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バトル・ロワイアルには様々な人物が呼ばれている。普通の人間から異形なる者、ゾンビと呼ばれる者、不可思議な力を行使する者。 主催者であるベルンカステルが幾多のカケラの中から厳選した30名はまさに十人十色の殺し合いを演じるだろう。A-5の砂浜エリアでは、数分後に異能を持つ者の殺し合いが起こることになるのだが、その結末は誰にも分からない。 役者は二人。『探偵』と『魔装少女』にして『連続殺人鬼』の殺し合いだ。 ◆ 『探偵』とは、『怪盗』と対になり、常に怪盗を捕らえるという仕事だ。 帝都ヨコハマ。 日々財宝と金を目当てに暗躍する『怪盗』とそれを捕らえようと奮起する『探偵』のあまりに激しい戦いが日夜繰り広げられている。 『怪盗』のトップに輝くのは怪盗アルセーヌ率いる『怪盗帝国』。対してそれを何度も追い続けて時には撃退し時には逃げられの攻防を繰り返してきた有能な探偵グループがあった。 メンバーは個性豊かで、それぞれ強力なトイズ―――一般的に言えば『超能力』を持つ。その連携で、最強と謡われる怪盗アルセーヌを幾度も追いつめてきた。 だが。彼女達『ミルキィホームズ』は既に落ちぶれてしまったのだ。 謎の落雷により『トイズ』を失ってからは、『ダメダメ探偵』と呼ばれるほどまで堕ちた。ーーーあの日までは。アルセーヌとの決戦において彼女達は再びトイズを取り戻し、再度栄光を手にする。 今ここに呼ばれたのは、ミルキィホームズをメンタル面で支えるチームの一角。 名探偵シャーロック・ホームズの子孫、シャーロック・シェリンフォードである。 「人の命を……何だと思ってるんですか…!!」 いつも温厚で、他人に激情することなど無いシャロであるが、今回は違った。 極めつけは、神楽と呼ばれた少女を見せしめに殺して見せたところだった。 人とのつながりや仲間への思いやりを人一倍大切にするシャロには、人の命を見せ物のように扱った古戸ヱリカを許すことは決して出来なかった。 殺意という感情をここまで明確に感じたのは初めてかもしれない。 しかし、古戸ヱリカを殺してしまえば彼女はきっと罪の意識も感じずに死んでしまう。 生きて罪を償わせたい。 一生を捧げて見せしめにされた少女に贖罪してほしい。 シャロの願いはそれだった。どんな悪人でも、必ず時間をかけて分かり合うことができる。相手の痛みを知れば、きっと分かりあえる。 0 それが叶えば、きっとシャロはヱリカにこう言うのだろう。 『お疲れさま、ヱリカちゃん』 シャーロック・シェリンフォードはお人好しだ。だから人を憎むことができない。 だが。 それはバトル・ロワイアルにおいては欠陥にしかならないのかもしれない。 ■ 夜の王。とある少女は彼のためにと戦い続けた。 複数個の命を得るという禁忌を犯すために、連続殺人により命を集めるという更なる禁忌を犯す。そうして少女はどこまでも、這い上がれないほどに堕落していった。 それが、京子という名の『魔装少女』の生き様だ。 彼女は相川歩に敗れ、魔界に送還された。そしてすぐに、夜の王もまた敗北した。 そうして数奇な人生を送り続ける京子を次に待ち受けたのは、殺し合い。 古戸ヱリカと名乗る少女により開催された喜劇は、とある魅力的な賞品が存在する。 たったそれだけで京子に殺し合いに乗ることを決意させるほどに、魅力的だった。 ―――――願望の成就。 嘘やハッタリではない。ヱリカの目は嘘を吐いている目ではなかった。 求めるのは何か?答えは簡単に、夜の王を蘇らせることだ。 相川歩やユークリウッド・ヘルサイズを殺すのは一筋縄ではいかない。 相川歩は人間ではない。不死――――言わばゾンビだ。 故に、人間が無意識に制限してしまう領域が存在しない。100――――いや、300%以上の力さえ発揮してくる怪物。一撃でも貰えばそれだけで危ない。 ユークリウッド・ヘルサイズはネクロマンサーと呼ばれる地獄の使者だ。 口にした『言葉』をかなりの頭痛を代償に現実にする性質を持っている。 もしもあの力がフルに使用可能なら、恐らく殺し合いの決着はすぐに付いてしまう。 戦いですらない、一方的な暴力である。 しかし、彼らとも戦ってきた。夜の王を復活させるための賞品を諦める理由にしては軽すぎる。殺す。今回は、今回こそは全ての力を使い果たしてでも殺さなければならない。 「(あら…丁度良さげな獲物が居るじゃありませんかぁ)」 『探偵』シャーロック・シェリンフォードの姿を京子は視界にとらえる。 シャロもまた、ほぼ同時に京子に気付く。 だが、シャロの望む『分かり合う』間も与えられずに、京子の周りから二つの竜巻がシャロに迫っていった。ただの竜巻ではない。触れた相手を潰すくらいの破壊力を秘めた京子のメインウェポン。シャロはそれを知ってか知らずにか、両手を前に出す。 「………?」 不思議だった。あの竜巻の真の力を知らなくとも、敵がわざわざ放った不可思議な攻撃を両手で防ごうというのか。あれは生半可な防御なら突き破る威力だ。 次に見るのはシャロの両腕がぐちゃぐちゃの挽き肉にされ、悲鳴をあげる光景だと、京子は確信していた。だが、違う。シャロは京子とは違うベクトルで『不可思議』な力を所持しているのだ。その能力の名は念道力ーーーーサイコキネシス。 京子の放った竜巻が衝突し、見事に相殺して形も残らず消滅する。 驚く京子の肉体が、急に何か見えない力で拘束され、身動きを封じられる。 「――――へえ。結構やるんですねぇ」 「大丈夫です!話せばわかり合え」 京子の拘束が、急に解けたのだ。 シャロが解いた訳ではない。いくらお人好しとはいえ、自分を殺しにかかってくる相手の警戒をそう簡単に解いてしまうほどシャロは探偵として無知ではない。 京子の周りに、大分小さくなった竜巻が幾つも浮遊していた。 「驚くほどの事じゃありませんよ。あなたの拘束を内側から破っただけの話です」 京子は自身の拘束の内側から竜巻を発生させて強引に拘束を破壊したのだ。 自身のトイズをあんな方法で破られるとは思いもしなかった。 京子は小さな竜巻を一気にシャロへと放つ。シャロは再びそれらを一点に集め、攻撃を無力化する。しかし、何度も同じ手を喰うほど京子は馬鹿ではない。 今度はシャロに向けて二次波・三次波の竜巻を放つ。彼女の読みでは、シャロは三次波を防ぎきることはできないと踏んでいた。最初の攻撃の際、京子の竜巻を無効化した後に京子自身を拘束するまでにタイムラグがあった。 それはつまり、一度力を使えばあまりにも早い連続使用はできないということになる。 それは弾幕状に竜巻を配置することであの力は破れる計算になる。 だが、物事はそう上手くは進まない。 シャロはとっさに横向きでサイコキネシスを使用した。それで地面を叩くことで自分は竜巻を避け、竜巻は行き場を失ってしまう。偶然に生まれた応用形の使い方は、京子の講じていた策を破るのに十分すぎる働きを見せた。京子は歯噛みする。 考えれば、あの能力は自分のものより使い勝手が格段に上だ。 予想される使い方としては、相手の足場を崩したり、相手を地面に叩きつけるなど殺しのバリエーションがあまりにも豊富すぎる。 さっきの拘束でもし首に力を掛けられでもしたら、京子はもう死んでいただろう。 いきなり厄介な相手に出会った、と嘆息する。 京子のような放出攻撃はシャロのサイコキネシスに対して相性が最悪だ。 次はシャロからの攻撃だった。 再度力が京子を拘束するために体にまとわりつくのが分かる。 竜巻を放ち、再びそれを破るが、今度はさっきとは違う。 シャロに向かって突撃したのだ。確かに遠距離戦ではこちらに分が悪いが、至近距離でならシャロを力ごとすり潰すことだって不可能なことではない。 竜巻を走りながら生み出し、同じパターンでシャロに向けて放つ。 ヒュゴォォォォオオッ!!という竜巻の風の音が、見えない力に押さえつけられてまるでもがき苦しむかのように暴れた後で消滅する。 その瞬間に、京子はシャロの懐に飛び込んだ。まだタイムラグの内のはずだった。 竜巻の噴射力を応用した拳を、シャロの腹に思い切り打ち込む。 「あぁぁああああああああっ!!」 「やっと…一発入りましたねぇ。お楽しみはまだこれからですよぉ」 サディスティックな微笑みを浮かべ、京子は起きあがろうとするシャロの顎を蹴りあげる。体の重心を失って再び倒れるシャロ。 シャロの顔を足で踏みつける。鼻血が噴き出した。 それと同時に、サイコキネシスの弱々しい力が京子を拘束しようとする。 「それっ」 笑い混じりのかけ声が響き、シャロの絶叫が一帯に更に大きく響き渡った。 シャロの右腕は肘から先が吹き飛ばされていた。竜巻を一つ使い、威力を確かめる。 勝った。そう京子は確信する。 確かに京子はシャロに勝った。もう血は足りなくなっており、放っておけば死ぬのは近い。だから、ここからは勝ち負けが関係ない。シャロの悪足掻きだ。 「……う、ああああああああああああああああっ!!」 猛るような声の後に、シャロの力は砲弾の形になり京子を跳ね飛ばした。 シャーロック・シェリンフォードが何故最後にこんなルール無用の戦いを始めたか。 それは、ここまで無慈悲に人を殺せる人間から、自分の大切な人を守るため。 ふらふらと立ち上がり、京子の方へと歩いていく。 京子は意識を持っていかれるかと思った。相川歩の拳よりずっと上の衝撃だ。 シャロは真上に手を掲げる。そこに巨大な力が収束しているのは明らかだった。 喰らえば間違いなく一撃で終わる。 冗談じゃない。ここで犬死になんかできない。 「(……冗談じゃない。無駄死になんて…馬鹿馬鹿しいっ)」 京子もまたふらふらと立ち上がり、無数の竜巻を出現させてシャロに放つ。 振り下ろされた『力』は竜巻を簡単に跳ね除け、その衝撃だけで京子を更に吹き飛ばす。もう京子に策は無い。後はシャロの力に潰されるだけだ。 しかし、力はいつになっても京子に降りなかった。 降りるはずがない。何故なら、シャーロック・シェリンフォードの胸元から一本の刃が生え、その一撃で彼女は完全に絶命したのだ。 シャロの背後に立っているのは、不敵な笑みを讃えた眼鏡の男。 シャロから刃を抜き取るとその血を舌でぺろっ、となめとる。 手慣れていた。人の刺し方も、人からの刃の抜き方も。 それもそのはずだ。彼は鳴神学園の闇のクラブ『殺人クラブ』の部長・日野貞夫である。ゲームと称して気に入らない奴を次々と殺していくことに快楽を覚える『エリート』―――――。 日野は愉快そうに笑う。足元に転がっている無惨な死体を軽く蹴り飛ばして。 連続殺人犯の京子でさえ分かる、あまりにも異常な男。 日野貞夫は、さぞ愉快そうに倒れている京子の方を向く。 「よお。今の殺し合い、見てたぜ。お前は殺しの才能がある」 「それはどうも。私、一応連続殺人事件の犯人なので」 常人なら逃げ出すか腰を抜かすかしそうな事だが、日野はやはり不敵に笑うだけ。 日野は楽しそうに、最高に楽しそうに京子にある『誘い』を持ちかけた。 「お前……俺達の殺人クラブに入らないか?」 「……殺人、クラブ?」 「この世を楽園とするエリート達のクラブだ。お前なら、きっといい殺しをするぞ」 日野のこの殺し合いにおける立場は、極めて異常な立場である。 参加者は『部員』として優秀な奴のみをスカウトし、後はすべて殺し尽くす。 そして最後には、主催者にこんなところに呼びつけたことに対しての『復しゅう』だ。 「いいですけど、一つ条件があります。願いを叶える権利を私に下さい」 「……いいだろう。あのガキは脅せばそのくらい簡単だ」 日野は一つ京子に話していないことがある。日野貞夫は、『あの日』にクラブ活動の標的によって殺害されたーーーーー正しくは自ら命を絶った。 つまり、日野はここには存在しないはずの『死人』であり、彼自身が『学校であった怖い話』と呼べる存在だと。 京子は知らない。何もかも。 【シャーロック・シェリンフォード@探偵オペラ ミルキィホームズ】 死亡 【残り129/130人】 【深夜/A-5】 【京子@これはゾンビですか?】 [状態]疲労(大) [所持品]不明支給品2 [思考・行動] 基本:日野さんに協力する。 1:相川歩とユークリウッド・ヘルサイズに最大の注意を払う。 2:日野さんが裏切ったなら容赦しない ※原作三巻終了後からの参加です 【日野貞夫@学校であった怖い話】 [状態]高揚 [所持品]ドス@現実、不明支給品1 [思考・行動] 基本:参加者と主催者を殺す。 1:良い奴がいたら『部員』として勧誘する。 2:俺は死んだよな…? ※新堂七話目で死亡後からの参加です 鬼退治 投下順 『魔術師殺し』と『神になった少女』 GAME START 京子 [[]] GAME START 日野貞夫 [[]] GAME START シャーロック・シェリンフォード GAME OVER
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Ⅰ 探偵の外見 Ⅱ 探偵の手口と対策 Ⅲ 探偵の人物像 参考資料 1-1 探偵の手記 2 参考文献
