約 1,876 件
https://w.atwiki.jp/deruze/pages/442.html
『澱み』 その空間に充満していたのは、眩しい程に白い、ただ白い、濃霧だった。 朧気で、漠然としていて、まるで、存在そのものが霧であるかの様に、不安定で、流動的な空間。 そんな空間の中空に、数多の感情があった。 今や決して誰の心にも届かぬ感情が、誰にも干渉する事の出来ぬ感情が、そこにはあった。 それは、未練であり。それは、苦痛であり。それは、絶望であり。 そこでは様々な負の感情が、渦巻き、ひしめき合い、混ざり合い。 一つの巨大な『澱み』と成り果てていた。 呼ばれし者――――恐怖から逃れようと必死に逃げ惑った者の末路。 誰かを護り抜こうと命を賭して抗った者。 訳の解らぬ内に唐突で理不尽な暴力に晒された者。 このサイレントヒルで命を落とした彼等は、ただ一人の例外もなくこの濃霧の中に集められていた。 彼等はもう、何もする事は無い。 彼等はもう、何も考える事は無い。 彼等は、他の数多の感情と混ざり、ただ流れに身を任せるだけの存在だ。 その『澱み』の中には、日野貞夫の感情もあった。 ほんの幽かに残る「日野貞夫」としての意識。 幾度となく復活と死を繰り返す彼には、最早逸島チサトの様な猶予は与えられず。 気が付けば、彼はまたしてもその中にいた。 そこで彼は、自らの臓腑の中で成す術もなく転がり続ける岩下明美の惨めさを感じた。 確かに自らが殺した筈の女に切り刻まれ無惨な姿に変貌していく風間望の恐怖を感じた。 名も知らぬ筈の者達の死の際の絶望を、あたかも自身がその者であったかの様に感じていた。 それは、日野だけではない。『澱み』に集められた全ての者が等しく苛まれていた事。 他の者の感情が流れ込む。絶望に感情が蝕まれていく。 『澱み』の中で、一人一人の負の感情が、相乗的に増加していき、『澱み』もまた広がっていく。 やがて、その『澱み』から緩やかに立ち上るのは、白い霧だった。 『澱み』の一部は霧となり、周囲に広がり、空間と一体化するように溶け込んでいく。 そして、この空間は、いずれ――――――――――――。 『澱み』の中から、鏡石の効果によって、霧散していた精神が引き摺り出された。 他の者同様に『澱み』の一部となりかけていた日野貞夫の感情。 それが、『今のサイレントヒル』の摂理に逆らい、無理矢理に引き摺り出された。 彼の精神は、死の度に『澱み』に侵され、病んでいく。蘇る度にどこかが崩壊していく。 日野自身には、それに抗う術はない。 今更鏡石を捨てようとも、幾度も『澱み』に侵され、崩壊しかけている精神は戻らない。 その精神は、肉体へと戻る。それにも彼は抗えない。 大蛇の中で消化された筈の肉体は、大蛇の中で再生を果たした。 何処で再生するかも選べないその肉体に、日野の精神は戻っていく。 戻ると同時に、日野が知覚したのは全身を押し潰す程に強大な圧力だった。 大蛇の、トンを超える躯体の中。圧力は容赦なく日野に襲いかかる。 数秒も持たず、日野の身体は圧力に屈した。骨が潰され、内臓が潰され、全身が潰された。 己に意識が戻った事を、果たして、彼は気付いていたのだろうか――――。 日野の精神は、また、『澱み』へと戻った。 次の再生まで、また、『澱み』に侵され続ける。 静寂の中で――――。 濃霧の中で――――。 【日野貞夫@学校であった怖い話 死亡×1】 ※『呼ばれし者』が死亡すると、その者の魂は『澱み』に送られます。 『呼ばれし者』以外の存在は死亡しても『澱み』に送られる事はありません。 『澱み』が何の為に存在するのか。また、投下順102話で宮田の見た幻覚と何らかの関連性があるのかは現段階では不明。後続の方にお任せします。 ※日野の肉体について ・日野の死体はヨーンの胃の中にあります。ヨーンが生き返り、肉体が活動を始めれば胃から腸へと送られます。 ・ヨーンの死んでいる間は日野の肉体は圧迫され続けているだけで動きません。 ・日野の頭痛や幻覚は精神が『澱み』に侵され続けた為のものです。復活を繰り返す度にそれは悪化していきます。 ・生き返れば、『澱み』にいる間の記憶は一切なくなります。 ※鏡石について ・鏡石の効果は、所持者の死亡直後、少なくとも数分は発動しません。発動までどのくらいの時間がかかるかは不明です。 ・鏡石が発動すれば所持者の肉体は再生しますが、完全に再生して蘇るまでは肉体、及び衣類はどの様な手段を用いても破壊する事は不可能とします。 ・鏡石を複数持つ事の副作用については不明です。澱みとは別に頭痛や幻覚があるかもしれませんし、全く副作用がないかもしれません。 ・現在鏡石は日野の鞄の中に7つ残っています。その内1つはヨーン再生の為に発動中。ヨーンが呑み込んだゾンビ3体に発動しているかは後続の方にお任せします。 【???/???/二日目黎明】 back 目次へ next 聲 時系列順・目次 譲らぬ決意 ワルタハンガ 投下順・目次 オナジモノ back キャラ追跡表 next 今日も僕は殺される 日野貞夫 死亡
https://w.atwiki.jp/anipicbook/pages/1561.html
【はたらく魔王さま! (1)】 はたらく魔王さま! (1) (初回生産仕様 和ケ原聡司書き下ろし小説(250ページ超)同梱) [DVD] はたらく魔王さま! (1) (初回生産仕様 和ケ原聡司書き下ろし小説(250ページ超)同梱) [Blu-ray] 発売日 :2013年7月3日 収録内容 ・第1話:魔王、笹塚に立つ ・第2話:勇者、仕事優先で魔王城に泊まる 【Blu-ray Disc & DVD 第1巻 仕様・特典】 ・キャラクターデザイン 碇谷敦 描き下ろしジャケット仕様 ・音声特典 第1話オーディオコメンタリー ※真奥貞夫役 逢坂良太、遊佐恵美役 日笠陽子、佐々木千穂役 東山奈央、芦屋四郎役 小野友樹 ・映像特典 ・ノンクレジット・オープニング1 ・ノンクレジット・エンディング1 ・ノンクレジット・エンディング(第2話オンエア版) ・第1話アバンタイトル・ノンクレジット版 【Blu-ray Disc & DVD 第1巻 初回生産限定仕様 仕様・特典】 ・クリアスリーブ付デジパック仕様 ・原作 和ヶ原聡司書き下ろし小説「はたらく魔王さま! 