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第149話 モンメロ沖海戦(後編) 1484年(1944年)6月26日 午後3時20分 モンメロ沖南86マイル地点 第72任務部隊第3任務群に所属する正規空母レンジャーⅡは、飛行甲板にずらりと艦載機を並べ、今しも発艦を開始しようとしていた。 空母レンジャー艦長、ラルク・ハーマン大佐は、艦橋の張り出し通路に出て、エンジンを吹かす艦載機群を眺めていた。 飛行甲板には、20機のF4U、24機のヘルダイバー、16機のアベンジャーが勢揃いし、エンジン音を高々と上げながら出撃の時を待っている。 本来であれば、攻撃隊に随伴するF4Uはもう少し多いはずであったのだが、早朝から続くマオンド軍の波状攻撃によって可動機数が減少し、 レンジャーが出せる戦闘機は、艦隊直掩用を除いて20機しかない。 とはいえ、この20機のコルセアを含む攻撃隊は、敵機動部隊に対して存分に暴れ回ってくれるであろうと、ハーマン艦長は信じていた。 「ハンコックとライトの恨みを晴らす時が来た。頼んだぞ、ボーイズ達!」 ハーマンは、万感の思いを込めて、小声でそう呟いた。 甲板士官が掲げていたフラッグを振り下ろすと、最初のコルセアが滑走を開始した。 コルセアの特徴ある肢体は、最前部に描かれた17というレンジャーの艦番号の上を走り去った直後に、フワリと浮き上がる。 それに続いて、2機目、3機目と、艦載機は次々と発艦していく。 「うちのボーイズ達も、ようやく慣れてきたな。」 ハーマン艦長は、艦載機の発艦を眺めながら呟いた。 最初に、初代と同じ名を冠した空母に派遣された航空隊の技量を見たとき、彼は物足りないと思った。 第2次バゼット海海戦で撃沈された初代レンジャーは、防御力は酷かったが、乗員やパイロットの練度に関してはピカ一であった。 だが、新鋭空母に配備された航空隊は、空母同様に“新品”そのものであり、まだまだ訓練を行う必要があった。 就役当初、ハーマン艦長の脳裏には不安ばかりが浮かんでいたが、同時に希望もあった。 以前、初代レンジャーで艦攻隊の隊長を務めていたウィル・パーキンス少佐が、新生レンジャーの航空群司令として配属された。 また、初代に乗っていたパイロット達が、より経験を積んだベテランパイロットして、レンジャーⅡに配属されたのだ。 この実戦を経験してきた“兄貴達”によって、レンジャー航空群は度重なる猛訓練に耐え、次第に練度を高めていった。 そして今日。新生レンジャーにとって、その実力を発揮する時が来た。 これから向かう戦場には、空母の宿敵である敵竜母部隊がいる。 空母艦載機のパイロット達が誰もが願っていた敵竜母との対決に、レンジャー航空群は向かおうとしている。 脱落した僚艦の切なる想いを乗せて・・・・・ 気が付くと、飛行甲板に残っていた艦載機は、全てが飛び立っていた。 60機の攻撃隊は、TG72.3の上空を轟々たる爆音で圧しながら、颯爽と飛び去っていった。 レンジャーの乗員は勿論のこと、損傷したハンコックとライト、僚艦に救助された乗員達も含むTG72.3の全将兵が、歓声を上げて 60機の攻撃隊を見送っていった。 「さあ、今度は俺達の出番だ。TG72.3が受けた屈辱を10倍にして返してやるぞ。」 ハーマン艦長は、西の遠くに居るであろうマオンド機動部隊に向けて、自信に満ちた口ぶりでそう言い放った。 空母エンタープライズから発艦した攻撃隊は、午後4時20分までには、レンジャー隊との合流を終えていた。 リンゲ・レイノルズ中尉は、攻撃隊の護衛として母艦を飛び立っていた。 「ふむ・・・・新人連中にしては、そこそこ良い腕をしているな。」 リンゲは、エンタープライズ隊からやや離れた右側を飛行するレンジャー隊を見ながら呟く。 60機のレンジャー隊は、綺麗な編隊を組みながら飛行している。 編隊飛行という物は、傍目から見れば地味で、簡単そうに見える物だが、実際はかなり難しい。 2、3機の編隊でもなかなかに難しいが、10機以上の編隊を作るとなると、難易度はかなり上がる。 1機でも歩調を崩せば、編隊はバラバラとなり、最悪の場合は空中衝突を起こしかねない。 攻撃技能もそうであるが、編隊飛行が出来るか否かによって、その母艦航空隊の練度が分かってくる。 (レンジャーの指揮官連中は、初代レンジャーに勤務していた奴が多いと聞いている。もしかしたら、 初代にいた連中が、新兵達をしごきにしごいて、使える兵隊にしたのだろうな) リンゲはそう思ったが、彼としてはレンジャー隊よりも、ボクサー隊と一緒に出撃したいと思っていた。 だが、ボクサー隊は今、ビッグEの攻撃隊と空を飛ぶ事は出来ない。 何故なら、ボクサー隊は、母艦が先の被弾で発着艦不能に陥っているからだ。 ボクサーは、第3波空襲で爆弾2発と至近弾3発を受けていた。 2発の爆弾のうち、1発は中央部に命中したが、それだけならば、応急修理をすれば穴を塞ぐだけだった。 だが、もう1発の爆弾が、上手い具合に前部エレベーターに命中し、破壊してしまった。 更に、左舷中央部の至近弾によって舷側エレベーターの昇降機が使用不能になり、ボクサーは3基あるエレベーターの うち、2基までもが使用不能となってしまった。 まさに不運としか言いようがなかったが、撃沈されずに済んだだけでも、まずは良しとするべきであった。 エンタープライズは、午後4時までには、F6F23機、SBD16機、TBF16機の計55機を発艦させた。 敵機動部隊攻撃に向かっている艦載機の数は、TG72.1、TG72.2を合わせて268機に上る。 この268機の大編隊は、大きく二手に別れており、先行するのはTG72.1から発艦した130機の攻撃隊で、 その後方40マイルをTG72.2とTG72.3から飛び立った138機の編隊が続く。 通常なら、この2つの攻撃隊は1つに合流して敵に向かう筈なのだが、時間の関係上、任務群ごとに攻撃隊を向かわせる事となった。 しかし、TG72.3はゲティスバーグ隊しか居ないため、TG72.2と合流してから進撃を開始している。 「思えば、敵竜母部隊への攻撃に向かうのは、実に久しぶりだな。」 リンゲはふと、そんな言葉を口にした。 彼は、太平洋戦線ではレアルタ島沖海戦とグンリーラ島沖海戦、第2次バゼット海海戦に参加しており、このうち、空母と竜母が 戦ったのは、グンリーラ島沖海戦と第2次バゼット海海戦である。 リンゲは、この2度の機動部隊決戦で護衛機として敵艦隊に向かい、その任務を果たしてきた。 「今日も、きっちりと役割を果たす。敵ワイバーンから攻撃隊を守ってやるぞ。」 リンゲはそう呟くと、自らを奮い立たせた。 午後5時 モンメロ沖南西97マイル沖 「司令官、来ました、敵編隊です。」 マオンド海軍第1機動艦隊司令官である、ホウル・トルーフラ中将は、シークル参謀長の言葉に対して、正面を見据えながら頷いた。 「魔導士の判断に寄りますと、生命反応からして、敵は最低でも90機以上の大編隊で、我が艦隊に接近中とのことです。」 「こっちの戦闘ワイバーンは何騎用意できる?」 「70騎が限度です。」 「70騎か・・・・・・ほぼ全てが、艦隊にいた居残り組だな。やはり、攻撃隊に参加したワイバーンからは出せそうにもないか。」 「ハッ。何分、戦闘時の消耗が激しい物ですから。」 「ふむ・・・・・まぁ致し方あるまい。上げてもすぐにやられるのでは意味がないからな。」 トルーフラ中将はため息を吐きながら言った。 第1機動艦隊は、アメリカ機動部隊攻撃に220騎の攻撃隊を差し向けた。 攻撃隊は、アメリカ軍戦闘機と機動部隊から激烈な反撃を受け、少なからぬ損害を受けた。 戦闘ワイバーンは110騎中42騎が未帰還となり、攻撃役のワイバーンに至っては、帰還数が僅か34騎という有様であった。 第1機動艦隊は、ただの一撃で5割近い数のワイバーンを失い、対艦攻撃力を大幅に削がれるという結果となった。 それに対し、敵に与えた損害は、敵駆逐艦2隻撃沈確実、空母2隻、駆逐艦3隻大破という甚だ不本意な物であり、目標であった 敵機動部隊の撃滅にはほど遠い戦果しか残せなかった。 第1機動艦隊が攻撃を行った他に、陸軍側から用意された応援の空中騎士軍も、アメリカ機動部隊相手に猛攻を繰り広げた。 第1機動艦隊よりも保有ワイバーンが多い陸軍空中騎士団は、第1機動艦隊よりも積極的な策を取った。 空中騎士軍側は、500騎近いワイバーンを総動員して敵に波状攻撃をかけた。 そのうち、第1波と第2波は戦闘ワイバーンを中心にした、敵戦闘機殲滅隊であり、これらは少なからぬ数の敵戦闘機を叩き落とした。 敵の空の守りが弱くなったところで、攻撃ワイバーンを含む第3波攻撃隊が敵機動部隊に殺到し、敵駆逐艦1隻撃沈、駆逐艦4隻撃破、 正規空母2隻撃破(実際に戦闘不能になったのは、ボクサーのみである)の戦果を上げ、敵の主戦力の1つを潰した。 だが、空中騎士団の奮闘にもかかわらず、敵の完全撃破には至らなかった。 その結果、第1機動艦隊は敵機動部隊の残存戦力から反撃を受ける羽目になった。 「ひとまずは、この健在な70騎を迎撃に出そう。それから、帰還したワイバーンの中で、比較的疲労度が軽いの がいたら、そのワイバーンも出してくれ。」 「わかりました。」 シークル参謀長は頷いたが、内心では果たして、本当に出しても良いのだろうかと思った。 帰還した戦闘ワイバーンは、アメリカ軍機との激しい空戦で、体力を消耗が著しい。 今は、疲労緩和剤を投与して、ワイバーンの疲労感を和らげようと努力しているが、効果が現れるのは、投与後20分後であり、 それまでは70騎のワイバーンによって、敵編隊を迎撃せねばならない。 それ以前に、疲労緩和剤を投与しても、完全に疲労は抜けきれないため、ワイバーンの疲労は蓄積されてしまう。 そのような状態でワイバーンを出せば、いつも通りに戦えぬ事は目に見えている。 だが、それでも出さなければならない。 (味方艦隊の被害を減らすためには、仕方ない事なのだろう) シークル参謀長はそう思うことで、自らを納得させた。 第1群、第2群の竜母からは、直ちに出撃可能なワイバーンが発艦を開始した。 発艦開始から10分ほどで、70騎のワイバーンは全てが母艦から発進を終えて、敵艦載機迎撃に向かっていった。 午後5時20分 激しい空中戦が続く中、空母イラストリアス艦攻隊指揮官であるジーン・マーチス少佐は、パイロットであるジェイク・スコックス少尉の 言葉を聞いた。 「隊長、見えました!右20度、敵機動部隊です!」 彼は、スコックス少尉の言った方角に顔を向けた。 そこは、丁度雲の切れ目となっており、海が見渡せた。その洋上に、幾つもの航跡が走っており、中には航跡を引いている軍艦も見える。 「あっ!ゲティスバーグ隊のヘルダイバーがまた1機やられました!」 唐突に、悲報が飛び込んできた。 「くそ、またやられたか!」 マーチス少佐は忌々しげな口調で呟いた。 敵ワイバーン隊は、大半が制空隊の戦闘機と空戦を行っているが、一部のワイバーンは攻撃隊に襲い掛り、イラストリアス隊やゲティスバーグ隊に 犠牲が出ている。 マーチス少佐の直率するアベンジャー隊も、敵ワイバーンの奇襲によって2機が撃墜され、3機が被弾している。 ヘルダイバー隊は、今の所被撃墜機は1機で済んでいるが、被弾機が4機とやや多い。 一番被害が多いのはゲティスバーグ隊で、艦爆、艦攻を3機ずつ撃墜されている。 マーチス少佐は、このままでは敵ワイバーンの執拗な攻撃によって、攻撃隊の大半がやられてしまうのではないか?という危惧を抱き始めていた。 だが、彼の憂鬱な思いは、ここでようやく吹き飛んだ。 「全機に告ぐ!敵機動部隊を発見。これより接近する!」 マーチス少佐の指示に従って、TG72.1の攻撃機が右旋回を行う。やがて、雲を突き抜けた攻撃隊は、ついに敵の大艦隊を発見した。 「敵は2群に別れているな。」 彼は、前方の輪形陣と、そのやや離れた後方にいる別の輪形陣を交互に見やりながら言った。 前方の輪形陣には、中心に3隻の竜母が居る。3隻のうち、2隻は並行しており、1隻はその2隻の斜め後ろを航行している。 前方の2隻が、斜め後ろの1隻よりも形が大きい。 あれは正規竜母だなと、マーチスは思った。 もう1つの輪形陣のほうは、ここからは距離が遠くて船の形までは分からない。 「片方は竜母3隻・・・・もう片方は竜母2隻・・・か。俺達は、3隻の方を狙おう。第2波の連中には2隻の方を叩いて貰う。」 マーチスはそう判断すると、全機に向けて新たな指示を下した。 「これより攻撃に移る!攻撃隊随伴のコルセア隊は敵輪形陣を攻撃。イラストリアス隊は敵竜母1番艦、ゲティスバーグ隊は敵竜母2番艦、 ノーフォーク隊は斜め後方の敵竜母3番艦を狙え。全機、かかれ!」 命令一下、各母艦航空隊はそれぞれの目標に向けて行動を開始した。 護衛戦闘機のうち、大半は敵ワイバーンとの空戦に忙殺されていたが、それでも、イラストリアス隊のコルセア12機が、攻撃隊に随伴していた。 この12機のコルセアは、命令が下るや真っ先に敵艦目掛けて突進していった。 コルセアの主翼には、4発の5インチロケット弾が搭載されている。 2ヶ月前の第2次スィンク沖海戦で、同じイラストリアス隊所属のコルセアが、輪形陣外輪部の駆逐艦にロケット弾攻撃を仕掛け、 輪形陣の切り崩しに成功している。 アメリカ側は今回も、ロケット弾攻撃によって敵艦隊の陣形を崩そうと考え、コルセア群の一部にロケット弾を搭載させていた。 12機のコルセアは、輪形陣の左側に展開する、敵駆逐艦に接近しつつあった。 コルセアは4機ずつの小編隊に別れると、1チームが1隻の駆逐艦に低空から接近し始めた。 このコルセア群に対して、マオンド駆逐艦群は向けられる火力を総動員して、コルセアの突進を阻もうとする。 敵艦から放たれる光弾の量はなかなかに多く、海面は光弾の外れ弾や、高射砲弾の破片によって白く泡だった。 1機のコルセアが、主翼から火を噴き、もんどり打って海面に叩き付けられた。 