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121 :パスティス:2014/07/03(木) 23 19 24 1947年の事だ。 ぼくことアーチー・グッドウィンはまだ日本にいた。 昨年に雇い主である所のネロ・ウルフから命じられた日本の黒幕、夢幻会を調査しろという命令を私自身は果たしおおせたと思う。 正直な所、家に踏み込まれて日本では中々手に入らないステーキを台無しにされた時には半ダースほど旧米海軍に負けず劣らずの罵り言葉を叫んだものだが それに関しては仕方のない事だろう。 いつの日かあの村中という男を右ストレートでのしてしまえば気が済む話で、そこは気のいいカリフォルニア人の大人の態度を見せるべきだと思う。 ウルフも知っているように、ぼくはナイトクラブで三時間も女性とダンスを踊れば奥底に潜んだ隠し事も詳らかに出来るという特技がある。 勿論ネロはそんな事は信じていないし、そうやって言っておけばぼくが発奮と発情を伴って有意義な捜査が出来ると考えているだけだ。 話がそれたが、現在の状況を説明するとしよう。 今現在ぼくは帝都である東京の料亭にいる。 といっても離れで待ちぼうけているだけで、隣にはウルフもいる。 座椅子というやつに居心地悪そうにしている姿は滑稽だが、むっつりとした顔には少しばかり戸惑いがあった。 やがて暫くしてから複数の足音が聞こえてきて、ようやく離れの扉――障子といったか――が開かれた。 そこにいたのは帝国の魔王と呼ばれる辻という男と、米国に対して完全勝利を決めた総理大臣、嶋田繁太郎がいた。 だがもう一人、その横で杖をつきながらやってきた老人がいる。 「お待たせしました、ミスターネロ・ウルフ」 「せめて安楽椅子は欲しかったもんだ」 日本政府の人間なら誰もが恐れるという辻の言葉にも、我らがウルフは全く動じていない。 というよりもこの男が動じるというのは生半な事ではないのだ。 だがちらりちらりとその横にいる老人を見遣っている所に、ぼくは驚きを覚えている。 「元より私らはあんたらと血みどろの戦争を起こそうなんて考えても居ない。 個人と組織じゃ個人が最終的に押し負けるもんだからな」 「さて……」 ウルフの皮肉――要するにダーティーな手を使えば幾らでも黙らせられるだろうという言葉に 辻はアルカイックスマイルで返してきた。 ぼくは日本人のほほえみというのがどうにも苦手だった。 何せこの間声をかけた大和撫子はぼくの酒場での誘いをこのほほ笑みで返して三千円の奢りに成功しているのだから。 「私達とて米国に名高い探偵を敵に回したくもないのですよ。 勝利を得られるとしても、そこに至るまでの代償が高過ぎる」 私立探偵を敵に回す、というのは厄介なものだ。 ウルフを殺すのは訳もないことだろうが、殺すまでにどれだけの情報が流出するかわかったものじゃないし ウルフの持つコネクション全てに敵対的意識を植え付けることになる。 それらを意に介さない超帝国ならば話は別だが。 「まあ尤も、たかだか半年で夢幻会メンバーの過半数を割り出されるとは夢にも思いませんでしたが」 魔王辻や嶋田元帥も、ぼく達に苦々しげな顔を浮かべている。 これは当然だろう。 日本政府は実に厳重な捜査網を張り巡らせていた。 だけれども、どうしてもシャーロック・ホームズというネームバリューに負けたらしく ぼく事アーチー・グッドウィンのような無名の人物に向ける注意力は私立探偵を相手にするにはいささか少なすぎた。 結果、ぼくが彼ら夢幻会の知る所となるまでには、実に三ヶ月。 村中という男率いる特殊部隊じみた連中がぼくらに差し向けられるにはそこからおよそ十五時間。 ぼくが逃げきれなくなるまでには更に二ヶ月を要する結果となった訳だ。 そして半年後に、ネロ・ウルフがカリフォルニアからやってくるにあたって、夢幻会も敵対ではなく絡めとることを決定した。 その代償が五日ほどのホームレス暮らしと、せっかくのオーダースーツがボロ雑巾というのはどうかと思うが、そこはウルフの交渉に期待するとしよう。 122 :パスティス:2014/07/03(木) 23 20 03 「グッドウィン君は優秀でね。 ……ああ、ああ、バカバカしい。 腹の探り合いはよそうじゃないか。 私達は英国政府からの依頼を受けて、夢幻会の調査を頼まれた。 だけども別に私らは政府の人間じゃぁないんだ」 「よく承知していますとも」 辻ではなく嶋田が頷く。 その眼光と威圧はウルフをもってしても少しばかり唇をすぼめさせるものだった。 しかしウルフはフーヴァーが直接事務所に訪ねてきても放置した男だし、ぼくもお茶を一杯すすれば自分に直接向けられていない視線なら避ける事が出来た。 「どちらにせよ夢幻会メンバーがいずれはばれると覚悟していた。 それが数年以上早まったのは恐るべきことだが……これ以上の事を調査する気もないのだろう?」 「そのとおりだ」 もしかしたらテキサスで出版されている日本陰謀論に類するような秘密を夢幻会は抱えているのかもしれない。 しかしそれを探りだした所で、ぼく達には益がない。 そんなものを探りだしたら、それこそ二度と私立探偵としては生きて行けず、英国かカリフォルニアの専任スパイとなるしかないだろう。 「……そんな所に、ここのご老人から提案が出された。 いや、実に素晴らしいタイミングのストレートパンチだったよ」 苦く笑う様子で嶋田元帥が五人目の存在に目をやる。 ――先日、嶋田総理が自宅へ帰ると、一人のふくよかな福建人が見事な正座をして帰りを待っていた。 家人に聞けば、イギリス大使館からの客だというので帰す訳にもいかず、待っていてもらったとのこと。 嶋田がそれはそれはと客人の素性を正すと、実に楽しげな笑みを浮かべて自分の名前を伝えた。 「シャーロック・ホームズさん……そういえば変装の名人でしたね。 福建人になりすますくらいはお手の物でしたか」 「いやいや、失礼した。 ワトスン君の書物でご存知かも知れないが、私はこういう類の悪戯が好きでね」 嶋田の邸宅で帰りを待っていたのは、ものの見事に夢幻会の監視網をかいくぐったホームズであったのだ。 如何にイギリスの至宝とはいえ、政府にいた兄マイクロフトもおらず、90を超えた老人を政府が縛り付けている訳にもいかない。 ホームズはウルフに調査依頼の手紙を出すと同時に、自分もイギリスを抜けだして日本へとやってきていたのだ。 夢幻会がホームズの存在に気付いたのと、英国政府が曲がりなりにも夢幻会の存在を知り、ホームズへ調査依頼を出すことに決定した時期がかぶったのは偶然という奴なのだろう。 これは後ほどぼくがウルフから説明を受けたことだが、ホームズ自身は日本政府に対して何の隔意も抱いていなかったそうだ。 英国政府からの依頼というのも、夢幻会のメンバーを正確に割り出して欲しいというところまでだったらしい。 汚れ仕事をさせられない、というのが大きな理由だというから、名士というのは保護されていると思う。 ――さて、ここからは特に記述する必要はないだろう。 ビジネス上の会食というのは幾ら料理がウルフを満足させうるものだったとしても、百パーセント堪能出来るものではないし そこでかわされた会話を、少なくとも後五十年は表に出すわけには行かない。 この原稿も、ワトスン博士よろしく日本銀行の貸し金庫に預けておくことにした。 それでは五十年後、この述懐を読んだ読者諸兄には、是非ともロンドンのベイカー街、カリフォルニアの、恐らくビーチ沿いのビル。 そして日本は横浜を尋ねるとよいだろう。 きっとネロ・ウルフとシャーロック・ホームズの薫陶を受けた探偵の弟子たちがいるはずだから―― 123 :パスティス:2014/07/03(木) 23 20 35 「……ホームズを取り込んでしまいましょう」 そういって夢幻会が新たな決定を下したのは、嶋田の家にホームズが急襲をかけた晩の事だった。 恐ろしいまでの変装技術は、空港の職員や、詰めていた情報部員程度では足止めにもならず、ホームズを素通りさせてしまった。 幸いだったのは、ホームズが受けていた依頼はあくまで夢幻会の人員を調べろ、というだけの話。 白洲次郎や吉田茂、それに近衛や嶋田、辻以外のメンバーを調べ、パイプを太くしようというのが目的だった。 ダーティな部分を探られるというのならなんとしても阻止せねばならぬが、そうでないというのならば逆に取り込んでしまったほうがよい。 シャーロック・ホームズという偉大な探偵にしてスパイがいるのだ。 逆にその技術を吸い取り、今後の糧とすればいい。 「世界から富を吸い上げるのはお手のものですからね」 そういって辻がニヤリと笑うのに、嶋田は苦い笑いを隠せなかった。 ――考えてみれば、ホームズは自身の技術、知識を後世に残したがっていたのだ。 聖典――つまり原作でも、彼は幾度と無く自身の技術を記した本、『探偵学』についてを書こうとしていた。 結果がどうなったのかは聖典では書かれていないが、一説によれば結局出版されることなく終わったとされている。 ならばそれを日本で大々的にバックアップするのだ。 日本が富める国であり、他国から犯罪者が流入してくる恐れがある以上、捜査技術はどちらにしろ向上させねばならない。 「……ま、英国にもう一個貸しを作るのも悪くないでしょう」 いやしくも女王陛下から直々に感謝の品を渡されるほどの男だ。 日本が無碍に扱うのではなく、丁重に客人としてもてなすのに真っ向から文句はつけられまい。 そしてやることが、イギリスでは成し得なかった事だとしたら、尚更。 「とはいえ東京に拠点を置かせるのも面倒です。 そこそこ離れていて、しかし利便性の悪くない所……横浜にでもしますか?」 「……偵都ヨコハマとか言われそうですね、転生者の連中から」 ともあれ、こうして夢幻会はホームズの知識を吸収する方針に舵を取った。 嶋田の懸念通り、偵都ヨコハマだなどと名付けようと動いた連中もいたものの 日本は探偵学という存在を警察学校に取り入れ、日本の捜査技術を一段上におし上げる事を目標に、動いていくのであった。 『探偵の系譜』 終了
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トップページ ミルキィ用語 探偵 探偵 シャロ「怪盗を捕まえるのが探偵の役目!」 トイズを用いて犯罪行為を働く怪盗に対抗する存在。 探偵はライセンス制となっており、トイズ所持者のみが有資格者となっている。 怪盗事件には特時捜査権限として、探偵に優先的に捜査権が与えられる。 それに加えて、基本的に個人主義、秘密主義、独断先行と周りを顧みない性格の者が大半を占めるため、 警察組織とは仲が悪い。両者が古参であるほど、その傾向は強まる。 アニメ版のゲスト、エルキュール・ポアロのセリフ「警察?ああ、だからアホなのか」からもその辺りの設定が伺える。 ミルキィホームズ達のようなチームを組むタイプの探偵は新しい試みとして現れた特例中の特例。 普通の探偵学院の生徒もクラスメイトをライバルとしか考えず、互いに協力し合うことはほぼ無い。
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皇帝と探偵のパラドックス ◆j1I31zelYA ある世界、ある街で行われた、神の後継者を選ぶ殺し合い。 12人の後継者候補には『未来日記』が支給され、脱落の運命が確定すると『DEAD END』フラグが告げられる。 『DEAD END』を覆し、襲い来る相手から未来を奪い返せば、勝者。 それはすなわち、戦うことで因果律が変動し、分岐することを意味している。 だから、神は『観測者』を用意した。 因果律の変動を観測し、所有者が何を思い、どのように立ち向かったのか、観察する存在。 所有者たちにそれと悟られない為に、一人の人間としての、記憶と社会的地位を与えられた、中学生。 事件の中にいても違和感がないように、好奇心旺盛な性格を与えられた、探偵。 故に、 彼が殺し合いに『関わりたい』と思ったのは、神がそう望むように作り上げたからであり、 彼が『知りたい』と思ったことは、神が『観測させたい』と思った事象であり、 彼が『謎を解きたい』と思ったのは、因果律を観測する上で有意義だったからに過ぎない。 頻繁に書き変わる因果を観察し、殺し合いが終局を迎えれば、『宇宙の記録(アカシックレコード)』へと帰る命。 だがしかし、 その『観測者』に『秋瀬或』という『個』の意思は宿らないと、誰が証明できるだろうか。 ◆ まっすぐ、まっすぐ、振りかえるな。 それだけのことを考えて、逃げて来た。 走り続けるのは簡単だったのに、もう大丈夫だと足を止めるのは難しかった。 走っている間は、感傷に浸らずに済んだせいかもしれない。 それでも、全力疾走を続ければ息は切れる。 息があがると足は自然に止まった。 ぜぇ、と息を吐く。 体力に自信はある方だった。それでも、実際の運動量以上に疲れを覚えるのは、おそらく精神の疲労だろう。 どこに行けばいいのか。 これからどうすればいいのか。 行動方針を見失ったのは、初めてのことだった。 一度目の殺し合いでは、ある意味どう動くか、悩む必要がなかった。 特定の一人を、追い続けていれば良かったのだから。 今回、桐山和雄をアテにすることはできない。 手を組んだ手塚国光は………………死んだ。 (……らしくないわよ、アタシ) 一匹狼で行動するのは、慣れないことでも不安なことでもない。 桐山ファミリーの中でも、1人だけ浮いたポジションにいた。 どんな人間関係にも裏切りはある。 だからファミリーともドライな関係を維持していたし、その分だけ、マイペースを維持する能力は高いと思っていた。 だから、この胸の痛みは不安ではない。 もっと別の、感傷だ。 走っている間は見ないように、向き合わずにいた『何か』を、彰は持て余す。 (とにかく、休憩しましょう) どこかに腰を落ち着けて、タバコの一本でも吸いたい。 人目につかない場所で、センチメンタルになっている自分を癒したい。 そんな、気分だった。 ◆ 自動販売機を蹴って、手に入れたタバコ。 手塚と共にいた時は、結局吸えなかった。 『スポーツマンはタバコに良い顔をしない』という傾向を、男の好みにうるさい彰は知っていた。 そうでなくても、手塚はそういう『正しい規律から外れた』人間を好かないだろうな、という感じがした。 普段の彰なら、好みのタイプだからといって、遠慮して自分を抑え込むような真似はしなかった。(三村信史にも強引にアプローチをしまくった) でも、手塚の前では、その『タバコを吸う』という些細なことができなかった。 手塚たちの住む世界からすれば、自分はアウトサイダーなのだろうという自意識。羨ましさ、小さな劣等感、素直な憧れ。 そういう微妙な機微の一端が、禁煙にも表れたのかもしれない。 そして、手塚がいなくなった今、彰はタバコを吸っている。 『プログラム』に参加していた期間も含めれば、およそ二日ぶり。 お気に入りの銘柄とは違うけれど、心地よく気管に流れ込んでくる主流煙は、餓えた肺をうるおしてくれる。 見つかりにくそうだからと居座ったガレージ兼用の納屋に、紫煙が充満する。 