5.5巻」同梱 ・12Pカラー解説リーフレット同梱 【はたらく魔王さま! (2)】 はたらく魔王さま! (2) (初回生産仕様 ドラマCD「悪魔と勇者と女子高生 -A happy new year-」同梱) [DVD] はたらく魔王さま! (2) (初回生産仕様 ドラマCD「悪魔と勇者と女子高生 -A happy new year-」同梱) [Blu-ray] 発売日 :2013年8月7日 収録内容 ・第3話:魔王、新宿で後輩とデートする ・第4話:勇者、心の温かさに触れる 【Blu-ray Disc & DVD 第2巻 仕様・特典】 ・キャラクターデザイン 碇谷敦 描き下ろしジャケット仕様 ・音声特典 第3話オーディオコメンタリー ※真奥貞夫役:逢坂良太、遊佐恵美役:日笠陽子、佐々木千穂役:東山奈央、芦屋四郎役:小野友樹 ・映像特典 ・ノンクレジット・オープニング(第3話・第4話オンエア版) 【Blu-ray Disc & DVD 第2巻 初回生産限定仕様 仕様・特典】 ・クリアスリーブ付デジパック仕様 ・特典ドラマCD「はたらく魔王さま! 悪魔と勇者と女子高生 -A happy new year-」同梱 ※出演 真奥貞夫(CV 逢坂良太)、遊佐恵美(CV 日笠陽子)、佐々木千穂(CV 東山奈央)、芦屋四郎(CV 小野友樹)、ほか ・12Pカラー解説リーフレット同梱 【はたらく魔王さま! (3)】 はたらく魔王さま! (3) (初回生産仕様 スペシャルイベント応募券A同梱) [DVD] はたらく魔王さま! (3) (初回生産仕様 スペシャルイベント応募券A同梱) [Blu-ray] 発売日 :2013年9月4日 収録内容 ・第5話:魔王と勇者、笹塚を救う ・第6話:魔王、学校の階段を昇る 【Blu-ray Disc & DVD 第3巻 仕様・特典】 ・キャラクターデザイン 碇谷敦 描き下ろしジャケット仕様 ・音声特典 第5話オーディオコメンタリー ※真奥貞夫役:逢坂良太、遊佐恵美役:日笠陽子、佐々木千穂役:東山奈央、芦屋四郎役:小野友樹、悪魔大元帥ルシフェル役:下野 紘 ・映像特典 ・ノンクレジット・オープニング② ・ノンクレジット・オープニング③ ・ノンクレジット・エンディング② 【Blu-ray Disc & DVD 第3巻 初回生産限定仕様 仕様・特典】 ・クリアスリーブ付デジパック仕様 ・スペシャルイベント応募券A同梱 ・12Pカラー解説リーフレット同梱 【はたらく魔王さま! (4)】 はたらく魔王さま! (4) (初回生産仕様 スペシャルイベント応募券B同梱) [DVD] はたらく魔王さま! (4) (初回生産仕様 スペシャルイベント応募券B同梱) [Blu-ray] 発売日 :2013年10月2日 収録内容 ・第7話:魔王、近所付き合いで家計を助けられる ・第8話:勇者、修羅場に突入する 【Blu-ray Disc & DVD 第4巻 仕様・特典】 ・キャラクターデザイン 碇谷敦 描き下ろしジャケット仕様 ・音声特典 第7話オーディオコメンタリー ※真奥貞夫役:逢坂良太、芦屋四郎役:小野友樹、漆原半蔵役:下野 紘 ・映像特典 ・PV ・CM集① 【Blu-ray Disc & DVD 第4巻 初回生産限定仕様 仕様・特典】 ・クリアスリーブ付デジパック仕様 ・スペシャルイベント応募券B同梱 ・12Pカラー解説リーフレット同梱 【はたらく魔王さま! (5)】 はたらく魔王さま! (5) (初回生産仕様 029描き下ろし全巻収納BOX同梱) [DVD] はたらく魔王さま! (5) (初回生産仕様 029描き下ろし全巻収納BOX同梱) [Blu-ray] 発売日 :2013年11月6日 収録内容 ・第9話:勇者、修羅場を経験する ・第10話:魔王と勇者、いつもと違った日常を過ごす 【特典】 【はたらく魔王さま! (6)】 はたらく魔王さま! (6) (初回生産仕様 和ヶ原聡司書き下ろし小説同梱) [DVD] はたらく魔王さま! (6) (初回生産仕様 和ヶ原聡司書き下ろし小説同梱) [Blu-ray] 発売日 :2013年12月4日 収録内容 ・第11話:勇者、己の信念を貫く ・第12話:魔王、己の職責を果たす ・第13話:魔王と勇者、真っ当に仕事に励む 【特典】
https://w.atwiki.jp/deruze/pages/152.html
◆WYGPiuknm2 話数 タイトル 登場人物 020 少年は見た! 風間望、ロビー 022 見ぃつけた 牧野慶、闇人 026 笑う死神 日野貞夫 041 When? Where? Why? ジェニファー・シンプソン 054 彷徨える大罪 鷹野三四、ガナード 062 堕辰子様に叱られるから 八尾比沙子 068 クローズアップ殺人鬼 エドワード(シザーマン)、バブルヘッドナース、怨霊 073 罪物語‐ツミモノガタリ‐罰物語‐バツモノガタリ‐ 宮田司郎、牧野慶、神代美耶子、ジム・チャップマン、風間望、ハリー・メイソン、園崎詩音、闇人、レッドピラミッドシング 089 せめて一度くらい、幸せな夢を見させて 人形、レッドピラミッドシング、羽入 100 噛み合わない「世界」 レオン・S・ケネディ、鷹野三四 登場回数 二回 牧野慶、風間望、鷹野三四 一回 宮田司郎、八尾比沙子、神代美耶子、日野貞夫、園崎詩音 ハリー・メイソン、レオン・S・ケネディ、ジム・チャップマン ジェニファー・シンプソン、エドワード(シザーマン) 難しいパートを手掛ける書き手さん。伏線の取捨選択と活かし方が光る。 -- 名無しさん (2011-01-22 17 31 36) クリーチャーの不気味さやキャラクターの不安気な心理の描写が巧みな書き手さん。 -- 名無しさん (2011-01-24 00 42 37) エイプリルフールネタの企画はこの御方! -- 名無しさん (2012-04-14 09 56 44) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/014ssoxt/pages/93.html
目次 概要 収録曲 クレジットAct! Addict! Actors! 配信情報iTunes Apple Music Spotify Amazon Music mora mora ハイレゾ 商品リンク 概要 『Act! Addict! Actors!』は2020年2月5日に発売されたA3!のシングル。レーベルはポニーキャニオン。 A3ders!の「Act! Addict! Actors!」はTVアニメ「A3!」SEASON SPRING SUMMERのOP主題歌に使用された。 2019年12月4日に亡くなられた山内"masshoi"優さんが、大石昌良さんの楽曲でドラムを担当した最後の曲となっている。同日発売の「異世界ショータイム」も同様であり、レコーディング的にどちらが最後であったかは公言されていない。 masshoiさんは大石昌良さんの楽曲では君じゃなきゃダメみたいをはじめとし、ようこそジャパリパークへやオトモダチフィルム、UNIONなど多くの楽曲でドラムを叩いており、ワンマンライブでも多々参加されていた。 収録曲 1. Act! Addict! Actors! 歌:A3ders![佐久間咲也、皇天馬、摂津万里、月岡紬(CV:酒井広大、江口拓也、沢城千春、田丸篤志)] 作詞:大石昌良 作曲:大石昌良 編曲:大石昌良 2. Act! Addict! Actors!(佐久間咲也Ver.) 歌:佐久間咲也 作詞:大石昌良 作曲:大石昌良 編曲:大石昌良 3. Act! Addict! Actors!(皇 天馬Ver.) 歌:皇 天馬 作詞:大石昌良 作曲:大石昌良 編曲:大石昌良 4. Act! Addict! Actors!(摂津万里Ver.) 歌:摂津万里 作詞:大石昌良 作曲:大石昌良 編曲:大石昌良 5. Act! Addict! Actors!(月岡 紬Ver.) 歌:月岡 紬 作詞:大石昌良 作曲:大石昌良 編曲:大石昌良 6. Act! Addict! Actors!(Instrumental) 作曲:大石昌良 編曲:大石昌良 クレジット Act! Addict! Actors! Chorus, Guitars, All Other Instruments Programming: 大石昌良 Chorus: オーイシマサヨシ Drums: 山内"masshoi"優 Bass: 工藤 嶺(F.M.F) Guitar: 奈良悠樹(F.M.F) Recorded Mixed by 井野健太郎(F.M.F) Recorded by 比留間泰生 Recorded at SOUND INN PONYCANYON代々木スタジオ Mixed at TUNE Studio Sound product management by 谷原 亮(F.M.F) Mastering Engineer: 多田雄太(PONY CANYON) Producer: 岡本真梨子(PONY CANYON) 薮 遥花(PONY CANYON) 沖田多久磨(リベル・エンタテインメント) Executive Producer: 笹木孝弘(PONY CANYON) 大島 靖(PONY CANYON) 林田浩太郎(リベル・エンタテインメント) 配信情報 iTunes Apple Music Spotify Amazon Music mora mora ハイレゾ 商品リンク ・Act! Addict! Actors!
https://w.atwiki.jp/ekidash/pages/3382.html
なかうら 東日本旅客鉄道 新潟県新発田市下飯塚 JR羽越本線 月岡←→新発田
https://w.atwiki.jp/assault_lily/pages/682.html
天羽々斬 CHARM 世代 形式番号 正式名称 開発企業 機能 アーセナル 使用者 月岡椛[特別開発ユニーク機](*1) 登場作品 デザイナー 解説
https://w.atwiki.jp/sousakurobo/pages/504.html
この物語はどのような物語だと言えるのだろうか? 一人の男の戦いの物語。 是。 これは苦難に満ちた男の戦いの物語である。 一人の男の復讐の物語。 是。 これは復讐以外の何物でも無い物語である。 一人の男の後悔の物語。 是。 これは後悔に満ちた物語である。 だが、そのどれもがこの物語の全てを抱くにたる言葉では無い。 もし、この物語がどのような物語かというならば、こう称するのが一番だと言えるだろう。 この物語は自分が間違っているのだと知った上で、それでもその歩みを止める事が出来なかった男の物語なのである。 だから、この物語は王道では無い、王道とは正しき道を行く物語であるのだから…。 それでは皆様、CRの第二幕「悪夢」の始まりでございます。 また、長い時の間、皆さまにお付き合い願う事になりますが、何卒、ご容赦願えると幸いです。 CR ―code revegion― 第二章「悪夢」 SIDE A 「っ―――。」 白い天井。 それが秋常譲二が目蓋を開いて見た最初の光景だった。 それは知らない天井。 譲二がいつも目にしている灰色の天井ではなく白い天井。 譲二は自分の体を見渡す。 一つのベッドに寝ている自分の体には医療用の管が刺されている。 譲二は少しずつ覚醒していく意識の中で、自分がいま何処にいるのかを理解し始めた。 つまりは自分は助かったという事だ。 あの戦いの中、勝手な妄念に囚われ独断先行し、結果、足を引っ張り、それでも生き残った。 天狼との戦いの後、薄れた意識の中でもシャーリー・時峰の断末魔は耳に残っていた。 おそらくは、あの戦いで仲間が死んだのだ。 シャーリー・時峰は秋常譲二が知る限り冷静沈着な人間だ。 とある一例を除けばどんな逆境に置かれても、冷静かつ適格な判断をする。 その人間が唯一取り乱す瞬間は仲間が死んだ時に他ならない。 何故、他の仲間が死んで自分が生き残っているのだろう。 まだ、モヤのかかった意識の中で、秋常譲二は自らを悔い責めた。 彼らは自分のようなどうしようもない欠陥者と違って、その数万倍も素晴らしい人間であったのというのに…。 一体、何人あの後、生き残ったのだろうか…。 そんな、後悔の念に譲二が囚われていた時、声が聞こえた。 「へぇ、狙ったわけでは無かったんだけれど、これは本当に運命的な出会いなのかもね、ちょっと楽しみであえて『見』なかったのは正解だったかな。」 ソプラノ調の高い声。少なくとも秋常譲二の記憶の中には無い声。 譲二はその声が発せられた方へ顔を向ける。 「眠りの王子さまはお姫様のキスを受けて眠りから目を覚ます、確かこんな物語があったよね。シンデレラだったかな。」 笑いを含みつつ、そう例える黒いスーツ姿の女がそこにいた。 「いや、違うと思います、確か眠りのお姫様が王子のキスで目を覚ますという話ですね。あとシンデレラではなくそれは眠れる森の美女では無いと思います…シンデレラはガラスの靴の話です。」 譲二は全身の気だるさと自分の唇が濡れているのに違和感を感じながら、そう応対する。 自分がなぜ『ここ』いるのか、大体の予想は付いている。 おそらく自分は責任追及を待つ身なのだろう。命令違反を犯した自分には当然の処置だと思える。 だが、何故、『ここ』にこの女がいるのか、譲二にはわからなかった。 「ああ、そうだったっけ?童話はあまり詳しくないからなぁ、ふーむ、やはりこういう例えは人前で恥かくだけだから言うべきじゃないかなぁ。」 くすりと女は笑う。 直接的な面識があったわけではないがこうやって見ると、外見通り10代後半という年齢相応の女性に見えるなと譲二は思った。 だが、譲二には彼女がいわゆる普通の女性とは違う領域にいる人間だという事を知っている。 だから、譲二はこう尋ねる事にした。 「それにしても何故、あなたが『ここ』にいるのですか?」 そう尋ねた譲二に少し驚いたような顔をし、少し溜息をついた後スーツ姿の女性は答えた。 「ふむ、どう見ても君より年下の私に対して敬語を使っている辺り、私の正体はばれてしまっているのかなぁ、ちょっと残念、男装して付け髭でも付けてこればよかったか…。」 譲二はゆっくりとベッドから上半身を上げる、その際に脇腹に痛みが走った。 その痛みは譲二が今、どのような状況にあるかを強く認識させる。 「いや、流石にそれはどうかと思います、それに貴女ほどの有名人を知らない人なんてこの世界には数える程ですよ、第六機関の統括者セレーネ・リア・ファルシル代表。」 スーツ姿の女性セレーネは頭に手を当てて溜息をついたあと、 「ここでは、セリアと呼んでくれ、一応、レイン・フィードのお付きという名目でお忍びで来ているから敬語も禁止だ。」 とスーツのポケットから黒いサングラスを出して譲二に見せる。 「初見の人には敬語で話すものですよ、それに、俺にばれてるようじゃ、ここの人間に全てにバレてしまっているんじゃないですか?」 「ふふ、そうでも無いよ、例えばね――」 セレーネは首の後ろを指で叩く。 「こうすると意外と見間違いだと認識しない?」 そのセレーネの口から放たれた声は先ほどのものより太くなっており、男性の声のように聞き取れる。 「それもあなたの機関の開発品ですか?」 譲二は少し呆れたようにして言った。 「そう、簡易ボイスチェンジャー、体内のナノマシンで声帯から出る音波にちょっとだけ干渉すると、こういった風に声を変えたりする事が出来るわけ、ウチの機関のナノマシン研究で作られた玩具だね。 自分の喉からいつもと違う声が出るから使うと違和感が凄いんだけれど…。」 第六機関の統治領域は工業が盛んな地区である。 元々豊富な資源を元に様々な機械を開発し輸出していたが、とある時から頼りにしていた資源が枯渇するという問題に直面する事になった。 それを一人で立て直したのがこの若干、24歳の女性、セレーネ・リア・ファルシルなのである。 彼女の行った事はジャンク集めである、とにかく各機関からとにかくスクラップを買い漁ったのだ。 つまりはスクラップ品の再加工する事で統治地区を立て直そうとしたのである。 だが、かつてのように大型の機械を大量に生産するにたる程のものは集まらなかった。 そこで彼女はそれらを丁寧にクレンジングを行い、超小型の機械の開発へと転用する、つまりはナノマシンである。 元より開発力は高い機関であったが、それまで主軸であった大型機械から技術の転用が出来る部分も少なく、もはやナノマシン開発を軸にするという方針転換は大博打という程のものであったが、彼女はそれをたった3年で終わらせてしまった。 それも他の機関を追随を許さない程、高品質なモノを作り上げて、今や、世界に出回っている医療用ナノマシン等のナノマシンは全て第六機関のものなのである。 その改革を立案した大学を出たての彼女は当時は轟々たる非難の中に晒されたが、彼女は謎の資金源を使い反対意見の口を強引に封じ、推し進め、そして結果を残した。 そしてその大業を成し得た、年端もいかぬ女は『鉄の処女』と呼んだ。そうして絶大な支持を得て、今や彼女は第六機関の代表となっている。 さて、そんな世界的な常識は置いておいて問題なのはここからだ。 そんな世界政府中枢レベルの要人が自分のような人間に一体何の用だというのだろうか…。 「なんかとんでもない変装グッズですね、その内、貴方の機関のウリがさらなる成長を遂げると完全な別人に変身する事も可能になる気がします。」 「それも面白いんだけど、あんまり身体に干渉するモノ作っちゃうと大御所様の法に触れちゃうから、まあ、この程度が限界という感じかな。」 セレーネは幸せそうな顔で譲二の顔を見つめる。譲二にはそれが非常に気持ち悪く感じた。 「ところで――なんであなたはここにいるんですか?」 譲二は先ほどからずっと思っていた言葉を吐きだす。 所詮、今の自分はイーグルに所属する鋼機乗りでしか無い。それも、他の常軌を逸した能力を持つ鋼機乗り達と違い欠陥品だのといった評価されているような代物をシャーリー・時峰に拾ってもらったに過ぎないのだ。 そんな男に一体何のようだというのだろうか…。 「ああ、そうか本題だね、君、今は鋼機の操縦やってるらしいけれど、その前は鋼機の開発やってたんだろう?」 「ええ、正確には鋼機の操縦者で軍に入って訓練受けてたんですが、適正無しって事で放りだされて、その後、恩人の誘いもあって鋼機の開発に携わる事になりました。まあ、それから色々あって鋼機の操縦者になったんですが――」 「ああ、大丈夫、君の経歴は熟知している。君があのディールダイン式の考案者である事もね。」 それを聞いて譲二は彼女が何を目的に自分の所に来たのか得心がいった。 「なるほど、アレ目当てで自分に接触してきたという事ですか、確かに考えたのは俺ですが俺は所詮アイディアを出したに過ぎずあれの本当の功労者は琴峰礼夢(ことみね れむ)ですよ。」 「ああ、例の琴峰研究所の出身者の事か、でも彼女は確か、S-21の完成間近に…。」 「ええ、ディールダインの暴走事故で死にました…。」 ふむ、とセレーネは頷く。 「確かに惜しい人を亡くしたんだろうね、でもね、秋常譲二、もし私が君を訪ねたのがディールダインに対する知識が欲しいからだと考えているのなら、それは見当違いというものだと思う、私はね、秋常譲二、君の全てが目的でやってきているんだよ。」 あまりにも漠然とした答えに譲二は一瞬、何を指して言っているのか理解する事が出来なかった。 「ああ、ちょっとわかりにくいか、君の鋼機開発者としての能力、君の鋼機操縦者としての能力、君という人間の持つ血、君の成した成果、それら全てが私、 正確に言うと私たちなんだけれど、その目的の為に必要なんだ、つまりはね、秋常譲二、君、英雄になってみる気はない?」 イーグル総司令、秋常貞夫はイーグル本部の離れにある鋼機格納庫の中にいた。ここ連日司令部に入り浸りぱなしだった貞夫はやっとの事で狭苦しい司令部から抜け出せたが、無数の鋼機が格納されているここは今度は広すぎて落ち着かない。 気分が落ち着かない時はとにかく煙草を吸うのが、秋常貞夫の常であったが、そろそろ禁煙を始めなくてはという突発的衝動に駆られ煙草を吸うのを止めた。 それを聞いた、副官である琴峰雫(ことみね しずく)には「また、始めるんですか?どうせ3日も持たないと思いますが、まあ、応援してますよ。」等と呆れ顔に皮肉を言われ、そんな事を言った琴峰雫をギャフンと言わせてやろうと今度こそは止めると奮起しているのだ。 その呼吸がいけなかったと貞夫は思う。 その一挙一動が余りにも煙草の吸って吐くという挙動と似てしまったのだ。 体と心が煙草を思い出し、煙草を欲し始めている。 ああ、30分前の最後の一服が忘れられない。 今度こそこれで終わりにするとして煙草との今生の別れを先ほどしてきたばかりなのだ。 あれは美味かった。 幾度も繰り返し吸った煙草だったが、この52年の人生の中であれほど美味しい煙草は 無かったかもしれない。 あの煙草をもう一度吸ってみたいと思う。 「あ、あの―――――」 しかし、自分は先ほど琴峰雫にあれほど大見得切って、煙草を止めると言ったのでは無かっただろうか? ああ、そうだ、ここで必要なのは鋼鉄の精神だ。 この目の前に直立している、蒼白色の鋼機のように感情を完全に殺してしまわなければならない。 「秋常司令、聞こえているのでしょうか?」 ああ、しかし、吸いたい。 一体、何時から煙草は害悪とみなされるようになったのか…。 世界が世界政府の名のもとに統一される前から既に、嫌煙活動は行われていたのだという。 だが、煙草が害だと見なされていなかった時代もあった筈なのだ。それはダンディズムを現すハードボイルドの必須アイテムであったとも聞く。 それが今では煙草を吸っているというだけで、周りからは白い目で見られ軽蔑され、社会の害虫のような扱いを受ける。 「秋常司令、あのお話したい事が――」 間違っているのは煙草を吸う愛煙家では無く、社会では無いだろうか? 煙草を悪と見定める社会、これこそがまず全ての間違いなのだ。 「――どうしました?」 「いや、秋常司令が先ほどから――」 そうだ、かつて黒峰玄武がイーグル創設時に唱えた聖句もそれを謳っている。 ―我らは気高き鷹なり― つまりは我らは例え、社会からどんなに弾圧されようとも煙草を吸い続けるものは気高 きものだと黒峰氏は応援している。 ―あらゆる厄災から弱者を守る聖者の爪を持つものなり― ふむ、深い話だ、愛煙家という社会的弱者を守るためにそれを持つ爪を持たなければならないと黒峰氏は心得を――― 「ああ、なるほど、それならば、こうしてやればいいんですよ。」 その瞬間、貞夫の顎に強烈なアッパーが叩きこまれた。 秋常貞夫と名称される個体はその体はまるで砲から発射されたロケット弾のように飛翔し、10mほどの高さまで飛びあがってから、地面に向けて頭から落下した。 「あ、あの大丈夫なんでしょうか…今、グシャッ!ってグロテスクな音がなりましたよ!どう考えてもあれ死んでますよ!!」 白衣を着た男が、地面に向けて頭から突っ込んで、そのまま体をピクピクと痙攣させている秋常譲二を見て、その原因となったアッパーを入れた女に問う。 「大丈夫ですよ、ウチの司令のニックネームはリビングデットなんてとんでもない名前なんですから、あれぐらいじゃ死にません。」 ニコリと白衣を着た男に笑顔を見せ、アッパーかました本人、秋常貞夫の直属の部下である琴峰雫は答える。 「ところで、司令に何の話だったんですか?フォード博士。」 白衣を着た男、レイン・フォード博士は少し目の前で行われた光景に怯えながらも答えた。 「え、ええ、一応こちらの方は調査が済んだので、ブラックファントムの方を見せてもらえないかと思ったのですが――」 「了解しました、確認しますが中身の方のみになりますがよろしいですか?」 「はい、それで構いません。私の専門はナノマシンですからね、鋼機の事はそちらの機関の方々のが詳し―――ひぃっ!」 フォード博士は琴峰雫の背後に現れたそれを見て心底怯えた声を出した。 「こ~と~み~ね~く~ん~。」 その怨霊が人を祟るような声を発した頭から血を流した50前半の男性は琴峰雫の背後から肩に手をかけていた。 この瞬間をフィルムに抑えたならば心霊写真として投稿しても問題無く受け入れられただろう。 雫はくるりと背後に体を回して、怨霊と化した秋常貞夫と向き合い、ニコっと笑う。 その光景を目の当たりにしてフォード博士は体を震わせて怯える。 「どうしました、司令、ちょっとは頭から煙草の二文字が消えましたか?良い薬になったでしょう?」 「あ~の~な~だからといって、上司にアッパーカットかます部下がどこにいるか!」 「ここにいます。」 「さらりと言うな!!」 「事実ですので、さらりとあっさりと言わせて貰いました。お望みでしたら今度はそのテンプル目がけてコークスクリューをお見舞いします、きっと視界が光に包まれて、その先で川が見える所までいけると思いますよ。 そこには舟があると思うのでそれに乗るときっと煙草の事など永遠に忘れられる楽園に――」 「それ三途の川ですよね?暗に殺すぞ、コラッ!て上司脅してますよね?」 そう、狼狽気味に問い返す貞夫の肩に手を置いて雫は優しく微笑んで言った。 「じゃあ、どうして欲しいんですか?このボケ司令が!!私が煙草止めるって聞いたのほんの1時間前だった筈なのですが…なのになんでそんな雑念にもう囚われてるんしょうねぇ、ふふふ…。」 本来、女性が発するようなものでは無い脅迫的な威圧感ある声と仏のような笑顔で雫は自分の上司の否を責める。 この空間がもし、大気を震わせる事によって音を伝える事が出来ない特別な場所であったならば、この光景は人の目にはさぞかし微笑ましい光景に映っただろう。 だが、発せられた言葉と声質とその光景が本来、指し示すべき矛盾は決してこの世にあらざる世界をそこに作り上げていた。 あくまで笑顔で優しくドスの効いた声で罵詈雑言を上司に向けて投げかける副官。 その光景を間近で見ていたフォード博士があやうく失禁しかけそうになるほどの恐怖に満ちた世界がそこにあった。 貞夫は部下の怒りの恐怖に足をガタガタと震わせて、 「いや、本当にすいません、自分が間違っていました。琴峰くんが正しい、うん、間違いない。はーはっはっ。」 と明後日の方向を向いて笑い始める始末だ。 そうして少したった後、雫はため息を付く。 「九条さんからあたしの留守の間、司令の面倒を見ろと任されている身ですので、これ以上なにかイーグル総司令として相応しくない行動をおとりになると 『九条式よくわかる秋常貞夫のボコり方』を参考に少々手荒な手法を用いてその捻くれまくった性根を矯正させて頂きますので、ご容赦ください。」 雫はスーツから1つのメモ帳を取り出し貞夫に見せた。 「――少々、てか何故にそこまで限定してるんだ、それ?」 「九条さんからこれがあれば貞夫の坊やなんて楽勝!と親指立てて渡されました、それにこれでもまだ手加減している方なのですよ、本当にこの書に従うのならば火あぶりにでも――」 「あーあーあー、わかった、わかったそれ以上言わないでくれ、想像するだけでも恐ろしい…。」 琴峰雫ならば本当にやりかねないと思わせる凄身がそこにはあった。 「と、ところでフォード博士、私に何か用事があったようだが何んだったのかね?」 とにかく、貞夫は話題を逸らそうと必死にフォード博士に話題を振る。 フォード博士としてもこのような鬼の巣から逃げ出したいだろうし何より本題なので乗ってくると貞夫は考えたのだ。 「…………。」 フォード博士は沈黙していた。 それも白目むいて、口から泡吹いた状態で…。 「え、えっと、フォード博士?」 「僭越ながら秋常司令、フォード博士は恐怖にあてられてショックで泡吹いて心停止しているのだと思われます。」 冷静に状況判断する雫。 「救護班ーー!!!!!」 イーグル総司令の秋常貞夫の普段は聞けないような心底、慌てた声がそこに響いた。 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) + ... 名前
https://w.atwiki.jp/kotokoto2/pages/503.html
所在地新潟県新発田市下飯塚 開業日1953/7/1 接続路線羽越本線 隣接駅月岡(羽越本線:新津方面) 新発田(羽越本線:秋田方面) 訪問日2002/4/27 戻る
https://w.atwiki.jp/ruzeru/pages/158.html
2006年3回新潟2日(8/13) 9R おけさ特別 10R 月岡温泉特別 11R 北陸ステークス
https://w.atwiki.jp/sousakurobo/pages/531.html
この物語はどのような物語だと言えるのだろうか? 一人の男の戦いの物語。 是。 これは苦難に満ちた男の戦いの物語である。 一人の男の復讐の物語。 是。 これは復讐以外の何物でも無い物語である。 一人の男の後悔の物語。 是。 これは後悔に満ちた物語である。 だが、そのどれもがこの物語の全てを抱くにたる言葉では無い。 もし、この物語がどのような物語かというならば、こう称するのが一番だと言えるだろう。 この物語は自分が間違っているのだと知った上で、それでもその歩みを止める事が出来なかった男の物語なのである。 だから、この物語は王道では無い、王道とは正しき道を行く物語であるのだから…。 それでは皆様、CRの第二幕「悪夢」の始まりでございます。 また、長い時の間、皆さまにお付き合い願う事になりますが、何卒、ご容赦願えると幸いです。 CR ―code revegion― 第二章「悪夢」 SIDE A 「っ―――。」 白い天井。 それが秋常譲二が目蓋を開いて見た最初の光景だった。 それは知らない天井。 譲二がいつも目にしている灰色の天井ではなく白い天井。 譲二は自分の体を見渡す。 一つのベッドに寝ている自分の体には医療用の管が刺されている。 譲二は少しずつ覚醒していく意識の中で、自分がいま何処にいるのかを理解し始めた。 つまりは自分は助かったという事だ。 あの戦いの中、勝手な妄念に囚われ独断先行し、結果、足を引っ張り、それでも生き残った。 天狼との戦いの後、薄れた意識の中でもシャーリー・時峰の断末魔は耳に残っていた。 おそらくは、あの戦いで仲間が死んだのだ。 シャーリー・時峰は秋常譲二が知る限り冷静沈着な人間だ。 とある一例を除けばどんな逆境に置かれても、冷静かつ適格な判断をする。 その人間が唯一取り乱す瞬間は仲間が死んだ時に他ならない。 何故、他の仲間が死んで自分が生き残っているのだろう。 まだ、モヤのかかった意識の中で、秋常譲二は自らを悔い責めた。 彼らは自分のようなどうしようもない欠陥者と違って、その数万倍も素晴らしい人間であったのというのに…。 一体、何人あの後、生き残ったのだろうか…。 そんな、後悔の念に譲二が囚われていた時、声が聞こえた。 「へぇ、狙ったわけでは無かったんだけれど、これは本当に運命的な出会いなのかもね、ちょっと楽しみであえて『見』なかったのは正解だったかな。」 ソプラノ調の高い声。少なくとも秋常譲二の記憶の中には無い声。 譲二はその声が発せられた方へ顔を向ける。 「眠りの王子さまはお姫様のキスを受けて眠りから目を覚ます、確かこんな物語があったよね。シンデレラだったかな。」 笑いを含みつつ、そう例える黒いスーツ姿の女がそこにいた。 「いや、違うと思います、確か眠りのお姫様が王子のキスで目を覚ますという話ですね。あとシンデレラではなくそれは眠れる森の美女では無いと思います…シンデレラはガラスの靴の話です。」 譲二は全身の気だるさと自分の唇が濡れているのに違和感を感じながら、そう応対する。 自分がなぜ『ここ』いるのか、大体の予想は付いている。 おそらく自分は責任追及を待つ身なのだろう。命令違反を犯した自分には当然の処置だと思える。 だが、何故、『ここ』にこの女がいるのか、譲二にはわからなかった。 「ああ、そうだったっけ?童話はあまり詳しくないからなぁ、ふーむ、やはりこういう例えは人前で恥かくだけだから言うべきじゃないかなぁ。」 くすりと女は笑う。 直接的な面識があったわけではないがこうやって見ると、外見通り10代後半という年齢相応の女性に見えるなと譲二は思った。 だが、譲二には彼女がいわゆる普通の女性とは違う領域にいる人間だという事を知っている。 だから、譲二はこう尋ねる事にした。 「それにしても何故、あなたが『ここ』にいるのですか?」 そう尋ねた譲二に少し驚いたような顔をし、少し溜息をついた後スーツ姿の女性は答えた。 「ふむ、どう見ても君より年下の私に対して敬語を使っている辺り、私の正体はばれてしまっているのかなぁ、ちょっと残念、男装して付け髭でも付けてこればよかったか…。」 譲二はゆっくりとベッドから上半身を上げる、その際に脇腹に痛みが走った。 その痛みは譲二が今、どのような状況にあるかを強く認識させる。 「いや、流石にそれはどうかと思います、それに貴女ほどの有名人を知らない人なんてこの世界には数える程ですよ、第六機関の統括者セレーネ・リア・ファルシル代表。」 スーツ姿の女性セレーネは頭に手を当てて溜息をついたあと、 「ここでは、セリアと呼んでくれ、一応、レイン・フィードのお付きという名目でお忍びで来ているから敬語も禁止だ。」 とスーツのポケットから黒いサングラスを出して譲二に見せる。 「初見の人には敬語で話すものですよ、それに、俺にばれてるようじゃ、ここの人間に全てにバレてしまっているんじゃないですか?」 「ふふ、そうでも無いよ、例えばね――」 セレーネは首の後ろを指で叩く。 「こうすると意外と見間違いだと認識しない?」 そのセレーネの口から放たれた声は先ほどのものより太くなっており、男性の声のように聞き取れる。 「それもあなたの機関の開発品ですか?」 譲二は少し呆れたようにして言った。 「そう、簡易ボイスチェンジャー、体内のナノマシンで声帯から出る音波にちょっとだけ干渉すると、こういった風に声を変えたりする事が出来るわけ、ウチの機関のナノマシン研究で作られた玩具だね。 自分の喉からいつもと違う声が出るから使うと違和感が凄いんだけれど…。」 第六機関の統治領域は工業が盛んな地区である。 元々豊富な資源を元に様々な機械を開発し輸出していたが、とある時から頼りにしていた資源が枯渇するという問題に直面する事になった。 それを一人で立て直したのがこの若干、24歳の女性、セレーネ・リア・ファルシルなのである。 彼女の行った事はジャンク集めである、とにかく各機関からとにかくスクラップを買い漁ったのだ。 つまりはスクラップ品の再加工する事で統治地区を立て直そうとしたのである。 だが、かつてのように大型の機械を大量に生産するにたる程のものは集まらなかった。 そこで彼女はそれらを丁寧にクレンジングを行い、超小型の機械の開発へと転用する、つまりはナノマシンである。 元より開発力は高い機関であったが、それまで主軸であった大型機械から技術の転用が出来る部分も少なく、もはやナノマシン開発を軸にするという方針転換は大博打という程のものであったが、彼女はそれをたった3年で終わらせてしまった。 それも他の機関を追随を許さない程、高品質なモノを作り上げて、今や、世界に出回っている医療用ナノマシン等のナノマシンは全て第六機関のものなのである。 その改革を立案した大学を出たての彼女は当時は轟々たる非難の中に晒されたが、彼女は謎の資金源を使い反対意見の口を強引に封じ、推し進め、そして結果を残した。 そしてその大業を成し得た、年端もいかぬ女は『鉄の処女』と呼んだ。そうして絶大な支持を得て、今や彼女は第六機関の代表となっている。 さて、そんな世界的な常識は置いておいて問題なのはここからだ。 そんな世界政府中枢レベルの要人が自分のような人間に一体何の用だというのだろうか…。 「なんかとんでもない変装グッズですね、その内、貴方の機関のウリがさらなる成長を遂げると完全な別人に変身する事も可能になる気がします。」 「それも面白いんだけど、あんまり身体に干渉するモノ作っちゃうと大御所様の法に触れちゃうから、まあ、この程度が限界という感じかな。」 セレーネは幸せそうな顔で譲二の顔を見つめる。譲二にはそれが非常に気持ち悪く感じた。 「ところで――なんであなたはここにいるんですか?」 譲二は先ほどからずっと思っていた言葉を吐きだす。 所詮、今の自分はイーグルに所属する鋼機乗りでしか無い。それも、他の常軌を逸した能力を持つ鋼機乗り達と違い欠陥品だのといった評価されているような代物をシャーリー・時峰に拾ってもらったに過ぎないのだ。 そんな男に一体何のようだというのだろうか…。 「ああ、そうか本題だね、君、今は鋼機の操縦やってるらしいけれど、その前は鋼機の開発やってたんだろう?」 「ええ、正確には鋼機の操縦者で軍に入って訓練受けてたんですが、適正無しって事で放りだされて、その後、恩人の誘いもあって鋼機の開発に携わる事になりました。まあ、それから色々あって鋼機の操縦者になったんですが――」 「ああ、大丈夫、君の経歴は熟知している。君があのディールダイン式の考案者である事もね。」 それを聞いて譲二は彼女が何を目的に自分の所に来たのか得心がいった。 「なるほど、アレ目当てで自分に接触してきたという事ですか、確かに考えたのは俺ですが俺は所詮アイディアを出したに過ぎずあれの本当の功労者は琴峰礼夢(ことみね れむ)ですよ。」 「ああ、例の琴峰研究所の出身者の事か、でも彼女は確か、S-21の完成間近に…。」 「ええ、ディールダインの暴走事故で死にました…。」 ふむ、とセレーネは頷く。 「確かに惜しい人を亡くしたんだろうね、でもね、秋常譲二、もし私が君を訪ねたのがディールダインに対する知識が欲しいからだと考えているのなら、それは見当違いというものだと思う、私はね、秋常譲二、君の全てが目的でやってきているんだよ。」 あまりにも漠然とした答えに譲二は一瞬、何を指して言っているのか理解する事が出来なかった。 「ああ、ちょっとわかりにくいか、君の鋼機開発者としての能力、君の鋼機操縦者としての能力、君という人間の持つ血、君の成した成果、それら全てが私、 正確に言うと私たちなんだけれど、その目的の為に必要なんだ、つまりはね、秋常譲二、君、英雄になってみる気はない?」 イーグル総司令、秋常貞夫はイーグル本部の離れにある鋼機格納庫の中にいた。ここ連日司令部に入り浸りぱなしだった貞夫はやっとの事で狭苦しい司令部から抜け出せたが、無数の鋼機が格納されているここは今度は広すぎて落ち着かない。 気分が落ち着かない時はとにかく煙草を吸うのが、秋常貞夫の常であったが、そろそろ禁煙を始めなくてはという突発的衝動に駆られ煙草を吸うのを止めた。 それを聞いた、副官である琴峰雫(ことみね しずく)には「また、始めるんですか?どうせ3日も持たないと思いますが、まあ、応援してますよ。」等と呆れ顔に皮肉を言われ、そんな事を言った琴峰雫をギャフンと言わせてやろうと今度こそは止めると奮起しているのだ。 その呼吸がいけなかったと貞夫は思う。 その一挙一動が余りにも煙草の吸って吐くという挙動と似てしまったのだ。 体と心が煙草を思い出し、煙草を欲し始めている。 ああ、30分前の最後の一服が忘れられない。 今度こそこれで終わりにするとして煙草との今生の別れを先ほどしてきたばかりなのだ。 あれは美味かった。 幾度も繰り返し吸った煙草だったが、この52年の人生の中であれほど美味しい煙草は 無かったかもしれない。 あの煙草をもう一度吸ってみたいと思う。 「あ、あの―――――」 しかし、自分は先ほど琴峰雫にあれほど大見得切って、煙草を止めると言ったのでは無かっただろうか? ああ、そうだ、ここで必要なのは鋼鉄の精神だ。 この目の前に直立している、蒼白色の鋼機のように感情を完全に殺してしまわなければならない。 「秋常司令、聞こえているのでしょうか?」 ああ、しかし、吸いたい。 一体、何時から煙草は害悪とみなされるようになったのか…。 世界が世界政府の名のもとに統一される前から既に、嫌煙活動は行われていたのだという。 だが、煙草が害だと見なされていなかった時代もあった筈なのだ。それはダンディズムを現すハードボイルドの必須アイテムであったとも聞く。 それが今では煙草を吸っているというだけで、周りからは白い目で見られ軽蔑され、社会の害虫のような扱いを受ける。 「秋常司令、あのお話したい事が――」 間違っているのは煙草を吸う愛煙家では無く、社会では無いだろうか? 煙草を悪と見定める社会、これこそがまず全ての間違いなのだ。 「――どうしました?」 「いや、秋常司令が先ほどから――」 そうだ、かつて黒峰玄武がイーグル創設時に唱えた聖句もそれを謳っている。 ―我らは気高き鷹なり― つまりは我らは例え、社会からどんなに弾圧されようとも煙草を吸い続けるものは気高 きものだと黒峰氏は応援している。 ―あらゆる厄災から弱者を守る聖者の爪を持つものなり― ふむ、深い話だ、愛煙家という社会的弱者を守るためにそれを持つ爪を持たなければならないと黒峰氏は心得を――― 「ああ、なるほど、それならば、こうしてやればいいんですよ。」 その瞬間、貞夫の顎に強烈なアッパーが叩きこまれた。 秋常貞夫と名称される個体はその体はまるで砲から発射されたロケット弾のように飛翔し、10mほどの高さまで飛びあがってから、地面に向けて頭から落下した。 「あ、あの大丈夫なんでしょうか…今、グシャッ!ってグロテスクな音がなりましたよ!どう考えてもあれ死んでますよ!!」 白衣を着た男が、地面に向けて頭から突っ込んで、そのまま体をピクピクと痙攣させている秋常譲二を見て、その原因となったアッパーを入れた女に問う。 「大丈夫ですよ、ウチの司令のニックネームはリビングデットなんてとんでもない名前なんですから、あれぐらいじゃ死にません。」 ニコリと白衣を着た男に笑顔を見せ、アッパーかました本人、秋常貞夫の直属の部下である琴峰雫は答える。 「ところで、司令に何の話だったんですか?フォード博士。」 白衣を着た男、レイン・フォード博士は少し目の前で行われた光景に怯えながらも答えた。 「え、ええ、一応こちらの方は調査が済んだので、ブラックファントムの方を見せてもらえないかと思ったのですが――」 「了解しました、確認しますが中身の方のみになりますがよろしいですか?」 「はい、それで構いません。私の専門はナノマシンですからね、鋼機の事はそちらの機関の方々のが詳し―――ひぃっ!」 フォード博士は琴峰雫の背後に現れたそれを見て心底怯えた声を出した。 「こ~と~み~ね~く~ん~。」 その怨霊が人を祟るような声を発した頭から血を流した50前半の男性は琴峰雫の背後から肩に手をかけていた。 この瞬間をフィルムに抑えたならば心霊写真として投稿しても問題無く受け入れられただろう。 雫はくるりと背後に体を回して、怨霊と化した秋常貞夫と向き合い、ニコっと笑う。 その光景を目の当たりにしてフォード博士は体を震わせて怯える。 「どうしました、司令、ちょっとは頭から煙草の二文字が消えましたか?良い薬になったでしょう?」 「あ~の~な~だからといって、上司にアッパーカットかます部下がどこにいるか!」 「ここにいます。」 「さらりと言うな!!」 「事実ですので、さらりとあっさりと言わせて貰いました。お望みでしたら今度はそのテンプル目がけてコークスクリューをお見舞いします、きっと視界が光に包まれて、その先で川が見える所までいけると思いますよ。 そこには舟があると思うのでそれに乗るときっと煙草の事など永遠に忘れられる楽園に――」 「それ三途の川ですよね?暗に殺すぞ、コラッ!て上司脅してますよね?」 そう、狼狽気味に問い返す貞夫の肩に手を置いて雫は優しく微笑んで言った。 「じゃあ、どうして欲しいんですか?このボケ司令が!!私が煙草止めるって聞いたのほんの1時間前だった筈なのですが…なのになんでそんな雑念にもう囚われてるんしょうねぇ、ふふふ…。」 本来、女性が発するようなものでは無い脅迫的な威圧感ある声と仏のような笑顔で雫は自分の上司の否を責める。 この空間がもし、大気を震わせる事によって音を伝える事が出来ない特別な場所であったならば、この光景は人の目にはさぞかし微笑ましい光景に映っただろう。 だが、発せられた言葉と声質とその光景が本来、指し示すべき矛盾は決してこの世にあらざる世界をそこに作り上げていた。 あくまで笑顔で優しくドスの効いた声で罵詈雑言を上司に向けて投げかける副官。 その光景を間近で見ていたフォード博士があやうく失禁しかけそうになるほどの恐怖に満ちた世界がそこにあった。 貞夫は部下の怒りの恐怖に足をガタガタと震わせて、 「いや、本当にすいません、自分が間違っていました。琴峰くんが正しい、うん、間違いない。はーはっはっ。」 と明後日の方向を向いて笑い始める始末だ。 そうして少したった後、雫はため息を付く。 「九条さんからあたしの留守の間、司令の面倒を見ろと任されている身ですので、これ以上なにかイーグル総司令として相応しくない行動をおとりになると 『九条式よくわかる秋常貞夫のボコり方』を参考に少々手荒な手法を用いてその捻くれまくった性根を矯正させて頂きますので、ご容赦ください。」 雫はスーツから1つのメモ帳を取り出し貞夫に見せた。 「――少々、てか何故にそこまで限定してるんだ、それ?」 「九条さんからこれがあれば貞夫の坊やなんて楽勝!と親指立てて渡されました、それにこれでもまだ手加減している方なのですよ、本当にこの書に従うのならば火あぶりにでも――」 「あーあーあー、わかった、わかったそれ以上言わないでくれ、想像するだけでも恐ろしい…。」 琴峰雫ならば本当にやりかねないと思わせる凄身がそこにはあった。 「と、ところでフォード博士、私に何か用事があったようだが何んだったのかね?」 とにかく、貞夫は話題を逸らそうと必死にフォード博士に話題を振る。 フォード博士としてもこのような鬼の巣から逃げ出したいだろうし何より本題なので乗ってくると貞夫は考えたのだ。 「…………。」 フォード博士は沈黙していた。 それも白目むいて、口から泡吹いた状態で…。 「え、えっと、フォード博士?」 「僭越ながら秋常司令、フォード博士は恐怖にあてられてショックで泡吹いて心停止しているのだと思われます。」 冷静に状況判断する雫。 「救護班ーー!!!!!」 イーグル総司令の秋常貞夫の普段は聞けないような心底、慌てた声がそこに響いた。