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第一章 call past rain 俺は二十五歳で、新幹線に乗っている。現在暮らしている東京から下り、かつて通っていた高校に向かっている。文明の進化は停滞しているようで、大阪までの所要時間も分単位の短縮でしかないし、シートの座り心地も改善されていない。最も変わっていないのは新幹線の中にいる人だ。座席を倒して寝ていたり、本や新聞を読んだり、外の風景を眺めていたりする。視線を右側の窓へと移すと、灰色の雲が空から垂れていた。一雨が来そうだ。外は昼間だというのに灰色で満たされていて、いつか見た閉鎖空間を思い出してちょっと憂鬱になった。山を縁取る稜線と緑、点在する民家が厚みのあるガラスを通して、視界から一瞬で通り過ぎた。しかしまた同じ風景が切り取られた視界を満たした。そんな変わりのない風景の繰り返しはは俺を安心させた。 雨が降ってきて、窓ガラスは水で濡れた。 俺の左側の座席には彼女が座っている。深い眠りについているようで、髪の毛一つ動かない。細い首筋の透き通るような白い肌は俺の目を満足させるには十分だった。膝の上にある手は閉じた分厚い文庫本を押さえていたが、どうやら気持ち程度であるらしく、膝から滑り落ちた本を俺は何度も拾い、その度に彼女の膝の上に戻した。 こんな風に彼女が眠れるようになるには時間が必要だった。だから、俺の横でゆっくりと眠っていることが嬉しかった。最高級のベッドだろうが、この座り心地の悪いシートに負けることもあるのだ。 俺は眠れない彼女のために安眠グッズを集めていたことを思い出した。結局、安眠グッズは役に立たなかった。迷走していた俺に、「一緒に寝て」と彼女は言った。彼女に必要だったのはウォーターベッドでもなく、低反発の枕でもなかった。本当に必要だったのは人に対する安心だった。その日、俺と彼女はゆっくり交わった後、深い眠りにつくこととなった。 彼女の説明はこれぐらいにしておいて、なぜ俺がかつて通っていた高校に向かっているのか、それについて話をしようか。十年前の今日、学校の文化棟、旧文芸部の一室。そこで始まった奇妙な団体のことを覚えているだろ? ――世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団。 略、SOS団。 そう、今日でSOS団は設立十周年を迎えた。俺が発端とされているSOS団だ。ハルヒが朝比奈さんや長門や古泉を集めて、結成された非公認の団体だ。俺達が十年の間に行ってきた世にも奇妙な物語についてはそのうち話す機会もあるだろうさ。まずは俺が地元に向かっている理由それから話すべきだろう。 『SOS団設立十周年記念パーティーのお知らせ』 ハルヒが実家に送ってきたハガキの題はこうだ。十五歳のういういしい高校生の時からすでに十年が経ち、俺達はこうやって節目となる年の春に集まってパーティーを開いてきた。といっても、今回で二度目だ。二十歳の時に開かれた五周年の時以来で、その時は高校を卒業してからほとんど会っていなかった団員達と飲み通していたわけさ。 ハガキの内容はこうだった。 『このたびSOS団は十周年を迎えました。 みなさんいかがお過ごしですか? 集合場所、時間は五周年の時と同じです。 今回は五人だけで行います。 それでは、あの部室で。 SOS団初代団長 涼宮ハルヒ』 秀逸な筆運び――ボールペンだが――で書かれていた。中高生が書くような丸っこい字ではない、大人の女性の字だった。ハガキで送ってきた理由は、そのほうが大切にしてもらえるから、と五年前にハルヒが言っていた。 俺はハルヒとこの五年全く会っていない。俺達は高校を卒業した後、同じ大学に通い、二年ばかり付き合っていた。実際、高校の中頃から付き合っているようなものだったが、SOS団鉄の掟である、団員同士の恋愛は禁止というのをハルヒが愚直に守り、俺達は高校を卒業したら正式に付き合う約束をしていた。高校を卒業すると、俺達は同じ東京の有名私大に進学することになった。ハルヒは政経で、俺は文学部だった。ここに受かったのはハルヒのおかげといっても過言ではなく、受験期になると図書館に行ったり、それぞれの自宅で一緒に勉強したりしていた。大学で俺達は約束通り付き合って、色々な場所を回ったり、一日中一緒に寝ていたりしていた。でも、俺達は別れた。理由は分からない。ハルヒが突然に俺に別れを告げ、俺達の恋は終わりを迎えた。俺はひどい喪失感に襲われ、何をするでもなく家に閉じこもり、ひたすらに時間を重ねていた。 そして今、SOS団五周年パーティーの時に再会した彼女と俺は付き合っている。俺は彼女に救われたわけだ。 ハルヒも長門も朝比奈さんも古泉も、そして俺も。十年という月日を経て、みんな変わっていった。変わらないことを望むのは愚かなことで、あの日々はもう戻ってくることはなかった。記憶の中だけに残り、そして俺の身体を構成していった。あの部室から見る、部室に差し込む西日は変わってしまったのだろうか。俺は目をつむり、あの日の部室を、SOS団を思い出す。それはひどくぼやけていて、不鮮明なものだった。真剣になればなるほど、理想からは遠ざかっていった。 外の雨は激しさを増していた。 これからやることについては言っておかなければならないことがあるな。実はやることはパーティーだけじゃないんだ。むしろこっちがメインといっても言い過ぎじゃない。さて、このやっかいごとを済ませる前に一眠りといこうか。説明は駅に着いてからでも間に合うからな。 「そう思うよな、長門」 俺は隣に座る彼女に小さく言った。 返事はない、ただの屍のようだ。ではなく、寝てるだけ。俺は長門の曲線を描くまつ毛を見つめ、 「お前も、そう思うだろ?」 心の中で繰り返した。 そして硬いシートを倒し、深い眠りへと落ちた。 「キョン君、駅に着いた」 長門は言って、俺の肩を優しく揺すった。俺はぼんやりとした意識の中、感謝の言葉を述べた。 「もう、私が寝ていたらどうするの」 「その時はその時だ」 長門は柔らかな笑顔で降りよ、と言って俺のシャツの袖を引っ張った。俺はシートを直し、忘れ物がないかシートの下を確認して、袖を引っ張る長門の後を追った。 「早くー! 乗り換えられなくなるわよ!」 これから乗り換えて、もう少しで地元に到着する。 「久しぶりね、SOS団で集まるの。五年ぶりか。何だか懐かしいわ。そう思わない?」 長門はこちらを見て言った。俺達はローカル電車の横並びの座席に並んで座っている。平日の二時過ぎということもあって電車は空席だらけだった。ローカル電車からの風景は新幹線の窓を流れるそれとは違ってゆっくりと流れていた。昼下がりという時間が与えてくれる、ゆったりとした時間がそう思わせてくれた。 「思うな。古泉とは時々会ってるからそうは思えないけど、ハルヒと朝比奈さんには五年も会ってないからな。けど、驚くだろうな。今じゃ長門もこんなに饒舌になったって知ったら」 「饒舌まではいかないわよ」 長門は不満そうに言った。続けて、ゆっくりと懐かしいアルバムをめくるように大事に話してくれた。 「でも、何にも縛られず、素直に話せるようになったのは五年前にキョンと付き合いだしてからよ。それまで、私は一人だった。あなたを思う一人だったの。だけど、少しずつ私は変わっていった。記憶を重ねていったの。安心できるように。でも、能力は失われていて完璧には覚えていられない。不安で仕方がなかった。なんで人はこんなに不鮮明でも生きていけるのって。でもね、キョンと一緒にいて分かったの。それは私の身体の一部になっていたんだって。雨の日の帰り道のこと、けんかしたこと、まずい料理を作ってしまったこと、一緒に旅行にいったこと、初めて一緒に寝た夜のこと。これはもう私になってしまったのよ」 俺は少し間をおいて、ありがとうな、と言った。これぐらいしか言える言葉がなかった。俺は長門に救われた。でも、長門自身も苦しんでいて、どうしようもなかった。俺は長門を幸せにしてやりたかった。少しでも長門に恩返しをしたかったんだ。与えられる側から与える側に変わったことで俺の意識は変わっていった。 「どういたしまして」 長門は微笑んだ。 地元の駅に着いた。切符を入れて改札口を抜ける。駅前の風景は変わっていなかった。というのも、正月には実家に帰省しているからだ。 「ここにいるはずなんだけど」 「誰が?」 長門は手を後ろに組みながら尋ねた。 「朝比奈さんの大人バージョン。もう、三十歳は過ぎてるはずだけど」 仕方がないので、俺達は自販機で飲み物を買い、駅前のベンチで並んで飲んだ。俺は昔からあるコーヒーで、長門は新発売のミルクティーだ。ここ十年飲料業界はこれといった発展を見せてないのは現代人の味覚が変わっていないからだろうか。時々、吹き抜ける春風が顔に当たって心地良い。左側に座るのがお決まりになっている長門のショートカットの髪が揺れていた。 長門は以前より本を読むことはなくなった。本好きなのは変わらないが、周りの風景を見たりすることも好きみたいだ。隣でまだ咲かない桜の木をじっと見つめている。 「早く桜咲かないかなぁ。わたし桜好きなのよね。ほら、あの時、涼宮さんの誕生日を祝ったあの日よ。あの桜綺麗だったなぁ、もう一度見たいんだけど、場所が分からないのよね」 「そうだな、県は分かるんだが、どこの山までは分からないな」 長門は思いついたように、手を叩いた。 「あ、写真! あの時撮った写真にあの山が写ってるんじゃないかしら?」 「そうかもしれない。家に帰ったら探してみるか」 そういうと、俺はコーヒーを一気に飲み干した。陳腐な匂いと、安い味がした。 「キョン君だよね?」 突然呼びかけられ、声のするほうを向く。笑顔の朝比奈さんが俺の前に立っていた。三十歳を過ぎているのに、抜群の曲線美を維持していて、俺と同い年といっても通用するほどの童顔だった。長門のあどけなさとは違った、優雅な雰囲気が身体を包んでいた。いつかの教師ルックを着こなしていて、やたらと胸を強調していた。その気は無いんだろうがな。それに、彼女の前で胸の谷間を見せるのはやめてくれ。とはいっても見てしまうのが男の性だ。誘惑を振り払い、長門の顔を見た。笑顔だったので、とりあえず大丈夫だろうか。あとで文句を言われるかもしれんが。 「そうです。お久しぶりです」 「キョン君も大人になったわね。最初分からなかった」 朝比奈さんは笑顔でそう言った。 「そうですね。俺も老けたなーとは思ってます」 「長門さんも大人になったわね」 「色々ありましたから」 長門はしれっと笑いながら言った。 「朝比奈さんは変わりませんよね。初めて会った時と同じに見えます」 「ありがとう。褒め言葉と取っておくわ。ところで、そろそろ移動したいのだけれど」 「分かりました、ところでどこへ?」 「長門さんのマンションよ」 俺達は駅に程近い長門が住んでいたマンションに向かった。途中、長門と朝比奈さんは昔からの友達のように語り合っていた。短い移動を済ませ、長門が住んでいた部屋に入った。あの部屋を長門はまだ所有していて、部屋の鍵も長門が持ってきていたので、簡単に入れた。ドアを開け、リビングへと続く廊下を並んで歩いた。リビングの内装は無機質なままだった。ここには未だに高校を卒業した時のままの時間が保存されていた。 「キョン君、この後にやることは覚えているわよね?」 朝比奈さんは尋ねた。 「ええ、しっかりと」 このあと行わなければいけないこと。 それは、九年前のあの日に時間遡行をして辻褄を合わせることだ。 これが最後のSOS団の活動である。 長門は部屋の隅々を見回って、置いてあるこたつに手を触れてみたりしていた。 「懐かしい。東京の大学に行って以来ここには入っていないから」 「長門はずっと東京にいるからな」 「そうよね。ここでの出来事も、あ、これは言わないほうが面白いかな」 ふふっと長門は笑って、俺をじっと見つめた。 朝比奈さんは目を閉じ、壁に寄りかかって、何かを待っている様子だ。時折、腕時計を見て時間を確認している。どこか落ち着かない様子なのはここが長門の部屋だからか? 「わたし、この部屋を出て正解だったわ。一人で住むには広すぎるもの」 長門は窓の外を見るのをやめ、振り返って言った。 俺は頷くと、朝比奈さんを見た。朝比奈さんは俺が見ているのに気付いたようで、困ったような笑顔を見せた。そして、こちらに近づいてくると、 「時間よ。帰ってきたら本当のさよならね。一緒に飲みにでも行きましょうか」 「そうですね。飲みにでも行きましょうか」 俺は一緒に飲みに行くことはおそらくないだろうと分かっていたが、賛同した。こんな美人と飲みにいけるんだぞ?男なら誰でもビジュアルロックバンド並に首を縦に振るはずだ。 「現在ではもう涼宮さんが発生させた時間の揺らぎはほとんどなくなってしまっていて、自由な時間移動はほとんど不可能になっているの。今回のためにとっておいたわけ。これが本当に最後だもんね」 朝比奈さんは感慨深げにそう言った。 「これで最後ですね。SOS団としては。でも朝比奈さんと会ったことは俺がちゃんと覚えてますよ。長門もいます」 俺は長門を見ると、長門は頷いて、 「わたしも覚えています。SOS団は永久に不滅ですって涼宮さんが言っていましたしね」 「ところで帰りはどうすれば?」 「帰りはあなたが任務を遂行したら、ワープするようになっているわ」 「分かりました」 「それじゃあ、目を閉じて。時間酔いするといけないから」 「いってらっしゃい」 長門は笑顔で手を振った。大きくじゃなく、小さく肘から先を振る感じだ。 「ああ」 俺は目を閉じ、あの時のことを考えた。 九年前に起こった出来事のことを。 「じゃあ、いくわよ」 chapter.2
