約 1,830,680 件
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/289.html
「ゲキハロが終わったら、千聖と2人で旅行に行って来るから。」 それは、ゲキハロのお稽古真っ最中のことだった。 レッスン終了後、着替え中にえりかちゃんが私に告げた言葉。 「は・・・」 突然の報告に、とっさに言葉が出なかった。 「何・・・で」 やっとしぼり出した声は、私らしくもない弱弱しいもので、ちょっと情けない気持ちになる。 「何でって、これのお礼にね。」 そう言ってえりかちゃんが指で弄んだのは、キュートのメンバー全員でえりかちゃんの誕生日に贈った、ハートのネックレスだった。 「だ・・・だってそれは、舞たち全員からっ」 「うん、もちろんわかってるよ。ウチが千聖にお礼したいのは、ウチと一緒にみんなへのお返しプレゼントを考えてくれたこと。」 えりかちゃんの話は続く。 「ま、旅行って言っても、横浜だけどね。観光して、中華街でご飯食べて、ちょっといいホテルに泊まる。」 「ま、待って。ホテ、ホ、ホテルじゃなくていいじゃん!えりかちゃんちでいいじゃん!」 「えー、いやいや、それはちょっと。ムフフフ」 私の背中を、イヤーな汗が滴り落ちる。 えりかちゃんは、私の千聖に対する気持ちを知っている。知っていて、こういうことをわざわざ言うというのは、つまり、その、なんだ、うん。 「ま、舞の方が、千聖のこと好きだもん」 「・・・だとしても、千聖はウチのお誘いに乗ってくれたよ。すごく嬉しそうに。舞ちゃんは、千聖が望んでいることでも認めたくないの?」 「でも、だって・・・」 こういう時のえりかちゃんは、いつもの天然で優しいお姉ちゃんじゃない。私の知らないことをたくさん知ってる、18歳の大人の顔をしている。ここで私が「嫌だ」といっても、絶対にその予定を白紙にはしてくれないだろう。 「一応、舞ちゃんには言っておいたほうがいいと思ったから。」 「そんな思いやり、嬉しくないよ・・・」 「黙って行ったら、その方が嫌だったんじゃないの?」 悔しい。悔しいけれど、えりかちゃんは舞の気持ちなんてお見通しなんだ。しかも、純粋に私を思いやってる気持ちだけじゃなくて、自慢っていうか、上手くいえないけれど、そういう気持ちも入ってる気がする。 ふと、千聖の方に視線を向ける。 千聖は上半身下着のまま、なっきぃと何か楽しそうに話している。なっきぃが千聖のブラのタグを見ていたから、下着の話でもしてるんだろう。そういえば、今日の2人の下着は色違いだ。仲良しだから、一緒に買いに行ったのかもしれない。 だからって、別になっきぃに嫉妬心は沸かない。2人の関係は信用できる。なっきぃは千聖にすごく優しいし、もちろん変なこともしない。 その点では、愛理はちょっと怪しい(性的な意味で)。舞美ちゃんも危ない(悪気のない暴力的な意味で)。もちろん、えりかちゃんなんて論外だ。もし千聖とえりかちゃんがオソロのブラなんてつけてたら、絶対に剥ぎ取る。 「何がそんなに気に入らないの?」 えりかちゃんの声は相変わらず笑っている。わかってて聞いてるんだ。もー、普段はドMのくせに、こういう時はとことんイジワルなんだから! 「・・・わかってるなら聞かないでよ。」 そういうとこに泊まるっていうのは、つまり、そういうことをするっていうことでしょ。 去年の夏、えりかちゃんと千聖がコテージでしていたことを思い出す。 千聖の上に覆いかぶさる、えりかちゃんの白い背中。 その背中に回された、千聖の小麦色の腕。 2人の唇がくっつく。おっぱいも、大事なとこもくっつく。 えりかちゃんの茶色い髪と、千聖の黒髪が混じる。 聞いたこともないような、甘ったるくて甲高い千聖の声。えりかちゃんの湿った声。 私は悔しくてたまらなかったのに、そのことを思い出すたびに、頭がボーッとして、体がおかしくなっていた。 恥ずかしながら、夜ベッドの中で、えりかちゃんを自分に置き換えて妄想したこともある。 そして、誕生日に、千聖に同じ事をして欲しいとねだった。果たしてその願いは聞き届けられたのだけれど、いろいろ不本意な形に終わった(そもそも失神したのでよく覚えていない件)。 こんなんじゃ、えりかちゃんに全然勝てない。おまけに、こうしてまた差をつけられてしまうのを、指をくわえて眺めているだけなんて。 「事後報告、いる?」 「いらないよっ」 もう聞いてられない。私はえりかちゃんの元を離れて、舞美ちゃんに頭を撫でてもらいにいった。 「お姉ちゃん・・・」 「ん?どうしたの?よしよし」 大きい手にわしわし頭を撫でられて、少し気分が良くなった。 「えりかちゃんにいじめられた。」 「ええ?えり、コラだめじゃないかー!とかいってw」 えりかちゃんは黙って肩をすくめて両手を挙げるジェスチャーをした。欧米か。 再び千聖の方をチラ見する。すると、視線がぶつかった。何となくピースサインを送ると、首をかしげながらピースを返してくれた。三日月目のスマイル付き。あぁ、やっぱり可愛いな・・・ そのまま2人して手遊びゲームをしていたら、ふいに後ろから肩を叩かれた。 「ん?」 そこにいたのはなっきぃ。いつのまに着替えを終えたのか、バッグまで持って、今にも帰れそうな感じだ。 「舞ちゃん・・・今日、一緒に帰れる?」 「?舞と?うん、大丈夫・・・」 突然のなっきぃからのお誘い。ちょっとびっくりしたけど、もちろん嬉しくないわけがない。ちゃきちゃき着替えを済ませて、私は一足先に、なっきぃと一緒にレッスン場を出ることにした。 「今日暑いねー。」 「うん・・・」 「稽古楽しいよねー」 「そうだね・・・」 外に出てからいろいろ話を振ってみるものの、なっきぃは上の空だ。 「ねぇ、なっき・・・」 何か悩んでるなら、と口を開きかけた時、ぴたりとなっきぃの足が止まった。 「舞ちゃん。あのさ、」 「うん。」 いつもの可愛らしい声より、少し低くて真剣な雰囲気。私の背筋も伸びる。けれど、次のなっきぃの一言によって、盛大に脱力させられることになるとは・・・ 「ま、ま、舞ちゃんて、・・・・・エッチビデオとか、み、み見たことある?」 「・・・・・・・・はああ!?」 TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/12.html
