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戦うことを忘れた武装神姫 その40 時間はそろそろ18時を廻ろうとする頃。 紫色の初秋の夕暮れを背景に、色とりどりの灯りで飾られ浮かび上がる街。 行き交う人々も、クルマも、すべてが迫る夕闇の街に溶け込み、今日もまたあたりまえの景色を作り出していた。 そんな景色を切り抜く大きなキャンバスのようなショーウインドゥに・・・黒いバイクが風の如く映り込んだ。 今ではすっかり旧式となり、見ることも少なくなった久遠のバイク。 独特のメカノイズに振り返る人はいるものの、やはり都心とあってかさして珍しがって足を止める人もいない。 きれいに整備さた久遠のバイクは、シュラウドにも街の表情を映しこみながら、混みあう国道を軽やかに駆け抜けてゆく。 今宵の久遠は出張帰りであろうか・・・。 ジャケットの胸ポケットからは、マオチャオのエルガがぴょこんと顔を出し、夜風に緑色の髪をなびかせ、大きな翠色の瞳は流れ行く街の光を湛えていつも以上に輝いていた。 ターミナル駅そばの、大きな交差点の信号につかまったときだった。 まるで潮の流れのようにスクランブル交差点を通り過ぎる人間、ニンゲン。 身体を乗り出し、じーっと眺めていたエルガが、 「にゃーさん、おさかなー。」 と、ぼそり久遠に言った。 おねだりする時ともまた違った口調のエルガに、何事かと考える久遠。 どこかに焼き魚の屋台でもあるのか? いや、そんなものはない。 だいたい魚と言っても、この近辺にあるのは海鮮居酒屋くらい・・・。 「んー、おなかすいたか?」 久遠の問いかけに首を横に振るエルガ。 「ちがうの。 にゃーさんが、おさかな。」 何のことやらさっぱりの久遠に、エルガはなんとも楽しそうな笑みと共に続けた。 「バイクに乗って、街の中を駆けてくにゃーさんがおさかな。 にゃーさんはね、ひかりのうみのなかをおよぐおさかななんだよ!」 ・・・あぁ、なるほど・・・。 歩行者用の信号点滅を始め、これから進もうとする道が開けつつあるとき、久遠はエルガの言わんとしていることを理解した。 「光の海を泳ぐお魚、と・・・。」 久遠は呟きながらクラッチを握り、ギアを入れる。 その振動はエルガにも伝わり、半身を乗り出していたエルガは再びポケットに身体を深く納めた。 「にゃーさんも、ひとつの光になって、海を作って、海を泳ぐの。 このおっきな街からみたら、にゃーさんはちっちゃな光のひとつだけど、にゃーにとっては・・・みゅぅ・・・その、あのね・・・街よりもおっきな光なの!」 そういうと、顔を赤らめてぎゅっとジャケットに顔を埋めるエルガ。 前を見る久遠はエルガの動きを知ってか知らずか、使い込まれたグローブをはめたままの右手でちょんとエルガのアタマを突付いた。 「それじゃ・・・珊瑚の脇での休憩はおしまい。 ぼちぼち大海原へと泳ぎだそうか。」 信号が変わり、前方には広い道路が・・・いや、海の回廊がひらけた。 「いくぞっ!」 「うにぁー!」 エルガの声にあわせるかのごとく久遠はアクセルをひねり、光があふれる大海原へと再び飛び込んでいった。 透きとおる眼差しで、街を見つめる神姫がいる。 そう、ここにいるのは、戦うことを忘れた武装神姫・・・。 <<トップ へ戻る<<
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戦うことを忘れた武装神姫 その16 ・・・その15の続き・・・ 何年前になろうか。 ・・・武装神姫、一般発売。 その翌年、バトルサービス開始。 各地で繰り広げられる熱い戦い、築かれてゆくつながり。ペアが生まれ、 チームが編成され・・・ 楽しむために戦う、仲間と集うために戦う。 そして・・・ 名誉と、賞金のために-。 スポンサーが付き、賞金のかかる試合もぼちぼち増えてきた頃。 とある町の、小さなチーム。彼らもまた、神姫バトルで賞金を稼ぐ者たち のあつまりであった。 彼らは、全員がストラーフのみを所有し、「黒い嵐」とも呼ばれた強豪で あった。 その中で、試合へ出向く神姫たちの、トレーニングをする際の 相手だけを務めるストラーフが居た。 特定のオーナーを持たず、 名前も与えられず。 表舞台へと向かう仲間が、新たに編み出した技を確かめ、オーナーたちが 試作した武器や技術を試すため・・・。 勝利を収めても、誉めてくれるオーナーはいない。 負傷しても、慰めてくれるオーナーもいない。 ただ独り、ひたすらに、黙々と、与えられた仕事をこなす。心を持つこと なく、まさに「機械」としての日常-。 そんな毎日を送る彼女を、一人だけ「仲間」と呼ぶ者がいた。 チームのリーダーで、最も成熟した心を持つストラーフ。 手加減のない 模擬戦のあとでも、必ず彼女のことを気にかけ、破損があろうものなら、 自らの損傷は後回しにして、真っ先に彼女の修復を申し出ることも。 「貴方のおかげで、私たちは常に頂点に居ることができるんですから。」 これが、リーダーの口癖だった。 しかしオーナーたちの中で、その意味を理解していた者は-、いなかった。 「毎日のように貴方は私たちと、対等の戦いを繰り広げ、次々に渡される 新型機器を、いとも容易く扱える。 もっと自信を持ちなさい。 ソロの 対戦なら、貴方が最も強い神姫かもしれませんよ。」 ある日、模擬戦で彼女が勝利を収めた際、リーダーが彼女に言った言葉。 いつも日陰者と自称していた彼女にとって、今までにない程の、暖かく、 熱い言葉-。 胸に、こみ上げる思い。 オーナーを持たない彼女に「こころ」が、芽生えた瞬間-。チームリーダー の証である、蠍のマーキングが施された自らの頬を指しながら言った。 「いずれ貴方も、表舞台で先頭に立てるといいですね。」 そして、この会話が、彼女とリーダーの最後の会話となった。 翌日の公式戦終了後、リーダーを収納したボックスが、何者かに持ち去ら れてしまったのだ。 リーダーのストラーフを失ったチームは、徐々にランクを下げていった。 それに比例するかのように、彼女への仕事-、いや、仕打ちと言った方が いいかもしれない- は、凄惨なものへと変化を遂げた。 勝つために作った力任せ・反則スレスレの改造武器を持たせ、彼女を動く 標的として-。 たとえ装備が破損してもそのままに、自らでの簡易修復 が限界の毎日-。 やがて、彼女自身が損傷を受け、まともに動く事すら 出来なくなった。 鍛錬の相手が居なくなり、チームはついにランク外へ と陥落。。。 ここで、ようやく彼女の存在意義、存在の大きさに気づいたオーナー連中。 息も絶え絶えの彼女を、大急ぎで東杜田の片隅にある工場へと持ち込んだ。 どんな損傷を受けたロボットをも生き返らせる技術者がいるというウワサ を聞いて・・・。 だが。 そこの技術者の答えは「修復不可能」との返答。長期間、内部損傷を放置 したため、コアへも損傷が生じてしまった、というものだった。 オーナー連中が出した結論は-、 チーム解散。 リーダーを失い、陰の立役者を失ったチームが、勝ち続けることは不可能 だった。 オーナーたちは、それぞれの所有する神姫を手に、それぞれの 道へと戻る-。 オーナーを持たない彼女は・・・ 研究所へ残された。 オーナー連中が立ち去り、静かになった研究室の片隅。 彼女を診断した技術者が、彼女を手に取り、にやりと笑みを浮かべた。 「・・・お前のことはよく知っているぞ。 リーダーが、徹底的に誉めて いたからな。」 いきなりのその言葉に、彼女は目を丸くした。 「時折来ていたんだよなー、あいつ・・・。 本当にいいやつだったよ。 無事でいてくれればいんだけど・・・ お前もそう思うだろ?」 彼女に、涙がわき上がった。 機械の身体であるはずなのに、何故、涙が 出るのだろう・・・。訊かずとも、技術者がすぐに答えた。 「泣いたな。 お前は、今や機械じゃない。 立派なひとりの『神姫』と なったからだよ・・・。」 ぼろぼろの身体をそっと撫でる技術者。はじめて、信頼できる「人間」が、 目の前にいる・・・。 自らの動力は、もう息絶えようとしているけれど・・・。 今までがんばってきて、良かった・・・。 「さて。と・・・って、こらこら! 一人で感動シーンをやってるんじゃ ないよ。 お前はまだ終わっちゃいないんだから。」 ごりごりと、ちょっと乱暴に頭を撫でる技術者。 「ああ言えば、あいつらはスンナリ納得して、お前を置いて帰るだろうと 思ったんだ。 ま、それもこれもあたしの腕と信頼があっての事だけど。」 そう言いながら、技術者は彼女を作業台へと運んだ。山と積まれた工具、 機材、そして素材。 「お前を見捨てるようなやつらは、ホンモノの神姫使いじゃないよ。私が ホンモノの神姫使いと巡り合わせてやる。 そうさ、これからがお前の、 本当の『武装神姫』として生きていく時間になるんだ-。」 と、技術者が言った。 彼女はそれが何を意味するかすぐに理解できた。 まだ、いける。 明日が、ある・・・!! 「・・・なんだけどねー。 あんたを救う代わりに、あたしの実証実験に 少し協力しなさーい! それがあたしへの報酬さっ!」 突如、小悪魔のような笑みを浮かべた技術者。 だが、そこに悪意は一切 なく、むしろ彼女への愛情のある顔付きだった・・・。 先とはうってかわり、機材を駆使してのテッテー的な破損個所の洗い出し を行い、詳細な修復計画を立てた技術者。まずはメインボディの修復作業 を行こととし、いったん動力を落とす旨を彼女に告げた。音声回路も破損 しかけ、かすれた声しか出せななくなっていた彼女は、ノイズ交じりの声 で、ひとつのお願いをした。 -いままでの記憶を、全て残してほしい- その願いに、技術者が目を丸くした。 本当にいいのか?と、問いかける 技術者に、彼女は強い意志を持った眼差しで答えた。 -記憶を消したら、私ではなくなってしまう- その答えに技術者は再びにやりと笑みを口元に浮かべると、彼女をそっと 撫でて、やさしく言った。 「へっ・・・泣かせる神姫だなぁ、お前は。 よーし、わかった。あたし がお前を、世界で一番の神姫にしてやる。 人間をオーナーにしてしまう くらいの、強く、かっこいい神姫に-。」 数日後。 彼女が目を覚ますと、初めて見る顔の人間がいた。 彼の肩や 胸のポケットには、3人の神姫が。猫、犬、白・・・。 「・・・なーるほどね。 そりゃー大変だったねぇ。」 「いいやつだよー。・・・ちょっと意地っ張りだけど。」 「いやぁ、構わない構わない。 話を聞いたら、なおさらウチに居て欲し くなったよ。」 その男は、技術者と親しそうに会話をしている。 やがて一段落付いたの だろうか、彼女の元へとやってきた。 と、彼女はひとつの異変に気づいた。 彼は、私のマスターだ・・・。 すぐに、認識が出来た。 そう、正式な 起動を行い、造られてから、はじめての「マスター」を得たのだ。。。 ・・・私の・・・マスター・・・ もう、独りでは・・・無いんだ・・・!!! 「どうも、はじめまして。 君のマスターになる、『ヒサトオ』っちゅー 者ですわ。 んで、こっちがエルガ、シンメイ、イオ・・・。」 それぞれの神姫が、彼女の前に降りて会釈をする。 「・・・ところで、君の名前は?」 うれしさがこみ上げる中、彼がふと尋ねた。 返答に困る彼女。 今まで、 名前で呼ばれたことなど無い・・・。 すると、技術者がさらさらと紙に文字を書いた。 「日はまた昇る、の『Rise』から音だけもらって、ちょいと綴りを変えた んだけどねー。 どお? いいでしょ。 なんたって、この数日かけて 考えた名前なんだからねっ!」 涙でにじむ視界に、ぼんやりと、しかしはっきりと浮かび上がった文字。 それは-。 「 -Lize- リゼ=ストラーフ 」 ・・・>続くっ!>・・・ <その15 へ戻る< >その17 へ進む> <<トップ へ戻る<<
