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097 我が侭な物語 ◆dKv6nbYMB. エスデスから逃れたほむらと花京院は、病院で医療品を探していた。 「...あまり置いてませんね」 「まあ、広川が求めるものが殺し合いである以上、そこまで期待するべきじゃないだろう」 本当は、めぼしい物は入れ違いとなった佐倉杏子が持って行ってしまったのだが、二人がそれを知る由はない。 「さて、早速傷口の消毒をしよう」 「...その前に、いいですか」 「なんだい?」 「その、お互いに支給品を確認しませんか?お互いに使いやすい物もあるかもしれませんし、手当をしている間に襲撃される可能性もありますし...」 ほむらの支給品は、帝具『万里飛翔マスティマ』。空を飛べるだけではなく羽根を飛ばすことで武器になるのだが、生憎使い方をよく知らないほむらではこの帝具は武器にはなりえない。 そのため、ほむらは一刻も早く武器を手に入れたかったのだ。 花京院は少し考え込む素振りを見せる。 「...わかった。ちょうど、わたしには使え無さそうな物があったからな。きみに使えるものがあればいいが...」 そして、二人はそれぞれの支給品をデイパックから取り出した。 花京院が取り出したのは、一振りの剣とベレッタ。 ほむらが取り出したのは、万里飛翔マスティマ。 「...なんだい、これは」 花京院の現実的な支給品と比べれば、そんな言葉が出ても仕方ないだろう。 「...空が飛べるらしいです」 「それはすごいな」 「実際に試したわけじゃないんですけどね。飛べる時間も限られているようですし」 「ふむ...しかし、この殺し合いでは、飛べることはあまりアドバンテージにはなりそうもないな」 花京院の言葉には、ほむらも同意だった。 まず、飛ぶ行為自体が目立つ。エスデスのような好戦的な者が近くにいれば狙ってくれと言っているようなものだ。 次に、この殺し合いには異能力を持つものが多くいるということだ。 空を飛ぶことによる最大の利点は、相手の攻撃が届かない事。 しかし、自分の知る限りでも、氷をとばせるエスデスに、遠距離攻撃だけでなく、リボンで相手を引きずりおろせるうえ、足場を作れる巴マミがいる。 それに、能力だけでなくとも、銃火器で狙撃されれば十分に危険だ。 よほどのことが無い限りマスティマは使い道はないだろう。 「わたしの方は何の変哲もないものだが...そうだな、きみの護身用としてはこの刀がいいんじゃないかな」 花京院がほむらに渡したのは、刃渡りがとても美しい刀。 刃物に関してはド素人のほむらですらそう思うほど、その刀は美しかった。 「いいんですか?」 「ああ。私には『体質』があるからね。自衛くらいはこれでできる」 「...ありがとうございます」 欲をいえば、使い慣れているベレッタを欲しかった。 しかし、先のエスデスの件から、銃を欲しがる一般人などいないだろうと思い直し、まだ包丁などの家庭用品に近い刀で了承した。 刀は刀で使い道はある。 この刀の切れ味がどの程度かはわからないが、時間停止と組み合わせればかなり強力な武器となるだろう。 ほむらは受け取った刀をデイパックにしまった。 「さてと。今後の方針は応急手当をしながらでもいいかな?」 「はい」 消毒液、脱脂綿、ガーゼ...治療に必要な物を揃え、花京院はほむらに手を差し伸べた。 「しみるかい?」 「だいじょうぶです」 ほむらの傷口に優しく消毒をしながら、花京院は語りかける。 「さて、今後の方針だが...わたしはここに留まるのもありだと思っている」 一旦、ほむらの手当を止め、花京院はデイパックからタブレットを取り出す。 「わたしたちのいる場所は病院だ。おそらく、負傷した参加者の多くはここを目指すことになるだろう」 「でも、それって...」 「ああ。負傷した参加者を狙う、ゲームに乗った参加者も目指す可能性は高い」 しかし、と花京院は言葉を一旦区切る。 「きみの友達も連れてこられているのだろう?ならば、わかりやすい目印となる場所で待っていた方がいい」 花京院の言う事は尤もだった。 この地図には、『地獄門』『DIOの館』『音ノ木坂学院』など特徴的な施設が多くある。 おそらく、参加者になにか関連する施設の名称であることは想像に難くなく、知り合いが複数いる参加者はそこを目指すだろう。 それに対して、自分達に関連する施設が見当たらない。 『廃教会』は佐倉杏子の家かもしれないが、わざわざそこを目指すのは彼女くらいだろう。 自分達も知る一般的な名称で、見滝原にもある場所は『病院』『図書館』『発電所』の三つ。 この中で一番便利と思われるのはやはり病院だ。医療器具があれば、魔法少女の魔力も節約できる。 それに、ほむらの知る四人、特にまどかは優しい子だ。 自分が怪我をしていないにしても、他の怪我人を気遣って病院を目指す可能性は高い。 「ただ、問題はここが端の方だということだ。遠くにいる参加者は危険を冒してまで来ようとは思わないだろう」 会場の中央部なら集まりやすいのだが、いかんせんここは端の方。 周辺ならともかく、B-8にある発電所やG-7の闘技場辺りにまどかがいれば、此処で待っていても会える可能性は低い。 自分たちが知っている施設は少ないとなると、確固たる自信を持ってここを目指すという意思は持てない。同行者がいれば、そちらの要求に合わせてしまうだろう。 花京院に残ってもらって自分は別の場所を探したいとも思ったが、DIOのこともある。 ほむらは、エスデスがDIOを殺そうとしていることを花京院に伝えていない。 もし伝えれば、彼はエスデスを倒しにいこうとする。しかし、あの圧倒的な力には、自分たちでは相手にならないだろう。 時間停止を使って殺すことはできるかもしれないが、もしDIOが本当に悪人だった場合、そして殺し合いを破壊し広川たちと戦うときに、あれほどの戦力がいなくなるのも惜しい。 それに、DIOを敵視しているのはエスデスともう一人、アヴドゥルという人がいるらしい。 もしもアヴドゥルがまどかと出会い、DIOは危険だと伝えていれば、まどかと花京院が出会ってしまった時、間違いなく問題が生じるだろう。 そうなると、花京院から離れるべきではないと思う。 「それに、ここが浮遊島というのも厄介だ。周りが海などならまだ助かる望みはあるかもしれないが、奈落に落ちたら最後だ。遠くにいるのなら、わざわざ落ちる危険がある場所には立ち寄らないだろう」 「奈落?」 「ああ。きみと会う前にA-1に寄って確認したんだが、底が見えない真っ暗闇だったよ」 「真っ暗闇...太陽が出たら、底が見えるんでしょうか?」 「どうだろう。ちょうどここからも見えるし、確認してみようか」 席を立ち、窓から外を確認すると、少しの足場を残して、そこから先は文字通り底が見えない奈落だ。 まだ陽が昇りきっておらず、辺りも薄暗いとはいえ、こうも底が見えないのは不気味そのものだ。 「どう思います?」 「幻覚...と決めつけるのは早計かな。現実的に考えればこの浮遊島も奈落も有り得ないものだが...」 「有り得ない?」 「基本的に島というのは海や地面が無いと成り立たないものだからね。この浮遊島というものは自然的な法則を無視しているんだ」 「自然的法則...」 花京院の言葉について、ほむらは考える。 花京院が指摘するまでは、この島についてなんの疑問も抱いていなかった。 この島はおかしい。改めて考えればわかることだ。 浮遊する島。底が見えない奈落。 常識から外れているものが当たり前のように存在しているのだ。 (おかしいものが、当たり前...) ほむらは知っている。 おかしいことが当たり前のようにできる世界のことを。 ほむらは持っている。 それを確かめる手段を。 故に、ほむらは口にした。 「なら、調べてみませんか?」 ほむらの怪我の応急処置を終えたあと、ほむらと花京院は病院と奈落の境目、つまり崖っぷちに立っていた。 「...本当にやるつもりかい?」 「はい。大丈夫です、テストのついでに少し調べるだけですから」 ほむらが円盤状のマスティマに触れると、両肩から僅かに離れた場所へ浮き、翼が生える。 それと同時に、ほむらの身体が僅かに浮き上がる。 (...説明書の通り、飛ぼうと思えば飛べるみたいね) 「それでは、行ってきます。もし放送から10分以内に戻って来なければ、私を置いて花京院さんの思った通りに行動してください」 そう言うなり、ほむらは奈落へと降りていった。 (...この辺りでいいかしら) ある程度まで降下すると、今度は滑空し奈落に対して平行に飛ぶ。 やはりというべきか、奈落には底が見えない。 欲をいえばこちらも調べたいと思うが、飛行時間に限界があるため無茶はできない。 それに、今回調べたいのは奈落ではない。 ほむらが着目したのは、会場の端。 島の端ではなく、地図上の端。即ち、奈落によって徒歩ではいけない場所だ。 わざわざ低く飛んでいるのは、奈落の底を確認するためだけでなく、どこにいるかわからない敵に姿を見られるのを防ぐためだ。 やはりというべきか、こちらも奈落と同様先が見えない。 (もし、これが私の予想通りなら...) どれほど飛行しただろうか。 突如、ほむらの眼前に巨大な壁が現れた。 暗がりで見えなかったのではない。本当に、突然壁が現れたのだ。 壁に沿って上昇し、頂上まで辿りつく。 誰もいないことを確認すると、マスティマの羽根を消し、地上へと降り立った。 (やっぱり...!) ほむらが確認できたのは、発電所と思われる施設。即ち、ここはB-8地点であることがわかる。 つまり、この会場に行き止まりはなく、C-1からB-8まで一瞬で移動したことになる。 ここから考えられる答えは二つ。 ひとつは、この会場が地球ではない小さな星のひとつだということ。 インキュベーターという異星人のことを知らなければ、こんなことは思いつかなかった。 しかし、地球と同様にこうして人間が普通に生きていられる基準を満たす星などあるのだろうか? いや、そんな星があれば巷でもっと話題になっているはずだ。若しくはインキュベーターだけがそんな星を知っている可能性もある。 しかし、この場には魔法少女ではない人間が複数名いる。 魔法少女の素質を持つ者には、第二次成長期の少女であることが最低条件だ。 それ以外の者には、インキュベーターに干渉できないし、奴らの方からも直接は干渉ができないはず。 これらを踏まえると、『インキュベーターは魔法少女もその素質を持たない者でも、誰にも気づかれない内に他の星へ転送することができる』という前提が無ければ成り立たないこの可能性は限りなく低いといえる。 もうひとつの可能性...ほむらは、こちらの可能性の方がかなり高いとふんでいた。 気が付いたら同じ場所から出られなくなっていた。 現実にはありえないものが当たり前のように存在している。 見覚えのある建築物が存在する。 これらを両立するものを、ほむらは身を持って知っている。 (この会場は、魔女の結界によく似ている) ほむらが考えたもう一つの答え。それは、この会場自体が魔女の結界であるということ。 勿論、普通の魔女ではなくインキュベーターがなにかしら手を加えたであろう魔女の結界だ。 お菓子だらけの空間。 地面が無く、上下左右など方向感覚がメチャクチャな空間。 自分の住んでいた街を丸ごと模倣した空間。 魔女の結界の中では、とにかく常識の理屈が通じないものが存在する。 魔女が狙った標的を、気付かぬうちに結界内に連れ込むこともできる。 それに対して、この会場の浮遊島。 全く底が見えない奈落。 ワープしたとしか思えない現象。 いつの間にか集められた大勢の人間。 参加者に関係があると思われる施設の数々。 魔女の結界と共通点がありすぎるのだ。 故に、ほむらは『この殺し合いの会場は、魔女の結界によるものである』と結論を出した。 もしこの仮説が真実なら、魔女を探し出して殺してしまえば殺し合いを続けることは困難になるだろう。 勿論、この仮説に確たる証拠があるわけではない。 しかし、この調査でインキュベーターが関わっている可能性はかなり跳ね上がった。 ならば、魔女を探す手間をかけることは無意味ではないはずだ。 