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「ん・・・」 おでこに冷たい感触を覚えて、目を開けた。 「あれ・・・ここ」 見慣れたちょっと低めの天井。体に馴染んだベッド。気がつくと私はメイドルームにいた。傍らの椅子に座っている、冷熱用のジェルシートを持った舞波さんと目が合う。 「あ、めぐさん。よかった、気がついたんですね」 「・・・はい」 「舞美さんがこちらまでめぐさんをおんぶして来たんですよ。今また、お嬢様のお部屋に戻っていかれましたけど」 どうやらあんまり頭に血が上りすぎて、ぶっ倒れてしまったらしい。意識があったのは昼過ぎまでで、今はもうすでに日が落ちてきている。私は何時間も眠り続けていたみたいだ。 まだボーッとしてるけれど、バッチリ自分のしでかした事は覚えている。 確かに私はキレやすいほうだけど、今までの人生、我慢するところはきちんとできていたはずだった。一応優等生の部類に入る人間だったし、そんな自分を多少誇らしくも思っていた。それが、雇い主の娘様に向かって、バカ呼ばわり・・・ ふらつく頭を押さえながら、体を起こして両膝に手を置く。 「・・・舞波さん、いろいろ教えていただいたのに、恩を仇で返すような形になってしまって・・・」 「え?」 「こんなことを仕出かした以上、もうここに置いていただくことはできません。家に戻ったら、改めてお礼の手紙を書かせてもらいますので、よかったら住所とか」 「ウフフ、めぐさんたら。別に、誰も怒ってなんかいないですよ」 そう言って舞波さんは、視線をドアの方へ向けた。 「お嬢様・・・」 おずおずと、ドアの陰からお嬢様が姿を現した。強く握りしめられた手から、緊張が伝わってくる。 「おいで、千聖」 舞波さんに優しく手招きされて、ベッドサイドの椅子に腰をかけるお嬢様。 「・・・」 しきりに口を閉じたり開いたりしながら、困ったように眉を寄せて、私のほっぺたや頭に触れる。 もう取り乱したような様子はなく、泣きはらした赤い目のまま、じっと私を見つめていた。 「あ・・・えっと、」 あそこまで怒鳴った後で、どう話しかけたらいいのやら。お嬢様も、どうしたものかと言った表情で、舞波さんに助けを求めるような視線を向ける。 「千聖、めぐさんに渡すものがあるんだよね?」 舞波さんのアシストで、お嬢様の顔が若干明るくなる。スカートのポケットに手を突っ込むと、少し曲がった薄いピンクの封筒を、私の胸に押し付けた。 「手紙?」 “あとで読んで” 口パクでそう言うと、お嬢様はなぜか慌てたように部屋を出て行ってしまった。 封筒の中には、小さな小花模様の散りばめられた、香りつきの便箋が入っていた。そこに、“ごめんなさい”とだけ大きな文字が乗っかっていた。 「お嬢様・・・」 ごめんなさいは、私が言わなきゃいけないことなのに。後を追おうと立ち上がりかけたところを、舞波さんの手がそっと制した。 「・・・たぶん、今は1人でいたいのではないかと。」 「でも、」 「ウフフ、きっと照れてるんですよ。さっきめぐさんが倒れてしまった時だって、みんながびっくりするぐらいすっごく心配してたのに。結構恥ずかしがりやなんです、千聖。」 八重歯をのぞかせて、舞波さんはいつもみたいにおっとりと笑った。まるで可愛い妹の世間話みたいなテンションだ。 「はぁ・・・。いや、そんなことより」 舞波さんから溢れ出るのほほんオーラで、しばしぼんやりしてしまったものの、私はさっきの出来事を反芻して、背筋を伸ばした。 「・・・さっきも言いましたけど、誰もめぐさんのことを非難したりしてないです」 「あ・・・」 私が話を切り出す前に、舞波さんはやんわりさえぎるように、口を開いた。 「それどころか、旦那様と奥様は恐縮なさっていました。本来ならお2人から言わなければならなかったことを、めぐさんに言わせてしまった、と」 「いや、だって、千聖お嬢様の場合は事情が事情ですし。私は感情にまかせて・・・その、バカとか言っちゃったけど、そんな単純な話じゃなかったと思います。舞波さんもごめんなさい。」 「そんな・・・めぐさん。謝るのは私のほうです。自分がこれからどうしたいのかははっきりしているくせに、千聖を傷つけるのが怖くて、中途半端に接してきたから。結局、めぐさんにも千聖にも悲しい思いをさせることになってしまった。」 舞波さんは目を細めて、出窓の外へ顔を向けた。 「めぐさん。千聖は、私にとって、光なんです」 「光・・・」 「そう。真っ暗な迷路に迷い込んでいた私の前に現れて、手を繋いでくれた。千聖が私を見つけてくれたから、側に居て笑っていてくれたから、私はこうして笑う事ができるようになった。ちゃんと、自分の未来のことを考えられるようにもなった。 私は千聖を置いていくんじゃなくて、千聖の照らしてくれた道を、1人でもくじけないで歩いていきたいんです。元いた場所に戻るのは少し怖いけれど、もう逃げたくないから。千聖に恥じない人間になった時、また、笑って会いたい。」 とても穏やかだけれど、誰にも曲げられない強さを感じさせる舞波さんの表情。だけど、私は何だか物足りなさのようなものを覚えた。 「舞波さん、だけどそれ・・・ちゃんと、千聖お嬢様に伝えたんですか?」 「・・・いいえ。そこまでは」 「だめだよ、それじゃ」 今度は大きな声を出さないよう、気持ちを落ち着けながら、私は舞波さんの隣に立った。 「私、なんかわかった。舞波さんは優しいけど、結構ガンコ者だ。だからお嬢様は、今すごく混乱してるんだと思う。 初めて出来た友達で、いつも自分のことを思いやってくれるはずの舞波さんが、どう引き止めても残ってくれないなんて、すごくショックだったんじゃないかな。 それに、未来が見える舞波さんが自分の元から去っていくってことは、お嬢様の存在が、舞波さんにとって今後不必要になるって考えたとか。・・・まあこれは私の憶測なんだけど」 言葉を選びながらそう告げると、舞波さんはあっけに取られたような顔になった。 「・・・ガンコ。初めて言われた。でも、そのとおりだ」 ガンコだなんて言ったら、人によっては怒っちゃってもおかしくないのに、舞波さんは感慨深そうに何度もうなずいた。 「私、口下手だからつい、何でも端折って話す癖があって。千聖はすごく行間を読んでくれるから、そういうことに甘えていたのかもしれないな。めぐさんみたいに、ちゃんと気持ちを伝えられるようにならないと」 「ま、まあ、私はかなり言いすぎるところもあるんだけど・・・でもこのまま、何にも言わないでいなくなっちゃうより、たとえケンカになったって全部思ったこと言ったほうがいいって。 それでお嬢様がキーッって怒っちゃうようだったら、ちゃんと私が間に入るから。 明後日でしょう?帰るの。だったらまだ間に合うよ。 舞波さんは、私にとってだって、大切な友だちです。いっぱいキツイこと言ったけど、お嬢様のことも、好きだから。だから、私のこともっと頼って。二人には、ちゃんと友だちのまま、笑ってお別れしてほしい」 「・・・そうですよね。ありがとう。めぐさん」 かなり私の個人的な願望も込められていたけど・・・ちゃんと舞波さんの心には届いたみたいだった。 「私、必要なら悪役だって買って出ますよ。ほら何か、絵本であるじゃない。私がお嬢様を苛めているところに、舞波さんが偶然通りかかって・・・とか」 「もう、めぐさんたら」 だけど、事態は私たちの予想もしていなかった方向へと転がっていったのだった。 誤算1。 舞波さんとの話が終わり、すぐに謝ろうと思ってたのに、顛末を耳にし(弟様がおチクりになりやがった)部屋にやってきたメイド頭さんからこっぴどく叱られた私は、その場で3日間の謹慎処分となった。 当然、お嬢様への接触は禁止。部屋で反省文を書くのと、自己学習の時間に充てるよう言い渡された。 誤算2。 夜になって、舞波さんもお嬢様と話す機会を作ろうとしていたのだけれど、弟様や妹様達が千聖お嬢様と一緒に居たがったから、2人になることはできなかったみたいだ。 誤算3 翌日、その日中には仕事先の別荘に戻るという旦那様達からの言葉を受け、お嬢様は家族と一緒に居たいとスケッチブックに書き、朝食後すぐに遠方の御祖父母様のお家へ出かけて行ったらしい。 夕食後、旦那様達と別れ、執事さんと共に深夜に近い時間に戻ってきたお嬢様は、疲れ切った顔ですぐ部屋に戻ったという。 そのため、舞波さんはお屋敷での最後の夜も、お嬢様と顔をあわせることができなかったみたいだ。 そして、舞波さんがここから旅立つ日の夕方。 お嬢様は、お屋敷から姿を消した。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「ねえ、いつまで書いてるの、それ。」 「きゃんっ!舞ったら、抱きつかないで!もう、せっかちなんだから。もう少し待っていて頂戴。大切なお手紙なのよ。」 