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無限の欲望の生み出せし神々の遊戯盤――― 盤上が今宵、闘争の庭として用意した地は海鳴町であり、冬木市であり そのどちらでもないゴーストタウン。 中に放り込まれた駒は二つ。 その性能は戦略兵器に匹敵するとまで言われるミッドチルダSランク魔導士。 その中においても若き英雄と謳われる空戦のエース。 不敗の神話と聖剣伝説を築きし稀代の剣士。 騎士の頂点に立つ「騎士王」の称号を授かりながらも非業の最期を迎えた王。 ―――そこに、世界を塗り潰す不確定要素として飛び込んだイレギュラーが一つ。 古代に君臨せし最強の魔人。 かつて世界をその手に収めた半人半神の英霊。 人類最古の英雄王。 共に絶大な力を持つ、時代を築きし者達が織り成す戦いという名の輪舞。 地上、建造物の至る所に突き立った宝剣。 倒壊した大地。 町の景観は夥しい数の弾痕や斬傷で見る影もない。 まさに熾烈極まりない闘争の余波で、既にフィールドの4分の1が焦土と化している。 その大地にて――――― 時空を超え、次元を超えて………再び対峙する二対の宝具。 「…………」 眉目秀麗な騎士の少女が敵を見据えて立つ。 その身体のどこを探しても傷を負っていない箇所など無い。 だというのに、まるで瀕死である事を感じさせない威風堂々たる姿で、彼女は悠然と佇む。 もはや一言も発する事のない口は決意の意と共に固く引き結ばれ その体の中央で両の手に構えた、黄金に輝く剣に―――己が全てを委ねる彼女。 「もはや何も言うまい―――」 対するは黄金の豪奢な鎧に身を包んだ灼眼の男。 少女の強大な戦意を余す事無く受け止め、まるで揺るがぬ最強の英霊に恥じぬサーヴァント。 王が達観と共に呟く。 己に向けられた殺気……光り輝く人類最強の聖剣を前にして 彼もまた自身の宝物庫から一振りの剣を取り出した。 まるで以前からの約束であったかのような、まるで術技立てられた様式美のような そんな自然さで、両者は手に持つ剣と剣を突き合わせる。 所詮、今までの攻防など茶番――― そう……この対峙こそが二人の戦いの全て。 騎士王と英雄王の戦いの縮図そのものであったのだ。 ―――――― だがその縮図こそ―――そのまま二人の圧倒的な力の差を映し出している。 それは「聖剣では覇王剣を打ち破る事は出来ない」という事実。 このままでは騎士王は英雄王に屈服せざるを得ないという覆しようの無い真理。 ――――故にあと一手。 戦況を根底から覆す、あと一手が必要だった。 ………… その最強の敵を打破し得る一打とは―――― 即ち騎士の少女に祝福をもたらす「勝利の鍵」を差し込む事。 二人の対峙――その趨勢を見守る白き天使が 遥か上空にて、聖剣の担い手に福音を降らせんと翼をはためかせる。 三者を取り巻く空気が彼らの膨大な力の奔流によって軋み始める。 黄金の柱と、鈍色の赤き風と、桃色の波光とが世界を三つに斬り分ける。 震える大地。 翻弄される大気が―――― この壮絶な戦いの最終ラウンドの開始を告げる戦唄となるのであった。 ―――――― 数刻前―――― 「セイバーさん! セイバーさんッッ!!」 雷鳴渦巻く暗雲と闇に閉ざされた空の下に、一人の女性の声が響き渡る。 白がベースの清楚なデザインの法衣を纏った栗色のツインテールの女性。 その長い髪の先がくたびれているのは、突如として彼女を襲ったいつ終わるとも知れない激戦のせいであろう。 彼女は魔導士。 それも並の脅威では傷一つ負う事の無い、ケタ外れの技量を持つ時空管理局のエース級魔導士。 類稀なる才能と己が力に溺れぬ努力の末に身につけた珠玉の戦技。 それによってもたらされた数々の偉業により、彼女は若くして「エースの中のエース」と呼ばれる存在となる。 しかしてその彼女が、今――― 荒い息を整える事すら出来ずに壁に寄りかかり 折れそうになる体を支えながらに必死の呼びかけを続ける。 見ればその髪だけではない。 彼女の纏う法衣の所々に斬り裂かれた跡があり、焼け焦げた跡があり 白い生地には赤く滲んだ箇所が随所に見られる。 彼女が纏っているのは、次元世界ミッドチルダの科学力が誇る汎用魔力強化型戦闘装束・バリアジャケット(BJ)。 堅い物理防御に加え、体表面を覆う反物質コーティング(フィールド)を備えた、魔力で編まれた不可侵の鎧である。 それがここまでボロボロになる事が、今の彼女を襲った脅威の凄まじさを如実に物語っていた。 魔導士―――高町なのはの前には、立ちはだかる敵がいた。 戦技無双を誇る彼女をして攻略の目処の全く立たない、規格外の強敵。 術の限りを尽くしてなお微塵の突破口すら見出せず 彼女は自身、数えるほどしか陥った事のない絶望的状況に追い込まれていた。 その魔導士の立つ横には………一人の少女がぐったりと倒れ付していた。 銀色の鮮やかな甲冑。 その下に青を基調とした戦装束に身を包む、西洋の騎士然とした金の髪の少女。 なのはより頭一つ小柄な肢体。 その体中に大小様々な傷があった。 肩口からバッサリと断たれた切傷を筆頭に、裂傷、擦過傷から貫通された跡まで――― ここまでの負傷を受ければ常人ならば激痛でショック死しているであろう。 此度の戦いにおいて少女は迫る敵を前になのはの前線を務め 白刃に晒されながら後衛の彼女を守って戦い そして相手の埒外の攻撃の前に力尽き―――その身を地につけた。 応急の手当てすらままならないこの状況では傷口を洗ってやる事も出来ない。 一刻も早く男の包囲網を抜け、少女に適切な処置を施さなければ、という思いが、冷静な教導官の思考に焦りの影を落とす。 おもむろにセイバーの傷口―――赤黒く腫れた箇所に手を当てるなのは。 専門的な心得は無い彼女であったが基本的な触診くらいなら施せる。 指の頭で微妙に強弱をつけて傷口を押す。 ………………… (これは………本当に急がないと…) なのはの顔がやおら青ざめた。 痛覚に位置するそれを刺激してやっても、少女の身体はピクリとも反応しなかったから。 もう…………感覚すら無いのだ。少女の肉体は。 この少女はもはや戦えない。 高町なのはを驚嘆せしめた剣技が、スピードが再び発揮される事は無い…… 「セイバーさん……どうしてあんな無茶を…」 その呟きには言い知れぬ感情が篭っていた。 無謀としか思えない中央突破。 血飛沫を撒き散らしながらケモノのように咆哮し、西洋人形を思わせる美しい貌を歪ませて 牙を剥き出しにしながら敵に飛び掛ったあの狂態。 なのはとて十分に分かっている。 この騎士は自分が貶められただけではああいう風にはならないだろう。 きっと心の奥底で最も大事にしていたもの、もしくは人……そういった類のものを傷つけられたのだ。 騎士は誇りを抱いて生きるもの。 その誇りを汚された時、命を賭して守ろうとするのもまた事実。 理解していた……そして自分が口出しするような事ではないことも。 「でも、それでも……」 トクン、と――― 「死んじゃったら、おしまいなんだよ…?」 魔導士の胸の鼓動が高くなった気がした。 諸共に疼いてしまう―――過去の傷跡。 自分の眼下で無残に倒れ伏している血染めの少女と かつてその無茶な行動から命を落としかけ、ヴォルケンリッター鉄槌の騎士に抱かれる自分の姿がフィードバックする。 あれ以来、心に決めた。 無茶はしない――無謀な行為を何よりも自重する。 自分にも、そして仲間にも。 その誓い………小さな胸のしこり。 なのはの心中に生じた微かな揺らぎ。 その異物を彼女は―――今は無理やりにでも胸の奥に仕舞い込むより他にないのだった。 ―――――― 闇夜に始まったこの戦いは数刻を経過し、空は雲に覆われてはいるものの 微かに白み始め―――確実に明けの兆しを見せている。 この世に明けない夜は無い。 いつまでも暗い曇天が続くわけではない。 だが、とあるビルの屋上にて傷だらけの身を寄せ合う二人の戦士。 高町なのはとセイバーは―――このままでは夜明けを迎える事は出来ない。 魔導士が空を見上げる。 その眼前に広がるのは、星だった。 曇りのはずの空にまるでプラネタリウムのように大小様々な星が光沢を放ち、存在を主張している。 ………………………… ……言うまでもない矛盾。 曇天に輝く星など無い。 よって今、夜空を照らす星光など見える筈もなく 無数の星屑は、そう見えるだけの別の物でなくてはならない。 果たしてそれは――――――無限の宇宙に広がる星々に見える……… ――― 刃だった ――― そう、空には今、数百を超える刃の群れがあった。 鈍色の赤に染まった空間から幾多の波紋が起こり、中から彼らは貌を覗かせる。 各々が確固たる意思を持って無限に広がる上空一帯に鎮座する。 そのあまりの威容―――百戦錬磨のエースをして戦慄を感じざるを得ないほどの絶景。 獰猛な異彩を放つ刃の群れが余さず彼女達を見ている。 空を、自分達を悔しげに睨む白き魔導士を嘲笑う。 お前らはここで斬り刻まれ、貫かれて果てるしかない 絶対に逃がさない まるで刃の一本一本が口を揃えて、その殺意を叩きつけてくるかのようなおぞましい光景。 実際には刃に意思が灯る事などは無い。 ならば今、彼女達に降り注ぐ悪意の塊のような意思こそ――二人の前に立ちはだかった「敵」の放つものに他ならない。 未だ敵の姿は見えず、追撃の兆しはない。 だが、彼が一度その侵攻を開始すれば――― 一度号令を下せば、上空を覆う凶刃の群は彼女らに一斉に降り注ぎ、全てを終わらせる。 言わば自分達は手の平の上で遊ばされている虫も同然の身。 相手がその手を握り込めば、二人は抵抗も出来ずに無残に握り潰されるのみなのだから――― 「…………考えるんだ」 常人ならば恐怖に押し潰されてしまうそんな状況下で、余計な事を考えている暇などない。 負の感情。ネガティブな可能性。そして芽生えそうになった騎士の少女に対する―― その他一切のノイズを振り払い、魔導士高町なのはは限界まで思考を巡らせる。 「突破口は必ずある……諦めちゃったら、そこでお終いだ…」 居並ぶ凶刃。その威容をキッと見据えるなのは。 蒼白な顔で気を失っているセイバーの頬に手をやる。 高町なのはの表情にいつもの戦意――千の味方を鼓舞させる気勢が蘇る。 絶望の中にあって絶望に溺れず、遥かな底に見える希望に向かってただ一心に手を伸ばす。 そうやって幾多の者を、世界を救ってきた彼女こそ――不屈のエースと呼ばれた空の英雄に他ならないのだから。 ―――――― 現状においてあの相手を自分一人の手で退けるのはどうするか? 一体どのような戦術を取るべきか? またどれほどの事をせねばならないのか? エースオブエース高町なのはをして、思考するにつれて その端麗な顔が苦渋に歪むのも無理からぬ事だろう。 10年における戦歴において数多くの敵を圧倒してきたなのは。 彼女の戦闘スタイルの根源はまず敵の攻撃を受け止めて撃ち返す所から始まる。 謂わばガチンコの力比べ。それで押し通せれば良し。 ぶつかった結果、敵の力が自分以上であるならば、それに対応した戦術で相手を絡め取ってまくる。 それらの戦法の支柱となるのが突出した自身の火力と出力と防御力であるのは言うまでもない。 だが今、そのうちの一つ―――防御力に全く頼れない戦況…… いつもの戦い方を推し通せない――― それが自然、魔導士の戦闘スタイルに大きな影を落とし 本来の性能の70%しか発揮出来ない状況を作ってしまっている。 ―― 戦いにおいてこれさえあれば無敵などというものはそうそう無い ―― それは彼女の長きに渡る求道の末に培った「戦いの基本概念」とも言うべきもの。 信念であり、彼女の戦術の骨子たるものでもあった。 だが今、彼女は―――限りなく無敵に近いモノを相手にせねばならない。 ゲートオブバビロン――― 奇しくも自分と同じ射撃武装でありながら、その範囲・射程・速射性能諸々がケタ違いの全門掃射攻撃。 まるで戦艦の一斉射を髣髴とさせるが如き射撃は、弾切れ、リロード、その他一切の制限がないというデタラメ仕様。 威力は弾丸1発1発でさえ彼女のシールドを脅かす程……つまり一発の被弾=致命傷である事は疑いようが無い。 また不幸にも、かつて高町なのはが教え子と模擬戦を行った際の出来事を見ると なのはの防御を曲がりなりにも一番初めに破ったエリオ・モンディアルの持つ槍のように 「貫」というのは「斬」「打」「砲」等の他の諸々攻撃手段と比べても最も盾を抜くのに効率が良い。 ならばギルガメッシュの宝具斉射こそ――高町なのはの防壁にとって鬼門以外の何物でもない事はもはや明白だった。 魔導士は思考する。 攻防共に付け入る隙を与えない武器を持つ相手。 これを突き崩すには――― その10年に渡る戦いの中で培った、自分以上の力を持つ相手と戦った場合の対処法。 それに対抗する手段を残らず引き出し、模索していく。 「隙を見出すとしたら武装の方じゃなく………使用者…」 ガチン、ガチン、と―――彼女の思考がパズルのように組み上がっていく。 そう、武装の攻略がままならないのであれば武器の使用者を崩す以外に道は無い。 言うまでもなく極めて厳しい道であるが、だがそんな戦況であるにも関わらず、なのははそこに一筋の光明を見た。 敵がセイバーであったならこんな戦術は取らない。 何故ならそれは、彼女が手に持つ武装に勝るほどの使い手であるからだ。 決して崩れない、思考の隙を突き難い相手に対してほぼ来ないチャンスを待って戦うなど自殺行為である。 「でも、何と言うか………あの人は…) そう、騎士王セイバーに比べるまでもなく、英雄王ギルガメッシュは…… 朧げながら、か細い糸を手繰るように勝利への道を模索する魔導士。 その思考が勝算という名の蜘蛛の糸に手が届く――― ―――――ナノハ… ―――寸前……… その耳に消え入りそうな小さな音が響く。 なのはがハッと目を見開く。 半ば自身の思考の渦に入り込んでいた彼女の横から、弱々しい――― 掠れた声をかける者がいた―――― ―――――― 「ナノハ」 静かな―――それは消え入りそうなほどに静かな声だった。 かつて古の戦場に響き渡った美しき王の声は、凛とした鳥の嘶きに例えられた。 そんな力強くも心地良かった騎士の声。 だが今、なのはの耳に届いたものにその面影は全くない…… 絶え絶えの息の合間に懸命に搾り出されたようなその呟き。 それは紛れもなく――死の淵に立つ者のそれだった。 「セイバー、さん………良かった」 だがなのはの心中に初めに広がったのは、兎にも角にも安堵。 下手をすればこのまま……という可能性すら考えていた魔導士にとって、その言葉は―― 意識を取り戻してくれたという事実は何よりの励みだったに違いない。 知らず、ホッと胸を撫で下ろす白衣の魔導士。 緊迫した空気が何よりの朗報に一瞬、弛緩する。 だが………そんな高町なのはの耳に――― 「―――私に、考えがあります…」 ―――信じられない言葉がかけられたのだ。 全身を紅に染め上げられた歪なアート。 目尻から滴り落ちる赤い液体が頬を伝い、まるで血涙のように少女の白い肌を汚している。 「ちょっと待って……? まさかセイバーさん…」 まだ戦うつもり?と言葉を続けるまでもなかった。 そんな瀕死の状態だというのに、彼女の瞳は――紛れもない戦闘継続の意思を示していたのだから。 「迷惑をかけた………済まない。 この失態は必ず我が剣で払って見せます…」 血染めのマリオネットが、切り裂かれた全身などまるでお構いなしに立ち上がろうとして―― 「ハァ、ハァ………う…」 「無理だよセイバーさん! もう戦える状態じゃない!!」 なのはにその身を抑えられ、再び床に寝かされる。 「ナノハ―――それは侮辱だ。 我々サーヴァントを人間と同じように見て貰っては困る。」 瞳に抗議の色を灯すセイバー。 だが、なのはには騎士の言葉など聞く気は無い。 (こんな…こんな体で……) あの力強かった少女の肉体は今や見る影もない。 自分の膂力にすら抗えず、押さえ付けられてしまうのだ。 そんな死に体の身で、彼女は再び戦場に出ると言う――― 「さしたる問題ではありません。 多少この身を切り裂かれたとて、頭と心臓をやられなければ戦える。 この肉体は……普通の人間のそれとは根本的に違うのですから」 トクン、――――― その時、なのはの鼓動が先程と同じように……乱れた。 こんな事を言われて重症者を「はいそうですか」と戦いの場に出す魔導士ではなかったが故に。 「……………だからあんな無茶したの?」 必死に抑えていた。 それは彼女の行動理念に反する行為。 自身の心の最も深い部分に刻まれたトラウマでもある――― 騎士の言動はそれを刺激するに余りある行為であったのだ。 なのはの表情からスゥ、と感情が消えていく。 それは己を省みず無謀な行動をしたセイバーに対する―――怒りによってのもの。 「ナノハ………あの男は強大だ。 無茶もせず命も賭けずに勝てる相手ではない」 「じゃあ聞くけど、さっきのは明確な勝算があっての行動?」 「そ、それは……」 痛い所を突かれたセイバーが言葉に詰まる。 ただひたすらに煮えたぎるような感情を叩きつけていた 憎しみと怒りに駆られ、狂戦士と化した先程の自分。 そこに明確な勝算や正当性があったかなど―――聞くまでもない…… 「全然、らしくないよ……セイバーさん。 何をそんなに躍起になっているの?」 「…………」 両者の間をえも言われぬ緊張が支配する。 「それは言えない。 だからこそ――不実はこの身を賭して注ぎたい」 「この身を賭して? 命を捨ててって事…?」 「はい。 貴方の作ってくれた勝機を生かせず、敵を討ち取り損ね…… こうして窮地を招いてしまったのは私の落ち度だ。 その不明、我が誇りに賭けて再び勝利への道を切り開く事で償いとしたい。」 「出来るの? そんな体で。 戦えるの? そんな傷だらけの状態であの人と。」 「確かに速度や膂力を維持するのは難しい。 だからこそ――」 「自業自得だよ」 …………… 騎士の血に濡れた顔が……一瞬、唖然とする。 予想だにしなかった魔導士の剣呑な物言い。 その薄緑の瞳が、人懐こい笑みを常に称えていた、あどけなささえ残した彼女の――― 高町なのはの、まるで血が凍ったかのような冷徹な表情を映し出す。 「聞いてくれナノハ……私は貴方に、」 「いいよ。その先は言わなくても」 まるで対照的な二人の相貌を、屋上に吹く風が静かに撫でていた。 ここが火急の戦場だという事すら忘れて、セイバーが呆然とパートナーの顔を見る。 「ナ、ナノハ……」 予想だにしなかった突然の魔導士の拒絶。 ――― 今のセイバーさんとは肩を並べて戦えない ――― と、その目が告げていた。 情緒に溢れた女性だと、慎ましくも確かな友愛を感じさせた彼女。 常に人を率いて戦うが常だったアーサー王。 故に誰かの指揮で戦場を駆ける事に一抹の不安を覚えていたこの身が、高町なのはの指揮で動く事には心地良ささえ感じていた。 その彼女の突然の豹変は、セイバーの脳裏にかの虚ろな光景を去来させる。 即ちアーサー王の落日―― かつて友だと思っていた者たちが皆、自分を残して円卓を去っていった光景。 信じて、守って、尽くして、背中を預けた筈の仲間に背中から斬り付けられた――― ――― アーサー王は人の心が分からない ――― 自分が信じて突き進んだ道は皆の描く願いとはまるで違っていて 全てが滅びゆくその瞬間までそれに気づけなかった自分。 こんな不明な己だからこそ、愚かな自分だからこそ――――少女は悟る。 「―――信に足らないという事か………無理もありません」 セイバーの瞳に一瞬、悲しげな光が灯り――― そして、それを相手に悟られまいと顔を伏せ、表向きは毅然とした口調で返答を返す。 そう………冷静になって考えてみれば無理も無い事だ。 元々は何の義理もない行きずりの関係だったのだ。 助力を申し出てくれたのも彼女の「管理局」という立場上、そうする必要があったから。 だがしかし、それも命あっての物種である。 今の自分の有様。 そして完全に勝機の潰えた戦況。 自分の不明で好機を潰してしまった事実。 彼女がここへきて踏み止まり、自分に手を貸してくれる理由は皆無―――見捨てられて当然。 その不明を濯ぐため、無理やりにでも意識を叩き起こした騎士であったが パートナー同士の信頼……否、利害が費えた今、もはや何を言っても詮無い事であろう。 「――――――――分かりました。 ならば当初の予定通り、貴方はこの場から離れて下さい。 貴方の技量ならばこの状況を切り抜け、逃げ切る事も可能でしょう。」 ならば今の騎士に出来る事はただ一つ。 凛とした声に悲哀の色は微塵もない。 元々、この戦いは自分の物だ。 それをここまで助力してくれた魔導士に感謝こそすれ、恨む筋合いはない。 その彼女が撤退するというのなら―――自分は追いすがる敵を押し留め、隙を作るのみ。 サーヴァントの肉体には強い治癒能力がある。 その恩恵で先程に比べ、行動を起こせる程には回復していた。 少女が荒い息を何とか整え、重い体を無理にでも起こす。 そして短いながらも共に闘ってくれた魔道士に別れの言葉を――― 「セイバーさんは動かないで」 ……………… 「あとは私が何とかするから」 ……………… 「……………………」 「……………………」 二人の間にたゆたう時間が――――止まった。 ―――――― セイバーの表情が固まる。 何を言われたかまるで理解出来ず、身を起こそうとしたその姿勢のまま ポカンとした様相で、なのはの冷徹な表情を見つめている。 「聞こえなかった? なら、もう一度言うけれど……… 私が一人で闘うからセイバーさんはじっとしててって、そう言ったんだよ。」 対して単語の一つ一つを吟味するように、まるで聞き分けのない子供に接するように セイバーに言って聞かせる高町なのは。 騎士の呆然とした表情が次第に怪訝なそれへと変化していく。 「―――――何を言っているのです?」 「何か問題あるのかな…? 今のセイバーさんは心身ともにまるで使い物にならない状態。 そんな人を連れていっても足手まといになるから残って欲しいって……別におかしな事じゃないでしょう?」 「……………気は確かですか?」 「確かも何も普通の判断だと思うけど。」 「ナノハ」 おぼつかない足取りながら剣を支えに立ち上がり、魔導士と向かい合うセイバー。 その目には先程までの弱々しさはなく――まるで敵を前にした時のような眼光を称えている。 「駄目だよセイバーさん。大人しくしていて」 「貴方は私に何を求めている? 我が不手際に対する謝罪の言葉か?」 「………」 「それとも、先の醜態の理由を包み隠さず話せと? いくら問い詰められようと私とて言えぬ事はある。 それを無理に掘り下げる権利が貴方にあるのですか?」 「別にそこに興味があるわけじゃない。今はむしろどうでもいい事だよ… でも言ってセイバーさんの気が済むなら聞くけど?」 「っ、」 ギリっ、と騎士の歯が鳴る音がした。 「フ―――これは意外でした……案外、陰湿な性格なのですね。 何が気に入らないのか私には分りかねるが わけの分からない駄々をこねて人を困らせるのも時と場合を選んで欲しいものだ。」 「私の言おうとしてること……分からないの?」 「分かる筈が無い。 あの男は本来、私の敵で貴方は部外者に過ぎない。 だのに何故、私を差し置いて貴方が一人で死地に赴くという結論になる?」 互いに昂ぶった感情のままに相対する二人。 そのまま一気にまくし立てるセイバーである。 「言っている事が滅茶苦茶だ! 貴方がみすみす死にに行くのを私が認めるとでも思っているのか!? 人を嬲るのも大概にして欲しい!」 「そうだね。そんなの許せるわけないよね。 ………………………私も同じだよ。」 バチバチ、と――まるで火花が飛んでいるかのような視線のぶつかり合いは続く。 「じゃあ、はっきり言うけど………今のセイバーさんはまるで抜け殻だよ。 自分を盾にして、もし死んじゃっても構わないってそう思ってる。 何としても生き残るっていう気概がまるで無い。」 「理想論ですね―――相手はあの英雄王で、しかもこの戦況。 何の犠牲も払わずに流れを変えられると思っているのですか? それに私は騎士だ……死ぬ事など恐れはしない。」 「何度でも言うけど、今のセイバーさんじゃ盾にすらならない。 私を圧倒した時とは全然違う。 下らない妄執で動いてるだけの未熟な剣士にしか見えないよ。」 なのはのその見立て――― 期せずして今のセイバーの状態を完全に見抜いていた。 アロンダイトの斬撃は騎士王の肉体より心を壊す。 それによって負ったセイバーのダメージは心身にまで及び、知らず思考に死の影を落としていたのだ。 そんなパートナーを戦いの場に出すわけにはいかない―――それこそが高町なのはの本意。 「私を愚弄するのか―――取り消して下さい」 「取り消さないよ。貴方は自己満足に浸ってカッコ良く散ればそれで満足かも知れない。 でも目の前で死なれる方の気持ちを考えたことはある?」 言葉についには殺気が篭るセイバー。 だがそれを正面から受けて、なのはも一歩も引かない。 このような事をしている場合でない――― そんな事は百も承知の筈の、冷静な二人らしからぬ仲違い。 二人とも、その胸の奥にしまっていたトラウマを抉られ、つい心のブレーキが効かずに感傷的になってしまう。 「…………もう――――よい」 鼻で大きな溜息を漏らし、乱れた息を沈めながらにセイバーは魔導士に背を向ける。 「これ以上は無意味です。 どうやら貴方とは決定的に価値観が違うようだ…… 去るが良い。情報の収集を求めるならば、後日改めて―――」 「行かせないよ」 「―――――ほう」 何とこの場にてレイジングハートを騎士に向ける高町なのは。 それを背中越しに見やるセイバーの双眸にも危険な色が灯る。 「今、行かせたらセイバーさんに後日なんて無いもの。 それでも行くっていうなら止める……たとえ貴方を叩きのめしてでも。」 「メイガス―――私の頬を二度も張れると思っているのか?」 一触即発の危険な香りが漂う。 エースオブエースと騎士王の殺気が屋上に充満する。 共に一騎当千の者同士の一触即発のやり取りだ。 常人が居合わせようものならストレスで胃腸が擦り切れてしまうだろう。 だが―――それは言葉ほどに剣呑なやり取りではなく 見るものが見たら恐怖どころか微笑ましいものすら感じたかも知れない…… 何故ならばその喧嘩は価値観が違うというものではなく、どちらもその根底にあるものは同じ。 互いを心配する余り、その行動を否定されたばかりに語気が荒くなってしまっているだけなのだから。 要するに―――似たもの同士なのだ。 見る者が見ればどう見ても「喧嘩するほど何とやら」なやり取り。 何と馬鹿馬鹿しい、そして微笑ましい意地の張り合いであろう。 だがそれは放っておけばおく程に収集がつかなくなり、もはやいつまで続くとも知れぬ千日戦争の様相を呈していた。 故に彼女らに勝手に冷戦じみた口喧嘩を始められて、一番所在がなくなる者は―――言うまでもない。 「―――――人類の歴史が紐解かれてより幾星霜」 「「っ!!」」 そんなやり取りを初めは歪な笑みと共に見守っていた黄金の超越者だったが 流石のウルクの王もついぞ痺れを切らして呆れ顔で水を差さざるを得ない。 「この我を前に仲違いを始めるマヌケ共など……貴様らが最初で最後であろうな」 ビルの屋上―――― 給水塔の上で頬杖をしながら男は二人のじゃれ合いを観覧していた。 互いに息遣いが感じられる程に顔を寄せ合い、唸りあっていた両者が戦慄に固まる。 今現在、自分らが置かれている現実に引き戻され、その声の主…………倒すべき敵に向かって身構えるのだった。 「――――いつから、そこにいた?」 「たわけ――今更、威嚇などしてどうするというのだ? 我がその気ならセイバー。 貴様は既に186回死んでいたわ。」 「ッ、! そうか………ならば、あと100回分ほど待たせる事になりそうだ。 こちらはまた話がついていない。」 「男子に対してただ待て、と? つくづく行儀の悪い女よな」 クク、と笑う英雄王に対して浮き足立つのも一瞬。 兎にも角にも敵と対峙してしまった以上、剣の英霊のやる事は一つ。 黄金の王に対してその身を半身に切って構える。 正直、この時点で自分の考案した作戦を魔導士に話していなければならなかったのだ。 作戦を練れる十分な時間があったにも関わらず、それを言い争いに回してしまったのは痛すぎる。 もはや、いちかばちかの玉砕戦法より他に取るべき道がない――― 「ダメだよ……セイバーさん。」 だが、何とここに来てまだ自分を静止してくる魔導士。 流石の少女もげんなりとした表情を隠せない。 「ナノハ―――この期に及んでまだ貴方は!」 「違う……このままじゃダメなの。 さっきまでと同じ事をしてたら私達は勝てない あの人の戦術に飲み込まれて……二人ともここで終わる」 「―――――」 耳の端でなのはの言葉を聞いていたセイバーだったが その言葉に巨大な違和感を感じ、彼女は異論を挟まずにはいられなかった。 「ナノハ。あの男に戦術などありません」 「あるよ……凄い戦術 ううん、もしかしたら戦略レベルかも知れないほど。」 「いや……アーチャーの事なら私の方がよく知っている。 あの男の頭の中にあるのは愉悦と自己顕示欲だけです。」 「だからそれも戦術なんだよ………きっと」 「バカな……有り得ない。 何を言っている?」 「あの人も……本人も意識してやってるわけじゃないのかも知れない。 でも、それが結果的に戦略になっている。 本当の生まれ持った素養っていうんだろうね……こういうのを。」 敵が目前なのだ。 その男の一声でもはや自分たちは風前の灯火なのだ。 話をしている余裕など無い筈……… だというのに、セイバーは―――焦る気持ちと裏腹に魔導士の言葉に耳が離せない。 「勝つ人っていうのは勝つべくして勝ってる。 その行動には全て意味があるの…… 愉悦や自分を強大に見せる言動、そして挑発。 その全てが戦略だとしたら?」 「…………」 「セイバーさん。 貴方がさっきやられた事は戦略…… 貴方を先に潰そうと画策したあの人が最も効果的な手段を以って相対したに過ぎないの。 決して愉悦や、こっちをバカにしての行動っていう事だけじゃない。」 「―――――」 まるで意図の読めないパートナーの言動。 敵の行動を「戦略」として定義付けた、それが今――― 危険を冒してまで必要なやり取りだったのか? (あの男が―――英雄王が戦術? いや、それは無い………無い筈、) セイバーには分からない。 魔導士の断言にはまるで信憑性も無く、ギルガメッシュをよく知る騎士を納得させるには至らない。 だが、少女の思考に入り込んだなのはの言葉は彼女の心中でまるで予期せぬ効用をもたらした。 (物は言い様とは言うが………そういう見方も、あるのか?) 友の剣を愚弄され、未だ胸の奥に憤怒の残る騎士。 その敵のあまりにも無頼な行動。 しかし、それを戦略として置き換える事で―― まるで違った方面から見る事で――― セイバーの心の闇……その呪いじみた傷痕を抉られた怒りが和らぎ、冷静さを取り戻すきっかけとなっていたのだ。 (―――この女……) 黙って聞いていたギルガメッシュが微かながら驚嘆する。 それは高町なのはなりのパートナーに対する精神的なケアだった。 幾多のチームを組んでの任務を数多くこなして来た彼女にとっては ダメージを受けてズタズタになった仲間や部下の士気を回復する事もまた 教導官として部隊の隊長としての、彼女のスキルの一つであったのだ。 完膚なきまでに砕いた騎士王の魂が蘇っていく――― 今一度、アロンダイトを抜けば恐らくセイバーは容易く堕ちたであろう。 しかしてそんな陥落寸前の騎士王の精神に、魔導士は期せずして防波堤を張ったのだ。 心底でチッと舌打ちを漏らす英雄王。 口先三寸と言われればそれまでだが―――この人心掌握の術には少々驚かされた男である。 「雑種―――誰が我を評する事を許したか」 趨勢を見守っていたギルガメッシュがここで動く。 今までまるで眼中に無かった魔導士に少し興味が沸いたのだ。 「王を前にしてしゃあしゃあと――― その矮小な思考で我を計る事など不可能と未だ気づかぬか?」 「いい加減、その雑種っていうの……やめて欲しいんだけど?」 「雑種であろうが? 初手から貴様はそのみすぼらしい思考で我を計り、悉く己が秤の無能を痛感したのであろう? で、ありながら未だ懲りずに我を型に収めようと努めている。 その愚鈍さ―――雑種と言わずして何と呼ぶ?」 「そうだね。確かに上をいかれてる…… 正直、私のスキルではまだ貴方の力の天井が見えて来ない。 でも、それでも私はこういうやり方しか出来ないから……それにすがって戦うしかない。」 「笑止ッ! 自らの矮小を認め、反発すらせぬ者がこの英雄王と相対するとは!! 己が強大さを誇らずにどうして敵を圧滅出来ようか!? 雑種―――やはり貴様は我とセイバーの間に立つ資格などないわ!」 「力不足なのは否定しないよ…………でも」 世界を手中に収めた最古の王と高町なのはの舌戦が続く。 剣を構えたセイバーが固唾を呑んでその趨勢を見守る中―― 「貴方は案外、あっけなく堕とせそうな気がするよ」 なのはが爆弾を投下した。 全くの予備動作無しに――― (なっ!!??) 両者を仰げる位置で構えていたセイバーが思わず目を剥いてしまう。 先ほど身を以って味わったが――― このメイガスはおっとりとした態度から一転、いきなり剃刀のように切り込んで来る。 そのあまりの急襲っぷりに百戦錬磨のサーヴァントをして怯まずにはいられない。 「少なくとも私にとってはセイバーさんの方が何倍もやりにくかった。」 「ナノハッ! もういい! やめろッ!!」 明らかに踏み込みすぎ…! 王の常に余裕の笑みを微塵も崩すことの無かった顔から――― ―――― 表情が消えた ―――― 「――――――」 世界が凍りつくとはこういう事を言うのか。 シン、と静まり返った上空30mに位置する屋上にて――― 「―――――――ク、ククク」 心臓を握り潰すかのような殺気と共に、地の底から響くような恐ろしい笑い声が男の口から漏れ出る。 「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハ ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――――」 まるで堪え切れないといった風に男は笑い転げる。 その紅い瞳が裏返るほどに天を仰いで笑い転げる。 額に手を当てていつまでもいつまでも―― 「……………」 「っ、!!」 なのはが無言で、セイバーが戦慄を以って相対する中 その狂笑が――――ピタリと止まった。 瞬間、なのはがセイバーに向かって走り出す! 「ナ、ナノハ!」 「飛ぶよッ!!」 「――――端女が」 魔導士が騎士を抱き抱え、ドンッ!という地を蹴る音を残してその場を離陸する。 と同時に上空一杯に広がった刃の行列の一部が屋上に降り注ぐ! その屋外スペースが宝具の襲撃を受けて一瞬にして倒壊する中――― 白き翼が魔弾降り注ぐ屋上から飛び降り一気に急降下。 フルブーストで地面スレスレにまで高度を落とし、そのまま向かいの影に飛び込む。 重武装をケタ違いの推進力で飛ばすなのはのマニューバは暴れ馬に乗ってるのと対して違いが無い。 いきなり襲い来るGに翻弄され、顔をしかめていたセイバー。 騎乗スキルを持つ彼女をして驚かされる猛馬っぷりである。 「はぁ――――危なかったね…」 あまりにもあっけらかんとしている高町なのはの顔を見て 思わず「ガーッ!」と叫びたい衝動に駆られるセイバーである。 「な、何を考えているのです! あの状況であんな挑発をして… 殺してくれと言っている様なものだ!」 「はは……でも、ああしないと逃げるタイミング掴めなかったし」 ジト目でなのはを見上げていたセイバーだったが 流石にこの魔導士が何の計算もなく売り言葉に買い言葉であんな挑発をしたわけでない事くらい分かる。 ノーモーションで降り注ぐゲートオブバビロンに完全に囲まれていたあの現状。 射出を視認してからの回避では絶対に間に合わない。 恐らくは敢えて挑発して、その逃げるきっかけを作ったという事だろう。 「分かっていると思いますが――」 「そうだね……確かに本気を出されてたらタイミングも何もない。」 だがしかし、魔導士の自嘲気味な呟きこそ的を射たもの。 そう、相手の怒りを誘って何とかタイミングを計ったとはいえ――― もし本当に完璧に逆上させてしまい、上空の刃全てを降らされていたら………ゲームオーバーだった。 所詮、今の攻撃など男にとっては、無礼を働いた目の前の虫を癇癪紛れに払い飛ばしたくらいのニュアンスなのだろう。 「全く人に無茶をするなと言っておきながら 貴方の行動を見ていると心臓がいくつあっても足らない……」 「そうかな? これでも一応考えているんだけど……」 それにしても、今度は端女、か……」 呆れ顔のセイバーだが、そんな当の本人は逃げ掛けに放たれた男の言葉に対し 今頃、ショボンと肩を落として傷ついたような仕草を見せている。 鉄のように強靭だったり、いきなり萎れたり―――彼女の本質はどちらなのか判断に苦しむ騎士だった。 「あの男の言葉など気にしたら負けです。ナノハ」 「うん……いい加減、慣れてきた。 本当はもっと突っ込みたいんだけど、徐々に流してる自分が少し情けない…」 「いえ、流せるならばそれに越した事はありません」 「……………」 「……………」 ――――途切れる会話 元々は寡黙な二人だ。 無駄話に鼻を咲かせるタイプではない。 「―――――私は未だに慣れませんが」 そんな中、思わずポロリと本音が出るセイバー。 なのはが「あらら、」という顔で隣の騎士の横顔を見やる。 そこには年相当の少女の―――口を尖らせ、憮然としたふくれっ面があった。 両者の目と目が合った瞬間―― 二人はどちらからともなく笑みを漏らしていた。 クスクス、とも微笑とも取れない他愛ない笑い合い。 そんな場合ではないというのに、どうしてこんなにリラックスしているのか? 考えれば考えるほどについ可笑しくなってしまう。 「そろそろ……かな?」 ともあれ、なのはが一言―――確認の意を込めて呟いた。 セイバーもコクリと頷く。 「お気遣い感謝します。 戦闘に支障はありません。 流石に全快というわけにはいかないが……」 「………凄いね。 本当に回復してる」 この時間稼ぎで少しでも体力の回復が出来れば御の字だった。 ことにセイバーは時間が立てば立つほど、損傷した身体が本来の力を取り戻す。 敵が本気で攻めて来ないというのならこちらは精々、十分な反撃の態勢が整うまで――のらりくらりと敵の追撃をかわすだけの事だ。 「でも凄い回復力があるからって…… もうさっきみたいな無茶はしないでね。 約束。」 「肝に銘じます。 フフ……貴方を怒らせると後が怖いですから」 「もう………真面目な話だよ」 微笑交じりに返すセイバーと怒った素振りを見せるなのは。 まるで10年来の親友同士のようなやり取りだ。 ついぞ、会話の応酬を楽しんでしまう二人だったが―――こんな時間ももうすぐ終わる。 「ナノハ」 敵もこれ以上は待ってはくれないだろう。 反撃出来るだけの余力も整ってきた。 なら――――再び動き出すなら今! 「うん……」 次に戦闘に突入したらこんな風に言葉を交わす事は無いであろう。 だからこそ、これが騎士の最後の問いだった。 「―――――恐ろしくはないのですか?」 「…………」 同じ戦士に対して、礼儀を欠いた問いかけであったかも知れない。 だが、それでも騎士は問わずにはいられない。 自分を、そしてあの英雄王を相手にまるで物怖じしない彼女に対して。 サーヴァントを相手に2連戦――― 身も心も擦り切れて参ってしまっても不思議ではないのだ。 だというのに、この不屈の精神力は何なのか? 緑色の瞳に真剣な光を称え、白き魔導士の顔を見つめる騎士に対し、なのはも問い返す。 「セイバーさんは?」 「私ですか?」 「うん……」 「先程も言ったが……私は騎士です。 国を背負い民を救うと決めたその時から、戦い死ぬも定めと考えています。 この道を選び、剣を執った事に後悔は無いし、命が惜しいと思った事もない。」 何の迷いもなく答えるセイバー。 なのはが瞳の奥を覗き込むように騎士の目を見ている。 「―――とはいえ、誤解しないで欲しい。 いつ死んでも構わないというわけではないのだ。 私とて叶えたい願いがあり、守りたいものがあった――」 「……うん」 「それが自分が倒れる事によって潰えてしまう――― 我が後ろにいる者を守れなくなってしまう――― それを考えると……」 「……………うん」 感情の読めぬ目を称えて少女の顔を見ていたなのは。 「じゃあ、私と同じだね。 ふふ……同じだ同じだ♪」 その表情が―――柔らかな微笑を作る。 「白状すると………セイバーさんとあの人の前に立つの、少し恐かった。」 屈託のない、自分の腹の底を全てさらけ出すかのような笑顔でなのははセイバーに語る。 「自分がここで終わっちゃって、友達や大事な人達を悲しませる結果になるのはとても恐い。 自分のために泣いてくれる人が一人でもいるのなら、その命は自分だけのものじゃないから…」 自分が死ぬ事で大事な人の人生すら狂わせてしまう事もある。 そんな悲しい出来事を見てきたなのはだからこそ――― 「だからこそ自分が生き残るために最善を尽くすんだよ。 怖いから……何よりも死んでしまう事が怖いから。」 死にたくない。悲しませたくない。 だからこそ彼女は己を鍛え上げたのだ。 拷問に等しい鍛錬を己に課して、お世辞にも頑健とはいえぬ体を磨き上げたのだ。 恐怖に押し潰されて、不安に負けて、何も出来なくなる事のないように。 その根底―――決して折れないダイヤモンドの如き、彼女を最強足らしめる力。 それが「不屈」。 (彼女の言っている事は正しい―――) というより非の打ち所のない正論だった。 セイバーのみならず、戦場に出る者ならば誰しもが思い抱くこと。 だが、それを出来る者と出来ない者がいるからこそ―――戦場で人は死ぬ。 理性を総動員して抑え込んでも巨大な本能に負けてしまう。 そう、死に対する恐怖という本能に。 結果、恐慌に陥り冷静な判断が出来なくなる者や己が可愛さに敵に寝返る者が出てくる。 だからこそ時には味方を斬り、厳しい処罰を与えて、兵士の本能の暴走を縛り付けながら戦争における行軍は行われる。 しかし彼女は――その最も難しい事を当然のように出来るのだ。 戦いに対する心構えが半端ではない。 戦乱の世に生まれた者でさえここまで強固な意志を持つ者は稀であろう。 彼女は言った。 ―― 勝つ人間は勝つべくして勝っている ―― その言葉を他ならぬ、この魔導士自身が一番体現している。 彼女と相対した際の攻めても攻めても突き崩せないあの感覚。 打破したと思った瞬間に巻き返されている、人外の粘り強さ。 手強いはずだ……抗ってくるはずだ…… 当たり前の事を当たり前のようにやって勝つ。 それこそがこのメイガス――高町なのはの強さの秘密だったのだから。 セイバーの胸にふつふつと熱い何かがこみ上げてくる。 目の前の魔導士が垣間見せた勇気の心――レイジングハート。 戦いに生きる者で相棒にこれだけの物を示されて魂が震えぬ者はいない。 万夫不当の英雄王を相手にしているのだ。 未だ事態は全く好転していないのだ。 だというのに………今、自分は―――― ――― まるで負ける気がしない ――― (恥すべき事だ………) 顔を伏せるセイバー。 味方に勝利をもたらす剣。主を守護するサーヴァント。 その力を以って自陣を鼓舞し、勝利の風を呼び込むのは本来自分の役目のはずだった。 だのにこれではまるで立場があべこべではないか? 「――――貴方が敵のマスターでなくてよかった」 「え?」 「何でもありません」 小さな声でボソリと―――少女は今、心の底から感じている事を吐露する。 もしこの魔術師が敵のサーヴァントを従えて眼前に立ち塞がったなら、自分は果たして士郎を勝たせる事が出来ただろうか? その心情は即ち、セイバーがこの高町なのはという人物に対して最上級の評価を持ったということだ。 信に足るどころではない。 このメイガスは己が剣を任せられる器――― 「ナノハ。 今一度―――私に考えがあります」 「うん………聞く。」 屋上で言いそびれた、その決意と共に紡いだ作戦を再度なのはに進言しようとするセイバー。 なのはも今度は少女の言葉を阻まない。 阻む理由は既にない。 それは騎士の瞳に強い――先の戦いで自分を射抜いたあの力強い眼光が再び輝いていたから。 高町なのはを圧倒した騎士王セイバーが蘇っていたから。 「聖剣を―――使います」 しかして少女のその口が、鈴のような声が――― 次の攻撃に………己が全てを出し尽くす事を、ここに誓ったのだった。 ―――――― ―――――男は神代の時代を生きた王である 人間の父と女神の母を持つ彼は、神魔や幻想種の跋扈する世界にて暴君として君臨した最強の英雄だった。 故に英傑や人知を超えた力などは見飽きている。 ほんの少し人間離れした程度の力やそれを持つ者など、そこらの雑種と何ら変わりはない。 だから今、剣の英霊の周囲に纏わりつく目障りな魔術師――― あの程度のちっぽけな力で自分の前に立つ事。それ自体が不遜と断ずる思考には未だ些かの陰りもない。 「――――安いな」 プライドの高い男である。 先程の無礼に対し、突発的とはいえ怒りの感情を見せてしまった。 些かとはいえ心胆を揺るがされた事自体が失態――― だが、彼の口調の微妙な変化。 高町なのはを「雑種」でなく「端女」と呼び変えた事に果たして何の意味があったのであろう? 「――――あの端女はどうした? セイバー」 先程の宝具斉射によって崩壊した屋上から降り、見晴らしの良い交差点にて佇む英雄王の前に――― たった今、姿を現したのは騎士セイバーただ一人であった。 「袂を別った。 アーチャー……貴方との決着をつけるのに――― もはやあのメイガスは邪魔でしかない。」 きっぱりと言い放つ騎士王。 邪魔な者は捨ててきた……存分に剣を交えようというその顔に―――迷いは無い。 「相変わらず虚言の弄せぬ女よな――」 だが、それを受けて含み笑いを漏らすギルガメッシュ。 義や侠に何よりも重きを置く騎士である。 その鏡たるセイバーの、パートナーに対する無体な言葉はあからさまに不自然。 この騎士は味方に対しては勿論、たとえ敵でも―――その誇りを汚すような事は言わない。 「……ナノハの事は眼中にないのではなかったのか?」 「それは未だ変わらぬが、なに……我を前にあそこまで繰言を吐いたのだ。 お前の従女を務める程度の才くらいは認めてやっても良いかと思ってな。 アレは―――――なかなかに変種よ。」 男は王である。 生誕した頃より世界の頂点に立つ存在である事はもはや宿命。 100億を超える雑種どもの恐れ、妬み、崇拝を一身に受ける存在。 「珍種と言っても良いか……力こそ有象無象だが 稀に、万人に一人の割合で生まれ出づるものなのだ。 王を前にして何故、平伏するのかも解さぬ、生まれながらの痴れ者がな。」 自分と対等、もしくはそれに髄する力を持っているわけでもない。 こちらに生殺与奪を握られる程の実力差でありながら、まさに神に比する力を持つ自分を前にして――― 恐れもなければ気負いも無く、市井の者同士が他愛のない会話をするかの如く接してきた者は男の記憶をまさぐってなお例がない。 あの女の心は確実にどこかがおかしい。 人間の感受性を司る大事な部分がコワれていると言っても過言ではないだろう。 だからこそ王の中では「雑種」でなく「端女」――― これはある意味、ギルガメッシュの中でランクが少し上がった事になるのだが……それをなのはに喜べというのも酷な話であろう。 「さて―――」 だが、そのような心境の変化こそ些細なものだ。 関心の外にあったモノがたまたま思いの外の変り種だった。 男にとってはただ、それだけの事――― やはりこの男の最大の関心は騎士王。求めるべきはセイバーのみ。 時は再び動き出す。 サーヴァントの自然治癒能力で動けるほどには回復している騎士の少女。 しかし英雄王の攻撃に晒され続けた肉体の損傷はそんなに安くはない。 今の彼女の有様はまるで血化粧を施されたかのような酷いものであった。 白銀の後光を纏いし闘神。彼女が駆けてきた戦場にて敵の刃は―――その御身体に触れる事すら出来なかったというのに…… 「しかしつくづく――――みすぼらしい姿よな。 まるでどこぞの捨てられた犬ではないか?」 戦いで負った傷を誇るなど弱者の愉悦。 強者は常に一傷も負わずに勝つが常。 傷だらけで掴み取る勝利……泥臭さの中にある強さなど男には永遠に理解出来ない。 「だが、お前はそれでも別だセイバー。 貴様は孤高の花よ。 傷つけば傷つくほど、失えば失うほどに、濡れた花弁は月光の如き美しさを醸し出す。 心得よアーサー王―――お前はその身一つで立っている時がもっとも強い光を放っているのだ。」 「………これより先」 「―――、!」 「言葉は意味を為さない。 我らの邂逅の結末――― 全てはこの剣にて語ろう……英雄王よ。」 ギルガメッシュの紅い瞳が見開かれる。 それは脅威によるものか、はたまた歓喜か―― 完膚なきまでに打ちのめしたはずの彼女の気勢が充実しているのが分かる。 その戦意が、覚悟が漲っているのが分かる。 「――ならば、もはや何も言うまい」 ―――煽る必要もなくなった 今のセイバーには間違いなく、かつての輝きが戻りつつあるのだから。 「出番だエア」 その輝きを今一度、完膚なきまでに叩き潰し、我が眼前に這い蹲らせる事。 これこそ英雄王が求めていたカタチ。 故に――――男はその宝物蔵から一本の剣を取り出した 古今の英雄が持つあらゆる宝具。 その原典を持つ英雄王ギルガメッシュ。 だが今、彼が手にしている一本こそ―――世界を統べる王にのみ許された彼だけの一振り。 其はあらゆる死の国の原典と言われし 生命の記憶の原初にして真実を識るもの 天地が創造される以前、星があらゆる生命の存在を許さなかった初まりの姿 それは紛れもない地獄というべき世界であった 世界の真実を識り、何者も存在する事の出来ない地獄を具現化させるものこそ、、 ―――乖離剣・エア ―――最強の想念すらも容易く打ち消す、この世ならざる世界より齎された覇王の剣 「ッ、――――――」 男の正面にて構えるセイバーの身体が青白い光に包まれる! 彼女が己が全てを宝具に注いでいるのが分かる。 まるで恒星が生まれ出ずるかのような熱気が伝わってくる。 幾多の人々の想念を背負った騎士王と聖剣が―――全てを解放しようとしている! そしてあの光を、セイバーの輝きを認めた男だからこそ それを上回る力を示して勝たねば意味がないのだ! 故に聖剣エクスカリバーにはエアを――― それはセイバーに対しギルガメッシュが交わす約束事のようなもの! 「はああああァァァァァァァッッッッ!!!」 剣を中央で構えたセイバーが己が肉体から絞り出すような咆哮を上げた! 「ク、―――」 対して男が嘲う。 その胸の中が踊るのが分かる。 そう、それこそがギルガメッシュをして震撼させ得る数少ない存在の一つ。 全てを薙ぎ払う最強の光。 フィールドの上空まで貫く黄金の柱と共に――― 騎士王の約束された勝利の剣がその姿を現したのである! ―――――― (これがセイバーさんの本気……!) その全身に鳥肌が立つ。 背中に冷たい汗が滲み出ているのが分かる。 自分の切り札―――集束砲と激突した先程のそれと比べて、なお巨大! あまりにもケタ外れの魔力の奔流。 恒星と見紛うばかりのエネルギー。 アレに拮抗するのにどれだけのカートリッジを次ぎ込めばいいのだろう…? (こんなモノを一方的に打ち消す………? 有り得ない…) そして―――少女の言葉がなのはの脳裏に蘇る…… ――― 聖剣を使います ――― 先程、騎士から高町なのはにもたらされた事実。 かぶりを振ってそれを否定したい気持ちに駆られてしまう魔導士である。 ナノハ……聞いて欲しい 私は聖剣を放つ しかしそれでは―――恐らく勝てないでしょう 先ほどの貴方の見解は非常に面白く、興味も惹かれましたが もしアーチャーがただ勝つために戦略を立てるのなら…… 今までの過程――ここまでの拮抗は成り立っていない 僅か一振りで――― 全てが終わっていたのです (……………) なのはの顔に深い苦渋が刻まれていた。 絶望に絶望を上乗せされた心境だ。 だからこそ………セイバーは今まで聖剣を出さなかったのだ。 相手が愉悦に浸り遊んでいるその間隙を縫って勝負を決めてしまいたかったのだ。 彼は未だ、その恐るべき切り札を出していない…… 乖離剣エア――――― 我が聖剣を遥かに上回る出力を秘めた宝具こそ奴の切り札 それを今まで使わなかったのは…… あの男の愉悦、慢心――何よりその自尊心に重きを置いたが故の事でしょう 王としての己を象徴する唯一無二の宝具 それを自分の認めた相手以外に、相応しいもの以外に振るう事こそ拭えぬ恥と断ずる男です そして奴の認めるものの中に辛うじて入っているのが我が聖剣エクスカリバー 故に我が全霊の一撃に対して奴は必ずその切り札を出してくる 敵の注意は全て私に向き、エア発動時はゲートオブバビロンの斉射も無い つまりは完全無防備状態 ――― 最高の囮 ――― その無防備な相手の腹を、貴方の一撃で撃ち抜いて欲しい――― 「…………セイバーさん」 それはどう考えても危険極まりない作戦だった。 一方的に打ち負けるという事はその力の奔流をモロに受けるという事。 当然、顔色を変えて難色を示したなのはだったが―――戦意に満ち溢れた顔でセイバーは答える。 ―――――― 「おかしな事を言う…… 貴方とて先程、我が身を呈して英雄王と打ち合ったではありませんか? あれには大概、肝を冷やしたものです。」 「でも、あれとこれとでは危険の度合いのケタが違うよ……」 「ナノハ。 先程、私は飛び出して間に入りたい身体を必死に抑え、機を待った。 全ては貴方を信じたが故に―――ならば、今度は貴方が私を信じて欲しい。」 「っ…………」 「大丈夫です。 さっきの話ではないが―――私とて命は惜しい。 勝算の無い事はしません……この剣に賭けて誓う。」 ―――――― ――― 私は死なない……ですから ――― 相手の案を跳ねつけるだけの要素―――― 今の戦況を引っくり返す力も代案も示せない自分が、それを否定する権利など持ち合わせる筈がない。 (…………何も、言えなかった…) だからこそ今は自分に出来る事をやるしかない。 騎士に報いるためにも失敗は絶対に許されない。 なのはの位置する上空――― その凱下にて翻っていた強大な柱。 セイバーの放っていた魔力と聖剣の光。 その力が………消える。 否、立ち消えたように見えるほどに流麗に――両手に構えた剣に全てが集約される! (…………来る!) なのはの体に緊張が走る! セイバーの儀礼のように体の中央で構えた剣――それがブルッと震える! 否、震えたのはセイバーの身体!!! 全身の筋肉を蠕動させるように剣を下段に構えなおし、その勢いで一気に肩口上段に振り上げる! 黄金の剣閃がその軌道を縫って騎士の体に纏わり付く! それは凄絶にして華麗な光の剣舞のよう!! コンマ一秒にも満たぬその初動から最上段に振り上げられた聖剣。 ―――その収束された光が今……! 「エクスッッ…………!!」 約束された勝利の剣――― 騎士王セイバーの渾身の一撃が――― 「……カリバァァァァッッッ!!!!!!」 ―――――放たれる!!! ―――――― その場を凝視していた高町なのはの視界が次元違いの光彩を目に入れてしまい、危うく目を潰されそうになる。 (す、凄いッッ!!) 闇夜に輝く黄金の太陽。 直視すればするほどにそれは網膜を焼き、彼女の目の端から涙を滲ませる。 だが眼を瞑るわけにはいかない――― その瞬間を見逃すわけにはいかない―――! 彼女はラストショットを任された狙撃主。 なのはの砲撃に勝敗の全てがかかっているのだ。 己が運命を託してくれた騎士の信頼に答えるためにも―― (絶対に決めてみせる!) 心の中で猛る高町なのはの集中力が研ぎ澄まされていく! ―――――― 太陽の如き剣閃を前にした英雄王。 男の切り札はそんな恒星じみた出力を誇るセイバーの聖剣をも上回る―― ――――歪な円柱状の剣であった…… 既にその剣は起動を開始。 連なった円柱が何か巨大なうねりを思わせる濁音を響かせながら回転を始める。 音と共に集まっていくのは――― ――― 赤き倶風 ――― 男の右手から赤黒い鈍色の風が吹き荒ぶ。 螺旋状に天高く伸びたそれは、セイバーの魔力を黄金の柱とするならば――まるで巨大な竜巻の如し! 「エヌマ―――――」 まるで荒れ狂う嵐を模倣したかのような力は 右手を中心に起こる、全てを虚空へ吹き飛ばす暴風! そんな竜巻の如き力を――― 「―――――エリシュ!」 男は前方に開放!!!! 迫り来る光の束に向かって咆哮一閃! 横薙ぎの軌道にて力の限りに叩きつける!!!! ―――――― 「今ッッ! レイジングハート!!!!」 そして―――そしてここが全ての分岐点! 選ぶ時。 勝利か敗北か。 生か死か。 地上にてその姿を現す黄金の柱と赤き竜巻。 それを受けて夜空にも――巨大な星の光が現れる! エースオブエースが動いた! 桃色の魔力を放出し、彼女は世界に呼びかける! 周囲に散った魔力の残滓がざわめき、号令の元に集う。 夜空にたゆたう雲がまるで彼女から逃げていくかのように散っていく。 目を閉じ、瞑想に入る高町なのは。 全てを託された一撃……ここで放つ技はただ一つ。 彼女最大の砲撃魔法――― ――― スターライトブレイカー ――― 明星を思わせる輝きを放ち、夜空を照らしながら――― エースの名を冠する魔導士が放つのは集束砲によるブレイクシュート! 膨大な魔力を秘めた三者の力が翻り――― その日、世界は……三つに割れた――― ―――――― 地上――――まず初めに激突するは光の剣閃と赤き竜巻。 騎士王と英雄王。 その二人が立つ中央にて、エクスカリバーとエヌマエリシュが衝突したのだ! ―――――、!!と、音に表現すら出来ない、この世の果てまで届き兼ねない炸裂音。 閃光は夜空一面をまるで太陽のように照らす。 中央でぶつかった力と力の奔流の力場は もはやどの次元世界のあらゆる計測器を以ってしても測定不可能の域だろう。 その熱量、エネルギーが辺りにあるビル。地面。雑木。 全ての有象無象のオブジェを溶かし、吹き飛ばしていく。 「ぐ、うぅ――――ッッ……!!」 「―――――ク、」 だが、互いに神域にある攻撃ながら 放った両者のそれは互角の拮抗とは程遠いもの。 (そんな……こんなに差があるなんて…) 集束砲のチャージを開始したなのはの表情が呆然とする。 この奇襲―――相手に気づかれてしまえば全てが台無し。 敵が警戒する剣は一つでなければならない。 恐らくあの相手は魔導士がエクスカリバーに匹する武器をその身に秘めている事など思いもしないであろう。 故にチャージ開始は英雄王がその全力の一撃を放った直後しかない。 気づかれればこの打ち合いは成立しない――― 上空の異変を感じ取った英雄王によるバビロンの一斉射で二人とも串刺しになるだけだ。 だからこそベストのタイミングで集束砲のスタートを切った高町なのは。 しかし―――眼下に展開する聖剣と乖離剣……その拮抗が崩れるのが、あまりにも早すぎる! (頑張って……セイバーさん!!) 先の戦いで一度撃ってしまった集束砲は一度目に比して、集められる魔力は確実に減少しているだろう。 チャージ時間も10秒フル稼動というわけにはいかない。 そして赤き魔風はみるみるうちにセイバーに迫りつつある。 ここからでは騎士の表情は見えないが、自分を信じて……その援護を待っているはずだ。 だからこそ、全ての力を今ここに―――― 「レイジングハート! 先行発射!! 命中と同時に全力全開ッ!!!」 詠唱を中途でカットし、なのはがこの時点で集束させた魔力を眼前に掲げてレイジングハートの砲身にセットした! そして己が最強の魔法の射出体勢に入る! 男の放つ竜巻が光の剣を打ち消しつつある! もはやセイバーが飲み込まれるのに一刻の猶予も無い! 「モード・リリースの準備……!」 Master... 「これしか無い……足りない分はブーストとカートリッジで上乗せするしか… ここで決めなきゃ全部、無駄になっちゃうッ!」 高町なのはが自らに科した安全弁を開放。 限界突破・ブラスターモードの使用を決意する。 ブラスターモード―――― 謂わずと知れた高町なのはの最終決戦形態。 魔力回路を自己ブーストさせる事によって通常を遥かに超えた高出力を叩き出す。 瞬間的に叩き出されるその出力はカートリッジの併用と合わせて2倍、3倍にも膨れ上がると言われる規格外のバーストモード。 だがしかし……ブーストとは、そのエネルギー流通の圧縮比を高める事によって無理やり出力を高める行為。 故に他の全ての機能――― 耐久力。フレーム。精密度etcを犠牲にする諸刃の剣。 それを人体で行うという事がどういう事なのか……想像に難くないであろう。 まさに一撃必殺の威力と引き換えに命そのものを削ってしまう玉砕戦法。 それがブラスターモードなのだ。 当然、これは最後の切り札であり使いどころが極めて難しい 格下の相手、防戦に徹する相手を一気に攻め落とす場合―― 決められた作戦時間内で、残り時間を考慮して一気に捻じ込む場合―― 前衛がいる状態での一発のブレイクシュート限定という条件での使用―― それらに反して、このオーバードライブ。 最も使用が困難な状況が―――格上の相手を前にした場合だ。 短時間しか持たない決戦モードを遥かに力の上回る相手に使う。 力の上限すら計れない埒外の相手に使用する。 これはハイリスクどころの話ではない。 どれだけの攻撃を叩き込めば相手が沈むのか見当もつかない状態でモードリリースした場合―― 相手を倒し切れずに己の全てを使い果たしてオーバーヒートなどしたら目も当てられない。 もはや歩く事すらままならないその肉体を相手に晒す事になるのだ。 だからこそこの戦い、高機動力のエクシードモードに終始し ブラスターの使用の機会を虎視眈々と伺いながらも一線を越える事をどこかで躊躇ってきたなのは。 自分より強い敵を相手に余力を残したまま敗北したなど笑い話にもならない。 どこかで……どこかで使う必要があった。 戦局を左右する場面で、不利な状況を一気にまくるために――― (セイバーさん……今、助けるから持ち堪えてッ!!) ―――――それは今まさにここ!!! 騎士の体が赤き奔流に飲み込まれて消えようとしている! 全ての工程をカットし―――今、魔導士が手に集めた巨大な力の塊を放つ! 「スターライトォォォ……ブレイカァァァーーーーッ!!!」 猛き黄金の剣閃が相手の暴風によって全てを打ち消され セイバーの白銀の肢体が上空高くに跳ね上げられる―――と同時 巨大な星の破光が、雲を突き抜け、英雄王の頭上に一片の容赦なく――― 降り注いでいた!! ―――――― ………………… ―――辺り一面が暗闇に染まっている ―――赤と黒に支配された景色 ―――黒は暗闇 その眼に血液が回っていない事の証拠――― ―――赤は血の赤 体内の毛細血管の破裂に次ぐ破裂によるレッドアウトの証――― 損傷に次ぐ損傷…… 手足がビクン、と小刻みに痙攣を繰り返す。 エアによって巻き上げられたその身体は、いくばくかの回復をしていた少女の体力を再び削り取り 彼女は今、完全な戦闘不能状態へと落ち込んでいた。 その命とも言うべき剣士の利き腕が千切れる寸前にまで裂けている。 魔風と激突し、撃ち負けた――それが代償だった。 横たわる大地に血だまりを作る。 指一本動かせずに横たわる身体の、視線だけが辛うじて動く。 その目を左右に動かして――今の状況を懸命にを認識しようとする。 かくしてその目に―――白い法衣 パートナーの白い背中を辛うじて認める事が出来た。 「ナ、ノハ……」 ヒュ、ヒュ、という苦しげな呼吸音と共に 少女は消え入りそうな声を懸命に搾り出し――ー 「やった、の……ですか―――?」 その背中に答えを求めていた。 だが――――――魔導士は答えなかった…… その背中が、小刻みに震えている。 騎士からは見えなかったが、その腕も、足も、抑えきれない感情で全身を震わせている。 そう、魔道士は少女に対して背中を向けている。 一刻も早く介抱しなければならない重傷を負った少女に対してである。 それは一体、何を意味するのか? 言うまでもない。 それはつまり……自分ではない誰かと対峙しているという事。 傷つき動けない自分を守るために、その身体を盾に、誰かと向き合っているという事。 答えは―――考えるまでも無い事だった……… ―――――― 「………、めん…」 魔導士の声が嗚咽に震える。 「………ご、めん……取り返し、つかない…」 悔しさから、不甲斐無さから、血が滲むほどに唇を噛み締め 謝罪の言葉を繰り返し紡ぐ高町なのは。 (――――ダメ、だったのか…) 騎士が首だけを何とか動かす。 それすらも今の少女には重労働。 その目に何事も無く悠然と佇む黄金の鎧を認めて―― この戦いが、自分達の敗北に終わった事を知る…… 身を引き裂いてしまいたい程の後悔に震える高町なのは。 エースとして絶対に失敗出来ない場面での痛恨のミスショット。 結果として言うと―――彼女はブラスターモードを使っていない。 ……使えなかったのだ。 スターライトブレイカー射出時、ブラスター起動&発射の工程を辿るにはエアとエクスカリバーの拮抗が短すぎた。 故に咄嗟の判断で、命中後の「上乗せ」という形で全ての力をぶつけるという選択をしたなのは。 その結果―――エヌマエリシュの魔風が前方のセイバーを巻き上げ、払い飛ばした直後 ギルガメッシュは横一文字の薙ぎ払いの勢いを殺さぬフォームでその遠心力のままに後方に180度向き直り―― エアを上空から降り注ぐ巨大な集束砲に横殴りに叩きつけたのだ!!! 「――――ぬううぅぅあッッッッッ!!!」 英雄王が吼えた! 世界に君臨する傲岸不遜な王の猛り! 世界を掌中に収めた魔人の如き男の紛れも無い本気の咆哮! 「直撃させてから上乗せ」という高町なのはの選択――― その上乗せする時間を……男は微塵も許さなかった。 まるで空間を削り取るかのような、横一閃に薙ぎ払ったエアの切り払いが一瞬で真っ二つに切り裂いていたのだ。 なのはの最終奥義を。 あのスターライトブレイカーを……… ―――――― 足りなかったというのか――― 条件的に10全のものとは程遠いとはいえ、SLBが一瞬の拮抗すら許さず掻き消される――― そこまでの埒外の展開をも視野に入れなければならなかったというのか…? どうすればよかったのか…? セイバーが完全に吹き飛ばされるのを承知の上でブラスター3を開放→発射の工程を取るべきだったのか? 否、それでは意味が無い。 切り札を発動させている相手の腹に打ち込んでこそ意味があったのだ。 あれ以上遅かったら、こちらが打つ前に体制を立て直した男の宝具射出によって なのはは確実に仕留められていただろう。 ならば、セイバーとギルガメッシュが対峙していた時に既にブラスター状態にしておけばよかったのか? 限界突破のリスクを考えた保険と、命中しなかった場合の事を考えた対処が裏目に出たのか? こうすれば、ああすれば、という考えがなのはの頭の中にまるで泡のように沸いては消える。 だが、もはやそれも無駄な思考。 「せめて全て、出し尽くしていれば……」 全ては自分の責任だ。 ブラスター3を出し切れなかった自分の未熟。 全力全開で撃っておけば、ここまで容易く斬り払われる事は無かったかもしれない。 後悔してもし尽くせない魔導士の嗚咽の言葉。 この失態を償えるのなら何でもする、という悲痛な表情。 だが、もう――― 「――――――端女よ」 その時、苦渋の極みにあった高町なのはに声をかけたのは意外にも英雄王であった。 「気に病む事はない。もはやあの時点で貴様がどうあろうと結果は変わらぬ。」 むしろ咎があるとすれば………お前だセイバー」 魔導士と、息も絶え絶えな騎士にかけられる王の言葉。 「……どういう、ことだ?」 「セイバーさん……動いちゃ駄目…」 セイバーがその体を起こそうとし、苦痛に顔を歪める。 どうやら敵は今すぐにこちらに止めを刺す気はない――― そう悟った魔導士が、後ろ手に庇った少女の身体を介抱する。 「お前の咎だと言ったのだセイバー。 最大の敗因は―――この我を倒そうなどと思いあがった事だが…… 何にせよ欲張りすぎたのだ貴様らは。 今ので我を打破せんと姑息な策に頼り、力を分散させた。」 王の独演が続く。 その表情が侮蔑に染まっていた。 愚かに過ぎる、と。 話にもならない、と。 「お前の聖剣とそこの端女の魔術……同方向から束ねて撃っていれば相殺は成っていたやも知れん。 被害は二人揃って無様に宙を舞う程度で済んだのだ。 少なくとも この最悪の結果 にはならなかったであろうな――」 否、男の怒りは別のところにあった。 それはセイバーが聖剣を囮に使った事―― 二人の決着の場にて、こともあろうに自らの剣でなく他者を頼りにしていたという事。 もっともどの道、聖剣はエアに打ち消されていたのだからその怒りは男のエゴ以外の何者でもないのだが。 「セイバー……まさかとは思うが――」 だが男は言葉を続ける。 責めるように。 敗者を踏みにじるように―― 「いつぞやお前に撃ったあれが―――エヌマ・エリシュだとでも思ったか?」 「――――」 ……………………… 己の期待を裏切り、惨めに這う騎士王に止めの言葉を放つ。 「呆けるなセイバー。 今一度問う――― あの時のアレが我の本気とでも思ったか、と聞いている。」 「―――――、え?」 ……………………… ――――――その場を支配する静寂。 男の言葉の意味が分からず、その真意が理解できず、唖然とするセイバー。 「な、何を、何を言って―――ぐっ……」 咽ぶ様に言葉を出しかけて、ゲホッと咳き込む少女。 その口からの大量の吐血。 「喋っちゃダメ!!」 支えているなのはが青ざめる。 だがしかし、少女は止まらない。 「バカな………有り得ない! 貴様はあの時、確かに言った筈だ! 本気で撃ったと……手加減するべきだったと……」 肺から漏れ出る苦しげな呼吸は折れた骨が内部を傷つけているのだろう。 そんな状態で少女は、精一杯の反論を男にぶつける。 対してギルガメッシュが首を傾げた。 何のことか?と記憶をまさぐるような表情を作った後――― 「ああ、あれか」 まるで些細な事だと言わんばかりの表情で―― 「あれは慈悲だ」 騎士王を奈落に突き落とす最後の一言を吐き捨てたのだ。 ―――――― 「な、んだと……」 「背負ったのであろう? 全ての民の期待を。騎士どもの羨望を。国という重圧を。 その健気な想いをアリの如く踏み躙る…… 流石の我とてそれは躊躇われた―――それだけの事よ」 セイバーの表情が完全に凍りついた。 あまりにも信じたくない、己の根底を揺さぶる事実。 「――――バカな……そんな…バカ、な」 「何を驚く? お前は我の后となる女ぞ。 その女が我の賜り物として築いてきた輝き―― 全てを完膚なきまでに打ち砕くほど我は鬼畜ではないのだぞ?」 ワナワナと震える少女の体。 確かに乖離剣エアはエクスカリバーより上位に位置する存在だ。 それはセイバー自身も納得していた。 だが、それでも―――聖剣の担い手としての誇りを支えるギリギリの譲歩というものがあった。 あの邂逅は互いに全力で撃った勝負においての結果……そう信じて疑っていなかった 己が身を体現する最強の聖剣。 全幅の信頼をかけている約束された勝利の剣が――― ――― まさか赤子の手を捻るように返されていたなどと ――― 彼女が受け入れられる筈が無かったのだ。 もはや完全に動けないその身。 そして虚ろな目で、屈辱に耐えるより他にないセイバー。 それを見下ろすギルガメッシュの低いくぐもった笑いが 少女の耳にいつまでも張り付いていたのだった。 ―――――― この時、ギルガメッシュは真実を語らなかった――― それがセイバーを完全に打ちのめすためのものだったのかは定かではないが…… エクスカリバーとエアの激突―――その真実。 かつての激突の際、男は手加減したと言い放ったが――それは少し違う。 やはり本気で撃っていたのだ。 ギルガメッシュはエアの最大出力―― エヌマエリシュを確かに発動させ、セイバーの聖剣と激突させた。 結果は此度のそれと全く同じ。 セイバーは相殺適わずその身を魔風に舞い上げられ、完全な敗北を喫する事となった。 だが、そこに互いの大きな齟齬があった。 結果、あまりにも強大な覇王剣の力に驚愕するしかないセイバー。 それに対し、英雄王もまた……嘲笑ながらに密かに戦慄を感じていた。 何故なら―――セイバーは「相殺」には成功していたのだから。 ――― 即ち「エヌマ・エリシュ」の相殺を ――― 吹き荒れる魔風のほとんどを黄金の剣閃で薙ぎ払い「それ」の発生を止め エアが放出した暴風による破壊「のみ」で留めた。 それはセイバー本人の与り知らぬ大きな快挙。 負傷したとはいえ、エアの最大出力の大半を止めたのだから――― エアがその比肩せぬ威力を示したように、エクスカリバーもまた…… 人類最強の聖剣の名に恥じぬ力を証明していたのだ。 故に今回、男が満を持して放ったエアの最大出力は英雄王の全力「以上」のものだった。 その時、ギルガメッシュの所持する宝物蔵の内部にて20を超える宝具が起動していた。 それは英雄王の身体能力を高め、属性付加、地形効果を最大限まで引き上げる。 つまりは――宝具のバックアップによる威力の上乗せ。 それに対し、傷つき万全に程遠いセイバーの聖剣の一撃がかち合った。 その結果が前回と違うのはむしろ自明の理であったのだ。 それを英雄王が語る事はなく、知るものもいない今 この場を支配するのは聖剣、そして集束砲の圧倒的敗北―――その事実のみ そして……英雄王の言う最大の咎。 それはエアを過小評価した事。 何としても相殺するべきだったという事。 その「風」が全てを切り裂く前に――― 今、最も重要な事実 ――― 此度は相殺できなかったという事 ――― その事による最悪の未来は――むしろこれから……… ―――――― 「なに。気落ちする事はないぞセイバー。 我はお前を認めている―――故に見せるのだ。 エヌマ・エリシュ………天地乖離す開闢の星を!」 まるで自由の利かない身体であっても彼女はその剣だけは離さなかった。 幾多の戦いを共に乗り切ってきた聖剣の柄を―――今ある精一杯の握力で握り締めるセイバー。 その行動……介抱するなのはの腕にも彼女の無念と悔しさが伝わってくる。 その瓦解しかかる精神と肉体を何とか保たせているのは、横で支えている魔導士―― なのはに自身の無様な姿を見せて心配をさせたくないという騎士の誇りと意地のみ。 だが、今―――英霊二人のやり取りを聞いていた高町なのはは全く違う光景……別の思考に至っていた。 確かにラストショットを達成出来なかったショックは未だに残っている。 だが、そんなものにいつまでも苛まれているエースではない。 それよりも気になる事が多すぎて立ち直らざるを得なかったというのもある。 まず、相手がこちらの戦術を愚策と断じた件――― 言うまでも無く、これが実質最後の攻撃だった。 だからこそセイバーは己を犠牲にして死力を尽くして相手の隙を作ろうとしたのだ。 その攻防で―――敵を撃ち抜こうとした選択が間違っているとは思えない。 たとえ同方向から束ねて撃ったとしてもあの相手の出力――とてもあの男を倒し切れたとは思えない。 エアを完璧に相殺したとして、撃ち合いで力尽きた二人は余力を残した敵になぶり殺しにされていただろう。 ならば、今の状況はまだマシなのではないか? だのにこの相手は………今、騎士が受けたダメージを「二人して受けていた方がまだマシだった」と言っている。 何かおかしい 何か変だ その相手の態度。言葉の端々。 そしてそれに伴う違和感。 男の発した「最悪の結果」という言葉。 (これは最悪の結果……これが…) 今の攻撃は自分達の実質、ラストチャンスだった。 なのに相手に――何の傷も与えられなかった。 だが、それにしても相手のこの余裕は何だろう…? (エヌマ…エリシュを見せる? 「見せた」ではなく?) なのはに、その言葉の意味の全ては分からないが そのニュアンスから何かが違う事だけは分かる。 ―――そして目の前の男の背後に、もはや居並ぶ刃の群は無かった。 全てをしまい込んで既に終わったかのような姿勢を見せている。 (まだ、私達に止めも刺していないのに…?) ―――隙だらけなのだ。 まるで警戒心を解き、無防備でその身を晒している英雄王。 それは今、なのはがデバイスを男の胸に突き立てようと踏み込めば あっさりとそれが成ってしまうのではないか?という錯覚すら起こさせた。 だが今、なのはは安易に踏み込む事が出来ない…… その目を釘付けにしているのは、英雄王の横に払った剣閃。 その軌道によって描かれた――― ―――― 線 ―――― その異様な光景――――― 三次元で構成された世界は全ての物体が縦幅、横幅、奥行きによって形成される。 だから厳密に言えば「線」という概念はこの世界には存在しない。 だというのなら……今眼前にある 世界にラクガキをしたかのような「線」は何なのか? あの帯状に見えるモノは何を意味する?―――― スターライトブレイカーを切り裂かれた光景を、なのはは脳内で巻き戻し、再生する。 自分の砲撃を切り裂いたモノはセイバーの聖剣を薙ぎ払った風とは明らかに別のモノだった。 まるで空間ごと裂いたかのような剣閃にて自分の砲撃は、拮抗すら出来ずに真っ二つにされたのだ。 それこそ今、目の前にたゆたう帯状の切り口にその魔力ごと切り分けられたかのように――― 「セイバー、さん……」 「…………」 なのはが掠れる声でセイバーに声をかける。 が、混乱した思考のままに発した声がセイバーの耳に届く事はなかった。 「大儀である―――セイバーとその端女よ。 ク、此度もなかなかに楽しい宴であった。」 そして―――やおら自分達から背をむけて、この場を去ろうとするギルガメッシュ。 かけられたのは労をねぎらうかのような……別離の言葉。 「あ、………」 なのはが尽きせぬ戦慄を感じ―――その呼吸が荒くなる。 心臓がバクン、バクン、と早鐘のように打ち鳴らされる。 それは津波を前にした海岸に立ち尽くすかのような―――猛烈な悪寒によって齎されたもの。 「セイバーさん……」 最悪の未来は、むしろこれから―――― 「掴まってッ!! まだ終わってないっっっっ!!」 セイバーを腕に抱える高町なのは。 全身を引き裂いた傷は、下手に動かせば命にかかわる。 それでも―――悠長な事は言っていられなかった! 今までなのはが凝視していた「線」が―― それが、ゆっくりと、上下に分かたれて―― まるで生き物の口のように開いていく!!!!!??? イイイイイイイイイイイイイ―――、という神経を圧迫する様な 巨大なヤスリ同士を擦るような、そんな音と共に! ―――――― ここに始まるは―― ―――即ち、天地の乖離と創造である ―――――― 二人の眼前でゆっくりと雄大に―――それは起こった。 先程から見えていた歪な線。 それは乖離剣エアが完全に発動した証拠。 「くっ……セイバーさんッ!!」 ゴゴゴゴ、―――と、深き所から鳴り響く地鳴りのような音。 魔導士の感が特大の警報を鳴らす。 何か……とんでもない事が起ころうとしている! それを察知したなのはがセイバーを抱えて共に空へ離脱しようと試み――― 「えっ…!??」 愕然とする……… 「どうしたのレイジングハート!? フライアーフィンを!」 そう、彼女に空を教えてくれた空戦魔導士の命ともいうべき―――――翼が、 翼が開かないのだ!!! I do not exercise it 慣れ親しんだ女性型デバイスの音声がその異常に対して答えた。 ―― 発動不可能 ―― 、と。 魔導士の顔が蒼白になる。 「ッッ…フラッシュムーブ!!」 I do not exercise it 「プ、プロテクション!!」 I do not exercise it 「どうしてッ!!? レイジングハートッ!?」 今までどんな苦しい時でも、ピンチにも自分を支えてくれた魔法の力。 それがここに来て彼女を助けない! 呼びかけに答えない!? ミッド式魔法――― 独自の技術にて形成されたプログラムによって世界に干渉し、それは発動する。 故に発動が妨げられるという事は……世界に自分の声が届かないか、あるいは――― その干渉する世界が――― ――― 死んでしまっている時 ――― 英雄王の持つ切り札――乖離剣エア。 それはこの世に二つとない死界の原典。 ――― 対界宝具 ――― 城をも一瞬で消し去る対城宝具を以ってなお、同じ計りに乗る事すら阻まれる規格外EXランク。 その能力は言葉通りの――― ――― 世界を斬る ――― ならば高町なのはの発動させる魔法に必要となる その地盤となる世界が切り裂かれてしまったのならどうする? ―――どうにもならない… 空の英雄、航空戦技教導隊のSランク魔導士が…… あの無敵のエース・高町なのはが……その力を完全に殺されたのだ…! 「何だ……これは――!?」 「アルカンシェル……ううん、違う。 違うけど、でもこれ…」 魔法を使えないなのはが、自分の足で立つ事も出来ないセイバーが その眼前の光景―――変貌……否、コワれていく世界を前に絶句する。 天地の乖離現象――― セイバーの聖剣を掻き消した吹き荒れる高出力の暴風ですら、エアに取っては前段階に過ぎない。 その真髄は、極限まで編み上げた魔風が世界を切り裂いた事によって発生する「空間断層」。 高町なのはの集束砲すら真っ二つに引き裂く、既存の力学の全く作用しない断層に敵を落とし込み、消滅させる。 これこそが英雄王の誇るエヌマ・エリシュ―――その真の姿だったのだ! ―――――― 「ぐ、ぁ……ッッッッ!??」 「う、ううぅッ!?」 そして二人に襲い掛かる、まるで全身を引き裂かれるような圧力。 押し潰されるような引力に捕らわれ、もはや二人は動けない。 例え両者が万全だったとしても……一旦、発動してしまったエヌマ・エリシュ―― 乖離現象に捕らわれて逃げ延びる事は不可能だ。 分け放たれた天と地、その狭間に存在する断層から発生する強大な引力。 吸い寄せられる体を必死につなぎ止め、互いの体を必死に支え、大地に伏せて耐える騎士と魔導士。 「セイバーさん! 手を離しちゃダメッ!!」 「………ッ!」 (―――何てことだ……これではナノハの足手纏いに…!) 彼女達を取り巻く世界。 その光景はもはや現世のそれにあらず。 視界を覆うは分け放たれた天地と、その間にある地獄のみ。 二人は今宵、世界の断面が傷んだ橙色である事を知る――― ビルが。雑木林が。停留していた車が。ありとあらゆるものがその断層に消えていく。 そして最後に二人の踏みしめる大地そのものが倒壊し、消えた瞬間―― なのはとセイバーの必死の抵抗は、その全てが無意味と化す。 創世の礎となる破壊の前に、あまりにも無力ななのはとセイバー。 舞い上げられた体が断層の只中に落ち込み――― 全てが、飲み込まれていた――― ―――――― 巨大な竜巻の前で。天を衝く津波の前で。大地震の前で。 人は悲しいほどに無力である。 自然――つまりは天が与えたもうた人への罰。 その前ではちっぽけな人間の叡智などは何の役にも立たない。 今、ここに立ち向かうは英霊の座に名を刻まれし最強の騎士と どんな災害、災厄の中においても任務を全うすると言われるSランク魔導士。 無力で翻弄されるだけの人間では断じてないとはいえ…… ――― 天地創造 ――― 原初の破壊と再生を司る天地乖離の儀式がこの大地に具現化されたのだ。 その現象はどこか、あのブラックホール。 超新星爆発によって生成した重力の塊にどこか似ていた。 もっとも今、このフィールドに起こっているのは風の奔流による擬似的な空間断裂。 宇宙にその存在をたゆたわせる黒き孔とは性質も何も全く違う。 それでも、あえて黒孔と今眼前に巻き起こる現象に共通点を見出すとするならば――― ―――それは中に落ち込んだ生物が辿る末路のみ 百戦錬磨の二人をして、これ程の現象に立ち会った事などあるはずがない。 しかも騎士は度重なる攻撃に晒され半死半生。 魔導士は今、己を支え続けてくれた魔法を封じられた状態。 この強大な破滅を前に、二人は抵抗する術も逃げる事も、そして互いを守る事すら出来ない。 舞い上げられた両者が、断層の引力に翻弄されて漆黒の裂け目に堕ちていく。 あれほどの強さ。あれほどの輝きを持った騎士と魔導士の、あまりにも無残で無慈悲な姿。 この強大な天の裁きの前では二人とて無力な人間と何ら変わらない。 断裂した空間に完全にその身が落ち込む、その瞬間―― 「ッッッッ!!!」 「!? ナ、ナノハ!」 戦う事も、飛ぶ事も、もう何も出来ない。 あらゆる術を失った高町なのはが――― ――― 最期に取った行動 ――― 少女の頭をぎゅっと両手で包み込むように 決して大きくない自身の体で、一回り小さい騎士の全身に覆いかぶさるように 迫り来る亜空間に自身の背中を向けて――傷つき動けぬセイバーをその身に抱きしめていたのだ…… それは己が身を盾にしてでも少女を守ろうとする行為に他ならない。 「…………、」 「バ、バカな!? サーヴァントの盾に――」 声を上げ、抵抗しようとするセイバーだったが手足が動かない。 その白い法衣の胸中に為すがままに顔を伏せられ言葉を遮られる。 物凄い力だった――膂力の問題ではなく。 振り絞るような、それは彼女の全力全開の力だったから。 まるで親が子供を身を挺して守るような、そんな必死さに溢れていたから。 それが彼女の出来た―――この世で最後の行為だったから……! 手に抱かれるセイバーが、彼女の両腕が小刻みに震えている事に気づく。 もはや覆らない。どうにもならない結末。逃れえぬ死を前にして――― 魔導士はその無念に震え、年相応の弱さを曝け出す。 だというのに 、自分も恐くてたまらないのに…… それでも彼女はせめて目の前の少女だけでも救おうと――助けようとしたのだ。 ―― 誰かの役に立ちたい ―― その一心で己を磨き、苦難に耐え、高く高く飛び続けて来た彼女は その夢の終わりにあってなお、彼女で在り続けたのだ――― 「ッ!!???? ぁ、あ、ッ!!」 少女を懐に囲い込んだ状態で亀のように体を丸めて 目を固く瞑っていたなのはが、その双眸を見開いて呻き―― 「きゃあああッッ!? ああああぁぁぁあああッッッッ……!!!」 喉の奥が張り裂けん限りの悲鳴をあげる。 破滅の空間に晒された魔導士の肉体を襲った人知を超えるような負荷。 それは今まで彼女が耐えて来たどんな攻撃とも違う。 そこは空間断層という無限の刃が飛び交い、天と地の重さがそのまま圧力となって存在する異空間。 落ち込んだ物体を、ミキサーのように切り刻み、カンナのように一皮一皮削り尽くし、雑巾を絞り上げるような湾曲した重力にて捻り潰す。 不抜と言われたエースオブエースのバリアジャケットが背中から、まるで紙の様に破砕して空間に消えていく。 そして鎧を剥がされた人間の女性に過ぎない彼女の体が……無残にも――― 「ナ、ナノハッ!! 駄目だッ!!」 悲痛な叫びをあげるセイバー。 自分を抱え込んでいた腕から伝わる衝撃を今、彼女は全て「直」に受けているのだ。 ザクリ、ザクリと腕を、足を、体を裂いていく空間。 ミチミチと全身の骨を、内蔵を潰していく圧力。 「あ、……ぁ、…」 だというのに、自分は何も出来ない…… 赤子のように守られているだけ―― その崇高なる想いを秘めた魔導士が、高町なのはの気高い心が余さず砕かれる。 彼女という存在―――その全てが水泡と帰す。 なのはのあげた断末魔の悲鳴も、セイバーの悲痛な叫びも全て虚空に掻き消される。 乖離現象によって生じた全てを滅ぼす空間全体に、イイイイイイイイイイ―――、という 天と地が擦れ合い、軋む時に生ずる音が木霊し、それ以外の音を全て消し去った。 そして……最期まで必死に騎士を抱きしめていた高町なのはの全身から――― ――― 力が抜ける ――― パク、パク、と口をつくなのはの言葉―― それが音になって誰かの耳に残る事はない。 滅びは、別れの言葉を残す事も許さない。 「………っ!」 だが―――セイバーの耳には確かに届いた。 音にならずとも、その強き想いが、直向な気持ちが――確かに届いたのだ。 お願い…… 、と。 せめて、、セイバーさんだけでも…… 、と。 その全身から生気が抜け、口から一筋の血の雫が垂れ、死に行く魔導士の今わの際に出た言葉は 自分を巻き込んだ騎士に対する恨みの言葉でも、理不尽な敵に対する怒りでも、突如降って沸いた死に対する恐怖でもなく――― ――― ただ一心に騎士の少女の身を案ずる言葉 ――― ―――――― 薄い緑の瞳から一筋の涙が零れ落ちる。 最期まで我が身を呈して己を守ってくれた魔導士。 友の名を汚され、聖剣を辱められ、そして今―― 心優しい友――そう、盟友の命を眼前で散らされようとしている。 何が―――剣の英霊か 何が―――騎士王か 少女は慟哭する。 あまりにも何も出来ない自分自身に。 聖剣よ――――私に力を 私はどうなっても構わない ナノハだけでも、彼女だけでも助ける力を 私に貸してくれ……お願いだ ポロポロと止め処なく落ちる涙。 既に世界は音を司る機能すら停止し 彼女の言葉が「言葉」になる事はなかった。 だが構わず――騎士は懇願する。 かつて世界に救済を求めた、その時に負けないくらいの想いで エクスカリバー!! 我が声を聞き届けてくれッ!! だが、その思いすら虚空に消えていく。 乖離された世界において、その存在を許されるのは開闢の星たるギルガメッシュのみ。 それ以外の何もがここでは何の意味を持つ事もない。 セイバーの体にも崩壊が始まる。 全身を切り裂かれるような奔流と捻じ切られるような圧痛が傷ついた身体を磨り潰さんとする。 だが―――― ………… ―――痛くない。 想像を絶する激痛に苛まれている筈なのに、体が苦痛を訴えてくる事はなかった。 何故なら―――――痛いのは心だったから。 滅び行く肉体を苛む苦痛の何倍、いや何十倍も心が軋んでいたから。 高町なのははこんな苦痛の中、最期まで自分を離さなかった。 その命の灯火の尽きる直前まで、自分の身を案じてくれていた。 その魔導士の手がゆっくりと―――抱えていた騎士の頭から離れていく。 そして既に亡骸も同然のなのはの肢体が、まるで水辺に投げ出されたボロ布のように虚空に吸い寄せられていく。 待ってくれ! 待ってッ!! エアの直撃で千切れかけた腕を伸ばし、なのはの体を必死に掴んで引き寄せるセイバー。 グッタリと力無いその肢体はもはや息をしているのかさえ分からない。 未だ収まらぬ滅びの放流。 闇が見える――底の見えない深き断層。 魔導士も、そして今、辛うじて意識を保っている騎士も あと数刻を待たずして粉々に分解され塵芥と化すであろう。 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 これがこの戦い――― エースオブエースと騎士王。 そして英雄王ギルガメッシュとの戦い。 その結末――― 二人は乖離剣が作り出した断層の中で無残に掻き混ぜられ、終局を迎える。 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 あらゆるものが虚空に消え失せた空間の中で――― 残ったのは静寂。 空間が軋む歪んだ音と、寂しげな風。 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 そして いずれそれらも飲み込まれ 完全なる無となり――――ここに舞台は幕を閉じる。 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 ―――――― 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 …………… ここは終わった世界――― 何者の存在も許さぬ役者の去った舞台。 だからもう―――何も無い。 演じる者も見物する者も全てが退席した空間。 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 ―――――その消え往く世界の隅に 何故、あんなものが残っているのか? どうして――― 全てを消し去る虚空の中で――― あんな光が灯っているのだろうか? ――― ―――――― 乖離剣エア――― 規格外の評を受ける事を許されたその宝具の真髄こそ、世界を切り裂く「対界」という力。 その最大出力、エヌマ・エリシュに飲み込まれた者に待つのは絶対の破滅。 何者も、どのような力も、この死の原典が紡ぎ出す世界では存在を許されない。 、、、 しかし、その絶対の神話を打ち砕いた者が――過去、一人だけ存在した。 否、それは過去と呼んでも良いものか。 時空を超え、幾多の運命の糸に手繰り寄せられ 人類最古の英雄王の眼前に立ちはだかった……… かの者こそブリテンの騎士王――アーサー王。 そう、今……滅びゆくセイバーの胸に灯る熱き光。 どうして忘れていたのだろう…… 何故、記憶の底に沈んでいたのだろう…… ガチャリ、ガチャリ、と――「ナイト」を縛る鎖が次々と外れていく。 騎士の声にならぬ叫びをまるで世界が聞き届けてくれたかのように 「それ」は確かにセイバーの中にあった。 灯る一条の光は温かく――何よりも大きな存在感を伴って、そこに在ろうと輝きを増す。 全てを消し去る地獄の中で天上天下に唯一存在を許される開闢の星・ギルガメッシュ。 だが、長きに渡る星の記憶の中でセイバーだけが―――その隣に立つ事を許された。 ――― EXランクに拮抗するEXランク ――― 規格外の前に立ち塞がる規格外。 少女の体内でドクンと脈打ち、静かに始動を始めるそれは――― ――― アーサー王が最終宝具 ――― ……死なせない かつての友の剣で打ちのめされ、心身ともに砕かれた。 ……貴方を決して死なせない 己が存在そのものと言える聖剣を完全に打ち破られた。 ……そして英雄王 友を傷つけられ、今―――目の前で死に至らしめようとしている。 ……貴様には絶対に負けない!! ギルガメッシュの、セイバーにのみ的を絞った執拗な攻撃。 それは裏を返せば知っていたから―― 男がかつて、全力でぶつかり競った唯一の友。 この目の前の女が、あるいはそれに並び兼ねない「もの」を持っているから。 ボロボロに嬲られ蹂躙され、地に叩きつけられ、泥に塗れて伏せようとも この騎士王が決して屈服しない事を知っていたから。 この方向感覚すら狂った断層の中で――― 「アーチャー…」 セイバーはありったけの思いを込めて叫ぶ。 「たとえ貴様が、世界の全てを手にするほどに強大でもッ――!!!」 魂すら揺さぶる絶叫。 「決してその手の届かぬものがあると知れッッッッッ!!!!」 そう、音すら死んだ世界にてセイバーは確かに叫んだ。 彼女の内から漏れる小さな光がその輝きを増し、騎士を取り巻くような大きな破光を伴って―― それは一つのカタチとして現界しようとしている! 少女の中心にゆるりと回転しながら現れる 目を覆うばかりに光を放つ、それは―――鞘。 右手に傷つき息絶えようとしている魔導士をしかと抱き寄せ 左手に胎動する自らの宝具を翳し……騎士はその鞘の真名を叫ぶ! 渾身で、喉が潰れかねないほどに叫ぶ、万世不当のその力こそ、即ち――― 「――― アヴァロンッッッッッ!!!! ―――」 万感の想いを込めた叫びを「世界」は確かに聞き届ける! 死で彩られた地獄の上に新たなる世界が誕生する! この死と滅びに満ちた空間ですら「ソレ」だけは否定出来ない! 五つの魔法すら届かぬ絶対の領域。 アーサー王が死後、辿り着くとされる、決して届かぬ光の大地。 ――― 遥か遠き理想郷 ――― それが今、ここに具現化するのだった――― ―――――― 無重力の空間を彷徨う―――そんな感覚が彼女を支配する。 肉体の檻から抜け出した魂魄が現世を彷徨うとはこういう事か。 高町なのはは――――死んだ 齢にして20年。 抗い続け、飛び続け、戦い続けた生涯の果ての光景を今、彼女はその目に映す。 ぼんやりと視界に映った景観はこの世のものとは思えない。 周囲を囲む傷んだ橙色の天井と大地は、そこにありながら決して手の届かない所にある。 そして中央には天地を分ける漆黒の裂け目があった。 それはまさに地獄のような光景。 だが、そんな中にあって――― 今、自分を取り巻く大気だけが何か違っていた。 感じるのは安らぎ。温もり。優しさ。 地獄に似つかわしくない、まるで包み込むような柔らかな空気。 地獄に落ちた人間がこんな安らぎを感じる事など有り得ない。 だからここが天国なのか地獄なのか、彼女には分からない。 気だるげな意識は彼女のカミソリのような思考をほとんど停止してしまっている。 でもきっと、ここは天国だ。 ひたすらに誰かを救うために頑張った。 自分を犠牲にして誰かのために飛び続けた。 そんな彼女が地獄に落ちるはずがない。 だって彼女の霞む視界には……一人の天使がいたのだから。 風になびく金の髪に綺麗な薄緑の瞳。 人の身に到底纏う事の出来ない神々しい光を称えて 金髪の天使は彼女……高町なのはを抱いている。 とても心地良かった。 とはいえ、自分を抱く天使の腕の手甲の固さだけが 後頭部の骨と擦れ合い、不快といえば不快だったが…… その銀の甲冑を着た――騎士のような様相の天使が 必死で何事か叫んでいるのを、なのはは混濁した意識の中で――― 「あ…………」 否、その意識をゆっくりと覚醒させていた。 瞳孔の開き変えた双眸に再び光が灯り 閉じかけた瞼をゆっくりと開けて その身を起こそうとして―――全身を襲う猛烈な激痛に顔をしかめる。 「うッッッ…………痛ぅ…」 だが、痛みがあるという事は―――自分はまだ生きているという事で… 「……………私……生きてるの?」 その事実を、咄嗟に受け止められない高町なのはである。 まだ生きている…? そんな筈はなかった。 命を取り留められるような傷では到底なかったはずだ。 その耳は確かに――自身の体が砕ける音を、内蔵の潰れる音を聞いた。 だが目の前にいる騎士は決して、自分の脳内で再生された幻ではなく現実のものだ。 自身も傷だらけの体で、瀕死の自分に必死に呼びかけていた小さな少女。 「ナノハ…………」 意識を取り戻した魔導士を見て少女が破顔する。 ギルガメッシュの放つ最大の攻撃。 エヌマエリシュ――天地乖離の地獄の空間の中で…… 「もう……大丈夫です。 危ない所でしたが――それが貴方の傷を癒してくれる。」 そう、二人は―――何とか生き残っていた。 見ればなのはの胸の上 目を覆うばかりの輝きを放つ白き鞘が浮かんでいる。 魔導士には何が起こったのかまるで理解出来ない。 出来ないが、どうやらこの鞘―――恐らくはこれにより、一命を取り留めたのは間違いないようだ。 今の高町なのはに知る由もないが、これこそ聖剣の鞘の加護。 エクスカリバーの真の力――― アーサー王の無敗の伝説を打ち立てたのがその刀身であるのなら、この鞘は王の不死の伝説を担うものであった。 外部からの脅威を完全に遮断し、命に届くほどの傷をたちどころに治すこの鞘によって ミッドのどのような回復魔法ですら手遅れだと思われた取り返しのつかない傷がみるみるうちに塞がっていく。 視界が幾分回復してきたなのはが自分を見下ろしてくる騎士の顔をまじまじと見る。 そのセイバーの目元は―――赤く腫れていた。 「もしかして………泣いてくれてたの?」 「―――――、は?」 魔導士のいきなりの問いに完全に不意をつかれた少女である。 しばらくポカンとした後――― 少女の頬が唐突にカァ、と……淡いピンク色に染まる。 「―――傷の、加減でしょう……」 ツイ、と顔を背けるセイバー。 最強の騎士のそんな可愛らしい様子を見てクス、――と笑いを含んでしまうなのは。 「………はは。 さっきとあべこべだね」 完全に駄目かと思った。 その死の淵から拾い上げてくれた騎士に対し―― 「ありがとう……」 なのはは千の思いを込めて感謝の言葉を送る。 「…………」 今更の事だ。 先の魔導士の言葉通り、さっきはこちらが助けてもらった。 互いに危機が迫った時は双方、命を賭してそれを守る。 仲間として戦友として当然の事をやっているに過ぎない。 心の底からそう考えている騎士と魔導士だからこそ――出会って間もないながらも二人は最高のパートナーであったのだ。 「それにしても……」 改めて周囲を見る魔導士。 未だ周りは凄まじい光景が広がっていた。 「つくづく、しぶといよね……私達。」 セイバーに助け起こされ、何とか立ち上がったなのはが苦笑交じりに呟く。 「む………」 「凄く長い時間、戦ってる気がする。 これだけ粘られると、相手する方は疲れちゃうよね……」 「確かに――サーヴァント戦において、ここまでの長丁場になるケースは珍しい。」 「それ、セイバーさんの場合 すぐに相手を倒しちゃうからじゃないかな…?」 「いえ。私はこの通り、剣しか取り得が無い者です。 どちらかというと接戦になる事が多いのですが――」 「スゴイね……貴方と互角に打ち合える人なんているんだ…」 「………」 「………」 程なく二人の間に沈黙が流れる。 だがそれは言葉を出しあぐねているのではなく 互いに考えている事が分かるから―― 「そろそろ―――反撃しよっか…?」 ビリっと空気が震えた。 沈黙を破ったのはなのは。 決意の篭った眼差し。 短いながらも、その言葉の意味を履き違えるセイバーではない。 「私も……次で最後にするつもりでした」 フ、と不適に笑うセイバー。 それは奇しくも第5次の再現。 攻防全てに隙の無いあの最強の英霊。 その彼の、唯一にして決定的となる隙が出来るのは―― ――― エアの発動後 ――― ゆっくりとその身を起こす騎士王。 彼女の銀の鎧が――光の粒子となって消えていく。 鎧に残った魔力すら聖剣に集め、黄金に光る剣を掲げた少女が悠然と立つ。 その横、白い法衣をはためかせ、肩を並べて立つは無敵のエース高町なのは。 「次がファイナルショット……もうたいして大きいのは撃てないけれど それでも手数が多い方が成功する確率は高くなる…」 セイバーが一瞬、戸惑った表情を見せるが―――もはや詮無い事だ。 戦士として認め合った彼女たち。 この全てが決まる局面にて、肩を並べて戦う友として 危険だから控えていろ、などと口が裂けても言えるはずがない。 「最後までやらせて……セイバーさん」 「はい―――勝ちましょう……ナノハ!」 空間の裂け目のその向こう――― 未だ強大な姿にて佇んでいるであろう黄金の王に向けて二人は気勢を飛ばす。 「生き残ろう……セイバーさん!」 右構えのセイバーと左構えのなのは。 肩を寄せ合い、並んで構える。 その杖と剣の先が、コツンと交わった時――― 二人の戦意が、闘志が、不屈の心が――― 何者をも貫く……最強を冠する英雄王をも打破する矛となる! ――― その瞬間が近づいてくる ――― 結末は、戦いを仕組んだ盤上の神々ですら分からない。 誰もが予想だにしなかったその終局――― 今………全てが決まろうとしていた。
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この順位表の内容は各作品・曲のページに反映させないようにお願いします。 順位 曲名 ゲーム名 機種 票数 順位平均 2648 メインテーマ ArcheAge PC 1 2 2648 アトルムドラゴン AZEL -パンツァードラグーンRPG- SS 1 2 2648 Lift Us High beatmaniaIIDX26 Rootage AC 1 2 2648 開きたまえ!Next stAge! beatmaniaIIDX27 HEROIC VERSE AC 1 2 2648 Silent Howling Bloodstained Curse of the Moon 3DS,NS,PS4,PSV,Xbox1,PC 1 2 2648 I (rain) BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣 PS4,PSV 1 2 2648 Inherit the Stars DAEMON X MACHINA NS,PC 1 2 2648 MAX360 Dance Dance Revolution A AC 1 2 2648 ΔMAX Dance Dance Revolution Universe 3 360 1 2 2648 Memory of Skyblue Deemo iOS,And,PSV 1 2 2648 Suspenseful Third Day Deemo iOS,And,PSV 1 2 2648 Ultema The Nice Body -arrange- DISSIDIA FINAL FANTASY(AC) AC 1 2 2648 Groundhog (Beat Juggle) DJ Hero PS2,PS3,Wii,360 1 2 2648 survant_extra(caster, extra life with anyone she wants) Fate/EXTRA PSP 1 2 2648 Fairy Wreath FLOWERS -Le volume sur hiver- PC,PSV 1 2 2648 伝説の宮殿 -GAIAPOLIS GAIAPOLIS ~黄金鷹の剣~ AC 1 2 2648 From Olympus Hades PC 1 2 2648 Epilogue Halo Reach 360 1 2 2648 Solums True Guardian HEARTBEAT PC 1 2 2648 Dissociative Identity Killer7 GC,PS2 1 2 2648 techno syndrome Mortal Kombat 11 PC 1 2 2648 Comet Coaster Muse Dash iOS,And,NS,PC 1 2 2648 Skyflare!!!! MÚSECA 1+1/2 AC 1 2 2648 夜光燈 Omegaの視界 PC 1 2 2648 Main Theme Ori and the Will of the Wisps PC,Xbox1,NS 1 2 2648 Line of Battle OZ -オズ- PS2 1 2 2648 Liberation (La Muerte de Papo) Papo Yo PC 1 2 2648 Calling polytone iOS,And 1 2 2648 You Will Burn Redout PC 1 2 2648 All or None -Piano- Remember11 -the age of infinity- PS2 1 2 2648 Island Door (Paranesian Circle) RUINER PS4 1 2 2648 あすいろ恋模様 SHOW BY ROCK!! iOS,And 1 2 2648 鳴動 SHOW BY ROCK!! Fes A Live iOS,And 1 2 2648 Lasting Moment Summer Pockets PC 1 2 2648 バトル4;神竜の誇り VenusBlood -Lagoon- PC 1 2 2648 VirtuaVerse VirtuaVerse PC 1 2 2648 Blooming Dream WISH PC 1 2 2648 Garden Of The Cosmos Wonderland Wars AC 1 2 2648 The Sea Has Returned ZeroRanger PC 1 2 2648 Normal02 アークナイツ iOS,And 1 2 2648 DREAM アイドルマスター ワンフォーオール PS3 1 2 2648 When Horns Resound アサシンクリード ヴァルハラ PS5,XBX,PC 1 2 2648 手折られし祈り アナザーエデン 時空を超える猫 iOS,And 1 2 2648 コトダマ紬ぐ未来 アマツツミ PC 1 2 2648 sHARD GEAR アリス・ギア・アイギス iOS,And 1 2 2648 WALTZ FOR GRACE イースIX -Monstrum NOX- PS4 1 2 2648 ERODED VALLEY イースVIII -Lacrimosa of DANA- PSV 1 2 2648 天空の檻 [Heaven s prison] イビルガールズパーティー PC 1 2 2648 恋のADV ウルトラボックス6号 PCECD 1 2 2648 Battle for Farbanti エースコンバット7 スカイズ・アンノウン PS4,Xbox1,PC 1 2 2648 Drag Racer エースコンバット7 スカイズ・アンノウン PS4,Xbox1,PC 1 2 2648 凄まじい重圧 エスプガルーダ AC 1 2 2648 Descend エスプガルーダII ~覚聖せよ。生まれし第三の輝石~ AC,360 1 2 2648 明日の風を掴むため... エリーのアトリエ ~ザールブルグの錬金術士2~ PS 1 2 2648 Engage えれくと! PC 1 2 2648 Lifting Shadows Off the Fate エンドオブエタニティ PS3,360 1 2 2648 メインテーマ おいでよ どうぶつの森 NDS 1 2 2648 名声を極めし者 オクトパストラベラー 大陸の覇者 iOS,And 1 2 2648 LOVING TRIP オトメ*ドメイン PC 1 2 2648 通常戦闘 ガールズ・ブック・メイカー 君が描く物語 PC 1 2 2648 不和の門ボス戦 かくりよの門 PC 1 2 2648 社員たちとの日常 かんぱに☆がーるず PC 1 2 2648 惑星クバーサボス (ジャンプ結果) がんばれゴエモン きらきら道中 僕がダンサーになった理由 SFC 1 2 2648 広い空の下で キミへ贈る、ソラの花 PC 1 2 2648 Battle Tough Competition on the World Stage キャプテン翼 RISE OF NEW CHAMPIONS PS4,NS 1 2 2648 フォーチュン・カラット キラッとプリ☆チャン AC 1 2 2648 CALLING -KINGDOM MIX- キングダムハーツ 3D[ドリーム ドロップ ディスタンス] 3DS 1 2 2648 響命クロスディライブ クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ And,iOS,Kindle 1 2 2648 Existence グランブルーファンタジー PC 1 2 2648 ディフェンド・オーダー -攻勢防禦- グランブルーファンタジー PC 1 2 2648 時の草原 ホーム・ワールド クロノ・クロス PS 1 2 2648 ボス戦闘Ⅲ ケイオスリングスIII PSV 1 2 2648 Each Promise ザ・キング・オブ・ファイターズXIII AC,PS3,360,PC 1 2 2648 近畿BGM サクラ革命 ~華咲く乙女たち~ iOS,And 1 2 2648 たびのはじまり サバクのネズミ団! 3DS,NS,PS4,PC 1 2 2648 Calling シークレットゲーム -KILLER QUEEN- PC,PS2,PSP 1 2 2648 LastPandemic シェルノサージュ ~失われた星へ捧ぐ詩~ PSV 1 2 2648 Quell-]{ein te hyme}; シェルノサージュ ~失われた星へ捧ぐ詩~ PSV 1 2 2648 淡色 ジャックジャンヌ NS 1 2 2648 ヨースター スーパーマリオギャラクシー2 Wii 1 2 2648 boss スカイハイクロノスエンドレス PC 1 2 2648 冥闇ヲ割ル光 ステラグロウ 3DS 1 2 2648 Give Me All Your Love すばらしきこのせかい It s a Wonderful World NDS 1 2 2648 海と炎の絆 ゼノギアス PS 1 2 2648 シュルクとフィオルン ゼノブレイド Wii 1 2 2648 Battle in the Skies Above ゼノブレイド2 NS 1 2 2648 故郷/夜 ゼノブレイド2 NS 1 2 2648 MONOX ゼノブレイドクロス WiiU 1 2 2648 ロックビルの神殿(表) ゼルダの伝説 ムジュラの仮面 N64 1 2 2648 ガノン最終戦 ゼルダの伝説 時のオカリナ N64 1 2 2648 英傑リーバルのテーマ ゼルダ無双 厄災の黙示録 NS 1 2 2648 END OF THE WORLD ソニック・ザ・ヘッジホッグ PS3,360 1 2 2648 HYDROCITY ZONE ACT2 ソニック・ザ・ヘッジホッグ3 MD,PC,SS,GC,PS2,Xbox,360 1 2 2648 駆け抜ける青春(競技中BGM 3) ダウンタウン熱血行進曲 それゆけ大運動会 FC 1 2 2648 中ボスのテーマ ダウンタウン熱血物語 FC 1 2 2648 はたらきものね♪ でじこミュニケーション2 打倒!ブラックゲマゲマ団 GBA 1 2 2648 Hunting デジタルデビルサーガ アバタールチューナー PS2 1 2 2648 Happy テトリス CDi 1 2 2648 最後の決戦 テニスの王子様 CARD HUNTER PS2 1 2 2648 新たなる戦い デビルサマナー 葛葉ライドウ対アバドン王 PS2 1 2 2648 Legacy (DMC5 Main Theme) デビルメイクライ5 PS4,Xbox1,PC 1 2 2648 Roar, Roar, Roar!! デビルメイクライ5 PS4,Xbox1,PC 1 2 2648 Breakthru ドーナドーナ いっしょにわるいことをしよう PC 1 2 2648 ほこら ドラゴンクエストIII そして伝説へ… FC 1 2 2648 君は勝てるか? ドラゴンクエストモンスターズ ジョーカー2 NDS 1 2 2648 リンスのテーマ(OS_11) とらぶるあうとさいだーず PC98 1 2 2648 Afterimage d automne ノスタルジア Op.2 AC 1 2 2648 Philsomia ノスタルジア Op.2 AC 1 2 2648 Eurasian Journey ノスタルジア Op.3 AC 1 2 2648 バーチャファイター2 バーチャファイター2 AC 1 2 2648 とことん対戦 パズルボブル3DX PS 1 2 2648 Frower Garden バニラ 審判の園 PC 1 2 2648 LIKE THE WIND パワードリフト AC 1 2 2648 負けるわけにはいかない! パワポケダッシュ GBA 1 2 2648 勝利 ファイナルファンタジー FC 1 2 2648 決戦 FFRK Ver. arrange from FFVI ファイナルファンタジー レコードキーパー iOS,And 1 2 2648 大逆 ファイナルファンタジーXIV 漆黒のヴィランズ PS4,PC 1 2 2648 指数崩壊~機構城アレキサンダー 天動編~ ファイナルファンタジーXIV 蒼天のイシュガルド PS3,PS4,PC 1 2 2648 帰るべき場所 ~Theme of EPISODE PROMPTO~ ファイナルファンタジーXV PS4,Xbox1 1 2 2648 Resonant Defensive ファンタシースターオンライン2 PC,PSV,PS4 1 2 2648 crescent moon フリー楽曲 - 1 2 2648 Dark Dust Dispatcher フリー楽曲 - 1 2 2648 EMBLEM BATTLE フリー楽曲 - 1 2 2648 Moment フリー楽曲 - 1 2 2648 白き牙、紅き翼 フリー楽曲 - 1 2 2648 霧の中の乙女 フリー楽曲 - 1 2 2648 Call Me Darling! プリンセスコネクト!Re Dive iOS,And,PC 1 2 2648 森の静寂 ブレイブリーデフォルト フライング・フェアリー 3DS 1 2 2648 暴風をも従える術とは航海の業 ブレイブリーデフォルトⅡ NS 1 2 2648 ちいさな旅立ち ブレス オブ ファイアV ドラゴンクォーター PS2 1 2 2648 ゼノックス戦 フロンティアストーリーズ GBA 1 2 2648 カミさまとのバトル ペーパーマリオ オリガミキング NS 1 2 2648 大海原 探索中 ペーパーマリオ オリガミキング NS 1 2 2648 対カゲの女王戦3 ペーパーマリオRPG GC 1 2 2648 Let s Dance, Boys! ベヨネッタ 360,PS3 1 2 2648 Blooming Villain -Scramble ペルソナ5 スクランブル ザ ファントム ストライカーズ PS4,NS 1 2 2648 Addashi Desert ボクと魔王 PS2 1 2 2648 エイセツシティ ポケットモンスター X・Y 3DS 1 2 2648 戦闘!ルギア ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー NDS 1 2 2648 戦闘!マグマ団・アクア団 ポケットモンスター ルビー・サファイア・エメラルド GBA 1 2 2648 ふぶきのしま(きゅうじょたいメドレー) ポケモン不思議のダンジョン 時の探検隊・闇の探検隊・空の探検隊 NDS 1 2 2648 Reunion マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝 iOS,And,PC 1 2 2648 BGM 5 マジカルブロック キャラット PC98 1 2 2648 nuts! ミスタードリラー ドリルランド GC 1 2 2648 I/O ミスタードリラーG AC,PS 1 2 2648 フォカロル教官の戦術指南道場 メギド72 iOS,And 1 2 2648 全知不徳の怪物 メギド72 iOS,And 1 2 2648 ESCAPE -BEYOND BIG BOSS- メタルギア MSX2 1 2 2648 Infinite Loop メタルギアソリッド4 ガンズ オブ ザ パトリオット PS3 1 2 2648 The Waterfall メタルスラッグ7 NDS 1 2 2648 嵐の中に燃える命 モンスターハンターポータブル3rd PSP 1 2 2648 序盤の戦闘曲 モンスタープロレス PCE 1 2 2648 新たなる冒険の拠点 ライザのアトリエ2 ~失われた伝承と秘密の妖精~ PS5,PS4,NS,PC 1 2 2648 Live for Live ライブ・ア・ライブ SFC 1 2 2648 ukiha shopping mall ラジルギ AC,DC,GC,PS2,Wii 1 2 2648 雷嵐 ラストクラウディア iOS,And 1 2 2648 Hochdruckpumpe ランス03 リーザス陥落 PC 1 2 2648 本の見る夢 for リディー スール リディー スールのアトリエ ~不思議な絵画の錬金術士~ PSV,PS4 1 2 2648 A Place You Can Call Home リトルタウンヒーロー NS 1 2 2648 Penta = 第5部隊 レイディアントシルバーガン AC 1 2 2648 Suspicion レーシングラグーン PS 1 2 2648 クジンシーとの戦い ロマンシングサガ2 SFC 1 2 2648 ガンバレ組のテーマ れいちょに捧ぐ ワールズエンドクラブ iOS,NS 1 2 2648 メイン・テーマ ワルキューレの伝説 AC 1 2 2648 Fateful Confrontation 英雄伝説 空の軌跡 FC PC 1 2 2648 LAPIS 英雄伝説 創の軌跡 PS4 1 2 2648 レムリア船 黄金の太陽 失われし時代 GBA 1 2 2648 心、気持ち、一つ 屋根づたいの君へ PC 1 2 2648 Break the shell 仮面ライダー バトライド・ウォーII PS3 1 2 2648 Earthtasia -Requested from Wishreal by "Loved-One" style- 拡張少女系トライナリー iOS,And 1 2 2648 新幻想 ~ New Fantasy 稀翁玉 PC 1 2 2648 Force 鬼畜王ランス PC 1 2 2648 Live Your Life 巨神と誓女 PC,And 1 2 2648 (カミサマ戦後半のBGM) 継ぐ者のコドク PC 1 2 2648 暗中模索に求めた光~トロヤ群の密林 幻想少女大戦コンプリートボックス PC 1 2 2648 M10 鋼鉄の咆哮2 ウォーシップガンナー PS2 1 2 2648 闘野 三國志IV PS 1 2 2648 PRIDE 実況パワフルプロ野球11 PS2 1 2 2648 Happy Birthday to... 終わる世界とバースデイ PC,PSV 1 2 2648 JUDGEMENT ~phase3 消滅都市0. iOS,And 1 2 2648 Song of Joy 消滅都市2 iOS,And 1 2 2648 エンディング 上海 PCE 1 2 2648 逃亡戦 Escape from Hell 真・三國無双6 PS3,PC 1 2 2648 エンディング 真・女神転生 SFC 1 2 2648 真冬と新春 雀魂 -じゃんたま- PC,iOS,And 1 2 2648 戦艦ハルバード 甲板 星のカービィ スーパーデラックス SFC 1 2 2648 ずっと、君を見ていると。 星のカービィ スターアライズ NS 1 2 2648 忘らるる閃光のライトニング 星のカービィ スターアライズ NS 1 2 2648 回る光はプラネット 星のカービィ ロボボプラネット 3DS 1 2 2648 3-4ほか 星のカービィ 参上! ドロッチェ団 NDS 1 2 2648 白黒(ゲーム・ボーイ)面の平地の面 星のカービィ 夢の泉の物語 FC 1 2 2648 リップルフィールド 星のカービィ3 SFC 1 2 2648 Rolling Cradle 聖剣伝説3 TRIALS of MANA PS4,NS,PC 1 2 2648 雪花 雪花 PC 1 2 2648 紡ぎ-Rhapsody- 戦姫絶唱シンフォギアXD UNLIMITED iOS,And 1 2 2648 キーラ・ダーズ 大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL NS 1 2 2648 突撃せよ 地球防衛軍5 PS4,PC 1 2 2648 獣たる鼓動 虫姫さま ふたり AC,360 1 2 2648 SHE S LOST CONTORL(S.L.C.) 