約 18,071 件
https://w.atwiki.jp/dropwort/pages/61.html
家族ゲーム単行本8巻 データ 発行 アスキー・メディアワークス レーベル 電撃コミックスEX(DE-96-8) 定価 780円(本体)+税 ページ数 130ページ(カラー1ページ) 判型 A5判 掲載誌 電撃プレイステーション 付録電撃4コマ(B6判) 発売日 発売日 2011/08/27 初版発行 2011/08/27 初出 話数 電撃4コマ 電撃プレイステーション 発売日 掲載順 備考 第57話 Vol.80 2009/07/10号(Vol.450) 2009/06/26 3/9 第58話 Vol.82 2009/08/07号(Vol.452) 2009/07/24 1/11 第59話 Vol.84 2009/09/11号(Vol.454) 2009/08/28 4/11 第60話 Vol.86 2009/10/09号(Vol.456) 2009/09/25 2/11 第61話 Vol.88 2009/11/13号(Vol.458) 2009/10/23 1/10 第62話 Vol.90 2009/12/11号(Vol.460) 2009/11/27 2/11 第63話 Vol.92 2010/01/15号(Vol.463) 2009/12/25 2/10 第64話 Vol.94 2010/02/12号(Vol.465) 2010/01/29 5/11 サブタイトル集 家族ゲームサブタイトルページ8巻分 年齢早見表 差 年齢 学年 女性 男性 +30 48 遊佐征爾 +25 43 今川(父) +21 39 水瀬桃子 +18 36 遊佐ゆきえ +14 32 浜銘子 +13 31 今川(義母) 延山巌 +12 30 伊達水輝 +9 27 延山燐・江西ちなみ(大3) 江西由緒 +7 25 乳井大好・鎌田大樹 +6 24 西浦良明(大学院)・温水尚武 +5 23 温水陽良子 +3 21 大3 阿南茉莉・藤井こずえ +2 20 大2 小竹灰音・遠野神奈・米崎音子・大根真緒 宇藤御影 +1 19 大1 間山和(社会人)・太田満瑠美 長丸大春・神戸一郎・伊賀正成・中分仙太・猪留千明 ±0 18 高3 遊佐真言・温水由寿・三石窓香・永妙寺映奈 伊佐坂悟・小山田優 -1 17 高2 琴野里奈 小竹由知 -2 16 高1 大城優女・地井知美・出光日出子・飯塚真菜香 那須陽一・坂上塁・風間小太郎 -3 15 中3 遊佐葵・江西ゆかり・宮間朱音・水瀬紫杏 宇藤輝明・脇谷茂夫 -9 9 小3 浜泰斗 -15 3 今川陽太 その他の登場人物 伊佐坂千里・遊部一二三・宮間(母)・温水いずみ・琴野(母)・江西淑美・浜(祖母)・遊佐せと 西藤(店長)・伊佐坂隼人・宮間(父)・水瀬(父)・原風都・逸成・ゆかりの父・遊佐歳三 初登場キャラ 話数 初登場キャラ ネトゲや回想など 描下ろし 第57話 第58話 第59話 今川(父) 石塚翠・安藤乙女・早潮小絵・瓜生莉子・馬放ラム 第60話 第61話 第62話 第63話 第64話 浜(祖母)・ゆかりの父・遊佐歳三・遊佐せと キャラ紹介ページ P18 宇藤輝明 P34 脇谷茂夫 P50 大城優女 P66 坂上塁 P82 出光日出子 P98 那須陽一 P114 遊佐歳三・遊佐せと
https://w.atwiki.jp/kiganhankoku/pages/42.html
偽装工作の模様 ■報告書 試運転中のI=D:卜モ工リバ一1機が姿勢制御に失敗、大破。 無人制御につきパイロットは不在であったが、墜落地点付近に待機していた兵士数名が重傷。 尚、この機体は燃料の不足から実戦配備が間に合わず、ロールアウト後も稼働状態になかった。 整備担当はこの残骸の駆動部を、パーツレベルまで分解しての徹底的な調査が決定した。 装甲、板金に類する部品は、資材不足のためリサイクルする予定。 ──81107002 … 「何じゃこりゃ?『ボク』モ『コウ』リバ『イチ』?」 一方その頃―な話である。 朝早くから仕事に精励している藩王ODDEYESの元に、 水瀬から最新の報告書が届いた。それを見ての第一声である。 ―無論、この事について藩王たる彼が知らないはずは無い。 いわんや、彼こそこの件の主犯格である― 「もっとこう、心躍るような名前を付けてやってもよかろうがのう」 にこにこと、まるで最高の悪戯が成功した悪童のような笑顔を浮かべながら、件の命名者たる有能な摂政に水を向けた。 「その顔でジジイ口調は止めて下さい。老けメイクしてないんだから」 澄んだ声であっさりと藩王のちょっかいを切り捨てた少年は、 藩王の裁可印が押された書類の監査と取りまとめに入っていた。 仕事の早い彼を満足気に見やった若き藩王は、 その青い瞳を報告書に落とした。白く形の良い指が卓の上で小気味良い音を立てながら踊り始めた。 (死人は出てないだろうな?) 水瀬は書類をめくっていく。 「藩王、その書類、印が『ありません』」 わずかに語気が揺れた。 「む、そうか」 水瀬の指摘を受けて、手にしていた書類に印を押した。 「はい、全て整いました」 水瀬は書類の束を整えると、藩王を見やった。 彼は、執務室の窓からぼんやりと外を見つめていた。外はいつものように 雪だった。 「舞花は上手くやったかのう…」 部屋を後にしようとした水瀬の背中に藩王の声が届いた。 「…持参金に立派な嫁入り道具、実の娘にだってあれだけの物は持たせませんよ。後は彼女の器量次第です」 水瀬はそう言い残して、ドアを閉めた。 ―数刻して― 執務室のドアが叩かれた。 「何だね?」 藩王が声を掛けると、一人の少女が姿を現した。摂政、木曽池だ。 「それが…主計官の方がお見えです。宰相府付きの」 藩王の眉がぴくりと跳ね上がった。 「来たな。では仕上げに掛かるとしようか」 「これはこれは…遠い所をわざわざこのような辺ぴな所へ…」 謁見室には白髭をたくわえた老人と、鋭すぎる眼光を眼鏡で隠した主計官が 少しの距離をおいて相対していた。 「社交辞令は結構。手短にお願いしたく参上した次第ですので」 高圧的な姿勢を隠そうともしない、強気な官僚の姿がそこにあった。 「現在、我が帝國では綱紀の粛正を図るべき時である事は 御承知頂けていますかな?」 ありったけの威厳をかき集めたような重々しい口調で問いただす。 「ええ、それは勿論の事。敬愛するぽち王女と帝國の御為に我が藩国も微力ながら痩身に鞭打ってお力添え差し上げている所存で…」 「ではお尋ねする!」 藩王のしおらしい言葉に弾劾の声が叩きつけられた。 「貴国の資料を拝見させて頂いたが、不可解な経理がいくつか判明した。 I=Dの大破、数十にわたる使途不明金。 以上について明確な説明を求めたい!」 勝ち誇ったような眼差しを向ける主計官に、老人は髭を一撫でして答えた。 「おお、これはいかな…。かような不備をあの子らが見落とすとは…」 「速やかに明確な説明を頂けるのでしょうな!」 「無論…少々お待ちを…水瀬や、あの報告書を」 藩王は脇にある呼び出し口に声を掛けた。すぐさま謁見室の扉が開き、報告書が運ばれてきた。 「何分昨日今日の事でして…取りまとめがなっておりませぬ。申し訳無い」 そこには今朝方藩王の下へ持ち込まれた報告書があった。但し、 『I=D:トモエリバー』 と、どう見てもそうとしか読めないように修正されていた。 