「・・・ふんっ」 「むふふ」 おやつをお部屋に持っていくと、手持ち無沙汰な萩原さんが、お嬢様にちょっかいを出して怒られ、不貞腐れてベッドに寝転がるという子供のような行動に出ている最中だった。 萩原さんがお嬢様のお部屋に遊びに来てはや30分。そこから放置プレイが始まっているらしい。 いつものツンツンおすまし顔が、ヤキモチで子供みたいにくしゃっとゆがんでるのが面白い。ニヤニヤ笑いながら見ていると、すぐに「何か用でしゅか」なんてにらみ返してくるのはご愛嬌。 まあ、いつまでもこの状態じゃ、そのうち手がつけられなくなるぐらい爆発するかもしれない。そう思って、私はお嬢様に声をかけた。 「お嬢様、お忙しいところ恐縮ですが、おやつを持ってきたので召し上がりませんか?今日はお嬢様の大好きな焼きりんごです。焼きたてのほうがおいしいですよ。」 「あら、村上さん。・・・そうね、いったん休憩にしましょう。舞、お三時にしましょう」 「・・・」 さっきまでの阿修羅怒りの面はどこへやら、噛み殺しきれない嬉しさを表情ににじませながら、萩原さんがソファまで歩いてきた。 「ちょっと、千聖まるごと1個食べるわけ?そんなんだから顔が大福みたいに」 「まあ、ひどいわ舞ったら!りんごはいいの!果物なんだから!」 相変わらず、仲のよろしいことで。 2人の会話はお互いに容赦なくて、それでいて思いやりも感じられるから面白い。お嬢様は本当にいい友達を持ったな、と思う。 とはいえ、痴話げんかをうだうだ聞いているのもなんだし、私はそろそろ退散しようかと立膝の体勢を崩した。 「あ、そうだわ村上さん。」 その時、お嬢様がちょんちょんとメイド服の袖を突付いてきた。 「今ね、私が書いてるお手紙のことだけれど‥」 「・・・舞波さん?」 先回りして、ズバリ言い当てると、お嬢様は目を丸くしてケラケラ笑い出した。 「村上さんったら、超能力でもあるのかしら?私、まだ何のヒントも差し上げていないのに。」 「ふっふっふ。私はお嬢様のことなら何でもお見通しですよ。とかいってw」 こういう言い方をすると、萩原さんがぶーたれるのはわかっている。案の定、また不機嫌モードになって私をにらんでくるのが面白くてたまらない。 萩原さんのリアクションがわかっていてこういう物言いをするんだから、私はいじめっ子か。℃Sか。あるいは煽り厨か。我ながらいい性格をしてるなぁと思う。 「最近、いろいろな出来事がありましたからね。そろそろ、舞波さんにお手紙を出すころかと思ってました。」 「ええ、そうなの。さゆみさんのことだけでも、とても長くなってしまいそう。メールも便利でいいとは思うけれど、やっぱり大切なことは手書きの文字のほうが私は好きだわ。 舞波ちゃんもこの前、ご自分で撮った写真の絵葉書をくれたの。とっても綺麗で嬉しかったわ。」 「舞波さん、センスが良いですからね。」 「・・・ごちそうさま。舞宿題やってなかったから、今日はやっぱり帰る」 私たちが舞波さんの話で盛り上がっていると、萩原さんはおもむろに立ち上がって、早足で部屋を出て行った。 「萩原さん・・・お嬢様、私もちょっと失礼します。」 私はあわてて、その後姿を追いかけた。 「ちょっと、萩原さん。ごめん、からかいすぎた?」 いくら私がおちょくり好きとはいえ、本気で怒らせたり悲しませたりしたいわけじゃない。でも振りむいた萩原さんの表情には、怒りよりも落胆が感じられた。 「・・・別に、村上さんは関係ないです。」 一応、私が横に並ぶまで足を止めてくれて、二人並んで廊下を歩き出す。 「舞波さん?」 黙ってうなずく仕草1つとっても、凹んでいるのがものすごく伝わってくる。萩原さんは普段は結構ポーカーフェイスだけど、お嬢様が絡むとあっというまにキャラ崩壊してしまう。 「・・人間関係に、勝ち負けや優劣を持ち込むのはナンセンスだってわかってるけど。でも、・・・・・やっぱり、敵わないんだなぁって。」 「萩原さん・・」 「舞はすぐに千聖のことを怒らせるけど、舞波さんはそんなことなかった。舞波さんといる時の千聖は、いつも優しい顔で笑ってた。 ――蒸し返したくないけど、村上さんだって覚えてるでしょ?ほら、千聖は舞波さんのこと好きすぎて、あんなことにまで・・・」 「――ストップ。その話はやめよう。」 片手をずいっと萩原さんの前に突き出すと、何となく察してくれたのか、「うん」と短くうなずいて黙り込んだ。 「ごめんね。あんまりディープな友情の話とかするとさ、個人的なこととかいろいろ思い出しちゃって。」 「・・・ふーん。鬼軍曹にもいろいろあるんだね。まあ、今日のことは忘れて。ヤキモチとかダサいから。じゃ、さよならー」 誰が鬼軍曹だ!と言い返す前に、萩原さんはとっとと寮の方へ戻ってしまった。 「舞波さんかぁ・・・」 もうずいぶん、顔を見ていないけれど・・・元気にしているだろうか。 “舞波ちゃん” “舞波ちゃん、こっちに来て。” 目を閉じて思いを馳せると、お嬢様のはじけるような明るい声が耳によみがえってくる。 満面の笑みで、自分より少しだけ背の高い女の子の両手を取って、力強く走り出すお嬢様。 それは、私が初めてお嬢様と舞波さんを見た時の光景だった。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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だけど、その後舞波さんとゆっくり話す機会は、なかなか訪れなかった。 ベテランのメイドさんが1人、風邪で休暇を取ったため、見習い中の私まで即戦力として扱われるほど、てんてこまいになってしまったから。 急遽作り直されたシフトでは、私が昼謹で舞波さんが夜勤。・・・私たちに課せられた仕事は、お嬢様の、専属のお世話。 といっても、舞波さんを説得するという件を私がばっさり断ったあの日から、お嬢様は「もう構わないで」と言い、めっきり部屋の外に出なくなってしまったから、実質他のメイドさんたちのお手伝いが主になっているけど。 お嬢様の部屋には専用のトイレもお風呂もあって、冷蔵庫には十分な食料の蓄えがあるから、別に閉じこもっていても大きな問題はないらしい(閉じこもってること自体問題だと思うけど・・・) 「よくあることだから気にしないで」と他のメイドさんたちは言うけど、引きこもってしまった原因の大本であろう張本人としては、気がかりで仕方ない。 「お嬢様、村上ですけど。少しお話をしませんか? 「・・・もう、いいの。千聖に構わないで」 ドアの外から声をかけても、覇気のない声で拒絶されるだけ。ワガママで小生意気だった数日前が嘘みたいだ。 「はぁ・・・」 ため息をつきながら、庭の掃除でもしようかと玄関に向かう。すると、寮との区切りになっている門扉のあたりから、何人かの話し声が聞こえてきた。 「・・舞美さん。と、愛理さん。」 「あー、メイドさん。こんにちは」 手を振る舞美さんにつられるように近づいていくと、二人の影に、もう1人いた。 「・・・どうも」 「・・・・こんにちは」 大きな目が印象的な、萩原さん。中学1年生。お嬢様のお友だち。・・・先日、私がお嬢様と激しくやりあってるのを目撃して、指差し付きで私を非難した気の強い子。舞美さんや愛理さんにはわからないだろう、ビミョーな空気が私たちの間を通り抜ける。 「・・・お嬢様、どうですか?」 「あいかわらず、お顔も見せてくださらなくて。舞波さんでも、お部屋の中に入る事はできないみたいです」 「そうですか・・・。舞ちゃんも、今は会いたくないって言われちゃったみたい。」 「別に、メイドさんにそんな話・・・」 萩原さんは、目が合う寸前、私の視線から逃れるように顔を横に向けた。 「私たちもなるべくお屋敷を訪れるようにしますから、もし何かあったらすぐに教えてください。これ、私と愛理のメアドなんで」 「あ・・・はい。それじゃ、あとでメールするんで・・・。では、仕事があるのでこのへんで」 舞美さんから受け取った紙をポケットに入れて、会釈と同時にお屋敷の中へと引き返した。 こんな状況でなかったら、仲良くなりたかった人からメアド教えてもらえたなんて、嬉しい事なのに。今後しばらく、主な連絡事項となるであろう、お嬢様の顔を思い浮かべたら心が沈んだ。 「・・・あれ、村上さん?お庭の掃除は?」 「今、寮の方たちが使っているんで、また後で。なんか仕事探してきます」 考えのまとまらないまま、足の赴くままに歩き続けた私は、気がつくとまた、3階奥――お嬢様の部屋、の前に来ていた。 うーん。そりゃ、今一番気がかりなのは、この部屋の中だけど。 何せさっき拒絶されたばっかりだし、いくら神経図太いと言われる私でも、さすがに1日に二度も拒まれるのは心臓に悪い。 かといって、今何か他の仕事をやったとしても、どうせ上の空でろくなことにならないような気もする。 (よーし・・・) 私はひとつ咳払いをすると、軽く拳を作ってドアをノックしようとした。・・・その時。 バタン!! 「うわっ」 向こう側からドアが開く大きな音とともに、体全体を強い風で吹き飛ばされるような感覚が走った。