問題は、『魔女が誰で、どこにいるのか』だ。 単純に考えれば、自分の知る中では魔法少女は五人。魔女はこの五人の誰かがそうであると考えるのが定石だろう。 しかし、参加者である以上、殺し合いの途中で殺されてしまうような場合も考えられる。 そんなことがあれば、終了を待たずしてバトルロワイアルは存続困難となる。 なら、この五人がこの会場を作っている魔女である可能性は極めて低いだろう。 (...ちょっと待って。そうは言い切れないんじゃないかしら) そもそも、本来ならば魔女という存在はまどかの祈りで過去や未来、全ての時間軸から消し去られた。 自分が魔女と成り果てたのは、インキュベーターがソウルジェムを外界から隔離し干渉不可能な状態にしたからだ。 その結界に、まどかや美樹さやか、佐倉杏子、巴マミなど知り合いが取り込まれたのは、インキュベーターが内側から誘導し連れ込むことだけは可能にしたからだ。 つまり、この会場が魔女の結界内ならば、インキュベーターが干渉しない限り作ることができない。 そして、魔女の存在を知らなかったインキュベーターが干渉する可能性が高いのは、やはり魔女を唯一知る暁美ほむらだろう。 自分の知らない者たちがいる件に関しては、インキュベーターが記憶になにか細工をすればできないことはないかもしれない。 ならば、現状、尤も簡単に殺し合いを終わらせられる可能性が高いのは... (...私が、死ぬこと?) インキュベーターの狙いがなにかは分からない。 しかし、魔女が死ねば、結界は崩れ去り、この殺し合いは優勝者を待たずして終わるだろう。 そうなれば、まどかは助かり、奴らの狙いを防ぐことができる。 (...でも、もしかしたら、そう思わせることこそ奴らの狙いなのかもしれない) もしも自分が魔女であることを知れば、自害してでもこのバトルロワイアルを終わらせようとするのは奴らも知っているはず。 ならば、奴らの目的は『暁美ほむらの死』を利用することにあるかもしれない。 どうやってかはわからない。 ただ、奴らは今まで人間の理解を超える方法で策をろうじてきた。 ならば、その方法については考えるのは後に回そう。 とにかく、いまは生きよう。少なくとも、自分が魔女であることが判明するまでは。 そう思い直し、花京院の待つ病院へと戻ろうとマスティマを発動させたときだ。 ―――ザザッ 『おはようしょくん』 (くっ...まずいぞ、これは) 花京院は焦っていた。 ほむらに潜航させていたハイエロファントグリーンが、突如解除されてしまったのだ。 (まさか勘付かれて逃げられた...?そうなれば、わたしの立場が無くなってしまう!) もしも、花京院がゲームに乗った者だと言いふらされれば、それだけ多くの敵を作ることになってしまう。それは避けたい。 しかし、何かしらの偶然でほむらから解除されてしまっただけかもしれない。 とにもかくにも、ほむらを探し出さねば答えはわからない。 花京院は、ハイエロファントグリーンに辺りを観察させた。 間もなく発見したのは、少女と女性の二人組。 (あの女...!) あの蒼く長い髪に、グンバツなスタイル。 間違いない、エスデスだ。 (まずい、奴にはわたし一人では勝ち目はない!) どう考えても始末すべき厄介な女ではあるが、生憎ここには花京院一人しかいない。 不意打ちのエメラルドスプラッシュでも傷一つ付けられなかった奴だ。 アヌビス神はほむらを操る手段のひとつとして渡してしまったし、そのほむらも何処へと消えてしまった。 この場にあるのは、拳銃ひとつとハイエロファントグリーンだけ。 まともに戦ったところで勝ち目はないだろう。 傍に居る少女を人質にとろうとも考えたが、そこまで近づけば、エスデスに気付かれてしまうだろう。 (ここは、大人しくしておくべきだろう) 幸運にも、エスデスは病院をほとんど調べようとはせず、病院の裏側にいる花京院に気付かずに去っていった。 その数分後、ノイズ音と共に、広川の放送が始まった。 エスデスのインパクトに気を惹かれ、出会いがしらに殺害したはずの鹿目まどかの存在に気付かなかったのは、花京院にとって幸か不幸か。 それは誰にもわからない。 (16人か...) 放送を聞いた花京院は、なんとなくそう思った。 ここに来てからすぐに殺害した少女の名もあるのだろうが、花京院はそれほど興味がなかった。 (悪くは無いペースだな) 花京院の目的は、DIOを優勝させること。わずか6時間で16人も死んだのなら、それだけDIOを脅かそうとする者は少なくなる。 (もっとも、ジョースター一行、及びエスデスとかいう女が誰一人として脱落していないのは残念だが) ジョースター一行。DIO様の敵であり、いずれは自分が戦わなければならない相手。 エスデス。先程発見したばかりなので死んでいなくて当たり前だが、ほむらの話やあの氷を生みだす能力から判断すれば、必ずやDIO様の厄介な種となる。 (できれば、あまり危険は冒したくないものだが...) もしも、肉の芽が無くとも忠誠を誓ったヴァニラ・アイスやンドゥール、エンヤ婆といった生粋のDIO信奉者ならばこんなことを思いもしないだろう。 肉の芽を植え付けれた花京院も、DIOのために命を捧げることはできる。 しかし、単純にDIOへの恐怖を突かれて肉の芽を植え付けられた彼には、『可能な限り危険な目には遭いたくない』という防衛本能が自然と働いていた。 未だ能力を知らないジョースター一行、当面の大敵であるエスデスへの対抗策を練りながら、ほむらがここへ戻ってくるのを待つことにした。 それから数分後、こちらへと戻ってくるほむらを見て、花京院は内心ホッと胸を撫で下ろした。 「無事でなによりだ。お疲れさま」 「この会場に端はありませんでした」 花京院の労いの言葉もロクに聞かず、ほむらはデバイスを取り出し地図の画面を開いた。 「このC-1から真っ直ぐ北上するとC-8に出ることになります」 「ほむらちゃん?」 「会場の端へと飛ぶのに必要な時間はおよそ2、3分。時間を空けて飛べばマスティマも問題なく使えるはずです」 まるで花京院など眼中にないかのように、ほむらは得た情報を述べていく。 花京院から見れば、ほむらはどう見ても焦っていた。 再びハイエロファントグリーンをほむらに潜航させるのも容易くできるほどにだ。 「花京院さんの探すDIOの屋敷も飛んでいけば時間を短縮できます。 そこで、これから目指す場所は エスデスと合流するコンサートホール。 DIOさんが目指すであろうDIOの屋敷。 私の知り合いが目指す可能性があるかもしれない廃教会に絞りたいと思います。 花京院さんはどこから探すのがいいと思いますか?」 なにをそんなに焦っているのか、花京院には思いもよらなかったが、自分に選択権があるのなら好都合だ。 エスデスが人を集めているというコンサートホールか。 DIOが目指す可能性の高いDIOの屋敷か。 ほむらの知り合いの目指す可能性がある廃教会か。 それとも、最初の提案通りに病院で参加者が来るのを待つか。 「わたしは...」 花京院が出した答えは――― 巴マミ。 私は、あの人が苦手だった。 強がって無理しすぎて、その癖誰よりも繊細な心の持ち主で... あの人の前で真実を暴くのは、いつだって残酷すぎて、辛かった。 でも、決して嫌いじゃなかった。 だって、あの人は――― 『魔女としてのきみが、無意識のうちに求めた標的だけがこの世界に入り込めるんだ』 不意に、私の魔女の結界について説明するインキュベーターの言葉が脳裏をよぎった。 もしも...もしも、私が心の底から彼女を拒絶していれば、彼女は死ななかったのだろうか。 その答えはわからない。 けれど、私に出来るのは前に進むことだけ。 そう、まどかを救い、この命が尽きるそのときまで。 【C-1/病院の裏側の崖/一日目/朝】 【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ(新編 叛逆の物語)】 [状態]:疲労(中)、ソウルジェムの濁り(小) 全身にかすり傷 精神的疲労(中) [装備]:見滝原中学の制服、まどかのリボン [道具]:デイパック、基本支給品、万里飛翔マスティマ@アカメが斬る! アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース(まどかの支給品) [思考]: 基本:まどかを生存させつつ、この殺し合いを破壊する 0:これからの方針を決める。 1:まどかを保護する。 2:協力者の確保。 3:危険人物の一掃 4:まどかの優勝は最終手段 5:DIOは危険人物ではない...? 6:信用を置ける者を探し、自分が魔女かどうかの実験をする。(杏子が有力候補) [備考] ※参戦時期は、新編叛逆の物語で、まどかの本音を聞いてからのどこかからです。 ※まどかのリボンは支給品ではありません。既に身に着けていたものです ※魔法は時間停止の盾です。時間を撒き戻すことはできません。 ※この殺し合いにはインキュベーターが絡んでいると思っています。 ※時止は普段よりも多く魔力を消費します。時間については不明ですが分は無理です。 ※エスデスは危険人物だと認識しました。 ※花京院が武器庫から来たと思っています(本当は時計塔)。そのため、西側に参加者はいない可能性が高いと考えています。 ※一度解除されましたが、再び花京院のスタンド『ハイエロファントグリーン』の糸が徐々に身体を浸食しています。ほむらはそのことに気付いていません。 ※この会場が魔女の結界であり、その魔女は自分ではないかと疑っています。また、殺し合いにインキュベーターが関わっており、自分の死が彼らの目的ではないかと疑っています。 【万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!】 翼の帝具。装着することにより飛翔能力を得ることが可能。 翼は柱を破壊する程度の近接戦闘は描写から可能であり、無数の羽を飛ばして攻撃することも出来る。 飛翔能力は三十分の飛翔に対し二時間の休息が必要である。 奥の手は出力を上昇させ光の翼を形成し攻撃を跳ね返す『神の羽根』。 【花京院典明@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】 [状態]:健康 [装備]:額に肉の芽 [道具]:デイパック、基本支給品×2、油性ペン(花京院の支給品)、ベレッタM92(装弾数8/8)@現実、花京院の不明支給品0~2 まどかの不明支給品0~1 [思考・行動] 基本方針:DIO様を優勝させる。 0:これからの方針を決める。 1:ジョースター一行を殺す。(承太郎、ジョセフ、アヴドゥル) 2:他の参加者の殺害。ただし、今度からは慎重に殺す。 3:DIO様に会いたい。また、DIOの部下が他にもいるかどうか確かめたい。 ※参戦時期は、DIOに肉の芽を埋められてから、承太郎と闘う前までの間です ※額に肉の芽が埋められています。これが無くならない限り、基本方針が覆ることはありません。 ※肉の芽が埋められている限りは、一人称は『わたし』で統一をお願いします。 ※この会場内のDIOが死んだ場合、この肉の芽がどうなるかは他の方に任せます。 ※『ハイエロファントグリーン』が他人に憑りついたとき、意識を奪えるかどうかは他の方に任せます 時系列順に読む Back Future Style Next 正義の戦士たちよ立ち上がり悪を倒せ 投下順に読む Back Future Style Next 正義の戦士たちよ立ち上がり悪を倒せ 047 笑う女王と嗤う法皇 花京院典明 099 再会の物語 暁美ほむら
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われらをあわれみたまえ。 ※ ※ ※ 月が黒ビロードの夜空に縫い込まれている。 花束を解きほぐしたような星空。 冴えわたる月光と星明りの中に浮かび上がる黒い建物のシルエットの間で。 アナスイの長い髪が湿った夜風を含んで揺れている。 花京院の学生服の布地が月色に映えて鈍く光っている。 その間を割って、落ちていくテンガロン・ハット。 彼らの、決闘が始まる。 まるで何もかもを示し合わせたかのように、三人は動いた。 ハットが地面へ触れ、散開する三つの影。 時を移さずして跳弾する緑の石粒、エメラルドスプラッシュをダイバー・ダウンがはじき、叩き落とした。 マウンテン・ティムは全てを見届けるために、二人から距離を取って佇んでいた。 夜のしじまに、月明りが溶け込んでいる。 出会った場所、境遇が違えば、盃を掲げて共に語らい合えるくらい素晴らしい月夜だった。 スタンド、ダイバー・ダウンはいなすように弾雨を弾きながら、少しずつ前進を開始する。 弾幕のうすい部分を目ざとく見つけ、その合間を縫って花京院へと飛びかかる。迎え撃つハイエロファント・グリーン。 スタンドヴィジョン同士が激しくぶつかり、彼らはお互いの拳を突き合わせたまま鍔迫り合いを演じ始めた。 精神を極限まで高ぶらせ、ただ一点、相手の双眸だけを凝視する。 しかし、お互いが見ているのはそれぞれ色の違う瞳ではなく、その中に湛える光でもなく、その奥にたぎらせている精神でもない。 彼らは自分自身の狂いを、相手の目の中に見ていたのだ。 アナスイの瞳の向こうに、花京院の思考は展開する。 ――僕にはずっとずっと、わからなかったんです。 倫理を軽々と越えてしまうような『情』というものが。 アナスイ。 あなたに食って掛かったのは、徐倫さんとの関係に赤の他人の身でありながら口を出したのは、同族嫌悪なのかな。 僕もまたあなたと同じく、感情の押し付けによって、滑稽に踊っていたから?フーゴやグェスさんに、仲間という感情を自分勝手に振りかざして。 でもあなたは、あなたの『情』は、たぶん滑稽なんかじゃない。あなたの心には愛がある。どんな形をとっていてもきっと、それは僕の知らない素晴らしいものなのだろう。 なぜ死んでもいいくらいに人を愛せる?絶対に簡単なことじゃない。 徐倫さんをシーツの中に『監禁』してしまうような無茶苦茶なやり方には腹がたったけど。 ……もしかしたら、僕は羨ましかったのか? ともにエジプトを旅した仲間はほとんど死んでしまって。 やっと会えたポルナレフには存在自体を信じてもらえず、ここで出会った人たちからは信頼を嘲笑われ、何もなくなった僕。 今はただ悲しい。 あなたには、たとえ負けても徐倫さんのために闘ったという誇りが残る。 でも、僕には何も残らない。 だから――絶対に、絶対に負けたくない。 「あなたは間違っているんだッ!」 花京院は自分の腹へと繰り出された敵の生身の足蹴りを、大きなバックステップによって避ける。 ティムに説明されたダイバー・ダウンの能力は、すこし触れるだけで致命傷を負わされる危険があるもの。 それを踏まえ、触れずに攻撃をすることができる自分の能力をどう活かすか。 彼は思考する。エメラルド・スプラッシュによる緑の弾雨の数で押すか、ハイエロファントの触手でからめ捕り締め上げるか。 対するアナスイはただ淡々と歩を進める兵隊のような目で、花京院の心臓を狙っていた。 徐倫の居場所を聞き出すこともいいだろう。だが、彼はアナスイが断腸の思いで練り上げた計画を無碍にした、部外者の分際で。 単純に、許すことができなかった。 ――ぶちのめす。 愛という名の余すところのない熱狂は、彼の不退転の決意を確固たるものにする。 その心はまるで永遠の中に凝固してしまったかのように、直立にして不動だった。 ――俺はいつだっていつだって、わかっていたんだ。 徐倫が俺を好きになるはずなんてないことを。 あの美しい「集中力」を備えた目で俺を見てくれることなんか永久にないってことを。 人は二度死ぬという。一つ目は肉体の死、二つ目は他人に忘れ去られたとき。 そうだとするなら俺に二度目の死は訪れないだろう。 彼女のために生きていれば、優しいあの子は心の隅っこくらいには俺のためのスペースを置いといてくれるだろうから。 だから、日常の何気ない行為の隙間に――車のドアを開けるふとした一瞬とか、ソファーでコーヒーを飲むようなときに――俺の存在を、うすぼんやりでも思ってくれればそれでいいんだ。 そして、あの子が温かいコーヒーを飲んでくつろぎ、何の心配もなく日々を過ごすためなら。 何を切って捨てても――後悔は無い。 「徐倫の居場所を言えッ!」 アナスイはスタンドではなく生身のままで、花京院に殴りかかった。 身軽に避けられ、彼の拳が民家の壁にぶつかった。壁はアナスイの拳の皮膚を削り取り、その血液を吸う。 花京院は身をひるがえし、アナスイと対峙した。二人の間に横たわる荒漠とした空気。 お互い意地だった。失くしそうなものをつなぎ留めんと、牙をむき出し合って。 花京院は乾いた唇を舐め、口火を切った。 「彼女は無事です。でも居場所は教えない」 元より、知らないのだ。彼女は蝶のごとく、打倒荒木へ向けてこの会場を飛び回っているのだから。 再びエメラルド・スプラッシュが放たれる。 アナスイはスタンドで防御しなかった。後ろに吹き飛ぶ。しかし来ることがわかっていた攻撃は、彼に致命傷を負わせることはできなかった。 防御に使った腕は打撲と裂傷ができていたが、彼の昂ぶった神経は、そんなもの意に介さない。 アナスイのスタンドは何をしていたのか。 ダイバー・ダウンは地面へと潜行し、花京院本体を叩くために接近を開始していた。 地面を追うアナスイの視線に気が付き、花京院はその場から駆けだす。 一瞬の間をおいてスタンドの腕が彼の足をつかみ取らんと、地面より突き出でた。 走る、走る。そのたびに足元からはダイバー・ダウンの腕が迫りくる。 知らず知らずのうちに、花京院は民家の壁へ追い立てられていた。 そこへ背をつけて、彼は決心する。 相手は冷静ではない。話で注意を逸らし、ハイエロファントの触手でからめてやろうと。 「いや……教えない、というよりも、わからないんですよ」 こめかみを伝う冷や汗を気取られぬように、余裕ぶった笑みを張り付けて。 アナスイは当てが外れたような顔をした。これで花京院には、情報源としての価値が無くなったことになる。 彼は本気で腹を立てるだろう。良いことだ。もっと冷静さを失うがいい。 「聞きたいんです。徐倫さんとあなたはどういう関係なんですか?」 「彼女のためなら、俺はこの世のどんなクズにも劣る存在になってもかまわない」 死角から忍び寄らせていたハイエロファントが、アナスイの足をからめ捕ろうとうごめいた。 もう少し、あと少しで勝てる。 視線はアナスイへと固定する。気取られぬよう、慎重に、巧妙に這い寄る。 (……彼に勝利を収めて、僕はどうしたいんだろう) 最初はアナスイの無茶な行動を非難し、反省させるためだったはずだ。 たったそれだけのために、花京院はこれ程むきになっているのだろうか。 「いいかげん、『彼女のため』なんて恩着せがましいセリフはやめてください」 「黙れッ!徐倫はどこだ!!」 花京院は羨望を持ってアナスイを見ていたのだ。 ここへきてから迷い、疑い、疑われ――揺れ続けた自分と違い、彼は愚かとも取れるほどまっすぐに進んできた。 たった一人の愛する女性のために。 それがとても、うらやましかった。 やはり、だからこそ、負けたくなかった。ここで負けたら、自分はもうどこへも行けなくなってしまう気がしていた。 ――どんな気分ですか?『迷わない』っていうのは? 「来い。『ハイエロファント――、ッ!」 奇襲をかけようとしたその時、刹那にも満たない間をおいて、花京院は背中から押し出すような衝撃を受ける。 予想できない背後からの攻撃に、彼はもんどりうって倒れた。 硬質な地面が打ち付けた骨に響く。口の中に広がる砂の味、砂利のざらつき。 「『ダイバー・ダウン』。衝撃を潜行させ、俺の好きな時に解き放つ能力」 「……ッ!」 アナスイにも策があった。 ダイバー・ダウンはいたずらに地面を潜行していたわけではない。 花京院がアナスイを煽動しようと画策したように、彼もまた策略を持って行動していた。 スタンドで巧みに花京院を追い立てた先。 彼が背をつけていた民家の壁は、先刻アナスイが殴りつけた壁。 雌雄は決した。花京院は反撃に足るだけの隙を、アナスイから見出すことができない。 「俺は残酷だぜ。なにせ殺人鬼だからな」 沈黙を纏い、傍らに佇んでいたマウンテン・ティムの眉が、わずかにはねた。 アナスイは冷え切った眼で、口元だけを笑みにして勝ち誇る。 彼は殺人鬼に戻ってしまった。 アメリカの新聞をにぎわせた、解体魔の殺人鬼に。 「う、――」 花京院は起き上がろうとするが、肩を踏みつけられ地面に這いつくばるよりほかなかった。 うつ伏せに地へと押し付けられたまま、嘲笑う敵をにらみつける。 がむしゃらに体を暴れさせて一度足を振り払った。半身を起すが、今度は壁へと蹴りつけられ、首元を捩じるように踏まれる。 認めたくなかった。負けを認めるなんて嫌だった。 刺々しい声色で、最期の抵抗を試みる。 これで事態が好転するなどと思っていない。それでも、このまま負けることだけは嫌だった。 「月並みですけど、言わせてもらいます。『そんなことが彼女のためになると、本気で思っているのか?』」 「……負け惜しみなんて感心しないぜ」 アナスイは睫毛一本動かさずに、花京院にかけた足をさらに踏み込む。満身の悪意を込めるかのごとく、執拗に。 殺し合いゲームという異常事態にも揺るがなかった彼のこころに訴えかけるような言葉は、もはや存在しないのだった。 「どんな風にバラしてほしい?言いなよ、クソ野郎」 「アナスイ!……やめろ」 見届けるだけだったはずの決闘に、ティムが口をはさむ。 神聖な決闘は相手を侮辱しない。アナスイは、世界を取り違えた。 事態は最悪な方向へと移っている。 邪悪のうすら黒い影が、今まさに、強い愛を謳っていたはずの青年の背後に。 彼はティムの方へ、ちらと視線を投げる。火のような視線。口元に浮かぶ嘲笑。 そうして無言のまま、何事もないかのように捕えた敵とへと目線を戻す。 花京院は状況を打破するため思考をまとめようとするが、もはや何も考えることができなかった。 悔しかった。耐えられない怒りが心臓で唸る。 自分の手に何もないまま死んでしまうのかと思うと、気が狂いそうだった。 歯を食いしばる自分を見下ろして、アナスイの笑みが彼の顔をより深く穿つのを見た。 そうして、ダイバー・ダウンが花京院の急所へと狙いを定め、その拳が振り下ろされて。 まっすぐに繰り出されたその打突は、彼の命をいともたやすく奪うはずだった。 「!!」 舞い上がる土埃。花京院は迫るアナスイの攻撃とは違う衝撃によって横へと吹っ飛ぶ。 「何……」 一瞬早く事態をのみ込んだアナスイが呆然と呟いて。 花京院めがけて振るったダイバーダウンの拳は、 ――マウンテン・ティムの胴を貫いていた。 ※ ※ ※ 赤く重い液体が、月光に艶めいている。 地面に広がる自身の血液の中に身を沈めてなお、マウンテン・ティムは微笑していた。 「花京院君、逃げろ。そして……こいつを――救ってやってくれ」 その言葉を最後に、閉じられた彼の瞼が再び開くことはなかった。 花京院は震える足で地面に膝をついていた。 ダイバーダウンの攻撃が迫ったとき、ティムが突然走り出てきて彼を突き飛ばしたのだった。 横滑りに吹き飛び、泥だらけになった服はところどころが破れている。露出した肌には新たに擦り傷ができていた。 しかし花京院はその痛みも感じることなく、崩れ落ちたマウンテン・ティムから視線を離せずにいる。自分の見ているものが信じられなかった。 砕け散った思考は、ただいたずらに散漫で。花京院はティムの最後の言葉を咀嚼しきれない。 不意に、夜風が冷たい、という考えだけがぽっかりと浮かんだ。 「ティム……?」 アナスイがダイバー・ダウンのヴィジョンを消し、死んでしまった仲間の名を呼ぶ。 スタンドを介して伝わってきた、彼の肉体を貫いた時の感覚。 それを確かめるように、自分の腕をじっと見つめる。 やにわに足音が届いた。音の方を見れば、走り去っていく花京院の背中。 アナスイは無言のままそれを見送り、物言わぬ骸と成り果てた友へと再度視線を落とし。 「逝っちまったのか。……いや、俺が殺したんだな」 そばに落ちていたテンガロン・ハットを持ち上げて、指先で回す。 度重なる戦闘でくたびれてしまったフェルトの質感が、ちりちりと指を刺激する。 一日にも満たない付き合いだったのに、この帽子が彼の誇りある職業の象徴であると理解できた。 それを軽々しく指先で回す。 やがてそこから外れたテンガロンハットが、空気の抵抗を受けながら再び地面へと落ちた。 そして。 「俺は……あんたとの思い出を断ち切って、――殺人鬼に戻るよ」 友の遺品であるはずのそれを、荒々しく踏みしだく。典型的なテンガロンの型を作っていたウールが、硬い革靴の下にあっさりとつぶれた。 水牛をかたどった飾りが衝撃で外れ、物悲しく転がる。 それも気に留めず、幾度となく、彼は踏みつける。すでにただの羊毛の塊と化したものを蹂躙するように踏みつける。 泥をこすり付けるように、悪意で思い出をにじり消すように。 何度も捩じり、押しひしぐ。 泥と見分けがつかなくなったころに、彼はゆっくりと帽子から足を離して言った。 「今度こそ、本当に。……さようなら」 彼は光の中で知ったことを、闇の中で否んだのだ。 踵を返して括目する。 瞳は一点、闇の中のただ一点を見ていた。 ※ ※ ※ 見上げた空に浮かんだ月は、己を嘲笑っているように見える。光だけがただ白々しく、煌々と降りそそぐ。 ざらつく街路樹へと押さえつけられ、呻吟しているさまはさぞ憐れだろう。 地面を見ればすぐ向こうに、つい数時間前に会話したはずのマウンテン・ティムが力なく横たわっている。 首が押しつぶされそうだ。 ドナテロ・ヴェルサスは考える。 こんなことが起こるはずではなかった。 「盗み見とは、趣味が悪いぜ」 ヴェルサスは悲鳴を上げることも、助けを乞うことも、罵倒すらも許されず、アナスイに首を掴み上げられている。 アンダー・ワールドはダイバー・ダウンによって、がんじがらめにされていた。 いたずらに足をばたつかせても何もならなかった。 生身の体も、スタンドも――抵抗らしいことは何も、できなかった。 悔やむべきは自分の甘さ。 スタンドが足元に迫っていることに気付けていなかった。 自分が潜んで見ていることが気付かれていると、悟れなかった。 亡羊とした思考で思い返す。 彼はここ数十分、花京院の後を追い続けていた。 大事そうに抱えていた真っ白なシーツをいぶかしく思っていたが、そこにはあの宿敵、空条徐倫が絡まるようにして捕えられていたこと。 てっきり花京院から感じるものだと思ってた痣の感覚は徐倫のものだとわかり、大いに驚愕したこと。 徐倫と花京院の二人が『話し合った過去』を民家の中へ忍ばせたスタンドで掘り起こし、それらの全ての事態を把握したこと。 そうして、追っても益のなさそうな徐倫を切り捨て、花京院を追ってきたこと。 警戒すべきマウンテン・ティムたちの動向を知るため、犯罪者が犯行現場に戻るような感覚で取った行動だった。 隠れたまま様子を見て、もう一度DIOの館を目指すつもりだったのだ。 そのあとのことはあまりの衝撃のせいか、ひどく断片的で。 過去を掘り起こしながら花京院の後を追い、追いついた矢先に。 目の前で展開された死闘。花京院を追い詰めたアナスイの笑い。スタンドに腹をぶち抜かれ、動かなくなったマウンテン・ティム。 その時点で、逃げるべきだった。 花京院はどこかに走り去って、すでに影すら見えない。 生きて、幸せにならなくてはならないのに。 こんなところで、不愉快な泥の上で、泥を見ながら、泥のように死ぬことなんて、絶対に受け入れられない。 しかし、現実は暗い鎌首を残忍にもたげて、彼の小さな願いを刈り取るのだ。 「う……ぐ、俺は、死なねぇッつってんだろうがッ!幸せになるまで!絶対に!」 「じゃあそのためにお前は何かしたのか?なんでこんなとこで這いつくばってやがる?他にやる事があるだろーが」 呆れたような半眼を溜息とともに閉じ、アナスイは街路樹に押し付けていたヴェルサスの体を地面へと投げた。 「クソッ!アンダー・ワール――」 「言われてからやるようでは無意味だ、うぜえ事はよしな」 いくら掘り返そうとしても、地面に手が届かず、腕はむなしく空を切る。 それもそのはず、ヴェルサスの腕の関節は――指のそれに至るまで、完全に、すべて、例外なく、逆に折り曲げられていたから。 「無気力な悪ほど吐き気を催すものはないな」 アナスイはやれやれというように首を振り、肩をすくめる。 低く、嫌な音が夜の住宅街に響く。 腕に続いて足首が、膝が、大腿骨が、腰盤が、肋骨が、ダイバー・ダウンによって軽快に組み替えられていく。 ヴェルサスにはわからなかった。 突然空から落ちてきたスニーカーを拾ってしまったあの日から、何が何だかわからないまま人生を転がり堕ちてきて。 彼には、自分が不幸な理由が心底わからなかった。 極めつけは、意味の分からない殺人ゲーム。せっかく出会った相棒のような存在のティッツァーノを見殺しにした、せざるを得なかった状況が恨めしかった。 彼は世の中を呪い、自己憐憫に傾いた濁った眼で周囲をにらみ続けてきた。 世の中が嫌なら、自分を変えればよかった。それが彼には終生分からなかった。 諦めと後悔が、死にゆく心に去来する。 (ああ俺、なーんもやってねえなぁ……。幸せって、なんだったんだろうな――ティッツァ?) しかし、それもまた、一つの人生。 最後に一つ鈍い音がして、原形を留めぬほどに組み替えられた彼の死骸が地面に転がされた。 ※ ※ ※ 今わの際。 冷たいアスファルトに体を横たえながら、思っていた。 ――アナスイ。生死を問わずにお前を止めるってのは、なにもお前だけの生死のことを言っていたんじゃあないぞ。 俺の生死も問わずに止めるってことだぜ、知っていたか? お前が思うより、俺はお前を気に入ってたよ。 意志を曲げずに、一途で、強いところが特に気に入った。悪く言えば融通の利かない頑固者だな。だがそこがいい。 俺が見初めたやつなんだから……徐倫のためを思うんなら、お前は下衆な人殺しになるな。 お前は道を踏み外してる。決闘は、もっと神聖なものだぞ。 だから、俺はあえて横槍を入れる――俺を殺すのは、お前のような気がしていたさ。 そして目を覚ませ、俺が死ぬことによって、目を覚ましてくれ。 体が重い。 ……ルーシーは、きっと俺のことなんか忘れちまうだろう。 でもそんなことが重要なことか? 彼女が心底困ったときに、俺に電話をくれたんだ。 不謹慎を承知でも、それだけで天にも昇るような気持ちになれた。 俺が保安官だから、というだけの理由だったとしてもかまわない。 震える彼女の傍にいさせてもらえただけで……俺はもう十分だった。 彼女がここに来ていなくて、本当に良かった。 ルーシー、ありがとう。 今は、こいつが……アナスイが、正しい道に気付いくれればそれだけで。 暖かいベッドも、安らかな死もいらない。 ――俺は、カウボーイだからな。 ★ ★ ★ 涙の日、その日は。 それは灰の中からよみがえる日。 われらをあわれみたまえ。 われらをあわれみたまえ。 私たちを苦い死に引き渡さないで下さい―― 【マウンテン・ティム 死亡】 【ドナテロ・ヴェルサス 死亡】 【残り 26名】 【D-4 南部 /1日目 夜中】 【花京院典明】 [時間軸]:ゲブ神に目を切られる直前 [状態]:精神消耗(中)、身体ダメージ(中)、右肩・脇腹に銃創(応急処置済)、全身に切り傷 [装備]:なし [道具]:ジョナサンのハンカチ、ジョジョロワトランプ、支給品一式 [思考・状況] 基本行動方針:打倒荒木! 0.ティムさんが、死んだ……僕のせい?そして「アナスイを救ってやってくれ」という最期の言葉の意味が分からない…… 1.逃げる。どこへでもいいからここではないどこかへ。 2.自分の得た情報を信頼できる人物に話すため仲間と合流したい 3.仲間と合流したらナチス研究所へ向かう? 4.巻き込まれた参加者の保護 5.荒木の能力を推測する [備考] ※荒木から直接情報を得ました。 「脅されて多数の人間が協力を強いられているが根幹までに関わっているのは一人(宮本輝之助)だけ」 ※フーゴとフェルディナンドと情報交換しました。フーゴと彼のかつての仲間の風貌、スタンド能力をすべて把握しました。 ※マウンテン・ティムと情報を交換しました。お互いの支給品を把握しました。 ※アナスイの語った内容については半信半疑です。その後アナスイがティムに語った真実は聞いていません。 【ナルシソ・アナスイ】 [時間軸]:「水族館」脱獄後 [状態]:身体ダメージ(中) [装備]:なし [道具]:支給品一式(食料、水2人分)、点滴、クマちゃん人形、双眼鏡、ラング・ラングラーの首輪、トランシーバー(スイッチOFF) [思考・状況] 基本行動方針:見敵必殺。徐倫を守り抜く、参加者を殺害する、荒木の打倒 0.さようなら、ティム――殺人鬼に逆戻りだ。ゲームに完全に乗った。 1.徐倫の敵は俺の敵。徐倫の障害となるものはすべて排除する 2.徐倫の目的、荒木のもとに彼女(と自分)が辿り着くためなら何でもする 3.殺し合いに乗った奴ら、襲ってくる奴らには容赦しない。襲ってこなくても容赦しない。 [備考] ※マウンテン・ティム、ティッツァーノと情報交換しました。 ブチャラティ、フーゴ、ジョルノの姿とスタンド能力を把握しました。 ※ラバーソールとヴェルサスのスタンド能力と容姿を知りました。 ※首輪は『装着者が死亡すれば機能が停止する』ことを知りました。 ダイバー・ダウンを首輪に潜行させた際確認したのは『機能の停止』のみで、盗聴機能、GPS機能が搭載されていることは知りません。 ※ヴェルサスの首筋に星型の痣があることに気が付いていません。 ※F・Fが殺し合いに乗っていることを把握しました。 ※ポルナレフが得た情報について知りました。 ※マウンテン・ティムと改めて情報を交換し、花京院の持っていた情報、ティムが新たに得た情報を聞きました。 ※ヴェルサスを殺した時点では仲間を殺した感傷に浸っている……という感じなので、ティム・ヴェルサス二人分の支給品は回収していません。 この後拾うつもりかどうかは後の書き手さんにお任せします。 投下順で読む 前へ 戻る 次へ 時系列順で読む 前へ 戻る 次へ キャラを追って読む 194 男の世界/女の世界 花京院典明 206 何もない明日が来る瞬間は 194 男の世界/女の世界 ナルシソ・アナスイ 204 寄生獣 190 夜の三者会談SOS ドナテロ・ヴェルサス GAMEOVER 194 男の世界/女の世界 マウンテン・ティム GAMEOVER
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++第十二話 デルフリンガー++ トリステインの城下町を、花京院とルイズは歩いていた。 魔法学院からここまで来るのに乗ってきた馬は町の門の側にある駅に預けてある。 馬に乗るのは初めてだったが、ラクダで砂漠を横断した経験のある花京院には、さほど難しいことではなかった。 「この世界には馬以外の交通手段はないのか?」 「馬以外?」 「ああ。自動車や電車……はあるわけないか」 魔法が発達しているということは、他の分野では遅れを取っている可能性が高い。 「じゃあ、ラクダとか、そういう生き物はいないのか?」 「ラクダ?」 怪訝そうな顔でルイズは花京院を見る。 「背中にこぶのある、四本足の動物だ。砂漠を移動する時によく乗るんだが……」 「聞いたこともないわね」 「そうか」 花京院の世界とはやはり根本的に違うようだった。 生き物もそうだし、建物もかなり違っていた。 コンクリートも鉄も使わず、白い石を削って作られた街は、一見するとテーマパークのようにも見える。 通りには行き交う人々で溢れ返り、道端では商人たちが声を張り上げて、果物や肉や籠などを売っている。 魔法学院に比べると、質素な格好をした人たちが多かったが、活気溢れて、声に満ちているこの場所は、魔法学院よりも、花京院の住んでいた世界に似ている気がした。 ただし、道が酷く狭い。 「狭いな」 擦れ違うたびに誰かと肩をぶつけながら、花京院が呟いた。 慣れているのか、すいすい通り抜けていたルイズは、またも怪訝な顔で花京院の方を向く。 「狭いって、これでも大通りなんだけど」 「……これで?」 「そうよ。ブルドンネ街。トリステインで一番大きな通りよ」 そう言って、通りの先を指差しながら、 「この先にトリステインの宮殿があるわ」 「宮殿に行くのか?」 「女王陛下に拝謁してどうするのよ」 軽く睨むような目を向けられた。 花京院は苦笑しながら答えた。 「スープの量をふやしてもらうかな」 「馬鹿ね」 そう言って、ルイズは笑った。 二人はそのまま大通りをしばらく歩いた。 ふとルイズが立ち止まり、振り向く。 「あんた、財布は持ってるわね?」 「持ってるよ。大体、こんな重い物を誰が掏れるんだ?」 「魔法を使われたら、一発でしょ」 確かに、と納得しかけた花京院だったが、ある疑問が湧いた。 「でも、魔法を使えるのは貴族だけだろう。貴族がスリなんてするのか?」 「……貴族は全員メイジだけど、メイジの全員が貴族って訳じゃないわ」 「どういうことだ?」 「勘当されたり、家を捨てたりした貴族の次男や三男坊なんかが、身をやつして傭兵になったり犯罪者になったりするのよ」 そう答えると、ルイズはさっさと歩き出してしまう。 二人は大通りを歩いていき、狭い路地裏に入った。 そこは大通りとは比べ物にならないほど、汚れていた。 悪臭が鼻をつく。ゴミや汚物が道端に放置されていて、動物の死骸なども転がっていた。 「……きたないな」 「だからあんまり来たくないのよ」 顔をしかめながら足早にルイズは進んでいく。 時折、小さなメモを取り出して確認していることから、間違った道ではないらしい。 その後、何度か道を曲がっていき、十字路に差し掛かった。 メモと周囲を見比べながらルイズが呟く。 「ビエモンの秘薬屋の近くだったから、この辺なんだけど……」 花京院も同じように回りに視線を動かした。 大通りと違って露店は少ないが、店の数自体は多い。瓶の形をした看板やら宝石をかたどった看板もある。中には、蛙を逆さに吊ったような看板もあり、すぐには何の店なのか分からない店も多かった。 「あ、あった」 ルイズの視線の先を見ると、剣の形をした看板が下がっていた。 目的の場所は、そこの武器屋のようだ。 「ルイズ。君はここに来るつもりだったのか」 「そうよ。あんたも丸腰じゃ頼りないから、剣ぐらい買ってあげるわ」 腰に手を当て、胸を張りながらルイズが尊大な態度を取る。 その仕草が子供っぽくて、ルイズから見えないように、花京院は苦笑いを浮かべた。 花京院とルイズは武器屋に入った。 店の中は昼間だというのに薄暗く、ランプの明かりが灯っていた。壁や棚に、所狭しと剣や槍が乱雑に並べられ、立派な甲冑が飾ってあった。 店の奥で、パイプをくわえていた五十がらみの男が、花京院とルイズを胡散臭げに見つめた。 じろじろと無遠慮に見てきた男だったが、ルイズの紐タイ留めに描かれた五芒星に気付くと、すぐに立ち上がった。パイプをはなし、ドスの聞いた声を出す。 「旦那。貴族の旦那。うちはまっとうに商売してまさあ。お上に目を付けられることなんか、これっぽっちもありゃしません」 「客よ」 ルイズは腕を組んで言った。 「こりゃおったまげた。貴族が剣を! おったまげた!」 「どうして?」 「いえ、若奥さま。坊主は聖具を振る、貴族は杖をふる、そして陛下はバルコニーからお手をおふりになる、と相場は決まっておりますんで」 「使うのはわたしじゃないわ。使い魔よ」 きっぱりとルイズは言った。 店主は目を細め、ルイズの後ろに立つ花京院を見た。 「へえ。昨今は貴族の使い魔も剣を降るようで。するってえと……そちらの方で?」 「ああ。僕が使う」 「剣はこっちで勝手に選んじまってもいいですかねえ?」 店主は上目遣いに花京院とルイズを見上げる。 「いや、少し店の物を見せてもらいたい」 武器の良し悪しは門外漢だったが、この店主に選ばせると何が出てくるかわかったものではない。粗悪品を高値で買わされる可能性もある。 断られたことに動揺したかのように、男は捲くし立てる。 「で、でもですねえ。こういうのは慣れてる人間の方が目が利くってもんです。素人さんにゃわからねえ細けえ違いってのもありますし、下手に選ぶと失敗するかもしれやせんよ」 「構わない」 会話を断ち切るように、花京院は答える。 ルイズは以前の戦いから花京院を剣の達人だと思っているらしく、口は挟まなかった。それは誤解なのだが、必要がないのでそう思わせている。 しばらく、花京院と店主はにらみ合いを続けたが、先に店主が視線を逸らした。 「ええ、どうぞご覧になってくだせえ」 「ありがとう」 短く礼を言い、花京院は店の物を物色していった。 武器屋、というだけはあり、武器の種類は豊富だ。長剣、短剣など剣以外にも、槍やら斧やら色々な武器がある。 それらをつぶさに観察してみるが、どの剣が切れるのか、丈夫なのか、花京院にはよくわからなかった。 そうしている間にも、店主は長々と語っている。 「うちはこの界隈でも少々名の知れた店でね。かの有名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿の剣だって置いてるんですから。魔法が掛かってるんで、鉄だってスパスパ切れまさあ。 この間仕入れた剣なんて、妖刀なんて呼ばれる品物でね、鞘をしてるのに切れただの、握った人が狂っただのって色々な噂があるほどで――」 「うるせえやい!」 突然、後ろから声がした。低い、男の声だ。 すぐに声のした方を見るが、そこには誰もいない。 空耳ではないようで、ルイズも不思議そうな顔で見回している。 「さっきからでけえ声で、でたらめを並べ立てやがって! 聞いてるこっちの身にもなりやがれ!」 間違いない。誰かの声が聞こえる。 だが、やはり姿は無い。そこには乱雑に剣が積んであるだけだ。 「そっちの娘っ子も坊主もさっさと家に帰りな! ここはガキの遊び場じゃねえんだ!」 「……」 花京院は積んである剣の中から一本の剣を見つけ出した。 うっすらと錆の浮いた、古い剣だった。長さはそれなりにあるが、刀身が細い。薄手の長剣である。ただし、全体的に薄汚れていて、お世辞にも見栄えが良いとは言えなかった。 「何ジロジロ見てやがんだ! おめえさんのひょろっこい身体じゃ剣なんて振れっこねえよ! とっとと帰りやがれ!」 花京院が呆然としていると、店主が怒鳴り声をあげた。 「やい! デル公! お客様に失礼なことを言うんじゃねえ!」 「お客様? 剣もまともにふれねえような小僧っ子がお客様? ふざけんじゃねえよ! 耳をちょんぎってやらあ! 顔を出せ!」 かたかたと鍔の部分を動かしながら剣が怒鳴り散らす。 奇妙な現象ではあったが、魔法のあるこの世界に、花京院の常識が通じないのは既に知っている。剣が喋ることもあるのだろう。 ルイズが剣を横目に見ながら当惑した声をあげた。 「それって、インテリジェンスソード?」 「そうでさ、若奥さま。どこの魔術師が考えたんでしょうかねえ……意志を持つ魔剣、なんて言やあ聞こえはいいんですが、実際のもんはこんなもんでさあ。 ただうるさいだけのボロ剣ですよ。客にケンカは売るわ、買い主にもケチつけるわで、いっつも返品されて戻って来やがるんで困っちまいますよ……」 ばつが悪そうに店主が頭を掻く。 「デル公! これ以上失礼があったら、てめえを溶かして鉄くずに戻しちまうからな!」 「はんっ、おもしれ! やってみろ! どうせこの世にゃもう、飽き飽きしてたところさ! 溶かしてくれるんなら、上等さ!」 「言いやがったな! てめえ! やってやらあ!」 額に青筋を浮かべながら店主がカウンターを回ってこようとした。 花京院はそれを止めた。 「喋る剣か。なかなか面白いじゃないか」 柄を掴んで、刃をじっくりと見てみる。 さびてはいるが、元は悪くはないらしく、刃こぼれはほとんどない。刀身を軽く叩いてみると、澄んだ音が聞こえた。刀身に加わる力に偏りが無い。 剣の値段を店主に尋ねようとした、その時だった。 「おめえさん、『使い手』……いや、『スタンド使い』か」 剣がぽつりと、独り言のように言った。 花京院は虚を付かれ、まじまじとその剣を見つめてしまった。 「……お前、今何て言った」 「だってそうだろ? おめえさん、『スタンド使い』だもんな」 「……」 訊きたいことはあるが、花京院はここでは訊くのをやめた。 何も言わずに、花京院は店主の方を見た。 「この剣はいくらだ?」 「へ、へい。五十で結構でさ。はい」 「えー。そんなのにするの? もっと綺麗でしゃべらないのにしなさいよ」 ルイズは不満そうだったが、花京院は首を振った。 この剣に訊きたいことは、山ほどある。 「この剣じゃなきゃ。駄目なんだ」 「……しょうがないわね」 花京院が財布を渡し、ルイズが必要な金貨を店主に払う。 店主は身長に枚数を確かめると、頷いた。 「毎度」 店長は剣を鞘に収めてから花京院に差し出した。 「どうしてもうるさいと思ったら、こうやって鞘に入れれば大人しくなりまさあ」 「わかった。ところで、こいつの名前は?」 「デルフリンガー。俺はデル公って呼んでやしたがね」 「そうか」 花京院は頷いて、『デルフリンガー』という名の剣を受け取った。 To be continued→
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絞めるぜ典明は ずるいぜ典明は 黒いぜ典明は レロレロ典明だ 絞めるぜ典明は ずるいぜ典明は 黒いぜ典明は レロレロ典明だ 原曲【ソフトバンクホークス川崎宗則のテーマ】 元動画URL【http //www.nicovideo.jp/watch/sm1496522】
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「出血が…止まらない…」 放送の後、花京院典明は民家で休息をとっていた。 改めて傷の処置をし、食料のパンを胃に押し込んだ。 「これから…どう動くか…」 じきに赤く滲んでゆく止血帯を見ながら、花京院は考える。 考えることによって、ともすれば薄れそうになる意識を押し留めるために。 「何処にいる…承太郎…?」 一刻も早く仲間と合流し、荒木を倒すための策を練らねばならない。 「ポルナレフ…会えるのか…僕は…」 『磁力』を操る敵から受けた傷は、頭部を含め全身に及んでいる。 このままでは、仲間に出会うまえに、自身が殺されてしまう可能性が高い。 「いや…それより先に…失血死…か…」 たった6時間のあいだに、13人もの人間が死んだ。殺しあいの末に。 自分もいずれは…重症を抱えた花京院が、そう考えたのも無理はない。 「ジョースターさん…!」 敬愛するジョセフの死が、彼の不安をいっそう駆り立てていた。 心の奥底に棲みついた不安は、さらに致命的な『臆病さ』を生む。 「…どうして…あまりに…早すぎる…!」 他愛のないジョークを飛ばすジョセフの姿が、脳裏に浮かんでは消えてゆく。 体力は、少しは回復した。しかし花京院は、立ち上がることができなかった。 「ジョースターさんが死んだ…あの機知に富んだ、ジョセフ・ジョースターが! 僕もこのまま…仲間を探し当てることも…できずに…」 悲痛は激しさを増し、彼を自暴自棄に陥らせるかに見えた。 しかし、 「…いや…僕は…」 ジョセフの死は、いつしか花京院に『覚悟』をもたらしていた。 心を刺すような悲しみは、一転して冷静沈着な怒りへと変わっていた。 「…どうやら…勘違いをしていた…」 『臆病さ』はいつも、花京院の卓越した『思考力』の裏返しにほかならない。 「このままでは…遅かれ早かれ…失血死する…それは『確実』…そう… 『味方に攻撃すれば目を覚ます』…それくらい『確実』なんだ…!」 見知らぬ町に放りだされた不安によって、無意識のうちにわずかに乱されていた彼の思考 は、しだいに温かさを増してゆく朝日のなかで、落ち着きを取り戻しつつあった。 「いま…重要なのは…『仲間を探す』…こと…じゃあなかった」 花京院はおもむろに地図を広げると、記憶にしたがって目を走らせる。 「…重要なのは…この最悪の…状況を…『生き延びる』ことだ」 …そして、伝えることだ…『誰か』に…荒木の秘密を…」 『法皇の結界』に、再び活力がよみがえる。 「そうだ…仲間を…なんてのは…僕の『甘え』にすぎなかった。 承太郎たちで…なくてもいい…『誰か』に伝えれば、『意志』は受け継がれる。 たとえその場で…僕が…殺されるとしても!」 死を覚悟した花京院の眼は、これまでにない『決意』に満ちていた。 「…だとすれば…一番近いのは…」 地図を閉じ、結界を保ったまま、民家を後にした花京院は進路を北に向けた。 ********* この俺、ホル・ホースは『拳銃使い』だが、『狙撃手』じゃねえ。 ほとんどの奴等はそこんトコを勘違いしてるようだが、おなじ『銃』でも拳銃と狙撃銃 はまったくの別モンだぜ。なにが言いたいかっていうとだな、だから当然、『拳銃使い』が 『狙撃』も得意と決まってるわけじゃねえってことだ。 言い訳じゃねえぜ。 俺はたんに『事実』を述べたまでだ。俺は根っからの『拳銃使い』、それは『事実』さ。 だが遠距離での『狙撃』はできねえ、それもまた紛れもねえ『事実』だ。 だから、俺にとっちゃこの狙撃銃はとんだ「宝の持ち腐れ」ってやつだ。作りからしても おそらく、かなり性能の良いものに違いない。射程距離は1キロってとこか? おまけに、 このスコープの倍率ときたら! 軍隊も真っ青のシロモノだぜ。 もちろん『狙撃銃』だからって、引き金も引けねえってわけじゃあねえ。だが、さっきの 野郎をぶち抜いたときみたいな目に遭うのは、もう御免こうむりたいね。はずれた肩はなん とか入れたが、痛みがひどい。これじゃあ、この狙撃銃でまともに狙えるのはせいぜい200 メートルが良いトコだろう。まったく、俺としたことが情けない話しだぜ。 このホテルを中心に半径200メートルが、俺の『テリトリー』というわけだ。 まぁもっとも、いま独りきりの俺には、戦う気なんざ微塵もないがね。 俺はもともと、誰かと『コンビ』で力を発揮するタイプだからな。 このホテルの屋上にいるのは、あくまで『見張り』のためだ。『見張り』に徹するっての は、あんまり上等な役回りじゃねえが、生き残るためには仕方がない。客室でおネンネして るジョースターの旦那が、回復するまでの辛抱ってわけさ。 そういえば、放送で『ジョセフ・ジョースター』が死んだって話してたな。確か承太郎の 祖父に当たるジジイだったか。それに、『ジョナサン・ジョースター』もだ。こいつは確か、 ジョースターの旦那の息子だったな。『アイス』ってのもやられたようだが…俺には関係 のない話しだ。みんなまとめて、ご愁傷さまってやつだぜ。 ジョースターの旦那が目を覚ましたら、放送の内容は伏せておいたほうがいいかもな。 とことん利用してディオに取り入ってやるぜ。いや、ここはひとつ承太郎たちを言い含め てやるってのも、快感かもしれないが。まぁ、ゆっくり考えるさ。 …って、オイオイ、俺が頭を使い始めた途端、誰か来やがった。 来たってもそれは、このスコープで覗いて見える範囲まで近づいたって意味だがな。 ここから、北西に500メートル程のところだ。なんだ、まだガキじゃねえか。あいつも参加 者らしいな。首輪をつけてやがる。しかしよぉ…首輪はいいとして、頭のあれはなんだ? 変わった帽子だな…いや、包帯かもしれん。 妙にビクビクしやがって、あれで警戒してるつもりかよ。 『殺してください』って看板ぶらさげて歩いてるようなもんだぜ。 …っと、こっちばっかりに気をとられてちゃマズかったな。 南の方角からも一人お客さんだ。こいつは…承太郎の連れにいたヤツじゃあねーか。 名前は確か…『カキョーイン』とかいったか。ダセェ名前だぜ。それに、よく見りゃあ コイツすでにけっこう重症じゃねえか。ずいぶん派手にやりあったな。 まぁ何にせよ、このまま行けば二人はぶつかる。何も手をくださずとも、潰しあえばどちら かが死ぬことになる。俺としてはまさに、『高見の見物』ってわけだ。 いい気分だぜ、相手に気づかれずに誰かを『利用』するってのはな。 …って、まさかこの二人、知りあいじゃねえよな? ********* 花京院が目指した場所、それは『病院』だった。 しかし、第一の目的は『治療』ではない。 この『ゲーム』が、最初の6時間であれだけ多くの犠牲者を出すほど残酷で激しいものであ るとすれば、死なずとも深手を負った参加者は少なくないだろう。そして、そうした『誰か』 が目指す場所といえば、設備の整った『病院』か診療所が候補にあがるだろう。 治療を終えたその『誰か』に、あるいはその『誰か』に付き添っている仲間に、荒木の秘密 を伝えること…それが花京院にとってもっとも優先順位の高い目的だった。 もちろん、仮にそこに誰もいなかったとしても、『病院』であれば自身の治療ができる。 『輸血』の設備もあるだろう。その場合は、治療をしながら、後に来る参加者を待つことがで きる。より好ましいその可能性も考えに入れたうえでの選択である。 戦闘の起きやすい町中をむやみに歩き回るより、自然と人が集まる場所で待つ。深手を負っ た花京院にとって、それが現時点で最善の選択肢だった。 半径20メートルの『法皇の結界』を張っていれば、至近距離からいきなり襲われるといった 心配はほとんどない。だが、それでも、探知した相手が敵か味方かまで判断することができる わけではない。花京院は、もし何者かが網にかかったら、戦わず回避するつもりだった。もち ろん、それが誰であるかを見極めることができれば、それに越したことはない。 だが、出会いは予想外のかたちで彼を訪れた。 前方100メートル以上離れたところにある交差点、『法皇の結界』の射程範囲を遥かに超えた 先に、一つの小さな人影があった。遠すぎて、年齢や性別までは確認できない。 「誰だ…承太郎か…? いや、違うな」 その人影は、何かを探し求めるかのようにキョロキョロと周囲を見回している。用心深げな 仕草とは裏腹に、こちらにはまったく気づいていないようだ。 「承太郎なら、あんな目立つ行動はとらない…」 民家のかげに潜みながら、花京院は考えた。 「ポルナレフなら」と思った矢先、人影は十字路を東へ折れた。 「いずれにせよ…ここでの戦闘は回避しなければ…」 花京院は、手近な角を右に折れた。 あのまま真っ直ぐ進んで、引き返してきた相手に遭遇するのは避けねばならない。そのため には、相手の行く先を見極めてから回避する必要がある。だがそれ以上に、相手が誰であるか を確かめておきたいという気持ちも、彼にはあった。 傷をかばって歩く花京院の左前方、民家の屋根越しに『杜王グランドホテル』の看板が目に 入った。この建物も、ほかの参加者が隠れるのには好都合である。しかし、逆に云えばそれだ け探しだすのは面倒だということになる。花京院のスタンド能力をもってしても、20階建ての このホテルを探索するのは、骨が折れるに違いない。 花京院は角のマリンスポーツ専門店のかげから、北の方角を覗き込んだ。 「さっきのヤツは、まだ現れていないか。…だがそれも、時間の問題だろう」 しかしながら、花京院のこの予想は外れることになる。 それからゆうに5分が過ぎても、さきほどの人影が花京院の視野に現れることはなかった。 『法皇の結界』にも、誰かが通過したことを示す反応はない。 「妙だな…まさか、僕のことに気づいていたのか?」 その可能性は低いと考えながらも、花京院は次の手を打った。 「ハイエロファント・グリーン!」 道路沿いにスタンドの触肢を伸ばし、大通りや、建物と建物のあいだ、曲がり角などをくま なくチェックさせる。三次元ではなく二次元、つまり平面上であれば、『ハイエロファント・ グリーン』は、いっそう広い範囲を索敵することが可能だ。 「…いたぞ! 150メートル前方…さっきの角に隠れている!」 やはり、相手もこちらに気が付いていたのだろうか? 今度はその可能性もしっかり考えに 入れながら花京院は、相手の出方をうかがいつつ、次のプランを模索していた。 ********* ピコーン、ピコーン、ピコーン… コンビニエンスストアのかげで、ナランチャはレーダーを凝視していた。 モニターには、同じサイズの光点が二つ、点滅を繰り返している。 「ヤバイなあぁぁぁ、見つかったかもなぁぁぁ」 光点は、通りの斜め向こうのホテルにいる生物の存在を示している。そのうち一体は、14 階の客室に潜んでいる。そしてもう一体は、屋上に陣取っているらしい。 「まさか動物ってことはないよなぁ。俺は学校は行ってないけどさぁ、動物はホテルに泊まっ たりしないってのはさぁ、それくらいは分かるぜ、常識だもんなあぁぁぁ」 ナランチャは、自分に言い聞かせるように、何度もうなずきながら呟いた。 「それに屋上のこいつはよぉ、さっきからずーっと、こっちの角に止まったまんまだしよぉ、 さっき覗いたとき、何か光が反射してキラッと光ったんだよなぁ。あれはスコープじゃねえの かなぁ、狙撃とかに使うさぁ。だとしたらヤバイよなぁ、絶対ヤバイ!」 だが、もし相手がこちらを発見したのなら、どうして攻撃を仕掛けてこないのか。 実際、ナランチャの頭を悩ませているのはそのことだった。 「気づいてるのに攻撃を仕掛けてこねえってことは、つまり…どういうことだ?」 もし相手が攻撃を仕掛けてきたなら、もちろんナランチャは反撃しただろう。または、相手 に発見されている可能性が全くない状態であったとしたら、ナランチャはやはりためらいなく 不意打ちを仕掛けたに違いない。 もちろん、相手が攻撃してこないのは、攻撃の射程距離外だからかもしれない。 あるいは、たんに戦意がないだけのことかもしれない。それらの可能性は高い。 しかし、 「ひょっとすると、俺のことを知ってるヤツなのかもしれない」 その考えはナランチャを魅惑した。もしその考えが正しいとすれば、屋上の人物は『敵側』 の人間ではなく、ナランチャの『味方』だということになる。 「ブチャラティ…」 真っ先にその名前が、ナランチャの心に浮かんだ。 「ジョルノ…」 その男は新入りだが、とても強い『精神』の持ち主だ。 「誰だろうと関係ない…殺らなきゃ…でも…いや…」 ブチャラティとジョルノ! もし今ホテルにいるのが、この二人だとしたら。 その希望は、確かにナランチャを魅惑した。しかし、その希望に勝るとも劣らない恐怖が、 彼の心に巣くっていた。第一にそれは、この残虐なゲームの主催者であるアラキに対する恐怖 だった。そのうえに、先刻出会ったディオという男に対する凍てつくような恐怖が根を生やし ている。けれども、それらすべてを養っているのは、わけもわからないまま二人の人物を殺害 してしまった、自分自身に対する恐怖だったかもしれない。 「殺らなきゃ…ブチャラティ…関係ねえ…殺される…まえに…」 投下順で読む 前へ 戻る 次へ 時系列順で読む 前へ 戻る 次へ キャラを追って読む 46 仮説・それが真実 花京院典明 62 テリトリー×テリトリー(後編) 52 DIO軍団再結成に向けて ナランチャ・ギルガ 62 テリトリー×テリトリー(後編) 34 全てが噛み合わない ホル・ホース 62 テリトリー×テリトリー(後編) 34 全てが噛み合わない ジョージ・ジョースター1世 62 テリトリー×テリトリー(後編)
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穿つべきピリオドは―― ◆gsq46R5/OE 少年の幼少期を一言で表すなら――それは"孤独"。 とはいえ、花京院典明の生まれや人物像に問題があったかと言えば、否。 彼が生まれたのはごく普通の一般家庭だったし、友人だって作ろうと思えば人並みには作れたハズ。 それでも、彼はそうしようとはしなかった。何故か。答えは、彼に宿りし力にあった。 スタンド能力。それが、花京院に生まれながらに備わっていた異能の力。 法皇の緑(ハイエロファントグリーン)。そしてこの力は、花京院以外には見えない。同じ力を持たない限り。 彼を孤独にしたのは、つまるところ、スタンドの持つその性質であった。 というよりも、花京院自ら選んだのだ――孤独を。 自分と同じものを見ることのできない人間とは、真に心を通わせることなど出来やしないのだから。 彼が初めて自分以外のスタンド使い、邪悪の化身と邂逅する迄に、十七年。 それから紆余曲折あって、正しい心を持った仲間達と出会う迄に、数ヶ月。 そこから今度は、一度は屈服した『世界』を倒すために、数十日間の旅をした。 孤独だった花京院典明はもういない。 彼は自分の背負った恐怖を乗り越え、仲間との絆に支えられ、遂に宿敵の待つ終わりの館へ足を踏み入れ、 「参ったな。まさかこんなアクシデントに見舞われるとは……流石に予想していなかった」 ――そこで、『繭』を名乗るスタンド使いに"嵌められた"。 エジプトへ向かう旅の途中、本当に様々なスタンド使い達と戦ってきた。 かつての花京院と同じく、『肉の芽』によって洗脳されていた男。 彼は正気を取り戻し、花京院たちの仲間として迎え入れられたが、それ以外の殆どは悪しきスタンド使いだった。 金目当てで立ちはだかった者。中には、一行が不倶戴天の敵と定める吸血鬼に心底心酔した者もあった。 だが、断言できる。あの『繭』という少女のスタンド使いは――これまで見てきた中で、間違いなく『最強』。 道具として代用できる応用性、近距離型スタンドのそれにも劣らない力を持つ『竜の手』、 極めつけに、彼女へと反逆した者の『魂』を『マスターカード』へ封じ込めるという能力まで備えている。 掟破りも甚だしい。 一つのスタンドでこれだけのことが出来るなんて、正直お手上げと言いたい気分だった。 「彼女もまた、DIOが我々を倒すために差し向けたスタンド使いなのか――いや、違うな。それはありえない」 自分で口にした『可能性』を、間髪入れずに自ら否定する花京院。 根拠は二つあった。花京院がそう思うに至ったのは、マスターカードで表示された名簿を見たから。 そこに載っていない名前と、逆に載っている名前。 「此処にはジョースターさん……ジョセフ・ジョースターがいない。こんな大掛かりな手段を使ってまで僕らを抹殺しにかかって来たのだとすれば、少なくともジョースターの血統を受け継ぐ彼がいないのは不自然だ」 そも。 奴、DIOが真に抹殺したいのは誰か。 答えは分かりきっている。奴にとって因縁のある相手、正確にはその子孫。 『ジョースター』の血を受け継ぐ者たちだ。即ち、空条承太郎とジョセフ・ジョースター。 そこでこの名簿へ立ち返る。承太郎の名前はあるが、ジョセフの名前はない。 確かにジョセフは老いているものの、そんなことに頓着するDIOではないはず。 更にもう一つ。花京院を信へ至らせてくれたのは、むしろこちらの方だった。 「そして、DIO――。奴自身が前線へ出てくるということ。これは明らかに不自然だ。奴らしくもない」 自分の根城まで辿り着かれ、流石のDIOも焦ったのかもしれない。 しかしそれでも、花京院はそこへ不自然さを感じずにはいられなかった。 まして、こんな腕輪を巻かれた挙句、命まで握られる醜態。 たとえ信頼の置ける部下であれ、あのDIOがそんなことを許すだろうか。 花京院には、そうは思えなかった。 「……あのDIOさえも予想だにしない、未知の敵か」 口にした言葉に、思わず込み上げる――怖気。 これまで最大の敵だと思っていた人物さえ、ともすれば超えてしまうかもしれない存在。 まず間違いなく、一筋縄では行かないだろう。 主催陣営が一枚岩とも考えにくいし、何より問題はこの『腕輪』だ。 外す手段があるとすれば、剣か何かで腕ごと切断してしまうことか。 しかし、腕の切断を止血するともなれば大掛かりな作業になる。 よしんば成功したとして、皆が隻腕状態では勝てる勝負も勝てない。 これについては追々考えていくことになるだろうが――現時点では、はっきり言ってお手上げ状態だった。 殺し合いに乗るのは言うまでもなく論外として。 何度も修羅場を潜り抜けてきたとはいえ、自分たちだけの力で主催に与し得るかというと怪しいものがある。 旅のブレインであるジョセフは不在、アヴドゥルとイギーの力も借りることは出来ない。 おまけに参加者名簿には、DIOとその刺客、ホル・ホースの名。 正直に言って、このままではキツいものがある。 だが花京院は、戦力となり得るまだ見ぬスタンド使いが、間違いなく参加者として混じっているだろうと考えた。 繭はゲーム性を重んじている。 それはあの場で彼女が見せた言動の節々からも窺えることだ。 であればこそ――ワンサイドゲームで殺し合いが幕を閉じるような参加者選出はしないだろう。 完全に平等な戦力ではないにしろ、花京院たちやDIOへ対抗できる素質を持った者が招かれているハズだ。 それならまだ可能性はある。繭の定めたルールを打ち破り、彼女を倒せる可能性が。 それでも、『対主催』の活動は変わらず茨道。 殺し合いに乗る、DIOたちのようなスタンド使いも紛れ込んでいるのだから、決して油断は出来ない。 何もスタンドがなくたっていい。 スタンドは脅威的な力だが、それを操るスタンド使いは――少なくとも花京院達は、銃弾の一発でもあれば死ぬ。 このゲーム、常に『死』が隣にある。 それを忘れてしまえば、何も成すことは出来ない。 過酷で、悪趣味で、それでいて腹立たしいほど完璧で。 ――だからこそ、許せない。 「首を洗って待っていろ、主催者。それに、DIO。 貴様らは必ず倒す……お前達の好きには決してさせない」 そこに込められているのは燃え上がる闘志。 ゲーム感覚で人の命を弄び、糧として愉しむ邪悪な鬼畜ども――奴らを、生かして帰すわけにはいかない。 そのためにまず必要なのは仲間との合流、戦力の確保。道中乗った参加者と出会ったなら、その都度鎮圧。 この『バトル・ロワイアル』における行動方針を固め終えて、花京院は凭れかかった壁から背を離す。 地図によればここはD-4、研究所。どこか胡散臭い雰囲気が名前からは垣間見えるが、幸いもぬけの殻だ。 であれば長居は無用という事に為る。もっと人の集まりそうな場所なりに移動するのが賢明だろう。 「先ずは――旭丘分校。此処が近いな」 地図を見、呟き。 学生が集まってくるかもしれないと期待し、歩き出す。 「ク、ク、ク。イイ覚悟じゃねえか――なあ、ちょっとばかし遊んでくれや」 「誰だッ!」 無人だと思っていた研究所内に、どこからか響く男の声。 それに声を荒らげ、即座に臨戦態勢を取る花京院。 彼は運が良かった。後数秒、先程のまま壁に凭れていれば、その勇敢な意思は一瞬にして散っていたに違いない。 爆音にも似た破壊音。コンクリート仕立ての壁面が――花京院がついさっきまで背を預けていた壁が、 まるで砲弾の直撃でも受けたかのように弾け飛ぶ。その向こうから、筋骨隆々とした破壊の権化が現れる。 「な――」 花京院は思わず絶句した。 豪快どころの騒ぎでは収まらない、突然の襲来。 小細工などとは最も縁遠い、ごく原始的な『襲撃』! そして何より彼を驚かせていたのは。 (なんだ――なんだ、この男はッ!? 今、コイツはスタンドを出して『いなかった』!) 壁を破り、男が現れる一瞬。 粉塵で視界は悪い中、ほんの一瞬だけ見えた光景だったが、それは想像を絶するもの。 コンクリートを破壊するほどの力となれば、当然近距離型のスタンド能力と予想する。 然し。花京院が見たその瞬間――男は、確かに素手で壁面を押し潰していたのだ。 有り得ない。あの体の中に、一体どれほどの膂力が込められているというのか。 「何だ。意外とヒョロい野郎だな」 花京院の動揺など露知らず、首をコキコキと鳴らしてみせる男。 「クク。さっきは随分、威勢のいい啖呵を切っていたな」 「……」 「せっかくの祭りだ。普段ならキサマのような雑魚、相手にもしねぇとこだが。 さっきのを聞いて――少しだけ興味が湧いたもんでな。ちと遊んでくれや、なあ」 花京院は努めて冷静を装いながら、内心ではこの上ない焦りに駆られていた。 『柱の男』と戦った経験のある、ジョセフ・ジョースターならいざ知らず。 スタンド使いとの闘いしか経験したことのない花京院にとって、生身でコンクリートを砕くような存在は化物だ。 あの拳を直撃でもした日には、どう打ち所が良くても生き延びられはしないだろう。 ならば、一番上等な選択肢は――。 「――! キサマッ!!」 即断即決。 花京院は曲がり角を勢いよく曲がり、男――範馬勇次郎からの逃走を図った。 これはジョセフからの受け売りだが。勝ち目のない勝負に、無理をして挑むほど不毛なこともない。 彼があの場で一騎打ちに打って出ていたなら、もう勝負は決していたかもしれない。 花京院典明のスタンド能力は、真っ向切っての戦闘向きではないのだから。 (しかし、あんな危険な男をこのまま野放しにしておくわけにはいかない…… あの化け物を自由にさせていては、いずれ必ず多くの犠牲者が出る――僕がどうにかしなければッ) 逃げる花京院。 その背後からは、勇次郎の追い立ててくる音がする。 逃げ場に事欠かない室内なことが幸いした。 花京院は考える。 無力化や撃退ではダメだ。あの男は一度不覚を取ったくらいでは折れず、いずれまた戦う羽目になる。 完全に、確実に。 排除しなくてはならない。 「敵前逃亡とは恥知らずめがッ!」 範馬勇次郎は、花京院典明を追う。 彼ほど暴力という言葉を体現したような存在も、そう居まい。 筋骨隆々とした体は見てくれ以上に硬く重い。鍛え抜かれた筋肉は、人の手で作られた建造物程度軽々打ち壊す。 勇次郎にとって、この殺し合いは――娯楽。 主催の小娘はいけ好かないが、趣向自体は実に彼好みのもの。 存分に強者と殺し合い、潰し合い、喰らい合い。これほど楽しい祭りは、世のどこを探しても見つからない。 花京院は勇次郎の初撃を回避する幸運を発揮したが、それを差し引いても有り余るほど不運だった。 自分を鼓舞する意味合いで口にした啖呵。それを聞かなければ、勇次郎は彼を獲物とはしなかったろう。 だが、結果として聞かれてしまった。勇次郎は、花京院典明を、試し甲斐のある相手と見做した。 「あれだけ大層なことを口にしておいて、よくもまあ抜け抜けと背中を向けられたものだなッ」 敵前逃亡を働いた花京院に、勇次郎が吐くのは侮蔑の言葉。 しかし、それで失望し、興味を失いはしない。 花京院の小癪な考えを、根底から覆して踏み潰す、その姿はまるで猛獣か何かのよう。 勇次郎は花京院を見つけ出すだろう。そして花京院は彼に為す術もなく――捻り潰されるだろう。 「ぬッ!?」 だが、花京院とて無抵抗のままに狩られる獲物ではなかった。 研究所の一室から転がり出てくる、手毬ほどの大きさをした黒い球体。 それが何かしらの意図を持って転がされたものだと勇次郎は理解するが、既に遅い。 球は弾ける。手榴弾のように破片と爆炎こそ撒き散らしはしないが――代わりに、閃光と爆音を発生させて。 花京院が使った道具は、俗にスタングレネードと言われる暴徒鎮圧用の武器だ。 ドラマや映画の世界ではお馴染みの道具である。使ったことはなくとも、聞いたことがある者は多いだろう。 閃光で目を。爆音で耳を。一時的に失明、難聴状態にさせることで相手を無力化する。 もちろん、これを投げた花京院もただではすまない。 背を向け、目を覆うことで目への影響は最小限に留めたが――聴覚を埋め尽くす、キンキンという耳鳴り。 この様子では、しばらくの間耳は使い物にならなそうだった。 一方の勇次郎はと言えば。 「――邪ッッッッ!!」 一喝。 声だけで衝撃波が巻き起こるような気合の喝。 信じられないことだが、この一喝で勇次郎は耳へのダメージの殆どを吹き飛ばしていた。 視覚へのダメージは、最初から微弱なものでしかない。 範馬勇次郎は紛れもなく人間である。しかし、常人ではない。彼を表すには、月並みな言葉だが――、 「見つけたぜ」 ――『超人』と言う言葉を使うしかないだろう。 花京院は足を伸ばし、勢いよく扉を閉め、飛び退いた。 だが相手は勇次郎。行儀よく扉を開けなどしない。 勢いよく振るわれた回し蹴りがハンマーか何かのように扉を捻り潰し、折れた扉の破片が花京院を直撃する。 「うぐッ!」 苦悶の声が漏れるが、悶え苦しんでいる暇はなかった。 体の上から扉の残骸をどけ、勇次郎から一刻も早く離れようとして。 「よう」 全てがもう遅いのだと気付かされる。 自身が蹴り壊した扉の半分を、まるでギロチンか何かのように持ち上げて。 ニタニタと微笑みながら近寄ってくる範馬勇次郎の姿は、まさしく『鬼』としか形容のしようがない。 だが勇次郎は、花京院をすぐに殺そうとはしなかった。 笑顔を浮かべたまま、来い来いと、手招きをして挑発している。 もしもこの期に及んでまだ花京院が自分に背を向けるようなら、彼は躊躇なく花京院を殺すだろう。 要は、勇次郎の余裕の表れだった。 「どうした? 一発でもいい、俺にキサマの攻撃を撃ってみろよ。もしかしたら俺を殺せるかもしれねえぜ」 心にも思っていないことを。 花京院は心の中で毒づいた。 彼の心中を満たすのは屈辱感と、絶望感を通り越した諦観。 長旅の中で培ってきた経験も、人生を共に歩んできたスタンド能力も、こんな暴漢一人にさえ届かない。 それでも、花京院は自分のスタンド能力――『法皇の緑』を出現させた。勇次郎の言う通りに、打つことにした。 「コイツは驚いた! これまたけったいなモンを使うじゃねえか」 「…………食らえ」 『法皇の緑』が、範馬勇次郎へ矛先を向ける。 そこに現れるのは緑宝石(エメラルド)。正しくは、スタンドによるエネルギーの塊。 「――エメラルド・スプラッシュ」 一風変わった仕掛けはない。 だがそれだけに協力。極めた一芸は、時に多芸のそれを凌駕する。 『法皇の緑』が生成した輝けるエネルギー弾が、水飛沫のように範馬勇次郎へ襲い掛かる。 それは決して。そう、決して易しい攻撃などではなかったが。 「ヌルいなあ。それでこの範馬勇次郎を殺せるつもりかよ」 範馬勇次郎にしてみれば、それこそ『水飛沫』でしかなかった。 相手は生身でありながら、近距離パワー型スタンドにも匹敵するパワーを持つ勇次郎。 飛んでくる弾丸(タマ)を腕で掴み取って握り潰し。 身体で受けた分もかすり傷程度の損害に止めてしまう。 掴んだエメラルド・スプラッシュの弾丸を無造作に放り捨てれば、勇次郎は失望したような表情を浮かべた。 「つまらねえ。どうやら見当違いだったみてえだな」 握った扉の破片を、万力にも似た腕力で握り潰す。 それから勇次郎は、もはや興味もないと拳を握り締め、花京院へ肉薄した。 彼本人が重量級なこともあって、花京院はまるでダンプカーが突っ込んできたような錯覚さえ覚える。 花京院の反射神経と身体能力では、範馬勇次郎から逃れることは不可能だ。 いや――本当に彼から逃げたいと思うなら、そもそも勝負になど打って出るべきではなかった。 では、どうして花京院は勝負に出たのか? 彼は範馬勇次郎という『超人』と自分の力量差も理解できない馬鹿だったのか? 答えは否だ。彼の真意は―― 「ッ?!」 「範馬勇次郎、か」 勇次郎の手足に、緑の紐状をした物体が絡み付いていた。 それは彼の力ならば容易く引き千切れる程度の強度しかないが、花京院とてそれは承知の上だ。 彼は最初から、無謀な勝負などするつもりはない。 勇次郎が人間を超越していると仮定して考えれば、エメラルド・スプラッシュが通じないことにも考えが及んだ。 しかし。範馬勇次郎という男がどれほどの怪物でも、決して鍛えることの出来ない弱点はある。 それを突くために花京院はこの部屋へと逃げ込み、急拵えの『法皇の結界』を張り巡らせた。 本来は触れた対象へエメラルド・スプラッシュを自動的に放つ技だが、今回のものはそれを拘束に特化させたもの。 触れた相手に『法皇』の体が絡み付き、その動きを止めにかかる。 「ならば覚えておけ、範馬勇次郎」 勇次郎が結界を引き千切る。 彼を止めていられたのは、時間で言えば二秒にも満たない間だった。 それで十分。集中すれば狙いを定めることは出来るし、それだけじゃない。 『法皇の結界』に邪魔立てされた驚きとそれを引き千切る動作。 範馬勇次郎をして隙を生む、二つの要素。 それが歯車のようにカッチリと噛み合うことで、花京院典明は満を持して『王手』をかけることが出来た。 「花京院典明。おまえを殺す、スタンド使いの名前だ」 どんなに優れた生物でも、眼球は鍛えられない。 そこを通じて脳を破壊されれば、どんなに優れた生物でも生き延びられない。 人間という生き物に区分される以上。相手が範馬勇次郎であれ、そこは変わらない。 威力を一点特化させたエメラルド・スプラッシュが、彼の両の目を目掛け迸った。 ● 「な」 驚きに目を見開いたのは、花京院の方だった。 確かな手応えをもって放った、渾身のエメラルド・スプラッシュ。 勇次郎の両目を突き破り、眼窩から脳髄へ侵入。そのまま頭の内部を破壊し、とどめを刺すはずだった。 にも関わらず、である。 「やるじゃねえか」 範馬勇次郎は生きていた。 右目を潰され、額から微かに流血しながらも、確かに生命活動を保っていた。 一瞬のことではあったが、花京院は彼がどのようにして必殺のエメラルド・スプラッシュを破ったのかが見えた。 彼の右目に、エメラルドの弾丸が突き刺さったまでは良かった。 だが勇次郎はそこで、自分自身の額を使ってエメラルド・スプラッシュを迎撃する選択肢に打って出たのだ。 人間離れした怪力から繰り出される頭突き。 重量の乗った一撃で、目を抉った弾丸は眼窩から外れ、あらぬ方向へ飛び出した。 後は単純だ。勇次郎の額はエメラルド・スプラッシュ相手に少々血を流しこそしたが、遅れは取らなかった。 ただ、それだけの話。花京院典明の敗因は、範馬勇次郎という生物が余りに『理不尽』の塊だったことだ。 作戦もタイミングも、何もかも完璧だった。しかし、勇次郎には通じなかった。 「だが、俺の右目を抉った代金――キサマの命で支払ってもらおうかッ!!」 今度身動きを取れなくなるのは、花京院の番だった。 彼の戦意はまだ消えていない。ただ、彼は敗北を認めてしまってもいた。 完璧に決まった策を、ただの力技で切り抜けられ。 花京院典明という少年は、こう思ってしまった。『範馬勇次郎には勝てないのではないか』と。 勇次郎の腕が、花京院の腹に触れる。 肺の空気が逆流し、彼は吐血した。 それから更に勢いを維持し、花京院の土手っ腹に風穴を穿たんとし―― ガ オ ン ッ ! そこで、範馬勇次郎という生物は、花京院へと伸ばした右腕を残して完全にこの世から消滅した。 【範馬勇次郎@グラップラー刃牙 死亡】 【残り67人】 何が起きた? 花京院は自分の腹から力なく地へ落ちた、腕輪の巻かれた隻腕を見、思う。 そして同時に、こうも思った。それは彼がこれまで旅してきた中で身につけた、半ば直感のようなものだった。 (マズい――この場に留まっているのはマズいッ!!) 迷いなく、彼は部屋の窓枠へと手を掛けた。 飛び越えることに躊躇いはない。それよりも、この部屋へ留まる方が余程危険に思えたからだ。 範馬勇次郎が死んだ。 エメラルド・スプラッシュを意にも介さない、超人としか言い様のない怪物が――呆気無く死んだ。 腕から先を残して、一瞬のうちにこの世から消滅してしまった。 当然ながら、花京院にそんな力はない。だとすれば、あの場に誰か、第三者が存在したことに為る。 地面へ着地。衝撃を逃すために、学生服が汚れるのも厭わず地を転がる。 素早く体勢を立て直すと、花京院は脱兎のごとく駆け出した。 一刻も早くこの場から離れるために。もちろんそれは殺し合いを止める者として、決して最良の選択ではない。 範馬勇次郎を一撃で殺せるような能力。野放しにしておけば、当然より多くの死人が出るに違いない。 しかし花京院の行動は正しかった。 あの狭い部屋の中で、奇襲の主と戦えば、彼はまず勝てなかっただろう。 ただでさえ急拵えの『法皇の結界』は勇次郎によって破壊され、原型をとどめていなかった。 そこに逃げ場がない以上、無駄死にを晒すよりかは余程賢明な行動を取ったのだ。 「一度体勢を立て直し、それから今後について、もう一度よく考えなくては……」 範馬勇次郎。 そして勇次郎を葬った、未知のスタンド使い。 この『バトル・ロワイアル』には、まだあんな連中がゴロゴロいるというのだろうか。 果たして自分は――そんな奴らを相手に、本当に通用するのだろうか。 膨れ上がる不安に唇を噛みながら、花京院は研究所から離れるべく走る。 【D-4/研究所周辺/一日目・深夜】 【花京院典明@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】 [状態]:疲労(小)、難聴(中)、脚部へダメージ(小)、腹部にダメージ(中)、自信喪失気味 [服装]:学生服 [装備]:なし [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10) 黒カード:不明支給品0~2 [思考・行動] 基本方針:繭とDIOを倒すために仲間を集める 1:研究所から離れる 2:承太郎たちと合流したい。 3:ホル・ホースと『姿の見えないスタンド使い』には警戒。 [備考] ※DIOの館突入直前からの参戦です ※繭のことをスタンド使いだと思っています 「妙だな」 誰もいなくなった研究所で、下手人はその姿を現していた。 虚空に不気味に顔を出すスタンド。その口から這い出るように現れ、喰らい損ねた勇次郎の隻腕を拾い上げる。 彼はそれを自身のスタンドでもって、残さず喰らい切ろうとする――が、食えない。 「……『腕輪』は我が『クリーム』の力でも飲み込むことは出来ん、というわけか」 忌々しげに呟き『姿の見えないスタンド使い』……ヴァニラ・アイスは隻腕を放り捨てようとし、やめた。 現状では、確かにこの腕輪を外す手段は存在しない。 しかし『サンプル』として予備の腕輪を確保しておけば、追々何かの役に立つ可能性は十分あるだろう。 ヴァニラ・アイスは腕輪を解除する方法があるなら、自らの肉体を犠牲にしても明らかとしたい思いだった。 それは、殺し合いを円滑に進める為などではない。彼にとっては、もっと崇高でかけがえのない理由である。 「見下げたド畜生女めが……よくもDIO様にこのような狼藉を働いてくれたな。貴様は死でも生ヌルい」 ヴァニラ・アイスには許せない。 崇拝するこの世の支配者、DIOへこんな物を装着させる不敬。 自分の身分も弁えず、駒か何かのようにあの方を扱う狼藉。 断じて許せない行いだった。決して生かしておいてはならぬと、自分の全神経が告げていた。 「だが、腹立たしいことに好都合でもある……」 名簿にあった三人の名前。 空条承太郎、花京院典明、――ジャン=ピエール・ポルナレフ。 DIOに仇をなす、ドブネズミのように下等で救いようのないクズども。 ……そして、一度は自分が遅れを取った相手。ポルナレフ。奴も存在していることが、ヴァニラには重要だった。 ヴァニラ・アイスは一度、ポルナレフに敗北している。 イギーとモハメド・アヴドゥルを殺しはしたが、あのような男に負けた身で、DIOに顔など合わせられない。 彼は思う。次に自分がDIO様の前に立つ時があるとすれば、あの方の為に他全ての参加者を殺し尽くした後だと。 承太郎を、花京院を殺し、ポルナレフへの雪辱を果たした後であると。 信じているからこそ、ヴァニラはあえてDIOを探そうとはしなかった。 「逃しはせんぞ、花京院。DIO様に支配される栄誉を自ら放棄した裏切り者めが」 ヴァニラは暗黒空間へ潜り込み、外へと脱出。 周囲を見渡し、花京院の姿がないことを確認すると、彼を追い立てるべく行動を開始した。 「貴様も、承太郎も、そしてポルナレフも。皆、このヴァニラ・アイスが始末してくれるわ」 一度死に、蘇った吸血鬼ヴァニラ・アイス。 その殺意は死してなお執拗に、すべての参加者の脅威となる。 【ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】 [状態]:健康 [服装]:普段通り [装備]:なし [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10) 黒カード:不明支給品0~3、範馬勇次郎の右腕(腕輪付き)、範馬勇次郎の不明支給品0~3枚 [思考・行動] 基本方針:DIO様以外の参加者を皆殺しにする 1:花京院を追い、殺す 2:承太郎とポルナレフも見つけ次第排除。特にポルナレフは絶対に逃さない [備考] ※死亡後からの参戦です ※腕輪を暗黒空間に飲み込めないことに気付きました 時系列順で読む Back ?←HEARTBEAT Next Pure girls project 投下順で読む Back ?←HEARTBEAT Next Pure girls project 範馬勇次郎 GAME OVER 花京院典明 025 Just away! ヴァニラ・アイス 025 Just away!