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イライラする。 いつからだろう?あいつの態度が気に入らなくなったのは…… イライラする。あいつとなら退屈な毎日から抜け出せると思ったのに…… 「おはよう」 「いってきます」 「ただいま」 「おやすみ」 何の変哲も面白未もない返事を、これまた何の変哲も面白未もない顔で言うだけの夫‐キョン‐北校を卒業したあと私たちは同じ大学に進学して結婚をした。いわゆる「学生結婚」ってやつ。 他のみんなはどうしたって?知らないわ、みくるちゃんと有希は私たちが結婚したあと音信不通。古泉くんはつい最近死んだばっかり。 死因は事故。遺体の原型を留めないほどの事故だったらしいわ。つまりもうSOS団が勢揃いすることはないってこと。 高校時代の友達なんて薄情なものよね。あぁイライラする! これは古泉くんの通夜に行ってきた帰りのお話し… 「ハルヒ、昼飯作ってくれ」 家に着くなりキョンがふざけたことを言う。 「疲れてるのよ、あんたがやりなさいよ」 「………おう」 何よ今の間は、言いたいことがあるなら言えばいいじゃない!あんたいつもそう!付き合い始めてからずっと私の言うことには絶対に逆らわない。 例え私が浪費をしても子供達と勝手に旅行に行っても文句の一つも言わない。一時期は浮気してんのかなって思ったこともあるけどそれも無い。まるで張り合いの無い夫、それがキョンって男のすべてだ。 私のことが好きだから結婚したはずなのに、なんで私に無関心みたいな態度とるの? それとも子供ができるなんて思わなかった? 「なんとか言いなさいよ!」 炒飯を作っていたキョンが驚いた顔をしている。感情が高ぶってつい叫んでしまった、適当にフォローしなくちゃ……でも、一度火が付いたら止まらないのが私だ。 「なんであんたはいつも私の言いなりなのよ!」 「そんなのお前を愛してるからに決まってるだろ」 「嘘っ!私のことを愛してるならそんな冷たい目で私を見ないわ!あんたどんなときだって目が笑ってないのよ!」 私の言葉にキョンが「しまった」という顔をする。なによ……否定しなさいよバカ… 「あんたは私のことを愛してなんかいない!子供が出来ちゃったから結婚しただけ!」 「ち、違う、俺は…」 「あんた有希のことが好きだったんでしょ? 高校の時からあんたらおかしかったもんね、どこか心が通じてるみたいなとこあ」 パンッ 乾いた音が室内に響く、キョンの平手打ちが私のセリフを遮った。 キョンのくせに…キョンのくせに!! 「あ、あんたなんか死んじゃえ!」 言うだけ言って私は部屋にひきこもった。これ以上あいつと同じ空気を吸っていたくなかったから…… 客観的に見ればどう見ても悪いのは私だ。誰だって長年連れ添ってた伴侶にあんなこと言われれば怒るわ。 でも「死んじゃえ」って言った時キョンの顔、あんな顔初めてみた。氷で固めた能面のような顔。 あんな顔されるくらいなら冷め目で見られるほうが幾分かマシよ… 明日謝ろう……… ~翌日~ 「刃物に旦那さんの指紋が逆手に付いてるし、まず自殺と見て間違いないんでしょうが……刃物が貫通していますからね、一応他殺の線でも調べてみます」 「そうですか…」 警官の事務的な対応に気の抜けた返事しかできなかった。 キョンは自殺した。 朝、私が台所に行くと胸に包丁をふかぶかと刺したキョンがいたの。 キョンの死体を見た時私は、心臓を刺した割には出血量が少ないとか、これならお掃除が楽だなとか、そんなことを考えてたと思う。 「なんで自殺なんかしたのよ……」 私が「死んじゃえ」って言ったから?あんなのその場の勢いで言っちゃっただけよ。それくらいわかりなさいよバカ…… 確かにキョンが定年退職してからキョンが邪魔だったり邪険にしたりしたけど私が本当にそんなこと望むわけないでしょ? いつからだろう。キョンがあの冷たい、脅えた目で私を見るようになったのは。生理がこなくなった時?それとも結婚してから? それとも初デートで「あんたは黙ってあたしの言うことに従ってればいいのよ!」って言った時? いつなのキョン? 教えてよ……… もう一度声を聞かせてよ…… 私がバカなことしたらちゃんと叱ってよ… 帰ってきてよ……キョン… 終わり
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朝教室に入ると、ただでさえやかましいクラスのざわめきが 心なしか一回り大きくなったような気がした。 キョン「おっす谷口。クラスが騒がしいようだけどなんかあったのか?」 谷口「!」 「・・・・・・」 こともあろうに谷口は、オレの目をみるなり不快な表情をあらわにして 男子グループの輪に逃げていった。 (なんだなんだ!?無理して愛想をふりまけとはいわんが、朝のあいさつをしてきた クラスメイトに対してその態度はないだろ。オレが癇に障ることでもしたのか?) その男子グループは、オレをチラ見してはクスクス笑っている。 一体なんだってんだ!? 動揺をなんとか抑えつつ、オレは席に座った。 キョン「おいハルヒ、今日のクラスなんか変だな」 ハルヒ「・・・・・」 キョン「おいハルヒ?聞こえてんのか?」 ハルヒ「・・・るさい」 キョン「え・・?」 ハルヒ「うるさいっつってんのよ!変なのはアンタの頭でしょ!気安く話しかけないでよ」 キョン「!!」 その瞬間、先生が教室に入ってきてホームルームが始まった。 谷口のほうを見ると、オレがハルヒに怒鳴られたことが愉快でたまらないといった風に 笑いをこらえていた。 ホームルームの間、オレは動揺するのを必死に抑えていた。なぜだ? こともあろうにハルヒまでがこの態度とは・・・ 午前中クラスの冷たい視線に耐え続け、昼休みになるとオレは逃げるように SOS団部室へと走っていった。部室ではいつものように長門が本を読んでいた。 キョン「長門、ちょっと話を聞いてくれないか」 オレは長門に会って多少安心した。今朝クラスメートの様子がヘンだったのは、 なにかおかしなことが起きてるに違いないと思ったからだ。新手の閉鎖空間か、 はたまた情報ナントカのしわざかはわからんが。 長門ならこの奇妙なパラレルワールドをなんとかしてくれるに違いない。 今までだって、ずっとそうだった。 長門「出てって」 キョン「ど、どういうことだ長門。お前ならこのワケのわからない状況をなんとか 元に戻してくれると思って・・・」 長門「なにを言っているのか意味がわからないけど、すぐに出ていかないと人を呼ぶわよ」 キョン「長門・・・」 ハルヒ「有希になにしてんのよ!この変態男!」 突然後ろから怒鳴り声が襲ってきた。ハルヒだ。 ハルヒ「アンタ2年の朝比奈先輩だけじゃ飽き足らず、今度はウチの部の 有希にまでつきまとうっていうの!ただじゃおかないわよ!」 キョン「ちょっと待ってくれ!全然訳がわからん。オレが朝比奈さんにつきまとってるだって? オレたち同じSOS団のメンバーだろ?放課後部室で遊んだり、たまに一緒に下校したりは してたけど・・」 ハルヒ「はぁ!?なにワケのわかんないこと言ってんの?なんなのよそのナントカ団てのは! 大体学園のアイドル朝比奈先輩がアンタみたいなのと一緒に帰ったりするはずないでしょ! このストーカー男!」 これ以上部室にいればハルヒに刺し殺されかねない剣幕だったので、 オレは退散することにした。 教室に戻ると、クラスメイトがいっせいにオレのほうを向き、すぐに目をそらした。 谷口「な、言ったとおりだろ?アイツ5組の長門にもつきまとってるんだってさ」 朝倉「やだ。怖い」 国木田「なにを考えてるんだろうね」 谷口たちの悪口が聞こえてくる。どうやらオレは朝比奈さんと長門につきまとう ストーカー野郎ということらしい。まったく考えられない話だ。 ここは閉鎖空間に違いない。ハルヒのせいなのか?オレをこんな ムナクソ悪い設定の中へ放り込んだのは。 はは、なんだか涙がにじんできた。さっきから手足の震えも止まらない。 いじめを受けるってのはまさにこんな感じなんだろうな。3日も続けば確実に 精神が崩壊する自信があるぞ。 休み時間が終わるまで机に突っ伏していたら、終了間際にハルヒが戻ってきた。 オレはハルヒがイスを引く音にビクっとした。 ハルヒ「ちょっとアンタ!」 ハルヒの怒声でさらにビクっとする。まるで肉食獣を前にした小動物の心境だ。 ハルヒ「アンタがなにを考えてるのか知らないけど、今度有希に近づいたら ただじゃおかないからね!文芸部部室にも一切近づかないでよ!」 どうやらこの世界のハルヒは文芸部に所属しているらしい。まったく似合わんが。 SF研とかオカルト研のほうがまだハルヒらしいのにな。 休み時間が終わり午後の授業が開始されたが、軽いパニック状態に陥っていたオレは まったく授業が耳に入ってこなかった。クラスの連中はときどきオレの方を向いては 笑いをこらえている。なにがそんなにおかしいんだろうな。 午後の授業が終わり、ホームルームをなんとかやり過ごし、 オレは逃げるように教室を出た。 まだパニックはおさまっていないみたいだ。朝比奈に襲われたときも、 ハルヒと閉鎖空間に閉じ込められたときだってこんなに動揺はしなかったはずだ。 あときのほうがはるかに現実離れていたのにな。おかしな話だ。 キョン「これからどうすっかな・・・」 ひとけのない校舎裏に避難したオレは、誰に言うわけでもなくつぶやいた。 ここが新たな閉鎖空間だとしても、そろそろ古泉あたりが助けにきてよさそうなもんだ。 キョン「古泉~~~!!とっとと来い!!このムナクソ悪い空間を破壊してくれ!!」 思わずオレは叫んでいた。もう1分だってこんなトコにはいたくはない。 しかしオレの声を聞きつけたのか、誰かがこっちへ向かって歩いてくる。 古泉「なんだ?お前。オレになんか用か?」 やってきたのは古泉だった。しかし、いつもの古泉とは雰囲気がまったく違う。 片耳にこれでもかというほどピアスをつけ、ヨレたYシャツをだらしなく着ている DQNが目の前にいた。片手には木刀を握っている。 オレの知っている古泉はこんなDQNではない。間違いなく本物ではないようだ。 古泉「お前ウワサのストーカー野郎じゃねーかよ。 なんでオレの名前叫んでたんだオイ!」 ヤツの普段のさわやかフェイスは気に入らないが、こっちのDQNフェイスはそれ以上だな・・・ などと考えているうちに、古泉がオレの胸ぐらをつかんできた。 古泉「お前涼宮にちょっかいかけてるらしいな・・・ あんまナメたことしてっと前歯叩き折るぞコラァ」 なんてこった。DQN古泉はハルヒに気があるらしい。どーぞお幸せに。 誰も止めはしないぞ。付き合いたいなら勝手にしてくれ。 しかし古泉の威圧感はオレの反論を許さない。というか、はじめてDQNに絡まれたオレは ほとんど声が出ないぐらいビビっているんだ。 ドゴッ 不意に古泉から腹にヒザ蹴りを食らい、オレは前のめりに倒れた。 キョン「かはっ・・・」 古泉「チョーシ乗ってンじゃねえぞクラァッ!」 怒号とともに古泉はオレのわき腹にケリを入れる。 キョン「うぐ・・・ご・・」 ヤツのつま先はちょっとした鈍器と化し、オレのわき腹に容赦なく食い込んでくる。 オレはサッカーボールじゃねえぞ。 古泉「金輪際涼宮に近づくんじゃねーぞ!」 言いながらなおケリを入れ続けられ、不覚にもオレは気を失ってしまっていた。 2話
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次の日、金曜日。 昨日は色々な問題が無遠慮に俺へと押し寄せ、また、古泉とケンカじみたもんまでやっちまったがために、俺も閉鎖空間を作り出してしまいそうだと思わんばかりのグレーな気持ちで帰宅することとなった。 帰ってからの俺の気分はハッキリ言って北校に入学して以来最悪な状態を記録していたが、やっぱりトンデモ空間などは発生していなかったようなので、つくづく自分は普通の普遍的一般的男子高校生だと思い知る。 しかし普通の高校生はそんなこと考えんだろうとも思い、そうやって俺は己の奇異さにも気づいたのである。 そして今朝の登校の際には、今度はブルーな気持ちを抱いていた。 一年前にも俺はこの長く続く坂道を憂鬱な気分で歩いていたが、それはこの理不尽に長い通学路に対し学生が交通費支給デモという意味不明な行動を起こし、そしてその理不尽な要求が通ってもおかしくないほど強制労働的であるがゆえだった。 もちろん、今は違う。では何故ブルーだったのか。 それは、今日の俺の心の中は鬱々前線真っ盛りで人的災害警報が発令中であり、本日は晴天にもかかわらず、所によりハルヒの矢のような叱咤が降り注ぐでしょうという予報も出ていたからだ。 どんな人的災害に注意が必要なのかといえば、ナイフを持った女子高校生通り魔との遭遇によって刺殺されないようにせよということである。それが予報であるのは、まだ《あの日》に行くと決まったわけではないからに他ならない。俺も長門も、是非免れたい危機である。昨日のそう遅くない夜、長門に電話をしてみたもののコール音しか返事をしなかったのも気に掛かるんだ。やはり……あいつの感情の部分は強くなっているのだろうか。何度も電話をかけるような無粋なことはしなかったが。 そしてハルヒの叱咤の雨が降るとされた場所は学校の教室で、その局所的な矢の雨が降り注ぐ地点はもっと詳しく予報されていた。そこはあいつが座っている席の前……つまり俺の席だ。正直、これは間違いないと感じていた。なんせ、その現象が起きる原因とされたのは俺なのだから。 