安堵の息を漏らした。 「よう、話は終わったか?」 手すりに立て掛けたデルフリンガーの声に、ジャンガは不機嫌な表情を浮かべる。 「最後まで口挟むんじゃねェよ…ボロ剣」 「そんな睨むなって。話の途中で口挟まなかっただけでも良かったじゃねぇかよ?」 必死に弁解するデルフリンガー。 ジャンガは忌々しげに鼻を鳴らす。 「フンッ。…で、何の用だ?」 「ああ。…相棒のルーンの事さ」 ジャンガの片方の眉が、ピクリと動く。 「一つだけハッキリさせておきたい事があるんだ」 「何だ?」 一拍置き、デルフリンガーはジャンガに聞いた。 「相棒……前に、何か妙なモンに触れたりしなかったか? こう、力のあるマジックアイテムのような…」 「…何?」 僅かながらの動揺。それを見て、デルフリンガーは話を続ける。 「あるのかい?」 「……」 デルフリンガーの言葉に答えず、ジャンガは過去を振り返る。 思い返されるは嘗ての”相棒”と組んでいた時。 利用する為に組んだとは言え、充実していた毎日。 その日々の中での僅かなすれ違い。 そして―― 「相棒…大丈夫か?」 「ジャンガ?」 デルフリンガーとタバサの声に、ジャンガは過去の回想から現実に引き戻された。 見ればデルフリンガーはともかく、タバサは心底心配そうな表情をしている。 「どうした?」 ジャンガの問いかけにデルフリンガーは心配そうな口調で答える。 「そりゃ、こっちの台詞だぜ。相棒急に黙りこくったかと思えば、何か怖いような、悲しいような顔するし。 正直、何を考えているのかまるで解らなかったぜ。相棒、一体何考えてたんだ?」 「…昔を思い返しただけだ」 「昔…」 小さく繰り返すタバサに頷いてみせる。 「辛いなら、無理に思い返さないほうがいい。あなたも追及しない事」 ジャンガを気遣い、続いてデルフリンガーに釘を刺す。 「解ったよ、眼鏡の娘ッ子」 了承の意を示すデルフリンガー。 そんなデルフリンガーにジャンガは言った。 「お前が言うような事だが……一つだけ心当たりはある」 「本当かよ?」 「詳しくは言いたかないけどよ…」 「そうかい」 そう言い、口を閉ざす。 ジャンガは怪訝な表情でデルフリンガーを見つめる。 「…何か気になるのか?」 「いや、それはもういいさ。別の話題にする」 「…ふん」 「なぁ相棒…、確か…ルーンが消えた時より以前にも何度か――」 タバサは思わず顔を上げていた。 「ルーンが消えた? それってどう言う事?」 「そういや…テメェは眠ってて知らなかったんだな」 ジャンガは簡潔にタバサに自分のルーンが消えた事、そして身体の調子が悪くなった事を教えた。 その説明でタバサは、彼があれほどまでにフーケのゴーレムに苦戦していた事に納得した。 「そう」 「ま、そう言う事だ。…ほら、続けろ」 ジャンガはデルフリンガーを促す。 「ああ。…相棒は以前にも何度か手を押さえて痛みを訴えていた事があったよな?」 その言葉で、タバサの脳裏に浮かんだのはあの日の出来事。 オールド・オスマンに報告した後、突然左手を押さえて苦しみだした彼。 「確かに、あの日もあなたは苦しんでいた」 「それが、何だってんだ?」 ジャンガの問いにデルフリンガーは答える。 「そいつは…言う事を聞かない使い魔への懲罰じゃないか、って俺は思うわけよ」 「懲罰…ねェ。やっぱりそうなるか…、それならあの痛みも納得が行くってもんだしよ。 なら、ルーンの消滅と身体能力低下も、やっぱ懲罰の一つか?」 「さぁ…解らん」 「あン?」 「使い魔の契約は一生の物だ。主人か使い魔、そのどちらかが”死ぬまで”契約は続く」 それを聞いてジャンガは、デルフリンガーが何を言いたいのか気付く。 「つまり…”生きている内に契約が外れる事は無い”って、そう言う事か?」 「ああ。相棒のようなケースは恐らく前代未聞、ハルケギニア中のメイジがビックリするだろうな」 「どうしてそんな”起こりえるはずの無い事”が起こった?」 「解らんね…、俺はメイジじゃないしさ。それに言ったろ? 前代未聞だってよ」 ジャンガは顎に爪を当てて考える。 解らないとデルフリンガーは言ったが、偶然にしては一致し過ぎる。 前代未聞の契約解除、今の著しい身体能力低下、そして…あの声。 …とても無関係とは思えない。 ジャンガは顔を上げるとデルフリンガーに問う。 「おい…、ルーンてのにはテメェみたいに”意思”てのはあるのか?」 「ん? そりゃまた…唐突な質問だな、相棒。何か気になるのかい?」 「手に痛みが走る時……って言っても最近の事だがよ…、声が聞こえたんだよ」 「声?」 「ああ…」 デルフリンガーは暫し悩んでいたが、申し訳なさそうな口調で答えた。 「悪いが、解らねぇ。何しろ、お前さんみたいなのは珍しいんだ。ルーンが消えたって事以前によ」 「どう言う事だ?」 それに答えたのはタバサ。 「使い魔で呼ばれるのはハルケギニアに住む生き物。だから、大体人語を解さない」 そう言えば…、とジャンガは他の生徒が召喚した使い魔の面々を思い返す。 鳥に蛇に犬に猫…、それ以外の幻獣もシルフィードのように人語を話す事は出来ないような連中ばかりだ。 なるほど……確かに、話が出来る使い魔は珍しいと言えるのも納得だ。 「ああ…、納得したゼ」 納得したジャンガにタバサは頷いてみせる。 そこでデルフリンガーが口を挟む。 「だからよ、ルーンに意思が在るかどうかなんてよ、解らないな。 だから、相棒の聞いた声がルーンの物かどうかなんて確かめようもねぇ」 「そうかよ」 ジャンガは最早何も浮かんでいない綺麗な左の手の甲を見た。 迷惑極まりなかったが、こうして無くなると妙に寂しくもある。 それに、今の不調も早急に何とかしたい。 「じゃあ…、俺の身体能力低下はルーンが戻れば治るか?」 「それも解らん。生涯に二度の使い魔契約をした使い魔なんて、このざた見た事が無いからね」 「なら、やってみるか」 その声にデルフリンガーは愕然となる。 「あ、相棒? まさか、あの娘ッ子の使い魔に戻るつもりかよ!?」 「あくまでこの不調を戻すだけだ。あのクソガキの使い魔なんざやるつもりはねェ」 「…まぁ、相棒ならそう言うと思ったよ。…けどな、やめた方がいいと思うぜ?」 「前例が無いからか?」 「ああ」 「んなの関係無ェよ」 「危険」 そう言ったのはタバサ。 「危険? 何が…」 「色々ある」 「具体的に言えよ」 「んじゃ、俺が説明してやる」 そう言って、デルフリンガーは言葉を続ける。 「障害は二つある」 「言ってみろよ」 「まず、『サモン・サーヴァント』だな。そいつを唱えた際、サモンゲートってやつが使い魔となる者の前に開く。 で、そのゲートを潜れば召喚成功となるんだ」 「それの何処が問題なんだ?」 「ゲートが相棒の前に再び開くかどうかが問題なんだよ。いやな、使い魔がどうやって選ばれているのか 実際のところ…まだよく解っちゃいないんだ。四系統なら、それを象徴する幻獣やら動物やらの前にゲートは開く。 あの赤髪の娘ッ子のサラマンダーや、眼鏡の娘ッ子の風韻竜なんか言い例だな」 「なるほど」 「だが”虚無”の系統は解らねぇ…、何しろ伝説だからね…。どういった基準で選ばれてるのか、皆目見当がつかねぇ」 「フンッ、そうかよ。…じゃあ次」 「『コントラクト・サーヴァント』」 「それはどう言った物だよ?」 「そいつは――」 そこでデルフリンガーは口篭る。 その様子にジャンガは怪訝な表情を浮かべる。 「どうした?」 「…あ~いやな、その…なんだ…?」 「?」 「…どうしても聞きたいのか?」 「…なんだよ、いきなり?」 「後悔しない? 俺に何もしない?」 「…だから何だってんだ?」 そこへタバサが口を挟んだ。 「キス」 「ン?」 「キスをする」 「……ハッ?」 ――一瞬、思考が麻痺した。 こいつは今…何を言った? 「おい…もう一度言え。…何をするって?」 タバサはジャンガの目を真っ直ぐに見つめ返しながら言った。 「キスをする。それで契約は終了して、使い魔のルーンが刻まれる」 「……」 ジャンガの頭の中で今入った情報が高速で処理される。 ――キス? ――唇と唇を合わせる”あれ”か? ――それが契約? ――それを俺はした…いや、された? ――寝てる間にか? ――誰と? ――あのクソガキと!? そこまで情報の整理が完了した瞬間、ジャンガは激しく鬱な気持ちに襲われた。 そして、手すりに手を付き、項垂れる。 その様子に流石にデルフリンガーとタバサも心配になった。 「あ、相棒……大丈夫か?」 「気を落とさないで」 そんな二人の励ましも然程効果を上げない。 寧ろ、ジャンガは更に鬱な気持ちになっていく。 「俺が…キス? あんな…クソガキと? 寝てる間に? ありえねェ…、ありえねェ…、ありえねェ…」 何かをブツブツと呟きだした。 「相棒、気を落とすな。キスとは言っても、契約の為の儀式だ。だから、邪な気持ちとかは無い。 相棒がどんな人生歩んできたか知らないが、決して相棒の趣味を俺は疑ったりはしねぇよ。いや、絶対!」 「わたしもあなたを変な目で見たりしない。だから気を落とさないで。 それにあれは契約。だからノーカウント、絶対ノーカウント」 デルフリンガーはともかく、タバサはそれまで見せた事の無いような必死な口調で慰める。 表情はそれほど変わらないが、その瞳の奥にはある種の闘志の炎が燃えていた。 暫くし、ようやく立ち直ったジャンガはタバサから再度説明を受ける。 「で? その…キスする”だけ”のやつの何処が危険なんだよ?」 「あなたは気絶していたから知らないけれど、ルーンを身体に刻むのは可也辛い」 「…んなもん、今更じゃねェか?」 「いや、問題なのは苦痛じゃねぇんだよ」 そう言うデルフリンガーに眉を顰める。 「どう言う意味だ?」 「先に言った事だけどよ、二度の使い魔契約なんざ前代未聞だ。 加えて言えば、相棒のルーンの消え方はあまりにも不自然すぎる」 「と言うと?」 「”生きている健康な状態”で相棒のルーンは消えたんだぜ? そりゃ、負傷はしてたが…ルーンが消えるほどじゃねぇ。 これが、”瀕死の重傷を負って、一度心臓が止まった後に蘇生した”ってんならまだ解るさ。 一時的にとは言え、心臓が止まったんなら死んだも同然だからよ。だが、相棒はそんな状態ですらなかった。 だから、二重の意味で心配なんだよ」 「……」 「相棒、それでもやるのかい?」 そんな風に尋ねるデルフリンガーに、ジャンガは鼻を鳴らす。 「まぁ、確かに多少抵抗はある。…が」 ニヤリと笑ってみせる。 「このまま、毒の爪の名が地に落ちたままってのもいただけないゼ」 それは最早、決定事項だった。 翌朝。 ジャンガ達は桟橋から朝の便に乗り、一路アルビオンを目指した。 ラ・ロシェールに最も近づいているとは言え、アルビオンとの距離はあるらしく、暫し空の船旅は続いた。 「くわァァァ~~~」 甲板で寝転ぶジャンガは大きな欠伸をする。 部屋に居るよりも、こうして陽に当たって寝転んでいた方が気持ちがいいのだ。 ――突然、陽が遮られた。 目を開けると、タバサの顔がそこにあった。 「お前か」 「寝ていた?」 「半ば起きてたよ」 そして、身体を起こす。 大きく伸びをし、タバサを振り返る。 「何の用だ?」 「もう少しで到着する」 「そうか…」 空を見上げれば太陽は大分傾いていた。 