「あーっ千聖!」 舞美ちゃんの大声と何かが落ちた鈍い音に驚いて振り返ると、千聖が階段の一番下で倒れていた。 どうやらくすぐり合いっこをしていたら、バランスを崩した千聖が足を滑らせてしまったらしい。 雑誌の撮影が終わり、階段を降りていく途中の出来事だった。 「もー何やってんの」 まだ舞美ちゃんに笑顔の余韻が残っていたから、私はそのまままた前を向いて愛理とのおしゃべりを続行することにした。 でも「やだ、ちょっと・・・千聖動かないよ。」 「どうしよう、私・・・」 千聖と一緒に階段の途中でふざけていた舞美ちゃんが、みるみるうちに青ざめていく。 舞美ちゃんに抱きかかえられている千聖はピクリとも動かない。 「違うよ、マイが最後に千聖をちょっと押しちゃったんだよ。舞美ちゃんのせいじゃないよ。」 舞ちゃんの目に涙が溜まっていくのを見ていたら、つられて私も泣き出しそうになった。 栞菜も愛理もすごく動揺しているのがわかる。 えりかちゃん・・・はずいぶん前を歩いていたから「どうしたのー」なんてケーキをモシャモシャ食べながらのんびりこっちに向かってきた。 こんなことになるなんて・・・。 「とにかくさ、誰が悪いとかどうでもいいからマネージャー呼んでこよう?」 一番最初に冷静さを取り戻した愛理がそういうと。玄関の方に向かって走り出した。 そのとき「う~ん・・・」 千聖が短く声を漏らして、ゆっくりとまぶたを開けた。 「千聖!」「大丈夫?」「どっか痛いとこない?」 みんなが走りよって、千聖にいっせいに話しかける・ 「よかったぁ私千聖に何かあったらどうしようって・・・」 「なっきぃ泣きすぎだよ」 涙でほっぺたをぬらしている栞菜に突っ込まれたけど、私の涙は止まってくれなかった。 そんな私たちの顔を、順番にゆっくりと見つめながら、千聖は体を起こした。 「皆様、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。わたくしはもう大丈夫ですので、早くお家に帰りましょう。」 「千・・・聖?」 「それでは参りましょう、皆様。」 えりかちゃんの手から、食べかけのケーキが落ちた。 TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/52.html
「千聖。ちょお~っと後ろ向いてて。」 肩を掴んでくるりと反転させると、私はおもむろにワンピースを脱ぎ捨てた。 「これ、使って。」 後ろから手を回して、自分がつけていたブラを千聖の胸にあてがう。 「えっ!で、でも、これ・・・えりかさんの・・・」 「大丈夫。私は、えーっと、よく考えたらもう一枚持ってた!だから気にしないで、つけて?」 背中のホックを止めてあげる間、ちょっと下に首を傾けて大人しくしてくれる姿が可愛らしい。 もし本物の妹がいたら、こういうふわふわした子がいいな。 お嬢様の千聖はこちらが困ってしまうほど従順で柔らかくて素直で、何でもしてあげたくなってしまう。 ああ、こんなに可愛いならもっと早く新しい千聖と接しておけばよかった。 一人で悶々としてる時間は無駄だった。 私はどうも、考えすぎて二の足を踏んでしまう傾向があるみたいだ。 私だけはみんなと千聖を客観的に見守るだなんて単なる口実で、結局ヘタレえりかだから千聖から逃げていただけだったんじゃないか。 これからは、もっとこっちの千聖とも積極的に関わっていこう。可愛いし。 「んー・・・ちょっと、アンダーが、緩い?あんまり動かなければ平気かな。」 体格差がかなりあるから仕方ないけど、最近お菓子の食べすぎを自認している身としてはちょっとへこまされる。 胸の形を整えてあげて、洋服をかぶせると、見事なお椀が2つできあがった。 「おぉ~いいね!千聖、隠すよりこうした方が絶対いいよ。女らしくて綺麗。」 「そ、そうですか。あの、ありがとうございます。」 もともとブラに備わっているぬいつけパット的なもののせいで、立派なおっぱいがさらに立体的になっているのは仕方ない。(舞美のに比べたら偽装にもならない程度!) 「えりかさん、本当にいろいろご迷惑をかけてしまって。」 「いいって~キュートの仲間じゃないの。これからも何でも言ってよ。」 「はい。」 前の千聖も、今の千聖も、やっぱり笑顔が抜群に可愛い。 この顔を見せられると、つられてにっこりしてしまう。 皆がお嬢様千聖に甘くなってしまうのがなんとなくわかる気がした。 楽屋に戻るとすぐ、私はマネージャーの元へ急行した。 「ちょっと、お耳を拝借・・・・」 「・・・・というわけなんだよ、なっきぃ。いろいろ心配かけてごめんね。」 衣装合わせを終えた私は、なっきぃを誘って、隅っこの方で私と千聖の空白の数十分について説明をした。 目線の先には、胸元を押さえてうらめしそうにこちらを見るマネージャー(巨乳)。 「う~ん。それはいい話だねといいたいところなんだけど、1個言ってもいい?」 「はい。」 「別に、えりかちゃんが千聖にブラジャー貸す意味なくない?その行動ムダじゃない?えりかちゃんはそのまま自分のブラつけてればよかったんじゃない?」 「うっ」 「ていうか、すぐ近くにスーパーあるんだから買いに行けばよかったと思うんだけど。何もマネージャーから剥ぎ取らなくても。頼んでくれればなっきぃが行ったよぅ。」 「ぐっ」 「もーびっくりしたよ。えりかちゃんいきなりマネージャーに脱いで!とか言い出すんだもん。ちょっと冷静になればさぁ・・・ってえりかちゃん!そんなへこまないでよぅ。」 「1個じゃなくていっぱい言ったね・・・」 本当におっしゃるとおりすぎて、さっきまでの得意げな気分はしぼんでしまった。 要領がいい悪い以前に、判断がめちゃくちゃじゃないか、私。 いつもより心もとない胸元に、余計に風が吹きすさんだ。 「ごめんごめん。なっきぃつい言いすぎちゃうね。でも、千聖が嬉しそうだからこれで良かったんだと思うよ本当に。うん。それに、えりかちゃんが千聖のこと気にかけてたってわかってなっきぃも安心した。」 「・・・本当?」 なっきぃが指差す方向を見ると、ちょうど千聖がサイヤ人のような衣装を合わせているところだった。私となっきぃの姿を確認すると、軽く手を振ってきた。 「明るくなったよね、お嬢様。きっとえりかちゃんのおかげだよ。」 「なっきぃ・・・」 お姉ちゃんみたいな口調でなっきぃに励まされて、じんわり胸が熱くなった。 「あーでも、あの胸はちょっとヤバいね。えりかちゃんのパットのせいだ。キュフフ」 「・・・もうしわけありませんでした。」 数日後、私のプチ偽装ブラを気に入ってくれた千聖が、ライブトークの時にまでそれを装着して【ロケットおっぱい】【メロンπ】【( 三 ) 】などと話題をかっさらうことになったのはご愛嬌。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/113.html