『一度目の殺し合い』が始まってから、ずっと吸えなかったタバコの味。 久しぶりに味わうそれは、いやおうにも生きている実感を呼んだ。 そう、彰はまだ生きている。 最初は生存率が絶望的なプログラムに呼ばれて、桐山和雄に殺されて、 それでもどうしてだか生き返って、手塚国光と一緒に行動することになって、 腕から大砲を発射するような、化け物じみた少年に襲われて―― ――手塚国光の命と引き換えに助けられて、生きている。 (手塚クンが死んで……アタシは、生きてる) 傷心。 たった二文字の簡単な言葉。だけれど、彰にとっては簡単ではなかった。 月岡彰にとっては、めったにないことだったから。 同年代よりずっと耳年増に育った彰が、自分の感情の整理を付けられないなど、珍しい。 ましてや、出会ってから二時間ほどしかたっていない男に。 つるんでいた沼井たちファミリーが死んだ時でさえ『バカね』としか思わなかったのに。 胸が空っぽになったような、気持ちになるなんて。 理不尽だ、とは思わない。 むしろ、当然なのだ。 確かに、手塚国光は強い男だった。 でも、甘い男だった。 殺し合いの場所なのに、自分を殺そうと襲って来た人間の心配をしていたのだから。 だから、死にやすい男だった。 正義感のある人間や、強い人間、立派な人間が生き延びやすいかというとそうじゃない。 頭が良くて、ずるくて、調子が良くて、運のいい人間の方が、生き残るには楽だ。 だから、手塚は死んで、彰は生きている。 それが現実なのだと理解できる程度には、彰は大人になっていた。 それなのに、 どうして自分が生きていて、手塚のような人間が死んだのか。 そんな想いが、まとわりついて離れない。 彰に無いものを、持っていたからだろうか。 手塚国光の生き方は、彰が甘ちゃんと見なす類のものだった。 けれど、彼は死の訪れる瞬間まで、その信念を貫いていた。 少年を殺すなり早く逃げるなりしていれば、あるいは、彰を庇わなければ。 そうしていれば助かることもできたのに、そのことを微塵も後悔していなかった。 彰には、自分の命よりも重いものなどない。 でも、手塚にはそれがあった。 それは、自分の在り方を貫く信念だったり、どこかにいる仲間との絆だったり。 本当に、格好いいと思った。 もっと早く出会いたかったと、もっとずっと見ていたいと、思ってしまうほどに。 手塚が彰のように生き返ることは、おそらくない。 主催者の能力など、分からないことだらけだが、それでも残虐で意地が悪い大人だというのは分かる。 そんな存在が、一度奪ったものを返してくれるような、親切な真似をするとは思えない。 手塚もそれを予期したうえで、もうここで自分は終わりなのだと理解した上で、納得して死んでいった。 残された参加者のことを案じて。どこかにいる仲間に、遺言を残して。 彰に後を託して、死んでいった。 ――月岡……お前も、柱になれ。この殺し合いに反逆する、サムライになるんだ。 ずるい男だな、と思う。 彰が手塚のようになれるはずがない。 住んでいる世界が、それまでの人生が、強さが、培ってきた何もかもが違うのだ。 自分のことが大好きで、自分が一番可愛かった彰が、『保身』以外のことを目的にして、生きていけるはずがない。 だいたい、『サムライ』って何だ。どうしてそこで、そんな単語が出てくるんだ。彰はオンナだというのに。 だから、手塚はずるい。 それが彰にとってどんなに難しいことかも知らないのに、 彰にもきっと『それ』ができると、信じて疑っていなかった。 『サムライ』や『柱』という言葉に、どんな意味があったのかは分からない。 けれど、それが手塚の仲間内で了解されていた、大事な意味を持つ言葉だというのは、その言葉の端々から、分かってしまった。 だから、やっぱりずるい。 彰にはその価値など分からないのに、 『惚れた男から大切なものを託された』のだと実感してしまったら、 手塚が、彰にそれだけのことをしてくれたのなら、 切り捨てようにも、捨てられなくなってしまうじゃないか。 そう、惚れたら負けだ。 だから月岡彰は、手塚国光という男の生き方に、とっくに負けていたのだと思う。 手塚国光の生き方を、『利用するつもりだった温室育ちの説いたキレイごと』として切り捨てることは、もうできなくなっていた。 手塚の遺志を継ぐにせよ、継がないにせよ、それはずっとまとわりついて来るはずで―― 「貴様、まだ学生だな」 思考の中断。 低い――はっきり言ってしまえば、壮年男性のように野太い声が降って来た。 見上げると、目が合う。 黄土色のジャージに帽子を被った男が、彰のすぐそばまで来ていた。 片手には、灯り代わりの携帯電話。もう片方の手には木刀を構え、用心のためだろうか先端を彰に突きつけている。 何故だろう、声も顔も、全く似ていないのに、 せいぜい『老けこんだ顔つきをしている』ぐらいしか共通点がないのに、 「学生の身分で喫煙するとは、たるんどる」 手塚に、叱咤されたような気がした。 不思議なデジャビュに、瞬間、口を半開きにして呆ける。 しかし、地面にポロリと落ちたタバコで我に返り、 「いいじゃないのよ。お友達に死なれてへこんだ時ぐらい」 接近に気づかなかったバツの悪さも手伝って、そう言い返していた。 感傷に没頭する余りに状況把握を怠るなんて、行動方針を決める以前の問題だと自嘲する。 ジャージの男からすれば予想外の弁解だったようで、厳つい顔つきに緊張が走った。 その微細な変化を見て、彰は察した。 ああ、この人、まだ誰かが死ぬのを見てないんだわ、と。 「仲間を、殺されたのか……?」 「さっき知り合ったばかりだけどね。とってもカッコいい男の子だったわ」 「――その話を詳しく聞かせてくれないかな。僕の友達だという可能性も捨てきれないからね」 そう問い返したのは、木刀の男ではなかった。 不意打ちの声に驚き、彰は視線を男の背後に向ける。 ガレージの入り口に、すらりとした白髪の少年が立っていた。 心配するような言葉とは裏腹に、落ちつき払ったアルカイックスマイルが、街灯からの逆光に浮かび上がる。 訂正しよう。近づいて来た男は、2人だった。 ◆ まず、どうして居場所がばれたのか尋ねた。 確かに彰も不用心だったけれど、人が隠れていそうな民家なら他にもあったはずだ。 偶然だよ、と銀髪の少年が答えた。 「真田くんとは、この家の庭先で鉢合わせたんだ。僕はもともと、ここに用があって来たからね」 というのも、少年に支給された乗り物が充電式だったそうで、簡単に電気を借りられる家屋を探していたらしい。 そういう説明をしながら、少年はガレージ内のコンセントを借りて、『それ』の充電を開始した。 それは、奇妙な形の二輪車だった。キックスクーターの足場を横長にしたようなプレートの両端に、大きめの車輪がはめこまれている。 大東亜共和国では見かけない。外国産の電動車だろうか。 今まで出さなかったのは、バッテリーの問題だけではなく、路面の都合もあったのだろう。見るからに山道向きではない。 充電を始めると、少年は改めて彰たちに向き直った。 やけに存在感のある、さわやかなドヤ顔だった。 「自己紹介が遅れたね。僕は中学生探偵、秋瀬或」 中学生探偵。 まるで漫画みたいな肩書きだわ、と思う。 腕から大砲を出す人間もいたんだから、いまさら自称『探偵』がいたとしても、驚かないけれど。 しかし、別に今回のことは、絶海の孤島連続殺人みたいな、探偵が推理をする事件じゃない。 法の外にあるサバイバルゲームだと理解している彰には、『探偵』という肩書きが、どうにもうさん臭かった。 でも、そんな些細なことに違和感を覚えたのは、彰だけだったらしい。 『真田』と呼ばれた男は、次は自分が名乗る番だと心得たように、口を開いた。 ――って、ちょっと待て。 真田という名前は、どこかで聞いた、はず…… 「立海大附属中学三年、テニス部副部長、真田弦一郎だ」 「テニス部の……真田?」 テニス部。 その単語に、聞き覚えがないはずがなく。 手塚と会話した記憶から、『真田』という名前をようやく引っ張り出し、 「あなたが……手塚クンの仲間?」 深く考えずに、そう聞き返していた。 「手塚に会ったのか?」 当然、そう聞き返されるわけで。 それまで落ち着き払っていた真田が、声のトーンをやや高くした。 (……やばい、どうしましょう。) そりゃあ、手塚に、仲間をよろしくと言われてしまったけれど、 仲間に遺言を伝えるぐらいの、義理は果たそうと思っていたけれど、 こんな心の整理もつかない内に出くわすなんて、ぜんぜん予期していなかった。 「手塚クンは……」 言葉をつまらせる。 その彰を見て、真田も『察知』してしまったらしかった。 険の強い視線から感じる威圧感が、ぐっと重さを増す。 当たり前か、と彰は、それまでの言動を振り返った。 彰は、ついさっき同行者に死なれたばかりだと言った。 彰は、手塚国光と行動を共にしていた。 これだけ手がかりが揃えば、誰だって感付いてしまうだろう。 悪いことをしたなと思いながらも、同時に、避けてはいけないことだと自覚した。 説明しなければ。 それができるのは、彰しかいないのだから。 「手塚クンは……亡くなったわ」 ◆ 最初から、ありのままを話した。 海洋研究所での出会い。 三人での話し合いから、同行を決めたいきさつ。 道中で、殺し合いに乗った少年に出くわしたこと。 逃げようと思えば逃げられたのに、手塚は少年の説得を試みたこと。 もう逃げられないという状況で、それでも彰だけを逃がしてくれたこと。 仲間に伝えてくれと言った、遺言のこと。 改めて言葉にすると、荒唐無稽な話だった。 世界観が違うらしいことや、腕を大砲に変形させる少年。 そして、『過去を再び発生させる』という手塚が見抜いた少年の能力。 思い返せば、ファンタジーとしか言いようのない事象ばかり。 アタシが説明される側だったら絶対に信じられないわね、と呆れつつ、言葉を結んだ。 「信じられないような話かもしれないけど……本当のことよ」 「いや、信じよう」 即答だった。 真田はあっさり、『信じられる』と言い切った。 「お前が語った手塚の在り方は、俺の知る手塚という男に一致する。 あの男ならば、そういう生きざまを選んだとしてもおかしくはないだろう」 手塚国光を知っているから、荒唐無稽な話でもそうと信じられる。 ああ、 同じだ、と思った。 ――どいつも殺し合いに乗るような連中ではないからな。 最初は、平和な青春を送っている温室育ちだから、そんなことが言えるんだと思っていた。 けれど、手塚だけでなく、真田もまた、当たり前のように信じていた。 殺し合いの中でも、手塚国光ならそう在るに違いないと、少しも疑っていない。 確かな絆を、特別なことではなく、当たり前に共有していた。 たとえこの人たちが、大東亜共和国に生まれていたとしても、やっぱり最後まで、互いを信じていたんじゃないのか。 『違う世界の住人なんだ』という彰の言いわけが、引きはがされていく。 「感謝する。お前がいなければ、手塚の遺志は誰にも伝えられないままだっただろう」 真田は神妙な態度で、深々と頭を下げた。 そこまで強固な絆があるなら、死んだと聞いて動転しないはずがないのに、 そういう動揺をおさえて、感謝を示してくれているのが、申し訳なかった。 けれど、託されたことをひとつ成せたという達成感が、心に生まれたのも確かだった。 真田は顔を上げると、ガレージの天井を見上げて、目をつぶった。 息を吸う音。吐く音。 そして、絞り出すように語る。 「……『貴様とはもう二度と試合をやらん』と決めていた」 目にもとまらぬ速さで、木刀を横に薙いだ。 ガァァァン、と鈍い音が、ガレージ中に反響する。 音が響いて初めて、壁に叩きつけられたと理解する、そんな疾さ。 「だというのに、二度と試合が叶わないと知るや、途端に惜しくなる……情けないものだな」 それでも言葉に動揺を乗せないのは、プライドが成せる技か、あるいは彰たちが見ている前だからか。 「たわけが……」 罵倒した対象は、逝ってしまった好敵手に対するものか。それとも、己自身だろうか。 ◆ しばしの間、一人にさせてもらう。 そう言い残して、真田はガレージから出て行った。 気持ちの整理をしたいというよりは、悲嘆する姿を他者に見せたくないのだろう。そういうタイプに見えた。 そしてガレージ内に、彰と、自称少年探偵が残された。 真田がいなくなるのを見届けてから、秋瀬或が切り出した。 「君の話に出てきた真希波さんという少女のことだけれど……おそらく、僕はさっき彼女に会ったよ」 「『おそらく』って……」 「亡くなっていた」 彰をじっと観察しながら、秋瀬は即答した。 彰を気づかうというより、むしろ『亡くなっていた』と聞いてどう反応するかの方を、見ている感じがした。 秋瀬の話によると、ここからだいぶ離れた山の中腹で、2人の少女に看取られていたらしい。 前後の状況は不明だが、どうやら少女たちを庇って、致命傷を受けたようだとのこと。 「そう……これでアタシ1人になっちゃったのね」 死ぬつもりはない、と啖呵を切っておきながら、彼女もまた、人を助けて死んでいったのか。 意外だった。マリはどちらかと言えば手塚より彰に近い、我が身かわいさで動くタイプに見えたのに。 彼女を変える何かがあったのか。あるいは、場の状況に流されて、結果的に人を助けてしまったのか。 どちらにせよ、最初に出会った2人が、放送を待たずして死体になってしまった。 手塚の時ほど喪失感はなかったけど、それでも『寂しいな』という感傷はあった。 「マリちゃんを殺したヤツのこと、分かる?」 そう尋ねたのは、決して仇討ちを考えたからではない。 単純に、警戒対象として、殺した相手の情報を求めたからだ。 ナイーブになっても彰はやっぱり、生きることを考えていた。 「いや、彼女たちは語らなかったし、僕も踏み込んで聞かなかったよ」 「……じゃあ、マリちゃんと一緒にいた女の子2人の名前は?」 「黒髪にえんじ色のスカートをはいた少女は船見結衣さん。初対面の時に、そう名乗っていたよ。 茶髪にセーラー服の少女は、名前を聞けなかった。自己紹介をしている場合ではなかった、と言った方が正確かな」 「何も聞かなかったの? 