約 364,404 件
https://w.atwiki.jp/ws_wiki/pages/1972.html
autolink SY/W08-101 カード名:いつものハルヒ&みくる カテゴリ:キャラクター 色:赤 レベル:2 コスト:1 トリガー:1 パワー:8500 ソウル:1 特徴:《団長》?・《時間》? 【永】あなたは自分のクロックフェイズに、手札をクロックに置いてカードを引くことができない。 【自】アンコール[手札のキャラを1枚控え室に置く](このカードが舞台から控え室に置かれた時、あなたはコストを払ってよい。そうしたら、このカードがいた枠にレストして置く) みくる「だめ~っ!見ないで~」 レアリティ:TD illust.- 初出:メガミマガジン 2006年5月号 手札増やす手段を一つ失うにもかかわらず、手札アンコール持ちという非常に皮肉あふれる一枚。 しかし、パワーは8500とバニラ同等。デメリットとメリットが同等であるかは甚だ疑問ではあるが、クロックにカードを置く必要がなくなる終盤ならば活躍もできるだろうか。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/262.html
今日は週に1度の不思議探索の日。俺は普段通り集合時間の30分前には到着する予定で歩いている。 そのとき突然ハルヒからの電話があった ハ「今日は中止にして。あたし熱出しちゃったから。みんなにはあんたから言っておいて・・・」 集合場所に着くと、やはりみんなもう着いていた。 キ「今日はハルヒが熱出したから中止だ。さっき電話があった。」 長「・・・そう。」 朝「涼宮さんは平気なんでしょうか・・・」 キ「どうでしょう。元気の無い声してましたけど、電話できるくらいなら平気だと思いますよ。」 古「・・・わかりました。それではこのまま解散でよろしいですか?」 古泉はこういうときだけ副団長の役割をしていると思う。 キ「いいんじゃないか。長門も朝比奈さんもいいですよね?」 朝「あ、はい。」長「・・・いい。」 古「それでは解散ということで。」 朝「あ、キョン君。涼宮さんのお見舞いに行ってあげてくださいね。」 キ「はあ・・・でもそれならみんなで行った方が・・・」 朝「みんなで行ったら迷惑になりますから。」 長「・・・貴方一人の方がいい。」 おいおい長門まで・・・ 古「僕もそのほうがいいとおもいますよ。」 古泉、お前もか。 キ「ふぅ・・・行くだけ行ってみるか。」 俺一人が行こうがみんなで行こうが迷惑なのは変わらないようなきがするんだが。 そう思いつつもハルヒに電話をした。 キ「よう。元気か」 ハ「元気じゃないわね、熱が出たって言ったの聞いてなかったの?」 キ「聞いていたとも。今から見舞いにいくからおとなしくしてろよ。」 ハ「ちょっ、キョン!!こ、こなくて(ry」 俺はハルヒが何か言う前に電話を切っていた。ピンポーン。 キ「よう。ハルヒ。・・・何でそんな格好してるんだ?」 ハルヒはこれから出かけるのではないかというような格好をしていた。 それも額に冷却シートをはったまま。 ハ「だ、だって、急にキョンがくるなんていうから・・・///」 キ「それは・・・悪かった。そんなことより起きていていいのか?」 ハ「あんたがチャイムならしたからわざわざむかえにk・・・」 クラッとハルヒは倒れかかった。 俺はハルヒを両手で支え、 キ「おっと、そんな格好してるからだぞ。熱が出てるときぐらいパジャマで布団に寝てろ。」 ハ「わかったわよ・・・でも、起き上がれそうに無いの。」・・・ってことはこのまま運べと? キ「本当か?うそなんてこと無いか?」 ハ「本当に体が重いの。」俺は仕方なくお姫様抱っこのままハルヒの部屋まであがった。 そのときのハルヒの顔は終始真っ赤だった。 ハルヒに聞いてみると「熱だから仕方ないのよ。」 まぁ俺の顔も赤くなっていたことは秘密だ。 ハルヒの部屋は初めてではないが、女の子の部屋っていうのは入るたびに緊張するものだな。 ハルヒをベットに寝かせた後俺はその辺に腰掛けた。 キ「ハルヒ、大丈夫か。」 ハ「大丈夫じゃないわ。こんな格好してるし、さっき無駄に声出したから。」 キ「じゃあそのまま寝てろ、やって欲しいことがあるなら聞いてやるから。」 ハ「・・・ありがと。」 ハルヒは俺に聞こえるか聞こえないくらいの声でそういった。 だが俺にはちゃんと聞こえていた。こういうときのハルヒはものすごく可愛い しかし、可愛いと思えたのもつかの間。とんでもないことを言ってきた。 ハ「ねぇ、キョン。///」 キ「なんだ?」 ハ「この服着替えさせてくれない・・・//////」 キ「ぶふぅ!! やって欲しいことがあるならやってやるといったが、それはないだろ・・・///」 ハ「だ、だって・・・この格好じゃ寝にくいじゃない・・・/////」 キ「でもな、ハルヒ。俺がやるってことは ハ「じゃあいいわよ。」 そういってハルヒはそのまま俺に背中を向けて寝てしまった。 キ「・・・ハルヒ。悪かった。でも流石に俺にはそれはできない。他のことなら聞いてやれるから・・・機嫌直してくれ。」 そういうとハルヒはこっちを向き、 ハ「じゃぁ、しばらく手握ってていい・・・////」 キ「そ、それなら・・//////」 俺はそのままハルヒが寝付くまでずっと手を握っていた。 一生その手を離したくないと思いながら・・・ おわり
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/306.html
ハルヒ先輩5から 「ちょっと待て、ハルヒ。なんだ、その格好は?」 「あんたの高校の体操着(女子用)よ」 「なんで、おまえがそんなものを着てる?」 「加えて言うなら、あたしの母校でもあるわ」 「それは知ってる。尋ねてるのは理由だ」 「どこかの誰かさんみたいに、卒業後、使用済みの制服その他を売り捌いたりしてないの、あたしは」 「思い出は心に、衣類はタンスにしまっておけよ」 「普段はしまってあるわよ」 「今日もしまっておけよ」 「そうはいかないわ。今日はいつもと違うもの」 「何が違うんだ?」 「あんたの誕生日でしょ」 「それって、まさか……」 「そ。『プレゼントはあたし』ってやつよ」 「まてまて。それは一旦置いておくことにしよう。だが、なんで、よりにもよって体操着なんだ?」 「あんたの、その反応がすべてを物語っていると思うけど」 「あう」 「どうしても、あたしの口から聞きたいっていうなら、聞かせて上げるわ」 「うわ、待て。やっぱ、いい」 「もう遅い。あんたのスケベな心臓は、今ロック・インしたわ」 「おれを殺す気か?」 「せめて気持ちよく昇天させてあげるわ。ひとーつ、あんた、まずブルマ萌えね」 「ぎゃふん!」 「ふたーつ、そして、体操服のすきまからのぞく、おへそ萌え」 「ぎゃふん、ぎゃふん!」 「みーつ、元々あたしがあんたに気付いたのは、そのエロい視線で体操着姿のあたしを視姦してた時だったわね」 「きゅうううん」 「あ、死んじゃった」 「……言い直せ。視姦じゃない。見とれてただけだ」 「あたしが、つかつか近づいて行って、他の一年坊主たちが、蜘蛛の子散らすように逃げ去ったのに、あんただけは、じっとあたしを見てた、目もそらさずに」 「おまえに凝視されて、視線を外せる奴なんかいるもんか」 「2〜3メーターの距離ならともかく、20センチ近くになっても」 「ヘビににらまれたカエル状態だったんだ」 「あたしの唇が、あんたの口をふさいでも」 「どうせ見納めなら、死ぬ間際まで、焼き付けとこうと思ったんだ!」 「あたしゃ、メデューサか?」 「ほんとに腰が抜けて立てなかったんだ」 「別のところは、立ってたけどね」 「わー、わー、全年齢対応!」 「正直、あんなに至近で見つめ返されたのは、あたしも初めてだったわ」 「見たこともないような、どえらい美人が、マクロレンズでなきゃ撮れない近さにいるのなんて、俺だって初めてだった」 「ま、というわけで、出会いのシーンを演出してみました」 「いや、ものすごくやばいぞ、ハルヒ」 「去年まで普通に着てたもの着て、何がやばいのよ?」 「確かに物理的にはそうなんだが、今は本来着るはずのないものを着てるってだけで、社会的にというか心理的に、ものすごくイケないことをしてる感じがする。これがコスプレの真の威力か? というか、おまえだって狙って着てるんだろ?」 「まあね」 「だいたい、その体操着、ちょっと小さくなってないか?」 「胸の分だけね」 「そ、育ってるの?」 「そ、育てたんでしょ、あんたが……」 「は、反則だぞ、ハルヒ。今までオラオラ・モードだったくせに、急に顔真っ赤にしてうつむくなんて」 「確かに今、真芯をとらえた感覚があったわ」 「ま、まじに心臓が痛い」 「といいながら、うれしがってるでしょ?」 「さっきまでなら、部分的にイエスだったが……今はピンク色に白濁した脳みそに生理機能が付いて来れない」 「わかりやすく言いなさい。妄想がエロすぎて、心臓が持たないんでしょ?」 「そ、そのとおりだ。こんな企画なら予告してくれ。体操抜きで寒中水泳するようなもんだぞ」 「任せなさい。この夏、ライフセーバーの資格を取ったから、人工呼吸も心臓マッサージもお手の物よ」 「また、そんな、無駄スキルを……」 「わかってるわよ、あんた専用だからね。どんないい男が溺れてても見殺しにするから、妬かないように」 「だから無駄スキルだと……」 「それにしても、体操着だけで、こんなに引っ張るとは思わなかったわ。まだオードブル(前菜)に過ぎないわよ、キョン」 「いや、マジやばいから、一旦『わっふる』を入れてくれ」 「いいけど、『わっふる あけ』したら、もっと飛ばすわよ!!」 わっふる、わっふる、わっふる 「キョン、誘惑を免れる道はただひとつしかないわ。誘惑に負けてしまうことよ。byオスカー・ワイルド」 「格言に見えて、それ自体が誘惑になってる!」 「少しは落ち着いた?」 「こうやって背を向けてれば、なんとかしのげ……るか!? おまえの腕が、もうおれの首の前まで来てる!」 「二人でいるのに、離れてるなんて、おかしいでしょ?」 「いや、人間は『人の間』と書くのであって、時と場合に応じた距離というものが……っておい!」 「なによ?」 「この感触は……なに?」 「わかってるでしょ?」 「わかってるとも。だ、だが背中にのしかかるな」 「別にいいじゃないの」 「普通の状態ならかまわんが……、こりゃいくらなんでも反則だ。おまえ、体操着の下に『着けてない』だろ!」 「さすが、エロキョン。背中に目があるかのごとし」 「目がなくてもわかるわ! この、なんというか、ぷにっとも、ぼよおんっとも、表現がつかない感触が、他の何だって言うんだ!?」 「キョン、鼓動が敵襲を知らせる早鐘のようね」 「くっ……のわあ! 押し付けたまま『の』の字を書くな」 「ふっ、なかなか手強いわね」 「いや、もう籠絡されてる、陥落してるぞ。むきゅう」 「あら。じゃあ、いただきます」 「そんな、カマキリの雌みたいな……って、いきなり剥くな!」 「つまらない。少しは抵抗しなさい!」 「いいのか、ハルヒ?」 「え?」 「自分にとっての体操着のまばゆさに、なかなか気付けなかったが……」 「やっと気付いたのね、ニブキョン」 「ああ。これ以降は、エロキョンでいかせてもらうぞ」 おれは、すでに体操着の上からでも、はっきりとわかるまでに固くなったハルヒの胸の先端をこするように、二本の指で撫でた。むろん二つの胸、両方をだ。 「あ…あん。いきなり、それ?」 「こんなに立たしてたら、当然だろ」 「あんたの背中にこすりつけたら、こうなったの!」 「エロハルヒ。そんなので感じてたら、もたないぞ」 「言ってくれるじゃないの」 「ああ、言ってやる。だけど、もう言うだけじゃない」 おれは再び、指での攻撃を再開した。今度は両乳首を倒すようにふにふにと柔らかく押す。ハルヒはコレに弱いのだ。 「ああ……ああん、こ、こら、キョン!」 それから人差し指と中指の間に挟むようにして、左右リズムを変えて震わせる。 「あんた、さっきから、そこ……ばっかり。……だ、だめ!」 「ハルヒが教えたんだぞ、これ。ほんと、気持ちよくなることにどん欲だよな」 「あ、あ、わ、わるい? ああん!」 「ちっとも悪くない。ハルヒに教えてもらったこと、全部返すからな」 右胸への指の攻撃をつづけたまま、おれはハルヒの左胸に体操着越しにキスをする。そのまま固くした舌で跳ね上げ、こすり上げる。一度口を離し、今度は強く吸い上げてやる。 「服の上からなんて! へ、へんたい! でも、気持ちいいよお」 「そうか。じゃあ、ずっと体操着の上から、してやろうか?」 「フェチキョン。もう限界。脱がせて、ちゃんとして」 「なんだって?」 聞き返しながら、手と舌の責めは休まない。 「はっきり言わないとわからないぞ」 「ああ……ああん。じ、じらす気ね? わかったわよ。言って上げる。あんたの大好きな体操着をはぎ取って、直に舐めて!」 ハルヒ先輩7へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/753.html
「あのね、涼宮さんに聞きたいことがあるのね」 「何?」 放課後の教室で、文芸部室に向かおうとしていた俺とハルヒに話しかけてきたのは阪中だ。もちろん返事をしたのはハルヒだ。俺はこんなにそっけない返事はしない、だろう。 「キョンくんにも聞いてほしいのね。相談何だけど…」 阪中の話によると、阪中は面識のあまりない隣のクラスの男子生徒から告白されたらしい。しかし阪中はその男子生徒の事を良く思ってなく断りたいのだが、どう断ったら良いのかわからない。 そこで、中学時代に数々の男をフッてきたハルヒに聞いてみようと考えたらしい。俺は完全にオマケだ。 「でね、明日の放課後にもう一度気持ちを伝えるから、そのときに返事を聞かせてくれって言われたのね」 「そんなの興味ない、の一言で終わりじゃない! 何でそんな簡単なこと言えないのかしら」 「おいおいハルヒ、阪中は普通の女子生徒だぞ? もう少し阪中らしい断り方考えたらどうなんだ?」 「何よ、あたしが普通じゃないみたいな言い方はやめてくれる? それにあたしに相談してきたって事はあたしの流儀を聞きにきたって事よ! あたしのやりかたを言って文句あるの?」 「そうか。それはお前が正しい。だけどそれを押し付けるのはやめろ」 「喧嘩しないでほしいのね」 坂中の言葉で言い争いをやめた俺たちは真剣に協議をし始めた。 ハルヒの席を囲むように座っている。ハルヒと俺はいつもの席で阪中はハルヒの隣にイスを引き寄せて座っている。人が少なくなったので段々と声が大きくなってくる。 「じゃあキョン連れてって『コイツ私の彼氏なの~彼氏いるからむりなのね~』とか言わせて見ようかしら。」 「断じて断る。もっと普通なのはないのか?」 恋愛経験に乏しい俺にはアドバイスができるはずが無く、ハルヒの言った案を通すか通さないか役人的な仕事に専念していた。 ハルヒは非常に非現実的なアイディアばかりだすので俺は却下をくりかえした。阪中は自分の事なのに困った感じはなく、むしろ楽しげだった。 俺は今さらだが阪中は何故ハルヒに相談したんだろうと考えた。坂中の話しぶり、と言うか聞きぶりはハルヒに相談している形を取ってハルヒの過去の恋愛の体験談を聞きだしている感じだった。 不穏なことが起きなければいいのだが、と考えたが阪中なら平気だろうとスルーした。 そういえばルソーの一件以来阪中はハルヒに懐いてる。俺としてはハルヒが学校に溶け込んでる証拠のような気がして少し嬉しく思ってたりもする。 そんな事もあって俺はハルヒのためにも真剣に考えてやろうと思っていた。 「あーもう! 何で却下するのよ!」 「もう少し阪中の事を考えてやれ」 「これ以上はムリよ!!」 「じゃあ涼宮さんが言ってたようにキョンくん連れて行って恋人って言って見ようかななのね」 「こいつの言った意見ではそれが一番マトモなようだが、それは今後に関わるぞ?」 そう、俺の事を恋人と言い切ってしまえば翌日から男子生徒から始まり、少なくともこのクラスと隣のクラスの大半に知られてしまうだろう。 しかも、相手の男子生徒の事を考えると『あれは告白を断るため』とは言えない。 「わたしはいいのね。キョンくんがよければ」 俺が今後の事を考えていると、 「やっぱりキョンくんはわたしじゃ嫌なのね」 とか言われたので咄嗟に、 「嫌じゃあないし噂になるのはこいつのせいで不覚にもなれてしまっているんだ。」 何て口走ってしまう俺はどれだけお調子者なんだろう。ハルヒに助けを求める視線を出すとハルヒは少し不機嫌そうな表情で言った。 「噂になるのは恋愛禁止を掲げているSOS団としては困る事態だわ! 故に却下ね!!」 「じゃあどうするのね」 阪中は困ったように言った。でも俺には多少楽しそうに見える。これだけ考えた挙句振り出しなのだから俺もハルヒもどうしようもなくなっている。 「なぁ、理由なんて言わないで『ごめんなさい』とかだけじゃあダメなのか?何か聞かれても『ごめんなさい』で通ると思うぞ?」 恋愛経験ない俺が口出すのもどうかと思ったが素人の意見も取り入れた方がいいかも知れないと思った俺はそういった。 以外にもこれはシンプルでいいと言う事になってその方針で話を進めていた。ハルヒも阪中も良く考えれば簡単なことなのに思いつかなかったのはきっと2人が生まれつき変わった人間だからだろう。 「じゃあキョンくんと涼宮さんにちょっと実演してほしいのね」 まあ俺はそんな事を言われるとは思わなかったんで驚愕の表情をしていたと思うね。ハルヒほどじゃあないが。 ハルヒは顔を真っ赤にして口をパクパクしている。お前は金魚か? 「いいわ、やりましょう!」 何を言っているハルヒ! ここにはすでに阪中とハルヒしか居ないとはいえ恥ずかしすぎる! 「あたしはフラれるのは嫌いだからあんたフラれる役ね!」 こうなったらハルヒはとまらない。ムダに逆らうと後が恐いし実演が困難になる。覚悟を決めるしかない。 「しょうがない。じゃあ言うぞ?」と俺は恥ずかしいので視線を落とす。 「ハルヒ、好きだ。付き合って欲しい」 ああ、何でこんなに恥ずかしいんだろう。思ったより全然恥ずかしかったな。それより返事はまだなのか? 視線を上げてハルヒを見ると顔を真っ赤にしている。俺は余計に恥ずかしくなってきた。 「涼宮さん、返事しないとダメなのね。返事が聞きたいのね」 ハルヒはハッと我に返って、 「いいわ! 付き合いましょう!」 とか言いやがった。俺が断らなければダメだろ、と言うと咄嗟にでちゃったなんて言い訳してる。 「涼宮さんにキョンくんをフるのはムリそうなのね。ウソでもフれないのね」 「そんなことないわよ! 中学時代にふった事ないから咄嗟に……」 やめろハルヒ! ごまかしてると思われるぞ、と言おうとしたが言えなかった。阪中の言葉に遮られたからだ。 「じゃあ今度は涼宮さんがキョンくんに告白してみてほしいのね」 ハルヒは俺の顔を見て、少し考えてから言った。 「いいわ! よく聞きなさいキョン! あたしはアンタが好きよ! 付き合いなさい!!」 俺はハルヒの勢いに少し焦って思わず、『廊下に響くぞ、他の人に聞かれたらどうする!』と思って廊下の方に目をやると、廊下側に座っている阪中という女の子の期待に満ちた表情で我に返った。 とりあえず任務を完了しなければ、と一呼吸置いた。そしてやはり視線を落として言った。 「すまんがハルヒ、俺はお前とは付き合えない」 「何でよ!」 「すまん…」 「団長命令よ!!」 「すまん…」 「あたしの事嫌いなの?」 俺は一瞬狼狽した。ハルヒの声が少し悲しそうで、演技には思えなく視線をあげた。そこには悲しい顔をしたハルヒがいた。だけど、阪中に目をやると未だに期待に満ちた表情をしていたのでハルヒは気にしないことにした。 「嫌いじゃあない。だけど、すまん。」 「じゃあ、なんでよ…」 ハルヒの声は消え入りそうだった。見ればほんのり涙目だ。ハルヒの表情は呆然としている。なんだか演技とはいえ、心が痛んだ。 「もういいだろう阪中。こんな感じでいいのか? というよりはこんな感じでいいんじゃないか?」 「ありがとうなのね。でも、涼宮さんの悲しそうな顔を見てたら何だか断れる自信なくなったのね。だから明日の朝手紙で断る事にするのね」 たしかに阪中の期待の表情が無ければ俺は断り切れなかっただろう。それほどハルヒの悲しそうな表情は切なげで、守ってやりたくなってしまった。 未だに呆然としているハルヒに目をやった。俺は、もう演技は終わったんだぞ、と言った。 「涼宮さんはキョンくんに演技でもそんなこと言われて、割り切ってるハズなのにショックだったのね。だから反対の事を言ってあげれば元にもどるのね」 そういい残して阪中はさっさと帰ってしまった。俺は、最初から手紙にすればいいのにとか、こんな状態のハルヒをおいて返るなんて、とかいろいろ阪中の批判を思い浮かべたが阪中は本当に困ってたんだろうという結論に着いた。 きっと阪中は手紙じゃあ失礼だと思ったのだろう。そして、今のハルヒには阪中はいないほうがいいと判断したんだろう。そう思うことにする それからハルヒは呆然として、俺はハルヒを置いていくわけにもいかずにハルヒの前の席に座ったまま過ごした。 そうしてハルヒが回復するまで待とうと思ったが、夕日が落ちてきた頃にはとりあえず家まで送ってやろうと決心した。 「ハルヒ、かえるぞ」 コクリとうなずき立ち上がるが、動こうとしない。俺はいつもと立場が逆だとは思いながらもハルヒの手を取って引っ張った。 俺はハルヒに何て言えばいいんだろうとか、そういえば今日のSOS団はどうなってるんだろうとか考えながらハルヒの家の近くまで送った。長門並みの無言が続いた。 ハルヒの家の近くまで来て、こんな状態でハルヒを家に帰していいのか考えた。頭の中で阪中のセリフが蘇る。 『涼宮さんはキョンくんに演技でもそんなこと言われて割り切ってるハズなのにショックだったのね。だから反対の事を言ってあげれば元にもどるのね』 どうしたらいいのか分からなかったのでとりあえずハルヒの家の近くの公園に連れて行く。ベンチに座らせ、俺も隣に座る。とりあえずあれは演技であることを強調しようと思う。うまく言えるかな。 「ハルヒ、そろそろちゃんと目を覚ませ!」 ハルヒは多少意識が回復したように見えた。今度はハルヒは悲しそうな表情を浮かべている。俺を見て、視線を落として、もう一度俺を見てから消えるような声で言った。 「キョンはわたしが嫌いなの?」 俺は戸惑った。そんな事を言われるとは想像もしていなかった。あれは演技だから気にするな、と言おうとしていたのに言えなかった。 いや、会話の流れを考えるなら十分普通のセリフだし、言わなければならないのだが何故か口にできない。 「ハルヒ、俺がハルヒの事の事を嫌いなわけがないじゃないか。いつも一緒にいて、そんな事もわからないのか?」 「でも、好きじゃないんでしょ? あたしはキョンにとってはその他大勢。あの球場の5万人の観衆と一緒。同じ場所にいるけど深く関わることはない。」 小学生の時の話か。どうしようか迷ってあることを決心した。告白だ。 「ハルヒ、一度しか言わないから良く聞け。俺はお前の事が好きなんだ。さっきの演技とは違って今度は俺の本心だ。」 「ウソよ!」 ハルヒは急に叫んだ。 「だってあたしはあんたに好きって言われたときは演技だってわかってても断れなかった。そのときに気付いた。あたしはアンタが好きって。 でもあんたはアッサリあたしをふったじゃない。気付いたのよ。キョンはあたしの事を好きではないって。本当に好きだったら言えないハズだって。」 返す言葉もない。古泉なら何て言うだろう。いや、変な言葉でも俺は自分の言葉で言わなければいけないんだろうなと考えた。 「もう一度だけ言うぞ? 俺はハルヒが好きなんだ。」 と言ってからさらに続けた。 「俺も心が痛んださ。でも、演技だってわかってたから堪えることができた。きっと俺はハルヒの事を好きだと自覚していた分だけ心の準備ができていたんだろう。 でも、それでも心が痛んだ。ハルヒの気持ちも痛いほどわかる。ハルヒが俺の事をどれだけ好きかも伝わった。… …だからハルヒ、お前がそれだけ好きになった人の言う事を信じてくれないか?」 ハルヒは無言でこっちを見た。でも何故だかさっきまでの焦燥感や不安感はなかった。気がつけばハルヒは俺の手を握っている。 「ありがと。キョンのいう事だから信じる。」 「そうかい。」 俺はやっとの事でぎこちない微笑みをハルヒに向けた。そっとハルヒの両頬に手のひらを当て、ハルヒの顔に近づいて目をつぶり、キスをした。 ゆっくりと、甘いキスをしながら両手をハルヒの背中において抱きしめた。 そしてゆっくりとハルヒを放してから見たハルヒの顔は学校帰りの顔とは違って嬉しそうな表情をしていた。その中には安堵の表情も読み取れた。 「帰ろう。ハルヒと過ごす時間はいっぱいあるんだからゆっくり楽しんでいこう。」 そういってハルヒを家の前まで送っていった。 翌日の朝になって阪中の事を思い出しうまくやったか気にもなったが俺にはハルヒの方が気になったので阪中には悪いが気にしない事にした。 そして、教室でハルヒを確認して軽い挨拶をして、じゃあ、あらためて今日からよろしく伝えた。 俺とハルヒの関係は誰にも言わない事にした。 しかし言わなくても誰もが気付いている。 そして、交際を始めてからもハルヒと俺はいつでもどこでも変わらない事に気付いた俺は、谷口とかの言う俺とハルヒの関係は昔から付き合っているようなものなんだなと気付いた。 俺はあれから毎日部活の後にハルヒを送っていき、あの公園で話して、最後にキスをして帰るという日課が追加された。 そのことに幸せを感じながら日々を送っていく。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5135.html
<涼宮ハルヒの旧友Ⅰ> 俺達が2年に進級してから、もう2ヶ月経った。 そんなある日、急に転校生が来た。いきなりだな、転校生が来るなんて、担任岡部からも口にされていない。 転校生を見るなり、クラスの女子達が騒ぎ出した。 顔をよく見てみると、ものすごいイケメンだった。古泉に匹敵するんじゃないかと言えるくらいイケメンだから、そりゃあ騒ぐだろ。 まあそんなことは別にどうでも良い、問題はハルヒがどう動くかどうかなのだが、あいつのことだ、すぐ転校生がどうとか騒ぎ出すだろう。 そんなことを思いながら、後ろのハルヒの反応を見てみると・・・・・・口をポカンと開けて驚いていた。何回目かな、こんな驚いたハルヒを見るのは。 ハルヒ「キョン、何であいつが・・・ここにいるのよ!!」 何故俺に聞く?少なくとも初対面の俺に聞くぐらいなら神様にでも聞け。 ハルヒ「だって、あいつもう会えないって言ったのに・・・」 待て、何なんだハルヒのこの驚き様は、俺はあの転校生とハルヒがどういう関係かは知らんが。 そんな考えをし終えると、あいつの自己紹介が始まった。 祐樹「俺の名前は保泉祐樹、○○高から来たんだ、ここが今の俺の新天地だ!っていう実感はまだあまり無えけど、まあ楽しくやってくつもりだから、ヨロシクなっ!!」 なんて眩しいスマイルなんだ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5840.html
涼宮ハルヒという正体不明の謎にまみれた不思議な存在に出会ってしまった俺はたいてのことでは驚かない。 たとえ、目の前に宇宙人、未来人、超能力者が現れようとも奴らとの接触にあっさり順応できる自信はある。 と言うか、現実に順応してしまっているわけだが。 妙な空間に放り込まれようが終わりが来ない夏休みに突入しようが人の目からレーザーや超振動砲が発射されようが朝、目が覚めたらいきなり世界が変わっていようが気がついたら雪山に遭難していようがもう俺はパニックになることはないだろうぜ。 あとはそうだな。 異世界人と出会ったとしても大丈夫なような気は漠然としてる。 いったいこいつにできないことは何なんだ?と思ってしまう長門が俺に相談を持ちかけて来たとしても応じてやれることだろう。と言うか是が非でも応じてやりたい気分だ。 また、ハルヒが妙にしおらしく内気な女の子になったところで何か悪巧しているか、タチの悪い冗談かのどちらかであることを見破れるであろうことは間違いなしだ。 まあ、とどのつまり、今の俺はちょっとやそっとのことで動じてしまうほど軟じゃないってことさ。 しかしだな。 じゃあその未知との遭遇が三ついっぺんに俺に降りかかってしまったら? さすがにそんなことに対する耐性は持ち合わせてなかったね―― 涼宮ハルヒの遭遇Ⅰ 「ええっと……長門さん、もう一度言ってくれますか……?」 もうすぐ初夏の香りがしてきそうなとある日の昼休み。 午前最後の授業の終業チャイムと同時にいきなり長門からの携帯メールで呼び出されて、後ろにいたハルヒには家から電話がかかってきたと嘘をついて文芸部室にやってきたわけだが、俺はまったく想像していなかった出来事から現実逃避したくなったのか、おどおどしながら俺にくっついているそいつから目を逸らして問いかける。 対する長門は淡々と、 「ここにいる涼宮ハルヒは異次元同位体。我々とはまた別の並行世界から迷い込んでしまった存在。よって、あなたの力を借りたい。なぜならあなたは何度か別世界からこの世界への帰還を果たしている。その時の経験をわたしは望んでいる」 面倒くさがることなく、まったく同じ説明をしてくれました。 と言う訳だ。 異世界人と遭遇しようが長門に相談を持ちかけられようがハルヒが急に内気になろうが一つ一つであれば対応できる自信はあっても三つ同時に起こってしまったんで頭の中が固まってしまったんだ。冒頭のように今一度自分のことを見つめ直してしまうほどな。 で、今、長門が言ったハルヒなんだが…… 最初は長門の腕に縋っていたってのに、俺がこの文芸部室の扉を開けて俺を見止めた途端、去年の五月、俺とハルヒが元の世界に戻ってきたときに再会した朝比奈さんよろしく泣きながら俺にしがみついてきたのである。 んで俺を未だに離そうともしない。 これはいったいどういう冗談なんだ? しかし長門が冗談を言うはずもなく、とすれば間違いなく今、俺にしがみついているのは、いつか来るだろうと思っていた異世界人の登場で並行異世界(パラレルワールド)の涼宮ハルヒってことになる。 何なんだこれは? もうちょっと何つうか…… 長門や朝比奈さんや古泉のように、ハルヒが引き摺りこんだ奴にいきなり呼び出されて正体を告白されて知ることになるってことくらいは予想していたのだが、ハルヒが連れてきたわけでもなく、誰よりも我関せず無関心を貫く長門から紹介されて遭遇するなんて一番想像できないことであるし、正直言ってハルヒと長門が結託して俺をからかっている、と考えるならまだあり得るかも、と思ってしまう展開だぞ。これは。 で、そのパラレルワールドという異世界から来た俺にしがみついて離そうともしないハルヒなんだが…… いやこれはもう俺が目を逸らしたくなったってのも仕方がないことなんだ。 なんたってこのハルヒ。 目鼻立ちやスタイルはまったくこっちのハルヒと同じでおまけに北高の制服のデザインも同じ。性格は正反対っぽいのだがもう一つ、外見上、決定的に違うところが一つある。 もうお分かりだよな? このハルヒの容姿に言及した俺が目を逸らしたくなった理由が分からないとは言わせないぜ。 もし本当に分からないならまず、『涼宮ハルヒの憂鬱』の原作かアニメを見てからこの先に進むことをお勧めする。 って、いったい俺は誰に何を言っているんだ? そう、このハルヒは非の打ちどころがない反則的なまでに無茶苦茶似合っているポニーテール姿なのである―― 仕方ないだろ? 外見的にはハルヒとまったく同じでそんな奴がしおらしく俺にしがみつき、加えてポニーテールなんだ。 もし彼女をまともに直視してしまったら俺がどうにかなってしまいそうだ。 なんせ、このハルヒも間違いなく涼宮ハルヒだ。この世界のじゃないってことを除けば本人なんだ。 俺はハルヒ以上にポニーテールが似合う女子を知らないし、知っている女子や有名なアイドル、女優の誰を脳内モンタージュでポニーテールにさせたところでハルヒ以上になることは決してない。 ポニーテールに目がない俺だ。それもハルヒで俺にしがみついているとなれば当然、その感触も匂いも直に感じることができるわけで、これで理性を保てという方が無理である。 以前、とある事情で現在の俺より一週間先から来た朝比奈さんに抱きつかれたときでさえ危うく自分を見失いかけたってのに、朝比奈さんのような性格のポニーテールハルヒが抱きついてきているとなればそりゃもう現実逃避でもしてなけりゃ人目を憚らず絶対に間違いを犯す。 「ところで長門、このハルヒとはどこで会ったんだ? 誰かに見られたりしなかったのか?」 と言う訳で俺は長門に問いかける。 まずは経緯を知っておこうという訳だ。話を逸らしたと思われても否定はせんぞ。 「この涼宮ハルヒが現れたのはこの文芸部室。わたしは涼宮ハルヒの存在が突然、ここで現れたので確かめに来た。むろん、あなたの所属するクラスからも涼宮ハルヒの存在を感知している。つまり、現在この時空には二人の涼宮ハルヒが存在していることになる。誰にも見られていないと思う。ただし――」 ん? 何だ? どうして言葉を切る必要がある? 「少なくとも僕は気づくことができました、ってことですよ」 なるほどな。 確かにお前は気づくかもしれんな、やれやれ…… 嘆息してややげんなりした視線を肩越しに向ければ、そこにはSOS団副団長、ハルヒの精神鑑定にかけては俺とタメを張るくらい精通している相変わらず無意味に爽やかな笑顔を浮かべる古泉一樹がそこにいた。 「それにしても何と言いましょうか――と言うか、僕はいったいどう言えばいいのでしょうか?」 それは俺が聞きたいことだ。 頭に手を乗せ、一応珍しく困った笑顔を浮かべてかぶりを振る古泉を正面に捉えて俺は思わずツッコミを入れた。 「いや失礼。しかし、この事態は僕も正直言って困惑しております」 さらに珍しく、爽やかなハンサムスマイルはそのままなのだが口調には明らかに苦悩が満ちていた。 今、俺はいつも古泉とボードゲームを勤しんでいるときのように机を挟んでこいつと向き合っている。 もちろん、俺の左腕にはポニーテールハルヒがしがみついているし、なんだかおどおどした表情で古泉を見ては俺に縋るような視線を向けてくるのである。 まあ何を言いたいかは分かるがな。 「心配いらんさ。こいつは俺の友人だ。別にキミに危害を加える真似なんてする訳がない」 「う、うん……」 俺の答えに、ハルヒがそれでもまだ不承不承に戸惑うように首肯する。 んで、それで納得したのかと思えば全然納得はしていないみたいで、さらに俺の腕により強く深くしがみついてくるのだ。 だから待てって。このままじゃ俺がどうにかなってしまいそうで、いやキミが嫌って訳じゃない。むしろこうしていてほしいのだが……って、そうじゃなくて! なんてツッコミを入れるわけにもいかんし、無碍に振り払うこともできんがな。 そりゃそうだろ。捨てられた子猫が雨の中で懇願しているような庇護欲を激しく揺さぶるつぶらな瞳でポニーテールハルヒは俺を見つめているんだ。これをないがしろにできる奴がいるとすればそいつは人間を辞めることを勧めるね。 「とりあえず、どうしてこの世界に出現したのか詳細を教えていただけないでしょうか? そこにあなたを元の世界に戻せるヒントが隠されているかもしれませんからね」 が、古泉はさして気分を害した風もなく、学校の先生が優しく生徒に質問するような穏やかな笑顔で問いかける。 「そ、それは……」 しばし躊躇うような沈黙が訪れて、 それでもポニーテールハルヒは俯いたまま、語り始めようとする。 しかし、その瞬間、古泉が現われてから今の今まで黙りこんでいた長門が動き出す。 と、同時に古泉の表情も変化した。 先ほどの穏やかな笑みが、今は緊張感を漲らせた鋭い視線でドアの方を睨みつけている。 「隠れて」 呟くと同時に長門は俺とポニーテールハルヒの手を取り即座に、部室にある掃除用具入れたるスチールロッカーの中へと、俺たちを押し込める。 ちょっと待て。何が起こったんだ? 見ろよ。ポニーテールハルヒだって情緒不安定を如実に表した困惑の表情を浮かべているじゃないか。 と言うか、長門と古泉がここまでの緊張感を持たなければならない相手とは何なんだ? 新手の急進派か? それとも古泉の機関と対立する刺客か? 「ここはわたしたちでやり過ごす。あなたと涼宮ハルヒは物音を立てず、じっとしていればいい」 む……この無為無表情のはずの長門の瞳が警戒心に染まっていることを俺は見逃さない。 そうだな。長門がここまで言うのであれば従うしあるまい。 俺が真剣な表情でうなずくと、長門は静かにスチール製の扉を閉める。 そして―― 「キョンいるー? って、あれ? 有希と古泉くん? どうしたの二人してこんなところで」 勢いよく扉が開けられると同時に、入ってきたのは急進派でも刺客でもなかった。 つか、こいつが来るならまだ急進派とか刺客の方がマシだと思ったのは俺の気のせいだろうか。 そう―― あろうことか、文芸部室に現れた声の主は、是が非でもここにいる異世界人の存在を知られてはいけない我らがSOS団団長、こっちの世界のセミロングヘア涼宮ハルヒだったのである。 パラレルワールドと聞いて思い出すのは去年の冬、三日ほど季節以上に寒気と絶望を味わいつつも、なんとか事態打開にこぎつけた俺なのだが、その三日の内の一日、俺以外に忘れ去られた十二月二十日に光陽園学院の古泉一樹がこんなことを言っていた。 ――あなたの言葉を信じるならば、聞いた限りにおいてあなたが陥った状況を説明するには二通りの解釈が挙げられます。 一つは、あなたがパラレルワールドに移動してしまった、というものです。元の世界からこの世界へ。 二つ目の解釈は世界があなたを除いてまるごと変化してしまったということですね。しかし、どちらにも謎は残ります。 前者の場合ですと、ではこの世界にいたあなたはどこに行ったのか謎ですし―― まあ、あのときは後者だったわけだが、昔、何かの本で見たような見ないようなという曖昧さ抜群のパラレルワールドの説明の中に、元の世界から別のパラレルワールドに一人の人間が迷い込めば、同時にその世界の当人ははじき出されて別のパラレルワールドへ移動してしまうと書かれていたような気がする。 が、どうやらこの仮説は誤りだったようだ。 確かに『自分』という存在は一人しかいない訳で、世界に『自分』は二人以上存在しないとなれば、別世界から『自分』が迷いこめば、元の世界の『自分』も別世界に行かないと『自分』という定義に辻褄が合わなくなるという理屈なのである。 ところが今、この薄っぺらいスチール製の扉を隔てて向こうにも俺の目の前にも涼宮ハルヒがいるのだ。 この本の著者はいかに想像でもっともらしいことを書いていたかがよく分かる。 「ふうん。機関誌ね」 「そうです。冬に我々が一冊作り上げましたところ学校内でも結構な評判となりましたから季節ごとに出版するのもよろしいかと思い、長門さんと話し合いをしていたんですよ。長門さんはSOS団団員であると同時に文芸部の部長さんでもありますからね。我々が協力して文芸部を盛り立てていけば、あの生徒会長も何も言えなくなるでしょうし、他のクラブに献身的に協力する姿を見ればSOS団を学校公認の同好会にせざる得なくなるやもしれませんから悪い話ではないかと。もちろん、長門さんの承諾が前提でしたのでその後、涼宮さんにお話ししようと考えていたんです」 さすがは古泉だ。 よくもまあ、思いつきでここまで流暢にでたらめを話せるものだと感心してしまったね。それも俺たちのことを少しも表情に出さないんだからなおさらだ。 しかし今はその騙りに縋るしかないからな。 頼むぜ古泉、長門。できるだけ早めにハルヒを追い出してくれよ。でないと絶対にまずい。この状況で俺はいつまで理性を保てるものか分かったもんじゃない。 なんたって、別世界のポニーテールハルヒと俺は、この狭い掃除用具入れロッカーに収まっているんだ。もちろん、このロッカーは人一人入るのさえやっとなのに二人で入るとなれば当然、密着状態にならざるを得ず、事実俺たちは密着しているし、朝比奈さんほどでないにしろ、ハルヒだってスタイルは抜群なんだ。俺の胸辺りは温かく柔らかい丸びを帯びた最高の感触を味わっているし、しかも前回の朝比奈さんの時と違って今は初夏の息吹がもうそこまで迫ってきている季節なんだ。ポニーテールとハルヒのスタイルと中の熱気が相俟って、もはや真田幸村がいない大阪夏の陣よろしく、外堀と内堀を完全に埋められてしまい、なおかつ天井裏にも刺客が侵入してしまっていてもうどうしようもないくらいの状況に陥っているんだ。スチール扉のスリットから向こう側を見て、目の前のハルヒから視線を逸らしておかなければ絶対にやばい。 「まあ別にあたしはあのいけすかない生徒会長のご機嫌取りなんてするつもりは全くないけど、そうね。久しぶりに機関誌を作ってみるのもいいかもしれないわね。あの時の盛況ぶりは今でも覚えてるし、キョンに今度こそまともな小説を書かせるのも悪くないわ」 って、何でそこで俺の名前が出るんだ? だいたいあの話だって、お前、結構満足してたじゃねえか。最後のオチだけは必死に死守したがそれでもアレは一発OKをお前が出したんだぜ。俺にアレ以上の話が書けると本当に思っているのか? と言うか、今度は恋愛小説なんてクジを引かんようにしなければならん。 「有希もそれでいい?」 「いい」 「よし。今日の放課後の活動はそのミーティングで決まりね! キョンとみくるちゃんにも言っておくわ。それじゃ!」 ちょっと待て。これじゃ文字どおり嘘から出た真ってやつじゃないか。 そもそも古泉と長門はなんとかなるかもしれんが俺と朝比奈さんはまた苦しむlこと間違いなしだ。 などと俺は思っていたわけだが、よく考えたら仕方がないことだよな。 否定せず、論議もせず、ただ肯定すればそれでハルヒは満足して立ち去って行くだろうから。現にハルヒはおそらく上機嫌に足に羽根が生えてるんじゃねえかという浮かれっぷりで文芸部室を後にしたはずだ。 文芸部室の扉が閉められる音を聞いて、 「ぷはぁ……」「ふひぃ……」 思いっきり息をついて俺とポニーテールハルヒは掃除用具入れから脱出した。 いや熱かった。それも別の熱気も混ざり合っていたから正直のぼせてしまうギリギリだったぞ。 「助かったぜ古泉、長門」 「どういたしまして」 「いい。わたしも同じ」 俺の素直な感謝に古泉も安堵と脱力を足したような笑みを浮かべ、長門もまたそっけないその返事の中に安心感が現われていたような気がする。 「あの……キョンくん……今のがこっちの世界のあたしなの……?」 「ああそうだ……って、そっちの世界でも俺はキョンなんてあだ名で呼ばれてるのか!?」 「あ……うん……」 俺の詰め寄りにポニーテールハルヒがちょっと困った笑みを浮かべて首肯している。 ん? しかしこの表情は『気まずい』よりもなんか『照れてる』っぽいよな? どういうことだ? 「あ、ごっめ~~~ん、ここに来た本来の目的を忘れちゃってたわ♡」 って、なんですと!? とっても明朗活発な声とともにいきなりドアを開けたのは、先ほど立ち去ったと思われたこっちの涼宮ハルヒその人であった。 涼宮ハルヒの遭遇Ⅱ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2039.html
今俺は病院のベッドの上で点滴を受けている。 何のことはない。 ちょっとしたストレス性のなんとかかんとかで、胃の一部が溶けただけだ。 何が原因かと言えば、まぁ、色々原因は思い当たりすぎて何とも言えない。 クラスでの俺の扱いが、色々な事件の末に妙な風になっていること。 隠していた秘蔵AVの配置がズレていたこと。 妹に、知らなくて良い余計な予備知識が増えていたこと。 後は、来年に控えた大学進学に関してが少々重荷だったことくらいだろうか。 そんなこんなで、ともかく今俺は病室で安静にしたいわけだ。 「おい、ハルヒ」 「なによ」 「俺は今から横になって、ゆーっくり休みたいんだ」 「あらそう」 「だから、いいかげん俺のベッドの横でくつろぐのは止めてくれ。胃に悪い」 だが、この女……涼宮ハルヒはそんな俺を一向に構う様子もなく、 来て早々「倒れた団員を気遣うのは団長の務めよ!」と言ったきり、横に居座り続けて、 お見舞いの品を勝手に食ったり、俺が休んでいた間のSOS団での事件を勝手に報告していたりする。 看病というのか病人をオモチャにしにきたのか、ハッキリ言って区別はできない。 「なによ。せっかく人がお見舞いしに来ているんだから、もっと丁寧に扱いなさいよ。 だいたいちょっとしたストレスで胃に穴が空くなんて、軟弱過ぎるの! そんなんじゃあ現代社会で生きてけないわよ!」 ベッドの横の椅子でふんぞり返るハルヒ。 こいつの小言を聞いていると、冗談抜きで胃がキリキリと痛む。 なまじ頭だけは良いから、妙に重々しいことを言ってきて精神衛生上よろしくない。 「これからは、社会に出ても恥ずかしくないくらいSOS団総出でビッシビシしごいてあげるわ! 覚悟して……」 「やめろ」 思わず、吐き捨てるような口調になる。 「………誰のせいでこうなったと思ってるんだ……」 「なによ。あたしのせいだって言うの?」 「あ………その、いや…………」 これは、明らかに俺の失言だった。 無論この胃潰瘍はハルヒのせいではない。 あいつらとの活動に、俺が負荷を感じたことがないと言えば嘘になるが、 まさか胃に穴が空くようなレベルじゃあない。 「そんなことは全然、まったくない……が…………」 俺の言葉は尻すぼみになった。 ハルヒが下から睨め付けるように俺を見ていたからだ。 ある意味、ヘビに睨まれたカエルの気分……というのがこの心境を表すのに適している。 「あたし、帰る」 「ちょ、ハルヒ! 待て! 待ってててて痛てててて………ッ」 急にかかったストレスで、俺の胃は悲鳴を上げた。 ハルヒはそんな俺を振り返ることもなく、椅子を蹴って立ち上がると、 一目散に病室から出て行ってしまった。 無論、胃痛で動けない俺は、その後ろ姿を見送ることしかできなかったわけだ。 思えば、これがあのドタバタした1日の伏線になっていたわけなのだな。 後々から考えてみれば。 ◆◆間◆◆ あれから一週間ほどして、俺は学校に復帰した。 胃に空いた穴もほとんど回復し、長門、朝比奈さん、古泉のお見舞いのお陰もあって、フィジカルもメンタルも絶好調となったからだ。 しかし問題は一つ。 あれ以来、俺は涼宮ハルヒとは会っていないし、一秒たりとも会話をしていない。 「よ、よう」 「………………」 復学早々朝一番の挨拶にも、ハルヒは反応してこなかった。 「まだ怒ってるのか?」 「………………」 返事をしないのも予想の内だ。 今までのハルヒの行動を念頭に置いて考えると、一度キッチリ頭を下げておけば、 どんなにつむじの曲がったハルヒでも、帰りにSOS団の部室に行く頃には機嫌を直してくれると予想はついている。 俺は席に着くと、早速机に手を突いてハルヒの顔を真っ直ぐに見た。 「すまなかった。あの件については俺も」 「いいの。謝らないで」 「悪……ん?」 言葉を途中で切られて、俺はかなり怪訝な顔をしていたと思う。 「な、なんだって?」 「謝らなくていいの。気にしないで」 この時の俺はかなり動転した顔をしていたと思う。 あの涼宮ハルヒともあろう者が、相手に謝罪もさせずに物事を許したことがあったか? いやない(反語)。 「一体どんな風の吹き回しだ。俺はちゃんとこうやって謝罪を」 「いいのよ。それより聞いてくれるかしら?」 涼宮ハルヒが大人しい。声を荒げたり茶化したりすることなく、 むしろ冷静に俺に語りかけてくる。あまりに……そう、あまりに不気味だ。 以前どこかで巻き起こった猛烈な勢いの台風が、町を丸々ぶっ潰しておきながら俺の家だけを無事に残しておく時くらいに有り得ない状況である。 視線を時折外に向かわせたり、教室に戻したりと挙動不審気味なのが尚更におかしさを煽る。 「な、なんだよ」 「………何でも言うこと聞いてあげる」 「は?」 「あたしが、何でも言うこと聞いてあげる」 何の冗談だ、と笑い飛ばそうとした。 笑い飛ばそうとしたのだが、ハルヒの目は本気だった。 茶化すには余りにも真っ直ぐにこっちを見ていたのだ。 「…………ど、どういうことだ?」 「ッ!」 ガタン! と椅子を蹴って立ち上がると、ハルヒはドタバタと駆けながら教室を出て行ってしまった。 「おい、待てハルヒ!」 俺が声を上げたことで、教室中の視線が俺に向いた。 俺は気まずい思いをしながら、視線から逃れるように席に戻るしかなかった。 「何でも言うことを聞くだと………どういうことだ?」 ◆◆間◆◆ ハルヒはその後、1限から5限までの授業を丸々ボイコットした。 鞄を机に置きっぱなしだったから部室にでもいるのかと思ったが、 ガチャッ 「…………」 「なんだ。長門しかいないのか」 放課後部室に入ってみれば、居るのは定位置で読書にふける長門の姿だけだった。 ハルヒどころか、我らがメイドの天使様であらせられる朝比奈さんも、どうでもいいが古泉もいない。 「どうやら、ハルヒは完全にフケちまったみたいだな。何か知らないか?」 「知らない」 「そうか」 長門の回答は簡潔だった。恐らく全く心当たりがないのだろう。 それなら仕方がない、とばかりに俺はオセロを引っ張り出して一人オセロで暇を潰すことにする。 ハルヒが部室にないとなれば、これ以上探そうにも探しようがない。 となれば、いつも通り部室にいてハルヒが来るのを待った方が得策というわけだ。 そして、暇を潰すにも、よっぽどのことがなければ長門の読書を邪魔しないという暗黙の了解がある。 お茶も、朝比奈さんが来てから淹れて貰った方が美味しい気がするしな。 取り敢えず、まずは白と黒の駒を盤の上に並べて、さっそくオセロを……。 「……伝えることがある」 「うぉ!?」 俺はびっくりして手に持っていた駒を取り落とした。 いつの間にか、読書を止めた長門が右隣に立っていたのだ。 しかも顔の位置が近いぞ。 「なんだ。驚かしてまで伝える内容なのか」 「そう」 「どんな内容なんだ」 「あなたの言うことを、なんでも聞く」 「………なんだと?」 「あなたの言うことを、なんでも聞く」 聞き覚えのあるセリフだ。 「長門、それはハルヒに何か吹き込まれたんだな」 「肯定する。涼宮ハルヒが一限開始前に通達してきた」 「『俺の言うことを何でも聞くように』……てか?」 「そう」 ハァ、と思わず溜息が漏れた。 長門を巻き込んで、あいつは一体なにがしたいんだ。 あいつの思いつきは毎度毎度突拍子もないが、今回も突拍子がなさすぎてわけがわからん。 「気にせんでもいいぞ。どうせハルヒの戯れ言だ」 「そうはいかない」 「ん?……そうなのか?」 「そう」 長門が更に一歩前に出てきた。 互いの顔が数センチという近さで、これはちょっと近すぎる。 思わず目を逸らしてしまう。 「な、なんだ。そんなの本気にする必要はないんだぞ。だいたいいつもの気まぐれじゃないか。 てきとうにやって話を流しちまえばいいんだよ。そんなにいちいち真面目くさってやってたら大変だ」 そこまで一気に喋って、チラ、と長門の方へ視線を一瞬戻したが、 長門の顔は依然として超至近距離にある。 「だいたいだな、俺が言うことを何でも聞くって言ったら……例えば、俺がココでキスをしろなんて言ったら……」 「キスを実行する」 俺が視線を戻した時、既に、長門との距離はほとんどゼロだった。 ふっ、とお互いの息がかかり、そのまま長門のくちびるに俺のくちびるが触れ……そして、すぐに離れた。 「終了する」 ほんの1秒未満だったが……これは、確実に………その………。 「な、長門?」 「問題ない。わたしは命令を実行しただけ」 長門はいつもの定位置まで戻ると、鞄に本を仕舞い、それを持ってドアの所まで行った。 「長門……もう、帰るのか?」 「…………………」 長門は答えず、そのままドアを開けて廊下の方へ出て行ってしまった。 終始無言のままの長門だったが、その無表情には微かに別の表情があった。 長門の表情を見分けるのには、俺にも一家言ある。 あれは………確かに、少しだけ、長門の顔は赤かった。 ドタン バタバタバタバタッ 遠くで誰かが階段から落ちたらしい音が聞こえる。 程なく、我らが天使朝比奈さんがやった来たが、彼女によると、 「いきなり長門さんが階段から滑り落ちてきて、びっくりしちゃいました……。 あんなに慌てた長門さんを見るのは初めてですよ。 顔だけはずっと冷静な顔だったのが、ちょっと面白かった……なんて言ったら失礼ですけど」 だそうである。 ハルヒのヤツ、長門に無駄にエラーを蓄積させるとは、まったくけしからんヤツである。 本当にそう思う。 キスできてラッキーとか、そんなことは全く思わないわけではないが、ともかくけしからんヤツである。 ◆◆間◆◆ 朝比奈さんが来て、つつがなく着替え終わった後、 俺は、定番のメイド服に身を包んだ天使の淹れたお茶を美味しく頂戴していた。 今日のお茶はナントカカントカというお茶で、あつ〜い温度で作る渋〜いヤツなのだそうだが、 俺には彼女が淹れてくれるというだけで全てが甘露なので、ともかくおいしく頂戴するわけだ。 「いや〜、まいどまいどすみません」 「いいんですよ。これもオシゴトですから」 別段、必ずSOS団に従事しなくてはならないわけでもないのに、それに全力を注ぐ彼女のなんと健気なことか! 俺は感涙を禁じ得ず、ついでにお茶をもう一杯所望してしまうのである。 「そう言えば、またハルヒが妙なことを思いついたらしいですね。 朝比奈さんは何か聞いていませんか?」 「あ、朝ホームルームが終わった後で聞きました。 その……キョンくんの言うことを、必ず聞くようにって言われてます」 やっぱりか。 「いったいどんなつもりなんでしょうね。 さっきも長門が……その……よくわからないことを言っていて、びっくりしましたよ」 先程のことを思い出し、俺が渋い顔をしていた時、 バァン! と勢い良くドアが開いた。 「やほー! みんなげんきにょろ?」 ドアから飛び込んで来た、このハルヒ並のハイテンションなお嬢さんは、何を隠そう鶴屋さんだ。 SOS団の準団員にして常識派の筆頭。そして古泉の組織のパトロンの家系のお嬢様という、 肩書きでも中身でもテンションでも、全てにハイの付く朝比奈さんの同級生だ。 「どうしたんです? 朝比奈さんならそこに……」 「いやいや。今日はみくるに用事じゃなくて、キョンくんの方に用事があるかなっ」 「お、俺ですか?」 鶴屋さんと言えば朝比奈さん。 そういう図式が頭の中でできていた俺には、それだけで十分不審な空気を感じ取ってしまう。 「いったい、どんな御用です?」 「今日は、キョンくんの言うことをなんでもきいちゃうよっ。ハルにゃんとの約束だからねっ」 ビンゴだ。 「またそれですか。どんなことでも、って言われても困りますよ」 「どうしてかなっ?」 「俺だって心身ともに正常な青少年です。そういう所を配慮していただかないと……」 話半ばで、俺の手は鶴屋さんにガシッと掴まれた。 「つ、鶴屋さん?」 「つまり、キョンくんがしたいのはこういうことにょろ〜?」 鶴屋さんが手を引っ張り、そのまま朝比奈さんの……その、胸部に俺の手を押し当てた。 「ふぇ、ふぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」 「ちょ、つ、つ、鶴屋さんこれは!?」 「ふっふっふっ……めがっさ柔らかいにょろ?」 三人の声が交錯する。 その間、俺の右腕は……その……たっぷりとした重量を手の平に感じていた。 柔らかさはマシュマロ、固さはゴム鞠、そんな二律背反が混在した感触だ。 コンピ研の部長が以前この状況になったことがあったが、これは確かに万死に値する価値がある。 「やや、やめてください鶴屋さん!」 俺はそう叫んだ。さすがの俺もずっとそうしているわけにはいかない。 鶴屋さんの手を振り払い、天使のバストから無理矢理手の平を引き剥がす。 「何のつもりですか! いくらハルヒからの命令だって言っても、これはひどすぎます! 朝比奈さんだって、ほら、何か言ってやってくださいよ!」 俺が憤慨しながら声を上げると、 「でも……涼宮さんの命令だから……」 「しかたないかなっ。これはこれで面白いしね!」 と頬を赤らめたり、ケラケラと笑っていたりする。 ダメだ。真意が読めん。 「今、キョンくんがして欲しいというなら、あたしで良ければキッスくらいしてあげるよん?」 「待って下さい。俺はキスをして欲しいとも身体を触りたいとも思っていません」 「おりょ。キョンくんはお堅いな〜」 「お堅いお堅くないじゃないんです。変だと思いませんか? そんな命令?」 思わず二人に対して声を張り上げてしまう。 この時ばかりは、俺もちょっとばかり腹が立っていたのだ。 「それは……涼宮さんがキョンくんのことを思って、のことですよ」 「どういうことですか、朝比奈さん?」 「だって、キョンくんが倒れたのはストレス性の胃潰瘍だったという話で、 涼宮さんも、それでとっても悩んでいたみたいでしたし……」 「あの時のハルにゃんは、長いこと悩んでいたからね〜。それでみんなで人肌脱ごう、ということになったのさっ」 つまり、これは俺にストレスが溜まらないように……という対処ということなのか。 逆に気をつかってストレスが溜まっている気がしてならないがな。 「だ、か、ら。遠慮しちゃダメにょろ〜。 あたしので良ければ、今ならめがっさ格安で! ちょっとだけ体験させてあげてもいいかなっ」 鶴屋さんが俺の手を取って、そっと胸元に押しつけてきた。 朝比奈さんとは違って、こう、良く締まった身体の上に乗ったソレのアレな感触がジンワリと伝わってくる。 「だ……」 「だ? 何にょろ?」 「ダメです!!」 俺は乱暴に手を振り払った。 「あららら、嫌われちゃったかな?」 「そういうんじゃありません! 俺は……その……」 上級生二人が、俺の次の言葉を微笑をしながら待っている。 「す、すみません! ちょっと失礼します!」 顔を真っ赤にした俺は、全力で駆け出してぶち当たるようにドアを開けると、 廊下を駆け抜け、裏庭の方へと走り込んで行った。 ◆◆間◆◆ 「はぁ………はぁ………」 普段しない運動をしたものだから、肺がぜいぜい言っている。 ちょうど良いところに裏庭用のイスとテーブルが設置してあったので、そこにどっかりと腰を据えた。 なんだ。この状況はいったいどこのエロゲーだ。 いや、俺自身全くエロゲーをやったことがないわけではないので、思い当たるタイトルはいくつかあるが。 「まったく……ハルヒのヤツも変なことばっかり、考えやがって……」 「いや、いいんじゃないですかね。あながち間違った策でもないと思いますよ」 独り言のつもりだったのだが、背後から返答があった。 「どうです。そこのコーヒーですが一杯飲みませんか?」 紙コップを二つ持ってきたのは、いつものうさんくさい笑顔を貼り付けた古泉だった。 俺は無言でカップを受け取って、一口グイと煽る。 「部室では大変だったみたいですね」 「……見てたのか」 「いいえ。しかし、あなたの声は裏庭にも聞こえましたからね。大体予想はつきます」 冷たいコーヒーをもう一口あおり、火照った身体をクールダウンさせていく。 「ハルヒの思いつきも、ここまでくるとちょっとばかり迷惑だな。 さっきお前は間違った策じゃないとか言っていたが、本当にそう思うのか?」 「思いますね」 「何故だ」 「そうですね……簡単な話ですよ」 両手を方の高さに上げて「やれやれ」のジェスチャーをした古泉が話を続ける。 「あなたは今回、潜在的に受けていたストレスによって胃潰瘍になったわけです。 それを完全な形で回復させるには、あなたが何に潜在的ストレスを感じていたのかを特定し、 それが二度とあなたにストレスとならないようにしなければなりません。 専門家でもない我々は、怪しいと思われる可能性を、一つ一つ潰していかねばならないわけですよ」 「………なるほど」 一応、筋は通っているように思える。 「で、その対策の一つが『何でも言うことを聞く』なわけか」 「そうです。あなたは基本的に涼宮さんに行動を制約されていますからね。 一度、あらゆる制約からあなたを開放してみよう、というのが今の涼宮さんの考えだと思われます」 ふむと唸って俺はコーヒーをもう一口飲んだ。 「古泉。お前はハルヒに何か言われたのか?」 「えぇ。『決してあなたには逆らわないように』と申し使っていますよ」 「やっぱりか。まぁ、お前なら特に気兼ねもないからその点は安心だな」 「そうでもありませんよ?」 その時、俺は古泉の目が、普段のニヤけた目とは違う形をしていたのを見ていた。 何か……アマゾンや熱帯雨林の特集をやる動物番組で見たことのある、エサを目の前にした肉食動物の様な目をしている。 「ど、どういうことだ古泉」 「あなたが僕に対して、無意識下でストレスを感じていないとは言えません。 それを確かめるだけです」 明かにおかしな雰囲気を感じ、俺は即座に立ち上がろうとしたが……立てない。 何故か足に力が入らない……なんだこれは? 「古泉……いったいこれは……」 「組織の方から支給された物でして。依存性はありませんし副作用もありません。 ちょっとの間身体に力が入らなくなるだけです」 古泉が一口も口を付けなかったカップを置いて、俺の目前に移動してくる。 「可能性は全て潰しておかねばなりません。 例えば、あなたがわたしに性的な興奮を潜在的に感じていたという可能性も。 これは致し方ないことなのですよ。涼宮さんのため、と思って少々ガマンして頂きましょう」 あのニヤニヤした顔が俺の、目と鼻の先にある。 ヤツの鼻息が俺の顔にかかってきてこそばゆい。 待て。それは明らかに近すぎる距離じゃあないか。 「まさか……古泉、お前まさか………」 「大丈夫。優しくするから身を任せてください、キョンたん」 キモイ! あの古泉がキョンたんなどと言ってくる、この状況が気持ち悪い! それに何だ、何故俺のネクタイをゆるめてシャツの中に手を入れてくるんだ。 やめろそこは違う断じてそんな所にストレスは感じていないズボンの中に手を入れるなちょアッー! 「アナルだけは! アナルだけは!」 思わずそう言って俺は泣いた。 童貞だけど処女じゃない。 そんなアンビバレンツなキャラクターをこれから一生背負っていく自信は、俺にはない。 「やめろ……やめてくれ……」 「そんなに嫌がると燃えちゃいますね。可愛いですよキョンたん」 「ひぃぃぃぃ………誰か………誰か!」 その瞬間、ゲ泉の手がパッと俺から離れた。 俺の可哀想な菊の花も、侵攻から開放されてやっと通常運行になる。 「しくじりましたね。完全に人払いはしたと思いましたが……そちらが干渉してくるとは予想外です」 ゲイは裏庭に植えられた木の下を見つめていた。 そこにいたのは、現生徒会書記であり旧SOS団依頼人だった喜緑さんだ。 両手を後に組んで、一人静かにこちらを見つめていた。 いつの間に現れたんだ! 「なんのつもりですか? 穏健派のTFEI端末が独断で動くとは初めて知りましたよ」 「涼宮ハルヒに急激な変化を起こされては困るの。あなたの趣味で涼宮ハルヒを暴走させて欲しくないだけよ」 そのまま、喜緑さんが何事か……長門の『呪文』のような物を唱えると、 急に俺の萎えていた手足に力が戻ってきた。 手も……もちろん足も動く! 「う、うわぁあぁぁぁぁーーーーーーーーッ!」 「キョ、キョンたん! ぐッ!?」 俺がゲイ野郎を突き飛ばしてその場を飛び退くと、ゲイはそのまま後にぶっ倒れて尻餅をついた。 俺は後も見ずに裏庭からの脱出にかかる。 「これはしてやられました」 「あなたは尻をやるつもりだったのでしょう?」 「つまり、これはそういう意味合いにおいてはあいこ、ということでしょうかね。 僕とあなたはお尻あい、と」 「そうなりますね」 「フフフフ……」 「うふふふ……」 バカのような会話を背後に聞きながら、俺はその場を駆け去っていった。 ◆◆間◆◆ 「はっ………はぁ………はぁ…………」 俺は息も絶え絶えになりながら、商店街を歩いていた。 寒い冬の最中であるのに、商店街まで一気に駆けていた俺の身体は異常な熱を持っている。 今ならきっと頭の上に湯気が見えるぞ。 なにせ、学校から商店街までほぼノンストップで駆けてきたんだからな。 「はぁ……はぁ……………はぁーーーーーーーーーーー……」 大きく溜息。 ハルヒは俺のストレスを開放する、などと言っていたが、開放されてるのは他のヤツばかりじゃないか? 俺自身が解放されている気がちっともしない。 「これは……早急に手を打つ必要があるな。直に発生源を叩く必要があるぞ」 呑気に相手の気が変わるのを待っているわけにはいかない。 普段SOS団の活動で使う喫茶店を前に、俺は携帯電話を取り出した。 ◆◆間◆◆ 「なによ」 「なにじゃない。俺が呼び出した理由くらい、もうわかってるだろ?」 俺は携帯電話でハルヒを呼び出した。 最初はゴネていたハルヒだったが、俺が「言うことを必ず聞くんだろ?」と言った途端、 即座に「わかったわよ」と言ってココまでやって来た。 そして現在、SOS団御用達の喫茶店で、テーブルを挟んでこうして俺とハルヒが向かい合っているわけだ。 「理由って?」 「みんなに言って回ったんだろ。『俺の言うことを何でも聞くように』ってな」 「そうだけど、それがなによ?」 くちびるをアヒルの口みたいに尖らせて、ハルヒは不満げな声を上げる。 「あんたの体調が悪いって言うから、ストレスにならないようにやったことよ。 あたし悪くないもん」 「別にお前が悪いとは言ってない。ただ、そのせいで周りが色々騒がしくてかなわん」 「あたしにどうしろって言うのよ」 「簡単だ。即刻前言撤回すればいい。そうすりゃ丸く収まる」 「嫌よ」 フン、と鼻を鳴らすと、ハルヒは窓の外に目線を投げて言葉を吐き出した。 「絶対嫌」 「………おい、ハルヒ」 「嫌だったら嫌。絶対ヤダ!」 「俺の言うこと聞くんだろ?」 自分で作り出した矛盾にはまったハルヒは、苦り切った顔をして窓の外を見ていた。 恐らく、古泉は今頃組織のバイトが急増して大変なんだろうな。 「ハルヒ。これは俺の命令だ。みんなに言った言葉を撤回するんだ」 「………………」 ハルヒはだんまりを決め込んでいる。 「その代わりだな……」 「………聞こえない! 全然聞こえないわ!」 いきなりそう言うと、ハルヒはガタンとテーブルを蹴る勢いで立ち上がった。 一口も口を付けられていなかったコーヒーがひっくり返り、テーブルに黒いシミが広がっていく。 この騒動に、周囲の目線も一気にコチラを向く。 「待て、落ち着けハルヒ」 「いいわよもう! あたし帰る!」 怒鳴るようにそう言うと、ハルヒは早足にその場を去っていった。 周囲の視線や、こぼれたコーヒーのこともあって俺が一瞬躊躇していると、 ガッシャァーーーーz________ン!! と、隣の席に四輪駆動のごっつい車が突っ込んできた。 「な………」 細かく砕けた窓ガラスが飛び散って、俺の背後を掠めていった。 喫茶店内も悲鳴やわめき声に包まれる。 「ハルヒ……!?」 慌てて入り口の方を見たが、ハルヒは持ち前の駿足でもって駆け去った後のようだった。 まるでタイミングを見計らったような事故っぷりじゃあないか? 俺は呆然とするレジ係を急かして会計を済ませ、急いで外に駆け出す。 ガシャン ギャー ドスンッ ドカ ハルヒを行方は捜すまでもなかった。 まるで道しるべでも作ったかのように、道なりに事故が多発している所がある。 なんだ……あいつはついに世界の崩壊でも願ったのか? その時、ポケットに入っていた携帯電話が鳴った。 「もしもし、キョンたんですか? 古泉です」 「切るぞ」 「冗談ですよ。それより、涼宮さんの状況がかなり悪いことを理解しているか心配で電話したんです」 「黙れゲ泉。貴様の声を聞くと耳が腐る」 「やはり理解されてなかったようですね。今、その辺りで事故が起こっているはずです」 「そうだが、そうだったとしても貴様は黙して語るな」 「その理由は、おわかりですか?」 「ハルヒが世界の崩壊でも願ったのか? それより他のヤツに代われ。貴様は死ね」 「あの……いいかげん、僕も泣きますよ?」 ゲイの声が軽く泣きそうになっていた。 「よし、死ね。それで事故とハルヒが願ったことと、どういう関係がある」 「……………………」 「言え、さもないと貴様がゲイだと学校中に言いふらして回るぞ」 「涼宮さんは『死にたい』と思ったんですよ。あなたのためにやったことが裏目に出て、更に怒られてしまった。 穴があったら入りたい。恥ずかしい。死んでしまいたいと思った……その結果が、今巻き起こっている事故の嵐です」 「つまり……それに巻き込まれて死んでしまいたい、ってことか」 「あなたなら上手くまとめてくれると思ったんですがね。どうやらそうもいかなかったようで」 「切るぞ。時間がない」 「ところで、今これを教えて上げたわけですから僕の……」 通話を切った。 「余計なこと考えやがって……」 俺は事故の起こった通りを急いで駆けていった。 途中、電柱の後で「死にたい……」とベソベソ泣く茶髪のゲイがいたような気がするが、恐らく気のせいだったのだろう。 ◆◆間◆◆ 転倒、転落、衝突、居眠り運転、うっかり、よそ見、物を落としたり、放り投げたり、火を付けたり、 その他考えられる限りの事故を起こした商店街を駆け抜け、 俺はついに商店街を抜けて住宅街に入ってしまった。 住宅街でも、犬が吠えて駆け抜け、自転車が電信柱に突っ込み、猫がひっくり返り、通り一面阿鼻叫喚の地獄絵図の様相を呈していた。 俺は息を切らして足を止め、ここで一つの事実に気が付くわけだ。 「お……追いつかない……」 持久走、短距離走、障害物走でもトップを誇る涼宮ハルヒの駿足に、運動不足の俺が追いつくわけがない。 いつ事故に巻き込まれてケガをするかもわからないこの状況で、ウサギとカメの昔話を実践している場合じゃないんだ。 この状態になったハルヒが居眠りをしてくれるとも限らないし、居眠りの代わりが事故だったら尚更実践できるわけがない。 「ドラ○もんみたいな扱いで悪いが……ここは一つ長門に……」 そう思った時、見計らったようなタイミングで携帯電話が鳴った。 「も、もしもし?」 「涼宮ハルヒの追跡経路をナビゲートする」 長門だった。 「長門か!? どうしてこんなタイミング良く……」 「急がないと間に合わないから」 「そうだな。今はどうこう言っている場合じゃねぇ。じゃないとハルヒが事故にあっちまうからな」 「それだけとも言えない」 「? どういうことだ?」 「見つければわかる」 「で、どうやってハルヒを見つけるんだ」 「あなたと涼宮ハルヒの体内に位置探知用のナノマシンは注入済み。ナビゲートは簡単」 い、いつの間にそんな物を仕込んだんだ。 今日は手首を噛まれた思い出もないぞ。 「あなたには部室で」 部室……あの時のキスはそう言う意味があったのか! 流石長門だ。この時の事を想定して既に手を打ってあるとは。 でも、それならいつもみたいに手首を噛むだけでも良かったんじゃないか? 「進路方向、次の角を左」 無視か。今はそんなことを言っている場合でもないしな。 俺は即座に駆け出して左に曲がった。 ◆◆間◆◆ 「ハルヒ!」 驚いたことに、ハルヒは商店街から住宅街へ出ると、そのまま住宅街をグルリと回って再び商店街へ戻ってきていたらしい。 長門の説明では何だかんだの心理作用がナントカカントカの回帰を起こしたらしいのだが、 ともかく、俺は長門のナビゲートによって、再び商店街へ戻ってきたハルヒの進路方向へ先回りしていた。 「っ!!」 「こら、逃げるんじゃない!」 商店街中程の店の軒下に隠れていた俺は、商店街の大通りに駆け込んできたハルヒの前に奇襲的に登場し、 抱きつくようにして無理矢理ハルヒの足を止めさせた。 聞いたところによると、ハルヒはスピードを微塵も落とさずに走り続けていたらしい。 遠くから声をかけようものなら、あの駿足であっという間に遠くへ逃げられてしまう。 というわけで、俺は商店街の入り口にあった本屋(自転車が突っ込んで片づけで忙しそうだった)で立ち読みをするフリをしていたわけだ。 「放して! 放しなさいよ!」 「放してたまるか! 絶対に放さないからな!」 この寒い中、お互い汗を撒き散らしながら取っ組み合う。 こっちだって命懸けだ。 あいつが呼び寄せていたものが、やっと見えてきたわけだからな。 /´〉,、 | ̄|rヘ l、 ̄ ̄了〈_ノ _/ (^ーヵ L__」L/ ∧ /~7 /) 二コ ,| r三 _」 r--、 (/ /二~|/_/∠/ /__」 _,,,ニコ〈 〈〉 / ̄ 」 /^ヽ、 /〉 ´ (__,,,-ー ~~ ̄ ャー-、フ /´く// `ー-、__,| タンクローリーだ。 『危険物注意』の看板のひっついたガソリン満タンのタンクローリーが、商店街の向こう側に見える。 どうやら妄想は一人事故にあって痛い思いをするというレベルを越えて、周囲を巻き込んで盛大に散るというレベルになったらしい。 こいつをネガティブに暴走させ続けると、どっかの国が打ち落とした人工衛星の破片さえ呼び込みかねんぞ。 「命令だ! 俺の話を聞け! まずはそれからだ!」 「嫌だったんでしょ? だったら命令なんて聞かない! 聞いてやらない!」 ちくしょう、こいつ完全にヘソ曲げてやがる。 しかも本気で暴れるから、いつ振りほどかれるかわかったもんじゃない。 今逃げられたら、後に迫ったタンクローリーにペシャンコにされた上に大爆発だ! 「ハルヒ……いいか、命令だ!」 「嫌よッ!」 「ハルヒ、俺にキスをしろ!」 「いや……何?」 ハルヒがやっと暴れるのを止めて、俺の目を見た。 「お前が俺にキスするんだ」 「な、なんでそんなこと……」 「他の誰も俺の命令を聞かなくてもいい。お前だけに聞いて欲しい」 俺の目線は、ハルヒを真っ直ぐに見ていた……わけではなかった。 実のところはその先に見えるタンクローリーを見ていた。 タンクローリーは、既に、ハルヒの背後百メートルを切った所にあったのだ。 「キョ……バ、バカ! 何言ってんのよ!」 「ハルヒ」 俺はそれだけ言うと、ハルヒの胴に回していた手を解いて、手を顔に添えた。 「バカ……バカキョン………」 タンクローリーはグングンとその距離を縮めていた。 もうハルヒの背後五十メートルの所にあった。 追記すると、ハルヒの目は潤んでいたと思うような気がする。 「お前がするんだぞハルヒ。命令なんだからな」 「………わかったから、目を瞑ってなさいよ」 「丁寧に言ってくれ」 「目を瞑って。おねがい」 タンクローリーはすぐそばに迫っていた気がする。 だが、その後どこでタンクローリーが止まったかまではわからない。 それから数分、俺は目を瞑りっぱなしだったからだ。 ---- 「キョンさ。あたし今日掃除当番だから、先に部室行っててくれる? 後で行くから」 「おう、わかった。掃除サボんなよ」 「サボらないわよ。あんたも活動サボらないでよね」 「おいおい、他に言うことがあるだろ?」 「……楽しみにしているんだからね」 俺はそう言って、ニヤニヤしながら教室を出た。 今のハルヒの一言に、教室中の人間が仰天していたようだ。 谷口は目も口も全開で仰天していたし、あの国木田でさえも目を剥いていたんだからその衝撃の具合もわかるってもんだ。 「きょ、キョンくん?」 「朝比奈さんじゃないですか。どうしたんですか、こんな所で?」 教室を出た所で、ドアの脇に立っていた朝比奈さんに気が付いた。 二年生であり、全校生徒の憧れの的でマドンナで天使の朝比奈さんがこんな所にいるのは、確かに不思議と言えば不思議だ。 「うん………あの……キョンくんを待っていたんだけど……」 うん。明日俺の下駄箱にカミソリ入りの呪いの手紙が入っていてもおかしくないセリフだ。 今の俺には微塵も怖くない所だがな。 「あの……これって、本当にキョンくんと涼宮さん?」 そう言って見せられたのは、携帯電話の画面だった。 画面には、タンクローリーの乗り入れられた商店街を背景に、抱き合ってキスしている俺とハルヒの姿が写っている。 「どうしたんですか、これ?」 「あのね、これが学校中にメールで出回っているらしいの。その……『涼宮ハルヒ熱愛発覚!!』って」 「なーんだ、そんなことですか」 俺はアッハッハと笑い飛ばした。 朝比奈さんも、それにつられてエヘヘと笑う。 「そうですよね。怪文章の類ですよね、こんなの」 「いえいえ。ただの事実だから笑ったまでですよ。 な、ハルヒ? 俺達ラブラブだよな?」 朝比奈さんと廊下の生徒達、そしてクラス中が再び仰天するのを感じながら俺は堂々と胸を張った。 「そ、そうだけど、それがなによ……」 「もっと他に言うことがあるだろ?」 「ら……ラブラブよ! あたしはキョンが大好きッ! これでいいでしょ、もうっ!」 ふふ、と俺は笑って肩をすくめた。 「何の問題もありませんよ、本当」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5446.html
夏休みも終わって進学期が始まり、しばらくがたった。 俺は秋の訪れを感じさせる涼しげな風にあたりながら、学校へ向かっていた。 今日は偶然というべきだろうか? 俺は登校途中でハルヒと出会った。 ハルヒ「あらキョン。」 キョン「よお、ハルヒ。」 ハルヒ「ええ。」 お前の挨拶は二語だけか? 俺は黙ってハルヒの隣をついていった。 キョン「…。」 ハルヒ「…。」 俺とハルヒの間には季節はずれの蝉すら泣けないほどの沈黙が流れた。 それもそのはず、ハルヒがさっきからしきりに下を向いているからな。 キョン「ハルヒ、なんだか元気無いみたいじゃないか。」 ハルヒ「…。」 キョン「何だ、様子が変だぞ。何か悩みでもあるのか?」 ハルヒ「ゴメン。」 俺は言葉を失った。 なぜいきなり謝られないといけないんだ? それってどういう意味だ? ハルヒ「ゴメン。別に悪い意味でいったわけじゃないのよ。ただ、キョンがそんな心配性だなんて思わなかっただけ。」 キョン「おい、何が言いたいんだ!?」 キョン「・・・。」 ハルヒらしくない。 そう思ったが、口に出せなかった。 口に出したところでハルヒが混乱するだけだ。 ハルヒ「じゃあたし、先行くわ。キョンも後から来るのよ!」 ハルヒは俺にそう言い渡して、先行ってしまった。 俺はポカンと口を開けたまま、しばらくそこにたたずんでいた。 キョン「…。」 さて、場面は変わっていつもの2年5組の教室である。 まあ、別名俺のクラスと言ったところか。 今日はいつもよりも学校に来る時間が早かった。 俺は自分のすぐ後ろのハルヒの席を見たが、そこにハルヒはいなかった。 キョン「…珍しいな。」 俺がそう呟いた時だった。 「どうかしたの?」 ふと誰が後ろを向いている俺に対して正面から話しかけてきた。 キョン「…阪中。」 俺は振り向くと同時に不意に目に入ったその人物の名前を声に出してしまった。 阪中「涼宮さんのことが気になるのね?」 キョン「…別にハルヒの朝の様子がおかしかったから、それでちょっと心配してただけだ。」 俺は阪中が変な冷やかしをするような人じゃないと信じていたが、それでも人間の防衛本能のせいか阪中の妙な言葉にイライラした。 だが、それもどうやらしばしの間だけで、ストレスはすぐに解消されることとなった。 阪中「涼宮さんならきっと屋上よ。キョンくんが行ってあげるのが一番なのね。」 そうかい、どうやらハルヒは俺が知らなきゃいけないことを何故か隠しているようだ。 あくまで阪中から聞いた話による推測ではあるが…。 まあ、善は急げだ。 俺は早足で屋上へ向かった。 阪中「あ、キョンくん待って!」 俺と阪中はハルヒのいる屋上へと急いだ。 キョン「ハルヒ!」 ハルヒは俺の目の前にいた。 ハルヒはしばらくした後、ようやくこちらの存在に気付き、近寄ってきた。 ハルヒ「キョン・・・。それに・・・。」 阪中「涼宮さん、心配したのね。」 俺より先に阪中が喋り出した。 ハルヒ「ふーん。」 キョン「ハルヒ・・・。」 そこまで言ったところで俺は言葉に詰まった。 前と同じ聞き方をしたところで「しつこい」と追い返されるだけだろう。 だからと言って、他に何かハルヒが話してくれそうな問い方があるのか? キョン「・・・。」 でも、このままじゃダメだ。 何か…何か言わなければ・・・! キョン「ハルヒ、お前は俺のことがそんなに頼りないか?」 ハルヒ「…はあ?ばっかじゃないの?」 キョン「誰が馬鹿だと?」 ハルヒ「あんたよ。妙なところで心配性なのよね、ホント。」 すまん、どうやら早くもスイッチが入ってしまったようだ。 キョン「…そういう強がりが余計に心配かけているんだよ!馬鹿野郎!!」 俺がそう言ったとたん、ハルヒも阪中もビクッとした。 キョン「俺達はSOS団の仲間だろう!?お前が何やら様子がおかしいのはまる分かりなんだ。」 ハルヒ「そう…。じゃあ言わせてもらうわ。」 ハルヒはそれからとんでもないことを口走りやがったのである。 キョン「は?今、何と?」 ハルヒ「だから、SOS団をそろそろ解散にしようかと思うの。」 キョン「な、何でだ!?」 ハルヒ「飽きちゃったのよね…。ありもしない不思議を探そうだなんて。」 ハルヒ? お前の言っていることが俺にはよく分からんぞ? ハルヒ「毎日毎日同じ退屈した日々の繰り返し。正直飽きちゃった。」 キョン「おい、待てよ…。ハルヒ、お前は何を言ってるんだ? お前SOS団の活動、いつも楽しそうにしてたじゃないか。 俺の胸がむしょうにそわそわしてきた。 これはそろそろまじでやばいなと俺の本能が知らせている合図だ。 ハルヒ「…とにかく、あたしは今日からSOS団には参加しないわ。今後のことは残ったメンバーで話し合って。」 そう言って、ハルヒは屋上を出ようとする。 畜生・・・このまま行かせてたまるか! キョン「待ちやがれ!ハルヒ!!」 ハルヒは屋上の出口の前で止まってくれた。 やれやれ、間一髪だったな・・・。 キョン「お前の言ってることは嘘だな。」 ハルヒ「なっ…あんたに何が分かるっていうのよ!?」 キョン「ハルヒ…、お前が立ち上げたSOS団をこんな簡単に解散させようと思うはずないんだよ。もっとちゃんとした、SOS団に居づらくなった決定的な理由があるんだろう?」 俺は鋭い目でハルヒを睨んだ。 ハルヒ「うっ…。」 阪中「涼宮さん。何があったの?。」 ハルヒ「……。」 キョン「…俺達は仲間だろう?団長さんが仲間を頼れないなんて、情けない話だぜ?」 ハルヒ「……キョン。…あたし、怖かったのよ。SOS団のメンバーがあたしを嫌っているんじゃないかって。」 どうして今更そんなことを気にするんだ? ハルヒ「分かんない。でも、何だかふと気になるようになって…。」 俺は正直この時驚いたね。 あのハルヒが他人の目を気にするなんてね・・・。 キョン「ハルヒ。お前には分かるか?『仲間に嫌われる』というのがどういうときか。」 ハルヒ「……。」 ハルヒが普段じゃ決して見ることの出来ない不安そうな表情で俺を見つめてくる。 キョン「ハルヒが本気で嫌われたくないとか考えているなら、もっと仲間を頼れ!俺達を信じろ!」 そうだ、俺はハルヒに今までどうりにいてほしいんだ。 キョン「俺は少なくともお前のことを嫌いになりたくねぇ!」 ほんの一瞬、辺りから何一つ音がしないのを感じだ。 静まり返る中、俺はハルヒに言ってやった。 キョン「世界をおおいに盛り上げる涼宮ハルヒの団…。団長がいないと始まらないぜ。なあ、ハルヒ。」 阪中「…キョンくん…。」 ハルヒ「…キョン。勝手な行動をとった団長を許すの?」 キョン「ああ。」 そうだ、もっと俺にSOS団の楽しさを教えてくれよ。 放課後、ハルヒはSOS団にいつもどおりにやってきた。 いつもと同じ放課後の何気ない元文芸室での活動だったが、なんだろう? ひとつだけ違う点があった。 キョン「ハルヒ・・・。」 ハルヒ「な、何よ?」 キョン「今日はポニーテールなんだな。」 ハルヒ「・・・。」 ハルヒはしばらく間をおいて、言った。 ハルヒ「今日から再スタートだから、記念にってね。」 ―END―
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/510.html
今日のハルヒは少し変だ。 どいつよりも一番長くハルヒと付き合ってきた俺が言うのだから間違いない。 いつもは蝉のようにうるさいハルヒが、今日は何故か静かだし、 顔もなんだか考え事をしているような顔だ。 「どうしたハルヒ。」 俺は休み時間になってからずっと窓の外を眺めているハルヒに話しかけた。 「なにがよ。」 「元気ないじゃないか。」 俺がそう言うと、ハルヒは眉と眉のあいだにしわをつくって、 「私はいつでも元気よ。」 「そうかね。そうは見えないんだがな。」 ハルヒは俺の言葉を無視し、窓の外に目をやり、 「今日も来るんでしょうね」 「どこにだ。」 「SOS団部室によ。」 いちいち聞くこともないだろうよ。 「ああ、行くよ。」 ハルヒは窓のそとにやっていた視線を俺の目に向け言った。 「絶対よ。」 今日の授業も全て終わり、俺はいつものようにSOS団部室―実際は文芸部室なのだが―に向かった。 ドアをコンコンとノックする。これもまたいつも通りだ。 「どうぞ。」 朝比奈さんの声でドアを開けると、ハルヒはもう既に団長席に座っていた。 「遅いじゃない。」 何を言ってる、いつも通りだ。 「来ようと思えばもっと早く来れるでしょう?まったく、意識が薄いのよ。 部室への集合にも罰金制度を取り入れようかしら・・・。」 なにやら不穏なことをぶつぶつ言っている。おいおい勘弁してくれ。 休日のオゴリだけでもきついのにそれに上乗せされちゃあ、たまったもんじゃねぇぜ。 「なら、明日からはもっと早く来るって約束しなさいよ。」 へいへい。だが、どうせ早く来ても俺のやることといったら古泉とのオセロぐらいしかないのだが。 「今日は負けませんよ。」 古泉は長テーブルにオセロのボードを広げて既にスタンバイOKのようだ。 お前はそう言って毎回負けるんだよなぁ。 俺と古泉がオセロをしている間、ハルヒは珍しくいつものようにパソコンをつけずに、 俺と古泉の勝負風景をじっと眺めていた。 「なぁハルヒ。」 俺は視線はオセロのボードに落としたまま言った。 「なによ。」 「見られてると非常にやりにくいのだが。」 「プロの将棋師とかはたくさんの人に注目されてる中でやるのよ? これぐらい耐えられなくてどうするのよ。」 どうもせん。大体、俺はプロじゃないし、今やってるのは将棋でもない。オセロだ。 そんなツッコミを入れつつ、俺は古泉の白を黒に変える。 「いやぁ、参りました。完敗です。」 古泉は両手をあげて言う。 「古泉くん弱いわねー。」 ハルヒはパイプ椅子から立ち上がった。何だ? 「私がやるわ。古泉くん代わって。」 マジで? 「どうぞどうぞ。でも、彼は強いですよ。」 お前が弱いだけだろうが。 ハルヒは古泉から譲りうけた席にでんと座り、 古泉はさっきまでハルヒが座っていた席に腰掛けた。 「さぁ、キョン。始めるわよ。私が黒ね!」 そう言ってハルヒはボードに一手目を置いた。 やれやれ。 結果。 俺が勝った。 「何よコレぇ!キョン!もう一回よ!」 またかよ。お前は勝てるまで続けるような気がする。 今度は俺が先手で始まった。 そして結果。 俺が勝った。 「なーにーコーレー!!なんで私が馬鹿キョンに負けるのよ!!」 毎日糞弱い古泉と鍛えているんだ。馬鹿にしないでほしい。 「もう一回よ!!」 ・・・やれやれ。 「やった、勝った!キョン、あんた大した事ないわねー。」 俺に5回も負けといてよく言えるな。 「あんたはいつも古泉君と鍛えてるでしょー?私はオセロなんて滅多にやらないもん。」 なんじゃそりゃ。小学生か。 ふと、横を見ると古泉がニヤニヤしながらこちらを見ていた。何が面白いんだ。 「古泉くん!」 「なんでしょうか?」 「他にゲーム持ってないの?なんかこう、SOS団みんなで遊べるようなもの!」 そんなにたくさんゲームを学校に持ってきてるわけないだろう。 「ありますよ。」 あるんかい。 古泉はバッグのファスナーをあけると、中からずるずるとなにか取り出した。 「何だそれは?」 古泉はニコリと笑って見せた。 「人生ゲームです。」 「人生ゲームね!面白そうじゃない!有希!みくるちゃん!あなた達も参加しなさい!」 ハルヒの顔は輝いている。朝の鬱モードはもう既にどこかに吹っ飛んでしまったらしい。 「ふぇ?」 編み物をしていた朝比奈さんは、何の話か聞いていなかったらしく、きょとんをした表情で顔を上げる。 「だから、人生ゲームよ。有希ちゃんも、ほら。」 ハルヒが言うと、長門は読んでいた本をぱたんと閉じ、すたすたと俺の横の席まで歩いてきてすとんと座った。 「始めるわよ。みくるちゃんと古泉くんも席に着きなさい。」 朝比奈さんと古泉も着席し、ゲームが始まった。 「やった、結婚よ!いいでしょ、キョン。羨ましい?」 羨ましくない。ボード上の世界で結婚してもしょうがないだろう。 「でもあんた、現実でも、結婚はおろか彼女すらできないんじゃない?」 痛いところを突くな。と、次は俺の番か。 俺は出た数だけ駒を進める。 ん?「株で1000万儲けた」、ねぇ。本当にあればいいのにな。 現実はそんなに甘くないのだよ。 最終的に勝者になったのは長門だった。 その次からハルヒ、俺、朝日奈さん、古泉の順だ。 古泉お前、全員でやってもやっぱり弱いのな。 「面白かったわ!古泉くん、明日はあのスゴロク持ってきてちょうだい!」 あの スゴロク・・・?っていうとあれか。 大晦日のときにやったSOS団オリジナルの、やたらと俺いじめのマスが多いスゴロク。 あれはもうやりたくないな・・・。 それから数十分して。 ぱたん。と、長門の本が閉じられた。 「今日は皆で帰るわよ!」 ハルヒは両手を腰に当てて、偉そうに言った。 「すまん、ハルヒ。俺は今日早めに帰って見たいドラマがあるんだ。」 「何言ってるのよ。そんなの録画しとけばよかったんじゃない。 いい、キョン?団長の命令は絶対なのよ。例外は認められないわ。」 ハルヒは眉を吊り上げながら、俺に顔をぐいっと近づけて言った。やれやれ。 帰り道、ハルヒはいつも以上にやたら活発だった。 急に競争をしようだとか、荷物持ちのじゃんけんをしようだとか小学生レベルの事を言い出したり、 どこから持ってきたのか、眼鏡を長門にかけさせて遊んだり、 朝比奈さんの胸を・・・っておい!!何をしているハルヒ!! お前がもし男だったら俺の鉄槌の拳が飛んでいたところだ。 しばらくすると、はしゃぎ疲れたらしい、歩くのがゆっくりになってきた。 「ハルヒ、お前今日はやけに元気がいいな。」 「そう?いつももこれぐらいだと思うけど。」 ハルヒは軽く息を切らしながらハイビスカススマイルで答えた。 「そうかねぇ。」 しばらくそのまま歩いていると、ハルヒは急に足を止めた。どうした? 見ると、ハルヒの顔は先程のようなスマイリーな表情ではなく、 真面目な顔になっていた。 「ねぇ皆。ちょっと聞いて欲しいんだけど・・・。」 他の奴等も足を止め、ハルヒに注目する。 「・・・・・・・・・。」 ハルヒはそのまま黙り込む。何だ、言いたい事があるなら早く言えよ。 「・・・・・・。」 ハルヒは小さく口を開いて声を発しようとしたが、すぐにやめて口を閉じた。 焦らすな。早く言え。 それからまた黙り込んだあと、急にまたさっきのようなスマイルに戻って口を開いた。 「いや、ごめん。なんでもないわ。つまらないことだから気にしないで。」 そう言うと、ハルヒはまた歩き出した。合わせて俺達も歩き出す。 ハルヒが前で歩いていた朝比奈さんのところに駆けていったのを見計らって、 古泉は俺に近づいてきて小声で言った。 「何かありますね。」 「・・・ああ。」 次の日、朝になるとハルヒはまた鬱モードに突入していた。 「よぉ。」 俺がバッグを机の上に置きながらハルヒに話しかけると、 ハルヒは挨拶を返すことなく言った。 「今日何日だっけ?」 そんなの前の黒板の日付みればいいだろ。 「3月・・・9日よね?」 ああ。 「金曜日よね?」 ああ。それがどうした。 「いや・・・、なんでもない。」 やっぱり何かあるな。昨日のハルヒも今日のハルヒも何かおかしい。 テンションも不規則に上がり下がりするし。 「ねぇキョン。」 ハルヒは顔をずいっと近づけてきた。 「今日も部室来なさいよね。」 昨日ハルヒに部室の集合に関してあーだこーだ言われたため、 今日はホームルームが終わってすぐに部室に向かった。 部室につくと、古泉がいつものニヤケ顔でパイプ椅子に座っていた。 「やぁ。」 古泉はさわやかな表情で慣れ慣れしく左手を挙げた。 「朝比奈さんはまだか。」 「えぇ。長門さんならいますけどね。」 古泉が片手で示した先には、いつも通り窓辺で本を読む長門がいた。 よくそんなに本ばかり読んで飽きないものだ。 「ところで、涼宮さんはまだでしょうか?」 「岡部に話があるんだとさ。まだ来ないと思うぞ。」 「それは都合がいいですね。話があるのですが、良いですか?」 なんだ。また何か面倒ごとに巻き込むつもりか? 「実は、昨日の夕方から夜中にかけて、大量の閉鎖空間が発生したんですよ。 はっきり申し上げますと、昨日の量は異常でした。 最近落ち着いてきたと思ってたんですがね。」 古泉はやれやれ、と肩をすくめた。 「・・・どういうことだ?」 俺は目を細めてみせる。 「わかりません。僕達の機関の調査では。」 古泉はニコニコ顔を崩さず言う。 「悩み事とかあるんじゃないでしょうか。 恋の悩みとか。ベッドの中であなたのことを考えるあまりに、 異常な量の閉鎖空間を生み出してしまった、とか。」 冗談にしては笑えないぞ古泉。 「完全に否定はできませんよ?フフフ。」 ・・・何が面白いんだ古泉。というか、何故俺なんだ。 古泉は心外そうな顔をして、 「おや?あなたもしかしてまだ・・・」 そこで言いとどまると、ニヤケ面を5割増しして言った。 「いえ、言わないでおきましょう。」 何故か古泉のニヤケが無性に憎く見えた。 「何にせよ、涼宮さんが何かに苛立っているというのは明らかです。 ただし、僕達と一緒にいるときは閉鎖空間の発生はみられないそうです。」 何に苛立っているというんだ。 「ですから、それがわからなくて困っているのです。」 昨日今日のハルヒの様子が変なのもそのせいか。 「そのようですね。ところで、昨日の話ですが。 昨日涼宮さんが言いとどまった言葉、なんだと思いますか?」 さぁな。 「僕達になにか伝えようとしていましたね。 あの表情からして、とても重要な話だと思うのですが、どうでしょう?」 知らん。 「全員に呼びかけたってことは、告白ってわけではないでしょうね。」 古泉はニヤケ顔を更に5割増する。なんだその目は。 「いえ、何でもありませんよ。フフフ。」 そう言って微笑む古泉の顔が不気味に見えて仕方が無い。 「あの涼宮さんが言いとどまった言葉、 あれが涼宮さんの苛立ちと関係があるような気がするのですが。」 さぁな。 「涼宮さんに聞いてみたら早い話ですがね。」 ハルヒが言いたくないことを無理に聞く必要も無いだろう。やめとけ。 「当然そのつもりですよ。まぁ、聞かずともいずれ彼女から話してくれるでしょう。」 そうだな。 「ヤッホー!!皆元気~?」 毎回のようにドアを蹴り破って登場した我らが団長。後ろには朝比奈さんがついている。 「みくるちゃんとそこの廊下であって、一緒に来たのよ。」 そうかい。 「さて、キョンと古泉くん。」 「なんだ。」 俺が言うと、ハルヒは少し顔をしかめ、ドアの方を指さした。 ああ、そういうことね。と、俺は朝比奈さんをちらりと見て、 ドアの元まで行き、一礼して部室を出た。遅れて古泉も。 「どうぞ」 朝比奈さんの声を確認し、ドアを開けると、意外な光景を目にした。 朝比奈さんがメイド服を着ているのはいつも通りだが、 なんとハルヒが朝比奈さんが前に着ていたナース服を着ているではないか。 「これはこれは。」 古泉も少なからず驚いているようだった。 「たまには私も着てみたわ。どう?」 ハルヒは得意気に髪を掻きあげた。 「いいんじゃないか。」 「何よ、その薄いリアクションは! もっとこう、『わー!ハルヒ可愛い!!』とかないの?」 わー。ハルヒかわいー。 「あーもう、イライラするわねー。もういいわ。」 とりあえず薄くリアクションしておいたが、内心、可愛いと思っていた。 朝比奈さんのナース姿も良かったが、ハルヒのそれもなかなかのものだ。 「僕は似合ってると思いますがね。可愛いですよ。」 「でしょ?ありがとう古泉くん。 やっぱりわかる人にはわかるのよねー。」 喜べハルヒ。その格好で秋葉原に行けば注目の的だぞ。 お前が言う わかる人 ってのもいっぱいいる。 …ところで、いきなりナース服を着だしたりだとか、 やはり最近のハルヒは変だ。 まぁいいか、楽しそうだし。教室のときのように鬱にしてるのより何倍もましだな。 「さぁ、スゴロクやるわよ、スゴロク!!古泉くん、持ってきてるでしょうね?」 げ。 「はい、もちろん。」 げげ。 古泉はバッグのファスナーを開けると、ずるずると大きな紙を取り出した。 やれやれ。 今日は日曜日、不思議探索パトロールをすることになってる日だ。 少しばかり寝坊した俺は、大急ぎで歯を磨き、髪を直し、服を着て待ち合わせ場所に走った。 他のメンバーは既に揃っている。 「遅い! 遅刻!! 罰金!!!」 このフレーズを聞くのも何回目だろう。これを聞くたびに俺の財布は打撃を受ける。 「と、言いたいところだけど、今日は私がおごるわ。」 は? 今ハルヒ何と言った?パードゥンミー?ワンモア、プリーズ? 「だから、今日は私がおごってあげるって言ってるじゃない。」 俺の耳は故障してしまったのだろうか。すまん、もう一度だけ頼む。 「今日は私のおごりよ!」 なんと。なんとなんと。思わず目眩がした。 今日は雪でも降るんじゃないか。いや、もう隕石が雨のように降ってきそうな勢いだ。 「何馬鹿なこと言ってんのよ。行くわよ、キョン。」 やはりおかしい。絶対におかしい。ハルヒがおごるなんて普通考えられない。 「キョンは何にするの?今日は高いもの頼んでもらっていいわよ!」 こんなことを言う事も、だ。どういう気の変わりようだ? 「何もないわよ。ほら、さっさと選んじゃいなさいよ。」 俺は何かハルヒの陰謀があるのではないか、と あえて高い物を選ばず、中くらいの物を注文した。 「何よ、遠慮することにないのに。」 何か怖くてな。すまん。 そして俺達は食事を済ませ、毎回恒例のくじ引きタイムに入った。 まず古泉が引く。無印。 次に朝日奈さん。無印。 次に俺。赤印 次に長門。無印。 「て、ことは私は赤ね。」 ハルヒは爪楊枝を掴んでいた手を開く。 爪楊枝の先には赤い印がはっきりと刻まれていた。 横に彼女を連れて、手を繋いで歩く。これはモテない男誰もが夢見ることだろう。 しかし、俺が手を繋ぐのではなく、手首を掴まれているのは何故だろう。 答えは簡単。連れている女が涼宮ハルヒだからだ。 「ちょっとキョン!もっとシャキシャキ歩きなさいよ! まず何処行く?デパートの食料品店で試食品でも食べ歩く? それとも、服でも買いに行こうか?今日はたくさんお金持ってきてるしね。」 どうやらこいつは 不思議 を探す気などさらさら無いらしい。 「どこでもいいぞ。お前のすきなところで。」 なんだか今日のハルヒの足取りは軽い。全身からウキウキオーラが放射されまくっている。 「あっそうだキョン!あたし観たい映画があるんだったわ! 一緒に観に行きましょう!」 映画・・・か。まぁ、このままハルヒに色々連れまわされるよりはいいだろう。 「決定ね!じゃあ行きましょう!」 俺は手首を掴まれたまま、映画館まで連れて行かされた。 なにやら甘ったるい匂いがするのは、受付の横の、なにやら色々飲食物を売ってる店のせいだろう。 「チケット2枚。」 俺がハルヒの分のチケットも買ってやっていると、ハルヒがポップコーンとコーラを持ってきて、 「はい、これ。あんたの分よ。私のおごりね。」 今日のハルヒは気前がいいな。 「それじゃあ行きましょう。早く行かないと始まっちゃうわ!」 そう言ってハルヒはまた俺の手首を掴んだ。やれやれ。 映写機がじりじりとスクリーンに映画を映し出す。 観ている内にわかったが、これは流行りの 感動モノ の映画らしい。 そして、今が一番泣き所のクライマックスのシーンだと思われるが、 どうした事か、俺の目からは涙の一滴すら落ちてこない。 もう少しピュアな心を持っていれば泣けるのだろうが、 俺の心はとっくにがさがさに荒んでいるのでな。 俺がふと横を見ると、意外な光景がそこにあった。 映画にかぶりついているハルヒの目に、若干涙が浮かんでいるではないか。 ハルヒはしきりに、服の袖で目を拭っている。 そのままハルヒはしばらくスクリーンを凝視していたが、俺の視線に気付くと、呆れ顔をつくって言った。 「何であんたこれで泣けないの?馬鹿じゃない?」 馬鹿ではないと思う。 外に出てみると、さっきは暗くてよくわからなかったが、ハルヒの目元が少し赤くなっていた。 「よかったわー、あの映画・・・。 あんなクオリティの高い映画はこの先そうそう作れないと思うわ。」 俺は全然泣けなかったけどな。 「あれで泣けないってのがおかしいのよ! あれで泣けないなんて信じられないわ。人間じゃないわ!」 おいおい、ついには人間以下かよ。 「まぁいいわ。楽しかったし。 おっと、そろそろ集合時間ね。待ち合わせ場所に急ぎましょう!」 ハルヒはそう言うと俺の手首を掴む。もうちょっと穏やかにできないのか。 せめて手を繋ぐとか。 「手、手ってあんたと?私が?」 冗談だ。本気にするなよ。 「あ、冗談ね。冗談か。 そうよね、あんたと手繋いで恋人同士だと思われたらとんでもないわよ!」 ハルヒは何故か少し動揺しながら言った。なにを焦ってんだか。 ハルヒが俺の手首を掴んでずんずんと商店街を行く。 と、ここで見慣れた二人組が目に入った。 「あ、谷口と国木田じゃねぇか。」 俺は足を止める。と、同時にハルヒも足を止めた。 「ようキョン。」 「奇遇だね、何やってたんだい、キョン。」 谷口と国木田は私服姿だ。お前等こそ男二人で何やってんだ? 「別に。ゲーセンとか行ってぶらぶらと遊んでただけさ。」 そう言うと、谷口は俺とハルヒを舐めまわすように見てきた。何だ? 「お前等は二人してデートか?いいねぇ、お熱くて。」 馬鹿言うな。これはSOS団の不思議探索パトロールだ。 「不思議探索パトロール?それって何するんだい?」 国木田の言葉に少し返答に困った。まさか 映画をみたりすること とは言えまい。 「街中で不思議な事が無いか探すんだよ。」 適当にごまかしておく。 「ふーん。変なことしてるねぇ。まぁいいや。じゃあ、僕達は行くよ。じゃあねキョン。」 「またな。」 「おう、じゃあな。あ、そうだ、待て谷口。チャック、開いてるぞ。」 「うわっマジかよ!!っていうか何で国木田教えてくれなかったんだよ!」 「え?それって新しいファッションかなんかじゃないの?」 「違ぇよ! やべーさっきこのままナンパしちまったよ。変態だと思われたかも・・・。」 「大丈夫だよ、谷口。君はもう顔が変態的だから。」 「えっ!?何それ?どういう意味!?」 「それじゃあね、キョン。」 「無視するなよ国木田!なんか今日お前悪い子だぞ!」 「じゃあな。国木田、谷口」 そう言って俺達は谷口達と別れた。 何やら後ろから「谷口ウザイ」という国木田の声が聞こえた気がするが空耳だろう。 集合場所につくと、既に他三人は揃っていた。 「ゴッメーン。遅れちゃった!」 ハルヒは右手を挙げる。 「それでは、また喫茶店に入りましょうか。」 本日2度目の喫茶店。今度もハルヒのおごりだった。 「それじゃあ、くじ引きしましょう。」 ハルヒは慣れた手つきで爪楊枝に印をつける。 まず長門が引いた。赤印。 次に俺。無印。 次に朝比奈さん。無印。やった朝日奈さんと一緒だ。 次に古泉。赤印。 「じゃ、私が無印ね。」 班分けは俺とハルヒと朝日奈さん、古泉と長門になった。 俺はいいのだが、古泉と長門は二人で話すことなどあるのだろうか、と少し心配になる。 ハルヒは今度は片手は俺の手首、もう片方の手は朝比奈さんの手首を掴んで歩き出した。 「出発よ!さて、キョン、みくるちゃん?何処に行きたい?」 俺はさっきも言っただろう、お前に任せると。 「みくるちゃんは?」 「えーっと・・・じゃあ、お茶の葉を買いに行きたいです。」 「じゃあまずはお茶の葉ね!行きましょう!」 やれやれ。 歩く事数分、茶葉の専門店みたいなところについた。 朝比奈さんは目を輝かせていたが、俺とハルヒはお茶の葉のことについてなんて全然知識ないから 店内に置かれた椅子にすわって暇を持て余していた。 朝比奈さんは店長さんとお茶の話で盛り上がっている。 少し耳を傾けてみたがさっぱりわからん。 しばらくして、 「お待たせしました。では行きましょう。」 楽しそうに駆け寄ってきた朝日奈さんは、茶葉の入った箱を抱えていた。 その後、デパートに行って試食品を食べ歩くなど地味ーなことをしたり、 ゲームセンターに行ってUFOキャッチャーを楽しんだりした。 楽しい時間は瞬く間に過ぎるもので、時刻はあっという間に集合時間前だ。 「楽しかったわー。キョンのUFOキャッチャーの腕前は意外だったわねー。」 ハルヒは俺が取ってやった熊のぬいぐるみを両手に抱えて、もこもこさせながら言った。 ゲーセンは谷口達とよく行ったからな。SOS団に入ってからは、あまり行くことも無くなったが。 「私も楽しかったです。ありがとうキョンくん」 いや、俺にお礼を言われても困るんですけど・・・。 「あ、有希!古泉くん!」 まだ集合10分前なのに、長門と古泉は既に集合場所に到着していた。 やはりやることがなかったのだろう。 そしてその日はそのまま解散することになった。 涼宮ハルヒの異変 下
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/523.html
俺は今奇妙な状況下に置かれている。 …というのもあの凉宮ハルヒに抱きつかれているというのだから戸惑いを隠せない。 普段のハルヒがこんなことをしないのは皆さんご存じだろう。 まぁ、とある事情があって普段のハルヒではなくなっているからこうなっているわけだ… そのとある事情を説明するためには少々過去に遡らねばならん(←こんな字書くんだな) いつもの通り俺たちSOS団は文芸部の部室にいた。 まぁ、いつもと一つ違うと言えばこの砂漠のような部屋に俺の心のオアシス… そう、朝比奈さんがいないことぐらいだ。 さっき廊下でたまたま会った鶴屋さんの話によると夏風邪らしい。 やはり日頃の疲れが貯まっていたのだろう そこの団長の特等席でふん反り返ってる涼宮ハルヒのせいで… と、俺が色々と考えながらハルヒを見ていると 視線を感じたらしいハルヒがこっちを睨んで言った 「なに!?暑いんだから視線を向けないでよ!」 「……」 いつもだったら何か捻った言葉の一つでも返すのだが、暑すぎて何も返せなかった。 続けてハルヒが言う。 「まったく、ボーっとしてるんならクーラーかみくるちゃんを持ってきなさいよ」 こんなに暑いのに口の減らん奴である。しかもまた無茶なことを… 「無理に決まってるだろ。朝比奈さんは病気だし、クーラーを買う金もない。」 俺は必要最低限の返答をした。 その返答に対してハルヒは「知ってるわよ!バカキョン!」 逆ギレかよ…。そうとう不機嫌だな今日は。 しばらく沈黙が続いて部屋には長門が本をめくる音だけが響いた。 バンッ!! 突然ハルヒが机を叩き立ち上がった。 俺と古泉はぼんやりとしていた脳への突然の刺激に驚いてハルヒの方を向いた。長門は……まぁ、そんなことぐらいでは反応しなかったな。 「お酒を飲みましょう!!」 「………ハァ?」 感情が素直に言葉として表れた。わりと考えてからものを言うタイプなんだがな。 「暑い日はビールに限るってうちの親父が言ってたのよ!」 そんなに目を輝かせるな。 「なに言ってんだ。未成年だろ俺たち。しかもここは学校だ」 もっともである。これに異議を唱える奴(不良以外でな)がいたら俺の前に出てこ… 「はあ!?なに堅いこといってんのよ!せっかく高校生になったんだからバレなきゃいいのよ!」 …いたよ。それも目の前に。 「しかもここで飲むなんて、そこまであたしはバカじゃないの」 さすがにそこはわかってるらしい。 「ああそうかい。じゃあ早く家に帰って一人で…」 「は?何言ってんの?」 人が話してんのにこの女は…。 人の話は最後まで聞くって教わらなかったのか? アメリカの映画の口論みたいな奴だ。 と不満を脳内でぶちまけていたのだが 俺はまたハルヒのイカレタ発言を耳にすることになる。 「キョンの家でみんなで宴会に決まってるじゃない」…皆さん、今この人はあたりまえみたいに言いましたけど決まってはいないですよね? 俺の脳内のたくさんの俺による俺会議の結果、満場一致で反論することが決まった。 「なに勝手に決めてんだ。いい加減にしろ。だいたい…」 俺がいいかけると読書中の長門が呟いた 「…………閉鎖空間」 おいおい嘘だろ?こんなことぐらいで・・・ そう思い古泉を見ると、腹が立つくらいの笑顔で頷きやがった ムッとした例のアヒルみたいな口でハルヒが言った。 「だいたいなによ」 お前はいつもいつも…と言おうとしていたのだが、あの言葉を突き付けられてしまっては…… 「だ、だいたい俺の親が許可するかどうかわからないしだな」 …あれ? うわぁ~ミスったよ!親さえ良ければ家でいいみたいじゃねえか! 「なるほど、それは考えてなかったわ。じゃあ今聞いてみなさい」 やっぱりね。うん。わかってたぞ。なんだかんだでハルヒとの付き合いも長いしな。 言ってしまったものは仕方ない。 俺は携帯から自宅に電話した。 しばらくかけていると母親が出た。 どうしたの?とか聞かれたが手短に済ませたかった俺は本題に入った。 「あのさ、家で酒とか飲んだらダメだよな?」 頼む!ダメだと言ってくれ!親がダメと言ったならハルヒも諦めるだろ。 そのためにわざわざ否定疑問文で訊いたんだ。 「いいんじゃない?もう高校生なんだし。外で飲んで警察のお世話になるよりいいわよ」 …そうだった。俺の親は割りとさばけた人間なんだった。 俺は電話を切った。 「いいお母さんね。キョンと違って話の分かる人よ」 うれしそうにしやがって。つーか笑顔は本当にかわいい奴だ。 ワガママにもいい加減慣れてきている自分が少し嫌だ。 そんな感じで俺らSOS団は雑用係である俺(言ってて悲しくなってくる)の家で 宴会を開くことになった。 待て待て、まだ俺の話は終わりじゃないんだ。 少し愚痴らせてくれ 家に向かう途中で酒を買えれば良かったのだが、もちろん制服姿の奴に売ってくれる店はない。 つまり俺はハルヒ達を一度家に案内して着替えてから買いに行かねばならんのだった。 もちろん私服がないという理由で俺ひとりで買いにいったさ。 まあ、奢りじゃないだけマシか…。 「じゃあ行ってくるけど、部屋荒らすなよ?特にハルヒ!」 そう言い残して俺は家を出た。 冒頭で言ったように外は暑い。いち早くクーラーの効いた部屋に帰還するため俺は急ぎめで買い物を済ませ家に向かった。 ちなみに店員はあきらかに二十歳に達していない女子高生だった。 はたして俺はいくつに見られたのだろう? など考えながら家に着いた。部屋のドアを開けるとクーラーが効いていて、まるで天国のようだった。 「買ってきたぞ」 俺は溜め息混じりで言った。 「お疲れ様です」 と古泉が言ったので、「ああ疲れたよ。畜生!」と心の中で思ってると 「………お疲れさま」 と長門が蚊のなくような声で言ったのを俺はしっかりと耳にした。 普段無口な長門に感謝されると行った甲斐があるというものだ。 と少し感動していると 「10分ちょっとね。まぁ、キョンにしてはなかなかのタイムね。お疲れ様」 ハルヒの言葉に俺はややムッとしたが気にしていてはきりがない。 「部屋荒らしてないだろうな?ハルヒ? 俺は先ほどの怒りの分も込めて言ってやると、 「あ、荒らしてなんかないわよ!」 ハルヒが心外だという顔で言った。 実に怪しいものだが、ちょっと荒らしたぐらいじゃ見られて困るようなものは見付からないだろうしな。 「そうか」 とだけ言って床に座った。 その後、機嫌が少し悪そうなハルヒをフォローするため古泉が 「乾杯の合図は団長が」 など言いながらハルヒに缶チューハイを渡し、 古泉の気遣いに気を良くしたハルヒのやたらテンションの高い乾杯で、ハルヒ曰く「第一回SOS団夏休み直前祝いの宴会」が始まった。 いや、始まってしまったの方がしっくりくるな。 そこからが大変だったのだ。 俺とハルヒは父親がかなり飲むらしく、全然酔わなかった。 古泉はあまり飲まないし、少し顔が赤くなる程度でいつもと変わらずだった 意外だったのは長門だ。俺の個人的主観では長門はこの中で一番酒に強い! ということになっていたのだが、それは大きな検討違いだったらしく、 一口、二口飲むと、まるで人形のように倒れ込み、そのまま眠ってしまった。 それを見たハルヒが 「有希ったらだらしないのね~」なんて楽しそうに言っていた。 どうせ酔うなら、ベラベラとハルヒぐらい喋る長門や、笑い続ける長門も見たかったが おそらく収拾に困っただろう。 それにしてもハルヒは飲む。気付けばハルヒの横には空の缶が4本も並んでいる。 心配になり 「飲みすぎじゃないのか?」 と声をかけたが、 「こんなのジュースと同じよ!!」 と言われてしまった。 本人が一番自分を分かっているだろう。 俺はハルヒのことはあまり気にかけず、テレビを見た。 長門は息をしてるか不安になるくらい寝ていて、俺と古泉はあまり飲まずにテレビをみて、ハルヒは飲みながらテレビを見ていた。 興味深い番組に夢中になっていたため気付かなかったが、 時計はまもなく10時30分を指そうとしていた… ふとハルヒの方を見ると、そこには目の座った完全な酔っぱらいがいた… 俺は知っていた。酔っぱらいとは目を合わせてはならないということを、しかし、酔っぱらいと知らずに見た奴が酔っぱらいだった場合の対処方は知らない。 そう、まさに今だ… 「なあに見てんのよキョン~」 うわっ!絡まれた! 俺は酔っぱらいがどれほど厄介なものかは分かってるつもりだ。 現にうちの母親はすぐ酔うし絡むからな。 のそのそと近付いて来たハルヒは俺に抱きつくとそのまま押し倒した・・・ 「どけ、ハルヒ!重いから!」 勘違いするなよ?ハルヒの名誉のために言うが別に本当に重いわけではない。 俺は酔っぱらい(主に母親)に乗しかかられた時はいつもこう言うのだ。いわば決め台詞だな。 しかしハルヒは一行に退こうとしない。 「ん~キョン~」などと普段出さないような声で顔を俺の胸あたりに擦りつけて来る。 そんな攻防がしばらく続くと長門が目を覚ましあたりをみて開口一番にこう言った 「………帰る」 俺は喜び、叫んだ。「早くこのよっぱらいを連れて帰ってくれ!」 もちろん心の中でだぞ? しかし次の言葉で固まった。 「では帰りましょうか、長門さん?」 長門はコクッと微かに首を縦に振った。 えっ!ちょっと待てよ。涼宮さんはいいのか!? 「おい、古泉!こいつはどうするんだ!?」 俺は今まさに部屋から出ようとする古泉に訪ねた。 「ん~」 なに考えてんだ?「ん~」じゃないだろ!? 「お任せします」 笑顔でいいやがった。 「ハァ?」 今日は素直に言葉が口から出る日だ。 「おじゃましました」 そういうと俺の心の底からの疑問には耳も貸さず古泉は部屋から出てった。 続いて長門が出て行こうとしたため 俺は最後のチャンスだと思い長門に言った。 「な、長門!こいつを連れて帰ってくれ!」 「……やだ」 「やだ」って長門さん… まだ少し酔ってんだな~とか考えているうちに長門は部屋から出て行った。 俺は戸惑った。時計を見るともう11時を過ぎている。 もちろんハルヒを一人で帰らせるなんてことはできないし、 送って行くにしろ、こんな泥酔状態の奴を連れて歩いてたら警察に捕まる。 俺が必死に考えているというのに当のハルヒは今だに俺の胸あたりに顔を擦りつけ、 甘ったるい声でゴニョゴニョ言っている。 なにを言ってるんだかわからないが、俺はハルヒの方を見ていた。 しばらくすると、突然ハルヒは顔を上げ、俺の方を見て言った。 「キョンはあたしのことどう思ってるの~?」 …その刹那、稲妻が体を突き抜けた。 というのは嘘だが、 元々美人なハルヒが上目使いで、頬を赤く染め、さらには「あたしのことどう思ってる?」 と来たからには衝撃を防ぎきることはできなかった。 「ど、どうって…」 俺が言葉に詰まっているとハルヒが俺の体を軽く揺すり 「ねぇ~どうなの~?」 とか言っている。 正直この状況に俺はまだ困惑しているため、 苦し紛れにハルヒに言った。 「お前は俺のことどう思ってるんだ?」 普段のハルヒの質問に質問で返したら逆鱗に触れることは必至だが、今ならいけそうだと判断したからだ。「え?あ、あたし?」 赤い顔を更に赤くさせ、ハルヒが言った。 「そうだ。ハルヒから教えて欲しいんだ」 確にハルヒが俺をどう思ってるのか気になるしな。 今なら本音が聞けそうだしな。 財布とかパシリでないことを祈ろう… しばらく沈黙が続いた(5秒ぐらいだがな)が、ハルヒが話出した。 「…あたしは……キョンが……好きだよ///」 「へ?」 我ながら気の抜けた声である。だが本気で俺は驚いたんだ。まさかあのハルヒから好きだと言われるとは思わなかったからな。 たぶん今鏡を見たらトマトより赤い俺に似た奴が写るだろう。 頭の中がパニックになっていたが、 どうやらハルヒの話にはまだ続きがあるらしかった。 「…いつもあたしの勝手なワガママ聞いてくれるのキョンだけだし。いざという時ほんとに頼りになるし、 いつもあたしのこと支えてくれてるもん…。キョンに会わなかったら高校だってきっと辞めてた…。」 いつになくシリアスなハルヒの話を俺は黙って聞いていた。 「それに比べてあたしは……グスッ」 ……泣いてる? 確かに泣いている。人前で涙を見せないハルヒが。 泣きながらハルヒは続けた。 「キョンの優しさに甘えてばっかりだし……、かわいくワガママも言えないし……、なにかしてくれても、 ありがとうも言えないの……。いっぱいいっぱい感謝してるのに、何度も何度も支えてもらったのに…」 俺は何も言えずにいた。 「…だからね……、キョンの気持ちが知りたいの…。 こんなあたしのこと良く思ってないのはわかってる。あたしがキョンだったら、とっくに見捨ててる……。」 「でも…あんたは見捨てないでいてくれた…。 あたしは……もうキョンじゃなきゃ駄目なのよ……。 迷惑なのは分かってる。でもキョンがいないとあたしきっと壊れちゃう…。 だからキョンの気持ち聞かせて…。お願い…。 みくるちゃんみたいになるから…。キョンの理想の女の子になる……。だから……!!」 気付けば俺はハルヒを抱き締めてた。 「キョ、キョン…?」 いつもと違う弱々しくて壊れそうなハルヒを抱き締めてた。 「…違うぞハルヒ。」 そう、違うんだよ。俺が好きなのは…… そういえば今日は素直に口から言葉が出る日だったな…。 「俺が好きなのは今のままの涼宮ハルヒだ…。ムチャクチャなことばっかり言ってて、 俺を振り回して…。素直じゃなくて、怒りっぽい…そんなお前が好きなんだ!」 「……うそ」 ハルヒは驚いた顔をして声を漏らした 「ウソじゃない。お前が好きなんだ。お前が好きだ。 …さっき素直じゃないってお前に言ったが、本当に素直じゃないのは俺の方なんだよ。 お前の正直な気持ちを知ってやっときづいたんだ。お前を愛してるってな…」 こんなに自分の気持ちを表に出したのは久しぶりだった。 「いなくなって壊れるのはきっと俺だって同じはずだ。 俺も中学の時はお前と同じように毎日に退屈してたんだと思う。 でも今は違う…。お前といるのが楽しくて仕方がないだよ!」 言いたいことは全部言ってやった。 「ほ、ほんとなの?」 ハルヒが目の周りを赤くして言った。 「あぁ本当だ!」 「う、うそだったら死刑よ!?」 「残念だが死刑にはなりそうにない。」 ハルヒは再び泣き出した。 「泣いてるのか?ハルヒ?」 からかうように言ってやった。 「泣いてるわよ!あんたがやさしすぎるから!」 「なんだそりゃ?」 二人の間に自然と笑みがこぼれる。 「……ねぇキョン」 笑いがおさまると同時にハルヒが言ってきた。 「なんだ?」 「一つワガママ言ってもいい?」 「おう、なんだ?俺のできる範囲でな?」 「キスして欲しい…」 ハルヒの顔は今日最大の赤さだった。 やばいやばいやばいかわいいぞ!? 俺は焦っていたが、ふとあることに気付きハルヒに質問を投げ掛けた。 「お前酔ってないのか?」本来酔っぱらいには「酔っているか?」という質問は禁止なのだが、 俺にはハルヒが今酔ってる様には見えなかったのだ。 ハルヒは急にそわそわしだし、息を飲んでから白状した。 「え~っとね、正直途中までは酔っててあんまり記憶にないんだけど、 途中からなんだか頭がスーっとしてって少し頭がグルグルするぐらいになったのよ」 「途中ってどのあたりだ?」 「よくわかんないだけど、気付いたらあんたに抱き締められてて、 あんたが「違う…」とか言ってたの…。 なにが違うんだろうとか思ったけどあんたの腕の中が気持ち良くて、ボーっとしてたらあんたが好きだって言ってくれて、 そこからはハッキリ覚えてるのよ///」 「つまりハルヒは自分の告白は覚えてなくて、俺の…こ、告白は覚えてるってことか?」 なんて都合のいい奴なんだろう… 俺がそう思っていると、 またまた顔を赤くしたハルヒが顔を押さえて言った。「え、じゃ、じゃあ夢かと思って言ってた告白は全部現実だったの!?」 「夢だと思ってたのか?」俺の言葉により、自分が確かに俺に告白したことを確認すると、ハルヒは俺の胸に顔をうずめて 「顔から血がでるほど恥ずかしい!」 などと叫んでいる。 あえて血ではなく火だろうという突っ込みはいれなかった。 ただ俺の腕の中で悶えるハルヒの頭を撫でながら言った。 「でもあれがハルヒの本音でいいんだよな?」 ハルヒは顔を上げずに、耳まで真っ赤にして、うんと一度だけ頷いた。 「うれしかったぞ」 と言い、ハルヒは恥ずかしいらしく少し嫌がったが、顔を上げさせ、 そっと口づけた。 二回目のキスは大人の味がした・・・ キスしたあと興奮して酔いが再び回ったのか、 ハルヒはパタリと倒れ込み寝てしまった。 俺は起こさないようにハルヒをベッドに運び、寝かせてやった。 あまりに寝顔がかわいいのでしばらく見ていると 「…キョン……すき…」 とハルヒが嬉しい寝言を言ってくれた。 俺は抱きつきたくなる衝動を押さえて、タンスに向かった。 え?なんでかって? こんなかわいい彼女がいるのに、あんな物持ってたらハルヒに怒られちまうからな。 この秘蔵のビデオや雑誌はエロ谷口にでも売ってやるつもりだ。 朝起きるとまだハルヒは寝ていた。 そんなに口開けて寝やがってだらしない奴だ。 でも裏を返せば信頼されてるってことなのだろうか? 「せっかくだから寝顔でも撮っておくか…」 と呟き、携帯を取り出すとハルヒが起きた。 少々残念だが仕方ない。 「よっ!元気か?」 と俺が挨拶すると、寝癖のついた髪に重そうな瞼であたりを見回し、 昨日のことを思いだし顔を赤くして言った 「へ、変なことしてないでしょうね!?」 一言めからいつも通りのハルヒがおかしくて俺は笑って言った。 「何かして欲しかったのか?」 「バ、バカキョン…///」 いつもと違うトーンで言われたため俺まで体が熱くなってくる。 「団長命令よ。水を持ってきなさい!」 ハルヒも熱いのだろう 「はいはい」 と水を取りに行こうと廊下に出ようとすると、 「そ、それから!」 ハルヒが叫んだ。 そんなに声を張らなくても聞こえるんだがな。 「ん?なんだ?」 俺が聞くと 長門ばりの小さな声で 「もう一回キスして…」 と言ったのを俺は聞き逃さなかった…… 終わり