二つの月も薄っすら姿を見せている。 と、タバサが驚いた様子で声を掛けてきた。 「ジャンガ、前」 「ン?」 視線を目の前に向け――驚き、目を見開いた。 「ンだ、こりゃ?」 ジャンガの目の前にはエメラルド色の卵のような形をした、鏡のような物が浮かんでいる。 驚いた表情でそれを見つめるジャンガの隣でタバサが呟いた。 「サモンゲート」 「…何だと?」 改めて目の前の鏡=サモンゲートを見つめる。 自分の目の前にこれが開いたと言う事は、誰かが使い魔として自分を呼んだのだろう。 だが、誰だ? 悩んでいると、ゲートから声が聞こえてきた。 「誰か…、誰か助けて!」 その声にジャンガは眉を顰め、鞘から飛び出したデルフリンガーがいつもの調子で言う。 「はぁ…、どうやら相棒はあの娘ッ子の使い魔になる星の下に生まれたみてぇだな…」 「言ってろ…」 「でも、何で『サモン・サーヴァント』を?」 そんなタバサの疑問に答えるかのように、ゲートから別の人間の声が聞こえてきた。 「どのような使い魔が来るかはしらぬが…、契約もできぬ状況では無意味だ」 その声にタバサとデルフリンガーは息を呑み、ジャンガは見て解る位ハッキリと不愉快な表情を浮かべた。 ゲートからの声は続く。 「言う事を聞かぬ小鳥は、首を捻るしかあるまい…。残念だよ、この手できみの命を奪わねばならないとは…」 その言葉に、事態が切迫した物である事を三人(?)は悟った。 ジャンガはタバサに目配せをする。 タバサは静かに頷く。 「後から追いかける」 「…大丈夫か?」 「多分、大丈夫」 「そうか」 それだけ言うと、ジャンガはデルフリンガーを背中に背負い、ゲートへと飛び込んだ。 ジャンガがゲートに飛び込んだのを確認し、タバサはキュルケ達を呼びに船室へと急いだ。 ゲートから飛び出すと、眼下に床に這い蹲る様な格好で倒れた桃髪の少女が見えた。 そして、前方――声から想像していた通りの人物がそこに立っている。 見間違うはずが無い。見ていてムカツク、あのヒゲヅラだ。 ジャンガは驚きで呆然としているその男に、ニヤリと嫌みったらしい笑みを浮かべて見せた。 そして、空中で回転して勢いを付け、両足を揃えた見事なドロップキックを、その顔面に手加減抜きで叩き込んだ。 顔面にドロップキックを諸に受けたワルドが派手に吹き飛ぶ。 大きな音を辺りに響かせながら、椅子を蹴散らし、粉塵や破片を撒き散らしながら床に落下した。 それを見届けながらジャンガは床に着地する。 そして、辺りを見渡した。 どうやら、礼拝堂のような場所らしい。目の前には何かの神様の物だろう、像があった。 そして、像の目の前で血を流して倒れる若者の姿を確認する。 身形から察すると、それなりに偉い人物のようだが…。 「最悪…」 突然、背後から掛けられた声にジャンガは振り返る。 いつもと違う、白いマントを羽織ったルイズが自分を見つめている。 「ああ…、俺も最悪だ。テメェに使い魔として”また”呼ばれるなんざよ…」 そしてルイズは項垂れる。その拍子に涙がこぼれた。 ジャンガは鼻を鳴らし、ルイズに言った。 「ほらみろ…、見事に裏切られたじゃねェか。だから、言っただろうが…」 「ええ……そうね…、見事に裏切られたわよ。…でも、まさか…ワルドが『レコン・キスタ』だったなんて」 『レコン・キスタ』…聞きなれない単語に眉を顰めるジャンガの耳に、ワルドの声が聞こえた。 「アルビオンの貴族派……いや、国境を越えて繋がった貴族の連盟の名さ」 声の方へと顔を向けた。 身体に乗った壊れた椅子の破片を落としながら、ワルドがゆらりと立ち上がっている。 ドロップキックをまともに受けた所為か、鼻から夥しい量の鼻血が流れている。 鼻血は立派な顎鬚を赤く染め、ポタリ、ポタリと床に滴り落ちていた。 ワルドは引き攣った様な笑みを浮かべ、ジャンガを睨む。 「随分とやってくれたね…”元”使い魔君」 「テメェが昨日してくれた分の礼をしてやったまでだ。…で、”レンコン”と”パスタ”がどうしたって?」 「『レコン・キスタ』だ。我々はハルケギニアの将来を憂い、集った。我々に国境は無い。 ハルケギニアは我々の手で一つになり、始祖ブリミルの降臨せし『聖地』を取り戻すのだ」 「ご大層な演説ありがとうよ。まァ…、そんな鼻血ダラダラの顔で言われても何の説得力も無いけどよ」 言われてワルドは鼻血を拭った。 キキキ、とジャンガが笑うや、ワルドは頭に血が上りかけた。 しかし、何とか平静を保つ。 「それにしても、何故彼女のサモンゲートに飛び込んだ?」 「…解るのかよ? 俺があのガキの開いたゲートだと知っていたと?」 「そうでもなければ、あのような見事な蹴りは放てまい」 「そりゃごもっとも、キキキ」 「まぁ…それは置いておく。それで、改めて聞くが…何故君は彼女の開いたゲートに飛び込んだ? 死地へとやって来た? 私に遅れをとるくせに何故此処へ来た?」 「言う必要があるのかよ?」 「なるほど! 言えるはずも無い! 貴様のようなメイジに劣る野蛮な亜人が貴族の娘に恋をしたなどとな! 滑稽な事だ! 叶わぬはずの無い恋だと言うのに! あの高慢なルイズが貴様如きに振り向くはずもないというのに!」 ジャンガは黙ってワルドの言葉に耳を傾ける。 「ささやかな同情を恋と勘違いしたか……愚か者め!」 その罵倒の数々に、ジャンガではなくルイズが耐え切れなくなった。 「ワルド! あなた、いい加減に――」 「ったく…相変わらずウゼェ」 ルイズの声を遮ってジャンガは呟いた。 ルイズもワルドも怪訝な表情をする。 ワルドはジャンガを睨み付けた。 「何を言っているんだ貴様?」 「ウゼェつったんだよ…ヒゲヅラ」 「何?」 そこでジャンガは盛大にため息を吐いた。 「ったく……口を開けば恋だ何だ…、僕のルイズ、僕のルイズ、バカの一つ覚えみたいに繰り返しやがってよ。 テメェなんかと同じ趣味にされたらたまらないゼ…ロリコンが」 「なっ!?」 ワルドは絶句する。 「俺はテメェなんかと違って女の理想は高いんだよ! ちゃんと”女と解る”奴が好みだ。 このガキはどうだ!? 可愛げ無くて魔法は駄目。編み物も駄目なら給仕も出来ない。 付け加えれば背も低く、尻も出てなきゃ胸も無ェ!! 正直、”服装”と”髪型”だけで女と解るレベルだ! 男装させりゃ、誰も貴族どころか…”女”とすりゃ解らねェゼ! こんな”幼児体型”のガキを本気で物にしたいと思うのは、テメェぐらいのものなんだよ! 解ったか!? ヒゲヅラロリコン!!!」 一気に捲くし立てたジャンガの勢いに飲み込まれ、二人は沈黙した。 が、それも一瞬の事…、すぐさまルイズは震える声でジャンガに文句を言い始める。 「ジャ、ジャジャ、ジャンガァァァーーー!? あ、あああ、あんた…あ、あたしに……ななな、何て事を…」 しかし、ジャンガはそれを無視する。 ワルドも表情を引き攣らせていた。 「…流石に、僕も今の君の意見には賛同しかねるな…。色々な意味で…」 そして、咳払いを一つし、ジャンガを見据える。 「では、君は何で此処に来たんだね?」 ジャンガはニヤリと笑った。 「こいつが俺の”所有物”だからさ。…いや、こいつだけじゃねェ。トリステインに有る物は全部俺のものだ」 「ほう、大きく出たな?」 「ハンッ! どうせなら野望や目標はデカイ方がいいじゃねェかよ? ま、そう言う事だ。 このガキの髪の毛一本、血の一滴、テメェにくれてはやれねェゼ。 精々、そこらのドブネズミのメスでも愛でてやがれ、ヒゲヅラ!」 ジャンガの言葉にワルドもまた笑みを浮かべる。 「いいだろう…、君如きが相手にならないのは既に承知の事実。ここで完全に仕留めるとしよう」 「キキキ、悪いな…二度も敗北するかよ!」 そして、両者は構えを取った。 それを、ルイズは固唾を呑んで見守る。 「これで終わりだ! ”元”ガンダールヴ!」 「ガンダールヴじゃねェ! ”毒の爪のジャンガ”様だ! 良く覚えとけ、ヒゲヅラァァァーーー!!!」 そして、第二ラウンドの幕が上がった。 前ページ次ページ毒の爪の使い魔
https://w.atwiki.jp/bbnduel/pages/117.html
2-27【偵察タイガー:猛虎の斥候】(C) 戦力/体力…[6/5] キーワード能力…"速攻/神速" 技能…<遠吠え>:このカードの配置と技能値を自軍の「タイガー」と名の付いた後衛と入れ替える。 フレーバーテキスト:「情報収集はどんな部隊でも必須の行動である。それは、彼らとて例外ではなかった。」 解説: タイガー限定のチェンジャー。 ただし、本体のスペックが著しく低い為、「タイガー」を利用するカードが出ない限り、 2-04【南条御影:傍若無人の仙女】等を使ったほうがよい。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6444.html
前ページ次ページ毒の爪の使い魔 夕日が辺りを紅く染める。 ジャンガは切り立った崖の上の手すりに凭れ掛かり、ボーっとしていた。 消えたルーンやら、決闘の敗北やら、著しい身体能力低下やら、悩む事が多すぎて考えが纏まらない。 ゆえに今はボーっとしていようとそう考え、先程からずーーーっと人気の無いここにいた。 どれだけそうしていたか――突然、後ろから声が掛けられた。 「ジャンガ、こんな所に居たの…」 後ろを振り向くまでも無い。今の声が誰のかなど、考えるのは愚問だ。 ジャンガは特に感情を込めずに返事を返す。 「…ンだ?」 「何だも何も無いわよ。探したじゃない?」 「フン…、今はほっときやがれ…」 ジャンガの言葉にルイズは表情を曇らせる。 「もしかして…泣いてたの?」 「……」 返す言葉が無い。事実、あの敗北の後、大泣きしたのだから。 その様子にルイズは、自分の言った事が的を得ている事を確信した。 「朝の事を気にしてるの? 相手は魔法衛士隊の隊長、陛下を守る守護隊長なのよ? あんたが相手にしたメイジとは比べ物にならない腕を持ってるんだから。 それに…あんたはまだ怪我が治りきっていないんだから、負けたって…」 「…怪我が治ってたって負けたさ」 「え?」 突然返された言葉にルイズは思わず声を漏らす。 「それってどう言う事?」 「……」 ジャンガは答えない。 ルイズはジャンガに駆け寄り、肩を掴んで揺さぶる。 「ちょっと、今のはどう言う意味よ? ちゃんと答えなさいよ!」 ジャンガは無言で左の袖を捲くり、左手の甲をルイズの眼前に突きつけた。 突然の事に一瞬呆気に取られたが、直ぐにルイズはそこに在るべき物が無い事に気が付いた。 「…ルーンが、無い?」 「…ああ、そうさ」 にべも無く、肯定される。 ルイズは更に問い質す。 「ルーンが無いって…どう言う事よ!? 使い魔の契約は一生の物のはずよ!? どうして消えてるのよ!? と言うよりも、いつ、どうして、消えたのよ!?」 「消えたのはタバサ嬢ちゃんを助けた帰り道…、どうして消えたかは知らねェ…」 淡々と返すジャンガの言葉にルイズはムッとなる。 「じゃあ何!? あんたはルーンが消えたからあんなに弱くなったって、そう言うの!?」 「…他に理由が在るか?」 言われてルイズは黙ってしまう。 ジャンガは大きなため息を吐いた。 「ったく…嫌な物だな、使い魔ってのはよ。散々主人に逆らったら、勝手に放り出して、 更にそいつを著しく弱体化……最悪過ぎるな。