“舞ちゃん、もうちょっと千聖のこと優しく扱ってあげたら。” 前にそう言っていたのはなっきぃだったっけ。それともえりかちゃんかな。 私は昔から、千聖をどこかに連れて行くとき、手首や肩を掴んで引っ張る癖があった。 千聖も特に何も言わなかったから、指摘されるまで気づかなかった。 あんまりお行儀のいい行動じゃないから控えるようにはしていたけれど、気をつけていないとついやってしまうみたいだ。 そう、今みたいに。 「舞・・・・さん」 千聖の苦しそうな声で、はっと我に返った。 顔をあげると、痛みに耐えるような表情の千聖と目が合う。 私は力いっぱい千聖の両腕を握り締めていたみたいだ。 「ごめん・・・」 謝って力は緩めるけれど、千聖の体から手を離すのは嫌だった。 触れたままの千聖の二の腕が、熱を持っているのが伝わる。 私の手もズキズキ痛んでいるぐらいだから、千聖はもっと痛かっただろう。 「舞ちゃん・・・ちっさー痛そうだよ。放してあげて。」 栞菜がそっと私の手に手を重ねる。 「もう、今のちっさーを受け入れようよ、舞ちゃん。 ちっさーはね、大好きな舞ちゃんが自分のせいで傷つくからって、キュートをやめようかって私に相談してきたんだよ。」 「栞菜、その話は」 「ううん、言わせて。・・・・・舞ちゃんは、そんなこと望んでないよね?でも、今のままじゃちっさーは舞ちゃんのためにいなくなっちゃうかもしれない。 私は嫌だよ。めぐがやめちゃって、ずっと7人で頑張ってきたのに。もう大好きな人がいなくなるのはやなの。舞ちゃんも、ちっさーも、みんなでずっと一緒にこれからも頑張っていきたいのに。」 最後の方はもう悲鳴のような声になっていたけど、栞菜は私から目を逸らさずに思いをぶつけてきた。 でも、私の耳にはその言葉が半分も入っては来なかった。もっと大きすぎる衝撃で、頭が真っ白になってしまっていたから。 千聖が、キュートを? 辞める? 私が責めたから? 「わ・・・・私は・・・・」 違う。 私はそんなことを望んでいたんじゃない。 でも、私のせいで、千聖は 「舞美、・・・・何がどうなってるの?千聖が辞めるって、どうして?お願い、ちゃんと説明して。」 背後でキャプテンの声が聞こえた瞬間、私の心は現実に戻った。 「千聖がやめることなんてない。」 自分のものとは思えない、低い声が口を飛び出した。 栞菜の手も千聖も振り解いて、ドアの方に向かって歩く。 「舞ちゃん!」 「・・・・しばらく一人にして。その間に、みんなに千聖のこと話して。」 不思議な感覚だった。体全部が心臓になったみたいにドクドクしているのに、頭は冷え切っている。 「・・・・・千聖がやめるぐらいなら、私がいなくなるから。」 吐き捨てるような口調でそう言い残して、早足で去っていく。 誰も追いかけてこない。たまたま目にした衣裳部屋に入って、隅っこで膝を抱えてうつむいた。 私は、何をやっていたんだろう。 まったく自覚のない涙が、ポツリと一滴膝に落ちた。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/21.html
明日も早いからもう一眠りしようか、と舞美ちゃんに言われて、一緒のふとんに入り込んだ。 さっきまでぐっすりだったからまだあんまり眠くはなかったけれど、すぐ近くに大好きな人のぬくもりがあるのは心地良かった。 「おねえちゃん。」 「ん~・・・」 呼んでみたけれど、舞美ちゃんはもうすでに寝付いてしまったみたいだ。 きっとすごく疲れてたんだろうな。全然関係ないのに私たちのゴタゴタに巻き込まれて。 もう一眠りなんて言ってるけど、舞美ちゃんはさっき寝ていなかったと思う。 私が目を覚ました時に寂しくないように、ずっと起きててくれてたんだ。 「ごめんなさい、おねえちゃん。」 私はこんなに子供で聞き分けがないのに、舞美ちゃんはそのことを咎めない。 その優しさが、今はどうしようもなく苦しかった。柔らかい棘で、心をつつかれているような気分だった。 朝になれば、もう少し落着いて考え事ができるかもしれない。 舞美ちゃんの匂いに包まれて眠ろうと思ったけれど、目を閉じればさっき夢の中で会えた千聖を思い出してしまう。虚しさが胸をよぎる。 「千聖に会いたい。」 何度つぶやいたかもうわからないけれど、また自然に唇から零れ落ちた。 がさつでお調子者で子供っぽかったけれど、誰よりも優しかった千聖。 どれだけ無神経な振る舞いをしても、勝手なことを言っても、千聖は私を見捨てないでいてくれたのに。 前の千聖に会って、ごめんねを言いたい。 顔中ふにゃふにゃにして、「舞ちゃんもういいよぉ」って笑ってほしい。 もう二度と、元気な千聖に会えなくなるなんていやだ。 「会いたい。」 私はピーピー子供みたいに泣くのは嫌だ。 キュートはみんな結構泣き虫だけど、自分だけは違うって思っていた。 でも、千聖のこととなると別問題だ。 なっきーの前で泣いて、舞美ちゃんの前で泣いて、「あの千聖」の前でも大泣きした。 今もすでに涙腺が決壊しそうになっている。 「ちさと・・・・・」 「舞。」 その時、私の肩に大きな手が触れた。 カッと目を見開いた舞美ちゃんがそこにいた。 「ひぇ・・・」 情けない声が出た。 「・・・・・」 私の名前を一度呼んだきり、舞美ちゃんは微動だにしない。 舞美ちゃんは喜怒哀楽のでやすいタイプだから、顔を見れば大体機嫌がわかった。 なのに今私を凝視するその顔からは、何も読み取れなかった。 美人の無表情って、すごく怖いかもしれない。 5分、10分、空気が凍りついたまま、時間がすぎていく。 「よし。」 何がよしなんだかわからないけど、舞美ちゃんはおもむろに立ち上がって、部屋を出て行った。 しばらくすると、何が言い争うような声が聞こえてきた。 “でも今じゃなきゃ” “こんな時間に非常識だろ” 何の話をしているんだろう。耳を欹てていると、勢いよくドアを開かれた。 舞美ちゃんの目が異様にキラキラしている。 「舞、行こう。」 「え、ちょっと待って。行こうって、どこに?」 舞美ちゃんに強引にTシャツを剥ぎ取られ、着替えさせられる。 そして、信じられないことを言われた。 「今から、ちっさーの家に行こう。」 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/64.html
仕事に行く。 私の知らない千聖がみんなと楽しそうに話している。 前の千聖みたいに大口開けて笑ったりしないで、口元を押さえておしとやかに微笑んでいる。 千聖が私に気づく。 「おはようございます。舞さん。」 千聖の声だけど、千聖の声じゃない。 私の大好きだった千聖の声は、鼻にかかってふにふにしてるとても優しいものだったのに。 こんな上品ぶった挨拶なんか聞きたくなかった。 ちゃんと目が合ってたけど、バッチリ無視してやった。 「舞ちゃん、千聖がおはようって」 「愛理、栞菜おはよう。舞美ちゃんえりかちゃんなっきーおはよう。」 「・・・舞。」 さすがに舞美ちゃんの声のトーンが変わる。 でも私は注意されたら即言い返してやるつもりだった。 自分は悪くない、こんなイジメみたいなことをしなきゃいけないのは千聖のせいだ。 そう思っていないと、心がバラバラになってしまいそうだったから。 「舞ちゃん、私トイレ行きたくなってきちゃった。一緒に行こう?」 いきなり、なっきーがいつも通りの口調で話しかけてきた。 「うん。」 別にトイレなんて行きたくなかったけれど、重すぎる空気に耐えられそうになかった。 控え室のドアを閉める瞬間、千聖が顔を覆っているのが見えた。しかも舞美ちゃんが頭をなでている。 何で。泣きたいのは私なのに。舞美ちゃんは私のお姉ちゃんになってくれるって言ったのに。 私から本物の千聖を奪って、今度は大好きなメンバーまで取っちゃうつもりなの。 「舞ちゃん。」 私はよっぽど怖い顔をしていたみたいで、なっきーが少し強めに手を握ってくれた。 でも私はもう、返事をしたら涙があふれ出てしまいそうになっていたから、ただうつむいているしかなかった。 そうして手をつないだまま、私たちはしばらく黙って歩いた。 トイレなんてとっくに通り過ぎていたけど、お互いに何も言わなかった。 「・・・千聖に会いたい。」 突然、私の口から無意識にそんな言葉が出た。 「うん。」 「謝らなきゃいけないことがたくさんあるのに」 「千聖はちゃんといるじゃない。」 「違う。本物の千聖だよ。」 なっきーの顔を見上げると同時に、ついに涙がこぼれてしまった。 「舞ちゃん。」 なっきーは歩くのをやめて、人通りのない階段の脇に腰を下ろした。 「ごめんね、舞ちゃん。千聖のことばっかり心配して、舞ちゃんのこと助けてあげられなかった。 舞ちゃんだって辛いのにね。本当にごめんね。」 なっきーは眉間にシワを寄せて、声を震わせながらそう言ってくれた。 「私は舞ちゃんのこと絶対に責めたりしないから。・・・私も本当は元の千聖に戻って欲しいの。」 「そう、なの?」 なっきーは今の千聖とも普通に話をしていたから、そんな風には見えなかった。 「うん。それが千聖にとっても一番いいことだと思うし。だからね、私たちは千聖のためにできることを考えよう? とりあえず、舞ちゃんは挨拶ぐらいは返してあげなきゃね。」 「・・・うん。わかった。」 「それじゃ、そろそろ戻ろうか。今日のレッスン始まっちゃう。」 なっきーは、何事もなかったような顔で立ち上がる。 「明日はちゃんと千聖に挨拶する。」 「明日?今日はしないの?」 「しないの。」 そこは譲らないんだ、となっきーは独特のキュフフって声で笑った。 まだ私の心は晴れていない。 でも、ちゃんとわかってくれる人がいた。 なっきーがこうして手をつないでいてくれるなら、もう少しだけがんばれそうな気がした。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/88.html
私の魔法の言葉の効果は、早速次の日からはっきりと現われた。 「おはよう、栞菜。」 「あ、お、はよう。」 レッスンスタジオまでの道を歩いていると、日傘をさしたちっさーが後ろから声をかけてきた。 いつもどおり、ごく自然に振舞うちっさー。胸が高鳴る。 「もう夏も終わりなのに、暑いわね。」 そんなことを言いながら、入る?とばかりに日傘を傾けてきた。 「ありがとう。」 こんな可愛い心遣いをしてくれる子に、私は何てひどいことをしようとしているんだろう。 良心がチクリと痛む。 今日のちっさーは、後ろに大きなリボンのついたシンプルなライトイエローのワンピースを着ていた。歩くたびにふわふわ揺れて、とても可愛らしいと思った。 「ちっさー、チョウチョみたいだね。可愛い。」 「あら、ありがとう。明日菜にも言われたわ。こういう色の蝶、本当にいるんですってね。」 ちょっと照れくさそうに笑うちっさーは、昨日のことなんて何も気にしてなかったかのようにも見えた。 「ちっさー、おしゃれになったよね。よく似合ってる、それ。」 「嬉しいわ。これはね、早貴さんがくれたの。あんまり着ないからって。」 「へえ・・・」 またじわじわと、心臓の鼓動が大きくなってくる。そんな交流があるなんて、私は知らなかった。 「ねえ、ちっさー。今度うちに遊びにこない?栞菜が着なくなった服とかあげるよ。」 「まあ・・・でも、何だか申し訳ないわ。お気持ちだけで嬉しいから、そんなに気を使わないで。」 何で。 私じゃ、嫌なの? 私だって、ちっさーのお姉ちゃんみたくなりたいのに。 「・・・私が、キッズじゃなくてエッグだから?」 気がついたらまた、あの一言を口走っていた。 ちっさーに魔法がかかる。 私に微笑みかけていた表情が一気に強張って、ゆっくり歩いていた足がピタッと止まった。 「栞菜、どうして・・・・?私、そんな風には」 私は無言でちっさーと押しのけて、早足で先に歩いていった。 ちっさーは追いかけてはこない。 やがて私の後ろで力ない足音が聞こえてきたら、なぜだか少し心が落ち着いた。 結局ちっさーは、集合時間直前までロッカーに来なかった。 「あれ、ちっさー珍しいね!今日ギリギリじゃん!」 舞美ちゃんの声に振り向くと、少し慌てた声でごめんなさいと言いながらちっさーが入ってきた。 さっき私に見せていたあの悲愴な顔じゃなくて、いつものおっとりお嬢様の表情に戻っていた。 「おはよう、ちっさー。」 さっきまで一緒だったくせに、とぼけて挨拶をしてみる。 「あ・・・おはよう愛理、栞菜。」 なんだ、特に引きずってはいないんだ。 ほっとすると同時に、なぜかそれを残念にも思っている自分がいた。 「千聖、今日一緒に柔軟やろう。着替え手伝うから急いで!」 舞ちゃんがちっさーの手を強く引っ張っていく。 舞ちゃんはいいな。