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魔女ミティはいつになくご機嫌で道を歩いていた。 「ロ~マァンティック、こ~い~の~、フフ~フ、フフフーン♪」 あまりにご機嫌すぎて歌まで歌っている。しかも熱唱であった。 自身の往年のヒット曲が朗々と通りに響いている。 気分屋な所がある彼女が上機嫌な理由を一言で言い表すのは難しいが、強いて言えば春の陽気がそうさせるのであった。 「ロ~マァンティック、こ~い~の~、フフ~フ、フフフーン♪」 さっきからサビばかり歌っているのであった。 勿論自身の持ち歌であるから、歌詞は全て憶えている。 しかしこの春風の中に相応しいのはやはりサビのリピートだというこだわりがミティにはあった。 このこだわりが一体何に起因するものなのか、説明するのは困難であるがあえてその困難を冒すとすれば、やはり気分というものに帰結するだろう。 そんな彼女の前に、影が立ちふさがった。 「ええかげんにせえよ!この悪逆非道の人でなしが!」 「お、お前は……!」 関西風のイントネーションに、ドスの利いた声。 宿敵リゾナンターの一人、高橋愛である。 高橋はサディスティック極まりない熱視線でミティを睨みつけていた。 「え?何で?」 「何がロマンティックや!三丁目の和也君は受験に失敗して一家総出で落ち込んどるんや!それを貴様!」 「いやちょっと待てよ。何でだよ」 「あしの怒りは燃えとるんや!メラメラメラメラ燃えとるんよ!分かるか!あしの燃えっぷりが!」 「ちょっとは話をきけよ。何でお前なんだよ」 「最早言葉は無用!ここから先は拳で語れ!」 そういって高橋はぐっ、と拳を握りしめ、腰をわずかに落とし構えを取った。 隙がない。 流石はリゾナントスレの看板女優である。キラーソーとかいう訳の分からんものを振り回すだけの滋賀女とは貫禄が違う。 一戦交える事になればさしもの狂犬ミティもただでは済むまい。 第一、折角の上機嫌をこの女に台無しにされるのは非常に不愉快である、ミティはどうにかならないかと一計を案じた。 「なあ、これやるから少しは落ち着けよ」 「――!チョコパイや!」 物で釣った。 たかがお菓子で釣るミティもミティだが、それに釣られる看板女優も看板女優であった。 高橋はもらったチョコパイをムシャムシャ食べながら、「何であしの好物知っとるんや、ブログか!ブログ見たんか!」と言っている。 「なあ、何でお前なんだよ」 「何がよ」 「だってこれアレだろ?アタシが災難に見舞われるヤツだろ?」 「何で知ってるんや」 「だってアタシ二回目だぞ。つうか何でアタシだけ……おい、口にチョコ付いてるよ」 「あ、これは失礼」と赤面しながら口元のチョコを拭きとる高橋を呆れたように見やりながら、ミティは質問を続けた。 「これは光井のシリーズだろ?何でお前がしゃしゃり出て来るんだよ」 「光井……?それは愛佳の事か」 「当たり前だろうが」 「愛佳の事か―!!」 高橋は普段は穏やかな心を持ちながらも激しい怒りにより金髪になってパワーアップする感じで叫んだ。 実際最近髪を染めていたのであった。 「愛佳が貴様に酷い事言われてどれだけ傷ついたか分かるか!」 「知らねーよ言いがかりだよそんなもん」 「アマゾンがどうとか……可哀想やろ!貴様の血は何色だ!」 「あいつの勘違いだよそれは!」 「愛佳の仇はあしがとるんや!リベンジやよ!Let’s rebenge!」 「……横文字使ってスタイリッシュに決めたい所アレなんだけどさ、revengeだよbじゃなくてv」 「ちょ、ちょっと噛んだだけや!」 「噛んだって言うのかよそれ」 赤面している。高橋は赤面している。 「まあ間違いは誰にでもあるさ、じゃあな」 この隙にとっとと退散した方が良さそうであった。 が、五、六歩ほど行ったところで高橋が我に帰り追いかけてきた。 「待てーい!」 「何だよしつこいなあ」 「しつこいとはなんや!あしらは敵同士なんやよ!」 「まあリゾナンターとダークネスだからしょうがねえけどさ……」 「あしらは決して相容れんのや。言うなれば犬猿の仲なんよ」 「フン、確かにアタシの異名は狂犬だけどね」 「そう、貴様が犬ならさしずめあしは猿……誰が猿やねんウッキー!」 「お前一人相撲すぎるよ!しっかりしろよバカ!」 「ええーい!もう知らん!」 最早口げんかでは勝ち目がないと悟ったのか、高橋は問答無用で蹴りを繰り出してきた。 ―! 高橋の右足がミティの鼻先を凄まじい速度で掠めていった。空気が摩擦で焦げつくような蹴りだった。 間一髪。もしミティの反応が一瞬でも遅れていたら、彼女の頬骨は粉砕されていたに違いない。 「お前いきな――」 瞬間すうっと高橋の体が沈み、視界から消えたかと思うと、地を這うような姿勢で懐に飛び込んできた。 魔女ミティの格闘技術は決して低いものではないが、高橋愛程の純粋な戦士という訳ではない。 また、彼女の冷気を操る能力も、ここまで間合いを潰されると発動のタイミングを失う。 そこまで見越しての高橋の速攻であった。リゾナンター最強と言われる高橋愛、その凄味が冴えわたる。 畢竟ミティは窮地に陥らざるを得ない。 ―衝撃! みぞおちに高橋必殺の崩拳が叩き込まれた。 「グッ……」 胃の内容物が逆流する不快感が、辛うじてミティの意識を繋ぎ止める。 高橋の猛攻は止まる事を知らない。 左拳によるアッパーカットが上体の崩れたミティの顎に襲いかかった。 ―マズい! 咄嗟にミティは顎と拳の間の空間に己の手のひらを滑り込ませ、高橋の拳を受け止めようとした。 が、防御など存在しないかのように高橋の拳は手のひらごとミティの顎を貫いた。 脳を急速に揺さぶられ、視界に霞がかかる。 ―こいつ!無理矢理シリアスなバトルに持っていこうとしてやがる! 「あっひゃあ!」 高橋は唇から甲高い声を発しながら、ミティの側頭部にめがけ回し蹴りを放った。 まともに食らったら死ぬ――予想というよりも確信に近い恐怖がミティの背筋を走る。 ―ヤバい!こいつはバリバリの武闘派だ!どうする?どうするアタシ!? ミティを救ったのは、彼女の獣の本能であった。 ミティは防御を捨て、アッパーを食らい後方に逸れた重心を更に後ろに倒した。 つまり思いっきり自分から後ろに倒れたのである。ミティの前髪を数本切断しながら、蹴りが走り抜けていった。 ―ペースを元に戻すしかねえ! 地面に倒れこんだミティは仰向けになって高橋愛と対峙している。動物に例えれば服従のポーズ。 傍から見れば無様な格好であるかもしれない。 しかしミティには、ある勝算があった。 「キャー!誰か助けて~!殺される~!」 「な、なんや急に?」 「誰か~!この人が急に殴りかかってきたのよ~!お巡りさーん!」 ―プライドもへったくれも知るか、地の文章までシリアスにされちゃこうするっきゃねえだろ。 絹を引き裂くような声で、悪の組織の幹部が街行く人に助けを求めた。 「ちょ、ちょっとやめてや!なんであしが悪者みたいに……」 「いきなり殴りかかるのは卑怯者のする事だぞ、お前は曲がりなりにも正義の組織のリーダーだろうが」 「……はい」 お人よしで聞きわけがいいのが、高橋の弱点であり、いい所でもあるのだった。 高橋はシュンとなって、ミティの説教を聞いている。 「大体な、これはあくまで光井がメインのシリーズなんだから、お前が出てきちゃ駄目だよ」 「でも、あしは愛佳の仇を……」 「お前さ、いくつシリーズの主役やってる?」 「え?いくつやろ……いっぱいあるから……」 「だろ?未来に反逆したり、色んな世界を渡り歩いたり、大活躍じゃねえか」 「大活躍って……照れるやよ」 「そんなお前がだよ、後輩がやってるシリーズまでとっちゃ可哀想だろ?光井が」 「そうか……あし、愛佳のためと思ったけど、逆に愛佳に悪い事してしもうたんや……」 「分かったらもう帰んな」 「うん」 そう言って高橋はトコトコと歩き去っていった。 「やれやれ」と思いながらその後ろ姿を見送っていると、高橋が立ち止りミティの方を向いた。 「さっきはいきなり殴ってごめんの~!」 「いいよ!コメディタッチに戻ったらもうそんなに痛くなくなったから」 「良かった!じゃあの~!」 「乗り切った。アタシの二連勝だ」ミティは小さくガッツポーズを作り、小さな声であったが、力強く呟いた。 光井愛佳、そして高橋愛の理不尽な猛攻を乗り切ったのだ。 粛清人R、吉澤ひとみも為し得なかった偉業であると言っていいだろう。 充実感と達成感がミティの胸に溢れ、気分がウキウキとしてきた。 ミティは上機嫌であった。 「ロ~マァンティック、こ~い~の~、フフ~フ、フフフーン♪」 自然と唇から歌声がこぼれていく。その時であった。 「コラー!待ちなさ~い!」 「ゲッ!お前は!」 標準語のイントネーションに、やたら張りきった声。 宿敵リゾナンターの一人、新垣里沙(通称ガキさん)である。 ガキさんはやる気マンマンの輝く瞳でミティを見据えていた。 三丁目第三の刺客ガキさんと魔女ミティの戦いの行く末が果たしてどうなったか―― もしそれを知りたければ、和也君に聞いてみるといいだろう。
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深く胸を打つのは、エマソンが若くして巡り来た試練と悲哀を乗り越え、新しい使命の道を敢然と切り開いていったことです。「生死」という誰も避けられぬ根本問題に直面し、彼は「報償」という思想を体得するにいたります。 すなわち、人生におけるさまざまな災難は、その時は報われることのない損失のように思われる。しかし、それはやがて、過去との訣別を可能にし、自身の可能性を開き、新たな世界へ歩むことを助け、導くという思想です。 ◇ 有名なラテン語の言葉に、「メメント・モリ(死を忘れるな)」とありますが、人間は生死を見つめることで、本当の自分の姿も、真の人生の意味も、見つめることができるのではないでしょうか。エマソンがいう「報償」に通じる視座も、そこにあると私は思います。 【『美しき生命 地球と生きる 哲人ソローとエマソンを語る』2006年9月8日発行】
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06-805 :皆上将之の災難 ◆l1n5QDQI8g :2010/07/09(金) 21 27 24 ID 3MIz4agk 皆上将之は不良だった。 いや、その表現も正確ではない。 世間一般のいわゆる不良というイメージから想起される、未成年の身での飲酒・喫煙や道交法違反、恐喝その他の 軽犯罪とは彼はさほど縁がなかった。 確かに授業はよくサボるし教職員にも態度はでかい。その粗暴めいた立ち居振る舞いのお陰で一般生徒からも 基本的には敬遠されている。 しかしながら実際に彼から理不尽な暴力を振るわれたと言う者は少なく、僅かな例外は彼の入学前から校内に存在した 不良グループや校外で喧嘩を売ってきた他校生や街のいわゆるチンピラばかり、時には同じ学校という以外は面識もない 生徒が通学中に絡まれていたり痴漢に遭っていたりする現場に居合わせたからと犯人を叩きのめしてしまう例も 一度や二度ではない。 それなりに喧嘩っ早いくせをして拳を振るうのは正当防衛と人助けのみと限定された、非常にアナクロな義侠心を掲げて 生きている彼を形容するにはもはや、現代では死語と化して久しいその言葉が最も相応しいのだろう。 つまり、よりしっくりと来る形容を選ぶならば──皆上将之は生まれる時代を三十年ほど遅く間違えた「番長」だった。 * * * * * 06-806 :皆上将之の災難 ◆brmv/drPy. :2010/07/09(金) 21 37 13 ID 3MIz4agk 「うぉーい、カズ、邪魔すんぞ」 言うが早いか第二理科実験室の入口をのっそりとくぐった人影に、室内にただ一人いた男子生徒は いつものように「ん」と小さく声を上げ応対した。 「アレ貸してくれ、アレ」 代名詞だけの不明瞭な要求にも関わらず、さっと実験机の下の物入れを開いた手は僅かの迷いもなく アルマイト製の救急箱を一つ取り出す。 「今日はなんで喧嘩してきたの、まーちゃん」 言われる前に制服の袖を捲って傷口を洗った皆上将之がすぐ隣の椅子に腰を下ろすのとほぼ同時のタイミングで、 消毒綿をピンセットでつまみ準備万端の男子生徒、将之と同級生でありなおかつ自宅が隣接していて親同士も親交がある、 産婦人科の新生児ベッド以来の幼馴染であるところの門司理久は毎回恒例の質問を投げ掛けた。 「あー、国道出る手前のガード下でなんか一年の奴が囲まれてたんでよ…」 窓から射し込む晩秋の西日が理久の眼鏡へ反射して眩しいのに目を眇めながら、将之はぽつりぽつりと 喧嘩の理由及び詳細を白状する。 他の人間には例え強面の生活指導担当教諭相手であってもこれほど正直に答えることはない──答えたところで 「暴力を正当化しようとしている」などと難癖を付けられることがほとんどなので──彼だが、働きづめで 滅多に家にいない実の親よりも付き合いの長い隣人には隠し事をするだけ無駄だと、半ば本能的に悟っているらしい。 「その一年の子はそれでどうしたの」 「気が付いたら影も形もなかったな」 「お礼くらい言っても内申に響くわけじゃないのにね。はい、次は左足出して。ズボンも破れてるよ」 すっかりと慣れた手つきの理久に傷口の消毒と薬の塗布、仕上げの絆創膏を処置してもらい椅子を立とうとしたところで 破れた所を繕うからとズボンを脱ぐよう指示され、素直に引き渡した将之は学生服の上着に下半身はトランクス一枚という 少々締まらない格好で、しばらく室内をうろうろする羽目になった。 選択科目の化学や生物の授業で使われるのは数年前にほとんどの設備を新調した第一実験室の方であり、 この第二実験室は少子化のお陰で生徒数もクラス数も少ない現在、専ら準備室からはみ出した器材を置く物置兼、 化学部の部室としての使用がメインとなっている。 なお、正式な部活として認可されるには最低五名以上の部員の在籍が条件とされているものの、この部室に顔を出すのは 常に部長である理久ただ独り、残りの部員は他の部との掛け持ちかそもそも部活動をする意志のない幽霊部員しかいない ため、この第二理科実験室は実際のところ理久の個人研究室と言ってもいっこうに差し支えない状態だ。 理久本人は他の部員がいようがいまいが気にも留めない様子で、日々この部屋に籠もって余人には原理を説かれても 理解しがたい実験やら研究やらに明け暮れており、要するに彼も学校の中では将之に次いで浮いた存在ではあるのだが、 それでも学校側の態度が将之に対するものと天と地ほども差があるのはひとえに理久の両親が国内外に知られた 医療薬学と遺伝子工学のそれぞれ権威で、その血をきちんと受け継いだ一人息子も既に幾つかの研究論文を著しては その道での評価を受けており、ひいてはいずれ母校の名誉となってくれる事を期待されているからだった。 「おい、なんか冷蔵庫のモンもらっていいか」 既に実験室片隅にある冷蔵庫を半ば開けている状態で、将之がその持ち主に声を掛ける。 元々からの学校の備品以外にも理久が家から持ち寄ったり、粗大ゴミ集積場から勝手に拾ってきて自分で修理して 使えるようにした器材がここにはごまんとあり、無論この冷蔵庫もその一つだった。冷暗所保管が必要な資料や 薬品のためという建前ながらも、入っているのは主に飲料のペットボトルや菓子類というのはまあご愛敬といったところか。 「いいよ、好きなの取って。気が向いたらそのうち足しといて」 破れたズボンを丁寧に、裏から継ぎ布まで当ててきれいに繕う作業に没頭しているのか理久は目も上げずに答え、 いつも通りのやり取りを心得ている将之もさほど遠慮なく冷蔵庫の中身を物色する。 そのままちくちくと針を動かしていた理久だったが、ふいに何ごとかに思い至ったのか、いきなり弾かれたように顔を上げた。 「あ、言っとくけどフタ側に入ってるドクロマークのラベルが付いたオレンジ色のペットボトルは薬品だから間違って 飲まないでね! キャップにも同じマーク描いてあるから間違わないと思う…けど……」 06-807 :皆上将之の災難 3/13 ◆YOLph2yTEI :2010/07/09(金) 21 39 22 ID 3MIz4agk が、振り向いた理久が慌てた口調で肝心なところを言い終わるよりも僅かに早く、将之は手にしていたオレンジ色の ボトルの中身を一息に空けている。 「……え……?」 束の間の静寂が室内を支配し、取り落とされたドクロマーク入りのプラスチックキャップがリノリウム材の床にからりと転がる、 その音だけがうつろに響いた。 * * * * * 「……うっぷ、気持ち悪ィ……」 よろよろと、生まれたての子馬的な足取りで自宅玄関に辿り着いた将之は眩暈をこらえつつ、ポケットから家の鍵を 引っぱり出す。それを普段通りドアの鍵穴に差し込もうとするものの、どうにも手元がかたかたと震えて上手く鍵の先が 入らない。 「ほら、貸して」 理久が横から鍵を取り上げてさっと回し、開いたドアへ将之の背を押し込む。 親しい隣人同士という事もあって、小学生のころ門司家の両親がヨーロッパと北米の研究室にそれぞれ出向してしまった 時は皆上家の親がわが子も同然に理久の世話を買って出ていたし、中学に上がる前に消防士だった将之の父親が亡くなり 母親は生活のため看護師として夜昼なく働き始めた頃には門司家の側が同様に将之の面倒を見たりと、互いに勝手知ったる 他人の家だ。 今日も将之の母は夜勤に出ていることは分かっているので理久は挨拶もせずに上がり込み、未だ足元もおぼつかない 幼馴染へ肩を貸して支えながら、子供部屋のある二階へと上っていった。 「はい、制服脱いで、靴下も」 言われるがまま為すがままといった体の将之は理久の手に学生服の上とシャツを剥がれ、ベッドへ倒れ込んだところで ズボンと靴下も抜き取られる。 もそもそと布団にくるまり、腹の奥からこみ上げてくる吐き気をなんとかやり過ごそうとしている将之の額を、 ふいにひやりとした感触が覆った。 「とりあえず冷やした方が良さそうだよ。熱は定期的に計って、あと水もできるだけ飲んで」 差し出された体温計は素直に脇の下に挟み、もう一方の手が差し出す吸い飲みは力の入らない手で押し返す。 「…みず…は、も……みたく…ねえ……」 ぼんやりと細められつつも恨みがましそうな目つきに将之が何を根に持っているか理解して、理久も溜息を吐く。 「胃洗浄は仕方ないだろ。僕だってまさか、あんな容器をいかにも危険物っぽくしておいたのを中身も確かめず 飲んじゃうなんて、さすがに予想しなかったよ」 まるっきり呆れたような口ぶりに将之は内心むっとしたが、先程喉の奥まで指やらホースやら突っ込まれた感触を 思い出すと余計に気分の悪さが深刻化しそうで、今はそれどころではない。 しかも、胃の中身を消化しかけの昼飯まで洗いざらい吐かされたというのに、まだ何かが腹の奥に詰め込まれてでも いるような、どんよりと重たいものがそこにわだかまっているような感じがする。胃だけでなく内臓のそこかしこが熱を帯びて じくじく痛むような、体全体がただれて溶けてしまいそうな、非常に不安を掻き立てられるイメージ。 「あの薬はまだ効果が未知数なんだ、生物部のマウスでこっそり試してはみたけど人間じゃどうなるかまだ分からないし…… まあ少なくとも死ぬようなことはないと思うけど、でも……」 ちっとも救いの見出せないことばかりの理久の声も、どんどん遠ざかっていって次第に不明瞭になる。 ちくしょうカズの野郎、目が覚めて頭がシャッキリしてたら覚えてろ、と逆恨みする思考も次第にぼやけて拡散し、 いつしか将之の意識は泥沼の底へ引き込まれるように暗転していった。 * * * * * 06-808 :皆上将之の災難 4/13 ◆YOLph2yTEI :2010/07/09(金) 21 40 21 ID 3MIz4agk 将之が目を覚ました時、辺りは既に真っ暗だった。 意識がはっきりしてみれば、全身が冷水でもかぶったみたいにびしょ濡れで、ぞくぞくしてしまうほど気持ちが悪い。 声を出そうとしたが、喉がからからで舌が口の中に貼り付いたように動かない。 当てもなくじたばたと動かした手が何か冷たくて硬い物にぶつかったと思った次の瞬間、それが板張りの床に落ちて、 ごとりとやけに大きな音を立てた。 ようよう上体を起こしかけてみて、それがさっき理久の持ってきた吸い飲みだと気が付く。 次第に暗がりへ慣れてきた目はその容器が少なくとも見てすぐ分かるほど割れていないことと、中に入っていた水が こぼれてフローリングの上に広がりつつある様子を見て取った。 喉が渇いていたのにもったいない事をした、と考えているところで誰かが部屋の灯りを点け、いきなりの明るさに 目を灼かれて思わず枕に顔を突っ伏す。 「なぁに、起きたと思ったら途端にバタバタガチャガチャして、落ち着かない子ねえ」 背中に聞く母親の呆れ声に、もう夜勤の明ける時間なのかと思って時計を見れば、まだ三時──おそらくは午前の── を少し回ったところだった。 「夕方にカズくんから電話で知らせてもらって、師長もそれを聞いてたから今日は巡回終わったところで早上がり していいって言って下さったの。それまではカズくんがつきっきりで様子を見てくれてて、もうフラフラだったから ご飯食べさせて下の和室で寝たらって言ったんだけど、何か資料を探すとかでお家に帰って行っちゃった」 でもその割には大したことなさそう、寝たら治っちゃうなんてあんたは本当大雑把ねえ、と散々な言葉と共に 差し出されたコップをつい奪い取るような勢いで口をつけ、一気に冷たい水を飲み干す。体中の干涸らびた細胞に 隅々まで水分の行き渡るような快さを堪能し、次いで人心地ついた途端に自覚する現実、全身が汗みずくで おまけにそれが冷えきっている状態に、大きな身震いが襲ってきた。 「母ちゃ……」 タオルか何かくれ、と言おうとして自分の口から出た声の異様さに、将之は思わず飛び上がりそうになる。 寝起きでかすれているのはいい、だが、それだけが理由とは思えないこの違和感は何だ。 「ちょっと、Tシャツびしょびしょじゃない。脱ぎなさい、拭いてあげるから」 「いっ、いい! 自分…で……やる、から……」 別に息子の裸ぐらい見たってどうってことないわと爆笑する母から蒸しタオルだけを引ったくり、部屋の外に 押し出すとドアを閉め、すぐさま鍵を掛ける。 今しがた、慌てて服ごしに体を触った時から不吉な予感が脳裏に去来して仕方がない。 じりじりシャツを捲り上げる間にも心臓はばくばくと忙しない間隔で鼓動を鳴り響かせていて、額や背筋には 嫌な汗がひっきりなしに滲む。 十数回ほど意味もなく深呼吸を繰り返した後で、覚悟を決めてシャツを一気に体から引き剥がせば、 そこにあるのは見慣れた自分の胸板と腹筋──ではなかった。 「……っ、なんじゃこりゃぁあああああああ!!?」 思わず絶叫した声に階下からは「こんな夜中にご近所迷惑でしょ!」と母の怒声が返り、生まれて十七年この方 カーテンなど吊したこともない窓の向こうでは建て売り故にちょうど線対称の構造をした隣家の二階の部屋から、 窓際の勉強机に積み上げられた大量の本及びパソコンとその周辺機器に埋もれかかったような理久が 唖然とした顔でこちらを凝視していた。 * * * * * 06-809 :皆上将之の災難 5/13 ◆YOLph2yTEI :2010/07/09(金) 21 46 39 ID 3MIz4agk まだ夜も明けきらぬ午前四時、皆上家のダイニングキッチンでは将之と母親の恵美、そして理久の三人が顔を揃え、 将之の体に起きた変化についての緊急の話し合いが開始された。 使い終わったカレンダーや裏の白い広告など、その辺りにあった紙数枚をややこしい化学式や専門用語でびっしり埋めた 理久が並べ立てる内容はほとんど呪文か苦手な教科の講義にも似て、一番の当事者であるはずの将之は最初の数分で それらの理解を諦め、欠伸交じりに右から左へ抜けていく音の流れをぼんやり聞いているしかない。一方、恵美の方は 現役の看護師だけあって理久の話の所々で質問をしたり確認を取ったりと、息子とは段違いに真剣な応対を見せている。 「……つまり、将之の体が元に戻る手だては今のところ、ないってわけね?」 「そうなんです」 ぼけっと聞き流している間にとんでもない結論が出た事に、思わず座っていた椅子から落ちそうになった将之は テーブルを乗り越えんばかりに腕を伸ばし、やけに神妙な表情をしている理久の胸倉をひっ掴んだ。 「なんでそーなんだよ! あの変な薬飲んで俺の体が女になっちまうってんなら、もう一回飲めば男に戻るとかじゃねぇのか!?」 「まーちゃん、僕の話、聞いてなかったの? あの薬は、雄性体を雌性化させる――つまり、オスをメスに変える効果しかないんだよ」 実際聞いていませんでした、と言うのも癪でぷいと顔を背けた将之に構わず、理久は新しい白紙を持ち出すと その上にボールペンを走らせ始める。 几帳面で細かい、但しかなり癖のあって読みにくい字が何を表しているのか皆目解らない、といった風情の 将之をちらりと見やって諦めたように眉を寄せた理久のペン先は、今度はぐにゃぐにゃとした線、おそらく本人の中では 生物の胚から胎児までの過程を表現しているつもりの珍妙な形を紙の上に描き出した。 「哺乳類みたいな胎生の生き物は、発生初期段階までは染色体上の性別と関係なく雌の形をしてるっていう話は 聞いたことあるよね。そこから性決定ホルモンの働きによって性別が分化するわけだけど……」 「お前、相変わらず絵ぇド下手だな」 「真面目に聞いててよ、頼むから。まあ、大まかにまとめるなら、あの薬は男性ホルモンに導かれた性形質を削り取って 原形に戻す効果があるって考えて。……でも、こんな短い時間で、こうもはっきりと外形に変化が出るなんて、これまでの 実験データからするとおかしいんだよね……」 話の後半からは自分の頭の内側を覗き込むような顔つきになって、ああでもないこうでもないと手元の紙を字や記号で 真っ黒に埋め始めた理久にこれ以上の意思の疎通を求めるのは難しいと、長年の付き合いで知っている将之は 途方に暮れた表情を傍らの母親に向ける。 「母ちゃん……」 「うーん、困ったわねえ……ま、しょうがないから諦めなさい、将之」 「投げやがった!!!?」 潔いにしても程があるあっさり加減で我が子の、息子としての人生に見切りをつけた恵美はやけに落ち着き払った物腰で、 さっき淹れてからだいぶ温くなった焙じ茶を一口啜った。 「別に命に関わる事じゃないんでしょう? 大抵の事は元気に生きてれば何とかなります。うちには跡継ぎがどうのとか 言うような家名も親戚もないし、それにあんたは元気が有り余りすぎてちょっと心配なくらいだから却って良かったかもしれないわ」 「ちっとも良くねえよ!! 男が女になったら色々……とにかく色々困るだろ!? その……アレだよ、何か……が、学校とか……!」 悲しいかな、「色々困りそうな事」の具体例を上手くシミュレーションできずにひたすら漠然とした危機感を 訴えるしかない将之の脳裏には、とりあえず男子の五十音順→女子の五十音順で割り振られている出席番号が 後ろの方にずれるのではないかという、相当にどうでもいい部類の懸念しか浮かんで来ていない。 そんな思考内容を見透かしたという訳ではないだろうが、今や半ば以上娘へと変貌しつつある息子の主張を ぞんざいに受け流した母親はお隣さんと額を突き合わせて学校その他への説明として使えそうな医療事例や 対応を取るべき範囲についての相談に余念がなく、自分の体の事だというのにどうにも蚊帳の外に放り出された感の 否めない将之はいかにも不服げに唇を尖らせた顔を、食卓上に組んだ腕の中へ埋めるよう突っ伏した。 06-810 :皆上将之の災難 6/13 ◆YOLph2yTEI :2010/07/09(金) 21 48 02 ID 3MIz4agk いっそ、このままもう一度眠って起きたら全部夢だったなんて事にはならないものか。 普段なら男らしくないと自分で一蹴するような現実逃避にすら思わず縋った頭の上へ、おそらく理久の手だろう感触が そっと重みを乗せ、髪をふわふわと掻き混ぜるみたいにして撫で回される。 「ごめんね、まーちゃん。今回の事はほとんど、僕の不注意が原因みたいなものだから……責任は、取るよ、絶対に……」 当たり前だ、と思う気持ちも半分、その声に含まれたどこか悲痛そうな響きが気にもなり、将之は腕の中から 視線だけを上げて理久を見た。 中学に上がる少し前くらいから掛けるようになったフレームの細い眼鏡越しに、やはりこちらをじっと見つめる目元は 何かを耐えるように細められ、ひとくちには形容しがたい複雑な感情をはらんでいる。 そう思った将之は腕組みを解き、上体を起こして正面から、幼馴染にして唯一の親友の顔を見据えた。 「注意が足りなかったのは俺もだ、カズ。お前一人が何もかんも負い目に感じるこたぁねえ、てめえの迂闊が招いた事は てめえでケツを持たなきゃ男が廃るってもんよ」 本人は至って真剣に発した、それでも随分と大仰な台詞を受けて理久は一瞬、困ったように眉尻を下げ、 次いで堪えきれないとでも言わんばかりに苦笑する。 人が真面目に腹を括ってるのに笑うなと将之は憤慨し、横からその様子を眺めていた恵美は「あんたの頭は 本当に時代がかってるわねえ…」と混ぜ返した。 * * * * * 三時間ほど後、とりあえずは登校する事にした理久は、そのいかにも寝不足ですといった顔を引っ提げて 学校へと向かって行った。 体の調子は今は大して悪くないものの、さすがにこの状態で元気に登校という訳には行かない将之は しばらく手持ち無沙汰に家の中をうろついていたが、不意に鳴き出した腹の虫に誘われるようダイニングに戻る。 茶碗に山盛りにした飯をしば漬けと佃煮とレトルトの味噌汁でかっ込み、二杯目を卵かけご飯にして更に流し込み、 仕上げに牛乳をパックから直飲みという大雑把な朝食の後、そういえば昨日から今朝に掛けておかしな時間に寝たり 起きたりした弊害なのか無性に眠気を覚えて自室に戻り、布団に潜り込んだのが午前十時過ぎくらいのことだった。 「……ちゃん、まーちゃんってば」 ゆさゆさと肩を揺さぶられて将之の意識は中途半端に覚醒した。 ぼんやり半眼に開いた視界には、学生服の胸から腕あたりと何枚かの紙がまず飛び込んでくる。 「これ、今日配られたプリント、まーちゃんの分もらってきたから机の上に置いとくね。…で、具合はどう? 熱が出たり気持ちが悪くなったりしてない?」 ようやく頭がはっきりしてきたところで、将之はベッドの傍らから理久が覗き込んでいることと、辺りが すっかり薄暗くなっていることに気が付いた。 「あ…カズ、いま……なんじだ……」 「夕方の五時半だよ。もしかして、朝からずっと寝てた?」 理久の問いに肯定とも否定ともつかない生返事をしつつベッドの上に上半身を起こし、ぐっと伸びをした、 ところで将之の全身はぎくりと固まる。 なんだか、妙にTシャツの胸が、きつい。 「あれ、なんだろ、まーちゃん今朝よりも体型が……って、えぇえ!?」 部屋の電気を点けて振り向き、違和感の正体をよく確かめようと眼鏡をずらし直した理久の目の前で、勢いよく Tシャツが脱がれて宙に舞った。 目を丸くしている幼馴染に構うほどの余裕もなく、将之は布地の下よりぷるりと揺れつつ現れた二つの盛り上がり、 ゆうべ絶叫した時よりも確実にその体積を増している胸部を凝視する。 「………か、カズ、その……俺の目がおかしいんじゃなかったら、なんか……オッパイでかくなってるような気がするんだが……」 「えっと……正確な増量分は測ってみないとわからないけど、目測としては確かに大きくなってると思う」 正直に答えながらも、理久はややぎくしゃくとした態度で部屋の壁を凝視したり、特に意味もなく学生服の襟を 引っ張ったりしていたが、やおらシルバーフレームのブリッジを指で押し上げると、急に何かのスイッチを 切り替えたような真顔で将之の方へと向き直った。 「おろおろしてても事態には進展がないよね。とりあえず、状態の変化を逐次計測して、今後の予測と対策を立てようよ」 06-811 :皆上将之の災難 7/13 ◆YOLph2yTEI :2010/07/09(金) 21 48 57 ID 3MIz4agk いきなり何やら頼り甲斐のあるようなことを言う理久につい頷いた将之だったが、さてその言葉を実践するためには、 家のどこかに多分あるはずの母の裁縫箱を探し出さなければならなかった。 探索の末に発見した洋裁用メジャーでまずは胸と胴、腰、尻周りから何故か首や二の腕や太腿の太さまで測られ、 お次は身長と座高と体重、肩幅に掌や足底のサイズと、まるで凝り性の服屋にでもなったかのような勢いで 採寸していった数値を理久がレポート用紙にせっせと書き付ける。 こうなる直前の、普通の男の体だった時の寸法は測っていないから比較するのは難しいんじゃないかと将之は一瞬 思ったが、そこは理久の無駄にいい記憶力が役に立った。 「新学期の身体測定した時に身長は185.5cmだったけどその後もう0.5くらい伸びてたよね。 体重は日ごとの誤差をこれくらいとしても……学生服の肩幅から遊び分を引いて…………」 自分でも大して把握していないような、親友とはいえ男の身長や体重や胸囲をなんでこいつはそんな詳細に 憶えているんだろうと将之が不思議がる中、理久の手元では随分なビフォー&アフター対比表が完成する。 結果から言うと身長はおおよそ2cmほど減り、なのに体重は逆に少しだが増え、肩幅や手足のサイズや首周りが減って 胸と尻周りがだいぶ増えた、そんな散々な結果に将之は大いに気が滅入ってきた。 「それで、あと一箇所測ってないところがあるんだけど……」 さっきまでの有無を言わせぬメジャー捌きとは裏腹に、急に言いにくそうな様子で切り出してきた理久の言わんとするところを なんとなく察し、そういえば実のところ、怖くてなかなか確認できずにいたブツのことを将之も気が進まないながらも意識する。 にわかに心拍数を上げたり脂汗を滲ませたりと動揺する己が肉体を宥めつつ、何度かの深呼吸の末に、 なんとかの舞台から飛び降りる心地で最後の関門へ突撃し──将之は沈黙した。 「……ど、どうだった……?」 トランクスの前を引っ張って覗き込んだきり、石になったかのように動きを止めている幼馴染に怖々といった調子で理久が問う。 やたらと長く感じられた沈黙の果てに、その口から這い出した声音は理久もこの十数年間で初めて聞くような、 なんとも言えない悲嘆の響きを帯びていた。 「………………半分以下…くらい…………」 * * * * * その二日後、正確に言えば二度の睡眠と一度の昼寝と四度の食事というだいぶガタガタの生活サイクルを挟んで 翌々日の昼ごろ、用を足そうとした将之は件の半分以下がゼロ数値にまで至ったという現実に直面し、できれば その場にへたり込んで泣き出したいような衝動に襲われた。 勿論、場所柄そんな衛生的でない行為をするのも躊躇われるので、自室に戻って布団に倒れ伏すまではやせ我慢をする。 枕に顔を押し当てたところで実際には涙も出てこなかったが、この先自分はどう生きていけばいいのか、とりあえず 学校はどうするべきか、漠然と考えていた卒業後の人生設計から今のとこ全く当てはないが恋愛だの結婚だのにまで 思いを馳せ、さっぱり建設的な道筋が見出せないことに落胆し、気が付けばまたもや睡魔の淵に誘われて夕方まで 寝倒してしまった。 目が覚めると既に夜の七時過ぎで、勉強机の上には寝ている間に理久が置いていったらしいプリントが二枚と、 近所の商店街にある洋品店のシールを張られた小さな紙袋がひとつ置いてある。 袋の下に挟んであるメモを見れば母親が夜勤に向かう前に走り書いたと思しき字で「明日帰ってきたらサイズを測らせるように」 とあり、はて何を測らなければならないのかと首を傾げながら紙袋を開けると、中から転げ落ちてきたのは女性用パンツ ──いや、こういうのはパンティとかなんとか呼称するべきなのだろうか?──が数枚。 一応「元」息子への配慮なのか、グレーや水色の無地でレースやリボンなどは付いてないスポーティタイプという チョイスではあったが、それでもこれは間違いなく女性用下着であって今日まで愛用してきたトランクスだのの類とは 全く異質な代物で、そんなものをうっかり鷲掴みしてしまった将之は母のありがたい心遣いに感謝する気にもなれず、 机に突っ伏す以外のリアクションの取りようもなかった。 * * * * * 06-812 :皆上将之の災難 8/13 ◆YOLph2yTEI :2010/07/09(金) 21 49 38 ID 3MIz4agk 「そ、それでおばさんとケンカしちゃったの? 女性用下着を着けるとか着けないとかで!?」 ものすごく笑い転げたいのを我慢しています、といった様子で口元を押さえている理久を軽く蹴って、将之は ぶすっとふて腐れた顔のままベッドの上に胡坐をかいた。 「だってカップがどうとかアンダーが何だとか、訳のわかんねーこと言いながら人のムネ引っ掴むんだぜ!? 服とか下着とかの話してるときの女ってなんか怖ぇえんだよ!」 どうやらブラジャーのサイズを測ろうとして強硬なる抵抗に遭った恵美は、辛うじて下だけはなんとかさせる事で一旦 折れたらしい。朝からそんな大騒ぎでは週末の日勤と夜勤が続くシフトは大変なのではないだろうかと理久は思ったが、 ここで母親側に同情的な事を言うと将之がもっと盛大に膨れるのは容易に予想出来るので、それ以上は口を噤む。 「……でも、もうだいぶ体型も変わってきたから男物は着づらいんじゃないの? 上はともかくパンツとかズボンとかさ」 「あァ、昨日試してみたけどケツの辺りがだいぶキツイな。制服はまだ大丈夫なんだがジーパンとかは全滅だ」 忌々しげに天井を仰ぎ、将之は自分の剥き出しの太腿をぺしっと平手で叩いた。 教室のロッカーに置きっぱなしにしている体育用のジャージを除けば、部屋で穿けるズボンが全く無いのか 下半身は件の女性用パンツ一枚、上半身も薄手のタンクトップ一枚きりという格好は現在の室温的には特に 問題もないのだが、目の遣りどころという点では激しく差し支えのあるものだということを、男だった時と同程度の認識で 気楽にしている本人は知る由もない。 知っていれば、それを受けた理久の「どれくらいサイズ変わったか、確かめてみてもいい?」という提案に 頷きを返そうはずもなかった。 ふよん、と指先が沈み込むほどの弾力をその膨らみは触れるものに伝え、下から持ち上げるようにした掌には もっちりとした加重が乗る。 「うわぁ、なんか……すごく柔らかいね。僕、てっきりまーちゃんの胸だから筋肉が詰まってて硬いのかと思ってたよ」 「全くだちきしょーめ、体中どこもかしこもこんなぷにょぷにょのぐにゅぐにゅになっちまいやがって、邪魔くせえったらねえぜ」 どっかりと座り込んだベッドの上で、上半身裸になり短期間でかなり豊かに育ったバストをすぐ傍らの理久に 触らせているというのにそんな事はどうでもいいと言わんばかりの、苦虫を噛み潰したような顔で将之は吐き捨てた。 「いや、でも腹筋とか上腕筋とか、脂肪がうっすら乗ってる下はちゃんと硬いよ、ほら」 「プロレスラーじゃねえんだから脂肪なんざ要らねえんだよ! 脂肪つけて衝撃殺そうとか守りに走った発想が 俺ァそもそも気に入らねえ!」 何かが盛大に間違っている将之の人体観に理久は少し遠くを見るような顔をし、次いで今、自分が手を触れている Dカップほどの乳房と綺麗にくびれたウェストラインへ目を落とした。 「……女の人の脂肪は、別にプロレスのためにある訳じゃないよ。まあ、身を守るためにあるって言うのはそれほど 間違ってもいないけど……どっちかって言えば、赤ちゃんを抱いた時に安定がいいようにとか、子育て期間中に 食糧不足とかがあっても子供に栄養を回して自分も生き延びるための貯蓄分とか、そういうものかな」 「つまりはラクダのコブみてえなもんか」 色気もへったくれもない理解を示す将之を適当に流して、理久の手は首筋から鎖骨、肩から腕、腹から脇腹と 体の表面をゆっくり撫で回す。続いて乳房の付け根を緩い弧を描いてなぞり上げ、腋の下へ手を滑り込ませる。 将之がくすぐったさについ脇を締めれば、今度は背中から胴を半周して下腹へ滑った手が鼠径部へと向けて 撫で下ろされた。 「な、なぁ、カズ、いったいぜんたい何してんだ、お前、それ」 いつの間にか体温が上がって来たような気がして、将之は短く息をつきながら訊ねる。 尻の後ろからまた鼠径部へ、次は太股を揉み上げるようにして同じ所へ手を滑らせていた理久は手も止めず、 しれっとした顔で答えた。 「ん、リンパ腺マッサージだけど。こうやって体の中の循環が良くなれば、少しは楽になるかなって」 「そ、そりゃありがてぇんだけどよ、なんか、そーやって弄くり回されてるとこそばゆいっつーか…… 変な、気分になっちまいそうで……」 自分でもその「変な気分」の正体がよく分からないのに、こうして口に出してどんな感じか詳しく訊かれたら困るな、 という気まずさから将之は顔ごと視線を逸らし、だからすぐそこで理久の目に宿り始めた光に気付くことも出来なかった。 06-813 :皆上将之の災難 9/13 ◆YOLph2yTEI :2010/07/09(金) 21 50 48 ID 3MIz4agk 「ね、まーちゃん、変な気分って……こう?」 変にかすれたような声がごく近くで聴こえたかと思うと、途端に左右の胸をがっしりと、先日までの自分に比べれば 細っこいと思っていたのに今や充分大きくて骨張った手に、強い力で鷲掴まれる。 「うぁ゛…っ!?」 痛い、と思ったのも初めのうちだけで、幾度かぐいぐいと捏ね回すように揉まれていると次第に両の乳房が 張りを増すような、血が集まって重くなるような感じがして、さっきまで痛みに感じていた動きがなんだか奇妙な、 痺れにも似た感覚を与えてきた。 五本の指が食い込んで形を歪められた白い盛り上がりの頂点では、今まで唇と同じような色で小豆くらいだった 乳頭が鮮やかな淡紅色に染まり、しかも二倍ほどの大きさに膨れてつんと上を向いている。 「な…なん、だ…っ、これ………ひぅっ!!」 腫れ上がったようなその突起を理久の指がきゅっとつまみ、軽く爪の先でノックしただけで背筋をわななかせていた 痺れが数倍の強さになって、腰椎の辺りから脳天までを駆け上がった。 「や……っ、なに、っする……やめろ、カズ……!!」 胸を弄くり回す手を払いのけたいのに、全身が骨を抜かれたようにふにゃふにゃして腕にも脚にも力が入らない。 かろうじて弱々しく縋り付く手はそのままにさせながら、理久の両手はさんざん苛めていた胸からそろりと離れていった。 やっと止めてくれたかと将之が内心ほっと息をついた瞬間、なぶられて痛々しいほどに充血しきった先端を、 指先で強く弾かれる。 「ひんッ!?」 びりっとした痺れが背を走り抜けると同時に、将之は己の口から自分のものとは信じられないほど媚びた声が 上がったことに、そして下着の中に濡れた感触が、じわりと熱く拡がったことに激しく動揺した。 「まーちゃん、胸だけで変な気分になりすぎちゃった?」 その混乱も治まりきらないうちに、今しがた濡れたところが急にひやりとした感触に襲われる。 件の場所が外気に晒されているのだと、つまりはパンツを脱がされているのだと気付いたときには既に 薄く頼りない布切れは右足首にその輪っかの片方を引っかけているのみで、ほぼ体から引き剥がされたも同然だった。 「…ああ、完全に外性器も女性化してるね」 更に気が付けば上体は完全にベッドの上に倒されていて、両肩に左右の膝がくっつきそうなほど折り曲げられた体は 理久の手に抑え付けられてほとんど自由が利かず、おかげで目の前には高々と掲げさせられた自分の尻と股ぐらが 嫌でもよく見えてしまう。 遺憾ながら一度も実戦に臨むことのなかった男のシンボルは竿も袋もすっかり消え失せて、代わりに ふくりと盛り上がった膨らみの真ん中を一筋の、毒々しく思えるほど鮮やかな色の割れ目が走っていた。 理久の指先がその合わせ目をなぞって動き、次の瞬間、中心から押し開くようにして肉色の粘膜が左右に広げられる。 「まーちゃんはおっぱい派だから、あんまり下の方が無修正なのって見たことないよね。ほら、ここが大陰唇で その内側が小陰唇と膣口、この尿道口の上にあるのが陰核だよ。……すごいな、男性器が退化しただけじゃなくて、 組織がそっくり再分化してる……」 小中学のころからずっと、クラスのいかなる男子グループからも浮いた存在だった将之と理久は第二次性徴が 訪れる頃でもあまり、他の連中と思春期なりの猥談で盛り上がったこともない。 そう言った話はいつも二人だけで、ネタもコンビニで買える程度のエロ本だとかたまたま見つけた動画サイト くらいのものだったし、それすらも理久は付き合いという以上には大して興味も無さそうな素振りだったのに。 知らない。 こんなぎらついた目をして女の体を暴こうとしている男は自分の知っている昔馴染じゃない。 「さっきの胸で相当感じちゃったんだね。膣分泌液でものすごくぬるぬるしてる……」 指先で割れ目をなぞられながら、揶揄うような言葉を投げつけられてかっと頭に血が上る。 「てめぇ、離せ…っ、この……!」 押さえつけられた脚をばたつかせてなんとかこの辱めから逃れようとするも、腰を浮かされた不安定な体勢では 思うに任せない。それどころか、返す動作でより一層、大きく脚を開いた姿勢に固定されてしまう。 06-814 :皆上将之の災難 10/13 ◆YOLph2yTEI :2010/07/09(金) 21 53 30 ID 3MIz4agk 正直言って屈辱だった。 腕力を振るっての喧嘩ではもう何年も負けたことのない自分が、別にだからといって見下していたわけではないが、 やはり体力的な面では自分に到底及ばないだろうと思っていた理久にこうまでいいようにされてしまっているこの状況が。 そもそも自分をこんな体にしたのは理久なのに、今や反省のはの字も見えないどころか、逆に面白がって変化した体を 弄んでいるように思えることが。 もしかして自分では気付かないうちに理久の怒りを買うようなことを自分はしていて、その報復としてあの薬も 何もかも仕組まれていたのではないかとすら思えてきて── 「……ね、気付いてる? まーちゃんさっきからすごく悔しそうな顔してるのに、こっちはどんどんびしょびしょに なってきてるよ……あ、もしかしてマゾヒズムの気があるとか?」 「ふっ…ざ、けんな……! カズ、それ以上言ったら……」 「言ったら?」 急に、肩の横に両手をついて覆い被さる体勢になった理久がねっとりと耳に這い入るような声で囁いてきて、 思わず全身の皮膚が粟立った。 「言ったらどうするの、まーちゃん」 そのまま頬に口付けられて、あまりのことに頭が真っ白になっている間にも理久の右手はふわふわと髪を撫で、 頬から首筋へ、胸へ、腹へと優しく滑っていき、またしても両脚の間へ入り込む。 「いいよ、殴っても蹴っても。僕、今からもっとひどい事、まーちゃんにするから」 「な……ぁあっ!?」 何が、と言おうとした言葉は突然、体の内側に異物が侵入する感触に驚くあまりに霧散してしまった。 さっき言われたとおり、初めに触られた時よりもいっそう濡れている気がするそこへ、そんな大きな穴が開いてる ようには少しも見えなかったのにいきなり理久の指が入り込んで来たのだ。 「ひ…っ、ん、んっ」 「大丈夫、まだ指一本しか入れてないし、充分濡れてるから痛くないよね?」 だからと力を抜くように促されても、体の中を自分の意に従わない物が動き回っていると言うだけで とても平静ではいられない。 「ば、バカ、やろ…っ、気持ち…きもち悪ィ……」 自分の声が完全な涙声になっている事にも気付けず、将之は力無く身を捩る。その動きで体の中を這い回るものを 余計に感じてしまっているということにまでは思考が及びもしていない。 「気持ち悪いの? ……本当に?」 いつの間にか内側の指は二本に増え、互い違いに折り曲げられたり、指先を拡げたりと好きなように蠢いている。 加えて、指の動きを助ける潤滑液として分泌される粘液が空気を含んで掻き混ぜられるぐちゅぐちゅという音が ひどく耳について、将之の意識は激しい羞恥と未知の感覚に押し流され、もはや己の口から弱々しい哀願が 漏れていることすら自覚できずにいた。 「や…っだ、おと、たてんな……ぁ」 「音、したら恥ずかしい?」 耳に吹き込まれる質問の真意にも気付かずにがくがくと首を振る。 どうにかしてこの状態から解放して欲しい、それだけしか頭になかった。 「そうだね…」 ずるり、と二本の指が抜け出す感覚。 やっと終わった、と思ったのも一瞬のことで、次の瞬間三本揃って押し入ってきた指の圧迫感に、将之の背は 弓なりに反って腰からの衝撃を受け止めた。 「ほら、三本入っても楽に動くよ。これならもう、充分かな」 中でばらばらに動く指が、掻き回されてあられもなく水音を立てる自分の体が、信じられない意地悪をする理久が、 もうどうしていいのか分からないくらいに理解できない。 目に一杯の涙を溜めて、嫌々と首を振ることしか出来ない自分の姿を時折、ひどく客観的に認識する瞬間がある。 まるで女みたいだ、と思い、次の瞬間その女の体の中に引き戻されて、男だったときには想像も付かないような 感覚の波に翻弄されて泣き声を上げる。 「…っ、か、カズぅ……っ…」 「ごめんね、まーちゃん」 06-815 :皆上将之の災難 11/13 ◆YOLph2yTEI :2010/07/09(金) 21 57 35 ID 3MIz4agk 幼馴染の目にこんな醜態を晒すなんて情けない、そう考える意志も切れ切れに浮き沈みする中、ぼろぼろと涙をこぼす 目元に理久の唇が何度も触れた。ちろりと覗いた舌先が眦を撫で、後から後から溢れ出す塩水を舐め取っていく。 「本当はあの薬、僕が自分で飲むつもりで作ってたんだ。今はまだ学校に行ってるから一緒にいられるけど、 その先は本格的に道が分かれちゃうだろ。僕は大学に行くけどまーちゃんはきっとおばさんを助けるために就職する、 そうなったらもう今みたいにいられないから、それなら僕は……まーちゃんの彼女になっちゃいたかったんだ」 圧し掛かる理久が何を言っているのかほとんど分からないながらも、その口が何か大切な言葉を紡いでいるような 気がして将之はぼんやりとした目で幼馴染を見上げる。 いつ眼鏡を外したのか少しも気が付かなかったが、銀色のフレームで分割されてない理久の顔は久しぶりに見るようで、 その顔は確かに子供の頃の面影が少し残ってはいるが既に大人になりかけの男のそれだと思って、何だか急に 心細いような気分になった将之は鈍る腕を辛うじて持ち上げ、理久の頬にそっと触れた。 「よく考えたら僕が性別だけ女になったところで可愛くなるとも限らないし、それでまーちゃんが僕を選んでくれる 確証なんて一つも無いから……ずっと迷って冷蔵庫に入れっぱなしにしてたら、こないだ、さ……」 話し続ける理久の言葉を遮るように、将之の指先が頬を滑って唇に触れる。 驚いたように眉を寄せて、それから少し泣きそうな顔になった理久の顎から、心なしか生暖かい雫がぽたりと 将之の喉元に落ちた。 「予定とは全然違っちゃったけど……ねえ、まーちゃん、殴っても蹴っても半殺しにしてもいいから……お願いだよ、 僕のお嫁さんになって」 男に向かって嫁たぁ何だ、ふざけるなと罵倒してやりたいが喉に何かが詰まったように声が出ない。 いや、声が出ないのは理久の口が自分の口に重ね合わされるようがっちりと塞いでいるからだという認識が、 遅れて頭に届く。 濡れて生暖かい感触は暫し半開きの唇や歯列を舐め回し、次いで歯茎をちろちろとこそばすと、いきなり口の中、 奥深くまで入り込んできた。 「んっ、…んぅ……っ!」 口腔内の異物を押し出そうともたもた動いた舌は、侵入者であるところの理久の舌に絡め取られるようにして 主導権を奪われる。 ぬるりとした表面が擦り合わされ、どちらのものか判然としない唾液がぐちぐちと湿った音を立てる。さっき 舐め取られた涙のせいだろうか、うっすらと塩辛いような味。 これってもしかして、キスってやつをされているのか? と将之の思考が遅まきながらの答えを見つけ出したときには 既に、口内粘膜から与えられる刺激はもはや不快さよりも興奮の方をより強く掻き立てるものへとすり替わっていた。 頭が再びぼんやりとしてきて、裏腹に体の疼きばかりが強く意識されてくる。 半ば無我夢中で理久の背に縋り付くよう腕を回し、体を揺すって熱を点された胸を相手の体へ押し付け、下肢を シーツに、そして脚の間へ割り入れられている手へと擦り付ければ、その発情した仕草に理久の喉がごくりと鳴る 音がひどく近く聞こえた。 「いい……? ね、中に入っても……」 執拗な口付けをやっとほどいた理久の目には露骨な欲の色が宿っている。 そして、おそらくは、諾々と頷きながら差し出すように脚を開いて腰を浮かした自分の目にも。 06-816 :皆上将之の災難 12/13 ◆YOLph2yTEI :2010/07/09(金) 21 58 53 ID 3MIz4agk ずぷりと、濡れた入口に押し当てられていた熱い塊が体内に分け入ってくる。 「…ぃ……ぁあっ! あっ、くぁっ!!」 入ってきた瞬間はスムーズに滑るかと思われたそれは、先端を僅かに突っ込んだところで何かに引っかかった かのように僅か勢いを落とし、次の瞬間更に力を籠めて奥まで抉り込まれてきた。 ぷつりと糸を切るような感触が下腹でしたと思う間もなく、傷付いた粘膜を擦られる痛みと、体の中を異物に 押し広げられる圧迫感で将之は思わず、変な悲鳴を上げてしまう。 殴られたり蹴られたり、時には刃物や殴打用の鈍器まで持ち出されるような喧嘩を今までに幾つも こなしてきた筈なのに、大抵の痛みには耐えられるものと自負していたのに、こんな感覚は想定外だった。 奥の奥まで入り込んで、突き当たりでじんわりと内壁に押し付けられた硬さはじっと己自身を周りの粘膜に 馴染ませるよう──もしくは形を覚え込ませるように大人しくしている。先程変な感じがした部分は未だに少し ひりひりしていたが、周囲からどんどんとろみのある体液が分泌され続けるに従って痛みは次第に薄れていき、 替わって掻痒感にも似た疼きが同じ場所から拡がり始めた。 「……そろそろ…動く、よ……」 しがみ付くようにして自分に覆い被さっていた理久がのろのろと上体を起こす。 その動作だけで、体の中に入り込んでいる相手の一部が角度を変えて内壁と擦れ合い、ほんの僅かな刺激が 何十倍もの電気信号となって脳裏に突き刺さった。 「ひぅっ!? ……ん、ぁ、ああっ!!」 将之の両脇に手をついた理久がそっと腰を引けば、ずるずると抜け出て行くものをまるで引き留めたがるように 粘膜のひだは締め付けを増し、摩擦と抵抗の生み出す訳のわからない感覚は津波のように全身を侵蝕する。 完全に引き抜かれるかと思われたそれは、寸でのところで動きを返し、再び奥深くまで楔を打ち込んできた。 小さく、湿りを帯びた破裂音と共に潤滑液が溢れ出して尻房を伝い、シーツに滴り落ちる。 熱い。 苦しい。 脚の間で理久の薄い腹が動いているのが涙で霞んだ視界に映る。 筋肉のあまり付いてない胸も、腕も肩も、激しい呼吸に合わせて上下し、熱い汗に塗れている。 カズが、物心つく前から一緒に遊んで、話して、寝食すらも共にした時間の方が多いはずの理久が、 見たこともない表情で自分を犯している。 風呂や水遊びの時には見せ合ったりもし、思春期の訪れた頃には聞きかじった知識だけで共に自慰を 試してみもしたりで馴染みがあると言えばそれなりにある理久の一物が、熱く灼けた杭のように自分を 串刺しにして、責め苛んでいる。 そういえばさっき、こいつは何を言っていたっけ。 どっちかが女になれば一緒に居られるとか何とか、それじゃあ何時からかは知らないが、ずっと自分のことを そんな目で見ていたのか? 生まれてから死ぬまで──いや先のことはそれほど考えてなかったが──たとえ進む道を違えようが、 何があろうとも生涯一番の親友だと思っていたのは自分だけだったのか? 06-817 :皆上将之の災難 13/14 ◆YOLph2yTEI :2010/07/09(金) 22 00 36 ID 3MIz4agk 「……ず………カ、ズぅ…っ……」 力の入らない声で呼んで、宛てもなく伸ばした手は理久の骨っぽい手に掴み取られ、指を絡めるようにして 握り合わされた。 その手の向こうにある理久の顔はどことなくしおらしい表情をしていたように思えたが、相変わらず、いや更に 回すような動きまで交えて前後する腰はやはり容赦なく体の中を掻き混ぜているし、自分のそれを握っていない 方の手と来ては太腿から腹を撫でさすり、這い上がった先で執拗なくらい胸乳を揉み捏ねている。 「まーちゃん、今、すごく可愛い……」 聞き捨てならない台詞を呟いた理久の口元が、一瞬蕩けんばかりに甘い笑みを作り、握られた手に 熱い息が掛かったと思う間もなくその甲から指先まで、あたかも舐め回すような口付けを這わせ始めた。 「や、ゃめ……ろ、馬鹿、ぁ……んぅ……」 目の前で自分の手指までが犯されているような気持ちになって腹立たしいのに、今すぐにでも止めさせたいのに、 もう片方の手はそれを止めようとするでもなく胸を弄くっている側の理久の腕を滑り上がって肩に縋り、 一方では理久を咥え込まされた下腹がきゅうっと縮こまるような、何か熱いものが脊椎を駆け下りてそこから 溢れ出しそうな感覚が体の中を吹き荒れる。 「…っ、すごい、締め付けてきた……ね、もう、イキそう?」 「ち、ちが…っ、違……う……ぁ、あぁ…ァ……!!」 頭と肩に敷かれたシーツがぐちゃぐちゃになる勢いで否と首を振り、必死の抵抗を試みるも、もはやそこまでだった。 腹の奥から生まれた痙攣が腰を震わせ、背筋を跳ねさせて頭の芯にまでがんがんと響く。 収縮したことで、より内側の理久を喰い締めることになった粘膜はその質量がやにわに膨れ上がったことを感じ取り、 その後に訪れるものを待望するよう歓喜にさざめいた。 強烈な快楽に揺さぶられ、焼き切れ暗転しようとする意識の縁で、将之は自分の口からひどく甘ったるい 嬌声が上がったことと、体の奥深くに生温かい飛沫が注ぎ込まれ、満たされていくのをぼんやりと知覚した。 * * * * * 06-818 :皆上将之の災難 14/14 ◆YOLph2yTEI :2010/07/09(金) 22 01 07 ID 3MIz4agk ひやりと、肌の冷える感触に意識が覚醒へと向かう。 今は何時なのか。随分と長時間眠っていたような気だるさが体の中にわだかまっている反面、あまり ゆっくりと休めていないような疲労感が背や腰の辺りを重くしているのだという気もする。 そんなぼやけた気持ちをこそぎ取るかのごとく、生温かく湿った何かがぞろりと脇腹を拭って動き、 僅かな時間差で気化熱を奪われた皮膚がすうっとして、将之は一気に目を見開いた。 「わ……あ、の……おはよう……」 まず見上げた視界の中には理久が驚いたような顔をしていて、その薄べったい肩からまっすぐに繋がる 腕の先、骨ばった手にはゆるく絞った濡れタオルが握られ、それが自分の腹の上を丁寧に清拭している。 瞬間、どうしてそんな事になっているのか飲み込めずに再び目を閉じ、もう少し寝直してしまおうかと 思っている間にも体の表面を撫でるタオルは几帳面なストロークで移動し、だんだんと下腹から脚の方へ 向かい始めた。 しかし、両足の付け根のあたりをやや躊躇いがちに一往復した後は何故か急に手が止まり、迷うような 気配すらおぼろげに伝わってくる。 なんで中断してしまうのか、折角気持ちいいのに……と、今や眠りに再侵食されようとしている将之の脳裏は ぼんやりとそれを訝った。 無言の催促が伝わったものかどうかは定かではないが、しばしの間を置いて動き出した理久の手は 太腿を外側から辿って汗ばんだ肌をぐいぐいと拭い、次いで下から尻臀を擦り上げたかと思うと、両脚の間の なんだか奇妙な感覚のわだかまる場所、今気が付いたが変にべとべとした不快な湿り気を帯びているそこに そっと触れ、うって変わってくすぐるほどの力加減で皮膚の薄い部分をなぞっていく。 眠りに落ちる前に触れられた時よりもだいぶ遠慮深い動き、しかし何かを思い出しかけた体は過敏に反応して 肌の内側に熱を点し、正体の解らない波が腹の奥底からせり上がってきて── 「………………!!!!」 突然、上体を跳ねさせるようにして起き上がった将之は自分の、未だにそう認識するのは難儀だが 首から下にくっ付いているからには認めざるを得ない、素っ裸の女の体をまじまじと見下ろし、そして今現在、 その股間にタオルを持った手を突っ込んでいる幼馴染の顔を穴の開くほどじっと凝視した。 「……カズ……」 頭がはっきりしてくると同時に、嫌がらせのような鮮明さで蘇った記憶がみるみる顔に血を上らせる。 羞恥だとか、驚愕だとか、どうしていいのかわからない戸惑いだとか、ありとあらゆる未整理な感情と思考が 走馬灯よろしく将之の脳裏でちかちかと瞬き、一拍の後に最も大きく膨れ上がったそのうちの一つ、 無二の親友だと思っていた相手に女扱いされあまつさえ体まで繋げられてしまった事に対する怒りが 他の全てを覆い尽くして表層化し、体の動きに直結した。 「……手…っ前ェ…………歯ァ食いしばれ!!」 鈍い音と共に、女の腕とはいえ、力の乗ったいいストレートを顔面に喰らった理久が吹っ飛んで ゴロゴロと床に転がる。 殴ってからはっと気がついて見渡せば、いつもの銀縁眼鏡はベッド脇の棚にちんまりと置いてあったので 将之は心置きなく腹立たしい気分を続行した。 「ふぃ、ひま、くいひはれってひふまへになふったよ!?」 「うるせえ黙れこの強姦魔────!!」 ぼたぼた垂れる鼻血を片手で押さえながら涙目で見上げてくる理久の反論を文字通り一蹴し、部屋から 放り出した背中に脱ぎ散らかされていた衣服を投げつけると音高くドアを閉め鍵を掛ける。 合板の向こうで理久が何か言っているような声がしたが、これ以上聞いていたくなくて、両手で耳を塞いだ 将之はドアに背を擦る形でずるずると座り込んだ。 裸の脚や尻に板張りの床が冷たい。 思わず腰を浮かしかける姿勢になって、その拍子に体の内側からこぼれ出てきたものがとろりと内腿を伝う 感触にぎょっとする。 音というほどの音もなく、フローリングに垂れ落ちる薄く濁った液体。 ひどく情けない気分になった将之はふらつく足取りで自分のベッドへ倒れ込み、もぞもぞと引っ被った布団の陰で 胎児のように丸く、身を縮めた。
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「なぁ古泉」 「はい、なんでしょうか?」 「放課後に4階の空き教室きてくんないかな?」 ある日僕に2、3人のクラスメートが話しかけてきた。 放課後、4階の空き教室にこい、それだけ言うと彼らは去っていった。 普段から不祥事ばかり起こしている問題児に呼び出されたため、僕は無視もできないまま放課後に彼らに呼ばれて空き教室にきた。 もちろんキョンくんに「涼宮さんに部活を休むかもしれないと伝えておいてください」と頼んでおいた。 空き教室の扉の前で僕は少しだけ迷った。本当にきても大丈夫だったのだろうか。 機関で肉弾戦のときの場合にそなえて訓練をしてはいるけれども、僕の存在はあまり表にでてほしくないのでなるべく穏便にすませたかった。 面倒なことにならないといいんだけど、と思いつつ教室のドアを開けた。 彼らが窓際あたりで座っているのが見えたと同時に、僕のお腹に鈍痛が走った。 「ぐっ…!!」 ひざをついてお腹をおさえて倒れた僕を誰かが教室に無理やり引っ張り込んだ。 そしてお腹をおさえている両手をぐいとひっぱり、後ろ手で縛られた。 「…なんのまねでしょう……。僕、何かいたしましたか?」 痛みをたえつつ笑顔で聞いた。彼らのうち一人が僕の髪の毛をつかんで言った。 「あのSOS団とかいうの、なんなんだ?鬱陶しいだよなぁ。」 「SOS団が何かご迷惑を…?」 「あの団長の涼宮とかいう女のせいでこっちはすごい迷惑してるんだよな。」 「それは…申し訳ありませんでした…。しかし…この拘束は?」 「許してやりたいのは山々なんだよ。けどなぁ、どうしてもむかついてしょうがないんだよ。」 「どうすれば許していただけるんでしょうか?」 彼らはニヤニヤと下品な笑みを浮かべている。 ああ、やっぱり無視すればよかったのかなと少しだけ思ったが無視したほうがもっとひどい目に合うと分かるのでそう考えるのはやめた。 「あの団長の涼宮を、明日この教室につれてこい。」 「…なぜ、ですか?」 「女を犯す。それだけだ。」 「!?」 「お前はこの教室にあいつを呼ぶだけでいいんだぞ?できるよな?」 「それはできません!!そんなっ…そんなことっ!!」 「うるせぇ!!」 彼が髪の毛をつかんでいた手を振り下ろす。僕の顔面が教室の床に強く打ちつけられた。 そしてまた2回、3回と打ちつけられ、鼻血がボタッと床に落ちた。 「な、古泉。これ以上痛い思いはしたくねぇだろ?」 「…できません」 「しぶといヤツだな!!」 しゃがんでいた彼が立ち上がったかと思うと、教室に入ったときに殴られたお腹を蹴られた。 咳き込み、横に倒れた。僕の荒い呼吸が教室に響いている。 そしてまた一発、二発、と蹴られ、殴られた。 このままでは本当に好きなだけ殴られてしまう。けれど僕には大事な使命がある。 神をわが身恋しさに受け渡すなんてとんでもない。もしもしてしまえば僕はすぐ機関によって抹殺されるだろう。 できない。絶対にできない。 ──でも、もう限界だった。痛くて痛くて、くじけそうになった。何度、やめてくださいと許しを請うただろうか。 暴力が急にやんだ。僕はゆっくりと顔をあげて男の顔をみる。 「…そういえばお前噂で聞いたけど、同じ部活の男が好きなんだって?」 ぎゃはは、と数人が笑った。 「…それ…は……」 僕は答えれなかった。僕自身もよくわからなかったからだ。 キョンくんに好意は抱いているが、それが恋愛感情なのかどうか分からなかった。 だから僕はいいえ、と答えれなかった。答えにつまった。 というよりもなぜ彼がその言葉を発したのか理解できなかった。 なぜいきなりその話になるんだろう。わからないまま僕は黙っていた。 「黙ってちゃわかんねーんだよぉ。」 「まさか本当なのかよ。ならケツの穴いれられてキモチイー!って叫ぶのかぁ?」 また笑い声が響いた。 僕はどうしようもなかった。 言い返す言葉が見つからない。 「ならしてやるよ、あの団長を連れてこれないならお前がかわりにキモチイー!って叫べよ~?」 「ぎゃはは、ちゃんときもちいい~んもっとーとか言えよ古泉~!」 「あ、ちょ…やめ……やめてください…!僕は…僕はっ!!」 声が恐怖でかれている。彼の手が僕のベルトをはずし、ズボンを無理やり脱がした。 そしてうつぶせにさせられ、下半身だけを上にむけられる。 無理やり彼の指が僕の穴にいれられた。抵抗したが両手が使えずほとんど無意味だった。 教室にはまだ、数人の笑い声が響いていた。 その後は思い出したくない。 彼らの精液が僕の体にたくさんかかっている。腕の拘束もいつの間にかはずされ、仰向けで僕は寝転がっていた。 「じゃあなぁ。明日、団長つれてこいよ?副団長さん。」 笑いながら彼らは去っていった。 僕はそのまま何時間も教室の天井をみつめたまま呆然としていた。 一体なぜこんなことが起きたんだろう。なぜ僕は男たちに犯されなければいけなかったんだろう。 何かが可笑しい。だいたい男と男がやるだなんて、同性愛者じゃない僕たちがする行為じゃない。 僕は涙をおさえて起き上がる。腰の痛みとお尻の穴の痛みが同時にきて顔がゆがんだ。 痛い。帰りたい。それしか考えれなかった。 ズボンのポケットにいれてあったポケットティッシュで体を拭いた。 お尻を拭いたとき、激痛が走った。同時に彼らとの行為を思い出して、吐き気がした。 耐えれなくなって、軽くぬぐっただけでやめた。 ズボンを履き、ベルトをしめた。シャツのボタンもとめ、上着のボタンもとめる。 ネクタイをしっかりとむすんで、扉の近くに落ちてあった鞄をもち、体をひきずるように靴箱に向かった。 靴箱につくと、誰かが立っていた。少し逆光で顔が見えにくい。 けれど僕の名前を呼んだ瞬間それが誰か理解し、うろたえた。 「……古泉。」 「……!!ど、どうされたんですか?こんな時間まで…涼宮さんとか、皆さんは?」 明らかな動揺を僕は隠し切れなかった。だがこんなときでも笑顔がつくれる自分に少し悲しくなる。 すると彼の眉間にしわがよった。 「…お前を待ってたんだよ。おいおい、どうした?髪の毛ボサボサだぞ。」 「え、あ、す…少し機関の仕事を教室で残ってやっていたんです…」 「……よく分からんが、大変そうだな。…かえるぞ。」 「は…はい…すみません」 「明日は部活こいよ。ハルヒご立腹だったぞ。」 そのせいで俺は理不尽な命令をどれだけ受けたか、と彼はため息をついた。 「それは申し訳無いことを…。明日、そうですね…明日は…行きます」 「当たり前だ。こなきゃ俺がお前の教室行って部室までひっぱっていくっつーの。」 途中で分かれ道になった。彼とはここまでだ。 「では、ここで。また明日。」 「おう。明日な。」 分かれたあと、僕は座り込んだ。と、いうよりも、彼の前で痛みを我慢していたから限界がきて崩れ座った。 体に力が入らなかった。 『じゃあなぁ。明日、団長つれてこいよ?副団長さん。』 彼らのうちの一人が言った言葉が頭で何度も再生される。 それと同時に思い出したくない行為も再生された。また、吐き気がした。 後ろから車が近づいてくる音がした。 「…お迎えにあがりました。」 「……新川さん」 車の中で、新川さんは何も聞かなかった。 僕は疲れて車の中で寝てしまった。 朝、体が重かった。目覚めはいい方だが昨日の出来事をああ何度も夢にみると寝不足になる。 しかしいつまでも寝てはいられない。僕は無理やり体をおこして学校へ行く準備をした。 教室に入ると、あの昨日のクラスメートが見当たらない。 今日はきていないんだろうか。そうだとすれば嬉しい。そう思ったのもつかの間、後ろから声がした。 「おはよう、古泉ぃ」 びくりと体が震える。振り向くと、彼らがいた。 僕は笑顔で挨拶をかえし、そして自分の席へと逃げた。 その日の授業はほとんど頭に入っていない。ノートはほとんど真っ白だった。 学級委員の「起立!」という声に僕は慌てて椅子から立ち上がった。いつの間にか全部の授業は終わっていたようだ。 僕はあの男たちにつかまる前に部室へ行く準備をして走って部室に行った。 「ん?どうした古泉、そんなにあわてて。」 「い…いえ…涼宮さんがもうきていたら、と思うと…」 「それがあいつ今日はちょっと遅れるってよ。なんか職員室に向かってた。あと長門も朝比奈さんも遅れるって。」 「そうですか…」 部室に入るとキョンくんが一人でパソコンをいじっていた。 彼が座っている後ろの窓にSOS団のサイトをみているのが反射してうつっていた。 カチカチ、とマウスの音が部室に響く。 「……あ!?」 彼が素っ頓狂な声をあげた。 そして僕とパソコンの画面を交互に見ている。 「…?どうしたんですか?」 イスから立ち上がり、彼のほうへむかった。 「こ、古泉!やめとけ!見るな!く、くるなっ!!」 やけに彼があわてている。静止する彼の言葉を無視して僕は画面を覗き込んだ。 そして固まる。なぜだ、どうしてこれが。という言葉が頭の中で何度も繰り返された。 画面には受信したメールに添付された画像がうつってあった。──昨日の行為を写した写真だった。 「悪質なイタズラ、だよな?」 確かめるように彼が僕に聞いた。 「どうしてこれが…だ、誰からですか!?」 「まさかこれ、本当にお前なのか…?!」 「ちが…僕は、こんな…こんな…僕は…!」 信じてください、と言おうとして彼の手を持ったときだった。 彼が反射的に手をひっこめた。 「あ…。す、すまん。」 拒絶された。彼の視線がまたパソコンの画面に動いた。 僕も同じように画面を見ると添付された画像には文がついていた。 本文:今日は団長を犯す日だ。約束したはずだ、お前がつれてくるって。 はやくこないと、お前の部の部室にのりこむ。 「これ…本当か…?」 彼が僕を見る。 違う、と言おうとしたけれどあまりのショックに声が出ない。 ノドがからからに渇いている。 「…すまん、俺は帰る。」 カチカチッと音をさせてパソコンの電源を切る彼を僕はただただ何もいえないまま見つめていた。 バタン、と強くしめられたドア。結局今日は誰もこなかった。 きっと彼は僕を軽蔑しただろう。 僕は涙を拭いて、鞄を持ち電気を消し、部室から去っていった。 次の日からだった。キョンくんに少しずつ無視をされ始めた。 朝比奈さんはなんだかよそよそしいし、涼宮さんは僕に話しかけることをしなくなった。 長門さんは……相変わらず黙々と本を読んでいる。 あの日、彼女たちをつれていかなかったためにあのクラスメイトから暴力と、そして無理やり犯すというイジメが始まった。 機関からは自分で対処しろ、と突き放された。 僕は既にくせになった笑顔で暴力に耐えた。その笑顔のせいで何度も顔面を殴られた。 けれど僕は一般人に危害を加えることなんてできないと思っていたから、抵抗はしなかった。 いつの日からか、僕の机に落書きがされるようになった。 教科書も、ノートも、鞄も。 ホモは死ね、ホモ菌、気持ち悪いから学校に来るな… けれどイジメは僕のクラスだけでしか行われない。 廊下では普通に僕の横を通り過ぎるけれど、教室内で僕が横を通り過ぎると気持ち悪いんだよっ、と突き飛ばされたことがある。 だから僕は休み時間は極力動かないで机の上で次の授業の予習をすることしかしなくなった。 部活は相変わらず行っている。彼らはまだ僕によそよそしかった。 きっと僕がイジメられているなんて知らないだろう。 ある日のことだった。たまたまお手洗いの帰りにキョンくんにばったりと廊下であった。 うしろには彼の友達がいる。たしか、谷口くんと国木田くんだったはずだ。 「ちょうどいいじゃねえかキョン!古泉に借りれば?」 谷口くんが彼の肩をぽんぽんと叩いて言う。彼はすこし考えたあと、言った。 「あ、…あのな、体操服忘れてきてしまってな。…ジャージでいいから、貸してくれないか?」 気まずそうに頬をぽりぽりとかきながら目線を合わさず聞いてきた。まだあの写真が引っかかっているんだろう。 まさか話しかけられると思わなかったのと、嫌っている相手に物を借りるなんて行為をするとは思わなくてあ、え、とどもりながらも了承した。 谷口くんがよかったなー!と言い、国木田くんがありがとね。と言って、ほらキョンもお礼言いなよ、とせかした。 「……その、洗濯して明日かえすな。」 「あ、はい…わかりました…」 僕は急いで教室に戻る。 落書きされたロッカーから自分のジャージを取り出した。 1.ジャージは無事だった 2.ジャージは切り刻まれていた
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しっかり、朝のマラソン(?)と軽い運動を済ませた私は、朝食後悩んでいた。 ………………気まずい。 どーしよ、どーしよ。 頭を抱えて何処かにスライディングしたいが、そうもいかない。 え?なぜかって? 既に私はセブルスの部屋の前だからだ。 気まずいと言えば、ハーマイオニーもそうだったが、彼女は夕食が終わって寮の相部屋に戻るなり抱きついてきた。 「ごめんなさいごめんなさい」 涙を流して許しを請う彼女に、私が怒るはずもない。 『大丈夫ですよ。怒っていません。私の身から出た錆ですし』 「いいえ、いいえ。わ、私がいけないの。私がスネイプ教授の行動に耐えれずに、貴女を頼って」 『そうするよう、メモで指示したのは私です。ですから、ハーマイオニーが泣かなくてもいいんですよ』 しかし、彼女はしばらく泣き止まなくて、小一時間ほどあやしていた。 それからは朝食とかも私についてくる形で、ハリー、ロン、ネビルと取るようになった。 で、その朝食の時に皓がセブルスの手紙を運んできましてこうなったしだいです。 ひじょーに気まずいです。 ハリーたちも顔をしかめて心配そうに見てましたとも。 ついて来ようとしたけど、それを断ってなんとか一人で来たけどそれでも気まずいです。 なぁー ん? 足元を見れば、庸がいた。 お前、忠実に私を一人にさせんというセブルスが言ったこと実行してんのね。 「そこでなにをしている、早く入りたまえ」 うわぅ!バレた! 『うう』 観念してセブルスの私室に入る。 「で、貴様はなぜあのように目立ったのだ?」 部屋に入ってソファに座るなり、彼は射抜かんばかりの鋭い目で追及してきた。 『貴方の為ですよ。あれ以上ハリーを責めたら、貴方もっと疑われるじゃないですか』 「……かといって、貴様があんなふうに目立つような、しかも」 『しかもハリーを庇い、なおかつ子供らしからぬ口調だったのかですか?』 「……そうだ」 彼の言わんとしていることを引き継いで言えば、彼は肯定した。 セブルスが用意してくれた紅茶を一口飲み、彼の言葉を待つ。 「はぁ、まったく貴様には呆れる。我輩が奴を牽制しているのはいったい何のためだと……」 『それについては、その方がハリーを護りやすいからと言っておきましょうか』 顔を片手で抑えながら言ったセブルスが、私のその一言で顔を上げた。 「どういうことかね?」 『御存じの通り、私は“知る”者。貴方が本当は何をしようとしているかは“知って”います』 「……それでか」 『いかにも。ですから貴方とは一応、学生生活の中で“対立しつつも協力している者”という形をとらせていただこうと思っているのですが……』 「……致し方ないな、そうしてくれたまえ」 セブルスは絶句した後、諦めたように言った。 「だが、口調は直した方が良いではないのかね?」 『今更ですよ。あんなふうに言ったので、印象に残ってしまっている。特に、スリザリンとグリフィンドールでは噂されていることでしょう』 そう言えば、セブルスが頭を抱えた。 すんません、監寮さま。 お手数おかけいたします。 ・・ 「さて、今日はあれの仕分けを手伝ってもらおうか」 立ち直ったセブルスが指差す。 その方向を見れば、なんかゴチャッとしたものが――魔法薬学教室へ続く扉が少し開いていて――見えた。 『なんです、あれ』 いつもならば、材料はビニールか紙袋に入っていてそれを分けているはずだ。 それが抜き身で、ぞんざいにあそこに積まれているとは、いったいどういう事だろう? 「業者がいつもの奴らでなくてな。まったくと言っていいほどの素人の奴が運んできて、こうしていったのだ」 『つまり、新人で使えないということですね』 どうやら、こういうことはマグル界でも魔法界でも人である限り起こりうる事らしい。 前の世界でも、新人は戦力外なんですよね。 んで、邪険にされつつ成長してくというパターンに…… 近寄って行けば、さらに悲惨であった。 『マジでなんですか、これ』 「ただ採取してきただけの代物だ。それ以外にこのような悲惨な姿かたちは、なかろう?」 二人して、げんなりした。 それは水辺によくある葦(あし)で、なぜか茅(ちがや)や蒲(がま)が混ざっていた。 しかもご丁寧に土付き。 『ここまでフレッシュじゃなくともいいのに……』 「言うな、我輩とて望んでおらんかったわ」 はぁ、とどちらもため息をついて、とにかく選別しようと手を動かし始めた。 *茅はススキ、蒲はあの“いなばの白ウサギ”で出てきたやつです。 手が切れそうになるものばかりで、大変困ったが、更に私は困ることに直面していた。 数種類虫がついていたのである。 『ゲンゴロウに、蛙。なんかの卵に、バッタ。なんですか、ほんと』 「だろうな。我輩もここまでひどいのは初めてだ」 はぁ 地下牢に、二人分のため息が響く。 『セブルス、その業者訴えたら?』 「既にそうした。が、先輩がもみ消した」 はい? 『そ、その先輩って……ま・さ・か・?』 「……ルシウス・マルフォイ先輩だ」 苦々しそうに、セブルスが言う。 おのれ、あのタラシのプラチナブロンド。 セブルスを困らせたまんまにするか。 「貴様を使えば、事なきを得る事が出来るだろうと手紙で言ってきおった」 え? なにあのホストにでもいそうなナンパ野郎。 なんで“それくらいできるだろ?”的な発言をセブルスの手紙にしてんですか。 というかどこで私の事、知った? 接触しそうなとこ避けてきたし、自分に酔い始めてるクィレルから言うはずもないだろーし…………ということはよ、つまり…… 『ドラコか……』 ダイアゴン横丁でもできるだけ会わない様にしてたのに、あの銀髪に伝わる方法などそれしか考えられない。 ドラコならば、ファザコンっぽいから毎日近状報告してそうだ。 「ああ、昨日の貴様の説明を息子がこと細かに手紙で伝えたらしい」 やはりか。 マジで、ドラコ毎日報告してそうだよ。 てかあの魔法薬学の事をこと細かに説明できるほど、いっぱい書いたんですか。 ……十一歳の文章力だから、マジで再現されてはいないよな? されてたら、私魔王っぽいよな…… 目ぇ、マジでつけられそう。 「しかもこのようなものも同封されておったぞ?」 セブルスに渡されたそれは“クリスマス・パーティー”への招待状。 しかも蝋(ろう)で封をしてあるだけに、格調高いのが一目で丸わかりだ。 『これに来いと?』 「行かずとも良いが、そうすればもっと厄介なことになりかねんだろうな」 はぁ、と本日何度目か分からないセブルスのため息が聞こえてくる。 苦労が絶えないねェ、元死喰い人さん。 今回は私が原因なのですが……。 すみません。 『出席しなかったら、とばっちりが教授にも回って来そうですね、そういう回し文句が書いてありますよ』 封を破り、中身に目を通せばそんなことが書かれていた。 「なに!?」 セブルスが驚いて、選別作業をやめ、顔をこちらへと、ものすごい勢いで向けた。 それほどに、吃驚しているらしい。 さすがは、脅しを心得ているルシウス・マルフォイ氏だ。 私としては、嫌な予感が的中しすぎて、不安です。 でも、いく時には胆据わってるでしょうから、大丈夫だと思います。 あれ作文? 『行くしか選択肢はなさそうですね。致し方ありません。飛行訓練が終わりしだい、出席の返事を送りましょう』 昨日の皓の飛ぶ姿見て、ちょっと速度的に怖いから学校のモリフクロウ使おう。 ふくろう如きで、目を更につけられては困りますし。 「……すまん」 『セブルスが謝る必要ありませんよ。まずは、この選別を終わらせちゃいましょう』 そうセブルスを促して、手紙を懐にしまって手を動かした。 その三十分後、何とか選別は終わった。 泥は付いたままだったが。 『……この泥どうします?』 「このまま保存したのでは、質が落ちる。洗い流すしかなかろう」 二人してため息をついたのは言うまでもない。 たしか、豊葦原瑞穂の国というのが日本の古名だったな。 泥を落としていて、それを思い出した。 ……なんか、引っかかる気がする。 でもわかんないな。 まぁいいかと、その場は考えずにおいた。 ◇~~~~~~~~~~~~~~~~~◇ とにかく泥を落とし、材料保管室に運び、事なきを得た。 『やっと終わりましたね』 「ああ」 『ん?そのバケツの中身さっきのついていた虫?』 「幸か不幸か、これも薬の材料になるのだ」 『余すことなくか……そのかわり、いらぬ選別作業もする羽目になりましたけど』 セブルスが、バケツを保管室に、ふたをしておいてきた後(ふたしないと、蛙飛び出てくんだもん)。 彼が再度入れ直してくれた紅茶で一息ついていた時だった。 いやぁ、やっぱりセブルスの入れた紅茶は、ひと味もふた味も違うね。 「この後、貴様はどうする?」 『と言いますと、なにか予定でも?』 「貴様は馬鹿か。先程の手紙を思い出したまえ」 ………… 『あれ、クリスマスの事ですよね?』 「ああそうだ。だが、その時の格好はどうする?」 『え、やっぱり制服じゃいけませんか?』 「だめだ。あのルシウス先輩の事だ。絶対内輪だけのパーティーではない。魔法省からも幾人か来るだろう」 格調高いのは招待状の外見だけでもわかったが、そこまでのレベルなのだろうとは思いもしなかった私である。 多分、セブルスは学生時代にスリザリン同士として一度でも行った事があるか、行った誰かの体験談でも聞いたのだろう。 ……つまりドレスか。 え?まじで?この(クリスマスであれば)十二歳の身体で? 『…………どーしましょ。まだ一年なので、ドレスは無用だと思っていたのに……』 「我輩もそう思っていた。……そういえば、貴様あのネックレスはどうした?青い石がついたやつだ」 『ああ!あれなら、制服の下にいつもつけてますよ。パーティーとかで使えそうですね』 トリップしてきた時に身に付けられていたネックレス。 いつも身に着けているのは、身に着けていることに意味があるのだろうと思っての事だ。 が、まさかこのような時に使うとは思わなかった。 …………!、いいこと思付いた! 『あ、そだ。このネックレス、教授がくれたことにしてください』 「なんだと?」 私の提案に、セブルスが眉を顰めた。 『そのルシウス先輩って、確か女タラシで有名じゃないですか。その予防策ですよ』 あんなタラシ、お呼びじゃないです。 もっと純粋で、現在目の前にいるツンデレ君がいいです。 本音ダダ漏れの、察しが悪い人でも分かりそーないい訳ですが、付き合ってくだせぇ。 マジで銀髪はいらないです。 遠くで眺めているか、置物、ぬいぐるみにしちゃえばいいなぁとは思ってますが。 そんな余計な事をつらつら考えつつ、セブルスの返事を待った。 「……いいだろう。校長もそうおっしゃるであろうしな」 ありがとうセブルス! これでタラシが寄ってこないぜ! 青天(せいてん)の霹靂(へきれき)な感じですが、この行為には感謝しなくては! 「で、ドレスの方はどうするかね?」 タラシ回避ですっかり忘れていた、衣装の件を再度突きつけられる。 この年で社交界デビューか…… 『……今から用意するんですか?』 「ああ、衣装というのはクリスマスに近ければ近いほど、借りるのも作るのもギリギリになり、デザインやパターンも限られる。今作っておかねば、見苦しいものとなろう」 第一印象で人は決まるってやつですね。 やっすいダメデザインの服なら行かない方がマシという…… 『どうするので?ホグワーツにいる状態では……』 どこにも行けないとなると、就活であれば一番最初の段を踏み落とすような気分がする。 あれも第一印象が大事で、スーツを買うだけで血の涙が出そうだった。 「明日、ダイアゴン横丁に行けばよかろう」 『それって、セブルスが連れてって行ってくれるってことですか!?』 まるで雲間から射す光のようなセブルスの言葉に、私は驚いた。 え!?このツンデレ根暗陰険贔屓引き籠り教授!!? マジで? ああ、かわいいぞ! 今まさにツンデレがっ! え?二つ名が長い? いえいえ、愛ゆえです。 「致し方あるまい。例の件はマクゴナガル教授と校長がおれば何とでもなる」 『了解です!あ、今のうちに言っておくけど、例の件は学年末、つまり、テスト終わってから最終局面になりますので、大丈夫ですよ!』 嬉しさのあまり、彼に情報を渡した。 これくらいなら、セブルスは大丈夫さ。 「それはどういう……」 彼は片方の眉を上げて聞いてくる。 『物語でいけば、今は起承転結の承の部分って事さ。ハリーはそれまで無事だよん。まぁ、少しアクシデントは起こるかもしれないけど、五体満足で心身ともに無事なら、大丈夫でしょ』 要約すれば、怪我しても生きているならOKという、少し辛辣かもしれない事を言えば、彼は難しい顔をした。 「……貴様、グリフィンドールだったよな?」 グリフィンドール生がそういうことが信じられないのだろう、セブルスが疑うように聞いてくる。 『ですよ。でも帽子からはどの寮に属することもできると言われた組み分け困難者です。ですから、私がどの寮の特徴を持っていても不思議じゃないんですよ~』 その言葉に納得したセブルスは引き下がって、紅茶を飲んだ。 同時に人が悪い笑みを浮かべ、ふんと鼻で笑う。 「禪は我輩の寮に来るべきであったな」 『いえいえ、教授の手を煩わせるのはいただけませんよ。私は貴方と対立すべきとこに居てこそ、意味があります』 私は苦笑し、同じように紅茶を飲んだ。 その場はそれでお開きとなり、私は、ハリーたちがいるかもしれないところへと向かった。 もちろん、庸も連れて。 ハリーたちはどこに行ったのだろーか。 寮はもちろん、大広間や図書館も探し他が見当たらない。 もしや湖か、中庭、ハグリッドの小屋に行っているのではと思いそちらも探したが、見当たらなかった。 セブルスの手伝いに、十四時までかかってしまっているので早いとこ探し当てたいのだが見つからん。『庸、ハリーたちどこ行ったんだろ?』 みゃう 庸に問いかければ、珍しい返事が返ってくる。『ハーマイオニーもいないのですよ?ほんとどこに行くか分からないよぅ』 そう、ルームメイトで友達の彼女もいないのだ。 ハーマイオニーは勉強好きだから部屋か図書室にいると思ったのにいなかったので、おそらくハリーたちと一緒だろうという見当はつく。 『まったくどこ行ったのさ!』 青い空に私の声がこだました。 ◇~~~~~~~~~~~~~~~~~◇「あら、終わったの?」 探し回っていて少しぼろっちくなっている私に、女神が降臨(こうりん)いたしました。『ああ、ハーマイオニー!こんなとこにいたんだね!』 思わず彼女に抱き着きました。 ハーマイオニーがいたのは、なんとクディッチ競技場。 既にハリーたちと行動してるからかな。 君が、ちとここに来るのは早いですよね? 応援席は、ガラガラだった。 それが練習と本番との違いなのだろう。 「実はね、貴女がスネイプ教授のとこ行ってから寮の談話室に来週の金曜日のお知らせが張ってあったの」 ハリーたちのとこまで一緒に行って座れば、ハーマイオニーが言った。 あれ、“金曜のお知らせ”って、なんか聞いたことのあるフレーズですね。 「飛行訓練があるんだ。それでここに来ようってロンが言いだして……」 「だ、だって、ハリー箒で空を飛ぶことも知らなかったんだよ?」 「説明するより、見た方がいいからここに来たんだ」 ハリー、ネビル、ロンの順に言っていく。 “百聞は一見にしかず”ってやつですね。 「私も箒で飛ぶのは初めてだから、ご一緒させてもらったわけ」 『そうだったのですか。私も初めてです』 本をかじって臨んでいた彼女とは思えないセリフだ。 しかし、原作を捻じ曲げたからには、こういう事も起こりえるのだろう。 五人はそのまま、選手が箒で飛び回るのを見ていた。 選手の練習というのは、本番とはまた違う興奮があるらしい。 今回練習していたのはグリフィンドールで、ビーターの双子が完璧な連携をしていた。 まさに双子ならではのシンクロ感である。 他の選手も、振り分けられた役割を調整しつつ、練習をしていた。 キーパーはチェイサーと一緒に練習していた。 受けるのも打つのも、相手がいなければ、ただの玉遊びにしかならないからだ。 ちなみにシーカーは、ただひたすら飛んでいて、何やら探しているぽかった。 ハリーはロンとネビルに、クディッチのルールや選手の説明をされている。 その説明する声は、興奮じみている。 いかにも、男の子だっていう証明だね。 スポーツとか、体を動かすのが好きって……。 ◇~~~~~~~~~~~~~~~~~◇ 「それで、スネイプはなんだって?」 練習観戦の帰り、ロンが聞いてきた。 もう既に十六時で、空は夕闇が迫ってきている。 て、呼び捨てダメですよ、ロン。 あの人どこで聞いてるか分かんない神出鬼没なんですよ。 引き籠りだけど。 『ああ、ただの選別作業でしたよ。一応、怒ってはいましたけど、幾分かそれで気が納まってくれたようで……』 「なら、明日は一緒に遊べるんだね!」 ネビルが目を輝かせて言った。 『あー、それがそうもいかなくてね。明日は教授と一緒にダイアゴン横丁に行くことに……』 「なんだって!」 ロンが叫んだ。 ハリーもハーマイオニーも、ネビルも可愛そうなものを見る目をしている。 セブルスマジで嫌われてますねェ。 恋敵とか考えなくて済みますが……あ、リリーがいるか。 死んだ人は美化されるって言いますし、そう考えれば厄介ですが、でも生身じゃないからいいっしょ。 寮に戻れば、ずっとつき従っていたロシアンブルーはベッドに走っていって、まるまり欠伸をひとつあげ眠りに落ちた。 ……こういうときだけ素直な猫だね。 「ねぇ、禪」 『ん?』 明日の支度をしようかと、タンスやら鞄やらとにらめっこしていると、ハーマイオニーが――部屋に入った早々読みだした教科書から顔を上げて――言ってきた。 ほんとハーマイオニーって勉強好きだよね。 「明日ダイアゴン横丁行くんでしょう?」 『そうですよ』 「なら、何かお土産買ってきて!」 『……』 「……なに?不満なの?」 『いや、そうじゃなくてね。一緒に行くのはスネイプ教授ですから、お許しが出るかなぁっと……』 かの人なら許してくれなさそうだと、頭をかいた。 「ああ!そうだったわ!無茶言ってごめんなさい」 付添というより、その人の用事で行くのだと思いだしたらしい。 うん、無茶ぶりですね。 行くのはホグズミードではないんですから。 セブルスが主体だからね。 私はおまけだからね。 一応、それが君たちへの返答だから。 実は、“私のドレスつくりに行きます!今年社交界デビューです!”とは言えませんからね。 『まぁ、お土産は買ってくるつもりですが……期待はしないでください』 私は苦笑して、そう言った。 ハーマイオニーはシャワー浴びてくると、シャワー室に行ってしまった。 おそらく、気まずいとでも思ったのだろう。 ホントは言ってしまいたいですが、ハーマイオニーは心配事をこれから抱えるんです。 私事で、悩ませるわけにはいきません。 まぁ、後々これもエゴになるのでしょうが、その年でそんな悩みを抱えることもないでしょう。 もう少しだけ。 三年生くらいになったら、話してあげますので、今は気になさらなくて結構です。 (土曜日編 end) 次ページ:土日の災難(日曜編)へ
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シンの災難 美人三姉妹来襲(5~7) 408 :シンの災難 美人三姉妹来襲~はさみの力~ 5/7 [sage] :2006/01/13(金) 00 15 19 ID ??? ――ミネルバ―― アビー「エターナルからはさみを持ったストフリと40機ばかりカモノハシ型のロボット発進。」 タリア「今MSの状況は?」 アビー「レイとルナが発進できます。残りの2機はただ今準備中です。」 タリア「まずはその2機を発進、残りの2機は準備ができしだい順次発進。」 ルナ「はさみもってるですってw」 レイ「侮るなよ、あのアイスクリームであの威力だ。 今度のはさみも実はすごいに違いない。」 趙公明「よし、出てきたな。金こうせんよ本来の力を見せよ。」 キラ「やめてよね、どうぜどでかい斬撃がでるとかでしょ、僕のイメージにあわないんだよね。」 レインボードラゴン出現、出撃準備中のルナとレイ中破 キラ「うはっwなんて僕のイメージにあった武器なんだ。」 趙公明「だから言っただろ、見かけで判断するなって。」 ラクス「やっぱりセンスのよい方は、戦いも一味違うわね。」 メイリン(部屋のセンスと戦いのセンスは違うだろ!) ドモン「ゴッドガンダム出る。」 キラ「ふん、今の僕は負ける気がしないねwwww」 趙公明「かなりできるな、よしドラゴンよ一つに集まれ。」 ドモン「すごいエネルギーだ、本気を出さないとやられる。 俺のこの手が真っ赤に燃える勝利を掴めと轟き叫ぶ石破天驚爆熱ゴッドフィンガー」 趙公明「何!?レインボードラゴンが消滅、ふっここまで追い詰められたのは太公望君以来だよ」 ドモン「何!?石破天驚拳をかき消しただと、こいつかなりできる。」 その後二人の打ち合いが続き両者は満身創痍だった。 キラ「ふっ、僕を忘れて戦うなんてやめてよね。そうきんロボ全員ゴッドガンダムに攻撃しろ。」 アビー「ゴッドガンダムかなり危険です。」 シン「シャイニング・アッガイ出る!」 ビーナス「お待ちください。」 409 :シンの災難 美人三姉妹来襲~望む力~ 6/7 [sage] :2006/01/13(金) 00 16 38 ID ??? ビーナス「今のままでは行っても無駄死にするだけです。」 シン「でも俺が行かないと師匠が。」 ビーナス「そう思ってここにスーパー宝貝を持ってきました。」 シン「はやくそれを。」 ビーナス「スーパー宝貝は持ち主を選びます。持ち主に選ばれない人間が使うと一瞬でミイラになってしまいます。」 シン「じゃあどうすれば?」 ビーナス「1つだけ質問します、あなたが望む力は何ですか?」 この時シンの中に今までの事や師匠との修行や話などが一瞬でよぎった。 シン「・・・とめる力」 シン「力を止め、戦いを止める力だ!!!」 キュピーン ビーナス「大極図があなたを認めたようです。さぁ行ってらっしゃい師匠を助けるために。」 410 :シンの災難 美人三姉妹来襲~本来の力~ 7/7 [sage] :2006/01/13(金) 00 20 54 ID ??? シン「師匠!」 ドモン「シンここは危険だ、戻れ!」 シン「大丈夫です師匠、俺自分の欲しかった力をやっと理解しました。 大極図よ力を解き放て!!」 ドモン「傷が回復していく・・・。」 キラ「ふん、そんなもので。 ・・・動かない、動かないぞ。」 メイリン「全ての宝貝ロボが停止しました。」 ラクス「今回も無理でしたか。大分いいとこまでいったのにねぇ。」 グゥーン メイリン「どんどん降下中、雷の次はずぶぬれのようです、ありがとうございました。」 ラクス「キィー!」 趙公明「妹達よそろそろ帰るぞ。」 ビーナス「シン様あなたの事は一生わすれません。」 シン「今回はありがとう、自分の欲しかった力を理解できたよ。」 ドモン「趙公明とやらまた手合わせしたいものだな。」 趙公明「ノンノンノン、したいじゃなくてするの間違いだろ。」 ドモン「そうだったな、今度は邪魔者なしでな。」 ドモン「シン、今回はお前に助けられたな。礼を言っておく。」 シン「そんなめっそうもない。」 ドモン「今の戦いの力がお前の本来の力だ。お前のその力は使い方によって最弱にもなり、 どんな力が束になってもかなわない力にもなる。 お前にはその力を正しく使っていってもらいたいものだな http //anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1134955306/404-410 <1
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シンの災難 美人三姉妹来襲(1~4) 404 :シンの災難 美人三姉妹来襲~ラクスちゃん借り物に行く~ 1/7 [sage] : 2006/01/13(金) 00 08 10 ID ??? ラクス「今回もまた妲己からいろいろ借りてきましたわ。」 メイリン「前回申公豹ってピエロからあんだけやられてまだ懲りないんですか?」 ラクス「あれは、私の美学とあのピエロの美学があわなかっただけ、今回は大丈夫ですわ。 なんてったってユリの化身ですもの。私の美学もわかってくれますわ。」 メイリン「ユリの化身か、それなら大丈夫かもしれませんね。」 ――その頃ラクス達の上―― ムネオ「ふっ、ユリの化身とやらは撮らせてもらわないと、困るな。 今回はシュバルツや盗撮13にも抜け駆けできた、こんなチャンスめったにないぜ。」 アーサー「それはどうかな!」 ムネオ「何!?」 シュバルツ「我らの情報網をあまく見てもらっては困るな。」 ムネオ「くっ、今回も無理だったか・・・orz」 アーサー「むっ、出てくるぞ。」 405 :シンの災難 美人三姉妹来襲~鬼人出現~ 2/7 [sage] :2006/01/13(金) 00 09 43 ID ??? ビーナス「ビーナス!」 クイーン「クイーン!」 マドンナ「マドンナ!」 ビーナス・クイーン・マドンナ「三人揃って雲しょう三姉妹!」 ラクス「ゲェッ!」 キラ「グファ、ブクブクブク」 メイリン「ギャーーーーー!」 趙公明「こらこら妹達よ、美しすぎる姿は時に武器にもなるんだ、あまり色気を振り回すのはやめておくんだ。」 メイリン「なんか幽霊現れたーー!!!」 ラクス「あなた方が妲己からの助っ人ですのん?」 趙公明「いかにも、私は霊体だから戦えないがね。 それよりあのピンクの部屋はどなたのかね?」 ラクス「私の部屋ですが、どうかしましたか?」 趙公明「あんなにセンスのいい部屋は久しぶりに見た。 あれを見て直感したよ、美しい人の部屋だってね。」 ラクス「やっぱりわかる人にはわかるものですね。 うちの船の連中はセンスのない奴ばかりでして。」 ――上―― シュバルツ「今回はお前が先に陣取っていた訳だし、お前に譲ろう。」 ムネオ「いややはり今回は先輩のあなたがたがいくべきですよ。 ある意味完璧な肉体ですよ。」 ビーナス「曲者!」 ザビーーーーーーーー!!!!!!!! 盗撮3人「ウワーーーー!!」 メイリン「目からビームが出やがった!!」 ビーナス「上にねずみがいたようですね。」 メイリン(怖ぇー!) ビーナス「で、私達はどこに行けばいいのですの?」 ラクス「このミネルバと言う船ですわ。」 ビーナス「では行きましょう」 406 :シンの災難 美人三姉妹来襲~ビーナスちゃん浮気する~ 3/7 [sage] :2006/01/13(金) 00 12 20 ID ??? ――ミネルバサイド―― ドモン「むぅ」 シン「どうしたんすか、師匠」 ドモン「強い奴の気を感じる。」 アビー「3時の方向に、未確認飛行物体発見、その上に人?が3人乗ってます。」 タリア「適当に誰か出撃させといて。」 アビー「シンが出番を欲しがってます。」 タリア「ならそれでいいわ。」 ――海上―― ビーナス「あの船ですわね。」 シン「お前ら何やってるんだ、危ないぞ。」 ビーナス「あら、カッコイイ、でも私には太公望さまが。」 クイーン「あんた見たいな筋肉女に惚れる奴なんているわけないでしょ。」 ビーナス「ふん、私がもてるからって嫉妬しないでよ、オバハン。」 クイーン「なっ、オバハン。」 マドンナ「グォーン!」 シン「おいそんなところで暴れたら。」 三姉妹「あーれー」 シン「言わんこっちゃない。」 シンが三姉妹を助ける、返事がない気絶しているようだ。 タリア「って事で、連れてきたと。」 シン「何かわかるかもしれませんし。」 アーサー「ガタガタブルブルガタガタブルブル」 タリア「アーサー何震えてるの!」 ブィーン タリア「起きましたか。」 ビーナス「私を助けて頂いた方は?」 シン「俺だけど・・・。」 ビーナス「お名前を。」 シン「シ・ンです・・・。」 ビーナス「シン様!」 一同「えぇぇぇぇぇぇぇっ!」 407 :シンの災難 美人三姉妹来襲~シン婚約する~ 4/7 [sage] :2006/01/13(金) 00 14 03 ID ??? ビーナス「私フィアンセである太公望さまの夢を見ました。 死んだ自分の事をいつまでも引きずっていず前向きに生きろって。」 太公望(いや、わし死んでないし、婚約だって、おぬしとおぬしの兄が勝手に決めた事であって わしは一度も) ビーナス「そして私を助けてくれたシン様のために尽くそうと。」 太公望(まぁわしも解放されてよかった、シンとやらがんばれよ。) シン「いやぁ、俺そこまでやってないし気にしなくていいですよ。」 ビーナス「いいのです、私が決めた事ですから。」 ルナ「シン頑張りなさいよ♪」 シン「・・・・orz」 ――再びエターナル―― メイリン「あのラクスさん。」 メイリン「っておーーーい!何ここを改造している! さらにアフタヌーンティーまで2人して飲みやがって!」 メイリン「まぁそれはさておき、あの3人寝返っちゃいましたよ。」 ラクス「どういう事ですの、趙公明!」 趙公明「いや、あの子達にも困ったものだ。 お詫びに、宝貝装備自立機動型蒼巾力士40機ばかりと金こうせんを譲ろう。」 ラクス「まぁこれだけあればミネルバをおとせるわねぇ。 キラこのはさみをストフリに持たせて出撃なさい。」 キラ「やめてよね、こんな不細工なはさみで何が出来るって言うんだ。」 趙公明「ふっ、見かけだけで判断して中身を見ないなんてナンセンスだ。」 キラ「ちょっ、あんた何しに来たんだ、僕はスパコディだから何でもできるというのに。」 趙公明「ノンノン、わかってないなぁ君がこの金こうせんを使うと一発でミイラだよ。 100%の能力を出そうとすると持ち主である僕がいないと。」 http //anime.2ch.net/test/read.cgi/shar/1134955306/404-410 >2
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あかねこダヨーの周りにはいつも災難が集まる。
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作者:◆gGWjPaYNPw 「やっと……街に着いたぜ」 あれから二週間を樹海の中でさ迷った お陰で体力使う為に、スイミーを食い尽くしちまった 荒事に使うパワーが必要になったら、どうしてくれる? 暫くはひたすら歩いていき、また新聞紙が木枯らしに乗って飛んで来た 紙面のトップは、まだ連続殺人らしい 犠牲者が更に増えている まぁ、俺の依頼には関係無い 何故なら俺の依頼品は紙、しかも高い確率で文字がびっしり書かれた紙だ ハルトシュラーがわざわざ俺に依頼したからには、多分俺達と同じく普通じゃないと思うんだが、あんまし期待出来ねぇ なんせ『創作』中のアイツは、基本的に完成するまで引きこもってる 煩わしい事を適当に与えて、『創作』のネタにしてる可能性は否定出来ない 何故なら、アイツはそういう奴だからだ 『創作』の為なら何でもする、奴に取って金なんざ必要ない だから、『創作』のネタになるならあっさり使う つまり、俺は奴の『創作』のネタとして、要求されてる場合が非常に高い、ってか十中八九そうだろう 弟子共にはアレでもスパルタで、自分の弟子なら『創作物』で収入を得よと、一切金を渡してないらしい まぁ、食と住が保証されているから、問題無いのだろう 最も、食事は倉刀達が担当してるので、あんまり説得力ねぇな さて、取りあえずは飯をと思ったが、小銭がねぇ ……仕方ない、河原行って手長海老やスジエビ漁るか そう思ってつらつら街から河原に向かって歩いて行ったんだが、検問張ってやがる 一体何なんだよ? まぁ、人外の俺でも多少しか気にせず接してくれるこの街の連中には、助かっている 素直に検問待ってても文句すら言われねぇし、子供がきゃあきゃあ騒ぐ位だ 検問張ってる警官に着いたので聞いてみた 「よう、仕事ご苦労さん」 「あぁ、アジョ中さんですか。今回は貴方の仕業じゃないですよね?」 「何か有ったのかよ?今の今まで、樹海で迷子になってたぜ」 そう言って、俺は服に付いてた葉っぱを渡した 遺伝子検査すりゃ、警察なら生息地証明が出来る、つまりアリバイの証拠だ 「ありゃ、証拠迄渡されちゃ、違いますな。例の連続殺人です」 「何だ、この街で起きてたのかよ?」 「いえ、今回が初めてです。手口で分かったんですよ」 「ま、頑張ってくれや」 「また、射撃の的になって下さいね」 「ごめんだ、馬鹿野郎」 どうにも警察の連中は、俺を射撃の的と勘違いしている 俺には人権が無いのか? ……人外に有る訳ねぇよな 検問を抜けて河原に向けて歩いていたら、前方から前を見ずに全力疾走してくる女が走って来た ったく、前位見ろよ、おい 俺は道端に避ける為に身体を端に寄せると、何故かそいつも俺の方に方向を変えて来る ……狙ってんじゃねぇだろうな? だから、逆に避けてみた ……同じ方向に進路変更してくる ロックオン機能付きかよ、チクショウめ 最近の女はとんでもねぇな そんな事を思いながら、正確に女は俺の胸に着弾しやがった 「ぐっは」 えぇえぇ、二人まとめてどんがらがっしゃん まぁ、当然っちゃ当然 「ってぇな!前見て走れよ、チキショー」 絶対に俺は悪くないと思うぞ?そう思うよな? そしたら、女が開口一番、俺に怒鳴りつけやがった 「ちょっとあんた、どこに目を付けてんのよ!」 「どこって、横だな」 魚だもんよ 俺を見た女は指を差して暫くパクパク口を開閉して、お前の方が魚だろ? 「さ、鮫~~~!」 何だよ、鮫に見えてんのか そりゃ、怖いだろうよ 「俺は避けたのに、突っ込んで来たのはそっちだろ?謝んのが礼儀じゃねぇか?」 鮫に見えてんなら、口を開いてみっか 牙がずらりと見えておっかないだろ? 「あら、お婆さんたら大きなお口」 ……余裕じゃねぇか 全く、変なのに関わっちまったな さっさと河原に行くか 「分かった、俺が悪かった事にしとくから、謝るわ。じゃな」 そう言って、俺は河原に向かおうとしたら、ガシリと腕を掴まれた 全く厄日だな、おい 「んだ?慰謝料請求か?文無しだから、今から漁すっけど、山分けで勘弁してくれ」 「ちょっとあんた、鮫なら強いんでしょ?ちょっと付き合いなさい」 ……なんつう自己中 全く、世の中には俺しかまともな奴は居ないのか? 「あっ、居たぞ………アジョ中さん、あんたやっぱり関わってたんじゃないですかぁ!」げっ、検問の警察官 って事は、この女まさか 「…つかぬ事聞くけど……検問突破した?」 「うん」 最悪だ。何でこうなる? 次の事態なんか、容易に想定出来る 俺は思わず女を庇って盾になり パンパンパンパンパン うわぁ、ニューナンブ五発全弾ぶち込まれた 服に穴が空いて、弾が明後日の方向に跳弾していく。あぁ、鱗と粘液のお陰で拳銃弾は弾くのさ、俺。直角に当たらんとこうなる でも、痛い事には変わらねぇ 「庇った!やっぱり仲間だったんですね?」………いや、庇うだろ?それにしても、嬉しそうに応援要請してやがる 「それじゃ、アジョ中さんいきます!」 げっ、リロードしやがった。スンゲー嬉しそう 因みに俺の視界は360゜だからな、背中側も見えんだよ 「今日こそクリティカルヒットォォォォ!」……いい加減にせぇよ、おい 俺は思わず女を抱き上げて走り始めた 全く、トリガーハッピーな警官なんざに、構ってられるか パンパンパンパン いやもう勘弁してくれ ……俺は、ハルトシュラーが大嫌いだ 奴の依頼は、災難しか寄越さねぇ ※※※※※※※※※※
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「…………………」 「あのー…キララちゃん?」 (ギロッ) 「(ビクッ)な…何でもないです……」 いかせのごれ高校2年2組。 ほとんどの生徒達がただならぬオーラに戦いていた。 キラである。 <おやおや。あからさまに不機嫌だねえ> 「そだねー。『相変わらず貧乏くさい身なりだな愚民よ』とか言った人利一を、軽く睨んで戦闘不能にさせたもんね」 クラスきっての凡人な非凡人である灰音と、ちらほら伝説を残しつつある簀は呑気にその様を見ていた。(因みに簀は大量の中華まんを食べている) 「………」 「白奈、もう話しかけんな。触らぬ神に祟りなし…だ」 「う…うん」 小声で制止したのは紀伊。 「…ねえねえオト君。何でキララちゃん、あんなに怖いの?」 「あー…まあ。ちょっと、な…」 数日前の事だ。 ―ウスワイヤ― 「…っと。復興作業も大変だなー」 「大丈夫か、朱弘梨。無理してまた玉置先生に怒られるなよ」 「わーってる、わーってrオェエエエーー!!!」 「言われた傍から吐くなぁあああ!!!! 誰か! 水入りバケツと雑巾と袋!」 千年王国の襲撃を受けた翌日の事。 その時キラは、朱弘梨や他の仲間と復興作業をしていた所だった。 因みに隅っこで、 「金……僕の金………」 学校でもウスワイヤでも金の亡者で有名な人利一が体育座りしていた。 「……どーするよ、アレ」 ジト目で人利一を見やるヒロヤ。 それに対して幸斗は、 「んー…ほっといて、いいんじゃないですかねー」 「…そうか。まあお前が言うんならいいか」 「はいー。なーんか大体いつもの事らしいですよー」 と、そこで幸斗の赤い目が一瞬青く光る。 人格が幸斗から妖魔のユクへ変わったのだ。 「アキヒロの所長権限か。聖の仕置きか。はたまたそれ以外の奴の仕置きで、泣く泣く金出したんだろーよ。哀れな事だなー全く」 体の主に似合わぬ笑い声を上げるユク。 「アイツ、結構嫌われてそうだもんなー…それよか、急に出てくんなよ。ビックリするだろ」 「ハッハッハー!」 「オイお前らー…駄弁ってねーで手動かせよー…」 『へーい』 何とか復活した朱弘梨にたしなめられる二人。 「…ところで、ジャックと梦惟さんは?」 「ああ、パトロールで外に行ってる」 「そうか。しかし梦惟さんが尤惟から離れるとはなあ…」 騒動の前に保護された梦惟は尤惟の姉であるのだが、その重度なブラコンで瞬く間にウスワイヤで有名になった。 どれくらいかと言うと、大衆の前でも「トガちゃ~んVv」とハグしては尤惟に「死ね」とウザがられるぐらい。 「まあ、ブラコンではあるが真面目だからな。…一応」 「何で最後付け加えたし」 と。 「ただいま~」 「只今帰還シマシタ」 「おー、お帰りー…って、誰だソイツ?」 「てか…人間じゃなくね?」 ジャックが肩を貸している少年らしき人物に気付く朱弘梨。 またヒロヤの言う通り、体の所々が『破損している』かの様になっていて、しかもコードやらエナメル線やらが見えている。 「跡地で倒れているのを見つけたんデス」 「背中にホウオウグループのマークあったから、多分捨てられたんじゃないかな?」 「んー…まあ、とりあえず所長や獏也さんに相談……ってキラ?」 「…よくものうのうと私の前に……」 「キ、キラ?」 「どうしたんだよ一体…」 「キラさーん?」 突然の態度の変わり様に狼狽える朱弘梨達。 と。 「…ん」 「あっ、起きた」 「大丈夫デスカ?」 目を覚ました少年。 辺りをキョロキョロと見渡していたが、キラに気付いた途端、目を輝かせた。 「…キラ?」 「え?」 「知ってるの―――」 刹那。 「…黙れぇえええええええええええええええッ!!!!!!!!!」 『!?』 ドゴォオッ! 「あたたたー…」 「つう…ハッ、朱弘梨! 大丈夫か!?」 「何とか…まあ関係ねーけどゲロ出そうだし頭いtうぇっぷ」 「大丈夫じゃねーじゃん!!」 二人の漫才はさておき。 キラはいつの間にかアンドロイドの姿を取っており、なりふり構わずルームクエイクを出した。 幸い怪我人は出ずに済んだ(一人体調不良がいるが)。 「お、落ち着いてキラちゃん!」 「そっそうでございマスよ! 急に暴れられては―――」 「五月蝿い。巻き込まれたくなかったらソイツを置いてどこかに逃げろ」 「あわわわ待って下さいキラさーん! 誰かー来て下さーい!! 大変ですー!」 「…で、どういう事だこれは」 「まだ修復中なのに傷を増やしてどうするっすか? 軽かったから良かったものの…」 「………すいません」 幸斗の呼び掛けに応じたシュウトがナイアナでキラを捕縛し、騒ぎを聞き付けた獏也とシノがその場に駆け付け、今に至っている。 朱弘梨はというとついにダウンしてしまい、ベッドに臥せっていた。 「まあまあ。…キラちゃん、何で急に怒ったんだい?」 「……話せば長くなるが…」 語られた内容によると、拾われた少年―――ミーレスは自身の旧式兵器であり、ホウオウグループ時代の相棒であったという。 ある日、怪我をした幼い能力者少女に出会い、グループに内緒でこっそり看病していたのだが、その少女がウスワイヤ側という事を知る。 しかし、殺す理由も特に無いからと彼女は看病を続け、少女を仲間の元へ返した。 だがこの事がホウオウグループにバレてしまい、裏切り者の烙印を押されてしまう。 「…問題はここからだ」 「というと?」 「奴らは、ミーレスに私を殺せと命じた」 キラの口から出た言葉に、その場の空気が凍り付いた。 「しかもミーレスは何の躊躇も無く私を殺そうとした」 「相棒なのに!?」 「アイツにそんなものは通じない」 「どういう事なんですかー?」 相変わらず緊張感の無い口調で聞いた幸斗に、キラは嘲る様に言った。 「……ミーレスには『心』が無い。喜ぶ事も無ければ泣く事も無い。アイツは正真正銘、戦う為に造られた戦闘兵器だ」 「………」 「だが私がアイツを嫌う理由は、殺そうとしたからだけじゃない」 「え?」 「アイツ、昔から私に対して『好き』だと言いまくってたんだよ」 「好き…って……異性としてって事っすか?」 「ああ」 忌々しげに返答するキラ。 「けど、心が無いって…」 「そうだ。アイツの『好き』は私自身ではなく、『戦いの相棒であり最も近くにいる者』である私に向けられた言葉で、好意も無くただただ言っているだけだ。恋愛感情なんてありゃしないし、理解出来る訳なんかない」 「! まさか『冷たいもの』を嫌うのは…」 「…ああ。アイツの心の無さの有り様に絶望したからさ。……人でなしにも程がある」 「キラ………」 重苦しい空気が流れ出す。 それを破ったのはシノだった。 「とりあえず、ミーレス君どうするっすか?」 「そうだな…あの状態を見るに、廃棄された可能性が高い。保護してもいいだろう」 「!? ちょ…ちょっと待って下さい獏也教官!! 何故ミーレスを保護するんですか!?」 納得いかないかの様な素振りを見せるキラ。 当然と言えば当然なのだが。 「このまま放っておくのもアレだろう。それにすぐ暴れるような奴ではないみたいだしな」 「た…しかに、そうですけど……」 事実らしく、否定できない様子のキラ。 と。 ガバッ 「!!?!??!!」 「キラ♪」 「貴様…ッ! 離れろこの人でなし!!!」 その場に現れたかと思えばキラに抱き着いたミーレス。 それを見た獏也は微笑を浮かべ、 「…問題は無いな」 と言ってのけた。 「はぁ!? ふふふざけた事言わないで下さい教官!! 貴様も離れろ鬱陶しい! てか何故ここに!?」 「ごめんキラちゃん…キラちゃんに会いたいって聞かなくて」 「そこは壊してでも止めて下さいよ先生!!! …っぐぁあああぁあああぁぁあああ!!!!!!!!」 ウスワイヤに虚しい咆哮が響いた。 (あれからずっとあんな感じだなんて言えねーよ…) 「オトくーん?」 「ああ…何でもねえから…」 「?」 キラの至上最悪の災難 ―余談― 「あっシュウト君、リリーちゃんどうだったすか?」 「あー…またドアの前で追い返されちゃいました」 「ありゃ。まあ仕方ないっすよねえ」 ―更に余談― 「ルーツ、あの新人はどこだ」 「新人? …ああ、いつも弱音吐いてる子か。それならジングウの所に行ったぜ」 「何故そんな所に…?」 「さあな」 「…まあいい」