探偵なのに?」 「あいにくと、すぐにでも駈けつけないといけない『友達』がいてね。 ひとつしか尋ねることができなかったよ。それでも、僕の求めていた答えは聞かせてもらえたけどね」 ということは、出会いがしらに説明を求めたのも、情報収集より、充電をする間の時間潰しが主目的だったのだろうか。 秋瀬ではなく真田に説明していたつもりだったけど、それでも微妙な苛立ちがあった。 「何を聞き出せたの?」 「そうだね、できれば君にも答えて欲しいことかな」 やっぱり、情報を引き出されるのか。 探偵で助けたい友達がいるからには、対主催を考えてはいるのだろう。 となると、首輪を解除するアテでも知りたいのか。 それとも、知り合いの参加者に関する情報か。 あるいは、彰自身の持つ技能に関する質問か。 しかし、秋瀬或の問いかけは、それらのどれでもなかった。 「君たちは、自分がここにいる意味について、どう思う?」 そんな、問いだった。 「どうしてそんなことを聞くの?」 そして、予想外すぎる問いだった。 『どうやったら殺し合いを脱出できるのか』をすっ飛ばして、 『そもそも人間はどうして生きているの?』と聞かれたような。 「この殺し合いの謎を解く。 その為に、僕たちが殺し合いに呼ばれた目的を推理したい。 君たち全員に話を聞けば、おのずと見えてくるはずだからね」 「『意味』があったとして……それで何かが変わるのかしら?」 考えるより先に、答えていた。 反射的に噛みつくのと同時、直感的に理解する。 先ほど感じた、微妙な苛立ちの正体を。 「君は、なぜ自分が呼ばれたのか、不思議に思ったりはしないのかい?」 「仮に『意味』があったとしても、どうせ納得できるようなものじゃないわよ」 『意味』を考える意味なんて、なかった。 彰の知っている殺し合い――『プログラム』は、そういうものだった。 どうして殺し合いが開かれるのか、誰も正しく理解していなかった。 政府に反抗する人間も、殺し合いを受け入れる人間も、『意味』なんて考えていなかった。 生か死か。どう生き残り、どう死なないか。その二つだけ。 もちろん、他者を蹴落とさずに、手を取り合って助かろうとした生徒はいた。 あの、拡声器で呼びかけた、2人の少女のように。 けれど、それだって『自分だけ』ではなく『みんなで生きよう』とした結果に過ぎない。 自分が生きる意味に疑問を持つような、余裕なんてなかった。 手塚を殺した少年だって、『自分のいる意味』なんて小難しいことを考えなかったはずだ。 だから……秋瀬或の余裕が、気に入らない。 自分も参加者の一人なのに、まるで1人だけ、皆の足掻きを俯瞰しているみたいで。 「秋瀬クンの言い方って、まるで殺し合いを開いたヒトに、心当たりがあるみたいだわ。 『どうしてあの人がこんなことをしたんだろう』って感じ」 「君は鋭いんだね。どうしてそう思ったのかな?」 「否定しないのね」 推理とか論理だとかをすっ飛ばした、オンナの勘。 失礼な言いがかりだと分かった上で口にしたのは、秋瀬の反応を見たかったからだ。 でも、根拠のない言いがかりではなかった。 彰は、桐山ファミリーの中でも裏方担当だった。 相手の意識の間隙をついての窃盗とか、尾行とか、どこかに忍び入ることとか。 それらの特技を利用して、ファミリーの中でも情報を集める側に回ることが多かった。 そういう意味では、やっていることが『探偵』に近かった。 だから、怪しんでしまう。 どうして、マリを殺した相手の特徴ぐらい、聞いておかなかったのか。 時間を費やす質問でも、なかったはずだ。 どこで、どのような特徴を持つ人物に襲われたのか。その情報を得ておくだけで、秋瀬自身の生存率は、格段に上昇する。 マリを殺害した人物は当然、その近辺にいたのだろう。つまり秋瀬がそのマーダーと遭遇していた可能性は、低くなかったのだ。 いくらマリの同行者が傷心中だったとしても、殺害者の情報は伝えるべきだと、理解させるぐらいはできたはず。 見たところ、秋瀬或は、冷淡にすら見えるほど冷静な少年だった。 そんな少年が、どう考えても必要な情報をすっ飛ばして、『意味』という抽象的なモノを求めるなんて、それではまるで―― 「殺し合いを止めたいっていうより、殺し合いを『観察』してるみたいなのよね。 まるで、自分の知ってる何かと比べてるみたいに。 できれば説明してほしいわ。これじゃ、主催者の回し者と疑われても、仕方ないわよ」 まるで――主催者にアンケートでも取られているみたいだ。 主催者に意を含められて、参加者に『殺し合いに参加してみてどうですか』と聞いて回っているような。 ――という感想は、あまりにも邪推過ぎて、口にできなかったけれど。 「僕自身も主催者の回し者――か。面白いね。その仮説は面白い」 深く考えての言葉ではなかった。 ほとんど秋瀬に対する反発から口にした、売り言葉に買い言葉、程度の『主催者の回し者』疑惑。 だというのに、秋瀬或は、本当に面白そうな、アルカイックスマイルを浮かべていた。 「でも、そういう君だって、殺し合いをよく知っているような言い方をするんだね。 意味を考えることに意味はない、とか」 そう言えば、第六十八番プログラムのことは、説明していなかった。 世界観の違いがどうとかという部分は、かなり省略して話したから。 「まぁね……そっちが『殺し合い』について教えてくれるなら、アタシもアタシの『殺し合い』を教えてもいいわよ」 「それで構わないよ」 秘密主義の男かと思いきや、あっさりと乗って来た。 彰としても、別に出し惜しむような情報ではなかった。マリたちにも話したのだし。 先に彰が、大東亜共和国と『プログラム』のことを話した。 二度目であるだけに、いくぶんか要領よく、簡潔に説明を終える。 それが終わるころ、真田が戻って来た。 ただならぬ空気を察したのか、壁に背を預け、聞き役に回る。 そして秋瀬は、彼の知る『殺し合い』について語り始めた。 デウスという『神様』のこと。 十二人の候補者の中から、次の神を決めるバトルロイヤルを開いたこと。 次なる神様が現れなければ、世界が崩壊してしまうこと。 そのバトルロイヤルに、秋瀬の大事な『友達』が参加していたこと。 『友達』は時として秋瀬の助けを借り、上手く生き残っていたこと。 神様が決まるより先に、世界の崩壊が始まってしまったこと。 生まれ育った街を浸食する黒い球体。 崩壊する世界を前に、神様に対して『神の力があれば何でも可能なのか』と質問すべく、謁見したこと。 その時点で記憶が途切れて、目覚めると殺し合いに呼ばれていたこと。 「つまり、世界が崩壊寸前だというのに、神様は再び殺し合いを始めたらしいということだね。 もちろん、僕の知っているデウスと、この殺し合いを開いた『神様』が同一犯かどうかは分からないけれど」 「世界の崩壊を防ぐ為の殺し合い……ねぇ」 どうしろっていうのよ、というのが、彰の感想。 世界の崩壊を防ぐ為の意味ある戦いだ、と言われても。 そこで彰がどうすればいいか、その答えとは全く繋がらない。 だいいち、その崩壊が訪れたとしても、崩壊するのって多分、秋瀬或のいる世界限定のはずだし。 ……というか、それが殺し合いの目的なら、優勝しても『神様』とやらにされてしまう? そりゃあ彰は死にたくなかったけど、人間をやめたいとも思っていなかった。 『優勝するのが堅実ね』とか考えていた自分を、あまりにも安直だったと反省。 真田の論点は、また違っていた。 「その『友人』について、教えることはできないというわけか」 「僕は何があっても彼に味方すると、心に決めているからね」 そう、秋瀬或は、『友達』に関することを、一言も洩らさなかった。 名前も、年齢も、『殺し合いで長く生き残った』という一点をのぞいた、全ての情報を。 それもそうだ。 『一度殺し合いに乗り、他の参加者を蹴落としてきた』という経歴だけで、人によっては不信を買うのに充分なのだから。 案の定というか、真田の舌鋒は鋭くなった。 「つまり、貴様は『友人』を神にする為に、殺し合いに乗るということか?」 「いや、乗るつもりはないよ。今回の殺し合いに、何らかの『裏』があることは明らかだ。 ならば、彼を神様にしてあげたところで、彼の望むものが手に入るとは思えない」 乗らない。 その答えは、彰に一応の安堵を与えたが、真田はそうではなかった。 険のある眼光に宿る光が、鋭さを増す。 「つまり貴様は、『友人が殺し合いをすること』自体は、肯定していたのか?」 そう言えばそうね、と気づく。 『探偵』であるにも関わらず、秋瀬或は、『殺し合い』というシステムを否定していないようだった。 三人の中で唯一『殺し合いのない世界』から来た真田だからこそ、いち早くそれを指摘し、歪みを見出したのだろう。 秋瀬或の、眼の色が変わった。 貼り付けたようにさわやかな笑みが崩れる。 貪欲そうな、狂気じみた笑顔に変わる。 「白状するとね……『この世界に新しい『神』が必要だというなら、僕は彼がいいと思う』。 そんな風に思っていたことも、あったよ」 理解した。 ああ、この人、その『友達』が大好きなんだわ。 その瞳に宿るのは、恋焦がれる対象を想う、執心だった。 何をしてでも、その少年を守りたいという意思。 殺し合いを、興味本位で傍観しているだけの人間ではない。 それが分かったことに安堵して、オンナの勘で理解した恋心に共感して、 そして、正直なところ、少し引いた。 元から殺し合いを受け入れていた彰でさえ、恋しい人を優勝させる為に、何でもしようという発想はなかったから。 だから、殺し合いに慣れていない真田は、よけいに引いているだろうなと、そう思ったのだが……。 果たして真田は、真剣に会話を続けた。 「我が立海大テニス部の後輩に、切原赤也という男がいる」 ……………………はい? 「そいつは極端に攻撃的なテニスをする男だった。相手にボールをぶつけるラフプレイや、過剰なまでの挑発で、しばしば問題行動を起こした。 いや、『ラフプレイ』で済んでいるうちは、まだ良かった。やがて『悪魔化』という異能を身に付けた。 無論、身体能力は格段に向上するし、戦意も上がる。 しかし理性を失ったかのように凶暴化した。チームメイトの指示すら聞こえなくなることもあった」 「あの、真田クン、何の話? ……っていうか悪魔化って」 聞き返したのは彰だったが、或も同じく疑問を顔に出していた。 「俺たちは、その力が立海大三連覇に必要な力だと思っていた。 だからこそ、そのおぞましさに敢えて目をつぶっていた。 俺たちは何としてでも三連覇を成し遂げることのみに捕らわれていたし、 奴自身も、あの時点では悪魔化なくして、あれ以上の向上は望めないと思われていた」 どうして悪魔化する能力がテニス部に必要なのか。 そこが疑問だったが、真田は深刻に語り続けた。 後輩やチームの為に必要だったはずの力は、後輩の命をおびやかす、危険な力だったということ。 身体の負担だけでなく、後輩の精神をひどく不安定にしてしまう変化だったこと。 気づいた時には、真田たちの手には負えないほど、症状が進行していたこと。 理解ある他校生のおかげで、どうにか大事に至らずに済んだこと。 「貴様の『友人』の事情など、追求するつもりはない。あるいは、他者を傷つけてでも『神』の座に執着する理由があったのかもしれない。 いずれにせよ、貴様が『友人』の為に道を違えうるなら、そうなった時に相手をするだけだ。 だが、これだけは言っておく。『友人』を生かし、勝ちあがらせる為に必要な『歪み』だったとしても、歪みは歪みだ。 その歪みが、そいつ自身を追い詰めない保障など、どこにもない」 生き残っていく上で必要な歪みだとしても、歪みは歪み。 その言葉に、秋瀬は呆けたような表情を見せた。 『友達』を幸せにする為なら『友達』の殺人を容認する、という行為自体の否定ではない。 『友達』の為に歪みを容認した結果が、『友達』を間違った道に進ませ、却って不幸にしてしまうという忠告。 きっと、『友人』とチームメイトという立場こそ違えど、真田も後悔したことがあるのだろう。 当人の為だとか、どうしても勝ち残らなければいけないとか、そんな理由で異常性に目をつぶって、しっぺ返しを食らわされた経験からくる饒舌だった。 秋瀬或は、表情を硬直させたまま、沈黙した。 まるで、全然予想していなかった角度から、不意打ちを受けてしまったみたいだ。 無理もないのかもしれない。 彰は動転の理由が、分かる気がした。 おそらく、秋瀬は好きな子を甘やかしてしまうタイプだ。 リードして主導権を握ることには慣れていても、それが高じてつい『僕に任せて』とか『君は悪くない』とか言ってしまう、恋人を駄目にするプレイボーイの匂いがする。 真田は、真逆だった。 仲間だろうと友人だろうと甘やかさない、むしろ、親しい存在だからこそ、いっそう厳しく接する。 オンナの勘が間違っていなかったことは、続く秋瀬の言葉が証明した。 「……確かに僕は、彼を何度か助けてきたけれど、彼が犯した罪には眼をつぶってきた。 もちろん『神になって欲しい』という希望もあったけれど、嫌われたくないという下心があったことは、否定しないよ。 彼が『暴走』した原因の一端も、そこになかったとは言えない。 だから真田君の忠告は、ありがたく受け取っておく」 ◆ 小さな火花を散らすような会話の後、秋瀬は時間をおかずに、出発すると宣言した。 二輪車の充電が完了したから。 それだけでなく、真田の忠告を聞いて、改めて『友達』の元へ駈けつけようという決意を新たにしたらしい。 「秋瀬の『友人』のことは、一応考慮しておく。それと分かる人物に出会ったら、貴様のことを伝えるぐらいはしてやろう。何か言伝はあるか?」 「ありがとう。……そうだね、『僕は何があっても君の味方だ』と、そう伝えてほしい。 『忠告』のことはあるけれど、こればっかりは止められそうにないからね」 その代わりじゃないけど、こちらも伝言を託したい相手がいれば引き受けよう、と秋瀬が提案した。 真田は少し考えて、答える。 「越前リョーマ、跡部景吾、遠山金太郎、そして切原赤也。 この4人に出会うことがあれば、月岡が語った『手塚の最期』を伝えてほしい。 