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鬼族について 鬼とは現在においても生き続ける種族である。 その戦闘能力は人間の比ではなく、また最近の研究によると、その文化度も決して低い物ではなかった。 にもかかわらず、平安時代後期に突如としてその規模を縮小して、歴史の闇に隠れ、人間との混血化が進む。 現在、本家筋しか確実に「鬼」に覚醒する事はない。分家で覚醒するのはごく僅かだ。 とはいえ、未だ鬼が危険な存在であることには変わりない。生半可な軍なら1個中隊でも全滅するだろう。 ちなみに一個中隊は3から4個の小隊から成り立ち、国にもよるが、約90から160人といったところだ。MSなら9機といったところだ。 蛇足だった。話を戻そう。 鬼は確かに戦力的には微々たる物だ、だがかつての平将門や酒天童子のような強力な指導者が現れれば、再び鬼は世に姿を現すかもしれない。 だからと言って、私は別に鬼を皆殺しにしろ、と言っている訳ではない。 鬼は話の通じない怪物ではないのだ。単なる一つの絶滅寸前の種族に過ぎない。 私はむしろ、鬼と人間との和平を望む立場にあることをご了承頂きたい。 そもそも現在純血種の鬼は確認されていない。全てが人間との混血である。けして両者の和解は不可能ではない。 鬼に関する論文:零先停夢 著より抜粋 +一覧 鬼族について鬼の歴史 鬼の種類 【冷泉】鬼の貴族にして、支配者。 【柏木】鬼の王にして裏切り者。 【一角】鬼の医者にして、癒し手。 【辰宮】鬼の水軍にして河童? 【鉤針】鬼の水軍にして、海賊。 【津山】鬼の剣士にして追及者。 【闇走】鬼の忍にして暗殺者。 【傀操】鬼の道化師にして、放浪者。 【月宮】鬼の呪術師にして、狂者。 【羽扇】「羽扇」鬼の僧侶にして、天狗。 【鈴木】鬼の兵にして、大衆? 【犬神】鬼の獣にして、忌み筋。 【組織:オヤシロ】鬼の警察、はたまた掃除屋? アスラについて 鬼の歴史 +... 鬼が出てくる現存する最古の文献は『古事記』である。失われた「国紀」や「旧辞」に鬼に関する文章があるのかまでは流石に知らない。 ともあれ、『古事記』の黄泉比良坂がおそらく最古の鬼の記述だろう。 しかし、『古事記』は奈良時代に太安万侶らによって編纂されたものだ。 話を膨らませるため、鬼を駆逐する大和王朝を正当化するために鬼が追加された可能性が高い。 確かなところでは、聖徳太子の直属の部下、倉木仲麻呂の書状に出てくる御色多由也への鬼の討伐の命令書が現存する確かな証拠だ。 書状は現在、大和県立文章館に保存されている。 鬼が本格的に人間とぶつかり合うのは飛鳥時代辺りからだが、当時は完全に鬼が優勢だった。飛鳥時代の兵士に戦えと言う方が酷だろう。 だが、鬼は今で言うゲリラ的戦法で村々を荒らし回っており、対処しないわけにも行かなかった。 これをとっても鬼はけして力任せの狂戦士ではないことが読みとれる。数の少なさという弱点を兵力の分散で埋めるの は『孫子』にすら載っている戦略の常識である。 長岡京・平安京の遷都も少なからず鬼の影響があるというのは裏の世界では常識である。 有名な藤原種継の暗殺の死因が表の歴史では射殺なのに対し、裏の歴史、『鬼密紀』では鋭い刃物で八つ裂きにされて死亡とされていることからも、当時の鬼の勢力の恐ろしさが読みとられる。 平安時代はまさに、鬼と鬼に対抗する者との闇闘の時代だったと言っていいだろう。 阿倍清明、源頼光、酒天童子、茨城童子。まさに鬼退治者と鬼の間にスーパースターが出そろった時代である。 いちいち例を挙げて説明はしないが、鬼と人との幾多の激突があった。 ところが、万寿二年(一〇二五年)の征伐を境目に、鬼の勢力は著しく縮小し、鎌倉時代あたりには、表からは勿論、裏もほとんどその存在を隠す。 この万寿征伐(私が勝手に命名した)については、まるで意図的に消されたかのように資料が残っていない。 それでも、断片的な資料をつなぎ合わせて考えると、どうも「冷泉」の分家である「柏木」が鬼を裏切って朝廷側についたのが原因ではないかと推測される。 関ヶ原を筆頭に、裏切りが合戦の勝敗を分けることは、日本や中国ではよくあることだ。(中世の西洋の軍の中核は大概傭兵だったから、将の寝返りで合戦がひっくり返ることは少ない) この「柏木」の血統については、怪しいところが多いのだが、如何せん、現在調査中としか言うことはできない。データがあまりに少ないのだ。 その後、鬼は分化がかなり激しくなる。分家がやたらに増えたのもこのころだ。現代において鬼の研究家が、この時代で足踏みするのはこれが主要因だ。 室町・戦国と鬼の好みの乱世が続くにも関わらず、表だって現れたのは、織田信長の二度の天正の役のみである。暗躍はあるにしても、あまりにも寂しい。 江戸時代にはあの松尾芭蕉がその半生を賭けて阻止した八つ裂き連続殺人事件があった。 「鬼行紀行」によると、この事件の犯人は「津山」の本家の鬼だったようだ。1200人という死者の数にも信憑性がある。 だが、厳しい幕藩体制の檻の中では、やはり活動は鈍かった。 明治になると、海外に家ごと移住する鬼家まで現れて大変だった。 時代の流れは鬼すら押し流れないわけにはいかなかった。超人的な力だけでは、もうどうしようもない時代がやってきたのだ。 いくら鬼でも、素手て戦車に向かっていって勝てるわけはないのだ。大砲が直撃すれば死ぬ。機関銃の弾はさすがに避けられない。 明治以降、鬼家は衰退の一途を辿っている。しかし、決してその力は衰えているわけではない。 いつか酒天童子や平将門のような強力なリーダーが生まれれば、再び表の歴史に帰ってくることもあるかもしれない。 願わくば、その時がこず、妥協が成り立つことを祈りたい。 鬼の種類 +... 俗に「鬼名一二家」と言われるが、実際は滅んだ血族や海外へと雄飛した連中もいる。正確に日本にいるのは十家だけである。 もっとも、あくまで「現在」の調査報告によるものであり、野に断絶した血族が残っていたり、新たなる血族ができないと断言することはできない。 【冷泉】鬼の貴族にして、支配者。 +... この一族は本当に滅んでしまった。いや、正確には分家の「柏木」が現在まで続いている。しかし、この一族はその分家であるはずの「柏木」によって滅ぼされている。これは現在に至るまでの鬼研究者の最大の謎となっている。今までにも書いたが、このころの情勢に関する資料がほとんどないのだ。どう考えても「柏木」一族が怪しいのだが、証拠はない。 肝心の部分以外の資料では、この一族の記述は事欠かない。 大江山を本拠にし、鬼のみならず周辺の人間からも慕われた「鬼大将」、酒天童子や関東の鬼の総大将で人と鬼の両方を巻き込んだ最大級の反乱を起こした平将門がこの一族である。鬼の中でも高名な大将は、鬼からも人からも慕われている。特に酒天童子など地元では、今でもその命日では刃物を使わず彼の冥福を祈るほどの人気である。 今の鬼にもこれほどの指導者が現れれば、、、。 この一族は常に他の鬼を先導してきた。「柏木」ですら、その力は比較するに足りないだろう。平将門など、平均身長150センチの頃で、身長2メートルもあった。その刀は巨岩をも両断したという。朝廷は、農民兵が田畑の刈り入れをする時期を見計らって攻め、それでも多大な被害を出し、ようやく討ち取った。「冷泉一人は万人の敵」とまで言われた所以である。 【柏木】鬼の王にして裏切り者。 +... 系図を辿ると、柏木は、鬼の王たる「冷泉」の分家だ。にも関わらず、ほぼ全ての鬼から忌み嫌われる謎の存在だ。 一説には、平安時代にあった万寿の征伐で、人間側に裏切ったともいわれているが、資料はほとんど現存していない。 明らかに何者かによる隠蔽の跡が伺えるのだが、、、。引き続き調査を続行したい。 分家としては「柊木」や「桂木」がある。 毎回書いていて思うのだが、「柊木」の読み方は「ひいらぎ」ではなく、「ひいらぎき」になると思うのだが、、、。まあ、そんなことはどうでもいい。 特徴は、全ての鬼をも屈服させる実る力に尽きる。もちろん、水中戦なら「辰宮」や「村上」には苦戦するだろうし、爪の切れ味なら「津山」の方が上だろう。 しかし、これだけは言える。「何もない草原で鬼同士が戦うことがあれば、最後に立っていのは柏木だ」と。全てにおいて他の鬼を上回る、それが王である柏木だ。 言葉で表すより、一度戦えばすぐに分かる。次の瞬間、自らの首が飛んでいるのが分かるだけだから。 「最強」としか形容することはできないのだ。 他の鬼との関係は最悪である。無論、最強たる柏木に、手出しをする馬鹿はいない。 だが、協力することは無いし、柏木が一人死ねば、他の鬼は柏木の見えないところで、「不安が一つ消えた」と安堵するだろう。 唯一ましなのは、中立派を宣言している「一角」のみである。だが、「一角」も、個人的なつきあいでも無い限り、進んで助けるようなことはないだろう。 「最強」である柏木が他の鬼と仲が悪いのが、鬼の統合を妨げているような形になっている。 もし、柏木が許されるようなことになれば、かつてのような鬼の連合が成立するかもしれない。 「柏木」は鬼を語る上での最重要用語と言えるだろう。今後の鬼の情勢は、「柏木」が握っている。 【一角】鬼の医者にして、癒し手。 +... 鬼には本来、超人的な回復能力がある。少々の刀傷なら、ものの数分で塞がるだろう。それでも、鬼は戦闘を好む以上、生傷は絶えない。そこでこの一族が登場するわけだ。 鬼が他人を癒すには、通常、血を移植する方法が採られる。しかし、この方法は鬼の本能の暴走を招き、人間に行うと、その人間は鬼になる。 そしてほぼ確実に暴走する。よほど精神力がなければ、鬼の血の激烈な変化に耐えられないのだ。 ところが、この一族は、「回復力の付与」ということができる。 手をかざし、患部に当てると、傷口が塞がるのだ。「ヒーリング」という現象によく似ている。外傷だけではなく、ある程度なら内患にも効く。 どういう原理なのかはよく分からない。だが、いわゆる「魔術」と言うものとは根本的に異なるようだ。 他の鬼との関係は良好だ。永世中立を宣言しており、全ての鬼を分け隔てなく治療している。ただ、中立であるので、他の鬼と同盟する事はない。 スイスみたいなものと考えていただければよい。 分家は「二角」や「三角」がある。数字に「角」で大変わかりやすい。それにしても、この「一角」という苗字と癒しの力は、西洋のユニコーンを連想させはしないだろうか?もっとも、鬼状態の「一角」の角に、癒しの効果など無いが。いずれ、このことについて追及する時があるかもしれない。 新古に関わらず、よく宗教的な説話にヒーリングの例はよくある。それと一角を結びつけるのは少々強引だと思う。 とはいえ、日本の民話にも山などで迷い、たどり着いた一軒家で、道中に負った大怪我を癒してもらうパターンの話がある。 「一角」の所在地と照らし合わせてみると、これがぴたりと一致する。 江戸時代以降は邪法として、その癒しの技が見つかり次第、斬首にされた。しかし、近郊の民などが内密に病人や怪我人を連れてくることはままあったようだ。 【辰宮】鬼の水軍にして河童? +... 水上戦を「鉤針」と共に担当するこの一族は、河童のモデルではないかと言う説もある。 何故か、この一族は代々男性ホルモンが多いらしく、男性型脱毛症にかかった人間が多い。しかも、鬼の形態になった「辰宮」には、水掻きがある。その上、体色は緑になる。どう見ても、鬼になった状態の辰宮は「河童」である。 一刻も早く、私は辰宮と河童の所在地に関する研究に入る予定だ。だが、鬼の所在地は、今の時代でも分かり難い。やりがいがありそうだ。 各地の河川や湿地で、彼らは熾烈な戦いを繰り広げていた。 当時の川というのは、単に「流れる」だけのものではなく、船舶による輸送に無くてはならない「輸送路」であった。 彼らは時には「輸送部隊」、またある時には「略奪隊」として暗躍していた。戦場においての補給の重要性についてはここでは語らない。 ただ、彼らは鬼の勢力を支えるのに重大な任務を果たしていた。それだけのことだ。 他の鬼との関係は、普通だ。ただ、同じ水軍として、「鉤針」とはライバル関係にある。別に両者が争うことはないが、お互いに敵視ではない対立をしている。 現に、年に2回、両者は会議を取り持っている。 分家には、「鳥宮」、「猫宮」などがある。動物がらみなわけだ。 この一族がその名を高めたのは、やはり、新皇平将門の軍勢の中核を成したところだろう。 平将門自身は「冷泉」の出身だが、その軍勢は、関東に住み着いていた土着の「辰宮」が中核であった。 「水人」といえば、それは彼らのことだ。平将門の乱自体の説明は後に回すとして、彼らの夜中の奇襲は、討伐軍の心胆を大きく寒からしめた。 【鉤針】鬼の水軍にして、海賊。 +... 「辰宮」が河川や湿地の戦闘を主任務にしているのに対し、彼らは大海原で戦うことを誇りとしている。 瀬戸内海を根拠にし、彼らは中世日本史に大きく関わってきた。こと海上戦にかけて、彼らは無敵を保ってきた。 (今は流石に苦しいが)幾たびもの海戦で、人間側の水軍は、実にあっさりと叩きつぶされた。彼らの海上輸送は、鬼の砦を難攻不落の要塞とした。 鬼という奴は、身体が大きく身体能力も高いため、かなりのカロリーを必要とする。要するに大飯喰らいだ。輸送の物資も大量に必要なのだ。 あの有名な藤原純友の乱があそこまで長引いたのも、彼らの暗躍によるものである。 なにしろ、瀬戸内海は彼らの庭のようなものだ、討伐軍が気の毒である。よくぞ平定できたものだ。 他の鬼との関係は、普通だ。ただ、同じ水軍として、「辰宮」とはライバル関係にある。 別に両者が争うことはないが、お互いに敵視ではない対立をしている。現に、年に2回、両者は会議を取り持っている。 同じ文章の使い回しだが、気にしないで欲しい。一般的に言って、「海の男」な鉤針は、声が大きく、特に笑い声が大きい。好き嫌いの分かれるところだろう。 分家は「村上」や「河野」が代表的なところだ。というより、瀬戸内の海賊は、多かれ少なかれ「鉤針」と関係がある。 余談だが、私は分家筋と親戚関係にある。世の中は狭い物だ。 戦国時代は多くの鬼が縮小した時期だが、彼らのみは、大きく時流にのって、江戸時代にはちゃっかり、船手奉行になっていたりする。 「鈴木」を除けば、今日最も繁栄している鬼であるといっても、あながち間違いではないだろう。海の持つ力は、偉大である。 また、断言はできないのだが、その性質上、彼らの相当数は海外に移っていたのではないか。海外の鬼伝説は、「鉤針」と深い関係がありそうだ。 「辰宮」同様、音戸の舟唄にあるように平将門との縁が深い一族でもある。 現在の頭首は、「鉤針 碇」。 強面だが人情に熱い兄貴だ。 【津山】鬼の剣士にして追及者。 +... 津山という一族は、まさに剣士の名に相応しい。 戦場で常に先頭を切って突っ込んだのは彼らであり、「鬼の切り込み隊長」と相手に畏怖されていた。 無論、鬼といえども不死身では無いので、戦での死亡率は、彼らが一番高かったようだ。 特に、万寿の征伐では、一族の本家も分家も含めて七割が戦死した。この時に幾つもの津山の分家が絶えている。 だが、現在においても、その凶暴性故に、津山は鬼の一族の中でも特に名高い。その爪は、鉄板をも易々と切り裂き、素早い動きは、常人にはまず捉えられないだろう。 ただ、鬼の中では、比較的持久力がないとされており、ばてるのは早い。無論、「鬼の基準」でのことだが。 分家としては、「津村」や「津川」がいる。 他の鬼との関係は、さほど良くない。何に付けても急進的で浅慮な傾向のある「津山」は、他の鬼たちにも「目のない鉄砲玉」くらいにしか思われないケースが多い。 特に「闇走」はよく、囮に津山の若い衆を使っているといわれ、いがみ合っている。とはいえ、その武力は大きく、鬼の中では重宝されている。 「津山」は自己主張は強いし、それに見合った力を持っている。にもかかわらず、組織をまとめたり指揮を執るのは苦手だ。 一言で言えば、カリスマ性が無い。鬼の中では強者に分類されるのに、いまいち目立たないのはその辺りに遠因が、、、 頭首は代々、「刀十郎」という名前を襲名するのがしきたりとなっている。 現在の頭首は、「津山 刀十郎(旧名:楓)」。 現在の刀十郎は、女性でありながら歴代最強と言われる頭首だ。 歳は見た目からは想像もつかないが、80は超えているのではとささやかれている。 【闇走】鬼の忍にして暗殺者。 +... この家はかなり特殊な家訓を持つ。家を継ぐのは血の繋がる一族ではなく、養子である。何の血縁の無い人間をさらい、鬼の血を分ける。 そして、発狂した者はその場で殺し、血の苛烈な衝動に耐えきれた者のみを一族に迎え入れる。そういう意味では、純粋の「闇走」なる者は存在しないと言っていい。 その後も詳細は不明だが、苛烈な特訓を半年に渡って受け、生き延びると一人前と認められる。そして、上官の命に従い実戦へと出る。 内部は厳しい階層性になっていて、上に上がりたいなら方法は、自らの上官を殺すか自然死を待つかしかない。 さらにこの一族の特殊な点は、一つも分家が存在しない所にある。 一族の成り立ちを考えれば当然かもしれないが、この一族は、これで精強さを保っている。そして、生業である暗殺や工作、誘拐などを繰り広げる。 「冷泉」でさえ、この「闇走」に頭ごなしに命令することはできなかったといわれている。 他の鬼との関係は、まず、ほとんど接点がない。闇に生き、闇に死ぬ闇走に関係無いのはほとんどの鬼が同じだ。 あまりの特殊性故に、一族の人数も少ない。彼らは依頼さえ受ければ同族でさえ、ためらい無く殺すだろう。友好を求めてもどうしようもない。 「冷泉」に鬼がまとまっていた時」は、果たしてどういう態度で会議などに出ていたのか、個人的に興味がある。 もっとも、誰がトップに立とうが彼らには関係ない。彼らは、命令どおりに「任務遂行」するだけなのだから。 【傀操】鬼の道化師にして、放浪者。 +... 読みにくいが、「くそう」と読む。この一族こそ、鬼の中で最も謎に満ちあふれていると言っても過言ではない。 古来より、傀儡や猿回しといった芸能を行い、この一族は日本中を巡り歩いていた。目的は分かっていない。 一説には間者として諸国を偵察していたとも言うが、具体的な資料がまるで無いのだ。 だからといって、おいそれと傀操の方に伺うわけにもいかない。現在でもこの一族はかなり排他的なのだ。 この一族は近年になるまで文字を習得せずに口伝で技や歴史を伝えてきた。 鬼の全盛期、彼らはほとんど会議にも出ることがなく、やはりその辺を彷徨いていただけだった。 それに目を付けた人間の軍勢が夜襲をかけたらしい。その軍勢は、翌朝、世にも悲惨な死体となって発見された。 喉笛を噛み千切られた者、五体をずたずたの八つ裂きにされた者、何か重い物で頭部をすりつぶされた者。全員の死体が原型を留めていなかった。 その後、何喰わぬ顔で彼らは去っていった。これ以来、この一族に手出しする事件は無かった。 分家は芸の名前によって決まる。本家の「傀操」は傀儡の技、「猿操」は猿回し、「占操」は占いといった具合である。 現在でもそれぞれ得意の芸を引っ提げて全国を巡っている。最近はサーカスなどもやるようだ。 他の鬼とは疎遠だ。何をやっているのかよく分からない「傀操」に対して、他の鬼の反応は冷ややかだ。特に助けることはまず無い。 ただ、「闇走」とは、他の鬼と比べてだが、連絡があるようだ。 これは未確認の情報であり、追跡調査が今後も必要だが、この一族が一芸に秀でるわけは、技を殺しに使っているからという情報が入っている。 曰わく、「傀操」は操り人形の糸で人体を切断する「操弦」の技、「猿操」は猿に相手を噛み殺させる「喰猿」の技、「音操」の人間は死体をも意のままに動かす「操笛」の技を使うというものだ。この他の分家にもあるらしい。 これが真実なのかどうかは未だに確かめるすべをもたないが、上記の死体の有様と技を対比してみると、実に殺し方が似ている。私は傾聴に値する意見だと思う。 それにしても、これが正しければ、この鬼だけが己の肉体を武器にせず、技で戦うということになる。(「闇走」は除く)道化の力、侮るべきではない。 【月宮】鬼の呪術師にして、狂者。 +... この鬼を人はこう呼ぶ。「狂気の鬼」と。それほどこの一族には狂人が続出している。狂気と正気の狭間に立つ定めなのが彼らだ。 この鬼の最大の特徴は、その狂気を他人にも伝染させることができる所にある。その人物の持つ狂気を刺激し、目覚めさせる。 かつて何人もの「鬼殺し」が、彼らによって精神を磨り減らされ、引退していった。 狂気は人によって違うので、ある者は過食に走ったり、またある者は潔癖症になったりと、対策のたてようがない。せいぜい、「強く自分を持て」くらいしか言えないのだ。 また、歳月を経た「月宮」は、その狂気を現実に反映させることができるとも言う。灼熱地獄を想像すれば、それが現れると言った具合にだ。 さすがにこれは確証は持てないが、あり得ないことと言い切るのは、この世界を知っている人間にはできないだろう。 他の鬼との関係はあまりない。狂人が多い一族故に、通婚関係もない。 その狂気の技が気味悪がられていることも手伝って、鬼の中でもアウトローな一族だ。 分家は「月山」や「月丘」というように、「月」が頭に付く。英語で「狂気の」が「Lunatic」であることを暗示しているかのような命名だ。 この鬼はこの精神汚染の能力を駆使して、歴史を暗躍したとも言われる。有名な平清盛の「髑髏の怪」も、この一族の陰謀ではないかと疑われている。 【羽扇】「羽扇」鬼の僧侶にして、天狗。 +... 天狗のモデルとなったのは、この一族と言われている。 天狗には大きく分けて、鼻の高い大天狗(鼻高天狗)、鷹や鷲のような姿をした小天狗(烏天狗)などがあるが、「羽扇」はそういう姿ではない。 格好から言うと、修験者である。問題は超人的な力にあるわけで、、、。 例えば、幼き日の源義経を指導した鞍馬天狗や、流罪後の崇徳上皇に仕え、平氏の人間を苦しめた白峰相模坊などがこの一族と思われる。 どうも、修験者の格好をしている割に、政治臭のする連中である。 分家としては、「羽杖」や「羽嚢」などがある。しかし、元々閉鎖的な一族である故に、その絶対数はきわめて少ない。 修験者の格好をしているので、嫁も来にくい傾向にあるようだ。 他の鬼との関係は、やはり疎遠だ。同じように諸国を巡る「傀操」とは一定の協定と交流があるようだ。 修験者の格好をして、この一族は諸国を巡った。険しい山道もその健脚で瞬く間に走覇する姿は、その辺りに住んでいる住民にしてみれば、どう考えても「天狗」としか見えないだろう。 ちなみに「天狗」の語源は素戔嗚尊の吐く息より生まれたとされる天逆毎とされている。中国の「天狗」は「天の犬」という意味で、全然関係がない。 主に四国や大和などの、旧来よりの参拝地とされて来たところを、彼らは巡っていることが多い。なぜ、道無き道を歩むのか。西洋のドルイド僧と比較する研究報告もある。 だが、一説には山に逃れ、「一族」から離れた「はぐれ鬼」を狩っているのではなかったのか、とする説もある。 その超俗的態度から、人間に対しても、何処か突き放したような態度に出ることも珍しくはない。 しかし、歴史に顧みても人間に手を貸すことも多いようで、古くから人間との交流があるのもこの一族である。(いわゆるツンデレというやつだろうか?) 【鈴木】鬼の兵にして、大衆? +... 鈴木は鬼の一族の中で最も数が多い一族だ。数えるのもいやになるほど分家がある。 とはいえ、血が相当薄いらしく、自らの「鬼」が目覚める人間は滅多に出ない(本家は除く)なにしろ、普通の鈴木さんも日本では非常に多いのだ。 はっきりといって、家系図を見ないと、「鬼の鈴木」か「普通の鈴木」か分からない。多すぎる、というのも不便なものだ。 鬼のなかで、人海戦術を今でも使うことができるのはこの一族くらいのものだろう。その分、他家に全ての能力で劣り、「雑兵」扱いされることもある。 だが、現在絶滅とまではいかなくてもその数を減らしつつある鬼の中で、いち早く人間との通婚を奨励し、その一族の数を着々と増やしてきた一族である。 本家を中心とした一大サーキット(回路)を張り巡らしているとも鬼の間では噂されている。 最弱の鬼は、一族の結束と数を強化することで、侮りがたい力を手に入れたわけだ。 分家は上記の通り、分からない。多いのは確かだが。 他の鬼との関係は、超俗的な「闇走」や「羽扇」などはともかく、その他の鬼からは下にみられている。 特に、近代に至るまで不当な弾圧や差別を受けてきた「傀操」からはよく白眼視される。「人間に媚びている」というのが最大の理由だ。 歴史上有名な鈴木は多いが、この一族で一番有名なのは、織田信長の猛攻を執拗なゲリラ攻撃でうち破った根来衆の頭の鈴木一族だろう。 よく分からない人も、雑賀孫市と言えばわかるだろう。本名を鈴木重秀と言う彼は、徹底的なゲリラ戦法と鬼には珍しい集団行動の徹底、そして、最新鋭の鉄砲の集中運用で、伊賀の鬼を天正の役で根絶した信長と互角に渡り合い、最終的には和平までもっていった。 個人戦を重視し、あまり戒律に厳しくなかった鬼達にとって、これは衝撃的だったらしく、この後鬼の間で一族協同が強く叫ばれるようになった。 近代兵器に対して、いち早く目をつけたのもこの一族である。 【犬神】鬼の獣にして、忌み筋。 +... この一族は現在、日本ではその姿を見ることができない。その存在は、中世以降途絶えている。 それはなぜか?有力な説は、海外に一族ぐるみで渡海したというものだ。それにはとある要因が関わっている。 西洋におけるワーウルフには幾つもの種別がある。 詳しくは「月夜の森」にでも行けば資料はあるが、それらの一族の中に全く入っていないにも関わらず、中世以降ひょっこり現れ「無冠の一族」とされる一派がいる。 どうも、彼らが、中世以降日本から姿を消した「犬神」ではないかと言われている。 この一族の特徴が、「鬼」と化したときの体型が、人型ではなく獣であることである。 本家は「犬」というより「狼」、分家の「熊神」は「熊」など、姓にかかる動物の姿をとるのだ。 原理はよく分からないが、そういうことから、この一族は人間はもとより同じ鬼からも「忌み筋」とされ、冷遇されていた。 その辺りに一族大量移住の真相があるのではないかと思われるが、、、なにしろ、詳しく調べるには西洋・東洋・シルクロードと調べねばならず、一苦労だ。 おそらく合同調査チームを組まねばなるまい。 この一族には、まだよく分からないことが多い。とはいえ、鬼と同じくらいワーウルフも閉鎖的な一族である。前途は多難である。 某探偵と、遺産争いで骨肉の争いを起こした某一族とは一切の関係もない。 最近まで滅びたと言われていたが、富士の樹海にてその個体らしきものの目撃例が上がっている。 しかし、富士の樹海といえば裏の世界では立ち入っては行けない禁忌の場所である。どうしたものか。 【組織:オヤシロ】鬼の警察、はたまた掃除屋? +... 重大な違反を犯した同族(鬼族)や暴走し手に負えなくなったものを狩るための組織が「オヤシロ」である。 設立時期は定かではないが、ここ数十年から百年ほどの間で設立された新しい組織と言われており、各家の連携を強めたいとの思惑もあるようだが効果の程は定かではない。 (一部ではBBNの設立と同時期に設立され、BBN所属の鬼達によって設立されたとの情報もある) 「オヤシロ」は普段は神社を営んでおり、各家によって祀られている神様は違っており、「鉤針」なら恵比寿、「傀操」ならば弁天と言った具合に家業に関係する。 現在は、10の分隊があり、各部は各家の直系の者達と「宮司」と呼ばれる「オヤシロ」の最高責任者によって治められ、10人ほどの人員から成り立っているようである。 普段は鬼族の厄介事(魔物関連)を片付ける仕事がほとんどだが、暴走し手に負えなくなった同族が出ると12家の決定の元に“狩り”を実行する。 心のない同族には死神などと呼ばれ忌避されることもあるようで、鬼達の内部も一枚岩というわけではなさそうである。 BBNとは繋がりが古くからあり、相互的に協力体制にあるようだ。 アスラについて +... 12柱のアスラ王をリーダーとした天界より落とされた多面多臂の神々であり、鬼達の祖先と言われている存在だと言われる。 元々は鬼族の長達が、目下の者達に権威を示すための妄言だと思われていた。 しかし、ある遺跡にて鬼を生むアスラ達の姿が描た壁画が発見されたことによって、その見解は多少なりとも見直されることとなる。 実際に神や悪魔と呼ばれる高次の者達が存在することは裏社会では常識の範疇であり、 この発見によって今まで明かされていなかった鬼達のルーツが解き明かされるかもしれないと期待された。 最初の遺跡発見以後、同じような遺跡は発見されず鬼達の排他的な社会の構造も相まって調査は難航しており、真相は依然として闇の中である。 現在では、この壁画すらも太古の鬼族達が自らの権威を象徴するために描いたのではないかと言われているほどだ。だが私は、この意見に対して少々違う見解を持っている。 ここからは私の推測と妄想の範囲になってしまうが、こういった話に浪漫を求めずにはいられないのが私のような人種であろう。 知人の話によれば、歴代の鬼達の長の中には副椀を持った者も多くいるらしく、そういった者は必ずと言っていいほど強力な力を持っているそうだ。 副椀といえばアスラを連想させる特徴の一つであり、先祖返りだとは考えられないだろうか? また、アスラ王は11柱神々とそれを束ねる1柱の神から構成される。それらの名は現在の十二家の苗字を連想させるものだ。 少々乱暴な見解であることは承知だが、私がこういった考えを持つのには他にも理由がある。 鬼達の信仰に目を向けてみると一見普通の神道を進行しているように思えるが、 彼らが進行している神仏の像を見てみるとどの像も多面多臂であることからアスラ信仰が源流にあると考えられる。 一族の長が絶大な力を持つ鬼にとっての信仰とは、長の神格化にあるように思えてならない。実際彼らが信仰しているのは、12家本家に縁があるものばかりなのである。 また、彼らと同じアスラを信仰する者達は、種族関係なく一部ではあるが鬼の力を発揮するものもいる。 これは、アスラを信仰することによってその加護を受け、鬼としての能力を発現したのではないだろうか。 異国の宗教には、教徒が信仰によって力を得る例も多数見受けられるため、アスラ信仰にもこういった力があるのではないかと私は考えている。 こういった実際に異能の力が関わっていることを考えると、「鬼の祖先がアスラである」といった意見を一笑に付してしまうのは早計であると私は考えるのである。 以上、ある冒険家の手記より抜粋。
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3780年代の各シナリオの背景となる<独自設定>をまとめたものです。 公式とできるだけ矛盾しないようになっていますが、あくまで独自設定なので注意。 公式設定に基づく説明はこちらをご覧ください。 舞台背景 地理関係 年表 用語集 基礎的事項 その他 クラスタニア(国家) 第三塔にあるレーヴァテイルの国家。現在の指導者は総統兼将軍のアカネ。 かつては第三塔全体を支配し、人間を厳しく弾圧していたが、アルトネリコ3を経て人間との融和政策をとるようになった。 惑星再生後もそのままソル・クラスタの代表としての地位を得ている。 (塔をコントロールするモジュール・ハーヴェスターシャがクラスタニアにあるのと、敵対していたアルキア研究所が没落しクラスタニア管理下に置かれたため) とはいえ、重要な決断の際には、アルキア市長・リッカや大牙連合代表・ゲンガイと合議するようにはしているようだ。 第三塔消滅後、クラスタニア住民の多くはメタファリカに避難したため、クラスタニア臨時政府もインフェリアーレに置かれている。 現在は第三塔地表で町を建設中。同時に旧アルキアや大牙連合との連携を進め、3785年を目標に新政府樹立とソル・クラスタ帰還を目指している。 ソル・クラスタ全塔避難騒動 3779年に起こった事件。第三塔が消滅するという警告がティリアから出され、それからたったひと月で全住民が塔から脱出することに成功した。 ただし、実際には塔は消滅せず、避難した住民は半年ほどで元の場所に戻ってくることになる。 しかし、避難の間に町を空賊が荒らしまわったり、また避難から帰ってくるタイミングの違いで職を失う者がいたりしたため、その余波は大きかった。 アルキアでは市長リッカの支持率が急落する結果を招いている。 ダイキリティの価格破壊 ソル・シエールは、三つの地域の中でもダイキリティの価格が特に高かった。 3779年、ソル・クラスタから避難してきたアルキア研究所の一人が、この価格差をビジネスチャンスと捉える。これがMWEの始まりである。 3782年初頭、MWEはダイキリティ事業に電撃参入を果たした。 天覇製の1/4という価格は衝撃的なもので、天覇も対抗して値下げをしたものの、シェアは一気に逆転した。 ダイキリティを買うお金を稼ぐために天覇やエル・エレミア教会に勤めていたレーヴァテイル第三世代はまだ多かったが、 この価格破壊をきっかけに天覇やエル・エレミア教会を辞めたレーヴァテイルは、この年だけで1万人を超えると言われている。 第三塔消滅 3781年、ティリアの寿命によって塔の崩壊が始まった。 崩壊の3か月前に警告は出されていたものの、2年前の避難騒動の経験があったために従わない人間が多く、クラスタニア以外では避難の初動に失敗した。 その結果、第三塔は大混乱に陥り、アルキアを中心に多くの犠牲者を出すことになった。 一方で、天覇の巨大飛空艇建造や第一塔からの導力供給による延命策によって、大部分の人はなんとか避難することに成功した。 塔の消滅の影響は次の通り。 クラスタニア: 塔とともに消滅。モジュール・ハーヴェスターシャVISTAはリバーシアプロトコルの時にできた塔の一部であったため、ティリアと運命を共にした。 アルキア: 市街地の大部分を落として塔本体から切り離したため、巻き込まれて原初の塔が破壊される最悪の事態は免れた。 現在は原初の塔にアルキアの廃墟がぶら下がる形で浮遊を続けている。 大牙: 彩音回廊がなくなったために、標高10km前後の本来の環境に戻っている。トコシヱなどの地下を含め、人の住める環境ではなくなった。 堕天峰国際空港計画 三地域の交流が始まって逼迫するアルキア空港に代わり、新しい空港を堕天峰に造ろうという計画。堕天峰復興の決め手としてゲンガイが提唱。 アルキアとクラスタニアは当初難色を示していたが、押し切られる形で計画が決定された。 しかし、3779年の避難の際に事業は凍結。いったんは再開されたものの、第三塔消滅によってこの計画もあえなく霧散した。 地表調査プロジェクト 復活したアルシエルの地表の詳細な地図を作るプロジェクト。ソル・シエールとメタ・ファルス地域については天覇主導で進められている。 ソル・クラスタ地域についてはクラスタニアとアルキアの共同で進める計画があったが、第三塔消滅により手つかずのまま立ち消えとなっている。 天覇のプロジェクトでは、まず第一次計画としてホルス右翼跡地が調査され、3782年に調査結果の報告がなされた。 「地表の遺構は衝撃波で吹き飛ばされてほとんど残っていない」などの話はこの報告に基づくものである。 3783年からの第二次計画では、ブラスト地区の調査とホルス右翼地下の探索が並行して進められる予定。 地表の町 ソル・シエールとソル・クラスタの地表では町が建設されている。 完成時にはともに数万人規模の都市になる見込みだが、現状ではまだインフラも充分に整ってはいない。 また、両者ともに町の正式な名前はまだ決まっていない。 中心となる町の周辺には、主に農業を営む多数の村落が形成されつつある。 また、ごく一部であるとはいえ、漁業や鉱山開発で生計を立てる者もいる。 しかし、まだ三地域の国境線が決定していない関係で、塔から離れた場所の開発は禁止されている。 地表の様子 惑星再生当初は地震が頻発するなど不安定な地表だったが、5年以上が経過した今はだいぶ落ち着いてきている。 地震の回数は大きく減り、気候は安定し始め、また場所によっては森が形成されるなど、ようやく人が住むのに適した環境になってきたと言える。 とはいえ、住み慣れた場所を離れて地表で暮らす人はまだ少数派ではある。 第一塔にはホルスの翼・第二塔にはできたばかりのメタファリカがあるので、それらと比べ圧倒的に不便な地表暮らしを望むものはそう多くはない。 ティリア復活計画 3781年、ついに第三塔の崩壊が始まる。数か月の延命には成功したものの、結局同年中に寿命を迎え、第三塔は消滅した。 それから1年が経ったころ、さーしゃの発案でティリア復活計画が始まった。 計画では、メタ・ファルスに残っていたリムをすべて落とし、浮いた導力でティリアのための培養槽を作ることになっている。 この時点でメタファリカへの移住は完了していたが、それでもリムを落とすことへの反発はあったようだ。 3782年の終わり頃、計画は実行に移され、リムはごく一部を残して全て消滅した。3783年現在では培養が進行中である。 テル族の動向 テル族は、惑星再生の時点では、ソル・シエールにそれなりの数、メタ・ファルスに少数、ソル・クラスタには数えるほどしか残っていなかった。 惑星再生を経て三つの地域のテル族コミュニティが繋がり、テル族としての身の振り方の模索を始めている。 そんな中で第三塔が消滅した3781年、「かつてのテル族の聖地・シェスティネに帰還する」という提案がなされ、支持を集めている。 これは、第三塔跡地の近くで町の建設が始まったため、このまま放置すれば 塔に近いシェスティネも人間の町に取り込まれてしまうのではないか、という危機感が背景にあった。 3782年、最初の調査団がソル・クラスタに派遣された。 シェスティネの現状を確かめるとともに、アカネたち現地指導者に対して当該地域の開発を行わないよう要請している。 天覇の現状 アルトネリコ1本編終了後、プラティナからグラスメルクによらない技術を導入し始めたものの、 組織の巨大さゆえにグラスメルク依存からの脱却はなかなか進んでいない。 ただし飛空艇部門については(クルシェが居たこともあって)第一塔を離れられる飛空艇をすでに量産できるようになっている。 また、レーヴァテイルを大量解雇してしまう不手際(実際には雇用形態の転換を意図したものだったが、 そのまま戻らない者も多くいた)など、人材流出が問題になっている。 塔間ネットワーク 三地域を結ぶ部分については既に完成し、レーヴァテイル・オリジンやβ純血種でも問題なく塔間を行き来できるようになった。 現在は、不具合があっても対処できるように、中継衛星の冗長化を進めているところ。 その一方で、塔を結ぶ直線上以外の区域については、まだほとんど対応できていない。 I.P.D.への対応については、ソル・シエール側にも中継衛星を一つ配置した。この結果、I.P.D.でもどの地域でも詩魔法が使えるようになった。 ただしI.P.D.は第三世代しかいないため不具合が起きても影響が少ないとして、これ以上の中継衛星打ち上げは当面行わないことになっている。 飛空艇定期航路の状況 三つの地域を結ぶ路線については惑星再生後の比較的早い段階で開設されている。 ただしソル・クラスタ路線は、第三塔消滅後はかなり減便されてしまっている。 所要時間は、高速の飛空艇なら、例えばメタ・ファルス~ソル・クラスタを3日で飛べる。 とはいえ一般人が普通に利用できるような飛空艇はもっと遅く、10日以上かかるのが普通。 ソル・シエール内ではネモをハブ空港とする路線網が維持されている。 本編終了後、プラティナ~ネモ間の路線が開設されたが、イム・フェーナ~ネモの路線はまだ。 メタ・ファルス内では、パスタリアやリムとメタファリカ各地を結ぶ路線が開設されたが、 リムの全パージ以降はインフェリアーレ~パスタリア線程度で事足りている。 第三塔消滅後のソル・クラスタでは、まだ空港建設が進行中で、仮設のまま無理やり使っている状態。 ホルス右翼 3420年に落ちたホルスの翼右翼の跡地。惑星再生で死の雲海がなくなったことにより行けるようになった。 巨大な断崖や峡谷など、地表に激突した際に砕けて割れた痕跡が全域に残っている。 また、地表にあった都市などの構造物は落下時の衝撃波によって軒並み吹き飛ばされたため、 ごく小規模な遺構が散在するほかは、瓦礫がところどころに吹き溜まっている程度である。 地下の構造物については比較的良い状態で残っているものもある。とはいえしばしば陥没事故を引き起こしている。 ソル・シエールにおける地表開拓は、今のところはホルス右翼の範囲内にとどまっている。 シルヴァホルンの効果範囲内(=グラスメルク製品が使える)であるため都合が良いというのがその最大の理由である。 メタファリカへの移住 3774年のメタファリカ誕生後、リムの住民のメタファリカへの移住は数年かけて行われた。 最初の一年で土地利用計画を策定し、以降は町などの建設を進めながら移住を進め、すべて完了したのは3781年。第三塔消滅の直前のタイミングだった。 3779年の第三塔全塔避難の際には、移住で空きができたリムの町を避難民受け入れに使っていた。 3781年の第三塔消滅後の避難民は主にメタファリカで受け入れている。 なおパスタリアについては、移住事業完了後の今もある程度の住民が残って暮らしている。 既存の食糧生産プラントなどを維持し、メタ・ファルスの安定に一役買っている。 メビウスワークス・エレミア(MWE) 第三塔消滅後ソル・シエールに避難してきた、元アルキア研究所と刻の輪製作所の技術者たちが立ち上げた企業。 設立年は最初の避難の年である3779年。本社は地表の町、工場はネモ郊外にある。 最初期の人気商品はソル・クラスタ式のVボードだった。稼いだ金を元手にダイキリティ生産を始め、寡占状態を崩して価格破壊を引き起こした。 まだそれほど大きくはない会社だが、その技術力は確かなものである。 加えて、メルク(グラスメルクをする人)のうち天覇に反感を抱いていた層をすでに取り込んでいるようだ。 天覇の弱点(グラスメルクに依存)をすでに把握していて、的確な戦略で一気に市場に食い込み、 たった3年あまりの短時間で天覇に警戒されるほどの存在になった。
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別館投下作品 _________________________________________ ○注意点:独自設定、未来もの。 ふたりは普通の結婚をし、それぞれ家庭を持ち、子供がいます。 夫は登場しませんが、設定として存在しています。 ○あらすじ:ふたりが高校を卒業してから20年近く。 反抗期真っ盛りのかがみの息子と、こなたとの会話。 歳を経て思い出す、「こなたさん」の思い出。 _________________________________________ 本文へ コメントフォーム 名前 コメント こなたの優しさ、かがみの優しさ そして、何年経っても変わらない互いへの想い。 それはお互いが家庭を持つ事で更に深まり、二人の育てた愛が未来へ続いて行く。 これは、永遠に続く愛の形が綴られた、素晴らしい物語だと思います。 作者様、本当にありがとう!最高です!! -- 名無しさん (2011-09-16 16 00 09) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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ここにはオリジナルで追加された冒険者の宿の詳細が載せていきます。 吹き抜ける砂塵亭 吹き抜ける砂塵亭 元冒険者であるダンテ=デスペラードが経営している冒険者の宿。 通常の酒場としても機能している。 三階建ての大きな建物であり、一階は酒場券食堂券冒険者仲介場となっている。 二階、三階は宿泊できるようになっており、30人程度は宿泊できるようになっている。 なお、砂塵亭とはまた別の宿泊施設が複数ある。 吹き抜ける砂塵亭に繋がる形で二階建ての家が建てられており、そこがデスペラード家が住んでいる家である。 店員 ダンテ/冒険者クエスト斡旋、荒事担当 ベアトリーチェ/厨房担当 フリーシア/ダンテサポート兼ウェイトレス兼厨房兼荒事兼食材調達兼人・物運搬 デリュー/ワイン倉、厨房担当 セレナ/ウェイトレス ファナティ/食材調達係兼厨房担当 アンナマリー/厨房担当 フレデリカ/ウェイトレス シオネ/ウェイター兼最期の晩餐 コボルドワウワウ/厨房担当 コボルドバウバウ/厨房担当 コボルドニャンニャン/厨房担当
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ここでは本小説のオリジナル用語の説明をここで並べていきます。 旧サイト時代よりは設定がリニューアルされています。 ファイアーエムブレム、ティアリングサーガで言及されている用語については オリジナル要素が含まれていても除外していますのでご了承願います。 魔力の具現化 魔力の受け流し 時空剣 アウロボロスの再厄 ユグドラル軍縮協約 理の超越、バーストアウト トワイライト、ブライトアウト 四柱神 天属性と冥属性 オーバーブースト 魔力の具現化 (第一話~) 魔力を術者のイメージした姿に実体化させること。実体化させるには装備している魔法に応じて必要となる魔力が異なるが、基本的に上級の魔法になればなるほど必要となる魔力が格段に多くなる。当然維持にも魔力が必要となるため、相当高位な魔道士でないと扱えない。多くのものは扱いやすい剣にすることから、魔法剣と呼ばれることもある。 魔力の受け流し (第一話~) 精霊と親密な関係にある術者を守るために、精霊が魔力を弾くこと。術者の魔法防御に依存しないが、高等魔法を弾くだけの高等精霊が少ないことから基本的にはファイアやサンダーなどの低級魔法に限定される。 時空剣 (ウェブノベル第二話~) 時空を自由に行き来できる特殊能力。限られた一族のみにしか与えられていないが、とある剣によって同様の力を得ることも可能。過去・未来に飛ぶだけでなく、別時間軸の世界(並行世界)にも移動することが出来る。 アウロボロスの再厄 (ユグドラル・リーベリア・アカネイア・第三話=第四話間) 魔大戦最終盤に発生した、有史以来最悪の悲劇。 魔大戦で発生した憎悪を取り込んだアウロボロスが完全覚醒し、黒き雨が世界中に降り注いだ。 当時の総人口の半数が死亡する事態になり、隆盛を誇っていた機械文明が事実上死滅する。 その後の環境の激変などもあり、最終的には人口は三分の一にまで減り、各大陸のパワーバワンスも激変した。 (特にリーベリアは激変し、カナンとリーヴェが衰退し、サリアが大陸一の国力となる。) その後は機械文明の遺物・技術が徹底的にタブー視され、それ以前の魔法を中心とした文明へと戻っていく。 ユグドラル軍縮協約 (ユグドラル・第四話) ヴェスティアのアルド、シレジアのクレスト、トラキアのフィリップの間に結ばれた軍事協定。大陸全土で600万を超える動員能力(人竜戦役時は700万)は他大陸にとって脅威にしかならないことから、軍民の完全分離を同時に実施した。5年計画で三国同時に実施され、総動員力を250万まで圧縮した。 なおこの軍縮に合わせて、各国で軍団の再編成が行われている。 理の超越、バーストアウト (第三話~) 類似:アルティメイトアウト 人を巡る魔力が世の理を超越した状態。これを理を超越したこととなり、この時点で常識を超えた存在となる。多くのものは寿命という概念が多く変わり、総じて長命となる(厳密に言えば、老化が極めて遅くなる)。当然ながら魔力の威力も世の賢者たちとも隔絶したものとなる。セーナや人竜戦役による影響で多くの者が理を超越する存在が相次いだ。 対象者:セーナ、エレナ、ミカ、アトス、エリミーヌ、ラオウ、ラグネルを駆る者、アテナ(ウェブノベル第三話EP)、セーナ(第四話)、リリーナ、ニノなど ここから更に魔力が爆発的に増加した状態をバーストアウト(爆発的突破)状態となる。もっともセーナが勝手に名付けたため、別の呼称があったりする。増大した魔力は肉体を飛び出すためか、身体中をバチバチと火花が飛び交い、解き放たれる魔力も次元の壁を突き破るほどとなる。ただし、その代償も大きく、身体への負担が大きいことから、命を削ることもある。この時点で、次のアルティメイトアウトに見られるような髪色の変化も現れる。 対象者:セーナ、エレナ(ウェブノベル第三話EP~第四話)、アテナ、エリミーヌ、ラオウ、ラグネルを駆る者、フィーリア※、グスタフ※など ※二人は一時的に魔力が急増したため、理を超越した状態をスキップしている。その代償でその後は魔力を失っている。 バーストアウト状態を安定化させた状態をアルティメイトアウト(究極的突破)と、達成した者は呼ぶ。身体中を飛び交った火花も収まり、見た目は大人しくなるものの、バーストアウトで見られた髪色の変化が大きくなり、その濃淡でアルティメイトアウトのレベルが異なる。セーナ一族は主に髪色が淡くなるが、ラグネルを駆る者は逆に濃くなる。この時点で神々をも超えた状態となる。 対象者:ラオウ、ラグネルを駆る者、アテナ、セーナ(天上において達成) トワイライト、ブライトアウト (第三話=第四話間) 天上においてアルティメイトアウトを達成し、更にその後。天上におけるとある事件を経て、更なる境地に達したセーナの姿を、自身でトワイライトと呼んだ。それまでは淡くなっていた髪色も元に戻り、一見すると理の超越状態以前と同様の見た目になっている。後に天上に上がってくるエレナもこの状態を会得する。 当然ながらこの状態となると、最強を誇ったラオウですら優勢に戦えるほどの力を得ることになるが、逆にこれほどの力を効率よく発揮するための武具が天上にはないため、有り余る魔力は主に守備に回ることになる。 対象者:セーナ、エレナ 一方、そのセーナの影響を受けて、光の魔力を究極的に極めたエリミーヌがたどり着く境地がブライトアウトとなる。天上に上ったアテナ、そして現世では有史以来唯一、ロイの娘ルイがその境地へとたどり着く。この状態でも変化していた髪色は元に戻っている。セーナ同様に、天上ではその力が過剰気味になるものの、現世で覚醒したルイはその武具と共に世界を正しく導く役目を全うしていくこととなる。 対象者:エリミーヌ、アテナ、ルイ 四柱神 (第三話終了後) この世界の頂点にいる4人の神を示す言葉。下記4神を示す。 光の創世神ナーガ:この世界を作り上げた光と命を齎した神。アウロボロスとは敵対。 闇の破壊神アウロボロス:破壊と死を齎す神。過剰な生は混沌を生むものとして破壊を行う。 大地母神ミラドナ:ナーガの作り上げた世界に、大地と命の循環を齎す。アウロボロスの存在は必要悪と捉えている。とある大陸ではミラと呼ばれていることも。 ○○○:理と魔法を司る神。四柱神に数えられるが、怠惰癖が酷く、四柱神の言葉が浸透しない要因となる。 なお、命を齎すという共通の役割を持つナーガとミラドナであるが、管轄する大陸を分けることで住み分けており、アカネイア・ユグドラルがナーガ圏、リーベリア等がミラドナ圏となっている。これにより神器や魔法に影響を及ぼす。 天属性と冥属性 光、闇と並ぶ原属性。どちらも扱えるものが限られていることや特徴が似ているものがあったりすると、世界的には全く知られていない。 天属性 大地母神ミラドナとその一族が司る属性。特徴は光属性とほとんど同一のため、意識されていないがリーベリア大陸を中心に術者の使う光魔法は天属性となっている。闇に強く、理に弱い光と異なり、光や理に対する有利/不利は持たない。ただし、冥属性に対しては有利となる。天体系の名称の魔法が多い。 冥属性 現世・天上には基本的に扱うものがいない属性で、冥界のものが扱う。現世では冥界の扉・アビスゲートの魔道書のみとなる。光、闇に対して有利となるが、天に対して不利となる特徴を持っている。 オーバーブースト 魔力を持たない、劣るものたちが、火力に優る術者に対抗するために己の肉体の限界を超越して、辿り着いた境地。元の力量にもよるが、身に付けられれば神に比肩できることも。ただし、肉体のあらゆる要素を限界以上に酷使させていることから代償が激しく、ただの達人でも御しきれるものでない(到達した瞬間に激しい代償によって死亡する例がほとんどで、現世では事実上到達したものがいない)。 実は術者も利用することが可能であるが、巡る魔力が多いことからより激しい代償に襲われる。だが、それにさえ耐えられれば、得られるメリットも凄まじい。 天上にはこの上の段階に到達したものもいるという。
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これは、こなたとかがみが高校を卒業してから、二十数年後のお話です。 この夜、少々不機嫌にとらわれたかがみを、自宅の居間で見ることができます。 ソファに身を預け、少しピリピリしながら、足を組んだり離したり、 スーツ姿でメイクも落とさずにいるのは、仕事から戻ったばかりということです。 四十代も後半というのに、その容色衰えぬどころか、年齢さえも知的な奥行きに換えて、 先ずは魅力的な、大人の女性に仕上がった彼女です。 弁護士として世の声望に応え、颯爽と日常をこなす彼女ですが、 先ほどから誰かと話をする、なにか突っかかるような、少し子供っぽい振舞いには、 日頃、職場での彼女を見慣れている人々が聞いたら、いささか驚くかもしれません。 評判の才媛をして、大人の仮面を捨てての取っ組み合いを強いる、その相手というのが、 余人にあらず、彼女の一人息子です。 母親譲りの美形との評判で、その点かがみも自尊心をくすぐられないではありませんが、 本人にしてみれば、その線の細さが気に入らないのでしょう。 言葉遣いや振る舞いには、不良気取りというのか、取って付けたような乱暴さがあります。 それでいて、どこかツンと澄ましたような行儀の良さがにじむあたり、 こうして並んでソファに腰掛けてみると、もはや誰の子か間違いようもありません。 父親を真似て、手の切れそうなくらい糊を利かせたピンストライプのシャツに、 自宅で寛いでいるというのに、ネクタイなど締めていますが、 それがまたしっくりこなくて、いかにも背伸びして見えるあたり、十八歳に至っても、 未だ「少年」と呼ぶに相応しい雰囲気の少年でした。 「こなみちゃんには、きちんとお別れしてきたんでしょうね?」 「ああ」 「大丈夫だったの?」 「あいつのことだ。分かってくれたよ」 この少年、実はこなたの娘と、将来の約束を交わしていたのです。 ほぼ生まれてからの十八年間、母親同士の因縁そのままに、 まるで分身のように、共に成長してきたふたりです。 それが今後六年間、離ればなれになります。 「最後の夜じゃないの、一緒にいてあげなくていいの?」 「これでいい。六年後オレが迎えに行くまで、あいつとは会わない」 これは彼なりの決意、というものでした。 「宇宙飛行士」 少年が小学生の時、将来の夢として作文に書いたときは、 誰もが歳相応の、子供らしい夢だと思いました。 しかし彼はどこまでも本気でした。 石油代替の決定打として、核融合エネルギーの開発が進み、彼が中学生になったころ、 ようやく今世紀半ばには実用段階に入るという、技術的な目途が立ちました。 しかしその燃料であるヘリウム3は、地上には存在しません。 採掘地として、にわかに月面の開発に注目が集まりました。 今まで遅々として進まなかった宇宙開発が、民間資本の参入を得て、 それで一気に弾みがついたのです。 すでに将来の需要を見越しての、宇宙飛行士の大量養成が、各国で競って始められていたのです。 徐々に身近になってきて、ひとたび打ち上げとなっても、 横断幕を掲げて町内を挙げて祝う習慣も無くなりましたが、 それでも一般人の認識としての宇宙飛行士は、普通の高校生の進路としては、 高校球児が、いきなりメジャーリーグを目指す程度には、まだまだ突飛な選択肢と言えました。 担任はあからさまに迷惑顔、クラスの連中とて苦笑失笑の連続でしたが、 どこ吹く風と本人だけは大真面目で、現に選抜試験を次々と突破し、夢の扉をこじ開けたのです。 高校を卒業してからのこの半年間は、相模原の施設で基礎研修を受けていたため、 時折この家にも顔を出すことができました。 それが、いよいよこの秋から、アメリカはニューメキシコ州ロズウェルに、 十六ヶ国共同運営の宇宙飛行士養成学校が開校し、彼もそこに留学することになりました。 外界から隔絶されたこの施設で、「UP or OUT (進級無くば即追放)」の、 過酷な訓練生活が始まるのです。 そしてその旅立ちを、翌日に控えていたのが、この夜だったのです。 「まったく、まだまだ地上にだって、いくらでも働き場があるってのに、 なんでわざわざ、宇宙にまで行きたがるわけ?」 「その話なら、とっくに決着がついたはずだ。今ごろ蒸し返すな」 無難に自分と同じ道を勧めて、最後までこの進路に反対していたのは母親、かがみでした。 普段から理屈っぽく、ロマンやメルヘンにはいつも冷ややかな息子が、 この期に及んで何故に宇宙飛行士などと、進路相談の時には不審にさえ思ったものです。 しかし、やがて気付きました。 息子はロマンの嫌いなリアリストなのではなく、ただ半端なロマンが許せないだけの、 それは付ける薬のない、ハイパーロマンティストだったのです。 そしてその性質は腹が立つほどに、かがみ自身にもよく当てはまりました。 「こなみちゃんを独りぼっちにして、男のケジメってやつは無いの?ちゃんと籍を入れるとかさ」 「留守中の浮気が怖くて、女房を鎖につなぐような、そんな弱っちい亭主じゃないんだ、オレは」 「・・・あんた、バカ?」 「バカとは何だ。オレは本気だ」 「あんたひょっとしてホントは、こなみちゃんとの結婚がイヤなの? だから宇宙へ行くなんて言ってるじゃないの?」 「さっきから聞いてれば、こなみの心配ばっかりだな」 「誰があんたの心配なんか! 何もかも独りで決めちゃって、私の言うことなんか、全然聞かなかったくせに。 それで“母からの優しい励まし”を期待するなんて、虫が良すぎだぞ!」 「フン、とっくにヘソの緒は、ぶった切ってんだ。いらねぇよ、そんなもん」 いつもと違う特別な夜とはいえ、進路のことで散々やりあった経緯のせいで、 お互い、どうしても言葉尻にトゲが立つのは、自然の勢いというものです。 かがみも昔は、お父さん子と言われるほどに、母とは対等に張り合ったつもりで、 幾度となく反抗したことは確かにありました。 してみれば今の息子との関係は、その時の自分の行いに祟られたとも言えますが、 あの時の母に比べての、今の自分の余裕の無さに、母よあなたは偉かったと、 今更ながらに思うのです。 「だいたい、甘ったれのあんたが、寮生活なんか出来るわけ?」 「うるさいな。やってるだろ、もう半年も」 「こなみちゃんが一緒じゃなくても、ちゃんと眠れるの?」 「い、いつの話だよ、それは・・・」 「一緒におフロ入ってもらったり、添い寝してもらったり、 こなみちゃんには小さい頃から、世話焼かせっぱなしで。 ま、丁度良かったのかもね。いいかげん独り立ちしないと、あんたオトコになれないわよ?」 「男のケジメがある。だから、あいつとはまだ・・・ ・・・って、何言わすんだよ!! 何だよオトコになるって? 余計なコト言うな!」 かがみも、苦笑いを禁じ得ません。 ツリ目で細面の、一見クールに見える端整な顔が、耳まで真っ赤になる。 そういうところも、誰でもない、自分から受け継いでしまった息子です。 こなたが何かと自分をからかうのも、この子を見ていると、その気持ちがわかる気がするのです。 ただ、昔の私はここまでひどくなかったと思うにつけ、 いちいち自分と似ているのが歯痒いやら腹立たしいやらで、母親の立場を忘れて突っかかる、 この調子で何度、良人に叱られたか分かりません。 「こなみちゃんのこともそうだけど、まあずいぶんと、こなたの家にばかり馴染んでくれたわね。 実の母親というものがありながら」 「フン、実の母親が聞いて呆れるよ。昔は仕事仕事であんたロクに家に居なかったじゃないか? ガキの頃なんか、こなたさんがメシ食わしてくれなかったら、さて、マトモに育ったかどうか」 売り言葉に買い言葉。辛辣にやり返せば、 せっかく母親からもらった美貌も、小面憎さばかり目立って始末に負えません。 少年にとって、父親は年齢が離れているせいか、 子供っぽい反抗心を向けるのを躊躇するような、少し成熟しすぎた大人でした。 その分、気質が似ていて絡みやすい母親に矛先が向いてしまい、 ふたりは昔から、子供じみたケンカを繰り返していたのです。 「はあ? なんてこと言うの! そんなこと言うなら、あんたみたいな不孝者、 宇宙でも何処へでも行って、二度と戻ってこなくていいからね!」 仕事にかまけて家に居なかったと、何度となくこんなセリフをぶつけてきたのですが、 実は、これを言えば母が何より傷つくと、知っていたはずの少年でした。 いつもなら、このあたりで捨て台詞の一つでも吐いて家を飛び出して、こなたの家に転がり込む。 翌日、こなたに背中を押されて、渋々と頭を下げる。 こんなことを、今まで何度繰り返したか分からない少年でした。 しかし今夜の彼は溜息とともに、ひとりで母に頭を下げました。言い過ぎて悪かった。 かがみの方といえば、そんな珍しく素直な息子を見て、面食らったような、 却って何か物足りなげな顔をしています。 いつまでもこなたさんには、迷惑を掛けられないからな、母の問いたげな目付きに、 少年は呟きます。なべて今夜は特別でした。 「オレ、昔家出したときに、あんな奴の家に戻りたくないから、 オレをこなたさんの子供にしてくれないかって頼んだことがある」 「な ん で す って!?」 「・・・頼むから、おしまいまで聞けよ? ・・・・って、イテッ!」 「あー、聞いてやろうじゃないの、この薄情者!」 「・・・あの時は、こなたさんに、本気で怒られたんだ」 その時のこなたの言葉は、思いきり張られた頬の痛みとともに、 少年の耳に、今でもはっきりと残っていました。 -「アンタ、なんてこと言うのさ! いいかい? かがみはね、 仕事もアンタもどっちも大事だから、どっちも言い訳にしたくないって言ってね、 どんなに辛い時でも、どっちにも手抜きしないで一生懸命、頑張ってるんだ。 アンタがそんなこと言ったら、かがみが・・・ かがみが泣いちゃうじゃないか!」- -「アンタにはまだ、わかんないだろうけどネ、 お母さんなんて、いつまでも一緒に居てくれるわけじゃないんだよ。 それを・・・ 亡くして初めて有難味が分かったなんて、アンタにだけは、言って欲しくないんだよ!」- もとより当時の少年に、その言葉の意味の、全てが理解できたわけではありません。 その時、何より少年に堪えたのは、こなたの涙でした。 少年は初めて、言葉が人を傷つけることを教えられたのです。 その時の彼は、泣いて母に詫びたものです。 -「わかってる。アンタも淋しかったんだよね。いいよ、今度からね、 淋しくなったら、いつでもウチにおいで。でもさっきみたいな事、言ったらダメだかんね」- ひとしきり泣いたあと、優しく抱き締めながらそう言ってくれた、 その言葉に何度となく甘えながら、 この約束をさっぱり守れなかったことを、少年は今にして思うのです。 「そんなことが、ね・・・・・・・・・・・・・・」 最後には許されると分った上での、甘えた反抗は、誰しもいずれ卒業しなければならないのです。 だれもが通るべきこの関門を、息子が無事抜けることが出来たのも、 こなたが惜しみない愛情を注いでくれたお陰だと、かがみも認めないではありません。 「悔しいけど、あいつの方がよっぽどいいお母さんしてるわね。 こなたは昔ね、子供はたくさん欲しいって言ってたんだけど、無理だったから、 本当はあんたが、あいつの子になりたいって言った時、すごく喜んだと思うよ。 なのにね・・・ 素直じゃないからね、あいつ」 こなたのことが話題に上った途端、ふたりの間の空気がしんみり落ち着くのに、 どちらも気づきません。こなたは永年、ふたりの良き仲裁役だったのです。 こなたを語る母の優しげな横顔に、少年は語りかけます。 「こなたさんとは、もう長い付き合いなんだろ?」 「高校のときからね。友達らしい友達って、初めてだったかな」 「ふ~ん」 「わたしね、それまで友達って、ほとんどいなかったんだ。 優等生だとか言われて、自分は頑張ってもっと先に進まなきゃいけない、って思って、 気がついたら、誰も私に近寄らなくなっちゃった。私、ホントに独りぼっちだったんだ」 原因は自分自身の狷介さにあった。現在のかがみなら、素直にそう認めることが出来ます。 ところが当時の彼女にしてみれば、人を助けられるような立派な人間になりたいと、 真摯に努力した結果、それゆえ人から煙たがられ、嫌われる。それは悲劇でした。 それでも自分のためより他人のため、何くれと尽くすのですが、些細な行き違いから 他人との溝を深め、不器用にもそれを修復できないとあって、 他人と接するほどに、彼女は深く傷ついていたのです。 そんなとき、かがみはこなたに出会ったのです。 「こなたのお陰でね、他人とも、もっと肩の力を抜いて付き合えるようになったんだ」 あるいは、いつもギリギリに張りつめて、身構えていなくとも、 人とは付き合っていけるのだと、教わったということでしょうか。 のっけの初対面から、からかい口調での無遠慮なその指摘は、一歩間違えれば かがみのこれまでの努力を、全否定しかねないものでしたが、これと言って反感は湧かず、 その時のかがみにとって、その感慨は何故か爽やかなものでした。 何かが吹っ切れたそのあとは、みゆきや、妹のつかさは勿論のこと、 中学から一緒だった、みさおやあやのとも、その時から本当の友達になれた気がしたのです。 「こなたはね、私のダメなところを、正直に笑い飛ばしてくれた。 そして、ホンネの私と付き合ってくれた。 でも何より、嬉しいときも、辛いときも、いつも傍にいてくれたんだ」 アニメやら、ゲームやら、なんやかや、自分勝手に好きなことを捲し立てるようでいて、 それでも言辞を弄して無理に慰めようとせず、かといって正論を並べて突き放しもせず、 こなたは傷ついたかがみの心に、ただ、寄り添ってくれたのです。 高校時代の三年間は、のちに振り返ればほんの僅かな期間でしたが、 あの時、二度とない青春を確かに生きていたという実感は、二十数年を経た今も、 決して消えることのない、出来ればそのまま浸っていたい、それは心地よい記憶でした。 息子がこう切り出すまでは。 「こなたさんが結婚したとき、あんたはどう思った?」 一瞬、時が凍りついたように感じ、かがみは傍らの息子を見ました。 少年の、ややもすると女性的な風貌に、軟弱な印象を一切与えず、 ときに暑苦しさすら感じさせるのが、いつも意思の力の籠ったその目です。 それが今は彼の横顔に、ひんやりと光っていました。 母親たちの関係について、何も気付かぬほどには、少年も幼くはありませんでした。 ただ彼はそのことで、手垢にまみれた倫理を振りまわして母を責めるほど、 愚かでもありませんでした。 何故なら、彼の今までの幸福な生い立ちは、何よりも 母がいままで良き妻であり、良き母でいてくれたことによって、成り立っていたことを、 口では認めずとも、彼はよく知っていたのです。 いつの頃からか、そのことを思うにつけ、少年は、自身の出生の意味に悩んできました。 母が想いを遂げられなかった、そのお陰で自身が存在するのではないかという皮肉に。 そうであれば、半端な生き方は絶対許されない。彼は常に全力で走り続けていたのです。 それ故、事実は事実として、少年はその時の母の、本当の気持ちを知りたかったのです。 もしも、母がひたすら自分を押し殺す自己犠牲の上に、今までの彼の人生の全てが 築かれていたのだとすれば、彼にとって、それは覚めない悪夢でした。 くれぐれも、あの時は仕方なかった、なんて言い訳してくれるな。負け犬顔で言ってくれるな。 さもなければオレは、一生を呪われる・・・・・・ 意図して避けてきた話題ではありませんが、誰かに語るには、やはり重すぎました。 しかし、息子の懸念とて、かがみも意識しないではありませんでした。 思えば人生も半ばを過ぎ、これまでの生き方を問われてもおかしくない、 あるいは今がその時なのかと。 なればと、臆することなくかがみは、息子の問いを正面から受け止めます。 「あいつが結婚した時はね、少し淋しかった。でも、それ以上に嬉しかったんだよ」 「好きな相手が誰かのものになるんだぞ、そんな気持ちになれるのか?」 「・・・・そうよ」 かがみは静かに続けます。 「最初のうちは私も、あいつに恋をしていた。だから、独り占めにしたかったんだ。 あいつのほかは、家族も友達も何も要らない、そう思ってた時期もあるわ。 でもね、それじゃダメなんだ。 恋は盲目って言うけど、自分も周りも見えなくなっているから、 好きな相手のことも、本当のところは何も理解できていなくってね・・・」 それは明日の見えない日々でした。 道ならぬ恋と言い、世間の冷たい視線と言っても、 今思えば、それさえも便利な言い訳と思えるほどでした。 世界中を敵に回す覚悟など、とうに決めていたはずなのに、 肝心のふたりの関係が、行き詰まっていました。 恋愛感情は三、四年しか持続しない。 心理学者の野暮な分析を、初めかがみは気にも留めませんでしたが、 それが不吉な予言として思い出されるほどに、 想えどすれ違い、相手の本当の気持ちが分からない。溝は深まるばかりでした。 そんなある日のこと、かがみは耐えかねて、こなたを掻き口説きました。 一緒に暮らそう。 このままじゃふたりはバラバラになる。もう放したくない。 何もかも焦っていたのです。 そんなかがみに、こなたは長い長い逡巡のすえ、やはり耐えかねて、こう告げたのです。 -「私はね、いつか“お母さん”になりたいんだ」- お父さんとお母さんと子供がいる、そんな普通の家族が欲しい。 こんな私には似合わないって、分かってるけどサ。 こなたは俯いて、消え入るようにそう言いました。 -「命がけで産んでくれたお母さんには、もう、何もしてあげられないけどさ、 せめて、私がいいお母さんになれば、少しは恩返しが出来るかナ・・・」- かがみはこの意味を、直ちに理解しました。 そう言われてみれば、支離滅裂で非常識のようでいて、こなたにはいつも抜き難く、 堅実で、家庭的な一面があったのです。 -「学校じゃ、普通と違う家の子は、みんなイジメられるからね。 お父さんには感謝してるけどさ、やっぱり小さい頃は、それでいろいろ辛かったよ。 なんでウチにはお父さんしかいないのって駄々こねて、お父さんをいっぱい傷つけた・・・ ・・・それでも、私の時は仕方がないよ。 お母さんだって、悪気があって居なくなったわけじゃないんだし。 私のことはいいんだ。世間が何て言ったって、いくらでも我慢できる。 でもね、もし私の勝手な生き方のせいで、私の子供を同じ目に遭わせたりしたら・・・」- かがみのこと、大好きだよ。けど私には、それだけは出来ないんだ。ごめんね、ごめんね・・・ こなたの嗚咽さえも遠くに聞くほどの、底なしの絶望感の中で、 なお認めなければならなかったのは、幼いころに母を亡くしたこなたにとっては、 一見何の価値もない、ともすれば辛気臭い幻想にすぎない「普通」の家族こそが、 望んでも、決して叶わなかった夢だったのです。 そしてそれだけは、かがみが決して与えることの出来ないものだったのです。 いつもギリギリのところで避けてしまう、ふたりのすれ違いの正体がそれだったにせよ、 その時、かがみの想いを受け入れるか、母への想いを貫くか、こなた自身迷いに迷っていました。 強く求めればこなたは拒まない。実感として、かがみにはそう思えました。 あるいは無理やり奪って、こなたを自分のものに出来たかもしれない。 白状すれば、後年になってそう思わないこともありませんでした。 しかし、やはりそれは許されないことだったと、現在のかがみは思うのです。 生を享けてさえもいない、まだ見ぬ我が子へ愛を注ぐ、その姿は滑稽にも見えましたが、 そうまでして亡き母への想いを紡ぐ、そんなこなたを、いとおしく思えばなおのこと、 かがみには、このちっぽけな夢を奪い去ることは出来ませんでした。 それは、いくら愛しているからと言って、否、こなたを真に愛していればこそ、 それだけは、絶対に壊してはいけないものだったのです。 その晩、かがみは泣きました。 何より悔やまれたのは、恋人だと云い、一番大切な人だと云いながら、 恋の激情に任せて、相手をひたすら貪り倒すばかりで、 こなたの願いに何一つ気付いてやれなかったことでした。 それが救いのない自責となって、彼女の身も心もズタズタに引き裂いたのです。 終には、声も涙も枯れ果てて、彼女は空っぽになりました。 しかし、かがみが失った恋に泣いたのは、その一度きりだったのです。 自責の念と正面から向き合い、あげくボロボロになり、何もかも失ったかがみでしたが、 それゆえに、唯ひたすらこなたの幸せを願う気持ちが、より純度の高い結晶となって、 彼女の心にしっかりと焼結しました。 こなたの夢は、私の夢。夢も丸ごと愛してやろう。 空っぽの心に天啓が下りれば、新たな力が湧いてきました。 たとえ想いが叶わなくとも、こなたを大切に思う気持ちに偽りがないとしたら、 かがみにも、未だ出来ることがありました。 「そうやって、いつまでもダラダラしてたら、いい相手が見つかんないでしょ!」 こなたとの、新たな生活が始まりました。 デートをすると聞けば、着ていく服、プレゼント、食事する店、何軒もハシゴして選びました。 当日のおめかしも付きっ切りで詰め、心配になってこっそり付いて行ったことも一再ならず。 グチもノロケも呑みこんで、がんばりなさいよ!と背中を叩いてやりました。 そして失恋のヤケ酒も、110と119のどちらかの赤灯がチラつくまで、徹底的に付き合いました。 尽くしても叶わぬ想いに、たとえ虚しさを覚えるときがあっても、 かがみぃ~ どうしよぅ?どうしよぅ? 泣きべそ顔で頼られるたび、 彼女の心に眠る、与えることでしか安らげない魂に、カッと火が灯るなら、 もう居ても立ってもいられませんでした。 そうして駆け抜けた人生どたばた二人三脚、転んでは起き上がりつつ、ふたりが学んだのは、 それぞれ自分なりの、人の愛し方でした。 「・・・あんたは、それで納得できたのか? 相手の幸せのために恋を諦めたなんて、まるで言い訳じゃないか。 一旦この相手と決めたら、どんな障害も乗り越えて奪い取る。 恋ってのは、そういうもんじゃないのか?」 「そうね。でも、一番大事なことは、相手をずっと大切に思い続けるってことじゃないの?」 動揺で少し興奮気味の息子を諭すかがみの眼差しは、 まるで、かつての自分に語りかけるようでした。 「何もかも、丸ごと受け入れた上で、その人のことを、本当に大切に思えるなら、 もう、その人がその人でいてくれるだけで、なにもかも幸せなんだ。 そこまでとことん人を愛せるなら、もう、自分だけを愛して欲しいなんて思わなくなる。 私はあいつだけじゃない、あいつの夢も、みんな愛してるんだ。 こなたにとっての大切な人は、私にとっても大切な人なんだ。 だからあいつが結婚する時、決めたんだ。 これからは、ふたりまとめて愛してやろうって」 これが負け惜しみの類でないことを、少年は知っていました。 職業柄、家庭を疎かにしがちなこなたの良人を、いつも本気で叱っていたのも、 そのくせ、同じ職業人として、彼の悩みを誰よりも理解しているのも、この母でした。 そして向こうも、まるで姉のようにこの母を慕っていることも。 「本物の愛は寛容なんだ。 分け隔てなく周りの人も、みんな愛せるようになるわ。 そうすれば、ふたりだけの世界より、もっともっと大きな世界がつくれる。 そうやってみんなで助け合っていけば、きっと幸せになれる。 だから今の私はね、みんなみんな、愛してるんだ。 あのふたりも。こなみちゃんも。 つかさやみゆきや、そのダンナさんや子供たち。みんなみんな愛してる」 相手ばかりでなく、相手を囲む人の輪を、母は丸ごと愛している。 そのために彼女がこれまで、どれほど心を配り、力を尽くしてきたか。 記憶を手繰るほどに、少年には、いちいち憶えがありました。 「もちろんあんたのことも、ちゃんと愛してるんだからね」 「物のついでみたいに言うなよ」 不意の温かな感触に、ちょっぴり赤面させられては、 少年は口を尖らせて、もう大人しく負けを認めるしかありません。 「・・・そうか、大切な人が増えていくのは、幸せなことなんだな」 「そういうこと。わかった?」 「う~ん」 「ちょっと難しかったかな」 「オレだったら、こなみが他の男と、なんて考えただけでハラワタ煮えくりかえってくる。 そんなんで、本物の愛というやつが、分かるようになるのかな?」 「それはあんたたちが、いつか男と女になるからだよ。 男と女にはね、愛とはまた違う引力が働くから、ちょっと分かりにくいのかもね。 実際、世間じゃそれを愛と勘違いしてる風もあるからね。 でもね、時間をかければ、きっと分かるようになるわ。 じっくり見つけるといいよ。あんたたちなりの愛し方をね。 私もね、確かにあいつを独り占め出来なかったけど、 それでも、大切に思い続けることは出来るし、一緒にいることもできる。 これからも、私なりに、こなたを愛し続けるつもり。 こなたと付き合うようになって、そんな風に人を愛せるってわかって、 そのお陰で、私の世界が何倍も大きくなったんだ。 そう導いてくれたって意味で、あいつは私の恩人なんだ。ホントに感謝してる。 見返りなんて、何もいらないけど、 こなたも、同じように思って居てくれると、嬉しいんだけどね」 事実は事実として、恋をしていた頃の自分が夢見ていた、男女の婚姻のような関係は、 結局のところ叶わなかったのです。 振り返れば、決してすべてが思い通りの人生ではありませんでした。 それでも、共に妻として母として、同じ悩みを共有し、お互いに助け合って生きてきた これまでの明け暮れには、男女の婚姻にも負けない価値があった。 かがみには、そういう自負がありました。 いつまでもウジウジと悩むの禁止。そうでしょ、こなた。 「大丈夫、きっとこなたさんも、あんたを心から大切に思っているはずだ」 決して話し易いことばかりではなかったはずです。 それでも、抱きしめるよりも強い優しさで、率直に、堂々と、母は答えてくれました。 その凛とした横顔は、少年の密かな尊敬の対象でした。 「こなたさんに怒られる時に、決まって出てくるのが、あんたの話さ。 これもかがみのお陰なんだよ、って、何度聞かされたか知れやしない。 こなたさんが言うには、オレ、本当にいい母親を持ったらしいぞ?」 「バカね、何言ってんのよ・・・」 「こなたさんは本当に尊敬してるんだよ。あんたのこと。 結局、ホレたのハレたの言っているうちに、お互い尊敬できる関係に ならなきゃダメだってことなんだよな。 だからオレも、こなみとは・・・ そういう関係になりたいんだよ。 正直あいつとは、あんまり長い間一緒に居過ぎて、 もうホレたとかハレたとか、そんなの通り過ぎちゃったからな」 照れ隠しだということは、かがみには手に取るように分かります。 それでも息子の優しげな眼差しに、あえて訊いてみたいことがありました。 「あんた、こなたの娘だからとか、そういうの抜きで、 こなみちゃんのこと、本当に愛してあげられる?」 自分たちの代わりに子供たちが結ばれて、 かつてのふたりの想いが一つの命となって、未来へ受け継がれる。 そうなったら、きっと素敵だろう。 これは、最後に残された、かがみの夢でした。 ただ、それを子供たちに背負わせることに、引け目もありました。 問題はそれなんだ・・・ こなみは、オレの良いところも、ダメなところも、何でも丸ごと受け入れてくれる。 今度のこともそうだ。何も訊かずに賛成してくれた。 あいつが一番、辛い思いをするのにな・・・」 大切な人を置き去りにしていく引け目は、少年にも無いわけではありません。 「そんなあいつだから、オレは一生背負ってやりたいんだ」 「・・・・・・・・」 「でも、今のままじゃダメだ。 このまま行くとオレは、こなみに甘えて、あいつのこと、何も受け入れてやれない、 何もしてやれない、そういう情けない男になっちまう。 あいつはそれでも、オレの傍にいてくれると思う。 でもそうなったら、ダメなままのオレは、いつかあいつを大切に思えなくなる気がする・・・ だからオレは誰のためでもない、自分で自分に胸張って生きていくために、宇宙へ行くんだ。 宇宙は、何かをやり遂げようとする人間を、今一番必要としている場所なんだ。 やり遂げてみせる。この試練は、必ず乗り越えてみせる」 与えることでしか安らげない魂を、息子は受け継いでしまいました。 彼の気負いには、記憶の端がヒリヒリするくらい、かがみにも憶えがありました。 弁護士を志したとき、こなたを支えてやれる、強い人間にならねばと、 うまくいかないことがある度、そうやって自分を鼓舞してきたのです。 「・・・本当に、行っちゃうんだね」 「ああオレは行く。絶対行ってやる。そして、何もかも背負って行ける人間になってみせる。 そうでなきゃ、こなたさんへの想いを振り切って、 オレを産んでくれたあんたに、顔向けできない」 叶わなかった想いは、オレが必ず未来につなぐ。それは少年なりの、母への誓いでした。 そんな少年に、母がくれたのは、とっておきの熱いエール・・・ ではなく、渾身の一撃でした。 「痛ってぇぇーーーーーーーーーーーーーっ!! なにすんだよ!」 「利いたふうなコトいうなッ! あんたを産んで後悔したなんて、誰が言った? 言っとくけど、私は一度たりとも、ないからね! こなたと私の関係はね、私たちだけの問題なんだ。 あんたが変な風に背負い込んで、悩むようなコトじゃないんだからね!」 「・・・わかってるよ。ウジウジ悩むのは性に合わん」 「そうそう、悩んだって無駄。あんた、バカなんだから」 「前向きと言ってくれ」 「そんなことより、あんた御夕飯まだでしょ?用意してあげるから、待ってなさい」 「うむ」 まあ、こういう母だからと、諦めがないではありません。、 それでも、少し機嫌を直したような、母の刻む包丁のリズムを聞いて、 少年はそれで満足することにしました。 夕餉の気配に包まれて、少年はふと、今までにない物淋しさを覚えます。 思えば、こうして母が食事の用意をするのを待っている時間が、彼は大好きだったのです。 「きょうは先生も早く戻るから、久しぶりに家族水入らずね」 「あのなあ・・・」 「なによ?」 「あんたもさ、いいかげん父さんのこと、先生って呼ぶの止めにしないか」 「な・・・・・・・!? い、いいでしょ、別に・・・・・」 「良くない。変だぞ、あれは」 「いいのよ。あの人は仕事でも人生でも、私にとっての『先生』なの。尊敬してるんだよ?」 「・・・いつもそんな調子で、お互い敬語でしか話さないし、この家にいると、 なんかオレまで法律事務所で働いてるみたいで、居心地悪いったらないんだよ。 なにかもっと別の夫婦のカタチをだな・・・・」 「なに言ってんの、あんただって、あの人の前だと、かしこまって敬語で話すくせに」 「そ、それは・・・ おかしくないだろ?目上に対しては」 「私だってあんたの目上でしょ、ちゃんと敬語で話しなさいよ」 「イヤだね。オレがいない時には、子供みたいに父さんに甘えるくせに。 アレを見せられちゃ、とてもじゃないが母上様なんて呼べたもんじゃない」 「あんた・・・ 見たのね?」 「なにを今さら赤くな・・・ って、何だよ?」 「み た の ね!」 「げッ、鬼婆ッ」 「誰がオニババじゃ! あ、コラッ、逃げるな! 待ちなさい、このクソガキ!」 「わーーーッ 待て!待て! 包丁は反則!!」 六年経てばこの少年も、たくましい青年に成長しているはずです。 そうなればこの親子もお互いに、今とはまた違った付き合い方が必要になります。 今日の何気ない日常も、いずれ変わらざるを得なくなります。 それを知ってか知らずか、お互い、いつもどおりの夜は、更けていったのです。 後編へ
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641 :名無しさん@ピンキー:2014/02/19(水) 21 55 27.24 ID EJ3UwGusズバリ皆さまの 「艦これ俺独自設定」は? 箇条書き等で 643 :名無しさん@ピンキー:2014/02/19(水) 22 48 32.04 ID XOf0O3c4 641 ・艦娘は元人間とか人間が艤装を付けたものではなく、あくまで船の魂的なものが女の子の形になったもの。よって人外。 ・提督に出来るのは作戦計画や資源運用計画の立案、演習の申し込み等のみで、戦場での指揮はしていない。鎮守府でお留守番。 646 :名無しさん@ピンキー:2014/02/19(水) 23 12 23.97 ID Bp8H+1fP 641 深海棲艦とかいうの攻めてきたw水面歩いてるwwぱねぇwwwしかもすごいいっぱいいるw →・現代兵器高すぎて予算たりない ・兵士育てるのに時間かかりすぎる ・有事の切り札なんだから他国に性能みられると困る ↑の問題を解決するため対深海棲艦用の人間版深海棲艦を開発=艦娘誕生 提督「この子達何者なの?」 偉い人「お前は知らなくていい」 提督の業務 ・執務室での業務(作戦の立案、開発、演習その他) ・艦娘輸送艦(仮)に同乗して前線での指揮(陣形指示、夜戦突入の判断、撤退命令等) 648 :名無しさん@ピンキー:2014/02/20(木) 14 54 05.22 ID Js94b8Q4でち公とか一緒にいこ?って言ってるし提督がついて行ってるのは間違いないよね 649 :名無しさん@ピンキー:2014/02/20(木) 17 40 02.81 ID v1cqdHADついていってるならわざわざ言う必要もないとも言える 結局「書き手の自由」なのよ 650 :名無しさん@ピンキー:2014/02/20(木) 20 54 31.86 ID JBOaHQKt司令が乗るのが旗艦だと思うけど艦これの旗艦ってどうなんだろうな 艦娘が実際の軍艦になって司令官が乗るって設定にしてる人とか 通信用妖精や通信機で指令執務室から指示出してるとか 皆いろいろ考えてるみたいだけどどれも矛盾点があっていまいちしっくりこないんだよね 651 :名無しさん@ピンキー:2014/02/20(木) 21 17 57.11 ID xEXxVj50かんこれ始める前、なんとなく ジェットスキーみたいなのに乗って移動しながら銃撃戦してるイメージ持ってた いまはもうわけがわからない 652 :名無しさん@ピンキー:2014/02/20(木) 21 49 35.43 ID Js94b8Q4艦隊の後ろには普通の軍艦に乗った提督がっていう話はそこそこ見る 653 :名無しさん@ピンキー:2014/02/20(木) 21 53 01.12 ID EmNADOuq 641 艦魂×アルペシオ+a(ウォーシップガンナ―の無限装填機 物凄い機関エンジン) 657 :名無しさん@ピンキー:2014/02/20(木) 23 31 51.17 ID Uk64U8H4提督が戦場にまで出張ってるなら個々の攻撃目標ぐらい指示させろや!と思ってるから提督は出張ってない派 出張ってるならどうやって?とか何で敵に狙われないの?とかいろいろ描写的に面倒な問題ががが 658 :名無しさん@ピンキー:2014/02/21(金) 11 47 57.41 ID VCgNK7XX「提督の決断」の全委任状態に近いんだな 全指示モードが出たらw状態 669 :名無しさん@ピンキー:2014/02/21(金) 19 24 06.43 ID ZVe7FiMw深海棲艦になっちゃった艦娘を鎮守府の浅瀬で飼い続ける提督の不毛な愛、 みたいな電信が飛び込んできた で、新しい秘書艦に見つかって、 「俺たちは分かり合えないのだろうか」 「米帝とすら無理だったものを、人外となさろうなんて、提督ぅ、それは恋故の傲慢じゃないかしら~(うふふ♪」 みたいな。 つまり何が言いたいかというと自分は、手段のためには目的を選ばない愛宕が見たいとそういう\パンパカパーーン/668 :名無しさん@ピンキー:2014/02/21(金) 19 17 47.19 ID EYylWpBH俺も深海棲艦系のネタを持ってるんだけと、 深海棲艦は人間の言葉を喋るのか、公式アンソロのヲ級みたいに「ヲッヲー」みたいなのが良いか それとも、無意味な言葉の羅列が良いかどれだろう 投下するときは無意味な言葉の羅列にしたいけど、どう思う? 670 :名無しさん@ピンキー:2014/02/21(金) 21 12 31.93 ID nPGJeM4e 668 イベント海域ボスは「ナンドデモ……ミナソコニ……」とか言ってる ヲ級が「ヲッ」的な鳴き声だす+通常の日本語も喋るのがファミマで公認された 671 :名無しさん@ピンキー:2014/02/21(金) 21 35 47.14 ID Sby3+boM雑誌インタビューでも、いま喋ってない深海棲艦も順次喋らせる的なことを言ってた まあSS作者の好きにすればいいとは思う 672 :名無しさん@ピンキー:2014/02/21(金) 21 49 25.39 ID dI6miwmq駆逐とかモヒカンみたいなセリフ言うようになったら嫌だなあ 673 :名無しさん@ピンキー:2014/02/21(金) 22 08 02.07 ID ZVe7FiMw 672 「ヒャッハーーー!!あの鎮守府のボーキを奪え~~!!」 なんだ、妖怪食っちゃ寝の鳴き声じゃないk674 :名無しさん@ピンキー:2014/02/21(金) 22 53 53.97 ID ZrabCc+hなんかボーキよりも酒を要求してきそうだな
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~( 中央区 月島 )~ 下町情緒の残る街 有名なもんじゃ焼商店街から少し外れたところにある、とある店。 木造倉庫と思しき小さな建物の中から、裸電球の明かりと、異様な熱気が漏れてきます。 粗末なテーブルと腰掛けが外の歩道にまではみ出し、それでも足りずに、小型プロパンの上に座らされている客もいます。 その歩道の脇では、リヤカー山積みの発泡スチロールの箱から、マグロが恨めしそうに、客を睨んでいます。 酔客の喚声と、中国人らしい店員の、喧嘩腰の客あしらいが、この店独特の活気を演出しています。 こなたとかがみが高校を卒業して、二十数年後の、ある夜のこと。 彼女らの良人となった男たちが、この店で再会の杯を酌み交わしています。 かがみの夫は、都内に小さな法律事務所を構える弁護士です。 妻の親友の良人を、彼がもてなすのは、いつもこんな気の利かない、それでいて本当に旨い店ばかりでした。 「困るんですよ、ここのネギマが時々、どうしても恋しくなって」 「近頃では海外でも、マグロのいいのは出るでしょう」 「いや、ここのみたいなのが、外国で出たりしたら、余計に困りますよ。ますます日本に来づらくなる」 「ハハハハ・・・・ 国内に腰を落ち着ければ、いつでも食べに来れますよ」 「そうなんですが、私の記事は、国内では需要がない」 こなたの夫は、ジャーナリストとして、主に海外で活動をしています。 「怖くて訊けませんよ、外国を飛び回って、一年に何日も家にいないような夫をどう思うか、なんてね」 「いやいや、奥さんも、一緒にいられるようになれば、お喜びになるはずですよ。もちろん、娘さんも」 「妻も娘も、私のいない生活の方に慣れていますからね。急に家をウロウロするようになったら、どうなるのか・・・・・・」 「柊くんが、こぼしてましたよ。もうアイツの夫の替わりは御免だから、いい加減、本物の夫に戻ってきてほしいと」 「あの二人の、仲がいいのをいいことに、長いこと夫の役をかがみさんに押し付けてきましたからね」 「全くですよ」 「会ったら、また怒られるなぁ」 普段、家族の話題など、滅多に口にしない二人ですが、お互いがこの相手の場合は別でした。 「あなたもこれからは『家にいる生活』にも慣れないといけませんね」 「先生、一度お訊きしたかったんですが、いつも家にいる夫というのは、一体、毎日どんな顔してるものなんですかね」 「家で私が、どんな顔をしているかなんて、自分ではわかりませんよ。一度、柊くんに聞いてみてください」 「先生、せめて家では、かがみさんのこと、名前で呼んであげてくださいよ。いつまで経っても『柊くん』じゃ、可哀そうですよ」 「それだけは勘弁してください。十も年下じゃ、いまだにどう接してよいものやら」 「これは、先ずはあなたが、結婚生活に慣れないと」 ネギマが串ばかりになる頃、大きく切って軽くヅケにした赤身が山盛りでやってきます。 「最近、息子が海外で働きたいと言い出しましてね。どうも、あなたの影響のようです」 「彼に最初に英語を教えたのは、私ですからね。跡取り息子を、横取りするような真似をして、申し訳ない」 「いや、私は正直、今の仕事を、息子には継いでほしくないのです」 弁護士といっても、ほとんど法廷には立たず、示談や調停といった仕事を、専らとしてきた彼のことです。 他人に言えないようなことが、たくさんありました。 「私の代わりに、息子に夢を与えてくれたのだから、これは、私の方が感謝すべきですね」 「とんでもない」 「どうも、あれの父親になるには、私はいささか、歳をとりすぎたようです」 「この分だと、娘には、一生恨まれそうだ」 ハイ、チュウナマ、オマチネ! 噛みつくように言い残すと、店員は中ジョッキを2つ叩きつけて、去っていきます。 「始発で香港へ飛びますから、今夜は芝で宿を取ってあります。今週中にはペシャーワルを発つ予定です」 「それは慌ただしい。ご家族には?」 「ええ。・・・・・一日だけじゃ、会っても、別れが辛いだけですがね」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「因果な商売です。正直もう、何もかも止めにして、こなたとこなみのためだけに、 ただ生きているだけで、それで幸せじゃないか、と、思わない日はないのですが・・・・・・・・ ただ生きているだけの暮らしが、私には、どうにも耐えられない。 こんな生き方は、かのとくんには、させたくないですね。こなみのためにも」 彼にも、他人には言えないことが、たくさんあったのです。 ☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★ おそらく、似たような話題で盛り上がっているのでしょう。 やかましい店の奥で一際やかましく、初老の酔客の一団が、何かを唄っています。 ちょっと聞いたことのない唄です。 『どこから見てもスーパーマンじゃない スペースオペラの主役になれない 危機一髪も、救えない ご期待通りに現れな~い・・・・・・・・・・・・・・』 先ほどから繰り返し、繰り返し唄うので、店の客は皆、何となく歌詞を覚えてしまいました。 なにしろ男なら、誰にとっても耳に痛い詞ばかり。 二人も、何やら身に覚えがあるのか、しきりと鼻をこすったり、頬を掻いたりしています。 『ため息つくほど粋じゃない 拍手をするほど働かない 子供の夢にも出てこない 大人が懐かしがることもない・・・・・・・・・・・』 それぞれ道は違っても、自分以外の何かのため、必死に闘い続けて、今の彼らがありました。 そのことに、後悔はありません。 それでも、来し方行く末に、サッパリ自信の持てない二人が、ここにいました。 『だからといって、 ダ メ じゃない ダ メ じゃない スター ダスト ボーイズ ダメじゃない ほ し くずの オ レ たち 結構いいトコ あるんだぜ~・・・・・・・・・・・・・』 かつての夢は見失っても、 それぞれがよき良人であり、よき父親であるべき使命から、二人は逃れるつもりはありません。 たしか昔、何かにそう誓った覚えが、彼らにはありました。 果たせるかどうかは、わからないけれど・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ とにかく今はただ、後を振り返ることなく、走り続けるのみ。文句は地獄で聞けばいい。 迷いも不安も愚痴も言い訳も何もかも、苦い泡といっしょに呑み下し、二人は店を出ることにしました。 「うまくいけば、桜の頃には、こちらに戻れそうです」 「次回は花見ですか。柊くんも、手料理を振舞ってくれますよ。お勧めはしませんが」 「妻の実家の近くに、桜の名所があるんですよ。」 「それは、ちょうどいい」 「義父を紹介しますよ。また面白い人でして・・・・・」 「楽しみにしていますよ。今度こそ、ご家族とご一緒に。」 あるいは今生の別れとなるかもしれないこの時、それもまたいつものこと、と二人は、 実に何気なく再会を約し、共に去ってゆきました。 ☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★ 一方、同じころ。 「どわぁぁぁ~りんのぶわかぁぁぁぁ~~~~~」 近所迷惑な叫び声が響くのは、こなたの家です。 「ああ゛~~、半年、あと半年だヨ!つらいよぉ~、遠恋は・・・・・」 「遠距離でも恋愛違うだろ。さあ、飲んだ飲んだ」 高校を卒業して二十数年後の二人です。 こなたのヤケ酒に、かがみが付き合うのも、もはや年中行事でした。 「だいたい、結婚する時、止めただろ~。あの男は家では飼えない生き物なんだから。根っから引きこもりのあんたとは、種族が違うでしょ」 「違ったっていいよ!お酒も豚肉もいらないよ!アラビア語もペルシャ語もウルドゥー語もパシュトゥー語も、ちゃんと勉強するから、いつも一緒にいたいよ!」 「って、ソレ、一夜漬けじゃ絶対ムリだぞ。まあ、アレにもいろいろ考えはあるんだろ。女の身で暮らすには、厄介な土地だからね。 それにね、ああいう男は、すぐに出て行きたがる癖に、帰る場所が恋しくなるタイプだから、待ってれば必ず帰ってくるって。 その時、あんたがちゃんと、ここに居ないとダメでしょ」 「ふええ~~ん ヤダヤダヤダ~」 「オラオラ、飲みが足んないぞ~」 ひとしきり騒いでしばらく経つと、こなたは、なにやらぶつぶつ云いながら、グラスを手のひらでこね回し始めます。 最初のガス抜きが済んだのを見届けると、かがみはようやく、自分のグラスに手をつけました。 「フンだ、こんなかわいいニョーボとコドモほっぽらかして、なにが面白くて外国なんか」 「いいかげん、往生なさい」 「トホホ~、おかげさまで、すっかり『待つ女』が板に付いちゃったヨ」(しなっ) 「なにやってんの」 「だから~、大人の女の色気をだね、」 「おー?、そうかそうか、それじゃこないだみたいに、外国のホテルであんたが未成年と間違われて、ダンナが○○容疑で拘束されたりしても、 これからは助けに行ってやらなくてもいいんだな?」 「かがみ~ん、こんなトコで持ち出すことないじゃないのサ、私ら夫婦の恥部を」 「ったくぅ、このトシで十代に見えるだなんて、どんだけ~って、このおォォォ」 「ぐぐぐぐぐぐぐるじい、かがみ、酔ってる?もしかして、酔ってる?」 空のボトルが少しずつ並んで、やがて水割りの氷も無くなるころ。 「それにしてもさ~」 「ん~?」 「かがみ、ありがとね~」 「な、なによ。改まって」 「私ら夫婦が、こんな不定期婚みたいなのやってられるのも、かがみが、いてくれるおかげだからね」 「べ、別にそんなつもりでいるわけじゃ、ないから」 「んふふ~」 「・・・・・・・何が言いたい」 「そういうトコ、高校の時のまんまだぁね~」 「まあ、なんだかんだと、切れない腐れ縁だわ。 だからこそ、BBCニュース観て涙ぐんでるあんたを、放っておくわけにはいかないじゃない」 「むぐぅ! ・・・・・・・・・・・よく見ていらっしゃる」 「当たり前でしょ。お互い、ダンナより付き合い長いんだから」 その昔、学窓のもとで、心を擦り減らす孤独を、共に癒しあった二人がいました。 少し道は分かれたにしても、変わらずこうして助け合って生きてゆける、 この日の在ることを二人は、心から嬉しく思いました。 「かがみ~~ん、慰めて~」 「だ~~ッ! 抱きつくな、酔っ払い!!」 ☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★ さらに同じころ。 こなたとかがみの子供たちは・・・・ 「こなみ」 「なあに、かのとくん」 「もし仮に、仮にだぞ、オレが・・・・・・・・・」 「え、何?」 「ん・・・・・・・・・ なんでもない。あした話す」 「何?気になるヨ」 「なんでもないよ。もう遅いから、早く寝な・・・・・・・・・」 「なによ~!そんなんだったら、自分のおフトンで寝てよね」 さまざまに想いを含んで、夜は更けてゆきます。 そして夜が明ければ、またそれぞれの明日が始まるのです。 (おしまい) コメントフォーム 名前 コメント 渋さと笑いと大人の憂い、 絶妙なバランスと描写が素晴らしいです! -- 名無しさん (2010-04-28 00 14 25)
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客観事実よりの記述は黒、雀蛾個人が現在独自に(承認を得ずに)採用している要素は色付きで表記する 可住地域について。 農耕を前提とする"文明人"が住むことの出来る地域は現代人が想像できないほどクソ狭く、かつ恐らく現実の中世よりも狭い。 現実に無い魔物の存在は狼や病原菌に並ぶ脅威として人の生活圏を削りうる。 また、華々しい神代が遡れる時代に存在する以上動植物の数が減っていてもおかしくない(特に現代的古代文明の開発による荒廃)が、それらによる生態系の崩壊は無いものとして扱っている。 人間は主に水辺、つまり大きな河川の側に、魔物は水棲のものを除き内陸部に分布する傾向がある。というより魔物という外圧によって広い生活圏の維持が難しい以上、より質の高い地域を選択的に保持するのは当然といえる。 その結果最も安全な地域が首都などの大都市とそれらと経済的に結びついた村々、及びそれらを繋ぐ街道(いわば人間版獣道(魔物(人間)←→人間(動物)))で、それらから外れれば外れるほど外的脅威との邂逅頻度は増す。当然といえば当然だが。 そしてまた都市から離れた僻地の小さな村々が魔物の脅威に晒されがちなのもまた当然といえる。狼と何ら変わらない。 人の住めぬ陸に住む魔物、その極致が死の砂漠である。魔物の大群は往々にして荒廃した大地から現れる。 人類の進化について。 また、亜人は魔物と同じく現実世界の生物よりも明らかに"強い"存在であり、それぞれ純人間に比べ陸に対する適性を持つ。 エルフは森、ドワーフは丘陵、吸血人は平野、獣人は種族毎に様々で、竜人、巨人は不毛の地での生存が可能。 ただし吸血人は他の人間種の存在に必ず依存するので、他の種に比べ現実的な適応度は下がる。 作中にも何度か登場させている通り純人類が亜人種に個体のスペックで勝っている要素は無く(ボーナス設定はゲーム上のものであって本来ノーリスクで取れるべき)、現在地球上で純人類が覇権を握っているのは"偶然他種族が排除しようと積極的でない"というだけ。 PCのような冒険者は市民や現実世界の人間が性能で不利な狼や熊を軽く蹴散らし、明らかにオーバースペック生物たる魔物と互角に渡り合う実力を持ち、最終的には指一本で人間を殺せそうなレベルで強くなるが、これは世界設定として許容される事象であり、ゲーム上の都合ではなく、ましてや物語の主人公たるPCだけに許されたものでもない。 根本として魔物と同じく人間種の個体スペックの上限値も引き上げられており、これに"気づけた"個体は加速度的にOP化している。エクスフィアかな? 資源について。 前述の通り、生物由来かつ増殖周期が数十年以下の食糧資源や木材などについては古代文明の存在に関わらずむしろ現実以上に豊富。 ただし、鉱物資源及び(作中では利用されないだろうが)化石燃料などは明らかに少なく、それが冒険者たちによるトレジャーハントのメジャーな動機となっている。(都市鉱山ならぬ遺跡鉱山からの金属を売る冒険者達。) ……と考えると魔物の存在もあって(鉱山のような見通しの悪い丘陵地帯は典型的な危険地域である)卑金属についても人間界でその総量は現実よりめちゃくちゃ少ないはずで、人間は金属製品にかなり苦労しているのではないだろうか(ただでさえ魔物に対抗する為の装備にリソースが割かれる)。 貴金属なんて滅多に無いはずで、貨幣制もかなりガバガバになってそう(金貨1枚1000ゴールドとかなのでは?) ルルブ上の武器防具などはそこまで壊れた高価格ではないので、その辺の反映はやや微妙な事になっているが。 その点で小柄で狭っ苦しい丘陵地帯に適正のあるドワーフはこれらの資源を好き放題出来るという超圧倒的アドバンテージを持つ。 ただしそれらの死活問題を解決するオーバーテクノロジーとして魔術と奇跡が存在する。これらは物理的な資源に関わらず人力を遥かに超えた出力を出すので、どう考えても酷使される。 一般兵士の装備とか祝福を受けた木剣とかなんじゃないのか? モンスターハンターめいて魔物の素材を利用するのが現実的な気がする。 文化について。 近現代以上に進んだ古代文明がある以上、全世界は一度繋がっている。 ゆえに当然新大陸由来の物品もこちらの大陸に伝播してきているし、文化自体もランダムに広がった後にそれぞれの条件に応じて選択されている。 南方は多神教。つまり寛容の宗教で、恐らく(北方と違い)人々の行動を一々宗教が規定する事はあまり無いだろう。(例えば正常位以外認めない、とか) しかし現実におけるキリスト教と同等程度に覇権を握った宗教ではあるので、ある程度集金の為の罰の規定があってもおかしくない。 まあしかし同性愛なども普通に存在から否定されてはいないようだし、仏教的、儒教的な比較的穏やかな支配なのだろう。 なので宿でも男女同室の大部屋が一般だったりするかも。倫理観も南方人はある程度奔放かもね。 北方は一神教。さらに法の神とくれば現実のキリスト教世界のように厳格な禁欲が要求されることは間違いないだろう。 南方人に比べて北方出身者はその辺自然に潔癖であるかも知れない。 現状北方も南方も文明ばかりで、ヨーロッパに於けるゲルマン人的存在が無い。中世が舞台なので古代のような蛮族はある程度減っているのだろうか? しかしヤマ帝国はモンゴルやヴァイキングのような蛮族系に近い要素かもしれない。少なくとも宗教・文化は南方と同質ではなさそう。
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明けて翌日。 「おーっす、こなた」 「いらっしゃあい、かがみ。どーだった?お見送り」 その日の夕刻、かがみはこなたの家を訪れます。 少年が機上の人となったのは、その日の昼過ぎのことでした。 「まー、素っ気ないったらありゃしないわ。振り向きもしないで行っちゃうんだから。 まったく、育て甲斐がないわね、男の子って」 「そりゃまー、男の子だからね。“男は~涙を~見せぬもの~見せぬもの~”ってね」 「涙、ね。そんな、しおらしいタマじゃないわよ、あいつ。 それよりさ、こなみちゃんは大丈夫なの?」 「うん、どうにかネ・・・・・・・ 前々から覚悟はしてたみたいだけど、そんな素振りも見せなくてね。 昨日なんか、柄にもなく強がっちゃって、オトコになるまで帰ってくんな~とか言って。 それが見てて痛々しくってサ。 案の定、今朝起きたら目のまわりボコボコに泣き腫らしてたヨ」 身長といい趣味といい母には似ず、むしろ昔、かなたが望んだ“普通”に育ってくれたと、 祖父そうじろうを喜ばせた娘です。 しかしこういう時に、周りに気を使わせまいとジタバタ演技するあたり、 イタイところはしっかり似てしまったと、母こなたは目を細めるばかりでした。 「あのバカ、まったく、罪作りなヤツだわ。わたしからも謝っとくから」 「大丈夫。こなみは私なんかより、ずっとシッカリ者だからね。 でも、かがみが話し相手になってくれれば、きっと喜ぶと思うよ」 「そうさせてもらうわ。なんといっても、ウチのかわいい嫁だからね」 「あのコは幸せ者だヨ。やさしい姑がいてくれて」 「シュウトメいうな!」 他愛もない会話が光り輝く、二十数年を経て、まるで変わらないものが其処にあります。 こなたとこうした時間を過ごすことで、 かがみはいつでも、あの時に戻れるような気がするのです。 「でもさ、私らの身内が宇宙へ行くような時代が来たんだね~、何だかビックリだヨ」 「そのうち、火星に日帰りで出張とか、行かされる時代がくるのかしらね」 「・・・・・・相変わらず夢がないね、かがみんは。宇宙世紀0079が近づいてるっていうのに」 「あれって、地球人類の半数が消滅するって話じゃなかったっけ?やめなよ、縁起でもない」 「そーやって発想が後ろ向きになるのは、歳とった証拠だヨ。もっと前見て歩かなきゃ」 「あんたはホント昔と変わらないわ。あ~やだやだ、私ばっかり年寄りになってくわ」 こなたはいつの頃からか、歳をとるのをやめてしまったようにさえ見えます。 頬が少し痩せて、童顔ではなくなったものの、それが却って中性的な美しさを際立たせ、 一見、老若男女どれとも判じ難い、何とも正体不明な、妖しげな魅力さえ漂わせています。 癖のある長い髪も艶やかなままで、こうして向き合っていると、 かがみは、ともすれば二十数年の経過を忘れてしまいそうになります。 「それにしても、偉いよねあの子。 宇宙飛行士になるんだって、高校へ行ってもず~っと言い続けてたんだから。 普通、あの年頃でみんな、夢に言い訳を始めるんだけどさ、 あの子、一度も夢にウソつかなかったんだよ。 かがみが弁護士目指した頃を思い出すよ。そっくりだネ、頑張り屋さんで、真っ直ぐなトコ」 「バカなのよ、要するに。ひとつ覚えで、それしか頭にないんだから。 私としてはね、その頑張りを他の道で活かしてもらいたかったわけよ。 法律だったら、私がいくらだって、教えてあげられるのに。 だいたい、宇宙飛行士養成学校なんて、世界中の秀才が集まってくるところだよ。 努力してるのは認めるけど、陵桜の優等生レベルで、どこまで通用するのかしら・・・」 その上、この十六ヶ国共同の宇宙飛行士養成プロジェクトそのものが、宇宙開発における 大国同士の抜け駆け防止の側面があり、発足当初から拠出金を巡って調整が難航し、 将来も円滑な運営が危ぶまれる有様でした。 おまけにここ数年で人工知能の研究が進み、有人宇宙船の需要を脅かしそうな雲行きです。 したり顔の評論家からは早速、税金の無駄遣い云々の批判が挙がっていたのです。 息子がこれから宇宙飛行士になるにしても、なった後にしても、 とても夢ばかりを語っていられる状況ではないのです。 ところが、ここ半年の彼というものは、そんなことは意にも介さず、 同じ夢を語れる仲間が出来たことを、素直に喜んでいました。 これまでになく溌剌としていた彼を見て、かがみには引き留める事が出来ませんでした 「大学の学位取れるったって、宇宙物理学やら天文学やら、ツブシの利かないのばかりだし、 ドロップアウトしてこの道を諦めることになったら、今までの努力は何も残らないんだ。 あいつ、プライドだけは無駄に高いから、そうなったらもう立ち直れないよ・・・ ホント、バカで、見栄っぱりで、意地っ張りで、ダメなとこばっかり私に似て・・・」 かがみの傍らに腰を下ろし、小刻みに震えだしたその肩をそっと抱くと、 こなたは囁くように言いました。 「私たち、ひとりで泣くの、禁止だからね?」 もう限界でした。 堰が切れたように大粒の涙をこぼし、そのまま崩れ落ちそうになったかがみを、 こなたがしっかりと支えました。 「こなた、ごめん・・・」 「いいんだよ」 そのまま縋るように抱き締めれば、その温もりと匂いは遠い日の記憶を呼び覚まし、 小さな肩に頬を預ければ、かつての懐かしい、自分の居場所が其処にありました。 「こなた、私ね」 「うん」 「あの子が生まれたときね、本当に、嬉しかったんだ・・・」 「・・・・・・・・・・」 「もう、ね、この子のためなら何だってできる、何だってしてあげたいって、 たとえ私が死んでも、この子のためなら、全然惜しくないって思ったの」 「・・・・・・・・・・」 「なのにね、あの子が夢を叶えようと頑張っている時に、私、何もしてやれないんだ・・・・」 「・・・・・・・・・・」 「応援してあげなきゃ・・・ いけないのに・・・ 何もしてやれないから、憎まれ口ばっかり利いて・・・ ひどいこと言って・・・ くやしいよぉ・・・・・ かなしいよぉ・・・・・ なさけないよぉ・・・・・ こんな私じゃ、あの子、もう・・・ 戻って来てくれないよ・・・ 」 尽くしてやれなかった。理解してやれなかった。愛し足りなかった。 それはまるで、与えることでしか救われない魂が、救いを求めて慟哭するようでした。 「・・・なんで、遠くへ行っちゃうの?・・・・・・・・・・ なんで・・・ずっと私の子でいてくれないの?・・・ 淋しい、さびしいよぉ・・・・・ 」 我が子を守ると誓った、心の張りがにわかに失われると、強い母親の像は砕け散り、 其処にはただ子供のように泣きじゃくる、素顔のままのかがみがいました。 ここは彼女にとって唯一、それが許される場所だったからです。 そんなかがみを、こなたはしっかりと抱きしめ、揺るぎもしませんでした。 「私もね、こなみが悲しんでいるのに、何もしてやれなかったんだ。ダメな母親だよね」 「うっ・・・ぅうっ・・・ ぐすっ・・・ 」 「でもね。私は信じているよ。こなみは強いコだよ。こんな事じゃヘコたれない。 今度のことだって、必ず乗り越えてくれる。だからさ、かがみも信じてあげなきゃ」 「え・・・ ?」 「あの子なら大丈夫。絶対、宇宙へ行ける。立派になって必ず帰ってくるよ。 私は信じてるからね。だって、かがみの子だもん」 「こなた・・・・・・」 「私にはわかるよ。かがみの愛が、あの子の中にしっかり生きてるよ。 何もしてやれなかったなんて、そんなコトないよ。 かがみは精一杯、あの子を愛してあげたんだから」 昨夜かがみは息子に、実家、鷹宮神社のお守り袋を渡しました。 いくら大酉様でも秒速7.9kmじゃ飛べないだろ、衛星軌道までついて来てくれるのか? いつもにように理屈をこねた息子でしたが、 今日の旅立ちの時、大事にしまった懐を、時々撫でているように見えました。 「・・・そうね、信じてあげないとね。私・・・・・・・あいつの母親だもん。 たとえこの世で誰一人、あいつを信じなくたって、私が信じてあげなきゃ」 「そうだよ。かがみが信じてあげれば、あの子は勇気をもらえるよ。 私もね、かがみのお陰で、勇気をもらえたんだから」 息子と過ごした十八年間は、かがみにとっては大切な、それはかけがえのない日々でした。 しかし、たとえ血を分けた親子でも、別れの日は、必ずやって来るのです。 母を失った孤独。こなたは幼いころからずっと悲しんできました。 そして、それを救ってくれたのは、かがみだったのです。 卒業しても、就職しても、結婚しても、腐れ縁と照れつつ、ずっと傍に居てくれました。 キツく叱るにせよ、辛辣にクサすにせよ、 最後には何もかも丸ごと抱きしめて、優しく背中を叩いてくれました。 どんな時も、全身全力で味方でいてくれました。 失敗したっていい。泣いたっていい。いつもかがみは傍に居てくれるから。 いつも問答無用で、丸ごとすっぽりと包み込んでくれる、大きな愛。 愛された記憶が、外の現実に向き合うたび、こなたに勇気と力をくれました。 そうしてこれまで、かがみと共に歩んできたことで、 母を失った孤独を、今では立派に克服できたという自信が、こなたにはあったのです。 なればこそ、こなたはこの日、親子の別れに悲しむかがみを、 誰よりもしっかりと支えていることが出来たのです。 「大切な人が増えると、つらい別れも必ずあるんだ。 それでも、人を愛して、大切な人が増えていったら、それは幸せだよね。 だから、いつか別れなきゃいけなくても、人を愛することだけは、やめられないんだ。 けど、淋しさだったら、ふたり一緒なら、必ず乗り越えられる。 これからも、ふたりでもっともっと人を愛して、幸せになろう。 またふたりで頑張ろうよ。 大丈夫だよ。今までだってずっと、そうしてきたんだから」 孤独に震えて、ただ泣いていた少女は、もう其処にはいません。 其処にいるのは、かがみを支える覚悟なら、いつでも出来ているこなたでした。 「ありがとう、こなた・・・・・・・ 私、強くならなきゃ。またみんなを支えなきゃ。 でも、ごめん。今日だけは・・・・」 「いいよ。いつものかがみに戻るまで、ずっとこうしていていいんだよ。 大丈夫、これからも私は、かがみと一緒にいるからね」 ☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆☆★ この日を去ること、さらに十年後。 以前よりも時はゆったりと流れるようになり、 かがみもこのごろは、星空を見上げて過ごすことが多くなりました。 そんな彼女のもとに、その夜、一通のメールが届いたのです。 ___________________________________________ 母上様 前略 先刻のご芳翰、有難く拝読いたしました。 本日、無事出産とのこと、 妻こなみにつきましては、初産で双子ということで、何かとご心配をおかけいたしました。 いまは母子ともに順調の由、安堵しております。 折角生まれてきてくれたわが娘たちを、直接この手に抱くことが出来ないのは残念ですが、 わが命を未来につなぐことの出来たこの慶びは、他に譬えようもありません。 二十八年前、あなたもこんな感慨に浸ったのでしょうか。 さて、愚息も晴れて人の親となってみて、いつかあなたが教えてくれた、愛の意味が、 少しだけ分かるようになった気がします。 思えばこの素晴らしい世界に、こうして産んでくれた、あなたの大きな愛。 これには、たとえ一生かかっても、報いることは出来ません。 ならばせめて、精一杯わが家族を愛し、隣人を愛し、仕事を愛し、 力の限り生き続けることで、その替わりとするつもりです。 かつてあなたが、そうしてくれたように。 どうか何時までも、この愚息を見守っていてください。 願わくば、わが娘たちが、あなたのような、 優しさの中に凛々しさを備えた、立派な女性に成長してくれるよう、祈るのみです。 あと一ヶ月ほどで、太陽光発電衛星が稼働し、今の仕事にも漸く一区切りが付きます。 その時は、まとまった休暇を取って、陸に降りるつもりです。 お会いできる日のこと、今から楽しみにしております。 それまでは、どうかお体を大切に、 健康のため、間食はお控えくださいますように。 草々 国際宇宙ステーションISS-3にて 息子より ___________________________________________ (おしまい) コメントフォーム 名前 コメント 流石に作者様!納得です。 言われてみれば、『自分の未来を愛する』なんて理解するより がむしゃらに頑張り抜いて『幸せだった』と振り返る方がかがみらしいですね♪ そして、そんな姿が周りに幸せを届けた………うん。凄く良いです!! -- ♪ (2010-06-28 23 20 49) (↓の続きです) そして、いざ我が子を抱いてみれば「この子に未来を見せてあげたい」と、仕事に家事に 頑張って頑張って頑張り抜いて、息子が自分の未来に向かって走り出す年頃になったころに、 ようやく自分の未来も愛することが出来るようになったんじゃないかと、そう思います。 それまでかがみが不幸だったというのではなくて、50近くになって人生を振り返って、 「いろいろ大変だったけど、ま、幸せだったんじゃない?」と、事後的に実感できるように なったというか。 そして周りの人には、いろいろなものを背負い込んで抱え込んでドタバタしているかがみが、 (本人は実感できないにしても)充実して幸せそうに見えたんじゃないかと思います。 だからこそこなたは、自分の幸せが他者にとっての不幸ではなく、幸せにつながるということを、 素直に信じられるようになったと、そう思います。 少し長くなりましたが、作品の補足を兼ねて。 -- 別館107号 (2010-06-28 23 08 20) >自分の未来を愛する事……。 >それも、全てを愛する一つなんだと。 >だって、かがみが幸せじゃなければ、周りも幸せになれないもんね。 目からウロコでした。確かにそうです。 自己犠牲でボロボロになったかがみでは、きっとこなたを幸せには出来ないでしょう。 こなたは母親の死を、自分の誕生と結び付けて考えている可能性があるから、 自分のせいで誰かを不幸にすると知れば、たとえ何であっても拒絶するでしょう。 こなたと二人っきりの世界がたちまち行き詰ったのは、多分これが原因なんでしょう。 ただし、僭越ながらあえて一筆加えるとすれば、かがみは幸せ探しが下手で、自分がどうしたら 幸せになるのかがわからなくて、周りの幸せな笑顔に囲まれて初めて、自分の幸せを実感する人 だから、子供を産む決心をしたのも、こなたとの過去やら、今も消えない未練やら面倒なことを 何も言わずに引き受けてくれた、旦那様に未来を見せてあげたかった、そんな理由のような 気がします。 -- 別館107号 (2010-06-28 23 07 01) かのと君を産んだかがみの気持ちは、多分、作中で語られている以上に深い想いがあったと思う。 それは簡単に言葉には顕せない、かがみにしか解らない想いだと思う。 でも、敢えて想像してみるなら きっとかがみは、自分を愛する事も大事だと知ったんだと思う。 自分の未来を愛する事……。 それも、全てを愛する一つなんだと。 だって、かがみが幸せじゃなければ、周りも幸せになれないもんね。 そして、こなたはそれを誰よりも知っていたからこそ お互いに結婚や出産をしても、全力でかがみの愛に答えられたんだと思う。 ……こなただけじゃないね、 みんな、かがみの妥協の無い愛し方を理解しているんだと思う。 『結局はこなたにだけ収束してる愛』ではなくて かがみが本心から、人生を賭けて全うしようとしている愛が、『総てを愛する』事だと理解しているんだろーね。 息子をスーパーロマンチストだと言うけど、自分の理想を追い続けて実現させたかがみんは、究極のロマンチストだね♪ -- 名無しさん (2010-06-27 13 34 10) スケールの大きい、素晴らしい話でした。 こんな慈愛に満ちた人間になる為には、 逃げる選択をしない強い意志と、深い愛情がなければ到達できないでしょうね。 その素晴らしい二人の魂が、これからも受け継がれて行く…… かがみとこなたの人生が受け継がれていく そう思うと、嬉しくて涙が出ます。 素晴らしい作品でした作者様! ありがとうございました。 -- 名無しさん (2010-04-27 03 06 45) 18-236様 お返事が遅れまして申し訳ございません。 素晴らしいご感想、心より感謝します。 こなたとかがみの二人なら、たとえ恋愛も結婚も実らなくとも、 固い絆で結ばれて、そして二人の強い絆が本人たちだけでなく、 周りの人たちをも幸せに導いてくれるだろう、そう願って この作品を書き上げました。 ふたりの絆よ、来世の、そのまた来世まで! -- 別館107号 (2009-08-11 01 19 48) 親子に渡って受け継がれる物語のスケールの大きさがすごい。 愛というものの大きさ・深さについて考えさせられました。 こなたとかがみが直接的に結ばれることは無いけれど、 二人の間にある絶対的な信頼・利己的な愛を超えた、 包み込むような大きな愛が決して切れることの無い強い絆として 二人を永遠に結び続けることでしょう。 大きな感動をありがとうございました。 -- 18-236 (2009-03-20 15 44 01) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)