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戦うことを忘れた武装神姫 その42 ・・・初雪が噂される、12月24日の神姫センターで開かれた、公式のクリスマスイベント戦で、鬼神の如く、次々と勝利を収めるツガルの姿があった。 1戦終えるごとに、ツガルのマスターは装備のメンテナンス・調整を短時間で行い、すぐさま次の試合に送り出す。 フィールドに戻ったツガルは、再びツガルらしからぬ荒々しい、しかし華麗なバトルを展開し、わずかな時間でまた1勝を上げていた。 数年前のある日。 レンガ造りを模した建物にテナントで入る神姫ショップのショーウインドウに、武装神姫のディスプレイとして、ツガルが仮起動状態でそっと置かれた。 どうやら昨年は、アーンヴァルが同じ場所に置かれ、仲間の道しるべとなるべくこの任務をこなしていたらしい・・・。AIは起動しているツガルは、準備する店員の会話を聴きながら、初めて見る外の世界にワクワクを覚えていた。 ・・・夏から秋へと移ろいゆく季節を眺め、足を止めて自分を見てくれる人に、動くことは出来ないけれどココロでアピールをする。ちょっと退屈だけども毎日がちょっとずつ違う、そんな日々を送っていたツガルは、いつしか店の前を行く人たちの表情に興味を持つようになった。 どんなことを考えているんだろう、どんな日常を送っているんだろう・・・。 そんなことを考えるだけでも楽しくなってきた、冬の日。 ツガルは、店の前の通り向こうの街灯の下に立つひとりの男に目が止まった。 髪をきれいに整え、手にはプレゼントと思しききれいな包みを手にして、覚えている限りではもう1時間も立ち続けている・・・。 いったい、誰を待っているのだろう。時々手に息をかけて温めては腕時計に目を移したりしながらも、疲れたそぶりも見せることなくただ立っていた。 そうか、大切な人を待っているのかもしれない・・・。ツガルは、男の様子をそっと見つめていた。 しかし、周囲の店の明かりも徐々に消え始め、人通りが少なくなってきても、まだ同じ場所で寒さをこらえる男。あれからさらに2時間は経過している・・・。 北風にこらえきれなくなった男が、そばの自販機に目を向けた、その瞬間。 男の動きが、止まった。 視線の先には、楽しそうに会話をしながら歩みゆくカップル。手には、互いにきれいな袋を持っている・・・。 カップルがツガルの視界から消えたとき、待っていた男は手にした袋を落とし・・・いや、がくりと膝を落としていた。 ツガルは、男の身に何が起きたか、考えることもなくすぐに理解できた。歩みゆく人の視線を気にすることもなく、膝を地に付けたまま小さく震える男の背中。 ツガルのいる店の灯りが落とされるころ、男はようやく腰を上げ、力ない足取りでツガルを横目で眺めながら、きらめく街の中へと消えていった。 翌日。 ショーウインドゥに居たツガルは、突如指名を受けてオーナーを得ることになった。 ツガルのオーナーこそ、昨晩の姿からは想像も出来ないラフな姿で店に現れた、あの男・・・。 一部始終をツガルが見ていたことに気づいていたのか、はたまた単なる偶然か。 だが、ツガルはあえて聞くことはしなかった。いや、昨晩の姿を見てしまっていただけに、聞くことができなかった・・・。 その日から、ツガルは新たな名をもらい、男の神姫としての日常を送ることになった。 バトルあり、おでかけあり、時に叱られたり、時に涙したり。ごくごく当たり前の、とても楽しい毎日を送り、あっという間に1年が経過しようとしていた。 やがて巡ってきた12月。 ツガルは、男の様子が少しおかしいことに気づいた。 日が進むにつれて徐々に顔色が悪くなる男。 もちろん仕事が忙しくなっていることもあるのかもしれない。しかし、これは・・・。去年の出来事を、ありありと思い出したツガル。おそらく、男もまた思い出しているに違いない・・・。そこでツガルは、男にひとつの提案をした。 「クリスマスを・・・ぶっ飛ばしてみませんか?」 その日から、時間が許す限り、ツガルと男は地元の神姫センターに通い始めた。 クリスマスに開かれる、公式イベント戦を目標に、ふたりは公式・非公式問わず、出来る限りのバトル経験を積み、結果この年のクリスマスのイベント戦では、経験が浅いにもかかわらず見事3位入賞を果たした。 副賞をもらう時の男の笑顔に、ツガルは何か、サンタ型として贈る事が出来た気がした。同時に、男から、笑顔というプレゼントをもらった気も・・・。 そして。 男の神姫となってから3年。 昨年のクリスマスイベント戦では見事に優勝し、今年は防衛戦でもある。 まだまだ予選ではあるが、決して手を抜くことなくまたひとつ勝利を収めたツガル。 元々男が、小さなロボットや工業・産業機械の設計に携わる仕事をしていることもあり、非の打ち所がない完全なメンテナンス・調整が施さたツガルは、常に最高のパフォーマンスを発揮し、またツガルも男の気持ちに応えるべく、鋭く、美しく、フィールドを舞い続ける。 ギャラリーからもため息が漏れる見事な戦いぶり、今年の優勝は・・・という声すらも聞こえる中、ふたりは今年もクリスマスをぶっ飛ばすべく・・・またひとつ、勝利ポイントを上げていた。 ・・・あの日のような姿は、二度と見たくない。 私が見たいのは、笑顔。 あの人の笑顔がいつでも見たいから、私は舞う。 そう。 いつの日か、出会った日の事を笑顔で語り合える日が来るまで-。 勝つための戦うことは忘れ、笑顔を忘れないために戦う神姫がいる。 彼女は、笑顔を射止める紅き弾丸。 ~ツガルのマーヤ~ <<トップ へ戻る<<
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2月14日の武装神姫-02 ・・・2月14日の武装神姫-01の続き・・・ 「このくらいかにゃ? ・・・それじゃ、次〜。」 一個目、無事流し込み完了。2個目、3個目・・・一度上手くいけば、あと はラクチン・・・すんなりと完了。・・・チョコが余ったので、一旦ボウル を湯煎の上へ戻し、先の分に、3人であれやこれやと飾りを着けて、文字を 書いて。 ワイワイやっているところへ、ようやくイオが起きてきた。 「あー!! おそーい!!」 エルガが声をあげた。 「あ・・・すっかり忘れていました・・・今日は14日でしたね。。。」 まだ眠そうにあくびをするイオ。 「忘れていましたって・・・。 まぁいいや。 今年は一人一個作るから、 イオも作ること。」 リゼが言うと、目をこすりながらリゼはボウルの方へ。 「はーい。それで、チョコレートはどちらに? あら、美味しそうな香り。」 まだ寝ぼけているのであろうか、フラフラ〜と、足下も怪しいまま・・・ どべちゃっ!! 「いやーーーーーー!!! あ、熱い、熱いぃぃぃっ!!!」 見事・・・というかお約束というか、よりによって湯煎の湯の方ではなく、 チョコレートの方へ転落したリゼ。 「な、何やっているんですかっ!!!」 慌ててシンメイが駆け寄る。 エルガがすでに飛び上がり、ワイヤーを引き ボウルを持ち上げている。 ひとまず(もったいないとのリゼの一言で)、 イオの分の型の上へイオ入りのチョコレートを流す・・・と。 「あ・・・。」 受け側でボウルを動かしていたリゼが絶句。型に流すまでの間が仇となった のだろうか、出した途端にリゼごとチョコは固まってしまった。 「あ、あの・・・ 固まってしまいました・・・。」 「見れば解る。」 「そ、そんなぁ〜! リゼ、冷たいこと言わないで、何とかしてっ!」 「何とか、ねぇ・・・。 寝坊して、残りのチョコレート使い果たすはめに なった原因を作ったヤツが言うことか?」 「ちょっとリゼ。そこまで言うことはないでしょ?」 と肩を叩くシンメイに、リゼは無言で、後に座り込むエルガを示した。 「イオが悪いわけじゃないけれどね・・・ にゃんか納得行かない・・・。 せっかくみんなで、一個ずつ渡そうと思ったのに・・・。」 大きな目に大粒の涙をためてぐずるエルガ。 「・・・。」 さすがのシンメイも、どう声をかけたら良いか解らない様子。 文字通りに 固まったままのイオも、(おそらく)申し訳なさそう目をしている。 「ん? むむ・・・ あぁ、いい方法があるぞ。」 固まったイオを見ていたリゼがポンと手を叩いた。 「ぬっふっふ・・・」 小悪魔のようなにやりとした笑み。 エルガ、シンメイもちょっとゾクッと 走ったモノがあった。 そして。。。 「ただいまー。 いやぁ、今日は久々の定時上がりだよ。」 まだ早い時間に久遠帰宅。 きれいに片付けられたキッチンに・・・何やら 見慣れないハコが4つ。 「おかえりなさーい!」 と、エルガ、シンメイ、リゼがぴょっこり顔をだした。 「あのね、今日は伴天連隊員の日だか・・・ぶにゃっ」 豪快にシンメイがエルガをどつく。 「もう・・・バレンタインでしょっ!」 「っつーことだ、ヌシさん。 あたしたちも作ったよ。」 片目をつむって、イオがハコを差し出した。 続いて、エルガとシンメイも。 聞けば、皆でちっちゃい身体を駆使し、一人一個、人数分作り上げ、なんと 片付けまでも済んでいるというではないか。 「あんたら、ようやるねぇ・・・ いやー、こりゃ嬉しいよ!さっそく開け させてもらうよっ!!」 満面の笑みで久遠は包みを開ける。 ・・・エルガのチョコはでっかい肉球。 リゼのチョコにはLOVEとでかでかと書いてある。 シンメイのチョコは・・・ アーモンドがちょこんとひとつだけ。 でも、よく見ると・・・濃淡で見事 なハートが描かれ、隅には小さく「愛は最強」・・・って何が言いたいんだ? ・・・とここで久遠が気づいた。 「そういえば、イオ・・・は?」 「あ、あの娘なら疲れて先に寝ちゃったよ。」 リゼが答える。 「こんな早い時間からか?」 「ま、まぁね。 それはそうと、これ。イオの分のチョコレート。」 「をを、何やら豪華そうな大きさだ!」 3人とは違い、高さもあるハコ。 開けてみると・・・そこには、イオその ままの姿のチョコレートが! 「こりゃぁすごい! 時間かかっただろう・・・。」 「チョコを彫って作ったそうですよ。」 何か言いたげなエルガの口を塞いで、シンメイが言った。 「そうかそうか・・・。嬉しいねぇ、こんな立派なモノをもらえるなんて。」 そう言いながら久遠はひとしきり写真を撮り(銀塩)、フィルムを1本使い 切ったところで、まずはイオのチョコレートに手を伸ばした。 「ありがたく頂くよ。 今日の夕食はこれで決まりだなっ!」 嬉しそうに、満面の笑みを浮かべた久遠。 イオのチョコレートの台座部分 をまずは食し、足から食べようとして、一口かじった・・・ その瞬間。 「ぎゃーーーーーーーーーーっっっ!!!!!」 今まで、誰も聞いたことがないほどの悲鳴。 そう、イオ型のチョコは、中身がイオのチョコだったのだ。 何も知らない (当然だけど)久遠は、容赦なく、思いっきりイオの足にかじりついた形に なったのだ。 あまりの痛さに、大暴れするイオ。 剥がれ落ちるチョコ。 さらに、片足を久遠にくわえられたまま、久遠の顔面に猛烈な殴る・蹴るの 暴行を加えている。 そして。 ・・・ぽとり。 イオが久遠の口から落ちた。久遠の顔面は真っ赤に腫れ 上っていた。その一連の様子を見ながらリゼは笑いこけ、シンメイとエルガ は口を開けたまま、どうして良いのか手も出せずに・・・ただ見ているしか できなかった。 その夜。 仕組んだリゼは、顔を氷で冷やす久遠にこってりとしぼられ、イオはチョコ まみれであったため、失神するまで洗浄された。エルガとシンメイは、その 間どうにも気まずく、2人とも部屋の隅で並んで反省モード。 さらには、 その話が何故か翌日にはCTaの所へ漏れ、輪をかけて大騒ぎに。結局、全て が笑い話になるまで、数ヶ月を要することになった。 そんなこんなで、去年の2月14日はとんでもない騒ぎになってしまった久遠。 「・・・今年はチョコレートらしきモノは全部探して没収したから、大丈夫 だと思うんだけどなぁ・・・。」 ぼそりつぶやく。手には、皆で食べようと思い買った、値引きされたチョコ レートケーキ。 しかし、不安の中に、ちょっと期待があるのもまた事実。 (あんなに嬉しい2月14日ははじめてだったっけ。。。) しだいに足が速くなる。 ・・・自宅はもうすぐ・・・ そう、今日は2月14日。 大切な貴方へ、こころを伝える日-。 <トップ へ戻る<