もう1機のコルセアが、機首のすぐ目の前で高射砲弾の炸裂を受けた。 その瞬間、3枚のプロペラが破片と爆風で吹き飛ばされ、大馬力エンジンや操縦席に夥しい数の破片が突き刺さる。 操縦席のパイロットが血飛沫を吹きながら仰け反り、エンジンカウリングから真っ赤な炎が吹き出し、機首がガクンと下に向く。 猛速で機首から突っ込んだコルセアは、次の瞬間バラバラに砕け散り、搭載していたロケット弾や燃料が爆発して火炎と黒煙が上がった。 「いいぞ!その調子だ、アメリカの蝿をどんどん叩き落としてやれ!」 とある駆逐艦の艦長は、相次いで撃墜されたコルセアを見るなり、活きの良い声音で叫んだ。 だが、マオンド駆逐艦が撃墜できたコルセアは、その2機だけであった。 残ったコルセアは、600キロ以上の高速で目標との距離を急速に詰めていく。 魔導銃の射手は、罵声を浴びせながらコルセアに光弾を放ち続けるが、その放たれた射弾は、全てがコルセアを側を通り抜けていた。 余りにも早いスピードのため、射手が目標を捉え切れていないのだ。 コルセアは、あっという間に300グレル(600メートル)の距離まで迫ったと思うと、両翼から何かを撃ち出した。 その棒状の物体は、尻から炎と煙を噴きながら駆逐艦に突っ込んできた。 射出された5インチロケット弾のうち、1発が早くも、敵駆逐艦の艦橋に突き刺さった。 艦長を始めとする艦橋要因は、何が起こったのか理解出来ぬままロケット弾の炸裂によって絶命した。 艦橋が派手に火を噴いたのと同時に、左舷中央部や砲塔にもロケット弾が突き刺さる。 中央部に命中したロケット弾は、爆発によってその場にいた魔導銃の射手や魔導銃本体をなぎ倒し、甲板の周囲に破片を 撒き散らして容赦なく破壊する。 砲塔に命中したロケット弾は、薄い砲塔側面を貫通して内部で炸裂し、装填済みの砲弾が誘爆した。 そのため、砲塔自体が木っ端微塵に吹き飛んでしまった。 それに加えて、コルセアから12.7ミリ機銃弾が奔流の如く放たれ、艦の全体に火のシャワーと化して降り注いだ。 運の悪い水兵がそれをまともに浴び、一瞬のうちに四肢を吹き飛ばされ、胴体を引き裂かれた。 輪形陣の左側を守っていた駆逐艦のうち、実に4隻がロケット弾を受けてしまった。 そのうち1隻は、被害が弾火薬庫に及び、火柱を吹き上げて轟沈した。 コルセア隊の短いながらも、熾烈な攻撃が終わると、待ってましたとばかりに艦爆隊が輪形陣に侵入してくる。 マオンド側の護衛艦艇は、この新たな敵に対して、ありったけの対空砲を撃ちまくる。 高度4000の高みから侵入しつつある艦爆隊の周囲に、高射砲弾が炸裂する。 ヘルダイバーは、高射砲弾の爆発に機体を揺さぶられ、飛んできた破片に機体の外板を傷つけられながらも、隊形を崩さずに突き進む。 猛烈な対空弾幕の中、斜め単橫陣の隊形で飛行を続けるヘルダイバー隊だが、輪形陣の中心部に近付くにつれて被撃墜機が出始めた。 頑丈なヘルダイバーの外板も、永遠に敵弾を弾け続ける訳が無く、1機、また1機と、翼をへし折られ、あるいは胴体や主翼から 火を噴きながら墜落していく。 次々と撃墜されていくアメリカ軍機ではあるが、4機目が落とされた時には、先導機が翼を翻し始めていた。 このヘルダイバー群は、左側を航行する正規竜母に狙いを定めていた。 機速が付きすぎないようにするため、主翼のハニカムフラップが展開される。 やがて、周囲に甲高い轟音が響き始めた。 狙われた竜母はミリニシアであった。ミリニシア艦長は、比較的冷静に指示を下していた。 ミリニシアは、艦長の指示通り左舷に回頭し始める。 ミリニシア艦長は、ヘルダイバー群の動きをよく見ていた。 そして、敵機群が全て急降下に入ってから、ミリニシア艦長はその内懐に入るようにして艦を回頭させた。 艦爆隊の先頭機が、慌てふためいたように急降下の角度を深め、敵竜母に接近する。 高度500で爆弾倉から1000ポンド爆弾を吐き出す。 この最初の1発目は、ミリニシアから右舷側に大きく離れた海面に落下した。 続けて2番機と3番機が爆弾を投下する。これらの爆弾もまた、右舷側海面に落ちて、空しく水柱を吹き上げるだけに留まる。 4番機が爆弾を投下しようとしたその瞬間、光弾の一連射がヘルダイバーの胴体下部を薙いだ。 その直後、ヘルダイバーは大爆発を起こした。 光弾の一連射は、偶然にも投下しようとしていた1000ポンド爆弾に命中していた。 光弾が突き刺さった後、1000ポンド爆弾はその場で炸裂し、ヘルダイバーの機体を微塵に吹き飛ばしてしまった。 その爆炎を突っ切って、5番機が猛禽の如き勢いで降下してくる。 胴体から1000ポンド爆弾が投げ放たれる。爆弾は、くるくると回転しながら、ミリニシアの左舷側後部の至近に落下した。 この爆弾は、ミリニシアにとってこの海戦初の直撃弾となった。後部昇降機より少し前の位置から爆炎と破片が吹き上がる。 続いて、6番機の爆弾が中央部に命中した。中央部の昇降機に突き刺さった爆弾は飛行甲板を貫通し、艦内で炸裂する。 炸裂の瞬間、艦内で休憩を取っていた少なからぬ数のワイバーンが、一瞬にして吹き飛ばされた。 2発の1000ポンド爆弾を受けたミリニシアは、早くも後部と中央部から黒煙を吐き出していた。 ミリニシアの右舷や左舷に、爆弾の外れ弾が次々と着弾し、水中爆発の衝撃が艦体のあちこちを小突き回す。 10番機、11番機と、ヘルダイバー群は次々に爆弾を投下するが、大半はミリニシアの回頭によって空振りに終わる。 最後の12番機の爆弾が、またもや中央部に着弾した。 着弾の瞬間、折れ曲がっていた昇降機が爆風によって空高く跳ね上げられ、そして海面に落下した。 爆弾3発を受けてのたうち回るミリニシアに、新たな敵が低空から迫りつつあった。 イラストリアス艦攻隊は、今しも、爆弾を受けて洋上をのたうつ敵正規竜母に近付こうとしていた。 「隊長!獲物は艦爆隊の爆撃で泡食ってますぜ!」 スコックス少尉は、電信員席に座るマーチス少佐に向けて言った。 「そのようだな。さて、今度は俺達の出番だぞ!」 マーチス少佐の率いるイラストリアス艦攻隊は、12機が目の前の敵正規竜母に向かっていた。 時間の都合上、挟叉雷撃は取り止めになり、片舷に集中して雷撃を行う事になった。 輪形陣の左側から侵入したイラストリアス艦攻隊は、左側を行く敵竜母2番艦を狙う手筈になっていたが、敵竜母は回頭のため、 艦首をイラストリアス隊に向けていた。 マーチス少佐はこれをチャンスであると確信した。 時間の関係で、艦攻隊は手っ取り早く雷撃を行うためにコルセア隊が切り崩した輪形陣左側から侵入をしていたが、敵2番艦があたらに 回頭を行ったために、挟叉雷撃を行える可能性が出てきた。 マーチス少佐の判断は速かった。 彼はすぐさま、第2小隊を敵竜母の右舷に回らせた。激しい対空砲火の中、イラストリアス艦攻隊の中には早くも被弾機が出ている。 第2小隊は、射点に付く前に1機が撃墜された。だが、事はマーチス少佐の思惑通りに進んだ。 敵竜母が右に回頭を開始した時、イラストリアス艦攻隊はミリニシアの左右から迫りつつあった。 「敵竜母、回頭を始めました!」 スコックス少尉がマーチスに言う。マーチスはそれに対して、全く動じた様子を見せない。 「敵さんの判断は、どうやら遅すぎたようだな。」 この時、11機のアベンジャーはミリニシアまで1300メートルの距離にまで迫っていた。 ここで回頭をされると、対向面積の小さい艦首、並びに艦尾に向けて魚雷を放たなければならない。 だが、マーチスはそれでも良いと考えていた。彼は、部下達に向けて、距離500という近距離で魚雷を投下しろと告げていた。 500という距離は、もはや距離とは言えない。 航空雷撃は、近付けば近付くほど命中精度は増すが、同時に、敵が放つ対空砲火も当たりやすくなる。 つまり、雷撃の必中距離は、敵魔動銃や対空砲の必中距離でもあるのだ。 通常の投下距離は、敵艦から1500から1000メートル以内に近付いてからであるから、マーチスの命令はいかに大胆かつ、 危険な物であるかが分かる。 だが、マーチスはそれをあえて承知で、部下に命じた。 敵竜母はぐんぐん回頭していく。 細長かった艦体は徐々に短くなる。しかし、それにお構いなしとばかりに、11機のアベンジャーは尚、300キロの速力で進み続ける。 敵竜母は、急回頭のため護衛艦の支援を受けづらくなっているが、それでもぴったりと随行していた2隻の敵巡洋艦が、マーチス少佐の 直率する小隊目掛けて対空砲を撃ちまくる。 (あの巡洋艦・・・・・・他の艦に比べて激しい対空射撃を行っているな。よく見ると・・・・フリレンギラ級とやらに似ている) マーチス少佐は、敵巡洋艦の艦影を見ながらそう思っていると、いきなり後部座席から、悲鳴じみた報告が入った。 「5番機被弾!」 一瞬、マーチス少佐は顔を歪めた。だが、次の瞬間には元の表情に戻って、敵竜母を睨み付ける。 敵巡洋艦をあっさりと飛び越し、遂に艦尾を向けようとする敵竜母が見えた。 「ようし、これで邪魔者は居なくなった。待ってろよ、尻に一発食らわせてやる。」 マーチスは獰猛な笑みを浮かべながら、早く射点に付かないかと思った。 マオンド側の対空射撃はなかなかに激しい。 マーチス小隊のアベンジャーがまた1機叩き落とされる。 やられたのは、マーチス機の右斜めを飛行していた2番機であった。 2番機の乗員は、タラント空襲以来のベテランが乗り組んでおり、前回のスィンク沖海戦でも、2度も敵竜母に魚雷を放っている。 だが、今回の出撃で、遂に帰らぬ身となってしまった。 (くそ、元々居たメンバーがまた散ってしまったか・・・・!) マーチスは悔しげな気持ちで一杯になったが、仲間の無念を晴らすためには、自分達が運んできた魚雷を敵艦に叩き付けるしかない。 「射点です!」 スコックス少尉が叫ぶ。その瞬間、マーチスは溜まりに溜まった鬱憤を晴らすかのように大音声で命じた。 「魚雷投下ぁ!」 その直後、開かれたアベンジャーの爆弾倉から、重い航空魚雷が投下される。 スコックス少尉は、咄嗟に操縦桿を押し込んで、機体が飛び上がるのを防ごうとする。 その瞬間、風防ガラスの後方で何かが光った。 「あぁ!?3番機がやられた!」 機銃手のスワング兵曹が悲鳴じみた声で言ってくる。 これで、マーチスの直率する小隊は半分に減ってしまった。 マーチス機は、敵竜母の左舷側に避退していった。 マーチス機を始めとする3機のアベンジャーに対空砲火が注がれるが、10メートル以下の超低空で飛行しているため、 弾は全くと言って良いほど当たらなかった。 第2波攻撃隊は、第1波攻撃隊が敵艦隊に突入を開始してから10分後に、敵機動部隊の上空に到達した。 リンゲは、空中戦が繰り広げられている空域を見た後に、そこからやや離れた海域に視線を向ける。 「うわ、派手にやってんなぁ。」 彼は、空に広がる無数の高角砲弾の炸裂煙を見てから、思わずそう言った。対空砲火の炸裂は今も続いている。 微かにだが、その弾幕の中を飛行する航空機の編隊らしきものが見える。 TG72.1から発艦した艦爆隊が、今しも敵竜母に向かっている最中なのであろう。リンゲは、その輪形陣の他に、やや遠くに 離れているもう1つの輪形陣を見つけていた。 「戦闘機隊!10時方向にお客さんだ!」 攻撃隊指揮官に任ぜられているウィリアム・マーチン少佐の声が無線機から聞こえた。 リンゲはすかさず、10時方向に顔を向けた。 そこには、新たに2、30騎ほどのワイバーンが飛行していたが、どういう訳か、敵ワイバーンの大半は編隊らしい編隊を組んでいない。 リンゲは不思議に思った物だが、すぐにフラットレー少佐からの指示が飛び込んできたため、彼の小隊もフラットレー機に続いて、敵編隊に向かっていった。 アメリカ軍戦闘機が向かってくるのを見たマオンド側のワイバーンも、やにわに速度を上げて、戦闘機隊に襲い掛ってきた。 この時、アメリカ側はエンタープライズとロング・アイランドに所属する戦闘機が、敵ワイバーンに向かっていた。 高度は、アメリカ側が4500メートルに対し、マオンド側が5000メートルである。マオンド側は、やや優位な体制で戦闘を開始出来た。 30機ほどのワイバーンが、ほぼ同数のF6Fに真っ正面から突っ込む。距離が迫ったところで、お互いが同時に攻撃を開始した。 ワイバーンの口から光弾が吐き出され、F6Fの両翼から機銃弾が撃ち出される。 1騎のワイバーンが、3機のF6Fから射撃を集中される。 しばしの間、防御結界が機銃弾を阻むが、すぐに霧散して竜騎士やワイバーンがたちまちのうちに射殺された。 正面攻撃が終わった時には、アメリカ側は1機が白煙を引きながら戦域を離脱しようとし、マオンド側は5騎が海面目掛けて墜落しつつあった。 敵ワイバーンの大半は、すぐにF6Fとの乱戦に移るが、7騎のワイバーンがそのまま空戦域から脱し、攻撃隊に向かった。 だが、このワイバーンも、攻撃隊の護衛に付いていたレンジャー隊のコルセアによって散々に追い散らされてしまった。 リンゲは、先の迎撃戦と同様に、2番機のガラハー少尉と共に敵ワイバーンと空戦を行っていた。 リンゲ機が、敵ワイバーンの右斜め後ろに占位する。 「よし!」 リンゲはそう呟くと同時に、照準器の向こうの敵ワイバーンに向けて6丁の12.7ミリ機銃を放つ。 6条の火箭が敵ワイバーンの体を斜め上に舐めたかと思うと、血らしき物を吹き出しながら急激に高度を下げていった。 「やりましたね、小隊長!」 ガラハー少尉が興奮気味な口調で言ってくる。 「ああ、当然だよ。」 それに対して、リンゲは素っ気ない口調で返事した。 敵ワイバーンは、最初こそはF6Fと互角に渡り合っていたが、空戦が5分、10分と続く内に押され始めて来た。 空戦開始から15分が経った今では、ワイバーンはF6Fの攻撃をかわすのに精一杯となっている。 リンゲ達は、ワイバーン群の動きが鈍いことを不審に思い始めていたが、それでも、ワイバーンは隙あらば、F6Fの迎撃を突破しようとする。 リンゲが都合、2騎目のワイバーンを落としたとき、エンタープライズ隊は攻撃を開始していた。 エンタープライズ隊は、敵機動部隊の第1群に迫りつつあった。 第2群の攻撃は、レンジャー隊とロング・アイランド隊に任せており、エンタープライズ隊は第1波攻撃隊が討ち漏らした敵竜母を攻撃しようとしていた。 エンタープライズ艦爆隊指揮官であるロバート・スキャンランド少佐は、敵第1群の輪形陣が大幅に崩れているのを見て、表情を緩ませた。 「TG72.1の連中は、敵さんをさんざん引っ掻き回したな。」 敵機動部隊は、第1波攻撃隊の猛攻を防ぐため、各艦が盛んに回避運動を行った。 そのため、防空戦闘ではありがちな陣形の乱れが起きてしまった。 今、敵の輪形陣は半ば半壊している。輪形陣のやや後方には、停止した敵艦船がおり、うち2隻ほどが黒煙を噴き上げている。 1隻は特に大きい。スキャンランドは、その艦の特徴から、敵の正規竜母であると確信した。 敵竜母は、飛行甲板から黒煙を噴き上げているほか、心持ち右舷側に傾斜しているようにも見える。 恐らく、ゲティスバーグ隊か、イラストリアス隊か、どちらかに所属しているアベンジャーが、その横腹に複数の魚雷を叩き付けたのであろう。 そこから400メートル先に停止している艦も、やはり竜母だ。こちらは比較的小柄だが、この艦もまた、黒煙を激しく噴き上げている。 詳しい被害状況までは分からないが、よくても大破の損害を受けたことは、誰の目にも明らかであろう。 「奴さんも、手傷を負ってはいるようだが・・・・・受けたダメージが少ないな。」 スキャンランドは、目標の竜母に視線を向けたから呟く。 エンタープライズ隊が目標に定めた敵竜母もまた、飛行甲板から煙を噴き上げている。 しかし、被弾した爆弾が少なかったのだろう、吹き上がる黒煙は薄く、艦自体も高速で動いている。 どうやら、あの艦の艦長は、ヘルダイバーとアベンジャーの猛攻を見事に凌ぎきったようだ。 「よし、今度は俺達が相手になってやる!」 スキャンランドはそう言って、内心であの敵竜母を仕留めてやると決心した。 エンタープライズ隊が輪形陣に侵入し始めた途端、周囲に高射砲弾が炸裂し始める。 高射砲の弾幕は、陣形が崩れているせいであまり厚くはない。 だが、精度は意外によく、早くも破片がドーントレスの機体に当たり始めた。 ドン!ドン!という音が鳴り、機体が金属音と共に振動する。 砲弾炸裂時の爆風が機体に吹き込み、操縦桿を取られそうになるが、スキャンランドは手慣れた手つきで機体の姿勢を保っている。 幸運な事に、16機のドーントレスは、敵巡洋艦の上空に到達するまで1機も落ちなかった。 通常なら、いくら頑丈な米軍機とは言え、駆逐艦群の上空を通り過ぎるときは必ず1機や2機は落とされている物なのだが、今回に至ってはそれがない。 「マイリー共の陣形が乱れているせいで、ここまで1機も脱落せずに済んだぞ。」 スキャンランドは、内心で第1波攻撃隊の奮闘に感謝した。 その直後、敵から放たれる高射砲弾の数が一気に増した。それまでは、あまり数の少なかった炸裂煙が、敵巡洋艦の上空に来た瞬間増え始める。 周囲には、いつも通りに見られる無数の黒煙が咲いており、今も機体の近くで砲弾が炸裂する。 いきなりガン!という音が聞こえた。スキャンランドは一瞬、首を竦めたが、機体には何ら異常がない。 「ふぅ、良かった。」 彼がそう呟いた瞬間、 「7番機被弾!墜落していきます!」 という悲報が飛び込んできた。この時、7番機は敵の高射砲弾によって胴体をすっぱりと切断されていた。 2枚の尾翼と、1枚の垂直尾翼を丸ごと失ったドーントレスは、火も噴かずに、そのまま大小2つの破片となって海に落ちていく、その姿は、 途中で夕焼けの光に遮られて見えづらくなり、やがては完全に消えた。 対空砲火は、敵竜母に近付くに従ってより激しくなっていく。 竜母の左右には、2隻の戦艦が配備されており、それらは他の護衛艦と違って多数配備された対空砲を撃ちまくっている。 敵巡洋艦を飛び越し、敵戦艦の上空に達しようとしたところで、立て続けに2機が撃墜された。 だが、マオンド側が高射砲で事前に撃墜出来たドーントレスは、これだけであった。 敵竜母は、左舷側の側面を艦爆隊に晒す形で航行している。その姿は、太い機首の下に隠れつつあった。 敵竜母が完全に視界から消え去ったとき、スキャンランドは突撃する事にした。 「行くぞ!」 スキャンランドはただ一言、そう言ってから操縦桿を前に押し倒した。ドーントレスのやや小振りな機体がお辞儀をするかの如く、前方に深く沈み込む。 眼前にオレンジ色に染まりかけた海が見え、次いで、敵竜母の姿が見え始めた。 斜め単橫陣の隊形で飛行していた13機のドーントレスは、一糸乱れぬ動きで次々と降下に入っていった。 第1機動艦隊旗艦である竜母ヴェルンシアの艦橋上で、トルーフラ中将はドーントレス群の動きを見ていた。 「ドーントレスか。となると、エンタープライズは戦闘力を残していたのか・・・・」 「陸軍のワイバーン隊からの報告では、確かにヨークタウン級空母1隻撃破とあったのですが、どうやら彼らの見間違いだったようですな。」 シークル参謀長が、口調に憤りを滲ませながらトルーフラに言ってきた。 (こいつ、心中では誇大戦果を知らせて来やがって、と思っているな) トルーフラは、その口ぶりでシークルの心境を察した。 高度2000グレルから降下を開始したドーントレス群は、護衛艦やヴェルシンアが撃ち上げる必死の対空射撃に臆することなく突っ込んで来る。 「連中、見事な腕前だな。水平飛行から急降下に移る際の動きだが、あれほど見事な動作で降下を開始する所は、今まで見た事がない。」 「エンタープライズに乗っている飛空挺乗りは、シホールアンル側との戦闘で鍛えられた猛者ばかりですからな。正直言って、我々も連中の 2、3人は拉致してでも欲しいと思うぐらいですよ。」 シークル参謀長は自嘲気味にそう言った。彼の最後の言葉は、ハニカムフラップの轟音でトルーフラには聞こえなかった。 ドーントレス群の先頭1000グレルまで降下したとき、艦長が大音声で何かを命じた。 上空から響き渡る甲高い轟音はますます大きくなってくる。 トルーフラは心なしか、ドーントレス群の発する甲高い轟音が、先のヘルダイバー群から発せられていたそれと比べて大きいように感じられた。 (いや、まさか) トルーフラは気のせいであると思い、首を横に振ったが、轟音はそうではないと否定するかのようにますます大きくなる。 やや間を置いて、ヴェルンシアが左に回頭を始めた。 (取り舵だな) トルーフラが心中で呟いた瞬間、上空から響き渡る轟音がこれまでにないほど大きくなり、そして発動機特有の音が混じったかと思うと、 音は右舷側に飛び去っていった。 「来るぞ!」 トルーフラは被弾を覚悟し、足を踏ん張った。見張りの声が艦橋に響くが、彼はそれを聞き流した。 いくら何でも、最初は外れるであろうとトルーフラは思っていた。 案の定、最初の爆弾は、ヴェルンシアの右舷側海面に落下した。続いて2弾目、3弾目と爆弾が落下する。 敵機の爆弾は、連続で3発が空振りとなった。 (いいぞ!この調子でどんど) いきなりダァーン!という耳を劈くような爆発音が鳴り、トルーフラの足が一瞬だけ、床から浮かび上がった。 「くっ・・・やはり思うようには行かないか!」 トルーフラは衝撃に耐えながらそう呟いたが、最初の被弾から5秒後に2発目がヴェルンシアに突き刺さった。 それから連続で5発の爆弾が命中した。トルーフラは、4発目まで命中弾の数を数えてから、やめてしまった。 ヴェルンシアの艦体に次々と爆弾が命中し、飛行甲板が爆発によって大きく断ち割られる。 既に、1発の爆弾を食らっていたヴェルンシアは、ドーントレス群から受けた7発の命中弾で満身創痍となった。 7発の爆弾は、前・中・後部に満遍なく命中した。 先の命中弾によって、格納庫で発生した火災は、この被弾によって一気に拡大し、格納庫にいた生き残りのワイバーンや将兵は、 生きたまま焼かれる事になった。 命中弾のうち1発は、防御甲板を突き破って機関室まで浸透し、機関の一部をも破壊していた。 そのため、ヴェルンシアの速力はみるみる内に低下していった。 「速力が落ちている・・・・・さては、敵弾が機関部を痛めつけたな。」 トルーフラは、狼狽する艦長をみてから、そう確信した。 艦長は、しきりに指示を飛ばしているが、ヴェルンシアの被害は、応急班が対応困難になりかけるほど深刻な物であった。 「左舷方向より雷撃機接近!」 先の被弾の対処で大わらわとなる艦橋に、見張りが新たな報告を送ってくる。 トルーフラは、左舷側海面に目を向ける。 ヴェルンシアの左舷側には、戦艦コルトムが占位している。 コルトムは、舷側の対空砲や光弾を、超低空から迫り来るアベンジャー目掛けて撃ちまくっている。 アベンジャー群は、対空砲火の弾幕を潜り抜けて、コルトムを通り過ぎようとしている。が、犠牲は避けられなかった。 アベンジャーの1機が、尾翼の真上で高射砲弾の炸裂を受けた。 破片は少ししか当たらなかったため、傷は余り付かなかったが、その代わり、猛烈な爆風が機体をテコの原理で押し上げた。 不意に高度が上がったアベンジャーに射弾が集中された。 アベンジャーは、頑丈で落ちにくい機体としてマオンド、シホールアンル双方で有名であるが、それでも、多数の光弾を食らったら当然落ちる。 アベンジャーは全身を穴だらけにされた末に、左の主翼を中ほどから千切られ、そのまま火を噴きながら海面に落下した。 その際、胴体内の燃料が引火して、水飛沫と共に猛烈な火炎が吹き上がった。 しかし、別の機はコルトムの前や後ろ通り過ぎて、ヴェルンシアに接近していく。 1機のアベンジャーが、コルトムからの追い撃ちを受けて撃墜されるが、残りは超低空でヴェルンシアに向かってきた。 ヴェルンシアは迎撃するのだが、既に先の直撃弾で、少なからぬ魔道銃や対空砲が破壊されたため、アベンジャーに向けて放たれた対空火器は驚くほど少なかった。 「面舵だ!面舵一杯!」 艦長は、声を上ずらせながら指示を飛ばす。幸いにも、ヴェルンシアはアベンジャーが射点に付くよりも早く、回頭を始めることが出来た。 艦長は、先ほどと同じように、対向面積の少ない艦尾を向けて魚雷をやり過ごそうと考えていた。 (果たして、魚雷を避けられることが出来るか。それとも・・・・・) トルーフラの脳裏に、15分前に起きた出来事が蘇る。 ヴェルンシアの左舷を航行していた僚艦マウニソラは、必死の操艦にも関わらず、アメリカ軍機から投下された魚雷を食らってしまった。 魚雷は4発が命中し、うち1発は艦尾に命中していた。トルーフラは、マウニソラの艦尾に付き立った真っ白な水柱をはっきりと目にしていた。 マウニソラはその後、右舷側前部に2本、後部に1本を受け、陣形から脱落した。 マウニソラと同様の運命を辿るか・・・・それとも、魚雷を回避して、この地獄の戦場から生き残るか。 しかし、現実は酷く、残酷であった。 ヴェルンシアは、確かに回頭を始めていた。だが、この時、ヴェルンシアの速力は11リンル(22ノット)しか出せていなかった。 そのため、艦はのろい動作でしか回頭を行うしかなかった。 「敵機、更に接近!あ、魚雷を落とした!」 見張りの口調が唐突に変わる。14機のアベンジャーは、ヴェルンシアから400グレルの位置まで近付くや、順繰りに魚雷を落とした。 14本の魚雷が、扇状に広がっていく。ヴェルンシアが回頭しているためか、14本の雷跡のうち、早くも半数が衝突コースから外れる。 だが、残る半数がヴェルンシアに向けて進みつつあった。 「魚雷接近!距離200グレル!」 トルーフラは、近寄ってくる魚雷を凝視していた。 (俺は、今度こそは、アメリカ機動部隊を打ちのめしてやると思っていた。今日の朝までは、敵に打ち勝てると思っていた。) 彼は、胸中でそう呟いた。 マオンド側は、前回の海戦と違って、航空戦力ではアメリカ機動部隊と互角の勢力を保てた。 やや劣勢であった前回でさえ、優勢な敵機動部隊相手に奮戦出来たのだから、今回こそは勝利できるであろうと、トルーフラは思っていた。 だが、現実は今、違った物になろうとしている。 雷跡が、あと50グレルの位置まで接近してきた。ヴェルンシアが回頭しているため、敵の魚雷は左舷側の斜め後方から追い掛けている形になっている。 この時、更に1本の雷跡が衝突コースから外れた。残る6本は、無情にもヴェルンシアの左舷側に迫りつつある。 敵の魚雷が、更に30グレルの位置まで迫る。 「敵魚雷、更に接近!」 見張りの声が、これまでないほどに上ずっていた。トルーフラはふと、ヴェルンシア艦長に視線を向けた。 艦長の顔には焦燥の色が滲んでおり、双眸は艦首側を睨み付けている。 曲がれ!もっと早く曲がれ!!と、艦長は心中で叫んでいるのだろう。 その時はやって来た。 唐突に、ガンという何かが当たる振動が伝わった、かと思うと、突き上げるような強い振動がヴェルンシアを揺さぶった。 衝撃は一度だけではない.2度目、3度目と、立て続けに起こる。振動はそれだけに収まらない。 4度目、振動が新たに伝わり、ヴェルンシアの艦体は一瞬ながら、文字通り、海面から飛び上がっていた。 「うおおおおぉ!」 トルーフラは、その猛烈な振動に足を取られ、床に転ばされた。床に転倒した際、彼は右肩倒れた。その瞬間、猛烈な痛みが肩から伝わった。 「う・・・ぐ!」 激痛に顔を歪めるが、彼の体を案じる者は、現時点で誰も居なかった。 何故なら、幕僚や艦橋要員の全てが、トルーフラ同様、床に転倒するか、壁に叩き付けられ、痛みに悶えていたからだ。 トルーフラは、右肩の痛みに耐えながらも、艦のスピードが衰えていくのが分かった。 それと同時に、艦は左舷側に傾斜を始めていた。 この時、ヴェルンシアは6本の魚雷を受けていた。 まず1本目は、ヴェルンシアの左舷側中央部に突き刺さった。 魚雷はバルジを突き破って防水区画で炸裂した。 続いて2本目が、先の命中箇所より30メートル離れた後ろ側に命中し、これもまた防水区画で爆発し、隔壁の一部を破壊して艦内に爆風を流れ込ませた。 もし、この被雷数がこの2本だけに終わっていれば、ヴェルンシアは大破止まりの損害で済んだであろう。 しかし、3本目と5本目の魚雷が、ヴェルンシアの船としての生命を奪い去った。 3本目は、ヴェルンシアが速力を落としたせいで、命中箇所が本来の位置よりも前側になり、バルジの施されていない左舷側前部に深々と食い込んだ。 魚雷は、通常よりも薄い防御区画をあっさりと貫通して第5甲板前部兵員室に達し、そこで爆発した。 爆発の瞬間、紅蓮の炎が艦内を席巻し、たまたまそこから被害箇所に向かおうとしていた、12名の応急班を瞬時に焼死させた。 爆炎がひとしきり艦内の一部を焼き払うと、今度は大量の海水が雪崩れ込んできた。 炭化した無残な焼死体は、海水の奔流によって綺麗さっぱり流された。 次いで、4本目が艦尾に命中したが、この魚雷は信管が作動せず、そのまま弾頭部を強かに打ち付けた後、そのまま海中に沈んでいった。 突っ込んできた魚雷が不発魚雷という幸運に恵まれたのも束の間、5本目が、ヴェルンシア突き刺さった。 この被雷が、ヴェルンシアにとって命取りとなった。魚雷は、ヴェルンシアの後部に命中すると、そのままの勢いでバルジと防水区画をぶち抜き、 更には隔壁を貫いて、第2魔導機関室の壁に弾頭部を覗かせた。 席に座って、魔力計を眺めたり、機器の点検をしていた魔導士達は、いきなり現れた魚雷の弾頭部に釘付けとなった。 ある魔導士が逃げろと言った瞬間、魚雷は弾頭部の信管を作動させ、300キロ以上の炸薬がそのエネルギーを解き放った。 爆発は一瞬にして魔動機関室を覆い尽くし、魔導士達は即死し、魔法石は瞬時に砕け散った。 先の急降下爆撃で、第1魔動機関室に損傷を受けていたヴェルンシアは、魚雷が第2魔動機関室を完全破壊したことでその動力の大半を一気に失い、 それまで勢いよく回転を続けていた4基の推進器は、急激に動きを緩めた。 6本目の魚雷は、容赦なく左舷側後部に突き刺さったが、魚雷の信管は何故か作動しなかった。 しかし、ヴェルンシアの命運は、既に決まったも同然であった。 4本の魚雷を受けたヴェルンシアは、被雷箇所から大量の海水を呑み込み続け、艦の傾斜は分を追うごとに深くなるばかりであった。 10分後。 ヴェルンシアの傾斜は、かなり急な物になっていた。 「くそ・・・・・もはや、これまでか。」 艦長は、絶望に顔を染めながらそう呟いた。今や、艦橋に立っている物は、何かに捕まっていなければそのまま転倒しそうなほど、艦は深く傾斜していた。 「司令官、残念ですが、ヴェルンシアはもはや・・・・・・ここはひとまず、退艦してください。」 トルーフラは、艦長から退艦するように進められたが、彼は艦長の言葉が嘘であると思いたかった。 「し、司令官。第2群から緊急信です。」 後ろから、魔動参謀が声をかけてきた。 「第2群のニグニンシとルグルスミルクィも敵機の猛攻を受けて火災を発生、目下消火作業中との事ですが・・・・・・」 魔動参謀は、言葉の途中で口をつぐんだ。 「どうした、最後まで言いたまえ。」 トルーフラは、厳しい口調で発言を促す。 「黙っていても、事実は覆らない。」 「・・・・ハッ。両艦とも、爆弾、魚雷を受けておりますので、損害が酷く、特にニグニンシは弾薬庫の誘爆のため、生還の見込みは薄いようです。」 「・・・・・そうか。」 トルーフラは、ため息を吐いた後、そう言った。 第1機動艦隊は、全ての正規竜母に沈没確実の被害を負わされた。前半はあれほど押したにも関わらず、後半はあっさりと、敵機動部隊に叩きのめされたのだ。 トルーフラは絶望するどころか、むしろ呆れていた。 (やはり、魚雷という武器は便利なもんだな) 彼は、胸中でそう呟くと、魔動参謀に振り返った。 「第2艦隊に通信を送れ。航空戦終了せり。後は頼んだ、と。」 午後6時20分 モンメロ沖南西90マイル地点 第7艦隊旗艦である重巡洋艦オレゴンシティの作戦室は、久方ぶりに沸き返っていた。 「攻撃隊の戦果は、敵正規竜母3隻、小型竜母1隻、駆逐艦3隻撃沈確実。小型竜母1隻、巡洋艦1隻、 駆逐艦5隻大中破、ワイバーン31騎撃墜となっております。」 参謀長のバイター少将が、誇らしげな口調で第7艦隊司令長官であるフィッチ大将に報告した。 「こちらの損害は、駆逐艦2隻沈没、空母1隻、駆逐艦2隻大破、空母2隻、駆逐艦2隻中破・・・・か。今回の機動部隊決戦で、 TF72はほぼ完勝に近い戦果を上げたな。」 フィッチは、バイター少将ほどではないが、それでも口元をやや緩ませながら、皆に言った。 「今回の海戦では、前半こそ押され通しでありましたが、後半は見事に、敵を討ち取ることが出来ましたな。これで、我が第7艦隊の 念願であった、マオンド機動部隊の撃滅はほぼ果たされたと言って良いでしょう。」 バイター少将は、嬉しげな表情を浮かべながら言う。 その一方で、航空参謀であるマクラスキー中佐は、浮かぬ表情を滲ませていた。 「それにしても、航空機の損害が多すぎます。」 マクラスキーの口調は、バイターと比べると、どこか憂鬱そうだ。実際、マクラスキーはやや憂鬱であった。 「前半戦で、マオンド側は執拗にファイターズスイープを仕掛けてきました。それによる損害も勿論ですが、敵機動部隊攻撃に向かった 艦載機にも、未帰還機が予想以上に多く出ています。」 TF72は、敵空中騎士軍との戦闘で戦闘機120機を失い、続く敵機動部隊から発進した戦闘ワイバーンとの空戦で18機を撃墜された。 更に、敵機動部隊に向かった攻撃隊は、敵ワイバーンの迎撃と敵艦の激しい対空砲火を浴び、最終的には73機が未帰還となった。 このうち、第2群を攻撃したレンジャー隊とロング・アイランド隊の損害が大きく、敵がいかに死に物狂いで戦ったかを如実に表していた。 現在判明している喪失機数だけを合わせれば、総計で211機を失った事になる。 今後出て来る使用不能機も含めれば、その数は更に増大する事になり、航空機の損害は前回と同等か、それ以上になる可能性がある。 「敵さんも、それだけ必死であったという事なのだろう。戦争とは、相手がいるからな。とはいえ、TF72は空母の損失は1隻も無く、 使える母艦の数はまだ多い。それに、艦載機も400機以上を保有している。壊滅した敵機動部隊に比べて、TF72はまだまだ戦える 状態にある。特に、空母の損失をゼロに抑えた事は、手放しで喜んでも良いと、私は思う。」 フィッチの言葉に、幕僚達は誰もが頷いていた。 「長官。ひとまず、敵機動部隊は叩きました。次は、敵の戦艦部隊が相手ですな。」 作戦参謀のコナン・ウェリントン中佐が言う。 「敵の戦艦部隊は、依然として北進を続けているようです。このままで行くと、長くても深夜1時までには、我が機動部隊を 砲戦距離に捉えるでしょう。」 「敵の戦艦部隊は、急行してきたTG73.5が当たることになっている。応援の巡洋艦は我が機動部隊から出すようだな。」 「はい。TG72.2から重巡ウィチタ、セント・ルイス。TG72.3からロチェスター、リトルロック、マンチェスターが出る予定です。」 「敵の戦艦部隊との戦いに話が行っているようですが、敵機動部隊も4隻の新鋭戦艦を保有しています。」 バイター少将が横から入ってきた。 「敵機動部隊の護衛に付いていた新鋭戦艦は、約28から30ノットほどの速力で航行していたと、攻撃隊の搭乗員から報告が上がっています。 敵は竜母全てを撃沈破させられた以上、何が何でも戦果を上げようと必死になるはずです。現に、彼らはここで我々や輸送船団に大損害を与えな ければヘルベスタン領どころか、レーフェイル大陸の覇権すらも失いかねません。その事を考えれば、敵の新鋭戦艦も、他の護衛艦共々、 輸送船団目掛けて突入する可能性があります。」 「その時は、残った戦力を全てつぎ込む。このオレゴンシティを使っても構わん。」 フィッチ大将は、躊躇う事なく言った。 「敵は確かに、高速力を発揮できる新鋭戦艦を揃えているが、我が第7艦隊もそれに負けぬ物を揃えている。もし、彼らが最後の行動に 出るのならば、その時は、我が新鋭戦艦の有する17インチ砲の威力を思い知らせてやるまでだ。」
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100: ひゅうが :2021/02/22(月) 04 14 29 HOST p185191-ipngn200303kouchi.kochi.ocn.ne.jp 海神の雷世界 ネタSS――――「第1次ニューファンドランド沖海戦(栄光)」 ――「本日、天気晴朗なれども波高し」 大英帝国グランドフリート司令長官ブルース・フレイザー ――「合衆国の興廃この一戦にあり。各員一層奮励努力せよ」 合衆国艦隊司令長官アーネスト・キング ――西暦1942年12月1日、中部大西洋において合流した大英帝国陸海空軍は「ホワイトナイト」作戦を発動 カナダ救援に向けて一路、西へと向かった 陸上部隊10万名(4個師団)は英国海外遠征軍(BEF ドイツ・キール橋頭保駐留)から書類上は、実際は英本土各地から極秘裏に抽出されていた 当時最新の高速客船20隻に分乗したことで、平均艦隊速力を強引に25ノット近くに押し上げた艦隊をもって、米軍側の対処能力を超えるスピードでいまだ米軍に占領されていないカナダのニューファンドランド島へ橋頭保を作る これにより目と鼻の先にあるケベックへと海上機動する それこそが彼らの作戦の主眼であった それを読み切られているとはこの時点で英軍は考えていなかった だが、米軍はそれを読み切っていた この日のために10年以上も検討が重ねられ続けた対英作戦計画「レインボー1号」 またの名を漸減邀撃作戦 彼らはその原案からすれば20年以上かけて軍備を整え続けていたのである ゆえに――先手を許す 1942年12月7日、英国第2海外遠征軍と名を変えた上陸部隊はカナダ・ニューファンドランド島へ上陸を開始 しかしそこに米海軍の姿はなかった おっとり刀で駆け付ける、英艦隊は自らの作戦成功に自信を持った 事前情報によれば大西洋艦隊配備の戦艦の数は8 太平洋上で大演習を敢行中の日本海軍連合艦隊への対抗上、ハワイへの前進配備が実施されるとの情報にほぼ間違いはない となれば、戦艦15を集中させた英グランドフリートは数的に圧倒的優勢 さらには橋頭保上からの弾着観測に加えて航空部隊の展開によって制空権の確保もできることだろう 「勝ったな」 とグランドフリート指揮官 フレイザー元帥はそうつぶやいたという だが、12月8日、ニューファンドランド島橋頭保はのべ1000機に達する米陸軍機による猛攻にさらされる。 続いて響くのは、敵艦隊発見の報告。 その数、実に戦艦14 空母3 米艦隊はこのタイミングを読み切り、西海岸サンディエゴ駐留の太平洋艦隊から主力戦艦6隻を抽出 11月中に秘密裡に拡大パナマ運河を通航させて現在地に向かわせていたのである それは、英艦隊が米艦隊の哨戒網に最初からひっかかっており、さらには情報部もまた偽電を発信し続ける太平洋艦隊に騙されていたことを意味していた さらには、陸上戦闘機部隊の支援を受けたB-17爆撃機から大量に投下されたもの、それは連繋機雷 数個の機雷を100メートル近いケーブルで結ぶことで、その範囲を通った軍艦の艦首に引っかかり必ず爆発するという古典的な浮遊機雷であった 英艦隊も直掩機を上げてはいたのだが、彼らの空母が有する航空機は(装甲空母の性質上)のべ300機にも満たない さらには橋頭保構築から時間が浅いことから満載されていた英空軍戦闘機部隊は現地に展開できていなかった すべてが最悪のタイミングであった これにより、針路を妨害された英艦隊は、こともあろうにT字を描く米艦隊に向かって突っ込む態勢になる 101: ひゅうが :2021/02/22(月) 04 15 13 HOST p185191-ipngn200303kouchi.kochi.ocn.ne.jp フレイザー提督はなんとかして同航戦に持ち込もうと艦隊を一斉回頭させた それこそが最大の罠であった 距離5万メートルから米艦隊は砲撃を開始。 砲弾を大型化し、砲弾直後に「第2装薬」を設置することで砲身の内部でまるで多薬室砲(ポンプ砲)のように2次加速を行い射程距離を大幅に延伸させた通称「ノーフォーク矢型弾」(実際は回転を前提としてスクリュー状に羽根が設けられていた)の連続斉射であった そして、艦隊針路の一斉回頭を行うということは、それが完了するまでの5分から10分間は距離がまったく変わらず、敵側からみれば極端にいえば静止目標を撃つほどにたやすいのである さらに米艦隊には切り札があった 海軍所属の大型飛行船「アクロン」「メイコン」「シェナンドー」 この3隻の大型飛行船はこの日、高度1万メートルに陣取り、高度3000メートルから1000メートルおきに展開するB-17改造の気象観測機とともに極めて正確な気象データを送っていた さらには、3角測定によって英艦隊旗艦の正確な位置までも把握しつくしていたのである これに加えて米艦隊は禁じ手を使っていた 東京海軍軍縮条約には、「既存主力艦の主砲換装による口径増大はこれを厳に禁じる」という条項が存在していた だが、ノーフォーク矢型弾の特性上、発射される弾体は従来よりひとまわり小さくなってしまう (形状からしてのちの装弾筒安定翼付き徹甲弾ことAPFSDSによく似ているため) であるならば、主砲の方を巨大化させてしまえば、射程距離も伸び、一石二鳥である この論理から米海軍は軍縮条約を無視し、サウスダコタ級以降の戦艦の主砲口径を18インチ級や20インチ級に拡大させていたのである このことから、落下してくるノーフォーク矢型弾の重量は16インチ、いや17インチ砲級に大きく、さらには奇襲兵器であることや命中率があまり期待できないと判断されたことから大量の焼夷弾子を搭載した、いわば榴散弾であった 12月8日午前11時15分 英グランドフリート旗艦「セント・デイヴィッド」(セント・ジョージ級戦艦)はその身に12発ものノーフォーク矢型弾を受け、艦橋構造物をしたたかに炎上させられた うち1発は、18インチ砲艦のわりには薄い艦橋防御を貫いて炸裂 一瞬のうちにフレイザー提督以下、グランドフリート首脳陣を全員戦死に追い込んでいた さらに悪いことには、同様の悲劇が巡洋戦艦部隊旗艦であった巡洋戦艦「インコンパラブル」にも発生 こちらは基本設計がWW1の最中であったことからいまだ薄い水平防御を貫かれて一撃で轟沈してしまったのであった 英グランドフリートは、この一撃で頭脳を失ってしまったのである 三次席指揮官であったトーマス・フィリップス大将が事態を掌握するにはさらに15分を要した その間に、接近してきた米艦隊は通常砲撃に切り替える 18インチ砲が次々に唸り、さらに制空権を確保したことによる航空機からの諸元情報はグランドフリートを次々に血祭りに上げつつあった 「卑怯者のヤンキーが!奴ら主砲を換装していやがるぞ!!」 普段の穏やかさをかなぐり捨てた「親指トム」が絶叫する このときまでに3隻のグランドフリート所属戦艦が海底に送り込まれていた 当然、その中には総旗艦「セント・デイヴィッド」も含まれていた この時点で炎上していた「インヴィンシブル」(インヴィンシブル級巡洋戦艦)および「インドミタブル」(同上)および「セント・ジョージ」(セント・ジョージ級戦艦)もまた同様の結末をたどりそうであった 102: ひゅうが :2021/02/22(月) 04 15 49 HOST p185191-ipngn200303kouchi.kochi.ocn.ne.jp 戦闘可能な戦艦の数はこの時点で英艦隊9 米艦隊は14隻全隻が健在 しかも、浮足立った英グランドフリートの水雷戦隊は、数的に劣勢のはずの米艦隊の突破を許しつつあった このままでは、漸減邀撃の名のもとに英艦隊は包囲殲滅を許してしまっただろう だが、そうはならなかった 「命捨てがまるは今ぞ!全艦突撃!!」 突如、ジョージ・スコット代将率いる2個駆逐隊が米艦隊に対して突撃を開始 後世、「ランス・チャージ」と称えられるこの突撃に参加したのは、日本から貸与されていた同国製の特型駆逐艦群であった 彼女たちが装備していたのは、日本海軍が気前よく供与した酸素魚雷ならびに、秘密兵器の「97式噴進魚雷」であった 前者は、魚雷の動力に酸素を用いて従来の圧縮空気で燃料を燃やすものより射程を大幅に伸ばすというもの。 米海軍が秘密兵器としていたそれを10年以上も早く日本海軍は実用化していたのである 彼らはもはや旧式化したそれを射程距離を大幅に削るかわりに雷速44ノットで1万メートル、弾頭に魚雷最適化炸薬TOPEX800キログラム採用という常軌を逸した魚雷に仕立て上げていたのである さらに、これに続く「97式噴進魚雷」はこの酸素魚雷に続く距離5000メートル以下での近接格闘戦を前提とした「絶対にあたる魚雷」であった 水中にマイクロバブルといわれる小さな泡を放ち、その中をロケット推進で突っ込むことであたかも水上を飛んでいるかのような状態を水中にて作り出す「スーパーキャビデーション現象」を発生させる これにより得られる雷速たるや、実に200ノット 30ノット程度で回頭したところで、避け切れずに命中するのである そして、日本製の特型駆逐艦群はこの両者を搭載していた 彼らが突撃した先、そこには米国水雷戦隊およびその護衛についていた戦艦「マサチューセッツ」「ヴァーモント」があった 「われ、血路を切り開かんとす。さらば」 「諸君。彼らこそが駆逐艦なのだ」 駆逐隊旗艦「サンダーチャイルド」(旧名吹雪)からの発光信号に、帽子を目深にかぶったフィリップス提督は幕僚たちにこう語ったという 結果、慌てた米艦隊が包囲網を形成する前に、グランドフリートは「尻尾を巻いて」(米機動部隊指揮官 ハルゼー中将の表現)逃げ出すことに成功した その意味は、計り知れないほど大きかった ここまでの罠を張ったにも関わらず、米海軍は英艦隊の完全殲滅に失敗したのである 英国には、何より欲していた本土防衛用の兵力が残されたのだ だがその代償はあまりに大きかった この時点で上陸していた兵力7万名は、降伏許可を得られたにも関わらず現地固守を決定 事実上、英本土の編成上から脱落する さらにはカナダ本土救援の手段も断たれてしまったのだから 最後に、のちに第1次ニューファンドランド沖海戦と称されるこの海戦における双方の被害を記して本稿をいったん閉じよう 【第1次ニューファンドランド沖海戦 両軍損害】 グランドフリート喪失艦 戦艦「セント・デイビッド」「セント・パトリック」「セント・ジョージ」 巡洋戦艦「インコンパラブル」「インヴィンシブル」「インドミタブル」 巡洋艦8 駆逐艦24 合衆国艦隊喪失艦 戦艦「マサチューセッツ」(大破後自沈) 巡洋艦10 駆逐艦12 ――だが、戦争はまだはじまったばかりであった 103: ひゅうが :2021/02/22(月) 04 18 57 HOST p185191-ipngn200303kouchi.kochi.ocn.ne.jp 【あとがき】――いやー難産でした。双方ともに新兵器を出しまくりです 空にはF4UコルセアとシーファイアにB-17が舞い、20インチや18インチ砲弾が飛び交う大海戦 双方の詳細な動きを書こうかとも思いましたが、こんな感じに簡略化させていただきました 途中、諦めかけてはいふり劇場版に逃避したことも付け加えておきます ご堪能いただければこれに勝る喜びはありません
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第4.1回移籍 予定日 8/26 実施日 8/28完了 お知らせ 最近登録した方は全てCC海域になります。 開発期間について 現在、開発期間の島のみ予定のターンまで開発期間となります。 アイテムについて 同じアイテムを持つ島が1つの海域に複数出ることがあります。既に持っているアイテムを奪った場合、アイテムが1つに結合します 今回の移籍後、アイテムの自然発生を凍結します。 島に入れない場合 ブラウザのクッキーを削除してみてください 移籍まとめ 全海域の島を移籍ptという「島の強さ」を計る基準で並べ、上から50人をAA海域、残りをCC海域に移籍します。 細かい違いがあるかもしれませんが、多めに見てください。ターンが少し進んだ影響です。 再開は多少遅れる可能性があります。 BFは全海域リセットします。 重大なお知らせ 実施日は近日告知致します。 全てのプレイヤーは全ての隊を自島に帰還してください 上記を確実にしていない島は艦隊が消えることがあります。その場合補償はしません。 各海域の振り分け AA海域 CC海域 移籍ptについて 島の実力を移籍ptという基準で並べました。 移籍ptの計算方法は非公開です。
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名称 建造レベル 耐久力 破壊力((対空も含む)) 攻撃数 攻撃範囲 射程範囲 経験値 建造費 工期 弾の費用 維持費用 維持食糧 航続ターン((航空機のみ)) 軍港 1 10~20 - - - - 3 6000億 隣接する陸地の数により変化3~12ターン - 30億 3万t - カメレオン対獣艇 1 5~10 4 7 4(対地,対潜) 4 1 400億 - 100億 15億 1.5万t - スパイダー工作艇 1 5~10 1 7 1(対地) 1 3 2000億 - 200億 20億 1万t - シュミット戦闘機 1 1~2 2 1 0 5 3 800億 - 10億 40億 0.5万t 6ターン ホーク攻撃機 1 2~4 4 1 0 5 3 1200億 - 20億 60億 1万t 6ターン 投網漁船 2 5~10 4 1 1 3 3 1000億 - 100億 30億 3万t - 護国攻撃機 2 1~2 0(特攻) 0 0 0 1 1500億 - - 120億 0.5万t 3ターン メテオ潜航艇 3 5~10 0(特攻) 0 0 0 3 1000億 - - 10億 0.5万t - 霞級駆逐艦(対潜型) 3 15~30 3 1 0 4 6 8000億 16ターン 5億 30億 6万t - 霞級駆逐艦(水雷型) 3 15~30 3 1 0 3 6 8000億 16ターン 5億 30億 6万t - 霞級駆逐艦(防空型) 3 15~30 1 1 0 3 6 8000億 16ターン 5億 30億 6万t - 霞級駆逐艦(対地型) 3 15~30 2 1 0 3 6 8000億 16ターン 5億 30億 6万t - ひゅうが級護衛空母 4 15~30 0(発艦) 0 0 0 9 24000億 48ターン 5億 60億 12万t - 零式潜水艦 4 8~16 5 1 0 2 8 12000億 24ターン 5億 45億 9万t - 金剛級戦艦 5 30~60 4 7 0 4 15 24000億 48ターン 10億 120億 24万t - フォートレス爆撃機 5 2~4 1 7 0 5 4 2000億 - 40億 80億 1万t 12ターン 豪華客船タイタニック 6 5~10 - - - - 1 2000億 - - 30億 3万t - 大和級巨大戦艦 7 50~100 6 6 0 5 25 60000億 120ターン 20億 240億 48万t - フェニックス戦闘攻撃機 8 2~4 3,1(対艦,対空) 1 0 5 4 2000億 - 20億 100億 0.5万t 9ターン メデューサ電子戦機 9 1~2 2 1 0 5 4 2200億 - 20億 90億 0.5万t 9ターン ニミッツ級攻撃空母 9 15~30 0 0 0 0 18 48000億 96ターン 5億 120億 24万t 一式攻撃潜水艦 10 8~16 3 1 0 2 13 20000億円 40ターン 5億 50億 10万t 要塞軍港 11 10~20 6 7 1 5 15 36000億円 72ターン 10億 100億 17.5万t ミラー級イージス巡洋艦 11 18~36 1 1 1 6 13 40000億 80ターン 40億 100億 20万t 百式戦略潜水艦 12 8~16 4 1.4 4 7 13 36000億円 72ターン 400億 90億 18万t ヴァンパイアステルス攻撃機 13 2~4 2 1 0 3 5 3600億円 - 20億 140億 0.5万t 6ターン シャドーステルス戦闘機 13 1~2 1,2(対空,対地) 1 0 4 5 4800億円 - 10億 200億 0.5万t 6ターン 空中空母スフィルナ号 14 10~20 0 0 0 0 25 60000億円 120ターン 20億 720億 3.5万t 潜水空母ポセイドン号 14 10~20 0 0 0 0 25 60000億円 120ターン 5億 600億 20万t 海上採掘基地 ★ 10~20 0 0 0 0 0 3 12ターン - 30億 3万t 海上防衛施設 ★ 10~20 0 0 0 0 0 3 12ターン - 30億 3万t 定置網 ★ 10~20 0 0 0 0 0 3 12ターン - 30億 3万トン
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25. 名無しモドキ 2011/03/19(土) 19 55 08 「ハワイ沖海戦外伝」−その2− −在ハワイ陸軍航空隊 第79爆撃集団 第255爆撃中隊 第二小隊1番機− 1943年1月19日〜20日 「また、右の回転数が落ちてきました。」副操縦士のドイズが、機長のパッカーに声をかける。 「エンジンを見ていた整備士の不安そうな顔を思い出すよ。止まりそうか。」 「スロットルの調整だけでなんとかなりそうです。燃料供給を増やします。」 「そうなると、また、燃料の計算をやり直しですね。ただでさえ、巡航の15%以上の燃料を消費してますから、多分、 目標地点からの帰還は燃料ギリギリですよ。」機関士のスペンサーがぼやいた。 パッカー中尉の、「プリンセス・オブ・マーズ(火星の王女)」と名付けられたB-25は、出撃前からトラブルを抱 えていた。始動したかと思うと、左エンジンが突然、止まったのだ。漸く、エンジンが始動して出撃可能になった時は、 すでに、30分も前に、彼の編隊は飛び立っていた。 本来であれば、このような時は出撃を控えて整備を行うのだが、海軍が全力出撃したとあって、基地司令は、 パッカーにも、再度の出撃命令を出しため、パッカー機は後続の、編隊についていくことになった。 ところが、後30分ほどで目標に到達と言うときに、今度は左右両方の不調で、超低空まで下降してしまい編隊に取り 残された。そのまま、超低空で、地面効果を利用して引き返そうとした時に、再びエンジンの調子がもどったのだ。 すると、なんの気まぐれか今度は、無線の電源が落ちてしまった。 「独りぼっちになったな。オーエン、敵艦隊の位置は?」パッカーは航空士に尋ねた。 「やる気ですか。多分、11時の方向へ。」航空士のオーエンは言外に引き返そうと言っている。 「今更、帰れるか。一旦、上昇する。よく見張ってろ。」パッカーは、気乗りしない航空士を無視した。 超低空から、散在する雲の上にB-25は上昇した。 「無線は?」パッカーは無線機を修理している、通信士のハワードに尋ねた。 「ダメですね。真空管がいかれたみたいです。この間、入れ直した最後の予備だったんですがね。機長、近くの電気 屋によってくださいな。」ハワードは、いつもの調子で言い返す。 「そんなもん、ここにあるか。さてさて、耳も聞こえず、口もきけないか。ハワード、無線機はほっておいてお前も 見張りに加われ。」パッカーも少し不安な物言いである。 「機長、あれを。」ドイズが10時の方向を示す。 かなり広い空域に、細長い黒煙と、飛行機雲が無数に漂っている。時々、太陽の光を何かが反射する。 「空戦だ。それも、もの凄い規模だ。」 「どっちが勝ってるんでしょう。」 「敵機の迎撃にあって大規模な空戦になっている時点で拙いことになってる考えるべきだな。あの様子じゃ、かなり 手ひどいことになってるぞ。トムソンとファックスが無事だといいが。」パッカーは心ならずも、一緒に出撃出来な かった、彼の指揮下にある小隊機たちを気遣った。 「どうします。」ドイズが尋ねる。 「巻き込まれないように迂回しよう。上手くいけば搦め手から、敵艦隊に接近できるかもしれない。全員銃座の機銃 を試射しておけ。」パッカーは帽子を被り直して、周囲の様子に神経を集中させた。 実はこの時、赤城のCICでは、戦術情報士達が、少々あわてていた。単機が、超低空で迎撃をかいくぐり、艦隊の 背後に回り込みつつあったからだ。この高度な機動をする機は、他機を囮にした新兵器搭載機ではないのか?担当 空域の戦術情報士は、何とか迎撃可能な戦闘機を見つけ出して必死に誘導していた。 パッカーは、今度は高度を下げて、出来るだけ雲の中を飛ぶように機動した。数分飛んだところで、当然、雲から 出たと思うと、背後上空から、射撃を受けた。ガンガンと機体に弾が当たる音がしたかと思うと、目玉焼きのような、 国籍マークをつけた、戦闘機が2機、凄い速度で前方を急降下していった。 26. 名無しモドキ 2011/03/19(土) 20 01 14 「被害報告。くそ、奴ら、どこから来たんだ。こっちは雲の中にいたんだぞ。」急に、振動を感じるようになった操 縦桿を押さえながらパッカーは叫んだ。 「後部銃座被弾。」銃座の持ち場がないオーエンが、機内を駆け回り、後部から大声で報告する。 「バナーは、どうした。」 「どこにもいません。銃座が丸ごと吹っ飛んでんます。バナーは、多分機外に・・・。」 「くそったれ。アイツには、カードの負け分の20ドル返し損ねた。他は異常ないか。」 「銃塔が旋回しません。何かの破片が詰まってます。」スペンサーが、下部銃塔から顔を覗かせて怒鳴る。 「左右の垂直尾翼に被弾してます。舵は、半分くらいもっていかれましたが、まだ動いてます。それから、もう、 無線機の心配はいりません。破片が貫通してます。」オーエンが機首に戻ってきて早口で報告する。 「機長、下方でパラシュートが開きました。」下部銃塔のスペンサーが素っ頓狂な声を上げた。 「バナーか。俺が金を返すまで生きててくれ。」パッカーがうめくように返す。 「さっきのやつらが上昇してきます。もの凄い上昇力です。」下部銃座のスペンサーが報告してきた。 「近づけるな。あいつらの相手をしてやれるほどヒマじゃないんだ。」操縦桿を必死で落ち着かせながらパッカー は指示した。 「後方へ回ろうとしてます。シックス・オクロック・ロウ、後方下面から接近中。こっちの銃座が動かないことを 知ってやがるのか。機長、急速に接近中。」スペンサーが悲痛な声で報告する。 「後部銃座がないので、後方から来たんだ。下部が動かないことは知らない、ブラフでいい。撃て。」 機体の下部から、太い銃撃音が響く。 パッカーは、本能的に機体を急旋回させた。その機動の最中に後方で、大きな音がして、機体が振動を始めた。 「右の垂直翼が無くなってます。左は上部がありません。水平舵も左側が外れかけてます。」後方へ様子を見に 行ったオーエンが大声で知らせたきた。 「敵機、二機とも離れていきます。どうしたんでしょう。それに、何故、撃ってこなかったんでしょう。」 ドイズが横を見ながら報告する。 「大空戦をしてきたので弾切れなんだ。くそ、あいつらこそブラフをかけてきたんだ。それに、うかうか乗って、自分 でぶっ壊して世話なしだな。奴らは、この機体が、もう脅威じゃないと判断したんだろう。恐ろしく冷静で、頭の切れ る奴らだ。」パッカーは自身もまだ、冷静なことに気付いた。 「まだ、飛べるぞ。なんとか旋回させてハワイに帰ってやる。一番最初にすることは、オーエン曹長、お前の仕事だ。」 「何ですか。」爆撃手も兼ねるオーエンは、不安気に聞いた。 「爆弾を落として機体を軽くしろ。」 二時間以上、パッカーは機体を旋回させようと悪戦苦闘して、ハワイの方向にB-25を向けた。しかし、尾翼関係の舵が ほぼ効かないため、エンジン出力調整だけでは、せいぜい水平を保つのが精一杯で、コースを維持するのは至難の業であ ったため機体は迷走した。 「パッカー中尉、あなたが機長でよかった。中隊のヒヨコ連中じゃ、最初の一撃でパニックになっていたでしょうから。」 ドイズ少尉が、操縦桿を押さえ汗だくになったパッカーに声をかけた。 パッカー中尉は、ハワイの航空隊では珍しく、中国大陸で、蒋介石軍相手に実戦を経験していたベテランである。今にし て思えば運よく、日米開戦の直前に、本土での教官任務を命じられてハワイまで後退したところで、足止めをくってそのまま 現地部隊に編入されていた。開戦直前に本土勤務を命じられた、パッカーは身の不運を嘆いていたが、中国に残った同僚の多 くは日本機のエジキになった。 「おだててもダメだ。燃料切れ間近だ。多少でもコントロールの効くうちに着水するぞ。」 B-25は、盛大に水しぶきを上げながら海上を滑って静止した。後部に破孔があるため、海水が瞬く間に侵入した。機体は ほんの3分ばかりで海中に没し、5人の男達は小さなゴムボートに乗り移って漂流を始めた。 「もうすぐ、日没ですか。」ゴムボートの真ん中で、寝ていたオーエンが力なく言った。 「気がついたか?」パッカーが、起きようとするオーエンを押しとどめた。 「俺、どうしたんですか?」 「脳震盪で気絶してたんだ。一人でボートの半分、占領しやがって。」ハワードが、ボートの外へ足を放り出して船尾 らしき場所から答えた。 「ドジな野郎だ。飛行機から飛び出し時に、勢い余って頭を出口の上部に打ち付けたんだよ。」スペンサーは、タバコ に火をつけながら教えてくれた。 「一服しな。」スペンサーは、タバコをオーエンに渡した。 27. 名無しモドキ 2011/03/19(土) 20 07 30 「持ち出せた水は、2ガロン(7.6L)少々とコーラが4本。食い物は、ハーシーのチョコレート2枚、ナビスコのリッツ クラッカー1袋、Cレーションが12食分。」パッカーはできるだけ事務的に言った。 「もって、四五日ですか。」ドイズが呟く。 「バナーは、ライフジャケットだけで水も食い物もなく、独りぼっちで、この海のどこかにいるんだ。それに引き替え、 俺たちは、クラッカーで晩餐ができるんだ。」パッカーは乗員を諭して指示を出した。 「取りあえず、交代で見張りだ。飛行機でも、船でも、何か見えたら信号弾をあげる。」 「日本軍だったら。」ハワードが心配げに聞く。 「考えずに合図だ。今更、我々が日本軍から隠れても、戦略的にも戦術的にも何の意味もない。ドイズから1時間交代 で階級順に見張りを頼む。最後は俺だ。さあ、夕飯を配るぞ。水はコップ一杯だ。」 「みんな起きてくれ。」見張りが一回りして、再び見張り役になったドイズが大声で言った。 ただならぬ気配に全員が、西の方を見た。満点の星に、海上で揺らめく夜光虫の明かり。救命ボートからで無ければ 幻想的な光景だった。そして、西の水平線が幾十、幾百の雷が燦めくように光っている。 「雷じゃないよな。」オーエンが尋ねる。 「海戦だ。それも、ジュットランド並の大海戦だ。」パッカーが双眼鏡を眺めながら言う。 「俺らは、またも戦場の間近に来ながら、何が起こってるのかさえわかわずに除け者か。」スペンサーが呟いた。やがて、 かすかだが、腹に響くような低音が聞こえて来た。 「戦艦では、ジャップを圧倒してるって海軍のやつら、酒場で吹聴してた。艦隊決戦に持ち込めばジャップを叩きのめすっ てな。きっと、バイ提督が砲撃戦に持ち込んだんだ。」ドイズが元気を取り戻して言った。 「ファイトだ!」オーエンが大声を上げる。つられて、他の男達も声の限りを尽くして海軍の奮戦を応援し出した。 「叩きのめせ。」「やった、今の閃光は、きっと日本戦艦の爆沈だ。」「がんばれよ。」・・・。 光が見えなくなっても、明け方近くまで彼らは見えぬ味方に声援を送り続けた。疲れ切った五人の男達が目覚めと 時には、既に太陽が東の空に上がっていた。 「機長、艦隊がこちらに向かってきます。」いち早く目を覚ました、ハワードが大声で叫んだ。 水平線の彼方から、何十隻もの艦船が、朝日を受けて向かってくるのが徐々に明瞭に見えてくる。 「堂々とした大艦隊だ。昨晩の勝者だ。」パッカーは、双眼鏡を向けながら言った。 「今夜の夕飯は無理でも、きっと明日の夕食はホノルルだ。」 「機長、信号弾を上げてください。」乗員は、大はしゃぎになった。 パッカーは、見ていた双眼鏡を、ドイズに渡した、次々と回された双眼鏡を見た男達は無言になった。 やがて、ゴムボートの周辺を、駆逐艦や巡洋艦、そして、遠くには戦艦らしい大型艦が通過していく。その度に、 大きな波が押し寄せて、ゴムボートは翻弄された。演習にでも行くように整備の整った軍艦の艦上には、こちらを 見ている乗員らの姿も見えた。手を振ってなにやら叫んでいる者もいる。 「何を言ってるんです。よく分かりませんね。」不安げにオーエンが言う。 「多分、ボートにしっかりつかまっていろと言っているようだ。」パッカーは観念した。 「機長、あの駆逐艦がこちらに。」スペンサーが指さしていう方向から、太陽を模したデザインの戦闘旗を掲げた、 精悍な構えの駆逐艦が徐々に速度を落としながら近づいてきた。 28. 名無しモドキ 2011/03/19(土) 20 10 14 パッカー中尉以下、5名の乗員はこうして日本軍の捕虜になった。彼らは日本への帰路で、容積に余裕があり、捕虜収容 に適した空母に移乗させられた。姓名階級だけを伝えたはずだが、誰かが尋問官の引っかけに乗ったのか、単独飛行をして いたB-25の乗員であることがばれていた。 尋問官に付き添われた二人の戦闘機パイロットが訪ねてきた。二人の子供っぽい顔から戦闘機パイロットとは信じられな かったが、彼らを撃墜したパイロットだと言う。ドイズが、弾なしで、ブラフにかけたことをなじった。すると、はにかん だ笑い顔で、あのハッタリ(HATTARI)には、こちらも、恐くて心臓が口から飛び出しそうだったと返してきた。これで、 ちょっとうち解けて、握手したところを写真に撮られた。この写真は日本の新聞や雑誌に掲載された。パッカー達には 少し忌々しいが、現在でも、よく引用される写真である。 横須賀に着いたときに、驚くべきサプライズがあると尋問官が言った。バナーと再開したのだ。彼は、二日間漂流して、 偶然に浮上してきた日本の潜水艦に救助されていた。 こうして、パッカー達の戦争は終わった。二人の戦闘機パロットに、1/2機のスコアを献上し(当初は撃破認定だった) 機銃弾を使用しないでトドメをさされ、ハワイ沖で撃墜されながらも全ての乗員が生還した唯一のクルーという軍事マニア 好みの珍記録を残して。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−お わ り−−−−−−−−−−−−− 追加:パッカーはバナーからのカードの借金を取り返すつもりで、捕虜生活の中で何度もバナーに挑んだが、借金は1290ドル にまで膨らんだ。パッカーはカード好きだが、ブラフに弱いチキンとして有名だった。なお、HATTARIは今では、ブラフ以上に 英語圏で普及した単語である。
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この海域めっちゃ油浮いてそう - kani (2020-10-12 02 09 08) グ帝の技術サンプルを求めてサルベージ業に転職した - 名無しさん (2020-10-14 18 57 15) 冒険者ギルドがサルベージギルドになるんじゃねえか? - 名無しさん (2020-10-14 18 58 01) 引き上げた船の残骸で剣や鎧を作ったら下手な魔法強化品よりすごいとかありそうw - 名無しさん (2021-06-09 23 04 50) これほどの惨敗の後だから、カイザルの後任は駆逐艦に将旗を掲げる事になるのか・・・ - 名無しさん (2020-10-23 19 45 55) 最早グ帝は、笑えない状況になって来たって事だよなぁ - 名無しさん (2020-11-19 16 40 31) 一応、まだ戦艦自体はあると思うよ。対艦誘導弾2,3発で沈むようなスペックだろうけど。 - 名無しさん (2020-11-23 16 52 08) まだGAの姉妹艦が残ってる - 名無しさん (2021-02-21 19 26 08) メルトとダウン以外の中、小型艦艇の名前、全部天王星の衛星名だね。省いた二隻はメルトダウンからで………トーガーナのもとネタなんだろう - 名無しさん (2020-11-23 01 14 30) ベタだけど長門の逆さ読みかと - 名無しさん (2020-12-02 04 12 08) なぜグ帝の誰も感付かないのだろう。「ニホンが皇太子を返さなかったのは、我が軍をおびき出して殲滅するためだったのだ」と。 - 名無しさん (2020-11-23 10 47 35) 自衛隊側も完全に有利ってわけじゃないんだよな。割りとギリギリな戦だった。書籍ではどうなることやら。 - 名無しさん (2021-05-09 23 18 27) 最終的にグ帝は1000隻以上もの艦船を失ったけど、果たしてその全てが海の藻屑となったのだろうか?戦艦や空母といった大型艦艇は航行不能という形で何隻か残っていて、それを日本側が鹵獲している可能性もあるし。…そうなる前に自沈処分されてたら話は別だけど。 - 名無しさん (2021-05-10 11 31 36) WW2級装甲のグ艦を撃沈出来なかった反省から、対艦タンデム弾頭の完成を急ぐ必要があるのでは? - 大艦巨砲 (2021-05-19 10 27 58) 自衛隊側からしたらかなりギリギリの戦いしてて1歩間違えたらホントに基地が灰燼にされる可能性があったけど、グ帝側からしたら一切の損害なくしかも敵戦力の詳細すらわからずに自海軍の主力を完膚なきまでに一掃されてるんよな、、、。 - 名無しさん (2021-09-01 10 50 35) 地対艦誘導弾がなんちゃら山に配置されてたんだから砲艦戦はしなくてよかったんじゃね ゴトク平野みたいに有効射程まで進んでもらってりゃ無駄玉使わんでも・・・ね - 名無しさん (2022-08-17 04 33 02) 総員退艦!総員退艦! - オカノール (2021-10-06 12 26 13) 沈め 沈め 沈めー! - 名無しさん (2021-10-06 14 30 14)
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4400隻が8隻に滅多打ちにされて1400隻沈んだ、と言われて信じる人はいません。 -- 名無しさん (2017-12-21 00 14 55) 1400隻(ガレー船や朱印船位)だとして50から100人だとしても1万4000人位(もっとかも)死んでるのか -- AGM-88 (2017-12-21 00 18 55)1隻あたり50~100人が乗り組んでいて死亡率50%とすると、戦死者数は3万5千人~7万人ということになる。(残りが救助されたとすると捕虜も同数となるが、これはさすが多すぎるので、死亡率はもっと高かったのだろう) - 名無しさん 2018-03-15 10 08 51 乗組員の大部分は漕ぎ手になるわけだが、漕ぎ手が兵士でなく奴隷だった場合は、逃亡防止のため足枷や鎖などで船に縛り付けられているので、船が撃沈された際はほとんどが脱出できずに船と運命を共にしたことになり、死者は多数になる。 - 名無しさん 2018-03-15 10 14 45 中世レベルなのに、戦闘中に味方が3分の1やられたことが、すぐにわかるのかね? -- 名無しさん (2017-12-21 05 12 34)それがわかるのでシャークンは名将なのだよ。 - 名無しさん 2018-03-14 21 01 18 死者は一桁多いだろ。撃沈1隻について漂流生存者10人いたとしたら、1万人以上の捕虜を救助したことになるのだが、乗せて帰れたのかね? -- 名無しさん (2017-12-21 05 19 37) 「撃沈」という描写だけど、木造ガレー帆船なので、たとえ砲撃で引き裂かれても、沈没せずに残骸となって浮いているのでは? -- 名無しさん (2017-12-21 10 51 12) 原作でも「撃沈」だからしゃーない -- 名無しさん (2017-12-22 04 23 20) 木造船でも破片は浮くが本体は普通に沈む -- 名無しさん (2017-12-22 05 52 31) 木造船で構造弱すぎるので、対艦用の多目的弾は爆発前に船体を貫通してしまうのでは? -- 名無しさん (2017-12-23 07 38 22) 今の信管なら大丈夫でしょ、それにけ鉄とはいっても中から大型木造船よりぺらい小型船撃つのも想定してるんだから -- 名無しさん (2017-12-23 08 38 52) 最初に良く確認したくなる情報をまとめるのは良いけど、基本時系列に目に入ると良いからこの結果は最後に目に入った方が良いな -- 名無しさん (2017-12-30 18 05 59) 1400隻撃沈後に、みょうこうが機銃攻撃しているので、撃沈数はもう少し多いと思われる。 -- 名無しさん (2018-01-23 06 06 16)艦砲で1400隻沈めた後で、ヘリ5機がロケット弾と機銃で攻撃してさらに沈めている。ロウリア艦隊は全体の三分の一を失ったらしいので損害は約1500隻くらいだろうか。艦砲の発射数から1400という数字をブルーアイに伝えたためその数値が独り歩きしたのかもしれない。 - 名無しさん 2018-03-14 20 57 23 ヘリからの攻撃は船体の舵板のみを狙って戦闘不能にする目的だったので、小破中破しても沈没はしていないはず。 ヘリ5機が各1機あたりロケット弾152発搭載して一度補給しているので、最大約1500隻の船が戦闘不能になった可能性がある。 - 名無しさん 2018-03-15 10 29 46 今気付いたが護衛艦8隻だと弾数足りないな、元寇に例えられるから大半が上陸用船艇で牽引してた大型艦諸共に沈んだか漂流したのか? - 名無しさん 2018-03-15 12 41 32 ヘリの機銃とロケット弾で撃ってる - 名無しさん 2018-03-15 20 58 45 即応弾は少ないけど127mm砲は600発程度は砲弾を積んでるはず - 名無しさん 2018-03-16 01 19 06 予備弾使ってたとすると、結構長期戦だったのか。装填も数十分はかかるだろうから、描写されなかっただけで複数回に分けて攻撃したのかな。流石に艦内とは言え、敵前で再装填はやらないだろうし - 名無しさん 2018-03-16 09 52 14 いずもは艦砲を搭載していないので護衛艦7隻で攻撃してわけだが、1400隻撃沈時点で速射砲の弾切れが近くなったので、平均すると一隻当たりの砲弾搭載数は200発+αということになる。 装甲弾は別に積んでいたのかもしれないが。 いずれにせよ最悪の場合は艦艇4400隻とワイバーン多数をすべて殲滅する必要があるため、それなりの量の弾薬や装備を積んでいたと思われる。 - 名無しさん 2018-03-16 05 58 26 SH-60の短魚雷や対潜爆雷でも対処可能じゃね? - 名無しさん (2019-07-06 12 35 47) 余裕あるのに勿体ないだろ - 名無しさん (2020-06-11 13 17 57) SH-60のドアガンで十分じゃね? - 名無しさん (2020-07-04 01 15 14) 74式機関銃でもブロック塀貫通するから、木造船なら十分。 - 名無しさん (2020-10-14 23 17 34) コミカライズ版では撃沈されることもなく普通に撤退してるけど、何か修正入ったのかな? - 名無しさん (2021-01-19 00 58 03) 北の港の残存艦隊の場面で、船尾に国章を付けた旗艦らしき船が描かれているので、旗艦は無事撤退できたみたい。 ただ、海将はホエイルに代わっているので、シャークンが無事かは不明。 - 名無しさん (2021-01-20 08 05 09)
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#blognavi ★17日・ヴェネツィア ■フランス私掠艦隊とポルトガルの投資家が起こしたマリンディの騒動から1ヶ月、両国の関係は急速に悪化しつつあったが、そこへイスパニアが近づくのは必然であったのか。14日から15日にかけ、イスパニアをはじめとして、イングランド、フランス、ヴェネツィアの4カ国が、世界各地のポルトガルの同盟港への投資攻勢を行った。 イスパニアはモロッコ西岸のカサブランカ、西アフリカのカーボヴェルデ、シエラレオネ、アビジャン、サンジョルジュ、イングランドは東アフリカのキルワ、インド西岸のディヴ、フランスは西アフリカのベニン、東アフリカのマリンディと、攻撃は広範囲へ渡った。ヴェネツィアも参加はしたものの、国を挙げた参加ではなく、ごく一部の投資家が東地中海シリア地方のヤッファの再奪取を試みるに留まった。勿論ポルトガルも黙ってはおらず、奪還投資を開始、サンジョルジュ、マリンディ、ヤッファなど、各地を奪還に回っているようである。 この攻勢でポルトガルの同盟港は一時8港まで減り、逆にイスパニアの同盟港は28港まで増えた。勿論これらの投資戦は各国一般航海者の総意ではなかろうし、資金の力が正義となっている時世、結果的にパワーバランスが大きく一強に片寄った状況になってしまったとしても、それは現実として受け止めるしかない。 しかし、そんな中でも、国同士の関係においては、ここまではよい、これ以上は駄目だという線引きの感覚差はあれ、正々堂々な紳士たる行動と態度が求められるのは、人々の感覚として間違ってはいないだろう。 ■イスパニアは17日午前、西アフリカのドゥアラをイスパニア同盟に変える。この知らせに、ロンドンとヴェネツィアでは大混乱が生じた。 ドゥアラはイングランドがポルトガルから軍事奪取を目指していた場所であり、既に西アフリカへ向け艦隊を進発させた後だったからである。ヴェネツィアも今回はイングランドに協力する条約を結び、既に外洋艦隊を進発させた後である。大西洋に出てしまった艦隊に中止の命令を出す術はない。 以前のジェノヴァ事件を批判していた国が、同じことを行い、かつ未遂ではなく成功してしまった-これでは、関係する各国へどういった説明をするのであろうか。ドゥアラの同盟奪取の陰には、海戦に一枚噛みたいフランスの私掠海賊の工作であるとか、様々な説が飛び交っているが、仮に旗を儀装したスパイだったとしても、今そこにあるのはイスパニア同盟になったドゥアラの街であり、イスパニアに責任などないと言い張ったところで、批判は避けられない筈だ。 進発した艦隊はそれぞれドゥアラを攻撃する旨を記した、女王と元首の勅命文書を携えている。一度振り上げた拳を下げるわけにもいかず、恐らく19日頃にはそのままそのままドゥアラを攻撃することになるだろう。が、ドゥアラで待ち構えているのはポルトガル・ネーデルランド海軍ではなく、イスパニアとフランスの海軍である。 カテゴリ [投資戦] - trackback- 2006年05月18日 17 30 15 #blognavi
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海戦 「敵の拠点はここだ」 古びた地図の上の、ゼクセン市の城壁の外、いわゆる外市の、そのまた外れ、テーブルの端ぎりぎりのところに、小さな木の駒が置かれた。 「ここに兵を進める。しかし、これは牽制のためだ。なぜならば、これは本体ではないからだ。したがって……」 窓から小春日の陽光が降り注いでいた。 エクター・ド・マリス卿は、先ほどおいた駒を手に取り、海岸線を越えて海の方にゆっくりと動かした。駒の黒い陰が追いかけて動く。 その動きを見逃すまい、言葉を聞き逃すまいと、若い従士が緊張した面持ちで見つめていた。 「……こちらの海側が主力部隊となる。ペリーズの作戦だ」 エクター卿の口から父親の名前が出たので、ミリアムは少し驚いた。評議会からの依頼を請けるかどうか議論した会議で、父と直属の騎士が揉めるという一件があってから、ミリアムは板挟みになったような気持ちで口数も少なくなっていた。その心情を慮るように、エクター卿は穏やかに言った。 「確かに私は今回の件に反対した。だが、騎士団で決定した以上は騎士の誇りに賭けて任務遂行に全力を尽くすつもりだ」 エクターは力強く言い切った。ミリアムにとって、この言葉は先ほどまでの戸惑いを胡散霧消させるものだった。これでこそ自分が尊敬する騎士であると、自分が仕える騎士への信頼を新たにする。その心のままに若者の頬に微笑が浮かび、白い肌が僅かに紅をさしたように上気する。 ミリアムの背丈はここ数年のうちに伸びた。すらりとした手足のバランスは、少年から青年に移ろうとする短い時期の体型を表している。顔つきだけがまだ少女のように幼いままであった。母親ゆずりと言われる淡い金の髪は、陽を透かして煌めいていた。 エクターは目を細めた。 初々しい若者の姿の向こうに在りし日の面影がよぎる。 「……年々ユリアに似てくるな」 「母に……ですか?」 「ああ、母君の姿は覚えていないか」 「私が物心つく前に亡くなりましたので……」 石造りの砦に差し込む光が眩しくてミリアムは目を伏せる。 その先には陽光がマリスの姿形を捕らえて絨毯に焼き付けていた。 「母君は、優しさと気品を備えた素晴らしい女性だった。今日の日差しのような、明るく輝く髪の、笑顔の美しい人だった。生きていれば愛情深い母親になっていただろうに……ペリーズが守ってやりさえすれば……」 エクターはテーブルに転げた駒をふぃと駒を拾い上げた。小さな木の駒は騎士の大きな手の中にすっぽりと収まってしまう。 「愛のない結婚が彼女を死に追いやった……」 ミリアムは目を見開いたが、エクターは横を向いて黙り込んでしまった。 若者は恐る恐る相手の顔を覗き見ようとしたが、窓からの逆光は輪郭を浮き彫りにするだけで、その面容を包み隠してしまっていた。 「……すまぬ。今の話は忘れてくれ」 返ってきた言葉は、それだけだった。 ただそれだけの言葉だが、それは衝撃と疑惑で若者の心を波立たせるのには、十二分な効果を与えていた。 「じーちゃん、大変だ!」 少年は、イタチのようにすばしっこくボロ布の天幕をくぐって、老人の膝元に駆け寄った。 「なんじゃ、ディエン」 「戦だよ! 騎士団が滄海団を攻撃するんだって!」 「何じゃと」 老人は、その話を今はじめて聞いたかのように驚いてみせた。 「隠れなきゃ?」 「隠れる必要はない。お前たちは騎士団に何も悪いことはしておらんのじゃから」 ディエンはほっとした表情をした。 「ただし、騎士団を見ても石を投げたりしてはいかんぞ」 「はーい」 「よいな、ヨハル」 長老は、部屋の隅にいた少年に向かって言った。ヨハルと呼ばれた少年は、ディエン少し年上らしかった。体格の違いだけでなく、大人びた、冷めた目をしていた。そして、彼には片足がなかった。 「何で俺に言うんだよ」 「何でもじゃ」 「そんな、ガキみたいなことしやしねーよ。だいたい騎士団なんかに興味ねーし」 とヨハルは言ってぷぃと横を向いた。 名前もないまちの、名前のない家での出来事であった。 様々な思いの交錯する中で、「卒業試験」が始まった。 