先に述べたように問題のある奴もいるが、根はまっすぐな連中だ。無条件で信頼できると保証する」 「へぇ、それは頼もしいね……月岡君は?」 「アタシは別にいいわ」 会話は緊張感を孕んでいたものの、別れの挨拶は穏やかなものだった。 互いに互いを異なる人種だと理解したからこそ、かえって一定のラインで信用が芽生えたのかもしれない。 「そう言えば、真田君にはまだ聞いていなかったね」 別れ際、二輪車を納屋の外へと押し出しながら、振り向いた秋瀬が問いかけた。 「真田君は、この殺し合いに呼ばれた意味をどう思う? あるいは、殺し合いの中で、こう在りたいという望みはあるかい?」 それは、彰が受けた質問と同じものだった。 真田は、どう答えるのだろう。 彰は、回答を待った。 それほどの間をおかず、揺るぎのない声が断言する。 「ここが化け物の巣窟だろうと、地獄だろうと、皆で這いあがる道を探す。 神から与えられた意味などに価値はない。俺は俺の力で、俺が生きる意味を証明してみせよう」 「なるほど、つまり君は、『反逆者』でありたいということだね。 けれど、その反逆をも、主催者は織り込み済みかもしれないよ」 「たとえそうだとしても……己を曲げるのは性に合わん」 ――俺は、敢えて困難な道を――しかし、俺が納得できる道を選ぼう あの時の言葉と、同じだった。 またなのか、といっそ呆れながらも、心のどこかが『やっぱりね』と言っていた。 本当にずるい男だと思う。いなくなってからの方が、存在を実感することが多いなんて。 秋瀬は続いて、くるりと彰の方を向いた。 「月岡君はどうかな? あれから色々と話をしたけれど、答えは出た?」 「答え、って……」 「意味を考えたくないと言うのなら、君自身の望む姿を聞かせてほしい。 君は、この殺し合いでどういう役を演じたい?」 迷いを見透かすように、秋瀬が底の見えない瞳で射ぬいていた。 決断を迫られている。それが分かった。 「分からない」と言って、回答を先送りにすることもできた。 けれど、そういう風なごまかしはしたくなかった。 ここで自分の在り方を決めなければ、踏ん切りがつかない。 そんな予感があったから。 だから彰は、決めた。 「アタシは――」 【D-6/民家/一日目 早朝】 【真田弦一郎@テニスの王子様】 [状態]:健康 [装備]:木刀@GTO [道具]:基本支給品一式、不明支給品0~1、赤外線暗視スコープ@テニスの王子様 基本行動方針:殺し合いには乗らない。皆で這いあがる道を探す 1:知り合いと合流する。特に赤也に関しては不安。 2:秋瀬或の『友人』に会えたら、伝言を伝える。 [備考] 手塚の遺言を受け取りました。 秋瀬或からデウスをめぐる殺し合いのことを聞きました。 (ただし未来日記の存在や、天野雪輝をはじめ知人の具体的情報は教えられていません) 【月岡彰@バトルロワイアル】 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2、 警備ロボット@とある科学の超電磁砲、タバコ×3箱(1本消費)@現地調達 基本行動方針:アタシは―― 0:秋瀬或の質問に答える。 1:手塚の意思を汲み、越前リョーマ、跡部景吾、遠山金太郎、切原赤也と合流する。 2:桐山クンにはあんまり会いたくないわ…。 [備考] 秋瀬或からデウスをめぐる殺し合いのことを聞きました。 (ただし未来日記の存在や、天野雪輝をはじめ知人の具体的情報は教えられていません) 【秋瀬或@未来日記】 [状態]:健康 [装備]:未来日記(詳細不明、薄らと映る未確定エンド表記)、セグウェイ@テニスの王子様 [道具]:基本支給品一式、不明支給品(0~2) 基本行動方針:この世界の謎を解く。 0:月岡彰の答えを聞く。 1:……。 2:天野雪輝に会いに行く(真田の忠告に、思うところあり)。 3:越前リョーマ、跡部景吾、切原赤也、遠山金太郎に会ったら、手塚の最期と遺言を伝える。 [備考] 参戦時期は『本人の認識している限りでは』47話でデウスに謁見し、死人が生き返るかを尋ねた直後です。 【セグウェイ@テニスの王子様】 秋瀬或に支給。 U-17合宿に参加している高校生、種子島修二が合宿所内で乗り回していた電動二輪車。 アクセルやブレーキは存在せず、体重移動によって加速、減速をする。その速さは自転車よりやや早い程度。 ちなみに日本ではセグウェイを公道で運転することは禁止されている。 Back Smile 投下順 化物語 ―あかやデビル― Back Smile 時系列順 化物語 ―あかやデビル― World Embryo 秋瀬或 Next Life 手ぬぐいを鉄に変える程度の能力/雷のように動く程度の能力 真田弦一郎 Next Life Lonesome Diamond 月岡彰 Next Life
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125:ベーカー街774B:2011/11/01(土) 16 35 06 警察クオリティ×探偵クオリティ=一定 126:ベーカー街774B:2011/11/01(土) 16 54 29 まあ確かに工藤父が現場に顔を出さなくなってから 工藤息子が現場に顔を出すようになった間 迷宮入り事件だとか、冤罪起こしたとかは聞かないな 127:ベーカー街774B:2011/11/01(土) 16 59 22 「どうせ眠りの小五郎が解決してくれるから、真面目に仕事しなくていーや」ってか ふざけんなよ、警視庁。誰が給料払ってると思ってやがる 128:ベーカー街774B:2011/11/01(土) 17 03 26 126 冤罪は起きてるかも知れん……警察はトリック見抜けないから 129:ベーカー街774B:2011/11/01(土) 17 37 02 126 つい最近まで迷宮入りになりかけた事件あったじゃん 愁思郎事件とか、ショッピングモールの観覧車爆破事件とか 探偵不在の空白期間に起きた事件は解決できてない そして愁思郎事件を解決したのは毛利で、爆破事件を解決したのはコナン君 130:ベーカー街774B:2011/11/01(土) 17 46 58 待て、愁思郎事件は高木だろ 131:ベーカー街774B:2011/11/01(土) 18 00 08 高木が解決できるかよ。きっとコナン君がリモコンで操ってたんだろ 132:ベーカー街774B:2011/11/01(土) 18 21 27 でも事件件数で比べると、探偵不在期と探偵登場期じゃ数倍の開きがあるよな…… やっぱ死神なのか
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トップページ ミルキィ用語 怪盗 怪盗 L「怪盗に不可能は無い!怪盗は神に等しき奇跡の体現者!」 トイズを使い、世界に謎を振りまく存在。 怪盗も探偵同様プライドの高いものが多く、怪盗帝国以前は個人主義で徒党を組むことなどないと思われていた。 近年は怪盗の数に対し探偵の手が足りないほどになっているらしいが、 怪盗Lや怪盗アルセーヌのように「怪盗の美学」とでもいう様なものを持つ怪盗は少なくなっているようだ。
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アメリカの初代大統領ジョージ・ワシントンはその伝記によれば、幼いころ誤って父親の大事にしている桜の枝を切ってしまったが、正直に父親に謝罪してその正直さをほめられたという。 自由民権運動で有名な板垣退助は、急進派の青年将校に銃をつきつけられて脅されても、胸を張り 「板垣死すとも自由は死せず!」 と雄々しく語ったという。 歴史上の人物には、それぞれ名を残すにふさわしい逸話があるものだ。 俺は今、知人の佐々木の不始末を肩代わりし、周防九曜を間違った道からつれ戻すために敢えて危険に身を投じている。 十人を超える暴走族に囲まれ、友情のために絶望的なレースへ立ち向かい愛車のVTR-250に孤独にまたがる俺は、さながら胸を張って十字架に掛けられるセリヌンティウス。 たとえ無事には還れない道程だとしても、俺は最後まで臆することなく敢然と立ち向かうことだろう。 さあ、ゴングを鳴らせ。今こそ、俺の伝説が始まる時だ! だがはっきり言って、ジョージ・ワシントンの伝記にあった謝罪の話も、板垣退助の逸話も、嘘っぱちである。こんなことがあったって言っといた方がいいんじゃない?的なノリで、後世の人が作った伝説でしかないらしい。 ワシントンが正直に父親に謝って褒められた話は伝記が書かれる際に創作されたフィクションだし、板垣退助は青年将校に病室で命を狙われた時に命乞いをしたという。 騙された! なんて思ってはいけない。これが現実であり、これがノンフィクションなのである。大河ドラマと現実の志士を同一視してはいけない。舞台上と控え室のアイドルを同一視してはいけない。アニメキャラと声優を同一視してはいけない。 だからこそ俺も、敢えて現実モードで現状に対する気持ちを語らせてもらおう。 メチャ怖いっスwwwもう、足なんてガクブルっスよwwww 格好つけてました。すいません。ごめんなさい。謝るから助けてください。サファリパークのA級危険地区に紛れ込んでしまった非力な子羊のような心境だ。 なんかね。いろんな単車やサイドカーに乗ってる暴力団員予備軍みたいな奴らが30人ぐらい居てね、逃げられないように俺と佐々木をガッチリ囲んでいるんだよ。 あ、場所を言ってなかったね。実はここ、埠頭なんだ。 ……ヘマしたら、このまま俺を海の底に沈めるという算段なのだろうか……。 かつてこれほどにまで肉薄した死への恐怖というものを感じたことがあったらだろうか。いや、ない。 ただ、俺と佐々木の隣に平然と立っている周防九曜だけが心強かった。 「────大丈夫────心配することはない────気楽に────」 どこをどうすればリラックスして気楽にレースを楽しむことができる雰囲気だと言うのだろう。 「谷ちゃん! テメェ分かってんだろうな。もし負けたら……」 なんでかな。なんであのテンパくんの横に、セメントとドラム缶があるのかな。あはは。きっと彼は左官さんなんだ。商売道具なんだ。 「────Get set────」 短く呟き、周防九曜は単車のシートにまたがった。 ちなみに今日の彼女のバイクはBIG BLOCKではなく、俺のVTR-250の排気量に合わせ、同じ250ccのYAMAHAのV-MAXだ。排気量は同じだけど、エンジン性能が段違いだよね。うふふ。 「谷口さん。周防のこと、よろしくお願いします。どうか、暴走族たちに分からないよう巧妙にわざと負けてください」 真剣な表情の周防に背を向け、そっと俺に耳打ちする佐々木。要するに、俺に死ねと言っているのかこいつは。 とにかく。ここまで来てしまったからにはいたしかたない。たとえ引くはかなわず進むも地獄の不承不承とは言え、もうやるしかないのだ。 俺は隣で変なドリンクをしきりに勧める佐々木を無視し、メットをかぶってバイクにまたがった。 今回の周防プレゼンツ、ドキドキ☆組み抜けチキンレースのルールを簡単に説明しよう。 250ccのバイクに乗った俺と周防がサシで対決。200mを最低時速60kmで直進し、その先にある船着場でストップ。ブレーキをかけ、1cmでも海から遠い場所に停まった方が臆病者として敗北するのだ。もちろんブレーキのタイミングを誤って海に落ちてしまっても失格だ。 周防がどれほどのドライビングテクニックを持っているかは知らないが、暴走族のトップに君臨しているくらいだから相当なものなんだろう。一方俺はというと、趣味でツーリングに行く程度である。そもそも教習所の、急制動の試験でさえ満足にクリアできなかった俺が、周防に勝てる見込みなどあるのか? 「それでは位置について」 俺と周防が並らび、エンジンをふかしながらギアをローに入れた。俺たちの斜め前に、変な棒を持った全体的にやる気のない男が俺たちに 「よーい」 とREADY?の声を投げかけた。 「どん!」 やる気のない合図とともに、俺と周防が発車する。 周囲の風景がめまぐるしく回っていく中、隣にピッタリ並走する周防だけが、唯一俺と同じ時間を共有している仲間のように思えて滑稽だった。 互いが時速60kmをキープしているんだから、並走するのも当然だ。 100mを過ぎたあたりから、だんだん頭の芯がぼやっと濁ってきた。チキンレースなんて初めての経験なんだ。どのタイミングでブレーキをかければ良いのかも皆目分からないんだが……。 俺の脳内の霧が、徐々に頭全体を覆い始める。やっぱ、こんなことをするべきじゃなかったんだ。バカだ、俺は……。 残り50mを切った。周防からスピードを落とす気配は感じられない。 残り20mの印が身体の横を通りすぎる。おい、マジかよ? そろそろ俺の心臓は爆発寸前なんだが。周防のヤツ、60kmから落とさないのか? しかし、ギリギリまではあいつに合わせないと…… 残り10kmのポスト横を通りすぎる。これヤバイ! 絶対! とうとう差し迫ってくる海面の恐怖に負け、俺はエンジンブレーキを作動させる。今までピッタリ横についていた周防のV-MAXが、速度を落とした俺をあざ笑うように駆け抜ける。くそっ! 俺がフロントとリアのブレーキを入れる頃、残り5mを切っていた周防のワインレッドの車体が横様に倒れるように急制動体勢へ。あいつ、完全にチキンレースに慣れてやがる! あれじゃ本当に、海へ落ちる神業的寸前で停まるんじゃないか。 俺は舌打ちしながらブレーキをゆるめる。無駄な抵抗だろうけど、せめてもう少しだけ前に出ておこう……。 その時だった。完全に予想外の出来事が起こった。 俺の目の前で、周防の乗るV-MAXがスリップして転倒、そのまま滑るように海へ転落した。 俺は急いでバイクを停め、立ち昇った水しぶきを呆然と眺めていた。 チキンレース現場は騒然となっていた。そりゃそうだ。族党員たちにとっても思いがけないアクシデントでボスが海中に消えたんだからな。 「周防、大丈夫かな?」 駆け寄ってきた佐々木が人垣の前で呟いた。バイクは無理だろうが、周防ならそのうち浮いてくるさ。心配するな。言葉には出せないが、俺としては嬉しいアクシデントだ。 しかし、3分待っても周防は浮かんでこなかった。 さすがにそろそろヤバイだろう、と辺りの暴走族たちが焦った様子で騒ぎ始めた。 「おい、お前ちょっと潜ってこいよ」 「えぇ? お前が行けよ」 「おい、消防とかどっかに連絡した方がいいんじゃねえ?」 「馬鹿野郎、んなことしてみろ。俺たちがパクられちまうぜ!」 「ならお前がなんとかしろよ」 「お、俺は知らねえよ。関係ないし……」 おいおい、何なんだ、こいつらは。あれだけチームがどうこう組がどうこう言っておいて、ボスが海に落ちて浮いてこないって非常事態にこの体たらくかよ? しょせんはチンピラの寄せ集めか。 「お前、泳ぎが得意だって前言ってたじゃん。周防さんにも妹分みたいにかわいがっててもらってたんだろ? 助けに行ってやれよ」 「いやよ。服が濡れるじゃない」 聞きたくもなかったが、この会話を聞いて、恐怖で押さえつけられていた俺の怒りがとうとう爆発したね。 服が濡れる!? はあ!? そりゃ服くらい濡れるだろ! 毎日洗濯してりゃあな! 人一人の命が危ないかもしれないって時に服の心配かよ!? さっきから聞いてりゃ、俺はイヤだ、お前行け、俺もヤダよお前が行けよって。何なんだよお前らはよお!? 口と見かけばっか偉そうにしててその様かよ! もういいよ。エバってないで家に帰ってプレステ2でもして屁こいて寝てろ! 俺が行く! ほとんど無意識のうちにそう一気にまくし立てた俺に、暴走族たちが海への道を開けた。ちっ。この場面でつっかかってくるような骨のあるヤツはいないのか。 ま、群れないと何もできない奴らに期待するだけ無駄ってものか。そう思いながら海へ入ろうとした時、俺の隣に水しぶきがあがった。 今飛び込んだのは、佐々木か!? 「溺れてる人間を助けるのって、すげぇ大変だって言うじゃん」 「素人だと引っ張り込まれるって言うよな。あいつ、死んだんじゃね?」 「言えてる言えてる」 それは水面に身体が出てる時だよ。いいからお前ら役立たずは黙ってろ。暴走族氏ね。 しばらくして、グロッキーになった周防を抱えた佐々木が海面へ姿を現した。ぐったりした周防は佐々木の方につかまって大きく咳き込んでいるが、概ね大丈夫みたいだ。 俺は安堵して、2人に手を伸ばす。よかった。本当に。 俺の後ろで暴走族たちが喜びの歓声をあげているが、非常に耳障りだ。 「周防、大丈夫?」 怪我した子どもを心配がる母親のように周防を抱える佐々木。よく分からない突っ走ったような行動をとったりしてきたが、こいつはこいつなりに本気で周防のことを心配していたのだろう。同じくらいとまでは言わないが、もうちょっと俺のことも心配してもらいたかった。 誰にも聞こえないような小声で、周防がぼそぼそと何かを口にした。もし俺が読唇術を使えたとしても理解できたかどうか怪しいほど微妙な動きだったが、佐々木には周防が何を言ったか理解できたようだった。 夕焼けをバックに、俺と佐々木、周防の3人は人通りのまばらな県道の脇道を歩いていた、 結局あのレースは事故のため無効試合扱いとなった。そのくせ、周防九曜の脱退は認められ、俺たちも狼藉をはたらかれることなく五体満足に岐路につくことができた。まさに九死に一生得た思いです。 たとえ事故とはいえ周防はデッドラインを越えたわけだから、周防の負けになるのではないかとか、周防の脱会が認められるのは間違っているとか、無罪放免で釈放されるのはおかしいとかいうツッコミはなしの方向でお願いします。 気合いの入ったいぶし銀な暴走族ならともかく、あんなミーハーなチンピラもどきの集団に物事の筋を通す気概なんてあるわけない。 「────谷口さんは……どうして────来てくれたんですか────」 ぼんやり荒れたコンクリ道を眺めながら歩いていると、不意に周防が話しかけてきた。 来てくれたって言うか、佐々木の人捜しに協力してただけの話だよ。特別、理由があったわけじゃない。暴走族に囲まれてチキンレースに興じるハメになるとはさすがに予想外だったがな。 周防はくすりと笑った。この人が笑顔で微笑むというが、少し意外だったが、同じく意外にもちょっとかわいかった。 あんたは、なんでまた暴走族なんかに。やっぱ、プロダクションを辞めさせられたことでカッとなってやっちまったとか? 「────プロダクションを……辞めさせられた……だれが?────」 誰って。あんただよ。周防さん。 「────私は、辞めさせられたわけではない────自分から進んで辞めただけ────」 進んでやめた? おいおい、話が違うじゃないか佐々木さん。 「僕も話を聞くまでは聞くまでは気づかなかったんだよ。どうやら、僕が勘違いしていたみたいだね。あんなことがあった直後のことだし、深読みしすぎたかな」 くっくっと佐々木は、高校球児がトンネルの中でスイングの練習をしているに低い音で笑った。 つまり、あれか。最初から最後まで、全てはお前のせいだったわけか、佐々木。俺はトルネードから逃げ遅れたカエルのようにそれに巻き込まれたということか? 「勘違いは誰にでもあることだよ。あなたには申し訳ないことをしたと思っているけれど、過去に戻って自分の誤解を正すことなんてできやしないんだから、寛大な心で勘弁してもらいたいな」 うぬぅ、自分で言うか。それは第三者が仲裁に入るときに言うようなセリフじゃないか。佐々木、あなどれない子。 「────私はあの一件に────自分なりの責任を感じていた────それは、佐々木さんには関係なく、あくまで自分自身の心の問題────」 あんな行動に出る前に佐々木さんの心の痛みに気づいてケアしてあげるのが、私がしなければならないことだった。と言葉を区切りつつ周防はそう言った。 まあそれは仕方ないことだと思うよ。どんなに優れた人間でも、万能にはできてないんだしさ。自分で自分を許せないことは多々あるさ。そんなことでいちいち責任感じてたら、身がもたないぜ。 「────それでも私は────彼の心を察してあげたかった────」 物欲しげな表情でコカコーラの自動販売機を眺める佐々木の姿を横目で見て、周防がふっとそうもらした。 まあ、いいや。周防さんは、佐々木の気苦労をカバーしきれなかったことを悔いて、マネージャーの仕事をやめたってことだな。じゃあ、なんで暴走族なんてやり始めたんだ? なにか私生活で気に入らないことでもあって、自暴自棄になったとか? 「────それは────ただのバイク好きが嵩じた……趣味────」 ……趣味かよ。 「────暴走族をやっていたつもりはない────お遊びバイクサークルのメンバーを雑誌で募集したら────ああなった────」 ……バイクサークルだったのか、あれが。まったく気づかなかったよ。ちっちゃいヤクザの吹き溜まりかと思ってた。 「────私はあなたと佐々木さんが現れ────話を聞いたときに初めて、自分たちが世間様から────どういう目で見られていたのか知った────」 だから暴走族を抜けたのか。族っていうか、あんたにそういう意識は全くなかったんだろうが。 「────佐々木さんに説得され、私もこのままではいけないと思った────だから、もうバイクはやめる────」 何もやめることはないだろう。バイク乗るのが好きなら、今度こそ健全なバイクサークルに加わって、海とか山とか街中とかをツーリングして回ればいい。楽しいと思うぞ。きっと。 「────いえ。私はもう、バイクはやめる────そして料理を習うことにする────」 そうだな。排気ガスを噴出す上に、車のように壁がなく身体むき出しで危険極まりないバイクよりも、おいしくヘルシーな料理でも習った方が健全で良いかもな。 って、なんでいきなりバイクから料理への転身。 「────佐々木さんが────毎朝────味噌汁をつくってほしいって言ってくれたから……────」 ………。 佐々木、ちょっとお前、こっちこい! 「どうしたんですか、谷口さん。細木○子に死の宣告されたような金切り声を出して」 どんな声だよ。いやそれよりも。お前、周防に毎朝みそ汁を作ってほしいって言ったのは本当か!? 「え? 本当ですよ。何か僕、おかしなこと言いましたか?」 おかしくはないが、納得できん! 俺があのおかしな具合のテンパ野郎どもにさんざんおちょくられてる間に、お前らはイチャイ☆ラブしてたってことか? ああん? ラキ☆スタしてたってワケですか!? 「落ち着いてください。なんだか日本語がおかしなことになっていますよ。それが地なんですか?」 けっ、やってられっかよ! 一体俺はなんのために身体張ってんだよ。元アイドルと元ジャーマネなんていう二次製作SSの三流恋路ネタみたいな展開の脳みそした連中のために命がけでチキンレースしてたってワケか!? とんだピエロ様だぜ! 「いくら谷口さんといえど、周防のことを悪く言うのはやめてください。彼女は、身の置き場を感じられない芸能界で、唯一僕のことを理解し、最後まで僕に尽くしてくれた最高の女性なんですから!」 いや、周防のことを悪く言ったんじゃないんだが。どっちかといえばお前のことを……いや、何でもない。 だいたい毎朝みそ汁つくってくれって、何年前のプロポーズ文句だよ。歯が浮くぜ。 「やだなあ。プロポーズだなんて。まずは交換日記からですよ」 ……お前、けっこう頭の中が古いのな。 広大に広がる大宇宙。そのはるか彼方におわす、しっと星のしっとKING様。俺にしっとマスクを授けてください。少なくともしっとマスク2号よりは確実に役に立てると思うんで。 しかしいくら祈ってみたところで、マスクはやってこない。うふふ。ちくしょう。 俺の手の中には、『僕たちつきあうことになりました。残暑見舞い申し上げます』 と書かれたかもめーるが握られている。しかもご丁寧に、佐々木と周防のツーショット写真が貼り付けられている状態でだ。 何がつきあうことになりました、だ。ついでみたいに残暑見舞いとかつけるなよ。そんな下らないご報告よりも俺の体調への気遣いの方が後回しかよ。 俺は残暑見舞いもどきをハサミで切り裂いてゴミ箱に放りこんだ。 こいつらのせいで俺は寿命の縮むような思いをした挙句、なんだか人生の大切なものまで失ってしまったような気持ちになっているんのだ。くそう。たとえ結婚式の案内状が来ても出席するもんか。 一瞬だけ。俺の脳裏に、静かに微笑む朝倉涼子の優しい表情が浮かんで消えた。 寂しいんじゃないぞ。悔しいんだぞ。ああ、くやしいくやしい! さびしくなんてないんだけどね! あ、そうだ。 もう国木田も、朝比奈さんも、朝倉さんも、いないんだ。 あの町には。 それは。 さびしいな……。 そろそろ不貞寝にも飽きたな、と思いつつもゴロゴロと昼間っから居間で横になって新聞の地方欄をボーっと眺めていると、家のインターホンが鳴った。 誰だ、こんな昼間っから。両親は仕事でいないぜ。ああ、そういやamazonで鬼畜ボイスCD(S)を注文してたんだった。「下等生物の癖に、まだ生きてるの?」 とか言ってるヤツ。きっとあれが届いたんだ。 下等生物の癖ってどんな癖なんだろう~、と呟きながら、俺は玄関の戸を開けた。 そこには、見覚えのある小柄な少女が立っていた。 長門? 「………なにをしていたの」 あ、いやあ。何をって。おしかりCDで自分の深い場所にあるサムシングを探ってみたり、新生カップルの写真をハサミでバラすてみたり、自己の半生を顧みながらひとり反省会をしてたんだ。あ、ここでは半生と反省がかかっているわけね。 「………そうではない。あなたの性癖がどうであろうと、私には関係ない。探偵事務所を放置したまま、何をしていたのかということを答えるべき」 悪かったな。M気あって。別に事務所を放置してたつもりはないよ。確かに何日も放ってたが、管理はお前に任せてたし。俺は故郷で静養中と伝えてあったはずだぜ。 「………もう十分、静養できたはず。さあ、帰りましょう。あなたが帰る場所は、あの小汚いアパート」 一言多いんだよ、お前は。確かにお前の家に比べれば犬小屋みたいな家かも知れないけどな。あれでも俺の一国一城なんだよ。 お、おい。腕をそんなに引っ張るなよ。いやん。 「………あなたは探偵でしょう。私には小説家になってプロレスラーになって探偵になるという夢がある。その一つ目の大事な踏み台であるあなたがいなくなったのでは、話にならない」 誰が踏み台だ。相変わらず夢多きヤツよのう。どれか一つに搾れよ。プロレスラーはどう考えても無理っぽいし、小説家だってまず小説書かないとデビューもできないぜ。 「………あなたがいないうちに、一本書いた。殴られた人は必ず死んでしまうバットの話」 どんな話だよ。 なあ、長門。俺、こっち帰ってきていろいろ考えたんだけどさ。 「………なに? お金なら貸さない」 お前、普段から俺をどんな目で見てたんだよ……。まあいいや。 探偵ってさ。別にあの町じゃなくてもできるしさ。その……。 俺、こっちに帰ってきて探偵やろうと思ってるんだ。 妙に照れくさいことを口にしているような気がして、俺は長門から視線を離してそう宣言した。 無表情のまま、長門は俺の顔を見上げていた。何故だろう。長門の目を正面から見られない。 「………そう」 どれだけ不貞腐れてゴネるだろうかと思っていたが、俺の予想に反して長門には、いつものふてぶてしさが感じられなかった。 ただ一言、あっさり 「………そう」 言うと、長門は俺に背をむけた。 何も言わず立ち去る長門の後姿が、やたら寂しく見えた。何か声をかけようかと思ったが、どんなセリフを考えてみても、今の長門にはそのどのセリフも届かないような気がして、結局何も言えず、俺はああと呟いた。 「………兄貴、部屋の荷物をとりに一度、帰ってくるんでしょう?」 ああ。あっちに仕事道具を全部おいてるからな。取ってこないと仕事にならない。 「………引越し手伝うから。帰ったら呼んで」 それだけ伝えると、長門は一度も振り返ることなく帰ってしまった。 あっさりしすぎだ。と思った。 引越しの日。長門は終始無言で俺の荷物の運び出しを手伝ってくれていた。 引越しは、大した物があったわけでもないからさほど時間はかからなかった。部屋にあった大半の物は処分しちまったしな。 前に長門がほしいと言っていた限定品の万年筆を別れ形見にくれてやると、「うん」と少しうなづいた。 ────兄貴。兄貴も、わたしを置いてむこうに行っちゃうの? いつだったか。長門がそんなことを言っていたような気がする。ああ。あれは確か、夏祭りの日の、俺の夢の中か。ははは。バカバカしい。 だが今だけは。バカバカしいとも思わないでいてやる。 長門。なんだかんだあったけどさ。長いこと、世話になったな。ありがとよ。 引越しもとうとうクライマックスを向かえ、あとは俺がトラックに乗り込んで発車するだけという段にまでこぎつけた。 俺は荷物を積み終わったトラックの荷台に乗り、長門に手を差し出した。握手のつもりだ。少し戸惑っている様子だったが、長門もその手を握り返してくれた。 「………また。いつか。プラネタリウムに連れて行って」 そう言って長門は、はにかむように微笑んだ。 ああ。いつか、必ず。 あの日。トラック上で長門と最後の別れを交わして、どれだけ経っただろう。 何気なく、手帳をめくってみる。ああ。もう、5年経つのか。時が流れるのは早いものだ。 佐々木んところの嫁さんも、2人目の出産時期に入ってるっていうし。 本当に、あっと言う間だよな。時間なんてものは。 そういや。あいつとの約束、まだ果たせてないな。一生はたせなままになっちまうかもしれないな。 プラネタリウム。 ~つづく~ <次回予告> 佐々木「二児の父になりました」 周防「────二児の母になりました────」 阪中「ルソーが長寿犬としてテレビに出ました」 鶴屋「めがっさめがっさ」 喜緑「ああ、気づけばとうとう出番がないままでした……」 藤原&橘「エンドテロップに名前さえ載らない」 朝倉「それ、私の曲の歌詞じゃない」 国木田「まあまあ。いいじゃない。キャラソンある人は……」 キョン妹「私コーラ!」 ミヨキチ「一緒にホラー映画見に行きません?」 谷口「最後だってのに、まとまりねぇな……」 谷口「次回、谷口探偵の事件簿 最終回 ~たようなら~」 ハルヒ「風呂はいれよ!」 みくる「ちゃんと歯をみがいてくださいね」 古泉「宿題も忘れずに」 キョン「食べながら話すんじゃありません!」 長門「………長門有希でございます」 谷口「忘れ物をしないように!」
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(※ これは谷口探偵の事件簿のつづきです) 涼宮ハルヒをさらった犯人の足取りは『機関』の連中がつかんでいた。なんでも、僕たち私たちの町からさほど遠くない、郊外の廃ビルに潜伏中ということである。 俺とキョンは古泉の運転する車に同乗させてもらい、目的地まで一直線に向かった。徹夜作業で鶴屋さんの足跡を探っていた上に休憩なしで車の運転とは。古泉、お疲れさん。頼むから、涼宮や鶴屋さんの元へたどり着く前に事故なんてのは勘弁してくれよ。 車の運転の方はすっかり古泉に任せ、俺は目指す廃ビルに到着するまで、少しでも睡眠をとっておこうと後部座席で横になっていた。未来の存亡にかかる重要な出来事を前に緊張はしているものの、昨夜は徹夜状態だったので、なんとかスリープモードに入ることができた。 後部座席で半覚醒に近い状態で眠っていると、夢を見た。夢の中で、俺は車に乗っていた。現実でも車に乗っていたわけだから、それが夢なのかどうかは正確に判断できなかったが、横になったまま周りを見回すとキョンと古泉が各3人に増殖し、車内にみっしりと充満していた。ああ、これは夢なんだな、と思った。 古泉に呼び起こされて目を覚ますと、キョンと古泉は各1人づつに減っていた。やはり人間は、夢よりも現実の中でこそ生きていくべきだよな、と少し哲学的なことを考えて車から降りた。 更地に囲まれた見晴らしのよい場所に、問題の廃ビルは建っていた。塀は崩れ、壁は破れ、風化しかけたコンクリートからは鉄骨がむき出しになっている箇所もある。絵に描いたようなその廃墟は、元々ビジネスホテルとして建設された3階建て建築物だったが、周囲になにもないという立地条件の悪さとオーナーの経済的問題が重なり取り壊しもせずに放置されているらしい。 周囲に遮蔽物はまったくなく、周囲100mくらいは清々しいまでに見晴らしが良い。 「我々がやってきたということは、相手にも筒抜けでしょう。行動も逐一視られていると考えた方がよいでしょうが、何か作戦でもありましたら伺いましょうか」 今さら作戦もサクランボもないだろう。正面から行くしかあるまい。ところで古泉、中の状況はどうなっているんだ? さらわれたお姫様はまだ無事なんだろうな。相手の数はどれくらいだ? まさか鶴屋さん1人なのか? 「分かりません。我々も中の様子をつかもうといろいろ試してみたいのですが、なぜかビルの内情は確認できないのです。望遠レンズなどを使用しても、まるで遮光されているように何も見えないのですよ。困ったものです」 スプライトのネクタイをいじりながら、古泉は睨めるように廃墟の外郭を眺めていた。 「相手は1名しか確認できていません。あなたの言うところの、犯人は鶴屋さんという女性です。他に仲間がいるのか、はたまた単独犯なのか。涼宮さんは果たして無事なのか。それもまだ分かりません。つまり何も分からないということですね」 困ったふうに両手を広げる古泉に不平不満をぶちまけてやりたくなったが、こいつにブーイングを浴びせても仕方ないことだ。いかに『機関』の組織力が高かろうと、未知の未来技術に対抗できるかどうかも怪しいもんだし。 ということはやはり最終的に、作戦など立てたって無駄だという結論に行き着くわけか。作戦なんて高尚なものでなくても、あらゆる対処を想定しておくことは大事だが、情報がまったくないのでは詳細な作戦も対処も立てようがない。 「なら正面きって乗り込むしかないだろう。いつもまでもこうしてたって始まらない」 珍しく格好いいことを言って、キョンが歩き出した。確かにこのまま廃れたビジネスホテルを眺めていたって涼宮ハルヒが返ってくるわけじゃない。よし、行けキョン! 先頭はお前に任せたぞ! それにしてもこいつが仕切るとは珍しい。朝比奈さんがいなくなって何かふっきれたんだろうか。それともただ単に寝不足でテンション上がってるだけだろうか。 キョンの後につづく形で、俺と古泉も廃ビルの中に足を踏み入れた。1階は受付用カウンター台の残骸が凸のように出ているだけで、後はなにもない。閑散としたもので、誰もいないし誰かがいる気配もない。ホテルのロビーにありがちな調度品などは一切ない。ただ酒瓶や缶、タバコの吸い殻などが無造作に転がっているだけだ。こういう場所は、チンピラやゴロツキにとっては天国みたいな所なんだ。 「1階にはいないようだな」 何もないフロアだ。一周りすればそれくらいのことは分かる。 「上の階へ急ぎましょう。相手は過激派の未来人です。何を仕掛けてくるか分かりません。警戒はしておいてください」 1階に鶴屋さんはいないということが予め分かっていたのだろうか。さっきまでの余裕の笑みとはうって変わり、古泉は警戒心丸出しのシリアスフェイスで階段に足をかけた。 人を見た目で判断するわけじゃないが、長いこと探偵業やってる俺だ。人の顔色や立ち振る舞いを観ていれば、その人の虚実が分かってくる。相当に演技のうまい人じゃなけりゃ、ウソつかれたって見抜ける自信はある。多分こっちの貌の古泉が、本物の古泉一樹なんだろうな。 古泉とキョンの後に続きながら、俺は鶴屋さんと出遭った日のことを思い返していた。金魚のはいったお持ち帰り袋を手にした彼女は、屈託のない笑顔で俺のすさんでいた心を穏やかにしてくれたものだ。あのとびきりの笑顔で、彼女は涼宮ハルヒをさらったのだろうか。 2階には部屋番号のプレートのかかった個室が10室ほど等間隔にならんでいた。放送時間50分の刑事ドラマの40分経過クライマックス時現場突入シーンのように慎重で緊迫した空気の中、俺たちは次々と2階の個室に踏み込んでいった。 どの部屋の中も一様にがらんとしたものだった。ベッドもクローゼットも、冷蔵庫もない。ビジネスホテルの一室というのはやたらめったら狭いものだと思っていたが、家具がなければこれほど広い空間だったのかと考えさせられた。 2階の201号室から210号室まで見て回ったが、1階同様に人の気配はないし、怪しい物もなかった。 「最上階である3階。そこで間違いないようですね」 スーツの懐に手を入れながら古泉が3階への階段を昇り始めた。スーツの懐に手つっこむなんて、変わったクセだな。普段家で着流しでも着ているんだろうか。 3階も2階と同じく、狭い廊下の壁にそって10個ほどの個室の扉が並んでいた。下の階と違う点といえば、上へ昇る階段がないくらいのものだ。 いや、もう一つ違うものがある。廊下のつきあたり、一番奥の部屋の扉がわずかに開いていた。 鶴屋さんは、あの部屋にいる。直感的に俺はそう思った。理由はない。ただそう思っただけだ。 キョンと古泉に目配せする。2人も俺と同じようなことを考えているんだろう。うなづき返してきた。 あの一番奥の部屋は、順番的に言って310号室に違いない。俺たち3人はゆっくりと歩きだした。こつこつと乾いた足音が、コンクリートむき出しの廊下に響き渡る。 待ち伏せや罠の類は一切なかった。一応警戒心は持っていたが、そんな物は仕掛けられていないだろうという妙な確信が心の中にあったのも確かだ。1階2階と、何の仕掛けも設置されていなかったんだ。3階にもないだろう。無根拠な推測だが、なぜかそんな心境だった。 その予感に裏切られることもなく、俺たち3人は皆無事に310号室にたどり着くことができた。部屋の扉は多少開いているが、中の様子がうかがえるほどではない。 古泉が扉に背をつけ、緊迫の面持ちでドアノブに手をかける。ドラマで刑事が犯人の根城に殴りこみをかける時こういうシーンがあるが、目の前で実際にそんな格好をおがめるとは思わなかったよ。よせよせ、古泉。レディー相手に、そんな乱暴なご対面はやめておこうぜ。 「谷口さん。何を言っているんですか。相手は強行派の誘拐犯ですよ? 一体どんな武装をしているのかも分からないのに」 たとえどんな物騒な兵器を持っていたって、それを使わせなけりゃ問題ないんだろ。俺は2度鶴屋さんに会っているが、銃を持っていてもそれを問答無用でぶっ放してくるほど無鉄砲な人には見えなかった。こっちが刺激しなければ、ちゃんと話し合いに応じてはくれると思うぜ。 「青くさい意見ですね。こちらが友好的な態度で接すれば、相手も友好的になってくれると思っているんですか? 子どものケンカの仲裁じゃあるまいし」 「だが、それが人と接するということだと思うぜ。力づくで迫ったところで、相手に敵対心を抱かせてしまっては解決することも解決しなくなってしまう」 珍しく俺とキョンの意見が合ったようだな。古泉は困ったふうな微笑を浮かべ、扉から一歩足を引いた。 「で、どうするつもりだ谷口。ノックでもするのか?」 そうだな。他人の部屋に入る時にノックなしは失礼にあたるしな。 古泉を脇へやるような形でドアの前に立った俺は、こんこんと扉をノックした。もしもし? はいってますか? 『はいってるよ~』 聞き覚えのある女性の声が扉の隙間から漏れるように聞こえてきた。 ちわー、三河屋です。スターウォーズエピソードⅠのDVDをお届けに来ました。ハンコもらっていいっスか? 認印で結構なんで。 『開いてるよ。入って』 入っていってさ。 扉を開け、部屋の中へ踏み入る。この廃ビルへ入る時に感じていた緊張や焦燥は、もうすっかりなりを潜めていた。穏やかな水中をゆっくり沈んでいくように、落ち着いている。心臓自体がとまっているんじゃないかと思えるほど、動悸も聞こえない。 部屋の中は、2階でも見てきた他の部屋となにも変わらない、15㎡ほどの広さの部屋だ。 部屋の隅にバスタオルが敷かれ、その上に涼宮ハルヒが目を閉じて横たわっていた。 「涼宮さん!?」 古泉の声が室内に反響する中、俺は部屋の窓枠に腰をかけ、陽の逆光を浴びながら外の風景を眺めるように首をのばしている髪の長い女性を見つめていた。 「彼女が、鶴屋さんなのか?」 ゆっくりと、鶴屋さんが室内へ顔を向けた。長い影のむこう側で、鶴屋さんは笑顔だった。 「キミがキョンくんかい。初めまして。長い間、みくるがお世話になったね」 むすっとした様子で、キョンがどういたしましてと答える。 「残念だったね。あの子、ああ見えてけっこう頑固なんだ。私も未来へ帰らなくてもいいって説得はしたんだけど……」 その瞬間、鶴屋さんの笑顔に陰がさす。俺の視界の端で、古泉がスーツの懐から拳銃をとりだすのが見えた。 「よせ、古泉!」 古泉が銃をかまえると同時に、キョンがその腕を両腕で押さえつける。 「離してください! 僕が、僕が涼宮さんを……助けなければ!」 もつれあうように倒れこむ古泉とキョン。俺は必死でキョンの腕をふりほどこうとする古泉の右手から、なんとか銃を奪い取る。見たところ殺傷能力は低いであろうピストルだが、当たり所が悪ければ致命的ともなりかねない危険物に違いはない。 「なんとしても彼女を救ってあげないと、もう涼宮さんは僕を信用してくれないかもしれないのに! やっと、彼女の信頼を得られるようになったって言うのに!」 キョンと古泉が互いにつかみ合ったままもみあっている。古泉の突然の暴挙には驚いたが、彼には彼なりの意思があったんだろう。 「だからって、こんな時に銃を出すこともないだろう!」 次第に沈静化していく古泉とキョンのやりとりを見ながら、俺は奪い取った銃をポケットにしまった。こんな物はたとえ使うつもりがなくても、交渉の場でちらつかせるもんじゃない。相手に威圧感を与えるだけだからな。俺ピストルなんて持ったこともないけど、コレいきなり暴発したりしないよな……。大丈夫だよな。 悪かった、鶴屋さん。俺たちは話し合いをするつもりで来たんだ。銃をつきつけて脅したりする気はなかった。 「いいのさ。私も、そっちがこんな軽装で来たことに驚いているんだから。もっと重装備で、大人数で乗り込んでくるものだと思っていたよ。だから、そんなちっさいピストルを構えるくらいで終わったのが拍子ぬけしてるくらいっさ」 大人数さ。1対3なんだ。プロレスだってこんなハンデマッチは滅多にないぜ。それに、重装備でもある。鶴屋さんなら、知ってるんじゃないかな。俺が、朝倉さんから受け取った物。鶴屋さんたちにとって、これが一番の兵器なんじゃないの? 鶴屋さんから視点をずらし、床に寝転がる涼宮ハルヒの様子をうかがう。これだけの騒ぎがおきても目を覚ます気配はない。ぐっすり眠っているようだな。 俺は朝倉涼子から受け取ったアンチTPDDを汗ばんだ手で握り、鶴屋さんに見せつける。 びっくりするかと思ったが、意外にも彼女の反応は淡白だった。 「で? それをどうすんの?」 窓枠から飛び降り、鶴屋さんは笑顔のままで壁にもたれかかるように立っていた。 なんだ、この余裕は? 微笑を浮かべる未来人は、なにか確信めいた視線で俺を射すくめている。 「どしたの青年? そのスイッチ押すんじゃないの? ほらほら。遠慮はいらないよん。ポチッといきなよ」 彼女はこれが何なのか知っているはずだ。なのに何故笑っていられるんだ。俺の立ち位置から涼宮ハルヒの横になっている場所まで、目測だが10mは確実にきっている。これを俺が押せば、鶴屋さんは未来世界に強制送還されてゲームセットになっちまうんだ。すでに俺の指は、アンチTPDDのボタンに触れている。俺が圧倒的に有利な状況のはず。 なのに、どうして彼女は勝ち誇ったように俺を見つめている。ひょっとして未来の技術で作り出されたウェポンがこの部屋に仕掛けられていて、ボタンを押す直前に俺の指をふっとばせる、なんてトラップがあるのか? 「おやおや、顔色が悪いよ谷口くん。どったの? お腹でも痛い?」 からかうような目つきで俺の顔を覗き込む鶴屋さん。くそ、そうプレッシャーをかけられると本当にトイレに行きたくなるかもしれないからやめてくれよ。 床から立ち上がった古泉もキョンも、心配するように俺を眺めている。よせよ。そんなに見つめられたら照れちまう。 「谷口くんがそのボタンを押そうとしたら、私が何か凶悪な兵器をつかってキミを抹殺しようとしている、なんて思ってそうだね。のんのんのん。そんなことはしないにょろ。しないというか、正確には、できないよ。キミたちが未来人に対してどういう先入観を持っているかは知らないけど、実際私たち未来人はキミたちとさほど大きく変わらないよ。近未来映画で出てくるような光線銃を持ってると思う? 私が持っているのは古泉くんと同じような銃一丁だけさ。宇宙船でも用意してると思う? そんな物ないよ。私たち未来人はキミたちに比べて、ただ時間移動の原理を知っているというだけの差しかないんだ」 じゃあ、なぜ俺がスイッチを押そうとするのを止めない? けしかけるような事を言う? これは罠なのか? 「ほらほら。早く決断しなよ。はっきりしないなぁ」 鶴屋さんは、そっと、懐から銃を取り出した。それは古泉の持っていた子ども騙しのピストルなんかとは違う。窓からの陽差しを受けて鈍く黒光りする、小型のリボルバーだ。 「谷口くん。怖いの?」 握った銃を誰に向けるでもなく、手に提げて鶴屋さんが問いかけてくる。 怖いかって? 怖いに決まってるじゃないスか。銃を持つ人の前にペンライト一つで立ちはだかる俺の心境にもなってくださいよ。いつ撃たれるかと思ったら、足がガクガクですよ。 「あはは。違う違う。そっちじゃないよ。銃なんてどうでもいいんだ。何が怖いのか、私がいちいち言わなくてもキミが一番よく理解してるんじゃない?」 リボルバーを手に目の前に立つ女性に痛いところを突かれ、わずかに口をつぐむ。 そうだ。俺は怖いんだ。このアンチTPDDを作動させることが。 たとえ話だが、もし深い山奥で遭難し、食料が底をついたとしよう。現状を脱出できる見通しはまったくたっていない。腹は減ったが食料がない。周囲にも食べられそうなものは皆無という状況だ。 そんな時、やたら毒々しい色のキノコが生えているのを見つけたらどうする? 俺に植物の知識があってそのキノコに毒があるのかないのか分かればいいが、俺にはそんな知識はない。目の前の唯一の食料に毒があるかどうか、分からない。これは食べるべきか? 食べないべきなのか? 毒がなければ問題ないが、もし毒があって腹をこわして酷い下痢でも起こしたら、体力を消耗して生還することはかなわないかもしれない。 キノコのことを知らないことからくる、未知の恐怖だ。 朝倉涼子は言った。朝比奈みくるがこの時代へ遡行してくることは分かっていたが、鶴屋さんがやって来ることは想定外の出来事だ、と。そして、涼宮ハルヒの謎のミラクルパワーの原因は依然不明である、と。 つまり俺が朝倉涼子から受け取ったアンチTPDDを作動させることは、朝倉さんサイドの未来でも鶴屋さんサイドの未来でも起こっていないパラレルアクシデントなのだ。 本当にこんな電池で動いているようなちゃちい棒切れで涼宮ハルヒの摩訶不思議夢現能力に火をつけ、無事で済むのか? 何事もなく本来の機能だけを果たして副作用は起こさない、という保証はない。まかり間違ってこないだの大型台風みたいなのが全世界を襲い始めても、俺は責任持てないぜ。 「かわいそうだなあ~、谷口くんは。だから言ったのに。朝倉涼子には気をつけなってさ」 後ろ手に銃を持ち、ゆっくりとした足取りで鶴屋さんは、古泉の制止の声も無視しして俺の前まで歩み寄る。 「そんなに悩むくらいならさ。やっぱり最初から何も知らなかった方がよかったんじゃにゃい?」 息をふけば届くほどの距離で、鶴屋さんの大きな瞳が俺の目をのぞき込んでいる。きれいな目だ、と思った。 ───知らないでいられるってことは、けっこう幸せなことだよ いつだっただろう。鶴屋さんがそう言っていた。 なにも知らなければ。 朝倉さんとは依頼人と探偵という関係だけでいればよかったのか? 国木田とはただの同期生仲間で、あいつがいなくなったのは夜逃げでもしたせいだと、知らんぷりしてりゃよかったのか? 未来人の存在や涼宮ハルヒのことは悪質な嘘八百だと鼻で笑っておけばよかったのか? もしそうだったなら。はたして俺は幸せだったのか? きっと幸せだっただろうな。だって、そうだったなら、俺はこれほどいろんなことの板ばさみで悩みまくることもなかっただろうから。2つの未来世界。国木田の酒。朝比奈さんのオルゴール。朝倉さんの髪の香り。涼宮ハルヒの横たわる姿。目の前の鶴屋さん。古泉の言葉。ここ最近で俺の脳内に垢のようにこびりついた様々な記憶がざわざわ騒いで、俺の頭を蹴飛ばすようにわめくのだ。 こんなしち面倒なことに関わってさえいなけりゃ、今頃は家で横になりながらダラダラとプロレス雑誌でも読みながら長門の出す味のない湯みたいな茶を飲んでいたことだろう。何も知らなければ。 「今からでもまだ、間に合うよ」 俺の心を見透かすように鶴屋さんは、けらけらと笑って身をそらす。 「そのボールペンみたいなヤツをこっちに渡せばいいんだよ。私はキミたちにそれ以上の用はないし。キミはまた元の生活に戻れるってわけさ」 「渡すな、谷口!」 鶴屋さんは一歩踏み出すキョンに銃口を向ける。 「この時代の人、特にこの国の人はあまり実感がないかもしれないけどさ。人の命って、けっこう大事なものなんだよ。それが分かってるから、私はあまり切った張った撃った撃たれた、なんてのは遠慮したんだ。ねえ、分かってよ。だから動かないでね」 彼女はハッタリで言っているわけじゃない。この威圧感は、中途半端なチンピラ風情が出せる凄みではない。鶴屋さんは一から十まで、口にしたことはすべて本気なんだ。 キョンと古泉は動けない。古めかしい言い方だが、蛇に睨まれた蛙といったところか。 俺はどうしたらいい。じっとりと汗ばんだ手で、金縛りにでも遭ったように動かない指で金属棒を握り締めている。 朝倉さんの話を聞いても、古泉の口ぶりを聞いても、鶴屋さんはテロリストっぽい悪人イメージとして語られていた。だから、俺は最初、涼宮ハルヒを発見しだい、即座にアンチTPDDのスイッチを入れるつもりだった。オタオタしてたら、未知の未来パワーで何をされるか分かったもんじゃないからな。だが俺はそうしなかった。 この部屋に踏み込んだ時には気づかなかったが、鶴屋さんと間近で向かい合った今ならば分かる。なぜ俺がこれを押すのをためらっているのか。 鶴屋さんの笑顔だ。 悪人だなんてとんでもない。彼女の笑顔は、とても慈愛に満ちている。こんな状況であるにも関わらず、底抜けに明るく、いや明るいというよりも現状と乖離していると言っても良いほどに輝いていて、なんだか見ていて心が落ち着いてくる。 前にも言った通り、俺は人を見る目には自信がある。もし鶴屋さんが悪人だとしたら、キョンの仏頂面など会社の不祥事を部下に押し付けてトンヅラきめこむ極悪社長だろう。どっかの食品会社みたいな。古泉のいやらしい顔にいたっては赤詐欺師か、2,3人くらいバラしてる凶悪ヤクザだろう。ヤクザだろうというか、古泉はヤクザだが。ピストル持ってたし。 たとえ俺たちや鶴屋さんの正義観に違いがあろうとも、問答無用で彼女にこちら側の意見を押し付けたくない。そういう気分になっちまったんだ。この部屋に押し入って彼女の笑みを見た時にな。 鶴屋さんとは、話し合いでケリをつけたい。土台ムリな試みかもしれないが、朝比奈さんとだって話は通じたんだ。きっとどこかに妥協点くらいはあるはずだ。 鶴屋さん。あんた、涼宮ハルヒを攫ってここに来て、何をしたいんだ? 身代金がほしいってワケでもなんだろ? 「攫ったとは人聞きが悪いなあ。私はあの子をかどわかしたつもりはないよ。昨日公園で、雨に濡れてたところを保護してあげたんだよ。本人も自分の意思でついてきたのさ」 じゃあ何故、涼宮は寝てるんだ。普通、これほど大騒ぎしてりゃどんなに鈍い人でも目を覚ますもんじゃないか? 鶴屋さんは、ふと悲しげに瞳をくもらせ、涼宮ハルヒの元へ歩み寄る。そしてその枕元にかがみこみ、涼宮の頬にそっと手をあてた。涼宮は変わらず、やすらかな寝息を立てている。 「思えばかわいそうな子だよね。この子も」 涼宮ハルヒにささやきかけるように、低くそう呟く。 「両親が亡くなって、理解できないへんてこな力が身についちゃったばっかりに、怪しい奴らから狙われて。ずーっと寂しい思いをして毎日送ってきたんだよね」 窓から降り注ぐ光が彼女たちの姿を、フィリッポ・リッピの絵画のように暖かく、優しく照らし出していた。 そして、鶴屋さんは涼宮ハルヒの頭上へリボルバーを掲げた。 「本当はこうして、すべてを終わらせたかったんだけどね……」 「谷口、なにしてんだ! 早く押せ!」 キョンの声が俺の耳を打つ。しかし俺は、銃口をゆっくり涼宮の頭へ向ける鶴屋さんの姿を見てなお、まるで現実から剥離した幻の映像でも見るかのような気分でその動きを見つめていた。 「辛いことがあっても健気に前向いて生きてるこの子を見てたらさ。なんか、私の生まれ育った世界のことが頭にちらついてね。引き金が引けなかったんだ」 鶴屋さんは、涼宮の無垢な寝顔を凝視したまま、じっと動きを止めていた。遠くを見ているようなその目は、彼女自身の記憶を顧みているのだろうか。 「昨日からずっとそんなことを思ってたんだ。自分たちの世界を救うためとはいえ、この子の命を奪うのはやっぱりイヤだなってね」 どうしたものかな、みくる……。と独り言のように呟き、鶴屋さんは銃をおろした。 その様子を見て、俺は確信した。やはり鶴屋さんも、この時代にきて、朝比奈さんと同じようなことを考え始めているんだ。郷愁というか、思い出を恋しがることで、自分たちの世界を消滅させようとすることに躊躇を感じているんだ。強行派だなんて言われても、やっぱりこの人は俺が思った通り、慈悲深い心優しい人なんだ。その優しさゆえ、自分たちの世界に住む人たちが苦しむ姿を見るに耐えられなかったんだろうと思う。 どうやら、俺たちがこれ以上どうこう言わずとも、鶴屋さんは涼宮を返してくれそうだな。 リボルバーの銃口から放たれた弾丸が、部屋の壁に穴をあけた。部屋の中に響いた銃声が、俺たちを打ちのめすように鼓膜をふるわせた。 鶴屋さんの手に握られていた銃の、引き金が引かれたのだ。 「なんて。ネガティブになっちゃった。1人であれこれ思い悩んでたからいけなかったんだなあ。いやあ、良かったよ。キミたちが来てくれて。おかげで決心つきました。私は結局、何をしなければいけなかったのかを見失いかけてたよ」 硝煙のくゆる銃口が、身じろぎひとつしない涼宮ハルヒの頭に押し当てられる。 「迷うことは何もないんだ……」 「よせ!」 突然の出来事に気圧され身体の自由を奪われたように立ち尽くす俺とキョンの横を古泉が駆け抜ける。 しなるように持ち上がった鶴屋さんの手先から、再び大きな銃声とともに弾丸が放たれる。 古泉の身体が大きく跳ね、もんどりうって床に転がった。どこか遠くの国で起こっている出来事を、スクリーンを通して見ているかのような錯覚に襲われる。 「古泉!」 すぐさまキョンが駆け寄る。古泉の身体を抱え上げたキョンの腕に、赤黒い血糊がぬめっていた。 一瞬にして体中の血が頭に集まって、急激な速度で駆け巡るのが感じられた。 気がつくと俺は、熱を持った手の中の、アンチTPDDのスイッチを押していた。 ~二又の世界② へつづく~
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私は、昭和生まれの電機メーカーのサラリーマンだった。 世間では、WEB2.0だ!通放融合だなどと騒いでいるが、 隣のおばちゃんなんか、いまでにテレビのリモコンくらいしか 使えない。アナログ人間とデジタル人間がごっちゃごちゃに なった現代。 デジタルがために大きなトラブルが増えてきた。 そこで、この問題を解決するとお金になると思って、 脱サラしいたのが運の尽き! 今日のおまんま食うのもままならない。 それに、なんて世の中は便利になって貧しくなったんだろう。 毎日、憂鬱になることが多すぎる! 今日も、難事件が巻き起こる。 今度こそ憂鬱にならずに、さわやかに解決するぞ!