電脳戦機バーチャロン AC 1 2 2648 3 6面BGM 怒首領蜂 AC 1 2 2648 輝かしき弱肉強食の掟 東方鬼形獣 ~ Wily Beast and Weakest Creature. PC 1 2 2648 人外の宴~酣~ 東方幻想魔録~祭~ PC 1 2 2648 千紫万紅の百鬼夜行 東方真珠島 ~ Hollow Song of Birds. PC 1 2 2648 Sailor of Time 東方夢時空 ~ Phantasmagoria of Dim.Dream. PC98 1 2 2648 東方妖々夢 ~ Ancient Temple 東方妖々夢 ~ Perfect Cherry Blossom. PC 1 2 2648 闘神の館 闘神都市II PC98 1 2 2648 The Hunt 熱血硬派くにおくん外伝 River City Girls NS,PS4,Xbox1,PC 1 2 2648 星を識る少女 百奇繚乱の館 PC 1 2 2648 UNLIMITED HEART 風のクロノア door to phantomile PS,Wii 1 2 2648 救世念フ文士タレ(封蔵書ステージ) 文豪とアルケミスト PC 1 2 2648 テンドナルド 魔天童子 FC 1 2 2648 ユメクイとの戦い 夢王国と眠れる100人の王子様 iOS,And 1 2 2648 ASH TO ASH Burst 無限のフロンティアEXCEED スーパーロボット大戦OGサーガ NDS 1 2 2648 A night come s!(hardrock ver.) 夜が来る! -Square of the Moon- PC 1 2 2648 挑戦 薬と魔法のミーリエル PC 1 2 2648 深い徒雲の下で ~ Mow_Down! 連縁蛇叢釼 ~ Earthen Miraculous Sword PC 1 2 2648 金殿玉楼・吽 朧村正 Wii 1 2 2865 Punk (Remake) AFTERLOST - 消滅都市 iOS,And 1 3 2865 Endless Echo 20XX PC,PS4,NS,Xbox1 1 3 2865 オープニング 7 ~モールモースの騎兵隊~ PS2 1 3 2865 Bright Waters Aquaria PC 1 3 2865 VECTOЯ Arcaea iOS,And 1 3 2865 Aランクサンダーの歌 Aランクサンダー 誕生編 MCD 1 3 2865 嘆きの樹 beatmaniaIIDX13 DistorteD AC 1 3 2865 Fly Above beatmaniaIIDX16 EMPRESS AC 1 3 2865 AFRO KNUCKLE beatmaniaIIDX22 PENDUAL AC 1 3 2865 Mare Nectaris beatmaniaIIDX24 SINOBUZ AC 1 3 2865 Level One beatmaniaIIDX26 Rootage AC 1 3 2865 THE F∀UST beatmaniaIIDX27 HEROIC VERSE AC 1 3 2865 Cleric Beast Bloodborne PS4 1 3 2865 The Count of Darkness Bullet Heaven 2 PC 1 3 2865 First Steps Celeste PC,PS4,Xbox1,NS 1 3 2865 Rock Solid Conker s Bad Fur Day N64 1 3 2865 戦いの唄 Cresteaju PC,NS 1 3 2865 One Last Trial CrossCode PC 1 3 2865 Shell(Vocals) DAEMON X MACHINA NS,PC 1 3 2865 Dance Dance Revolution Dance Dance Revolution EXTREME AC,PS2 1 3 2865 Kara Main Theme Detroit Become Human PS4 1 3 2865 Qualle Ever17 -the out of infinity- DC 1 3 2865 Winter Fallympics Fall Guys Ultimate Knockout PC,PS4 1 3 2865 Train Train Fallout 4 PC,PS4,Xbox1 1 3 2865 モノローグ FLOWERS -Le volume sur printemps- PC,PSV 1 3 2865 the city must survive FrostPunk PC 1 3 2865 LINK LINK FEVER!!! GROOVE COASTER 3 LINK FEVER AC 1 3 2865 Last Words Hades PC 1 3 2865 黄道 I.Q Intelligent Qube PS 1 3 2865 残響楽団のねじれ戦 Library of Ruina PC 1 3 2865 哲学の階接待 Library of Ruina PC 1 3 2865 LONG TALL EYELASH LSD PS 1 3 2865 Garakuta Doll Play maimai GreeN AC 1 3 2865 PvP Battle Monster Sanctuary PC 1 3 2865 Berry Go!! Muse Dash iOS,And,NS,PC 1 3 2865 eXtridia MÚSECA 1+1/2 AC 1 3 2865 闇の果てにあるモノ Nepheshel PC 1 3 2865 AgitO Omegaの視界 PC 1 3 2865 My Burden Is Light OneShot PC 1 3 2865 Luma Pools Ori and the Will of the Wisps PC,Xbox1,NS 1 3 2865 Travelers Outer Wilds PC 1 3 2865 Stone Angel Phoenotopia awakening PC,NS,PS4 1 3 2865 Ergosphere pop n music 16 PARTY♪ AC 1 3 2865 fallen leaves REFLEC BEAT colette AC 1 3 2865 Counterfelt Mermaids Shantae Half-Genie Hero PC,PS4,PSV,WiiU,Xbox1 1 3 2865 The Twilight of Tomorrow Shovel Knight PC,WiiU,3DS 1 3 2865 Last confession SHRIFT PC 1 3 2865 For UltraPlayers SOUND VOLTEX II -infinite infection- AC 1 3 2865 KHAMEN BREAK -SDVX Infinity MashUp- SOUND VOLTEX II -infinite infection- AC 1 3 2865 Battery Full Splatoon2 NS 1 3 2865 FIRST ENCOUNTER SUPER E.D.F. SFC 1 3 2865 Distant Thunder The GG 忍 GG 1 3 2865 where are we going Tobu Tobu girl GB 1 3 2865 その手に剣を取れ! Battle8 Sword and Fate! VenusBlood -GAIA- PC 1 3 2865 Predestined Fate VVVVVV PC 1 3 2865 Moonlight Destiny(Vocal Ver.) WISH PC 1 3 2865 Tropic Trials Yooka-Laylee PC,PS4,Xbox,NS 1 3 2865 Act13 アークナイツ iOS,And 1 3 2865 誘いの花 ~ 夏 アーシャのアトリエ ~黄昏の大地の錬金術士~ PS3 1 3 2865 艦上LOYALTY アズールレーン iOS,And 1 3 2865 ROYAL SWORD OF LEGENDARY KING アリス・ギア・アイギス iOS,And 1 3 2865 EXEC_FLIP_FUSIONSPHERE/. アルトネリコ3 世界終焉の引鉄は少女の詩が弾く PS3 1 3 2865 遊戯奇譚~遡乃弐 アルトネリコ3 世界終焉の引鉄は少女の詩が弾く PS3 1 3 2865 バトル#58 イースIV The Dawn of Ys PCE 1 3 2865 YOU LL SEE OUT THE END OF THE TALES イースVIII -Lacrimosa of DANA- PSV 1 3 2865 Aci-L うみねこのなく頃に 散 PC 1 3 2865 Revelation エースコンバット3 エレクトロスフィア PS 1 3 2865 Homeward エースコンバット7 スカイズ・アンノウン PS4,Xbox1,PC 1 3 2865 対ボス戦 エッグモンスターHERO NDS 1 3 2865 Main BGM エンデューロレーサー AC 1 3 2865 リバーランド地方 オクトパストラベラー NS 1 3 2865 御伽噺 -Fable- おしのびさん ソラオの手裏剣ショット iOS,And 1 3 2865 月花 ~GEKKA~ オトカドール AC 1 3 2865 Titania オンゲキ AC 1 3 2865 VS.デデデ大王 カービィのきらきらきっず SFC 1 3 2865 デラーリン戦(ラストバトル) カエルの為に鐘は鳴る GB 1 3 2865 Bookmark カルドセプト セカンド エキスパンション PS2 1 3 2865 戦闘開始 かんぱに☆がーるず PC 1 3 2865 オニ127% がんばれゴエモン~でろでろ道中オバケてんこ盛り N64 1 3 2865 TAKE BACK ギャラクシーフォース(I・II) AC,SS,PS2,3DS 1 3 2865 SUPER CUTIE SUPER GIRL キラッとプリ☆チャン AC 1 3 2865 L Impeto Oscuro -Young Xehanort- キングダムハーツIII PS4,Xbox1 1 3 2865 REMINISCENT クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ And,iOS,Kindle 1 3 2865 乙女は咲き狂う クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ And,iOS,Kindle 1 3 2865 Peak クイズマジックアカデミー トーキョーグリモワール AC 1 3 2865 Get Closer グランツーリスモ4 PS2 1 3 2865 Peace and Quiet グランブルーファンタジー PC 1 3 2865 虹色オバケは泳げない ぐるみん PC 1 3 2865 夜空は奏でるだろう サクラノ詩 -櫻の森の上を舞う- PC 1 3 2865 AD戦BGM(ジェイルアイランドのテーマ) ジェイルアイランド 監獄島からの脱出 ***!☆♪** PC 1 3 2865 LAVA SHELTER シャドウ・ザ・ヘッジホッグ GC,PS2,Xbox 1 3 2865 激闘 ジルオール PS 1 3 2865 ちじょう スーパーマリオ ヨッシーアイランド SFC 1 3 2865 スターダストロード スーパーマリオギャラクシー Wii 1 3 2865 鎮-requiem- スーパーロボット大戦COMPACT3 WSC 1 3 2865 戦場にて スーパーロボット大戦V PS4,PSV,NS,PC 1 3 2865 Dam Buster ストライカーズ1945II AC 1 3 2865 サムデイ -Unplugged- すばらしきこのせかい -Final Remix- NS 1 3 2865 godsibb ゼノサーガ エピソードIII[ツァラトゥストラはかく語りき] PS2 1 3 2865 首都フォンス・マイム/夜 ゼノブレイド2 NS 1 3 2865 ハイラル平原メインテーマ ゼルダの伝説 時のオカリナ N64 1 3 2865 タルタル山脈 ゼルダの伝説 夢をみる島 GB 1 3 2865 Aquarium Park - Act 2 ソニック カラーズ Wii,NDS 1 3 2865 魔王 ダーククロニクル PS2 1 3 2865 ダンボール戦機メインテーマ ダンボール戦機 PSP 1 3 2865 Absolutely Beautiful ディズニー ツイステッドワンダーランド iOS,And 1 3 2865 猛りの滄我 テイルズオブレジェンディア PS2 1 3 2865 Sweet Dream テトリス CDi 1 3 2865 Silent Siren デビルメイクライ5 PS4,Xbox1,PC 1 3 2865 Voltaic Black Knight デビルメイクライ5 PS4,Xbox1,PC 1 3 2865 Your Legacy デビルメイクライ5 スペシャルエディション PS4,Xbox1,PC 1 3 2865 かごの中の小鳥 ときめきメモリアル PCECD 1 3 2865 Terminus トトリのアトリエ ~アーランドの錬金術士2~ PS3 1 3 2865 PM8 00 とびだせ どうぶつの森 3DS 1 3 2865 コーヤコーヤ星 ドラえもん FC 1 3 2865 超ベジット ドラゴンボールZ ドッカンバトル iOS,And 1 3 2865 B路スタッフロール「尽きる」 ドラッグオンドラグーン PS2 1 3 2865 オープニング・タイトルBGM ノイエス PS 1 3 2865 今あたしがつむぐ日々 ノーラと刻の工房 霧の森の魔女 NDS 1 3 2865 バルベリア・タンゴ ノスタルジア Op.3 AC 1 3 2865 Pray -Theme Song- バイオハザード5 PS3,360 1 3 2865 PAC STEP パックマン チャンピオンシップエディション2 PS4,Xbox1,PC 1 3 2865 Top 10 Theme パックマン99 NS 1 3 2865 死闘の先に バディミッション BOND NS 1 3 2865 幻想楼閣 ハピメア -Fragmentation Dream- PC 1 3 2865 メイン・テーマ ファイナルファンタジー FC 1 3 2865 バトル2 FFRK Ver. arrange from FFIX ファイナルファンタジー レコードキーパー iOS,And 1 3 2865 想い出のオルゴール ファイナルファンタジーV SFC 1 3 2865 Don t be Afraid ファイナルファンタジーVIII PS 1 3 2865 Giselle ファタモルガーナの舘 PC 1 3 2865 Jazz Comedy フリー楽曲 - 1 3 2865 黒い涙と護るべき命と フリー楽曲 - 1 3 2865 Holy Passion Roses プリンセスコネクト!Re Dive iOS,And,PC 1 3 2865 山神様 プリンセスコネクト!Re Dive iOS,And,PC 1 3 2865 Colorful Mess ブルーアーカイブ iOS,And 1 3 2865 大罪の魔女戦BGM ふるーつふるきゅーと! iOS,And,PC 1 3 2865 光の戦士達へ ブレイブリーデフォルトⅡ NS 1 3 2865 失意に濡れども花開く王女の矜持 ブレイブリーデフォルトⅡ NS 1 3 2865 深雪の国 ブレイブリーデフォルトⅡ NS 1 3 2865 喪失と忘却を越え希望へ向かう譚詩曲 ブレイブリーデフォルトⅡ NS 1 3 2865 覇道の影 ブレイブリーデフォルトⅡ NS 1 3 2865 携帯恋話 セカイver. プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク iOS,And 1 3 2865 A New World Fool ペルソナ4 PS2 1 3 2865 Colors Flying High -opening movie version- ペルソナ5 ザ・ロイヤル PS4 1 3 2865 MAZE OF LIFE ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス 3DS 1 3 2865 じてんしゃ ポケットモンスター X・Y 3DS 1 3 2865 戦闘!ユウキ・ハルカ ポケットモンスター オメガルビー・アルファサファイア 3DS 1 3 2865 スカイアローブリッジ ポケットモンスター ブラック・ホワイト NDS 1 3 2865 あさひのなかで ポケモン不思議のダンジョン 空の探検隊 NDS 1 3 2865 ピエトロの旅立ち~インストゥルメンタル ポポローグ PS 1 3 2865 カーニバルチャレンジ マリオ ソニック AT リオオリンピック WiiU 1 3 2865 エンド オブ ザ アドベンチャー マリオ ルイージRPG4 ドリームアドベンチャー 3DS 1 3 2865 ラッキーマリオ、いってみよ~ マリオストーリー N64 1 3 2865 霧に舞う双月 メギド72 iOS,And 1 3 2865 Can t Say Goodbye To Yesterday メタルギアソリッド2 サンズ オブ リバティー PS2 1 3 2865 Burning Force(inspired by "I") メダロットS iOS,And 1 3 2865 在りし日々 メルクストーリア -癒術士と鈴のしらべ- iOS,And 1 3 2865 17/16 メルルのアトリエPlus ~アーランドの錬金術士3~ PS4,NS 1 3 2865 狩人の集う秘湯 モンスターハンターポータブル3rd PSP 1 3 2865 公式戦(グレードD・E) モンスターファーム2 PS 1 3 2865 秘密の隠れ家 ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~ NS 1 3 2865 POWERFUL ENEMY!! ラジアータストーリーズ PS2 1 3 2865 サイレント・ティアーズ ラストウィンドウ 真夜中の約束 NDS 1 3 2865 ラストダンジョン ラストクラウディア iOS,And 1 3 2865 作戦フェイズ ランス10 -決戦- PC 1 3 2865 魔軍との戦闘 ランスVI -ゼス崩壊- PC 1 3 2865 Nitro Mantra リッジレーサー6 360 1 3 2865 PENETRATION レイフォース AC 1 3 2865 Exh*Notes レイブレーサー AC 1 3 2865 STAFF ROLL ロックマン7 宿命の対決! SFC 1 3 2865 Blaze Heatnix Stage ロックマンX6 PS 1 3 2865 ホームBGM 春ver ワールドフリッパー iOS,And 1 3 2865 悪代官1のテーマ 悪代官 PS2 1 3 2865 十字架を胸に 悪魔城ドラキュラ THE ARCADE AC 1 3 2865 幻想大陸 ~A Fantasia~ 英雄*戦姫 PC,PS3,PSV 1 3 2865 百華繚乱~乱レ華~ 英雄*戦姫WW PC,And 1 3 2865 Pleasure Smile 英雄伝説 閃の軌跡IV -THE END OF SAGA- PS4 1 3 2865 七の相克 -EXCELLION KRIEG- 英雄伝説 閃の軌跡IV -THE END OF SAGA- PS4 1 3 2865 メロディー 押忍!戦え!応援団! NDS 1 3 2865 MAIN THEME 火の鳥 鳳凰編 MSX2 1 3 2865 決戦!北大西洋 艦隊これくしょん -艦これ- PC 1 3 2865 睦月型駆逐艦の戦い 艦隊これくしょん -艦これ- PC 1 3 2865 WONDERING HAZARD 巨神と誓女 PC,And 1 3 2865 誓いの謳 巨神と誓女 PC,And 1 3 2865 夕化粧 銀色 PC 1 3 2865 望郷 月姫 PC 1 3 2865 クロスアンカー・ムラサ~キャプテン・ムラサ 幻想少女大戦夢 PC 1 3 2865 明るい農村 幻想水滸伝III PS2 1 3 2865 Scarlet Tears 紅魔城伝説 緋色の交響曲 PC 1 3 2865 BOSS2 鋼鉄の咆哮 ウォーシップコマンダー PS2,PC 1 3 2865 E.N.K.A. 骨塵 PC98 1 3 2865 乱戦 斬~陽炎の時代~ PC98,X68k 1 3 2865 Shining Road 実況パワフルプロ野球14 PS2,Wii 1 3 2865 Hopeful Illusion 消滅都市 iOS,And 1 3 2865 暉映の戦場 信長の野望 天翔記 PS 1 3 2865 疾風の如く 信長の野望・大志 with パワーアップキット PC,PS4,NS 1 3 2865 ヘビーアームズステージ 新機動戦記ガンダムW ENDLESS DUEL SFC 1 3 2865 邪教の館 真・女神転生 SFC 1 3 2865 Battle - b1 真・女神転生IV 3DS 1 3 2865 CRESCENT MOON 水月~迷心~ PS2,DC 1 3 2865 戦場 討ち果て倒れる者 世界樹の迷宮III 星海の来訪者 NDS 1 3 2865 迷宮V 円環ノ原生林 世界樹の迷宮V 長き神話の果て 3DS 1 3 2865 ティンクル☆トラベラー 星のカービィ スターアライズ NS 1 3 2865 最終ボス 星のカービィ 夢の泉の物語 FC 1 3 2865 覇者 戦国無双 Chronicle 3DS 1 3 2865 クラリアス 閃鋼のクラリアス PC 1 3 2865 月世界航路 蒼き雷霆 ガンヴォルト 3DS,PC 1 3 2865 オープニング 大航海時代II SFC 1 3 2865 Guile Stage 大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL NS 1 3 2865 ファイアーエムブレム風花雪月 メインテーマ 大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL NS 1 3 2865 コーネリア 大乱闘スマッシュブラザーズX Wii 1 3 2865 王の愛は民のために 第2次スーパーロボット大戦Z 再世篇 PSP 1 3 2865 臨戦態勢_第二次・地球降下部隊篇(仮) 地球防衛軍5 PS4,PC 1 3 2865 黒人カーニバル 超兄貴 PCECD 1 3 2865 戦闘3(攻城戦) 天地を喰らうII 諸葛孔明伝 FC 1 3 2865 静 ―しずか― 天穂のサクナヒメ NS,PS4 1 3 2865 Do or Die 伝説のオウガバトル SFC 1 3 2865 一閃 刀使ノ巫女 刻みし一閃の燈火 iOS,And 1 3 2865 幻想郷 ~ Lotus Land Story 東方幻想郷 ~ Lotus Land Story. PC98 1 3 2865 ルーネイトエルフ 東方紅魔郷 ~ the Embodiment of Scarlet Devil. PC 1 3 2865 Sentence know 抜きゲーみたいな島に住んでる貧乳はどうすりゃいいですか? PC 1 3 2865 野心 百奇繚乱の館 PC 1 3 2865 THE TOWER OF BALUE 風のクロノア door to phantomile PS,Wii 1 3 2865 文豪とアルケミスト 文豪とアルケミスト PC 1 3 2865 Wave Battle 流星のロックマン2 NDS 1 3 2865 一番歌 龍が如く7 光と闇の行方 PS4 1 3 3091 Silver ice sheet 19XX -THE WAR AGAINST DESTINY- AC,NS 1 4 3091 Bit Shift Girl 8BIT MUSIC POWER FINAL FC 1 4 3091 街角の女 A.IV.EVOLUTION(A列車で行こうIV EVOLUTION) PS 1 4 3091 ~悲想~ AirRPG ~羽の還る場所~ PC 1 4 3091 Lights Beat Stomper iOS,And 1 4 3091 SWEET BREEZE beatmania ClubMIX AC 1 4 3091 Flash Back 90 s beatmaniaIIDX16 EMPRESS AC 1 4 3091 おおきなこえで beatmaniaIIDX18 Resort Anthem AC 1 4 3091 KILL EACH OTHER beatmaniaIIDX26 Rootage AC 1 4 3091 The end of my spiritually beatmaniaIIDX9th style AC 1 4 3091 すぐそばの彼方 BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣 PS4,PSV 1 4 3091 True break ~夜明け~ BREAKER PC 1 4 3091 servant_stay_night (archer, nobody knows him / the hero) Fate/EXTRA PSP 1 4 3091 害虫との死闘 Flower Knight Girl PC,iOS,And 1 4 3091 桔梗 Ghost Mayoker PC 1 4 3091 Time Attack GPライダー AC 1 4 3091 Not to lose htoL#NiQ PSV,PC 1 4 3091 Gibby Hylics PC 1 4 3091 Ignorance is bliss iS internal section PS 1 4 3091 DANCE ALL NIGHT jubeat saucer fulfill AC 1 4 3091 At First Sight Jump King PC 1 4 3091 Summer_01 LastOrigin iOS,And 1 4 3091 少年冒険家 Mabinogi PC 1 4 3091 If We Could Be Friends, MAD RAT DEAD PS4,NS 1 4 3091 Wily Capsule Mega Man Super Fighting Robot PC 1 4 3091 Smooth Criminal Michael Jackson s Moonwalker AC 1 4 3091 vs. DJ Subatomic Supernova (EDM Version) NO STRAIGHT ROADS NS,PS4,Xbox1,PC 1 4 3091 A Closer Understanding of the Past Ori and the Blind Forest Definitive Edition PC,Xbox1,NS 1 4 3091 エテリアと共に OZ -オズ- PS2 1 4 3091 Moonlight Ravine Phoenotopia awakening PC,NS,PS4 1 4 3091 時守唄 pop n music 19 TUNE STREET AC 1 4 3091 世界は一つの舞台 PROJECT X ZONE 2 BRAVE NEW WORLD 3DS 1 4 3091 ポップス RPGツクール4 PS 1 4 3091 リガ・ミリティア SDガンダム G NEXT SFC 1 4 3091 機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ月鋼編用 BGM04 SDガンダム ジージェネレーション クロスレイズ PS4,NS,PC 1 4 3091 心無い人形劇 SEQUEL colony PC 1 4 3091 The Vital Vitriol Shovel Knight PC,WiiU,3DS 1 4 3091 冥 Rockin SWING REMIX SOUND VOLTEX -BOOTH- AC 1 4 3091 Xronièr SOUND VOLTEX IV HEAVENLY HAVEN AC 1 4 3091 LoveWarrior STARLIKE PC 1 4 3091 SCRP_BossBattle_Neg Succubus Rhapsodia PC 1 4 3091 眩しさの中 Summer Pockets PC 1 4 3091 Trample on! Trample on "Schatten!!" ~かげふみのうた~ PC 1 4 3091 Gallant Girl"Sora yori Nagare,Hasiru Kaze"(ナナセ) UNDER NIGHT IN-BIRTH Exe Late AC 1 4 3091 Memory UNDERTALE PC 1 4 3091 Spear of Justice UNDERTALE PC 1 4 3091 Take my hand UNITIA 神託の使徒×終焉の女神 PC,iOS,And 1 4 3091 風とともに翔けよ~疾風の竜姫ピアサ~ VenusBlood -Lagoon- PC 1 4 3091 Restless Groves Vigil The Longest Night PC,NS 1 4 3091 Marshalling Braves Wonderland Wars AC 1 4 3091 戦闘 1 アークザラッド PS 1 4 3091 Mech Dinosaur アーマード・コアV PS3,360 1 4 3091 リフレクトサイン アイドルマスター シャイニーカラーズ iOS,And,PC 1 4 3091 Brand new! アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ iOS,And,PC 1 4 3091 劇場~控え室~(夕方) アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ iOS,And 1 4 3091 アオイトリ アオイトリ PC 1 4 3091 WISHNESS アズールレーン iOS,And 1 4 3091 After Burner アフターバーナーII AC 1 4 3091 PALACE OF DESTRUCTION イース PC88 1 4 3091 SUBTERRANEAN CANAL イースII PC88 1 4 3091 太陽の神殿 イースIV The Dawn of Ys PCE 1 4 3091 RED LINE -021- イースVIII -Lacrimosa of DANA- PSV 1 4 3091 Make debut! ウマ娘 プリティーダービー iOS,And,PC 1 4 3091 エンドレスナイン うみねこのなく頃に PC 1 4 3091 Got To Move! ウンジャマ・ラミー PS 1 4 3091 Ace combat エースコンバット PS 1 4 3091 Don t Panic エスカ ロジーのアトリエ ~黄昏の空の錬金術士~ PS3 1 4 3091 フィールド エフェラ アンド ジリオラ ジ・エンブレム フロム ダークネス PCECD 1 4 3091 天空の城 オセロワールド SFC 1 4 3091 Don t Fight The Music オンゲキ R.E.D. AC 1 4 3091 Crowd-Close-Confined ガレリアの地下迷宮と魔女ノ旅団 PS4,PSV 1 4 3091 オニオニランデブー がんばれゴエモン~ネオ桃山幕府のおどり~ N64 1 4 3091 からくり忍者サスケのテーマ がんばれゴエモン2~奇天烈将軍マッギネス~ SFC 1 4 3091 STILL IN THE DARK ギルティギアX DC 1 4 3091 Dearly Beloved キングダムハーツ PS2 1 4 3091 Sora キングダムハーツII PS2 1 4 3091 駆ける武者巫女 クイーンズブレイド スパイラルカオス PSP 1 4 3091 Fighting Back グランナイツヒストリー PSP 1 4 3091 不可思議オバケ卵 ぐるみん PC 1 4 3091 クロスハーミット クロスハーミット~最果ての守護者 PC 1 4 3091 龍神 クロノ・クロス PS 1 4 3091 ワクワクけものバトル! けものフレンズ3 iOS,And,PC 1 4 3091 Cutting Edge ザ・キング・オブ・ファイターズ2002 アンリミテッド・マッチ PS2,AC 1 4 3091 Roman サガフロンティア2 PS 1 4 3091 自然の息吹 サムライスピリッツ 斬紅郎無双剣 AC,NG 1 4 3091 Lakeside Mystery シールオンライン PC 1 4 3091 ハナーンの洞窟 スーパーペーパーマリオ Wii 1 4 3091 ネコマンマウンテン スーパーマリオ 3Dワールド+フューリーワールド NS 1 4 3091 Guardian Angel スーパーロボット大戦J GBA 1 4 3091 First Encount スグリ PC 1 4 3091 通常戦闘 スラップスティック SFC 1 4 3091 導師 ミィズ・キョシア ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド NS,WiiU 1 4 3091 ゼルダ無双 厄災の黙示録・メインテーマ ゼルダ無双 厄災の黙示録 NS 1 4 3091 旋風の射手リーバル ゼルダ無双 厄災の黙示録 NS 1 4 3091 Scar/let ソードアート・オンライン アリシゼーション リコリス PS4 1 4 3091 Reach For The Stars ソニック カラーズ Wii,NDS 1 4 3091 Be Cool, Be Wild and Be Groovy ...for Icecap ソニックアドベンチャー DC 1 4 3091 リトル・ネオファイト ダークロード FC 1 4 3091 大決闘~最後の闘い~ ダウンタウン熱血物語 FC 1 4 3091 Syvalion Arrange MMIX ダライアスバースト PSP 1 4 3091 The Duel Tempest チェインクロニクル~絆の新大陸~ iOS,And 1 4 3091 Be Yourself! チョロQHG PS2 1 4 3091 スカラビア寮 ディズニー ツイステッドワンダーランド iOS,And 1 4 3091 Beat the angel テイルズオブシンフォニア GC 1 4 3091 Chant of Seraph ティンクル☆くるせいだーす PC 1 4 3091 Unwavering Bravery デビルメイクライ5 スペシャルエディション PS4,Xbox1,PC 1 4 3091 賑やかな一日を トトリのアトリエ ~アーランドの錬金術士2~ PS3 1 4 3091 未来のために戦う ドラゴンクエストX 5000年の旅路 遥かなる故郷へ Wii 1 4 3091 イニシエノウタ/贖罪 ニーア オートマタ PS4 1 4 3091 絶望Searching ニューダンガンロンパV3 みんなのコロシアイ新学期 PSV,PS4 1 4 3091 終点 ニンテンドウオールスター!大乱闘スマッシュブラザーズ N64 1 4 3091 Steel Python ノーモア★ヒーローズ Wii 1 4 3091 insist ノスタルジア Op.2 AC 1 4 3091 地上 ハーミィホッパーヘッド ~スクラップパニック~ PS 1 4 3091 Violent storm バテン・カイトス 終わらない翼と失われた海 GC 1 4 3091 宝石の妖精ルビーのテーマ パネルでポン SFC 1 4 3091 Sunny Day ビブリボン PS 1 4 3091 遠き道 ファイアーエムブレム 風花雪月 NS 1 4 3091 バトル1 ファイナルファンタジーIX PS 1 4 3091 Martial Law ファイナルファンタジーVIII PS 1 4 3091 嵐の前の静けさ ファイナルファンタジーX PS2 1 4 3091 輝ける蒼 ~希望の園エデン 覚醒編~ ファイナルファンタジーXIV 漆黒のヴィランズ PS4,PC 1 4 3091 雷光雷鳴 ~蛮神ラムウ討滅戦~ ファイナルファンタジーXIV 新生エオルゼア PS3,PS4,PC 1 4 3091 聞き込み ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者 NS 1 4 3091 【原初の闇】ゴモルス戦 ファンタシースターオンライン2 PC,PSV,PS4 1 4 3091 oo39_ys167 フリー楽曲 - 1 4 3091 The Jazz Piano フリー楽曲 - 1 4 3091 空中城ク・オル フレイ ~In magical adventure~ MSX2,MSXTR 1 4 3091 Ready Steady セカイver. プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク iOS,And 1 4 3091 プレイヤー戦闘(速攻) フロントミッション2 PS 1 4 3091 モード選択 プロ野球スピリッツ2015 PS3,PSV 1 4 3091 Character Select ベア・ナックルIV PC,NS,Xbox1,PS4 1 4 3091 おともだち ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス 3DS 1 4 3091 たった一つの言葉 ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス 3DS 1 4 3091 HigherBreath ボクと魔王 PS2 1 4 3091 テンカラットヒル ポケットモンスター サン・ムーン 3DS 1 4 3091 戦闘!トレーナー ポケットモンスター ブラック・ホワイト NDS 1 4 3091 戦い(VSジムリーダー) ポケットモンスター 赤・緑 GB 1 4 3091 ゴーレムボンバー戦 ボンバーマン ぱにっくボンバー PCECD 1 4 3091 俺の名はシュワルベだ マリーのアトリエ ~ザールブルグの錬金術士~ PS,SS,GBC,PC,DC,And,iOS 1 4 3091 ニンニンドージョー マリオカート ツアー iOS,And 1 4 3091 蒼き劍は黄昏を切り裂く ムラサキ劍 PC 1 4 3091 人魚と生まれかわり メギド72 iOS,And 1 4 3091 THEME OF TARA メタルギア MSX2 1 4 3091 Cadena メルルのアトリエ ~アーランドの錬金術士3~ PS3 1 4 3091 勇まし狩人 モンスターハンターライズ NS 1 4 3091 ded_ED ゆめ2っき PC 1 4 3091 スタッフロール ヨッシーのパネポン GB 1 4 3091 ポチのテーマ ヨッシーのパネポン GB 1 4 3091 MEDIOCRIS ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~ PS4,NS,PC 1 4 3091 Zako Battle ランス10 -決戦- PC 1 4 3091 LETHAL BURST! リーサルアプリケーション PC 1 4 3091 Awakening リッジレーサー7 PS3 1 4 3091 心のままに描いてく物語 リディー スールのアトリエ ~不思議な絵画の錬金術士~ PSV,PS4 1 4 3091 みんなの力で~信頼の歌 ルーンファクトリーフロンティア Wii 1 4 3091 MOLECULAR CLOCK レイストーム AC 1 4 3091 GET THE PUNK OUT (SPECIAL STAGE 2) ロックマン10 宇宙からの脅威!! Wii,PS3,360 1 4 3091 Dr.COSSACK STAGE 2 ロックマン4 新たなる野望!! FC 1 4 3091 エンドタイトル ロマンシングサガ ミンストレルソング PS2 1 4 3091 街 ワイルドアームズ PS 1 4 3091 insania 或るファの音眼 PC 1 4 3091 Brave Steel 英雄伝説 閃の軌跡III PS4 1 4 3091 たそがれ緑道 英雄伝説 閃の軌跡IV -THE END OF SAGA- PS4 1 4 3091 キセキの旅路 英雄伝説 創の軌跡 PS4 1 4 3091 灼熱貴公子ッ!! 炎の…目押しッ!! Mob 1 4 3091 地下アトリエのパリジェンヌ(たち) 乙女理論とその周辺 PC 1 4 3091 桜花之恋塚 ~ Flower of Japan 稀翁玉 PC 1 4 3091 迷路 幻影異聞録♯FE WiiU 1 4 3091 夜に籠めた矢と弾丸~ヴォヤージュ1969 幻想少女大戦永 PC 1 4 3091 出撃の烽火 幻想水滸伝 ティアクライス NDS 1 4 3091 みんなの笑顔~108人のその後~ 幻想水滸伝III PS2 1 4 3091 まじめ 子育てクイズ もっとマイエンジェル PS 1 4 3091 戦闘/道化の剣 紫影のソナーニル -What a beautiful memories- PC 1 4 3091 大いなるしるし 真・女神転生 DEEP STRANGE JOURNEY 3DS 1 4 3091 Truth awaits you all 神姫PROJECT PC 1 4 3091 Survey Corps 進撃の巨人2 PS4,PSV,NS 1 4 3091 flow ~水の生まれた場所~ 水素 ~1/2の奇蹟~ PC 1 4 3091 カービィ凱旋のテーマ 星のカービィ スーパーデラックス SFC 1 4 3091 ダーククラウディ 星のカービィ スターアライズ NS 1 4 3091 審判の夢見鳥 バルフレイナイト 星のカービィ スターアライズ NS 1 4 3091 VS.悪のカンパニー 星のカービィ ロボボプラネット 3DS 1 4 3091 飛べ!星のカービィ 星のカービィWii Wii 1 4 3091 続・ボクらの太陽 続・ボクらの太陽~太陽少年ジャンゴ~ GBA 1 4 3091 彁 太鼓の達人 ニジイロVer. AC 1 4 3091 風雲!バチお先生 ロングバージョン 太鼓の達人12 ド~ン!と増量版 AC 1 4 3091 天神族のテーマ 大神 PS2 1 4 3091 10ばんどうろ(ポケットモンスター ブラック・ホワイト) 大乱闘スマッシュブラザーズ for Wii U WiiU 1 4 3091 マッドナイトまんしょん 大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL NS 1 4 3091 突撃 地球防衛軍4 PS3,360 1 4 3091 零式First Stageアレンジ 超昂大戦 エスカレーションヒロインズ PC 1 4 3091 Level6 超魔界村 SFC 1 4 3091 序曲 提督の決断 PC 1 4 3091 DOVE 天は長く地は久し PC 1 4 3091 フィールド BGM 天外魔境II 卍MARU PCECD 1 4 3091 盛 ―さかり― 天穂のサクナヒメ NS,PS4 1 4 3091 Vertigo 怒首領蜂 大復活 ブラックレーベル AC 1 4 3091 逆転するホイールオブフォーチュン 東方紺珠伝 ~ Legacy of Lunatic Kingdom. PC 1 4 3091 旧地獄街道を行く 東方地霊殿 ~ Subterranean Animism. PC 1 4 3091 希望の星は青霄に昇る 東方天空璋 ~ Hidden Star in Four Seasons. PC 1 4 3091 妖異達の通り雨 東方虹龍洞 ~ Unconnected Marketeers. PC 1 4 3091 無何有の郷 東方妖々夢 ~ Perfect Cherry Blossom. PC 1 4 3091 ザムディンの塔 魔法陣グルグル SFC 1 4 3091 Ride On 流星のロックマン NDS 1 4 3091 バブル 龍が如く0 誓いの場所 PS4,PS3 1 4 3091 閻魔の誓い 龍が如く0 誓いの場所 PS4,PS3 1 4 3091 清風明月・吽 朧村正 Wii 1 4 3297 DAYREPEAT 21 -TwoOne- PC,DC 1 5 3297 dance! dance! dance! 9-nine-ここのつここのかここのいろ PC 1 5 3297 盈虚の果てに A.IV.EVOLUTION(A列車で行こうIV EVOLUTION) PS 1 5 3297 虹 AIR PC 1 5 3297 Be Your Light ALTDEUS Beyond Chronos Oculus,PSVR,PC 1 5 3297 Main Theme ApexLegends PC,PS4,Xbox1,NS 1 5 3297 Your voice so... feat. Such Arcaea iOS,And 1 5 3297 焔極OVERKILL beatmaniaIIDX24 SINOBUZ AC 1 5 3297 Albireo Lake BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣 PS4,PSV 1 5 3297 アルエラ BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣 PS4,PSV 1 5 3297 Snakemouth Den Bug Fables ~ムシたちとえいえんの若木~ PC,PS4,Xbox1,NS 1 5 3297 夜の情景 CARNIVAL PC 1 5 3297 Scattered and Lost Celeste PC,PS4,Xbox1,NS 1 5 3297 Bergen Trail CrossCode PC 1 5 3297 「妖怪録、我し来にけり。」 Cytus II iOS,And 1 5 3297 EIC Dark Orbit PC 1 5 3297 氷 DEQUIVSIA PC 1 5 3297 スペースハンティング Fate/Grand Order iOS,And 1 5 3297 不滅と黄昏の蔓延する支配 Flower Knight Girl PC,iOS,And 1 5 3297 Fairy Wreath (piano arrange) FLOWERS -Le volume sur hiver- PC,PSV 1 5 3297 巧者の槍 Folkssoul -失われた伝承- PS3 1 5 3297 武士道 Ghost of Tsushima PS4 1 5 3297 SEGMENT 5 SOL側ボス HellSinker. PC 1 5 3297 Ruins Hylics PC 1 5 3297 Moulding Manor Jump King PC 1 5 3297 Dance of the Incognizant Just Shapes Beats PC,NS,PS4 1 5 3297 final boss Just Shapes Beats PC,NS,PS4 1 5 3297 Title LastOrigin iOS,And 1 5 3297 Haunted Streets Lobotomy Corporation PC 1 5 3297 Another Part Of Me Michael Jackson s Moonwalker AC 1 5 3297 The Outlaw Minecraft PC 1 5 3297 ボーイ・ミーツ・ガール MOTHER2 ギーグの逆襲 SFC 1 5 3297 Toki no Shizuku - 時ノ雫 NieR Re[in]carnation iOS,And 1 5 3297 何故に戦うのか ONI零~復活~ PS 1 5 3297 Escaping the Sandworm Ori and the Will of the Wisps PC,Xbox1,NS 1 5 3297 Berg Outward PS4 1 5 3297 Evil Eye PAYDAY2 PC 1 5 3297 STAGE 5-2 PC電人 PCE 1 5 3297 Panselo Phoenotopia awakening PC,NS,PS4 1 5 3297 本格的ガチムチクラブミュージックミニマルハウス編 plugout -ARCADE EDITION- PC 1 5 3297 Monogatari polytone iOS,And 1 5 3297 The Sky of Sadness pop n music 19 TUNE STREET AC 1 5 3297 3 A.M. ディテクティブ・ゲーム pop n music eclale AC 1 5 3297 Robotics Notes -2nd theme- ROBOTICS;NOTES PS3 1 5 3297 HERO Serious Sam 3 BFE PC 1 5 3297 Streamworks (Saliva Island) Shantae and the Pirate s Curse 3DS,WiiU,PC 1 5 3297 Tools Of War(戦争の工具) Shovel Knight PC,WiiU,3DS 1 5 3297 オヤスミパラノイア SHOW BY ROCK!! iOS,And 1 5 3297 Daisycutter SOUND VOLTEX VIVID WAVE AC 1 5 3297 エントロピカル Splatoon2 NS 1 5 3297 非線形ジェニアック Steins;Gate PS3 1 5 3297 Ancient Stones The Elder Scrolls V Skyrim PC 1 5 3297 The Lonely Tower Tower of Heaven 天国の塔 PC 1 5 3297 バトル4 杯を求めて -Battle4 Seeking the grail- VenusBlood -BRAVE- PC 1 5 3297 void tRrLM( Torico ); void tRrLM(); //ボイド・テラリウム PS4,NS 1 5 3297 Pressure cooker VVVVVV PC 1 5 3297 旧WARFRAMEメインテーマ、オロキンチャレンジルーム WARFRAME PC 1 5 3297 Main Theme Winter Gold SNES 1 5 3297 Starlight Anthem Wonderland Wars AC 1 5 3297 Pyrite Gorge 01 アークナイツ iOS,And 1 5 3297 Nefertiti(Ver.MMXI By Toshinori Hiramatsu) アーシャのアトリエ ~黄昏の大地の錬金術士~ PS3 1 5 3297 Fall アーマード・コア4 PS3,360 1 5 3297 Last Kiss アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ iOS,And,PC 1 5 3297 新世界のα アインシュタインより愛を込めて PC 1 5 3297 廻る世界で アカイイト PS2 1 5 3297 twilight searchlight あけぶれ PC 1 5 3297 アストロドーム アストロノーカ PS 1 5 3297 午前2時 あつまれ どうぶつの森 NS 1 5 3297 Missing savior アナザーエデン 時空を超える猫 iOS,And 1 5 3297 Crazy Eyes アンリアルライフ PC,NS 1 5 3297 THE MORNING GROW イース PC88 1 5 3297 フィールド イースIV The Dawn of Ys PCE 1 5 3297 Red Lucifer Rising イリスのアトリエ エターナルマナ2 PS2 1 5 3297 To the last drop of my blood ヴァルキリープロファイル PS 1 5 3297 Arnika Theme ウィザードリィ8 PC 1 5 3297 Gotta Stay Fly エースコンバット アサルト・ホライゾン PS3,360 1 5 3297 Turbulence エースコンバット3 エレクトロスフィア PS 1 5 3297 SILVER LINING エスカトス 360 1 5 3297 エリアノド村 エルソード PC 1 5 3297 なんて滑稽な! オクトパストラベラー NS 1 5 3297 バトルアドバンスト オクトパストラベラー 大陸の覇者 iOS,And 1 5 3297 Viyella s Tears オンゲキ PLUS AC 1 5 3297 謎のほろほろ寺 がんばれゴエモン~ゆき姫救出絵巻 SFC 1 5 3297 INTERRUPTS ギャロップレーサー2000 PS 1 5 3297 Roxas キングダムハーツII PS2 1 5 3297 Forza Finale キングダムハーツIII PS4,Xbox1 1 5 3297 The Afternoon Streets -KINGDOM HEARTS III Version- キングダムハーツIII PS4,Xbox1 1 5 3297 BreakNight クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ And,iOS,Kindle 1 5 3297 Summer Collection 2019 クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ And,iOS,Kindle 1 5 3297 かわち くにおくんの時代劇だよ全員集合 FC 1 5 3297 星を盗んだ少女 クロノ・クロス PS 1 5 3297 Close Quarters ゴーファーの野望 エピソードII MSX,PS,SS 1 5 3297 蝶の誘い ゴッドイーター2 レイジバースト PSV,PS4 1 5 3297 テーマソング ゴルゴ13 第一章 神々の黄昏 FC 1 5 3297 嵐のサキソフォン ザ・キング・オブ・ファイターズ 95 PS 1 5 3297 Depend on you サウザンドアームズ PS 1 5 3297 The Last Promise シールオンライン PC 1 5 3297 希望与えし「戌吠の神楽」 シグマ ハーモニクス NDS 1 5 3297 地球現代 シムアース SFC 1 5 3297 Sacred Bullet ~紅の十字架~ シャイニング・アーク PSP 1 5 3297 Hardcore To The Brain シャドウハーツII PS2 1 5 3297 Forest Interlude スーパードンキーコング2 ディクシー ディディー SFC 1 5 3297 エルガンダーバトル スーパーペーパーマリオ Wii 1 5 3297 ミドリ色の貴公子ミスターL スーパーペーパーマリオ Wii 1 5 3297 ヨッシーアイランド スーパーマリオ ヨッシーアイランド SFC 1 5 3297 クラウドガーデン スーパーマリオギャラクシー2 Wii 1 5 3297 HEATS スーパーロボット大戦D GBA 1 5 3297 飛影見参! スーパーロボット大戦IMPACT PS2 1 5 3297 UPRIGHT ACCELERATOR スーパーロボット大戦T PS4,NS 1 5 3297 忌むべき訪問者(Ver.X) スーパーロボット大戦X PS4,PSV 1 5 3297 On the Horizon スターオーシャン アナムネシス iOS,And 1 5 3297 スターウルフ スターフォックス アサルト GC 1 5 3297 ステージExtra すたーらいなー PC 1 5 3297 ラストバトル スラップスティック SFC 1 5 3297 Macaroni Festival スラップハッピーリズムバスターズ PS 1 5 3297 Soul On Desert セガラリー2 AC,DC,PC 1 5 3297 she s coming back ゼノサーガ エピソードIII[ツァラトゥストラはかく語りき] PS2 1 5 3297 トリゴの街/夜 ゼノブレイド2 NS 1 5 3297 サンクチュアリを謳って feat. 分島花音 セブンスドラゴンIII code VFD 3DS 1 5 3297 カカリコ村 ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド NS,WiiU 1 5 3297 神獣 ヴァ・ナボリス戦 ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド NS,WiiU 1 5 3297 Hyrule Field TP ゼルダ無双 WiiU 1 5 3297 ハイラル平原の戦い ゼルダ無双 厄災の黙示録 NS 1 5 3297 STAGE 12 MYSTIC MANSION ソニック ヒーローズ PS2,GC,Xbox,PC 1 5 3297 Yhorm The Giant ダークソウルIII PS4,Xbox1 1 5 3297 カンナンシンク ダライアスバースト セカンドプロローグ iOS 1 5 3297 チョロQキャッスル「CLASSICAL ROBOT」 チョロQ3 PS 1 5 3297 エスピナ暗黒神殿 ツヴァイ!! PC 1 5 3297 この瞬間に全てを賭けて ツヴァイ2 PC 1 5 3297 好奇心バックアップ デジモンワールド -next 0rder- PSV,PS4 1 5 3297 ボス戦 デジモンワールド2 PS 1 5 3297 Yours Forever テトリス エフェクト PS4,PSVR 1 5 3297 夢幻の世界 デビルサバイバー2 NDS 1 5 3297 SPルールマッチ スタートチャージ10 デュエル・マスターズ プレイス iOS,And,PC 1 5 3297 My Heart is 123 bpm トキメキファンタジー ラテール PC 1 5 3297 思い出の数だけ... ときめきメモリアル PCECD 1 5 3297 序曲XI ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて NS 1 5 3297 天津飯のテーマ ドラゴンボール ファイターズ PS4,Xbox1,PC 1 5 3297 知属性超サイヤ人4ゴジータ ドラゴンボールZ ドッカンバトル iOS,And 1 5 3297 修行・界王様戦 ドラゴンボールZ 超サイヤ伝説 SFC 1 5 3297 Ashes of Dreams / Aratanaru ニーア レプリカント ver.1.22474487139... PS4,Xbox1,PC 1 5 3297 カイネ/逃避 ニーア レプリカント ver.1.22474487139... PS4,Xbox1,PC 1 5 3297 break through the clouds ノスタルジア Op.2 AC 1 5 3297 Deep in Abyss (J-pop remix) ノスタルジア Op.2 AC 1 5 3297 潜入 ~上空を駆ける~ バディミッション BOND NS 1 5 3297 氷の妖精シャーベットのテーマ パネルでポン SFC 1 5 3297 汗と涙は球児の華! パワプロクンポケット14 NDS 1 5 3297 ラストバトル ヒーロー戦記 プロジェクト・オリュンポス SFC 1 5 3297 止まない雨はないから ひこうき雲の向こう側 PC 1 5 3297 正義をかけて 攻撃 ファイアーエムブレム トラキア776 SFC 1 5 3297 空を舞う ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 SFC 1 5 3297 追憶と後悔と ファイアーエムブレム 風花雪月 NS 1 5 3297 栄光と腐敗と ファイアーエムブレムif 3DS 1 5 3297 クリティカルショット ファイナルファンタジーVII REMAKE PS4 1 5 3297 タークス レノ ファイナルファンタジーVII REMAKE PS4 1 5 3297 塩と苦難の歌 ~ギラバニア湖畔地帯 昼~ ファイナルファンタジーXIV 紅蓮のリベレーター PS4,PC 1 5 3297 すべての道が至る場所 ~漆黒決戦 ノルヴラント~ ファイナルファンタジーXIV 漆黒のヴィランズ PS4,PC 1 5 3297 怒れる悪魔~旗艦ダル・リアータ攻略戦~ ファイナルファンタジーXIV 漆黒のヴィランズ PS4,PC 1 5 3297 Glory Crossing ブラストドーザー N64 1 5 3297 Will you still cry? フリー楽曲 - 1 5 3297 洞窟ダンジョン フリー楽曲 - 1 5 3297 Get Over Dress-code プリパラ オールアイドル AC 1 5 3297 ぼっちのためのトモダチ行進曲 プリンセスコネクト!Re Dive iOS,And,PC 1 5 3297 Clear Morning ブルーアーカイブ iOS,And 1 5 3297 SAKURA PUNCH ブルーアーカイブ iOS,And 1 5 3297 レイドボス戦BGM ふるーつふるきゅーと! iOS,And,PC 1 5 3297 Lust SIN ブレイブルー クロノファンタズマ AC 1 5 3297 Cliff Rock プロップサイクル AC 1 5 3297 ミハラシ山 ペーパーマリオ オリガミキング NS 1 5 3297 時の足音 ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス 3DS 1 5 3297 エンジュシティ ポケットモンスター 金・銀・クリスタル GB 1 5 3297 冒険をはじめよう! ポケットモンスター 金・銀・クリスタル GB 1 5 3297 戦闘!マツブサ ポケモンマスターズ EX iOS,And 1 5 3297 バトルー四天王ー ポポロクロイス物語 PS 1 5 3297 STIGMATA マナケミア ~学園の錬金術士たち~ PC2 1 5 3297 Start The Adventure メイプルストーリー PC 1 5 3297 「じぶん」になる メギド72 iOS,And 1 5 3297 悪戯スーパーセル! メギド72 iOS,And 1 5 3297 通常ロボトルBGM メダロットS iOS,And 1 5 3297 海と陸の共震/ラギアクルス モンスターハンター3 Wii 1 5 3297 天空の聖域/高地 モンスターハンターフロンティアオンライン PC,360,PS3,PSV,WiiU,PS4 1 5 3297 ゲロゲーロのテーマ ヨッシーのパネポン GB 1 5 3297 Planet Yeedil Megacorp HQ ラチェット クランク2 ガガガ!銀河のコマンドーっす PS2,PS3,360 1 5 3297 Rune of Punishment ~呪われた紋章をめぐり~ ラプソディア PS2 1 5 3297 スピカ95 s ラムネ PC,PS2 1 5 3297 ラビリンス ランドストーカー MD 1 5 3297 Song for friends リトルバスターズ! PC,PS2,PSP,PSV 1 5 3297 Akuma Battle ルフランの地下迷宮と魔女ノ旅団 PSV,PS4,NS,PC 1 5 3297 Ocean World - Glouglou レイマン オリジン PC,PS3,PSV,3DS 1 5 3297 NAPALMMAN STAGE ロックマン5 ブルースの罠!? FC 1 5 3297 VS.ウォージーガイロン ロックマンDASH2 エピソード2 大いなる遺産 PS 1 5 3297 NAPALMMAN STAGE ロックマンワールド4 GB 1 5 3297 胸の撃鉄起こす時 ワイルドアームズ ザ フィフスヴァンガード PS2,PS3 1 5 3297 西風の吹く街 ワイルドアームズ セカンドイグニッション PS 1 5 3297 Humidica! 雨上がりのハナビィ PC 1 5 3297 仄かに煌めく光 英雄伝説 空の軌跡 the 3rd PC 1 5 3297 Phantasmal Blaze 英雄伝説 閃の軌跡II PSV,PS3 1 5 3297 愛の詩 英雄伝説 閃の軌跡IV -THE END OF SAGA- PS4 1 5 3297 Mystic core 英雄伝説 碧の軌跡 PSP 1 5 3297 To be continued! 英雄伝説 碧の軌跡 PSP 1 5 3297 永遠なる民の町 英雄伝説V 海の檻歌 PC 1 5 3297 いとしコトバいとしココロ 屋上の百合霊さん PC 1 5 3297 現場BGM 俺タワー ~ Over Legend Endless Tower ~ PC 1 5 3297 VS.カルパッチョ 怪盗ワリオ・ザ・セブン NDS 1 5 3297 My Sweet Lady 学☆王 -TEH ROYAL SEVEN STARS PC,PSP 1 5 3297 艦隊決戦 艦隊これくしょん -艦これ- PC 1 5 3297 第一遊撃部隊の進撃 艦隊これくしょん -艦これ- PC 1 5 3297 The Last Howling -The Juctice Ray Part5- 機装猟兵ガンハウンドEX PC,PSP 1 5 3297 Ontology 鬼畜王ランス PC 1 5 3297 脱出パート 手術室 極限脱出 9時間9人9の扉 3DS 1 5 3297 End of War 激闘!パワーモデラー GB 1 5 3297 桜上絢爛~アルティメットトゥルース 幻想少女大戦妖 PC 1 5 3297 La Mer 幻想水滸伝IV PS2 1 5 3297 決戦!四天王 黒騎士と白の魔王 iOS,And 1 5 3297 桃園の誓い 三國志 FC 1 5 3297 Let Me Go 首都高バトル0 PS2 1 5 3297 時計塔ED1 呪村 PC 1 5 3297 Xy 十四番目のΞ PC 1 5 3297 lris 消滅都市 iOS,And 1 5 3297 Eunice Aphroditois 深世海 Into the Depths NS 1 5 3297 THE EPIC REMAINS FOREVER 真・三國無双8 PS4 1 5 3297 荒野のバラージ 神姫PROJECT PC 1 5 3297 山地の面 星のカービィ 夢の泉の物語 FC 1 5 3297 妖精族のこども 聖剣伝説2 SFC 1 5 3297 Another Winter 聖剣伝説3 TRIALS of MANA PS4,NS,PC 1 5 3297 Sacrifice Part Three 聖剣伝説3 TRIALS of MANA PS4,NS,PC 1 5 3297 閉幕 戦国無双2 PS2 1 5 3297 Carpe Diem 旋光の輪舞 Rev.X 360 1 5 3297 春竜 ~Haryu~ 太鼓の達人 ソライロVer. AC 1 5 3297 ヨーロッパ 大航海時代II PC98 1 5 3297 Bloody Tears / Monster Dance 大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL NS 1 5 3297 トキメキ☆ボムラッシュ 大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL NS 1 5 3297 メニュー 大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL NS 1 5 3297 タルタル高原 大乱闘スマッシュブラザーズX Wii 1 5 3297 反撃 地球防衛軍4 PS3,360 1 5 3297 エリア1 超惑星戦記メタファイト FC 1 5 3297 口上 天下のご意見番 水戸黄門 FC 1 5 3297 船 天地を喰らうII 諸葛孔明伝 FC 1 5 3297 悲鳴 東方冥異伝 PC 1 5 3297 少女幻葬 ~ Necro-Fantasy 東方妖々夢 ~ Perfect Cherry Blossom. PC 1 5 3297 寝太郎の村 桃太郎活劇 PCE 1 5 3297 冷たい壁の向こうに 白昼夢の青写真 PC 1 5 3297 天蓋要塞ウェザリス 白猫プロジェクト iOS,And 1 5 3297 艶麗ブラックアウト 幕末尽忠報国烈士伝 -MIBURO- PC 1 5 3297 Flap toward the hope 雷電II AC,PS 1 5 3297 A stormy front 雷電IV AC 1 5 3297 Reign 龍が如く0 誓いの場所 PS4,PS3 1 5 3544 狂った歯車 A.IV.EVOLUTION(A列車で行こうIV EVOLUTION) PS 1 6 3544 AFRIKA AFRIKA PS3 1 6 3544 てんとう虫 AIR PC 1 6 3544 Lastregretバトルアレンジ AirRPG PC 1 6 3544 ARMSグランプリ公式ソング ARMS NS 1 6 3544 Intelligence beatmaniaIIDX26 Rootage AC 1 6 3544 THE BRAVE MUST DIE beatmaniaIIDX27 HEROIC VERSE AC 1 6 3544 sync beatmaniaIIDX5th style AC,PS2 1 6 3544 Lost wing at.0 BeatStream アニムトライヴ AC 1 6 3544 私という運命について BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣 PS4,PSV 1 6 3544 Confronting Myself Celeste PC,PS4,Xbox1,NS 1 6 3544 終わりの始まり ChuSinGura46+1 -忠臣蔵46+1 PC 1 6 3544 Feast of the underworld CODE OF JOKER AC 1 6 3544 Red Alert 3 Theme Soviet March Command Conquer Red Alert 3 PC 1 6 3544 Hack Your Way! CrossCode PC 1 6 3544 Never Ending Tales Deemo iOS,And,PSV 1 6 3544 Cantata Mortis God in Fire DISSIDIA 012[duodecim] FINAL FANTASY PSP 1 6 3544 Emulisy Dynamix iOS,And 1 6 3544 Drinks on Me ~ 絶対防衛線 EARTH DEFENSE FORCE IRON RAIN PS4 1 6 3544 Everybody Falls (Fall Guys Theme) Fall Guys Ultimate Knockout PC,PS4 1 6 3544 Dad Battle Friday Night Funkin PC 1 6 3544 Sand Ocean F-ZERO SFC 1 6 3544 境井 仁 Ghost of Tsushima PS4 1 6 3544 A d a m Gダライアス AC 1 6 3544 我が母はかく語りし G線上の魔王 PC 1 6 3544 Outrun the Wolves HACKNET PC 1 6 3544 SEGMENT 5 LUNA側ボス HellSinker. PC 1 6 3544 Acid Spit Hotline Miami 2 Wrong Number PC,PS3,PS4,PSV 1 6 3544 Afterlife Hylics PC 1 6 3544 Destination JUDGE EYES 死神の遺言 PS4 1 6 3544 Phantom Finale Jump King PC 1 6 3544 Battle_03 LastOrigin iOS,And 1 6 3544 自然科学の階戦 Library of Ruina PC 1 6 3544 Arrow To The Head LISA The Joyful PC 1 6 3544 お婆さんが聞かせてくれた昔の話 Mabinogi PC 1 6 3544 electroQtie MAD RAT DEAD PS4,NS 1 6 3544 MAD RAT, ALIVE? MAD RAT DEAD PS4,NS 1 6 3544 Underground Hug MAD RAT DEAD PS4,NS 1 6 3544 A Daring Plan Medal of Honor Above and Beyond PC 1 6 3544 Billie Jean Michael Jackson s Moonwalker AC 1 6 3544 Dalmatian Station Mighty Switch Force!2 3DS,WiiU 1 6 3544 Kyusai - 救済 NieR Re[in]carnation iOS,And 1 6 3544 Identity part 2 O2Jam PC 1 6 3544 Restoring the Light, Facing the Dark Ori and the Blind Forest PC,Xbox1,NS 1 6 3544 Final Voyage Outer Wilds PC 1 6 3544 光 Phigros iOS,And 1 6 3544 路男 pop n music 15 ADVENTURE AC 1 6 3544 GEO SONG pop n music 17 THE MOVIE AC 1 6 3544 Outro S.T.A.L.K.E.R. Call of Pripyat PC 1 6 3544 Dirge for the planet S.T.A.L.K.E.R. Shadow of Chernobyl PC 1 6 3544 神戦 Sa・Ga3 時空の覇者 GB 1 6 3544 ボスをたおせ SDガンダム外伝 ナイトガンダム物語 FC 1 6 3544 竜胤の御子 SEKIRO SHADOWS DIE TWICE PS4,Xbox1,PC 1 6 3544 High Above Tassel Town Shantae Half-Genie Hero PC,PS4,PSV,WiiU,Xbox1 1 6 3544 Terra novum (The New World) Sid Meier s Civilization V PC 1 6 3544 金縛りの逢を SOUND VOLTEX -BOOTH- AC 1 6 3544 Far Away SOUND VOLTEX IV HEAVENLY HAVEN AC 1 6 3544 Wings of Glory SOUND VOLTEX IV HEAVENLY HAVEN AC 1 6 3544 #14 crush Splatoon2 NS 1 6 3544 Shooting Star StraStella iOS,And 1 6 3544 My Innermost Apocalypse The Binding of Isaac PC 1 6 3544 Go Go Go (ft. Genevieve Artadi) Tokyo 42 PS4,Xbox1,PC 1 6 3544 緋色の花が咲く夜に V.D. -バニッシュメント・デイ- PC 1 6 3544 Synthestitch VA-11 Hall-A Cyberpunk Bartender Action PC 1 6 3544 バトル3 死力の限り -The force of mortality- VenusBlood -HYPNO- PC 1 6 3544 This Is What You Are WARFRAME PC 1 6 3544 9 (King of No.9 Edition) アーマード・コア ヴァーディクトデイ PS3,360 1 6 3544 Scavengers アーマード・コア ヴァーディクトデイ PS3,360 1 6 3544 Shining アーマード・コア ネクサス PS2 1 6 3544 Sentaku2 アイドルマスター AC 1 6 3544 Glow Map アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ iOS,And 1 6 3544 Main Menu アウターワイルズ PC 1 6 3544 Fake.Fake.Fake アズールレーン iOS,And 1 6 3544 Duress of luna アナザ―エデン 時空を超える猫 iOS,And 1 6 3544 Agni アルトネリコ2 世界に響く少女たちの創造詩 PS2 1 6 3544 EXEC_with.METHOD_METAFALICA/. アルトネリコ2 世界に響く少女たちの創造詩 PS2 1 6 3544 陽の当たる部屋 アルトネリコ2 世界に響く少女たちの創造詩 PS2 1 6 3544 tears which died アンダーディフィート AC 1 6 3544 女神解体(アナトミア) ヴァルキリーアナトミア ジ オリジン iOS,And 1 6 3544 天空の扉 ヴァルキリープロファイル PS 1 6 3544 GIIIレース ウマ娘 プリティーダービー iOS,And,PC 1 6 3544 ラストバトル うみとまもののこどもたち PC 1 6 3544 Hangar#1 エースコンバット PS 1 6 3544 Siren s Song エースコンバット7 スカイズ・アンノウン PS4,Xbox1,PC 1 6 3544 学者サイラスのテーマ オクトパストラベラー NS 1 6 3544 戦闘 カオスワールド FC 1 6 3544 油断大敵 かくりよの門 PC 1 6 3544 戦え!ガチャフォース ガチャフォース GC 1 6 3544 SOUND 00 キャプテン翼II スーパーストライカー FC 1 6 3544 Fairy Yell クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ And,iOS,Kindle 1 6 3544 クラッシュ万事休す クラッシュ・バンディクー2 コルテックスの逆襲! PS 1 6 3544 Grid Seeker グリッドシーカー AC 1 6 3544 Operator Plays a Little Ping Pong クレイマン・クレイマン ネバーフッドの謎 PS 1 6 3544 テルミナ アナザー クロノ・クロス PS 1 6 3544 CANAL FLEET - 夕暮の艦隊 ケツイ~絆地獄たち~ AC 1 6 3544 オープニング この世の果てで恋を唄う少女 YU-NO PC98 1 6 3544 Weakboson サイヴァリア AC 1 6 3544 火を与える者~ファイアブリンガー組曲1 サガ スカーレット グレイス PSV 1 6 3544 翔遼乱承!~レオナルドバトル サガ スカーレット グレイス PSV 1 6 3544 フィールドセレクト さよなら 海腹川背 3DS,PSV,PC 1 6 3544 Across The Misty Forest シールオンライン PC 1 6 3544 美し世界 シェルノサージュ ~失われた星へ捧ぐ詩~ PSV 1 6 3544 SAY YOU シャリーのアトリエ ~黄昏の海の錬金術士~ PS3 1 6 3544 中東情勢 シルエットミラージュ SS 1 6 3544 Hot-Head Bop スーパードンキーコング2 ディクシー ディディー SFC 1 6 3544 クライマックス スーパーファイヤープロレスリングSPECIAL SFC 1 6 3544 エンディング スーパーマリオ ヨッシーアイランド SFC 1 6 3544 OVER THE WORLD WALL スーパーロボット大戦R GBA 1 6 3544 いつだって私なりのやり方で スーパーロボット大戦T PS4,NS 1 6 3544 Rust Color スターオーシャン Till the End of Time PS2 1 6 3544 stageEXBoss すたーしゅーたー PC 1 6 3544 BGM (VENOM BASE for Level 2) スターフォックス SFC 1 6 3544 オーパーツ すばらしきこのせかい It s a Wonderful World NDS 1 6 3544 ココロノトビラ スペクトラルフォース2 PS 1 6 3544 スライムは行く スライムもりもりドラゴンクエスト 衝撃のしっぽ団 GBA 1 6 3544 エンディング せがれいじり PS 1 6 3544 別れ、そして… ゼノブレイド Wii 1 6 3544 Ever Come to an End ゼノブレイド2 NS 1 6 3544 CODENAMEZ ゼノブレイドクロス WiiU 1 6 3544 スカイロフト ゼルダの伝説 スカイウォードソード Wii 1 6 3544 神獣 ヴァ・ナボリス(探索) ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド NS,WiiU 1 6 3544 ムジュラの化身戦闘 ゼルダの伝説 ムジュラの仮面 N64 1 6 3544 Moonlight Battlefield - Aqua Road ソニック フォース PS4,NS 1 6 3544 Arid Sands - Night ソニック ワールドアドベンチャー Wii,PS3,360 1 6 3544 Sunset Hill Act 1 ソニックアドバンス3 GBA 1 6 3544 This Way Out ソニックアドベンチャー2 DC 1 6 3544 本の見る夢 ソフィーのアトリエ ~不思議な本の錬金術士~ PS4,PS3,PSV 1 6 3544 REDEMPTION ダージュ オブ ケルベロス -ファイナルファンタジーVII- PS2 1 6 3544 春 ~ 誕生 ダービースタリオン(PS) PS 1 6 3544 牧場BGM ダービースタリオンIII SFC 1 6 3544 Blasphemous Experiment - 笛吹大魔王 タクティクスオウガ 運命の輪 PSP 1 6 3544 City Streets 2 (Mango Tango - Neon Jungle) ダブルドラゴンネオン PS3 1 6 3544 ダンジョン4 ダンジョンエクスプローラー PCE 1 6 3544 2面 チェルノブ MD 1 6 3544 エスピナへ捧ぐ祈り ツヴァイ2 PC 1 6 3544 STAGE ver.1 ディバインゲート iOS,And 1 6 3544 Love me~I love you ティンクルスタースプライツ AC 1 6 3544 月光の鎮魂歌 デモンゲイズ PSV 1 6 3544 果てしなき世界 ドラゴンクエストII 悪霊の神々 FC 1 6 3544 強き者ども ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち PS 1 6 3544 Suspicious Blue ナツキクロニクル Xbox1 1 6 3544 Weight of the World/壊レタ世界ノ歌 ニーア オートマタ PS4 1 6 3544 クライマックス推理V3 ニューダンガンロンパV3 みんなのコロシアイ新学期 PSV,PS4 1 6 3544 Ride on Sea バイオハザード リベレーションズ 3DS,360,PS3,PS4,WiiU,NS,PC 1 6 3544 マッドナイトまんしょん バンジョーとカズーイの大冒険 N64 1 6 3544 日本コース ビッグトーナメントゴルフ AC 1 6 3544 Some Like it Red Hot ビューティフルジョー GC 1 6 3544 BLIZZARD HAZARD ビューティフルジョー2 GC 1 6 3544 対アルヴィス ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 SFC 1 6 3544 決戦 ファイナルファンタジーX PS2 1 6 3544 混沌の渦動 ~蛮神リヴァイアサン討滅戦~ ファイナルファンタジーXIV 新生エオルゼア PS3,PS4,PC 1 6 3544 白き雷 ファイナルファンタジー零式 PSP 1 6 3544 Into the Journey フィリスのアトリエ ~不思議な旅の錬金術士~ PS4,PSV 1 6 3544 Request from Puyopuyo ぷよぷよ!! Puyopuyo 20th anniversary NDS 1 6 3544 Lescena フリー楽曲 - 1 6 3544 お仕置き日和 フリー楽曲 - 1 6 3544 ハルジオン フリー楽曲 - 1 6 3544 黄昏の放浪 フリー楽曲 - 1 6 3544 旅 フリー楽曲 - 1 6 3544 A Grudge Of The Darkness プリンセスうぃっちぃず PC 1 6 3544 Virtual Storm ブルーアーカイブ iOS,And,PC 1 6 3544 Alpha ブレイゾン AC 1 6 3544 火急の報せ ブレイブリーデフォルトⅡ NS 1 6 3544 MOTOR HEAD ブレイブルー カラミティトリガー AC 1 6 3544 Condemnation Wings ブレイブルー クロノファンタズマ AC 1 6 3544 primitive nature フレースヴェルグ インターナショナルエディション PS2 1 6 3544 スリリング・ナイト ペーパーマリオ オリガミキング NS 1 6 3544 ラストバトル オリビア最後の魔法陣 ペーパーマリオ オリガミキング NS 1 6 3544 Price ペルソナ5 PS4,PS3 1 6 3544 新市街 ボクらの太陽 Django Sabata NDS 1 6 3544 戦い (VSジムリーダー) ポケットモンスター Let s Go! ピカチュウ・Let s Go! イーブイ NS 1 6 3544 戦闘!フラダリ ポケットモンスター X・Y 3DS 1 6 3544 戦闘!トレーナー ポケットモンスター ソード・シールド NS 1 6 3544 戦闘!野生ポケモン(ジョウト)(昼) ポケットモンスター 金・銀・クリスタル GB 1 6 3544 AREA2 BGM ボンバーマン 94 PCE 1 6 3544 キノコタウンでひとやすみ マリオ ルイージRPG3!!! NDS 1 6 3544 ミュージックパーク マリオカート7 3DS 1 6 3544 マリオのスーパーピクロス BGM4 マリオのスーパーピクロス SFC 1 6 3544 みんなのリズム天国 リミックス7 みんなのリズム天国 Wii 1 6 3544 狷介孤高の武人 メギド72 iOS,And 1 6 3544 明日のうた メタルマックス4 月光のディーヴァ 3DS 1 6 3544 aube -the end of the world- メタルマックスゼノ リボーン PS4,NS 1 6 3544 うまうまおだんごのつくり歌 にばん モンスターハンターライズ NS 1 6 3544 飛来せし気高き非道/バゼルギウス Rise ver. モンスターハンターライズ NS 1 6 3544 ヨッシーのテーマ ヨッシーのパネポン GB 1 6 3544 Ending ランスIX -ヘルマン革命- PC 1 6 3544 恋の実験室 リズム天国ゴールド NDS 1 6 3544 ORIGIN レイストーム AC 1 6 3544 Falling to Earth レゴシティ アンダーカバー WiiU,NS,PS4,Xbox1,PC 1 6 3544 Armor Armarge Stage ロックマンX SFC 1 6 3544 NEPTUNE STAGE ロックマンワールド5 GB 1 6 3544 ポドールイ クリスマスバージョン ロマンシングサガ リ・ユニバース iOS,And 1 6 3544 東京へ行こう! ワールズエンドクラブ iOS,NS 1 6 3544 ダンジョン・ホラー ワイルドアームズ セカンドイグニッション PS 1 6 3544 チープ・トラップ 英雄伝説 閃の軌跡III PS4 1 6 3544 Mystic Core -閃Ver.- 英雄伝説 閃の軌跡IV -THE END OF SAGA- PS4 1 6 3544 エキサイティング 音楽ツクール かなでーる2 PS 1 6 3544 Tak a ja lubie. 拡張少女系トライナリー iOS,And 1 6 3544 Code Error From Inside 機核覚醒~六欲姫ユーカ~ PC 1 6 3544 猟奇的で可愛いゲスト~U.N.オーエンは彼女なのか? 幻想少女大戦紅 PC 1 6 3544 司書との激闘 幻想水滸伝 ティアクライス NDS 1 6 3544 武神降臨!伊達政宗 片倉小十郎『蒼き独眼』 御城プロジェクト RE PC,iOS,And 1 6 3544 Pound Away 首都高バトル DC 1 6 3544 Halcyon Days 十三機兵防衛圏 PS4 1 6 3544 Overloud 消滅都市 iOS,And 1 6 3544 Ideal~phase3 消滅都市2 iOS,And 1 6 3544 メイン・武田 信長の野望 武将風雲録 FC 1 6 3544 CRY SLASH 真・三國無双8 PS4 1 6 3544 RED STORM INFECTION 真・三國無双8 PS4 1 6 3544 魔人 真・女神転生if... PS 1 6 3544 この矢は帰らぬ者の為に 神姫PROJECT PC 1 6 3544 迷宮III 千年ノ蒼樹海 世界樹の迷宮 NDS 1 6 3544 封龍仙窟-洞仙歌 仙窟活龍大戦カオスシード SS 1 6 3544 永愛プロミス 戦姫絶唱シンフォギアXD UNLIMITED iOS,And 1 6 3544 静かに熱く 閃乱カグラ -少女達の真影- 3DS 1 6 3544 窓と光 素晴らしき日々 ~不連続存在~ PC 1 6 3544 音虫をつかまえろ! 太鼓の達人 セッションでドドンがドン! PS4 1 6 3544 はてしなき大地 大貝獣物語2 SFC 1 6 3544 イーノック・ドレッバー ~科学と魔術の輪舞 大逆転裁判2 -成歩堂龍ノ介の覺悟- 3DS 1 6 3544 集落・補給港(補給港) 大航海時代II SFC 1 6 3544 臨戦態勢 地球防衛軍4 PS3,360 1 6 3544 タイトル (あヽ人生に涙あり) 天下のご意見番 水戸黄門 FC 1 6 3544 不思議の国のアリス 東方怪綺談 ~ Mystic Square. PC98 1 6 3544 宇宙を飛ぶ不思議な巫女 東方紺珠伝 ~ Legacy of Lunatic Kingdom. PC 1 6 3544 狂気の瞳 ~ Invisible Full Moon 東方深秘録 ~ Urban Legend in Limbo. PS4 1 6 3544 駒草咲くパーペチェアルスノー 東方虹龍洞 ~ Unconnected Marketeers. PC 1 6 3544 神さびた古戦場 ~ Suwa Foughten Field 東方風神録 ~ Mountain of Faith. PC 1 6 3544 御伽の国の鬼が島 ~ Missing Power 東方萃夢想 ~ Immaterial and Missing Power. PC 1 6 3544 金太郎の村 桃太郎活劇 PCE 1 6 3544 BEAT OF THE RISING SUN 頭文字D Arcade Stage Ver.1 AC 1 6 3544 敷かれた道 白猫プロジェクト iOS,And 1 6 3544 奇跡のようなゲインリダクション 箱庭えくすぷろーら PC 1 6 3544 フィールド(秋) 半熟英雄 FC 1 6 3544 ナイトメアダイアリー 秘封ナイトメアダイアリー ~ Violet Detector. PC 1 6 3544 十六夜の里 不思議のダンジョン 風来のシレン外伝 女剣士アスカ見参! DC 1 6 3544 ここからよろしく大作戦143 武装神姫 アーマードプリンセス バトルコンダクター AC 1 6 3544 EVOLUTION 魔神転生II SPIRAL NEMESIS SFC 1 6 3544 無限航路 無限航路 -Infinite Space- NDS 1 6 3544 グリーングリーンズ 毛糸のカービィ Wii 1 6 3544 Jumpin 遊戯王5D s TAG FORCE6 PSP 1 6 3544 Affected fight 龍が如く5 夢、叶えし者 PS4,PS3 1 6 3544 十章 慶綿飯店での戦闘BGM 龍が如く7 光と闇の行方 PS4 1 6 3786 Main Menu Among us iOS,And 1 7 3786 Modelista Arcaea iOS,And 1 7 3786 Singularity Arcaea iOS,And 1 7 3786 Red illusion BattleMoonWars銀 PC 1 7 3786 MEGAERA beatmaniaIIDX28 BISTROVER AC 1 7 3786 Armament class.B Black★Rock Shooter- The Game PSP 1 7 3786 DNF FW15C -ZERO- BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣 PS4,PSV 1 7 3786 I (sun) BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣 PS4,PSV 1 7 3786 Cradle Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ- PS4 1 7 3786 独創性インシデント Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ- PS4 1 7 3786 ピーターパンシンドローム (Remix) Caligula-カリギュラ- PSV 1 7 3786 Autumn s Rise CrossCode PC 1 7 3786 MiRAGE! MiRAGE!! CUE!(キュー!) iOS,And 1 7 3786 Chapter 7 Outskirts Cyber Shadow PC,PS4,Xbox1,NS 1 7 3786 title theme Cybernoid C64 1 7 3786 DEAD END DanceDanceRevolution 3rdMIX AC 1 7 3786 Pandora s Box DANCERUSH STARDOM AC 1 7 3786 Fluquor Deemo iOS,And,PSV 1 7 3786 Lohengrin Dies irae -Acta est Fabula- PC,PSP 1 7 3786 ENTER THE GUNGEON Enter the Gungeon PC,PS4,NS,Xbox1 1 7 3786 楽園の扉 euphoria PC 1 7 3786 Hey Judy Event[0] PC 1 7 3786 anima ataraxia ~FGO~ Fate/Grand Order iOS,And 1 7 3786 ouroboros -twin stroke of the end- GROOVE COASTER 3EX DREAM PARTY AC 1 7 3786 Alchemy Helltaker PC 1 7 3786 Rose Thorns - Battle with Aeldra Ikenfell PC 1 7 3786 St Patrick s Event Jetpack Joyride iOS,PC,And,PSP,PS3,PSV,PS4 1 7 3786 encounter jubeat saucer fulfill AC 1 7 3786 Cheat Codes Just Shapes Beats PC,NS,PS4 1 7 3786 風の辿り着く場所 Kanon PC,DC,PS2,PSP 1 7 3786 As It Is Kenshi PC 1 7 3786 Beat Feet n bounce Knockout City PC,PS4,PS5,NS,Xbox1,XSX 1 7 3786 Androgynos Lanota iOS,And 1 7 3786 Heartless being MAD RAT DEAD PS4,NS 1 7 3786 Passion in Blue MAD RAT DEAD PS4,NS 1 7 3786 Vault Research Labs Mega Man Rock n Roll PC 1 7 3786 WondrousWorkshop Minecraft PC 1 7 3786 時計の部屋と精神世界 Muse Dash iOS,And,NS,PC 1 7 3786 Growing Wings NiGHTS into dreams... SS 1 7 3786 アンナ戦BGM Nitroplus Blasterz Heroines Infinite Duel AC,PS3,PS4 1 7 3786 Votum stellarum -forest 25 RMX- pop n music 15 ADVENTURE AC 1 7 3786 カラルの月 pop n music 20 fantasia AC 1 7 3786 lasting pop n music 6 AC 1 7 3786 The Hive Rigid Force Alpha PC 1 7 3786 Ceta RimWorld PC 1 7 3786 ステージ7 (生命) R-TYPE DELTA PS 1 7 3786 モノクローム R-TYPE FINAL2 PS4,NS,Xbox1,XSX,PC 1 7 3786 カフェテリア1F RustyHearts PC 1 7 3786 live to forget S.T.A.L.K.E.R. Call of Pripyat PC 1 7 3786 Night Travel 2 Shantae GBC 1 7 3786 Journey s End - Credits Terraria PC 1 7 3786 Geralt Of Rivia The Witcher 3 Wild Hunt PC,PS4,Xbox1 1 7 3786 3rd Wave Tree of Savior PC 1 7 3786 バトル1 その剣は勇ましく -Battle1 The brave sword- VenusBlood -BRAVE- PC 1 7 3786 The Mother Will Comes Again アーマード・コア ヴァーディクトデイ PS3,360 1 7 3786 Grip アーマード・コア プロジェクトファンタズマ PS 1 7 3786 純白トロイメライ アイドルマスター シャイニーカラーズ iOS,And,PC 1 7 3786 Great Journey アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ iOS,And,PC 1 7 3786 Hungry Bambi bgm event ver. アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ iOS,And,PC 1 7 3786 ハイファイ☆デイズ アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ iOS,And,PC 1 7 3786 双翼の独奏歌 アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ iOS,And,PC 1 7 3786 KNOCK ON NOX イースIX -Monstrum NOX- PS4 1 7 3786 DESERT OF DESPAIR イースVII アルタゴの五大竜 PSP 1 7 3786 オメガ・バトル ヴァルキリーアナトミア ジ オリジン iOS,And 1 7 3786 アタック1/アトール ウォーターワールド SFC 1 7 3786 ロストメモリーズ ガールズシンフォニー Ec ~新世界少女組曲~ PC 1 7 3786 Oldfashioned Lover Girl ガレリアの地下迷宮と魔女ノ旅団 PS4,PSV 1 7 3786 出羽 がんばれゴエモン-さらわれたエビス丸 GB 1 7 3786 SOUND 30 キャプテン翼II スーパーストライカー FC 1 7 3786 ヒロインズドラマ キラッとプリ☆チャン AC 1 7 3786 Tension Rising キングダムハーツII PS2 1 7 3786 決戦! 魔轟三鉄傑!! クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ And,iOS,Kindle 1 7 3786 Advance クラッシュフィーバー iOS,And 1 7 3786 運命に囚われし者たち クロノ・クロス PS 1 7 3786 せめて、涙のない世界をあなたに ケイオスリングスΩ PSV 1 7 3786 Over the clouds ゴッドイーター PSP 1 7 3786 SHINING・BRAVE! ザ・キング・オブ・ファイターズ2002 アンリミテッド・マッチ PS2,AC 1 7 3786 Let Mom Sleep ジェット セット ラジオ DC,PC,PS3,360,PSV 1 7 3786 !!!ゴーストパーティー!!! ジャックジャンヌ NS 1 7 3786 Outride a Crisis スーパーハングオン AC,MD 1 7 3786 魅惑の道化師ディメーン スーパーペーパーマリオ Wii 1 7 3786 フューリークッパ戦(最強) スーパーマリオ 3Dワールド+フューリーワールド NS 1 7 3786 鋼鉄の孤狼 スーパーロボット大戦IMPACT PS2 1 7 3786 Icarus スグリ PC 1 7 3786 海賊チャンネル スペースチャンネル5 VR あらかた☆ダンシングショー PSVR 1 7 3786 エルト海 ゼノブレイド ディフィニティブ エディション NS 1 7 3786 渋谷-密林航行[DIVA Ver.] セブンスドラゴン2020 PSP 1 7 3786 ミニゲーム 鳥人間チャレンジ ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド NS,WiiU 1 7 3786 神獣 ヴァ・メドー(探索) ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド NS,WiiU 1 7 3786 SHROUDED FOREST ソニックと暗黒の騎士 Wii 1 7 3786 いつか、どこかで。 ソフィーのアトリエ ~不思議な本の錬金術士~ PS4,PS3,PSV 1 7 3786 ガンドラダ工房 ダーククロニクル PS2 1 7 3786 Return to Planet X タイムスプリッター ~時空の侵略者~ PS2 1 7 3786 果て無き彷徨 "The Voyager" タクトオブマジック Wii 1 7 3786 トレーニング タッチ!カービィ NDS 1 7 3786 ダンジョン7 ダンジョンエクスプローラー PCE 1 7 3786 接戦、乱戦 ダンボール戦機 PSP 1 7 3786 生きてるって素晴らしい どきどきポヤッチオ PS 1 7 3786 PM5 00 とびだせ どうぶつの森 3DS 1 7 3786 We Are The Lights ドラガリアロスト iOS,And 1 7 3786 哀しみの日々 ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち PS 1 7 3786 追憶のオルゴール ドラゴンクエストX 眠れる勇者と導きの盟友 オンライン WiiU,PC,PS4,3DS他 1 7 3786 FLY AWAY ナイトストライカー AC 1 7 3786 追憶のアラウカリア ノスタルジア Op.2 AC 1 7 3786 VSモードエンディング パネルでポン SFC 1 7 3786 Unreal Creation! ハミダシクリエイティブ PC 1 7 3786 Lord of Vanquisher ぱるメロ!~Music Emotion PC 1 7 3786 ポケット!フォーエバー! パワプロクンポケット14 NDS 1 7 3786 草原を往く パワプロクンポケット4 GBA 1 7 3786 嘆きノ森 オルゴールver. ひぐらしのなく頃に絆 NDS 1 7 3786 ドイツコース ビッグトーナメントゴルフ AC 1 7 3786 通常戦闘曲 ひねもす式姫 iOS,And 1 7 3786 CYBER PHANTOM ビューティフルジョー2 GC 1 7 3786 流星群 a meteor shower ピリオド PC 1 7 3786 ハゥリングギア ファイアーエムブレム ヒーローズ iOS,And 1 7 3786 貴様らが…姉さんの言葉を語るな! ファイアーエムブレム 覚醒 3DS 1 7 3786 貫く意志 ファイアーエムブレム 風花雪月 NS 1 7 3786 最後の戦い ファイナルファンタジーV SFC 1 7 3786 Slam Shuffle ファイナルファンタジーVI SFC 1 7 3786 久遠 ~光と波の記憶~ ファイナルファンタジーX-2 PS2 1 7 3786 天つ風 ファイナルファンタジーXIV 紅蓮のリベレーター PS4,PC 1 7 3786 ヴォイドの棺 ~魔航船ヴォイドアーク~ ファイナルファンタジーXIV 蒼天のイシュガルド PS3,PS4,PC 1 7 3786 邪竜の急襲 ~ニーズヘッグ征竜戦~ ファイナルファンタジーXIV 蒼天のイシュガルド PS3,PS4,PC 1 7 3786 ききこみ ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者 FCD 1 7 3786 レースBGM1 ファミリージョッキー FC 1 7 3786 AS One ファンタシースターオンライン2 PC,PSV,PS4 1 7 3786 Tears of the moon - Artemis - ファンタシースターオンライン2 PC,PSV,PS4 1 7 3786 ハリコフシステマ テーマソング ショップアレンジ フィギュアヘッズ PC,PS4 1 7 3786 しんしん~夜~ フィリスのアトリエ ~不思議な旅の錬金術士~ PS4,PSV 1 7 3786 一触即発~1 ブライ上巻 PC98 1 7 3786 智 勇 双 全 ブラスターマスター ゼロ2 NS,PC 1 7 3786 The escapers fly into the sky フリー楽曲 - 1 7 3786 オールバンシンク フリー楽曲 - 1 7 3786 手紙 フリー楽曲 - 1 7 3786 1st Impression プリニー ~オレが主人公でイイんスか?~ PSP 1 7 3786 黄昏太平旅路唄 プリンセスコネクト!Re Dive iOS,And,PC 1 7 3786 in the shadows ブレイブルー クロノファンタズマ AC 1 7 3786 Never Return Alive ベア・ナックルII 死闘への鎮魂歌 MD 1 7 3786 ミサイルアーティスト ペーパーマリオ オリガミキング NS 1 7 3786 タイトル ペーパーマリオ スーパーシール 3DS 1 7 3786 最終ボス戦闘 ペルソナ2罪 PS 1 7 3786 夢想曲 ペルソナ4 PS2 1 7 3786 Laser Beam ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス 3DS 1 7 3786 ベルデセルバ戦記 ベルデセルバ戦記~翼の勲章~ PS 1 7 3786 Lost Temple ボーダーダウン AC 1 7 3786 Extreme pirates ボーダーブレイク・スクランブル AC 1 7 3786 戦い (VS野生のポケモン) ポケットモンスター Let s Go! ピカチュウ・Let s Go! イーブイ NS 1 7 3786 15番道路 ポケットモンスター X・Y 3DS 1 7 3786 ラテラルタウン ポケットモンスター ソード・シールド NS 1 7 3786 こうそくせん ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー NDS 1 7 3786 戦闘!チャンピオン ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー NDS 1 7 3786 美術館 ポケットモンスター ルビー・サファイア・エメラルド GBA 1 7 3786 大いなる峡谷 ポケモン不思議のダンジョン 救助隊DX NS 1 7 3786 夢の旅人 マール王国物語 PS2 1 7 3786 シャーベットランド マリオバスケ3on3 NDS 1 7 3786 Vision まわるメイドインワリオ GBA 1 7 3786 SGJC ミニ四駆シャイニングスコーピオン レッツ ゴー!! SFC 1 7 3786 スタート画面の曲 メールプラーナ PS 1 7 3786 天地に誓う騎士 メギド72 iOS,And 1 7 3786 “Metal Gear Solid”Main Theme メタルギアソリッド2 サンズ オブ リバティー PS2 1 7 3786 V Has Come To メタルギアソリッドV ファントムペイン PC,PS3,PS4,360,Xbox1 1 7 3786 GALAXY COMBAT メダロットS iOS,And 1 7 3786 牙を剥く轟竜~4 Version モンスターハンター4 3DS 1 7 3786 狂イ猛リシ漆黒ノ大蛇【玲瓏】/ラヴィエンテ猛狂期 -決戦- モンスターハンターフロンティアオンライン PC 1 7 3786 無限の勇気を持ちて モンスターハンターワールド アイスボーン PS4,Xbox1(海外のみ),PC 1 7 3786 Oh-Boss ランス10 -決戦- PC 1 7 3786 戦闘3倍 ランスVI -ゼス崩壊- PC 1 7 3786 バトル#アクナビート ルーンファクトリー3 NDS 1 7 3786 More Than Words ルフランの地下迷宮と魔女ノ旅団 PSV,PS4,NS,PC 1 7 3786 幌馬車のアトリエ ルルアのアトリエ ~アーランドの錬金術士4~ PS4,NS,PC 1 7 3786 TITLE ロックマン3 Dr.ワイリーの最期!? FC 1 7 3786 VS 8Boss ロックマンX8 PS2,PC 1 7 3786 Vampire Killer 悪魔城ドラキュラ FCD 1 7 3786 月夜に溶ける歌 嘘つき姫と盲目王子 PS4,NS,PSV 1 7 3786 Fight with Assailant 英雄伝説 空の軌跡 SC PC 1 7 3786 遥かなる故郷へ 街 ~運命の交差点~ PS 1 7 3786 或真敷一座 逆転裁判4 NDS 1 7 3786 ダバダバウッホッホ 究極戦隊ダダンダーン AC 1 7 3786 Rumbling Hearts 君が望む永遠 PC 1 7 3786 無敵のセッション!!~おてんば恋娘、他 幻想少女大戦夢 PC 1 7 3786 路地裏ノ景色 御神楽少女探偵団 PS 1 7 3786 千尋谷高校サクセス 実況パワフルサッカー iOS,And 1 7 3786 試合 実況パワフルプロ野球10 GC,PS2 1 7 3786 ボス戦 女神転生外伝 ラストバイブルII GB,GBC 1 7 3786 Endless Journey 消滅都市0. iOS,And 1 7 3786 Coral Reef -Epipelagic- 深世海 Into the Depths iOS,NS 1 7 3786 IRON MONARCH 真・三國無双8 PS4 1 7 3786 ダンテ戦闘 真・女神転生III NOCTURNE マニアクス PS2 1 7 3786 口上 水戸黄門II 世界漫遊記 FC 1 7 3786 竹取の言葉 雀魂 -じゃんたま- PC,iOS,And 1 7 3786 大空を駆ける冒険 世界樹の迷宮IV 伝承の巨神 3DS 1 7 3786 激突!グルメレース 星のカービィ スーパーデラックス SFC 1 7 3786 砂漠ステージ 星のカービィ3 SFC 1 7 3786 グランドローパー 星のカービィWii Wii 1 7 3786 異世界からの戦士 星のカービィWii Wii 1 7 3786 Song of MANA ~Opening Theme~ 聖剣伝説 Legend of Mana PS 1 7 3786 猿飛佐助のテーマ 戦国BASARA3 PS3,Wii 1 7 3786 光槍・ガングニール 戦姫絶唱シンフォギアXD UNLIMITED iOS,And 1 7 3786 桃源万仙陣 相州戦神館學園 万仙陣 PC 1 7 3786 オープニング 太閤立志伝V PS2 1 7 3786 復活の検事 大逆転裁判2 -成歩堂龍ノ介の覺悟- 3DS 1 7 3786 ARMAGEDDON 第3次スーパーロボット大戦 SFC 1 7 3786 EMOTIONS 探偵 神宮寺三郎 夢の終わりに PS 1 7 3786 BGM06 弾幕デス And 1 7 3786 見えない暖かいもの 虫姫さま ふたり AC,360 1 7 3786 攻城戦 天地を喰らうII 諸葛孔明伝 FC 1 7 3786 愁 ―うれい― 天穂のサクナヒメ NS,PS4 1 7 3786 sands of time -電車でD Ver- (VS 阪急7001) 電車でD LightningStage PC 1 7 3786 Happiness Depends On You 電車でD ShiningStage PC 1 7 3786 大往生→大復活→最大往生! 怒首領蜂 最大往生 AC 1 7 3786 Flotage (Stage3-B) 怒首領蜂 大復活 ブラックレーベル AC 1 7 3786 ミチ 怒首領蜂最大往生EXAレーベル AC 1 7 3786 ファーイーストエルドラド 東方真珠島 ~ Hollow Song of Birds. PC 1 7 3786 死体旅行 ~ Be of good cheer! 東方地霊殿 ~ Subterranean Animism. PC 1 7 3786 君はあの影を見たか 東方非想天則 超弩級ギニョルの謎を追え PC 1 7 3786 ボンビラス星へようこそ! 桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~ NS 1 7 3786 希望灯 白き鋼鉄のX(イクス) THE OUT OF GUNVOLT NS,PS4,PC 1 7 3786 JUNKFOOD JUSTICE 白猫プロジェクト iOS,And 1 7 3786 水の惑星アクアネット(ボスクリア前) 爆ボンバーマン2 N64 1 7 3786 デジタル・プレデター 半熟英雄 対 3D PS2 1 7 3786 龍戦士のテーマ 飛龍の拳II ドラゴンの翼 FC 1 7 3786 SMASH UP 魔神転生II SPIRAL NEMESIS SFC 1 7 3786 妖精大戦争 ~ Faily Wars 妖精大戦争 ~ 東方三月精 PC 1 7 3786 Can t retrace 雷電IV AC 1 7 3786 ネクロマスター 連縁天影戦記 ~ Brilliant_pagoda_or_haze_castle PC 1 7
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クチートのミネラルの旅の軌跡 byM雪月花 ◆SvOPK/snow進行状況 オーバ前 ROM ダイヤモンド 311名前:雪月花◆SvOPK/snow:2007/02/26(月) 09 50 37 ID ??? 生存報告 エネコで最終形態ライバルと戦ってはいますが、ヘラクロスのインファイトで確定1なので、 相手インファイト以外→甘えるを成功させないと勝てないのに、必ず最初に使ってくるので対処不可能状態です。 DS自体が兄弟兼用で下手に時間を変えられなく、土日しか戦えないので、 エネコは土日にライバルに挑戦しつつ、次の旅を開始しようと思います。 次の旅のパートナーはクチート。縛りは…、 異ID+技マシン禁止+火炎球装備(火傷の回復禁止)+戦闘中は飲み物のみ使用可能。 あと、自力習得特殊技ははき出すだけだけど、火炎球あるし使わない方向で。 ミネラル(クチート) ♀ Lv1 火炎球 特性:威嚇 うっかりやorz(特攻↑、特防↓) のんびりするのが好き 技:驚かす HP:12 攻:6 防:6 特攻:6 特防:5 速:6 自分はポッチャマ選択、ライバルはナエトル選択。 長い目で見れば、リーグ前にはライバルの手持ち全員が鋼タイプに対して効果抜群の技を持ってくれる。 313名前:雪月花◆SvOPK/snow:2007/02/28(水) 11 24 12 ID ??? 飲み物を手に入れるまでは10-αターンで勝負を決めなければ負けなので、ポケセンと草むらの往復が激しい。 ライバル戦 VSムックル 噛み付く撃破、火炎球発動 VSナエトル 噛み付く→殻に篭もる→無視→殻に篭もる→無視驚かす→怯み→無視→殻に篭もる→噛み付く急所撃破 ヒョウタ戦 VSイシツブテ 噛み付く→岩落とし→火炎球発動→相手傷薬→無視→無視→岩落とし→ 無視→岩落とし→無視→岩落とし→無視騙し討ち→岩落とし→噛み付く撃破 VSイワーク 無視自滅→岩落とし→火傷ダメージ死亡 もう一度挑戦 VSイシツブテ 噛み付く→岩落とし→火炎球発動→相手傷薬→無視驚かす→無視驚かす→岩落とし→噛み付く撃破 VSイワーク 無視→嫌な音→無視→岩落とし→無視→岩落とし→無視自滅→岩落とし死亡 10ターン以内(相手からのダメージ考えると7~9ターン以内)では、倒せないですよ…。現在レベル28。 326名前:雪月花(クチート)◆SvOPK/snow:2007/03/02(金) 14 51 22 ID ??? なにげに覚える技のタイプが悪(10種)>鋼(3種)な上に欺きポケモンで、鋼タイプなのに腹黒キャラな件。 ヒョウタ戦 Lv22から挑戦して、ヒョウタのイシツブテだけでLv36まで成長。噛み砕く習得。 VSイシツブテ 噛み砕く撃破、火炎球発動 VSイワーク 無視→岩落とし→無視驚かす→岩落とし→無視→岩落とし→噛み付く急所撃破 VSズガイドス 噛み砕く一撃 始めてズガイドスまで辿り着いた途端、一撃ですか。イワークが一番辛かったのね…。 マーズ戦 VSズバット 噛み砕く一撃、火炎球発動 VSブニャット 無視噛み付く→引っ掻く→無視→引っ掻く→自滅→相手騙し討ち→噛み砕く撃破 334名前:雪月花(クチート)◆SvOPK/snow:2007/03/04(日) 01 59 18 ID ??? ナタネ強すぎね?Lv40から延々と挑戦してLv46まで成長したよ…。 ナタネ戦 VSチェリンボ 無視→草結び→火炎球発動→噛み砕く撃破 VSナエトル 無視→草結び→噛み砕く撃破 VSロズレイド 無視→マジカルリーフ→噛み砕く、相手オボン発動→マジカルリーフ→噛み砕く撃破、自分残りHP13 ジュピター戦 VSズバット 命令無視噛み付く一撃、火炎球発動 VSスカタンク 噛み砕く→嫌な音→噛み砕く、相手オボン→煙幕→無視→煙幕→ 噛み砕く→辻斬り→無視騙し討ち→煙幕→自滅→煙幕→騙し討ち撃破、自分残りHP10 現在ステ ミネラル(クチート ♀) Lv47 火炎球 HP:117 攻:99 防:106 特攻:77 特防:52 速:57 同じ種族値とは思えない特攻と特防の差。逆なら良かったのに…。チェリンボ狩りすぎたか。 なにげに黒いヘドロ輸入しました。主要戦闘とかでは他所で火炎球発動→黒いヘドロ装着で戦闘で効果を併用していこうと思う。 …飲み物を手に入れた後から。でないと毎ターン3/16ダメージで、ヨスガのライバル撃破は無理に近い。 339名前:雪月花(クチート)◆SvOPK/snow:2007/03/04(日) 22 37 29 ID ??? 今作で悪タイプの特殊技って悪の波動しかないのに、GBA時代まで悪タイプ自体が特殊扱いだったのが不思議。 ライバル戦inヨスガ VSムックル 噛み砕く一撃粉砕、火炎球発動 VSポニータ 無視→体当たり→噛み砕く粉砕 VSブイゼル 電光石火→無視→噛み砕く粉砕 VSハヤシガメ 無視→体当たり→噛み砕く→殻に篭もる→無視騙し討ち→殻に篭もる→噛み砕く粉砕、因みに残りHPは2でした。 遂にカフェ山小屋でモーモーミルクを買えるだけ入手。殆どは山小屋~ノモセとジムのトレーナーで使い切ったけど。 格闘少女もパワフル仮面男も挑戦したけど倒せそうにないので、しばらくこの2人で停滞しそう。 現在 所持金0円 所持アイテム:モーモーミルク7個のみ クチートはLv50 345名前:雪月花(クチート)◆SvOPK/snow:2007/03/07(水) 13 38 55 ID ??? 受験疲れた。というわけで、ジムリーダー戦。 クチートはLv56、火傷状態+黒いヘドロ、蓄える・アイアンヘッド・噛み砕く・騙し討ち スモモ戦 VSアサナン 噛み砕く→ドレインパンチ→相手凄い傷薬→無視→ミルク→見切りミス→無視→念力→無視蓄える→念力→ ミルク→ドレインパンチ→無視→念力→ミルク→念力→見切り→無視→噛み砕く撃破 VSゴーリキー ミルク→岩石封じ→アイアンヘッド→岩石封じ→ミルク→相手凄い傷薬→ アイアンヘッド→岩石封じ→ミルク→睨み付ける→噛み砕く撃破 VSルカリオ ドレインパンチ→蓄える→ミルク→ドレインパンチ→ミルク→ボーンラッシュ3回、内1回急所→ミルク→はっけい→ メタルクロー→自滅→ミルク→ボーンラッシュ3回→ボーンラッシュ2回→アイアンヘッド→ミルク→はっけい→ ボーンラッシュ→2回→アイアンヘッド、相手オボン発動→ミルク→はっけい→ボーンラッシュミス→無視噛み砕く→ ミルク→はっけい→メタルクロー→無視→ミルク→ボーンラッシュ2回→ボーンラッシュ3回→アイアンヘッド撃破 マキシマム仮面 VSギャラドス 蓄える→威張る→無視噛み砕く→龍の怒り→ミルク→相手良い傷薬→自滅→潮水→ミルク→龍の怒り→ ミルク→噛み付く→自滅→龍の怒り→ミルク→潮水→混乱解除、自滅→噛み付く→ミルク→噛み付く→ 自滅→噛み付く→ミルク→潮水→自滅→威張る→ミルク→龍の怒り→ミルク→噛み付く→噛み砕く撃破 VSヌオー ミルク→尻尾を振る→噛み砕く撃破 VSフローゼル 追い打ち→自滅→ミルク→氷の牙→氷の牙→無視→ミルク→スピードスター→スピードスター→噛み砕く撃破 戦っている最中に気づいたけどヘドロのダメージは1/8なのか…。火傷と合わせて毎ターン1/4ダメージとか飲み物消費量が半端無い。 346名前:雪月花(クチート)◆SvOPK/snow:2007/03/08(木) 21 45 33 ID ??? 「いらっしゃいませぇ! ごちゅうもんは なんですか? といっても うちは モーモーミルク だけですけどぉ モーモーミルク 500えん いっぽん いかが ですかぁ?」 「モーモーミルク どおぞぉ!」 「もー! おかねたりないですよぉ」 この一連の流れをL連打で何十回やったことか…。一気に買えれば良かったのに。 ライバル戦inノモセ VSムックル 電光石火→無視蓄える→無視蓄える→翼で打つ→無視蓄える→翼で打つ急所→ミルク→影分身→騙し討ち撃破 VSポニータ ミルク→尻尾を振る→噛み砕く撃破 VSブイゼル 電光石火→自滅→ミルク→追い打ち→電光石火→噛み砕く撃破 VSハヤシガメ ミルク→殻に篭もる→無視噛み砕く→葉っぱカッター→アイアンヘッド→噛み付く→ ミルク→葉っぱカッター→無視→噛み付く→騙し討ち撃破 373名前:雪月花(クチート)◆SvOPK/snow:2007/03/16(金) 22 32 41 ID ??? メリッサ戦 VSフワライド 無視→小さくなる→噛み砕く→風起こし→ミルク→相手凄い傷薬→無視→小さくなる→無視噛み砕くミス→小さくなる→ ミルク→小さくなる→騙し討ち→小さくなる→ミルク→風起こし→騙し討ち撃破、誘爆・火傷・ヘドロで1/2ダメージとか酷い VSムウマージ ミルク→マジカルリーフ→マジカル→無視→ミルク→妖しい光→シャドーボール→自滅→ミルク→シャドー→ ミルク→マジカル→マジカル→自滅→ミルク→マジカル→マジカル→自滅→ミルク→マジカル→サイケ光線→無視蓄える→ ミルク→サイケ光線→マジカル→無視→ミルク→シャドーボール、特防減→シャドー→噛み砕く撃破、Lv60に VSゲンガー ミルク→シャドークロー→シャドークロー→噛み砕く撃破 ミオのライバル戦で数日間難航中。ムクバードの威嚇を始めとして、 自分が蓄える3回した後にポニータの尻尾を振る×9、宿り木来たら毎ターン3/8ダメージ…。 最終的に回復量<ダメージになって攻撃する暇無く負けてしまいます。もしかしたら飲み物縛り解放するかも…。 現在のレベル61 レベル上げる毎に火傷とヘドロのダメージを回復しきれなくなってくる。 380名前:雪月花(クチート)◆SvOPK/snow:2007/03/19(月) 19 51 43 ID ??? ライバル戦inミオ VSムクバード 無視蓄える→影分身→アイアンヘッド→怯み→騙し討ち撃破 VSポニータ ミルク→炎の渦→無視アイアンヘッド→炎の渦→ミルク→炎の渦→ミルク→尻尾を振る→自滅→突進→ ミルク→炎の渦→無視アイアンヘッド→炎の渦→ミルク→突進→無視アイアンヘッド撃破 VSヘラクロス ミルク→瓦割り→ミルク→角で突く→蓄える→燕返し→ミルク→辻斬り→アイアンヘッド→怯み→アイアンヘッド撃破 VSブイゼル ミルク→電光石火急所→無視騙し討ち急所撃破 VSハヤシガメ ミルク→宿り木の種→ミルク→噛み付く→無視→葉っぱカッター→ミルク→葉っぱカッター→ミルク→噛み付く→アイアンヘッド急所撃破ktkr 急所が何度も当たったり、尻尾を振る連発される前にポニータを倒せたのが勝因。 トウガン戦※長いので簡略 VSドーミラー 最初の噛み砕くで相手の防御が1段階減少、もう一回噛み砕く当てて粉砕。ミルク6個使用。蓄える2回使用。 VSハガネール 噛み砕くで相手の防御を3段階減らせたので、少しずつ攻撃して撃破。ミルク14個使用。蓄える1回使用。相手凄い傷薬使用。 VSトリデプス 相手が鉄壁3回使った上で眠ってくるので、相手のPPを切らして悪あがき反動死。ミルク23個使用。相手凄い傷薬使用。 総計モーモーミルク43個使用。力の根っこや回復の薬が懐かしい。現在Lv63なので一時的にツンデレ解除。 381名前:雪月花(クチート)◆SvOPK/snow:2007/03/20(火) 17 53 35 ID ??? 幹部は略しまーす。 サターン戦 ユンゲラー・ドーミラーは噛み砕く、ドクロッグはアイアンヘッドで撃破。 マーズ戦 ゴルバット・ブニャットはアイアンヘッド、ドーミラーは噛み砕くで撃破。 スズナ戦 VSユキカブリ アイアンヘッド一撃 VSチャーレム アイアンヘッド急所一撃 VSユキノオー ミルク→雪雪崩→アイアン、オボン発動→雪雪崩→ミルク→ウッドハンマー→ミルク→ハンマー→アイアン、Lv68に VSニューラ ミルク→切り裂く→ミルク→騙し討ち→切り裂く急所→アイアンヘッド一撃 霰(10)+ヘドロ(21)+火傷(21)=毎ターン51ダメージはきつい。 アカギ戦 VSヤミカラス アイアンヘッド→怯み→相手良い傷薬→アイアンヘッド撃破 VSゴルバット アイアンヘッド→エアカッター→ミルク→相手良い傷薬→アイアンヘッド→噛み付く→ミルク→噛み付く→噛み砕く撃破 VSニューラ 嫌な音→アイアンヘッド一撃 サターン戦 リッシ湖と同じ方法で撃破。 388名前:雪月花(クチート)◆SvOPK/snow:2007/03/23(金) 17 15 56 ID ??? あることに気づいてしまった今日この頃。ライバルが回復するからアカギ戦の火炎球とヘドロの両立ができない! なので、ダブル幹部戦とアカギ戦は火炎球のみで縛っていこうと思います。 マーズ・ジュピター戦 ゴンベが蓄えて飲むばかりなので、マーズの三体を倒した後にゴンベも倒して、ポニータ登場。そのままジュピターをタコ殴りでEND。 アカギ戦 VSドンカラス アイアンヘッド一撃、火炎球発動 VSギャラドス 噛み砕く→氷の牙→噛み砕く→ギガインパクト→蓄える→反動→ミルク→地震→噛み砕く→氷の牙→相手良い傷薬→噛み砕く→ ミルク→アクアテール→蓄える→地震→ミルク→アクアテール→噛み砕く→ギガインパクト→噛み砕く、防御減→反動→ 噛み砕く→地震→ミルク→ギガインパクト→ミルク→反動→騙し討ち撃破 VSマニューラ シザークロス→アイアンヘッド、相手オボン発動→辻斬り→アイアンヘッド撃破、Lv71に。ツンデレ発動 VSクロバット ミルク→妖しい光→エアスラッシュ急所→自滅→ミルク→相手噛み付く→相手噛み付く→自滅→スラッシュ→自滅→ 相手噛み付く→怯み→ミルク→相手噛み付く→相手噛み付く→怯み→スラッシュ→アイアン→スラッシュ→アイアン→ ミルク→妖しい光→相手噛み付く→自滅→スラッシュ→アイアン→ミルク→相手回復の薬→スラッシュ→自滅→ 相手噛み付く→無視噛み砕く急所→ミルク→スラッシュ→相手噛み付く→アイアン→相手噛み付く→怯み→相手噛み付く→アイアン撃破 389名前:雪月花(クチート)◆SvOPK/snow:2007/03/23(金) 17 23 14 ID ??? ディアルガ戦(ここからはいつも通り火傷+黒いヘドロ) メタルクロー→蓄える→原子の力→蓄える→ミルク→メタルクロー→メタルクローミス→蓄える→ミルク→ドラゴンクロー→ メタルクロー、攻撃UP→アイアンヘッド→メタルクロー→無視騙し討ち→ミルク→原子の力、全能力UP→ミルク→ドラゴンクロー→ 原子の力→無視→ミルク→時の咆吼ミス→メタルクロー→アイアンヘッド→ミルク→原子の力→原子の力→アイアンヘッド(PP切れ)→ ミルク→ドラゴンクロー→ミルク→ドラゴンクロー→時の咆吼→無視→ミルク→反動→ミルク→時の咆吼→反動→無視蓄える不発→ ミルク→時の咆吼→ミルク→反動→ドラゴンクロー→無視→ミルク→ドラゴンクロー→時の咆吼→噛み砕く→ミルク→反動→ ミルク→ドラゴンクロー→ドラゴンクロー→噛み砕く→ミルク→メタルクロー→メタルクロー→無視→ミルク→ドラゴンクロー→ ミルク→メタルクロー、攻撃UP→ドラゴンクロー→無視→ミルク→メタルクロー→メタルクロー、攻撃UP→噛み砕く→ ミルク→メタルクロー→メタルクロー→無視蓄える不発→ミルク→メタルクロー→ミルク→ドラゴンクロー→メタルクロー→噛み砕く(PP切れ)→ ミルク→メタルクロー→メタルクロー→無視→ミルク→メタルクロー→ミルク→ドラゴンクロー→メタルクロー→無視蓄える不発→ ミルク→メタルクロー→メタルクロー→騙し討ち→ミルク→ドラゴンクロー→ミルク→ドラゴンクロー→メタルクロー→無視→ ミルク→メタルクロー→メタルクロー→無視→ミルク→ドラゴンクロー→ミルク→メタルクロー→メタルクロー→無視蓄える不発→ ミルク→メタルクロー→メタルクロー→騙し討ち→ミルク→メタルクロー→メタルクロー→騙し討ち→ミルク→メタルクロー→ ミルク→メタルクロー→メタルクロー、攻撃UP→ミルク→メタルクロー→メタルクロー→騙し討ち→ミルク→相手悪あがき反動死 攻撃5段階UPは酷すぎるだろ。それに時の咆吼が今ひとつなのに半分近くダメージがあって死ぬかと思った。特防低いな…。 現在ステ ミネラル(クチート ♀) Lv71 火炎球で火傷状態+黒いヘドロ HP:178 攻:156(実質78) 防:164 特攻:123 特防:78 速:93 HP200超したらそれこそ地獄に陥る。 432名前:雪月花(クチート)◆SvOPK/snow:2007/04/03(火) 13 08 44 ID ??? 生存報告です。 現在デンジを倒せなくて苦戦中。 ライチュウでチャージビーム連発されたり、エテボースで悪巧み×3→バトンタッチしてオクタンのオクタン砲で一撃etc 特防の低さが原因だと思うので、ひとまず先に努力値の振り直しをしています。 早くて明日、遅くても明後日くらいからデンジ攻略に挑みたいと思います。 434名前:雪月花(クチート)◆SvOPK/snow:2007/04/05(木) 17 22 06 ID ??? 振り直し前 Lv72 HP:181 攻:158(実質79) 防:167 特攻:124 特防:79 速:95 振り直し後 Lv74 HP:175 攻:170(実質85)(128) 防:170(128) 特攻:102 特防:119(252) 速:81 結構時間空けたので念のためおさらい。クチートで火炎球で火傷にしたと黒いヘドロ装着で主要戦闘。 回復は飲み物のみ。なので火傷やPPの回復も禁止。現在デンジ戦。 デンジ戦 VSライチュウ 光の壁→無視→瓦割り→無視アイアンヘッド→チャージビーム、特攻増→噛み砕く→ミルク→相手凄い傷薬→ ミルク→瓦割り→チャージ、特攻増→噛み砕く、防御減→ミルク→光の壁→チャージ、特攻増→チャージミス→噛み砕く VSエテボース ミルク→バトンタッチ、オクタン登場 VSオクタン 噛み砕く→オーロラビーム→ミルクチャージ、特攻増→無視→オクタン砲→ミルク→オーロラ→ミルク→チャージミス→噛み砕く急所撃破 VSレントラー 無視騙し討ち→チャージ→噛み砕く→チャージミス→ミルク→チャージ、特攻増→噛み砕く、相手オボン発動→雷の牙→ ミルク→チャージ、特攻増→ミルク→チャージ、特攻増→ミルク→チャージ、特攻増→ミルク→相手噛み砕く→ 自分噛み砕く→雷の牙→ミルク→相手回復の薬→自分噛み砕く→相手噛み砕く→ミルク→雷の牙急所→ミルク→相手噛み砕く→ 自分噛み砕く→相手噛み砕く→ミルク→雷の牙→ミルク→雷の牙→ミルク→チャージミス→無視騙し討ち→チャージ、特攻増→ ミルク→雷の牙→ミルク→相手噛み砕く、防御減→ミルク→チャージミス→噛み砕く撃破、Lv75に VSエテボース デンジ「こいつが おれの きりふだ!」 さっき意味もなく使ってきたよね、その切り札。 電撃波→アイアンヘッド→ミルク→高速移動→電撃波→アイアンヘッド撃破 ツンデレモード解除。レベル上げないと次のライバル勝てる気がしない。もしかしたらヘドロ外すかも。 インファイト・瓦割り・大文字・地震、と鋼に対して効果抜群の技を全員覚えているというライバルさんは凶悪。 435名前:雪月花(クチート)◆SvOPK/snow:2007/04/06(金) 17 07 31 ID ??? ヘドロ有りだと何十回も倒れてしまったので悔しいですがヘドロは外します。 なので既に火炎球で火傷にした状態から戦闘開始にします。アイテムは所持させません。 ライバル戦 VSムクホーク 鋼の翼→蓄える→鋼の翼、防御増→蓄える→鋼の翼→蓄える→インファイト→アイアンヘッド→ 燕返し→アイアン→ミルク→インファイト→インファイト→アイアン撃破 VSギャロップ ミルク→日本晴れ→大文字→噛み砕く→ミルク→ジャンプ→飛び跳ねる→噛み砕く→ミルク→大文字→ ミルク→ジャンプ→飛び跳ねる→噛み砕く→ジャンプ→騙し討ちミス→飛び跳ねる→騙し討ち撃破 VSヘラクロス 燕返し→アイアン→ミルク→燕返し→燕返し→アイアン→燕返し→アイアン撃破 VSドダイトス ミルク→地震→アイアン→相手噛み砕く→アイアン→リーフストーム→ミルク→相手噛み砕く→ アイアン→怯み→アイアン→リーフストーム→アイアン→地震→ミルク→リーフストーム→ ミルク→光合成→アイアン→地震→アイアン→相手噛み砕く→アイアンヘッド撃破、Lv82に VSフローゼル ミルク→瓦割り→氷の牙→噛み砕く→ミルク→瓦割り→氷の牙→噛み砕く→ 氷の牙→噛み砕く、防御減→ミルク→相手噛み砕く→氷の牙→騙し討ち撃破 VSカビゴン 噛み砕く→のし掛かり→噛み砕く→のし掛かり→ミルク→のし掛かり→噛み砕く、防御減→のし掛かり→ 噛み砕く→地震→ミルク→のし掛かり→噛み砕く→地震→アイアンヘッド撃破 次はいよいよ四天王&チャンピオンですか…。とりあえずミルクを250個くらい用意してからにします。 476名前:雪月花◆SvOPK/snow:2007/05/06(日) 19 23 26 ID ??? ノ オーバが倒せません。 ついでに近況報告 回復道具は飲み物系以外禁止にしていましたが、ポイントアップやPP回復系も使用可にしました。 騙し討ち・噛み砕く・アイアンヘッドのPPをそれぞれポイントアップ×3で最大にして、四天王に挑戦。 リョウ・キクコを倒したものの、オーバで完全に止まっています。 ちなみに今のHPは200以上なので、モーモーミルクでの回復量は自己再生などより少ないという状態です。
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本戦SSその7 「ふーん、ふん、ふふーん……」 後ろ手に扉を閉めながら、もう片方の手で電灯のスイッチを探る。もう随分慣れたもので、すぐに指先がしかるべき突起を見つけた。 ぱちり。 何度か点滅した後に、蛍光灯が室内を照らし出す。 積み上げられたダンボール、業務用の冷凍庫、裏側から見るドリンク棚……購買部のバックヤード。毎日大勢が訪れる施設の、限られた数人しか入れない一室。そこに自分がいるという事実は、なんとなく特別な気がして悪くない。 「おはようございます」 ぺこりと頭を下げる。私以外には誰もいないので、これは場所に対する挨拶だ。そういうの、ちょっと大事だと思う。 これから軽く掃き掃除をして、次にお金や在庫の確認をしたりして、開店に備えるのがいつもの流れなのだけど……今日は、その前に。 ちら、とその方向を見る。部屋の中央の作業台に置かれた、ごく小型ながら高級な冷蔵庫。私は知っている。その中には場違いなほど立派な桐の箱が入っていて、さらにその中には、伝説の……。 もちろん、盗む気なんかない。冗談抜きで殺される。けれど、ちょっと人より早く目に入れるだけなら。 冷蔵庫の扉に手をかける。少し間を置いて緊張感を演出。それからぐっと引いて開け、淡く照らされた内部を覗き込んで、 「……あれ?」 私は、首を傾げることになった。 「おや、おはよう」 「ひぇっ!?」 慌てて扉を閉め振り返ると、戸口に店長が立っていた。 日焼けした肌、引き締まった肉体。ほんのり憧れるようなナイスミドル。ただ、少し怪訝な表情をしている。 「今日は、僕だけで店番をすると連絡を回したはずだけど」 「れ、“レース”で危ないのって、昼休みだけでしょう? 朝の準備はお手伝いしようかと思って」 「ふうん……?」 彼の視線が、私の背後の冷蔵庫に動く。 「……まさか」 「いやいやいやいや違います! ちょっと実物を見てみたかっただけで! 確認してくださっても構いませんから!」 全力で首を振る。一瞬、確かに店長の言葉が冷えた。こんなところで死にたくない。 「あの、と言うか、本当に確かめてください。気になることがあって」 「うん? どれどれ」 「ほら、おかしくないですか、これ? だって――」 戦渦を忌み、目を背ける心が、太陽にもあるのだろうか。 五月、七日。 その日の空は、朝から分厚い灰色の雲で覆われていた。 「――……」 教師が何かを喋っている。しかし、仕橋王道は極度の集中によって、自身の聴覚を研ぎ澄まされた無音の内に保っていた。机の横には無骨なバックパック。争奪戦のための備えがそこに詰まっている。 彼だけではない。今この教室には、正しい意味で授業を受けている人間は一人もいない。彼ら彼女らの視線はただ一点、教室正面の掛け時計にのみ注がれ、耳はやがて鳴るチャイムの音色を聴くことにだけ機能を絞り込んでいる。 中には争奪戦に参加しない生徒もいるにはいたが、そういった者らにしたところで事情は変わらなかった。睨み合うライオンの群れの只中に放り込まれたとして、その状態で暢気に国語や数学の話を聞ける者が、果たしてどれだけいるだろうか? 「…………」 やがて、教師の意志も挫けた。彼は黙り込み、教卓の前の椅子に座して頬杖を突いた。 時計の針が進む。残り五分。この時のために、それは執拗なほど精確に調整されていた。 もうすぐ、四限の授業が終わる。 仕橋は地図を思い描く。教室を出て購買部へ向かい、伝説の焼きそばパンを手に入れるまでの地図を。幾度も確かめ、改良を重ねてきたそれを、この寸暇にも磨き上げていく。 残り三分。誰かが唾を飲む音が聞こえた。その者はこの場にいただろうか。あるいは隣の教室だっただろうか。 残り一分。時が止まったような静寂。だが秒針は動いている。文字盤という運命の車輪が、世界をその瞬間へと駆り立てていく。 そして。 キ ――スピーカーが最初の一音を鳴らすのと同時に、伝説の焼きそばパンを巡る戦いが幕を開けた。 舟行呉葉は八徳包丁を振るった。流れるような動きだった。 彼女を貫通刺殺せんと迫った鋭利な太刀魚は、空中で綺麗に三枚に下ろされた。 「そんな……!」 眼鏡を掛けた文学系の地味めな女子生徒が驚愕する。呉葉は記憶から彼女の名を手繰った。たしか黒渕さん――下の名前までは出てこない。 「食べ物を粗末にするのは、感心しないっすね」 跳ね上げられた切り身が落ちてくる。呉葉は懐から紙皿を取り出してそれを受けた。 そして手近な机に置いておく。おそらく誰かが食べてくれるだろう。 「それに、心臓狙いは良くない。人を殺せば、焼きそばパンの購入権を失う」 「……別にいいよ。私、自分で欲しいわけじゃないから」 じりじりと円を描くように動きながら、二人は間合いを測り合う。呉葉は巨大な包丁を構え、黒渕さんは両手を交差させて、それぞれの指の間に靴下を挟んでいる。それが太刀魚に変じるのだ。どういう理屈かは知らないが――そも、大抵の魔人能力には合理的な説明などつかない。 教室は既にもぬけの殻だ。他の者は全て焼きそばパンを買いに向かうか、あるいは単に巻き添えを恐れて逃げ出した。呉葉も購買部へ急ぐつもりだったが、教室を出る直前、太刀魚攻撃による妨害を受けた。 (どうして自分が狙われた? まさか焼きそばパンの正体を知られて? いや、それなら他にやりようがある。……単純に、彼女が勝たせたい人間の障害になりそうだから、か) 呉葉は無自覚だ。己の腹筋の魅力と、威力に。鍛え上げられた肉体を持ち、さらに業物を携えた彼女が最優先排除対象とされるのは、実際のところほとんど必然と言えた。 (よりによってこんな時に……。早くアレを確保しないと、私と大山田さんの優雅な公費横領ライフが……!) 額に汗が浮かぶ。その焦りが僅かに彼女の足を乱した。元より机と椅子が占める空間、教室は運動に向いた場所ではない。一定の速さを保っての摺り足が、机につかえて一瞬止まった。 黒渕さんの目が鋭く光った。 「――太刀魚天国!」 一斉に投げ放たれる靴下、いや太刀魚! 呉葉は即応し、今度はボールのような物体を取り出して投げ返すと、太刀魚の切っ先と交錯する刹那、再び包丁を一閃した。 八尾の太刀魚は回避難度も八倍。それでもなお全てが三枚下ろしとなる。C・C・Cに対象数の制限はない! だが! (甘い……!) 黒渕さんは机の陰で密かに片足を振り上げた。太刀魚天国は靴下を太刀魚に変える力。無論、それは自分が今履いているものであっても可能! 呉葉は未だ得物を振り抜いた体勢。死角からの攻撃を避けられはしない。上履きは駄目になるだろうが、構うものか。 無慈悲な振り子投石器の如く、必殺の一撃のために黒渕さんの足は振るわれ―― 「……あああああぁっ!?」 ――しかし、成らず。 両目を押さえてうずくまる彼女を、呉葉は肩の力を抜いて見下ろす。 「玉ねぎの目潰し。麺類を狩るのにも使える手っすよ。……眼鏡で遮られたらどうしようかと思いましたけど」 「あ、あなた……さっき、食べ物を粗末にするのは、って……!」 「や、まあ、そこはやむを得ない犠牲ってやつで」 頬を掻く呉葉の後方で、計二十四枚に捌かれた太刀魚が、先ほどの紙皿の上に落ちて重なった。もはやそこそこの団体向けの量だ。 「正直褒められた動機じゃないけど、私もあのきし――焼きそばパンを欲する一人っす。だから行かせてもらう。……目、早めに洗ってよ」 そう言うと、呉葉は教室の窓に近付き、躊躇なくひらりと飛び降りた。ここは二階だが、呉葉は戦闘型の魔人だ。問題はない。 「……闇雲……くん……」 残された黒渕さんの声は、誰の耳にも届くことはなかった。 舟行呉葉の勝利から、時間は少し遡る。 新校舎から購買部までの道の上空に、数々の花が咲いていた。 花とは例えばパラシュートであったり、あるいは背中から生えた翼であったり、あるいは何だかよく分からない謎の視覚効果であったりした。 「ウッキキーッ!?」 花の一つから投下された網が、地上を走る生徒の数名と、一匹のチンパンジーを捕らえた。 特に魔人能力によるものではない、ごく普通の狩猟用の網だ。そしてごく普通の狩猟用の網は当然、獲物が簡単に逃げられるようにはできていない。 彼らはレースから脱落した。 新校舎における教室の位置は、学年によって異なる。 一年生が一階、二年生が二階、三年生が三階。明快な法則だ。 では、校舎と外を結ぶ出入口の位置は? これもまた分かりやすいことに、一階である。 以上の事実を踏まえると、今回の争奪戦においては、すぐ外に出られる一年生が有利なのであろうか。 答えは、否。 ((季紗季ちゃん、右に避けて!)) 「うわっ、とと……!」 言われるがまま彼女が跳ぶと、たった今までいた場所で、粘つく物体がばちゅんと弾けた。 (接着剤……? いや、トリモチってやつ?) ((気を付けて、まだ狙われてるよ!)) (う、うん!) ばちゅん、ばちゅん、ばちゅん! 続けざまに降ってくるトリモチを、千倉季紗季はすんでのところで回避していく。ハリガネムシくんの指示のおかげで、自分は前を見て走りながらでもそれができる。さもなくば避けるので精一杯だったろう。 とは言え、このしつこい狙い! 二人のコンビネーションをもってしても、徐々に先頭集団から離されていくことを防げない。 (もうっ……先輩方、容赦無いなあ) ((きっとそれだけ美味しいのさ。頑張っていこう)) (だね。絶対ゲットしてやるんだから) 意気を揚げ直す彼女らの背後で、またもトリモチが弾けた。 四限終了の鐘の音と同時に、多くの二年、三年生は、教室の窓から空へと飛び立った。ある者は自身の能力を活かして、ある者は文明の利器の力を借りて。 空中の移動を禁じる校則はない。わざわざ廊下を、しかも走行に制限をかけられて通り抜けるより、よほど早く購買部を目指せる。 自らを反撃困難な位置に置きつつ、地上への攻撃も行える。スタート地点が高所であるからこその、単純な遠近とはまた異なる利点。 新校舎と購買部の間の1km足らずの土地には、被弾した走者たちが点々と横たわり、その数は少しずつ増えつつあった。 「うおおおっ!」 彼もまた、頭上からの一方的な攻勢に悩まされていた。 こちらでは投下された長いロープが、蛇のようにひとりでに動き、前を走る生徒数名をまとめて縛り上げたところだ。あと少し止まるのが遅ければ、彼も巻き込まれていただろう。 「クソッ……ふざけんな、ガキ共! 焼きそばパンごときでマジになってんじゃねぇよ!」 自分のことを棚に上げてわめく。その物言いに付近の何人かが視線を向けてきたものの、それだけだ。 チンパンジーですら籍を置く希望崎学園である。見慣れない男の一人や二人、誰も怪しんだりはしない。 彼の名は臥間掏児。盗んだ制服で変装しているものの、本来学校とは何の関係もない、スリだ。 「あー、ツイてねぇ……どいつもこいつもケチ臭い財布の中身してるくせに、安く幸せが買えるってなると飛びつきやがる……楽して儲かるのは俺だけでいいんだよ」 ぼやきながら、彼は再び走り出した。すれ違いざま、先ほど拘束された生徒たちから財布を盗み取る。彼らの学生証さえあれば、部外者の掏児でも焼きそばパンを買える。ついでになるべく多くスリ取っておけば、もし買えなくても生活費の足しにできる。 だが、そもそも掏児にとって、自分が争奪戦に参加する展開は予定外だった。そんな面倒なことをしなくても、店に並ぶ前に盗み出せばいいと考えていた。しかし聞き回ってみたところによると、連休前から礼拝堂に安置されているとかいう焼きそばパンは実はフェイクで、本物は発売前日に調達部とやらが納品する手筈だというではないか。あまりにも時間がない。おまけにこの学校の購買部は、侵入者に対しては抹殺も一切躊躇わないほどの過激派組織であるらしい。 ゆえに、彼は仕方なく参戦を決めた。どうせならスタートはゴールに近いほうが良いだろうと、一年の教室付近に隠れ、四限終了と共に走り出した彼らに紛れた。 その結果、上級生の爆撃を受けることになった。 「だあああっ!」 またしても眼前にロープ投下! 悪運の強さか、掏児は今度も絡め取られるのを避け、代わりにやはり少し前の集団が犠牲となった。 「クソが! クソが! なんで俺ばっかり狙いやがる!」 掏児は苛立ちも露わに叫ぶ。もっとも、客観的に見ればそれは誤りだ。上空の者の主な標的は固まって走る生徒たち。掏児は自らそこに近付いている。目先の金で懐を潤すために。 まさしく墓穴を掘るが如き行動。だが一方で、彼はある意味有利に戦いを進めてもいた。窃盗に手間を割きながらも、全体の中での順位は着実に上がっているのだ。悪党の端くれとして鍛えられた逃げ足が、この土壇場で強みとなっていた。 彼は新たに脱落した集団からも財布をスった。盗品が無視できない重みになってきたが、やめる選択肢はない。もったいないからだ。次のカモを探す彼の目が、一人で走る女子生徒を捉えた。 その上空。 対地攻撃用の網を使い切った仕橋は、ハンググライダーの舵を操作しながら、改めて眼下の様子を俯瞰した。 レースはようやく中間地点を過ぎ、伴って走者の数も半分程度にまで減った。 空中もまた安泰というわけではない。つい今しがたも、白い翼を生やし突撃槍で武装した女子生徒が、蝙蝠の如き羽とトリモチを分泌する能力を持つ男子生徒と相討ちになって墜落したところだ。 その中で自分はと言えば、周囲に何人か競う相手はいるものの、地上も含めて概ねトップの位置にいると言っていい。 あとは魔人の身体能力で耐えられる限界まで速度を保ちつつ着陸し、全力の走りで購買部に駆け込む。 勝利のビジョンは見えているが―― 「しかし、そう都合良くも行かないだろうな。何しろこれは魔人の戦いだ」 振り返る。 「――君もそう思うだろう?」 「……!」 折しも仕橋を後ろから撃とうとしていたアフロの男は、敵の予想外の反応に機を逃す。 「……勘がいいじゃねえか」 「危険感知……パシリをしていれば自然と身に付く技能だ。頼んだ後でやっぱり違うものが食べたくなった。そんな注文者の心の機微を察せなければ、制裁を免れることはできないからな」 「ハ。流石ってとこか。……仕橋先輩」 「僕も君の名を知っている。住吉弥太郎くん」 住吉は動揺はしなかった。風の動きに巧みに応じて舵を操り、砲の照準を仕橋に合わせ続ける。駆るのは仕橋と同じくハンググライダーだが、操縦の腕ならおそらくこちらが上手。そして片手で保持する砲は、当たれば確実にレースから脱落だ。己が有利だという自信があった。 それでも、眉間にわずかに皺が寄るのを止めることまではできなかった。 「……有名人じゃないつもりなんだけどな、あんたと違って。まさか俺の能力まで割れてるのかよ?」 「いや。生憎とそこまでは知らない」 「そいつは安心だ」 ブラフか? 飄々とした風を装って答えながら、住吉は相手の顔を見据える。仕橋は無表情を崩さない。 睨み合いに益はない。伝説の焼きそばパンをみすみす他人に譲ることになる。 仕掛けなければいけない。速やかに。しかし外してはならない。弾丸は残り一発。きっと仕橋もそう見切っている。でなければ惜しまず撃てばいいのだから。 「ところで、地上に動きがあったようだ」 「!」 突然、住吉にまったく興味を失くしたかのように、仕橋は下方に顔を向けた。 つられて下を見そうになるのを咄嗟にこらえ、住吉は引鉄に指を掛ける。相手は完全に無防備になった。好機。好機。好機のはずだ。 「見てくれ。いや、見なくてもいいが。脱落者の、脱落の仕方が絞られてきた。派手に暴れている参加者、そいつに吹き飛ばされるのが一つ。それから、そこら中にあるらしい落とし穴に落ちて抜け出せなくなるのが一つ」 いつでも撃てる。撃てば当たる。そのはずなのに、本能が否定する。今ではない。今撃っても無駄だ。お前は弾を無駄にする気か? 今ではない。今ではない。今ではない……ああ、だが、ならば、いつなのだ? いつまで待てば、本当に当たるようになる? 「事前にあれほどの罠を仕掛けていた者がいたのか? 誰にも気付かれず? 奇妙だな。まるで気を配っていないようなのに、暴れる輩が罠にかかる様子がないのも奇妙だ」 「……そう、かよッ!」 住吉は引鉄を引いた。 くぐもった破裂音と共に、砲口から白い玉が飛び出す。玉は拡散し、強靭な網になった。その光景は蜘蛛の巣が自ら獲物を求めて襲いかかる様を思わせた。 狙いは正確。仕橋は対応しない。命中。 「ネットランチャーか」 ――住吉がそう確信した瞬間、仕橋のバックパックが火を噴いた。 瞬時の超加速。射出された網は残像のみを掠め、何者も捕らえずに地上に落ちた。 「一般的なものとは異なるようだが」 「……自作だよ」 「なるほど。器用な男だ」 住吉は半ば呆然としながら答える。 爆発的な勢いの持続は一秒にも満たず、炎はすぐに消え、焦げた臭いだけを空に残す。とは言え仕橋が攻撃を回避し、かつ後続を大きく引き離して先頭に躍り出るには十分な効果。 それを為さしめた、バックパックに仕込まれた筒状の金属は、 「……ジェットエンジン……?」 「スイスの発明家に、売ってくれるよう頼み込んでな。飛行機のチケットはタダというわけに行かなかったから、少々痛い出費だったが」 「……そこまでやるか、あんた」 「これも“パシリ行為のため”だ」 もっとも重量の関係で、出力はそう高くなく、可能な噴射もたった一度。 ゆえに勝負を決められるような代物ではない。第一の意義は緊急回避。ついでに多少リードを稼げただけ。未だ焼きそばパンを手にしてもいなければ、購買部に辿り着いてもいないのだ。 仕橋は降下のために舵を取った。一拍遅れて、住吉を含む後方の者たちも着地に備え始めたのを感じる。 ここからだ。地上での争いにおいて、十全に力を発揮することこそが―― ガクン。 ハンググライダーが、まったく唐突に速度を失った。 「何?」 衝突したのだと察知するまで、さしもの仕橋もわずかに時間を要した。 曇天に溶け込む灰色の細い繊維。空中に広く張り渡された網が、最初の餌食を捕らえたのだ。 希望崎学園最高峰のパシリは、あっけなく墜ちていく。 (気付かなかった……? 馬鹿な。僕の目が、危険感知が見逃すはずはない) 彼の思考は加速する。 (間違いなく、ほんの数秒前まで網などなかった。地上ではいつ仕掛けられたかも不明の落とし穴。その手の事前工作は当然監視していたのに) 彼は上方、もはや届かない高みを見た。驚いた顔でこちらを見下ろす住吉と目が合った。さらにその向こうに何かの影。 鳥か? いや、あれは。 「住吉くん! ――ドローンだ!」 ((ふひひひひ。どぅ、どうですか、姉様)) (ええ。いい仕事でしてよ、照子) ((あぅあああ、も、もったいないお言葉、です)) 一見、彼女は物思いに沈んでいるようだった。 淡く波打つ黒髪の艶は、織りたての絹と見紛うばかり。教室の窓から外を眺める、なんと言うことのない格好でいても、まるで一葉の絵画のよう。そんな美しさを持った少女だった。 しかし、冬頭美麗は戦士であり、今この時にも戦いの内にある。 (殴花。あなたから見ては、どう?) ((悪くないぜ、姐さん。道もだいぶ空いてきた。そろそろ詰めに入ってもいいだろ)) (そう。お疲れ様。……それにしてもやっぱり、あなた、もっとお淑やかに喋ったほうが可愛いと思うのに) ((……今言ってる場合かよ)) 拗ねたような語調――音で会話しているわけではないが、なんとなく分かる――に、美麗は思わず微笑を零す。 同時に、最後の一人に呼びかける。 (亜由美。準備をなさいな) ((……承・知)) テレパシーの中ですら彼女は無口だ。極限まで言葉を削れるように考えながら話す。 その拘りぶりに慣れなくて、美麗は今度は苦笑を浮かべた。 だが、その彼女こそが勝利への鍵。 スピードに特化した能力を持つ魔人は、“難しい”とよく言われる。 最大の要因は人の肉体の脆さだ。わずかな段差や舞い上がった砂粒でさえ、高速移動中には命取りになる。美麗の能力の影響下にあれば多少はマシになるものの、過信できるものでもない。 そこで、事前に障害物を減らす。 罠大居照子が罠で競争相手を排除する。岡本殴花――通称上級ヤンキーおかもとが、金属バットで競争相手を排除する。 二人が掃除した道を、素極端役亜由美が駆け抜ける。 そうして、美麗と三銃士が勝つ。伝説の焼きそばパンを我が物とする。 美麗は窓の外の光景に目を凝らした。 校舎からもうかなり離れたところで、砂煙と共に繰り広げられる熾烈な戦いが見える。しかしそこにいる人間の数は、昼休み開始当初よりずいぶんまばらになった。照子が空を飛ぶ連中に向けて張った網も、今しがた最初のライバルを蹴落としたようだ。後続にも動揺が広がっている。 機は熟した。 (決めて頂戴) 指示はごく簡潔。答えは返らない。代わりに美麗は見た。預言者に割られる海の如く、校庭の砂が二つに分かれて噴き上がるのを。その先端を突き進む、小柄な少女の後ろ姿を。 他の全ては彼女に置き去りにされた。妨害できる者は誰もいない。 勝った。美麗がそう思うか思わないかのうちに、亜由美は購買部の入り口に辿り着いていた。 ((ん? 待ってくれ、なんだアイツ――)) いかにも不吉な言葉を殴花が発したのは、その直後のことだった。 「……何たる不覚」 彼は苦い口調でそう一人ごちた。 高校生とは思えないほど、重く静かな空気を纏う男だった。 「耐えられれば良い、が――」 腰の刀に手を添える。見据える先には購買部。 居合い抜き。プレハブ小屋が斜めに断たれた。そしてこの世ならぬ力によって歪み、縮小し、最後には消えた。 淀みなく繋ぐ斬り下ろし。突然の事態に立ち竦む少女が、購買部と同じ運命を辿った。 乾いた音を立てて刀が落ちる。 彼は膝を突いた。全身から力が抜けていく。 「やはり……重い、か。何某かに塩を送っただけだな、これでは」 「――テメエェェェェェッ!」 自嘲して笑う彼の耳に、怒りに満ちた叫びが届いた。 彼はそちらを見た。セーラー服を着た少女が、長い黒髪を振り乱しながら突進してきていた。鈍く光る金属バットを携えて。 クラシカルだな、とだけ彼は思った。 「ド、ドローンだと……?」 焦燥に歯を噛みながら、住吉はその言葉を反芻した。 司法書士を志す者として、世の中の出来事には気を配っている。 なんでも最近首相官邸に落下したとか、いや落下したのはかなり以前で発見されたのが最近なのだとか―― 「って、んなことはいい」 アフロを振って余計な情報を追い出す。 仕橋を撃墜した網は、当然それだけで消えてくれてはいない。住吉の前を飛んでいた者たちもそれに捕らえられ、あるいは避けようと無理な動きをして落とされている。 彼は持ち前の器用さを発揮した。片手でスマホを取り出しつつ、もう片手でグライダーを操って上手い具合に傾かせ、上方に視界が通るようにする。 果たして、彼は自らの頭上に、複数のプロペラを備えた黒い機影を見出した。 「アレか。アレを……壊せばいいのかよ」 仕橋は敵だ。信じていいものかは分からない。一方で、特に信じない理由もない。物のついでという言葉もある。どの道、網には対処するのだ。 住吉は素早く電話をかけた。彼だけに意味のある番号に。 「しかし、そういうつもりで言ったってことは……」 耳に当てる。この番号は発信しても呼び出し音は鳴らない。ただ、炎の燃える音がする。 最初は小さく、弱く。やがて徐々に大きく、激しく。 ついには、それは現実の世界にも響き渡る。 「やっぱり知ってたんじゃねえか」 荒ぶる巨鳥の紅蓮の炎が、希望崎学園島を照らし出した。 ((姐さん! 姐さんっ! 亜由美が! 購買部が!)) ((ふ、ひィィ……! 姉様、カメラがか、怪獣にやられましたです!)) (……落ち着きなさい、二人とも) 美麗は、テレパシーで姿が伝わらないことをありがたく思った。 戦いの場で取り乱してはならない。特に司令塔である自分が無様を晒せば、仲間たちをも不安にさせる。 ――二度と。 (……亜由美。亜由美、応答して!) ((…………無・事)) 返答は、凍えた体に染み通る珈琲のように美麗を癒した。 大きく息を吐く。ぞっとしない時間であった。 ((現・在・番・長・小・屋・裏)) (……学園内ではありますのね。怪我はない? レースには復帰できそう?) ((可・能)) (良い子。後ほど褒めて差し上げますわ) 慈しむようにそう言って、一転厳しい眼差しを窓の外に向ける。 購買部もまた現存していた。だがその位置は元々建っていた場所から、広大なグラウンドを挟んで反対側。 (何があったの、殴花?) ((アタシもよく分かんねえ。なんか侍みてえなヤツが、刀を素振りしたと思ったら……。反動で弱ってたっぽいんで、ぶっ飛ばしてやったけどよ)) (……柳生新開の時空剣術? 私、彼は早めに排除するように言っておきませんでしたこと?) ((えっ……その、悪い、ぶん殴りまくってるうちに忘れてた……)) (もう……) 美麗は額を押さえて溜息を吐いた。最も新顔の三銃士たる彼女は、ヤクザ一万人殺しの噂も頷ける戦闘力を誇るものの、頭の出来が少々可愛らしい。 ((か、重ねて悪い、姐さん。他の奴らがまた走り始めた。どうすりゃいい?)) (……仕方ありませんわね。亜由美が復帰するまで代わりに走ってくださいな。今度は敵の排除より、先頭についていくことを優先して) ((了解)) ((ね、ねね姉様、カ、カメラは……)) (プランBですわ。私も出ます) 近くに置いておいたハンディカメラを手に取る。見た目には何の変哲もない代物だが、メーカーを示すマークはない。 これもまた“エリア51”の産物なのだ。 ((ふ、ふひ? 大丈夫ですか……?)) (こうなっては、一人だけじっとしていても意味がありませんもの。あなたの護衛に期待しておりますわ) 美麗は床にダストシュートを開かせ、鮮やかに校庭へと滑り降りた。 「……これは、一体」 ヨガの力で浮き上がり、深い落とし穴から脱出した直後、パン崎努は思わず呆然とした。 購買部がなくなっている――いや、瞬間移動している。 これは幻覚か? パンツ欲が限界を突き破り、とうとうおかしくなってしまったのだろうか。 パン崎は絶望に呑まれかけたが、彼の目は同時に、新たなゴールに向かって再び走り出す参加者たちの姿を捉えた。 ならば現実だ。自分はまだ、正しく物事が見えている。 ――僕は、まだ戦える。 パン崎は駆け出した。ヨガ部での活動は、彼に肉体面での持久力も与えていた。競争相手からの妨害をかいくぐり、時には避け損ねて遅れを取りながらも、息が乱れていることはない。 先輩。そして部長。たった二人の、されどかけがえのない仲間の顔を思い出す。パン崎にとって、彼らは平穏な日常の象徴とも言えた。また、ヨガ部に戻りたい。 入部希望者として訪れた、あの可愛い少女の姿も脳裏に過ぎる。不純な思いがむくむくと身をもたげ、涎が垂れてきそうになる。パン崎は激しく頭を振り、邪な空想を追い払った。 もし、伝説の焼きそばパンが手に入ったら。そうして、呪わしい自らの欲望に、決着を付けることができたなら。 彼女とも、仲良くやっていけるだろうか。 その時。 美しいフォームでひた走る彼の鼻に、かぐわしくも背徳的な芳香が届いた。 そう。 パンツの匂いだ。 「……!」 パン崎努は戦慄した。 頭の中で思い描いた彼の理想のパンツのイメージが、そのまま現実になったかのような、あまりにも暴力的な香りだった。 ああ、もう見なくても分かる。 その色は真珠を思わせる白。シンプルな形状でありながら、線の細さや生地の柔らかさがいじらしく感じられるに違いない。腰周りは静かな細波にも似たフリルで取り巻かれ、正面にワンポイントで飾られた小さなリボンが、野に咲く一輪の花のように存在を主張していることだろう。 彼は抗った。見たい、という衝動に。己に強いて正面を向き、ただひたすら購買部を目指すことに神経の働きを注ぎ込んだ。見てしまえば、パン崎は自分を抑えられる自信がなかった。スカートの下のそれを暴き、非力な抵抗を嘲笑いながら剥ぎ取って、持ち主の目の前で口に含む。おお……なんたる邪悪、かつ魅惑的な行為であろうか。彼には狼藉を働く自分の姿が、恐ろしいほどはっきりと見えていた。そのような獣に堕するのは嫌だ。絶対に嫌だ。パン崎は走った。必死に走った。 しかし、なんと無慈悲なことか。彼女は足が速かった。パンツ臭が徐々に強まる。彼女はもうすぐ後ろにいて、自分を追い抜こうとしているのだ。それがどれだけ危険なことかも知らずに。 最後の抵抗に、パン崎はきつく目を閉じた。パンツがすぐ横を通り抜けていく。そのまま行ってくれ。早く離れてくれ。彼は祈った。その時だった。グラウンドに落ちていた小石が、無情にも彼の足を掬った。 「あっ……」 瞼が開かれる。彼の天運はここに尽きた。パン崎は見てしまった。自分を追い越したその人間の姿を。 そして――そして、彼は困惑した。 男だった。 学ランを着て、髪を金色に染めた。女らしい男、ですらもない。 パン崎は地面に倒れ込みながら、あのような男が学園にいただろうかと思い、それ以上になぜ彼からパンツの匂いがするのかを不思議に思った。 「待ぁてええぇぇぇ!」 後ろから女性の声。 ぎょっとして振り向くと、今度は間違いなく、少女がこちらに向かってきていた。赤いフレームの眼鏡がよく似合っているが、むしろことさら目を引くのは、掲げた右手の先から伸びる、うねくる白い縄のような物体だ。 視線の方向から、先ほどの男に用があるのだということは分かった。一体何があったのか、ものすごい剣幕の顔は真っ赤に染まり、左手はスカートの裾を押さえている。 彼女は転んでいるパン崎には目もくれずに走り去った。脇を通られる際、パン崎は身を固くしたが、結果としてはより困惑することになった。 彼女からは、パンツの匂いがしない。 掏児は女子生徒の財布を盗み取ろうとした。 簡単な仕事だ。背後から近付き、そっと触れる。それだけで済む。伝説の焼きそばパンなんかのために必死になっている馬鹿な子供は、現実的な悪事への警戒心がお留守になっている。 すなわち、彼にこそ油断があった。これまでが順調過ぎたために。 「捕まえて、ハリガネムシくん!」 ((了解!)) 「……は?」 掏児が触れようとした直前、その女子生徒は振り返っていた。そして彼女が叫ぶやいなや、上着の裾から飛び出した魔人ハリガネムシが、彼の手首に巻き付いたのである。 無差別に手を出していれば、いずれは悪い相手にも当たる。上空から降るトリモチと同じく、千倉季紗季は後ろから接近する男のことなどとっくに気付いていたのだ。 (このガキ、何か仕込んでやがったか!) しかし、その時点ではまだ掏児は冷静だった。彼は相手の武器が鞭か何か、ともかく普遍的な物品に過ぎないと誤認したのだ。一見どこにでもいそうな少女が、実は巨大ハリガネムシと共生しているなどと、一体誰が想像できるだろう? ゆえに、彼もまた普遍的な対処を選んだ。 選んでしまった。 スポン。 ((あれ?)) 「え?」 「あん?」 フィンガーマン――触れるだけで気付き得ないほどの速度でスリを働く能力。 一瞬後、彼の手の中では、体長20mのハリガネムシが激しくのたうっていた。 「……なん、なんじゃこりゃあああああ!」 「ハ、ハリガネムシくん!?」 互いに狼狽する掏児と季紗季! 掏児はまさかそれが生物だとは思わなかった! 季紗季はまさか親友が突然攫われるとは思わなかった! 最も早く我に返ったのはハリガネムシくんだ。彼は何にせよ敵である掏児を拘束すべく、生けるロープとなって男の体を縛り上げていく! (やべえ……!) 掏児はとにかくこのままではまずいということだけ理解した。幸い腕はまだ自由になる。右手を季紗季に伸ばす。彼女は怯んで背を反らすようにしたが、避けるには動きが小さすぎる。 彼の脳内で思考が駆け巡る。何を盗ればいい? 財布か? 駄目だ。もっと、強力な交渉材料になり得るものを……! 掏児が季紗季に触れる。 まるで手品の如き早業で、その手には可愛らしいパンツが握られていた。 「……え?」 季紗季は目を点にした。その視線がパンツと自らのスカートの間で彷徨った。ハリガネムシくんですらひととき動きを止めた。 「い、いいか! この……なんだか分からん気持ち悪ぃのを引っ込めやがれ! さもなきゃ!」 掏児は勝機を感じ取った。 空いた左手で彼女を指す。 「次はそのスカートを貰ってやる!」 ――かくして卑劣な策により、彼はひとたび窮地を脱した。いつでも人質にできるよう、奪ったパンツをポケットに押し込めたまま。 ただしそれは取りも直さず、季紗季に狙われ続ける選択でもある! (あいつ、近付いてきてた。きっと相手に触らないと使えない能力なんだ) ((そうだね。つまり季紗季ちゃんに近付かせずに僕が捕まえれば)) (最初っからそうすればよかったよ、もう……) 彼女は必死で掏児を追う。ある意味焼きそばパン以上に大切な、己の尊厳を奪い返すべく。 「痛い……体が、重い……」 先頭の集団からは、ずいぶんと後方。 脱落した生徒たちが倒れ伏し、時たま呻き声を上げる中を、杖をつき、体を引き摺るようにして移動する影がある。 髪はぼさぼさで、顔は皮を貼り付けただけの髑髏のよう。誰の目から見ても健康状態のひどく悪い彼は、おまけに着ている学ランにも汚れが目立ち、体のあちこちに傷がある。 一体どれほど争奪戦で痛めつけられたのか――そう思わずにはいられない有様だが、実際のところそうではない。 不健康そうな外見は元からだし、傷や汚れも他者からの攻撃で負ったものではないのだ。 「眠い……。でも、眠れない……。いっそ気絶したい……。でも、この程度じゃそれもできない……」 彼は不幸だった。そのために痩せ細り、常に疲れ果てていた。 彼の能力も呪いのようなものだ。例えば先ほど、彼は二階の窓から校庭に降りるために梯子を召喚した。しかし代償として転落し、全身をしたたかに打ち、左腕の骨を折った。単純に飛び降りた方がまだマシだっただろう。 彼は歩きながら、落ち着きなく辺りの様子を見回していた。あるいは、もはや力の入らない首が、足の踏み出す勢いによって振り回されているのかもしれない。 目に入るのは脱落者ばかり。その中には気を失っている者も多い。彼はそういった者たちが羨ましかった。焼きそばパンという夢には届かずとも、彼らの今は平穏であろうから。 だから、彼の胸の奥にはささやかな反感が宿った。 まるで誘蛾灯の下の地面の如く、なぜか翼や滑空具を背負ったものばかりが倒れている一角。そこからゆらりと立ち上がった人物の姿を認めた時に。 それが見知った顔であったことも、あるいは多少関係していたか。 「……仕橋、先輩」 呼ばれた男もまた、痛々しい姿だった。 骨折ほど大きいダメージこそないものの、服の汚れと負傷の多さでは勝るとも劣らない。眼鏡のレンズにはヒビが入り、まだ使えたはずの道具の数々は、どれも壊れて散らばっている。墜落の際、バックパックをクッションにせざるを得なかったからだ。 仕橋もまた、呼びかけた男に正面を向け、その名を呼んだ。 「闇雲希くん……か。相変わらず、無茶をしているようだ」 「したくてしてるわけじゃ、ないんです」 「そうだろうな。同情するよ」 話しながら、仕橋は歩き出す。希も同じ方角だ。 「……先輩、いつもと少し、違いますね……?」 「そうかな?」 「そうですよ。眉間に皺が寄ってる。あんまり余裕がないみたいだ……」 「そうだな。思っていたより、少しまずい。焦っているのかもしれないな」 二人の歩く速さは、少しずつ上がる。仕橋がペースを上げれば希がついてくる。希がペースを上げれば仕橋がついてくる。 希は杖をついている。その杖に仕橋の視線が留まる。 「……先ほどから気になっていたが、それは?」 「あぁ……これですか」 希は笑った。誕生日のプレゼントを褒めてもらった子供のようだった。 「これは、武器なんです」 「ほう」 「僕は、伝説の焼きそばパンを手に入れる。そのための、武器」 「焼きそばパンか。僕もそれを買おうと思っている」 二人は走り始めていた。それでも希は“杖”をついている。先端が菱形に膨らんだそれを。 ガツ、ガツ、ガツ、ガツ。先端が砂の地面を突く度に、硬く詰まった音が鳴る。希は笑みを深め、小首を傾げた。 「……譲ってくれませんか、先輩。先輩は僕と同じパシリなのに、いつも勝つ側だ。たまには、負けるのもいいと思うんです」 互いに顔は相手に向けたまま、仕橋は跳び、希は少し走る軌道を変えた。二人のパシリ危険感知力が、落とし穴の存在を察知したのだ。 仕橋としては少々気にかかるところではあった。グラウンド側にも罠? あのドローンは無関係だったのか。それとも新たな媒介が用意されたのか。 しかし、目下の敵は。 「悪いができない相談だ。僕にも求める理由がある」 「理由。理由。アハッ」 希が杖を振り上げる。その顔から笑みが消える。 「――僕にだってある。あれが、あれが、僕を幸せにしてくれるんだ」 振り下ろす。頭を狙う一撃。だが雑だ。仕橋は避けた。代わりに打たれた地面が抉れる。 直後、両者は再び落とし穴を回避。そしてさらにスピードを上げる! 「……気取った言い回しは好きじゃあないが、これも王たらんとする者の試練ということかな」 そう言う仕橋の表情は厳しい。 今の位置はほとんど最下位に近い。加えて眼前の相手、闇雲希もまた一廉のパシリ。 彼をもってしても、容易な状況ではない。 「いいだろう。僕はいつでも、誰の挑戦をも受ける」 兵動惣佳は外を眺めている。 冬頭美麗のように戦ってはいない。ただ、外を眺めている。 そうしよう、と思ったわけではない。 今日も番長小屋に向かうつもりだった。母が用事で忙しい日だったので、今日の昼食は手作りだ。小次郎は私が焼いた鮭を美味しいと言ってくれるだろうか。 ……そんなことを、考えていたはずなのに。 (……無理、だよね……) 見つめる先は購買部。今そこに伝説の焼きそばパンがあって、それを食べれば願いが叶うと言われていて、だから大勢の人が求めている。 ……大勢の、強い魔人たちが。惣佳は見ていた。戦いの中で次々に倒れていく生徒たち。凄まじいスピードで走る女の子。瞬間移動させられた購買部。巨大な火の鳥。 自分なんかでは、手に入れられるわけがない。 「……いや、そもそも、叶えたい願いなんてないし」 ゆるゆると首を振る。 自分は今の日常に満足している。友達は確かにいないけれど、動物たちがいてくれる。したたかに生きる野良猫や、木の枝で鳴き交わす小鳥たち、テレビで見る外国の珍獣。彼らの話は面白いし、他の誰も知らない世界の秘密だ。他人がどれだけ望んでも手に入らないものを、私はもう持っている。 だから、これくらいでちょうどいい。伝説の焼きそばパンなんて、分不相応というものだ。 さあ、未練がましいのはもう終わり。 そろそろ、小次郎に会いに行こう。 「…………」 それでも、購買部から目を離せない。 その時。 『ソーカ』 聞き慣れた声がした。 はっとしてそちらに目を向けると、いつの間にやって来ていたのか、窓の下に一匹の猫。 「こ、小次郎?」 『他の誰に見えるってのさ。早く行こうよ』 そうか。ずいぶん待たせて、お腹が減ったに違いない。 そう思い、鞄から弁当箱を取り出した惣佳へ、小次郎は不満げにニャアと鳴いた。 『違うって。行くのは、あっち』 そう言って、頭の向きでそちらを示す。 惣佳がずっと見つめていた、プレハブの建物を。 「え……でも」 『でもじゃなーいー。欲しいんでしょ? 伝説のヤキソバパン』 「……その話、知ってたの?」 『人間たちの間で持ち切りだもの。さ、早く』 「ま、待って!」 尻尾を向けて歩き出そうとした小次郎を、惣佳は思わず呼び止めた。 「い、いらないよ。欲しくないもん、焼きそばパンなんて」 『ニャア』 「え?」 『ニャア。ニャアニャアニャア』 「な、なに言ってるの、小次郎……」 小次郎はそのまま歩き出した。惣佳の心を不安が掴んだ。 「小次郎!」 彼女は窓枠を乗り越えた。上履きが砂で汚れるのも構わず、猫を追いかける。 放っておいたら彼が遠くへ行ってしまうのではないか。それは恐ろしい予感だった。 しかしそんな彼女へ向けて、小次郎は振り返って言ったのだ。 『ほら。やっぱり』 「……小次郎?」 『ソーカは自信がないんだ。そんなに慌てちゃってさ。他の人間は誰も僕らの言葉なんか分からないけど、ソーカよりずっと楽しそうにしてる』 「そんな……そりゃ、他の人は分からないのが元々だし」 『楽しく生きるのに、魔人の力は関係ないってことさ。逆に特別な何かを持ってるからって、その分他で遠慮しなくちゃいけないなんてことはない。僕はソーカを友達だと思ってるけど、猫の友達がいるから人間の友達を作っちゃいけないなんて決まりはないんだ。ましてや自分の気持ちに嘘をついてまで』 「でも……でも、私は」 『うまく人と打ち解けられるか分からない。だろ?』 小次郎は笑った。見た目では変わらなくても、惣佳には分かる。 アニマル・リンガル。そんな力があるならば他には何もいらないと、そう思う人もいるかもしれない。 けれど、そう思わなくてはいけないという理由はない。 『だから焼きそばパンを手に入れよう。あれだけ多くの人たちに勝ったら、あとはなんだってできる。そう思えるようになるよ』 「…………うん」 兵動惣佳は、確かに頷いた。 「小次郎。力を貸して」 『もちろん。いいかい、僕が通った後をついてくるんだ。そこらにたくさん罠が仕掛けてあるから』 「わ、罠……」 やはり本気の戦いなんだと、改めてそう実感する。 その上で、弱々しくながらも惣佳は微笑んだ。再び歩き出した小次郎の後から、渦中に飛び込む第一歩を踏み出す。 罠大居照子のトラップは、当然ながら対人用だ。 最も数が多い落とし穴も、時たま紛れている凶悪なベアトラップも、猫が乗ったくらいでは反応しない。 小次郎は先行して安全な道を探りながら、しばしば振り返って惣佳を気遣う。 彼女もまた懸命に駆けた。一般的な魔人と違い、彼女の身体能力は並の人間と変わらない。それでも可能な限りの力を出した。 ふと、惣佳の目が少し離れたところの人影に留まった。 既に先頭集団は過ぎ去って久しい位置だが、脱落者というわけでもなさそうだ。 不思議な男だった。まず腕が大量にある。肩から背中から、数え切れないほど生えている。 それだけ異様な風体ながら、纏う雰囲気は穏やかだった。急いて走ることもなく、ゆっくりゆっくり、歩いて購買部を目指している。 彼の名は“歩く千手観音”大石扇丸。 近接戦闘では無類の強さを誇る魔人だが、歩行でしか移動できないという制約は、此度の争奪戦にはあまりにも不向きだった。 そうと知りつつ参戦したのは、果たして何を思ってか――そのアルカイックスマイルから、余人が読み取ることは難しい。 『ソーカ。早く!』 「あ、うん!」 小次郎の声が、惣佳を引き戻す。 再び走り出した彼女は、乱れかけていた呼吸がすっかり整っていることに気付いた。 単に休憩になったからか、戦う決意を固めたからか、彼を見つめたことに何か意味があったのか。 いずれにせよ、彼女は前に進むことにのみ意識を注いだ。 それは、奇蹟のような光景だった。 薄暗い曇天の空の下、敗れた者たちが倒れ伏す荒野。陰鬱な世界の中にあって、ただ一人躍動する例外、猫に導かれる少女が駆けてくる。あたかも激しい合戦の後に現れるという天上の戦乙女の如く。 しかし彼女が求めるのは、勇敢な戦士の魂ではない。伝説の焼きそばパンなのだ。 罠をことごとく避けられること、走者同士の戦闘と無縁だったこと。目指すべきゴールが中途で変わったことも、惣佳の助けとなっただろう。 争奪戦最後の参加者は、決して悪くない順位に食らいつこうとしていた。 希は背中を丸めてうなだれるようにし、垂らした腕で持つ杖の先端を、並走する仕橋に向けた。 殺人剣術、蛮鬼の構え。 繰り出されるのは怒涛の連続攻撃。胴を狙って薙ぎ、胴を狙って薙ぎ、胴を狙って薙ぎ、胴を狙って薙ぎ……つまり、ひたすら胴を狙って薙ぐ。 仕橋は避け続ける。パシリの基本技能、回避。本来は、混み合う店の中で、人の間を縫うように移動するための技。だが彼ほどのパシリともなれば、戦闘にも多少は応用が利く。 希の剣術が付け焼刃であり、かつ左腕が使えないことも、防御の難度を引き下げていた。 避けながら、レースへの復帰もまた忘れてはいない。 戦場がグラウンドに移って暫し。一度は最下位近くにあった仕橋たちは、いま再び先頭集団に食い込みつつある。 俊足。それもまたパシリの心得。 そもそもなぜ、Pa.Si.Riが会計の手間を省く能力なのか? 答えは明白。会計の速度だけは自分ではなく、店員の技量によって左右されるからだ。 翻って言うならば、会計以外にかかる時間は自らの修練で減らせばよい話。 仕橋王道のパシリ行為にとって、魔人能力は助けでこそあれ、決して不可欠なものではない。彼は彼だけでも最強のパシリの一人なのだ。 しかし。 「焼きそばパン……焼きそばパン……焼きそばパン……」 ――その彼についてくる希のことは、侮っていたと言わざるを得まい。 最初の数撃を適度にいなし、後は彼我の速度差で突き放す。その戦術は成立しなかった。 仕橋は訝しむ。痩せさらばえた体のどこに、得物を振り回しながら高速で走り続けるほどの持久力が秘められているのか。 常人には測り難い。それこそが希の強みなのだと。 不眠症、感情の鈍磨、空腹感と満腹感の麻痺――その行き着く先は、疲労の忘却。 闇雲希は疲れない。正確には疲れを感じない。体がどれだけ悲鳴を上げようと、その声が脳に届くことはないのだ。 「……先輩」 間断なく攻め立てながら、希が言う。 「どうした」 それらを全てかわしながら、仕橋は問う。 「僕、勝てると思いますか」 「質問の意図が読めないな。勝つために戦っているんだろう」 「そうですね……そうだ。そうだけど……前の人たちとこんなに離れてるんだ。特別な何かに頼らないと、難しいんじゃないですか」 何かとは? 仕橋はそう問いを重ねた。 だがその声は掻き消えた。音速の壁を突破する轟音に飲まれて。 噴き上がるのは砂の壁。その先端には一人の少女。希望の泉に現れて、一呼吸の間にグラウンドに至る。 レースに戻った素極端役亜由美が、凄まじい速度で購買部へと“歩く”。 「ああ……やっぱりだ。頼るしかない。僕は嫌だ。でも、こうしないと幸せが逃げていくんだ」 希は呻いた。その足元に超自然の輝きが生じる。 仕橋が身構える。 「君は、」 「契約する。彼女を止めてくれ」 輝きは魔法陣となった。 ――希望崎学園島が、揺れた。 「く……!」 「あ……好機……」 体勢を崩す仕橋に向けて、どこか呆然とした様子の希が、呆然としたままに杖を振り上げる。 「しまっ――」 「先輩。僕が、勝」 次の瞬間、希の姿は地面の下に消えた。 落とし穴。論理的には、能力発動直後で危険感知力が鈍った。そして悪魔との契約的には、それが今回の代償であった。 その日の地震は、震度にして6前後となる激しいものであったという。 奇妙な点は二つ。 一つは、それが希望崎学園でしか観測されなかったこと。 もう一つは、それほどの揺れにも関わらず、被害が人的・物的ともになかったこと。 ただ、その“亀裂”を除いては。 「…………うっわ、マジっすか」 舟行呉葉は、少し離れた場所から大地の崩落を見た。 例えるなら――隅が欠けたタイルのように、だろうか。 希望崎学園島の南西部は、新校舎の南端から旧校舎付近にかけて生じた地割れにより、島の本体から分断された。 購買部は、地割れの向こう側だ。 「……!」 亜由美は火急の選択を迫られた。 能力を解くか解かないか。谷は深く、幅は広い。落ちれば命はないだろう。解けば落ちる前に止まれるかもしれない。解かないなら飛び越えることになる。飛距離は足りよう。自分はマッハ2だ。着地に失敗した場合は――。 ((止まりなさい、亜由美!)) 「!!」 彼女は即座に従った。是非を論じる暇などはない。慣性が彼女を引き摺る。必死で踏ん張る。靴の裏から煙が上がる。焦げているのだ。地割れの縁が迫る。迫る。ぎゅっと目を瞑る。 静寂。 ((……無事ですの?)) 亜由美は目を開けた。視界いっぱいに闇が広がっていた。 驚いて後退る。後退れた。落ちてはいなかった。代わりに踵がもつれ、尻餅をつく。 自分が停止したのはまさに崖っぷちだった。そう理解し、呆然とした。それから思い出したように返事をした。 (……停・止・成・功) ((…………よかった)) ほっとした気配が、テレパシーでも伝わる。 なんだか今日は二回目だ。やっぱりスピード系は難しいんだなと、亜由美は他人事のように思った。 ((大丈夫? 怪我はない?)) 問われて、自分の足を見る。 靴底が燃え尽きてなくなっていた。ソックスも運命を共にしていた。そうして露わになった足の裏は、黒と赤に焼け爛れていた。 なので答えた。 (…………痛いです) ((……褒めてあげるだけじゃ足りませんわね。ともかく、後は私たちに任せて)) 素極端役亜由美は脱落した。 「みんなー、出番だよーっ!」 「「「オオオオーッ!」」」 座り込む彼女を背景に、学園のアイドルが声を張り上げる。 どこからか湧いて出る男子生徒の群れ。精神操作された彼女の奴隷(ファン)たちだ! 「さあ! 橋になってくれた子にはー、私の次のシングルを五万枚買う権利をあげちゃう!」 「「「オオオオーッ!」」」 軍隊アリじみた連携! 男子生徒と男子生徒が連なり、ものの数秒で地割れを跨ぐ橋が架かる。 満悦の表情で足をかけるアイドル。しかし! 「おらぁ!」 「きゃん!」 彼女を突き飛ばし割り込む者あり! 金髪の男! 臥間掏児! 抜け目なくも相当な順位に上がってきていたのだ! なお彼はもちろん突き飛ばした際にアイドルの財布を奪っている。非道! 「ありがとうございます!」 「ありがとうございます!」 掏児に踏まれるたび、男子生徒たちは感謝の声を上げる! 日頃のファンクラブ活動の成果だ! 彼は気味悪げにしながらも、とにかく真っ先に対岸へ渡った! 「悪い!」 「失礼っす!」 続いて住吉、呉葉が駆け込む! 沸き起こる感謝の大合唱! やや間を置いて仕橋王道! だが彼には背後から迫る影! 「――焼きそばパン!」 「闇雲くん……!」 振り下ろされた杖が避けられる! 勢い余って橋を強打! さすがに苦しげな声が出てくる! それでも二人は遠慮なく戦闘を繰り広げながら通過! 「……みんな、ひっどーい……」 アイドルは少しの間ふて腐れていたが、やがて気を取り直して橋を渡り始めた。 「あり……がとう、ござい……ます……」 男子たちの額には脂汗。だが彼女はそんなことを気に留めはしない。アイドルだからだ。 むしろ彼らの声が小さいことを不満に感じ、踵を強く捻り込む。 「ほーらー。私が踏んであげてるんだよ? もっと元気出して?」 「あ…………あり……が……」 今回ばかりはやめておくべきだった。 男子生徒の橋は崩落した。 「……うそーーー!」 アイドル――和田美咲の悲鳴が、長く、長く尾を引いた。 やがて、ばしゃん、という水音が立て続けに響く。 ――落ちても死ななかったかもな、と亜由美はぼんやり考えた。 「行くよ、姐さん!」 「ええ。お願いしますわ」 冬頭美麗は頷いた。 岡本殴花がバットを振りかぶる。 美麗は橋の崩落に間に合わなかった。努力はしたが、やはり自分は現場向きではないと思い知らされた。 だから、殴花でなく自分が向こう岸に渡るのは、有利不利とは違う。意地だ。 ここまで来た以上、最後まで行ってみたい。そう告げた自分に、三銃士は賛同してくれた。かつてと顔ぶれは異なれど、彼女たちもまた大切な仲間。 殴花のバットが美麗の背を打った。 間違いなく全力の一撃。だが痛みはない。その代わり、美麗の体は弾き飛ばされる。ボールのように。 バットでの打撃を当てた際、“破壊力”と“ぶっ飛ばし力”を反比例させて調整できる――それが岡本殴花の魔人能力。 今は破壊力を限りなくゼロに、ぶっ飛ばし力を最大限に。美麗は地割れを軽々と越えた。 ただし、着地の安全は保証されない。 (照子) ((イエス、マム!)) そこで彼女はハンディカメラを地面に向けた。 何の前触れもなく、その場所にスプリングフロアが出現する。獲物を跳ね飛ばす床面の罠。とは言え今回のこれは実質トランポリンだ。 バネ仕掛けに受け止められて、美麗は無事に谷を渡った。 「頑張れよー、姐さーん!」 「…………」 殴花が両手をメガホンにして叫び、その傍らでぺたりと座った亜由美が、控え目な仕草で手を振った。 「Dad Rule. She Move」 呪文めかして唱えると、パン崎の右手は見る見る伸びる。 対岸の縁を掴み瞬間移動。ぶら下がる形になったところを、ヨガの姿勢を取って浮き上がる。 突然の地割れには非常に驚いたが、障害として見れば彼には対処しやすい部類だ。 「いや、でもさ……それは、そうなんだけど……」 ふと、聞き覚えのある声がして振り返る。 向こう側、つまりパン崎が先ほどまでいた側に、パンツの匂いがしない少女がいた。 どうして匂いがしないのか、清く正しいパン崎の精神は、未だに答えを出せていない。けれども対岸に多く残っている、地割れを乗り越える手段が見つからず途方に暮れている生徒たちとは、彼女の悩み方が違うようには思えた。 事実、季紗季は渡れるかどうかで悩んでいるのではない。 ((だからさ、季紗季ちゃんが思い切りジャンプして、硬くなった僕がめいっぱい伸びれば、向こう岸の地面に引っ掛けられる。それから引き上げて、向こうに渡れるよ)) (うん、それは疑ってないの。でも……) ((やっぱり怖い? だけど、焼きそばパンはともかくとしてもさ、あの悪い男はとっちめてやらなきゃ)) (そ、そうじゃなくて。だから、つまりさ…………パンツ、盗られちゃったじゃない) ((うん?)) (その……その状態で、派手に動いて……もし見えちゃったら……って……) ((…………)) ――ここを渡らなければ、パンツを取り返せない。一方で無理に渡ろうとすれば、パンツ以上に大事な何かを失うかもしれない。 哲学的に深い問題が、目の前の谷のようにぽっかりと口を開けているのだ。 パン崎は素早く思考を巡らせた。 競争相手という意味では彼女も敵であり、助ける義理はないはずだ。だが、困っている者には手を貸すのが正しい行いではないのか。 あるいは彼女にパンツ臭があれば、逆に危険に晒しかねないと、ある意味での言い訳もできたかもしれない。 しかしそれがない彼女。これは運命ではないか。女性に対して到底顔向けできない欲望を抱えた自分が、せめてもの罪滅ぼしをする機会なのではないだろうか。 「すみません、そこのお嬢さん」 そこまで考えた時には、パン崎の口はひとりでに言葉を紡いでいた。 意表を突かれた様子で、季紗季が自分の顔を指差す。 「あ、はい? 私?」 「そうです。もしよろしければ、こちらに渡るお手伝いをさせていただきたいのですが」 「え。その、どうして」 「まあ……自己満足のためといったところでしょうか」 恥ずかしげに笑うパン崎からは、季紗季もハリガネムシくんも悪意を感じなかった。 「……時間かかります?」 「いえ、一瞬です」 「……強い風を受けるような感じになったりは?」 「? 特にそういうことはありませんが」 「……じゃあ」 季紗季はおずおずと手を前に出した。 パン崎は頷き、右手を伸ばす。 「Dad Rule. She Move」 「わっ……」 ゴムのように伸びる右手に、季紗季は目を丸くした。 手が触れ合った次の瞬間、パン崎の顔がすぐ近くにあって、ますます目を丸くした。 「うわわっ」 「おっと」 どちらからともなく慌てて手を離す。 季紗季は改めて周囲を確認した。たしかに対岸だ。 「おおー、すごい……! ありがとうございます!」 「い、いえいえ。ですが、ここからはライバルなので。お互いに頑張りましょう」 ぴょこんと礼をする季紗季に対し、パン崎は妙にうろたえた風で、礼を返すとすぐ走り去っていく。 パンツに苦しめられてきた彼にとって、初めて間近で見る女子の存在は、それはそれで刺激が強いのだった。 ((ちょっと顔色悪いけど、いい人だねえ)) (こらこら) そんなことは露知らず、季紗季とハリガネムシくんは言葉を交わし、パン崎を追うようにして購買部を目指す。 彼女から少し離れたところで、ハンディカメラを携えた女子生徒が、トランポリンでの着地を決めた。 「はあ、はあ……な、何これ……」 『うわー、こりゃすごい』 猫に導かれる少女は、その直後にやってきた。 肺が酸素を求めてひりつき、膝に手を当てて息をしている。 周囲には未練がましくたむろする生徒たち。視線の先には大きな谷間。 一方でどうやったのか、向こうに渡った者たちもいて、彼らは逞しくもまた走り出している。 悠然と佇む購買部に向かって。 すごい、と惣佳は思った。伝説の焼きそばパンを欲しがる人たちは、こんなにも欲しいのだ、と。 弱気な思考がまた首をもたげてくる。……どの道自分には、この谷を越える方法なんかない。 呼吸は少し落ち着いたけれど。 ここまでやれただけで十分だ。 彼女は微笑んで小次郎に顔を向け、 『ニャアー!』 「ふえっ!?」 猫のフライングボディプレスを顔面に受けた。 「わぷっ……ちょ、な、こ、こじ……」 『また諦めようとしてただろ、ソーカ』 惣佳の手をかいくぐり、小次郎は器用に頭の上に登った。 そして前脚で彼女の顎を抱え、ぐいと上に向けさせる。 『ほら。空見て、空』 「そ、空……?」 言われるがままに惣佳は見た。 ハト、カラス、ツバメ、カモメ、セキレイ、ムクドリ、ヒヨドリ、ノスリ、チョウゲンボウ、スズメ――曇り空を覆い尽くさんばかりの無数の鳥たちが、こちらへ舞い降りてくる光景を。 『ソーカちゃん!』 『ソーカたん!』 『助太刀に参りました!』 『猫はどっか行って!』 次々と着陸する鳥の群れ。あまりの数に周囲の生徒もたじろぐ。瞬く間に鳥類ふれあい広場じみた有様だ。 唖然とする惣佳から、小次郎がぴょんと飛び降りる。 「こ、小次郎……?」 『僕は何もしてないよ。こいつらが勝手に集まってきたんだ』 『何がこいつらだこの小動物!』 『我々は一度でもご飯をくれた相手を忘れたりはしない! 猫と違って!』 『猫はどっか行って!』 『あーもう、うるさいうるさい』 猫はげんなりした様子で尾を垂らし、惣佳の元に集まりつつある鳥の輪から抜け出した。 振り返って言う。 『まあ、あとは頑張ってよ。惣佳ならできるさ』 「え? でも……え? どうするの?」 『我々の上に乗ってください、ソーカさん』 『あ、できれば寝そべるような感じで』 「こ、こう?」 恐る恐る鳥たちの上に横たわると、クッションに身を任せたように、彼女の体は幾らか沈み込んだ。かなり不安になる感触だったが、潰れてしまったりはしていないようだ。 生ける魔法の絨毯が羽ばたき出す。惣佳は重みをかけないように注意しつつ、少しだけ頭を上げて後ろを見た。 『小次郎! ――ありがとう!』 猫はそっぽを向いたまま、ニャーン、と言葉にせず鳴いた。 体が浮き上がる。離陸する。大勢の人の視線を受けながら、暗く深い谷を眼下に渡る。 気恥ずかしさと、怖さと、昂揚と、動物たちへの感謝と――色々な気持ちが混然となって、惣佳は少し涙を零した。 そして、強い眼差しを前方に向ける。 誰もが目指してきた購買部。そのプレハブ小屋の周辺では、最後の戦いが繰り広げられようとしていた。 争奪戦は、最終盤。 掏児が走る。 もう、彼の前には誰もいない。あるのは購買部ただ一つ。その扉が速やかに近付いてくる。彼という勝者を迎え入れるために。 (行ける。行けるッ!) 呉葉はその背中を歯痒く見つめる。追いつけない。 最初の妨害があまりにも痛かった。購買部に一着で乗り込むのは、あの金髪の男になるだろう。 ――あとは、最後の手段に頼るしかない。 彼女は祈るような気持ちで購買部を見た。 (頼むよ……!) その後ろから仕橋と希。彼らはまだ戦っている。 正確には一方的な攻撃。攻めているのは常に希で、仕橋は守りに徹するのみ。 この期に及んで仕橋に執着する意味は、合理的に考えれば希にはない。 だが彼は既に考えてなどいなかった。悪魔に取り憑かれたその日から、希の人生は不条理の連続だ。 だから彼自身も不条理となった。彼を突き動かすものは、ただひたすらに湧き上がる衝動。 幸せを手に入れたい。 邪魔立てする者は全て倒す。 幸せとは伝説の焼きそばパンだ。 そして目の前の相手だけは、なんだかとても許せない。 「僕が……勝つんだ……」 滅茶苦茶に杖を振り回しながら、彼は呻いた。 搾り切れた魂の、最後の叫びであるかの如く。 さらにその後方からは、パン崎、季紗季、美麗、惣佳。 だが、時を同じくして。 臥間掏児の手が、購買部の扉を掴んだ。 彼は扉を横に、 「っしゃあーッ!」 引き開け、そして、 「――――ぶっはあ!」 強い勢いで、弾き飛ばされた。 もんどり打って倒れた彼から、盗まれた財布が飛び散った。 「…………はじめまして」 戸口にゆらりと現れた人影が、掏児に向かって頭を下げる。 初対面の相手には、挨拶をすべきだ。 彼は、“普通”に礼儀正しかった。 「上下、中之です」 それは、五月六日の放課後のこと。 西日の差し込む教室で、帰り支度をする上下に、舟行呉葉が話しかけた。 「上下くん。今日は急ぎっすか?」 「やあ、舟行さん。いいや、特に用事があるわけでもないし」 上下は如才なく笑って対応した。 窓から吹き込んだ悪戯なそよ風が、呉葉のセーラー服をわずかに捲り上げる。上下は思わず視線を動かしたが、すぐに戻した。 健全な男子高校生として、そういうものに反応してしまうのは“普通”だ。が、割れた腹筋に目を奪われるのは“普通”ではない。 「じゃあ、ちょっと付き合ってほしいんすけど」 いずれにせよ、呉葉は気付かなかった。 「上下くんは、やっぱり狙うんすよね。伝説の焼きそばパン」 「うん、そのつもりだよ。今日は興奮して眠れないかも」 「……でも、本気で勝ち取る気ではいない。そうじゃないっすか?」 「……どういうこと?」 上下は首を傾げた。 本当に、なんでそんなおかしなことを思うのか、と、心底不思議そうな表情だった。 「もちろん、挑戦するからには本気だよ。そうでなきゃ他の人たちにも悪いし。それに、夢があるじゃないか。食べれば願いが叶うなんて」 「あー……言い方が悪かったっす。うん、上下くんは本気で取りに行く。けど――万一にも、本当に手に入れてはいけないんだ」 汗が伝う。 呉葉の頬を。 上下中之は“普通”である魔人だ。能力の詳しい実態までは分からずとも、彼と同じクラスにでもなれば、大体の人間はやがてそれを察する。 普通概念存在。魔人の能力とは、すなわち本人の願望の影絵でもある。呉葉はそんな彼に目を付けた。協力者として。 「……そうかな?」 「そうっすよ。“普通”の魔人じゃ勝ち目がないとは言わない。周到な計画とか、幸運とか、そういうのがあれば、きっと狙えるものではある。ただし、そうして手に入れてしまったら? その後は誰も、そいつを“普通”だなんて思わない。“伝説の焼きそばパンを手に入れた、あの”上下中之になってしまう」 「うーん……言われてみると、そうかもしれない。困ったな。けっこう悩ましいぞ……」 頭を抱えて唸って見せる、おどけたリアクション。 演技でないことは分かっている。彼は本当にそうなのだ。 ――だからこそ、こうして改めて“普通”ぶりと接するのは、呉葉ほどの魔人であっても落ち着くものではない。 “普通”だと感じるということは、自分が上下の能力の影響下にあるということに他ならないのだから。 「……参ったな。舟行さん、僕を参加させないためにそんなことを? 策士だなあ」 「いや、そうじゃないっす。上下くんには、私の味方になってほしいんっすよ。……具体的には、事前に購買部で待ち構えて、私以外の参加者を排除してほしい」 「ふーん……? まあ、クラスメイトの助けになるのはやぶさかじゃないよ。とは言え正直なところ、どうして僕が、ともちょっと思うかも」 渋る上下に、呉葉は笑った。 「“普通”の男子っていうものは、こういうちょっと悪い役回りにも、憧れたりするもんじゃないっすか?」 「ど……どきやがれーッ!」 立ち上がった掏児が再度突撃! 「――ふっ!」 しかし上下は隙のない構えから相手の腕を取り、力の流れを巧みに利用して投げ飛ばした! またもゴールから遠ざけられる掏児! 手で触れることすら許されないのではスリも行えない! 「くそっ……まあ、あいつなら、ああいう真似してもおかしくないけどよ……」 住吉がぼやく。 普通概念存在は見事に機能している。授業をサボるのは校則違反だが、上下がやるならそれは“普通”だ。 授業時間中から購買部に潜んでいても、誰も咎めたりはしない。 しかし、なぜ“普通”である彼に、掏児を寄せ付けない戦いぶりが可能なのか? 「よし。うまいこと仕上がってくれてるみたいっすね」 その答えもまた呉葉! 彼女は昨日上下との交渉がまとまると、すぐさま彼を調達部に入部させた。 そして見せたのである。数々の食材怪物を仕留めてきた調達部の活動記録ビデオや、自分と大山田末吉との生の組手を。 ――“普通”の調達部員ならこれくらいできると教え込んで! 仕橋王道もまた、その状況を横目で確かめた。 自分で焼きそばパンを買わないのなら、上下は何者かと組んでいるはず。だがそれを推理する必要はない。住吉弥太郎、そして舟行呉葉。間もなく上下一人では物理的に阻めない数になる。 したがって、こちらもそろそろ行かねばならない。 「……闇雲希くん。君は強い」 希の渇望が、仕橋にも伝播したものか。彼は感傷めいて言った。 「僕は……僕は、褒めてもらいたいわけじゃない。幸せになりたいんだ。伝説の焼きそばパンが欲しいんだ」 希は杖を振り上げた。殺人剣術。 「勝ちたいんだ……!」 「…………」 仕橋の頭へ振り下ろす。 彼は、今回は避けなかった。 鈍い音が鳴る。 仕橋の左手が、杖の先端を受け止めていた。 「君は……強い。君に勝たなければ、僕はパシリを完遂できまい」 彼は打撃の勢いを殺す術までは心得ていない。 顔はひどく顰められ、見る間に掌が赤黒く変色する。骨にヒビくらいは入っただろう。 だが、勝負は決した。 「ゆえに、僕の力は有効となる。――君のこの武器、僕が買い取ろう」 「あァ」 闇雲希は、得物が自らの手を離れていくのを、ただ眺めていることしかできなかった。 それは買われたのだ。渡さなければならない。 彼は購買部、もはや遥か遠くに見えるその建物を見た。 既にそこには複数の人間がいる。誰かが邪魔をしているようだが、直に止め切れなくなるだろう。 幸せが逃げていくのを感じる。焼きそばパンが。 『ヒャーッハッハッハッハッハ! どうするゥゥゥゥ!?』 いやに遅く感じられる時間の中で、希の頭に耳障りな声が響いた。 『さあ、今度は何を出してやろうか! さっきみたいな地割れがいいか? そいつでヤツらを飲み込んでやろうか!』 「……駄目だ。購買部も巻き込む。それじゃ焼きそばパンが手に入らなくなる」 希は呆けたように答える。 その足元には超自然の光。彼は気付いていない。 『そうだな! そうだな! ならどうしようか! 機関銃で撃ちまくってやろうか? おっと、殺したらまずいんだっけか! カウボーイみてえに投げ縄と洒落込むか? お前じゃ当てられそうにないな! トラック? でも運転できねえわな!』 「僕は……僕は、」 『……おやおや、こりゃ結構マズくねえか? こんだけ差ァつけられちゃあな。何出したって無駄そうだな。生憎だ、お前に幸せは訪れねえよ』 「嫌だ…………嫌だ!」 希は震えた。まだできることを探そうとした。どうにかして、勝つ方法を。 沸騰したみたいに全身が熱い。だが何も考え付かない。心臓が壊れそうなほど速く鳴っている。見つからない! 希は叫んだ! 「もう……もう、嫌だ! なんとかしてくれ! お前ッ! 物じゃなくて、お前が出てきて、焼きそばパンを勝ち取らせてくれ!」 ――瞬間。 購買部周辺を包む空気が、決定的に変質した。 『……ふふふ』 希に時間の感覚が戻る。 だが先ほどまでとは何かが違う。声も消えない。購買部に最も近い者たちですら、異様な気配に目的を忘れて身構える。 雷が鳴った。空の雲はその濃さをいや増し、色調を灰から黒へと変えた。 『言ったな……言ったな。お前が出てこいと。我輩そのものを』 再び大地が揺れた。 またしても地割れが生じるのか? 全員が恐れをなしたが、そうではなかった。 『その通りにしてやろう……』 禍が起ころうとしていた。 見よ、山のように盛り上がるグラウンドを。大地を砕き、砂と土の繭を振るい落として現れた、おぞましきものを。 校舎にも匹敵する巨体。堅牢なる緑色の鱗。忌まわしく輝く赤い瞳。 それは大蛇であった。その首は胴体の半ばから九つに枝分かれし、先端に各々の頭部を備えている。 「あれは……まさか」 「あぁ!? 知ってんのか!」 呻いた上下に、対立も忘れて掏児が訊く。 彼は学校にひしめく怪しげな噂にも、“普通”程度には詳しかった。 「聞いたことがある。希望崎七不思議の一つ。遥か昔のハルマゲドンに、邪神が現れたことがあると。そいつは時の番長に召喚されたとも、番長自身が変生したのだとも言われていて、最終的には生徒会長により、島の地下に封印されたのだと。邪神の名は――ダンゲロスヒュドラ!」 「オオオオオオオーッ!」 ヒュドラが吼えた! それは久方ぶりの現世への帰還が成ったがゆえの、歓喜の、しかしおぞましい咆哮であった。その叫びは風圧を伴い、新校舎の窓を軋ませ、嵐の如くに木々の葉を散らし、レースの参加者たちを打ちつけた! 「あ……」 「何……ッ!?」 震動の最中、希の足下の地面が崩落! 仕橋をも巻き込んで、彼らは突如生じた深い縦穴、その闇の底へと落ちていく。 九つの首はそちらに目をやり、嘲るようにシュウシュウと音を出した。 果たして、上下の語った伝承は正しかった。 だがそれは真実の一部でしかない。封印されたヒュドラはそれ以後、虎視眈々と復活の機会を窺っていたのだ。 不幸にも目を付けられたのが闇雲希だった。彼の願いに沿うものを召喚する。悪魔としてそう契約を結んだ上で、希が悪魔そのものの降臨を願うように場を整えた。 その場こそ、此度の争奪戦。強い願望とままならない現実の板挟みとなった希は、謀略の駒として思惑通りの働きをしてしまった。 しかしながら、未だ顕現は完全ではない。今の肉体は“召喚されたもの”でしかない。存在を確固たるものとするには、力ある贄が必要だ。そう―― ――伝説の焼きそばパンが! 「オオオオオオオーッ!」 ヒュドラが購買部に向けて迫る! その巨体の前では地割れなど障害にもならない。逃げ惑うのはその手前に留まっていた生徒たちだ。数名が落下! 重々しい地響き。大蛇が裂け目を越えた。それはひとたび立ち止まり、異なる九箇所に視線を向けた。 首の一つは購買部を。残りの八つは、その付近に集った、小さな人間たちの一人一人を。 あたかも、これから引き裂き破壊する絵画の構図を、戯れに覚えておこうとでも言うかのように。 「い……嫌ぁぁああああっ!」 兵動惣佳が蹲る。彼女はその能力ゆえに、怪物の邪悪な精神の一端を理解してしまった。 赤い瞳が残忍にぎらつく。必要なのは焼きそばパン。だが、無抵抗なオードブルを見逃してやる義理があろうか。 首の一本が牙を露わにし、少女を食らわんと伸び迫り―― 「危ないっ!」 ――横合いから放たれた鞭が、その頭部を捕まえた。 「あなた、逃げて! ……ハリガネムシくん、頑張って押さえて!」 声を張り上げたのは千倉季紗季だ。袖口から伸ばしたハリガネムシくんは、蛇に絡んだ上で硬質化し、季紗季自身も踏ん張って引き合いを演じる。 惣佳は顔を上げ、その光景を見た。 大蛇の、表情などないはずの爬虫類の顔が、極めて禍々しい笑みに歪んでいるのを見た。 「……駄目、離して!」 「え?」 警告はあまりにも遅かった。 蛇の首が振り上げられる。季紗季があっさりと宙を舞う。 高く高く放り投げられた彼女は、自分が真っ逆さまに落ちていく先が、待ち受ける大蛇の口の中しかないことを理解した。 (いけない。スカート、捲れる……) 麻痺した思考の中で、季紗季はそんなことを思う。 誰かの悲鳴が聞こえる。 解けたハリガネムシくんと共に、彼女は肉色の奈落の中へ。 否、運命は未だ定まってはいない。 邪神よ、見るがいい。 携帯電話を耳に当てたアフロの男を。 黒雲を割って飛び来たる、輝ける炎の鳥の威容を! 「――借りて来た不死鳥(ディメンジョン・フェニックス)ッ!」 居合わせた者は確かに聞いた。怪物に突進する不死鳥が発した、淀んだ大気を劈く一声を。 業火の奔流が大蛇を飲み込む! 季紗季を食らおうとしていた首は、瞬時に黒く炭化して崩れ落ちた! 「オ……グオオオオオーッ!」 「Dad Rule! She Move!」 苦悶に暴れ狂う大蛇の隙を突き、パン崎の右手が猛スピードで伸びる! 過たず落下する季紗季の腕を掴み、救出! 元の長さに戻った腕は、彼女の体を紳士的に抱き止めている! 「あ……あ、あり、がと……」 「いえ……ご無事で、よかったです」 心底安堵したように、パン崎は震える息を吐く。 地面に下りた彼女の元へ、目に涙を浮かべた惣佳が駆け寄ってくる。 「おい、皆! ここは一時共闘と行こうぜ」 住吉が言う。不敵な眼差しをヒュドラに向けて。 「……そうっすね。このままじゃ焼きそばパンどころじゃなさげだし」 その傍らに呉葉が立つ。 「異論ありませんわ」 さらに、ハンディカメラを携えた美麗。 三者に対するは一体の怪物。 残る八本の首を揺らめかせ、八対の瞳に怒りを燃やし、襲いかかるべき時を待っている。 大蛇は考えを改めていた。踏みにじるのではなく、戦うのだと。 眼前の小さな者たちが、己が望みを阻む障害、全力をもって屠るべき敵であると認めて。 焼きそばパンを手に入れるために、戦う。 その要素だけを取り出すならば、彼もまた今、争奪戦の参加者となった。 「…………あの、俺戦えねえんだけど」 「じゃあ、僕とここで待ってようか。危ないし」 のろのろと手を挙げた掏児には、上下がにこりと笑って言った。 「……お前は行ったらいいんじゃねえかな?」 「いや、“普通”の高校生は、あんなのには敵わないと思う」 「あ、そう」 金髪の男は露骨にげんなりとして座り込んだ。 全員行ったらその隙に焼きそばパンを奪ってやろう。そんな企みは脆くも頓挫した。 「僕らも離れていましょう」 「……ううん。私は行く」 「え?」 静かに首を振った季紗季に、惣佳は驚いて目を瞠った。 「あ、危ないよ。さっきだって……私は、おかげで助かったけど」 「……僕も反対です。先ほど助けられたのは運が良かったんだ」 パン崎の表情もまた険しい。 だが季紗季は決意していた。 「できることがあるかもしれないもの。じっとしてられないよ」 「でも……」 「大丈夫。さっきので、やっちゃまずいことは分かったしさ。無茶はしないで、ちゃんと弁えるよ」 季紗季は笑った。ごく自然な笑顔だった。惣佳はそれを眩しく思った。 パン崎は躊躇いを見せたものの、最終的には頷いた。 「分かりました。お気を付けて」 「うん。また後でね!」 元気良く手を振って、季紗季は戦列に加わりに行く。 ((できることがあるかもしれないから、じっとしてられない、か。季紗季ちゃんも変わったねえ)) (誰かさんのおかげでね) 体の中の友人と、そう言葉を交わしながら。 残された惣佳とパン崎は、どちらともなく顔を見合わせた。 何か喋ろう。惣佳が口を開きかけた直後、パン崎はいきなり後ろに倒れた。 「……ぇえ!?」 惣佳は慌てて傍らに屈み込むが、医学の知識があるわけでもない。 ただ、元々そうなので分かりにくかったが、顔色が少し悪くなっているだろうか……? もしかしたら、能力の反動なのかもしれない。 そう平和的に結論するしかなかった。 彼女には知る由もないことだった。自分のパンツ臭がパン崎を苦しめていたのだと。 先ほどまでは女性二人の手前、彼は気が遠くなりかけるのを必死にこらえていた。 しかし季紗季が去り、これまたかぐわしい芳香を持つ惣佳と二人きりにされたことで、パン崎の精神は限界に達した。 「……わ、分かりました。あなたが回復するまでは、私がしっかり守りますから」 惣佳がいる限りそうはならないだろうが、ともかく彼女はその言葉通り、守るようにしてパン崎の前に立った。 できることがあるかもしれないもの――見た目はそう変わらない季紗季の言葉が、彼女に勇気を与えていた。 「パ、パン……ツ……」 うなされるようなパン崎の言葉は、幸い惣佳には聞こえない。 ――ヒュドラが上げた咆哮に掻き消されて。 「……やりづらいですわね!」 美麗は強く地面を踏んだ。 カチリと乾いた音がして、直後に地面から火矢が噴き上がる。 大量に発射されたそれらのうち、何本かがヒュドラの首に刺さった。苦痛の声が上がる。だが決定打ではない。 ((ふひ……! ご、ごめんなさい、姉様……!)) (あ、いいえ、いいのよ。私が曲がりなりにも戦える――ふりができているのは、照子のおかげですもの。ただ) 上空を見上げる。 三たび飛来した炎の鳥が、今度も一撃で首の一つを爆散せしめた。 (……あれを見せられてしまうとね) 「せええい!」 呉葉は突っ込んできた首を横に跳んでかわし、即座に切り返して斬撃を放った。 赤熱した包丁が、深く入って骨まで断つ。傷口が焦げて煙を上げる。切り落とすまでは行かなかったが、こうなればもう動かせはしない。 ヒュドラの名を持つだけあってか、怪物は強い再生力を有していた。 彼にとって不幸だったのは、相手がことごとくそれを無効化できたことだ。 八徳包丁は焼く機能も完備している。美麗も対応してのけた。住吉などは言わずもがなだ。 大蛇の首は、既に残り五本。 「――オオオオオ!」 ヒュドラが吼え、呉葉に向けて突進する! その胴体で轢き潰そうと言うのか! ビルが倒れかかってくるのにも比する速度と質量! だが、彼女は動じない。 「お願い!」 「はいっ!」 呉葉の胴にハリガネムシくんが絡み、真上に向けて投げ上げる。ヒュドラは何者もいない空間を虚しく通過! 空中でのすれ違い際、呉葉は機を見逃さず薙ぐ。さらに首の一本が戦闘不能! 残り四本! 勝てる。 そこにいる魔人の誰もがそう思った。 ダンゲロスヒュドラは恐ろしい敵だ。だがそれは屈しつつあるのだと。 彼らに、一つ誤りがあったとすれば。 邪神は決して、血に酔うばかりの獣ではない。 それは闇雲希を陥れた、狡猾な楽園の蛇なのだ。 (胴体は、囮……!) すぐそばに迫った尻尾を前に、呉葉は自身の迂闊を悟った。 頭の一つがこちらを見ている。通常の生物には不可能でも、この相手は前後を同時に見ることができる。 彼女は咄嗟に包丁を盾にした。振るわれた尾が直撃する。 のみならず。 「……あ? まずくね?」 危機を最初に察知したのは、座り込む臥間掏児だった。 呉葉は突進を回避した。それはいい。 しかし怪物はその勢いのまま、こちらに向かってきてはいないか? いや、いる。 「――おいおいおいおいおいおい!」 「おっと……っ!」 轟音。 ヒュドラの巨体が、それと比べれば遥かに矮小な、プレハブ小屋へと突っ込んだ。 「うわ、うわ……!」 購買部の破片が周囲に降る。 惣佳は気絶したパン崎の足を引っ張って逃げた。大して変わるものでもなかったが、結果的には正解だった。 少し前まで彼の頭があったところに、飛んできたガラスが突き刺さったのだから。 「わ……っ……」 彼女は息を呑み、足を止めて購買部を見た。 あの怪物は焼きそばパンを求めていた。であれば、今の行動の意味は? 土煙が晴れていく。 大蛇の顎の一つから、力なく垂れ下がっている者がある。 「上下……!」 住吉が歯を噛んだ。 “普通”の高校生は、あんなのには敵わない。自らの言葉が、呪いのように彼を捕らえたのだ。 「……それだけじゃありませんわ」 美麗の顔は青褪めている。 彼女は――正確には、カメラのズーム機能を利用した罠大居照子は、別の顎が咥えたより致命的なものを把握していた。 「あの怪物――伝説の焼きそばパンを」 「……!」 住吉はすぐさま件の番号に電話をかけた。 だが火の鳥は発信後すぐに現れるわけではない。そして今日、これまでの人生で最も多く能力を使った住吉は、なお悪いことに気付かされていた。連続で使えば使うほど、火の鳥の“呼び出し”には時間がかかる。 願いが叶うとも言われる伝説の焼きそばパン。それを怪物が食べればどうなるのか。火の鳥はまだ現れない。 (……しめた……!) 住吉や美麗とは対極に、掏児の胸は高鳴った。 彼は突進を避けていた。逃げ足と悪運がまたも彼を救った。 今、彼の目の前にはヒュドラがいる。伝説の焼きそばパンを咥えたヒュドラが。掏児の存在などまるきり知らずに。 怪物が顎を上向かせた。捕まえた餌を飲み込もうと言うのだ。 (バーカ。それは俺のもんだよ) 掏児は心中で嘲笑った。 上下とやらは食われるだろうが、学園の生徒など自分には関係ない。大事なのは伝説の焼きそばパンだ。 彼は手を伸ばす。ヒュドラに。すなわち輝かしい未来に。 一体いくらで売れるだろう。故買屋は億の値と言っていた。一億か。二億か。三億か。売り込み次第ではもっと上がるか? まずアパート暮らしとはおさらばしよう。いい女だってモノにできる。店員が水も持ってこないようなファミレスとだって縁切りだ。 彼の思考はまた過去にも巡った。東海道武装強盗団。ろくな思い出がない。 とりわけ鮮明なのは父との会話だ。最悪だ。今でもあの怒鳴り声が耳に響く。 「テメェなんで働かねぇ! 銃も撃たねえ、罠も張らねえ! 挙句にゃわざわざ金ヅルどもを逃がすと来やがった!」 自分はべそをかいていた気がする。 「でも父さん、オレ、オレ」 「人が死ぬのなんか、嫌だよ」 「――ッ――クソッ、タレがぁーーーっ!」 掏児の手が、大蛇の体に触れた。 次の瞬間、その腕の中に、上下中之の体があった。 「……君は……」 上下が薄く目を開けた。 牙による傷が痛々しいものの、深手というわけではないようである。 そんなことを測る余裕は、今の掏児にはなかったが。 「畜生! 畜生! 畜生! ふざけんじゃねえよッ!」 滅茶苦茶に喚き散らしながら、上下を抱えて走る。 ヒュドラはやかましい輩が自分から餌を奪ったことに気付いた。一方で肝心の焼きそばパンは無事だ。 なので特に気を悪くすることもなく、ちょっとした制裁として尾で薙ぎ払ってやった。 「――うごぉあッ!」 無論、怪物の“ちょっと”は人間と尺度が違う。 衝撃で取り落とされた上下は幸運だった。掏児の体は高々と宙に浮き、それから重力に引かれて地面に激突した。 「オオ……オオオオォォオ!」 ヒュドラは叫んだ。 生きた首は三本きりしかなく、あとはみな惨たらしい有様になっている。にも関わらず、その声は過去のどの時点よりも強大に響いた。 力ある贄を、それは飲み込んだのだ。 「そんな……」 美麗が呟く。カメラを持った手はだらりと下げられている。 「馬鹿な」 住吉は震えた。火の鳥はまだ現れない。 いや、現れたところで意味があろうか。 上下が助けられたのは目にした。 しかし、それも喜んでいいものやら分からない。 伝説の焼きそばパンを食べた怪物が、食後のデザートたちを睥睨し、舌なめずりをしているのだから。 ヒュドラはずるりと這い、同時に首をひとつ伸ばした。 住吉の方へと。最も狼藉を働いた彼を、最初に食らってやる気であるらしかった。 その頭が、爆発した。 「……何を、勝ったつもりになっている……」 起こったことを理解できた者はいない。 為した彼本人を除いては。 「まだ、戦いは終わっていないぞ」 崩落した縦穴の縁に、闇雲希が横たわっていた。彼は意識を失っていた。 その傍らに男が立っている。“杖”をその肩に担ぐ格好で。 希が武器として使用し、振り回していた杖とは何だったか。 それには二箇所のストックが備わっていた。それの後端は管楽器のように開いて広がっていた。それの先端は菱形に膨らんでいた。膨らみとは弾頭だった。 ――それはRPG-7の名で知られる兵器であった。 「オ……オォオォオォ!?」 「……! 行け、不死鳥(フェニックス)!」 混乱の叫びを上げる怪物! そこに火の鳥が現れる! 悪しき大蛇の首を焼き滅ぼす! 残り二本! ヒュドラは手当たり次第に暴れる獣と化した! 伝説の焼きそばパンを得てなお力が戻らぬことに、これまで前提としてきた一切の思考が破綻したのだ! 首の一本が兵動惣佳へと向かう! 立ち竦む少女! だがその前にパン崎が立ちはだかる! 否……それは本当にパン崎なのか!? 頭に毛髪こそないものの、その肌の色は健康的な褐色! 肉体も引き締まってはいるが力強い! 一体彼に何があったというのか! その奇蹟は誰の目からも外れたところで起こっていた。 掏児がヒュドラの尾を受けて吹き飛ばされた際、その懐から一枚の布が零れた。 布とはパンツであった。掏児が盗んだ、千倉季紗季のパンツ。 それはひとひらの花弁のように宙を漂い、何の因果か、彼女を二度に渡って助けた男の、 口へ。 もぐ、もぐ、もぐ。 ごくん。 「……ぉぉぉぉおおおお!!」 仰向けに倒れて気絶していたパン崎は、その瞬間、総身に漲る力を感じて目を覚ました。 驚いて振り返る惣佳の目の前で、劇的な変化は生じたのである。 己が何を得たのか、パン崎は知らない。生涯知ることはないだろう。 ただ一つ、彼には確信があった。自分は解放されたのだと。 彼はそよ風の薫りを知った。彼は草花の本当の色を知った。目鼻や耳口を知らずのうちに包み込んでいた灰色のもやが、綺麗に取り払われたかのようだった。 そして、彼はもうパンツ臭に惑わされなくなっている自分を知った。 迫り来るヒュドラの首の動きは、今のパン崎にはひどく緩慢に見えた。 彼は深く息を吸いながら、両腕を顔の前で交差させた。 次いでその腕を後ろに引きつつ、頬を大きく膨らませてヨガの炎を噴いた! 「オオ……アアアアアア!」 怪物が苦悶に叫ぶ! だがそれも一瞬! 煩悩を克服したパン崎のヨガは、火の鳥にも肩を並べる熱量で大蛇を浄化した! 残り一本! パン崎の背後、無事守られた惣佳は、怪物が遺した叫びの残響に、戸惑ったように小首を傾げた。 「どうして……伝説の焼きそばパンを食べたのに、どうして望みが果たされないのか、って言ってる……?」 舟行呉葉は体を起こした。片目を眇め、首をごきりと鳴らす。 「あー。まあそりゃあ、ねえ」 彼女の元にも、大蛇が向かってきている。 「色々あったんすよ……今回は」 八徳包丁のダイヤルを捻る。鉄の刀身が、再度熱を帯びる。 『呉葉。呉葉。聞こえるか』 インカムからノイズ混じりの声。 「聞こえてます。つーか遅いっすよ」 『悪い。調べるのに手間がかかった。だがその分確かな情報だ。素直に信じてくれていい。いいか?』 「はいはい。どうぞ」 間合いが近付く。包丁を構える。 『ダンゲロスヒュドラは、食える』 一閃。 呉葉の魔人能力は、刃渡りなどお構いなしに、ヒュドラの首を輪切りにした。 断面から、フランベのように炎が上がった。 昼休みは終わりに近付いていた。 未だ意識のない者も含め、十人。それが購買部に集った者の数。 いや。 もはや、そこは購買部跡と呼ぶべきだった。 「先輩。終わりましたよ」 腕を組んで立つ仕橋に、呉葉が軽く手を振って言う。 「容態は?」 「どっちも大事ないっす。闇雲くんは見た目酷いすけど、一番重いので左腕の骨。あの金髪の見知らぬ輩はもっと軽い。ともかくできることはやっておきましたんで」 「そうか。助かった」 「いえ、応急手当は調達部の嗜みっすから」 そこで一旦言葉を切り、彼女は仕橋をまじまじと観察した。 「……って言うか、むしろ先輩こそ平気なんっすか、怪我」 「なに。これくらい大したことはないさ」 そう言ってから、彼はふと寂寥を湛えてそちらを眺める。 「……いや。けれども少し、痛いかもしれないな」 購買部であった瓦礫の山を。 ((季紗季ちゃん。戻らないの?)) (……うん、そろそろ。でも、もう少しだけ) 千倉季紗季はそう答えつつ、プレハブの残骸を眺め続ける。 彼女だけではない。全員が、なんとなく去りがたいものを感じていた。 ((……パンツ、見つからなかったね)) 彼女の場合は、別な事情もあったが。 (それはもういいよ……) 誰に聞こえる会話でもないものの、顔を赤らめて俯く。 気絶しているあの憎き泥棒男に対し、徹底的な身体検査を行ったものの、出てきたのは盗品の財布ばかり。 果たしてパンツはどこに消えてしまったのだろう? なぜか、季紗季はもう二度と見つからないような気がしていた。 その時。 垂れ込めた雲に穴が開き、一筋の陽光が下界に差し込んだ。 それはちょうど瓦礫の山を照らし出した。 天使の梯子、と俗に言う。透き通った黄金色の光は確かに、何かが天界へと昇るための道のように思えた。 「……え……?」 最初、誰もが幻だと思った。 瓦礫の隙間から、泡のように浮かび上がったものを見て。 陽光を浴びて――否、そうするまでもなく、丁寧なラッピングの内から輝きを放っている。 不思議な力を主張するみたいに、ふわふわと宙に浮いている。 「そんな。嘘だ」 呉葉に反論する声はない。間違いなくヒュドラの胃に消えたはずのもの。 そして、それ以上に呉葉は知っている。 今回の争奪戦で争われたものは、元々から真っ赤な偽物だったのだと。 だが、ならばこれは。 たとえ一切の情報を知らぬ者であっても、その本質を見誤ることはないだろう、圧倒的な存在感は。 「伝説の焼きそばパン……」 その言葉にも、反論は出ない。 舟行呉葉のミスにより、たったひとつ購買部に入荷された品は偽物だった。 だから、真の伝説の焼きそばパンは存在しない。 それが論理的な帰結。 しかし、見方を変えればもう一つの真実が見えてくる。 そもそも今回、実に数年ぶりに伝説の焼きそばパンが入荷される運びとなったのは、闇雲希が“伝説の焼きそばパンを手に入れる”契約をした結果だ。 悪魔は願いを叶えない。代わりに願いに応じた物体を召喚する。そして――その契約に、嘘はない。 召喚される刀は玩具ではない。鍛冶屋は鍛冶屋を名乗るだけの素人ではない。暴漢は強い。ヤンキーはテレポートできる。救世主を名乗る変態は、救世主だし変態だ。 悪魔の、ヒュドラの思惑は、自分を召喚させること。“自分”に贋作が有り得るようでは本末転倒だ。 焼きそばパンは、二つあったのだ。 ガラリ。 瓦礫の山の一角が崩れ、中から人が這い出してきた。 日焼けした肌、引き締まった肉体。ほんのり憧れるようなナイスミドル。 学園の生徒なら誰もが知っている。購買部の店長だ。 彼はすっくと立ち上がり、服の汚れを叩いて落とした。 それから、小脇に抱えていた機械を手に持った。 機械はバーコードリーダーだった。 店長が、バーコードリーダーを掲げた。 「――ぉおおおおおおおお!!」 最後の戦いが始まった。 誰もが、一度は焼きそばパンを手にした。 住吉弥太郎が軽やかな動きで。千倉季紗季がハリガネムシくんとのコンビネーションで。冬頭美麗が罠大居照子の支援で。兵動惣佳ががむしゃらな努力で。 それでも勝負は決まっていない。 店長のところまで持っていき、バーコードを読み取ってもらい、財布を出し、お金を払う。 一連の手順を、終えられた者はいない。 「……行くんっすか?」 腰を下ろした舟行呉葉が問う。 彼女には、もう求める理由がない。佇む上下中之にも。結跏趺坐するパン崎努にも。臥間掏児と闇雲希は目を覚ましていない。 だから、問われたのは仕橋王道だ。 「ああ」 彼は短く答え、また一歩進んだ。 左足は自由に動かず、右足だけで踏み出していた。 「……無理じゃないっすかね」 出遅れた。その時点で、彼が戦える状態にないことは明白だった。 仕橋は、また一歩踏み出す。 「無理だとか、無理でないとかではない。僕は勝つ。――勝ちたいんだ」 彼の言葉に、感情の熱が宿った。 「……勝つったって……失礼かもしれませんけど、先輩が焼きそばパンを狙うのは、きっと誰かにパシリを頼まれてでしょう? そんな真剣に、勝つとか負けるとか、あるんっすか」 「違う。パシリだからだ。パシリとして挑んでいるから勝ちたいんだ」 また一歩踏み出す。 呉葉は鸚鵡返しにした。その意味するところが、まだ分からなかった。 「……パシリだから」 「そうだ。僕はパシリだ。ずっとパシリとして生きてきた。報われない役目だ。悔しい思いもしてきた。ずっと、勝ちたいと思ってきた。パシリのままでだ」 一歩踏み出す。 「パシリだって、勝ってもいいはずだ。幸せになれるはずだ。パシリのままで。パシリのままで!」 踏み出す。 「僕はパシリを見捨てたくないんだ。パシリでいる限り夢も希望もないなんて、そんなことはないと証明したい。だから勝つ」 踏み出す。 「勝ち続ける。他の誰に譲るのでもない。至高のパシリの王となって、パシリというあり方を支えたい」 踏み出す。 辿り着いた。 瓦礫の山を見上げる。 不安定な足場の上で、伝説の焼きそばパンが取り合われている。 目まぐるしく所持者を変えながら。 登りはしない。罠があるだろう。 それに、そうする必要もない。 パシリの上級技能、把握・動――売れ筋の人気商品を相手にしても、完売前に購入する。その為に必要となる、商品の“売れ方”を視る技だ。 不意に、攻防の中から焼きそばパンが弾き出された。 その先は真空地帯。奪い合う者たちの打ち手が拮抗して生じる、彼らの誰も予想せず、誰も手を出せない領域。 既に、彼はそこにいた。 「――これ、ください」 あらゆる視線が収束する先で。 仕橋王道は伝説の焼きそばパンを確保し、購買部店長にそう宣言した。 「……なんてこった。お礼を言おうと思っていたのに」 上下中之はがっくり肩を落とした。 真の伝説の焼きそばパンの行方に釘付けになっている間に、金髪の男は姿を消していたのだ。 臥間掏児という名前すら、結局彼が知ることはなかった。 「まあ、いいんじゃないっすか? あいつ、真っ当な稼ぎ方してる人間じゃなかったみたいっすし」 「うーん。でも、“普通”はそうきっぱり割り切れないよ」 その言葉の通り、上下は葛藤に苦しむ表情をしていた。 いや、本当に、葛藤に苦しんでいる――のだろう。 「……さいで」 やはり調子が狂う気がして、呉葉は溜息を吐いた。 「あー。一応確認に来たんっすけど、上下くんはやっぱり抜けますよね。調達部」 「どうかな? 部活に入ってるのは“普通”じゃない?」 「うちの部は特殊っすから。変わり者と思われるよ」 「それもそうか。じゃ、退部ってことで」 「あい。部長にも伝えとくっす」 何気ないように話を繋ぎながら、内心で彼女は安堵した。 調達部は確実に特殊だが、上下が在籍し続ければ、“普通”の部活と見なされてしまうようになる気がする。 それで他校にライバルが増えたりしてはたまらない。ただでさえ近年は狩猟対象の個体数減少に悩まされているのだから。 「あ、待って。調達部じゃなくてもあれは食べさせてもらえるよね?」 上下はダンゲロスヒュドラの死体を指差した。 指差した、とは言っても、大きすぎるのと散乱しているのとで、だいたいどの方角に指を伸ばしてもそうしたことになるのだが。 「大量にあるんで、むしろ食ってください。……でも、いいんすか? あんなワケ分かんないの欲しがって」 「“普通”に生きてると、たまには冒険もしたくなるんだ」 「……なるほど」 その後しばらく、二人は通信越しに大山田も交え、ヒュドラの調理法についての話に花を咲かせた。 「やー。残念だったねー、住吉くん」 「残念だったのはお前もだろ。つうかわざわざそれ持って迎えに来たのかよ。暇だな」 住吉は争奪戦の余韻に浸ることもなく、早々に校舎へと引き揚げていた。残り少ない昼休みを勉強とダンスで有意義に使うために。 そんな彼を入口で待っていたのがアデュール麻衣子だった。女子力の高そうなジュラルミンケースをぶら下げて。 「私じゃないよ。私の後輩」 「どっちでもいい。とにかく、もう俺に用はないだろ。やっぱり堅実に生きるのが一番ってことだな、俺みたいなアフロは」 住吉が教室に向けて歩き出すと。当然のように麻衣子もついてくる。 「謙遜しちゃってー。学園のやばいやつらにも勝ったって聞いたよ?」 「勝ったって言うか、お前が言ってたようなのいたか……? ああ、時空剣術だかは見た気がするけどさ」 「ほら、いいところまで行ったんじゃない。住吉クンすごいなー。ただならないなー」 「あのな……」 一言言ってやろうと思って住吉が振り返ると、狙い澄ましたようなタイミングで開けられるジュラルミンケース。 たこ焼きの黄金の光が住吉の目を射る。二度目であっても変わらない魅力が住吉の心を掴む。 「く……っ。こんなの見せてどうするんだよ」 「伝説のお好み焼きパン」 「なに?」 「今度はそれが入荷するらしいのね。で、かわいい後輩が欲しいって言っててー……」 ((ほんとにそろそろ戻らない、季紗季ちゃん?)) (うー、でもー……) 争奪戦の勝者が決まった後も、季紗季はプレハブ小屋――の残骸の周りを歩き回っていた。 目的は、もちろん。 ((ショックなのは分かるけどさ。すごく大事なものってわけでもないんでしょ?)) (そうだけど……考えてみてよ) ((うん?)) (今日、これで学校終わりじゃないんだよ? 次の授業も、次の次の授業も、私このまんまで過ごすの……?) ((……体操着とかは?)) (持ってきてない……) ((…………)) 気まずい沈黙が下りる。 そこへ。 「あ、あのっ!」 「はいっ?」 背後から切羽詰まった声。 なんとなくやましい気分の季紗季は、思わず飛び上がりそうになってしまう。 「あ、ご、ごめんなさい…………さっきの、怪我とか、大丈夫だったかな、って……」 「ん……? ああ、さっきの!」 ヒュドラと戦った時にいた相手だと思い出して、季紗季は屈託のない笑顔を向ける。 勇気を振り絞って声をかけた惣佳は、それを見るとますます恥ずかしくなってしまうのだったが。 「うん、だいじょぶだいじょぶ。むしろそっちこそ平気だった?」 「うん……おかげさまで……」 「そっか。よかったー」 「うん……」 「……」 「……あの、本当は、さっき聞くべきだったんだけど……無我夢中で……」 「あー。いや、分かるよ、私だってそうだったもん」 「そ、そう? だよね……あはは……」 「でも結局、三年の先輩だっけ? やっぱり慣れてるのかなあ、魔人として、みたいな」 「ど、どうかな。私、そういうのよく分からないから……」 「あ、そっか……」 「……」 「……」 ――会話が弾まない。 ((いい子そうだけど、口下手なのかなあ)) (こらこら) 「うう……分かってはいるんだけど……」 「え?」 「え?」 ((あれ? ……もしかして聞こえる?)) 「あ、うん、そういう能力だから。……聞かないほうがよかった?」 「ああいや、全然。ちょっとびっくりしただけ。ハリガネムシくんと話せるひと、私以外にはいなかったからさ」 「ハリガネムシくんっていうの? 私、兵動惣佳だよ。よろしくね」 「惣佳かー。こっちは千倉季紗季。よろしく」 「え?」 「え?」 「…………あ、いや、そっか。そうだよね……!」 惣佳は肩を震わせた。 恥ずかしいやら嬉しいやらおかしいやら。そういう気分自体が久々な気がした。 ((ところでお二人さん、そろそろ校舎に戻ったら?)) 「あ、授業始まっちゃう? 行こうか、えっと……季紗季?」 「そうだね……。……ところでさ」 「なに?」 小首を傾げる惣佳に対して、季紗季はかなり悩んだ末に尋ねた。 「……変なことだってのは分かって聞くんだけど。替えのパンツとか、持ってない……?」 「え、きみパン崎くん!?」 「これ闇雲先輩なんですか!?」 同じようなリアクションをしたのは、片や三年、片や一年の生徒だ。 パン崎は照れたように頭を掻いている。言動こそ元の通りだが、かなり別人に近い。無理もない。 「うーむ……これもヨガの力なのか? 可愛い新入部員も入ったことだし、我が部も新たな探求のステージに進む時か……」 「そうなのかもしれませんね。頑張っていきましょう、部長」 「お、やる気だねえ。よし、今日は多目に火を吹くとしますか!」 彼らの方は、問題ないとして。 「闇雲先輩のこんな安らかな寝顔、見たことない……まるで憑き物が落ちたみたいだ……」 「……本当にそうだからな」 「え?」 「いや」 仕橋は、闇雲希を迎えに来た一年生に対し、なんでもないと首を振ってみせた。 話すと長くなる上に割と荒唐無稽だ。 「耕太郎くんだったか。見ての通り、闇雲くんは眠っている。数日は目を覚まさないかもしれないが、今までの反動のようなものなので心配はない。腕の骨折にだけ気を付けてくれ」 「はあ……ありがとうございます。すみません、わざわざ」 「……と、調達部員が言っていたという程度の話さ。僕も乗りかかった船だからやっているだけだ。気にしないでくれ」 背負っていた希を彼に託す。 彼は何度か振り返って頭を下げながら去っていった。 闇雲希は不幸ゆえに勝ちたがっていた。幸せになりたがっていた。 その原因が除かれた今、彼はどうするだろうか。次はパシリの立場を脱却しようとするだろうか? ――それに関わる権利も、義理も、仕橋にはない。 重要なのは―― 「…………」 旧校舎の中庭を目指して歩きながら、仕橋は落とし穴を避けた。 己の直感がそこにあると告げた落とし穴を。 「僕は、僕のパシリとしての役目を全うさせてもらう。依頼主以外に渡す気はない」 引き続き歩きながら、仕橋は虚空に向けて喋る。 「……だが、君が依頼主と直接交渉する分には自由だ。好きにしてくれ」 中庭が近付いてくる。 ことごとく割れた窓ガラス、土のこぼれた花壇、かつては咲き誇っていた何本ものチューリップの、ミイラのように砂色に萎びた骸。文明崩壊後じみたランドスケープ。 そして、彼を使役する不良たちが。 ――重要なのは、自分がパシリであること。 そして勝ち続けること。 すなわち、パシリの王であること。
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チャリン―― 厳重に閉ざされた扉の向こう。静寂が支配するその空間に、無常の金属音が響き渡る。 ホールの奥、ステージの中心。そこに座する金の女神像。 その女神像を前にして、一人の男が声を震わせながら蹲った。 「…………どうして…………こんなことが…………」 彼――元生徒会長の彼は、金策尽きた中小企業の社長のように絶望の淵へと追いやられていた。 ニヒルスマートとも言うべき端正なマスクも、今となっては見る影もない。 だがそれも当然である。今ここで起きたことを鑑みれば、誰しもこの生徒会長のように取り乱してしまうのは吝かではないはずだ。 その証拠に、彼の言動を――偽りの仮面に潜む素顔を知る『彼ら』でさえ、どのように対処し良いか分からず立ち尽くし、じっと彼の方向に目線を向けるに留まっていた。 突然の来訪者である俺、漆黒の振袖を身につけた九曜、紋付袴を着込んだ藤原、……そして。 「会長……」 蹲った会長を励ますかの如く、傍に寄った喜緑さんもまた。 皆が皆、どう行動すればよいかわからずオロオロとしながら震える生徒会長に事の次第を判断しようと近づいた――その時。 「誰だ……一体誰だ…………」 指輪――宝石の無い婚約指輪を手にし、会長の震える声は次第に大きくなる。 「俺の……我が家の…………家宝を……宝石を………………盗みやがったのは…………」 そして、遂に―― ――どこのどいつだぁぁぁぁっ!!!!―― 彼の邸宅、大ホール。事件はそこで発生した。 何と言うフィールソーバッド、いや、バッドアクシデントだろうか。とてつもなく嫌な予感がする。 一体、何故こんなことになってしまったのだろうか。何故またややこしい事件に巻き込まれてしまったのだろうか。どうして俺はこうも面倒ごとと相性がいいのだろうかね。 しかし、そんな愚痴を言ったところでどうしようもない。特にここ数年の経験から鑑みるにそれは明らかだ。 必要なのは、この事件を早期に解決して後へと残さないこと。そのためにも、時間を戻して経緯を説明する必要がありそうだ。 というわけで、いつもの得意技であるバックトゥザフューチャー、いや、逆向き瞑想を開始してみる。 あれは、今日の午前中。勉強に飽きた俺が淀んだ空を見て昔の出来事を思い起こしてた後のこと。 二人の少女が俺の家に乱入し、強制的に初詣に行く羽目になったんだった…… ……… …… … インターネットの天気予報とは裏腹にダウナーでメランコリーだった空色は少しずつ明るさを取り戻し、雲の切れ間から今年一番の天照様、つまり初日の出を拝見可能となった元日の朝。 年賀状配達を装ってまんまと家の玄関に侵入した極彩色コンビ――オレンジ色の振袖にクリーム色の巾着を手にした橘と、漆黒の振袖にこれまた漆黒の巾着を手にした九曜の悪たれ二人組――は嬉しそうに、 「行かないとこの振袖、キョンくん着せますよ!」 と、手にした水色の振袖とかんざし付きのウィッグをフリフリちらつかせた。 「いやだぁぁぁぁ!! 誰が着るかぁぁぁ!!!」 あの時のトラウマを鮮明に思い出した俺は絶叫に絶叫を重ねた。 「ああ……なんか本気で嫌がってますねえ……」 「当たり前だぁ!」 やや身じろぎしながら腫れ物に触るかのような表情で言う橘に本気で拒絶の態度を見せた。好き好んで女装する男なんぞ危ない趣味を持っている奴か、或いは職業柄着ている奴しかありえん。 そのどちらでもないノーマルな俺が女装するなどはっきり言って三本の指に入るくらい人生の汚点だ。 「えー」 えー、じゃない! それにな、 「そんな暇があったら勉強に専念させてくれ。そっちの方がよっぽどタメになる!」 「大丈夫なのです!」何故だか自身満々で平たい胸をドンと叩いた。「信じるものは救われるのです! 祈れば大学に合格できるのです! ですからキョンくんもお祈りを捧げましょう! さあ! さあ!」 危ない宗教かお前は……って、強ちそうではないと言い切れないところがとっても橘である。 「佐々木さんと一緒の大学に入学したいと言う信念を見せ付ければ、それは絶対叶うのです。なんたって佐々木さんは神様なのですから!」 遺憾ながら同感である。佐々木と、そしてハルヒの力が混成すれば俺が勉強しなくとも大学に合格できてしまうのは何となく既定事項っぽくも思える。 だが、それに甘えるってのもかっこ悪いぜ。形だけでも二人に猛勉強しているところをアピールしなければ合格もへったくれもあったもんじゃない。 「意外と義理堅いんですね、キョンくんってば」 お前とは違うんだよ。 「さらっと酷いこと言いましたね」 まあな。 「うううう…………なんか悔しいのです。こうなったらあたしにも考えがあります! 九曜さん!」 「――――――――」 呼ばれて出てきてジャジャジャジャーンと言うわけではなくずっとその場にいたのだが、あいも変わらず存在感の無い九曜はいきなり存在感を露にした。 「やっちゃってください!」 橘の命を受け、漆黒のマトリョーシカは俺に向かって手を振り上げた。「一体何をする気だ!?」 「―――こう――――する――」 「!!?」 ……なっ…………体が…………動かない………… 「かな…………しばり………………か………………?」 痺れて動かない舌と唇を必死に動かして言葉を紡いだ。 「ふっふっふっ…………これであなたはあたし達が今することをただじっと見てなければいけませんね……」 勘輔の策略を見破った謙信の如く鋭い目つきをした。「まさか…………無理矢理………………つれて行く……気か…………?」 俺の言葉にしかし口を歪め、奥に見える歯を白く輝かしていた。 「いいえ!」 しかし橘は俺の目論みをを否定し、それ以上の戦慄を植えつけた。 「そんなことよりキョンくんの家にあるおせち料理、全部食べ尽くしてやるのです!」 こらお前ちょっと待てぇ! 俺の言葉も空しく、疾風怒濤の如きダッシュを見せたオレンジ色のソレは、ダイニングに整然と並ぶ正月料理を目の前に燦々と目を輝かせ、そして見つけた重箱の一つに手を伸ばし料理を鷲掴み! 「ムグムグムグ……うん! このられまき、あまくてほいひい! こっひのきんときもあんまいれすう!」 「結局たかりに来ただけかこの大飯喰らいがぁ!」 ゴス、と目の前にあった重箱の隅が橘のドタマにめり込んだ。 「いったーい! 何するんですかぁ!! てかどうして動けるんですか!?」 「九曜に解いてもらったんだっ!」それより! 「何するんですかはこっちのセリフだ! いきなり上がりこんで電波な宗教論を語った挙句人様のうちのおせち料理を平らげるなぁ!」 「あー、いえいえ。お構いなく。ところでお雑煮はまだですか?」 「――――こっちに……ある――――白味噌……――――京都風――――」 「わあ、甘くていい香りがしますぅ! 九曜さん、こっちにも早く早く!」 「――――どうぞ……」 「いっただっきまーす! うーん、おいしい!」 「――――こってりしていて――――――それでいて――さっぱりして――――口の中で――とろけるような…………――――」 「ふう、美味しかったのです。そう言えばデザートはまだですか?」 「もう――ちょっと……――――待って…………今から――――――お汁粉――――――――作る――――――――」 「やったぁ! 期待してますよ、九曜さん!!」 こいつら……本気でたかりに来たのか? それ以上無銭飲食を続けるなら警察に通報しちゃるがな。いやマジで。 「とまあ、腹ごなし……もとい、冗談はここまでにして」 とても冗談とは思えないくらい程がっついた橘は、食事に満足したのかようやく(?)当初の目的を思い出したようで、「そろそろ初詣に行きましょうか」 だから俺もさっき言ったとおりヤダっていっただろうが。 「一年の計は元旦にあり、なのです。初詣は元日の午前中に行くのがスジってものなのです」 決して意味不明なことを言っているとは思わないが、だがどんなに名文句も橘が喋ると全て台無しになってしまう気がするのは俺の気のせいだろうか。それはともかく、 「なるほど、お前の言う事も一理ある」 「じゃあ……」 「だがな、もう済ませてきたんだ」 「……へ?」 「実は今朝方、ハルヒや佐々木達と一緒に行ってきた。だから二度も行く必要は無いだろ」 「ええええー!!!」 何故か橘は驚いた様子で 「そんなぁ! あたし呼ばれてませんよ!」 「そりゃあ、呼ばなかったからな」ハルヒと佐々木が断固として拒否したから仕方あるまい。 「ひっどーい! あたしの人権はどうなるんですか!?」 さあ、その辺はお前を無視した二人に問い質すか、人権擁護団体に訴え出てくれ。正直俺の知ったことじゃない。 「うううう……キョンくんってば最近冷たい……あたしを人間扱いしてないなんて……ひぐっ…………」 ヨヨヨと泣き崩れたように見える振袖姿のツインテール。しかし俺はコレが演技であることはとうに見抜いていた。伊達にこいつとの付き合いも長いわけじゃないぜ。 「くっ……やりますね。あたしの渾身の演技を見破るとは……」 渾身の演技をするつもりならば、先ずは口の周りの汚れをふき取ってからしていただきたい。 「それは後々の課題として組織に提案することにします。……で、キョンくんは初詣に行ったのに、あたしと九曜さんは初詣に行かないなんて我侭、許されると思いますか?」 いや、許されるも何も。 「九曜は初詣に行ったぜ。俺達と一緒に」 「…………へ??」 「だから、俺とか、ハルヒとか、佐々木とか。その他にもいたけど、とにかくお前以外の奴らで初詣に行ってきたんだよ」 「……えー……と……」 口の周りを汚したままの橘は、ギギギと言う効果音を立てて首を九曜の方に曲げた。 「本当、ですか……九曜さん!?」 九曜は橘を凝視した後俺の方を見据え数ナノ単位で首を動かした後、再び橘に目線をロックオン。 「――――本当…………行ってきた――――初詣――――皆と一緒に……――――」 「………………え゛」 鏡開き時の鏡餅宜しくカチンコチンに固まった。 まあ……九曜は別段俺たちに害を成すことは無かったし、ハルヒも佐々木も得に問題なく誘ってたみたいだぞ。気にするなって。その代わりと言っちゃ何だが藤原はいなかった。ほら、お前と同じで。よかったなー。ともかく初詣には一人で行ったら…… 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」 あ、泣き出した。 「ひどいぃぃぃ!! ひどすぎますぅぅぅ!!! みんなであたしをいぢめるぅぅぅ~!!」 ギャン泣きする様は演技でなく、ガチで泣いているようだった。 「そ、そんなに泣くなって! 誘われなかったくらいなんてこと無いだろ!? 俺達だってお前を除け者にしたわけじゃ……あるけど……いやそうじゃなくて……あ、そうだ。藤原はまだ行ってないだろうから二人で行けば……」 「う゛わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛~ん゛! う゛わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛~ん゛!」 橘の鳴き声は更にヒートアップした。高周波を醸し出す嗚咽音は俺の家だけならまだしも近隣住民の皆様の平穏なる元日を脅かすのは間違いなかった。 「わ、分かった分かった! 行く! 行ってやる! だから泣くのは止めろ!!」 「本当ですか? やったぁ!」 あれだけ激しく号泣していたツインテールは嘘のようにピタリと泣き止んだ。 「わーい! キョンくんと初詣だぁ! たのしみだなあ!」 もしかして、あの涙も演技だったの? ……マジ!? こうして俺は、本日というか本年二度目の初詣(二度目なら初じゃなくて二詣でとでも言うのか?)に借り出されることなり……そして。 実りの無い事件に巻き込まれる羽目になるのだ。 渋々と言うか橘の姦計に見事引っかかってと言うべきかはさておき、最寄の神社へと向ったのは十時を三十分程過ぎていたことだけは記憶の隅に留めている。何故そんなこと覚えているかって? 単に家を出るとき何となく時計を見たからだ。 俺の自宅から目的の神社までは歩いて三十分くらいのところにあるので、このまま何事もなく移動できれば十一時には到着するだろうし、そこからお祈り等何やかんやしたところで十二時には自宅に戻ってこられるはずだ。 避けるのが無理ならば、一刻も早く事を終わらせるに限る。残り少ない高校生活、いや、受験生生活を有意義に過ごすためには一分足りとも時間を無駄にする事はできないのだから。時間にシビアになるのは仕方ないことだと思うね。 「……キョンくん、さっきから何ブツブツいってるんですか?」 ぴこぴことツインテールを揺らしながら、俺の顔を覗き込むように橘が訪ねてきた。 「どんな願い事をするか考えてたんだ。何せ二度目だからな」とは俺の弁。正直嘘なのだが、本当のことを言っても仕方ない。代わりに「そう言えばお前はどんな願い事をするんだ?」と質問する形で返してやった。 すると橘は…………って、無言かよおい。 「……え? あ?」 一人でブツブツ言うのも良くないが、人の質問に答えないってのもどうかと思うぞ。 「あ……失礼しました。誰かついて来てる気がしたんで……」 「ストーカーかもな」絶対ありえんが、と心の中でだけ付け足しておく。 「ストーカーですか……是非一度経験してみたいですね。記念に」 何の記念だよ、変な奴め。 「ああ、それよりさっきの質問ですけど、そうですねえ……今年もみんなと仲良く遊び回りたいです」 ニカッとはにかんだ彼女の表情がやけに眩しく感じられた。 「お前の願いはハルヒの能力を佐々木に移管することじゃなかったのか?」 「うん、そうですけど」何故か悲しそうな表情で「でも、無碍に実行する必要も無いかなって」 およそ橘らしくない発言をしでかした。頭、大丈夫か? 「大丈夫ですよっ! ノータリンみたいな扱いはしないで下さい!」 ぷくっと頬を膨らませた。冗談だよ、冗談。俺がそう言うと橘は、 「あたしの願いは本気ですよ。確かに『組織』にとっては、涼宮さんの能力が佐々木さんに移行されることに何の懸念もありませんし、あたしの主旨も初志から変わることなくここまで来続けています。でも……」 でも……何だ? 「あたしは佐々木さんの良き理解者であり、パートナーとしてありつづけたいのです。ですから、佐々木さんの望むべくも無いことをむやみやたらに差し迫るのは、組織のためにも、そして佐々木さんのためにも良くないんじゃないかって思い始めてきたんです」 それはそれは。橘にしては良い心がけだ。そうしてくれれば佐々木も大助かりだろうよ。それだけ佐々木のことを気に掛けてくれれば何をすべきなのか普通見えてくるもんだがな…… 「何か言葉に刺があるように感じますが……まあいいです。古泉さん達が主張する、『涼宮さんが望んだことが現実となる』ように、あたし達も『佐々木さんが望んだことが現実となる』ように仕向けなければいけないのです」 で、具体的にはどうするんだ? 「さあ、わかりません」 おいおい、何だそりゃ。 「分からないからこそご神託を聞きに神社でお参りをするんですよ。ねー、九曜さん」 「――――そう――――――」 俺達の後ろを、足音も立てずに歩く九曜が肯定の反応を示した。 「いずれ――分かる――――日が……来る――――」 何時だ、それは? 「その――うち――――」 そうかい。ならその時に備えて構えておくことにするよ。 「それよりも」 俺は目線をチラリと横にずらし、「まずは目先の懸念を払拭することにするか」 「そうですね。先ずは大学合格が重要なのです!」 ……いや、それも重要だが、俺の言いたい事はそうじゃない。遠くに見える違和感を尻目に、横に侍る女性陣にだけ聞こえるようぼそっと喋りかけた。あ 「(お前の言ってたのは本当っぽいな)」 「……ん? 何がですか?」 「(確かに誰かついて来てるようだ)」 「えええええっ!!」 こ、こら! 声を上げるな! 俺の言葉に橘は、 「だってうれしいですもん。本物のストーカーさんに付きまとわれてこそあたしの人生にも箔が作ってもんです!! やったぁ!」 ……だから喜ばないでくれ。 それは俺達の後ろ、道路の路側帯に組み立てられた物置程度の網小屋――所謂ゴミの集積小屋。野生の動物達がゴミを漁るのに苦慮して市が立てた小屋の一つだが……その周りを確かにうろちょろしている人物がいた。 「(どう見ても犬や猫の類ではないぞ……浮浪者か?)」 「なんだ、ストーカーさんじゃないんですか……残念」 まだ言ってるのかお前は。 「まあいいや、とにかくゴミを漁っているかも知れませんし、あたし注意してきます!」 馬鹿! 無視しろ! 構うなそんな変な奴! 「いいえ! 公序良俗に違反する行為をする輩はとっちめなければいけません!」 お前は『公序良俗』なんて四字熟語を使うに値する人間なのか、ゴミ漁りはダメでストーカーはオッケーと言う判断基準はどこからきたのかというツッコミが即座に思い浮かんだが、そんな言葉攻めをしたところででおずおず引き下がる橘京子ではない。 俺の制止を振り切り、カパンパカンと軽快な下駄音を立てて一直線。 「こらーっ! そのこあなたー! 出てきなさーぃ!」 「――――!!?」 響き渡るハスキーボイスに驚き、慌てて小屋の中へと隠れる。それを見るや否や、彼女も一緒になって小屋の中へと駆けて行った。 やれやれとは思いつつ、トタトタと走り出す俺、そして九曜。因みに九曜は橘と同じく下駄を履いているはずなのに足音は全く無かった。さすが長門も舌を巻く別世界の宇宙人である。 「そんなとことに隠れても無駄よっ! 出てきなさい!」 「うおわぁ!」 大量のゴミに埋もれた人物を難なく引っ張り出した。そこにいたのは、 「あ、ポンジーくんじゃないですか」 「うっ……」 そう。この寒い中、燃えるゴミと一体化して姿を眩ましていたのは一風変わったオシャマな未来人、ポンジー藤原だった。驚くこと無かれ。何故か紋付袴姿の正装でご登場だ。 「何してんだ、お前。そんな格好で」 「ふん、別段何をしてても構わないだろう。そんな目で見るんじゃない」 確かに何をしててもお前の勝手だが、そんなところに隠れている時点で周りの人間から奇異な目で見られるだろうし、何事かと声を掛けられるのは仕方の無いことだぞ。 「それに頭の上に魚の骨が乗ってるその姿はいくらなんでもみっともない」 俺が親切にも頭の上にのっかったソレを取ろうとすると、何故かそれを制止した。「これも規定事項だ」 ああそうですかそうですか。じゃあ外すなよ絶対にな! 「言われなくてもそうする!」 『ふんっ!』 と、どうでもいい事で口論となった俺達だが、「まあまあ、いいじゃないですか」という何がいいのかさっぱりわからない橘の宥めによってこの場はそれ以上の惨事は回避された。 「で、何してたんですか? 本当に」 「……いや、その……」 「いいじゃないですか、教えてくださいよ。あたしとポンジーくんの仲じゃないですか」 「ふっ、知りたいのなら教えてやる。えーと、実はな……初詣に……そう、初詣だ。及びそれに係る神への祈祷。そんな古典的風俗を勉強しようと思ってたんだ」 若干言葉を詰らせながらも答えた。俺には決して言わなかったのに橘相手になるとあっさりと口を割りやがったな、こいつ。何だこの差は……と言いたいところだが、橘にお熱なのだから仕方ない。悔しくなんかない。絶対にない。 「文献によると『神社』の『本殿』という建造物に祈祷を捧げることになっているのだが、如何せんその文献には『本殿』の写真が無くてな。記述からソレらしきものに目星をつけて探索を行っていた。そして見つけたのが……」 未だ頭の上に魚の骨をのっけながら、藤原は自信満々に集積小屋を指差した。「この建造物だ」と。 「…………」 思わず沈黙。っていうか何て言えば良いんだよ。 「文献に依ると、それほど大きくもない木造建築物は観音開きとなっており、その中には御神体が祭られているとのこと。然るにこの建造物も同様の造りになっているではないか!」 ええっと……その…… 「だからここでお祈りを捧げようとしていたところなのだ。現地人はこのような格好を正装とし、二礼二拍の後御神体にお祈りを捧げる……ふっ、どうだ。どこからどうみたところで初詣に違いあるまい!」 「そ、そうか……そうだよな……お疲れさん……」 何と答えて良いか分からなかったので、とりあえず労いの言葉をかけることにした。 「んー、そうだったのですか」 対照的に納得したたのか、橘は二房の髪をふわふわ揺らして鷹揚に頷いた。 「初詣に対する心がけ、大したものです。キョンくんとはえらい違いですね」 うるさい。 「でも……それなら何故あたし達の後をついて来たですか?」 「は!?」 「最初は気のせいかと思ってましたが、でもあたし達の後をずっとつけてくる気配がありました。初詣をするのが目的なら、あたし達に付きまとう必要は無いですよね」 「……い、いや……別に付きまとってなど……」 「ならどうしてあたしが追いかけた瞬間、隠れたりしたんですか?」 「うっ……いや! 追いかけてなどいない! たまたまだ神殿に身を委ねたのがそのタイミングだっただけだ!」 「怪しい……」 「怪しすぎる……」 「怪しさ――――大爆発――――」 「そこまで言わなくても!」 いいや、だって余りにも不可解な解答なのだから仕方あるまい。 「怪しいと言えば……そうそう」橘は手の平でポンと音を立てて言葉を紡ぎだした。「古典的風俗を勉強している割に、神仏に対する基本的なことをご存知無いようですね」 「何……だと?」 「例えば御神体。普通御神体って、目のつかない場所に保管されているんです。神様が人目を気にしているとか、人間が神様を見たら目が潰れるとか……諸説色々有りますが、簡単に目の入るところにはいないのです。文献に書かれていませんでしたか?」 「うっ…………いやいや、そんなことは書かれてなかった気がするが……あ、いや!」 何かを思い出したか、 「そのような文献も読んだことはある。だが、古来御神体と言うものは自然そのものであったり、または風光明媚な土地・地形が御神体となるケースもあるはず! 決して依り代となった物質が姿を晦まさなければいけないと言うわけではない!」 「うわ、すっごい! よくご存知ですね!」 「へ……へへ。まあな」 若干照れたように笑う藤原。うん、きしょい。 「でも……それだけご存知なら、ますます怪しい。だってそうでしょ? 本当に神社や御神体についての知識があるなら、こんな場所が神社の本殿なんて言うはずずもないし、それに魚の骨が御神体だなんて言うはずがありません」 「ぐ…………」 「それに関してはどうお答えしますか?」 「いや……だから…………」 「――――彼の…………言う事も…………――――一理――――ある――――骨を…………――奉る……――――――地域も――――――あることは――――…………ある――――――」 「ほ、ほら見ろ! 僕の言う事も強ち嘘じゃないだろうが!?」 なんともまあ、往生儀が悪い奴だ。いくら九曜が代弁してくれたからと言っても、不利なことは間違いない。 「分かりました。ポンジーくん、あなたはその小屋が御神体を祭っている神社、そして頭の上にあるお魚さんの骨がご神体であると。そう信じて疑わないのですね」 「ああ、そうだ」 「ならば……」 藤原の返答に、橘は獲物を捕らえたような野獣のような表情で、 「今すぐそこでお参りをして下さい! お魚さんの骨に向かって二礼二拍して祈祷を上げてください!」 「なっ!!」 「お魚さんにきちんと願い事を言えたならばあなたの仰ることが本当であると信じましょう」 「くっ…………」 とうとう藤原の口が沈黙した。なるほどそうきたか。橘にしては上手い誘導尋問だ。 「さあ、どうしたんですか、お辞儀してください! お手を叩いてください! お魚さんの骨に向かって! ゴミの山に向かって! さあ!」 「……い……いや…………」 「遠慮は要りません! 通りすがりの方達が白い且つ哀れむような目線でポンジーくんを蔑むかもしれませんが気にしないで下さい! あなたはあなたなりの神様がいるんですから!『トラッシュイズゴッド! ボーンイズジャスティス!』と請い願うのです!」 「わ、悪かったぁぁぁぁ!!!! 許してくれぇぇぇぇ!!!!!」 あーあ、とうとう泣かせたか。顔をくしゃくしゃにしてまで懇願させるとは……結構容赦の無いヤツである。 「だって、本当の事言ってくれないんだもん……そう言うの見るといぢめたくなっちゃう。もうっ」 再び頬を丸く膨らませた橘は、結構可愛く……絶対気のせいだ。 観念した藤原はポツポツと事の詳細を語り始めた。 ――神社や初詣について文献を調べたことは本当であり、実際に参拝してみたいと言う気持ちはあった。 もちろん神社が分からない訳でもない。いくらこの時代の地理に疎くても、地図を調べれば『○○神社』ってのが出てくるからな。 だが、懸念事項もある。生まれて初めて、しかも遠い異国で自分のそ知らぬ文化行事を万事上手くこなせるか? もちろん他人と同じような行動をすればいいのだが、ちょっとしたミスで笑いものにされるのはいただけない。こと過去の人間に笑われるなど屈辱の極みである。 行くべきか、行かざるべきか。 神社までの往路をウロチョロして対策を練っていたところ、ふと自分の目の前によく知る人物(俺達のことだ)がいるではないか。思わず隠れてしまい……だがよくよく見ると、女性陣は文献にあった和服の着物を召している。 『まさかあいつらも初詣に行くのではないか? いや、そうに違いない』 これはチャンス。奴らの後を追い、偶然を装って出会ってやる。そしてそれとなく初詣の話へと持っていき、後はあいつらに合わせていればいいだろう。 『ふ、なんて完璧な計画なんだ。最高だ』と自画自賛していたまでは良かったのだが……。 ここで想定外の事件が起こった。やおら方向転換をした橘があれよあれよと言う間にこっちに近づいてきたのだ。 ちょ、待て! 僕の計画じゃ出会うのはもっと先のはずだ! どうやって言い訳するか考えてないんだこっちは! 等と心の中で叫びながら、近くにあった小屋に隠れ―― 「……後は知ってのとおりだ」 少々不機嫌な様子で、藤原は不快感を露にした。 「理由は分かった。だがそれならそうと言ってくれればいいのに」 「ふん」 ったく、本当にツンデレ野郎だな、こいつは。 「なあんだ、それだけですか」残念そうな顔で橘は「もっと大事件を隠しているのだと思ってました。この集積所に遺体を遺棄しにきたとか、とても言えないところから強奪した金銀財宝を隠しにきたとか」 頼むから正月そうそう物騒なことを言わないでくれたまえ。 「しょうがないですね。ともかくあたし達と目的は同じみたいですし、ポンジーくんも初詣行きますか?」 「はい、喜んで!」 今の今までしょぼくれてたくせに、立ち直りも早い奴ではある。っていうかお前、現地の人間と行動するのは嫌だっていってなかったか? 「ふっ、目的のためには多少の羞恥心は目を瞑る必要がある」 お前の羞恥心の基準が分からんわ。見つかるまではまるで俺達を監視するかのようにつけまとい、見つかったら見つかったで一緒に行くと言い出して……ああ! そうか! 「橘、藤原のの本当の目的がわかったぞ」 「へ?」「なっ!?」 「何やかんや言ってるが、要するにこいつは俺たち、というかお前と一緒意に初もう……」 「わー! わー! わー!」 どうした藤原。いきなり奇声を上げて? 「本当、どうしたんですか?」 「あーいや、わー……わー……わーたしのお名前ーなーんだっけ?」 「大丈夫か藤原?」いや俺は分かってからかっているんだが。 対照的に橘は頭にクエスチョンマークを浮かべ、訝しげな顔をしてポンジーを見つめている。そのポンジーはもう面白いくらいにしどろもどろだ。ふふふ、ふっとからかってやる。 「お前の名前は自称藤原じゃないか。橘のことがす」 「とがすー!!」 「ど、どうしたのよポンジーくん!?」 「とがす……とがす…………都ガスでエ○ファーム! コージェネでエコな生活を! 未来人からのお願いです!」 「――――ユニーク――――」 「……あの、一体なにが楽しいんでしょうか……?」 「ちょっとした余興さ」 「くはーっ……くはーっ…………くそ、覚えてやがれ…………」 やだ。絶対忘れる。そう心に留めながら恨みがましい目を向ける野郎から目をそらた。 「しかし、よくこいつの言い分に突っ込めたな、お前」 「えへん、これでも洞察力には優れているのです。言葉や時制、そして行動の矛盾を読み取り、明朗にそれを指摘する。これこそあたしが最も得意とする技なのです」 全く自覚の無い答えを返しやがった。 俺が言いたいのは、あんな突拍子も無い嘘をしれっと流さずよく突っ込めるなって事なんだが。大体神社の神殿がゴミの小屋なんて言う奴は280%くらい妄言を吐いているとしか思えないぞ普通に考えて。 「その顔。信じてないですね?」 じっと覗き込むように見上げた橘はあからさまに不満の色をにじませた。 「いやだから、信じる信じない以前の問題で……」 「それ以前の問題!? そこまで馬鹿にしますかキョンくんは!?」 ダメだ、聞いちゃいねえ。 「ふふふ……わかりました。ならあたしの明晰な頭脳を披露してやるのです。疑問難問珍問いくらでもかかってきなさい! この名探偵橘京子が全て解いて見せます! おーほっほっほっほっほ……って、あれ? 皆さんどこですか?」 一頻り高笑いをする橘からそっと距離をとり、重たくなった頭を左手でぐっと支えながら俺は二回目の初詣でお願いすることを決定した。 願わくば、今年はあいつとの関わりを尽く断ってください、と。 とまあ、サプライズゲストと言えば聞こえが良いかもしれないが実質ただの腰巾着、橘のパシリとも言うべき藤原も仲間に入れた俺たち一行は再び歩みを始め――そして、彼と出会うことになる。 男女二組、ダブルデート状態になった俺達は他愛も無い話を繰り返し、程なく神社に辿り着いた。社の領地内は時期が時期だけあってかなりの人で覆い尽くされていたが、それでも身動きできないほど込んでいるわけでもない。 所詮は田舎の一神社。こんなものであろう。 というわけでサクサクっと事を終わらせよう。参道の脇に立ち並ぶ屋台を尽く無視し(途中橘が何回か立ち止まったが無理矢理引っ張ってきた)、祝詞をあげる神主さんも華麗にスルーし(こっちは藤原が興味心身だったが以下同文)、そして祭壇へと並んだ。 カランコロンと鈴を鳴らし、パンパンと手を叩いてお辞儀。藤原が前もって調べたらしい二礼二拍をしたのち手を合わせてお参りする。橘、藤原、九曜もまた同じ行動を繰り返した。 藤原がやたらと人目を気にしていたことと、探偵気取りで他の参拝者の願い事を推理し始めた橘を除けば特に問題なくお参りは終了し、これで晴れて自由の身になったわけである。 「やれやれ。それじゃあ俺は帰るぞ。後は任せた」 時刻は十一時半。ほぼ俺の予定通りの時間である。今から帰って勉強すれば何とか遅れを取り戻せるだろう。 「えー!」しかしと言うかやはりと言うか、空気の読めないこいつがあからさまに不満の色を醸し出した。「せっかくのお正月なんですし、もうちょっと遊びましょうよ! 探偵ごっことか!」 せっかくの正月に探偵ごっこをしなければいけない理由は一体なんだろうか。そこんところ問詰めて見たいがこいつに付き合うとろくな事が無いので、 「だから何度も言ってるが、俺は受験生なんだ。それに遊ぶなら藤原がいるじゃないか。探偵ごっこするには打ってつけだ。頼んだぞ」 「お……おう! 任せとけ! 犯人役でも被害者役でも何でも演じきってみせる!」 着物の上から胸をドンと叩いた。しかもなんだか嬉しそうである。 「と言うことだ。頑張ってくれ」 「でもお……」 どうした。不満でもあるのか? 「ポンジーくんって、一生懸命なのはいいんですが……なんて言うか、必死過ぎてちょっと引いちゃいます」 「がーん!!」 ……あ、ポンジーが硬直した。 「いくら遊びとは言え、長いことやってるとこっちが疲れるのよねえ」 「ががーん!!」 今度は白い砂と化した。 「あたしはもっとクールで冷静沈着な人を抜擢したいな、と思いまして」 「ががががーん!!!」 そして崩れて木枯らしに吹かれ舞い散り……いくらなんでも藤原がかわいそうである。 なあ橘、人の振り見て我が振りなおせ、って諺知ってるか? 「ああ……どこかにいないですかね、クールでヒールな役がピッタリな王子様♪ 実はさっきお願いしたのです。今年こそきっと白馬に乗った王子様があたしをお迎えに来てくれると!」 はいはい、それはよかったね。きっと直ぐに来るぜ。白馬に乗った王子様がな。お前を迎えに来てそのままさらって行って二度と俺の目の前に現れないで欲しい。 ――なんて、心にも無いことを言った俺は自分を呪った。 まさかこの後すぐにそんな人が現れるなんて思っても見なかったからだ。 「きっと、あっちの方向くらいから!」 橘が参道の向こう――俺達がやってきた道を指差した、まさにその時。 ――ドドドド ドドドド ドドドド―― 胸を突くような重低音が俺達……いや、周りにいる全員の心臓に響き渡った。車かバイクの排気音だと思うが……ビートを刻むような胸の高鳴りはどういうことか。大きい音量は胸が苦しいどころか、むしろ心地よくも聞こえてくる。不思議な音だ。 一体どんな車なんだろうね。 「あたしが推理してみましょう」 再び探偵気取りになった橘がしたり顔で言い放った。 「ふむふむ……独特の不協和音……それが奏でるエクゾースト、排気干渉――――これは水平対向エンジン! ポル○ェかス○ルね!」 ビシッ! と俺に向かって指差した。 「――違う――――――この音は――――空冷Vツイン…………――――ハ○レ○――――ダ○ッド○ン――――――」 ……だ、そうだ。 「あ、あたしだってたまには間違えます。恥ずかしくないですもん!」 の割に顔は真っ赤だ。 やがてそのVツインとやらの音はこちらに近づき、そして音を出しているものの正体……かなり大型のバイク――鈍く光る黒のボディと鮮やかに光るメタル部分がコントラストとなってより存在感アピールしている――が、俺達の目の前現れた。 九割以上が歩行しているこの参道でバイクはただの一台。季節柄というのもあるが、その個体とも相まって注目度抜群。殆どの歩行者はその威圧感からか、恐れおののくように道を譲っている。 俺達も例に洩れず、同じく道を空ける……が。 こともあろうにバイクは俺達の目の前で停止した。 「え? え?」 「――――――」 意味が分からず思わず言葉を失った。 ライダーは恐らく男性。恐らくと言うのは他でもない。身を包んだ革製のジャケットとパンツ、そしてスモークシールドに覆われた全体から性別を認識するのは困難だからだ。 しかし、古泉に迫る長身とスタイルの良さから男性であることはほぼ間違いないだろう。 そのライダーは俺達を一瞥し、納得した様子でジェットヘルメットを脱ぎ、 「よう、久しぶりだな」 排気音が鼓動する中に、彼の渋い声が響き渡った。 「もしかして……会長!? 生徒会長さんか?」 「ああ。今では『元』と言う方が正しいが……そんな細かいことはどうでもいい。そう、私だ」 生徒会長……元生徒会長は、胸ポケットに入れてあったタバコを取り出し、ライターで火をつけた。まるで自分の言動を思い出させるかのように。 ああ、思い出したぜ。彼が学校を卒業してもう一年近くなるんだから仕方ないだろう。 「(ちょっとちょっと、あの人誰なんですか?)」 くいくいと俺の袖を引っ張り、初顔合わせの力士みたいに顔を強張らせた橘に、 「去年卒業した、俺達の学校の生徒会長だ」 「元、だ。今は違う。と言うかもう金輪際やる気は無いぜ。あんな面倒な仕事はヨ」 ぷうと吹かした煙が木枯らしによって吹き散らされた。 「古泉に唆されて生徒会長になったのはいいが、あの女のせいでかなり振り回されたからな。お前は知らないかもしれないが、古泉からの注文はかなりウザかったんだからな。……ふっ、でもまあ」 ここで更に一息。 「おかげで首尾よく進学できたわけだ」 そう。確かにこの人は古泉……正確に言うと『機関』の助力もあって、都心にある某有名大学に進学したんだった。「一年間、『機関』の言うことを聞いてくれた褒美です」と、去年の春に古泉から聞かされた覚えがある。 全く、『機関』というのはどこまでパイプを巡らせているんだろうかね。 余談だが、この話を聞いた時に俺の大学受験の時も頼むってお願いしたんだが見事に断られた。曰く『彼の在籍している大学はともかく、あなたが受験する大学はそこまでの関係を持っていないので』らしい。本当かどうかはしらないが。 「それで、今日はどうしたんですか? 実家で初詣をしに来たんですか?」 「いいや、送迎しに来ただけだ」 「送迎?」と俺。「ああ。そこに――」 その時ようやく気付いた。会長のバイクのセカンドシートに、誰かが乗っていることを。 会長よりも一回り小さいその人は、居住まいを正し、被っていた大き目のフルフェイスヘルメットを脱ぐ。ふさぁ、と緩やかなウェイブが肩の下まで垂れ――って、まさか 「明けましておめでとうございます」 「き、喜緑さん!?」 ワンピースにレギンス、そしてパンプスと言うおよそ普段着のせいか、ゴツイ装備の会長に目が行っていた俺はその存在をすっかり見落としていたが、優しい微笑みを見せる彼女は、俺が思わず言葉を漏らしたその人に間違いなかった。 「どうしたんですか、一体?」 同じような質問を繰り返す俺に、彼女は暖かい瞳をこちらに向けて微笑んだ。 「こちらでアルバイトをしておりまして」 「アルバイト? どんな?」と聞き返そうとした瞬間、 「(ちょっとちょっと、こっちの人は誰ですか!?)」 ええい、黙れ橘。今はお前に構ってる時間はないっ! 「(…………)」 よし、黙ったな。 「……すみません、続きを」 「あ、はい。そこの社務所で他の神官や巫女のお手伝いをしております」 「助謹巫女ってやつだ」 助謹巫女……つまり年末年始や祭りの際など、忙しい時に手助けする臨時雇いの巫女さんである。 巫女さん姿の喜緑さんか……朝比奈さんの巫女姿も秀麗だったが、それに劣らぬ見事なものだろうな。 「会長も、結構好きですなあ」 「ふっ……何のことだ?」 若干ニヤケながらも否定するところがとても彼らしかった。 「昼から夕方までの約束で働くことになっているんだ。大学生たるもの、勤労に対する理解も必要になってくるからな」とは会長の弁だ。だけど高校生の時から働いていた喜緑さんは既に勤労の大変さを知っているのでは…… ……っと、いけねえいけねえ。高校生時代のバイトはオフレコだったな。 「そう言う訳だ。もうすぐ時間なのでこれでお暇させてもらおう。では」 再びヘルメットを被りなおし、アクセルを吹かし、鼓動音を響かせてこの場を立ち去る――と思いきや。 「そうだ、丁度いい」 何かを思い出したようにシールドを開けて喋りだした。 「ここで会ったのも何かの縁だ。これから私の家に来ないかね。年始のパーティに招待しよう」 「パーティ……ですか?」 「ああ。本当は身内だけで行う予定だったんだが、両親が急な用事が入って出席できなくなってな。急遽出席者を募っていたんだ。せっかくの各国の最高級食材ももったいないしな。無論他に用事があるなら強制はしないが……どうだ?」 うーん、せっかくですが、俺は受験ですし、最後の追い込みもしなければいけませんし。残念ですが今回は 「行きます!」 『!!?』 「是非お呼ばれさせていただきます! あ、あたし橘京子っていいます! 宜しく!」 「あ……ああ……よろしく……」 「――――――九曜―――――…………周防――――九曜……――――夜……露――死苦――――――」 「もうっ! 九曜さんたら高級食材が食べられるからって言って舞い上がりすぎですよ!」 「―――失敬……失敬――――」 「はは……はははははは…………」 さすがの会長も額に汗を垂らして苦虫を潰したような顔をしていた。その表情から『人選、間違えたかな?』という雰囲気がありありと出ている。 ここだけの話、正解です。会長。止めるなら今のうちですよ。というか拒否してくださいお願いします。 俺がそう願う中、残った喜緑さんは顔色一つ変えずニコニコと微笑みを続けている。この人もかなりの大物だ。以前の対決はどこ吹く風で三人の様子をにこやかに見守っていた。 ああ、因みにポンジーくんだが、ずっと固まったままだったことは付け加えておかなければなるまい。 『先ずは喜緑くんをバイト先まで送る。それから合流しよう。この先にある店で待ってくれないか? ついでに案内人も呼んでおこう』 会長はそういい残して再びバイクを走らせ、残った俺達は会長の言いつけどおりの場所まで歩き始めた。 「楽しみです! 最高級料理!」 笑顔がこぼれんばかりの橘とは対照的に、俺の気持ちはブルー一色に染まりかけていた。やっと束縛時間が終わったと思ったのに、また面倒なことに巻き込まれた俺のこの気持ち。分かるか? 「まあまあ、最高級食材があるからいいじゃないですか」 こいつの脳みそは喰い気が何よりも優先されるらしい。 「まあそれはそれとして」コホンと咳をついた後、彼女は両手を頬に添え、顔を赤らめて衝撃的な一言を発した。 「それにあの人、かっこいい!」 『なにぃぃぃぃぃぃっ!?』 橘を除く全員の声があたりにこだました。恐ろしいことに九曜もだぜ。 「マジでそう思ってるのか!?」 「――――かなり……想定GUY……――――予想GUY――害害害――――――」 「ほら、クールでヒールっぽくて。さっきあたしが言ったとおりの方です! 彼こそあたしの白馬に乗った王子様なのです!」 白馬じゃなくて黒い単車だったんだが、そこは問題ないのだろうか? 「コブ付きだったのが残念でしたけど、あたしは諦めないのです! 絶対あたしの虜にしてやるのです!」 いや無理だろ普通に考えて。お前と喜緑さんとじゃ人間としての器が違いすぎる。喜緑さんが人間かどうかと言う突っ込みはさておいて俺はそう思う。 そして困ったことに、勘違いしている人物は一人だけではなかった。 「僕も行く! あんないけ好かない野郎に僕の大切な人を上げるわけにはいかない! 奪い返してやる!」 もちろんもう一人の勘違い大王、いつの間にか復活したポンジー藤原。こいつも橘のことになると目先が見えなくなるからな……。 現に今、「大切な人? 誰ですか?」と突っ込まれ、「うあ! き、禁則事項だ!」としどろもどろで言葉を返しているくらいだからな。 「ふふふーん。ポンジーくんにもそう言う人がいたんだ。ふふふふーん……」 いやらしい笑みを浮かべたまま、 「ではあたしが誰なのか、推理してみましょう。と言うかスバリさっき会長さんの後ろに乗っていた女性ですね!」 「いや、その……」 「いやいや、照れなくてもいいから! 全然知らなかったんですけど二人はそんな仲だったんですね! あたし応援しますから!」 「…………」 というわけで、勘違いに勘違いを重ねた一行は会長の指示した場所へと向かうのだった―― 「ここは……ジュエリーショップですね」 会長が示した店は、俺達高校生にはとても縁がなさそうな宝石店だった。それもかなり高級の。 店に入ったわけでもないのに高級と断定した理由は二つある。一つは作りがいかにも高級そうだったから。そしてもう一つは入り口に常時張り付いている警備員。 いくら縁が無くとも、これだけ豪奢で厳重な建物を見れば高級ショップであることは一目瞭然だ。 しかし、一体なんでこんなところに俺達を呼んだのだろうかね。 「あたしの推理によりますと、あたしを一目見て気に入った会長さんがあたしにプレゼントをするため」 「あれ、古泉じゃないか」 「これはこれは。皆さんおそろいで」 「ふん」 「――――――――――」 「に、きっとこう」 「まさか案内人って言うのはお前か?」 「ええ。彼の気まぐれにも困ったものです。何故このような面子をパーティに……失礼。あなたのことを言ったわけではありませんよ」 「分かってる。気にしちゃいないさ」 「――――当然――――」 「あんたに贔屓目をされる筋合いも無いけどな」 「にゅうしてくだ」 「それにしても意外なのは事実です。偏屈で気に入ったものしか家に呼ばない彼がこうも簡単に招待するとは思っていませんでしたから」 「ああ見えて案外いい人なんだろ」 「――――料理――――食べる……――――」 「ああっ! もうっ! 聞いてくださいっ!!」 おいおい、次は藤原のセリフの番だろうが。割込みはいかんぞ。 「割込みも何も、話し始めたのはあたしです! あたしの話を聞いてくださいよっ!」 そうだっけ、古泉……? 「さあ、存じ上げません」 「――――――」 「ほら、三対一」 「うわぁぁぁん! みんなであたしをいぢめるぅぅぅ!!!」 「ぼ、僕はあんたの味方だぞ。いつだって助」「もういいです! どうぞ好き勝手やったらいいじゃないですか! 一人でも平気ですよーだっ!」 「……うう……どうせ僕なんか……いいんだいいんだ……」 「苦労、してんだな」 「お察しします」 「――――良きに……計らえ――――」 誰にも構ってもらえない橘にすら構ってもらえない藤原。彼の背中に漂う哀愁は並半端なものじゃない。 「……す、すまん。みんな」 藤原、俺、古泉、そして九曜。皆が皆お互いの手をガッシリと取り、友情を高めあう。宇宙人未来人超能力者という相反する勢力ながらも微かな友情が芽生え、俺達は―――― 「って! 何なんですかこの流れは!? いい加減にして下さい!」 ……確かに。ちょっと調子に乗りすぎた。いい加減元の流れに戻すことにしよう。 「で、俺達をここに呼んだ理由は何だったんだ?」 「恐らく、見せびらかせたいのでしょう、アレを?」 「アレ?」と橘「何ですか?」 「橘さんには一生縁の無いものですよ」 なるほどそれもそうだな。この店でお世話になるような宝石が購入できるとは思えんし。 「反論できないのが悔しい……」 「ま、それはともかく。僕は会長から賜った言い付けを遵守することに致しましょう。それでは皆さん、中に入りますよ」 古泉に言われるがまま店の中へと促されると、阿吽の呼吸で門を護っていた二人の警備員はスッと道を開き、特に止められることもなく店内へと入り込んだ。 店のショーケースに広がる宝石と豪奢な佇まいはさながら金殿玉楼。宝の御殿である。いくら宝石・装飾品に疎いとはいえ、これだけのものが整然と並んでいるとさすがに身悶えするばかりである。 橘なぞは舐めまわすようにショーケースに張り付いているもんだから警備員に相当睨まれている。気持ちはわかるが若干はしたないのでちょっと距離を取らせて欲しい。 そんな中、古泉は悠々と近くにいた店員と話しを始め、そしてさらに別の店員――見た目からして貫禄のある、店長レベルの店員――と二言三言交わす。 そして、 「お待たせしました。僕についてきてください」 となった。さて移動だ移動。橘、いつもでもガラスに張り付いてるんじゃない。 連れられた先は、店内とは全く異なる一室だった。 部屋の奥、中央の壁には白黒二色で描かれた幾何学的抽象画が飾られており、右壁には煉瓦造りの暖炉がパチパチと音を立てて燃えている。 そして左壁。建物の外壁に面するこちらには全面に遮光カーテンが敷き詰められている。カーテンの向こうは恐らく窓になっているのだろうが、分厚いソレに阻まれて窺い知ることはできなかった。 燦燦と照りつける程日差しが強くなってきた昼時だというのにそれを全く感じさせないくらいだから、その遮光性能は推して知るべしである。この部屋に灯りがついていなければ闇夜の如き漆黒に覆いつくされるんじゃないだろうか。 その灯りだが、完全シャットアウトされた太陽のピンチヒッターとなって部屋を照らし出しているのは、天井高くに設置されたシャンデリアだ。太陽光に遠く及ばない明るさだが、暖色系の光は厳寒の季節に温かみをもたらしている。 ……ん、よく見るとあのシャンデリア、電気ではなく蝋燭っぽいぞ。炎が瞬いているのがなによりの証拠だ。なかなか気合の入った照明である。 部屋の中央に目をやると、豪奢な外装とは異なりテーブルとそれを囲むソファーが数席並んでいるのみ。至ってシンプルなのだが、返って高級感を煽られるのはソファーとテーブルが価値ある逸品なのか、それとも演出なのか。そこまではわからない。 「欧風カブレした貴族が好みそうなところだな」 心の中でそう野次を飛ばして呆然としていると、それを察したのか店長風の店員に「こちらへどうぞ」と促された。 言われるがままソファーに座り、出されたロイヤルミルクティーと高級そうな洋菓子を配り、深深と頭を下げ退席し――。 弦が切れたハープのように一気にまくし立てた。 「何だ、ここは」 楽しそうに目を細めた古泉はカップを手にとって一言。 「VIPルームです」 「ひっぷるーむ? はんれすかほれ?」 お茶請けに出された高級菓子を喰らいつきながら訪ねるは……説明する必要は無いな。 「そのままの意味ですよ。重要なお客様を接待するために儲けられた特別室です。こう言った高級店には店の品揃えやサービスに関わらず存在するものですよ。 ああ……そう言えば聞いたことがあるな。 「最も、」と手を上げて制止した古泉は「僕はその重要なお客様の一使用人に過ぎませんが」 会長のパシリってわけだな。 「ええ。そのとおりです」 あっけらかんと言い放った。まあこいつに口で勝とうとは思ってないが……。 「で、あの会長さんはそんな高い宝石を買ったと言うわけか?」 「いえ、購入したわけではありません。ですが、それに近しい依頼をこの店にしたことは事実です」 で、何なんだその依頼とは。 「そうですね……」 カップを皿の上に置き、すくっと立ち上がった古泉は俺達が入ってきたドアの前まで来て、 「直接お聞きになってみたら如何ですか?」 ノブを開いてドアを開けた。すると―― 「くくくっ、そうだな。俺から話すことにするさ」 ダテ眼鏡を外し、ペン回しの如く回しながら長身の男性は喉を震わせていた。もちろんこの店に来るよう指示した会長である。 「お迎えの方はお済みですか。しかしあなたのことだから心配でずっと神社に張り付いていると思いましたが」 「バイトの邪魔になっては元も子もなかろう。終わる頃にはまた戻るさ。それよりもパーティのセッティングが先決だ」 「彼女が気にならないのですか?」 「アレはそんなにヤワな女じゃない」 「それもそうですね」 二人して同時に喉を鳴らした。 ったく、何が面白いんだか。お楽しみのところ悪いが、話の骨を折らないでくれ。 「失敬。俺が依頼した宝石についてだったな。実はな、」 ズカズカとまるで自分に家のように歩いてきた会長は、誰も座っていないソファーの肘掛に腰掛け、胸元のポケットから何やらゴソゴソと取り出した。 「これを磨いてもらってたんだ」 指で弾いたソレは放物線を描きながらテーブルの上、丁度橘の目の間に落ちた。 「これは……宝石ですよね。うわ、凄く大きい……」 爽やかな草原の如く美しい翠色を呈したその宝石は、シャンデリアの光にも負けず劣らず燦々と輝いていた。大きさもかなりのもので、綺麗に光らせるためのブリリアントカットも施されている。相当高価なものに違いない。誰の目から見てもそれは明白だった。 ただ……何かひっかかる。 「こ、これ……もらっちゃってもいいですか!?」 「ああ、構わない。俺からのささやかなプレゼントさ、お嬢さん」 ニヒルな会長の笑みがくくくと釣りあがった。 「ありがとうございますっ! やったぁ! これであたしも大金持ちです!」 「くくくっ、喜んで貰えて幸いだよ」 舞い上がる橘の姿をみて、会長はその笑みをさらに歪めた。 ……なるほどね。何となく分かった。 「橘」 「ん、何でしょうか? この宝石ならあげませんよ」 「いらんわ」と俺。何故なら会長の企みが分かったからだ。その企みとは恐らく……こういうことだ。 「その宝石はイミテーション。偽者だ」 「へ……ええっ!?」 「どう考えてもおかしいだろ。ポケットの中から出した宝石を放り投げて、しかも他人にいとも簡単に上げるようなものが本物のわけがない」 「そ、そんなあ……しゅん」 本気で落ち込んだ。てか気付けよそれくらい。 「さすがです。よく気がつきましたね。いや、橘さんがちょっとアレなだけかもしれませんが……」 「攻めるな古泉。確かに扱いはぞんざいだが、イミテーションにしてはよく出来てるんだ。素人目なら見間違える事もあろう」 諭した後、橘が抱えていた宝石――偽者の宝石を指差して、 「お前の言うとおり、それは偽者。本物が磨きあがるまで家に飾っていた代用品さ。よく出来てるだろ? 因みに本物はこっちだ」 パチンと指を鳴すと、控えていた店員さんは重厚なジュラルミンケースから中身を取り出した。中にあるのは、更に小柄なケース。 会長はその小柄なケースを手にとり、開錠した後カパッと蓋を開け―― 中から出てきたのは、イミテーションそっくりの宝石。形も大きさも、そして輝きも全く同一。 ただ一つ、決定的な違いを除いて。 「これ……色が違いますよ」 彼女が手にした偽者と会長が手にした本物を見比べて、その決定的な違いを口にした。確かに、イミテーションが青みがかかったグリーンなのに対し、本物の宝石は真っ赤に燃えるような紅色。 さながら、エメラルドとルビーといったところか。いや、構造が同じならばサファイアとルビーを言った方がいいかもしれない。 ともかく、いくら形や大きさが同じでもこれではイミテーションの意味を成さない。贋作を作ろうとしたのなら明らかに失敗である。 「ふっ、今度は引っかかったな」 さも嬉しそうに、狡猾な笑い声を上げた。「引っかかった?」何を言ってるのかさっぱりわからない。 「確かに、今のままでは分からないだろう。ならこれならどうだ?」 そう言うと会長はドアの反対側、カーテンが並ぶ壁へと近づき、そしておもむろにカーテンを引っ張った。 カーテンの奥にあったのは、俺の予想していたとおりの窓。そこから毀れる、晴れ渡った昼の太陽が部屋の中を、俺達を、そして宝石を照り付け―― 「……あっ!?」 ソレが驚くような変身を遂げたのは、この時だった。 会長が持っていた紅い宝石は、太陽の光を浴びた瞬間その輝きを変化させたのだ。 俺が今手にしたイミテーションの宝石と同じ、青みがかかった緑色に。 「驚いたか? これはアレキサンドライトという宝石だ」 胴体切断マジックに引っかった観客の如く呆然としている俺達に対し、会長は見事に騙しきったマジシャンの如く悠々と語りだした。 「蝋燭や電球など赤みの多い光に対しては燃えるような紅玉色を呈し、太陽光や蛍光灯など、青みが強い光に対しては優しい翠玉色を呈す。これがアレキサンドライトの面白いところであり、高価である所以だ」 再び片手を動かし、カーテンが閉まる。すると翠色の輝きはなりを潜め、再び真っ赤に燃える宝石が浮かび上がった。 「すごい……不思議な宝石ですぅ……」 お菓子を頬張っていた橘ですら手を止め、その不思議な現象に釘つけになっていた。 「ましてやコレだけ大胆にカラーチェンジするものは滅多に見られない。時の皇帝ですら手にできなかっただろう」 えらく自信満々な発言が鼻につくがそれに見合った逸品であるのも間違いない。 「それで、その宝石を俺達に披露して、一体何がしたかったんだ?」 「簡単なことだ。ちょっとした立会いをしてもらいんだ」 「立会い?」と俺。「何のために?」 「この宝石は代々我が家に伝わってきたもので、一族の仲間になる人間に継承されてきた。つまり婚約の儀式に使用されてきたものだ」 ほうほう。それで? 「それで……って、ここまで言えば分かるだろう」 「いいえ、彼は筋金入りのニブチンですから。最初から最後まで説明しないと分かりません」 橘、それはどういう意味だ? 「ほら」 「……なるほど…………」何故か納得した様子で、「実は、だ。俺ももうすぐ二十歳。家の家督を継ぐ妙齢になってきたわけだ。そうなると、人生の中で切っても切れぬ人間関係というのも出てくるものだ」 はあ……それで? 「そ、それで……だな。そんな人間を……まあ、何と言うか……自分のパートナーとして…………うん、そう言うわけだ」 珍しく照れたように吃りながら何とか言葉を紡いでいる。「つまり、どういうことですか?」 「どういうこともこういくこともありませんっ! どこまで鈍いんですかキョンくんは!」 バンッ! と両手を着いて橘が立ち上がった。どうでもいいがお前に鈍いとか言われたくない。 「なら会長さんが何をおっしゃりたいのか分かるんですか!?」 「む……」と、思わず黙り込む。 「こら御覧なさい。答えられないじゃないですか!」 ならお前は分かったというのか? そう言うと橘はえっへんと胸をそらし、「当たり前です!」と大きく出た。 「いいですか、よく考えてください。あの宝石は婚約の儀式に使うもので、そのためにここで磨いてもらったんじゃないですか。そして『切っても切れぬ人間関係』とか『人生のパートナー』とか思わせぶりな発言。そこから推理するのは簡単ですっ!」 コホンと咳を一つついたあと、 「つまりっ!」 橘はビシッと指を差し、自信満々に叫んだ。 「あたしに対するプロポーズですっ!」 ――瞬間、暖炉の焚き木すら凍りつくような寒さが此処にいる全員を襲った。 「ああっ! お気持ちは嬉しいのですが……出会ってからまだ二時間も経ってないのに……。溢れんばかりのあたしの魅力……これって罪ですね。どうしたらいいのでしょうかキョンくん!」 「アホかおのれはぁぁぁぁ!!!」 バコンッ! 「きゃん!」 先ほど買ったおみくじ型特大ハリセン(天誅大凶バージョン)で橘のドタマを叩きつけた。 「いったーい! 何するんですかぁ!」 新年早々意味不明なギャグをかますんじゃねえ! 「んん……もう。やだなあ、キョンくんたら。妬いてるんですね」 違うわ空気読めぇぇぇぇ! 他の皆をよく見ろぉぉぉ! 「あれ……みんな机に突っ伏したり紅茶を吹き散らしたり。どうしたんでしょう?」 あまりにもKYな発言で橘以外の思考回路が停止したとは露にも思わないのだろうか。 そんな中、ソファーの脇で蹲っていた会長が何とか起き上がり、ギリギリ平静を装って 「…………な、なかなか楽しいお嬢さんだ。フランクと言うよりはケセラセラと言ったところだな……」 とは言え、額から滲み出る汗は相当なものだ。恐らくこう言った人間と接するのは始めてらしい。 ふっ、いくら生徒会長とは言えまだまだ人生経験が浅いな。俺なんか長年付き合ってるせいかよほどのことじゃなきゃ動揺しないぜ。 ……と、自慢にもならない自慢を思い浮かべて自己嫌悪に陥ったのは言うまでも無い。 「ま、まさかとは思うが、」多量の額の汗をハンカチで拭いながら、会長は小指を突き出し、 「お前のコレか?」 「絶対にち」「いやだぁ! 会長さんったら!!」バンッ!!「ふぐべしっ!」 「もうっ! 妬かないで下さいって言ってるでしょ! キョンくんとはまだ何にも無いんですから♪ 彼ってばホント奥手で困りますぅ! でも会長さんのアプローチに妬いちゃって可愛い……いやだ、何言ってるのかしら! きゃはっ!」 橘の強烈なビンタ……いや、あれは張り手だな……をまともに喰らい、会長さんは今度こそ沈黙した。 「今年は初日からいいことばっかりですね! あたし嬉しいです!」 こっちは初日からトラブル続きで泣きたいです。おまけに勘違いした藤原がおぞましい殺気を込めて睨みつけるし…… カンベンしてください、いやホントに。 「お、お嬢さんの気持ちは嬉しいが……もう既に心に決めた人がいてね」 それでもめげずにヨロヨロと立ち上がり、今度は橘を直視しないよう若干視線をずらしながら再びソファーについた。何故直視したくないのかと言われれば……その辺は察して欲しい。 「喜緑くん……さっき神社まであった際、後ろに乗っていた女性がいただろう。その彼女にプロポーズしようと思うんだ」 ああ、なるほど、そう言うことでしたか。今更ながら全てを理解した。 「お二人の仲睦まじい関係は、生徒会では暗黙の了解でしたからね。いや、それだけじゃない。あなたを慕って同じ大学、同じ学部に入学した喜緑さんも実にいじらしいじゃないですか。そして遂に彼は彼女の想いに答えることにしたんですよ」 古泉の茶々に、「うるさい、黙れ」と照れながら怒鳴る会長がとても微笑ましい。 「まあ……大筋で古泉の言ったとおりだ。今日俺は彼女にプロポーズする。宝石を磨いたのも、今日のパーティも、全てはそのためだ。そして、」 改まって身だしなみを整え、 「キミたちにはその立会人になってもらいたい。先にも言ったが両親は火急の用で席を外してしまうから、誰か他に信用できる人間が必要だったんだ。どうか頼む」 と頭を下げた。 会長さんもなかなか人道的な御仁である。ただのアウトロー気取りじゃないって事か。ただ、何でそんなに接点のない俺達を立会人なんかに選んだのだろうか? 他にもっと適切な人がいるだろう。例えば、 「言っておくが、『機関』の人間ならお断りだ。アイツらに任せるとロクな事が起きん」 ――ピクッ、と古泉の微笑が蠢いた。 「どういう意味ですか?」 「そのままの意味だ。アイツらほど下らん人間もザラにいるもんじゃない。この宝石だってお前じゃない他のヤツに取りに来させたら、そのまま盗んで自分の懐に置き去りにする可能性もあるからな」 「……その信用ならない『機関』配下の僕に取りに行くよう命じたのは、どこのどなたでしたか?」 「ふっ、安心しろ。お前はまだ信頼している方だ」 「他の『機関』の仲間は信用できないと?」 「そう受け取って貰って構わん」 二人の会話に、辺りの空気が一気に淀んだ。 ちょっと待て。何だこの言い争いは? 会長と古泉は反発している? 以前はそんな雰囲気はなかったじゃないか。どうしたんだ一体何があったんだ? 「ふっ、何か知りたいようだな」 余りにも訝しげな顔をしていたのか、会長は含み笑い一つして問い掛けた。 「見てのとおり、俺や俺の家族は『機関』の連中に良いようにこき使われてきてな。最初は報酬に釣られてこいつらの木偶人形と化してやったが、最近じゃうっとしくてしょうがねえ。俺の役目も終わったのに何時までも束縛するんじゃねーっつーの」 「その件は以前にもお話したとおりです。涼宮さんと偶然接触する機会が潰えたわけではありません。四六時中偽りの仮面を被っていろとは言いませんが、緊急時も対処できるようご留意願いたいのです」 「ご留意ね……もう涼宮との接触を断って一年が過ぎるが、その間あいつからコンタクトを取りに来たことがあったか? 答えてみろ」 しかし、古泉は貝のように口を閉ざしたままだった。 「答えられないだろ。どうしてだか分かるか?」 会長の野次に、古泉は更に沈黙を続け――代わりに会長の口が饒舌になっていく。 「『涼宮が望めば、それは全て実現する』。お前達はそう主張してたよな。だが逆に言えば、『アイツが望まないことは、全て実現しない』ってことになる。古泉、俺の言うことは間違っているか?」 「……いえ、仰るとおりです」 「だろうが」ネチリといやらしく笑った会長は勝ち誇ったように「ならば、俺との再来を望んでいるとは思えないアイツが、今後俺と接触をする理由を述べてみろ。俺がまだ操り人形でいなければならない理由を答えてみろ。『機関』の立場としてな」 「……確かに、涼宮さんとは接触されてないようですが、今こうして彼と接触を……」 「話を摩り替えるな。俺が聞きたいのは今後俺が涼宮と接触するかどうか、だ。無関係なヤツを巻き込むんじゃねえ。それに言っておくが、こいつと接触を取ったのは俺の自発的行動だ。無視することも出来たんだぜ。まさかこれも」 蔑むような表情で、 「涼宮が望んだからなんて戯けたことを抜かすんじゃないだろうな?」 「…………」 「ったく、『機関』とは本当に付き合いきれん」 再び懐から取り出した煙草に火をつけ、いきり立った自分の心を落ち着かすように一服し始めた。 俺達はといえばあまりの展開に何も出来ず、ただひたすら時が流れるのを待つのみ。 沈黙が――正確には、会長が煙草の煙を吐く時の吐息のみが静まり返った部屋に響き渡り―― ――どれくらい経っただろうか。 実際は煙草の長さが半分程度になる程度の時間だったのだが、それ以上に長く感じたのはこの沈黙のせいだろう。 しかし、その沈黙も遂に終止符が打たれるときが来た。 「……古泉。いい加減『機関』を止めろ。お前はまだ見所がある」 先ほどの鋭い口調はなりを潜め、何時に無く優しい口調で諭すように言った。 古泉もいつの間にかいつも通りのスマイルを取り戻し、 「いいえ、そう言うわけにはいきません。『機関』に必要な人間と自負しております。そして、それはあなたも同じだと考えております」 「……けっ」 「我々はあなたを必要としています。できるだけあなたの望みを叶えています。ですから――」 悲痛な表情を浮かべながら深深と頭を下げる古泉に、会長は何も答えなかった。 「申し訳ありませんでした」 店を出た俺達に『先に戻る。家の場所は古泉に聞け』と言って一人バイクに跨って走り去った後のこと。古泉はそう言って深深と頭を下げた。 先ほど会長にしたそれと同じように、悲痛な表情を浮かべながら。 「気にしちゃいないさ」 それが俺に言える精一杯のフォローだった。 「……聞かないんですか? 彼と『機関』の間に何があったのか」 それはお前に任せる。言いたければ言え。言いたくなければ黙ってればいい。 「そうですか、わかりました」いつも通りのハンサムボーイはどうとも取れる俺の返答に対して、「歩きながら説明しましょう」となった。 「彼は僕達『機関』の学内……いえ、今は学外協力者とでも言うべきでょうが、ともかく協力者であることは以前申し上げたと思います。彼は涼宮さんのイメージどおりの生徒会長として、我々が在籍する北高の生徒会トップに君臨しておりました」 ああ、確かにそうだったな。ハルヒが変なことを思いつく前にこちらから情報を提供してご機嫌伺いを取る、言わばかませ犬のような存在だ。 「彼はこちらの予想以上によく働いてくれました。それは彼が命令に忠実だけと言うわけではなく、ある程度の野心、或いは報酬といった見返りを期待してのことです。もちろん我々としては取り立てて問題にはしていませんでした」 していませんでした、って言うことは問題になったって訳だな。 「……遺憾ながらその通りです」古泉は声のトーンを鎮め、 「実はこちらのミスで、彼が大切にしていたあるモノを壊してしまったんです」 なんだ、それは。 「それはちょっと……すみませんがお察しください」 そうかい。まあ別段聞く気もないが。 「つまりそれが原因で会長と『機関』の信頼関係にヒビが入ったってわけだな」 「はい」 「何を壊したか知らんが、直すことや買い換えることは出来んのか?」 「それができればここまでこじれたりはしません」 確かに。 「彼は怒り心頭に発し、一時は『機関』との関係を拒絶されそうになりました。彼の協力無くして『機関』の活動に多大なる影響が出ると感じた上の人たちは彼を必死に説得し、出来る限りの要望を受け入れ――首の皮一枚繋がった状態で今日に至っているのです」 ふむふむ……ん? 「ちょっと待て。会長は『機関』の協力者だってことは聞いたが、何故そこまで彼との関係を重要視してるんだ? あの人自身も言ってたが、ハルヒとの接触が無い今となっては寧ろお払い箱状態じゃないか」 「その理由は簡単です。実は……」と言って後ろの橘達の様子を見て、「失礼、耳をお貸しください」 更に俺に近づき、後ろの三人聞こえないよう、細心の周囲を払って出た彼の言葉は―― 「―――――――」 「…………なるほど」 大きく一つ頷いた。 「それは確かに重要な問題だ」 「つきました。こちらが会長の自宅になります」 あれから約一時間後。河川敷の公園に程近い会長宅に到着した時には午後二時をゆうに回っていた。 こんなに時間がかかったのは単に会長の自宅が遠いだけではなく、普段履き慣れてない草履や下駄で歩いたため足に負担がかかってしまったことも理由に上げられる。 橘なぞはついさっきまで『もう歩けない、おんぶして』と駄々を捏ねていたのだが、結局誰も手を貸さず(無論藤原は手伝おうとしたのだが自分も靴擦れが痛くてそれどころじゃなかったらしい)、終いにはハダシで歩き出したりしてた。 おまけに『キョンくんが悪いんですからね! 責任とって下さい!』だとか『困っている女の子を助けないなんて、古泉さんって絶対ガチホモよね』だとか散々罵詈雑言を浴びせるもんだから場の空気はとても悪くなってたりする。 しかし、 『…………』 見事なまでの三点リーダが揃いも揃ってアンサンブルを奏でた。橘も、藤原も、そして普段ダッシュ記号の九曜でさえ、である。 「こ、ここ……」 「あの会長の……」 「――――自宅…………?」 皆が驚くのも無理はない。 俺達の二倍はありそうな柵とそれ以上に高い門。そこから数十メートル先に聳える白亜の如き邸宅。 「そうです。ここが彼の自宅です」 『……………………』 古泉の言葉に一同がさらに沈黙した。 よくよく見ればここ一帯はは高級住宅街で、どの家もそれなりの大きさでそれなりに立派な佇まいをしている。前に行った事のある阪中の家もそれほど離れていない。 その中でも一際大きい、まるで城のような邸宅が彼の家だったのだ。 「すごい……お金持ちだったんですね……」 呆気に取られた橘がポツリと呟いた。そりゃそうだ。でなきゃあんな高級ジュエリーショップで宝石研磨の依頼なんてするわけがない。 斯く言う俺も、古泉から話を聞いて驚いたんだけどな。 「『機関』が縁を切りたくない第一の理由――それは財力。スポンサーのひとつなんですよ、彼の家は」 俺だけに分かるよう話し掛けたのはそんな内容だった。 これ以上なくわかりやすい理由であった。恐らく鶴屋家と同じような立場なのだ、会長は。 「ただ、『機関』の活動に干渉するきらいがありますけどね。そこが鶴屋家と大きな違いです」と古泉は付け加えたが、それは些末な問題にしか過ぎない。少なくとも俺にとってはな。 ただ一人平然としている古泉は門の横にあるインターホンに手を伸ばし、二言三言言葉を交わした。すると門は自動で開き、俺達を奥へと促した。 玄関まで移動する中でもサプライズは点在している。管理された芝生や木々、奥の方に見えるプライベートプールやテニスコートなど、さながら公園のようである。 鶴屋家とはまた違った意味で金持ちを実感させる場所である。 やれやれ。金があるとことにはあるもんだ。『機関』じゃなくてもスポンサーとして協力していただきたいものだ。 「ようこそいらっしゃいました」 ようやっと建物の中に入った俺達を最初に迎え入れてくれたのは、朗らかな笑みが眩しい老紳士。もちろん俺の知っている人物であった。 「新川さん。お久しぶりでございます」 「これはこれは、お久しぶりでございます」 まさか新川さんの本業はここの執事ってことは…… 「まさか。そんなわけありません」と古泉。「今日のパーティのために借り出された臨時雇い人です」 古泉が言うには、今日のパーティを盛り上げるため、そして会長のプロポーズを成功させるために『機関』からスペシャリスト達が派遣されてきたらしい。 「新川さんは執事兼給仕係兼調理師としてこの場に派遣されました」 「どうぞよろしくお願いします」 あ、ああ。こちらこそ。 「ではあなたが最高級料理を作ってくださるんですね!」 そしてしゃしゃり出るはやっぱりこの女。和服姿で謙虚さが少しでも染み着いてくれればと思ったのだがそう言うわけにはいかないらしい。 「おやおや、可愛らしいお嬢様だこと」 「はい! よく言われます!」 嘘つけ。 「こちらは初めてですね。……ふむ、どこかでみたことのある顔ですが……」 「さあ、あたしはとんと記憶にありませんが」 「そうでしたか、他人の空似でしょう。申し送れました、わたくし執事の新川と申します。どうぞよろしくお願い致します」 「あ、あたしは橘京子って言います。よろしくお願いしますっ!」 「――――!?」 瞬間、新川さんの動きが止まった。 「あれ? どうしたんですか?」 「ま、まさか……あの…………あの、橘京子か……!?」 引きつったままの新川さんは、言葉を漏らすように橘の名前を口にした。バドラーオブバドラー、執事の代名詞とも言うべき新川さんが、客を呼び捨てにするなど普通に考えたらありえない。 ――そう、普通なら。 「あの、ってのが若干引っかかりますが、多分その橘京子です」 「!!!?」 新川さんの顔が完全に強張った。 無理も無い。新川さんからしてみれば彼女は『機関』の敵である。しかも橘はその幹部を務めているのだから、その名は『機関』の中でも有名なのだろう。 そんな相手が自分達の陣地に単身――乗り込んできたのだ。驚くのも無理は無い。 しかし……である。 いくら敵対するもの同士とは言え、いくらアポなしで乗り込んできたとは言え、冷静沈着を擬人化したような新川さんがあそこまで驚愕の念を出すとは思えない。 ならば一体……? 等と考えていたその時、想いも依らぬ行動に出た。何と新川さんはいきなり橘の肩を掴み、軽々と持ち上げたのだ。 「――ひいっ!?」 実力行使で排除する気か!? 「た、助け……!」 くっ……何だというんだ!? 「新川さん! 落ち着いてください! 一体どうしたんですか!? 敵対しているとは言え、強引に追い返すのは新川さんらしくありません!」 思わず古泉も声を荒げ―― 「どうしたの新川。玄関が騒がしいわ」 ホールの先、螺旋階段の踊り場。凛とした女性の声が響いたのはちょうどその時だった。 『――――!!?』 ここにいる全員、静かな絶叫を上げた。 そこに立つのは――メイド姿の森 園生……さん。 「……ん? そこにいるのは……橘京子!!」 三日間何も食べてないライオンがシマウマの群れを見つけたような視線でツインテールを睨めつけた。 「ひえっ! た、助けてぇ~!」 慌てて踵を返し、やたらと怖いオーラを発するメイドさんから遠ざかる。怖いものみたさってやつだ。 しかし森さんは神速の如きスピードで階段を駆け下り、あっという間に橘京子の背面に回りこんだ。 「!! いつの間にぃ!」 「ふっふっふっふっ……ここであったが百年目。いや実際は半年振りくらいだけどそんなことはどうでもいいわ。あなたには散々お世話になったわね」 渾身の笑みを込めて橘に微笑んだ。俺はと言えばあの時のトラウマが全身に駆け巡り、反射的に顔をそらした。見れば新川さんも古泉を同じ行動をしている。やっぱみんな怖いんだな。 九曜は相変わらずのポーカーフェイスでなんのその。さすがは長門以上の無表情エイリアン。唯一森さんの笑みを知らないポンジーは直撃を受け敢え無く失神。ご愁傷様でした。 そして、失神することすら許されない橘は蛇に睨まれた蛙宜しく、 「いやあのお世話になったのはむしろあたしの方で」 「ふふふふ、そんなことはどうでもいいの。あなたに会えただけでこの上なく嬉しいのよ」 「あのあのあの、嬉しいなら何で目がそんなに据わってるんですか……?」 「気のせいよ」 嘘だ。絶対嘘だ。 「そうそう、今とっても忙しいの。例のパーティの準備でね。そこでちょっとお願いがあるんだけど、手伝ってくれないかしら?」 「あの……あたしはむしろお呼ばれされた方で……」 「そんなつれないこと言わないで、お願い。んふっ」 ウィンク一つ繰り出した。 「ひゃ、ひゃい!」 「そう、良かったわ。それじゃこっちよ」 ガシッ、と、まるで手錠をはめるかのようにガッチリと腕を掴んだ。 「あの……因みにどんな仕事を……? 前みたいに全身しもやけになるようなことはちょっと……」 「ふっふっふっ……大丈夫よ」 森さんの笑みが、やたらと猟奇的に映った。 「寒かったら唐辛子のペースト塗ってあげるから。全身に」 いっ………… 「いやぁぁぁぁぁぁ――――――――ぁぁぁぁぁぁ――――――ぁぁぁぁ――――ぁぁ――――…………――――――」 「……遅かったか」 くっ、と顔を顰めながら、新川さんは自分の不甲斐なさに自責の念を感じていた。 「森が彼女を……橘京子を敵対視していたのは前々から存じていたのですが……まさか本日いらっしゃるとは思っていませんでしたので。何とかして森に見つかる前にご退場願おうと思ったのですが……」 『………………』 一同、沈黙。 「あの分ですと、かなりこってりと絞られそうですな、橘嬢は」 ええと、新川さん、どんなことされるんでしょうか……? 「……聞きたい、ですかな?」 え? 「森のスパルタ教育、いいえ、慈善活動の内容を、それほどまでに聞きたいですかな?」 …………。 止めときます。 とまあ一人ほど森さんの毒牙にはまってしまったが、俺を含めて他の人間には何一つ危害が無かったのでここは一つ運が悪かったと言うことにして橘を見捨てる……もとい、慈善活動に頑張ってもらうことにして、俺達は宅内を案内されることになった。 若干藤原が不機嫌そうな顔をしていたが、あの森さんに反旗を翻すほどの抵抗力はなかったらしく、ブーブー文句を垂れながらも俺達の後をついてくるに留まった。 まあ拷問を受けるわけではないし(多分)、これ以上橘の暴走を蔓延らせるわけにもいかないので、この件は森さんに一任しようと思う。 決して橘の相手をするのに飽きたとか、そんなわけでは……あるが、その辺はオフレコで頼む。 新川さんに連れられて案内されたのは、本日のイベント会場になるホールだった。 大きさはバスケットコートくらいの大きさだが、天井も高く中央に設置されたステージも意外にしっかりしたもので、小さいながらもアリーナ型ホールといって差し支えの無いものだ。 そのステージの中央には白い布が被せられた何かが鎮座し、そしてその横には会長の姿があった。 白い布の周りをうろうろしながらうんうん唸っていた彼は、俺達の姿に気がついたようで「よう、来たか」と陽気に声をかけた……のだが。 次の瞬間、会長の顔色が一気に変化した。 「新川。何をしている。料理の下ごしらえは終わったのか?」 ここまで案内してくれた新川さんに対しては礼をするでもなくつっけんどんにあしらった。 「お客様がお見えでしたので、案内をしておりまして……」 「それは俺の仕事だ。いいから早く戻れ」 「……畏まりました。では、わたしはこれで」 逃げるように新川さんはその場を立ち去った。 再び悪くなった空気で俺は古泉の言葉を思い出した。機関の人間をかなり嫌っているというのはどうやら本当のようだ。 「失礼した。新川の無礼、お許しいただきたい」と、自ら謝りながら場の空気を入れ替えるように話題を切り替えた「どうだ、我が家は。自慢ではないがこの周辺でこれ以上の家はそう多くはあるまい」 会長に、俺も話を併せることにした。 「たしかに、素晴らしいと思います」 これ以上の邸宅として真っ先に思い浮かんだのは鶴屋さんの家だったが、由緒正しい日本家屋の鶴屋家とはまた違う赴きなのでどちらがどうと一概に言えるものではない。 「ふ、そうだろそうだろ」 お世辞に気をよくしたようだ。結構単純なのかもしれない。 「それで、何をしてたんですか? その白い布の前で何かしてたようですが。というかそれは何ですか?」 「これはだな」と言いながら、隠していたと思われるその布をいとも容易く引っ張る。 青銅の台座の上に居座るのは、黄金に輝く女神像。大きさはほぼ等身大で、台座に乗っている分俺達よりも頭一つ、いや五つ分ほど高い位置にあった。 両手を前に出し、何かを冀うかのようにしてひざまつくその姿は、女神を模していると言う事もあってか神秘的に感じる。 一体どの女神がモデルなのかね。アテナとか、ヴィーナスとかか? 「ヘラだ」 ヘラ……ヘラ……とんと記憶が無い。 「――――オリュンポス――――十二神…………――――筆頭――――ゼウス……――――の――――…………妻――――――」 「その通り。彼女は結婚の女神。その彼女の前でプロポーズを行い、永遠の愛を誓うのだ」 グッと握りこぶしを作り力説した。会長も意外とロマンチストである。 「まさかそれだけのためにこの女神像を用意したと?」 「いや、彼女にやってもらう事は他にもある。おい!」 会長が声をかけると、ゴゴゴッと音を立てながら金の女神像が沈み込んだ。よく見ると、その周りの床も一緒に下降している。どうやらここはエレベーターになっているようだ。 そのエレベーターと共に下降しつつあるヘラの像は台座分の高さ……およそ一メートルほど下がった時点で停止し、頭の高さを俺達を同じ位置にした。 「この手の部分はな」会長は女神の両手を指差し、「ちょっとした窪みが掘ってあるんだ。何のためかというと、これをはめ込むための窪みだ」 と言って、手にしていたリング――指輪のようなリングだが、頂上に爪のようなものがついていて格好悪い――を、その窪みに当てはめた。リングはその窪みにしっかりと入り込み、ちょっとやそっとのことじゃ動かないくらいピッタリ埋もれている。 「これに合わせて作ったんだから当然だな」 で、その指輪みたいなリングは何の余興ですか? 「こうするのさ」 今度は懐から出したケースを開けた。天窓の光を受けて青緑色に光るのは……先ほどの店で貰い受けた宝石。 丁寧にソレを取り出し、傷をつけないようリングの中央に持っていき、爪に引っ掛けて微調整。少し離れて見てはまた調整しなおしを繰り返し、「よし」納得したのか満足げに頷いた。「これで即席婚約指輪の完成だ」 なるほど。確かに指輪だったようである。宝石が大きくてアンバランスな感はあるものの、婚約指輪と言われればそう見えなくも無い。 だが、一つ気になる点もある。 「爪に引っ掛けてるだけじゃすぐ外れてしまいそうですが、本当に婚約指輪として使えるんですか?」 「即席と言っただろう。本物の婚約指輪じゃない。これは我が家に伝わる儀式なのだ」 儀式? 「結婚の女神から受拝領した指輪……それも家宝の宝石をあてがった指輪を、求婚する女性に託す。これが我が家伝統のプロポーズの方法だ」 なかなか手の込んだプロポーズである。 「喜緑さんには何も伝えてないのですか?」 「当然だ。サプライズイベントだからこそ価値があるのだ。皆に賞賛されながら俺のプロポーズを受け入れ、はにかむ喜緑くん……どうだ、最高だとは思わんかね?」 もし喜緑さんが会長のプロポーズを受け入れなかった時の空気の不味さの方が最高に面白そうだが、さすがにこの場で言うわけにはいかないので声を押し殺す。 「本日のメインイベントはその儀式だからな。楽しみにしてくれたまえ」 ええ。楽しみにしています。色々と。 「説明は以上だが、他に見たい場所や聞きたいところはあるかね?」 「すまない、少し知りたいものがある」 申し訳なさそうに手を上げたのは、以外にも藤原だった。 「先ほど床が下がっていったが、あれはどういう仕組みで動いているんだ? どういったときに使われるんだ?」 どうやらエレベーターの仕掛けに甚く興味深々のようである。 それに対し「ああ、奈落のことか。なんてことはない普通のエレベーターさ」と至って尋常の答えを返す。 「いや、そうではなく……どうやって床が動くのかとか、せり上がるのか……僕にはよくわからない」 もしかしてエレベーターがどういうものか分かってないのか? 「そうだな……なら見てみるか?」 ということで、俺達全員エレベーターに乗って降りることになった。 男三人と女一人、そして金の像が乗ったエレベーターは会長の一言でゆっくりと下っていった。地下は闇に閉ざされ――というほど暗いわけではないが、それでも吹き抜けから太陽の光が入ってくる上の階に比べれば暗いと言わざるを得ない。 「うお……これは……なんというか……結構揺れるな…………」 藤原はやっぱり乗ったことがないのか、珍奇な声を上げて物珍しそうに声を上げている。未来にはエレベーターが無いなんてことはまずあり得ないのだが、単にこいつが知らなかっただけだろうかね。 やがてエレベーターは地下の床へと降り立つ。コンクリートむき出しの壁と申し訳程度の照明が、この部屋の雰囲気を寒々としたものにさせていた。 エレベーターの周りには大なり小なりの機材や工具が点在しており、壁際にはエレベーターの制御盤と思われるボックスがある。少し間を取ってあるのは、これまた大小様々なダンボール。何が入っているのかまでは暗くて見えないが。 所謂、舞台裏って感じの光景である。 そして、裏方として働く人物が二人。一人は制御盤の前で何やら動かし、もう一人はダンボール箱の整理をしている。暗くて少々分かりにくいが、輪郭やこれまでの登場人物から推測することは可能であった。 俺はその内の一人、エレベーターから近かった壮年の男性に声をかける。 「圭一さん……ですよね?」 「おや、キミは……久しぶりだね」 声を聞いてはっきりした。別荘のオーナー兼パトカーのドライバーという異色の肩書きを持った『機関』の諜報員、多丸圭一さんに間違いない。 「どうしたんだい、こんなところに現れるなんて」 ああ、それはですね…… 「余計な話をするなっ!」 再び会長の檄が飛んだ。 「彼らは俺の客人だ。お前ごときが口を聞くなど、どういうつもりだ」 「……申し訳、ありません」 「わかったら口を開くな。俺の言うことだけ粛々とこなせ。いいな」 「了解、致しました」 会長の『機関』の人間嫌いはとことん徹底しているようだ。新川さんの時もそうだったが、少し会話をするだけでこんなに怒るなんて…… 「お前も、分かっているな」 「……はい」 逆の方向を見れば、大小様々ば箱を整然させていたもう一人の人物――もちろん多丸裕さんだ――が、彼に侍りながら答えた。 「それより屋根の修理は終わったのか?」 「いえ、まだですが……」 「何をやってるんだこのトンマどもが! 今日中に直せと言ってたはずだ!」 「ですが、こちらの……エレベーターの調整も必要かと」 「言い訳はいい。さっさと直せ! 日が暮れるまでにな!」 「……わかりました」 またしても場の空気を悪くしながら、その原因ともなった多丸さん達兄弟はすごすごと奥にあったドア――階段が見えるから多分上の階に繋がっている階段だな――から出て行った。 ふう、と溜息をついた会長はまたしても俺達に詫びを入れ、 「ここはこんなもんだ。あまり人様にみせるような場所ではないんだがな」 トストスとエレベーターから降り、先ほど圭一氏が調整していた制御盤の前で 「これで上げ下げができる。パーティのクライマックスで操作する予定だ」 そこで指輪を取って喜緑さんに渡すってわけか。 「その通りだ」 ふうん、色々な演出を考えるものだ。 「演出なら他にもあるぞ。スポットライトやドライアイスなんかも手配済みだ」 やれやれ。そこまで出来れば喜緑さんも本望だろう。 「……ふ、そ、そう思うか?」 ……あ、会長赤くなってる。宝石と同じだ。 「う、うるさい」 怒ったり照れたり、忙しい人ではある。 そんなこんなでもう一度舞台の上へとのり、エレベーターを元の位置まで戻した。ちなみに操作主がいなくなった制御盤の前でスイッチを押したのは藤原。操作してみたいと言う本人たっての希望でこうなった。 操作といってもボタンを押すだけなので特に難しいことも無い。会長も二つ返事で藤原の要望を受け入れた。 ゴゴゴゴゴと音を立てながら上昇するエレベーター。徐々に近づく太陽の光。暗いところにいたせいかやたらと眩しく感じる。 目が眩みそうになりつつも、地上の光恋しさに天窓を望み…… 「ん?」 何かが光を遮った。 「あー! みなさんこちらにいたんですか!」 プンスカと怒りながら、手にしたモップをトンと床に突くその影は――橘!? 「何をしてるんだお前その格好で!?」 「えへへ、どうですか? 森さんからこれに着替えなさいって言われて」 エレベーターが上の階についたころ、視力が完全に回復した俺はその不可思議な姿に思わず問い返してしまった。あろうことか、橘は森さんとおそろいのメイド服に身を包んでいたのだ。 いや、心持ちエプロンとカチューシャのフリルが多い気がするが……気のせいか? 「そこら辺は森さんの趣味なのです」 多分、と注釈をつけた。「森さんはああ見えてそユーモアがある人ですから」 マジか古泉? 「恐らく、橘さんの仰るとおりだと思います」 古泉は俺に近づいて耳打ちした。 「(彼女には他人を和ませる効力があります。森さんはそこを見込んだのでしょう。ほら、会長の『機関』嫌いの一件もありますし。自分の仕事を手伝わせると言うよりは、むしろエンターテイメントとして会長の心を解そうとお考えのようです)」 むう、と内心舌を巻いた。こいつの言うことも最もな気がしたからだ。 そして当の橘だが、会長の前で立ち止まり、ぺコリと頭を下げた。 「こちらの掃除をするよう仰せつかって参りましたので、よろしくお願いします」 「客人に仕事をさせるなど、一体どういうつもりだ……いやまて。これはヤツの……そう言うことか。ふふっ、あの女狐、色々と企んでやがる」 一頻りブツブツ言った後、「森がやるよりはマシだろう。よろしく頼む」と頭を下げた。 完璧無比な妙齢のメイドより、ややもすると全てを破壊しつくしかねないKYメイドを称えるとは、さすが『機関』嫌いの会長さんである。さっきあれほど橘の変態っぷりを目の当たりにしたと言うのに、なかなか大した人である。 或いは……悔しいが、橘や古泉の言ったとおりの展開なのかもしれない。 「ついでと言っては何だが、この辺りの見回り……平たく言えば警備もお願いしたい」 警備? 昼間から? 俺がそう聞くと、 「そうだ」愉快そうに口を歪ませた。「『機関』の人間がいるからな」 「……さすがにおいたが過ぎますよ」 「怒るな。ちょっとした冗談だ。器物破損はしても、窃盗までは範疇外だろうしな。アハハハッ」 古泉が唇を噛むのが目に見えて分かった。珍しく顔がマジになっている。あの古泉がここまで敵対心を露にするなど、余程のことがないと現れないはずだ。 それに、いくらなんでも会長の『機関』嫌いは度が過ぎている。はっきり言って異常だ。後でもう少し詳しく聞いた方がいいかもしれない。良くないことが起きなければいいがな…… 「ともかく、警備もよろしく頼むぞ」 「はあ、でも森さんに色々仕事を頼まれていますので……サボると怖いですし」 「むう……それもそうか。森を怒らすと後が怖いしな……」 さしもの会長も、パーフェクトかつ年齢不詳のメイドさんは怖いようである。 「本当は俺自身がやればいいのだが、もうすぐ喜緑くんの迎えにいかなければいけない。こればかりは他の人間にいかせるわけにはいかないしな」 チラと時計を見ると、もう十五時半になっていた。喜緑さんのバイトは十六時までと言うことなので、確かにそろそろいかないと彼女を待たせることになる。 「それまでの間でいい。誰か他に代わりはいないだろうか……」 「なら、僕が手伝ってやろう」 「藤原?」と俺。「どういう風の吹き回しだ?」 「パーティの時間までまだ結構あるのだろう? 暇つぶしにはもってこいだ」 「だが、客人に仕事をさせるなど……」 「あの、あたしはいいんですか?」 「森園生の管轄については治外法権だ」 うむ、納得。 「うう……あたしってとことん不幸……」 そんな橘の叫びは華麗にスルーされた。まあ当然だな。その代わりと言っては何だが、ずいっと前に出た藤原が、 「僕は一向に構わん。他に使える人間がいないのなら仕方ないだろう」 「そうか……まあ、確かに『機関』の人間よりはためになるだろう。わかった。では申し訳ないが監視の方を頼む」 「ああ、任せてくれ」 となったわけだ。 「ポンジーくん、ありがとうございます!」 「いやあ、これほどのこと、お茶の子さいさいさ。なんならここの掃除を手伝ってやろう。一緒に頑張ろうではないか」 「ポンジーくんさっすが! 分かってる!」 橘はモップとちりとりをポンジーに渡し、 「あたし他にも仕事あるからそっちやってきます! それじゃお願いね!」 エプロンとツインテールをはためかせてこの場を去って言った。 「……へ!?」 「俺達も、いくか」 「そうですね」 「そうだな」 「――――戦線…………――――離脱――――」 残るはモップとちりとりを手にした紋付袴姿のポンジーのみ。 「えええっと……僕は……一体何を…………?」 「掃除を頑張ってくれればそれでいいさ」と俺。 『変な下心は全て自分に帰ってくるぞ。今後気をつけるんだな』 本当はここまで言うべきだったのかもしれないが、反省を促すため敢えて黙っておいた。 その後は特に見たい場所もなかったので、このホールに程近いロビー兼休憩室で一人寛いでいた。 そう、一人。 藤原がガードマン兼会場の掃除係、橘が森さんの下働きに出たのは先にも説明したが、古泉も別途会長から仰せつかった買い物に出かけ、九曜はホールの外でマネキン人形と化していたのだ。 ガラス製のドアを開けて休憩室に入る。部屋は俺の自室よりも二回り大きく、プロジェクターやブルーレイプレイヤー、インターネットに繋がるパソコンやコミックまで設置され、小さいながらも高級漫画喫茶と言ったイメージが近い。 ただ一つ違うとすれば、漫画喫茶がパーティションで仕切られているのに対して、この部屋はパーティションどころか全てガラス張りで、廊下からも何をしているのか丸分かり状態ってことくらいか。 俺はテーブルに設置されたPCの前に座り、適当にネットサーフィンをすることにした。学校のトラフィックとは異なり、非常に快適な速度である。 これでガラス張りじゃなければ如何わしいイメージビデオがスイスイ再生できるんだが……その辺はぐっとこらえることにしよう。 代わりに開いたページは、先ほど見せてもらった宝石、アレキサンドライトについてである。あの不思議な光り方をする現象に興味が湧いた。ちょっと調べて見よう。 検索サイトを開き、キーワードに適当な言葉を入力し、サーチ開始。一秒も待たずに結果が現れた。検索結果の最初のページクリック。 ええと、なになに……『アレキサンドライトの最大の特徴であるカラーチェンジは、赤色成分と緑色成分がほぼ同程度存在するために発生します』か。ふーん、イマイチよくわからんな。 マウスのホイールを回し、ページをスクロールさせ次の文章を読む。 『蝋燭や電球など、赤みの強い(色温度の低い)光の前では赤色となり、太陽光や蛍光灯など、青みの強い(色温度の高い)光の前では緑色に光ります』 ふむふむ。確かに説明されたとおりだ。ではなぜそんな風に光るんだろうか。次……っと。 『アレキサンドライトは含まれるクロムの影響で黄色と紫のスペクトルが』 カチッ。 『スペクトル』と言う言葉が出た時点でこのページを閉じることにした。難しい言葉にはついていけん。 その後も他のサイトを見渡したのだが、結局書いてあるのは同じようなことばかり。詳しくかかれているサイトは波長がどうたらとか分光分析がどうたらと、やたら難しくなるのでそこで読むのを断念する。 まあ、いっか。光の色で宝石の光り方が変わるってことで十分だ。それがわかっただけで良しとしよう。実は最初に会長から説受けた説明以上の知識が身についたわけでもないんだが。 それはそれとして、パーティの開催までまだ一時間以上ある。何をするかね。 「寝るか」 本当は帰って試験勉強の続きがしたいのだが、ここまで来たら帰らせてくれそうも無い。話し相手もいないし漫画を読む気にもならん。それに朝から橘のテンションに当てられっぱなしで少し疲れた。 休むのも受験生にとっては重要な仕事だ。特に勉強ができない今としては打ってつけだ。 ここで俺は近くの三人がけソファーに移動する。肘掛に頭を乗せ、ガラス越しに廊下を見ながらボーっと寝転んだ。 ここからは大ホールの扉、そしてそこに連なる廊下が見渡せる。先にも言ったとおり、九曜は入り口前で身じろぎせずその場に立ち尽くしている。身動き一つ取らない姿はザルな守衛といっても過言ではない。 そして何分か置きに往来するのは橘。手に抱えているのはモップだったり大きな皿だったり、よく分からん工具箱だったり……森さんに言われて何か運んでいるのだろうな。 その他にも新川さんや多丸さん兄弟も訪れては出て行く。色々と手にしているようだが……ん、あのでっかい竹は何に使うんだ? 後で聞いてみるか。 因みに藤原の姿は見えない。恐らく中で警備、あるいは橘に使われて仕事しているんだろう。 しかし、皆が皆忙しく働いているのに俺だけこうも惰眠を貪っていいものかね。とは言え働く気は全く無いからやっぱりこのまま動かないわけだが。ふぁあ……いかん。本気で眠くなってきた。 ガラスで遮られながら、しかし微かにパタパタと鳴る足音を子守唄にして俺の意識はそのまま途絶え………… 「起きてください。そろそろ式が始まりますよ」 そう言って起こされたのは、十七時も半分が過ぎていた。外はすっかり暗くなり、ガラス越しに見える廊下も人工の光で照らされている。 俺は寝ぼけ眼で起き上がり、声をかけた人物――古泉に視線を送った。先ほどまで私服だった彼のスタイルは、何時の間にかダークグレーのスーツに変わっていた。もしかしてパーティための正装だろうか? 「いいえ、平素の格好、略装で結構ですから。お構いなく」 略装を通り越してカジュアルスタイルで出席してもいいのだろうかね。まあ古泉が良いって言うならそれでいいのだろう。必要なら『機関』が全て用意してくれるはずだ。 とは言え、跳ねているであろう髪を何とか戻し、くしゃくしゃになったコートは脱ぎ、襟を正してパーティに望むことにする。それくらいは常識だよな。 ガラス製のドアを開け、俺が寝る前から一糸乱れることなくその場に鎮座していた九曜にも声をかけた。「いくぞ」 会場は明るくも温かみのある色調で彩られており、冬だと言うのにそれを感じさせない光で覆われていた。 「これはLEDですよ」 LED? 聞いたことあるようなないような…… 「ライトエミッションダイオード。日本語で言えば発光ダイオードです。昨今のエコブームで取り入れられた新しいタイプの光です。この照明に使われる白熱球は数年後には製造が中止してしまいますので、その代替品として取り入れられたようです」 ふうん。つまり明るくて消費電力も低い照明ってことか。 「家庭用照明としての課題はまだ多く残っていますが、概ねその通りです」 そうかい。 「さて、与太話にはこれくらいにして席につきましょうか。早くしないと会長に叱られます」 その与太話を始めたのはお前なんだが、と突っ込む前に古泉はそそくさと自席に移動した。 席は中央のステージを囲むようにして配置されており、そこに一番近い席に会長と喜緑さんが座ることになっている。俺達はゲスト扱いなので、やや後方のテーブルである。 警備を終えた藤原、手伝いを追えた橘も既に席についており、俺達もそこに着席した。ちなみに橘は未だメイド姿のままである。着替える時間がなかったのだろうか。 「どうだ、橘。森さんにこってりしぼられたか?」 「…………」 「おい、橘?」 「……っへえ!?」 おいおい、変な声を上げるな。どうせこれから出てくる料理のことばっかり考えてたんだろ。 「……うあう。そのとおりです。もう腹が減って腹が減って」 白いエプロンの上を弄りながら、橘はやや疲れた様子で喋りだした。どんな仕事をさせられたのだろうか。 「パーティのセッティングはもちろんですが、何故か個室の掃除やベッドメイキング、おまけにペットの散歩と色々です」 それはご苦労なこった。だがそれでこそ飯が上手いってもんだ。 「そうですね。頑張って平らげます。会長の家の資金がなくなるまで食べ尽くしてやるのです」 そうか、まあ頑張ってくれ。 などと他愛も無い会話をしていると、 「お待たせ致しました」 開いた扉から出てきたのは、淡いブルーのパーティドレスに見を包んだ喜緑さんだった。肩や背中を大胆に露出したドレスと白いバラのコサージュがなんとも魅惑的である。 その後ろ、ドアを開けていたのはなんと会長だった。そのままドアを閉め、彼女の手を取ってエスコートする姿はいかにも紳士である。自席まで到着した後も、喜緑さんの椅子をサッと引いて着席を促すのも忘れない。 あれほど不良じみたヤサグレ男がああも変わるとは。この状況をハルヒが見たらどう思うかね。ちょっと呼び出してやろうか。 「それだけはカンベンしてください。僕達も事後処理が大変なんですから」 冗談だ古泉。泣くな。 会長の挨拶と乾杯を皮切りに、表向き年始パーティは盛大に行われた。 盛大といっても人数にして十人もいないから大盛況と言うわけにはいかないが、古泉の意味不明な説法に始まり、藤原のどこか抜けた常識、九曜の日常など話題に事欠くことはなかった。 中でも食前酒を一気のみしてフラフラになった橘がいきなり会長に向かって『あたしを捨てるなんてひどいですぅ!』と大絶叫した時は腹を抱えて笑った。引きつる会長と朗らかな笑みを見せる喜緑さんのコントラストが絶品だ。 なお、この後数分もしないうちに橘は撃沈した。彼女の楽しみにしていた料理はまだきていない。あれだけ最高級料理を食べると騒いでいたのに……かわいそうではある。 その料理だが、会長が『最高級料理』と銘打っただけあり、俺が今まで経験したことの無いような豊穣の味わいで、舌鼓を十六ビートで叩きつけるような絶賛の嵐を口にした。 もちろん素材だけではない。新川さんの料理もかなりのものであることは忘れてはいけない。会長は調理が下手だと詰っていたが、それは無碍に嫌おうとする彼の歪んだ心が成せる技であり、無論俺はこの料理に瑕疵があるだなんて微塵も思っていない。 森さんはと言えば、おなじみの給仕係となってデカンターからワインを注ぐのに専念している。せっかくの年始パーティなんだから皆で楽しめばいいのにと思うんだが。まあ、あの会長がいる限り楽しくパーティなんかできないだろうな。 残りの『機関』のメンバーである多丸さん達兄弟はこの場にいなかった。恐らくはエレベーターの上下搬送係りとして、この地下でスタンバイしているのだろう。 全く、働き者のメンバーである。あれだけ嫌われているのによくもこれだけ健気に働けるものだ。 「皆様、お待たせいたしました。本日のメインイベントでございます」 と、スピーカー越しの新川さんの声と共に辺りの照明が暗くなった。 「喜緑江美里様、当家の主人よりお渡ししたいものがあるとのことです。どうぞ、中央のステージにお寄りください」 クエスチョンマークを点灯しながら、喜緑さんは会長に手を取られてステージ前まで行く。 「それでは……どうぞ!」 声と共に照明が完全消え、代わりにスポットライトがステージ中央を照らし出す。瞬間、大地が割れたかのようにステージが開き、その代わりといっちゃ何だが白い煙がもくもくと吹き上がる。 その煙を割って這い上がったのは、例の女神像。とはいえ、現状は白い布にかぶさっているが。 ガシャン、と音を立てて一番上についた時、会長は白い布を勢いよく引っ張り――そしてようやく冒頭の時間軸へと繋がるのだ。 延々長い思い出話で済まなかった。では早速本題に入ろうじゃないか。 ……… …… … ――ふふふ、あたしの出番でしゅね―― 若干ろれつの回っていない、状況判断を全く逸脱した声が響き渡った。 声の主――答えるまでも無い。メイド姿のまま、何故かモップを手に取った……というより、フラフラしてるから支えられてと言った方が正しいか……橘京子。 「あたしが……はんにゅいんを……宝石を盗んだはんにゅいんを……探し出して見せましゅ……なんたってあたしは……めいたんてぇい…………なんれすから!」 ああああ……あの馬鹿……酒飲んでるからいつも以上に空回りしてやがる。しかもご丁寧に昼間の与太話をまだ引き摺ってやがる! 「ほ……本当か……?」 そして会長もそんな酔っ払いの言うことを信じるな! 「ふふふふ……まかせなしゃい…………真実は一つしかないんでしゅ……みてなさい!」 そして橘は思ったよりもしっかりした足取りで、モップを構えた。 「悪の汚れ、おしょうじさせていただきまぁしゅ!」 『……………………』 ふんと鼻息一つ鳴らした橘に対し、俺達は位相を揃えて三点リーダを紡ぎだした。 「ふぇへへへへへへ…………うみゅ…………」 バタン。 「くう…………くう…………」 場の空気を見事なまでに白くした張本人はそのまま倒れこみ、そして再び寝息を立てた。 「な、なあ…………一体どうすればいいんだこの場合…………」 激昂していた会長も素に戻り、努めてシンプルなツッコミを入れるが……悲しいかな、誰も答えることが出来なかった。 こうして、会長宅の家宝、アレキサンドライトが盗まれると言うハプニングと、その犯人を探し出すと言う爆弾発言のせいで、俺は年始早々橘の恐ろしさを嫌と言うほど知らされることになるのだった。 ※橘京子の動揺(捜査編)に続く
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おしゃべり物語 山本周五郎 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)摩利支天《まりしてん》 |:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)口|主水《もんど》 [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (数字は、JIS X 0213の面区点番号またはUnicode、底本のページと行数) (例)※[#「てへん+宛」、第3水準1-84-80] ------------------------------------------------------- [#6字下げ]一[#「一」は中見出し] 宗兵衛の母親は摩利支天《まりしてん》と問答をした夢を見て、彼を身籠《みごも》ったそうである。彼は上村孫太夫の三男で長男は伊之助、二男は大助という。いち[#「いち」に傍点]女はみごもるたびに夢知らせを見る癖があった。長男のときには虎の髭《ひげ》を剃《そ》ってやる夢を見たし、つぎにお臍《へそ》から長い紐《ひも》をひきだす夢を見て二男が出来た。宗兵衛のときの夢知らせは就中《なかんずく》はっきりしたもので、長年月にわたって詳しく記憶に残った。――夢の中で彼女は病気だった、それもお乳が殖《ふ》えてゆく病気である。二つの乳房が三つになり四つになり、やがて六つから八つまでに殖え、胸も腹も乳房だらけになった。それで医者を呼びにやると摩利支天がやって来た。 「頭巾が見えなかったものだから毘沙門天《びしゃもんてん》のをちょっと借りて来たので、恰好が悪いだろうけれどもそこは時節柄だと思ってまあ大目にみて貰いたい」摩利支天はまずこう言い訳を述べ、さて開き直って、「おまえはお乳が殖えたと云って医者を迎えにやったそうだが、それは実に女の浅知恵というものである、なぜと云ってみよ、こんどわしはおまえに八つ子を生ませることにしたので、そのために予《あらかじ》め乳を殖やした訳である、この世にはなに一つ理由なしに存在するものはないのであって、鼻が無ければ洟水《はなみず》をかむことができず、耳が無ければ熱い物に触ったとき指のやりばがない、手足あればこそ凍傷《しもやけ》にもなれるし、川が無ければ橋大工は首を吊《つ》るより仕方がない」 云々《うんぬん》、云々という訳で、摩利支天ははてしもなく饒舌《しゃべ》り続けた。いち[#「いち」に傍点]女は八つ子と聞いて気も転倒し、「自分にはもう二人も子供があるから決してそれには及ばない」と云った。だが摩氏はそんなことには耳も藉《か》さず、滔々《とうとう》朗々として事物の存在理由とその価値に就いて弁じ続けたのである。いち[#「いち」に傍点]女は貞淑温順な婦人であったが、心痛の大きさと摩氏のとめどなき饒舌《じょうぜつ》に肚《はら》を立て、 「摩利支天といえば武勇的な方面をひきうける神さまでしょう、それならその方面の周旋をなすったらいかがですか、子供のほうは子育て観音とか子授け地蔵とかいう世話人の方がいらっしゃるんですから、わたくしとしてはなにも貴方に義理立てをする訳はないと思います」 「女はそういう無分別なことを云うからいけない」摩氏は顎髭《あごひげ》を撫《な》でた、「子育て観音とか子授け地蔵などとひと口にいっても、やっぱりそこには裏も表もあるんだ、まあ仮に子授け地蔵にしたところで、あのとおり離れを建てたり塀《へい》を直したりするのはなみたいていなことじゃあない、そとは辻町の親父からだいぶ引出してもいるし、原の大伯母を幾らか騙《だま》したということもあるらしい」 「貴方は皮肉を仰《おっ》しゃるんですね」いち[#「いち」に傍点]女は自分でも眼の色の変るのがわかった、「辻町の父から貰ったお金はあれは嫁に来るまえからの約束だったんです、貴方だってそれは御存じの筈じゃありませんか、原の大伯母さまのことは節ちゃんが云ったんでしょうけれど、あれも騙したなんて根も葉もない事です、昔からわたしは大伯母さまが好きで、大伯母さまのほうでもわたくしを本当の孫のようだと云って下すっていたんです、摩利支天なんて勿体《もったい》ぶっていながら、そんな細かしい中傷めいたことを云って貴方は恥ずかしくはないんですか」 摩氏は怒ってたけり[#「たけり」に傍点]立った。そしてもはや話がこうなった以上は八つ子どころか三つ子も生ませてはやらない。おまえは宜しくダチドコロでも生むがよかろうと呶鳴《どな》った。ダチドコロを生めと云われて、怖ろしさの余り眼がさめると、下にして寝た左の半身がぐっしょり汗になっていたそうである。さては――夢だったかと溜息《ためいき》をついたとき、これはみごもった知らせに違いないと思い、にわかに不安になって良人《おっと》を揺り起こした。 「貴方ちょっとお起きになって下さいましな」 「まあ待って呉《く》れ」孫太夫は呂律《ろれつ》の怪しい舌で妙なことを云った、「いま女房が寝るところだから、……うん、なにすぐだ、なにしろ横になれば五つ数えないうちに眠る女だから、そこはごく便利にできている」 「貴方、貴方、ちょっと起きて下さいな」いち[#「いち」に傍点]女は良人の肩を小突いた、「ねえ貴方、わたくし心配なことが出来たんですから」 「うう、う――なんだ、雷か」 「冬のまん中に雷なんぞ鳴りあしません、貴方ダチドコロって何だか御存じですか」 「それは、直ぐにとか、即座にとか云うことだろう」 「たちどころじゃありませんダチドコロですわ、今わたくし夢ではっきり見たんですの」いち[#「いち」に傍点]女は良人のほうへすり寄った、「それがいつもの夢知らせらしいんですけれども、そうだとするとわたくしダチドコロを生むらしいんですわ」 「変なことを云っちゃあいけない」孫太夫はさすがに眼をさました、「冗談じゃない、そんな奇天烈《きてれつ》なものを生まれて堪《たま》るものか、おれはそんなものは嬉しくないぞ」 「わたくしだって嬉しくはございませんわ、でも夢知らせなんですから、わたくしのせいじゃないんですもの仕方がございませんわ」 「まあいい寝かして呉れ、明日のことにしよう」 孫太夫は寝返りをうって、忽《たちま》ちまたぐっすりと眠りこんだ。しかしいち[#「いち」に傍点]女は眠れなかった、殆んど白々《しらじら》明けるまで思い悩み、どうぞそんな奇天烈なものを生みませんようにと、心をこめて神仏に祈りを捧《ささ》げたのであった。 宗兵衛の生れたとき、長いこと不和で往来《ゆきき》の絶えていた里見平左衛門が祝いに来た。平左衛門はいち[#「いち」に傍点]女の実家の二兄で、里見家へ養子にいったものであるが、いち[#「いち」に傍点]女とは幼い頃から仲が悪く、詰らないことで喧嘩《けんか》をして長らく音信を断っていたのである。この兄はくちやかましい饒舌漢であって、饒舌りだしたがさいご親が死んでも立たないと云う性質で有名だった。――出産祝いに来たのは五年ぶりくらいだろう、去年の夏に町奉行になったと聞いたが、みごとに肥えて貫禄《かんろく》がつき、顎髭《あごひげ》を立てていた。いち[#「いち」に傍点]女はその顔を見たとたんどきりとした。冗談ではない、それはあの摩利支天であった。夢知らせで大いに口論をした摩氏そのままの顔なのである。 「長男が五つ二男が三つこんど三男が生れたとすると正に七五三という勘定だな」平左衛門は片手で扇をばたばたさせ片手で汗を拭きながら饒舌った、「そうだとすると願掛けをしてもあと一人生まなければいけないぞ、七五三は幸運の数だが幸運すぎて凶に返る心配がある、昔から七五三の一といって、これにもう一つ付くと縁起は上乗《じょうじょう》だ、おまえも知っているように原の大伯母がよい例で、あの伯母殿がちょうど七五三の順で子を生んだ――」 「貴方いつ髭なんかお立てになったの」いち[#「いち」に傍点]女はまじまじと兄の顔を眺めた、「まえにはそんな妙な髭はなかったでしょう」 「髭か、これは去年の十一月からだ、町奉行だとすると威厳が必要だからな、おまえも覚えているだろう、辻町の親父が中老になったときやっぱり威厳をつくるために髭を立てた、あれは口髭だったけれども、とにかく然るべき役に就くとなるとそれぞれ肚構《はらがま》えというものが――」 平左衛門の饒舌を聞きながら、いち[#「いち」に傍点]女は思わず背筋が寒くなった。顎髭を立てたのが十一月とすると、ちょうどあの夢知らせのあった頃になる。あのときの口論にも辻町の父だの原の大伯母さまのことが出た、むやみに饒舌りまくる摩利支天、なにもかもそっくりではないか。彼女はたいへん不安になって、おずおずと兄にこう訊いた。 「里見のお兄さん、ダチドコロっていったいどんな物なんですか」 「ダチドコロ、――ふむ、ダチドコロね」平左衛門の饒舌は即座にどっちの方向へでも切替えることができる、「ああそれはね、ダチドコロとなるとしかし、そう簡単なもんじゃないぜ、いつのことだかおれも喰べた覚えがあるが」 「では喰べ物なんですか」 「いや女はすぐにそう物事を定《き》めてかかるからいけない、喰べることも出来るからと云って必ずしも喰べ物と定まっている訳のものじゃない、例えば熊を喰べ物とは云わんだろう、要するにあれは毛物《けもの》だ、けれども喰べようと思えば肉は喰べることが出来るし、胆《きも》は薬になる、毛物であって喰べ物であり薬でもある、此の世に存在する物は凡《すべ》て一概になになにであると定める訳にはいかない」 「ではダチドコロというのは毛物なんですか」 「ばかだね、熊の例を引いたからといってすぐにそれが毛物だというような浅薄なことがあるか、柳井数馬にもそう云ってやったが、いつか彼が――」 いち[#「いち」に傍点]女は眼をつむって頭を振った。兄は知らないのである、これ以上なにを聞いても無駄だということがわかったので、平左衛門には勝手に饒舌らせておいて眠ってしまった。 宗兵衛(幼名は小三郎とつけた)は三つの春まで口をきかない子だった。まるまると肥えた、いつもにこにこ笑っている温和《おとな》しい子だったが、ちょっとも口をきかないので唖《おし》ではないかと心配したくらいである。ところが三つの年の晩春、とつぜんべらべらとお饒舌りが始まった。初めはさして気にもとめず、唖ではなかったと安心して、寧《むし》ろその片言のお饒舌りを興がったくらいである。しかし四つになり五つになると孫太夫もいち[#「いち」に傍点]女も眉をひそめだした、饒舌るの饒舌らないの、朝起きるから夜眠りつくまで寸時も舌の休むひまがない、ものを喰べながらも絶えず饒舌っている。 「食事のときはものを云ってはいけない、黙って静かに喰べるものだ」 こう叱るといちおう口を噤《つぐ》むがすぐにまた始める。幼児のことだから別に話題がある訳ではない、身のまわりの事から家のなか、庭の内外、鳥毛物、天気晴雲、家族の動静、眼につき頭にうかぶものを次から次と舌に乗せるだけである。 父に叱られると母を捉《つか》まえて話し、長男に呶鳴られると二兄の部屋へとんでゆく、一日じゅうどこかで彼の声の聞えないことはないし、どこかで「うるさい」と叫ぶ声のしない時もない。みんなに追っ払われると使用人をうるさがらせ、彼等が逃げると庭へいって犬に饒舌るというふうだ。 「おい、夢知らせの意味がわかったよ」孫太夫は或る時つくづくと妻にこういった、「あいつをよくみろ、あれがダチドコロだ」 [#6字下げ]二[#「二」は中見出し] 彼は六つ七つとなるにしたがって図抜けた悪童振りを発揮しだした。近所の屋敷の子供たち、それもたいてい自分より年長の子を集めて、ちびのくせに餓鬼《がき》大将になって遊ぶ、竹馬とか蝉《せみ》捕りなどという尋常なものではない、車力《しゃりき》ごっこ、駕舁《かごか》きの真似(これがまた頗《すこぶ》るうまい)、犬と猫を一つ桶《おけ》の中へ入れて噛合《かみあわ》せたり、よその屋根へ登って雀の巣を荒したり、左官屋の泥こね、紙屑《かみくず》買い、魚屋の呼び売り、馬喰《ばくろう》、飴屋《あめや》、――こんな調子で、武家の子らしい遊びは殆んどやらない。これにはまず近所の親たちが仰天して、孫太夫のところへ捻込《ねじこ》みに来た。 「どうもおかしい、家の中で車力や馬喰の真似をする、母親をつかまえておっかあなどと申す、姉の大事にしている猫を逆さ磔刑《はりつけ》にする、そしてむやみやたらに饒舌る、こんな伜《せがれ》ではなかったがと色いろ調べてみると、すべてお宅の御三男が教えるのだ、――年上のくせに教えられて真似る伜も愚か者であるが、どうもこう風儀が悪くては躾《しつけ》に相成らん、どうかお宅でも宜しく御訓戒が願いたい」 孫太夫は赤面して謝り、眼から火の飛ぶほど叱ったり戒めたりする。そのときいかにも神妙にべそをかいて、「はい」「はい」と頷《うなず》くが、半刻《はんとき》も経つとどこかの屋敷の門へ登って、柿を※[#「てへん+宛」、第3水準1-84-80]《も》いでいるというのが実状である。そして夕餉《ゆうげ》のときみんなに語るのであった。 「栗山さんの小父さんはね、お屋根の上を駆けるのがずいぶん上手ですよ、顔をまっ赤にして、箒《ほうき》を持ってぴょんぴょん駆けるんですよ、猫よか早いですよ父さん」 「栗山が屋根の上を駆ける?」孫太夫は箸《はし》を止めて眼を瞠《みは》った、「ばかなことをいってはいけない、あの謹厳温厚な栗山がそんな狂人のようなまねをする訳があるか、嘘をいうと地獄へいって舌を抜かれるぞ」 「嘘じゃありませんよ、本当にまっ赤な顔をして箒を持ってぴょんぴょん駆けたんですから、離れの屋根へ跳び移るとき袴《はかま》の裾をどこかへひっかけて、びりびりってこんなに破いたのも見ましたよ、本当ですから」 「おまえが見ていたって、――どこで」 「――前のほうです」 「前とはどこの前だ、門の前か」 「いいえ、栗山さんの小父さんの前ですよ、小父さんは坊を追っかけていたんです――う」ちび[#「ちび」に傍点]は慌てて母のほうを見た、「お母さまこのお魚はなんですか、鯛ですか、とてもお美味《いし》いですね、坊はねえ鯛が大好きだ」 「小三郎こっちを見ろ」孫太夫は眼を剥《む》いて呶鳴った、「おまえというやつは、本当に、なんという、その」 彼は悄気《しょげ》かえり、べそをかき、「はい」「はい」といわれない先に頷《うなず》く、いかにも悪うございました、まったく慚愧《ざんき》に耐えませんという表情である。そして食事が終る頃にはもうけろりとして、「ねえお母さま、人は人の蔭口をいうものじゃないんですねえ」 などと云いだす。 「村田さんの小父さまはねえ、坊のお父さまやお母さまの悪口をいってましたよ」 「そんなことを子供がいってはなりません」 「だって本当ですもの、上村では両親が飴《あめ》ん棒みたいに甘いから、あの悪たれ[#「たれ」に傍点]がしたい放題のことをするんですって、しようがないからこんどはちび[#「ちび」に傍点]を捉まえて、こっちで折檻《せっかん》してやろうなんて云いましたよ、悪たれ[#「たれ」に傍点]だのちび[#「ちび」に傍点]だのってみんな坊のことなんですって、坊はただ垣根を――う」彼はすばやく立ち上る、「ああ眠くなっちゃった、坊もう寝ますよお母さま」 孫太夫が「小三郎」と喚いたときには、彼はもう廊下の向うを走っていた。……こんな場合に限らず、どこで見ても彼はたいてい駆けていた、もちろんなにか悪さをしては追っ駆けられているのである。いつか母親が辻町の角でばったり彼に出会った。埃《ほこり》だらけになって汗みずくで、はあはあ肩で息をしている。 「こんな処でなにをしておいでなの」いち[#「いち」に傍点]女は彼の腕を捉まえた、「まあまあこんなに泥だらけになって、小三郎さんまるで犬ころのようですよ」 「坊に口をきいちゃだめだよお母さま、いま追っ駆けられてるんですから」ちび[#「ちび」に傍点]は母親の手を振りはなした、「知らん顔をしていかなくちゃだめですよ」 そして鼬《いたち》のように向うへ馳《は》せ去った。いち[#「いち」に傍点]女は吃驚《びっくり》して云われたとおりそ知らぬ顔をして、急いで辻《つじ》をあらぬ方向ヘ曲ったものであった。――孫太夫にもいちど同じ経験がある。これは馬場下だったが、下城して来ると竹倉の脇から、彼が毬《まり》のようにとびだして来た。 「これ小三郎、なにをしておる」孫太夫は彼をひき留めた、「また悪戯か、この――」 「だめだお父さま、みつかっちゃった」ちび[#「ちび」に傍点]はこう叫んだ、「逃げるんですよ、早く、捉まるとお父さまもひどいめにあいますよ、早く早く、ほらもう来ましたよ」 そして飛礫《つぶて》のように走ってゆく、訳はわからないが孫太夫も狼狽《ろうばい》し、ちょっと迷ったが、すぐに小三郎とは反対のほうへてってと大急ぎで逃げだしたのであった。 彼が八歳になる頃まで、孫太夫といち[#「いち」に傍点]女とは辛抱づよく悪戯とお饒舌りを撓《た》め直そうと努めた。泣いて訓《さと》し、折檻し、頼み、脅した、しかし凡ては徒労であった。詰るところ彼は正真正銘のダチドコロであって、彼が彼である以上いかなる手段も効がないということに結着したのである。 ――小三郎が十歳になったとき、隣り屋敷の住人が変って溝口|主水《もんど》という人が越して来た。子供が三人あり、上の二人は男でもう大きかったが、いちばん末に離れて津留《つる》という六つになる娘がいた。眉と眼尻の下った、顔のまるい、眼に愛嬌《あいきょう》のある子で、初めて庭境の垣根のところで会ったとき、彼を見るなりにこっと笑いながら、「あたしつう[#「つう」に傍点]ちゃんよ」といった。彼はじろりと見て肩を竦《すく》め、鼻を鳴らしながら側にいった。そして彼女の頭から足の先まで眺めまわして「ふん」と顔をしか[#「しか」に傍点]めて見せた。彼女はやはり笑っていた。まるい頬の両側にえくぼ[#「えくぼ」に傍点]がある、小三郎はそれにつよく眼を惹《ひ》かれた。「女なんか嫌いだよ」彼はそのえくぼ[#「えくぼ」に傍点]を横眼で見ながらいった、「女なんかみんなお嫁にいっちゃうんだから、遊ばないよ」 「つう[#「つう」に傍点]ちゃんお嫁にいかないわ」こういってまたにこっと笑った、「――本当よ」 小三郎は「ふん」と鼻を鳴らし、つと手を伸ばして彼女のえくぼ[#「えくぼ」に傍点]を指で突いた。それがきつ過ぎたのか、それとも突然のことで驚いたのか、津留は怯《おび》えたようにわっと泣きだした。――小三郎はいち早く逃げてしまったが、それがきっかけになって間もなくひじょうな仲良しになった。津留はごく温和しい性質で、彼のすることならどんな事でも喜んで受容れた。もう悪戯をされても泣かないし、長ったらしいお饒舌りも興深そうに聞いて呉れる。そしてよく「つう[#「つう」に傍点]ちゃん大きくなったら小三郎さんのお嫁さんになるんだわ」というのであった。そんなとき彼は仔細《しさい》らしく彼女を眺めて、さもやむを得ないというふうに顔をしかめ、「ふん、なりたければおなりよ」などといったものであった。 小三郎は十七の年までに三度も養子にゆき、三度とも半年足らずで不縁になった、藩の学堂でも講武館でも抜群の成績をあげたのと、上村が千五百石の中老で人望家だったため、かなり諸方から注目された訳である。初めは波多野という家で、これは三月、次は黒部庄造、三度めは大番頭《おおばんがしら》の林|主馬《しゅめ》であった。どうして不縁になったかは記すまでもないだろうが、いちばん気の毒だったのは林主馬である。彼が養子にいって六月めに、頭をぐるぐる繃帯《ほうたい》して、ひどく悄気てやって来た。 「まことに相済まぬ次第ですが、助けると思って小三郎どのを引取って頂けまいか」 頭を繃帯しているうえに、「助けると思って」などというから、孫太夫は驚くよりも寧ろ狼狽してしまった。 「ひとすじ縄ではゆかぬ伜とお断わり申した筈ではあるが、いったいどのような不始末を致したのですか」 「いやいや格別のことではござ[#「ござ」に傍点]らぬ、不始末などは決してござらんので、ただ拙者も家内も耳をやられましてな、初めはがんがん鳴るくらいでしたが、しだいに熱をもち痛みだしまして、医者にみせたところなんとやら申す炎症で、このまま置いてはやがて聾《つんぼ》にもなりかねぬという診断でござった」 それが小三郎の饒舌のためとわかっては一言もない、すぐに手許《てもと》へ引取ったのであるが、これではもはや養子の望みもないと、上村夫妻は顔見合せて嘆息した。――ところがこの噂《うわさ》を聞いて里見平左衛門がやって来た、彼はその前年に一人息子を亡くしたので、自分が小三郎を貰おうというのである。孫太夫は辞退した、このうえ恥をかくのはまっぴらだからだ。 「いやその心配はない」平左は良心に賭けていった、「彼の饒舌や悪戯ぐらいわしの眼からすれば冗談くらいのものだ、またいちど貰い受ける以上いかなる事が起ころうとも引取って呉れなどとは申さぬ、これは天地神明に誓ってもいい」 夫婦は相談をした。そして小三郎は里見へ養子にゆくことに定まった。これは十七歳の秋のことであったが、彼もこんどこそ家へは帰らない決心をしたのだろう、去るまえに隣りの津留と庭で会った。――彼女は十三歳になっていたが、相変らず頬のまるい、愛嬌のある眼の、いつも微笑している温和しい子だった。 「こんどは里見へ養子にゆくんだよ」彼は津留のえくぼ[#「えくぼ」に傍点]を見ながらいった、「あの伯父さんは強情っぱりのお饒舌りで私を一生叱って暮すつもりらしい、いい気なものさ、どっちが勝つかは見ていればわかるよ、――それでね、つう[#「つう」に傍点]ちゃん、私が家督をするときには迎えに来るからね、それまでちゃんと待っていてお呉れよ」 「ええ待っていてよ」津留はあどけない眼で彼を見た、「でもそれはずいぶん長いの?」 「そんなにも長くはないさ、普通なくらいだよ、伯父さんを馴らしちまうまでだからね、きっとだぜ」 [#6字下げ]三[#「三」は中見出し] 良心に賭けて明言したにも拘らず、里見平左衛門は五十日そこそこでへた[#「へた」に傍点]ばった。平左が能弁の士であることは前に紹介した。従来いかなる場合にもその点でひけを取ったことはない、「なに小三郎ごときの饒舌が、――」こうせせら笑っていたのであるが、いざ一緒に住んでみるとそれが浅慮の至りだったということに気づいた。……まず親子の関係にしても、平左は里見へ養子に来てそのままおちついた、すなわち養父を一人持っただけだが、小三郎は三度も養子にいって戻り、こんどで四人めの養父を持つ訳であって、その経験と実績のひらきは小さくない。然も小三郎はその点をよく心得ているらしく、平左が怒ったりすると寛容な眼でなだめ労《いたわ》るように伯父を眺める。 ――ええよくわかりますよ伯父さん、世の中はままにならないものです、生きるということはたいへんなものですよ、まあお互いに辛抱してやってゆきましょう。 こんなふうにいうように思えるのであった。また次に饒舌の点でも、この甥は実に恐るべき敵であった。平左がなにか話し始めるとたん、彼はその話の鼻柱をひっ掴《つか》み、自分のほうへへし[#「へし」に傍点]曲げて奪い取る。例えば平左が馬の話を始めたとしよう。 「天下に名馬と伝えられるものも多いが」 こう話し始めると、小三郎はにやりともせずに、「名馬といえば今日あの大川の側で面白いものを見ましたよ、御家老の松室《まつむろ》さんとこにはち[#「はち」に傍点]という犬がいるでしょう、仔牛くらいもある大きいやつで、いつか松室さんとこへ狼《おおかみ》が鶏を取りに来たとき食殺したことがありますね、足なんかこんなに太くって、頭なんかこれくらいあるでしょうね、柳町をあの犬が通ると両側の家じゃあ棚の物ががたがた揺れるんです」 「ばかも休み休みいえ、犬が通ったくらいで人間の住居が揺れて堪るか」 「伯父さんは知らないんだ、柳町は埋立てで地面が柔らかいんですから、私も見たけれど慥《たし》かに棚の物が音を立ててましたよ、でも面白いのはそんな事じゃないんです、そのくらいのはち[#「はち」に傍点]がですね、今日あの大川の堤のところで通せんぼ[#「せんぼ」に傍点]に遭《あ》ったんです、誰が通せんぼ[#「せんぼ」に傍点]したかっていうと斧田さんのはな[#「はな」に傍点]なんですよ、知っているでしょう、こんなちっぽけな、猫の仔《こ》みたいなちびの牝犬《めすいぬ》です、あいつが堤の道のまん中にちょこんと坐ってるんです、こんな顔をしてちょこんと坐ってるだけなんです、はち[#「はち」に傍点]は急いでるようでしたよ、どこそこまで急いでいかなくちゃならない、時間がないので気が気じゃないというふうなんです、でもはな[#「はな」に傍点]は動かないんです、知らん顔でそっぽを向いたり、時どきははち[#「はち」に傍点]のほうを見て欠伸《あくび》をしたりする、そしてはち[#「はち」に傍点]がちょっとでも前へ出ようとすると、『だめよ! きゃん!』って叱りつける、きゃん! だめよ、通っちゃだめよって、……するとはち[#「はち」に傍点]はさも悲しい困ったというように、鼻の頭をしかめてくうんくうん[#「くうんくうん」に傍点]って泣くんですよ、とても面白かった」 「ふーん」 平左はついひきこまれる。 「そうすると犬でも人間でも男女の関係はおんなじことなんだな」そういってから、こんどこそ話題はこっちのものだと手を擦り、「おまえなどはまだわかるまいが、世の中はなにも強い者や利巧な者が勝つとは定っていない、譬《たと》えていえばあの法林院さまの御治世にだな」 「そうですとも伯父さん、世の中は強い者勝ちとは定まっちゃいませんよ、宮本武蔵が甲斐《かい》の山奥へいったときですね」 「待て待ておれはそんな剣術使いのことを話してるんじゃない、法林院さまの時に」 「法林院さまのことが出たからいうんですよ、あの殿さまはたいそう武術を御奨励なすったのでしょう、宮本武蔵は武芸の達人ですからね、それがなんと狸に化かされてさんざんなめ[#「め」に傍点]に遭ったんです、伯父さん甲斐のくにって知ってますか、甲斐の巨摩《こま》郡という処にですねえ」 そして綿々と饒舌が続くのである、平左は我慢して聞く、辛抱づよく待っている、話がひと区切りつく隙を待兼ねて、「いやその物語も面白いがな、おれの若いときに城山の後ろで石棺を掘り出したことがある」 こうやりだす、とたんに小三郎はその石棺をふんだくってしまう。 「石棺といえば伯父さん和田山から竜の骨が出たのを知っているでしょう、あのときは城下じゅうお祭りのような騒ぎでしたね、私は辻町のお祖父さんの家へ泊りにいってたんですけど、辻町の家の庭の泉水に――」 平左衛門は腕組みをして眼をつむる、そして口惜しまぎれにぐうぐう空鼾《からいびき》をかき始めるのであった。……平左は自分の相手がいかに強敵であるかを知った、その甥は年齢を超越して遙《はる》かに平左より世故《せこ》に長《た》け、敏捷《びんしょう》で、人心の機微に通じ、円転滑脱で、利巧で、明朗に狡猾《こうかつ》である。いかなる面からしても平左には歯が立たなかった。 ――たいへんなやつだ、とんでもない者を背負いこんだ。こう思って臍《ほぞ》を噛んだが、武士がいったん誓言した以上どうしたって上村へ戻す訳にはいかない、そうかといって一緒にいたんではこっちが身心耗弱してしまう、平左は苦しまぎれに計略をめぐらし、彼を元服させ宗兵衛と名乗らせたうえ、諸方に奔走して江戸詰のお役を貰うことに成功した。 「江戸には秀才がたくさんいる」平左は別れるときこう教訓を垂れた、「今日までのような思いあがった我儘《わがまま》な気持でいると辛いめに遭うぞ、宜しく謙虚|謙遜《けんそん》に身を持して、人にへりくだり饒舌を慎み」 小三郎の宗兵衛は膝《ひざ》へ手を置き、神妙に頭を下げていたが、やがてすうすう空鼾をかきだしたのである。平左はそれを尻眼に見ながら、勝利の快感に酔って滔々《とうとう》と教訓を垂続けた。 [#6字下げ]四[#「四」は中見出し] 宗兵衛は江戸へ出た。そしてそこに五年いた。この間には極めて複雑微妙な多くの経験をした、しかし物語の通例として、ここにはごく単純に紹介しなければならない。――まず島田右近という人物をお引合せしよう、これは宗兵衛より四つ年長で、家中随一の美男であり、才知すぐれたうえに謙譲で、主君|但馬守治成《たじまのかみはるしげ》の寵臣《ちょうしん》といわれている。父親は権兵衛といって、今は隠居しているが、家はずっと足軽組頭であった。右近はその一人息子である。足軽組頭の子が五百石の小姓組支配に出世し、なお主君の寵臣とまでいわれるようになったのだから、本来なら悪評も立つところだろうが、人をひきつける美貌と、謙遜で高ぶらない態度と、なによりも冴えた頭の良さとで、上からも下からも信頼されていたのである。 宗兵衛は太田良左衛門という目付役の家に預けられた。そして小姓組にあがるとすぐ、この右近と特に親しくなった。どこに眼をつけたのか、右近のほうから彼に近づき、頻《しき》りに引立てて呉れたし、色いろと家中の情勢に就いて教えて呉れた。 「私を兄弟だとお思いなさい」右近はそんなふうにいった、「人の前ではそうもいかないが、二人のときは支配などという遠慮はいりません、出来るだけのお世話をしますから、なにかのときは相談をして下さい」 「私はこんなことをいわれたのは初めてですよ」宗兵衛はにやりと笑った、「国では私はたいへん評判が悪いんです、五つぐらいのときからあの悪たれ[#「たれ」に傍点]と遊ぶなっていわれたもんです、私の姿を見るといきなり怒るんですからね、まだなんにもしませんよっていうでしょう、するとまだしなくってもいまにする積りだろうって呶鳴るんです、やりきれやしない、子供が泣けばすぐ私のせいです、また上村の悪童かっていう訳です、――じゃあ兄弟だと思っていいんですね、ふうん、本当ですねそれは」 「本当ですとも」右近は微笑した、「国の御両親へ手紙でそう書いておやりになってもいいですよ、これこれの者が兄弟のように面倒をみて呉れるってですね」 「――そうしましょう」宗兵衛はちらと右近を眼尻で見た、「但し面倒をみて貰ってからですよ」 以上の会話は両者の将来を暗示する重要なものであった。そのとき右近が彼のなかに自分の「強敵」を発見したことは慥《たし》からしい、そしていかなる犠牲を払っても味方に付けなければならぬと思ったようだ。――少し経ってから右近は家中に二派の対立があり、長年にわたって執拗《しつよう》に勢力争いをしているから、その渦中に巻込まれないようにと教えた。 「派閥の一方は御側用人の原田善兵衛どの、片方は御家老の浪江仲斎どの一派、国許《くにもと》はだいたい御家老派だし、そこもとの寄宿している太田良左衛門どのも浪江どの腹心でいらっしゃる、両派の主立った名をあげると」こういって右近はそれぞれ七八人ずつ名を告げた、「――そういう訳ですから、これらの人々とはなるべく深い交わりはしないようになさい」 「島田さんはどっちなんです」 「私はお上おひとりに御奉公するだけです、党派に拠って勢力を得ようなどとは思わない、そこもともここをよく考えないといけませんよ」 御殿へ上って三十日ほど経つと、ようやく御前の勤めをするようになった。これも右近の特別な計らいで、普通だと少なくとも一年はかかるのである。このときも右近は懇切に勤めの心得を説き聞かせた。 「格別むずかしい事はないが、殿には憂鬱症の痼疾《こしつ》があって、やかましい事うるさい事がなによりお嫌いです、無言、静粛、謹慎、これが絶対の戒律だからそのお積りで」だがそっと肩を叩いてこう付加えた、「けれども万一ご機嫌を損ずるようなことがあったらそうお云いなさい、私がどうにでもしてお執成《とりなし》をしてあげます、わかりましたね」 御前には彼のほかに三人詰めていた。成沢兵馬、松井金之助、友田大二郎という、――なるほど右近のいうとおりかれらは無言、静粛、謹慎であった。初めての日は殿さまは書物を読んでいらしったが、三人は糊付《のりづ》けにしたように硬ばった顔で、木像のようにきちんと端坐していた。――前の日お目見得をして、三人にもそれぞれ紹介されている。暫く黙って坐っていたが、口がむずむずし始め、舌が痒《かゆ》くなって来た。彼はふと振返っていった。 「おい成沢、おまえお国へいったことがあるか」 大きな声である。三人はびくりとしたが、成沢は返辞もしないし、こっちを見もしなかった。 「松井はいったことがあるかい、友田は、――みんないったことはないんだね、それじゃお城も知らないし大川も日和山も知らないだろう」 成沢兵馬が「えへん」と咳《せき》をした。それから眼尻でこっちをぐっと睨んだ。宗兵衛はしまったというように首を竦《すく》めながら、すばやく上座のほうを見た。但馬守がこっちを見ていた。――治成は五十一歳で、髪毛《かみ》の半分白くなった、固肥りの、癇《かん》の強そうな老人である、なかでも眼にたいそう威力があって、睨まれると五躰が竦むといわれていた。 「御免下さい殿さま」宗兵衛は治成のほうへこういった、「お邪魔をして悪うございました、みんながお国の事を知らないらしいので、御奉公をしながら御本城の土地を知らなくては心細いだろうと思って話してやろうと思ったんです、殿さまは御存じですか」 三人は仰天し、中でも成沢兵馬は眼を剥《む》きながら宗兵衛の膝を突ついた。――治成は眉をひそめた。そしてこの恐れげもない少年をぐっと睨んだ。 「知っていたらどうする」 「本当に御存じなんですか」彼は疑わしそうにこういった、「御存じだとすると私は少し困ることになるんですが、なぜかといえばですね、通町の駕源《かごげん》……駕屋の源助の店でもいっているし、馬喰の竹造のところでも、そのほか方々でいっているんですけど、――こんなことをいってもいいでしょうか、殿さまはすぐお怒りになりますか、怒りっぽいとすると云わないほうがいいと思うんです」 「そう思ったら黙れ」治成は口をへの字なりにした、「勤め中は饒舌るな」 宗兵衛は黙った。治成は「なんという奴だ」と口の内で呟《つぶや》きながら、ふたたび書物に眼を向けた。――暫くすると宗兵衛が大きな欠伸をした。「あああ」と声をあげ、両肱《りょうひじ》を張って公然とやってのけた。三人はまた仰天したが、治成は書物を見たまま聞かない振りをしていた。――宗兵衛は膝をもじもじさせたり、手で顔を撫《な》でたりしていたが、ふとなにか思いだしたというように振返った。 「おい成沢、おまえ御家老の組か、それとも御側用人の組か――両方は仲が悪いんだってなあ、御家老の……ああいけないまた饒舌っちゃった」 彼は上座のほうへ叩頭《おじぎ》した。 「殿さま御免下さい、ついまた口をきいてしまいましたけれどお邪魔になりましたでしょうか」 治成はぱたりと書物を閉じ、とびだしそうな眼でこっちを睨んだが、憤然と立ち、黙ってさっさと奥へいってしまった。――するとそれを見送っていた成沢兵馬が、顔をまっ赤にして立ち上り、「おい里見、ちょっとお庭まで来い」といった。友田と松井が左右を塞《ふさ》ぐ、宗兵衛はにこっと笑って、いわれるままに廊下へ出ていった。――詰所の脇から御殿の裏庭へ出る、厩《うまや》をまわって櫟《くぬぎ》林の処まで来ると、成沢が振返って拳《こぶし》を握った。 「貴様さっきおい成沢といったな、おい成沢とはなんだ」 「気に障ったら勘弁して呉れよ」宗兵衛はにこっと笑った、「おれはみんなと轡《くつわ》を並べて御奉公する積りなんだ、御前の御奉公は戦場御馬前と同じだから、みんなとは生死を共にする戦友だと思うんだ、成沢さんだの成沢うじだのって他人行儀なことをいっては済まないと思ったんだよ、国じゃあ誰とでもそう呼び合っていたしそうするほうが早く親しくもなるからさ、でもおまえが気に障るなら」 「黙れ」こう喚きざま兵馬は拳骨《げんこつ》でいきなり殴りつけた、「おれは貴様などにおまえと呼ばれるいわれはないぞ」 力いっぱい殴られて宗兵衛の頭がぐらりと揺れた。彼は眼を瞠った。生れて初めて人に殴られたのである、あっけにとられて、大きな眼でじっと兵馬をみつめていたが、やがて振返って松井と友田を見た。 「成沢とおれだけで話したいんだ、済まないが二人はちょっと向うへいっていて呉れないか、すぐ済むからね」 二人は兵馬を見た、兵馬が頷《うなず》いたので、二人は厩のほうへ去った。――宗兵衛はかれらが見えなくなると、櫟林の方へ兵馬を促していって、静かに相対して立った。 「おい、成沢」彼は低い声でこういった、「おまえその眼は見えるのか、――おまえの頭の両側にくっ付いている耳は聞えないのか」 「この土百姓、おれの腰には刀があるぞ」 「拳骨のつぎは刀か、たわけ者、底抜けの頓知奇《とんちき》、明き盲人《めくら》でかなつんぼで馬鹿とくりゃあ世話あねえ、そんな阿呆《あほう》がお側に付いているから家中が揉《も》めるんだ、やってみろ、憚《はばか》りながらこっちは摩利支天のダチドコロだ、そんな青瓢箪《あおびょうたん》の芋虫野郎とは出来が違わあ、ざまあみろ」 兵馬はとびかかった。宗兵衛は風のように身を躱《かわ》した。そして二人は櫟林の中へ眼にもとまらぬ早さでとび込んでいった。 それから約三十分、櫟林の向うの草地に、二人はへたばったまま話をしていた。着物も袴も引裂けたうえに泥まみれである、髪毛はばらばらだし、どっちも眼のまわりを紫色に腫《は》らし、額や頭に瘤《こぶ》をだしていた。――兵馬は土を噛んだとみえ、頻《しき》りに唾を吐きながら、「うん、うん」と頷く。宗兵衛はもげた袖を肩へ捲《まく》りあげ捲りあげ話し続けた。 「大人はだめだ、みんなふやけ[#「ふやけ」に傍点]ちゃってる、島田右近なんかを有能な人間と思うなんてばかばかしい、あいつは骨の髄からのまやかし者だぞ」 「貴様はたいへんな奴だ」兵馬がいった、「来て百日も経たないのに、おれが十年見ていたことを見てしまった、その勘が慥かなものなら話したいことがある」 「おまえはそういう眼をしていたよ兵馬」宗兵衛はにこっと笑った、「おれは国許でもそう思ったが江戸へ来てからもそう思った、大人はすっかり腐っている、こいつはおれたちがなんとかしなくっちゃいけないってさ、――そしておまえの顔に同じことが書いてあるのをみつけたんだよ、成沢の年は幾つだ」 「貴様より二つ上の十九だ」 「年だけのことはありそうだ、今夜おまえの処へゆくぞ」 [#6字下げ]五[#「五」は中見出し] 成沢兵馬とどのような相談をしたかはわからないが、宗兵衛の饒舌は相変らずであった。但馬守治成は好んで書を読む、憂鬱症であるかどうか知らないが、書物を読むこと以外になにごとも興味がならしい。政治にも殆んど無関心で、常には側用人にも家老にも会うことがなく、必要な場合はたいてい島田右近の取次ぎで済ませる、そしてただ書物を読み暮しているのである。――従って侍《じ》している小姓たちは沈黙静粛を守るのが定まりであったが、宗兵衛は初めの日以来その定まりを少しも守らなかった。治成に睨まれると恐れ入ってあやまる、だがその舌の乾かぬうちにすぐまた始めるのであった。治成が怒って「出ておれ」というと廊下へ出てゆくが、そこでまた独りでお饒舌りをやりだす。 「人間はどうして大人になるとああぼけてしまうんだろう、瀬戸物の卵を蛇が呑むなんて、呑んじまってから吃驚して、尻尾のほうから石垣の穴へ逆に入るなんて」こんなことを大きな声でいうのである、「――すると腹の中で卵がこか[#「こか」に傍点]れてしまいに口から転がり出るなんて、内野のおびんずる[#「おびんずる」に傍点]までがいい年をして本気にしてるんだから厭《いや》んなっちまう」 治成が「えへん」と咳をした。警告の積りである、ところが宗兵衛は「はい」と答えてずんずん戻って来る、そして平気でこう治成に問いかけるのであった。 「殿さま、牝鶏に瀬戸物で作った卵を抱かせるのを御存じですか、産んだ卵を取上げてばかりいると牝鶏が卵を抱かなくなるのですって、それで擬《まが》いの卵を抱かせるっていうんです、瀬戸物で作って本当の卵そっくりに出来ているんです、それを蛇が間違えるっていうんですけれど御存じですか」 治成は眼をあげてぎろりと睨み、もういちど「えへん」と咳ばらいする、だが、宗兵衛はけろりとした顔で続けた。 「蛇は本当の卵と間違えてそいつを呑んじまうんだそうです、呑んじまってから瀬戸物だということに気がつく、すると蛇はずるずる石垣のほうへ這《は》っていって、小さな穴をみつけて、尻尾の尖《さき》から段々に入ってゆくのですって、そうすれば腹の中の瀬戸物の卵はしぜんとこき[#「こき」に傍点]出されて、口からぴょこんと転げ出す、こんな話を大人がよくするんです、内野のおびんずる[#「おびんずる」に傍点]も秋山の猿面《さるめん》もそういいました、――実に虫けらなどと申しても蛇などの知恵にはほとほと感じ入るなんて、おびんずる[#「おびんずる」に傍点]なんか酒を飲むたびにきまってこの話をするんですけど、大人ってまったく理屈のわからない頭の悪いんだと思います」 「その話のどこが可笑《おか》しいのだ」治成がひょいとつり込まれた、「余も聞いたことがあるが、どうして無理屈だというのだ」 「あれっ」宗兵衛は眼を瞠る、「殿さまも本当にしていらっしゃるんですか、へえ――驚いた、そんなに本を読んでいらっしゃって馬鹿げた話をお信じなさるんですか、――では伺いますけれど、蛇は卵を捜しに来るんでしょうか、喰べ物を捜しに来るんでしょうか、あの長い舌でぺろぺろと触ったとき、本当の卵か瀬戸物かがわからないでしょうか、おまけにですね殿さま、蛇の鱗《うろこ》は頭から尻尾のほうへ重なっているんで、躯をしごくような小さな穴へ逆に入れば、鱗が逆にこか[#「こか」に傍点]れて死んじまいますよ、そんなことも御存じないんでしょうか」 「口が過ぎるぞ宗兵衛、黙れ」 宗兵衛は黙る、しかし口の中でかなりはっきりと呟く。 「おれが黙ったって嘘が本当になりやしない、人間にはお毒見役やらお味見なんかいるから、騙されて毒を盛られたり腐った物を食わされて知らずにいるんだ、蛇には毒見も味見もいない代りに、偽か本物かをちゃんと見分ける知恵がある、へっ、なっちゃねえや」 声が高いからかなりはっきり聞えた。――治成は怒った、書物をぱたりと閉じ、さっと顔を赤くしながら片膝を立て、左手はすぐ脇の刀を掴んでいた。本気で斬る積りだったか、単に習性からきた動作かわからないが、とにかく刀を掴んだことは慥かである。松井、友田、成沢の三人は蒼《あお》くなった、しかし治成は刀から手を放し、立ち上って大股《おおまた》に奥へ去ってしまった。 御前お構いになるかと思ったが、その沙汰もなく、寧ろそれからは宗兵衛の饒舌を幾らか進んでお聞きなさるようになったからふしぎである。――だが宗兵衛はただ御前でお饒舌りをするだけではなかった。暇さえあると何処《どこ》へでも出張して饒舌った、どの役部屋へもずんずん入ってゆく、躯が小柄なうえに愛嬌《あいきょう》のある顔で、天真爛漫に話しかけられるからたいていの者がすぐまるめこまれてしまう。 「ええついこのあいだ国許から来たんです、悪戯がひどいからって追っ払われて来たんですけど、このうちでもすぐ追っ払われるだろうと思ってるんです、――向うにいる肥った人は誰ですか、へえ、あれが勘定奉行ですって、……へえ、全部そうですか」 「全部って、なにが全部だ」 「だってずいぶん肥ってずいぶん巨きいじゃありませんか、あれだけすっかりこみ[#「こみ」に傍点]で勘定奉行だとすると勿体ないみたいですねえ」 この勘定奉行には後に拳骨を一つ貰ったが、その代りひどく好かれて、ゆきさえすれば茶と菓子を取って置いて呉れるようになった。――こんな調子で大目付へも納戸役へも、老職や寄合の溜りへも、奉行役所へも馬廻りへもすっかり顔を売ってしまった。到る処の人たちと親しくなり、到る処へ自由に出入りをする、そして御殿じゅう(奥を別にして)彼の姿の見えない場所はないという程になった。 島田右近はよく彼を諸方へ伴れて出た。よほど宗兵衛をみこんだのだろう、柳橋あたりの旗亭《きてい》だの、深川の芸妓だの、新吉原だの歌舞伎だのという、公然とはいきにくい処へ伴れてゆく、例のいやに丁寧な言葉使いで、「世間を知るにはこういう経験がいちばんです、しかしこれは二人だけの内証ですよ」などといいながら、そして女たちには「私の弟分だから大切にたのむ」こういって引合せた。――右近は何処でもたいへん歓迎され大事にされた。よっぽどのいい客なんだろう、自然こっちも女たちがうるさくちやほやする。普通なら大いに衒《て》れる年頃だが、そんな場所でも彼は平気の平左であった。右近が女の一人とどこかよその座敷へゆき、彼だけ女たちの中に残されても、例のお饒舌りでたいてい彼女らを煙に巻いてしまう。 「そんな偉そうなませたことを仰しゃったって、宗さまはまだ女の肌も御存じないんでしょ」 「ばかだね、おれの国は早く嫁を貰うんで有名じゃないか、おれは少しおくて[#「おくて」に傍点]だから遅かったけど、それでも去年もう結婚して、この夏には子が生れてるよ、御用人の原田さん、――知ってるだろう原田善兵衛さんさ」 女たちは黙ってちら[#「ちら」に傍点]と眼を見交《みか》わす。 「なんで変な眼つきをするんだ、おれはみんな知ってるんだよ、御家老の浪江さんだって来るじゃないか」宗兵衛の眼がすばやく女たちの表情を見て取る、「――御用人は十四で結婚したし浪江のおやじも慥か十五で子持ちになった筈だ、みんな聞いたことないかい」 「あら嘘だわ、なあ[#「なあ」に傍点]様はお子が無くって御養子だって伺ってますよ、ねえ」 「だからさ、ばかだね、十五でもう養子を貰うほど早婚なんじゃないか」平然たるものだ、「島田の兄貴はあんな人間だから、初めは御家老のたいへんなお気に入りでね、初めはあれが養子に貰われようとしたのさ、ところがちょっとへま[#「へま」に傍点]をしたんでね、この頃は原田さんとばかり遊びに来るだろう――」 「あら厭だ、今だってなあ[#「なあ」に傍点]様はたいへんな御信用だわ、はあ[#「はあ」に傍点]様もなあ[#「なあ」に傍点]様も、お二人ともまるで手玉に取られてるかたちよ、ねえ」 「しい[#「しい」に傍点]さんときたら凄腕《すごうで》だからね」余り縹緻《きりょう》のよくない女が口を入れた、「この土地だけでも五人はもう泣かされてるし、こんどは駒弥さんでしょ、そのうえ代地河岸《だいちがし》なんぞへは素人衆の娘さんを伴れ込むっていうんだから」 「ああそれは相庄《あいしょう》とかいう御用達の……」 「ばかねえおまえさんたち」年増の一人が慌てて手を振った、「そんなにお客さまの蔭口をべらべら饒舌るってことがありますか、自分に関けいのないことは黙ってるのよ」 こんなことは二度や三度ではない、宗兵衛はその神技ともいうべき舌わざ[#「わざ」に傍点]で、ずいぶん多くの秘事《ひめごと》をさりげなく聞き出したものであった。――家老と用人との対立抗争は、但馬守の無為閉居に依って近来|頓《とみ》に烈しくなり、或る点では政治の運用を妨げる状態さえ現われていた。政治を行うべき人間が政治を忘れ、己が権力の拡充に専念するようになっては国は成り立ってゆかない。それは現に藩の財政に表われてきた、士風も頽廃《たいはい》に傾いている、そして国許領民の生活がしだいに苦しくなりつつあるのを、宗兵衛はその眼で見、耳に聞いて来たのである。 「おい面白いぞ成沢」宗兵衛は兵馬の家を訪ねて笑いながらいった、「大きな腫物《できもの》をね、藪医者《やぶいしゃ》が集まって眺めてるんだ、その患者をどうして自分のものにするか思案投げ首でね、腫物を治す方法は知りあしない、一人が頭を冷やせといえば片方は腹へ温石《おんじゃく》を当てろという、しかもそういいながら温石を当てもせず冷やしもしないで、ひたすら患者を自分のものにすることばかり考えている」 「詰らない譬《たと》え話はたくさんだ、おれも話したいことがあるが、そっちもなにか用があって来たんだろう」 「島田右近を追っ払うんだ、あいつを江戸から追い出せばあとの始末が楽になる、あいつにとっても誘惑の多い江戸より田舎のほうが身のためさ」 「それと藪医者となんの関係があるんだ」 「おまえの口とその不恰好な鼻とは関係がないか」宗兵衛はもう立ち上っていた、「暢《のん》びりしたことをいうなよ兵馬、おまえ二十《はたち》になってからだいぶ大人の愚鈍が出はじめたぞ」 「貴様も十八になって口が悪くなった、おれがいいたいのはこうだ、右近がもし藪医者共と重要な関係があるとしたら、おれが国詰にならないまえに追い出して貰いたい」 「おまえが国詰になるって――」 宗兵衛はまた坐った。 「貴様がいつか御前でいったろう、御奉公をするのにお国許のことを知らなくて不便ではないかって、――あれが右近から年寄たちに聞えて、今年から五人ずつ選ばれて国詰をすることになったんだ」 [#6字下げ]六[#「六」は中見出し] 「選ばれたのは誰と誰だ、そして国には何年いるんだ」 「小姓組ではおれと松井、馬廻りから林大助、書院番から石河忠弥と村上藤五郎という顔触れで、いつか話したとおり右近に睨まれている者ばかりだ、任期は三年と聞いている」 「ふむ――」宗兵衛は珍しく眉をひそめた、「やっぱり右近のほうが賢いな、あいつは馬鹿じゃない、ふん、……仕方がない国へゆくんだよ兵馬、いい経験になるぜ」 「それで後をどうするんだ、おれたち五人いっちまったらもう誰もいやしないぜ」 「腫物の切開ぐらいおれ一人でたくさんだ、どうせ右近の奴は国へ追っ払うが、あっちへいってからも決して油断はならない、そこをおまえに頼もうじゃないか、こっちは引受けたよ」 二月になると成沢兵馬はじめ五人の者は国許へ立っていった。それより少しまえに但馬守の意志で宗兵衛は昌平坂学問所へ入学し、また柳生の道場へ入門した。それで御前勤めは三日に一度ずつとなったが、治成の彼に対する態度は眼立って親しさを増していった。 「学問所や道場の友人には気をつけぬといかんぞ」治成は或るときこういった、「江戸には色いろと風儀の悪いところがあって、うっかり染まると身を誤ることになる、人に誘われてもさような場所へは決していってはならぬ」 「そんな処へ誘う者はまだいません」宗兵衛は明朗な眼つきで答える、「けれども内証でなら、もうずいぶん度々いったことがあります」 「内証ならと、――いったいどういう意味だ」 「誰にもいってはいけないんです、島田さんがそう念を押しました、これはおれとおまえだけの内証なんだ、誰にもいってはいけないぞっていいました、そして柳橋の茶屋だの深川の芸妓だの、新吉原の遊女だの色いろと案内してくれたんです、殿さまも御存じですか」 治成は眼を瞠った。宗兵衛の平気な顔と、話の内容の意外さとに戸惑いをした感じである。だが宗兵衛はそ知らぬ態でぺらぺらと饒舌り続けた。 「深川では尾花家というのへよくゆきました、島田さんが大事にされることはたいへんなものです、女たちの話ではもう五人も泣かせていて、こんどは駒弥という女が泣かされる番だっていってました、島田さんは凄腕だから、泣かされると承知でみんな迷うんだって話していました」宗兵衛はにこっと笑う、「それからこれも内証ですけど、新吉原の中万字楼という家にたいそう島田さんにおっこち[#「おっこち」に傍点]の女があるそうです、おっこち[#「おっこち」に傍点]とは熱々《あつあつ》のことだっていいますが私は訳は知りません、その女は勤めの身だけど島田さんのためならどんな達引《たてひき》もしてくれて、おまはんのためなら命もいりいせんよう、捨てなさんしたら化けて出えすによう、なんていって塩豆を食うそうです、――でもこれはみんな内証だそうですから」 治成はぐっと眼を怒らせた。 「それはみんな、そのほうが右近と一緒にいって見聞きしたことか」 「ええそうです、島田さんは私にもっと面白い処を案内してやると約束してくれました、その代りお互い兄弟同様にして、善い事も悪い事も助け合ってゆこうという訳ですけれど、――でもこれも内証だそうですから」 治成は「やめろ」といって座を立った。そして宗兵衛を上からじっと眺めていた、彼の饒舌が虚心のものであるか、それともなにか含んでいるかを見極めるように、それから低い声でこういった。 「右近は内証だと申したのだな、人に話しては困ると申したのだな」 「そうです、そういって、幾たびも念を押しました」 「それならどうして饒舌るのだ、内証だと口止めをされたら、どんな事があろうとも黙っているのが武士の嗜《たしな》みではないか」 「はあ、そうでしょうか――」宗兵衛はけげんそうに治成を見上げた、「でも殿さま、私をそういう場所へ伴れていったり、そんな話をしてくれたのは島田さんですけど」 「さればこそ内密だと念を押したのであろうが」 「そうなんです、はあ、――」宗兵衛はなおけげんそうに治成を見た、「ですから、私が話したって構わないと思うんですけど」 「妙なことを申すな、だから構わないとはどういう訳だ」 「だって殿さま、人には黙っていろ内証だぞっていう島田さん当人でさえ内証にして置けないくらいなんですから、そのくらい面白いんですから、別に迷惑もなんにもしない私が饒舌りたくなるのは、当りまえじゃないでしょうか」 そして明朗な眼つきでにこっと笑った。治成は口をあいた、真向《まっこう》から面を叩かれたような顔つきである。なにかいおうとして「き」というような音声を二度ばかり漏らしたが、そのまま踵《きびす》を返して奥へ去ってしまった。――十日ばかり経って島田右近は国詰を命ぜられた。治成が色いろ調べた結果、宗兵衛の話が事実であり、なお不始末の数かずがあらわれたもののようであった。治成が右近を呼び、人払いをして烈しく叱咤《しった》するのを、宗兵衛は蔭にいて聞いた。それはいつも沈鬱な治成に似合わない烈しい火のような調子であった。 「人の信頼を裏切るのは人間として最も陋劣《ろうれつ》なことだぞ」とか、「恥じて死なぬか」とか、「黙れ、まだ云いのがれを申すか」などというのが聞えた。右近はやがて泣きだしたらしい、そして哀切に長ながと懺悔《ざんげ》をするようすだった、綿々たる哀調と啜《すす》り泣きの声が宗兵衛でさえ哀れを催すほど長ながと続いた。治成は怒りの声を柔らげた。「国へゆけ、いちどだけ機会を与えてやる、やり直してみろ」こういうのが聞えた。そして右近はまた激しく泣いたのである。 島田右近が国詰になったことは、江戸邸のあらゆる人々を驚かせた。治成は別に不始末の罪を挙げはしなかった、否、国詰ではあるが町奉行という職を命じたので、寧ろ栄転でさえあったのだが、それでも側用人以上の実権を持っていた位置と、較べるもののない君寵から放された事実は明らかに「失脚」であることを掩《おお》えなかった。――主君側近の情勢が変ったのである。あれほど寵の篤かった右近が逐われた、彼に代るのは何者であろう。凡ての人々の注意がそこに集まったのである。 浪江仲斎も原田善兵衛も、この折とばかり主君に近づこうとした。しかし治成は定日にほんの形式だけ政務を見るだけで、誰をも寄付けようとしなかった。――国へ遣られた成沢と松井の代りに二人の小姓が挙げられたが、最も側近く仕えるのは宗兵衛ひとりである。そしてこの頃では閉居することが少なくなり、的場へ出て弓を引いたり、番たび馬をせめたりする、そして宗兵衛を伴れて朝に夕に奥庭を歩くようになった。……宗兵衛のお饒舌りは相変らずであるが、どうやら今はそれが面白いらしく、一方では叱りながら、時には声をだして笑うことも珍しくなくなった。家中の人々はこの変り方に驚くと共に、それが宗兵衛のためであり、右近に代る者が彼だということを明らかに認めた。 ――主君の寵は宗兵衛に移った。 原田善兵衛も浪江仲斎もそう見て取り、すぐさま宗兵衛の抱き込みにかかった。宗兵衛はどちらの招きにも応じ、どちらとも親しくなった。しばしば会い、熟《と》く語ってみると、年に似合わぬ宗兵衛の才知がわかる。仲斎は「こいつ大した人間だ」と舌を巻き、善兵衛は「これこそ味方の柱石になる」と惚《ほ》れ込んだ。両者は互いに彼を腹心の人間にしようと努め、いずれも自派の秘密や策動をうちあけ、また参画させた。 「御家を万代の安きに置くには、暗愚に在《おわ》す弥太郎君を排し、御二男ながら英生の資ある亀之助君を世子に立てねばならぬ」浪江仲斎はこういった、「折ある毎にその旨を殿へ言上《ごんじょう》して貰いたい」 「御家老一派は御二男を世子に直そうとするようだが、これは順逆に戻《もと》る大悪である」原田善兵衛はこういきまいた、「いかにも弥太郎君は些《いささ》かお知恵が鈍く在すようであるが、その代り御壮健で御子孫御繁栄には申し分がない、また藩には執政職があるから、主君は寧ろ暗愚の方のほうが無事である」 これを突詰めると仲斎は亀之助、原田派は弥太郎、おのおの擁立する世子に拠って、己が権勢を張ろうとしているのである。そして各自の党勢を拡充するために、鎬《しのぎ》を削って買収し周旋し籠絡《ろうらく》に努めている訳だ。――宗兵衛は両派の内情や、策謀、秘略に詳しく通ずるようになると、巧みに機を掴んで活動し始めた。といっても別に大した事ではない、ただ片方の秘密を片方へ饒舌るだけである。 「原田さんは柳橋になんとかいう女の人を囲って置く家があるそうですね」彼は原田善兵衛に向ってこういう、「その女の人はお侠《きゃん》で面白いんですってね、浪江さんのほうで少しお金を遣ってなにしたら、その柳橋の人は原田さんの事をべらべらすっかり話してくれたっていっていますよ、御存じですか、なんでも深川のほうの事までわかっちまったらしいですよ」 また浪江仲斎に向ってもこう語る。 「岸本孫太夫という人がいますね、あの人はたいそう賢いですね、御家老にも引立てて貰ってるし、原田さんにも特別ひいき[#「ひいき」に傍点]にされているらしいんです、御家老はあの人になにか書いた物をお預けになったでしょう、あの人はすぐにその写しを拵《こしら》えて、原田さんとこへ持っていって、そしてかなりたくさんお礼を貰ったそうですよ」 こんな風に始めたのである。明朗な顔をして、あけすけにずばずばと饒舌る。どんな重大な秘密でも、お構いなしだ。こっちの事をあっちへ、あっちの事をこっちへ。――これは明らかに不信であり裏切りであり内通であって、しかも必ず暴露すべき性質のものである。さよう、やがて総ての明らさまになるときが来た、城中の黒書院で原田善兵衛と浪江仲斎とが正面衝突をしたのである。 [#6字下げ]七[#「七」は中見出し] 原因はごく些細なことであった。喧嘩とか戦争などというものは必ず些細な事から始まる、仲斎が老人だけに嵩《かさ》にかかって云い募《つの》り善兵衛がこれに応じた。綿に包んだ針のような言葉が、釘《くぎ》となり槍となり火を発して、ついに互いの密謀摘発に及んだ。 「お手前がそれをいうならわしも申そう」仲斎は鼻の頭に汗をかきだした、「きれいな顔をして洒落《しゃれ》れたことをいわれるが、お手前は邸の外に卑しき女を囲い、しばしば徒党と密会してあらぬ企みをめぐらせておるではないか」 「はっはっは」善兵衛は蒼くなった、「人の事を曝《あば》くまえに御自分の乱行をお隠しなされたらようござろう、深川|櫓下《やぐらした》などの茶屋へ出入りをし、若い芸妓にうつつをぬかしておられるは何人でござろうか」 「わしが一度や二度なにしたからといってなんだ、そこもとは岸本孫太夫などを手先に使って、岡っ引かなんぞのように人のふところを探り、陰謀の種にしようとしたではないか」 「岸本を手先に使ったのは御家老でござろう、彼奴《きゃつ》めぬけぬけと味方顔をして、有る事ない事そちらへ通謀してまいった、拙者が手先に使ったなどとは真赤な嘘でござる、また陰謀のなんのと申されるが、御家老とそ一味を語らい、御正嫡を廃して御二男を直し奉ろうなどと」 「なに、なに、誰がさような根もなきことを」 「これが根もなきことなら、拙者に対する御家老のお言葉はまったくの虚言でござる」 「ばかなことを申せ、こっちにはちゃんと証人がおる」 「証人ならこっちにもおりますぞ、ひとつその人間に会わせて頂きますかな」 「なんでもないすぐに此処《ここ》へ呼んでみせる、しかしお手前の証人も呼ぶことができるだろうな」 「ぞうさもござらぬ、これ――」 善兵衛が振返って人を呼ぶと、「はい」と答えて里見宗兵衛が出て来た。これまでの問答を聞いていたのだろう、しかし少しも恐れるようすがなく、にこにこしながら入って来て、二人の中間へ坐った。 「これ宗兵衛」 「これ宗兵衛」 仲斎と善兵衛が同時にいった。そして吃驚して互いに顔を見合せ、すぐに振返ってまた一緒に、「そのほう拙者に申したことを」と同音にいいかけ、また吃驚し、次に怒って、「お黙りなされこれは拙者の証《あかし》でござる」 「黙らっしゃいこれはわしの証人じゃ」 互いに叫んで、それから「あっ」と、これも同音に声をあげた。二人はようやく了解したのである、どっちにとっても宗兵衛が証人であった、即ち宗兵衛に依って互いに互いの秘密や策謀を知ったのだということを――。 「ええそうなんです」宗兵衛はにこにこと二人の顔を眺めた、「みんな本当ですよ、御家老に申上げたことも御用人に申上げたことも本当です、私はちゃんと証人になりますよ」 二人の驚愕《きょうがく》はどんなだったろう、仲斎も善兵衛も唖然《あぜん》として眼を剥き、棒を呑んだように反った。それから烈火のように忿怒《ふんぬ》におそわれ、「この痴《し》れ者」と脇差の柄に手を掛けて立ち上った、その刹那《せつな》である、上段の襖《ふすま》が明いて、但馬守治成がつかつかと現われ、「両人とも待とうぞ」と鋭い声で叱咤した。二人は雷にでも撃たれたようにそこへ平伏した。但馬守は上段の端まで来て、これまでになく歯切れのよい口調でこういった。 「ここでの始終はみな聞いた、但し両人の秘事に就いてはなにも覚えてはおらぬ、ただ、――その秘事を宗兵衛がそのほうども両人に通じたこと、それを怒ってそのほうどもが彼を成敗しようとした事はけしからんぞ」 家老と用人は、肩で息をしていた。 「なぜとならばだ、そのほうどもは他人に知られてならぬ秘事をそのほうども自ら宗兵衛に話したではないか、秘事を知られては迷惑するそのほうども自身でさえ彼に明かしたとすれば、なんの利害もない宗兵衛がそれを他へ語るのは当然ではないか」治成はこういって宗兵衛を見、どうだというように唇を歪《ゆが》めてみせた、「――宗兵衛を責むるなら、まず彼に秘事を明かした己れ自らを責むるがよい、どうだ両人、仲斎、……善兵衛、これでも宗兵衛に罪ありと思うか」 宗兵衛の説をそのまま流用して、みどとに二人の頭を抑えた。仲斎も善兵衛も返答なし、ただ恐れ入って平伏するのみだった。――かくて事態は意外な方へ旋回した、気がついてみると、用人派は家老派のあらゆる秘密策謀を知っているし、家老派は用人派の謀略秘策の詳細を知った、各派は対者の骨髄まで知ると同時に、自らの骨髄をも対者に曝けだしている、詰り両派はお互いにとって硝子壜《ガラスびん》の如く透明であり赤裸々である。ということは、もはや「いかなる秘密も謀略も存在しない」ということであった。贅言《ぜいげん》無用、両派は互いに了解し和睦《わぼく》し提携した、それが互いに身の安全を保つ唯一の方法ではあったが、とにかく長い確執はここに終止符を打ったのである。 「槍で千石ということはあるが、そのほうは舌で千石取るやつだ」治成はこういって宗兵衛を睨んだ、「前代未聞の饒舌だ、しかし気をつけるがいい、舌は禍いの因《もと》ということもある、図に乗ってはならんぞ」 宗兵衛は二十二の年に国許へ帰った。 但馬守治成が二男亀之助に家を譲り、隠居のうえ帰国するのに扈従《こしょう》したのである。――治成は世を譲るとき、彼を亀之助に付ける積りでいたが、隠居する身の心ぼそさと、もう二三年は手許で仕込みたいと思ったのとで、そのまま国へ伴れ帰ったのであった。――五年ぶりの帰国である。背丈も五尺七寸を越し、筋骨も逞《たくま》しくなり、相貌も堂々としてきた。待っていた平左衛門夫婦の喜びはいうまでもない、殿の寵も篤く家中の信望も大きいということは聞いていた、おまけに見違えるほど尾鰭《おひれ》の付いた成人ぶりだから、平左衛門などは眼尻を下げて悦にいった。――そしてこれならもうあの癖も直ったろう、こう思ったのであるが、どう致しまして、まず風呂へ入れたが風呂の中からもうお饒舌りを始めた。 「江戸という処はね伯母さん、いや母上、聞えますか、江戸という処は家だらけ橋だらけですよ、初めのうちは吃驚しましたねえ、どっちを見ても家だらけだし、どっちへいっても橋にぶっつかるんです、それがみんな人間が住んでるんですからね、え? いや橋に人間は住みやしません家ですよ、そしてお信じになれないかも知れませんが、その上を一日じゅう人や馬や駕や車が、ひっきりなしに通ります、え? いやもちろん家じゃありません、家の上を馬や人間は通れやしません、橋ですよ、橋の上の話です」 「風呂を出てから話せ」平左がついに堪りかねて呶鳴《どな》る、「隣り近所へ筒抜けではないか、子供ではあるまいし少し静かにしろ」 「やあ伯父さんも、じゃあない父上も聞いていらしったんですか、いまいったのは本当なんですよ、その次に驚いたのは犬です」こんどは前より声が高い、「伊勢屋いなり[#「いなり」に傍点]に犬の糞というくらいで、町を一丁歩くうちに十|疋《ぴき》や二十疋犬のいないことは……」 「ちっとも治ってはいくさらん」平左は鼻嵐を吹きながら舌打をした、「治るどころか寧ろ磨きをかけて来くさった、なんという――」 そして庭へと逃げだしていった。――庭へ出てはいったが、「伊勢屋いなり[#「いなり」に傍点]」だの「騒ぞうしい橋」だの「魚河岸やっちゃ[#「やっちゃ」に傍点]場の売声」だのが、きいきいがやがやわあわあと喚きどおしに喚くので、平左は両手で耳を押え、眼を剥《むき》出して空をねめあげた。そして、――ああおれは間違っていた、と絶望的に自分を責めた。いつか林主馬のやつが耳へ繃帯をしたのは嘘じゃなかった、今こそ思い知った、おれもやがてはこの頭へ繃帯をしなければならなくなるだろう、と。 「食事が済んだら上村へいって来たいんですが」宗兵衛は茶を啜りながらそういった、「少し頼みたいことがあるもんですから」 「ああいいとも」平左は言下に頷いた、「久方ぶりだ、向うが迷惑でなかったら暫く泊って来てもいいぞ」 「そんな我儘なことは致しません、すぐに帰って来ます、しかしそれに就いて、その、ちょっと御相談があるんですが」彼はにっこりと笑って両親の顔を見た、「――こんなことを自分の口からいうのは、実は少々なんですけれども、しかしそうかといって私も来年は二十三になりますし、里見家の跡取りだししますので、即ち」 「わかりましたよ、もう」養母が誘われるように笑いだした、「貴方お嫁が欲しいのでしょう、はっきりお云いなさいな、そうなのでしょう」 「やあどうも」宗兵衛は手を頭へやった、「やっぱり母親は子心を知ると世間でいうとおりですね、でもよくおわかりになりましたねえ母上」 「詰らぬおべんちゃらを申すな」平左が舌打をした、「それくらい申せば馬鹿にでも察しはつく、余計なことは措いて欲しいなら欲しいというがよい、こっちにも心当りがないことはないのだから」 「それがその、あれです」宗兵衛はにっこり笑った、「こういってはなんですが、実は父上は御存じかと思うのですが、あれです、上村の、その上村の隣りに溝口主水という家がありますね、あそこに津留という娘がいるんですが」 平左夫婦は急に口をつぐみ、互いにちらと眼を見交わした。なにか由ありげな眼つきである、――それから平左は突然げらげら笑いだし、勝誇ったように上からこう宗兵衛を見下ろした。 「いやどうも、天地自然というものは怖いものだな、因果応報、楽あれば苦あり、猿も木から落ちる、河童の川ながれ、いやはや、出る杭は打たれる後の雁が先か、はっは、――だめだよ、お気の毒だがそいつはおあいにくだ」 「なにがそんなに可笑しいんですか、誰が楽あれば苦ありなんです」 「おまえはお山の大将だと思っていた、人をおちゃらかし世間を甘くみて来た、賢いのは自分ひとりで、ほかの者はみんな馬鹿かお人好しだと考えていた、はっは、ところが因果は車井戸のつるべ[#「つるべ」に傍点]であり、禍福はつる[#「つる」に傍点]んだ蛇の如くであり明暗は」平左は今や饒舌を自分のもの[#「もの」に傍点]にした。彼は得々として覇者《はしゃ》のように語る。頭の抽出《ひきだし》からとって置きの語彙《ごい》を洗いざらいぶちまけ、それに塩や胡椒《こしょう》や唐辛子で味を付けながら饒舌りに饒舌った、そして最後に止めを刺すようにこういった。 「――これを要するにだ、溝口の娘は諦《あきら》めろ、いいか、あの娘はいかん、気の毒だが絶対にだめだよ」 [#6字下げ]八[#「八」は中見出し] 「どうしてですか父上」宗兵衛は珍しく坐り直した、「あの人になにか変ったことでもあったのですか」 「あの娘はいい、うん」平左は欣然と語る、「実に可愛い縹緻《きりょう》よしだ、ぽっちゃりと柔らかそうな躯つきで、いつもにこにこ可愛い顔で、笑うと両方の頬ぺたにえくぼが出来て、はにかみ屋で温順で、しかもなかなか色っぽくってな、へっへっへ、あんな娘はちょいと世間にはいないて、おれが若ければ千石を投出しても欲しいところさ、若いおまえがやきもきするのは当りまえだ、その気持はまことによくわかる、まったく同情に耐えない、が、諦めろ、あれはもう嫁入り先が定まったよ」 「嫁入り先が――」こんどこそ宗兵衛は蒼くなった、「……まさか、まさかそんなことが」 「信じたくないだろうな、うん、その気持はわかるて、だがお気の毒なことに事実さ、相手はおまえの親友で義兄弟の約束さえしたという人物だ、これから上村へいったら訊《き》いてみるがいい、そうすればはっきりわかるよ」 「私の親友で義兄弟、――そんな人間は知りません、私にはそんな約束をした者はいませんよ」 「だって当人がちゃんとおれにそういったのだし、将来おまえにとっても為になる人物だぞ、おれはその人物に惚れて溝口へのはしわたし[#「はしわたし」に傍点]をし、また仲人の役も買って出たのだ」 「貴方が仲人を、――」宗兵衛はげ[#「げ」に傍点]に情けない顔をしたが、「しかし覚えはありませんよ、いったいそれはなんという人間ですか」 「四年まえに江戸から赴任して来た町奉行、島田右近だ、……これでも知らぬか」 「し、ま、だ、――」 これはおどろきである。おどろき中の最大のおどろきだろう。――宗兵衛の眼がくっと大きく光った。しかしそれはしだいに細くなり下を向き、膝の上で両手の指がだらりと伸びた。それからやがて彼はにこっと笑ったが、それはべそ[#「べそ」に傍点]をかくような悲しげに歪んだものであった。 「母上、私は疲れが出ました」彼は養母に向って元気にこういった、「なんだか躯じゅうの筋がたるんじまったようです、今夜はもう上村へゆくのは止めて寝かせて頂きますよ」 「まあそういうな」平左はますますいい機嫌である、「もっと江戸の話を聞こうではないか、橋がなん千なん百あるとかいったな」 「貴方、――」妻女がめまぜをしながらそうたしなめた、「もう程にあそばせ、この子は長旅で疲れているのですから、宗さん、いいからもうお休みなさい、支度はできていますよ」 翌る日、宗兵衛は上村を訪ねた。父は既に隠居して兄の伊之助が家督をし、妻とのあいだにもう三つになる子まで出来ていた。――彼は兄から津留と島田右近とが婚約したという事実を聞いた。それから昼食を馳走になって帰る途中、壕端《ほりばた》の組長屋にいる成沢兵馬を訪ねた。 「よう立派になったな」兵馬は大きな声をあげた、「帰ったというから今夜あたり訪ねようかと思ってたんだ、散らかしているが、まあ上れ、二三日うちに江戸へ帰るんでね」 「江戸へ帰るって、――本当かい」 「任期が終ったのさ、入れ替りだね」 荷造りで散らかっている部屋へ通り、暫くその後の話がとり交わされた。家老と用人との紛争の解決、家督の事など、それから島田右近の件に及ぶと、兵馬は苦い顔をして舌打をした。 「あいつはたいへんな野郎だ、あの生っ白い糸瓜面《へちまづら》といやに優しい猫撫《ねこな》で声で、こっちへ来るなりたちまち人気を集めちまいやがった、なにしろ足軽にまであいそ笑いをして――いいおしめりですね、なんてことをいやあがる」兵馬は自分でいって置いて身震いをした、「老人たちには茶湯《ちゃのゆ》だの書画骨董でおべっかを遣う、若い連中は順繰りに花街へおびきだして御馳走攻めだ、ふしぎなことに幾らでも金が続くらしい、どこかに不正なことがあると睨んでるんだが、あの狐め絶対に尻尾を出しゃあがらねえ、そしてとうとう溝口老職の家の評判娘を手に入れてしまいやがったよ」 「因果は車井戸のつるべ[#「つるべ」に傍点]縄か」宗兵衛は溜息をついた、「――おれも江戸へ引返したくなったよ」 家へ帰った宗兵衛は沈んだような顔をして、そのまま部屋へ籠ってしまった。――昏《く》れ方、島田右近から使いがあって、「この者が案内するからすぐ来るように、久方ぶりで悠くり話したいから」という手紙だったが、疲れているからと断わってやった。夕餉《ゆうげ》の時も顔色が冴《さ》えず、いつものお饒舌りとは人が違ったように、黙って箸を動かすばかりだった。 ――さあしめた、いよいよこっちの饒舌る番が来たぞ。 平左衛門は嬉しさにぞくぞくとなり、食事が終るのを待兼ねて饒舌りだした、宗兵衛は温和しく聴いていた、もはや邪魔もせず話の横取りもしない、まったく別人のようなすなおさで、「はあ」「はあ」と傾聴しているのである。平左はすっかり気をよくし、我が世の春とばかりまくしたてた。そして二刻あまりも饒舌りに饒舌り、妻に促されて寝所へはいったときは、満足と喜悦のためにお定まりの寝酒さえ忘れ、手足を伸ばしてぐっすりと眠ることができた。 兵馬たちが江戸へ去ってから三日めに、慰労の暇《いとま》が終って初めて登城した。治成の隠居所は城中三の曲輪《くるわ》にあり、登城といってもその隠居所へ詰める訳である。――侍臣は十五人、宗兵衛は御硯脇《ごけんわき》といって、常に側近く仕えることになっていた。 「どうかしたか、顔色が悪いではないか」治成は宗兵衛を訝《いぶか》しげに見た、「――まだ疲れが治らぬなら出るには及ばないぞ」 「いいえさようなことはございません」 「隠居の相手だ、気を詰めることはないぞ」 宗兵衛はべそ[#「べそ」に傍点]をかくように微笑した。御殿にいるあいだも、家へ帰ってからも、彼の心は塞がれ想いは暗く悲しかった。――幼い日の、津留と遊んだ思い出が眼にうかぶ、初めてえくぼを突ついて泣かせたこと、大きい眼でこっちを見上げながら、髪を揺すってこくりと頷いた顔、そして「つう[#「つう」に傍点]ちゃん小三郎さんのお嫁さんになるんだわ」といったあどけない声など、……あの言葉は幼い者の根もないものだったろうか、「待っていて呉れるか」「お待ちします」という約束は忘れてしまったのだろうか。 ――いちど会いたい、会って津留の気持を聞いてみたい。 彼はこう思って会う方法を色いろ思案したが、到底いけないことはわかりきっている、樹から落ちた猿、水に流された河童、さすがの悪たれがすっかり悄気て、どうやら浮世をはかなむという態たらくである。――平左は十日あまり天下様であった、宗兵衛を膝下《しっか》に組敷き、或いは鼻面を捉えて引廻す感じで、饒舌りあげ饒舌り下げ饒舌り続け饒舌り継いだ。が、或る日とつぜん詰らなくなった。宗兵衛が温和しく「はあ」「はあ」と頷くだけで、逃げもせず逆らいもせず、もちろん話の横取りもせず、黙って辛抱づよく聴いているのを見ると、自分の話がだんだん詰らなくなり馬鹿げてきた。まるっきり面白くないのである、それで我慢して舌を動かしていると、こんどは欠伸ばかり出て眠くなるのであった。 「どうしてそう黙っているんだ」やがて平左はそういいだした、「たまにはだちどころ[#「だちどころ」に傍点]を出したらどうだ、まるで舌が痺《しび》れでもしたようではないか」 「まあ父上がお続け下さい、こうして聞いていると少しは気が紛れますから」 「ひとを馬鹿にするな、落語家《はなしか》ではあるまいし、おまえの気晴らしにされて堪るものか、おれはもう寝るぞ」 宗兵衛は島田右近に就いてもかなり多くの人の評を聞いた。兵馬のいったとおり圧倒的に好評である、町奉行役所はあちろん、どこへいってもたいへんな人気で、「やがては老職」という噂《うわさ》さえ高かった。――たいへんな野郎だ、兵馬の言葉をそのまま、宗兵衛も舌を巻くより仕方がなかったのである。とするとこっちはとりも直さず敗軍の卒だ、会って得意な顔を見るには忍びない、右近からはその後もしばしば迎えを受けたが、口実を設けていちどもゆかなかったし、登城下城にもできるだけ注意をした。――こうして季節は晩秋十月となった。 [#6字下げ]九[#「九」は中見出し] 十月にはいってから急に気候が崩れて、冷たいしぐれの日が四五日続いた。その雨があがるとめっきり寒くなり、野山の樹々はみるみる裸になっていった。――部屋へ初めて火桶を入れた夜のことである、宗兵衛が寝間へはいると間もなく、庭木戸の外で人の走りまわる音が聞え、木戸を叩く音がした。 「――なにごとです」 宗兵術が縁側へ出ていって叫んだ。 「破牢《はろう》をした罪人が逃げ込んだのです」木戸の外でこういった、「お庭内へ入ったもようですから御用心願います」 破牢と聞いて宗兵衛は寝間へ刀を取りに戻った。平左衛門が家士に火を命じた、宗兵衛は刀を持って庭へ下り、木戸を明けた。 「お騒がせします、御免」 こう云いながら五六人の役人が入って来た。そこへ平左が家士たちに高張や馬乗り提灯《ちょうちん》を持たせて出て来、すぐさま庭内を捜しまわった。 「破牢したというのはどんな罪人だ」 「島田殿の屋敷へ忍び込んだ盗賊で、獄門の松造という悪人です、永牢《ながろう》というお裁きで今年の春から不浄谷《ふじょうだに》の牢へ入れられていたのを、今宵一刻ほどまえに破牢して逃げたものです」 「島田殿というのは」聞いていた宗兵衛が脇からこう口をはさんだ、「――町奉行の島田さんか」 「そうです、島田右近殿です」 庭を隈《くま》なく捜したが、人もいず潜入した形跡もなかった。――役人たちが去ってから、宗兵衛はその事件のことを平左衛門に訊いた、養父は「そんな事を聞いたようにも思うが」というだけで精《くわ》しい事実は知らなかった。 ――なにか蔭にあるな。 宗兵衛はこう考えた。それは右近に対する反感からきたものかも知れない、しかし単に盗みの目的で町奉行の屋敷へ入る奴があるだろうか、そして単に盗みのために入ったとすれば、永牢で不浄谷へ押し籠めるというのは過酷である。不浄谷の牢は城北の山中に在り、極めて重罪の者を収容する牢舎であって、彼が覚えている限りではそこに罪人の入れられたという話を聞いたことがなかった。 ――慥《たし》かになにかある、調べてやろう。 宗兵衛は更けるまでその方法を考え続けていた。――翌日、彼は町奉行役所へゆき、島田右近に会った。右近は出役の身支度で、出掛けようとするところだったが、彼を見ると愛想よく笑いながら招じ入れた。 「やあ暫《しばら》くです、なんども使いを遣ったのに来て呉れませんでしたね、元気ですか」 「出掛けるんでしょう」宗兵衛も笑い返した、「実は叟閑《そうかん》(治成の隠居号)さまの申付けで、調書記録を見せて貰いに来たんですが」 「調書をね、なんになさるんです」 「御隠居の暇潰《ひまつぶ》しでしょうな、面白いのがあったら筆写して来いという仰せなんです」 「では係りへそう云いましょう、私は火急《かきゅう》の用で出掛けなければなりませんから」 「牢破りの罪人の件ですね」宗兵衛はじっと相手の眼を見た、「まだ捉まらないんですか」 「いや今日じゅうには捕えますよ、国越えをしていないことは慥かで、市中に隠れているらしいですから、――ではこっちへ来て下さい」 宗兵衛を記録方へ案内して置いて、右近は心|急《せ》かしげに出ていった。――宗兵衛は係りの役人に頼んで、裁判記録を出して貰い、さも筆写をするようなかたちを見せながら調べていった。――この春に入牢したというのを頼りに、その前後を繰ってみたが、それと思わしい記録はみあたらなかった。約半年まえまで遡《さかのぼ》ってみたがやはり無い。 ――そうか、右近め、抜いたな。 宗兵衛はそう直感した。口書《くちがき》爪印《つめいん》のほうを出して貰い、丹念に見てゆくと、やがて「獄門の松造」というのが出て来た。これは罪人の告白を記録方が書き、それに当人が爪印を捺《お》したものである。――読んでみると、「松造は江戸生れで十五の年から諸国を流れ歩き、盗みや傷害で前後五回も入牢したことがある、仲間うちでは獄門という異名《いみょう》を取り、三年前にこの土地へ来た、栄町で表向きは両替店を出し、一方ひそかに盗みを働いていた、そして島田家へ忍び込んだところを捕えられた」あらまし以上のような内容で、ごくありふれた、しかもいかにも有りそうな事である。 ――おれの思い過しかな。 宗兵衛は少しばかり気落ちのした感じで、間もなく奉行役所を出た。――城下町は常になく緊張した雰囲気で、辻々には町奉行手付の者が警戒に立っている、足軽組からもかり出[#「かり」に傍点]されたとみえ、棒を持ったのが二人三人ずつ組になって廻っているのがみえた。 ――しかし調書記録を抜いたのはなぜだ、口書爪印があって、調書記録がないというのはおかしいじゃないか。 夕餉の後でも、みれんがましくそんなことを思いめぐらしてみた。日昏《ひぐ》れ方からまた雨が降りだし、ひどく気温が下って、火桶を抱えてもぞくぞくするほど寒くなっていた。宗兵衛はぼんやり炭火を見ていたが「右近に会ってやろうか」と呟《つぶや》いた自分の声で、はっと眼をあげ「そうだ」といって立ち上った。――饒舌り欲が出て来たのである、お饒舌りの罠《わな》へひっかけて、当人の口から泥を吐かせてやろう、なんの右近くらい。……こう思ってにやっと笑い、ちょっと友達のところへと断わって家を出た。右近の屋敷は大手筋三番町にある。表をいっては遠いので、柳町の裏から竹蔵のほうへ抜けていった。なにしろその辺は彼が昔あばれ廻った古戦場で、どこのどの露路であろうと眼をつぶっても歩いてゆける。 「そうだ、右近の野郎」傘に鳴る雨の音を聞きながら彼はこう呟く、「牢破りの罪人を、おれが捉まえたといってやろう、――この手なら間違いなくひっかかるぞ」 そしてもうそこが竹蔵になるという小路へ入ったとき、右手の板塀を越えて、突然ひとりの男が道の上へとび下りて来た。――まったく不意のことで、宗兵衛も「あっ」といったが、相手はもっと驚いたらしく、逆上したようすで、なにか喚きながらだっととびかかって来た。危うく躰を躱《かわ》したが、のめってゆく手に刀がぎらっと光った。 ――こいつ。 宗兵衛は傘を投げた、「破牢人」ということがぴんと頭へきたのである。傘を投げるなり刀を抜き、つつと相手を塀際へ追い詰めた。 「刀を捨てろ、動くな」 こう叫ぶと、相手は肩で息をしながら、まったく無法に地を蹴《け》って突っかかった。宗兵衛はひっ外し、のめる背へはっし[#「はっし」に傍点]と峰打をくれた。男は「ひっ」と声をあげ、五六歩たたらを踏んでいって前のめりに転倒した。道の上に溜まっていた雨水がさっと飛沫《ひまつ》をあげた。 「待って下さい、待って下さい」男は倒れたまま獣のように喚いた、「――お慈悲です、どうかこのままみのがして下さい、お願いです」 「おまえ――牢破りだな」 「そうです、旦那さま、無実の罪です、騙《だま》されて……ああお願いです」男はわなわな震えていた、「七生までのお願いです、ひと太刀うらまなければ死んでも死にきれません、お慈悲です、みのがして下さい」 ひっしの哀訴であった、どたん場まで追い詰められた人間の、ぎりぎりの哀訴という感じである。宗兵衛は刀を下ろした。 「声をあげるな、しだいに依っては力を貸してやる、立っておれについて来い」 「どうぞおみのがし下さい」男は泥の上をいざっていった、「七生のお願いです、ただひと太刀だけうらみたいのです、どうぞ――」 「おれを信じろ、無実の罪というのが本当なら助けてやる、決して悪いようにはしない、逃げては却《かえ》って危ないぞ」宗兵衛は刀をおさめて近寄った、「さあ、立って一緒に来い、人に見られないうちにいこう」 宗兵衛の調子に嘘のないことを感じたのだろう、男はようやく泥の中から立ち上った。――宗兵衛は傘を拾い、男にさしかけながら道を戻った。牢破りを捉まえたといってやろう、こう思ったことがそっくり事実になったのである。宗兵衛はひそかに快心の微笑をもらしながら、男を庇《かば》うようにして家へ帰った。 養父母には知れないように、風呂場で泥を洗って着替えさせ、居間へ入れて行燈《あんどん》を中に相対して坐った。男は三十三四の、ひどく痩《や》せた眉と眉の間の迫った、いかにも小心そうな顔だちである。血走った眼をあげ、絶えず膝を震わせながら語った。 それは戦慄《せんりつ》すべき話であった。「獄門の松造」と称されているが、本当は相川屋庄吉といい、江戸日本橋|銀町《しろがねちょう》で金銀両替商をいとなんでいた。庄吉は二十六歳で、おさよ[#「おさよ」に傍点]という十七になる妹があり、父の死んだあと六人の店の者を使ってかなりに商売をやっていた。その頃、島田右近が江戸邸にいて、家老と側用人の紛争を利用し、相川屋を御金御用達にしたうえ、藩の名目で金を絞り放題に絞った。それは多く遊興費と、老職たちを籠絡《ろうらく》するために遣われたものであって、当時、宗兵衛にも不審であった金の出所は要するにそこにあったのである。――こうして出入りをしているうちに、右近は庄吉の妹のおさよ[#「おさよ」に傍点]に眼をつけ美貌とその地位と、そして絞った金を引当てにして、「近く妻として正式に迎えるから」といいくるめ、料理茶屋などへ伴れ出しては関係をつけていた。……宗兵衛は思いだす、深川の妓《おんな》たちが「島田さんにはみんな泣かされる、此の頃は素人衆の娘さんにも手を出し、相庄とかいう商家の娘と慇懃《いんぎん》を通じているそうだ」などと話していたことを。 「それから島田さんは急にお国詰になられました、私の店もその当時は御用達が過ぎて二進《にっち》も三進《さっち》もゆかず、御転勤まえになんとか片を付けて頂こうと存じましたところ、国許で御用達にしてやるから一緒に来いというお話で、店も手詰りになっていましたし、いずれは妹も嫁に貰って頂けるものと信じまして、この土地へ来たのでございます」庄吉はこういってぎゅっと膝を掴んだ、「――栄町に店を持ち、初め一年ばかりはどうやら商売に取付いたのでございますが、それからまた御用金という名目で、島田さんのために根こそぎ※[#「てへん+毟」、第4水準2-78-12]《むし》られてしまいました、……それだけではございません、妹のおさよ[#「おさよ」に傍点]が去年の夏に身ごもり[#「ごもり」に傍点]ましたので、こんどこそ嫁にして頂こうと話しましたところ、一日延ばしに延ばしたうえ、島田さんは溝口主水という御老職のお嬢さまと婚約をなさいました、それを知ったおさよ[#「おさよ」に傍点]がどんなに悲しんだかおわかりでしょうか、……妹は二度も大川へ身を沈めました、二度とも人に救われましたが、三度めに剃刀《かみそり》で喉《のど》を切って――」 庄吉はくくと呻《うめ》いた、痩せた肩がおののき、髭だらけの骨立った顎《あご》がぎりぎりと音を立てた。 「私は逆上しました、店もすっかり手詰りになっていますし、妹の死躰を見て、もうこれまでだと思ったのです、訴えようにも相手が町奉行、そうでなくとも奸知《かんち》に長けた島田右近ですから、私ごときが正面からぶっつかって勝てる相手ではございません、――店をたたんで女房と五つになる子を江戸へ帰し、脇差一本持って島田の屋敷へ押し込んだのでございます」 「仕損じたんだな」 「廊下へ上ったとたんに取詰められました、それで万事おしまいでした、お裁きもなにも島田右近のお手盛りです、獄門の松造―――根も葉もない口書《くちがき》をつきつけて爪印を捺せという、捺さないうちは折檻《せっかん》拷問《ごうもん》です、……責め殺されるよりはといわれるままにお裁きをうけて牢に入りました、いつかは牢を破って、ひと太刀でもうらんでやろうと、寝る間も忘れず折を覘《うかが》っていたのですが、――牢をぬけてみたもののやっぱり右近にちかづけず、今日まで逃げまわっていたのでございます」 宗兵衛は躯が震えてきた。怒りというより胸をひき裂かれるような激情で、頭がくらくらするように思った、――狡猾《こうかつ》とか陋劣《ろうれつ》などという程度ではない、右近め! しかもあの津留をさえ偸《ぬす》もうとしているではないか。 「よくわかった、私はなんにもいわないが、おまえの望みを叶《かな》えさせてやろう」 「――と仰しゃいますと」 「今夜は悠くり寝るがいい、いま喰べ物を持って来てやる、夜明け前まで悠くり眠って、それから一緒にでかけよう、私を信じるだろうな」 「――はい」庄吉は泣き腫らした眼でこっちを見上げた、「有難う存じます、どうぞお願い申します」 [#6字下げ]十[#「十」は中見出し] 明くる朝八時、宗兵衛は三番町の島田の家を訪ねた。右近は朝食を終ったところで、例のとおり愛想よく出迎えたが、宗兵衛は玄関に立ったままぶっきら棒に、「ちょっと出てくれないか」といった。 「獄門の松造を捉まえたんでね」 「えっ、松造――」右近は短刀でもつきつけられたような眼をした、「松造を、そこもとが捕えたのですか」 「昨夜おそく捉まえて、すぐ役所へ突出そうと思ったんだが、島田右近に就いてけげん[#「けげん」に傍点]なことをいうんでね、いちど直《じか》に会うほうがいいんじゃないかと考えたもんだから、或る処へ匿《かく》まって置いて知らせに来たのさ」 「それはどうも、すぐゆきましょう、――しかし私に就いてけげん[#「けげん」に傍点]なことをいったとはどういうことですか」 「私の口からはいえないね」宗兵衛は唾でも吐きそうな表情をした、「聞くだけでも耳の汚れるような、とうてい人間の仕事とは思えない卑劣な話だった、まさか事実ではないだろうから、会ってはっきり黒白《こくびゃく》をつけるがいい、支度がよかったら出ようじゃないか」 「お供しましょう、いま袴を着けて来ます」 外へ出ると右近は頻りに弁明を始めた。獄門の松造がいかに奸悪な人間であるか、口巧者で人を騙すことに長じ、贋金《にせがね》なども使ったらしいなどといった。宗兵衛は返辞もせずに大手筋から壕端へ出ると、そこを廻って城山のほうへ向っていった。ちょうど内壕《うちぼり》の端れへさしかかったときである、右手にある観音堂の境内から、武家の娘がひとり下女を伴れて出て来るのに会った。――右近も先方の娘も気づかなかったが、宗兵衛はひと眼でそれが溝口の津留だということを認めた。そしてそう認めるなり、大股につかつかと寄っていって声をかけた。 「おつう[#「おつう」に傍点]さん暫く」 津留は立ち止ってこちらを見「ああ」と口のうちで低く叫んだが、向うに右近のいるのに気付くとさっと蒼くなり、彼のほうへ全身で縋《すが》り付くような表情を示した。――宗兵衛はにこっと笑いながら、無遠慮に近寄っていって、 「いちど帰って来た挨拶にゆこうと思ったんですが、妙な話を聞いたんで遠慮していたんですよ、しかしもうその話もきれいに片付くでしょう、そうしたら約束を果して貰いにゆきますからね」 津留の蒼白《あおざ》めた頬に美しく血がさした。宗兵衛はその大きい眼をみつめながら、 「覚えてるでしょうあの約束、いつか私のお嫁になってくれるといった――二人だけのあのときの約束を」 「はい覚えております」津留は泣きそうな眼になった、「――でもわたくし、もう」 「いや大丈夫、きれいに片付くといったのはそのことですよ、早ければ今日のうち、おそくも二三日うちには誰かさんはこの土地から消えて失くなります、それでいいでしょう、それともそうなってはおつう[#「おつう」に傍点]さんに悲しいだろうか」 「いいえ、いいえ」 津留は頭を振り微笑した。両頬にえくぼが出来た。 「――わたくしあなたのおいで下さるのをお待ちしておりますわ」 「しめた、それで結構、では今日はこれで別れます、気をつけてお帰りなさい」 宗兵衛は自分の頬を(えくぼのあるように)指で突いてみせ、津留が恥ずかしそうに片手で顔を隠すのに会釈して、さっさと右近の側へ戻っていった。――右近は少し離れたところからこっちの様子を眺めていたが、宗兵衛の言葉の意味がわかったのだろう、すっかり血の気の失せた、ひきつるような顔になっていた。 「待たせたな、さあゆこう」 宗兵衛はこういって城山のほうへ坂を登っていった――そこはごく古い時代に某氏《なにがし》という豪族の城郭があったと伝えられる急峻《きゅうしゅん》で、松と杉の林をぬけて上ると、城下町を見下ろす勝れた眺望があり、旧城の守護神だろう、小さな八幡社の祠《ほこら》が建っている。宗兵衛はその祠の前まで来て振返った。 「獄門の松造はこの中にいる、島田――ひとこと聞くが、おまえ江戸の御用番だった相庄、相川屋庄吉を知っているな」右近は白くなった唇をひき結び、黙って自分の足許をみつめている、宗兵衛は低い冷やかな声で続けた、「相庄の妹のおさよ[#「おさよ」に傍点]も、おさよ[#「おさよ」に傍点]が身ごもったことも、おまえに騙されて自殺したことも知っているな、――町奉行という地位を悪用して、今日まで世を欺き人を騙して来た、しかしいまそこにいる島田右近は町奉行じゃあない、唯の卑劣な賤しい人間だ、それもわかるだろうな」 「私は弁解はしない」右近はまだ地面を見ていた、「――した事のつぐないはする積りだ、どうすればいいかいってくれ」 「それは相庄の定めることだ、つぐないをするという言葉が本当なら、――島田、一生に一度でいいから、ごまかし抜きのところを見せてくれ、いいな」 宗兵衛はそれだけいうと、振向いて祠の扉を明けにいった。そのときである。機を覘《ねら》っていた右近が、宗兵衛の背へ後ろから抜打ちをかけた。「い!」というような叫びと共に刀はきらりと伸び、殆んど肩を斬ったかとみえた。だが宗兵衛の躯はばねのように左へ跳躍し、踏込んで来た二の太刀を、抜合せてがっきと受止めた。 「そんなこったろうと思った」殆んど顔と顔がくっつきそうになったまま、宗兵衛は、にっと唇で笑いながらいった、「――おれを斬り相庄を斬れば安全だからな、へ、あいにくとそうはいかねえ、おまえもちょいと遣えるらしいが、おれの柳生流は折紙付だ、……右近、悪い思案だったぜ」 「叩くだけ舌を叩け、どっちに折紙が付くかはすぐにわかる」 「仰しゃいましたね、せめておれに汗でもかかせてくれればみつけものだ、よっ」 右足を引いたとみると宗兵衛の躰が沈み、右近が二間ばかり横へ跳んだ。そこで位取りをするかと思ったが、宗兵衛は大胆極まる追い打ちをかけ、正面から躰当りをくれるように斬っていった。刃と刃ががっきりと鳴り、ぎらりと上下に光りを飛ばせた。右近はまた逃げた、宗兵衛は踏込み踏込み、息もつかせず間を詰めては斬ってゆく、――このあいだに祠の中から相川屋庄吉が出て来ていたが、手も出せず茫然と立って眺めるばかりだった。 「ほう、――なる程ね」宗兵衛はにこっと明朗に笑った、「おまえ案外やるんだなあ右近、こいつあ見損った、これで真人間なら友達になってもいいくらいだ、惜しいぞ狐」 右近の唇が捲れて白く歯が見えた。さっと躰を傾け胴を覗って刀が伸びた、宗兵衛は爪立ちをしてこれを躱し伸びて来た刀を下から撥《は》ねあげた。的確きわまる技である。右近の刀は生き物のように飛んで、十間あまり向うの草の中へ落ちた。しまったと脇差へ手を掛ける、ところを宗兵衛がつけ入って、ぱっと平手で顔を叩き、刀を捨てて組付いたとみると、みごとなはね腰で投げとばした。――右近はもんどりをうち、背中で地面を叩くと「うん」と呻いてのびてしまった。 「汗をかかせやがった」宗兵衛は刀を拾って鞘《さや》へおさめ、右近の刀の下緒を取って彼の両手を後ろで縛った、「――てめえの蒔《ま》いた種子《たね》を苅るんだ、本当なら白洲《しらす》へ曝すんだが、それでは家中の面目にも関わるし、おまえを信用なすった叟閑さまの御名を汚す、世間に知れないで済むことを有難いと思え、……生き死に係わらず二度と顔をみせるなよ」 宗兵衛は手をあげて庄吉を招いた。 「さあ、島田右近を渡してやる、あとはおまえの勝手だが今朝もいったとおり刀で斬るだけはいかんぞ、悪人でも人間には違いない、――わかってるな」 「はいよくわかりました、決して狼狽《うろた》えたことは致しません」 「それが済んだら江戸へゆくがいい、右近のした事で償《つぐな》いのつくものは償いをする、江戸邸の成沢兵馬を訪ねればわかるように手紙を出して置く、――元気で、もういちどやり直すんだな、ではこれで」 庄吉は腕で面《おもて》を掩い、泣きながら黙って幾たびも低頭した。 ――宗兵衛は大股にそこを去っていった。丘の端までゆくと城下町がひと眼に見渡せる、彼はそこで立ち止った。 「――だちどころ[#「だちどころ」に傍点]、ふふふ、今日からまた饒舌りだすぞ、平左親父びっくりするな、あの屋根屋根、よく登ってとび廻ったっけ、おつう[#「おつう」に傍点]ちゃん、はっは、そろそろ舌がむずむずして来やあがった、えーい駆けろ」 町奉行島田右近が行方不明になり、半月ほどして城山裏の杉林の中で、餓死しているのが発見された。牢破りの獄門の松造はついに捕えられずに終り、十二月になって宗兵衛と津留との婚約披露があった。――そして、平左衛門はいま再び伜を江戸へ追い払おうとして、よりより老臣の間を奔走している。 底本:「山本周五郎全集第二十一巻 花匂う・上野介正信」新潮社 1983(昭和58)年12月25日 発行 底本の親本:「講談雑誌」 1948(昭和23)年10月号 初出:「講談雑誌」 1948(昭和23)年10月号 入力:特定非営利活動法人はるかぜ
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犬国奇憚夢日記 第6話 12月も半ばを過ぎて、グッと日の出が遅くなり一年の終わりといった雰囲気がスキャッパーにもやってきた。 ロッソムの街全てが見回せる位置に立つ紅朱舘も、この季節はまだまだ寝静まっている時間帯。 この時間帯に巨大な紅朱舘の中で聞こえる音といえば、各部屋に暖房供給する為のボイラーの音くらいなもの。 厳しい冬を乗り越えて行かねばならないスキャッパー地方では、真冬の暖房は欠かすことの出来ない生命維持装置となっている。 かつての旧紅朱舘では各部屋の薪ストーブや暖炉を各部屋の担当がせっせと燃していたのだが、ヒトの世界から落ちてきたスロゥチ ャイム家の執事は鍛冶屋を集め各部屋縦断の蒸気暖房を設置した。 そして今は不寝番が交代でボイラーの火を維持し続ける冬場で最も重要な仕事になった。 その結果、旧紅朱舘は各部屋ごとの温度がバラバラだったのだが、新たに建築された新紅朱舘は、スチーム暖房と床暖房に加え、大 浴場の湯気を利用した保湿装置の可動で、真冬でも快適に保たれている。 そんな早朝の紅朱舘、玄関先。 館内より一段暖かい風徐室の中で、外の具合を眺めるヒトの青年が一人。 窓の外は荒れ狂う吹雪だというのに、外套の襟を立て雪中ブーツを履き外へ出ようとしている。 手にはスコップと造花の花束を握りしめ、ジッと外を見ている。 一瞬のタイミングを見計らった門番が目で合図し僅かに戸を開くと、青年は一目散に外へと駆けていった。 腰まである雪を掻き分け肩で息をしながら、紅朱舘の裏にある丘の上へ駆け登っていく。 駆けると言うより藻掻き苦しむように丘の上立つ大きな樅の樹へと辿り着いた青年は、手にしたスコップを使って雪を払い始める。 腰まである筈の雪を払いのけ、最後は雪面を掘るように進んでいくと小さな墓石が二つ姿を現す。 「父さん母さん、今年もあと僅かだよ・・・・俺、来年は結婚する・・・・リサを本気で好きになっちゃったみたいだよ・・・・良いよね?」 そう言うと青年は造花の花束を墓石に供えた。 雪の壁を整えてこれ以上雪に埋まらぬよう処置を施すと、青年は墓前で姿勢を整え腹に手を添え慇懃に最敬礼する。 よし・・・・行くか・・・・。 青年は既に埋まりつつある足跡を辿って丘を降りていった。 それを見守るようにポツンと佇む小さな墓が二つ、今日も紅朱舘を見下ろしている。 雪だるま一歩前になった青年は紅朱舘の玄関へと辿り着き全身の雪を落とした。 いつもより強く吹き荒れている吹雪だが、尖塔の上で鳴り響く青年の母が愛した美しい鐘の音は聞こえてくる。 ・・・いけね、御館様と奥様を起こさなきゃ。 そう言って玄関をくぐると、そこには紅朱舘主人のポール公が立っていた。 一瞬、青年は青ざめる。 「ヨシ 早くからご苦労だった。マサミとカナは息災だったか?」 「御館様・・・・お陰様で二人とも・・・・」 「そうか・・・・うむ、早く着替えろ。食事にする。それからアリスはもう目覚めている」 「申し訳ございません」 「いや、謝ることはない、後ほど私も行くつもりだったからな、とにかく食事だ」 「はい、仰せのままに」 立ち去ろうとするポール公はふと足を止めて振り返った。 「そうだ…ヨシ、マサミの日記はどこにある」 「父の日記はわたしが保管してます」 「そうか、後ほど持ってきてくれ」 「かしこまりました」 先程と同じく慇懃に傅く義人を見てポール公は言った。 「父親にそっくりだ… さすが親子だな…」 紅朱舘の一室、領主一家専用に作られたコンパクトだが豪華な食堂のテーブルを前にスロゥチャイム家の家族が揃った。 それぞれ席に着くイヌの貴族の家族達、その後ろにはそれぞれの従者であるヒトが立っている。 秋の収穫を王都に輸送したきり帰ってこない長男夫妻と従者は向こうで羽を伸ばしているだろうか。 それとも長男が干からびるまで搾り取られて・・・・ 朝食のメニューがキッチンからワゴンを押して運ばれてくると、それぞれの主人へメニューをサーブするのは従者の仕事だ。 音を立てず、主にぶつけぬよう慎重に皿を並べて盛りつけていく。 お茶が無くなればカップへお茶を注ぎ、テーブルのトーストが無くなれば新しくパンを焼いてバターを塗る。 一連の動きに全く淀みや逡巡が無く、それぞれのヒトの動きが縦横にリンクしていて見ている側ですら気持ちがいいほどだ。 ポール公は食事をしながら義人を呼んだ。 「ヨシ、日記はどうした?」 「はい、執務室に用意してございます」 「今日は決済執務も少ない筈だが、間違いないか?」 「はい、本日のご決済が必要な案件に1級案件はございません」 「今日はなにがあるのだ?」 「今月の裁判決済と予算消化案件、後は新年の王宮参内に関する奉書です」 「しかし…この天気ではな…」 「そうですね、年が明けても中央へ報告できるのは遅くなると予測されます」 ポール公は窓の外を眺め何かを考えた後で食事を続けた。 一足先に食事を終えた家族はそれぞれの従者に声を掛けポール公が最後のパンを食べ終えるのを待っていた。 「うむ、皆待たせたな…ヘンリーは街を見て歩け、天気が悪いので領民が心配だ」 「はい父上」 「マリアは母さんと主計の管理をせよ、年内分の決算をみるのだ、よいな」 「はい、父さま」 「アリス、頼むぞ」 「えぇ、わかってますわ」 ポール公が立ち上がって席を外すと皆席を立った、それぞれの従者を連れ各部屋へと戻っていく。 スロゥチャイム一家が朝食を摂る前に食事を済ませた従者や紅朱舘のスタッフだが、ヨシはすっかり朝食を食べ損ねていた。 ポール公は執務室へ入るとヨシに上着を預け席に着く、ヨシは顔色一つ変えず書類を整え決済のサインをし易いように並べた。 「ヨシ、中央への報告は後でよい。それより日記だ」 「御館様、宜しいのですか?」 「サインなどいつでも出来る。早く日記だ」 「こちらに・・・・」 そう言ってヨシは10数冊の日記を順番に並べた。ポール公は並ぶ日記群を眺めて驚く。 「マサミの奴め わたしが本を読むのが苦手と知っていてこれだけ書きおって」 「しかし御館様、約30年に渡る記録では少ないかと存じます、一冊で2年分かと」 「ヨシ・・・ 」 そういってポール公は苦笑いを浮かべ手を振った。 「えぇい解った解った、今から読むので邪魔をするな、3時間経ったらもう一度来い」 「は?」 「良いから早く行け!3時間だぞ!あと、誰でも良い、後でお茶を持って来させろ」 「お心遣い痛み入ります御館様。では、リサにそう命じておきますので」 「うむ、それより、早く一人にしろ」 「今日は特別冷えますので膝掛けなどをこちらに用意しておきます…」 「うむ」 「では 失礼します」 義人は慇懃に頭を垂れ部屋を出た。 ポール公がヨシを部屋から出したのは、食べていない筈の食事をして少し寝てこいと言う配慮だとヨシは理解した。 しかし・・・・ そそくさと紅朱舘の廊下を歩き大食堂を抜けキッチンへと入る。 レストラン開店用の仕込みや、スタッフ賄い飯の洗い物をしているキッチンのイヌに混じって、ヒトの女性が皿を片づけていた。 イヌのおばさん達が世間話をしつつ笑いながら、ヒトの女性をからかっている。 ヒトの女性は赤くなったり必死に抗弁したり… 「だからぁ~ リサは執事長と一緒になるんでしょ」 「そんな事は… それに、御館様と奥様がお許しになるか…」 「そんな事言ったってねぇ~この前の夜も下の風呂場で良い雰囲気だったじゃない」 いつの間にか良い歳になって、若いイヌのスタッフを引き連れる立場になったキックが、エプロンで手を拭きながら再び話題の口火 を切り他のイヌも喋り出す。 「ポール様がなんであの薄汚い奴隷商のネコを半殺しにしたのさ」 「マサミ様もあんなネコなんか迷う事無くねじり殺しちまえば良いのにねぇ…」 「でも、それをしないであんたを買ったのはヨシ君にって思ってるに決まってるよ」 「御館様がその気になっていれば今頃あの醜く太ったネコは鍋の中身だったわね」 なんとも恐ろしい会話が続いているのだけど、実際のイヌの本音はそんな所なのだろう。 厳しい環境に封じられたイヌの社会において、恵まれたネコの国の自然環境はそれ自体が嫉妬の対象だ。 あれだけ恵まれていながら、怠惰にダラダラと生きているネコは、歯痒い存在なのかもしれない。 恵まれない国の国民から見れば、恵まれた国の残飯ですら面白くない存在と言えるのだろうか・・・・・。 「そうなんですか?」 すっとんきょな声でそう答えるリサは、ネコが鍋の中身になる事より、イヌの凄い本音が包み隠さず出ていることに驚いている。 沢山のイヌが居るポジションに放り込まれて早2ヶ月になろうとしているが… それまでは少人数の無口な館女官に囲まれて部屋詰め仕事ばかりだったせいで、イヌは表向きには絶対そんな事を言わないと思って いたようだ。 「先代執事長のマサミ様は奥さん大事にしてたからねぇ~」 「カナさんは明るかったし料理が上手いし、それに器量よしだったしね」 「アレをみてポール様はヨシ君にも結婚させたがってるのさ」 「だいいち…あんた、ヨシ君のどこが不満なんだね?」 周囲のイヌ女性が一斉に口を開く。 「あれでマダラだったら私が押し倒してるわよねぇ」 「マダラじゃ無くても押し倒したいけどね」 「そうよ、私だってあと30若かったら間違いないね」 「背が高いし気が利くし献身的だし、それに…」 「うん、そうよね、ヨシ君は笑顔がステキよね」 「あ~もう、なんでヒトなんだろうねぇ、イヌのマダラだったら…」 「連れて逃げて!って言ってここから駆け落ちするのに!」 「え~ おほん… お取り込み中に失礼します…」 そう言って義人は出来る限りまじめな顔で話の話に加わった。 イヌのおばさま方が一斉にゲラゲラ笑いながら仕事に戻る。 「悪いけど何か残り物無いかな?朝食まだなんだよ」 恥ずかしそうな顔をして仕事に戻っていたイヌの女性がリサと呼ばれたヒト女性の背中を押した。 「ほら!リサ!なにやってるの!!」 「え…あ…あの…執事長様… 私の作ったサンドイッチですが… あの…」 「ちゃんと言いなさいよ!」 そう言ってヒューヒューと囃し立てられてリサは、作り置きのサンドイッチを義人に差し出した。 「もしかして、わざわざ作っておいてくれたの?」 無言でリサは頷く、義人は笑顔で受け取り一つ頬張った… 「うん・・・・おいしい・・・・うん・・・・」 あとは何も言わずモグモグと食べている、それをジッとリサは見ている。 そこへすっかりお婆さんになったメルがやってきて、リサの頭をペチンと叩いた。 「あんた・・・・何見てるんだい?。食事ならお茶だろぉ?気が利かないねぇ。そんなんじゃ嫁失格だよ。ヨシ君のお嫁さんならメイド 長なんだからね、しっかりしなさい」 「あ! スイマセン・・・・」 リサは慌てて走っていってボイラーからお湯を落とすと新しいお茶を落として義人に差し出した。 「あの・・・・執事長・・・・さま・・・・どうぞ・・・・」 「ありがとう あと、執事長はよしてくれよ。ヨシで良いよ」 そう言ってリサが用意したサンドイッチを瞬殺してしまった義人は、リサが差し出したお茶を美味そうに飲む。 その所作の美しさは一服の画のようで、その場のイヌもヒトも手を止めて見入るだけの物が有った。 「あ・・・・皆さん手を止めてもらっては困りますよ、予定通りなら午後は忙しいです」 そういって義人が口を開くと、キッチンのイヌ達が再び動き出した。 義人はそれを確かめると空になったカップをリサに返してあくびを一つした。 「う~ん、ちょっと眠いな・・・・あ、そうだ、リサ、あとで御館様に御茶を」 「はい・・・・わかりました。あの、いつごろ・・・・」 「次の仕事は?」 その応えはリサではなくメルが答えた。 「特にこれと言って無いから 好きにしてなよ」 そう言うとキッチンのスタッフが皆笑った。 義人は父の形見の懐中時計に目をやって時間を確かめる、先ほど部屋を出てから30分近く経っている・・・・ 「今から御館様にお茶を。で、多分寝てるから静かに入ってひざ掛けを掛けてきて」 「はい、わかりました」 「その帰りに僕の部屋にもお茶を届けてくれる?」 「はい! よろこんで!」 「じゃぁ頼んだよ、皆さんご馳走様、どうもありがとう」 はい・よろこんで…そう言って喜色満面のリサ、それをまたイヌのおばさん達が囃し立てる。 その声が聞こえていても聞こえていないフリをしてやる事だって義人の仕事の一部だ。 キッチンを出て行った義人はネクタイを緩め自室へと入った。 ヨシにあてがわれた小さな自分の控え室は、必要最低限の生活道具しかない上に窓も小さく質素な物だ。 父マサミの使っていた執事公室は未だにポール公が使う事を許していない。 この小さな部屋に、父であり先代執事長であるマサミより引き継いだ、様々な道具を収めるクローゼットと寝台を設置し、ヨシは一 人で寝起きしている。 他のヒトやイヌの従者達より上等な物が据え付けられているが、やはりヨシが育ったマサミとカナの部屋とは比べるべくもないよう だ。 服を脱いだ義人は布団にくるまって眠ってしまった。 少し寒かったが睡魔には勝てなかった。 ヨシが出ていったキッチンでリサは新しくお茶を入れるとポットに移しポール公の部屋へと入った。 ヨシの予想通りポール公はマサミの残した日記をあけたまま膝に乗せて眠りこけている・・・・ リサは日記をそっと机に上げてひざ掛けをそっと掛ける、すると眠っていたはずのポール公が目を覚ました。 寝ぼけ眼だったがすぐに正気を取り戻したようだ。 「リサ、寝ていたのは内緒だぞ?」 「はい・・・・でも執事長様が恐らくお休みになられているからと・・・・」 ポール公は苦笑いして頭をボリボリと掻いた。 「さすがマサミの息子だな、全部お見通しと言うわけか」 ポール公はリサが机に上げた日記をもう一度手にとってページを捲った。 思わずリサも並んでいる文字列に目を走らせる。 そこには先代執事だった誠実の数奇な生涯が書かれていた。 「リサ・・・・実はな、アリスとも相談したんだが・・・・、ヨシに嫁がないか?」 「執事長さまと・・・・ですか?」 「うむ、そうだ。リサはヨシが嫌いか?」 「いえ!決してそんな事は・・・・ありません・・・・でも・・・・」 「ふむ・・・・では、なんだ?」 「執事長さまはみんなから慕われています・・・・それにマリア様も・・・・」 ポール公はリサの顔をじっと見た。 リサの顔がほんのり赤くなってリンゴのようだ。 「マリアも・・・・そうだろうなぁ・・・・」 「はい」 「しかし、イヌとヒトでは子を成せぬ故な。遊びでなら兎も角、イヌとヒトでは夫婦になれぬ」 「・・・・・・・・そうですね」 「それ故・・・・どうだ?アリスもそれを望んでいるだろう。あの日、お前がここへ来た日からアリスはよく言っていたよ」 「え?」 「いつかマサミの子の妻になるようにしっかり育てないとね・・・・とな。アリスはあれでいてカナにライバル心を持っていたようだ」 「そうなんですか・・・・奥様」 「あまりに良くできたヒトだった故、アリスはよく言っていたよ。彼女には勝てないって」 「そんなことは!」 リサにとって、もう一人の母親だったアリスの言葉は、リサに重い現実を突きつけたようだ。 しかし、ポール公が手に取ったマサミの日記には、カナの体験したことが詳細につづられているのだった。 ***********************************************************1*********************************************************** 「カナコさん、あなたのお子さんは・・・・残念ですが・・・・」 「うそ・・・・うそよ・・・・目を開けて、お願いだから・・・・」 フロミアの医療センター。 ヒトの世界でも医師だったと言うヒトの男は聴診器を耳から外すと、小さな子供を包んでいた布で改めて丁寧に包みなおした。 まだほんのりと体温が残っているのだが・・・・少しずつ冷えていくのがカナにも伝わる・・・・ 「うそよ・・・・パパ・・・・ごめん・・・・ごめんなさい・・・・」 声を上げて泣き始めたカナの肩にカモシカの女性が手を掛けた。 この街でヒトの出産に何度も立ち会っているカモシカの女性は、ヒトが子を産むときの壮絶な光景を何度も目にしている。 獣人の出産が比較的軽いのに比べ、ヒトの出産はまさに命がけだ。 せっかく生まれてきたと言うのに、生後直死したり育たずに命を落とすヒトの子のなんと多いことか。 「カナコさん。残念ですが・・・・。その子はどうする?埋葬してあげる?それとも・・・・」 別の女性スタッフが問いかけるものの、カナはブツブツと何かをしゃべりながら放心状態なのだった。 医師のヒトはカモシカの女性に視線を送ってから首を振った。 今日は無理だ・・・・ そんな視線だった。 カモシカやヒトのスタッフに肩を抱えられてカナは自室へ戻った。 小さな部屋の片隅。カナの寝るベットの隣にはヒトの世界と同じベビーベットがある。 鼓動の止まった我が子を抱え慟哭するカナ。 彼女のすすり泣く声は一晩中やむ事がなかった・・・・。 翌朝、心配したカモシカの女性がカナの部屋に入ったとき、カナは我が子を抱えたまま座って眠っていた。 泣き疲れて目の周りが真っ赤に腫れ上がっている。 スタッフとしてフロミアに居る獣人の女性とて、我が子を失えば思いは同じだろう。 まして、いきなりこの世界へやってきて産んだ子が先天性疾患を病んでいたとなれば、自責の念は相当強いだろう。 なんと声を掛けて良い物か逡巡した後、恐る恐る声を掛けてみる。 「おはよう、カナコさん・・・・、朝ですよ」 カナはそっと顔を上げた。 「おはよう御座います。すいませんが雨戸を開けてください、ヒトには暗くて見えません」 「え?雨戸は開けてあるわよ?」 「いじわるを・・・・しないでください・・・・せめて今日くらいは・・・・お願いですか・・・・ら・・・・」 「あなた・・・・」 スタッフの女性がカナへ寄って行って子供を抱き上げたのだが、カナは半狂乱で声を上げた。 「子供を返して!」 スタッフの女性は一歩下がったところでカナに声をかける。 「カナコさん、立ち上がれる?」 「真っ暗じゃ無理に決まってるじゃない!ヒトは獣と違って暗闇では目が見えないのよ!」 「カナコさん、あなた失明してるかも?」 「嘘よ!それより子供を!」 「はい、そっと抱いてあげて」 カナは子供を抱きかかえるとまた泣き始めた。 昨日の夜からブツブツと何かを繰り返し喋っているのだが・・・・ 「カナコさん、お子さんを抱いたまま一緒にこっちに来て」 スタッフはカナの肩を抱いたまま建物の外に出た。 燦燦と降り注ぐ陽光がカナを照らし、太陽のぬくもりが体を温める。 「カナコさん・・・・光を感じるかしら?」 「うそ・・・・ほんとに?」 少しずつ冷静になっていったのだが、それでも何か動転して落ち着かないで居る。 「医務室へ行きましょう」 スタッフに連れられ行った医務室で眼科医の診断を受けるのだが、どこにも異常は見られないのだった。 全く異常が無いと言うことは神経かそれとも精神的なものか、そのどちらかなのだろう。 CTスキャナーでも有れば脳を直接調べられるのだが、この世界に神の機械が登場するのは、まだまだ未来の話・・・・。 自室で精神科医のカウンセリングを受けるカナだが、もはや手を付けようの無い精神状態だった。 「カナコさん」 「私は廃棄処分ですね・・・・」 「いえいえ、そんな事は有りません」 「気休めは結構です。何も出来ないなら娼館にでも売られるのでしょうか?」 「売ってどうしますか?私やあなたのように知識のある人間は重用されます、もう少し自分を評価するべきです」 「でもそれは健常者の場合よ。目の見えないヒトなどこの世界では・・・・・」 それっきり黙ってしまったカナ。 僅かに震える肩が落胆の大きさを言い表していた。 うな垂れるカナが我が子を抱いて体をゆすりながら、また何かうわごとの様にブツブツと喋っている。 訝しがるスタッフ達を横目に精神科医は頷くばかりだった。 カナの両腕の中。 2歳児になる筈の子供はあまりに小さい・・・・。 赤ちゃんより多少大きい程度にしか成長できなかった体で、必死に病と戦ったのだろう。 干からびつつある皮膚の表面がひび割れ始め、やがてミイラになってしまうと予想された。 「カナコさん、昨日から何を言っているの?」 スタッフの疑問は当然だろう。 その答えは精神科医が答えた。 「子守唄ですよ、ヒトの世界の子守唄」 目の見えないはずのカナが僅かに顔を上げた。 力なく微笑みながらちょっとだけ声を大きくして歌い始める。 「ねんねんころりよ・・・・坊やのねんころり・・・・ ◇◆◇ 北風の通る音が響くポール公執務室。 椅子に座り口髭を弄るポール公と立って聞いているリサ。 重い話に言葉は少なかった。 「精神科医の書いた診断書には精神的な部分の理由が大きいとあったそうだ」 ポール公は冷え始めてるお茶を飲み干してカップを皿に置いた。 空になったカップにリサが再び湯気の立つお茶を注ぎ、ポール公は手にとって手鍋を始める。 「イヌもそうなのだが、あまりに落胆が大きいと光を失ったり、或いは死んでしまったりする」 「落ち込むと死んでしまうのですか?」 「あぁ、それは歴史の上にも何度か出てくるよ、全てを失った者が落胆の余り死んでしまうといった話がね」 驚くリサを横目にポール公は上手そうにお茶を飲むと、再び日記のページを捲った。 わざわざ項を改めてマサミが記したもの。 それはリサの処置だった。 「ヒトを繁殖させ、教育し、商品として出荷する。その一連の作業についてフロミアは良くできた施設だ」 ポール公は恐ろしい事を平気で口にする。 リサにとってフロミアとは生まれ故郷であるのだが、それを本人はまだ知らないで居る。 「そして、この世界で生まれたヒトにとってフロミアは小さなヒトの世界だ」 「遠いところにあるヒトの世界のミニチュアなのですね」 「そう言うことだな」 ポール公はひざ掛けを下ろして立ち上がると窓辺へと歩いて行った。 窓の外は激しい吹雪になっている。 眼下では除雪チームが腰に命綱を巻いて班毎に除雪用のラッセル馬車を走らせていた。 「ヒトの知識はこの世界にとって貴重なものだ。それ故にフロミアではヒトの世界と同じ教育が施され、フロミア出身のヒトは各国 の知識階級にとっては、どうしても手に入れたい商品になっているのだよ」 一歩下がって振り返ったポール公は笑みを浮かべてリサを見た。 「リサ。お前もあの街出身かもしれないな」 「え?・・・・そう言えば御館様。カナさんはその後・・・・」 「あぁ、そうだな、続きだ」 ポール公は再び椅子に腰掛けページを捲った。 ***********************************************************2*********************************************************** 「止まれ!通行証を見せろ!」 カモシカの国からネコの国と向かう摩天街道の入り口。 検問所で待ち構えるカモシカの査察官がチラリと馬車の中を見た。 ヒトの女性と付き添いの男性医師。それから、輸送担当の騎士。 「行き先と目的は?」 「行き先はネコの国の先進医療研究センター。目的は失明治療だ」 通行証を見せた騎士は胸を張ってそう答えた。 「よろしい、通行を許可する」 パカパカと馬車が進み始め、揺れる幌の中でカナは再び睡魔と闘い始める。 ◇◆◇ 明るい光のあふれるフロミアの医療センター。 ここに詰めるヒトの医師が何人か集まって協議した結果、ここでは手に負えないと言うことで大病院への搬送が決まった。 「カナコさん、ネコの国にヒトの世界の知識を活用した先進医療センターがあります。そこへ行きましょう」 カナを診断していたヒトの意思は唐突にそう言った。 驚くカナやカモシカの女性達を他所に、医師達は続けて言った。 「あそこにはこの街で育てたヒトの医師が何人か居る筈です。ネコの国だけに奴隷扱いでしょうが、ここには無い機材があります」 「あの、そこで何を?」 「あなたの目が見えない原因を探ります」 「でも、目が見えたところで」 「忘れましたか?あなたの知識が必要なヒトも居るのですよ?あなたの数学知識はこの世界のヒト随一でしょう」 数学に関して素晴らしい力を持つカナの頭脳は、カモシカの官僚たちも期待している部分が大きいらしい。 効率よく知識の再分配を進めるため、病気を理由にカナから子供を取り上げる話も管理側から出たそうだが・・・・。 治療と称し隠密裏に殺してしまうというのは良くある話だそうだ。 しかし、それでカナがおかしくなってしまっては元も子もない。 数学の授業を行う条件として子供の治療を行う事をカナは要求していたのだった。 その交換条件が崩れ、さらに光を失ってしまった以上、カナを廃棄してしまうに足るだけの理由な筈。 しかし、失明治療をネコの国にまで行って行うというのは、まだカナに使い道がある証拠なのだろう。 視界の無い世界で連続して馬車に揺られ単調な音を聞かされては、眠くならない方がおかしい。 亜麻色の上等な布に包まれた我が子を抱いて、カナは何時まで続くとも分からない旅に出たのだった。 「先生?どれくらいで到着するのですか?」 「そうですね良いとこ5日と言うところでしょうか」 「この子が生きているうちに連れて行きたかったです・・・・」 「カナコさん・・・・申し訳ありません」 「いえ、先生が謝る事ではありません。私がちゃんと生んでいれば・・・・」 「自分を責めても得られるものは少ないです。それより次の一手を考えましょう。なんせあの街では、使い道を失ったヒトにはあま りに辛い仕打ちが待っていますからね・・・・」 次の一手。 それが何を意味するのか、分からない訳ではない。 フロミアはヒトを繁殖させる為の施設だ。 子供を生み育てる事に抵抗は無い。ただ、そこにあるのは見ず知らずの男の子を孕む事への嫌悪感だった。 種付けと呼ばれる作業の内容を理解できない歳でもないし、必要性を理解できない訳でもない。 しかし、それを行わねば自分が生きて行く事の担保にならない事は嫌でも理解できる。 でも・・・・・ 「マサミさん・・・・」 目を閉じた所で光を感じてないのだから、何も変わりはしないのだが・・・・ それでも、閉じたまぶたの向こうに愛する夫の姿をイメージした。 「カナコさん。何か言いましたか?」 「いえ、独り言です」 「そうですか」 ガラガラと走る馬車の中。 御者の椅子に座るカモシカの男が声を上げた。 「トラの男が乗る馬車だよ・・・・フロミアに納品かな?」 ヒトの医師が幌から頭を出す。 「へぇ~。きっとトラの商人だね。頼んでおいた薬は来たのかなぁ・・・・」 すれ違う2台の馬車。 そこに夫婦が別れて乗っていたのだと知るのは未来の話なのだが・・・・ 数日をかけて馬車の揺れに酔いながらも、カナはネコの国の医療センターに到着した。 数人のヒトの医師が出てきてカナを出迎えた。 「カナコさん、先進医療センターにようこそ。ここはヒトの世界の大病院並みに設備がありますよ」 カモシカの男に手を添えてもらったカナは馬車から降りると頭を下げて挨拶した。 「お手間を取らせます、よろしくお願いいたします」 「さて、早速診断しましょう・・・・あれ?こちらのお子さんは・・・・」 「すいません、私の子です、先日・・・・死んでしまったのですが・・・・手放せなくて・・・・すいません」 「いえ、大変なご苦労をされていますね。心中お察し申し上げます」 数人の医師がカナの手を取って建物へと連れて行った。 ネコの国の片隅にある先進医療センター。 それはラムゼン商会が入手した高度医療機器を集めたヒト専門の医療機関でもある。 利に聡く商才に長けるネコの富豪が開設した、金持ちの主人が奴隷のヒトを治療する為に作った病院だった。 実際の話として、ここはヒトの世界で言うところのペット病院なのだろう。 愛玩商品として流通するヒトの総合医療機関として、この施設は様々に機能していた。 「カナコさん、まずは脳波を計りましょう。あとはCTスキャンです、ここなら何でもありますよ」 4人ほどの医師団がその場で編成され様々な検査が始まった。 「カナコさん、お子さんをお預かりしてもよろしいですか?」 「え?でも・・・・」 「どこへも持って行ったりはしませんよ。お子さんもお母さんが病気ではきっと心配します」 「でも、子供は手元に・・・・」 「カナコさん、お子さんをまだ抱いていられるように、私どもで処置を致します。現状では少々・・・・難がありますから」 「分かりました、お願いします」 ずっと抱いていた子供を手放したカナ。 何か一つ、物事が前進したような感覚なのだが・・・・ 半日かけてアレコレ検査した結果、カナの目に関する部分でどこにも異常が無い事が分かった。 もはや医療ではどうしようもない。ある程度わかっていた事なのだが、それでも医師団の診断結果は現実なのだった。 「カナコさん、明日になったらもう一度じっくり視神経を検査しましょう」 医師団の言葉に現実へと引き戻されたカナ。 フロミアから一緒にやってきた医師が丁寧に処理されたカナの子を返した。 「カナコさん、お子さんの御遺体は防腐処理を施しました。あなたが埋葬するまで、お子さんはそのままの姿です」 「ありがとうございます・・・・ありがとうございます・・・・ ごめんね、お母さん、あなたがいないと・・・・」 幸せそうに眠る子供の遺体を抱えてカナは再び涙を流し始めた。 「カナコさん、あなたの目に再び光が差し込むよう、私達は全力を尽くしましょう」 医師団の力強い言葉に励まされたカナは旅先の部屋へと案内された。 身の回りの世話役につくカモシカの女性が部屋で待っていた。 「奴隷であるヒトの手伝いをさせるとは・・・まこともって御迷惑をおかけします」 「何を言ってるのよ、気にしないでいいわよ」 「恐れ入ります。あと、もう一人この部屋にいらっしゃる方は?」 驚くカモシカの女性の隣。 耳だけをピクピクと動かすネコの男が一人・・・・ 「よく気が付きましたね。当院の医長を務めるリカルド・レーベンハイトと申します、面倒なんでリコと呼んでください」 しわがれた年寄りのような声でレーベンハイトは答えた。 毛艶の失われつつあるネコの年寄りなのだが、目だけはギラギラと輝いているのだった。 「ネコの医長さまですか?」 「その通りです、カナコさん、あなたの目の医療に興味が湧いて久しぶりに巣穴から出てきました」 「私の目でしたらお好きなようにお調べください」 「えぇ、そうさせていただきます。そして・・・・私の願いを聞いてくれませんでしょうか?」 「はい、なんでしょうか?私に出来る事なら」 レーベンハイトはゆっくり立ち上がるとカナへ近づいた。 大きく優しい手がカナの肩に触れる。 「私は色事好きなネコですが、これだけは安心してください。私はあなたを犯そうとか手篭めにしようとか、そう言う意思は有りま せん。ただね、話し相手になって欲しいのですよ。妻に先立たれ息子や娘達は皆独立しそれぞれの家族と共に暮らしています。ネコの 長い長い生涯では退屈しきっておりましてなぁ」 カナは静かに頷いた。 「私の聞くところに寄れば、ネコの皆さんは600年近い生涯なんだそうですね。さぞかし退屈なのでしょう」 「えぇ、その通りです。ご明察ですな」 「そんな事は・・・・。それより、私から何を聞きたいのでしょうか?」 「ヒトの世界の知識です」 「そのような物をどうされるのですか?」 「実はね・・・・荒淫の果てに交わる手段を失った私の興味は房事ではなく知識になりました。知らない事を知りたいだけです」 「なるほど、かしこまりました。知的好奇心を満たすのですね。私でよければ知る限りの事を」 「ありがとう」 二人の間に契約が成立したかのような印象を与える会話。 これが後に大きな意味を持つ事になるのだが・・・・ ◇◆◇ 吹雪の音が一段楽した頃、ポール公の部屋のドアが開き、ヨシがやってきた。 「御館様。おかげさまでさっぱりしました」 「おぉ、そうか。お前もここに来て話を聞くか?」 「何の話でしょうか?」 「お前の母の話だ。マサミが生前に私にもアリスにも言わなかった事を日記に残していたよ」 「・・・・そうですか。それでは是非」 「うむ。リサ、椅子を用意するのだ。立ちっぱなしでは辛かろう」 「かしこまりました」 リサが椅子を二つ手に持って来た。 ヨシと並んで座るのだが。 「リサ、ずっとここに?」 「うん。実はお話が面白くて」 「・・・・そっか」 残念そうなヨシをニヤニヤしながらポール公は眺めた。 「秘密の逢引を邪魔したかな?」 「いっ!いえ!そんな事は!」 必死で否定するヨシだが、ポール公は笑っている。 「リサ、お前とヨシにもお茶を入れたらどうだ?」 「はい、ではそのように」 静かに立ち上がって二人分のお茶を注ぎ並べるリサ。 一つ一つの動きが優雅で、それで居て無駄が無い。 その仕草をヨシは何となく眺めていたのだが・・・・ 「リサの手つきを見てると母さんを思い出すなぁ・・・・」 「え?」 思わず手を止めるリサ。 ちょっと赤くなって恥ずかしがっている。 「ヨシはリサにカナの幻想を見ているのかもしれんな」 「御館様・・・・ヨシさんのお母様は・・・・」 ポール公は上手そうにお茶を啜ると目を閉じて、記憶の糸を手繰り寄せ始めた。 少しずつ記憶の階層を遡って行き、ややあって記憶がたどり着いた先には・・・・・ 「ちょっと話が急展開するが・・・・まぁ、そう言うもんだと聞けばよい。いいか?」 話を聞く二人は顔を見合わせた後で頷いた。 「マサミはコウゼイとルカパヤンを出てネコの国の先進医療センターへと向かったのだが・・・・・・ ***********************************************************3*********************************************************** カモシカの国の摩天街道を走る事3日。 コウゼイの馬車がたどり着いたのは、ネコの国の首都から程近い小さな街。 文明を謳歌するネコの国と言う事も有って、大通りは様々な商店が軒を並べ活気に満ちている。 そして、一歩裏通りへと入れば、そこはベットタウンでありミッドタウンであった。 吹きぬけていく風は冷たいが、それでも午後の日差しを浴びて小春日和な陽気の日。 マサミとコウゼイの乗る馬車は、大通りの混雑を避け裏通りへと入り、先端医療センターへ向けて行き足を速めていたのだが・・・・ 何気なく周囲を見物していたマサミは路面電車の通り抜ける先に見えた、豪華な邸宅の庭先に釘付けになった。 「嘘だろ・・・・」 マサミの虚ろな眼差しの先。うら若きヒトの女性がテラスでお茶を飲んでいる。 医療センターのオーナーが住む豪邸の庭先に、瀟洒なテラスが設えられてあった。 大切そうに、清潔な大布に包まれた子供を抱えて・・・・・ 凍りついたようなマサミを見てコウゼイは馬車を止めたのだが、最初はその理由を理解できないで居た。 しかし、ブツブツと何かを言うマサミを見ながら、その視線の先に座るヒトの女性を見て、その意味を理解したようだ。 「おい、マサミ!あの女性(ひと)が・・・・そうなのか?!」 呆然としていたマサミだったが、力なく頷くと同時に涙を流していた。 首に回したネックレスを取り出し、二つのリングを握り締める。 「はい・・・・そうです・・・・信じられない・・・・」 そうかそうかと頷いたコウゼイは馬車のブレーキをかけると、幌の中から上等な上着を取り出して袖を通した。 「マサミ、ちょっと待ってろ」 コウゼイは馬車を飛び降りてアポ無しの突撃交渉に出向いていった。 通用口の戸を叩き、家政婦を呼びつけてあれやこれやと交渉している。 そこから視線を移せば、ネコの老紳士が楽しそうにカナと談笑しているのだった。 建物から家政婦と思しき人が出てきてネコの老紳士の耳元に何かを告げる。 ネコの老紳士は立ち上がるとカナに一声かけて建物に入っていった。 家政婦はカナのカップに新しいお茶を注ぐと、間を持たすために何か世間話でも始めたようだ。 しばらくしてコウゼイが戻ってくるなりマサミにそっと囁いた。 「テラス側から直接入って良いそうだ。さぁ行くぜ!気合入れていけよ!」 マサミは馬車から降りてテラスへと歩いていく。 なにか雲の上でも歩いているかのような、不思議な浮遊感があった。 一歩踏み出すと同時に一歩空へと歩みだすかのような錯覚。 馬車からテラスへの10mが1kmにも2kmにも感じられた。 生垣のフェンスに作られた小さな扉を開けてマサミは中へと入る。 途端にカモシカの女性の鋭い視線がマサミを貫いた。 しかし、今のマサミにはそんな事は大して気にならない事だ。 視界を失い空中の一点を見つめたまま、カナは子供をあやすように揺すっている。 ボディガード兼監視役であろうカモシカの女性は、腰の短剣に手を掛け警戒を強めた。 しかし、ほとばしる緊張を解いたのは、館の主たるレーベンハイトの一言だった。 「カナコさん、あなたにお客さんですよ」 「え?私にですか?なぜ?」 それほど大きくないテラスの先。 冷え込みつつある季節となったが、それでもここへ降り注ぐ光にはまだまだ温もりを感じる時間帯。 いい香りを撒き散らすお茶のカップを置いたカナは、我が子を抱いたまま立ち上がった。 「恐れ入りますが・・・・どちら様でしょうか?。生憎、私には尋ねて来て頂くような方は一人もいないと思いますが・・・・」 マサミは声もなく落ち葉を踏んでテラスへと入っていった。 レーベンハイトは気を使ったのか、テラスの隅に腰掛けて目を閉じてしまった。 「あの・・・・」 カナはまだ相手が誰だか分らないで居る。 「カナ・・・・随分探したよ・・・・」 なんと切り出して言いものか・・・・ マサミが何とか口の出来た言葉は、妻の名前だった。 「うそ・・・・」 視界を失っているはずのカナだが、そのまぶたは大きく開き、瞳は声の方向を見つめた。 何かを必死に言おうとしているのだろうが、唇は震えるばかりで言葉にならない。 「嘘じゃないよ」 マサミはテラスの上に上がりカナの肩を抱いた。 華奢な肩が僅かに震えている。 「嘘よ・・・・、そんな筈が・・・・」 光を失ったまなじりから涙が溢れ出す。 冷静を装っていた筈なのだが・・・・ 「カナ・・・・、やっと見つけた・・・・」 「マサミさん・・・・」 「カナ・・・・俺の・・・・俺の子だよな?」 「ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・・・」 子供ごとマサミはカナを抱きしめた。 力いっぱいギュッと抱きしめたマサミがハラハラと涙を流す。 その光景にカモシカの女性もコウゼイも涙している。 「ごめんね、ごめんね、私達の子が・・・・」 「良いんだ、よく頑張ったね、カナ。君が生きていてくれる事が何より嬉しい」 「マサミさん・・・・・嘘みたい・・・・」 マサミはカナの頬にそっとキスした。 「カナ、今日はクリスマスだ。奇跡には不自由しないさ」 「ばか・・・・ダイハード2じゃ無いんだから・・・・。でも、この子はもう・・・・」 「あぁ、いいさ。俺の子は生きていようと死んでいようと・・・・一目見られただけで俺は満足だ」 「ありがとう・・・・」 二人の間、防腐処理された子供を抱きしめたせいだろうか・・・・ 子供の目から汁が出てきた。 それはまるで泣いているかのように・・・・・ 「さぁ、家に帰ろう。小さな家だが、俺には我が家がある」 「うん・・・・・」 その一言で周りが一斉に色めきたった。 家に帰ると言う意味は何か。それによって二人の処遇は大きく変わるのだろう。 夫婦である二人だが、夫はイヌの国の貴族の執事であり、妻はフロミアの所有物なのだ。 「カナコさん、それは・・・・・!」 カモシカの女性スタッフが駆け寄ろうとしたものの、その肩をコウゼイが引きとめた。 女性とは言えカモシカの体躯はそれなりの力を持っているのだが・・・・・ 肩の骨を握りつぶしそうな程の握力が、女性の肩を万力のように締め付ける。 「無粋な事は言いなすんなって。やっと再開した二人じゃねぇか」 「そう言うわけには行かないわよ!」 慌てふためく女性とどっしり構えるコウゼイ。 奇妙なコントラストをみせている。 「せっかくの感動的なシーンなんだ。大目に見ろって」 「勝手に出て行ったとなれば私が処分されるし、それに何より・・・・」 一瞬にやりと笑ったコウゼイだが・・・・ 「あのなぁ・・・・俺が言ってるのはお願い事じゃねぇ・・・・」 突然コウゼイの声色が変わって、恐ろしいトラの唸り声になっている。 傭兵課業で闘ってきた男の眼差しに、怒気と殺気が混じっていた 「あんたが困るのはてぇへんだ。面倒だしな。なんなら・・・・」 コウゼイの懐から巨大な拳銃が姿を現す。 「ここで脳みそぶちまけて死ぬか?問題事は・・・・はいさようならだぜ?」 黙って話を聞いていたリコが口を開く。 「トラの旦那さん。あなたも随分勝手な事を言うね。ここでヒトが居なくなったとあっては私も仕事上の信用に関わります」 「おぉ、そうだろうなぁ。ただなぁ、生憎俺はネコの都合は聞かねぇ主義なんだよ」 「はっはっは、随分とネコも嫌われたものだな」 レーベンハイトは立ち上がるとカナへ近づいていった。 「カナコさん。ここを出て行きますか?」 「あの・・・・」 返答に困ったカナに代わりマサミが答えた。 「妻がお世話になり感謝の言葉もございません。ですが、謝意を述べる前に一つだけ言わせてください」 「えぇ、どうぞ。伺いましょうか」 「妻の名はカナです、カナコでもマナコでもありません」 「そうですか、それは失礼した、では、改めてカナさん」 リコがそこまで行った時カモシカの女性が口を挟んだ。 「カナでもカナコでも良いけど、勝手に連れて行かないで欲しいんだけ・・・・・」 最後まで言葉を言いきる前に、カモシカの女性は言葉を飲み込んでしまった。 恐ろしく冷たい視線を浴びせるマサミの眼差し。 低く喉を鳴らすコウゼイのスカーフェイスが牙を剥いて威嚇している。 しかし、もっとも恐ろしいのは、リコの細く線を引いたような目から僅かに見える瞳がこれ以上無い殺気を含んでいた事だ。 「あなたにはあなたの都合があるでしょうけど、ここは私の家だし、私が客人をどうしようと私の勝手だ」 「しかし、そのヒトの女性は!」 「だから・・・・なんだと言うのだね?」 「え?」 レーベンハイトは自らの椅子に腰をかけると、カップに残っていたお茶を飲み干した。 鼻に乗せていた片眼鏡を外しポケットから取り出したハンケチで綺麗に拭き、再び鼻に乗せる。 「ここはネコの国で、その中のネコの家に客人として来たヒトの女性について話をしてるのだ。あなたの意向は私には関係ない」 カモシカの女性は一瞬言葉を詰まらせた。あまりに横暴でエゴ丸出しな話。 しかし、言ってる本人はいたって真面目にそれを論じている。 「ネコは欲望に忠実だ。私は私の求め欲する物の為に如何なる努力をも惜しまないつもりだ」 「つまり・・・どうだと言うの?」 「簡単な話だ。この女性は継続治療と言う事で私が預かる。それだけだ。あなたにはお引取り願おうか」 「なんですって!この・・・・」 「泥棒ネコとでも言うのかね?うん?」 「・・・・・・・・だからネコは嫌いなのよ」 レーベンハイトの冷笑はとどまる事を知らなかった。 「正直だね、結構だ。大いに結構。嫌いで結構だよ。偽善は世を腐らす毒だ。私もはっきり言おう。もはやカモシカの国に用は無い。 これからカモシカの国にあるネコの投資がドンドン引き上げるだろう、君の国はこれからますますどん底へ落ちていく事になる。そう 遠くない将来、イヌの国に蹂躙されるんじゃないかね?。まぁいい、カモシカの国で私も大きく儲けたよ。ここの設備も信用もその時 代に培ったものだ。搾取されるだけの奴隷の国にもはや用はないのだ。とっとと失せたまえ。私はこのトラの旦那に仕えるヒトの男と その妻に興味が移ったのだ」 歯軋りをするカモシカの女性は激昂してテラスを出て行った。 流石に唖然とするカナだが、マサミもコウゼイも平然と見送っていた。 「レーベンハイトさん」 カナの肩を抱いたままのマサミが口を開いた。 「御主人、なんですかな?」 「先ほどに続き、もう一つ訂正していただきたい」 「えぇ、どうぞ」 「私の主はル・ガル王政公国南部スキャッパー領主アリス・スロウチャイム女公爵です。私はスロゥチャイム家全権執事です」 「それは失礼した。では執事殿、改めてお名前を伺いましょう。私はリカルド・レーベンハイト。けちな街医者の端くれだよ」 「けちな街医者とは異な仰せですな。手前、姓はマツダ、名がマサミ。主にも多くのイヌにもマサミと呼ばれております」 「では、マサミ殿。そちらのあなたの奥さんを私の従者としたいのだが、いかがですか?」 マサミはカナの肩をグッと抱きしめてキッパリと言い切った。 「それはお断りいたします。いかな理由があろうとこの女性は私の妻であり、私がイヌの国の貴族の持ち物である以上は、手前の主 の了解無しにそのような契約を結ぶ事は主を裏切る事になります。どうしてもと言うのであれば、私はこの場で妻をこの手に書け自ら も命を絶ちましょう」 「ホッホッホ、勇ましい事ですな。しかし、あなたとあなたの妻を夫婦とする証はありますかな?見たところエンゲージリング一つ 有りはしませんが?」 カナの表情がフッと曇った。エンゲージリングの行方を知らない故だろう。 見えない筈の眼差しをマサミに向けてカナは囁いた。 「ごめんなさい、この子の為に薬を買おうと思って手放したの・・・・」 マサミはニヤッと笑うとカナの頬に手を寄せ、顔を近づけて皆にも聞こえるように言った。 「貴金属は非常時にお金に代えて使うよう買うものだ。それは本来の使い方だよ」 「でも・・・・私たちの・・・・・」 そこから先はレーベンハイトが口を開く。 「手放したにせよ、なんにせよ、今ここに無いものは無いのですから、それでは証明になりませんな・・・・」 年老いたネコはニヤリと笑うのだが、それを見たトラの男がニヤリと笑った。 「あんまり余裕風吹かせねぇ方が良いんじゃねぇのかな。なんせこのヒトの男はよぉ・・・・」 「コウゼイさん、それは言いっこ無しですよ。まぁ・・・・」 マサミは懐から再びネックレスに通した二つのプラチナリングを取り出した。 「私と妻を結ぶ愛の証をここに」 「うそ!」 「嘘じゃないさ。俺はあの時、稀代のトリックスター、ガリラヤの湖上を歩く男に誓ったんだぜ?生涯妻を守るとね」 ネックレスから二つのリングを外すと、自分用のリングをカナに手渡し、妻の為のリングを薬指へと押し込んだ。 カナは子供を抱いたまま、マサミの指へエンゲージリングを押し込む。 二人の指に同じ輝きのリングが光っている。 「レーベンハイトさん。これでよろしいかな?」 「ハッハッハ!これは恐れ入った。いやいや、ヒトと言う生き物は本当に摩訶不思議で面白い。実に面白い!」 ネコの老紳士は椅子から立ち上がり二人へと近寄った。 マサミとカナの指に光るリングをシゲシゲと眺める。 「この輝きは素晴らしいですなぁ。うん、よろしい、私は決めたよ。マサミ君、君は妻を連れてイヌの国へ帰りたまえ」 「よろしいのですかな?それをすればレーベンハイトさんの信用が・・・・色々と問題では?」 「そんな事は大して問題じゃない。ネコにとってカモシカの国にもはや用はないのだ。ただ、あなたの妻の治療はここでしばらく続 けるのが条件だ。私も興味があるのでね」 「えぇ、そう言う事なら良いでしょう。むしろよろしくお願いします」 視界を失ったカナが自らの指に納まったエンゲージリングを触っている。 「これをどうやって手に入れたの?」 「ここまで一緒に来てくれたトラの宝石商が持っていたんだ。妻のだと言ったらくれたんだよ」 「その方はどちらに?」 テラスの片隅に居たコウゼイが歩いてきてカナの前まで来た。 「カナさんだな?俺はトラの国で宝石商をしているコウゼイってもんだ。覚えておいて欲しい」 「あの・・・・コウゼイさん。わたし、残念ですが目が見えません。お顔を触らせていただいてもよろしいですか?」 「あぁ、きたねぇ顔だが好きなだけ触ってくれ」 カナは我が子を何も言わずにマサミに手渡した。 亜麻色の上麻布に包まれた我が子を抱きしめて囁く。 「息子よ、パパだよ。お前に会いたかった」 カナはコウゼイの顔に手を伸ばした。 柔らかな女性の手がコウゼイの顔を撫でていく。 「大きなネコと言ってよいのですね。立派な耳をされています。あれ?この傷は・・・・」 「あぁ、これか?こりゃぁカナさん。あんたの旦那の主が最近結婚したイヌの貴族と昔戦場で切りあった時に付いたもんですわ」 「戦場?」 「えぇ、おれっちは傭兵だったんだわ。そんでな、あんたの旦那の主が結婚した夫とガチで大喧嘩したって訳さ」 「そうなんですか」 カナは手探りでマサミの方へ歩いてきた。 「わたし・・・・」 「目が見えないんだろ、知ってるよ。前もって調べが付いていた」 「この子の名前をどうしようかと考えていたんだけど・・・・実はまだ名無しなの。あなたが名前を付けてあげて」 「カナ・・・・大変だったね。名前か・・・・じっくり考えるよ」 「ゔん・・・・」 マサミに抱きついたカナが泣き始めた。 今の今まで必死に繋ぎ止めていた心の糸が切れたのだろうか。堰を切ったように泣きじゃくるカナを抱きしめてマサミが言う。 「俺は今、イヌの国の一地方を改革している。どん底のイヌの国を変えたいんだよ」 「どん底?そんなに酷いの?」 「あぁ、多分・・・・江戸時代位の地方農村だろうね、いや、もっと酷いかも知れない。餓死者と凍死者が普通に出る国だ」 「酷いね・・・・」 「あぁ、だから俺はその国を変えたいんだ。手伝って・・・・くれるよね」 「うん。もちろん」 落ち着きを取り戻したカナを椅子に座らせたマサミに、レーベンハイトは声を掛ける。 「マサミさん、あなたと奥さんのエンゲージリング、外してまた懐に納めておくべきだな。手癖の悪いネコが指ごと切り落とすかも しれんし。リング目当てでヒト掠いにやられるかもしれん」 「案外物騒なんですね、ネコの国も」 「まぁな、自由の国だから何でもやらかすさ。ネコはね、退屈が嫌いなんだよ」 「長い人生、確かにそうかも知れませんな」 ネコの紳士は再び椅子に腰掛けた。懐から取り出したメモ帳のページをめくり・・・・と思ったらPDAだった。 「ネコの国は本当に凄いな・・・・PDAがあるのか」 「ぴーでぃーえー?それは何かね」 「レーベンハイトさんの持ってる機械ですよ。ヒトの世界ではPDAと呼んでます」 「あぁこれか。猫井技研の最新型だよ。ちょっと高かったけどなぁ・・・・、あ、あと、私のことはリコと呼びたまえ、面倒だろ?」 「分かりました、リコさんで良いですね?」 「あぁ、結構だ」 レーベンハイトの指に生えた爪はまさに猫爪で、ボタンを操作するときはニュッと伸び、画面をタッチするときは指の中に仕舞われ るようになっていた。 「その指と爪は便利ですね」 マサミはしげしげと眺めて口を開く。 「ネコはこれで国を大きくした。・・・・よし、決まった。カナさん、明日から細かく検査をします。3日で結果を出しましょう」 「よろしくお願いいたします」 PDAの蓋を閉め懐に収めたレーベンハイトは笑ってカナにそう言った。 物の見えないカナではあるが、音を頼りに発言者の方向を見る事は出来るようだ。 「うむ、で、そちらのトラのかた」 「俺に何かようか?」 「えぇ、そうですとも。あなたの用事は他にもあるのでしょう?」 「まぁ、そんなところだが?」 「3日で片付けてください。4日後にカナさんを連れてここを出立します」 「ちょいまち、あんたも行くってぇのか?」 「それは異な事を。私はカナさんの主治医だが?主治医の権限であのカモシカの女を追い返したのだが、何か変かね?」 「他の種族ならともかくよぉ、ネコがル・ガルにへぇったとなりゃぁ問題だぜ」 「あぁ、なるほど。でも、それも面白そうですな。駄目なら帰ってきましょう」 テキパキと物事を進めていくネコの紳士は、全部の予定を決めてから指を鳴らしメイドを呼んだ。 「皆さんにお茶をもう一杯。それと今夜8時に医者は全員ここに集めるよう指示を出しておきなさい」 「はい、旦那様」 レーベンハイトは空を見上げた。冬が近づくこの地の空は突き抜けるような群青だった。 ◇◆◇ 吹雪の音はいっそう激しさを増し、ポール公の執務室は温度が下がり始めた。 ヨシは部屋の片隅にあるスティームパイプのバルブを緩め窓にはカーテンを引いた。 「今夜は相当荒れるであろうなぁ・・・・除雪チームの連中が凍傷にならぬと良いが」 「御館様、大浴場の掃除を繰り上げ3時から入浴できるようにしましょう、除雪担当の人が暖まれるように」 「うむ、そうしよう。ヨシ、すぐに手配しろ」 「はい」 「あと、リサ」 「はい」 「今夜のメニューにスープ物を追加するようキックに伝えよ。それから、今宵は水割りではなく湯割りを出すのだ」 「かしこまりました」 ヨシは立ち上がってティーセットを片付け始めたが、ヨシの持った皿をリサが取り上げテキパキと片付ける。 「これは私がやるから」 「・・・・あぁ、分かった、頼む」 「うん・・・・」 日記をそろえ書家に納めたヨシは一礼して部屋を出て行った。 リサも部屋の隅まで行ってドアを開け一礼したとき、ポール公は声を掛けた。 「リサ・・・・」 「はい?なんでしょうか?」 「いや・・・・すまん、何でもない。キッチンを頼むぞ」 「はい」 一礼して出て行くリサを見ながらポール公の脳裏に、遠き日の若々しいリカナを思い出していた。 テキパキと仕事を進めいつも笑顔だったカナの姿。 -マサミ・・・・ -カナの容姿はマヤに、心はリサに受け継がれたかもしれんな・・・・・ 窓の外、ラッセル馬車の羽根を広げ大通りを掛けていく鈴の音が響いている。 スキャッパーにクリスマスが近づいていた。 **********************************************************4************************************************************ 真綿色の雪帽子をかぶった針葉樹が並ぶ山並みは、白と黒の見事なコントラストでどこまでも続いている。 一年もあと1週間で終わりになったスキャッパーでは、クリスマスのプレゼントを積んだ馬そりが仕立てられ、ロッソムの町を中心 にスキャッパー全地域の子供達へ信念のプレゼントを配る手はずになっていた。 ヒトの執事が持ち込んだクリスマスを祝う文化は、キリストに対する敬虔な祈りなどではなく、新たに国を支える事になる子供達へ 甘いお菓子を配って、愛国心と忠誠心を植え付ける事務的な作業をも兼ねていた。 一年良い子にしてると、領主様が甘いお菓子を盛ってきてくれるよ・・・・。 たったそれだけの事ながら、子供達にとっては嬉しいプレゼントなのだろう。 かつて、娼館に売られていった子供が幸せそうに食べていたチョコレート。 今や、イヌの国の中でもチョコレート消費量がトップなこの地域は、それだけ財をなしているという証拠なのかも知れない。 クリスマス前夜の紅朱館。 翌日の支度に追われるスタッフ達が忙しそうに大ホールを走り回って、大量のお菓子の袋を準備していた。 陣頭指揮に当たるヨシは声を嗄らし、大袋に続々とプレゼントができあがっていく。 「ヨシ、支度は順調か?」 手伝いに来たのか邪魔しに来たのか微妙なポール公は、忙しく動くヨシを捕まえてそう切り出した。 「はい、順調です、あと袋3つで完成ですね。今年も例年通りです」 ヨシは笑顔で答えた。 「マサミがカナを連れてここへ帰ってきた時、皆に祝儀と言って配ったお菓子が始まりなんだが・・・・」 ポール公はお菓子の袋を一つ手に取り、鼻先でクンクンと匂いを嗅いだ。 「うん、良い香りだ。マサミの振る舞いを息子が継ぐのだからな。ヒトは本当にすばらしい」 「御館様。これは父が始めたのですか?」 「おや?ヨシはマサミから聞かなかったのか?」 「はい、初耳です」 「そうか・・・・」 積み上げられた大袋をイヌの兵士が数人掛かりで運び始めた。 紅朱館の玄関先、明日の出番を控える馬そりに積み込みを開始したようだ。 「あのお菓子はな、マサミが妻を連れて戻ってきた時、本来お前の兄になるはずだった子の為に買った菓子を、街の子らに配ったの が始まりだ」 「本来の兄・・・・。重い病で育たなかった兄の話ですね」 「そうだ。そして、マサミはヒトの世界のクリスマスという文化をこの地域に伝えたよ」 「本来は神の復活を祝う儀式だったとか」 「そうなんだがなぁ。マサミが言うに、イヌがそれを祝う意味はないので、子供達が健やかに育って欲しいと願ったそうだ」 大ホールを占領していた大袋が姿を消し、馬そりに積み込まれたプレゼントの山が月光を浴びてぼんやり光っている。 窓辺に歩いていったポール公は空を見上げた。 「明日は晴れそうだな。マサミ。今年も子供達はきっと喜ぶぞ・・・・・ ◇◆◇ 医療センターを出たマサミとカナは、リコやコウゼイと共にネコの国を離れルカパヤンへと戻ってきた。 比較的暖かなこの街ではクリスマスの時期だというのに、通りの屋台ではビールを飲んで大騒ぎ出来るのだった。 そして、マサミがこの町で心底驚いた物。 それはキラキラ光る電飾の付いた、巨大なクリスマスツリーのおもちゃだった。 「これ、どうやって光ってるんだ?」 こっちの世界に来て以来、久しぶりに見た電気の光。 それはまさしくヒトの文明の光だ。 「マサミさん、どうしたの?」 「いや、クリスマスツリーがあるんだ。電飾で光ってる」 「ホントに?」 「あぁ、見せられないのが残念なくらいだ」 目を輝かせてツリーを見ているマサミの耳に懐かしい音が聞こえてきた。 その音の発生源を探してウロウロしていたマサミは小さな小屋の中にそれを見つけた。 小さな発電機・・・・。 「マサミ、こりゃぁどんなからくりなんだ?」 「これは電気を起こしているのですよ」 「でんき?それって」 「雷です。雷の規模をうんと小さくした物です」 「ヒトってのは・・・・恐ろしいもんだぜ」 目を丸くしているコウゼイの隣。 マサミはカナの肩を抱いてベンチに腰掛け、キラキラ光るツリーをボーッと眺めているのだった。 大通りの喧噪の中。屋台の間にわずかに残った細い通りを馬車がいくつも通り抜けていく。 ヒト商人の乗る馬車の後ろ、大きな檻の中で運ばれていくヒトもツリーを眺めていた。 「あの中でコレを見て泣いているのは直接落ちてきたヒト。呆然と眺めているのはこっちで生まれたヒトでしょうね」 「それだけで見分け出来るってのもすげぇな」 「いや、だって私も泣きたいくらい懐かしいですもの。自分の居た世界があまりに遠くになってしまって・・・・」 「ホームシックって奴か?」 「そうですね・・・・。故郷は遠くにありて想うもの。ヒトの世界ではそう言いますが、再び戻れぬ遠い世界です・・・・」 それきり押し黙ってしまったマサミの姿は心底落胆している風だった。 コウゼイもどう言葉を掛けて良いか分からず、すぐ側で売っていたビールを3つ買うとマサミ夫妻に1つずつ押しつけて乾杯した。 「マサミ、俺もな、実を言うと帰るところがねぇんだよ。山火事で全部燃えちまって村が無くなった。だから傭兵家業って訳さ」 「そうなんですか・・・・それは辛いですね」 「あぁ、でも・・・・俺にはまだ親族が居るからなぁ・・・」 肯定も否定もせずマサミは黙ってしまった。 コウゼイも迂闊な一言だったと理解したらしく、やはりただ黙っているだけだった。 「コウゼイさん・・・・もうすぐクリスマスです。それまでにスキャッパーへ帰りましょう」 「そうだな、カナさんもこんな逃避行じゃかったりぃだろ?」 「あ、いえ、平気です。夫が・・・・居てくれますから」 「お~!見せつけてくれるねぇ~熱い熱い!」 「コウゼイさん?」 「じょーだんだよ冗談!はっはっは!」 三人が見つめる先。 キラキラと輝くクリスマスツリーのイルミネーションは、一瞬ここが新宿か原宿かとマサミに勘違いさせるのだった。 奇跡の起きる夜を目前にして、マサミは一足早くクリスマスの恩恵を感じていた。 「夢も希望もなく、ただ生活に押しつぶされそうなイヌの子供達に夢を与えたいですね。何がいいかな」 「そうだなぁ・・・・沢山いるからな。どうだ?砂糖菓子でも買って返って一人に一つずつくれてやったらどうだ?」 「あぁ、それは良い案です。早速採用ですね。どこかで纏め買いしたいなぁ」 「そう言う事もラムゼン商会に任せたほうが早いぜ。あとでオフィスへ寄ろう」 「えぇ、そうですね」 話のまとまった3人の所へリコがやってきた。 両腕に袋一杯の雑貨を抱え込んでいる。 「リコさん、それはどうされるのですか?」 「あぁ、コレはですね・・・・」 小さなゴム製のネコ人形やイヌ人形。振ると音がする赤子用のおもちゃ。どれを見ても子供向けの遊び道具だ。 「イヌの国へ着いたら子供達に配るのです。見知らぬ所へ溶け込むなら、最初に攻略するのは子供と主婦ですよ」 「さすがネコですね。慧眼に恐れ入りました」 はっはっは!と笑った4人は小さな屋台で晩飯にありついた。 コウゼイと旧知らしいトラの男が鍋を振るうその料理は、どう見ても焼きうどんだった。 焦げた醤油の香りが漂い、マサミとカナは久しぶりにヒトの世界の味を思い出していた・・・・・・ 「私の目が治ったらそばを打つわね」 「あぁ、頼む。それまでにスキャッパーでそばの作付け指導をするよ」 屋台の近く。 キラキラ光るクリスマスツリーの明かりが目にしみる夜だった。 ◇◆◇ 良い調子で話をしていたポール公だが、突然大ホールに入ってきたアリス夫人の一撃が腎臓を直撃する。 「グフッ!」 「あなた!なにやってるの!」 「おい・・・・今完全に入ったぞ・・・・」 「当たり前でしょ?本気で打ち込んだんだから」 アリス夫人が珍しく怒っている・・・・・ その様子にヨシは軽く引いている・・・・・ 「ヨシ君、夕食です。すぐに食堂へ」 「はい、奥様」 「あなたも!、そもそも準備で忙しいのにヨシ君捕まえてエンドレス冒険活劇する事無いでしょうに!」 「うぅ・・・・すまんな。ヨシ、食事にしよう」 わずか1分足らずの寸劇だったが・・・・ 大ホールに掲げられたマサミとカナ夫妻の肖像画が、その楽しい光景を目撃しているのだった。 その夜。 領主夫妻寝室の隣にある談話室では、ポール公がヨシとリサに物語の続きを語っていた。 「結局な、ネコの医療局でもカナの目だけはどうしようもなかった」 「そうなんですか・・・・。でも、母は目が見えてましたよ」 「あれはな、アリスが王都の研究所へ行ってエリクサーを貰ってきたからなんだ」 「エリクサーと言えば・・・・。超貴重品で高級品ですが?」 「あぁ、滅多に流通しないが。流れるときは10万トゥンを下ることはない」 「しかし、その時代のスキャッパーに10万トゥンの予算は・・・・」 「あぁ、無かったよ。全く無かった。しかし、アリスはエリクサーを入手し、カナは光を取り戻した」 「奥様はいったい・・・何をしたのでしょうか?」 「さぁな、詳しくは本人に聞くと言い。語ってくれれば・・・・だが・・・・」 ニヤリと笑うポール公の笑みが雄弁に語る事実。 おそらく・・・・相当なことをしたに違いない。 「御館様、実はもう一つお伺いしたいことがあります」 「なんだ?」 「御館様の武勇伝というのは?」 ヨシの直球勝負を聞いたポール公がブッと水割りを吹き出してしまった。 「ヨシ・・・・ゲホッ!ゴホッ!、それは・・・・聞きたいか?」 「はい、是非!」 「うむ・・・・・・」 息を整えたポール公がもう一口水割りを飲んでヨシの顔をじっと見た。 「カナの目の検査を3日ほど行って、通常の医療では回復は出来ないと結論が出た後の事だ」 「はい」 「マサミはカナと共に、コウゼイやレーベンハイトを連れてネコの国を出た」 「はい、それは日中に伺いました」 「その後、ルカパヤンで1日過ごし、いよいよ峠を越えてスキャッパーと言うところで事件が起きた」 「事件ですか?」 「あぁ、そうだ。事件だ」 ポール公が残っていた水割りをぐっと飲み干してグラスをテーブルにおいた。 リサがすかさず水割りをもう一杯作りコースターの上にグラスを戻す。 「カモシカの国の特殊作戦軍、エグゼクターズがな、カナを奪回するべく動き出した」 「エグゼクターズですか?、あの大陸最強と言われた特殊部隊」 「大陸最強と言ってもな、それは表向きの話であって・・・・」 「表向き・・・・つまり、裏の組織が?」 「そうだ、我が国の特殊工作機関やネコの国の情報機関などの方が遙かに洗練された組織だよ」 「そうなんですか」 「でな、そのエグゼクターズがまた傑作でな・・・・・・・ ◇◆◇ 焼きうどんの晩飯にありついた翌朝。一行はラムゼンのオフィスへと向かった。 そもそもはスキャッパーの子供達に土産を用意する算段だったのだが、そこで思わぬ話を聞いた。 いつぞや話を聞いたキツネの男がオフィスでマサミ達を待っていたのだった。 「よぉ、女房を見つけたようだな」 「あぁ、いつぞやはお世話になりました」 「へぇ~、べっぴんさんじゃねぇか。ウチで働く気はないか?良い金になるぜ」 「あの、実は目が・・・・」 「見えねぇんだろ?そんなことは気にし無くって良いさ。穴さえ開いてりゃ女は稼げるからよぉ」 ハハハ!と笑うキツネの男にこれ以上ない冷たい視線が集まる。 「何だよいきなり・・・・。まぁいいさ。それよりあんたら、いったい何やったんだ?」 「何の話ですか?」 訝しがるマサミに目もくれずキツネの男は窓の外を見ながら言う。 「しらねぇか?カモシカの王府名でお尋ね者の賞金首になってんぜ、生きたまま捕縛すれば満額払いだそうだ」 「はい?」 「エグゼクターズがお前さん達を探してんよ。特に奥さん、あんたは100万セパタの賞金だ。相当良い値で売れる筈だった様だな」 「賞金首って・・・・こりゃまた派手な話だな」 賞金が掛かると言うことは、それだけ火急の用件ともいえるのだろう。 生死は問わないと言うのではなく生け捕りが要求される賞金首。 つまり、それの意味するところは・・・・ 「まぁ上手く立ち回って逃げた方が良いぜ。ウチのモンが言うにゃここへは夕方にはエグゼクターズがやってくるらしい」 「あの・・・・、エグゼクターズとは、どんな組織ですか?」 なんだ、しらねぇのか・・・・とでも言いたげなキツネの男は、たばこの先端に火を付けると煙を吐き出してから窓にもたれかかる。 「エグゼクターズはカモシカの国で唯一越境捜査を許される特殊機関だ。表向きは警察組織だが実際は・・・・」 「特殊作戦軍という設定でしょうな。ウチの国にも沢山入っていますよ。イヌの国の特殊部隊と共にね」 意外なところでレーベンハイトは口を開いた。 その言葉にキツネもトラも、もちろんヒトも驚く。 「リコさん、ご存じなんですか?」 「知らないと思いますか?怠惰なネコばかりでは無いと思っていただければ結構です」 「じゃぁネコは知ってて・・・・やってるってのかよ・・・・」 コウゼイの驚きは当然だろう。 獅子身中の虫と言うが、国家内にそう言う物が入っていて困る事は多いはずだ。 しかし・・・・ 「たとえばの話です。生き物は体内に免疫という防御システムを持っています。体内に入ってくるばい菌や不要の物を攻撃し体を守 るための物です。しかし、その免疫というシステムの奥深いところは、絶対に全滅させないのです。何故だか分かりますか?」 その間の人間達が押し黙って聞いている。 誰も声を上げては居ない。 「ばい菌を全滅してしまうと体が油断するのですよ。ですから、体内の雑菌は生かさず殺さず、コントロールするのです」 「じゃぁ・・・・ネコの国は・・・・」 「えぇ、女王フローラ様以下、ある程度の高級官僚はどこにどんな工作員が居るか、大体は把握してるでしょうね。そして、一定の 情報を得ることは黙認しますが、知りすぎると抹殺します。工作員を殺すなら女王が直接念動力でもって首をねじり落とすでしょう」 「おっかねぇ話だな、くわばらくわばら」 マサミはふとヒトの世界を思い出した。 各国のスパイや工作員が入り交じった祖国の現状を思い出す・・・・ 「自由と繁栄のネコの国ならではですね。犯罪組織の壊滅よりコントロールに重きを置くのですね」 「そう言うことです。ヒトの世界でも似たような物でしょう?」 「えぇ、その通りです。犯罪は無くならないし戦争も無くならない。だから出来る限りコントロール出来る様に努力する・・・・」 「すばらしいですな」 何となく話に乗り遅れていたキツネだったが、たばこをもみ消して椅子に座るとテーブルの上の書類に目を通した。 「ま、話を元に戻すが・・・・お前さん達、どうするんだ?。あわくってイヌの国へ行くにしたって1日掛かるぜ?」 「どうしましょうか?」 考え込むマサミとカナだが、コウゼイはとんでもないことを言い出した。 「おい、預かり屋に行け。俺が預けよう。その間に俺は応援を呼んでくる」 「え?」 「良いから行くぜ!おいキツネ野郎、案内しやがれ」 「おい!トラ風情がいい気になって・・・」 喧嘩腰に立ち上がり掛けたキツネの男の首にコウゼイの腕が掛かった。 左腕で完全に頸動脈を締め上げ、右手はキツネの男の右手首をねじり上げる。 そしてそのままバックマウントのポジションにはいると、500kgを軽く超える背筋力でキツネの男の背骨を曲げ始めた。 「なんならここでぶち殺してやろうか?、俺はおめぇみてぇなのがこの世に落ちてくる前から戦ってんだぜ?」 「てめぇ・・・・ぐぅぁぁぁぁぁぁ!」 「二束三文のはした金で大陸中のあっちこっち出向いてぶっ殺したりぶっ殺されたりってよ。傭兵ってのはそう言うモンだ」 呼吸が出来ずキツネの耳の内側がスーッと白くなって落ちる寸前。 コウゼイはパッと両手を解くとキツネの男の後頭部にグーで一発殴りこんだ。 「今度から相手見て凄むんだな」 「てめぇ・・・・」 「おう!マサミ!行くぜ!俺が直接案内する」 「大丈夫ですかな?チアノーゼ気味ですが?」 「うるせぇ!ネコに同情されるなら死んだ方がましだ!」 一礼して部屋を出て行くマサミとカナ。リコがそれに続いた。 部屋の中で苦しそうに息をするキツネの男が閉まったドアを睨み付ける。 「覚えてやがれ・・・・」 床を掻き毟って悔しがるキツネの男。 その眼差しに狂気の色があった。 ラムゼンのオフィスから程近いルパカヤンの中心部。 大きな青い建物の中に預かり屋の本部がある。 金さえ払えばどんな非合法なものでも確実に預かる事こそ、この仕事の一番重要な部分だ。 見た目よりはるかに強靭な作りになっているこの建物は、対戦車砲の一撃を喰っても貫通しないような作りになっていた。 「マサミ!何があっても逃げ切るんだぜ!いいな!」 「あぁ、そうします。やっと取り戻した妻ですし」 「カナさんもよ、あきらめて下手なこと考えねぇで・・・」 「えぇ、もちろんですとも」 雑談しながら建物へ入れば立派なたてがみを持つ獅子の男が出迎えた。 「よぉ!コウゼイ。今日は何を預かれば良い?」 「なんだよパンジャじゃねぇか!久しぶりだな。今日はこっちのヒトのツガイを預かってくれ3日だ」 「3日だな。えぇっと、あんた達、名前は?」 「マサミです。こっちはカナ。よろしくお願いします」 「マサミ・・・・カナ・・・・。おいおい、こりゃまた物騒なものを・・・・コウゼイ、こりゃ高くつくぜ?」 「おぉ、銭なら気にすんな。それよかケチなこそ泥にやられねぇ用に頼むぜ」 「で、こっちのネコの旦那はどうするんだい?」 コウゼイがレーベンハイトへ視線を送る。 「ネコの旦那はどうするんだ?自分で預かってもらうか?それともどっかホテルでも借り切るか?」 「そうだな・・・・そっちのヒトのツガイと一緒に預かってもらおうか。3人分でいくらだね?」 「お?ネコの旦那が払うのか?コウゼイ、どうなんだ?」 「おいおいリコさんよ。マサミの分は俺が持つぜ」 「あ、コウゼイ殿。御心配なく。これ位はお安い御用だ。そうだな、前金で100万払おう。足りない分は後に清算で良いかな?」 レーベンハイトはネコの国の中央銀行発行になる小切手を取り出した。 「なんなら必要分の金額をあなたが書けば良い。どうするね?」 「いやいや、ネコってのは金持ちだな。3人分、3日で100万。それで十分だ」 「よろしい、ではコウゼイ殿、お願いしますぞ」 「なんか調子狂うぜ・・・・まぁ、そんな訳でマサミもカナさんも良い子で待ってろよ!」 コウゼイの巨体を乗せた六本足の馬が大地を蹴って駆けていった。 移動の護衛を付けるべくスキャッパーへ戻っていくコウゼイなのだが、その必要性を感じないほど平穏な街中だった。 「では、お部屋へ案内しましょう」 獅子の男が案内してマサミ夫妻とレーベンハイトが部屋へと案内される。 「ネコの旦那はこっちの部屋だ。ヒトはそっちの部屋。ま、ゆっくりしていってくれ」 それだけ言い残してパンジャと呼ばれた獅子の男はフロントへ消えていった。 「リコさん、用があったらお呼びください」 「いえいえ、久しぶりの夫婦水入らず。邪魔をするほど野暮ではありません。どうぞごゆっくり」 マサミはカナを連れて部屋に入るのだが、そこに先客が居た・・・・ 「あなたがマサミさんですか、で、こちらが奥さんのカナさん」 そこにいたのは車椅子に乗って優雅にワインをたしなむヒトの老人だった。 「あの?どちら様でしょうか?」 「私ですか?そんな事はどうでも良いじゃないですか。それより、あなた方はなぜケチな賞金稼ぎに追われていますか?」 「え?」 「あなた達を追っているのはエグゼクターズのフリをした、只の賞金稼ぎですよ」 「それをなぜ?」 「忘れましたか?ラムゼン商会は情報と信頼を取り扱う商社です。我々の情報収集と分析の能力を甘く見て貰っては困る」 「あの・・・・。どちら様でしょうか?どうしてもお伺いしたいのですが」 老人はワインをもう一口含むと、車椅子を反転させ小さなテーブルの前に移動した。 マサミがふと気がついた驚愕の真実。老人の車椅子は電動だった。 「なぜヒトの世界の物がここにあるのですか?」 「ラムゼン商会が取り扱う物はヒトの世界の物ばかりです。私たちは誰よりも早く落ち物の所へ行き、根こそぎ回収し、修理し、整 備し、機能を回復して売りに出します。この町はその前線基地でもある。ここから山に向かって行くと落ち物の特異点があるのですが ね、そこへ行きありとあらゆる物を拾って居ます。ヒトや道具類だけでなく、嗜好品、贅沢品、果ては・・・・武器まで」 小さなテーブルの上。そこにあるのはバイク用のヘルメットが入るほどの木の箱。 老人がその箱を開けると・・・・ 「マサミさん、コレを扱った事はありますか?」 マサミの眼差しの先にあるもの。 イタリア製自動拳銃ベレッタM92F。 「はい、フィリピンで400発ほど撃った事があります」 「ならば安心ですね、分解整備は出来ますか?」 「はい、フィリピン軍の士官に手ほどきされました」 「ならば・・・・コレを持って行きなさい。アモはこっちに。ホローポイントだが問題ないな」 呆然と見ているマサミに向かって老人は言う。 「ボサッと見ている暇が有るならマガジンに弾を詰めたまえ。マガジンは6本だぞ」 「6本・・・・96発ですか」 「そうだ。まるで爆撃機だろ?」 マガジンに弾を詰めたマサミはスライドがオープンになっている92Fへマガジンを押し込みスライドを押し込む。 セーフティをロックしてテーブルに置いた。 「うむ、ホルスターが必要だな・・・・2丁分か」 「二丁?スペアですか?」 「あぁ、そうだが。どうせなら二丁拳銃ってのはどうかね?」 「当てる自信がないので良いです」 老人が用意したホルスターを肩から提げたマサミは、ベレッタをその中へ押し込み、スペアのマガジンをマガジンケースに収めた。 ちょっとだけ不安そうなカナがマサミの横で震えている。 「まるで戦争ね」 「大丈夫だよ。自分の身は自分で守らなきゃ」 「そうね・・・・」 窓の下、大層な大剣と槍を構えたカモシカの男達が走り回っている。 車椅子の老人は眼下を眺めながら、せせら笑っているのだった。 幾人かのカモシカが店の中へ入ってきて「ヒトの夫婦を出せ!」と店員に凄んでいる・・・・・ しかし、いくらなんでも相手が悪い。 受付にいる獅子の男に手痛い一撃を食らったのか、血まみれのままつまみ出され、店の前で悪態を吐いていた。 「大丈夫ですよ。ここへは絶対に入ってきません」 「なぜですか?」 「入り口を塞いでしまったからです。ここの入り口は今頃本棚の裏だ」 「古典的ですね」 「えぇ、しかし、この世界の獣人には古典でもなんでもなく、知識と観察力の問題でしょうね」 ややあってカモシカの男達は何事かを喚きながら建物の前から消えていった。 「ほらね。所詮は獣の脳みそですよ。あの程度だ」 「あの、あなたはもしかしてこの街を作ったと言う・・・・」 「この街を作った中の一人です。私だけの力ではありません」 「では・・・・」 「まぁ、わたしの名前はどうでも良いでしょう。それより3日間。ごゆっくりお過ごしください」 ◇◆◇ 面白おかしく話を続けるポール公の隣にアリス夫人が腰を下ろした。 「話はどこまで進んだの?」 「マサミが必死の脱出をする手前だ」 「と言う事は、あなたの武勇伝まであと少しね」 ハッハッハ!と笑うポール公はグッと水割りを飲み干した。 空になったグラスに再びリサが水割りを作る。 「実はその後、何も起こらなかったんだよ。けちなこそ泥も気が付かなかったんだろうな」 「そうなんですか。でも、御館様の武勇伝と言うのは・・・・」 「それはな・・・・3日目の午後になって話に出てくるキツネの男が手引きしてな、預かり屋の隠し部屋がばれたのだ」 「じゃぁ!」 「あぁ、そうだ。マサミはカナを抱きしめて必死に脱出した。窓を蹴破って突入してきたカモシカの男を何人か射殺してな」 「え?父が?」 「あぁそうだ。カナの為。マサミは修羅になった。後にカナはこう言ったよ。無我夢中って恐ろしいってね」 手持ち無沙汰そうなアリス夫人にも水割りを作ってリサは手渡した。 笑顔で受け取るアリス夫人は一口飲むとポール公を見る。 「でもね、ポールが駆けつけた時は、結構ヤバイ状況だったようね」 「そうだな。結構きわどい状況だったよ」 ***********************************************************5*********************************************************** 窓を蹴破って飛び込んできたのは全身黒尽くめのカモシカだった。 午後の傾いた日差しを浴びて立派な角を持った男が入ってくる。 マサミは一瞬だけ怯み、そして逡巡した。 自己防衛の意識が薄い日本人特有の悪い部分だ。 話せば分かる・・・・なんて幻想を抱いているのは、バカか日本人か・・・・ マサミは預かったベレッタをホルスターからひき抜いて、カモシカの眉間目掛け引き金を引いた。 バン!バン!バン! ドサリと落ちて崩れるカモシカの男。 もはや迷っている暇は無い。マサミは窓辺に立ち、眼下で突入準備をしていたカモシカ達に射撃を浴びせかける。 無我夢中でマガジン一本分が空になるまで撃ち、死傷者数名を発生させるとカナの手を握って言った。 「さて、逃げるよ。ここは危ない」 「うん」 子供を抱えるカナをお姫様だっこで抱えたマサミは廊下に出て階段を駆け下りる。 フロントではパンジャが腰ためでブローニングM2を乱射中だった。 「おっとヒトの旦那、お出掛けかい?」 「あぁ、部屋にも外からお客さんが押しかけてきたので、出かけてきますよ」 「そりゃ失礼した。さて、そろそろここも片付くだろ。とにかく東へ逃げろ。イヌの国のほうへ」 「そうですね。ここはお願いします」 「あぁ、後続はここで抑えておくよ」 何人かのカモシカの男がマスケット銃で撃ちかけて来る所へ、パンジャはベルト給弾のマシンガンを打ちかける。 一対複数にも関わらず火力が違いすぎ、カモシカの賞金稼ぎは足止めされている。 不運にも弾が当たったカモシカは、痛みを感じる前に次々とユッケになっていた 獅子の男の強靭な体躯が、50口径マシンガンの強烈な反動を物ともせず、まさに火を噴くチェーンソーのようだ。 「なんてパワーだよ。あれで鉄板抱えて動けば戦車だな」 「感心してる場合?」 「いや、実際そうでもないな・・・・。さて、馬でもいれば良いんだけどね」 「馬に乗れるの?」 「この世界で習ったよ。生きてく上で必須能力だからね。車みたいなものだよ」 カナを抱えて必死に駆けるマサミ。 しかし、ふと気が付くと後方から砂塵を上げてカモシカの騎士が4騎ほど追ってくる。 「まちやがれぇ!」 「待てと言われて待つバカはいないよなぁ」 「同感ね」 必死に駆けていたにも関わらず、馬とヒトの足ではあまりに速度差がありすぎて追いつかれてしまった。 「やっと追いついたぜ。ヒトの男、諦めて女房を渡しな!そうすればあんたの命は助けてやろう」 「寝言なら寝て言え、このエテ公!」 「んだとぉ!」 騎士の隣。どう見ても堅気には見えないカモシカがいきり立つ。 その男の頭にめがけマサミはベレッタを抜き、そして撃った。 「寝言なら寝て言えって言ってるだろうが!」 「やれやれ、男は殺せ!女は生かして連れて行くぞ!」 カモシカの騎士たちが槍を構えるのだが、その前にマサミはスペアのベレッタも取り出して両手で周囲に射撃を浴びせかけた。 バン!バン!バン!バン!バン!バン! 「カナ!面白くなってきたな!」 バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン! 「うるさくてよく聞こえない!」 バン!バン!バン!バン!バン!カシャン!バン!バン!バン!バン!バン!カシャン! 「愛してる!って言ったんだよ!」 4本目と5本目のマガジンを詰めて更に射撃を浴びせるマサミの腰にカナが抱きついた。 「私も!愛してるよ!」 「俺と一緒に死んでくれるか?」 「もちろん!」 「君は大した女だよ!」 バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン! 「それ!駆け足!逃げ足!ずらかるぞ!」 最後まで逃げ回っていたカモシカに致命傷の一撃を与え、マサミは再びカナを抱えて走り出す。 ハァハァ!と息を切らして駆けていると後方から再び馬が駆けてきた。 「マサミさ~ん」 マサミが足を止めて振り返ればパンジャだった。 獅子の立派なたてがみが揺れている。 「これに乗っていってください。ボスからのプレゼントです」 「スイマセン、お借りします」 「お気をつけて!」 カナを馬に乗せマサミも跨った。 「カナ!つかまってろ!」 「オーケー!」 再び馬で駆け出す二人の背後へカモシカの男達が迫ってくる。 砂塵を巻き上げ速度に乗って駆けてくるのは、どう見ても騎士や剣士の類ではなくて・・・・馬賊。 堅気の仕事ではありませんと言わんばかりの凶悪な人相ばかりだ。 速度に乗って駆けていると、後方からシュン!シュン!と音を立てて弾丸が飛んできた。 馬上から騎兵銃で撃たれているようだ。 「おかしいな、先込めのマスケット銃じゃないぞ?ボルトアクションだ」 「ねぇ!大丈夫?無理しないで!」 「ここで無理しないで、いつするんだよ!ハハハ!楽しいぞ!」 ルカパヤンからしばらく駆け、草原を横切る一本道の上り坂に差し掛かる。 流石に二人乗せた馬は苦しそうで速度が落ちてきた。カモシカの男達は速度を落とさずつめてくる。 「やっぱ六本足は速いしタフだな」 「コスモバルク並み?」 「ありゃダメだ、有馬で勝てねぇ。10万やられてるし・・・・・」 「バカねぇ」 後方でパーン!と乾いた音がした直後、馬が前のめりになって崩れた。 マサミとカナは前方に放り出され転げる。 「って、いてぇ!」 「マサミさん!」 「カナ!大丈夫か!」 30mほどにまで追いついていたカモシカ達が撃った弾は、マサミの乗っていた馬の足を貫き通したようだ。 その場で崩れた馬が白い泡を噴いて痙攣した後、絶命した。 「いやいや、絶体絶命だね。降参するようだな」 「マサミさん・・・・一緒に・・・・」 ニヤニヤ笑いながら追いついたカモシカの男達。総勢20人と言うところだろうか。 「さてさて、ヒトのあんちゃんよ。仲間の仇を取らしてもらうぜ?言残す事は有るか?」 「そうだな・・・・ジークハイルとでも言っておくか」 「なんだそりゃ?」 「勝利万歳って意味さ」 ニヤニヤ笑っていたカモシカの男が持っているのはレミントンのボルトアクションライフルだ。 なるほど、これで撃たれりゃ腕さえ良ければ当たるよな・・・・ 絶体絶命の窮地と言う事もあって膝が笑うほどに震えている。 「さて、ヒトのあんちゃんよ。一撃で殺してやるから動くなよ」 馬賊の頭目と思しき男が視線を切ってボルトを起こした瞬間、マサミはベレッタを再度抜いて引き金を引く。 しかし、カモシカの頭目の方が一瞬反応が早く、首の付け根を狙って撃ったのだが咄嗟に引き上げた右腕に握っていた銃に当たって しまった。 その衝撃でチャンバー部分にひびが入り射撃は不可能になってしまう。 「おいおい、この銃だって安くねぇんだぜ!糞野郎!」 「じゃぁ次は素直に撃たれろ」 「てめぇ!」 頭目が腰から下げた鞭に手を伸ばし、巻き束ねた革の鞭を伸ばしてマサミに打ち据える。 バシッ! 「ウグッ!・・・・いてぇぞ!」 マサミの背中にしなった鞭が入り肉が裂けて血が滲んだようだ。 怒り心頭でベレッタを構えるが、カモシカの鞭の方が早く、拳銃を握っていた手首に一撃が入った。 バシ! 「あ!」 手首がだらんと垂れ下がり拳銃が地面に落ちる。瞬間の一撃で脱臼したようだ。 激しい痛みが全身を駆け抜け、背筋に寒気が走る。 「さて、あんちゃん。そっちのメスをこっちによこしな、傷を入れると満額でねぇんでよ。あんたもそっちのメスがズタボロになん のを見たくはねぇだろ」 「随分勝手な言い草だな」 「あ゙?なんだよ。俺たちが聖人君子にでも見えるってのか?おもしれぇ冗談だ」 取り囲んだカモシカ達がいっせいにゲラゲラと笑い出した。 はてさて・・・・どうしたものか・・・・ 「カナ、腰にスペアが入っている。先に行くか?」 「うん・・・・後から来て」 「あぁ、そうするよ。なんか最後はしまらない人生だったな」 「そうでもないよ。私はあなたが来てくれて幸せだよ・・・・」 「カナ・・・・ごめんな。心から愛してる」 「私も・・・・マサミさん。愛してる」 カナがマサミの腰からベレッタを抜いてコメカミに銃口を突きつけた。 あぁ!と、カモシカの男達が叫び、頭目はやむを得ず鞭でカナの手首を叩く。 しかし、引き金を絞りかけていた指が押し込まれ、弾丸は発射されてしまった。 幸い、銃口はコメカミをはずれマサミの足元に着弾する。 カナの手首部分、鞭の当たったところの衣服が破け、皮膚からは血が滲む。 「おいおい、勝手に死ぬんじゃねぇ」 「ごめん、ダメだったみたい」 「仕方ねぇな」 盗賊の頭目がロープを取り出し部下に投げた。 「おい、そいつらを縛り上げろ。女は馬に乗せろ。男は引きずっていけ」 「へい!親分!」 「ばかやろう!。人様の前じゃ隊長ってよばねぇか!」 あっはっはっは!と笑う男達。 馬から降りてマサミに足を踏み出した瞬間・・・・・ 「軍団長に歓呼三唱!!!!!!!」 ラァァァァ!!!!!!!!!!! ラァァァァ!!!!!!!!!!! ラァァァァ!!!!!!!!!!! その場にいた物が皆いっせいに丘の上に眼をやる・・・・・ そこに並んでいたのは・・・・・・・・ 「我らがイヌの友に仇名す敵を滅ぼせぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 ラァァァァ!!!!!!!!!!! ラァァァァ!!!!!!!!!!! ラァァァァ!!!!!!!!!!! 「騎士の誇りを踏み躙る者に鋼の試練ぉぉぉぉ!!!!!!!」 ラァァァァ!!!!!!!!!!! ラァァァァ!!!!!!!!!!! ラァァァァ!!!!!!!!!!! 「法と秩序を裏切る盗賊に死の制裁ぉぉぉぉぉ!!!!!!!」 ラァァァァ!!!!!!!!!!! ラァァァァ!!!!!!!!!!! ラァァァァ!!!!!!!!!!! 丘の上に並んでいたのは、イヌの騎兵たち。 それも、少なく見積もって500騎はいようかと言う軍勢。 その中心にいるのは見覚えのあるトラの大男と・・・・・ 「我らが領主の所有物を簒奪する者に鉄槌をくだせぇぇぇぇ!!!!!!!」 ラァァァァ!!!!!!!!!!! ラァァァァ!!!!!!!!!!! ラァァァァ!!!!!!!!!!! 炎のように赤い胸甲を付けたポールだった。 「全員抜刀!!!!!」 騎馬に跨るイヌの騎士たちが皆鯉口を切って抜刀した。 陽光を反射しキラキラと光る白刃が見える。 カモシカの男達に動揺が広がり、少しずつ後ずさりしてるのだが・・・・ 「我に続けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!」 前足を跳ね上げる馬に跨ったポールは全軍に突撃を命じた。 大地を揺るがしてイヌの騎馬団が斜面を駆け下りてくる。 それを見たカモシカの男達は、仲間であろうと目上であろうと、全てをかなぐり捨てて我先にと逃げ始める。 統制の取れていた先ほどまでの動きとはまるで違う、慌てふためく逃げ足。 「接敵よぉーーーーーい!! 全軍縦列突げぇーーーーーきぃ!一人も生かして帰すなぁぁぁ!!!!!」 丘の上から駆け下りてくる六本足の騎馬軍団が最高速に乗ってる状態で、全長2mにも及ぶ馬上槍を抱え突撃してきた。 ◇◆◇ 「じゃぁ、御館様は王府に無断で国軍を持ち出して・・・・・」 流石のヨシもちょっと青くなっている。 リサにいたっては言葉を失っていた。 「いや、国軍を持ち出したのではなく、野戦演習に行っただけだ。王府にもそう報告した」 「では、戦闘報告はどうやって・・・・、まさか無かった事に?」 「いやいや、言ったとおりだよ。手癖の悪い盗賊がいたので退治したのだが、そこで軽度な戦闘を行ったと報告した」 「しかし、それではバレると思いますが?」 ヨシの疑問はもっともだろう。いくらなんでも嘘を突き通せるほど甘くはあるまい。 ポール公はグッとグラスを煽り一気に水割りを飲み込み、ゲップを一つついて酔った眼をヨシに向けた。 「だからどうした?アリスの持ち物をかっぱらいに来たバカを退治しただけだ」 「それで良いんですか?」 「あぁ。なぜなら」 「なぜなら?」 「その時点でカナは・・・・、お前の母はスキャッパーには居ない人物だからな」 「あ、そうか」 「そうだ。マサミを救出したら女房連れだった。それだけの話だ」 ハッハッハ!と豪快に笑うポール公はケツをボリボリと掻きながら、グラスの中の氷を口に入れてバリバリと噛み砕きはじめた。 この仕草が出ると言う事は、相当酔い始めてると言うことであり、そして、ノリノリモード突入の証拠なのだった。 ***********************************************************6*********************************************************** 「カナ、目を閉じてろ!」 「うん!」 騎馬軍団の洪水は、カナを抱きしめ立つマサミの左右を駆け抜け、カモシカの男達を飲み込んだ・・・・・ 目を閉じたマサミとカナの耳に入ってくるもの。それは、恐るべき殺戮の現場に居合わせる者にしか聞こえぬ生々しい音。 馬の蹄が大地をえぐる音、幾百もの馬の嘶きが重なり、大音声となって耳を劈く。 その中でかすかに耳に入ってくるのは、カモシカの盗賊たちが叫ぶ断末魔の叫び。 そして、逃げ遅れいち早く刃の露と消える盗人が仲間に助けを求める声・声・声。 イヌの騎士達が砂塵と共に駆け抜けたあと、コウゼイが駆け寄ってきて馬から降りた。 「マサミ!怪我してるな!大丈夫か?」 「あぁ、俺は良い。カナの怪我を」 「ありゃ、これは・・・・縫うようだな」 コウゼイはカバンの中からファーストエイドキットを取り出した。 痛みに顔を歪ませるカナの傷口を左右から引き合わせ、痛覚緩和魔法がエンチャントされた包帯を巻く。 「カナさんよぉ、しばらく痛いけど我慢してくれ。ルカパヤンで治療しよう」 「はい、でも、主人の背中も心配です」 「俺は大丈夫だよ」 痛みを我慢してカナの頭にマサミは頬を寄せる。 「カナ・・・・ごめん」 「大丈夫、大丈夫。それよりあなたは大丈夫なの?」 「あぁ、カナがいれば我慢できる」 夫婦で心配しあうマサミ達だったが、戦闘が一段落してその場に静寂が帰ってきていた。 「マサミ、怪我は無いか?」 返り血を浴びて毛並みを真っ赤に染めたポールが、目をギラギラとさせてやってきた。 「無い事は無いが、別段どうと言う事はない」 「そしてこっちが・・・・カナ・・・・だね?」 「あの、すいません。目が見えない物で・・・・」 「あぁ、コウゼイから聞いている。私の名はポール。ポール・レオンだ」 「ポールさん・・・・」 ポール公がじっくりと値踏みするように眺める先。 イヌの女達よりか細く華奢で、そしてスレンダーなカナ・・・・ヒトの女が立っている。 「カナ、私は君の夫マサミが主とするイヌの領主アリス・スロゥチャイムと今度結婚する事になったイヌだよ」 「・・・・・・それはおめでとうございます。つまり、夫の主人と言う事ですね」 「いや、マサミの主はあくまで妻アリスであって、おれは友達だ。マサミ、そうだよな?」 「うん、じゃぁそう言う事にしておこう」 「なんだよ、つめてぇなぁ~」 「おぃポール、マサミもカナもひでぇ怪我だぜ。ルパカヤンで治療しようぜ」 「あぁ、そうしよう」 ポールはマサミとカナに馬を一頭あてがうのだが、右手首を脱臼しているマサミは手綱を握れない。 「マサミ、コウゼイの後ろに乗れ。カナは俺の後ろだ」 「ポール。ありがたいけど遠慮しておく」 「なんだよ、信用できねぇってか?」 「いや・・・・子供がいるんだ」 「え?」 「死んでるけどね」 ポールは馬から降りてきてカナが抱える亜麻色の包みの中を見た。 息をしていないだけで、まるで眠るように母の抱かれる子供の姿がある・・・・・ 「マサミ、手を出せ」 スッと出したマサミの右手をポールが握り、関節に向かってグッと押し込んだ。 途端に痺れるような痛みが走り、目の中に星が飛ぶ。 「いぃぃぃっっっっっっってぇぇぇぇぇ!!!」 「どうだ?」 「あぁ、入ったと思う」 上手く力が入らないものの、何とか手首が動いている。 マサミは痛みを堪えて笑顔を浮かべた。 「何とかなりそうだ」 ポールは部下にカモシカの死体処理を命じた。多くのイヌが手分けし死体を草原に埋めると、馬でその上を何度も走る。 まったく跡を残さず証拠も消して、ここでは何も無かったようにしてしまった。 恐るべき手際で事後処理が進み、軍勢は隊列を整えてルパカヤンへと入る。 預かり屋の正面。 パンジャはマサミの帰りを待っていた。 「マサミさん、大丈夫ですかな?」 並んで立っているレーベンハイトも心配そうだった。 「なぜネコがここにいる?」 やや不機嫌なポールだが、マサミは事情を説明する。 「そう言うわけで、カナさんの主治医となっているのだが・・・・ネコはまずいですかな?」 「いや、そう言う事なら問題は・・・・無いとしておこう。ただ、スキャッパーに来ても色々と面倒が多いかもしれんが」 「まぁそれは織り込み済みですよ。それに、その方が楽しいしね」 「ネコと言うのはよくわからねぇ生き物だな」 ラムゼン商会から派遣されたウサギの医療団がやってきてマサミとカナの治療を始めるのだが、その場にやってきた医者は公衆の面 前でカナの服を脱がそうとした。 「あの、ここで脱がないとダメですか?」 「脱がないと治療になりません」 そのやり取りを聞いていたポールが突然ハッハッハ!と笑って剣を抜いた。 「騎士団全員回れ右!、こっち側を向いたものは容赦なく切れ!」 「ヤー・ボール!」 ポールの周りを取り囲んでいた騎士と騎兵が皆カナに背中を向け、剣を抜いて周囲に威嚇を始める。 その輪の中心。カナのブラウスをゆっくりと脱がしたマサミはカナを正面からギュッと抱きしめる。 カナの女性らしい部分を全部マサミが隠し、カナは手首だけ医者に見せるのだった。 「おしどり夫婦と言いますが、ヒトの夫婦もまた愛に溢れておりますな」 「きみきみ。医者は無駄口を叩かずに治療したまえ」 イヤラシイ目つきでニヤニヤしていたウサギの医者をレーベンハイトが窘める。 残念そうにしながらも、手首の傷に回復魔法をかけて傷を再生させた医者は、マサミの背中にも魔法を掛けた。 「きみ、その魔法で目の視力回復も出来ないかね?」 「試してみましょうか?」 カナの目の上で小さく印を結んだ医者は、高位世界の力を使って、カナの目を回復させるべく力を込めた。 「いや、ダメだな手応えが無い。多分もっと深いところだと思う。何かが壊れてるのではなく、見る事を放棄してしまったんじゃな いのかな?奥さんは」 「でも・・・・今は光を感じます。薄っすらとだけど何か見える気がする」 「カナ・・・・見えるのか?」 「え?あ、いや。はっきりは見えないけど、明るいのか暗いのか位は分かるわよ」 そんなやり取りをした後、カナに服を着せたマサミ。 そこへいつかの夜にマサミの袖を引いたオオカミの女性が現れた。 沢山の男達を従えているが、その中に例のキツネの姿があった。 金色に輝いていたはずのキツネの毛皮は血と泥で汚れ、上等なスーツはボロボロになっていた。 「マサミと言ったな。おまえをカモシカの賞金稼ぎに売ったアホを捉えた。こいつをどうしようか?」 「妻が命を落としていれば直接この手に掛けていた所ですが、幸いにも怪我で済みましたので。あとは皆さん方の都合で」 「そうか、わかった。我々には我々のルールがある。それなりの結果になると思う」 「えぇ、そうですね。分かっています。どうぞ御随意に」 オオカミの女性は持っていたダガーでキツネの男の左目を衝き刺し、顔に大きく傷を入れた。 「イヌの執事とその主よ。これをもって心中よりの謝罪としたい」 マサミはポールに視線を送る。 ポールはその意味を理解した。 「オオカミの女よ。そなたの詫びを受けよう。騎士の誇りと名誉にかけて、この一件を決着とする」 一連の出来事を見ていたコウゼイがノッシノッシと歩いてきて、オオカミの女性からダガーを奪った。 「おいおい、手打ちにするなら両成敗だぜ。元はといえば俺とそっちのキツネとの口論が元だ」 「しかし、それならばキツネとトラの喧嘩にすれば良い。ヒトを巻き込みイヌを巻き込み、そしてルパカヤンを巻き込んだ」 ポールとコウゼイの不思議にかみ合わない会話の意味を、最初マサミは理解できなかった。 しかし、その意味するところに気がつくのとほぼ同じ位のタイミングでコウゼイは口を開く。 「ならば、そっちのキツネの怪我は自分持ちだな。でも、俺にも責任の一端があるのは事実だろ?」 「あぁ、それは・・・・そうだろうな」 「ならば」 コウゼイは持っていたダガーで自らの額に傷を入れた。 赤い血が流れ額にもう一つの傷跡がついた。 「これで喧嘩両成敗としたい。おい、キツネ野郎。どうだ?手打ちにするか?」 「あぁ、分かった。蟠りも憎しみも水に流そう。しかしまぁ・・・・、トラって奴は義理がてぇんだな」 隻眼になったキツネの男は驚くやら呆れるやらの反応だ。 いまだ血の跡が残るものの、マサミはカナに服を着せた。 あまり上等な服とは言いがたいのだが、それでも裸で居るよりはましだろう。 「カナ・・・・行こうか」 「えぇ、あなたの主に会ってみたいわ」 「俺と一緒にスキャッパーで暮らしてくれる?」 「あなたの主が許すなら・・・・ね」 カナをギュッと抱きしめて優しくキスをするマサミ。 それを見ていたコウゼイがポールに耳打ちする。 「おい、アリスさんの面倒、お前の責任だぜ?」 「あぁ、間違いねぇな・・・・。しばらく荒れそうだぜ」 ◇◆◇ いつの間にか再び降り出した雪が窓の外を舞っている。 あと数日で新年を迎える紅朱舘は、各所で新年を迎えるための準備を整えていた。 「マサミがカナを連れてここへ帰ってきたとき、アリスは大喜びでなぁ・・・・」 「それはそうよ。だって、マサミがいつもきを抜いたときに見せる寂しそうな表情の理由だもの」 ニコニコ笑うアリス夫人もグラスをあおって水割りを飲み干した。 「そりゃぁねぇ・・・・。私はイヌ、マサミはヒト。その間を隔てる溝は大きく深いわよ。そして、マサミが心のそこから愛する女がす ぐ近くに着たんだから、心中穏やかじゃないのは当たり前の話よね。でも、それでも私はマサミを愛していたわよ。もちろん、マサミ だけでなくて、ポールもそうだしね。ここの町に住むすべての者が私の家族」 「奥さま・・・・・」 「マサミとカナがここへ来て、古い紅朱舘の大ホールで皆が見てる前でもう一度リングを交換して。そして誓いのキスをして・・・・。 そのときカナが言ったの。私の目は少しずつ見えるようになっています。私の顔をちゃんと見えるようになったら、そしたら契約する ってね。だから私は早くカナに良くなって欲しくて走り回ってねぇ・・・・」 「アリス様?、話が上手く繋がりませんが?」 「何を言ってるの!。カナが私と主従契約を結ぶと言う事は、マサミの重荷を半分持つと言うことでしょ?。夫婦ならばそれは当然 の事。カナはマサミを必死で愛していたのよ。だから、私は女としてカナを応援したかったの・・・・わかる?」 「奥さま・・・・・」 リサは涙ぐんでいた。今の今まで勘違いしていた部分に気がついたのかもしれない。 決して負けたのではなく、むしろ応援していたのだと言う事に。 黙って話を聞いていたヨシは両手の中のリングをじっと見ている。 聞いた事の無かった両親の青春時代が、見事な光沢を放つリングの両面に流れて消えるようだった。 「ねぇリサ。左手を出して」 リサはわけも分からず手を出した。 その手の薬指へヨシはアリス夫人から預かったカナのリングを通す。 「あぁ、やっぱりピッタリだ」 「え?ヨシさん・・・・これ、お母様の」 「うん、母さんと父さんからの遺言なんだ。ぼくの妻にそれを渡せと」 「ヨシさん・・・・」 「リサ、ぼくと結婚しよう」 リサが本泣き一歩前で涙ぐんでいる。 「あの・・・・御館様、奥さま。執事長さまからこのように承りました。よろしいでしょう・・・・か・・・・」 「あぁ、もちろんだとも。リサ、幸せになってくれ。アリス、お前も賛成だろ?」 「えぇ、もちろんよ。リサ、これからもスキャッパーをよろしくね」 リサは言葉にならず何度も頷いて涙を流した。 ヨシが握っていた左手を解くと、そこにはマサミのしていた指輪が姿を現す。 そっと持ち上げたリサはヨシの薬指にリングを通した。 「リサ・・・・ありがとう」 「うん・・・・これからもよろしくお願いします」 「こっちに来て」 「なに?」 ヨシはリサを引き寄せて抱きしめると唇へキスをした。 その一部始終をアリスはポールと見ていた。 「年が明けて冬が一段落したらお披露目ね」 「あぁ、そうだな。まずは新年を迎えよう。ヨシ、リサ。頼むぞ」 自らの指に納まったリングをじっくりと眺めるヨシがふと何かに気がついた。 「そう言えばアリス様、エリクサーはどうやって入手したのですか?」 「え?エリクサー?あぁ、アレは・・・・」 覚えてるんだけど忘れているかの様なフリをして話をはぐらかせるアリス。しかし・・・・ 「また今度、ゆっくり話をしましょう。これも長い話よ」 そういって一方的に話を切られてしまった。 「さて、明日は早い、もう休みなさい」 「はい、御館様、アリス様、お休みなさいませ」 「うむ、夫婦仲よくな」 「はい」 二人して席を立つヨシとリサ。 ポール公はふと思い出したかのようにポケットをまさぐる・・・・ 「ヨシ、忘れていたよ、酒が入るとダメだな」 ポケットから出てきたのは真鍮の鍵だった。 よく使い込まれた一番いになる長い鍵。 「ヨシ、リサ。君たち夫婦の新しい部屋だ。年が明けたら執事公室を使うとよい。それまでは・・・・」 ポール公がニヤリと笑ってアリス夫人に目をやる。 アリス夫人も笑って視線を返してからヨシとリサに目をやった。 「それまではヨシ君の小さな部屋が二人の愛の巣ね。出る時は綺麗にしておきなさい」 「アリス、今ふと思ったんだが・・・・明日の街駆けはヨシとリサにやらせよう。お前達は1頭の馬に乗って街駆けだ。いいな?」 「はい」 「よろしい、もう寝なさい、明日は・・・・頼むぞ」 二人はヨシの部屋に入り、小さなベットで折り重なるように寝てしまった。 ヨシに抱きついて体を預けるリサの指にプラチナのリングが光る。 「ヨシさん、本当に私で良いの?」 「うん、もちろんだよ。だって、随分前から、俺はリサを好きだったもん」 「私も・・・・大好き」 年末の忙しさが疲れさせていたのか、いつの間にか二人は眠りに落ちた。 愛を育む夜の営みは、また次の機会だろうか・・・・・・ これから長い生涯を共にする二人の、幸せな初夜だった。 翌朝。 巨大な馬そりの御者席にはポール公が座り、手綱を握って出発の合図を待っている。 馬車の荷台ではアリス夫人が大きな袋の口を開け中身を確認していた。 「あなた、準備は良くて?」 「あぁ、いつでも出発できるぞ」 「じゃぁ出発!」 馬の首にぶら下げた鈴がシャンシャンと鳴り、プレゼントを積んだ馬そりは雪の上を滑り始めた。 そりの後ろ、今年の縦走者はヨシが付いていた。そして、ヨシの後ろにはリサが一緒に乗っている。 「ヨシ!リサ!街へ行き子供を呼ぶのだ!」 「御館様!心得ました!」 馬を加速させて馬そりを追い越していったヨシが街の中を叫びながら駆け抜けていく。 - クリスマスのお祝いだよぉ!良い子は出ておいでぇ! シャンシャンと鳴る鈴の音が街に響き、家々のドアが開いて小さな子供があちこちからゾロゾロと通りへ出てきた。 「一人一つずつだからね。おうちに入って食べなさい」 アリス夫人とポール公が配る小さなお菓子の包み。 中身は甘いチョコレートと飴玉だ。 お菓子を貰った子供達が幸せそうに包みを持って家に入っていく。 スキャッパーにクリスマスがやってきた。 「リサ!俺も子供が欲しい!」 「ヨシさん、私もあなたの子供が欲しい」 「これからずーっと一緒だね!よろしく!」 「私も!」 粛々と舞う雪の中、二人して馬で駆けて行く姿を見たポール公はアリス夫人に耳打ちする。 「良い夫婦だな」 「えぇ。だってマサミの息子夫婦だもの」 紅朱舘の第三世代が生まれる数年前の出来事だった。 第6話 了
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リプレイ一覧に戻る GM/Swindページに戻る 【リプレイ】おいしいご飯の晩餐会 第1話-Side A 開催日程 2009年9月12日 13 20~18 50 GM Swind 参加PC アークライト、アナスタシア、マディ 概要 とある名家のご令嬢の護衛としてリゾート地に向かう依頼。 そこで待ち受けていたのは・・・・ プロローグ ~ 初めての旅 「では、お父様、お母様行ってまいります。」 こういって丁寧にお辞儀しているのはハインザート家の令嬢、ラフィル。 13歳を迎えたばかりのこの少女は、今日、初めて親元を離れての長旅へ出発しようとしていた ここは、ラクシア大陸北部に位置するバルナッド共和国。ラクシアにある国としてはめずらしく評議員制によって運営されている。ラフィルは、この国で代々評議員を務めているハインザート家の一人娘として、これまで育てられてきた。 美しい金髪のストレートヘアが風にサラサラと流される様子だけを見ても、とても大切に育てられたことがわかる。やや緊張気味なのか,成長途上特有のあどけなさが残るその表情は少し硬いようにも見える。 「ルーン殿、エリーゼ殿、よろしく頼みましたぞ。」お父様とよばれた人がラフィルを挟んでいる二人にこう告げる。 今回の旅でラフィルのお世話を担当する従者の二人のようだ。 「わかりましたご主人様。」「私たち二人でラフィル様のことをお守り申し上げます。」 首元と耳が硬質素材担っている通り、彼ら二人はルーンフォークであった。ラフィルがこの家に来て以降、二人は専属の従者として仕えている彼らのことを、ラフィルは兄や姉のように慕っていた。 今回の旅の目的地は、ザルツ地方ロシレッタ近郊に新しくできたリゾート地。 バルナッド共和国のあるダグニア地方からは遠く離れており、通常であれば初めての旅としては大変厳しいものになることであろう。 しかし、今回に限ってはその心配はまるでない。なぜなら、この旅は飛行船をチャーターしての「安全快適な空旅」であるからだ。 途中で空を飛ぶ生物や魔物に襲われる心配がゼロとまではいえないものの、陸路に比べれば圧倒的に安心感は高い。 ラフィルにとって初めての長旅は、無事何事もなく終わるはずであった・・・・・・。そう、本来ならば・・・・・。 §1 なんてステキな護衛依頼 GM では、セッションをはじめます。皆さんよろしくお願いしまーす。PC一同 よろしくお願いしまーす。GM 今日も今日とて竜の篭。みなさんは、好き好きに午後下がりのひと時を過ごしています。 ルキスラにある冒険者の店『竜の篭』、今日もヒマをもてあましている冒険者がいらっしゃるようです。 1階の酒場に店長が居ることは少なく、一人(一匹?)の毛並みの良いコボルトが仕事を任されているようです。 アティ #チャート、マディ >> [DICE] Aty [マディ] 洗濯中。シルクやレースの細やかな形をくずさぬ器用さアティ 「今日は天気が悪いから洗濯ものが乾きそうにないな…」ダイス切りつつwGM ジョン「ほむ、マディ殿はお洗濯ですか・・・・」お皿ふきふきマディ 「師匠・・・ ちょっとオレが居ない間に何故こんなに・・・」じゃぶじゃぶアティ 「人がちょっと奉仕活動してる間に黒の砂漠なんかに行く奴が悪い」優雅に紅茶とクッキーぽりぽりぽりぽりぽり食べながらライト 「うーん。ちょっとこのお二人の会話には入れません」マディ 「あ、ライトさんお久しぶりです」じゃぶじゃぶライト 「ええ。お久しぶりです」ライト 「それなりですね。しかし、足が速くならないのが目下の悩みです」アティ 「ん、ライト久しいな。その後どうだ?」アティ 「脚か・・・前衛は大変だなぁ。ん、それはオススメだ、コーンフレークがはいってるやつ。バーレスのステアラアントという店のクッキーだ」マディ 「うんうん、オレもなんか勉強がはかどらない気がして・・・」じゃぶじゃぶアティ マディに置いていかれてさびしかったので珍しく紅茶とクッキーをライトに薦めますライト ありがたくいただきますGM ジョンは今日のおススメ料理 『リザードフライグラタン・ルキスラ風』 を研究中です 「おいしいご飯」シリーズでは、たいていどこかで「料理」が出されます。 ただ、このメニューはIRCクライアントのマクロ機能を使ってランダムに食材と調理法、そしてどこ風か を選んでおりますので、時折とんでもない料理がでてくることもあります。まぁ、そんな食材をいれているGMが悪いのですが(笑) で、今回は・・・まだまとも(?)なほうですね笑い GM ジョン「うーん、これではちょっとまだ苦味が残りますね・・・もう少し灰汁抜きが必要でしょうか・・・・」 味見をしながらアティ 「むー・・・今日の料理はリザードフライグラタンか・・・夕食が楽しみだ」わくわく (GM:楽しみか?(笑))ライト 「(むぐむぐ)このクッキーおいしいですね」>アティアティ 「だろう。紅茶もどうぞ」もちろん淹れたのはマディですwライト 「ええ。いただきます」こくこくアティ しかしクッキーを自重しない師匠マディ 「師匠・・・」じゃぶじゃぶ(トホホな表情ライト 「マディさんの淹れてくれた紅茶もおいしいですね」マディ 「ありがとうございます」ぺこり、じゃぶじゃぶ GM では、そんな紅茶とクッキーを楽しむひと時を過ごしていると・・・・一人の執事風の男性が入り口から入ってきます。推定、ルーンフォーク(♂)アティ 「うん、マディの紅茶葉うまい。それは毎日褒めてやってもいいことで・・・ん?」はいってきた人を見ながらGM ルンフォ「ごめんください。こちらには優秀な冒険者の皆さまが集まっているとお伺いしたのですが・・・」マディ 「確かにココは冒険者の宿ですー、えーっと・・・ ジョンさーん、お客さんですよー」アティ 「優秀・…優秀か・・・ふふふ」 ライト バトラーいくつくらい?GM バトラーは 2D3[1,3]4+3 = 7 ぐらいライト 「プロの執事さんですか……。」仕草をみて執事の勉強中 (ライト君は現在バトラー2)アティ いや。ルンフォとしては間違っちゃいない情報だがアティ 外見想像できねぇえええwGM 外見は・・・・メッ○ュを当社比300%ぐらい渋カッコよくした感じ?(笑)アティ 別人じゃん!w<300%ぐらい渋カッコよくマディ wwwGM ソウトモイイマスw<別人 GM ジョン「ほむ、いらっしゃいませ。何かご依頼でしょうか?」GM ルンフォ「はい、こちらの冒険者の方に、護衛の依頼をお願いしたくお伺いしたのですが・・・」といって、あたりをぐるりと見渡します。アティ 目が合ってにっこりとほほ笑みかけます。本人が微笑みかけたつもりですがにやーっと笑ったように見えるでしょうwGM 執事風ルンフォはアティさんににこっと微笑みます。マディ wwwww パタパタと水気を切ってますwアティ 「仕事のにおいがするな!(ぼそぼそ」>ライトライト 「ええ。そうですね(こそこそ」アティ 気にしないなんてさすが執事さすがアティ 「マディ、しごとの気配だが洗濯はどうだ?(こそ」マディ 「とりあえず、あとは干すだけです。ジョンさんとまずお話しすると思いますんで干してきちゃいますね」よいしょっとアティ 「よしよし」>マディライト 「優秀なお弟子さんですね」>アディ、マディアティ 「まあな」にや>ライトマディ 「オレなんかマダマダですよ」w>ライト GM ジョン「なるほど、護衛ですか。 主人はあいにく出かけておりますが、私が承るよう申し付かっておりますので、お話しをお伺いできませんでしょうか?」GM ルンフォ「ジョン様ですね。私はルーンと申します。以後、宜しくお願い申し上げます。さて、依頼なのですが・・・・」アティ クッキーの残りを置いていかずに済むように包んでおきますGM ルーン「ロシレッタ近郊に最近出来たリゾートまで私の主人が向かっているのですが、ここから先に向かう間の護衛をお願いしたいのです」GM ジョン「ほむ、リゾートですか。」GM ルーン「ええ、どうでしょう? 明日には出発したいのですが、冒険者の方をお願いできませんでしょうか?」 アティ クッキーを珍しく三等分にわけて包み終えたのでジョンを熱い視線でぢっと見つめますGM ジョン「そうですね。リゾートですか・・・・・」といって、チラっとアティさんを見ますアティ ラスプーチン「ゲロゲーロ」 (GM:なぜラスプーチン? アティ:使い魔の蛙の名前w GM:なるほどw)アティ 「ジョン、仕事かな!」フライングして話しかけますwGM ジョン「ええ、お仕事ですよ。リゾートまでの護衛だそうです。お話し、お伺いになりますか?? あ、ライトさんもせっかくなのでご一緒にお伺いになっては?」ライト 「ええ。そうさせてもらいます」アティ 「うんうん」アティ ラスプーチンを裏庭に放ってマディにドロップキックさせておきますアティ ラスプーチン「ゲロゲーロ!ゲロゲーロ!!」>マディマディ 「あたっ! 何するんですか!?」マディ 「まったくもー、人使いが荒いんですから・・・ 師匠、どうしましたか?」アティ ラスプーチン「ゲロゲロ!」酒場を指さしてマディ 「さすが師匠、既に仕事受けてるモードです・・・」 (GM:マディさんも適当に合流してねw、マディ:はーいw) GM 推定依頼人はアティさんのことは (ころころ)知っている、ライトさんのことは(ころころ)知っていない・・と。アティさんのことは聞いたことがあるようです。 GM ルーン「あ、あなたがアティさんですか。先ほどここを教えていただいた方にお名前をお伺いしました。」 一応皆さん都市レベル以上知名度がありますね。アティ ふむふむGM ルーン「はじめまして、私はルーンと申します。」>ライトさん、アティさん ご挨拶モードアティ 「うむ、私がルーフェリア神官にしてソーサラーのアナスタシアだ。ルーンさん、よろしくお願いします」ライト 「はじめまして。僕はアークライトと申します」<エセ執事モード(笑) 10秒持たないかも・・・アティ 「おー」執事的挨拶の応酬に感心しています・・って10秒もたないのかYo!w (GM:持たないのかよ!w)ライト だって所詮レベル2・・・ (GM:なるほどw) GM ルーン「では、依頼の内容を詳しくご説明させていただきたいと思います。 皆さんにお願いしたいのは、我が主の旅行の護衛です。」アティ 「旅行!」きゅぴーんマディ 「師匠、この方からの依頼を受ける事になったんですか?」GM ルーン「我が主は、バルナッド共和国の評議員を務めている商家でして・・・あ、こちらの方も冒険者の方ですか?」>アティさんにアティ 「うむ、こちら執事のルーンさんだ。ルーンさん、これは私の弟子のマディです」マディ 「初めましてルーンさん、オレはマディといいます」ぺこりGM ルーン「マディ殿ですか、宜しくお願いいたします。 では一緒にお話しを・・・・」 アティ 「ふむ・・・バルナッド共和国の・・・」とか言っていますけど師匠は頭悪いのでたぶん初めて聞いた国名ですライト バルナッドってかなり遠いねGM バルナッドについては、ルルブ3のどっか参照でwマディ wアティ あいwライト 3-187~188 (GM:さんきうw)アティ ほかのPCは行ったw GM ルーン「で、今回、我が主の娘様が、ロシレッタ近郊に出来た会員制リゾートまで旅行に出られることになり、私も同行することになったのです。」GM では、ここで、会員制リゾートについて見識どうぞー^^ 目標12ぐらいかな?ライト 見識ー 2d >> [DICE] light 2D6[3,6]9 = 9アティ 2d6 漫画で見たかもしれない >> [DICE] Aty 2D6[3,1]4 = 4アティ 漫画にでてこなかったようですライト あ、ケミ1あるやGM ケミもできますね^^アティ おーライト +5で14っすマディ 「会員制リゾート・・・? ですか」 2d6+11+1 見識 >> [DICE] Muddy 2D6[5,3]8+11+1 = 20 (GM:チェックすごいなぁw)GM では、アティさん以外はわかりました。 ラクシアの都市には、ところどころに「とってもセレブな人しか出入りできないリゾート地」がありましてGM で、そのような場所はいくらお金があっても、「メンバーさん」かその関係者しか入ることができないことが一般的です。GM もちろん、通常の冒険者には手が出ない場所ですね。 最低でも伯爵クラスに「親愛なる友人」がいないと入れないクラスとおもってください<ラクシアでの会員制リゾートライト 「ああ。なるほど……」マディ 師匠が妙な気を起こさないように調べてるんでしょう、多分・・・ って一応師匠はセレブだった・・・?wアティ 「ふむふむ、わたしみたいな人間が行く場所だな」うんうんアティ まぁ小さな村の領主とかだけどネライト ←家出(正確には勘当かな?)貴族アティ ←追い出されたニートマディ あなたがたwアティ ←こいつの言ってる事はオオゲサなだけなんで、間違いなく入れるクラスの人間じゃございませんwマディ www GM ルーン「で、創立当初にお誘いがあって、我が主が最近新しく出来たこのロシレッタリゾートのメンバーになったので、娘様に一度いかせようと、今回の旅となった次第なのです」GM ルーン「我が主は仕事で多忙の為、後から遅れて向かうことになっておりまして。娘様が先に飛行船で向かうことになったのですが・・・」マディ 「そうですか・・・ と、そうすると今までも旅をされてきたんですよね? どうなさってたんですか?」ライト 「僕たちの仕事は、その道中の護衛ということですか?」 ・・・っとちがったアティ 「ほうほう」ライトと同じこと言おうとしたがまだ続きがあった!GM ルーン「ええ、本来であれば現地まで飛行船で向かう予定でした。しかし、この飛行船がルキスラに停泊したおりに故障してしまいまして・・・」GM ルーン「修理に時間がかかることから、コノ先の旅路は陸路と船で向かうことになったのです。 で・・・・」GM ルーン「陸路となりますと、街道筋とはいえ危険がつきまといます。そこで、こちらの優秀な冒険者の皆さまに護衛をお願いしたく、お邪魔した次第でございます」マディ 「なるほど」ライト 「依頼料、期間、目的地をお教えいただけますか?」GM ルーン「護衛の期間は・・・リゾート地の往復の間ですね。アルドレアまでを陸路で向かい、その先は船で行きたいと思っていますので・・・」GM ルーン「片道で陸路が2日、船旅が5日程度と考えております。 滞在期間の3日ほどを含めて、ルキスラまで往復が拘束期間になるでしょうか・・・」アティ 「船!」師匠がアップをはじめました 耳ぴっこぴっこGM ルーン「現地は安全快適に過ごせますので、皆さんもゆっくりとお過ごしいただけるように手配させて頂きたいと思います。」アティ 「おお…!!」耳の上下が激しくなりましたライト 「それは嬉しいですね」マディ 「ふむふむ、お話はわかりました」 アティ 「で、で、報酬はいかほどですか?」ぴっこぴっこ (マディ:「落ち着いてください師匠・・・」><)GM ルーン「で、依頼料なのですが・・・・・この辺りの相場というものがよくわからないのですが・・・・・とりあえず前金分でこれくらいお支払すればよろしいでしょうか?」GM といって、袋をごとり。 ジョンさんが中を改めて・・・・・めずらしく驚いた表情しています。ジョン「こ、こんなに・・・ですか??」アティ マディをにょーんしながら 袋を見て「?」 (マディ:⊃>人<⊂ にょーん) GM アティさんは、中に30000G入っているのがわかりました。アティ 「Σ」GM ルーン「無事帰還できましたら、あと50000ガメルほど・・・と思っているのですが・・・これでは足りないでしょうか?」GM ルーンさんはきょとんとしていますアティ にょーんしながらルルブⅡを取り出して思わず確認しています (ライト:w)GM あ、もちろん食事や途中の宿泊はルーンさん側持ちとの話です。相場より高いということは知っていていただいてOKです^^ライト 「とてもおいしい依頼ですね。ぜひとも受けましょう」>マディ、アティアティ 「え? あ、う、うん・・・もちろんだ、ライト!」マジでいいのかなと思う実はチキンな師匠マディ 「さすがにこんなに貰った事はないですから正直に言った方が良いと思いますが・・・」(こそこそ)GM では、そのマディさんの声をききつけて ルーン「あ、コレには一応『口止め料』も含まれて居まして・・・いちおう娘様はお忍びのたびですので・・・」アティ 「ええと・・・これは規格外の大きな危険が予測されるからこの値段ね・・・ああ、なるほど・・・」<お忍びマディ 「お忍び・・・ 有力者の方の御息女となるとそう言う事に気を使うものなんでしょうか・・・」アティ 「一応お伺いしてもいいか? お嬢様が特定の誰かに命を狙われていたり、恒常的に命を狙われていたりするような事はあるのですか?」GM ルーン「いえ、そういうことはございません。私どもは自分の国では常にこれくらいお支払していますので・・・」GM ルーンさん曰く、バルナッド共和国の評議員家なので多少のねたみや恨みは買っているかもしれませんが、具体的な危険はないというお話で>アティさん (アティ:おけー)アティ 「なるほど。それでは、もらう報酬の分は働くとしようか」>ライト、マディライト 「僕としては文句はありません」GM ルーン「どうでしょうか? こちらでお願いできませんでしょうか?」アティ 「うん、よろしくお願いします」マディ 「あ、はい。精一杯頑張ります」GM ルーン「ありがとうございます。それでは明朝の出発にしたいと思います。私がこちらにお伺い、主人の下へご案内させていただく形でよろしいでしょうか?」アティ 「はい、時間までにバッチリ用意しておきます」弟子が、と心の中で付け加えます。(GM:www)マディ 「そうですね、そうしていただけるならありがたいです。ただ一応逗留されている所をお聞かせ願っても宜しいですか?」GM ルーン「私どもは、あちらの『ホテル・ルヒトン』に滞在しています。何か御用がありましたらこちらに・・・」アティ ルヒトンwwwマディ 「はい、万が一何か火急の用件があればお知らせします」GM ルーン「ただ、お忍びのたびということで・・・・ここから先はご理解くださいませ(にっこり」>マディさんマディ 「判りました」 GM ルーン「では、今日のところはコレにて失礼致します。ご準備、宜しくお願いいたします」 といって去っていきました。GM といって、去ったということでアティ マディの頭の上のラスプーチン「ゲロゲーロ」敬礼ライト 前金ということは一人10000げと?GM はい、カウンターには30000G入りの袋が鎮座ましましておりますねw>ライトさんアティ わーいwライト 「さて、準備しましょうか」お金を分けてアティ 「おー!w」>ライト 耳ぴっこぴっこGM はい、ご準備どうぞー^^ 必要なものがあったら買っていってくださいねー ここで前金として一人10000Gを配分しました。いろいろ相談しつつルルブ・AWをみつつ・・・事前のお買い物は次の通りとなりました。 アティ 浄化の聖印と、10点石2コ、魔香草3つと魔香水2つ、5点石2つにします。ライト 5点石1個と魔香草2個、インドミダブルを1個買っときます。マディ ちょっとケチって魔化粘土5個、魔化石3個 で、少し余裕があったアティさんは・・・・アティ あ、あと水着買ってきます!GM らぢゃw チャート入ってますよwアティ #チャート、水着 >> [水着] 布地の部分が極端に少なく、ほとんど紐で構成されたエコロジーな水着。別名、あぶない水着。ライト wマディ 師匠・・・アティ にゃーwwwGM あぶない水着げとでwアティ ><アティ マディに持たせますマディ 「だ、大胆ですねぇ・・・」ここは言わねばw 「もうちょっと自分を鑑みてください師匠・・・」><アティ 「なにか言ったか?」にこにこにょーんGM マディさんも苦労人ですねぇw さて、今回は総経験点換算をすれば9~10Lv帯に該当するメンバー構成。 ルルブ2によれば、このレベル帯での報酬は「お仕事1つあたり10000G程度」が目安とされています。街道を使った旅の護衛という仕事の内容から考えても、破格の報酬であることは言うまでもありません。 この時点で、裏がありそうな話と感づかれるかな・・・と思ったのですが、後からPLさんたちに聞いてみたところ「2話分だと思った」「合流予定のもう一つのPT(SideB)とも分け合う形になるとおもった」など、思ったよりスルーされていたようです(笑) まぁ、それはそれでGMとしては助かりるのですけどね(笑) §2 旅立ち ~ お宿はどうするの? GM 翌朝です。約束した時間より少し早く、ルーンさんが竜の篭にやってきましたGM ルーン「少し早かったでしょうか? みなさんおそろいですか?」ライト 「ええ。大丈夫ですよ」アティ 「うん、ちゃんと起きてるぞ!」昨日夜8時に寝たので目が冴えてます マディ はーい、1時間前からゴーレムさくせーい 2d 「立て、泥人」 >> [DICE] Muddy 2D6[5,6]11 = 11GM ゴーレム了解・・・・って、街中でゴーレム?^^;アティ マントかぶせとこうwマディ ロームパペットですからちっちゃいですライト ぼっしゅう・・・(’’アティ らめぇええGM らぢゃ<ろむぱぺマディ あ、ついでに琥珀の目つきですGM はーい<琥珀 コンジャラーの得意技のゴーレム作成なのですが、一般人にウケがいいとはとてもいえないものです。街中でゴーレムで連れて歩くのは剣を鞘から抜いてブンブン振り回しながら歩いている怪しい人と同じように扱われる恐れもあり、場合によっては官憲につかまってしまうかもしれません。 ということで、本来は街中でやるべきものではありませんのでご注意をw GM うーんと・・・ルーンさんは ロムパペを見て #ランダム、動じない、平気の平左 >> [DICE] GM_Swind 対象(平気の平左)アティ 結局動じないんじゃん!w (GM:あ、ばれた?w)GM 平気の平左でした ルーン「あら、そちらの方は操霊術師の方でしたか、これは頼もしい護衛が増えました」 ロムパペを見てマディ 「ええ、今日明日は街に入りますのでこのくらいで」アティ 「むう・・・執事ってすごいな・・・」いろんな意味でwGM ルーン「では、出発させていただいてよろしいでしょうか? 娘様はルキスラ西門にてお待ちになっておられます。」アティ 「了解だ。移動しましょうか」GM では出発です ジョンさんが珍しく外までお見送りに出てきてくれました 「どうかご無事で・・・・(ぺこり」 (注:死亡フラグのつもりw)マディ 「では、よろしくお願いします」ぺこりアティ ジョンに手を振っておきます ノシ GM で、ルーンさんの案内にてルキスラ西門まで行きますと・・・・超ゴージャスな馬車が止まっています ルーン「あちらに娘様がおわします。」アティ 「む。ゴージャスな馬車・・・」マディ 「(ど、どこがお忍びなんでしょう・・・?)」(ちょっと汗wライト 「貴族ってこうゆうものですよね・・・」分かってはいるけど^^;アティ 「うむ、立派な趣味だ」どこか間違ってる師匠 GM ルーン「では、我が主をご紹介させていただきます」 馬車のドアをがちゃりGM ドアをあけると、まだどこかに幼さが残る若き女性が座っています。金髪ロングなストレートヘア。清楚な格好ですねGM 座ったままですが、会釈してご挨拶「私はラフェルと申します。今回は宜しくお願いたします。」ぺこりGM で、その隣には、女性ルンフォな感じの長いブラウンヘアーを一本にまとめた女性がいます。「従者のエリーゼです。よろしく(ぺこり」マディ 「あ、はい。よろしくお願いします」ぺこりライト 「アークライトと申します。この度はよろしくお願いしますね」一礼アティ 「はじめまして。竜の篭の冒険者でルーフェリア神官のアナスタシアです。よろしくお願いします」ぺこり GM ルーン「ラフェル様は、私とエリーゼが仕えている主の一人娘様であり、非常に大切な方です。皆さま、どうかよろしくお願いいたします。」GM といいつつ、ドアを閉めました。ばたん (ライト:ふむ、マディ:ふむふむ、アティ:ほーい)ライト 走ってついていくのかな?GM 走ってというか歩いてですね。 馬車を囲むように・・・になるでしょうか?マディ ドラクエ4状態ですなw (ライト:w )アティ 「・・・しまった。馬とか用意したほうがよかったかな」GM ルーン「いえ、今回はラフェル様に負担の内容にゆっくりと向かおうと思っています。徒歩でもそれほど変わらないでしょう。」アティ 馬乗る旅の方が疲れるって聞いたことあるような気がするので、歩いてでいいんだらこのままいこうw (GM:ww)GM ルーン「では、参りましょう。宜しくお願いいたします」 出発ーGM BGM:てっ、てっ、てっ、てっ、てっ、てっ、てっ、ちゃちゃちゃちゃーーーん、ちゃらららーちゃららら・・ GMとしては「ドラ○エ4の平野を行くときのBGM」のイメージだったのですが・・・・ アティ 進んでたwライト エンカウント!?wアティ みすりるごーれむ が あらわれた!!ライト オワタwマディ ΣGM いやいや、出会いませんwアティ ライト「俺が食いとめてる間に逃げるんだ!!」GM wwwライト なんという死亡フラグw いや、ミスゴ出して良いなら、出しますよ?w アティ 「・・・ぶしつけですが、ラフェルさんはどこかお体でも悪いのですか?」小声で聞いてみます>ルーンGM ルーン「体はそれほどお強くはありませんが、今は特にどこかわるいわけではありません。今回は、少し体を休める為にご静養ですね」アティ 「なるほど・・・失礼しました」>ルーンアティ まぁ負担掛けないようにって事ですにゃGM ですです>アティさん GM 初日は特に何事もなくゆっくりと進み・・・・そろそろ日が暮れようとしています。 ちょうど、アルドレアまでの中間ぐらいに着いた感じですねマディ マリオネット・ヘルメット被せて支配の杖で遠隔操作中ー『オレたちにあわせて進め』GM で、この中間地点ですが、街道筋に小規模な都市「コルム」があります。 GM ルーン「今日はこの辺りで宿泊になりそうですね・・・・この先の都市にはホテルなどございますか?」>ALLGM ということで、見識どうぞー。 目標12でライト 見識 2d+5 >> [DICE] light 2D6[6,6]12+5 = 17(6ゾロ)ライト ライトはやる気のようだ (GM:ライトやる気だw、マディ:お嬢様狙いか・・・w)マディ 「泊まれるところはあると思いますが」 2d6+11+1 見識 >> [DICE] Muddy 2D6[6,1]7+11+1 = 19アティ 2d6 漫画に載ってた >> [DICE] Aty 2D6[5,3]8 = 8アティ 載ってなかった!GM では、お二方は、泊れるところはあるものの、それは『宿屋兼酒場兼大衆食堂兼ミニ冒険者の店』程度のモノにすぎないことがわかりましたマディ まあそうでしょなw>泊まれるところGM ルーン「どうでしょうか?お嬢様をお泊めできるような場所はございますでしょうか?」アティ 「よさそうなところあるか?」>までぃマディ 「オレたちが泊まる分には問題ないと思いますが・・・」ライト 「あまりよさそうなところは無いですね・・・」マディ 「ですね、ライトさん・・・」と頷き合ってましょうアティ 「まあ・・・でも、野宿や馬車で出たりするわけにはいかないだろうから・・・個室はあるのかな?」GM ルーン「うーん、やはりそうですか・・・・仕方ないですね。 では。今日はこの辺りで泊りましょうか?」 郊外の少し目立ちにくい場所を指差します。何も無い場所ですね。マディ 「・・・え?」アティ 「ん? 野宿で大丈夫なのか?」あわてますGM エリーゼ「これですね。」馬車の中から一本の杖をルーンに渡しますGM で、ルーンは何事か合言葉を行った様子。すると・・・・・ (マディ:うわぁおw、アティ:ktkr、ライト:おわー)GM ご想像通り、家に変化しましたw せっかくなので見識14どうぞwライト 見識 2d+5 >> [DICE] light 2D6[3,3]6+5 = 11 (ライト:足らない)マディ 「杖が・・・! まさかこれは・・・!」 2d6+11+1 見識 >> [DICE] Muddy 2D6[4,1]5+11+1 = 17アティ 2d6 漫画に >> [DICE] Aty 2D6[5,1]6 = 6 (アティ:漫画役に立たないw、GM:まぁ、漫画ですしw、アティ:うん><)GM AW-P98、スタッフ・オブ・ハウス メイガスに次ぐ高価な武器ですw >マディアティ 「あれってなんだ?」>までぃGM ルーン「さて、これでいいですね。では、お嬢様、どうぞ」といって、ラフェルを馬車から下ろして家の中へ誘導します。エリーゼも付き添って中へライト 「これは……すごいですね」 お宝チェックしていい? GM あ、どうぞー<お宝チェック ライト お宝 2d+11 >> [DICE] light 2D6[6,3]9+11 = 20 (アティ:おー)GM 98000Gでしたw このパーティのセージ分はマディさんのみ。しかし、ライトさんはスカウト7がありますので「価値だけわかる宝物鑑定」ができます。 マディ 「家に変化する杖です、殆ど出回ってない貴重品です師匠」ライト 「た、高っ・・・。しかも非売品・・・・」ぼーぜんGM ルーン「えっと、皆さんも本当は一緒にお泊り頂きたいのですが、残念ながら部屋数が足りません。それに、一応外での夜警をお願いしたいので・・・」ライト 快眠寝具もっときゃよかったと後悔、しかしくまー ⊂⌒~⊃.(エ).)⊃ のためには>< (熊の爪でもほしいのかな?) おっと、キーワードがw 1GM ルーン「・・・・こちらを、お使いいただいて、警備しながら外でお休みいただいてよろしいでしょうか?」といって、3つの寝具を差し出します。マディ 「はい、それはもちろん。護衛がオレたちの仕事ですから」GM えっと、先読まれた気がしますが見識鑑定11でどうぞw (ライト:w、マディ:おおw)ライト 2d+5 >> [DICE] light 2D6[1,1]2+5 = 7(1ゾロ) (ライト:あっー、 全員:おめw) そんでもって、ダイスの神様が降臨w マディ 「お借りしても宜しいんですか?」 2d6+11+1 見識 >> [DICE] Muddy 2D6[1,4]5+11+1 = 17アティ 2d6 なんでも鑑定団はマギテレビでみてる >> [DICE] Aty 2D6[5,4]9 = 9 GM マディさんはわかりましたね。快眠の寝具ですw AW-P114 (マディさん“は”ですねw)GM ルーン「ええ、せめてこちらぐらいはお使いください」にっこりマディ 「ありがとうございます、それではお言葉に甘えさせていただきますね」ライト 寝心地は体感することにするアティ 「ふかふかしてるな・・・・」もっふもっふぽふぽふGM これは現地に着くまでは借りっぱなしでOKです^^ (ライト:おおー、マディ:あーい)アティ わーいw 「いたせりつくせりだ・・・」うんうんライト 「きもちいい寝袋ですね」GM あ、あと上質のテントもかしてくれますね。 価格にして通常の 1D20[6]6 = 6 倍ぐらいのやつGM まぁ、そこそこ高級品・・・くらいかな?w マディ では見張りーGM ということで、交替で夜警をしながら、みなさんはもっふもっふに囲まれて心地よい眠りを堪能しました・・・GM 1日目終了!マディ 2交代制かな? って、終わった!wアティ 勤務表作ってる間にwGM うん、ここまでやって特に何も無しでw<イベント的なサムシング (ライト:w)アティ アティ・ゴーレム/ライト・マディ とか考えてたマディ ライトとゴーレム逆で考えてたwGM また役に立つときがくる・・かなぁ?w(ぁ ん、みんなごめん! ここは収納ブレスレットと快眠の寝具を出したかっただけなんだw 以上、フレーバー的なサムシングでしたw §3 豪華なお船で出港だー! GM 2日目です。同じように道中を進み、午後にはアルドレアに到着します。マディ はーいGM ルーンさんの話では、船が壊れた段階で、予めアルドレアにつなぎをとって、船を頼んでいるとのことです。GM で、皆さんは直行で港にやってきます・・・・・ルーン「あ、あちらですね」どうやら、ルーンさんがお願いしていた船を見つけたようですGM ルーンさんが指をさす先には一艘の豪華なしつらえが施された中型の帆船が停泊しています。全長は15mほど。GM イメージ参考:http //ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB FS_Etoile.jpg こちら参照で (アティ:すげーwセレブw) ライト 「飛行船に乗るのは初めてですね・・・」GM あ、飛行船ではなく、普通の船ですー^^;;>ライトさんライト あら、海蛇加工してねーや・・・GM 飛行船が故障して、ルキスラにとめざるを得ないので、陸+水路に変わったということで^^;>ライトさんアティ そう言う感じでしたねライト おk ライト君ちょっと勘違いでした^^; オンセだと文字を追う形なので勘違いも仕方ないですね>< マディ 「さすが、用意がいいですね。やり手は違うようです師匠」>師匠アティ 「う・・・すごいな・・・・」さすがの師匠も圧倒GM リーン「では、船にまいりましょうか?」 リーンさんが案内します。アティ 「こんな船で海・・・海かぁ・・・ふふ・・・ふふふ」耳ぴっこぴっこGM さて、船の構造について説明です。 甲板前部と後部には船体内に降りる階段がついており、ここが船室になります。マディ あ、リーンに戻った(?)アティ ルーン?リーン?GM あ、ルーンで>< (ライト:w) はい、飯卓GM恒例「名前の言い間違え」ですw 実はもともとの設定では、ルーンは「リーン」という名前でした。それを初っ端でうっかり間違えちゃったのでこのまま押していたのですが・・・やっちゃいました(汗 ほら、ルーンフォークでルーンなんて、安直過ぎてアレでしょ?w GM で、甲板前部の階段下は客室・居住区に続いており、豪華なしつらえのメイン客室のほか簡素だが丁寧な作りとなっている従者控室2部屋、荷物部屋があります。GM 船尾側は航海士区となっているので、中には立ち入らないように言われます。GM また、甲板中央にはキャビンがあり倉庫兼簡易キッチンとして使われています。(アティ:ふむふむ)GM 船体の全長が15mほどなので、甲板上で動けるスペースは10mほどになりますー。 船の構造解説、移動可能スペースを「10m」にしたのはとある理由から・・・ですね。 ライト きっと女性型のルンフォメイドが(ryGM それはエリーゼがついてますよw>ライトさんアティ 拳魔のアンぽいイメージw<エリーゼ (分からない方は「拳と魔封」を買ってね!ってことですねw)マディ エリーゼ、か・・・ 中身が白いか黒いか・・・w (お菓子の「エリーゼ」のことだった模様。GMは分かりませんでしたのでスルーしちゃいましたw)アティ 休憩は従者控室でも借りれるのかなGM ですね<従者控室借りれる GM で、船に近づくと船員さんらしきひとがご挨拶します 推定船長「おう! ルーンのダンナ! 今回もよろしくな!」GM ルーン「はい、宜しくお願いいたします。こちらは今回の護衛の皆さまです」といって、みんなを船長さんにご紹介しますライト 「よろしくお願いします」ぺこりアティ 「こんにちは、船長。竜の篭の冒険者で、ルーフェリア神官のアナスタシアだ」GM 推定船長「おう! オレがこの船の船長のランドルフだ! こっちは船員のエイムとビータスだ」 いずれも黒ムキマッチョな3人ですマディ 「マディといいます。ロシレッタまでの間よろしくお願いします」ぺこりGM 挨拶している間に、従者その2のエリーゼさんが、ラフェルさんを船室へご案内しています。GM ルーン「では、参りましょうか。水上ではあまり何事も起こらないと思いますが、念のため警備はお願いしますね」 アティ 「もちろんだ。甲板で見張りをするぞ!」海を見れるときいて耳ぴっこぴっこ。おかしいな湖エルフのはずなのにライト 「ええ。魔物の危険もありますしね・・・」GM あ、残念ながら現在はアルドレアなのでまだ川ですねw そのうち海に出ますアティ なん・だと・・・GM ルルブ2の地図をみると、アルドレアはまだ川なんですよねw というか、ルキスラって結構内陸wアティ ほんとだ、川下って海に出るんだね ライト w ていうかきざはしがやたら異常 > ルキスラ地理 (マディ:w) GM ランドルフ「あ、あと、操船も手伝ってくれると嬉しいなぁ。 帆を張ったりとか、力仕事なんかは手伝っていただけると助かる(うむ!って顔」アティ 「力仕事は、得意な奴に任せろ!」ライトの肩ぽんして船長にイイ笑顔 GM ランドルフ「よし、出港だーーーー!!!」 ぼーーーーーっと汽笛が・・・なるわけない!wアティ なんないよwww (マディ:www) GM ということで、出港です。 夜は入り江などの安全そうな場所に停泊し、動かないようにするとのことです。アティ ふむふむ。夜も見張りだにゃGM 水中の守りはアンカーサーバントにおまかせ!wマディ やっぱり付いてるか!w>アンカーアティ すぃんど卓、シナリオがAW全開で実装されててマジおもしろいwGM せっかくですのでイロイロつかって見ましたwアティ 裏表間違えた><GM ええ、でもおkですwアティ >< 竜の篭でのオンラインセッションでは、PL・GMともに、RP中心にセッションを進める「表」のチャンネルとは別に、もう一つ「裏」のチャンネルに参加してセッションが進められます。「裏」は主にPLの相談やデータ出し、シナリオの進行とは関係が薄いPL発言(例:ちょっとトイレいってきまー とかw)、表では(いろんな意味で)言いにくいメタ・ネタ発言を行うのですが、アティさんはどうやらPLとしての感想を裏に書こうとして間違えて表でいってしまったようですw それはさておき、今回のキャンペではAW要素をバリバリに出そう!と思っていましたので、こうして喜んでいただけるのはGM冥利につきます>< 大変ありがたいことです>< アティ 「♪川の流れのよ~うに~~」ぴっこぴっこマディ このまま嵐に巻き込まれたりしないことを祈ろうGM あ、もしよければ天候予測してもいいですよw>マディさんマディ 2d6+5 天候予測ー >> [DICE] Muddy 2D6[6,6]12+5 = 17(6ゾロ) 天候予測ーマディ よっしゃw (アティ:おまw、ライト:おー、GM:すげえw)GM 完璧にわかりました。 少なくとも1~2週間は晴天が続くでしょう! 適度な風もあり、絶好の船旅日和ですね。マディ 「天気的な脅威は無さそうです、あとは蛮族や動物ですね」GM ということせ、2日目・3日目・4日目と順調に航海は進み・・・・一気に5日目です。 なかなか使うことが少ない天候予測判定ですが、フレーバー的ながらRPを拾ってやってもらいました。まさか6ゾロが出るとは思いませんでしたがw。 え、1ゾロの方がおいしい? それは言わないお約束でw §4 モグラ・・・じゃなくて、蛇叩き? GM マディさん、5日目はゴーレム作りますか?マディ ほいさ、対抗してサーバントをwGM あいwアティ 毎日こまめに日焼け止め塗らせてます。 マディに。マディ 「今日は荷物の積み下ろしとか有るでしょうから力仕事のお手伝いできますよ」と、船長にwGM それを見たライトくん、一言どうぞwGM あ、着くのは7日目ですね^^;<ルキスラ出発起点での日付なのでアティ マディ・・・・エル筋で力仕事申し出るのか・・・ライト 「あ、はい手伝います」(ライト:ひとこと)アティ 漢だなwライト 18だからまあ普通にできるよGM 両手に花・・・・じゃなくて・・・なんだ?wマディ サーバントに頼むつもりだったんですよw (アティ:おまw、GM:ww)アティ 両手にエルフwアティ 「半径1m、高さ2mまでのものでいいなら動かすぞ」 (それはMPがもたないかとw)GM ランドルフ「おう!助かるな!」 さて、この流れではGMは若干のミスがありました。 GMは「マディさんに日焼け止めをぬらせているアティさん」に対して、ライトさんに一言求めたのですが、マディさんの発言が先になってしまったので、ちょっと意図しない反応に。 オンセならではの行き違いですが・・・・一瞬、日焼け止め塗るのを変わりたいのかと思ったのはナイショですw GM では、5日の夕刻近くになって、船はいよいよ河口に差し掛かります。GM このさきは、待望の海です!GM ランドルフ「よし、今日はこの先の入り江で停泊するか!」といって、慣れた手つきで操船し、船を入り江にいれていきます。アティ 「うん、そろそろ海だな!!」ぴっこぴっこGM 河口から少し海に出たところの入り江へ向かっていますね・・・・さて、みなさん。そろそろヒマをもてあましてはいませんか?wアティ なんか出るのかな!wライト で、でたー><GM まぁ、危険感知どうぞw /2d+9GM [DICE] 裏でダイスが振られましたGM しまった・・・・ダイスが見えた>< (アティ:www、マディ、w) GMのうっかりミスその2w 魔物知識判定を行っていないこの時点では、魔物側の不意打ち判定基準値となるモンスターレベルを隠す為に「隠しダイス」にて振る予定でした。 しかし、発言とつないで描いてしまった為、ダイスは発動せずにそのまま表示(汗 まぁ、良くあるかわいいミスです(ないですw アティ 2d6 師匠のにぶさ >> [DICE] Aty 2D6[3,4]7 = 7ライト かんちー 2d+11 >> [DICE] light 2D6[2,2]4+11 = 15 (ライト:ひー><)マディ 2d6+5 危険 >> [DICE] Muddy 2D6[5,6]11+5 = 16GM あ・・・・・ そうすると、誰も気づいてないなぁwGM 船長は・・・ 2d >> [DICE] GM_Swind 船長は・・・ 2D6[2,6]8 = 8GM 気づくわけ無いですね。一般人だしw (アティ:ww)GM 船員は操船に手一杯で全く気づく気配がありませんマディ うーん、パリンGM んじゃ、気づいた! マディさんは、水中になにやら「大きな黒い影」が動いたような気がしました ここは気づかないと不意打ちでしたので、NPCにも振っていただきましたが・・・まぁ一般人に気づけというほうが無理ですねw 消耗品(?)の知性の指輪を割って達成値を上げたことで、なんとか危険感知に成功しました。 マディ 「・・・!? みなさん、水の中に何か居ます!」アティ 「マディ、でかした!」ライト 「何ですって!?」GM ランドルフ「なん・・・だと・・・!?」 しかし、すでにその影は船の足元に!アティ うはぁwライト え、これは海中に潜るフラグ?GM あ、現状の隊列申告をおねがいしますー^^ 本来は隊列はその都度確認すべきなのでしょうが、文字ベースでの相談が必要なオンセの場合はロールの流れを切ってしまいやすいので、私がGMをやるときなどは「必要なときに隊列申告」するという形が多いです。悪用出来てしまう可能性も無くは無いですが、そのあたりはPLを信頼して・・ということで^^ で、実際の隊列は、船首側にライト、中央にアティ&マディ師弟コンビ、船尾にゴーレム(ストーンサーバント)を配置する形となりました。 アティ 「くっ・・・何かきた!!」GM ルーン「いったいどうなさったのですか??」ルーンさんが階段下から声をかけると・・・・・ ざっぱーんマディ 「何か出ました! 危険かも知れないので部屋に居てくださーい!」GM ルーン「わ、わかりました! よろしくおねがいします!」 GM 現れたのは (ランダムで決めて)船首側。 (ライト:こっちですね)GM 二つの大きな首がみえました。まもちきどうぞー。 知名度は 15/20! ※マモチキ=魔物知識判定アティ 2d6 なんぞ >> [DICE] Aty 2D6[1,5]6 = 6ライト 6ゾロ来い! 2d >> [DICE] light 2D6[3,6]9 = 9マディ 2d6+11+1 魔物 >> [DICE] Muddy 2D6[3,2]5+11+1 = 17マディ 弱点相変わらず抜けんな・・・orzGM では、マディさんは「ツインヘッドサーペント」っぽいことがわかりました。GM AW-P151 飯卓初のネームドモンスターです^^ (全員:おー)アティ データだけ流用って奴ですにゃGM ですです 今セッションでの緒戦は、アルケミスト・ワークスで追加された「ネームドモンスター」。航海するなら・・・と言うことで海生生物のツインヘッドサーペントを登場させました。ただ、竜の篭での「ネームドモンスターはデータ流用のみ可(載っている魔物とは別扱いにする)」というルールがあるため、アルケミスト・ワークスで紹介されているツインヘッドサーペントとは「よく似た別の魔物(しかもザコ)」として処理しています。 GM ランドルフ「は、な、なんだありゃ! ひえーーー!!」 航海士区に逃げ込みーアティ 「他の人は避難を!」ライト さて、 先制かにゃ? ・・・・ というか、こいつ近接攻撃できない?GM あ、船首・船尾なら近接攻撃できます。では、先制どうぞーライト 2d+10 >> light 2D6[4,6]10+10 = 20アティ 2d6 にん玉で >> [DICE] Aty 2D6[1,3]4 = 4マディ せんせい 2d >> [DICE] Muddy 2D6[4,1]5 = 5アティ なるとにひきつづきにんたまも役に立たなかった・・・GM まぁ、とられたw 先行どうぞー^^ ここは固定値でいきますので、防御ファンブルもなしで^^ これまたアルケミスト・ワークスでの追加要素『防御ファンブル』。回避力判定を1ゾロで自動失敗となったときに、ランダムでひどい目にあうというアレですw ただ、魔物側は回避力判定でダイスを振らない「固定値使用」が出来るため、単純に全て採用するとPC側だけが防御ファンブルの恐れがある状況になってしまいます。それではあまりに不釣合いなので今回のキャンペーンでは「GMも回避力判定でダイスを振る魔物(ボスなど)」だけ、防御ファンブルを採用することとしました。 ライト あ、弱点抜いてないか・・・アティ うむマディ ><GM っと、一つ説明追加。 今回は依頼人たちには攻撃はいきませんが・・・・GM 「船体」は攻撃対象となります。 防護点5、HP120の建造物扱いですGM 船体のHPが20点減るごとに船体が大きく揺らぎます。生命抵抗力判定で目標19に失敗すると、即座に転倒します。GM さらにこの時に1dを振り、1・2だった場合には水中に転落します。軽業ブーツを履いていれば落ちません。(ライト:りょうかーい)GM 以上説明終わりです。先行どうぞー^^ 実は、この時点でライトくんは軽業ブーツで海に落下の心配がなく、アティ&マディ師弟は水棲生物のエルフなので海に落ちても無問題だったりしますw ということで、ここから戦闘開始です!位置関係は ⇒ 双頭蛇< 2m ライト 3m アティ・マディ 3m ゴーレム 2m] まずは1R表、PC側の手番からはじまります。 初手はアティが、マナスタ装備にて【魔法拡大/数】使って全部位にエネルギージャベリンを発動。双頭蛇は抵抗できずに、直撃で大ダメージです>< 続くマディもクリメイションを発動させ、どんどんHPを削っていきます。 最後は先制をとって≪ファストアクション≫で2回主行動が可能なライトの手番。1回目でしっかり3発あてて胴体を落とし、いよいよ手が届くようになった頭への攻撃んなのですが・・・・2回目の攻撃にて・・ ライト 頭Aに魔化専用パワーリスト (ころころ出目は8,4,9) 21・17・24といって命中!GM 1発回避!ライト 2回目を変転! (GM:><)GM 3発当たりです><ライト 「吹き飛びなさい!!」 >> [DICE Addition] light Total 1回目 = 23 2回目 = *(1ゾロ) 3回目 = 28 GM ということで、50点おめwライト 「計w画w通wりw」にやそw ここでまさかの1ゾロファンブルw。 ちょうど変転したところだっただけに痛かったですねw まぁ、それでも2発で頭Aはしっかり落ちてたりしますが・・・・(汗 さて、続いて1R裏の魔物側の手番。ランダムで決めた毒の息は、後退していなかったPC後衛も巻き込む事態になりました。 ライトが抵抗失敗、アティ・マディが抵抗に成功したのですが・・・・ GM 2d+6//2 抵抗した人 2d+6 抵抗してない人 >> [DICE] GM_Swind (2D6[1,6]7+6)/2 = 7 抵抗した人 2D6[1,1]2+6 = 8(1ゾロ) 抵抗してない人 (GM、あれ?w)アティ なんだとw 7もろたマディ 1点しか違わないとかw とまぁ、変な結果にw 2R目に入ってPC側手番に回るとライト君の三連魔力撃が炸裂! あっさり魔物撃退となりました。 そして・・・・ GM 双頭蛇は 「うぎゃおーーーーーー」と言いながら、落ちていきました・・・(マディ:よかったよかったw)アティ 【魔法数拡大/数】キュアウーンズを全員にブラロで 「ルーフェリアよ、我らに癒しを」 22で発動し、17点回復です。ライト 「アティさんありがとうございます」GM で、ここは海なんですよね・・・・当然ながら海のそこへと沈んでいきますw<ツインヘッドサーペントマディ あw GMずっけーwアティ 「ふう・・・位置取りを忘れて思わぬ攻撃を食ら・・・あああ素材が!!」 ええ、ずるいですw しかし、ツインヘッドサーペントは自動で取れる戦利品だけで15000Gと超高価なので、ここは報酬バランス的にとらせるわけにはいきませんw ライト エルフ行けるんじゃ?wwアティ マディが潜って剥いでくるそうですwGM もぐるなら剥いでもいいですよ。何が起こっても保証はしませんがwライト 他のがいるぅぅぅ><アティ 「骨は拾ってやる」肩ポン ジョウダンデスマディ 「ええ!?」wアティ 一対の紅玉ぅ~orz GM ランドルフ「ど、どうなった?」船員室側の階段下からじーーライト 「大丈夫です。無事退治しましたよ」アティ 「ああ、ばっちり倒したぞ。船に影響もない」>ランドルフGM ランドルフ「も、もう終わったのか!! すげー、あっというまだ!!」GM ルーン「あ、おわりましたか・・・素晴らしいです! ありがとうございます」いつの間にか(ランダムころころ)ライトさんに駆け寄ってきましたアティ 「しかしライト・・・お前、相変わらずできるなぁ」うんうんライト 「いえいえ。お二人の力があってこそです」>師弟 マディ 「でも驚きました・・・ 今までにもあんなのが出たこと有るんですか?」GM ランドルフ「いや、俺の記憶だとこんなのは見たことねぇ・・・・今日は陸の上で休んだ方が良さそうだな・・・」アティ 「ふむ?」<見たことないマディ 「念のため、そうした方が良さそうですね」 >船長GM ルーン「まぁ、さすがにあのような化け物がたくさん居るとは思わないですが、安全の為に、一度船を降りて休んだ方がいいでしょうね。」GM ランドルフ「そうだな、あっちの方につけるから、今日は一度陸に降りて休みにしよう。そろそろ日が暮れてきたことだしな(なぜかがはは」アティ 「うん、ラフェルさんもいるからな・・・」GM そのラフェルさんですが・・・・エリーゼさんに付き添われて階段の下から顔をだしました「怖いの・・・・・やっつけて、くれたのっ?」ライト 「ええ。怖い怪物はもういません」にっこり>ラフェルマディ 「大丈夫なんですか? 出ていらして?」GM エリーゼ「ええ、皆さんにお礼が言いたいと・・・・」といって、ラフェルさんを促しますGM ラフェル「あ、ありがとうございましたっ><(ふかぶかぺこり」 顔が真っ赤で照れてる様子ですねアティ 「いやいや、お気にせずに」かわいいwライト 「いいえ。どういたしまして。またこうゆうことがあっても、僕たちが守りましょう」にこにこマディ 「そうです、オレたち護衛としてココに居るんですから」GM ラフェル「よ、宜しくお願いしますっ><」奥へひっこんじゃいましたwアティ 「ははは」w かわいいなぁwライト 「かわいいですね」にこにこアティ 「うむうむ」wマディ 「でも、怖いの・・・ ですか。部屋から見えたんですか?」>ルーンか誰かGM ルーン「あ、姿は見えませんでしたが、何か大きな化け物がきたと言うことはお知らせしたので・・・」マディ 「あ、なるほど」 ええ、かわいいロールは大好きですが、何か?w というのはさておき、ここでPCたちにラフェルちゃんの印象度UPを図っていたりします。 GM ということで、今晩はいったん陸に上がって野営ですね。例の杖で家を立てて、ラフェルさんたちはそちらで一泊GM で、皆さんは例のごとく上質テント&快適寝具セットで、心地よい冒険生活を堪能しました。(ライト:とても快適ですw)アティ 回復量考えると、倍の時間睡眠とったようなもんだもんなぁw <快適アティ できれば船も一応見張ったほうがいいかな・・・うちらはラフェルさん護衛しないとだめだけどGM あ、船は船長&船員ズが見張っててくれますね。GM お互いそれほど距離は遠くないので、どちらかに何かがあったらすぐに駆けつけれる感じで。 ということで、夜が明けて次の場面に移りますwアティ はーい<ふね §5 セレブ専用リゾートへご招待~~~~! GM その後、再び航海をつづけ、ルキスラを出発して7日目の夕方前に、目的地と思われる小島に到着しますGM 小島には似つかわしくない立派な桟橋がついている港があります(アティ:おー)マディ 「あ、ロシレッタの街中じゃなくこういうところなのか・・・」GM そして、その港に寄り添うように、港の奥には・・・手前に宮殿風の、奥にはお城風の建物がたっていますね。GM ルーン「ええ、ここが目的地の『ミッツ・カルートン』です」GM 到着した場所のイメージはこちらhttp //ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB Chambord1.jpg (ライト:おしろですねー、マディ:うはーw、アティ:すげーw)アティ 「うわ・・・すごいぞあれすごい!!城だぞ城!!」 三者三様の反応が楽しいですw GM で、港に到着したところで、ルーンさんが皆さんを呼びますGM ルーン「ここまでの護衛、大変ありがとうございました。おかげさまで無事に到着できました。」マディ 「いえ、無事で何よりです」GM ルーン「特に途中では大変な危機を救っていただきまして、真に感謝しております。」アティ 「いや、それが仕事ですから。しかし特にこれと言った事もなくてよかった」マディ 「そうですね、みんな無事で良かったです」マディ 「ところで、帰りまでオレたちどうすれば? ココに元から居るであろう護衛の方のお手伝いをしていれば良いんでしょうか?」GM ルーン「いえいえ、私どもにとっては大変ありがたいことでした・・・。で、お礼と言っては何なのですが・・・・」GM ルーン「娘様の計らいにて、こちらでの滞在中は私どもと同じように過ごしていただけるよう手配させていただきましたので、こちらでご一緒に滞在されませんか?」GM ルーン「中にはエステやバー、カジノ、スパなどもございます。数日であれば楽しんでいただけるかと思いますので・・・それに、帰りの護衛もお願いしたいところですし。」アティ 「Σ!!!!!」耳ぴーん 「もちろん!それはありがたくお願いしたい!」ぴこぴこマディ 「・・・本当に良いんですか!? 元々帰りも依頼に入ってましたからこちらとしてはありがたい限りなのですが」GM ルーン「ええ娘様からのたってのお願いでもございますし」>マディさんGM ルーン「そうですか、喜んでいただけて何よりです。で、そこで一つお願いがあるのですが・・・・」アティ 「・・・いやまあ、帰りの護衛も気になるところだしな・・・ん?」マディ 「お願い、ですか? なんでしょう?」GM ルーン「このような場所ですので、その、えっと・・・・できればこのような格好をお控えいただければと・・・ 」GM ルーン「もしよろしければ、私どもの方でドレスやタキシード等をご用意させていただきますので、着替えていただいてもよろしいでしょうか?」 <武装関係マディ 「恥ずかしながらそのような用意をしてきませんでしたので・・・ お貸しいただけるならありがたいです」><アティ 「よしいくぞ、マディ、ライト! たー!!」耳ぴこぴこしつつドレスの群れに入りますう>< ここでGMから。ドレスへの着替えに名を借りた装備解除指令。今回やりたかったことの一つですw PCは一瞬悩んだものの、素直に応じていただきました。 ホテル内で着用できるものは「アクセサリー類とみなせるもの」程度。ドレスやタキシードはルーンさんから借りて対応することとなりました。 とはいえ、こうなると困るのは装備解除した武器防具や持ち歩いてる冒険者道具類の処理。持ち歩くにはものものしく、かといって手元から離すのも不安があります。ということで・・・ ライト どんどん武装解除中GM セレブな格好でお願いしますねー^^GM ルーン「で、これをお貸しいたしますので、こちらに荷物をしまわれてはいかがでしょうか?」 ブレスレットが渡されますマディ 収納ブレスレット・・・? (GM:まぁ、ソウデスネw>マディさん)アティ 「・・・ありがたい・・・けど何だこれ?」GM 見識鑑定どぞー 12で^^ライト けんしきー 2d+5 >> [DICE] light 2D6[3,5]8+5 = 13アティ 2d6 >> [DICE] Aty 2D6[1,2]3 = 3マディ 2d6+11+1 めがね >> [DICE] Muddy 2D6[1,2]3+11+1 = 15ライト わかったお 「収納ブレスレットですか・・・」GM 「ええ、合言葉もお教えしておきますね」 合言葉は「あいのことば」でwアティ 「お、ありがたい」>ルーン ということで、再び装備変更タイム。アティさんはこんなドレスに着替えたとのことでした。(アティ:扇とかも借りておこうw「これにしよう、これ。孔雀の羽根ぽい」) ⇒http //www.dress-queen.us/index.php?main_page=popup_image pID=12940 zenid=ca18aaa6f329790c0c22c1f3e658135d GM では、みなさん着替えをすませたということで・・・ ところで、マディさんは途中で(ランダムコロコロ)ドレス着させられてるよね、きっとwマディ なにぃ!?wマディ まさか絹のフリフリドレスを・・・? 篭に置いてきたとおもったのに・・・アティ http //www.dress-queen.us/index.php?main_page=product_info cPath=48 products_id=10664アティ ↑マディにはこういうのを着せましたGM うはw シャレで振ったら、ほんとに持っているとはw GM えっと、外した装備品、武器防具一式、あと冒険小道具は基本的に収納ブレスレットにしまって頂きますーGM で、収納ブレスレットは・・・・だれが持ちます?^^;ライト ノ 掏り対策で(笑) (アティ:よろー、マディ:おねー)GM じゃぁ、ライト君で^^ ブレスレットは着用お願いしたいので、指輪腕輪の類を一つ外してもらえません?ライト じゃあ宗匠を外して、右手に収納ブレスレットつけまーす (アティ:よろにゃー) GM では、着替えを済ませた皆さまは、ルーンさんの案内で建物の中へと入っていきますーアティ ぴこぴこしながら扇パタパタしてついていきますマディ ぎ~、パタン><アティ 2d6+4+6 ノーブル技能で立ち振る舞いを>> [DICE] Aty 2D6[1,2]3+4+6 = 13 (アティ&GM:低いwww)マディ さすが貴族(ニート)>< GM こちらがルーンさんから説明された建物の構造ですね ⇒http //swordworld20.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/uploader/src/sw2968.gifアティ おーすごいGM あ、今はラフェルさんやエリーゼさん、ルーンさんも一緒ですね。後ろについていっている感じでライト 我々が前列とか申し訳ないwアティ あるぇw ラフェルさんもうしろかwマディ いやw うちらがうしろ・・・?GM あ、いやいや、ラフェルさんたちの後ろに皆さんです^^;マディ ですよねwライト ですよねwGM わかりにくい表現ですいませんでした><アティ こちらこそ失礼>< うっかりミスその3、主語が曖昧で、伝わりにくい表現になってしまいました(汗 GM で、エントランスに入ると、レセプションで一人の女性がお出迎えです。GM すらっとした黒髪ウェーブな女性ですね 女性「ご到着をお待ちしておりました。ラフェル様」アティ にこにこしておきますGM ミッツ「皆さま、ようこそいらっしゃいました。当館の支配人を勤めさせていただいておりますミッツでございます。」GM ミッツ「こちらがラフェル様の大切なお客様ですね。私ども精一杯もてなさせて頂きますわ。」アティ 「アナスタシアといいます。よろしく」>ミッツさんGM ミッツ「アナスタシア様ですね、良いお名前ですわ」にっこり微笑みますライト 「アークライトといいます。よろしくお願いしますね」マディ 「マディと申します、無作法なところが多いと思いますがご容赦を」ぺこりGM 「アークライト様、マディ様、こちらこそ至らぬところがございましたら、いつでも仰ってくださいね」 GM 辺りには、スタッフらしき人にまじって、毛並みのとても良い白コボルトが給仕やポーターをやっていますGM ミッツ「えっと、ラフェル様たちはいつもの3階のお部屋ですね。 皆さまは2階のゲストルーム 1D6[2]2 = 2 号室にてご滞在くださいませ。」ライト 「わかりました」アティ 「はい」<2号室 このリゾートホテルは、手前・中央・奥と3つの建物に別れています。手前の建物は3層建てで、PCご一行様が通されるのは右サイド棟の2Fとなります。依頼人たちは階上となる3Fの右棟に滞在します。 会員権を持たないゲストは基本的に手前の棟の1・2階(右・中央・左)のみが利用可能なエリア。また、手前の棟の3Fと、中央~奥の棟はメンバー専用エリアであり、メンバー同伴でなければ立ち入ることが出来ないとしています。 ということで、図面で表示しているのは手前の棟のみとなっています。 GM では、一通りゲスト立ち入り可能ゾーンを案内され、皆さんは部屋に通されましたGM ゲストルームは海の見える絶景&超豪華なスイートルームですGM イメージ参考:http //www.ritzcarlton.com/ja/Properties/Tokyo/Rooms/RoomPhotos.htm?fd=F72D7C80-A560-45BF-9B0E-6F83346E9896 あとは皆さんの妄想力次第!アティ 「おおお・・・すごいな!!」ブランド物のアメニティグッズに突進します。「シャンデル製!」 マディ 位置関係的に中央か奥の棟があるんだと思ってた!w >ゲストルームのうしろGM あ、中央棟・奥棟ありました。 オーシャンびゅーはなして><GM 無しで>< (マディ:><) ゲストルームの場所をうっかり勘違い。海側の部屋ではありませんでしたねw アティ もう外は夜かなぁGM そろそろ夜ですね。で・・・ルームサービスで夕食が運ばれてきます。 ここでマクロによるランダムメニュー生成なのですが・・・よりによってこんなことにw GM 『ジャイアンドマッドクラブの空揚げ・ルキスラ皇室風』GM 『スピンブロッサムのしょうが焼き・ルキスラ風』GM 『ジャイアントアント鍋・ドワーフ風』GM こんなのの超豪華な・・・・うそです、ごめんなさい><マディ 具材のチョイスがヤバイw (ライト:w)GM 某「ゴ○になります」でスペシャルメニューとして出てきそうなものがフルコースでずらり!GM ロシレッタ風のフルコースで 2D6[1,5]6+20 = 26 ぐらいのおいしさです^^ (ライト:おいしー)GM 飯卓裁定では18以上でくちびーむですw 出目が無くてもくちびーむ。1ゾロで無い限りwアティ おいしすぎるwライト ぴかー☆マディ 味っ子か中華一番か・・・wアティ 「む・・・このカニのスープ蟹味がガツンと濃くて・・・うむ、旨いな」もぐもぐ くちびーむとは「まるでミ○ター○っ子のように、驚きのあまり口からビームを吐くほど美味い」というおいしさの最上級表現ですw §6 注文の多いエステサロン? ライト そういえば、みんな同じ部屋なんだねPTGM デスネw まぁ、スイートだし、複数部屋あるしwGM リビング+ベッドルームが 1D4[2]2 = 2 個あるということで!アティ そりは聞こうと思ってたwライト たりねぇwGM 2ベッドルームでした。 男性用と女性用?ライト 師弟/ライトかな?GM かな?wアティ 続き部屋だと弟子に世話させやすくて喜びます。夕食は一緒の部屋でとったということでGM あ、スイーツルームなので、一部屋にリビング・ベッドルーム×2 洗面台その他がそろっています^^アティ あいwライト おk! GM で、楽しい夕食を終え・・・部屋のドアがノックされます。 とんとんマディ 「はーい?」GM 外の人「私です。ルーンですー」マディ 「あ、はい、どうぞ」がちゃアティ 「む?」ウノの手を止めて・・・こんな豪華ホテルにいるのにウノやってんのかこいつらマディ カジノ下に有るのにwGM ルーン「皆さま、おくつろぎのところ失礼致します。娘様から言伝を預かっておりまして」ライト 「どうしましたか?」>伝言アティ 「何かあったのかな」GM 「もしよろしければ、エステをご利用できるよう手配をさせていただいております。 メンズエステコースもありますので、みなさまごゆっくりされてはいかがですか? とのことです」アティ 「!!エステ!」耳ぴこーんGM もちろん費用はラフィル持ちwライト 「ではお言葉に甘えまして、受けさせてもらいましょう」GM アティさん、ライトさんは行くで・・・マディさんはどうします?アティ 「マディ、お前もきてお肌つるつるになるがいいと思うぞ」マディ 「えーっと、ありがたいんですがオレはちょっと・・・」アティ 「タダだぞ(ぼそぼそ)」耳ひっつかんでマディ 「今の師匠の言葉を聞いて更に・・・ またさっき見たいにドレスを着せられたら困りますんで」マディ ><GM じゃぁ、マディさんはお留守番かな?アティ タダのことばには弱いはずwアティ 高級だからだめかにゃwGM お留守番でもいいですよーー^^マディ 「タダ・・・ ただかぁ・・・」マディ 「でも、一応留守番で」(ぶんぶん)><><GM ルーン「ではお二人分ですね。わかりました」マディ 何かを振り切ったようですwGM ルーン「予約を入れておきますので、10分後ほどにエステサロンにお越しくださいませ」といって、リーンさんは予約に向かいましたアティ 「了解した」耳ぴこぴこライト 「わかりました」アティ 「勿体無い奴だなぁ。まあ仕方ないか。行ってくるぞマディ」マディ 「はい、何も無いとは思うんですが、一応」GM では・・・・ここからPTが分かれます。 さて、ルーンさんからの若干不自然なお誘い。いくら歓待してくれるといっても、ヤリスギですよねw まして、まだまだ推定:未成年の少女なラフィルさんが、自分の意思で高いエステを奢るというのはよくよく考えればおかしな話です。 それに気づいたせいかどうかわかりませんが、マディさんは居残りお留守番。それならば、こちらもPT分断でオプションBを発動っと・・・。 GM では、エステ組みからー。 マディさんは裏でニヨニヨしててくださいw (マディ:・・・え?w) ライト なん・・・・だと・・・・GM エステサロンに向かうと素敵な女性スタッフが「いらっしゃいませ。お待ちしておりましたー」と丁寧にご挨拶ライト 「ええ。今日はお願いしますね」にこりアティ 「ううん、よろしくたのむ」にこにこぴこぴこライト 師匠・・・wGM そして中に案内されそれぞれ個室に通されます「こちらでお着替えをお願いしますー」 さて、水着になってくださいw (マディ:あっぶねー、自分買ってなかったw)GM 水着は備え付けのものがありますね。 紳士用は(ランダムころころ)ブリーフ タイプwGM で、女性用は(ランダムころころ)「上はキャミソールで下はショートパンツのセパレートの水着。スポーティな可愛らしさを表現している。」だそうですwライト ライトは持ってるGM でも、今は収納ブレスレットの中です^^;<水着 (ライト:アッー)アティ 「あ、マディに渡したままだったな・・・・まぁたまにはこういうのもいいだろう」とショートパンツ水着を見ていますGM では、着替えどうぞー^^ライト なんともいえない表情で着替えアティ ぬぎぬぎ着る着るwアティ (ランダムコロコロ)色はみずいろだたライト こっちも(ランダムコロコロ・・・水色を引き当て) おなじか・・・GM おそろいw GM では、着替えが終わると、それぞれカーテンで仕切られた「バラの花がたくさんはいったお風呂」に通されますGM バラのよい香りがリラックスを誘っていますね。 窓から見える外は日が落ちているものの、篝火がたかれており幻想的な雰囲気です。GM スタッフ「では、失礼致しますー」 それぞれに女性スタッフがつきました。GM スタッフ「まずはおからだ磨かせていただきますねー^^」アティ 「よろしくたのむ」にこにこライト 「ええ。おねがいしますね」にっこりGM まずは湯船につかったまま、両手、両足のよごれを落としていきます。 ざばざばー GM スタッフ「では、次はお肌磨きさせていただきますねー。こちらへどうぞー^^」 ベッドへ案内します 最初はうつぶせで寝るようにいわれました。ライト うつぶせ~アティ ふむふむ。うつぶせします。むにっとGM スタッフが取り出したのはもちろん「肌磨きの泥(AW-P111)」 全身くまなくみがかれて、つるっつるになりました^^(マディ:ホント惜しげもなくAWデータが・・・w)ライト ぴかー☆ GM スタッフ「次はオイルマッサージですー」 今度はオイルをぬられてマッサージされます。 えっと・・・生命抵抗 17どうぞwライト てーこう 2d+11 >> [DICE] light てーこう 2D6[1,5]6+11 = 17アティ なん・・だとw 2d6+9+3 >> [DICE] Aty 2D6[1,1]2+9+3 = 14(1ゾロ) (アティ:><)GM 抵抗に失敗したら、くすぐったいのがガマンできなく・・・ってwマディ wwwGM おめ!wライト wお留守番中のマディ 師匠・・・wライト ぎりぎりたえましたアティ 「あはははははは、あはは、ひゃ><」アティ うねうねwマディ お約束ははずさなすぎる・・・w ええ、お約束すぎます。ダイスの神様降臨しまくりやがりですw でも、これも50点は50点ですので、その意味でもオイシイですww GM まぁ、そんなかんじでオイルマッサージが終わり 「次はこちらですー^^」 ワイン&スパイスパックですねライト 「は、はーい」ついてきますGM スタッフ「今度はこちらを体に満遍なくぬらせていただき、暫く蒸しタオルでむさせていただきますー^^」 次の場所でアティ 「ふむふむ」ワインは飲みたいなぁと思う師匠だったGM で、蒸し終わり・・・・スタッフ「最後はこちらへどうぞー」GM といって、キャスターがついたベッドに案内されます。今度は仰向けでごろりとどうぞー^^ライト ごろりアティ 「最後は塩をもみこんでくださいとか言うんじゃないだろうな」ごろり えっと、その通りですw もうすこしひどいですがw GM ごろりとすると スタッフ「しつれいいたしますねー」といって、少しねりねりした感じの塩で全身が包まれましたGM ちょうど、海岸で砂に埋められたかんじですね。 塩からは非常にハーブないい香りがしますアティ Σ塩きたぁあああライト ><GM で・・・スタッフ「えっと、このままこちらのスチームサウナで暫く入っていただきますぅ^^ これがいちばん痩身効果があるんですよー」といって・・・GM 手際よく窯っぽい感じのサウナの中にいれられて、扉が閉まりました。 がしゃん。アティ 「痩身か・・・痩身・・・私はスリムだぞ」ぷんぷん ということで、アティさんとライトさんは自称:サウナに入れられましたが・・・・ ライト GMしつもーんwGM はーい?ライト 扉の防護点とHPはいくつ?GM あ、それは後ほどwライト ……お留守番中のマディ あるのかwアティ 必要になる機会があんのかwライト さてwGM まぁその前に・・・サウナの中に入ると、非常に心地いい音楽が流れてきますね。 とっても眠くなりそうな・・・・・ 精神抵抗18でどうぞwアティ 2d6+9+4 負けるかーw >> [DICE] Aty 2D6[5,1]6+9+4 = 19ライト せーしん 2d+11+1 >> [DICE] light 2D6[4,6]10+11+1 = 22アティ 勝ったwGM ふたりともすげー起きてるw まぁ、そうすると、お二方はしばらくうっとりサウナを堪能しておいてくださいw §7 大人の階段の~ぼる~?? GM では場面転換、お留守番組です。扉:とんとんGM 扉をノックする音が聞こえました>マディさんマディ 「はーい? 今度は誰だろ・・・・?」GM 「私、エリーゼですぅ」マディ 「ぅ・・・?(こんな口調でしたっけ・・・?)」」マディ 扉開けてないですが真偽判定して良いですか?w はい、ここでGMミステイク。しゃべり口調を単純に間違えましたw おかげでいらぬ疑いを与えてしまい、真偽判定に持ち込まれましたが、判定結果は18。無事、「これまで一緒に旅をしてきたエリーゼさん」だということが判明しましたw マディ 「どうかなさいましたか?」GM エリーゼ「えっと、もしよければ・・・・一緒にバーにいきませんか?」GM エリーゼ「ここ暫くご一緒させていただいて・・・その・・・えっと・・・・素敵だなって・・・(ぽっ」マディ 「・・・はい? お嬢様はよろしいんですか?」GM エリーゼ「あ、お嬢様は今はルーンがみておりますので大丈夫です。ここだと、お世話いただく方もたくさんおられますし・・・」マディ じゃあ「オレでよろしければ少しだけですけどお付き合いさせていただきます」といって開けましょうGM そこに立っているのは・・・・・・! 間違いなくエリーゼさんですねw 「ありがとうございます。急なお誘いで、戸惑ったのではございませんか?」マディ 「・・・正直に言わせていただきまして、はい。なんだかエリーゼさんの様子も道中と少し違うような気もしましたので」GM エリーゼ「すいません、男性をお誘いするのがあまりなれていないものですから・・・・失礼致しました><」GM エリーゼ「では、あちらのバーに・・・」ついていきます?マディ 「あ、いえいえ。オレも誘われる事なんてありませんから><」一応、扉開けましたしね><GM では、バーに移動で・・・・移動した先は雰囲気のよいラウンジバーです。GM 人形がオルガンを弾いており、そこから、ムーディな曲が流れています(ヌーディではありません。抵抗もいりませんw) (マディ:オルガンを弾く人形・・・w)塩蒸し中のアティAWがすみずみまで行きとどいてるwww ええ、AW要素、細かく入れていきますよw マディ 「でも、オレはお酒なんてそんなに飲めませんので、ホントに少しだけですよ。じきに師匠とライトさんも戻ってくるだろうし」GM 「ええ、少しだけご一緒できましたら・・・では、乾杯させてくださいな」 バーテンさんにお酒を頼みますマディ ではアンチボディ使用で乾杯w「はい、乾杯」GM ということで、最初は水割りで乾杯です^^ チンGM エリーゼ「今回は、途中本当に危ないところを助けていただいてありがとうございました。あの化け物のとき、階段下から様子を拝見させていただいていましたが・・・大変かっこよかったですわ」GM エリーゼ「私・・・・その・・・・・凛と困難に立ち向かう男性が・・・・」テレテレマディ 「そうするとライトさんなんか凄いですよね、武器も持たずにあんな大きな相手に向かっていくんですから」w と、空気読まないwGM 「ライトさんも素晴らしい方ですが・・・私は・・・マディさんのほうが・・・」テレテレw 空気読まないことに気づかないw塩蒸し中のアティ かわしたところを的確に攻めていますなぁwマディ 「お上手ですねー、ありがとうございます」とか言ってましょうw塩蒸し中のアティ かわしたところ(意図せず) だなwGM とまぁ、こんなかんじでまったり(?)としたやり取りをした後GM 「えっと・・・ちょっと一回席を外させていただきますわ・・・・すぐ戻ってまいりますわ」といって、一度席を離れますGM で・・・・ バーテンが話しかけてきます。 「素敵な方ですね、お連れ様で?」GM バーテンは人間ですね。 某ジークさんを100○0倍かっこよく(ry塩蒸し中のアティ 別人んんん!wマディ 0が一個○なのはなんでwGM まぁ、なんとなく?wマディ 「えーっと、オレたち冒険者なんですよ、それで今の方がたの護衛でここに来たんです」GM バーテン「そうですか。しかし・・・あちらの方は貴方にずいぶん好意を持っていらっしゃるご様子で・・・・」マディ 「道中危険なことがありましたから、頼られているんでしょうねー」空気読めずwGM バーテン「ははは。では、こちらは私から。今日の出会いを祝して作ってみました。」 ちょっと不思議な色をしたカクテルです。マディ 「ありがとうございます、気を使っていただいて」アンチボ使用で頂きます><GM では、ご期待に沿って・・・アンチボディ使いながら(ころころ) 2D6[3,4]7+18 = 25 で生命抵抗おねがいしますwマディ 高いよwGM ええ、寝てもらわないとこまるのでwマディ 2d6+12+4 ぶっちゃけたw 抵抗GM [DICE] Muddy 2D6[5,5]10+12+4 = 26 ぶっちゃけたw 抵抗GM うは、抵抗されたwマディ 抵抗w塩蒸し中のライトぬいたーーーw GM困ったwGM では、一瞬眠気が襲ってきた気がしますが・・・・抵抗しましたw あるぇーーーーー?w かなり高めの目標値にしたのにw アンチボディが効いているとはいえ 抵抗されるのは予想外すぎましたw 仕方が無いので・・・強制モードに(汗 マディ 「見た目と同じで不思議なお味ですねー」空気読まずwGM 「あら、お酒に強いですね。そうしたら、こちらはいかがです?」 もういっぱい別のカクテルどうぞwマディ 「いや、ほとんど飲まないので強いかどうかは・・・ それに悪いですよそんなに(ズルもしてますし)」GM 「そうですか、わかりました」カクテル引っ込めGM そうしたら、エリーゼさんが戻ってきて・・・エリーゼ「そろそろ戻らなくてはなりませんわ。 最後に1杯だけ、もう一度乾杯させていただけませんか?」マディ 「あ、はい。では乾杯。あとでエステの場所を教えてくださいね、師匠たちが帰ってるか確認したいので」GM 「その必要はありませんわ・・・」 はい、今度は・・・・一口飲んだ瞬間昏倒してしましました>< これはあるアイテム効果なので抵抗できません>< 24時間寝たりしないから、大丈夫!wマディ 「帰ってたら、根掘り葉掘り聞かれるでしょうから・・・」くぴくぴ、こてん>< はい、バーテンの酒を引っ込ませたあげく、最後の一杯と称してエリーゼさんの手で盛りましたw ちなみに、この時に使ったのはこれまたAW要素の『熱狂の酒』。1日に1本であれば素晴らしい効果が得られる便利アイテムなのですが、1日に2度飲むとコテンと気絶したりもするアブナイクスリでもありますw 元々の効果では24時間昏倒になるのですが、今回は薄めて使っているということで30分程度の昏倒時間と裁定しました(というか、無理やり飲ませたのでですがw) ・・・あー、抵抗されたときのオプション用意しておいて良かったw §8 料理なんてされないぞ! GM では、再びサウナ組みへー。サウナ組は、いつまでこのサウナがつづくんだろーとボーっと考えていますが・・・・GM いいかげん暑くなってきました・・・・というか、耐えれなくなってきましたwライト 「そろそろ暑いですね」>アティアティ 「うん。・・・そろそろ出ようか」>ライトライト 扉をたたく。 たんたんアティ 「そもそも元々スレンダーなのにこれ以上スリムになってどうする」ぶつぶつGM 開きませんアティ 「ん?」ドアがちゃがちゃライト 「すいませーん。そろそろ出していただけないでしょうかー?」GM むしろますます熱が高くなってきます。というか、炎?wアティ 「Σあれ?」GM さて、精神抵抗どうぞw 目標18です ライト せいしんしーん 2d+11 >> [DICE] light せいしんしーん 2D6[4,4]8+11 = 19 (アティ:耐えた!)アティ 2d6+9+4 >> [DICE] Aty 2D6[2,5]7+9+4 = 20GM では(ダイスころころ)半減して・・5点の炎属性魔法ダメージどうぞwライト 「ぐっ、これは洒落に成ってませんね」 HP:55/60アティ 「ぐっ・・・」これはやばいと思ったので発動体をアポートします。(ころころ)発動成功。アティ ブレスレットの内部にあるものはできない、のかな? できないなら杖でなく信念リングにしますGM アポートして発動体ゲットおっけーです^^アティ わーい、じゃソーサラースタッフで GM で・・・・扉が厳重に封じられており、とても空く気配がありません。あたり見回しどうぞ。ライト では見回しアティ 遅れて見まわしますGM そしたら、ライトさんは、ねっころがっている足元側のほうが、扉側よりも弱そうだとわかりました。 防護点5、HP30扱いです。アティ 「外からカギかけたらいかんだろう!」ライト 「とにかく脱出します!」アティ 「うむ!」>ライトGM 攻撃1Rごとに 炎属性ダメージがきます。ということで、どうぞwライト 命中は自動成功?GM はい、自動であたります^^アティ ライトさきどぞ!GM さて、こいやぁ(@w@) (足元談どこかのマディ wwwアティ 足元wwwライト 「はああああっ!!」 くまーぱんちぱんちキーック!! 22・21・19点ダメージ!ライト 素手って怖い・・・アティ すげえwGM 一撃ですねw ずごーんwアティ 「でかした!」ライト 「脱出します!!」アティ 「うむ!」ライトに続いて出ますGM では、エステ組みは脱出すると・・・・サウナ?の反対側を抜いたせいか、見慣れない部屋にでますアティ 「…ん?」 <見慣れないへやライト 「うう、さすがに寒いですね・・・」服が無いGM 作業台のようなテーブルだけが置いてある小さな部屋です。GM 大きな包丁と小麦粉を練ったものが台の上に置かれています。あと、部屋の奥には階段もありますね。GM そして、窯らしきものが二つあり、下でがんがん火がたかれています。 一つは皆さんが入ってたものですね。ライト 「こんな場所が? 似つかわしくない場所ですね・・・と、厨房?」アティ 「・・・・厨房・・・のようだな・・・うわ」GM もう一つも火がガンガンたかれています(強調アティ 「なんだこれ・・・こんなに火を焚いたら蒸し焼きになるだろ・・・ん?もうひとつ?」ライト 消せますか?>火GM 普通に消せます^^ライト 消しますアティ 普通にできるのか。消そう。GM 消えましたーアティ 「よしよし」ライト 「ふう。さて、ちょっと洒落になってないですね」アティ 「これは・・・流石に故意と見ていいだろうな」>ライトライト 「ええ。こうなると装備品が心配ですね」 <突っ込み待ちGM 心配なのは装備品か・・・流すところだったwwアティ うちもdwアティ 「ああ、女神のヴェールとか高いからな・・・」しかし師匠は肯定する あやうく塩釜焼きになりかけたアティさん&ライトさんwさて、マディさんはというと・・・ GM では、いったんマディさん・・・気づくと真っ暗でとっても狭い場所に寝かされています。GM 大変暑い感じがします。そして、なぜか全身塩まみれwマディ 「ん・・・ あれ? いつの間にか寝ちゃいましたか・・・?」GM 出口らしき場所が見当たりません>< >マディさんマディ 「って、何処ですココ!?」きょろきょろGM とても狭い空間です。立ち上がると頭ぶつけそうなぐらい>マディさんマディ じゃあ 暗視あるけど慌てて起き上がってぶつけます ガンッ!wGM ガン!って大きな音がしました。窯の外にもきこえるくらいにwマディ やっぱりwGM ということで、アティさん・ライトさんは、火を消した窯からガンと音がしましたwアティ 「ん?今なにか音がしたか?」ライト 「おや?」GM さて、開けてあげてwライト 「釜を開けてみましょう」ぱかアティ 「やはりこちらの中にも人がいるのか」アティ ふつうにあけれる?GM んと、宣言すれば破壊できるでw<さっき威力みたしライト 破壊します。ぽかぽかGM では、先ほど同様一瞬で壊れました どがしゃーんアティ ライトに任せていますGM で、中には・・・・・さて、ごあいさつどうぞw>マディさんマディ 「わわわっ!?」GM ちなみに格好は・・・ #ランダム、服を着たまま、武士の情け、まぁ仕方が無い >> [DICE] GM_Swind ちなみに格好は 対象(服を着たまま)GM 服着たままかー。つまらんwライト つまらんー ちなみに、武士の情け=下着のみ、 まぁ仕方が無い=何も無しの予定だったりw GM 服を着たまま塩まみれになっているマディさんでしたwマディ 「・・・って、あれ? ライトさん、何でそんな格好で? それに師匠も」GM ライトさんは水着1枚、 アティさんも水着に杖という変わったいでたちwライト 「ちょっとサウナで蒸し焼きになりそうでしたので、壊して出てきました」アティ 「お前も蒸し焼きにされるところだったんだぞ」アティ 「ちなみに隣の部屋は厨房だ」マディ 「ここサウナだったんですか、場所教えて欲しいとは言いましたけど、オレも受けるとは言ってないんですが・・・」ライト 「というか、何故ここにいるんですか?」>マディマディ 「しかも服着たままですし・・・ よく判りません」>ライトマディ 「とりあえず、詳しい話を聞かせてもらわないと・・・ 何処から出れますかね?」GM んと、話し込んでいる感じかな??>ALLアティ 厨房で水とかだせるかな?GM 水がめがありますね。割と大きめでひしゃくがおいてありますアティ そんなことする余裕ないかwライト ちょっと階段が気になってるライトです。行ってきていい?GM んじゃ、階段を気にしてくれたライト君の期待にこたえて・・・・だれか降りてきました。マディ おっとアティ おや「水・・・水が・・・ん?何か見つけたか」ライト おっと、 隠密します! いい?>GM 残念ながら隠密するには10分の時間がかかるんですね・・・>< GM 隠密は・・・・10分かかるので無理ですね^^;ライト うんw;アティ コンシールセルフは一人でしかできんなwGM というわけで、二人の人間? コックさん?が降りてきました。で、みなさんと・・・・眼が合いますヨネェ^^;アティ ソウダネwマディ イリュージョンでも掛けるところですが・・・ 多分スグばれる 現在の位置関係は・・・ コックさん? 5m ライト 5m アティ・マディ こんなかんじ。 GM そうすると、コックさん?はぎょっとして「お、おまえら、マダイキテタノカ!」とどことなく蛮族語訛な共通語でwアティ 「まだ生きてたのか・・・お前ら、やっぱり私たちを殺すつもりだったのか!!」ライト 「蛮族語の訛りがありますね・・・」ぎらりと鋭い視線GM コック?B「 ば、ばれたー! こうなったらー!」 といって、獣化していきますwライト というか詰んだしwアティ 相手によるぜ!ライト いや獣化いうてるしwGM さて、まもちきどうぞー。知名度は 11/16です。アティ むう 2d6 まもち >> [DICE] Aty 2D6[2,2]4 = 4 まもちマディ 「死ぬ予定はありませんです・・・ どういう事か聞かせてもらいたいですね」 2d6+11 魔物 >> [DICE] Muddy 2D6[4,4]8+11 = 19ライト 2d >> [DICE] light 2D6[2,1]3 = 3GM ワーウルフ ルルブ2-241ですね^^;ライト ほれ詰んだ~~><アティ エンポンあるしだいじょぶマディ 詰みますか? セイポンもファイアもあるしGM エンポンなどなどすれば魔法の武器扱いですよ^^ どうやら、ワーウルフが「通常武器無効」という特殊能力持ちであることを心配されていたようですが武器強化系の魔法をかければ、あっという間に解決ですね^^ アティ マディは発動体もってる・・・・でいいかなマディ 服着たままなら持ってますよちゃんとGM うん、装備品ははがされていませんねアティ マディがバインド通してくれるそうです。 セイポンはあと1Rかかるw(聖印とりよせてにゃいwマディ なる >聖印ない アティ ああ、ブレスレッドは持ってていいのかGM あ、主動作で荷物全部だしおkです^^ 使うモノは主動作でひろってねw <収納ブレスレットライト 俺か ・・・というか、あるならとっくに出してると思う。警戒してるし・・・GM うーん、ブレスレットの所有者確認してましたし、荷物出すといってなかったので・・・さすがにNGで><アティ てっきり水着一枚だとオモタwまぁこっちも確認しなかったからねw 今なにを持ってるか(確認しなかった えっと、ここはやや厳しく裁定。先に収納ブレスレットを渡したときに持ち主確認していましたので、装備の所在について確認しなかった分、PC側にペナルティとしました。まぁ、身ぐるみ剥ぐために水着にしたときに、ブレスレットを巻き上げてないだけヨシとしてくださいなw GM まぁ、とりあえず先制です! こっちは16ですーライト 先制ー 2d+10 >> [DICE] light 2D6[1,4]5+10 = 15アティ 2d6 せんせー >> [DICE] Aty 2D6[2,4]6 = 6 せんせーライト ここは変転せざるを得ないw (GM:変転了解!)アティ ありがとw ということで、PC側から先行。まずはライトくんがFAをつかって荷物出し⇒装備のコンボ。そして・・・・ アティ コックって赤い眼鏡かけてたりとかしないヨネ?>GMGM あ、かけてませんね。素の狼男です^^; これは、来るか・・・・Σライト いけーアティ スリープ拡大、サラスタ装備 「マナよマナよ、この者に安らかなる眠りを!」 (ころころ)発動は20!アティ 2d6+15+2 一括GM (ころころ)出目で10以上だけど・・・・こてんこてん>< AB寝ました・・・・・><アティ 「よし」ライト おおー「すばらしいです」 爆熱ゴッドフィンガー(セイポン+ファイポン)ほしいですwアティ 「今のうちに装備拾うぞ!!」かさかさかさマディ 「とりあえず、普段のカッコに戻しましょう」ソフトレザーがタキシードのままだけどGM では、装備拾っていると・・・・上から人が降りてきますねGM 見覚えのある人、ミッツさんです「こ、こんなところでどうなされました!?」ライト 「ふむ、それはこちらの台詞ですね」マディ 「こんなところ・・・ 貴方はそんなところに何の御用ですか?」 アティ ミッツさんに真偽判定したいですGM 真偽判定は何を真偽??>アティアティ 蛮族か人族かですGM どうぞー>アティ そう、この真偽判定は「何を鑑定するのか」が大事な要素。 いくつかパターンが考えられましたが、選択したのは「人族 or 蛮族」でしたので・・・ GM [DICE] 裏でダイスが振られましたアティ 2d6+9+6 >> [DICE] Aty 2D6[3,2]5+9+6 = 20ライト 2d+12 >> [DICE] light 2D6[6,2]8+12 = 20マディ 2d6+9+4 >> [DICE] Muddy 2D6[6,3]9+9+4 = 22 (アティ&ライト:おー)GM では、全員「人間」で間違いないと思いましたアティ ふむ「・・・見れば分かると思うがこいつらは蛮族だ。こんな目にあったんだが、さてどうしてくれる!」GM 「え、私ですか・・・・それは・・・・・・この役立たずものかんしですわぁ!」 真偽判定したので1度だけ行動させてね^^ アティ なんだと(敵なのか、という意味で 「人間か蛮族か?」なので、人間で間違いないんですね。裏ダイスはダミーでしたw 真偽判定は能動動作なので主動作扱いと裁定。その分、GM側でも一度行動させてもらいました。 GM ミッツは神聖魔法「アウェイクン」を発動(ころころ) うん。かかった、 MP10点消費GM [DICE] GM_Swind ミッツ神聖魔法: 1回目 2D6[5,6]11+16 = 27 2回目 2D6[5,6]11+16 = 27 発動 アウェイクン MP10点消費マディ すげぇ!wGM 狼男ABは目が覚めました。ムダに出目がいいwライト また寝かせばいいw (GM:うん、そんな気がするw)ライト 「……さて、本格的に脱出が難しくなってきましたね。」アティ 「…装備は整っている。先ほどより絶望的でもあるまい」GM では、改めてまもちきどうぞーw<ミッツ分ライト 2d みっつ >> [DICE] light 2D6[1,6]7 = 7マディ 2d6+11 3つ >> [DICE] Muddy 2D6[4,3]7+11 = 18アティ 2d6 >> [DICE] Aty 2D6[4,5]9 = 9GM 知名度14/なし でした。 邪教の高司祭+1です。 信仰はブラグザバス (ライト:ぶらぐ><) 魔物(?)レベルを+1したことにより、ルルブ2に従ってちょっぴり強くなっています。 GM で、魔法は操霊魔法が8、神聖魔法は10扱いとしますー<ミッツGM あ、ちなみに「人間」です。まちがいなく。 ただ、穢れがありますねーアティ けがれてんのかwGM 穢れ値1ですwGM 装備はさっきの間にがっつり身につけたでwマディ タキシードの上にソフトレザーかwライト こっちなんて毛皮さw <リュンクスベストライト 『アティ 水着にソフトレザーw』GM なんかえろいですwアティ ><マディ 何処のドラクエ3・・・w だんだんすごい格好になってきていますw GM さて・・・・ミッツ「ほらほら、寝てないで働きなさい! 食材の鮮度がおちるわよ!」ライト また先制しなおし?GM 先制しなおしですね。 改めてこちらは16 先制ダイスはライトくんが19をたたき出し、あっさり先制とられました(汗 そうなると・・・・ アティ 眠らせっかライト どぞーGM (@w@)コ、コイヤァアティ 狼スリープ拡大、サラスタ装備アティ 「マナよマナよ、この者に安らかなる眠りを!」(ころころ)23で一括発動!GM がんばれおおかみ!(ころころ・・・17と15) がんばれなかった>< こてんこてん さて、前衛が落ちれば、あとはあっという間w マディさんからのアイシクルウェポンを受け取ったライトさんにより・・・・ ライト ミックに接近「貴女の身体に直接お聞きするとしましょう」GM 素敵な表現だwアティ ライトえりょーいwライト 「大丈夫。僕は責めるのは得意ですから」にっこり★ で結局FA込みの6回攻撃で瞬殺KO。いや、実際には4回目でとめましたけどねw マディ 「ライトさん、事情をお伺いしたいので出来ればすぐ起こせるくらいでおねがいします」アティ 「まぁ・・・そのときはマディが交霊術をだな」wマディ 「さすがに遠慮します」GM んと、FA分の一発目で落ちてますが・・・・何処まで通します?wライト いや落ちたならそこまででwGM らぢゃ!wライト 「おや、これまでのようですね」アティ 「おー、鮮やかな連撃だ」GM んじゃ、 生死判定は1ゾロ以外で成功できると。(ころころ)うん、せふせふ。GM ミッツは気絶ー。。。。「あぁ、変転+2ポイミスしたかった・・・・」 とかなんとか言いながら倒れましたw (アティ:><、マディ:www)ライト ではエネミーターンGM ありませんw<エネミーターンアティ でいいんだよねwあいw 結局、スリープ2発&タコ殴りで撃沈。まぁ、それほど強い魔物にする予定はなかったですけどねw ちなみに、高司祭のミッツさんは飯卓でははじめての「人族魔物」だったりします。 変転+2なポイズンミストには未練残りまくりですw §9 ラフィルを探せ! アティ 気絶してるミッツと寝てるワーウルフ見ながら「このままぼやぼやしてると危ないな。撤退しよう」アティ 「・・・じゃない・・・依頼人・・・ラフェルさんは・・・!?」GM はい、では戦闘終了です>< ミッツ&狼男の処遇をどうしましょうか?^^;ライト 「どうせならミッツさんを尋問★しましょうよ」ライト いかんライトの方向性がやばくなっていっている・・・ (マディ:wwww)アティ 「尋問もいいけどな」マディ 「とりあえず、この場から離れましょう」アティ 「問題はこれがホテルぐるみでやってることじゃないかっていうのがな」GM 狼男はとどめていいのかな?マディ 狼はとどめ?><ライト おk!アティ さしてる時間ありそうならざくざくっととどめさしとくおGM 3Rぐらいはあると思いますwアティ じゃあざくざく ライト 気絶した人はライトが持っていきましょうか? <ミッツアティ さすがにミッツ抱えて撤退は不可能かな?できんならそれでもGM ミッツ抱えて撤退は(ランダムころころ) 出来るらしいwライト わーいwアティ 無邪気に喜ぶなwGM そのかわり、簀巻きにして聖印外してお姫様抱っこしてあげてwマディ ライト、がんばwライト おっけー★アティ 簀巻きがすべてを台無しにしているような気がするw GM さて、ではどうしましょう?アティ ミッツ持って撤退ライト うんGM 何処へ撤退します??アティ 島に隠れられそうなとこないかな?ライト ここ孤島なんだよねーマディ とりあえず船、船長もグルだとアレだけどGM 島は港とホテル区画しか分かってないですねーアティ うーん・・・ミッツもとどめ刺す?そんで隠蔽して依頼人を救出に3階にいくって手もある。まだ知られてないうちに。ライト それとも依頼人?ライト まあお話を聞きに行くのはありですねマディ 依頼人がどっち側かわかんないのがなぁアティ 一旦撤退してもドールサイトとかコンシールセルフとか隠密系の技能はみんな持ってるから、また忍び込むことが不可能ってわけじゃないんだよね と、ここで、GMが情報を出しそこなっていることに気づきました(汗 GM あ、捨てゼリフ一つわすれてた・・・GM 皆さんは、ミッツが倒れるとき・・・どーでもいい先ほどの台詞以外にGM 「さ、さすがは歴戦の冒険者、少し甘く見てしまいましたわ・・・しかし、あなた達など所詮オマケに過ぎなのですわ・・・。」GM 「私たちの目的は既に達成されつつ・・・・・くくくくく」(ぱたり)GM という言葉を聴いていました・・・・ この情報がなければ、動けないですよね(汗 ライト おし依頼人アティ 依頼人かにゃぁ・・・マディ 依頼人に行って見ますか・・・それでアレだったらそん時はそん時でアティ おけGM では、依頼人の部屋に行ってみるでおk?アティ そうします。 警戒しながら、ライト先行で隠密してもらおうライト じゃあとどめですかねぇ < ミッツGM とどめさすならどうぞーアティ 「許せ。来世はまともな生を送れよ!」ぐさっライト 「残念です。せめて僕の手で逝かして上げましょう」さくっGM 死亡確認。戦利品は・・・・どうします?アティ 全部終わったらにしますマディ ココで漁ってる暇ないので速やかに強襲モードに><GM はーいアティ 小さくルーフェリアに印を切って移動GM ルー「あれ?珍しくちゃんとしたお祈り??」アティ 「失礼な!」ぷんぷん>ルーたん w GM では・・・・ ライトくん隠密どうぞーライト 隠密! 2d+10 >> [DICE] light 2D6[6,1]7+10 = 17 (ライト:ふつー)ライト ダメならぱりんしますGM はいー。では隠密しながら依頼人の部屋と聞いていた部屋へGM 途中は人っ子一人いませんでしたwGM 扉、開けますか?ライト あけますGM 鍵はかかっていません。がちゃりアティ 罠とかないかは調べないかな? 余裕ないか。ライト 罠感知するか?GM 罠もないようですねライト わーいアティ やたーGM 3F:依頼人の部屋(推定)です。アティ 推定・・なんだよなぁ。 非公開情報だったからGM 中は月明かりで照らされていますが・・・・・だれもいません。 ええ、全く誰も・・・GM そして、見覚えのある洋服が一枚ベッドの上に・・・・ラフィルちゃんのですねアティ 「くっ・・・遅かった・・・」マディ 「何処に・・・?」アティ 「部屋の中を探そう。何かしら痕跡があるかもしれない」GM 探索するならどうぞーライト じゃーたんさくーアティ よろよろ!! 探索やってる間にマディに魔香草もらいますGM どぞー^^アティ くだしあ><マディ はいなー(ころころ)4点回復ですーアティ HP 42/47 MP 58/74 0/10 もろたアティ 「確かエリーゼさんは敵っぽいんだよな?」>マディマディ 「とりあえず、オレをあのサウナに放り込んだのに関わってるのは間違いないと思います」アティ 「…あとは、ルーンさんが仲間かどうかってところだな」GM あ、言い忘れてましたが、ゲストルームよりもさらに3倍ぐらいゴージャスですw <依頼人部屋(推定)ライト みみたん 2d+11 2d+12 >> [DICE] light みみたん 2D6[5,3]8+11 = 19 2D6[6,6]12+12 = 24(6ゾロ)ライト ぴかーGM すげえwライト ライトはお嬢様のピンチ(推定)に超やる気のようですアティ うむw愛の為に戦うのだwGM では、みみは特に何も感じられませんでした。探索では・・・真新しい足跡が複数見つかりました。 小さな足跡がくつも履かずに部屋の外へ出て行っている様子様子GM そして、それに付き添うかのように大きめの足跡とピンヒールな足跡が寄り添っています。GM 足跡を追うなら足跡追跡どうぞライト じゃあ指輪を知性のにしてライト 追跡! 2d+11 >> [DICE] light 追跡! 2D6[5,6]11+11 = 22マディ おおーライト 神!アティ すげぇwGM まぁ、それは追跡できるw やる気見せてるなぁwライト じゃあ指輪を敏捷にもどしてついせきアティ dkdkGM では、足跡を追跡していくと、3階から階段をおりていいて・・・1階までいき・・・・メンバーエリアと称されている中には方面へ続いていきましたアティ 別棟かGM そこには、奥のに大きなお城っぽい棟と、中庭の真ん中にドーム状の屋根をした建物がアティ 「む」アイスドームに似てると思っているGM そして、そのとき!!!!!!!GM ============================================GM 唐突に次回へと続く と、ここで第1話SideAのセッションは非常に唐突な感じで終了。 表に出た皆さんが見たものは!? そして、ラフィルちゃんの運命は!? それは全て、最終話のお楽しみと言うことで・・・・ リプレイ一覧に戻る GM/Swindページに戻る
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チャリン―― 厳重に閉ざされた扉の向こう。静寂が支配するその空間に、無常の金属音が響き渡る。 ホールの奥、ステージの中心。そこに座する金の女神像。 その女神像を前にして、一人の男が声を震わせながら蹲った。 「…………どうして…………こんなことが…………」 彼――元生徒会長の彼は、金策尽きた中小企業の社長のように絶望の淵へと追いやられていた。 ニヒルスマートとも言うべき端正なマスクも、今となっては見る影もない。 だがそれも当然である。今ここで起きたことを鑑みれば、誰しもこの生徒会長のように取り乱してしまうのは吝かではないはずだ。 その証拠に、彼の言動を――偽りの仮面に潜む素顔を知る『彼ら』でさえ、どのように対処し良いか分からず立ち尽くし、じっと彼の方向に目線を向けるに留まっていた。 突然の来訪者である俺、漆黒の振袖を身につけた九曜、紋付袴を着込んだ藤原、……そして。 「会長……」 蹲った会長を励ますかの如く、傍に寄った喜緑さんもまた。 皆が皆、どう行動すればよいかわからずオロオロとしながら震える生徒会長に事の次第を判断しようと近づいた――その時。 「誰だ……一体誰だ…………」 指輪――宝石の無い婚約指輪を手にし、会長の震える声は次第に大きくなる。 「俺の……我が家の…………家宝を……宝石を………………盗みやがったのは…………」 そして、遂に―― ――どこのどいつだぁぁぁぁっ!!!!―― 彼の邸宅、大ホール。事件はそこで発生した。 何と言うフィールソーバッド、いや、バッドアクシデントだろうか。とてつもなく嫌な予感がする。 一体、何故こんなことになってしまったのだろうか。何故またややこしい事件に巻き込まれてしまったのだろうか。どうして俺はこうも面倒ごとと相性がいいのだろうかね。 しかし、そんな愚痴を言ったところでどうしようもない。特にここ数年の経験から鑑みるにそれは明らかだ。 必要なのは、この事件を早期に解決して後へと残さないこと。そのためにも、時間を戻して経緯を説明する必要がありそうだ。 というわけで、いつもの得意技であるバックトゥザフューチャー、いや、逆向き瞑想を開始してみる。 あれは、今日の午前中。勉強に飽きた俺が淀んだ空を見て昔の出来事を思い起こしてた後のこと。 二人の少女が俺の家に乱入し、強制的に初詣に行く羽目になったんだった…… ……… …… … インターネットの天気予報とは裏腹にダウナーでメランコリーだった空色は少しずつ明るさを取り戻し、雲の切れ間から今年一番の天照様、つまり初日の出を拝見可能となった元日の朝。 年賀状配達を装ってまんまと家の玄関に侵入した極彩色コンビ――オレンジ色の振袖にクリーム色の巾着を手にした橘と、漆黒の振袖にこれまた漆黒の巾着を手にした九曜の悪たれ二人組――は嬉しそうに、 「行かないとこの振袖、キョンくん着せますよ!」 と、手にした水色の振袖とかんざし付きのウィッグをフリフリちらつかせた。 「いやだぁぁぁぁ!! 誰が着るかぁぁぁ!!!」 あの時のトラウマを鮮明に思い出した俺は絶叫に絶叫を重ねた。 「ああ……なんか本気で嫌がってますねえ……」 「当たり前だぁ!」 やや身じろぎしながら腫れ物に触るかのような表情で言う橘に本気で拒絶の態度を見せた。好き好んで女装する男なんぞ危ない趣味を持っている奴か、或いは職業柄着ている奴しかありえん。 そのどちらでもないノーマルな俺が女装するなどはっきり言って三本の指に入るくらい人生の汚点だ。 「えー」 えー、じゃない! それにな、 「そんな暇があったら勉強に専念させてくれ。そっちの方がよっぽどタメになる!」 「大丈夫なのです!」何故だか自身満々で平たい胸をドンと叩いた。「信じるものは救われるのです! 祈れば大学に合格できるのです! ですからキョンくんもお祈りを捧げましょう! さあ! さあ!」 危ない宗教かお前は……って、強ちそうではないと言い切れないところがとっても橘である。 「佐々木さんと一緒の大学に入学したいと言う信念を見せ付ければ、それは絶対叶うのです。なんたって佐々木さんは神様なのですから!」 遺憾ながら同感である。佐々木と、そしてハルヒの力が混成すれば俺が勉強しなくとも大学に合格できてしまうのは何となく既定事項っぽくも思える。 だが、それに甘えるってのもかっこ悪いぜ。形だけでも二人に猛勉強しているところをアピールしなければ合格もへったくれもあったもんじゃない。 「意外と義理堅いんですね、キョンくんってば」 お前とは違うんだよ。 「さらっと酷いこと言いましたね」 まあな。 「うううう…………なんか悔しいのです。こうなったらあたしにも考えがあります! 九曜さん!」 「――――――――」 呼ばれて出てきてジャジャジャジャーンと言うわけではなくずっとその場にいたのだが、あいも変わらず存在感の無い九曜はいきなり存在感を露にした。 「やっちゃってください!」 橘の命を受け、漆黒のマトリョーシカは俺に向かって手を振り上げた。「一体何をする気だ!?」 「―――こう――――する――」 「!!?」 ……なっ…………体が…………動かない………… 「かな…………しばり………………か………………?」 痺れて動かない舌と唇を必死に動かして言葉を紡いだ。 「ふっふっふっ…………これであなたはあたし達が今することをただじっと見てなければいけませんね……」 勘輔の策略を見破った謙信の如く鋭い目つきをした。「まさか…………無理矢理………………つれて行く……気か…………?」 俺の言葉にしかし口を歪め、奥に見える歯を白く輝かしていた。 「いいえ!」 しかし橘は俺の目論みをを否定し、それ以上の戦慄を植えつけた。 「そんなことよりキョンくんの家にあるおせち料理、全部食べ尽くしてやるのです!」 こらお前ちょっと待てぇ! 俺の言葉も空しく、疾風怒濤の如きダッシュを見せたオレンジ色のソレは、ダイニングに整然と並ぶ正月料理を目の前に燦々と目を輝かせ、そして見つけた重箱の一つに手を伸ばし料理を鷲掴み! 「ムグムグムグ……うん! このられまき、あまくてほいひい! こっひのきんときもあんまいれすう!」 「結局たかりに来ただけかこの大飯喰らいがぁ!」 ゴス、と目の前にあった重箱の隅が橘のドタマにめり込んだ。 「いったーい! 何するんですかぁ!! てかどうして動けるんですか!?」 「九曜に解いてもらったんだっ!」それより! 「何するんですかはこっちのセリフだ! いきなり上がりこんで電波な宗教論を語った挙句人様のうちのおせち料理を平らげるなぁ!」 「あー、いえいえ。お構いなく。ところでお雑煮はまだですか?」 「――――こっちに……ある――――白味噌……――――京都風――――」 「わあ、甘くていい香りがしますぅ! 九曜さん、こっちにも早く早く!」 「――――どうぞ……」 「いっただっきまーす! うーん、おいしい!」 「――――こってりしていて――――――それでいて――さっぱりして――――口の中で――とろけるような…………――――」 「ふう、美味しかったのです。そう言えばデザートはまだですか?」 「もう――ちょっと……――――待って…………今から――――――お汁粉――――――――作る――――――――」 「やったぁ! 期待してますよ、九曜さん!!」 こいつら……本気でたかりに来たのか? それ以上無銭飲食を続けるなら警察に通報しちゃるがな。いやマジで。 「とまあ、腹ごなし……もとい、冗談はここまでにして」 とても冗談とは思えないくらい程がっついた橘は、食事に満足したのかようやく(?)当初の目的を思い出したようで、「そろそろ初詣に行きましょうか」 だから俺もさっき言ったとおりヤダっていっただろうが。 「一年の計は元旦にあり、なのです。初詣は元日の午前中に行くのがスジってものなのです」 決して意味不明なことを言っているとは思わないが、だがどんなに名文句も橘が喋ると全て台無しになってしまう気がするのは俺の気のせいだろうか。それはともかく、 「なるほど、お前の言う事も一理ある」 「じゃあ……」 「だがな、もう済ませてきたんだ」 「……へ?」 「実は今朝方、ハルヒや佐々木達と一緒に行ってきた。だから二度も行く必要は無いだろ」 「ええええー!!!」 何故か橘は驚いた様子で 「そんなぁ! あたし呼ばれてませんよ!」 「そりゃあ、呼ばなかったからな」ハルヒと佐々木が断固として拒否したから仕方あるまい。 「ひっどーい! あたしの人権はどうなるんですか!?」 さあ、その辺はお前を無視した二人に問い質すか、人権擁護団体に訴え出てくれ。正直俺の知ったことじゃない。 「うううう……キョンくんってば最近冷たい……あたしを人間扱いしてないなんて……ひぐっ…………」 ヨヨヨと泣き崩れたように見える振袖姿のツインテール。しかし俺はコレが演技であることはとうに見抜いていた。伊達にこいつとの付き合いも長いわけじゃないぜ。 「くっ……やりますね。あたしの渾身の演技を見破るとは……」 渾身の演技をするつもりならば、先ずは口の周りの汚れをふき取ってからしていただきたい。 「それは後々の課題として組織に提案することにします。……で、キョンくんは初詣に行ったのに、あたしと九曜さんは初詣に行かないなんて我侭、許されると思いますか?」 いや、許されるも何も。 「九曜は初詣に行ったぜ。俺達と一緒に」 「…………へ??」 「だから、俺とか、ハルヒとか、佐々木とか。その他にもいたけど、とにかくお前以外の奴らで初詣に行ってきたんだよ」 「……えー……と……」 口の周りを汚したままの橘は、ギギギと言う効果音を立てて首を九曜の方に曲げた。 「本当、ですか……九曜さん!?」 九曜は橘を凝視した後俺の方を見据え数ナノ単位で首を動かした後、再び橘に目線をロックオン。 「――――本当…………行ってきた――――初詣――――皆と一緒に……――――」 「………………え゛」 鏡開き時の鏡餅宜しくカチンコチンに固まった。 まあ……九曜は別段俺たちに害を成すことは無かったし、ハルヒも佐々木も得に問題なく誘ってたみたいだぞ。気にするなって。その代わりと言っちゃ何だが藤原はいなかった。ほら、お前と同じで。よかったなー。ともかく初詣には一人で行ったら…… 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」 あ、泣き出した。 「ひどいぃぃぃ!! ひどすぎますぅぅぅ!!! みんなであたしをいぢめるぅぅぅ~!!」 ギャン泣きする様は演技でなく、ガチで泣いているようだった。 「そ、そんなに泣くなって! 誘われなかったくらいなんてこと無いだろ!? 俺達だってお前を除け者にしたわけじゃ……あるけど……いやそうじゃなくて……あ、そうだ。藤原はまだ行ってないだろうから二人で行けば……」 「う゛わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛~ん゛! う゛わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛~ん゛!」 橘の鳴き声は更にヒートアップした。高周波を醸し出す嗚咽音は俺の家だけならまだしも近隣住民の皆様の平穏なる元日を脅かすのは間違いなかった。 「わ、分かった分かった! 行く! 行ってやる! だから泣くのは止めろ!!」 「本当ですか? やったぁ!」 あれだけ激しく号泣していたツインテールは嘘のようにピタリと泣き止んだ。 「わーい! キョンくんと初詣だぁ! たのしみだなあ!」 もしかして、あの涙も演技だったの? ……マジ!? こうして俺は、本日というか本年二度目の初詣(二度目なら初じゃなくて二詣でとでも言うのか?)に借り出されることなり……そして。 実りの無い事件に巻き込まれる羽目になるのだ。 渋々と言うか橘の姦計に見事引っかかってと言うべきかはさておき、最寄の神社へと向ったのは十時を三十分程過ぎていたことだけは記憶の隅に留めている。何故そんなこと覚えているかって? 単に家を出るとき何となく時計を見たからだ。 俺の自宅から目的の神社までは歩いて三十分くらいのところにあるので、このまま何事もなく移動できれば十一時には到着するだろうし、そこからお祈り等何やかんやしたところで十二時には自宅に戻ってこられるはずだ。 避けるのが無理ならば、一刻も早く事を終わらせるに限る。残り少ない高校生活、いや、受験生生活を有意義に過ごすためには一分足りとも時間を無駄にする事はできないのだから。時間にシビアになるのは仕方ないことだと思うね。 「……キョンくん、さっきから何ブツブツいってるんですか?」 ぴこぴことツインテールを揺らしながら、俺の顔を覗き込むように橘が訪ねてきた。 「どんな願い事をするか考えてたんだ。何せ二度目だからな」とは俺の弁。正直嘘なのだが、本当のことを言っても仕方ない。代わりに「そう言えばお前はどんな願い事をするんだ?」と質問する形で返してやった。 すると橘は…………って、無言かよおい。 「……え? あ?」 一人でブツブツ言うのも良くないが、人の質問に答えないってのもどうかと思うぞ。 「あ……失礼しました。誰かついて来てる気がしたんで……」 「ストーカーかもな」絶対ありえんが、と心の中でだけ付け足しておく。 「ストーカーですか……是非一度経験してみたいですね。記念に」 何の記念だよ、変な奴め。 「ああ、それよりさっきの質問ですけど、そうですねえ……今年もみんなと仲良く遊び回りたいです」 ニカッとはにかんだ彼女の表情がやけに眩しく感じられた。 「お前の願いはハルヒの能力を佐々木に移管することじゃなかったのか?」 「うん、そうですけど」何故か悲しそうな表情で「でも、無碍に実行する必要も無いかなって」 およそ橘らしくない発言をしでかした。頭、大丈夫か? 「大丈夫ですよっ! ノータリンみたいな扱いはしないで下さい!」 ぷくっと頬を膨らませた。冗談だよ、冗談。俺がそう言うと橘は、 「あたしの願いは本気ですよ。確かに『組織』にとっては、涼宮さんの能力が佐々木さんに移行されることに何の懸念もありませんし、あたしの主旨も初志から変わることなくここまで来続けています。でも……」 でも……何だ? 「あたしは佐々木さんの良き理解者であり、パートナーとしてありつづけたいのです。ですから、佐々木さんの望むべくも無いことをむやみやたらに差し迫るのは、組織のためにも、そして佐々木さんのためにも良くないんじゃないかって思い始めてきたんです」 それはそれは。橘にしては良い心がけだ。そうしてくれれば佐々木も大助かりだろうよ。それだけ佐々木のことを気に掛けてくれれば何をすべきなのか普通見えてくるもんだがな…… 「何か言葉に刺があるように感じますが……まあいいです。古泉さん達が主張する、『涼宮さんが望んだことが現実となる』ように、あたし達も『佐々木さんが望んだことが現実となる』ように仕向けなければいけないのです」 で、具体的にはどうするんだ? 「さあ、わかりません」 おいおい、何だそりゃ。 「分からないからこそご神託を聞きに神社でお参りをするんですよ。ねー、九曜さん」 「――――そう――――――」 俺達の後ろを、足音も立てずに歩く九曜が肯定の反応を示した。 「いずれ――分かる――――日が……来る――――」 何時だ、それは? 「その――うち――――」 そうかい。ならその時に備えて構えておくことにするよ。 「それよりも」 俺は目線をチラリと横にずらし、「まずは目先の懸念を払拭することにするか」 「そうですね。先ずは大学合格が重要なのです!」 ……いや、それも重要だが、俺の言いたい事はそうじゃない。遠くに見える違和感を尻目に、横に侍る女性陣にだけ聞こえるようぼそっと喋りかけた。あ 「(お前の言ってたのは本当っぽいな)」 「……ん? 何がですか?」 「(確かに誰かついて来てるようだ)」 「えええええっ!!」 こ、こら! 声を上げるな! 俺の言葉に橘は、 「だってうれしいですもん。本物のストーカーさんに付きまとわれてこそあたしの人生にも箔が作ってもんです!! やったぁ!」 ……だから喜ばないでくれ。 それは俺達の後ろ、道路の路側帯に組み立てられた物置程度の網小屋――所謂ゴミの集積小屋。野生の動物達がゴミを漁るのに苦慮して市が立てた小屋の一つだが……その周りを確かにうろちょろしている人物がいた。 「(どう見ても犬や猫の類ではないぞ……浮浪者か?)」 「なんだ、ストーカーさんじゃないんですか……残念」 まだ言ってるのかお前は。 「まあいいや、とにかくゴミを漁っているかも知れませんし、あたし注意してきます!」 馬鹿! 無視しろ! 構うなそんな変な奴! 「いいえ! 公序良俗に違反する行為をする輩はとっちめなければいけません!」 お前は『公序良俗』なんて四字熟語を使うに値する人間なのか、ゴミ漁りはダメでストーカーはオッケーと言う判断基準はどこからきたのかというツッコミが即座に思い浮かんだが、そんな言葉攻めをしたところででおずおず引き下がる橘京子ではない。 俺の制止を振り切り、カパンパカンと軽快な下駄音を立てて一直線。 「こらーっ! そのこあなたー! 出てきなさーぃ!」 「――――!!?」 響き渡るハスキーボイスに驚き、慌てて小屋の中へと隠れる。それを見るや否や、彼女も一緒になって小屋の中へと駆けて行った。 やれやれとは思いつつ、トタトタと走り出す俺、そして九曜。因みに九曜は橘と同じく下駄を履いているはずなのに足音は全く無かった。さすが長門も舌を巻く別世界の宇宙人である。 「そんなとことに隠れても無駄よっ! 出てきなさい!」 「うおわぁ!」 大量のゴミに埋もれた人物を難なく引っ張り出した。そこにいたのは、 「あ、ポンジーくんじゃないですか」 「うっ……」 そう。この寒い中、燃えるゴミと一体化して姿を眩ましていたのは一風変わったオシャマな未来人、ポンジー藤原だった。驚くこと無かれ。何故か紋付袴姿の正装でご登場だ。 「何してんだ、お前。そんな格好で」 「ふん、別段何をしてても構わないだろう。そんな目で見るんじゃない」 確かに何をしててもお前の勝手だが、そんなところに隠れている時点で周りの人間から奇異な目で見られるだろうし、何事かと声を掛けられるのは仕方の無いことだぞ。 「それに頭の上に魚の骨が乗ってるその姿はいくらなんでもみっともない」 俺が親切にも頭の上にのっかったソレを取ろうとすると、何故かそれを制止した。「これも規定事項だ」 ああそうですかそうですか。じゃあ外すなよ絶対にな! 「言われなくてもそうする!」 『ふんっ!』 と、どうでもいい事で口論となった俺達だが、「まあまあ、いいじゃないですか」という何がいいのかさっぱりわからない橘の宥めによってこの場はそれ以上の惨事は回避された。 「で、何してたんですか? 本当に」 「……いや、その……」 「いいじゃないですか、教えてくださいよ。あたしとポンジーくんの仲じゃないですか」 「ふっ、知りたいのなら教えてやる。えーと、実はな……初詣に……そう、初詣だ。及びそれに係る神への祈祷。そんな古典的風俗を勉強しようと思ってたんだ」 若干言葉を詰らせながらも答えた。俺には決して言わなかったのに橘相手になるとあっさりと口を割りやがったな、こいつ。何だこの差は……と言いたいところだが、橘にお熱なのだから仕方ない。悔しくなんかない。絶対にない。 「文献によると『神社』の『本殿』という建造物に祈祷を捧げることになっているのだが、如何せんその文献には『本殿』の写真が無くてな。記述からソレらしきものに目星をつけて探索を行っていた。そして見つけたのが……」 未だ頭の上に魚の骨をのっけながら、藤原は自信満々に集積小屋を指差した。「この建造物だ」と。 「…………」 思わず沈黙。っていうか何て言えば良いんだよ。 「文献に依ると、それほど大きくもない木造建築物は観音開きとなっており、その中には御神体が祭られているとのこと。然るにこの建造物も同様の造りになっているではないか!」 ええっと……その…… 「だからここでお祈りを捧げようとしていたところなのだ。現地人はこのような格好を正装とし、二礼二拍の後御神体にお祈りを捧げる……ふっ、どうだ。どこからどうみたところで初詣に違いあるまい!」 「そ、そうか……そうだよな……お疲れさん……」 何と答えて良いか分からなかったので、とりあえず労いの言葉をかけることにした。 「んー、そうだったのですか」 対照的に納得したたのか、橘は二房の髪をふわふわ揺らして鷹揚に頷いた。 「初詣に対する心がけ、大したものです。キョンくんとはえらい違いですね」 うるさい。 「でも……それなら何故あたし達の後をついて来たですか?」 「は!?」 「最初は気のせいかと思ってましたが、でもあたし達の後をずっとつけてくる気配がありました。初詣をするのが目的なら、あたし達に付きまとう必要は無いですよね」 「……い、いや……別に付きまとってなど……」 「ならどうしてあたしが追いかけた瞬間、隠れたりしたんですか?」 「うっ……いや! 追いかけてなどいない! たまたまだ神殿に身を委ねたのがそのタイミングだっただけだ!」 「怪しい……」 「怪しすぎる……」 「怪しさ――――大爆発――――」 「そこまで言わなくても!」 いいや、だって余りにも不可解な解答なのだから仕方あるまい。 「怪しいと言えば……そうそう」橘は手の平でポンと音を立てて言葉を紡ぎだした。「古典的風俗を勉強している割に、神仏に対する基本的なことをご存知無いようですね」 「何……だと?」 「例えば御神体。普通御神体って、目のつかない場所に保管されているんです。神様が人目を気にしているとか、人間が神様を見たら目が潰れるとか……諸説色々有りますが、簡単に目の入るところにはいないのです。文献に書かれていませんでしたか?」 「うっ…………いやいや、そんなことは書かれてなかった気がするが……あ、いや!」 何かを思い出したか、 「そのような文献も読んだことはある。だが、古来御神体と言うものは自然そのものであったり、または風光明媚な土地・地形が御神体となるケースもあるはず! 決して依り代となった物質が姿を晦まさなければいけないと言うわけではない!」 「うわ、すっごい! よくご存知ですね!」 「へ……へへ。まあな」 若干照れたように笑う藤原。うん、きしょい。 「でも……それだけご存知なら、ますます怪しい。だってそうでしょ? 本当に神社や御神体についての知識があるなら、こんな場所が神社の本殿なんて言うはずずもないし、それに魚の骨が御神体だなんて言うはずがありません」 「ぐ…………」 「それに関してはどうお答えしますか?」 「いや……だから…………」 「――――彼の…………言う事も…………――――一理――――ある――――骨を…………――奉る……――――――地域も――――――あることは――――…………ある――――――」 「ほ、ほら見ろ! 僕の言う事も強ち嘘じゃないだろうが!?」 なんともまあ、往生儀が悪い奴だ。いくら九曜が代弁してくれたからと言っても、不利なことは間違いない。 「分かりました。ポンジーくん、あなたはその小屋が御神体を祭っている神社、そして頭の上にあるお魚さんの骨がご神体であると。そう信じて疑わないのですね」 「ああ、そうだ」 「ならば……」 藤原の返答に、橘は獲物を捕らえたような野獣のような表情で、 「今すぐそこでお参りをして下さい! お魚さんの骨に向かって二礼二拍して祈祷を上げてください!」 「なっ!!」 「お魚さんにきちんと願い事を言えたならばあなたの仰ることが本当であると信じましょう」 「くっ…………」 とうとう藤原の口が沈黙した。なるほどそうきたか。橘にしては上手い誘導尋問だ。 「さあ、どうしたんですか、お辞儀してください! お手を叩いてください! お魚さんの骨に向かって! ゴミの山に向かって! さあ!」 「……い……いや…………」 「遠慮は要りません! 通りすがりの方達が白い且つ哀れむような目線でポンジーくんを蔑むかもしれませんが気にしないで下さい! あなたはあなたなりの神様がいるんですから!『トラッシュイズゴッド! ボーンイズジャスティス!』と請い願うのです!」 「わ、悪かったぁぁぁぁ!!!! 許してくれぇぇぇぇ!!!!!」 あーあ、とうとう泣かせたか。顔をくしゃくしゃにしてまで懇願させるとは……結構容赦の無いヤツである。 「だって、本当の事言ってくれないんだもん……そう言うの見るといぢめたくなっちゃう。もうっ」 再び頬を丸く膨らませた橘は、結構可愛く……絶対気のせいだ。 観念した藤原はポツポツと事の詳細を語り始めた。 ――神社や初詣について文献を調べたことは本当であり、実際に参拝してみたいと言う気持ちはあった。 もちろん神社が分からない訳でもない。いくらこの時代の地理に疎くても、地図を調べれば『○○神社』ってのが出てくるからな。 だが、懸念事項もある。生まれて初めて、しかも遠い異国で自分のそ知らぬ文化行事を万事上手くこなせるか? もちろん他人と同じような行動をすればいいのだが、ちょっとしたミスで笑いものにされるのはいただけない。こと過去の人間に笑われるなど屈辱の極みである。 行くべきか、行かざるべきか。 神社までの往路をウロチョロして対策を練っていたところ、ふと自分の目の前によく知る人物(俺達のことだ)がいるではないか。思わず隠れてしまい……だがよくよく見ると、女性陣は文献にあった和服の着物を召している。 『まさかあいつらも初詣に行くのではないか? いや、そうに違いない』 これはチャンス。奴らの後を追い、偶然を装って出会ってやる。そしてそれとなく初詣の話へと持っていき、後はあいつらに合わせていればいいだろう。 『ふ、なんて完璧な計画なんだ。最高だ』と自画自賛していたまでは良かったのだが……。 ここで想定外の事件が起こった。やおら方向転換をした橘があれよあれよと言う間にこっちに近づいてきたのだ。 ちょ、待て! 僕の計画じゃ出会うのはもっと先のはずだ! どうやって言い訳するか考えてないんだこっちは! 等と心の中で叫びながら、近くにあった小屋に隠れ―― 「……後は知ってのとおりだ」 少々不機嫌な様子で、藤原は不快感を露にした。 「理由は分かった。だがそれならそうと言ってくれればいいのに」 「ふん」 ったく、本当にツンデレ野郎だな、こいつは。 「なあんだ、それだけですか」残念そうな顔で橘は「もっと大事件を隠しているのだと思ってました。この集積所に遺体を遺棄しにきたとか、とても言えないところから強奪した金銀財宝を隠しにきたとか」 頼むから正月そうそう物騒なことを言わないでくれたまえ。 「しょうがないですね。ともかくあたし達と目的は同じみたいですし、ポンジーくんも初詣行きますか?」 「はい、喜んで!」 今の今までしょぼくれてたくせに、立ち直りも早い奴ではある。っていうかお前、現地の人間と行動するのは嫌だっていってなかったか? 「ふっ、目的のためには多少の羞恥心は目を瞑る必要がある」 お前の羞恥心の基準が分からんわ。見つかるまではまるで俺達を監視するかのようにつけまとい、見つかったら見つかったで一緒に行くと言い出して……ああ! そうか! 「橘、藤原のの本当の目的がわかったぞ」 「へ?」「なっ!?」 「何やかんや言ってるが、要するにこいつは俺たち、というかお前と一緒意に初もう……」 「わー! わー! わー!」 どうした藤原。いきなり奇声を上げて? 「本当、どうしたんですか?」 「あーいや、わー……わー……わーたしのお名前ーなーんだっけ?」 「大丈夫か藤原?」いや俺は分かってからかっているんだが。 対照的に橘は頭にクエスチョンマークを浮かべ、訝しげな顔をしてポンジーを見つめている。そのポンジーはもう面白いくらいにしどろもどろだ。ふふふ、ふっとからかってやる。 「お前の名前は自称藤原じゃないか。橘のことがす」 「とがすー!!」 「ど、どうしたのよポンジーくん!?」 「とがす……とがす…………都ガスでエ○ファーム! コージェネでエコな生活を! 未来人からのお願いです!」 「――――ユニーク――――」 「……あの、一体なにが楽しいんでしょうか……?」 「ちょっとした余興さ」 「くはーっ……くはーっ…………くそ、覚えてやがれ…………」 やだ。絶対忘れる。そう心に留めながら恨みがましい目を向ける野郎から目をそらた。 「しかし、よくこいつの言い分に突っ込めたな、お前」 「えへん、これでも洞察力には優れているのです。言葉や時制、そして行動の矛盾を読み取り、明朗にそれを指摘する。これこそあたしが最も得意とする技なのです」 全く自覚の無い答えを返しやがった。 俺が言いたいのは、あんな突拍子も無い嘘をしれっと流さずよく突っ込めるなって事なんだが。大体神社の神殿がゴミの小屋なんて言う奴は280%くらい妄言を吐いているとしか思えないぞ普通に考えて。 「その顔。信じてないですね?」 じっと覗き込むように見上げた橘はあからさまに不満の色をにじませた。 「いやだから、信じる信じない以前の問題で……」 「それ以前の問題!? そこまで馬鹿にしますかキョンくんは!?」 ダメだ、聞いちゃいねえ。 「ふふふ……わかりました。ならあたしの明晰な頭脳を披露してやるのです。疑問難問珍問いくらでもかかってきなさい! この名探偵橘京子が全て解いて見せます! おーほっほっほっほっほ……って、あれ? 皆さんどこですか?」 一頻り高笑いをする橘からそっと距離をとり、重たくなった頭を左手でぐっと支えながら俺は二回目の初詣でお願いすることを決定した。 願わくば、今年はあいつとの関わりを尽く断ってください、と。 とまあ、サプライズゲストと言えば聞こえが良いかもしれないが実質ただの腰巾着、橘のパシリとも言うべき藤原も仲間に入れた俺たち一行は再び歩みを始め――そして、彼と出会うことになる。 男女二組、ダブルデート状態になった俺達は他愛も無い話を繰り返し、程なく神社に辿り着いた。社の領地内は時期が時期だけあってかなりの人で覆い尽くされていたが、それでも身動きできないほど込んでいるわけでもない。 所詮は田舎の一神社。こんなものであろう。 というわけでサクサクっと事を終わらせよう。参道の脇に立ち並ぶ屋台を尽く無視し(途中橘が何回か立ち止まったが無理矢理引っ張ってきた)、祝詞をあげる神主さんも華麗にスルーし(こっちは藤原が興味心身だったが以下同文)、そして祭壇へと並んだ。 カランコロンと鈴を鳴らし、パンパンと手を叩いてお辞儀。藤原が前もって調べたらしい二礼二拍をしたのち手を合わせてお参りする。橘、藤原、九曜もまた同じ行動を繰り返した。 藤原がやたらと人目を気にしていたことと、探偵気取りで他の参拝者の願い事を推理し始めた橘を除けば特に問題なくお参りは終了し、これで晴れて自由の身になったわけである。 「やれやれ。それじゃあ俺は帰るぞ。後は任せた」 時刻は十一時半。ほぼ俺の予定通りの時間である。今から帰って勉強すれば何とか遅れを取り戻せるだろう。 「えー!」しかしと言うかやはりと言うか、空気の読めないこいつがあからさまに不満の色を醸し出した。「せっかくのお正月なんですし、もうちょっと遊びましょうよ! 探偵ごっことか!」 せっかくの正月に探偵ごっこをしなければいけない理由は一体なんだろうか。そこんところ問詰めて見たいがこいつに付き合うとろくな事が無いので、 「だから何度も言ってるが、俺は受験生なんだ。それに遊ぶなら藤原がいるじゃないか。探偵ごっこするには打ってつけだ。頼んだぞ」 「お……おう! 任せとけ! 犯人役でも被害者役でも何でも演じきってみせる!」 着物の上から胸をドンと叩いた。しかもなんだか嬉しそうである。 「と言うことだ。頑張ってくれ」 「でもお……」 どうした。不満でもあるのか? 「ポンジーくんって、一生懸命なのはいいんですが……なんて言うか、必死過ぎてちょっと引いちゃいます」 「がーん!!」 ……あ、ポンジーが硬直した。 「いくら遊びとは言え、長いことやってるとこっちが疲れるのよねえ」 「ががーん!!」 今度は白い砂と化した。 「あたしはもっとクールで冷静沈着な人を抜擢したいな、と思いまして」 「ががががーん!!!」 そして崩れて木枯らしに吹かれ舞い散り……いくらなんでも藤原がかわいそうである。 なあ橘、人の振り見て我が振りなおせ、って諺知ってるか? 「ああ……どこかにいないですかね、クールでヒールな役がピッタリな王子様♪ 実はさっきお願いしたのです。今年こそきっと白馬に乗った王子様があたしをお迎えに来てくれると!」 はいはい、それはよかったね。きっと直ぐに来るぜ。白馬に乗った王子様がな。お前を迎えに来てそのままさらって行って二度と俺の目の前に現れないで欲しい。 ――なんて、心にも無いことを言った俺は自分を呪った。 まさかこの後すぐにそんな人が現れるなんて思っても見なかったからだ。 「きっと、あっちの方向くらいから!」 橘が参道の向こう――俺達がやってきた道を指差した、まさにその時。 ――ドドドド ドドドド ドドドド―― 胸を突くような重低音が俺達……いや、周りにいる全員の心臓に響き渡った。車かバイクの排気音だと思うが……ビートを刻むような胸の高鳴りはどういうことか。大きい音量は胸が苦しいどころか、むしろ心地よくも聞こえてくる。不思議な音だ。 一体どんな車なんだろうね。 「あたしが推理してみましょう」 再び探偵気取りになった橘がしたり顔で言い放った。 「ふむふむ……独特の不協和音……それが奏でるエクゾースト、排気干渉――――これは水平対向エンジン! ポル○ェかス○ルね!」 ビシッ! と俺に向かって指差した。 「――違う――――――この音は――――空冷Vツイン…………――――ハ○レ○――――ダ○ッド○ン――――――」 ……だ、そうだ。 「あ、あたしだってたまには間違えます。恥ずかしくないですもん!」 の割に顔は真っ赤だ。 やがてそのVツインとやらの音はこちらに近づき、そして音を出しているものの正体……かなり大型のバイク――鈍く光る黒のボディと鮮やかに光るメタル部分がコントラストとなってより存在感アピールしている――が、俺達の目の前現れた。 九割以上が歩行しているこの参道でバイクはただの一台。季節柄というのもあるが、その個体とも相まって注目度抜群。殆どの歩行者はその威圧感からか、恐れおののくように道を譲っている。 俺達も例に洩れず、同じく道を空ける……が。 こともあろうにバイクは俺達の目の前で停止した。 「え? え?」 「――――――」 意味が分からず思わず言葉を失った。 ライダーは恐らく男性。恐らくと言うのは他でもない。身を包んだ革製のジャケットとパンツ、そしてスモークシールドに覆われた全体から性別を認識するのは困難だからだ。 しかし、古泉に迫る長身とスタイルの良さから男性であることはほぼ間違いないだろう。 そのライダーは俺達を一瞥し、納得した様子でジェットヘルメットを脱ぎ、 「よう、久しぶりだな」 排気音が鼓動する中に、彼の渋い声が響き渡った。 「もしかして……会長!? 生徒会長さんか?」 「ああ。今では『元』と言う方が正しいが……そんな細かいことはどうでもいい。そう、私だ」 生徒会長……元生徒会長は、胸ポケットに入れてあったタバコを取り出し、ライターで火をつけた。まるで自分の言動を思い出させるかのように。 ああ、思い出したぜ。彼が学校を卒業してもう一年近くなるんだから仕方ないだろう。 「(ちょっとちょっと、あの人誰なんですか?)」 くいくいと俺の袖を引っ張り、初顔合わせの力士みたいに顔を強張らせた橘に、 「去年卒業した、俺達の学校の生徒会長だ」 「元、だ。今は違う。と言うかもう金輪際やる気は無いぜ。あんな面倒な仕事はヨ」 ぷうと吹かした煙が木枯らしによって吹き散らされた。 「古泉に唆されて生徒会長になったのはいいが、あの女のせいでかなり振り回されたからな。お前は知らないかもしれないが、古泉からの注文はかなりウザかったんだからな。……ふっ、でもまあ」 ここで更に一息。 「おかげで首尾よく進学できたわけだ」 そう。確かにこの人は古泉……正確に言うと『機関』の助力もあって、都心にある某有名大学に進学したんだった。「一年間、『機関』の言うことを聞いてくれた褒美です」と、去年の春に古泉から聞かされた覚えがある。 全く、『機関』というのはどこまでパイプを巡らせているんだろうかね。 余談だが、この話を聞いた時に俺の大学受験の時も頼むってお願いしたんだが見事に断られた。曰く『彼の在籍している大学はともかく、あなたが受験する大学はそこまでの関係を持っていないので』らしい。本当かどうかはしらないが。 「それで、今日はどうしたんですか? 実家で初詣をしに来たんですか?」 「いいや、送迎しに来ただけだ」 「送迎?」と俺。「ああ。そこに――」 その時ようやく気付いた。会長のバイクのセカンドシートに、誰かが乗っていることを。 会長よりも一回り小さいその人は、居住まいを正し、被っていた大き目のフルフェイスヘルメットを脱ぐ。ふさぁ、と緩やかなウェイブが肩の下まで垂れ――って、まさか 「明けましておめでとうございます」 「き、喜緑さん!?」 ワンピースにレギンス、そしてパンプスと言うおよそ普段着のせいか、ゴツイ装備の会長に目が行っていた俺はその存在をすっかり見落としていたが、優しい微笑みを見せる彼女は、俺が思わず言葉を漏らしたその人に間違いなかった。 「どうしたんですか、一体?」 同じような質問を繰り返す俺に、彼女は暖かい瞳をこちらに向けて微笑んだ。 「こちらでアルバイトをしておりまして」 「アルバイト? どんな?」と聞き返そうとした瞬間、 「(ちょっとちょっと、こっちの人は誰ですか!?)」 ええい、黙れ橘。今はお前に構ってる時間はないっ! 「(…………)」 よし、黙ったな。 「……すみません、続きを」 「あ、はい。そこの社務所で他の神官や巫女のお手伝いをしております」 「助謹巫女ってやつだ」 助謹巫女……つまり年末年始や祭りの際など、忙しい時に手助けする臨時雇いの巫女さんである。 巫女さん姿の喜緑さんか……朝比奈さんの巫女姿も秀麗だったが、それに劣らぬ見事なものだろうな。 「会長も、結構好きですなあ」 「ふっ……何のことだ?」 若干ニヤケながらも否定するところがとても彼らしかった。 「昼から夕方までの約束で働くことになっているんだ。大学生たるもの、勤労に対する理解も必要になってくるからな」とは会長の弁だ。だけど高校生の時から働いていた喜緑さんは既に勤労の大変さを知っているのでは…… ……っと、いけねえいけねえ。高校生時代のバイトはオフレコだったな。 「そう言う訳だ。もうすぐ時間なのでこれでお暇させてもらおう。では」 再びヘルメットを被りなおし、アクセルを吹かし、鼓動音を響かせてこの場を立ち去る――と思いきや。 「そうだ、丁度いい」 何かを思い出したようにシールドを開けて喋りだした。 「ここで会ったのも何かの縁だ。これから私の家に来ないかね。年始のパーティに招待しよう」 「パーティ……ですか?」 「ああ。本当は身内だけで行う予定だったんだが、両親が急な用事が入って出席できなくなってな。急遽出席者を募っていたんだ。せっかくの各国の最高級食材ももったいないしな。無論他に用事があるなら強制はしないが……どうだ?」 うーん、せっかくですが、俺は受験ですし、最後の追い込みもしなければいけませんし。残念ですが今回は 「行きます!」 『!!?』 「是非お呼ばれさせていただきます! あ、あたし橘京子っていいます! 宜しく!」 「あ……ああ……よろしく……」 「――――――九曜―――――…………周防――――九曜……――――夜……露――死苦――――――」 「もうっ! 九曜さんたら高級食材が食べられるからって言って舞い上がりすぎですよ!」 「―――失敬……失敬――――」 「はは……はははははは…………」 さすがの会長も額に汗を垂らして苦虫を潰したような顔をしていた。その表情から『人選、間違えたかな?』という雰囲気がありありと出ている。 ここだけの話、正解です。会長。止めるなら今のうちですよ。というか拒否してくださいお願いします。 俺がそう願う中、残った喜緑さんは顔色一つ変えずニコニコと微笑みを続けている。この人もかなりの大物だ。以前の対決はどこ吹く風で三人の様子をにこやかに見守っていた。 ああ、因みにポンジーくんだが、ずっと固まったままだったことは付け加えておかなければなるまい。 『先ずは喜緑くんをバイト先まで送る。それから合流しよう。この先にある店で待ってくれないか? ついでに案内人も呼んでおこう』 会長はそういい残して再びバイクを走らせ、残った俺達は会長の言いつけどおりの場所まで歩き始めた。 「楽しみです! 最高級料理!」 笑顔がこぼれんばかりの橘とは対照的に、俺の気持ちはブルー一色に染まりかけていた。やっと束縛時間が終わったと思ったのに、また面倒なことに巻き込まれた俺のこの気持ち。分かるか? 「まあまあ、最高級食材があるからいいじゃないですか」 こいつの脳みそは喰い気が何よりも優先されるらしい。 「まあそれはそれとして」コホンと咳をついた後、彼女は両手を頬に添え、顔を赤らめて衝撃的な一言を発した。 「それにあの人、かっこいい!」 『なにぃぃぃぃぃぃっ!?』 橘を除く全員の声があたりにこだました。恐ろしいことに九曜もだぜ。 「マジでそう思ってるのか!?」 「――――かなり……想定GUY……――――予想GUY――害害害――――――」 「ほら、クールでヒールっぽくて。さっきあたしが言ったとおりの方です! 彼こそあたしの白馬に乗った王子様なのです!」 白馬じゃなくて黒い単車だったんだが、そこは問題ないのだろうか? 「コブ付きだったのが残念でしたけど、あたしは諦めないのです! 絶対あたしの虜にしてやるのです!」 いや無理だろ普通に考えて。お前と喜緑さんとじゃ人間としての器が違いすぎる。喜緑さんが人間かどうかと言う突っ込みはさておいて俺はそう思う。 そして困ったことに、勘違いしている人物は一人だけではなかった。 「僕も行く! あんないけ好かない野郎に僕の大切な人を上げるわけにはいかない! 奪い返してやる!」 もちろんもう一人の勘違い大王、いつの間にか復活したポンジー藤原。こいつも橘のことになると目先が見えなくなるからな……。 現に今、「大切な人? 誰ですか?」と突っ込まれ、「うあ! き、禁則事項だ!」としどろもどろで言葉を返しているくらいだからな。 「ふふふーん。ポンジーくんにもそう言う人がいたんだ。ふふふふーん……」 いやらしい笑みを浮かべたまま、 「ではあたしが誰なのか、推理してみましょう。と言うかスバリさっき会長さんの後ろに乗っていた女性ですね!」 「いや、その……」 「いやいや、照れなくてもいいから! 全然知らなかったんですけど二人はそんな仲だったんですね! あたし応援しますから!」 「…………」 というわけで、勘違いに勘違いを重ねた一行は会長の指示した場所へと向かうのだった―― 「ここは……ジュエリーショップですね」 会長が示した店は、俺達高校生にはとても縁がなさそうな宝石店だった。それもかなり高級の。 店に入ったわけでもないのに高級と断定した理由は二つある。一つは作りがいかにも高級そうだったから。そしてもう一つは入り口に常時張り付いている警備員。 いくら縁が無くとも、これだけ豪奢で厳重な建物を見れば高級ショップであることは一目瞭然だ。 しかし、一体なんでこんなところに俺達を呼んだのだろうかね。 「あたしの推理によりますと、あたしを一目見て気に入った会長さんがあたしにプレゼントをするため」 「あれ、古泉じゃないか」 「これはこれは。皆さんおそろいで」 「ふん」 「――――――――――」 「に、きっとこう」 「まさか案内人って言うのはお前か?」 「ええ。彼の気まぐれにも困ったものです。何故このような面子をパーティに……失礼。あなたのことを言ったわけではありませんよ」 「分かってる。気にしちゃいないさ」 「――――当然――――」 「あんたに贔屓目をされる筋合いも無いけどな」 「にゅうしてくだ」 「それにしても意外なのは事実です。偏屈で気に入ったものしか家に呼ばない彼がこうも簡単に招待するとは思っていませんでしたから」 「ああ見えて案外いい人なんだろ」 「――――料理――――食べる……――――」 「ああっ! もうっ! 聞いてくださいっ!!」 おいおい、次は藤原のセリフの番だろうが。割込みはいかんぞ。 「割込みも何も、話し始めたのはあたしです! あたしの話を聞いてくださいよっ!」 そうだっけ、古泉……? 「さあ、存じ上げません」 「――――――」 「ほら、三対一」 「うわぁぁぁん! みんなであたしをいぢめるぅぅぅ!!!」 「ぼ、僕はあんたの味方だぞ。いつだって助」「もういいです! どうぞ好き勝手やったらいいじゃないですか! 一人でも平気ですよーだっ!」 「……うう……どうせ僕なんか……いいんだいいんだ……」 「苦労、してんだな」 「お察しします」 「――――良きに……計らえ――――」 誰にも構ってもらえない橘にすら構ってもらえない藤原。彼の背中に漂う哀愁は並半端なものじゃない。 「……す、すまん。みんな」 藤原、俺、古泉、そして九曜。皆が皆お互いの手をガッシリと取り、友情を高めあう。宇宙人未来人超能力者という相反する勢力ながらも微かな友情が芽生え、俺達は―――― 「って! 何なんですかこの流れは!? いい加減にして下さい!」 ……確かに。ちょっと調子に乗りすぎた。いい加減元の流れに戻すことにしよう。 「で、俺達をここに呼んだ理由は何だったんだ?」 「恐らく、見せびらかせたいのでしょう、アレを?」 「アレ?」と橘「何ですか?」 「橘さんには一生縁の無いものですよ」 なるほどそれもそうだな。この店でお世話になるような宝石が購入できるとは思えんし。 「反論できないのが悔しい……」 「ま、それはともかく。僕は会長から賜った言い付けを遵守することに致しましょう。それでは皆さん、中に入りますよ」 古泉に言われるがまま店の中へと促されると、阿吽の呼吸で門を護っていた二人の警備員はスッと道を開き、特に止められることもなく店内へと入り込んだ。 店のショーケースに広がる宝石と豪奢な佇まいはさながら金殿玉楼。宝の御殿である。いくら宝石・装飾品に疎いとはいえ、これだけのものが整然と並んでいるとさすがに身悶えするばかりである。 橘なぞは舐めまわすようにショーケースに張り付いているもんだから警備員に相当睨まれている。気持ちはわかるが若干はしたないのでちょっと距離を取らせて欲しい。 そんな中、古泉は悠々と近くにいた店員と話しを始め、そしてさらに別の店員――見た目からして貫禄のある、店長レベルの店員――と二言三言交わす。 そして、 「お待たせしました。僕についてきてください」 となった。さて移動だ移動。橘、いつもでもガラスに張り付いてるんじゃない。 連れられた先は、店内とは全く異なる一室だった。 部屋の奥、中央の壁には白黒二色で描かれた幾何学的抽象画が飾られており、右壁には煉瓦造りの暖炉がパチパチと音を立てて燃えている。 そして左壁。建物の外壁に面するこちらには全面に遮光カーテンが敷き詰められている。カーテンの向こうは恐らく窓になっているのだろうが、分厚いソレに阻まれて窺い知ることはできなかった。 燦燦と照りつける程日差しが強くなってきた昼時だというのにそれを全く感じさせないくらいだから、その遮光性能は推して知るべしである。この部屋に灯りがついていなければ闇夜の如き漆黒に覆いつくされるんじゃないだろうか。 その灯りだが、完全シャットアウトされた太陽のピンチヒッターとなって部屋を照らし出しているのは、天井高くに設置されたシャンデリアだ。太陽光に遠く及ばない明るさだが、暖色系の光は厳寒の季節に温かみをもたらしている。 ……ん、よく見るとあのシャンデリア、電気ではなく蝋燭っぽいぞ。炎が瞬いているのがなによりの証拠だ。なかなか気合の入った照明である。 部屋の中央に目をやると、豪奢な外装とは異なりテーブルとそれを囲むソファーが数席並んでいるのみ。至ってシンプルなのだが、返って高級感を煽られるのはソファーとテーブルが価値ある逸品なのか、それとも演出なのか。そこまではわからない。 「欧風カブレした貴族が好みそうなところだな」 心の中でそう野次を飛ばして呆然としていると、それを察したのか店長風の店員に「こちらへどうぞ」と促された。 言われるがままソファーに座り、出されたロイヤルミルクティーと高級そうな洋菓子を配り、深深と頭を下げ退席し――。 弦が切れたハープのように一気にまくし立てた。 「何だ、ここは」 楽しそうに目を細めた古泉はカップを手にとって一言。 「VIPルームです」 「ひっぷるーむ? はんれすかほれ?」 お茶請けに出された高級菓子を喰らいつきながら訪ねるは……説明する必要は無いな。 「そのままの意味ですよ。重要なお客様を接待するために儲けられた特別室です。こう言った高級店には店の品揃えやサービスに関わらず存在するものですよ。 ああ……そう言えば聞いたことがあるな。 「最も、」と手を上げて制止した古泉は「僕はその重要なお客様の一使用人に過ぎませんが」 会長のパシリってわけだな。 「ええ。そのとおりです」 あっけらかんと言い放った。まあこいつに口で勝とうとは思ってないが……。 「で、あの会長さんはそんな高い宝石を買ったと言うわけか?」 「いえ、購入したわけではありません。ですが、それに近しい依頼をこの店にしたことは事実です」 で、何なんだその依頼とは。 「そうですね……」 カップを皿の上に置き、すくっと立ち上がった古泉は俺達が入ってきたドアの前まで来て、 「直接お聞きになってみたら如何ですか?」 ノブを開いてドアを開けた。すると―― 「くくくっ、そうだな。俺から話すことにするさ」 ダテ眼鏡を外し、ペン回しの如く回しながら長身の男性は喉を震わせていた。もちろんこの店に来るよう指示した会長である。 「お迎えの方はお済みですか。しかしあなたのことだから心配でずっと神社に張り付いていると思いましたが」 「バイトの邪魔になっては元も子もなかろう。終わる頃にはまた戻るさ。それよりもパーティのセッティングが先決だ」 「彼女が気にならないのですか?」 「アレはそんなにヤワな女じゃない」 「それもそうですね」 二人して同時に喉を鳴らした。 ったく、何が面白いんだか。お楽しみのところ悪いが、話の骨を折らないでくれ。 「失敬。俺が依頼した宝石についてだったな。実はな、」 ズカズカとまるで自分に家のように歩いてきた会長は、誰も座っていないソファーの肘掛に腰掛け、胸元のポケットから何やらゴソゴソと取り出した。 「これを磨いてもらってたんだ」 指で弾いたソレは放物線を描きながらテーブルの上、丁度橘の目の間に落ちた。 「これは……宝石ですよね。うわ、凄く大きい……」 爽やかな草原の如く美しい翠色を呈したその宝石は、シャンデリアの光にも負けず劣らず燦々と輝いていた。大きさもかなりのもので、綺麗に光らせるためのブリリアントカットも施されている。相当高価なものに違いない。誰の目から見てもそれは明白だった。 ただ……何かひっかかる。 「こ、これ……もらっちゃってもいいですか!?」 「ああ、構わない。俺からのささやかなプレゼントさ、お嬢さん」 ニヒルな会長の笑みがくくくと釣りあがった。 「ありがとうございますっ! やったぁ! これであたしも大金持ちです!」 「くくくっ、喜んで貰えて幸いだよ」 舞い上がる橘の姿をみて、会長はその笑みをさらに歪めた。 ……なるほどね。何となく分かった。 「橘」 「ん、何でしょうか? この宝石ならあげませんよ」 「いらんわ」と俺。何故なら会長の企みが分かったからだ。その企みとは恐らく……こういうことだ。 「その宝石はイミテーション。偽者だ」 「へ……ええっ!?」 「どう考えてもおかしいだろ。ポケットの中から出した宝石を放り投げて、しかも他人にいとも簡単に上げるようなものが本物のわけがない」 「そ、そんなあ……しゅん」 本気で落ち込んだ。てか気付けよそれくらい。 「さすがです。よく気がつきましたね。いや、橘さんがちょっとアレなだけかもしれませんが……」 「攻めるな古泉。確かに扱いはぞんざいだが、イミテーションにしてはよく出来てるんだ。素人目なら見間違える事もあろう」 諭した後、橘が抱えていた宝石――偽者の宝石を指差して、 「お前の言うとおり、それは偽者。本物が磨きあがるまで家に飾っていた代用品さ。よく出来てるだろ? 因みに本物はこっちだ」 パチンと指を鳴すと、控えていた店員さんは重厚なジュラルミンケースから中身を取り出した。中にあるのは、更に小柄なケース。 会長はその小柄なケースを手にとり、開錠した後カパッと蓋を開け―― 中から出てきたのは、イミテーションそっくりの宝石。形も大きさも、そして輝きも全く同一。 ただ一つ、決定的な違いを除いて。 「これ……色が違いますよ」 彼女が手にした偽者と会長が手にした本物を見比べて、その決定的な違いを口にした。確かに、イミテーションが青みがかかったグリーンなのに対し、本物の宝石は真っ赤に燃えるような紅色。 さながら、エメラルドとルビーといったところか。いや、構造が同じならばサファイアとルビーを言った方がいいかもしれない。 ともかく、いくら形や大きさが同じでもこれではイミテーションの意味を成さない。贋作を作ろうとしたのなら明らかに失敗である。 「ふっ、今度は引っかかったな」 さも嬉しそうに、狡猾な笑い声を上げた。「引っかかった?」何を言ってるのかさっぱりわからない。 「確かに、今のままでは分からないだろう。ならこれならどうだ?」 そう言うと会長はドアの反対側、カーテンが並ぶ壁へと近づき、そしておもむろにカーテンを引っ張った。 カーテンの奥にあったのは、俺の予想していたとおりの窓。そこから毀れる、晴れ渡った昼の太陽が部屋の中を、俺達を、そして宝石を照り付け―― 「……あっ!?」 ソレが驚くような変身を遂げたのは、この時だった。 会長が持っていた紅い宝石は、太陽の光を浴びた瞬間その輝きを変化させたのだ。 俺が今手にしたイミテーションの宝石と同じ、青みがかかった緑色に。 「驚いたか? これはアレキサンドライトという宝石だ」 胴体切断マジックに引っかった観客の如く呆然としている俺達に対し、会長は見事に騙しきったマジシャンの如く悠々と語りだした。 「蝋燭や電球など赤みの多い光に対しては燃えるような紅玉色を呈し、太陽光や蛍光灯など、青みが強い光に対しては優しい翠玉色を呈す。これがアレキサンドライトの面白いところであり、高価である所以だ」 再び片手を動かし、カーテンが閉まる。すると翠色の輝きはなりを潜め、再び真っ赤に燃える宝石が浮かび上がった。 「すごい……不思議な宝石ですぅ……」 お菓子を頬張っていた橘ですら手を止め、その不思議な現象に釘つけになっていた。 「ましてやコレだけ大胆にカラーチェンジするものは滅多に見られない。時の皇帝ですら手にできなかっただろう」 えらく自信満々な発言が鼻につくがそれに見合った逸品であるのも間違いない。 「それで、その宝石を俺達に披露して、一体何がしたかったんだ?」 「簡単なことだ。ちょっとした立会いをしてもらいんだ」 「立会い?」と俺。「何のために?」 「この宝石は代々我が家に伝わってきたもので、一族の仲間になる人間に継承されてきた。つまり婚約の儀式に使用されてきたものだ」 ほうほう。それで? 「それで……って、ここまで言えば分かるだろう」 「いいえ、彼は筋金入りのニブチンですから。最初から最後まで説明しないと分かりません」 橘、それはどういう意味だ? 「ほら」 「……なるほど…………」何故か納得した様子で、「実は、だ。俺ももうすぐ二十歳。家の家督を継ぐ妙齢になってきたわけだ。そうなると、人生の中で切っても切れぬ人間関係というのも出てくるものだ」 はあ……それで? 「そ、それで……だな。そんな人間を……まあ、何と言うか……自分のパートナーとして…………うん、そう言うわけだ」 珍しく照れたように吃りながら何とか言葉を紡いでいる。「つまり、どういうことですか?」 「どういうこともこういくこともありませんっ! どこまで鈍いんですかキョンくんは!」 バンッ! と両手を着いて橘が立ち上がった。どうでもいいがお前に鈍いとか言われたくない。 「なら会長さんが何をおっしゃりたいのか分かるんですか!?」 「む……」と、思わず黙り込む。 「こら御覧なさい。答えられないじゃないですか!」 ならお前は分かったというのか? そう言うと橘はえっへんと胸をそらし、「当たり前です!」と大きく出た。 「いいですか、よく考えてください。あの宝石は婚約の儀式に使うもので、そのためにここで磨いてもらったんじゃないですか。そして『切っても切れぬ人間関係』とか『人生のパートナー』とか思わせぶりな発言。そこから推理するのは簡単ですっ!」 コホンと咳を一つついたあと、 「つまりっ!」 橘はビシッと指を差し、自信満々に叫んだ。 「あたしに対するプロポーズですっ!」 ――瞬間、暖炉の焚き木すら凍りつくような寒さが此処にいる全員を襲った。 「ああっ! お気持ちは嬉しいのですが……出会ってからまだ二時間も経ってないのに……。溢れんばかりのあたしの魅力……これって罪ですね。どうしたらいいのでしょうかキョンくん!」 「アホかおのれはぁぁぁぁ!!!」 バコンッ! 「きゃん!」 先ほど買ったおみくじ型特大ハリセン(天誅大凶バージョン)で橘のドタマを叩きつけた。 「いったーい! 何するんですかぁ!」 新年早々意味不明なギャグをかますんじゃねえ! 「んん……もう。やだなあ、キョンくんたら。妬いてるんですね」 違うわ空気読めぇぇぇぇ! 他の皆をよく見ろぉぉぉ! 「あれ……みんな机に突っ伏したり紅茶を吹き散らしたり。どうしたんでしょう?」 あまりにもKYな発言で橘以外の思考回路が停止したとは露にも思わないのだろうか。 そんな中、ソファーの脇で蹲っていた会長が何とか起き上がり、ギリギリ平静を装って 「…………な、なかなか楽しいお嬢さんだ。フランクと言うよりはケセラセラと言ったところだな……」 とは言え、額から滲み出る汗は相当なものだ。恐らくこう言った人間と接するのは始めてらしい。 ふっ、いくら生徒会長とは言えまだまだ人生経験が浅いな。俺なんか長年付き合ってるせいかよほどのことじゃなきゃ動揺しないぜ。 ……と、自慢にもならない自慢を思い浮かべて自己嫌悪に陥ったのは言うまでも無い。 「ま、まさかとは思うが、」多量の額の汗をハンカチで拭いながら、会長は小指を突き出し、 「お前のコレか?」 「絶対にち」「いやだぁ! 会長さんったら!!」バンッ!!「ふぐべしっ!」 「もうっ! 妬かないで下さいって言ってるでしょ! キョンくんとはまだ何にも無いんですから♪ 彼ってばホント奥手で困りますぅ! でも会長さんのアプローチに妬いちゃって可愛い……いやだ、何言ってるのかしら! きゃはっ!」 橘の強烈なビンタ……いや、あれは張り手だな……をまともに喰らい、会長さんは今度こそ沈黙した。 「今年は初日からいいことばっかりですね! あたし嬉しいです!」 こっちは初日からトラブル続きで泣きたいです。おまけに勘違いした藤原がおぞましい殺気を込めて睨みつけるし…… カンベンしてください、いやホントに。 「お、お嬢さんの気持ちは嬉しいが……もう既に心に決めた人がいてね」 それでもめげずにヨロヨロと立ち上がり、今度は橘を直視しないよう若干視線をずらしながら再びソファーについた。何故直視したくないのかと言われれば……その辺は察して欲しい。 「喜緑くん……さっき神社まであった際、後ろに乗っていた女性がいただろう。その彼女にプロポーズしようと思うんだ」 ああ、なるほど、そう言うことでしたか。今更ながら全てを理解した。 「お二人の仲睦まじい関係は、生徒会では暗黙の了解でしたからね。いや、それだけじゃない。あなたを慕って同じ大学、同じ学部に入学した喜緑さんも実にいじらしいじゃないですか。そして遂に彼は彼女の想いに答えることにしたんですよ」 古泉の茶々に、「うるさい、黙れ」と照れながら怒鳴る会長がとても微笑ましい。 「まあ……大筋で古泉の言ったとおりだ。今日俺は彼女にプロポーズする。宝石を磨いたのも、今日のパーティも、全てはそのためだ。そして、」 改まって身だしなみを整え、 「キミたちにはその立会人になってもらいたい。先にも言ったが両親は火急の用で席を外してしまうから、誰か他に信用できる人間が必要だったんだ。どうか頼む」 と頭を下げた。 会長さんもなかなか人道的な御仁である。ただのアウトロー気取りじゃないって事か。ただ、何でそんなに接点のない俺達を立会人なんかに選んだのだろうか? 他にもっと適切な人がいるだろう。例えば、 「言っておくが、『機関』の人間ならお断りだ。アイツらに任せるとロクな事が起きん」 ――ピクッ、と古泉の微笑が蠢いた。 「どういう意味ですか?」 「そのままの意味だ。アイツらほど下らん人間もザラにいるもんじゃない。この宝石だってお前じゃない他のヤツに取りに来させたら、そのまま盗んで自分の懐に置き去りにする可能性もあるからな」 「……その信用ならない『機関』配下の僕に取りに行くよう命じたのは、どこのどなたでしたか?」 「ふっ、安心しろ。お前はまだ信頼している方だ」 「他の『機関』の仲間は信用できないと?」 「そう受け取って貰って構わん」 二人の会話に、辺りの空気が一気に淀んだ。 ちょっと待て。何だこの言い争いは? 会長と古泉は反発している? 以前はそんな雰囲気はなかったじゃないか。どうしたんだ一体何があったんだ? 「ふっ、何か知りたいようだな」 余りにも訝しげな顔をしていたのか、会長は含み笑い一つして問い掛けた。 「見てのとおり、俺や俺の家族は『機関』の連中に良いようにこき使われてきてな。最初は報酬に釣られてこいつらの木偶人形と化してやったが、最近じゃうっとしくてしょうがねえ。俺の役目も終わったのに何時までも束縛するんじゃねーっつーの」 「その件は以前にもお話したとおりです。涼宮さんと偶然接触する機会が潰えたわけではありません。四六時中偽りの仮面を被っていろとは言いませんが、緊急時も対処できるようご留意願いたいのです」 「ご留意ね……もう涼宮との接触を断って一年が過ぎるが、その間あいつからコンタクトを取りに来たことがあったか? 答えてみろ」 しかし、古泉は貝のように口を閉ざしたままだった。 「答えられないだろ。どうしてだか分かるか?」 会長の野次に、古泉は更に沈黙を続け――代わりに会長の口が饒舌になっていく。 「『涼宮が望めば、それは全て実現する』。お前達はそう主張してたよな。だが逆に言えば、『アイツが望まないことは、全て実現しない』ってことになる。古泉、俺の言うことは間違っているか?」 「……いえ、仰るとおりです」 「だろうが」ネチリといやらしく笑った会長は勝ち誇ったように「ならば、俺との再来を望んでいるとは思えないアイツが、今後俺と接触をする理由を述べてみろ。俺がまだ操り人形でいなければならない理由を答えてみろ。『機関』の立場としてな」 「……確かに、涼宮さんとは接触されてないようですが、今こうして彼と接触を……」 「話を摩り替えるな。俺が聞きたいのは今後俺が涼宮と接触するかどうか、だ。無関係なヤツを巻き込むんじゃねえ。それに言っておくが、こいつと接触を取ったのは俺の自発的行動だ。無視することも出来たんだぜ。まさかこれも」 蔑むような表情で、 「涼宮が望んだからなんて戯けたことを抜かすんじゃないだろうな?」 「…………」 「ったく、『機関』とは本当に付き合いきれん」 再び懐から取り出した煙草に火をつけ、いきり立った自分の心を落ち着かすように一服し始めた。 俺達はといえばあまりの展開に何も出来ず、ただひたすら時が流れるのを待つのみ。 沈黙が――正確には、会長が煙草の煙を吐く時の吐息のみが静まり返った部屋に響き渡り―― ――どれくらい経っただろうか。 実際は煙草の長さが半分程度になる程度の時間だったのだが、それ以上に長く感じたのはこの沈黙のせいだろう。 しかし、その沈黙も遂に終止符が打たれるときが来た。 「……古泉。いい加減『機関』を止めろ。お前はまだ見所がある」 先ほどの鋭い口調はなりを潜め、何時に無く優しい口調で諭すように言った。 古泉もいつの間にかいつも通りのスマイルを取り戻し、 「いいえ、そう言うわけにはいきません。『機関』に必要な人間と自負しております。そして、それはあなたも同じだと考えております」 「……けっ」 「我々はあなたを必要としています。できるだけあなたの望みを叶えています。ですから――」 悲痛な表情を浮かべながら深深と頭を下げる古泉に、会長は何も答えなかった。 「申し訳ありませんでした」 店を出た俺達に『先に戻る。家の場所は古泉に聞け』と言って一人バイクに跨って走り去った後のこと。古泉はそう言って深深と頭を下げた。 先ほど会長にしたそれと同じように、悲痛な表情を浮かべながら。 「気にしちゃいないさ」 それが俺に言える精一杯のフォローだった。 「……聞かないんですか? 彼と『機関』の間に何があったのか」 それはお前に任せる。言いたければ言え。言いたくなければ黙ってればいい。 「そうですか、わかりました」いつも通りのハンサムボーイはどうとも取れる俺の返答に対して、「歩きながら説明しましょう」となった。 「彼は僕達『機関』の学内……いえ、今は学外協力者とでも言うべきでょうが、ともかく協力者であることは以前申し上げたと思います。彼は涼宮さんのイメージどおりの生徒会長として、我々が在籍する北高の生徒会トップに君臨しておりました」 ああ、確かにそうだったな。ハルヒが変なことを思いつく前にこちらから情報を提供してご機嫌伺いを取る、言わばかませ犬のような存在だ。 「彼はこちらの予想以上によく働いてくれました。それは彼が命令に忠実だけと言うわけではなく、ある程度の野心、或いは報酬といった見返りを期待してのことです。もちろん我々としては取り立てて問題にはしていませんでした」 していませんでした、って言うことは問題になったって訳だな。 「……遺憾ながらその通りです」古泉は声のトーンを鎮め、 「実はこちらのミスで、彼が大切にしていたあるモノを壊してしまったんです」 なんだ、それは。 「それはちょっと……すみませんがお察しください」 そうかい。まあ別段聞く気もないが。 「つまりそれが原因で会長と『機関』の信頼関係にヒビが入ったってわけだな」 「はい」 「何を壊したか知らんが、直すことや買い換えることは出来んのか?」 「それができればここまでこじれたりはしません」 確かに。 「彼は怒り心頭に発し、一時は『機関』との関係を拒絶されそうになりました。彼の協力無くして『機関』の活動に多大なる影響が出ると感じた上の人たちは彼を必死に説得し、出来る限りの要望を受け入れ――首の皮一枚繋がった状態で今日に至っているのです」 ふむふむ……ん? 「ちょっと待て。会長は『機関』の協力者だってことは聞いたが、何故そこまで彼との関係を重要視してるんだ? あの人自身も言ってたが、ハルヒとの接触が無い今となっては寧ろお払い箱状態じゃないか」 「その理由は簡単です。実は……」と言って後ろの橘達の様子を見て、「失礼、耳をお貸しください」 更に俺に近づき、後ろの三人聞こえないよう、細心の周囲を払って出た彼の言葉は―― 「―――――――」 「…………なるほど」 大きく一つ頷いた。 「それは確かに重要な問題だ」 「つきました。こちらが会長の自宅になります」 あれから約一時間後。河川敷の公園に程近い会長宅に到着した時には午後二時をゆうに回っていた。 こんなに時間がかかったのは単に会長の自宅が遠いだけではなく、普段履き慣れてない草履や下駄で歩いたため足に負担がかかってしまったことも理由に上げられる。 橘なぞはついさっきまで『もう歩けない、おんぶして』と駄々を捏ねていたのだが、結局誰も手を貸さず(無論藤原は手伝おうとしたのだが自分も靴擦れが痛くてそれどころじゃなかったらしい)、終いにはハダシで歩き出したりしてた。 おまけに『キョンくんが悪いんですからね! 責任とって下さい!』だとか『困っている女の子を助けないなんて、古泉さんって絶対ガチホモよね』だとか散々罵詈雑言を浴びせるもんだから場の空気はとても悪くなってたりする。 しかし、 『…………』 見事なまでの三点リーダが揃いも揃ってアンサンブルを奏でた。橘も、藤原も、そして普段ダッシュ記号の九曜でさえ、である。 「こ、ここ……」 「あの会長の……」 「――――自宅…………?」 皆が驚くのも無理はない。 俺達の二倍はありそうな柵とそれ以上に高い門。そこから数十メートル先に聳える白亜の如き邸宅。 「そうです。ここが彼の自宅です」 『……………………』 古泉の言葉に一同がさらに沈黙した。 よくよく見ればここ一帯はは高級住宅街で、どの家もそれなりの大きさでそれなりに立派な佇まいをしている。前に行った事のある阪中の家もそれほど離れていない。 その中でも一際大きい、まるで城のような邸宅が彼の家だったのだ。 「すごい……お金持ちだったんですね……」 呆気に取られた橘がポツリと呟いた。そりゃそうだ。でなきゃあんな高級ジュエリーショップで宝石研磨の依頼なんてするわけがない。 斯く言う俺も、古泉から話を聞いて驚いたんだけどな。 「『機関』が縁を切りたくない第一の理由――それは財力。スポンサーのひとつなんですよ、彼の家は」 俺だけに分かるよう話し掛けたのはそんな内容だった。 これ以上なくわかりやすい理由であった。恐らく鶴屋家と同じような立場なのだ、会長は。 「ただ、『機関』の活動に干渉するきらいがありますけどね。そこが鶴屋家と大きな違いです」と古泉は付け加えたが、それは些末な問題にしか過ぎない。少なくとも俺にとってはな。 ただ一人平然としている古泉は門の横にあるインターホンに手を伸ばし、二言三言言葉を交わした。すると門は自動で開き、俺達を奥へと促した。 玄関まで移動する中でもサプライズは点在している。管理された芝生や木々、奥の方に見えるプライベートプールやテニスコートなど、さながら公園のようである。 鶴屋家とはまた違った意味で金持ちを実感させる場所である。 やれやれ。金があるとことにはあるもんだ。『機関』じゃなくてもスポンサーとして協力していただきたいものだ。 「ようこそいらっしゃいました」 ようやっと建物の中に入った俺達を最初に迎え入れてくれたのは、朗らかな笑みが眩しい老紳士。もちろん俺の知っている人物であった。 「新川さん。お久しぶりでございます」 「これはこれは、お久しぶりでございます」 まさか新川さんの本業はここの執事ってことは…… 「まさか。そんなわけありません」と古泉。「今日のパーティのために借り出された臨時雇い人です」 古泉が言うには、今日のパーティを盛り上げるため、そして会長のプロポーズを成功させるために『機関』からスペシャリスト達が派遣されてきたらしい。 「新川さんは執事兼給仕係兼調理師としてこの場に派遣されました」 「どうぞよろしくお願いします」 あ、ああ。こちらこそ。 「ではあなたが最高級料理を作ってくださるんですね!」 そしてしゃしゃり出るはやっぱりこの女。和服姿で謙虚さが少しでも染み着いてくれればと思ったのだがそう言うわけにはいかないらしい。 「おやおや、可愛らしいお嬢様だこと」 「はい! よく言われます!」 嘘つけ。 「こちらは初めてですね。……ふむ、どこかでみたことのある顔ですが……」 「さあ、あたしはとんと記憶にありませんが」 「そうでしたか、他人の空似でしょう。申し送れました、わたくし執事の新川と申します。どうぞよろしくお願い致します」 「あ、あたしは橘京子って言います。よろしくお願いしますっ!」 「――――!?」 瞬間、新川さんの動きが止まった。 「あれ? どうしたんですか?」 「ま、まさか……あの…………あの、橘京子か……!?」 引きつったままの新川さんは、言葉を漏らすように橘の名前を口にした。バドラーオブバドラー、執事の代名詞とも言うべき新川さんが、客を呼び捨てにするなど普通に考えたらありえない。 ――そう、普通なら。 「あの、ってのが若干引っかかりますが、多分その橘京子です」 「!!!?」 新川さんの顔が完全に強張った。 無理も無い。新川さんからしてみれば彼女は『機関』の敵である。しかも橘はその幹部を務めているのだから、その名は『機関』の中でも有名なのだろう。 そんな相手が自分達の陣地に単身――乗り込んできたのだ。驚くのも無理は無い。 しかし……である。 いくら敵対するもの同士とは言え、いくらアポなしで乗り込んできたとは言え、冷静沈着を擬人化したような新川さんがあそこまで驚愕の念を出すとは思えない。 ならば一体……? 等と考えていたその時、想いも依らぬ行動に出た。何と新川さんはいきなり橘の肩を掴み、軽々と持ち上げたのだ。 「――ひいっ!?」 実力行使で排除する気か!? 「た、助け……!」 くっ……何だというんだ!? 「新川さん! 落ち着いてください! 一体どうしたんですか!? 敵対しているとは言え、強引に追い返すのは新川さんらしくありません!」 思わず古泉も声を荒げ―― 「どうしたの新川。玄関が騒がしいわ」 ホールの先、螺旋階段の踊り場。凛とした女性の声が響いたのはちょうどその時だった。 『――――!!?』 ここにいる全員、静かな絶叫を上げた。 そこに立つのは――メイド姿の森 園生……さん。 「……ん? そこにいるのは……橘京子!!」 三日間何も食べてないライオンがシマウマの群れを見つけたような視線でツインテールを睨めつけた。 「ひえっ! た、助けてぇ~!」 慌てて踵を返し、やたらと怖いオーラを発するメイドさんから遠ざかる。怖いものみたさってやつだ。 しかし森さんは神速の如きスピードで階段を駆け下り、あっという間に橘京子の背面に回りこんだ。 「!! いつの間にぃ!」 「ふっふっふっふっ……ここであったが百年目。いや実際は半年振りくらいだけどそんなことはどうでもいいわ。あなたには散々お世話になったわね」 渾身の笑みを込めて橘に微笑んだ。俺はと言えばあの時のトラウマが全身に駆け巡り、反射的に顔をそらした。見れば新川さんも古泉を同じ行動をしている。やっぱみんな怖いんだな。 九曜は相変わらずのポーカーフェイスでなんのその。さすがは長門以上の無表情エイリアン。唯一森さんの笑みを知らないポンジーは直撃を受け敢え無く失神。ご愁傷様でした。 そして、失神することすら許されない橘は蛇に睨まれた蛙宜しく、 「いやあのお世話になったのはむしろあたしの方で」 「ふふふふ、そんなことはどうでもいいの。あなたに会えただけでこの上なく嬉しいのよ」 「あのあのあの、嬉しいなら何で目がそんなに据わってるんですか……?」 「気のせいよ」 嘘だ。絶対嘘だ。 「そうそう、今とっても忙しいの。例のパーティの準備でね。そこでちょっとお願いがあるんだけど、手伝ってくれないかしら?」 「あの……あたしはむしろお呼ばれされた方で……」 「そんなつれないこと言わないで、お願い。んふっ」 ウィンク一つ繰り出した。 「ひゃ、ひゃい!」 「そう、良かったわ。それじゃこっちよ」 ガシッ、と、まるで手錠をはめるかのようにガッチリと腕を掴んだ。 「あの……因みにどんな仕事を……? 前みたいに全身しもやけになるようなことはちょっと……」 「ふっふっふっ……大丈夫よ」 森さんの笑みが、やたらと猟奇的に映った。 「寒かったら唐辛子のペースト塗ってあげるから。全身に」 いっ………… 「いやぁぁぁぁぁぁ――――――――ぁぁぁぁぁぁ――――――ぁぁぁぁ――――ぁぁ――――…………――――――」 「……遅かったか」 くっ、と顔を顰めながら、新川さんは自分の不甲斐なさに自責の念を感じていた。 「森が彼女を……橘京子を敵対視していたのは前々から存じていたのですが……まさか本日いらっしゃるとは思っていませんでしたので。何とかして森に見つかる前にご退場願おうと思ったのですが……」 『………………』 一同、沈黙。 「あの分ですと、かなりこってりと絞られそうですな、橘嬢は」 ええと、新川さん、どんなことされるんでしょうか……? 「……聞きたい、ですかな?」 え? 「森のスパルタ教育、いいえ、慈善活動の内容を、それほどまでに聞きたいですかな?」 …………。 止めときます。 とまあ一人ほど森さんの毒牙にはまってしまったが、俺を含めて他の人間には何一つ危害が無かったのでここは一つ運が悪かったと言うことにして橘を見捨てる……もとい、慈善活動に頑張ってもらうことにして、俺達は宅内を案内されることになった。 若干藤原が不機嫌そうな顔をしていたが、あの森さんに反旗を翻すほどの抵抗力はなかったらしく、ブーブー文句を垂れながらも俺達の後をついてくるに留まった。 まあ拷問を受けるわけではないし(多分)、これ以上橘の暴走を蔓延らせるわけにもいかないので、この件は森さんに一任しようと思う。 決して橘の相手をするのに飽きたとか、そんなわけでは……あるが、その辺はオフレコで頼む。 新川さんに連れられて案内されたのは、本日のイベント会場になるホールだった。 大きさはバスケットコートくらいの大きさだが、天井も高く中央に設置されたステージも意外にしっかりしたもので、小さいながらもアリーナ型ホールといって差し支えの無いものだ。 そのステージの中央には白い布が被せられた何かが鎮座し、そしてその横には会長の姿があった。 白い布の周りをうろうろしながらうんうん唸っていた彼は、俺達の姿に気がついたようで「よう、来たか」と陽気に声をかけた……のだが。 次の瞬間、会長の顔色が一気に変化した。 「新川。何をしている。料理の下ごしらえは終わったのか?」 ここまで案内してくれた新川さんに対しては礼をするでもなくつっけんどんにあしらった。 「お客様がお見えでしたので、案内をしておりまして……」 「それは俺の仕事だ。いいから早く戻れ」 「……畏まりました。では、わたしはこれで」 逃げるように新川さんはその場を立ち去った。 再び悪くなった空気で俺は古泉の言葉を思い出した。機関の人間をかなり嫌っているというのはどうやら本当のようだ。 「失礼した。新川の無礼、お許しいただきたい」と、自ら謝りながら場の空気を入れ替えるように話題を切り替えた「どうだ、我が家は。自慢ではないがこの周辺でこれ以上の家はそう多くはあるまい」 会長に、俺も話を併せることにした。 「たしかに、素晴らしいと思います」 これ以上の邸宅として真っ先に思い浮かんだのは鶴屋さんの家だったが、由緒正しい日本家屋の鶴屋家とはまた違う赴きなのでどちらがどうと一概に言えるものではない。 「ふ、そうだろそうだろ」 お世辞に気をよくしたようだ。結構単純なのかもしれない。 「それで、何をしてたんですか? その白い布の前で何かしてたようですが。というかそれは何ですか?」 「これはだな」と言いながら、隠していたと思われるその布をいとも容易く引っ張る。 青銅の台座の上に居座るのは、黄金に輝く女神像。大きさはほぼ等身大で、台座に乗っている分俺達よりも頭一つ、いや五つ分ほど高い位置にあった。 両手を前に出し、何かを冀うかのようにしてひざまつくその姿は、女神を模していると言う事もあってか神秘的に感じる。 一体どの女神がモデルなのかね。アテナとか、ヴィーナスとかか? 「ヘラだ」 ヘラ……ヘラ……とんと記憶が無い。 「――――オリュンポス――――十二神…………――――筆頭――――ゼウス……――――の――――…………妻――――――」 「その通り。彼女は結婚の女神。その彼女の前でプロポーズを行い、永遠の愛を誓うのだ」 グッと握りこぶしを作り力説した。会長も意外とロマンチストである。 「まさかそれだけのためにこの女神像を用意したと?」 「いや、彼女にやってもらう事は他にもある。おい!」 会長が声をかけると、ゴゴゴッと音を立てながら金の女神像が沈み込んだ。よく見ると、その周りの床も一緒に下降している。どうやらここはエレベーターになっているようだ。 そのエレベーターと共に下降しつつあるヘラの像は台座分の高さ……およそ一メートルほど下がった時点で停止し、頭の高さを俺達を同じ位置にした。 「この手の部分はな」会長は女神の両手を指差し、「ちょっとした窪みが掘ってあるんだ。何のためかというと、これをはめ込むための窪みだ」 と言って、手にしていたリング――指輪のようなリングだが、頂上に爪のようなものがついていて格好悪い――を、その窪みに当てはめた。リングはその窪みにしっかりと入り込み、ちょっとやそっとのことじゃ動かないくらいピッタリ埋もれている。 「これに合わせて作ったんだから当然だな」 で、その指輪みたいなリングは何の余興ですか? 「こうするのさ」 今度は懐から出したケースを開けた。天窓の光を受けて青緑色に光るのは……先ほどの店で貰い受けた宝石。 丁寧にソレを取り出し、傷をつけないようリングの中央に持っていき、爪に引っ掛けて微調整。少し離れて見てはまた調整しなおしを繰り返し、「よし」納得したのか満足げに頷いた。「これで即席婚約指輪の完成だ」 なるほど。確かに指輪だったようである。宝石が大きくてアンバランスな感はあるものの、婚約指輪と言われればそう見えなくも無い。 だが、一つ気になる点もある。 「爪に引っ掛けてるだけじゃすぐ外れてしまいそうですが、本当に婚約指輪として使えるんですか?」 「即席と言っただろう。本物の婚約指輪じゃない。これは我が家に伝わる儀式なのだ」 儀式? 「結婚の女神から受拝領した指輪……それも家宝の宝石をあてがった指輪を、求婚する女性に託す。これが我が家伝統のプロポーズの方法だ」 なかなか手の込んだプロポーズである。 「喜緑さんには何も伝えてないのですか?」 「当然だ。サプライズイベントだからこそ価値があるのだ。皆に賞賛されながら俺のプロポーズを受け入れ、はにかむ喜緑くん……どうだ、最高だとは思わんかね?」 もし喜緑さんが会長のプロポーズを受け入れなかった時の空気の不味さの方が最高に面白そうだが、さすがにこの場で言うわけにはいかないので声を押し殺す。 「本日のメインイベントはその儀式だからな。楽しみにしてくれたまえ」 ええ。楽しみにしています。色々と。 「説明は以上だが、他に見たい場所や聞きたいところはあるかね?」 「すまない、少し知りたいものがある」 申し訳なさそうに手を上げたのは、以外にも藤原だった。 「先ほど床が下がっていったが、あれはどういう仕組みで動いているんだ? どういったときに使われるんだ?」 どうやらエレベーターの仕掛けに甚く興味深々のようである。 それに対し「ああ、奈落のことか。なんてことはない普通のエレベーターさ」と至って尋常の答えを返す。 「いや、そうではなく……どうやって床が動くのかとか、せり上がるのか……僕にはよくわからない」 もしかしてエレベーターがどういうものか分かってないのか? 「そうだな……なら見てみるか?」 ということで、俺達全員エレベーターに乗って降りることになった。 男三人と女一人、そして金の像が乗ったエレベーターは会長の一言でゆっくりと下っていった。地下は闇に閉ざされ――というほど暗いわけではないが、それでも吹き抜けから太陽の光が入ってくる上の階に比べれば暗いと言わざるを得ない。 「うお……これは……なんというか……結構揺れるな…………」 藤原はやっぱり乗ったことがないのか、珍奇な声を上げて物珍しそうに声を上げている。未来にはエレベーターが無いなんてことはまずあり得ないのだが、単にこいつが知らなかっただけだろうかね。 やがてエレベーターは地下の床へと降り立つ。コンクリートむき出しの壁と申し訳程度の照明が、この部屋の雰囲気を寒々としたものにさせていた。 エレベーターの周りには大なり小なりの機材や工具が点在しており、壁際にはエレベーターの制御盤と思われるボックスがある。少し間を取ってあるのは、これまた大小様々なダンボール。何が入っているのかまでは暗くて見えないが。 所謂、舞台裏って感じの光景である。 そして、裏方として働く人物が二人。一人は制御盤の前で何やら動かし、もう一人はダンボール箱の整理をしている。暗くて少々分かりにくいが、輪郭やこれまでの登場人物から推測することは可能であった。 俺はその内の一人、エレベーターから近かった壮年の男性に声をかける。 「圭一さん……ですよね?」 「おや、キミは……久しぶりだね」 声を聞いてはっきりした。別荘のオーナー兼パトカーのドライバーという異色の肩書きを持った『機関』の諜報員、多丸圭一さんに間違いない。 「どうしたんだい、こんなところに現れるなんて」 ああ、それはですね…… 「余計な話をするなっ!」 再び会長の檄が飛んだ。 「彼らは俺の客人だ。お前ごときが口を聞くなど、どういうつもりだ」 「……申し訳、ありません」 「わかったら口を開くな。俺の言うことだけ粛々とこなせ。いいな」 「了解、致しました」 会長の『機関』の人間嫌いはとことん徹底しているようだ。新川さんの時もそうだったが、少し会話をするだけでこんなに怒るなんて…… 「お前も、分かっているな」 「……はい」 逆の方向を見れば、大小様々ば箱を整然させていたもう一人の人物――もちろん多丸裕さんだ――が、彼に侍りながら答えた。 「それより屋根の修理は終わったのか?」 「いえ、まだですが……」 「何をやってるんだこのトンマどもが! 今日中に直せと言ってたはずだ!」 「ですが、こちらの……エレベーターの調整も必要かと」 「言い訳はいい。さっさと直せ! 日が暮れるまでにな!」 「……わかりました」 またしても場の空気を悪くしながら、その原因ともなった多丸さん達兄弟はすごすごと奥にあったドア――階段が見えるから多分上の階に繋がっている階段だな――から出て行った。 ふう、と溜息をついた会長はまたしても俺達に詫びを入れ、 「ここはこんなもんだ。あまり人様にみせるような場所ではないんだがな」 トストスとエレベーターから降り、先ほど圭一氏が調整していた制御盤の前で 「これで上げ下げができる。パーティのクライマックスで操作する予定だ」 そこで指輪を取って喜緑さんに渡すってわけか。 「その通りだ」 ふうん、色々な演出を考えるものだ。 「演出なら他にもあるぞ。スポットライトやドライアイスなんかも手配済みだ」 やれやれ。そこまで出来れば喜緑さんも本望だろう。 「……ふ、そ、そう思うか?」 ……あ、会長赤くなってる。宝石と同じだ。 「う、うるさい」 怒ったり照れたり、忙しい人ではある。 そんなこんなでもう一度舞台の上へとのり、エレベーターを元の位置まで戻した。ちなみに操作主がいなくなった制御盤の前でスイッチを押したのは藤原。操作してみたいと言う本人たっての希望でこうなった。 操作といってもボタンを押すだけなので特に難しいことも無い。会長も二つ返事で藤原の要望を受け入れた。 ゴゴゴゴゴと音を立てながら上昇するエレベーター。徐々に近づく太陽の光。暗いところにいたせいかやたらと眩しく感じる。 目が眩みそうになりつつも、地上の光恋しさに天窓を望み…… 「ん?」 何かが光を遮った。 「あー! みなさんこちらにいたんですか!」 プンスカと怒りながら、手にしたモップをトンと床に突くその影は――橘!? 「何をしてるんだお前その格好で!?」 「えへへ、どうですか? 森さんからこれに着替えなさいって言われて」 エレベーターが上の階についたころ、視力が完全に回復した俺はその不可思議な姿に思わず問い返してしまった。あろうことか、橘は森さんとおそろいのメイド服に身を包んでいたのだ。 いや、心持ちエプロンとカチューシャのフリルが多い気がするが……気のせいか? 「そこら辺は森さんの趣味なのです」 多分、と注釈をつけた。「森さんはああ見えてそユーモアがある人ですから」 マジか古泉? 「恐らく、橘さんの仰るとおりだと思います」 古泉は俺に近づいて耳打ちした。 「(彼女には他人を和ませる効力があります。森さんはそこを見込んだのでしょう。ほら、会長の『機関』嫌いの一件もありますし。自分の仕事を手伝わせると言うよりは、むしろエンターテイメントとして会長の心を解そうとお考えのようです)」 むう、と内心舌を巻いた。こいつの言うことも最もな気がしたからだ。 そして当の橘だが、会長の前で立ち止まり、ぺコリと頭を下げた。 「こちらの掃除をするよう仰せつかって参りましたので、よろしくお願いします」 「客人に仕事をさせるなど、一体どういうつもりだ……いやまて。これはヤツの……そう言うことか。ふふっ、あの女狐、色々と企んでやがる」 一頻りブツブツ言った後、「森がやるよりはマシだろう。よろしく頼む」と頭を下げた。 完璧無比な妙齢のメイドより、ややもすると全てを破壊しつくしかねないKYメイドを称えるとは、さすが『機関』嫌いの会長さんである。さっきあれほど橘の変態っぷりを目の当たりにしたと言うのに、なかなか大した人である。 或いは……悔しいが、橘や古泉の言ったとおりの展開なのかもしれない。 「ついでと言っては何だが、この辺りの見回り……平たく言えば警備もお願いしたい」 警備? 昼間から? 俺がそう聞くと、 「そうだ」愉快そうに口を歪ませた。「『機関』の人間がいるからな」 「……さすがにおいたが過ぎますよ」 「怒るな。ちょっとした冗談だ。器物破損はしても、窃盗までは範疇外だろうしな。アハハハッ」 古泉が唇を噛むのが目に見えて分かった。珍しく顔がマジになっている。あの古泉がここまで敵対心を露にするなど、余程のことがないと現れないはずだ。 それに、いくらなんでも会長の『機関』嫌いは度が過ぎている。はっきり言って異常だ。後でもう少し詳しく聞いた方がいいかもしれない。良くないことが起きなければいいがな…… 「ともかく、警備もよろしく頼むぞ」 「はあ、でも森さんに色々仕事を頼まれていますので……サボると怖いですし」 「むう……それもそうか。森を怒らすと後が怖いしな……」 さしもの会長も、パーフェクトかつ年齢不詳のメイドさんは怖いようである。 「本当は俺自身がやればいいのだが、もうすぐ喜緑くんの迎えにいかなければいけない。こればかりは他の人間にいかせるわけにはいかないしな」 チラと時計を見ると、もう十五時半になっていた。喜緑さんのバイトは十六時までと言うことなので、確かにそろそろいかないと彼女を待たせることになる。 「それまでの間でいい。誰か他に代わりはいないだろうか……」 「なら、僕が手伝ってやろう」 「藤原?」と俺。「どういう風の吹き回しだ?」 「パーティの時間までまだ結構あるのだろう? 暇つぶしにはもってこいだ」 「だが、客人に仕事をさせるなど……」 「あの、あたしはいいんですか?」 「森園生の管轄については治外法権だ」 うむ、納得。 「うう……あたしってとことん不幸……」 そんな橘の叫びは華麗にスルーされた。まあ当然だな。その代わりと言っては何だが、ずいっと前に出た藤原が、 「僕は一向に構わん。他に使える人間がいないのなら仕方ないだろう」 「そうか……まあ、確かに『機関』の人間よりはためになるだろう。わかった。では申し訳ないが監視の方を頼む」 「ああ、任せてくれ」 となったわけだ。 「ポンジーくん、ありがとうございます!」 「いやあ、これほどのこと、お茶の子さいさいさ。なんならここの掃除を手伝ってやろう。一緒に頑張ろうではないか」 「ポンジーくんさっすが! 分かってる!」 橘はモップとちりとりをポンジーに渡し、 「あたし他にも仕事あるからそっちやってきます! それじゃお願いね!」 エプロンとツインテールをはためかせてこの場を去って言った。 「……へ!?」 「俺達も、いくか」 「そうですね」 「そうだな」 「――――戦線…………――――離脱――――」 残るはモップとちりとりを手にした紋付袴姿のポンジーのみ。 「えええっと……僕は……一体何を…………?」 「掃除を頑張ってくれればそれでいいさ」と俺。 『変な下心は全て自分に帰ってくるぞ。今後気をつけるんだな』 本当はここまで言うべきだったのかもしれないが、反省を促すため敢えて黙っておいた。 その後は特に見たい場所もなかったので、このホールに程近いロビー兼休憩室で一人寛いでいた。 そう、一人。 藤原がガードマン兼会場の掃除係、橘が森さんの下働きに出たのは先にも説明したが、古泉も別途会長から仰せつかった買い物に出かけ、九曜はホールの外でマネキン人形と化していたのだ。 ガラス製のドアを開けて休憩室に入る。部屋は俺の自室よりも二回り大きく、プロジェクターやブルーレイプレイヤー、インターネットに繋がるパソコンやコミックまで設置され、小さいながらも高級漫画喫茶と言ったイメージが近い。 ただ一つ違うとすれば、漫画喫茶がパーティションで仕切られているのに対して、この部屋はパーティションどころか全てガラス張りで、廊下からも何をしているのか丸分かり状態ってことくらいか。 俺はテーブルに設置されたPCの前に座り、適当にネットサーフィンをすることにした。学校のトラフィックとは異なり、非常に快適な速度である。 これでガラス張りじゃなければ如何わしいイメージビデオがスイスイ再生できるんだが……その辺はぐっとこらえることにしよう。 代わりに開いたページは、先ほど見せてもらった宝石、アレキサンドライトについてである。あの不思議な光り方をする現象に興味が湧いた。ちょっと調べて見よう。 検索サイトを開き、キーワードに適当な言葉を入力し、サーチ開始。一秒も待たずに結果が現れた。検索結果の最初のページクリック。 ええと、なになに……『アレキサンドライトの最大の特徴であるカラーチェンジは、赤色成分と緑色成分がほぼ同程度存在するために発生します』か。ふーん、イマイチよくわからんな。 マウスのホイールを回し、ページをスクロールさせ次の文章を読む。 『蝋燭や電球など、赤みの強い(色温度の低い)光の前では赤色となり、太陽光や蛍光灯など、青みの強い(色温度の高い)光の前では緑色に光ります』 ふむふむ。確かに説明されたとおりだ。ではなぜそんな風に光るんだろうか。次……っと。 『アレキサンドライトは含まれるクロムの影響で黄色と紫のスペクトルが』 カチッ。 『スペクトル』と言う言葉が出た時点でこのページを閉じることにした。難しい言葉にはついていけん。 その後も他のサイトを見渡したのだが、結局書いてあるのは同じようなことばかり。詳しくかかれているサイトは波長がどうたらとか分光分析がどうたらと、やたら難しくなるのでそこで読むのを断念する。 まあ、いっか。光の色で宝石の光り方が変わるってことで十分だ。それがわかっただけで良しとしよう。実は最初に会長から説受けた説明以上の知識が身についたわけでもないんだが。 それはそれとして、パーティの開催までまだ一時間以上ある。何をするかね。 「寝るか」 本当は帰って試験勉強の続きがしたいのだが、ここまで来たら帰らせてくれそうも無い。話し相手もいないし漫画を読む気にもならん。それに朝から橘のテンションに当てられっぱなしで少し疲れた。 休むのも受験生にとっては重要な仕事だ。特に勉強ができない今としては打ってつけだ。 ここで俺は近くの三人がけソファーに移動する。肘掛に頭を乗せ、ガラス越しに廊下を見ながらボーっと寝転んだ。 ここからは大ホールの扉、そしてそこに連なる廊下が見渡せる。先にも言ったとおり、九曜は入り口前で身じろぎせずその場に立ち尽くしている。身動き一つ取らない姿はザルな守衛といっても過言ではない。 そして何分か置きに往来するのは橘。手に抱えているのはモップだったり大きな皿だったり、よく分からん工具箱だったり……森さんに言われて何か運んでいるのだろうな。 その他にも新川さんや多丸さん兄弟も訪れては出て行く。色々と手にしているようだが……ん、あのでっかい竹は何に使うんだ? 後で聞いてみるか。 因みに藤原の姿は見えない。恐らく中で警備、あるいは橘に使われて仕事しているんだろう。 しかし、皆が皆忙しく働いているのに俺だけこうも惰眠を貪っていいものかね。とは言え働く気は全く無いからやっぱりこのまま動かないわけだが。ふぁあ……いかん。本気で眠くなってきた。 ガラスで遮られながら、しかし微かにパタパタと鳴る足音を子守唄にして俺の意識はそのまま途絶え………… 「起きてください。そろそろ式が始まりますよ」 そう言って起こされたのは、十七時も半分が過ぎていた。外はすっかり暗くなり、ガラス越しに見える廊下も人工の光で照らされている。 俺は寝ぼけ眼で起き上がり、声をかけた人物――古泉に視線を送った。先ほどまで私服だった彼のスタイルは、何時の間にかダークグレーのスーツに変わっていた。もしかしてパーティための正装だろうか? 「いいえ、平素の格好、略装で結構ですから。お構いなく」 略装を通り越してカジュアルスタイルで出席してもいいのだろうかね。まあ古泉が良いって言うならそれでいいのだろう。必要なら『機関』が全て用意してくれるはずだ。 とは言え、跳ねているであろう髪を何とか戻し、くしゃくしゃになったコートは脱ぎ、襟を正してパーティに望むことにする。それくらいは常識だよな。 ガラス製のドアを開け、俺が寝る前から一糸乱れることなくその場に鎮座していた九曜にも声をかけた。「いくぞ」 会場は明るくも温かみのある色調で彩られており、冬だと言うのにそれを感じさせない光で覆われていた。 「これはLEDですよ」 LED? 聞いたことあるようなないような…… 「ライトエミッションダイオード。日本語で言えば発光ダイオードです。昨今のエコブームで取り入れられた新しいタイプの光です。この照明に使われる白熱球は数年後には製造が中止してしまいますので、その代替品として取り入れられたようです」 ふうん。つまり明るくて消費電力も低い照明ってことか。 「家庭用照明としての課題はまだ多く残っていますが、概ねその通りです」 そうかい。 「さて、与太話にはこれくらいにして席につきましょうか。早くしないと会長に叱られます」 その与太話を始めたのはお前なんだが、と突っ込む前に古泉はそそくさと自席に移動した。 席は中央のステージを囲むようにして配置されており、そこに一番近い席に会長と喜緑さんが座ることになっている。俺達はゲスト扱いなので、やや後方のテーブルである。 警備を終えた藤原、手伝いを追えた橘も既に席についており、俺達もそこに着席した。ちなみに橘は未だメイド姿のままである。着替える時間がなかったのだろうか。 「どうだ、橘。森さんにこってりしぼられたか?」 「…………」 「おい、橘?」 「……っへえ!?」 おいおい、変な声を上げるな。どうせこれから出てくる料理のことばっかり考えてたんだろ。 「……うあう。そのとおりです。もう腹が減って腹が減って」 白いエプロンの上を弄りながら、橘はやや疲れた様子で喋りだした。どんな仕事をさせられたのだろうか。 「パーティのセッティングはもちろんですが、何故か個室の掃除やベッドメイキング、おまけにペットの散歩と色々です」 それはご苦労なこった。だがそれでこそ飯が上手いってもんだ。 「そうですね。頑張って平らげます。会長の家の資金がなくなるまで食べ尽くしてやるのです」 そうか、まあ頑張ってくれ。 などと他愛も無い会話をしていると、 「お待たせ致しました」 開いた扉から出てきたのは、淡いブルーのパーティドレスに見を包んだ喜緑さんだった。肩や背中を大胆に露出したドレスと白いバラのコサージュがなんとも魅惑的である。 その後ろ、ドアを開けていたのはなんと会長だった。そのままドアを閉め、彼女の手を取ってエスコートする姿はいかにも紳士である。自席まで到着した後も、喜緑さんの椅子をサッと引いて着席を促すのも忘れない。 あれほど不良じみたヤサグレ男がああも変わるとは。この状況をハルヒが見たらどう思うかね。ちょっと呼び出してやろうか。 「それだけはカンベンしてください。僕達も事後処理が大変なんですから」 冗談だ古泉。泣くな。 会長の挨拶と乾杯を皮切りに、表向き年始パーティは盛大に行われた。 盛大といっても人数にして十人もいないから大盛況と言うわけにはいかないが、古泉の意味不明な説法に始まり、藤原のどこか抜けた常識、九曜の日常など話題に事欠くことはなかった。 中でも食前酒を一気のみしてフラフラになった橘がいきなり会長に向かって『あたしを捨てるなんてひどいですぅ!』と大絶叫した時は腹を抱えて笑った。引きつる会長と朗らかな笑みを見せる喜緑さんのコントラストが絶品だ。 なお、この後数分もしないうちに橘は撃沈した。彼女の楽しみにしていた料理はまだきていない。あれだけ最高級料理を食べると騒いでいたのに……かわいそうではある。 その料理だが、会長が『最高級料理』と銘打っただけあり、俺が今まで経験したことの無いような豊穣の味わいで、舌鼓を十六ビートで叩きつけるような絶賛の嵐を口にした。 もちろん素材だけではない。新川さんの料理もかなりのものであることは忘れてはいけない。会長は調理が下手だと詰っていたが、それは無碍に嫌おうとする彼の歪んだ心が成せる技であり、無論俺はこの料理に瑕疵があるだなんて微塵も思っていない。 森さんはと言えば、おなじみの給仕係となってデカンターからワインを注ぐのに専念している。せっかくの年始パーティなんだから皆で楽しめばいいのにと思うんだが。まあ、あの会長がいる限り楽しくパーティなんかできないだろうな。 残りの『機関』のメンバーである多丸さん達兄弟はこの場にいなかった。恐らくはエレベーターの上下搬送係りとして、この地下でスタンバイしているのだろう。 全く、働き者のメンバーである。あれだけ嫌われているのによくもこれだけ健気に働けるものだ。 「皆様、お待たせいたしました。本日のメインイベントでございます」 と、スピーカー越しの新川さんの声と共に辺りの照明が暗くなった。 「喜緑江美里様、当家の主人よりお渡ししたいものがあるとのことです。どうぞ、中央のステージにお寄りください」 クエスチョンマークを点灯しながら、喜緑さんは会長に手を取られてステージ前まで行く。 「それでは……どうぞ!」 声と共に照明が完全消え、代わりにスポットライトがステージ中央を照らし出す。瞬間、大地が割れたかのようにステージが開き、その代わりといっちゃ何だが白い煙がもくもくと吹き上がる。 その煙を割って這い上がったのは、例の女神像。とはいえ、現状は白い布にかぶさっているが。 ガシャン、と音を立てて一番上についた時、会長は白い布を勢いよく引っ張り――そしてようやく冒頭の時間軸へと繋がるのだ。 延々長い思い出話で済まなかった。では早速本題に入ろうじゃないか。 ……… …… … ――ふふふ、あたしの出番でしゅね―― 若干ろれつの回っていない、状況判断を全く逸脱した声が響き渡った。 声の主――答えるまでも無い。メイド姿のまま、何故かモップを手に取った……というより、フラフラしてるから支えられてと言った方が正しいか……橘京子。 「あたしが……はんにゅいんを……宝石を盗んだはんにゅいんを……探し出して見せましゅ……なんたってあたしは……めいたんてぇい…………なんれすから!」 ああああ……あの馬鹿……酒飲んでるからいつも以上に空回りしてやがる。しかもご丁寧に昼間の与太話をまだ引き摺ってやがる! 「ほ……本当か……?」 そして会長もそんな酔っ払いの言うことを信じるな! 「ふふふふ……まかせなしゃい…………真実は一つしかないんでしゅ……みてなさい!」 そして橘は思ったよりもしっかりした足取りで、モップを構えた。 「悪の汚れ、おしょうじさせていただきまぁしゅ!」 『……………………』 ふんと鼻息一つ鳴らした橘に対し、俺達は位相を揃えて三点リーダを紡ぎだした。 「ふぇへへへへへへ…………うみゅ…………」 バタン。 「くう…………くう…………」 場の空気を見事なまでに白くした張本人はそのまま倒れこみ、そして再び寝息を立てた。 「な、なあ…………一体どうすればいいんだこの場合…………」 激昂していた会長も素に戻り、努めてシンプルなツッコミを入れるが……悲しいかな、誰も答えることが出来なかった。 こうして、会長宅の家宝、アレキサンドライトが盗まれると言うハプニングと、その犯人を探し出すと言う爆弾発言のせいで、俺は年始早々橘の恐ろしさを嫌と言うほど知らされることになるのだった。 ※橘京子の動揺(捜査編)に続く
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無限の欲望の生み出せし神々の遊戯盤――― 盤上が今宵、闘争の庭として用意した地は海鳴町であり、冬木市であり そのどちらでもないゴーストタウン。 中に放り込まれた駒は二つ。 その性能は戦略兵器に匹敵するとまで言われるミッドチルダSランク魔導士。 その中においても若き英雄と謳われる空戦のエース。 不敗の神話と聖剣伝説を築きし稀代の剣士。 騎士の頂点に立つ「騎士王」の称号を授かりながらも非業の最期を迎えた王。 ―――そこに、世界を塗り潰す不確定要素として飛び込んだイレギュラーが一つ。 古代に君臨せし最強の魔人。 かつて世界をその手に収めた半人半神の英霊。 人類最古の英雄王。 共に絶大な力を持つ、時代を築きし者達が織り成す戦いという名の輪舞。 地上、建造物の至る所に突き立った宝剣。 倒壊した大地。 町の景観は夥しい数の弾痕や斬傷で見る影もない。 まさに熾烈極まりない闘争の余波で、既にフィールドの4分の1が焦土と化している。 その大地にて――――― 時空を超え、次元を超えて………再び対峙する二対の宝具。 「…………」 眉目秀麗な騎士の少女が敵を見据えて立つ。 その身体のどこを探しても傷を負っていない箇所など無い。 だというのに、まるで瀕死である事を感じさせない威風堂々たる姿で、彼女は悠然と佇む。 もはや一言も発する事のない口は決意の意と共に固く引き結ばれ その体の中央で両の手に構えた、黄金に輝く剣に―――己が全てを委ねる彼女。 「もはや何も言うまい―――」 対するは黄金の豪奢な鎧に身を包んだ灼眼の男。 少女の強大な戦意を余す事無く受け止め、まるで揺るがぬ最強の英霊に恥じぬサーヴァント。 王が達観と共に呟く。 己に向けられた殺気……光り輝く人類最強の聖剣を前にして 彼もまた自身の宝物庫から一振りの剣を取り出した。 まるで以前からの約束であったかのような、まるで術技立てられた様式美のような そんな自然さで、両者は手に持つ剣と剣を突き合わせる。 所詮、今までの攻防など茶番――― そう……この対峙こそが二人の戦いの全て。 騎士王と英雄王の戦いの縮図そのものであったのだ。 ―――――― だがその縮図こそ―――そのまま二人の圧倒的な力の差を映し出している。 それは「聖剣では覇王剣を打ち破る事は出来ない」という事実。 このままでは騎士王は英雄王に屈服せざるを得ないという覆しようの無い真理。 ――――故にあと一手。 戦況を根底から覆す、あと一手が必要だった。 ………… その最強の敵を打破し得る一打とは―――― 即ち騎士の少女に祝福をもたらす「勝利の鍵」を差し込む事。 二人の対峙――その趨勢を見守る白き天使が 遥か上空にて、聖剣の担い手に福音を降らせんと翼をはためかせる。 三者を取り巻く空気が彼らの膨大な力の奔流によって軋み始める。 黄金の柱と、鈍色の赤き風と、桃色の波光とが世界を三つに斬り分ける。 震える大地。 翻弄される大気が―――― この壮絶な戦いの最終ラウンドの開始を告げる戦唄となるのであった。 ―――――― 数刻前―――― 「セイバーさん! セイバーさんッッ!!」 雷鳴渦巻く暗雲と闇に閉ざされた空の下に、一人の女性の声が響き渡る。 白がベースの清楚なデザインの法衣を纏った栗色のツインテールの女性。 その長い髪の先がくたびれているのは、突如として彼女を襲ったいつ終わるとも知れない激戦のせいであろう。 彼女は魔導士。 それも並の脅威では傷一つ負う事の無い、ケタ外れの技量を持つ時空管理局のエース級魔導士。 類稀なる才能と己が力に溺れぬ努力の末に身につけた珠玉の戦技。 それによってもたらされた数々の偉業により、彼女は若くして「エースの中のエース」と呼ばれる存在となる。 しかしてその彼女が、今――― 荒い息を整える事すら出来ずに壁に寄りかかり 折れそうになる体を支えながらに必死の呼びかけを続ける。 見ればその髪だけではない。 彼女の纏う法衣の所々に斬り裂かれた跡があり、焼け焦げた跡があり 白い生地には赤く滲んだ箇所が随所に見られる。 彼女が纏っているのは、次元世界ミッドチルダの科学力が誇る汎用魔力強化型戦闘装束・バリアジャケット(BJ)。 堅い物理防御に加え、体表面を覆う反物質コーティング(フィールド)を備えた、魔力で編まれた不可侵の鎧である。 それがここまでボロボロになる事が、今の彼女を襲った脅威の凄まじさを如実に物語っていた。 魔導士―――高町なのはの前には、立ちはだかる敵がいた。 戦技無双を誇る彼女をして攻略の目処の全く立たない、規格外の強敵。 術の限りを尽くしてなお微塵の突破口すら見出せず 彼女は自身、数えるほどしか陥った事のない絶望的状況に追い込まれていた。 その魔導士の立つ横には………一人の少女がぐったりと倒れ付していた。 銀色の鮮やかな甲冑。 その下に青を基調とした戦装束に身を包む、西洋の騎士然とした金の髪の少女。 なのはより頭一つ小柄な肢体。 その体中に大小様々な傷があった。 肩口からバッサリと断たれた切傷を筆頭に、裂傷、擦過傷から貫通された跡まで――― ここまでの負傷を受ければ常人ならば激痛でショック死しているであろう。 此度の戦いにおいて少女は迫る敵を前になのはの前線を務め 白刃に晒されながら後衛の彼女を守って戦い そして相手の埒外の攻撃の前に力尽き―――その身を地につけた。 応急の手当てすらままならないこの状況では傷口を洗ってやる事も出来ない。 一刻も早く男の包囲網を抜け、少女に適切な処置を施さなければ、という思いが、冷静な教導官の思考に焦りの影を落とす。 おもむろにセイバーの傷口―――赤黒く腫れた箇所に手を当てるなのは。 専門的な心得は無い彼女であったが基本的な触診くらいなら施せる。 指の頭で微妙に強弱をつけて傷口を押す。 ………………… (これは………本当に急がないと…) なのはの顔がやおら青ざめた。 痛覚に位置するそれを刺激してやっても、少女の身体はピクリとも反応しなかったから。 もう…………感覚すら無いのだ。少女の肉体は。 この少女はもはや戦えない。 高町なのはを驚嘆せしめた剣技が、スピードが再び発揮される事は無い…… 「セイバーさん……どうしてあんな無茶を…」 その呟きには言い知れぬ感情が篭っていた。 無謀としか思えない中央突破。 血飛沫を撒き散らしながらケモノのように咆哮し、西洋人形を思わせる美しい貌を歪ませて 牙を剥き出しにしながら敵に飛び掛ったあの狂態。 なのはとて十分に分かっている。 この騎士は自分が貶められただけではああいう風にはならないだろう。 きっと心の奥底で最も大事にしていたもの、もしくは人……そういった類のものを傷つけられたのだ。 騎士は誇りを抱いて生きるもの。 その誇りを汚された時、命を賭して守ろうとするのもまた事実。 理解していた……そして自分が口出しするような事ではないことも。 「でも、それでも……」 トクン、と――― 「死んじゃったら、おしまいなんだよ…?」 魔導士の胸の鼓動が高くなった気がした。 諸共に疼いてしまう―――過去の傷跡。 自分の眼下で無残に倒れ伏している血染めの少女と かつてその無茶な行動から命を落としかけ、ヴォルケンリッター鉄槌の騎士に抱かれる自分の姿がフィードバックする。 あれ以来、心に決めた。 無茶はしない――無謀な行為を何よりも自重する。 自分にも、そして仲間にも。 その誓い………小さな胸のしこり。 なのはの心中に生じた微かな揺らぎ。 その異物を彼女は―――今は無理やりにでも胸の奥に仕舞い込むより他にないのだった。 ―――――― 闇夜に始まったこの戦いは数刻を経過し、空は雲に覆われてはいるものの 微かに白み始め―――確実に明けの兆しを見せている。 この世に明けない夜は無い。 いつまでも暗い曇天が続くわけではない。 だが、とあるビルの屋上にて傷だらけの身を寄せ合う二人の戦士。 高町なのはとセイバーは―――このままでは夜明けを迎える事は出来ない。 魔導士が空を見上げる。 その眼前に広がるのは、星だった。 曇りのはずの空にまるでプラネタリウムのように大小様々な星が光沢を放ち、存在を主張している。 ………………………… ……言うまでもない矛盾。 曇天に輝く星など無い。 よって今、夜空を照らす星光など見える筈もなく 無数の星屑は、そう見えるだけの別の物でなくてはならない。 果たしてそれは――――――無限の宇宙に広がる星々に見える……… ――― 刃だった ――― そう、空には今、数百を超える刃の群れがあった。 鈍色の赤に染まった空間から幾多の波紋が起こり、中から彼らは貌を覗かせる。 各々が確固たる意思を持って無限に広がる上空一帯に鎮座する。 そのあまりの威容―――百戦錬磨のエースをして戦慄を感じざるを得ないほどの絶景。 獰猛な異彩を放つ刃の群れが余さず彼女達を見ている。 空を、自分達を悔しげに睨む白き魔導士を嘲笑う。 お前らはここで斬り刻まれ、貫かれて果てるしかない 絶対に逃がさない まるで刃の一本一本が口を揃えて、その殺意を叩きつけてくるかのようなおぞましい光景。 実際には刃に意思が灯る事などは無い。 ならば今、彼女達に降り注ぐ悪意の塊のような意思こそ――二人の前に立ちはだかった「敵」の放つものに他ならない。 未だ敵の姿は見えず、追撃の兆しはない。 だが、彼が一度その侵攻を開始すれば――― 一度号令を下せば、上空を覆う凶刃の群は彼女らに一斉に降り注ぎ、全てを終わらせる。 言わば自分達は手の平の上で遊ばされている虫も同然の身。 相手がその手を握り込めば、二人は抵抗も出来ずに無残に握り潰されるのみなのだから――― 「…………考えるんだ」 常人ならば恐怖に押し潰されてしまうそんな状況下で、余計な事を考えている暇などない。 負の感情。ネガティブな可能性。そして芽生えそうになった騎士の少女に対する―― その他一切のノイズを振り払い、魔導士高町なのはは限界まで思考を巡らせる。 「突破口は必ずある……諦めちゃったら、そこでお終いだ…」 居並ぶ凶刃。その威容をキッと見据えるなのは。 蒼白な顔で気を失っているセイバーの頬に手をやる。 高町なのはの表情にいつもの戦意――千の味方を鼓舞させる気勢が蘇る。 絶望の中にあって絶望に溺れず、遥かな底に見える希望に向かってただ一心に手を伸ばす。 そうやって幾多の者を、世界を救ってきた彼女こそ――不屈のエースと呼ばれた空の英雄に他ならないのだから。 ―――――― 現状においてあの相手を自分一人の手で退けるのはどうするか? 一体どのような戦術を取るべきか? またどれほどの事をせねばならないのか? エースオブエース高町なのはをして、思考するにつれて その端麗な顔が苦渋に歪むのも無理からぬ事だろう。 10年における戦歴において数多くの敵を圧倒してきたなのは。 彼女の戦闘スタイルの根源はまず敵の攻撃を受け止めて撃ち返す所から始まる。 謂わばガチンコの力比べ。それで押し通せれば良し。 ぶつかった結果、敵の力が自分以上であるならば、それに対応した戦術で相手を絡め取ってまくる。 それらの戦法の支柱となるのが突出した自身の火力と出力と防御力であるのは言うまでもない。 だが今、そのうちの一つ―――防御力に全く頼れない戦況…… いつもの戦い方を推し通せない――― それが自然、魔導士の戦闘スタイルに大きな影を落とし 本来の性能の70%しか発揮出来ない状況を作ってしまっている。 ―― 戦いにおいてこれさえあれば無敵などというものはそうそう無い ―― それは彼女の長きに渡る求道の末に培った「戦いの基本概念」とも言うべきもの。 信念であり、彼女の戦術の骨子たるものでもあった。 だが今、彼女は―――限りなく無敵に近いモノを相手にせねばならない。 ゲートオブバビロン――― 奇しくも自分と同じ射撃武装でありながら、その範囲・射程・速射性能諸々がケタ違いの全門掃射攻撃。 まるで戦艦の一斉射を髣髴とさせるが如き射撃は、弾切れ、リロード、その他一切の制限がないというデタラメ仕様。 威力は弾丸1発1発でさえ彼女のシールドを脅かす程……つまり一発の被弾=致命傷である事は疑いようが無い。 また不幸にも、かつて高町なのはが教え子と模擬戦を行った際の出来事を見ると なのはの防御を曲がりなりにも一番初めに破ったエリオ・モンディアルの持つ槍のように 「貫」というのは「斬」「打」「砲」等の他の諸々攻撃手段と比べても最も盾を抜くのに効率が良い。 ならばギルガメッシュの宝具斉射こそ――高町なのはの防壁にとって鬼門以外の何物でもない事はもはや明白だった。 魔導士は思考する。 攻防共に付け入る隙を与えない武器を持つ相手。 これを突き崩すには――― その10年に渡る戦いの中で培った、自分以上の力を持つ相手と戦った場合の対処法。 それに対抗する手段を残らず引き出し、模索していく。 「隙を見出すとしたら武装の方じゃなく………使用者…」 ガチン、ガチン、と―――彼女の思考がパズルのように組み上がっていく。 そう、武装の攻略がままならないのであれば武器の使用者を崩す以外に道は無い。 言うまでもなく極めて厳しい道であるが、だがそんな戦況であるにも関わらず、なのははそこに一筋の光明を見た。 敵がセイバーであったならこんな戦術は取らない。 何故ならそれは、彼女が手に持つ武装に勝るほどの使い手であるからだ。 決して崩れない、思考の隙を突き難い相手に対してほぼ来ないチャンスを待って戦うなど自殺行為である。 「でも、何と言うか………あの人は…) そう、騎士王セイバーに比べるまでもなく、英雄王ギルガメッシュは…… 朧げながら、か細い糸を手繰るように勝利への道を模索する魔導士。 その思考が勝算という名の蜘蛛の糸に手が届く――― ―――――ナノハ… ―――寸前……… その耳に消え入りそうな小さな音が響く。 なのはがハッと目を見開く。 半ば自身の思考の渦に入り込んでいた彼女の横から、弱々しい――― 掠れた声をかける者がいた―――― ―――――― 「ナノハ」 静かな―――それは消え入りそうなほどに静かな声だった。 かつて古の戦場に響き渡った美しき王の声は、凛とした鳥の嘶きに例えられた。 そんな力強くも心地良かった騎士の声。 だが今、なのはの耳に届いたものにその面影は全くない…… 絶え絶えの息の合間に懸命に搾り出されたようなその呟き。 それは紛れもなく――死の淵に立つ者のそれだった。 「セイバー、さん………良かった」 だがなのはの心中に初めに広がったのは、兎にも角にも安堵。 下手をすればこのまま……という可能性すら考えていた魔導士にとって、その言葉は―― 意識を取り戻してくれたという事実は何よりの励みだったに違いない。 知らず、ホッと胸を撫で下ろす白衣の魔導士。 緊迫した空気が何よりの朗報に一瞬、弛緩する。 だが………そんな高町なのはの耳に――― 「―――私に、考えがあります…」 ―――信じられない言葉がかけられたのだ。 全身を紅に染め上げられた歪なアート。 目尻から滴り落ちる赤い液体が頬を伝い、まるで血涙のように少女の白い肌を汚している。 「ちょっと待って……? まさかセイバーさん…」 まだ戦うつもり?と言葉を続けるまでもなかった。 そんな瀕死の状態だというのに、彼女の瞳は――紛れもない戦闘継続の意思を示していたのだから。 「迷惑をかけた………済まない。 この失態は必ず我が剣で払って見せます…」 血染めのマリオネットが、切り裂かれた全身などまるでお構いなしに立ち上がろうとして―― 「ハァ、ハァ………う…」 「無理だよセイバーさん! もう戦える状態じゃない!!」 なのはにその身を抑えられ、再び床に寝かされる。 「ナノハ―――それは侮辱だ。 我々サーヴァントを人間と同じように見て貰っては困る。」 瞳に抗議の色を灯すセイバー。 だが、なのはには騎士の言葉など聞く気は無い。 (こんな…こんな体で……) あの力強かった少女の肉体は今や見る影もない。 自分の膂力にすら抗えず、押さえ付けられてしまうのだ。 そんな死に体の身で、彼女は再び戦場に出ると言う――― 「さしたる問題ではありません。 多少この身を切り裂かれたとて、頭と心臓をやられなければ戦える。 この肉体は……普通の人間のそれとは根本的に違うのですから」 トクン、――――― その時、なのはの鼓動が先程と同じように……乱れた。 こんな事を言われて重症者を「はいそうですか」と戦いの場に出す魔導士ではなかったが故に。 「……………だからあんな無茶したの?」 必死に抑えていた。 それは彼女の行動理念に反する行為。 自身の心の最も深い部分に刻まれたトラウマでもある――― 騎士の言動はそれを刺激するに余りある行為であったのだ。 なのはの表情からスゥ、と感情が消えていく。 それは己を省みず無謀な行動をしたセイバーに対する―――怒りによってのもの。 「ナノハ………あの男は強大だ。 無茶もせず命も賭けずに勝てる相手ではない」 「じゃあ聞くけど、さっきのは明確な勝算があっての行動?」 「そ、それは……」 痛い所を突かれたセイバーが言葉に詰まる。 ただひたすらに煮えたぎるような感情を叩きつけていた 憎しみと怒りに駆られ、狂戦士と化した先程の自分。 そこに明確な勝算や正当性があったかなど―――聞くまでもない…… 「全然、らしくないよ……セイバーさん。 何をそんなに躍起になっているの?」 「…………」 両者の間をえも言われぬ緊張が支配する。 「それは言えない。 だからこそ――不実はこの身を賭して注ぎたい」 「この身を賭して? 命を捨ててって事…?」 「はい。 貴方の作ってくれた勝機を生かせず、敵を討ち取り損ね…… こうして窮地を招いてしまったのは私の落ち度だ。 その不明、我が誇りに賭けて再び勝利への道を切り開く事で償いとしたい。」 「出来るの? そんな体で。 戦えるの? そんな傷だらけの状態であの人と。」 「確かに速度や膂力を維持するのは難しい。 だからこそ――」 「自業自得だよ」 …………… 騎士の血に濡れた顔が……一瞬、唖然とする。 予想だにしなかった魔導士の剣呑な物言い。 その薄緑の瞳が、人懐こい笑みを常に称えていた、あどけなささえ残した彼女の――― 高町なのはの、まるで血が凍ったかのような冷徹な表情を映し出す。 「聞いてくれナノハ……私は貴方に、」 「いいよ。その先は言わなくても」 まるで対照的な二人の相貌を、屋上に吹く風が静かに撫でていた。 ここが火急の戦場だという事すら忘れて、セイバーが呆然とパートナーの顔を見る。 「ナ、ナノハ……」 予想だにしなかった突然の魔導士の拒絶。 ――― 今のセイバーさんとは肩を並べて戦えない ――― と、その目が告げていた。 情緒に溢れた女性だと、慎ましくも確かな友愛を感じさせた彼女。 常に人を率いて戦うが常だったアーサー王。 故に誰かの指揮で戦場を駆ける事に一抹の不安を覚えていたこの身が、高町なのはの指揮で動く事には心地良ささえ感じていた。 その彼女の突然の豹変は、セイバーの脳裏にかの虚ろな光景を去来させる。 即ちアーサー王の落日―― かつて友だと思っていた者たちが皆、自分を残して円卓を去っていった光景。 信じて、守って、尽くして、背中を預けた筈の仲間に背中から斬り付けられた――― ――― アーサー王は人の心が分からない ――― 自分が信じて突き進んだ道は皆の描く願いとはまるで違っていて 全てが滅びゆくその瞬間までそれに気づけなかった自分。 こんな不明な己だからこそ、愚かな自分だからこそ――――少女は悟る。 「―――信に足らないという事か………無理もありません」 セイバーの瞳に一瞬、悲しげな光が灯り――― そして、それを相手に悟られまいと顔を伏せ、表向きは毅然とした口調で返答を返す。 そう………冷静になって考えてみれば無理も無い事だ。 元々は何の義理もない行きずりの関係だったのだ。 助力を申し出てくれたのも彼女の「管理局」という立場上、そうする必要があったから。 だがしかし、それも命あっての物種である。 今の自分の有様。 そして完全に勝機の潰えた戦況。 自分の不明で好機を潰してしまった事実。 彼女がここへきて踏み止まり、自分に手を貸してくれる理由は皆無―――見捨てられて当然。 その不明を濯ぐため、無理やりにでも意識を叩き起こした騎士であったが パートナー同士の信頼……否、利害が費えた今、もはや何を言っても詮無い事であろう。 「――――――――分かりました。 ならば当初の予定通り、貴方はこの場から離れて下さい。 貴方の技量ならばこの状況を切り抜け、逃げ切る事も可能でしょう。」 ならば今の騎士に出来る事はただ一つ。 凛とした声に悲哀の色は微塵もない。 元々、この戦いは自分の物だ。 それをここまで助力してくれた魔導士に感謝こそすれ、恨む筋合いはない。 その彼女が撤退するというのなら―――自分は追いすがる敵を押し留め、隙を作るのみ。 サーヴァントの肉体には強い治癒能力がある。 その恩恵で先程に比べ、行動を起こせる程には回復していた。 少女が荒い息を何とか整え、重い体を無理にでも起こす。 そして短いながらも共に闘ってくれた魔道士に別れの言葉を――― 「セイバーさんは動かないで」 ……………… 「あとは私が何とかするから」 ……………… 「……………………」 「……………………」 二人の間にたゆたう時間が――――止まった。 ―――――― セイバーの表情が固まる。 何を言われたかまるで理解出来ず、身を起こそうとしたその姿勢のまま ポカンとした様相で、なのはの冷徹な表情を見つめている。 「聞こえなかった? なら、もう一度言うけれど……… 私が一人で闘うからセイバーさんはじっとしててって、そう言ったんだよ。」 対して単語の一つ一つを吟味するように、まるで聞き分けのない子供に接するように セイバーに言って聞かせる高町なのは。 騎士の呆然とした表情が次第に怪訝なそれへと変化していく。 「―――――何を言っているのです?」 「何か問題あるのかな…? 今のセイバーさんは心身ともにまるで使い物にならない状態。 そんな人を連れていっても足手まといになるから残って欲しいって……別におかしな事じゃないでしょう?」 「……………気は確かですか?」 「確かも何も普通の判断だと思うけど。」 「ナノハ」 おぼつかない足取りながら剣を支えに立ち上がり、魔導士と向かい合うセイバー。 その目には先程までの弱々しさはなく――まるで敵を前にした時のような眼光を称えている。 「駄目だよセイバーさん。大人しくしていて」 「貴方は私に何を求めている? 我が不手際に対する謝罪の言葉か?」 「………」 「それとも、先の醜態の理由を包み隠さず話せと? いくら問い詰められようと私とて言えぬ事はある。 それを無理に掘り下げる権利が貴方にあるのですか?」 「別にそこに興味があるわけじゃない。今はむしろどうでもいい事だよ… でも言ってセイバーさんの気が済むなら聞くけど?」 「っ、」 ギリっ、と騎士の歯が鳴る音がした。 「フ―――これは意外でした……案外、陰湿な性格なのですね。 何が気に入らないのか私には分りかねるが わけの分からない駄々をこねて人を困らせるのも時と場合を選んで欲しいものだ。」 「私の言おうとしてること……分からないの?」 「分かる筈が無い。 あの男は本来、私の敵で貴方は部外者に過ぎない。 だのに何故、私を差し置いて貴方が一人で死地に赴くという結論になる?」 互いに昂ぶった感情のままに相対する二人。 そのまま一気にまくし立てるセイバーである。 「言っている事が滅茶苦茶だ! 貴方がみすみす死にに行くのを私が認めるとでも思っているのか!? 人を嬲るのも大概にして欲しい!」 「そうだね。そんなの許せるわけないよね。 ………………………私も同じだよ。」 バチバチ、と――まるで火花が飛んでいるかのような視線のぶつかり合いは続く。 「じゃあ、はっきり言うけど………今のセイバーさんはまるで抜け殻だよ。 自分を盾にして、もし死んじゃっても構わないってそう思ってる。 何としても生き残るっていう気概がまるで無い。」 「理想論ですね―――相手はあの英雄王で、しかもこの戦況。 何の犠牲も払わずに流れを変えられると思っているのですか? それに私は騎士だ……死ぬ事など恐れはしない。」 「何度でも言うけど、今のセイバーさんじゃ盾にすらならない。 私を圧倒した時とは全然違う。 下らない妄執で動いてるだけの未熟な剣士にしか見えないよ。」 なのはのその見立て――― 期せずして今のセイバーの状態を完全に見抜いていた。 アロンダイトの斬撃は騎士王の肉体より心を壊す。 それによって負ったセイバーのダメージは心身にまで及び、知らず思考に死の影を落としていたのだ。 そんなパートナーを戦いの場に出すわけにはいかない―――それこそが高町なのはの本意。 「私を愚弄するのか―――取り消して下さい」 「取り消さないよ。貴方は自己満足に浸ってカッコ良く散ればそれで満足かも知れない。 でも目の前で死なれる方の気持ちを考えたことはある?」 言葉についには殺気が篭るセイバー。 だがそれを正面から受けて、なのはも一歩も引かない。 このような事をしている場合でない――― そんな事は百も承知の筈の、冷静な二人らしからぬ仲違い。 二人とも、その胸の奥にしまっていたトラウマを抉られ、つい心のブレーキが効かずに感傷的になってしまう。 「…………もう――――よい」 鼻で大きな溜息を漏らし、乱れた息を沈めながらにセイバーは魔導士に背を向ける。 「これ以上は無意味です。 どうやら貴方とは決定的に価値観が違うようだ…… 去るが良い。情報の収集を求めるならば、後日改めて―――」 「行かせないよ」 「―――――ほう」 何とこの場にてレイジングハートを騎士に向ける高町なのは。 それを背中越しに見やるセイバーの双眸にも危険な色が灯る。 「今、行かせたらセイバーさんに後日なんて無いもの。 それでも行くっていうなら止める……たとえ貴方を叩きのめしてでも。」 「メイガス―――私の頬を二度も張れると思っているのか?」 一触即発の危険な香りが漂う。 エースオブエースと騎士王の殺気が屋上に充満する。 共に一騎当千の者同士の一触即発のやり取りだ。 常人が居合わせようものならストレスで胃腸が擦り切れてしまうだろう。 だが―――それは言葉ほどに剣呑なやり取りではなく 見るものが見たら恐怖どころか微笑ましいものすら感じたかも知れない…… 何故ならばその喧嘩は価値観が違うというものではなく、どちらもその根底にあるものは同じ。 互いを心配する余り、その行動を否定されたばかりに語気が荒くなってしまっているだけなのだから。 要するに―――似たもの同士なのだ。 見る者が見ればどう見ても「喧嘩するほど何とやら」なやり取り。 何と馬鹿馬鹿しい、そして微笑ましい意地の張り合いであろう。 だがそれは放っておけばおく程に収集がつかなくなり、もはやいつまで続くとも知れぬ千日戦争の様相を呈していた。 故に彼女らに勝手に冷戦じみた口喧嘩を始められて、一番所在がなくなる者は―――言うまでもない。 「―――――人類の歴史が紐解かれてより幾星霜」 「「っ!!」」 そんなやり取りを初めは歪な笑みと共に見守っていた黄金の超越者だったが 流石のウルクの王もついぞ痺れを切らして呆れ顔で水を差さざるを得ない。 「この我を前に仲違いを始めるマヌケ共など……貴様らが最初で最後であろうな」 ビルの屋上―――― 給水塔の上で頬杖をしながら男は二人のじゃれ合いを観覧していた。 互いに息遣いが感じられる程に顔を寄せ合い、唸りあっていた両者が戦慄に固まる。 今現在、自分らが置かれている現実に引き戻され、その声の主…………倒すべき敵に向かって身構えるのだった。 「――――いつから、そこにいた?」 「たわけ――今更、威嚇などしてどうするというのだ? 我がその気ならセイバー。 貴様は既に186回死んでいたわ。」 「ッ、! そうか………ならば、あと100回分ほど待たせる事になりそうだ。 こちらはまた話がついていない。」 「男子に対してただ待て、と? つくづく行儀の悪い女よな」 クク、と笑う英雄王に対して浮き足立つのも一瞬。 兎にも角にも敵と対峙してしまった以上、剣の英霊のやる事は一つ。 黄金の王に対してその身を半身に切って構える。 正直、この時点で自分の考案した作戦を魔導士に話していなければならなかったのだ。 作戦を練れる十分な時間があったにも関わらず、それを言い争いに回してしまったのは痛すぎる。 もはや、いちかばちかの玉砕戦法より他に取るべき道がない――― 「ダメだよ……セイバーさん。」 だが、何とここに来てまだ自分を静止してくる魔導士。 流石の少女もげんなりとした表情を隠せない。 「ナノハ―――この期に及んでまだ貴方は!」 「違う……このままじゃダメなの。 さっきまでと同じ事をしてたら私達は勝てない あの人の戦術に飲み込まれて……二人ともここで終わる」 「―――――」 耳の端でなのはの言葉を聞いていたセイバーだったが その言葉に巨大な違和感を感じ、彼女は異論を挟まずにはいられなかった。 「ナノハ。あの男に戦術などありません」 「あるよ……凄い戦術 ううん、もしかしたら戦略レベルかも知れないほど。」 「いや……アーチャーの事なら私の方がよく知っている。 あの男の頭の中にあるのは愉悦と自己顕示欲だけです。」 「だからそれも戦術なんだよ………きっと」 「バカな……有り得ない。 何を言っている?」 「あの人も……本人も意識してやってるわけじゃないのかも知れない。 でも、それが結果的に戦略になっている。 本当の生まれ持った素養っていうんだろうね……こういうのを。」 敵が目前なのだ。 その男の一声でもはや自分たちは風前の灯火なのだ。 話をしている余裕など無い筈……… だというのに、セイバーは―――焦る気持ちと裏腹に魔導士の言葉に耳が離せない。 「勝つ人っていうのは勝つべくして勝ってる。 その行動には全て意味があるの…… 愉悦や自分を強大に見せる言動、そして挑発。 その全てが戦略だとしたら?」 「…………」 「セイバーさん。 貴方がさっきやられた事は戦略…… 貴方を先に潰そうと画策したあの人が最も効果的な手段を以って相対したに過ぎないの。 決して愉悦や、こっちをバカにしての行動っていう事だけじゃない。」 「―――――」 まるで意図の読めないパートナーの言動。 敵の行動を「戦略」として定義付けた、それが今――― 危険を冒してまで必要なやり取りだったのか? (あの男が―――英雄王が戦術? いや、それは無い………無い筈、) セイバーには分からない。 魔導士の断言にはまるで信憑性も無く、ギルガメッシュをよく知る騎士を納得させるには至らない。 だが、少女の思考に入り込んだなのはの言葉は彼女の心中でまるで予期せぬ効用をもたらした。 (物は言い様とは言うが………そういう見方も、あるのか?) 友の剣を愚弄され、未だ胸の奥に憤怒の残る騎士。 その敵のあまりにも無頼な行動。 しかし、それを戦略として置き換える事で―― まるで違った方面から見る事で――― セイバーの心の闇……その呪いじみた傷痕を抉られた怒りが和らぎ、冷静さを取り戻すきっかけとなっていたのだ。 (―――この女……) 黙って聞いていたギルガメッシュが微かながら驚嘆する。 それは高町なのはなりのパートナーに対する精神的なケアだった。 幾多のチームを組んでの任務を数多くこなして来た彼女にとっては ダメージを受けてズタズタになった仲間や部下の士気を回復する事もまた 教導官として部隊の隊長としての、彼女のスキルの一つであったのだ。 完膚なきまでに砕いた騎士王の魂が蘇っていく――― 今一度、アロンダイトを抜けば恐らくセイバーは容易く堕ちたであろう。 しかしてそんな陥落寸前の騎士王の精神に、魔導士は期せずして防波堤を張ったのだ。 心底でチッと舌打ちを漏らす英雄王。 口先三寸と言われればそれまでだが―――この人心掌握の術には少々驚かされた男である。 「雑種―――誰が我を評する事を許したか」 趨勢を見守っていたギルガメッシュがここで動く。 今までまるで眼中に無かった魔導士に少し興味が沸いたのだ。 「王を前にしてしゃあしゃあと――― その矮小な思考で我を計る事など不可能と未だ気づかぬか?」 「いい加減、その雑種っていうの……やめて欲しいんだけど?」 「雑種であろうが? 初手から貴様はそのみすぼらしい思考で我を計り、悉く己が秤の無能を痛感したのであろう? で、ありながら未だ懲りずに我を型に収めようと努めている。 その愚鈍さ―――雑種と言わずして何と呼ぶ?」 「そうだね。確かに上をいかれてる…… 正直、私のスキルではまだ貴方の力の天井が見えて来ない。 でも、それでも私はこういうやり方しか出来ないから……それにすがって戦うしかない。」 「笑止ッ! 自らの矮小を認め、反発すらせぬ者がこの英雄王と相対するとは!! 己が強大さを誇らずにどうして敵を圧滅出来ようか!? 雑種―――やはり貴様は我とセイバーの間に立つ資格などないわ!」 「力不足なのは否定しないよ…………でも」 世界を手中に収めた最古の王と高町なのはの舌戦が続く。 剣を構えたセイバーが固唾を呑んでその趨勢を見守る中―― 「貴方は案外、あっけなく堕とせそうな気がするよ」 なのはが爆弾を投下した。 全くの予備動作無しに――― (なっ!!??) 両者を仰げる位置で構えていたセイバーが思わず目を剥いてしまう。 先ほど身を以って味わったが――― このメイガスはおっとりとした態度から一転、いきなり剃刀のように切り込んで来る。 そのあまりの急襲っぷりに百戦錬磨のサーヴァントをして怯まずにはいられない。 「少なくとも私にとってはセイバーさんの方が何倍もやりにくかった。」 「ナノハッ! もういい! やめろッ!!」 明らかに踏み込みすぎ…! 王の常に余裕の笑みを微塵も崩すことの無かった顔から――― ―――― 表情が消えた ―――― 「――――――」 世界が凍りつくとはこういう事を言うのか。 シン、と静まり返った上空30mに位置する屋上にて――― 「―――――――ク、ククク」 心臓を握り潰すかのような殺気と共に、地の底から響くような恐ろしい笑い声が男の口から漏れ出る。 「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハ ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――――」 まるで堪え切れないといった風に男は笑い転げる。 その紅い瞳が裏返るほどに天を仰いで笑い転げる。 額に手を当てていつまでもいつまでも―― 「……………」 「っ、!!」 なのはが無言で、セイバーが戦慄を以って相対する中 その狂笑が――――ピタリと止まった。 瞬間、なのはがセイバーに向かって走り出す! 「ナ、ナノハ!」 「飛ぶよッ!!」 「――――端女が」 魔導士が騎士を抱き抱え、ドンッ!という地を蹴る音を残してその場を離陸する。 と同時に上空一杯に広がった刃の行列の一部が屋上に降り注ぐ! その屋外スペースが宝具の襲撃を受けて一瞬にして倒壊する中――― 白き翼が魔弾降り注ぐ屋上から飛び降り一気に急降下。 フルブーストで地面スレスレにまで高度を落とし、そのまま向かいの影に飛び込む。 重武装をケタ違いの推進力で飛ばすなのはのマニューバは暴れ馬に乗ってるのと対して違いが無い。 いきなり襲い来るGに翻弄され、顔をしかめていたセイバー。 騎乗スキルを持つ彼女をして驚かされる猛馬っぷりである。 「はぁ――――危なかったね…」 あまりにもあっけらかんとしている高町なのはの顔を見て 思わず「ガーッ!」と叫びたい衝動に駆られるセイバーである。 「な、何を考えているのです! あの状況であんな挑発をして… 殺してくれと言っている様なものだ!」 「はは……でも、ああしないと逃げるタイミング掴めなかったし」 ジト目でなのはを見上げていたセイバーだったが 流石にこの魔導士が何の計算もなく売り言葉に買い言葉であんな挑発をしたわけでない事くらい分かる。 ノーモーションで降り注ぐゲートオブバビロンに完全に囲まれていたあの現状。 射出を視認してからの回避では絶対に間に合わない。 恐らくは敢えて挑発して、その逃げるきっかけを作ったという事だろう。 「分かっていると思いますが――」 「そうだね……確かに本気を出されてたらタイミングも何もない。」 だがしかし、魔導士の自嘲気味な呟きこそ的を射たもの。 そう、相手の怒りを誘って何とかタイミングを計ったとはいえ――― もし本当に完璧に逆上させてしまい、上空の刃全てを降らされていたら………ゲームオーバーだった。 所詮、今の攻撃など男にとっては、無礼を働いた目の前の虫を癇癪紛れに払い飛ばしたくらいのニュアンスなのだろう。 「全く人に無茶をするなと言っておきながら 貴方の行動を見ていると心臓がいくつあっても足らない……」 「そうかな? これでも一応考えているんだけど……」 それにしても、今度は端女、か……」 呆れ顔のセイバーだが、そんな当の本人は逃げ掛けに放たれた男の言葉に対し 今頃、ショボンと肩を落として傷ついたような仕草を見せている。 鉄のように強靭だったり、いきなり萎れたり―――彼女の本質はどちらなのか判断に苦しむ騎士だった。 「あの男の言葉など気にしたら負けです。ナノハ」 「うん……いい加減、慣れてきた。 本当はもっと突っ込みたいんだけど、徐々に流してる自分が少し情けない…」 「いえ、流せるならばそれに越した事はありません」 「……………」 「……………」 ――――途切れる会話 元々は寡黙な二人だ。 無駄話に鼻を咲かせるタイプではない。 「―――――私は未だに慣れませんが」 そんな中、思わずポロリと本音が出るセイバー。 なのはが「あらら、」という顔で隣の騎士の横顔を見やる。 そこには年相当の少女の―――口を尖らせ、憮然としたふくれっ面があった。 両者の目と目が合った瞬間―― 二人はどちらからともなく笑みを漏らしていた。 クスクス、とも微笑とも取れない他愛ない笑い合い。 そんな場合ではないというのに、どうしてこんなにリラックスしているのか? 考えれば考えるほどについ可笑しくなってしまう。 「そろそろ……かな?」 ともあれ、なのはが一言―――確認の意を込めて呟いた。 セイバーもコクリと頷く。 「お気遣い感謝します。 戦闘に支障はありません。 流石に全快というわけにはいかないが……」 「………凄いね。 本当に回復してる」 この時間稼ぎで少しでも体力の回復が出来れば御の字だった。 ことにセイバーは時間が立てば立つほど、損傷した身体が本来の力を取り戻す。 敵が本気で攻めて来ないというのならこちらは精々、十分な反撃の態勢が整うまで――のらりくらりと敵の追撃をかわすだけの事だ。 「でも凄い回復力があるからって…… もうさっきみたいな無茶はしないでね。 約束。」 「肝に銘じます。 フフ……貴方を怒らせると後が怖いですから」 「もう………真面目な話だよ」 微笑交じりに返すセイバーと怒った素振りを見せるなのは。 まるで10年来の親友同士のようなやり取りだ。 ついぞ、会話の応酬を楽しんでしまう二人だったが―――こんな時間ももうすぐ終わる。 「ナノハ」 敵もこれ以上は待ってはくれないだろう。 反撃出来るだけの余力も整ってきた。 なら――――再び動き出すなら今! 「うん……」 次に戦闘に突入したらこんな風に言葉を交わす事は無いであろう。 だからこそ、これが騎士の最後の問いだった。 「―――――恐ろしくはないのですか?」 「…………」 同じ戦士に対して、礼儀を欠いた問いかけであったかも知れない。 だが、それでも騎士は問わずにはいられない。 自分を、そしてあの英雄王を相手にまるで物怖じしない彼女に対して。 サーヴァントを相手に2連戦――― 身も心も擦り切れて参ってしまっても不思議ではないのだ。 だというのに、この不屈の精神力は何なのか? 緑色の瞳に真剣な光を称え、白き魔導士の顔を見つめる騎士に対し、なのはも問い返す。 「セイバーさんは?」 「私ですか?」 「うん……」 「先程も言ったが……私は騎士です。 国を背負い民を救うと決めたその時から、戦い死ぬも定めと考えています。 この道を選び、剣を執った事に後悔は無いし、命が惜しいと思った事もない。」 何の迷いもなく答えるセイバー。 なのはが瞳の奥を覗き込むように騎士の目を見ている。 「―――とはいえ、誤解しないで欲しい。 いつ死んでも構わないというわけではないのだ。 私とて叶えたい願いがあり、守りたいものがあった――」 「……うん」 「それが自分が倒れる事によって潰えてしまう――― 我が後ろにいる者を守れなくなってしまう――― それを考えると……」 「……………うん」 感情の読めぬ目を称えて少女の顔を見ていたなのは。 「じゃあ、私と同じだね。 ふふ……同じだ同じだ♪」 その表情が―――柔らかな微笑を作る。 「白状すると………セイバーさんとあの人の前に立つの、少し恐かった。」 屈託のない、自分の腹の底を全てさらけ出すかのような笑顔でなのははセイバーに語る。 「自分がここで終わっちゃって、友達や大事な人達を悲しませる結果になるのはとても恐い。 自分のために泣いてくれる人が一人でもいるのなら、その命は自分だけのものじゃないから…」 自分が死ぬ事で大事な人の人生すら狂わせてしまう事もある。 そんな悲しい出来事を見てきたなのはだからこそ――― 「だからこそ自分が生き残るために最善を尽くすんだよ。 怖いから……何よりも死んでしまう事が怖いから。」 死にたくない。悲しませたくない。 だからこそ彼女は己を鍛え上げたのだ。 拷問に等しい鍛錬を己に課して、お世辞にも頑健とはいえぬ体を磨き上げたのだ。 恐怖に押し潰されて、不安に負けて、何も出来なくなる事のないように。 その根底―――決して折れないダイヤモンドの如き、彼女を最強足らしめる力。 それが「不屈」。 (彼女の言っている事は正しい―――) というより非の打ち所のない正論だった。 セイバーのみならず、戦場に出る者ならば誰しもが思い抱くこと。 だが、それを出来る者と出来ない者がいるからこそ―――戦場で人は死ぬ。 理性を総動員して抑え込んでも巨大な本能に負けてしまう。 そう、死に対する恐怖という本能に。 結果、恐慌に陥り冷静な判断が出来なくなる者や己が可愛さに敵に寝返る者が出てくる。 だからこそ時には味方を斬り、厳しい処罰を与えて、兵士の本能の暴走を縛り付けながら戦争における行軍は行われる。 しかし彼女は――その最も難しい事を当然のように出来るのだ。 戦いに対する心構えが半端ではない。 戦乱の世に生まれた者でさえここまで強固な意志を持つ者は稀であろう。 彼女は言った。 ―― 勝つ人間は勝つべくして勝っている ―― その言葉を他ならぬ、この魔導士自身が一番体現している。 彼女と相対した際の攻めても攻めても突き崩せないあの感覚。 打破したと思った瞬間に巻き返されている、人外の粘り強さ。 手強いはずだ……抗ってくるはずだ…… 当たり前の事を当たり前のようにやって勝つ。 それこそがこのメイガス――高町なのはの強さの秘密だったのだから。 セイバーの胸にふつふつと熱い何かがこみ上げてくる。 目の前の魔導士が垣間見せた勇気の心――レイジングハート。 戦いに生きる者で相棒にこれだけの物を示されて魂が震えぬ者はいない。 万夫不当の英雄王を相手にしているのだ。 未だ事態は全く好転していないのだ。 だというのに………今、自分は―――― ――― まるで負ける気がしない ――― (恥すべき事だ………) 顔を伏せるセイバー。 味方に勝利をもたらす剣。主を守護するサーヴァント。 その力を以って自陣を鼓舞し、勝利の風を呼び込むのは本来自分の役目のはずだった。 だのにこれではまるで立場があべこべではないか? 「――――貴方が敵のマスターでなくてよかった」 「え?」 「何でもありません」 小さな声でボソリと―――少女は今、心の底から感じている事を吐露する。 もしこの魔術師が敵のサーヴァントを従えて眼前に立ち塞がったなら、自分は果たして士郎を勝たせる事が出来ただろうか? その心情は即ち、セイバーがこの高町なのはという人物に対して最上級の評価を持ったということだ。 信に足るどころではない。 このメイガスは己が剣を任せられる器――― 「ナノハ。 今一度―――私に考えがあります」 「うん………聞く。」 屋上で言いそびれた、その決意と共に紡いだ作戦を再度なのはに進言しようとするセイバー。 なのはも今度は少女の言葉を阻まない。 阻む理由は既にない。 それは騎士の瞳に強い――先の戦いで自分を射抜いたあの力強い眼光が再び輝いていたから。 高町なのはを圧倒した騎士王セイバーが蘇っていたから。 「聖剣を―――使います」 しかして少女のその口が、鈴のような声が――― 次の攻撃に………己が全てを出し尽くす事を、ここに誓ったのだった。 ―――――― ―――――男は神代の時代を生きた王である 人間の父と女神の母を持つ彼は、神魔や幻想種の跋扈する世界にて暴君として君臨した最強の英雄だった。 故に英傑や人知を超えた力などは見飽きている。 ほんの少し人間離れした程度の力やそれを持つ者など、そこらの雑種と何ら変わりはない。 だから今、剣の英霊の周囲に纏わりつく目障りな魔術師――― あの程度のちっぽけな力で自分の前に立つ事。それ自体が不遜と断ずる思考には未だ些かの陰りもない。 「――――安いな」 プライドの高い男である。 先程の無礼に対し、突発的とはいえ怒りの感情を見せてしまった。 些かとはいえ心胆を揺るがされた事自体が失態――― だが、彼の口調の微妙な変化。 高町なのはを「雑種」でなく「端女」と呼び変えた事に果たして何の意味があったのであろう? 「――――あの端女はどうした? セイバー」 先程の宝具斉射によって崩壊した屋上から降り、見晴らしの良い交差点にて佇む英雄王の前に――― たった今、姿を現したのは騎士セイバーただ一人であった。 「袂を別った。 アーチャー……貴方との決着をつけるのに――― もはやあのメイガスは邪魔でしかない。」 きっぱりと言い放つ騎士王。 邪魔な者は捨ててきた……存分に剣を交えようというその顔に―――迷いは無い。 「相変わらず虚言の弄せぬ女よな――」 だが、それを受けて含み笑いを漏らすギルガメッシュ。 義や侠に何よりも重きを置く騎士である。 その鏡たるセイバーの、パートナーに対する無体な言葉はあからさまに不自然。 この騎士は味方に対しては勿論、たとえ敵でも―――その誇りを汚すような事は言わない。 「……ナノハの事は眼中にないのではなかったのか?」 「それは未だ変わらぬが、なに……我を前にあそこまで繰言を吐いたのだ。 お前の従女を務める程度の才くらいは認めてやっても良いかと思ってな。 アレは―――――なかなかに変種よ。」 男は王である。 生誕した頃より世界の頂点に立つ存在である事はもはや宿命。 100億を超える雑種どもの恐れ、妬み、崇拝を一身に受ける存在。 「珍種と言っても良いか……力こそ有象無象だが 稀に、万人に一人の割合で生まれ出づるものなのだ。 王を前にして何故、平伏するのかも解さぬ、生まれながらの痴れ者がな。」 自分と対等、もしくはそれに髄する力を持っているわけでもない。 こちらに生殺与奪を握られる程の実力差でありながら、まさに神に比する力を持つ自分を前にして――― 恐れもなければ気負いも無く、市井の者同士が他愛のない会話をするかの如く接してきた者は男の記憶をまさぐってなお例がない。 あの女の心は確実にどこかがおかしい。 人間の感受性を司る大事な部分がコワれていると言っても過言ではないだろう。 だからこそ王の中では「雑種」でなく「端女」――― これはある意味、ギルガメッシュの中でランクが少し上がった事になるのだが……それをなのはに喜べというのも酷な話であろう。 「さて―――」 だが、そのような心境の変化こそ些細なものだ。 関心の外にあったモノがたまたま思いの外の変り種だった。 男にとってはただ、それだけの事――― やはりこの男の最大の関心は騎士王。求めるべきはセイバーのみ。 時は再び動き出す。 サーヴァントの自然治癒能力で動けるほどには回復している騎士の少女。 しかし英雄王の攻撃に晒され続けた肉体の損傷はそんなに安くはない。 今の彼女の有様はまるで血化粧を施されたかのような酷いものであった。 白銀の後光を纏いし闘神。彼女が駆けてきた戦場にて敵の刃は―――その御身体に触れる事すら出来なかったというのに…… 「しかしつくづく――――みすぼらしい姿よな。 まるでどこぞの捨てられた犬ではないか?」 戦いで負った傷を誇るなど弱者の愉悦。 強者は常に一傷も負わずに勝つが常。 傷だらけで掴み取る勝利……泥臭さの中にある強さなど男には永遠に理解出来ない。 「だが、お前はそれでも別だセイバー。 貴様は孤高の花よ。 傷つけば傷つくほど、失えば失うほどに、濡れた花弁は月光の如き美しさを醸し出す。 心得よアーサー王―――お前はその身一つで立っている時がもっとも強い光を放っているのだ。」 「………これより先」 「―――、!」 「言葉は意味を為さない。 我らの邂逅の結末――― 全てはこの剣にて語ろう……英雄王よ。」 ギルガメッシュの紅い瞳が見開かれる。 それは脅威によるものか、はたまた歓喜か―― 完膚なきまでに打ちのめしたはずの彼女の気勢が充実しているのが分かる。 その戦意が、覚悟が漲っているのが分かる。 「――ならば、もはや何も言うまい」 ―――煽る必要もなくなった 今のセイバーには間違いなく、かつての輝きが戻りつつあるのだから。 「出番だエア」 その輝きを今一度、完膚なきまでに叩き潰し、我が眼前に這い蹲らせる事。 これこそ英雄王が求めていたカタチ。 故に――――男はその宝物蔵から一本の剣を取り出した 古今の英雄が持つあらゆる宝具。 その原典を持つ英雄王ギルガメッシュ。 だが今、彼が手にしている一本こそ―――世界を統べる王にのみ許された彼だけの一振り。 其はあらゆる死の国の原典と言われし 生命の記憶の原初にして真実を識るもの 天地が創造される以前、星があらゆる生命の存在を許さなかった初まりの姿 それは紛れもない地獄というべき世界であった 世界の真実を識り、何者も存在する事の出来ない地獄を具現化させるものこそ、、 ―――乖離剣・エア ―――最強の想念すらも容易く打ち消す、この世ならざる世界より齎された覇王の剣 「ッ、――――――」 男の正面にて構えるセイバーの身体が青白い光に包まれる! 彼女が己が全てを宝具に注いでいるのが分かる。 まるで恒星が生まれ出ずるかのような熱気が伝わってくる。 幾多の人々の想念を背負った騎士王と聖剣が―――全てを解放しようとしている! そしてあの光を、セイバーの輝きを認めた男だからこそ それを上回る力を示して勝たねば意味がないのだ! 故に聖剣エクスカリバーにはエアを――― それはセイバーに対しギルガメッシュが交わす約束事のようなもの! 「はああああァァァァァァァッッッッ!!!」 剣を中央で構えたセイバーが己が肉体から絞り出すような咆哮を上げた! 「ク、―――」 対して男が嘲う。 その胸の中が踊るのが分かる。 そう、それこそがギルガメッシュをして震撼させ得る数少ない存在の一つ。 全てを薙ぎ払う最強の光。 フィールドの上空まで貫く黄金の柱と共に――― 騎士王の約束された勝利の剣がその姿を現したのである! ―――――― (これがセイバーさんの本気……!) その全身に鳥肌が立つ。 背中に冷たい汗が滲み出ているのが分かる。 自分の切り札―――集束砲と激突した先程のそれと比べて、なお巨大! あまりにもケタ外れの魔力の奔流。 恒星と見紛うばかりのエネルギー。 アレに拮抗するのにどれだけのカートリッジを次ぎ込めばいいのだろう…? (こんなモノを一方的に打ち消す………? 有り得ない…) そして―――少女の言葉がなのはの脳裏に蘇る…… ――― 聖剣を使います ――― 先程、騎士から高町なのはにもたらされた事実。 かぶりを振ってそれを否定したい気持ちに駆られてしまう魔導士である。 ナノハ……聞いて欲しい 私は聖剣を放つ しかしそれでは―――恐らく勝てないでしょう 先ほどの貴方の見解は非常に面白く、興味も惹かれましたが もしアーチャーがただ勝つために戦略を立てるのなら…… 今までの過程――ここまでの拮抗は成り立っていない 僅か一振りで――― 全てが終わっていたのです (……………) なのはの顔に深い苦渋が刻まれていた。 絶望に絶望を上乗せされた心境だ。 だからこそ………セイバーは今まで聖剣を出さなかったのだ。 相手が愉悦に浸り遊んでいるその間隙を縫って勝負を決めてしまいたかったのだ。 彼は未だ、その恐るべき切り札を出していない…… 乖離剣エア――――― 我が聖剣を遥かに上回る出力を秘めた宝具こそ奴の切り札 それを今まで使わなかったのは…… あの男の愉悦、慢心――何よりその自尊心に重きを置いたが故の事でしょう 王としての己を象徴する唯一無二の宝具 それを自分の認めた相手以外に、相応しいもの以外に振るう事こそ拭えぬ恥と断ずる男です そして奴の認めるものの中に辛うじて入っているのが我が聖剣エクスカリバー 故に我が全霊の一撃に対して奴は必ずその切り札を出してくる 敵の注意は全て私に向き、エア発動時はゲートオブバビロンの斉射も無い つまりは完全無防備状態 ――― 最高の囮 ――― その無防備な相手の腹を、貴方の一撃で撃ち抜いて欲しい――― 「…………セイバーさん」 それはどう考えても危険極まりない作戦だった。 一方的に打ち負けるという事はその力の奔流をモロに受けるという事。 当然、顔色を変えて難色を示したなのはだったが―――戦意に満ち溢れた顔でセイバーは答える。 ―――――― 「おかしな事を言う…… 貴方とて先程、我が身を呈して英雄王と打ち合ったではありませんか? あれには大概、肝を冷やしたものです。」 「でも、あれとこれとでは危険の度合いのケタが違うよ……」 「ナノハ。 先程、私は飛び出して間に入りたい身体を必死に抑え、機を待った。 全ては貴方を信じたが故に―――ならば、今度は貴方が私を信じて欲しい。」 「っ…………」 「大丈夫です。 さっきの話ではないが―――私とて命は惜しい。 勝算の無い事はしません……この剣に賭けて誓う。」 ―――――― ――― 私は死なない……ですから ――― 相手の案を跳ねつけるだけの要素―――― 今の戦況を引っくり返す力も代案も示せない自分が、それを否定する権利など持ち合わせる筈がない。 (…………何も、言えなかった…) だからこそ今は自分に出来る事をやるしかない。 騎士に報いるためにも失敗は絶対に許されない。 なのはの位置する上空――― その凱下にて翻っていた強大な柱。 セイバーの放っていた魔力と聖剣の光。 その力が………消える。 否、立ち消えたように見えるほどに流麗に――両手に構えた剣に全てが集約される! (…………来る!) なのはの体に緊張が走る! セイバーの儀礼のように体の中央で構えた剣――それがブルッと震える! 否、震えたのはセイバーの身体!!! 全身の筋肉を蠕動させるように剣を下段に構えなおし、その勢いで一気に肩口上段に振り上げる! 黄金の剣閃がその軌道を縫って騎士の体に纏わり付く! それは凄絶にして華麗な光の剣舞のよう!! コンマ一秒にも満たぬその初動から最上段に振り上げられた聖剣。 ―――その収束された光が今……! 「エクスッッ…………!!」 約束された勝利の剣――― 騎士王セイバーの渾身の一撃が――― 「……カリバァァァァッッッ!!!!!!」 ―――――放たれる!!! ―――――― その場を凝視していた高町なのはの視界が次元違いの光彩を目に入れてしまい、危うく目を潰されそうになる。 (す、凄いッッ!!) 闇夜に輝く黄金の太陽。 直視すればするほどにそれは網膜を焼き、彼女の目の端から涙を滲ませる。 だが眼を瞑るわけにはいかない――― その瞬間を見逃すわけにはいかない―――! 彼女はラストショットを任された狙撃主。 なのはの砲撃に勝敗の全てがかかっているのだ。 己が運命を託してくれた騎士の信頼に答えるためにも―― (絶対に決めてみせる!) 心の中で猛る高町なのはの集中力が研ぎ澄まされていく! ―――――― 太陽の如き剣閃を前にした英雄王。 男の切り札はそんな恒星じみた出力を誇るセイバーの聖剣をも上回る―― ――――歪な円柱状の剣であった…… 既にその剣は起動を開始。 連なった円柱が何か巨大なうねりを思わせる濁音を響かせながら回転を始める。 音と共に集まっていくのは――― ――― 赤き倶風 ――― 男の右手から赤黒い鈍色の風が吹き荒ぶ。 螺旋状に天高く伸びたそれは、セイバーの魔力を黄金の柱とするならば――まるで巨大な竜巻の如し! 「エヌマ―――――」 まるで荒れ狂う嵐を模倣したかのような力は 右手を中心に起こる、全てを虚空へ吹き飛ばす暴風! そんな竜巻の如き力を――― 「―――――エリシュ!」 男は前方に開放!!!! 迫り来る光の束に向かって咆哮一閃! 横薙ぎの軌道にて力の限りに叩きつける!!!! ―――――― 「今ッッ! レイジングハート!!!!」 そして―――そしてここが全ての分岐点! 選ぶ時。 勝利か敗北か。 生か死か。 地上にてその姿を現す黄金の柱と赤き竜巻。 それを受けて夜空にも――巨大な星の光が現れる! エースオブエースが動いた! 桃色の魔力を放出し、彼女は世界に呼びかける! 周囲に散った魔力の残滓がざわめき、号令の元に集う。 夜空にたゆたう雲がまるで彼女から逃げていくかのように散っていく。 目を閉じ、瞑想に入る高町なのは。 全てを託された一撃……ここで放つ技はただ一つ。 彼女最大の砲撃魔法――― ――― スターライトブレイカー ――― 明星を思わせる輝きを放ち、夜空を照らしながら――― エースの名を冠する魔導士が放つのは集束砲によるブレイクシュート! 膨大な魔力を秘めた三者の力が翻り――― その日、世界は……三つに割れた――― ―――――― 地上――――まず初めに激突するは光の剣閃と赤き竜巻。 騎士王と英雄王。 その二人が立つ中央にて、エクスカリバーとエヌマエリシュが衝突したのだ! ―――――、!!と、音に表現すら出来ない、この世の果てまで届き兼ねない炸裂音。 閃光は夜空一面をまるで太陽のように照らす。 中央でぶつかった力と力の奔流の力場は もはやどの次元世界のあらゆる計測器を以ってしても測定不可能の域だろう。 その熱量、エネルギーが辺りにあるビル。地面。雑木。 全ての有象無象のオブジェを溶かし、吹き飛ばしていく。 「ぐ、うぅ――――ッッ……!!」 「―――――ク、」 だが、互いに神域にある攻撃ながら 放った両者のそれは互角の拮抗とは程遠いもの。 (そんな……こんなに差があるなんて…) 集束砲のチャージを開始したなのはの表情が呆然とする。 この奇襲―――相手に気づかれてしまえば全てが台無し。 敵が警戒する剣は一つでなければならない。 恐らくあの相手は魔導士がエクスカリバーに匹する武器をその身に秘めている事など思いもしないであろう。 故にチャージ開始は英雄王がその全力の一撃を放った直後しかない。 気づかれればこの打ち合いは成立しない――― 上空の異変を感じ取った英雄王によるバビロンの一斉射で二人とも串刺しになるだけだ。 だからこそベストのタイミングで集束砲のスタートを切った高町なのは。 しかし―――眼下に展開する聖剣と乖離剣……その拮抗が崩れるのが、あまりにも早すぎる! (頑張って……セイバーさん!!) 先の戦いで一度撃ってしまった集束砲は一度目に比して、集められる魔力は確実に減少しているだろう。 チャージ時間も10秒フル稼動というわけにはいかない。 そして赤き魔風はみるみるうちにセイバーに迫りつつある。 ここからでは騎士の表情は見えないが、自分を信じて……その援護を待っているはずだ。 だからこそ、全ての力を今ここに―――― 「レイジングハート! 先行発射!! 命中と同時に全力全開ッ!!!」 詠唱を中途でカットし、なのはがこの時点で集束させた魔力を眼前に掲げてレイジングハートの砲身にセットした! そして己が最強の魔法の射出体勢に入る! 男の放つ竜巻が光の剣を打ち消しつつある! もはやセイバーが飲み込まれるのに一刻の猶予も無い! 「モード・リリースの準備……!」 Master... 「これしか無い……足りない分はブーストとカートリッジで上乗せするしか… ここで決めなきゃ全部、無駄になっちゃうッ!」 高町なのはが自らに科した安全弁を開放。 限界突破・ブラスターモードの使用を決意する。 ブラスターモード―――― 謂わずと知れた高町なのはの最終決戦形態。 魔力回路を自己ブーストさせる事によって通常を遥かに超えた高出力を叩き出す。 瞬間的に叩き出されるその出力はカートリッジの併用と合わせて2倍、3倍にも膨れ上がると言われる規格外のバーストモード。 だがしかし……ブーストとは、そのエネルギー流通の圧縮比を高める事によって無理やり出力を高める行為。 故に他の全ての機能――― 耐久力。フレーム。精密度etcを犠牲にする諸刃の剣。 それを人体で行うという事がどういう事なのか……想像に難くないであろう。 まさに一撃必殺の威力と引き換えに命そのものを削ってしまう玉砕戦法。 それがブラスターモードなのだ。 当然、これは最後の切り札であり使いどころが極めて難しい 格下の相手、防戦に徹する相手を一気に攻め落とす場合―― 決められた作戦時間内で、残り時間を考慮して一気に捻じ込む場合―― 前衛がいる状態での一発のブレイクシュート限定という条件での使用―― それらに反して、このオーバードライブ。 最も使用が困難な状況が―――格上の相手を前にした場合だ。 短時間しか持たない決戦モードを遥かに力の上回る相手に使う。 力の上限すら計れない埒外の相手に使用する。 これはハイリスクどころの話ではない。 どれだけの攻撃を叩き込めば相手が沈むのか見当もつかない状態でモードリリースした場合―― 相手を倒し切れずに己の全てを使い果たしてオーバーヒートなどしたら目も当てられない。 もはや歩く事すらままならないその肉体を相手に晒す事になるのだ。 だからこそこの戦い、高機動力のエクシードモードに終始し ブラスターの使用の機会を虎視眈々と伺いながらも一線を越える事をどこかで躊躇ってきたなのは。 自分より強い敵を相手に余力を残したまま敗北したなど笑い話にもならない。 どこかで……どこかで使う必要があった。 戦局を左右する場面で、不利な状況を一気にまくるために――― (セイバーさん……今、助けるから持ち堪えてッ!!) ―――――それは今まさにここ!!! 騎士の体が赤き奔流に飲み込まれて消えようとしている! 全ての工程をカットし―――今、魔導士が手に集めた巨大な力の塊を放つ! 「スターライトォォォ……ブレイカァァァーーーーッ!!!」 猛き黄金の剣閃が相手の暴風によって全てを打ち消され セイバーの白銀の肢体が上空高くに跳ね上げられる―――と同時 巨大な星の破光が、雲を突き抜け、英雄王の頭上に一片の容赦なく――― 降り注いでいた!! ―――――― ………………… ―――辺り一面が暗闇に染まっている ―――赤と黒に支配された景色 ―――黒は暗闇 その眼に血液が回っていない事の証拠――― ―――赤は血の赤 体内の毛細血管の破裂に次ぐ破裂によるレッドアウトの証――― 損傷に次ぐ損傷…… 手足がビクン、と小刻みに痙攣を繰り返す。 エアによって巻き上げられたその身体は、いくばくかの回復をしていた少女の体力を再び削り取り 彼女は今、完全な戦闘不能状態へと落ち込んでいた。 その命とも言うべき剣士の利き腕が千切れる寸前にまで裂けている。 魔風と激突し、撃ち負けた――それが代償だった。 横たわる大地に血だまりを作る。 指一本動かせずに横たわる身体の、視線だけが辛うじて動く。 その目を左右に動かして――今の状況を懸命にを認識しようとする。 かくしてその目に―――白い法衣 パートナーの白い背中を辛うじて認める事が出来た。 「ナ、ノハ……」 ヒュ、ヒュ、という苦しげな呼吸音と共に 少女は消え入りそうな声を懸命に搾り出し――ー 「やった、の……ですか―――?」 その背中に答えを求めていた。 だが――――――魔導士は答えなかった…… その背中が、小刻みに震えている。 騎士からは見えなかったが、その腕も、足も、抑えきれない感情で全身を震わせている。 そう、魔道士は少女に対して背中を向けている。 一刻も早く介抱しなければならない重傷を負った少女に対してである。 それは一体、何を意味するのか? 言うまでもない。 それはつまり……自分ではない誰かと対峙しているという事。 傷つき動けない自分を守るために、その身体を盾に、誰かと向き合っているという事。 答えは―――考えるまでも無い事だった……… ―――――― 「………、めん…」 魔導士の声が嗚咽に震える。 「………ご、めん……取り返し、つかない…」 悔しさから、不甲斐無さから、血が滲むほどに唇を噛み締め 謝罪の言葉を繰り返し紡ぐ高町なのは。 (――――ダメ、だったのか…) 騎士が首だけを何とか動かす。 それすらも今の少女には重労働。 その目に何事も無く悠然と佇む黄金の鎧を認めて―― この戦いが、自分達の敗北に終わった事を知る…… 身を引き裂いてしまいたい程の後悔に震える高町なのは。 エースとして絶対に失敗出来ない場面での痛恨のミスショット。 結果として言うと―――彼女はブラスターモードを使っていない。 ……使えなかったのだ。 スターライトブレイカー射出時、ブラスター起動&発射の工程を辿るにはエアとエクスカリバーの拮抗が短すぎた。 故に咄嗟の判断で、命中後の「上乗せ」という形で全ての力をぶつけるという選択をしたなのは。 その結果―――エヌマエリシュの魔風が前方のセイバーを巻き上げ、払い飛ばした直後 ギルガメッシュは横一文字の薙ぎ払いの勢いを殺さぬフォームでその遠心力のままに後方に180度向き直り―― エアを上空から降り注ぐ巨大な集束砲に横殴りに叩きつけたのだ!!! 「――――ぬううぅぅあッッッッッ!!!」 英雄王が吼えた! 世界に君臨する傲岸不遜な王の猛り! 世界を掌中に収めた魔人の如き男の紛れも無い本気の咆哮! 「直撃させてから上乗せ」という高町なのはの選択――― その上乗せする時間を……男は微塵も許さなかった。 まるで空間を削り取るかのような、横一閃に薙ぎ払ったエアの切り払いが一瞬で真っ二つに切り裂いていたのだ。 なのはの最終奥義を。 あのスターライトブレイカーを……… ―――――― 足りなかったというのか――― 条件的に10全のものとは程遠いとはいえ、SLBが一瞬の拮抗すら許さず掻き消される――― そこまでの埒外の展開をも視野に入れなければならなかったというのか…? どうすればよかったのか…? セイバーが完全に吹き飛ばされるのを承知の上でブラスター3を開放→発射の工程を取るべきだったのか? 否、それでは意味が無い。 切り札を発動させている相手の腹に打ち込んでこそ意味があったのだ。 あれ以上遅かったら、こちらが打つ前に体制を立て直した男の宝具射出によって なのはは確実に仕留められていただろう。 ならば、セイバーとギルガメッシュが対峙していた時に既にブラスター状態にしておけばよかったのか? 限界突破のリスクを考えた保険と、命中しなかった場合の事を考えた対処が裏目に出たのか? こうすれば、ああすれば、という考えがなのはの頭の中にまるで泡のように沸いては消える。 だが、もはやそれも無駄な思考。 「せめて全て、出し尽くしていれば……」 彼女の臨界を越えた臨界域にて放たれた星光で砕けぬものなど無い筈――― 故にこれは全て自分の責任だ。 ブラスター3を出し切れなかった自分の未熟。 全力全開で撃っておけばここまで容易く斬り払われる事は無かったかもしれない。 後悔してもし尽くせない魔導士の嗚咽の言葉。 この失態を償えるのなら何でもする、という悲痛な表情。 だが、もう――― 「――――――端女よ」 その時、苦渋の極みにあった高町なのはに声をかけたのは意外にも英雄王であった。 「気に病む事はない。もはやあの時点で貴様がどうあろうと結果は変わらぬ。」 むしろ咎があるとすれば………お前だセイバー」 魔導士と、息も絶え絶えな騎士にかけられる王の言葉。 「……どういう、ことだ?」 「セイバーさん……動いちゃ駄目…」 セイバーがその体を起こそうとし、苦痛に顔を歪める。 どうやら敵は今すぐにこちらに止めを刺す気はない――― そう悟った魔導士が、後ろ手に庇った少女の身体を介抱する。 「お前の咎だと言ったのだセイバー。 最大の敗因は―――この我を倒そうなどと思いあがった事だが…… 何にせよ欲張りすぎたのだ貴様らは。 今ので我を打破せんと姑息な策に頼り、力を分散させた。」 王の独演が続く。 その表情が侮蔑に染まっていた。 愚かに過ぎる、と。 話にもならない、と。 「お前の聖剣とそこの端女の魔術……同方向から束ねて撃っていれば相殺は成っていたやも知れん。 被害は二人揃って無様に宙を舞う程度で済んだのだ。 少なくとも この最悪の結果 にはならなかったであろうな――」 否、男の怒りは別のところにあった。 それはセイバーが聖剣を囮に使った事―― 二人の決着の場にて、こともあろうに自らの剣でなく他者を頼りにしていたという事。 もっともどの道、聖剣はエアに打ち消されていたのだからその怒りは男のエゴ以外の何者でもないのだが。 「セイバー……まさかとは思うが――」 だが男は言葉を続ける。 責めるように。 敗者を踏みにじるように―― 「いつぞやお前に撃ったあれが―――エヌマ・エリシュだとでも思ったか?」 「――――」 ……………………… 己の期待を裏切り、惨めに這う騎士王に止めの言葉を放つ。 「呆けるなセイバー。 今一度問う――― あの時のアレが我の本気とでも思ったか、と聞いている。」 「―――――、え?」 ……………………… ――――――その場を支配する静寂。 男の言葉の意味が分からず、その真意が理解できず、唖然とするセイバー。 「な、何を、何を言って―――ぐっ……」 咽ぶ様に言葉を出しかけて、ゲホッと咳き込む少女。 その口からの大量の吐血。 「喋っちゃダメ!!」 支えているなのはが青ざめる。 だがしかし、少女は止まらない。 「バカな………有り得ない! 貴様はあの時、確かに言った筈だ! 本気で撃ったと……手加減するべきだったと……」 肺から漏れ出る苦しげな呼吸は折れた骨が内部を傷つけているのだろう。 そんな状態で少女は、精一杯の反論を男にぶつける。 対してギルガメッシュが首を傾げた。 何のことか?と記憶をまさぐるような表情を作った後――― 「ああ、あれか」 まるで些細な事だと言わんばかりの表情で―― 「あれは慈悲だ」 騎士王を奈落に突き落とす最後の一言を吐き捨てたのだ。 ―――――― 「な、んだと……」 「背負ったのであろう? 全ての民の期待を。騎士どもの羨望を。国という重圧を。 その健気な想いをアリの如く踏み躙る…… 流石の我とてそれは躊躇われた―――それだけの事よ」 セイバーの表情が完全に凍りついた。 あまりにも信じたくない、己の根底を揺さぶる事実。 「――――バカな……そんな…バカ、な」 「何を驚く? お前は我の后となる女ぞ。 その女が我の賜り物として築いてきた輝き―― 全てを完膚なきまでに打ち砕くほど我は鬼畜ではないのだぞ?」 ワナワナと震える少女の体。 確かに乖離剣エアはエクスカリバーより上位に位置する存在だ。 それはセイバー自身も納得していた。 だが、それでも―――聖剣の担い手としての誇りを支えるギリギリの譲歩というものがあった。 あの邂逅は互いに全力で撃った勝負においての結果……そう信じて疑っていなかった 己が身を体現する最強の聖剣。 全幅の信頼をかけている約束された勝利の剣が――― ――― まさか赤子の手を捻るように返されていたなどと ――― 彼女が受け入れられる筈が無かったのだ。 もはや完全に動けないその身。 そして虚ろな目で、屈辱に耐えるより他にないセイバー。 それを見下ろすギルガメッシュの低いくぐもった笑いが 少女の耳にいつまでも張り付いていたのだった。 ―――――― この時、ギルガメッシュは真実を語らなかった――― それがセイバーを完全に打ちのめすためのものだったのかは定かではないが…… エクスカリバーとエアの激突―――その真実。 かつての激突の際、男は手加減したと言い放ったが――それは少し違う。 やはり本気で撃っていたのだ。 ギルガメッシュはエアの最大出力―― エヌマエリシュを確かに発動させ、セイバーの聖剣と激突させた。 結果は此度のそれと全く同じ。 セイバーは相殺適わずその身を魔風に舞い上げられ、完全な敗北を喫する事となった。 だが、そこに互いの大きな齟齬があった。 結果、あまりにも強大な覇王剣の力に驚愕するしかないセイバー。 それに対し、英雄王もまた……嘲笑ながらに密かに戦慄を感じていた。 何故なら―――セイバーは「相殺」には成功していたのだから。 ――― 即ち「エヌマ・エリシュ」の相殺を ――― 吹き荒れる魔風のほとんどを黄金の剣閃で薙ぎ払い「それ」の発生を止め エアが放出した暴風による破壊「のみ」で留めた。 それはセイバー本人の与り知らぬ大きな快挙。 負傷したとはいえ、エアの最大出力の大半を止めたのだから――― エアがその比肩せぬ威力を示したように、エクスカリバーもまた…… 人類最強の聖剣の名に恥じぬ力を証明していたのだ。 故に今回、男が満を持して放ったエアの最大出力は英雄王の全力「以上」のものだった。 その時、ギルガメッシュの所持する宝物蔵の内部にて20を超える宝具が起動していた。 それは英雄王の身体能力を高め、属性付加、地形効果を最大限まで引き上げる。 つまりは――宝具のバックアップによる威力の上乗せ。 それに対し、傷つき万全に程遠いセイバーの聖剣の一撃がかち合った。 その結果が前回と違うのはむしろ自明の理であったのだ。 それを英雄王が語る事はなく、知るものもいない今 この場を支配するのは聖剣、そして集束砲の圧倒的敗北―――その事実のみ そして……英雄王の言う最大の咎。 それはエアを過小評価した事。 何としても相殺するべきだったという事。 その「風」が全てを切り裂く前に――― 今、最も重要な事実 ――― 此度は相殺できなかったという事 ――― その事による最悪の未来は――むしろこれから……… ―――――― 「なに。気落ちする事はないぞセイバー。 我はお前を認めている―――故に見せるのだ。 エヌマ・エリシュ………天地乖離す開闢の星を!」 まるで自由の利かない身体であっても彼女はその剣だけは離さなかった。 幾多の戦いを共に乗り切ってきた聖剣の柄を―――今ある精一杯の握力で握り締めるセイバー。 その行動……介抱するなのはの腕にも彼女の無念と悔しさが伝わってくる。 その瓦解しかかる精神と肉体を何とか保たせているのは、横で支えている魔導士―― なのはに自身の無様な姿を見せて心配をさせたくないという騎士の誇りと意地のみ。 だが、今―――英霊二人のやり取りを聞いていた高町なのはは全く違う光景……別の思考に至っていた。 確かにラストショットを達成出来なかったショックは未だに残っている。 だが、そんなものにいつまでも苛まれているエースではない。 それよりも気になる事が多すぎて立ち直らざるを得なかったというのもある。 まず、相手がこちらの戦術を愚策と断じた件――― 言うまでも無く、これが実質最後の攻撃だった。 だからこそセイバーは己を犠牲にして死力を尽くして相手の隙を作ろうとしたのだ。 その攻防で―――敵を撃ち抜こうとした選択が間違っているとは思えない。 たとえ同方向から束ねて撃ったとしてもあの相手の出力――とてもあの男を倒し切れたとは思えない。 エアを完璧に相殺したとして、撃ち合いで力尽きた二人は余力を残した敵になぶり殺しにされていただろう。 ならば、今の状況はまだマシなのではないか? だのにこの相手は………今、騎士が受けたダメージを「二人して受けていた方がまだマシだった」と言っている。 何かおかしい 何か変だ その相手の態度。言葉の端々。 そしてそれに伴う違和感。 男の発した「最悪の結果」という言葉。 (これは最悪の結果……これが…) 今の攻撃は自分達の実質、ラストチャンスだった。 なのに相手に――何の傷も与えられなかった。 だが、それにしても相手のこの余裕は何だろう…? (エヌマ…エリシュを見せる? 「見せた」ではなく?) なのはに、その言葉の意味の全ては分からないが そのニュアンスから何かが違う事だけは分かる。 ―――そして目の前の男の背後に、もはや居並ぶ刃の群は無かった。 全てをしまい込んで既に終わったかのような姿勢を見せている。 (まだ、私達に止めも刺していないのに…?) ―――隙だらけなのだ。 まるで警戒心を解き、無防備でその身を晒している英雄王。 それは今、なのはがデバイスを男の胸に突き立てようと踏み込めば あっさりとそれが成ってしまうのではないか?という錯覚すら起こさせた。 だが今、なのはは安易に踏み込む事が出来ない…… その目を釘付けにしているのは、英雄王の横に払った剣閃。 その軌道によって描かれた――― ―――― 線 ―――― その異様な光景――――― 三次元で構成された世界は全ての物体が縦幅、横幅、奥行きによって形成される。 だから厳密に言えば「線」という概念はこの世界には存在しない。 だというのなら……今眼前にある 世界にラクガキをしたかのような「線」は何なのか? あの帯状に見えるモノは何を意味する?―――― スターライトブレイカーを切り裂かれた光景を、なのはは脳内で巻き戻し、再生する。 自分の砲撃を切り裂いたモノはセイバーの聖剣を薙ぎ払った風とは明らかに別のモノだった。 まるで空間ごと裂いたかのような剣閃にて自分の砲撃は、拮抗すら出来ずに真っ二つにされたのだ。 それこそ今、目の前にたゆたう帯状の切り口にその魔力ごと切り分けられたかのように――― 「セイバー、さん……」 「…………」 なのはが掠れる声でセイバーに声をかける。 が、混乱した思考のままに発した声がセイバーの耳に届く事はなかった。 「大儀である―――セイバーとその端女よ。 ク、此度もなかなかに楽しい宴であった。」 そして―――やおら自分達から背をむけて、この場を去ろうとするギルガメッシュ。 かけられたのは労をねぎらうかのような……別離の言葉。 「あ、………」 なのはが尽きせぬ戦慄を感じ―――その呼吸が荒くなる。 心臓がバクン、バクン、と早鐘のように打ち鳴らされる。 それは津波を前にした海岸に立ち尽くすかのような―――猛烈な悪寒によって齎されたもの。 「セイバーさん……」 最悪の未来は、むしろこれから―――― 「掴まってッ!! まだ終わってないっっっっ!!」 セイバーを腕に抱える高町なのは。 全身を引き裂いた傷は、下手に動かせば命にかかわる。 それでも―――悠長な事は言っていられなかった! 今までなのはが凝視していた「線」が―― それが、ゆっくりと、上下に分かたれて―― まるで生き物の口のように開いていく!!!!!??? イイイイイイイイイイイイイ―――、という神経を圧迫する様な 巨大なヤスリ同士を擦るような、そんな音と共に! ―――――― ここに始まるは―― ―――即ち、天地の乖離と創造である ―――――― 二人の眼前でゆっくりと雄大に―――それは起こった。 先程から見えていた歪な線。 それは乖離剣エアが完全に発動した証拠。 「くっ……セイバーさんッ!!」 ゴゴゴゴ、―――と、深き所から鳴り響く地鳴りのような音。 魔導士の感が特大の警報を鳴らす。 何か……とんでもない事が起ころうとしている! それを察知したなのはがセイバーを抱えて共に空へ離脱しようと試み――― 「えっ…!??」 愕然とする……… 「どうしたのレイジングハート!? フライアーフィンを!」 そう、彼女に空を教えてくれた空戦魔導士の命ともいうべき―――――翼が、 翼が開かないのだ!!! I do not exercise it 慣れ親しんだ女性型デバイスの音声がその異常に対して答えた。 ―― 発動不可能 ―― 、と。 魔導士の顔が蒼白になる。 「ッッ…フラッシュムーブ!!」 I do not exercise it 「プ、プロテクション!!」 I do not exercise it 「どうしてッ!!? レイジングハートッ!?」 今までどんな苦しい時でも、ピンチにも自分を支えてくれた魔法の力。 それがここに来て彼女を助けない! 呼びかけに答えない!? ミッド式魔法――― 独自の技術にて形成されたプログラムによって世界に干渉し、それは発動する。 故に発動が妨げられるという事は……世界に自分の声が届かないか、あるいは――― その干渉する世界が――― ――― 死んでしまっている時 ――― 英雄王の持つ切り札――乖離剣エア。 それはこの世に二つとない死界の原典。 ――― 対界宝具 ――― 城をも一瞬で消し去る対城宝具を以ってなお、同じ計りに乗る事すら阻まれる規格外EXランク。 その能力は言葉通りの――― ――― 世界を斬る ――― ならば高町なのはの発動させる魔法に必要となる その地盤となる世界が切り裂かれてしまったのならどうする? ―――どうにもならない… 空の英雄、航空戦技教導隊のSランク魔導士が…… あの無敵のエース・高町なのはが……その力を完全に殺されたのだ…! 「何だ……これは――!?」 「アルカンシェル……ううん、違う。 違うけど、でもこれ…」 魔法を使えないなのはが、自分の足で立つ事も出来ないセイバーが その眼前の光景―――変貌……否、コワれていく世界を前に絶句する。 天地の乖離現象――― セイバーの聖剣を掻き消した吹き荒れる高出力の暴風ですら、エアに取っては前段階に過ぎない。 その真髄は、極限まで編み上げた魔風が世界を切り裂いた事によって発生する「空間断層」。 高町なのはの集束砲すら真っ二つに引き裂く、既存の力学の全く作用しない断層に敵を落とし込み、消滅させる。 これこそが英雄王の誇るエヌマ・エリシュ―――その真の姿だったのだ! ―――――― 「ぐ、ぁ……ッッッッ!??」 「う、ううぅッ!?」 そして二人に襲い掛かる、まるで全身を引き裂かれるような圧力。 押し潰されるような引力に捕らわれ、もはや二人は動けない。 例え両者が万全だったとしても……一旦、発動してしまったエヌマ・エリシュ―― 乖離現象に捕らわれて逃げ延びる事は不可能だ。 分け放たれた天と地、その狭間に存在する断層から発生する強大な引力。 吸い寄せられる体を必死につなぎ止め、互いの体を必死に支え、大地に伏せて耐える騎士と魔導士。 「セイバーさん! 手を離しちゃダメッ!!」 「………ッ!」 (―――何てことだ……これではナノハの足手纏いに…!) 彼女達を取り巻く世界。 その光景はもはや現世のそれにあらず。 視界を覆うは分け放たれた天地と、その間にある地獄のみ。 二人は今宵、世界の断面が傷んだ橙色である事を知る――― ビルが。雑木林が。停留していた車が。ありとあらゆるものがその断層に消えていく。 そして最後に二人の踏みしめる大地そのものが倒壊し、消えた瞬間―― なのはとセイバーの必死の抵抗は、その全てが無意味と化す。 創世の礎となる破壊の前に、あまりにも無力ななのはとセイバー。 舞い上げられた体が断層の只中に落ち込み――― 全てが、飲み込まれていた――― ―――――― 巨大な竜巻の前で。天を衝く津波の前で。大地震の前で。 人は悲しいほどに無力である。 自然――つまりは天が与えたもうた人への罰。 その前ではちっぽけな人間の叡智などは何の役にも立たない。 今、ここに立ち向かうは英霊の座に名を刻まれし最強の騎士と どんな災害、災厄の中においても任務を全うすると言われるSランク魔導士。 無力で翻弄されるだけの人間では断じてないとはいえ…… ――― 天地創造 ――― 原初の破壊と再生を司る天地乖離の儀式がこの大地に具現化されたのだ。 その現象はどこか、あのブラックホール。 超新星爆発によって生成した重力の塊にどこか似ていた。 もっとも今、このフィールドに起こっているのは風の奔流による擬似的な空間断裂。 宇宙にその存在をたゆたわせる黒き孔とは性質も何も全く違う。 それでも、あえて黒孔と今眼前に巻き起こる現象に共通点を見出すとするならば――― ―――それは中に落ち込んだ生物が辿る末路のみ 百戦錬磨の二人をして、これ程の現象に立ち会った事などあるはずがない。 しかも騎士は度重なる攻撃に晒され半死半生。 魔導士は今、己を支え続けてくれた魔法を封じられた状態。 この強大な破滅を前に、二人は抵抗する術も逃げる事も、そして互いを守る事すら出来ない。 舞い上げられた両者が、断層の引力に翻弄されて漆黒の裂け目に堕ちていく。 あれほどの強さ。あれほどの輝きを持った騎士と魔導士の、あまりにも無残で無慈悲な姿。 この強大な天の裁きの前では二人とて無力な人間と何ら変わらない。 断裂した空間に完全にその身が落ち込む、その瞬間―― 「ッッッッ!!!」 「!? ナ、ナノハ!」 戦う事も、飛ぶ事も、もう何も出来ない。 あらゆる術を失った高町なのはが――― ――― 最期に取った行動 ――― 少女の頭をぎゅっと両手で包み込むように 決して大きくない自身の体で、一回り小さい騎士の全身に覆いかぶさるように 迫り来る亜空間に自身の背中を向けて――傷つき動けぬセイバーをその身に抱きしめていたのだ…… それは己が身を盾にしてでも少女を守ろうとする行為に他ならない。 「…………、」 「バ、バカな!? サーヴァントの盾に――」 声を上げ、抵抗しようとするセイバーだったが手足が動かない。 その白い法衣の胸中に為すがままに顔を伏せられ言葉を遮られる。 物凄い力だった――膂力の問題ではなく。 振り絞るような、それは彼女の全力全開の力だったから。 まるで親が子供を身を挺して守るような、そんな必死さに溢れていたから。 それが彼女の出来た―――この世で最後の行為だったから……! 手に抱かれるセイバーが、彼女の両腕が小刻みに震えている事に気づく。 もはや覆らない。どうにもならない結末。逃れえぬ死を前にして――― 魔導士はその無念に震え、年相応の弱さを曝け出す。 だというのに 、自分も恐くてたまらないのに…… それでも彼女はせめて目の前の少女だけでも救おうと――助けようとしたのだ。 ―― 誰かの役に立ちたい ―― その一心で己を磨き、苦難に耐え、高く高く飛び続けて来た彼女は その夢の終わりにあってなお、彼女で在り続けたのだ――― 「ッ!!???? ぁ、あ、ッ!!」 少女を懐に囲い込んだ状態で亀のように体を丸めて 目を固く瞑っていたなのはが、その双眸を見開いて呻き―― 「きゃあああッッ!? ああああぁぁぁあああッッッッ……!!!」 喉の奥が張り裂けん限りの悲鳴をあげる。 破滅の空間に晒された魔導士の肉体を襲った人知を超えるような負荷。 それは今まで彼女が耐えて来たどんな攻撃とも違う。 そこは空間断層という無限の刃が飛び交い、天と地の重さがそのまま圧力となって存在する異空間。 落ち込んだ物体を、ミキサーのように切り刻み、カンナのように一皮一皮削り尽くし、雑巾を絞り上げるような湾曲した重力にて捻り潰す。 不抜と言われたエースオブエースのバリアジャケットが背中から、まるで紙の様に破砕して空間に消えていく。 そして鎧を剥がされた人間の女性に過ぎない彼女の体が……無残にも――― 「ナ、ナノハッ!! 駄目だッ!!」 悲痛な叫びをあげるセイバー。 自分を抱え込んでいた腕から伝わる衝撃を今、彼女は全て「直」に受けているのだ。 ザクリ、ザクリと腕を、足を、体を裂いていく空間。 ミチミチと全身の骨を、内蔵を潰していく圧力。 「あ、……ぁ、…」 だというのに、自分は何も出来ない…… 赤子のように守られているだけ―― その崇高なる想いを秘めた魔導士が、高町なのはの気高い心が余さず砕かれる。 彼女という存在―――その全てが水泡と帰す。 なのはのあげた断末魔の悲鳴も、セイバーの悲痛な叫びも全て虚空に掻き消される。 乖離現象によって生じた全てを滅ぼす空間全体に、イイイイイイイイイイ―――、という 天と地が擦れ合い、軋む時に生ずる音が木霊し、それ以外の音を全て消し去った。 そして……最期まで必死に騎士を抱きしめていた高町なのはの全身から――― ――― 力が抜ける ――― パク、パク、と口をつくなのはの言葉―― それが音になって誰かの耳に残る事はない。 滅びは、別れの言葉を残す事も許さない。 「………っ!」 だが―――セイバーの耳には確かに届いた。 音にならずとも、その強き想いが、直向な気持ちが――確かに届いたのだ。 お願い…… 、と。 せめて、、セイバーさんだけでも…… 、と。 その全身から生気が抜け、口から一筋の血の雫が垂れ、死に行く魔導士の今わの際に出た言葉は 自分を巻き込んだ騎士に対する恨みの言葉でも、理不尽な敵に対する怒りでも、突如降って沸いた死に対する恐怖でもなく――― ――― ただ一心に騎士の少女の身を案ずる言葉 ――― ―――――― 薄い緑の瞳から一筋の涙が零れ落ちる。 最期まで我が身を呈して己を守ってくれた魔導士。 友の名を汚され、聖剣を辱められ、そして今―― 心優しい友――そう、盟友の命を眼前で散らされようとしている。 何が―――剣の英霊か 何が―――騎士王か 少女は慟哭する。 あまりにも何も出来ない自分自身に。 聖剣よ――――私に力を 私はどうなっても構わない ナノハだけでも、彼女だけでも助ける力を 私に貸してくれ……お願いだ ポロポロと止め処なく落ちる涙。 既に世界は音を司る機能すら停止し 彼女の言葉が「言葉」になる事はなかった。 だが構わず――騎士は懇願する。 かつて世界に救済を求めた、その時に負けないくらいの想いで エクスカリバー!! 我が声を聞き届けてくれッ!! だが、その思いすら虚空に消えていく。 乖離された世界において、その存在を許されるのは開闢の星たるギルガメッシュのみ。 それ以外の何もがここでは何の意味を持つ事もない。 セイバーの体にも崩壊が始まる。 全身を切り裂かれるような奔流と捻じ切られるような圧痛が傷ついた身体を磨り潰さんとする。 だが―――― ………… ―――痛くない。 想像を絶する激痛に苛まれている筈なのに、体が苦痛を訴えてくる事はなかった。 何故なら―――――痛いのは心だったから。 滅び行く肉体を苛む苦痛の何倍、いや何十倍も心が軋んでいたから。 高町なのははこんな苦痛の中、最期まで自分を離さなかった。 その命の灯火の尽きる直前まで、自分の身を案じてくれていた。 その魔導士の手がゆっくりと―――抱えていた騎士の頭から離れていく。 そして既に亡骸も同然のなのはの肢体が、まるで水辺に投げ出されたボロ布のように虚空に吸い寄せられていく。 待ってくれ! 待ってッ!! エアの直撃で千切れかけた腕を伸ばし、なのはの体を必死に掴んで引き寄せるセイバー。 グッタリと力無いその肢体はもはや息をしているのかさえ分からない。 未だ収まらぬ滅びの放流。 闇が見える――底の見えない深き断層。 魔導士も、そして今、辛うじて意識を保っている騎士も あと数刻を待たずして粉々に分解され塵芥と化すであろう。 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 これがこの戦い――― エースオブエースと騎士王。 そして英雄王ギルガメッシュとの戦い。 その結末――― 二人は乖離剣が作り出した断層の中で無残に掻き混ぜられ、終局を迎える。 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 あらゆるものが虚空に消え失せた空間の中で――― 残ったのは静寂。 空間が軋む歪んだ音と、寂しげな風。 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 そして いずれそれらも飲み込まれ 完全なる無となり――――ここに舞台は幕を閉じる。 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 ―――――― 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 …………… ここは終わった世界――― 何者の存在も許さぬ役者の去った舞台。 だからもう―――何も無い。 演じる者も見物する者も全てが退席した空間。 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 ―――――その消え往く世界の隅に 何故、あんなものが残っているのか? どうして――― 全てを消し去る虚空の中で――― あんな光が灯っているのだろうか? ――― ―――――― 乖離剣エア――― 規格外の評を受ける事を許されたその宝具の真髄こそ、世界を切り裂く「対界」という力。 その最大出力、エヌマ・エリシュに飲み込まれた者に待つのは絶対の破滅。 何者も、どのような力も、この死の原典が紡ぎ出す世界では存在を許されない。 、、、 しかし、その絶対の神話を打ち砕いた者が――過去、一人だけ存在した。 否、それは過去と呼んでも良いものか。 時空を超え、幾多の運命の糸に手繰り寄せられ 人類最古の英雄王の眼前に立ちはだかった……… かの者こそブリテンの騎士王――アーサー王。 そう、今……滅びゆくセイバーの胸に灯る熱き光。 どうして忘れていたのだろう…… 何故、記憶の底に沈んでいたのだろう…… ガチャリ、ガチャリ、と――「ナイト」を縛る鎖が次々と外れていく。 騎士の声にならぬ叫びをまるで世界が聞き届けてくれたかのように 「それ」は確かにセイバーの中にあった。 灯る一条の光は温かく――何よりも大きな存在感を伴って、そこに在ろうと輝きを増す。 全てを消し去る地獄の中で天上天下に唯一存在を許される開闢の星・ギルガメッシュ。 だが、長きに渡る星の記憶の中でセイバーだけが―――その隣に立つ事を許された。 ――― EXランクに拮抗するEXランク ――― 規格外の前に立ち塞がる規格外。 少女の体内でドクンと脈打ち、静かに始動を始めるそれは――― ――― アーサー王が最終宝具 ――― ……死なせない かつての友の剣で打ちのめされ、心身ともに砕かれた。 ……貴方を決して死なせない 己が存在そのものと言える聖剣を完全に打ち破られた。 ……そして英雄王 友を傷つけられ、今―――目の前で死に至らしめようとしている。 ……貴様には絶対に負けない!! ギルガメッシュの、セイバーにのみ的を絞った執拗な攻撃。 それは裏を返せば知っていたから―― 男がかつて、全力でぶつかり競った唯一の友。 この目の前の女が、あるいはそれに並び兼ねない「もの」を持っているから。 ボロボロに嬲られ蹂躙され、地に叩きつけられ、泥に塗れて伏せようとも この騎士王が決して屈服しない事を知っていたから。 この方向感覚すら狂った断層の中で――― 「アーチャー…」 セイバーはありったけの思いを込めて叫ぶ。 「たとえ貴様が、世界の全てを手にするほどに強大でもッ――!!!」 魂すら揺さぶる絶叫。 「決してその手の届かぬものがあると知れッッッッッ!!!!」 そう、音すら死んだ世界にてセイバーは確かに叫んだ。 彼女の内から漏れる小さな光がその輝きを増し、騎士を取り巻くような大きな破光を伴って―― それは一つのカタチとして現界しようとしている! 少女の中心にゆるりと回転しながら現れる 目を覆うばかりに光を放つ、それは―――鞘。 右手に傷つき息絶えようとしている魔導士をしかと抱き寄せ 左手に胎動する自らの宝具を翳し……騎士はその鞘の真名を叫ぶ! 渾身で、喉が潰れかねないほどに叫ぶ、万世不当のその力こそ、即ち――― 「――― アヴァロンッッッッッ!!!! ―――」 万感の想いを込めた叫びを「世界」は確かに聞き届ける! 死で彩られた地獄の上に新たなる世界が誕生する! この死と滅びに満ちた空間ですら「ソレ」だけは否定出来ない! 五つの魔法すら届かぬ絶対の領域。 アーサー王が死後、辿り着くとされる、決して届かぬ光の大地。 ――― 遥か遠き理想郷 ――― それが今、ここに具現化するのだった――― ―――――― 無重力の空間を彷徨う―――そんな感覚が彼女を支配する。 肉体の檻から抜け出した魂魄が現世を彷徨うとはこういう事か。 高町なのはは――――死んだ 齢にして20年。 抗い続け、飛び続け、戦い続けた生涯の果ての光景を今、彼女はその目に映す。 ぼんやりと視界に映った景観はこの世のものとは思えない。 周囲を囲む傷んだ橙色の天井と大地は、そこにありながら決して手の届かない所にある。 そして中央には天地を分ける漆黒の裂け目があった。 それはまさに地獄のような光景。 だが、そんな中にあって――― 今、自分を取り巻く大気だけが何か違っていた。 感じるのは安らぎ。温もり。優しさ。 地獄に似つかわしくない、まるで包み込むような柔らかな空気。 地獄に落ちた人間がこんな安らぎを感じる事など有り得ない。 だからここが天国なのか地獄なのか、彼女には分からない。 気だるげな意識は彼女のカミソリのような思考をほとんど停止してしまっている。 でもきっと、ここは天国だ。 ひたすらに誰かを救うために頑張った。 自分を犠牲にして誰かのために飛び続けた。 そんな彼女が地獄に落ちるはずがない。 だって彼女の霞む視界には……一人の天使がいたのだから。 風になびく金の髪に綺麗な薄緑の瞳。 人の身に到底纏う事の出来ない神々しい光を称えて 金髪の天使は彼女……高町なのはを抱いている。 とても心地良かった。 とはいえ、自分を抱く天使の腕の手甲の固さだけが 後頭部の骨と擦れ合い、不快といえば不快だったが…… その銀の甲冑を着た――騎士のような様相の天使が 必死で何事か叫んでいるのを、なのはは混濁した意識の中で――― 「あ…………」 否、その意識をゆっくりと覚醒させていた。 瞳孔の開き変えた双眸に再び光が灯り 閉じかけた瞼をゆっくりと開けて その身を起こそうとして―――全身を襲う猛烈な激痛に顔をしかめる。 「うッッッ…………痛ぅ…」 だが、痛みがあるという事は―――自分はまだ生きているという事で… 「……………私……生きてるの?」 その事実を、咄嗟に受け止められない高町なのはである。 まだ生きている…? そんな筈はなかった。 命を取り留められるような傷では到底なかったはずだ。 その耳は確かに――自身の体が砕ける音を、内蔵の潰れる音を聞いた。 だが目の前にいる騎士は決して、自分の脳内で再生された幻ではなく現実のものだ。 自身も傷だらけの体で、瀕死の自分に必死に呼びかけていた小さな少女。 「ナノハ…………」 意識を取り戻した魔導士を見て少女が破顔する。 ギルガメッシュの放つ最大の攻撃。 エヌマエリシュ――天地乖離の地獄の空間の中で…… 「もう……大丈夫です。 危ない所でしたが――それが貴方の傷を癒してくれる。」 そう、二人は―――何とか生き残っていた。 見ればなのはの胸の上 目を覆うばかりの輝きを放つ白き鞘が浮かんでいる。 魔導士には何が起こったのかまるで理解出来ない。 出来ないが、どうやらこの鞘―――恐らくはこれにより、一命を取り留めたのは間違いないようだ。 今の高町なのはに知る由もないが、これこそ聖剣の鞘の加護。 エクスカリバーの真の力――― アーサー王の無敗の伝説を打ち立てたのがその刀身であるのなら、この鞘は王の不死の伝説を担うものであった。 外部からの脅威を完全に遮断し、命に届くほどの傷をたちどころに治すこの鞘によって ミッドのどのような回復魔法ですら手遅れだと思われた取り返しのつかない傷がみるみるうちに塞がっていく。 視界が幾分回復してきたなのはが自分を見下ろしてくる騎士の顔をまじまじと見る。 そのセイバーの目元は―――赤く腫れていた。 「もしかして………泣いてくれてたの?」 「―――――、は?」 魔導士のいきなりの問いに完全に不意をつかれた少女である。 しばらくポカンとした後――― 少女の頬が唐突にカァ、と……淡いピンク色に染まる。 「―――傷の、加減でしょう……」 ツイ、と顔を背けるセイバー。 最強の騎士のそんな可愛らしい様子を見てクス、――と笑いを含んでしまうなのは。 「………はは。 さっきとあべこべだね」 完全に駄目かと思った。 その死の淵から拾い上げてくれた騎士に対し―― 「ありがとう……」 なのはは千の思いを込めて感謝の言葉を送る。 「…………」 今更の事だ。 先の魔導士の言葉通り、さっきはこちらが助けてもらった。 互いに危機が迫った時は双方、命を賭してそれを守る。 仲間として戦友として当然の事をやっているに過ぎない。 心の底からそう考えている騎士と魔導士だからこそ――出会って間もないながらも二人は最高のパートナーであったのだ。 「それにしても……」 改めて周囲を見る魔導士。 未だ周りは凄まじい光景が広がっていた。 「つくづく、しぶといよね……私達。」 セイバーに助け起こされ、何とか立ち上がったなのはが苦笑交じりに呟く。 「む………」 「凄く長い時間、戦ってる気がする。 これだけ粘られると、相手する方は疲れちゃうよね……」 「確かに――サーヴァント戦において、ここまでの長丁場になるケースは珍しい。」 「それ、セイバーさんの場合 すぐに相手を倒しちゃうからじゃないかな…?」 「いえ。私はこの通り、剣しか取り得が無い者です。 どちらかというと接戦になる事が多いのですが――」 「スゴイね……貴方と互角に打ち合える人なんているんだ…」 「………」 「………」 程なく二人の間に沈黙が流れる。 だがそれは言葉を出しあぐねているのではなく 互いに考えている事が分かるから―― 「そろそろ―――反撃しよっか…?」 ビリっと空気が震えた。 沈黙を破ったのはなのは。 決意の篭った眼差し。 短いながらも、その言葉の意味を履き違えるセイバーではない。 「私も……次で最後にするつもりでした」 フ、と不適に笑うセイバー。 それは奇しくも第5次の再現。 攻防全てに隙の無いあの最強の英霊。 その彼の、唯一にして決定的となる隙が出来るのは―― ――― エアの発動後 ――― ゆっくりとその身を起こす騎士王。 彼女の銀の鎧が――光の粒子となって消えていく。 鎧に残った魔力すら聖剣に集め、黄金に光る剣を掲げた少女が悠然と立つ。 その横、白い法衣をはためかせ、肩を並べて立つは無敵のエース高町なのは。 「次がファイナルショット……もうたいして大きいのは撃てないけれど それでも手数が多い方が成功する確率は高くなる…」 セイバーが一瞬、戸惑った表情を見せるが―――もはや詮無い事だ。 戦士として認め合った彼女たち。 この全てが決まる局面にて、肩を並べて戦う友として 危険だから控えていろ、などと口が裂けても言えるはずがない。 「最後までやらせて……セイバーさん」 「はい―――勝ちましょう……ナノハ!」 空間の裂け目のその向こう――― 未だ強大な姿にて佇んでいるであろう黄金の王に向けて二人は気勢を飛ばす。 「生き残ろう……セイバーさん!」 右構えのセイバーと左構えのなのは。 肩を寄せ合い、並んで構える。 その杖と剣の先が、コツンと交わった時――― 二人の戦意が、闘志が、不屈の心が――― 何者をも貫く……最強を冠する英雄王をも打破する矛となる! ――― その瞬間が近づいてくる ――― 結末は、戦いを仕組んだ盤上の神々ですら分からない。 誰もが予想だにしなかったその終局――― 今………全てが決まろうとしていた。