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涼宮ハルヒの遭遇Ⅲ 翌日、土曜日。 と言う前振りをかますともうこの日に何があるのかは言わずもがなだ。 そう、SOS団恒例町内不思議探索パトロールである。 と言っても今日は最初から、何を探すかだけは決まっていた。 当然だよな。 昨日の放課後の団活最初のミーティングでハルヒが言い出したんだ。 その時の状況を少し語ろう。 …… …… …… …… …… …… 放課後―― 俺とハルヒと長門は5時間目と6時間目の自習をいいことに文芸部室でポニーハルヒと過ごしていた。 もちろん、話の中心にいたのはこっちのハルヒで、向こうの世界とこっちの世界を事細かに聞き続けていたんだ。 特に違いがあったときのハルヒの爛々とした瞳は、会心の悪巧みを思い付いた時の300ワット増しの輝きよりもはるかに凄まじい光沢を放っていたぜ。 そりゃそうだよな。ハルヒにとっては待ち望んでいた未確認生物との遭遇だ。おそらく、古泉Presentsの推理ゲームよりもはるかに楽しんでいることは確かだな。ハルヒの言葉ではないが、これでハルヒが興奮しないと言ったら嘘になる。それくらい今のハルヒは今までのハルヒが、俺にとっては迷惑なことが多かったが、楽しんできたことと比べても比べモノにならないくらい生き生きとしているんだぜ。 つってもまあ、俺は一度だけこういうハルヒの表情を見たことがあるがな。 ハルヒはさっき、自分に訪れた四年ぶりの不思議と言っていたが、正確には違うんだ。 もうお分かりだよな? そうさ。俺は覚えているし、ハルヒもおそらくは覚えているだろうがあれを夢だと認識してしまっている向こうの世界でのことだ。 あの時も、古泉言うところの《神人》を見たときはこんな顔をしていた。 分かりやすい例えはサンタクロースに会った子供のような顔だ。 「きゃっ」 突然、可愛らしいびっくりした声を拝聴させていただきました。 考えるまでもない。朝比奈さんが来たんだ。 しかも朝比奈さんはまったく何も知らずにここに来たんだろうぜ。 いやまあ、俺も驚かせようと思ったわけじゃなく、連絡を入れておくべきだったと思っているんだが完全に失念していたんだ。 本当に申し訳ございません。 「あ、みくるちゃん。御苦労さん。どう? 驚いた?」 話しかけると同時にハルヒは席を立って、即座にドアを閉める。 へぇ、ハルヒにしちゃなかなかの心遣いだな。まあ、確かにポニーハルヒを他の誰にも見せるわけにはいかんからな。 見せてしまえば混乱間違いなしだ。 「あ、はい……で、でも何なんですかー? 涼宮さんがどうしてふ、二人いるんですか? いったい何が……」 いつぞやのようにおどおどしながらのびっくりおっかな声が届きました。 「ふっふうん。そっちのあたしはパラレルワールドから来たあたし! 待ち望んでいた異世界人よ!」 満面の笑顔で紹介するハルヒの声を聞いて、朝比奈さんがポニーハルヒへと視線を移す。 しかしまあどうやら朝比奈さんも古泉と長門同様、ポニーハルヒがこっちのハルヒと同一人物であることを見抜いたようだ。 捜査員ってのはよほど目が肥えていらっしゃるようで。 対するポニーハルヒは、またどこかおどおどした視線を俺に向けてくるし、よく見れば隣に座っている長門の制服の裾を掴んでいる。 いや待てよ? そう言えばさっきの古泉の時もそうだったよな。 てことは、ポニーハルヒの世界には朝比奈さんと古泉はいないのか? 聞いた限りだと向こうの世界でも谷口、国木田、阪中は同じクラスだったし、担当も岡部だと言った。 まあ俺にはどうしても想像できんのだが、谷口がクールな優等生だったり、国木田がお調子者だったり、阪中の身長が低かったり、岡部教諭がジャージ姿ではなくスーツにネクタイ姿だったりしているという違いはあるがな。 ついでに朝倉涼子もいるらしい。もっともその朝倉はどうもこっちのハルヒっぽい性格だそうだ。んで、もっと分からないことにその朝倉と谷口が付き合っているらしい。 何をどうやったらそんな風になるのかを聞いてもみたが、ポニーハルヒの返答は正直言って理解不能だった。 つーわけでポニーハルヒが何と言ったかは割愛させてもらうぜ。俺自身が理解できていないんだ。うまく説明する自信がない。 「大丈夫だ。こっちの人もキミに危害を加えるような真似は絶対にしないさ」 俺が優しく諭してやると、ポニーハルヒはちょっと上気した顔で一度こくりと頷き、朝比奈さんに会釈する。 「ん? ねえそっちのあたし。向こうの世界には古泉くんとみくるちゃんはいないの?」 まあハルヒも同じことを感じるわな。ついでに俺も聞こうと思っていたことだ。手間が省けたぞ。 「いえ……それはその……あたし、他のクラスと上級生に知り合いいませんし……」 なるほど。そういうことか。だったら分からなくても不思議はないわな。 「へえキョンにも想像付いたんだ?」 「どういう意味だ? と言うより、お前は俺がそんなに鈍い人間だとでも思っているのか?」 「違うわよ。ただ、あんたは普段、あたしがどんなに言って聞かせてあげても不思議からは目を背けることが多いのに、パラレルワールドの理屈が分かっていたってのが疑問だったからよ。何? ひょっとしてキョンも本心は不思議を望んでいるの?」 おいおい、なんだ? その好奇心いっぱいの色を携えた悪だくみ全開の光を放つ瞳は? べ、別にいいじゃないか。俺だって不思議なことが起こることを否定はしないぜ。むしろあってもいいと思っている。ただ単にお前ほど渇望していないだけだ。 「ふうん。自分に素直になることは悪くないと思うけど、あたしから気まずくて目を逸らすのはどういう意味があるのかなぁ?」 「うぐ」 正直に言葉に詰まる俺だった。 そしてしばし沈黙の後、古泉も部室に戻ってきた。 全員揃ったところでハルヒが、いつも通り、団長席の椅子に仁王立ちして宣言したんだ。集合はいつも通り光陽園駅北口午前9時だが大事なのはその後の言葉だ。 「明日の不思議探索パトロールの課題はたった一つよ。今までは『何か不思議なこと』で良かったけど、今回はテーマを持って各自回るように。いいわね? んで、もちろんそれはパラレルワールドの入口捜しよ。絶対に他のことに目を奪われないこと。例えそれがミステリーサークルだろうと、タイムマシンだろうと一切無視でいいわ。そして手抜きはなしだからね! 必ず見つけるように!」 …… …… …… …… …… …… と言う訳で、今日が昨日から見て翌日の土曜日だ。 ちなみに珍しく、本当に珍しく俺は集合場所に一番遅れることはなかったのである。 何故かって? いや、まさか俺も朝の7時半に自宅に来訪者があるなんて想像もしていなかったからな。おかげで相当早く家を出ることになったんだ。 んで誰が来たかと言うと長門とポニーハルヒだ。 ポニーハルヒは昨夜、長門の部屋に泊めた。理由はいたって単純な消去法だ。 まず古泉と朝比奈さんは論外だ。別に二人が信用ならないわけじゃないぜ。ただ、この二人の背後にある機関が信用ならんし、そうでなくてもポニーハルヒは向こうの世界で古泉と朝比奈さんに会っていない。 となれば知らない人間と一緒に居ることによって、あの情緒不安定なくらい内気なポニーハルヒがホームシックにかかって泣き出さないとも限らない。 こっちのハルヒももちろん無理だ。ハルヒには妙な背後関係はないが一人暮らしじゃない。そっくりさんだと偽ろうが、ハルヒの家にいるのは、ハルヒと血の繋がった両親なんだ。ポニーハルヒが自分たちと無関係ではないことを悟ることができるだろうし、んなことになればややこしくなること間違いなしだ。 俺についてはこっちのハルヒが提案前に却下したのである。 その時、少し悲しげな表情をポニーハルヒは見せたが、それでもあっさり自己完結して納得した。まあ理由は分からんでもない。 ハルヒが却下した理由はともかく、ポニーハルヒが俺のところでの宿泊を断念したのは、彼女にとっては、トートロジーで申し訳ないが、俺は俺なのだが俺ではないからだ。 ポニーハルヒが恋心を抱いているのはあくまで向こうの世界の俺であり、この俺じゃない。同じ顔で本人であることは確かなんで頼ったり縋ったりはできても男と女のシチュエーションを連想させることには抵抗があるんだろうぜ。 となると残るは向こうの世界でも頼りにしていて面識があり、かつ何の雰囲気を起こりえない長門有希だけとなる。 んで、その長門とポニーハルヒが俺を迎えに来たのである。 にしたって7時半は早くないか? 約束の時間までまだ1時間半はある。自転車でも集合場所に着いてからまだ1時間は待ちぼうけだ。 しかしどうしてもポニーハルヒが強請ったそうで、俺と長門と一緒に集合場所に行きたかったらしい。 理由は長門が話してくれた。 「この涼宮ハルヒは自分の稼働視界内に私とあなたを捉えていないと精神状態が不安定になる。これがわたしがここにいる理由。あなたがここにいる理由」 てことは昨夜も結構大変だったのか? 「その認識は正しい。昨夜、わたしは別々の部屋で就寝するよう提案したが彼女は拒否した。寝床を供にし、今日を迎えた」 「ぶ、部長……」 淡々と冷静沈着に告げる長門にポニーハルヒの頬が赤く染まる。 つってもまあ、別段、この二人に何か人に言えないようなことがあったとは思えんがな。ポニーハルヒは単に一人で寝るのが怖い子供のような自分を俺に告げられて恥ずかしい思いを抱いただけだろうから。 もっとも俺はそんなポニーハルヒがいじらしくて可愛く思えて仕方がないってもんだ。まったく、このポニーハルヒの性格をこっちのハルヒに少しは分けてもらいたいもんだぜ。 ちなみにこの会話は俺たちが駅前でハルヒと朝比奈さんと古泉を待っているときに交わされたものだ。 そして今回、俺以外で初めて全員に奢る羽目になったのは古泉一樹である。 まあ、こうなったのははっきり言って規定事項だ。意外でも何でもないことを俺は知っている。 まず朝比奈さんは未来人だから、今日、この場所にどの時間に来れば一番遅くならないかを知っていても不思議はないし、古泉はハルヒのご機嫌どりが半分目的みたいなものだからハルヒより遅く来るなんて真似はできないだろう。 となれば古泉が一番最後に到着するしかない。 俺には一番最後に現れた古泉の表情はわざとらしく苦笑を作っているようにさえ見えたほどだ。 が、この想像は完全に的外れだったたらしい。古泉は振りではなく本当に苦笑だったんだ。そして一番最後になった理由もハルヒのご機嫌どりが目的ではなかったそうだ。それは不思議探索パトロールの時に古泉本人から聞かされた。 「閉鎖空間と《神人》だと?」 「ええ……一週間毎日一回なら結構ありましたし……たまに同じ夜に二度も出動することもあったのですが……今回発生した二回の《神人》の傍若無人ぶりは常軌を逸しておりました……それも二回ともですよ……なんとか粛清することはできたのですが……あまりの疲労に集合時間に間に合うギリギリまで僕は就寝していたんです……」 何故か不思議探索パトロールの時は俺と誰が組もうとも定番コースとなっている気がする河川敷で、肩を並べてぶらつきながら、まるで月曜朝の通勤ラッシュの満員電車に乗り込もうとするサラリーマンのように肩を落としながらため息をつきつつ古泉は説明を始めて俺は思わず声をあげていた。 よく見ればどこか自嘲と言うよりも自虐的な笑みを浮かべている。しかも俺に視線を向けることさえない。 おっと、説明が遅くれたが、今回の午前の部は俺と古泉、SOS団三人娘とポニーハルヒで班分けされている。 本来六人いるんだから三人ずつが妥当じゃないかと思ったならちょっとそれは甘いな。 ポニーハルヒは俺か長門が傍にいないと気が狂ってしまいかねないくらい不安に支配されて泣き出しそうになるんだ。んな女の子を放っておける奴がいるなら俺はそいつを市中引き回しの刑に処したところで残虐非道と非難される言われはないだろう。 と言う訳で、こっちのハルヒが長門とポニーハルヒをワンセットで見ることを提案したんだ。 むろん、なぜ俺ではないけないか、という質問は呑み込んださ。 いやまあ……というかその質問をすること自体に俺は身の危険を感じてしまったからなのだが…… まあとりあえず今は古泉の話を聞いてやろうぜ。 「原因はもちろんお分かりですよね?」 知らん。 ……などとは言えんよな。と言うか古泉のこの触らぬ神に祟りなしっぽい雰囲気を前に誤魔化すことなんざできん。 「……ポニーハルヒか?」 「ご名答……あなたと彼女の仲良さげなことに涼宮さんが嫉妬している……と考えるのが一番妥当ですからね……なんたって佐々木さんの時と違って今回の《神人》は暴走に近いくらい暴れまくっていましたから……《神人》の暴走機関車状態なんて初めて見ましたよ……ああ……彼らも走ることができるんだ……とどこか的外れな感想を抱くほどでした……」 そ、それはすまなかった。マジで悪い。 俺にもこれは想像できるな。あの青白い巨人が周りの建物を殴って壊すんじゃなくて走りまわって蹴散らすんだ。さぞかし壮絶な光景なことだろう。 しかしだな。ポニーハルヒが仲いいのは俺じゃなくて向こうの俺だ。向こうの俺を恨むならともかく、何で俺が悪者にならなきゃならんのだ? あと、お前だってポニーハルヒに冷たく当たるなんてできないだろ? あんな捨てられた子猫のような瞳で見つめられた日にゃ、おかしな趣味がない限り、絶対に庇護欲をそそられるってもんだぜ。 「確かにそうです……そしてそれは涼宮さんもそう思っています……ですからあんな凶暴な《神人》が生まれたんですよ……現実世界であなたやもう一人の涼宮さんに当たる訳にはいきませんからね……苛立ちまぎれを通り越して完全に怒り狂っいました……」 古泉の自虐的な笑みはまったく崩れる気配を見せない。 「古泉、そこのベンチで寝てろ。俺は一人でしばらくぶらついてくる。集合時間ぎりぎりに着くくらいになったら迎えに来る」 「いいのですか?」 俺の心ばかしの提案に、ここで初めて古泉は俺に視線を向けた。珍しく笑みが消え、虚をつかれた表情を見せている。 「仕方ないだろ。なんだかんだ言っても原因は俺だ。それにお前には何度か世話になっているし、ハルヒのご機嫌どりでも結構疲れているだろう。たまにはゆっくり休め。集合正午まででも二時間は楽に休めるし、今この季節はそんなに寒くない。むしろぽかぽか陽気が眠気をより一層誘うってもんだ。俺がお前の分もパラレルワールド入口探しをしといてやるぜ」 「それではお言葉に甘えまして――」 呟くと同時に古泉はベンチに横になって、途端、すでに眠りに落ちていた。 たまには一人でぶらつくのも気兼ねしなくていいってもんだ。 俺は古泉を置いて、河川敷を北上し始めた。 もっとも、やっぱりそう簡単に見つけることはできなかったがな。 正午駅前集合時、やっぱり向こうも見つけることはできなかったらしい。 無表情の長門の横に寄り添うように佇んでいるポニーハルヒは落胆の色を隠せていないし、こっちのハルヒは思いっきり苛立っていた。朝比奈さんに至ってはポニーハルヒに頭を下げっぱなしなのである。 別に朝比奈さんが悪いわけではないのだが、ポニーハルヒの今にも泣き出しそうな表情を見てしまえば、朝比奈さんじゃなくても申し訳ない気持ちでいっぱいになるよな。 つーわけで、こっちのハルヒのイライラ顔は自分自身に対してのものだ。 現に「首尾は?」という質問に対する俺の「何も」という回答を耳にして何の文句も言ってこなかったんだからな。 昼食も兼ねた喫茶店でこっちのハルヒは珍しく、俺と長門をポニーハルヒの両隣りに置いて、自分自身はポニーハルヒの正面に座り必死にポニーハルヒを元気づけていた。 んでポニーハルヒも涼宮ハルヒ本人だ。自分のことだから今、目の前の相手がどれだけ懸命に自分を励ましてくれていることを察してやれるのもたやすいってもんだ。 こっちのハルヒのおかげで、どうやらポニーハルヒに少し笑顔が戻ってきたときは俺も妙に嬉しかったぜ。 もっとも、そんな俺の表情を目にしたこっちのハルヒからは殺気の視線を向けられたがな。 さて、今度は午後の部だ。 もちろんクジ分けする訳で長門とポニーハルヒはセットな訳だが―― 俺は心底、古泉に良かったな、と言ってやりたくなった。 なんたって午後は俺と朝比奈さんと古泉になったんだ。 これで午後も古泉は就寝決定だ。俺と朝比奈さんの二人で探索してくるからお前は安心して眠っていろ。 もしハルヒが一緒にいようものなら古泉は絶対に無理をする。それで体を壊しちゃ元も子もないもんな。もしかたしたら今晩も、古泉言うところの暴走機関車《神人》を相手にしなきゃらんかもしれんし、それなら今はゆっくり休むといい。暴走機関車《神人》を発生させてしまったのは俺が原因なんだ。ハルヒは自分の力を知らない訳だから一緒に背負ってもらうことはできん。だったら俺がハルヒの分も古泉を気遣ってやればいい。 俺はそのためにいる。ハルヒの無茶の尻拭いするために俺はSOS団にいるんだ。長門、朝比奈さん、古泉が自分たちの役割を果たしつつSOS団の活動に付き合っているんだ。俺だって自分の役割くらい果たさないとな。 「あの……キョンくん……ごめんなさい……あたしあんまり役に立てなくて……」 「いやぁ全然」 二人で歩き出してしばらくしてから朝比奈さんがとっても沈痛な面持ちでいきなり謝罪されました。 もちろん、俺にも何故朝比奈さんが悪びれたのかの理由が分かっている。 「大丈夫ですよ。ポニーハルヒだって朝比奈さんの笑顔に癒されているはずです。それで充分ですよ」 「でも……」 「心配いりませんって。それに今回の出来事は実質誰も何の役にも立っていません。ですから朝比奈さんだけが罪悪感を背負う必要なんてないですよ。と言うよりもみんな、朝比奈さんと同じ気持ちでしょうし、たぶん、ポニーハルヒも同じく俺たちに申し訳ないと思っていることでしょう」 俺は気遣う笑顔を浮かべて言った。 そうなんだよな。 こと異世界となると宇宙的、未来的、あるいは超能力的ギミックはほとんど何も役に立たない訳で、実はハルヒの力もあまり意味を為さない。 なぜならハルヒが変革できるのはこの世界か自らが創造した世界であって、パラレルワールドまでその力を及ぼすとは思えない。 そんなことができるなら、ハルヒはこの世界に居やしない。とっくの昔に好き勝手に異世界を放浪していることだろうぜ。もちろん、俺やSOS団を巻き込んでな。 これは古泉が言っていたことなんだが、どんなに不思議な力を持っていようともハルヒだってこの世界の一部だからなんだ。 この理屈なら自身が存在する世界に干渉することはできても、異世界に対しては何もできない、ってことと同義語だ。 もちろん宇宙人、未来人、超能力者についても同じことが言える。 こいつらが存在するのはこっちの世界であり、こっちの世界以外の干渉力を持たない。 事実、もし長門が異世界の扉を開けるならとっくに開いているだろうし、古泉にしたってハルヒが創り出す閉鎖空間以外の異空間に侵入できるならポニーハルヒを送ってやることだって可能だ。朝比奈さんが越えてくるのは時間であって空間じゃない。 んで、もちろん俺には何の力もない。 つまり、SOS団全員がポニーハルヒに対しては何の力にもなってやれないってことなんだ。 それこそ、ハルヒの言った通りでパラレルワールドの入り口を見つけてやるくらいしかできないんだ。 だから朝比奈さんだけが悪びれる必要はないってことだ。 結局、午後も何も見つけることができなかった。 俺とこっちのハルヒで見送った長門の横にいたポニーハルヒの背中はなんだか今にも泣き出しそうでいじらしく、できるなら抱きしめてやりたいという気持ちにさえ駆られたさ。もちろん俺だけじゃなくてこっちのハルヒもだ。 「なあハルヒ」 「なに?」 「明日は必ず見つけ出してやろうぜ」 「言われなくても分かってるわよ!」 俺とハルヒはそんな会話を交わして今日は解散した。 明日ももちろん、SOS団町内不思議探索パトロールの予定が入っている。 しかしだな。 このときばかりは、俺には前の記憶が残ってもいいから、去年の夏休み、15498回繰り返したあの二週間を昨日と今日だけでいいからもう一度無限ループしてくれないか、と見送るこっちのハルヒの背中を見つめながら心の中で懇願していたんだ。 だってそうだろ? ポニーハルヒのあんな憔悴しきった背中を見てしまえば、二日間の記憶をリセットしてやりたい、って思うのも当然だろ? それに無限ループ日常で前の記憶が残るなら何をやって駄目だったかが分かるんだ。延々と二日間だけを繰り返したところで今度は前の二日間が無駄になる訳じゃないからな。 などと普段はハルヒの力を億劫にしか感じてなかったてのに、都合のいい時だけ発動してくれなんて自分勝手なことを願いながら俺はベッドで横になっていた。 今日も古泉は大変な思いをしているのだろうか、とも考えた。 ところがだ。 実は古泉は一つ、完全に間違っていた。 ハルヒはハルヒであってハルヒでしかない。 以前、頭の中で呟いたトートロジー。 それを再び思い出す事態が俺に降りかかったのである。いや今回は俺だけではなかったがな。 そうなのだ。ポニーハルヒも存在する世界が違うとは言え、涼宮ハルヒであってそれ以外の何者でもないのである。 内気だろうが、インドア派だろうが、ポニーテールだろうが、紛うことなく涼宮ハルヒその人だったんだ。 涼宮ハルヒの遭遇Ⅳ
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ハルヒ先輩3から ハルヒ 言うまいと思ってたんだけどね、キョン。 キョン 何だ?ハルヒ ハルヒ 二人の間に隠し事はない方がいいと、言い出したのはあたしだしね。あんたのエロい本もDVDもゲームも捨てさせたし。 キョン あ、あれはもう、その、必要ないというか、物足りないというか(フェード・アウト)……。 ハルヒ ……あたしね、日誌をつけてるの。 キョン 日誌? 日記じゃなくて? ハルヒ そう。ダイアリーじゃなくて、ジャーナル。航海日誌みたいなものね。セルフ・コントロールのツールよ。 キョン セルフ・コントロールって? ハルヒ たとえば、その日思いついた妄想とか、溢れ出さんばかりの衝動とかを、一度言葉にして書き留めるの。そうすることで、自分を客観視できて、アブナイことをしでかさなくて済むという訳よ。 キョン それは聞かない方がよかったような……。 ハルヒ アトランダムに内容を紹介するわ。 キョン やめとけ。いや、やめてくれ。 ハルヒ オーディエンスのGoサインがたくさん見えるのは気のせいかしら? キョン 気のせいだ、断じて。 ハルヒ たとえば、つい情と劣情に流されて、あんたの家庭教師をしたけどね。 キョン やっぱりスーツとメガネのコスプレは欠かせないとか言ってたしな。 ハルヒ あんたも別の意味でノリノリだったけどね。実はあの後、軽い気持ちであんたの成績を上げちゃったことを後悔したこともあるの。ちょうどその頃、書いた部分よ。読み上げるわ。 『ハルヒ先生計画: 1 キョンを馬鹿のまま据え置く。必要なら勉強の邪魔をする。勉強以外のことに夢中にさせるなどの手段を弄して。 2 キョンが一年、留年(ダブ)る。 3 大学で教職課程を採る。教育実習に必要最小限の単位を集める。 4 母校で教育実習。教育実習生としてキョンのいるクラスを担当する。 5 キョンに『ハルヒ先生』と呼ばれる。』 キョン ハルヒ、気持ちは痛いほどよおく分かったから、鼻血を拭け。ほら、ハンカチ。 ハルヒ あ、ありがと。で、どう、この計画? キョン やばい。あらゆる意味で、いろいろやばい。 ハルヒ でしょ! あたしもね、このページを書き終えた後、糊付けして封印しようかと思ったくらいよ。これだけで、マニアならご飯3杯くらいイケるわね! キョン どっちのマニアだよ。 ハルヒ でね、この計画、まだ続きがあるの。なにしろ教育実習生なんて2、3週間しかいないんだから、必然的に短期決戦ね! キョン ハルヒ、おれの「ヤバいこと」メーターの針が、レッド・ゾーンを超えて、すでに振り切れてるんだが。 ハルヒ 擦り切れるのも近いわね。 キョン 頼む、ハルヒ。 ハルヒ なあに、キョン? キョン 計画の続きを言うのは、俺の耳元にしてくれ。他の奴らに聞かせたくない。 ハルヒ もお! 今ので、あたしの萌えメーターは8000回転/秒を超えたわよ! キョン あ、でも……。 ハルヒ なに、キョン? キョン その後、告白して、付き合うっていうなら、もうしてるぞ。……やり直したいのか? ハルヒ まさか! そうじゃなくて、何しろ短期決戦だから、告白の時点で勢いが半端じゃないの、止まんないのよ! 向こうから走って来て、その勢いでタックルして、スクラムごと押し込んで、そのままトライというかメイクラブというか。 キョン すまん、ラグビー用語はよくわからんが、……それって、有り体に言ってレ○プっていうんじゃないのか? ハルヒ ……キョン、あんたがやんのよ。 キョン おれが?ハルヒを?押し倒す? ハルヒ (こくん) キョン 無理。 ハルヒ ちょっと待ちなさい! こういう時ぐらい男の力を見せようって気にならないの!? キョン ならない。あのな、ハルヒ、力っていうのは……見せた方が速いか。ちょっと待ってろ。 ハルヒ って、なんで、あんたのカバンから杉板なんか出てくるのよ。 キョン そこはスルーしてくれ。俺が持ってるから、ハルヒ、これを割ってみろ。……ってもう割れてる! ハルヒ 人間の腕は力むと引き付ける方の筋肉が緊張するから、突きには邪魔になるの。イメージ的には弛緩させて、スピードを生かす方がいいわ。手は軽く握るか握らずに、鞭のように腕をふるう感覚ね。ちょっと見えなかったでしょ? 普通は、鼻先とか目の下を狙うんだけど。 キョン 当たるとすごく痛いだろうな。 ハルヒ でしょうね。 キョン 痛いのは嫌だから、大抵は「なぐるぞ」と言うだけで、相手はこっちの言うことを聞くだろ? ハルヒ うーん。 キョン でも、多分、俺たちには、そういう力は必要ない。 ハルヒ それは、そうなんだけど……。 キョン ハルヒ、手。 ハルヒ え、こう? キョン で、こうする(ぐいっ)。 ハルヒ うわっ。いきなり。……って、抱っこ? キョン 手はつないでもいいし、相手にまわしてもいい。それだけで世界で一番近くになれる。俺たち、ここから始めればいいんじゃないか? ハルヒ うん! そうね。……あの、キョンがね、こんなにいい男になって、うう。 キョン いい加減、小さい子扱いはやめろよな。2歳しか違わないのに。 ハルヒ 歳の差って残酷ね。たとえわずかな差でも、永遠に埋まらないなんて。 キョン ……まあ、最初はおまえからレ○プされたみたいなもんだけど、な。出会い頭にキスされて。 ハルヒ そうやって怒るのも時々は見たいの! 時たまにするから。 キョン うー。 ハルヒ さあ、キョン、気を取り直して、キスするわよ! キョン 仕切り直すな! ハルヒ それも気を失いそうなやつをね! ハルヒ先輩5へ
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今日は週に1度の不思議探索の日。俺は普段通り集合時間の30分前には到着する予定で歩いている。 そのとき突然ハルヒからの電話があった ハ「今日は中止にして。あたし熱出しちゃったから。みんなにはあんたから言っておいて・・・」 集合場所に着くと、やはりみんなもう着いていた。 キ「今日はハルヒが熱出したから中止だ。さっき電話があった。」 長「・・・そう。」 朝「涼宮さんは平気なんでしょうか・・・」 キ「どうでしょう。元気の無い声してましたけど、電話できるくらいなら平気だと思いますよ。」 古「・・・わかりました。それではこのまま解散でよろしいですか?」 古泉はこういうときだけ副団長の役割をしていると思う。 キ「いいんじゃないか。長門も朝比奈さんもいいですよね?」 朝「あ、はい。」長「・・・いい。」 古「それでは解散ということで。」 朝「あ、キョン君。涼宮さんのお見舞いに行ってあげてくださいね。」 キ「はあ・・・でもそれならみんなで行った方が・・・」 朝「みんなで行ったら迷惑になりますから。」 長「・・・貴方一人の方がいい。」 おいおい長門まで・・・ 古「僕もそのほうがいいとおもいますよ。」 古泉、お前もか。 キ「ふぅ・・・行くだけ行ってみるか。」 俺一人が行こうがみんなで行こうが迷惑なのは変わらないようなきがするんだが。 そう思いつつもハルヒに電話をした。 キ「よう。元気か」 ハ「元気じゃないわね、熱が出たって言ったの聞いてなかったの?」 キ「聞いていたとも。今から見舞いにいくからおとなしくしてろよ。」 ハ「ちょっ、キョン!!こ、こなくて(ry」 俺はハルヒが何か言う前に電話を切っていた。ピンポーン。 キ「よう。ハルヒ。・・・何でそんな格好してるんだ?」 ハルヒはこれから出かけるのではないかというような格好をしていた。 それも額に冷却シートをはったまま。 ハ「だ、だって、急にキョンがくるなんていうから・・・///」 キ「それは・・・悪かった。そんなことより起きていていいのか?」 ハ「あんたがチャイムならしたからわざわざむかえにk・・・」 クラッとハルヒは倒れかかった。 俺はハルヒを両手で支え、 キ「おっと、そんな格好してるからだぞ。熱が出てるときぐらいパジャマで布団に寝てろ。」 ハ「わかったわよ・・・でも、起き上がれそうに無いの。」・・・ってことはこのまま運べと? キ「本当か?うそなんてこと無いか?」 ハ「本当に体が重いの。」俺は仕方なくお姫様抱っこのままハルヒの部屋まであがった。 そのときのハルヒの顔は終始真っ赤だった。 ハルヒに聞いてみると「熱だから仕方ないのよ。」 まぁ俺の顔も赤くなっていたことは秘密だ。 ハルヒの部屋は初めてではないが、女の子の部屋っていうのは入るたびに緊張するものだな。 ハルヒをベットに寝かせた後俺はその辺に腰掛けた。 キ「ハルヒ、大丈夫か。」 ハ「大丈夫じゃないわ。こんな格好してるし、さっき無駄に声出したから。」 キ「じゃあそのまま寝てろ、やって欲しいことがあるなら聞いてやるから。」 ハ「・・・ありがと。」 ハルヒは俺に聞こえるか聞こえないくらいの声でそういった。 だが俺にはちゃんと聞こえていた。こういうときのハルヒはものすごく可愛い しかし、可愛いと思えたのもつかの間。とんでもないことを言ってきた。 ハ「ねぇ、キョン。///」 キ「なんだ?」 ハ「この服着替えさせてくれない・・・//////」 キ「ぶふぅ!! やって欲しいことがあるならやってやるといったが、それはないだろ・・・///」 ハ「だ、だって・・・この格好じゃ寝にくいじゃない・・・/////」 キ「でもな、ハルヒ。俺がやるってことは ハ「じゃあいいわよ。」 そういってハルヒはそのまま俺に背中を向けて寝てしまった。 キ「・・・ハルヒ。悪かった。でも流石に俺にはそれはできない。他のことなら聞いてやれるから・・・機嫌直してくれ。」 そういうとハルヒはこっちを向き、 ハ「じゃぁ、しばらく手握ってていい・・・////」 キ「そ、それなら・・//////」 俺はそのままハルヒが寝付くまでずっと手を握っていた。 一生その手を離したくないと思いながら・・・ おわり
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ハルヒに頼まれて、この糞寒い中しぶしぶストーブを取りに行ったわけだが、途中で激しい雨に会い、俺はびしょ濡れで部室に帰ってきたのである。 自分で言うのもおかしな話だが、相当疲れていたのだろう…ストーブをつけて、そのまま机に伏して熟睡してしまった。 どれくらい時間が経ったのだろうか…目を覚ますとそこには、驚いた顔をしているハルヒがいた。どうやら俺が起きるのを待っていたらしい。 とりあえず俺も目が覚めたので、立ち上がって身支度をしようとした…その時だった。 頭がクラクラして目の前がだんだん暗くなっていくのがわかった。強烈な立ちくらみだと思ったのだが、 そうではなかったらしく、俺はそのまま床にバタっと倒れてしまった。 ハルヒ「ちょっと…キョン?」 俺は何か言おう言葉を探したのだが、それよりも意識を失うことのほうが速かった。 ハルヒ「キョン…キョン!?どうしたの!?目を覚まして!!」 冬のさむ~い日のことだった それからのことはな~んにもわからないのだが、古泉の話によるとハルヒはかなり取り乱していたらしい。 しきりに俺の名を呼んだり救急隊員の襟首をつかんで、「キョンは大丈夫なんでしょうね!?」や「何とかしなさいよ!あんたたちプロでしょ!?」と、 喚き散らしていたようである。 救急隊員の方々には少々気の毒な気もしたが、それよりもハルヒがそんなに動揺するとは夢にも思わなかった。 古泉「大変だったんですよ?病院に着いたと思ったら、いきなりお医者様に涼宮さんが掴みかかって、 それを引き離すのに随分時間がかかりました。看護師の方と僕達でやっとでしたから。必死だったんでしょうね、涼宮さんも。」 俺が病室に運ばれてからはハルヒも大人しくなり、静かにしていたそうなのだが… 古泉「ずっとあなたに謝っていましたよ。『わたしのせいね…ごめんね』と。いやぁ~あんな涼宮さんは初めて見ましたね」 あのハルヒが謝るとは…そんなレアな場面を見逃すとは…!? そして古泉に言われるがまま、俺は病室で休んでいた。横になっているとだんだん眠くなってきたので、寝ようと思って目を瞑った矢先のことだった。 ガチャ 扉が開いた。言い忘れたが、俺の病室は古泉の計らいで個室になっていた…おそらくこの病院も『機関』が関係しているんだろうな、 救急車を呼んだのは古泉らしいし。 目を閉じていたので誰が来たのかわからなかったが、声ですぐに誰であるかわかった。 ハルヒ「キョン…」 ハルヒである。「なんだ?」って返事をしようと思ったのだが、いつもと様子が違うので黙っていることにした。 ハルヒ「あたしがストーブ取りに行けって命令したからよね。寒い中、雨に打たれてびしょ濡れで…」 たしかにその通りだが、そういう言われ方をするとこっちが罪悪感を感じてしまうな。 ハルヒ「ごめんね…ごめんね、キョン…ごめんね。」 声が震えていた。もしかして泣いているのだろうか?ますます起きにくい状況になってしまった…。 ハルヒ「ねぇ、キョン?みんな心配してるのよ。みくるちゃんや古泉くんはもちろん、きっと有希だって…。それに私だって、心配してるんだから」 朝比奈さんが心配してる姿は容易に想像できる。古泉はどうだろうな…あいつはどちらかというと、お前の意外な反応を少し楽しんでるんじゃないか? 長門はわからんな。おそらく無表情なんだろうが、心配してくれてると結構嬉しい。 ハルヒ「だから起きなさいよ…団長命令よ…グスッ…団長が名前を呼んだら、団員はすぐに返事しなきゃいけないのよ…。 何度呼んでも返事しないあんたなんて…死刑…グスッ…なんだから…」 完全に泣いている。俺は葛藤していた。もう起きるべきか、まだこのままでいるべきか…。 というか、古泉は俺が目を覚ましていることを、ハルヒに黙っていたのか? さっきまでここであいつと話してて、あいつが出て間もなくしてハルヒが入ってきた。 だとしたら古泉はハルヒとすれ違って、当然ハルヒは古泉に俺の容態を尋ねたはずだ。 ハルヒの様子から察するに、古泉は「いいえ、まだ目覚めておりません」とか何とか言ったに違いない。 全く、悪趣味なやつめ…。 とまぁ~頭の中でウダウダ考えていると、何かが俺の手に触れた。 ハルヒの手だ…ハルヒが俺の手を握っている…。しかも両手で。 ハルヒ「あったかいでしょ?さっきまでカイロで温めてたのよ。また冷えたらいけないもんね。」 そりゃあ、ありがたい。どうせならその優しさを、俺が行くときにくれて欲しかったもんだが…まぁ今更言っても仕方ない。 ハルヒ「あんたが目覚めて元気になるまで、SOS団は活動休止よ。だって、あんたがいないと……つまんないもの…」 それからしばし沈黙が続き、再びハルヒは口を開いた。 ハルヒ「ずっと前に言ったでしょ?悪夢を見たって…あれね、実は悪夢ってほどでもなかったのよ…」 悪夢?あぁ、二人きりの閉鎖空間のことか。あんまり思い出したくないがな…。 ハルヒ「あのときね、その夢にあんたが出てきたのよ。灰色の世界でね、そこにはあんたと私しかいなかったわ。」 だから思い出させるなっつの… ハルヒ「そしたら急に変な巨人が出てきてね、周りをめちゃめちゃに壊しまくってるのよ。 私はその巨人に恐怖心はなかったんだけど、あんたは違ってたみたいね。私の手を引っ張って外へ連れ出したのよ。 あっ、ちなみに私達は学校にいたんだけどね」 ハルヒ「それからあんたは、私を校庭まで連れて来たのよ。私はその灰色の世界にいたいって思ってたんだけど、 あんたは言ったわ。『元の世界に戻りたい』ってね。」 そりゃそうさ。あんな世界に好き好んでいようって考える奴は、おまえ以外にいやしない。 ハルヒ「それからあんた何言ったと思う?ものすごい真面目な顔して、『ハルヒ…実は俺、ポニーテール萌えなんだ』 とか言い出したのよ。今思い出すと笑えるけど、あのときは呆れて笑うどころじゃなかったわ」 ああ、できることなら記憶から抹消したいよ。跡形もなくな。 ハルヒ「でもね、そのあとあんたは言ったわ。『反則的に似合ってる』って。結構嬉しかったのよ?照れ臭くて 『バカじゃないの!?』とか言っちゃったけど」 ハルヒ「私が呆気にとられてると…あんたは…私の唇に…キス…したのよ…。あんたは絶対に信じないでしょうけどね。 それで気が付いたら朝だったわ。起きた瞬間は、『どうしてファーストキスの相手がキョンなのよ!』って気分だったけど……今は……違うわ」 おい…何を言い出すんだ…ハルヒ…。 ハルヒ「あんたも知ってるように、私は負けず嫌いなのよ。だから…やられっ放しはイヤ…特にあんたにはね…。というわけで…次は私の番…」 ハルヒ…おまえ…まさか……! もうおわかりだろう…ハルヒは俺に、キスをした。俺がしたときと同じように…俺の唇に。長門のように正確ではないが、おそらく10秒くらいだろう。 ハルヒ「これで…おあいこね。1勝…1敗…。」 何の勝負だ…。ハルヒは俺の唇から離れると、耳元でささやいた。 ハルヒ「あたしがこれで目を覚ましたんだから、あんたも目を覚ましなさいよ。白雪姫みたいなことさせちゃって、 私はあんたの王子様じゃないわよ」 ああ、俺もお前のお姫様ではない。断じてない。 ハルヒ「じゃあね、キョン…次に来たときはいつものマヌケ面見せなさいよ」 今見せようと思えば見せられるんだがな、そのマヌケ面を…。 ハルヒ「じゃあ、またね…」 そう言ってハルヒは部屋を出た。おそらくは扉付近で言った言葉だろう。 それからしばらくして、俺は目を覚ました。といっても最初から覚めてたんだが…。 そのときはSOS団のメンバーが全員揃っていて、「おやおや、やっとお目覚めですか」と白々しい言葉もあれば、 「キョンく~ん」と可愛いらし~いお言葉もあった。いつもと変わらない無表情で、「そう」という一言もあったが。 我が団長はというと、あのときのあれは夢だったのかと思うほどのものだった。 なんせ目覚めた瞬間の第一声が「いつまで寝てんのよバカキョン!」、それに加えて強烈なビンタと来たもんだ…。 さっきのは別の人格か?ハルヒ… そして退院した俺は、すぐに学校へ復帰した。まぁ病み上がりってことで休んでもよかったのだが、何故かそんな気にはなれなかった。 教室へ入ると、ハルヒはいつものように頬杖をついて、不機嫌そ~に外を見ていた。 キョン「よっ、元気か?」 ハルヒ「あんたに言われたくないわよ。もういいの?無理しないで休んだほうがよかったんじゃない?」 キョン「ほほぅ、お前でも心配してくれることがあるんだな。」 ハルヒ「はぁ!?勘違いしないでよ!あたしが心配してるのはSOS団のほうよ!病み上がりだからって足引っ張んないでよね!」 キョン「へいへい、じゃあ今日は授業が終わったら真っ直ぐ家に帰りますよ」 ハルヒ「ダメ。最初っから休むんならまだしも、授業を受けて部活に出ないなんてあたしが許さないわ」 キョン「おいおい、お前言ってることが矛盾…」 ハルヒ「いーから出なさい!これは団長命令よ!逆らったら死刑よ!」 こうしていつも通りの会話を楽しんだわけだが、一つだけ普段と違う部分があった。 それは、ハルヒの今日の髪型が、ポニーテールだったということだ。 終わり
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言霊というものをご存知だろうか? 自分の言った言葉に精霊が宿るという霊的なアレである 祝詞を奏上する時には絶対に誤読がないようにされるほど、日本古来から伝わるものだ それほど言葉を発する際には注意しなければならないというのを、改めて実感した 事の発端はいつもの部室でのやりとりである 「コラー! 逃げ回らないでさっさと新作ミニスカメイド服に着替えるのよ! 「ひえぇ~ それはいくらなんでも嫌ですぅ~」 ……いつものやりとりである 「ハルヒ、仮にも女子高生なんだからもうちょっとおしとやかにしたらどうなんだ」 あえてコスチュームについては言及しない 「高校生だからなのよ! あんたももっと体動かしたらどうなの 最近体なまってるんじゃない」 ……処置ナシ、言っても無駄か 「小さい子供がはしゃぎまわってたら、少しは可愛いと思うけどな」 ここでスタンドが宿った 多分自動操縦型だろう 「へぇ、そう……」 ん? ちょっと待て何考えてやがる と、声に出す前に、長門の本が閉じられ、部活が終わり いつもの道を下って、家で何時間か過ごした後、就寝によって俺の一日は終了した ───のバカ!─さっさと起きな──バカキョン!─── 明らかに妹のものではない怒鳴り声で、目が覚めた 「……誰もいない?」 見慣れた部屋を見渡しても、発言元は見当たらなかった 夢にまでズカズカ入り込むなんてどこまで横暴なんだお前は…… と、まだ大分余裕がある時間であることに気づき、再び枕に顔を埋めようと── 「下よ下! 灯台下暗しにもほどがあるわよ!」 ……ん? 声のトーンは高くなってるがこの声はいつも俺が聞いているアイツの…… 「……って! ハルヒ!? なんでお前がここに!? いやそれよりも何だそりゃ!?」 俺の目に映ったのは枕の横に佇む直径10cmほどのハルヒだった 俺の疑問にハルヒは少し鬱陶しそうに 「知らないわよ! あたしが目覚めたらあんたの枕の横にいたのよ!」 と答えた しかしこうして親指姫サイズとなったハルヒは少しクルものがあるな…… 性格は540度くらいひねくれてるが 「全く、夢にしてもやりすぎよ! ほんの少し小さくなりたいと思っただけ…… ってうっさい!!何でもない!」 最近はそういうノリツッコミが流行ってるのか? と思いつつ 不思議現象に詳しい○○大学の名誉教授に……ではなく 「あーもしもし長門か?少し複雑な事が起こってな……」 いつもの仕事人に依頼の電話をかけた 「分かってる」 とだけ返ってきたとなれば、多分もうすでに歩く攻略本と化しているだろう 「涼宮ハルヒの願いが微弱であったため、半日もしないうちに元に戻る」 それを聞いて安心したぜ ついでに古泉と朝比奈さんに今日の町内探索は中止と言ってくれ 「了解した」 これでまずは、一安心……と思い振り返るといるはずのハルヒがいない 「んー?おかしいわね。 健康的な高校男子生徒はベットの下にアレの一つや二つは……」 ベットの下からそんな声が聞こえてきた ちょっと待て今日は俺の部屋探索か 「ちょっとキョン!さっさとアレの場所を吐きなさい! どうせ持ってんでしょ!」 ひでえ言われようだ あいにくそんな俗物で済ませる俺じゃないさ たまにお前の姿を……ゲフンゲフンッ! 今日は久々に不思議な事が起こったから頭が変になってるだけさ、きっとそうさ やはり思考中というのは感覚が鈍るらしい 俺が部屋に闖入してきたものに気づかなかったのもそれが原因さ 「あら、シャミじゃない」 と、ここでようやく俺の背後にいたシャミセンに気が付いた まずい、この頃シャミは少し不機嫌で物に当たりやす─── そう気が付いたのは、俺の脚の間を通り抜けたシャミが一直線にハルヒに向かっているところだった 「えっ?きゃっ、ちょっと!?」 やばい、猫といえど今のハルヒにとってはライオン以上の猛獣だ、下手したら死──! ぱくっ ……どうやら杞憂に終わったようだ 俺の目に映ってるのは、子猫を運ぶように口で服の襟をくわえられ 目をパチクリさせながらぶら下がっているハルヒだった 「なっ……ちょっと!降ろしなさいシャミ!」 顔を真っ赤にして手足をジタバタさせているハルヒは、どこか微笑ましかった 「キョン!あんたも笑ってないで助けなさい!」 より一層暴れだしたハルヒ出したのが原因なのか、シャミが急に体を振り始めた きゃあ、とか やああ、 とか今後二度と聞かないだろうハルヒの声を聞きながらも あれで壁とかに飛んでいったりしたら……ケガどころじゃ済まねぇだろ! と危機感を感じ、シャミを取り押さえようと手を伸ばした瞬間 ぱっ 俺の目が捉えたものは─── 「ハルヒッ!!」 ───ハルヒがやや低く弧を描きながら宙を舞った姿だった ───や、ばい! 間に合え! 必死の覚悟で落下地点に両手を伸ばそうとして…… 手を止めた ぼすっ ……よく考えれば、あいつはそんな簡単に死なないよな…… ため息をつきながら、部屋を出て行くシャミを横目で見送った後 (──もがー! キョン!早く助けなさい!) 狙ったように頭からベットの上の枕の下へ潜り込んだハルヒをどうするか考えた …さてどうしよう、結構深く潜り込んだらしいので自分からは抜け出せないだろう ここでハルヒが「ぷーさんでーしゅ!ぷーさんでーしゅ!」 「はちみつがたべたいでしゅー!」 「うわあー!穴から頭が抜けなくなっちゃったでしゅー!」 とか言えば何かを見出せるかもしれんな だがこうしたままでは流石に窒息死の可能性もないとは言えないので 素直に抜いてやることにした コラッ、暴れるなっ 「ぷはっ! ちょっと!団長様が困ってんだから早く助けなさいこのバカキョン!」 原因はお前の些細な願望だろうが 「はぁ……疲れたわ、降ろしてちょうだい」 流石に暴れすぎて少し疲れたようだ ちょこんと手にハルヒを乗せてゆっくりとベットの上に落としてやった 「ん……眠たいから少しばかり寝る。 変なことしたらぶっとばすわよ……」 この年でお人形ごっこはしねえよ ハルヒの眠気が俺にも感染したのか、急に眠たくなりベットに顔を埋めた 「次は……みんな……で、来るわ……よ……」 その声を最後に俺の意識は消失した 本日二度目の驚きは目覚めた瞬間やってきた 「ふえぇっ? な、なんでわたしこんなところにいるんですかぁ?」 「やあ、僕は確か街を歩いていたはずなのですか。 何故こんな状況になっているのでしょう」 「……シンプル」 目の前の小人は、俺の部屋を見渡しながら口々に喋っていた 「さあ!今度は皆で探すわよ! 絶対何かの1つや2つは出てくるはずよ!」 ……頼むから、勘弁してくれ
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ハルヒ先輩8から 「ちょっと、キョン。こっち向きなさい」 「なんだ、ハルヒ?」 「ネクタイ、曲がってる」 「ああ、すまん」 「はあ。この先、思いやられるわね」 「返す言葉もないが……って、ハルヒ、にやけてる」 「そう、喜びが心の奥底から、ふつふつとね」 「公道で人の袖を握るのはいい。だけど肩で笑うの、やめろよな」 「幸せ過ぎて、いけないことの一つや二つ、故意にやってしまいそうね」 「思いっきり確信犯だぞ」 「キョン、言葉は正確に使いなさい。確信犯というのはね、自分では義賊と思ってる犯罪者のことをいうのよ。あたしの場合は愉快犯よ!」 「どっちでもいいが、あんまり遊んでると式に遅れそうだぞ」 「構わないから待たせておきなさい」 「いや、どっちかっていうとおれは構うぞ。卒業式くらい平穏にすまそうな、ハルヒ」 「いいわ。で、その後は、あんたと二人で夜の卒業式ね」 「だから、『夜の』とか『大人の』とか、むやみに付けるのやめろよ。……というか、もう、そういうの、必要ないだろ?」 「そうね。高校生も廃業だし、公営ギャンブルもやりたい放題よ、キョン!」 「いや、あんまり、興味ないし。それと大学生も学生だから、基本ダメだし!!」 (数日前) 「卒業式? って誰の?」 「キョン、あんたの」 「おれの? ……で、ハルヒがなんで?」 「あんたの学校行事はことごとく制覇するのが、あたしの夢なの」 「おれの行事を制覇して何の意味が? ……それに、もう行事は卒業式しか残ってないぞ」 「あとは、あんたが一人前いれば、残りの人生、海賊の腕にとまったオウムのように安泰よ」 「……いや、行き先に暗雲立ちこめるのが、おれにもかすかに見える。それにオウムがとまってる海賊の腕は、なんだか義手っぽいぞ」 「どんな荒波に飲まれようと、あたしに舵を任せておけば問題なしよ!」 「なんというか、それには異論は無いけど……だいたい卒業式なんて、つまらなくないか?」 「なんで?」 「おまえ、また『委任状』とかとって、また父兄として参加するつもりだろ?」 「そ、そうよ。今回は『白紙委任状』を取ってあるけど……」 「そんな超法規的措置は出番が無いぞ。あたりまえだが、卒業生と父兄の席は離れてるし、やることと言えば挨拶みたいなのばっかりだ」 「そうなの?」 「そうなのって、ハルヒ、卒業式は? ……いや、愚問だった」 「あんたは在校生として出てるはずよね」 「おれの前にいる元卒業生は、見事にさぼってたな」 「周りでびーびー泣かれると、うっとうしくて。そんなにボタンが欲しいなら制服ごと中身ごと持って行けばいいじゃない!……って気持ちになりそうだから」 「……なるほど。……おまえなりに自重したんだな」 「……あ、あたしだって、周りの雰囲気に、全く完璧に流されない、という訳じゃないわよ……」 「出てたら誰よりもびーびー泣いてそうだな、意外にも」 「とにかく! あたしには涙は似合わないし、別れを惜しむ暇もないの!」 「……で、ほんとに卒業式に来るのか?」 「何よ、嫌なの?」 「そうじゃなくて。今言ったとおり『びーびー泣いて』、『制服ごと中身ごと持って行』ったりするんじゃないのか?」 「うっ! キョン、あんた、意外とスナイパーね……」 「的がこんなに至近だと外れる気がしない。……おれはいいぞ。ハルヒが泣いてる姿、嫌いじゃないし」 「な、泣いたりしないんだからね! 覚悟しなさい!」 「……何の覚悟だ? だいたい、同級生なら『卒業→離ればなれ』ってシチュエーションになるが、おれたちの場合、『卒業→同じ大学へ通う』んだから、むしろ距離は近くなるんだぞ」 「そうよ、あたしの思うツボよ! ……2年も待ったんだからね」 「ああ……うん、そうだな」 「そうよ」 「……聞いてもいいか?」 「なに?」 「ハルヒは……いつまでおれと一緒に居てくれるんだ?」 「……あんたがあたしに愛想を尽かして……『もういい』って言うまでね。……言わせないけど」 「……よかった」 「な、なにが良いのよ?」 「手」 「手?」 「ほら」 「こ、こら。引っ張るな! もう、何、笑ってんのよ! キョン、待ちなさーい!」 ハルヒ先輩 ハルヒ先輩2 ハルヒ先輩3 ハルヒ先輩4 ハルヒ先輩5 ハルヒ先輩6 ハルヒ先輩7 ハルヒ先輩8 ハルヒ先輩9
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「キョン、あんた、ちゃんと弁当つくってきたんでしょうね?」 デカイ声でいうなよ。まったく、ちょっとは気を使って欲しいぞ。 「ふふん、相変わらずうまそうね。あんたに先に料理を仕込んだのは大正解だったわ! ほら、あんたの分もあるんだから、しっかり食べなさい!」 「『あんたの分』じゃなくて、どっちも俺が作ったんだ! あと、俺たちはまだ4限目、授業があるんだよ」 「却下。アホ教師の授業なんて聞く意味なし。遅れないように、後でしっかり教えてあげるから、とにかく座りなさい」 「授業に遅れなくても、出席日数に響くんだよ」 「そんなもの、なんとかなる。いざとなったら、なんとかし・て・あ・げ・る」 「それが怖いんだよ」 「まだ、何か?」 「わかったよ、食べる、食べるから」 「待った、あんたの席は、ここ」 うわ、この人、自分の太もも叩いてますよ。おれたち、どこのバカップルですか? 「なんか、文句あんの?」 「あ、ありません」 「素直でよろしい♪」 「大学生がこんなとこ、うろうろしてて、いいのかよ」 「ぶつくさ言わない。付属高の分際で」 「ハルヒ先輩だって、付属高出身だろ」 「そうよ。だから、あんたを見つけたんじゃないの」 おれはこの声も態度もでかい『先輩』につきまとわれて、受難の高校生活を送っている。先輩は俺より2つ上で、俺が高校一年のとき、同じ高校の三年だった。今は順調に上にある大学にご進学である。大層いい成績だったのに、どこも受験しなかったので、進学熱の高い職員室は、また嘆きのため息をつかされた、らしい。 「受験勉強? そんな暇があったら、キョンと遊んでるわよ!」 一言で切り捨てられた進路指導部にはパニックが走り、急遽「キョンとは何ものぞ緊急対策会議」が開かれたってのは、信じ難い事実だ。 信じ難いのは進路指導の教師達もご同様で、まさか自分のところの生徒に、しかも成績、顔、身長、性格、すべて中くらいの、クラス担任ですら、あだ名以外の記憶を持ってなかった平凡極まる一年生に、あの涼宮ハルヒが入れ揚げてる、というのだから、アンビリーバボーだったらしい。いきなり身柄を拘束され、進路指導室に監禁された俺の前には、 「涼宮ハルヒと別れる」 「涼宮ハルヒに受験するよう説得する」 「極秘裏に退学」 という三択が用意された。あと小道具のカツ丼としぶい日本茶。 いや、ちょっと、まってくれ。 「あの、涼宮ハルヒって、誰ですか?」 進路指導部の教師達は、今度こそ銅で被覆されたアンモニア氷塊をレールガンで打ち込まれたエンタープライズ号のような、パニックに陥った。 「涼宮ハルヒを知らん!?」 「はい」 「あれだけ目立つ女を知らないだと?」 「はあ」 「じゃあ、毎日、昼休みに中庭でいちゃいちゃ弁当を広げてるのは、どこのどいつだ!?」 いちゃいちゃ、が何を指すのか見当もつかないが、確かにいっしょに弁当を食べてる先輩はいる。なるほど確かに目立つ。声も、態度も、銀河系をいくつ搭載したんだかわからない瞳もでかい。あと着やせするが、胸もそうなんだ。いや、今はそういう話じゃないぞ、っってそうだ、 「いや、あのですね、名乗らないんです、あの人。『あんたにはまだ早い!』だとか言って」 そのくせ、キスは出会い頭だったしな。その次は「あたしの家に来なさい!」で、いきなり自宅に連れ込まれ、台所に立たされた。大好物ばかりを作らされたあげく、 「やっぱりあんた、あたしが見込んだ通り、筋がいいわ! 明日からは、自分ん家で、2人分、お弁当を作ってくるのよ! そして昼休みは、あたしと中庭で一緒に食べること! いいわね?」 何がいいか分からんが、とにかく、この人が言えばその通りになる、というジンクスというか、悪夢はすでに始まっていたのだった。 「そうね。あたしがあんたに教えたこと、その1がキス、その2があたし好みのお弁当の作り方、その3が……」 「待て」 「何よ?」 「今思い出したから言うってのもなんだけどな、普通最初に名乗らないか?」 「そういうのは普通の連中がやればいいことよ」 「教えないと、呼ぶのに困るだろ?」 「あんた、困った?」 「困ったぞ。半年間、ずっと『先輩』だけで呼ばせやがって」 「あんた、いきなりうちに来てるんだから、名字ぐらい表札みればわかるでしょ。注意力が足りん!」 「うっ」 「で、何が困るって?」 すごむな。体温上げるな。近づくな。……うわ、なんだか、くらくらするぞ。 「うん、青少年。あたしの色香に、あんた、メロメロね」 「う、うるさい!」 「さあ、何が困ったのか、言ってみなさい。話によっては、取り上げてあげるから」 「うう……」 「さあ、さあ」 分かったから近づくな。 「大丈夫。鼻血出しても想定内だから」 「何が想定内だ。……笑うなよ」 「うん」 「もう笑ってる」 「うん」 「……」 「あ、うそうそ。真剣に聞くから、言ってみなさい」 「……キスするだろ」 「うん。会ってからは、毎日、何かと言えばキスしたわね」 「……家に帰って思い出すだろ」 「うん」 「ハ、ハルヒの顔とか目とか、その唇とか、体温とか、思い出すだろ」 「うんうん」 「……でも、その時は、まだ名前、知らないから、……心の中で呼ぶこともできないんだ」 「『先輩』でいいじゃない」 「昔の少女マンガじゃあるまいし、『遠くから憧れてずっと見てました、名前も知らずに』ってんじゃないだろうが。毎日、話すし、抱きつくし、俺のことはキョンって呼ぶのに、なんで、俺の方は、ただの『先輩』なんだよ? 一方的だ、不公平だ」 「うーん、なんかこう決め手にかけるわね」 「はあ?」 「あんた、まだ隠してる。それも肝心要のやつを」 「う……」 「あんたが言わないなら、あたしが当ててみようか? どんな暴速球がいくか、わかんないわよ」 「ううう」 「その1。あたしをオカズにしようとして、呼びかける名前がなくて困った」 ちゅどーん。 「あ、命中。ごめん、キョン。いきなり当てる気はなかったんだけど」 「もう、知らん。おまえなんか!」 「あ、キョン、待ちなさいって」 なんで、こいつは足まで速いんだよ! 「確かに半年遅れは悪かったわ。謝る。このとおり」 涼宮ハルヒが頭を下げるなんて、あっただろうか。おれは今、夢を見てるのか? 「でもね、キョン。あたしが自分のファースト・ネームを呼ばせてるのは、あんただけなんだからね。他の奴はせいぜい、涼宮どまり。あんただけ『ハルヒ』」 「あ、うん」 「何故だか分かる?」 「う」 聞きたいが、聞きたくない気持ちが上回ってる。でも、こいつは絶対、言っちゃうんだろうな。 「あんたには、一生モノの名前を預けてある。そういうこと」 どさっ。 「どしたの、キョン」 「こ、腰、抜けた」 「若いわね、キョン。あんた、いくつ?」 「ハルヒより2つ下だ」 「そのうち追いつけるかもしれないから、がんばりなさい。若い時の苦労は買ってでもしろ、って言うし」 誰か、こいつにその言葉を言ってやって下さい。でも、きっと肘か膝で跳ね返して、そのボールは俺の方に飛んでくるんだろうな。 「さあ、キョン。キスの時間よ」 「いつも、思いつきで、のべつまくなしにしてるだろ!」 「あんたの萌え要素が、火をつけたの。早くしないと、辺り一面焼け野原よ」 ハルヒ先輩2へ
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参考:すぷれい http //supurei.untokosho.com/ 344 :名無しさん@秘密の花園:2008/04/09(水) 02 23 41 ID 4HBt5F7G このハルヒ、ペアルックしたくてわざわざ カーディガンも用意した上でことに及んだんだろうなと 幸せいっぱいに妄想してみる。 さりげなく、ハルヒの脚の間に膝を入れている長門に、 攻守逆転の布石を打つ熟達の技を感じた。 345 :名無しさん@秘密の花園:2008/04/09(水) 03 49 00 ID aLJmmRum あのまま足を動かすとハルヒがふじこるわけですね 346 :名無しさん@秘密の花園:2008/04/10(木) 00 02 18 ID g5K+wf03 ハルヒ総受け 347 :名無しさん@秘密の花園:2008/04/10(木) 02 21 50 ID wtOiEYSH 344-345 あ…ありのまま 今 起こった事を話すわ! 『あたしは有希を押し倒してポジション逆転に成功したと 思ったらいつのまにかイかされてた』 な… 何を言ってるのか わからないと思うけど あたしも何をされたのかわからなかった… 頭がどうにかなりそうだった… 騎乗位だとか電気アンマだとか そんなチャチなもんじゃあ 断じてない もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ… 348 :名無しさん@秘密の花園:2008/04/10(木) 13 58 00 ID G8TaxRNY 改変コピペですら萌えてしまう・・・ハルヒ恐るべし
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「あんた・・・誰?」 俺に向かってそう言ったのは涼宮ハルヒだ。 あんた?誰?ふざけてるのか?嘘をつくならもっとわかりやすい嘘をついてくれよ! だがハルヒのこの言葉は嘘でも冗談でもなかった。 この状況を説明するには昨日の夕刻まで遡らなければならない。 その日も俺はいつものように部室で古泉とチェスで遊んでいた。 朝比奈さんはメイド服姿で部屋の掃除をし、長門はいつものように椅子に座って膝の上で分厚いハードカバーを広げている。 ハルヒは団長机のパソコンとにらめっこしている。 いつものSOS団の日常だった。 「チェックメイト。俺の勝ちだな古泉!」 俺はいつものように勝利する。 「また負けてしまいましたか。・・・相変わらずお強いですね。」 微笑みながらこっちをみる古泉。 俺が強い?言っておくが俺は特別強くなんかないぞ!おまえが弱すぎるんだよ古泉! まぁこの微笑野郎が本気でやっているかどうかは疑わしいもんだが。 そうだったら腹がたつな! 「今日はここらでやめとくか。」 「そうですね。続きはまた明日とゆうことで。」 ニコニコしながらチェスを片付け始める古泉。 すると長門がハードカバーを閉じる。 同時に下校の予鈴が鳴った。 ハルヒが立ち上がって鞄を肩にかける。 「さぁ、あたしたちも帰りましょ!」 ハルヒの号令に俺たちは帰宅の準備を始める。 「たまにはみんなで一緒に帰りましょ!」 ニコニコしながら腕を組んでいるハルヒ。 「そうだな、たまにはいいかもしれないな。」 今思えばこのときが運命の分かれ道だったのかもしれない。 帰りの支度を終えた俺たち5人はいつもの坂道を下り始めた。 先頭に俺、隣にハルヒ、俺の後ろに朝比奈さんと古泉がいて最後尾に長門がいる。 「ねぇ、キョン。あんた土曜日ヒマ?」 ハルヒが歩きながらこちらを向く。 土曜日か…ヒマと言えばヒマなんだが俺には睡眠という名の立派な業務がある。 「まぁどうせヒマでしょ?あたし叔父さんから映画のチケット2枚もらったのよ!特別にあんたを招待してあげるわ!」 正直俺は映画館のあのかったるい感じが嫌なのだがハルヒにしちゃまともな誘いだ。特に断る理由もないだろう。 「映画ねぇ。別にいくのはいいんだがどんな映画を見に行くんだ?」 こいつのことだからSF物かもしくはホラーか?まぁそれなりに楽しめる内容だといいんだが。 「あ、あたしもまだどんな映画だか知らないの。」 「チケット貰ったならタイトルくらいわかるだろ?」 そう返すと何故かハルヒは顔を赤くする。 「べ、別にいいじゃない!どんな映画でも!」 嫌な予感がするな。こいつがタイトルを言えない映画ってなんだ? まさか恋愛ラブストーリーだったりしてな。 「と、とにかく土曜日空けときなさいよ!」 まぁいいか。 ハルヒがどんな顔して恋愛ものを観るか楽しみでもある。 そんな会話を俺とハルヒがしていると聞いていた古泉が微笑声をもらしながら近づいてきた。 「お二人方、週末は映画館でデートですか。お熱いですねぇ。」 うるさい古泉。おまえはいつも一言多いんだよ。 「デ、デートじゃないわよ!キョンはただのオマケなのよ!勘違いしないで頂戴古泉君!」 そこまでむきになって否定しなくてもいいと思うが… 「そうゆうことにしておきましょう。」 ハンサム野郎は再び微笑して頷いた。 ここまでは普段どおり何ら変わりはなかったが事件はこの後起きる。 坂道を下ると大きな交差点にぶつかった。 信号は青だ。 俺はハルヒの誘ってきた映画のことを考えながら渡り始めた。 このとき俺がよくまわりを見て渡っておけばあんなことにはならなかったかもしれない。 突然、大きなブレーキ音とともに俺の横に一台のバイクが突っ込んできた。 「危ないキョン!」 ハルヒは俺に飛びついて俺を転ばせた。 俺とハルヒはそのまま転がる。 危機一発。俺は寸前のところでハルヒに助けられたようだ。 「・・・っ・・・なんて乱暴な運転しやがる・・・」 俺は体を起こしながら辺りを見る。 「大丈夫ですか!?」 古泉たちが駆け寄ってきた。 「・・・なんとかな。ハルヒ助かったぜ!」 俺はそう言いながら隣に倒れこむハルヒを見た。 ハルヒは道路に倒れこんだまま目を瞑っている。 「おい!ハルヒ?」 ハルヒは応答しない。 その場にいた全員が言葉を失った。 ハルヒはぐったりして目を瞑ったままだ。 「お、おいハルヒ!しっかりしろ!」 ハルヒの体を抱き寄せ問いかけるが返事はない。 「動かしてはいけません!」 そう言って古泉は電話を取り出し救急車を呼ぶ。 なんでこんなことに… 「頭を強く打ってます!もう少しで救急車が到着します!あまり動かさないで下さい。」 真剣な顔で古泉は俺を見つめる。 すると長門が俺とハルヒの前に来るとハルヒの頭に手をかざした。 なにやら呪文を唱えているようだ。 そして俺を見ると一言だけ発した。 「心配いらない。傷は塞いだ。」 長門がそう言ってくれたおかげで俺は平静を取り戻した。 長門が大丈夫だと言うんだ。すぐにハルヒは目を覚ますだろう。 俺が安心すると大きなサイレンと共に救急車が到着した。 救急隊員がハルヒを担架に乗せると救急車の中に運んでいった。 「僕たちも付き添いましょう!」 古泉の言葉で俺たちもハルヒに付き添い病院に向かう。 救急車の中では救急隊員がハルヒの口に人工呼吸器をあてている。 俺は先ほどの長門の言葉を頭の中で何度も自分に言い聞かせながら平静を保っていた。 病院に着くとハルヒは緊急治療室に運ばれていった。 俺たちはロビーで待つことにする。 「ぅ・・・ぅぇ・・・涼宮さぁん・・」 朝比奈さんはさっきからずっと泣いており古泉がそれをなだめている。 「長門さんがあの場で治療してくれたおかげで涼宮さんはほとんど無傷です。心配いりませんよ。」 そう言ってる古泉だがいつもの笑顔はない。 「とりあえず今は待ちましょう。僕たちにできることはそれしかありません。」 どれくらいの時がたっただろうか。気がつくと辺りはすっかり暗くなってる。 すると治療室から医者がでてきた。 真っ先に古泉が医者に駆け寄る。 「彼女のお友達の方々ですか?」 「えぇ、先生。彼女の容態はいかほどでしょうか?」 古泉はいつになく真剣な顔だ。 「心配いりませんよ。頭を強く打っていますが奇跡的に無傷です!すぐに目を覚ましますよ!」 「そうですか。ありがとうございました。」 古泉は医者に会釈すると俺たちにやっと笑顔を見せた。 「よかったです。長門さんのおかげですね。」 ようやく朝比奈さんも泣き止んだ。 俺は長門に顔を向けると長門は相変わらずの無表情だった。 「長門。ありがとう。」 長門は淡々と答えた。 「涼宮ハルヒは大事な観察対象。万が一のことがあっては困る。」 ありがとな長門。お前はそう言っていても俺にはお前に対する感謝の気持ちでいっぱいだ。 「皆さんこれからどうします?僕は今から涼宮さんのご両親に連絡してきますが。」 どうする?決まってるだろ? ハルヒが目を覚ますまでそばにいるさ!いつだったか俺が入院したときもあいつはずっとそばにいてくれたんだからな。 「俺はしばらく病院に残るよ。」 「わかりました。では僕は電話してきます。」 あとはハルヒが目を覚ますのを待つだけだ。 俺は朝比奈さんと長門を連れてハルヒが運ばれた病室へ入った。 人工呼吸器を口につけたまま眠っているハルヒ。 俺はそんなハルヒに心の中で声をかけた。 おいハルヒ!さっさと起きてくれよ。お前がいないとSOS団はどうなるんだよ。それに映画に一緒に行く約束もしただろ!お前が寝たままじゃチケットが無駄になるだろ! 第一俺を庇ってくれたことの礼も言いたいんだよ。 だからさっさと起きろ! 言いたいことはまだあるんだ。 しばらくすると古泉が戻ってきた。 「涼宮さんのご両親がもうすぐ到着されます。おそらく僕たちは邪魔でしょう。今日のところは帰りましょうか。」 ハルヒが目覚めるまでそばにいたかったがハルヒの両親に迷惑をかけるわけにもいかない。 「仕方ないな。今日は帰ろう。」 俺たちは病院を後にして解散した。 翌日になると俺はいつものように学校に向かった。 坂道を駆け足で登り校舎に入る。 そしてクラスに入る。 だがハルヒの席にハルヒはいない。 やがてHRが始まり担任の岡部が切り出した。 「えぇ、涼宮は昨日交通事故に遭って頭を強く打ったそうだ。怪我はないらしいが今日は大事をとってお休みだ。」 クラスが騒然とした。 だがすぐにいつもの空気に戻る。 その後俺は授業を受けたがやはりハルヒが後ろにいないとなんだか物足りないな。 「ねぇキョン!いいこと思いついたわ!」 そう言ってつついてくるハルヒが途端に恋しくなったな。 結局俺は授業など上の空って感じであっという間に1日が過ぎた。 廊下にでると古泉と朝比奈さんと長門が俺を待っていた。 「先ほど病院から連絡がありました。涼宮さんが目を覚まされたようですよ。」 「本当か古泉?」 「えぇ。僕たちもすぐに病院に向かいましょう。」 やっと目を覚ましてくれたかハルヒ… お前のいない学校はつまらなかったよ。 そんなことを思いながら俺たちは病院に向かった。 ハルヒの病室に着くと俺は昨日のことをどうハルヒに謝ろうかと考えながら扉をノックした。 「どーぞ!」 ハルヒの元気な声を確認して俺は安心した。 ゆっくりと病室の扉を開けるとそこにはベッドの上でしかめっ面をして腕を組むハルヒがいた。 俺たちは病室に入り扉を閉めた。 「ハルヒ。もう大丈夫なのか?」 ハルヒはしかめっ面のままこちらを凝視していた。 「あんた・・・誰?」 俺は耳を疑った。 あんた誰?何言ってんだよこいつは。 ちっとも笑えないぞ! 「は?」 「は?じゃないわよ!勝手に人の病室に入ってこないでよ!」 「せっかく見舞いに来てやったんだ。なんの冗談だよ?」 ハルヒは表情を変えない。 「見舞い?なんであたしの知らない人間が見舞いに来るのよ!」 どうゆうことなんだ?俺を知らない? すると古泉がいつもの笑顔で話かける。 「お元気そうで何よりです。涼宮さん。」 ハルヒは不思議そうな顔で古泉を見る。 「なんであんたもあたしの名前知ってんの?どっかで会ったかしら?ああ、そういえばそれ北高の制服ね。」 全くもってわけがわからん。誰か説明してくれ! 突然古泉が俺の耳元で囁く。 「一旦出ましょう。わけは外で説明します。」 俺たちは古泉の言うとおり一度出ることにした。 ロビーに移動した俺たちに古泉が語り始める。 「先ほどの涼宮さんの奇妙な言動ですが、記憶喪失と考えると全てつじつまが合います。」 「記憶喪失だって?ハルヒはホントに俺たちのこと忘れちまったのか?」 「えぇ、それも僕たちSOS団のことだけをね。」 「俺たちだけ?なんでそんなことがわかる!」 「涼宮さんはご両親とは普通に話してるようですし涼宮さんは北高のことを知っていました。なので消えてる可能性があるとしたら僕たちSOS団に関する記憶でしょう。」 ハルヒの中から俺たちだけの記憶が消えた?なんでそんなややこしいことになっちまったんだ。 「おそらく僕たちとの思い出が涼宮さんにとって一番大事なものだったからでしょう。それが優先的に消されてしまったのです。」 「元には戻らないのか?」 「わかりません。突然思い出すこともあるようですが・・・」 とりあえずもう一度涼宮さんの病室に行きましょう! 俺たちは再びハルヒの病室にやってきた。 古泉がノックをする。 「どーぞ!」 こうなりゃやけだ!意地でも俺たちのことを思い出させてやる! 扉を開けるとしかめっ面のハルヒ。 「またあんたたち?あたしに何の用なのよ!」 俺は手当たり次第ハルヒに質問をぶつけてみることにした。 「なぁ、谷口って知ってるか?」 何故か最初に谷口が浮かんだ。 「谷口?あのバカがどうしたのよ!」 なるほど谷口は覚えてるのか。 「じゃあ国木田って知ってるか?」 「国木田?ああ谷口といつもつるんでるやつね?」 国木田は俺と同じ中学だ。ハルヒは中学の国木田を知らないはずだ。 つまりハルヒには北高の記憶はあるということだ! 俺はハルヒを追い詰める。 「じゃあお前の席の前に座ってるやつは誰だ?」 ハルヒはその場で考えこみ始めた。 「・・・あたしの・・前?・・思い出せないわ。なんで?」 なるほど… やはり俺たちだけの記憶がないらしい。 「・・・なんで思い出せないの?・・・っていうかあんたたちは誰なのよ!」 「お前と同じ学校のもんさ!俺はキョン。こっちが古泉で、こっちが朝比奈さん。こっちが長門だ。」 なぁ思い出せよハルヒ!お前だけが一方的に俺たちを忘れるなんて許さないぜ! 「あまり考えさせるのもよくありません。また出直すことにしましょう。」 ここは古泉言うとおりにしておこう。 「じゃあなハルヒ!明日学校でな!」 「ち、ちょっと待ちなさいよ!まだ話は終わってないわ!」 ハルヒの言葉を無視して俺たちは強引に病室をでた。 全く勝手なやつだ。俺たちだけのことを一方的に忘れやがって。 「まぁいいではありませんか。涼宮さんがご無事だったのですから。焦る必要はありません。」 「だがなぁ」 「涼宮さんは明日から登校してきます。きっと明日思い出してくれますよ。」 今日の古泉の言葉には妙に説得力がある。 「そうだな。今日は帰るか。」 そうして俺たちは解散することにした。 その日の夜、俺は明日ハルヒの記憶を取り戻すための作戦を考えていた。 ハルヒの記憶を戻す方法はある。 それは俺はジョン・スミスだと言うだけでいいんだ。 だがそれを使うと今までのことや俺たちのことを全てハルヒに話さなければならない。 下手するとハルヒの力が暴走する。 だからこの方法だけは避けたい。 そんなことを考えながら翌日になった。 今日はきっとハルヒが来る。 俺は急いで学校に向かった。 駆け足で教室に入るとハルヒの姿があった。 椅子に座り腕を組んでまわりをじっと睨んでいる。 まるで一年前ハルヒと出会ったときのようだ。 「よう!体はもう大丈夫なのか?」 俺は自分の席に座りハルヒに話しかけた。 「あんた昨日の!なんであんたがここにいんのよ?」 「ここは俺の席だ。」 ハルヒは戸惑った顔をしている。 今までいろんなハルヒの顔を見てきたがこんな顔は初めてみたさ。 正直可愛かったね。 「・・・っ・・思い出せないわ。あたしが忘れてるのはあんたなの?」 頭を抱え込んでるハルヒ。 「いずれ思い出すさ。」 俺はそう言って前を向いた。 それからのハルヒはずっと空を見て考えこんでいた。 思い出してくれよハルヒ。俺たちのことを。 それから時間は流れ昼休み。 俺はハルヒを部室に連れていくことにした。 「ハルヒちょっと来てくれ!」 ハルヒの手首を掴み強引に部室まで引っ張っていく。 「ち、ちょっとなによ!」 ハルヒの言葉に俺は耳を貸す余裕はない。 「・・・文芸部?なんでここに連れて来たのよ!」 文芸部。つまりSOS団の部室だ。 「今日からここがあたしたちの部室よ!」 一年前ハルヒがこの部屋でそう言った日からSOS団は始まった。 扉を開けるとそこには朝比奈さん、長門、古泉がいた。 ハルヒを中に入れ俺は問いかけた。 「どうだ?この部屋覚えてないか?」 ハルヒは少し考えこむと 「・・・わからないわ。・・でも・・・なんか懐かしい感じがするの・・」 よかった。連れてきた甲斐があったみたいだ。 毎日通った部室だ、ハルヒの体が覚えているんだろう。 「涼宮さんはこの部屋で団長をやっていたんですよ。」 古泉と朝比奈さんが壁に貼り付けられた写真を指差した。 夏合宿のときに孤島で撮った写真だ。 「これ・・・あたし?なんで?・・・思い出せない。」 まるでおもちゃを無くした子供のような顔で写真を見つめるハルヒ。 「俺たちはここでお前のつくったSOS団として活動してたんだ。その写真が証拠だよ。」 ハルヒはやがて無言になる。 しばらくの沈黙が流れやがてハルヒが切り出す。 「SOS団だとか・・・団長だとか・・・わけわかんない・・」 今にも泣き出しそうな顔でそう言うと走って部室を出ていった。 「・・・ハルヒ」 出ていった瞬間ハルヒが遠くに離れてくような感じがした。 「仕方ありません。いきなり現実として受け入れるのはいくら涼宮さんでも難しいでしょう。」 古泉も珍しく寂しい顔をしている。 すると俺の服を掴むやつがいた。 長門だ! 「長門?」 長門は無表情のままこちらを向く。 「涼宮ハルヒの精神状態が不安定になったことでこの部屋の空間を構成している力のバランスが崩れようとしている。」 よくわからないがそれがまずいことだってことは俺にもわかる。 古泉が神妙な面もちで言う。 「とにかく放課後対策を練るとしましょう。」 結局その日ハルヒは教室に戻って来なかった。 放課後俺は再び部室に向かった。 部室にはすでに3人の姿がある。 古泉が真剣な顔でこちらを見ている。 「涼宮さんは?」 「ハルヒは結局帰って来なかったよ。」 古泉と朝比奈さんは何か深刻な顔をしている。 「困ったことになりました。先ほど機関から連絡があったのですが世界中で大規模な閉鎖空間が発生してるようです。」 「なんだって?」 「おそらく涼宮さんの精神状態が不安定になったことで発生したのでしょう!このままではこちらの世界とあちらの世界が入れ替わってしまいます。そうなる前に涼宮さんを見つけなくてはなりません。」 くそっ!こんなことになるならハルヒをここに連れて来るんじゃなかった! 「悔しんでもなにも変わりません。とりあえず今は一刻も早く涼宮さんを探し出さないといけません。」 「ああ。わかってる」 俺は長門を見た。 「長門。お前の力でハルヒを探せないか?」 長門は答える。 「今はできない。現在私の能力は何らかの影響で弱まっている。」 何らかの影響?それもハルヒの仕業なのか? 「・・・おそらく」 「ここ話していても何も解決しません!今は涼宮さんを見つけだすことが先決です!」 古泉の号令で俺たちは手分けしてハルヒを探すことにした。 くっ!ハルヒ。どこにいるんだ! ハルヒの行きそうなところに俺は走った。 東中か?それともいつもの喫茶店か? とりあえず行ってみるしかない。 俺はいつもの喫茶店に走った。 ハルヒはいないようだ。 じゃあどこだ?東中か?何も考えずに俺は東中に向かう。 走りながらハルヒの携帯に電話をかけるが繋がらない。 俺は東中に着くと無我夢中で探しまわった。 ここにもいないのか?じゃあどこにいるんだハルヒ! 気がつくと辺りはすっかり暗くなっていた。 こんなことになっちまったのは全部俺の責任だ!俺が無理やりハルヒに記憶の断片を突きつけたり、いや、その前にあのとき事故に遭わないければハルヒはこんなことにならなかった。 自分自身に腹がたつ!頼むハルヒお前に会いたい! いつの間にか俺は北高に戻ってきていた。 真っ暗な校庭の真ん中にポツリと誰か立っている! ハルヒなのか? 俺は校庭の真ん中に駆け寄った。 「ハルヒ!」 校庭にいたのはハルヒだった。 ハルヒは悲しそうな顔でこちらを見た。 「あんた・・・一体なんなのよ・・」 いつになく力無い声だ。 「・・・わかってるのよあたしだって。何か大切なことを忘れてるのは・・・」 「・・・ハルヒ」 「・・でも・・どうしても思い出せないの!・・・あんたのことだって絶対知ってるはずなのに。」 ハルヒの悲しい顔を見ると俺は胸が苦しくなる。 ハルヒは俺に近づき続ける。 「ねぇ教えて!あんたは誰なの?あんたは私のなにを知ってるの?・・・教えてよ・・」 俺はハルヒの両肩に手を乗せて言う。 「・・・いいんだハルヒ。無理に思い出さなくて・・・お前はお前だ。他の誰でもない。涼宮ハルヒだ!」 ハルヒは目から涙を流しながら俺を見つめている。 「・・・・・なんであんたを見るとドキドキするの?・・・なんで・・」 俺はハルヒを抱きしめた! 俺の胸の中で泣いてるハルヒ… 「なぁハルヒ聞いてくれ。お前が俺のことを思い出せなくても俺はお前が大好きだ!・・・俺だけじゃない!古泉も長門も朝比奈さんもみんなお前が大好きなんだ!」 俺は一年前にハルヒと閉鎖空間に閉じ込めらたときのことを思い出していた。 今はあの時とは違う。今俺がハルヒにキスをしたところであの時のようにうまく行く確証はない。それどころかそんなことをすれば逆にハルヒの精神状態をよけい不安定にしてしまうかもしれない。 だが気がつくと俺はハルヒの唇に自分の唇を重ねていた。 なぜそんなことをしたかって? 決まっている!俺がしたかっただけだ! 俺はハルヒと世界を天秤にかけてハルヒを選んだ。 もうこのあと世界がどうなろうとかまわなかった。 今はただハルヒと唇を重ねていたかった。 1分ほど経っただろうか。俺はハルヒから唇を離しハルヒの顔を見た。 ハルヒの頬は赤くなっている。 こんなときに不適切な発言かもしれないが言っておく。 世界で一番可愛いと思った。 ハルヒの肩から手を離すとハルヒが小声で言った。 「・・・・・・・・・・・・・ばか」 「すまんハルヒ。つい・・・」 ハルヒは赤い顔のまま顔を横に向けた。 「・・・ばかキョン。・・罰として土曜日奢りなさいよ。」 ん?今なんて言った?土曜日?まさかハルヒ! 「思い出したのか全部!?」 ハルヒは再びこちらに向いて 「大体あんたがあのときよそ見したから悪いのよ!今度からはちゃんと周りをみてから渡りなさい!」 よかった。いつものハルヒだ。 そのあとのハルヒとの会話はよく覚えていない。 そしてその日の夜に古泉から電話があった。 古泉の話によると世界中に発生していた閉鎖空間は消えたらしい。つまり一件落着ってわけだ。 翌日からハルヒはいつものハルヒに戻っていた。 部室ではハルヒが朝比奈さんをいじくり、長門は相変わらず分厚いハードカバーを広げ、俺と古泉はチェスで対戦。 そこにはいつもと変わらない日常があった。 ◆エピローグ◆ 土曜日の話だ。 俺はハルヒと映画を見に行った。 鑑賞した映画は男と女が繰り広げる非日常のラブストーリーだった。 俺の隣のハルヒは終始真剣にスクリーンを見つめていて、映画のワンシーンであるキスシーンが流れると頬を赤く染めていた。 正直俺は映画よりハルヒの顔見てるほうが面白かった。 映画を見終わり俺たちは駅に向かって歩いていた。 「なぁハルヒ。あんなチャラけた映画の何が面白いんだ?」 「あんたにはわかんなくていーの!ばかなんだから!」 俺はハルヒをからかってやった。 「お前キスシーンのとき顔赤くなってたぞ。」 ハルヒはその場で赤くなり俺の胸ぐらを掴む。 「な、なんであたしの顔見てたのよ!?いやらしい!」 「別に。お前も純情なんだなハルヒちゃん!」 「う、うるさいばかキョン!」 ハルヒは尚も俺の胸ぐらを掴みながら小声で言う。 「・・だいたい、あんたからだけなんてずるいじゃない・・」 そのまま俺を引き寄せ唇を重ねてきた。 短いキスが終わりハルヒは赤く染まった頬のまま言った。 「これでおあいこだからねキョン!」
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ホームルームが終わると、俺とハルヒはまっすぐ文芸部の部室に向かった。 ハルヒと肩を並べて歩いていると、こいつが妙に上機嫌なことに気がついた。 俺の視線に気がついたのか、ハルヒを顔を上げて俺に言ってきた。 「私がどうして機嫌がいいのか知りたいでしょ?」 別に。まあ、無理を言うなら聞いてやらんことも無い。 一週間後の天気くらいには気になるからな。 「駅前に新しくできたケーキ屋さん知ってるでしょ?」 ああ、先週オープンしたばかりのあれな。妹が行きたいとか騒いでたから覚えてる。 「そうよ。あそこのプリンはね、それはもう、天国と地獄が入れ替わるんじゃないかってくらい美味しいの」 それって美味いのか? というか天国と地獄が入れ替わったら神様を大混乱だろう。 「だから昼休みにこっそり抜けて、買ってきたの。最後の一つだったんだから!」 昼休みに見かけ無いと思ったら、そんなことしてたのか。 よくもまあ、プリン一つにそこまで頑張れるものだ。 「それくらい美味しいのよ!」 いつの間にか、俺達は部室の前まで来ていた。 ハルヒはいつものように勢いよくドアを開ける。朝比奈さんが着替えてたらどうすんだよ。 幸か不幸か、麗しいメイド服の先輩の姿は無く、読書好きの宇宙人の姿があった。。 「ちょっと、有希、それって!」 「………つい」 訂正。食い意地の張った宇宙人がプリンをもぐもぐと咀嚼してる姿があった。 見れば、容器の中はすでに空で長門の口に入ってる分で終わりらしい。 「あんたねえ……」 いつものハルヒならブチ切れているところだが、今は怒るに怒れないでいる。 長門の申し訳なさそうな顔を見たら怒れないという気持ちは分からんでも無い。 長門には、大甘なこいつなら、なお更のことだろう。 「………」 「まあ、もう良いわ。有希には怒れないし、誰にでも食べられるところに置いてた私にも責任があるから」 言うまでも無いが、俺がハルヒのプリンを食おうものなら大激怒でも済まないだろうね。 一体、どんな罰ゲームをさせられることやら。 その時、、さっきまで無言だった長門が立ち上がった。 「私という個体は今回のことを非常に申し訳なく思っている。せめてものお詫びをしたい」 「え、別のいいのよ。言ったでしょ、私も非があるって」 ハルヒはいつになく饒舌な長門に驚いたのか、しどろもどろに答えを返した。 「あなたに非は無い。完全に私の責任」 そう言って、ハルヒに一歩近づいた。 「あなたはプリンを生命維持の為ではなく、嗜好品として摂取しようと考えていたと私は推測した」 長門はまた一歩、ハルヒに近づく。 「ちょ、ちょっと有希、あなた何する気よ?」 「よって、あなたがプリンの味覚情報を得れば、完全ではなくてもあなたの欲求は満たされるはず」 また一歩近づく。長門とハルヒの距離は50cmも離れていない。 長門はハルヒの腰に、両手を伸ばした。 「有希、待ちなさい! あんたまさか!?」 「幸い、プリンの成分の一部は私の口内に残存している」 「ゆ……ん、むぐ」 何かを言おうとしたハルヒの唇は、長門の唇によって多少、強引にふさがれた。 長門はハルヒの腰に添えられた左手をそのままに、右手をハルヒの後頭部に回した。 まるでハルヒが逃げられないようにするために。 ハルヒは長門の唇から逃れようと身を捩ったが、いかに馬鹿力のハルヒと言えども宇宙人の前には無力だった。 しばらく、それでも長門の腕の中で暴れていたハルヒだったが ピチャピチャと何かが絡み合う音が聞こえてくる頃には、抵抗することやめていた。 そうしてハルヒは開放された。 時間にして30秒ほどだったが、やけに長く感じた。 俺は結局、二人の熱い接吻をじっくり見入るように眺めていたことになる。 ハルヒは腰が砕けたように床に、萎れるように座り込んだ。 先ほどまでの行為のせいか、それとも俺に見られていたからか、顔は人体の限界に挑戦するかのような赤さだった。 「な、な、なななな」 あまりのショックのせいか、言語を発せられないらしい。 「私は先ほどの行為では、完全に満足していない。私はあなたを欲求を叶えるために先ほどの行為を行った。次はあなたが私に協力することを推奨する」 ちょっと、待て。お前は結果はどうあれ、ハルヒのプリンを食べた償いにさっきのキスをかましたんだろうが。 それで、次はあなたってどう考えてもおかしいだろう。詭弁、もしくは詐欺ってやつだ。 ていうか、単にお前がやりたかっただけだろ。 長門は、床に座っているハルヒを同じ目線までしゃがむと目を閉じて、わずかに唇をハルヒに突き出した。 「有希、私はしないからね!」 ハルヒが至極当然の返答を終えると、ほぼ同時にドアがノックされた。 朝比奈さんか古泉だろう。 流石に今の状況は不味いと判断した俺は、急いでドアを開けると外に出た。 なるべく中の様子を見せないように。 そこにいたのは、朝比奈さんと古泉の二人だった。 「なにごとでしょうか?」 「いや、今は少しまずいんだ」 「ふぇ? 何かあったんですか?」 「たいしたことじゃ無いんです。気にしないで下さい」 「涼宮さんと長門さんは中に?」 「何があったんですかー?」 俺が二人の質問に答えていると、不意にドアの向こうから長門の声がした。 「この部屋の情報を書き換えた。今から二時間は誰も入ることはできない」 おいおい、ちょっと待て。お前は二時間で何をするつもりだ。 「その問いに答えることはこの国ではセクハラに分類される」 ………もう、何も言うまい。 俺は横で状況を飲み込めないでいる、朝比奈さんと古泉に事情を話すと家に帰ることにした。 鞄は部室の中だったが知ったことか。今日は疲れた。やれやれ。 翌日、長門と手をつないで登校する二人を目撃した生徒が続出したことを谷口から聞いた。