「なるほど…I=Dについてはよしとしましょう。では、使途不明金については?」 「うむむ…それは…」 藩王は困惑したように言葉を詰まらせた。 「いかがなされた?総額1億わんわんにも上る資金、知らぬでは済みませぬぞ!」 藩王は根負けした、と言う具合にため息を一つつくと、脇の呼び出し口のスイッチを入れた。 「そこまで仰るなら致し方ありませんな…。春海、地下工廠へお連れする。ついて来なさい」 地下工廠、それはこの藩国の象徴である奇眼の塔から入る極秘施設である。 ブリジット山の湖地下にある広大な空間が工廠となっているのだ。 「…藩王、ここで一体何を…?」 呆気に取られた様子の主計官。 「わたくしも詳しくは知りませぬ。ただ、かなり古くからある施設のようですな。おっと、着きました」 そこには、1機のI=Dと一人の紳士がいた。 「ううむ!足らぬ!足らぬぞぉ!!」 その紳士は、奇声を上げながら煮えたぎるどす黒い液体をがばがばと喉に流し込みながら、電算機と紙上のデータを相手に格闘している。 「ふはははは!カスタムI=Dは金が掛かる!」 到着した客の事などまるで眼中に入らない様子で、彼は何かを書き付けては紙片をばら撒いていた。その時突然はたと、その顔に掛けた片眼鏡を藩王へ向けた。ぎらりと壮絶な光を放つ。 「やあ、教授(プロフェッサー)。研究は進んでいるかね?」 「むぅ!我が友(マイン・フロイント)!これはよい所に来た!足らぬのだ!何もかも!」 「ひぃっ!?」 アンダーライトで照らし出された教授の笑顔は、主計官を脅えさせるのに十分な威力を持っていた。 「ぬ?!客人か!!珍しい!!全力を傾注して汝を歓迎するぞ!」 教授の心のこもった『歓迎』を受けて、今にも悲鳴を上げて逃げ出しそうな主計官。 「まぁまぁ、プロフェッサー。手厚い歓迎はそれくらいにしてだな」 「む?そうか、我が友」 藩王に制止された教授は少し残念そうだ。 完全に腰を抜かしてしまった主計官に、藩王は説明を始めた。 「実は彼を総責任者とした極秘I=Dカスタム計画を進めておりまして、その為の資材や電算機の購入を使途不明金として処理していたのでございます。何分、そういった買い付けは不審に思われると考え、今回のような計上をしたのでして」 「か、カスタムI=D!?」 震える声を何とか押しとどめて問い詰めようとする。 「ええ、雪かきの」 藩王が至極あっさりと言い放った。 「はあ?!」 「我が藩国では雪かきは至上命題。特に今期は雪も多く、雪上活動及び効率的な雪かきが出来るI=Dを設計しようと考えたのでございます」 そう言って、近くにあった仕様書を取り上げた。そこには 『板金防水加工仕様』『出力強化型駆動部』『I=D用スコップ』 などなど、立派な雪かきI=Dの設計図が描かれていた。 「うむ!時に我が友!金が足らんのだ!あと1億ほど追加計上…」 「駄目です。もう出せません」 春海が藩王に詰め寄ろうとした教授の間に素早く割って入った。 「ぬ!ならば資材を!」 「今日搬入した分でまかなって下さい」 「おぉ!君とでは話にならんようだな!」 「大体教授は…」 「…我輩のロマンが…」 春海とプロフェッサーGの言い争いを他所に、藩王は優しげな笑顔を主計官に向けた。 「疑いは晴れましたでしょうか?」 「そ、そうですな!では、後は適正な書類を提示して頂きましょう!」 「了解致しました。すぐに用意させましょう」 ―その後― 要求どおりの形にまとめられた書類を手に、主計官は去っていった。 「とりあえずは一山越えたか」 加齢メイクを落とした藩王は摂政と共に執務室でくつろいでいた。 「ええ、ほんの一山ですが」 「我輩の地下工廠も役に立ったようだな?」 扉が開き、プロフェッサーGが姿を現した。 「ああ、立派なヴァージンロードだったよ。花嫁の姿が見えないくらいだ」 「うむ、それは重畳。時に予算の相談だが…」 「だからもう出せないっていいましたよね!」 「おおう!まだ我輩のロマンを解さないのかね君は!」 「まぁまぁ」 藩王は両者を優しく止めた。そして、雪の窓に視線を送る。 「我らは義によって立つ者を暖かく迎える家であり続けよう。 一同、ご苦労だった」 北国の冬は厳しく長い。されど終わらぬ冬は無く、 そこに生きる人々の心は、白を緑に変えるほど暖かい。 ―詠み人知らず― (文士・吾妻 勲)
https://w.atwiki.jp/aquarianagetcg/pages/633.html
Character Card [[阿羅耶識]] [[霊能者]] 0/0/1 [[シールド]]/チャージ1 No.1043 Rarity C Illustrator 水瀬凛 Expansion 月光の秘儀 カード考察
https://w.atwiki.jp/wrtb/pages/9387.html
セリーナ・ヴィンセント 名前:Cerina Vincent 出生:1979年2月7日 - 職業:俳優 出身:アメリカ 出演作品 2010年代 2016年 ハーレーはド真ん中(スージー・ディアス):水瀬郁
https://w.atwiki.jp/aquarianagetcg/pages/1968.html
Character Card [[WIZ-DOM]] [[ミスティック]]/[[アスリート]] 0/2/1 [[インターセプト]]/チャージ1 No.1524 Rarity C Illustrator 水瀬凛 Expansion 隠者の森 カード考察
https://w.atwiki.jp/seiyu-unit/pages/55.html
水瀬いのり、小澤亜李、M・A・O、高橋李依 タイトル 発売日 アニメ PV ふ・れ・ん・ど・し・た・い 2015/07/29 がっこうぐらし!OP あり
https://w.atwiki.jp/aquarianagetcg/pages/2679.html
Character Card [[WIZ-DOM]] [[スキャナー]]/[[ヴァンパイア]] 0/2/2 ▼/[[インターセプト]]/チャージ1 No.2209 Rarity C Illustrator 水瀬凛 Expansion 絶神の戦車 カード考察
https://w.atwiki.jp/tyuu2story/pages/77.html
241 名前: ◆LMBwMUyKG.[] 投稿日:2010/02/03(水) 19 00 12 ID jn/SwhFA 学園の武道場では二人の生徒が槍を振り回していた。 その二人の足は踏み込みの度、打ちこみの度にぎしりぎしりと木造の道場を揺らし、 眺めている見物人の足にその存在を否応にも感じさせる。 「おまえら……もう夕方だぞ」 その見物人、水瀬秋(みなせ あき)は左手に付けられた腕時計を眺めながら、いかにもかったるそうな声を目の前の二人に投げつけた。 「あと二十!」 彼のかったるさのわけはとても単純で、この休日、ちょうど正午を回ったところからずっと座り込んでいたからだ。 今もまだ断続的に繰り返される、木と木がぶつかり合い弾ける音を座ったまま延々と眺めて。 「それさっき聞いたっつの……」 今日何度目かの呟き。しかし彼はその場から立ち去ろうとはしない。 昨夜二人に頼まれたのだ、「私達が打ち合ってる間、何かあったら困るから明日一日中見ててくれない?」と。 それに対して「怪我でもあったら確かに大変、俺が率先して助けてやらねば」とか一瞬で考えた秋は、二つ返事でオッケーした。 