思いっきり走ってきたお嬢様のタックルをくらったと気づいたのは、お尻から床に叩きつけられた時だった。 「いたたた・・・」 よっぽど勢いがあったのか、反対側の壁に背中をぶつけた。一瞬呼吸が詰まる。 一方、お嬢様は、私に馬乗りになったまま微動だにしない。正直、お尻が痛いし乗っかられると重いんだけど、やっと数日ぶりに出てきてくれたところを、下手に刺激したくない。 “お嬢様は、スキンシップは好まれない方だから” 引継ぎの際、舞波さんがそう言ってたことを思い出す。 それじゃ、こんなにしがみついてくるのはかなりレアなことなのかもしれない。 どうしたもんかと思い、とりあえずかるーく背中を撫でてみる。薄手の部屋着の下で、心臓がものすごく早く律動しているのが手のひらに伝わってきた。 「お嬢様」 名前を呼んでみると、その小さな体全体がビクッと跳ねた。同時に、私の肩を掴む手に力が篭る。 「痛いよ、お嬢様」 宥めるように髪を撫でると、お嬢様はゆっくりと顔を上げた。・・・思ったとおり、顔中が涙に濡れて、ぐしゃぐしゃになってしまっている。 「何か、ありました?」 話しかけても、お嬢様は呆然とした顔で首を振るだけ。普通の泣きかたと全然違うのは、様子を見ていてわかる。正直、どうしたらいいのかわからなくて、私もパニックになりそうだった。 だけど、今のお嬢様がすがれるのは、私しかいない。そう思うことで何とか冷静さを保ちながら、私は極力優しい口調で問いかけた。 「大丈夫ですよ、お嬢様。私、あの、あんまり口は良くないほうですけど・・・秘密は守れるんで」 ヒックヒックとしゃくり上げる音を抑えるように、お嬢様は喉を押さえて、私の顔をジッと見た。ある意味天敵のようになっている私に、ここまで縋らなければならないなんて、一体・・・ 「お嬢様?」 「っ・・・」 お嬢様の口から、動物が弱った時みたいな小さな声が漏れた。だけど、それは言葉にはならなくて・・・苦しそうに、苛立たしそうに、お嬢様は何度も私の胸を叩いてきた。 「いたた・・・落ち着いて、お嬢様。どうしたんです」 いつもは何かにつけ「命令よ!」とか言ってキーキー騒ぎ立てるお嬢様なのに、黙って涙を流し続けるお嬢様に、私は違和感を覚えた。 のどがヒクンと動く。口も結ばれてはいない。魚みたいに、パクパク開閉を繰り返している。なのに、言葉だけが・・ 「まさか、お嬢様、声が・・・・」 * 「・・・お医者さん、何て?」 メイドの部屋に戻ってきた舞波さんを、私は強引に引っ張って自分の隣に座らせた。 あの後、さらに激しく嗚咽を繰り返すお嬢様を抱きしめ続けていると、いきなり舞波さんが現れた。驚きはしなかった。舞波さんの不思議な力のことは、もう疑う余地がなかったから。 きっと私より、舞波さんがついていたほうがいい。そう判断して、お嬢様を舞波さんに託し、私は主治医さんを呼びに行った。そして今、舞波さんがやっと戻ってきたというわけだ。 「器官に異常はないそうです。精神的な疲労が原因かもしれないって。あまり睡眠も取っていなかったようで、今はお部屋でお休みになっています」 「精神って・・・」 その原因はもうはっきりわかっている。なのに、舞波さんはやっぱりいつもどおりの顔をしていた。そのことが、私を無性に苛立たせた。 「舞波さん・・・もし、舞波さんがここを発たれる日までに、お嬢様の声が元に戻らなかったらどうする?それでも、出て行くんですか?」 「・・・ええ、そうですね」 「ちょっと、本気で言ってるの、それ」 自分から引き出した答えなのに、私はカッと頭が熱くなって、思わず舞波さんの肩を揺さぶった。 「あんなことになって、声も出せなくなるぐらい傷ついて、それでも舞波さんは何にも思わないの?いいじゃん、少しぐらい滞在期間延ばしたって。何が変わるっていうの?全然理解できない。このまま治らなくなったらどうするわけ?」 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/281.html
二人三脚ならぬ三人六脚のような状態でしばらく歩いていると、道の先に唐突に門扉が現れた。 「でかー・・・・」 まるで歴史ある博物館や大使館の入り口のようだ。周りを囲む蔦の絡まる塀は高く、奥に大きなレンガ造りの建物があることだけどうにか確認できる。 特別、高級住宅地でもない土地の、何てことない林道の横道に、まさかこんなものがあるとは想像できなかった。 私が口をぽかーんと開けて見入っているうちに、2人はそのまま足を進めて、門の正面に移動しようとしていた。 「ちょ、待って!こんなところ勝手に入ったら怒られちゃうよ!」 私は軽くパニックを起こして、幸か不幸か急に元気が戻ってきた。 「怒る・・・?どうしてかしら?私、叱られるようなことはしていないわ!」 「だってっ」 必死で足を踏ん張る私を、背の低い方の女の子が向きになって引っ張る。 「千聖。足、痛くしてるんだからそんなに引っ張っちゃだめだよ。」 そんな彼女を、“まいはちゃん”と呼ばれていたもう一人がそっと嗜める。そのまま、私の方に顔を向けて、「大丈夫ですよ」と言って口角を上げた。 「大きな建物ですけど、住宅ですから。」 「は・・・嘘。嘘!住宅って!こんな家ありえないから!」 確かにさっき、「お屋敷で手当て」とか言ってたのは覚えている。だけど、まさか、こんな・・・・私の常識で考えられる範疇を超えている。 「まあ、ありえないだなんて失礼ね。ここは千聖のおうちなのよ。」 わーわーわめく私に気を悪くしたのか、“ちさと”と名乗った背の低い子は、軽く眉をしかめた。 「ほら、見ていてちょうだい。」 私の手を離すと、監視カメラつきの呼び鈴のところまでパタパタと走っていく。そのままインターフォンを押すと、地鳴りのような音と共に、門扉が開かれていった。 「お帰りなさいませ、千聖お嬢様、舞波様。」 「お帰りなさいませ、千聖お嬢様、舞波様。」 漫画やドラマみたいに、門からお屋敷まで使用人さんがびっしり道を作って・・・とまではいかないけれど、2人のメイドさんと、1人の執事さんが深々と頭を下げて待っていた。 「ええ、ただいま。リップとパインを、お部屋に戻してちょうだい。それから、こちらの方が怪我をなさっているわ。手当てをしてさしあげたいの。」 背の小さい方の子が、ごく自然な口調で、メイドさんに指示を出す。 さっきは子供みたいな声でお嬢様言葉を話すのに違和感を感じていたけれど、この立ち振る舞いは・・・やっぱり、超お嬢様なんだと今更実感が沸いた。 「かしこまりました。舞波様、少しお時間が早いようですが・・・?」 「もう、私には様づけはいらないですよ。うーん・・・、着替えてから、こちらの方のお怪我の治療に立ち会います。千聖、じゃなかった千聖お嬢様、それでよろしいですか?」 「・・・わかったわ。医務室に行っているから、すぐに来て頂戴ね。」 まいはちゃんという名前のその人は、軽くうなずいて、小走りに走っていった。 屋敷の室内は言うまでもなく、私のような庶民には到底理解しがたい調度品で構成されていた。 大理石の床。趣味がいいんだか悪いんだかわからない骨董品。ひげのおじさんの銅像に、仙人みたいなおじいちゃんの肖像画。 歩きながらもぽかーんと口を開けてそれらに見入っていると、「こちらよ。」と小さな手が私の服の袖を引いた。 「うわ・・・」 細かな細工の施された金色のノブの向こうには、普通の病院の診察室みたいな設備が整っていた。 今はお医者様の姿は見えないから、さすがに常駐しているってわけじゃないんだろうけれど、そもそも医務室なんてものが家の中にあること自体がありえない。 「はい、これ。喉が渇いていたのでしょう?スポーツドリンクがいいって、舞波ちゃんが」 「あ、どうもありがとう。・・・・ねえ、ねえ、どういうことなの?」 「え?」 冷たい飲み物で喉を潤して、ベッドに腰掛けさせてもらってすぐ、私は口を開いた。 「あの、舞波さんて人は、あなたのお姉さんではないの?お友達?このおうちはあなたのおうちでしょ?どうしてあなたじゃなくて、舞波さんが着替えるの?ていうか、なんで舞波さんは、ここに着いた途端にあなたに敬語になったわけ?あと、お時間早いってどういう」 「ちょ、ちょっと待って。そんなにたくさん質問されても、わからないわ。それに、私、まだ貴女のお名前もお聞きしていなのに。」 「あ、ごめんなさい。確かにそうだわ」 今まで接したことのない立場の人とお近づきになるというこの状況に、つい興奮してマシンガントークをかましてしまった。 改めて自己紹介しようと背筋を伸ばすと、私がしゃべりだす前に、目の前のお嬢様が「舞波ちゃんは、」と語りだした。 「舞波ちゃんは、千聖のお姉さまではないの。千聖の叔父様の、奥様の弟様の、従兄弟に当たる方の娘さんでいらっしゃるのよ。」 「・・・・・・・つまり、血縁関係のない遠縁の親戚、ということ?」 「そう、そうなの!