約 489,549 件
https://w.atwiki.jp/infinityclock/pages/266.html
聖杯戦争のマスターには、 『戦うマスター』と、 『戦わないマスター』がいる。 だからといって、 『戦わないマスター』が弱いわけではない。 ♠ ♥ ♦ ♣ 偽りの世界の空が、抜けるような青から黄昏色へと変わりつつある頃。 陽が沈む頃までじっくりと休息する予定だった青木奈美は、思いがけぬ来訪によって叩き起こされた。 否、実際に叩いて起こされたわけではないが、それに近い衝撃をもたらされて目覚めたのだ。 『ルーラーからの、新しい通達だぽん』 まどろみから目覚めた時、見覚えのある生き物がそこにいたのだから。 『マスターに1人1人伝えて回ってたから、順番が遅くなっちゃったのは申し訳ないですぽん。 これより討伐対象の追加をお知らせしますぽん』 『ルーラーからの討伐対象の追加のお知らせ』という言葉も衝撃的ながら、奈美を心底から動揺させたのは、それを報せに訪れたのが『彼』だったということだ。 名前を知っている――ファルだ。 ご主人さまを知っている――あの実験施設ではともに戦った、白雪のように曇りのない魔法少女だ。 彼女は、それだけしか知らない。 魔法少女デリュージは、白雪の冬に届いた後の白黒(ファル)にしか面識がない。 デリュージは、『正義の魔法少女(スノーホワイト)のマスコット』としてのファルしか知らない。 『新しく討伐対象としてサーヴァント『ヘドラ』及びそのマスター『空母ヲ級』が設定されましたぽん』 しかしだからこそ、眠気など全てさっぱり吹き飛んでしまった。 そして、 「なんで貴方が、こんなことやってるんですかっ……!」 怒りを、露わにした。 そのマスコットのご主人さまは、デリュージにとって一番の恩人だった。 デリュージが知っている『本物』の魔法少女たちの中でも一番正しくて、善良で、一緒にいれば安心と勇気をくれる魔法少女だった。 悪い魔法少女を退治してくれるはずの、魔法少女だった。 その魔法少女のマスコットキャラクターが、相棒が、よりにもよって『血で血を洗う殺し合い(せいはいせんそう)』に加担している。 悪趣味な間違いだということにしたかった。 彼等まで『こちら側』にいるとなれば、世の中に『正しい魔法少女』なんていないも同然ではないか。 「偽物ですか!? 洗脳ですか!? 幻覚を見せる、嫌がらせのつもりですかっ!?」 インフェルノの『悪い魔法少女をやっつけろ』という願いを無下にするようなことをしている、マスコットが許せない。 『マスター(殺し合いの参加者)』としてここにいるデリュージだからこそ、許せない。 何より、『ファルがここにいるなら、あるいはスノーホワイトも……』と疑ってしまう己のことが嫌だった。 「それとも…………所詮はスノーホワイトも、『魔法の国』の魔法少女(ヒト)だったってことですか?」 デリュージの見てきた、インフェルノが信じた、スノーホワイト像が誤りだったのか。 現実には、『正しい魔法少女』なんて何処にもいなかったのか。 『違いますぽん』 しかしファルは、震えの混じった電子音声で否定した。 『ファルが仕えている魔法少女は、スノーホワイトじゃないぽん。ルーラーだぽん』 「ルーラー?」 『聖杯戦争を裁定するクラスだぽん。ファルはその伝達係。それ以上でもそれ以下でもないぽん。 ある時代では別の魔法少女に仕えたことがあっても、今のファルは裁定者の魔力で現界しているぽん。 サーヴァントがイコール生き返った英雄本人じゃないのと同じで、ここにいるファルも魔法少女アニメに自分をモデルにしたマスコットが出演してるような感じだぽん』 釈然とはしないまでも、その説明でどうにか理解はできた。 どうやらこの戦争に、スノーホワイトが関係しているわけではない。 その可能性が否定されたことで、少しは昂ぶっていた気持ちも落ち着く。 奈美が黙り込んだのを待って、ファルは『ヘドラ』とやらの説明を再開した。 これまでに何回も繰り返してきた文言をまた復唱するように、慣れたものだった。 『報酬はクエスト内での働きに応じて令呪一画、とどめを刺した主従には二画。 既に発令されている討伐令よりも、優先度は上ということですぽん』 言い切ると、マスコットキャラクターは消える直前にその輪郭をノイズで揺らめかせた。 まるで、もっと言いたいことがあると迷って、そしてできなかったかのように。 その不安定な揺らめきを見て、奈美の心はやっと落ち着いた。 少なくとも――今のファルは無慈悲な戦争運営者の命令を聞くだけの存在かもしれない。 だが、決してスノーホワイトと共にあった時のファルから変わってしまったわけではない。 マスコットキャラクターとは、『正しい魔法少女』の仲間で、困っている人達を助けるものだと聞いている。 かつて、スノーホワイトがファルと相談して事に当たっていた姿は、幼い頃にアニメで見た『正統派魔法少女』の姿そのものだった。 あの『正義』が、仕える相手しだいでそうそう変節するものではないと信じたい。 その証拠に、あのファルは『自分の仕えている主はスノーホワイトではない』と証言した。 本当に心から『ルーラー』に仕えているのなら、わざわざ『ルーラーの正体はこの人物ではない』と発言する必要はない。 英霊は、知識の上では生前の記憶をすべてぼんやり覚えているという。 ファルも同じなら、スノーホワイトのことを悪く言われることが嫌だったから、『スノーホワイトがご主人さまでは無い』とわざわざ言及したのだろう。 これでも、人間観察力だとか人を見る眼はある方だ。田中先生は見誤っていたじゃないかと指摘されたら言い訳しようもないけれど。 ファルは人間ではない。判断するには表情も声質も容姿も欠けている。 しかし、それらを差し引いた上で判断しても、悪意を持って通達をしているようには見えなかった。 だから、奈美は仮説を持った。 聖杯戦争の運営者は、一枚岩ではない。 少なくともあのマスコットキャラクターが、本意からルーラーに協力しているとは思えない。 この仮説をどう利用すべきかはまだ見えてこないけれど、これは青木奈美だけが手に入れた、自らを有利にするかもしれない手がかりだ。 一方で、通達された内容の方はただならぬ案件だった。 ヘンゼルとグレーテル以上に、優先して打倒しなければならない主従がこの地にいるという。 しかも、このまま看過すれば、このK市がまるごとヘドロに飲まれて消滅するかもしれないときた。 これは、『討伐令に参加するマスターの背中を狙う』という方針をかためたそばから、方針を転換しなければならない、かもしれない。 奈美が『ヘドラ討伐令に従おうとするマスター狩り』をしたところで、いずれ他のマスター達が『ヘドラ』を打倒して戦争は問題なく続いていくし、大勢に影響はないという可能性もある。 しかし、もし奈美が介入したせいで『ヘドラ討伐』が遅延して取り返しのつかないことになれば――奈美自身の行動のせいで、ヘドラが聖杯を獲得するか、聖杯戦争そのものが潰れましたなんて、最悪過ぎて笑えない。 まずは、念話でアーチャーに連絡しよう。 まだアサシンの起こした殺人事件についての調査はまとまっているか分からないが、それどころではない事実が判明したと相談しよう。 『そんなことを言って、外道な行為に手を染めるのを先延ばしにする口実が欲しいだけなんじゃないですか?』とか嫌味の一つでも言われるかもしれないが。 余計な心配は、無用だ。 そんな口実を欲しがるなど、もう諦めた。 私は、正しい魔法少女には、なれない。 ♠ ♥ ♦ ♣ 「やっぱり、家の外から見張ってても何もならないのかなぁ……」 右隣を不動産屋に、左隣を1階はカフェ、2階は探偵事務所というビルに挟まれた――ちょっと外装に年季があるけれど、ごく住み心地は良さそうなお宅。 表札に『松野』と書いてあるそんな家を、越谷小鞠と霊体化したセイバー・リリィは左隣のビルの影に隠れながら見張っていた。 なぜなら、マスターと思しき赤いパーカーの青年の跡をつけていけば、そこに帰宅したからだ。 もっと言えば、その青年が殺し合いに積極的ではない話し合いのできる人だったら、協力してもとの世界に帰りましょうと、同盟を持ちかけるためだ。 さらに言えば、それは下校の道すがらにリリィと話し合って、『次に学校みたいな事件が起こった時のためにも、いざという時に頼れる同盟相手がいるといいですね』と確認したからだった。 いや、ステータスを目視した限りでは、いざという時に戦いで頼りになるようなサーヴァントだとはとても思えなかったのだけれど。 それでも『殺し合いの世界で生き残らなければならない』というプレッシャーを幼い身空で背負っている小鞠にとって、同じ目的を持っている、しかも立派な成人男性のマスターと出会えれば、どれほど心やすらかになるだろうか。 リリィもそうであればと思っていたので、『あの人と話してみたいです』という小鞠の決断に賛同してここまで来た。 「それに、あの人って本当に大丈夫なのかな……さっきも道端に落ちてた五円玉を見つけて、『やっりぃ!』とか言ってぴょんぴょん喜んでたような人だし……」 『大丈夫。私もこれまでの道中で観察していましたが、目を見れば分かりますよ。 私の修行の旅路でも、同じ目をした方々に出会ったことがあります。 どの方もこころよく『訓練中のトラブル』だとか『くんずほぐれつの密着』とかさえあれば満足だとかで、無償で真摯に稽古をつけていただいた、いい方達でした』 「リリィさんそれ大丈夫だったんですか!?」 その人達と比較されるのって、わりと最底辺同士の争いのような……。 修行の旅とやらがぴんとこない小鞠でも、そう思う。 『それに、先刻の通達は彼の元にも届いているはずです。 今や、ほぼ全てのマスターにとっての脅威は『ヘドラ』とやらを倒すことにあるでしょう。 それならば、立場を決めかねているマスターの方であっても、協力し合えるのならばそうしようと言う気持ちに傾いているのではないでしょうか』 希望的観測ですけどね、と小鞠のサーヴァントは付け加えた。 慰めるようなその言葉を聞いて、小鞠の心も少しずつ軽くなっていく。 そう、大丈夫。たとえ何かがあったとしても、この人は私を守ってくれる人だ。 