とは言ってもこうなることは十二度目であり、一度たりともそんな事故やらなにやらが発生したことはない。 それでも秋はこの場に居続ける。 打ち合いは終わっておらず、これでは頼まれごとを完遂していないのだ、と考えているために。 秋は基本的に人の頼みを断らない。あまりに妙な頼みでも、押されると断ることもできない。 それが学生にとっての心のオアシスである日曜日を食いつぶすことになろうと、自分の都合で断ったりはしない。 彼にとってのオアシスは、日曜日を満喫し心身のリフレッシュをするようなものではないのだ。 人助け、及びそれの達成。それが彼のライフワークであり、彼の全て。 いつからこうなっていたのか、それはおそらく彼にしかわからないことであろう。 要するに、周りから『都合のいい人間』と認識されている男。それが水瀬秋である。 242 名前: ◆LMBwMUyKG.[] 投稿日:2010/02/03(水) 19 01 05 ID jn/SwhFA 「ぉーわっ……りっ!」 言葉の通り最後の一合、どういう経緯か這いつくばるような低い体勢から三又の槍を振り上げ、 相対する女の手に持たれた槍を吹き飛ばしたのが栗色の髪のその人。彼女が秋を『見張り』に付き合わせた張本人だ。 おおよそ道場には似合わない黄色のTシャツから健康的なへそを覗かせ、表情を真剣なものから崩しはじめていた。 「む、取られたか!」 槍は吹き飛んだ拍子に天井を突き破った。 それを眺めて片目を閉じ、悔しそうに大口を開けて笑うのが白髪の女。 栗毛の女とは友人に当たる存在で、使う得物の共通点がきっかけとなり普段から行動を共にしている。 「今日で咲に三段階でタメ張れるようになった!」 「いやー雫もなかなかやるようになった! まったくもって悔しいよ!」 白髪の彼女は腰まで届く長い一本の三つ編みをふらふらさせ、はっは、と笑う。 それから天井の槍を勢いよく抜き取り、肩に落ちてきた木屑を払った。 「まだなんか余裕あるような態度! 足元すくうよ!?」 「待て雫、せめて明日にしてくれると俺はすごく嬉しいんだけどな? それは聞いてくれない方向で行くのか行っちゃうのか」 槍を傾け始めたショートカットの栗毛、霞沢雫(かすみざわ しずく)に秋は静止の声をかける。 「えー? だってー」 「そうだな、私も今日は疲れた。やめにしようか」 口を尖らせる栗毛は無視して秋に賛同する三つ編み白髪。 「……うーん、咲が言うならやめるかなー」 「さすが牧原、お前は話がわかる。大好きだよ」 「ほう、いきなり愛の告白とは嬉しいな。が、その前に私も名前で呼んで欲しいよ、雫のように」 「あー…………愛してるからこそ牧原と呼ばせてほしい。もし俺と結婚したら呼べなくなっちまうしな」 牧原咲(まきはら さき)。彼女はなかなかどうして恥じらいというものが無い。 以前秋が咲の出身を聞いた時、彼女は「本土の山から来た」と言っていたわけだが、 それがこのあけっぴろげな性質を引っ張り出してしまったのだろうか。これが自然の神秘か。 そんな彼女に慣れてしまった秋も、恥ずかしい言葉に対して放つ恥ずかしい対処に抵抗が無くなってしまっている。 むしろ秋から恥ずかしい台詞を吐くことも今のようにあったりする。 「そんなどうでもいいこと話してないで! 今日は秋が晩御飯だからね!」 「また俺かよ……今度はわたしー、って言ってたのお前だろ」 「気のせいですー!」 ふん、と鼻息を荒げ、道場の隅に置いていた迷彩柄のジャケットを引っ掴むと、さっさと外へ行ってしまう雫。 「あ、また俺、ってことは俺の部屋来るのか」 出ていく際に雫がそこらへんにぶん投げた槍を拾うと、秋は今日何度目かも知れない溜め息をつく。 「……めんどくせえ」 「はっは、やっぱり水瀬は尻に敷かれるタイプだな。仕方ない、私が二人の仲を取り持って 「いらねえよ。……っつーか、『やっぱり』って言うな」 「ふむ、まあいいか。それより急がなくていいのか? 雫は確実に水瀬の部屋のシャワーを使うと思うんだが」 この学園の生徒は寮生活を余儀なくされる。しかし完全フリーな自由空間と言うわけではなく、基本的に誰かとの相部屋。 人数はそこそこで隔たりがあるのだが、少なくとも秋の部屋は一人部屋ではない。 「大丈夫だろ。俺の相方はほとんど部屋に居ねえ。それに雫の全裸見たところで揺れるような精神は持ってない、はずだ」 くくっ、っと笑う咲。槍を道場隅の槍掛けに投げつけ、腕を組んだまま外に出ていく。 それがちゃんと引っ掛からなかったのを秋がせこせこと直し、手に持っていた雫の槍と一緒に壁に掛けた。 「なるほど、雫には色気が無いと。そう伝えておけばいいんだな!」 楽しそうな咲の声はもう外で、遠くまで響いているのがわかるほどに道場から離れている。 「別にそういうわけでもねえし……なんで悪い方向に取り持とうとするんだ……?」 秋の呟くような問いかけには、カラスがしっかり答えてくれた。 243 名前: ◆LMBwMUyKG.[] 投稿日:2010/02/03(水) 19 02 07 ID jn/SwhFA 「遅い!」 秋が自室の戸を開けると、雫の声と香ばしい匂い、そしておびただしい量の白い煙がお出迎え。 中では備え付けの勉強机の上で咲がフライパンを振り回し、雫は濡れた髪でリラックス態勢になりながら秋のベッドに座っていた。 煙が部屋に充満していることを除けば、部屋中心の低いテーブルに平たい紙皿と割り箸が置かれ、まさしく夕食の準備がなされていたところであった。 「お前ら……シャワー室は『開けたまま』換気扇回せって前に言っといただろ!」 この部屋にはキッチンが存在しない。ここでなぜ彼らが調理を出来るかといえば、カセットコンロを勝手に持ち込んでいるからだ。 だが、キッチンが無いということは、そこでの調理に使うための換気扇も無いということ。 換気扇の存在は大きく、以前の調理の際に何も気をつけていなかった結果、圧倒的な煙と臭いが発生し、 部屋中の小物や服やらにソースの匂いが染みついた(そのとき作ったのは焼きそばだった)。 その反省点、打開案として秋が発見したのはシャワー室の換気扇。なんという盲点、以来はそれを利用するのが掟となっていたのである。 「いけるよ! 大丈夫!」 力強くファイティングポーズを秋に見せつける雫。すでに先程のTシャツ姿に戻っていた。 「いけねえよ、だったらお前がここに住め。後になると臭ぇんだぞ?」 秋は怒りながらもきょろきょろと足元を眺め迷彩柄のジャケットを拾うとすぐさま小さく畳み、壁に設置されているクローゼットに放りこんだ。 そのままシャワー室の戸を開け、煙を払うようにしてベッドの脇まで移動し、除菌消臭霧吹きを取り出して低いテーブルの手前に座る。 「うわー、几帳面。潔癖野郎水瀬秋だ」 「うるせえ。相方が帰ってくる前に消臭しなきゃいけねえんだよ」 「この匂いの中で暮らせるならご飯三杯はいけるじゃない!」 「仮にいけてもいかねえっつの。ここは食堂じゃねえよ」 「ほらほら、この枕抱えてご飯食べれる」 くんくん、と枕を抱きながら鼻をつける雫。 「ただの変態じゃねえか……お前は俺の匂いで満足すんのか?」 その時、雫の目が輝いた。ように見えた。 「……………」 「………あっ……」 「……ご」 「な、ちょっと、待て―――」 次の瞬間、秋は窒息し、真っ暗な視界が彼を覆う。 枕が飛んできたのだ。首をへし折りにでも行くかのような勢いで投げられた枕が飛んできたのだ。 ちなみにこれに誇張は無く、下手をすれば本当に首が、鞭打ち程度になる。 