すごいわ、一度で理解してくださったの、貴女がはじめてよ。えっと・・・」 「愛です。友達はめぐって呼ぶよ」 「めぐ?可愛らしいニックネームなのね。私の名前は、千聖です」 そういって、お嬢様もとい千聖ちゃんは、空中に“千”“聖”という文字を描いた。 「綺麗な名前。」 「うふふ、ありがとうございます。でもね、舞波ちゃんのお名前もとても素敵なのよ。波が、舞うって書くの。」 そんな風に舞波さんの名前を説明してくれる顔はとても柔らかくて、まるで自分のことを自慢をしているかのように誇らしげに見えた。 「ねえ、千聖ちゃんは・・・学校には行っていないの?舞波さんも。」 少し空気が緩んだところで、私は一番気になっていたことを切り出してみた。千聖ちゃんの顔が、若干こわばったように感じた。 「あ、ごめん。何か立ち入ったこと聞いちゃったみたい」 「・・・いえ、あの、私のことはいいの。でも、舞波ちゃんは・・・。」 そうつぶやくと、千聖ちゃんはうつむいて黙り込んでしまった。 ああ、もう最悪だ。どうして私はこう、何でもずけずけ口に出してしまうんだろう。まだ知り合って間もない人じゃないか。 「私・・・誘拐、されそうになって・・・」 「えっ・・」 しばらく沈黙した後、千聖ちゃんは震える声でそうつぶやいた。 「だから、私はしばらく学校を休むようにって・・だって、怖かったから・・・」 「千・・」 許せない。こんなにちっちゃい子を、怖い目に合わせるなんて。短気な私は、話を聞いただけでむかむかしてきた。 「警察には行ったの?小学校の先生は?」 「小学・・?あの、つい最近の話なのよ。」 「・・・あ、そ、そう。そっか。」 ――中学生だったのか!おちびちゃんだし、全体的にあどけない印象だから、てっきり・・・ 「もちろん、警察には行ったわ。それに、寮の皆さんも心配してくださって」 「寮・・・?」 次から次へと、馴染みの無い単語が生まれてくる。出会ったばかりのお嬢様の、こんな深いご事情を聞くことになるとは・・・。重ね重ね、人生何があるかわかったもんじゃないと思う。 「寮っていうのはね、そこの裏に・・・」 コン、コン そのとき、軽快なノックの音が室内に響いた。 「失礼しまーす。・・お嬢様、入ってもよろしいでしょうか。」 「あっ!舞波ちゃん!」 まだ話の途中だというのに、その声を聞いたとたん、千聖ちゃんは目を輝かせて一直線にドアへ向かっていった。 「早く、入って頂戴。」 急かされて入室した舞波さんを見て、私は思わず「えーっ!」と声を上げてしまった。 飾り気のない濃紺のロングスカートに、白いレースのエプロン。エプロンと同じ光沢のある素材で作られたカチューシャ。 そう、“着替えてくる”と言ってしばらく姿を見せなかった舞波さんは、どういうわけかメイドさんに早変わりしていたのだった。 舞波さんはメイドさんだったんだ。すると、急に千聖ちゃんに対して敬語になったのは、お屋敷ではあくまでメイドという意識から?いやいや待てよ、でもさっき遠縁の親戚だって・・・ 「今ね、スポーツドリンクを飲んでいただいて、お話してたのよ。それでね、お名前も伺ったわ。愛さんとおっしゃるそうよ。」 わけがわからない私を放置状態にしたまま、千聖ちゃんは舞波ちゃんに話しかける。 千聖ちゃんのお尻に、ちぎれんばかりに振られている尻尾が見える気がした。本当に、舞波さんのことが大好きなんだなぁなんてしみじみ思う。 舞波さんは特に口を挟まず、うんうんとうなずきながら、優しい顔で千聖ちゃんの話を聞いていた。 「そうですか、それでは、体調のほうはもう大丈夫そうですか?」 「うん・・・いや、はい、おかげさまで。」 メイド服を身に纏った舞波さんは、さっきよりもずっと大人びて見えて、私は思わず敬語になってしまった。 「では、足の治療をいたしましょうか。お嬢様、お部屋に戻られますか?」 「いいわ。舞波ちゃんのそばにいる。」 ――おいおい、私のそばじゃなくて、舞波さんのそばかい。 どうでもいいツッコミを心の中で入れながら、私はまた舞波さんにうれしそうに話しかけている、千聖ちゃんの姿を眺めた。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「パーティーの後、千聖以外の家族・・・旦那様たちは、仕事が押しているとかで、ここには立ち寄らずにまた出張に出られてしまって。最初は日帰りのつもりでここに立ち寄ったんですが、結局こうして住まわせてもらって、今に至ります。 両親も驚いてはいましたが、ずっと家に引きこもっているよりは、環境を変えてみるのはいいかもしれないと賛成してくれて。何より、お嬢様からかなりの説得があったみたいなんですけれど」 「なるほど・・」 「長くなっちゃった。ごめんなさいね」 舞波さんは大きく伸びをすると、ブランケットから這い出して、「お茶、入れてきます」と部屋を出て行った。 手持ち無沙汰になった私は、とりあえずケータイを取り出して、いつのまにか地元の友達から来ていたとりとめのないメールに目を通した。 返事でも打とうかなと思ったけれど、あんまり気分が乗らない。あれだけ衝撃的な話を聞いた後、いきなりのほほんとした気持ちになるのは難しい。 「・・・ちっちゃいなぁ、私。」 ため息とともに、自分らしくもない独り言が漏れた。 イジメや不登校は、小・中学校の頃に、よそのクラスの話として聞いたことはあった。 だけど私はこういう性格だからターゲットにはならなかったし、不思議とそういうことが起こりにくい学級にいたから、ピンとこなかった。 正直、いじめられるのは立ち向かわないから、不登校は甘えてるからなんじゃないかって意識を持っていた。 でも、舞波さんのように、人を傷つけない代わりに自分を傷つけて、結果的に動けなくなってしまう人もいる。それを弱さとは呼べない気がする。 大体、みんながみんな私のような直情型の性格だったら、毎日血みどろのバトルでそれこそあっという間に学級崩壊になるだろう。 自分の境遇のことにしたってそうだ。 私はたしかに、大きな挫折を一気にいくつも味わって、どん底の気分を味わっていた。 でも、私にはこうしてつながりを切らないでいてくれる友達がたくさんいる。こじれているものの、何かあれば助けてもらえる距離に、両親がいる。 この仕事だって、自分で望んでお母さんも支援してくれた。・・・全然、恵まれてるじゃん。 「・・・お待たせ、めぐさん。ジャスミンティーでいいかな?」 「あ・・・ありがとう」 とりとめないことを延々考えていると、舞波さんがお盆を持って戻ってきた。 「今日はこの後、就寝までに予定あります?」 「えーと、特にはないですけど・・・」 「それじゃ、お茶飲んだらお風呂入りに行きませんか?メイドは共同浴場なんですけど、この時間なら貸切状態ですよ。」 「・・・そうですね。じゃあ、準備するんで」 直前にあんなヘビーな話をしていた人とは思えないような、とても落ち着いた振舞い。むしろ、私のほうが動揺しているみたいだ。 「お風呂の時、中学校の話とか聞かせてもらえますか?一度も通っていないから、部活の話とか授業の話も聞いてみたいです」 「もちろん。・・・舞波さんも、いろいろ教えてくださいね。胸がおっきくなる秘訣とか」 「やーだ、めぐさんたら。ウフフ」 ――こんな話、してる場合じゃないと思うんだけどな。 目を合わせて笑いあいつつ、私は小骨がひっかかったような違和感をいつまでも拭い去れないでいた。 翌日。 朝食を取り終えた私は、まっすぐ3階のお嬢様のお部屋へ向かった。 「お嬢様、村上です。今、よろしいでしょうか。ちょっとお話が」 「あら・・・大丈夫よ、入って。」 昨日あれだけやりあった後だ。少しはしおらしいところを見せようと、鏡の前で練習した“貞淑で清楚なメイドスマイル”を浮かべつつ、そっとドアを開けた。 「おはようございます、村上さん。」 「あ、ど、どうも」 部屋の中には、お嬢様だけじゃなく、数日前に顔を合わせた舞美さんが一緒にいた。汗びっちょりな自分のことはさておいて、舞美さんはお嬢様の小さな頭をタオルで優しく撫でつけていた。 「ランニングに行ってきたのよ。楽しかったわ」 「村上さんも今度、一緒にどうですか?とかいってw」 「・・・いや、遠慮させていただきます。」 朝っぱらから好き好んで走るなんて、ちょっと考えられん。中学のテニス部の朝練でさえだれていた私をみくびらないでほしいものだ。 2人は会話は少ないものの、さわやかに微笑みあったりしていい感じだ。こんな和やかな空気の中に、今から自分が爆弾をぶちこむのかと思うと、少々気が滅入る。 「村上さん、それで、お話というのは?」 「あ・・はい、ええと」 今、話してもいいものか。舞美さんの方をチラッと伺うと、「あ、私は大丈夫ですよ。」なんて言われてしまった。いや、そうじゃなくて。 「昨日の、舞波さんの件かしら?でしたら、舞美さんもある程度はご存知だから平気よ」 「そう、ですか。」 どうやら、私が心を入れ替えて“協力します”と言うものだと思っているらしい。