約 1,954,186 件
https://w.atwiki.jp/anirowakojinn/pages/3304.html
作者・◆sfUPBD09GlMk氏 二次作品バトルロワイアル本編 二次作品バトルロワイアル本編SS目次・時系列順 二次作品バトルロワイアル本編SS目次・投下順 二次作品バトルロワイアルキャラ別SS表 二次作品バトルロワイアルの参加者名簿 二次作品バトルロワイアルのネタバレ名簿 二次作品バトルロワイアルのルール・マップ 二次作品バトルロワイアルの死亡者リスト 二次作品バトルロワイアルの支給品一覧
https://w.atwiki.jp/anirowakojinn/pages/146.html
作者・Mr.後困る◆L5hImrrPlM氏 スイーツバトルロワイアル本編 スイーツバトルロワイアル本編SS目次・時系列順 スイーツバトルロワイアル本編SS目次・投下順 スイーツバトルロワイアルキャラ別追跡表 スイーツバトルロワイアルの死亡者リスト スイーツバトルロワイアルの支給品一覧 スイーツバトルロワイアルの参加者名簿 スイーツバトルロワイアルのルール&マップ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2760.html
『対戦相手求む!』の表示がされたスクリーンの真下にある扉を開き、僕たちはバトルスペースへと入り込んだ。 どうやらここの神姫センターはバトルする神姫のマスターは個室に入る仕組みらしい。個室の中にはおそらくバトルする神姫の様子を見ながら指示を出すためにつかわれるのであろう壁いっぱいの大きなモニターとヘッドセットとキーボード。そして神姫を戦場へと送り込むパネルがあった。 まるで公衆トイレのような狭く薄暗い空間に妙な落ち着きを感じてしまい、僕は立ち尽くす。 「ダイチ、なにぼーっとしてんのさ速く速く!」 ランにそう急かされわれに返った僕は、カバンを床に置きパーツの入ったケースを取り出した。 少し迷ったのちに白いパーツを取り出しランに次々と装着していく。 武装完了となったランをモニターの下に取り付けてあるパネルに近づける。するとモニターから光とも煙ともしれない白い靄が現れ、ランはパネルの中へと吸い込まれていった。 バトルステージへと転送されたのだ。 僕の手元から転送されていったランが草木のほとんど生えていない岩場に現れたのを僕はモニターで確認した。 今回のバトルステージは荒野だ。大きな岩や地面のくぼみ以外あまり隠れる場所も大したギミックもないオーソドックスなステージである。 「ラン、油断するなよ」 僕はヘッドセットを使いマイクテストも兼ねてランに声をかける。 「わかってるって。久々のバトルだ。全力でいくよ!」 ランはそう言いつつ地面を蹴り、低空を勢いよく移動し始めた。 ちなみに今回のランの装備はなんの変哲もないストラーフの標準装備である。 もちろんランは『白黒子』であるので黒ではなく白い装甲だがそれ以外は普通に神姫ショップで売られているストラーフと見た目はまったく同じ、いわばどノーマルの状態である。 一見なんの捻りもなく弱そうに思えるかもしれないが、特に目立った癖もなく、ランも生まれた時から使っている装備なのでミスもしにくいため、この装備を僕とランはけっこう気に入っている。 今回のように僕たちが初めて来た土地や、長くバトルから離れている時はこの標準装備にすることも少なくなかった。 作者が装備を考えるのが面倒くさかったとかそういうことでは決してない。 「うわっと!?」 ヘッドセットからランの驚いた声が聞こえてきた。 どうやら攻撃を受けたらしい。 「ラン、大丈夫か!」 「うん、なんとか避けた。今のは……!?」 僕もはっきりとは確認できなかったがランの斜め後方から光線が何本か飛んできたのはわかった。 ランは投刃武器であるフルストゥ・クレインを2本取り出し構えると、先ほどよりも速い速度で光線の飛んできた方向へと移動する。 通常のストラーフとは比べ物にならないほどの加速と最高速度。この機動力こそ『白黒子』の最大の特徴のうちの1つであるといえる。 僕はモニターを穴があくほどにらみつける。先ほど光線が発射されたとされる付近を観察した。 すると大きな岩と岩の間、ちょうど影になって見難い場所に薄緑の尻尾が揺れるのを発見した。 「ラン! 岩の狭間だ!」 僕が指示を出すと同時にランが素早くフルストゥ・クレインを投擲した。 するどい2本の刃が回転しながら飛んでいき、片方の刃はわずかに左にそれ岩に深々と突き刺さり、もう片方は素早く引っ込められた尻尾をわずかに掠めて地面に刺さった。 次の瞬間、岩の狭間から神姫の影が飛び出してきた。と同時に先ほどの光線がまた飛んでくる。 ランはそれを身を捻りつつなんとか避けながら素早く距離をとり砂地の上に着地する。 「へえ~、てっきりアーンヴァルかと思ったら白いストラーフじゃんか。リペイントバージョンなんて今時珍しいねえ」 ランの遥か上空から声が聞こえてきた。どうやら相手神姫はいつの間にか空へと飛び上がっていたらしい。 「お前ここらじゃ見かけない顔だなあ。オレのプチマスィーンズたちの奇襲を1発も被弾しなかったヤツなんて久しぶりだぜ」 そう言って偉そうに腕組みをしながらフワフワと浮かんでいるのはハウリンであった。まるで男のような雄雄しいしゃべり方だ。 基本的なハウリンの標準装備に黒き翼とアーンヴァルのエクステンドブースターを装備している。本体の周りにはプチマスィーンズが飛び回っていた。 ランは相手のハウリンの姿を確認すると、相手と同じ高さまで飛び上がった。 「ボクたち今日ここに引っ越してきたんだ。アンタけっこう強そうだけど、あの程度の射撃ボクにとっては屁でもないね」 ランはそう言って相手と同じように偉そうに腕を組んだ。ちなみに屁でもないなどと強がってはいるが、先ほどの攻撃は言うほど楽に避けたわけではないはずだ。少なくとも僕にはそう見えた。 しかし相手のハウリンにはそれが強がりとわからなかったのか、フンと鼻を鳴らすとこめかみのあたりをヒクヒクさせた。 「ふふん、調子に乗るなよ。洗礼としてオレがボコボコにへこませてやんよお!」 威勢よくほえるハウリン。てっきりそのまま突っ込んでくると思い、僕とランは身構えたがハウリンは素早く踵を返すとブースターを噴射させながら飛んでいった。 「あれれ? 逃げちゃったよ?」 「油断するなよラン、なにかの罠かもしれない」 僕は釘をさしたが、ランは「へーき、へーき」などといいながら全速力でハウリンの後を追い始めてしまった。止めようかとも思ったがいずれにせよランは遠距離戦は得意ではない。近づかなければ正気はないため僕はそのまま行かせることにした。 その後も相手は一向にこちらと積極的に戦おうとはせずに、逃げ回ってばかりいた。 近接距離での真っ向勝負が大好きなランにとってはまったく面白くないらしく、モニターに移る横顔は明らかにイラついていた。 「あー! もうっ! 逃げ回ってばかりじゃなくてちゃんと戦いなよ!」 とうとう癇癪をおこし、ランはそう叫ぶ。 しかし相手はまったく答えることはなく、そのかわりに遠隔操作されていると思われるプチマスィーンズによる射撃がランの死角の位置から飛んできた。 「うわあ!」 被弾。 普段のランならばなんなく避けることができる程度の攻撃だったが、イラついているせいか、動きが大雑把になってしまっている。 相手が機動力を生かして逃げ回り、それを追いかけるランが焦れたところをプチマスィーンズによる他方向からの攻撃。先ほどからこのパターンの繰り返しだ。 1つ1つはたいして痛くもないがダメージは確実に蓄積している。 僕はモニターの右上に表示されているランと相手の残りエネルギー残量を確認する。 相手はいまだに9割以上のエネルギーを残しているのにくらべ、ランの方は残り5割に近づこうとしていた。このままではジリ貧だ。 「しっかし、あの好戦的なハウリンにここまでクレバーな戦法をとらせることができるなんて……相手のマスター、かなりのやり手だな」 僕は素直に感心してしまった。 普通ハウリンと戦う場合はナックルや打撃武器といった近接武器でガシガシ打ち合う戦いになることが多いのだが、このように距離を取りまくるハウリンというのもなかなか珍しい。 神姫の性格に合っていない戦法をとるのは難しいはずだ。神姫と話し合い、心を通わせて、なれない距離の戦いの修練の積み重ねが必要になってくる。 僕も時々ランに遠距離戦の指示を出してみることもある。が、うまくいったためしはほとんどない。根っからのインファイターにアウトサイドな戦いをさせる難しさはよく知っているつもりだ。 それなのにあそこまで見事なヒットアンドアウェイを見せられるとは。ただただ、相手のマスターの技量を尊敬するしかなかった。 「感心してないでなんとかしてよお! このままじゃ負けちゃうよ!」 ランが顔を真っ赤にしながらそう叫んでくる。 僕は残り時間を確認する。あと1分。時間切れになれば判定で相手の勝ちだ。 どうする? 僕が悩んでいると、向こうのハウリンが喋りかけてきた。 「へへーん、たいしたことないな新入りのストラーフ! そんなザマじゃあこの街では通用しないぜ!」 「なんだとお!?」 ランの顔がさらに赤くなる。やかんでものせればお湯が沸かせそうだ。 「くやしかったらついてきな。ここで相手してやるよ!」 そう言ってハウリンは小高い岩山に掘られた、原始人でも住んでいそうな洞窟に入っていった。あからさまな挑発とあからさまな罠だ。 ランはその入り口で急停止する。ランも罠に誘われていることに気づいたのだろう。 しかし僕は停止したランに向かって叫んだ。 「止まるな、突っ込むんだ! ラン!」 僕の一声にランは一瞬戸惑ったが、すぐに加速して洞窟のなかに突っ込んでいく。 「こうなったら賭けにでるしかない……」 僕の意図を察したのか、ランも覚悟を決めた表情でうなずいた。 第四話 決着とそれから
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1207.html
SHINKI/NEAR TO YOU Phase02-2 rondo 「本物のヴァイオリンかぁ……」 校庭を眺めながら、シュンは人知れず呟いた。 日曜の昼から降り出した雨は、結局今日も降り続いたままだ。 「どうしたのよ、シュっちゃん。ため息なんかついて?」 向かい合わせた机ごしに、幼馴染の伊吹舞が覗き込んでくる。 「別に、なんでもねーっすよー」 肩をすくめながら、シュンは机の上に広げた弁当をパクつく。 また誤魔化そうとしてる――その様子を見て伊吹はピンときた。 「それって今日、ぜっちゃんが一緒じゃない事と関係ある?」 「ぶほっ!?」 「シュン、汚いの~」 むせて目を白黒させるシュンを見て、ワカナがサンドイッチを抱えながら伊吹の肩に飛び乗った。 (図星か……ホントにシュっちゃんてば昔から分かりやすいなぁ) ワカナから受け取ったサンドイッチを頬張りながら、伊吹は呆れる。 「それで、一体何があったのよ?」 伊吹がそう尋ねると、シュンがまだ渋っているのを見て関節技で成敗! 「ギ……ギブアップ。分かったよ。話す、話すからっ!」慌てるシュンの姿に満足しながら、伊吹は事情を聞き出した。 「ふ~ん、武装神姫がヴァイオリンをねぇ……」 シュンが日曜の出来事を説明すると、話を聞き終わった伊吹は首を傾げた。 「話は分かったわ。でもそれだけじゃ、ぜっちゃんを学校に連れてこなかった理由にはならないよね?」 「まだつづきがありそうなの~」 シュンはまたため息をつきながら、あの後起こったことを思い出していた。 チカの話を聞き終わった後ちょっと揉め事があった。 発端はゼリスだ。真摯に相談するチカを、ゼリスが頑として突っぱねたのだ。 「相談されたところで私たちにはどうしようもない問題です、そのことはすでにメールでは伝えておいたはずでしょう? それなのに、何故直接会いに来てまでそれにこだわるのか、私には貴女の考えが理解に苦しみますね」 そっけないゼリスにチカは押し黙った。 見かねたシュンはふたりの間に割って入ったのだが――それがいけなかった。今度はシュンとゼリスで口論になるところを、優がストップ。ゼリスは優と一緒にリビングを出て行ってしまった。 しばしの気まずい沈黙の後、シュンは連絡先だけ交換して、その日は耕一とチカに帰ってもらうことにしたのだった。 「彼女が――チカがあんなことを言い出したのは、祖父のことがあるのかも知れません」 帰り際に、耕一がシュンにポツリともらした。今回のチカの行動は耕一の祖父に関係があるのだ、と。 「僕の祖父、和光章典は名の知れた音楽家です。僕も祖父から音楽を学びました。その祖父が先月病で倒れてしまって――ええ。倒れたといってもそう深刻な訳ではないのですが……何分高齢なものですから。チカはそんな祖父にヴァイオリンを聞かせることで、彼女なりに元気付けようと考えたのでしょうね……」 去っていく耕一を見送りながら、シュンにはその後姿が寂しそうに見えた。 「それを聞いたシュっちゃんは、ふたりの願いを叶えようとか思っちゃった訳ね」 悪いかよとムスッとした顔をするシュン。それを見て伊吹は呆れと同時に、何だかおかしくなった。 (全くぅ。それで自分たちがケンカしてちゃ意味ないでしょうに。でもそんなところが、シュッちゃんらしいのかしら……) 伊吹がそんなことを考えているとはいざ知らず。シュンは隙をみてトマトサンドを盗み盗ろうと企み、伸ばした手をワカナがブロック。そのままパスされたサンドイッチをぱくりと齧りながら、伊吹はシュンに告げた。 「それで? 私にできることなら手伝ってあげるわよ」 ♪♪♪ 「すまん。いろいろ考えたんだけど、他に思いつかなかったんだ。神楽さんと連絡を取りたい」 考え抜いた末の方法がそれだった。 あれこれ頭を捻って、幼馴染に手を合わせてまでした結果が人を頼ることというのは、正直シュン自身少々……いや、かなり情けないとは思うのだが。背に腹は変えられない。 つまるところ、自分は結局ただの中学生な訳だし。 その点、神楽さんならいろいろとこの手の情報にも詳しいだろうし、頼るには打ってつけだ。シュンの知る人の中では、こんなときに最も頼りになる人のはずだった。 ただ以外だったのは、シュンがこのことを話すとき伊吹がどこか複雑な表情をしていたということだ。 「いい? コンタクトが取れたからって、あの人が必ずしもシュっちゃんに協力してくれるとは限らないんだからね? それと私がやるのはあくまでも最初の仲介だけよ。その後の交渉は直接シュッちゃんがすること」 それと、後で〝仲介料〟として駅前のカフェで特大のパフェを奢ること――それがこの件に関して伊吹が出した条件だった。 ちなみに、駅前のカフェの人気メニュー「スペシャル・デラックス・パフェ」の価格は1190円だ。 背に腹は変えられない……。 そして、それに見合うだけの価値は、あった。 「やあ、久しぶりだね。本当はもう少し早く連絡を……と思っていたのだが、何分うちの教授がこのところうるさいのでね。ところで、ルイス・スティーブンソンはコカインの力を借りて三日三晩でかの『ジキル博士とハイド氏』を書き上げたそうだよ。これを例に、あのボンクラが惰眠にふけっている間を見計らってその方法を実践してやれば、少しはあの愚昧な頭脳からも先鋭的なアイデアを引き出すことが可能ではないかと僕は考えるのだが、君はどう思うかな? …………ああ、すまない。そうそう、先日の依頼の話をしていたのだったね。しかし、身近に舞という対象がいながら、君もどうしてなかなか、隅に置けないな」 PDA(ケータイ)に出るなりの、機関銃のごとき喋り。 「いや、分かっているよ。聞くところによると、君の神姫はなかなかに可憐だという話じゃないか。若き衝動を受け入れ、ただ突っ走ることも君くらいの年代には時には必要なのさ。このような形で愛を確かめ合うこともひとつの在り方だよ。 …………何? 話が見えてこないが、依頼内容は君の神姫が人の営みをこなすにはどのような方法があるか、でははなかったのか? …………ふむ。なるほど。くっくっく……はは、すまない。どうやらこちらの早とちりだったようだね。いや、神姫を人間にする方法はないかときたのもだから、僕はてっきりそっちの意味だと…………え、何を言っているのか分からないって? ああ、聞き流してくれて構わないよ。 閑話休題、話を戻そう。――ふむ、武装神姫にヴァイオリンを……か。君はやはりなかなかおもしろいことを考えるね。 …………大丈夫、それならば心配はいらないよ。その要望なら僕が調達したもので十分に間に合うはずだ。その点については安心してくれ給え。さて、さしあたっての詳しい段取りだが、まずは今度の日曜日に…………」 電話を終えたシュンは大きく伸びをした後、PDAをベットに放りそれから自分もバタッと倒れこんだ。 相変わらず神楽さんは変わった人だが、やはり頼りになる。 一時はどうなることかと思ったが、これでチカと耕一の願いを叶えることができるはずだ。そうとなれば―― よっとシュンは立ち上がる。 (まずは教えて貰った連絡先に電話して、耕一とチカに教えてやらなくちゃな。それに、伊吹にも教えとくか。あいつのお陰でうまく方法が見つかった訳だし、奢りの件とは別にお礼でも言っておかないとな) 考えをまとめながらシュンが部屋を出ようとすると、廊下にゼリスが立っていた。 方法を探してる間、ゼリスはそんなシュンを見て一切の口出しもしてこなかった。面倒がなかったといえばそうだが、なんとなく気まずい。 あの日曜日の口論以来、シュンはゼリスとあまり話していない。それどころか、ゼリスの方がシュンを避けているらしいことを薄々感じていた。 今もゼリスが優の部屋から出てきたところに、偶然出会わせてしまったらしい。 いつもツンとしたポーカーフェイスだから分かりづらいが、ゼリスの方もどことなくバツが悪そうに見える――のは、シュンの思い込みじゃないはずだ。 「シュンのその顔を見ると、何か進展があったようですね」 「ああ、そうだ。神姫にヴァイオリンを弾かせる方法が見つかったよ」 シュンがそう返してもと、ゼリスはそのことにまるで関心がないかのように「そうですか、よかったですね」とそっけなく言うだけだった。 チカの話を聞いたときは、あれだけ柄にもなく大反対してたクセに――。 別にいいさ。 シュンはゼリスの希薄な反応を気にせずに、階段へと向う。 あいつもあの時はあれだけ無理だと言っていた手前、やっぱり相当バツが悪いんだろう。チカの夢が叶うのをみんなで一緒に喜べば、そんなのも気にする必要ことないって分かって、ゼリスの機嫌もきっと良くなるさ。 シュンはそう結論付けると、彼の部屋をジッと覗き込むゼリスを残し、リビングへと降りていった。 忘れていたように家の外から聞こえる雨音に、なんとなくこの雨は当分降り続きそうだなと思いながら、シュンは受話器を手に取った。 そして、日曜日―― ♪♪♪ 空をどんよりとした雨雲が覆う中、シュンは摩耶野市駅に降り立った。 結局連日降り続いた雨は、今は辛うじて降っていない。ただ空の様子を見る限りでは、また一雨ありそうな気配だ。 そんな上空の様子を気にしつつ、待ち合わせ場所の駅南側にある高架広場に向かう。 南口からぺデストリアンデッキを抜けシュンたちが広場に出ると、すでに噴水脇に立っていた耕一が歩み寄ってきた。 「お久しぶりです、有馬さん。本日は本当にありがとうございます」 丁寧にお辞儀をされ、シュンは慌てた。解法を導いてくれたのは神楽さんなのだ。今回シュンはあくまでも間を取り持っただけで、そんなかしこまられることは……。 「いえ、有馬さんが私たちのためにいろいろと方々を駆け回って下さったことは伺っています。こうしてチカの夢が叶う方法が見つかったのも、有馬さんがいたからこそです」 「有馬さん、ありがとございます」 そういって耕一とチカに交互にお礼を言われると、シュンはなんともむずがゆい気分になってくるのだった。それに面と向かって頭を下げられると、照れくさいし。 頬をかきつつ、そこではたと気づきバックを持ち上げた。 「ほら。お前も挨拶くらいしろよ、ゼリス」 シュンは肩から提げたスリーウェイバックに声を掛ける。 「……私はただいまお昼寝中です。人間のみならず神姫にとって睡眠とは日々の活動を支える必要不可欠かつ、重要な要素。なので阻害しないでください……」 バックの中から聞こえるくぐもった声は、普段に比べ少し力が無いように感じる。 「あの……ゼリスさん、こんにちは」 耕一の手に乗ったチカが身を乗り出して、そんなゼリスに声を掛ける。それに対しゼリスはバックに篭ったまま「……ご無沙汰しています」とぼそぼそ返す。 どうにもこうにも。ふたりともこの間のことをまだ気にしているようだ。 ――気まずい。 「ええ~っと、それにしても遅いわね~」 重くなりそうな空気をいち早く察してか、伊吹がすかさず話題をそらす。ナイスだ、付き添いと称して勝手についてきたことだけはある。 「シュっちゃん、待ち合わせはここで合ってるよね?」 「神楽さんとの打ち合わせでは、駅前の噴水のところで落ち合うことになってるけど……」 と、そこで周りを見渡したシュンの目に、黒い影が写りこんだ。 黒い髪、黒い切れ長な目、黒一色のスーツに身を包んだ、影法師をそのまま繰り抜いたかのような特徴的な雰囲気の立ち姿。 神楽さんだ。 「さあ、着いてきてくれたまえ」 挨拶もそこそこに先頭に立って歩き出した神楽さんに連れられ、一行が向かった先はシュンのよく知っている場所だった。 「ここって、神姫センターじゃないですか?」 たどり着いたその場所は、摩耶野市駅から徒歩10分あまり。 弧を描いた近代的なガラス張りメインゲートが特徴的な、お馴染みの場所。神姫センター摩耶野市店だった。 「ちょっとシュっちゃん、神姫のヴァイオリンと神姫センターにどんな関係があるのよ?」 僕に聞くなよとシュンが思うそばから、神楽さんはエスカレータをすいすい昇っていく。 1階から吹き抜けを昇り、上のフロアを目指す。 7人(4人と3体の神姫)連れ立ってフロア内を移動する。ショッピングスペースの間を抜け、エスカレータでさらに上階に昇るなか、耕一とチカのふたりは珍しそうに階下の様子を眺めている。 伊吹とワカナは常連だし、シュンとゼリスにとってもこの神姫センターは馴染みの場所になりつつあるけど、耕一とチカはそもそもこういう所に来ることがないのかもしれない。 シュンがそんなことをチラッと考える間、エスカレータは神姫センターの中をどんどん昇っていく。 出し抜けに視界を、色取り取りの光が出迎えた。 立体モニターの映し出す派手な映像、刺激的なBGM、熱気溢れる群集。それらが取り巻くマシンに刻まれた大きなロゴ――BMA(神姫バトル・マスター・アソシエイション)。 一行が辿り着いたのは、最上階の神姫バトルホールだった。 「〝どうすれば武装神姫が本物のヴァイオリンを弾くことができるか〟。与えられた命題はそれだったね?」 出し抜けに神楽さんが本題を切り出す。 「はい。でも神姫が弾けるような本物のヴァイオリンなんてあるんですか?」 シュンの疑問に「そう、そこだよ」と神楽さんは頷き返す。 「音響学的制約から、神姫が扱えるように本物のヴァイオリンを神姫サイズまでスケールダウンする方法は、返って遠回りだ。神姫サイズの大きさでは、ヴァイオリンそのままの音色を再現できないからね」 確認するように一堂を見渡す神楽さんに、シュンは頷く。 そう。それで困ったからこそ神楽さんを頼った訳なんだけど――じゃあ、他にどんな方法があるんだ? 「簡単なことさ。ヴァイオリンを神姫に合わせようとするから、大変なのだよ。ならば、逆をすればいいのさ」 「……逆?」 思わずオウム返しに呟いたシュンは、耕一と目を合わせ首を傾げる。伊吹を見ても、彼女も肩をすくめるだけだ。 再び神楽さんを見ると、そこには愉快そうに微笑む顔があった。……そうだった、この人は昔からこんな風に相手を焦らしては、反応を楽しむような人だったっけ。 頭にクエスチョンマークを浮かべるシュンたちの反応に満足したのか、神楽さんは得意げに胸を反らす。 「ヴァイオリンを神姫に合わせられないのならば、神姫をヴァイオリンに合わせればいいのさ」 「そんな方法があるんですか?」 自信満々に言うなぁ。確かに理屈としてはそうだけど、そんな都合のいいことが本当に可能なのだろうか。 そんな疑念を抱くシュンらに対し、事も無げに神楽さんは答えた。 「可能だとも」 それを聞いてチカがパッ表情を輝かせ、続く神楽さんの「――ただし、条件がある」の言葉に顔を強張らせる。 「条件――ですか?」 耕一が問い返す。端整な顔に浮かぶのは困惑の色だ。他のみんなも思いがけない展開に意表をつかれ、神楽さんに疑いの目を向ける。 「ちょっとぉ! それじゃ話が違うわよ。ここまで来て急にそんなの、ずるいわっ」 伊吹が神楽さんに噛み付く。無理もない。当事者の耕一とチカはもちろん、シュンもこんな話は聞いていなかった。この場で何の反応もないのは、バックに篭ったままのゼリスくらいだろう。……呑気な奴。 しかし、神楽さんはそんなみんなの反応にも余裕の態度で、手をひらひら振ってみせる。 「ちっちっち、そう慌てるな。何もとって食おうという訳じゃない」 「どういうことですか?」問いかけるシュンに、神楽さんは意気揚々と喋りだす。 「何、簡単なことさ。この世の中は往々にして対価交換によって成り立っていると、僕は考えるのだ。例えば人の歴史で言えば、狩をすればそれに見合うリスクを背負う、水を引かねば稲穂は育たない。貝や賃金を払わねば物を得ることは出来ず、領地を得る代わりに俵を納めなければならない。 君たちにも身近な事例を挙げれば、電車に乗車するには切符を購入せねばならず、テストでいい点が取りたければ勉強しなくてはならない。 分かるかい? 量子力学レベルでは対消滅によって純粋エネルギーが作られる際に、それに値するだけの電子と陽電子が必要とされる。僕たちの生きるこの世界では、何かを得るためには、必ずそれに見合うだけのものを払わなければならないのさ」 「ようするに、耕一とチカも何か対価を払うべきってことですか?」 いきなりのマシンガントークに面食らう耕一に代わってシュンが確認する。つまりは神楽さんはその何かをしないうちは、方法を教えないつもりなんだ。 「対価といっても、何も代金を請求したりはしないよ。……おいおい、何だいその顔は。見くびってくれるなよ、確かに僕は一介の学生の身だが、君たちから金を頂戴するほど困窮にあえいではいないのさ。 それに、この件に関してはちょっとしたコネを使ってね。特に金は関わっていない。……まあ、その辺りは大人の話さ。くっくっく、あの愚昧な狸教授もこうした点では利用し甲斐があるというものだよ」 いや、その話はいいですから。そろそろ何をさせられるのか教えてください。耕一やチカが困っているんで。 「……そう急くなよ、先人の言葉には急がば回れ――などというものもあるだろう。ようは君たちの決意――意志の強さを見せてもらいたいのさ。だってそうだろう? こちらは然るべき手順を踏んで方法を模索したのに、半端な気持ちで応えられたのでは割に合わないと考えるのは、人としてリアルな感情というものだよ。 では、以下にしてそれを量るべきか――。答えは君たちという存在を考慮すれば、自ずと導き出される――」 くいっと親指で指し標す先にあるのは……武装神姫バトルの筐体? 「今から神姫バトルをしてもらう。ここから先の話はその後にしようじゃないか」 なるほど、ようやく話が読めた。ようするにこれからチカと耕一が試合をして、勝ったら方法を教えるって言いたい訳か。 「試合……ですか?」 「そうさ。私が用意した相手とこれから戦ってもらう」 耕一とチカを見下ろすように、神楽さんは不敵に笑う。 「もっとも辞退するなら止めないけどね。しかしその場合、この話はなかったことにさせてもらうがね」 今後同じように神楽さんを頼っても、次は協力してくれないって意味だろう。チカの夢を叶えるには、チャンスはこれっきり。ここで頑張るしかないってことになる。 「分かりました。……やらせてください」 緊張に固まる場に、小さいが強い意志を持った声が響く。耕一の手に乗ったチカが、決意を込めた眼差しでみんなを見渡す。その目が耕一と真っ直ぐに向き合う。 「チカ……」 「やらせてください、ご主人様。私、頑張りますから」 耕一とチカが見詰め合う。しばらくして「分かりました」と耕一は顔を上げる。 パンッと手を叩き、神楽さんが声を張り上げる。 「オーケイ、対戦カード成立だ。君たちの意志の強さ、見せてもらうよ」 筐体に歩み寄り、シートに片手をついてこちらを向く。神楽さんは人を食ったような笑顔。まるでチャシャ猫だ。 優雅な仕草で指を「パチン」とひとつ、鳴らす。その仕草に合わせて、バトルスポットに一体の神姫がスッと舞い降りた。 「では紹介しよう。彼女が君たちを試す調停者、今回の対戦相手だ」 神楽さんの宣言と共に、蒼い髪をかき上げるその小柄な姿に、シュンはあっと声を上げそうになった。 「――ゼリス?」 慌ててバックを除いてみると、そこはもぬけの殻だった。 「いいい……いつの間に? いや、それよりなんでお前がっ?」 「……ゼリスちゃんは神出鬼没なのです」 「いやいやいや、それ全っ然意味わかんないしっ!?」 口をパクパクさせるシュンを無視して、ゼリスはチカをビッと指差した。 「ということでチカさん。ここから先に進む道を得たいのならば、私を倒してからにしていただきましょう」 「さあ、そういうことだよ諸君。せいぜい頑張ってくれたまえ、ははははははは」 神楽さんとゼリスは声を合わせて笑う。心底楽しそうに笑う神楽さんに、明らかに棒読みの作り笑いなゼリス。……はっきり言って全然息があっていない。それが逆に怖い。 「どういうことなのよ、シュッちゃん」 そんなのはこっちが教えて欲しい。しかもふたりとも目がマジだ。 「……ゼリスさん」 意外なゼリスの登場に動揺していたチカも、状況を飲み込みキッとゼリスを正面から見つめ返す。 もう認めるしかない。ゼリスとチカ、ふたりは互いに友だち同士で武装神姫バトル対決を行うのだ。 ふと気がつけば、センター屋上のガラス窓から見える景色は雨に包まれていた。 ――ゼリスの奴、チカに反対していたけど、まさかこうも明らさまに邪魔をしてくるなんて……。くそっ、もう勝手にしろっ。 ▲BACK///NEXT▼ 戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1978.html
メニュー トップページ 作品ページ サイト内検索 検索 作品別直リンク (最終更新年度順) 完結作品 武装神姫のリン 戦う神姫は好きですか 妄想神姫 ツガル戦術論 2036の風 剣は紅い花の誇り クラブハンド・フォートブラッグ ホワイトファング・ハウリングソウル ハウリングソウル ウサギのナミダ アスカ・シンカロン 引きこもりと神姫 キズナのキセキ 魔女っ子神姫☆ドキドキハウリン 浸食機械 ゆりりね! 2015年 えむえむえす ~My marriage story~ 2014年 ぶそしき! これから!? デュアル・マインド 15cm程度の死闘 悪魔に憑かれた微駄男 Nagi the combat princess えむえむえす ~My marriage story~ 2013年 ねここの飼い方 白の女神と黒の英雄 深み填りと這上姫 キズナのキセキ 武装食堂 二アー・トゥ・ユー 2012年 美咲さんと先生 二人のマスター 類は神姫を呼ぶ 浸食機械 引きこもりと神姫 ライドオン204X フツノミタマ 白濁!? 阪高神姫部 白い英雄を喰う黒い女神 マイナスから始める初めての武装神姫 2011年 流れ流れて神姫無頼 アスカ・シンカロン MMS戦記 天海市神姫黙示録 UGV(仮) Forbidden Fruit すとれい・しーぷ 車輪の姫君 樫坂家の事情! Slaughter Queen Esmeralda. 2010年 おまかせ♪ホーリーベル 戦うことを忘れた武装神姫 Gene Less The Armed Princess―武装神姫― ウサギのナミダ PRINCESS BRAVE 神姫☆こみゅにけ~しょん アルトアイネス奮闘姫 ロンド・ロンド 2009年 せつなの武装神姫 双子神姫 鋼の心 ~Eisen Herz~ 犬子さんの土下座ライフ。 狛犬はうりん劇場 Memories of Not Forgetting Knuckle princess 2008年 武装神姫のリン 『不良品』 師匠と弟子 マリナニタSOS!(仮) 橘明人とかしまし神姫たちの日常日記 戦う神姫は好きですか スロウ・ライフ 徒然続く、そんな話。 妄想神姫 幻の物語 神姫ちゃんは何歳ですか? 剣は紅い花の誇り EXECUTION 武装神姫~ストライカーズ・ソウル~ 神姫長屋の住人達。 三毛猫観察日記 クラブハンド・フォートブラッグ 武装神姫と暮らす日常 ネコのマスターの奮闘日記 ホワイトファング・ハウリングソウル ハウリングソウル Heart Locate トバナイトリ>トベナイトリ 3Sが斬る! 天使のたまご Raven and Cat~紅き瞳と猫の爪~ 神姫大作戦 蒼空~アオゾラ~ 2007年 Mighty Magic 神姫狩人 凪さん家シリーズ HOBBY LIFE,HOBBY SHOP いつか光り輝く 幸せな神姫を戦場に立たせる会 春夏秋冬 アールとエルと Twin Sword s 俺とティアナの場合 ツガル戦術論 2036の風 きしぶし! 流れ星シィル-銀河流星伝説- 神姫ガーダーシリーズ sister G princess Les lunes Second Place -Howling- Elysion Report vanish archetype 鳳凰杯・まとめページ 単発作品用トップページ 武装神姫SS総合掲示板 2036年 武装神姫の世界 (公式設定) 50音順キャラクター図鑑 標準武装一覧 標準装備一覧 企業一覧 アマチュア・個人製作パーツ一覧 wiki相関図 キャラ相関図(2chまとめ版) 小道具関連設定 〈2つ名〉辞典
https://w.atwiki.jp/anirowakojinn/pages/2900.html
愛好作品バトルロワイアル 本編 愛好作品バトルロワイアル 本編SS目次・投下順 愛好作品バトルロワイアル の死亡者リスト 愛好作品バトルロワイアル の参加者名簿 愛好作品バトルロワイアル のネタバレ参加者名簿 愛好作品バトルロワイアル のルール・マップ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2417.html
キズナのキセキ ACT1-7「聖女のルーツ その1」 □ 火曜日。 『ポーラスター』で花村さんと話した翌々日、俺は早起きをして電車に乗り込んでいた。 今日は遠出である。 目的地は、I県のM市。 電車で二県もまたいで行かなくてはならない。俺もはじめて行く土地だ。 ほとんど小旅行であるが、大学はすでに入試期間中ということで休み。気楽な学生だからこそ出来る、平日の小旅行だった。 だが、俺の気持ちはそう気楽ではない。 M市は大学のキャンパスが集まっており、学生の街になっている。 桐島あおいが通っている女子大学もM市にある。 今日の目的地は、その女子大学の周辺……M市の駅周辺にあるゲームセンターである。 一昨日の花村さんの話で、俺にはどうしても引っかかっていることがあった。 桐島あおいが、なぜ心変わりしたのか。 バトルの面白さを追求していた彼女が、勝利のみを追求するようになった。 自らの神姫・ルミナスを失ったことが最大の原因であるだろう。 しかし、それだけだろうか。 菜々子さんをはじめ、他のプレイヤーにも、勝敗だけでないバトルの面白さ、奥深さを指導していた人だ。自らの矜持を簡単に変えられるものなのか。 頼子さんや花村さんの話を聞いても、安易な復讐に走る人物とも思えない。 桐島あおいが豹変とも言える心変わりをした理由。 それは、引っ越しをした先の状況にも原因があるのではないか。 また、そこに行けば、桐島あおいの当時の状況を知る人物に会えるかも知れない。 そう考えた俺は、平日の小旅行を決行したのだった。 ティアはアパートで留守番だ。 今日は日帰りの予定である。神姫を連れていて、バトルをふっかけられてはたまらない。 俺は一人、電車に揺られている。 □ M市に着いた。 都合三時間……俺は電車に乗り疲れていた。 M駅前は、地方都市の拠点駅として、それなりに栄えているようだった。 駅のロータリーを中心に、道路が放射状に伸びている。 桐島あおいが通う女子大学は、ここからバスを使う。しかし、キャンパス周辺は何もない。バトルロンドをするために来るとしたら、この駅周辺のはずだ。 事前に周辺のバトルロンド事情を調べたが、めぼしい情報は得られなかった。 なぜなのか。 普通、ネットで調べれば、バトルロンドが盛んなゲームセンターの名前が一つや二つは出てくるものである。対戦が盛んであることをサイトで大きく宣伝している店もある。M駅ほどの大きな駅前で、学生が多く集まる場所なら、なおさらだ。 ところが、M駅周辺のバトルロンド情報はほとんどなかった。 それが少し気になっている。 だが、商店街のアーケードに出れば、ゲームセンターの一つも見つかるだろう。 駅の規模からすれば、二つ三つあってもおかしくはないのだ。 俺は前向きに考えることにして、駅の周囲の散策をはじめた。 ゲームセンターはアーケードの途中ですぐに見つかった。 三フロア構成の、それなりに大きな店だ。 フロア案内を見ると、三階にビデオゲームとバトルロンドのコーナーがあると書いてある。 俺は迷わず、三階へと向かう。 大学が近いせいか、俺と同年代の客が多い。 だが、彼らは皆、他のゲームに興じていて、神姫も連れていなかった。 さらに奥へと進むと、ようやくバトルロンドの筐体が見えてきた。 置かれているのは二台。この規模のゲームセンターからすれば、とても少ない。 バトルロンドは今や日本中を席巻する人気ゲームだから、一フロアがすべてバトルロンドコーナーというゲーセンも珍しくはない。 しかも、ここではあまり対戦が盛り上がっている様子ではなかった。常連とおぼしき人たちが、細々と対戦をしている印象である。 なぜこうも盛り上がっていないんだろう? 俺は首を傾げながら、辺りを見回す。 車座になって話をしている、俺と同年代くらいの三人組を見つけた。 神姫も連れているし、ここの常連みたいだ。 彼らに話を聞いてみよう。 「ちょっとすみません」 俺はつとめて丁寧に話しかけた。 すると、三人は、じろりと俺を睨んだ。いぶかしげな視線。明らかに警戒している。 男たちの一人が口を開いた。 「なんだ? 何か用か」 「すみません……ちょっと教えてもらいたいことがありまして」 「なんだよ」 あまり機嫌は良くなさそうだが、話は聞いてもらえそうだ。 俺は今日の用件を切り出した。 「あの……桐島あおい、という神姫マスターをご存じですか?」 瞬間、男たちの顔がこわばった。 どこか気怠げでめんどくさそうな雰囲気も吹き飛ばし、表情がみるみる険悪なものに変わってゆく。 空気に危うい緊張が満ちた。 なんだ。俺は今、何か気に障るようなことを言ったか? 「てめぇ……あの女の知り合いか」 「いや、会ったこともない……」 「ざっけんな! 知り合いでもねぇ奴が、かぎまわったりしねぇだろが!」 連中の神姫も、俺の方を睨んでいる。 桐島あおいという名前は、ここでは鬼門だったらしい。 俺は三人の男に囲まれ、逃げ場を失った。 「おい、桐島はどこだよ」 「……俺が知りたい」 「しらばっくれてんじゃねぇぞ!? あの女のせいで、ここいらのバトルロンドは廃れちまったんだ!」 ……いったい何をしたんだよ、桐島あおいは。 いよいよ俺が追いつめられ、男の一人が胸ぐらを掴んでこようとしたその時、 「そこまでにしときな、あんたたち」 えらく男前な女性の声が割って入ってくれた。 三人は声の方を振り向いて、 「あ、姐さん……」 「でもよ、こいつ、あの女のこと知ってやがって……」 「だったら、その人はあたしの客だね」 姐さんは、細身で背が高く、目つきの鋭い、若い女性だった。ロゴ入りのエプロンをしている。店員だろうか。 彼女のきつい視線に、三人組も及び腰になっている。 「あんたたちみたいのが先走ってヤバいから、彼女がらみの話はあたしに通すってことになってるだろ? 知らないとは言わせないよ。それが守れないんなら、店から出てっとくれ」 凛として譲らない姐さんの態度に、三人の男たちは渋々俺を解放した。 俺は首を傾げながら、姐さんと呼ばれた人の前に立った。 俺と同じくらいの背がある。女性の中ではかなり高いはずだ。 「助けてもらってすみません」 「いいよ。こっちこそ、うちの常連が世話をかけてすまなかったね」 俺が頭を下げると、さばさばした様子でそう言う。 「うちの、というと、あなたはここのお店の方ですか?」 「そう。ただのバイトだけど」 「ええと……俺はとおの……」 「ああ、名乗んなくていい。あたしも名乗る気はない。必要な話だけしたら、とっととお帰り」 と、姐さんはとりつく島もない。めんどくさそうな顔をして、ひらひらと手を振った。 俺は少し面食らいながらも、姐さんに尋ねた。 「それじゃ……桐島あおいという神姫マスターを知っていますか?」 「知っている。このあたりじゃ有名だね、悪い意味で。あんまり大きな声でその名を口にしない方がいい」 「なぜです?」 「彼女に復讐したいと思ってる奴はごまんといる。名前が出ただけで、無用なトラブルになる。だから、それを避けるために、あたしが窓口になってるのさ」 店員だからね、と姐さんは付け加えた。 なるほど、店にしてみれば、そんなことでいちいちトラブルを起こされていてはたまらない、というわけだ。 それにしても、そこまで言われる桐島あおいは、いったい何をしたというのだろう。 「なら、桐島あおいがどうして自分の神姫を失い、その後どうしてマグダレーナのマスターになったのか、知ってますか」 姐さんは大きく目を見開いて、俺を見た。 「変な男だね……そんなことを尋ねたのは、あんたが初めてだよ」 「ご存じなんですか? だったら教えてもらえませんか」 「なんだって、そんなことが知りたいんだい?」 「彼女についての情報が足りない。もしかすると、彼女の過去がマグダレーナ攻略の糸口になるかも知れないからです」 姐さんは俺をじっと見つめた。俺は視線を逸らさずに、姐さんと対峙する。 時間にしてほんの数秒だったろう。 姐さんは視線を逸らすと、ため息をつくように言った。 「まったく……そんな眼であたしを見るんじゃないよ」 「はあ……すみません」 「出会った頃のあの子にそっくりさ……あの子もそんなまっすぐな眼をしていた」 「桐島あおいが……」 「……いいだろう、話してやるよ。すべてを知ってるわけじゃないけどね……あの女がここで何をしたのか……」 姐さん横を向き、店の奥に視線を投げた。 どこか懐かしむような表情で、姐さんは話し始めた。 「……二年前の春だったね……あの子とは、この店で会ったのさ」 ◆ このゲームセンターも、二年前はバトルロンド全盛だった。 今遠野がいる三階すべてがバトルロンド筐体で埋まっていた。M市ではもっとも対戦が盛んなゲームセンターとして評判だった。 桐島あおいは、近くの女子大生。今年の新入生だという。もちろん、バトルロンド目当てでこの店にやってきた。 姐さんは、会ったときから、桐島あおいを好ましく思っていた。 明るく、性格もよく、優しい。 ただ、姐さんが気がかりだったのは、その優しさがバトルロンドでは弱みになるのではないか、ということだった。 M市でもバトルロンドは盛んだが、バトルスタイルは『ポーラスター』と大きく違っていた。 ここでのバトルは勝敗が最優先。バトルの内容など二の次だった。 あおいの主張は、嘲笑をもって聞き流された。 ここでは、勝者の言葉のみが力を持つ。バトルの面白さや華麗さなど、負け犬の戯言と思われていた。 ルミナスは弱いわけではなかった。しかし、重装備の神姫たちばかりの中にあっては、自らの長所を活かしきれず、なかなか勝つことは出来なかった。 自らの主張を通すためには、勝たなくてはならない。 厳しい現実に直面したあおいは、強くなろうと必死に努力した。 しかし、通い始めて一ヶ月の成績は、下位に甘んじていた。 □ 「見ていて痛々しいくらいだったよ。自分のスタイルを崩さず、装備や戦い方を模索しながら、強くなろうとする姿はさ……」 姐さんは寂しそうにそう言う。 「どうしても強くなりたいって、彼女はそう言ってた。そうじゃなきゃ、地元にいる仲間たちに顔向け出来ないって。笑いながら必死で頑張るあの子を、痛々しいと思いながらも、あたしは尊敬していたんだ」 ◆ しかし、六月になっても、あおいとルミナスは勝てなかった。 ゲームセンターの常連たちは、あおいを見下すようになった。彼女をからかいながら、彼女のバトルスタイルを否定しながら、面白半分でバトルするようになった。 「華麗だの、面白さだの、そんなのは負け犬の戯言なんだよ! 強い奴がエラいんだよ。わかるか? 悔しかったら勝ってみな! そしたら、お前の言うことに耳を貸してやるよ」 このゲームセンターで一番の実力者だった男は、そう言って嗤いながら、あおいをなじった。そして、あおいとルミナスを、対戦でいびり続けた。 あおいはだんだん笑わなくなった。 七月になる頃、あおいが裏バトルに参戦すると言いだした。 M市の裏バトルは規模が大きく、近隣の神姫センターやゲームセンターの常連もよく顔を出している。 神姫マスターの間では、神姫センターでの大会に勝つよりも、裏バトルでランクを上げる方が実力を認められる、とまことしやかに囁かれている。 この街では、裏バトルの存在は公然の秘密だった。 姐さんは止めた。あおいはそんなところに縁のないマスターであるはずだ。 姐さんは、ここの常連どもにはない、彼女の純粋さや優しさを気に入っていた。 しかし、あおいは首を振った。 「わたしの実家の方にね、コンビを組んでいた子がいるの。わたしをお姉さんのように慕ってくれている……その彼女がすごく実力を付けてきているのよ。わたしはもっと強くならないといけない。あの子の姉でいるために」 あおいの決意は固いようだった。 確かに、裏バトルで勝てばファイトマネーは入ってくるし、一般では流通していない強力な武装も手に入る。 だが、姐さんは不安を拭えなかった。だから、あおいに付き添って、裏バトル会場へと向かった。 事件が起きたのは、三度目の裏バトル参戦の時だった。 あおいは二度の戦いで、いずれも辛勝していた。 改造パーツを売る露店で、めぼしい装備を見つけたりもしていた。 このまま実力を付けていくのでは、と姐さんも思っていた。 しかし、その日の対戦相手は、あのゲームセンターで一番の神姫マスターだった。 彼の神姫は、原形を留めないほどにカスタマイズされたストラーフ型。マスター同様、残忍な性格で知られていた。 今思えば、先の二度の勝利も、バトルを盛り上げるために仕組まれていたのかも知れない。 三度目の裏バトルはリアルバトルだった。 神姫破壊も辞さないリアルバトルは、あおいも初めての経験だったという。 断ることは許されない裏バトルのマッチメイク。あおいは否応無くバトルに挑むことになった。 結果は一方的だった。 もともと実力に差がある上に、リアルバトルの経験があおいには全くない。 ルミナスが傷つくたびに、あおいは動揺した。 そして、相手のストラーフは、ルミナスをなぶるように料理していった。 武装を一つ一つ破壊し、四肢に銃弾を撃ち込み、苦しみに転げ回るルミナスを足蹴にする。 「お願い、もうやめて! もう勝負はついているでしょう!?」 あおいは泣き叫びながら許しを乞う。 しかし、相手の男はゲラゲラと嗤いながら、あおいの言葉を無視した。 相手だけではない。 あおいとルミナスの様子を、すべての観客が笑い物にしていた。 おもちゃの神姫に本気で泣き叫んでいるバカな女、と嘲笑っていた。 相手のストラーフが、ルミナスを足で押さえつけたまま、手にしたバズーカ砲の先端をルミナスの背に押しつけた。 もはやルミナスは動く気配もない。 「やめてーーーーーーっ!!」 あおいの叫びが会場内を響きわたった瞬間。 ルミナスは四散した。 裏バトル会場は、残虐ショーのクライマックスに、熱狂のるつぼと化していた。 その中心にいながら、あおいの心は絶望に塗りつぶされ、誰の声も届かなかった。 □ 姐さんは、そこで少し言葉を切った。口元が少し震えている。俺が想像するよりも凄惨な内容だったのかも知れない。 それにしてもやりきれない話だ。 桐島あおいが強くなりたかった理由……それは菜々子さんを導く存在であり続けたいためだったとは。 そして焦った結果、愛する神姫を失ってしまったのだ。 裏バトルの様子は俺も初めて聞くが……反吐が出る。参加するマスターも観客も最低だ。 「で……あの子はもう呆然としたまま動けなくなっちまって……あたしがアパートまで送り届けたんだ。 ルミナスの修理は無理だって思ったけど、それでも残骸を集めて、あの子に渡した。 もしかしたら、もう神姫マスターとして復活できないかも……もう会うこともないかも知れない、そう思った」 姐さんは険しい表情のまま、続きを話してくれた。 その時のことは、彼女にとってもつらい思い出なのだろう。 「だけど、三日後……あの子はマグダレーナって名前の新しい神姫と一緒に、店に来た」 「え!?」 俺は驚きのあまり、姐さんの話を遮った。 「待ってください。たった三日で、新しい神姫を連れてきたって言うんですか?」 「そうさ。あたしもおかしいとは思ったけど……そのあとの彼女は、どこか……いや、何もかもがおかしかった。別人みたいになっちまってたんだ」 姐さんはため息を一つつく。 そんなばかな。 あれほどに神姫を愛した桐島あおいが、たった三日で新しい神姫を迎えられるものなのか? しかも、負け続けたゲームセンターに、平気な顔で現れるというのは……普通に考えればあり得ない。 気がつくと、姐さんは俺を見ていた。どうやら俺は少し考えに沈んでいたようだ。 続きを促すように、俺は頷いた。 次へ> Topに戻る>
https://w.atwiki.jp/anirowakojinn/pages/4015.html
作者・◆AgKjRGgzZw氏 本編 超多人数バトルロワイアル本編SS目次・投下順 超多人数バトルロワイアルキャラ追跡表 超多人数バトルロワイアル参加者名簿 超多人数バトルロワイアルネタバレ参加者名簿 超多人数バトルロワイアル死亡者リスト 超多人数バトルロワイアルルール・マップ 超多人数バトルロワイアル支給品一覧 おまけ
https://w.atwiki.jp/anirowakojinn/pages/36.html
作者・◆RJNpFExwIg氏 シンプルバトルロワイアルの本編 シンプルバトルロワイアル・本編SS目次・時系列順 シンプルバトルロワイアル・本編SS目次・投下順 シンプルバトルロワイアル・キャラ追跡表 シンプルバトルロワイアルの死亡者リスト シンプルバトルロワイアルの支給品一覧 シンプルバトルロワイアルの参加者名簿 シンプルバトルロワイアルのルール&マップ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2241.html
第十五話:生贄姫 俺と蒼貴、そして日暮に注目される彼女が近づいてくる。胸ポケットには大した傷もないヒルダが入っており、この様子だと あの後のバーグラーを彼女は難なく倒したくれたらしい。 「緑か。すまん。さっきは助かった」 「気にするな。私達の仲だろう?」 「か、勘違いされそうな事を言うんじゃねぇよ!」 「おや、真那の方がいいのか? 根暗は明るい子の方が好みという事か……」 「あのなぁ……」 再会して早々の問題発言に俺は頭を抱えた。真那といい、縁といいどうしてこうも女というのはからかうのが好きなのだろうか。付き合わされるこちらの身にもなっていただきたい。 「ふふふ……。まぁ、お前をからかうのは後で楽しむとして本題だ。あのバーグラー共から情報を吐かせたぞ」 「マジか?」 「ああ。それも面倒くさそうなのをな」 笑った後の本題に俺はすぐに先ほどの悩みを隅に追いやって、尋ねる。 「端的に言えば小遣い稼ぎさ。資金に困った研究者によるものだ」 「研究者って義肢のだな?」 「そうだ。お前も情報を集めていたという事か。となれば情報交換といかないか?」 「ああ。それが一番早い」 「その話、僕にも聞かせてくれないかい?」 「尊、彼は?」 「正義の味方らしい」 「は?」 話に割り込んでくる日暮を端的に紹介すると、あまりにも直球過ぎたのか冷静沈着な縁も唖然とした。『正義の味方』という言葉は彼女の中では化石並みに古い言葉の様だ。 その反応を見た日暮は俺と変わらぬ反応でやはり笑う。そういった反応にはなれているのだろうか。 「言葉の通りさ。力になれると思うんだけどいいかい?」 「僕は構いませんよ。個人ではきつい話ですしね」 「尊がいいなら、信用しましょう」 「OK。じゃ、ちょっと店裏まで付いてきてくれ。僕も同時進行で調査するからさ」 日暮に促された俺と縁は互いの情報を交換し、その情報から情報収集をしてくれた彼と共に話を整理を始めた。 事の起こりは義肢研究の行き詰まりと国からの資金援助の期限が迫り、ついには切れてしまった事にあった。 義肢研究に関しては何もそこだけが行っているわけではない。その研究には多くの研究者達が参加しており、こぞって成果を出し、援助を求めようとしている。 あの義肢研究者もまた、その一人だ。成果を上げて資金援助を得ていたのだという。しかし、俺の聞いた話の通り、研究は行き詰まってしまい、資金援助が打ち切られてしまったのだ。 当然、障害者施設の収入程度では義肢という規模の大きい分野の研究費など賄えるはずがない。 このままでは義肢研究者は資金不足によって、研究を進められなくなってしまう。 そこで彼が思いついたのはその研究の課程で得られたリミッター解放技術であった。 神姫の出力で人間の四肢という大きなものを動かす事は出来ないため、必然的により大きな出力を引き出さなくてはならない。故に初めは違法パーツ……神姫の規格から外れているパーツで組んでいたらしい。出力の方も神姫に直接操作する関係上、リミッターの外し方などを独自に研究、使用していた。 その研究を応用し、俺達が遭遇した神姫達が付けていたイリーガルマインドに似せたリミッター解放装置を開発して、さらに障害者用の盲導神姫もイリーガルとして改造し、裏でバーグラー達にそれらを横流ししていたらしい。 紅麗というリミッター解除装置を付けた神姫の所属しているバーグラー達から聞いた情報では裏サイトで仲介者から買い取ったと言っており、その裏サイトのアドレスを日暮が普通はしてはいけない様な方法で調べるとそこにはかなりの高額で取引されている事を証明するページがあった。 イリーガルマインドに似せたあの違法パーツが様々なバリエーションで用意されており、強力であればあるほど高額になっているラインナップだった。 そのレートは数千円である場合もあれば、数万円の場合もある。強弱や能力のばらつきがあれど、その力は使った神姫を死に至らしめる程強力なのは共通している。 さらにあろう事かバトルロンドのシステムに引っかからない様に調整された違法改造用のキットやイリーガル神姫までもを直接斡旋していた。 「己のために神姫を喰い潰すか……」 「人の性ってやつかもしれんな……」 緑の言う通り、人を助けるはずの義肢研究も少し道を外すだけで力に溺れさせる死の商人と成り果てるとは皮肉である。 自分の研究を続けるためというシンプルな考えであるはずなのに課程を間違えるだけでこれだけ堕ちてしまうとは人とは恐ろしいものである。 「何にしてもこいつはまずいな。このままだと、ここ周辺でイリーガルが大量発生しかねない」 日暮も危険を唱える。 イリーガルに成りきるだけではなく、それを作り出せるとあってはそれを知った人間はこぞってそれを買っていくだろう。密売を始めてまだ間もない感があるが、このままではバトルロンドがそうした違法神姫達が横行する事に成りかねない。 「自分らで何とかできる話ですかね?」 「その辺は心配ない。情報収集や操作でどうにでもなるからね。ただ……」 「ただ?」 「証拠がない。君たちの言う研究者に突きつけるための動かぬ証拠がね」 「このページやバーグラーの発言では足りないって事ですか」 「ああ。ページは誰か別の奴が作っているだろうし、バーグラー達は直接あの研究者から買い取ったってわけでもないだろうからね。せめてそれを見ている施設内部の神姫がいればいいんだけど……」 「でもそれは巻き添えでその施設が閉鎖される可能性があるのでは? そのために黙るとかあり得ると思うのですが……」 「確かにそう考えられるかもね。まぁ、その辺は可能な限り頑張ってみるよ。それより証拠のアテは何か知らないかな?」 それを聞いて俺は考える。あの施設の中で最も都合のいい立場にいる人間を頭の中から取捨選択して、残るのは……。 「輝と石火だな。だが……」 彼らならば顔が通っており、なおかつ石火の索敵によるカメラ映像情報を持っている可能性がある。 彼女の目はどんな些細なものも見逃さない千里眼にも等しき目だ。何かしらの情報を掴んでいるかもしれない。 とはいえ、そうであるかどうかには不安が残る。そもそも石火がそれを見ていないというのもあるが、彼らがグルである、或いは見てしまって口止めされているなど、障害になりえるシチュエーションはかなりある。 「それでもそいつに聞くしか手段は思いつかないのだろう?」 「……まぁな」 緑の言う通り、現状で有効な手はそれぐらいしかない。 石火が見ていた場合の情報の信頼性としては、石火の整備は施設では全く行われてはおらず、専属技師である親友がやっている可能性が非常に高いという事だ。これは施設による石火のデータ改竄されている可能性が極めて低い事を意味している。仮に不都合な情報があったとしてもそれが消えることはない。 また、施設の研究者も輝という名前が全国に知れ渡っている故に石火に、そのマスターの輝にも迂闊な事はできない。仮にそんな事をした場合、真っ先に疑われるのは彼らなのだから。 「なら、決まりのようだね。輝の事なら僕も耳にしているよ。彼は全国大会の最初のチャンピオンでその専属技師の友人も技術面では結構、有名だ。交渉は慎重にやった方がいい」 「わかってますよ。必要なら僕が憎まれ役を買いますし」 「随分と大胆な事を考えるね。だからこそやれるとも思えるけど」 「それが彼なんですよ」 「なんだそりゃ?」 「それは自分で考えろ。その方が面白い」 緑の突然の言葉に頭の中に疑問符が浮かんでくる。彼女に聞いてもあしらわれ、その謎を自分で考えてもあまりピンとはこない。 「考えてもわからん……」 そういう事に行き着いてしまう。 「まぁ、気長にな。で、そいつはどこにいるんだ?」 「神姫センターだ。行けばまた会えるだろう」 話題変わって輝の場所だが、俺はただ会っただけだ。輝から携帯電話番号を教えてもらったわけではなく、単に会って話し合っていたに過ぎない。 そこで連絡先でも聞いておけばと後悔もできたが、今更そうしても仕方の無い話だ。 「なら、そこで探すしかないな。とは言っても盲目自体珍しい。難しくはないだろう」 「ああ。後は引き込める上手い言葉を探しておくさ。根性論なんか押し付けたくねぇしな」 「それもそうだな。だが、彼らは正しいと思うから間違うかもしれんぞ?」 その通りだった。いくらそれが正しい事であったとしてもそれが納得できる事と同義であるわけではない。 自分のルールにそぐわないものは自分が変わらない限り、それは障害以外の何者でもないのである。 この事実を輝が受け入れるか、拒否するか、逃げるか、俺達にはわからない。確かなのは…… 「その時は……その時だ」 それだけだ。 「……そうか」 「ワリィ。それほど器用じゃないんでな」 「わかっているさ。その時になっても後悔はするなよ?」 「ああ」 「話は決まったかい?」 「ええ。僕が何とかします」 話が一区切り付いてきた所で声をかけてくる日暮にやる事を伝える。 可能な限り早い日に輝には俺が情報を持ちかけて説得をかけ、彼に協力を取り付け、石火の視覚データから違法神姫に関する証拠映像を手に入れて、それを証拠とするという事だ。 解決策に関してはイリーガルマインドを解析しているであろう杉原に話を聞き、それがわかり次第、その方面の行動も展開していく。 日暮との連携も考えて、杉原には彼の事を伝え、協力して事に当たってもらうものとする。上手くいけばあの義肢研究者を足がかりに彼に連なる違法ブローカーも芋づる式で捕まえられるだろう。 「わかった。僕は君が話をつける前に段取りを整えておくよ」 「それでは僕はこれで。紫貴もそろそろ直っている頃でしょうしね」 「あ。また、パーツに困ったら買い物にでも来てくれ」 「ええ。そうします」 自動ドアを出て、修理が終わったであろう紫貴を迎えに歩きだした後で、俺はため息をつく。 確かに計画としてはいい。だが、輝と石火がこの話をどう思うか、借りに信じたとして自分の世話になった場所を潰す事になるかもしれない事をどう思うか、全く予想が出来ない。 当然、心苦しい事になる。これからどうするかもわからなくなるだろう。だからといって俺が責任をとるために導いてやれるなんて馬鹿げた話は無理だ。そこまで自惚れる脳みそをしちゃいない。相手にこれからを委ねるが精一杯だ。 「カッコつけておいて、やる事は他人任せか……」 自嘲的にそれらをまとめる。交渉事なぞ所詮はそういうもののはずだがやはり煮え切らないものがある。 「オーナー……」 「わかってる。やるだけやってみせるさ。あっちが恨もうがな」 「自分だけで背負わないで下さい……。私や紫貴だって背負います。それに私達が悪い訳ではないはずです。いつまでもあのままならもっと傷つきますから……」 「そのはずだよな……」 引き金を引くのは俺だが、と続けようとしたがこれ以上は泥沼になるため、止めた。 蒼貴が元気付けようとしているのにそれを無碍にするのは悪い。 そんな陰欝な雰囲気で歩いているとコンビニを通り掛かった。そういえばあの戦いの前から何も飲んでいない。色々と起こりすぎて喉がカラカラなのを忘れていた。 そんな訳で俺はコンビニに飲み物を買いに入る。コンビニの中には店員と少数の客しかおらず、並ぶ事なく会計を済ませられそうだ。 詮無い事を考えながら、雑誌の並ぶ雑誌コーナーを進む。そこで週刊バトルロンドの最新刊が目に入った。どうやら丁度今日が発売日だったらしい。 俺は何気なくそれを手に取り、それを開く。 「こいつは……」 バトルロンド・ダイジェスト最新号の表紙には『特集:~ 絆 ~ 武装神姫はなんのために戦うのか?』というあまりにも規模の大きいタイトルと見た事のないタイプの神姫と『アーンヴァル・クイーン』の異名を持つランカー 雪華が写った写真で大きく飾られていた。 自他共に厳しく接し、高尚なる戦いを求める彼女の事は神姫センターで別のランカーを薙払っているのを俺も見て、知っている。そんな雪華が誰かに優しく、ましてや抱くなどという事をさせた泣いている神姫は一体何者なのだろうか。 俺は興味を持ち、雑誌を開く。表紙の内容は巻中のカラーページに特集として大々的に描かれていた。 最初はバトルの詳細な解説が主な内容だ。雪華はいつもの飛行装備、泣いている神姫……ティアというらしい神姫はランドスピナーというモーター駆動のローラーブレードと拳銃やナイフで戦っていたらしい。 ティアといえば元風俗神姫だったらしい事を噂で耳にしたことがあった。しょうもない奴が経歴を言いふらしてけなすだけのどうでもいい話だと思っていたが、まさかこうなるとはこれを見るまでは予想もしていなかった。 さらにそれを読み進めると信じられない事が書かれてあった。なんとティアは雪華最大の必殺技を回避し、その挙げ句彼女の武器を奪って戦ったらしい。 大した度胸と執念だ。ティアのオーナーとは会えればいい話ができそうな気がする。 戦いの末、ティアは倒れ、試合の形式的には敗北したらしいが、雪華は敗北を認めたという。 そんな試合があったとはそれを直に見られなかったのが非常に残念だ。面白い戦いはどうにも俺の外で行われているらしい。いつかセンターを飛んで回ってみたいものだ。 その戦いの記録の後は「武装神姫はなんのために戦うのか」というタイトル通りの問題提起になっていた。 雪華を初めとするランカー神姫が思い思いのコメントをその記事に刻んであり、 「人は武装神姫を戦わせる。それは名声のため、お金のため、バトルの楽しさであるかも知れない。 戦わせる理由はマスターによって様々だ。しかし、神姫にとって、戦う理由は皆同じだ。マスターの望みを叶えるために戦っている。 もう一度振り返ってみて欲しい。神姫は何を思い、なぜ戦うのか。 自分はなぜ、自分のパートナーを戦わせているのか、を」 それらがそう結ばれていた。その主となる言葉は「マスターのために」だ。その言葉を恥ずかしげもなく、彼女たちは言えている。 呆れるほど単純なその言葉には計り知れない想いが詰まっていることだろう。 その後の特集は、絆を思い起こさせる、過去の名勝負のダイジェストが紹介されていたが、必要なことを知った俺は雑誌を閉じ、それを持ってコーラと一緒に会計を済ませて、外を出た。 「人も神姫もそこまで弱くはない、か……」 ティアの話は、絆は自分達が思うよりずっと堅く、支えになる事を教えてくれた。 俺と蒼貴と紫貴だって、そういう絆があってここまで来たのはよくわかっているつもりだ。輝と石火の絆だってそうであるはずだ。……いや、時間が長い分、俺達よりも堅いはずだ。 「こういうのを潰しちまいたかぁねぇな……」 戦いの場をイリーガルから守るというご大層な名目を掲げる気は無い。ただ、こういう絆を感じさせる戦いが無くなるのは気に入らない。 武装神姫が何のために戦うのか。それは言うまでも無く、マスターのためである。これは雑誌の通りだし、大抵のマスターも理解しているだろう。 が、そのマスターが狂えば従っている神姫はどうなる。少なくともそれまでの関係には戻れなくなってしまう。それもまたつまらない話だ。 「あいつらの絆に賭けてみるか……。どんな結果になろうが……な」 別に主役を張る気は無い。が、見て見ぬ振りをするつもりもない。 俺はティアやそのオーナーの様に戦えないかもしれないが、自分の筋は通す。それぐらいはできてもいいはずだ。 「なぁ。蒼貴」 「はい」 「俺、イチオーナーとして頑張ってみるわ。付き合ってくれるか?」 「その言葉は紫貴と一緒にお聞かせください」 「……そうだったな。あいつを迎えに行こう」 「はい」 そう胸に決めると俺は蒼貴と共にカルロスの喫茶店に預けた紫貴を引き取りにコーラを飲みながら歩いていく。 やるだけ、やってみるか…… 戻る -進む