とは言うものの、その大元の原因を作ったのは何を隠そうハルヒ自身なのだが。 そう。俺は今週の頭、編集長へとジョブチェンジしたハルヒ団長殿に磔にされて「恋のポエム書け!」という無茶な命令を受け、そして俺はその任務を今日も完遂出来なかったために、ハルヒは今度こそ俺を視線や苦言やらで射殺さんとするだろうというこれは不可避の人的災害だと予想されたのだ。このときは。 教室に着いた俺にハルヒは一言ポエム作成の進行状況を聞き、歯を食いしばって目をギュッとつむった俺に意外にも、 「……そう。期日が迫ってるから、明日の不思議探索は機関紙の制作にまわそうかと考えてたんだけど」 と、危険な不思議探索をやらずにいられるならポエムを書いたほうが良いのかなと俺に思わせるようなことを言い、 「うん、書けないってんならしょうがないわ。じゃあ、明日の探索は、気合入れて不思議ちゃんを探しに行くわよ!」 そして決心させた。探索の対象が単なる自称異星人で実際は奇人ちゃん程度ならどれだけ良いか(会いたくはないが)と俺が思っていると、ハルヒは続けて、 「そろそろ本当にSOS団結成一周年なんだもん。このまま何も見つけられずにその日を迎えたんじゃ、この団の創立目的が忘却の彼方に追いやられちゃうかんね!」 その目的を達成したがために異世界は忘却の憂き目に遭遇しているんだぞとは言えず、俺は、今こそSOS団が不思議発見を断固否とするべく再結集するときなのだなとおもんばかっていた。 だが、この時点での俺はまだ気付いていなかった。既にハルヒの周りでは、渦を巻いて事態が錯綜していたことを。 昨日の災難はまさに俺たちが問題の渦中に放り込まれたというだけで、こいつが静かであるのは、ただ、台風の中心は不気味に静かだということだったんだ。 以前の俺は、あいつらに勝手にやってろなどと言ったこともあったが……今は違う。 この一年、俺はハルヒたちに散々な目に合わされ、自分の生き方が大きく変わってきた。 だが、振り返ればわかる。 これはもちろん、散々楽しいことを俺たちSOS団が行ってきた結果、俺の世界が大いに盛りあがったということだ。 だからというわけじゃない。俺は当然のこととして、今回の問題にぶつかることとなる。 それが動き出したのは、午前の部の中休みの谷口と国木田との会話からだったのだろう。 そして、この事件の中心人物は二人いる。 一人はもちろんのこと、そしてもう一方は当たり前であった。お気づきだろうが、あえて名前を呼ばせて頂く。それは――、 ハルヒ。 長門。 ……事件は、俺の予想斜め上で降りかかる。 なあ、教えてくれないか? お前たちの願いってのは……一体なんなんだ? 第七章
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天蓋領域との壮絶かつ困難なバトルの話は俺の中で整理がついた時にでもゆっくり 語ろうと思う…… 。 季節は三度目の桜がまるで流氷を漂うクリオネの姿で舞う光景を見ながら、 俺はシーシュポスの苦痛を3年間も続けたんだなという感慨にふけり、後ろを 振り返った。 北高に入り、ハルヒと対面したあの日が走馬灯のようによみがえってくる。 思えば「宇宙人、未来人、…… 」あの言葉を聞いた瞬間から俺は夢のような時を 過ごしてきたんだなとも思う。 まさに光陰矢のごとし、カマドウマにも五分の魂ってやつか…… 。 そんなこんなで今日は朝比奈さんの卒業式当日。 もちろん鶴屋さんもその満面に笑みを称え、卒業生の輪の中にいた。 「安定していますね、まさに一般人に戻ってしまった涼宮さんそのものですね。 あっ、それと僕の能力も消えてしまいました」 顔が近すぎるんだよ、古泉、あいも変わらずなぜそんなにくっついて話す 必要があるんだ? 「情報統合思念体も二次的なフレアの原因は涼宮ハルヒという生命体が持つ 内部の自己矛盾から開放されたと推測している。わたしの役目も終わりに 近づいているのかもしれない」 寂しそうな笑顔を向ける長門…… 寂しそうな笑顔? 長門、お前はいつから そんな感情を露にした表情ができるようになったんだ…… 。 「観察が終わればわたしはここから去らねばならない…… 」 その神のごとき能力を失ったハルヒは泣きじゃくる朝比奈さんと大笑いしている 鶴屋さんの真ん中で大いにはしゃいでいた。 卒業式の余興にあのバニーのコスプレでどうやら「GOD KNOWS」を 歌うらしいのだ。 もちろんSOS団内に結成したENOZⅡというバンド名なのはいうまでもない。 はしゃいでいるハルヒを俺はずっと目で追っていた。相変わらずハイテンション なハルヒ、昨日まで世界はお前を中心に回っていたといっても過言じゃないんだぜ! あの日を境にな、あの日を境にお前の能力が失われていることに気づいたのは つい最近なんだ、だが俺はなぜかほっとしている。これで、お前を、ちゃんと真正面から 見ることができるんだ。 不思議から開放されることが、いやもう二度とあの世界へは戻れないんだと してもだ、俺は心からハルヒ、お前が普通でいてくれることをありがたく思うよ。 この世界の創造主なんて役目はかわいい女の子には荷が重過ぎるだろ、違うか!? なんたって神様好きになっちゃバチが中るってもんさ、 卒業まで一年俺はこう思ってるんだ。不思議じゃない高校生活もきっといいもんだぜ…… 。 ハルヒ、告白しちゃいけないか、手をつないじゃいけないか、デートしちゃいけないか? この世界にたった一つ不思議があるとしたらめぐり合った奇跡じゃないのか? 「ハルヒ…… 俺は…… お前を…… アイシテル…… 」 了
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七章 夕日の光が病室の中にまで及んで、妹ちゃんの心なしか寂しそうな寝顔に差し込んでくる。 この肌寒い時期にもかかわらず、その光は暖かみにあふれていた。 あたしはカーテンを閉めた。間もなく日が沈もうとしている。だけどあいつは来ない。 「キョンくん、どうしたんですかね…」 しらないわよ、みくるちゃん。こっちが聞きたいくらい… 何よ。昨日は来るっていったじゃない。朝からずっと待ってるのに……… 「まだ具合が悪いのかも…」 そうなのかな、昨日最後に会ったときは顔色よかったけど… 「有希、どう思う?」 じっと妹ちゃんを見ていた有希はかすかにこちらに顔を向けた。 「…今のわたしにはわからない。しかし彼に何らかの異常が起こっているのは確か… 行ってあげて。あなたが行くのが最も適切」 異常か。ま、確かにこんな所でずっと待ってるなんてあたしらしくないわね。 引きこもっていじいじしてたら許さないんだから!! それからは早かった。あたしの持ち前の脚力のお陰で目的地にはすぐ到着した。 昨日と同じようにチャイムを押す。………出てこない。 あたしの指に連動して続け様に鳴る音に憤りを感じ始めた頃、あいつは玄関のドアから顔を出した。 「あんた今まで何やってたのよ!!今日は妹ちゃん達の病室に来るんじゃなかったの?!!」 「…スマン、寝てた」 「はぁ!!!?…何よ。まだ体の調子悪いの?」 あたしの問いに答える気はない様子のキョンは思案顔をして、そのあと意を決したように言った。 「まあ、とりあえず…入れよ」 「あのね、あたしはあんたを迎えに来たのよ!」 「頼む、少しでいい、話があるんだ」 表情から、その話の内容を読み取ることは出来ない。しかし キョンの目には確かに決意のような、力強さが宿っっていた。それが何に対する決意かはわからない。 だけどそれは確実にキョンを取り巻いていた。だからあたしは断ることが出来なかった。 どこか儚げで、それでいて並々ならぬ意志を纏ったキョンの後につき、あたしは玄関に上がった。 今日は何故かリビングに通された。ソファに座るように促されたので遠慮なく座ることにする。 「…で、何よ、話って。言っとくけど、つまらないことだったら承知しないわよ」 言うまでもなく、あたしは家族の見舞にも来ないで家で寝てた上に、未だ急ぐ素振りも見せず、 自宅でくつろごうとしているキョンに憤りを感じていた。 「なあ、ハルヒ、俺とお前が出会ってから三年近くになるな」 横にいるあたしに目を合わせず前にあるテレビを見据えながらキョンは穏やかな声で言う。 「だから何よ、思い出話なら病院でたっぷり聞いてあげるから!!」 「ははは、相変わらずだな、お前は。いっつも強引で…だけど…お前も変わったよな。」 はぁ?一体なんなの?さっきから何こいつ語ってんの?ていうかこいつあたしの言ってること聞いてる? 「俺も変われたかな、ハルヒ。」 「知らないわよ!そんなこと!!!!」 あたしのイライラは頂点に達していた。 わけわかんない!何でこいつはこんな時に悠長に話してられるのよ! キョンは、ふうとため息を一つ吐くとこっちに振り向き言った。 「ハルヒ…俺、お前に会えて本当によか…うわあああ!!!!」 突如響いたキョンの悲鳴。それは断末魔の叫びと称しても納得出来る程、苦痛に満ちていた。 見るとキョンはソファから落ちて尻餅の状態だ。 「あ……あ…さ…朝…く…な、何でお前が…ここに…」 キョンの顔から汗が吹き出ている。力強かった目の瞳孔は開きっ放しで、肩は軽い痙攣を起こしていた。 素人目で見てもこれは普通じゃない。 「ち、ちょっと!朝?みくるちゃんのこと?何?どうしたの?」 「くるなああぁ!!!!」 キョンは尻餅の状態のまま、回りにある様々なものをこちらに投げてくる。 新聞紙、座布団、テレビのリモコン。それらが部屋一体を飛び交う。 「また俺を殺しに来たのか!お前なんかに…お前なんかに殺されてたまるかぁぁぁぁ!!!」 なんなの、これ…わけわかんない…キョンはあたしの方に目をむけているが、あたしを見ていない。 「キョン!キョン!やめて!あたしはハルヒよ!どうしたの?!ねえ!!」 「だまれぇぇぇ!!」 ガシャン!!! 「キャアアア!」 嘘…シャレになってない。気がつくとテーブルの上にあった、 ガラス製の灰皿はあたしの後方にある窓の残骸の中で、変わり果てた姿で存在していた。 どうすればいいの、どうすれば…その時ある台詞が頭の中をよぎった。 そして次の瞬間にはあたしはその台詞を吐き出していた。 「ひ、東中出身涼宮ハルヒ!!ただの人間には興味ありません! この中に宇宙人!未来人!異世界人!超能力者がいたら、あたしの所に来なさい! もう一度いいます!あたしの名前は…涼宮ハルヒ!!!以上!!!」 何でこの台詞を言ったのかはわからない。無我夢中だったから… ただ、この台詞はとても大切なもののような気がしたから…あたしにとっても、キョンにとっても。 キョンの動きが止まった。お願い、いつものキョンに戻って… その目にはちゃんとあたしが映ってるだろうか。 「……はあ、はあ、くそ、目障りだ…消えろ、ハルヒにまとわりつくな…消えてくれ。 …………ははは…もう来やがったか…いくら何でも早すぎだろ。」 脈絡があるとはとても思えない言葉を羅列すると、キョンは階段をかけ上がっていった。 ぺたん、と膝をつく。もう何がなんだかわからない。 早すぎるって何が? 思えばここ最近は色々なことがあった。キョンに殴られて、何故かすぐに仲直り出来て、 キョンの家族が事故に会って、でもあいつは来なくて… ああ、ダメ、これ以上考えたらいくらあたしでもパンクしちゃう。 あたしは思考を停止させた。ただボウッと固いフローリングにヘタレこむ。 だけど一旦停止した思考は階段から降りて来たキョンによって 強制起動させられた。キョンの顔色はもう元に戻っている。 「なんなの?ねえ…答えて!いい加減にしてよ!わけが分からない…答えてよぉぉ!」 やば、顔の内側から熱いものが込み上げて来る。 気が付くとキョンはあたしを抱き締めていた。昨日の未遂をいれると、これで三回目。 だけど今の抱擁は今までで一番弱々しい。 「ごめんな、本当にごめん、ハルヒ。やっぱ俺…ダメみたいだ。勝てそうにない…約束守れなくて…ごめんな…」 勝てない?何のことを言ってるの? 「ハルヒ、俺…お前に会えて本当によかった…」 キョンは震えた声で言う。そんなもうお別れみたいな言い方やめてよ。 「だから…今日はお別れを言うためにお前を呼んだ。」 ッッッッッ!!!! 体中に電撃が走った。もう何度目になるかわからない疑問。 「何でよ!説明してって何回も言ってるじゃない!イヤだ!お別れなんて絶対!答えて!答えろ!」 もう自分でも何言ってるかわからない。それが言葉なのか嗚咽なのかすら…そんな叫び。 「教えてよ……ねえ!!……お願いだから…」 「勝手なことを言ってるのは分かってる…だけど言わせてくれ…お…ら…えろ」 「え?」 「俺の前から消えろ!!!!二度と俺の前に姿を表すな!!!!出てけ!!!!」 その能力があたしの内に宿ったことに気付いたとき、最初に思ったのは、 「ああ、あたしもいつの間にか打たれてたんだ」だった。 脳に飛び込んでくるあたしのものとは別の意志。瞬間的に見える灰色の町と蒼白い巨人。 あたしのこれまでの家族環境は、この変化をドラッグの副作用と勘違いさせるのに十分だった。 同じ中学で彼氏でもある谷口くんに、両親のことがバレて別れたばかりで、 消沈していたあたしは、この状況を簡単に受け入れた。 これからはあたしもあの人達と同じ道を歩いて行くんだ… そんな諦めに近い感情があたしを支配した。 それからしばらく、あたしはフラッシュバックの恐怖に耐えながら、 気が狂いそうな自分を必死でつなぎ止め、自室ですごしていた。 この時、自殺を考えなかったのはあとになって考えてみれば、 涼宮ハルヒがそれを許さなかったからなのかもしれない。