よくこんな残酷極まりない物を考え付いた物だゼ」 「そ、そんな事言われたって……使い魔のルーンが消えるなんて、初めて聞いたわよ」 「フン」 忌々しげに鼻を鳴らすジャンガ。 「まァ…これで俺は晴れて自由の身だ。テメェにあーだこーだ言われる筋合いは、もう無ェんだ。 清々したゼ…キキキキキ」 そう言って笑うジャンガだったが、その笑い声に力が籠もってないようにルイズには感じとれた。 「…悪かったわ」 「…ケッ、何を今更」 ジャンガの言葉が胸に突き刺さる。そう…、確かに今更だ。 元々の原因であり使い魔扱いをしていた自分に、ジャンガの今の境遇に同情する資格は無い。 …だが、それでも悪かったと言いたかったのだ。 「…今更だってのは解ってるわよ。でも、原因はわたしだし、せめてあんたの体調を戻す手伝い位は…」 「必要無ェ…。テメェにこれ以上借りなんか作らせるか…」 その言葉にルイズは再びムッとなる。 「何よ! 心配してあげてるのに、その態度は!?」 「ウルセェ…、今はほっとけってんだよ…」 そう言ってジャンガは口を閉ざした。 ルイズはジャンガの背に向かって言った。 「ジャンガ…、わたし…ワルドと結婚するわ」 「ああ…そうかよ」 それだけ…、ただそれだけ…、ジャンガは返事を返した。 そう…、とルイズは呟き、ジャンガに背を向ける。 そして歩き出そうとした所に、声が掛けられた。 「まァ、精々裏切られても泣きべそかくなよ」 その言葉にルイズは勢いよく振り返る。 ジャンガはこちらに背を向けたままだ。 「…今の言葉、どう言う意味よ…?」 「どう言うも何も…言ったまでの意味だゼ?」 ルイズは拳を力強く握り締める。 裏切り? 誰が? ワルドが? 幾らなんでも、今の言葉は聞き捨てなら無い。 「あんた! 幾ら負けたのが悔しいからって、言っていい事と悪い事があるわ!」 「なら別にいいだろうが? 事実だしよ…」 「何を根拠にそんな事が言えるのよ!?」 ジャンガは頭を掻く。 「目がな…」 「目?」 「冷たいんだよ。ありゃ、裏の世界で生きる者に良くある目だ。他者を利益の対象としてしか見ないな。 テメェの事も自分の利益になる物としてしか見て無いゼ、あのヒゲヅラはよ。 まァ、そんな小難しい事は抜きにしても…あの野郎が裏切るってのは解るゼ。 何しろ、俺が裏切り者だからな。嫌でも解るんだよ。どう言う奴が裏切るのかってよ。キキキ」 笑うジャンガに対し、ルイズは怒りで体中の血が沸騰しそうだった。 無理も無い、自分の婚約者を…憧れの人を、裏切り者と貶されているのだから。 「…いいわよ。あんたはそう言っていればいいわよ。でも、わたしはワルドと結婚するわ。 あんたは何も知らないからそう言えるけど、わたしはあの人の事を小さい時から知っている。 とても優しくて、気品があって、あんたなんかとは大違いなんだから!」 「キ、キキキ、キーーッキキキキーーーーッ!」 突然大声で笑い始めたジャンガに、ルイズは一瞬気圧された。 「な、何が可笑しいのよ!?」 ジャンガはルイズを振り返る。 「…いや、テメェがあまりにも”お約束”な台詞を言う物だからよ。 言うんだよな…裏切られた奴は、どいつもこいつも”あいつは違う”とか”自分は良く知ってる”とか。 そう言って信頼を寄せた先にあるのは―――裏切りだけ。 そこで初めて自分の愚かさに気が付くんだよな。馬鹿馬鹿しいゼ…」 手を広げ、やれやれと言った顔付きで首を振る。 「テメェも結局、そいつらと同じさ。俺自身裏切り者だしよ、断言してやる…」 ジャンガはルイズに爪を突き付け、言い放った。 「テメェは、あのヒゲヅラに裏切られる、絶対にな! キーーーッキキキキキキッ!!!」 その言葉に、ルイズは完全に我慢の限界を超えてしまった。 笑うジャンガに静かに歩み寄る。 「ねぇ…、ジャンガ…」 「あン? 何だ――」 パァァァァァン! 乾いた音が辺りに響いた。 突然の事にジャンガの思考は一瞬麻痺した。 歩み寄ってきたガキの言葉に笑いを止め、顔を覗き込もうとした瞬間、視界が横を向いた。 乾いた音が遅れて聞こえ、左の頬が熱を持ったように熱くなる。 視界を目の前に戻すとガキが右手を大きく振るった格好で身体を震わせている。 そこで、ようやくジャンガは、自分が左の頬を叩かれた事に気が付いた。 ルイズは肩を振るわせ続けている。俯いている為、表情は伺えないが、時折雫のような物が垂れている。 ジャンガが眉を顰めると、ルイズは顔を上げる。 両目は涙が溢れ、顔にはハッキリと怒りの表情が浮かんでいる。 「テメェ…」 「あんた…、あんた…、何様のつもり? 偉そうに口を聞いているけど、そんなに自分の言っている事が正しいの!? そんなに自分は世界で偉いの!? …そんなに偉いわけないじゃない。あんたは、向こうでも裏切り者だったんだしね。 そんな奴に…わたしの思いを、好きな人を否定されたくない。侮辱されたくない!」 一気に自分の中の思いを捲くし立てるルイズ。 そんなルイズに気圧されたのか、ジャンガは何も答えない。 「最近、少しは柔らかくなったかな? とか思ったけど…そんな事なかったわ。 あんたはやっぱり最低よ! 他人を嘲笑って楽しむ外道だわ! 心配なんかするんじゃなかった! あんたなんか…、あんたなんか…、死んじゃえばいいんだわ! 死んで、地獄にでも落ちればいいのよ!!!」 そう叫ぶと、ルイズはジャンガに背を向け、その場を走り去った。 後にはジャンガ一人が残された。 ジャンガは夕日に向き直ると、手すりに頬杖を突き、ため息を吐いた。 「地獄か…」 デルフリンガーが鞘から飛び出す。 「相棒…、イライラしてんのは解るがよ。ちぃとばかり言いすぎじゃないのか?」 「…事実を言っただけだ。何が悪い?」 「いや…、普通信じられないと思うぜ? 自分の好きな人が裏切り者だ、なんて言われてもよ?」 「フン」 「…まぁ、それは置いといてだ。相棒に一つ聞きたい事が有るんだけどよ?」 「後にしろ」 「え? ちょっ、まっ――」 有無を言わせず、ジャンガはデルフリンガーを鞘に押し込んだ。 ルイズが去って、どれだけの時間が経っただろうか? 夕日は既に山の向こうに沈んでいる。 空は夜の帳が落ち始め、重なった二つの月が姿を見せている。 しかし、ジャンガは手すりに頬杖を突いたまま、ボーっとしていた。 そこに彼を探しに来たギーシュとキュルケが姿を現した。 「ジャンガ、探したぞ?」 「そろそろ出港の時間よ。急がないと、船に乗り遅れちゃうわ?」 「ああ…、そうかよ」 そんな二人の言葉を聞きながら、ジャンガは返す。 そのジャンガの言葉に二人は呆れた表情を浮かべた。 「そうかよ、って…君」 「まだ落ち込んでいたの? いい加減に立ち直りなさいよ。あなたらしくないわね」 キュルケがそう言った時だ。 突如、地震と間違うばかりの大きな地響きが起こった。 「な、なんだ?」 「地震?」 振り返ったジャンガは、慌てる二人の向こうを見るや叫んだ。 「テメェら、後ろだ!」 「「え!?」」 二人が振り返ると、地面を突き破り、巨大な全身が岩で出来たゴーレムが姿を現した。 突然の事に呆然とする三人の耳に、女の笑い声が聞こえてきた。 「あーはっはっはっはっはっ!」 その声にジャンガとキュルケは聞き覚えがあった。いや、ありすぎた。 「この声は…」 見上げると、ゴーレムの右肩にその姿は在った。 緑色の長い髪を棚引かせた女性だ。 ジャンガはその女性の名を忌々しそうに呟いた。 「フーケ…」 ジャンガの言葉にフーケは満足そうに笑う。 「覚えててくれて感激だわ」 「テメェ、チェルノボーグとかって豚箱に入ってたんじゃなかったのかよ?」 「親切な人がいてね…、私みたいな美人はもっと世の中の為に尽くすべきだって言われてね。 それでこうして出してもらったのさ」 「ほゥ? それがその隣に佇んでる奴か?」 フーケの隣には黒マントを着込んだ貴族が立っている。 顔は白い仮面を付けている為に解らなかったが、どうも男のようだ。 ジャンガは視線をフーケに戻す。 「で? 折角シャバに出られたってのによ…、わざわざテメェはここに何しに来たんだよ?」 それを聞いてフーケの顔に凶悪な笑みが浮かぶ。 「それは勿論、素敵なバカンスをありがとうって、お礼を言いに来たんじゃない!」 叫ぶや、ゴーレムがその豪腕を振りかぶり、突き出してきた。 咄嗟に三人はその場を飛び退く。 ゴーレムの拳が地面にぶつかり、巨大なクレーターを穿つ。 飛び退くや、キュルケは杖を手にし、即座に詠唱を完成させる。 杖の先端から『ファイヤーボール』が飛ぶ。 しかし、フーケに衝突する直前、炎球は突如巻き起こった風に押し止められ霧散する。 風が起こる直前、隣の仮面の男が杖を振るったのが見え、キュルケは苦虫を噛み潰した様な表情になる。 「また風なの……いい加減にして欲しいわね」 以前、授業の時にギトーの風の魔法で、炎球ごと吹き飛ばされた苦い記憶が、キュルケの脳裏を過ぎる。 「…けど、やられてばかりの、あたしでもないけれどね」 杖を突きつけ、再度詠唱を開始する。 隣ではギーシュもワルキューレを出し、臨戦態勢を整えていた。 「『土くれ』のフーケ! このギーシュ・ド・グラモンが貴様を成敗してくれる!」 「面白いじゃない? やれるものならね! けど、その前に…」 フーケはジャンガに向き直り、怒りの籠もった目で睨みつける。 「あんたにまず礼をしなくちゃね!」 ゴーレムの腕が突き出される。 それを間一髪飛び退いてかわす。 「チッ」 「どうしたんだい? ご自慢の分身やカッターは使わないのかい?」 「ケッ、ザコにそこまでしてやる必要が無ェ…。と言うよりも、豚はブーブー豚箱で唸ってろ」 フーケの額に青筋が浮かぶ。 「言ってくれるじゃないさ!!」 再度、ゴーレムの豪腕が振るわれ、地面に三つ目のクレーターが生み出された。 地面を転がるようにしてその場を逃れるジャンガ。 立ち上がり、ゴーレムを睨みつけた。 「ふん、なんだいあいつ? 前とは比べ物にならない位、弱いじゃないさ?」 「おそらく、身体の怪我が響いているのだろう」 フーケの呟きに隣の仮面の男が答える。 「ふん、まぁいいさ。わたしはあいつにこの間の礼を出来ればいいからね」 男は答えない。耳を澄ますような仕草をすると、フーケに告げる。 「よし、ではここはお前に任せる。俺はラ・ヴァリエールの娘を追う」 「わたしはどうするのよ?」 呆れたように呟くフーケ。 「好きにしろ。…念の為に”これ”を置いていく」 そう言って男は懐に手を入れる。 取り出した手には何も握られていない。――否、指の間に何かが挟まっている。 ビー球位の大きさの、赤と黄色の縞模様のカラフルな色彩の玉だ。数は全部で三つ。 フーケは怪訝な表情でそれを見つめる。 「何だいそれは?」 男は返事をせず、無言で玉を放った。 玉は地面に落ちるや、パンッ、と音を立てて破裂。 途端、破裂した地点を中心として青白いゲートのような物が現れた。 フーケが驚く間も無く、ゲートから何かが迫り出して来た。 どうやらそれは幻獣のようだった。だが、どれも見た事が無い。 一匹は一メイルほどの大きさで、全身銀色の鉄のような肌をしている。 他の二匹は三メイルほどの大きさで、緑色をしており、巨大な盾を手にしている。 「何だい…こいつら?」 「幻獣だ。見れば解るだろう?」 