しかし、あのニュースで報道されていたことはやはり現実だったのだと思い出したのもまた確かだった。 あれを放っておけば、この世界中があのニュースのようなヘドロに変わってしまうかもしれない。 小鞠も、クラスメイトも、セイバーリリィも、この世界の越谷家も。父も母も。卓も。夏海も……そんなもの、想像したくもない。 『コマリ、扉が開きました』 「あ、本当だ、出てきた……」 また出かけてきマッスル!と大声が響き、『さっきの青年』が姿を現した。 今度は、少女のサーヴァントは連れていないようだ――霊体化させている可能性もあるが。 「い、行きましょう。リリィさん」 『はい、お供いたします』 青年は左肩にグローブのぶらさがったバットを担ぎ、右手には野球の硬球を握ったまま弾んだ足取りで歩いていく。『十四松』とネームの入った野球のユニホームを着ていた。 さっきは赤いパーカーだったのに……運動するから着替えたのだろうか。 しかも、帰宅した時とはどうもテンションが違っている。 変な人だ、と思いながらも、小鞠とリリィはこそこそと青年に追いすがった。 どこか人目につかない場所にでも行けば、そして善良な人格の持ち主だと確信が持てれば、話しかける機会が見つかるかもしれないと期待して。 ――その青年が、先刻まで尾行した青年とは別人だということに気付かないまま。 ♠ ♥ ♦ ♣ 予想はしていたが。 やはりというか、マスターはいまいち理解していないようだった。 「それって、1人で全員倒すのは面倒だから協力しましょうってことだよね? 願ったり叶ったりじゃない?」 そんな単純な話だったならばどれほど良かったか。 ひとまず、ハートの3を霊体化させずに帰って来るなんてあまりにも不用心だと説教――もとい忠言をして、その『同盟の申し入れ』がいかに怪しく油断ならず危険なものであるかを、マスターにも分かるように強く再説明する。 どちらかと言えば、ジョーカーこそ『なんで俺がわざわざ交渉に出向くような事態になったんだ』と怒られる覚悟をしてきただけに、拍子抜けを通り越して呆れるものがあった。 『あまりに危険が過ぎます。 いずれ敵対することは必定の関係であるにも関わらず、マスターの御身を晒すように脅迫し、一方相手方はマスターの身を晒すことを恐れておりません。 マスターを暗殺するための企みを持って交渉の席を設けたのだという疑いもあります』 「……でも、俺のことはシャッフリンちゃんが守ってくれるんだよね?」 『それは当然。どんな奇襲、搦め手にも対応できるよう、壁役のハートとスペードの精鋭たちで御身を固めますゆえ。交渉の際に選ぶ言葉も、慎重に吟味いたします』 マスターの家族が部屋に乱入してくるリスクがあるので、会話は霊体化を通して行っている。 虚空に向かって嬉しそうにペラペラと1人会話をしている姿は、これはこれで頭のおかしい人間の振る舞いかもしれないが、 マスターは周囲からも馬鹿だと思われているのが共通認識のようなので、変に怪しまれることはないだろう。 「要するに、交渉はジョーカーちゃんがアドバイスしてくれるから、俺はうんうん言って話を聞いて、それから相手のマスターと仲良くできるようにお喋りすればいいんでしょ。 それぐらい大丈夫だって。やること無くて退屈してたから、役に立てて嬉しいし」 だから、退屈とかそういう問題では無いのであって。 また言葉を尽くそうとしたが、マスターが切り出す方が早かった。 「あのさ、ジョーカーちゃん」 いつになく静かな声だった。 契約してから、初めて聞いたかもしれないぐらいに、しんみりとマスターは言った。 「…………なんか、ありがとうね?」 思わず、まじまじとマスターを見てしまった(霊視なので視力は良くないのだが)。 もしかすると、すごく唐突で、かつ意外な言葉を聞いたのだろうか。 「いや、俺はいいんだけど、シャッフリンちゃんたちはこの『戦争(ゲーム)』をやってる間だけの命なわけでしょ。 それなのに『マスターだから』ってだけで、俺のために命張ってくれて、今も全部俺のために盾になろうって考えてくれるわけじゃん? 俺、今まで足を引っ張る連中はいたけど、そこまでしてくれる相手っていなかったから」 照れたように、後頭部をぼりぼりと掻きながらそう言った。 『……恐れ多くも、ありがたきお言葉』 驚いた。 最初の『俺はいいんだけど』という言葉は不可解だったけれど、マスターがここまで真摯な言葉を発するとは。 生前のシャッフリンは、主人から一応は褒められたことこそあれど(その褒め言葉も半分は主人自身の手柄でもあるかのように話したものだが)、感謝の言葉を向けられたことなど無かったのもある。 「それで、さっき『ファル』とかいうのが言ってたことなんだけど」 切り替えるように、ニヘニへと明るい口調に戻ったものだから、つい話題に釣りこまれてしまった。 「シャッフリンちゃんだけでは、あのヘドラってヤツは倒すの難しいって言ってたよね? だったら、もし、『同盟』が成功すれば、協力してヘドラを倒すために何かできないかな?」 『…………』 これもまた意外だ。 マスターの口から、己が働きかけることで状況を変えたいのだという意思が出てきた。 マスターは確か、シャッフリンがヘンゼルとグレーテルを狙って討伐令に参加しようとした時は反対していたはずだ。 『先方のサーヴァントの耐久力は、我々の最大攻撃力をはるかに上回る頑健さを有しておりました。 その防御力をヘドラに対しても適用できるようであれば、あるいは対抗策の一つになり得るやもしれません』 「そっか……じゃあ俺、やっぱりその『同盟』に賭けてみたい。 スペードちゃんやハートちゃんたちも危ないけど、頑張ってくれるかな?」 しかも、『どうしても討伐令のヘドラを倒したい』ともとれるような意気込みを伺わせている。 どちらかと言えば喜ばしい意気込みだが、いったいどんな心境の変化があったのか。 はばかりながら、シャッフリンはおそ松へとその理由を尋ねた。 ♠ ♥ ♦ ♣ 『殺します。殺す以外にない』 マスターからの念話が届いたので、アーチャーはこちらからも報告したいことがありますと断りを入れた。 デリュージは『まさか、また誰かと接触したんですか?』とけげんそうなコメントをした後、ではまずはそちらから、と続きを促す。 しかし、『複数個体で一つのサーヴァントを為す、トランプのマークを身に着けた幼い少女たち』という特徴を伝えたとたんに、そのマスターは豹変した。 『そいつらはこれから図書館に来るんですね? 私もすぐ向かいます。皆殺しにしましょう』 そう言い切った青木奈美の語尾には、笑っているかのような震えがあった。 アーチャーは、奈美が笑っているところなどこれまでほとんど見たことが無い。 しかも、似たような声で笑っていた子どもなら覚えている。 レーベンスボルンで目にした『失敗作』のソレに似ていた。それも、仲が良かったべつの『失敗作』を失った者のソレだった。 『えー……お断りしておきますが、仮に同盟を結べたとすれば、他のマスターを探すのに大いに有利になる他、情報収集力の強化、戦力の大幅増加、マスターを奇襲できる可能せ『殺します』 皆まで言わせなかった。 ここまで憎悪に満ち満ちた声を聴いて察せないほど、ヴァレリアも愚かではない。 『奈美さん、お知り合いですか?』 『…………敵です』 『敵』だと答える前に、言葉を選ぶような沈黙があった。 『最悪の』とか『最低の』とか『忌々しい』と言った形容を付けようとして、そのどれもが彼等を表現するには生温いと判断したのかもしれない。 『それは復讐ですか?』 『いけませんか?』 むべもない。 彼女が、奪われたものを取り戻すためにここにいることは知っている。 それを奪った悪しき英雄が、あのトランプ兵士たちだったということなのだろう。 それも、よほどデリュージにとって残虐な奪い方で。 恐ろしい偶然があったものだ、とヴァレリアは念話では表すことなく独りごちる。 確かに、青木奈美の意向次第では、アサシンたちを最初の生贄にするという計画に路線変更することも考えてはいた。 しかし、そうなることも考慮して、初めてマスター立ち合いの元に本格的な接触をした最初の主従が、まさかマスターにとってこれ以上ないほど因縁の強い仇敵だったとは。 それとも、マスターとサーヴァントを引きあわせた聖杯とやらがそのように『選ばせる』ことを期待して配置したことだろうか。 だとすれば、聖杯はまるで黒円卓の副首領閣下のように性格が悪い。 『念のために確認いたしますが、我々の目的は聖杯を獲得して願いを叶えることであり、復讐ではない。 聖杯を手にすることができれば、仇もなにも、奈美さんの喪った者はそっくり取り戻せることでしょう。 そして、彼等と同盟することにはメリットがあり、敵に回すことには高いリスクがある。 付け加えるならば、サーヴァントはただの英霊の座から限界した霊体――戦争が終われば『座』に戻るだけの複製品であり、仕留めたとしても『殺害した』ことにはなり得ません。 それでも、敢えて復讐に命を賭けますか?』 自分で言うのもなんだが、これだけ長い前置きと念押しを、青木奈美はおそらく我慢して最後までは聞いてくれた。さらに、一考してくれるような間もあった。 そして、答えは変わらなかった。 『仕留めます。昔の私は、あの連中を怖いと思っていた。今ここで、そこから逃げる選択肢はない。 それに、連中もサーヴァントなら、マスターを勝たせるために動いているんでしょう。 人の仲間は殺しておいて、自分のご主人さまは幸せにしたいなんて、そんな身勝手は許せない』 『逃げない……ですか。なるほど』 ヴァレリアにとっては、悪くない答えだ。 そして彼女は、私情に憑りつかれているいるだけではなく、それが己を変えるために必要だと自覚している。 『では彼女らのマスターは? おそらく貴方がたの因縁とは無関係ですが、道連れに殺害しますか?』 『どのみち、聖杯を獲るためには殺すことになる相手でしょう?』 学校で会った時とうってかわって、殺意を剥き出しにしたデリュージは頼もしく、危うい。 当初は『聖杯を手に入れるためならば何だってする』という志だったけれど、既に『トランプのアサシンを殺害してから聖杯を手に入れる』という目的に変質しているようにも取れる。 ならば仕方ない。 