お嬢様はまったく曇りのない子犬みたいな瞳で、私の返答を待っているようだった。 「私なりに、よく考えて出した結論です。・・・・私は、舞波さんを引き止めることはできません。昨日、舞波さんとお話して、私はむしろ、舞波さんの決断を支持したいと。そう思っています」 瞳が見開かれて、信じられないものを見るかのような視線を私にぶつけてくる。 「どうして・・・」 掠れた声が、心に引っかかって痛い。だけど、ここでこの話を終わらせることはできないことぐらい、わかっている。 「私が、舞波さんのことを好きだからです。舞波さんとはまだほんの少ししか接していませんが、とても誠実で、優しい方だと感じました。お嬢様が舞波さんのことを、お傍に置いておきたいと願う気持ちもよくわかります。」 口を挟もうとするお嬢様をさえぎるように、私は夢中でしゃべった。舞美さんの手が、震えるお嬢様の肩に添えられた。 「そんな思いやりのある方が、大好きなお嬢様を置いて、ここを去られるというのは、生半可な覚悟ではないと思うんです。どうして出て行くのか、その理由まではわかりませんが・・・それでも私は、舞波さんを応援したいです。だからお嬢様も」 「もう、いいわ」 「聞いてください、お嬢様」 「やめて。わかったから。お願い、もうやめて」 それは昨日、私と激しくやりあった人物とは思えないほど、弱弱しくて儚い声で、私は思わず口ごもってしまった。 「あ、あの・・・な、なんか、飲みもみっものとか!持ってきいぃましょうか!」 押し黙ってしまった私達を気遣ってくれているのか、舞美さんが激しく噛みながら、この場に似つかわしくないようなテンションの高い声を出した。 「・・・舞美さん、ありがとう。私、大丈夫ですから。学校に遅れてしまうわ、寮にお戻りになって。」 「お嬢様・・・」 「ごめんなさい。一人にして」 お嬢様は抑揚のない声で独り言のようにそう呟くと、ふらふらした足取りで踵を返した。そのまま、胎児みたいな体勢でベッドに潜り込んで、もうピクリとも動かなかった。 ――どうしよう、傷つけてしまった。 自分の言ったこと、考えたことが間違っているとは思わない。だけど、もっと他に、柔らかい言い方というものがあったかもしれない・・・ 「村上さん」 どうしようもなくて立ち尽くす私を、舞美さんが目線で促した。対処方法がわからないから、ここはひとまず引き下がろう。 「失礼いたしました」 「・・・・」 そっとドアを閉めた瞬間、お嬢様のしゃくりあげるような声が聞こえた気がした。 「・・・あの、多分、大丈夫ですよ」 「え?」 「お嬢様、たまーにお部屋に閉じこもってしまうことがあるみたいですけど・・・気が済んだら元に戻りますから」 舞美さんは寮に、私はメイドルームに戻る途中、ずっと無言だった舞美さんは、唐突にそうしゃべりだした。 「そう、かな」 「何か、あの、あんまりくわしいお話の内容はわからなかったけど、村上さんの言ってることが変だとは思わなかったし。 舞波さんはいい人だから、お嬢様が寂しがるのはわかるけど・・・・私も、お嬢様のこと、好きなんだけどな。愛理や村上さんもいるし、一人ぼっちになるわけじゃないのにな」 「舞美さん・・うん、そうだよね。私も、それを伝えたかったんだけど、言いそびれてしまった。」 「難しいねぇ」 舞美さんは少し寂しそうに笑いながら、「じゃあ、私はここで」と軽く手を振って走っていった。さわやかで、迷いがないその姿勢に、私は勇気付けられて、少しだけ元気を取り戻すことができた。 もう一度、舞波さんとゆっくり話そう。 決意を新たに、私は前を向いて歩き出した。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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1日目の業務は、同僚となるメイドさんたちへの自己紹介、清掃用具等各種備品の配置、舞波さんから私への引継ぎ等で終了した。お嬢様は朝食の後また睡眠を取られてしまって、その後もすれ違いが続いてしまったため、挨拶はできなかった。 「はー、疲れたぁ。」 「ふふ、お疲れ様です」 午後18時30分。終業時間。 10畳程の部屋に、私と舞波さんは並んで腰を下ろした。 ここは住み込みのメイド専用のお部屋。舞波さんが出て行く日まで、2人で共有させてもらうことになっている。 「とりあえず、楽な格好に着替えましょうか」 舞波さんはよっこいしょと立ち上がると、おもむろにエプロンを外して、ワンピース型のメイド服を一気に脱いだ。 「うわあ」 「えっ?」 意外と胸大き・・・じゃなくて、こんなおとなしそうな顔して、何て大胆な!舞波さんはお口あんぐりな私の顔を見て、「あっ、そっか」何てつぶやきながら、そそくさと私服のワンピースに着替えた。 「ごめんなさい、私、ちょっとおかしいみたいで」 「おかしい、って」 私もパーカーにハーフパンツという楽チンな格好に着替えつつ、舞波さんの話の続きを待つ。 「なんていうか、人と恥ずかしがるポイントとか、笑ったり怒ったりするポイントが違ったり。今もそんな感じなのかな・・・私はあんまり、人がいても平気で着替えたりしてしまうけど、やっぱり普通は隠しますよね?」 「いや、えーっと・・でも、そんなに気にしなくてもいいと思うけど」 その横顔があんまり寂しそうに見えたから、私は慌てて言葉をつないだ。 「私の友達・・・だった子にも変わった子はいますよ。すっごい可愛くてオシャレなのに、好きな食べ物がスルメだったり、チー鱈とかおつまみ系ばっかりなの。私自身も、自覚ないけど、結構考え方おかしいって言われるし。 だから、うーん、何かよくわからないけど、別に気にすることはないと思うんですけど。さっきはびっくりしちゃっただけで、引いたとかそういうことでもないし」 自分でも何を言いたいのかよくわからないけど、この人の悲しそうな顔というのはあんまり見たくない気がして、必死にフォローしてしまっている。 そんな私を、目をパチパチさせながら見ていた舞波さんは、やっと表情を崩して笑ってくれた。 「優しいんですね。」 「いや、全然。私なんて、本当ワガママで・・・」 「めぐさんは、お嬢様に似ているのかも。めぐさんと話してると、ちゃんと笑ったりできる」 舞波さんは大きな出窓まで移動して、その縁に腰掛けて私に向き直った。どっちかと言えば童顔な可愛らしい顔が、うっすら暗くなってきた夕闇の中で、憂いを感じる大人びたものに見える。 「私ね、宇宙人なんです」 「え?あはは・・・」 私の乾いた笑い声は、舞波さんの真剣な顔を見ていたら、すぐにしぼんでしまった。 「だから、もうずっと黙っていようと思って。なるべく存在を消して、感情も消して、いるんだかいないんだかわからなくなればいいのかなって。宇宙人だと迷惑をかけるけど、透明人間なら、誰にも気づかれないでしょ?」 「ごめん、言ってる意味が」 「このままおとなしく生きていれば、誰にも迷惑をかけないし、自分が苦しむこともない。それが最善のはずだったのに。私はやっぱり弱くて」 どうしよう。舞波さんのこの話の行き先が読めない。淡々と話しているのに、その表情は明らかに思いつめていた。 最初から順序立てて説明してもらえる雰囲気でもない。かといって、今口を挟んで止めることもできない。私は両膝の上で拳を作って、ただじっと見守ることしかできなかった。 ――♪♪♪ その時、張り詰めた部屋の空気を破るように、内線電話の軽快な音が鳴り響いた。 「あ・・・で、出ます」 私は慌てて立ち上がると、何もないところで蹴っつまずきながら、ヨロヨロと電話を取った。 「はい、村上です」 “・・・あ・・・・あの、私、です。えと、” ちょっと鼻にかかる声。フガフガした舌ったらずな喋り方。 「千聖お嬢様、ですよね?」 “え、えぇ、そうよ。勤務外時間にごめんなさい” 「いいえ、今、舞波さんに代わりますね」 “あ・・・違うの。舞波ちゃんじゃなくて、村上さんに” 「私ですか?」 “今、千聖の部屋に来ていただけるかしら?もう私服に着替えているなら、そのままで結構よ” 「でも・・・」 私はチラリと舞波さんの方を伺った。あんな状態の彼女を、一人にしておくのは気が引けた。 “行ってあげて” だけど、再び目を合わせた舞波さんは、もういつものおっとり優しい顔に戻っていた。口パクで私を促すと、エクボを見せてにっこり笑う。 「・・・・わかりました。参りますので、少々お待ちください。」 お嬢様が受話器を置く音を確認してから、私も電話を切る。 「千・・・お嬢様に、呼ばれたんでしょう?行ってあげてください。お嬢様、とても寂しがりなんですよ。・・・さっきは、ごめんなさい。もう平気ですから。」 「・・・はい。それじゃ、ちょっと行ってきます。」 少し照れくさそうに鼻の頭をかく舞波さんの表情で、私は、とりあえずもう大丈夫だと判断した。・・・・というか、一人になりたいのかな、ってなんとなく思ったのもあった。 