私みたいな汚い手を使わなくても、ああやってちょっと強引でも正々堂々とちっさーを独占できるんだ。 それに比べて、私のやってることって・・・・ 「栞菜?・・・なんか怖い顔してる。大丈夫?」 「うん。なんでもないよ。それよりさ・・・」 話題を逸らす。 心から心配してくれる愛理に胸が痛んだ。 ごめんね、愛理。 そんな葛藤はあったものの、禁断の魔法の味を知ってしまった私は、どんどんあの言葉を簡単に使うようになっていった。 例えば、何かおそろいの物を持ちたいと思った時。 一緒にコンビニに行って、何か買ってあげたいと思った時。 そして、ちっさーの好きそうな服をあげる時。 主に私がちっさーに何かしてあげたい時には、効果がてきめんのようだった。 慎み深いちっさーは必ず遠慮するけれど、私があの一言を言えば従ってくれた。 悲しい顔をさせることに、罪悪感はあった。 それでもこれは単なる私の親切の押し売りであって、ちっさーを傷つけるのが目的ではないという理由付けができたから、私は自分の矛盾した気持ちから目を逸らし続けることができた。 ちっさーも、私があの言葉を口にしないかぎりはごく普通の態度でいてくれた。 異常な結びつきになってしまったけれど、私たちはいつでも一緒にいるわけではないし、私もみんなの前では魔法を使わなかったから、誰も2人のおかしな状態に気づいてなかった。 そのことが私を増長させたのかもしれない。 私はわかっていなかった。 何でも言うことを聞いてくれる素直な妹ができたとばかり思っていたけれど、お嬢様のちっさーの中には、前の千聖の気の強さもしっかり残っていたということに。 終わりの始まりは意外に早く、そして突然やってきた。 いつもどおり本当につまらないことで切り札を使おうと思った。 ちっさーが私のヘアピンを可愛いと言ってくれたから、すぐに髪からはずして、ちっさーの手に握らせた。 いつもどおり遠慮するちっさーに、また私は「私が・・・」といいかけた。 「・・・そうね。栞菜が、エッグだからかもしれないわね。」 最後まで言い終わる前に、ちっさーは私の言葉を遮った。 唇をギュッと噛んで、強い目で私を睨みつけている。 ――嘘。 だって、ちっさー。 私はただ、私だけのちっさーが 何を言われたか、とっさにわからなかった。 頭が真っ白になる。 「ちっさー・・・」 呆然としたまま名前を呼ぶと、みるみるうちに硬く強張っていたちっさーの表情が青ざめていく。 「あ・・・・私、私何てこと・・・・・」 涙で霞んだ私の眼の向こう側で、ちっさーが力なく床に崩れ落ちた。 同時に、私にも立っていられない程の強い衝撃がゆっくりと襲ってきた。 ちっさーと同じような体勢でへたり込む。 「え・・・ちょっと、どうしたの!?千聖?栞菜?」 なっきぃの声が遠いところから聞こえたような気がした。 涙が止まらない。 ちっさーを怒らせたことがショックなのか、 自分の行いがあまりにも馬鹿すぎたことがショックなのかわからない。 こんなことになって、初めて気づいた。 私は自分の気持ちばかり考えていて、ちっさーがいったいどんな気持ちで私の言葉を受け止めていたのか考えていなかった。 こんなに無神経なのに、何が「ちっさーは私の妹」だ。 本当に最低だ、私。 今すぐちっさーに謝らなければいけないのに、嗚咽で声が出ない。 「栞菜、落ち着いて。大丈夫だよ、息吸って、吐いて・・・・」 舞美ちゃんの大きな手が優しく背中を叩く。えりかちゃんが頭を撫でてくれる。 私はただ、私もこういうお姉ちゃんになってあげたかっただけなのに、どうしてこうなっちゃったんだろう。 こうして私のかけた魔法は、あまりにももろく、簡単に消え去ってしまった。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/342.html
「っ・・・ちょっとー!!!!何なのこれ、友理奈ちゃん!!!」 叫ぶ私にひらひらと手を振って、友理奈ちゃんは部屋を出て行ってしまった。私は唯一自由になる足で、床をバンバン踏み鳴らす。 どうしてこうなった・・・・ オフだし一緒に遊ぼうよ!という珍しいお誘いを受けて、私は友理奈ちゃんと渋谷でお買い物を楽しんでいた。某狼界隈では相性極悪コンビとしてテッパンの私たちだけれど、服を見たりお茶したり、結構楽しかった。・・・はずなのに。 夕食のちょっと前ぐらいの時間に「ちょっと行きたいところがあるんだ」と友理奈ちゃんに連れて行かれたのは、ドラマとかなら悪い人たちがたむろしているような、いかにも怪しげな路地裏。 「ちょっとぉ~・・なに、ここ。」 「まあまあ、いいからいいから。」 背中を押されて降りた地下階段の奥には、重そうな黒い扉。うながされるままに中に入ると、10畳ぐらいの部屋の真ん中でロッキングチェアが1つ、ぽつんと揺れているだけで、他には何もなかった。 「なかさきちゃん、そこ座って?」 振り返ると、ちょうど友理奈ちゃんが、ドアを閉めたところだった。鍵のかかる音が、妙に大きく響く。 「座って?」 友理奈ちゃんはいつものほえっとした笑顔を封じ込めて、ふいに真顔になった。ちょっとドキッとする。 背が高くて、地顔は結構キリッとしている友理奈ちゃんは、こう見ると美人、というよりイケメンだ。思わず言われるがままに、その怪しい椅子に腰を下ろしてしまった。 「目、閉じて?なかさ・・・・早貴。」 「あぅ」 「可愛いね、早貴。やっと2人になれた。」 耳元でそうささやかれ、腰が砕ける。激しく攻められるのもたまらないけど、これはこれで・・・ 「友理奈ちゃん・・・」 「早貴・・・」 ガシッ 「えっ」 目を開けると、友理奈ちゃんは私の両手首をつかんで、バンザイさせていた。 「な・・・」 文句を言う間もなく、ガチャッと嫌な音がして、私の手はそのまま動かなくなった。 「な・・・なに、これ・・・」 なんと、その椅子の両縁には、手枷がついていた。あわてて体をよじると、ぐにゃーっと視界が歪む。 「いぃーっ!なんなのこれ!」 「暴れないほうがいいよ。その椅子、ゆりかごみたいになってるから、安定性がないの。私もさっきひっくり返っちゃったよ。あはは」 「もうっふざけないでよ!これ外して。」 「ダメドゥエース。ハズサナイヨウニッテイワレテマース。」 「は?誰に!」 「じゃ、準備があるから後でね、なかさきちゃん。」 「ちょっと、準備って!?」 わめく私にかまわず、友理奈ちゃんはどこかへ歩いていってしまった。どうやら、奥に隠し扉があったらしい。 「もう、友理・・・熊井―!!!!」 そして、冒頭に至る。 もう、本当に意味がわからない。あのラブラブデートはいったいなんだったんだろう。おまけに、こんなコンクリート打ちっぱなしの寒々しい部屋に放置されて・・・・ 「うっ・・・うっ」 涙が出てきた。でもそれを拭くことすらできない。私はいたぶられるのは好きだけど、放置プレイは好きじゃないんだってば! 「ごっ・・・ごめんなさぁいっ・・!早貴が悪かったなら、謝るからぁ・・・!一人にしないで!」 静寂に耐え切れず、そう叫ぶ。すると、友理奈ちゃんが消えていった隠し扉の方向からコツ、コツと小さな音が聞こえてきた。そして、静かにドアが開く。 「なんっ・・・」 文句のひとつも言ってやろうかと口を開いた私は、そのまま絶句した。 部屋に入ってきたのは、友理奈ちゃん・・だけじゃなかった。 「いやー、なっきぃがそう言ってくれるのを、ウチはずっと待ってたよ。」 まるで某3年B組担任教師のような口調で満足げにうなずく・・・えりかちゃん。 「あはは、なっきぃすごい体勢だねー。これって揺り椅子?揺らしちゃえーオラオラnksk!とかいってw」 「ギュフー!」 心底楽しそうに、大きな手で椅子をガコガコ揺らす舞美ちゃん。そして、それを見て、超爆笑している友理奈ちゃん。 「Bello・・・」 それは、Buono!に対抗するかのように作られた謎の即席(?)ユニットだった。いや、それはこのさいどうでもいい。なぜ、この場所にみぃたんやえりかちゃんがいるの?わけがわからない。 「な・・・なに、その格好。」 「うっふん」 ハーフカットのレザージャケットの下に、エナメル地のボンテージ風キャミソール。長い脚を強調するかのような、超ミニ半透けペチコート。 元々ハードテイストなBello!の衣装をさらに卑猥に魔改造した、どこからどう見ても超ハードな女王様ファッションだ。 「ふふふ、似合う?なっきぃ、こういうの好きでしょ」 ハーフカップのキャミから半乳がこぼれ落ちているえりかちゃんが、つつっと私の顎を撫でた。 「べ・・・別に私はそんな趣味ないし」 はい、嘘です。こういう素敵なおねいさま、じゃなくて女王様は大好物です。あぁ、傍らで笑うみぃたんの白いふとももがまぶしい・・・ 「こ、こんなところに連れてきて、どういうつもり?早くこれ、外してくれないかな。」 とはいえ、やられっぱなしも癪だから、私はHG風のサングラスで「フォー」とかいってはしゃいでる友理奈ちゃんを睨んだ。 「ん?だって、なかさきちゃんはUmelyのにくどれいなんでしょ?そのはってんとじょうのにくたいはUmelyにもてあそばれるためにそんざいしてるんでしょ?」 「うっ・・梅田ぁ!」 思わずいつものノリで突っ込むと、えりかちゃんは私の顎に添えた手に少し力を入れた。 「痛っ・・・」 「Umelyだってば。」 何だ、その指摘は。 「だってなっきぃ、約束したでしょ?私の玩具になるって。あの後、千聖が来てなしくずしみたいになっちゃったけど、ちゃあんと覚えてるよ。千聖の身代わりになる、だったっけ?だったら、こういうこともちゃんとこなさないとね。」 えりかちゃんは、数日前に私(と途中から千聖)に対して行ったあの気持ちい・・・じゃなくて、おぞましい行為を反芻するように、うっとりと目を閉じた。 「何勝手なこと言ってんの!大体、千聖の身代わりでこういう・・・・・・え?ちょ、それって、まさかえりこちゃん、千聖にこんなことまで」 あまりにも聞き捨てならないその言葉に、さらに追及を深めようとしたところで、自分の意思とは関係なく、いきなり体がぐわっとのけぞった。 「はーい、おしゃべり終わり!!なっきぃ、Yajimyとも遊んでくれなきゃ寂しい!とかいってw」 「ギュフ!」 「あはは、なっきぃすごい顔!とかいってw」 Yajimy、ことみぃたんが後ろから思いっきり椅子を引いたらしい。えりかちゃんの方を向いていたはずの私の視線は、強制的に上を向かされてしまった。 もちろん、ロッキングチェアーだから、完全にひっくり返るということはないけれど・・・ジェットコースター類がほとんど苦手な私にとっては、これだけでも相当な恐怖だ。 「み、みぃたん、やめ・・・ひいいい!怖い怖い!」 それなのに、Yajimyさんときたら、「あっはっは!」なんて笑いながら、ガクンガクンと椅子を揺らしてきた。視界がぐらつく。 「ギュフゥ・・・」 弱りきった私に満足したのか、「なっきぃ。」と逆さ向きのみぃたんの顔が近づいてきた。顔にかかる髪の先がくすぐったい。やだやだ、こそばゆいのは趣味じゃないケロ! YajimyさんとLilyさんはUmelyさんと同じ衣装なのに、どうして半乳Bello!ーンしてないの?すっかすかですやん!とか言ってみたら、いつかの柿の種のようにガーッとしてくれるだろうか?あの窒息感は忘れられないケロ・・・ などとちょっと頭の可哀想な妄想に浸っていると、今度は頭上から「あはーんうふーん」と大変なまめかしい声が響いてきた。 「ちょ、それっ・・・!」 天井から降りてきたスクリーンに映し出されているそれは・・・不本意ながら、最近耳になじんでしまっている、件のDVD「超特急痴漢電車ナントカカントカ」だった。 “ぐへへ、××が×××で××だぜ” 「消して!今すぐ!」 みぃたんが椅子の頭を引いたままだから、逆さづりでちょっと息苦しいけれど、私の視界にはおなじみ痴漢男とちょっと無理のある女子高生の半裸が映っていた。 「そうはいかないよ、なっきぃ」 「何でよ!」 薄ら笑いのえりかちゃんが無言で指差すその場所では、友理奈ちゃんが画面に食い入るように見入ったまま、一心不乱にメモを取っていた。 「友理奈ちゃん!」 「だって、ちゃんと勉強しておかないと、なかさきちゃんの大切な初めてをいただくんだからげろげろーおえっぷきもちわるー何だこの男は。」 「え、それはお気遣いいただきまして・・・じゃなくて!だよねーそいつキモイよねー・・・じゃなくて!なに言ってんの!そんなDVD、テキストにふさわしくな・・・じゃなくて!友理奈ちゃんは女の子なんだから、私の初体験がどうとかっておかしいでしょ!」 「おかしくないよ。」 もはやどこから突っ込んでいいのかわからない私を、妙に冷静な顔のみぃたんがじっと見ていた。 「うん、おかしくないよ。」 「・・・・どういう、意味。」 三人は無言でうなずき合うと、そろって私の横に移動した。みぃたんが椅子の縁を手放したから、、視界が正面に戻る。 「な、何。怖いんだけど」 「「「せぇーのっ」」」 いっせいに、その短すぎるペチコートがペロリとめくられる。 「ちょっと!何でノーパ・・・ぎいえええええええ!!!!」 自分の絶叫で、鼓膜が破れるかと思った。いや、それどころじゃない。私は今、信じられないものを目の当たりにしている。 「そんな声出さなくてもー。ウチ傷ついちゃう。」 「なっきぃうるさーい!とかいってw」 「あれ?なかさきちゃん知らなかったんだっけ?」 「ひ・・・ひぇえ・・!」 アゴが外れたみたいに、がくがくしてまともに声がでない。 何で。どうして。おかしい。ありえない。 ボンテージ姿の、三人の長身美少女の、すらりと伸びたおみ足の付け根には、女の子にあるはずのない、“アレ”がにょきにょきチャンピョンしていたのだった。 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/90.html
私は昨日までの出来事を包み隠さず話すことにした。 特に、あの言葉・・・ 「私がキッズじゃなくて、エッグだから?」 こんなひどい言葉でちっさーを戸惑わせて縛り付けていたと告白するのは、とても勇気のいる行為だった。 それでも、私のために家にまで来てくれたえりかちゃんには、どうしても打ち明けなければいけないことだと思った。 怒られても、嫌われてしまっても仕方ない。 私なりの誠意をえりかちゃんに示したかった。 「そっか、2人はそのことで昨日ぶつかっちゃったんだ。」 「心配かけてごめんなさい。」 えりかちゃんは私を罵るわけでもなく、ただ優しく髪を撫でながら話を聞いてくれた。 「栞菜・・・ウチの方こそごめんね。」 「えっ・・・どうして?」 「最初に2人が変な空気になったのは、舞美が写真を持ってきたあの日だよね? ウチはとっさに千聖だけかばって連れて行っちゃったけど、もうちょっと突っ込んで2人の話を聞いてあげるべきだった。 いつもそうなんだよね。ウチはお尻をあげるのが遅いから、こうやって誰かが傷ついてからじゃないと何にもできない。一人で悩んで、本当に辛かったでしょ。」 ああ、どうして。 どうして私の周りの人たちは、こうも優しすぎるんだろう。 どうして私じゃなくて自分を責めるんだろう。 また泣いてしまいそうになる。 でも今はまだ冷静に話さなくちゃいけない時だから、私は両手でほっぺたをバチンと叩いて気合を入れなおした。 「もう私、ちっさーに嫌われちゃったよね。あんなに怒った顔、見たことなかった。」 「ううん。それはない。」 それでも謝りたい・・・と続けようとした私を、えりかちゃんが遮った。 「あの日ね・・・栞菜を送った後、舞美から電話があったんだけど。 ちっさーがすごく落ち込んでるけどどうしようって言ってた。 栞菜を傷つけてしまったって、どうしてあんなことを言っちゃったのかって、自分を責めてたみたい。」 「そんな、でも悪いのは私だよ。」 「たしかに、栞菜の言ったことはルール違反だね。 でも、千聖は栞菜のこと嫌いになんてなってない。またいつでも元の関係に戻れるよ。 きっと色々なタイミングが合わなくて、歯車がかみ合わなくなっちゃったんじゃないかな。 いつも穏やかに見えたって、千聖も人間だからね。どうしても虫の居所が悪い事だってあるよ。」 そこまで言った後、いきなりえりかちゃんのおなかが“グーッ”と鳴った。 「・・・もうっ!えりかちゃん!すごいいいこと言ってたのに!」 「あははっごめん!ウチ朝ごはんもまだなんだよー。タピオカじゃ物足りなかった。」 そういうわけで、私たちはお昼を食べるために場所を変えることになった。 商店街のアーケードで日差しを避けながら、肩を並べて歩く。 「私きっと、えりかちゃんみたいになりたかったんだ。えりかちゃんが栞菜にしてくれるように、ちっさーのお姉ちゃんになって、いっぱい可愛がりたかった。 ちっさーは自由な子だから、いつでも一緒にいられないのはわかってた。 だから、いつでも心が通じているっていう証拠が欲しかったのかもしれない。」 「あせっちゃったんだね。」 えりかちゃんは、いつも私の気持ちをわかってくれる。だからこうして、安心して何でも話せるんだ。 私もちっさーにとって、そういう存在になりたかった。 「千聖は、いつも不安でたまらないんだよ。」 「えっ?う、うん。」 何だろう・・・急に話が飛んだ。 「時々ね、すごく遠い目をして、心が全然違うところに行っちゃってるの。 かと思うと、何かに怯えたみたいに必死で甘えてきたり。・・・怖いんだろうね、お嬢様じゃなかった自分のことを自分で認識できてないから、混乱しちゃうことも多いだろうし。」 ちょっと独り言っぽくなってたけれど、えりかちゃんはいきなり私の方を向いて「だからね」と続けた。 「栞菜は栞菜にしかできないことっていうのがきっとあるから、そういうので千聖を助けてあげたらいいんじゃないかな。今はわからなくても、そのうち見つかるよ。」 「・・・・・・じゃあえりかちゃんにしかできないことっていうのは、ちっさーとエッチすることなの?」 バターン! すごい。コテコテのリアクションだ。 えりかちゃんは昔の漫画みたいに、腰を抜かしてしりもちをついた。 「な、な、な、な、なんでそれを、じゃなくて、何言ってんの栞菜!」 「・・・嘘、本当にそうなの!?」 私ももう15歳だし、レズキャラにされちゃうほど、ぶっちゃけそういう知識には長けている。 撮影旅行の温泉以来、えりかちゃんとちっさーが時々妙な視線を絡ませていることには薄々気がついていたけれど、現実だとわかると結構ショックだった。 「も、もしかして付き合ってるの?」 「いや、そういうわけじゃないけど。ていうか、最後まで何かしたわけじゃないし。」 最後って、最後って何!えりかちゃん! 「・・・ウチは、千聖のシェルターになってあげたかったの。 ウチのところにくれば、ほんの少しの時間でも寂しさや不安を忘れて、気持ちよく過ごせるみたいな。 本当はこういうの良くないんだろうけどね。だからウチも栞菜に偉そうなことはいえないよ。」 「いや、そんな。・・・・変なこと言ってごめん。」 何がいいとか悪いとかまだ私には難しすぎてわからないけれど、えりかちゃんがちっさーを思いやる気持ちだけは理解できた気がする。 「みんなには内緒だからね。特に、なっきぃに知られたら八つ裂きにされちゃう。」 「わ、わかってるよ。お姉ちゃんが困ることはしない。」 「よし、安心した。じゃあ、行っておいで、栞菜。」 えりかちゃんはいきなり立ち止まって、私の背中をポンと押した。 「え?だってお昼・・・」 私はえりかちゃんの指差す店をじっと見て、硬直した。 何の変哲もない、よく見かけるファミレス。 でもその窓際の席には、 「ちっさー?」 頬づえをついて、ボーッとしているちっさーの姿があった。 「ウチは行かないね。2人で気が済むまで話して。頑張れ、私の妹!」 「・・・・・ありがとう、お姉ちゃん大好き! 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/330.html