この復讐が遂げられれば、彼女は真の意味で修羅に落ち、地獄道を共に歩める共犯者となっていることだろう。 自分が手綱を握り、マスターを操って、復讐劇の筋書きを書かせてもらうしかない。 『では、私に策を委ねていただけますか? いくら何でも、これから行われる会談の場で100%彼女らを皆殺しにする前提で事を進めることは難しい。 なぜなら、敵は何人いるかもわからな『53匹です』 『失礼、53名のサーヴァントとそのマスターを2人で相手することになるのですから、正面から迎え撃つわけにもいかない。 そもそも私の宝具は、私自身への攻撃ならばいざしらず、私以外の者を護ることには向いていない。 であるなら、頭を使い、順を追って彼女らを追い詰める段取りが必要だ。それはデリュージにもご理解いただけますね?』 敢えての魔法少女名で呼び、その現実を確認する。 『分かりました。ただし、策については全て私に聞かせなさい。 回りくどい手を使うのは構いませんが、近い将来に必ず連中を滅ぼすこと。 ここで令呪を用いることまではしませんが、それに匹敵する命令だと思いなさい』 『無論』 これでも聖杯を獲るという願いのために憎しみの暴走を抑えているが、それも決して長くは無いことが暗に伝わる。 『では教えてください、マスター。あの兵士たちの総数を。戦い方を。能力値を。弱点を。知っている限りの全てを』 『当然です』 彼女は既に、正しい魔法少女の道を放棄している。 馬鹿正直に討伐令に加わるのはもったいない、と指摘された時はあれほどに不快感を示したサーヴァントからの助言を、今や自ら恃んでいる。 ヴァレリアにとっても、良い傾向だった。 『アーチャー。初めて貴方に感謝しています。 あの復讐相手と、私を繋ぐ接点を作ってくれて』 生前は、滅多に前線には出たことのなかった黒円卓の第三位にして、首領代行。 その本領は、戦場での活躍よりも、策謀を用いての暗躍にあった。 人の行動を操り、選択肢を奪い、罠へと追い込み、潰し合わせる。 何よりこの聖杯戦争では、サーヴァント自身が強固でも、マスターを切り崩すという手段が使える。 信頼していたり、愛し合っている組み合わせだからといって、彼に引き裂けない関係など存在しない。 ♠ ♥ ♦ ♣ 「魔法少女ってことは……『トゥインクルシスターズ』みたいなのだよね! ほら、今夕方に再放送やってるアニメの……」 「あっ、その再放送ならわたしも見てるよ! 主人公が緑のヤツだよね」 「良かった、話通じた! わたし、アレに出てくるトゥインクル・ブラックが好きなの。 いつもは主人公と距離置いてるんだけど、ものすごく強くて……オレンジのカズホとはまた違う意味でかっこいいお姉さんキャラだと思うの」 「うん、ピュアエレメンツでも、黒は一番お姉さんのプリンセス・クエイクの担当なんだよ。 かっこいいリーダーで、恋愛相談とかも余裕で乗ってくれて……やっぱり黒ってクールなお姉さんポジがやるものだよね」 「うんうん。すごいなぁ、本物の魔法少女だぁ……鳴ちゃんもシスターズではブラックが好きなの?」 「んー……わたしは緑かなぁ。自分の衣装も白だけど緑色も入ってるし。でもブラックのあのキメポーズかっこいいよね」 「「邪悪な存在は、私が黒に塗りつぶす!」」 びしぃっ、と両手をクロスさせた決めポーズを同時に決めて、小学生二人が同士を見る眼で互いを見つめる。 ランドセルをおろして公園のベンチに座りながらだと、大学生のお姉さんが近所の子どもを相手に遊んであげているように見えなくもないけれど。 「えっと、蛍ちゃん。私もそういうアニメとかは昔見てたし好きだけど、今は聖杯戦争の話をした方がいいと思うなぁ」 「そうだね。もう夕方だから、せめてこれからの予定はまとめておきたいし」 互いの後ろに立っている中学生くらいの少女と、十代後半ぐらいの青年が苦笑いしながらそうとりなすと、小学生2人……一条蛍と、『東恩納鳴』と名乗った少女は、すなおに「「ごめんなさいっ」」と謝った。 最初はお互いの自己紹介から始めましょう、と簡素に始まったはずの話し合いは、気が付けばずいぶんと長引いてしまっていた。 遊具の下から地面に伸びている黒い影はだんだんと細長くなり、遊具自体も黄昏色にやわらかく包まれ始めている。 遊具と言っても、ブランコと滑り台と鉄棒と砂場――あとは木製のベンチが置かれた東屋ぐらいしかない。 どこの住宅街にも一つは設けられているような、子どもの遊び場所だった。 さすがに中学生ならまだしも小学生がこの物騒な時期に外で遊ぶのは推奨されていないらしく、子ども達もちらほらやって来た程度で、この時間帯ではそれもいなくなった。 「『これからの行動』って言われても……」 東恩納鳴が、言いにくそうに言葉を途切れさせた。 あ、まずい。これ話題を振られるやつだ、と身構える。 「そっちの人がどうするかだよね?」 やっぱり振られた。 東屋の外で少女たちと目を合わせないようにしながら猫たちに猫じゃらしを振るっていた 『そっちの人』――もとい、松野一松はあからさまに狼狽した。 東屋の中に立っているシップの方を必死に睨んで『俺の言いたいこと分かるよな?分かってくれ。頼む』と目線で懇願する。 彼のサーヴァントは、やれやれという顔で代わりに答えてくれた。 「あー……あたしらも依頼主のマスターには、自分達がマスターだってばれたくないんだわ。 だから、あからさまに『バイト』のアタシらまで怪しまれるような報告をするのは避けたいっす」 「でもでも、その『フラッグコーポレーション』さんに問い合わせたら、依頼をした人って分からないのかな」 シップと同年代ぐらいの外見をした『ブレイバー』とかいうサーヴァントが、おずおずと尋ねる。向こうもシップを同い年かそれ以下ぐらいだと判断したのか、敬語は取れていた。 ちなみに、外見もシップは黒いセーラー服であり、ブレイバーは白いスカートと灰色のセーラーの中学制服を着ているので、(最初に現界した時は緑色のきらびやかな衣装だったけれど、目立たないように人間らしい格好にもなれるらしい)この二人だけなら中学生同士の会話に見えなくもない。 「いや、それは無理があるっしょ。いくらウチのマスターが社長の知り合いだって言っても、プライバシーの保護とかあるし。秘密厳守もばっちしって感じのデカい会社だったし」 シップが『だよね?』と確認するようにこちらを見て首をかしげたので、ぶんぶんと首を縦に振った。 心なしか、その場にいる二組四名の視線が『この男の人は自分で話せないんだろうか……』という感じに刺さってくるので、一松はもう何度目かもわからない後悔の念に襲われた。 本当に、こいつらの尾行を継続するんじゃなかった。 せめて、学校にランサーのマスター――ステータスがやばい――が来た時点で、すごすごと引き返すべきだった。 いや、実際にそうするつもりだった。 しかし、ぽかんと驚いていたマスター同士がやがて何やら話を始め、二人(迎えにきたサーヴァントも入れて計三人)で校門を出て行くのを見て、気づいてしまったのだ。 これ、ハタ坊になんて報告すればいいんだろう。 一日、二日尾行してみましたが、何も異常は見つけられませんでした。 争い事に関わりたくないならば、そう報告して身を引くのが賢明だ。 なんせ、ハタ坊に依頼をした人物はマスターである可能性が高い。 自分はただのバイトで雇われた調査員であり、決してマスターではありませんと、そう怪しまれない報告をしなければならない。 しかし、だとすれば。 この後、もし――小学生たちは見たところ友好的そうだけれど――万が一にでも二人が戦いになったりして、どちらかが脱落したりすれば、『一条蛍の身辺には怪しいところは何もありませんでした』と報告したりすれば、きわめて胡散臭いものになってしまう。 せめて、この二人の接触がどうなるのかは見届けよう。 シップと二人でそう結論づけ、追いかけて小学校から出た。 しかし、とっくにばれていたらしい。 『いったい何の目的があって僕たちを尾行していたんですか?』 話し合いのために公園についた時点で、男性のサーヴァントから『そこにいるのは分かっている』と睨まれた。 そしてランサーを名乗ったサーヴァントにあれこれ尋問されたり、 その途中に『ファル』とかいう変な生き物が出てきたり、 『ヘドラ討伐令』の説明があって皆が驚いたり、 とにかく互いに戦う意思がないことを確認したり、お互いのサーヴァントやら行動方針やらを説明したりして、今に至る。 ちなみに、情報交換だけでここまで時間がかかった理由の一つめは、ファルの『討伐令』という予想外の報せがきたからであり、 二つ目は、好奇心旺盛な小学生二人が魔法少女やら勇者やらの話で盛り上がったからであり、 三つ目は、一松の応対があまりにしどろもどろだったせいだ。 結局、遣り取りのほとんどはシップに押し付けたままだ。 せめてサーヴァントには1人でも男がいて良かった。 これで自分以外は全員女の子に囲まれたりしたら、絶望しかない。 『なぜ彼女たちがサーヴァントだと分かった? いやむしろ、なぜ貴方は小学生の個人情報の資料なんかを持ち歩いていたんですか?』 もっとも、その紅一点ならぬ白一点の追求がいちばん厳しかったわけだが。 とても困った。 アルバイトとはいえ、身辺調査をしているのに依頼主について明かすなど言語道断。 ましてやバイトの話を持ってきたのは、NPCとはいえ幼馴染のハタ坊であるし、おいそれと情報を吐きだすわけには……。 『答えなければ、敵性マスターとして僕たちを探っていたと思われても仕方ありませんよ?』 はい、ばらしました。 やはり一松は、旧知の仲との信頼関係よりも保身を取る人間だった。 だってこのランサー、見た目年下なのにめっちゃ眼が怖いし。 語調は静かだけれど、有無を言わせぬ圧迫の仕方を心得ている感じもするし。 やはりサーヴァントというからには、ヤの付く業界かそれ以上に『そういうこと』には詳しいのだろうか。 「では、松野さんに聞きますが、その『一条蛍の身辺調査』……報告の期限はいつまでですか?」 そのランサーからシップをすっ飛ばして質問が来た。 しどろもどろになりながらも、答える。 「い、いちおう……明日の夕方には一度報告を入れる、って言った……と思う。 ハタぼ……社長は、何日も時間かけたくないって言ってた」 「では、相手方もギリギリ明日までは不審には思うまいというわけですね。 ヘドラという目下の脅威もある以上、二面に敵を抱えるのはこちらも避けたいところです」 「じゃあ、まずは先にヘドラをやっつけましょう。蛍ちゃんも、それでいい?」 ブレイバーが、自らのマスターへと確認するように問う。 「はっはい、正直、今でもちょっと怖いけど、その『ヘドラ』を放っておいたら、明日にも町が危ないんですよね? 私もそれがいいと思います!」 両手を拳の形にして胸の前でぎゅっと握り、蛍が何度も頷いた。 魔法少女トークのこともありすっかり元気になった――風にも見えるけれど、まだ目元には泣いた痕が赤く残っている。 なんせ、『どこかのマスターがあなたに目を付けて、あなたに関する全てを探り出すように依頼したんですよ』という話を聞いた時は大変だった。 『私がなにか狙われるような失敗したんでしょうか』とえぐえぐ泣くものだから、ランサーとブレイバーと鳴が三人がかりで落ち着かせた。 ただの小学生(見た目はともかく)が、いきなり『殺し屋(みたいなもの)に目を付けられました』と宣告されたのだから、そうとう堪えるものがあったらしい。 鳴もすっかり蛍のことを保護対象だと見なしたのか、ませた口ぶりでに会話に加わった。 「んー……わたしは先に『討伐令』されてたアサシンも気になるけど、でも目の前の蛍ちゃんを守る方が先だよね。 一番がヘドラで、二番目が蛍ちゃんを狙ってる敵を倒す。それでいいよ」 すっかり『蛍ちゃん』と呼ぶようになっている。 彼女のいた子ども会では、中学生であっても子どもは一律に君付けちゃん付けで呼び合っていたのだそうだ。 「ありがとう鳴ちゃん。狙われてるのは私なのに、守ろうとしてくれて」 「これでも魔法少女だもん。それに、狙われてるのが分かってるなら、やっつけちゃうのも難しくないよ。 魔法少女のアニメでもよくあるじゃん。悪の組織に情報を盗まれてるのを逆に利用して、嘘の情報でおびきよせて嵌める展開!」 「そっか、そうだよね。そういう作戦なら、狙われてる私でも役に立てるかも!」 互いに命懸けだとは分かっているだろうに、微笑ましい作戦会議が交わされている。 きっと、予選期間の間にも悩んだり役に立てることを探したりしながら、生きて帰ろうとする覚悟を固めてきたのだろう。 子どもなのに強いのか。あるいは、子どもだから正義は勝つのだと夢を見られるのか。 どっちにしても、彼女らはよいこたちだと思う。 それに引きかえ、松野一松はゴミだ。 子ども達がこんなに頑張っているんだから、大人である自分も……などと思えるほどに、人としてまっとうにできてない。 どうせ戦っても生き残れないのだからと諦めて、少しでも長くモラトリアムできる場所を探すうちにここに迷い込んでしまった。 今でも、悪いサーヴァントの打倒計画が練られているというのに、『俺もぜひ参加させてください』とも、 『悪いな。俺は自分の身が一番可愛いから抜けさせてもらうぜ』と拒否することもできずに、居心地悪く座っている。 むしろ、その場が『みんなで力を合わせて一緒に生き残ろうね』という空気で盛り上がっているからこそ、いっそう自分の道には先が無いように感じていた。 ヘドラとやらがどんなものか、見たことはない。 けれど、サーヴァントたちがファルを詳しく問い詰めたのと、シップが『深海棲艦』について知っていたことから、具体的な恐怖として知ることはできた。 予想するのは、簡単だ。 ソレの討伐軍にシップを参加させたりしたら、絶対に死なせてしまう。 ヘドラだけでなく、たいていのサーヴァントに勝てそうにないことは、ランサーやブレイバーのステータスを見るうちに察してしまったけれど。 たとえ他のサーヴァントと力を合わせて突撃させたところで、火力も圧倒的に足りていないらしい彼女では真っ先に溶かされるポジションに収まってしまうか、海岸付近で雑魚を相手にどんぱちさせるのが関の山だろう。 じゃあ、自分たちは単独では弱いからと、蛍や鳴たちに保護を求めればいいのかと言えば、その選択肢も決して見通しは明るくない。 メンタルも弱く、猫と仲良くなることぐらいしか取り柄が無いダメ人間のマスターと、 ほぼすべてのステータスがEランクの上に、資材を持たなければろくなサポートもできない船(シップ)。 同盟相手がただの小学生なら、資材の輸送などで役に立てることは無いだろう。むしろ自分たちこそが足でまといにしかならないお荷物だ。 今でこそ――少なくとも『身辺調査の依頼主』の件が解決するまでは――あれこれと話しかけてくれてはいるが、いずれ自分達を重荷に感じて見捨てる時が来るんじゃないか。 見捨てなくとも、同盟を組めばまずシップがウイークポイントとして扱われて、道連れに破滅する主従を増やすだけじゃないか。 「じゃあ、シップさん達には、どんな報告をしてもらいましょうか?」 「できるだけ、相手がぎょっとするようなのがいいんじゃないかな」 「めんどくさ……まぁ、アンタらの都合に合わせるけど、先方に突っ込まれたらボロが出るようなのは勘弁ね」 少なくとも『がんばりますから見捨てないでください』と懇願できるほど、自分の性格が可愛らしくないことは自覚している。 ランサーの追求が厳しめなのだって、頭の中では自分たちに見切りをつける算段をしているせいかもしれない。 こんな人間に生まれ育った時点で、一松は人生の色々な事を諦めてきた。 それは、友達の1人でも作ることだったり、若者らしく合コンに参加することだったり。 クリスマスに出会った恋人の二人を祝福したり、人の好意を素直に受け取ったり、こんなに善良に差し出されている手を取るだけのことだったり。 きっと、この戦争を生き残れるような強い人間がいるとしたら、それは彼女たちで。 松野一松は、ほんとうに、この戦争を生き残れるような人間じゃない。 きっと、この世に要るのはよいこだけだ。 聖杯戦争家族計画 氷血のオルフェン
https://w.atwiki.jp/seigeki/pages/363.html
作者:Elika 俺、子供の頃すごく暗かったんだよ。 本人としては、暗いんじゃなくておとなしいつもりだったんだけど……。 多分、他のクラスメイトからしてみたら、暗かったんだろうな。 休み時間とかずっと本読んでたし、お昼休みや放課後はずっと、図書室にいた。 本が好きでさ、なんでも読んだよ。おかげでメガネっ子。 メガネが顔の一部なら、おまえは俺の一部だな。そんくらい、すっげぇ大事。 俺も、明るくなりたいって思ったりしたよ。 笑う練習とかしたらよかったのかもしれないけど、そんなのは恥ずかしすぎた。 鏡の前に立つとさ、暗い顔した奴が無表情でこっちみてるの。 髪の毛まで真っ黒で、本当に根暗なんじゃないかな、って思った。 明るくなりたかったんだ。変わりたかった。強く願って努力もした。 その結果がこれ。 でも、実際ここまで明るくなるとさ、逆に違和感っていうかやっぱり恥ずかしいんだよ。 だから、お前が俺と一緒になってくれて、また元の自分に戻れて、すごく嬉しい。 これからも、ずっとそばで、俺の明るさを……頭頂部の輝きを、隠してほしい。 大切にするから、ずっと一緒にいてください。
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/18837.html
登録日:2011/06/07(火) 23 32 29 更新日:2023/08/22 Tue 17 17 35 所要時間:約 4 分で読めます ▽タグ一覧 04年冬アニメ WOWOW アニメ トラウマ マジキチ マッドハウス 今敏 妄想代理人 能登麻美子 阪口大助 人々の内側で蠢く不安と弱さが最大限に増幅されたとき、少年バットは現われる── 『妄想代理人』はマッドハウス製作のアニメ作品。 全13話構成で、WOWOWにおいて2004年2月から5月まで深夜帯に放送されていた。 OP「夢の島思念公園」 ED「白ヶ丘-マロミのテーマ」 OPの曲は爽快感を感じさせてくれるが、いかんせん映像が……。 登場人物全員が笑顔なのだが、まるで自殺志願者のようにビルの上で靴を脱いで手に持つ女性、 空中を落下しているにもかかわらず相変わらずの笑顔だったり、人によっては気味悪く感じてしまう。 なお何かと意味深のOPだが実は納期に間に合わせるために アニメのカット数を減らすためにとりあえず笑わせとけと言うだけの話で背景も同監督が手かけた東京ゴッドファーザーから流用している。 そしてEDの汚らしいおっさんの寝顔に「誰得だよw」とつっこんではいけない、絶対ニダ。 【概要】 今敏監督が監督として手掛けた唯一のテレビアニメ作品。 ジャンルはサイコサスペンス。 タイトルから「ぼくのかんがえたさいきょうの(ry」みたいなのを叶えてくれる、 カッコいい人物が登場する作品だと解釈する方が多いことだろう。 しかし、このタイトルこそが最大のミスリードというオチ。 実際の作風は現代社会で強く感じる「プレッシャー」からの逃避、 癒しを何か別の物に求めるという誰もが生きていく上で行っていることを皮肉っている、そんなお話。 【ストーリー】 人気キャラクター「マロミ」を生み出した鷺月子は新キャラクターの納品が迫る中、なかなかアイディアを出せずにいた。 周囲の妬み、プレッシャーに押し潰されそうになっていたある夜、 「金属バットを持って野球帽を被り、ローラースケートを履いた少年」に襲われる。 「少年バット」と名付けられたこの人物に襲われる人が続出、 しかし襲われた人々はどこかホッとした様子だった── 【主要登場人物】 ◆鷺月子 CV 能登麻美子 マロミを生み出した人気デザイナー。 とぼけた発言が目立つ不思議ちゃん ◆マロミ CV 桃井はるこ 月子が生み出した超人気なイヌ。 作中の登場人物はその愛らしい容姿を「見て」癒されているようだが、 ぬいぐるみを思いっきり殴り付けるほうがストレス発散できそうじゃね? ◆猪狩慶一 CV 飯塚昭三 「少年バット事件」を追っている刑事コンビのベテランの方。 「男の生きざま」を見せてくれる作中一かっこいい人物。 ◆馬庭光弘 CV 関俊彦 同じく「少年バット事件」を追っているコンビの若い方。 実は作中の重要な鍵を握る存在だったり? ◆老師 CV 槐柳二 不慮の事故が原因でボケてしまっているご老人。 度々路上や床に意味不明な計算式を書いているが……。 ◆少年バット CV 阪口大助 月子が最初に遭遇したバットを持ったブサメンで、 「現実から逃げたい」人の前に現われてはバットで殴り付けて去っていく。 【話の中身】 当然全話の詳細を書くつもりは毛頭無いので、ここでは「本筋から離れた話」を一話紹介する。 #8「明るい家族計画」 ……別にゴム的な意味じゃないよ? 自殺サイトで知り合ったゲイの青年と老人、 まだ幼い少女が集団自殺を図るもなかなか死ねず、「あれ、三人でいるの楽しくね?」と気付くというお話。 三人の自殺志願の理由等は一切語られず、これから死のうというにもかかわらず、 ずっとほんわかとしたテンポで進むため暗さを感じさせない。 しかしずっと圏外の携帯電話、堂々と写り込んだはずの写真を見た若い女性達のリアクション、 三人を一切気に掛けることのない周囲の人々が意味するものは……。 【考察】 非常に解釈の難しい本作だけに、某大手サイトを始めとした様々な場所で考察がなされている。 しかし、製作側からの「明確な答え」は提示されていないため、あくまでも「有力な解釈」止まり。 手放しで人に薦められるほど万人受けするような内容ではないが、伏線をじっくりと紐解き、時間をかけて楽しみたい。 そんな人にはお薦めの作品かもね! 追記修正をお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 陳腐なコメントだけれど、主役も脇役も豪華声優陣だなぁ・・・・・・。 -- タナゴ (2016-05-13 21 46 22) 最近Netflixで配信されてたから見た。スゴいアニメだ……監督が亡くなったのが惜しいよ -- 名無しさん (2019-07-03 11 26 54) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/cameraword/pages/24.html
カメラのレンズにはその明るさの表示として、F3.5とかF5.6という数字がある。F1.7とかF2.8の小さな数字ほど明るいレンズ、F5.6とかF8の大きい数字ほど暗いレンズ。明るいレンズは高性能だが、大きく重く価格も高くなる。
https://w.atwiki.jp/kmpnote/pages/467.html
見えない家族 日経デザイン98年2月号 この一見センチメンタルなタイトルは、日経デザイン http //nd.nikkeibp.co.jp/nd/index.shtml98年2月号の特集です。 戦後の家族解体の流れ。アジア的封建制度を否定する様に、家族という共同体の息苦しさを否定し、個人主義の奨励をいそしんできた日本の現状を批判的に見る視点。それを商品コードにそって分析した、非常に興味深い特集でした。 時代の流れは速い。久々にこの雑誌をめくるとそれを実感させられるが、面白いのでここに並べてみます。 ヘヴィーデューティー使用のラジカセやポータブルCDプレイヤーの登場。→ストリート系の若者が増えてきた。興味の対象は家にだはなく外へ向いている。本物志向にこだわり、常に周りの友達の目を気にしている。反面、無関係な人への関心は皆無なため、地べた、階段、コンビニの前、自販機の脇など、お構いなしに座り込む現象がはじまった。 携帯電話のフャッション化。若者主導の通信市場。→世界でもめずらしいほど、ビジネスツールだったモバイル商品の若者達によるコミュニケーションツール化。 晴れ舞台のためのビデオカメラ→子供のために使うカネにはおしまない。高額なデジタルカメラの普及。撮るという行為だけが重要で、イベントにしか利用しない。 車のなかでの一家団欒→ファミリーイベントの道具。レジャーが家族を確認するセレモニー。車が家族の絆の象徴。 ソニープラザの郊外化→かつての銀座のOLが、新居を構える近郊都市。親のセンスを子供にも。国道16号沿い地域へ進出。 その他様々な分析と共に語られる商品。これらの商品はどれも、現在の社会状況をとてもリアルに写し込んでいる。 商品開発がいかに社会をとらへ、具体化させているか、その力技に改めて驚かされた思いだった。 ただ、こんな社会状況を「嘆かわしく思う」的な言葉をよく耳にするが、僕はあまりその様に思ったことはない。ヨーロッパの個人主義をはき違えた、こんなものは「孤人主義」だ。もっと思いやりと、家族の温かみを大切に・・。などと言われても、もう歯の浮くようなセリフにしか聞こえない。そんなセリフはむしろ、問題を正面から見ようとしない、その場しのぎの大人的、政治的感覚にみえる。 だが別に僕は、問題を正面からみる事イコール、解決への努力をしたい、みんなを救いたい。などとも思えない。自分の生きている時代の本質を理解したい。ただそれだけを思う。解決への親身な態度など示せないと思っているからだ。 こらはかなり偏った考えなのかもしれないが、ボランティアにも興味はないし、募金もほとんどした事はない。世界中で起こっている民族紛争。むごたらしい殺し合いを伝える報道を目にしても、遺憾に思う、などとはとても言えない。このグローバルな時代へ、そんな態度でいいのか、といわれても、リアルになれないのと同じように、やはり遠くの世界の出来事にしか思えない事が多い。 ただ情報の流れは出来るだけ受け止めたい。社会の断片を示してくれる事象へも出来るだけ接したい。 世界や社会を知りたい思いは、自分を知りたい思いと等価だ。そこへは価値判断をいれたく思わない。 こんな自分は、大人達が言うところの、「他人を省みられない無責任な若者達」と、なんら変わりないのかもしれないが・・・・・。99.10.23/k.m 雑誌、社会
https://w.atwiki.jp/toho/pages/4763.html
明るい黄昏 サークル:まかろに☆けちゃっぷ Number Track Name Arranger Original Works Original Tune Length 01 静かなる月の出た夜は。 メカジ 東方紅魔郷 [-- --] 02 三日月物語 ナタデココ☆ 東方紅魔郷 [-- --] 03 Mathematical ice-shock ll-L 東方紅魔郷 [-- --] 04 Yuanyang-T ll-L 東方紅魔郷 [-- --] 05 Voile, the Magic Library (UK HardHouse Remix) B.B. 東方紅魔郷 [-- --] 06 少しは動く大図書 望月 和介 東方紅魔郷 [-- --] 07 さっきゅんの体内時計 望月 和介 東方紅魔郷 [-- --] 08 紅玉のラズベリーピース ナタデココ☆ 東方紅魔郷 亡き王女の為のセプテット [-- --] 09 U.N.オーエンは彼女なのか? メカジ 東方紅魔郷 U.N.オーエンは彼女なのか? [-- --] 10 Eastern Dream (NRGestic Remix) B.B. 東方紅魔郷 紅楼 [-- --] 詳細 博麗神社例大祭7(2010/3/14)にて頒布 イベント価格:500円 ショップ価格:?円(税込:?円) レビュー 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/kannnaduki-no-miko/pages/227.html
神無月の巫女 エロ総合投下もの 幸せ家族計画 結婚記念日編 「面白かったね、千歌音ちゃん。」 「そうね、でも姫子は途中で眠ってたけれど…」 姫子が退屈しないように、映画を慎重に選んだつもりなのだが、やっぱり姫子は眠ってしまった。 「う…で、でも途中でちゃんと起きたよ。千歌音ちゃんも、起こしてくれればよかったのに…」 「ふふっ…ごめんなさい。つい、姫子の寝顔が可愛くて…」 そう言う千歌音も実は映画をあまり見ていない。 自分の肩に、姫子が寄りかかっていたからだ。 結局、映画よりも姫子の可愛らしい寝顔に気をとられてしまい、あまり内容を覚えていない。 「も、もう…千歌音ちゃん…」 「さあ、行きましょうか。」 千歌音は、頬を染めて少女のように照れている姫子の反応を楽しみながら、次の場所へ向かった。久しぶりの映画やショッピングを楽しむ2人。 雛子や千羽が産まれてからは、ゆっくりと出かけるなんて暇はなかった。 今日は2人の結婚記念日。 雛子と千羽を姫宮邸に預け、久しぶりの2人っきりのデートをすることが出来る。 「わぁ…かわいい…」 姫子は、一軒のお店の前で立ち止まる。 「何か気に入ったのがあった?」 目をキラキラさせて、ショーウィンドウを覗く姫子。 「あ…ううん、そうじゃなくて…このお店…」 「入ってみましょうか?」 「あ、千歌音ちゃん…!」 千歌音は戸惑っている姫子の手を引いて、店内に入った。 中に入るとそこには様々な洋服が置いてある。 だが、よく見ると服のサイズが小さいようだ。 「あ…ここって…」 「ご、ごめんね、千歌音ちゃん…」 そこは子供服専門のお店だった。 どうやら、姫子は子供服に気を惹かれたらしい。 「せっかくのデートなのに…」 「ふふっ…気にしないで、姫子。」 いくら2人っきりのデートといっても、やはりそこは親だ。 預けてきた2人の子供達が、気になってしまうのは仕方ない。 「2人にも何か買って行きましょうか、お土産も約束してる事だし…」 千歌音は姫宮邸に2人を預ける時、いい子にしていたらお土産を買ってくると約束していた事を思い出した。 「いいの…千歌音ちゃん?」 「ええ、きっと子供達も喜ぶわ。」 「ありがとう、千歌音ちゃん…!」 笑顔になる姫子を見て、千歌音も自然と頬が緩んだ。 「きっと雛子と千羽、喜ぶだろうなぁ。」 夜景が美しいホテルのレストランで、姫子は絶景の夜景を見つめながら子供達の笑顔を思い浮かべる。 「ふふっ…そうね。」 千歌音は微笑んで、ワインに口をつける。 結局2人は、デートよりも子供達の洋服などを選ぶことに夢中で、沢山買い込んでしまった。 でもきっと、それでいいと2人は思った。 子供達にどれが似合うか服を選んだりすることは2人にとっては、とても幸せなことだった。 「千歌音ちゃん…ありがとう。」 姫子はナイフとフォークを置いて、千歌音を見つめた。 「姫子?」 「だって、千歌音ちゃんが私と結婚してくれて、子供達も産まれて、こんなに素敵なデート…すごく幸せなんだもん…」 「それは私も同じよ。姫子が側にいてくれて…子供達もいてくれて…ありがとう、姫子。」 「千歌音ちゃん…」 千歌音はそっと姫子の手に、自分の手を重ねた。 「今度はみんなで出かけましょうか?」 2人で腕を組み、涼しい秋の夜風で酔いを覚ましながら歩いていると、千歌音が不意にそんな事を口にした。 「そうだね!きっと楽しいだろうな。」 「どこがいいかしら?まだ2人は小さいし、やっぱり遊園地かしらね?」 「……」 「姫子…?」 突然、姫子は立ち止まって組んでいた腕を離す。 「あの…千歌音ちゃんは遊園地でもいいの?」 「え?」 「だって…私、千歌音ちゃんの気持ち知らないであの時…」 きっと姫子はソウマとのデートの事を言っているのだろう。 あの時、姫子は千歌音の気持ちも知らないでデートに行ってしまった。 まだ気にしているのだろうか。 「もうそんな事、気にしてないわ。」 「でも…」 「ほら、顔を上げて。そんな顔していたら、子供達が心配するわよ。」 「うん…」 姫子は俯いていた顔を上げて、千歌音の顔を見ると優しく微笑みかけてくれた。 「さぁ、行きましょう。」 「待って、千歌音ちゃん…」 「ひめ…?」 突然姫子に腕を掴まれ、千歌音が振り返ると姫子の顔が目の前にあった。 「ん…」 「姫子…」 重ねられた唇を少し離して、互いの瞳を見つめ合う。 「愛してるよ…千歌音ちゃん…」 「私もよ…姫子。」 2人は微笑み合って、再び唇を重ね合う。 幸せな結婚記念日も、もうすぐ終わる。 でもまた明日から始まる慌ただしい日々は、きっと今日以上に幸せだろう。
https://w.atwiki.jp/kannnaduki-no-miko/pages/226.html
神無月の巫女 エロ総合投下もの 幸せ家族計画 新たな命編 「あの…いま何とおっしゃったのですか?」 「おめでたですよ、おめでとうございます。」 「おめでた…って、妊娠とゆうことですか…?」 「はい、これからは定期的に来てください。それから…」 突きつけられた現実に、千歌音は戸惑いを隠せなかった。 医師の話も耳に入っていないようだ。 (あれは…やはり夢ではなかったの…) 千歌音の頭の中にある出来事がよみがえった。 事の発端は数週間前にさかのぼる。 「ここは…どうしてまたここに…?」 千歌音は眠りから覚め、横たわっていた身体を起こし辺りを見渡すと、そこは千歌音と姫子が前世で最後に過ごしたあの場所だった。 美しく幻想的だが、誰一人も居ないその花畑は千歌音に寂しさと不安を与えた。 「これは…夢なの…?」 これは夢なのだろうか? それとも月の社から解放され、生まれ変わって姫子と過ごしたあの日々の方が夢なのだろうか。 千歌音はどちらが現実で夢なのか分からなくなっていた。 その時だった。 どこからともなく声が聞こえてくる。 (…月の巫女よ…) 「…!」 突然、聞こえてきた声に千歌音は驚いて、俯いていた顔を上げた。 「その声は…アメノムラクモ…」 聞き覚えのあるその声は、千歌音と姫子に残酷な運命を与えた神、アメノムラクモだった。 「私は、どうしてここにいるのですか?生まれ変わり転生したはず…まさか!?」 千歌音はハッとした。 最悪の出来事が頭をよぎる。 「またオロチが…復活したのですか!?」 (心を静めなさい…月の巫女、貴女をここに呼んだのは私です…) 声を荒げる千歌音をなだめるように、アメノムラクモは静かに話し始めた。 「なぜ…私を…?」 (貴女をここに呼んだのは、貴女の決意を確かめる為…そして…) 「決意…?」 (貴女が前世で月の社に封印される時、我が問いかけた言葉を覚えているか‥?) それは社へ封印される時、アメノムラクモが千歌音に問いかけた選択の事だろうか。 輪廻転生から外れ、無の安らぎに身を委ねる事も出来るのだと‥。 だが、その選択を千歌音は選ばなかった。 たとえどんなに残酷で辛い運命が待ち受けていても、愛するたったひとりの運命の人と巡り会うため、千歌音はその宿命を受け入れた。 (転生したいまでも、その決意が揺らぐ事はないか…) 「何度聞かれても、私の気持ちが変わる事はありません。」 千歌音が発したのその言葉には、強い決意が満ち溢れていた。 (そうか…ならば、もう聞く事はない…) 「アメノムラクモ…ただそれだけの為に、私をここに呼んだのですか?」 千歌音にはただそれを確かめる為だけに、ここに呼ばれたとはとうてい思えなかった。 (確かに、貴女を呼んだのはそれだけではない…貴女にある力を授ける為…ここに呼んだのだ…) 「力…?」 (この力は、我ら神のみぞ与えられる新たな命を造りだす力…貴女の決意が変わらない物ならば、与えようと…決めていた…) 「命…いったい何の話しです!力とは何なのですか…!?」 (月の巫女‥よ、新た‥に生まれ‥てくる命…を大切に…するが‥よい…) アメノムラクモの声は段々と空の向こうへと遠ざかるように、小さくなっていく。 「お待ちください!まだ、聞きたい事が…っ!」千歌音が立ち上がり、空に声を投げかけた瞬間、強い風が吹きあげた。 たくさんの黄色い花びらが、空へと舞い上がる。 「いったい何なの、力とは…アメノムラクモは私に何を伝えたかったの…」 千歌音の心は、アメノムラクモの言葉によって不安でかき立てられていた。 「姫子…私…どうしたら…」 千歌音は孤独と不安からか、不意に愛する人の名前を口にした。 『…か‥ね‥ちゃん…』 「…!」 幻聴だろうか? 微かに姫子の声が聞こえたような気がした。 「まさか…姫子がここにいるはずなんて…」 呼ばれたのは自分だけだ。 姫子がここにいるはずがない、そう自分に言い聞かせ自分の耳を疑った、だが…。 『ちかね…ちゃん‥』 「……!いまのは…姫子?」 その声はこちらに近づいてくるように、徐々にはっきりと聞こえてきた。 「姫子…どこ!どこにいるの…!?」 千歌音は辺りを見回し、ふと後ろを振り返えると遠くの方で巫女服を着た女性が立っているのが見えた。 「姫子?姫子なの…!?」 千歌音は急いで駆け出した。 段々と見えてくるその女性は、ゆっくりと両手を広げ千歌音を優しく受け入れるように微笑んでいる。 『ちかねちゃん…』 その胸の中に飛び込んだ瞬間、千歌音は温かなお日様のような安らぎに身を包まれていた。 「ちか…ねちゃん…」 「ん…‥」 「千歌音ちゃんっ…」 千歌音が瞳を開けると、目の前には姫子が心配そうに千歌音を覗き込んでいた。 「姫子…?」 「大丈夫?千歌音ちゃん、ずっとうなされてたから‥」 「……!」 千歌音はハッとして、勢いよく飛び起きた。 「ど、どうしたの、千歌音ちゃん…きゃっ!?」 「姫子‥よかった、夢ではないのね‥」 突然千歌音に抱きしめられた姫子は、頬を染めながら驚いていた。 結婚してから、こうして朝食を2人っきりで食べるのは何回目だろうか? テーブルの前には、トーストやサラダ、目玉焼きなどのシンプルな朝食が並べられている。 ただいつもとは違って、今日は2人の間に会話が飛び交わない。 いつもは何気ない食器の音やカップを置く音が、やけに響いて聞こえる。 それがなおさら2人を沈黙にさせた。 (…何て言ったらいいのかしら…) 千歌音はコーヒーに口をつけながら、今朝の夢の事を姫子にどう言い出そうか迷っていた。 姫子に余計な心配はさせたくはない。 あれがただの夢ならそれでいいのだが、姫子にはもう隠し事はしないと約束している。 (やっぱり…姫子に…) 千歌音はコーヒーカップを置いて、意を決した。 「姫子あのね…」 「千歌音ちゃんあのね…」 千歌音が決心して出した声は、姫子が出した声と同時に重なった。 「…えっ?」 「あ…な、何…千歌音ちゃん?」 「い、いいえ、姫子から…」 2人はしばらく互いに譲り合っていたが、千歌音の方が先に折れようやく話しを切り出した。 「あのね今朝…私、夢を見たの。」 「夢って…じゃあ、今朝うなされてたのは…」 「私ね…夢の中でアメノムラクモに会ったの…」 「……!」 「夢の中でアメノムラクモが言っていたわ。私の決意を確かめる為に呼んだと…そして…」 「もしかして…力がどうとかって…?」 「えっ…!?」 姫子は俯いて、コーヒーカップに中に映る自分の顔を見つめた。 「やっぱり…千歌音ちゃんも、あの夢を見たんだね…」 「私もって…もしかして、姫子も見たの?あの夢を‥」 「うん、夢の中で私に言ってた。力を与えに来たって‥」 再び2人の間に沈黙が流れた。 姫子は俯いたまま顔を上げようとはしない。 「千歌音ちゃん‥また私達、巫女として目覚めるのかな‥?」 「姫子‥」 見ると姫子の声と手が微かに震えていた。 「またあんな思いしなきゃいけないのかな‥」 姫子が弱々しく、顔を上げるとその瞳から今にも涙が零れ落ちそうだった。 千歌音は席を立ち、姫子の隣へ座った。 「姫子、きっと大丈夫よ。アメノムラクモはオロチが復活するとは、言わなかったわ。」 千歌音は震える姫子の手を包み込む。 「でも…もしも、またオロチが復活したら…千歌音ちゃんとまた離ればなれになるなんて嫌だよっ…!」 姫子の頬に大粒の涙がつたった。 「姫子…」 「千歌音ちゃんっ…」 千歌音の胸に飛び込んでくる姫子を抱きしめながら、内心は穏やかではいられなかった。 オロチ復活はいつ起こるか、自分達にも分からない。 またあの辛い運命がいつ待ち受けているか予測なんて出来ないのだから。 「姫子、私はね‥たとえどんな運命が待ち受けていても平気よ。」 千歌音は姫子の頭を撫でながら、優しい眼差しを姫子に向ける。 「千歌音ちゃん‥?」 「だって姫子が教えてくれたじゃない。どんな永遠にだって神様にだって負けない。2人の気持ちは繋がっているって‥」 あの別れの時、姫子が千歌音に言ってくれた言葉。 あの言葉があるから、千歌音はいつだって強くなれた。 たとえどんな残酷な運命が待ち受けていても、いまの2人なら乗り越えられる、千歌音はそう信じられる。 「だから心配しないで。たとえ何があっても姫子は私が守るわ。」 「だ、駄目だよっ、今度こそ私が千歌音ちゃんを守るんだからっ…」 泣いていたはずの姫子は、千歌音の言葉を聞いたとたんに強い口調で言い返した。 「ふふっ…ほら、もう泣き止んだ。」 「えっ…?あ…」 千歌音の言った通り、先ほどまで流れていた姫子の涙は嘘のように止まっていた。 千歌音を守りたい、その想いだけで姫子はこんなに強くなれる。 互いに想い合う2人ならどんな運命も恐くない。 そんな気持ちにさせた。 「千歌音ちゃんごめんね‥千歌音ちゃんだって不安なのに私ばっかり泣いて‥」 「そんな事ないわ、姫子がこうして側にいるだけで、私は安心できるもの‥」 2人は互いに見つめ合い、微笑み合った。 「でも…アメノムラクモが言ってた力って、何の事なのかな?」 「さぁ…新たな命がどうとか言っていたけれど…」 「……!?」 「ど、どうしたの姫子?」 姫子は何かに気づいたように、千歌音の腕から離れた。 「ね、ねぇ…千歌音ちゃん‥まさかと思うけど…」 「何?」 「あ、あの…あのね…」 姫子はなぜか、頬を赤らめて口ごもっている。 「姫子?」 「あ‥その…でも、違ってるかも…しれないし…」 「それでも構わないから、話してみて‥ね。」 「う、うん…」 千歌音に優しく促され、姫子はコクリと頷いた。 「その…アメノムラクモが、新たな命を造り出す力を与えるって言ってたの‥後、その命を大切にしなさいって…」 「ええ、確かに私にもそう言っていたけれど…」 「……それって‥あ、赤ちゃんのことじゃないのかな…」 「……え?」 「ご、ごめんねっ!も、もしかしたら違うかもしれないし…」 姫子は顔を真っ赤にして、慌てふためいている。 その様子を見て、姫子の言葉を理解した千歌音は顔を真っ赤にした。 「あ…」 「ごめんね‥変な事言って‥」 「そんな事…ないけれど…」 2人の間に気恥ずかしい空気が流れる。 確かにアメノムラクモは、新たな命を造り出す力と言っていた。 神だけが与えられる力、だとすると姫子の言っている事も、あながち外れていない気もする。 普通の人なら、ただの夢だと片づけてしまうだろうが、姫子と千歌音は巫女だ。 いまは巫女の力を失っているものの、神に仕えていた唯一の存在。 2人にはただの夢だと思えなかった。 たとえ、もしそれが本当だとしたら、なぜアメノムラクモは私達にそんな力を与えるのだろうか? 「千歌音ちゃん…いま言った事忘れて。きっと私の勘違いだと思うから…」 姫子は俯いて、恥ずかしそうにそう呟いた。 寝室の明かりも消して、ほんの少し眠りかけていた千歌音の耳に姫子の小さな声が聞こえる。 「千歌音ちゃん…もう寝ちゃった?」 「いいえ…どうしたの、眠れない?」 千歌音は、隣のベッドに寝ていた姫子の方へ振り向く。 「…うん。」 「よかったら、一緒に寝る?」 「いいの…?」 「どうぞ。」 ベッドから出てきた姫子は、自分の枕を抱え千歌音のベッドに潜り込んだ。 「あったかい…」 千歌音の温もりに安心したのか、穏やかな表情を見せた。 「千歌音ちゃん…」 「なぁに?」 「忘れてって言ったけど、今日私が言った事…まだ覚えてる?」 「ええ…」 「…もし、あの夢が本当なら…千歌音ちゃんは、赤ちゃんが…欲しい?」 「姫子…?」 「私は…千歌音ちゃんの赤ちゃんが欲しい。」 姫子は真っ直ぐな瞳で、千歌音を見つめた。 「ひ、姫子…」 いつもとは違って、大胆な姫子に千歌音はドキリとした。 「もしね…そんな力があるのなら、私は千歌音ちゃんの赤ちゃんを産んであげたい。千歌音ちゃん…だから、確かめて欲しいの。」 「……っ!」 姫子は千歌音の胸に、すがりついてくる。 「ま、待って姫子…」 姫子のあまりの大胆さに、千歌音は戸惑った。 まだあの夢が確かなのか、分からないのだ。 千歌音は慌てて、姫子を引き離した。 「あ、千歌音ちゃん…い、嫌だった…?」 「そ、そうではないの…ただ…」 もしその力が与えられたとしても、どうやってやるのか見当がつかない。 普通の男女なら、身体を重ねればいいだけだが、2人は女同士だ。 本当に子作りなんて出来るのだろうか? 「それに…私だって、姫子の子を産んであげたい…」 そう言って普段の凛々しい千歌音とは違う、可愛らしい表情で呟いた。 「千歌音ちゃん…」 どうやら互いの気持ちは同じらしい。 愛する人の子供を産んであげたい。 そう思うのは自然だった。 「それに姫子に、あんな辛い思いさせたくないもの。」 きっと、お産の事を言っているのだろう。 もし妊娠した時の事を考えたら、姫子には辛い思いをさせたくない、千歌音はそう思った。 「もし産むのだとしたら、私が姫子の子を産みたいの…」 千歌音の強い意志を、姫子は拒めなかった。 「う、うん…分かった…」 そう言ってもどちらが妊娠するかは分からないのだが…。 「千歌音ちゃん…」 姫子は千歌音の身体を抱きしめた。 「本当にいいの…?」 「ええ…姫子になら…」 「ありがとう、千歌音ちゃん…」 そう言って姫子は千歌音の上に覆いかぶさった。 (まさか本当に妊娠するなんて…) 千歌音は帰り道、自分のお腹をさすりながらどう姫子に話そうか考えていた。 きっと姫子は喜んでくれるだろうが、千歌音は少しばかり不安だった。 ちゃんと子供を育てていけるだろうか、母親しかいない家庭でいじめられたりしないだろうか、様々な不安がよぎったが…。 (でも…姫子と私の子供だもの…きっと強い子に育つはず‥) 千歌音の心はすでに、母親のような強い意志に変わっていた。 《数ヶ月後》 「ねぇ、千歌音ちゃん。どっちがいいかなぁ?」 姫子は両手に色違いのベビー服を持って、こちらを振り向いた。 「姫子が選んだのなら、どちらでもいいと思うけれど…」 千歌音は少し大きくなったお腹を抱えて、姫子の側に寄った。 「う~ん…どっちがいいかなぁ…こっちもかわいいし‥」 どうやら黄色にするかピンクにするか悩んでいるらしい。 千歌音は姫子のそんな姿が可愛らしくて、つい微笑んでしまう。 「あ‥千歌音ちゃん。ほら、ベビーカーもあるよ。」 ようやく服を決めた後も、姫子は次から次に子供用の服やオモチャなどに目移りしていた。 今日は休日のためか、まだ小さな赤ちゃんを連れた夫婦や、お腹の大きい妊婦などが店を訪れている。 千歌音も今日は身体の調子が良かったので、姫子と2人でもうすぐ産まれる子供の服などを買いに、店へやって来ていた。 「たくさん買っちゃったね。」 姫子は嬉しそうに、商品が入った紙袋を千歌音に見せた。 「ふふっ‥姫子ったら、結局全部見て回るんだもの。」 「だ、だって…全部可愛かったんだもん‥」 千歌音に笑われて、姫子は照れくさそうにはにかんだ。 私達はもうすぐ親になる。 あの日、病院から帰ったあと子供が出来たと姫子に話すと最初は驚いていたが嬉しそうに喜んでくれた。 あれから数ヶ月、千歌音のお腹も少しずつ大きくなり、もうすぐ親になるのだと日々実感している。 買い物を済ませ、家に帰る頃にはもう夕暮れ時になっていた。 見慣れた街並みが夕日に染まっていく。 ふと、2人が公園の前を通ると子供連れの親子が3人で手を繋いで歩いている。 「…千歌音ちゃん。」 それを見ていた姫子は、千歌音に空いていた方の手を差し出した。 「姫子?」 「手、繋いで帰ろ?」 「…仕方ないわね、はい。」 そう言いながらも千歌音は微笑んで、姫子と手を繋いでくれた。 「そうだ、今度はミルクも買わなきゃ。」 「そうね、あとオムツも。」 2人で新しい家族を迎えるため、きっとこれから忙しくなる。 でも新たに産まれてくる命に、姫子と千歌音の心は毎日幸せでいっぱいだ。 「綺麗だね、夕日。」 「ええ、とても。」 きっといつか親子3人で手を繋いで、この帰り道を歩く日が来るだろう。 もうすぐ実現する、夢見ていた日々を心待ちにして2人は我が家へと向かった。
https://w.atwiki.jp/hmiku/pages/35274.html
あかるいよる【登録タグ あ 初音ミク 怜介 曲 木木】 作詞:木木 作曲:木木 編曲:木木 唄:初音ミク(調声:怜介) 曲紹介 木木氏の二作目。 後ろを見れば、色んなことがわかるよー。という感じ。 イラストはむつい氏、ボカロ調声は怜介氏、動画は柊木ひなた氏、mixは派遣社員Z氏が手がける。 木木氏のバンドアルバム「ペーパーランド」に本人歌唱verが収録。 歌詞 (動画のDLURLより転載) 家の中 にはお化けがいて ベッドの中 彼女はおびかされる 家の外 夜は明るくて 誰もいないけど 誰もいないから 安らげるのさ 奇妙に照らされたその道は 悲しみのように白く白く 続いて行く まるで水の中 たゆたう足取りで 歩く彼女は 気付いていないけど 後ろポケットには 穴があいていて 抱えていた物全部こぼれていく 冷たい物も温かい物もいっしょくたで 帰る方向を道しるべ 示してる 町を抜けて 川をまたいで 錆びた自転車の向こう に広がる海 砂浜で焚き木をする少年 その火は全ての夜を 照らしてる そこに手をかざして 冷え切った心を 温めてもらおう 「でも、もう帰り道が分からないよ」 呟く彼女に 彼は言う 「後ろを見ろよ!」 後ろポケットには 穴があいていて 抱えていた物全部こぼれていた 冷たい物も温かい物もいっしょくたで 帰る方向を道しるべ 示してる 夜を照らしてる。 コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/kannnaduki-no-miko/pages/210.html
神無月の巫女 エロ総合投下もの 幸せ家族計画 ◆M2vRopp80w氏 ―神無月の巫女― 輪廻転生を繰り返し、悲しい宿命を背負った二人の巫女。 陽の巫女と月の巫女。 世界を再生する為、剣神アメノムラクモによって引き裂かれ月の社に封印されるが、再び転生し月の巫女は陽の巫女と再会を果たす。 そんな二人に、アメノムラクモは贖罪としてある特別な力を授けた。 それは…。 穏やかな風と、温かな日差しが差す昼下がり。 高級マンションや住宅が並ぶ住宅街。 ある高級マンションの一室から、慌ただしい音が聞こえる。 「こらっ!雛子、待ちなさい!」 紅茶色の髪をしたひとりの女性が、小さな女の子を追いかけている。 「やだ~!」 女性と同じ紅茶色の髪をした小さな女の子は、元気に部屋を走り回っていた。 「ほら、捕まえたっ!」 女性の腕の中で、捕まえられた女の子は楽しそうにはしゃぐ。 子供の元気な様子に、女性は穏やかで優しい微笑みを浮かべている。 来栖川 姫子。 彼女は嘗ての陽の巫女である。 「もう、雛子。ちゃんといい子にしていないと駄目ってママに言われたでしょう?」 女の子を腕から解放すると、真っ正面を向かせて女の子を叱った。 「わかった?雛子。」 雛子と呼ばれた女の子。千歌音と姫子の間に生まれた娘である。 雛子は下を俯いていたが、隙を見て姫子の腕からすり抜けて再び走りだす。 「あっ、こらまた!」 二人でそんな事をしていたら、あっという間に、陽が沈む時間帯になってしまった。 「いけない!千歌音ちゃんが帰ってくる前に夕食の準備しなきゃ。」 姫子は時計を見て慌ただしくエプロンを身に付け、台所に立つ。 「ひなこもてつだう~。」 トコトコと台所まで走って来る。 「じゃあ、冷蔵庫からお野菜持ってきてくれる?」 「はぁい」 最初は見ていてハラハラしていたが、子供のうちから何でも経験させておくのも大事な事だ。 小さな体で一生懸命に母親の手伝いをする雛子を見て、姫子の顔が緩んだ。 「よし、これでいいかな。」 テーブルに並べられた豪華な食事、真ん中には今日買ってきた花を飾る。 今日は千歌音が出張先から帰ってくる予定だった。 《ピンポーン》 待ち人が帰って来た事を知らせるインターホンが鳴った。 「あ、ママだっ!」 雛子がいち早く、玄関の方へ走っていく。 「は~い!」 姫子も玄関へと急ぐ。 雛子が精一杯、背伸びをしてカギを開けドアを開くとそこには千歌音が立っていた。 「ただいま、雛子。」 「ママ~」 雛子が千歌音に抱きつくと、千歌音は雛子を軽々と抱きかかえる。 「お帰りなさい。千歌音ちゃん。」 「ただいま、姫子。」 姫宮 千歌音。 彼女は嘗ての月の巫女である。 「ちゃんとお母さんの言うこと聞いていい子にしていた?」 雛子は姫子の事をお母さん。 千歌音の事はママと呼んでいた。 千歌音は抱きかかえた雛子に尋ねる。 「ひなこ、いいこにしてたよ。」 「おかしいなぁ?お昼の時は随分とお母さんを困らせたけど?」 姫子は小首を傾げてわざとらしくそう言った。 「してたもん!ごはんつくるときも、ひなこおてつだいしたもん!」 ムキになって反論する雛子が何だか可愛らしくて、姫子と千歌音は微笑み合った。 「じゃあ、いい子にしてた雛子にママからお土産。」 千歌音は雛子を降ろすと、手に持っていた紙袋を渡した。 「わぁ、ケーキだ!ありがとうママ!」 嬉しそうに紙袋を持って、雛子はパタパタとリビングへ走っていく。 「ふふっ、雛子は元気がいいわね。」 その様子を見ていた千歌音がクスクスと笑った。 「元気なのはいいけど、もう大変だよ。」 苦笑いする姫子。 「ごめんなさいね。大変だったでしょう?姫子ひとりで。姫宮の家に帰っていてもよかったのに…。」 仕事で出張に行かなければならなかった千歌音は、姫子ひとりで雛子の世話をするのは大変だろうと心配して姫宮邸に帰るように言ったのだが…。 「大丈夫だよ。雛子おてんばだから乙羽さんに迷惑かける思うし…それに大変だけど楽しいしね。」 結局、姫子はマンションで千歌音の帰りを待つ事にしたのだ。 「そう?でもあまり無理をしては駄目よ。」 心配そうに姫子を見つめる千歌音。 姫子はそんな千歌音の手を握った。 「うん、分かってる。千歌音ちゃん、それより…」 姫子は千歌音を見上げて目を閉じる。 「姫子…」 千歌音は頬を微かに赤くして、姫子の唇に自分の唇を近づけていく。 「あ~ママたち、ちゅーしてる!」 二人の唇が重なろうとした瞬間、リビングのドアから雛子がこちらを覗きながらそんな事を言った。 「ひ、雛子…!」 「な…もう、雛子っ!」 姫子は顔を赤くして、自分達をからかう雛子に声をあげた。 「千歌音ちゃん、お風呂空いたよ。」 「ええ、じゃあ私もお風呂済ませてくるわね。」 先に雛子と一緒に風呂を済ませた姫子は、帰ってきてからも自室で仕事を続ける千歌音に声をかけた。 千歌音は姫宮邸から出て、ここに住んではいるが姫宮家の一人娘には変わりない。 いまでは姫宮を支えている大事な後継者だ。 毎日忙しい日々を送っている。 家に居る時くらいは、千歌音にゆっくりと過ごして欲しい姫子はなるべく一人で家事などをこなしている。 それでも優しい千歌音は、姫子を心配して色々と手伝ってくれるのだが。 「雛子は?」 自室から出て、リビングに出るとソファーの上で眠そうに目を擦る雛子の姿があった。 「もう眠いみたい。私が寝かしつけるから千歌音ちゃんはゆっくりお風呂に入って。」 「…いいの、私が寝かしつけてもいいけれど。」 「大丈夫だよ。千歌音ちゃんは明日も忙しいんだからゆっくりしていて。」 雛子を溺愛している千歌音は自分が寝かしつけたかったのか少し残念そうな顔をしたが、また明日も仕事が控えている。 ちゃんと体を休ませて欲しくて、姫子は千歌音をお風呂へと行かせた。 「ん~…」 「雛子おいで。絵本読んであげるから。」 雛子の手をひいて子供部屋に連れていく。 姫子は本棚から沢山ある絵本の中から、一冊を選んでベッドの横に座った。 絵本を途中まで読み聞かせ、雛子がウトウトと今にも瞼が閉じそうになっていた時だった。 「ねぇ、おかあさん…」 「なぁに?」 「なんでひなこには、きょうだいがいないの?」 雛子は何故だか、突然そんな事を言いだした。 「どうして?」 「だってひなこのおともだちは、いもうとがいるんだよ。」 そういえば雛子には、最近近所に出来た友達に妹が産まれたのを羨ましがっていた事を思いだした。 「でもみんないる訳じゃないでしょ?」 「うん…でもひなこもいもうとほしい…よ。」 姫子は今にも眠りにおちそうな雛子に布団をかけてやる。 「ほら、もう寝ねようね。雛子。」 「はぁ…ぃ‥」 「おやすみ。」 「おや‥すみなさぁ…ぃ」 姫子は、スウスウと静かな寝息を立て始めた雛子の寝顔を見つめた。 雛子が寝たのを確認し、絵本を本棚に直して子供部屋を出る。 「妹かぁ…」 姫子は雛子が言った事を思い出しながら、姫子はリビングへと戻って行った。 姫子がリビングのソファーに座ってお茶を飲みながらくつろいでいると、お風呂を済ませた千歌音がやってきた。 「あ、千歌音ちゃんもお茶飲む?それともお酒のほうがいいかな?」 「ありがとう、姫子と同じでいいわ。」 「うん。」 姫子は千歌音と一緒にソファーに座り、千歌音が居なかった数日間の出来事を話した。 「それでね…あ、ごめんね、なんか私ばっかり話してるよね。千歌音ちゃん疲れてるのに…」 「そんなことないわ、お話し楽しいから。」 千歌音の優しい笑顔を見て、姫子は雛子と話した先ほどの会話を思い出した。 「‥…ねぇ、千歌音ちゃん。ひとつ聞いてもいい?」 「なに?」 「あのね、千歌音ちゃんは一人っ子でしょ?」 「ええ…」 「千歌音ちゃんは兄弟とか居なくて、寂しいって思った事…ある?」 「え…?…そうね、確かに思った事がないわけでもないけれど…どうしたの、突然そんな事?」 「あのね…実は…」 姫子は雛子が妹を欲しがっている事を千歌音に話した。 「そう…雛子が…」 「だから雛子の願いを叶えてあげたいって思ったの。」 姫子も一人っ子で、雛子の気持ちが分かる。 ましてや両親を幼い頃に亡くした姫子はきっと寂しかっただろう。 雛子にはそんな思いをさせたくはない。 「そうね…あの力を使えばもうひとりくらいは…」 自分達には、普通では有り得ない特別な力を授かっている。 それは神であるアメノムラクモから貰った互いの子供を授かる力。 女同士でも身体を交わせるだけで子供を作る事ができる、二人だけにしかできない特別な力だ。 「それでね、千歌音ちゃん。今度は私が産みたいの。」 「えっ…姫子が?」 雛子を産んだのは千歌音だ。 子供はどちらでも授かる事ができる。 以前、雛子を授かる時も千歌音が姫子に心身ともに負担がかかる妊娠をさせる事を頑固として譲らなかったのだ。 その時、姫子は本当は自分が産みたかったのだが、あまり千歌音が拒否するので渋々諦めた。 「ね、お願い。千歌音ちゃん…今度は私に産ませて。」 「そんな…だめよ。姫子にあんな辛い事させたくないわ。」 千歌音はまたも頑なに拒否をする。 自分が経験しているからなおさらだった。 「私も産んであげたいの、千歌音ちゃんの子を‥ううん、産みたい。千歌音ちゃんの子が欲しいの。」 「姫子…」 「お願い、千歌音ちゃん。」 「……分かったわ、姫子。」 姫子の真剣な眼差しに、千歌音はやっと頷いてくれた。 「ありがとう、千歌音ちゃん‥!」 笑顔になった姫子を見て、千歌音は自分の決意の弱さに呆れた。 (だめね、私ったら‥姫子の笑顔にはかなわないわね…) あれほど姫子には産ませないよう決意していたのに、いざあんなふうにお願いされたらあっさりと許してしまった。 結局のところ、千歌音は姫子には子供の雛子以上に弱いのだ。 「でも大変よ、子供を産むのは…」 「うん、分かってる。」 千歌音が妊娠して出産するまでずっと側で見てきた。 大変なのは百も承知している。 「じゃあ、千歌音ちゃん…ベッドに行こう…もう雛子は眠ってるし。」 姫子が千歌音の腕に手を絡ませ、肩に頭を寄せた。 「姫子…」 身体を重ねるのは久しぶりだった。 ここのところ忙しくて、二人っきりで過ごす事がない。 ましてや雛子がいるので、そんな事をするのさえ躊躇ってしまっていた。 千歌音は姫子の肩に手を回して自分達の寝室へと向かった。 「あ…千歌音ちゃん‥」 シーツの擦れる音が聞こえる寝室で、二人の呼吸がやけに大きく聞こえる。 「姫子…」 ひとつの生命をつくりだす神秘的な行為。 それを自分達に与えられるなんて。 千歌音と姫子は、残酷な宿命を背負わせたアメノムラクモに感謝をしていた。 「どんな子が産まれるかなぁ‥」 二人で愛し合った後、姫子は嬉しそうに千歌音に微笑みかけた。 「そうだ、名前考えないと。千歌音ちゃんはどんな名前がいいと思う?」 まだ見ぬ子供に、姫子は想いを馳せる。 元気で健康に産まれてくれさえすればそれでいい。 「あ、でも…」 「なぁに?」 「千歌音ちゃん似の子がいいなぁ…」 「姫子…」 姫子の言葉に頬を赤くしながら、千歌音も優しく微笑みかえした。 それから数ヶ月後、姫子と千歌音の子が姫子のお腹に宿る。 姫子の思いが通じたのか、千歌音にそっくりな女の子が産まれ千羽と名付けられた。