「――っは! ふざけんなてめえ! 普通に死ぬとこだったろ!」 埃を多分に吹き飛ばし、仰向けに倒れた秋がすぐさま起き上がった。 雫が枕を振り上げたと同時に、なんとか体を後ろに傾けることに成功したようだ。 真正面からぶつかるとなると、羊毛だろうが高速で飛んでくる枕は凶器。少なくとも体のつくりは人である秋では大変である。 これの回避も彼らのそこそこの付き合いからなせる業なのだ。モノによっては命がけであるが。 「ん? 枕で死ぬわけないじゃない? んん?」 にこりと笑う雫。微かに彼女の周囲で殺意の波動が揺れているのは明白であった。 それこそ、誰がどう見ても。 244 名前: ◆LMBwMUyKG.[] 投稿日:2010/02/03(水) 19 02 35 ID jn/SwhFA 「ほぅら、できたぞ!」 そんな二人を無視して、大きめのフライパンを掲げて咲はテーブルにやってきた。 「やった!」 雫がすかさずベッドから跳び上がり、滑り込むようにして足をテーブル下に伸ばす。 「ん? 一人分か?」 フライパンの中身は少なめに盛られた焼きうどん。 しかし材料が少ないのか構成はソースと麺とキャベツのみで、なんとも質素な焼きうどんであった。 それでも雫は有無を言わさず、というような勢いで割り箸を割り、ちょこちょこと紙皿にうどんを取っている。 「水瀬に材料をもらってくるように連絡したはずなんだがなぁ?」 流し眼を向けた。 向けられた彼は思わずたじろいだ。 ポケットに手を突っ込み携帯を開き、メールの通知が来ていたのを確認した。 「いやどう見てもこれ、つい二分前なんだけど」 「さあ、行って来い」 笑顔を受けとると、秋はそれにしかめっ面で応える。 「いいけどさ、その間にお前シャワー浴びとけよ。どうせ入る前に雫に作らされたんだろ」 「なんだ、私を抱くつもりか?」 「だったらお前はどうすんだよ、っと」 すくっ、と立ちあがる秋。そのまますぐにドアへと歩いてゆき、 「……とりあえず、俺が戻る前までには入っとけよ?」 捨て台詞を残すかのようにして行ってしまった。 「………全く、水瀬は面倒見がいいな」 「ほうだれぇ」 うどんを貪る雫を眺めながら、はっは、と笑う咲。 「ほら、こぼれるぞ雫」 「ちょっと! そうした方がこぼれるってば!」 「そうだ、いいぞその調子だ!」 食べることに集中したい雫にちょっかいを出すのが飽きたころ、咲はバスタオルを適当に引っ張りだしてシャワー室に向かった。 「すんませーん! まだ食堂やってますかねー?」 厨房の奥に向かっての大声。食材を分けてもらうためにやってきた秋だ。 微妙に片付けを初めていたようだったが、秋には関係がない。スルーである。 「あら、誰かと思えばやっぱり水瀬君ね」 そしていつものおばちゃんが出てくる。頭に三角巾をくくりつけ、にこやかに笑顔を振っている。 気を抜いていると全く区別のつかない彼女たち。きっと表に出ている人が毎日入れ替わっていることは誰も知らない気付いてない。 「やっぱり、って何ですか?」 「だって、あの子達の使いっぱしりでしょ? 今日は日曜日だし」 断じて違う、と言いかけたが、ここでおばちゃんに弁解をしてもしょうがないことはわかっているのだ。 秋は特に訂正することも無し、とりあえず目標物の回収のことだけを考えた。 「まあそんなとこですよ。……キャベツと玉ねぎ、あとニンジンとか、余ってます?」 「ええ。皿洗い」 「……え?」 微妙に会話のキャッチボールが上手くいっていないように感じた秋だが、 おばちゃんの表情を見る限りでは、意思疎通は図れているようであった。 245 名前: ◆LMBwMUyKG.[] 投稿日:2010/02/03(水) 19 03 09 ID jn/SwhFA 「秋遅いよー」 「むー……」 「牧原、そっちがババだ」 秋の部屋には新しい顔が増えていた。 彼を含めた三人はテーブルを囲み、トランプをそれぞれ手にしている。 「こっちだな」 「そっちはババだと言っただろう」 咲が男のカードを引く。 「うっ……裏の裏の裏をかいたか……」 がっくりうなだれる咲を横目に見ながら男は雫のカードを引いた。 「あがりー」 脱力感を剥き出しにしてベッドに倒れ込む。 カードを引いた方も手札から二枚カードを捨てた。 「雫があがったから……私は鉄から引くのか?」 「そうなるな」 「ん? あぁぁぁ! つまり私の負けか! くそ、納得がいかんルールだ!」 「……それで、俺はなぜババ抜きなんぞに付き合わされているのか説明してもらおうか」 テーブルの中心に置かれたトランプの束をかき集めながら二人の女性を眺める。 「だって秋が帰って来ないんだよ! 拳君! たすけて!」 「そんな恋人の帰りを甲斐甲斐しく待つ妻のような顔をされても困るんだが……」 枕を抱いてその辺を転がる雫。 それを見た男、水瀬秋のルームメイト鉄拳(くろがね けん)はなんとも言えない気分になり、 手元のトランプ(おそらくジョーカー)を忌々しげに見つめる咲の方に目を向けた。 「おい牧原……説明を……」 「この憎たらしい顔がっ、ぬぅぅぅぅ……」 両手に持ったプラスチックのカードが微妙に歪んでいる。本当に憎いようだ。 「そろそろ寮の閉鎖時間だし……秋、とりあえず早く帰って来てくれないか……」 鉄拳は一応風紀委員である。基本的に力仕事とか任されたり用務員の手伝いとかしてるが、れっきとした風紀委員である。 寮の閉鎖時間とはすなわち、寮内における男女間の自由な出入りを禁ずる時間、つまり『アレすんなよガキ共タイム』。 風紀委員の彼がそれを破ることは原則許されないのだが、目の前の二人は友人なのだ。 あまり固いことも言いたくないわけで、なんとかすんなりとバイバイしたいところ。 しかしこの部屋に連れ込んだのであろう水瀬秋が居ない。しかも彼がいないことに文句を言う女までいる始末。 どうしたら彼女達が満足して帰っていくのか、経緯を全く知らない以上手の施しようがないのだ。 つまりは、今日も一日お仕事してた風紀委員の自分に休みは無いのかと、鉄拳は心の奥で嘆いていた。 「手が寒い……食堂のおばちゃんは毎日こんな苦行をやってのけていたのか……」 そんな拳の気持ちを晴らしに来たのか、部屋のドアを開けたのが手ぶらの水瀬秋だった。 ところどころ尖った部分のある赤毛で、とても真面目そうには見えないのに律儀な奴。 「秋、ちょっと来い」 「おう拳、思ったより早いんじゃねえってなんだよいきなり引っ張んなよ」 拳は無表情でドアの向こうに引っ張る。 「殴らせろ」 「やだよ……二回目は死ぬだろ?」 「大丈夫だ。俺の拳の方が圧倒的に固い」 「そういう問題じゃねっつの……」 「なら五分以内にあいつらを帰らせてくれ、俺の発言は悉く無視されて滾るストレスがマッハなんだ」 「へいへい」 246 名前: ◆LMBwMUyKG.[] 投稿日:2010/02/03(水) 19 06 54 ID jn/SwhFA がちゃり。 「おいお前ら、帰れ」 「あれ? 拳君どこいったの?」 「水瀬、私の晩御飯はどうした?」 早々勝手なこと言いやがって、とか考えたが、口論してもしょうがない。 「おう悪い、忘れてた。仕方ないから帰ってくれ」 「む………、じゃあ今度しっかり食わせてもらうからな」 と、空気が読める咲はすんなり立ちあがったのだが、 「えー」 未だベッドに寝転がり、不満そうに口をだらりと開ける女はなかなか動き出しそうになかった。 