“あんあん、そこはだめよ” “ぐへへへ、口では嫌がっていても××はすっかり××だぜ” 深夜1時。 私は毛布を頭からかぶって、自室のテレビをひたすらジーッと見つめていた。 画面に映るのは、舞ちゃんの運命を変えてしまったあのエッチDVD。高校のクラスメートの誰かが、いたずらで私の机にしのばせたやつだ。 部屋の前には、トランクやミニテーブルでバリケードを作った。万が一でも家族に知られるわけには行かない。こんなDVDを持っているだけでも問題ありまくりなのに、ましてやそれを見ているだなんて知られたら・・・・ “へっへっへ、お前の××、×××ぜ” “あーん、イクー” アホか。そんなんでイクーってなるわけないじゃない。 本当に、なんて内容だ。男の身勝手な妄想をぐちゃぐちゃに捏ね繰り回して凝縮させて、女の子の気持ちなんて全然考えないで、物みたいに扱ってる。信じられない。こんなのまともに見ていたら、恋愛観とかおかしくなっちゃいそう。 現に、舞ちゃんはこのビデオに感化されて、千聖に無理やりエッチなことをしたらしい。 もう仲直りはしたらしいけど、だからといって、このエッチビデオを一緒に見ようと舞ちゃんに持ちかけた私の罪が消えるわけじゃない。 私はドーンと凹んで、落ち込んで、どうしようもない状態になっていた。 といっても、仕事中は何とか平静を保つことができた。別人になりきる、お芝居という仕事だったのがラッキーだったのかもしれない。 だけど、本番が終わって、反省会が終わって、帰り支度をする頃には、また落ち込んだ気持ちが心を侵食していっていた。 一体、舞ちゃんは千聖に何をしたんだろう。 本人はもちろん、千聖にだってそんなことは絶対に聞けない。千聖は最近、いきなり明るい方の千聖に戻ったり、心が不安定になっているような気がする。 今更仲違いの原因を穿り返せば、辛かった気持ちを思い出させてしまうだけだ。 だから、私は舞ちゃんの行動のヒントを求めて、また夜な夜なこのDVDを再生しているわけだけれど・・・ 「舞ちゃぁん・・・これ犯罪だよぅ」 わかりきったことだけれど、私は間抜けな独り言を漏らした。 最初に見たときは、衝撃が強すぎて、ほとんど内容は頭に入ってなかった。ただ、無性に息が荒くなっていたのは覚えている。 逆に、舞ちゃんは冷静だったと思う。もともと、年齢のわりにかなり大人っぽいところがあるから、冷めた目で見ていたのかと思っていたんだけれど・・・ むしろ、心の深い部分を刺激されてしまっていたのかもしれない。 舞ちゃんは千聖のことが大好きで、大好きすぎていじめることが昔からよくあった。 お嬢様の千聖にはあんまりそういうことはしないけれど、喜怒哀楽の激しい明るい方の千聖のダイレクトな反応は、舞ちゃんのツボだったんだろう。 どっちかっていうとドエームな私には、よくわからない感覚だけど・・・やりすぎだと感じれば、止めに入ることもあった(その時の舞ちゃんのブリザートスマイルといったら!)。 多分、私の予想だと、千聖はそれほどMではないと思う(えりかちゃんが“ベッドの中では(ry)と言っていた。殴った)。Sでもなさそうだけど。 だから、戯れ方を間違えれば、いくら相棒の舞ちゃんだって許してもらえないこともあるんだろう。ましてこんなビデオを参考にしたんじゃ・・・ “へへへ、次は××を××してやるぜ” 相変わらず、画面ではキモイ系の男の人が、ニタニタ笑いながら女の人を辱めている。 舞ちゃん、一体何をしたの?「へへへ、次はちしゃとの××を××してやるでしゅ」って? 「あぁあ~・・・」 私は頭を抱えた。舞ちゃん本人が言うように、“遅かれ早かれ千聖にそういうことをしていた”のかもしれない。だけど、私がこんなものを見せなければ、回避できたことだったはず。 どうしよう、もういっそ私から千聖に謝って・・・いや、そんなことをしたらいろんな経緯が明るみに出て、余計に千聖を傷つけることになるか。 “ひっひっひ、××が××で××××” 「あー、うるさい!!」 人がまじめに考えているっていうのに、痴漢男の不愉快な声が邪魔をする。私は一旦DVDを消した。ベッドには戻らず、毛布を体に巻きつけて丸くなる。 そうして改めてその内容を頭に思い浮かべると、ゾッと鳥肌が立つ。 やだやだ、好きでもない人に、あんなことされるなんて絶対ありえない。あんな・・・ “ちしゃと、××が××でしゅよ。××な子でしゅね。舞が××してあげましゅ” 舞ちゃんの短く切りそろえられた爪が、千聖の小麦色の肌を優しく引っかく。真っ赤になって悶える千聖。やがて、その指は千聖の豊かな胸に 「ああああ!違うって!もう!」 一人絶叫していると、うるさい!とばかりに隣の部屋のお姉ちゃんが壁をドンと蹴った。・・・やばい、こんなところで自爆するわけにはいかない。 どうしよう、こんなこと考えちゃだめだってわかってるけど、妄想が止まらなくなってきた。頭の中で、“かまわん、続けろ”となぞの声が指令を出す。 私は毛布を頭からかぶった。外の音も全部遮断されて、完全に自分だけの世界。もう一度あのDVDの内容を思い起こしてみる。・・・今度は、痴漢の顔を舞ちゃんに、女の人を千聖に置き換えて。 「はぁ・・・」 あ、さっきより全然いいかも。使える。最近は妄想の中でみぃたんにお世話になる(・・・)ことが多かったから、これは新鮮だ。 ―私、自省のためにエッチビデオ見てたはずなのに、何でこんなことやってるんだろう。そう思っても、ピンクのもやもやに占拠された頭と、そっとソコをなぞる指が止まらない。 「うー・・・」 でもこれ、一体何目線なんだろう。寝取られ目線?痴漢目撃者目線?そもそも舞ニー?それともちさニー?いっそちさまいニー?・・・もう何でもいいや。とりあえず、始めてしまったから終わるまで楽しもうっと。明日から顔を合わせるのが、ちょっと気まずいけれど。 TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -