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53話 空を仰ぐ―――― 「そう言えばブライアン」 「何だ、太子」 「そろそろ放送だな」 「あ! そうだ、忘れてた!」 目的地の教会を目前にして、ブライアンと聖徳太子は大事な事を忘れていた事に気付く。 どこからか、ハウリング音が鳴り響き、続いて聞き覚えのある男の声が島中に鳴り響いた。 『えー、参加者の皆さん、6時間振りです、比叡憲武です』 「やべぇ、始まった!」 「まずい、メモ、メモを……」 定時放送を聞き取るための準備を全くしていなかった二人は狼狽した。 そして、放送が終わった。 どうにか放送内容を聞き取る事が出来たブライアンと聖徳太子。 「良かった、妹子は呼ばれなかったな……」 部下の名前が呼ばれず安堵した太子だったが、横のブライアンの様子を見て気まずそうな表情を浮かべる。 ブライアンは知り合いの名前が五人も呼ばれてしまった。 内、特に親しいリリアとヘレンの死は、彼に大きな衝撃を与える。 「何てこった、リリアが……ヘレンまで」 「ブライアン……」 この島のどこかで骸を晒しているであろう二人の死をブライアンは悼んだ。 「……悪いな太子。もう大丈夫だ」 「あ、ああ」 「……それより……教会のあるこのエリアが一時間後に禁止エリアになるらしいな。 これは教会を調べている場合じゃ無さそうだ。さっさとこのエリアから出よう」 「そうだな……」 目指していた教会はすぐ目の前だが、 教会のあるエリアA-2は他の三つのエリアと共に一時間後に禁止エリアとなる。 禁止エリアに侵入すると、放送で主催者比叡憲武が言っていたことには、 首輪が作動するらしい。作動とはその場で爆発するのか何らかの警告が起きるのかは 分からないが、とにかく禁止エリアには近付かない方が身のためであろう。 踵を返し元来た道を戻ろうとした二人。 ギイイイ……。 その時教会の玄関の大扉が音を立てて開いた。 振り向いたブライアンと聖徳太子の目に映ったものは、良く知っている人物だった。 「お、お前は……!」 「……あの時の二人か。また会ったな」 青髪に赤い鉢巻姿の青年、勤武尚晶は、クスクスと薄ら笑いを浮かべながら、 右手に刀を持ち、教会入口の階段をゆっくりと降りる。 その白いシャツと、灰色のズボンは、返り血で汚れていた。 「くっ……!」 ブライアンはバトルアックスを構えた。 太子も調達品であるスナイドル銃の銃口を尚晶に向ける。 「やる気か?」 「……ここで逃げてもまた追ってくるつもりだろ? だったらここで倒してやるよ! 勿論禁止エリアになる前にな!」 「ま、前までの私達と思ったら大間違いだぞ!」 「そこの烏帽子ジャージ、足ガクガク震えてるんだが」 「うるさい!!」 必死に怖いのを我慢しながら、太子は虚勢を張る。 「……さっさと済ませたいのは、俺も一緒、だ!」 尚晶が二人に向け、刀を構えながら突進した。 今度はブライアンも聖徳太子も逃げない。ここで逃げてもどうせまた追われる。 太子はスナイドル銃の引き金を引いた。 ドゴォン!! しかし、古く銃身のライフリングが摩耗しており尚且つ、元々命中精度が良く無い銃、 そして射手の太子が銃に関して完全に素人だった事が災いし、 放たれた銃弾は虚空を切り裂くに留まった。 「うおらああああっ!!」 ブライアンがバトルアックスで、尚晶の斬撃を受け止めようとした。 だが、尚晶の振るった刃はブライアンに向かうと見せかけ、太子の胴体を薙ぎ払った。 「あ……」 アスファルトの上に真っ赤な液体がぶちまけられ、ずるずると、 太子の上半身が横にずれ、地面に落ちた。 残った下半身も、動かす指令を送る頭を失い、ただの肉塊としてアスファルトの上に転がった。 「太子ぃぃ!!!」 ブライアンが叫ぶ。 尚晶は刃を返し、続けざまにブライアンに斬り掛かる。 ビュンッ!! 紙一重で後ろに跳び回避するブライアン。 そして二人は一旦距離を取り、対峙する。 (……次で、勝負が決まる!) (さっさと始末して、このエリアから出ないとな……しかし、この戦士の男、中々やる) それぞれの思いを胸に抱きながら、双方、武器を構え、睨み合う。 そして、数秒後。 「うおおおおおおおおおおお!!」 「……!!」 雄叫びをあげながらブライアンが、無言のまま尚晶が、互いに相手に向かって突撃する。 静かな市街地に金属音、そして、何かを斬り裂いた音が鳴り響いた。 (……俺は、負けたのか) 胴体に強烈な斬撃を食らった尚晶は、大量の血液をアスファルトの上に流し、 両膝を突き、持っていた刀を落とした。 痛みは無い。いや、それどころか身体中の感覚が消えていくのを感じる。 視覚も聴覚も、段々とその機能を果たさなくなっていく。 (フ……血の池地獄でも見に行くか……) 薄れゆく意識の中、勤武尚晶は薄ら笑いを浮かべた。 戦いには勝った。だが、大切な仲間を失った。 「太子……すまねぇ……俺がついていながら」 身体が腰で真っ二つになってしまった聖徳太子の死体の傍で、 ブライアンは悲しみに暮れる。つい先程放送で多くの知り合いが死んだ事を知ったばかり だと言うのに、今度は目の前で同行していた仲間が死んでしまった。 「くそ……お前の死は無駄にしねぇ……絶対にこの殺し合いかr」 ダダダダダダダダダダダッ!! 突如響いた連射音と同時に、ブライアンは身体中に灼熱を感じた。 「な……?」 何故か動かし辛い首を無理矢理下の方に向けると、鎧に無数の穴が空き、 そこから血が溢れ、鎧を伝って路面に垂れ落ちているのが見えた。 撃たれた、のだとブライアンは確信する。 確信した途端、視界がぐるりと暗転し、ブライアンはうつ伏せに血に伏した。 「こいつは確か、ブライアンだったっけ……」 突撃銃大宇K2を携えた黒髪の美女、エロリアが、たった今銃撃した、 紅白鎧の男の死体を見下ろしながら言う。 「にしても、上手い事行ったわ。漁夫の利って奴? さっさと武器回収して、このエリアから出ないとね」 意気揚々と、エロリアは放りだされた武器の回収を始めた。 目的地の教会付近で、青い髪の剣士と思しき青年と、どこかで見た事のある紅白鎧の男と、 ジャージに烏帽子というミスマッチな外見の男の二人組が戦っているのを見付け、 このまま互いに殺し合って貰い、残った生き残りを襲って殺し武装を奪うという、 エロリアの目論見は成功した。 成功した、と、彼女は思っていた。 ガシ。 「……?」 誰かに足を掴まれエロリアの動きが止まる。 誰か、誰かとは誰か? ここには今、自分一人しか生きている者はいないはずだ。 だが、足は確かに掴まれ――――。 「――――!!!?」 エロリアの顔が驚愕の色に染まった。 「ふふ、はは、ざまぁ、みやがれ……油断したなぁ? まさか……俺が生きているなんて……思わ無かった、ろ?」 驚愕の表情のまま、胴体を切り裂かれ絶命したエロリアの死体を見下ろし、 口から血を吐きながらも、ブライアンは笑みを浮かべエロリアを嘲る。 「ああ、だけど……俺ももう、駄目だな、こりゃ」 しかし、ブライアンにも、死の時が訪れようとしていた。 全身に5.56㎜NATOライフル弾を食らったブライアンの身体は、 最早後数分も生命活動を維持出来ない。 アスファルトの上に仰向けに寝そべり、天を仰ぐブライアン。 気持ち良いぐらいに晴れた青空が見えた。 「俺にしちゃ……頑張ったよ、な……? アレックス…………」 戦士の男が最期に呟いたのは、この殺し合いにはいない、親友の名前だった。 【聖徳太子@ギャグマンガ日和 死亡】 【勤武尚晶@オリキャラ 死亡】 【エロリア@VIPRPG 死亡】 【ブライアン@VIPRPG 死亡】 【残り 7人】 侍、狼少女、医者、幕間 時系列順 救いなんて有りはしない、どこにも。 侍、狼少女、医者、幕間 投下順 救いなんて有りはしない、どこにも。 勇気を出せばきっと何かが変わる ブライアン 死亡 勇気を出せばきっと何かが変わる 聖徳太子 死亡 血塗られた聖堂 勤武尚晶 死亡 人は何故……。 エロリア 死亡
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第0話・プロローグ―――――――――――――――――――――――――――――――― 「ふぁ~ぁ・・・どうしようかな・・・この後の展開。 ネタは腐るほどあるんだけど、どれを使おうか迷うな・・・」 「レクイエムの今後の展開・・・どうしようかな・・・」 レクイエムとは、この少年の書いている小説であろう。 「あっ、そうだ・・・飴、飴・・・」 そう言うと、少年はイスに掛けてあるカバンに手を突っ込み、飴の袋を取り出した。 「~♪」 飴を頬張ると、嬉しそうな顔をして、またパソコンのキーボードをカタカタと打ち始めた。 『おーい!飯だぞー!』 「分かったー!」 少年は階段を下りて行く。 「ん?おわっ!!」 少年は突然声を出し、神隠しにあったかの様に消えた・・・ ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ようこそ・・・異能の能力を持った人間さん。」 「異能の能力?! と言うか、此処は何処なんだ?」 「ここ?ここは・・・」 そこまで聞くと途中で意識が途切れてしまった・・・ 「うっ・・・ここ・・・は・・・?」 少年は起き上がり、辺りを確認するとそこが森だと気付いた。 「ここは・・・どこだ・・・?」 少年が辺りを見回していると・・・ 「ねぇ・・・そこの人間さん?」 突然後ろの方から声が聞こえる。 少年は恐る恐る後ろを向くと・・・ 幼くて金髪でリボンをした少女が立っていた・・・ 「あなたは食べてもいい人類?」 「(何だこの娘・・・何を言っているんだ・・・?)いや、駄目だ。」 「何でー?」 「(取り合えずやばそうだから、この場を何とか逃げよう・・・)何でも、それに俺は食べてもまずいよ。」 少年は必死にこの場から逃げようと思うが、少女は少年を逃がす気はないようだ。 (この娘・・・何処かで見たことあると思ったら・・・東方のルーミアじゃ無いか・・・どうしよう・・・って!!何でルーミアいんの!? あれ?まさか・・・ここってもしかして・・・幻想郷~!!?) 少年は頭の中がパニック状態に陥っていた。 東方・小説書いてる奴が幻想入り ―――――小説書いてる奴が幻想入り―――――第一話A 名前 コメント
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「い~ざゆ~け~、む~て~き~の~、わかたかぐん~だん~♪」 E-6の球場の遊撃手の定位置ら辺り。 ホークスの応援歌『いざゆけ若鷹軍団』を口ずさみながらステップを踏む書き手がそこに居た。 リズム感抜群、かつ、キレのいいダンス。 トップアスリートの持つ高い身体能力の姿の賜である。 その書き手の容姿は勿論、ムネリンこと川崎宗則。 彼の名は川崎宗則全一(◆7WJp/yel/Y)。川崎宗則ロワのトップ書き手だ。 この殺し合い開幕してから彼がずっと『いざゆけ若鷹軍団』を踊っていた。 別に「『いざゆけ若鷹軍団』を踊り続けないと死んでしまう」という彼に課せられた能力制限ではない。 彼がただ純粋に身体を解すためのウォーミングアップしているのである。 Q この殺し合いに乗ったことを知ったら川崎宗則ロワの書き手達は驚く。 川崎宗則ロワの書き手達と川崎宗則ロワを書くために。 野球は一人ではできない。リレー小説もまた然り。誰かが居てこそのリレーなのだ。 特に川崎宗則ロワを立てたMr.川崎宗則(◆51/314RH96氏)は生き残らせたい。 彼とまた同じ川崎宗則ロワを書きたい。 A.ちょっと殺人鬼みたいで怖いなって思うかもしれない。 川崎宗則ロワのため。川崎宗則ロワ書き手達のため。 帰還して川崎宗則ロワを書くために。 彼はこの殺し合いに乗ったのだ。 その顔は――――――― A.でもしょうがないですよね(マジキチスマイル)。 ただ気狂い染みた笑いが張り付いていた。 【一日目・深夜/E-6/球場の遊撃手の定位置ら辺り】 【川崎宗則全一(◆7WJp/yel/Y)@川崎宗則ロワ】 【状態】健康 【外見】川崎宗則(どの川崎宗則かは不明) 【装備】 【持物】基本支給品、不明支給品1~3 【思考】 基本:Mr.川崎宗則(◆51/314RH96)や他の川崎宗則ロワ書き手を生き残らせつつ、共に生還する。 0:Q.この殺し合いに乗ったことを知ったら川崎宗則ロワの書き手達は驚く。 1:A.ちょっと殺人鬼みたいで怖いなって思うかもしれない。 2:A.でもしょうがないですよね。(マジキチスマイル) 032 正直自ロワの後続書き手には申し訳ないと思っている ◆時系列順に読む 034 My Way 032 正直自ロワの後続書き手には申し訳ないと思っている ◆投下順に読む 034 My Way 川崎宗則全一 087 走為上?
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2007 6/15…生徒会発足 すべての始まりはこの一言http //wifi2.sakura.ne.jp/bbs_talk/index.cgi?mode=view2 f=18790 no=947 CCレモン(現まっかっか)がこの発言をしたことによりめでたくスレ名は決定された。 チーム HAPPY☆HAPPY☆FRIEND――― このスレと生徒会役員6人(ハヤテ好き)がいなければこのスレは生まれなかった。 今のチーム HAPPY☆HAPPY☆FRIENDは完全抜け殻状態だが気にしない。だが稀にあがる。←終了しました。下記参照 これが祝☆一スレ目。http //wifi2.sakura.ne.jp/bbs_talk/index.cgi?mode=past no=19196←リンク切れ(笑) 現在とは違って、スレ数の数え方が【~学期】だった。 2008 3月某日 アニメ「ハヤテのごとく!」が終了。と同時に二期制作発表。 スレが落ち込むかと思えば盛り上がる。 2008 秋某日 まっかっかがT5発症。T5については彼のページのリンクのリンク参照。 この辺りから生徒会の方向性が狂う。 2008 12/28…生徒会の元となったHAPPY☆HAPPY☆FRIENDのスレが終了。 生徒会と合併する。 2009 春某日 アニメ「ハヤテのごとく!!」放送開始。少し勢い回復…? 2009 夏某日 アニメ「ハヤテのry」終了。そして減速へ――― 2009 夏~冬(秋?) 沖田が一旦生徒会から失踪 理由としては自分が生徒会で浮いてるような気がしたから(本人談) その後反省し12月ころに戻ってきました。 現在 沖田も戻り勢いが戻ると思われたが 沖田、不安定(まっかっか)、朽木と3人の役員が受験な為ペースは戻らない 朽木さんは受験後に戻るみたい 沖田くんはまだまだ先だよ(笑 編集中 過去の資料全然ないわ… PHの自分のページのように本気だしてないのは面倒なんじゃないんだからっ!
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生徒会役員共@Wikiへようこそ! 祝、アニメ化! 公式HP このウィキは、生徒会役員共をはじめとする情報をまとめるデータベースです。 無かったので作ってみました。 とりあえず生徒会役員共を読んでみる?(講談社のページに飛びます。) 生徒会役員共@wikiへようこそ まだぜんぜん出来ていないので、新しいページをどんどん立ち上げてかまいません。編集もお気軽にどうぞ!! 要望はこちらまでお願いします。 未製作ページ(詳しい人はぜひお願いします。) チバテレビ 七条アリア 萩村スズ 津田コトミ 横島ナルコ 三葉ムツミ 週刊少年サンデー 週刊少年ジャンプ 妹はひまわり組 最近更新されたページ 取得中です。 お気に入りに追加してもらえるとうれしいです。 バグ・不具合を見つけたら? 要望がある場合は? お手数ですが、メールでお問い合わせください。要望はこちらでもいいです。
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「こ、殺し合えって……何よそれ……」 美樹さやかは、分かりやすく動揺を表しながら、暗闇の中に立っていた。 唐突に始まった殺し合い。 死にたくなければ、願いを叶えたければ、殺しあえと告げられ、この場に連れられた。 訳が分からない。どうしてこんな事になっているのか。 「ど、どうしよう……どうすれば……」 パニック状態になりかけながら、美樹さやかは思考する。 これからどう行動していけば良いのか。 どうにかしなくては……、胸中に湧き上がる焦燥に押されるように走り出す。 と、そこで思い出した。 「あれ? でも、そういえば私って……」 そう、自分が負ける筈がないという事を、美樹さやかは思い出す。 この殺し合いに連れて来られる少し前の出来事。 クズな親友が魔法少女になろうとした瞬間、その願いを奪い取った。 親友の声色を蝶ネクタイ型変声機で真似して、願いを告げた。 『さやかちゃんが全ての宇宙の中で一番にかっこよくて素敵な最高の凄い魔法少女になれる』ように、と。 願いは受け入れられ、自分は強くなった。 魔法少女として最高の才能を持つとされていたクズな親友を打ち破れる程に、強くなった。 そうだ。 自分に勝てる存在なんている訳がない。 どんな敵であろうと自分に掛ればお茶の子さいさいの筈だ。 「そうだよ、私に敵う奴なんていないんだ……まどかだって私にかかれば……!」 負けない。 『全ての宇宙の中で一番にかっこよくて素敵な最高の凄い魔法少女』になった自分が、負けるはずがない。 「ふん。なら、もう何も恐れるに足らず!! 待っててね、さやかちゃんがちょちょいと皆さんのことを助けちゃいますから!!」 自身の強さを確かめた事で、さやかは平常心を取り戻した。 何時も通りの軽口を飛ばしながら、魔法少女に変身して走り出す。 空気を切り裂いて進む姿は、圧倒的なものであった。 彼女が通った後には豪風が吹きすさぶ。 木々が揺れ、葉が飛ばされる。 凸凹な地面の状態など気に止める必要すらない。 人影が青色の流線となり森林を走っていく。 ほんの十数秒で一キロを走り抜いた彼女は、そこで他の参加者を発見した。 遥か彼方の住宅街、家と家の間から見えた姿を見て取り、その場に立ち止まる。 焼け焦げた匂いを残しながら、さやかは見た。 パッと見はそこらへんに居そうな男性。 取り敢えず合流でもして安全な場所に連れてってあげますか、と軽く考えたところで、青色の魔法少女は再び動きを止めた。 またもや、思い出したのだ。 殺し合いに連れて来れる前の出来事を。 その苦い記憶を、思い出してしまった。 『男子の皆さんは、くれぐれもさやかちゃんとは交際しないように!』 クズな親友との戦いに勝利した直後の事、親友はわざと弱った振りをして被害者面をした。 いつのまにか集まっていた皆の前で、恥も臆面もなく、泣き真似をしたのだ。 そのせいで、皆は自分が親友の事を虐めていると勘違いをし、そこにいた担任の先生がこう言った。 『あい』 『ああ』 『うん、分かった』 そこにいた男性陣は、揃って頷き始めた。 まだ幼稚園にもいっていない子どもから、良識ある大人、果てには謎の宇宙生命体さえも。 『うん』 そして、幼馴染の少年も、そう言った。 幼馴染の少年は、もう自分の事など目にも止めなかった。 危機を救ってくれた少女に首ったけとなり、しきりに話しかけていた。 もう見てくれない。 誰も、私のことを信じてはくれない。 全ては、クズな親友……いや、もう親友ですらない……ただのクズ女に奪い取られてしまった。 幼馴染の少年は、心の底から好きだった少年は、もう二度と振り向いてはくれなかった。 もし。 もし、だ。 この殺し合いで優勝してしまえば、願いを叶えてしまえば、元通りになるのではないか。 友達も笑いかけてくれる、想い人とも笑いあえる、そんな日々が戻ってくるのではないか。 また、彼と笑って過ごせる日々が、そんな楽しい日々が戻ってくるのではないか。 そう、優勝さえしてしまえば―――、 「……ダメだよ」 さやかは、振り切るように頭を振った。 己の内に湧き上がった邪な感情を振り切るように。 自分が魔法少女になった理由は、彼の手を治すためだ。 自分の為に魔法少女になった訳ではない。 魔女やその使い魔に苦しめられる人々を救う為に、魔法少女となったんだ。 自分勝手な理由でこの強大な力を振るってしまえば、それはアイツと同じだ。 どこまでもクズな女―――鹿目まどかと同じになってしまう。 それだけは、嫌だ。 自分はアイツのような魔法少女にはならない。 それが、今の自分に残されたたった一つの道しるべ。 彼に捨てられようと、周りの皆から見捨てられようと、アイツと一緒になることだけは嫌だった。 「そうだよ。私は絶対にアイツのようにはならない。絶対に―――!」 迷いを振り切り、さやかは行動を再開する。 ずっと遠くにいる男の元へと瞬く間に到着し、男へと笑みを向ける。 男は少し驚いた様子で、突然現れたさやかのことを見詰めていた。 勇気づけるように、自信に満ちた笑顔を浮かべて、口を開くさやか。 大丈夫ですか? 安心してください。 そんな事を言おうとしたが、それよりも先に、 「―――諦めろよ!!」 男が、叫んだ。 とてつもなく大きな声で、さやかを睨み付けて。 「どうしてそこで頑張るんだ、そこで! 嫌な事、悲しい事、辛い事、誰も分かっちゃくれないんだよ!! 世の中思い通りにならないことばかりだ! あーはぁん、何の意味もないよねー。頑張ってもさあ、崖っぷち!!」 男が何故こんな事を言い始めたのか、さやかには分からない。 ただ困惑でもって、男の言葉を聞いていた。 だが……何でなのだろう。 寒い。 冬国に連れてこられたかのように、周囲の空気が冷たくなってきている。 それも体だけでなく、心までも。 全てが冷えていくのを感じていた。 「な、何を……わ、私は別に……」 「分かるよ! 頑張ろうとしているんだろ、努力しようとしているんだろ! 馬鹿野郎!! 諦めろ!! 絶対にできない!!」 「な、なんでアンタにそんなこと言われなくちゃなんないのよ! 私はこの殺し合いを叩き潰す! 絶対に殺し合いなんてさせるもんか!」 さやかも、侵襲してくる寒気に抗うように声を荒げた。 決意を口にだし、己を奮い立たせる。 「そんなの出来る訳ないだろ!! だめだめだめだめ、出来る訳ない!! 世間はさ、厳しいんだよ!! そんな甘い考えが通じるようなもんじゃないんだよ!!」 「そ、そんな事……!」 言葉は止まらない。 さやかの抵抗を嘲るように、声は勢いを増していく。 「無理無理無理!! できないできない!! もう諦めろよ!! 絶対にできない!! 分かってくれる人はいる? そんな訳ねえじゃん!!」 「う、うるさい! 私は絶対にやり遂げるんだ! あ、あんたが何て言おうと絶対―――」 「んな訳ねえだろ!! 諦めろよ、諦めてみろって!! お前だって心の中では分かってんだろ!! 誰も分かっちゃくれないって!! 努力したって誰も理解してくれないって!!!」 「うるさいうるさいうるさいうるさい!! 何も知らないお前が、これ以上喋るな!!!」 「嫉妬、悪口、そんなんばかりだ!!! どんなに頑張ってもさあ、誰も分かってくれねえんだ!!! だから―――」 「だ、黙れ……!」 寒い。寒い。寒い。 まるで極寒の地にいるかのように、全てが凍えて思えた。 頑張ろうと決意した全てが、虚仮にされ、消えていく。 「―――だから、諦めていけ!! Give up!!」 最後の一言は、あまりに力強いものだった。 心に衝撃が走る。何もかもが崩れ落ちていく。 嫌だ。私は皆を守るんだ。皆の為に戦うんだ。 諦めてなんかたまるか。 だから、だから―――、 「っ、黙れよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」 ―――グシャリ。 「え……」 そして、惨劇が広がった。 さやかからすれば、軽く押しただけであった。 ネガティブな言葉ばかりを吐く男を止めたくて、その胸を押しただけだ。 だが、考えてみて欲しい。 今現在の美樹さやかは魔法少女である。 それも、生半可な魔法少女ではなく、『全ての宇宙の中で一番にかっこよくて素敵な最高の凄い魔法少女』だ。 最強の魔法少女である鹿目まどかをも打ち倒す、究極の魔法少女。 その身体能力は如何ばかりか……推し量ることすら難しい。 少なくとも、軽く押すという動作だけでも、常人からすれば脅威である事は確かのようだ。 そう、美樹さやかの、胸を軽く押すという動作で男は死亡した。 大型トラックに衝突されたかのような衝撃に、男の身体は後ろへ吹っ飛んで、民家の一件をぶち壊す。 男の胸部にはさやかの手形が刻まれていて、その奥にある内臓器官全てがぐちゃぐちゃに潰れていた。 上半身は原型を留めない程にメチャクチャになっている。 即死であった。 男―――鬱岡修造は、惨状のど真ん中で死亡した。 「う、うそ……わ、私……」 数秒までの言い合いが嘘のように、周囲は静寂に包まれていた。 さやかは己がしでかした事を受け入れられずに立ち尽くす。 呆然と眼前の惨劇を見詰めて、左右に首を振った。 「ち、違う……私は―――」 遂には背を向け、走り去ろうとしてしまう。 そこで、見た。 警戒心に満ちた瞳でコチラを見詰める少女の姿を。 「ち、違うのよ! これはコイツが!」 「……見てたわ、全部」 「な、なら、分かるよね! 私は悪くない、全部誤解なんだって!」 「何を口論していたかは分からないけどね……無抵抗の人間をこんな風に殺害しといて誤解っていうのは、ちょっと虫が良すぎると思わない? いくら状況が状況とはいえね」 「違う……」 「……あなたを、拘束します」 「違うの……」 少女は、軽蔑に満ちた瞳でさやかを見詰めていた。 少女は、本当に見ていただけなのだ。 さやかと鬱岡との口論は、聞こえていなかった。 口論をしている、というのは分かっても、その詳しい内容までは聞こえなかった。 だから、敵意と警戒心を剥き出しにする。 「この異常な状況です。これ以上罪を犯さなければ、情状酌量の余地はあります。だから、抵抗はしないで……お願い」 ティアナ・ランスター。 時空管理局の若き魔導師は、己の正義心を信じて行動をする。 「違う……違うぅぅ」 さやかは涙をポロポロと零しながら、己の正当性を叫んでいた。 だが、声は届かない。 鬱岡を殺害してしまった事は紛れもない事実であり、覆しようがない。 さやかが何と言おうと、ティアナに引くつもりはなかった。 だからこそか、その瞳が怖かった。 警戒心に満ちた瞳が、不信しかないその瞳が、怖い。 何で信じて貰えないのだ。 私は、私は、私は―――、 「違うぅぅぅぅぅぅぅぅうううう!!」 思わず、手を払いのける。 拘束しようと掴んできたティアナの手を、思い切り。 何度も言うが、今のさやかは『全ての宇宙の中で一番にかっこよくて素敵な最高の凄い魔法少女』だ。 その身体能力で払いのけられた腕は、容易く曲がってはならない方向に曲がってしまう。 しかも今回は鬱岡の時のように軽く押した訳ではない。 殆ど反射的な動作であり、そのため手加減をする余裕がなかった。 ティアナの腕は、折れ曲がってなおも勢いを止めない。 折れた腕が捻じれていき、遂には―――捻じ切れる。 ブヅリと、嫌な音をたてて、ティアナの腕が千切れ落ちた。 「あ、あああああがあああああああああああああああああああああああああ!!!」 「う、うああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」 絶叫が重なる。 片や痛みからくる絶叫と、片や己のしでかした事に対する恐怖からくる絶叫。 絶叫を迸らせながら、魔導師は気絶し、魔法少女は場から逃亡した。 自分のしてしまった事に恐怖し、とめどなく涙を零しながら、美樹さやかは逃げ出した。 【一日目/深夜/D-3・住宅街】 【美樹さやか@クズなまどかシリーズ】 [状態]全ての宇宙の中で一番にかっこよくて素敵な最高の凄い魔法少女 [装備]ソウルジェム@クズなまどかシリーズ [道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3 [思考] 基本:殺し合いを阻止する 0:うそだうそだうそだうそだ…… ◇ そして、場に残るは惨状。 家に突っ込み、上半身を潰した男の死体と、右腕をなくし、切断面から大量の血液を零し続ける少女。 そんな惨状を、遠くから眺めている者がいた。 その人物は、全てを全て見ていた。 鬱岡とさやかとの口論から始まり、ティアナが腕を失い気絶するまでの全てを、見て聞いていた。 その人物からすれば、異常なのは鬱岡の方であり、さやかは被害者のようにも見えた。 さやかの殺人は確固たる事実であるが、その動作から殺意は見られなかった。 弾み、という言葉がしっくりと来るか。 少なくとも、さやかが悪人のようには見えなかった。 「ううっ……ヒドいな、こりゃ」 だが、その人物にさやかを擁護するつもりはなかった。 このまま騒ぎを拡大してくれれば、自分の目標が早く達成できると思ったからだ。 人物の名は、エイラ・イルマタル・ユーティライネン。 エイラは物陰から現れて惨劇の場を見渡し、気絶中のティアナの傍で立ち止まる。 その傷を見て顔をしかめる。 「手当をすれば、命は助かるだろうけどなあ……」 傷は酷く、出血も危険な域だ。 とはいえ、しっかりとした手当さえすれば、命は助かるだろう。 屈み込み、その傷に身体を近付ける。 そして、 「―――でも、無理ダナ」 右手にもった拳銃で、ティアナの頭を打ち抜いた。 額に眉を寄せ、顔を曇らせながら、それでもしっかりと引き金を引いた。 「悪いな。私は……サーニャを助けなくっちゃいけないんだ」 エイラは殺し合いに乗った。 想い人たる一人の少女を救う為、ただそれだけの為に。 引き金を、引いた。 「だからさ……出てこいよ」 エイラはゆっくりと立ち上がりながら、デイバックへと手を伸ばす。 取り出されたのは、MG42―――汎用機関銃。その銃口を暗闇の先に向けた。 「……気付いてたのか」 「ううん、そういう訳じゃないけどなー」 エイラが有する固有魔法『未来予知』。 その能力により察知できたのは、数秒後の未来に物陰から出てくる『筈だった』男の存在。 エイラの言葉により未来は変わり、男はエイラの促しにより出てくる形となった。 少年は警戒に満ちた表情でエイラの事を睨んでいた。 「……何で、この女を撃った」 「優勝を目指してるからに決まってるだろ。そういうお前はなんで止めなかったんだ?」 「……止めるのが、間に合わなかっただけだ」 「嘘だな」 少年は、どうすべきか悩んでいた。 森林の奥から聞こえてきた轟音に導かれてみれば、そこにあったのは一つの惨劇。 この女が惨劇の全てを引き起こしたのか、少年には分からない。 辿り着いたその時には、既にこのような状況であった。 だが、エイラがティアナに向かって引き金を引く瞬間には、少年はこの場にいた。 止めようと思えば、止めれただろう。 一言止めろと声を上げ、エイラへと殴りかかる。それだけで十分だった筈だ。 だが、少年はそうしなかった。 迷っていたからだ。 殺し合いに乗るべきか否か、少年はまだ迷いの中にあった。 「お前、分かり易いぞ。顔に全部でてる」 「……うるせえ」 叶えたい願いがあったのは確かだ。 願いの成就を追い求めて、次元をも超えた殺し合いに参加したことも事実。 現界した6人のサーヴァントによる、聖杯を巡る争乱。 結果だけを言えば、少年は勝ち残る事ができなかった。 敗北し、自分の願いを叶える事はできずに……だがしかし、相棒たる人物の願いを叶えて、消滅した。 その末に辿り着いた、殺し合い。 再び訪れた願いを叶える機会。 自分はどうすれば良いのか。どうしたいのか……正直に分からないというのが、答であった。 「じゃあ、悪いけど死んでくれ」 「嫌だね。断る」 ともかく、まだ何も決めていない状況で、むざむざと死んでやる訳にもいかない。 相手は明確な殺意をもって戦おうとしている。ならば、応戦するしかない。 第6次聖杯戦争において『キャスター』の位でもって現界した英霊―――エドワード・エルリック。 エドは戦闘の構えをとって、エイラと相対した。 エースウイッチとサーヴァント。 時間も世界すらも違った二人の人物が、惨劇の場で戦いの火ぶたを切ろうとしていた。 【鬱岡修造@現実 死亡確認】 【ティアナ・ランスター@魔法少女リリカルなのは 死亡確認】 【一日目/深夜/D-3・住宅街】 【キャスター(エドワード・エルリック)@第六次聖杯戦争】 [状態]健康 [装備]なし [道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3 [思考] 基本:俺は……どうしたいんだ……? 1:眼前の少女を倒す。殺すかどうかは…… 【エイラ・イルマタルユーティライネン@ストライクウイッチーズ】 [状態]健康 [装備]MG42@ストライクウイッチーズ、護身用拳銃@ストライクウイッチーズ [道具]基本支給品一式、ランダム支給品×0~1 [思考] 基本:サーニャを生還させる 1:目の前の少年を殺す 2:サーニャや仲間とは……合流したくない 3:青髪の少女には暴れまわって欲しい その幻想を燃やし尽くす!! ~説教と熱血が交わり最強に見える~ 投下順 お前のガンダムねぇから!! ~ガンダムマイスターVS絶対鬼畜防御兵器~ GAME START 美樹さやか [[]] GAME START 鬱岡修造 死亡 GAME START ティアナ・ランスター 死亡 GAME START エイラ・イルマタル・ユーティライネン [[]] GAME START キャスター(エドワード・エルリック) [[]]
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私が初めて叔父の研究室に訪れたのは、今から6年前だった もともと研究職に憧れていて大学も叔父と同じ生物学を専門に進んでいた 好きなことはとことん突き進む性格もあり、成績も良好で叔父の研究所に就職することができた 「よろしくお願いしますね。叔父さん」 「ここではエドワード所長。そう言ってくれよ…」 叔父であるエドワード・エスターが所長を勤めるエドワード研究所は 主に優秀な遺伝子やより人間に近い人造人間など 先進的な生物学を専門としている そして本質は櫻の国に存在する御三家「陸月家」の保有する研究所で優秀な悪魔祓い師を作る 御三家とは「海無」「岸織」、そして「陸月」の 一族によって構成された櫻の国に存在する悪魔祓い師の集団を指す 彼らはその血筋に「異形」を殺すことに特化した能力を有していることが特徴だ 始まりは数百年前、共に同じ能力を有した彼らが出会い共に同じ人類の幸福を願って戦いをしてきた だが、それはもう昔の話だ すでに時代は、当初の盟約を切り捨てている 悪魔祓いの技術の差、他者への嫉妬に近い醜い争いはすでに殺し合いにも発展していた 「君も聞いてはいるだろう…? あの海無が未だに御三家最強の地位にたち続けていることに」 「はい…」 互いを潰しあってるなか、各勢力の差を覆そうと必死になっている 序列は古き伝統を守り続ける「海無」 科学技術や海外の技術を得ている「陸月」 一族の才能を伸ばし続けている「岸織」の順とされている だが、陸月家は現在低迷を続けている 本家の長男夫婦は子宝に恵まれず、血筋を重んじるが故に養子も迎えるできず 挙句の果てにはタイミングがよかっただけとはいえ、もう殆ど衰退している岸織にさえ覇権を握られた始末だ その屈辱を受け陸月家はその科学力を前面に押し出して、現在の人造人間の制作に至った 一族の才能を受け継ぎつつ、海無や岸織に劣らない陸月家の人間を作る それが、この研究所の目的だ 「今現在稼動している人工母体は現在神寄の海無の少女の遺伝子から作られたものを、それと岸織の子と我等陸月の遺伝子を使って ホムンクルスを作るっているんだ」 目線の先には緑色の液体に満たされたガラスケースの中に白髪の少年が体中にチューブをつけた姿で浮いている それが1体ではない、所長とともにいる研究室にだけでも10体以上が見える そのすべてが、同じ顔をして深く眠りについている 「彼らは全て失敗作だ、あらゆるパラメーターが基準値に達していない。一応経過観察はするが…一週間もすれば廃棄だ」 「………。」 陸月家を救済する打開策だ 他の御三家のオリジナルが存在する以上、それらを超える必要がある だが、未だにオリジナルを超えた個体の製造法はいまだ確立されていない 偶発的に高いパラメーターを有した存在がいるのだが、それでも今まで作られた数千体のうちに2,3体らしい 「君は確か独自の人造人間制作理論を組んでいるらしいね。」 「はい。しかし、あまりに成功率が低くて……可能性として数百回挑戦して成体まで成長できるか…」 「構わないよ、今は新しいことをどんどんやる事が大切なんだ。君に新しい研究所を与えよう、必要なら人員も用意しよう」 ~~~~~ 私は好きでこの仕事をしている いくら叔父がその陸月と遠い親戚だろうと関係はない 人の命の誕生を自らの手で成し遂げてみたかった、ただそれだけだ 妊娠とか、そんな普通のことでなく 自分の、手で。新しい命を 「室長、資料もって来ました」 「あぁ、ありがと。置いといて」 研究所に配属されてすでに1年だ 叔父から研究室を渡され、自分の理論で人造人間の製造をしているが思いの他上手くいかない 別に問題はないと叔父は言う 聞けばすでに8年以上研究室と人員、資金を借りているが成果が出ない研究室もあるらしいがそれでも どこか申し訳ない気分になる 「室長も、少し休まれてはどうですか? ここ半年毎日3時間以上寝ました?」 「いいのよ、好きでやってるんだから……このデータよろしく」 今日も実験失敗実験失敗の繰り返し 受精まで至っても、そこからの成長が上手くいかないのだ なんども薬品の分量の変化、あらゆるサンプルとの比較、実験の繰り返しだ なんど、あの整った顔を望んできただろう 自分が作って廃棄された彼らはどこに行くのだろう 初めていい線までいって廃棄確定な失敗作だったときは思わず泣きたくなったこともある そして今も、ディスプレイに映った「失敗」の羅列 何十回、何百回、何千回と何度も見た光景だ、もう慣れている それでも、再び実験を繰り返す まだ見ない、彼の産声を夢見ながら―――――。 「――――――ん。」 いけない、寝てしまっていた 時計を見ればすでに午前4時だ 意識が飛んでいたのだ、今日はこれぐらいにしようか この研究所生活に特に朝礼とか面倒なしきたりはないが、毎度お世話になっている食堂のメニューは待ってくれない さっさと仮眠して、朝食を食おうかと そう思ってパソコンの電源を落とそうとしたら 「………え?」 さまざまなグラフや計算がリアルタイムで動いている中、ひとつの文字を見つける 【成功】の2文字 「………は?」 それは確かに存在していた 間違いない、今目の前のガラスケースの中でひとつの命が――――――。 「~~~~~~~っっっ!」 ~~~~~ 「この子が?」 「えぇ、研究室の発足1年で受精を成功させ、成体成長に至るとは…所長の姪さん…でしたっけ?」 「はい、鼻が高いですな。はっはっは」 受精から1年、この子はすでに10歳程度までに成長した 成長するほど成長促進剤の量が増えるため、適宜休息を与える必要があり許可を得てガラスケースから出すことは多くなった 初めて出たときは歩くことも、喋ることもままならなかったがその知識レベルは高いらしく 片言ではあるが、日常会話をするようになった 「おかあ……さん…?」 「そうそう、室長をそう呼んであげればきっと…」 「馬鹿、何してるのよ。さっさと仕事しなさい」 名前は「被検体:2645号」 素っ気無いかもしれないが、そうするのがここの決まりだ 白い癖毛の髪に紅いの瞳……それはみんな一緒だが、それがこの研究室で生まれた子だ 「ほら、室長も……そんな素っ気無いことしないで下さいよ~。 この計算ドリルもすぐに解けたんですよ? ちょっと頭なでるくらい…」 「そんな………この子は研究材料で…」 「…………」 この子はよく、こうやって好奇心に近いまなざしで見てくることがある そうやって見てくることがよくある 私の研究資料や、パソコンのディスプレイをじーっと眺めることが好きなのだろうか 「ほら室長~」 「まったく………ほら」 「……………えへ」 初めて撫でてあげた 彼の頭はとても柔らかくて―――――気持ちよかった ~~~~~ 「海無が最近活動が活発でここの存在に気づいているらしい」 「既に中小規模の研究所は潰されてます」 「あいつら悪魔祓いの形式は古い癖にこういう破壊活動には自前の部隊があるらしいぜ…」 「仕方がない、拠点を移す必要があるそうだな」 「………この研究所を捨てる?」 「はい、室長。既に海無は活動を始めています……一週間後には星の国の支所に移動ですって」 「移動か……この研究所も好きだったんだけどな…」 あれからもう2年は経っている 「被検体:2645号」が誕生して既に3年だ。以前、彼の成長は安定しており、所長も彼の存続を認めている 彼が成長促進剤に満たされたガラスケースに入れられている時に助手がそう伝えたのだ この研究所は既に6年と入り浸っているが、愛着がわくのもしょうがないだろう ただ、ここを潰されればもう研究もできなくなる 海無の武力介入がどの程度か分からないが、しばらく研究できないと一生できないじゃあ比べられない 「分かったわ、成長促進剤も次の分はその支所で入れましょう。聞こえてる?2645号。」 『うん、分かったよ。室長』 ぷしゅーっとガスの抜ける音と余剰成長促進剤を排出する シャワーを浴びさせて「被検体:2645号」タオルを頭に載せて研究室に帰ってきた 「引越し?」 「うん、そうよ。しばらく実験はできないわ」 「そっかー……暇だなー…」 ここの生活で「被検体:2645号」の仕事はその殆どが薬剤注入に耐える肉体作りだ 連続で受けるのは体の負担となるので健康維持くらいしかやる事がないのだ 「そう言われてもねー…」 「……あ!室長!あそこ!ショッピングモール!最近できたって言うあれ!」 「え…あそこに? そんな私…人が多いところは苦手で………」 「行く」 「…………え?」 「行くの……室長」 この子の性格は中々面白いものがある 好奇心が旺盛で、見たことないもの、知らないものに興味があるのだ おかげで私は、行った事もないショッピングモールに行く羽目になったのだ ~~~~~ 「ねぇ、これなに?」 「犬よ。動物は苦手なんだけど…」 「ねぇ、これなに?」 「ゲームセンターよ。あなたにはできないわ」 「ねぇ…これって…」 「ちょっと待って………つ…疲れたわ…」 この子は本当に元気だ 世の母親という人種はこれを何年も、育てるのか…… 信じられない………と、頭の中で思考する 「それに貴方、えっと……他に着るものはなかったの?」 「……? 無いよ?」 研究所で支給されている白衣だ この子は患者服の上にそれを着ているスタイルだ いや、ただの実験体に服なんてあまり必要ないかもしれないのだが… 「………ちょっとこっち来て」 「……?」 向かったのは服屋のコーナーだ 未だにその行動原理はよく分からない ただ、私は買ってあげたかったのだろうか この子に服を着させてあげようと思えたのだろうか 「この服と、これ、あと…これも」 「ありがとうございます~!」 店員に服を突き出して会計を済ます 体のサイズは研究対象だ。よく知っている そんな彼に合ってる服を適当に そんな姿を、彼は後ろでどんな顔で見ていたのだろう 「………えへへ」 「…………………。」 その服は、似合っていたと。思う とても だが、そんな日々は続かなかった ~~~~~ 衝撃は痛覚で伝わった 耳を裂く衝撃音は研究室にいた自分にも伝わってきた 「室長!」 「分かってる! 急いで資料をトラックへ!」 衝撃が収まると同時に警報のアラームが鳴り出す 所長の放送も聞こえてきた 『全職員に告げる!ランクA以上の資料をB-1地区の運搬トラックに運び、非難するんだ! これは訓練ではない!繰り返すこれは訓練では……』 続く爆発音、これは研究所の正面ゲートを破壊したか 海無の連中の仕業に違いない 窓から覗けば黒い装備に身を包んだ特殊部隊のような人間が研究所の敷地に入っていくのが見えた 「くっ……早く資料を! 私は別ルートから彼を連れて行くわ!」 「はい!」 「行くわよ!」 「う、うん!」 できるだけ大きい道は通らない あまり知られていない裏道使う 銃声と爆発音が間違いなく自分のいる研究棟で響いている もう、敵は近いのが分かる 「室長…!」 「大丈夫!大丈夫よ…!」 彼の手を引いて走る 何故だろう、彼を握る手はとても強かった気がする 「だめだ!その子……「被検体:2645号」は乗せられない!」 「どうして!? この子は順調に成長して――――」 「ランクA以上だ!この子のランクは基準値に達していない!」 「それは…!」 そう、この子は決して成功した優秀な被検体ではない ただ生きながらえただけ、たまたま成体まで寿命がもっただけ それだけなのだ、この施設に存在するランクC以下の子 「それじゃあ、他の被検体は――――!」 「もちろん捨てるさ、ランクA未満はな」 急ぎ足でドアを閉めて発進するトラックに載せられた3体の子供 彼らだけだ、生存を許されたのは 「早く君も乗りたまえ、君にはまだ仕事をしてもらわなければ――――」 「乗りません」 確かに、言い切った 「な、何を―――」 「この子を逃がします。先に出てください」 そういって私は「被検体:2645号」の手を引いて研究所に戻った 後悔は無かった なぜか、「この子を捨てたくない」という なんとも言いがたい感情が、心を満たしていた ~~~~~ 「陸月の人間だ。撃て」 「くっ!」 銃声が響き渡る もう数センチ先には死が待っている 機関銃を持った海無の兵士が当たりに弾丸を撒き散らして――― 「見つけたぞ!」 「―――――っ!」 走る、走る、走る 右手に伝わる温かさ これを助けたい―――――。 「室長……」 この気持ちだけで、 私はここまでやってきた 【医療用緊急コンテナ】 やっと見つけた 緊急時における生命維持装置の役割を果たすコンテナ 殆ど利用されないからうろ覚えだったが、見つけることができた 「室長………」 「服は脱いで、毛布はあるから、この中に入って」 脱がせて、それをコンテナの端に 医療用の清潔な毛布を裸の「被検体:2645号」に与えて、コンテナを起動する 「室長……・・・」 「この中なら大丈夫、だから早く…」 だが、彼は動かない なぜかそこに立ち尽くす 急がないと――――――、早く! 「なにしてるの!早く中に―――――」 「嫌だ!」 「どうするの……室長……。室長は……どうするの?」 「……………」 「どこに………行くの……?」 私は、自分の首に巻かれたタグ型のペンダントを外す これは私のものだ、ここの職員がつけている…軍人のドッグタグみたいなものだ 私はそれの裏面に割れた鉄の破片で文字を刻む ――――何故そんなことをしたのだろう 分からない 「私は………ここよ」 「……………。」 「ここに、ずっといるわ……」 それを、この子の首につけてあげた 「だから……私は……」 「…………」 私は、彼の顔を見ていれなかった もう私は――――君とは 「―――――――――――――――おか、あさん」 「え…………」 その笑顔を―――――――私は覚えている 「だから、また会おうね」 ~~~~~ 電力はおよそ2年は持つ このコンテナは廃棄されて、どこに行くのだろうか だから、きっと、彼はここではないどこかに行くだろう もう、すべてやることは全部した あの中では殆ど睡眠状態だろう 2年も眠ればもう目覚める時にはなにも覚えていないかも知れない それでもいいのだ 私はここでできることは全て―――――― もう、この部屋も持たない ヒビが入って崩れていく ただ、何でここまで 彼を生かすためにここまでしたのだろう ―――――ああ、それは 彼が、私の息子だからだろう――――――。 Fin
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きみがぼくを――(ne pas céder ―――――――) ◆MobiusZmZg 「それでもみんな……みんな、僕をッ!」 横合いからアキラの体当たりを受けてなお、ユーリルは剣を止めない。 完全な不意討ちによって重心が崩れたものの、天使の羽が立体的に彼の姿勢をただす。 返しの逆袈裟を転がって避けた超能力者から相手の注意を逸らすべく、イスラは剣を返した。 「……そうかい」 みんな。 誰を指すのか判然としない単語を聞くに至って、苛立ちが強くなる。 ユーリルが《勇者》をやっていて、これまでいくたび苦労や我慢をしてきたのか――。 それは、イスラの知るところではない。彼との会話が成立しない現状では、知ることも出来ない。 けれどもユーリルは、水を向けた自分を見ていない。彼の行ってきた幾多の我慢しか、見えていない。 だからこそ、話をしようとしていて腹が立つ。嫌気がさす。 あまりにもものがみえず、まるでイスラ・レヴィノスを思わせる、この言動が気に入らない。 最も彼に似ているイスラ本人でさえ、付き合うことは困難であると感ぜられるほどに。 「だけど、《勇者》を捨ててこんなことになってるキミは、結局……。 《勇者》の称号から力を借りなきゃ、満足に、人の力を借りずに立てもしないんじゃないか」 なにからなにまで。僕と同じに。 続きかけた言葉を飲み込むことで、イスラは顔に浮かびかける苦渋の色をも押し込めた。 誰かに力をめぐんでもらわねば、生きていけない。 命を落とす直前に耳にした、病魔の呪いを与えた男の声がよみがえる。 その言を理不尽だと思い、相手に憤りを覚えこそすれ、その言葉自体を否定するつもりはない。 魔剣に選ばれたアティにしか、イスラの命は。イスラを生かす、魔剣は砕けなかったのだから。 イスラが死ぬためには、死んで《生きる》ためには、彼女の力が必要だったのだから。 だから、どうしようもない悪役を演ずることで、彼女たちに憎まれようとした。 そうしてアティに、殺してもらおうとしていた。 (そうだね。たしかにイライラするよ。このまま見てると、胸が悪くなりそうだ) まったくもって――。 今でも悔しい。腹が立って仕方がないのだが、アリーゼのまくしたてたとおりだ。 自分は、自分にしか分からない、自分が勝手に納得した経緯とやり方で……甘えていた。 甘く、柔和とみえるアティが。弟に対して引け目を感じていた、アズリアが。 彼女たちがくみしやすいと思えたことをいいことに、むずがっていたのだ。 苦い事実が、自身の未熟が、「鏡」を前にしているとよく分かる。 「望んで《勇者》になることを受け入れた。そう装っていたのならなおさらさ。 キミと《勇者》が、それほど近かったなら。そこまで巧く《勇者》のフリをしてたなら」 「僕を、そんなふうに呼ぶなぁああ!!」 瞬間、ほぼ無詠唱で繰り出されたのは雷だ。 反射的に覚えた怒りや不満をそのまま表出させたかのような魔法は、確かな呼吸で相殺される。 血を思わせて深く赤黒い輝きは、ジョウイの片手に刻まれている紋章が宿す力だ。 機を見計らったアキラの能力で方向感覚を狂わされた少年は、降り暮らす雨のなか声をかぎりに叫ぶ。 「もう、ッ、だまってくれ! だまって、アナスタシアを殺させろ――ッ!」 「分かってもらいたい。それがキミの本心なんだろ?」 分かってもらいたい。 真意を汲み取られたうえで、大事にされたい。 それもきっと、ユーリルの本心であるとみて相違ないはずだ。 《勇者》に生かされ、まずもって同じ概念に殺されたというのなら。 (自分のことを忘れられるより、心のなかを悟られなくても憎まれたほうが、ずいぶんと楽じゃないか) こいつはどこまで自分をなぞっているのだろうか。 こいつは、いったいどこまで、在りし日の……。 いまも根づくイスラ・レヴィノスの暗部を、恥ずかしげもなくさらしてくれるのか。 心を砕いたぶんだけ、思いが返ってくる。敵意には、敵意が返ってくる。 大別してふたつの未来があるとすれば、想像するに易しいのは後者だ。 殺されたい自分とて、様々な理由はあれども憎まれる道をこそ選んでいた。 こんな構造をユーリル本人が意識しているかどうかは別として、 普通の人間は、泣いて暴れる者を見過ごさない。 殺意を抱いて向かって来る者を、無視するほうが難しいのだから。 「少なくとも僕は、キミが思うようには分かれなくても――」 「アナスタシアっ! アナスタシア、アナスタシア……アナスタシア・ルン・ヴァレリアぁああッ!!」 イスラたち三人に守られる少女こそが、『無視する者』の貴重な例であった。 剣を振るいながら声をかける。口上や掛け声を放つのではなく、対話を行なおうとする。 障害を砕き、愚直なまでに真っ直ぐ彼女へ向かおうとすることをやめないユーリルの注意を引く。 おそらくは問いだろう、少女の否定に縛られた心を別の角度から揺らし、隙をついて物理的に押さえ込む。 睡眠ではなく強制的に気絶させ、ピサロや魔王らに対処するために、この手を選んだとはいえ――。 化け物じみた力の持ち主を相手にこれを行うのが離れ業であることは、彼女とて理解出来るだろうに。 (アナスタシア、アナスタシア。アナスタシア、か……) まるで、イスラが謳った死のように繰り返される一語が不快だった。 いかな覚悟や思いがあれども、死も、固有名詞も、耳に心地良く言うに易いものだ。 それほどに簡単であるからこそ繰り返せる言葉を聴く体が、動きを止めてしまうほどに。 アキラの力とジョウイの腕の両方で、ユーリルの間合いから引き離されるほどに。 両の肩が激しく上下する。適度に弛緩していた四肢が、こわばっている。 ――ありのまま、すべてを受け入れてやれ。 真意を隠して虚飾せずにいたことなどない、いままでのイスラには。 一時の怒りや苛立ちに流されてはならない、いまこのときのイスラにも。 あれほど泣きに泣いていてもなお、ブラッドにかけられた言葉が重く感じられた。 あれほど泣かされたヘクトルの素直さが、すがすがしくさえある感情の発露がつらかった。 ……ならばいっそ、ここでなにもかも投げ出してしまえれば、楽だ。 ふと、胸に降りてきた思いが、剣を握るイスラの五指に伝わらんとする。 いやにつよい衝動を見極めてかどうか。少年は肩を大きく上下させて戦場を視る。 紋章使いのジョウイに代わって、アキラが前線を支えようとしている。 ジョウイの放つ刃が、息をあげて久しいアキラに生まれた隙を的確に埋める。 彼らからは数歩も離れていないはずであるのに、わずかなりとアナスタシアの見るものがわかる。 分からない。是非は別として一歩も動かず、雨に濯われるばかりの彼女には、分からない。 この細胞が、五感が開いて脈打つほどの高揚。こうしたたぐいの必死を、彼女には量れまい。 様々なものを振り捨ててシンプルになる心のありようなど、理解し得ないはずだ。 そして、彼女に意識をやりながらも視線が向いているのは、たったひとりの人物である。 共感を覚える自分ですら投げ出してしまいたいとさえ思える少年――。 ユーリルの放つ声でなく、子どものようにゆがんだ顔つきが、彼から少し離れることで、よく見えていた。 どうしようもなくアナスタシアに引かれつづけている彼を、ここで見放してしまえば楽だろう。 自分のなかでくすぶりつづける感情ごと、ここで見過ごしてしまえば楽なのだろう。 だのに、この手は剣を離さない。 鼓動が、かつてないほど鮮やかに聴こえる。 乱れた息が、脈打つ胸が。 けして強いと言えない体が、いま。 なんのかげりもなく、 熱い。 月白が収まり、夜の帳が降りきってなお降りしきる白雨。 時など知らぬ豪雨を前にして、あごを引いた額が容赦なく打たれる。 剣を構えなおし、ユーリルを見据えていながらも、イスラは前に出ない。 夜気の冷たさに痛めたのどを動かして、からまり粘って仕方のない唾液を飲みくだす。 「こんなに大きな声なのに、聴こえないのかい? キミだよ。最初から、彼はキミについて言ってるんじゃないか……」 それに、前に出ていては、これは言えない。 これ以上前に出れば、自分は、ユーリルに引き込まれすぎる。 彼の胸でじくじくと疼き、血を流しつづける傷にこそ引かれてしまう。 そうして「彼」に近付くほどに、今度は「彼女」が見えなくなってしまうのだ。 再会などしたくなかった、自分の来歴を根底から否定した者から離れすぎてしまう。 自分やユーリルに問いを投げかけた者の、影すら判然としない距離に行ってしまっては、 「アナスタシア・ルン・ヴァレリア!」 この名前を呼んでも、意味が無い。 立ち尽くす彼女本人に声を届かせることなど、かなわない。 こちらの様子をうかがったアキラが、眉を引き締めてユーリルへ向かっていく。 彼とジョウイの、そしてユーリルの様子を俯瞰出来る位置にあって、超能力者の顔がゆがんだように見える。 どうやら頬をゆがめ、口角をあげて――笑ってみせたらしい。 「キミだって、諦めていたんじゃないか。縛られていたんじゃないかッ!」 苛烈な語調をつむぐ裏で、少年はいまいちど自身の言葉つきを確かめる。 彼にとっては、諦めることや切り捨てることは前提であった。 おのれの命すらそうすると自身が選び取ったことにこそ、意義を見出していた面もあった。 だからだろうか。 いくらアティのようになりたかったとしても、この言葉だけは止められない。 依然として消えないアナスタシアへの嫌悪感もあいまって、これは、止めようがない。 止めようがないなかに、引っかかりを覚える部分もあるのだから、なおさらだった。 (アティ、先生も……こうして色々……捨てて。もっと別の行動を……未来を諦めてきたのか?) いまならなにかが分かる。そんな気がしてさえいたがゆえに。 輝いているとみえた者にも、輝いている者なりの苦労があるようにも思えたために。 死と剣でものごとを解決することしか考えられなかったイスラ・レヴィノス。 状況の遷移を言葉で規定し、その行為でもって現状を許容し、相手よりも一段上に立つ道化――。 正しくは上に立ったふりをして、おのが言の葉で作ったかりそめの安寧のなかにあった、 自分が、いま。 「生きたかったんだろ! みんなで、楽しく、毎日を……生きていきたかったんだろ? なんで、それで誰かを殺すと決めたんだ。決めることが出来たんだ!」 矢面に立ち、言葉に思いを込めることで強く、つよく胸に打ち付ける雨と風を感じている。 死にたかった頃にも風雨があることは変わらなかったはずなのに、不思議と肩をすくめる気がしない。 それがアナスタシアへの意地だけでもなく、ユーリルへの牽制であるはずもなく、 「本当、嫌になってくるけど、きみだってぼくと同じだ。同じだから腹が立つんだよ」 きっと、どうしても諦められないというだけなのだ。 アナスタシアを嫌うからこそ、この怒りも断ち切れない。 少女のみせた作りものの笑みが、ふと、イスラの意識に浮かび上がる。 平行線を歩んでなお、作り笑いの浮かべ方だけはアナスタシアと似通っていた。 そうと確信出来ているからこそ、相手の中に自分を見るからこそ、どうしても許せない。 自分自身だけは、諦めて、落ち着いて、切り離して、許容してやることなど出来はしない。 作り笑いで、言葉で壁を作って距離を置いて、他人事のように眺めることが出来なかった。 自分に似ている者に対してなら、いくらでも冷たい態度をとることが出来るというのにだ。 いくら歪んでも、低く辛く厳しい評価をくだしてやる過程で、 アズリアの邪魔になると感じ、その思いを理解しないアティに反撥を繰り返す、 二人に会いたいと思いながらも、彼女たちに会えないような理由をさえ自身で作った、 イスラ自身が、そんな自分を道化であると認めてもなお、イスラだけは《イスラ》を見離せない。 どんな経過を迎えようと、経過のあとに結末があるかぎり、自分を抱えつづけることだけは、 けして、避けることなど出来ない。 (そうだ。……そうだよ) 結局、僕は『出来ない』んだ。 『出来ない』たぐいの人間なんだ。 (でも、人間って誰のことだ。たぐいのって、いったい何をもって分けたんだよ) 悪癖がまた、顔を出そうとする。またも自分が嫌になる。 自分を許せなくなり、――とても、このままではいられなくなる。 さかしらな言葉を操り、辛辣ではあるがまとまりのいい語彙で、すべてを定める。 言葉で本心を偽れると言いながら、結局、自分は言葉でもって枠を作っているではないか。 『出来ない』と、真っ先に決めた枠のなかでしか動けないのがイスラ・レヴィノスではないのか。 「前に進むことを、幸せでいられる自分を、幸せを認められる自分をさ――」 ……ほんとうに、嫌だった。 これだから、生きているのは嫌だった。 一日一日、生き延びるたびに敗北感がつよくなる。 日がおちたその時、本当は生きられなかったと気付いた自分が嫌になる。 そして長い夜には、ここにいるイスラに出来なかったことをばかり反芻してしまうのだから。 思い出すほどに生への嫌悪は吹き払えないままだというのに、どうしてか。 必死になってまで、言葉を操って八つ当たりをしているだけの胸で怒りが持続しない。 それどころか『出来ない』ことが、許せないことこそが誇らしくさえ思えてくる。 いま、ここで。自分に投げられる石がある事実に直面した胸が、ひときわ大きく跳ねる。 「生きるために罪悪感を抱くような手しか選べなかった時点で、とっくに。 あがいてなんかいない、勝手にっ、――諦めていたんじゃないか!」 ユーリルをとおして、イスラは自分の一面ををうとんだも同然だった。 アナスタシアをとおして、イスラは自分の一面を否定したも同然だった。 それなのに。自分に対してすら許容の出来なさを明らかにしてしまったはずの、 イスラには、まわりがよく見えていた。線の細いと認めざるを得ない背筋が、気負いなく伸びていた。 自身の基盤が危うくなるような言葉をつむいでいるのに、予想したよりつらくもなかった。 そしてなにより、生きたいなどと思えないことには変化がないというのに。 嫌だ。 幾度も胸のうちで繰り返した言葉が、なにか、いとけない。 がむしゃらで小児的で、みっともない物言い――。 そしてなにより、素直であることも疑いようのない否定の一語は。 なんとも心地のよい響きを、有しているように思えたのだ。 ×◆×◇×◆× 【3】 いまの自分が《刃》とともに、《盾》を携えていようとも。 ジョウイ・ブライトは、究極的には力で他人を傷つけることしか出来ない。 自分に向いた得物さえない現在、相対した者を無力化するといった行動に向くとは言いがたい。 それこそが両の手、おのが基底に紋章を刻んだ少年による自己分析であった。 冷徹をとおりこして冷酷でさえある評価は、それが真実であるからこそ下せたものだ。 過不足なく実力を直視出来る目があるからこそ、彼はここに留まった。 アナスタシアを守る目的をとおして二人に加勢することを選んだ理由は、単純なものだ。 いかに疲弊が見えたとはいえ、雷の嵐の向こうへ消えたピサロを単騎で倒すことが、非現実的であるから。 かりにここで潰せるとしても、継続戦に際しての力を残した状態で押さえられはしないと断じたからである。 「アナスタシア……アナスタシアぁあああ!」 とはいえ、先ほどの説得が巧く運ぶ目にも積極的に賭けていたというわけではない。 そもそも剣士の少年は、途中から言葉をかける対象を明確に変えていたのだ。 《勇者》を辞めたという少年から、マリアベルに守れと頼まれた少女に。 言葉をぶつけた結果、最も顕著にあらわれているものが、もと《勇者》の絶叫である。 特段、アナスタシアを大事にしているわけでもないと知れたであろう、剣の使い手にも――。 いいや。彼女のなかにあるらしい矛盾をあばいた彼にこそ、少年の声は向けられているようだ。 アナスタシアを見ているようで、別のなにかと直面していると知れる声が、曇天をおぼろに穿ちつづける。 「……助かったよ」 叫びのひとつが雷と変じ、それを盾の紋章で相殺した、次の瞬間である。 憮然としながらも、どこか脱力しているような声が耳朶をかすり、夜の空気がはっきりと動いた。 あどけないとさえ言える表情を引き締めつつも、黒髪の少年が前線へと舞い戻る。 うすく、闇を思わせる紫を帯びた反り身の剣。 彼の携える得物が《勇者》の剣に噛み合うさまを認めたジョウイは、少しく包囲の角度を変えに動く。 自分の目的をかんがみれば、もうひとりの魔法使いのように肉薄するというわけにもいかない。 最善手とは言いがたいが、少しでも体力の消耗を抑えるためには、計算こそが肝要だった。 剣士の言ったような泥仕合と、魔法使いが口にした精神的な満足とを秤にかけ、ふたつの意見が調和する ぎりぎりの線を保って綱を渡りながら、可及的速やかに戦いを収束させる――。 言うだけならば、これほどに容易いこともそうそうない。 だが、この結果を引き寄せてからジョウイの本番、正念場が始まるのだ。 様々なものを切り捨てたいま、両方を捨てない態度を問われることも皮肉だが、仕方がない。 (だけど……) だけど、けれど、それでも。 ジョウイにとっても彼らは自身の、あるいは誰かの鏡なのだと感ぜられてならなかった。 とくに一途にひたすらに、アナスタシアの名をつむぎ放つ、緑色の髪を乱したひとりの少年。 もとは《勇者》であるらしい彼が戦うさまは、ジョウイのなかへ重く沈んでいる。 まるで水の綾がごとく、憎しみに駆られつづける彼の姿を認めた心がさざ波だっていた。 そして、黒髪の少年がつむぎあげた泥まみれの言葉。アナスタシアへの口上が重ねて胸へと響いてくる。 経緯など欠片ほども知り得ないとはいえど……彼らのありようは、ジョウイの瞳を痛みとともに開かせる。 未消化の、泥のごとき感情の奔流は、彼のなかで息づく問題を直視することをこそ拒ませない。 それを汲み取れないのなら、きっと。 彼はいま、このとき、ここになど立ってはいない。 「なにも、《勇者》だけじゃない。先駆者はつねに捨て石だ」 血と肉でもって構成されたかのような、しずかな『叫び』とてつむげなかった。 ……けれどもこれは、絶対に最善手ではない。 最善どころか、下手を打てば墓穴を掘りかねないと、分かっているのに。 理想を貫こうとあがき、進み続ける少年のこぼした声は、ある種の感慨に満ちていた。 感慨などと、穏やかでさえある感情で終わったことに、誰よりもまず、口を開いた彼自身が驚く。 夜の陸風に流れた雨を受けてか。緑がかって柔和な印象を醸す瞳が、わずかながらも細まった。 「だけど、それは。そうなることは……僕自身が選んだことだ」 当然のことだが、言葉をつむぐほどに、ジョウイからは集中力が失われる。 戦況の変化こそ少ないものの、もとの位置にまで戻ったとて、今までのような状況の把握は望めない。 声を出す。寄り道に力を使えば使うほど、本筋へ注げる力が減ずることは考えるまでもないはずだ。 それなのに、胸でくすぶる思いをかたちにせずにはいられなかった。 黒髪の剣士が見せた表情、けわしさの少しく削げ落ちた顔つきが、妙にうらやましくある。 いまや、先刻とおなじ精緻さで剣をぶつける彼にそれを招き寄せた行為には、ジョウイとて覚えがあった。 ――それを遮ってでも、やるべきことが、貴方にはあるというの?―― アナスタシアは、いまだなにも言葉を返さない。 ひるがえって、自分が彼女の問いかけに答えていなかったら、どうなっていただろうか。 覚悟を内に秘めているのと、死を逃れ得ない相手とはいえ対外的に決意を口にしたのとでは、いったい、 どちらが分かりやすくなるものか。 どちらが重みを実感出来るかたちで、胸におさまるものなのか。 ジョウイはそれを知っている。 彼に向けられたものではないとはいえ、ここにいる、彼らの問いに答えるだけの強さがある。 道をたがえたリオウとナナミ。親友の心に恥じないために。 自分を慕ってくれたピリカのために、自分を愛してくれたジルのために。 夜天に輝く『魔法』を見せてくれたリルカの、優しさを示したルッカの、故郷における立場や因縁を振り切って 自分たちに助勢したビクトールの、黙り込んでいた自分を我慢づよく待っていてくれたストレイボウの、 彼らだけではない、故郷や、この場所で出会った、皆の思いを汚さないために。 ジョウイの胸に沈んだ思いを、自己犠牲のそれなどと評する者もいることだろう。 誰かのために骨を折ることは、誰かのせいで動いていることと限りなく同義に近いのだから。 だが、違う。 確かに、ジョウイはこの道を歩むため、様々なものを捨ててきた。 魅せられた力に到達すべく、彼を彼であらしめた証を端から圧し殺し、切り捨ててきた。 その上で血塗られた《英雄》となり、自身の命を振り捨てることで平和を作ろうとしてはいたのだ。 だが、彼の行動の礎となった思いは使命感でも、義務感でも……きっと、正義感ですらない。 暗殺したアナベルへの、あるいは理想のために殺してきた者への罪悪感でもあり得ないはずだ。 では、理想の前にあったものは、なにか。犠牲を生むほどに強い思いは、なんだったのか。 どうして、ここに立っている自分は、他の誰もを傷つけたくないと考え得たのか。 道を違えたとても目指す場所が同じなら、どうして、歩いていけるのか。 同じであることに安堵する理由とは、いったい、なんだったか。 迷ったのなら、誰も問いかけないのなら。 問われなくとも、問いかける自分にこそ応じて――。 「それなら。この傷も、この力も」 かたちにすればいい。 明瞭なかたちにしてしまえば、過不足なく受け止められる。 人とのあいだにつながりを作り得る、言葉。 ときに刃を掲げさせても、刃を収めうるであろう、それが運んでくる感覚をこそ。 自分は、信じていたい。 剣に追随する雷を防ぎ、陣を整えるべく体をさばいた、息が熱かった。 上昇した体温に反し、夜気と雨打は冷たくとがり、体の表面を冷やしていく。 しかしてのどの粘膜を侵しつづけていた、冷気が。ふいに甘く、濃い後味をのこした。 刹那――激しい運動を続けていた結果、ぜえぜえと鳴りさえしていた呼吸がひととき安まる。 ひとときあれば十分だった。ひとときあれば、目の前に広がった世界を、過不足なく見据えることがかなう。 「犯した罪も……胸に息づく思いも」 理想と犠牲。 自身の作り出したふたつの荷に、ジョウイはとらわれ、操られていた。 けれども勇者を直視した少年の根幹で、いまの彼を動かし得ているものは。 激情に両肩をふるわせる少年の奥底で、いまも彼を縛りつけているものは。 「いままで、それを選んで、受け取って、刻んできた僕の背負うべき」 それはきっと、リオウへの。ナナミへの、ピリカへのジルへのリルカたちへの、 それはきっと、今までの生で見聞きしてきた、戦火のなかで生き抜く人々への、 「――背負いたいものなんだッ!!」 好意に、他ならなかった。 思いのままに張り上げた声に、響いたこころに呼応してか。 彼の基底に刻まれた《輝く盾の紋章》が、夜闇にさえかな輝きを放つ。 ……ルカ・ブライトの恐るべき力は、さらなる力と数と策によって滅ぼされた。 人の心とて、ときに、あれと同じような構図が成り立つこともある。 使命や正義、義務などといった、強い拘束力をもつ単語。 怒りや憎しみのような、ときにおのが身さえ灼き尽くす思い。 自分がすべき、やらねばならないという、張り詰めた語調の言葉。 そんなものだけで気を奮わせたところで、追い立てられた心が折れる未来は遠くないはずだ。 しいて強くあろうとしても肩肘を張るだけ、周りの世界は棘を増して見えるのだから。 ルッカを看取ったあとに同道してくれていた魔法使いの青年。ストレイボウ。 焦燥に駆られていた彼にもそんな色があったと、ジョウイはいまにして気付く。 しかして、こちらに好意さえあれば、この目と心に見えるもの、すべての色調が反転するのだ。 好意を得、好意を抱いた者のためならば、自分は身を削り、身を粉にしても構わないと思える。 行き着く先で命すら捨てようとも、それほどに本気になろうとも、大丈夫だと思っていられる。 ひとの好意を勝ち得た自分の、ひとに好意を抱いた自分の糧となるなら、苦痛にも耐えられる。 自分が耐えているという感覚すら、胸の中から失われる。そんな瞬間すら感ぜられようほどに。 ピリカを抱きあげたときの、温かさに焦がれる自分が、いまでもたしかにいると気付いたのだ。 ならば……それならば、ここに立つジョウイ・ブライトは。 いかな誤解も、悪意も恐れることもなく。すべてに耐えて、光を目指していける。 どんな作為にも、敵手にも運命にも、こうべを垂れることなく立ち向かっていける。 どんな言葉を刻んだとて、どんな行為を義務づけたとて、縛り得ないはずの心。 もろくもうつろう思いを優しく縛りうるものの正体を、少年はこれしか知らない。 ずっと、ずっと胸にあふれてやまなかったのだと気付いた、《これ》こそはたましいを。 穏やかではあれ、抱く者のこころを内奥から揺すり、つよい衝動を沸き立たせる思いだと感ぜられる。 衝動に揺すぶられたからだが、思わず前へ踏み出すほどに強い、『魔法』のような気持ちだ。 誰を殺したか、何人殺してきたか。一体どれだけのものを、自分のために踏みにじってきたのか。 そんな問いかけを繰り返し、自身を鞭打ちつづけたとて、この気持ちにはかなわない。 (ああ、そうだ――) 理想を貫く際に負った荷から解き放たれてなお、自分はきっとこの道を選ぶ。 力があれば。たとえ、ハイランドのキャンプでルカの力と出会うことがなくとも――。 きっと、なにかを探していたのではないか。きっと、自分の道を見つけていたのではないか。 根拠も理屈もない確信が息づいて、いまだ揺らぐジョウイの背中をおびただしい雨滴の群に押し出す。 彼らの笑顔を守るために。彼らの幸せを諦めないために、自分の理想も諦めない。 そうと信じられる思いが、確かにまだ、この胸に息づいているのだから。 ジョウイがすべてに《耐えられるもの》は、高邁な理想でも崇高な使命でもなかったのだ。 (きみが。きみたちが、僕を) たとえば、ここで膝を折ったなら……。 リオウも、ナナミも、リルカもルッカも、きっと許してくれる。 少なくとも、彼を憎んだり、悲しんだり、哀れんだりはしないだろう。 違う道を目指して行ったとしても、自分たちの根にあるものは、きっと同じなのだから。 それなら、本当はここで立ち止まっても、構いはしないはずなのだ。 それなら、きっとここで振り返ったとしても、許されるはずなのだ。 仮に二人が、皆が惑い、立ち止まったとしても、同じだ。 先刻ストレイボウをかばったことを自嘲すれど、そこに計算はないと断言できる。 ジョウイ・ブライトが許し、いたわりたいと思えるのは、なによりも人だ。 代わりなどいない、かけがえのない、ここにしかいない――。 いま、このときを生きようとしている、人間だ。 「どんな思いも、どんな選択の結果も、僕だけが受け止めるべきものだ。 誰に押し付けていいものでも、ないんだ……これは」 それならここで、自分は、退けない。 退くことも、折れることも、許されることも出来はしない。 究極的には、きっと、誰かのためなどではなく、 「これが、僕だけの『魔法』だ!」 自分のために、少年は叫んでいた。 マリアベルの友であるアナスタシアが、リルカを知っているかどうか。 リルカの大事にしていた『魔法』で、果たして、動かない彼女を動かしうるか。 そんなことは、前進を望む心が欲するままに声をあげるまで、意識などしていなかった。 思いを託した声がつかねて落ちる濯枝雨(たくしう)を突き、分厚い雲におおわれた空にと抜ける。 天の海にも心の海にも立ち込めていた雲が、いちどきに晴れたかのような感覚がある。 自身の息づかいがはっきりと分かるようになった闇の中で、それでも指先が痛い。 地を踏みしめる脚に、脚を支える腹に、張り出した胸に、肩に、五指に爪に、かるい痛みがはしる。 ぴりぴりとした感覚は、しかし、ジョウイの行動を押し留めることなど出来なかった。 生きている。右手が輝く。生きているのだ。赤黒い刃が雷を射止める。玉水が弾けて舞い落つ。 確かに、自分は。 ここに立ち、ここで目を開いた自分は、確かに生きていた。 己の掲げた理想に、ただただ生かされているというわけでなく。 己の規定した犠牲に、縛られつづけているというわけでもなく。 その事実に揺れ、迷いのなさにこそ戸惑う自分も、なにもかもすべて。 おのがすべてをひっくるめて、 生きている。 ジョウイ・ブライトは、いまここに、生きている。 それだけは確かで、それだけは誰にもくつがえせない事実であった。 じくじくと疼く痛みも、罪悪感も、それを生んだ自分自身が受け止めているのだ。 湿り気を帯びた夜風を前に《黒き刃の紋章》が刻まれた右手が拍動し、ぬくみを増した。 雨にさえぎられてなお蒼穹に輝く綺羅星のごとく、《輝く盾の紋章》が清澄な輝きをのぞかせる。 それが分かったからには、もう、止まれなかった。立ち止まることなど、考えられなかった。 道を進むほどに孤独が、孤高が迫ろうとも。果ては憎悪に貫かれようとも、構わない。 揺れ惑い苦悩し、おのが力を、心を、たましいを削って果てるより他にない道を往くのだとしても、いい。 自身の抱いたそれと分かる思いを背負えることのほうが幸いなのだと、信じられているのだから。 もはや後戻りの出来ない、安楽な日々に背を向けるのと変わらない、この選択。 迷いも、後悔も、他人へ好意を抱いたジョウイ自身のためにあると決める、覚悟と諦観。 先にあるのは、それを許容した少年だけがすべてを背負い、傷を抱えて進むいばらの道である。 いつかのように、間断なく続く障害の先にこそ光を見出したとき、雨呼びの北風が吹きすさんだ。 このときばかりは大粒の雨も流れ、流れて、少年たちの体を容赦なく打ち据える。 まるで見えない棘が指を突くかのように、雨滴は衣服に、肌に染みこんで衝撃を残す。 もう、何度目か。雷の竜を前にしても、ふたたび、剣戟の音が耳朶を刺すほどに近付こうとも。 ジョウイはひるまない。 歩む道を定めた自分を信じて、彼は、闇の溜まりへさらなる一歩を踏み出す。 胸に落ちた決意、その証左を顕すべく。 すべてを抱き取り、生きて、夢より大事な望みを果たすために。 ……ジョウイは、知らない。 いま、彼のかたちにした結論は、目の前で慟哭する少年が至ったもの。 陽の落ちる前、少女に出会ったユーリルが突き当たった思いと質を同じくすることを。 ジョウイには、分かれない。 ――人々のため戦い勝利を得る道。これはイバラの道なれど王道です―― いまふたたび、彼が見出し選び取ることのかなった覇道は、おそらく。 その過程はどうあれ、親友の決断と同じ評価をくだされるべき類のものであることを。 ×◆×◇×◆× 時系列順で読む BACK△114-1 きみがぼくを――(ne pas ――――――――――)Next▼114-3 いばらのみち――(ne pas céder sur son ―――) 投下順で読む BACK△114-1 きみがぼくを――(ne pas ――――――――――)Next▼114-3 いばらのみち――(ne pas céder sur son ―――) 114-1 きみがぼくを――(ne pas ――――――――――) ユーリル 114-3 いばらのみち――(ne pas céder sur son ―――) アナスタシア アキラ イスラ ジョウイ ピサロ ▲
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ステータス基本パラメータ 衣装 ボイス 入手方法 備考 コメント ステータス 基本パラメータ 変化前 変化後 【生徒会役員】一ノ瀬トキヤ No. 531 TOTAL DANCE VOCAL ACT 特技 ライフ回復ノーツを3個追加 レア度 UR Lv50 4382 1573 1853 956 サブ特技 LIFE80%以上でクリア時+17000スコア 属性 ドリーム MAX 5940 2140 2420 1380 メインスキル ドリームのVOCALパフォーマンス60%上昇 編集 衣装 ボイス 1 一宮トキヤは平凡な日常を愛する人。しかし周りの環境は、どうやらそれを許してくれないようですね。 2 ドラマ本編には大きく絡みませんが、私と音也はいとこ同士という設定になっています。同じ学年なので、やや張り合うところがあるようです。 3 ノーブル学院への転入を希望されるのですか?嬉しいですね。生徒会役員として歓迎します。 入手方法 イベント:波瀾の旋律(イベント報酬/ランキング報酬) 備考 コメント