スリッパの音を派手に立てないよう、廊下では小走り以上のスピードを出さないよう気をつけながら、私は舞波さんにもらったお屋敷の地図を片手にお嬢様の部屋を目指した。 「・・・遅かったのね。」 迷路のように入り組んだ(というか私の方向感覚のせいだけど・・・)お屋敷中をさまよって、やっとたどり着いた部屋の前には、腕組みをしたお嬢様が待っていた。 「すみません、迷ってしまって。」 「まあ。初日ですものね、千聖のおうちは広いから。さあ、中に入って。今、お茶を入れてもらうから」 「いえ、そんな、おかまいなく。私はメイドですし」 「今は違うわ。勤務時間を過ぎたら、千聖のお客様よ」 「はぁ・・・」 どうやら、子供っぽいとばかり思っていたお嬢様は、公私をしっかりわける分別がきちんとついていて、案外しっかりしたところもあるらしい。 そりゃそうか、一面に触れただけじゃ、その人の全体像なんてつかめるはずもない。ふと、さっきの舞波さんのことが頭をよぎった。 「そちらに座って。」 シンプルだけど、重厚でセンスのいい調度品に見入っていると、後ろから軽く服を引っ張られた。 促されるままに、アイボリーの大きなソファに腰掛ける。うわ、体が沈む。これは相当な高級品だろう。ちょっと緊張して、背筋が伸びる。 「あ・・・あの、ご立派な調度品ですね。この応接用のソファも、大きくていっぱい人が来ても大丈夫そう」 「・・・そんなにたくさん、お客様が来てくれることなんてないわ。学校にも、お友達はほとんどいないから」 「えー・・・と」 つい先日は、キャンキャンほえる子犬みたいに、私を威嚇していたお嬢様。なのに今日は打って変わって、なんだかしおらしい。 「初日のお仕事は、どうだった?舞波ちゃんは、村上さんはとても優秀で飲み込みが早いとおっしゃっていたわ。」 「恐れ入ります。まだ不手際もたくさんあると思いますが、明日以降もこちらで働かせていただけたら幸いです。」 「そう。」 自分から振った話題なのに、お嬢様はつまらなそうな顔をしている。 「あの・・・」 「なぁに?」 「何か、お悩みになっていることでも?」 「まぁ・・・どうして、そう思うの?私は村上さんを、お茶に誘っただけかもしれないのに」 レモンティーをかき混ぜていた、丸っこい指が止まる。黒目の大きな、茶色がかった瞳がこちらに向けられて、私は少しドキッとした。 「新人の、今日から勤務の私を、いきなり誘ってくださるとは思えません。それに、お嬢様は何だか寂しそうです。」 「寂しい・・・?あぁ、そうかもしれないわね。」 お嬢様はあいまいに笑うと、少しだけ私のほうへ体を寄せてきた。 「舞波ちゃんが、村上さんは鋭いって言っていたけれど・・・本当にそのとおりね。確かに、雑談のためにここへ来てもらったわけじゃないの。お願いがあって。」 「お願い、ですか。」 小さな唇から、ため息がこぼれる。一瞬伏せた目をまっすぐ私に向けると、お嬢様はよく通る声で言った。 「村上さん、舞波ちゃんを引き止めて。」 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「あっ・・・あの、私、覚えてます?あの・・・」 思わず興奮して話しかけると、美人さんはずいっと顔を近づけてきた。 顔近っ!でも目を逸らしたら負けのような気がして(何がだ?)、至近距離で私たちは見つめあう。 しばらくするとその目力が少し和らいで、ちょっとだけ口角が上がったように見えた。 「・・・あー!」 「思い出してもらえました?」 「あ、あー、あ、あの、うーん。・・・アハハ。」 ――そうですか、覚えてないんですか。 「ほら、昨日私、校庭を覗いていて・・・」 「・・・あー!」 「思い出してもらえました?」 「あ、あー、あ、あの、うーん。・・・アハハ。」 どうやら見かけによらず、かなりの天然さんのようだ。鋭かったはずの目がふにゃっと和らいで、人懐っこい笑顔が現れた。 「あら、面識がおありだったんですか?」 「はい。・・・でも覚えていらっしゃらないみたいですけど。とかいってw」 「いやー、私実は学校でもニワトリ生徒会長なんて呼ばれてて。そのこころは、3歩歩いたら全部忘れちゃうから。とかいってw」 「「ぷっ」」 ゆるゆるなやり取りが当人ながら面白くて、私と美人さんは顔を合わせて笑いあう。 何か、同世代の子とこんなやりとりをすることが久しぶりで少し面映い。この人が近くに住んでいてくれてよかったな、なんて思った。 「えっと、紹介します。こちらは矢島舞美さん。この寮に住んでいらっしゃいます。高等部の2年生で、先ほどおっしゃってたように、学園では生徒会長もなさっています。」 「へー!」 「まあまあ、私は何にもできないんですけど。副会長とか、生徒会のメンバーにいっつも“頼むよー!”なんて突っ込まれてるし」 そういって照れくさそうに私の肩をばしばし叩く。・・・痛いがな。 「で、こちらが村上愛さん。お屋敷でメイドとして働くことになったので、今日は皆さんにご挨拶を。」 舞波さんにうながされて、私は咳払いをひとつ。昨日鏡の前で練習した“貞淑なメイドスマイル”を披露しつつ「よろしくお願いします」と微笑みかけた。 「あははははは。こちらこそよろしくお願いします。」 ――なぜ笑う。 「ところで舞波さん、お嬢様は?」 「えと・・・調子がお悪いみたいで。お部屋で休まれてます。」 「そうなんだ。私まだお嬢様と話すの緊張しちゃうんで、今朝勇気を出してランニングに誘ってみたんですけど、顔近すぎた上に噛みすぎて何言ってるかわかんなかったみたい。怯えた顔して逃げられちゃいまいました。あはは」 「うふふ。また誘って差し上げてください。お嬢様は外遊びが大好きなので。」 ――たしか、舞波さんは一週間くらいここでメイドさんを居るといっていた。ということは、舞美さんよりお嬢様と密に接している期間は短いはずなのに、完全に立場が逆転している。 「・・・それじゃ、私ちょっと走ってくるんで。愛さん、舞波さんまた今度。」 「はぁい。」 なんだか掴みどこのない人だ。さわやかに笑いながら、舞美さんは林道のほうへ走っていってしまった。 「よかった。舞美さんとは早く仲良くなれそう。」 独り言半分でそうつぶやくと、舞波さんは「それはよかったです。」とえくぼを見せて笑った。 「いなくなる前に、めぐさんにお友達が出来たら私も安心。」 「・・・・・・え?いなくなるって、誰が?」 「あれ?ごめんなさい、言い忘れてたかも・・・ 私、あと1週間でここを出て行くんです。」 「えーっ!!!」 驚いて大声を上げてみるものの、なるほど確かにそれなら合点がいく事もある。 お嬢様は、大好きな舞波さんが出ていく事を喜ぶわけがない。私がお屋敷で働くとなると、引き止める理由に使えそうな“従業員不足”は解消されてしまう。それで、私はあんなに拒まれたのか。 「・・・ちょっと、急ですね。」 「はい。あ、でも引継ぎ事項はすべて終わらせますから。」 「いや、そういうことじゃなくて・・・」 “舞波ちゃんがいればそれでいい”そこまで言っていたお嬢様が、あと1週間で気持ちの整理をつけることなんてできるだろうか。昨日今日の様子じゃ、とても難しいことのように思える。 かつて私が雅の言葉を残酷に断ち切ったように、いざとなったら舞波さんもお嬢様を自ら遠ざける?でも舞波さんは私なんかとは違って、思いやりにあふれた人だ。そんな強硬手段で、お嬢様を傷つけるようなことはしそうにない。 「千聖お嬢様のことでしたら、大丈夫です。」 「えっ・・・」 私が思考の迷路に迷い込みかけていると、舞波さんがそっと肩に手を置いた。 「といっても、まだ全然納得はしてくれてないんですけど。」 「舞波さん・・・」 「でも、私がいてもいなくても、大丈夫なお嬢様になってもらわないと。」 「舞波さんが、いなくても・・・・?」 心臓を、乱暴にわしづかみにされたような感覚。 だって、それは、私が雅に投げつけた言葉と・・・ 「めぐさん?大丈夫ですか?顔色・・・」 「大丈夫。寮の中の案内お願いします。本当、なんでもないから」 きっと舞波さんは、私が何かに動揺していることぐらいお見通しだと思う。それでも私は、何でもないと虚勢を張ることでしか、この今にも溢れそうなそうな思いを食い止めることができない。 「・・・そうですか。では、中へ。気分が悪くなったら言ってくださいね。寮生さん、あと1人なので。」 「はい。」 大丈夫、大丈夫。 こうやって何かしらやることがあるほうが、気が紛れるというもの。動揺をポーカーフェイスで隠しながら、私は舞波さんに促されるまま、寮の中へと入っていった。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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自己紹介 「私の名前は芝村 舞(しばむら まい)。 芝村をやっている。 ……挨拶はこうだ。 ひさしぶりだな。あえて嬉しい。 私は初めて会う人間にもそう言う風にしている。 同じ、この星の民だからな。あながち外れでも なかろう。 先祖くらいはどこかであってるやも知れぬ。 そう考えたほうが楽しい。だからそうしている」 (PC参戦者) 「そなたが来たのは幸運だった。 私は嬉しい。 これで、少しは楽になるだろう。 ……それでだが。 あ、いや、厚志は何か言ってなかったか? 何も言ってなければいいんだが。」 噂 (みんなが君を噂している) (皆から聞いたけど…) 「好きなように言わせておくがいい。 言論の自由というものだ。 なに、いずれ皆は黙る。私は私だ。私の生き方は 曲がらぬ、退かぬ、貫徹する。結局皆が出来るの は賛成するか退くか喚くか祈るか、それだけだ。 この世には、どうにもならないものが存在する。 それは誰かのお人よしだったり、善意であったり、 正義だったりする。 私もまた同じだ。私は、世界を肯定する。 文句があるなら世界を率いて戦いに来い。 だが私は絶対に負けるつもりはない。 ……私は知っているのだ。人の善意を。 その一事を持って私は最後まで勇敢に戦おう」 壬生屋への手紙 舞は誰かに手紙を書いているようだ。 「壬生屋という知り合いが、良く手紙を書いて 来るのだ。貰ったら返事を返すのが筋だろう」 舞は丸文字でかわいいことを書いている……。 「見るな。愚か者」 山を使う 「山を使うというのは、我々にとっていいことか も知れん。 たとえ幻獣でも、山を地図上から消すことは 出来ない。 それは要するに、我々がこれ以上ない要塞を 利用出来うるということではないか? 積極的に使っても、いいかも知れん……」 幻獣 「幻獣は強大で強く見えるが、とはいえ、 無限に戦力があるわけではない。無限に見える のは上手な宣伝戦略のためだな。 ・・・・・・幸い奴らは山岳戦闘にはまったくといって いいほど向いていない。 ロシアの平原では大活躍出来たかも知れぬが、 ここではそううまくいかんだろう。 我々は現在ポケット(突出部)にいて、一見非常 に不利に見えるが、山岳のポケットなどというも のは地図の上だけの存在だ。 裏を掻こうと思えばいくらでも掻いて回りこめる」 (なにを狙っているの?)(うん、それで?) 「奴らはローラー作戦にこだわる。 熊本では、熊本を無視できずに、結果やつらは ひどくダメージを受けることになった。 九州侵攻をあきらめざるを得なくなるほどに。 ・・・・・・同じ手が通じるかも知れん。 規模は小さくなるが、一つこの山々に敵をどん どん吸引して、各個撃破してみよう」 にゃんにゃん 舞は猫語でにゃんにゃんにゃんにゃんと 歌を歌っています。 スキピオ猫が歌で対応しています。 [スキピオ] 「にゃんにゃんにゃんにゃん。 にゃんにゃんにゃんにゃん」 [舞] 「昔、猫が歌うとも喋れるとも思ってなかった時が あった。 だがそれは誤謬だった。 猫は喋り、幻獣と戦っている。 ……私は、何一つ嘘は教わっていなかった のだな」 勲章がない 舞は勲章をまったく身につけていない。 (勲章は? ) 「いらぬ。じゃらじゃらするものをつけていると 猫が嫌がる。それに…… この身はすでに芝村だ。 その上に何の尊号がいる? 誇りは称号につくものではないぞ。 心につくのだ。 私が誰かのために働けば、私はそれを誇りに思う。 そこに、誇りの入り込む余地などありはしない。 私が誇らしく思えばそれが誇りだ。 そして我が誇りは既に決めている。 芝村舞は我が生き方をもって誇りに思う。 他に何かを要求するほど私は傲慢ではない」 (色々勲章貰ってなかった?) 輝くように笑った 舞は貴方を見ると輝くように笑って見せた。 ああ。きっとこの人はこの笑顔だけでなにもかも 許されてきたに違いないと思えるような、それは 無邪気で、優しい笑顔だった。 世界は私の兄弟 ……地上が悲しみに満ちているのは知っている。 だから、私は戦おうと思う。 世界は私の兄弟だ。兄弟を守らぬ家族はおらぬ。 ……なぜ、兄弟なのか、だと? 私の父は世界を愛していた。私と同じ程度には。 それが私が、世界を兄弟と論じる全ての理屈だ。 弾をかき集めた 弾を集められるだけかき集めてきた。 補給切れで死ぬ前に戦死できるくらいは あるはずだ。 もっと笑え 「……人がどう振舞うかは自由だが。 あえて言おう。そなたは気苦労が絶えぬようだ。 もっと笑ったほうがいい。 どうせ同じ苦労なら、笑っていたほうが いささか人の心を和ませるぞ」 舞は貴方を見ると、いたずらっぽく笑って見せた。 「つられて笑ったな。それが大事なのだ。 この空を覆う、悲しみのなにもかもと戦う つもりならば。 私はそなたに才能があると思う。 あしきゆめを狩る才能だ。本質が闇を嫌う性質だ。 世の暗黒を見て腹が立つのならば、食い殺す気に なるのなら、そなたもまた、こちらの側の者だと、 そう思う。 そうだといいなと考えている」 子供っぽく笑う 舞は貴方を見ると子供っぽく笑って見せた。 どんな理不尽もまだ知らない、子供のように。 希望 「希望というものは、気まぐれだ。 不意に現れ、不意に姿を消す。 誰の心の中にもあるが、目が覚めているとは 限らない。 私は、希望を見たことがある。 それは身体を突き動かす力だ。 それを成せという果てからの声援だ。 そなたの中には、希望がいるような気がする。 そなたを動かす、眠ることも休むこともない 青い炎が、見えるような気がするのだ。」 歌 舞は小声で歌を歌っています。 自分だけに、聞こえるように。 「それは最弱にして最強の ただ一つからなる 世界の守り それは万古の盟約にして 万世不変 の自然法則 それは勇気の妻にして 嵐を統べる一人の娘 それは光の姫君なり ただ一人からなる正義の砦 世の軍勢が百万あれど 難攻不落はただ一つ 世に捨てられし可憐な嘘つき 嘘はつかれた 世界はきっと良くなると それこそ正義の砦なり 一人の父は定めを裏切り 嘘を真にせんとした」 貴方はそっと離れました。 銀の剣 この土地には、銀の剣があると、聞いたこと がある。 何処にあるのか。 ……いや、案外身近にあるのかも知れないが」 舞はそう言うと、貴方に笑って見せました。 「そなたもにぶいな。私もにぶいと言われるが、 それ以上かも知れぬ」 夜明けを呼ぶ笑顔 舞は夜明けを呼ぶように笑いました。 そう、夜明けを呼ぶ笑顔だと、 貴方は納得しました。 子供のような笑顔でも輝くような笑顔でもなく、 明日が来るぞと告げる笑顔といったほうが相応し いと。 「……なにをぼーっとしておる。 いくぞ。考え込む必要があれば動け」 肘でつつく 舞は、貴方を肘でつつきました。 つついてから、ひどく嬉しそうに笑いました。 夜明け 「…夜明けが、 夜明けが来るな。 いや、そう思っただけだ。 そなたが夜明けを呼ぶと、そう思った。 この戦いも、いつかは終わる。 そなたが終わらせるだろう。 ふむ。 では、その準備を私もするとするか。 きっと、無駄にはならないだろう」 サブイベント 我が名は芝村舞 覚えておけ。私の名前は舞。姓はそなた達の仇敵、 名字は芝村。正義最後の砦に座す一人の女! この世に並み居るあしきゆめのことごとく! 邪悪な企みのことごとく!叩き潰すために生まれ た存在! 派手な事を言ってみた。 「とりあえず派手な事を言ってみた。 私は幻獣にも名が売れている。 これで敵はどんどん集まってくるな」 光輝 あれは…光輝。光輝を背負う者。 この世に再び…リューンと契約する者が戻った のか…… 本物の、この世に並み居るあしきゆめのことごと く、邪悪な企みのことごとく、叩き潰すために 生まれた存在が。 戦況が良くなってきた エンディング 私は何もしていない -山岳騎兵の述懐 その日、撤退を支援するヘリの群れが来た日、 貴方は思っていたよりもずっとヘリが多い事に、 びっくりしていた。 その隣で舞が立って、 偉そうに腕を組んでいる。 (ヘリ、多いね)(何するんだろう) 「動物兵器達を、一緒に持って帰る」 (そうか)(さすがだね) 「準備は、無駄にはならなかったな。 そなたの力だ。 そなたは、行く先々で伝説を作る」 (優秀な相棒がいるから)(そうかな?) 「……そうだ。 ではいくぞ、隊長。 部下を、そして動物達をねぎらってやれ。 …私はもう少し、ここで風にあたっている」 (手をひいていく)(すねないでよ) 「いや、だから…そういうのでは…。 こ、こら!? こら、運ぶな!荷物じゃあるまいし! お、お姫様じゃないからそういうのも… いや、よいが」 舞はそっぽをむいて、 少しつきあうことにした。