「そりゃ、それ位は。…でも、見た事も無い奴じゃないさ?」 「見た目などどうでもいいだろう? ともかく、そいつ等も自由に使っていい。君の言う事は一応聞く。 では俺は行く、後は任せた」 そう言って、男は『フライ』で浮き上がると、その場を飛び去っていった。 その後姿を見送りながらフーケは鼻を鳴らした。 「まったく、掴み所の無い男だよ。…でも、まぁいいさ」 そうして思考を目の前の三人に戻す。 そう、今は復讐の事だけを考えればいい。あの痛みは万倍返しにしなければ気がすまない。 「覚悟してもらうよ、化け猫!」 目の前に突如として現れた三匹の幻獣。 見た事もないそれにギーシュとキュルケは動揺を隠せないでいた。 「一体あれは何と言う種族なんだ?」 「あたしに聞かないでよ?」 悩む二人。そこへ響く声。 「よろいムゥ・ぎん、ジャイアントたてムゥ」 「「え?」」 同時に声の方へと振り返る。そこにいるのはジャンガ。 ジャンガはため息を吐く。 「また”あいつ”かよ…」 呟き、三匹の幻獣に目を向ける。 『よろいムゥ・ぎん』――ムゥンズ遺跡の遺産である金属『ムゥハルコン』を加工した鎧を身に纏ったムゥ。 鎧を身に着けただけの”ただのムゥ”であるが、鎧の頑丈さがムゥと決定的な違いを生み出している。 また、どう言う訳か通常のムゥよりも腕力的に優れているようであり、侮れない。 大きさも通常のムゥよりも大きくなっている個体が多いのも特徴。 『ジャイアントたてムゥ』――巨大な盾を持ったジャイアントムゥ。 盾は非常に頑丈な素材で出来ているらしく、並大抵の攻撃では傷一つ付かない。 鋭い爪を利用した攻撃はもとより、盾の頑丈さを生かしたタックル、 盾に乗って地面を滑ったりするなどの攻撃方法を身につけている。 この緑色をした個体は最弱の種だが、それでもその持久力は侮りがたい。 「君が知っていると言う事は……まさか!?」 ギーシュの考えを肯定するようにジャンガは頷く。 キュルケも眉を潜めた。 「また、あのピエロ? 本当にいい加減にしてほしいわ…」 「ぼやくんじゃねェよ…。あいつがいない分、まだマシだと思いやがれ」 そう言って爪を構えるジャンガを見て、キュルケとギーシュも目の前の敵に集中した。 フーケが腕を振り上げた。 「それじゃお前達! やってしまいな!」 「ムゥーーー!!!」 命令に従い、三匹の幻獣が一斉に動き出した。 先陣を切ったのは、よろいムゥ・ぎん。 突進しながらムゥハルコンでコーティングした爪を突き出す。 ギーシュはワルキューレを操作し、それを迎え撃つ。 一体が腕を掴み、二体がよろいムゥ・ぎんの突進を止める。 力と力がせめぎあう。だが、よろいムゥ・ぎんの力はワルキューレを上回った。 身体を振り回し、二体のワルキューレを跳ね除ける。 そして、腕を掴む一体に爪を叩き込む。 何の抵抗も無く、爪は青銅のボディにめり込んだ。 それはまるでゼリーにフォークを突き刺してるようであり、青銅とムゥハルコンの硬度の差を如実に物語っている。 紙を破り捨てるように、よろいムゥ・ぎんはワルキューレを引き裂いた。 その光景に歯噛みするギーシュ。 よろいムゥ・ぎんの背後から、二匹のジャイアントたてムゥが飛び掛ってきた。 盾を構えたのと反対の手の爪を振り翳す。 突き出された爪をワルキューレに受けさせ、ギーシュは何とかその場を離れる。 だが、ワルキューレがまた二体破壊された。 作り出せるワルキューレの総数は十四体…、決して多いとは言えない。 無駄な事は出来ないな、と考えながらギーシュは造花の杖を振り、ワルキューレを出す。 その時、キュルケの『ファイヤーボール』が三匹の幻獣に飛んだ。 しかし、ジャイアントたてムゥは、その巨大な盾で炎球を防ぐ。 よろいムゥ・ぎんはまともに受けたが、その鎧には焦げ後一つ付いていない。 自慢の炎がまるで効いていないのを見て、キュルケは顔を顰める。 「まったく…、盾を持ってる方はともかく、銀色の方は何て頑丈さなの?」 そんなキュルケに向かってジャンガが声を掛ける。 「よろいムゥの鎧は特殊合金『ムゥハルコン』製だ。ちょっとやそっとじゃ傷一つ付かねェゼ? 考えも無しにドカドカ魔法を撃つだけじゃ敵わねェんだよ、バカが!」 「バカは余計よ! 大体、そんな奴をどう相手しろってのよ!?」 「ンなのテメェで考えろ!」 「あなたこそ何も考えて無いじゃない!!?」 怒鳴りあう二人に、見かねたギーシュが口を挟む。 「君達、喧嘩をしている状況では無いぞ!?」 ギーシュの言葉に二人は同時に舌打し、幻獣に向き直る。 三匹の幻獣は三人に一匹ずつで渡り合う事に決めたらしい。 よろいムゥ・ぎんはジャンガに、二匹のジャイアントたてムゥはギーシュとキュルケに、それぞれ襲い掛かる。 「ムゥムゥムゥムゥ~~!」 「クソッ!」 よろいムゥ・ぎんの猛ラッシュに、ジャンガは回避で手一杯だ。 本来ならば軽くいなせる相手であるのだが、今は大層な強敵となっている。 しかも特別製なのか…、動きは素早く、力もある。 とにかく今の身体能力が著しく低下しているジャンガには強敵であった。 そうして攻撃をかわし続けていると、いつの間にかフーケのゴーレムの方へと追いやられていた。 しまった、と思った時にはゴーレムの拳が振り下ろされていた。 「これで終わりだよ!」 凄まじい爆音と聞き間違えそうな巨大な音が響き渡り、地面にクレータがまた一つ出来た。 しかし、そこにジャンガの姿は無い。 「チッ、余計な事を…」 悪態をつくフーケの視線の先、ワルキューレに抱えられ、ゴーレムの拳から逃れたジャンガの姿が在った。 「大丈夫かい!?」 ギーシュの声が聞こえた。 ジャンガはワルキューレに抱えられたまま、首だけを動かしてギーシュを見るやため息を吐いた。 「…まさか、殺そうとしたガキに助けられる羽目になるなんてよ。情けねェ…」 「皮肉を言ってる場合じゃないでしょう!?」 ジャイアントたてムゥをファイヤーボールで牽制しながら、キュルケが声を掛けてくる。 ギーシュもワルキューレで応戦をしている。が、やはり俄然こちらが不利だ。 ジャンガはイライラしながらキュルケに怒鳴る。 「オイッ、雌牛! テメェ、前にジョーカーにぶっ放したあの特大の炎はどうしたんだよ!?」 「あれは今のあたしじゃ一発が限度。どれか一体を倒しても、あたしの精神力が底をついちゃうわよ」 使えねェ、とジャンガは心の中で悪態を吐いた。 唐突に二匹のジャイアントたてムゥが走り出したかと思うや、手にした盾の上に飛び乗った。 盾に乗ったジャイアントたてムゥは、そのままくるくると回転しながら走る。 岩の壁や手すりに当たると跳ね返り、その度に速度を増していく。 複雑な動きに三人は予測が立てられない。 やがて、一匹が死角からキュルケに突撃をかけた。 「え…? きゃあっ!!」 凄まじい勢いの変則的な突進をまともに受け、キュルケは大きく弾き飛ばされる。 地面に身体を強かに打ちつけ、そのままゴロゴロと転がる。 ようやく止まっても痛みに上手く身体が動かない。 ふと、自分の周りに影が差した。 「キュルケ! 危ない!」 ギーシュの声が響く。 見上げるとゴーレムが拳を振り被っているのが見えた。 「あ…」 フーケが笑った。 次いで突き出される巨大な岩の拳。 潰された自分の無残な姿が脳裏に浮かんだ次の瞬間、キュルケの身体は大きく横に突き飛ばされた。 何が起こった? 現状を確認しようと体を起こす前に、悲鳴が耳に届いた。 「ぐぁぁぁぁぁっっっーーーーー!!!?」 岩の手すりに何かが吹き飛ぶのが見えた。――ジャンガだった。 拳を突き出す姿勢をとっているゴーレムと、吹き飛んだジャンガを見比べるキュルケ。 フーケの笑い声が聞こえた。 「はっ、あんなに学院の人間を虐げていたくせに、今更人助けかい?」 嘲りを含めたフーケの表情にキュルケは確信した。 「あいつ……あたしを助けた?」 手すりに叩き付けられたジャンガは荒く息を吐く。 次いで咳き込むと、僅かに血が飛び散った。 雌牛を突き飛ばした後、ゴーレムの拳を諸に受ける事は承知の事実。 しかし、ガードをしたとはいえ、やはりあの拳を浮け切る事は不可能だった。 明らかにダメージは大きい。しかも、手すりに衝突した際、左腕をやってしまった。 ダランと垂れ下がる左腕を横目で見ながら、ジャンガはため息を吐いた。 あの雌牛がゴーレムに潰される、と気が付いた瞬間、勝手に身体が動いていた。 いや…、実際は彼女の身に大事があるのはよくないと一瞬で考えたからだ。 何しろ…彼女は、あのタバサ嬢ちゃんの親友なのだから。 (甘ェ…、甘過ぎるゼ…) 内心で苦笑いしながら、ジャンガは立ち上がろうとする。 が、上手く立ち上がれない。…想像以上にダメージが大きい。 ボロボロのジャンガを見てフーケは高らかに笑った。 「あーはっはっはっはっ! いいザマだね? わたしに屈辱を味あわせてくれた奴だとは思えない惨めな姿だよ」 「ケッ…、ゴーレムの上から見下ろすしか出来ないくせに…。 テメェよりも小さなガキだってよ…その身を投げ出して命がけの戦いをしてるんだゼ? 恥ずかしくないのかよ……ババァ」 ジャンガの言葉にフーケは笑いを引っ込め、代わりに怒りの表情を浮かべる。 「誰がババァよ!? わたしは二十三よッ!」 ジャンガは一瞬目を丸くし、そして嫌みったらしい笑みを浮かべる。 「キキキキキ! 二十三!? テメェが!? に・じゅ・う・さ・ん!? キーキキキキキッ!!! 老け過ぎだってんだよ、テメェ! どう見ても俺には三十過ぎてるようにしか見えねェゼ! ああ、そうか……だから『フーケ』か? ”老けてる”から”フーケ”か? キキキキキキキッ!!!」 フーケはギリギリと音がする位、強く歯を噛み締める。 「キーキキキキキッッ!!! だとすりゃテメェ、相当苦労してるんだな? ま、盗みやってるくらいだから…当然だろうけどよ。ま、俺には関係ないがよ。 この先、男も捕まらないだろうな…、テメェのような不細工には誰も振り向かないだろうさ! やってる事や性格もあれだからな…、家族やら友人やら、そんな”大切な奴”とかもいないんだろうな。 キキキキキ――キ?」 そこでジャンガは気が付いた。 一瞬、フーケの顔に寂しげな表情が浮かんだ事に。 だが、それは一瞬の事だった。フーケは凶悪な顔付きに戻りジャンガに怒鳴る。 「散々言ってくれたね!? その分、痛い目見てもらうわよ! 銀色、やってしまいな!」 「ムゥーーー!!!」 銀色と呼ばれて理解したのか、よろいムゥ・ぎんがジャンガ目掛けて突撃する。 ムゥハルコンでコーティングされた爪が輝く。 「チッ…」 身体は動かない。 キュルケも動けそうにない。 ギーシュのワルキューレはジャイアントたてムゥ相手で手一杯。 即ち…打つ手無し。 よろいムゥ・ぎんが眼前に迫った瞬間。 ジャンガの目の前の地面が突如盛り上がり、それによろいムゥ・ぎんが足を引っ掛けた。 慣性の法則に従い、よろいムゥ・ぎんの身体は大きく前方に投げ出される。 大きく弧を描き、宙を舞うよろいムゥ・ぎんはそのまま手すりを越え、 「ムゥゥゥゥゥ~~~………」 崖下へと転落していった。 「な、なんだ?」 突然の事に頭が追いつかない。 と、盛り上がった地面を突き破り、地面を掘り返した主が姿を現した。 ――それは巨大なモグラだった。 「ヴェルダンデ!?」 ギーシュは己が使い魔の姿を見て、思わず声を上げた。 ジャンガは呆然としてヴェルダンデを見つめた。 「…主に続いて、使い魔に助けられたか」 ここまでくると皮肉を言う気も起きない。 そんな状況にフーケは歯を噛み締める。 「チィッ、余計な邪魔が入るもんだね。だが、これで終いだよ!」 ジャイアントたてムゥが回転移動を解除し、通常のタックル攻撃へと移行する。 フーケのゴーレムも地響きを上げながら動き出した。 突如、何処からとも無く飛来した二本の氷の槍が、二匹のジャイアントたてムゥを串刺しにした。 フーケが驚く間に、今度は飛来した一抱えほどもある水球が、ゴーレムの左足を直撃した。 それは数秒の間の事だった。 氷の矢に串刺しにされたジャイアントたてムゥは消滅し、左足を水球に直撃されたゴーレムは地面に倒れていた。 突然の事にフーケも動揺を隠せない。 「チィッ、まったく…今度はなんだい!?」 と、フーケの喚き声に混じり、ジャンガ達の耳に聞き覚えのある羽ばたきの音が聞こえた。 巨大な竜が羽ばたく羽音……聞きなれている限り、それの主は一つしか心当たりがない。 三人は一斉に空を見上げる。 そこには一匹の見知った風竜が浮いており、その背には更に見知った人物が二人乗っていた。 キュルケとギーシュはその人物の名をほぼ同時に叫ぶ。 「タバサ!?」 「モンモランシー!?」 シルフィードはゆっくりと地面に降り立ち、その背からタバサとモンモランシーは降りる。 ジャンガはタバサとモンモランシーを見つめる。 「何で…ここにいやがる?」 「…あなたが心配だから来た」 ただそれだけタバサは答えるとジャンガの治療をモンモランシーに頼み、目の前のフーケと対峙する。 フーケはゴーレムから降りるとタバサを睨みつける。 「貴族のお嬢ちゃん、随分と良いタイミングで出てきたじゃないさ?」 「遅かった。だから、あの人はあんなに傷付いた。でも、これ以上は手を出させない」 「ふぅん? 随分とご執心だね…。あんなに酷い目に遭わされたってのに…どういう心変わりだい?」 「あなたには関係無い」 「そうかい。ま、確かに関係ない事だからね!」 言いながら杖を構える。 と、大勢の人の声が聞こえてきた。 階段を駆け上がり、人が押し寄せてくる。 どうやら、騒ぎの原因を確かめに来たようだ。 これは少々面倒になったとフーケは表情を曇らせる。 が、直ぐに笑みを浮かべるとジャンガ達に向き直る。 「まぁいいさ…、足止めは十分に出来たしね」 「?」 言葉の意味が解らないタバサは呆然となる。 フーケはそのまま『フライ』で飛び上がり、夜空の彼方に飛び去っていった。 フーケが去り、周囲に敵が居ない事を確認すると、タバサはジャンガの元へと歩み寄る。 ジャンガはモンモランシーの治癒魔法である程度持ち直していた。 ジャンガの視線とタバサの視線が混ざり合った。 「…ったく、母ちゃんと大人しく寝てりゃいいのによ?」 「母さまは大切。でも、あなたに何かあっても、わたしは悲しい」 「チッ…」 ジャンガが舌打ちした、その時だった。 大きな警笛のような音が夜空に鳴り響いた。 「な、なんだ!?」 ジャンガの言葉に答えたのはギーシュだった。 「あ、出港の合図だ!」 前ページ次ページ毒の爪の使い魔
https://w.atwiki.jp/flowertales/
ここはフリーゲーム flower tales 儚き勇者と夜の爪痕 の情報を皆で集めるwikiです flower tales 儚き勇者と夜の爪痕 のダウンロードはこちらhttp //hp.vector.co.jp/authors/VA029904/flowertales/
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6813.html
前ページ次ページ毒の爪の使い魔 突然のアルビオン――否、新国家『レコン・キスタ』の宣戦布告にトリステインは混乱を極めていた。 首都トリスタニアの王宮内の会議室では、将軍や大臣が集められ会議が開かれていた。 だが、出席者の意見はバラバラで、一向に纏まる気配を見せない。 会議室の上座に座ったアンリエッタの母である太后マリアンヌも、そんな会議の様子に疲れきった表情を見せている。 と、そんな会議の様子を見かねたのか、マリアンヌの隣に座ったアンリエッタが立ち上がった。 「あなたがたは恥ずかしくないのですか?」 突然のアンリエッタの言葉にその場に居る全員の視線が集中する。 そんな彼等の顔を見回し、アンリエッタは凛とした表情で言葉を続ける。 「先程から聞いていれば、一向に纏まりを見せない水掛け論を続けるばかり…。 こうしている間にも、祖国が、民が、危機に見舞われようとしているのですよ? 呑気に話を続けている暇は無いはずです」 そんなアンリエッタに大臣の一人が口を開く。 「しかしながら姫殿下……ゲルマニアとの同盟が結ばれなかった今、トリステインは一国でアルビオン…いや、 新国家『レコン・キスタ』を相手にしなければならないのですぞ? 慎重な対応を心がけねば…」 「慎重と臆病は全くの別物です」 アンリエッタの言葉に、その大臣は一瞬口篭るが、別の貴族が口を開く。 「恐れながら姫殿下…、此度のゲルマニアの同盟破棄は殿下の軽率な行動が原因だと言うではないですか?」 その言葉に今度はアンリエッタが口篭る。 貴族の言葉は続く。 「更にはガリアの王族と思しき女性を、外交問題の危険を省みずに我が城に匿っているとか…。 今のお言葉は正論です…が、此度の混乱には勝手な行動を取る殿下にも責任があるのではないでしょうか?」 アンリエッタは静かに目を閉じる。暫しの沈黙の後、静かに口を開いた。 「…確かに、今回のゲルマニアの同盟破棄の原因は、わたくしの軽佻な行いにあります。 議会の混乱はわたくしが原因とも言えるでしょう。…その事に関してはどれほど謝罪を重ねようと許されるものではありません。 …ですが、今のあなたがたの対応はそんなわたくしでも口を挟まずにはいられません。 敵は正面から宣戦布告を行ってきたのです…、話し合いの席など持たない事は明白。 ならば迅速な対応が求められる筈…、このように無駄に時間を浪費している暇は無いはずです。 …確かに同盟が成り立たなかった以上、我が国は一国で敵を迎え撃たなければなりません。 敵は竜騎士や艦隊も有し、強大です。トリステイン一国では力の差は火を見るより明らか…、戦っても勝機は薄い。 ならば…敵に無条件降伏をするのですか? それだけはありません…いえ、あってはならないのです。 戦わずして敵に降るなど貴族の誇りを捨てるような物……それは死も同然。 なにより民を守らずして貴族を名乗れるのですか? 民を、国を、守り…導いてこその王族ではないですか。 ――わたくしは王の器ではないかもしれません…、ただの世間知らずの小娘でしかないのかもしれません…。 ですが…それでもわたくしはトリステインの王族。民を、国を思う心は誰にも負けるつもりはありません。 理不尽な暴力で祖国を蹂躙しようとする者には断固として抵抗します。 わたくしは決して…『レコン・キスタ』に降りはしません!」 アンリエッタの言葉に、最早誰もが口を閉ざしていた。 そんな彼等を一通り見回し、アンリエッタは隣の母に向き直る。 「わたくしが軍隊の指揮を執ります。必ずや…この祖国を守り通して見せます」 そう言ったアンリエッタの表情は決意に満ちていた。 そんな娘の姿にマリアンヌは微笑みながら頷く。 母にアンリエッタは笑顔で返すと、手にしていた物に目を落とす。 その手の中には青い色をしたヒーローメダルが在った。 左手の薬指にはまった風のルビーと共に、ウェールズによって彼の死の間際に託された物だった。 (ウェールズ様……わたくしは、あなたのように勇敢に生きていきます) 心の中で今は亡き思い人に誓いながら、アンリエッタはメダルを強く握り締めた。 ――その夜―― ――トリステイン魔法学院―― 自室へと戻って来たルイズは、指を鳴らしてランプを点ける。 先程までルイズは魔法学院の生徒全員と共にホールでの集会に出席していたのだ。 そこで新国家『レコン・キスタ』による宣戦布告、並びに魔法学院の無期限休校がオスマン学院長により伝えられた。 宣戦布告も驚いたが、それ以上に『レコン・キスタ』迎え撃つ為にアンリエッタが自ら兵を率いる事に驚愕した。 オスマン学院長の話の話を聞いた生徒達は動揺し、口々に大変な事になった、実家に帰ろう、などを囁きあった。 そんな中…ルイズは心中複雑ながら、それでも心の中で一つ決めた事はあった。 ベッドへと歩み寄り、未だ眠り続ける使い魔の顔に手を添える。 「…結局、こうなっちゃったわね…」 彼はよく頑張った。だが、結果として同盟は妨害され、一国で敵を迎え撃たねばならなくなった。 しかし、彼の努力は完全に無駄になったわけではない。タバサの母の身柄を王宮で預かってもらえたのだから。 ルイズは彼の顔を撫でながら呟いた。 「わたし……姫さまと一緒に戦うわね」 そう…それが彼女が心に決めた事。自分が敬愛する姫さまに、大切な使い魔に報いる唯一の方法。 正直禄に魔法も使えない自分に、どこまで…何ができるか分からない。 だが、このまま黙って事の成り行きを見守るよりは幾分もマシだ。何より……彼の努力を無駄にしたくない。 それに何の勝算も無い訳ではない。他の魔法が駄目ならと、爆発の特訓は続けていた。 結果、爆発の場所をある程度までコントロールできるようにはなった。敵の出鼻を挫くには十分かもしれない。 ルイズは懐に手を入れると、何かを取り出した。 それはシエスタの家に置いてあったヒーローメダルだった。 シエスタが”ジャンガの目が覚めるように”と願いを込めてルイズに手渡した物だ。 ルイズは手にしたヒーローメダルをジャンガの頭の横に置いた。 「…絶対戻ってきなさいよ」 ルイズはデルフリンガーに声を掛ける。 「ねぇ…ジャンガの事お願いね」 「ああ…相棒の事は任せておきな。まぁ…お前さんも無理は程々にな、娘っ子」 デルフリンガーの言葉にルイズは笑顔で頷いた。 その時、扉をノックする音が聞こえた。 誰かしら? と考えながら、ルイズは扉を開ける。 そこに立っていたのはキュルケだった。後ろにはギーシュとモンモランシーの姿も在る。 「何よ、あんた達?」 困惑するルイズにキュルケが答える。 「ルイズ…、気持ちは解るけど…一人で無理をしようとするのは良く無いわよ?」 「な、何の事よ?」 「惚けたって無駄よ。単純なあなたの考える事なんて手に取るように解るんだから」 微妙に馬鹿にされた気がするが、ルイズはとりあえず置いておく事にした。 「だから、何を?」 「アンリエッタ王女の所へ行くつもりでしょ?」 図星だった。全く勘だけは鋭い女だ。 ルイズは小さくため息を吐く。 「そうよ。…で、危険だから止めろとでも言う気? 悪いけど…わたしは姫さまの力になるって決めたの」 その言葉にキュルケは笑みを浮かべる。 「別に止める気は無いわ。…ただ、一人で行くよりは皆で行った方がいいじゃない?」 ルイズは目を丸くした。目の前のゲルマニアの女は自分に――否、トリステインに力を貸そうというのである。 途端、ルイズの表情が険しくなる。 「どう言うつもり? ギーシュやモンモランシーはまだ解るけど…あなたはゲルマニアの人間じゃない。 同盟だって結ばれなかったし…今回の事はあなたには関係無い事のはずよ。なのにどうして…」 「別に同盟が結ばれた、結ばれないはわたし達個人の間には関係無い事じゃない。 あなたがアンリエッタ王女の力になるのを自分で決めたように、わたしも自分で決めただけよ」 「でも…あなたはフォン・ツェルプストーの人間で、わたしはラ・ヴァリエールの人間。 いくら何でも家の事情とか…色々と不味いでしょ?」 「だ・か・ら…、その家の事情もこれには関係ないでしょ。 大体、あなたの使い魔とアンリエッタ王女のおかげで、わたしの大切な友人やその母は助かったのよ? それなのに、このまま自分だけ国に帰るなんて…虫が良すぎるって物よ。 それに…恥ずかしいけれど、あいつに一度命助けられているからね…、恩を返しておかないといけないわ」 「キュルケ…」 キュルケは微笑むと、恭しく礼をする。 「過去の無礼は謝罪するわ。だから、どうかこのフォン・ツェルプストーが、 お力添えするのをお許しになって、ラ・ヴェリエール」 そんなキュルケの態度にルイズは、これ以上無い位に慌てた。 フォン・ツェルプストーの人間がラ・ヴァリエールの人間に頭を下げるなど前代未聞なのだから。 無論、普段のキュルケを知っているギーシュとモンモランシーも、彼女のこの態度には心底驚かされていた。 「か、顔を上げなさいよツェルプストー、…いきなりそんな態度を取られても…困るじゃない」 「ふふ、そうね」 そう言って、キュルケは手を差し出す。 その手をルイズは優しく握り返した。 ふと、ルイズは何かを思い出したように、キュルケの後ろに居るギーシュとモンモランシーに顔を向ける。 「ねぇ、ここに居るって事とキュルケの言葉からあなた達も姫さまの所へ行くのは解るけど…どうして?」 ルイズの疑問にまず答えたのはギーシュだった。 「まぁ…ぼくの場合、父が元帥だからね。家柄上仕方なく、ほぼ強制的に…って事もあるがね」 「嫌々なんじゃないの」 「いや、確かに家の事情も有るが…そうでなくともぼくは姫殿下に協力を申し出ただろうね。 仮にもトリステインの貴族だからね…、お国の為に働こうとするのは当然さ。そして、弱い者を守るのもね」 そんな風に従軍の理由を語るギーシュをルイズは静かに見据える。 昔のギーシュならばこうは言わなかっただろう。…精々前述の理由で強制的に従軍させられたのを嘆いたはずだ。 ルイズは続いてモンモランシーに顔を向ける。 「モンモランシー、あなたは? 戦いは嫌なんでしょ?」 モンモランシーは少し悲しげな表情を浮かべる。 「確かにわたしは争いは嫌よ…。でも、それ以上に傷付いたり…泣いたりしている人がいるのが嫌なのよ。 だから、こんなわたしでも看護兵位にはなれるんじゃないかと思ったの」 そう、と呟くルイズをモンモランシーは静かに見つめ返す。 「ねぇルイズ…、皇太子が亡くなってアンリエッタ様、凄く悲しんでいたの…あなたも解ったでしょ?」 「…ええ」 「わたしがもっと水の扱いに長けていたら…、もしかしたら皇太子は死なずにすんだかもしれない…。 そう思うと…皇太子が死んだ事は私にも責任が有るように感じるの。 代々水の精霊との交渉役を引き受けてきたモンモランシ家の一員のくせに…助けられなかったから」 「モンモランシー…」 ギーシュが心配そうに声を掛ける。 「だからね…この戦争が終わったらわたし、もっとちゃんと勉強しようと思うの。 わたしにはわたしの戦いが、戦い方があって…、もっと強くなりたいと思ったから。 わたしは水の癒しの使い手……わたしの周りに悲しみが在るのは許せない。 在ったら癒さなくっちゃ気がすまないから…」 そう言うモンモランシーの目には決意の色が浮かんでいた。 そんな三人の話を聞き、ルイズは嬉しくなると同時にある事を確信していた。 (あいつが来てから…変わったのかもね、色々…) ルイズはベットで眠る使い魔を振り返った。 召喚してから問題ばかりを起こしていた彼。 その一方で色々と彼は自分や周りの人達に(本心はどうあれ)尽くしてくれていた。 …それは人生のどん底を経験してきた彼だからこそできた事だと言えるのだろうか? だとすれば、ある意味では皮肉な事と言える。 だが、理由はどうあれ…彼のお陰で救われた者がいるのは事実。 …今度は自分達が彼の為に頑張る番だ。 (今までありがとう…、今度は私達が頑張るわ。だから…ゆっくりと休んでいてね、ジャンガ) その翌朝、ルイズ達はアンリエッタの所へ赴くべく、学院を後にしたのだった。 ――二日後―― ――タルブの村―― 「お姉ちゃん…」 不安げな声を上げながら自分にしがみついてくる幼い弟や妹を、シエスタは優しく抱きしめる。 「大丈夫、そんなに怯えないで」 内心の動揺を隠しながら優しくそう言い、窓から外を見上げた。 空には船底に黒い布様な物で覆われた巨大な物体が吊り下げられている、巨大な船が一隻浮いていた。 何が起こっているのか全く解らない…、突然の事にシエスタだけでなく両親も――否、村中の人々が困惑していた。 と、船から無数のドラゴンが飛び上がった。 (何が起こってるの?) そうシエスタが思った時だ――窓の直ぐ外の地面から、青白い光と共に巨大な生き物が姿を現した。 「え?」 真っ赤なその生き物にシエスタは見覚えがあった。…そう、確かモット伯の屋敷で見かけた事がある。 だが、あれは一抱えほどの大きさだったはず…、目の前のは三メイルは軽くある巨体だ。 と、巨大な幻獣が短くも太い腕を振り上げ、力任せに窓を殴り付けた。 ガシャーン! と音を立てて窓が割れる。割れたガラスの破片が室内にばら撒かれる。 「ムゥーーーッッッ!!!」 幻獣は見た目通りの迫力に欠ける可愛らしい鳴き声を上げる。 だが、シエスタやその妹や弟達にはそんな風には感じられない。感じる暇が無い。 鋭い爪を振り上げ、幻獣がシエスタへと躍りかかる。 その時、幻獣の顔に飛んで来た椅子が激しくぶち当たった。幻獣は痛みにひっくり返る。 シエスタが後ろを振り返ると父と母が居た。 父は震えるシエスタに向かって「森へ逃げろ!」と叫んだ。 騒ぎが起こっているのはシエスタの家だけではなかった。 ある所では青や赤の巻貝を背負った幻獣が、大砲やミサイルを村の至る所に撃ち込んでいた。 別の場所では水晶を持った小柄な幻獣が、炎を操って村中に火を放っていた。 また別の場所では杖を持ったオバケが、メイジのように魔法を操って村人を襲っていた。 空に浮かぶ巨大な船から飛び立った竜騎士の駆る火竜も、村の家々に次々とブレスを浴びせた。 瞬く間に平和な村であったタルブは、阿鼻叫喚の地獄絵図へと塗り替えられていった。 「フン、フフン、フ~ンフ~ン♪」 遥か高みに浮かぶ戦艦『レキシントン号』の舷縁の上に乗り、眼下に広がる光景をジョーカーは楽しげに見物していた。 その傍にはフーケ、そしてミョズニトニルンことシェフィールドの姿もあった。 ジョーカーは口元に手を沿え、楽しげに笑う。 「のほほ、中々に良いシチュエーションですね~。飛び交う悲鳴、逃げ惑う人々、最高ですよ♪」 「ジョーカー、楽しむのもいいが…本来の目的を忘れてはないだろうな?」 シェフィールドの言葉にジョーカーは笑いを引っ込める。 「解っていますよ、シェフィールドさん。忘れる訳無いじゃないですか~、嫌ですねぇもぉ~♪」 言いながら再び顔をニヤけさせる。 そんな二人の会話を聞き、フーケが怪訝な表情を浮かべる。 「どう言う事? 『レコン・キスタ』の目的はハルケギニアの統一じゃなかったの?」 「勿論、そうですが?」 何を今更、とでも言わんばかりにジョーカーは答えた。 フーケの表情が更に曇る。 「じゃあ、今そっちの秘書様が言った”本来の目的”ってのは何の事だい?」 「たかが盗人風情が知る必要は無い」 シェフィールドはそう言い、射抜くような視線を向ける。 フーケも伊達に裏の世界を生きてきた訳ではない。僅かに気圧されたが、すぐさま睨み返す。 しかしシェフィールドは顔色一つ変えない。 「ワルド子爵は不手際を犯したゆえ、断罪された。お前も余り余計な詮索は控える事だね」 「言ってくれるじゃないさ」 互いに一歩も引かず、睨み合う女二人。 「シェフィールドさん、マチルダさん、…喧嘩はそこまでです」 唐突にジョーカーが声を掛けた。 シェフィールドがジョーカーを振り返る。 「どうした?」 「お客様のご到着ですよ」 目の前に広がる光景にルイズは唇を噛み締めた。 数週間前…自分とタバサがシエスタに誘われてやって来た平穏な村。 貴族の高貴な暮らしとは程遠かったが…とても暖かく、穏やかだった。 そこには紛れも無く”幸せ”があったのだ。 …それが今はどうだ? 無数の幻獣や竜騎士、艦隊に無慈悲にも蹂躙されている。 美しかった草原も、素朴な感じの家々も焼き払われ、破壊しつくされている。 シエスタがジャンガに見せたかった草原も見る影も無い。 ――許せない…、絶対に! ルイズは馬の手綱を握り締めながら自分達の敵『レコン・キスタ』を睨みつけた。 「ルイズ、あたし達も同じ気持ちよ」 キュルケが声を掛けてくる。 ギーシュもモンモランシーも一斉に頷いている。 「絶対に勝ちましょう」 「当然よ!」 ルイズは力強い声で答えた。 アンリエッタは部隊に的確に指示を伝える。 陽動の為にグリフォン隊が動いた。それを迎え撃つべく竜騎士も動く。 火竜のブレスが、魔法が次々に飛び空を激戦の色に染めていく。 空の戦いが始まると同時に地上の魔法衛士隊も馬を駆り、地上の敵へ突撃する。 それ目掛けて牙をむき出しに、ニヤニヤした笑顔を貼り付けた幻獣達が両の大砲を、ミサイルランチャーを構えた。 『グリッヅ』――背中に星のマークの入った大きな巻貝を背負った中型幻獣。 頑丈な殻で身を守り、腕の代わりに付いている二門の大砲から砲撃して敵を倒す。 殻の色で個体や階級が分かれており、青=二等兵、緑=上等兵、白=伍長、紫=軍曹となっている。 『ジャイアントグリッヅ』――グリッヅの大型種。巨体に見合った巨大な殻は頑丈で、 中には特殊鋼で出来ている種類も存在する。巨大化した大砲は戦艦クラスの破壊力を誇る。 しかし、狙いは正確ではなく、どちらかと言えば四方八方に乱射するだけだったりする。 階級は青=大尉、緑=少佐、白=大佐。 『ジャイアントグリッヅファランクス』――グリッヅファランクスの大型種。 あらゆる幻獣の中で最も凶暴且つ、強力な種族。 両サイドのミサイルランチャーは大型化した分、破壊力も推進力も飛躍的に高まっている。 無論、背中の貝殻もより強固になっており、並の攻撃では傷跡一つ付かない。 階級は紫=少将、黄色=中将、赤=大将。 また、グリッヅの中でも強力な個体である為、その役割もそれぞれ定められており、 少将は旅団長、中将は師団長、最も強力な大将は司令官となっている。 グリッヅの砲撃、グリッヅファランクスのミサイルが魔法衛士隊に次々と打ち込まれる。 下手な魔法なんぞ軽く凌駕する威力の爆風は、魔法衛士隊の隊員達を風の前の塵同然に吹き飛ばす。 それでも砲撃を掻い潜った魔法衛士隊は杖を構え、次々と空気の刃や燃え盛る炎を幻獣の群れ目掛けて飛ばした。 無数の魔法が幻獣の群れに直撃した。ムゥやプヲン、ササミィなどが魔法の威力に次々と消滅する。 だが、それもほんの一部。未だ健在な幻獣の群れは歩みを止めない。 バーニィの炎が、スラッツァのカッターが、マギ達の操る魔法が次々と魔法衛士隊を襲った。 更に魔法衛士隊へと犬のような姿をした幻獣が突撃する。 その幻獣は馬にぶつかるや次々に自爆し、魔法衛士隊を吹き飛ばしていった。 『ブッピィ』――ブルドッグのような姿をした小型の幻獣。 その姿からは想像できないが、全身が爆発物質でできた動く時限爆弾とも言える危険な存在だ。 近づく物に反応し、周囲を巻き込んで自爆する。 ボルクに多く生息し、戦時中は兵器として運用されていた過去がある。 ブッピィの自爆攻撃に怯んだ魔法衛士隊へ、止めとばかりにグリッヅ達が大砲とミサイルランチャーを構える。 照準器になっている両目で狙いを定め、発射しようとする。 ――そんなグリッヅ達の一角に、突如として巨大な”爆発”が巻き起こった。 「いい気味ね」 爆発で吹き飛んだ幻獣達が消滅するのを見ながら、ルイズは呟く。 無論、今の爆発は彼女による物だ。 アンリエッタには止められたが、後ろで見ている事などルイズにはできなかった。 向こうではギーシュのワルキューレが、やりムゥとたてムゥの大群と渡り合っている。 ワルキューレの槍が次々と敵を貫く。 別の場所ではバーニィやマギを相手に、キュルケが派手な打ち合いを行っている。 火炎が複数の幻獣を飲み込み、跡形も無く焼き尽くしていった。 以前のままなら、こうは善戦できなかったろう。 それは彼女達の地道な努力のたまものだった。 並みの幻獣は最早、彼女達の敵ではありえなかったのだ。 「旗色が悪いようね」 シェフィールドの呟きに、ふむ、とジョーカーは顎(?)に手を添える。 竜騎士とグリフォン隊の方はともかく、地上の戦況が著しくない。 一番の原因はルイズの放った爆発だ。 爆発はグリッヅ達の一部を吹き飛ばすだけに留まらなかった。 体内の火薬やミサイル、果ては近くのブッピィへと引火し、途方も無い大爆発を巻き起こしたのだ。 それが群れの中心で起きたのだから、被害は甚大だった。 結果として幻獣達の統率は乱れ、ついには混乱から同士討ちすら始めているのもいる。 そこへ魔法衛士隊も攻撃を再開、一気に群れは追い込まれる形となった。 更に悪い事に、誤射されたジャイアントグリッヅファランクスのミサイルの一発が、竜騎士隊のど真ん中で爆発。 多数の竜騎士に被害が出ていた。 ジョーカーは、しかしなんら慌てる事無く、暫くそれらを静観していた。 「ミスタ・ジョーカー、ミス・シェフィールド、どうなっているのだ?」 声に振り返る。落ち着かない表情で喚いている三十代の半ばほどの男が居た。 オリヴァー・クロムウェル――『レコン・キスタ』の総司令官……だが、所詮は傀儡にしか過ぎない小心者。 先程の演説の際の態度は何処へやら…、内心の不安を隠そうともしていない。 そんなクロムウェルの様子に、事情を知らないフーケは怪訝な表情を浮かべる。 と、不安にするクロムウェルに向かってジョーカーは口を開く。 「何を怯えているのですか…クロムウェルさん? あの程度の抵抗はある程度予想通りでしょう。 これからが面白くなる所です。そう…これからがネ~♪」 楽しそうに笑い、ジョーカーは指を鳴らす。 と、船の置くから何かが大勢やってきた。 その現れたものを見て、フーケが目を見開く。 「な、こいつら!?」 「のほほほほ♪ あの方達への相手としては実にいいでしょう。…恐怖を味あわせるにはネ」 「えい!」 杖を再度振る。爆発が巻き起こり、ジャイアントグリッヅが三体ほど吹き飛んだ。 それを確認し、ルイズは周囲を見渡す。幻獣の群れも大分数が減ってきた。 このまま押し切れば…いける! …そんな風に思った時だ。 突如、前方の空間が歪み、十メイルほどの巨体のジョーカーが現れた。 「ジョーカー!」 「のほほほほ、お久しぶりですネ~。元気になさってましたか?」 「おかげさまで、不機嫌よ!」 叫ぶや、杖を振る。ジョーカーの眼前で爆発が巻き起こった。 「アッチチチチチチチ!? な、なんといきなりですか!? ぼ、ぼぼ、暴力反対ですよ!?」 「あんたが言えたセリフ!? シエスタの村を滅茶苦茶にした仇も一緒にとってやるわ!」 顔を摩りながらジョーカーは笑う。 「できるのならやって御覧なさい。…あれに勝てたらの話ですがネ~」 ジョーカーは言いながら上空を指差す。見れば無数の幻獣が降下してきている。 それは学院でルイズを捕まえたケイジィだ。その鳥かごの様な胴体の中に何かしら人影のような物が見える。 「何よ、兵隊でも降ろして来てるの?」 次々とケイジィが着陸し、胴体の中のものを開放する。 その出て来たものを見て、ルイズ、ギーシュ、キュルケ、モンモランシー、アンリエッタの五人は驚愕した。 「何で…?」 ポツリとルイズが言葉を洩らす。 ケイジィが開放した物――それは、夥しい数のジャンガだった。 「のほほほほ、驚きましたか?」 ジョーカーの笑い声が木霊するが、ルイズ達の耳には入らない。 何故? どうして? その二つの言葉が脳裏を過ぎる。 今学院で眠っているジャンガが…、しかもこれだけの数が? 分身? いや、それだとあれだけの幻獣でわざわざ運んできた意味が解らない。 実体のある奴だとしても、あれは三体が限度だと前に本人が言っていたし、 三体以上出している所も見ていない。 何より……どうしてあいつの所にいる? 解らない…、解らない…、解らない…。 と、悩むルイズを他所に、魔法衛士隊は無数のジャンガ目掛けて突撃する。 先陣を行く隊員の一人が杖を構えた――瞬間、腕ごと切り落とされた。 痛みに悲鳴を上げる暇も無く、爪が首を薙いだ。 瞬く間にやられた隊員を認めた数人が杖を構え、魔法の矢を放つ。 しかし、そこには馬と絶命した隊員がいるのみ。矢が当たり、馬が悲鳴を上げる。 その数秒後にはその隊員達も最初の隊員と同じ運命を辿った。 紫の影が…、紅い風が…、奔る度に命が散り、赤い花が咲く。 時間にして僅か数分――攻撃を仕掛けた魔法衛士隊の隊員達は、一頭の馬も残す事無く壊滅した。 「どうして……どういう事?」 訳も分からず呟いたルイズの耳にジョーカーの声が聞こえてきた。 「のほほほほ、種明かしが必要ですか? 何故…これだけの数のジャンガちゃんが居るかと言うね?」 「当然よ!! こいつらは何!? あんた…一体あいつに何をしたのよ!?」 「別にジャンガちゃんには何もしていませんよ? …まァ、血を少々貰った位ですかね?」 「血?」 ジョーカーの掌に一匹の幻獣が現れた。その幻獣の姿にルイズは見覚えがあった。 …確か、ニューカッスルの城で、ジョーカーが消える直前に呼び集めていた。 「この子達はマイドゥちゃんといいます。お金が大好きな幻獣ちゃんでしてね、 大きなお口で次々と吸い込んじゃうんですよ。『悪魔のガマグチ』なんて呼ばれていたりもするんですよネ」 「それが一体何だってのよ!?」 「あの時……この子達を放っていたのは、お金を集める為なんかではないのですよ。 …実は、血を吸い込んで集めさせていたのですよ、はい」 「え?」 ルイズは唖然とした表情を見せる。…血など集めて何をしたというのだろう? ジョーカーは言葉を続ける。 「マイドゥちゃん達が集めた血を、ワタクシはとあるマジックアイテムに使ったのですよ。 『スキルニル』……血を吸った相手に化ける事の出来るマジックアイテムにネ」 そこまで聞いてルイズは、ハッとなり、眼前の無数のジャンガに目を向けた。 ジョーカーはニヤリと笑う。 「ようやくご理解できましたか? そう、そのとーり! 吸い込み集めたジャンガちゃんの血を使い、 スキルニルによるジャンガちゃん軍団を作ったわけです! あ~~、ジャンガちゃんに囲まれてハーレムですよ♪」 ジョーカーは手を組み、心底幸せそうな声を上げる。――対してルイズは怒り心頭。 「あんた! こんな事して、あいつの評判がガタ落ちになるじゃないの!?」 「はて? いつからジャンガちゃんは良き隣人……みたいなものになっちゃったんですか? ジャンガちゃんは…毒の爪は恐怖の象徴! 安っぽい正義の味方じゃないんですよ?」 「黙りなさいよ!!! ジャンガはもうあんたと一緒にいた時とは違うのよ!!!」 ルイズの言葉にギーシュとキュルケも続く。 「そうだとも! 昔は卑劣な奴だったが、今の彼は勇敢な戦士だ。尊敬に値するほどにね!」 「あたしも彼の事は恨んでいたわ、タバサを傷付けられてね。でも、今は違う……少なくとも恨んではいないわ」 そんな二人の言葉にルイズは嬉しくなった。 (ジャンガ……聞こえてないでしょうけど、あんた…凄く気に入られてるわ。…羨ましい位に) そんな彼女達の言葉にジョーカーは両手を広げ、大げさな仕草でため息を吐いた。 「ハァ~…やれやれですね。物事を自分の都合のように曲解し、強引に周囲に認めさせる……我侭ですネ。 ――そんな身勝手な方達には少~しばかりお仕置きが必要のようですネ」 ジョーカーの言葉に呼応するかのように、スキルニルのジャンガ達が一斉に爪を構える。 ルイズ達も杖を構えて身構える。 だが、相手は正体がマジックアイテムでも、曲がり間違ってもジャンガだ。更にその数が数である。 …果たして自分達の力が何処まで通じるか? 「さぁさぁ、ルーン以外完璧に再現されたジャンガちゃんのスキルニルの力存分に味わっちゃってくださ~~~い! イッツ――」 お約束の台詞を口にしようとした瞬間、ジョーカーの顔面に何処からとも無く飛んできたエア・ハンマーが衝突した。 たまらずジョーカーはひっくり返る。 一体誰が? そう思いエア・ハンマーが飛んできた方向を見上げる。 そこには見慣れた一匹の風竜が飛んでおり、その背中にはこれまた見慣れた…それでいて暫く見なかった人影が在った。 「「「タバサ!?」」」 ルイズ達三人は異口同音にその名を口にした。 シルフィードが地面へと降り立ち、タバサは軽やかな身のこなしでシルフィードの背中から飛び降りる。 その動きは実によく洗練されたものであり、一挙一動にまるで隙が無い。 それを見ただけで、キュルケはこの小さな親友が以前とは違う事を悟った。 おそらく、ここ一ヶ月近い間に姿を見なかったのは何らかの修練を積んでいた為だろう。 …その理由もキュルケには何となく理解できた。 (あいつの為……か) タバサは三人に歩み寄ると静かに口を開く。 「遅れた」 「遅くないわよ、まだまだこれからって所よ」 謝罪する彼女にキュルケが語りかける。 「十分間に合ってるわ。あなたが来てくれて心強いわ」 タバサは静かに頷く。と、ジョーカーが立ち上がった。 「あ痛たたたたた……、もう! 不意打ちとはやってくれますね…シャルロットさん!?」 憤慨したジョーカーが声を上げる。 それをタバサは涼しげな声で聞き流す。 「戦いの最中に喋っている方が悪い」 「ムキィィィィィィーーー! 言ってくれますね!? ならば、お遊び一切無しです! スキルニル軍団、やっちゃってくださーーーい!!!」 ジョーカーの叫び声にスキルニルが一斉に動き出す――前に、驚くほどの反応速度でタバサが飛び出していた。 ジャンガのスキルニルの一体が胴切りにされる。 接近戦用の呪文『ブレイド』で真空の刃を纏った、タバサの杖の一撃による物だ。 容易く両断したその切れ味は非常に鋭い。 だが、恐怖を感じないスキルニルは次々にタバサに襲い掛かる。 毒の爪、速度、分身、カッター…、過去散々に苦しめられたそれらの武器を振り翳して襲い来るそれらを、タバサは迎え撃った。 「な、なんと…」 ジョーカーは驚きの声を上げる。 四方八方から襲い来る爪や蹴り、カッターをタバサはなんとも身軽な動きでかわしていく。 それ事態は別に特別な事ではない。驚いた事は別にあった。 タバサは攻撃を捌きながら、ブレイドで的確にスキルニルを攻撃しているのだ。 爪を避けるとその腕を切り落とし、蹴りが来れば足を切り落とす。 隙があれば胴体へと一撃を加える。実に見事な……踊っているようにも見える華麗な動きだった。 ジョーカーは信じられない物を見ている気分だった。 何しろタバサが接近戦は不得意だと言う事は知っており、何よりも先の決闘ではジャンガに手も足も出なかったのだ。 ゆえに…これほどの完璧な対応ができるとは夢にも思わなかった。これは一体全体どう言う事だろうか? 爪の一撃をかわしながらタバサは杖による斬撃を叩き込む。 相手が両断されたのを一瞥し、別の一体の攻撃を避けた。 ――手に取るように動きが解る…、今の自分は彼と並んだのだ。 数回打ち合い、そう確信する。 あの日、タバサは更なる精進を心に決め、ファンガスの森へと踏み込んだ。 そして二度と彼の足手纏いにならないようにと、合成獣<キメラ>を相手にして己を鍛えなおした。 無数のキメラを相手にした結果――苦手だった接近戦を克服し、呪文の威力を高める事に成功した。 今、こうしてジャンガのスキルニルを相手にしている事は、修行の完成となるだろう。 以前と似通った状況で彼と戦う……それは以前よりも強くなった事の何よりの証となる。 …彼を利用されている事に腹は立っている。だが、それが自分の修行の成果の証明になったのは、なんとも皮肉な物だ。 しかし、タバサは内心の複雑な思いを振り払い、眼前の敵へと立ち向かっていった。 「うむむ……少し不味いですかね?」 次々とスキルニルが倒されていくのにジョーカーも少し焦りを感じ始めていた。 空を見上げる。途端、ジョーカーの顔が更なる笑みに包まれる。――太陽が二つの月に遮られ始めていた。 「来ましたよ……日食!」 ジョーカーは天を仰ぎながら叫んだ。 スキルニルが戦闘を止め、ジョーカーの元へと集まる。 「何?」 タバサはその不可解な動きに怪訝な表情をする。と、ジョーカーに変化が起き始めていた。 黒いベールに包まれ、巨体が更に膨張する。 離れていた手が、足が身体と一体化し、長く伸びる。 身体の形も変化を見せ、皿のような円盤状に変わっていく。 それらの変化が終わり、黒いベールが取れ、ジョーカーの姿が露わとなった。 その姿にタバサ達は目を見張る。 それはフラワージョーカーではなかった。 手足は指が無い先端の尖った形で、身体は甲羅のよう。 普段の姿やフラワーの時とは違い、頭と身体は完全に分かれていた。 一言で言い表せば、それは”海亀”そのものだった。 だが、その身体から発せられるプレッシャーは、それまでの物とは段違いなのが肌で感じられる。 「のほほほ……怖いですか?」 ジョーカーが笑う。その笑みにすら恐怖を感じた。 タバサの背を冷たい何かが走る。 見れば、ジョーカーの左腕がいつの間にか炎を纏っている。 ニヤリと笑い、ジョーカーはその左腕を、まるで槍を突き出す動作のように大きく後ろへ引く。 タバサは直感的に何かを感じ取った。そして後ろへ向かって叫ぶ。 「伏せて!」 タバサの叫びにルイズ達は一斉に伏せた。 直後、頭上を何かが凄まじい勢いで通り過ぎる気配を感じた。 「痛ッ…」 「殿下、大丈夫ですか?」 「…ええ、平気よ」 自分を気遣う女性騎士にアンリエッタは答える。 だが、いきなり横から飛び掛られた時には何が何だか解らなかった。 巨大な道化師のような幻獣が変身したかと思うと、その左腕を突き出そうとした。 ――その瞬間に目の前の女性騎士に飛びつかれたのだ。 「一体どうしたのです?」 「すみません、殿下。ですが……なにやら危険な感じがしたので」 「危険? 別に何も変わってはいないようですが?」 自分の跨っていたユニコーンが目の前に立ち、その向こう側に魔法衛士隊の隊員達の足が見えた。 と、唐突にユニコーンの身体がぐらつき、アンリエッタの方へと倒れこんだ。 「うっ…」 アンリエッタは短く声を漏らす。――倒れたユニコーンは右半身が無かった。 鋭利な刃物で切り取られたかのような真っ二つの状態であり、その断面は黒焦げて炭化している。 そのユニコーンの骸の向こうに目を向け、アンリエッタは更に愕然となった。 魔法衛士隊の隊員達の姿が無かったのだ。…いや、足はあった――”その上”が無かった。 「のほほほ…、少しやりすぎちゃいましたかね?」 ジョーカーが笑う。だが、後方で起きた惨状を見たタバサやルイズ達は決して笑えなかった。 ジョーカーが突き出した左腕から伸びた炎は、凄まじい勢いと威力で後方の魔法衛士隊を直撃。 炎の持つ凄まじい高熱は、瞬く間に隊員達の身体とユニコーンの右半身を焼失させたのだ。 一目で理解した。あの炎の威力はフラワーの時の比ではない。 タバサはジョーカーへと向き直り、油断無く身構えた。 「ではでは、久しぶりにこの姿で暴れさせてもらいましょうかネ~? ”ビーストジョーカー”行きますよーーー!!!」 ジョーカー……否、無敵の幻獣ビーストジョーカーは高らかに笑った。 前ページ次ページ毒の爪の使い魔
https://w.atwiki.jp/takanotume/pages/29.html
レノア ◇クラス:ガーディアン ◇レベル:50 ◇スペック:最近出てきた柔軟剤です エテンで袋にされるのが快感に思えてきました 混戦時挑発からの自滅連携をお楽しみください ◇クラフト:防具職人 ◆御品書◆ 営業日 年中無休 ○鋳造 (師範) 生産道具 ┣T5 通常レシピ エルフ鋼製インゴx4 古の鉄インゴx2 各NPC売り素材 ┃ 【古の鉄インゴx10 石炭x2】 ┗T5 一品レシピ エルフ鋼製インゴx2 古の鋼インゴx6 各NPC売り素材 ベリルのかけら 【古の鉄インゴx16 ドワーフ鉄インゴx12 石炭x8】 各種盾 ┣T5 通常レシピ エルフ製の補強財x2 古の鎧用板x1 比類無き皮の縁取り財x1 ┃ 【古の鉄インゴx21 石炭x5 比類無き皮革x6】 ┗T5 一品レシピ 古の鋼鎖x2 古の鋼の薄片x1 比類無き革パッドx1 ベリルのかけら 【古の鉄インゴx26 ドワーフ鉄インゴx10 石炭x8 比類無き皮革x6】 重装鎧 ┣T5 通常レシピ エルフ製の補強財x2 古の鎧用板x1 比類無き革の縁取りx1 ┃ 【古の鉄インゴx21 石炭x5 比類無き皮革x6】 ┗T5 一品レシピ 古の鋼鎖x2 古の鋼の薄片x1 比類無き革パッドx1 ベリルのかけら 【古の鉄インゴx26 ドワーフ鉄インゴx10 石炭x8 比類無き皮革x6】 ○仕立て (師範) 中装鎧 ┣T5 通常レシピ ガラズリムのガードx1 祝福された革の板x1 煮沸処理した最上の革x2 ┃ 【比類無き皮革x24 磨いたベリルx1】 ┗T5 一品レシピ ガラズリムのガードx2 祝福された革の板x1 煮沸処理した最上の革x2 ベリルのかけらx1 【比類無き皮革x34 磨いたベリルx2】 軽装鎧 ┣T5 通常レシピ ガラズリムのガードx1 祝福された革の板x1 一反のエルフ製布x2 ┃ 【比類無き皮革x24 磨いたベリルx1】 ┗T5 一品レシピ ガラズリムのガードx2 祝福された革の板x1 一反のエルフ製布x2 ベリルのかけらx1 【比類無き皮革x34 磨いたベリルx2】 マント ┣T5 通常レシピ ガラズリムのガードx1 祝福された革の板x1 一反のエルフ製布x2 ┃ 【比類無き皮革x24 磨いたベリルx1】 ┗T5 一品レシピ ガラズリムのガードx2 祝福された革の板x1 一反のエルフ製布x2 ベリルのかけらx1 【比類無き皮革x34 磨いたベリルx2】 【T5 通常クリUPアイテム 恐ろしい殺傷力のある亀の水かき】 ○どんぐり笛(無料) 絶賛配布中 受注生産 即納可 ※・盾・防具は仕立で部品を作る為に、採集で加工する事が出来る 【煮沸処理したxxxの革】が必要になります。 また、磨いた宝石が必要な場合があります。 ・【1回きりのレシピ】が必要な場合は、多少在庫を揃えてますので 無理に用意していただかなくても作成可能な場合があります。 ビガーパンツ ◇クラス:バーグラー ◇レベル:50 ◇スペック:矯正終了! もう大人 ◇クラフト:ニート ジレット #ref error :画像URLまたは、画像ファイル名を指定してください。 ◇クラス:キャプテン ◇レベル:50 ◇スペック:2垢要員 ◇クラフト:研究家 ◇ATI 右往左往な戯言◇ ブログ準備中 ◇動画◇ 【Lotro Ettenmoores】 http //video.msn.com/video.aspx?vid=0dff1e37-b5af-4af5-b298-62e0aa065a57 【Lotro Middle Earth】 http //video.msn.com/video.aspx?vid=20950a69-fc53-41a1-ba93-15a4084f4372 【依頼・問合せなどはこちらへ】 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/takanotume/pages/19.html
アルドゥイン おっさんはくびじゃあああああ これからは旗の時代だぜ!!(わら) そんなキャプテンですが皆さんよろしぅ クラス:キャプテン Lv:50 クラフト:宝飾師範 Book10で追加された新しいレシピの詳細と材料 生産道具とロアだけの成功率は約30%ほど 殺傷力のある恐ろしい亀の水かき1個で成功率約74% 名称 効果 必要な材料 (青)ベリルの耳飾り 腕力15 俊敏15 戦闘中士気回復1.0 霧ふり山脈の銀のインゴット(霧ふり山脈の銀鉱x6) x 3磨かれたベリル(ベリルx2) x 1 名称 効果 必要な材料 (青)ベリルの腕輪 体力15 意思15 戦闘中気力回復1.5 霧ふり山脈の銀のインゴット(霧ふり山脈の銀鉱x6) x 3磨かれたベリル(ベリルx2) x 1 名称 効果 必要な材料 (紫)霧ふり山脈の銀の耳飾り 俊敏15 体力15 意思15 命運15 霧ふり山脈の銀のインゴット(霧ふり山脈の銀鉱x8) x 4 名称 効果 必要な材料 (紫)霧ふり山脈の銀の腕輪 俊敏15 体力15 意思15 腕力15 霧ふり山脈の銀のインゴット(霧ふり山脈の銀鉱x8) x 4 霧ふり山脈の銀の腕輪と耳飾りのクリ品は、命運29 腕力29 ベリルの耳飾りと腕輪の方は失敗するとゴミになりますので 出来れば殺傷力のある恐ろしい亀の水かき1個ご用意下さい
https://w.atwiki.jp/takanotume/pages/91.html
-下働きはツライよ -嫌な予感がする・・・(工事中) -マネー! マネー!! マネー!!! ちょっとづつ更新していきます。 長い目でみてやってください。 よくわからないぞコノヤローって人は、投稿欄からお願いします。 名前 コメント