約 830 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4034.html
全開のまらすじ 山手線壊滅 古泉「まずは手始めに。今からボーイが公園の皆様にジュースとシャンパンをお配りしますので、どうぞ遠慮なく手にしてください」 ボーイ「………」 キョン「あ、ど、どうも」 鶴屋「なんのつもりなのかな」 古泉「それでは! 2007年の締めくくりに! この良き日に! 乾杯!」 長門「………かんぱい」 キョン「……か、かんぱい」 鶴屋「公園にいる観客のみんなも、けっこう戸惑いながらも乾杯してるね。ゲリラ的な催行だとでも思ってるのかな」 ハルヒ「古泉くんったら。一声かけてくれれば私も手伝ったのに。急に予定があいてヒマになっちゃったんだから……」 みくる「まあいいじゃないですか。せっかくの古泉くんのプランなんですから。楽しみましょう」 ハルヒ「私もあのツリーの上に登って乾杯!とか叫びたかったのよ!」 みくる「あはは……。確かに古泉くんの立てるプランは、祝福されるべき人に対して容赦ないですからね」 谷口「ジュースうめえwwwうめえwww」 中河「もっとくれ!」 ボーイ「もうございませんよ」 藤原「もう一杯くらいいいじゃないか! くれよジュース!」 ボーイ「3人で20杯も飲めば十分ではありませんか」 谷口「飲まずにやってられるかい! のまのまいえ!」 ボーイ「帰ってください」 古泉「この公園にお越しになっている方々も、だいぶ盛り上がってこられたようですね。結構なことです。お祝いは、やはりみなさんハイテンションで楽しく進行した方が良いにきまっていますからね」 古泉「長門さん。だいたい、どこくらいの人が集まっているんですか」 長門「………目測で、200人強は我々のプランに乗っていると思われる」 古泉「結構ですね。SOS団の面々も終結しているようですし。第一段階は成功ということですか」 長門「………役所への根回しは完了している。テレビ番組の撮影という名目で届けてあるから、派手に騒いでも問題は無い。急ぐ必要もない」 古泉「さて。クリスマスは本来、神が人間として生まれてきたことを祝う祝日であることは皆様ご存知だと思いますが、日本におけるクリスマスの普及というものがどういうものか、ご存知でございましょうか」 古泉「簡単に申しますと、1900年代に銀座における商戦がきっかけとなり、そこから徐々に日本全国に波及。それより20数年後、クリスマスは日本の年中行事となったと言われるまでに定着していました」 古泉「お分かりいただけますでしょうか。日本においてクリスマスとは、商売の一つの手段として広まったものだったのです」 古泉「しかし。分布の経緯はともかく、クリスマスという日を、聖夜として祝おうという気持ちは日本人といえど、どなたも同じく持っているものだと存じます。祝う対象が神の生誕でなかったとしても、親兄弟、友人、親しい人、恋人たち。様々な人と共に在ることができる今に、感謝しておられるのではないでしょうか」 古泉「その気持ちに国境はないのです!」 谷口「ボーダーレス!」 藤原「ボーダーレス!」 中河「ボーダーレス!」 ボーイ「ジュースはもうそれくらいにしてください」 古泉「キリスト教の方々等、この聖夜を祝う人は皆、聖歌を歌い神の誕生を祝います。さあ、皆さんも、祝福の気持ちを歌にこめて表しましょう! 日頃の感謝の気持ちを捧げたい方を頭に思い描き、謝辞を歌詞に代えて高らかに声をあげましょう!」 古泉「準備はよろしゅうございますか?」 古泉「それでは! ミュージック、スタート!」 ~~~~~ テッテレレテ テケテケテ テッテレレテ テケテケテ テテーテテーテー テレレレ エキセントリック エキセントリック エキセントリック 青年ボーイ 今日も地球が平和なのは エスパー エリート 機関がいるからさ 速いぜ 速すぎるぜ 黒塗りのタクシー 装備も充実嬉しいな 豊富な予算だ 無人島だって買い占めるさ!「国民の血税? 有効利用してあげているのですよ」 呼べばこたえる腐れ縁 これでいいのか? 有言無実の人材 小泉「三四ちゃんのような孫がいて羨ましい」 ○ョン「国際機構と日本が協力して400億ドルを出します」 ハヒル「いってまうで~!」 さあ、みんな行くぞ!!「今の僕にはなんの力もありません」 同棲相手は田丸の知人 今はフリーのワケあり 森園生 「それは新川の食事です」 敵か味方か 未来人 敵かな?見方かな?「我々の仮説が正しければ、彼らはみな一様に左腕にサイコガンを装備しているのです」 だけどさびしい事もある 「副団長って、要するに体のいいパシリですよね」 がんばれ機関 がんばれ機関 僕は限界だ 「田丸(圭)さんならもっと頑張れるはずです」 くらわせろ くらわせろ 僕も知らない謎の便箋 80袋 『昼休み 部室でまってます みくる』 エキセントリック エキセントリック エスパーコマンダー チーム ~~~~~ キョン「このケーキうまいですね」 鶴屋「うん。いい仕事してるよ。腕のいい職人さんが作った物なんだろうね」 鶴屋「最初はどうなるかと思ったけどさ。なんだかんだで楽しいクリスマスになったかな」 キョン「そうですね。橘京子にからまれて赤詐欺にハメられそうになった時は彼女を*して俺も*ぬしかないと思ったりもしたけれど、友人と一緒にこんゲリライベントをわいわい過ごすのも、やっぱ楽しいです」 国木田「僕もだよ。この3連休は今までのノートをまとめるいいチャンスだと思ってたけど、息抜きに夜の散歩に出てきて良かった」 キョン「お前は勉強しすぎなんだよ。たまにはこうやって羽を伸ばさないと、いつか参ってしまうぜ?」 国木田「あはは。その通りだね。逆にキョンはもっと頑張って勉強するべきだけど」 鶴屋「へぇ、キョンくってそんなに成績悪いの? どんな感じなわけ? ちょろっとお姉さんに教えてみなよ」 キョン「クリスマスの夜にまで成績の話は勘弁してくださいよ」 鶴屋「ははは。冗談冗談!」 みくる「あれ、鶴屋さんにキョンくん。国木田くんも。3人も来てたんだ」 キョン「あ、朝比奈さん、それにハルヒ。なんだ、2人一緒だったんですか」 ハルヒ「まあね。ってことは、結局みんなバラバラに散った後、またここに集まったんだ。みんなヒマなのね。他にやることなかったの?」 キョン「お前が言うな」 長門「………すでに公園内も飽和状態。目論見は達成された」 みくる「あ、長門さん。ツリーから降りてきたんですか」 ハルヒ「有希、あんな面白そうなことを企画してたんだったら、ちゃんと私に一報しておかないとダメじゃない! ま、今回は十分楽しめたから許してあげるけど」 長門「………楽しんでもらえたのなら問題はない」 キョン「あのさ、ハルヒ」 ハルヒ「……なに?」 キョン「言っても信じないかもしれないけど、一応もう一回だけ言っておくぞ」 キョン「俺と橘京子は、なんの関係もない。あの時のことは、その、なんていうか、よく分からないが、何かの間違いだ。だから気にするな」 ハルヒ「気にするな? あんだけラブラブチックに腕まで組んでほっぺにちゅーまでしてたのに?」 キョン「そうだ。あれは幻覚だ。まやかしの類だ。朝比奈さんのお茶に誓って」 ハルヒ「…………」 キョン「…………」 ハルヒ「まあいいわ。実は最初から気づいてたのよ。あんたは、私たちに内緒で校外に彼女を作れるほど器用じゃないし」 キョン「だろ。古泉ならいざ知らず。俺はそこまで計画性を持った行動などできやしない判断推理の問題だってまともに解けやしない脳ミソなんだぜ」 ハルヒ「ったく。そんなの全然自慢することじゃないでしょ、なっさけない」 キョン「いいんだよ。暗号が解けなくたって十分日常生活は送っていけるんだ」 ハルヒ「でも、分かってはいても心配したのよ。あんたがあんな軽薄そうな女の人に振り回されて、騙されてるんじゃないかってね。あくまで団長としてよ。団長として、団員を心配してたのよ」 キョン「そうかよ。そりゃ、気をつかわせちまったな」 ハルヒ「悪かったと思ってるんなら、ケーキとってきて。一番でっかいやつね。それでチャラにしてあげるわよ」 キョン「へいへい」 みくる「あ、キョンくん。私のもお願い。鶴屋さんは?」 鶴屋「うん、私ももらおうかな。構わないかな?」 国木田「あ、僕もついでにお願いするよ」 長門「………私も」 キョン「分かった分かった。みんなの分もまとめて取って来てやるよ」 古泉「皆様、どうでしょう。プランナー古泉が主催させていただきましたこのウリスマスイベント。堪能していただけましたでしょうか?」 古泉「どうやら、聞くまでもなかったようですね」 古泉「皆様、日頃お世話になっているご家族や友人たちへの感謝の気持ちは伝えられたでしょうか」 古泉「………」 古泉「そうですか。それはよかったです。皆さん、存分にクリスマスをお楽しみいただけたようですね」 古泉「では、最後の晩餐も終えて、思い残すことはなにも無いということですね。未練が残れば、成仏しきれませんからね」 キョン「な、なんだ? 古泉のやつ、いきなり何を言ってるんだ?」 古泉「クリスマスにかこつけていちゃつくアベックたち。商業の手段として聖夜をこきおろす日本社会」 古泉「ある物ない物、なんでも自分の都合の良いように曲解して知らぬ存ぜぬで利用する日本人たちよ」 古泉「古来より続く日本文化や自然、誇りを捨て去り西洋文化に迎合し、そしてそれまでもご都合主義で利用する」 古泉「そんな自主性のかけらもない腐りきった日本社会に絶望した!」 古泉「よって! 今からこの僕が! 神に変わってこの聖夜に貴様ら堕落したソドムとゴモラの民に、ヤハウェの力を示してくれる!」 古泉「この日本破壊爆弾でな! はーはっはっは!」 ハルヒ「なに言ってんのよ、古泉くんったら。キャラでもないのに、ムリしちゃって!」 国木田「こった演出ですね。ははは。なに、あのでっかい黒い玉。あれが日本破壊爆弾っていうアイテムなの?」 鶴屋「もう、古泉くんったら。あれ?」 鶴屋「あれ、キョンくんたちは?」 キョン「どうしたんですか、朝比奈さん?」 みくる「大変ですよ、古泉くんが暴走しちゃいました! とめないと!」 キョン「え? あれはこのパーティーの演出じゃないんですか?」 長門「………あれは、古泉一樹の独断先行。私の関知するところではない」 キョン「……え? それってまさか、古泉、本気であの爆弾とやらを使う気なのか?」 みくる「あの爆弾が日本を破壊するものなのかどうかは分かりませんが、古泉くんは嘘をついていないようですし、あの爆弾も紛い物ではないようです!」 キョン「え!? ちょ……! まさか古泉のやつ、昼間の一件で精神的においこまれて……!?」 古泉「これは日本全土だけでなく12海里の領海までも破滅させる恐るべき威力を持つ爆弾なのです! 浄化の光に照らされ、この聖なる夜に神の御許へと旅立つがよい!」 古泉「これは地球の意思! 天の裁きなのだ!」 古泉「ないたりわらったりできなくしてやる!」 キョン「長門、あのバカをなんとかできないか!?」 長門「………それはできない。情報統合思念体の端末でしかない私が、私情により別勢力のエージェントに敵対行動をとることはできない」 キョン「緊急事態だろ! その情報なんとかって親玉に連絡できないのかよ!?」 長門「………アクセス回線が混雑している。今は不通」 キョン「なんだそりゃ!?」 古泉「ふはははは! 逃げろ、まどえ! 愚かなる民どもよ!」 古泉「どこへ逃げようと、裁きの光からは逃れられませんがね!」 古泉「は────はっはっはっはっはっは!!」 ??「待てい!!」 古泉「何者!?」 谷口「ひとつ、ひしめくアベックたちに」 中河「ふたつ、不埒な妄想三昧」 藤原「みっつ、みちみちウ○コたれて」 谷口「紙がないから手でふいて」 中河「もったいないから食べちゃった」 藤原「人の世の悪を糺す、スーパースタートリプルアクセルズ、ただいま参上!!」 キョン「谷口! とその仲間たちに身をやつした中河と藤原!」 みくる「谷口さんたち、日本の未来をたのみましたよ!」 鶴屋「谷口! あんたはやる時はやる子だと思ってたよ!」 たっにぐち! たっにぐち! たっにぐち! 谷口「聞こえるかい? あの正義を叫ぶ民衆たちの声が」 古泉「くっ! せっかく長門さんも邪魔立てできないよう下にやったというのに。こんなところで我が計画に邪魔がはいるとは」 中河「ぬふふ。たとえツリーの上だろうとも、我々にはそんなの関係ねえ」 藤原「空中適性Aだからな!」 谷口「ハデス古泉! お前のたくらみもここまでだ! 神妙にお縄を頂戴ミソラシド!」 古泉「くそ、あと少し。あと1分で爆弾発動のエネルギーが溜まるというのに!」 谷口「タイミングの悪さを悔やみながら敗北していくのだな!」 藤原「いくぞ、各々方!」 中河「おうよ!」 谷口「3人合体奥義! ジャンピング・ハラスメント・タッチタイフーン!」 古泉「ふん! 間合いがあまい!」 谷口「しまった! 木の上では足場が悪くて思うように攻撃がしかけられない!」 古泉「ふははは。どうした、スーパースタートリプルアクセルズ? 日本破壊爆弾の発動まで、あと30秒をきったぞ?」 中河「諦めるな、谷口氏。焦らずもう一度トライするんだ」 藤原「そうだ。諦めたら、そこで全て終わってしまうぞ。あの輝いていた日々も、そしてこれから訪れるであろうはずの素晴らしき時間も、なにもかもが!」 谷口「そうだ! 俺たちは負けるわけにはいかない! 俺たちを応援してくれるみんなのためにも!!」 たっにぐち! たっにぐち! たっにぐち! 谷口「ふおおおぉぉぉぉぉ!! みんな、俺に力をわけてくれ!」 古泉「なっ!? 3人の体が、光った!」 藤原「いける! これはいけるぞ!」 中河「さあ、3人の力をひとつに結集するんだ!!」 古泉「おのれ、こんなところで日本破壊爆弾を無駄にするわけにはいかない! 僕も本気をださせていただく!」 中河「古泉の体が、赤い球体に変化していく!」 谷口「上等だ! いくぞ、中河、藤原! チェーンジ・ゲス! スイッチ、オン!」 谷口「ジャンピング・ハラスメント・タッチタイフーン!」 古泉「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 カッ!!! 古泉「ぐはあっ!!」 古泉「む、むねん……」 谷口「はあはあはあ………。やったか!?」 中河「俺たち勇者の力が勝ったんだ!」 藤原「俺たち3人の勇気の勝利だ!!」 たっにぐち! たっにぐち! たっにぐち! 谷口「すばらしい!」 中河「青春にかんぱい!」 藤原「計画通り!!」 古泉「はあはあはあ。や、やるじゃないですか。し、しかし、爆弾のエネルギーはMAX状態。僕がこのスイッチを押せば……バ、バカな!? スイッチが……」 谷口「ふふふ。ぬかりはないぜ。さっきお前と激突した時に、こっそりくすねておいたのさ」 中河「さすが谷口氏! 本職のスリもビックリの窃盗術!」 谷口「ふふふふふ。処世術といってくれたまえ」 藤原「古泉。なぜこんなことを。お前は、こんなことをする人間じゃないだろう」 古泉「ふっ。敗者に、語る舌はありませんよ……」 中河「古泉氏……」 谷口「バカ野郎。この大バカ野郎! どんな苦難逆境があったってな、死んで何かが解決するもんかよ!」 古泉「………」 谷口「しかもその道連れに、他の人たちを巻き添えにしてしまおうなんて! まったくもってバカ者だ! 見栄をはってパンツのSサイズを買ったもののはっぱり入らずにお尻が破けちゃうオバチャンなみにバカ野郎だぜ!」 古泉「……その通りですね」 中河「その理論でいくと、俺もバカ野郎ということになってしまうな」 藤原「お前は黙ってろ」 谷口「お前が死にたいんなら勝手にしろ! 勝手に爆弾かかえて爆死するかガス管でもくわえてろ!」 古泉「………」 谷口「だがな。俺たちは止めにいくぜ」 古泉「……え?」 谷口「古泉。お前は俺の仲間だ。お前が爆弾を抱えたら、その爆弾を止めにいく。お前がガス管をくわえたら、別の物をくわえろと止めに行く」 谷口「仲間って、そういうもんだろ?」 古泉「……谷口さん」 谷口「だから。こんなスイッチひとつで日本を滅ぼそうとするな」 古泉「すいませんでした!」 谷口「わかればいいんだ!」 古泉「はい!」 谷口「だからまた金かしてくれよ!」 古泉「いやです!」 谷口「古泉!」 古泉「谷口さん!」 ガシッ! 中河「漢同志の熱い抱擁だ!」 藤原「感動じゃあああああ!」 ぴっ 谷口「あれ? なんだ、今の音」 古泉「ああ。抱き合った勢いで、谷口さんの手の中のスイッチが押された音ですよ」 谷口「ああ、な~んだ」 谷口「あはははは」 古泉「うふふふふ」 中河「えへへへへ」 藤原「おほほほほ」 観客「アッー!」 ズドーン…… こうして、日本は滅びたのだった……完 谷口「第3部完!」 谷口「って、あれ? 生きてる?」 中河「た、谷口氏。これは一体?」 藤原「ツリーの上の爆弾が爆発したと思ったら、空からこんな紙切れが大量に降ってきたぞ」 『2007 X mas メリークリスマス!』 谷口「………これは」 古泉「あっはっは。メリークリスマスですよ、谷口さん! パーティーをしめくくる、ちょっとしたサプライズです」 古泉「どうです? なかなか盛り上がったでしょう?」 谷口「………」 キョン「な、なんだ……」 みくる「サ、サプライズだったんですか……」 長門「………私に秘密のイベントを用意しているから降りていろと言ったのは、このためだったのか。さすがプランナー。腕を上げた」 ハルヒ「キョン! どこに行ってたのよ。急に3人でいなくなっちゃうんだもん」 国木田「それより、ほら。この紙。古泉くん結構こったことするよね」 鶴屋「さすが古泉くんだね。なかなか面白いイベントだったさ! あの爆弾も、まさか本当に爆発するとは思わなかったよ! あははははは!」 みくる「……つかれましたね」 キョン「……ええ」 古泉「イベントはサプライズでしたが、谷口さんが言ってくれたセリフ。なかなか嬉しかったですよ。僕がこの世に絶望したら、全力で止めにきてくれる、ということですか。これは、ふふふ。簡単に爆弾も用意できなくなってしまいますね」 谷口「…………」 古泉「さあ、みなさん。下におりましょう。予定にない飛び入り参戦でしたが、お三方のおかげでサプライズが更に盛り上がりました。ご協力感謝しますよ」 谷口「てめえコンニャロ! 本気でビビッたじゃないかテメー!」 古泉「え!? あ、ちょ!? い、いた! ちょっと、パンチは、パンチは勘弁です! サプライズって言ったじゃないですか!」 藤原「サプライズもサンライズもあるか! サプライズでも貴様ごときに怖い思いをさせられたのは我慢ならん! みっくみくにしてやる!」 中河「俺なんてちょっとチビっちゃったじゃないか!」 古泉「サプライズに本気で怒るなんて、無粋ですよ!? あ、ちょっと、そこはダメ!」 谷口「無粋のキワミ! アッー!」 藤原「者ども、やっちまえ! このタコをひんむいて女子大のキャンパスに放りこんだれ!」 中河「武士の情けじゃ! 女人の下着くらいは着用させてやるけんね!」 古泉「あ、あ、あ……!」 古泉「あ──────────ッ!」 (挿入歌:そらのむこう) ~~~~~ キョン「さて。そろそろ腹もふくれたし。帰るか」 ハルヒ「そうね。もういい時間だし」 みくる「今日はたのしかったな。ね?」 鶴屋「そだね。今日はいろいろあったけど、また明日から、みんな仲良くやってこうじゃないか」 長門「………それがいい。古泉一樹も、それで本望」 国木田「んじゃ、僕はこのへんで。ばいばい」 キョン「ああ。ばいばい」 みくる「さよなら」 ハルヒ「じゃみんな、またね!」 ~おしまい~
https://w.atwiki.jp/akadama/pages/185.html
その手が衝動に任せた暴力的な物であれば、古泉ももっと必死に抵抗した事だろう。 組み敷く腕の力は強かったが、頬から顎、首、襟元へと辿る指先は まるで慈しむように繊細に慎重に触れてくる。 補佐官の言葉と行動、そして実際の違いに古泉は混乱を隠せなかった。 咥内を蠢く舌の感触が更に思考を掻き乱した。 重なっていた唇が息苦しさに離れる。 口角から零れた唾液が古泉の不快感を煽るが、手を抑えられている為に拭う事も出来ない。 見上げた補佐官の顔は、今まで何度も目にしていたはずなのに まるで初めて見る者のように感じられた。 「思っていたよりも抵抗しませんね」 それは以前も聞いた台詞だ。あの時古泉は何と答えたか。 「……あなたは何故こんな事を」 「それは私が賭けに勝ったからで」 「何故僕を欲するのかと聞いている……!」 堪えていた感情を吐き出すような問い掛けに、補佐官が言葉を失った。 その一瞬の隙に古泉は膝を立て身を捩り、弾き飛ばされた拳銃を視認する。 気付いた補佐官が古泉を抑え込もうとするが 必死に身を起こそうとする古泉と揉み合い、二人は床を転がった。 以前と変わらず軍務に追われる生活を続けていた補佐官と 短期間ではあるが室内で何も出来ずに過ごしていた古泉では、勝敗は明らかだった。 必死に伸ばされた手は拳銃を掴む事無く、無力感に指で絨毯を掻いたのみで。 「理由を話せば、あなたは応じるとでも?」 その目に激情を湛えながら、触れそうな程の至近距離で補佐官は古泉を見つめる。 強い眼差しに射竦められた古泉に、補佐官はそれ以上言う事は無く ただ無造作に古泉の下腹部へと手を這わせた。 衣服を乱される事も無く、布越しに与えられる刺激に古泉の体は次第に反応を示していく。 それは意思とは全く関係の無い、生理的なものだった。 強制的に与えられる快楽に屈しないよう、古泉は唇を噛み締めるが 久方振りに呼び起こされた性的衝動は熱く体中を駆け巡る。 「やめ……っ」 最早口を塞がれる事も無い。押し殺した喘ぎ混じりの声で制止するも それくらいで補佐官が止める訳が無く。 刻一刻と迫る限界の時に古泉は恐怖を覚えた。 涙で滲む視界に補佐官の姿を捉えながら、散り散りになる思考を掻き集める。 先ほどの補佐官の言葉を思い出す。今の古泉は取引材料としての存在だ。 それを失う事は共和国として許されないだろう。 補佐官の言葉通り、この部屋に既に監視カメラが無いのは本当だろうとも思う。 しかし外部への連絡手段はまだある。 自分の力で補佐官を止められないのなら、多少の屈辱には目を瞑るべきだ。 「ぃ、嫌だっ…………死なせて下さい!!」 達する寸前に大きく叫んだ言葉は、快楽に裏返っていたかも知れない。 それでも意味の無い悲鳴を上げるよりは、と。 残された盗聴器が今の声を拾ってくれたのを願うばかりだ。 補佐官の手で握り締められた自分の股間が、衣服の中で濡れるのを感じる。 古泉は耐え難い羞恥と不快感に火照った顔を顰めるが 結果として、補佐官はそれ以上の行為を強いる事は無かった。 何故なら、捕虜である古泉の自害を止めようと共和国の者が部屋へ来たからだ。 SOS帝国との取引の為に、共和国としては古泉幕僚総長を死なせる訳には行かない。 その隙を与えたとして、補佐官は古泉から引き離された。 古泉自身も以前のように室内に軟禁では無く、完全に自由を奪われる。 「即物的な拘束ではなく薬で眠る事も出来ますが、どちらが良いですか?」 共和国の医務官が古泉に問うが、眠って意識を失うよりは 現状を把握し続けられる方が良いと、古泉は前者を選んだ。 手足の拘束と、舌を噛む事の無いようにと口を塞がれたが 狭い部屋に押し込められた古泉は、それでも何かを考えているように見えた。 きたる等価交換の為に、古泉と補佐官を乗せたルペルカリア艦隊は コロニー「PC-ヴィスタ」へと静かに進行を開始した。 コロニー「PC-ヴィスタ」――それはコン・ピケン独立共和国の 技術の粋を集めた最新型のスペースコロニーである。 コン・ピケン独立共和国の理想を集めたそれは いかつい外観とは裏腹に、まるでゲームか何かの 舞台のように豊かな自然と澄んだ空気を備えていた。 軍事力によりSOS帝国が制圧したものの その全てを活用しきれているとはお世辞にも言えず 訪れる者の居ない避暑地のような扱いだった。 キョン艦隊は、その「PC-ヴィスタ」へと向かっていた。 同行するのは長門有希情報参謀率いるユキ艦隊。 コン・ピケン独立共和国との約束の為だ。 コロニーと古泉幕僚総長の前代未聞等価交換は 共和国側からの希望により「PC-ヴィスタ」にて行われる事となっていた。 「人の足元見て……ほんと最低な奴らだわ! 良いわねキョン!ユキと古泉くんと一緒に絶対ちゃんと帰ってくるのよ!」 怒り心頭のハルヒの台詞が、ブリッジでモニタを眺めているキョンの脳裏に浮かぶ。 今はSOS帝国が抑えているとしても、古泉との取引が終えた時点で 「PC-ヴィスタ」は共和国の物だ。言わば敵軍の真っ只中になる。 撤退する自分たちに共和国が何もして来ないという確証も無かった。 「わたしも同行する」 そう申し出てくれた長門がどれだけ心強かった事だろう。 ハルヒは立場上連れ出せる訳も無く、みくるも心許無い。 「やる事やってさっさと帰るしか無いよな……」 誰ともなしにキョンは一人ごちる。 暗黒の宇宙を映していたモニターに、コロニーの姿が浮かび上がった。 キョンたちは「PC-ヴィスタ」のゲートへと着艦した。 共和国側が到着するまでに、事を済ませておかなければならない。 元より訪れる機会がほぼ無かったため、登録された情報も少なく さしたる量も無いデータ消去程度で済みそうなのが救いではあった。 ゲート内で艦から降りたキョンが周囲に指示を出していると 長門が一人コロニー内移動用の車に向かっているのが見えた。 「何処に行くんだ長門?」 慌ててキョンが声を掛けるが、長門の足は止まらなかった。 「動力部」 周囲の喧騒に掻き消されそうな声で長門は答え、車の中に姿を消した。 数刻の後、共和国のルペルカリア艦隊も「PC-ヴィスタ」に到着した。 コロニー内に居るSOS帝国と連絡を取り、進入ゲートを決める。 ルペルカリア艦隊に同行するのはムスペルヘイム艦隊。 SOS帝国のハルヒと同様に、共和国のコン・ピケン・ブチョウシ総統が このような場所まで出向く事は無かった。 「失礼します。古泉幕僚総長」 艦内に響く振動に、ルペルカリアが着艦した事を古泉が悟ると同時に それまで開く事の無かった扉が開いた。 見れば共和国の将校が二人、銃を片手に立っていた。 今更隠す事も無いだろうに視界を奪われ、代わりに両足の拘束具が外された。 そうして古泉は手械口枷はそのままに久しぶりに艦の外へ出た。 人工とは言え、艦内とは違う新鮮な空気と風を感じる。 しかし直ぐさまに、近くに車が停車する音がした。 自分の移送用だろうと古泉は判断した。 「随分早かったな。よし、行き先は――」 車に乗せられ、ドアが閉まるなり指示を出す男の声が途切れた。 共に乗った将校は二人いたはずなのに、どちらの声ももう聞こえない。 この車は共和国の手の物と思ったが違ったのか。古泉の体に緊張が走るが この状態で何が出来る訳も無かった。 「良い格好ね、古泉」 耳に届いた声に古泉がはっとした表情で顔を上げる。 閉ざされた視界で声がする方を向いた。 どこか笑みを含んだその声の持ち主は、悪戯するかのように古泉の頬に触れた。 「あなた何時からこれされてるのよ。べとべとじゃない」 口を塞いでいる唾液に湿った布を引っ張られ、恥ずかしさに顔が火照るのを感じる。 「外して欲しい?」 何て当たり前の事を聞いてくるのかと赤面しながらも古泉は頷いた。 くすくすという笑い声と共に布が外され、呼吸が楽になる。 「あらやだ。ちゃんと涎は拭きなさいよ」 「冗談は止めてください森さん!」 やっと自由になった口で古泉が叫んだ名前は SOS帝国内特務機関に所属する森園生だった。 SOS帝国内特務機関。特殊任務を遂行する為の隠された集団であり 帝国軍組織図にすら載っていない、関係者以外には一切不明の組織だ。 「久々に古泉に会ったから懐かしいのよ」 経歴として公にされては居ないが、古泉も以前所属していたのだ。 森は笑うが、その顔には何処か影があった。 しかし未だ視界を遮られている古泉は、それに気が付かない。 「懐かしいのは僕もですが。今はまずこれらを外してくれませんか」 目隠しと手枷が古泉の自由を奪っていた。 「見ても驚かないなら良いわよ」 それは先ほど急に黙ってしまった将校二人の事だろうと古泉は思う。 「……大丈夫ですよ」 もしみくるやハルヒにだったら見せない方が良いのだろう。 だが古泉は特務機関にいたのだから。 そうして目隠しが外された。 薄暗い車内だが、直ぐに目が慣れる。 目の前には以前と全く変わらぬ姿の森が居て。 そして視線を落とせば。 既に物言わぬ二人の将校が床に伏していて。首があらぬ方向へ曲がっていた。 古泉は慌てる事もなく、そっと目を背ける。 「気持ち悪いかも知れないけれど、途中で落とす訳にはいかないから。 このまま走るわ」 「何処へですか」 古泉は自分の頬が僅かに引き攣るのを自覚しながら問う。 既にコロニー内に待機しているだろうSOS帝国軍と合流すれば事は終わるだろうに。 「ねぇ古泉。手枷を外して無いのは何故だか解る?」 声色に変わりは無いが、古泉を見る森の目の色に不審を感じた。 「……まだ僕は捕虜の身から脱していない、と言う事でしょうか」 「そうなるわね」 あっさりと肯定する森に古泉は嘆息してしまう。 「……まさか、あなたまでもこのような事をされるとは思いも寄りませんでした」 「古泉。あなたが思っているより、この国は脆いのよ」 以前補佐官が言っていた通りだった。 それを古泉は再び身を持って知るのだ。 「人間一人とコロニーの等価交換なんて馬鹿げていると思わない?」 それは古泉も同感だった。自分がその場に居たなら 何としても止めさせただろう。 「人の命は確かに大事よ。でも個人相手に代償が大き過ぎるわ」 「だから機関ごと帝国から離反するとでも言うんですか」 古泉からすれば、森が単身そんな事をするとは思えなかった。 運転席にいる背中しか見えない初老の男はきっと同じ機関の新川だろう。 おそらく特務機関そのものがハルヒと帝国を見限ったのだ。 森は何も答えない。だがその手には既に銃が握られている。 「しかし幾ら特務機関とは言え、戦力的に無理があるのでは」 機関は馬鹿では無いと解っていながらも、古泉は説得を試みる。 「私だってこんな手段は良いと思わないわ。 でもね。このコロニー「PC-ヴィスタ」は、ただのコロニーじゃないの」 それは古泉も薄々察していた。 日頃甘いとは言え、何故鶴屋皇帝にハルヒの暴挙が許されたのか。 そして何故ここまで共和国が固執するのか。 「コロニー内は、一見何かのエロゲの舞台ような のどかな田舎の光景だけど、ここには最新鋭の巨大兵器がある」 「巨大兵器……?」 「この「PC-ヴィスタ」そのものよ。 コロニー全体が共和国が作り上げたレーザー照射装置なの。 彼らは暗に死の太陽と呼んでいたわ」 双方の軍が入り込んでいるこの機に乗じて コロニーを手に入れてしまえば反旗を翻せると。 そう笑う森の顔には妄信的な狂気の影があった。 「そろそろコン・ピケン独立共和国とSOS帝国軍が PC-ヴィスタに到着した頃ですね」 言葉も無く手に持った書類を捲っているカイ・チョウ自治領主の傍らで エミリー・キミドリは穏やかに笑みを浮かべた。 「こちらの思惑通りに進めば良いのですが」 台詞だけを見れば事の顛末を案じているようだが、エミリーの表情は一向に崩れない。 「さて。私はキミを安堵させるべきなのか。それとも逆が良いのかな」 ちらりと目線を上げたカイ・チョウが薄く口を歪ませる。 「どちらでも。カイ・チョウの仰る事でしたら、それが全てです」 「キミは優秀だ。そのキミが手配したのだろう? 言っていたでは無いか、キミたちにとって同胞との絆は」 エミリーは更に笑みを深めた。 「ええ、血よりも濃いと」 「ならば結果を待つべきだ。仮に意にそぐわぬ物としても 力の足りぬ彼らの咎でしか無い」 カイ・チョウの突き放した物言いにも、エミリーは顔色一つ変えず。 「そうですね。でも」 彼女もとても優れていますから。そう口にしてエミリーは 次の話題を探すかのように視線を机の上のティーカップへと向けた。 コロニーPC-ヴィスタに着きながらも、補佐官は未だルペルカリア艦内に居た。 補佐官が古泉に齎した情報は、捕虜らしからぬ衝動的な行動を招かせたとして 厳密に注意を受けたが、意外にもムスペルヘイム艦長の助言により それ以上の処罰は無かった。 どれ程秘密裏にした所で、どうせ直ぐに幕僚総長に伝わる。 それがムスペルヘイム艦長の言い分だった。 「あなた。艦長にお礼は言ったの?」 個室で一人紅茶を手にしていた補佐官に涼子・ア・サクラー大尉が言う。 大尉も今はムスペルヘイム艦を出て、ルペルカリアに移っていた。 「勿論です」 補佐官はカップに揺れる水面から目を浮かす事無く、大尉の質問に答えた。 SOS帝国との交渉という大役をこなしたサクラー大尉は 以前と変わらず補佐官の周囲をうろついていた。 サクラー大尉が口を出し、補佐官は受け流す。以前と変わらぬ日常の光景。 だがそれも終わりの時が近付いていた。 「大尉!古泉幕僚総長が!」 突如訪れた報告にサクラー大尉と補佐官の顔色が変わる。 会合の時刻まであと僅かなのだ。 重要な取引材料を事前に失うなど言語同断だった。 「幕僚総長を見失った……?いえ、この期に及んで帝国が動いたに違いないわ」 共和国としても、SOS帝国がすんなりコロニーを手放すとは思っていなかった。 「コロニーが惜しくなって幕僚総長を見捨てたって事よね」 「会合の前に総長の身柄を奪還したのかも知れません」 古泉は欲しい、そしてコロニーも失いたくない。ならば会合前に古泉を奪っても。 帝国軍にそのような考えを持つ者が居ないとは言い切れないのだ。 「どちらにしろ許せない。口約束ならいざ知らず 国同士の外交を何だと思っているのかしら」 騒然とする艦内の空気に、サクラー大尉は怒りも露に立ち上がる。 「ルペルカリア、ムスペルヘイム両艦長に緊急連絡。指示を仰ぎなさい。 わたしたちは幕僚総長の確保に行くわ」 全く迷いを見せないサクラー大尉に部下が困惑の表情を浮かべる。 「しかし何処にいるのか」 「このコロニー、今は帝国の物よ。ここに居る我等が艦隊以外は帝国の奴らだけ。 だけど、あっちも大した人数は寄越していない。元から多数潜伏させる程の規模でも無い。 いっその事、外部に救援を呼ばれるよりも先に制圧した方が早い気がしてこない? そうよ。幕僚総長一人より、コロニーを優先するべきだわ」 想定される戦闘への興奮に大尉の眼差しは強く輝き始める。 「待って下さい、先に上からの指示を」 「解っているわ。でも現場には現場の事情があるじゃない。 奪われた物を奪い返す過程で何があろうとも、先に手を出したのはあちらなんだもの」 諌めも聞かず部下に告げ、サクラー大尉は補佐官と共に部屋から出て行った。 「……どういう事だ?」 キョンは共和国との会合場所に少数の部下と到着していた。 帝国が使用したゲートと共和国の使用したゲートの ほぼ中間地点に位置する、豊かな自然に囲まれた湖畔。 見通しの良い立地条件は遠方から誰かが来た場合に適していたはずだった。 だが、時間になっても誰もやってくる気配が無い。 コロニー内に共和国が到着しているのは既に伝達されている。 それなのに何故この場に来ないのか。 共和国の裏切りか。しかしこの会合を提案したのは共和国だ。 ならば古泉に何かあったのだろうか。 「長門に連絡を……」 キョンが言い掛けた時に異変は起きた。 平和な風景に不似合いな警告音がコロニー内に鳴り響く。 更には安全措置としてコロニー内に多数あるシャッターの 封鎖される旨が人工音声で告げられた。 コロニー内各所をナンバリングで示すそれは 内部に入った者たちを脱出させまいとするようだった。 『――緊急事態が発生。あなたも直ぐに艦へ戻って』 携帯通信端末から聞こえる長門の声にキョンは大声で応える。 「長門!今何処にいるんだ!」 『動力部を出た。あなたには至急艦に戻りゲート付近で 退路を確保して欲しい。古泉一樹はコロニー内にいる。探し合流する』 「古泉の場所はわかるのか」 『検索出来ない。だが封鎖される区域から残されたルートの検出は出来る』 「つまり中に居る奴らはそこに集まるって事か」 『しかし何時完全に閉じ込められるか解らない。 その場合脱出の為にゲートの保守は必要。艦の武装を用い実力行使も視野に入れるべき』 「コロニー内で砲撃戦は無理だろ」 『壁を打ち抜く事は出来る』 コロニー内でそんな事をしたら、近くに人間が居た場合ただでは済まされない。 しかしそれを厭わぬ程に事態は切迫しているのだろう。 部下と共にキョンは慌しく移動を始めた。 「教えてくれ長門。お前の現在地と俺ではどっちが共和国が使ったゲートに近い?」 『……あなたはコロニー中心部の住居区域にいる』 「どっちが近いんだ!」 『あなた』 「ならお前が艦に戻ってくれ。古泉もここに着いた事は確かなんだろう。 奴らが着いた場所は解ってるんだ。ついでに探して戻ってやるよ」 『……了解した。封鎖区域から計算されるルートについては随時報告する。 気をつけて』 「お前もな!」 本来なら人命救助の為に避難勧告として放送される人工音声は 今は無情な響きを持って封鎖される区域へのカウントダウンが始まった。 時はそれより僅かに遡る。 古泉を乗せた車は、人気の無いコロニー内を傍若無人な速度で走り続けていた。 「閑散としていて良かったわ。交通事故を起こさなくて済むもの」 平和そうに感想を述べる森の口調は、現状と掛け離れ過ぎていて。 そのたおやかな手で車内にある武器を弄っているのが不思議な程だった。 「……一体何処に行くつもりなんですか」 両手の自由を奪われたまま古泉は問うが、明確な返答は無い。 答えぬ代わりに、森は別の話題を切り出した。 「そうだ。一応聞いてみるけれど、あなたこっちに付く気は無い?」 世間話をするかのように軽く言いながらも、その眼は真剣味を帯びている。 「…………今の僕は、SOS帝国の幕僚総長ですから」 「そうね。そう言うだろうと思っていたわ」 森は銃器を一旦手放し古泉へと近寄る。 「前から思っていたけれど、古泉って固いわよね」 「どういう意味ですか……って、ちょっと……んんっ!」 おもむろに森の唇が古泉を塞いだ。 森は古泉の下唇を食みながら、腰に手を回し抱き寄せる。 その動きに危険を感じ、古泉は不自由な中で必死に顔を背けた。 「止めて下さい……っ」 顔を朱に染めて言う古泉に、森は優しげな笑みを零した。 「再会を喜んでみただけじゃない」 「……こんなの間違っています!」 その古泉の発言は森の行動だけでなく機関そのものを指していたのかも知れない。 それでも森は気にせずに言葉を続ける。 「あなたは誰かとキスしたいと思った事は無いの?」 「それは……」 「少なくともわたしは今どきどきしているわ。あなたに口付けた事も。 これから自分たちがしようとしている事でも。 知ってる?人は好きな相手だからキスをするのよ」 「……好きな相手……」 一方的な口付けを受けたのは今回限りでは無かった。 それを思い出し、古泉の顔に影が落ちる。 「今のわたしたちは相容れない。でもこの際だから言うけど わたしはあなたを結構気に入っていた。それは変わらない」 言葉に詰まる古泉を森はその胸に抱き寄せた。 「あなたも随分と大きくなったわ」 森の胸元に抱かれ古泉は言葉を探す。 でも何を言っても無駄だろうと何処か冷静な頭では解っていた。 抱擁を交わしていても、視線を落とせば場にそぐわぬ物があるのだから。 車内が沈黙を保ったのは僅かな時間だけだった。 「多丸兄弟から連絡でございます」 運転席から落ち着いた声で新川が告げる。 そんな新川にも以前の古泉は親しみを覚えていたはずだった。 新川の声を受け、森は古泉から離れて表情を切り替える。 「無事「PC-ヴィスタ」のメインシステムに侵入出来たようね。 ……もう引き返せないわ」 それは感傷を捨て、明確な意思と目的を持った者の顔だった。 そして警告音と人工音声が辺りに響き渡った。
https://w.atwiki.jp/hiroki2008/pages/81.html
涼宮ハルヒの経営Ⅰメイキング 連載期間中にvixiでネタバレ日記を書いていた。それに加筆修正したもの。 文章量について 今だから言えることなのだが、「古泉一樹のある種の罠」という470Kバイトを超える長編があって、どうにかしてこの文章量を超えるものを書きたいと常々考えていた。微笑のような時系列で一方向に進むストーリーは膨大な手間と暇を要するので、オムニバスのような形式でやってみたらどうかというのが発端である。好き嫌いはあるだろうが、それぞれ読者が持っている歴史的知識や科学的知識のうちどれかに当たれば評価を得られるのではないかと考えた。要は幕の内弁当的構成なのだが、シーケンシャルに進む展開よりは楽に執筆できたと思う。同じ頃に書かれた軌跡の作者には賞賛を送りたい。 スレでSSのボリューム順位でトップに上げられたことがあったが、実質は560Kバイトでルビを除くと600Kは超えていない。 プロローグ 3.6Kbytes 一章 19.7Kbytes 二章 21.7Kbytes 三章 20.4Kbytes 仮説一 78Kbytes 仮説二 54Kbytes 仮説三 59Kbytes 仮説四 203Kbytes 仮説五 58Kbytes 四章 23.1Kbytes 五章 20.7Kbytes 六章 24.9Kbytes エピローグ 3.9Kbytes 構成について 仮説以外は長門有希の憂鬱IIIの掲載を終えた2007年9月ごろにすでに完成していた。出来上がったものを読んでみて、どうやら面白くないというのが作者二人の同意見だった。単にハルヒが会社を作っただけで、起承転結に強みが欠ける、SOS団らしいドタバタ劇がない、という感想だったと思う。 俺自身はもう少し科学的アプローチを入れて、時間移動技術の開発がさも可能であるかのような感覚を読者に与えたいと考えた。当初は仮説5以降にあるハルヒの柏手ワームホールのみだった。資料を漁ってみると使えそうな理論がいくつかあることに気がつき、この際だから全部突っ込もうということになったのだがそれが長編化の大きな要因となった。 もうひとつ、メドレーのように世界すべてをひとつの話の中で表現してみたいという実験的試みもあった。近未来、中世ヨーロッパ、古代を舞台にしてSOS団が騒動を起こすというものだ。 テーマについて 最も重要なことに、2007年9月現在の初稿では作品の底に流れるテーマがはっきりと見えていなかった。高校と大学を出てそれからどうするの?ハルヒはどうやって食っていくの?という妙に現実的なところに焦点が当てられすぎていて、なんだか夢のない話になっていた。ここはやはり涼宮ハルヒの憂鬱の原点に立ち返り、「ただ食うためだけのサラリー生活なんて生き地獄だわ」と言ってのけるハルヒを登場させたかった。株式会社設立と部活のSOS団設立とは基本的なところは変わっていない。 古泉が「閉鎖空間の出現回数が極端に減っている」という話をするシーンはあとから追加した。「大人になるというのは妥協を覚えることか」というのをテーマとして取り上げてみたかった。子供の頃に持った夢はとてつもなく大きかったはずなのに、大人になってなんでもモノが手に入るようになってからは夢が萎んでしまったという悲しい現実。で、キョンにそのへんを気付かせてフォローさせる、というのが狙いだった。が、どうもうまくまとまっているか自信がない。 起業について 新会社法で起業ラッシュがあったのは数年前のことで記憶にも新しいことだが、今では書店の棚にはそのテーマの本はそれほど多くない。図書館で2冊見つけて参考資料とした。 部長氏のメンツを登場させたのは、メイン業務として長門テクノロジーが出たあたりでひらめき、実は部長氏を取り巻く開発部の連中の話が涼宮ハルヒの経営Ⅲに繋がっていくことになる(ネタバレである)。最初はⅢもⅠの中のエピソードとして取り込まれていたが、またもや長くなりそうなので別作とした。 起業のプロセスはVIPPERレベルで分かりやすくしたつもりだが、なにせ経験もなく資料を読んだだけなのでリアリティに欠けるかもしれない。 時間移動技術について 原作の設定を継承し、みくるとハカセくんがキーパーソンである。詳しくは涼宮ハルヒの陰謀を参照。ゼニガメを登場させる以外では原作の伏線を使うことは意識しなかった。 ハカセくんの人物像がはっきりしないのでキャラメイクに多少迷いはあった。キョン妹と同じくらいの歳なのでそのへんをからめてもよかったかもしれない。 みくるは当然(大)である。しゃべりも大人っぽく、ちょっとお姉さんタイプにしてある。たまに(小)っぽい仕草が混じっているのはシーンの描写のためか。 粒子加速器が出てくるのは、時間移動技術に関する資料で、CERNでブラックホールを作るとかジョンタイターが2つのブラックホールを使っていたとかいうネタをあちこちで読んだためである。どうしても素粒子物理学に頼ってしまうのは、モノとはいったい何か、時間とは何かという問題に突き当たるからだと思う。 原作でTime Plane Destroid Device、つまり時航機と言っているのだが、概念のような存在な割にはメカニカルっぽいネーミングであるなと思っていたところで、生物学+電子工学から成っているという推測に至った。語呂を違えてTime BrainやらTime Membraneやらとなっている仮説があるが、特許申請のところで結局Time Planeになってしまうのは、つじつま合わせである。特許庁関連の公開文書で時間移動技術が含まれるものは実際に12件ほどある。 仮説について 最後まで読むと分かるが、この5つの短編から成るパートは、長門の試算つまり仮想環境のような状態で行われた話である。詳しくは省いたが、銀河系宇宙のスナップショットを1プランク秒ごとに取り、不測の事態に備えているなんて背景を考えていた。膨大な情報量になるが、最後には巻き戻り比較的安全な時間線を採用する。仮説4でキョンが仮死状態で会った巫女みくるのセリフは、情報統合思念体は最初から長門の試算を知っていて許可したということを意味している。だから喜緑江美里はこの仮想環境には存在できない(仮説2と3にそういうセリフがある)。 5つの仮説のうち、4つの時間移動理論とそれぞれのエピソードは実は関連性がない。時間移動理論とうまく繋がっていないエピソードもある。たとえば突如出てくるトランプだとかはどう見ても後からくっ付けた感じが拭えない。仮説5のゼニガメと時間移動列車はすんなり繋がっていると思う。 ハルヒの「ジョンスミスに会うための時間移動」の願望と、長門の「記憶を本にして読んでみたい、そこで主人公として存在してみたい」という願望をマッチさせてこの展開にしたつもりだったのだが、うまく表現できたかどうかは読者の判断に任せたい。試算とはいえ人が死んだり世界が核戦争に巻き込まれたりするシリアスな話もあるのだが、それを長門がどう感じていたかは俺自身にもどう表現すればいいか分からなかった。長門は情報統合思念体の視点から、そこで生まれる事象をまるで物語を読むように観察していて感情移入することもなかった、か、あるいは失敗しても元に戻せばすべて解決する、という安全装置があったのか。俺自身のジレンマとして解決していない。いずれにしても時間移動技術が引き起こす世界規模の壊滅やら異常事態やらをあらかじめ察しておく必要があり、この試算は予防注射のようなものだったと無理ながらに納得しつつもある。 5つの仮説を通して、キョンの身近に数字が出てくるシーンがある。これはスタートレックTNGで無限ループの時空に陥ったエピソードにヒントを得たもの。無限ループから抜け出すために、次のループが起こるのを予測して自分当てにメッセージを送る話。数字はそれぞれのループの回数を表しているんだが、読者にうまく伝わったかどうか自信がない。そもそもこれはループではなくて平行して存在する分岐宇宙とも受け取れる構成なので、次の世界の自分にメッセージを送る必要があるのかも不明だ。 今回使ったタイムマシン技術の理論のうち3点はここを参考にした(残念ながら当該記事が削除されている) http //ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%83%9E%E3%82%B7%E3%83%B3 仮説1:ワームホールを使ったタイムトラベル ワームホールをタイムトラベルに使う理論は1989年キップソーンが発表した。実はそれほど難しくないんだが物理の基礎知識がないもんで理解するのに苦労した。作中でも言っているとおり、SFにあるような時間を旅するのではなくて、歪んだ時空を作って維持する、だけのことらしい。 ここで出てくる粒子加速器は、小型のやつは医療機関とか大学でも使われている。でかいやつは筑波の高エネルギー加速器研究機構にある。医療用のは癌の放射線治療で使われていて住友重工とかで受注生産している。 古泉が運転資格について言ってるんだが、厳密には決まっていないらしい。物理板KEKスレで聞いたところ、業務管理のための放射線主任技術者とか電気主任技術者のことだろうということだった。 消費電力についてはKEKの公開資料を参考にしたが、電気代が計算上で合ってるかどうかは分からない。加速器のうち最も電力を使うパーツ(金属磁性体コア)×枚数(200枚)で計算したんだが、他の制御機構などでもっと使ってると思う。KEK-Bは1時間あたりの電気代が50万かかるらしい。 仮説2:ロナルドマレットの素粒子を使ったタイムトラベル 事象の地平線(ブラックホール)を擬似的に作り、そこで発生した時間のループの中を素粒子を通して情報をタイムトラベルさせる理論は物理学者ロナルドマレットより2000年に発表された。時空の時間を凍結させるので理屈はワームホールに似てなくもないが、資料がなくてどういう理論なのかよく把握していない。 科学ネタのニュースで話題になり、実験によって素粒子による五分間のタイムトラベルは成功したとかしなかったとか読んだのだが、その後の資料がない。投資も募集している。 Space-Time Twisiting by Light project(無くなっている(´;ω;`)) http //www.physics.uconn.edu/~mallett/main/funding.htm 仮説3:宇宙ひも理論 宇宙創生から存在するエネルギーの帯のような「宇宙ひも」がもしあったら、という仮定の上に立った理論らしい。このひものように見えるのは、宇宙のある領域と別の領域の境界線のようなものらしい。 この仮説は実は宇宙ひもはどうでもよくて、時間移動技術が国家権力の道具として使われる危険性をテーマにしたかった。ハルヒも人の子、権力の前には丸め込まれてしまうだろうという妙に歪んだ現実感がこの展開になった。読んでいくと、ハルヒを止めなかった未来のキョンに責任があることが分かるわけだが、キョン自身のなにごとも妥協しやすい性格がこれをありうる展開にしたというべきか。もっと短絡的に、ハルヒの能力を軍事利用されたらどういう未来になるかというおぞましい話にもなりうる。 長門もどっちかというとキョンには甘いし、中立的立場の主流派らしくない行動を取ったりすることもある。長門が持つ、好きな人に嫌われたくないという気持ちを表現させてみたかった。長門の試算で長門の異時間同位体が出てくるってのも変な話だが、それが理由でこの試算とはどういう状態なのか説明せずにぼかしてある。 本当を言えば森園生のバイオレンスを詳細に書いてみたかったが、まあ後日トライ。 仮説4:ゼロポイント時間 この理論はオリジナルのつもりだったんだが、書いている途中でキップソーンが時空の泡を使ったタイムトラベルの話をしているのを知って、やっぱ先人はすごいななどと感慨にふけっている。ハカセくんがキップソーンの名前を出した部分は後から追加したもの。 そもそも時間ってのはなんだろう、というところから生まれた。量子的ゆらぎの中でエネルギーが発生する話は「パラレルワールド(NHK出版)」、「ホーキング、未来を語る(角川書店)」なんかで読んだ。インフレーションに至らない宇宙の種は泡のように存在しているかもしれないという説に、ハルヒの無から世界を作りだすという能力を関連づけた。 古墳時代の話の着想は、長門式時間凍結で長期に渡るタイムトラベルをするには、移動する間建物なり部屋なりが存在しないといけないと考えたところに始まった。ちょうど大阪には千六百年前から存在する古墳があり、仁徳天皇の歴史を漁っていくとそのまま使えるんじゃないかというkiseki氏の発案だった。仮説3と同じパターンで、その時代にタイムスリップして帰ってくるというエピソードとして作ることにした。 仁徳天皇史は2つの部分に分かれる。最初に磐之媛皇后とのドタバタ恋愛と、その後の八田皇后とのゆるやかな人生だ。 最初古泉に仁徳天皇役をさせる予定だったが、仁徳天皇の人となりを読むにつれ理屈っぽいところや女心に妙に鈍いあたり、キョン以外ないということで決定した。 磐之姫という人物は本邦初のツンデレと思えるほどの娘で、妃の八田皇女への嫉妬のあまり船の積荷を全部捨ててしまうあたりでは資料を読みながら腹を抱えて笑った。好きな人への気持ちを和歌で伝えるあたりがこの時代の恋愛っぽくて渋くていい。ハルヒが当時生きていたらこんな感じであろうと彷彿させる。 八田皇女は物静かで思慮深く、天皇に付きつ離れつ、気がつけばそこで見守っているという人物だった。「……」この無言のセリフが出てきたあたりで床を叩いて笑った。これはもう磐之媛命=ハルヒ、八田皇女=長門というキャストしかありえない。 これはオリジナルのストーリーなので史実と事の順番や人物の役割が異なる部分が多い。たとえば古泉扮する酒の君は、実際はあまり多くの活躍はない。さらに大鷦鷯が太子に就く儀式などは文章量の都合で割愛した。資料にしたのは「物語 仁徳天皇(展転社)」。物語調で読みやすい。史実に六十六年の時間的トラップがあって歴史ミステリーっぽいネタにもなりそうだったが、今回は長編中の短編挿話なので使わなかった。元は日本書紀、古事記、万葉集らしい。ゆかりの地名は今も残っているものもあり、ぐぐるとその名残を見ることができる。史実には八田皇女の妹が謀反の罪で追われる話もあるのだが、今後書こうかどうしようか迷っている。 仁徳陵が雪陵《ゆきのみささき》とも呼ばれているのは事実で、ぴたりと一致するパズルの最後のピースに感動した。それに由来して雪陵会と名づけられた某高校OB会が堺市にある。 物語 仁徳天皇(上下) http //www.amazon.co.jp/dp/4886561748 日本書紀(上下) http //www.amazon.co.jp/dp/4061588338/ 仮説5:STC理論 みくるのSpace-Time Continue理論である。原作の本文中には詳しい仕組みやら理論が書かれていないので、どうやって時間移動を実現するかだいぶ悩んだ。時空を二次元に丸め込んで平面で表現し、その平面を並べて時間の連続体とする考え方に、米国の神経生理学者ベンジャミン・リベットの学説「心の時間遡行認識」を組み合わせた。脳内情報の時間遡行は実証されているらしいのだが、実験も理論も世間にはあまり知られてはいないようだ。 原作の中でみくるが「時航機」という単語を使っており、その響きから電子工学っぽいテクノロジーが想像された。その反面、TPDDは理論ではなくてテレパシーのようなもので伝達されるというセリフもある。それらを元にTPDDは電子工学的な部分と生物学的な部分の両方から構成されているのではないかと考え、この理屈が生まれた。 このパートはkiseki氏の案で書かれた。川端康成の雪国をモチーフにした時間移動列車の雪景色を走るシーンからはじまった。未公開シーンにもあるとおり元は電気ストーブがループする話だったのだが、時間移動の実験をからめるためにゼニガメに変更してもらった。なんとなくだがこの仮説は全体の流れにすんなり収まっている気がする。お分かりのとおり、試算の結果はSTC理論が採用された。残りの24パターンを残したのは後日エピソードとして書くための余白だ。余力があったら書きたいが、誰かが書いてくれるのも歓迎。 STC理論について考察したblog(これも無くなっている(´;ω;`)) http //23337.hito.thebbs.jp/ct/%A3%D3%A3%D4%A3%C3%CD%FD%CF%C0%A4%CB%A4%C4%A4%A4%A4%C6 マインド・タイム 脳と意識の時間(岩波書店) http //www.amazon.co.jp/dp/400002163X ハルヒのタイムカプセル ハルヒSSを書くとき、ゼロに戻さなければならない話、というのが念頭にある。長門有希の憂鬱IとIIは原作の本流から大きく外れないようにするために記憶を消してしまう、つまりなんの痕跡も残さずにエンドロールを迎えるという終わり方をしている。Iを書き始めたときにずっと疑問にあったことなのだが、驚愕以降が出たときに予想とは大きく外れた展開になっていたらそれまで書いたSSがすべて無意味なものになってしまうのではないか。この四章以降もそれを気にしていて、仮説であちこち飛んだり暴れまわったりした話をフォローしてゼロに戻さなければならないという進め方で書いている。ちなみに誤算以降ではこの疑問を一気に壊している。 仮説五を書いたあと、しばらく執筆が止まっていた。ゼロに戻すにしてもどう片付けるか、読者になにを見せればいいかを迷っていた。あらかじめ書かれていた量子猫の短編から四章以降を起こすことにして、成果物は未来への布石のみに留めてゆるやかに終わっている。実際ここで今すぐタイムマシンを作られては困る。 量子猫について 存在が曖昧なこの猫の話は、元は独立した短編だったが後ろを繋いで挿話とした。量子力学のシュレディンガーのキャットボックスという思考実験から思いついた。詳しくはぐぐると出てくる。長門には猫が似合うと以前から思っていてつらつらと書いてみたのがこの短編。キョンが長門に猫を飼えと勧めたのは消失での話。ミミという名前はkiseki氏が実際に飼っている猫の名前から付いた。 コスプレと因果律の歪み この辺の展開は少し執筆に難が見えるかもしれない。五章の終わりで未来のハルヒの記憶と一致しない流れについて危機的な展開をほのめかしてはいるが、実際にはソフトランディングでうまく辻褄を合わせるようにまとめている。言うなれば“簡単にフォローできる範囲のハルヒによる歴史改変”にとどめている。古泉が親指をザックリやっちまう話は実はまだ考えていない。 十年後のハルヒやSOS団がどうなっているかを敢えて描写していないのは、未来については書けないという禁則事項のようなものがあったのかもしれない。長門がキョンに抱きつくところは、なんというか長門有希の憂鬱IVに繋ぐためにどうしても書いてみたくて許してくれみたいな。ご存知の通りカメラのこっちにいたのは古泉である。 そのほかのエピソード 今のところ仮説3と4のサブエピソードと仮説29のプロットが進行しているが、執筆そのものがいつになるかは分からない。すべてがゼロに戻るのでなにをしてもありなのだが、時間と余力があれば書くつもりにしている。このSSは時間移動ネタを扱ったエピソード集の器として用意したとも言える。 イラストについて 時間移動技術のイラストは3Dモデリングソフトで描かれたもの。ラフはnomadが雑誌ニュートンやら前述の資料などから起こした。 予定では1章あたり1点だったのだが、どこここ氏には14点もの挿絵を描いてもらった。ここで謝意を表したい。ありがとう。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2336.html
時は西暦200X年。 この平和な日本に、ただ一人の男の野望のためだけに結成された秘密組織があった。 その組織は北高1年5組軍隊と呼ばれ、 全身黒タイツの十五、六の少年少女型のチョッカーで構成されていた。 その軍の最高指揮官、 オ・カーベ(36歳独身)はハンドボール界のルールであり、 彼そのものがハンドボールであった。 オ・カーベはハンドボールをオリンピック競技とすべく、 時たま幼い子をさらい、己の支配下に置き、 ハンドボールプレイヤーとしてその子らに熱血指導を施していた。 今日もまた、幼き天使に伸びるハンドボールバカの魔の手 その様な時代、地獄の底より囁かれる悪魔の声を断ち切るべく、 一人の少女が立ち上がった! ハンドボール界の人々は彼女をこう呼ぶ、 「燃え盛る炎を纏いし究極戦士・朝比奈みくる」 と!! さあ話を進めないと、と思った矢先、 上のアホ過ぎるナレーションに先を越された。 これも涼宮さんの力だと言うのか…言うんだろうなあ。 では、気を取り直して。 「少女が、少年が、私を呼んでいる……!」 きりっ、とヒーローとして覚醒した朝比奈さんは闘志に燃える瞳で呟いた。 「少女、少年とは、キョンくんとハルヒちゃんの事ですか?」 正座を止めて立ち上がる。 多分、彼女の言う少年少女とはこの二人で間違い無いのだろうが、 もし全く関係の無い人々の事を言っているのだったら、 森さん達に連絡して冒頭でチョッカーと呼ばれていた黒タイツ共を 片付けて貰わないとならない。 いや、あの森さんなら既にボッコボコのズッタズタにしているかもしれない。 「ひえ!?」 力強く結ばれていた朝比奈さんの唇は一気に緩み、驚きの声を発した。 ……何かまずいことを言ってしまったのだろうか。 「どうしてわかっ……」 そこまで言って朝比奈さんは、はっ!と両手で口を押さえた。 そして何でもない、とでも言う様に首をぶんぶんと横に振る。 「え? あ……ああー! そうですよね、ハルヒちゃんとキョンくんはお使いをしているんですから、 道に迷いでもしない限り、助けなんて呼ぶ訳ありませんよね」 そうか、『変身』ヒーローは覆面ヒーローと同義なのだから、 正体を知られてはならないのか。 「そう!そうなの。 さっきのたすけをよんでいるってゆーのもね、みくる、あそんでただけなの。 だれもみくるのこと、よんでないよぉ」 朝比奈さんは今度は首を縦に振った。 巧みに台詞を全て平仮名に戻していらっしゃる。 それなら、と僕はダンボール箱の脇に置かれていたおんぶ紐を取り上げて、 長門さんを抱き上げて台所へと向かう。 「では、僕は有希ちゃんを背負ってヨーグルトぶちまけチキンライスの続きを作るので、 みくるちゃんは出来るまで遊んでいて下さいね」 「はあい!」 朝比奈さんを部屋に独りきりにするため、素早く退室して扉を閉める。 まな板には向かわず、そのまましゃがみ込んで扉に耳をくっつけて中の様子を伺った。 「良かったあ…バレたかと思っちゃった……」 心配しなくても、もろバレです。 「普通の人だと思ってたのに……一樹先生って一体…?」 空間限定エスパー、しかし今はその能力も消滅してしまって、 いつ動物になるかと冷や冷やしている高校生……そんな所か。 「うん、これで誰にも見られない」 聞かれてはいます。 「迸る情熱は少年少女の為に! 究極戦士みくるっ」 扉の向こうから籠った声が聞こえた。 「へぇええーん…」 バチバチバチィッ、と電気が走る不吉な音がする。 「しんっ!」 カッ、と扉の隙間から光が廊下に差し込んだ。 「装着! 『信』の闘神武甲胄 バトルアーマー・ゼロ・ディフェクト…!」 またえらく大層な名前の変身ス 説明しよう! バトルアーマー・ゼロ・ディフェクト とは、みくるがマッド・サイエンティスト・ディペット博士に頼み込み、 世間一般には極秘で発明した、記憶形状型超特製銀メタンを異粒子状にまで分解し、 みくるに秘められし未知のパワーを最大限に発揮できる効能を持った バトルアーマーである!! また乗っ取られたー! さっきから誰!? ついでにディペット博士も誰! 「今日も放たれるSOSのサイン……どうして、どうして…っ…… どうして人は同じ星に生まれた人を、動物を、木々を、仲間を、家族を! 傷付けてしまうんだーー!!!」 誰ーーーーーっ!?!? 「その様な人々に必要な正しい道へのしるべ……それがお前じゃろうて」 「ディペット博士!!」 呼んでもないのに来た! 「しかし…私は、私がしている事は…… 幼い子どもを傷付ける不届きな輩を、傷付けて成敗しているだけなのです…… 暴力を解決するのに暴力を振るう、これは誠の正義なのでしょうか…」 「下らない事で愚図愚図するな!」 博士のキャラ変わった!? 「さあ。ゆけ、ゆくのだ!選ばれし究極戦士みくるよ。 いじめっ子を懲らしめるには同じく、否、それ以上にいじめるしか無いのだ! お前もヒーローの端くれなら戦えぃ!!」 「そんな、そんなの……」 「甘えるな!!真の正義は綺麗事では済まされないのだ!」 「くっ……!」 「貴様が行かなくては誰が行くと言うのだ! 貴様が行かなくては誰が――」 「誰 が 少 年 少 女 を 救 う と 言 う の だ!!」 「…………博士」 「………」 「私は甘えていました」 「………」 「しかし、もう甘えません、迷いません。 何故なら私は――」 「私は彷徨える人々への唯一の道しるべなのですから!!」 「やっと解ったか」 「はい」 「今のお前は、とても良い目をしておる 」「はい。では、少年少女のもとへ、行って参ります!」 突如、バリーン!と、窓ガラスが叩き割れる音がした。 ……ガラス!? 「そうだ…みくるよ、お前はそれでいいのだ…思う存分、悪と戦って来い。 そして、また一つ成長して帰って来」 「突然ですが失礼しま、うわ! マジでガラス割れてる!」 「ひしゃん」 「下の道に人がいたらどうするつもりだったんですか!大怪我ですよ」 「おお、これはこれは。君達は確か… いつもみくるがお世話にな」 「そこのおじいさん、 塵取りと箒とゴム手袋とゴミ袋を持って来て下さい。 探せば直ぐに見つかりますから」 「え?ワシが? この天才科学者ディペット博士が、こんなオスガキに命令されているじゃと?」 「あ、こら、長門さん! 危ないから窓に近付かないで下さい」 「わかっちゃ」 「いやいやいや、言った側から ああもう、有希ちゃん、おんぶするから動かないで下さい」 「ん」 「えー…… ……ディペット博士、こんな紐でどうやったら子どもを背負えるんですか?」 「全く、最近の若造はこれじゃから…ほれ、貸してみい」 いきなり現れた黒タイツ集団(確か冒頭の謎のナレーションではチョッカーと呼ばれていた) そいつらを片っ端からギッタギッタのメッタメッタにしていると、 ド派手に赤いピチピチスーツを着て、戦隊もののレッドみたいなヘルメットを被った子どもが 三輪車をキコキコ言わせながら公園の入口までやって来た。 「ディペットの野郎、メンテナンスサボったな……あんのハゲちょろびんがぁ… なぁにが『お前もヒーローの端くれなら戦えぃ』だ… 端くれどころか私が全ヒーローのドンだっつーの」 怖がっていたのも長くは続かず、「ねーおじさーん、ひーろーはいつくるのー?」 と呑気に多丸兄に聞いていた涼宮ハルヒは、 そう恨めしげに呟く赤スーツを見た途端、隣にいた対象Bと共に歓声を上げた。 この二人の心臓は剛毛が生えてるに違いないわ。 「マシン・みくるREXターボ改がエンストするなんて…」 はぁはぁと息を切らせながら、三輪車から降りる。 みくる、という事はこの小さなヒーローは朝比奈みくるで、 お使いに向かわせる際涼宮ハルヒと対象Bに財布を渡し忘れたバカ泉との電話で聞いた 涼宮ハルヒの発言から考えるに、今この子は未来人ではない、と。 更に長門有希は魔女っ娘、アホ泉は喋る動物。 …ややこしい事になりそうね。 「唯一機能しているのはこれだけ…」 レッドが三輪車のハンドルの間にある小さなボタンを押すと、 その場に喧しいクラクションが鳴り響いた。 その途端、私達が再起不能にしたチョッカー以外に僅かに残っていた 黒タイツ数人がキーキーと叫ぶ。 「あれ?少なっ…… え?」 朝比奈みくるはゴーグル越しに、チョッカーを粗方片付けていた私達を見た。 「いち」 立てた人差し指で自分を指差し、 「にー」 次に倒れ伏したチョッカーの背中に片足を乗せた私を差し、 「さん」 ばらばらに地面に散らばるタイツ集団を一ヵ所に纏めている新川を差し、 「しー」 それを手伝う多丸弟を差し、そして最後に 「ごー」 涼宮ハルヒと対象Bを背中に庇い、戦闘態勢を取っている多丸兄を差した。 「もしかして、まだ目覚めない戦士達…? ……いや、違うか。オバハンとジーさんとデブと若ハゲ。 ヒーローには不相応だ」 ガキに言われたくないわね、誰がオバハンよ。 朝比奈みくるが一人で指を曲げたり伸ばしたりしていると、 やっと自分達の役割を思い出したか、生き残った黒タイツ数人が彼女に飛び掛かった。 それをやたらと格好を付けて地面を転がり、素早く回避した朝比奈みくるは、 「私だって、私だって本当は戦いたくないんどぅわーーー!!」 絶叫しながら、どこに隠していたのやら、バズーカ砲を肩に担いだ。 おおっ!と涼宮ハルヒと対象Bが声を上げる。 「君達だってそれは解っている筈だ! この戦いは何も生み出さないだがしかしっ!」 一気に言い切り、朝比奈みくるはバズーカ砲を担ぎ直す。 「それでも君達がそこの少年少女を傷付けると言うのならば……やむを得ない。 せめて苦しめずに一瞬で葬る!」 「かっけー!」 どの辺が? と私は全く同時に叫んだ涼宮ハルヒと対象Bに聞きたかった、けれど止めておいた。 「うぉおおぉお! 血で血を洗う極悪惨烈みく、じゃないヒーローバズーカ!!」 バズーカ砲から飛び出て来たのは、紐で繋がった万国国旗だった。 隠し芸大会レベルじゃないの。 ひらひらと万国国旗はチョッカーの頭上に降り注ぎ、 ちょんと体のどこかに当たっただけで何故か彼等は吹っ飛んだ。 あんなのでダメージ食らうか。 「ルール無用の残虐ファイター、それが私!」 残虐さをどこにも見出だせないままでいる私達を放ったらかしに、 朝比奈みくるは涼宮ハルヒと対象Bのやんやの拍手を受けながらチョッカーに突っ込む。 「おっぱいミサイルやりたかったけどそーだ園児だから無いじゃん出来ないじゃんキィーック!」 えらい長いわね……これ技名? 普通にヒーローキックでいいわよね? っていうか、おっぱいミサイルは変身ヒーローじゃなくてロボットでしょう。 「仁義無き戦いこそが真の戦い! 私に勝ちたくば義理や人情のたぐいは捨てろ!」 涼宮ハルヒのヒーロー像に疑問を持ちながら、 もう私に出番は無いわねと、チョッカーの背中から足を退けた。 朝比奈みくるの攻撃は続く。 今やこじんまりとしたこの公園は、完全に彼女の独り舞台だった。 「ヒーローパンチ!」 「ヒーローアタック!」 「ヒーローバックドロップ!」 「みくるチョップ!」 「ヒーローアッパーパンチ!」 今一回みくるって言った! 気付いてしまっただろうか、と涼宮ハルヒを伺うと、 彼女は嬉しそうにきゃーきゃー言っていた。 「この究極戦士がいる限り、悪が栄える事はない!!」 全てのチョッカーを地面に転がした朝比奈みくるは、声高らかにそう叫んだ。 途端に涼宮ハルヒが勢い良く拍手し、隣の彼がそれに倣い、 ああ、うん……と歯切れ悪く呟きながら私と新川とダブル多丸も手を打ち鳴らした。 このままサイン会でも始まるのかしら、と思っていると、何の前触れも無く、 「いい気になるなよ、究極戦士!」 との台詞と共に耳障りな高笑いが聞こえた。 まだなんか一芝居あるのね……。 「これ位楽にこなして貰わないと、俺の宿敵は務まらん!」 「その声は…!」 朝比奈みくるが勢い良く、声の在処である滑り台の天辺を振り仰ぐ。 「1年5組軍最高指揮官 オ・カーベ…!」 朝比奈みくるの怒りに包まれながらも緊迫した声が公園に響く。 強盗宜しく鼻の下から顎までをバンダナで覆い、ジャージを着た男がそこに立っていた。 涼宮ハルヒ達の担任、岡部ね。 ラスボスを名乗るんなら、もうちょっと衣装に金掛けなさいよ。 「少年少女には指一本触れさせないっ!」 朝比奈みくるが岡部に、そこから降りて来いと大怪我な身振りを取る。 「俺が欲するのは最早ガキ共では無い!」 「何っ!?」 「俺の素晴らしい計画を尽く邪魔する、目障りな貴様の命だ!!」 岡部はそう叫び、どこに隠し持っていたのか、バズーカ砲を担いだ。 またか。 主人公とラスボスの武器が被るなんて有り? しかしそう考えているのは私だけの様で、涼宮ハルヒは、 「あぶないっ、にげてー!」 と窮地に立たされた朝比奈みくるに対し、激しく大声を上げていた。 「ハンドボール爆撃! 標的ロック・オン!!」 そのまんまな技名と共に、バズーカ砲からハンドボールが続け様地面に打ち付けられる。 万国国旗もハンドボールも、バズーカ砲に入れる利点はどこにあるの。 「ぐぁああぁあ!」 滑り台の天辺から朝比奈みくるの足元へと、滝の様に振るボールに彼女は呻いた。 ちなみにボールは一つも当たっていない。 「いやっ!!」 涼宮ハルヒが見ていられない、と両手で目を塞ぐ。 いや、心配しなくても当たってないわよ。 これはあなたの力ね。 「ぐっ……」 ハンドボール爆撃が止み、朝比奈みくるは さもダメージを体力の限界まで受けたかの様に膝を地面に付けた。 途端に、朝比奈みくるに青い電気が走り、彼女を包んでいた赤いスーツが消えてゆく。 まずい、涼宮ハルヒに朝比奈みくるが変身ヒーローとバレてはならない、 と、彼女の目を覆う手の上に更に私の手を重ねた。 対象Bの視界は多丸弟が私と同じ様に遮る。 「ハッ、所詮この程度か…」 つるつるつる~と滑り台を尻で滑って降りて、 跪いた朝比奈みくるの前に立ち、息を切らした彼女の額に、 ポケットから取り出した……えーと…格好付かないわね……水鉄砲をぴたりと当てた。 「命乞いしな」 まるでピストルを突き付けた様な残酷な瞳の岡部。 まるでピストルを突き付けられた様な絶望した表情の朝比奈みくる。 しかし、朝比奈みくるは正義だった。 「断る」 彼女は悪に屈することを良しとしなかった。 岡部は、朝比奈みくるを下劣に細めた目で見下ろし、耳障りな笑いを喉から洩らす。 「地獄へと旅立つ前にこの世界に言い残す事は無いか。 聞いてやろう」 朝比奈みくるは一つ大きく息を吸い込む間だけ時間を空け、 「お前に言う台詞等持ち合わせていない。 私は、今まで私を支えてくれた、たった一人に……」 それまで痛みと屈辱に歪んでいた朝比奈みくるの顔が、 元の儚げな可愛らしさを取り戻していた。 涙を目尻に浮かべ、慈悲深き女神の如き微笑みを浮かべ、 「フローラ……永遠に愛しているよ…」 誰よ。 「私も永久に愛してるよダニエーーール!!!」 だから誰よ。 大絶叫と共に、公園に面した道路から目茶苦茶に長い緑色の髪をなびかせ、 セーラー服の少女が岡部と朝比奈みくるの間に突進した。 言わずもがな、その少女は私達も良く知る鶴屋家の娘だ。 「フローラ…… 危険だから、里で待っていてくれと…… 子ども達を…ミッシェルとタカシを置いて来ては……駄目だろう……」 子持ちかよ。 別に致命傷を負った訳でもないのに息も絶え絶えな朝比奈みくるを 鶴屋家長女は己の胸に彼女を寄せ、力一杯抱き締めた。 「ダニエルっ、ダニエルっ!! ミッシェルとタケルの為に、生きて…私の為に、勝って…… ずっとあなたは悪と戦っているのに、私はあなたの帰りを待ってるだけ。 それはもう嫌にょろ……」 にょろで全てが台無しね。あとタカシ可哀想。 「ダニエ……いや、みく、違うね……ちるちる」 鶴屋家長女は朝比奈みくるを抱き締めていた手を肩に置き、 彼女の目を力強く見つめた。 「今更出て来て、女子供に何が出来ると言うのだ」 岡部が水鉄砲を手先で弄び、彼女等に非難を浴びせる。 「ちるちる、ずっと黙ってたけどね…」 岡部の野次にも負けず、鶴屋は朝比奈みくるの前髪を片手で掻き上げ、 己の剥き出しの額をそこにぴたりと貼り付けた。 「何を……?」 「目、閉じるっさ」 困惑する朝比奈みくるに鶴屋がそう言うと、彼女は大人しく瞼を降ろした。 「ハハハ! 戦いの神が悪戯に選んだメスガキ如きに、 貴様等デコっぱち一族の蘇りの儀式が利く訳――」 狂った様な高笑いを暫く響かせて、岡部はそれを唐突に詰まらせた。 朝比奈みくると鶴屋が繋がったその額から、眩い光が放たれたのだ。 ペカァアァアー、みたいな光が。 「何だとぉおぉお!?」 驚愕に満ちた岡部を、二人の間から漏れ出た光が包む。 瞼を開けた鶴屋は、朝比奈みくるの額から己の額を離した。 「今までずっと黙っててごめんにょろ、ちるちる。 君を一目見た時から私は解っていたのさ…… 君が、千年に一度生まれると言い伝えられている幻の黄金律の輝きを持つ、 レジェンド・オブ・デコリストだと!」 ふーん。もう何でも有りね。 「私が…?」 「そうにょろ! 君にヒーローとしての力を与えた神は、君が伝説のデコリストだって知ってたのさ! だから神は君こそがヒーローに相応しいと考え、究極戦士の力をお与えなさった」 「しかし、そんな話すぐには……」 「これでもかい?」 パチン、と鶴屋が指を鳴らすと、 一塊にされていたチョッカーの中から一体の黒タイツが立ち上がった。 そいつは顔を覆っていたマスクを破り、朝比奈みくるの前に進み出る。 オールバックから垂れた前髪が根元でぶつ切りになっているその男は、 確か「朝比奈ミクルの冒険」にちょい役で出演し、池に嵌まっていた谷口とやらだった。 次に朝比奈みくるの前に進み出たのは、 公園の植え込みから姿を現した喜緑江美里だった。いつから隠れていたのだろう。 最後に一歩踏み出したのは、私の真横に立っていた新川、ってお前!! 「ちょ、ま、あらか…」 「今の私は、あなたが良く知る機関の新川では御座いません」 「はぁ?」 「デコ友の会・会員ナンバー004、それが今の私の全てです」 「はぁあぁああ!?」 聞いてないわよこんなん! 私達の困惑は無視して、新川達は朝比奈みくると鶴屋のもとへと迷い無く足を進め、 そして朝比奈みくるに自分達の顔を見せる形で跪いた。 「彼等は…?」 「デコっぱち一族の生き残りにょろ。 他の皆は…ホッペタ一族との壮絶な戦争で、粗方……」 鶴屋がそこで言葉に詰まり、唇を噛み締める。 くっ、と谷口は辛い過去を思い出したのか、歯ぎしりし、 喜緑江美里は悲しげにゆるゆると頭を振った。 新川は寄せた眉の下、瞼をそっと閉、もっかい聞くけど何してんのお前!! 「そうか…これだから争いは……」 朝比奈みくるは苦虫を噛み潰した様な表情になった。 そろそろあんた等の後ろで突っ立ったまんまの岡部に構ってあげなさい。 「ちるちる、私達で良かったら、オ・カーベを倒す力を貸すよ」 あー良かった、このまま岡部は放置かと思った。 鶴屋の申し出に、朝比奈みくるは、 「しかし…」 「独りで戦うの者だけがヒーローとは限りませんぞ」 おまっ、新川、あんた帰ったら森園生☆必殺お尻ぺんぺん千叩きの刑ね。 もちろん金属バットよ。 「いいのか…?」 「あったりまえっさ! ね、みんな」 朝比奈みくると鶴屋に見つめられ、新川達は力強く頷く。 「ありがとう…本当に、ありがとう…」 じわり、と再び涙を滲ませた朝比奈みくるの小さな手を、鶴屋は優しく取った。 「じゃ、みんな、あの儀式やるにょろ」 後ろの新川達に鶴屋が言うと、 彼等四人は個々が正方形の頂点の位置になる様に移動し、また地に跪く。 その中心に朝比奈みくるを立たせた鶴屋は、 「みんな、目ぇ閉じるっさ」 五人が瞼を降ろした直後、パァアァアァア、と眩いばかりの光が四人の額から放たれ、 空中で太陽にも負けない程の明るい一つの光になった。 そしてその球は朝比奈みくるの小さな額に降り、 そこに吸い込まれるように段々と小さくなった。 「これが……レジェンド・オブ・デコリストの力………」 全ての光が朝比奈みくるに注ぎ終わると、彼女は閉じていた瞼を上げ、 拳を開いては閉じ、閉じては開きを繰り返した。 まるで、己に新しく備わった力に慣れようとするかの如く。 暫くの間そうして、皆が見守る中、朝比奈みくるは口を開き―― 「変身っ!!」 公園が、目も開けられない程の強烈に眩い光で包まれた。 余りの眩しさに思わず腕で顔を覆いそうになるが、 涼宮ハルヒの視界を手の平で防ぐ事に専念する。 もう色々な事が起こり過ぎで、どこまでが涼宮ハルヒの望みで どこからが個人が涼宮ハルヒの力が直接働いた訳ではなく、 おかしくなっているのかが解らない。 光が治まり、目を開けても問題無い状態になるまでたっぷり一分は要した。 恐る恐る公園の中心に目をやると、そこには、カラフルなスーツを着た五人が威風堂々と立っていた。 そして、合図も無しに声を揃え、誰一人として全くずれずに、 「ツルピカ戦隊デコレンジャー!!」 ……うん、そんな事だろうと思ったわ。 ツルピカ戦隊デコレンジャー、怒涛の後半へと続く! 「……あれ?今回僕達の出番ってこれだけですか?」 「そうじゃろうな」 「まあ、たまにはこのような回があっても良…… 博士まだいたのか」 「いちゃのか」 六へ続く
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4199.html
太陽が本領発揮し過ぎ感が否めない茹だるような暑さの8月、 自宅から10分ほど離れたビルの一室にある仕事場で夏の休暇を前におれは一人黙々と仕事に励んでいた。 時刻は昼前、本来ならハルヒや有希も一緒なのだか子供達が夏休みであるためハルヒは自宅に、朝は一緒だった有希は一時間ほどで自らの仕事を全て片付け早々に自宅に戻り、今はハルヒと共に昼食の支度でもしているのだろう。 仕事といっても休暇前の残務処理が残っている程度であり、まぁ、幾分のんびりとした気分で残りの仕事を片付けていたわけだが、そんなのんびりした雰囲気も一本の電話で脆くも崩れさることになる。 昼を少し回った頃そろそろ自宅に戻り昼食にしようかと思い始めたとき唐突に携帯がなりだした。 着信はハルヒからで飯が出来たから早く戻れ!なんて催促だと思い出てみると、いきなり耳元に大音量か響き渡った。 ハ「キョンっ!大変なのっ!ハルカとハルキが誘拐されそうになったって、今電話で警察からくぁwせrtyふじこlp;@」 誘拐…?誰が…?ハルカとハルキが…?おいっ!ちょっと待てっ! キ「おいっ、ハルヒ、なんだ誘拐って!?説明しろ!」 有「おとうさん」 キ「有希かっ!?どういうことか説明してくれ」 有「大丈夫。落ち着いて。誘拐は未遂。すでに二人は警察に保護されている。今は検査の為〇〇病院に搬送されているはず。わたし達もすぐ向かう。おとうさんも急いで。」 キ「〇〇病院だな!?わかった、すぐ向かう。」 病院に着き、中へ駆け込むと受付で聞くまでもなく、ハルヒの怒鳴り声が聞こえてきた。 声のする方へ行くとハルヒが一人スーツを着ている男のネクタイを掴んで絞め上げていて、数人の傍らの警官に必死に止められているところだった。どうやらスーツの男は刑事らしい。 キ「おい、ハルヒ!落ち着け!」 ハ「うるさいっ!落ち着いてなんていられないわよ!あんた達!ハルカとハルキが少しでも怪我してたらただじゃおかないわよっ!」 そのとき、目の前の処置室と書かれた部屋から白衣を着た女性が出て来て言った。 「お父さんとお母さん?安心して下さい。二人とも無事ですよ。ただちょっと薬の様な物で眠らされているだけです。外傷などは見当たりません。」 その言葉に処置室に駆け込んだハルヒはスースーと安らかに寝息を立てる二人を見て安堵したように、ヘタリ込んでしまった。 その後、警察から少々、事の説明を受けた、ハルカとハルキが犯人の車に連れ込まれた直後、事件を目撃した一般人の車が犯人の進路を遮断し二人を救出、誘拐未遂犯は現在徒歩で逃走中だという。しかしおれはその説明には疑問をもった。目撃者がいたことはたぶん偶然ではないだろう。 おそらく古泉あたりに聞けば事の詳細な説明が返ってくるに違いない。 自宅に戻ると留守番をしていてくれた妹が不安そうな面持ちで迎えてくれた。 連絡を受けて駆け付けてくれたうちの両親やハルヒの両親と重苦しい空気にコハルとハルヒコも不安げな表情を見せている。 おれが二人の無事を伝えるとみんな一様に安堵した表情を見せていた。 夜になりひどく疲れた表情の古泉が妹達を迎えに来た。その疲労が閉鎖空間によるものだとは容易に推測できた。 迎えに来た古泉が帰り際、古「今日の事で少々お話したいことがあります。明日の朝、会社の方へ出向きますのでお願いします」なんて言って帰っていった。 やはりなにか裏がありそうだな。 深夜、日付が変わる頃、ハルヒが寝静まる待ってたかのように有希が話を切り出した。 有「ごめんなさい。」 キ「どうした、なにがだ?」 有「今日の事。事態を把握しながら防ぐことが出来なかった。」 キ「いや、ハルカもハルキも無事だったんだ、おまえが謝ることはないさ。」 有「本来なら直ぐに駆けつけて事態を収拾して、二人を救出するはずだった。しかし、あの時、わたしの隣におかあさんがいて情報操作を行うわけにいかなかった。」 たしかにハルヒの目の前で超常的な力を使う訳にはいかない。 キ「それならしょうがないさ。気にするな。それより一つ聞きたいんだが、今日の事はハルヒの力の事に何か関係はあるのか?」 有「おそらく関連性はない。そのため、事態が発生したとき、事態の収拾と二人の救出を近くに居た古泉一樹の機関の護衛に任せることにした。その時居た人物は森園生と新川の両名。彼らなら信頼出来ると判断し事態の収拾と二人の救出を彼らに任せ、わたしはそのまま事態の情報の収集に終始した」 やはり機関が関わっていたか。しかし、たしかに森さんと新川さんなら信頼できる。 有希が動けない状態で彼らがいてくれたのは幸いだったな。 キ「じゃあ、犯人の目的は一体なんだ?」 有「わからない。現在、犯人は古泉一樹の機関が拘束していると思われる。古泉一樹から詳細を聞くべき。」 今の時点で有希がわかるのはここまでらしかった。それ以上は推測の域は出ないと思い、話はそこまでにして寝ることにした。 翌日の古泉の話を聞いてみないことにはなにも判断出来そうにない。 翌朝、有希と共に仕事場へと向かうとすでに古泉が待っていた。 古「おはようございます。さっそく昨日の事の詳細を話したいのですが、よろしいですか?」 キ「ああ、頼む。」 古「結論から言わせていただきますと、今回の件はハルヒさんの力を目的としたものではありません。現在、実行犯を含め主導した組織の人員全て機関で拘束しています。まぁ、組織と言ってもそこらの不良グループと大差ないものでして、計画性もなく一般人に目撃され警察に通報までされています。そのためまったくのノーマークだったので、・・・申し訳ありません。対処が遅れてしまい警察の介入も止められずハルヒさんに知られる事になってしまいました。」 キ「いや、謝らなくていい。森さんと新川さんにも礼を言っておいてくれ。それで犯人の目的は一体なんだったんだ? 古「ご存知でしたか、伝えておきます。目的は一言で言うなら、あなた方への妬みと逆恨みと言ったところでしょうか。」 キ「そんな知らんやつらから妬まれる覚えはないぞ?」 古「それが、どうもあなた方の会社の急激な成功を快く思わない同業種の人物が嫌がらせの為に件の不良グループに誘拐を依頼したのがことの発端のようです。」 キ「まさかそんなくだらない理由の為にハルカとハルキは危険に晒されたのか!?」 古「もともと脅しのつもりだったようで危害を加えるつもりは無かったようですね。実行した不良グループも金欲しさの犯行だったようです」 昨夜の二人の無事を確認したときのあのハルヒの姿を思い出す。あいつが人前であんな取り乱す姿はもう見たくない。 なんでこんなくだらない理由の為におれたちがあんな思いしなきゃならんのだ。 古「今回の件で機関では警備を強化する方針を固めました。依頼主と不良グループにもそれなりの対処を致します。今後二度とこのような事が起こさせませんので、ご安心下さい。」 キ「ああ、すまなかったな、ありがとう、世話になった。」 古「いえ、これは機関にとって役目のようなものですし、ハルカちゃんとハルキくんは僕にとっても大切な姪と甥です。礼には及びません。しかし今回の件、少々不可解な点がありましてそれに関していくつか有希さんにお尋ねしたいことがあるのですが。」 キ「不可解な点?」 古「実は事件発生時、犯人を追跡していた森さんと新川さんが僅かな間ではありますが犯人の車を見失うという事態がありました。先ほど話した通り、実行犯は素人のようなものです。プロ中のプロである二人が素人相手にそのようなミスを犯すとは考えられないんですよ」 キ「ハルカとハルキを助けてくれたのは森さんと新川さんなんだろ?」 古「確かに最後に二人を保護したのは彼らです。ですが、彼らが犯人に接触する前のその僅かな間に何者かによって犯人は行動不能状態にされていたんです。」 キ「ちょっとまて、森さんと新川さんの他に誰かいたのか?」 古「それについて有希さんがなにかご存知ではないかと思いまして。」 キ「有希、なにがあったかわかるか?」 有「何者かの介入があった可能性が高い」 古「それは一体何者かはわかりませんか?」 有「明確には不明。森、新川両名は犯人を追跡中に9.824秒間、目標を消失している。情報収集のため遠隔追跡していたわたしも同じく目標を消失した。次に目標を確認したときには事態はすでに収拾して、犯人は行動不能状態だった。」 キ「ちょっとまて、森さんと新川さんやおまえの目まで欺くなんて、そんなこと出来る奴がいるのか?」 有「通常の方法では可能性は低い。分析した結果、その時目標の周囲に不可視遮音フィールドの発生を確認している。」 キ「・・・・・・おい、おまえの他にそんなことが出来るやつって・・・」 有「・・・ヒューマノイドインターフェースなら可能。」 古「では、この件には情報統合思念体が関わっていると?」 有「その可能性が高い。そのため幾度も情報統合思念体に説明を求めているが明確な解答が得られない。」 古「情報統合思念体にもわからないってことですか?」 有「そうではなく、解答が要領を得ない。・・・わかりやすく言うなら、・・・・・・・・・歯切れが悪い?」 ・・・・・・歯切れが悪い銀河の統括者ってなんだよ。なんだかよけいわかりにくいぞ。 古「・・・・・・とにかく情報統合思念体が関わってる可能性が高いとなるとこれは少々厄介なことになるかもしれませんね。」 「あら、別にそんなことはないわよ?」 突然かけられたその声におれ達は一斉に振り向いた。今までなんの存在感も感じさせていなかったその声の主を見ておれの体が一瞬にして凍りつく。体が恐怖に支配され出したくても声にならない。それでも搾り出すようにして声の主に問い掛けた。 キ「・・・・・・朝倉、・・・なぜおまえが」 背中に嫌な汗が流れるのを感じる。おれは無意識のうちにあの改変世界で抉られた脇腹を押さえた。 有「朝倉涼子、あなたがなぜここに?」 警戒する有希からなにかプレッシャーのようなものが部屋全体に拡がる。 朝倉「そんなに構えないで。危害を加えるつもりはないわ。せっかく今回の事の説明をするために来てあげたんじゃない」 キ「嘘をつくな。なにたくらんでやがる?目的はなんだ。」 朝倉「なにも企んでないわ。目的はそれはハルカちゃんとハルキくんの救出。本当にそれだけ。」 キ「・・・・・・信用できるかよ。」 有「大丈夫。おとうさん。」 キ「有希?」 有「朝倉涼子は嘘は言っていない。」 そう言った有希を見ると、さっきまでのプレッシャーは消え去りまるで警戒している素振りは見えない。 有「情報統合思念体から通信があった。彼女に敵意はない。」 キ「・・・本当に大丈夫なのか?」 有「大丈夫。今は話を聞くべき。」 朝倉「ありがとう。長門さん、あ、そういえば今は違うんだっけ、・・・それじゃあ有希ちゃんて呼んでいい?」 有「・・・かまわない。説明を求める。」 朝倉「ありがとう、有希ちゃん。じゃあ、説明するわね。えっと、どう説明したらいいかな、とりあえず今回のことはまず、急進派の独断専行なんだけど、情報統合思念体全体の意思でもあるの。」 急進派。・・・その言葉に有希の顔が少し翳ったように見えた。 有「あなたの言うことは矛盾している。情報統合思念体全体の意思なら独断専行ではないはず。」 朝倉「そうね、たしかに矛盾してるわ。その矛盾のせいで情報統合思念体内はかなり混乱してるわ」 有「混乱?」 朝倉「情報統合思念体も今回の自分たちの行動に関してはよくわかってないの。だから有希ちゃんの問いにも明確な回答が出せないでいる。」 キ「なぜわからないんだ?自分たちの取った行動だろ。」 朝倉「本来なら取るはずのない行動だったからよ。あの状況ならハルカちゃんとハルキくんに深刻な被害がないことは十分予測できたしね。」 古「では、情報統合思念体内部でなにか異変が起こっているということですか? 朝倉「今わかるのはハルカちゃんとハルキくんの危機に情報統合思念体内部に多大なエラーが発生したってことだけ。」 エラー。おれはあの改変された世界での有希を思い出した。 朝倉「情報統合思念体はずっと有希ちゃんを通じて観測してきたんだけどハルカちゃんとハルキくん生まれたとき、有希ちゃんからもたらされる情報が明らかにそれ以前とは変化していることに注目したの。最初はその情報はただのエラーとして処理されていた。でもあるときその情報をエラーとして処理すると情報統合思念体内部に微小の別のエラーは発生するようになったの。情報統合思念体はその有り得ない事態に有希ちゃんのもたらす情報に鍵があると考え情報をエラーとして処理せず解析を始めた。そのエラーの元になった情報を解析した結果わかったことは情報統合思念体には理解しがたい有機生命体のある行動が元になっていた。」 古「ある行動?それはなんなのですか?」 朝倉「それは 自身の保全を放棄してまで他を守ろうとする行動 」 古「それは自己犠牲ということですか?」 朝倉「そう。情報統合思念体にとって自己の保全は最優先にされること。それを放棄するなんて考えられなかった。情報統合思念体はその情報をやはりエラーであると認識してそれで終わりのはずだった。その時今回の事件が起こったの。状況を分析した結果、ハルカちゃんとハルキくんに危険は無いと判断して静観することを決定した。でもその時、情報統合思念体内部に膨大なエラーが発生したの。いくら処理してもしきれないほどのエラーに情報統合思念体は混乱を極めた。そんな中、エラーの影響でわたしの属する急進派が行動を起こしたの。これまでは急進派にとってなにかあったほうが情報爆発を観測出来て都合が良かった。なのにわたしを再構成して二人の救出に向かわせた。するとどういうわけか、情報統合思念体内部のエラーが急速に無くなっていった。」 …正直理解が追いつかない。どういう事態なんだ?わけがわからない。有希をみると無表情ではあるがやはり驚きを隠せないでいる。 朝倉「情報統合思念体は今、今回のこの自分たちの行動を全力で解析している。でも一向に答えは出ない。それが今回のことの全容よ。」 おれは発する言葉がなく黙っていると、なにやら難しい顔で考え込んでいた古泉が口を開いた。 古「……それは大変興味深い現象ですね。情報統合思念体がまるで人間の感情に基づいたような行動とるとは……。」 朝倉「感情?これが?」 古「そうです。人間はときとして自らの命を犠牲にしてでも大切ななにかを守ろうとします。」 朝倉「わからないわ、なぜそんな行動をとるの?」 古「その行動に理屈は有りません。ただ大切な者を守りたい、その思いだけです。でもその思いが人を動かすもっとも大きな力でもあります。」 朝倉「理解できないわ。なぜ自分を犠牲にすることが人を動かす大きな力なの?有希ちゃん、あなたはなぜそんな行動を取ろうとするの?」 有「・・・・・・わからない。わたしはおとうさんとおかあさん、子供達が傷つくのも悲しむのも見たくない。だから守る。それだけ。」 わからない。有希はそう言った。だがその目はいつか見たときと同じ強い意志が感じられた。 朝倉「・・・・・・守りたいか、やっぱりよくわからない、・・・でも情報統合思念体に発生したエラーはもしかしたらそうなのかもしれないわね。たしかにあの時、わたしや情報統合思念体はハルカちゃんとハルキくんを助けることしか考えてなかった・・・。」 ”なんだか悪くないわね”最後に笑顔でそう言った朝倉が、なぜだろう、おれはすごく寂しそうに見えた・・・。 朝倉「長々とおしゃべりしちゃったけどもう戻らなきゃ。・・・有希ちゃん、お願いね。」 キ「戻る?どこへだ?」 朝倉「情報統合思念体に回帰するの。わたしの目的はハルカちゃんとハルキくんの救出と今回のことをあなたたちに説明すること。目的が達成されればわたしが存在している理由はないもの。」 古「有希さんにお願いとはどういうことです?」 古泉が疑問を口にした。 朝倉「情報連結を解除してもらうの。自己の保全を最優先にするわたしたちには自分の情報連結を解除することは出来ないから。」 そう言った朝倉を見ておれはなんだか複雑な気分だった。たしかに朝倉は過去に暴走しておれを殺そうとした。 でも今回はちがう、ハルカとハルキ助けてくれた。それでも消えなきゃならないのか・・・なんだかやりきれない気分だ。 朝倉「なんかおかしいわ。前に消されたときはなんとも思わなかったのに・・・、今は少し寂しいわね、・・・これが有機生命体の死の概念てものなのかしら。」 朝倉は寂しそうな笑顔を浮かべて言っていた。ふと、有希を見ると朝倉ではなく真っ直ぐにおれを見つめていた。 有希は昔からなにか判断に迷うときおれを見ることがあった。でも今はちがう、判断に迷っているわけじゃない、有希は今、ただ一つの許可ををおれに求めている。 (長門さんを傷つけることは許さない) (あなたが望んだんじゃないの・・・・・・今も・・・・・・どうして・・・・・・) おれの脳裏に過去のあの改変世界での情景が蘇る。 あの時、有希はなぜ朝倉を復活させたのか。わかりきってる。そうだよな。 有希、おまえは朝倉を消したりなんかしたくなかったんだな・・・。・・・何度も同じことを繰り返したくなんてないよな。 真っ直ぐにおれを見つめてくる有希に向かい、おれはただ大きく肯いた。 それを見た有希が朝倉に向き直り言った。 有「拒否する。」 朝倉「え・・・・・・?」 有「あなたの情報連結の解除の要請を拒否する。」 朝倉「・・・どうして?」 有「したくないから。わたしはあなたを消したくない。」 朝倉「なぜ・・・?」 有「あなたにはここに居てほしい。わたしはそう感じているから。」 朝倉「でも・・・それは・・・・・・」 朝倉がおれを見ている。おれはただ首を横に振った。朝倉はハルカとハルキ助けてくれた。 その朝倉が消えずにここにいることにおれは反対する理由はない。なにより有希がそう望んでいるんだ。 有希にもうそんな後悔するようなことはさせたくはないしな。 有「今、あなたがここに残れるように情報統合思念体に申請、許可された。あなたにはわたしに変わりに主に様々な観測に努めてもらう、わたしの最優先任務は保全。その際、今回のような事態や外敵からの攻撃があったとき、これの排除に対する協力を要請する。」 朝倉「・・・・・・わかったわ。でも本当にそれでいいの?」 有「いい。ただ、あなたは過去に一度暴走を起こしている。その為、通常の観測任務の間は喜緑江美里の監視下に置かれることを了承してほしい。」 朝倉「・・・了解。あなたがそれでいいなら・・・ありがとう。有希ちゃん。」 そう答えた朝倉に有希も微かに肯いて答える。そのときの有希がおれはどことなく嬉しそうに見えた。 朝倉「じゃあ、ひとまず喜緑さんの所にでも行くわね。えっと・・・、古泉くんだっけ?そういうことだから、これからわたしの手が必要なら遠慮なく呼んでね。」 古「わかりました、ありがとうございます。実に頼もしく思いますよ。」 朝倉「それとキョンくん。過去にあんなことしておいて言えたことじゃないけど不快な気分にさせちゃってごめんなさい。これからは極力あなたの前には姿を現さないから許して。」 キ「あ、ああ。」 そういった朝倉の顔がおれはどうにも悲しそうに見えてしまった。 キ「・・・おい、朝倉」 朝倉「なに?」 キ「その、ハルカとハルキを助けてくれてありがとうな。」 朝倉「うん。」 キ「・・・それと、今度家に遊びにでも来てくれ。有希もいるし子供達にも紹介してやる。ハルヒも・・・会えたらきっと喜ぶ。」 朝倉「・・・・・・いいの?」 キ「ああ、ただ、おまえは急にカナダに転校したことになってるからな、ハルヒに追求されてもいいようにしっかり言い訳考えて来てくれよ。おれじゃフォローし切れん。」 朝倉「フフッ、わかったわ、ありがとう、キョンくん」 そう言って笑顔で去っていった朝倉の瞳に少し光るものが見えた気がしたのはおれの気のせいだろうか。 古「そろそろ僕も失礼します、このことを機関に報告しなければなりませんので。」 キ「ああ、またあとでな。妹のやつ今日も家にきてるはずだ、早いうちに迎えに来てやれよ。おまえの帰りが遅いと拗ねてしょうがないからな、あいつ。それと森さんと新川さんによろしくな。」 古「わかりました。善処しますよ。では。」 古泉が出て行ったあと、時計を見ると結構な時間がたっていた。もう昼をまわりかけている。 こりゃ、早く帰らんと昨日の今日でなにしてんだとハルヒにどやされるな。 自宅へと戻る帰り道、歩きながら今日のことを考えていた。 朝倉は言っていた。有希からもたらされる情報が情報統合思念体内部にエラーを引き起こしたと。 有希はおれたちと暮らすうちにどんどん人間らしくなってきた。 冬なんかジャージ着てこたつから出ないでひたすらみかん食ってるくらい人間らしいからな。 思念体はそんな有希に影響されたのだろうか、だとしたらそれは一体なんだ?たぶんこれまた思いっきりベタなシロモノだ。 だが、あんな神様みたいな連中がそんな簡単に影響なんてされるもんなのだろうか・・・。 有希は昔言っていた。ハルヒは進化の可能性だと。あんな神様みたいな連中に影響を与えられるなんてのはやっぱり神様みたいなやつしかいないだろう。 ・・・なーんて考えてみても難しいことはよくわからん。 誘拐未遂だのなんだのとあったが結果良ければそれでいいだろうよ。 子供達も無事で、有希にとって良い事があった。それで十分だ。 おれは隣でどことなく機嫌良さそうに歩いている有希に聞いてみた。 キ「なあ、有希、嬉しかったか?」 有「・・・・・・?」 キ「朝倉が戻ってきてくれて嬉しかったか?」 有希は俯いてしばらく思案したあとおれの目を真っ直ぐに見つめ言った。 有「・・・・・・・・・うれしい。わたしは朝倉涼子が戻って来てくれて嬉しく感じている。」 キ「そうか。よかったな。今度家に呼んでおまえの作った特製カレーでもご馳走してやれ。きっと喜ぶぞ。」 有「わかった。がんばる。」 そう答えた有希の頭をおれはくしゃくしゃと撫でた。・・・なんかクセみたいになってんなこれ。 黙って撫でられている有希はいつか見たときのように優しく微笑んでいた。 おわり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2919.html
戦況は絶望的だった。 それだけが存在理由だ。と言わんばかりに暴れる「神人」という名の半透明の化け物 次々と破壊されていく建造物 飛び交う悪態と悲鳴 既に負傷者の数ははかりきれない 機関に入って以来、僕だってそれなりに修羅場をくぐりぬけてきた。 それは何も僕だけの話ではなく、少なくともここに集まっている仲間全員がそう自負している。 死を覚悟した経験も一度や二度ではないし、実際、仲間の中には生命の危機に関わるほど 重傷を負った人もいた。 そんな経験もあって、僕らは既にこの閉鎖空間内での戦闘に関してはスペシャリストだった。 それはもう全員がたった1人でのハイジャック、及び原子力発電所の奪取が可能なほどに。 そんな一流の僕らが、今まさに機関始まって以来、最大のピンチをむかえている。 午前6時、涼宮さんと彼が朝っぱらから愛し合う事で発生した空間の中で。 「あぁ、もう駄目…」 森さんしっかりして下さい! もしどこか負傷したのなら… 「別に肉体的な負傷は負ってないんだけどね。」 はぁ… 「あんたはまだその年だから平気かもしれないけど あたしぐらいになるとね。このゲロ甘&桃色の空気に包まれてるだけで体に毒なのよ。」 … 「なんてゆーか。心が蝕まれるっていうの?すっごい鬱になるのよね。」 な、なるほど。 「つまり、もう決して取り戻すことのできない自分の青春時代を思い出し、 当時の自分との余りのギャップに心が挫け、極めて遺憾な状態に陥った、ということですな。」 あ、新川さん…そんなはっきり 森さんが新川さんをギロリと睨む。いつもならここで容赦なく肝臓打ち→ガゼルパンチ→デンプシーのフルコンボを 打ち込んでいるはずだったのだが、よっぽど気が滅入っていたのだろう、今回は剛体術一撃で済んだ。 それだけでも、新川さんの胃袋はズタズタになったはずだが。 口から血をまきちらし昏倒する新川さんをしりめに、森さんと対策を練る。 「ヤバイわね。昨日の今日ってこともあって、みんな疲れきってるわ。」 ええ、それに加えて桃色パワーでさらに(ある意味)凶暴化してる神人が相手ですからね…。 「多丸(裕)の顔見てよ。昨日のダメージと極度の疲労で顔がリカルド・マルチネス戦の伊達みたいになってるわ。」 ああ、本当だ…。 「神人の強さや空間の居辛さもそうだけど、戦ってる理由がアレなせいでテンションが上がらない。っていうのもあるわね。」 ああ、それはあるかも。 1組のカップルが愛し合い、肉体を求めることで発生した世界崩壊の危機を防ぐために戦う。 …なんて意味の分からない理由だろう。 百戦錬磨のソルジャーでさえそんな出動命令が下れば戸惑いの1つや2つ浮かべるというものだ。 「とにかく、うちみたいなベンチャーは1人1人のモチベーションが大事なんだから。 その辺の対策も練ったほうがいいかもね。」 えぇ、機関ってベンチャーだったんですか?!…ってうわぁぁぁぁぁ! 前方からもの凄い勢いで飛んできた謎の物体をギリギリで回避する。 ソレはその勢いのまま、まるで地面に突き刺さるように激突した。 「ちぃ、一体何?!」 衝撃で飛び散る破片をかわしながら、飛んできたソレを確認する。 そこには上半身だけ地中にめり込み、下半身をぴん、と伸ばしたまま地面に突き刺ささっている多丸(圭)の姿があった。 「まぁ、まるでコンクリートの隙間から力強く必死に茎を伸ばして空を仰ぐように咲くたんぽぽみたい。」 言ってる場合ですか! 多丸(圭)を(1人で)必死に引っこ抜こうとしてると 「古泉まずい、こっちに来たわ!」 ええ?! 振り向くと確かに神人が1体、物凄く楽しそうにスキップしながらこちらに接近していた。 「逃げるわよ!」 ちょっと待って下さい!多丸(圭)さんが抜けないんです! 「そんなのほっときなさい!」 ええ?!…って森さんも手伝ってくださいよ! が、森さんは既に球体化して遠くに避難していた。 神人がどんどん近づいてくる。 わわわわわわわわわ…! 必死に多丸(圭)を引っ張るが全然抜けない。 そりゃ出来るなら僕だって逃げたいけど、それは人として、古泉一樹として絶対間違っていると 自分に言い聞かせ、涙目になりながら引っ張り続けた。 スポン! およそ人が地面から抜け出る音とは思えない効果音を奏でて、多丸(圭)をようやく掘り出すことに成功した。 が、時すでに遅し、神人の足の裏がもう目の前にまで迫ってきていた。 球体化している暇もない。 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 「古泉ぃぃぃぃぃ!」 遥か遠くの空から森さんが叫ぶ。決して助けてくれようとはしない。 万事休す!と、とうとう覚悟を決めようとしたその時 『ヴォォォォォォォ…』 まさに間一髪。 神人がその動きを止め、足元からゆっくりと自壊し始めた。 僕は思わず腰が抜け、へたりと座り込む。 「ギリギリだったわね。」 ええ…、今回は本当に死ぬかと思いました。 …って森さんいつの間に。酷いですよ、助けてくれないなんて。 「空間が発生して1時間、神人が出現して30分が経過してるわ。…昨日より掛かったわね。」 無視ですか。 「しかし、酷い有様ね。」 周りを見渡す。建物は軒並み破壊され、仲間の半分以上は怪我を負い、地面にうずくまっている人もいる。 まるで核の被害にあったかのような状態なのに、相変わらず空間内は桃色で、空にはハート型の雲が浮かんでいる。 なんてシュールな光景なんだ。 しかし… 涼宮さんには早いとこ、彼との行為に少しでも慣れてもらわなければ。 だけどこればっかりは僕も横槍のいれようがない。 もし彼女に直接『愛する人とのSEXとはいえ、なにも緊張することはないんですよ。』的なアドバイスをしようものなら …その後起こるであろう惨劇は容易に想像できる。 「ふぅ、とりあえず集合よ。今日の反省と、今後の対策を練る必要があるわ。 …新川、いつまで悶絶してるのよ。さっさと集まりなさい!」 身悶えている新川さんにドカッと蹴りを入れる森さん。あそこまで酷い事をするとは…彼女もそうとう参ってるようだ。 うん、そう思っておこう。決して普段からああって訳ではない。ないんだ。 「なにぶつぶつ言ってんのよ。」 ああいえ別に何も! …あっぶねー。 ようやく気持ちも治まってきて、冗談(?)を言う余裕も出てきた。 とにかく、今は一刻も早く帰りたい。 なにしろ昨日は3時間弱しか寝れてない。金曜日だったので、疲れもかなり溜まっていた。 今日は午後から不思議探索だから、急いで帰れば2時間ぐらいはまだ眠れるかもしれない。 なんてことを考えながら、みんな集まっている場所へ多丸(圭)を担いで向かっていると… 『ヴォォォォォォォ…』 え? 僕はもちろん、森さんも新川さんも、他の仲間達も全員体をビクッ、と硬直させる。 「…今のってまさか…。」 森さんにつられて後ろを振り向く。 そこには信じられないような、信じたくないような光景が… 桃色神人、再・爆・誕! 「2Rね…ほんっと、若いって素敵。」 森さんが呟く、その顔は笑みを作ってはいるが、絶望と怒りと、そして悲しみに包まれていた。 他の仲間もみんな同じような顔をしていた。もちろん僕も。 やっとこさメタルクウラを1体やっつけたというのに、その後崖の上から無数のメタルクウラが現れた時の悟空とべジータの心境だ。…わかるよね? 「まぁ、ここでいくら落ち込んでもしょうがないわね。いくわよ、野郎共!」 森さんのその叫びと共に、半ばやけくそになりながら僕たちは神人に突っ込んだ。 どうか生きて帰れますように…。 なんとか生きたまま桃色空間の中から帰ってくることに成功した頃には、時刻は既に10時をまわっていた。 戦闘自体は…まぁ今日2回めということでわりかし早めに終わったのだが、その後緊急で 対策会議が(道端で)行われた為、こんな時間になってしまった。 結局その対策会議というのも、ろくに結論が出ないまま終わってしまったのだが。 そういうわけで、僕が自宅に戻ってきた頃にはそろそろ不思議探索に行く準備を しなければいけない時間帯になっていた。なんの拷問だ。 のんびりお風呂に入りたい気持ちでいっぱいだったが、あいにくそんな時間はない。 とりあえずシャワーだけ浴びる。自分の体を見るとあちこち擦り傷や、打撲で酷いことになっていた。 やれやれ、せめてお2人の事を少しでも嫌いになれれば、気持ちよく悪態もつけるというのに。 そんな事を考え、思わず苦笑する。 シャワーを浴び終え服を着た後、簡単な食事を摂る。 買っておいたパンを食べ、野菜ジュースを飲む。疲れているため食欲もいまいち沸かない。 それから少しばかりソファーに座りくつろぐ。うっかり寝てしまいそうだ。あぶないあぶない。 …そろそろ時間だな。 今日、今日さえ無事に過ごしてしまえば明日は日曜だ。きっとゆっくり休める。 そう自分に言い聞かせ、ソファーから体を起こす。 玄関で靴を履き重たい足を引きずるようにしながら、僕はドアを開けた。 集合場所まで行くと、既に僕以外の団員は揃っていた。 それはそうか。いつも最後の彼は今日は朝から涼宮さんと一緒にいたわけだから。 「やぁみなさんお揃いで。」 「おっはよー古泉君!」 「おはようございますぅ。」 「…」 「おぅ。」 朝っぱらからそれなりに激しい運動をしたのだから、さすがの涼宮さんも少しは疲れていると 思ったのだが…むしろいつもよりもテンション高めに見えた。 …彼のほうは少しやつれ気味だったが。 「大丈夫古泉君?なんか少し顔色が悪いわよ?」 ああしまった。疲れが表に出てしまったようだ。 「いえ、大丈夫です。恥ずかしながら昨日少々夜更かしをしてしまいまして。」 横目でチラリと彼を見てみる。微妙に怪訝な顔をしていた。 「ふぅん、まぁ平気ならいいわ。 じゃあとりあえず喫茶店ね。そこで班決めするわよ。」 付き合っているんだから彼と2人きりでいればいいのに。わざわざ班を決めるところが涼宮さんらしい。 「あ、古泉君。ドベだから今日おごりね。」 … …かしこまりました団長様。 公正な班決め(色つきわりばし)の結果、涼宮さん長門さん朝比奈さんの女の子3人組。 僕と彼の男2人組みという組み合わせになった。 「じゃあ4時にまたこの喫茶店で待ち合わせね。 古泉君。キョンがさぼらないようにしっかり見張っててね。」 「かしこまりました。」 「さぼらねーっての。」 特に気分を害したようすもなく彼が溜息をつく。 「んじゃ、いくわよ。みくるちゃん、有希。」 あちら方と別れ、彼と街中を歩く。 「なんか飲むか?おごってやるぜ。」 これはめずらしい。なにかいいことでもあっ…そういやありましたね。凄いのが。 「?どうした、いらないのか。」 「いえ、ありがたくいただきます。今日はえらく気前がいいですね。」 「ま、今日誰かさんが遅く来てくれたおかげで珍しく財布が重いんだ。」 「なるほど。」 奢ってもらったコーヒーのプルタブをあける。彼は既に飲み始めていた。 「…昨夜はお楽しみでしたね。」 『ブーーーーーーーッ』 彼が派手にコーヒーを噴出す。ここまで期待通りのリアクションをしてくれるとは。 「なななな、なんで…ハッ、また機関とやらの情報だな! おい、いいかげんにしろよ。俺はともかくだな、ハルヒのそんなプライベートなことまで…」 顔を赤くさせたり青くさせたりしながら物凄い勢いでまくしたててくる。 普段冷静な彼がここまで取り乱すとは… 「いえいえ、別に覗いてたり、会話を聞いてたりしていたわけではありませんよ?」 「?、じゃあどういうことだ。」 「閉鎖空間です。」 「なに?」 「昨夜の12時過ぎごろ、ものすごい規模の閉鎖空間があちこちに発生しまして… 昨日涼宮さんがあなたの家に泊まりに行っていたことは、僕をはじめSOS団員全員が知って いたことだったので、発生した原因としてはまぁ、。そういうことかなと。」 この際だ。彼ぐらいには言ってもいいだろう。 僕の中に溜まっている疲れを少しでも癒すために、彼をおちょくって照れた顔でも見てやろう。 「…!…っっ!」 彼は落ち着かない様子で目をぎょろぎょろ動かしている。 その時点でかなりおもしろい。よっぽど恥ずかしいのだろう。 が、さらなる動揺を与えるため例の桃色空間の様子を伝えようとすると… 「閉鎖空間が発生した…ってことは…ハルヒはもしかして、ストレスを感じていたのか?」 「え?」 「いや、だって閉鎖空間が発生する理由ってのは、ハルヒの精神が不安定になることが原因なんだろ? てことは俺との行為になにか不満があって…」 いやいやいやいや。発生理由としてはまさにその真逆なのだが… 彼は顔を青くしながら頭を抱えている。こんな一面もあったとは。 「いや、でも昨日はハルヒもあんなに満足そうにしてたし…今日の朝だって…」 ぶつぶつ独り言を呟く彼。そしてハッと顔を上げると 「もしかして、今日の朝方も?!」 「え、ええ、発生しました。あの、でもですね…」 そうじゃないんですよ。と、別に涼宮さんは不満を感じていたわけではないんですよ。と 説明しようとすると… (ん?ちょっと待てよ…) ピキーンと、ある閃きが僕の頭をよぎった。 そして… 「…そうですね。涼宮さんはあれで乙女チックな所がありますから。 もしかしたらまだ彼女の中では、あなたとそういう関係になるのは早い、と感じていたのでは?」 なんて事を口走っていた。 「で、でも昨日ハルヒは割りとノリノリで…はっ、ま、まさかそれも俺の為を思って?」 少し考えれば分かりそうなことなのだが、彼は完全に動揺しきっていて冷静な判断力を失っているようだった。 「考えられますね。涼宮さんがあなたの事を愛しているのには変わらないのですから。 多少強引に迫られれば、それは彼女としては断れないでしょうね。」 僕がそういうと彼はとうとう力なくうなだられてしまい 「なんてこった。俺はハルヒの気持ちを少しも考えないで…」 なんだかちょっと可哀想になってきた。 もちろんこのままではよろしくないから、それなりにフォローもする。 「でも、安心してください。確かに割りと規模の大きな閉鎖空間でしたが、 そこから重度のストレスや、不満などは感じ取りませんでしたから。」 僕がそう言うと彼はバッと顔を上げ 「そ、それはどういう事だ?」 「つまり、涼宮さんは嫌がっていたわけではないんですよ。 やはり多少の不安や恐怖みたいなものはあったのでしょうがその反面、あなたに求められて嬉しいと いう気持ちもあった。その証拠に、いつもは獰猛に暴れる神人が昨日はまるで『どうしていいかわか らない』といった感じでおろおろしているばかりでしたから。」 嘘8000な事を言う。結構穴だらけの説明だったのだが動揺している彼にはこれで十分だった。 「な、なるほど…」 彼も少しだけ立ち直ったようだ。 ここでトドメを。 「時間はたっぷりあるのですから、急いで体を求める必要はないと思いますよ。 あなたと涼宮さんの相性は抜群なわけですから。ゆっくり距離を縮めていけばいいかと。」 そう言ってコーヒーを口に運ぶ。彼は 「そうだな。そんなに急いてやる必要はない。サンキュー古泉。俺、なんだか焦ってたみたいだ。」 と言って、なんだか1人新たに決意を固めているようだった。 くくく、計算通り。 涼宮さんには悪いがこれで彼との行為がしばらく無くなってくれれば、僕をはじめ 機関の仲間全員が少しは休息をとれるというものだ。 もちろん、それで涼宮さんが欲求不満になって通常の閉鎖空間が発生しては元も子もないので、 その辺はまたタイミングを見計らって彼を焚き付けるとしよう。 集合時間になり、3人と合流する。 彼は涼宮さんの姿を見るやいなや彼女の肩を掴み、 『ごめんなハルヒ。俺、もっとお前のこと大事にするから。』 などと言っていた。 朝比奈さんは顔を赤らめ動揺し、長門さんも少し驚いてるようだった。 当の涼宮さんも顔を赤くしていたのだが、当然彼にいきなりそんなことを言われた意味が分かるはずもなく 「ええ?!と、当然よ!」 などと言っていた。…なにが当然なんだ。 それから解散になり、僕も帰宅することにした。 分かれる際に見た。彼から積極的に手を握られ、意味がわからず動揺する涼宮さんの顔が印象的だった。 ふぅ、これでしばらくは僕もゆっくり養生できそうだ。 彼と涼宮さんの絆をより深め、桃色空間の発生も防ぐ。なんて完璧な事をしでかしてしまったのだろう僕は。 機関に申請すれば、ボーナスでも出してくれるかもしれない。 そんなことあるわけないっての。とか1人でにやにやしながら歩いていると、いつの間にか自宅に到着した。 ああ、疲れた。すぐに横になりたいが… どうせ明日はゆっくりできるんだ。のんびりしようか。 それから僕はゆっくりお風呂に入って、夕食を作り、テレビを見ながらのびり食事した。 久しぶりの休息はあっという間に過ぎていき、時刻は22時、 昨日ほとんど寝ていなかったためそろそろ目蓋のほうも限界である。 …そろそろ寝よう。 トイレで用を足し、布団に入る。 明日は何時に起床しようか。せっかくだ、いっそお昼の12時ぐらいまで寝てしまえ。 好きなだけ睡眠をとれることに小さな幸せを感じつつ、僕は目蓋を下ろした。 『『溝鼠ハイエナ糞豚ばかりぃぃぃ! ソゥアタック ソゥアタック ベノムセェェイ!!』』 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 爆音に思わず目が覚める。 音の発信源を探る、どうやら自分の携帯電話の着信音だったようだ。 もちろんこんな激しいハードコアな音に設定した覚えはない。 …長門さん、今日は僕の携帯に触るヒマなんてなかったはずじゃ… 液晶を見る。 『着信・バイオレンス森』 森さん…?時間は…午前12時…。 …嫌な予感がする。 いや、でもそんなバカな。 だって今日僕が成し遂げた偉業によってあの空間が発生するはずはないのだから。 と、とりあえず電話に出よう。 「もしもし…」 「古泉。仕事よ。」 「えぇ?!それってまさか…」 電話越しで深い溜息が聞こえた。 「閉鎖空間よ。」 ハハハ…んなバカな。 「それって、どっちの…?」 「言わなくてもわかるでしょ。桃色のほうよ。」 なんで…今日のお昼の事は一体… 「しかも、規模の広さも神人ちゃんの浮かれっぷりも前回とは桁違いよ。」 そ、それはどういう… 「機関の精神部の話だと、涼宮ハルヒの中で昨日よりも激しい歓喜の気持ちが生まれたのが原因だって。」 激しい歓喜の気持ち? 「なんでも彼のほうから彼女になんらかの告白をしたらしくって。」 携帯の向こうから自嘲気味な笑いが聞こえる。 「それを受けた彼女の強い喜びが、そのまま神人の行動に出ちゃってるみたい。」 … 「で、そのままベッドインしちゃったもんだから、当然閉鎖空間も発生する。 強い感動を引きずったままだから、空間の規模も神人ちゃんの浮かれ 具合もそんな風にパワーアップしちゃったってわけ。」 それは… それはつまり… 僕が今日行った事が、思いっきり裏目に出てしまったということですか? 「どうしたの古泉。ちゃんと聞いてんの?」 「ああ!聞いてます聞いてます。」 とりあえずその事は黙っておこう。バレたらどんな目に会うかわかったもんじゃない。 「とにかく、もう新川をあんたン家によこしたから、急いで準備して。今日は戦闘に入る前にちょっとした集会をやるわよ。」 ちょっとした集会? 「今日の朝言ったでしょ。やつらと戦うには、個々のモチベーションアップが大切なのよ。」 はぁ… 「とにかく、来ればわかるわ。」 午前12時40分。 僕が現場に到着すると、そこには異様な光景が広がっていた。 機関の仲間が綺麗に、一列に整列しており、その背筋は例外なく伸びている。 そして、1人列に混じらず相対するように仁王立ちしている森さんの姿が。 「来たわね古泉。」 あ、あの森さん。これは一体… 「言ったでしょ。全員のモチベーションをあげるのよ。あんたもさっさと列に加わりなさい。」 怖いので支持に従う。 そのうち残りの仲間が到着し、彼らも同じように整列させられた。 それじゃあ、始めるわよ。 何をやるんだろう…どうやら僕以外の人たちはこれからなにをするか知ってるようだったが… と呑気に構えていると… 「あたしが桃色空間特別対策員隊長の森園生である!」 えぇ?!森さん、急になにを… 「話しかけられたとき以外は口を開くな 口でクソたれる前と後に“Sir”と言え 分かったか、ウジ虫ども!」 いきなりなに言い出し『『『Sir,Yes Sir!!』』』ええええええ?! 「ふざけるな!大声出せ!タマ落としたか!」 『『『Sir,Yes Sir!!!!』』』 ちょ、どうしたんですかみんな! 僕の疑問などどこ吹く風。森さんはかまわず続ける。 「貴様ら糞超能力者どもがもしこの戦いに生き残れたら── 各人が兵器となる。戦争に祈りを捧げる死の司祭だ その日まではウジ虫だ!地球上で最下等の生命体だ 貴様らは人間ではない 三流アニメキャラのクソをかき集めた値打ちしかない! 貴様らは厳しいあたしを嫌う だが憎めば、それだけ学ぶ あたしは厳しいが公平だ、二次創作での差別は許さん 古泉が自分のことを「私」と呼ぶSS、 名前が「小泉」、「朝日奈」となっているSS 「みくるちゃんでAVを録るのよ!」的なエロ同人誌 すべて── 平等に価値がない! あたしの使命は甘くて身悶えるようなSSを読んでにやけることだ! 『10月8日 曇りのち雨』なみの甘さを! 『ハルヒ親父シリーズ』なみの甘さを! 分かったか、ウジ虫!」 わかりませ『『『Sir,Yes Sir!!!!』』』ええええええ?! 「ふざけるな! 大声だせ!」 『『『Sir,Yes Sir!!!!!!!!』』』 「OK、行くぞ!」 『『『オォォォオオオォォオ!!!!!!』』』 並んでいた仲間が雄たけびを上げ、次々と桃色空間へと突っ込んでいく。 1人残され、唖然としていると森さん(現ハートマン森軍曹)が近づいてきた。 あの森さん。これは一体…。 「ほら見てみなさい。全員見違えるようなテンションよ。 今日一日中考えてた甲斐があったってもんよ。」 は、はぁ… 「これから桃色空間が発生した場合、毎回これやるから。 あんたも次回からはちゃんと返事しなさいよ。」 うええええ… 「なによその反応。嫌だっての?」 いえ、なんでもないですぅ。 とりあえず、明後日にでも彼には本当のことを言おう。 うん、そっちの方がいろんな意味で安全だ。 おしまい
https://w.atwiki.jp/haruhi_best/pages/53.html
涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 幸せの連鎖 太陽が本領発揮し過ぎ感が否めない茹だるような暑さの8月、 自宅から10分ほど離れたビルの一室にある仕事場で夏の休暇を前におれは一人黙々と仕事に励んでいた。 時刻は昼前、本来ならハルヒや有希も一緒なのだか子供達が夏休みであるためハルヒは自宅に、朝は一緒だった有希は一時間ほどで自らの仕事を全て片付け早々に自宅に戻り、今はハルヒと共に昼食の支度でもしているのだろう。 仕事といっても休暇前の残務処理が残っている程度であり、まぁ、幾分のんびりとした気分で残りの仕事を片付けていたわけだが、そんなのんびりした雰囲気も一本の電話で脆くも崩れさることになる。 昼を少し回った頃そろそろ自宅に戻り昼食にしようかと思い始めたとき唐突に携帯がなりだした。 着信はハルヒからで飯が出来たから早く戻れ!なんて催促だと思い出てみると、いきなり耳元に大音量か響き渡った。 ハ「キョンっ!大変なのっ!ハルカとハルキが誘拐されそうになったって、今電話で警察からくぁwせrtyふじこlp;@」 誘拐…?誰が…?ハルカとハルキが…?おいっ!ちょっと待てっ! キ「おいっ、ハルヒ、なんだ誘拐って!?説明しろ!」 有「おとうさん」 キ「有希かっ!?どういうことか説明してくれ」 有「大丈夫。落ち着いて。誘拐は未遂。すでに二人は警察に保護されている。今は検査の為〇〇病院に搬送されているはず。わたし達もすぐ向かう。おとうさんも急いで。」 キ「〇〇病院だな!?わかった、すぐ向かう。」 病院に着き、中へ駆け込むと受付で聞くまでもなく、ハルヒの怒鳴り声が聞こえてきた。 声のする方へ行くとハルヒが一人スーツを着ている男のネクタイを掴んで絞め上げていて、数人の傍らの警官に必死に止められているところだった。どうやらスーツの男は刑事らしい。 キ「おい、ハルヒ!落ち着け!」 ハ「うるさいっ!落ち着いてなんていられないわよ!あんた達!ハルカとハルキが少しでも怪我してたらただじゃおかないわよっ!」 そのとき、目の前の処置室と書かれた部屋から白衣を着た女性が出て来て言った。 「お父さんとお母さん?安心して下さい。二人とも無事ですよ。ただちょっと薬の様な物で眠らされているだけです。外傷などは見当たりません。」 その言葉に処置室に駆け込んだハルヒはスースーと安らかに寝息を立てる二人を見て安堵したように、ヘタリ込んでしまった。 その後、警察から少々、事の説明を受けた、ハルカとハルキが犯人の車に連れ込まれた直後、事件を目撃した一般人の車が犯人の進路を遮断し二人を救出、誘拐未遂犯は現在徒歩で逃走中だという。しかしおれはその説明には疑問をもった。目撃者がいたことはたぶん偶然ではないだろう。 おそらく古泉あたりに聞けば事の詳細な説明が返ってくるに違いない。 自宅に戻ると留守番をしていてくれた妹が不安そうな面持ちで迎えてくれた。 連絡を受けて駆け付けてくれたうちの両親やハルヒの両親と重苦しい空気にコハルとハルヒコも不安げな表情を見せている。 おれが二人の無事を伝えるとみんな一様に安堵した表情を見せていた。 夜になりひどく疲れた表情の古泉が妹達を迎えに来た。その疲労が閉鎖空間によるものだとは容易に推測できた。 迎えに来た古泉が帰り際、古「今日の事で少々お話したいことがあります。明日の朝、会社の方へ出向きますのでお願いします」なんて言って帰っていった。 やはりなにか裏がありそうだな。 深夜、日付が変わる頃、ハルヒが寝静まる待ってたかのように有希が話を切り出した。 有「ごめんなさい。」 キ「どうした、なにがだ?」 有「今日の事。事態を把握しながら防ぐことが出来なかった。」 キ「いや、ハルカもハルキも無事だったんだ、おまえが謝ることはないさ。」 有「本来なら直ぐに駆けつけて事態を収拾して、二人を救出するはずだった。しかし、あの時、わたしの隣におかあさんがいて情報操作を行うわけにいかなかった。」 たしかにハルヒの目の前で超常的な力を使う訳にはいかない。 キ「それならしょうがないさ。気にするな。それより一つ聞きたいんだが、今日の事はハルヒの力の事に何か関係はあるのか?」 有「おそらく関連性はない。そのため、事態が発生したとき、事態の収拾と二人の救出を近くに居た古泉一樹の機関の護衛に任せることにした。その時居た人物は森園生と新川の両名。彼らなら信頼出来ると判断し事態の収拾と二人の救出を彼らに任せ、わたしはそのまま事態の情報の収集に終始した」 やはり機関が関わっていたか。しかし、たしかに森さんと新川さんなら信頼できる。 有希が動けない状態で彼らがいてくれたのは幸いだったな。 キ「じゃあ、犯人の目的は一体なんだ?」 有「わからない。現在、犯人は古泉一樹の機関が拘束していると思われる。古泉一樹から詳細を聞くべき。」 今の時点で有希がわかるのはここまでらしかった。それ以上は推測の域は出ないと思い、話はそこまでにして寝ることにした。 翌日の古泉の話を聞いてみないことにはなにも判断出来そうにない。 翌朝、有希と共に仕事場へと向かうとすでに古泉が待っていた。 古「おはようございます。さっそく昨日の事の詳細を話したいのですが、よろしいですか?」 キ「ああ、頼む。」 古「結論から言わせていただきますと、今回の件はハルヒさんの力を目的としたものではありません。現在、実行犯を含め主導した組織の人員全て機関で拘束しています。まぁ、組織と言ってもそこらの不良グループと大差ないものでして、計画性もなく一般人に目撃され警察に通報までされています。そのためまったくのノーマークだったので、・・・申し訳ありません。対処が遅れてしまい警察の介入も止められずハルヒさんに知られる事になってしまいました。」 キ「いや、謝らなくていい。森さんと新川さんにも礼を言っておいてくれ。それで犯人の目的は一体なんだったんだ? 古「ご存知でしたか、伝えておきます。目的は一言で言うなら、あなた方への妬みと逆恨みと言ったところでしょうか。」 キ「そんな知らんやつらから妬まれる覚えはないぞ?」 古「それが、どうもあなた方の会社の急激な成功を快く思わない同業種の人物が嫌がらせの為に件の不良グループに誘拐を依頼したのがことの発端のようです。」 キ「まさかそんなくだらない理由の為にハルカとハルキは危険に晒されたのか!?」 古「もともと脅しのつもりだったようで危害を加えるつもりは無かったようですね。実行した不良グループも金欲しさの犯行だったようです」 昨夜の二人の無事を確認したときのあのハルヒの姿を思い出す。あいつが人前であんな取り乱す姿はもう見たくない。 なんでこんなくだらない理由の為におれたちがあんな思いしなきゃならんのだ。 古「今回の件で機関では警備を強化する方針を固めました。依頼主と不良グループにもそれなりの対処を致します。今後二度とこのような事が起こさせませんので、ご安心下さい。」 キ「ああ、すまなかったな、ありがとう、世話になった。」 古「いえ、これは機関にとって役目のようなものですし、ハルカちゃんとハルキくんは僕にとっても大切な姪と甥です。礼には及びません。しかし今回の件、少々不可解な点がありましてそれに関していくつか有希さんにお尋ねしたいことがあるのですが。」 キ「不可解な点?」 古「実は事件発生時、犯人を追跡していた森さんと新川さんが僅かな間ではありますが犯人の車を見失うという事態がありました。先ほど話した通り、実行犯は素人のようなものです。プロ中のプロである二人が素人相手にそのようなミスを犯すとは考えられないんですよ」 キ「ハルカとハルキを助けてくれたのは森さんと新川さんなんだろ?」 古「確かに最後に二人を保護したのは彼らです。ですが、彼らが犯人に接触する前のその僅かな間に何者かによって犯人は行動不能状態にされていたんです。」 キ「ちょっとまて、森さんと新川さんの他に誰かいたのか?」 古「それについて有希さんがなにかご存知ではないかと思いまして。」 キ「有希、なにがあったかわかるか?」 有「何者かの介入があった可能性が高い」 古「それは一体何者かはわかりませんか?」 有「明確には不明。森、新川両名は犯人を追跡中に9.824秒間、目標を消失している。情報収集のため遠隔追跡していたわたしも同じく目標を消失した。次に目標を確認したときには事態はすでに収拾して、犯人は行動不能状態だった。」 キ「ちょっとまて、森さんと新川さんやおまえの目まで欺くなんて、そんなこと出来る奴がいるのか?」 有「通常の方法では可能性は低い。分析した結果、その時目標の周囲に不可視遮音フィールドの発生を確認している。」 キ「・・・・・・おい、おまえの他にそんなことが出来るやつって・・・」 有「・・・ヒューマノイドインターフェースなら可能。」 古「では、この件には情報統合思念体が関わっていると?」 有「その可能性が高い。そのため幾度も情報統合思念体に説明を求めているが明確な解答が得られない。」 古「情報統合思念体にもわからないってことですか?」 有「そうではなく、解答が要領を得ない。・・・わかりやすく言うなら、・・・・・・・・・歯切れが悪い?」 ・・・・・・歯切れが悪い銀河の統括者ってなんだよ。なんだかよけいわかりにくいぞ。 古「・・・・・・とにかく情報統合思念体が関わってる可能性が高いとなるとこれは少々厄介なことになるかもしれませんね。」 「あら、別にそんなことはないわよ?」 突然かけられたその声におれ達は一斉に振り向いた。今までなんの存在感も感じさせていなかったその声の主を見ておれの体が一瞬にして凍りつく。体が恐怖に支配され出したくても声にならない。それでも搾り出すようにして声の主に問い掛けた。 キ「・・・・・・朝倉、・・・なぜおまえが」 背中に嫌な汗が流れるのを感じる。おれは無意識のうちにあの改変世界で抉られた脇腹を押さえた。 有「朝倉涼子、あなたがなぜここに?」 警戒する有希からなにかプレッシャーのようなものが部屋全体に拡がる。 朝倉「そんなに構えないで。危害を加えるつもりはないわ。せっかく今回の事の説明をするために来てあげたんじゃない」 キ「嘘をつくな。なにたくらんでやがる?目的はなんだ。」 朝倉「なにも企んでないわ。目的はそれはハルカちゃんとハルキくんの救出。本当にそれだけ。」 キ「・・・・・・信用できるかよ。」 有「大丈夫。おとうさん。」 キ「有希?」 有「朝倉涼子は嘘は言っていない。」 そう言った有希を見ると、さっきまでのプレッシャーは消え去りまるで警戒している素振りは見えない。 有「情報統合思念体から通信があった。彼女に敵意はない。」 キ「・・・本当に大丈夫なのか?」 有「大丈夫。今は話を聞くべき。」 朝倉「ありがとう。長門さん、あ、そういえば今は違うんだっけ、・・・それじゃあ有希ちゃんて呼んでいい?」 有「・・・かまわない。説明を求める。」 朝倉「ありがとう、有希ちゃん。じゃあ、説明するわね。えっと、どう説明したらいいかな、とりあえず今回のことはまず、急進派の独断専行なんだけど、情報統合思念体全体の意思でもあるの。」 急進派。・・・その言葉に有希の顔が少し翳ったように見えた。 有「あなたの言うことは矛盾している。情報統合思念体全体の意思なら独断専行ではないはず。」 朝倉「そうね、たしかに矛盾してるわ。その矛盾のせいで情報統合思念体内はかなり混乱してるわ」 有「混乱?」 朝倉「情報統合思念体も今回の自分たちの行動に関してはよくわかってないの。だから有希ちゃんの問いにも明確な回答が出せないでいる。」 キ「なぜわからないんだ?自分たちの取った行動だろ。」 朝倉「本来なら取るはずのない行動だったからよ。あの状況ならハルカちゃんとハルキくんに深刻な被害がないことは十分予測できたしね。」 古「では、情報統合思念体内部でなにか異変が起こっているということですか? 朝倉「今わかるのはハルカちゃんとハルキくんの危機に情報統合思念体内部に多大なエラーが発生したってことだけ。」 エラー。おれはあの改変された世界での有希を思い出した。 朝倉「情報統合思念体はずっと有希ちゃんを通じて観測してきたんだけどハルカちゃんとハルキくん生まれたとき、有希ちゃんからもたらされる情報が明らかにそれ以前とは変化していることに注目したの。最初はその情報はただのエラーとして処理されていた。でもあるときその情報をエラーとして処理すると情報統合思念体内部に微小の別のエラーは発生するようになったの。情報統合思念体はその有り得ない事態に有希ちゃんのもたらす情報に鍵があると考え情報をエラーとして処理せず解析を始めた。そのエラーの元になった情報を解析した結果わかったことは情報統合思念体には理解しがたい有機生命体のある行動が元になっていた。」 古「ある行動?それはなんなのですか?」 朝倉「それは 自身の保全を放棄してまで他を守ろうとする行動 」 古「それは自己犠牲ということですか?」 朝倉「そう。情報統合思念体にとって自己の保全は最優先にされること。それを放棄するなんて考えられなかった。情報統合思念体はその情報をやはりエラーであると認識してそれで終わりのはずだった。その時今回の事件が起こったの。状況を分析した結果、ハルカちゃんとハルキくんに危険は無いと判断して静観することを決定した。でもその時、情報統合思念体内部に膨大なエラーが発生したの。いくら処理してもしきれないほどのエラーに情報統合思念体は混乱を極めた。そんな中、エラーの影響でわたしの属する急進派が行動を起こしたの。これまでは急進派にとってなにかあったほうが情報爆発を観測出来て都合が良かった。なのにわたしを再構成して二人の救出に向かわせた。するとどういうわけか、情報統合思念体内部のエラーが急速に無くなっていった。」 …正直理解が追いつかない。どういう事態なんだ?わけがわからない。有希をみると無表情ではあるがやはり驚きを隠せないでいる。 朝倉「情報統合思念体は今、今回のこの自分たちの行動を全力で解析している。でも一向に答えは出ない。それが今回のことの全容よ。」 おれは発する言葉がなく黙っていると、なにやら難しい顔で考え込んでいた古泉が口を開いた。 古「……それは大変興味深い現象ですね。情報統合思念体がまるで人間の感情に基づいたような行動とるとは……。」 朝倉「感情?これが?」 古「そうです。人間はときとして自らの命を犠牲にしてでも大切ななにかを守ろうとします。」 朝倉「わからないわ、なぜそんな行動をとるの?」 古「その行動に理屈は有りません。ただ大切な者を守りたい、その思いだけです。でもその思いが人を動かすもっとも大きな力でもあります。」 朝倉「理解できないわ。なぜ自分を犠牲にすることが人を動かす大きな力なの?有希ちゃん、あなたはなぜそんな行動を取ろうとするの?」 有「・・・・・・わからない。わたしはおとうさんとおかあさん、子供達が傷つくのも悲しむのも見たくない。だから守る。それだけ。」 わからない。有希はそう言った。だがその目はいつか見たときと同じ強い意志が感じられた。 朝倉「・・・・・・守りたいか、やっぱりよくわからない、・・・でも情報統合思念体に発生したエラーはもしかしたらそうなのかもしれないわね。たしかにあの時、わたしや情報統合思念体はハルカちゃんとハルキくんを助けることしか考えてなかった・・・。」 ”なんだか悪くないわね”最後に笑顔でそう言った朝倉が、なぜだろう、おれはすごく寂しそうに見えた・・・。 朝倉「長々とおしゃべりしちゃったけどもう戻らなきゃ。・・・有希ちゃん、お願いね。」 キ「戻る?どこへだ?」 朝倉「情報統合思念体に回帰するの。わたしの目的はハルカちゃんとハルキくんの救出と今回のことをあなたたちに説明すること。目的が達成されればわたしが存在している理由はないもの。」 古「有希さんにお願いとはどういうことです?」 古泉が疑問を口にした。 朝倉「情報連結を解除してもらうの。自己の保全を最優先にするわたしたちには自分の情報連結を解除することは出来ないから。」 そう言った朝倉を見ておれはなんだか複雑な気分だった。たしかに朝倉は過去に暴走しておれを殺そうとした。 でも今回はちがう、ハルカとハルキ助けてくれた。それでも消えなきゃならないのか・・・なんだかやりきれない気分だ。 朝倉「なんかおかしいわ。前に消されたときはなんとも思わなかったのに・・・、今は少し寂しいわね、・・・これが有機生命体の死の概念てものなのかしら。」 朝倉は寂しそうな笑顔を浮かべて言っていた。ふと、有希を見ると朝倉ではなく真っ直ぐにおれを見つめていた。 有希は昔からなにか判断に迷うときおれを見ることがあった。でも今はちがう、判断に迷っているわけじゃない、有希は今、ただ一つの許可ををおれに求めている。 (長門さんを傷つけることは許さない) (あなたが望んだんじゃないの・・・・・・今も・・・・・・どうして・・・・・・) おれの脳裏に過去のあの改変世界での情景が蘇る。 あの時、有希はなぜ朝倉を復活させたのか。わかりきってる。そうだよな。 有希、おまえは朝倉を消したりなんかしたくなかったんだな・・・。・・・何度も同じことを繰り返したくなんてないよな。 真っ直ぐにおれを見つめてくる有希に向かい、おれはただ大きく肯いた。 それを見た有希が朝倉に向き直り言った。 有「拒否する。」 朝倉「え・・・・・・?」 有「あなたの情報連結の解除の要請を拒否する。」 朝倉「・・・どうして?」 有「したくないから。わたしはあなたを消したくない。」 朝倉「なぜ・・・?」 有「あなたにはここに居てほしい。わたしはそう感じているから。」 朝倉「でも・・・それは・・・・・・」 朝倉がおれを見ている。おれはただ首を横に振った。朝倉はハルカとハルキ助けてくれた。 その朝倉が消えずにここにいることにおれは反対する理由はない。なにより有希がそう望んでいるんだ。 有希にもうそんな後悔するようなことはさせたくはないしな。 有「今、あなたがここに残れるように情報統合思念体に申請、許可された。あなたにはわたしに変わりに主に様々な観測に努めてもらう、わたしの最優先任務は保全。その際、今回のような事態や外敵からの攻撃があったとき、これの排除に対する協力を要請する。」 朝倉「・・・・・・わかったわ。でも本当にそれでいいの?」 有「いい。ただ、あなたは過去に一度暴走を起こしている。その為、通常の観測任務の間は喜緑江美里の監視下に置かれることを了承してほしい。」 朝倉「・・・了解。あなたがそれでいいなら・・・ありがとう。有希ちゃん。」 そう答えた朝倉に有希も微かに肯いて答える。そのときの有希がおれはどことなく嬉しそうに見えた。 朝倉「じゃあ、ひとまず喜緑さんの所にでも行くわね。えっと・・・、古泉くんだっけ?そういうことだから、これからわたしの手が必要なら遠慮なく呼んでね。」 古「わかりました、ありがとうございます。実に頼もしく思いますよ。」 朝倉「それとキョンくん。過去にあんなことしておいて言えたことじゃないけど不快な気分にさせちゃってごめんなさい。これからは極力あなたの前には姿を現さないから許して。」 キ「あ、ああ。」 そういった朝倉の顔がおれはどうにも悲しそうに見えてしまった。 キ「・・・おい、朝倉」 朝倉「なに?」 キ「その、ハルカとハルキを助けてくれてありがとうな。」 朝倉「うん。」 キ「・・・それと、今度家に遊びにでも来てくれ。有希もいるし子供達にも紹介してやる。ハルヒも・・・会えたらきっと喜ぶ。」 朝倉「・・・・・・いいの?」 キ「ああ、ただ、おまえは急にカナダに転校したことになってるからな、ハルヒに追求されてもいいようにしっかり言い訳考えて来てくれよ。おれじゃフォローし切れん。」 朝倉「フフッ、わかったわ、ありがとう、キョンくん」 そう言って笑顔で去っていった朝倉の瞳に少し光るものが見えた気がしたのはおれの気のせいだろうか。 古「そろそろ僕も失礼します、このことを機関に報告しなければなりませんので。」 キ「ああ、またあとでな。妹のやつ今日も家にきてるはずだ、早いうちに迎えに来てやれよ。おまえの帰りが遅いと拗ねてしょうがないからな、あいつ。それと森さんと新川さんによろしくな。」 古「わかりました。善処しますよ。では。」 古泉が出て行ったあと、時計を見ると結構な時間がたっていた。もう昼をまわりかけている。 こりゃ、早く帰らんと昨日の今日でなにしてんだとハルヒにどやされるな。 自宅へと戻る帰り道、歩きながら今日のことを考えていた。 朝倉は言っていた。有希からもたらされる情報が情報統合思念体内部にエラーを引き起こしたと。 有希はおれたちと暮らすうちにどんどん人間らしくなってきた。 冬なんかジャージ着てこたつから出ないでひたすらみかん食ってるくらい人間らしいからな。 思念体はそんな有希に影響されたのだろうか、だとしたらそれは一体なんだ?たぶんこれまた思いっきりベタなシロモノだ。 だが、あんな神様みたいな連中がそんな簡単に影響なんてされるもんなのだろうか・・・。 有希は昔言っていた。ハルヒは進化の可能性だと。あんな神様みたいな連中に影響を与えられるなんてのはやっぱり神様みたいなやつしかいないだろう。 ・・・なーんて考えてみても難しいことはよくわからん。 誘拐未遂だのなんだのとあったが結果良ければそれでいいだろうよ。 子供達も無事で、有希にとって良い事があった。それで十分だ。 おれは隣でどことなく機嫌良さそうに歩いている有希に聞いてみた。 キ「なあ、有希、嬉しかったか?」 有「・・・・・・?」 キ「朝倉が戻ってきてくれて嬉しかったか?」 有希は俯いてしばらく思案したあとおれの目を真っ直ぐに見つめ言った。 有「・・・・・・・・・うれしい。わたしは朝倉涼子が戻って来てくれて嬉しく感じている。」 キ「そうか。よかったな。今度家に呼んでおまえの作った特製カレーでもご馳走してやれ。きっと喜ぶぞ。」 有「わかった。がんばる。」 そう答えた有希の頭をおれはくしゃくしゃと撫でた。・・・なんかクセみたいになってんなこれ。 黙って撫でられている有希はいつか見たときのように優しく微笑んでいた。 おわり 涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 幸せの連鎖
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2824.html
戦況は絶望的だった。 それだけが存在理由だ。と言わんばかりに暴れる「神人」という名の半透明の化け物 次々と破壊されていく建造物 飛び交う悪態と悲鳴 既に負傷者の数ははかりきれない 機関に入って以来、僕だってそれなりに修羅場をくぐりぬけてきた。 それは何も僕だけの話ではなく、少なくともここに集まっている仲間全員がそう自負している。 死を覚悟した経験も一度や二度ではないし、実際、仲間の中には生命の危機に関わるほど 重傷を負った人もいた。 そんな経験もあって、僕らは既にこの閉鎖空間内での戦闘に関してはスペシャリストだった。 それはもう全員がたった1人でのハイジャック、及び原子力発電所の奪取が可能なほどに。 そんな一流の僕らが、今まさに機関始まって以来、最大のピンチをむかえている。 午前6時、涼宮さんと彼が朝っぱらから愛し合う事で発生した空間の中で。 「あぁ、もう駄目…」 森さんしっかりして下さい! もしどこか負傷したのなら… 「別に肉体的な負傷は負ってないんだけどね。」 はぁ… 「あんたはまだその年だから平気かもしれないけど あたしぐらいになるとね。このゲロ甘&桃色の空気に包まれてるだけで体に毒なのよ。」 … 「なんてゆーか。心が蝕まれるっていうの?すっごい鬱になるのよね。」 な、なるほど。 「つまり、もう決して取り戻すことのできない自分の青春時代を思い出し、 当時の自分との余りのギャップに心が挫け、極めて遺憾な状態に陥った、ということですな。」 あ、新川さん…そんなはっきり 森さんが新川さんをギロリと睨む。いつもならここで容赦なく肝臓打ち→ガゼルパンチ→デンプシーのフルコンボを 打ち込んでいるはずだったのだが、よっぽど気が滅入っていたのだろう、今回は剛体術一撃で済んだ。 それだけでも、新川さんの胃袋はズタズタになったはずだが。 口から血をまきちらし昏倒する新川さんをしりめに、森さんと対策を練る。 「ヤバイわね。昨日の今日ってこともあって、みんな疲れきってるわ。」 ええ、それに加えて桃色パワーでさらに(ある意味)凶暴化してる神人が相手ですからね…。 「多丸(裕)の顔見てよ。昨日のダメージと極度の疲労で顔がリカルド・マルチネス戦の伊達みたいになってるわ。」 ああ、本当だ…。 「神人の強さや空間の居辛さもそうだけど、戦ってる理由がアレなせいでテンションが上がらない。っていうのもあるわね。」 ああ、それはあるかも。 1組のカップルが愛し合い、肉体を求めることで発生した世界崩壊の危機を防ぐために戦う。 …なんて意味の分からない理由だろう。 百戦錬磨のソルジャーでさえそんな出動命令が下れば戸惑いの1つや2つ浮かべるというものだ。 「とにかく、うちみたいなベンチャーは1人1人のモチベーションが大事なんだから。 その辺の対策も練ったほうがいいかもね。」 えぇ、機関ってベンチャーだったんですか?!…ってうわぁぁぁぁぁ! 前方からもの凄い勢いで飛んできた謎の物体をギリギリで回避する。 ソレはその勢いのまま、まるで地面に突き刺さるように激突した。 「ちぃ、一体何?!」 衝撃で飛び散る破片をかわしながら、飛んできたソレを確認する。 そこには上半身だけ地中にめり込み、下半身をぴん、と伸ばしたまま地面に突き刺ささっている多丸(圭)の姿があった。 「まぁ、まるでコンクリートの隙間から力強く必死に茎を伸ばして空を仰ぐように咲くたんぽぽみたい。」 言ってる場合ですか! 多丸(圭)を(1人で)必死に引っこ抜こうとしてると 「古泉まずい、こっちに来たわ!」 ええ?! 振り向くと確かに神人が1体、物凄く楽しそうにスキップしながらこちらに接近していた。 「逃げるわよ!」 ちょっと待って下さい!多丸(圭)さんが抜けないんです! 「そんなのほっときなさい!」 ええ?!…って森さんも手伝ってくださいよ! が、森さんは既に球体化して遠くに避難していた。 神人がどんどん近づいてくる。 わわわわわわわわわ…! 必死に多丸(圭)を引っ張るが全然抜けない。 そりゃ出来るなら僕だって逃げたいけど、それは人として、古泉一樹として絶対間違っていると 自分に言い聞かせ、涙目になりながら引っ張り続けた。 スポン! およそ人が地面から抜け出る音とは思えない効果音を奏でて、多丸(圭)をようやく掘り出すことに成功した。 が、時すでに遅し、神人の足の裏がもう目の前にまで迫ってきていた。 球体化している暇もない。 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 「古泉ぃぃぃぃぃ!」 遥か遠くの空から森さんが叫ぶ。決して助けてくれようとはしない。 万事休す!と、とうとう覚悟を決めようとしたその時 『ヴォォォォォォォ…』 まさに間一髪。 神人がその動きを止め、足元からゆっくりと自壊し始めた。 僕は思わず腰が抜け、へたりと座り込む。 「ギリギリだったわね。」 ええ…、今回は本当に死ぬかと思いました。 …って森さんいつの間に。酷いですよ、助けてくれないなんて。 「空間が発生して1時間、神人が出現して30分が経過してるわ。…昨日より掛かったわね。」 無視ですか。 「しかし、酷い有様ね。」 周りを見渡す。建物は軒並み破壊され、仲間の半分以上は怪我を負い、地面にうずくまっている人もいる。 まるで核の被害にあったかのような状態なのに、相変わらず空間内は桃色で、空にはハート型の雲が浮かんでいる。 なんてシュールな光景なんだ。 しかし… 涼宮さんには早いとこ、彼との行為に少しでも慣れてもらわなければ。 だけどこればっかりは僕も横槍のいれようがない。 もし彼女に直接『愛する人とのSEXとはいえ、なにも緊張することはないんですよ。』的なアドバイスをしようものなら …その後起こるであろう惨劇は容易に想像できる。 「ふぅ、とりあえず集合よ。今日の反省と、今後の対策を練る必要があるわ。 …新川、いつまで悶絶してるのよ。さっさと集まりなさい!」 身悶えている新川さんにドカッと蹴りを入れる森さん。あそこまで酷い事をするとは…彼女もそうとう参ってるようだ。 うん、そう思っておこう。決して普段からああって訳ではない。ないんだ。 「なにぶつぶつ言ってんのよ。」 ああいえ別に何も! …あっぶねー。 ようやく気持ちも治まってきて、冗談(?)を言う余裕も出てきた。 とにかく、今は一刻も早く帰りたい。 なにしろ昨日は3時間弱しか寝れてない。金曜日だったので、疲れもかなり溜まっていた。 今日は午後から不思議探索だから、急いで帰れば2時間ぐらいはまだ眠れるかもしれない。 なんてことを考えながら、みんな集まっている場所へ多丸(圭)を担いで向かっていると… 『ヴォォォォォォォ…』 え? 僕はもちろん、森さんも新川さんも、他の仲間達も全員体をビクッ、と硬直させる。 「…今のってまさか…。」 森さんにつられて後ろを振り向く。 そこには信じられないような、信じたくないような光景が… 桃色神人、再・爆・誕! 「2Rね…ほんっと、若いって素敵。」 森さんが呟く、その顔は笑みを作ってはいるが、絶望と怒りと、そして悲しみに包まれていた。 他の仲間もみんな同じような顔をしていた。もちろん僕も。 やっとこさメタルクウラを1体やっつけたというのに、その後崖の上から無数のメタルクウラが現れた時の悟空とべジータの心境だ。…わかるよね? 「まぁ、ここでいくら落ち込んでもしょうがないわね。いくわよ、野郎共!」 森さんのその叫びと共に、半ばやけくそになりながら僕たちは神人に突っ込んだ。 どうか生きて帰れますように…。 なんとか生きたまま桃色空間の中から帰ってくることに成功した頃には、時刻は既に10時をまわっていた。 戦闘自体は…まぁ今日2回めということでわりかし早めに終わったのだが、その後緊急で 対策会議が(道端で)行われた為、こんな時間になってしまった。 結局その対策会議というのも、ろくに結論が出ないまま終わってしまったのだが。 そういうわけで、僕が自宅に戻ってきた頃にはそろそろ不思議探索に行く準備を しなければいけない時間帯になっていた。なんの拷問だ。 のんびりお風呂に入りたい気持ちでいっぱいだったが、あいにくそんな時間はない。 とりあえずシャワーだけ浴びる。自分の体を見るとあちこち擦り傷や、打撲で酷いことになっていた。 やれやれ、せめてお2人の事を少しでも嫌いになれれば、気持ちよく悪態もつけるというのに。 そんな事を考え、思わず苦笑する。 シャワーを浴び終え服を着た後、簡単な食事を摂る。 買っておいたパンを食べ、野菜ジュースを飲む。疲れているため食欲もいまいち沸かない。 それから少しばかりソファーに座りくつろぐ。うっかり寝てしまいそうだ。あぶないあぶない。 …そろそろ時間だな。 今日、今日さえ無事に過ごしてしまえば明日は日曜だ。きっとゆっくり休める。 そう自分に言い聞かせ、ソファーから体を起こす。 玄関で靴を履き重たい足を引きずるようにしながら、僕はドアを開けた。 集合場所まで行くと、既に僕以外の団員は揃っていた。 それはそうか。いつも最後の彼は今日は朝から涼宮さんと一緒にいたわけだから。 「やぁみなさんお揃いで。」 「おっはよー古泉君!」 「おはようございますぅ。」 「…」 「おぅ。」 朝っぱらからそれなりに激しい運動をしたのだから、さすがの涼宮さんも少しは疲れていると 思ったのだが…むしろいつもよりもテンション高めに見えた。 …彼のほうは少しやつれ気味だったが。 「大丈夫古泉君?なんか少し顔色が悪いわよ?」 ああしまった。疲れが表に出てしまったようだ。 「いえ、大丈夫です。恥ずかしながら昨日少々夜更かしをしてしまいまして。」 横目でチラリと彼を見てみる。微妙に怪訝な顔をしていた。 「ふぅん、まぁ平気ならいいわ。 じゃあとりあえず喫茶店ね。そこで班決めするわよ。」 付き合っているんだから彼と2人きりでいればいいのに。わざわざ班を決めるところが涼宮さんらしい。 「あ、古泉君。ドベだから今日おごりね。」 … …かしこまりました団長様。 公正な班決め(色つきわりばし)の結果、涼宮さん長門さん朝比奈さんの女の子3人組。 僕と彼の男2人組みという組み合わせになった。 「じゃあ4時にまたこの喫茶店で待ち合わせね。 古泉君。キョンがさぼらないようにしっかり見張っててね。」 「かしこまりました。」 「さぼらねーっての。」 特に気分を害したようすもなく彼が溜息をつく。 「んじゃ、いくわよ。みくるちゃん、有希。」 あちら方と別れ、彼と街中を歩く。 「なんか飲むか?おごってやるぜ。」 これはめずらしい。なにかいいことでもあっ…そういやありましたね。凄いのが。 「?どうした、いらないのか。」 「いえ、ありがたくいただきます。今日はえらく気前がいいですね。」 「ま、今日誰かさんが遅く来てくれたおかげで珍しく財布が重いんだ。」 「なるほど。」 奢ってもらったコーヒーのプルタブをあける。彼は既に飲み始めていた。 「…昨夜はお楽しみでしたね。」 『ブーーーーーーーッ』 彼が派手にコーヒーを噴出す。ここまで期待通りのリアクションをしてくれるとは。 「なななな、なんで…ハッ、また機関とやらの情報だな! おい、いいかげんにしろよ。俺はともかくだな、ハルヒのそんなプライベートなことまで…」 顔を赤くさせたり青くさせたりしながら物凄い勢いでまくしたててくる。 普段冷静な彼がここまで取り乱すとは… 「いえいえ、別に覗いてたり、会話を聞いてたりしていたわけではありませんよ?」 「?、じゃあどういうことだ。」 「閉鎖空間です。」 「なに?」 「昨夜の12時過ぎごろ、ものすごい規模の閉鎖空間があちこちに発生しまして… 昨日涼宮さんがあなたの家に泊まりに行っていたことは、僕をはじめSOS団員全員が知って いたことだったので、発生した原因としてはまぁ、。そういうことかなと。」 この際だ。彼ぐらいには言ってもいいだろう。 僕の中に溜まっている疲れを少しでも癒すために、彼をおちょくって照れた顔でも見てやろう。 「…!…っっ!」 彼は落ち着かない様子で目をぎょろぎょろ動かしている。 その時点でかなりおもしろい。よっぽど恥ずかしいのだろう。 が、さらなる動揺を与えるため例の桃色空間の様子を伝えようとすると… 「閉鎖空間が発生した…ってことは…ハルヒはもしかして、ストレスを感じていたのか?」 「え?」 「いや、だって閉鎖空間が発生する理由ってのは、ハルヒの精神が不安定になることが原因なんだろ? てことは俺との行為になにか不満があって…」 いやいやいやいや。発生理由としてはまさにその真逆なのだが… 彼は顔を青くしながら頭を抱えている。こんな一面もあったとは。 「いや、でも昨日はハルヒもあんなに満足そうにしてたし…今日の朝だって…」 ぶつぶつ独り言を呟く彼。そしてハッと顔を上げると 「もしかして、今日の朝方も?!」 「え、ええ、発生しました。あの、でもですね…」 そうじゃないんですよ。と、別に涼宮さんは不満を感じていたわけではないんですよ。と 説明しようとすると… (ん?ちょっと待てよ…) ピキーンと、ある閃きが僕の頭をよぎった。 そして… 「…そうですね。涼宮さんはあれで乙女チックな所がありますから。 もしかしたらまだ彼女の中では、あなたとそういう関係になるのは早い、と感じていたのでは?」 なんて事を口走っていた。 「で、でも昨日ハルヒは割りとノリノリで…はっ、ま、まさかそれも俺の為を思って?」 少し考えれば分かりそうなことなのだが、彼は完全に動揺しきっていて冷静な判断力を失っているようだった。 「考えられますね。涼宮さんがあなたの事を愛しているのには変わらないのですから。 多少強引に迫られれば、それは彼女としては断れないでしょうね。」 僕がそういうと彼はとうとう力なくうなだられてしまい 「なんてこった。俺はハルヒの気持ちを少しも考えないで…」 なんだかちょっと可哀想になってきた。 もちろんこのままではよろしくないから、それなりにフォローもする。 「でも、安心してください。確かに割りと規模の大きな閉鎖空間でしたが、 そこから重度のストレスや、不満などは感じ取りませんでしたから。」 僕がそう言うと彼はバッと顔を上げ 「そ、それはどういう事だ?」 「つまり、涼宮さんは嫌がっていたわけではないんですよ。 やはり多少の不安や恐怖みたいなものはあったのでしょうがその反面、あなたに求められて嬉しいと いう気持ちもあった。その証拠に、いつもは獰猛に暴れる神人が昨日はまるで『どうしていいかわか らない』といった感じでおろおろしているばかりでしたから。」 嘘8000な事を言う。結構穴だらけの説明だったのだが動揺している彼にはこれで十分だった。 「な、なるほど…」 彼も少しだけ立ち直ったようだ。 ここでトドメを。 「時間はたっぷりあるのですから、急いで体を求める必要はないと思いますよ。 あなたと涼宮さんの相性は抜群なわけですから。ゆっくり距離を縮めていけばいいかと。」 そう言ってコーヒーを口に運ぶ。彼は 「そうだな。そんなに急いてやる必要はない。サンキュー古泉。俺、なんだか焦ってたみたいだ。」 と言って、なんだか1人新たに決意を固めているようだった。 くくく、計算通り。 涼宮さんには悪いがこれで彼との行為がしばらく無くなってくれれば、僕をはじめ 機関の仲間全員が少しは休息をとれるというものだ。 もちろん、それで涼宮さんが欲求不満になって通常の閉鎖空間が発生しては元も子もないので、 その辺はまたタイミングを見計らって彼を焚き付けるとしよう。 集合時間になり、3人と合流する。 彼は涼宮さんの姿を見るやいなや彼女の肩を掴み、 『ごめんなハルヒ。俺、もっとお前のこと大事にするから。』 などと言っていた。 朝比奈さんは顔を赤らめ動揺し、長門さんも少し驚いてるようだった。 当の涼宮さんも顔を赤くしていたのだが、当然彼にいきなりそんなことを言われた意味が分かるはずもなく 「ええ?!と、当然よ!」 などと言っていた。…なにが当然なんだ。 それから解散になり、僕も帰宅することにした。 分かれる際に見た。彼から積極的に手を握られ、意味がわからず動揺する涼宮さんの顔が印象的だった。 ふぅ、これでしばらくは僕もゆっくり養生できそうだ。 彼と涼宮さんの絆をより深め、桃色空間の発生も防ぐ。なんて完璧な事をしでかしてしまったのだろう僕は。 機関に申請すれば、ボーナスでも出してくれるかもしれない。 そんなことあるわけないっての。とか1人でにやにやしながら歩いていると、いつの間にか自宅に到着した。 ああ、疲れた。すぐに横になりたいが… どうせ明日はゆっくりできるんだ。のんびりしようか。 それから僕はゆっくりお風呂に入って、夕食を作り、テレビを見ながらのびり食事した。 久しぶりの休息はあっという間に過ぎていき、時刻は22時、 昨日ほとんど寝ていなかったためそろそろ目蓋のほうも限界である。 …そろそろ寝よう。 トイレで用を足し、布団に入る。 明日は何時に起床しようか。せっかくだ、いっそお昼の12時ぐらいまで寝てしまえ。 好きなだけ睡眠をとれることに小さな幸せを感じつつ、僕は目蓋を下ろした。 『『溝鼠ハイエナ糞豚ばかりぃぃぃ! ソゥアタック ソゥアタック ベノムセェェイ!!』』 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 爆音に思わず目が覚める。 音の発信源を探る、どうやら自分の携帯電話の着信音だったようだ。 もちろんこんな激しいハードコアな音に設定した覚えはない。 …長門さん、今日は僕の携帯に触るヒマなんてなかったはずじゃ… 液晶を見る。 『着信・バイオレンス森』 森さん…?時間は…午前12時…。 …嫌な予感がする。 いや、でもそんなバカな。 だって今日僕が成し遂げた偉業によってあの空間が発生するはずはないのだから。 と、とりあえず電話に出よう。 「もしもし…」 「古泉。仕事よ。」 「えぇ?!それってまさか…」 電話越しで深い溜息が聞こえた。 「閉鎖空間よ。」 ハハハ…んなバカな。 「それって、どっちの…?」 「言わなくてもわかるでしょ。桃色のほうよ。」 なんで…今日のお昼の事は一体… 「しかも、規模の広さも神人ちゃんの浮かれっぷりも前回とは桁違いよ。」 そ、それはどういう… 「機関の精神部の話だと、涼宮ハルヒの中で昨日よりも激しい歓喜の気持ちが生まれたのが原因だって。」 激しい歓喜の気持ち? 「なんでも彼のほうから彼女になんらかの告白をしたらしくって。」 携帯の向こうから自嘲気味な笑いが聞こえる。 「それを受けた彼女の強い喜びが、そのまま神人の行動に出ちゃってるみたい。」 … 「で、そのままベッドインしちゃったもんだから、当然閉鎖空間も発生する。 強い感動を引きずったままだから、空間の規模も神人ちゃんの浮かれ 具合もそんな風にパワーアップしちゃったってわけ。」 それは… それはつまり… 僕が今日行った事が、思いっきり裏目に出てしまったということですか? 「どうしたの古泉。ちゃんと聞いてんの?」 「ああ!聞いてます聞いてます。」 とりあえずその事は黙っておこう。バレたらどんな目に会うかわかったもんじゃない。 「とにかく、もう新川をあんたン家によこしたから、急いで準備して。今日は戦闘に入る前にちょっとした集会をやるわよ。」 ちょっとした集会? 「今日の朝言ったでしょ。やつらと戦うには、個々のモチベーションアップが大切なのよ。」 はぁ… 「とにかく、来ればわかるわ。」 午前12時40分。 僕が現場に到着すると、そこには異様な光景が広がっていた。 機関の仲間が綺麗に、一列に整列しており、その背筋は例外なく伸びている。 そして、1人列に混じらず相対するように仁王立ちしている森さんの姿が。 「来たわね古泉。」 あ、あの森さん。これは一体… 「言ったでしょ。全員のモチベーションをあげるのよ。あんたもさっさと列に加わりなさい。」 怖いので支持に従う。 そのうち残りの仲間が到着し、彼らも同じように整列させられた。 それじゃあ、始めるわよ。 何をやるんだろう…どうやら僕以外の人たちはこれからなにをするか知ってるようだったが… と呑気に構えていると… 「あたしが桃色空間特別対策員隊長の森園生である!」 えぇ?!森さん、急になにを… 「話しかけられたとき以外は口を開くな 口でクソたれる前と後に“Sir”と言え 分かったか、ウジ虫ども!」 いきなりなに言い出し『『『Sir,Yes Sir!!』』』ええええええ?! 「ふざけるな!大声出せ!タマ落としたか!」 『『『Sir,Yes Sir!!!!』』』 ちょ、どうしたんですかみんな! 僕の疑問などどこ吹く風。森さんはかまわず続ける。 「貴様ら糞超能力者どもがもしこの戦いに生き残れたら── 各人が兵器となる。戦争に祈りを捧げる死の司祭だ その日まではウジ虫だ!地球上で最下等の生命体だ 貴様らは人間ではない 三流アニメキャラのクソをかき集めた値打ちしかない! 貴様らは厳しいあたしを嫌う だが憎めば、それだけ学ぶ あたしは厳しいが公平だ、二次創作での差別は許さん 古泉が自分のことを「私」と呼ぶSS、 名前が「小泉」、「朝日奈」となっているSS 「みくるちゃんでAVを録るのよ!」的なエロ同人誌 すべて── 平等に価値がない! あたしの使命は甘くて身悶えるようなSSを読んでにやけることだ! 『10月8日 曇りのち雨』なみの甘さを! 『ハルヒ親父シリーズ』なみの甘さを! 分かったか、ウジ虫!」 わかりませ『『『Sir,Yes Sir!!!!』』』ええええええ?! 「ふざけるな! 大声だせ!」 『『『Sir,Yes Sir!!!!!!!!』』』 「OK、行くぞ!」 『『『オォォォオオオォォオ!!!!!!』』』 並んでいた仲間が雄たけびを上げ、次々と桃色空間へと突っ込んでいく。 1人残され、唖然としていると森さん(現ハートマン森軍曹)が近づいてきた。 あの森さん。これは一体…。 「ほら見てみなさい。全員見違えるようなテンションよ。 今日一日中考えてた甲斐があったってもんよ。」 は、はぁ… 「これから桃色空間が発生した場合、毎回これやるから。 あんたも次回からはちゃんと返事しなさいよ。」 うええええ… 「なによその反応。嫌だっての?」 いえ、なんでもないですぅ。 とりあえず、明後日にでも彼には本当のことを言おう。 うん、そっちの方がいろんな意味で安全だ。 おしまい
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3311.html
古泉「……おっと、そろそろ保守の時間ですね。『●<バイショォオオオオオオオオオオオオオ!!!!』、書き込み…と」 古泉「さて、投下がないかリロード…と」 古泉「……ん?」 172:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage]2007/10/02(火)04 52 03.24 ID HO/shuh0O 保守 173:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage]2007/10/02(火)04 53 04.96 ID k01zum1kO ●<バイショォオオオオオオオオオオオオオ!!!! 古泉「……過疎時に僅差で後から保守すると、なんか負けた気分になりますね」 古泉「そう言えば…さっきから二回連続で同じIDに負けてます…相手の保守間隔もきっちり30分…」 古泉「…………」 ~30分後~ 古泉(5、4、3、2、1…今だ!) 古泉「『保守』、と」 古泉「…………」 174:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage]2007/10/02(火)05 23 11.24 ID HO/shuh0O 保守 175:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage]2007/10/02(火)05 23 24.96 ID k01zum1kO 保守 古泉「……くあっ!」 古泉「……どうする?フライングして29分後に保守するか?……いや、そんな勝ちを拾って嬉しいのか?古泉一樹!」 古泉「きっちり30分後です…30分を切っても負けです。それがこのゲームのルール!」 ~更に30分後~ 古泉「『ほ』!」 古泉「……ッ!」 176:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage]2007/10/02(火)05 53 26.12 ID k01zum1kO ほ 古泉「……やった」 古泉「……僕はやりましたよ!機関のみんな!」 古泉「さて、好敵手の保守を待ちますか……」 古泉「…………」 古泉「……書き込みがありませんね」 古泉「…………」 古泉「……もしかして、寝ちゃったんでしょうか?」 古泉「……なんとなく完全敗北した気分です……」 長門「Zzzz…」 保守。 古泉「ふぅ…小ネタ書いて満足したから次は長編の続きです。今日は筆が乗りそうな気がしますよ」 ~30分後~ 古泉「……一行も進みませんね」 古泉「…………」 古泉「……今日は保守ネタ書いたからノルマクリアということにしましょう」 古泉「久々に書き上がりました。早速投下を……っと。長編の投下中ですか」 古泉「……『GJ!まさかの谷口フラグwww』、と。ん~…投下直後ですし、少し間を開けますか」 ~少しして~ 古泉「……もうすぐ1000行きそうですね。これは次スレを待ちましょう」 古泉「…………」 古泉「『1000なら古泉主役の感動巨編が投下される』、と」 古泉「…998…」 ~次スレ~ 古泉「『1乙』、さて……ん?お題募集ですか?」 古泉「…………」 古泉「『リーダーシップのある古泉』、と」 古泉「あぁ!投下が!『リロってなかったorz支援』、と」 ~更に少しして~ 古泉「そろそろ投下しないと人がいなくなりそうですね……って、こんな夜中に森さんから着信?」 ~通話中~ 古泉「はい、ですから24階の宝箱はスタート地点で剣を振れば出ます。26階はそれがないと取れません」 ガチャ 古泉「ふぅ…携帯ユーザーはこういう時不便です。さて、やっと投下を……」 古泉「……スレが落ちてる」 古泉「ネタに詰まりました……少し前回の話を読み返してみますか」 古泉「…………」 古泉「……あ、ここ伏線として使えそうですね」 古泉「…………」 古泉「……やっぱり自分の話を読むのは少し恥ずかしいですね」 古泉「…………!」 古泉「……微妙な誤字が……このままでも意味は通じるから問題はないですが……」 古泉「あぁ!気になる!……こんな少しのミスでまとめ人さんにお願いしていいんでしょうか?」 古泉「……読み飛ばせるレベルですし放置しますか?……でも、気になる……機関のPCから修正……いや、森さんにバレたら絶対にネタにされる……」 古泉「……うあぁ~!」 古泉「ん?メール?……森さんですか」 古泉「……また、ドルアーガですか?……えーと……上、右、下、左の順番に三回入力でしたっけ?」 古泉「取り敢えず、返信メール作成を……ん?」 『保存メールがいっぱいです』 古泉「……またメールボックスを整理しないといけませんね。気が付いたらSSとネタメモだらけです」 キョン「あれ?古泉のヤツ携帯忘れてる」 ダッダッダッダッダ! 古泉「すいません!携帯置いてなかったですか!?」 キョン「あ、あぁ…ほら、これ」 バッ、パカッ、カチカチ…… 古泉「……中、見てないですよね?」 キョン「そんな無神経なことはしないが……どうした?そんなに慌てて?」 古泉「い、いえ。なんでもありません……」 キョン(……エロい待ち受けにでもしてんのか?) 古泉(……書きかけのSSの画面……危ないところでした) 古泉「さて、そろそろ寝ますか」 古泉「…………」 ウトウト… 古泉「…………!」 古泉(プッ…ククッ…このネタは行けます!) 古泉(携帯にメモを……) ~翌朝~ 古泉「ふぅ…よく寝ました」 古泉「…!…そうだ!昨日メモったネタを……」 パカッ、カチカチ…… 『新川VS森~南海の大決戦~』 古泉「…………」 古泉「……いや、これだけじゃどんな話か分かりませんよ」 ~小テスト中~ 古泉「…………」 カリカリ… 古泉「…………!」 古泉(こんな時に限って強烈な電波が…!メモを…) ゴソゴソ… 教師「コラ、古泉。テストに関係ないものは仕舞いなさい」 古泉「あ、すいません……」 古泉(…くッ…!何かメモれるものは…?) 古泉「…………」 ~放課後・職員室~ 教師「……何だ?この『ヒミツの保健室なSOS団』って?」 古泉「えっと、それは……」 教師「『朝比奈さん=先生、佐々木さん=佐々木、谷口君=ナカヤン』……?何の暗号か知らんが、テストに落書きするなよ」 古泉「……はい。すいませんでした……」 SS作者古泉くん保守 ~古泉のマンションにて~ 古泉「どうぞ、お入り下さい」 キョン「おぉ、いい部屋だな」 古泉「機関が出資してくれてますから……飲み物を淹れますけど、コーヒーにしますか、紅茶にしますか?」 キョン「じゃあ、コーヒーで」 古泉「少々お待ちを」 コポコポコポ… キョン「お?今週のジャンプ。古泉ぃ~ジャンプ見せて貰っていいか?」 古泉「どうぞ、ご自由……に……」 古泉(……って、しまったぁぁ!) キョン「えーと、ハンターハンターは次からだっけ?」 パラ… キョン「……ん?」 キョン「なぁ、古泉……なんで漫画雑誌に付箋貼ってるんだ?しかも、こんなにいっぱい……」 古泉(言えない。SSのネタのためだなんて言えない……) SS作者古泉くん保守 古泉「書き込み…と。ふぅ……あと3レスです」 古泉「長い話だと携帯からの投下は少し不便ですね」 古泉「7レス目は……と……あ!」 古泉「……どうしましょう?投下中にもっといい表現を思い付いてしまいました」 古泉「……修正しましょう。2行追加して……書き込み……と」 古泉「8レス目に7レス目の2行をズラして投下……と」 古泉「9レス目にも2行ズラして……」 古泉「……!!」 古泉「しまった!1行だけ余ってしまいます!」 古泉「…くっ…仕方ない、もう1レス追加して投下しましょう……」 古泉「……最後の1レスだけ1行しかないのは凄く気になりますね……」 SS作者古泉くん保守 古泉「そこはFC版とAC版で条件違いますけど、そのアイテムは無視して結構です」 ピッ 古泉「ふぅ…さて、電車が来るまでかなり時間がありますね。小ネタでも書きますか」 古泉「~♪~♪」 カチカチ…カチカチ… 古泉「筆が乗って4レス分になってしまいました」 古泉「投下中でもなさそうですし、早速書き込みましょう」 古泉「『保守ネタ、4レス貰います』、と」 古泉「…………」 カチカチ…カチカチ… ピーッ!ピーッ! 古泉「はぅぁ!?バッテリーが!!通話前まで3つだったのに!!」 古泉「……どうしましょう?オチを投下出来ませんでした……」 SS作者古泉くん保守 キョン「……で、ハルヒが怒って帰っちまった訳だ」 古泉「……なるほど」 カリカリ…… キョン「……なぁ、さっきから何メモってるんだ?」 古泉「閉鎖空間が発生した理由をまとめた、機関への報告書です。ご安心を、あなたのプライバシーに関する部分は伏せますので」 キョン「……そんなことまでするのか、監視ってのは大変だな」 古泉「いえいえ」 キョン「……なんか嬉しそうだな?」 古泉「気のせいですよ」 古泉(今回はデート中の痴話喧嘩ですか…これで次回のSSネタゲットです♪) SS作者古泉くん保守 古泉「むぅ…この作者さんの長編はいつ読んでも凄いですね」 古泉「コメディ調に話を進めながら、裏ではシリアスな話を展開し、きっちり伏線回収……」 古泉「僕もこんな話を書いてみたいものです」 古泉「……しかし、どこかで読んだことがある気がするんですよね。この文章の書き方」 古泉「……まとめサイトでしょうか?」 鶴屋「よっしゃっ、次はガチな古キョンでも書くさっ」 SS作者古泉くん保守 古泉「き……」 カチカチ… 古泉「き……」 カチカチ… 古泉「…………」 カチカチカチカチ 古泉「あぁ!もう!どうして『喜』がこんなに後半なんですか!?」 古泉「最近の携帯は変換候補が多すぎて、逆に不便です」 SS作者古泉くん保守 長門「…………」 パラ… キョン「お?やけに薄い本読んでると思ったら携帯のパンフレットか。携帯変えるのか?」 長門「…………」 コク キョン「どんなのがいいんだ?カメラの性能がいいヤツか?テレビが見れるヤツなんかもあるな」 長門「……パケ放題が出来て、メールが全角2000文字以上打てるタイプ」 キョン「……は?」 長門「……今の私の携帯では一回の投稿で全角512文字が限界」 キョン「はぁ…?」 長門「……今のは忘れて」 キョン「……よく分からんが、その条件なら俺の携帯がそうだな。一緒のにするか?」 長門「…………」 コク SS作者古泉くん保守 古泉「『そして、世界は三度改変された』、と」 古泉「ふぅ…プロット完成です。ちょっと長めですね…SSにしたら全八話くらいでしょうか?」 古泉「……全八話か……」 古泉「今日はもう遅いですし、書き出すのは明日からにしましょう」 ~三日後~ 古泉「……あ、例の長編まだ書いてませんね」 古泉「…………」 古泉「……プロットが完成しただけで、やり遂げた気分になるのは僕だけでしょうか?」 SS作者古泉くん保守 古泉「今日こそは!」 カチカチ… 古泉「…………」 カチカチ… 古泉「『その華奢な体に腕を回し』……」 カチカチ… 古泉「『互いの鼓動が聞こえるほど顔を近付けて、そっと、囁く』……」 古泉「…………」 古泉「……やっぱり無理です!消去!消去!」 カチカチッ 古泉「はぁ…こういうシーンは恥ずかしくてどうしても書けません……」 古泉「…………」 古泉「……『好きです』」 古泉「…………」 古泉「うあぁッ!無理です!無理!」 ジタバタジタバタ SS作者古泉くん保守 古泉「『長編に詰まるとつい短編のネタを考えてしまう』、書き込み、と…はぁ…本当に長編が進みません」 鶴屋「ん?書き込みにょろ。『長編に詰まるとつい短編のネタを考えてしまう』……あ~分かるにょろ」 鶴屋「『あるあるww』、とっ」 古泉「あ、レスが付きましたね……『で、気になるから先に短編に手を着けたり』、と」 鶴屋「あははッ!分かる!分かるさっ!『ありすぎて困るww』、とっ」 古泉「お?レス早いですね。ん~……『で、結局短編も詰まって書き上がらなかったりww』、と」 鶴屋「…………」 カタカタ… 古泉「リロード、と。あ、返信レスありますね。えーと、なになに?……『それはない』……?」 古泉「…………」 古泉「……さて、長編の続き書きますか」 SS作者古泉くん保守 古泉「ズシャァァァッ!」 古泉「…………」 古泉「ズバァァァァッ!」 古泉「…………」 古泉「ズキュゥゥゥン!」 古泉「…………」 古泉「ちゅどーん」 古泉「…………」 古泉「読む時はなんとも思わないですが、自分で書くと擬音ってなんか間抜けに感じてしまいます」 SS作者古泉くん保守 ~続・編集長★一直線!~ キョン「むぅ…また恋愛小説か」 古泉「今回は僕も恋愛小説ですね。プロットは山ほどあるから楽勝です」 キョン「…………」 古泉「あ、一つプロットをお譲りしましょうか?あとはただ文章化すればいいくらいには書き込んでますよ?」 キョン「…………」 古泉「何がいいですか?ラブコメ、純愛、悲恋モノ。僕はラブコメで行くので別ジャンルがいいかも知れませんね」 キョン「…………」 古泉「オススメはツンデレなヒロインと鈍感な主人公のすれ違いを描いた――」 キョン「……古泉」 古泉「――純愛モノなんですが……って、はい?なんでしょうか?」 キョン「……まず、プロットってなんだ?」 古泉「……あ」 キョン「……あと、やけに楽しそうだな?」 古泉(しまった……つい調子に乗って……) SS作者古泉くん保守 長門「……初投下」 長門「……ドキドキ」 長門「……感想レスが付いた」 長門「…………」 長門「……『カオスww』、『シュールww』、『アナル行けww』、『是非尻穴スレに来てくれww』……」 長門「…………」 長門「……私が書いたのは純愛モノ」 SS作者古泉くん保守 ~続々・編集長★一直線!~ 古泉「プロットというのは物語を書くための構想やあらすじのようなモノで……」 キョン「…………」 古泉「……今回のように再び小説を書かなければならない時のために書き貯めておいた訳です」 キョン「……なるほど」 古泉(……はぁ~…なんとか誤魔化せました) キョン「……ところで古泉」 古泉「なんですか?」 キョン「このプロットとやらに登場する主人公とヒロインが、俺とハルヒにそっくりな理由を詳しく説明して貰おうか?」 古泉「え?……あ」 古泉(し、しまったぁぁぁぁッ!) SS作者古泉くん保守 ~続々々・編集長★一直線!~ キョン「……俺とハルヒの喧嘩や騒動をおもしろおかしくネタに仕上げてた訳か」 古泉「……すいません」 キョン「あんまりいい気はしないな」 古泉「……ネタに困ってまして……本当にすいません」 キョン(……たかだか年に一、二回の機関誌のために、なんでそこまでネタが必要なんだ?) キョン「まぁ、いいか。それより古泉」 古泉「……なんですか?」 キョン「これだけネタがあるってことは小説化したのもあるんだろ?読ませてくれ」 古泉「…………」 古泉「無理無理無理無理!無理です!」 キョン「なんでだよ?いいだろ?どうせ機関誌に載ったら読むことになるんだし」 古泉「今完成してる分は人様に読ませられる話じゃないんです!」 古泉(……だって完成してる小説は全部二次創作ですから) キョン(……おいおい、まさか18禁か?) SS作者古泉くん保守 ~各々の好み~ 古泉「ハルキョンだけはガチです」 長門「……二次創作だからこそ長キョン、長古」 鶴屋「カップリング?特に気にしてないにょろ。会長と古泉君なんか面白いかもねっ」 ~番外編~ 森「タジミハが私のジャスティス」 SS作者古泉くん保守 ~♪~♪ キョン「ん?メールか」 ダッダッダッダッダッ! 古泉「はぁッ!!」 キョン「うおッ!?」 ガッ! ゴロゴロゴロ…… バッ、パカッ、カチカチカチ…… キョン「……古泉……わざわざ俺の教室まで走ってきて、飛び込みざまに俺の携帯を奪い、受け身を取りながら勝手に携帯を操作した理由を説明して貰おうか?」 古泉「長い状況説明、ありがとうございます。さすがに台詞と効果音だけでは限界がありますね」 古泉「えーとですね……そう、間違って機関へ送る機密文書をあなた宛てに送信してしまいまして。見られる前に消去する必要があったんですよ」 キョン「……お前、機関の名を出せば俺が納得すると思ってないか?そんなもん普通は携帯のメールでやり取りしないだろ?」 古泉「し、信じて下さい!」 キョン「……まぁ、いいけど。ほら、携帯返せ」 古泉「……すいません」 キョン(……彼女宛てのメールに3000点) 古泉(書きかけのSSを間違って送信してしまうなんて……自殺モノですよ!?) SS作者古泉くん保守 長門「……前回の短編の続編完成」 長門「……投下」 長門「……ハラハラ」 長門「……感想レスが付いた」 長門「…………」 長門「……『相変わらずカオスww』、『テラシュールww』、『だからアナル行けってww』、『尻穴スレではあなたの登場を心待ちにしております』……」 長門「……グス」 長門「…………」 長門「……!」 長門「……『うまくカオスに見せてるけど、実はこれ純愛話だな。じんわりと来たGJ!』……」 長門「…………」 長門「……その1レスで私は次も頑張れる」 長門「…………」 長門「……でも、これは普通の純愛モノ」 SS作者古泉くん保守 古泉「…………」 カチカチ… キョン「…………」 古泉「……プッ、クスクス……」 カチカチ… キョン「……なぁ、古泉」 古泉「なんでしょうか?」 キョン「……メール打ってる時なのかな?お前、いつもニヤニヤしたり、しかめっ面になったりしてるけど、自分で気付いてるか?」 古泉「は……?」 キョン「ちなみにさっきはクスクス笑ってた」 古泉「…………」 古泉(……迂濶。まさかSS書いてる時にそんなことになってたなんて) SS作者古泉くん保守 古泉「短編が出来ました。けど、深夜ですね……『人いるかな?6レスほどの短編を投下します』、と」 古泉「おや?タッチの差で先に投下予告した人がいますね?」 古泉「『お先にどうぞ』、と。20レスオーバーの長編ですか?これは支援が必要みたいですね」 古泉「『支援』」 ~支援中~ 古泉「『支援』、……どうやら僕と投下中の彼しかいないみたいですね?深夜は寂しいものです」 ~支援終了~ 古泉「『GJ!甘々ハルキョン大好物です!』、と。ふぅ、久々にいい糖分を頂きました」 古泉「良作の後は少しテンションが上がりますね。僕のSSも行きますか」 古泉「『では、今度はオレのターンw』、と」 古泉「……あれ?」 古泉「……さるさん……」 SS作者古泉くん保守 古泉「……『毎回毎回、書き出しで詰まる。ここさえ抜けたら結構楽なのに』、と」 鶴屋「おや?書き込みにょろ」 鶴屋「ん~『自分は書き出しは楽しいけど、話の中盤で詰まることが多い』、とっ」 長門「…………」 長門「……『中盤は話のメインなので書いてて楽しい。話を上手く締めるのによく苦労している』、……書き込み」 古泉「……これは」 古泉「『自分は締めが一番楽しいかな?三人で役割分担したらいい感じになりそうw』、と」 鶴屋「あはは!『面白いwやっちゃう?w』、とっ」 長門「…………」 長門「……『楽しそう。でも、二人はどんな話を書いてる?』」 古泉「『今書いてるのは軽いギャグの甘いラブコメ』、と」 鶴屋「えーと、『アナル向けのカオスなイジメものかな?』、とっ」 長門「……『……やや欝の純愛モノ』」 三人「…………」 SS作者古泉くん保守 ~やっちゃいました~ 古泉「喜緑さんと会長がSとM?フリーダム過ぎますよ!」 鶴屋「あはは!『最近のマイブームw』、とっ」 古泉「あぁ!もう!なんでSOS団の半分が死んでるんですか!?」 長門「……『そこは譲れない。頑張って』、……書き込み」 古泉「……えぇ、嫌な予感はしてましたよ。でも、他の二人が乗ってきたら言い出しっぺとしてやめれないじゃないですか!?」 ~雑談室~ 『例の合作の最終話マダー?』 『↑最後の一人が詰まってるっぽい』 『↑まぁ、あの展開じゃあなw』 『↑~↑×3、あれは作者が投げても俺は責めないぞw』 古泉「あぁぁぁぁッ!」 SS作者古泉くん保守 古泉「……『その程度ですか?森さん』……」 カチカチ… 古泉「ふぁ……眠いですね……」 古泉「……夜の三時ですか。明日が祝日とはいえ、流石に夜更かしが過ぎますかね?」 古泉「……このシーンを書き終わったら眠ることにしましょう」 カチカチ… 古泉「……『あなたの負けですよ、森さん……いえ、森園生』……」 カチ…カチ… 古泉「…………」 ウトウト… 古泉「……Zzzz」 ~翌朝~ ピッピピッピッピピ 古泉「……ん?……あぁ、携帯のアラームですか」 古泉「ふぁ……設定オフにするの忘れてましたね」 カチカチ… 古泉「……さぁ、もう一眠り……」 古泉「…………」 ガバッ! カチカチカチ! 古泉「うぁぁぁぁぁッ!」 古泉「保存してない分のSSが!」 SS作者古泉くん保守 古泉「短編が出来ました」 古泉「ふっふっふ……今回の話は自信作ですよ」 古泉「いざ、投下」 『乙』『乙』『保守』 古泉「あ、あれ?リアクションが芳しくありませんね……」 ~別の日~ 古泉「ん~……続きの短編が出来ましたけど、ささっと書いただけあって微妙ですね」 古泉「ま、一応投下しますか」 『おまwww』『GJ!!』『萌えたww』『是非続き書いてくれ!』 古泉「え、えぇ?」 SS作者古泉くん保守 古泉「長門有希の特攻」 古泉「朝比奈みくるの不屈」 古泉「喜緑江美里の……奮起」 古泉「これは……涼宮ハルヒの……う~ん……暴虐?」 古泉「……ふぅ」 古泉「……SS読んだ後に、ついつい原作風サブタイトルを付けてしまうのは僕だけでしょうか?」 SS作者古泉くん保守 古泉「はぁ……本格的に詰まりました」 古泉「前編だけ投下なんてやらなければよかった……」 ハルヒちっくな悪魔『どうせあんたの話なんか誰も覚えてないわよ』 古泉「あぁ……悪魔の囁きが聞こえます」 ハル悪魔『長キョンなんてありきたりな話、どうでもいいわよ。もう投げちゃいなさいよ』 古泉「そんな……でも、続きが書けないのも事実ですし……」 みくるちっくな天使『投げてはいけませんよ』 ハル悪魔『む!?』 古泉「今度は天使の声が……?」 みく天使『きっと一人くらいはあなたの書く話を待っている人がいます』 古泉「……そんな奇特な方がいらっしゃるのでしょうか?」 みく天使『いますよ、きっと。そして……』 古泉「そして?」 みく天使『みくキョン物に軌道修正しましょう。大丈夫。今からならまだ間に合います』 古泉「……え?」 ハル悪魔『ちょっと待ちなさい!』 みく天使『あれあれ?どうでもいいんじゃなかったんですか?』 ハル悪魔『そういうことなら話は別よ!あの流れから軌道修正ならハルキョン以外認めないわ!』 みく天使『やれやれ……ワガママ言ってもらっては困りますね』 ハル悪魔『な!?最初に無茶言ったのはどっちよ!?』 みく天使『それにハルキョンの方がありきたりですよ~?』 ハル悪魔『ハルキョンは王道だからいいの!』 ギャーギャー 古泉「……とにかく頑張ろう」 SS作者古泉くん保守 古泉「ふぅ……後編及びエピローグが完成しました」 古泉「…………」 古泉「え?なんで投下しないのか?……ですか?」 古泉「……それは」 古泉「……中編が全く手付かずだからですよ」 SS作者古泉くん保守 ~やっちゃいました・その後~ 古泉「……終わった……やっと、例の合作の最終話が書き終わりました……」 古泉「もう合作も長編もこりごりです。僕は短距離走者、小ネタ職人として生きていきます」 ~三日後~ 古泉「……って、なんでまた長編書いてるんですか!?アホの子ですか!?僕は!?」 古泉「あぁ!でも、勝手に筆が進む!絶対に詰まって後悔するのにぃ」 古泉「あぁ……」 長門「……プロット完成」 長門「……次こそは……」 鶴屋「ん~そろそろ超長編に行ってみるさっ」 鶴屋「たまには真面目な話で行くにょろよ!」 古泉「……やっぱり詰まってしまいました」 古泉「……息抜きしましょう。貯まってる新作SSでも読みますかね」 古泉「……うぁ……今書いてる話とネタが被ってる……」 こうして、今日も作者たちの夜は更けていく……。 SS作者古泉くん保守・完
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2134.html
嘘から出た誠。その諺は今の僕達の状況にぴったりと当てはまっていた。 瓢箪から駒とも言う。 …御託は止めにして、とにかく次の一言を聞いて貰えば、僕達がまたもや、 非日常な事態に陥ったと確信できるかと。 それでは長門さん、いいですか?せーの、 「こいじゅみいちゅき」 ほらね。 「なんでしょう…」 彼を腕の中に抱えたまま、僕は椅子の上に立つ長門さんを見た。 「わたしは、しゅじゅみやはるひののーりょくが、 わたちたちにはたらくちょくじぇん、じぶんのみにきおくのかいざんをふせぐ、 しーるどをてんかいした」 長門さんが椅子から下りようと、片足だけ腰を掛ける部分から踏み外すように出す。 危なっかしく、ふらふらとしていたので、彼を床に下ろして長門さんの方に寄り、 脇の下に手を入れて持ち上げる。 「あいあと」 「はい…」 さっきの彼よりも随分と軽い。ひょいと持ち上げられる。 おかしいな、この歳ではまだ男女の体重差は殆ど無い筈なのに。 って… 「長門さん!?あなただけ、他の皆さんより更に小さくないですか!?」 いきなり大声を出した僕を不思議そうに見つめる彼等と、 今持ち上げている彼女を見比べる。 目分量だが、彼等はざっと見て110cmを越すくらいの身長だというのに、 この長門さんの身長は明らかに90cmすら無い。 「そう」 「栄養失調設定!?」 「ちがう。 わたしは、かれらとちがい、ご、ろくちゃいではなく、しゃんしゃいせってい」 「……あの、良く解らないんですが…」 「おしょらく、しゅじゅみやはるひによるへんかくと、 わたしのがんぼーが、しんくろしたとおもわれる」 「願望…?」 「そう」 ここから始まった、舌足らずな長門さんによっての説明は、 行を使い過ぎてしまうので僕が今から要約する。 長門さんは生み出された時には既に十六歳女子の姿を与えられていた。 しかし、彼女は地球の時間軸では三年間しか生命活動を行っていない。 涼宮さんに質問を投げ掛けられた時、彼女は幼稚園児ではなく、 彼女が僕達と同じ人類として生まれたとしたら、 本来そちらの方が正しい三歳児を経験してみたいと思った。 涼宮さんは、幼稚園児か保育園児の頃に戻りたいという、 曖昧でどちらかはっきりとした望みを提示したのではないが、 恐らくは少しばかり気が傾いていた幼稚園児、 つまり五、六歳にまで肉体、精神、知的能力共に衰退させたのだろう。 そして、長門さんの願いを涼宮さんの力が働き掛ける際に感知し、 長門さんには、まるで母か姉のように甘い涼宮さんによって、長門さんのみこうなった。 …以上で長門さんの説明の要約を終える。 「このよーな、かちゃちであろーとも、しゃんしゃいじになりぇたことを、 わたしはいま、うれしくおもっている」 ……なんと言うか…僕がこれから苦労をするのは目に見えているが、 複雑な存在である長門さんの願いが叶ったんだったら、 一緒になって喜んであげるべきか、な。 「しかち、あまりにきょーれつなじょーほーばくはつだっちゃので、 きおくと、ちてきのーりょくをひきついだいがいは、しーるどてんかいがまにあわず、 わたしは、いんたーへーしゅとしての、きのーをしゅべてうしなってしまた。 しょれが、しゅこしばかりふびん」 「ああ、確かにそれは少し困りま……って、ええぇえぇええ!!?」 余りの危機感に、危うく落としそうになった長門さんを慌てて僕は抱え直した。 「と言うことは、あなたは記憶と知的能力の二点以外は、本当にただの三歳児…!?」 「そう」 「嘘おぉおおぉお!!」 「うしょではない。しんじちゅ。 しゅじゅみやはるひじしんのちからで、わたしたちを、 こーこーせーにもどしゅには、かのじょにしょれをおこなわしぇるよー、 ゆーどーしゅるしかにゃい。 しゃいわい、あすはどよーび。 ほんじちゅからにちよーまでの、みっかかんですいこーしゅればいい」 三日でケリをつけろと!三日で五歳児涼宮さんを満足させろと!? 「では、今すぐ元に戻すとまではいかなくても、あなたが皆さんの成長速度を速め、 この三日間で高校生にまで育ててしまうというのは…」 「できにゃい」 「そんな! 前回、僕が不安に思うことは無いと頼もしくおっしゃったのはどこのどなたですかっ」 「…さー?ゆき、ちっちゃいから、わかんにゃい」 「くっ…!」 こんな時だけ三歳児設定をフル活用するとは…! ああ、しかし、長門さんの宇宙パワーを使えないとなると、 地域限定エスパーでしかない僕には、もう他にどうしたらいいのやら解らない。 なんとも情けないことだ。 とりあえず、ずっと長門さんを抱いていても何も解決しないだろうから、 彼女を床に下ろした。 「あたしもおろしてー」 そう言う涼宮さんは椅子の上で足をじたばたと暴れさせていて、こちらもかなり危ない。 涼宮さんの足を地に付けさせて、朝比奈さんも同様にする。 「いつきせんせーちからもちー」 「な、い…せ……?」 いやいやいや、何も聞こえなかった何も聞こえなかった何も聞こえなかった。 先生なんて聞こえなかった言われなかった。 安心しろ一樹、それはお前の空耳だ幻聴だ。 「ふええ…ふくう…ぱぱあ…あ、まちがえちゃ…いつきせんせ」 「いつ…せん……いまなん、て…」 またまたご冗談を…何も聞こえなかった聞こえなかった聞こえなかったー!!! 冷静に冷静に、落ち着け一樹。クールダウンクールダウン… 「さっきからひとりでぶつぶつと、なんだきみは!」 「なんだチミはってか!そうですわた――危なああああ! ノリでおじさんって認める所だった! そのネタ知ってる時点で十分おじさんだろって突っ込みは無しの方向で! 変なのはもうこの際否定しないけど、今のあなた達の方がよっぽど変です!」 「ほら、そーやってがきのおあそびにひっしになるから、 おれみたいながきに、さっきみたいにしらないふりされて、ばかにされるんだぞ。 いーつき」 ど う か こ こ は ひ と つ 夢 オ チ で 。 掃除当番代わるから!頼まれて!! ていうか、あれは知らないフリをしていただけか。 状況が状況なだけに、全く演技だと気付けなかった。 …ここで寝るかもしくは気絶するかしたら、起きた時に例えば、 「…起きた」 「あ、ほんとだ。おい、大丈夫かー?」 「やっと!?ちょっと、古泉くん! まさか、ここはどこ私は誰なんて言い出さないわよね!?」 「ふええ、良かったあ~。突然倒れるんだもん、心配しましたよう」 「え…あれ…僕…?…え…皆さん、園児になったんじゃ…?」 「何言ってんだ?頭でも打ったか?」 「まだ夢でも見てるんじゃない?」 「しっかり」 「そんな、園児になる訳ないじゃないですかあ」 「そ、そうですね…そうですよね!あはは、僕としたことが寝ぼけてたみたいです。 …それにしても、変な夢だったなあ~…」 …なんて展開が待ってるのかなー。 だといいなー。 「こいじゅみいちゅき、わたしのはなしはまだおわっていない。 あにゃたのしょれは、げんじちゅとーひ」 長門さんが床にへたり込む僕の所に、ぺたぺたと歩いて来る。 ちなみにみんなのズボンやらスカートやらは、 今の彼等には大きすぎて、椅子の上に取り残されている。 朝比奈さんのメイド服は、童話に出てくるお姫様みたいに、 白いエプロンがスカートのように彼女を取り囲んでいる。 「しゃきほどもいったとーり、しょのあまりのじょーほーりょーに、 わたしができたのは、しゅじゅみやはるひのがんぼーに――」 …読み難くはありませんか?ご安心を。 会話を終えたら僕が話すので。 「――けっか、あにゃたにだけは」 「何の変革も起こらなかった、と」 「おしょらくはそう」 …お待たせしました。 涼宮さんが持った、幼稚園児もしくは保育園児の頃に戻りたいという願望が、 彼女の摩訶不思議とんでもパワーによって叶ってしまった…それは先程から既に確認済みだった。 僕達がお互いに確認し合い、明らかになった新たな事実は次からだ。 涼宮さんは、園児時代に戻りたいのと共に、 その頃の団員達と遊びたいという願いも同時に持ち、 それが彼と長門さんと朝比奈さん三名も変革に巻き込んでしまった。 さて、では僕は仲間外れかと言うと、それは違うと長門さんが否定してくれた。 先程の涼宮さんの、幼児に戻りたいか否かの質問に僕は肯定はしたものの、 本心からでは無かったという事に彼女は気付いた。 それに加えて、彼女は僕のバイトが子守であることに興味を持った。 仕上げは、それをみんなと知り合う前からのバイトとしている事で、 彼女は僕が彼女を除いた四名の中で、最も自分達の保護者に相応しいと考えた。 つまり、 「涼宮さんは、僕を幼稚園だか保育園だかの保父役に望んだ、と?」 「正しくは保育士」 彼等の記憶には、予め僕が先生である事や、お互いに友達である事等が書き込まれている。 全ては、遊んで騒いで好き勝手やっての園児ライフを送るには邪魔でしかない、 初対面の気恥ずかしさや人見知り等の煩わしさを排除するため。 信頼してもらってるんだか、結局は除け者扱いなんだか… いや、まあ、長門さんでさえ、 記憶を引き継いでいる点以外はただの園児となっている中で、 更に僕まで子どもになってしまっていたら、本当にどうしようも無かったんだけど… こんな事になるなら、涼宮さんにレンタルビデオ店のあのコーナーのレジ打ちか、 と聞かれた時に、 「あ、はい。流石、ご名答です。実は年齢を二十歳と偽っていまして」 とでも言っておけば良かっ…良くないな。全然良くない。 それだと、 「じゃ、今度一番人気のやつ借りて来て!バイトくん特権で少しは安くなるんじゃない? みんなで見ましょ!」 なんて運びには絶対にならないとも言い切れない。 それはそれで恐ろしい。目茶苦茶恐ろしい。 ……ええと、何をするべきなんだろう… 神人やカマドウマの時のように、明確な敵がいて、それを倒せばいい訳ではないし、 雪山の屋敷に閉じ込められた時のように、パズルを解いてクリア、という訳でもなさそうだし… せめて誰かヒントでもくれれば… 「…そうだ!」 「?」 「喜緑さん!」 「きみどいえみー?」 「そうです!彼女なら力になってくれるかもしれません」 「きみどいえみーは、おんけんは。 しゅじゅみやはるひのどーこーを、かんさちゅし、しれーがくだらないかぎり、 きょくりょくじぶんからは、かかわりをもたにゃい。 こんかいも、かのじょはてだちをしないであろー。きょーりょくはきたいできにゃい」 長門さんはそう言ってから、空中の一点に視線を固定し、 何か考え込んでいるようだった。 ちなみに、他の三人は、 「ねーねー、いつきせんせーとゆき、なんのおはなししてるのかなあ? あたしのなまえがさっきからいっぱいでてるよー」 「ふえ、みくるのしらないことばばっかり…わかんない…」 「はるひ、みくるちゃん、あれはせーじのはなし。 てれびでえらいおじさんたちが、にたようなこといってるのきいたことある。 はるひってせいじかがいるんだよ!」 「そっか!じゃあ、あたしもきっと、 そのひとみたいに、すごいことできるようになるよね!」 「ゆきちゃんえらいなあ…みくるもおべんきょーしたいな…」 と、見事に勘違いをしてくれていた。 まさか涼宮さんの目の前で、この手の会話を堂々と出来る日が来るとは。 …涼宮さん、あなたはそんじょそこらの政治家では出来ないような事を成し遂げて、 今そうしているんですよ。 だというのに、ああ、当事者ほど呑気なものだ。 溜息くらい吐いたってばちは当たらないだろう。 はー…まったく…ふー… 考えがまとまったのか、長門さんが僕を見上げる。 身長差がかなりあるので、首の傾斜も急だ。 辛いだろうと思い、僕は床に片方の膝を付いて、目の位置を下げた。 「しかち、じょーほーとーごーしねたいとのつながりしゃえ、たたれたいま、 わたしのかわりに、このじょーきょーを、ほーこくしてもらうひちゅよーがありゅ」 みんなより二つ年下だからか、先程の三人と比べ、 長門さんの方が明らかに舌足らず度が高い。成長期真っ直中の二年の差は大きい。 いや、子どもに関わったことなんて殆ど無いから良く解らないけど。 「では、喜緑さんをここにお連れします。 彼女は放課後は大抵生徒会室にいらっしゃいますから」 喜緑さんが僕達を助けてくれる可能性は、さっき長門さんに否定されたばっかりだが、 僕よりは頼りになるだろう事は間違い。 …自分で言ってて虚しい。 「それでは、できるだけ早く戻ってこれるようにしますので。 それまで涼宮さん達をお願いしま…」 立ち上がってUターンして、扉へと向かうべく一歩踏み出した。 ら、ズボンを引っ張られた。 「あの…?」 後ろを振り返ると、右手で僕のズボンの膝裏の部分を握り締めている長門さんと目が合った。 …右手、やっぱり普通に使えてる…怪我はどうしたんだ… 「わたしもちゅれてって」 「え」 「あにゃただけがおもむいて、せちゅめーしゅるより、 わたしをみちぇたほーが、きみどいえみーのりかいもすむーじゅ」 「それはそうですが…」 「はくちゅっ」 「…長門さん?」 「さむい」 鼻を人差し指で撫でる長門さんを見て、そう言えばみんなは、 セーラーもしくはブレザーを羽織っているだけだったっけ、と思い出した。 なんとも可愛らしいくしゃみに和みつつ、いやいやそんな場合じゃないない、 と僕はブレザーを脱いで、長門さんのセーラーの上に掛けた。 すると、 「あたしもさむい!」 「せんせいは、ひいきしたらだめなんだぞっ」 割と大人しかった三人の内二人が唇を尖らせる。 朝比奈さんはふわふわのメイド服に包まれていて、特に寒くはなさそうだ。 風邪を引かせる訳にもいかないし、どうしよう。 「…そうだ!」 「?」 「森さん!」 「もりしょのー?」 「そうです!彼女にだって責任はあるはずです。子ども服を持って来るくらいの責任は」 長門さんに着せたブレザーのポケットから携帯を取り出し、 本日二度目の困った時の森頼み。 「はい、こちら森。古泉ね、バイトの件、上手く誤魔化せたかしら?」 「いえ、それがそうも行かなくて。誤魔化せるには誤魔化せたんですけど」 森さん、あなたの案に乗ったら、かくかくしかじかまるばつさんかく…になってしまいました。 「はあ?あんた何寝ぼけてんの? 幼稚園児って、嘘吐くならもう少し頭を使いなさい」 軽く一蹴されてしまった。…よし、こんな時こそ写メの出番だ。 すぐに信じて頂けるかと、と言って僕は通信を切り、携帯のカメラを起動させた。 「皆さん、ちょっとの間動かないで…あ、ムービーの方がいいかな。 やっぱり動いてて下さい」 「どっちだよ」 彼からの突っ込みを右から左へ流し、携帯を掲げて録画を開始する。 涼宮さんが、びでおとってるのー?だれにおくるのー?とレンズに近付いて来る。 いい感じにアップだ。 涼宮さんのイメージなのか、実際の子どもの頃の容姿がこうだったかは定かではないが、 割とみんな、そこまで顔つきに大きな変化は見られない。 事情を知らない人に、妹や弟だと言えば、道理でそっくりだ、 とすんなりと納得してもらえそうだ。 しかし涼宮さんに妹がいない事を知っている機関の人達は、 これを見れば、誰もが彼女が涼宮さん本人だと確信するだろう。 ちょこちょこと、涼宮さん以外にも、彼と朝比奈さんと長門さんもカメラに収めて、 メールにムービーデータを添えて森さんに送信する。 送信が完了しました、の画面が出てから30秒と経たずに、 「ぱーんぱっかぱ~ん!ぱかぱっかぱっかっぱ~ん!!」 「!?」 うわ、長門さんが無断で設定したこの着メロのままだった!! 「めろんぱんなちゃんだよーっ!!」 「あー、いつきせんせーいいなー。めろんぱんなちゃん」 「ほんとだ。いつき、ばいきんまんは?」 「めろんぱんなちゃんからおでんわ…?」 どうやら戦うパンは、未来でも茶番劇を繰り広げているらしい。 いや、茶番なのは僕達の方か。 この電話が終わった瞬間に着メロを変更しなくては、 と僕は通話ボタンを押した。 「こーいずみぃ!」 森さんの怒声が電話越しからにも関わらず、鼓膜を強く叩く。 耳がキンキンしたので、腕を可能な限り伸ばして携帯を遠ざける。 「あんた何て事してくれたの!! 今夜は、森園生☆必殺ぐりぐり攻撃withナックルダスターの刑(は・あ・と)よ!」 「あれは死ぬ!てか死んだ!!もっかい殺す気か!! 森さんだって!元はと言えばあなたの提案がきっかけです! まさか僕だけに全ての責任があるとでもお考えで!?」 「そうよ!」 「ちょ、そうよ!?そこまではっきり責任逃れされるとキレ難っ!!」 「おちちゅいて。しゅじゅみやはるひたちがこわがっていりゅ」 「え、あ…はい…… 森さん、涼宮ハルヒと彼が固まって黙り込んでしまいました。 朝比奈みくるに至っては声を殺して泣いています。 どうして下さるんですか」 「どうもしないわ…と言いたいけど、私にも耳掻き一杯分には責任があるだろうし、 そうにも行かないわね。で?私にどうしろって?」 「耳掻き一杯分……とりあえず、替えの服を持って来て下さい。 子ども用の…そうですね、目分量ですが、涼宮ハルヒと彼、朝比奈みくるは身長110cm、 長門さ…長門有希のみ90cm程度。そのサイズでお願いします。 このままでは風邪を引いてしまいますので」 「わかったわ、了解。対策については後でじっくり話し合いましょう」 「はい、よろしくお願いします。では、さよ…」 「あ、古泉、長門有希があんたの制服着てるみたいだけど、 この前の定期報告の時といい、あんた…」 「あでゅー」 「あ、ちょ、切るな切」 プチッ、ツー、ツー、ツー… 「……いつきせんせー?おこってる?」 電源ごと切り、携帯をズボンのポケットの中に滑らせると、 涼宮さんが恐る恐ると聞いてきた。 「いいえ、怒っていませんよ」 咄嗟に爽やかスマイルを貼り付ける。 それにしても、涼宮さんはもっと、 いじめっことまでは言わないけど、ガキ大将気質かと思っていたんだけど。 もしかして、先生の前では猫被りいいこちゃんタイプだろうか。 「さ、喜緑さんの所に行きましょう。会長は適当に誤魔化して帰って頂きますので」 長門さんの頭にブレザーを被せ、抱え上げる。 外からは長門さんは見えないが、それでもこの膨らみ方は不審だ。 果してこれでカモフラージュになっているだろうか… まあ、まさか子どもが入っているとは誰も思わないだろうし、いいかな。 ん、いいのか…? 「あんしんちて。もちかんじゅかれたりゃ、 きみどいえみーに、がいとーしゅるものがもちゅ、きおくをさくじょさしぇる」 「あ、助かります。ありがとうございます。 …で、僕が出て行った途端に涼宮さんが大暴れをする可能性は」 「こーかくりちゅ」 「やはりそうですか… 隣のコンピ研にこちらの騒音が漏れるのは日常茶飯事ですが、 流石に、それが子どもの声となると…」 「わたしにてーあんがありゅ」 そう言った長門さんは僕の肩に手を置いて、 体を伸び上がらせ、片手で口元に手をやった。 僕の耳にその手を衝立のようにして持って行き、ひそひそ話の体勢完成。 ごにょごにょごにょ。 こしょこしょこしょ。 「…それは…あの……」 「ぱーぺき」 「ぱ…!?ちょ、あなたどこでそれを…古っ! じゃなくって、それは確かに効きそうで、す、けど…」 「なりゃ、はやく」 「ええと、その…かなりキモウザくなる、かと…」 「だいじょぶ。そりぇが、あにゃたのほんりゃいのきゃらくたー」 「え!?ひど!」 「はやく」 「…良ければ、長門さんが僕の代わりに……」 「だめ。あにゃたでなくては、こーのーがにゃい」 「…その、恥ずかしい、で、す。 」 「もたもたしにゃいで」 「くっ…」 さっきから、なになに?と僕達を見上げて首を全く同じ角度で傾げている、 まるで三つ子のような彼等を見て、僕は無理矢理笑顔を作った。 「ちょっと用が出来たので、僕達は出て行きます」 「えー、いつきせんせーとゆきだけ?あたしたちはー?」 「あー、わかったぞ!ふたりでどっかあそびにいくんだろ!」 「いいなあ…ずるい…」 ああ、もう…ここで長門さんが提案した、あの台詞か… いや、やるんだ一樹。頑張れ一樹、十秒も掛からない。 せーので行くぞ。仕方無いな、わかったよ。 せーの…で始めるからな。おい!紛らわしいこと言うなよ!フライングしかけただろ! …うん、現実逃避はこの辺にしておこう… せぇーの!! 「すぐに戻って来ますので、いいこは大人しく待っていて下さいね」 ここで、僕は長門さんを抱えていない方の手を、人差し指を立てて顔の横に持って行く。 十六歳涼宮さんのように、びしっ!と勢い良く前に突き出さず、 あくまで教育番組のお兄さんのように爽やかでにこやかに、 「い、いつ、い…せん…せ…い…」 「はやく」 「…。一樹先生とのお約束です。……うああ…」 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!! てか認めちゃった!先生って認めちゃったよーい!! 「ぱーぺき」 長門さんが、なんだか若干楽しんでいるような気がするようなしないような! 「はーい!」 「へえい」 「はあい」 手を振り上げて元気な返事をした涼宮さんを見る限り、 長門さんが言った通り、釘をさしておけば問題は無さそうだ…多分。 僕は引きつった笑顔の横で、ひらひらと手を振り、ドアノブを捻って退室する。 「はい、あなたがおっしゃった通りにしましたよ」 まだ照れが抜けなくて、それを隠すために、 普段の僕にしては珍しく少しばかり無愛想気味に言いながら廊下を歩く。 「そう」 制服に埋もれた三歳児は、 「こいじゅみいちゅき、ちぇんちぇー」 「……」 ピノコかよ!との突っ込みも咄嗟には思い付かない。 「ゆにーく」 赤くなった顔をじっと見上げられてそう言われたので、 僕はブレザーの襟を引っ張って長門さんの目の前に垂らした。 「てれてりゅ?」 「……お静かに…」 誰に聞かれているか解らないので、 と言うと、長門さんは頷いて、僕のシャツを両手で軽く握った。 二へ続く 「以上『新米保父さん一樹は大童・一』でした。 長門さん、この物語でのあなたの抱負をどうぞ」 「いかにして、こいじゅみいちゅきを、ろりこんにめじゃめしゃしぇるか」 「……………『二』を、お楽しみ、に…… 僕はぜんっぜんぜーんっぜんっ!楽しみではありませんが…」