外市の「正式な」入り口には門はない。本市の周りは分厚い壁に囲まれているが、外市の周囲には代わりに広葉樹の林がある。その林をすぎると、大きさの不揃いな掘っ立て小屋が立ち並びはじめる。掘っ立て小屋の間には、古びた木の立て札が立っていた。 《私有地につき無断立ち入りを禁ずる》 立て札の位置からこちらがどこかの貴族の「私有地」なのだろう。だが、人が増えて住宅が増殖していった結果、私有地側にはみ出してしまったようだ。どういう仕組みになっているのか不明だが、現にこうして人が住んでいるのだから、特に問題は起こっていないらしい。 その掘っ立て小屋の間を、騎士団+訓練生の部隊は仰々しく進軍していた。率いるのは六騎士のペリーズとエクターの二人である。ガラハドやライオネルらの部隊は今回は作戦上別行動を取っていた。彼らの後ろに従士の少年が続く。ふたりの少年の容姿はまるで対照的で、一人は日に透けるような美しい金髪に碧の瞳、ひとりは大地のような深い茶色の髪と黒い瞳をしていた。金髪の方がペリーズの息子でエクターの従士ミリアム、茶髪がペリーズの従士パーシヴァルである。親同士が兄弟なので彼らは従兄弟の関係になる。 さらにその後ろに平騎士、その後ろに一般兵士と訓練生たちが続いた。 「お前達はこのような地道な仕事には興味はないかもしれないが」 ペリーズは二人の騎士見習いの少年達に向かって言った。 「いいえ」と答えてミリアムはちらりと従兄弟の顔を見た。彼は緊張した面持ちで下を向いていた。ミリアムは言った。 「内外の安全の確保は不可欠だと思います。評議会の言いなりになるのでなければ……」 「ミリアム、この期に及んでそのような話はやめなさい」 エクター・ド・マリス卿がミリアムを窘めた。 「はい…」とミリアムは俯いた。 一行は住宅街に足を踏み入れていた。 「なんて臭いだ」とミリアムは鼻をつまんだ。 中心からやや本市よりに市場、市場に面して小さな礼拝堂があり、その周りに住宅街がある。住宅はゼクセン系の民族のものがほとんどだが、一部グラスランド系の民族が集住する地区もあった。市場の西側には商店街、そして歓楽街が続く。さすがに午前中はひっそりと静まりかえって、まるまる太った猫がひなたぼっこをしているのに出くわしただけだった。歓楽街を抜けた先は海だ。 「外市の人口は急激に増えている。毎回来るたびに街の様子が変わっているぐらいだ」 「それにしてもこの臭いは耐え難いですね。何もかも垂れ流しだ」 ミリアムは顔をしかめた。パーシヴァルが言った。 「下水整備が必要ですね。疫病が心配です」 又従兄弟が自分の言葉にさりげなくケチをつけたように思えて気に食わなかったので、ミリアムはわざと言い返した。 「疫病というが数年前に黒死病が流行った時は、ゼクセではほとんど被害が無かったというじゃないか」 「そのとおりだよ、ミリアム。黒死病は港地区から流行しはじめたよね。それで、ゼクセン全土に広がった。特に農村での被害はすさまじかった。にもかかわらず発生源であるゼクセ市ではなぜか被害が少なかった。被害が少なかったことに安心してたらだめなんだ。一体どのような条件で疫病が流行するのか明らかにしないと」 「特効薬があったからだろう。ええと、何という名前だったかな」 「カタカリだ」 それまで黙ってふたりの会話を聞いていたペリーズが口を出した。 「そろそろ到着するぞ」 目の前に、入り組んだ美しいリアス式海岸が続いていた。 時刻はちょうど満潮に近かった。その陰に、壊れかけたような小屋があった。これが密売組織「滄海団」の見かけ上の本拠地であった。 あたりには人ひとり見あたらなかった。積み荷もすべて持ち去られていた。 「やはりな」 ペリーズは慌てなかった。真の本拠は別の場所に在ることを突き止めていた。 そちらには別の部隊が向かっていた。ガラハド・ライオネル・ガウェイン・ガレスの4部隊が率いている主力部隊である。 主力部隊はゼクセン港から軍船に次々乗りこんだ。 大海原を白い帆を上げて船団が進んでいく。 騎士と訓練生と傭兵たちは、いくつかの隊に別れて配属されていた。 パーシィとケイはガラハドの部隊にいた。 青く澄み渡る空。 鏡面のような凪の海。 波を立てて、意気揚々と前進する巨大な船の上で、パーシィはどことなく気分が落ち着かなかった。 「パーシィ、酔ったのか?」 「いいや、海が、あまり綺麗だから」 180度広がる海は感動的だった。今、この果てしない世界に放り出された自分は、あまりにちっぽけに思える。しかし、大自然の広がりは、小さな村を飛び出て、ここまでたどり着くまで、とても遠かった。これから自分はどこへ行こうとしているのだろうか。これから行こうとしているまだ見ぬ世界、茫洋とする未来への不安。 海はまた彼女のことを思い出させた。広い世界には理想だけがあると思っていた。それは間違っていた。 (いいか、とにかく生き残ることだけ考えろ。) 初めての戦でレオに言われた言葉を、パーシィは頭の中で反芻した。 船が白い帆を上げて進んでいく。 浜に古い木造の船が佇んでいる。 ヨハル少年は、片足と木の棒とを器用に使ってその船の元にやってきた。 船は彼の「家」だった。家を出て傭兵をはじめたが、大金を稼ぐ間もなく戦で片足を失って働くことのできなくなった彼は、家に戻ってくるより他なかった。しかし、家に戻ってきた時には、彼の「家族」は誰も残っていなかった。 人気のない廃船はもはや雑多な生き物の住処であった。 彼は家に住むのはさすがに諦めたが、それでも時折この場所を訪れた。 この場所からはゼクセンの西に拡がる海が見渡せた。そして、誰にも邪魔されることなく、一日中でも海を眺めていられた。 毎日海を眺めて育ったヨハルは、自慢ではないが視力は人一倍良い。 この日、ヨハル少年は、騎士団が船で出陣していったという噂を聞きつけて見物にやってきたわけだ。傭兵時代には重宝されたヨハルの千里眼も、今となってはこういう楽しみにしか役に立たなくなってしまった。 天気は良く、海は穏やかで、風は心地よかった。 だが、予想外だったのは先客がいたということだ。 「ひぃ、ふう、みぃ………おや、だいぶ増えているな」 少年、ぎょっとして目を凝らすと、黒い半ズボンの青年が、甲板からほとんど飛び降りんばかりに身を乗り出して下を覗き込んでいた。カンが鋭いのが自慢だった自分が、全くその半ズボンの青年の存在に気が付かなかったことに、ヨハルは驚いた。 「亡霊?いや、モンスター?」 そんなことあるはずがない。拳で目をごしごし擦ったが、そいつはまだそこに居た。ヨハル少年、恐る恐る声をかける。 「……そこの人、そいつは俺たちの船なんだけど!」 青年は身体を起こしてそちらを振り向いた。 赤い髪と青い大きな瞳に吸い寄せられた。その色は、ゼクセンの海よりも青い。 「もともとはワシたちの船じゃ」 青年はにやり、と笑った。 ヨハルの知っている限り、自分が来る前からこの船はあった。船体に刻まれている名前は元の乗組員であろうが、99を越える。当然自分たちが住む前の持ち主が現れたとして不思議はない。だが、どう見ても彼は自分と5つは違わない。 少年は背筋が寒くなった。 「いや、もともとはこいつは誰のものでもない。ここに在るべく所に在るべくして在るだけじゃ」 青年は謎かけのようなことを言う。 「ところで少年」 ヨハルの頭は真っ白で、視線を宙にさまよわせている。 「そう警戒せんでも。取って食いはせん」 お構いなしののほほーんとした口調で呼びかけながら、青年はこっちに近寄ってきた。とりあえず足はある。 「ちょっと聞きたかった先ほど、青い旗を挙げた船がそこの岩場の下から3隻ほど出て行ったのじゃがあれは誰の船じゃ?」 「……そ、滄海団、海賊さ」 「ほほう、西海にも海賊さんがおるか」 「わ、悪い騎士団をやっつけにいくんだ」 「ほほう、ゼクセンの騎士団は悪いのか」 「悪い商人とつるんで俺たちを虐める悪い奴らだ」 「海賊はいい奴らなのか?」 「そうさ。騎士団をやっつけるんだ!……オレもこんな足じゃなきゃ」 「そうか。ワシも海賊さんたちとは友だちでのぉ。いい海賊さんたちじゃった」 その時、空に大砲の音がこだました。 「始まった!」 高く水しぶきが上がる。 真っ白な帆を上げたゼクセン騎士団の4隻からなる船団に向かって、青い旗を掲げた3隻が向かっていく。金で刺繍された団の紋章が海の上にひときわ煌めいて見える。ヨハルは興奮して両手拳を握りしめた。 騎士団側も負けじと撃ち返し、大砲の撃ち合いとなる。高価な大砲は数発やりとりがあっただけで、すぐに弓矢部隊が全面に飛び出す。上空から一筋の光が白い帆を目がけて飛んだ。帆に黒い染みのようなものが現れたかと思うと、紅い炎となって燃え上がった。 帆に火やを受けた1隻は、一旦戦線を離脱して消火に当たっている。 「ほほう? ……あの速度は只事ではないのぉ」 青年は一人でなにやらふむふむと頷いている。 騎士団の船は後退の姿勢となった。 それに対して滄海団、加速して追い打ちをかける。 海賊団の船足は速く、重装備の騎士団の船は瞬く間にその差を詰められてしまう。 再び両陣営に弓矢が激しく降り注ぐ。 矢じりが陽光に照らされて煌めく様は美しくすらある。 だが、海賊団の放った矢は騎士団の船に届く前に竜巻のようなものに巻き上げられ、そのまま海面に落下していく。 「風の紋章か」 紋章も騎士のたしなみ。専門の術師のような恐ろしい殺傷力はないが、こういう使い方なら十分である。騎士団の船は紋章で防ぎながら急に速度を上げて前進する。明らかに白兵戦狙いだ。白兵戦こそ騎士団の本領なのである。 海賊船の船は、急に動きを止めた。騎士団の船が接近する。 「頑張れ、負けるな!」 少年は、ふと海面に濃い陰が映ったのを見た。雲が陽を遮ったのだと思って、空を見上げたが、雲などどこにもない。 「あれ?」 「ふむ? 誰かが危ないペットを飼っておるようじゃ」 「はぁ?」 青年は腕組みしながら、「どこで拾ってきたのだろうか」などなどぶつぶつ独り言を言っていた。 「何だよ。ワケが分から……」 と言いかけて少年は絶句した。 度肝を抜く「ペット」が、海中から、ぬぅ、と触手を伸ばした。 「前進やめ!右へ旋回せよ。全速だ!」 巨大な触手が次々と波飛沫を上げて目の前に飛び上がる。 船上に号令と悲鳴が混じりあう。 「退却! 一旦退いて体制を立て直す。」 ガラハド団長の指令を、見張り役が赤と白の旗を交互に振って4隻の船に伝える。 まだ、相手の全容すら見えていない中で、団長のの命令は冷静かつ迅速だった。 「ケイ、なんだあの化け物は!」 「知るか!」 兵士たちは我に返って、船縁に取り付きいた触手を、次々切り落としはじめる。 パーシィたちもその中に加わった。 切っても切っても次から次へと触手は伸びてきたが、しかし、やがて人海戦術の前に屈し始めたように思えた。 だが、誰も予想すらできなかったことが起こった。 一本の触手が、矢継ぎ早に指令を飛ばしていた船の主を、異様なスピードと正確さで見定めて、絡め取った。 「むうっ!」 ガラハドの鍛えられた身体が、紙飛行機を飛ばすかのように、軽々と宙に舞った。 ガラハドは巻き付いた触手を切り落とそうとするが、うまくいかない。 触手はそのまま兵士たちの頭上を越えて海に引きずり込もうとした。 「団長!」 その時、パーシィは何かに引かれるように夢中で欄干に駆け上がり、勢いよく蹴った。 一閃。 騎士たちが受け止める腕の中にガラハドは重力のままに落下し、触手が怒り狂ったように宙を切った。 「隊長、大丈夫ですか!」 皆が団長を取り囲む。団長は騎士たちに助け起こされ、心配いらぬと頷いた。 安堵した彼らに悲痛な声が響く。 「パーシィ!」 一斉に振り向いた先には、長い黒髪の訓練生が欄干に身を乗り出していた。 彼が精一杯に伸ばした腕は虚しく空を切った。 パーシィの身体は足場を失って宙に放り出されていた。 (青い……) 何故だかそんな呑気なことを考えた。目の前には青い空。次いで鏡のような水面。 それは驚くほど長い時間で、驚くほど美しい映像に感じられた。 兵士たちがケイの叫びを聞きつけてから、粗末な皮鎧を付けた全身が硬い水面に叩きつけられ、大きな水しぶきが上がる野を見るまでの時間は、ほんの一瞬だったのだが。 「ケイ!やめろ!死ぬ気か」 「離せ!」 「奴は泳げないんだ!オレが助け…」 (あ……俺……泳げないんだ……っけ) 「無理だ!あのイカ野郎がいるんだぞ!」 「パーシィ!くそっ!」 冷たい水の泡がキラキラと輝きながら立ち上っていく。 いつか見た夜光虫を思い出した。 (……ティア……) きらりきらりと弾けて拡散する儚い光の粒たち。 自分はまるでその中の一つのようだった。 (俺……死ぬの……か) 冷たくなった父の骸が脳裏を過ぎる。 ハッとして、彼は初めて両腕を動かした。 どちらが上だか下だかも分からない。無我夢中でバタバタと手足を動かして、とにかく浮き上がろうともがいたが、海の水は彼の思うようにはならず、もがけばもがくほど絡まる蔦のように、彼の自由を奪った。 (父さん……嫌だ……死にたくないよ……!) なおも激しくもがきながら、彼の意識は暗闇に飲み込まれていった。 「第2部隊総指揮エクター・ド・マリス様に、報告致します。 ガラハド様をはじめとする4部隊は、ゼクセ港を出航し、海上にて敵と遭遇、敵とは五分五分の戦いを繰り広げたものの、敵の伏兵部隊によって、船が……そ、損傷、一旦退却して体勢を立て直す模様です……」 伝令の若者は、一つ一つ丁寧に言葉を選びながら伝達した。それが却って物事を分かりにくくしていると本人はあまり気が付いていない。 「それだけか?」 「は、はい」 「御苦労。速やかに本拠地に帰還して対策を練る。ペリーズ隊に伝令を。ミリアムは隊内への伝達を」 エクターは、愛剣の柄をかちゃりと鳴らしただけで、顔色一つ変えなかった。 伝令と従士の姿が見えなくなった頃、虚空に向かってエクターは何事かをつぶやいた。木の葉がつぶやきに応えるかのように小さく揺らめいた。 next 名もなき家 名前 コメント すべてのコメントを見る -