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BATTLE ROYALE 世界の終わりまで戦い続ける者たち(前編) ◆U1w5FvVRgk. きっかけは一人の少年の呼びかけであり、それを聞いたのは全部で十四人だった。 狂人、アルター使い、復讐鬼、三人の高校生、二体の人形、騎士、弁護士、侍、大泥棒、二人の中学生。 実に多種多様な顔ぶれである。 この内、弁護士、侍、大泥棒、三人の高校生は遠ざかるか死亡した。 残る出演者は少年を加えた九名。時間は十分間。 この間の出来事はどのように表現するのが正しいだろうか。 悲劇? 喜劇? 惨劇? 活劇? 運命劇? 群集劇? いやいや、狂人――浅倉威ならばこういうだろう。 『楽しい愉しい祭りの始まりだ』と。 ■ ■ ■ 「ぎゃあっ!」 予期せぬ横合いからの衝撃に、織田敏憲は見た目通り蛙の潰れるような声を上げて吹き飛んだ。 桐山が追いかけてこないかと背後ばかりに気を取られ、それ以外への注意を怠ったのが不味かった。 何が起きたのか解らないまま、彼は受身を取る間もなく地面にその身を打ちつけて数度転がる。 脇腹が痛む。いつも自然としている呼吸を行うのすら苦しい。 もしかしたら、肋骨にヒビでも入ったのかもしれない。 衝撃を受けた際の感触からして、何者かに横腹を蹴られたのだとは判った。 絶え間なく襲う痛みに呻きながら、彼は襲撃者へと顔を向けた。 そこに立っているのが桐山でありませんようにと祈りながら。 普段の織田ならば、ここまで弱気な心持ちになりはしないだろう。 むしろ高貴なる自分に蹴った下品な存在に怒りを向けるはずだ。 しかし、こうなるのも無理は無い。 何しろ、彼は一度桐山に殺されているのだから。 しかも、倒れた状態で股間にサブマシンガンを打ち込まれるという無様な死に様である。 これでトラウマにならない方がおかしい。 果たして――織田が目にした襲撃者は男だった。だが、桐山ではない。 内心ほっとしたが、次に湧き上がってきたのは怒り。 何故、選ばれた存在である自分が地べたに這い蹲らなければならないのか。 彼にはそれが許せなかった。 目の前に佇むは暴力を奮ってきたことからも分かるとおり下品な奴僕。 加えて男には織田の怒りを増幅させる要素がいくつもあった。 織田敏憲の嫌いな奴その一 顔の良い男。 男の顔は良かった。目鼻が整った、凛々しいと言える顔立ち。 間違いなく美形に分類されるだろう。 着ている白い騎士服がさらに顔の良さを引き立てている。 織田の土塗れになった学生服とはえらい違いだ。 嫌いな奴その二 背の高い男。 男は背も高かった。162センチの織田と比べても15センチは上背がある。 自分を高い位置から見下ろされるのが、織田には堪らなく不快だった。 嫌いな奴その三 下品な人間。 これは言うまでもない。いきなり人を蹴り飛ばす輩を下品と言わずなんと言うのか。 結論として、男は織田が一番嫌いなタイプだった。 「下品な暴力奴僕の分際で高貴なオレを跪かせるなんて……許されるわけないだろ!」 人並み外れた自尊心と怒りが痛覚すら忘れさせたのか、織田はよろよろと立ち上がった。 相手は見たところ無手。デイパックすら背負っていない。 対する織田の右手には、まだワルサーP38が握られていた。 弾はまだ一発だけ残っている。 あれほどの蹴りを受けて銃を離さなかった自分を心中で賞賛した。 躊躇せず銃を男に向けて、左手も添えて狙いを付ける。 織田と男の距離は精々数メートル。外す確率は低い。 銃を持つ者と持たざる者。この差が高貴な存在と下品な奴の差だと、織田は悦に浸る。 いくら格闘技に優れようが、銃相手ではどうしようもない。 次の瞬間には男は恐怖に顔を歪ませ、見っとも無く命声を上げるはずだと織田は予測した。 しかし、男は銃を向けられても微動だにしない。 ただ能面のような無表情を織田に見せるだけだ。 その無表情が織田に一瞬だけ桐山を思い出させたが。 (ふん、どうせただの強がりだろ。下品な奴僕の精一杯の下品な抵抗という訳だ) さして気にせず、薄ら笑いすら浮かべる。 そして、高貴なる存在を傷付けた愚か者に天誅を与えようと引き金に力を込めて。 ふと、織田の脳裏にある光景が過ぎった。 桐山の印象が強すぎて、彼は忘れていた。 前の殺し合いで棍棒しか携えていなかった杉村弘樹に背後から銃を向けた事。 確実に仕留めたと思ったのに、直後に銃弾を避けられた上に手痛い反撃を受けた事を今さら思い出す。 弾丸が放たれる直前、織田は眼前の男の瞳が赤く輝くのを見たような気がした。 ■ ■ ■ パチパチと拍手が鳴る。 スザクはそちらに目を向けて、対象を認識した途端、今までの無表情が穏やかな相貌に変化した。 拍手を鳴らすのはローゼンメイデン第一ドール・水銀燈。 スザクの【最愛の存在】である。 「お見事ねぇ。それが貴方の言っていたギアスの力?」 「うん。あまり使いたくはなかったけど。君の為なら喜んで使わせてもらうよ」 本当に好ましくないと思ってるのだろう、スザクの言葉には自嘲と嫌悪が混じっていた。 もっとも、水銀燈にはスザクの気持ちなど知ったことではない。 手駒としてスザクが使えるのならどのような力であろうと関係ないのだ。 水銀燈の視線の先には、スザクの傍らで倒れ伏す少年があった。 鮮やかな手並みだった。 銃弾を避けたと思ったら、次の瞬間には首筋に当身を入れて気絶させたのだ。 スザクと戦っていたら、こうなっていたのは水銀燈だったかもしれない。 改めて敵に回さなくてよかったと、水銀燈は本心から思った。 「落ち込む必要は無いわ。むしろそれだけの力を持つことを誇るべきよぉ」 「ありがとう。そう言ってもらえたら嬉しいよ」 【最愛の存在】に褒められ、スザクは照れ臭そうに微笑んだ。 単純だなと考えながら、水銀燈は戦果の報告を求める。 「それで、そいつは銃以外に何を持ってたの?」 「ああ、これとこれなんだけど」 スザクが少年の支給品を見せ付ける。 それらを目にした途端、不満げに水銀燈は顔を顰めた。 「どっちも私は使えそうにないわねぇ。そいつの持ち物はあんたが持ってなさい」 「じゃあ、遠慮なく頂いておくよ」 スザクは銃のみ弾丸を込めてから携え、残りの支給品をデイパックに戻した。 後は少年の処遇を決めるだけだ。 「それで、彼はどうするの?」 「そうねぇ……放っておきましょう。そんな醜い男の死体なんて見たくないわ」 白目を剥いて気絶している少年の顔を見ると、水銀燈に嫌悪感がありありと浮かんだ。 スザクは水銀燈の言葉に逆らわずに頷いた。 元から彼に逆らう自由など無いのだが。 「そうだね、弾が勿体無い。鎌を使っても血で切れ味が悪くなるかもしれないからね」 本人が聞いたら憤慨しそうな言葉を言い捨ててから、スザクと水銀燈は歩みを再開した。 後に残されたのは、無様な顔を晒す少年のみだった。 「そういえば、ルルーシュ、だったかしら? あんたにギアスを掛けたのは」 「……ああ、そうだよ」 「友達……だったのよねぇ?」 「うん。友達だった。でも、あいつがユフィを殺し、僕が彼を皇帝に売った事でその関係は終わったんだ」 「ふーん……それじゃあ、私が仲直りしなさいと言ったらできる?」 「ッ!? ……君と会ってから、何故か彼への恨みが少しだけ薄れたんだ。 どうしてもというなら、できると思う」 「そう」 スザクの言葉に素っ気なく答えながら、水銀燈は思った。 ああ、自分と真紅に似ているなと。 ローゼンメイデン第一ドール・水銀燈。 彼女が目覚めたのは姉妹たちの中でも一番遅かった。 本来なら長女である水銀燈は最初に誕生して、最も長く活動しているはずだ。 しかし、彼女の父であるローゼンは水銀燈を未完成の状態で放置した。理由は不明だ。 未完成品に核であるローザミスティカが与えられる事もなく、彼女はそのまま眠り続けるはずだった。 だが、ローゼンに会いたいという一念から水銀燈は動き出してしまう。 歩くことも出来ず、亡霊のように彷徨う果てに出会ったのが真紅だった。 水銀燈は真紅から様々な事を教えられ、そのおかげで歩けるようにまでなった。 水銀燈は真紅に感謝していた。 それが哀れみから来ているとも知らずに。 真紅はアリスゲームの存在を水銀燈に教えなかった。 ローザミスティカが無い水銀燈は、いずれ機能を停止してしまう。 真紅は当時の媒介に水銀燈を預ける際に迷惑にならないよう、水銀燈に優しくしてきたのだ。 それを知ったのは、Nのフィールドでの真紅と蒼星石の戦いに巻き込まれ、水銀燈が死ぬ間際だったが。 されど、水銀燈は死ななかった。 Nのフィールドに沈んでいく水銀燈に、ローゼンが現れローザミスティカを与えたのだ。 今度こそ水銀燈はローゼンメイデンとして復活し、真紅と再会した。 が、真紅は水銀燈を未完成という理由からローゼンメイデンであることを否定した。 激昂した水銀燈は、真紅がローゼンから与えられたブローチを破壊した。 それで二人の仲は決裂。今ではお互いに敵愾心しか抱いていない。 聞いた限り、スザクとルルーシュも最初は仲が良かったが、今では敵対しているという。 そんな二人が薬の効果もあるとはいえ、同行しているのは何の因果だろうか。 (もし、真紅がスザクと同じ状態で仲直りしたいとかほざいたら、私はどう思うかしら…… 絶対に良い思いはしないわねぇ。むしろ真紅をそんな風にした奴に怒りを向けるわ) ルルーシュと会ったら殺しておこうかと考えながら、水銀燈は操り人形と一緒に進む。 その心配が杞憂であることを彼女はまだ知らない。 ■ ■ ■ 振り下ろされる橙色の鋏を蛇の尾を模した黄金の剣が受け止める。 戦闘開始から何度か繰り返された光景がまた作られた。 互角の鍔迫り合い――とはいかない。 「……つまらん。この程度か?」 「ッ!」 受ける側である王蛇――浅倉威が攻める側であるシザース――蒼星石に失望を告げた。 軽い。蒼星石の一撃一撃は浅倉にしてみればあまりにも軽かった。 右手一本で受け止めてまだ余力が余るほどだ。 仮面ライダーに変身しているとはいえ、蒼星石の背丈は浅倉より一回り小さいことに加え女の子だ。 力比べとなると分が悪くなるのは当然だろう。 そんな事情など浅倉からすれば知ったことではないが。 余裕がある浅倉は、追撃とばかりに鍔迫り合いの状態のまま左手に持つ杖を蒼星石に叩きつけようとして。 「見え見えなんだよ!」 右手のベノサーベルで鋏ごと蒼星石を弾き飛ばすと、連続した動きで体を左に半回転させて杖を振るう。 浅倉に背後から迫っていた八つの宝玉。 橘あすかの操るエタニティ・エイトだ。 地面に落ちた蒼星石が転がっていくのを尻目に、浅倉は自分に迫る宝玉を叩き落そうとして、 「甘い!」 宝玉と杖の先端であるコブラの頭を模した部分が衝突する間際、あすかは一纏めだった宝玉を散開させた。 今度は撹乱を目的としたのか、変則的な動きを見せる。 しかし、浅倉には、仮面ライダーには通用しない。 強化された視力をもってすれば宝玉の軌道を追うなど容易いことだ。 一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ 浅倉は右手のベノサーベルと左手のべノバイザーを振り回し、宝玉を次々と落としていく。 さながらハエ叩きの要領か。 蒼星石が起き上がり空中に浮遊した頃には、宝玉は全て砕かれていた。 「そんな、僕の玉が……でも、まだ!」 瞬間的に呆然としたあすかだが、すぐさま気を持ち直すと周囲の木や地面を分解して宝玉を構成していく。 蒼星石も再び攻撃を開始しようと鋏を構えるが。 「もういい」 地の底から響くような、浅倉の低い声が静止を命じた。 思わず、あすかと蒼星石の動きが止まる。 それほど、浅倉の声には凄みがあった。 怒り、失望、飽き。 三つの感情を混ぜて言霊として吐き出したようにも感じられた。 (イライラするぜ……) 戦いで発散されるはずだった浅倉の苛立ちは、益々募っていた。 同じ仮面ライダーだから楽しみにしていれば、浅薄で軽薄な攻撃しかしてこない体たらく。 もう一人の男が操る宝玉も変則的な動きを楽しめたのは最初だけだ。 明らかにこの二人は力が足りなかった。 これなら先ほど戦った大剣の男の方が歯応えがあった。 浅倉が食してきたものに例えるなら、あの男が生卵、二人はそこらへんで捕まえたトカゲだろうか。 ルルーシュを殺しそびれた直後なら、まだ苛立ちを発散できただろう。 しかし、一度実力者と戦った後でこの二人と戦っても物足りなさが残るだけだ。 故に浅倉はこの戦いを終わらせ、なおかつ次の獲物を探せる方法を取ることにした。 ■ ■ ■ (どうしよう……) 右手のシザースピンチを構えたまま、蒼星石は思案する。 このままでの勝算は低い。 蒼星石はここまでの戦闘をそう分析した。 数の上では二対一と勝っている。 蒼星石とあすかの総合的な力量が浅倉に劣っている訳でもないはずだ。 問題は経験と相性か。 まず浅倉は仮面ライダーの力を使いこなしている。 ここまでの間に何度か使用したのか、元々の持ち主なのかは分からない。 いずれにしろ、体捌きや武装などの扱いから使い慣れているのは間違いない。 対する蒼星石はこの戦闘が初めての変身だ。 戦闘経験こそ豊富だと自負しているが、どうにも突然向上した身体能力に振り回される。 加えて人間相手の戦闘経験も全く無く、体格差から力ではかなわない。 次にあすかの宝玉。 見た限りでは戦闘では変則的な動きで惑わし、相手を拘束なりして戦うのが主な戦法だろう。 汎用性の高さは認めるが、蒼星石同様パワーに欠ける。 だから浅倉のように力押しで攻めてくる相手には弱い。 器用貧乏という言葉が適している能力だ。 同時に攻撃しても、蒼星石をあっさりといなした後に宝玉に対処されてしまう。 このままでは明らかにジリ貧だ。 それでも、まだマシな状況とも言えた。 周囲に反射物が無いので、浅倉は切り札を使えない。 あすかも出来る限り反射させないように宝玉を操ってくれている。 使えないのは蒼星石も同じだが、互いに切り札の撃ち合いになる方が不味い。 撃ち合った結果、蒼星石が負けてしまえば前線で戦う者がいなくなってしまう。 生身で宝玉の拘束を破ってくる浅倉に、あすか一人では対処できないだろう。 一般人である桐山と悟史に頼る訳にもいかない。 いっそのこと時間切れまで粘り、生身の状態の浅倉と戦うべきかとまで考えていたときだった。 浅倉が持っていたサーベルを上方に放り投げたのは。 「「え?」」 蒼星石とあすかの声が重なる。 態々自分の武器を手放す理由が思い浮かばず、思わずサーベル目でを追ってしまう。 サーベルはクルクルと回転しながら高度を増していき、とうとう森の木々を突き抜け空に躍り出た。 木々の隙間から見える、白み始めた空に浮かぶサーベルは僅かに昇る朝日を反射して輝いている。 そう、まるで鏡のようにキラキラと。 (しまった!?) 浅倉の考えに気付き、蒼星石は止めようとしたがもう遅い。 既に浅倉はカードをベルトから取り出し、杖にセットしていたのだから。 『ADVENT』 無機質な機械音声が杖から奏でられ、直後に上空を巨大な影が覆った。 「あすか君、下がって!」 自分の後方に居るあすかに退避を促しながら、蒼星石も後ろに飛ぶ。 二人が跳び引いた次の瞬間には、彼女らの立っていた場所から5メートルほど先にそれは落ちてきた。 ドンッ! と地響きが轟く。 蛇だ。現れたのは浅倉の纏うライダースーツと同色の、紫色の体皮の蛇だった。 しかし、蒼星石もあすかもこのような蛇は見たことがない。 当たり前だ。6メートルを超える大蛇などそう簡単にお目にかかれる代物ではない。 (これが、ミラーモンスター……) 仮面ライダーと契約しているミラーモンスター。 蒼星石のシザースのデッキもモンスターと契約しているが、この状況では出しても仕方ない。 シザースの説明書にはこう書かれていた。 【ボルキャンサー:身長2メートル24センチ、体重165キロ】と。 目の前の大蛇はボルキャンサーより4メートルは巨大だ。 例え出したとしても大蛇に絞め殺されるのがオチだろう。 呆気に取られる二人に構わず浅倉は跳躍し、大蛇の頭頂部に着地。 途端に大蛇が頭上の木々にぶつかるギリギリまで身を起こし、高所から蒼星石たちを見下ろし始めた。 大蛇が鎌首をもたげる様は、主の命令を今かと待ち構えているようにも見えた。 蒼星石が背後を見てみれば、橘あすかが自分と同じく顔を青ざめていた。 戦況は絶望的だと、蒼星石は思う。 (でも、やれる事はある) 意を決し、蒼星石はあすかに生き延びる手段を告げる。 「あすか君、ここを離れよう」 「……そうですね。この状況では逃げるのも止むを得ません。では桐山と北条さんにも言わないと」 「いや、逃げるのは僕たちだけだよ」 「ええ!?」 蒼星石の返答に、あすかは驚きの声を上げた。 予想もしていないことを言われれば当然か。 「な、何を言ってるんですか! 二人を見捨てろと!?」 慌てるあすかの問いに、蒼星石は首を振る。 「違う。ここであの蛇に暴れられたら彼らにも被害が及ぶかもしれない。 それにこれは僕たちが勝つ手段でもあるんだ」 「どういうことですか?」 「彼の持っているのが僕のデッキと同じ物なら10分経てば変身が解けるはずだ。 そして、変身が解ければモンスターは消える」 「そうか、それまで逃げ切れば……」 蒼星石が頷くとほぼ同時に、浅倉の命令が大蛇に放たれた。 「餌だ。食っていいぞ」 希望が叶えられ、大蛇は歓喜の雄叫びを響かせる。 それが合図となり、蒼星石とあすかは後方に駆け出した。 「鬼ごっこか? いいぜ、少しでも楽しませろよ」 頭頂部に浅倉を乗せたまま、大蛇もまた地を這いながら二人を追いかけ始めた。 変身解除まで、あと五分。 ■ ■ ■ 歩みを進めていた水銀燈とスザクは、突如として響き渡った地響きと咆哮に足を止めた。 音の発生源は自分たちの前方、つまり目的地の方角だ。 この先で何かが起こっているのは間違いない。 緊張感が漂い始めた矢先、二人は森の中をこちらに向かって走ってくる二人組みを捉えた。 スザクと同年代ぐらいの少年と、水銀燈と同サイズの鎧を纏った誰か。 水銀燈は少年の方に見覚えがあった。 確か、蒼星石と同行していた男だ。 ならば、小さい方の正体は自ずと予想が付いた。 「まさか、蒼星石?」 「あれが? 君の言ってた外見と随分違うな」 「ええ、何であんな格好してるのかは知らないけど、とにかく止めるわ……よ……?」 「駄目だ、逃げよう!」 蒼星石たちの背後から追随する紫色の大蛇を認識した途端、水銀燈たちは転進した。 スザクは己の身体能力を限界まで発揮させて走り、水銀燈は漆黒の翼をはためかせて全速力で飛ぶ。 そんな二人に橙色の鎧を着た蒼星石が近づいていく。 少年の方は少し後方を走っている。気のせいか息が荒い。 もう少し速度を緩めれば、今にも大蛇のごはんと化しそうだ。 「水銀燈。君も来たのか」 「やっぱり、あんた蒼星石ねぇ。あれは何なのよ。誰か乗ってるようだけど」 「浅倉って名前らしいよ。僕も詳しいことは分からない。でも、今はとにかく逃げた方がいい」 「あら、心配してくれるのぉ? ダッサい格好になって性格まで変わったんじゃない」 「……別に。同じローゼンメイデンが食べられるところを見たくなかっただけだ。 それより、さっさと飛んで逃げたらどうだい。君は僕より軽いんだから」 「……へぇ、言ってくれるわね。そういえば、ご自慢のシルクハットはどこいったのぉ。 鎧の中で潰れてるのかしらぁ」 「無事だよ。期待外れでごめんね」 「あらあら、別に期待なんてしてないわよぉ。無駄に邪推するなんてお馬鹿さんねぇ」 姉妹が話してるだけなのに、二人の間には険悪な空気しか存在せず、不機嫌な様子を見せ付けている。 一方、彼女たちの傍らを走る男たちも言葉を交わしていた。 「そ、そこの貴方! どうして水銀燈と一緒に居るんですか!」 「決まっている。僕が彼女を守る騎士だからだ!」 「なっ……どうしてそういう話になるんですか!? 彼女がどれだけ危険なのか分かってるんですか!」 「理由なんかない。ただ、彼女が愛しいだけだ」 「理解できません。馬鹿ですか貴方は!」 「よく言われるよ」 「それに相手はどんなに綺麗でも人形ですよ。解ってるんですか!」 「そんなことは最初から受け入れているさ。それよりも、もう少し早く走らないと危ないよ」 「わ、分かってます!」 喋りながらでも気遣う余裕を見せながら走るスザクと、息も絶え絶えに走る少年の姿は対照的だった。 そして、最後尾の大蛇に乗る浅倉は、 『ADVENT』 カードを杖にセットしていた。 走る四人から見て西南の方向にある水溜りから、赤紫色のエイが飛び出してくる。 エイは空中を緩やかに旋回したかと思うと、四人目掛けて前方から突っ込んできた。 新たな化け物の出現に四人は驚きを露にするが、気を取られて回避に失敗する間抜けな結果にはならない。 水銀燈は高度を上げて、男二人は右に、蒼星石は左に飛んでそれぞれエイの突撃を避ける。 エイは誰も居ない地点を通過すると、再度上昇して空に浮かぶ少女に狙いを定めた。 「何でこっちに来るの、よぉ!」 不運にも獲物として認識された水銀燈は、牽制代わりに羽の弾雨をエイに向ける。 しかし、表面に当たった羽は弾かれ、ヒレに当たると真っ二つにされてしまう。 ヒレの切れ味を見せ付けたエイの勢いは衰えず、真っ直ぐ水銀燈に向かう。 水銀燈も更に高度を上げて避けるが、正直冷や汗ものだ。 そして、エイはまた旋回して向かってこようとするだろう。 厄介なものに懐かれたものだと、水銀燈は溜め息を吐いた。 「しつこいわねぇ」 エイが来る前に羽で剣を形作る。 効くかどうかは分からないが、現状で使える武器ではこれが一番だ。 ちらりと真下を窺ってみれば、スザクが蒼星石の同行者と共に大蛇に立ち向かっていた。 協力している風ではないが、どちらにしろ水銀燈の援護には来れそうもない。 既に大蛇の頭頂部に浅倉は居ない。 どこにいるのかと目を周囲に向ければ、彼は蒼星石の前に佇んでいた。 (そのままジャンクにしてくれれば手間が省けるわねぇ) そんなことを考えながら、水銀燈は三度目の回避に成功した。 ■ ■ ■ 「おい、新しいのも見つかった。お前とはそろそろ終わりにしようぜ」 手前勝手なことを言いながら、浅倉がベルトからカードを引き抜く。 浅倉を挟んだ反対側では、あすかが大蛇相手に戦っていた。 宝玉を飛ばしてはいるが大蛇の口から放たれる粘液が溶かしている。 水銀燈と一緒に居た少年も銃を撃つが表面に傷一つ付いていない。 逃げる余裕は無さそうだ。 (まさか、もう一体モンスターが居たなんて) 見通しが甘かったかと蒼星石は歯噛みした。 自分にはモンスターが一体しか居なかったために、他のライダーもそうだと思い込んでしまった。 結果はご覧の有り様だ。 まだ、浅倉の体から限界時間を知らせる粒子は立ち上っていない。 逃げられないなら、覚悟を決めるしかない。 決意を固め、蒼星石はベルトからカードを引き抜く。 『FINAL VENT』 『FINAL VENT』 機械音声が重なる。 カードをセットするのはほぼ同時だった。 蒼星石から西に数メートル先の水溜りから橙色の蟹――ボルキャンサーが現れる。 蒼星石はそちらに駆け出し、浅倉も頭上を見上げた。 赤紫色のエイ――エビルダイバーが降下してきていた。 今まで相手をしていた水銀燈が驚いていた。 蒼星石がボルキャンサーの前に立つと、浅倉も跳躍してエビルダイバーに着地する。 ボルキャンサーの両腕の鋏が重ねられ、その上に飛び乗った蒼星石が跳ね上げられた。 体を丸めた蒼星石が前方回転しながらエビルダイバーに体当たりを仕掛ける。 浅倉はエビルダイバーをこちらに飛んでくる蒼星石に突っ込ませる。 そして、両者が衝突した爆発音が辺りに響き渡った。 シザースの【FINAL VENT】シザースアタックのAPは4000。 王蛇が使う【FINAL VENT】ハイドベノンのAPは5000。 数字だけ比べればシザース――蒼星石は撃ち負けるだろう。 されど、ここに一つの事例がある。 本来のシザースである須藤雅史は同じAP5000のナイトの飛翔斬に勝っているのだ。 これは須藤がボルキャンサーに数名の人間を食わせたことで、能力が底上げされたからだと思われる。 つまり、カード状での数字で負けていても勝つ可能性はあるのだ。 はっきり言おう。スペック的に弱いと言われているシザースでも、このままぶつかれば王蛇に勝てる。 但しこれは人間同士でぶつかった場合であり、人形が使った場合はその限りではない。 そもそも、カードデッキは成人を対象に作られているので、人形の使用は想定されていない。 なので人間より一回り小さい蒼星石が使ったとしたら、威力は削減されてしまうのは当然であり、 結果的に撃ち負けた彼女が弾き飛ばされて木に衝突し、変身が解けても何の不思議も無いのである。 そして、障害を排除したエビルダイバーが突き進み、ボルキャンサーを真っ二つにするのも当然の結果だ。 次の瞬間にはボルキャンサーは爆散し、残ったエネルギーはエビルダイバーに吸収された。 カードデッキも衝突の際に砕け散ってしまった。 ここに最弱と呼ばれたライダー、仮面ライダーシザースは最期を迎えたのである。 【仮面ライダーシザース&ボルキャンサー 破壊】 「蒼星石!!」 あすかの悲痛な呼びかけが森にこだまするが、蒼星石はうつ伏せに倒れたまま反応を示さない。 嫌な予想図があすかの胸中を駆け巡るが、確かめるまでは諦めないとそちらに駆け出そうとする。 しかし、あすかの進路に大蛇が立ちはだかった。 丸呑みにしようと口を開いて襲い掛かってくるが、間一髪横っ飛びに回避できた。 潜り抜ける方法を考えるが、全く思いつかない。 それに万が一大蛇を突破しても、後ろから撃たれるだろう。 水銀燈の同行者である少年があすかを撃たないのは、大蛇の注意が自分だけに向かないようにする為だ。 それに水銀燈の仲間であるなら、蒼星石を助けに行くのを良しとはしない。 更に上空の水銀燈から攻撃される恐れまである。 だが、あすかに迷っている暇は与えられなかった。 蟹のモンスターのエネルギーをエイに吸収させた浅倉が、蒼星石のもとにエイを向かわせたのだ。 間違いなく止めを刺すつもりだ。 (駄目だ。ここで動かなければ僕は絶対に後悔する。 ここからでもエタニティ・エクストラショットなら届くはずだ!) エタニティ・エクストラショットは二つの宝玉で弓を作り、残りの六つの宝玉を弾丸として射出する技だ。 エタニティ・エクストラショットを浅倉に使えば、あすかは完全に無防備になる。 しかし、後の事を考えている余裕はあすかに無かった。 とにかく蒼星石を救わねばと無謀な特攻を慣行しようとした時、不釣り合いなエンジン音が聞こえてきた。 その場の全員が音のする方向を向いた。 何かが猛スピードで近づいてくる。 それは一台のバイクだった。 バイクはその場に居る者たちに振り向く暇を与えないほどのスピードで到来すると、 蒼星石に迫るエイに突き進んでいく。 予期せぬ存在の到来にさしもの浅倉も対応できず、エイにバイクの体当たりを許した。 浅倉は直前にエイから飛び降りたのでダメージを負わなかったが、エイは錐揉みしながら遠ざかっていく。 エイを弾き飛ばしたところで漸くバイクは停止。 あすかたちにまざまざとその姿を見せつけた。 全ては一瞬で終わり、あすかたちはただ呆然とバイクのワンマンショーを観ているしかできなかった。 バイクの乗り手は黒い鎧を纏っていた。 どことなく浅倉や蒼星石のものに似ているので、恐らくは仮面ライダーだろう。 しかし、あすかには彼、もしくは彼女の正体に全く心当たりが無かった。 (誰でしょうか? 蒼星石を助けてくれたなら敵ではなさそうですが) そんなことを考えている間に、黒いライダーの後ろから誰かが降りようとしている。 もう一人搭乗者が乗っているらしい。 黒いライダーのインパクトが強すぎて、そっちに注意が行かなかったのだ。 誰が現れるのかとあすかが見ていると。 「むぅ。振り落とされるかと思った。桐山さんスピード出しすぎですよ」 「大したことはない……お前は蒼星石を連れて離れていろ」 「え?」 もう一人のバイクの搭乗者は北条悟史だった。 そして、目の前のライダーを桐山と呼んでいる。 つまり、黒いライダーの正体は。 「桐山、そこの貴方は桐山ですか!」 悟史が蒼星石を抱えて離れていくのを確認してから、黒いライダー――桐山和雄は首肯した。 ■ ■ ■ 時系列順で読む Back 二人の黒い殺し屋 Next BATTLE ROYALE 世界の終わりまで戦い続ける者たち(後編) 投下順で読む Back 二人の黒い殺し屋 Next BATTLE ROYALE 世界の終わりまで戦い続ける者たち(後編) 064 危険地帯 浅倉威 069 BATTLE ROYALE 世界の終わりまで戦い続ける者たち(後編) 桐山和雄 蒼星石 織田敏憲 橘あすか 北条悟史 047 スザク と 銃口 水銀燈 枢木スザク
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戦うことを忘れた武装神姫 その8 ・・・その7の続き・・・ 「・・・ロクな武装神姫にならないとは聞き捨てならないなぁ。」 振り向いた久遠は、M町センターのトップランカーに言った。 「別にこいつらは戦わせるだけが全てじゃないんだし。俺に言わせりゃ、あんな戦い方をする神姫こそロクでもない育ちをしている思うんだけどな。」 「言いたい事いってくれるっすねぇ、オッサン。」 と、言われたときだった。 「ヌシさんをオッサンと呼ぶなー!! このクサレ神姫使いがー!!!」 久遠の肩の上でリゼが叫んだ。あまりの声の大きさに周囲の目が一瞬にして彼ら に集まる。 側ではかえでがどうして良いのかオロオロ・・・。 「り、リゼ・・・肩の上では大声出すんじゃない・・・。」 片耳を押さえもだえる久遠。元々、耳が良い久遠にとってはかなりのダメージのようで、しきりに頭を振っている。一方のトップランカーもリゼに「クサレ」と呼ばれたことに動揺を隠せない様子。 「な、なんだよ神姫のくせに、偉そ・・・」 ヒュッ! さくっ、さくさくっ!! 作業台に降りたリゼの投げたデザインナイフの刃が数本、トップランカーの手にしていたケースに突き刺さった。恐ろしい形相で、さらにデザインナイフの刃を数本手にしている。 「神姫のくせに、だって? てめぇ、あたしらを何だと思ってるんだっ!!」 「お前らは機械なんだぞ! 人間に刃向かったらどうなるか、わかっ・・・」 ヒュッ! さくさくっ! 再びデザインナイフの刃が投げられ、ボックスに突き刺さる。・・・だんだんと刺さる位置が、ボックスを持つ手に近づいている。トップランカーの額には脂汗がにじんでいる。 「ほぉ・・・『機械』ねぇ。 そうかそうか。」 替え刃がなくなり、リゼは転がるナイフから刃を取り外し- ヒュッ! さくっ! 投げた最後の1枚は、ボックスの持ち手に刺さった。彼は完全に硬直した。リゼは彼を指差し、堂々と言い放った。 「なら、あたしたちが機械と神姫の違いを教えてやるよ。 よーし、準備期間を1週間与えてやる。対戦方式はそれぞれ4体、1vs1が4戦でいいな?」 「お、面白いじゃないっすか・・・。 やるっす、受けるっすよ!」 トップランカーはちょっぴり震えながら答えた。 「じゃ、決まりだな。 あたしじゃ正式な申し込みは出来ないから、ヌシさんが ・・・って、いつまでも耳押さえてるんじゃないよ!」 のっそり立ち上がった久遠だが、まだ耳鳴りは治まっていない模様。 「お前の所為だろ、この耳と頭痛とめまいは・・・。はいはい、対戦の申し込みするんだね。 受付に行って来るから、リゼはここでちょいと待ってろや。」 ちょいちょいとリゼの頭をなでつつ、片手は久遠は耳をさすっていた。 「本当にいいんすね、オッサン・・・」 と、トップランカーが言いかけたとき。「オッサン」という言葉を聞き逃さなかったリゼは、 ぶんッ! べちん!! 手元のマスキングテープを投げつけトップランカーの手にブチ当てた。 「ってー!! わかりました、いいんすね、ストラーフのマスターさん!」 「わかればよろしい。」 作業台上で仁王立ちするリゼの姿に、再び動揺するトップランカーは、ちょっと申し訳なさそうにする久遠に促され、共に受付へ向かった。 受付を終えた久遠が戻ると、心配そうにまだうろたえるかえでとティナに何やら語っている。 「・・・大丈夫だって! まー、見てなって。あんたとかえでちゃんの『痛み』 は、何が何でもあいつらに味わわせてやるから! あ、ヌシさんおかえりー。」 「お話中だったかな。ごめんなさいね、かえでちゃん。ちょっと待っててね。」 久遠はちょっとため息をつくと、リゼをひょいとつまみ上げた。 「リゼの気持ちはわからんでもないが・・・」 と、つまみ上げられて周囲を見回し、リゼはここで初めて、何をしでかしたか、事の重大さに気づいた。 廻りを取り囲むギャラリー。そのギャラリーの前で、このセンターのトップランカーに勝負を挑んでしまった・・・ だんだんと表情がこわばり、膝ガクガクになったリゼを久遠はじっと見つめる。 「わかった? いまの状況が。」 「や、やばい・・・ す、すまない、ヌシさん・・・ど、どど、どうしよう?」 久遠はリゼの動揺する姿をかえでに見られないよう、リゼを手のひらでちょいと包むように持った。 「まー・・・俺の言いたいことをリゼが全部言ってくれた感じかな。結局、俺が話しても対戦申し込んだだろうし。だから・・・」 手を顔の高さまで持ち上げ、リゼにそっと耳打ちするように、 「リゼ、お前は・・・何があろうと、かえでちゃんとティナちゃんのヒーローであり続けること。いいね。」 と付け加えた。しおしおになりかけ、悔恨と焦りと申し訳なさの涙がいっぱいになっていたリゼの瞳に、別の涙が湧いてきた。 「ありがと、ヌシさん・・・。」 「いいから、いいから。ささ、涙を拭いて。 そーだ。いい顔になったか?」 リゼはぎゅっと久遠の指に抱きつき、ぐぐっと涙を拭き取った。 いい目つきが戻ったリゼを久遠は手のひらに立たせ、ギャラリーの方を振り向き-。 「じゃー、やるぞー。リゼもいっしょに合わせてくれよっ!!」 ・・・ 「んで、その時の記事がこれかい。」 久遠から渡されたミニコミ紙の記事をつつきながらCTaが言った。 そこには、肩の上にリゼを載せた久遠が、リゼと同じ格好を決めている写真が。 「こんなトコロにまで宣戦布告と取り上げられているけど、どうすんの?」 山と積まれた皿や器、ジョッキに囲まれたCTaは、竹串で久遠を指していった。 「だから、それを相談しようと思てっ呼んだんだけど・・・」 いつものこととはいえ、つれないCTaにゲンナリの久遠。 「自分でまいた種なんだ、お前らが何とかしろ。 ・・・と、いつもなら言うところだけど。あたしゃ、こいつらを『機械』呼ばわりした事が許せないね。是非、あんた達には勝利してもらわないと。」 CTaは、新たに運ばれたジョッキカクテルを一気に半分呑み、続けた。 「だけど相手はM町のトップランカー、要は戦うことのセミプロだ。でもって 戦うことに関しちゃ、お前のところの4人は全くの素人。だろ?」 黙って頷く久遠。 「普通なら『勝率0%』と考えるだろう。だけどな、武装神姫は『戦うこと』を忘れていても、『戦い』を忘れているわけじゃないんだぞ。」 CTaの目が、さっきまでの酔っぱらいから、技術者としての目に変わった。 「いいか、あたしに言わせりゃ日常ってのは常に『戦い』なんだよ。 時間と戦う、食材と戦う、仕事と戦う、害虫と戦う・・・ どうだ?」 「間違ってはいないと思うけど、なんかピンと来ないな。」 と久遠が言うと、CTaは久遠の手にした手羽先に、ざっくりとフォークを突き立てた。 「だーかーら! お前んとこの4人、あたしが見る限りでは、そんちょそこらの戦闘マニア神姫よりは強いって事だよ!」 「そ、そうなのか?」 「そう! どうせ何でもありのフリーバトルでしょ? ならば、いつもの事をいつも通りにさせてみろ。絶対に勝てるから。」 「いつもどおりと言われてもなー。どうすりゃいいのかさっぱりわからんぞ。」 フォークの刺さった手羽先を持ったままの久遠・・・ と、その時。 「何? あたしのアドバイスがわからない、だぁ?」 技術者の目から、再び酔っぱらいの目に戻ったCTaは、久遠に絡みだした。 「あらしのはらしをらぁ、よくけけってんらよ! らぁ? わかっれんろか?」 「・・・はいはい、わかりましたわかりました。 ・・・全く、どのっくらい呑んだらすっ飛ぶか、統計でもとって管理しろよ、技術者なんだし・・・。」 どうやら、CTaの酒が閾値を超えたらしい。酒を飲むと途中まではむしろ冴え渡るくらいなのだが、閾値を超えるととたんにオヤジギャル(古)に豹変する傾向があるCTa、今宵もしっかり発揮している。 「ぉらー!! もぃっけんいくろー! つれてけひらろー!」 腰砕けの状態で、久遠の袖を引っ張り外へ行こうとする。 「ちょ、ちょい待てってば。イオ!沙羅!ヴェルナ!ちょっ・・・え?」 CTaに絡みつかれて困惑する久遠の目に入ったものは、積まれた食器の谷間で、呑み比べ大会に興じている沙羅、ヴェルナ、そしてイオ。 「おまえらー! 混乱したりつぶれたりの俺らをさしおいて何やってるんだ!」 「あれ、マスター。CTaさんとのお話は終わりました?」 名実ともザルのイオが、いつものペースで杯片手に振り返った。 「ったく・・・イオ、帰るぞ。でないと、こいつが寝ゲロする恐れがある。」 荷物をまとめた久遠は、沙羅、ヴェルナをとりあえず自らのジャケットのポケットへと押し込んだ。 「えー?もう終わりなんすか?」 「まだイオさんと勝負がついておりませんのに・・・。」 不満そうな沙羅とヴェルナ。 「ばかっ! イオと勝負するんじゃない、こいつはザルだっ!」 物欲しそうに指をくわえるイオを最後に自らの肩の上へ載せると、ずるずると崩れそうなCTaを反対の肩に支え、如何してもって帰るか、頭を悩ませる久遠だった。 ・・・この数時間後-日付が変わってからと言った方がいいだろうか-、久遠はちっちゃいもの研の仮眠室へ、CTaと沙羅・ヴェルナをほっぽり込んだ。心配そうに見る守衛に後を任せ、研究所を出る。 久遠の手には、背中についた「何か」を洗い流したジャケット。肩には、疲れきった様子で寝息をたてるイオ。 雨が上がり、広がる星空を見上げながら思い返すは、CTaの言葉- 「戦うことを忘れていても戦いを忘れてはいない」- 。 これが何を意味するのか。 ・・・また眠れぬ夜になりそうだ・・・ 久遠は一人つぶやき、傾きかけた月の下、家路へと急ぐのであった。 ・・・>その9へ続くっ!!>・・・ <その7 へ戻る< >その9 へ進む> <<トップ へ戻る<<
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戦うことを忘れた武装神姫 その27 ・・・T市のとある居酒屋。 カウンターで兎子を前に酒を飲んでいた男に、隣に座るストラーフを連れた男 が話しかけてきた。。。 ・ ・ ・ -おや、あなたも神姫をもっているのですか。 珍しい配色ですね、なんとも 美しい空色で・・・特殊強化塗装でン万・・・? いやはや、その愛情に脱帽 ですわ。 今日がここは初めて・・・そりゃどうも、どうぞよろしく。 -はぁ、ここには神姫愛好者が多く集まるから情報を集めるにはいいと言われ た・・・ なるなる、そうですか。 ほぉ、K屋のリーグで5位に入賞したの ですか・・・それはおめでとうございます。あの店は強豪が集いますからねー。 -え? ウチ? いえいえ、ウチらはバトルはしないんですよ。造った装備の 試験とかで、草リーグに遊びに出ることはありますけどねー。 -・・・何で戦わないかって? -うーん・・・手っ取り早く言えば、神姫の身になって考えると、戦わせられ ない、ってところですか。考えてもみてくださいよ。いくら自分で育てたとは いえ、そいつらを戦わせるんですよ? 基本がそういうプログラムだとはいって も、服従させてるみたいでどうしてもなじめなくって。 -ほら、今も長寿番組でやってるアレ、モンスターを戦わせる、ゲームが元の アニメ- あれもウチはあんまし好きにはなれないんですよ。 結局、オーナー だのマスターだのの、道具でしかない存在でしょ、あれじゃ。 -道具じゃなくて、パートナー・・・。 確かにそうですよね。 でもね、 自分の手を汚すことなく、必死に戦う神姫を離れたところで観戦して、それで 勝ったの負けたのを騒ぐのはどうも納得がいかなく・・・おっと、これは言い すぎましたね。。。 -そんな怖い顔しないでくださいって。 ひとつの考え方としてさらりと流し てくださいってば。 -あ、すんません、生中ひとつとライチサワーを。 あ、おごりですよ。気に せずぐっと行って下さい。 ともかく武装神姫ってぇのは神姫のプロジェクト の中のひとつなわけだし、神姫自体は無理に戦う必要なんて何もないと思うん です。 そうでしょ? -ま、場合によっては神姫自身が宣戦布告したりすることもありますけどね。 少し前にウチの連中も一戦やりましたけれど、あれなんて、こいつがその店の トップランカーにけんか売っちゃっ・・・い、いでででっ!!! ( -ストラーフが、彼の指の股を力いっぱい広げる- ) -悪かったよ、山崎とってやるから許せって。 すんません、山崎12年ロック、 ひとつお願いします。 ・・・あ、そうなんです。 呑んだり食ったりできる ようにちょっといじってありまして。 ( -彼が届けられた山崎ロックを差し出すと、うまそうにすするストラーフ- ) -こいつとの出会いはちょっと特殊だったけれど、ほかの3人はみな一目惚れ ですよ。 -最初は犬猫でしたね。神姫って何かを知らずに買ったんです。 起動させる まで、そう、説明書を読んだ段階では、あくまで戦うロボットという認識しか なかったんですけれどね。 起動させてからはもうダメ。傍に居るパートナー になっちゃったわけで。 -はいはい、おかわりね。お前は前科があるから、あとはサワーを呑むように。 文句いわなーい。 ( -ストラーフの空いた山崎のグラスにサワーを取り分ける彼- ) -だから、時々聞かれたんですよ、初めのころは。「戦わなくていいの?」って。 そのたびに、ウチは「別に戦うだけがすべてじゃない。傍に居てくれるだけで、 それだけでいいんだ。」って答えましたね。 ( -ストラーフ「あたしもヌシさんと居るだけで、それだけでも楽しいもん」- ) -はっはー、そういってもらえるとウチもうれしいねー。 だから、余計な買い ものをしちゃうのかもしれないなー(笑 ( -ストラーフ「あんたも愛情たっぷりの中でやってんじゃん」と兎子に声をかける- ) -ウチもそう思うよー。 何たってヴァッフェバニーっつーとどっちかというと 泥臭い印象が強いけど、ここまでさわやかな兎子さんは初めて見たもんね。 よほどの愛着がないと、そこまでの装備はできないっしょ。 -ありゃ、兎子が泣いてる? ・・・申し訳ないです、なんかせっかくの勝利 ムードに水差すようなことをしゃべっちゃって・・え? 違う? ( -ストラーフが彼に告げる、兎子は今までマスターがなぜそこまで自分に 手をかけていてくれたか、その「愛情」に気づいたんだ、と- ) -あなたの中ではそちらの兎子さん、どんな存在で- ? -でしょ? ね? そこがウチらは言いたかったわけなんですよ!! -いや、いやいやいや、そんなにお礼を言われても・・・そういう人間じゃあ ないですって、ウチは。。。 兎子さんも、そんなに頭下げな・・・ってリゼ! 女王様するんじゃない!! ったく・・・ -ここで語ったのも何かの縁、もうちょっと呑みましょうか。 -ウチがおごりますって。 いやはや・・・じゃぁ、割り勘で! -そうそう。ウチの知り合いに優秀な神姫のメンテ屋が居ましてね・・・ 彼らの話は、終電近くまで続いたという。 ・ ・ ・ それから数ヶ月の後。 K屋のリーグのトップに、ヴァッフェバニーの名があった。 マスターの愛情をたっぷりと注がれた蒼きヴァッフェバニーは、その後公式の リーグでも幾多の勝利を収め、碧空のスナイパーの異名を持つまでになった。 メディアで、インタビューを受けるたびに彼は言ったという。 あの居酒屋で、今でも良き相談相手の「あの」人に出会わなければ、小さくも 大きな「神姫」の「存在」に気づかせてくれたあの夜がなければ、今の僕と、 碧空のヴァッフェ「Blitz」はいなかっただろう、と- 。 <その26 へ戻る< <<トップ へ戻る<<
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戦うことを忘れた武装神姫 その20 ・・・その19の続き・・・ フィーナの次のオーナーは・・・なんとティナのオーナーの、かえで。 CTaにティナのメンテナンスを頼んだ際に、フィーナの話を聞いたかえでは、 その場でフィーナを迎え入れたいと申し出たとか。 もっとも、この流れは CTaの計らいも少なからずあったようだが、リーダーの希望もあったらしい。 そして、リーダーは本名の「フィーナ」として、かえでの元で新たな生活を 始めていた。 「あーっ! リーダー! 元気してた?」 かえでの肩の上の「リーダー」に、リゼは久遠のポケットから顔を出し手を 振って応える。 「もう、リーダーじゃないですっ。 フィーナと呼びなさい!」 と、叱るフィーナの顔は、大変に穏やかな・・・笑顔だった。 その様子に、雑誌社の一人が気づき、カメラマンを含めた数人がやってきた。 色の濃い度付きスポーツグラスをしていた久遠だったが、あっさりとバレて しまった模様。 「・・・久遠さんですよね?すみませんがバイクを降りずに、そのスタイル の写真を撮らせていただけませんか。 それと、神姫の皆様はどちらにいま すか?」 久遠はちょっと苦笑いを浮かべるも、 「ウチの連中なら・・・ほら、ここに。」 とポケットを開くと、お揃いのゴーグルを着けたエルガ、シンメイ、イオ、 そしてリゼを、ハンドルやバーパッド部分に座らせた。 彼は、神姫たちに プレス連中の希望する希望するポーズを取らせる。もちろん、彼自身も。 「どうもありがとうございます、良い絵が撮れました!」 深々と頭を下げるプレス陣。 「今回の特集ページの表紙に、是非使わせて下さい!!」 「いや・・・そんな急に言われても・・・」 困惑する久遠に、フィーナが言った。 「良いのではないですか? 久遠さんは、今回の大会の主役でもあるのです から。 もっと堂々として下さい。」 「そ、そうなのか?」 「フィーナぁ、それはにゃーさんにはできないよー。 どうがんばっても、 いっつもでれんちょだもん。」 と、間髪入れずにエルガが言う。頷くシンメイ、リゼ、イオ。 その様子に かえでたちも、プレスも笑う。 場の雰囲気がさらに和む。。。 久遠とサイトウの対戦以降、久遠の言うところの「バトルの質」が向上した という。 神姫を持つ者に、神姫のバトルとは一体何なのか?・・・という 問いかけをした対戦にもなったようだ。 もちろん、M町のセンターも大きく雰囲気が変わった。 警察沙汰にもなったあの一件で、店長は相当立場が危なくなったようだが、 久遠の働きかけもあり、なんとか公認の看板は守り通した。 神姫に詳しく ないアルバイトはいなくなり、代わって学生時代から入り浸っていたような 良い意味で「濃い」連中が正社員や契約社員の形で入り、店内も大幅に改装 された。 また上の階に東杜田技研・HT-NEKの直営店が入店し、いつでも 気軽に立ち寄って相談できる場所となり、より一層人気のセンターとなって いった。。。 「なんだ、このポスターは。。。」 センターに入ろうとした久遠、ドアに張り出されたポスターに目が止まった。 あの時の「とつげきしゃもじ」エルガと「工臨壱式」シンメイが火花を散ら している、何とも不思議なスタイル。 真ん中に書かれた文字は- 、 <第1回 カッコイイ神姫選手権> 「うはっ、本当にこのタイトル使うとは思わなかったぞ。」 苦笑いする久遠を、店長が出迎えた。 「どうも、お待ちしていました。 皆さんお待ちかねですよ。」 ・・・この日、M町のセンターで開催されるイベント、それが「カッコイイ 神姫選手権」。 リゼが叫んだ、「カッコイイ神姫」は、一部の連中の間で かなりの流行になり、それならば、とM町の店長が久遠とCTaに働きかけ、 東杜田技研に協力を得て、さらには各メディアをも巻き込み、挙げ句は公式 のお墨付きまで付いた一大イベントに仕立ててしまったのだ。 「店長・・・やるときゃやるんですね。。。」 一歩踏み入れるや否や、久遠は想像を超えた店内の盛り上がりに、半ば呆れ つつも店長の行動力に驚きを隠せなかった。 「まぁね。 それなりのネットワークは持っているつもりだから。」 店長はそう言いながら、久遠にタイムテーブルの確認表を手渡した。内容を 確認する久遠の目が、オープニング部分でいきなり固まった。 カッコイイ神姫とはどんな神姫か? 戦い続ける神姫でも、 戦いを忘れた神姫でも、 仕事に就いている神姫でも、 誰もがカッコイイ神姫になれる。 集え、我こそはと思うカッコイイ神姫たち。 今ここで、神姫の新しい歴史の1ページを造ろう-。 「ちょ、ちょっと店長、これ俺が言うんですか?」 「そうだけど。」 目が点になる久遠に、事も無げに流す店長。 「誰がこんなこっぱずかしい台詞考えたんだっ!」 「あたしだよ。」 聞き飽きるほど聞き慣れた声と共に、久遠の後頭部をどつく人物。メイド姿 のDr.CTaが、久遠の背後に立っていた。 「二晩かかったんだぞ、このオープニングを考えるのに。」 「・・・。 勘弁してくれ、俺はそういうキャラクターじゃないっつーの。 それこそ、お前が言えや。」 「やだよ、こんな台詞。恥ずかしいもん。」 「・・・ハァ・・・。」 肩をガックリ落とし、ため息の久遠に、リゼが耳元にのぼって言った。 「なぁ、ヌシさん。どうせあたしらが初っ端でデモンストレーションをする だろ? それと絡めて、あたしたちが言ってやるよ。」 「そうか? じゃ、お願いしちゃおうかな〜。」 と言う久遠に、イオが顔を出して続けた。 「そのかわり、終わったら上で何か買って下さいね、全員に。」 なんか謀られた気がすると思いつつも、自分で言うよりはマシと考え直し、 さくさくと準備に取り掛かった。 この選手権はバトル型式ではない。 各オーナー、神姫が「カッコイイ」と 思うパフォーマンスを設けられた制限時間内で行い、審査してランキングを するだけ。 審査員にはそうそうたるメンバーが並ぶ。 エルゴの店長や、 東杜田技研の社長、本名を明かさないと言う契約で神姫開発者も一人招いた とも。 そして、審査委員長に・・・なんと久遠。彼の神姫たちも、4人で 一人の扱いではあるが審査員に名を連ねていた。もちろん。CTaも審査員に なっている。。。 エントリー期間はわずか数日間だったにもかかわらず、相当数の応募があり、 事前審査を行うほどであった。事前審査を経て厳選された十数組が、普段は バトルで使われるフィールドを舞台として用い、歌に踊りに模擬戦に、果て はマスターをも絡めたお笑いまで、何でもアリの展開がなされるであろう。 カッコイイに、形はないのだから・・・。 やがて、選手権の開会時刻に。 司会・進行は、店長の神姫、白子のアスタ と兎子のコリン。 2人とも、見事なまでの司会者スタイル。審査員に続い て選手が入場し、ギャラリーが拍手で迎える。 生活感あふれるスタイル、オーナーの持つみかんの段ボール箱に入って入場 する神姫あり。オーナーが操縦するラジコンヘリに乗り、BGMまで用意して 派手に入場する神姫あり。オーナーと同じ姿、すなわちお揃いのコスプレを した神姫も。。。 その中に、かえでの姿があった。 おもしろ半分で応募したところ、見事に 選出されてしまい、選手として参加することになってしまったのだ。 当初 は乗り気でなかったフィーナだったが、かえでの熱意に負けてティナと共に 出ることにした。 PDA状態のティナと、戦闘のプロのフィーナが、高校生 オーナーのかえでと、どんなかっこよさを見せてくれるのか- 。 「それでは・・・名誉カッコイイ神姫の入場ですっ!!」 コリンの声で、最後に久遠たちが入場する。 彼は神姫たちにいちばん好評だったオフ車乗りのスタイルのまま登場。 神姫たちも、それぞれにカッコイイと思うスタイルで、久遠の肩や手に乗り、 堂々と入場。 エルガは、新調した特製バトル用ホワイトエプロンにおたま。 シンメイは、工臨壱式スタイルで、6mmレンチを背中に付けて。 イオは、あの時と同じ装備をより一層軽快にしたモードでフワフワと。 リゼは・・・マイクスタンドをくくりつけたサブパワーユニットを手に。 ギャラリーから、より一層大きな拍手がわき起こる。 フィールドに歩み寄る久遠。 そこには、ちいさな舞台がスポットライトで 照らし出されている。 彼は神姫たちをフィールドに乗せた。舞台上に上が る4人。 それぞれの考える「カッコイイ」姿をそれぞれのパフォーマンス で魅せる、このイベントの目玉の一つが始まろうとしていた。 舞台の真ん中に立ったリゼは、くくりつけたマイクを外し、オリジナル曲を アカペラで歌った。 美声に静まり返る店内。 歌い上げたリゼはパワーユニットを背負うと、3人に目で合図を送る。 エルガ、シンメイ、イオ、そしてリゼの4人は、それぞれにスタイルを決め、 あの台詞が静まり返った店内に響き渡った。 「カッコイイ神姫とは、どんな神姫か?」 変わらぬ毎日の中でも、自らを常に磨き続ける神姫がいる。 何気ない日常の中で、「カッコイイ」を目指す神姫がいる。 武装神姫であるために、目指すものがあり、忘れないものがある。 そう、ここにいるのは、戦いを忘れず、戦うことを忘れた武装神姫。。。 ・・・ 第2部「What s Battle style? -It s my Life style.」 了 ・・・ <その19 へ戻る< <<トップ へ戻る<<
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武装神姫のリン 鳳凰杯篇 その5 あちらはマスター同士、こっちは神姫同士ということで私は部屋から逃げ出てしまったミカエルを追います。 互いに死力を尽くした(精神的に言えば彼女はもっと苦しかったと思います…)バトルの直後で"疲れ"が出ている頃。 それほど遠くには行けないと解っていてもミカエルとの距離が一向に縮まらないことでやはり私は焦りを感じてしまいます。 身体の状態など気にしないほど悲しみは彼女の心を支配しているはずです。 なぜなら、その悲しみは想像しただけでも恐ろしく神姫にとっての絶望そのものなのですから。 彼女をそのままで終わらせるのは"約束"をした仲の自分が許せない。だからこそ私ももう一度気を引き締めて必死に彼女を追います。 とその瞬間ミカエルが通路を横切ったスタッフにぶつかりました。 「うわ!」 その拍子にスタッフの持っていた工具箱。そこから無数の工具がバランスを崩し、ミカエルに向かって落ちていくのです。 ミカエルはぶつかった弾みで腰が抜けたのか、動きません。落ちてくる鉄塊を見上げることしかできないのです。 「届いて!」 私は渾身の力を込めてミカエルに向かって飛びかかります。 ほんの少しでも彼女の身体をかばう。もしくは押すだけで致命傷は避けられるはず。 自身の安全を優先するプログラムが動きを妨害しようとしますが、瞬時にそれを解除。 そうして…ミカエルの身体に私の手が… "ガシャン" そんな音を聞いたのを最後に、私の意識はそこでとぎれてしまったのです。 私が目を覚ましたのはそれから数時間後、会場に設営された神姫のメンテナンスを行う"救急救護室"のベッドの上でした。 「気分はどうだ?」 マスターがいつものように、でもやっぱり心配そうな瞳で声をかけてくれました。 「心配したんだからね~」 「寿命が縮みましたわ」 「…おかあさん、よかったぁ!!!」 花憐が飛びついてきます。どうやら家族全員に心配をさせたみたいで…そこでミカエルの無事が気になりました。 「マスター、ミカエルは?」 「ああ…」 みんなの表情がすこし曇ります、まさか… 「いや、リンが思っている様な最悪の事態にはならなかったんだけどな」 「なら…」 「記憶が…無くなってるんだ。」 その言葉を聞いた瞬間、私の"心"が痛みを感じました。 心の中に何かの間違いだとそれを拒絶する自分が居て、でも一方で現実を受け入れている冷静な自分も存在している… その2つがぶつかった様な、そんな感じでした。 「そんな…全て忘れてしまったのですか?」 「いや、自分の名前と事故の直前のこと。つまりリンが助けようとしてくれたことは覚えてるらしいんだけど他のことがさっぱりだ」 「自分のマスターが誰であったかさえも分からないのですね」 「…そういうことだ。」 「では、彼女はどうなるんでしょうか」 「引き取り手が無い場合は…施設行きだろうな」 「それも彼女にとっては悪いことではないと思うんだけどね…」 「茉莉の言うことも正論だと思いますが、でも!」 「リンの言いたいことは分かってるよ、あの子をティアみたいに引き取れって言うんだろ?」 「そこまで分かっているなら!」 私が次の言葉を発する前に救護室のドアが開かれた 「失礼します。」 それは映画やTVで見たことのあるSPそのままの人だった。 その人は、かけていたサングラスを外してお辞儀をしました。 「あんたは…」 「はい、鶴畑家の直属のSPを努めております。 岩原と申します。」 「何の用ですか?鶴は他のSPともあろう人が。」 茉莉もあの人を少々警戒しているようでした。 マスターも、茉莉も、もちろんティアも。時間が結構経ったとはいえあの騒動を皆忘れてないのです。 しかし岩原の口から出た言葉は意外なものでした。 「今回は、お願いがあってお伺いしたのです。」 「なに…?」 「ミカエル…彼女を引き取っていただきたいのです。」 「どういうことだ?」 「全ては、大紀様の願いです。大紀様は今までのことを反省しております。よほどあなたの説教が効いたのでしょう。」 コレにはみんなが驚きました。なんというか、あの人に対してはみんな「イヤミな金持ちのボンボン」というイメージしか無かったためにマスターの説教(まあ、これはマスターの癖というか性格なんでしょう。マスターは極上のお節介ですから。)を素直に聞くようには思えないのですが… 「あ、そういえば最後にそれらしいこと言ってたな。その後すぐにリンとミカエルが大変だって聞いて忘れかけてた。」 「亮輔、もしかしてすごいことしちゃったんじゃない?」 「…そうかも。」 「おとうさんすご~い」 花憐はマスターに飛びつきました。全く、この子は…とも思いつつ私マスターに抱きつければなぁなんて思ったり。 「大紀様は一からやり直そうと思っておいでです、そのためにもしミカエルが自分を認めてくれるのであればと最後の望みをかけておりましたがこのような事態になり…そして唯一残っている記憶に関連のある、あなたたちに彼女を任せたい。とおっしゃっています。」 「…話は分からなくもないのですが、ではなぜ本人が出てこないのかしら?」 そのことについてはちょっと気になっていましたが、その疑問をティアが岩原さんにぶつけました。 「もうしわけございません、先に仰っておくべきでした。 大紀様は「彼女への自分なりの償いだ」と仰いまして今までの武装データをディスクメディアにコピーする作業に没頭しております。そのディスクメディアはあなた様に渡すためとも仰っておりました。」 「で、自分の神姫はどうするんだよ」 「今までのように大量に起動させた中から能力だけで選ぶのではなく、自分で町を歩き、これだと思うパートナーを見つけるそうです。」 「今までのランクポイントは?」 「廃棄されると。」 「…なら、なおさらミカエルを受け取るわけには行かないな。」 マスターはそう岩原さんに告げます、それは私が今言おうか迷った言葉でした。 「なぜですか? 彼女にはあなた様の元で幸せになって欲しいと…それが」 「記憶が消えた…それがどうした。 外的損傷も無いし機能も正常。ならきっと思い出せる。そして全てを思い出した時にマスターが居なくてどうするんだ!」 「ですが…」 「とりあえす本人を連れてくるんだな」 マスターが岩原さんに食ってかかる寸前。 「その必要は、無い。」 鶴畑大紀がこの部屋に入ってくるなり、マスターの正面に立って言いました。 「あんた、さっきの話はつまり俺に"ミカエル"ともう一回最初からやれってことか」 「そうだ。それが一番、あの子にとって良いはずだ。」 「…」 鶴畑大紀は黙ったままどうするべきか考えているようでした。 そうして部屋野中は無音に、誰もが口を開けない…そんな中 「じゃあ、本人に決めてもらおうか」 急に茉莉が言い出したのでマスターも、ほかのみんなもびっくりしてしまいます。 「ああ、それが一番手っ取り早いかな」 「ですね。」 私もそれに賛同します。 そうしてミカエルが寝ている部屋に皆で行くことに。 記憶に残っている唯一の"知人"ということで最初に声をかけるのは私ということになりました。 眠っているミカエルのそばに寄り添い、優しく声をかけます。 「ミカエル、起きて。」 ゆっくりとミカエルのまぶたが開き、意識が覚醒していくのが分かりました。 「…リン」 「そう、リンです。あなたの友達の、リンです。」 「なんの、用?」 「それなんですが、あなたは私の子と以外を忘れていると聞きました。本当にそうですか?」 「…うん、何も思い出せない」 そうだと分かっていても本人から肯定の言葉を聞いたことでショックを受けました。でも私にはまだやるべきことが残っています。 「そうですか、私の家族や友達も来ているのですが、部屋に入ってもらってもいいですか?」 「うん、いいよ。リンの友達なら」 私の合図でマスター達が部屋に入ってきました。 「こんにちは、リンのマスターの藤堂亮輔です。よろしく。」 「私は亮輔の家族の茉莉、そしてこっちが」 「ティアですわ、よろしくおねがいしますわね。」 「花憐です~よろしくおねがいします~」 「あ、はい。よろしく」 ミカエルは一見すると感情が無いような、そんな目でマスター達の後ろにいる鶴畑大紀を見つめています。 彼女の反応次第でミカエルが私たちとともに来るのか、元のマスターの元へと戻るのかが決まるため、みんな固唾を飲んで見守っています。 1分ほど見つめた後、ミカエルの口が不意に開きました。 「そっちのお兄ちゃんたち…は、だれ?」 『やはりダメだったのか』そんな雰囲気が部屋中を覆おうとします。 しかしミカエルの言葉はまだ続いていました 「なんだか、見た目は怖いのになぜかお兄ちゃんのことが怖くないって分かる。後ろの男の人も。」 「…み、ミカエル。」 鶴畑大紀はその言葉に、人目もはばからずに目に涙を浮かべています。 なぜか後ろにいる岩原さんまでサングラスごしにハンカチを目尻に当てている。 「なあ、ミカエル。 俺と一緒にいてくれないか?」 「なんで?」 「えっと、俺が、一緒にいたい、から」 「…」 ミカエルは少々困った顔をして私に聞いてきます。 「私、どうしたらいいいんだろう?」 「ミカエルの思う通りにすればいいんですよ。」 「…わからないよ。そんなの~」 この状況は予想していませんでした、今のミカエルなら私が誘えば絶対に私たちについてきます。 でも、マスターがさっき言った様にそれはミカエルにとって最善のこととは思えないのです。だからこそ、心を鬼にして私は彼女を突き放します。 「…リン!?」 「世界はそこに生まれたモノを拒んだりしません、それは人、動物、神姫どれも同じです。だからあなたが望むままに生きて、そして自分で決断する勇気を持ってください。あの人について行くか否か。この選択はその最初の一歩です。どっちを選んでも誰もあなたを責めたりしません。だから。」 私は思いの丈を彼女にぶつけました。 あとは彼女次第です。私たちはミカエルの決断を待ちます。2分、3分、5分と時が過ぎて… 「決めた、私。そのお兄ちゃんと一緒に行く。」 「…ありがとう、ミカエル。」 その一言と同時に鶴畑大紀は泣き崩れ、岩原さんは彼を支えています。 そしてマスター達もミカエルがちゃんと決断できたことを喜んでいます。 「な、大丈夫だって言ったろ?」 「私が言い出さなかったら今日中にここまでいかなかったんじゃない?」 さりげなく茉莉がマスターにご褒美をねだっていますね、私には分かりますよ。だって家族ですから。 とりあえず、私もがんばったのでご褒美をもらっても良いはずです。だから私もさりげなく茉莉に便乗させてもらいます。 「茉莉、でもそれは私も考えてたのですが、突然茉莉が言ってしまってみんなをびっくりさせてのですよね…私は皆さんを動揺させずに言えるか結論をだした瞬間に」 「え!? ホント?」 「私は嘘は言いませんよ、ですよねマスター?」 「あ、ああ。ソウデスネ」 マスターはこの後の子とを考えて頭がフリーズしてしまったみたいですね。 今日の夕食とデザートは豪勢なものになる予感がします。 「あ~~~~~~~!!!!しまった!!」 突然マスターが大声を上げました。 何かだいじなことを忘れていたのかもしれない、それが致命的なことだったら…そんな怖気が身体を駆け巡り、私は強い声でマスターに聞いたのです。 「マスター!? なにが!?」 しかしマスターの表情はすぐさま軟らかい?というか負い目を感じてるようなものに変化。そして。 「リン、すまない。鳳凰杯の次の試合だったんだけど連絡もしてなくて棄権扱いになったw しかも連絡してないから俺のランクポイントが10減少っていうペナルティ付きでなorz」 こんな一言で返すのです。 そこで茉莉が思い出したように手をたたきました。 「あ~、あの放送ってやっぱり亮輔のこと呼んでたんだ」 「お姉様が心配するあまり、先にやるべきことを忘れてしまう…ご主人様の悪い癖ですわw」 「あ、そうか鳳凰杯の予選とミカエル戦でポイントは8稼いでたはず…マイナス2ポイントなら我慢できるな…」 「マスター、私はミカエルを救えただけで十分に満足です。ですから…今度からはそういうことは早く言ってくださいね。」 ミカエルに関することで無くて安心しつつも、こっちも十分に大事なことだったのでやんわりとマスターをしかってあげました。 そして私は茉莉にウィンクを。それで事情を察した茉莉も 「そうそう、ハッピーエンドってことでみんなでご飯食べに行きましょう~全部亮輔のおごりね」 「…ああ、ヨソウハツイテイマシタカラゴジユウニシテクダサイ」 準備を終えた鶴畑大紀の肩に乗っていたミカエルが私に声をかけました。 「リン、また遊んでね?」 「はい。ミカエルもお元気で。」 「うん、また。」 これは私とミカエルの始まり。そして 「今回は、世話になった。 いや。なりました。地道にがんばります。」 「ああ、がんばれよ、兄貴に負けるな。」 「でわ…」 マスターと鶴畑家との奇妙な関係の終わりであり、言い方を変えればこれも始まりかもしれません。 こんな感じでいつも通り、何かしらの騒動に巻き込まれてそれを解決(?)して私とマスター、そしてみんなの鳳凰杯は幕を閉じたのです。 マスターの財布の中身が一気に3桁台になるという悲劇?いや喜劇ですね。と一緒に… ~武装神姫のリン 鳳凰杯篇 Fin~
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{武装神姫についてと俺について} あの事件(俺の後頭部が机に炸裂)してから一週間が経った。 それからというものの、アンジェラス、クリナーレ、ルーナ、パルカは色々な事をしはじめた。 アンジェラスとパルカは料理や掃除がやりたいと言い、俺は武装神姫用の包丁や掃除機とかを作り渡した。 クリナーレは何か運動するものが欲しいと言い、武装神姫用のダンベルとか作り渡した。 ルーナはパソコンがやりたいと言い、俺のパソコンを貸した。 まぁ、人それぞれに趣味があるのは当然な事。 だから俺は、こいつ等が何が欲しいとか何が必要とか言われれば作ったり準備してやった。 だが、やる分には構わないが余計な事はしないで欲しかった。 アンジェラスとパルカは料理にしろ掃除にしろ全然道具の使い方が酷かったために台所は地獄と化し滅茶苦茶になる、クリナーレはダンベルをグルグルと回し俺が『危ないぞ』と言った瞬間にクリナーレがダンベルを持った手がすっぽ抜け俺の顔に命中する、ルーナは俺のパソコンに入ってる秘蔵のコレクション(主にエロゲーとか…)をやろうとするし。 もう酷いの一言しか出ない。 そんな感じに生活してい訳だ。 俺はというと武装神姫について調べていた。 武装神姫とはなんぞや。 まぁ、この一週間で大抵解った。 自分の武装神姫を他の神姫と戦わせたりトレーニングをやらせて育てる。 ゲーム風で言えば育成シュミレーション。 悪く言えば娯楽のための人形遊びだ。 しかもこの武装神姫は結構奥が深く、色々とヤバイ噂もある。 表の世界は武装神姫を普通に育てる。 なら裏の世界はどうなのだろうか。 実は裏の世界は現実的に酷いものばかりだった。 市販されてる武器を改造したりオリジナルの武器を作って、その武器を使って神姫達に闘わせ、どちらかが破壊されるまでやらせるデスマッチ。 軍事利用で暗殺型用とかスパイ型用に武装神姫を作ったり。 人間で言うドーピング…神姫用のドーピングを使って身体的と能力的を強くさせたり。 後はそうだな…愛玩用にする。 簡単に言えばダッチワイフだな。 そりゃあ人間の女の形をしてるんだもん。 作りたい気持ちは解るが、俺にとっちゃぁそんなのただの外道としか認識できない。 そんなにやりたければ性風俗店に行けばいいのに。 とまぁ、一応代表的なものを上げた。 そんな奴等を俺はアンダーグラウンドの住人と思っている。 表があれば裏がある。 世の中よく出来てるぜ。 けど、俺はどちらかと言うとアンダーグラウンドの方の人間だな。 勿論、アンジェラス達にそんな下らない世界の武装神姫には絶対させない。 こいつらを預かってる姉貴にも迷惑がかかるしな。 まず第一に俺のプライドが許せない。 「ねぇねぇ、アニキー」 そう無垢なる彼女達を守らなければ。 「アニキってばー」 俺はそう心に誓ったのだ。 「シカトするなー!」 ギューーーー! 「イッテー!?」 クリナーレが俺の髪の毛を引っ張る。 結構、痛いです。 「ボクの事をシカトするなよ!」 「…イテテテ。あぁ~悪かったな。で、何か用か?」 引っ張られた髪の毛を摩りながらクリナーレの用を聞いた。 するとクリナーレは一丁の銃を取り出した。 その銃は名は『モデルPHCハンドガン・ヴズルイフ』という武装神姫用銃である。 神姫ショップで一般的に売ってる銃。 だが、クリナーレが持っている『モデルPHCハンドガン・ヴズルイフ』はちょっと違う。 何故なら…俺が見よう物真似で作った銃なのだから。 「ゲッ!?クリナーレ、その銃を何処で見つけた」 「え~と、隣の部屋の机に大事そうに飾られてたから、そこからちょっと借りただけだよ」 「まだ使っていないだろうな!」 「う、うん。もしかして怒った?」 クリナーレは申し訳なさそうな顔をした。 「いや、怒ってねぇーよ。他の皆はその武器や他の武器の事知ってるのか?」 「今の所、ボクだけだと思う」 「そうか。よかったぁー」 「よかった?」 「あ、こっちの事だ。でもちょっと皆に話す事が出来たな。クリナーレ、皆を呼んで来てくれ。それと銃は没収だ」 「えー、今からこの銃でトレーニングしようと思ったのにー」 「話が終わったら嫌になる程使わせてやる。だから皆を呼べ」 「約束だよー」 不満そうにクリナーレは俺の左手の手のひらに乗り、俺は地面に左手を置くとクリナーレはアンジェラス達を呼びに行った。 もう見つかってしまったらしい。 あの銃には色々とやっかい事があるというのに。 いや、あの銃に限らず他の武器も色々とヤバイ。 これで今まで黙ってきた事がバレる。 でもまぁ、何時かバレる日はくる。 なら日が浅いうちに言っとくべきかもしれない。 「みんなを呼んで来たよー」 クリナーレが戻って来てその後ろにはアンジェラス、ルーナ、パルカの順に来てくれた。 「何か御用ですか?」 「遊んでくれるの?」 「まさか、私達をリセットするんじゃ…」 「まぁ用事といえば用事かな。それとパルカ。リセットなんかする訳ねーだろうが」 ホッとするパルカ。 まったく、何処まで臆病なんだよ? そんなに俺が怖いのか? もしそうならちょっとショックだな。 って、今はそれよりも。 「それじゃみんな。俺の肩に二人ずつ左右に乗っかってくれ。地下に案内するからさぁ」 「へぇー、地下なんかあったんだこの家。ボク知らなかったなぁ」 「地下でエロい事するつもりですわね」 「んな訳ねーよ。それともルーナだけ放置プレイしてやろうか?」 「放置は嫌ですぅ~」 ルーナはルーナで何だかエロ方面の方向に話そうとするし。 ちょっと、ムラムラとくる言葉に誘惑される俺だが理性が強い俺はそう簡単に落ちないぜ。 俺は中腰をして机と同じぐらいに肩の高さ合わせる。 トコトコ、と俺の方に移動するアンジェラス、クリナーレ、ルーナ、パルカ。 右肩にクリナーレ、パルカ。 左肩にアンジェラス、ルーナ。 みんなが肩に移動し終わると俺は地下に向かった。 …。 ……。 ………。 「ここがそうだ」 パチ、と電気を入れ部屋が明るくなる。 とても大きな部屋で壁は無機質なコンクリートで覆われ、机が二つと色々な道具が置かれている。 なんとも味気の無い部屋。 肩に乗せてるアンジェラス達を机に下ろし、クリナーレだけ右手の手のひらに乗っける。 アンジェラス達は『なんでクリナーレだけ』と不思議そうに思った。 俺はすぐその場に厚さ10ミリのドアぐらいの大きさの鉄板が置かれてる場所まで行き。 「こいつを撃つんだ」 クリナーレに命令した。 命令した後、鉄板から7、8メートル離れてから先程クリナーレから取り上げた『モデルPHCハンドガン・ヴズルイフ』を渡す。 クリナーレは俺から渡された銃を構える。 とても綺麗な構え方だ。 やはりそのようにプログラムされているのだろうか? いやいや、その考えは止めとこう。 俺は彼女達を人間同様に扱うと決めたばかりじゃねーか! 左手をクリナーレの背中に触れるギリギリでとめとく。 この行為が無駄になれば嬉しいのだが…。 「せい!」 バキューン! 「うわぁ!?」 「クゥッ!」 撃った衝撃でクリナーレが後ろに吹き飛ばされて、俺が予め用意していた左手でクリナーレを掴み助け、すぐさま右手でクリナーレ覆う。 だが助けた俺の身体はクリナーレが撃った衝撃を全て受けたため、バランスを崩し尻餅をついてから倒れた。 「ご主人様!?」 「ダーリン!?」 「お兄ちゃん!?」 机の上で叫び心配する三人。 「安心しろ、大丈夫だ」 俺は上半身だけ起こし、閉じた両手を開いてみる。 どうやらクリナーレは無事みたいだ。 けど自分を両手で抱くように縮こまって小刻みに身体を震わせている。 いったいどうしんだ? 「クリナーレ、大丈夫か?」 「…あ、あっ…アニ…キ…」 涙目になっているクリナーレ。 どうやら銃を撃った反動で恐怖を感じたみたいだ。 無理もない。 市販で売ってる銃はあんな反動は無いからなぁ。 やっぱり撃たせるんじゃなかった。 クリナーレを怖らがせてしまったのだから。 「大丈夫。もう大丈夫だ」 「アニキ…ボクは…」 「何も言うな、怖かったんだろう。なら今は甘えていいんだぞ」 「アニキー!」 クリナーレが俺の胸元の服を両手で掴んで泣く。 「怖らがせてゴメンな」 俺は謝る事しか出来ない。 所詮その程度の人間。 「ご主人様、大丈夫ですか?」 「ホッ。案外大丈夫そうね。心配したんだからねー」 「よかったですー!姉さんもお兄ちゃんも無事で!!」 「お前等…」 アンジェラス、ルーナ、パルカが俺の左太もも辺りで心配そうにしていた。 あの高い机からどうやって飛び降りたのだろう。 まぁ今はいいや。 こいつ等も安心させないとな。 「俺は大丈夫。ただクリナーレが怯えちゃったかな。ワリィ事しちまったぜ」 「いえ、ご主人様は悪くないですよ」 アンジェラスが俺を慰めてくれる。 何故、こいつは俺の事をここまで気にかけてくれるのだろうか? まるでアンジェラスだけが特別な神姫みたいに感じる。 「サンキューなアンジェラス。みんな、あれを見てくれ」 顔で合図し、鉄板が置かれてる場所を見てもらう。 アンジェラス、ルーナ、パルカは鉄板が置かれた場所を見る。 「そ、そんな…」 「…うわ~」 「…酷い」 三人はそれぞれ別の驚愕を示した。 三人が見た物は、鉄板が二つに別れ真ん中の部分は粉々に吹き飛んでいた光景だ。 たった一発の弾丸で頑丈な鉄板が半壊の粉々。 とんでもない威力だ。 「あの銃は俺が作ったんだ」 「そんな!だって、あれはどうみても」 「市販されてる『モデルPHCハンドガン・ヴズルイフ』の銃って言いたいんだろ、アンジェラス」 「そ、そうですけど」 「あの銃は見ようもの真似で作った物だ。…姉貴が武装神姫関係の会社で働いてるのを知っているよな」 無言で頷くアンジェラス。 目は真剣そのものだ。 「俺は何か物を作るのが好きなんだ。まぁ趣味みたいなものだな。それで姉貴の会社に行き、武装神姫関係の武装や装備のデータをパクッて、それをベースにして俺が作ったオリジナルの武器が出来上がる訳よ」 「ご主人様…もしかしてご主人様は…」 「そう、俺は違法な武器を作っちまった。他にも色々と悪い事を沢山やってきた…犯罪者という訳になるかな」 アンジェラス、ルーナ、パルカは沈黙した。 まさか自分のオーナーが武装神姫の違反者だとは思わなかったのだから。 しばし無機質な部屋の沈黙が訪れた。 だがその沈黙はすぐに消えた。 「そんなの…関係ないよ」 声の主はクリナーレだった。 泣いたせいか目が充血していた。 「アニキは酷い奴じゃないよ!実際こうしてボクの事を守ってくれたあげく、心配までしてくれるんだから!!」 「クリナーレ、お前…」 「アニキ!ボク達は例えアニキが悪い事をしていても大丈夫!!ねぇみんな!!!」 必死で俺を庇うクリナーレ。 嬉しかった。 ここまで他人のために言ってくれる奴はそう簡単にいない。 「クリナーレ、大丈夫よ。私達が、ご主人様を軽蔑するわけないじゃない」 「そうよ。この一週間一緒に暮らしたけど、とても悪人面に見えないしダーリンはとても恥ずかしやがりさんなだけですわ」 「姉さん、私はお兄ちゃんに色々な事を教えてもらいました。私に教える時のお兄ちゃんは笑顔で言ってくれます。そんなお兄ちゃんが悪人には見えません!」 今度はアンジェラス達が言ってくれた。 まったく、どうしてこいつ等はこうも馬鹿なんだろうか? 犯罪者が悪人に見えない。 馬鹿じゃん。 本当、お人よし過ぎる馬鹿者達だ…こいつ等は。 嬉しくて涙がチョチョギレルわい。 「ほんと、お前等ていうやつは…」 こいつ等といると俺の心はなんだかとても軽くなる。 今までやってきたった行いは殆ど悪い事が多い。 それも生きる為という肩書きという理由で…。 まぁ色々悪行三昧してきた訳よ。 なら今から俺がやってきた罪はどうやって償うべきか…。 罪は後で考えるか、今はこいつ等のめんどうみる事が最優先だ。 「よし!気を取り直すついでに飯でも喰うかぁー!!」 ガバッとアンジェラス達を両手で掬い上げ俺の胸に抱き寄せる。 少し恥ずかしいけど俺はアンジェラス達にニコヤカに笑って見せた。 「ご主人様!」 「アニキ!」 「ダーリン!」 「お兄ちゃん!」 「今日は俺の手作りの飯だ。心して喰えよ!」 「嬉しいです、ご主人様」 「やったー、アニキの手作りの料理美味いだよなー」 「あらあら、生活費がヤバイのにそんな大盤振る舞いしていいんですか?」 「ルーナさん、お兄ちゃんの事ですから大丈夫ですよ」 ワキャワキャっと喋りにながら一階に向かう。 これからはこの大切で大事なひと時を俺は守っていこうと思った。 今日の出来事で今までの俺にさようならし、俺は新しくなった。 さぁー、俺の新たな生活の始まりだ!