要するに人材不足の回避。 彼女の無意識の思惑通り、両親が刑務所に連れて行かれるのと同時に、あたしは機関の存在を知った。 そこにいる人達はあたしの素性を知っている。クラスや近所…そして谷口くんが忌み嫌って避けたあたしの素性を。 だけどこの人達はそんなあたしを受け入れてくれた。 警察から両親のいなくなったあたしを、いとも簡単に引き受けて養ってくれた。 やっと自分の居場所が出来たんだと、この能力をくれた神と称される涼宮ハルヒに、あろうことか感謝さえしてしまった。 神様は非情だ。居場所を与えてくれたと思ったら、すぐにそれを奪っていく。 センパイを奪い、本当の古泉くんを奪い、そしてタックンを……… だから復讐する。一番大事な人を、タックンと同じ方法で… なのに、何であなたはあんなに楽しそうなの?ニセモノの自分がそんなに好きなの?古泉くん……… あたしは走っていた。自分が今、泣いているのかどうかも分からない。 ただキョンが言った言葉、それだけがあたしの全てを動かす。 キョンが意味もなくあんなことを言うはずがない。きっと理由があるんだ。それはわかってる。 だけど、そんな理性はキョンに拒絶されたという事実の前では、何の役にも立たなかった。 やがてあたしは、吐き気をも引き起こしそうな疲労と共に足を止めた。足がガクガクする。 このあたしがここまで完全に息が上がっているのだから、相当な距離を走っていたんだろう。 あたしは震える手でケータイを開いた。 「もしもし、古泉ですが。」 「ヴゥ…古泉くん!!キョンが…キョンが!あたし…あたしぃ……!」 涼宮さんのあまりに悲痛な嗚咽混じりの声に、オレは寒気すら感じた。 先程のパーティ会場でのことを思い出す。まさか…いや、そんなはずはない!! 「落ち着いて下さい!涼宮さん!今、自分がどこにいるかわかりますか?」 「わからない、遠い何処か…わからないよぉ…もう、何もわからない…」 だめだ、完全に混乱している。こちらで探し出すしかない。 「朝比奈さんと長門さんにはこちらから連絡します。あなたは決してそこから動かないで下さい。」 それからオレは森さんと新川さんに頼んで、パーティ会場にいる同士に事情を知らせ、協力を促した。 しかし、協力を申し出たのは森さんと新川さんを除けば、田丸兄弟だけ。 他の同士はもう関わりたくないようだ。当然だ。 今救おうとしてるのは自分達を散々振り回し、時には命の危険までをも、もたらした少女である。 むしろ今のオレ達の方がイレギュラーな存在なんだろう。 傍観に徹してくれてるだけでも、ありがたいと言うべきだ。 だけど、止まれないんだ。止まるわけにはいかない。仲間だから…もう二度、仲間を…仲間を失いたくない!!! 「こちら、森と新川。涼宮ハルヒを発見したわ。場所は――――」 あれから長門さんと朝比奈さん、さらにたまたま出会った鶴屋さん、 谷口くん、国木田くんにも協力を願い、捜索を決行した。 思ったより時間はかからなかったが、あたりはすっかり寝静まっている。 涼宮さんはオレ達の町の数十キロ離れた公園で発見された。 足にかなりの負担がかかっているらしく歩くことも、ままならない状態とのことだ。 何が彼女をここまで追いやったんだろう。いや原因は分かってる。 …彼だ。涼宮さんからの電話の内容でそれは推測出来る。なら、次にやるべきことも自ずとと決まってくるだろう。 「了解しました。協力してくれた方々にも連絡お願いします。僕は…確かめたいことがありますので。」 彼の家、本来ならば訪れることに一考を要する時間帯だが、オレに迷いはなかった。 呼び鈴を押してもおそらく出ないだろうと想像はつくが、一応押してみる。 …………やはり出ない。 ならばとオレはピッキング器具を持ち出し、ものの数十秒で玄関のドアをこじあけた。 こんな状態でも機関仕込みの技術を落ち着いて行使する自分に少々驚いていた。 中は闇に包まれていた。何度か訪れた彼の家。 雰囲気が異様に感じるのは、現在の時間帯のせいだけではないだろう。 まずはリビングへと侵入すると、彼はソファに倒れ込むように寝ていた。 よほど熟睡しているのか、口からはヨダレを垂れ流している。 オレは彼を起こす前に、それに気付くことになる。暗闇の中、彼の手の中で月の光に照らされて怪しく光る「奴」の存在に。 これは…注射器?! ドクン! ――神を殺さないか?―― ――何故裏切った!古泉ィ!!―― ――ハハハ、今の俺はとても清々しい気分なんだ―― 頭にこびりついてくるその声を必死にふり払い、彼の右腕を確認する。 彼は右利きだということは、とっくに知っていることなのに、最初に右腕を確認する辺り、 少しは想定していた事態とはいえ、相当に気が動転していたのだろう。 一瞬、「それ」がなくてホッとしてしまった。しかし、すぐにそれを後悔することになってしまう。 「あ…」 彼のもう片方の腕にはおびただしいほどの注射跡が存在していた。 細菌が繁殖しているのか、それは紫色に変色していて痛々しさに拍車をかけていた。 ドクン! 「ん…春日…もう一度…俺に……春日…ハルヒ…」 「あ…ああ…ぅあああああぁぁぁぁ!!!」 オレの絶叫に構うこともなく、彼は寝言をつぶやいているだけだった。 八章へ
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「はぁ…はあ…、くっ…!」 俺は走っていた 息を切らしていた …… ああ…やっぱみんな揃ってやがる… …… …疲れた 「キョン…遅い!!罰金ッ!!」 高々に罰金宣告を放つ団長様。 「…俺がいつも最下位っていうロジックは変わらないわけだな…、」 「遅れてくるあんたが悪いんでしょ!?」 「まあまあ涼宮さん。彼も疲れてるようですし、このへんにしておきましょう。」 「そ、そうですよぉ。キョン君息まで切らしてるみたいですし…。」 古泉と朝比奈さんが仲介に入ってくれる。 「ふん、頑張ってきたことを認めたって、あんたがビリなことには変わりないんだからね!」 「…そんなことわかってるぜ。別に事実を否定しようとは思わん。だから、早く中へと入らして休ませろ…。」 そんなこんなで、俺たちは喫茶店へと入る。 椅子へと座る。 …… ふう… やっと一息つけたぜ。 「やはり、昨日の疲れはまだとれませんか?」 口を開く古泉。ハルヒはというと、長門や朝比奈さんと一緒にメニューを眺めている。 「当たり前だろう…そういうお前こそどうなんだ?内心はかなりきつかったりするんじゃないのか?」 「…確かに、きつくないと言ってしまえばウソになります。ですが、その疲労もあなたと比べれば 大したことありませんよ。あそこに残り、最後まで涼宮さんと一緒に戦い続けた…あなたと比べればね。」 「さ、あたしたちのは決まったわよ!男性陣もとっとと決めちゃいなさい!」 そう言ってメニュー表を渡すハルヒ。 「何に決めたんだ?あんま高価なもんは勘弁してくれよ、払うのは俺なんだからな。」 罰金とは即ち、全員分の食事をおごること…SOS団内ではそういうことになっている。 もっとも、それを毎回支払うのは俺なんだが…。 「あのね、あたしだってそこまで鬼じゃないわ。せめてもの慈悲として、一応1000円は 超えないようにしているもの。あたしが頼むのはね、そこに載ってる…これよこれ!」 「…このチョコレートパフェ、値段が800円なんだが…」 「つべこべ言わない!そんくらい払いなさい!そもそも、遅れてくるあんたが悪いんだから!」 何が、あたしは鬼じゃない…だよ…。それどころか、棍棒を装備した鬼といえる。 「…キョン君、財布が苦しいようでしたら、いつでも相談してきてください。 機関でそのへんはいくらでも工面できますから…。」 ハルヒに聞こえないよう小さく耳打ちする古泉…って、マジか!?それは非常に助かる… 「いつもいつも払ってもらってゴメンねキョン君…なるべく私安いのを頼むから…!」 そう言って朝比奈さんが指したのは…この店で最も安い120円のオレンジジュースであった。 「私も…朝比奈みくるに同じ。」 「奇遇ですね。僕もそれを頼もうと思ってたところなんですよ。」 長門、古泉が言う。 …つくづく、俺は良き仲間に恵まれたと思う。なんだかんだで3人とも俺に気を使ってくれている。 まったく、どこぞの天上天下女に… 一回みんなの爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ。 「え、えぇ!?みんなオレンジジュースにするわけ!?」 動揺するハルヒ。 「みたいだな。ちなみに、俺自身もそれを頼もうと思ってる。」 「あんたの注文なんか聞いてないわ!!」 そうですか… 「だってみんなオレンジジュースな中、あたしだけデザートっていうのもバカらしいじゃない!? しかも結構でかいから食べ終わるのに時間かかるし…!!あぁ…もう!!じゃあ、 あたしもオレンジジュースでいいわよ!!良かったわねキョン?みんな安い物選んでくれてさ!」 これは驚いた。なんと、俺たちは意図的ではないにしろ、あの涼宮ハルヒ自らの決断を… 覆してしまった!!歴史的瞬間とはこのことか!こんなの今までなかったことだぜ…? …なるほどなぁ、ようやくハルヒも人の痛みがわかる道徳人間へ進化したってわけだ。 「何ボケっとしてんの!?そうと決まれば、早くみんなの分注文しなさい!」 前言撤回。俺の勘違いだったらしい。 …… 「じゃ、いつものクジ引いてもらうわよ!」 SOS団恒例のクジ引きである。不思議探索にて二手に分かれる際、 その人員采配として、この手法が導入されている。 …… 皆、それぞれハルヒからクジを引く。 「おや、僕のには印はないようです。」 「私にもないです。」 「ん?俺もだな。」 ということは… 「え…!?じゃあ、あたしと有希!?」 「そういうこと。印があったのは私とあなただけ。」 …珍しいこともあるもんだ。まさか、組み合わせが俺・古泉・朝比奈さんとハルヒ・長門に分かれるとは。 「有希と二人っきりなんて、なかなか無い機会よね~今日はよろしくね有希!」 「こちらこそ。」 ジュースを飲み干し、会計を済ませた俺たち。そういうわけで俺たち5人は…不思議探索とやらに励むのであった。 「いつも通り、5時に駅前集合ね!」 そう言って、長門とともに商店街のほうへと歩いていくハルヒ。 「なるほど、涼宮さんたちはあちらに向かわれたようですね。我々はどうしましょうか?」 「そうだな、とりあえず俺は…落ち着いて話ができる場所に行きたいな。 朝比奈さんはどこか行きたいところはありますか?」 「いえ…特にないですよ。お二人の好きなところで結構です♪」 「そうですね…では、図書館にでも行きませんか?あそこでしたら静かに話をするには悪くない上、 暖房も聞いていますし…ちょうどいいのではないかと。さすがに、また喫茶店やファミレス等に入るのも… あなたたちには分が悪いでしょう?」 「いや、俺は別に…それでも構わんが。」 「でも、さっき私たちジュース飲んだばかりですよね。昼食だって家で既にとってますから…、お店に入っても、 特に進んで何かを頼む…というわけではないんですよね?でしたら、私も図書館がいいと思います。 話してばかりで何も頼まないようでしたら、お店の人に迷惑がかかるかもしれませんし…。」 …確かにその通りだ。朝比奈さんの指摘もなかなか鋭い。 「決まりですね。では、図書館へ向かうとしましょう。」 俺たちは歩き出した。 「それにしたってなぁ…ハルヒのヤツも、今日くらいは集合かけんでよかったのにな… いくら今日が日曜で不思議探索の日だからって…。ついさっき、12時間くらい前か? 俺たち…この世界の危機に立ち会ってたんだぜ!?」 「仕方ないですよ。涼宮さんは…神に纏わる一切のことを忘れてしまったのですから。 昨夜の一連の記憶がないんです…二日前から今日にかけての日々は涼宮さんの中で 【いつも通りの日常】として補完されているはず、つまり【無かった】ことにされているんです。 であれば、日曜恒例の不思議探索を、彼女が見逃すはずはありません。」 「…まあ、それもそうだよな…あいつ、覚えてないんだよな…。」 …… 「それにしたって、今朝お前に…家まで車で送ってもらったことに関しては、本当に感謝してるぜ。 脱力しきって動く気すらなかったからな…とても家まで自力じゃ帰れなかった。 それと…朝比奈さんもいろいろとありがとうございました。」 「感謝なんてとんでもない。当然のことをしたまでです。」 「そうですよ…私たちなんか、キョン君と涼宮さんが闘ってる間、何もできなかったんですから… むしろ、今か今かと二人を助ける時を待ってたくらいなんですから!」 「古泉…。朝比奈さん…。」 …古泉・朝比奈さん、そして長門の三人にしてみれば、これほど歯痒い思いもなかったかもしれない。 できることなら、神を消し去るそのときまで…俺やハルヒと一緒に闘い続けたかったはずだ。 「…それにしても、三人ともよく俺とハルヒが倒れてる場所がわかったな。」 「前例がありましたのでね、推測は容易かったです。」 「前例?」 「以前、あなたが涼宮さんと二人で閉鎖空間を彷徨われたことがありましたよね。 あそこから帰ってきたとき…気付けば、あなたはどこにいましたか?」 「どこにって…自分の部屋のベッドだな。お前にも前にそう話したはずだぜ。」 「そうですね。で、そのあなたの部屋とは…即ち、涼宮さんによって 閉鎖空間に呼ばれた際、あなたが現実世界にて最後にいた場所というわけです。」 「まあ…そういうことになるな。ベッドに入りこんで眠った直後、俺は閉鎖空間にいたわけだからな。」 「その理屈を今回の事例にも当てはめた…ただそれだけのことです。」 「…なんとなくわかったぜ。」 「今回涼宮さんが閉鎖空間を形成するに至った契機となったのは…長門さんが隣家を爆破した、 あの瞬間です。とは言っても、あくまでそれはキッカケにすぎません。決定打となったのは… 朝比奈さんが涼宮さんをかばい、敵からの攻撃を被弾した…あのときでしょうね。」 「わ…私ですか…?」 …血まみれになった朝比奈さんを思い出す。 …… 確かに、精神的ストレスとしては十分なものだったかもしれない。 「その時点での涼宮さん、及びあなたの立ち位置はどこでしたか? 涼宮さんの家の前でしたよね。それさえわかれば、後は何も言うことはないでしょう。」 「俺たちが現れる場所も、つまりはハルヒの家の前だと。」 「そういうことです。」 「…なるほど、簡単な理屈だな。それにしても朝比奈さん、昨日は無事帰れましたか?」 「それはもちろん!森さんがちゃんと私たちを送ってくれましたから!それにしても… 彼女の見事なハンドル捌きにはあこがれちゃいます!私もあんなカッコイイ女性になりたいです…。」 …新川さんの運転もやけに上手かったな。その証拠に、 ハルヒ宅から俺の家に着くまでの時間も…随分短かった気がする。…機関はツワモノ揃いだな。 …… ------------------------------------------------------------------------------ 闇だった 意識を失った俺を待っていたのは …闇だった …… 俺はどうなるんだろうか?このまま永遠に目を覚まさないのだろうか? …そんなことがあってたまるか…!俺は…生きてハルヒに会わなきゃいけないんだ…! …… 誰か…助けてくれ…っ! …… …? 何か声がする… 誰かが俺を呼んでいる …… 古泉…? 長門…? 朝比奈さん…? ……みんな…? 「ッ!!」 …… 「こ…ここは…?」 「!?目を覚ましたんですね!!」 「キョン君…!!無事で…何よりです…!」 「…本当に良かった…。」 …… 仲間たちの姿が…そこにはあった。 「俺は一体…」 「本当によくやってくれましたよあなたは…涼宮さんと一緒にね。」 「涼宮…。」 …… 「そうだ…ハルヒは!?」 すぐに立ち上がり、辺りを見渡す。なんと、横にハルヒが倒れているではないか。 …… ハルヒ…また会えたな…っ! 「おいハルヒ…大丈夫か!?ハル」 言いかけて口を閉じる。 …… 『明日にでもなれば…神だの第四世界だのそういうことを一切知らない、 ちょうど三日前の状態のあたしがいる…と思うわ。』 そうだ…。このハルヒは、昨日今日のこのことを覚えていない。神に纏わる全ての記憶を。 『ええ…残念だけど。でも、あたしはそれでいいと思う… 普通の、一人の少女として生きるのであれば、こんな記憶…邪魔以外の何物でもないもの。』 わかってるさ。そのほうが…ハルヒは幸せに生きられるもんな。 …とはいえ、それはそれで悲しいもんだ。もう、【あのハルヒ】には会えない…ってのは。 「涼宮さん、まだ起きないんですよね…。どうしましょう?」 「キョン君も起きたところですしね。呼びかけてみましょうか?」 「!待ってくれ古泉…!ハルヒは…このままにしておいてやれないだろうか?」 俺は…事ある事情を話した。 …… 「なるほど…言うなれば、涼宮さんは三日前の状態に戻った…というわけですね?」 「…ああ、そうだ。だから」 「言いたいことはわかりました。涼宮さんはこのままにしておきましょう… それもそのはず、前後の記憶がないのであれば 今ここで起こすわけにはいきませんからね。 『どうしてあたしはこんな外で寝ていたの?』、このような質問をされてしまっては 不都合なことこの上ないでしょうから。」 …さすが古泉。お前の理解力には脱帽だぜ。 「となれば…。朝比奈さん、長門さん 頼みがあります。」 「な、何でしょう!?」 「これから二人で涼宮さんを背負って…彼女の部屋、できれば寝床まで 連れて行ってもらえないでしょうか?少々きついとは思いますが…。」 「あ、そっか…目を覚ましたときにベッドの上にでもいれば、 涼宮さん自然な状態で起きられますもんね!私…頑張ります!!」 「了解した。涼宮ハルヒはきっと部屋まで連れて行く。」 「お、おい古泉!?ハルヒくらい俺一人で背負って行ってやるぞ!? 何も長門と朝比奈さんに頼まなくても…しかも、長門は未だ能力が使えないだけあって 体は生身の人間なんだ。いくら二人がかりとはいえ…それなりの負担にはなっちまうぞ!」 「だ、大丈夫ですよキョン君!すぐ着く距離ですから!」 …? …… そういえば 俺は…ここがどこかをよく把握してなかった。起きたばかりで、いささか余裕がなかったせいか? 隣には見慣れた家がある。いや、見慣れたとかそういう次元の問題ではない…か。 そりゃそうだ。なぜなら、それはさっきまで俺たちが一緒にいた家なんだからな。 …つまり、俺たち二人はハルヒの家の前で倒れていた…というわけだ。 「いや…、それでもだな…。」 「今は涼宮ハルヒのことは私たちに任せて、あなたは休息をとるべき。あなたは今、心身ともに衰弱している。」 「何言ってやがる長門?俺はこの通り…」 …どうしたというんだ?足に力が入らない…?気のせいか、体もふらふらする。 「キョン君…私からもお願いします、どうか今は休んでください! 自分では気付いてないのかもしれないけど…すっごく疲れきった顔してるんですから!」 何…!?今の俺の顔はそんなに酷いというのか。 「彼女たちもそう言ってくれてるんです。ここは素直に従ってくれませんか?」 「あ、ああ…わかった。じゃあ、ハルヒをよろしく頼みます…朝比奈さん、長門。」 「はいっ!任せてください!」 「では朝比奈さん、長門さん…涼宮さんを運び終えたら、しばらくの間、彼女の家で 待機してていただけませんか?こんな夜遅くに女性が一人外を出歩くのは…危険ですからね。 長門さんも今は普通の人間なわけですし。というわけで、これから森さんに電話を入れます。 彼女の車がここに来たら、それに乗り…家まで送っていってもらってくださいね。」 「古泉君…ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えます!」 「それと、すでに新川さんには電話を入れてあります。彼にはキョン君を送っていってもらいましょう。」 「古泉…すまんな。」 「いえいえ、こんなときのために機関の面々はいるようなものですから。」 「じゃあ、長門さんはこっちをお願いします!」 「了解した。」 ハルヒの肩を担ぎ、彼女の家へと入ってゆく二人。 「おや、もう来たみたいですね。」 ふと、道の横に黒塗りの車が停まっているのが見える。 「…いつ呼んだんだ?」 「3分前くらいでしょうか。あなたが目を覚ます直前くらいですね。」 …相変わらず仕事が速い新川さんである。 「さて、森さんにも電話を入れました…じきに彼女もココに来るでしょう。では、車に乗るとしましょうか。」 新川さんの車に同乗する俺と古泉。 「今日は本当にお疲れ様でした。帰ってゆっくりとお休みください。」 「…どうもです。新川さんも、夜遅くお勤めご苦労様です。」 「ははは、あなたの偉業と比べれば、私の働きなど足元にも及びませんよ。」 フロント席から俺に話しかける新川さん。 …… 「古泉…大丈夫か?そういうお前も随分疲れてるように見えるが…。」 「おや、そう見えますか?だとしても、弱音を吐くわけにはいきませんね。 これから僕は一連の事後処理に追われるわけですから。」 「これからって…まさか今からか??」 「ええ、そうです。」 「……」 時計を見る。今は午前の2時である…。 「新川さんの車で本部に帰ったら、ただちに仕事のスタートです。神は一体どうなったのか、 涼宮さんの能力の有無は…、調べるべきことは山ほどありますよ。」 …確かに、それは気になる。何よりも、神がどうなったかということが。 「…僕個人の勝手な推測で言わせてもらうと、神は消滅したのではないか?そう考えてます。現に今、 この世界に何も異変が起こっていない…それがその証拠かと。仮に時間を置いて世界を滅ぼすつもりで あったとしたら、地震や寒冷化などといった何らかの前兆が観測されてしかるべきはずですからね。」 「…そう信じたいものだな。」 「場所は、ここでよろしいですかな?」 気付けば俺の家の前まで来ていた。 「新川さん…ありがとうございました。そして古泉…大変とは思うが、どうかほどほどにな。」 「はい、心得ておきます。では、お休みなさい。」 「おう、またな。」 …さて、家に入るとするかな。…合いカギもってて助かった。 …… 部屋へと戻った俺は…ベッドに倒れ込んだ。…もはや何も考える気がしない。 気付くと俺は寝ていた。 …? 携帯が鳴っている。はて、目覚ましをセットした覚えはないのだが…。 …ああ、なるほど。電話か。窓からは日が射している…起きるには十分な時間帯、というわけか。 とはいえ、昨日あんなことがあったばかりだ…正直言うと、まだ寝ときたい。 …電話? …… まさか…ハルヒに何か!? 「もしもし、俺だ!」 「こぉ…んの…!!バカキョンッ!!今どこで何やってんのよッ!!?」 「おわ!?」 …驚くのも無理ないだろう…?まさかの本人ですか。 「は、ハルヒ…?何の用だ??」 「はぁ!?まさか忘れたとは言わせないわよ!?今日は不思議探索の日でしょうが!!」 「…今何と言った?不思議探索だと!?なぜ今日するんだ??」 「あんたがそこまでバカだったとはね…今日は日曜でしょう!?」 …確かに今日は日曜日だ。なるほど、いつもこの曜日、 俺たちSOS団は町へと出かけ、不思議探索なるものをしている。…だが 「昨日あんなことがあったばかりだろう?それでも今日するのか??」 「あんなことって何よ??いい加減夢の世界から覚めたらどう!?」 …しまった。そういや、ハルヒはこの三日間のことは…覚えてないんだっけか?? 「とにかく!!今すぐ駅前に来ること!!いいわね!?」 「…ちょっと待ってくれ。今すぐだと!?いくらなんでも急すぎやしないか??」 「何言ってんのよ!?今日の3時に駅前に集合ってメールしたじゃない!!」 「そ、そうだったのか??」 「まさかあんた、今起きたとかいうんじゃないでしょうね…?失笑通り越して笑えないわよ…。」 「わかったわかった!!今すぐ行くから!!じゃあな!!」 電話を切る俺。 …マジだ。メールが来てやがる。って、今3時かよ!?こんなに寝てたのか俺!? …… 幸いだったのは、俺が着ているこの服が外出着だったってことか。 もちろん、いつもなら寝間着なんだがな…昨日が昨日なだけにそのまま寝ちまった。 とりあえず、これなら財布・カバン・自転車のカギを身につけ、上着を羽織りゃすぐにでも直行できる。 身支度を終え、部屋を飛び出す俺 「あ、キョン君!やっと起きたんだね!」 廊下にて、妹に見つかる。 「私がどれだけ叫んでも、キョン君ぐっすりだったんだよ? でも今日は休日だから!さすがにドシンドシンするのは勘弁してあげたの!」 ドシンドシンとは…寝ている俺めがけ、トランポリンのごとくヒップドロップをかます 妹特有非人道的残虐アクションのことである。もっとも、妹にその気はないらしいが… って、俺は妹の叫び声でも起きなかったのか。どんだけ熟睡してたんだ? 「ちょっと疲れててな…起きるのがすっかり遅くなっちまった。とりあえず、俺は今から出かけてくるぞ。」 「ええー?今からお出かけ?あ、わかった!SOS団の人たちと何かするんだね?」 「…お見通しってわけか。ああ、そうだぜ。」 「行ってらっしゃ~い。あ、でもキョン君今日まだ何も食べてないじゃない?大丈夫~?」 しまった。そういや今日…俺はまだ何も食べていない。あれ?デジャヴが? …あー、昨日もそうだったか。そのせいで俺たちは…あの後マックへと行ったわけだ。 だが、今回はそうもいくまい。なぜなら、不思議探索をやるこの日に限って…しかも昼3時までに 昼食をとっていないなどというのは、ハルヒ的に考えられないからだ…! まあ、別にいいか。食べてる時間などないし…。それに、昼飯なら探索時にどこかで適当なもん買って 食えばいいだけだろう…。外に出た俺は自転車に跨ると、すぐさま駅へと向かった。…全速力でな。 …… 駅前の駐輪場に自転車を置いた俺は、すぐさまハルヒたちのもとへと走るのであった。 ------------------------------------------------------------------------------ …ちょっと回想してみたが。ホント、昨日今日と忙しい日々だった…。 …… おお、ちょうどいいところに店が。 「ちょっとコンビニ寄ってもいいか?」 「いいですよ。何か買うんですか?」 「ちょっと飯を…な。今日まだ何も食べてねえんだよ。」 「え、そうだったの!?それなら私、あんなこと言わなかったのに…。」 あんなこと…?ああ、あれか。 『でも、さっき私たちジュース飲んだばかりですよね。昼食だって家で既にとってますから…、お店に入っても、 特に進んで何かを頼む…というわけではないんですよね?でしたら、私も図書館がいいと思います。』 「いえいえ、いいんですよ朝比奈さん。古泉や朝比奈さんが何も頼まない横で俺一人だけ 何か食べるというのも…なんとも心苦しいですから。何より、二人が手持ち無沙汰でしょうしね。」 「別に私…そんなこと気にしませんよ?」 「ありがとうございます。でも、俺は飲食店に入ってまで大それた食事をとるつもりはないんですよ。 だから、軽い食事でOKなんです。」 「な、ならいいんですけど…。」 「では、我々はキョン君が食事をとり終わるまで暇を潰しておくとしましょう。 朝比奈さんは…何かコンビニで買うものはあったりしますか?」 「いえ…特にないですね。」 「なら、雑誌でも見ていきませんか?女性誌やファッション誌、漫画など… 未来から来た朝比奈さんには、この時代の雑誌はなかなか興味深いものと思われますよ。」 「!それもそうですね!面白そうです…!」 「というわけで…私たちは立ち読みでもしときますので、あなたはどうかごゆるりと。」 「すまんな古泉。」 とはいえ…あまりにマイペースすぎても2人に申し訳ないので、一応それなりのスピードで食させてもらうとする。 …… おにぎりと肉まんを買い、外に出た俺。 さて、食べるか…。 「ん?まさかこんなとこであんたと会うとは。」 「こんにちは。あ、それ肉まんですか?私はアンまんのほうが好きですね!」 …… いかん、うっかり手にしていたおにぎり&肉まんを落としそうになった。 「…どうしてお前らがここにいる…!?」 藤原と橘が、そこにいた。 「どうしてって…単にコンビニに飯を買いに来たってだけだ。」 「私も同じく!」 『単にコンビニに飯を買いに来たってだけだ。』 …こう言われては、俺もどうにも言い返せないではないか… なぜなら、コンビニに飯を買いに来ることはごく自然なことだからだ。当たり前だが。 「そうかよ…ならいいんだがな。それにしたって、俺は忘れたわけじゃねえぞ! よくも…朝比奈さんを血まみれにしてくれたな!?」 「ああ、あれか。あのことで僕たちに文句言われても困るんだがな。やったのは九曜だし。」 「もっとも、その九曜さんは今ここにはいませんけどね。」 「そういう問題じゃねえだろ!?九曜とか何とか関係ねえ、連帯責任だ!」 「うるさいやつだな…第一、九曜にそうさせたのはどこのどいつだ?」 「あれって言わば正当防衛みたいなものですからね。私たちが非難される所以はどこにも ありませんよ?誰かさんが家を爆破したりしなきゃ、こんなことにはならなかったんですから。」 …確かに、もとはと言えば、偽朝比奈さんに唆された俺が藤原一味を敵だと思い込んだことが 全ての発端か…そのせいで、長門や古泉は連中に対して先制攻撃に打って出ちまいやがった…。 「ま、どうせ異世界から来た朝比奈みくるにでも騙されてたってとこなんだろ?」 「……」 言い返せない。 「あらら、図星みたいですね。せっかく藤原君があなたに『朝比奈みくるには気を付けろ。』 って忠告したのにもかかわらずね。人の話はちゃんと聞かないとダメですよ?」 「?何のことだ?」 「え?藤原君が言ったの覚えてないんですか??」 …? 「それなんだがな、橘。実はそんときの記憶、こいつから消した。」 「ええーっ!?どうしてそんなことしちゃったんですか??」 「僕や九曜が暗躍してることを知られたらいろいろと面倒だろ?そう思って 消したんだよ。それにこいつ自身、結局僕の忠告に従わなかったしな。」 「そのときは従わなくても、途中で考えが変わったりしたかもしれないじゃないですか! 藤原君のせいで…キョン君が私たちを敵だと思い込んだようなものですよ…!? 結果として、私たちは朝比奈みくるを討てなかった!どうしてくれるんですか!?」 「おいおい落ちつけよ…いずれにしろ、目の前にいるこいつの働きのおかげで 世界は救われたんだから…結果オーライ。それでいいじゃないか。」 「そういう問題じゃないでしょ!?いつまでもそんなルーズな性格だと またいつか、同じようなミスをしちゃいますよ!?」 「わかったって…わかったから。すまんかった橘…」 「わかればいいんです。」 さっきからこの二人は… 一体何の話をしてるんだ??…俺にはわからない。 ただ、【怒る橘】と【それに頭を下げる藤原】との対比に驚愕したのは言うまでもない。 「そういうわけで、それじゃキョン君も仕方がないですよね。 今回は双方に落ち度があったと…そういうことにしておきます。」 どうやら、俺にも落ち度とやらがあったらしい。まあ…今となってはどうでもいいが。 「何はともあれ、昨日今日は本当にお疲れ様でした!キョン君。ほら、藤原君も言う!」 「…何で僕がこいつなんかに?今お前が言ったんだから、別にいいだろう。」 「よくないです!こんなときに意地張っちゃってどうするんですか!?だから藤原君は…」 「わかったわかった…言えばいいんだろ?…お疲れ様でした。」 「あ、ああ…。」 「さて、じゃあ私たちは買い物に行くとしましょうか。じゃあねキョン君!」 颯爽とコンビニの中へと入って行く橘と藤原。…まったく、嵐のような二人だったな。 何がどうだったのか…結局よくわからなかった。 …って、これはまずいんじゃないのか??もし…中で立ち読みしてる古泉と朝比奈さんが あの二人と鉢合わせでもしてしまえば…!!俺と違って事情を知らないだけに… 非常にややこしいことになるのは間違いない!!最悪の場合…喧嘩沙汰になるぞ!? …… 用事を済ませたのか、中から出てくる二人。 「それにしても、最近の藤原君はコンビニ食ばかりですよね…?気持ちはわかりますよ。作る手間が省ける分、 楽ですもんね。でも、それも程々にしておいたほうがいいかなーと。栄養が偏りますし。」 「何でお前なんかに心配されなきゃならない!?関係ないだろ!?」 「関係なくないです。また何か共同作業があったとき、体調でも崩されたらたまったもんじゃありませんから。」 「そういうお前はいいのか??自分だってコンビニで弁当買ってたじゃないか…。」 「私は た ま に だからいいんです。それに、私がコンビニを利用するときって たいていは雑誌やライブチケットの予約ですからね。今だってほら…予約してきました!」 「…EXILEのライブ…か。この時代の人間じゃない自分にはよくわからん…。」 「今すっごく人気のグループなんですよ!?一回藤原君も未来へ帰る前に聴いておくべきです。」 「はぁ…そうかよ。」 …… 「あれ?キョン君まだそこにいたんですか?」 「…何やってんだあんた?僕たちが中へ入ってから出て来るまでの間、 おにぎりの一つさえも食ってなかったのか?…呆れるな。」 「そうですね…肉まん冷えますよ?じゃあ、私たちはこれで。またねキョン君!」 「ふん、意味不明なやつ。よくあんたのような人間が世界を救えたもんだ。」 「何言ってんですか!?さっさと行きますよ??」 そう言い残し、去って行く藤原と橘。 …… 突っ込みたいことは山ほどあるんだが…今は自重するしかない。とりあえず外から中を眺めていたが… 結局、両者が互いに鉢合わせすることはなかった。運が良かったんだろうな…要因は2つ。 1つは古泉・朝比奈さんが立ち読みに夢中になっていた…ということ。 もう1つは藤原・橘の二人が雑誌コーナーに立ち寄らなかった…ということ。 この2つが掛け合わさり、見事に衝突は回避。めでたしめでたし…というわけだ。 …… いや、全然めでたしじゃない…無駄に時間をロスした分、一刻も早く食事に手をつけねばならない… 「食べ終わったようですね。」 「ああ…おかげ様で、ゆっくりと食べることができたぜ。」 「それはよかったです!私も私で、ゆっくりと雑誌を眺めることができました!」 「何を読んでたんですか?」 「ファッション誌をね。特に、可愛い衣服やアクセサリーなんかは… 見ててほしくなってきちゃいました!この時代の衣料品もなかなか興味深かったです…!」 「気に入ってもらえて嬉しいです。勧めた甲斐があったというものですよ。」 「そういう古泉は何を読んでたんだ?」 「芸能系の雑誌をちょっと。政治の裏金や特定企業・芸能事務所間の癒着及び秘密協定等… 普段なかなかお目にかかれない記事に白熱していた…といったところでしょうか?」 …なるほど。各々の性格を考慮すれば、二人が本に夢中になっていた…というのも頷ける。 「二人とも満足そうで何よりだぜ。」 「そうですね。…では、行くとしましょうか?」 図書館へ向け、再び俺たちは歩き出した。 …… …どうする?朝比奈さんに…あのことを聞いてみるか? 事態が落ち着いた今なら…もしかしたら答えてくれるかもしれん。 「朝比奈さん…ちょっといいですか?」 「?何でしょう?」 「長門から聞いたんですが、昨日朝比奈さんは…時間移動したそうですね?未来へと。」 「!」 「もし差し支えなければそのこと…教えてくれませんか?」 「……」 彼女は答えない。…やはり、何か触れてはいけないことを…俺は聞いてしまったのだろうか? 「あなたが答えないのは禁則事項のせい…というわけではないようですね。」 「…!」 古泉の言葉に…かすかではあるが動揺する朝比奈さん。 「もし禁則事項で話せないのであれば、すぐさまあなたは【禁則事項】という名の言葉を口から 発するはずですよ。未来人からすれば、それは永久不可侵に通じる絶対のルールであるはず。 現代の我々から言わせれば、ちょうど犯罪是非の境界線認識に近いものと言ったところでしょうか。 朝比奈さんのような実直誠実なお方がそれを破るとは考えにくい…だから、尚更言えるんです。 あなたが答えないのは…単に個人的な問題によるもの、とね。」 「……」 …… 操行してる間に、俺たちは図書館へと着いた。…とりあえず、3人で空いてるソファーに座る。 …空気が重い。 あんな質問、するべきじゃなかったのかもしれない…。俺は後悔の念に打ちひしがれていた。 事態が落ち着いた今なら…世界が救われた今なら答えてくれる…!そう安易に妄信していただけに… 「…話します。」 一瞬、空気が浄化されたような気がした。二度と口を利かない、 そんな雰囲気があっただけに…。彼女のこの一言に、俺は救われた。 「確かに、私はあのとき…未来へと帰っていました。それは事実です。」 …… 「…覚えてるかしら?二日前、私たちがファミレスに集まって話したことを。」 「?…はい。」 「私…あのときは本当にびっくりしちゃいました。涼宮さんの誕生が46億年前に遡ること、これまで幾つもの 世界が存在したということ、フォトオンベルトによりこれから世界が滅ぶこと…どれも信じがたい内容ばかりで、 正直長門さんから初めて聞かされたときは耳を疑いました…。そんなときであっても、 あたふたしてる私とは対照的に、古泉君は凄く冷静で…決して取り乱したりはしませんでした。」 「…朝比奈さん、それは違います。とても内心穏やかだったとは…言えませんね。 むしろ、発狂したいくらいでした。世界は近年になって構築された…この近年説が覆された。 僕を含む機関の面々がこれまで妄信してきた価値観が…根底からひっくり返された。 長門さんの話を【事実】として受け止めるには…あまりにハードルが高すぎましたよ。その証拠に、 キョン君は知ってるはずです。僕のあのときの…ファミレスでの説明はお世辞にも良いものとはいえなかった、 ということをね。当然です、僕自身混乱していたのですから。」 「…何を言ってるんだお前は??十分上手く説明してたように…俺には思えるぞ?」 「本当にそう思っていただいているのであれば、嬉しい限りですね。ですが、よく思い出せば わかるはずですよ。僕が…事あるごとに、しょっちゅう長門さんへ助けを求めていたことがね。」 「そりゃ、全体の説明量から言わせれば、長門の方が多かったかもしれんが…。」 「おわかりですか?朝比奈さん。あのときの僕は正常とはほぼかけ離れた状況にあった…ということが。」 「…古泉君の内心がそうだったとしても、それでも古泉君は…外面をちゃんと取り繕ってたじゃないですか! キョン君が今言ってたように私からしても、とても説明に不備があったようには思えませんでした…!」 ?朝比奈さんは…さっきから一体何を言おうとしてるんだ?今話してることが… 未来へと時間移動したこととどういう関係が?…それにしてもこんな会話、俺はどこかで聞いた気が…。 …… ------------------------------------------------------------------------------ 「ねえキョン君…私って本当にみんなの役に立ってるのかな…?」 …今日の朝比奈さんはどうしたんだ?何か気持ちが滅入るようなことでもあったのだろうか。 まさか、未来のほうで何かあったか?? 「そんなことないですよ朝比奈さん。あなたは十分俺たちの役に立ってます… いや、役に立つ立たないの問題じゃない。いて当然なんですよ。」 「……」 「何かあったんですか?俺でよければ話を聞きますが…。」 「…昨日の晩、私は力になれたかしら…?」 昨日の晩とは…俺たちがファミレスにいたときだ。 「世界が危機に瀕してる…そんなとんでもない状況なのに私は昨日あの席で… 長門さんや古泉君に説明を任せっぱなしで、自分自身は何一つ重要なことはできなかった…。」 ・ ・ ・ 「…朝比奈さん。」 「は、はい?」 「あなたには…長門や古泉には無い物があります。俺が二人の難解な説明を聞いて頭を悩ましているとき… 朝比奈さんが投げかけてくれた言葉の数々は、俺の疲れを随分と癒してくれましたよ。もしあなたがいなかったら… 二人の説明を本当に最後まで粘り強く聞けていたかは…、正直自信がありません。ですから、 本当に感謝してます。変に力まずにただ…自然体のままで。それで十分なんですよ。」 「キョン君…。そう言ってくれると嬉しいです…、でも私…」 …… 「いや、なんでもないです!…私を励ましてくれてありがとう。」 ------------------------------------------------------------------------------ …… おそらく彼女は昨日、ハルヒの家で俺に話したことと…全く同じことを言いたいのかもしれない。 「朝比奈さん…まだそんなこと言ってるんですか??昨日も、俺は言ったじゃないですか!? 朝比奈さんがいたからこそ、長門や古泉の説明を最後まで粘って聞くことができたって!」 「そっか…キョン君にはこのこと昨日話したもんね。二度も似たようなこと言っちゃってゴメンね? そんなつもり私もはなかったんだけど…ただ、【未来へと時間移動した】理由を言うには 今の話はとても欠かせないものだったから…。」 「…そうだったんですね。いえ、自分は全然気にしてませんよ。どうか、話を続けてください。」 「…ありがとうキョン君。」 …… 「ここまで遠回しな言い方をしてしまったけど…つまりね、私はみんなの役に立ちたかったの…! 長門さんや古泉君のような…目に見えるような働きを…、私は果たしたかった! いつも私だけ何もしないのは…もう嫌だったから…!」 「……」 「未来へ時間移動…その行動の契機となったのは、ファミレスで…長門さんが言ってましたよね? 涼宮さんが倒れた今回の騒動には…未来人が関与してるんじゃないかってことを…。」 『あの時間帯にて、私は微量ながら通常の自然条件においては発生し得ないほどの異常波数を伴う波動を 観測した。気になるのは、それが赤外線・可視光線・紫外線・X線・γ線等、いずれにも属さない 非地球的電磁波だったこと。これら一連の現象が人為的なものであると仮定するならば、現在の科学技術では 到底成し得ない高度な技術を駆使していることに他ならない。』 『…未来技術を応用しているのだとすれば、犯人が未来人であるという可能性は非常に高いと思われる。』 …確かに長門はそう言っていた。 「だから私は思ったの。もし犯人が…私と同じ未来人であるのなら、私にはその犯人の情報を つかむ義務がある…と。SOS団で唯一時間跳躍ができる人間が私なんです… もしかしたら、みんなが知りえない情報を私なら…未来で手に入れられるかもしれない! そしたら、涼宮さんの役にも立てるかもしれない!そんな強い思いが…私に生まれたの。」 …… 「だから、朝比奈さんはその情報を得るため、未来へと時間移動したんですね…?」 「…はい、その通りです。」 …… 「でも…現実は非情だった。私は…いろんな人に話を聞いた。幾多の幹部の方にも話を伺った。 それでも…私が求める情報を、誰も教えてはくれなかった。まるで…みんな私に何かを 隠してるかのように…ふふっ、こんなふうに考えちゃいけないのにね。私って…ダメだね。」 …いや、朝比奈さんの今の考えは、おそらく当たってる。 なぜなら、犯人の名前そのものが…【朝比奈みくる】その人だったからだ…。 いくら別世界の住人とはいえ、彼女が【朝比奈みくる】なる人物と全くの同じ姿・形・名前をもつ 人間であることは事実…上層部の連中からすれば、これほど躊躇してしまう存在もなかったかもしれない。 ましてや、世界の存亡にかかわる…現代で言う国家最高機密に指定されていてもおかしくない情報を 彼女に話すことなど言語道断 このような認識が幹部たちの間で成立していたとしても、何らおかしくはない。 「でも、私はあきらめなかった。何度も何度も上層部の方とコンタクトを取ろうともしたし、 電話をかけたりもした…そして、ようやく上司からある情報を聞けたの…。」 上司…大人朝比奈さんのことだ。 「その情報っていうのがね…藤原君たちに任せておけば大丈夫、というものだったの…。」 「……」 言葉に詰まる俺。 …… 結果的に、ヤツらが【朝比奈みくる】の暗殺に向けて暗躍していたのは…事実だったからだ。 「最初聞いたときは、私には何のことだか訳がわからなかった…それもそうよね?キョン君たちからすれば、 彼らは敵なんだもの…そんな彼らがいくら世界を救うとはいえ、その過程でキョン君や涼宮さんたちを助ける だなんて…私にはにわかには思えなかった。…結局、私が未来でつかめた情報はこれだけ。だから、 私にはなんとしてもこの情報の真偽を確かめる必要があった…。藤原君がこの世界に来てるということを知って、 ただちにこの時間へと遡行したわ。そして、彼に連絡をとった…」 ……ッ ようやく話が繋がった。 『…朝比奈みくるがここの時間軸に戻ってきた午後1時24分以降、 これまでに6回…ある未来人との電話での接触を確認している。』 『パーソナルネームで言うところの、藤原。』 …この長門の言葉はそういうことだったのか。 「でも…彼は私の質問に対して、まともな返答はしてくれなかった… 一応何度か連絡はとってみたんだけど…結局、私は何も情報を聞きださず仕舞いに終わった…。」 …… もしかしたら、藤原のヤツは朝比奈さんの【声】を警戒したのかもしれない。 標的である【朝比奈みくる】と全くの同一の声…彼女を相手にしなかったのはこのせいか…? 「…私がね、昨日涼宮さんの家で元気がなかったのも…さっきキョン君から時間移動のことについて 聞かれた際に沈んでいたのも…そのせいなんです!だって…そうでしょう…っ? 犯人が未来と関係あるっていうのなら…きっと未来で何かしらの情報がつかめると、そう思ってたのに! 今度こそ…みんなの役に立てると思ってたのに…。結局、時間跳躍した意味もなかった。 藤原君からも何も聞き出せなかった。私には…みんなと会わせる顔がなかったの…。」 彼女が涙声になっているのは言うまでもない。もしかしたら、泣いているのかもしれない。 …… まさか、彼女にこんな事情があったなんて…思いもしなかった。 ハルヒや自分のことで精一杯だった俺には…彼女の苦しみなんて気付きようもなかった。 ------------------------------------------------------------------------------ 「キョ…キョン…!!みくるちゃんが…!!みくるちゃんがあ!!!!」 「しゃべるな!!お前だってケガしてんだろ!!?」 「違う…!!あたしはケガなんてしてない!!…みくるちゃんが…あたしを…あたしをかばって…!!!!」 …… え? じゃあ、ハルヒの服にべったり付いているこの血は何だ? …… 全部…朝比奈さんの血…… …!? 「う…ぅ、ぅぅ……!」 悲痛な様で喘ぐ…彼女の姿がそこにあった 「朝比奈さん!!!!しっかりしてください!!!!…朝比奈さん!!!!」 「ょ…ょかった…すず…涼宮さんがぁぶ、無事で…!」 「朝比奈さん!!?」 「わた…し…やくにた…てたかな…ぁ…ぁ…!」 理解した 彼女は秒単位という時間の中で自らハルヒの盾となった あのとき奴の一番そばにいた…彼女は ------------------------------------------------------------------------------ 尚更、あのときの彼女の心情がわかる。幾度と奔走した挙句、成果を上げられなかった彼女は… あのとき死す覚悟だった。そこまで彼女は追い詰められていた。 そうでもしないと、自分でも納得のいかない段階まで来てたってのか…!!? …っ!! 「朝比奈さん!すみませんでした…!!」 急に立ち上がり、何事かと思えば…彼女に向け、土下座をする古泉。 もちろん、ここは図書館。館内のあらゆる一般人の視線を…ヤツは浴びることになった。 「ど、どうしたんですか古泉君!?何で…何で私に土下座なんか…!?」 「僕は…正直に、あなたに包み隠さず話さなければならないことがあります…!」 「…??」 「僕は…あなたを、一時的ながらも…疑っていたんですよ…。あなたを、犯人だと!」 「っ!」 「この局面においての未来への時間移動、我々の敵であるはずの藤原氏への電話連絡、未来技術応用による 涼宮さんの卒倒等…いくつもの状況証拠により、あなたを… 一時的にでも犯人だと、僕は疑ってしまった! 朝比奈さんに…そんな重い事情があるとも知らずに僕は…ひどいことを考えてしまった!! 最低ですよ本当に…。深く、深くお詫び申し上げます…。」 「……」 …… 「古泉君…顔を…、顔を上げてください…。」 「朝比奈さん…?」 「…確かに、それを聞いたときはショックでした。でも!それを言うなら私にも非があります…! だって…考えてもみれば、世界がどうなるかもわからないこの局面で…みんなに何の相談もせず、 勝手に時間移動をしてしまった。状況的に疑われても仕方ないことを…私はしてしまいました。 だから、責められるべきは迂闊で軽率な行動をしてしまった…私にあります。古泉君は…涼宮さんのことを、 みんなのことを一生懸命考えてた…!だから、一つでもあらゆる不安要素は潰しておきたかった! 仲間想いの優しい副団長さんだと…私はそう思いますよ…?」 「…許して…くれるんですか?」 「許すも何も…当たり前じゃないですか!私のほうこそ…ゴメンね。」 「朝比奈さん…!ありがとうございます…っ! …そうだ、朝比奈さん。」 「な、何でしょう??」 「僕はですね…その点においては、彼を…キョン君のことを尊敬しているのですよ。」 「お…俺…??」 急に自分の名前を出され、驚く俺。 「彼はですね…僕と長門さんが朝比奈さんの…、一連の状況証拠を並べている時に際してまでも 朝比奈さんの無実を訴えて止まなかった。朝比奈さんが無実だと…信じて止まなかった。それどころか、 そんな問題提起をする僕や長門さんに対して逆上しそうになったくらいでした。…それだけ彼は仲間のことを 心底信じていたというわけですね。ここまで純粋で素朴な人間は…なかなかいないでしょう。」 「キョン君が…私のためにそこまで…?!ありがとう…キョン君…。」 「ま、待ってください朝比奈さん!そんなこと言われる所以、自分にはありません… むしろ、謝りたいくらいなんですから…。もっと早く、もっと早く朝比奈さんのそういう事情に気付いていれば… 朝比奈さんがここまで精神的に追い詰められることもなかったかもしれない…。だから 謝ります、朝比奈さん。」 「……」 …… 「どうしてキョン君にしても古泉君にしても…みんなここまで謙虚なんですかね…? もうちょっと自分を持ち上げたっていいのに…。ふふっ、なんかおかしくなってきちゃいました♪」 「確かに…ちょっとおかしな状況かもしれませんね。僕も自然と笑いが…。」 「古泉よ、どうおかしいのか?お前の得意分野、解説でぜひ説明してくれ。」 「いやぁ…さすがに、こればかりは僕にも解説不能です。」 俺たちは笑いに包まれた。…さっきまでの重い雰囲気は、一体どこにいったんだろうか。 …… 良い仲間に恵まれて、本当に自分は幸せだな…。出過ぎたマネかもしれんが、 おそらく他の2人も似たようなことを考えてるのではないかと…。俺は強くそう感じていた。 いつまでも、こんな時間が続けばいいなと思った。 いや…どうも、そういう問題ではないらしい。さっきから周りの視線が…痛い。 どういうことなんだろうな?俺たちは、すっかり忘却してしまっていた…っ! 【ここは図書館だ。】 何でかい声で笑ってんだ…迷惑にも程があるだろう…? そういうわけで、俺たちは図書館を後にしたのさ。
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涼宮ハルヒの憂鬱(すずみやはるひのゆううつ)とは、『涼宮ハルヒの~』を表題に、角川スニーカー文庫から刊行されている、谷川流のライトノベルのシリーズのアニメ版。 ニコニコ動画でうpされたのを期に、ウィンドでも爆発的に広まる。 エンディングのダンスはファンの中でも評判が高く、ウィンドでも踊れる人がいる。 隠れて練習をしている人もきっといる。 これのせいでショスタコの交響曲第7番第1楽章や、ダフクロ、マーラーの千人の交響曲が好きになった人もいるのではないだろうか。 →本家Wikipediaのページ 戻る
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一挙放送 放送日 話数 1 2 3 4 5 備考 2016/07/09 全14 92.0 5.8 1.2 0.2 0.8 第1期シリーズ一挙放送+「涼宮ハルヒの獄音」トークショー生中継 2016/12/18 全28 90.8 6.6 1.3 0.3 1.0 2023/11/08 1~11 95.2 2.7 0.8 0.3 0.9 2023/11/09 12~19 78.9 9.4 2.6 2.4 6.6 2023/11/10 20~28 94.6 3.5 1.0 0.3 0.6 その他 放送日 話数 1 2 3 4 5 備考 2018/09/01 -- 96.3 2.4 0.6 0.2 0.5 映画「涼宮ハルヒの消失」 2020/03/30 -- 96.8 1.7 0.6 0.4 0.5 〃 2023/01/02 -- 94.7 3.3 0.8 0.4 0.7 〃 2023/09/10 -- 95.7 2.2 0.9 0.5 0.7 〃
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俺はどうやら平凡な生活とやらが割と気に入っているようだ。 ドラマの様な出会いもアニメの様な事件も起こらない生活は気楽でいい。 しかしながら毎日毎日同じ事の繰り返しではどんなに気に入っていても飽きてくるわけさ。 涼宮ハルヒの改竄 Version K いつもと同じ教室。 いつもと同じクラスメイト。 いつもと同じ授業。 いつもと同じ俺。 あぁ、退屈だ。 隕石の一つでも校庭に落ちてくりゃおもしれーのにな。 って、漫画じゃあるまいしんなことある訳ないか。 あぁ、このリピートしていると錯覚する様な生活を変える手段はないものか? いくら考えたところでそんな手段の1つも思い付く訳も無く時間だけが過ぎていく。 こういう時に自分のユーモアの無さがとことん恨めしいね。 俺は「やれやれ」と溜息混じりに呟くと机に突っ伏した・・・ 目が覚めたのは6限目の終了3分前だった。 どうやらマジで寝ちまってたらしいな。 前で教師が何を喋ってるのかさっぱり分からん。 そんな事を考えてるとチャイムが鳴り授業が終了した。 未だに脳が覚醒しておらずSHRが始まったのにも気づかなかった。 担任教師がなにやら喋っているが右の耳から入って左の耳から抜けていった。 唯一脳に留まったのは「明日は2限目までしか授業がない」ということだ。 だったら休みにすればいいのにと思ったのは俺だけじゃないはずさ。 ようやく脳が正常に活動するようになった様で鞄を取って教室を出る。 廊下に出ると見知った顔が話し掛けてきた。 「相変わらずダルそうだねぇ?キョン」 「あぁ、今日は気分の体調が良くないんだ」 国木田はそれを聞いてプッと吹くと「それはマズイねぇ」と笑いながら言っってきた。 あぁ、ちなみに「キョン」ってのは俺のあだ名だ。 最近では俺を本名で呼ぶのは両親だけになっちまったのはどうにも頂けないね。 くれぐれも言うが断じて本名ではない。 その日は国木田とバカ話をしながら帰宅した。 自宅に着き玄関の戸を開けると「キョンく~ん、おかえり~」と妹が出迎えた。 そう、俺は自宅でも「キョン」というあだ名から開放される事はないのである。 俺はまた「やれやれ」と呟きながら溜息をつくのだ。 その後、夕食を摂りながら母親に明日は下校が早いという旨を伝えた。 今は、風呂から上がりベッドに転がっているところだ。 野郎のこんなところなんて見たくもないと思うだろうがそこは我慢してもらいたい。 ゴロゴロし始めてから10分もしない内に睡魔が襲ってきた。 「睡眠」という機能を身に付けた祖先に感謝しながら俺の意識は遠のいていった。 翌日、いつもの妹のボディプレスによって起こされた。 目覚めは、まぁ良くも無く悪くも無くいつも通りだな。 そこからいつものように身支度、朝食を終えて家を出る。 いつもの道を通って学校に到着する。 ぼけーっとしていると二時間なんてあっという間だなぁ。 ナイス短縮日課。 そのまま家に帰ってもする事が無かったので俺は一人街中をぶらぶらする事にした。 本屋に行って立ち読みしたり、ゲーセンに行ってピコピコとゲームしたり、コンビニに行って買い食いしたりと校則違反をしまくってぶらつく事1時間。 流石にする事も無く飽きてきたので帰宅する事にした。 今は家に向かってダラダラと歩いている最中だ。 住宅街に大きめの自然公園がありそこを突っ切ると近道になる。 俺と同じ学校の奴らはここを頻繁に利用していて、俺もその一人だ。 公園の風景を見渡し今日も変わり映えしないねぇと哀愁に浸りながら歩いていると道の真ん中に何かがうずくまってた。 なんだありゃ?と思って近づいてみた。 そこにはセーラー服を着た女の子がうずくまって泣いていた。 え~と、この制服は確か東中だったっけ?等と現実逃避している場合じゃないのは分かっている。 分かっているのだがこういう場合、どういう風に声を掛けたらいいかなんて俺マニュアルには残念な事に載っていない。 あぁ、もう、こうなったら勢いでいくしかないっ!! 俺は出来るだけ平静を装って聞いた。 「おい、どうしたんだ?」 って、もうちょっと気の利いた事が言えんのかっ!?俺。 「・・・ひっく・・・・っく・・・・・」 ヤバイ。 心なしかさっきより泣いてる気がする・・・ これは・・・俺が泣かした様なもんだな。 頭の方もすっかりクールダウンしていたので、 「あー、その、なんだ。とりあえずベンチに座って落ち着かないか?」 俺はそう言ってそいつの肩に自分の上着を掛けてやった。 そいつはどうやら自分から動きそうになかったので俺はそいつの肩を抱いてベンチへ連れてってやった。 そいつの涙でびしょびしょになった顔を見て 「まぁ、これ使え。」 と俺はそいつにシワくちゃのハンカチを差し出した。 おいおい、流石にこんなの渡す奴はいないだろ。 「いらない」とか「何これ?」とか言われるかと思ったがそいつは黙って俺のシワシワハンカチを受け取った。 そいつはハンカチで拭いても拭いても拭いきれない程の涙を流していた。 こいつが何が理由で泣いているのか分からない以上、俺にはこいつを慰めてやる事さえ出来ない。 今の俺に出来る事っていえばこいつが泣き止むまで傍に居てやる位しか出来ないもんな。 いや、もう一つ出来ることがあるな。 こいつが泣き止んだ頃には辺りはすっかり暗くなっていた。 俺はこいつが泣き止んだのを確認すると「帰れるか?送ってってやるぞ」って言ってやった。 するとそいつは眉毛を吊り上げて「一人で帰れるからいい」と言って立ち上がろうとした。が足に力が入らなかったらしく前のめりに倒れそうになる。 転びそうになったそいつを俺は慌てて抱き留めてやる。 何が起こったのか分らないというそいつの顔を見て俺は「やれやれ」と言いながら溜息をついた。 こいつ、結構意地っ張りなのかもな。さて、どう説得したものか? そんなことを悩んでいたら、ふとそいつの足元が目に入った。 そいつは公園のド真ん中だというのに上履きを履いていた。 かなりベタだがこれしかないだろうと考えた。 そして俺は言った。 「上履きでの土足は校則違反じゃないのか?残念な事に今日だけ校則違反する奴が許せないんだ」 散々、校則違反やらかした奴の台詞じゃねぇ等と考えていたら「は?だから何?」とこいつは間抜けた面で聞いてきた。 俺はその場にしゃがみ「背中に乗れ」とそいつに向かって言った。 「な、な何言ってるのよ?」 みるみる顔が赤くなるそいつの反応が可愛くて面白かったので 「なんならお姫様抱っこでもいいが?どっちがいい?」 って聞いたら「どっちも嫌よっ!!」って言われた。ちょっとへこむな・・・ この調子だと匍匐前進で帰りそうな勢いなので、ちょっと強引だが「よし!お姫様抱っこだな」と言ってそいつを抱きかかえようとした。 するとそいつは顔を真っ赤にして「ちょ、ふざけないでよっ!!だったらおんぶの方がマシよっ!!」と叫んだ。 それを聞いた俺は俺はしてやったりな顔をしながら「そうか、よし乗れっ!!」と言った。 そいつは観念したらしく俺におんぶされることにした様だ。 そいつが両腕を俺の首に回してしっかり掴まると俺も顔が真っ赤になった。 ヤバイ、実際おんぶしてみるとかなり緊張する。 俺は気を持ち直して「よし行くぞ」と言って歩き出す。 そいつが「そっちじゃないわ。正反対よ」と言うと俺は自分の家の方角に向かって歩いている事に気付きコケそうになる。 そいつがちょっと不安げに「どうしたの?」と聞いてくる。 俺は素直に「かなり緊張してる」と答えた。 「自分でおんぶするって言ったんだからしっかりしなさいよね」 「仕方ないだろ、妹以外の女の子おんぶするの初めてなんだから」 「ふーん、初めてなんだ。あたしもあんまり踏ん張れないんだから気をつけてよね」 はぁ、俺って情けねぇ。 俺は肩をすくめながら「すまん」とだけ言った。 「まぁ、いいわ。よろしくね」 そういうとそいつは俯いた。 こいつには元気な方が似合ってると思ったので「おう、任せとけ」と明るく言ってやった。 おんぶしてる最中そいつは俺に聞いてきた。 「ねぇ、自分を変えるために変なことばっかりしてるクラスメイトが居たらどう思う?」 俺は少し考えてからこう言った。 「ん~、バカだと思う」 もちろんいい意味でのバカだぞ。 「そう」 また元気が無くなったな。 俺は、こいつには何故だか本音を話してもいい気がした。 そんな事を考えていたら口が勝手に言葉を紡いでいた。 「でも、羨ましいよな。そこまで自分にバカ正直になれるなんてさ。俺達ってさ、自分に何かしら嘘をついて生きてると思うんだ。 それが利口な生き方なんだって自分にいっぱい言い聞かせてさ」 そいつは黙って聞いている。 「周りから浮かないように体裁を取り繕ってさ。 嘘で自分を縛り上げて自分が本当に行きたい所じゃない所をいつの間にか目指してるんだ」 そいつは腕に少しだけ力を込めてきたように感じた。 「だから、そんな風に自分にバカ正直になれる奴がいるならさ。どれだけ周りからバカにされても自分が本当に行きたい所を目指して欲しいと思うし、応援する。」 そいつはいつの間にか泣いていた。 そいつは俺に言った。 か細い声だったけど確かに聞こえた。 「ありがとう」と。 話をしながらだとあっという間だな。 ここがこいつの家らしく、家の前にこいつの父親と母親が心配そうな面持ちで立っていた。 こいつの父親は何か誤解したらしくこいつを降ろすなりいきなり俺の胸倉を掴んできた。 あげく「お前なんぞに家の娘はやらーん!!」とか言われた。 俺は何を言われてるのか理解するのに時間が掛かった。 理解するや否や俺は顔が熱くなるのを感じた。 まぁ確かにもう外は暗いし、こいつの目は真っ赤になってるのだから誤解されたとしても仕方がないと言えば仕方がないのだが。 そいつは何やらニコニコしているが今はそれどころじゃない。 「助けて」と視線に込めたのが伝わったのかそいつは必死に誤解を解いてくれた。 誤解が解けやっとこいつの父親から開放された俺はまた「やれやれ」と溜息をついた。 そして俺がペコッと頭を下げて帰ろうとした所こいつの父親は 「娘の恩人を徒歩で帰らせたらバチが当たる」とか言い出して俺を無理矢理車の助手席に押し込んだ。 そしてそいつの父親が運転席に乗り込むなり車は発進した。 あ、別れの挨拶してねぇや・・・ 車で送ってもらってる間、あいつの父親は俺にあいつの話をずっとしてきた。 どうやらあいつの名前は「はるひ」というらしい。 「はるひ」の父親は「うちのハルヒは宇宙一可愛い」やら「何をやらせても完璧にこなす」と自慢話を始めた。 かと思えば唐突に「ホントのところハルヒとはどこまでいったんだ?チューくらいはもうしたんだろぉ?」等と言い出した。 誤解、全然解けてねーじゃん・・・ と考えつつ、「いえ、本当にはるひさんとは何でもないですし何もしてません」とやんわり誤解を解いたつもりだった。 が「はるひ」の父親は更に誤解したらしく「何ぃぃい!?うちのハルヒにはチューしたくなる魅力も無いと言いたいのかぁ!?」と叫びだした。 もうだめだ・・・ この人の場合、否定すればするほど底なし沼にはまっていく・・・ 俺はこの時諦める事の必要さを学んだのだ。 そこからはもう「はるひズファザーワールド」全開だった。 俺、ネーミングセンスねぇな・・・ 内容は・・・割合させてもらう。 恥ずかしくて思い出したくもない・・・ そんなセクハラを受けていたらいつの間にか俺の家の前に到着していた。 俺は車から降りて「はるひ」の父親にお礼を言おうとしていた時、俺の親父が玄関から出てきて何も言わずに俺をぶん殴った。 当然だ。 こんな時間まで連絡一つしなかったのだから殴られても仕方がないと思った。 2発目がくると思って目を閉じた時、「はるひ」の父親がそれを止めた。 「はるひ」の父親は俺の親父に事情を話した。 「見ず知らずの娘を助けてくれて感謝している」と言ってくれた。 それを聞いた瞬間俺は何故だか涙が止まらなかった。 殴られたのが悲しいから、いや違う。 これは嬉しいから出る涙だ。 その様子を見ていた俺の親父は俺の頭をくしゃくしゃと撫でながら言った。 「お前は、今日最低の事と最高の事をしたんだ。分かるな?」 俺は声を出したくても出せなかったので頷くただ頷く事しか出来なかった。 「連絡しなかった事は関心せんが、普通の奴じゃまず出来ない事をしたんだ。それは誇りに思っていい事だぞ」 やっと俺が泣き止むと「はるひ」の父親が何も言わずに帰ろうとしていたので俺はそれを呼び止めた。 「あの、送ってくれてありがとうございました」 「いやいや、こちらこそ娘が世話になったね。家の娘の事で君に迷惑を掛けた。すまないと思っている。」 「迷惑なんて掛けられてません。俺がやりたくてした事ですから気にしないで下さい」 「はるひ」の父親は少し驚いた表情をしていたが次第に笑いながら「君みたいな息子が欲しいよ」と言ってくれた。 「それじゃ、失礼するよ。夜分遅くに申し訳ありませんでした」と俺と俺の親父に挨拶して帰っていった。 俺は親父に連れられ家の中に入った。 玄関では妹と母親が泣きそうになりながら待っていた。 「こんな時間まで連絡もしないで心配掛けてすいませんでした」 こんな事で許して貰えるとは思っていない。 でも、俺はこうしなくちゃいけない。 何を言われても耐えなくちゃいけない。 面目が無さ過ぎて顔を向ける事すら出来ない。 すると二つの手が俺の頭を撫でた。 「よくやったじゃない、流石はあたしの息子ね」 「キョンく~ん、えらいえら~い」 二人は玄関からさっきの会話を聞いていたらしい。 母さんはようやく顔を上げた俺に「お父さんが怒ったならあたしが怒る必要は無いわね。お腹空いたでしょ?何か作ってあげるから先にお風呂入っちゃいなさい」と言われ俺はそのまま風呂場へ向かった。 風呂から上がり母さんの用意してくれた夜食を食べた。 何故かいつもより美味く感じた。 夜食を食べ終わると俺は自分の部屋で制服をハンガーに掛けていた。 そこである事を思い出した。 あ、ハンカチ返してもらうの忘れた。 まぁいいか。 また、会ったときにでも返してもらおう。 それまであのハンカチはあいつに貸しといてやろう。 きっとまた会える。 これは予想でも予感でもない。 俺が生きてきた中で一番の確信。 fin 涼宮ハルヒの改竄 version H