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陸奥国 会津郡 楢原組 戸石村 大日本地誌大系第31巻 99コマ目 府城の南に当り行程8里35間。 家数19軒、東西2町・南北50間。 山間に住す。 南は戸石川に傍(そ)ふ。 東10町原村の界に至る。その村まで15町。 西9町赤土村の界に至る。その村は申(西南西)に当り19町。 南20町計日影村の山に界ふ。 北1里計大沼郡冑組入谷地村の山に界ふ。 また村西15町余に木地小屋あり。 家数10軒、東西40間・南北30間。 山川 白森山(しろもりやま) 村より戌(西北西)の方2里余にあり。 西は大沼郡野尻組大芦村に属し峯を界ふ。 嶽腰山(たけのこしやま) 村より戌亥(北西)の方15町計にあり。 頂まで8町。 この山に5、6寸角にて長1間より2間計の石柱あり。橋を架するに宜し。原組篠山村より出る材木岩の類なり。 戸石川 村南にあり。 源を村西の山中に発し、東北に流るること2里18町原村の界に入る。 広3間計。 神社 御前神社 祭神 御前神? 相殿 日光神 山神 鎮座 不明 村西7町、山麓にあり。 本社の床下に長2尺系の石を建つ。そのさま墓石の如し。来由を詳にせず。 鳥居あり。水抜村星河内が司なり。 山神社 祭神 山神? 境内にあり。 村民の持なり。 天満宮 祭神 天満宮? 鎮座 不明 村西6町にあり。 村民の持なり。 Google Map神社?(林の中)
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そんなわけで私は、夕方まで舞波さんにお屋敷周辺を案内してもらうことになった。 「まずはお屋敷の中ですけど・・・これ、良かったら。広いから最初は迷っちゃうと思うので」 「・・・助かります。」 それは可愛らしいイラスト付きの手書きの地図だった。デパートの案内表示みたいに、各階の部屋の位置が一目でわかるようになっている。 私の方向音痴ぶりを、昨日今日で察して書いてくれたんだろう。 「何か、すみません。」 「いいんですよ。私、こういうの書くの好きなんで。」 そうは言っても、これは5分や10分で書けるものじゃない。私だったら、適当に点と線だけ使ったわかりづらい地図で済ませちゃうところだろうに、本当に親切というか・・・。 「・・・そういえば、さっき旦那様が私を雇う許可をくださった・・・って、旦那様は今いらっしゃらないんですか?」 舞波さんに連れられて、各階を案内してもらっている最中、何気なくそう聞いてみた。 「ああ・・・、そうですね。まだ説明してなかった。」 舞波さんはキョロキョロとあたりを見回すと、柱の影に私を手招きで呼び寄せた。 「旦那様は出張がとても多いお仕事をなさっているから・・・あまりこちらには戻ってこられないんです。めぐさんも、多分知ってると思うんですけど・・・ほら、あの、製薬で有名な」 そう言って舞波さんが出した会社の名前は、とても有名なものだった。多分、私の家にある常備薬なんかもそこのだった気がする。 「旦那様はそこの副社長様でいらっしゃって。」 「ええっ!!!」 思わず出た大声を、両手で口を押さえることでやり過ごす。 そんな、まさか。考えられん。でもこんな大きいお屋敷を立てるだけの財力があるわけだし・・・でも、旦那様ご本人を目の前にしていないからか、何だか現実味がない。 「旦那様は現場主義というか・・・本社で仕事をこなすより、全国の工場を定期的に見て回ったり、各地の会議にもなるべく参加なさりたいというお方なので。奥様と、千聖様の弟様と2人の妹様もご同行なさっています。」 「そんな!どうして千聖ちゃ・・・様だけ?かわいそうじゃない。」 「うーん・・・それは、そうですね。ただ、お屋敷で暮らすことを選んだのは千聖お嬢様ご本人ですから。」 「え・・・」 舞波さんは廊下の奥の窓まで移動すると、外を指差した。 「ちょっと見えづらいかもですけど」 その指が示す方向を辿ると、こげ茶色の尖がった屋根が二つ、突き刺さってくるかのようにそびえ立ってるのが見えた。ここは4階だから、2階立てぐらいだろうか。 「あそこは、学生寮なんです。」 「学生・・・」 「昨日、めぐさんが行かれた学校の、ですよ。」 ――・・・・・・え? 「・・・・な、な、な、な」 「何で知ってるかってことですか?ふふ、自分でもよくわからないんですけれど。なんかそうなのかなって思って。」 舞波さんは肩をすくめた。 「気持ち悪かったらごめんなさい。」 「い、いや、全然。キモイとかじゃなくて、びっくりして。」 私の答えに、舞波さんはまたふふっと笑って八重歯を覗かせた。 「私、昔から、妙に勘がいいっていうか・・変に気が付きやすいところがあって・・・・で、学校でも・・・・・・あ、ごめんなさい。私の話は別に関係なかったですね。めぐさんは話しやすいからつい。次行きましょう、今度は寮を案内しますから。」 「あ・・・はい」 私がびっくりしている間に自己完結してしまった舞波さんは、またきびすを返して廊下を引き返していった。慌ててその背中を追いかける。 「・・・で、さっきのお嬢様の学校の話に戻るんですけど。お嬢様は、森を抜けたとこにあるあの学校に通っています。」 「はい。」 階段を下りる途中、また私達はひそやかな声で会話を始めた。 「お嬢様は寂しかったんだと思います。各地を転々とする生活じゃ、なかなか深く分かり合える友達を作ることも難しいかったでしょう。それで、中学生になると同時に、こちらへ戻ってきたようです。 お嬢様ご本人は、そのことを岡井家の決まりだなんておっしゃってますけど・・・旦那様はすごく反対されていたようですし、きっとお嬢様が押し切ったのではないかと。」 「家族といるより、友達が欲しかったってこと・・・?」 「そうですね。・・・ただ、やっぱり普通にお友達を作るというのは難しいみたいで。・・・これだけすごいお嬢様だと、生徒さんたちもどう接していいのかわからないんでしょうね。長く居る寮生さんたちも、まだとまどっているくらいですから。」 ――そんな事情があったとは。甘えんぼうだのワガママだのと散々なことを思っていたけれど、あの小さい体の中に、そんな葛藤を抱えていたとは想像できなかった。 「はぁ・・・」 重めのため息がこぼれた。 「ん?」 「いや・・・なんか私、ちっちゃいなって思って・・・視野が狭いなって」 決め付けとか、思い込みはダメだってわかっていても、どうも私は思いやりに欠ける。 「そんなことないですよ、めぐさんは優しいと思います。それにね、お嬢様にも、最近やっと友達が・・・あ、噂をすれば」 お屋敷の玄関をくぐって、裏にある小さな庭を横切る途中に、敷地の外を誰かが横切るのが見えた。 不審者?と思ったら、舞波さんはいつもどおりののんびりした顔で「舞さん」と呼びかけた。 「舞さん、こんにちは。」 一度は反応がなかったものの、舞波さんの何度目かの呼びかけに、垣根の隙間から大きな二つの目が覗いた。 「うおっ」 思わずのけぞる私を尻目に、舞波さんは垣根の前まで歩いていって、そのまま話し続ける。 「千聖お嬢様なら、お屋敷におられますけれど。お呼びしましょうか?」 「・・・別に。たまたま通りかかっただけでしゅから」 嘘嘘。ここはたまたま通りかかれるような場所じゃないでしょー。なんて、舌足らずなその声に心の中で突っ込んでみる。 「でも、舞さんがいらしたって知ったら、お嬢様お喜びになりますよ」 「っ・・・どうせ、ちしゃとは舞波さんがいればそれでいいって思ってるんだからいいでしゅっ」 そのカミカミな声の持ち主は叫ぶようにそういうと、垣根に体をぶつけながら去っていってしまった。 「うーん。嫌われちゃったなあ。」 舞波さんはおでこを掻きながら戻ってきた。 「今の・・・?」 「あぁ、さっき言った、お嬢様のご学友の舞さん。学年は違うけれど、とても気が合うみたいで。でも私がいると、あんまり遊びには来てくれないみたい。避けられてるのかわからないけど。」 いや、それは多分嫉妬・・・。まあ、人の人間関係について私がとやかく言える立場じゃないから、黙っていることにしたけれど。 「今日はお顔見れなかったけど、舞さんはとても賢くて、綺麗な顔立ちのお嬢さんですよ。またすぐ遊びに来ると思うんで、その時に挨拶でも。・・・では、寮へ参りましょう。」 「はいっ」 今日は祝日だから、この時間でも寮生さんたちは居るらしい。ちょっと緊張する。あんまり、変にこっちの事情とか探ってくるタイプの人たちじゃないといいんだけど・・・。 敷地の中とはいえ、一応寮とお屋敷の間には塀があって、鍵がなければ行き来できないようになっているみたいだ。 舞波さんが金色の鍵を取り出して、ドアを開ける。ギイイッと錆びた音が響く。私は目を閉じて深呼吸した。 「あれ?舞波さんだ。」 「どうも、こんにちは。」 ちょうど入口のところに誰かいたらしい。おそるおそる目を開け、2人の声のする方へ目を向ける。 「あっ!!」 長い黒髪。意思の強そうな眼差し。目も鼻も口も完璧に整った、和風な美人顔。なぜかまばゆい全身ピンクジャージ。 そこにいたのは、私が昨日フェンス越しに会話を交わした美少女だった。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -