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俺はもう1度冷静に周囲を見回した。100名をくだらないドワーフっていう連中に俺以外の、大友、真理、ユリが捕まっている。そして連中のリーダーと名乗るドワルタスって男が俺にいろいろと質問してきているのだ。 「ええと、俺は真島裕太。福岡大学4年生。探検部のメンバーなんだけど・・・・」 とりあえずこっちも自己紹介しとかないとな、と思って自分の名前や肩書きを名乗ったがドワルタスはよくわかっていないようだった。髭もじゃの顔をかしげている。彼の顔は真っ黒な髭だらけだ。他の連中も似たような感じだ。 「とにかく、名前はマシマっていうんだな。では、この「ドラゴンヘッド」に何の用で来た?モルドバ伯の間者か?」 モルドバ伯って名前はあの官僚から聞いただけだ。ここはホントのこと言った方がいいんじゃないだろうか。 「いや、俺たちは日本人だから。その、モルドバ伯って人も知らないし。そもそもここには遊びに来ただけなんだけど・・・・。きれいな砂浜があるっていうから」 「遊びにきただと?」 「嘘だ!」 口々に俺たちを取り囲む連中から声があがった。やっぱ信用してくれないようだ。無理もない。彼らにとってはここは紛争地帯だ。そんなところに、のこのこと 遊びに来るヤツがいるはずがない。こう考えているに決まってる。そう言えば日本人で少し前、イスラエル軍とパレスチナ武装勢力がガチンコでドンパチやって る街に観光に行ったカップルがいて世界から笑われたことがあったな。今の俺たちってまさしくそれなんじゃないだろうか・・・・。 「静まれ!」 ドワルタスが口々にわめく連中を静かにさせた。そして少し俺に近寄ると、俺の服装やら外見をまじまじと観察し始めた。 「おまえ、やはり異世界の人間だな・・・・」 いや、さっきからそう言っているつもりんなんだが、ってつっこみはできないが、心の中でそう思った。リーダーの言葉を聞いて再び周囲がどよめいた。俺は否定する理由もないので無言でうなずいた。 「殺せ!殺せ!」 「異世界人はモルドバ伯の味方だ!殺せ!」 ドワルタスは勝ち誇ったような笑顔を浮かべると、ユリを捕まえている連中に合図した。ユリは無理矢理跪かせられた。 「さあ、マシマ!認めろ!おまえたちがモルドバの間者と言うことを!さもないとあの女を殺すぞ!異世界人はみんなモルドバの味方だ!遊びに来た?もうちょっとましな嘘を考えろ!」 なんつーことを!怖がるユリの顔を見ているとこんな理不尽な状況に追いやられていること自体にだんだん腹が立ってきた。それに、このドワルタスの決めつけまくった顔が気にくわない。 「さあ!吐け!」 再度吐き出された彼の挑発的な言葉に俺の頭の中で何かが切れた。気がつくと俺はドワルタスの胸ぐらをつかんでいた。背の低い彼は両足が完全に宙に浮いた状態になった。 「てめえ、さっきから聞いとったらふざけたことばっか言いよるのお!!」 俺の予想外の行動に周囲の連中も彼らのボスが胸ぐら捕まれていることを実感できないようだ。呆然としている。俺は怒りにまかせて彼に顔をくっつけんばかりに近づけて叫んだ。 「勝 手に他人をスパイ扱いしとってから、ふざけんなこら!こっちはただ遊びに来ただけだって言っとるやろうが!モルドバかブルボンか知らんけどそんなヤツ関係 ねーし、おまえらが誰と紛争しようが知ったこっちゃないわ!だいたいあれや!俺がスパイなら惚れた女をいっしょに連れてくるはずなかろうもん!もうちょっ と考えてからモノ言えや、この野郎!」 俺は逆切れして地元言葉で一気にまくし立てた。胸ぐらを掴みあげられて俺と同じ目線になったドワルタスはきょとんとして俺を見ている。その目がますます気にくわない。 「なんか文句あるか?こらぁ!わかったらさっさと俺の連れを離さんかい!」 怒鳴られたドワーフたちは思わずユリたちを離した。ドワルタスは俺をまじまじと見ている。 「惚れた女ってあいつのことか?」 彼はユリを顎で示しながら俺に尋ねた。まだ頭に血が昇っていた俺は間髪入れずに彼に答える。 「そうじゃ!やけ、さっきから言いよろうが!惚れた女をスパイ活動に連れてくるバカがどこにおるか!勝手に言いがかりつけとるんやないぞ、こら!・・・・・・あ・・・・」 自分の叫んだ言葉を意味を理解して思わず、ドワルタスをつかんだ手をゆるめた。ユリは目をまん丸にして俺を見ている。俺と目があった瞬間、彼女は真っ赤になってしまった。ドワルタスはそんな俺とユリのリアクションを見て納得したらしい。集まった連中に大声で言った。 「どうやらこのマシマの言うとおりのようだ。彼らは遊びに来ただけみたいだ。彼の言うとおり、自分の愛する女を間者の任務に同行させるはずがない!」 いや、改めてそんなこと宣言してくれなくてもいいから・・・。そんな俺の思いを置いてけぼりにして集まったドワーフたちから口々に声があがった。 「考えてみれば、そうだな」 「愛する女を連れて敵地に乗り込みはしないよな」 今度は俺は慌てることになった。さっきとは正反対。すがるようにドワルタスにしがみついた。 「いや、あの、俺たちに敵意がないことをわかってくれたのはうれしいんだけど、最後の言葉あたりはなかったことにしてよ」 「マシマ、これも山の神のおぼしめしだ。おまえたちのあの態度を見ればわかる。まあいいではないか!さあ、皆の者!客人をお迎えする準備だ!」 ドワーフのリーダーは俺の弁解を聞き流してメンバーと合流した。どうやら俺たちの歓迎会を始めてくれるようだ。それはホントにありがたいんだが・・・・。 「真島!」 「真島君!」 大友と真理が解放されて駆け寄ってきた。 「死ぬかと思ったぞ。でも、あのタイミングでユリちゃんへの告白もやっちまうのはさすがだな!」 「さ、ユリちゃん。怪我はない?」 真理に抱きかかえられるようにユリが俺たちのところにやってきた。目が合うが照れくさくてまともに見ることができない。彼女も同じみたいで俺と全然向かい合ってくれない。 「先輩、その・・・・ありがとうございました。真理さん、食材を準備しましょう」 そう言うとユリは真理の手を取って車の近くにある簡易テーブルに小走りで行ってしまった。俺は思わずポケットからタバコを取り出して火をつけた。俺の落胆ぶりに大友が俺の肩を叩いた。 「まあ、照れ隠しなだけだよ・・・」 ホントにそうだといいんだがな。俺はため息をついた。そこへドワルタスがやってきた。 「マシマ、君たちの歓迎会だ。ここに村の連中が来るから。今日は楽しくやろう!」 「ああ、どうもすいませんねえ」 大友が呆然とする俺に変わって彼に答えた。ドワーフの村はここから数百メートル離れた街道の向こうにある岩山の麓に存在するようだ。ドワーフって人種は 元々山や岩の精霊ってことらいしから。山の近くに住み、山をこっちでいうところの「ご神体」としてあがめているようだ。そしてその「ご神体」ってのが、 ボーキサイト鉱山の「ドラゴンヘッド」ってわけだ。 「しかし、よくもまあ「ご神体」を採掘させる気になったな」 大友が呆れるように言った。俺たちの眼前ではこっちの女性陣も交えてドワーフの村人が総出で宴会の準備にいそしんでいる。 「その対価としての採掘料なんだろうな。でも、その採掘料をモルドバ伯がちょろまかそうってんだから、彼らも怒ってるんじゃないのかな・・・」 俺はそう答えながら考えていた。こんなややこしい情勢のところに入り込んで大丈夫なんだろうか。今日中に自衛隊の駐屯地に帰りたかったが、のこのこ日帰り してしまうと俺たちが不法入国したことがばれてしまう。入国前だと未遂ですむが、今はもうやらかしてしまっているのだ。ばれればよくて強制送還。最悪、大 学も退学処分で実刑もあり得る。 「やばいよな・・・」 進も地獄、退くも地獄ってこういうことを言うんだろうか。俺は楽しげに食事の準備をするユリを見ながらため息をついた。
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982: ナイ神父Mk-2 :2021/05/08(土) 00 23 06 HOST p431031-ipngn2301akita.akita.ocn.ne.jp 憂鬱スパロボ 外伝ゲート自衛隊 用語関連 各世界の魔法に関して 概要 主に特地で確認された技術の一種となる。出現世界毎に使用方法、運用手順などに違いはあるも大凡の所では個人の力量に依存した物となっており一個人、或いは一個体で使うには一定の限界値が存在している。コレに関しては本人が有する魔力の量或いは魔力運用の為の燃料が限界値の主な原因と成って居る。又、一部の高難易度或いは特定種族のみが使用を可能とするものに関しては遺失技術と成って居る物も存在その為一概に古い方が劣っているとは断言できない技術ともなっている。更に言えばこうした遺失技術の方が寄り物理現象でも特に干渉する難易度の高い物(時間経過や世界間でのゲートの製造等)が多く存在しており研究の対象と成って居る。 〇文明圏関連の魔法 概要 過去に魔法技術による大国の出現が有った事に寄って過去の遺失技術程高度な魔法技術が使われている世界の代表格となる。各種文明圏や種族間での技術力に著しい差が有る事から一概には言えない物の人力では無い自動詠唱によりある程度自動化された事での機械的な運用が可能である事からそれが機械へと転用されており一部科学文明国を除くと主流技術と成って居る。人間や生物が使用する場合は本人の魔力に依存する他機械的に使用する際には燃料となる魔石と呼ばれる消費資源が必要を必要としている。 その為、機械化を行う場合には科学技術による品同様に燃料で特定の魔法を発動させて飛行、或いは攻撃に転用されるシステムとなって居る事から科学技術との組み合わせを行う場合は別途に燃料を必要とすることとなり同時併用に関しては兵器としては重量の増加等が懸念される。又、古代の魔法文明に関しては時空間干渉技術の存在が指摘されており残された伝承等から最低でも核兵器技術、或いはそれに相当する技術と誘導兵器技術を保有する事が推測されている。 〇特地関連の魔法 概要 主にゲートの開いた特地周辺にて使用されている魔法に成る。仕組みとしては上位次元への一種のアクセスに寄って使用者のイメージに乗っ取た現象を発現する。その為、本人のイメージや事前知識が重要であり機械化も進められて居ない事から現在の所機械を介して運用するには最も向かない技術と成って居る。又、発動する現象に関しても基本的には物理現象に縛られる為万能性は高いとは言えないものと成って居る。 帝国が他世界へ進出に使用したゲートに関しても基本的には魔法技術となっておりこの技術を使用可能な人物は希少な存在と成って居る。特地に関しては技術の管理に当たって宗教的に神とあがめられる精神生命体による技術抑制に寄って管理されていたが近年この神間の政治バランスの変化と危機的状況に於いて技術的な抑制解除せざるを得なく成って居る事から今後の研究が待たれる分野と成って居る。 983: ナイ神父Mk-2 :2021/05/08(土) 00 23 41 HOST p431031-ipngn2301akita.akita.ocn.ne.jp 〇セッテルンド大陸関連の魔法 概要 特地や文明圏とは調度裏に成る地域の大陸にて使用されている魔法となる。現状確認されている物では可なり機械化の進められた機器として存在している。基本的に生物であればエーテルを吸収して転換したマナとソレを使用する為の触媒を介して脳内の仮想器官にて特定の術式を図式として演算それによって現象を発現する。この性質の為、空気中のエーテルをマナへと転換する為の魔力転換炉と演算及び制御を行うための演算機での制御が可能となり機械的に運用を可能としている。 この為、一部技術と物質が特地を経由して平成世界に送られ軍用兵器技術へと転用されている。又、エーテルに関しては融合惑星で確認されたG元素の一種と似通った形質も有している事からβ世界から派遣された研究者がその解析に寄与すると言った事態も起きている。エーテルに関しては現在解析が進められている物の不明な点も少なく無く、早期解明が急がれている。特性としては負の質量を保有しており宇宙空間には純エーテルとして存在、固形物として地下から発掘される場合もありその際には空気中に晒されると徐々に気化する特性を有している。 〇魔女関連の魔法 文明圏極東に出現した日本の更に東部に出現した20世紀前半の地球に似た文明形態を有する世界での魔法となる。基本的には使用可能者は圧倒的に女性が多くその為、使用する女性はウィッチと呼称されている。使用に於いて広く普及している方式としては契約した使い魔と魔法力を増幅する脚部装着の装備を使用して運用される。共通技術としての飛行魔法やシールド技術などが存在するほか各魔女が固有に保持するスキルが存在それを利用して戦闘を行っている。 武装に関しては史実に於ける航空機や戦車をベースとしたものが使用され、同名の航空機も存在している。戦闘に関しては共通する強化によって通常の同サイズ兵器以上の威力を発揮する上、魔力に寄る攻撃がこの世界特有の敵であるネウロイに効果的である事から対ネウロイの主力として前線へと投入されている。細かい方式としては扶桑式やブリタニア式等が存在するが此処では割愛する。 〇連合関連の魔法 概要 連合世界で運用される魔法となる。基本的には生体マグネタイトと呼ばれる物質を元にそれによって仮想の肉体を構築する悪魔と呼ばれる存在の使役或いは加護を得て使用する魔法となる。高度な機械化も進められておりPC技術発明以降は演算に寄る各種召喚や生贄の代用など様々面が代替される事によってかつては一部のエリートにしかできなかった複数の悪魔の使役を一般人でも行える様になっている。その為、従来の技法の多くはこうした機械化に敗北して特殊技能として存在はしてはいる物の戦力的な価値としては高レベルの物以外は扱いとしては一歩劣るってしまう部分も出ている。 こうした技術に関して連合はその存在を公には否定・隠蔽している。その理由としては悪魔と言う存在が人々の認知に寄って急速に力を増す為である。その為、神秘の拡散はそのまま物質世界への悪魔側の世界からの侵略となる事からそれを抑制する目的で表向きには連合の世界には魔法は存在しないというのが一般知識と成って居る。 又、こうした既存の物質法則へと浸食する存在としては過去トゥメルと言う先住民がその存在を発見した上位者と呼ばれる存在や黄泉・涅槃とも呼称される所謂あの世とでも言うべき世界がありそうした地域或いは存在に関しては連合下部の公式組織によって浸食や進行に対して防御が為されている。 連合の古式的な魔道技術に関しては戦闘力と言う一面においてこそ今日の主流を占めるサマナーと呼ばれる職業の人間に対して不利では有る物の大規模な物や或いは正式な手順に則った物はサマナーの機械的な代替を上回る効果を発揮する物も存在している。その為、こうした伝統技術を運用する人間は基本的に実力的には通常のサマナーより上位と成って居る事が多い他、惑星上或いは惑星と衛星間のマグの流れにも干渉出来る事から場合によっては龍脈等を通じての地殻変動や月の潮汐力へと干渉する等と言った事も一説には可能とされている。 985: ナイ神父Mk-2 :2021/05/08(土) 00 25 15 HOST p431031-ipngn2301akita.akita.ocn.ne.jp 以上ですWIKIへの転載は自由です取り敢えず各世界の魔法系とかと特地で使う飛行船とかを軽くをば…
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「NHKにんげんドキュメント・補給仕官と向き合う」 BGM:中島みゆき「地上の星」 ナレーション:田口トモロヲ 鈴木さん:F世界の入植最初期から補給所に長く勤める。 現地の人手不足から復興支援と現地運営も兼任し F世界に日本の基盤を築く礎となった。 補給仕官の朝は、早い。 「陸自で体動かすより、書類書いてる方が向いてたんですね」 補給仕官の鈴木さんは手元の書類を確認しながら言った。 鈴木さんは今日も電話を片手にキーボードを叩く。 まず、書類の入念なチェックから始まる。 用途が怪しいもの、不明な書類は線を入れて弾く。 直接陳情をしに来た専任陸曹や一尉と対面し舌戦を繰り広げ、 無理な作戦をたてようとする連隊参謀に書類を突きつける。 「参謀は戦略を語り、専任仕官は現場を語り、補給仕官は現実を語ります。 上と下のすりあわせが大事なんです」 ドケチと呼ばれても構わない。 物資には国民の血税が使われているのだ。 米の一粒たりとも無駄には出来ない。 最近はトラックが足りないと口をこぼした。 「やっぱり一番嬉しいのは皆さんが補給貰って喜ぶ顔ね。この仕事続けてよかったと思う」 「機械だけでは突発的なトラブルは対応できない。人間だから出来る仕事があるんです」 「機械が幾ら進化したってコレだけは真似できないんですよ」 視察の日。彼はファイルを鞄に詰め、補給基地へ向かった。 物資の輸送はコンテナが主流だ。 一口にコンテナといっても冷蔵専用コンテナやタンクコンテナなど多種多様であり、 取り扱いにも気をつけなくてはいけない。 「上の意見を現場に理解させるのは大変だね。その逆もだけどさ」 作業監督に直接荷物の中身を説明してどうやって扱うのか注意を促す。 「辛いのは軍機で中身が説明できない時だね。 中を説明できないから作業員に納得して 働いてもらえないし、荷物の扱いもぞんざいになる。 そういうのに限って中は取り扱いが難しいものなんだ」 ガントリークレーンや工作機械の改良で作業は自動化したとはいえ、 結局関わるのは人間なのだと鈴木さんは言った。 「コンテナ一つに人の生活、命も掛かっているからね。大事にしないと」 輸送科の大谷さんとはもう10年の付き合いになる。 「0304号車のサスがヘタレた?回収車と代替廻せるから復旧まで3時間は掛かるか。 タングステン砲弾?輸送用のパレットと弾は此方にあるから次のサイクルで載せる。36時間」 大谷さんの手に掛かれば、聞くだけで到着時間が判ってしまう。 しかも積み込みや復旧時間全て込みで。 判断は速く正確で素人に真似のできる事ではない、匠の技である。 「運転だけ出来てもね。車種による車幅の微妙な違いとか 他社の輸送ルートや運転時間を理解してなきゃいけない」 「たいていの若い人はすぐやめちゃうんですよ。 弾を撃つため自衛隊に入ったとか、イメージと違うとか、話が違うとか その癖レジスタンスに襲われると真っ先に逃げ出す。 輸送任務は増えています。でもそれを乗り越えられる奴は少ない そうゆう根性のある奴がこれからの輸送科に必要とされています」 目下の問題は人材育成と人手不足である。 大型免許を持っているだけでは現場の役に経たないと彼は話した。 20年前はがらんどうだった補給科の事務所が 今では大量の機材が運び込まれ拡張されている。 数年前までは有事になることすら考えられなかった。 「輸送の手間は減ったのに扱う量は増えるばかりですよ。 物資が増えたのは機械化が進んだのと隣国がきな臭いせいですかね」 部隊の状況と輸送力のバランスを考え配分物資量を計算する。 問題は物品の種類と量。 一度に運ぶ種類が多いと輸送効率が下がり、少なすぎても現場での作業に支障をきたす。 「船や列車の輸送が足りないと知っていても放り出す訳にはいかないんですよ。 移動が止まれば組織は死にます。それは自衛隊も民間も同じです」 現場では常にあらゆる物資が必要とされている。 その中から必要なものを抽出し、上限の決まった輸送力を使う。 この見極めが難しいのだと鈴木さんは語った。 現地の輸送状況を聞く。 この報告で輸送計画はガラリと変わってしまう。 重要なのが港の積み下ろしとそこからの輸送である。 後方での輸送は現地ゲリラや輸送路妨害を気にしなくていい分輸送は容易だ。 民間の協力も仰げ、道路や施設も整備されているためである。 道一つとっても大陸では10tトラックが何台も走れる道路や橋は限られている。 中世レベルの文明の道路ではさほど重量物が通ることが考慮されていないからである。 他にも問題はあった。 港での積み下ろし作業と荷物確認、現地業者とのすり合わせや盗賊対策である。 輸送時間の大部分が移動と安全対策に使われる。 これまでは港でのコンテナ内の物資確認のためコンテナをひとつひとつ開封して調べていた。 コンテナの鍵を開け中の物資と個数を確認する。それを日に何百回と行っていた。 当然作業には時間が掛かりいくらあっても人手は足りない。 だが積み下ろし作業は中断できない。 そのため港や海岸には大量の未開封コンテナが並べられ、中の物資を腐らせていた。 そういったことが昔はあったのである。 そこで生み出されたのがRFIDの本格的な導入である。 コンテナに無線タグを取り付け、開封せずとも中を確認できるようにしたのである。 更に後方で各科別や作業段階別、仕事ごとに応じて一つのコンテナに複数種の物資を入れたのである。 各作業段階で設けられた重量確認と交通要所別に設けられたIDチェッカーにより 不良在庫は劇的に減った。 「物資が届かないと困るのは私だけど、現場の人にとっては死活問題だね」 「もちろん輸送される物資はコンテナひとつまで私が確認していますよ」 パソコン画面にはトラックのナビゲーションと道路状況、ID表示が映っている。 「この仕事を始めたばかりのときは情報の多さに混乱しましたよ。 でも現地の状況を見て、自分はしっかりしなきゃいけないと思いました。 あの厳しい光景が目に焼きついたからこそ今の自分が居るんです」 鈴木さんが陸自の普通科から補給科に入ったルーツは意外なところにありました。 「現地では常に物が足りないんです。あの時車両の交換部品があれば撤退出来た。 いえ、62式の弾がもう少しあれば持ちこたえる事が出来た。 私達にはほんの少し物資が足りなかったのです」 彼はしばしば昔の仲間が眠る地へ向かう。 部署が変わっても前線の専任陸曹や一尉に学ぶことも多いとか。 部隊の視察をしようと輸送科について行った先で王国残党ゲリラに襲撃され 撃たれそうになることもしばしば。 近年は新たな問題も持ち上がってきている。 RFIDが導入され遅延や間違いが前より少なくなって届くようになった。 しかし、たとえ部隊に物資を満載したコンテナが届いても そこから更に個々の兵士たちの手にどうやって渡すのか。 結局はひとつひとつ開封してコンテナを確認しなくてはならなくなった。 大まかな物資配分はRFIDがある。 物品の大量輸送はコンテナが勝る。 しかし個々の物品配分に関しては個別輸送に軍配が上がる。 個別輸送の配分性とコンテナの大量輸送を備えた輸送パレットの開発は 多くの補給士官たちの頭を悩ませてきた。 その究極の選択に、今再び―― 現代の匠が挑もうとしている。 「禿げ隠しですよ」 彼はそう言いながら帽子を脱いだ。 円形脱毛症。日頃の補給業務の厳しさとストレスを物語る。 「職業病ですね」 補給仕官にとって物流機材や物資以外に 各部署の担当の性格や状況を把握しておくのは義務であり、また責任なのだ。 ある日、彼は何気なく大手通信販売、密林の特集を見ていた。 バラバラに棚に並べられた商品。棚ごとに設置されたコード。 「これだ」 棚ごとに番号を割り振り、一区切りごとに管理する。 開いた棚には順次物資を詰めスペースの無駄をなくす。 バラバラになった物資の管理は棚に割り振った番号で管理し、 棚間移動の手間はコンピューターが最短ルートを計算する。 新型輸送コンテナの試作が始まった。 コンテナ内に複数の棚を設け、輸送の際に中身がずれないよう コンテナサイズを調整し規格化した。 コンテナ内部のスペースを一杯に使え、なおかつ取り出しやすいよう 棚をレールスライド式にした。 使用後の空になった棚を回収できるように棚を折りたたみ式にし 棚とコンテナを別の区分とした。 確かに「即使用できる棚」を設けることで 現地の兵士たちがコンテナを回収してひとつひとつ中を見て回る手間は減った。 しかしこのアイディアには欠陥があった。 コンテナサイズを規格化を徹底しすぎた為に過剰包装が出ることになったのだ。 通常、一つの棚ごとに一つのコードが割り振られ一つのコンテナが用意される。 その中には大小様々な製品が入る。 そのため出荷段階での倉庫内の無駄は少ない。 だが輸送段階になると包装に無駄が出た。 例えばA5サイズのソフトカバーの単行本一冊があったとする。 これを段ボールの台紙を当ててビニールパックを施し 更にほんの2倍の大きさがある段ボール箱に入って送られるといった問題が発生した。 本自体の厚さは2センチ、段ボールの厚さは7センチ。 つまり、この箱には同じ本が6冊は入る計算になる。 たかだかソフトカバーの単行本1冊に段ボール箱は必要ない。 これは明らかに過剰包装であった。 鈴木は愕然とした。 これは包装容器のサイズを常にある程度の余裕を持つように規格化したことからきている、 サイズ別に別個の包装をするのは包装の生産ラインと資源の無駄だからである。 同じ包装は使いまわせるという利点もあったからだ。 箱に余裕があると余計に詰め込むことが出来、 空間には綿を詰めれば箱の中のずれが解決できるためである。 包装は3つの段階に分かれている 1:ビニールパックに入れる・・・傷からの保護 2:段ボールの台紙を当てる・・・より大きい傷からの保護 3:2倍の大きさがある段ボール箱に入れる・・・発見率向上のため。 本来1又は2の段階で輸送されることが理想であったのだが、 コンテナ内に複数種の製品を入れ輸送するに当たり、小さな製品には3が必要となった。 すなわち小さな製品は発見しにくいのである。 旧来では(例:本の専売)同サイズの同製品を同時に輸送することで 商品間の隙間をなくし、2と3の包装を省いていた。 問題に対しコンピューターへ製品ごとに縦横の幅を入れることで解決しようとした。 既にある程度の大きさ別や保存法別によるコンテナサイズの調整はやってしまっている。 それでも過剰包装は出る。 もう限界だ、プロジェクトに暗雲がたちこめた。 鈴木は一週間悩んだ。 しかし答えは出なかった。 その時だった。 輸送段階直前まで頑丈な箱が必要であり。 貰い手はそこまで頑丈な箱を必要としていない。 「なら箱から抜いて渡せばいいじゃないか」 逆転の、発想だった。 大中小の箱を用意し、似たサイズの製品を1又は2段階の包装で箱に詰めた。 それぞれの箱に商品リストを貼り付け、箱にそれぞれコードを振った。 棚を箱に置き換え、区域別に輸送することで解決した。 更に兵士たちへ旧来より性能の良い弾帯ベストを持つことを普及させた。 すなわち一定の物資を消費する傾向にある兵士たち 各個人が持てる保存容器を増やした。 過剰包装は減った。 こうして、遂に国からも、この計画にGOサインが出された。 「数年以内に状況を好転させてみせますよ。物資を待つ人が居るからね」 彼はそう言い笑った。 「たまにね、家族から手紙が届くんですよ。仕事が忙しくて本土まで 会いに行けないですけど。私には一番の補給物資です」 「他にも現地住民からわざわざ手紙が届くこともあるんですよ。 ありがとうって。ちょっと嬉しいです」 「入植初期は文化の違いや欠乏で散々でした」 魔法ゲリラが激化した○○年には一時期撤退も考えられたという。 ここ数年で飛躍的に増えた物資を管理するために鈴木さんは 数ヶ月前から整備され始めたインターネットを使った部隊別の個別管理を始めている。 スタッフは彼に現地住民との関係はどうだと聞いてみた。 「現地住民に仕事を任せているか?・・・ですか? 順次移行しようとも考えていますが当分はありません。社会システムが全く違う。 大陸は社会基盤がまだ確立してない。トータルで考えると此方の方が安く付きます」 「一度引退しようと考えたこともあるんです。 でもね、大陸の街を見ているとね。まだまだ飢餓や病気で苦しむ人たちが居る。 あれじゃ駄目だ!私ならもっと上手くやれるってね。 私を慕ってくれる多くの人達も居る。辞めなかったのは彼らのおかげです」 まだまだ必要とされている、それだけで彼は頑張れると言う。 近年、彼がしてきた長年の政策が実り日本国内の状況も改善してきている。 大陸の魔法技術と日本の技術者との仲介を行うのに忙しい。 全国からは魔物の生態に目を付けた科学者や企業などから依頼が殺到しているそうだ。 「現在30人体制で特許管理や技術提供の場を設けていますが 需要の急増に対して供給が追いついていない状況です」 と、嬉しい悲鳴をあげている。 今年の売上は10億新円を超える見込み。 日本本土の新聞でも取り上げられ、最近は自治も検討され始めている。 魔法を本土の人達に知ってもらおうと、安価なアーティファクトの提供も始めたそうだ。 最初は奇異の目で見られていたドワーフやダークエルフも日本の風景になじみ始めている。 海外でも貴族達の投資に注目されていると言う。 NHKスタジオ 「と言う訳でアーティファクトのゴーレムを用意してきました」 テーブルの上で手の平サイズの人型ゴーレムが動いた。 「モーターやエンジンなしに!?どうやって動いてるの!?」 「刻印だよ。魔力で動いてる」 ぱんつみたいだけど恥ずかしくないもん ぱんつの様な社章がトレードマークの名古屋市に本社を置く 山田工業所。 「いやはや、魔法刻印の再現に苦労しましたよ。刻む順番や使う金属が重要なんです」 苦労を語る山田さん。彼は○○年産業功労賞を受賞した。 手作業との決別。アーティファクトの生産を賭け、 ドワーフの伝統技術と日本の最先端技術が手を組んだ。 「戦車や戦闘機の装甲版には魔法刻印が刻まれるようになったんですよ」 将来の夢は何ですか? 「ストライクな魔法少女達を空に飛ばせるようになりたいですね」 ずれた眼鏡をなおしながら、 壁に貼られたポスターを見つめ真摯に語る彼の表情は職人のそれであった。 今、彼は新しい装備の研究をしている。 より使いやすく、より強力なエンジン。 「試行錯誤の連続ですね。 今朝、魔導エンジンの出力実験をしていたら実験場が吹き飛びましたよ」 「水冷式エンジンと合わせてみたら意外に相性が良くて、 アナログも捨てたものじゃないって思いましたね」 自分の作ったエンジンが日本の復興に使われ、かつての国の姿を取り戻す。 そうなるといいねと彼は笑った。 「○○年日本同時魔法テロの影響でもう工場は終わりかなと思っていました。 工場は全壊、従業員が全員無事だったことだけが救いでした。 明日から路頭に迷うことになる、私はエンジンを作ることしか知らない。 そんな私がどうやって家族を食べさせていけばいいのかと絶望していました。 その時、手を差し伸べてくれたのが鈴木さんです。彼には本当に感謝しています」 「自分達の魔法(技術)を使って大陸の魔法を見返してやろう」 「彼には励まされました。まだ全部無くなった訳じゃない。 人も希望も残っているってね。年甲斐もなく泣いちまいましたよ」 「魔法との融合が注目されている時代じゃないですか。。 魔法を科学技術と合わせる時にだからこそ 機械ではできない作業と機械作業を取り持つ職人技は必要になってくる」 最先端だからこそ活躍するアナログな職人。 かつての日本を取り戻したい、守りたい。 そんな思いが今日の日本人の力となっていると語った。 深夜2時、補給所の兵站管理部に突如異変が。 補給手順の変更。 決意を固めた部下達の報告を聞き、参謀本部の工藤さんは渋い表情を作った。 「時代が変わったんですね。 一方通行だった補給申請が現場からも行われるようになったんです。 現場主義の流れでしょうね。 でも大事なのは物資に限らず自衛官の命ですから。 これが我々のためになるなら老兵は身を引きます…」 飢餓、オイルショック、肥料の不足… 初期の混乱から立ち直りつつある日本。 その力はこうした人々の努力から産まれているのである。 一部輸出解禁に伴い、日本の中小企業の持つ圧倒的な品質を持つ製品に 海外の人々も目を付け始めた。 先日締結されたレンドリース法ではエルブ国に貸与されることが締結されたのも 日本製の剣や食料であり特に加工食品は 海外でカレーラーメンブームを巻き起こすほどである。 鈴木さんの事務所の部屋には12人分のヘルメットが立て掛けられている。 どれも綺麗に磨かれ埃ひとつない。 「かつてエルブ国は私達を助けてくれた。火事にホースを貸してくれた。 今度は此方が貸す番ですよ。困っている隣人にホースを貸したい。水には困らないように」 「いや~本当すごいですね」 「輸送ってこんなに手間かけてるんですね」 ライドナ王国軍に襲われた彼を助けたのは50年前のエルブ国であった。 エルブ国は食料と安心できる寝所の提供。安定した輸送路を保護した。 各種条約により飛躍的に日本の輸送は改善することになり国内問題も一応の安定を得た。 鈴木さんは異国で初めて食べたイケ麺(しょうゆ味)の味は忘れられないという。 日本のカレー、ラーメン、食べ物の相互理解はどれだけ時代が移り変わろうとも 変わらないもの、なのかもしれない…。 今日も彼は、日が昇るよりも早く書類の整理を始めた 明日も、明後日もその姿は変わらないだろう そう、補給仕官の朝は早い─── 輸送の歴史~補給仕官の朝~ 完
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「NHKにんげんドキュメント・補給仕官と向き合う」 BGM:中島みゆき「地上の星」 ナレーション:田口トモロヲ 鈴木さん:F世界の入植最初期から補給所に長く勤める。 現地の人手不足から復興支援と現地運営も兼任し F世界に日本の基盤を築く礎となった。 補給仕官の朝は、早い。 「陸自で体動かすより、書類書いてる方が向いてたんですね」 補給仕官の鈴木さんは手元の書類を確認しながら言った。 鈴木さんは今日も電話を片手にキーボードを叩く。 まず、書類の入念なチェックから始まる。 用途が怪しいもの、不明な書類は線を入れて弾く。 直接陳情をしに来た専任陸曹や一尉と対面し舌戦を繰り広げ、 無理な作戦をたてようとする連隊参謀に書類を突きつける。 「参謀は戦略を語り、専任仕官は現場を語り、補給仕官は現実を語ります。 上と下のすりあわせが大事なんです」 ドケチと呼ばれても構わない。 物資には国民の血税が使われているのだ。 米の一粒たりとも無駄には出来ない。 最近はトラックが足りないと口をこぼした。 「やっぱり一番嬉しいのは皆さんが補給貰って喜ぶ顔ね。この仕事続けてよかったと思う」 「機械だけでは突発的なトラブルは対応できない。人間だから出来る仕事があるんです」 「機械が幾ら進化したってコレだけは真似できないんですよ」 視察の日。彼はファイルを鞄に詰め、補給基地へ向かった。 物資の輸送はコンテナが主流だ。 一口にコンテナといっても冷蔵専用コンテナやタンクコンテナなど多種多様であり、 取り扱いにも気をつけなくてはいけない。 「上の意見を現場に理解させるのは大変だね。その逆もだけどさ」 作業監督に直接荷物の中身を説明してどうやって扱うのか注意を促す。 「辛いのは軍機で中身が説明できない時だね。 中を説明できないから作業員に納得して 働いてもらえないし、荷物の扱いもぞんざいになる。 そういうのに限って中は取り扱いが難しいものなんだ」 ガントリークレーンや工作機械の改良で作業は自動化したとはいえ、 結局関わるのは人間なのだと鈴木さんは言った。 「コンテナ一つに人の生活、命も掛かっているからね。大事にしないと」 輸送科の大谷さんとはもう10年の付き合いになる。 「0304号車のサスがヘタレた?回収車と代替廻せるから復旧まで3時間は掛かるか。 タングステン砲弾?輸送用のパレットと弾は此方にあるから次のサイクルで載せる。36時間」 大谷さんの手に掛かれば、聞くだけで到着時間が判ってしまう。 しかも積み込みや復旧時間全て込みで。 判断は速く正確で素人に真似のできる事ではない、匠の技である。 「運転だけ出来てもね。車種による車幅の微妙な違いとか 他社の輸送ルートや運転時間を理解してなきゃいけない」 「たいていの若い人はすぐやめちゃうんですよ。 弾を撃つため自衛隊に入ったとか、イメージと違うとか、話が違うとか その癖レジスタンスに襲われると真っ先に逃げ出す。 輸送任務は増えています。でもそれを乗り越えられる奴は少ない そうゆう根性のある奴がこれからの輸送科に必要とされています」 目下の問題は人材育成と人手不足である。 大型免許を持っているだけでは現場の役に経たないと彼は話した。 20年前はがらんどうだった補給科の事務所が 今では大量の機材が運び込まれ拡張されている。 数年前までは有事になることすら考えられなかった。 「輸送の手間は減ったのに扱う量は増えるばかりですよ。 物資が増えたのは機械化が進んだのと隣国がきな臭いせいですかね」 部隊の状況と輸送力のバランスを考え配分物資量を計算する。 問題は物品の種類と量。 一度に運ぶ種類が多いと輸送効率が下がり、少なすぎても現場での作業に支障をきたす。 「船や列車の輸送が足りないと知っていても放り出す訳にはいかないんですよ。 移動が止まれば組織は死にます。それは自衛隊も民間も同じです」 現場では常にあらゆる物資が必要とされている。 その中から必要なものを抽出し、上限の決まった輸送力を使う。 この見極めが難しいのだと鈴木さんは語った。 現地の輸送状況を聞く。 この報告で輸送計画はガラリと変わってしまう。 重要なのが港の積み下ろしとそこからの輸送である。 後方での輸送は現地ゲリラや輸送路妨害を気にしなくていい分輸送は容易だ。 民間の協力も仰げ、道路や施設も整備されているためである。 道一つとっても大陸では10tトラックが何台も走れる道路や橋は限られている。 中世レベルの文明の道路ではさほど重量物が通ることが考慮されていないからである。 他にも問題はあった。 港での積み下ろし作業と荷物確認、現地業者とのすり合わせや盗賊対策である。 輸送時間の大部分が移動と安全対策に使われる。 これまでは港でのコンテナ内の物資確認のためコンテナをひとつひとつ開封して調べていた。 コンテナの鍵を開け中の物資と個数を確認する。それを日に何百回と行っていた。 当然作業には時間が掛かりいくらあっても人手は足りない。 だが積み下ろし作業は中断できない。 そのため港や海岸には大量の未開封コンテナが並べられ、中の物資を腐らせていた。 そういったことが昔はあったのである。 そこで生み出されたのがRFIDの本格的な導入である。 コンテナに無線タグを取り付け、開封せずとも中を確認できるようにしたのである。 更に後方で各科別や作業段階別、仕事ごとに応じて一つのコンテナに複数種の物資を入れたのである。 各作業段階で設けられた重量確認と交通要所別に設けられたIDチェッカーにより 不良在庫は劇的に減った。 「物資が届かないと困るのは私だけど、現場の人にとっては死活問題だね」 「もちろん輸送される物資はコンテナひとつまで私が確認していますよ」 パソコン画面にはトラックのナビゲーションと道路状況、ID表示が映っている。 「この仕事を始めたばかりのときは情報の多さに混乱しましたよ。 でも現地の状況を見て、自分はしっかりしなきゃいけないと思いました。 あの厳しい光景が目に焼きついたからこそ今の自分が居るんです」 鈴木さんが陸自の普通科から補給科に入ったルーツは意外なところにありました。 「現地では常に物が足りないんです。あの時車両の交換部品があれば撤退出来た。 いえ、62式の弾がもう少しあれば持ちこたえる事が出来た。 私達にはほんの少し物資が足りなかったのです」 彼はしばしば昔の仲間が眠る地へ向かう。 部署が変わっても前線の専任陸曹や一尉に学ぶことも多いとか。 部隊の視察をしようと輸送科について行った先で王国残党ゲリラに襲撃され 撃たれそうになることもしばしば。 近年は新たな問題も持ち上がってきている。 RFIDが導入され遅延や間違いが前より少なくなって届くようになった。 しかし、たとえ部隊に物資を満載したコンテナが届いても そこから更に個々の兵士たちの手にどうやって渡すのか。 結局はひとつひとつ開封してコンテナを確認しなくてはならなくなった。 大まかな物資配分はRFIDがある。 物品の大量輸送はコンテナが勝る。 しかし個々の物品配分に関しては個別輸送に軍配が上がる。 個別輸送の配分性とコンテナの大量輸送を備えた輸送パレットの開発は 多くの補給士官たちの頭を悩ませてきた。 その究極の選択に、今再び―― 現代の匠が挑もうとしている。 「禿げ隠しですよ」 彼はそう言いながら帽子を脱いだ。 円形脱毛症。日頃の補給業務の厳しさとストレスを物語る。 「職業病ですね」 補給仕官にとって物流機材や物資以外に 各部署の担当の性格や状況を把握しておくのは義務であり、また責任なのだ。 ある日、彼は何気なく大手通信販売、密林の特集を見ていた。 バラバラに棚に並べられた商品。棚ごとに設置されたコード。 「これだ」 棚ごとに番号を割り振り、一区切りごとに管理する。 開いた棚には順次物資を詰めスペースの無駄をなくす。 バラバラになった物資の管理は棚に割り振った番号で管理し、 棚間移動の手間はコンピューターが最短ルートを計算する。 新型輸送コンテナの試作が始まった。 コンテナ内に複数の棚を設け、輸送の際に中身がずれないよう コンテナサイズを調整し規格化した。 コンテナ内部のスペースを一杯に使え、なおかつ取り出しやすいよう 棚をレールスライド式にした。 使用後の空になった棚を回収できるように棚を折りたたみ式にし 棚とコンテナを別の区分とした。 確かに「即使用できる棚」を設けることで 現地の兵士たちがコンテナを回収してひとつひとつ中を見て回る手間は減った。 しかしこのアイディアには欠陥があった。 コンテナサイズを規格化を徹底しすぎた為に過剰包装が出ることになったのだ。 通常、一つの棚ごとに一つのコードが割り振られ一つのコンテナが用意される。 その中には大小様々な製品が入る。 そのため出荷段階での倉庫内の無駄は少ない。 だが輸送段階になると包装に無駄が出た。 例えばA5サイズのソフトカバーの単行本一冊があったとする。 これを段ボールの台紙を当ててビニールパックを施し 更にほんの2倍の大きさがある段ボール箱に入って送られるといった問題が発生した。 本自体の厚さは2センチ、段ボールの厚さは7センチ。 つまり、この箱には同じ本が6冊は入る計算になる。 たかだかソフトカバーの単行本1冊に段ボール箱は必要ない。 これは明らかに過剰包装であった。 鈴木は愕然とした。 これは包装容器のサイズを常にある程度の余裕を持つように規格化したことからきている、 サイズ別に別個の包装をするのは包装の生産ラインと資源の無駄だからである。 同じ包装は使いまわせるという利点もあったからだ。 箱に余裕があると余計に詰め込むことが出来、 空間には綿を詰めれば箱の中のずれが解決できるためである。 包装は3つの段階に分かれている 1:ビニールパックに入れる・・・傷からの保護 2:段ボールの台紙を当てる・・・より大きい傷からの保護 3:2倍の大きさがある段ボール箱に入れる・・・発見率向上のため。 本来1又は2の段階で輸送されることが理想であったのだが、 コンテナ内に複数種の製品を入れ輸送するに当たり、小さな製品には3が必要となった。 すなわち小さな製品は発見しにくいのである。 旧来では(例:本の専売)同サイズの同製品を同時に輸送することで 商品間の隙間をなくし、2と3の包装を省いていた。 問題に対しコンピューターへ製品ごとに縦横の幅を入れることで解決しようとした。 既にある程度の大きさ別や保存法別によるコンテナサイズの調整はやってしまっている。 それでも過剰包装は出る。 もう限界だ、プロジェクトに暗雲がたちこめた。 鈴木は一週間悩んだ。 しかし答えは出なかった。 その時だった。 輸送段階直前まで頑丈な箱が必要であり。 貰い手はそこまで頑丈な箱を必要としていない。 「なら箱から抜いて渡せばいいじゃないか」 逆転の、発想だった。 大中小の箱を用意し、似たサイズの製品を1又は2段階の包装で箱に詰めた。 それぞれの箱に商品リストを貼り付け、箱にそれぞれコードを振った。 棚を箱に置き換え、区域別に輸送することで解決した。 更に兵士たちへ旧来より性能の良い弾帯ベストを持つことを普及させた。 すなわち一定の物資を消費する傾向にある兵士たち 各個人が持てる保存容器を増やした。 過剰包装は減った。 こうして、遂に国からも、この計画にGOサインが出された。 「数年以内に状況を好転させてみせますよ。物資を待つ人が居るからね」 彼はそう言い笑った。 「たまにね、家族から手紙が届くんですよ。仕事が忙しくて本土まで 会いに行けないですけど。私には一番の補給物資です」 「他にも現地住民からわざわざ手紙が届くこともあるんですよ。 ありがとうって。ちょっと嬉しいです」 「入植初期は文化の違いや欠乏で散々でした」 魔法ゲリラが激化した○○年には一時期撤退も考えられたという。 ここ数年で飛躍的に増えた物資を管理するために鈴木さんは 数ヶ月前から整備され始めたインターネットを使った部隊別の個別管理を始めている。 スタッフは彼に現地住民との関係はどうだと聞いてみた。 「現地住民に仕事を任せているか?・・・ですか? 順次移行しようとも考えていますが当分はありません。社会システムが全く違う。 大陸は社会基盤がまだ確立してない。トータルで考えると此方の方が安く付きます」 「一度引退しようと考えたこともあるんです。 でもね、大陸の街を見ているとね。まだまだ飢餓や病気で苦しむ人たちが居る。 あれじゃ駄目だ!私ならもっと上手くやれるってね。 私を慕ってくれる多くの人達も居る。辞めなかったのは彼らのおかげです」 まだまだ必要とされている、それだけで彼は頑張れると言う。 近年、彼がしてきた長年の政策が実り日本国内の状況も改善してきている。 大陸の魔法技術と日本の技術者との仲介を行うのに忙しい。 全国からは魔物の生態に目を付けた科学者や企業などから依頼が殺到しているそうだ。 「現在30人体制で特許管理や技術提供の場を設けていますが 需要の急増に対して供給が追いついていない状況です」 と、嬉しい悲鳴をあげている。 今年の売上は10億新円を超える見込み。 日本本土の新聞でも取り上げられ、最近は自治も検討され始めている。 魔法を本土の人達に知ってもらおうと、安価なアーティファクトの提供も始めたそうだ。 最初は奇異の目で見られていたドワーフやダークエルフも日本の風景になじみ始めている。 海外でも貴族達の投資に注目されていると言う。 NHKスタジオ 「と言う訳でアーティファクトのゴーレムを用意してきました」 テーブルの上で手の平サイズの人型ゴーレムが動いた。 「モーターやエンジンなしに!?どうやって動いてるの!?」 「刻印だよ。魔力で動いてる」 ぱんつみたいだけど恥ずかしくないもん ぱんつの様な社章がトレードマークの名古屋市に本社を置く 山田工業所。 「いやはや、魔法刻印の再現に苦労しましたよ。刻む順番や使う金属が重要なんです」 苦労を語る山田さん。彼は○○年産業功労賞を受賞した。 手作業との決別。アーティファクトの生産を賭け、 ドワーフの伝統技術と日本の最先端技術が手を組んだ。 「戦車や戦闘機の装甲版には魔法刻印が刻まれるようになったんですよ」 将来の夢は何ですか? 「ストライクな魔法少女達を空に飛ばせるようになりたいですね」 ずれた眼鏡をなおしながら、 壁に貼られたポスターを見つめ真摯に語る彼の表情は職人のそれであった。 今、彼は新しい装備の研究をしている。 より使いやすく、より強力なエンジン。 「試行錯誤の連続ですね。 今朝、魔導エンジンの出力実験をしていたら実験場が吹き飛びましたよ」 「水冷式エンジンと合わせてみたら意外に相性が良くて、 アナログも捨てたものじゃないって思いましたね」 自分の作ったエンジンが日本の復興に使われ、かつての国の姿を取り戻す。 そうなるといいねと彼は笑った。 「○○年日本同時魔法テロの影響でもう工場は終わりかなと思っていました。 工場は全壊、従業員が全員無事だったことだけが救いでした。 明日から路頭に迷うことになる、私はエンジンを作ることしか知らない。 そんな私がどうやって家族を食べさせていけばいいのかと絶望していました。 その時、手を差し伸べてくれたのが鈴木さんです。彼には本当に感謝しています」 「自分達の魔法(技術)を使って大陸の魔法を見返してやろう」 「彼には励まされました。まだ全部無くなった訳じゃない。 人も希望も残っているってね。年甲斐もなく泣いちまいましたよ」 「魔法との融合が注目されている時代じゃないですか。。 魔法を科学技術と合わせる時にだからこそ 機械ではできない作業と機械作業を取り持つ職人技は必要になってくる」 最先端だからこそ活躍するアナログな職人。 かつての日本を取り戻したい、守りたい。 そんな思いが今日の日本人の力となっていると語った。 深夜2時、補給所の兵站管理部に突如異変が。 補給手順の変更。 決意を固めた部下達の報告を聞き、参謀本部の工藤さんは渋い表情を作った。 「時代が変わったんですね。 一方通行だった補給申請が現場からも行われるようになったんです。 現場主義の流れでしょうね。 でも大事なのは物資に限らず自衛官の命ですから。 これが我々のためになるなら老兵は身を引きます…」 飢餓、オイルショック、肥料の不足… 初期の混乱から立ち直りつつある日本。 その力はこうした人々の努力から産まれているのである。 一部輸出解禁に伴い、日本の中小企業の持つ圧倒的な品質を持つ製品に 海外の人々も目を付け始めた。 先日締結されたレンドリース法ではエルブ国に貸与されることが締結されたのも 日本製の剣や食料であり特に加工食品は 海外でカレーラーメンブームを巻き起こすほどである。 鈴木さんの事務所の部屋には12人分のヘルメットが立て掛けられている。 どれも綺麗に磨かれ埃ひとつない。 「かつてエルブ国は私達を助けてくれた。火事にホースを貸してくれた。 今度は此方が貸す番ですよ。困っている隣人にホースを貸したい。水には困らないように」 「いや~本当すごいですね」 「輸送ってこんなに手間かけてるんですね」 ライドナ王国軍に襲われた彼を助けたのは50年前のエルブ国であった。 エルブ国は食料と安心できる寝所の提供。安定した輸送路を保護した。 各種条約により飛躍的に日本の輸送は改善することになり国内問題も一応の安定を得た。 鈴木さんは異国で初めて食べたイケ麺(しょうゆ味)の味は忘れられないという。 日本のカレー、ラーメン、食べ物の相互理解はどれだけ時代が移り変わろうとも 変わらないもの、なのかもしれない…。 今日も彼は、日が昇るよりも早く書類の整理を始めた 明日も、明後日もその姿は変わらないだろう そう、補給仕官の朝は早い─── 輸送の歴史~補給仕官の朝~ 完
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某年 某月某日 月曜日 仕事は相変わらず速く進む。朝一から測定を行って、データチェックにも着手できた。 このペースなら明日の昼頃には先方に提出できそうだ。 隣国との農地拡大交渉に進展。 これまでの農地に加えて、我が国が新たに50万ヘクタールの農地拡大を行う方向で合意がなされた。 来年以降の食糧価格には期待が持てそうだ。 あの「エルフ」という種族、植生を破壊される事を極端に嫌い、おまけに魔法を使うという。 なんだか過激派の環境保護団体みたいだ。そんなのが隣国というのも因果な話だと思う。 まあこちらから手出ししなければ攻撃されないそうだし、覇権主義よりはマシなのだろうが。 「みどり3」は運用開始直後に失われたし、「だいち2」は「あの日」以降ずっと音信普通だ。 新しい衛星の打ち上げはまだ先の話だし、隣国との交渉でもこれだけ手間取るのだから、 遠方の資源を発見して手に入るまでにどれだけ掛かるのやら。 当面は「樫」や「白樺」などの天然ガス田と隣国からの各種資源があるものの、どちらも 供給不安定だし量だって多い訳じゃない。海外でのウラン鉱石の確保もこの先の重要課題だ。 発電用の石炭は国内の炭鉱が稼働してはいるが、石炭だけでは国内の電力需要を賄いきれない。 発電用だけではなく、化学工業向けの需要に応える必要もある。北海道ではそれに加えて 冬季向けの燃料用石炭も生産する必要がある。可採年数は40年を切ったとも聞く。 こうやって資源確保に血眼になる状況を書き連ねてみると、中世レベルの生活はのんびりしていて 精神的には楽なように思えてくる。でも現代文明を失った生活など自分には考えられない。 もし資源の供給が止まれば、待っているのはきっとこの世の地獄だろう。 船団襲撃事件の詳報が公開された。レーダーの映像がはっきりせず、海況が悪かったので 目視でも敵の接近を察知できなかったのだという。状況から見て隠蔽魔法を使われた可能性もあるそうだ。 敵方は一昨年あたりから太平洋での通商破壊に力を入れ始めたが、今のところ大きな損害には至っていない。 黒潮ルートは中央向けの主軸輸送路だ。中世レベルの敵軍に荒らされるようでは困る。 問題なのは下りの輸送路で、積荷を軽くして沿岸付近を航行するのでどうしても単独行になりやすい。 敵軍に遭遇する事は稀だが、座礁する事が割とある。GPSやロランの有難さを今更ながら実感する。 仕事が進んだ日は早く眠くなる。まだ18時だというのに眠くて仕方が無い。 なんとか19時までは起きていたい。3時前に目が覚めるのは真っ平御免だ。 某年 某月某日 火曜日 昨日書いたことが現実になった。2時40分起床。 この3時間弱を潰すために望遠鏡で外を眺めてみる。何気なく通勤路を辿って見ると、怪しい人影。 張り込み中の私服警官か、はたまたストーカーか。目が合った。何か道具を使ってこちらを見ている。 暗視装置の類だとしたら、こちらが望遠鏡を使っているのもバレバレじゃないか。 こちらが警戒するような素振りでも見せたら怪しまれると思い、そのまま空に望遠鏡を向けた。 職場に模型好きの同僚がいる。彼の得意技は厚紙を切り貼りして、中は空洞で可動する模型に 組み上げる事なんだそうだ。いわゆるペーパークラフトという工法である。以下、彼の仲間の得意とする工法。 厚紙切り出し積層、木彫の可動組み上げ、乾漆、気合の入った奴は山奥に篭って砂鉄を原料に鋳造。 伊万里焼でフィギュアを作ろうとしている奴もいるが、あまり細かい細工をすると焼いた時に垂れてくるのだとか。 ……各人それぞれ得意技があるらしい。もはやモデラーとかそういう範疇を超越しているような気がする。 仕事は相変わらず速い。午後に入ってから先方にデータを提出する。 受け持ちの仕事が無くなったので、同僚の手伝いなどをして過ごす。 始業直後から違和感。引き出しの中身の配置が変わっていたような気がする。誰か知らないが、 物を借りる時には一言声を掛けてからにしてほしい。 太平洋第7洋上風力発電所が操業を開始した。 来月には阿蘇第2地熱発電所が稼動する予定である。そうなればこのあたりでも多少は電力事情が 改善する事になる。とはいえ自然エネルギー発電は供給が不安定になりがちだから、大きな期待は 掛けられないのだが。潮位差発電が実用化されれば港での電力自給にも一定の目処が立つ。 未だに実用化研究の段階で足踏み状態なのがもどかしい。 帰宅途中、他種族のように見える人物とすれ違った。服装は一般的なものだったが、 明らかに異様な気配を漂わせていた。すれ違った瞬間にこちらの心の底まで見透かされたような、 そんな感じだった。気味が悪いというより、恐ろしい。この田舎に、一体何の用があったのだろうか。 某年 某月某日 水曜日 あまり頭を使わなかった翌日は夜明け過ぎに目が覚める。 普通なら頭を使って疲れるから、次の日は遅くに目覚めるような気がするのだが。 帰宅途中、地面に変な模様。矢印ではなく、丸い模様だ。 2本の線の間に文字のような、模様のようなものが描かれている。真ん中には幾何学的な図形。 田中が言っていた「魔方陣」らしい形だ。いよいよ気味が悪い。思い切って田中に写真を撮影して送り、 助言を求めた方がいいのだろうか。一応撮影だけはしておいた。 奴も忙しいだろうから迷惑だろうが、こうも気味の悪い事が続くと誰かに相談せずには居られない。 こんな事で相談できるのは、数ある知り合いの中でもアイツしかいないだろう。 神主の伊藤にお払いを頼むという手も無い訳じゃないが、宗教に頼るのは何か生理的に嫌だ。 昨日、自然エネルギーが不安定などと書いた矢先の出来事。 雲仙第3地熱発電所の建設予定地で大規模火砕流が発生。計画の後退は必至との事。 既存の2つの発電所への影響は今のところ無いが、最低限の要員のみ残して職員は退避。 自衛隊が災害出動して、例の骨董品を引っ張り出してきた。そう、74式戦車。 10式戦車と置き換えが進んで滅多に見かけなかったのだが、まだあったらしい。 で、例の投光機が活躍している。やはり明るい。ニュース映像を見る限りでは新人らしき姿が多かった。 やや不謹慎な気もするが、きっと良い訓練の機会になっているのだろう。 朝一で依頼の舞い込んできたチップの測定を行った。 明日の午前中という納期は少々早いが、今の自分ならば余裕を持って提出できそうな気がする。 疲れたので19時過ぎには休む事にする。 某年 某月某日 木曜日 夜明け前に目が覚めた。望遠鏡は使わず外の様子を窺ってみる。 やっぱり張り込み?がいた。自転車の一件で目を付けられたのだろうか。だとしたら酷い話だ。 出社の途中、また地面に変な模様。今度は自宅の方に矢印が向いている。 一昨日すれ違った奴が描いた魔方陣とやらなのだろうか。田中の話にはやけに現実感があった。 今まさに何らかの魔法がこの街のどこかで行われているような気分になってくる。しかしその一方で 魔法など存在せず、これは自転車絡みの手の込んだ嫌がらせなんじゃないかという疑念も存在する。 夕方のニュース、大陸で資源開発に当たっている邦人が襲撃 護衛が強化、資源探索は重要 今日は火砕流の発生は無し 74式戦車がエンジン故障、大陸へは無理?、寄る年波 誰かがドアを叩いている。人が日記を書いて精神を落ち着かせtってくぁwせdrftgyふじこlp;@
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「NHKにんげんドキュメント・補給仕官と向き合う」 BGM:中島みゆき「地上の星」 ナレーション:田口トモロヲ 鈴木さん:F世界の入植最初期から補給所に長く勤める。 現地の人手不足から復興支援と現地運営も兼任し F世界に日本の基盤を築く礎となった。 補給仕官の朝は、早い。 「陸自で体動かすより、書類書いてる方が向いてたんですね」 補給仕官の鈴木さんは手元の書類を確認しながら言った。 鈴木さんは今日も電話を片手にキーボードを叩く。 まず、書類の入念なチェックから始まる。 用途が怪しいもの、不明な書類は線を入れて弾く。 直接陳情をしに来た専任陸曹や一尉と対面し舌戦を繰り広げ、 無理な作戦をたてようとする連隊参謀に書類を突きつける。 「参謀は戦略を語り、専任仕官は現場を語り、補給仕官は現実を語ります。 上と下のすりあわせが大事なんです」 ドケチと呼ばれても構わない。 物資には国民の血税が使われているのだ。 米の一粒たりとも無駄には出来ない。 最近はトラックが足りないと口をこぼした。 「やっぱり一番嬉しいのは皆さんが補給貰って喜ぶ顔ね。この仕事続けてよかったと思う」 「機械だけでは突発的なトラブルは対応できない。人間だから出来る仕事があるんです」 「機械が幾ら進化したってコレだけは真似できないんですよ」 視察の日。彼はファイルを鞄に詰め、補給基地へ向かった。 物資の輸送はコンテナが主流だ。 一口にコンテナといっても冷蔵専用コンテナやタンクコンテナなど多種多様であり、 取り扱いにも気をつけなくてはいけない。 「上の意見を現場に理解させるのは大変だね。その逆もだけどさ」 作業監督に直接荷物の中身を説明してどうやって扱うのか注意を促す。 「辛いのは軍機で中身が説明できない時だね。 中を説明できないから作業員に納得して 働いてもらえないし、荷物の扱いもぞんざいになる。 そういうのに限って中は取り扱いが難しいものなんだ」 ガントリークレーンや工作機械の改良で作業は自動化したとはいえ、 結局関わるのは人間なのだと鈴木さんは言った。 「コンテナ一つに人の生活、命も掛かっているからね。大事にしないと」 輸送科の大谷さんとはもう10年の付き合いになる。 「0304号車のサスがヘタレた?回収車と代替廻せるから復旧まで3時間は掛かるか。 タングステン砲弾?輸送用のパレットと弾は此方にあるから次のサイクルで載せる。36時間」 大谷さんの手に掛かれば、聞くだけで到着時間が判ってしまう。 しかも積み込みや復旧時間全て込みで。 判断は速く正確で素人に真似のできる事ではない、匠の技である。 「運転だけ出来てもね。車種による車幅の微妙な違いとか 他社の輸送ルートや運転時間を理解してなきゃいけない」 「たいていの若い人はすぐやめちゃうんですよ。 弾を撃つため自衛隊に入ったとか、イメージと違うとか、話が違うとか その癖レジスタンスに襲われると真っ先に逃げ出す。 輸送任務は増えています。でもそれを乗り越えられる奴は少ない そうゆう根性のある奴がこれからの輸送科に必要とされています」 目下の問題は人材育成と人手不足である。 大型免許を持っているだけでは現場の役に経たないと彼は話した。 20年前はがらんどうだった補給科の事務所が 今では大量の機材が運び込まれ拡張されている。 数年前までは有事になることすら考えられなかった。 「輸送の手間は減ったのに扱う量は増えるばかりですよ。 物資が増えたのは機械化が進んだのと隣国がきな臭いせいですかね」 部隊の状況と輸送力のバランスを考え配分物資量を計算する。 問題は物品の種類と量。 一度に運ぶ種類が多いと輸送効率が下がり、少なすぎても現場での作業に支障をきたす。 「船や列車の輸送が足りないと知っていても放り出す訳にはいかないんですよ。 移動が止まれば組織は死にます。それは自衛隊も民間も同じです」 現場では常にあらゆる物資が必要とされている。 その中から必要なものを抽出し、上限の決まった輸送力を使う。 この見極めが難しいのだと鈴木さんは語った。 現地の輸送状況を聞く。 この報告で輸送計画はガラリと変わってしまう。 重要なのが港の積み下ろしとそこからの輸送である。 後方での輸送は現地ゲリラや輸送路妨害を気にしなくていい分輸送は容易だ。 民間の協力も仰げ、道路や施設も整備されているためである。 道一つとっても大陸では10tトラックが何台も走れる道路や橋は限られている。 中世レベルの文明の道路ではさほど重量物が通ることが考慮されていないからである。 他にも問題はあった。 港での積み下ろし作業と荷物確認、現地業者とのすり合わせや盗賊対策である。 輸送時間の大部分が移動と安全対策に使われる。 これまでは港でのコンテナ内の物資確認のためコンテナをひとつひとつ開封して調べていた。 コンテナの鍵を開け中の物資と個数を確認する。それを日に何百回と行っていた。 当然作業には時間が掛かりいくらあっても人手は足りない。 だが積み下ろし作業は中断できない。 そのため港や海岸には大量の未開封コンテナが並べられ、中の物資を腐らせていた。 そういったことが昔はあったのである。 そこで生み出されたのがRFIDの本格的な導入である。 コンテナに無線タグを取り付け、開封せずとも中を確認できるようにしたのである。 更に後方で各科別や作業段階別、仕事ごとに応じて一つのコンテナに複数種の物資を入れたのである。 各作業段階で設けられた重量確認と交通要所別に設けられたIDチェッカーにより 不良在庫は劇的に減った。 「物資が届かないと困るのは私だけど、現場の人にとっては死活問題だね」 「もちろん輸送される物資はコンテナひとつまで私が確認していますよ」 パソコン画面にはトラックのナビゲーションと道路状況、ID表示が映っている。 「この仕事を始めたばかりのときは情報の多さに混乱しましたよ。 でも現地の状況を見て、自分はしっかりしなきゃいけないと思いました。 あの厳しい光景が目に焼きついたからこそ今の自分が居るんです」 鈴木さんが陸自の普通科から補給科に入ったルーツは意外なところにありました。 「現地では常に物が足りないんです。あの時車両の交換部品があれば撤退出来た。 いえ、62式の弾がもう少しあれば持ちこたえる事が出来た。 私達にはほんの少し物資が足りなかったのです」 彼はしばしば昔の仲間が眠る地へ向かう。 部署が変わっても前線の専任陸曹や一尉に学ぶことも多いとか。 部隊の視察をしようと輸送科について行った先で王国残党ゲリラに襲撃され 撃たれそうになることもしばしば。 近年は新たな問題も持ち上がってきている。 RFIDが導入され遅延や間違いが前より少なくなって届くようになった。 しかし、たとえ部隊に物資を満載したコンテナが届いても そこから更に個々の兵士たちの手にどうやって渡すのか。 結局はひとつひとつ開封してコンテナを確認しなくてはならなくなった。 大まかな物資配分はRFIDがある。 物品の大量輸送はコンテナが勝る。 しかし個々の物品配分に関しては個別輸送に軍配が上がる。 個別輸送の配分性とコンテナの大量輸送を備えた輸送パレットの開発は 多くの補給士官たちの頭を悩ませてきた。 その究極の選択に、今再び―― 現代の匠が挑もうとしている。 「禿げ隠しですよ」 彼はそう言いながら帽子を脱いだ。 円形脱毛症。日頃の補給業務の厳しさとストレスを物語る。 「職業病ですね」 補給仕官にとって物流機材や物資以外に 各部署の担当の性格や状況を把握しておくのは義務であり、また責任なのだ。 ある日、彼は何気なく大手通信販売、密林の特集を見ていた。 バラバラに棚に並べられた商品。棚ごとに設置されたコード。 「これだ」 棚ごとに番号を割り振り、一区切りごとに管理する。 開いた棚には順次物資を詰めスペースの無駄をなくす。 バラバラになった物資の管理は棚に割り振った番号で管理し、 棚間移動の手間はコンピューターが最短ルートを計算する。 新型輸送コンテナの試作が始まった。 コンテナ内に複数の棚を設け、輸送の際に中身がずれないよう コンテナサイズを調整し規格化した。 コンテナ内部のスペースを一杯に使え、なおかつ取り出しやすいよう 棚をレールスライド式にした。 使用後の空になった棚を回収できるように棚を折りたたみ式にし 棚とコンテナを別の区分とした。 確かに「即使用できる棚」を設けることで 現地の兵士たちがコンテナを回収してひとつひとつ中を見て回る手間は減った。 しかしこのアイディアには欠陥があった。 コンテナサイズを規格化を徹底しすぎた為に過剰包装が出ることになったのだ。 通常、一つの棚ごとに一つのコードが割り振られ一つのコンテナが用意される。 その中には大小様々な製品が入る。 そのため出荷段階での倉庫内の無駄は少ない。 だが輸送段階になると包装に無駄が出た。 例えばA5サイズのソフトカバーの単行本一冊があったとする。 これを段ボールの台紙を当ててビニールパックを施し 更にほんの2倍の大きさがある段ボール箱に入って送られるといった問題が発生した。 本自体の厚さは2センチ、段ボールの厚さは7センチ。 つまり、この箱には同じ本が6冊は入る計算になる。 たかだかソフトカバーの単行本1冊に段ボール箱は必要ない。 これは明らかに過剰包装であった。 鈴木は愕然とした。 これは包装容器のサイズを常にある程度の余裕を持つように規格化したことからきている、 サイズ別に別個の包装をするのは包装の生産ラインと資源の無駄だからである。 同じ包装は使いまわせるという利点もあったからだ。 箱に余裕があると余計に詰め込むことが出来、 空間には綿を詰めれば箱の中のずれが解決できるためである。 包装は3つの段階に分かれている 1:ビニールパックに入れる・・・傷からの保護 2:段ボールの台紙を当てる・・・より大きい傷からの保護 3:2倍の大きさがある段ボール箱に入れる・・・発見率向上のため。 本来1又は2の段階で輸送されることが理想であったのだが、 コンテナ内に複数種の製品を入れ輸送するに当たり、小さな製品には3が必要となった。 すなわち小さな製品は発見しにくいのである。 旧来では(例:本の専売)同サイズの同製品を同時に輸送することで 商品間の隙間をなくし、2と3の包装を省いていた。 問題に対しコンピューターへ製品ごとに縦横の幅を入れることで解決しようとした。 既にある程度の大きさ別や保存法別によるコンテナサイズの調整はやってしまっている。 それでも過剰包装は出る。 もう限界だ、プロジェクトに暗雲がたちこめた。 鈴木は一週間悩んだ。 しかし答えは出なかった。 その時だった。 輸送段階直前まで頑丈な箱が必要であり。 貰い手はそこまで頑丈な箱を必要としていない。 「なら箱から抜いて渡せばいいじゃないか」 逆転の、発想だった。 大中小の箱を用意し、似たサイズの製品を1又は2段階の包装で箱に詰めた。 それぞれの箱に商品リストを貼り付け、箱にそれぞれコードを振った。 棚を箱に置き換え、区域別に輸送することで解決した。 更に兵士たちへ旧来より性能の良い弾帯ベストを持つことを普及させた。 すなわち一定の物資を消費する傾向にある兵士たち 各個人が持てる保存容器を増やした。 過剰包装は減った。 こうして、遂に国からも、この計画にGOサインが出された。 「数年以内に状況を好転させてみせますよ。物資を待つ人が居るからね」 彼はそう言い笑った。 「たまにね、家族から手紙が届くんですよ。仕事が忙しくて本土まで 会いに行けないですけど。私には一番の補給物資です」 「他にも現地住民からわざわざ手紙が届くこともあるんですよ。 ありがとうって。ちょっと嬉しいです」 「入植初期は文化の違いや欠乏で散々でした」 魔法ゲリラが激化した○○年には一時期撤退も考えられたという。 ここ数年で飛躍的に増えた物資を管理するために鈴木さんは 数ヶ月前から整備され始めたインターネットを使った部隊別の個別管理を始めている。 スタッフは彼に現地住民との関係はどうだと聞いてみた。 「現地住民に仕事を任せているか?・・・ですか? 順次移行しようとも考えていますが当分はありません。社会システムが全く違う。 大陸は社会基盤がまだ確立してない。トータルで考えると此方の方が安く付きます」 「一度引退しようと考えたこともあるんです。 でもね、大陸の街を見ているとね。まだまだ飢餓や病気で苦しむ人たちが居る。 あれじゃ駄目だ!私ならもっと上手くやれるってね。 私を慕ってくれる多くの人達も居る。辞めなかったのは彼らのおかげです」 まだまだ必要とされている、それだけで彼は頑張れると言う。 近年、彼がしてきた長年の政策が実り日本国内の状況も改善してきている。 大陸の魔法技術と日本の技術者との仲介を行うのに忙しい。 全国からは魔物の生態に目を付けた科学者や企業などから依頼が殺到しているそうだ。 「現在30人体制で特許管理や技術提供の場を設けていますが 需要の急増に対して供給が追いついていない状況です」 と、嬉しい悲鳴をあげている。 今年の売上は10億新円を超える見込み。 日本本土の新聞でも取り上げられ、最近は自治も検討され始めている。 魔法を本土の人達に知ってもらおうと、安価なアーティファクトの提供も始めたそうだ。 最初は奇異の目で見られていたドワーフやダークエルフも日本の風景になじみ始めている。 海外でも貴族達の投資に注目されていると言う。 NHKスタジオ 「と言う訳でアーティファクトのゴーレムを用意してきました」 テーブルの上で手の平サイズの人型ゴーレムが動いた。 「モーターやエンジンなしに!?どうやって動いてるの!?」 「刻印だよ。魔力で動いてる」 ぱんつみたいだけど恥ずかしくないもん ぱんつの様な社章がトレードマークの名古屋市に本社を置く 山田工業所。 「いやはや、魔法刻印の再現に苦労しましたよ。刻む順番や使う金属が重要なんです」 苦労を語る山田さん。彼は○○年産業功労賞を受賞した。 手作業との決別。アーティファクトの生産を賭け、 ドワーフの伝統技術と日本の最先端技術が手を組んだ。 「戦車や戦闘機の装甲版には魔法刻印が刻まれるようになったんですよ」 将来の夢は何ですか? 「ストライクな魔法少女達を空に飛ばせるようになりたいですね」 ずれた眼鏡をなおしながら、 壁に貼られたポスターを見つめ真摯に語る彼の表情は職人のそれであった。 今、彼は新しい装備の研究をしている。 より使いやすく、より強力なエンジン。 「試行錯誤の連続ですね。 今朝、魔導エンジンの出力実験をしていたら実験場が吹き飛びましたよ」 「水冷式エンジンと合わせてみたら意外に相性が良くて、 アナログも捨てたものじゃないって思いましたね」 自分の作ったエンジンが日本の復興に使われ、かつての国の姿を取り戻す。 そうなるといいねと彼は笑った。 「○○年日本同時魔法テロの影響でもう工場は終わりかなと思っていました。 工場は全壊、従業員が全員無事だったことだけが救いでした。 明日から路頭に迷うことになる、私はエンジンを作ることしか知らない。 そんな私がどうやって家族を食べさせていけばいいのかと絶望していました。 その時、手を差し伸べてくれたのが鈴木さんです。彼には本当に感謝しています」 「自分達の魔法(技術)を使って大陸の魔法を見返してやろう」 「彼には励まされました。まだ全部無くなった訳じゃない。 人も希望も残っているってね。年甲斐もなく泣いちまいましたよ」 「魔法との融合が注目されている時代じゃないですか。。 魔法を科学技術と合わせる時にだからこそ 機械ではできない作業と機械作業を取り持つ職人技は必要になってくる」 最先端だからこそ活躍するアナログな職人。 かつての日本を取り戻したい、守りたい。 そんな思いが今日の日本人の力となっていると語った。 深夜2時、補給所の兵站管理部に突如異変が。 補給手順の変更。 決意を固めた部下達の報告を聞き、参謀本部の工藤さんは渋い表情を作った。 「時代が変わったんですね。 一方通行だった補給申請が現場からも行われるようになったんです。 現場主義の流れでしょうね。 でも大事なのは物資に限らず自衛官の命ですから。 これが我々のためになるなら老兵は身を引きます…」 飢餓、オイルショック、肥料の不足… 初期の混乱から立ち直りつつある日本。 その力はこうした人々の努力から産まれているのである。 一部輸出解禁に伴い、日本の中小企業の持つ圧倒的な品質を持つ製品に 海外の人々も目を付け始めた。 先日締結されたレンドリース法ではエルブ国に貸与されることが締結されたのも 日本製の剣や食料であり特に加工食品は 海外でカレーラーメンブームを巻き起こすほどである。 鈴木さんの事務所の部屋には12人分のヘルメットが立て掛けられている。 どれも綺麗に磨かれ埃ひとつない。 「かつてエルブ国は私達を助けてくれた。火事にホースを貸してくれた。 今度は此方が貸す番ですよ。困っている隣人にホースを貸したい。水には困らないように」 「いや~本当すごいですね」 「輸送ってこんなに手間かけてるんですね」 ライドナ王国軍に襲われた彼を助けたのは50年前のエルブ国であった。 エルブ国は食料と安心できる寝所の提供。安定した輸送路を保護した。 各種条約により飛躍的に日本の輸送は改善することになり国内問題も一応の安定を得た。 鈴木さんは異国で初めて食べたイケ麺(しょうゆ味)の味は忘れられないという。 日本のカレー、ラーメン、食べ物の相互理解はどれだけ時代が移り変わろうとも 変わらないもの、なのかもしれない…。 今日も彼は、日が昇るよりも早く書類の整理を始めた 明日も、明後日もその姿は変わらないだろう そう、補給仕官の朝は早い─── 輸送の歴史~補給仕官の朝~ 完
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763: 弥次郎 :2021/05/15(土) 11 17 32 HOST softbank126066071234.bbtec.net 憂鬱SRW GATE 自衛隊(ry編SS 集う力の山猫たち 電子ネットワーク。 C.E.世界および融合惑星、さらには特地(F世界)にまで伸びる電子と信号のネットワーク。 日々膨大な情報が飛び交うそれの中で、一般とは少し離れたネットワークが存在していた。 それは企業の精鋭戦力たちだけが専有する特別な回線。余人が入り込むことを許さない、選ばれた者たちの空間。 そこには、今日は多くの人間たちが集っていた。社会的にも、武力的にも大きな力を持つ人間たちが。 一般にこれを「お茶会」と呼ぶのが通例となっている、一種のサロンが開かれていたのだ。 「随分と久しぶりの面々が集まっていますわね」 「ええ、本当に……もう4年も過ぎてしまいました」 「まったくだ。卿らはもう妻になったのだったか?」 「うふふ……」 「素敵な生活を送っておりますわ、ええとても」 「……家族サービスは大変なんだけれども」 「それは予測されたことでしょう、アマツミカボシ。結婚とは契約であり、営みですから」 「まったくですよミカ君。私は超充実してますけどね!」 「仕事も兼ねているから忙しいんだがな…」 「しかし、こうして特地に派遣されていたリンクスが集まるとはどういう事態だ?」 そう、彼らは4年前の邪神戦争においてヴォルクルスと戦った面々であった。 4年という歳月を経て、結婚をしたり子供が生まれたり、あるいは出世や転戦をしたものなど様々だ。 そんな彼らが、久方ぶりに電子ネットワーク上とはいえ集合したのは決して偶然ではない。 「さて、そろったようですね」 主催者たる大空流星は外向きの丁寧な言葉を紡ぐ。 主たる参加者は企業の精鋭戦力たるリンクスたちであり、あるいは上位ランカーに食い込むようなレイヴン達。 彼らがこうして集められたのは決して同窓会のようなものでもなければ、4年前の戦いの祝勝会というわけでもない。 れっきとしたビジネスの話であり、同時に本業たる戦いの後始末にかかわる話だ。 そして何よりも、彼ら共通の友人---相手は恐れ多いと感じているだろうが---のかかわる重大な話であった。 「伊丹耀司……今はもう一佐にまで出世しているそうですが、彼から個人的に依頼が来ています」 ほう、と誰もが興味をそそられた。 彼のことはこの場にいる誰もが買っていた。それこそ、スカウトの手紙や紹介状を何通も送ったほどに。 彼の成長能力、戦闘適正、謙虚な態度、そしてこれまでの実績。どれもが平凡な人材とは一線を画すものだったのだ。 そんな彼のことは誰もが気にかけていて、個人的な友誼を結んでいた。個人ごとに形こそ違えども、様々な形で。 「依頼というと、何か特地…ファルマート大陸でなにかあったのですか?」 「いえ。彼に直接何かあったわけではありません。彼の依頼は……これです」 流星の操作で、全員に情報が瞬時に共有される。 彼の依頼、それはファルマート大陸東部に展開している米軍の捜索と救助をPMCに依頼したいので仲介してほしい、とのものだった。 「……米軍の?」 「ああ、そういえば、あちらの世界のアメリカは随分とファルマート大陸の東部に入れ込んでいましたわね」 「彼らの勤勉なるは見習うべきと思うが…しかし、捜索と救助とは穏やかではないな。流星、もちろん説明してくれるだろう?」 「ええ」 次の操作で、そのミッションの背景についての情報が提示される。 「ご存じの通り、あちらの世界のアメリカ政府は政権交代後、ファルマート大陸東部に大々的に進出しています。 市場の獲得や現地の資源の調達などを目的とし、さらには『民主主義の輸出』までもを考えているようです」 どこからともなく笑い声が回線に乗る。 それには流星も苦笑するしかない。何しろ、やろうとしていることが実に無謀で、ともすれば滑稽に見えるのだから。 そして事実として、アメリカはファルマート大陸という名の泥沼にはまり込み、身動きが取れなくなりつつあった。 それを証明する言葉を流星は紡ぐ。 764: 弥次郎 :2021/05/15(土) 11 18 11 HOST softbank126066071234.bbtec.net 「ですが、その実態はお寒い限り……広すぎる不慣れな土地、兵站線の維持の苦労、現地住人との不和。 そしてとどめに、元の世界において怪獣が出現して国家を傾けるかのような大きな被害を出したことで、急遽戦線の縮小が行われています」 「ああ、そういえばそんなこともありましたね」 「幸い、怪獣自体は討伐を終えています。が、そんな状態の本国を放置できるわけもなく、大規模に展開していた軍は撤収を命じられました」 「となれば……発生することは一つですわね」 オディールは自らの予想を代表して述べた。 「薄く広く展開した軍を本国からの支援抜きに撤兵させることが困難になった……いえ、それ以上に、現状把握さえ難しくなってしまわれたのですね」 「その通り。どのような装備も補給や兵站が途切れれば邪魔でしかない。けれど、余りにも広く広げたがために、そして支援体制が乏しく、孤立しているとのことです」 「そして、本国に新たな支援を送る余裕はない。そして、連合は表向きには米国進駐地域に進出しない取り決めが交わされていますわね」 「クソですねー、それ。つまり、見捨ててるってことじゃないですか」 「桜子、卿の物言いは素直でよろしいが、もう少しオブラートに包むべきだ」 「でもクソじゃないですか?お上の都合で何万人もの人間を不慣れでよくわかっていない土地に放り込んでおいて、無責任もいいところです」 事実として、桜子の言葉は多くのリンクスたちの意見を代弁していた。 そうなったことは民意なのだからしょうがないだろう。だが、その民意が結果的に何万人もの人間を苦しめておいて尻拭いしないなど、まさに無責任だった。 それが文民統制というものであることはわかっている。だが、文民統制はあくまでも軍の独断専行を防ぐ機構であり、正しい選択を選べる保証ではない。 そして、その文民を選ぶのは無責任な大衆という存在であり、その大衆の判断能力の保証はどこにも存在していないのが現実。 連合では少なくとも民衆の声にこたえることという基本的な原則は変わらなくとも、民意に絶対性を見出してはいない。 まあ、これは民主制についての教訓や積み重ねの違いというものがあらわになっているのでしょうがないといえばしょうがないのだが。 「そして、この事態を知った伊丹一佐は、義憤に駆られました。 日本国政府も、自衛隊も、連合も手を出せないところで、友誼を結んでいた米軍が苦しんでいるのを見過ごせなかったのです。 現地にいるアメリカ軍の高官からも、極秘に接触があり、内情を打ち明けられたのだとか」 「……ソース元はリー中佐かな?」 「ご明察です、タケミ君。彼は機動兵器運用の研究にかかわり、伊丹一佐とも顔見知りでした。 彼は一度は本国に呼ばれていましたが、左遷の憂き目にあっているようです。 そして、現地でこき使われているようですね」 ともあれ、と重要なのはここからだ。 「その取り決めの穴をつくことができるのが傭兵ということになります。 我々は確かに基本的には地球連合傘下の企業連に属し、傭兵の統括組織に身を置いています。 ですが、雇用関係を結べば、我々の所属は一時的にではありますが雇用主の下に入ることになります」 「つまり、取り決めの縛りを抜け出せるんですね」 「はい。ですが、ファルマート大陸に展開可能であり、同時に相応の規模を持つPMCに依頼するのが困難であり、我々を介するという形になったわけです」 「それならば異論はございませんわ」 「ですが、問題なのは報酬。如何に私たちの友人とはいえ、ロハでPMCを動かすのは考え物…」 「身銭を切るのはさすがに。とはいえ、そこは考えがあるようですね?」 特にお金にシビアな欧州組の言葉に、流星はうなずきを返す。 「あちらの世界のアメリカおよび日本政府からの現物での取引を行うというのが提案されています。 現物でダメならば、大洋連合を介して現金化も可能ですので、PMCを動かすのに十分なモノかと思われます」 「現物……」 「美術品、嗜好品、コレクションとしての価値のあるモノなど、アメリカから出せるだけは出すそうです。 ですが、正直なところ、報酬の保証はありません。依頼は過酷、期間は長期、報酬少な目、名誉と満足感はあり。そんなものです」 なんともふざけた依頼だ。このようなものを実際に出そうものならば、審査の時点で弾かれること請け合いだし、受けようという好事家もいないだろう。 なんだかんだ言っても傭兵というのは金にうるさい仕事であり、シビアである。だから、こんな依頼よりも他のものを選ぶのが賢いというもの。 「まあ、彼も無茶を承知で、私たちからの依頼という体で傭兵を集めたいようです」 「ですよねぇ。普通、やりませんよこんなの…」 「ファルマート大陸東部全体に薄く広く展開している上に、組織的撤退が難しいとなれば……」 「控えめに言って割に合うか微妙だな」 765: 弥次郎 :2021/05/15(土) 11 18 57 HOST softbank126066071234.bbtec.net ネガティブな言葉が自然と漏れる。流星だってそんなことは承知している。 依頼主である伊丹もそれは把握していることであろう。こんなものは慈善事業もいいところであり、言い方は悪いが拝金的なところもある傭兵に頼むことではない。 PMCに限った話ではないが、これほどの悪条件の依頼を受けてやるのはよほどの事情がなければ在り得ないところ。 「ですが、受けましょう。この依頼を」 「姉さまもそう思いますか」 「やりましょう」 「クハハ、やらざるを得ないだろう、ここまで言われてはな」 「心のぜい肉っていうか…ふぅ…断れないじゃないですかー」 「異論はない」 だが、リンクスたちはそれを受けると宣言した。彼らに限らず、参加者たちは次々と了承を示した。 個人的な依頼だからというのもある。伊丹一佐との友誼もある。同情心が湧いたことも確かだった。 自分の持つ伝手でPMCを動かすに足る満足な報酬がない可能性も考慮してもやりたいと思ったのだ。 いうなれば惻隠とでもいおうか。少なからず縁を結んだ相手が異国の地で苦境に陥っているのを座して眺められるほど人間性は薄れていない。 「感謝申し上げます。プライベートな仕事の依頼ということですので、相応に慎重にお願いします。 仕事の割り当てが決まり次第、こちらから連絡を入れていきますので。必要に応じて『招集』をかけます」 そう、本来ならば傭兵を私的な依頼で動かすのは難しい。権利や権限、あるいは企業の精鋭としての権力を以て動かすことは容易ではある。 桜子など次期社長夫人であり、その気になれば企業傘下のPMCを自在に動かすこともできる。ただし、できるからと言って乱用は許されない。 今回の件に関しても、信条的には理解を示されるかもしれないが、一歩間違えば私的な権力の乱用とさえとられかねないものだ。 だが、そのリスクを冒しても良いというだけの理由が存在した。 何とも愚かしいかもしれない、けれど、とても人間的で、ロマンがあることだった。 報酬だけでは満たされない満足感、精神的な充足。そのために動いても良いと、それだけ彼を彼らは買っていた。 「では本日は解散とします。皆さんのご協力、感謝します」 「報酬でお願いしますわ」 「ええ、新婚というのは物入りですもの」 「生々しい……」 「タケミカヅチ、貴方もでは?」 「うふふー、私もです」 「ハハハ、いいものだな慶事が続くというのは!」 若干被弾したが、まあいいだろう。いいのだ、未だに結婚できていなくても。人生はまだまだ長いのだ。 そう自分に言い聞かせながらも、流星は自分の端末を操作してネットワークからログアウトする。 そして、あらかじめ用意していたメールを一斉に送信する。それは、自分の伝手のあるPMCへ送った依頼だ。 個人の持ちうる権力はこういうところで使うべきではないかと、流星は思うのだ。 そしてミーティングに参加していた彼らもまた、自分と同じように動いているだろうと予測していた。 なんだんかんだいいつつも人間性も担保されているのがリンクスたち傭兵だ。伊丹一佐の義憤を理解でき、同じく義憤してしまうだろう。 それを利用している、というところには若干の負い目を感じてしまうところもあるが、それはそれ、だ。 「しかし、まったく愉快な話だ」 時代的に見て過去の世界の、ただ一人の自衛官がここまで自分たち連合や企業連という巨大な組織を動かしてしまう。 しかも、悪意などからではなく、ただの善意、小さな意志一つを以て大々的に動かしてしまったというのはすさまじいものだ。 それだけの影響力があり、評価を受ける逸材。やはり、欲しい。主人公であるということを差し引きしても、彼という人材は高い価値を持つ。 試すまでもなく、というかこれまでさんざん評価してきたが、彼はまぎれもない黒い鳥。それも相当な近似値だ。 「いつか、ともに戦えるといいですね」 そう呟いて、流星は笑みをこぼした。 力を持つ山猫の、獰猛とさえいえる笑みであったのは本人は知らぬばかりであったが。 766: 弥次郎 :2021/05/15(土) 11 19 41 HOST softbank126066071234.bbtec.net 以上、wiki転載はご自由に。 お茶会をSSにしてみました。
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115 :UNNAMED 360:2015/10/27(火) 18 55 53.84 ID IuJ20xJ9 56話 旅人 ジェイク・マイヤーの手記1 「ゴルグガニアが陥落したらしいぞ?」 とある国の小さな町の酒場で、そんな噂を耳にしたのが始まりだったのかもしれない。 開拓が進まず、寂れていった故郷の村を棄て、当ても無い放浪の旅を続ける私は、行きつく街々の酒場などで噂話を聞いては話題に上がった場所に、立ち寄るなど自由気ままに過ごしていた。 「ゴルグガニアが?あれ程巨大な防壁に囲まれた城塞都市が陥落するなんて、どんな国と戦ったんだ?」 「海の向こうの国と戦ったらしい、ええっと、ニッパーだかニッポーだったか、妙に言いづらい名前の国だ。」 「ニパンだった気がする、で、そのニパンが何故ゴルグガニアを攻撃したかと言うと、国交を結ぶために派遣した使節団が殺されたかららしい。」 「おいおいゴルグガニアは正気なのか?そんな事をしたら、どんなに大人しい国でも怒り狂うだろうよ?」 「確定情報じゃないんだが、派遣された使節団は武装もしていないし、魔力も全く無かったらしい、それで舐め腐ってニパンに戦争を吹っかけた様だが・・・。」 「魔力無しを使節として派遣するなんて完全に人選ミスだろ、しかも丸腰でか?迂闊に戦争を仕掛けたゴルグガニアもそうだが、ニパンとやらも正気とは思えんな。」 私もこの話を聞いた時は、信じられなかった、魔力が低い者を使節として派遣するという事は、それだけ力のない国だという事を宣伝するようなものだ。 少なくとも、上級魔術師を使節として派遣しなければ、相手の国にも失礼と言う物だ、少なくともゴルグガニアには不評を買った事だろう。 「しかし、ゴルグガニアが陥落したという事は、ニパンにも強力な魔術師が居たと言う事だろう?何故使節団に加えなかったんだ?」 「最初(ハナ)っからゴルグガニアを攻め滅ぼすつもりで挑発したんじゃないか?無礼に出て来ないなら国交を結んで、そうでないなら蛮族として滅ぼす、そんな所だろ。」 「それはそれで回りくどいな、しかし、態々海の向こうから要塞都市を落とす程の戦力を派遣するなんて、凄い国なんだな。」 「流石に誇張だろうが、たった一晩でゴルグガニアが瓦礫と化したらしい、ま、そんな事、御伽噺の食人鬼でも無理だろう。」 私は、何度かゴルグガニアに立ち寄ったことがある。見上げるほどの大きさの立派な防壁に覆われた難攻不落の要塞都市、それが瓦礫の山と化すなど到底信じられなかった。 酒場の酔っ払い共は、まだゴルグガニアを陥落させた謎の国の事を話題に、酒を煽っているが、それを尻目に、私は酒代を女将に渡して宿に戻り、旅支度を始めた。 私は馬も使わず、自分の足で街道を歩き続け、1か月ほどしてゴルグガニアに到着するが、そこで信じられない光景を見た。 巨人の槌で叩き壊されたかの様に、大穴の開いたゴルグガニアの防壁や、無残に崩れ去った家屋、そして何よりも見た事も無い巨大な鎧虫の群れが街に集っているのだ。 斑模様の服装の集団がぞろぞろと、要塞都市周辺を歩いている、恐らくあれが例の海の向こうの国・・・ニパンの兵士だろう。 兵士と同じく斑模様に塗られた角を持つ鎧虫や、橙色に塗られたひときわ目立つ一本腕の鎧虫が使役され、瓦礫を運び出す光景を見ると、口を魚のようにパクパク開閉させる事しかできなくなる。 「これは一体どういう事だ・・・あのゴルグガニアが本当に瓦礫になっているなんて・・・・。」 私は無意識にそう呟いていた。 『アー・・・・ソコ・アブナ・ヨー』 「うわっ!?」 気が付けば、斑模様の兵士が、真横に居た。視界を移すと、瓦礫を積んだ緑色の鎧虫が後退しながらこちらに迫ってきていた。 慌てて、飛び退くと、目の前を巨大な鎧虫が、ピーピーと、奇妙な鳴き声を上げながら通り過ぎて行く。 『リョコー・ノ・カタ?イマ・ココ・アブナ・イョー。』 「あ・・ああぁぁ・・・。」 斑色の兵士が大陸で使われている物とは違う言語で話してくる、しかし、身振り手振りで何かを伝えようとしているのは解るが、如何せん何を言っているのか分からない。 「わ・・・私は、放浪の旅を続ける根なし草な者でありまして・・・特に身分を証明するものは・・・。」 その奇妙な姿と、顔全体を黒く塗った戦化粧、会話が通じない異国語と言う組み合わせが揃い、私は恐怖を覚え後ずさりする。 『アー・・・ゴルグガニア、崩レる、壊れル、怪我人、沢山、近寄ル、危なイ。』 斑模様の兵士は、今度は片言ながら大陸共通語で話し、ゴルグガニアを指す。 「あ・・貴方達がニパンの兵士ですか?ゴルグガニアは一体どうなってしまうのでしょうか?」 『アー・・・ゴルグガニア、復興すル、時間、必要、ニホン、街の住民、助けル、保護スる、治療する。』 これは驚いた、ニパン・・・いや、ニホンと発音していたか、この兵士達は、ゴルグガニアの住民を奴隷とせずに、保護し、治療まですると言うらしい。 『ゴルグガニア、戦い、あっタ、何故、来タ、ました?』 本来ならば戦の在った地域は、治安が悪くなり危険で、私の様に野次馬根性の者や、戦死した兵士の武具などを目当ての``腐肉食らい``しか訪れない。 「いえ、興味本位です。ニパ・・・いえ、ニホンはこの街を復興させると言うのですか?旅人の拠点として利用している人も多いので、助かりますが・・・。」 『ニホン、戦い、したくなカった、デモ、ゴルグガニア、襲って来た。』 どうやら、ニホンは、ゴルグガニアとの戦争は不本意だったらしい、しかし、何故この城壁に大穴を開けられる程の魔術師を使節として派遣しなかったのだろうか?力を持つ者ならば戦争を回避できた筈であるが・・・。 『ニホン、この大陸、知らなイ、国交、結ブ、きっカけ、欲しカッタ』 どうやら海の向こうと、この大陸とでは、作法が違うらしい、成程、それならば魔力無しを使節として派遣した理由も解る。 しかし、これ程の国力を持った国が何故今までこの大陸に訪れなかったのだろうか? 『他の国、教エル、ニホン、仲良く、しタイ、旅する、先、出来ますカ?』 「完全に理解したわけではありませんが、旅の行く先々で、ニホンの事を話せば良いのですね?」 『ソー・・・・出来る、出来た?有難ウ。』 斑の兵士は、真っ黒な顔で白い歯を見せながらにっこり笑う。 周辺に目を向けるとゴルグガニアを訪れる旅人と親しげに話す事から、恐らくニホンとやらは、好戦的な国では無いのだろう。 旅人や商人が大陸を渡るための重要拠点でありながら、周辺国にちょっかいをかける、厄介者だったゴルグガニアだが、ニホンの統治の元、少しはマシになるだろう。 海の向こうの国が、初めて大陸の国々に接触を持ち、大陸の勢力図が塗り替えられる、虫使いの国ニホンの来襲、私は大きく歴史が動くかもしれないと感じた。 そして、それから暫く経ち、ゴルグガニアを訪れた私は、ニホンによって新たに作られた更に巨大な防壁と、今まで見た事が無い程に栄えた新生ゴルグガニアを見る事になる。大陸の歴史は、確実に動き出していた。 とりあえず、ここまでですーー。時系列は少し遡っていますが、日本と接触し始めの時期で異世界人からの視点の物語を書いてみたかったですー。 外交の常識 異空人/イクウビトを描きはじめたばかりの頃は、設定を特に練っておらず、一発ネタで終わるつもりだったので、後付と言えば後付です。 ただ、王族を処刑・・・っと言うか私刑をする時にゴルグの王が自衛隊に対して言っていた言葉とか、伏線っぽいものを入れていたりします。 魔力を持たず、魔法が効かず、その癖に、超高純度の魔石を生物濃縮せずに作り上げてしまうことが出来る日本人(イクウビト)を異世界人(アルクス人)がどう見るか、色々とネタをこねて行きたいと思います。
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「航空自衛隊を元気にする10の提言」×3 田母神俊雄 平成16年3月 航空自衛隊を元気にする10の提言 パートII おわりに 1991年の湾岸戦争の時、私は防衛研究所の一般課程の学生であった。この課程における森繁弘元統幕議長の講義で私はPKOとかPMOとかの言葉を初めて知った。当時はこれらの言葉が自衛隊の中でも出始めたばかりの頃であり、まさかこの年にペルシャ湾に掃海艇が派遣され、翌年に自衛隊がPKOに派遣されるとは思っていなかった。1992年9月自衛隊創設以来初めて陸上自衛隊施設部隊が他国の領土であるカンボジアに派遣されることとなった。その後ルワンダ、モザンビークへの部隊派遣を経て、現在でもゴラン高原と東チモールのPKOに自衛隊が派遣されている。まして自衛隊が今のようにインド洋やイラクまで派兵されることなど思いもよらなかった。 当時は防衛庁の内局や各幕の仕事は防衛力整備がほとんどであり、部隊運用が話題になることもなかった。現在との比較でいえば自衛隊が働く時代ではなかったのだ。従って内局の関心も自衛隊をいかに管理しておくかが関心事であったと思う。おとなしく礼儀正しい自衛隊がそれまでの我が国の求める自衛隊だったのだと思う。自衛官は自衛官である前に立派な社会人たれなどという言葉が象徴的にそれを言い表している。東西冷戦構造が壊れたばかりの時期であったが、それまでは自衛隊も米国を中心とする西側の抑止戦略の一端を担っていた。抑止戦略の中では軍としての形が立派なものであれば中身はあまり重要ではない。見かけが重要である。最先端の戦闘機やミサイルシステムなどを保有していればそれが大きな抑止力になる。いわゆる張り子の虎でもよかったのである。 しかし自衛隊が働く時代になってくるとそれだけでは困るのである。自衛隊は形だけではなく一旦国の命令が下れば的確に行動し勝利を収めることが必要となる。我々自衛官は今、精強な部隊を造ることに、より一層努力しなければならない。仏造って魂入れずになってはいけないのである。ここ10年間の自衛隊の海外派遣を巡る動きを見ると、あっという間に進んだというのが実感である。次の10年の変化はもっと早いかもしれない。その速い動きに追随するためには自衛隊が元気であることが大切である。元気がなければ積極進取の気風も隊員の任務にかける情熱も生まれない。これまではおとなしい礼儀正しい自衛隊であれば十分であったが、これからは腕白でもいい、逞しいといわれる自衛隊に脱皮する必要がある。 昨年は我が国においても、ようやく有事関連法案が成立した。その内容が不十分であるとかいろんな批判はあるが、いままでゼロであったところにいわゆる有事法制の形が出来たのだから、これまで永年にわたりその成立に努力された諸先輩始め関係者の皆さんには頭が下がる思いがする。また3自衛隊の統合運用についても平成17年度末を目途に態勢の整備が鋭意進められている。米国やNATO諸国に遅れること約15年の我が国の統合運用のスタートである。いよいよ自衛隊が働く時代がやってくる。その時自衛隊は伸び伸びしていなければならない。精神的に萎縮していては戦いに勝つことは出来ない。各級指揮官は自分の部隊を伸び伸びと元気にしておくことが必要である。 以上述べてきた10の提言がそのための何らかの参考になれば幸いである。指揮官は部下から見て「さすが、強い、頼もしい」と言われる存在でなければならない。部隊は正に指揮官によって決まる。それは貴君の双肩に懸かっている。 (引用者注)太字は引用者による 目次に戻る
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706 :UNNAMED 360:2016/01/14(木) 01 42 33.25 ID I00zRjzy 第60話 土の民 大陸の中央部には未知の領域が広がっていると言う、しかし大森林を始めとする様々な過酷な地形が大陸中央へ続く道を阻み、荒野の民は荒れ果てた地で開拓をしなければならない。 大森林に隣接した長大な山脈も大陸中央部への道を阻む障壁の一つである。 「お父さん、こんな浅い所じゃ魔銅鉱は掘り出せないよ。」 「おん?確かに魔銅鉱は無いが、良質な鉄鉱の鉱脈を見つけてな、他のモンに見つかる前に掘ってしまおうと思うんだ。」 「鉄鉱かぁ、確かに幾らあっても困らないわね、こんなに便利なのにリクビトは鉄の価値に気付いていないんだよね?」 「荒野の連中は、鉄の精製が出来んからなぁ、まぁ、リクビトの連中に鉄器が伝わってもどうせ碌な事にはならんだろうし、このまま知られずにいたほうが良いだろう。」 大陸中央部を覆う山脈には土の民と言う、荒野の民に、あまり知られていない種族が住んでいる。 彼らは、元々手先の器用なリクビトだったが、戦乱から逃れる為に旅を続け、魔物が犇めく辺境の山へとたどり着き、魔力の強い洞窟に身を隠すうちに、独自の変異を遂げた種族である。 狭い穴にも入れるように身体は小型化し、落盤や落石などから身を守るために体毛が発達し毛深くなり、洞窟内の岩盤を工具で穿つために手先が器用になり、体格に見合わぬ怪力を得た。 「へぇ、これがその鉱脈なのね、でも洞窟の入り口に近いから、リクビトに見つからないようにしないと・・・。」 「滅多にこの洞窟に訪れることは無いから心配するな、それに外は狂暴な鎧虫が徘徊しているから好き好んでこの山に近づく者などおらんだろう。」 「だといいんだけど・・・・。」 「さて・・・採掘を始めるか・・・・・むん?」 鶴嘴を振りかぶり、岩壁を掘ろうとした時、微小な振動を感じた。 意識を向けてみると、洞窟の入り口付近から微かに何かの音が聞こえる、恐らくこれが振動の発生源だろう。 「ペトラ、お前は街に戻っていなさい・・・。」 「お父さん?一体何を・・・・っ!入り口の方から音が!?」 「鎧虫でも入り込んだか・・・何にせよ、穏やかでは無いな、少し厄介な事になりそうだ。」 鶴嘴を横に置き、念のために荷車に積んでいたバトルアクスを取り出し、壁に身を隠しながら洞窟の入り口に近づく。 「な・・・なんだこれはっ!!?」 暗闇に慣れた目に、外界の光が染みるが、それどころでは無い、異形の鎧虫らしきものと、斑模様に染めた奇妙な格好のリクビトの集団が、洞窟周辺をうろついている光景が目に映っていた。 碌に整地されていない土がむき出しの道を進む自衛隊。 要塞都市ゴルグを拠点にし、国交を持っていない国や集落などと接触し、交流を持とうと各地へ赴くが、その道中は決して安全なものでは無く、賊や野獣の襲撃などに備え、武装車両で移動をしている。 大陸中央部への道を阻む大森林に隣接する山脈付近には、集落はごく少数しか確認されておらず、その殆どが開拓民で、自給自足の生活を営んでいるに留まっている。 しかし、開拓民の口から、鉱物資源の情報を得ると、資源調査の為に大森林に連なる山脈へと向かう事になった。その際に奇妙な噂も耳にする事になるのだが 「これまた、デカい山だなぁ・・。」 「山の上層部はうっすらと雪がかかっているな、相当高そうだ。」 「おいおい、ボーっとしているなよ?ここら辺は危険生物の生息が確認されている、現地民も滅多な事では訪れない場所らしいじゃないか。」 「とは言っても、デカい蠍とか百足みたいなもんだろう?そんなもん道中で山ほど倒してきたさ」 「まぁ、殆どは車の速力に任せて引き離していたがな、崖の一本道で通せん坊している奴とかは仕方がないから蜂の巣にするしか無いが、無暗な殺生はしないに越したことは無い。」 「さてと、野営の準備をするぞ?鉄条網は既に設置済みだが、相手が頑丈な鎧虫の場合は突破される可能性もある、油断せずに作業に移れ。」 それぞれ各員分担し、天幕の設営や、トラックからの荷降ろし、夕食の準備などの作業が行われる。 「なぁなぁ、所でさ、妙な噂を聞いたんだが・・・・。」 「あっ?なんだよ、こっちはまだ作業中だぞ。」 「ちょっと位いいじゃないか、あの山にさ、小人が出るらしいぜ?」 「小人?一寸法師みたいなもんか?」 「いいや、流石にそこまで小さくないが、何でも穴や洞窟に身を潜めて岩壁を掘りながら暮らしているって噂だ。」 「モグラみたいな奴だな?つまり、未確認種族の集落が存在するかもしれないって事か?」 「まぁ、ここら辺は野獣が出没する危険地帯らしいし、滅多に近寄らない上に目撃証言も少ないから、単なる噂かも知れないが、なかなか興味深い話じゃないか?」 「もし本当に居たら資源調査が上手く進むかもな、最も相手が温厚な性格をしているならばだが。」 「ちなみに、開拓民の連中はそいつらを 土の民 と呼んでいるらしい。」 「・・・・・それ、漢字に直して略したら失礼になりそうだな。」 「・・・・・せめて大地の民と呼ぶ事にするか。」 「違いない。」 暫く洞窟の外の様子を伺った後、斑のリクビトに気付かれない様に、急いで荷車に荷物を乗せて街に戻ると、街はちょっとした騒ぎになっていた。 「お父さん!!」 「おおっ!モーズ!!戻って来たか!!」 「ジルバかっ!大変なことになったぞ!洞窟の外にリクビトが集まってきている!」 「なんだとっ!?」 ジルバは、あまりの衝撃で一瞬硬直するが、直ぐに思考を切り替えてモーズに話しかける。 「リクビトの奴らは、この洞窟に気付いているのか?」 「いや、その様子は無い・・・それに、あの体格ではこの狭い入り口を通るにも一苦労だろう。」 「お父さん、私怖いよ・・・。」 「大丈夫だペトラ、俺が付いている、連中がもし襲い掛かって来るなら鉄の斧で両断してやる。」 「早まるなよモーズ、徒にリクビトに危害を加えて敵対する様な事になれば、我らとて唯では済むまい。」 「分かっているジルバ、いくら短気な俺でもそれくらいは心得ているぞ。」 「リクビトの連中がこの洞窟に気付かないならば、そのままやり過ごせ、もし気付いたのならば様子を見つつ、接触を待て、こちらから赴く必要は無い。」 「盗賊の類ならば返り討ちにするまでだが、荒野の開拓民ともなるとやり辛くなるな。」 「リクビトは口封じのために問答無用で殺すことも平気でやるらしいが、我らは蛮族では無いからな。」 「お父さん、リクビト・・・・来るの?」 「まだ判らんな、だがしかし、あれ程の集団で洞窟に押しかけられては堪ったもんじゃない」 「面倒なことになったわい、まぁ、今まで山と魔獣や鎧虫に守られていたが、何時までも洞窟に身を隠す事も出来ないという事だろうの。」 「何にせよ、街の幹部連中を集めなければならんな、ジルバ、西側から声をかけてくれ、俺は東側から行く!」 「・・・・・。(リクビトは怖いけど、外の世界は見てみたな、どんな光景が広がっているんだろう?)」 土の民と洞窟 ただ単に狭い場所に暮らすだけなら、未だにリクビトのままだったと思いますよ? さらっと本編で書いておりますが、この山からは魔銅鉱と言う鉱石が採掘できます。 魔銅鉱と言うくらいですから、当然ながら鉱石自体からそれなりに強力な魔光がバンバン放射されているので、それに被曝して突然変異や進化促進が起こった感じですね。 魔石は基本的に金属と相性が悪く、金属板で簡単に魔光が遮断されてしまうので、金属は魔力を乗せにくい素材なのですが、魔石が均等に練り込まれた物は逆に相性が良くなるのです。 魔銅鉱は、自然界で希少な魔鉱石と銅鉱石のハイブリット鉱石で、上手く精製すれば魔銅のインゴットが作れます、これは魔法剣の貴重な材料になります。 日本なら銅と魔石を化合させて魔銅に加工する事は可能かもしれませんが、この世界の加工技術では精製不可能ですね。それ故にF世界では銅と魔銅は別種の金属だと一般的に考えられております。