「えーじゃねえ」 「もー」 「もーでもねえ」 「しょなるー」 「意味わかんねえよ」 エモーショナルである。 「っつーか、別にお前飯食ったし、ここに居る理由もねえじゃねえか」 「だって今日日曜日だもーん」 「だったら部屋帰ってサザエさん見て歯磨いてさっさと寝ろ」 「やだー、まだいるー」 布団に潜り込む。だいたいこうなると秋一人ではどうにもならなくなってしまう。 霞沢雫は構ってちゃんでわがままな、下手なこと言うと不機嫌アピールをする陽気な十八歳なのだ。 「あー……咲、」 秋が懇願の眼を咲に向けると、彼女は「水瀬が甘やかすからこうなるんだよ」と言いながらベッドにもぐりこんだ。 すると二人分の布団のふくらみが徐々に大きな一つになり、外からは聞きとれない程度の音量でこそこそと小声で話し始める。 「ごにょごにょ」 「え、それ面白そう!」 と、途中で雫のくぐもった声が聞こえたがそれは気のせいかもしれない。 「………」 二人は息苦しかったのか暑かったのか、顔を真っ赤にして出てきた。 「ぬふっ、じゃあね秋。明日から頑張ろうね」 「それでは私達は帰るよ。今週も楽しく過ごせるといいな」 「おう……」 ぱたん。 二人はニヤニヤ視線を秋にぶつけながら部屋を出ていった。 「……あいつ、何話したんだよ」 思い当たる節は少なからずあるような気がしたので、それらを考えないように、除菌消臭霧吹きを手に持つ。 「拳、部屋の掃除手伝うか?」 「一人でやれ」 ちょうど入れ替わるように入ってきた拳に冷たくあしらわれ、カセットコンロやフライパンの撤収を始めた。 シャワーでフライパンを洗うという非常識極まりない洗浄方法もそこそこに、お片付けは大体終了。 明日は平日ということもあり、拳と特段面白い会話もすることなく、秋は適当な時間に就寝するのだった。 249 名前: ◆LMBwMUyKG.[] 投稿日:2010/02/06(土) 22 02 09 ID wQ9hN3tE 「すまんな、水瀬」 「ああ……朝は寒いな……」 翌日の朝、まだ他の生徒など一切見受けられないほど早い時刻に秋は女子寮前に呼びつけられた。 呼び出したのは牧原咲で、呼ばれた秋は仕方なく来てやった、くらいの気持ちでここに臨んだのだが、 「さっそくだが、ちょっと頭を貸してくれ」 最初の言葉に本心は微塵もこもっていなかったのであろう。咲は悪びれる様子もなく秋の頭を掴んだ。 「なに? 俺眠いんだけど」 時刻は五時。普段秋が目を覚ますのは八時前だ。一応顔は洗っていても、なかなかシャキッとするのは難しいだろう。 「少し呼ぶのが早すぎた気がしないでもないが、まあ、それはそれだ」 と、普段の秋ならば確実に文句を言う台詞をつきながら咲は女子寮内に歩いてゆく。 寮のある一線からは男子の侵入は許されていないはずなのだが。 「おい、どこ行くんだよ。俺眠いんだけど」 「いや、別にどこでもいいんだが」 「え? 要件はなんだよ、俺眠いんだけど」 「昨日雫に嘘をついたからな、どう真実にしようか水瀬に相談をと思って」 腰ほどまで長い三つ編みの先を掴み、秋の顔をぺしぺし叩きながら歩き回る。 二十分ほどそのまま寮内をフラフラ歩きまわっていたのだが、結局二人は食堂に座ることになった。 「で、嘘ってなんだよ。俺眠いんだけど」 「私達って毎週毎週二人で修行してるだろ?」 「んー」 「飽きるだろ?」 「……あー?」 要領を得ない。 「それでな、新しい相手を水瀬から紹介してもらえるらしい」 「あー……」 「いやーそいつがなかなか強いらしく、私達二人を相手取っても苦戦を強いられるかもしれないそうだ」 「うーん……」 「楽しみだろう?」 「えー……?」 「さらにそいつは私達へのハンデとして、いつでも宣戦を受けるという話だ。なんて器の大きい 「ちょっと、待て」 「やっと止めたか、朝には弱いようだな」 この話は当然嘘なので、秋は咲達にそんな紹介をした記憶などないし、そんなあてもない。 少なくともこの時点で既に面倒なことになろうとしているのは明白で、求められる話もだいたい想像がついてしまった。 「俺にそんな知り合いはいない」 「く……やっぱりか………」 なんて無茶を言いやがるのだろうか。いつでも宣戦を受けるなど、ただの戦闘狂だ。 「っつーか、なんでそんな嘘ついたんだよ」 「私もマンネリだったからな。たまには新しい相手も欲しくなるもので」 「何を言ってやがんだお前は」 「水瀬ならなんとかしてくれると思ったんだ……どうにかできないか?」 「………」 こう言われてしまうと秋の選択肢を狭めてしまう。助けを求められてしまったのだ。 自己満足だろうが偽善的であろうが関係がない、そこには助けを求める人がいる。 秋は力なく伸ばされている手を掴まないような、人でなしの手を持ち合わせていない。 「仕方ねえな……」 傍から見れば頬杖ついて適当に喋っているような咲も、秋のフィルターにかかれば弱弱しい子犬のように見えてしまうのである。 250 名前: ◆LMBwMUyKG.[] 投稿日:2010/02/06(土) 22 03 11 ID wQ9hN3tE 「さすが私の夫だ、頼りになる」 「お前を嫁にした覚えはない」 そこで携帯を開く。誰かその嘘をどうにか現実化できる人間はいないものかと。 「……おい咲、お前も誰か探せよ」 「生憎だが私は友達が少ない」 事実、咲は友達が少ない。 その理由は至極単純なもので、Eランクアクターの彼女が雫などの高ランクの生徒とつるんでいることにある。 基本的に、能力の差を自力で埋められる者は少ない。 それがEランクともなれば、力を上を見るための足掛かりにすることも厳しい。 しかし咲はその穴を埋めるほどの実力を既に手にしていたのだ。 その証明は、いつも一緒の雫。 Bランクアクターとして槍を振るっている彼女に肩を並べる槍使いがEランクであること。 それを知った人間が抱く感情が尊敬の念だけではないことは言うまでもないだろう。 もっとも雫が友人間では数人分の関わり合いをそこそこで持っているので、 咲が「そういう」部分で困ることは少ないのだが。 「うーん、なんか、なんか……」 手元の携帯には案の定、結果を持って来れるほどの引き出しはなかった。 しかも目の前の咲は為すことなしに、秋を見ながら机にべったり這いつくばっている。 「以前手伝った人間に恩を売ればいいんじゃないか? 水瀬なら少なくとも二百人はいるだろう」 「最低だなそれ、やだy―――」 ぴたりと止まる。 「どうした?」 「……そういや、なんか使えそうな話があったな」 それは、以前秋が関わった人間が話していた噂だ。 アドレス帳から目的の名前を引っ張り出し、11桁の番号で通話ボタンを押す。 時刻は六時前、ここの生徒では早起きでもギリギリ起きていないくらいである。 「おい、起きてるか?」 『……朝から何の用だイ、水瀬秋』 「お前にこき使われた分を取り返させてもらおうかな、とね」 『…………あれハ君が笑顔で頷いタからだヨ』 「まあいい、なんか知りたいことがわかる木ってあっただろ? あれ、どこだ」 ――で、通話を切る。 「なんの電話をしてたんだ?」 「よっしゃ、紙持って中庭に行こうぜ」 「……?」 首をひねる咲の手を引っ張り、さっさと歩き出した。 「ここに知りたいこと書いた紙吊るしたらハッピーになれるんだよ」 先日のちょっとした騒ぎで芝生の一部が焦げたり抉れたりしているのを跨いでゆき、 中庭の中心にどっしりと構える大きな木を見上げる二人。 「何を書くんだ?」 「目的書けばいいだろ」 「……えっと、」 鉛筆の尻を頭に打ち付け、木の近くに設置された木テーブルに座りこんだ。 そして持ってきたメモ帳にさらさらと。秋がそれを受け取った。 「………『友達の作り方』? 何、気にしてんの?」 「冗談のつもりだったんだが……そんなに私は寂しそうか?」 「……」 紙を奪い取り、くしゃくしゃにする。 そして咳払いをしながら、もう一度さらさらと。 「『私を圧倒する強者』って……」 「違うのか?」 「もっと書き方あるだろ……匿名なのに私って誰だよ……」 さらさら。 「『器の大きな強い人に会いたい♪』 いや、彼氏募集中?」 「本筋から外れてはいないと思うんだが」 「じゃあその感じで書けよ。もうツッコまんぞ」 こんな調子でだらだらと一時間ほど過ごしていると、早くも登校する生徒達がいるのが見えた。 そこで周りを眺め、ボツになったメモ帳の山をにぎにぎしながら秋が立ち上がる。 「咲、そろそろ戻るぞ」 「そういえば水瀬……」 「行こうぜ、明日に期待しよう」 この質問用紙の回答は翌日来る。それまでは秋もできることはないのだ。 折れていた細い枝で紙を木に無理矢理突き刺し、二人はそれぞれの部屋に戻っていった。 251 名前: ◆LMBwMUyKG.[] 投稿日:2010/02/06(土) 22 04 51 ID wQ9hN3tE 「おい秋」 「うお……」 秋が部屋に帰ると部屋のど真ん中で拳が仁王立ちをしていた。 表情はとても笑顔とは程遠く、秋が週に一回くらい見るものとなっている。 「お前はルールってものをどうしても守りたくないようだな、俺の立ち位置としては最悪のルームメイトだよ」 「物事には優先順位ってものがあるんだ」 「秋……そんな調子じゃいつか大怪我するぞ? 前だって……」 「風紀委員がなんとかしてくれたな」 言葉の意味はそのまま、秋は言うと、 「はぁ、多少は考えを改めたほうがいいと思うんだがな」 拳は鞄を背負い、部屋を出ていった。 「……好きでやってんだからいいじゃねえか」 そう呟いても答えは帰って来ず、秋もその返答には期待をしていない。 もともとそういう性質なのだ。変えろと言われて変えられるものでもないし、変わる必要などないと考えている。 それで満足している現状、もったいないとも少し違うが、それに近いような感覚を持っているのだ。 (さて、授業の準備でも、っと?) 秋も微妙にソースの匂いが染みついた鞄をクローゼットの内ドアから取り出した。 同時に、中でくるくるに丸められた迷彩のジャケットを見つける。間違いなく秋が昨日ブチ込んだ霞沢雫のものである。 (後で渡しに行くか……) 「はよざいまーす」 風紀委員会室は毎朝の朝礼が基本的には存在するのだが、既に誰も居ないことが常識となっていた。 それでも質実剛健を地で行こうという鉄拳は、毎日の出席を欠かさない。 「……」 やはり誰もいないのだが。 「あれ? 鉄君しかいないの?」 「やっぱり何もなかったんじゃないの……?」 室内に入った直後、開けっぱなしのドアの方から男女の声がする。 拳はその声に油断していたのか、ビクついたように振り返った。 「お、おお、鬼武に天津か」 見慣れた二人を確認して、とりあえず息をつく。 「紅葉ちゃんに呼ばれたつもりだったんだけどなぁ……」 頭を掻きながら携帯を開くのが天津尊(あまつ みこと)だ。雫よりも少し短い程度の黒のショートカットで、 「尊の勘違いだよ、だって僕には連絡来てないし、鉄君も来てないよね?」 「ああ」 「しょうがないじゃん! 朝はバタバタしてたんだもん!」 「いたっ!」 とりあえず、今背中を平手で叩いたおどおどした男よりも攻撃的な性格である。 「天津、どんな連絡が来たんだ?」 「ああ、ちょっと待ってよ」 ぽちぽち。 「あーらら、これ個人的な内容だったわ」 「なに?」 「どうせ大したことじゃないんだろうな……委員長なら」 「えーっと、『なんか変な奴フったから暴れるかもしんない』だって」 いい加減な態度はメールでも変わらないらしい。 拳の所属する風紀委員、仕事はほぼ万全な体制をもって動いているが、そのトップは怠惰の塊である。 今回はもう登場しないので以下略。
https://w.atwiki.jp/imaska/pages/407.html
■GS美神 アイドル大作戦 ■あらすじ ■登場人物◆美神令子除霊事務所 関係者美神令子 横島忠夫 氷室キヌ ◆765プロ 関係者(+α)水瀬伊織 萩原雪歩 菊地真 天海春香 三浦あずさ 秋月律子 星井美希 如月千早 高槻やよい 音無小鳥 高木順一朗 やよやよ ◆その他桜井夢子 秋月涼 久藤准・木津千里 スタッフ コンプレックス 花戸小鳩と貧乏神 もるだーP ■タグ・その他とある伊織の悪霊退治(ゴーストスイーパー) 龍炎狼牙<タグ> ■支援動画 ■GS美神 アイドル大作戦 GS美神 アイドル大作戦 本作は、im@s架空戦記ウソpart1出展作品に端を発する、『GS美神 極楽大作戦!!』と『アイドルマスター』のクロスオーバー作品である。 ■あらすじ 本編終了後のある日、美神令子除霊事務所は「アイドルへの除霊指導」という依頼を引き受ける事になった。 キヌと横島が担当する事になったのは、水瀬財閥令嬢で念力発雷能力者の伊織。果たして、これからどうなる事やら……。 ■登場人物 ◆美神令子除霊事務所 関係者 美神令子 美神令子除霊事務所所長で、父親が高木社長と古い知り合い。その伝手で、「アイドルへの除霊指導」という依頼を引き受ける事になった。 アイドルをスカウトしまくって人手不足に陥っている765プロに呆れている。 「アイドルへの除霊指導」という依頼に飛びついた横島に根負けして、結局キヌに同行する事を許可する事に……(尤も、横島の思い通りにならない事を計算に入れての事だが)。 芸能界に興味を持って自分から言い出したなら、事務所のメンバーが765プロからアイドルデビューする事も構わないと考えている。 番外編で、『天海春香のクッキングマスター』のコーナーににゲスト出演し、一風変わったチョコレートの作り方を紹介した。 横島忠夫 美神令子除霊事務所に所属するアシスタント。 765プロからの依頼という事で、キヌに同行する許可を無理やり貰った。 やはり狙いは、あずさ・律子・美希の3人。因みに、「巨乳三姉妹」と呼んでいる。 他にも、高校以上またはバスト80cm以上ならば反応条件を満たすらしい(低年齢組との絡みを持たせるための、本作に於ける変更)。逆に高校生以上であっても、72cm以下は対象外。 「女の子を文珠で成長させるのは邪道」だと考えている。 伊織を怒らせては、その度に電撃で黒焦げにされる。最近は、その仕打ちが快感になりつつある事が悲しいらしい……。 氷室キヌ 美神令子除霊事務所に所属するアシスタント。 「アイドルへの除霊指導」の担当を、令子に任された。ついでに、横島の監視役も任された。 横島が同行する事に不安を感じてはいるものの、その能力は高く評価している。 デビュー前の伊織を特番で見て以来、ファンになったらしい。 第4話の冒頭、作品の二次設定(特に、横島の「守備範囲」の変更)に関する警告文を、プロデューサーの指示で読まされた。 ◆765プロ 関係者(+α) 水瀬伊織 デビュー前に『飛び出せ!次世代のスタ→トスタ→』に出演した事がある。 念力発雷能力(パイロキネシス)を持つ。(因みに、発火能力だけでなく発雷能力もパイロキネシスと呼称するらしい) 能力が感情に直結しているしているらしい。 資料によれば、霊力は60マイト。 横島の守備範囲外で、「でこっぱち」とか「ペチャパイ凸サンシャイン」呼ばわりされたりする。 水瀬財閥の令嬢。「水瀬シーガイアパラダイス」という施設も、水瀬財閥の所有。 萩原雪歩 横島に「穴掘り名人」と呼ばれたりする。 能力等、詳細は不明。 「思わず『ボクの可愛い子犬ちゃんにならないかい?』といってしまいたいアイドル」No.1 (横島脳内ランキング制作委員会 発表)である。 菊地真 横島に「男の娘」と言われた(悪口のつもりはない)。まぁ当然の事ながら、「男の娘」呼ばわりされると怒る。 横島の守備範囲内らしい。特に、剥いたゆで卵の様な肌への評価が高い。 接近戦型霊能者で、霊力を乗せた拳が武器。出力が低く、体力任せになるのが欠点。場所を選ばない事が強み。 天海春香 横島に「春閣下」と呼ばれたりする。 能力等、詳細は不明。 とある番組の『天海春香のクッキングマスター』というコーナーのパーソナリティとして登場。 三浦あずさ 横島が言うところの「巨乳三姉妹」の一人で、「名機F91の名を冠する」と紹介されている。 能力等、詳細は不明。 本編に本人は未だ登場しない。 秋月律子 横島が言うところの「巨乳三姉妹」の一人で、「ローソン名誉店長」「ミス・エビフライ」と紹介されている。 能力等、詳細は不明。 本編に本人は未だ登場しない。 星井美希 横島が言うところの「巨乳三姉妹」の末妹で、横島には「ゆとり」と呼ばれた事も……。 横島の設定変更により、中学生だが守備範囲内。 能力等、詳細は不明。 本編に本人は未だ登場しない。 如月千早 彼女一人のために、横島の好みの下限が修正されたとか……。 能力等、詳細は不明。 彼女のロッカーは横島に華麗にスルーされたが、本編に本人は未だ登場しない。 高槻やよい 自宅の庭で魔族の子供を見つけ、[やよやよ」と命名した。それ以来、やよやよと同居している模様。 年齢・サイズ共に横島の対象外だが、横島は抱き付かれた際に、その「将来性」を見出したらしい。 能力等、詳細は不明。 音無小鳥 横島のプロポーズで、妄想スイッチがONに……。 横島とは、互いに妄想を垂れ流しているだけなのに、会話が成立しているように見えるのは何故……? 実は、横島とはお似合いなのでは……? 妄想はドSな内容が多いという傾向が……。 能力等、詳細は不明。 高木順一朗 765プロの社長で、令子の父とは知り合い。 横島の言う「F91」と「ゆとり」が誰の事かは判らない。公式で認定された事もあってか、「ローソン名誉店長」が律子の事だとは認識できた。 鮮烈な個性が犇めき合っている芸能界で生き残るためにと、アイドル候補生としてクセの強い能力者を集めた。 令子の事務所のメンバーを765プロに引き抜こうと考えたらしいが、令子に阻まれた。 第1話では、台詞枠に色が近かったため見づらかった。第2話以降は解消された模様。 能力等、詳細は不明。 やよやよ やよいと同居している魔族の子供。やよい宅の庭にいたらしい。 最初は「やよいに似ている魔族の子」という事で、「やよいクリーチャー」略して「やよクリ」と呼ばれていた。それでは可哀相と、やよいにより改名。 霊力は殆どなく穏やかな性格らしい……が、横島に「キモい」と言われて激怒、横島をタコ殴りにした。 立ち絵のやよクリは、龍炎狼牙先生から使用許可を貰ったイラスト。改変の許可も貰っているらしい。 ◆その他 桜井夢子 番外編で、涼に手作りチョコを贈ろうと計画するが、製作途中で断念。その作りかけのチョコが、悲劇を呼ぶ事に……。 秋月涼 番外編で、夢子のチョコが原因で酷い目に遭った。 久藤准・木津千里 番外編で、番組のパーソナリティとして登場。 スタッフ 番外編に登場、馬の被り物が特徴。 番組で使うハーブティーの抽出を任された……が、そのハーブティーを使っても大丈夫か心配になるのは、「馬の被り物」に見覚えがある者ならば無理からぬ事である。 コンプレックス 水瀬シーガイアパラダイスに現れた、名古屋弁の妖怪。悪霊を数体引き連れている。 以前、美神達に倒された事がある。 人の妬みや嫉みといった負の感情から生まれた。 花戸小鳩と貧乏神 横島とやよいが一緒にいる場面に、偶然通りかかった。 もるだーP 本作の作者。 『i-FILES』も手掛けている。『i-FILES』は何故かFileNo.1-1で更新が停まっているが、小説に移行するという構想がある……らしい。 また、「5mium@s2nd」及び「第二次ウソm@s祭り」に、百合根P他数名の絵師との合作『美少女戦士セーラームーンim@s』を出展。自ら「少女マンガm@ster」を開催し、完全版PVを出展。 立ち絵には、『i-FILES』でも使用している『X-FILES』のモルダーを使用。 所有するPCにはキャプチャ機能がなく、ゲーム画面を使用できなかったそうな……。 『第一話のコメント返信動画』の司会を令子に依頼し、報酬に大金をふんだくられた上に只働き……。 とある事情で、千早に対するトラウマが……。 ブログ『もるだーPの日々徒然なるままに。』 ■タグ・その他 とある伊織の悪霊退治(ゴーストスイーパー) 第3話以降で使用されている、『とある魔術の禁書目録』に似せたアイキャッチに表記されている題字。 龍炎狼牙<タグ> 漫画家・イラストレーター。18禁作品を多く手掛けているが、最近は一般誌でも活動している。 ネットにUPしたやよクリのイラストに関する、もるだーPからの使用許可申請のメールに快諾した。 ブログ『龍企画WEB-LOG』・pixiv ■支援動画 ちゅいおP作 ねんどろいどぷちの伊織を改造。 ボディコンスーツ姿で神通棍を構えて、雷撃を発する伊織を再現。 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/tyuu2story/pages/95.html
黎久井画夢(れくいえむ)は大学三年生だ。 年齢にすれば二十一。その人生の中で、彼女が出来たことは一度もない。特徴のない容姿よりも、卑屈な性格が災いしているのだ、と詮無い自己分析に 明け暮れた時期もあった。いや、今でも彼は時々している。基本的にバーチャルな世界に彼女を見出すが、たまに現実世界の女性に 胸をときめかせることもある。その度に己の無力さに打ちひしがれる。 今しがた書店で購入したのは、夏のコミックマーケットのカタログである。とうとう落ちるところまで落ちてしまった感がある。 目的の品を手に入れて高揚しつつ、己を客観視してひどい自己嫌悪に陥ってもいる。 周囲を意識した。無数の街灯に照らし出された、整然とした街を闊歩するのは、生気に満ちた表情を浮かべた人々。どいつもこいつも気に入らない。 とりわけ黎久井画夢の注意を引いたのは、数年前まで自分も通っていた環凪学園高等部の制服を着て歩道を歩く一組の男女だった。 そもそも外出許可時間外のはずだ。 男の方は髪を赤く染めていた。生意気なことこの上ない。そして女の方は、金髪のツインテールである。 そんな髪型が許されるのは二次元だけだ。調子づいた餓鬼と腕を組んで歩くお前に許されるヘアスタイルではない。 二次元の女の子は、決して自分を裏切らない。 カタログの入った本屋の紙袋を握り締め、黎久井は手持無沙汰にしていた左手を、十メートル近く先にいる二人に向けて伸ばした。 ――リア充は爆発しろ。 ネットスラング混じりの悪態を胸中で吐き捨てると、黎久井は虚空で大きく開けた掌を、きつく握り込んだ。 パン、という乾いた音の後に耳に入ってきたのは、幾つもの悲鳴だった。それほど遠くない。 人の流れが止まる。急いで寮に戻ろうと足早に歩いていた規則違反者の谷風良もまた、その例外ではなかった。 張り詰めた緊張感と、恐慌一歩手前の騒然とした空気。既に被害者が出ていると見た方がいいだろう。 面倒事は御免だ。さっさと帰らないと、また門限云々で体制側の人間に絡まれてしまう。 そんな谷風の意思に反して、人並みの隙間から見えてしまった。 額から流す血で美しい金髪を赤く染めている女と、地に伏したその女を抱き起こして何やら呼びかけている赤毛の男。 どちらも谷風と同じ制服を着ている。 平和な夜の街に似つかわしくない、凄惨な絵。 関わるべきではないと理性は警鐘を鳴らし続けていたが、本能的に谷風はその二人に駆け寄っていた。無力、あるいは不親切な人々を押し退けて。 近づくにつれ、男の囁きが聞き取れるようになる。 「――おい――起きろティナ――」 ティナ。それが女の名前、あるいは愛称らしい。 「何があったんだ?」 目が合った瞬間、谷風は後退しそうになった。瞳に尋常でない程の殺気が漲っていたためだ。間近で見て気付いた。男の方も、側頭部から出血している。 信用を得られたとも思えないが、赤毛の男は素直に答える。 「判らない。歩いていたら突然耳元で爆発が起きた。俺の方は問題ないが、連れが目を覚まさない」 思わず谷風は舌打ちを洩らした。百点満点かそれ以上の、絵に描いたような面倒事だ。 またしても、乾いた音が響いた。目の前の男女が、見えない衝撃に打たれ痙攣身体を震わせる。 「おい!」 大丈夫か、と問う前に、谷風は能力を全開で発動していた。男女の周囲に壁を作るイメージで、 ポルターガイストの力場を発生させる。 「この能力に心当たりは?」 「ない」 「あんたらを恨んでるような人間は」 「俺には大勢いる。でもここまでするようないかれた奴はいない。断言する」 「面倒くせえ……」 愉快犯か? 雲を掴むような話だ。 などと思っていたら―― 爆炎が男女を包んだ。 煙の中から煤だらけの赤毛の男が現れる。女に覆い被さっていた。今の攻撃を肩代わりしたのだろう。 口から黒煙を吐きながら、男が皮肉っぽく口の端を持ち上げた。 「――見た目の割に案外温いかったな、今のは」 「減らず口叩いてる暇なんてねえぞ。相手の方が上手だ。俺の張る防御壁じゃあんたらを守りきれない」 「んなもん張ってくれてたのかい。ご親切にどうも」 再度舌を打つ。ふざけた言動だが、赤毛の放っているプレッシャーは半端ではない。 「とりあえず――」 やられる前にやるしかないが、自分たちの周りに輪を作っている人間は、少なく見積もっても三十人以上。犯人が特定できないことには動きようがない。 目の前でこの二人が嬲り殺しにされるのを見てるしかないのか。 「……ん?」 絶望的な気持ちで周囲に視線を這わせていた谷風は、コミカルな光景を発見した。 「どうしたどうしたー」 呑気な声と共に、人が投げ飛ばされていく。なぜが赤毛が「げ」と嫌そうな声を発した理由を谷風が理解したのは、数秒後だ。 「喧嘩の仲裁なら、この環凪学園高等部生徒会長に任せてもらおうか!」 ギャラリーの輪を破って出てきた細身の長身は、極々原強也だった。 また面倒なのが。 空気に触れているだけで染みるような火傷の痛みも忘れ、水瀬秋は黒い嘆息を洩らした。 「お前たち、高等部の制服を着て夜間外出とは、いい度胸だな」 最初に出てきたのは、実に生徒会長らしい台詞であった。 「だがその件は後回しだ。――そこの一見してカップルと判る二人、何があった」 説明できるほど、水瀬自身も状況を把握していない。 「突然攻撃された。相手がどこにいるか判らない。心当たりはないが、標的は俺と連れに絞られているっぽい」 「ほうほう、そりゃ捨て置けんな」 何度が頷いて、会長が言う。 「念の為に訊いておこう」 偉そうに腕組みをしていた長身は、謎のおせっかい天然パーマ男と自分たちを見比べた後、こう続けた。 「今はギャグモードか? それともシリアスモードか?」 天然パーマは白けた感じで訊き返す。 「それよりあんたは……ああ、もしかして規則違反者を取り締まるための巡回中か?」 「その通り! 最近街を出歩く高校生が多すぎると、学校側でも問題に挙げられているのでな! そして俺の質問に答えてくれないか天然パーマ君!」 「……超がつくほどシリアスだよ」 「成程。じゃあ真面目に行こう」 どこか間の抜けたような顔をしていた生徒会長が、精悍な顔つきになる。 「俺は何をすればいい」 「こいつを安全な場所まで連れて行ってほしい」 水瀬は即答した。 「安全な場所……となると俺の私室になるな! いや、やらしい意味ではなくて!」 「全然シリアスモードになってねえぞ……」 天然パーマが頭痛でも抑えるように額に手を当てる。 「だがお前たちはいいのか。勝算がなさそうな顔をしてるが。特にそっちの天然パーマ君」 「認めたくはないがその通りだよ」 答えた天然パーマが水瀬を見る。 「おいあんた、せっかく島内最強クラスの男がいるんだ。この場に残ってもらった方がいいんじゃないか? 相手の力量も不明だぞ」 相手の力量。何を言ってるんだこいつは。 「別にいい。生徒会長様は、さっさとティナを連れてこの場を離れろ」 「まあ彼氏が許可するなら、俺の部屋に連れ込んでも大丈夫だろう」 意外と筋肉質な会長の腕に、ぐったりとしたままのティナを預ける。 「そっちの天然パーマはどうする」 疲れ切った表情で爆発頭が言う。 「ここまで来たら付き合うよ。門限破りについては生徒会長も口利きしてくれんだろ。次の一撃くらいは何とか軽減してやる」 だがあんた、と天パーは続ける。 「見くびってるわけじゃないが――勝てるか?」 「勝つ負けるじゃない」 断言しながらポケットから安物のカッターナイフを取り出した水瀬は、低い声で短く付け加えた。 「殺す」 観客たちに混じって事の成り行きを見守っていた黎久井画夢は、強烈な苛立ちを覚えていた。 何だあいつらは。 癖毛の男も生徒会長も、なぜあんなチンピラに力添えするのか判らない。とりあえず癖毛は雑魚だ。どうにでもなる。 問題は―― 黎久井画夢は生徒会長に掌を向けた。 最強の称号は、ここで俺が貰ってやる。 しかし掌を閉じた瞬間、生徒会長と、彼が背負っていた金髪の女の姿が消えていた。 癖毛も赤毛もギャラリーも、呆然としている。単純に移動しただけらしい。尋常ではない速度だが。 それならそれでまあいい。自分の正体がばれたわけではない。 赤毛、そして癖毛。どちらも気に入らない。 掌を向けた瞬間、黎久井画夢と赤毛の視線が衝突してしまった。相手の目に、狂喜の光が宿る。 赤毛が先ほど取り出したカッターナイフを一振りしたのと同時に、黎久井画夢の左手の頸動脈は綺麗に切断され、鮮血を撒き散らしていた。 追撃を加えようとした時、急激に腕が重くなった。 「何のつもりだ」 水瀬は傍らの天然パーマを睨みつける。 「もういい。あんなの殺してもあんたが損するだけだ」 「んなことは――」 「ティナが悲しむぞ」 この男、いつの間に名前を覚えやがった。 「あいつが犯人か?」 「多分な」 現に爆発が起きてない。 「じゃあ俺は帰る」 それだけ言い残し、天然パーマは人並みに紛れてしまった。 「ったく……」 散々な夜だ。 左手を押さえて悶絶する男に冷たい一瞥をくれてから、水瀬もまた歩き出す。男子寮にある、生徒会長の部屋へと。 おわり