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【評価】まぁ福 【ブランド】ライチ(SRICバージョン) 【金額】10.5k 【購入場所】池袋アルタ 【中身】 ◎ピンクベージュジャケ ○麻の色(うすカーキみたい?)のジャケ ○インディゴ染めジャケ ×白ジャケ ○紺ワイドパンツ ○白半袖チュニック 全部春夏物でした。 ジャケは変形ライダースっぽいかんじ。 値札あったけど切っちゃってわかんなくなっちゃった。 だいたい15k~20k ここまで転載可 【評価】超神袋 【ブランド】ライチ bortsprungtのを買いました。 【金額】1.5K 【購入場所】立川ルミネ 【中身】 ストール1点 ◎くまの手ストール【黒】¥15750 凄まじく可愛い。お店に並んでるやつだ!メルシーボークーっぽいデザイン。 ボトムス1点 ◎キャンディニットキュロットパンツ¥15540 ズボン欲しかった。スナオクワハラにありそうなデザイン。可愛い。 ワンピース1点 ×タグがなくて服の題名が不明。ワンピース。¥謎 パステル系水色生地に白の水玉模様で生地はツルツルしてる。ストールかと思ったらハンガーついててワンピースだった。クソワロタ 計3点 大当たり。来年も買う 【まとめサイトへの転載】可 【評価】 鬱 【ブランド】 ライチ 【金額】 1万500円 【購入場所】 池袋サンシャイン 【まとめサイトへの転載】可 【中身】時間を変えて2袋買ったんだけど、2袋目がひどかった。 ラスト一袋っていうから買ったんだけど、チャックが封されているはずなのにされていなかったし、中身もビニールで個包装されていなくて畳んだだけ。 昼にやってたワゴンセールで見たのも去年の福袋に入ってたのも複数あったし、売れ残りを寄せ集めた感じだった。 店舗に問い合わせたら、売れ行きが良くて急遽増産したらしい。 ほんとに寄せ集めだったんだな。 ライチがこんなことするなんて思わなかったからびっくりしたし、一袋目との落差にがっかりした。 もうここでは買わないと思う。 ライチオリジナル1万円のを2袋買ったのでレポします。 一袋目 福 ◎diamond bar ホルターネックキャミ からし色(6825) ○diamond bar タートルネック ブラウン(5775) ○diamond bar レースキャミ ブラウン(4095) ○diamond bar 裾レースカーデ ベージュ(9345) ◎diamond bar ざっくりコクーンカーデ ベージュ(12600) ○MARCOMONDE ペイズリー柄靴下 グレー(3990) ○neigh 重ね着風カットソー ブラック(8295) ◎neigh コクーンパンツ 青白チェック(12390) ◎neigh 胸下切替花柄ワンピース 赤青(17640) 少しくすんだ色合いで合わせやすくて満足です。 二袋目 鬱 △La premiere カーゴパンツ カーキ(12390) ×diamond bar スパンコールキャミ ベージュ(11340) ○diamond bar ボーダードルマンカットソー ネイビー(6195) ○diamond bar タートルネック ブラック(5775) ○diamond bar レースキャミ ベージュ(4095) △diamond bar フリルタンク グレー(5145) ×adnitted ニットストール 黒白 (10290) ×dolly ティアードガーゼパンツ 紅ショウガ色(12390) ×dorry doll ふりふりニットワンピ ピンク(?) ×Real タートルネック ショッキングピンク(8295) 個包装の袋に入ってたのがdiamond barのタートルとキャミだけだったから、スパンコールやらファスナーやらがニットに引っかかっちゃってた…。 カーゴとニットワンピは去年の福袋で当てたし、ティアードパンツは去年のこの時期のヤフオクに大量に出回ってた。 ほんと売れ残りを寄せ集めた感じで、びっくりしたよ… -
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由来 2012年の秋、東北大学の学部1年生であった一人の短歌好きの学生が、1つの考えを巡らせていました。 「東北大学に、学生短歌会を作れないだろうか……」 今までに何度か設立されながら、現在では活動が確認されなくなってしまった東北大学短歌会。 その再興を考えていたのでした。 早速Twitter上で呼びかけてみると、活動に賛同してくれる人達がいました。 ここから、東北大学短歌会がゆっくりと動き始めたのです。 活動の目的 東北大学とその近辺の短歌に興味がある人達のための交流の場を提供すること 短歌を楽しみたい人、自身の作品の質をより高めたい人、これから短歌を始めたい人、どの人にも意味のある場を提供すること 沿革 2012/12/28 東北大学短歌会@wikiの設立 創世記 Twitter上でのメンバー募集の呼びかけが始まる
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#blognavi 2 高校時代、気がつくと僕は一人だった。いや、もっと以前から僕は一人だったのかもしれない。窓の外を眺めれば、楽しそうに笑いながら通り過ぎる女子生徒や、木の下で寄り添って時間を過ごすカップルもいた。同級生たちは人並みに学校生活を楽しんでいた。賑やかな笑い声や廊下を駆ける靴音が、大きくなったり小さくなったりした。 僕はと言えば、一人でぼんやりと空を眺めたり、ウォークマンで音楽を聞いていることが多かった。耳元で流れる音とはまったく違った情景が、僕の目の前を広がっている。僕はただ、それを眺めて暮らす。そうやって、ほとんど人と関わりを持つことなく一日が過ぎていった。 しかし、僕はいつから一人だったのだろう。もともと一人でいることにそれほど苦痛も感じることはなかった。そして、いつしかそれにも慣れてしまっていた。一人でいることは、他人が思うよりも僕には自然なことだった。余計なことで神経を使う必要もなく、気楽だった。自分のペースで、自分の世界で、生きて行ける。いろいろなことに僕は過敏になっていたのかもしれない。そしてきちんと真っ直ぐに向き合うことができていなかったのかもしれない。突っ張らなければやんわりいくことも、なかなか素直になれない。自分の個を譲るくらいなら、最初から関わらない方が良かった。自分のことなんて誰も理解できないと思っていた。けれども、誰かにわかって欲しかった。気付いて欲しかった。そんな都合のいいことなんて通る訳ないことは十分にわかっていた。そんなことあるはずがないことはわかっていた。意味のない、行き場のない自分を抱えて生きている時間の連続に、失望感を拭い去ることなんてできなかった。そして、こんな自分の未来を不安に思った。 何度か、もっと別の人生も想像してみた。たとえば、今と正反対の人生。誰とでも気軽に話す気さくな人柄。今の僕のように自分の殻に閉じこもっていない、外向きの人生。でも、それは僕らしくなかった。淡々と静かな口調で話す、一人で窓の外を眺めて暮らす、感情の浮き沈みの少ない穏やかな時間の継続、それが僕らしい暮らし方だった。 ある意味、僕の自分自身である純度は高い。他のものからの影響で余計な色に染まることなく、自分の考えと感情で満たされる純粋な自分を保つことができる。僕は僕自身を見失わぬように、この世界を守った。 世界、それは僕という個人の存在を基にして、刺激と受容により構築される。自分以外から得られる刺激、自分の内部から得られる刺激、あらゆる刺激が世界に流れ入ってくる。そうすると、入り口の番人はきちんと振り分け、自分自身の世界へと取り込む。時には、番人が気付かないうちにすごい勢いで侵入してしまうものもある。忙しくなると、番人は応援を呼び、複数で素早く作業を行う。取り扱いが難しいものは時間を掛けて行う。そして取り込まれたものたちは反映され、世界は再構築される。世界は僕自身であり、らしさであり、感情や思考の誕生する場所でもある。つまり、世界は始まりであり、終わりである。そして存在の象徴の一つである。 世界の純度を問う時、外部からの刺激が少ない僕の世界は、純度が低いと言えるだろうか。実はそうでもない。なぜならば、それが僕の世界を構成するルールの一つであるからだ。僕の世界は他人のとの干渉の少ないもの。自分の内側に向いているもの。外部からの刺激を必要としないもの。そういった設定がきちんと存在している。その設定を守っているという点では、僕の世界は純度がむしろ高いと言えるだろう。 勿論、それが良いことだとは必ずしも言えないが、「自分らしさ」という点では良いことなのかも知れない。誰かに惑わされたりしない。誰かに染まったりしない。自分を見失ったりはしない。 付け加えておくと、世界は必ず存在している。その人間がもつ思考や感情には必ず傾向があるように、それがきちんと世界を築き上げている。もちろん、世界はなくとも、意識しなくとも生きていけるだろう。ある人間は意識し大切にし、ある人間はまったく捉われず、下手すると一生向き合うことなく終わる。もっとも、世界の純度や存在意義について、これほどまでに重要視する必要があるのかという疑問は大いに残るけれど。 それならば、生き方を変えることができれば、幸せなのかもしれない。しかし、僕はそこで何を話せばよいのかわからなかったし、その生き方には価値や意味のようなものを感じることはできなかった。そういうことで悩んだのは、中学生の頃までの話だった。今の僕は、この生活を割り切れていると思っていた。 しかし稀に、会話のない僕であっても、話しかけてくれる人たちもいた。傍から見ていると、何を考えているのか不思議に映るらしい。誰かと話している姿を見たこともなく、声が思い出せない人も多かった。彼らの多くに共通していたのは、「僕が何を考えているのか」「一人で淋しくないのか」、突き詰めるとその二つが主な関心事だった。 僕に関心を持ってくれるのは嬉しいことだったが、いつだって嬉しさはすぐに煩わしさに変わった。僕の心をそうさせるのは、僕自身を彼らの一時的な好奇心の餌食にされることだった。彼らは本当に僕を心配しているわけではなく、ただ自分たちの好奇心を埋めることしか頭にないように見えた。もちろん、好奇心を持つことは良いことだと思う。しかし、それほど親密でもない人間に簡単に自分の内側を見せるほど、僕は社交的ではない。もし、そうであったならば、今もあの頃も僕は一人でいることはなかっただろう。彼らの独りよがりな好奇心は、僕の人間関係を余計に億劫にさせていたのかもしれなかった。そして、僕の中のことをどのように説明したら、彼らに上手くわかってもらえるだろうか。僕はそのための言葉を思いつくことができなかったし、彼らもきっと理解できないだろうと思った。「もう、よしてくれよ」と心の中で呟いた。そして、また僕は一人途方に暮れた。 これは、何も学校だけに限ったことではなかった。家に帰ると、それは両親との関係に置き換えられた。自分の息子が何を考えているのか、どう関わりを持ったら良いか、掴みきれずにいる両親がいた。会話のきっかけもつかめずにいたし、たまに話しかけられても、僕は一言返すだけで会話にはならなかった。もちろん、これはこれまでの経過あってこその現状と言えた。両親は早くから共働きに出ていたので、そばにいないことはいつものことだった。 こういう場合、極端に分ければ人間は二つのタイプに分かれるだろう。一つは、寂しさの反動で誰かに自分を主張し、受け入れられることを望む、外向きのタイプ。もう一つは、その逆である。一人でいることに慣れ、自分自身の中で多くを解消し、他に何かを求めたりしない内向きのタイプ。僕は言うまでもなく、後者だった。両親は、僕がそんな人間に育っていることをきちんと把握していただろうか。一日の多くは親が家にいない。そして帰りも遅ければ、わずかな時間で親子の関係を築かなければならない。つまりは、限られた時間でその人間の動きによって結びつきは決まる。目の前にある選択肢だけに捉われなければ、つまりはあらゆる方法を用いれば、もっと結びつきを強める可能性はあるのだが。僕と両親の場合、それは存在しなかった。姉は自分から歩み寄り、両親はそれに応えた。僕は姉を介し言葉を聞いた。それ故に、僕と両親には互いが認識する以上の距離感が存在してしまっていた。 両親はそれをきちんと理解することができず、「今どきの子ども」に僕を染めることで、何とか理解しようとするしかなかったようだ。実際、僕も両親との会話はクラスメイト同様に煩わしさを感じていた。針でも触るような触れ合いは、瞬間で話す意欲を削いだ。もちろん、元々意欲など存在していなかったのだが。自分の子どもをきちんと理解できない親を、僕はとても非力に思い、関わりを知らず知らずに拒んでいた。そして煩わしさばかりが先に立ち、僕と両親の間に何も生まれなかった。両親だってそれほどバカじゃない。きちんと僕の感情や態度から何かしらを察知していた。それでも手立てがないのは変わりなく、時々姉にぼやいていた。 「あの子は一体何を考えているのかわからない」「私たちにはあの子は理解できない」「何であんなふうになってしまうのだろうか」、更には「あの子はそのうち頭がおかしくなるんじゃないだろうか」などとさえ言っていた。姉は包み隠さず、ストレートに僕に両親の言葉を伝えた。さすがに僕もその言葉はショックだった。 姉とは時々話をした。幼い頃から両親は共働きに出ていて、姉と二人の時間が長かったので、姉と話したりすることは僕にとって習慣のようなものだった。姉との時間は、幼い僕の中で大切なものだった。だから自然と姉は僕の姉であり、時に母親の代役さえしていた。つまりは、両親と僕の間柄はそういうもの(過去の親子関係)も少なからず影響を及ぼしながら、今まで来てしまった結果といえるかもしれない。そう思った。 姉は僕の部屋に入ってくると勉強机の椅子を前後逆に座り、手を乗せて顎をついた。 僕はイヤホンをつけて音楽を流したまま、姉の行動を横目で追った。 「ねえアンタ、そんな風に生きていて何が楽しいの?」 いつだって姉はストレートだ。両親は僕から一歩引いてしまっているのに、この姉ときたら僕には容赦はない。それを今ここで口にすれば、「何でアンタに遠慮する必要があるのよ」と言い返されるに決まっている。姉との間での不用意な言葉は、まさに命取りになる。だから、黙って聞いていることが多かった。そうしていれば、一応話を聞いているように見え、不用意に自分で地雷を踏みに行くようなこともない。もしかしたら、僕の人生がこれほどまでに内向きに進んでいるのは、この姉のせいかもしれないと思った。もちろん、そんなことは口に出せるわけはないのだが…。 さて、困ったものだ。何が楽しいと聞かれても答えが見つからない。別にこんな生き方は何も楽しくもない。ただ、これが一番自分にしっくりくる暮らし方だった。誰にも気を使わない。自分を誰かに誇張させて見せたりしない。他人の印象に振り回されたりしない。僕が純粋に僕でいるための生き方だった。理屈を抜きにすると、そういう生き方しかできなかった。違う生き方は、息遣いがどこかぎこちない。 僕が頭の中でそんなことをごちゃごちゃと考えているうちに、姉はぼんやりとする僕を横目で見ながら話を進めた。 「そんなんじゃ、アンタ本当におかしくなるよ。だいたい話し相手はいるの?」 僕は黙って姉を指さした。 姉は呆れていた。言われてみれば、僕は姉以外とあまり話してはいなかった。ヘッドホンを外し、僕がさっき頭の中で考えていたことを話すと、姉は「アンタ、バカじゃないの?」とため息を吐いて呆れていた。 しかし姉と言えども、いくら何でもひどすぎる…。こんな僕だって一人前に傷ついたりする。呆れ半分で言われると、まったく冗談味を感じない。それでは、本当に僕がバカみたいじゃないか。もちろん、姉は僕に対してはそんなことはお構いなしなのだが。 「いい?自分に一番合っているからってこんなこと続けてたら、本当に取り返しがつかなくなるのよ。そりゃ、確かに自分らしく生きることは大事よ。でも、それだけじゃダメなのよ。ねえサトシ、何も知らないアンタがまだ見ぬ未来を否定するのはおかしなことだと思わない?生きてみて、後から大したことないというのでもいいんじゃない?アンタが思うより、世界はずっと広くて深いのよ」 姉の言葉はいつだって真っ直ぐで強く温かい。それが僕の心をどれほど揺さぶることだろう。そして、僕は戸惑いをどこにぶつければ良いのかわからず、いつも苦しまなくてはならなかった。 姉の強い眼差しはやがて重たげに降りた瞼によって隠され、穏やかな柔らかなものになった。僕よりたった五つ上の姉が、随分と大人に見えた。十八歳の高校三年生と大学卒業して就職した社会人とは、これほどまでに違うものなのだろうか?それとも姉が大人なのか?僕が子どもなのか?そして、具体的に僕は何をすれば良いのか? 「せめて、お母さんとお父さんに挨拶くらいはきちんとなさい」 姉はそう言うと、ため息をついて部屋を出て行った。ちなみに姉が僕の部屋に入ってくることは許されていたが、僕が姉の部屋に入ることは許されなかった。僕は自分の生き方よりも、こちらのことの方がよっぽど気になった。なぜ、僕だけ締め出されるのか? 部屋を後にした姉がドアの隙間からひょっこりと顔を出し、「休みの日でも髭は剃りなさい。本当はそれなりに良い顔立ちしてるんだから」と言って再び自分の部屋に戻っていった。 その後、自分の顔を鏡で見て、やれやれと思った。確かに、冴えない顔だと思った。最近自分ばかり見ている。いや、本当は自分さえも見ていなかったかもしれない。このままでは姉の言う通り、僕は引きこもりや、おかしくなってしまうかもしれない。僕はこうしていることで何か大切なことを見逃してしまっているのだろうか。そう思うと、少し焦りを感じた。しかし、今は不思議と動く気がしない。じっと何かを待ち続けているのかもしれない、と思った。しかし、僕は「いつか良いことある」なんて何の根拠もない言葉は嫌いだったはず。大体、一体何に期待をするというのか。まだ見ぬ未来にだろうか。それこそバカげている。姉の言葉が頭の中に響いていた。 「アンタ、バカじゃないの?」 ああ、僕はバカだ。どうしようもないバカだ。誰かこんな僕でよければ救ってくれ。道端に捨てられた猫のように、僕を拾ってくれればいい。少し扱いにくいけれど、それほどバカじゃない。いや、やっぱりバカなのかもしれない。雨ざらしから、寒さから、飢えから、この凡庸な日々から僕を救ってくれ。もちろん、誰も僕なんかを救いやしない。 そして一通り考えを巡らすと、現実逃避をした。 誰か僕を殺してくれないか、と。 これが僕の高校時代だ。暗く陰鬱とも言えるような陰が付きまとっていた。それは不安であり、虚しさであり、失望であり、悲しみであり、苛立ちであった。ただ、それはどうしようもないもので、忘れることが僕にできる精一杯のことだった。「本当に何も僕にはできなかったのか」と26歳の現在に自問自答した。あの頃、僕は自分を失わないように、自分自身の世界を守っていた。他のものの影響の少ない純粋な自分を守るために。他人の印象や言葉、世の中のくだらないルールや、でたらめなものに心を汚されたりしないように。 しかし、本当に僕自身、僕の世界にそれだけの価値はあったのだろうか。 大切な時間を一人で過ごしてまで、守るべきものだったのだろうか。 そもそも何から守り、何を基準に純粋と言うのか。 他のものからの影響が少ないことは、本当の意味で純粋と言えるだろうか。 純粋とは、偏った独りよがりなものを指すのだろうか。 他のものの影響を受けながら作り上げていく自分に、純粋という言葉は当てはまらないのだろうか。 孤独であることに寂しさを感じていたはずなのに、どうして人と分かり合おうとしなかったのだろう。 あの頃、現状に満足しているはずの僕は、いつだって耳を塞いでいた。余計なものが聞こえたりしないように。それは誰かの声だったり、感情の塊だったり、自分自身のため息だったり。そんなものが塞いだ手をすり抜けて心に届くときは、その辺にあるものをひっくり返し、荒ぶる心を振るわせたかった。自分の中にあるものすべてをぶちまけて、何もかもを破壊し、粉々に燃やし尽くしたかった。けれども結局それはできずに、ぐっと胸の奥に押し込んで奥歯をかみ締めた。そんなときは、僕はあれが精一杯だった、どうしようもなかったと思い込んだ。そうやって何も解消されないまま、糸は絡まったまま時は進み、僕は十九歳になった。 今思い返しても、できることならば目を閉じてやり過ごしたい記憶だった。まるで井戸の中に落ちてしまったように、狭い世界で僕は一人、空を眺めていた。いつもイヤホンを耳に当て、音楽を聴いていた。人の話し声や車の走る音や、そんなものは何も聞こえていなかった。まるで音楽を聴きながら、テレビの映像だけを眺めている、そんな風に物事を見ていたように思う。ほとんどの言葉は僕には届かなかったし、僕も言葉を必要としていなかった。いや、本当は欲していたのに、受け入れようとしなかっただけなのだ。 そして、時が過ぎ行くのをただ黙って眺めていた。今という時間をやり過ごすように。 今あの頃を振り返れば必ず思う。あの頃、僕は一人で空を眺めて何を考えていたのだろう。長く時が過ぎた今となっては、それもわからなかった。ただ、虚しくて不安だった気持ちを隠して暮らした日々があったということは覚えている。そして思い出せば、自然にあの頃の気持ちがふっと浮き上がって、僕の胸をつまらせた。もう、こんなことは終わりにしなければならない。あれから八年経った今、再び僕はそう思っていた。 朝が来ると、僕はまだ寒い部屋に暖房を入れ、やかんを火に掛けた。そして、タバコを一本吸った。眠りから覚めたばかりの僕の頭は、まだすっきりせずに少しボーッとしていた。そして頭の中に残っている記憶が昨夜のものであったのか、夢の中のものであったのか確かめていた。それは昨夜から夢の中へ、そしてこの朝へとつながっていた。 僕はタバコを吸い終わると、コーヒーを入れゆっくりと飲み干した。温かな液体が体の中へと滲み渡る様をしっかりと感じることができた。そして一つ大きくため息をついた。 久しぶりの休日は、思い出探しから始まった。僕は押入れにしまいこんだダンボールを引っ張り出し、その中から一通の封筒があり、中には便箋と写真が一枚ずつ入っていた。写真は僕と朝子さんが二人並んで撮った唯一の写真だった。二人ぎこちなく寄り添う様が当時を思い出させた。彼女の名前が僕の記憶に問いかけ、僕の脳は静かに記憶の断片をランダムに再生し始めた。過去の記憶をたどるということは、懐かしい反面どこか切ない。浮かび上がる記憶は僕の意図とは関係なく呼び起こされ、おかげで僕はしばしばつらい思いをしなければならなかった。 あれから四年経ち、僕はいつしか過ちを恐れ後悔の少ない人生を選んで歩くようになった。おかげで窮屈な思いもするけれど、それにも随分と慣れた。飼い馴らされた猫のように自由を失い、次第に自分の名前さえ忘れていくことだろう。ただ、僕の世界のどこか片隅で、静かに何かが動き始めているような気がした。 カテゴリ [ヒナタ] - trackback- 2006年03月04日 20 35 18 #blognavi
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古河 渚 「だんご♪ だんご♪」 HP1 AP1 DP1 コスト無し 種族、生徒 1ターンに1度自分フィールド上のキャラクターのHP、または自分LPを1追加する。 だんご大家族をあいする病弱な少女。 演劇部の再建を目指して努力している。 出典 CLANNAD ステータスこそ最低レベルな物の、強力なサポート効果を持つ生徒キャラクター。 非常に汎用性が高く、様々なデッキで重宝されるカード。 出したそのターンから効果を発揮出来るので、ノーコストでHPを1得られるサポートカードのような運用が可能。 隣に強力なアタッカーが存在する場合に真価を発揮する。 LPの場合は、1点回復だけではそもそもこのカードの破壊時に1ダメージを受ける都合で全く意味がなくなってしまう。 放置されれば大きくライフアドバンテージを得る事に繋がり、相手としては最優先で処理を狙う対象となる。 長期的に生存させられれば有利な状況を作れるが、サポートキャラクターなので守る事は容易でない。 回避領域などのアビリティカードを装備したり、隣にユグドラシルや集約の騎士を並べるなどの一手間が必要。 しかし狙撃などでも容易く沈んでしまう為、攻撃に対しての対策を固めてもやはり守りづらい。 黄金聖服などを装備したり、隣に棗 恭介を並べたりとそもそものステータスを強化するのも有効。 いかに長期的に活用するかが腕の見せ所。
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変態王子と笑わない猫。扇子 月子まるみえver. 変態王子と笑わない猫。扇子 月子まるみえver. 発売日 :2013年8月31日 発売 商品情報 ・開いたときのサイズ:縦約210mm×横約385mm ・閉じたときのサイズ:縦約210mm×横約30mm
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(びーびー) ネッツのこと。 詳しくはネッツを参照。 ちなみに「BB」とは「橋本」(Bridge・橋、Book・本) を英語にし、単語の頭文字を並べたものである。
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素材ファイルを開いて、編集メニュー/パターンを定義 それを並べたいファイルを開いて、編集メニュー/塗りつぶし/パターン/パターンパレット
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~ワールド経営について~ 3馬車でのやり方について参考にしてもらえればいいです! 馬は7世代のレベル10を用意してください! 貿易品は全部買った方がいいですが、もしも500個以上持ってる場合は買わなくても大丈夫ですが、最後の査定でSが取れない可能性アリ! とりあえずイベントは全部消化 食料は買う! ▲特産品は貿易品を買った後に最後買うよーに! 回るルート ①西部警備キャンプ 特産品を購入!買える分から1つ少ない数で買うのがベストかな! ②ベリア とりあえず売る! 時間を掛けれるなら相場変動まで待てばベスト! ③西部警備キャンプ 売り買い ④ハイデル 売り買い ⑤グリッシー 西部で買った特産品を全部売る! 売り買い 特産品を重量MAXまで買う! ⑥デルペ 売り買い 特産品が買えるなら買う! ⑦フローリン 売り買い ⑧カルフェオン 売り買い ⑨ベア 売り買い ⑩トレント 売り買い 特産品を最後にMAX購入 ▲ベアとトレントでは特産品が高い方で売るよーに! 最後、特産品は全て払い戻し! 次の時の査定に反映されるのでその方が良き ワールド経営終了!!! 2回目はこの逆で! さすらい商人について! 霊薬で即時移動出来ますが戻るのは手動なので距離が500未満なら行って、それ以上なら余裕があれば行く感じでいいでしょう。 これはあくまでも自分のワールド経営3馬車のやり方ですので参考にしてくださいm( )m
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企画書「雨の中の庭」08/08/05 - (第二稿:8/15) 「僕」は目を見ると人の考えていることが分かる。だから、みんなが言葉と違うことを心の中で考えていることを知っている。もちろん「僕」もそうだ。だって、そうでもしないと生きていけない。でも、そうやって生きている「僕」は「僕」のことが好きになれない。みんなのことも嫌いだ。 家族も「僕」のことを気味悪がって近寄らない。中学校から引きこもりの弟には、部屋の扉越しに、「僕」みたいな兄がいたら恥ずかしくて外になんか出られるものか、と言われた。誰も「僕」と目を合わせようとしない。「僕」だって嘘つきはお断りだ。世の中、嘘つきばかりしかいない。 でも、高校時代に知り合ったユウキは違った。怖いくらい言葉と心の中が同じだった。だから言葉に説得力があった。まるで見てきたように断言する、そこに根拠はないはずなのに、みんな彼が言うとそれが正しいような気がした。そして、たいていの場合彼は正しかった。 そんなユウキは「僕」のことを気に入ってくれた。二度と起こらない奇跡だと「僕」は思った。「僕」とユウキ、それにユウキの恋人の真砂。高校生の「僕」は、三人でずっと遊んでいた。初めての、友達と呼べる友達だった。 真砂は、どこか人形を思わせるところのある女の子だった。高校生の女の子らしく浮ついたところもなく、あまり嘘をつかない代わりに心を動かすことも少なかった。どこか透明な存在だった。でも、ユウキといると、たまにくつろいだ表情で笑うことがあった。それはとても素敵な笑顔だった。彼女はまるで歴史が始まったときから一緒にいたみたいな顔をして、いつもユウキの隣にいた。 そんな幸せな時が長くは続かないことは分かっていた。ユウキはできるだけ早く街から出て行くと決めていた。この街にずっといたらダメになる。ユウキはそればかり口にしていた。 「僕」は、どうすればいいんだろう。ユウキと知り合ってから、ひとりのときはそればかり考えた。この街で生まれ育った「僕」にとって、この街にいることは自然なことだった。特にここから出て、行きたい場所もなかった。 高校三年生の秋、「僕」はユウキに一緒に東京へ行かないかと誘われた。「僕」は断った。ユウキがたった一人の友達でも、ついていく訳にはいかない。だってどこへ出て行っても、「僕」は何をしていいのか分からない。そんな「僕」がここから離れても、誰のためにもならないと思った。 「おまえたちみんな引きこもりかよ。どうするんだよ、こんな街にいて」 「時代の病気なんだよ。みんながユウキみたいに健康を指向してる訳じゃないんだ」 「先にあるのが健康かどうかなんて知らないけどさ」 四月になって、ユウキは東京の大学へ進学して、ひとりで暮らし始めた。真砂は地元の大学しか受けていなかった。国公立は落ちて滑り止めの私学だけ受かった。でも、そのことについて特に何も言わなかった。行きたい大学がある訳ではなく、ただ何かを先送りしたいだけだった。したいことがあってそれを目指しているのなんて、ユウキくらいだ。 「僕」たちは、ただ淡々とユウキの引越を手伝った。「僕」も真砂も、ユウキの引越どう受け止めていいのか分かっていなかった。 「遊びに来いよ。いつでも歓迎する」 ユウキの晴れやかな笑顔に、いつも通りの声で、新しい彼女ができたら紹介してね、と真砂は言った。「僕」は何も言えなかった。 ユウキに一緒に東京に行こうと誘われていたのは「僕」だけだった。真砂がユウキから言われていたのは、「好きにしろ、俺は出て行くから」だけだった。「僕」はそのことを、ゴールデンウイークに開催された高校の同窓会で真砂から聞かされた。真砂は怒っていた。正当な怒りだと思う。 「ついて行きたかった?」 「彼が望んでいないなら、ついて行きたくなんてない」 あなたがついて行けば良かったのに、と真砂は言った。心にもないことだと「僕」は目を見て知った。真砂は心にもないことをよく言う。でも、不思議と「僕」は真砂のことを嫌いにならなかった。 ユウキがいないと、高校の同窓会はまるでつまらなかった。彼なしでは居場所なんてどこにもなかった。それは真砂も同じだった。退屈をこらえて一次会の終わりまで残っていたのは、ただ積極的に別れを切り出す気にもなれなかっただけだ。居心地の悪い行き着けない居酒屋で、真砂はカクテル一杯で酔っぱらっていた。泣くでもなく暴れるでもなく、愉快になるでもなく美味しそうでもない。何の意味もない飲酒だった。「僕」は飲まないように逃げ回った。逃げ回るのには慣れている。 別れ際に真砂は「もう会わないでしょうけど」と言って、「僕」の目を見た。「僕」は何か言わないわけにはいかなかった。 「同じ街に住んでいるんだから、どこかで偶然会ったらお茶でもしようよ」 「いくら狭い街だからって、そんな偶然はないと思う」 「僕」は真砂の目を確認して、たぶんね、と答えた。そして「僕」と真砂は別れた。 ゴールデンウイークも過ぎると、大学にあふれていた新入生は、それぞれの居場所をみつけて散っていく。「僕」も居場所を探して、天文部の扉を叩いた。夜、星を見るのが「僕」は好きだった。どれだけ見ていても星は嘘をつかない。 でも、天文部はただのイベントサークルだった。星にかこつけて男女が仲良くなるための、よくある大学生のための夜遊びサークル。「僕」が見たいのは人間ではなかった。 でも「僕」はそこで、ステラという女の子と出会った。日本語は流暢にしゃべったけれど、名前のとおり日本人ではなかった。髪は銀色で瞳は青、白い肌。同じ人間だと思えないような不思議な存在感があってサークルでも浮いていた。元々この街は保守的なのだ。でも本人は何も気にしていなかった。あるいは、自分が浮いていることに気づいていなかったかもしれない。 ステラの目の奥には心が見えた。でも「僕」はそれが解読できなかった。そんなことは今までなかったから、「僕」はとても混乱した。外国人だから読めない、というものではなかった。言葉が通じない相手の目だって「僕」は読める。猫や犬だって読めるのに。 あなたは誰ですか? と聞きたかった。でも、そんなこと絶対に聞けない。そのためには「僕」が誰なのか説明しなきゃいけないだろう。そんなこと僕にはできない。親友のユウキにだって言えなかった。「僕」が他人の心を読むことができるって、説明したことがあるのは弟だけだ。そのせいで弟は引きこもりになった。彼は「僕」の顔が見られない。「僕」のせいで、誰の顔も見られなくなった。 ステラとは同じ授業をいくつも取っていて、教室でもよく顔を見かけた。まず見間違いようがなかったし、たいてい彼女は遠巻きにされて誰も近づかなかったから、「僕」からあいさつに行くのに抵抗はなかった。「僕」が近づくことに、彼女がどう思っていたのかはよく分からない。少なくとも迷惑そうではなかったけれど、あるいは何とも思っていなかったかもしれない。 同級生に、おまえ勇気あるな、と言われたこともある。彼女が日本語をしゃべれることは知れ渡っていたけれど、そんなレベルではなくステラは異物扱いだった。 「なんなんだろうな、あのプレッシャー。遠くから見てればゲームの中のお姫様みたいな顔してるんだけどな、ちょっと一般人じゃ近づけないね」 「僕だって一般人なんだけど?」 「あのエイリアンと普通に話ができる一般人がいてたまるか」 少なくとも彼は本心でしゃべっていたので、「僕」はそれ以上、何も言わないことにした。「僕」が一般人だなんて「僕」も信じてはいないけれど、積極的にそれを認めるつもりはなかった。 「僕」がステラと一緒に食事をする仲になるのに時間はかからなかった。大学生同士なら、一緒に食事に行くくらい普通だ。でも、「僕」の居心地は悪いままだった。彼女相手にはあまり上手くしゃべれなかったし、たまに挙動不審なこともしたと思う。なんとかして彼女の気持ちを知る方法はないかと考えたりもした。でも、たいていは空回りで終わった。 ステラと一緒にいて一番に感じるのは、彼女の健全さだった。まっすぐな目で「僕」を見るし、分からないことがあれば分からない、知りたいことがあれば知りたいと言う。それは「僕」には縁のない健全さだった。ルール違反の健全さ。たぶんそれが人々が彼女を敬遠する理由だろう、と「僕」は思った。 気持ちが塞ぐときや、何かしたいけど何も思いつかないとき。「僕」はたまにユウキに電話をかけて長話をした。ユウキは「僕」にとって、引っ越した後でもいちばん心許せる相手だった。東京暮らしでしゃべり方が変わっていたけれど、「僕」たちの関係は変わらなかった。彼が充実した日々を送っていることは声だけで分かった。ステラの話をすると彼は心底おもしろがった。おまえだって恋愛をしてみればいいんだ、と彼は言った。そんなんじゃない、と言っても聞く耳を持たなかった。 唯一、真砂の話をするときだけ、彼は落ち着かない声になった。遠距離が不安かと僕が聞くと、そんなんじゃないと彼は答えた。でも、どう「そんなんじゃない」のかは教えてくれなかった。 「なあ、真砂は変わらず元気にしてるか?」 ユウキはたまに、そんなことを「僕」に聞いた。どうして「僕」にそんなことが分かるのさ、「僕」はそのたびにそう答えた。 でも「僕」は時々、偶然を装って真砂に会いに行った。最初、彼女はとても驚いた顔をしたけれども、すぐに肩の力を抜いて「僕」の相手をしてくれた。まあ「僕」ならいいか、とその目が言っていた。彼女はあまり他人を信用しない方だけれど、それだけに彼女のさみしがりやな部分は充足されることが少なかった。「僕」は少なくとも、ユウキの次くらいには信頼されていたんじゃないかと思う。担保がユウキだから、多少「僕」の株がひとより高くても驚くには値しない。 でも、真砂と二人でいても話すことはないから、ただ黙ってお茶を飲んだり、一駅余分に歩いたりしただけだった。そしていつも「また偶然会ったら」と言って別れた。もちろん恋愛感情はなかった。ただ、そうしないと消化されない何かがあった。 そんな時間を必要としていたのは真砂も同じだった。偶然、真砂の方から「僕」に会いに来ることもあったし、ときどき内容のないメールが届くこともあった。メールになると真砂は饒舌だった。顔文字も入っていたし、文体もくだけていた。真砂も普通の女の子でもあるんだな、と「僕」は思った。考えてみれば当たり前のことだけれど、いつもユウキとセットで見ていたから、その印象は新鮮だった。 真砂はユウキと遠距離恋愛を続けていた。でも、ユウキとはだんだん疎遠になっていた。もともとユウキは、そんなマメなタイプではないのだ。近くにいた時のような関係を続けるのは無理だった。でも、真砂は新しい距離に上手くなじめなかった。 真砂は過去にしがみつこうとしていた。「僕」とユウキと真砂と、三人でいた過去に。だから同じ時間を共有していた「僕」を必要としていた。ユウキはもうそこにはいないから。真砂は「僕」と会っても、「僕」のことを見ていなかった。ただ「僕」の向こう側にいるユウキの影を要求していた。「僕」にできるのは、できるだけユウキの影を色濃く映すことだけだった。でも、それはユウキから離れていることを、真砂に思い知らせることでもあった。 サークルで夏休みにペルセウス座流星群を見に行くことになった。「僕」は団体旅行は嫌いだったけれど、泊まりがけの旅行なら、少しは「僕」の知らないステラの秘密が分かるかもしれない。なら団体旅行くらい我慢してもいいかと思った。 「僕」とステラは駅で待ち合わせ、電車を乗り継いで高原へ行った。宿だけは決まっていてイベントがいくつか用意されていたけれど、それ以外は自由時間だった。合コンの延長でしかない部員の方々とは別行動で、「僕」は星を見るために現地での行動を計画してあった。必然的に目的が同じステラとは行動が同じになるだろう、と見越して。 予想通り、ふたりだけで行動する時間はたっぷりあった。ふたりで夜空を見上げながら、でも、「僕」はどんな話をしていいのか分からなかった。ステラと一緒にいると、まるで物語の中に迷い込んだような気持ちになることがよくあった。「僕」はどんな登場人物なんだろう? どんな登場人物になりたいんだろう? 「前から聞こうと思ってたんだけど、どうして日本に?」 「家族がこちらにいたんです。異邦人なのはどこでも同じだから、だったら家族でいようと思って」 「そういえば、どこから来たの?」 しばらく沈黙があってから夜空を見上げて、この星のどこかから、とステラは言った。 「そういう気持ちって分かりますか?」 「僕」もどこかの星から流されて来たような気持ちになることがある、と「僕」は答えた。よくある。ステラは小さく笑った。 「正直なところ、よく分からないんです。日本の前はアメリカにいました。その前はドイツです。でも、どこがスタートなのかは分かりません」 「そして、ここがゴールでもない?」 「でも、今はここにいますよ」 普通の大学生の男女ならキスをするタイミングだと思った「僕」は、ステラの横顔を見た。でもステラはただ星空を見上げていた。まったく、そういう色恋沙汰は眼中にないらしかった。「僕」の勇気は一気に挫けた。いいんだ、別にキスしたかった訳じゃないんだ。色恋沙汰がしたい訳じゃないんだ。 「一度、私の家族にも会ってください。私に人間の友達がいると知ったら喜びます」 「人間の?」 「現地の、ですね、すみません。言葉がうまく使えなくて」 手を握ってもいいですか、と「僕」は言ってみた。ステラは手があることに初めて気がついたようにしばらく右手を見てから、どうぞ、と言ってその手を差し出した。そっと手を握ると、ステラは不思議そうな顔で「僕」の顔を見上げて、やっぱり人間ですね、と言った。 「あなたがいて、よかったです」 目を見ても、何を考えているのか全然わからなかった。でも、少なくとも「僕」の知る恋愛要素がないことだけは確かだった。流れ星だけが静かに夜空を横切っていった。 秋が来て、冬が来た。高校生だった去年までとは違う、人肌恋しい季節だった。真砂とは偶然出会っては一緒に時間を過ごした。流れで手をつないだり肩を抱いたりすることもあったけれど、でもそれはユウキの代わりだった。「僕」もわかっていたし、真砂も分かっていた。でも、それが求めていることだった。真砂は明らかに、今より過去の方がいいと思っていた。「僕」はどうなんだろう、よく分からない。ユウキのいた過去をかけがえなく素敵だと思っていたけれど、現在だってそんなに悪くないかもしれない。 「僕」はステラともプライベートな時間を過ごすことが増えた。例のクラスメイトあたりがみたら、つきあっていると思ったかもしれない。でも、実際はどこに遊びにでかけても、食事を一緒にして別れるくらいがせいぜいだった。清い交際にさえならなかった。「僕」には相変わらずステラの心が読めないから、彼女が何を考えているのか分からない。「僕」と彼女の間に、どれだけの距離があるのかも分からなかった。 「人間の心なんて不確かなものだぞ? 特に女の子。 俺だって真砂が何考えてるのか分からないことはよくあったけど、でもつきあってたじゃないか」 「ユウキは特別、あんなに好き合ってたら何をしたって大丈夫だよ。僕はそうじゃない」 「僕」はユウキみたいに、裏表のない生き方はできない。 相変わらず「僕」の家では弟が閉じこもった部屋の中から「僕」を呪っていた。でも「僕」は弟に対して、つながりを強く感じていた。何かを肩代わりしてもらっているような気持ちさえした。あるいは逆に、「僕」が彼の分まで外の世界を見ているような。それは「僕」の不健全さの証明かもしれない。でも、健全な自分を目指すよりは、「僕」は十分に「僕」であることを目指していた。 父も母も、弟のことは諦めていた。いつか、このままではいられなくなる日が来る。たとえばそれは父の定年を機にやってくるかもしれないし、他の家族の身に起きる何かが引き金になるかもしれない。弟のことは、そうなったときに考えることになっていた。それまでは目を背けていることで、暗黙の了解ができていた。 「僕」はこの先、どうやって生きていったらいいのかまるで分からなかった。だからみんなと同じように、ただ何も気づいていないふりをして、毎日を過ごしていた。まるでそうすれば、変化を避けられるとでも思っているように。 ステラと大学を歩いているときに、偶然真砂に会ったことがある。それぞれを友達、と「僕」は紹介した。ステラは小首をかしげ、真砂は人形のような目をしてお互いにあいさつをした。それでも三人でお茶をした。別に悪いことをしている訳ではないのに、「僕」はとても落ち着かなかった。何をしているのか全然わからなかった。 後で真砂には、「僕」に友達がいるなんて思わなかったと言われた。それ以来、彼女はしばしば「僕」の大学に顔を出すようになった。いや、たぶんそれも偶然だろう。 その冬、真砂の両親が仕事の都合でアメリカに引っ越しをした。大学生の真砂は下宿してこの街に残ることを選んだ。引越は「僕」が手伝った。彼女には他に引越を手伝ってくれそうな友達はいなかった。真砂の心の中にはユウキしかいない。友達なんてできない。 家族がいなくなった真砂は、より強く「僕」を求めるようになった。「僕」はしばしば真砂と夕食をともにするようになったし、夜、電話で話すことも増えた。偶然じゃない待ち合わせをして遊びに行くようにさえなった。それでも真砂の心の中にはユウキしかいなかった。一目瞭然だった。 ユウキが真砂に別れを切り出したのは、そんな最悪のタイミングだった。いや、別れなんて切り出せばいつだってその瞬間、最悪になったかもしれない。その予感はあった。「僕」はふたりとそれぞれに話をする立場にあったから、ふたりの状況は理解していた。でも、それは「あってはならないこと」だった。もちろん「あってはならないこと」だって起きる。でも「あってはならないこと」に対しては、備えなんてできない。 正月の帰省、ユウキは別れを言うために戻ってきた。三人で会うのは久しぶりだった。三人三様に変わっていたと思う。ユウキだけが、彼が望んだとおりの変化をしていた。「僕」の成長はアンバランスで居心地が悪かった。真砂は成長を拒否しようとしていた。 もう恋人としてお互いを認識するのはやめよう、過去を共有する仲の良い友達でいよう。束縛したくないし、されたくない。俺は「現在」を生きたくて街を出たんだ。もうここには戻らない。 ユウキは一方的に言った。そんなこと「僕」の前で言うなよ、と「僕」は思った。でもユウキにとっても真砂にとっても、「僕」も当事者だった。 真砂は最初、何を言われたのか分からなかった。普通に世間話を続けようとして、でも、すぐに言葉が失われた。泣かなかったし、取り乱したりもしなかった。ただ、理解しなかった。できなかった。「僕」は怖くて彼女の目が見られなかった。 代わりに「僕」はユウキに考え直すように説得した。でもユウキは聞く耳を持たなかった。 「おまえの身勝手のために彼女を犠牲にするのか?」 「違う、一緒にいることが真砂を犠牲にすることなんだ。遠距離恋愛なんて真砂にも俺にもふさわしくない。おまえにだって、その街を出れば分かる」 分かりたくない、と「僕」は言った。 せめて、おまえがこのまま真砂とくっついてくれると安心なんだけどな、とユウキは嘘のない目で言った。信じがたいことに本気だった。 もういい、さよなら、と小さな声で真砂は言った。「僕」は彼女の目を見た。その目は空っぽだった。僕はそこからどんな感情も読み取れなかった。 「行こう」 真砂は「僕」の手を取って、ユウキの前から立ち去ろうとした。「僕」は振り向いて、ユウキに何か言おうとした。でも、何が言える? ユウキも同じ顔をしていた。その目が語っていた。何が言える? と。 その夜、「僕」は真砂と初めて寝た。ユウキと別れてから行くあてもなく地下鉄に乗って、環状線を何回か回った気がする。会話は何もなかった。でも別れることはできなかった。真砂は命綱のように、「僕」の手をずっと握っていた。そろそろ終電が、と「僕」が言うと、真砂は泣き出した。世界からすべての音が消えたような泣き方だった。そんな泣き方をされたら、もう「僕」には選択肢はなかった。 「僕」たちは真砂の下宿へ移動した。どこへも行きたくない「僕」たちに、それ以外にできることは何もなかった。交互にシャワーを浴びて、部屋の明かりを消した。ずっと無言だった。 「僕」にとっては初めてだった。でも真砂はそうではなかった。ユウキとずっとつきあっていたんだから当然なのに、その事実を「僕」はまったく想像していなかった。真砂はいつまでも人形のような清らかさでいるものだと思っていた。 「毎晩でもしたかったし、何回でもしたかった。実際、できるときはいつでもした。どこでもした」 「僕」の上で腰を振りながら真砂は言った。淋しかった、ぽつりとつぶやく。何度も、何度もつぶやく。でも、哀しいばかりなのに、「僕」は男性としてきちんと機能していた。初めて見る真砂の裸体は綺麗だった。「僕」は興奮していた。今、こんなことをしたら取り返しがつかないことになると思いながら、止めることはできなかった。こんな「僕」は知らない、と「僕」は思った。でも求められるたびに「僕」は応えた。そして「僕」からも、何度も求めた。真砂も、そのたびに応えた。 真砂は「僕」の名前を一度も呼ばなかった。代わりにユウキの名前を呼んだ。何度も、何度も。「僕」はずっと黙っていた。何を言っても嘘になりそうだった。 冬が過ぎ春を迎えて、「僕」は時間の多くを真砂の下宿で過ごすようになった。授業は出た、バイトも行った。数日おきに実家に帰り、服を着替えたり荷物を交換したりした。でもそれ以外の時間はほとんど真砂とずっと一緒にいた。一緒にいて、セックスばかりした。ふたりともユウキのことばかり考えていた。「僕」もセックスにはすぐに慣れた。気持ちがいいとは思うけれど、ずっと我を忘れ続けられるほどじゃない。だから、何回も何回もした。我を忘れる必要があった。するたびに淋しい気持ちになった。でも、やめられなかった。 窓の外に大きな月が見えた。パトカーのサイレンと吠える犬の声が遠くに聞こえた。大きな流れ星に気がついたけれど、何の願い事も言えなかった。何か嫌な気持ちになって、それを忘れるために「僕」はもう一度真砂の身体を求めた。流れ星は僕の意識から、なかなか離れてくれなかった。 ステラに、大学で声をかけられた時、「僕」はユウキのことを考えていた。彼女ができたんですかと聞かれて、「僕」は違うと答えた。真砂は彼女と呼べるような存在だと「僕」に認識されてはいなかった。どちらかといえば家族みたいなものだった。今はセックスが必要だからセックスをしているだけだ、と「僕」は思っていた。真砂との間には恋愛感情はない。 「この頃、私と一緒にいる時間をとってくれなくて、これが彼女ができたということなんだろうな、と思っていたんですが」 そっか、と「僕」は答えた。でも、時間がないのは本当だ。早く帰って真砂とセックスをしなきゃいけない。間違ったことをしているとは思わなかったけれど、取り返しのつかないことをしている自覚はどこかにあった。ステラといるとそれが刺激された。でも、今は考えたくなかった。 ステラの目を見ても相変わらず、何を考えているのか分からなかった。彼女は「僕」の目をまっすぐに見上げていた。いつにない切迫感があって、「僕」は目をそらした。 「私のことをどう思いますか?」 「ええと、どう、って?」 「何でもいいです。思った通りに答えてくれたら、私はそれで納得することにします」 「僕」は何を答えたらいいのか分からなかった。状況がうまく把握できていなかった。自分が袋小路にいることだけは分かった。相手が他の誰かなら、何かうまい逃げ道を考えられたかもしれない。でも、相手はステラだった。 「そうですね、先に私が言うべきですね」 ステラは、一度視線を切ってから、また「僕」をまっすぐに見上げた。そして言った。私はあなたが好きです。 それでも「僕」は何も言えなかった。真砂のことを思った。真砂とするセックスのことを考えた。いや、ただ何も考えていないだけだったかもしれない。ただセックスのフラッシュバックが脳裏に渦巻いている。取り返しならつかない、と「僕」は思った。 「私は、みんなが思うような人間じゃありません。でも、私だって人間になりたかったんです。あなたを好きになって、好きで好きでたまらなくなって、人間を好きになるんだから私も人間なんじゃないかって、そう思って、でも私はきっと人間じゃないから、あなたに好きになって欲しいなんて言えなくて」 まっすぐ「僕」を見上げるステラの目からこぼれる涙を見て、「僕」の中でステラと真砂がつながった。「僕」はステラを抱き寄せた。真砂のことを思う気持ちと、同じ気持ちがステラに向いていた。真砂が「僕」に向ける気持ちと、同じ気持ちが「僕」に向いていると思った。これも恋愛感情じゃない、「僕」なんてどこにもいない。だから、抱き寄せることに抵抗はなかった。 「私はどこか遠い星の変な生き物なんです。私に好かれても、あなたは迷惑なんです。分かっているんです」 「僕」はステラの唇を塞いだ。そんなことはするべきじゃなかったかもしれない。でも、そうするしかなかった。長い夢を見ているような気持ちだった。夢の中で、それが夢だと自覚していて、でも自分では目覚めることができない夢。ステラが目を開けたままだったから、「僕」が目を閉じた。長いキスだった。 「それで、私のことをどう思いますか?」 キスが終わってから、改めてステラは「僕」に聞いた。まっすぐに向けられた目の奥で何を考えているのか、相変わらず「僕」には分からなかった。「僕」には何も答えられなかった。 ごめん、と「僕」は言った。 謝らないでください、わかってますから、とステラは答えた。 それが「僕」にとっては転機だった。もう真砂とはセックスはできないだろうと思った。もう気づかないふりをして溺れるように抱き合う、というのは無理だった。ステラに対してだって恋愛感情はなかった。でも、それは真砂に対しても同じだった。 その夜、「僕」はユウキに電話をして、正直に事情を説明した。おまえは真砂を「僕」とくっつけたかったのかもしれない。でも「僕」は彼女を託されるに値する人間じゃなかった。もうダメだ。 ユウキは受話器の向こう側でため息をついた。 「おまえがもてるのは悪いことじゃない。真砂の男運が悪かっただけだ。 もともと俺は、おまえとステラをくっつけたかったんだからな。このタイミングか、って思うだけで」 「今からでも遅くないから、真砂とよりを戻すつもりはないの?」 無理、とユウキは手短に言った。もう無理、少しでもそんなつもりがあったら別れ話なんてしない。 「で、おまえはさ、その、ステラのことが好きなのか?」 わからない、と「僕」は答えた。本当に分からなかった。恋愛感情じゃない、とは思う。でも何なんだ、といえば言葉にはならなかった。真砂に対する感情も、ステラに対する感情も。「僕」の知っている気持ちではなかった。 じゃあアドバイス、とユウキは言った。 「未来はいつもおまえと共にある。おそれずに進め」 「何その安っぽいRPGみたいな台詞」 「分かる分からないで考えているうちは、何も分からないものさ。 進んで飛び込んで、全部経過して初めて分かった気がするんだ。でも、また次の時は全部分からなくなってる。そういうものだろ、兄弟」 覚えておくよ兄弟、と「僕」は答えた。ユウキの言ったことは正論だった。でも、もちろんアドバイスなんて実際に現実を生きる上では、何の役にも立たなかった。 ステラとの関係は、告白を聞いた後も目に見える変化はなかった。相変わらず同じ授業を取って近くの席に座り、一緒に昼食を食べ、世間話をしたりネコと遊んだりして適当に別れた。ステラはそれでいいと思っているようだった。「僕」はそれでいいとは思えなかったけれど、とりあえず状況に甘えることにした。どうしたらいいのかなんて分からなかった。 真砂はだんだん精神の均衡を欠くようになった。まるで親に見放されるのをおそれる子どものように「僕」を求めるようになった。それはセックスをしなければ収まらなかった。結局、するしかなかった。している最中に突然泣き出したり、暴れたりすることもあった。まるでAVのように「気持ちいい」を連呼したときもあった。一緒にいる時間が長くなるとそれなりに落ち着いたから、「僕」はできるだけ側にいるようにしようとした。 原因は「僕」の対応が変わった、ということではないと思う。元々、セックスで解決するような問題ではないのだ。限界が露呈した、と考えるべきだろう。 ユウキとつきあっていた、高校生の頃の真砂は目でものを言うタイプだった。「僕」でなくても目を見れば、何を考えているのかよく分かっただろう。でも、この頃の真砂は心を読むのがひどく難しくなった。何もない訳じゃないけれど、それが本音かどうか分からない程度にしか見えない。それも、ひどく移ろいやすい。だから「僕」は、彼女が「僕」のことをどう思っているのか、よく分からなかった。ただ、「僕」がいないと何もできなかった。それがユウキとの過去を共有する間柄だからだけなのか、少しは未来への希望も含まれるのか、「僕」はそれが知りたかった。でも、それは目をみても分からなかった。 「僕」がどうしたいのか、それも分からなかった。でも、このままがいつまでも続くはずはなかった。真砂との関係を断ち切るという選択肢がない以上、変化をつけるなら前に進むしかない、「僕」はそう結論した。 「ねえ、正式に一緒に住むことにしないか? この部屋でもいいし、どこか違う場所でもいい。どこかで一度、しっかり仕切り直そうよ」 真砂の二十歳の誕生日を前に、「僕」はそう提案した。真砂は、ユウキがいる頃にたまに見せた透明な笑顔を浮かべて、素敵な夢物語ね、と言った。 真砂が自殺しようとしたことを「僕」はユウキから電話で教えられた。雨の降る、寒い冬の日だった。そのニュースは僕に衝撃をもたらしたけれど、どこか「僕」はそうなることを知っていた気がする。「僕」のせいだ、と僕は言った。 おまえのせいじゃない、おまえはよくやっていた。ユウキは「僕」にそう言った。 「違う、僕はなにもしていない。何もできなかった」 「そう言うな、誰にも何もできなかったんだよ」 真砂は二十歳の誕生日に、はじめて東京までユウキに会いに行った。今まで一度も行っていなかった。別れてから初めてセックスをした、とユウキは言った。ごめん。 「謝らなくていいよ。真砂は僕の彼女じゃない。ずっとおまえのものだろ」 「まだそんなことを言うのかおまえは」 「だってそうじゃないか」 「僕」は涙声だったかもしれない。「僕」はユウキになれなかった。それだけのことだ、と「僕」は思おうとした。でも、そんなのってないじゃないか。 「一命は取り留めた。でも、しばらく療養が必要みたいだ。ひとりでは生活できないっぽいから、あいつの家族を呼んだんだよ。そうしたらいきなり面会謝絶。まあひどいことをいろいろ言われたけどね、ちょっとおまえにも聞かせたかったな」 「僕」はユウキからの電話を適当に切ると、ひとりで街を歩いた。自宅にいても真砂の部屋にいても、何をしていいのか分からなかった。弟の部屋からは、いつも通り雄弁な沈黙が漂ってきていた。みんな言いたいことを抱えて何も言えないでいる、と「僕」は思った。「僕」は「僕」が何を言いたいのか分からない。みんなはどうなんだろう? 真砂と歩いた街だった。どこにでも真砂の記憶がついて回る。「僕」は傘を持っていなかった。雨の中をぬれるままに歩いた。雨が降っていることには気づいていたけれど、傘を持ってくることに思い至らなかった。馬鹿だ。 気がつくと「僕」は繁華街を歩いていた。客引きがいて酔っぱらいがいて、喧噪とネオンが街を包んでいる。さすがにこの時間、真砂とこんな場所を歩いたことはなかった。でも、傘も差さずに雨の中を歩く「僕」を、みんな避けて通った。もちろんここにも「僕」の居場所はなかった。 「何を、しているんですか?」 聞き覚えのある声に顔を上げると、声をかけてきたのはステラだった。何をしてるんだろう、と「僕」は答えた。 「どうしてここに?」 偶然です、とステラ。白昼夢を見てあなたに呼ばれてる気がしてここに来たって、そんなことがあるわけがないじゃないですか。 「死んでしまいますよ、そんなことをしていると」 ステラに導かれるままに、「僕」はどこかのホテルに入った。脱がされて乾かされて、脱いだステラに抱きしめられた。そんな気持ちにはなれない、と「僕」は言った。どんな気持ちですか、と真顔でステラは答えた。このひとは宇宙人だったな、と「僕」は思い出した。きっと本気でそんなつもりはないんだろう。それは「僕」の心を少しだけ慰めてくれた。 ステラの身体は暖かかった。でも、「僕」の心は冷たく固まっていた。冷えているのはもっと身体の奥深くだ。裸で抱きしめられたくらいでは届かない。 「僕が、彼女を追いつめたんだ」 「何をしたんですか?」 「何もできなかった。何かしなきゃいけなかったんだ、僕にしかできなかったのに」 「好きだったんですね」 嫌味もなく底意もない、ただ本当に淡々と事実を述べる口調だった。 「そんなに好きなひとがいるなら、どうしてきちんとつかまえておかなかったんですか?」 結局、「僕」はステラと寝た。そうするしかなかった。だって「僕」はずっと真砂とそうしてきたから。でも、ステラの身体は「僕」の心を温めてはくれなかった。 ひとしきりの行為が終わると、ステラは眠ってしまった。寝顔は初めて見る。何かを思い出しそうになって、「僕」は涙をぬぐった。小さく「さよなら」と言った。そして濡れたままの服を着ると、部屋を抜け出して支払いを済ませた。こういう時、どうするのが正しいことなのかは分からなかった。でも、ステラと一緒にいることはできなかった。 ステラと寝ることは、「僕」の求めていることではなかった。「僕」は心を捨てたかった。真砂のことを忘れたかったし、「僕」のことを忘れたかった。ステラは「僕」に心を捨てさせる相手ではなかった。むしろ「僕」の心そのものだった。 時間をかければなんとかなる、と「僕」は思いこむことにした。ステラは携帯を持っていなかった。大学に行かなければ、そうそう会うことはないだろう。ステラに溺れるわけにはいかなかった。もちろん、溺れそうだから思うんだということは分かっていた。 「僕」らしくない行動をとろう、と「僕」は決めた。夜の街で知らない女の子に声をかけたり、金を払って風俗に通ったりした。すぐに飽きた。最後には女の子を見るだけで吐き気を催すようになった。もう十分だろうと思うと、「僕」は社会復帰を次の目的にした。 「僕」は合宿制の自動車学校に通って免許を取った。単発のバイトを立て続けにした。新しい季節のために服を買い換えたりもした。そこまでして、やっと人心地がついた。ひとりに戻るだけだ、と「僕」は自分に言い聞かせた。ユウキも真砂もいなかった頃だって、「僕」は「僕」だったはずだ。ステラがいなくても、くだらないおしゃべりをする程度の友達ならいるだろう。それで十分じゃないか。 ひさしぶりに大学に行き、授業に出ると、ステラは今まで通り隣の席で「僕」を見上げていた。あのまま、いなくなるのかと思っていました、と変わらない声で言う。「僕」は彼女の目を見られなかった。 「ごめん」 「あなたのしたことは人間的にどうだったんだろう、とは思います」 でも、戻ってきてくれて嬉しいですよ、私は。 ひさしぶりに会うステラは美人だった。ステラを美人だと思ったのは初めてだった。「僕」の意識が変わったのか、ステラが変わったのか、「僕」には分からなかった。でも、まぶしくて直視できなかった。 目を見ても相変わらず、何を考えているのか分からなかった。でも、「僕」がステラなしでもやっていけるだろうと高をくくっていた、それが無理だということはすぐに分かった。 どこまでいけるんだろう、と「僕」は思う。こんな気持ちを抱えたままで、どこまでもいけるはずがない。でも日常は続いていく。みんな変わりながら、でも毎日は続いていく。 ユウキから電話がかかってきたとき、「僕」は大学の緑地で、ひとりでパンを食べていた。濁った池にパンくずを投げるとコイが食べに来る。その辺に投げれば鳩やスズメが来る。孤独を紛らわすにはいい場所だった。 おまえどこにいるんだ、とユウキは言った。「僕」は答えられなかった。隣を見て、上を見て、誰か代わりに答えてくれるひとを探した。でももちろん誰もいない。「僕」はどこにいるんだろう? 立ち上がって濁った池を見ると、「僕」の姿が水面に揺れて映っていた。その目には心が見えなかった。 ケータイからユウキの声が「僕」を呼んでいた。でも、もう「僕」はどこにもいなかった。いや、はじめからどこにもいなかったかもしれない。 東京から帰ってきたユウキは、見たことのない女性を連れていた。まどかさんだ、とユウキは紹介した。 「今回の件でお世話になってる。おまえに紹介したかったんだ」 反射的に「僕」は頭を下げた。真砂の家族だ、というのは顔を見れば分かった。でも、どうして「僕」に紹介する必要があるんだろう? 「このひとを倒すと囚われのお姫様のところに行けるんだってさ」 「倒す?」 「お姫様が助けを求めてるかどうかは知らないけどね」 真砂の自殺未遂にあたって、ユウキが連絡した真砂の家族だった。今、真砂はこのひとの庇護下にある。こんなことしたくないんだけどさ、とまどかさんは言う。こういうことって、家族の誰かがしなきゃいけないからね。 「僕」はまどかさんとユウキを連れて真砂の下宿を案内した。他によく行くところは大学とバイト先くらいしか知らない。真砂の暮らしは、ほとんどが部屋と大学の往復の中で完結していた。偶然会うのは簡単だった。今にして思えば、そんな大学生の生活はありえない。でも、真砂にはそれが普通だった。それに、「僕」だって日々の単調なことにかけては真砂のことはあまり言えない。 「なるほど、ね」 まどかさんは気のない声で言う。 「あなたが良くやってたんだってユウキが言ってるの、冗談じゃないと思ってたんだけどね。女の子が自殺未遂するときって、まあ恋愛関係のもつれだろう、その男が犯人だ、って。 だからユウキとあなたのせいだと思ってたんだけど。 違うね、これは死ぬべくして死のうとしたんだ。真砂、本気で病んでたんだね。ここまで保って、しかも未遂でとどまったんだから、あなたが良くやってたんだ」 まどかさんといったん別れてから、「僕」とユウキは今後のことについて相談した。真砂はこの街に戻らないと元気にならないと思う、と「僕」は言った。ユウキは否定した。 「そこから出なきゃ今度こそ死ぬ。俺はおまえが生きてるのが不思議なくらいだ」 「ユウキが責任持ってすることに文句は言わないけど」 「おまえが責任持つなら俺だって」 でも、現実的にはまどかさんを納得させられるような材料は「僕」たちには何もなかった。真砂自身が自分の生命に責任を持たないのに、「僕」たちには何もできない。 「ユウキは、彼女とよりを戻すつもりは」 「まだ言うか。ないよ、それはもう終わったことだ。 でも、それはそれとして真砂は健康に生きていて欲しい。そのためにできることがあるなら、できることはなんでもするつもりだ」 自殺したいほど何を思い詰めていたんだろう、と「僕」は思う。おまえのことなんじゃないのか、とユウキは言った。 「僕のこと?」 「おまえはどうなんだ、今後も真砂とつきあっていけるのか?」 ユウキの目には罪悪感があった。自殺未遂の直前に真砂と寝たことが原因だった。「僕」は気にしていなかった。だって、真砂はユウキのものだ。「僕」はそう思っている。 できることはなんでもするつもりだよ、と「僕」も答えた。でも、お互いに何ができるのかは分かっていなかった。 「僕」はまどかさん経由で真砂にメールを送った。機会を見ては手紙も出した。電話はまどかさんがとりついでくれなかったし、「僕」も何を話せばいいのか分からなかったと思う。真砂からも、たまに返事が来た。ユウキも同じようなことをしている、と「僕」は真砂からの手紙で教えられた。ふたりともありがとう、でもちょっと複雑です。真砂の筆致は正直だった。どうしたらいいのか、私にはまだ分かりません。 「僕」たちはゆっくりと距離を置いて、関係を確かめ合っていた。今まで無理をしていたことはお互いに分かっていた。そんな関係が続くはずがなかった。でも、この先に待っているのがどんな関係なのか「僕」にはまるで分からなかった。 春になって授業がまた始まった。「僕」は今まで通り大学に通った。この春一番の変化は、ステラの周囲にひとがいるようになったことだった。以前ステラを評して云々していたクラスメイトによると、プレッシャーがなくなった、とのことだった。なんで今まで避けてたんだろうな、と彼は言った。知るか、と「僕」は答えた。 誰かがステラに、「僕」とつきあってるのかと聞いた。ステラは「僕」の目を見てから、そういうことは彼に聞いてください、と笑顔で答えた。今までのステラからは考えられない受け答えだった。 家族に会ってもらえませんか、と頼まれたのは、桜も散ってゴールデンウィークも終わった、気持ちよく晴れた五月だった。星を見に行ったときの約束を「僕」は思い出した。あれから四年か、と「僕」は思った。人間が変わるには十分な時間だろう。 案内されたのは学生用のワンルームマンションが建ち並ぶ一角だった。部屋の鍵を開けると、狭い玄関には男物の靴が一足だけ置いてあった。晶、とステラは部屋の中に声をかけた。 出てきたのは、黒い瞳に黒い髪の、でもどこかステラと似たところのある男の子だった。年齢は「僕」よりも少し幼いくらいだろう。彼はぺこりと頭を下げて、一歩「僕」のために場所を空けてくれた。 弟さんですか、それとも恋人さんですか、と「僕」は聞いた。ホームドラマみたいな家族が出てくる予想とはずいぶん違った。大切な家族です、とステラは答えた。 彼は言葉がしゃべれなかった。でも、ステラは何も気にしていなかった。「僕」は彼の目を見たけれど、やっぱり何を考えているのかは分からなかった。ステラの家族だというだけのことはある。 買ってきた和菓子を床に座って三人で食べた。部屋の中は典型的なワンルームだった。でも、本棚もテレビもなく、スチール組みの二段ベッドだけが部屋の中で存在感を示していた。寝るだけの場所ですから、とステラ。 ステラと晶は、姉弟というには仲がよすぎるように見えた。表情と簡単な動作だけで、「僕」とステラが言葉を交わす以上のことを伝え合っていた。異国で身寄りもないと、家族の絆が深まるのかもしれない。でも、それだけではないかもしれない。 もし二人が恋人同士だったらどうしよう、と「僕」は思った。目を見れば他のひとたちのことなら分かる。でも、この二人に関しては「僕」には分からない。ありえるかもしれないな、と「僕」は思った。いつか「僕」はステラと離れる時が来るかもしれない。それがどんな形で来ても、たぶん「僕」には受け入れることしかできないだろう。 「いつか、あなたの家にも招待してもらえると嬉しいです」 帰り際にステラが言った。晶も頷いた。「僕」は弟のことを考えながら、機会があれば、と言った。「僕」と晶は握手をして別れた。いつかのステラのように、彼も不思議そうな顔をして、「僕」の握った手をしばらく見ていた。 弟か、と「僕」は思った。間違いなく「僕」の解決が必要な課題のひとつだった。和解をしたいとは思っていたけれど、機会はなかった。考えてみれば、もう何年顔を見ていないだろう。 最初はただの恋愛相談だった。「僕」も幼かったから、弟の目を見て、つい正直にやめておけと言ってしまった。おまえが好きなのは自分自身のことだけだ、彼女のことなんて考えてないだろう。 弟は怒って、「僕」に相談するんじゃなかった、と言った。怒るのはそれが本当のことだからだ、と「僕」は言い返した。今思うと頭を抱えたくなる。何しろ若かったから、本当のことは本当のことだと思っていたのだ。世間の誰にも言えなくても、家族くらい「僕」のことを理解してくれると思っていた。 「僕」が相手の目を見れば、弟が告白して望みがあるかどうか分かる。彼女が何を考えているか分かる。そのことは伏せて、「僕」は誰が好きなのか聞いた。近所の同級生だった。近場で充足する、ありがちな恋愛だった。「僕」はこっそり彼女を観察して、脈はないと判断した。そして弟にそう告げた。弟はまた激怒した。 弟はその後、まるで「僕」に当てつけるように、その彼女に告白してふられた。おまえのせいだ、と弟は「僕」に言った。今なら、そんなことは「僕」も絶対に言わない。でも、そのとき「僕」は弟の目を見てしまった。 おまえの劣等感をぶつけられても困るんだよ、と「僕」は言った。彼女ができたら「僕」より優位に立てると思ったのか、と。そんなつもりで告白されても彼女だって迷惑だろう。自分のことしか考えられない男に、他人とつきあう資格はない。 弟は、刺すような目で「僕」を睨んでいた。だから「僕」は、彼の心の奥底まできれいに見て取ることができた。彼のコンプレックスにまみれた、まだ柔らかく傷つきやすい繊細な心。「僕」は正論という形の暴言で、それを土足で踏みにじった。 おまえに何が分かる、と彼が言ったときには、もう彼の心はずたずただった。分かるんだよ、と「僕」は言った。「僕」は目を見れば、誰が何を考えているのか分かるんだ、と。 なんだそれ、と言われたので「僕」は説明を繰り返した。目を見ると心が分かるんだ、と。そして具体的に弟の心で例を示してやった。何か心に思ってみろ、当ててやるから。 いつから、と彼の心が聞いていたので、「僕」はずっとだ、と答えた。本当に分かるのか、と聞いていたので、本当だろ、と答えた。ということは、と彼は心に、「僕」に知られたくないあれこれを思い浮かべて、それもばれてるのか、と思った。 そっか、そんなこと思ってたのか、と「僕」は言った。 出て行け、と声に出して彼は言った。やり過ぎたことにはもう気づいていたけれど、「僕」には止められなかった。もう今更どうすることもできない。出て行くしかなかった。 それ以来、彼は部屋から出てこない。夜中に風呂に入ったり、水を飲みに台所に来たりはしているらしい。でも、「僕」とは見事に顔を合わせなかった。 両親は「僕」を責めた。ふたりの目を見て、それは責任転嫁だと「僕」は思った。でも、今度はもう言わなかった。思ったことを口にしたらどうなるのか、犠牲者はひとりで十分だった。弟ひとり傷つければ、もう十分過ぎる。 「僕」は弟に対して、関係回復を試みることにした。母に聞くと、弟とはメールでやりとりしているという返事だった。大学の計算機センターに行って、「僕」は「僕」のアドレスから、弟にメールを送った。まどろっこしいことをしているものだとも思ったけれど、「僕」にも時間があった。たぶん家からのメールでは無視されるだろう、と思った。 最初、僕は正直に現状を弟に説明した。特に求めることは何もなかった。ただ自分を把握し直したいと思う、そのためにおまえにメールを出すだけだ。負担に思うことはなにもないし、返事も必要ない。そう書いたら、山のように長い返事が来た。「僕」に対する繰り言かと思ったら、ただ弟も弟の近況を書いてきただけだった。 「兄貴に恨みはない、とは言わないけど、そんなことはもういいんだ。兄貴が心が読めるのは本当なんだろう。残念だけど、あのとき言われたのは全部本当だ。そんなことは僕が一番分かってる。 まあね、本気で傷ついたよ? まだ怖くて人前には出たくない。これでも社会復帰は何回も試みたんだよ。僕だっていつまでも、このままだって訳にはいかないからさ」 弟は引きこもりながら、本を読んだり書いたり考えたり、何かにしがみつくように言葉の世界に生きていた。まあ退屈をする暇はなかったよ、と彼は書いてきた。ただ部屋の中で死んでいた訳ではない、それは「僕」を勇気づけてくれた。 何度も何度もやりとりをした。弟は「僕」の返事が遅いと文句を言い、書く内容がひどいと文句を言った。でも、そんなやりとりができることが「僕」は嬉しかった。 ある程度、弟と話ができるようになって、「僕」は真砂とやっていくことが可能かどうか、弟の意見を求めた。彼の回答は懐疑的だった。 「家に引きこもりの僕ひとりいるだけで、これだけ家族がメチャクチャになるんだ。 どんな彼女でも、いるだけのひとと一緒にいたらメチャクチャだよ?」 ならどうしたらいいのか、と「僕」は聞かないことにした。それはそれで弟の意見だ。どうしたらいいのか、どうしたいのか考えるのは「僕」のするべきことだった。 また冬が来ていた。寒い雨の日、「僕」は傘を差して街を歩いていた。ひとりで、行く当てもない散歩。「僕」の手には余る問題ばかりが「僕」の手の中にあった。 でも、不思議と心は穏やかだった。 もうどうなってもいいや、という気持ちが「僕」の中で育っていた。なんとかなる、でもない、なんともならなくてもいい、という穏やかなあきらめ。 雨が弱くなってきたので、「僕」は傘を閉じて、空を見上げた。あるいはこれは空の心なのかもしれないね、と思う。 見覚えのある姿を人混みにみつけた。駆け寄るのも柄じゃないし、「僕」はゆっくりと歩き始めた。そして、彼女の前で立ち止まった。 おかえり、と「僕」は言う。 ただいま、と真砂は言った。 いつかそんな出会いが来るような気がする。そのときまで「僕」はここにい続けるだろう。人々がみんな立ち去っても、みんな「僕」を忘れても。 着信音に「僕」は顔をおろして、携帯を取り出した。ディスプレイを見ずに通話ボタンを押す。この電話の先にも誰かがいて、どこかにつながっている。 「ひさしぶり」と僕は言った。
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『人が見たら飼うとは言わないだろうな』 9KB 愛で 考証 飼いゆ 現代 なんでゆっくりは、ゆっくりに合わせた飼い方ではなく、人間に合わせた飼い方をされるんだろうか。ゆ虐に都合がいいからなのかな。 D.Oさんの「anko0467 飼いゆっくりれいむ」にある、庭で自活するシーンに大きく影響を受けた作品です。 色々と試しながら書いています。 今回はゆっくりが死にません。書き終わって気づいたけどゆっくりがロクにでてない。 ───適切な飼い方の話─── 庭付きの一軒家の中、リビングを男が横切る。 手には珈琲がなみなみと入ったポットが握られていた。 リビングの中央、机の上にあるカップに珈琲を注ぎながら口を開く。 「それでAは友達つれて俺のところに来たと」 「そ。だって、Jはゆっくりに詳しいでしょ?飼い方教えてよ」 Jと呼ばれた男の前には若い女性が二人。 ソファに座った二人のうち、話しかけてきたのはJの同僚であるAだ。 Jは珈琲を注ぎ終え、彼女たちと向かい合うようにソファに腰掛けた。 「確かに俺は詳しいっちゃ詳しいが方向性が違うぞ」 「でも、飼い方も詳しいでしょ?今も飼ってるんだし」 「そりゃそうだが。まあ、頼まれたからにはやろう」 JはAを見たあと、彼女の友人に目を向ける。 「でははじめに。ゆっくりを飼ってはいけない人の条件が二つあるんです」 「なんでしょうか」 「“癒されるから飼う”という理由と“話し相手が欲しい”という理由で飼うことです」 「何故ですか?」 「期待を裏切られる事が非常に多いからです。実際に飼えばわかりますが、ゆっくりは我侭で手がかかります。他のペットとは違って話せるので、暴言をはかれて癒されるどころかストレスを貯めることもあります。また、話し相手には役不足です。賢さにしろ常識にしろ人間とは違いますからね。もし話し相手が欲しいなら、電話で話せる友達を作るなり、人と会う機会を頻繁に作るなりする方をおすすめしますよ。この点については大丈夫ですか?」 「大丈夫です。私、ゆっくりののんびりとしたところが好きで飼いたいんです」 「なるほど。なら一番いい方法があるんですが、一人暮らしでは難しいかもしれません。この飼い方にはスペースをとるので」 「部屋で放し飼いにするんじゃないの?」 「いや、違う」 Aの疑問に対し、Jは首を振る。 合点がいかないAが疑問をぶつけた。 「一頭で、食事をやったり散歩に行ったりかまってやったりするんじゃないの?」 「ハウツー本もセミナーも大抵はそう教える。だが、多くの人の飼い方は間違ってるんだ。あれでは、ゆっくりが満足出来ない」 「しっかり世話をしてるのに?」 「もし満足してるなら、野良と子供作ったり、ゲス化なんてしないさ。不満があるから何かが引き金になって爆発する。そうでない奴も多いけど、それは飼いになる奴が人間と自分の立場を理解してるから逆らわないだけだ」 「そこまで言うんだから、そうでない飼い方は知ってるんでしょうね」 「勿論。そのための条件はいるけどな」 Jは一度話を切って、カップに口をつけた。まだ熱い珈琲が口の中に広がる。 カップを戻すと、Aの友人に顔を向けた。 「失礼ですが、貴女の家に使っていない日のあたる個室はありますか?」 「はい。部屋を片方整理すればなんとか」 「なら丁度いい。ゆっくりを飼うコツをお話します。まず、飼う時は多頭飼いが好ましいです。ゆっくりにはこれが自然なので。ゆっくりは同族とコミュニケーションを取れないと、ひどくストレスを感じるのですよ」 「でも、数が多くなると態度が大きくなると聞きました」 「なのでコツが二つ有ります。一つは、餌を直接やらないこと。もう一つは、二畳程度のスペースに区切ってその中で住まわせること。これは日の当る場所だとなおいいです。ゆっくりは成体で25センチ程度なので、二畳あればかなりの広さになります」 「どうしてですか?」 「区切られたスペースの中で生活を完結させるためです。ゆっくりがつけあがる理由は何だと思いますか?簡単ですよ。“自分たちが世話を受ける、労働しなくていい特権階級だ”と認識するからです。加えて、躾に逆らうのは“自由を奪われている”と感じるからです。しかし、この方法なら解決します」 「でもそれ、どうやって飼うの?」 分かっていたといいたげに、JがAに笑みを返す。Jの言葉は続く。 「それを説明しよう。ゆっくりを買ってくる前に、作ったスペースに水皿、巣、トイレを設置する。足元にウレタンのパネルを引くとなお良い。次に、複数のゆっくりを寝ている状態で用意する。最低でも番が作れる数が好ましい。そして、寝ている間にゆっくり用に作ったスペースに置いてやる。起きたあとは『その中はあなたたちのゆっくりプレイスだよ』と言ってやるだけでいい。後は勝手に生活してくれる」 「餌をやるときはどうするんですか?」 「ゆっくりが寝静まったあとで、生活スペースに必要な分の餌をばらまくんです。巣からある程度遠ざかった場所にまくといいですね。そうすれば、後でゆっくりが勝手に拾い集めます」 「もし足りないといったら?」 「無視するか適当に相槌をうってください。理由は後で説明するので。水の追加やトイレの世話もこの時にやってください。おもちゃを与えたい場合もこの時にお願いします。もし心配なら、専門店でラムネスプレーを買ってきて作業前に使うと確実です。ラムネはゆっくりにとって強烈な睡眠薬になります」 「躾はどうするんですか?」 「基本的には必要ありません。ただ、トイレ以外で用を足していたときは、トイレを指して『ここですればゆっくりできるんじゃないの?』と教えてあげるとそこでします」 「他にやることはないの?」 「無いよ。それだけ。後は気が向いたら会いに行って、『一緒にゆっくりしていい?』と聞いて承諾を得られたらスキンシップが取れる。但し、出来ればゆっくりの居住スペース内ですること。この飼い方で重要なのは、飼い主が何かやったという痕跡を絶対に残さないことだ」 「なんかそれ、飼うって言えるの?」 これは飼うというより、観察するという方が正しいかもしれない。多くの人は、これを飼うとは言わないだろう。 頷いてJが返す。 「人が見たら飼うとは言わないだろうな。飼い主がやるのは、ゆっくりが本来の生活をするための環境作りだ。10時頃に起きて、狩りをして食べ物を集めて、午後は家族や友達とゆっくりして、暗くなったら家に帰ってゆっくりして寝る。そしてまた明日同じように生きる。これをやらせてるためにね。さっき、餌の追加はしないといったのはこれが理由だ。自然じゃそんな親切なことはしてくれないからな」 「ゆっくりが本来している生活を再現したってことね」 「そういうこと。これは全部、飼い主のことを“自分たちに何かしてくれる人”とゆっくりに認識させないためだ。この認識が、飼い主とゆっくりの間に起きる問題の大元だ。しかし、この飼い方なら餌をとるのも子供を作るのも自己責任になる。無計画に子供を作れば食料が足りなくなるが、飼い主に文句は言えないし、たかることも出来ない。飼い主側は餌の量で個体数の調整も出来る。飼い殺し状態ではあるがゆっくりに分からないようやっているから、スキンシップを取ることは可能だ。好意的に接すれば、拒まれることはまずない。元々は純朴な奴らだからな」 「でもさ、一番の問題があると思うの。ペットショップで買うにしても、野良を拾うにしても、そんな生活してくれるゆっくり居ないんじゃない?」 ペットショップに居るゆっくりは、金バッチも処分品も人に飼われるために自分たちはいると考えている。 多くが元飼いゆっくりの成れの果てである野良も、“飼いゆっくりはゆっくりさせてもらえる”“飼いゆっくりは奴隷が持てる”といった考えを持つものが大半だ。 いきなり居住空間を与えられて、この中で自活しろと言っても拒否するだろう。 「流石にゲスは無理だが、それ以外はそうでもないぞ。最初は嫌がるかもしれないが一週間もすれば慣れる。なにせ気楽だからな。バッチ試験で叩き込まれた人間のルールは守る必要が一切ない。番はいるし、餌も自分がとってきた分を好きなように食べられる。居住スペースをどうこうしようと飼い主は何も言わない。飼いゆっくりが一番守れない約束の子作り禁止だってされてないから、好きに子供を作っていい。ただ、やっぱり銅や処分品、冷凍販売されてる飼育用ゆっくりのほうがいいかもしれないな。難しく考えたりしないから」 「そんなものなの?」 「10組ほどこの方法で飼育してみたけど、問題はなかったよ。むしろのびのびしてた。この方法は悪くないけど」 「けど?」 Jがやおら立ち上がる。 そのまま窓際まで歩いてゆき、足元まである窓に手をかける。 「環境を再現するとして、やっぱり一番いいのはこれだな」 Jが笑みを浮かべながら窓を開ける。 そこは庭だった。都会にある家としては少し広い。端の方にはゆっくり用の家が三つと、埋められた金ダライと、用をたす為の穴。 庭の中央では、ゆっくりたちが思い思いにゆっくりしていた。 まりさが遊びたがる赤ゆっくり達の相手を、ありすはゆうかと一緒に花壇の世話をしている。 れいむはぱちゅりーと、まりさについていない子供たちの相手をしていた。 少し眺めていると、それぞれがやっていることをやめて、れいむの近くに集まっていく。 れいむを囲むように扇状に集まると、れいむが声量を押さえて調子外れな歌を始めた。 それにあわせ、ゆっくりたちが笑顔で揺れる。 「入るときに見ましたけど、すごいですね」 「私がこいつらにやったのは住む場所だけです。他には何もやっていません。この庭の中で自給自足しています。この庭に生える雑草や、ゆうかが指示して作っている植物だけでね」 「よくここまでできたね」 「俺は何もやってない、やったのはこいつらだ。こいつらは俺を頼らず、俺も極力頼らせない。そして、お互い良き隣人として付き合っている。押し付けるよりも、こういうほうがお互いうまくいくもんだよ」 ● 後日、Aの友人は処分されかけていたまりさとれいむの子持ち番を格安で買取り、Jのやり方で飼い始めた。 最初はごたごたしたものの、飼い始めて一ヶ月すると良い形に落ち着いたという。 飼う飼われるは誰かが勝手に決めたことで、飼われる側にとって本来は不自然なもの。 飼う側のルールを押し付けられ、死にはしないものの不自由を強いられる。 飼うルールがあったほうがいいのか、それとも野放図にしたほうがいいのか。 ストレスと欲の誘惑に弱いゆっくりたち。彼女らの場合は、好きにさせておいたほうがお互いによいのかもしれない。 ○ こーでぃねーとで部屋が荒れたとか、飼い主に向かって餌をよこせくそじじいと言ったりだとか、野良と子供つくってれいむのだ~りんだよゆゆ~ん!って言ったりだとか、なんで起こるんだろうと考えた結果こうなりました。サブタイトルが「適切な飼い方の話」になっていますが、この飼い方でも穴はたくさんあると思います。ただ、「管理者」から「隣人」になれば、飼い主の負担はかなり減るんじゃないかと。 説明シーンが多いのが凄い気になります。それと、地の文の存在感が薄すぎる。動きのない話だったことが原因かもしれませんね。このあたりの改善が次回以降の課題です。 投稿済み作品 anko2549 箱庭のゆっくり