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『K.Kの日記』 K.Kの日記(1ページ目) ============================== *月**日 数ヶ月ぶりに冥さんから手紙が来た。 先週、私の手紙が受取人不在で戻ってきたので、嫌われてしまったかと思ったが違ったようだ。 今は日本で働いているらしい。早速、返事を書くことにしよう。 リターンアドレスが書いていない。 K.Kの日記(2ページ目) ============================== *月**日 待ちに待った冥さんからの返事が来た。2か月待った。 住所が分からなかったから、消印から勤めてる検察庁を推測して送ってみたが、無事に届いていたようだ。 どうやら、検察庁の窓口で不審物扱いされて鑑定室に留め置かれていたらしい。 検察庁の住所と名前しか書いてなかったから、仕方ないか。 おかげで検事オフィスの室番号を教えてもらえた。 これでちゃんと手紙が送れる。 自宅の住所を教えてもらいたかったのに。 K.Kの日記(3ページ目) ============================== *月*日 今日は冥さんとランチに行った。検察庁の近くのカフェでホットサンドを食べた。 本当ならディナーが良かったんだけど、夜は仕事がいつ終わるか分からないから、と断られてしまった。 でも粘ってお昼に会えるようにお願いして良かった。 さすがに日付を指定して「待ってます!」とだけ言ったのは、無理矢理すぎたかもしれないけど。 それでも冥さんは来てくれた。嬉しい。 約束の日の前日に着くように手紙を送ったのが良かったのかも知れない。 断る手紙を出している時間がないから。 この約束を取り付けるために、手紙を5往復もした。 久しぶりにお会いした冥さんは、やっぱり凛々しくて綺麗だった。 あまり時間がないと言われて、たいしたお話はできなかったけど、私は目の前に冥さんがいるってだけでお腹いっぱい。 アメリカの検事局は辞めて、正式に日本で働くことになったらしい。 これからもっと頻繁にお会いできると思うと小躍りしたいくらい嬉しい。 相談したい事もあるからどうしてもとお願いして、電話番号を教えてもらった。 しかも冥さんのオフィスに直通の番号だ。 どうせなら自宅か携帯の番号を教えて欲しかった。 K.Kの日記(4ページ目) ============================== *月**日 近くを通りがかったフリをして、また冥さんをランチに誘うのに成功した。 やっぱり電話を掛けられるっていうのは素晴らしい事だ。 今日も冥さんは綺麗だった。 昨夜から泊まり込みで仕事だったらしく、仮眠を2時間しか取っていないそうだが、そんなやつれた表情も憂いがあって素敵。 でもいくら仕事だからって、こんな綺麗なうら若い女性に徹夜仕事をさせるなんて許せない。 第一、お役所なんてまだまだ男社会だって聞くのに。 ムサ苦しい男がうろうろしているフロアで仮眠なんて、想像するだけでオソロシイ。 そんな事を考えていたら、仕事が動き出したらしく、電話で呼び出されて冥さんは戻っていってしまった。 貴重な時間をどうでもいい想像で無駄にしてしまった。 それはそれで心配だけど、冥さんのお姿を見ることの方が大事だったのに。 でも今日は冥さんのメールアドレスを聞くことが出来た。 食事の途中でメールを送ってきた高菱屋の営業、いい仕事よ。 おかげでアドレスを聞くきっかけに出来た。 電話だと大抵は不在か、忙しいって事務官に取り次いでもらえないから。 でも仕事のPCじゃなくって、携帯のアドレスが知りたかったな。 ______________________________ side.M 見慣れたドアを開けると、中には見慣れた男――御剣怜侍がいた。 「遅かったな」 デスク上の書類をぱさぱさと整理しながら、彼のオフィスにやってきた冥に軽い笑顔を見せた。 「外に食事に出てたのよ」 冥は迷いなく御剣の横に歩を進める。 「君の部屋に掛けたら、森屋君がしきりに謝っていたぞ」 “森屋君”とは冥のオフィスの事務官の1人。地味で仕事は早くはないが、真面目で何より腰の低い好青年だ。冥はたまに、そんなに頭を下げてばかりいたら首が痛くならないか不思議になる。 「彼はあなたに恐縮してるから。後で労っておくわ。で?」 冥が横に身を寄せると、御剣は揃え終わった書類の内、一束を冥に手渡した。 「ご要望の資料だ。中は確認してくれ」 渡された書類の内容を一瞥すると、冥は納得したように頷いた。 「しかし、この長時間労働の最中に外で食事とは、意外と疲れ知らずだな、君は」 同じく昨夜帰宅できなかった御剣は、欠伸を噛み殺しながら言う。 『鬼検事』『鉄仮面』と影で揶揄される彼がこんな姿を見せるのも、側に彼女がいる時だけだ。サブデスクでモニタに向かっているこの部屋の事務官達はもちろん、見て見ぬ振り。 「まぁ、丁度休憩しようと思った時に誘われたから‥‥。それにこの書類待ちだったしね」 書類を掲げていたずらっぽく微笑むと、御剣と向かい合うようにデスクに寄りかかる。 「誘われた?」とあまり起こりえない事態に眉を潜めると、もう少し近くに来いとばかりに彼女の腰を引き寄せた。 「そう。華宮霧緒にここの番号を教えたの」 「あぁ、彼女か‥‥」 それなら御剣も知っている。どうやら彼女は冥を慕っているようだし、人付き合いの少ない冥にも同年代の知り合いが増えるのはいい事と思っている。 「でもちょっと困ってて」と今度は冥が頬に手を添えて眉を潜めた。 「私、法廷や会議であまりオフィスにいないでしょう? どうやら日に4~5回は掛かってきてるみたいなのよね。私用電話だし、急ぎじゃないって言うから、取り次いでなかったみたいなんだけど‥‥。この間森屋事務官に聞くまで全然知らなくて」 「‥‥‥‥‥‥‥‥それは」 思わず御剣はたっぷり5秒は絶句した。 「やっぱり多いわよね? 忙しい時なんか、事務官が気を利かせて断ってもくれてるみたいで‥‥」 確かに、忙殺されてイライラしている冥に、急ぎでない電話など取り次いだら確実に鞭の叱責を受けるだろう。 どうしよう? と小首を傾げて御剣の返答を待っている冥を『可愛いな』と眺めつつも、御剣の脳内では考えられるだけの憶測が飛び交っていた。 「‥‥‥‥とりあえず、勤務中の私用電話は控えるように勧告すべきだろう」 一番無難な選択をした彼の答えに、「そうね」と納得した冥は書類を持って自分のオフィスへ戻っていった。 その後ろ姿を見送りながら、プライベートな番号だけは教えない方が、と思わずにはいられない御剣だった。 K.Kの日記(5ページ目) ============================== *月**日 スゴイ事をしてしまった。驚くべき事態になってしまった。 なんと、冥さんをショッピングに誘うことが出来た。 今日、いつも休日はどう過ごされてるのか訊ねたら、明日はショッピングに行くらしいので、同行させてもらう事にしたのだ。 あいにく、私は明日休みじゃなかったんだけど、そんな些細なことは同僚に代わってもらって解決。 冥さんとおでかけできるなんて、こんな千載一遇のチャンスを逃す事だけはできなかった。 明日は冥さんとどこへ行こう? 最近出来た総合ファッションビルに誘ってみるのもいいかも知れない。 疲れたらカフェでお茶なんかしちゃったりして。 買い物が済んだら、明日こそゆっくりお食事をしたいし。 そういえばあそこは映画館も入ってるんだった。もし映画まで誘えちゃったらどうしよう。 何を上映してるのか調べておかなきゃ。冥さん、どんな映画が好きかしら。 そうだ、何を着ていこう。この前買った新作のバッグおろしちゃおうかな。 冥さんはどんな服を着てくるのかしら。スーツ以外の格好で会うの初めてだし。 行動的な人だし、やっぱりパンツスタイルかしら。 でも育ちのいい人だから、シックなスカート姿もいい。 先月号のキャズに載ってたスモッグの新作なんて冥さんに似合いそうだった。 〈以下、ごちゃごちゃと服の落書きがいくつかされている。略〉 なんだか緊張してきた。とにかく、念入りに準備しなくちゃ。 K.Kの日記(6ページ目) ============================== *月**日 今日はスゴイ。スゴイ、記念すべき一日だった。 冥さんとショッピングに行ってきた。 それも冥さんは私服姿だ。 淡い萌葱色と白のトップスに落ち着いたピンクのふんわりしたスカート。 想像してなかった可愛らしいコーディネイトで、私もまだまだ知らない姿があるのだと勉強不足を実感。 何より目を引いたのは、爪先を今日のスタイルにぴったりの可愛らしいミュールで飾った脚が、素足だった事だ。 いつも厚手のストッキングを履いているのに、生足。 ふわふわしたミニスカートから覗く脚も当然、生足。 若いって素敵‥‥。 今日が暖かい日でほんとーに良かった! 〈横にごちゃごちゃとした*キリオのファッションチェック!と題した挿絵付き。略。〉 色々な事態を想定して、湾岸の複合ショッピングエリアに誘ったんだけど、行くお店が決まってたらしく、待ち合わせの駅から2分のすごうに行った。 着くなり「じゃあ何時にここで」と言われて、颯爽とエレベーターに乗られてしまったのには少しびっくりしたけど。 一生懸命フロアを探し回ったら、3階のガラス工芸店の前で合流できた。 もう小さな買い物袋を持っていて、ちょっとがっかり。 一緒に行きたかったとちょっと詰ったら、きょとんとしていた。 話を聞くと、女の子と一緒に“ショッピング”というカタチで買い物をした事がないらしい。 友達とお店を見て回りながら色々喋るのが楽しいのだ、と教えたら、じゃあそこらでウロウロしてるのは暇なんじゃなくて、そうやって楽しんでるのか、と感心されてしまった。 さすがお嬢様、箱入りなんだ、とこちらが感心してしまった。 せっかくなので“オンナノコのショッピングの仕方”というのを実践してみようと誘って、色々見て回った。 興味のあるお店に足を止めてたっぷり時間をかけて見て回って、と普段女友達といるように振る舞って見せたら、少し戸惑っていたみたいだけど、付いてきてくれた。 結局3~4軒回ったけど、私はシャツを一枚。冥さんもニットのトップスを一枚買っただけ。 効率が悪いと冥さんは納得いかなかったみたいだけど、どうやら楽しんではもらえたようだ。 あのトップスは私も一緒に選んだものだから、それを冥さんが着てくれると思うとちょっと嬉しい。 私のシャツはお財布的には辛かったけど。 すごうの3階なんてブランド店や高級ファッション系しか入っていないようなフロアだもの。 シャツ一枚でも普段見ないような価格基準で、とても贔屓にして買えるようなお店じゃない。 でも冥さんのトップスと同じお店の服。ちょっと嬉しい。 5階のカフェで遅めのランチとお茶にした。 バジルソースのパスタとオレンジティーにプチフール。 さすがにお揃いの服は買えなかったから、ランチくらいは同じものを頼んじゃった。 向かい合って座ってたから、せっかくの生足は近くで見ることは出来なかったけど、代わりにゆっくり手元を見ることが出来た。 いつもは革の手袋で守られてる指先はとっても細くて綺麗。 襟ぐりが広めの服だったから、普段はお目にかかれない首筋も、鎖骨のラインもたっぷり鑑賞できた。 今でもあの白くて透き通るような肌をはっきり思い出せる。 ほんっとーに、暖かい日で良かった。 残念なのは、お茶の後すぐ冥さんが帰ってしまった事だ。 これからだと思ったのに、用事が済んだからとあっさり置いて行かれてしまった。 ‥‥まぁ、ランチまで一緒できたし、あまり贅沢は言わないことにする。 でもあの最初の買い物袋が気になるなぁ‥‥。 見たことないブランドだったけど、高そうだったし、聞いて見れば良かった。 ______________________________ side.M 「はい、これ」 差し出された小さい包みを思わず受け取って、ようやく御剣は疑問を発した。 「なんだ?」 「プレゼント」 ふふっと嬉しそうに笑う贈り主を肩で引き寄せながら、渡された包みをじっくり眺める。 「開けていいのか?」 彼の肩にもたれ掛かるように身体を横たえて冥は、当然でしょ、とちょっと目元をきつくして彼を見上げた。 そんな仕草に苦笑しながらも、礼の代わりに額に小さくキスをして、彼女にも見えるように包みを開いていく。 しっかりとしたケースに収まっているのは、1本の万年筆。 手に取るとしっくりなじむ黒のボディに、クリップには彼女の好きなスワロフスキーのラインストーンが落ち着いた輝きで華を添えている。 「バースディプレゼントよ」 冥は自分の選んだものが気に入ってもらえるか気になるのか、少し恥ずかしそうにしながら御剣の反応を見ようと顔を覗き込んでくる。 彼がそれに気づいてその目に笑いかけると、安心したように微笑んだ。 「冥はやはり趣味がいいな」 「そう?使ってくれる?」 もちろんだ、と彼女の髪を愛おしげに撫でると、冥は嬉しそうに頭を擦り寄せてきた。 おそらく彼女は、しばらく前に御剣が自身の万年筆のペン先をダメにしてしまった事を覚えていたのだろう。 検事に任官した時から愛用していたものと、同じメーカーのものをきちんと用意してくれるあたりも、普段から彼女が自分のことを気に掛けてくれている証に思え嬉しくなる。 「しかし、私の誕生日は明後日だが」 彼女の誕生祝いは欠かしたことはないが、己の誕生日などすっかり忘れていた御剣はその事にようやく気づいた。 「だって、レイジ明日から出張に行っちゃうでしょう?」 御剣の胸元に顔を寄せていた冥は、顔を上げると拗ねたように眉を寄せた。 それについてあまりいい感情を持っていないらしいという事は、きっと彼女は当日一緒に祝いたかったのだろう。 前倒ししてでも祝おうとしてくれる彼女が愛しくて、細い身体を抱きしめた。 「なるほど。それで今日は早く帰れと言ったのか」 昨夜のうちに厳命されていたので、勤めだして初めてじゃないかというくらい早く、陽のあるうちに帰宅したのだが、どうやらそういう事情だったようだ。 「どうせ明日は朝早いんだから、いいじゃない」 御剣に苦笑されて、一応は無理を言った自覚があるのか、少し恥ずかしそうに言葉を濁した。 それならば、と御剣は身を横たえていたソファからゆっくりと起きあがる。 「ではせっかくの時間を無駄にはできないな。ディナーはどこに行きたい?」 その言葉に、冥も慌てて身を起こす。 「あっあのね、私ね」 「?」 「時間、無駄に出来ないのでしょう?だから、私、あの、‥‥ご飯、作ろうと思って」 「‥‥‥‥」 「材料、買ってあるの。‥‥こ、この私が作ってあげるんだから!喜びなさいよ!」 御剣は想定外の事態に、真っ赤になった冥の顔を凝視していたが、やがてふっと表情を綻ばせた。 「当然だ。君の手料理なんて、これ以上のプレゼントはあるまい」 彼の笑顔に気を良くしたのか、冥もにっこりと微笑むと、さっそく立ち上がった。 「じゃあ、ちょっと待っててね。大丈夫、あなたの好きなメニューにするから」 「私も行こう」 キッチンに向かう冥の後を御剣が追うと、彼女は怪訝な顔で振り向いた。 「? あなたに手伝って貰っても手間が増えるだけなんだけど‥‥」 「‥‥それぐらい心得ている。ただ君を側で見ていたいだけだ」 すると冥はさっと頬を染め、俯きがちに馬鹿ね、と言った。 「あぁそうだ、大事な事を忘れていた」 「?」 御剣の言葉に動きを止めた冥に、彼は顔を寄せながら告げた。 「ありがとう」と。 K.Kの日記(7ページ目) ============================== *月*日 電話を全然取り次いでもらえなくなってきた。 傾向は分かってる。 おとなしい感じの男の事務官が出ると間違いなく取り次いでもらえない。 もう1人、声が高めの事務官がいるので、彼が出るとたまに取り次いでもらえる事がある。 でもこの人は電話係じゃないっぽいから、あまり期待はできない。 返信はあまりもらえないけど、メールにしようかな。 手紙もあまり返事がもらえなかったけど、筆無精なのかしら。 でも、読んでもらえるだけで私は嬉しい。 K.Kの日記(8ページ目) ============================== *月**日 突然、メールが送れなくなってしまった。 今日3度目のメールを送ろうとした時だ。 一時間前に送った時は問題なかったのに。 送信先サーバーのエラーみたい。 どうなってるのかしら、検察のネットワークメンテナンスは! 後で冥さんに電話して聞いてみよう。 ______________________________ side.M 「これでいいですよ」 最後にマウスをクリックしてウィンドウを閉じると、男は顔を目の前のモニタから上げた。 「ありがとう、森屋君」 横でその様子を見ていた冥が労いの言葉を掛ける。 「念のため確認してみますから」 森屋事務官はまた目線をモニタに向けると、メーラーを立ち上げた。 「これで外からのメールは取れなくなるのね」 「外部ネットワークからの送信メールをサーバーで受信拒否させてます。内部なら、問題ないですよ」 受信トレイが業務メールのみなのを確認しながら、森屋は簡単に解説した。 「‥‥やっぱり、多い、わよね」 「多いです」 きっぱりと断言すると、森屋は先ほどサーバーから取得した受信履歴を開いて見せた。 「一日に少なくても10通は越えてます。別に私用メールは構いませんけど、実務に支障をきたすのは‥‥」 そうなのよ、と冥も申し訳なさそうに頷いた。 「仕事のメールが埋まっちゃって、選り分けるだけで時間をくうんだもの。困るわ」 せがまれてアドレスを教えたのはいいものの、その回数は日に日に増えていて、頻繁な時は10分置きに届いたりもするようになっていた。 とうとう無視しきれなくなった冥は、ネットワークに詳しい森屋に相談を持ちかけたのだ。 その時、小さなベル音がオフィスに響いた。冥のプライベート用携帯電話だ。 「鳴ってますよ」 「分かってるわよ!」 冥は少し慌ててデスクに置かれていた小さな機体を手に取る。 このベル音はここのオフィスの人間には聞き慣れた音だ。 彼女は、親しい彼からのメールに、この涼やかなベルの音を鳴らすよう設定している。 何度か小さな液晶画面に目を走らせて読み返した後、すぐにボタンを操作しだした。 仕事にしろプライベートにしろ、はっきり優先順位を付けて事によっては容赦なく無視、もしくは後回しに行動する彼女でも、このベル音の後はしばらく携帯画面とにらめっこだ。 いじらしいもんだ、と思いつつ、事務官は冥のマシンを仕事の環境に戻していく。 そうこうしているうちにメールの返信も終わったらしく、冥は何事もなかったように携帯電話をしまって、森屋の方を向いた。 「でもこれで大丈夫よね。さ、仕事に戻りましょう」 当面の些細な問題が解決してすっきりした冥は、サクサクと仕事の続きを始めだす。 「‥‥一応、御剣検事にお話しておいた方がいいですよ」 サブデスクに追いやられながら、森屋は念のため意見を申し立てておいた。 冥はどうして?と首を傾げるので、どうやらこの事態をそれほど異常には感じていないらしい。 経験のない事にはとことん疎い人なのだと、この短い付き合いの中で感じていた森屋は、あまり彼女が事を大げさに捉えて不安にならないように、言い回しを変えて忠告しておいた。 「‥‥御剣さんは検事にあった事は全部把握しておきたいでしょうから」 しばらくして、「‥‥そうかしら」と上司の小さな小さな声が聞こえた。 自分の仕事に集中している振りをしていたので、彼女の表情までは見えなかったが、きっと真っ赤に頬を染めてそっぽを向いていただろう事は想像できた。 森屋はそうですよ、と素っ気なく返事をし、とりあえず自分からも御剣検事に進言しておこうと決めると、本当に仕事に集中するためデスクに向かった。 K.Kの日記(9ページ目) ============================== *月**日 やっぱり冥さんに取り次いでもらえない。 今日は捜査で戻らないというので、思い切って電話に出た事務官にメールのことを聞いてみた。 どうやら検察全部で外部ネットワークが使えなくなったらしい。 冥さんだけじゃなかったみたいだ、良かった。 となるとまともに接触がもてるのが手紙だけになっちゃう。 なんとかして会いたいなぁ。 K.Kの日記(10ページ目) ============================== *月**日 今日は仕事も休みだったので、検察庁に冥さんを訪ねていった。 門前払いを喰らわされた。 今時一般人立ち入り禁止なんて流行らないわよ。 時代は開かれた行政、開かれた法曹、でしょ。 でも偶然御剣検事に会えて、話ができた。 そりゃ冥さんに会えなきゃしょうがないんだけど。 どっちにしろ、今日は出掛けてていなかったらしい。なんだ。 訊ねた事は伝えてくれるらしいから、上手くすれば冥さんから連絡があるかもしれない。 でもこっちからの連絡方法は教えてくれなかった。ケチ。知ってるくせに。 ______________________________ side.M 廊下をそれぞれの目的地へと向かいながら、2人の男は軽く息をついた。 「助かった。礼を言う」 御剣が半歩後ろを歩く森屋に声をかけた。彼は恐縮しきってぶんぶんと頭を振る。 「いえいえ!‥‥出しゃばった真似をしまして‥‥」 「いや、正直なんと答えたものかと‥‥」 先ほど、外から戻った森屋は正面ホールの受付前で女性に声をかけられた御剣を目撃。 仕事の関係かとも思ったが、相手が若い女性なこともあって、場合によっては己の上司に報告せねばなるまいと近づいたのだが、どうやら様子がおかしい。 しかも相手の要望が目の前の男ではなく、その上司自身であるらしいと感づいた瞬間、咄嗟に口を挟んでいたのだ。 『今日は狩魔検事はご不在です』と。 まさか彼女が件の“ご友人”とは思いもよらず。 「スゴイですね、わざわざここまで訪ねてくるなんて」 御剣はドッと疲れたように肩を落とした。 「普通、機密事項を扱っている施設は一般出入り禁止だろう。それを、受付に理不尽だと食いついていた」 自分もその対象だったのだから、情報の機密性は分かっているだろうに、と何やらぶつぶつと言い募っている。 「第一、検察だろうが一般だろうが、本人の了承なしに勝手に個人情報を教えるわけにいかないのは当然のモラルではないか」 どうやら、冥の携帯電話番号を教えろとせがまれたのを断った時、物凄い顔で非難されたのを根に持っているようだ。 仕事の上では見てるこっちがハラハラするほど不貞不貞しい態度を崩さない男なのに、検事という肩書き以外のところでは変なコトで傷ついていたりする。 「でも、意外と普通の人でしたね」 まぁ、若くて人並み以上の容姿を持つ女性に対し、初見で悪い感情を持つ男はいない。さらに彼女は並みどころか、かなり魅力的な顔立ちをしていたことを思い出しながら、森屋は何故か感心したように呟いた。 それを聞いて、御剣はふんと軽く鼻を鳴らす。 「女性を見た目で判断すると痛い目をみるぞ、森屋君」 御剣は職業上、過去関わった事件で華宮霧緒がいかなる悪癖を持っているかを調べ尽くしている。 しかも、それが改善の兆しがない事も、現在進行形で身を持って体験している。 まさか自分の身内が“そういう対象”に見られる事になるとは思ってもみなかった。 不埒な腹積もりで近づく男ならいくらでも蹴落としてやるが、さすがにこういうのにはどう対処していいか謀りかねる。 「‥‥よぉく肝に銘じときます」 霧緒の度重なる冥への接触を思い出し、森屋は少しげっそりとした気分になった。 「僕もなるだけ力添えしますから、頑張ってくださいね」 軽い激励のつもりだったが、なにやら御剣はあたふたと慌てたようだ。 「なっ、何がだ。事務官」 「決まってるじゃないですか。‥‥狩魔検事を大事にしてあげてください」 あまり言われ慣れてないのか、普段絶対に態度を崩さない彼が、うぅとかああとかなにやら呻いて返事に困る姿に、少し愉快な気分になった。 そんな心の内を感じ取ったのか、御剣は顔を真っ赤にして彼独特の射抜くような視線で睨んできたので、森屋は思わず表情を引き締める。しかし、 「‥‥随分、協力的だな」 と皮肉をこぼすのが精一杯のようだ。 そりゃあ、と森屋は日頃の上司の態度を思い返す。 「彼女の機嫌を損ねない事が、うちのオフィスの平和を保つ一番の秘訣、ですから」 切実な森屋の言葉に、思わず御剣はぽん、と彼の肩を叩いた。同情された。 その時、ふいに涼やかで良く通る声が二人の背中に降ってきた。 「あら、随分気が合うみたいね」 ぎょっと2人が振り返ると、横手の保管室から出てきたらしい冥が、斜め後方に立っている。 御剣と会っている時に良く見せる柔らかい表情をしているので、どうやら今の話を聞かれた訳ではないらしい。 森屋はホッと胸を撫で下ろしたが、御剣は話題の主の登場に戸惑っている。 「? ?」 どういう事だ?と不可解そうな御剣に、さっきのお返しとばかりに一つアドバイスを送っておいた。 「“嘘も方便”っていうでしょう、御剣検事」 K.Kの日記(11ページ目) ============================== *月**日 48日ぶりに冥さんから電話がきた! ここのところ仕事が忙しかったらしくて、わざわざ謝ってくれちゃった! 私は別に、冥さんとお話できるだけでいいんだけど。 仕事の話を聞いて欲しいってお食事に誘ったら、OKがもらえた。 時間が空いたらメールすると言われたけど、待ってられないので4日後に約束を取りつけた。 冥さんの時間が空くことなんて、ないに決まっている。 とはいっても実際、相談にのってもらうほどの問題も無い。 今一番の悩みの種は、少しでも冥さんとお近づきになる方法だもの。 無駄な時間を嫌う人だから‥‥。 4日後までに何か話題を考えておかなきゃ! K.Kの日記(12ページ目) ============================== *月**日 冥さんとランチの約束の日、3日前。 話すこと。 ・○×社の営業と話が噛みあわないこと → 大人しく話をさせるテクニックを聞く ・企画部の◎○が私に気がありそうなこと → セクハラトラブルの相談になる? ・今度の製作発表会のこと → ‥‥‥ 〈他にもごちゃごちゃ会話フローチャートが書いてあるが割愛〉 どうしよう。せっぱ詰まって困ったことがない。 ※プライベートの携帯番号かメアドを必ず聞き出すこと!〈太赤字で〉 K.Kの日記(13ページ目) ============================== *月**日 冥さんとランチの約束の日、2日前。 今日は散々だった。 クライアントの新しい担当者が完全な前世代の男尊女卑信者! 現場の女なんてお飾りくらいにしか思ってないんだ。 しかも馴れ馴れしく身体にも触ってくるし! 触られたトコ、まだ気持ち悪い気がする。 世間よりは対等に仕事ができる職場だと思ってたのに、まだこういう人もいるのね。 この事、冥さんに聞いてもらおうかな。 そう言えば冥さんのところはどうなのかしら。 女性の法律家も増えてきたと何かで見た気がするけど、それでも一、二割だって言うし。 国家公務員なんて堅くて世間に疎い特権意識の固まりみたいな人もいるみたいだから、 イヤな思いしてなければいいんだけど。 あ~、急に心配になってきた! やっぱり明後日はこの事話そう。 何とか冥さんの状況とかも聞き出さなくっちゃ。 K.Kの日記(14ページ目) ============================== *月**日 たった1時間8分しか会っていられなかった‥‥。 でも夢の様な1時間8分だった~(はぁと) 52日ぶりの冥さんはやっぱりキレイで、うっかり12分くらいは見とれちゃってた。 なんてもったいないコトを‥‥、でもキレイだったからいいか。 それにしても検事って何て忙しいのかしら。 今日だって検死が終わったからって呼び出されていっちゃったし(よりにもよって検死なんて!) 時間さえあれば一日中だってご一緒したいのに! おかげで用意した話題が全然できなかった。 一つだけ、セクハラ紛いの扱いを受けた事だけは話せたけど。 やっぱり冥さんもオトコ中心社会に思うところがあるみたいで、たっぷりグチを言い合って盛り上がっちゃった。 さすがに冥さんに不埒な真似をするようなヤツはいないみたいだけど、体制的なものに不満があるみたい。 冥さんはキレイなうえに優秀なんだから。もっと全面的に任せてくれればいいのに。 ホント、オトコなんてろくなモンじゃないわ。 もし私の冥さんが本当にセクハラを受けていたらと思うとゾッとする。 そんなバカがいようものなら、私が冥さん直伝のムチで張り倒してやるんだから。 そう言えば最近、あまり自主練してないな。 おさらいしたい、って冥さんにお願いしてみようかしら‥‥。 快挙達成!!! つ、い、に!冥さんのケータイ番号をゲットしました。 「どうしても困ったことがあったらかけていいわよ」、って。いいわよ、って! 私の話を聞いて心配してくれたのね。 今すぐにでもかけたい!けどけど「どうしても」って言われてるし、下手に馴れ馴れしくして疎まれてもイヤだし。 「困ったこと」って、「冥さんに電話したくでもできない」事に一番困ってるんですけど。 うぅ~どうしよう~~~。でも嬉しい~~!! ______________________________ side.M 「‥‥それでね、肩を触られたりするんですって。信じられないわよね」 口早に捲し立てながら、冥は目の前の人物に訴えかける。 「女性を一体何だと思ってるのかしら。そんな不躾なオトコ、見つけたらただじゃおかないんだから」 確かに彼女の視界内でそんな所業が行われようものなら、それが誰であろうと鞭の叱責を受けるのは確実だろう。 それがモチロン彼女本人に対してであっても同様なのも明白なので、今のところ実行に移す勇者は現れないようだが。 「本当、オトコなんてろくなもんじゃないんだから」 昼に食事に外へ出てきて何か言い含められてきたのか、一度火がついた彼女の苛立ちは収まらないらしい。 「大体どうしてこう何でも男性優位にできてるのかしら。個体能力で差別するならば分かるけれども、ただ性別で分けるっていうのには納得いかないわ」 この間だってね、と冥は続ける。 「新規の案件を余所へ回されたのよ!“キミのとこには無理かな”ですって!私の担当では不満だとでも言うの!?」 「それは‥‥キミのオフィスの許容量を考えての事ではないのか?」 憤慨している冥を見かねて、今まで黙って彼女の話を聞いていた御剣が口を挟んだ。 「でも!行った先は川前さんのところよ。うちよりあっちの方が案件抱えてるじゃない」 川前オフィスはキャリア10年弱の検事のチームで、検察世代的には冥達と同じくらいだ。 同クラスの検事なのに、仕事を回されてしまったのが悔しいらしい。 まぁその理由が別に能力的な差異ではないと、容易に想像はつくのだが。 「そうは言うが、キミは残業をしないだろう」 そう、冥は基本的にきっちり定時にオフィスを閉める。 仕事とプライベートをしっかり分ける欧米らしい感覚と言えばそうなのだが、慢性的に人材不足の国家公務員としては、普通はやりたくても出来ない事だ。 必然的に仕事の処理数は違ってくるし、急ぎの案件なら余計に頼みづらくなるだろう。 それに、ここの上司や同僚達は揃いも揃って彼女に甘い。 任せればカンペキな仕事をしてくるし、それも驚くほど早く処理できるから、腕に文句は付けられない。 何より若いオンナノコだし無理させるのも可哀想だからと、どちらかといえば優遇されていると言える。 それを「女性蔑視だ」などと言い掛かりをつけられても困るだろうに。 案の定というか、冥の返答と言えば、 「当たり前でしょう。ハードワークを押しつけるなんて、レディはもっと丁重に扱うべきだわ」 こんな感じで。 一体どうしろと言いたいところだが、こんな壮大なムジュンにも御剣がつっこめるハズがない。 何と言っても冥に一番甘いのは彼だったりするのだから。 「‥‥それで?」 「え?それでって?」 御剣に促されて、冥はきょとんと目を瞬かせた。 「いや、わざわざこちらに向かって言うくらいだから、何か私に対して含むところがあるのかと思ったのだが」 「え?」 数拍ぽかんとしていた冥だったが、ハッと気付いて慌てて否定する。 「ち、違うわ!別に貴方の事じゃなくて、ただ、こういう事があったって聞いて欲しかっただけで‥‥!」 あわあわと真っ赤になって釈明する冥は、何だか動揺しているようだ。 思いがけず言い掛かりをつける格好になって、御剣の機嫌を損ねたと思ったのか。 「うん?」 「レイジは、‥‥レイジはそんな事なくて‥‥、ちゃんと、紳士だもの‥‥」 段々と小さくなる声でぼそぼそと言い訳をする冥が可愛くて、ニヤニヤ笑いが抑えられない。 思わず悪戯心が頭を擡げる。 「きゃっ‥‥!」 ふいにヒップに走った感触に、冥は小さな悲鳴を上げた。 「こんな事をしても?」 その原因である御剣はにやりと不遜に笑いかけ、なおも冥の引き締まった臀部をまさぐる。 「もう‥‥バカ!」 ぺしり、とヒップに伸ばされた手を叩くが、無理に引き剥がそうとはしない。 「レイジのは‥‥ただエッチなだけじゃない‥‥」 冥は嫌がる風でもなく、さらに一歩、御剣に近づいた。 むしろ逆に擦り寄るように彼に身体を寄せる。 「でも、」 と言うと、冥の感触を楽しんでいる御剣をキッと見つめる。 「他の女に触るようなら、鞭のフルコースなんだから!」 「ふふふ‥‥」 可愛い独占欲を覗かせる冥を微笑ましく思いながら、彼女を引き寄せる。 「大丈夫だ。私はただ愛しいキミに触れたいだけなんだから」 いけしゃあしゃあと言ってのける御剣の言葉に、冥は顔を赤くしながらも満更ではない様子であった。 <スレにて連載中>
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浴衣の着付けエトセトラ 「……」 「……」 微妙な面持ちで成歩堂と御剣は、成歩堂法律事務所受付前のソファーに腰掛けていた。 それというのも本日近所の神社で行われるお祭に行く為に、この部屋の隣の所長室で 女性メンバーの浴衣着付けが行われていて、そちらの会話がかすかにだが聞こえてくる。 否が応にも男の性。自然と耳を澄ましてしまう。 「あぁっ!冥さん違う違う!ここはこうやって…」 「えっ…ちょっと分からないわよ」 「えっと…こうして…」 「きゃっ!!どこ触って…」 「……うぅ、何だか悲しくなってきた」 「まっ真宵さま!どうされたのですか!?」 「だって同い年でこの差だよー?見てはみちゃん!Cカップはあると見たね!!」 「『しーかっぷ』ですか…?かるま検事さんすごいです!(何やら理解していない)」 「ちょっ…!!やだ、やめなさいったら!…ぁんっ」 「いいなぁ…」 「もう!いつまで揉んでいるつもり!?……まったく…あなただって可能性はあるわよ」 「ホント!?どうすればいいの?」 「………誰かに揉んでもらう…とか」 「えぇええぇっ!!ホントっ!?それでおっきくなる!?」 「…可能性はね……何よ、その目は」 「て事は、冥さんは誰かに揉んでもらったのかなぁ…?ふっふっふ」 「……!!!」 「そのレースいっぱいな下着も誰かさんの趣味?」 「わぁ!かるま検事さんの下着、とっても可愛いですね!!」 「う、あ…だ…誰かって誰よ」 「いつもそこの椅子に座ってる………」 「あー!あー!!言わなくてよろしいっ!!」 「へぇー…」 「あぁっ!もう!ニヤニヤするな!!」 「……」 「……な、何だよ御剣」 チラリと視線を向けられて思わず焦る成歩堂。 「いや、敢えて言うまい」 「……」 成歩堂は自分の趣味と傾向(行い)を第三者に暴露された事にただただ頭を抱えるしかなかった。 「…んしょ、冥さん苦しくない?帯ゆるいとすぐ解けちゃうから少しキツ目に締めないと」 「ぅ…ん……大丈夫…っ」 「わわ!そこまでガマンしなくていいよっ!!………わ、冥さん何だか色っぽい」 「…は…何言って……」 「………冥さん…もしかして縛られ…」 「ばっ…!ちっ!!違うわよ!!コレが苦しいだけなんだから…!」 「あはー、ゴメンゴメン。…どう?これで大丈夫?」 「…えぇ」 「………ホントにされたコトない?」 「しつこいっ!」 「……」 「………」 顔を向けずとも視線が痛い。 (いっそ何か言ってくれぇ…) 「…フッ」 御剣の失笑が成歩堂の心に突き刺さる。 (ああああああ……) 更にガックリと項垂れる成歩堂だった。 カチャリ。 ふいに扉が開けられた。 「お待たせー」 浴衣に身を包んだ真宵が先陣を切ってやってくる。 「ほう…」 その姿を見て、御剣が感嘆の声をあげる。 「お待たせいたしました!」 「…待たせたわね。……?どうしたのよ、そっちは」 「あぁ、まあ…少し苛めすぎてしまったようだ」 「?」 訝しげな表情で疑問符を浮かべる冥を目の前にして、御剣は肘で成歩堂に合図を送った。 「…ん?あぁ、着替え終わったんだ……うわ…」 先ほどまでの落ち込みようとは打って変わって、成歩堂は照れくさそうな表情を見せる。 「やっぱり女の子の浴衣姿はいいね。皆可愛いよ」 「あぁ、そうだな」 御剣も相槌を打つ。 「じゃあ、準備も出来たようだし出かけようか」 全員で事務所を後にする。 「…ねぇ、レイジに苛められたってどういう事よ」 「え、あぁ…いや、何でも…ははは」 神社に着くまでの間、成歩堂は冥からの質問を冷や汗混じりの笑顔でかわす事しか出来なかった。 ■終■
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色 色ごとに記載 フラッシュピンク 英Flash Pink 登場作品 耳猫風信社・テレヴィジョンシティ 耳猫風信社ではカシスが前髪をこの色に染めていた。彼の髪(というか猫の)地毛は黒である。 テレヴィジョン・シティではイーイーが前髪の一部とソックスをこの色にしていた。なお、彼の髪は明るい琥珀色である。 どちらにしてもかなり派手である。 刈安 かりやす 登場作品 雪花草子・ことばのブリキ罐 雪花草子では『蛍火夜話』で女性の名前として登場。 ことばのブリキ罐でも色の項で登場。 ファッション用語辞典『apparel-fashion wiki(アパレルファッション・ウィキ)』より 刈安色(かりやすいろ)とはやや緑がかった淡黄色のことで、ススキに似たイネ科植物のカリヤスを乾燥させたときの黄色。刈る際に力を必要とせず刈りやすいことからこの名がある。刈安は黄草とも呼ばれる。
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「メリークリスマース!」 真宵ちゃんがクラッカーをならした。 ここは僕の事務所。 今日はクリスマスなので、春美ちゃん、イトノコさん、御剣、狩魔冥、神乃木さんと クリスマスパーティーを開くことになった。 「いやあ、自分達まで誘ってくれるなんて、うれしいッス!」 「まあ、今日はクリスマスですから。パーっと盛り上がりましょうよ。 ほらほら、みんな飲んで飲んで!」 真宵ちゃんはもうすでに20歳になっているので、遠慮せずにお酒を飲んでいる。 …もう真宵ちゃんが事務所にきて4年か。早いなあ。 「ほら!なるほどくんも飲みなよ!」 「う、うん。」 僕もグラスにそそがれたお酒を飲んだ。 「神乃木さん、飲まないんですか?」 僕は神乃木さんに問い掛けた。 神乃木さんはコーヒーしか飲んでない。 「俺は酒は飲まない。 生まれてからコーヒー以外のものは飲んだことないからな。」 うそつけ!と心の中でつっこんだ。 「おまえだってペースが遅いぞ。飲むときはガッと飲め。……こんなふうにな!」 ごぶごぶと喉をならしてカップのものを一気に飲み干した。 「ぐぼぉぉぉぉ!」 しかし、なぜかそれを吹き出した。 「誰だ!俺のコーヒーを酒に変えたのはッ!」 …どうやらなかのコーヒーを酒にすり替えられたようだ。 「あ、あたしでーす!」 「……」 真宵ちゃんが答えると、神乃木さんは投げ付けようと構えたカップを戻した。 僕だったら投げてやろうと思ったのだろう。 「今日はパーティーなんだから!神乃木さんもコーヒーばっかり飲んでないで お酒飲みましょうよ!」 「クッ……」 いつもの『クッ…』を言い、回転する椅子について机に足を乗せた。 僕がいつもクルクル回して楽しんでる椅子も、座る人が変わったら格好よく見える のか……。 「あ…あの!みつるぎけんじさん!かるまけんじさん!」 「なんだい?お嬢ちゃん。」 春美ちゃんは御剣と狩魔冥に話し掛けた。 「あの…お二人って付き合っているのでしょうか!?」 春美ちゃんの言葉に二人は飲んでいた酒を吹き出した。 「な、なにを言いだすのかしらおじょうちゃん。私はこんな男とは……」 「狩魔検事と御剣検事は検事局でも有名なカップルッスよ!」 イトノコさんが答えた。 …顔が赤く、酔っ払っているようだ。 「こらヒゲ!何を言うの!」 「うほぉ!」 どこからともなく現われたムチでイトノコさんを叩いた。 「へえ!御剣検事と冥さんって、付き合ってたんだね!」 真宵ちゃんが僕に話し掛けてきた。この子も酔っ払っている。 「まあ、御剣も狩魔の家にいたから、付き合いは長いのかな。」 「へぇー。なんか運命の出会いって感じだねえ。」 「ま、そんなところかな。」 それから数時間がたった。 もう時計の針は10時をまわった。 「あ…はみちゃん、寝ちゃったよ。」 「本当だね。所長室に寝かせてきなよ。」 「はーい。……あれ?御剣検事達だ。」 僕も真宵ちゃんの横で所長室を見る。 確かに二人が居た。 「乾杯。」 二人はワインを持っていた。…僕は買った覚えはないけど。持参品だろうか。 「ふう…。にぎやかなパーティーはいつやっても苦手だわ。」 「きみはパーティーは嫌いだったのか?」 「いえ。でもあの子供みたいな騒ぎが苦手なのよ。」 「……あの春美君、私たちが付き合ってると思っているらしがな。 きみはどう思う?」 「……まあ、あなたがそう思うならそうでいいんじゃない?」 「そうだな。 …お互い、忙しくてもう今年中は会えないだろう。だからいま言っておく。 来年もよろしくな。」 「こちらこそ。」 二人は唇を重ねた。 「……いやあ、お熱いねえ!二人とも。」 「うう…。見ちゃいけないところ見ちゃったかな。」 「あ!何やってるッスか!」 イトノコさんがこちらに向かってきた。 「所長室に、御剣検事と冥さんがいるんですよ。」 「こら!のぞき見なんてダメッス! というか…自分も見たかったッス!」 言ってることが真逆じゃないか! それからさらに数時間。今日はみんなを事務所に停めることにした。 時間はもう夜中の二時だ。みんな寝ている。 「さてと…」 僕はある袋を取り出した。 春美ちゃん… イトノコ刑事… 御剣… 狩魔冥… 神乃木さん… そして、真宵ちゃん。 みんな、僕の仲間達だ。 お世話になっているお礼として、みんなに内緒でクリスマスプレゼントを買って あげていた。 「みんな、いつもありがとう…。」 そして、夜が明けた。 「うおおおおお! 朝起きたら素麺が置いてあったッス! サンタさんからの贈り物ッス!」 イトノコ刑事、この年でサンタさんかよ!と心でつっこむ。 「ふ…サンタさん、か。」 「御剣…いつもありがとうな。」 「…礼を言われるすじあいはない。成歩堂。」 ビシ! 「あいてぇ!」 後ろからムチが飛んできた。 「成歩堂龍一…なぜあなたにプレゼントを貰わなければならないの?」 「べ、べつにいいだろ!たまにはありがたく貰ってくれよ。」 「ふん……。まあいいわ。」 「成歩堂…」 「あ、神乃木さん。」 「ギザギザ頭のサンタは俺にもプレゼントをくれたようだな。…コーヒーの。」 「ははは…」 「じゃあな。成歩堂。」 みんなは帰っていった。 「なるほどくん!」 「あ、真宵ちゃん。」 真宵ちゃんが起きてきた。 「ねえ!起きたらトノサマンの冬セットが頭もとに置いてあったんだ!」 「へえ、サンタさんに感謝しなきゃね。」 「うん!ギザギザ頭のサンタさんにね!」 「えぇ!気付いてたの?」 「まあね。」 さすがの真宵ちゃんももう二十歳だからなあ。 「あ、そういえばなるほどくんにプレゼント買ってなかったんだ。」 「いや、別に僕はいいよ。」 「じゃあ、このトノサマンの冬セットの手袋あげるね。 貰ったものをあげるっていうのもなんだけど、手が冷えて人に指を指せなくなったら 困るしね!」 「真宵ちゃん…ありがとう。」 「お礼を言うのはこっちだよ。ありがとう、なるほどくん!」 真宵ちゃんは時計を見た。ちょうど9時だ。 「あ、そろそろはみちゃんを家に送らないと。」 「ああ、年末は家で過ごすんだっけ。」 「そう。…じゃあ、来年もよろしくね。」 「こちらこそ。」 終わり
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主な登場人物 御剣怜侍(26) 主人公 上級検事 糸鋸圭介(32) 所轄の刑事 シリーズ常連 天野河丈一郎(51) 天野河コンツェルン総裁 天野河光(21) 丈一郎の息子 被害者 一条美雲(17) 自称大ドロボウ 狼士龍(27) 国際捜査官 シーナ(??) 狼の秘書 小倉真澄(50) 天野河家の執事 原灰ススム(24) 総務課の巡査 シリーズおなじみ 織戸姫子(19) 光のガールフレンド 概要 帰国早々、誘拐事件に巻き込まれるハメになった御剣。しかも身代金の受け渡し役として… バンドーランド正門 おそらく犯人は、ここに隠れていたのだろう。 つきつける:「タ」の文字 【捜査開始】 調べる:壁の鏡(どこの鏡でもいい) ロジック「カガミの破片」発生 調べる:御剣におそいかかるワルホくん ミツルギさんを殴った凶器、思い当たるものはないの? つきつける:折れた模造刀 模造刀の何を調べるの? 選択:ルミノール反応 「指紋検出」を選択するとミスになるが話は進む 自動的に襲われる御剣のUP画面に移動 推理 刀にカーソルを合わせて「推理」 つきつける:折れた模造刀 模造刀を右手に持ち替えさせるとムジュンする証拠品とは? 選択:「失われたモデルガン」または「タイホくん図鑑」 画面一番左の座るタイホくんを調べるとタイホくんのUP画面に切り替わる タイホくんUP画面 推理 タイホくんの肩からかかるベルトにカーソルを合わせて「推理」 つきつける:タイホくん図鑑 ロジック「左右反転しているタイホくん」発生 ロジックモード 「カガミの破片」「左右反転しているタイホくん」をまとめる カガミのカベは、この目的のために作られたものだよ。 つきつける:パンフレット こうすれば、タイホくんをカンタンに消すことができるのだよ。 選択:カガミのカベを動かす 私に見つからないように、犯人が隠れていた場所‥‥それはここだ! つきつける:廊下左端の鏡の向こう(灰色部分) 私の見た光景とこの再現で、大きくムジュンしている場所は‥‥ つきつける:廊下左端のつきあたり これが、私が見たタイホくんの正体だ! つきつける:被害者のキグルミ
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2017年7月2日 新第1話:私たちガンバリます! BS11デジタル:24時30分〜 星月みき:洲崎綾/若葉昴:佐倉綾音/成海遥香:雨宮天/天野望:東山奈央/火向井ゆり:上坂すみれ/常磐くるみ:早見沙織 粒咲あんこ:内山夕実/芹沢蓮華:南條愛乃/楠明日葉:田村睦心/藤宮桜:久野美咲/南ひなた:五十嵐裕美/サドネ:悠木碧 千導院楓:木戸衣吹/綿木ミシェル:加藤英美里/朝比奈心美:原田ひとみ/蓮見うらら:内田真礼/国枝詩織:下地紫野 八雲樹:日髙のり子/御剣風蘭:福原綾香/神峰牡丹:小澤亜李/先生:杉田智和/ウォルフ:浜田洋平/星月みく:松田颯水 観客達:兼政郁人、井之上潤、杉浦ジュリアン/ミサキ:高橋李依 2017年7月9日 第2話:そこがツボなの? BS11デジタル:24時30分〜 星月みき:洲崎綾/若葉昴:佐倉綾音/成海遥香:雨宮天/天野望:東山奈央/火向井ゆり:上坂すみれ/常磐くるみ:早見沙織 粒咲あんこ:内山夕実/芹沢蓮華:南條愛乃/楠明日葉:田村睦心/藤宮桜:久野美咲/南ひなた:五十嵐裕美/サドネ:悠木碧 千導院楓:木戸衣吹/綿木ミシェル:加藤英美里/朝比奈心美:原田ひとみ/蓮見うらら:内田真礼/煌上花音:本渡楓/国枝詩織:下地紫野 八雲樹:日髙のり子/御剣風蘭:福原綾香/神峰牡丹:小澤亜李/先生:杉田智和/ミサキ:高橋李依/イリス:伊藤静/ウォルフ:浜田洋平 2017年7月16日 第3話:リゾート×合宿×エスケープ BS11デジタル:24時30分〜 星月みき:洲崎綾/若葉昴:佐倉綾音/成海遥香:雨宮天/天野望:東山奈央/火向井ゆり:上坂すみれ/常磐くるみ:早見沙織 粒咲あんこ:内山夕実/芹沢蓮華:南條愛乃/楠明日葉:田村睦心/藤宮桜:久野美咲/南ひなた:五十嵐裕美/サドネ:悠木碧 千導院楓:木戸衣吹/綿木ミシェル:加藤英美里/朝比奈心美:原田ひとみ/蓮見うらら:内田真礼/ミサキ:高橋李依/御剣風蘭:福原綾香 先生:杉田智和/マユ:松田颯水/ケイ:松田利冴/イロウス:浜田洋平 2017年7月23日 第4話:歌に想いを BS11デジタル:24時30分〜 星月みき:洲崎綾/若葉昴:佐倉綾音/成海遥香:雨宮天/天野望:東山奈央/火向井ゆり:上坂すみれ/常磐くるみ:早見沙織 粒咲あんこ:内山夕実/芹沢蓮華:南條愛乃/楠明日葉:田村睦心/藤宮桜:久野美咲/南ひなた:五十嵐裕美/サドネ:悠木碧 千導院楓:木戸衣吹/綿木ミシェル:加藤英美里/朝比奈心美:原田ひとみ/蓮見うらら:内田真礼/煌上花音:本渡楓/国枝詩織:下地紫野 ミサキ:高橋李依/御剣風蘭:福原綾香/先生:杉田智和/ウォルフ:浜田洋平 2017年7月30日 第5話:アイリスの花言葉 BS11デジタル:24時30分〜 星月みき:洲崎綾/若葉昴:佐倉綾音/成海遥香:雨宮天/天野望:東山奈央/火向井ゆり:上坂すみれ/常磐くるみ:早見沙織 粒咲あんこ:内山夕実/芹沢蓮華:南條愛乃/楠明日葉:田村睦心/藤宮桜:久野美咲/南ひなた:五十嵐裕美/サドネ:悠木碧 千導院楓:木戸衣吹/綿木ミシェル:加藤英美里/朝比奈心美:原田ひとみ/蓮見うらら:内田真礼/ミサキ:高橋李依/八雲樹:日髙のり子 御剣風蘭:福原綾香/先生:杉田智和/イロウス:浜田洋平 2017年8月6日 第6話:れんげがくるみでくるみがれんげ BS11デジタル:24時30分〜 星月みき:洲崎綾/若葉昴:佐倉綾音/成海遥香:雨宮天/天野望:東山奈央/火向井ゆり:上坂すみれ/常磐くるみ:早見沙織 粒咲あんこ:内山夕実/芹沢蓮華:南條愛乃/楠明日葉:田村睦心/藤宮桜:久野美咲/南ひなた:五十嵐裕美/サドネ:悠木碧 綿木ミシェル:加藤英美里/朝比奈心美:原田ひとみ/蓮見うらら:内田真礼/煌上花音:本渡楓/国枝詩織:下地紫野/ミサキ:高橋李依 八雲樹:日髙のり子/御剣風蘭:福原綾香/神峰牡丹:小澤亜李/先生:杉田智和/イリス:伊藤静 2017年8月13日 第7話:守る力 BS11デジタル:24時30分〜 星月みき:洲崎綾/若葉昴:佐倉綾音/成海遥香:雨宮天/天野望:東山奈央/火向井ゆり:上坂すみれ/常磐くるみ:早見沙織 粒咲あんこ:内山夕実/芹沢蓮華:南條愛乃/楠明日葉:田村睦心/藤宮桜:久野美咲/南ひなた:五十嵐裕美/サドネ:悠木碧 千導院楓:木戸衣吹/綿木ミシェル:加藤英美里/朝比奈心美:原田ひとみ/蓮見うらら:内田真礼/煌上花音:本渡楓/国枝詩織:下地紫野 ミサキ:高橋李依/八雲樹:日髙のり子/御剣風蘭:福原綾香/神峰牡丹:小澤亜李/先生:杉田智和/マユ:松田颯水/ケイ:松田利冴 イリス:伊藤静/イロウス:浜田洋平 2017年8月20日 第8話:星守たちの休日 BS11デジタル:24時30分〜 星月みき:洲崎綾/若葉昴:佐倉綾音/成海遥香:雨宮天/天野望:東山奈央/火向井ゆり:上坂すみれ/常磐くるみ:早見沙織 粒咲あんこ:内山夕実/芹沢蓮華:南條愛乃/楠明日葉:田村睦心/藤宮桜:久野美咲/南ひなた:五十嵐裕美/サドネ:悠木碧 千導院楓:木戸衣吹/綿木ミシェル:加藤英美里/朝比奈心美:原田ひとみ/蓮見うらら:内田真礼/煌上花音:本渡楓/国枝詩織:下地紫野 ミサキ:高橋李依/八雲樹:日髙のり子/御剣風蘭:福原綾香/先生:杉田智和 2017年8月27日 第9話:神樹祭 BS11デジタル:24時30分〜 星月みき:洲崎綾/若葉昴:佐倉綾音/成海遥香:雨宮天/天野望:東山奈央/火向井ゆり:上坂すみれ/常磐くるみ:早見沙織 粒咲あんこ:内山夕実/芹沢蓮華:南條愛乃/楠明日葉:田村睦心/藤宮桜:久野美咲/南ひなた:五十嵐裕美/サドネ:悠木碧 千導院楓:木戸衣吹/綿木ミシェル:加藤英美里/朝比奈心美:原田ひとみ/蓮見うらら:内田真礼/煌上花音:本渡楓/国枝詩織:下地紫野 ミサキ:高橋李依/八雲樹:日髙のり子/御剣風蘭:福原綾香/神峰牡丹:小澤亜李/先生:杉田智和/マユ:松田颯水/ケイ:松田利冴 イリス:伊藤静 2017年9月3日 第10話:家族 BS11デジタル:24時30分〜 星月みき:洲崎綾/若葉昴:佐倉綾音/成海遥香:雨宮天/天野望:東山奈央/火向井ゆり:上坂すみれ/常磐くるみ:早見沙織 粒咲あんこ:内山夕実/芹沢蓮華:南條愛乃/楠明日葉:田村睦心/藤宮桜:久野美咲/南ひなた:五十嵐裕美/サドネ:悠木碧 千導院楓:木戸衣吹/綿木ミシェル:加藤英美里/朝比奈心美:原田ひとみ/蓮見うらら:内田真礼/煌上花音:本渡楓/国枝詩織:下地紫野 八雲樹:日髙のり子/御剣風蘭:福原綾香/神峰牡丹:小澤亜李/星月みく:松田颯水/星月みか:植田佳奈/先生:杉田智和 イリス:伊藤静/ミサキ:高橋李依 2017年9月10日 第11話:真実 BS11デジタル:24時30分〜 星月みき:洲崎綾/ミサキ:高橋李依/若葉昴:佐倉綾音/成海遥香:雨宮天/天野望:東山奈央/火向井ゆり:上坂すみれ 常磐くるみ:早見沙織/粒咲あんこ:内山夕実/芹沢蓮華:南條愛乃/楠明日葉:田村睦心/藤宮桜:久野美咲/南ひなた:五十嵐裕美 サドネ:悠木碧/千導院楓:木戸衣吹/綿木ミシェル:加藤英美里/朝比奈心美:原田ひとみ/蓮見うらら:内田真礼/煌上花音:本渡楓 国枝詩織:下地紫野/八雲樹:日髙のり子/御剣風蘭:福原綾香/神峰牡丹:小澤亜李/先生:杉田智和/イリス:伊藤静 イロウス:浜田洋平/ミキ:洲崎綾 2017年9月17日 第12話:きずな終 BS11デジタル:24時30分〜 星月みき:洲崎綾/ミサキ:高橋李依/若葉昴:佐倉綾音/成海遥香:雨宮天/天野望:東山奈央/火向井ゆり:上坂すみれ 常磐くるみ:早見沙織/粒咲あんこ:内山夕実/芹沢蓮華:南條愛乃/楠明日葉:田村睦心/藤宮桜:久野美咲/南ひなた:五十嵐裕美 サドネ:悠木碧/千導院楓:木戸衣吹/綿木ミシェル:加藤英美里/朝比奈心美:原田ひとみ/蓮見うらら:内田真礼/煌上花音:本渡楓 国枝詩織:下地紫野/八雲樹:日髙のり子/御剣風蘭:福原綾香/神峰牡丹:小澤亜李/星月みく:松田颯水/先生:杉田智和 イリス:伊藤静/イロウス:浜田洋平/ミキ:洲崎綾
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2018年10月6日 新第1話:失われた逆転 日本テレビ:17時30分〜 成歩堂龍一:梶裕貴/綾里真宵:悠木碧/糸鋸圭介:岩崎征実/須々木マコ:生田善子/諸平野貴雅:岸尾だいすけ/係官:植木慎英 亜内武文:横島亘/裁判長:樋浦勉 2018年10月13日 第2話:盗まれた逆転 - 1st Trial 日本テレビ:17時30分〜 成歩堂龍一:梶裕貴/綾里真宵:悠木碧/綾里春美:久野美咲/糸鋸圭介:岩崎征実/星威岳哀牙:関俊彦/天杉優作:西山宏太朗 天杉希華:慶長佑香/華宮霧緒:朝井彩加/依頼人:田所陽向/TVキャスター:石井未紗/女性レポーター:竹内恵美子 警官:石井マーク/ゴドー:平田広明 2018年10月20日 第3話:盗まれた逆転 - 2nd Trial 日本テレビ:17時30分〜 成歩堂龍一:梶裕貴/綾里真宵:悠木碧/綾里春美:久野美咲/星威岳哀牙:関俊彦/天杉優作:西山宏太朗/天杉希華:慶長佑香 矢張政志:奈良徹/華宮霧緒:朝井彩加/裁判長:樋浦勉/ゴドー:平田広明 2018年10月27日 第4話:盗まれた逆転 - 3rd Trial 日本テレビ:17時30分〜 成歩堂龍一:梶裕貴/綾里真宵:悠木碧/綾里春美:久野美咲/糸鋸圭介:岩崎征実/星威岳哀牙:関俊彦/天杉優作:西山宏太朗 天杉希華:慶長佑香/矢張政志:奈良徹/華宮霧緒:朝井彩加/第6法廷裁判長、第4法廷裁判長:樋浦勉 2018年11月3日 第5話:盗まれた逆転 - Last Trial 日本テレビ:17時30分〜 成歩堂龍一:梶裕貴/綾里真宵:悠木碧/綾里春美:久野美咲/綾里千尋:中村千絵/星威岳哀牙:関俊彦/天杉優作:西山宏太朗 天杉希華:慶長佑香/華宮霧緒:朝井彩加/亜内武文:横島亘/警官:宮城一貴/第6法廷裁判長、第4法廷裁判長:樋浦勉 ゴドー:平田広明 2018年11月10日 第6話:届け逆転のメロディ 日本テレビ:17時30分〜 成歩堂龍一:梶裕貴/綾里真宵:悠木碧/御剣怜侍:玉木雅士/矢張政志:奈良徹/御剣信:綿貫竜之介/狩魔冥:弓場沙織 狩魔豪:大塚明夫/城楼須はらみ:斉藤貴美子/ラジオDJ・トモリーナ:洲崎綾/募金の人:飯坂紗幸/モブ:宮城一貴 外人A:駒田航/外人B:田中文哉/ポメラニアン:青山吉能/裁判長:樋浦勉 2018年11月17日 第7話:逆転のレシピ - 1st Trial 日本テレビ:17時30分〜 成歩堂龍一:梶裕貴/綾里真宵:悠木碧/糸鋸圭介:岩崎征実/須々木マコ:生田善子/本土坊薫:落合福嗣/五十嵐将平:浦山迅 鹿羽うらみ:早見沙織/芝九蔵虎之助:三上哲/岡高夫:大西弘祐/ゴドー:平田広明/裁判長:樋浦勉 2018年11月24日 第8話:逆転のレシピ - 2nd Trial 日本テレビ:17時30分〜 成歩堂龍一:梶裕貴/綾里真宵:悠木碧/綾里千尋:中村千絵/糸鋸圭介:岩崎征実/須々木マコ:生田善子/本土坊薫:落合福嗣 五十嵐将平:浦山迅/鹿羽うらみ:早見沙織/芝九蔵虎之助:三上哲/岡高夫:大西弘祐 2018年12月1日 第9話:逆転のレシピ - Last Trial 日本テレビ:17時30分〜 成歩堂龍一:梶裕貴/綾里真宵:悠木碧/綾里千尋:中村千絵/糸鋸圭介:岩崎征実/須々木マコ:生田善子/本土坊薫:落合福嗣 鹿羽うらみ:早見沙織/芝九蔵虎之助:三上哲/五十嵐将平:浦山迅/ゴドー:平田広明/裁判長:樋浦勉 2018年12月8日 第10話:逆転特急、北へ - 1st Trial 日本テレビ:17時30分〜 成歩堂龍一:梶裕貴/綾里真宵:悠木碧/糸鋸圭介:岩崎征実/裁牙由三郎:速水奨/ハブリー・リッチナンデ:てらそままさき レジーナ・ロコモティ:武田華/リック・スティーム:吉永拓斗/ジャムヌッテ・パンタベルノ:谷育子 バターデ・パンダベルノ:奥野香耶/エドガー・ピストン:辻親八/アラン・シリンダー:土師孝也/ゲイル・ゲーリック:遊佐浩二 駅長:金光宣明/駅員:祐仙勇/警官A:土田玲央/警官B:浜口慎太郎/客(女):ほのかのか/裁判長:樋浦勉 2018年12月15日 第11話:逆転特急、北へ - 2nd Trial 日本テレビ:17時30分〜 成歩堂龍一:梶裕貴/綾里真宵:悠木碧/糸鋸圭介:岩崎征実/御剣怜侍:玉木雅士/裁牙由三郎:速水奨 ハブリー・リッチナンデ:てらそままさき/レジーナ・ロコモティ:武田華/リック・スティーム:吉永拓斗 ジャムヌッテ・パンタベルノ:谷育子/バターデ・パンダベルノ:奥野香耶/エドガー・ピストン:辻親八 アラン・シリンダー:土師孝也/ゲイル・ゲーリック:遊佐浩二/乗務員:山口智広/男A:岡野友佑/先輩検事:林大地 検事局長:田所陽向/裁判長:樋浦勉 2018年12月22日 第12話:逆転特急、北へ - Last Trial 日本テレビ:17時30分〜 成歩堂龍一:梶裕貴/綾里真宵:悠木碧/糸鋸圭介:岩崎征実/御剣怜侍:玉木雅士/裁牙由三郎:速水奨 ハブリー・リッチナンデ:てらそままさき/レジーナ・ロコモティ:武田華/リック・スティーム:吉永拓斗 ジャムヌッテ・パンタベルノ:谷育子/バターデ・パンダベルノ:奥野香耶/エドガー・ピストン:辻親八 アラン・シリンダー:土師孝也/ゲイル・ゲーリック:遊佐浩二/検事局長:田所陽向/裁判長:樋浦勉 2019年1月19日 第13話:思い出の逆転 日本テレビ:17時30分〜18時30分 成歩堂龍一:梶裕貴/綾里千尋:中村千絵/星影宇宙ノ介:杉崎亮/亜内武文:横島亘/呑田菊三:榎木淳弥/美柳ちなみ:佐藤利奈 裁判長:樋浦勉 2019年1月26日 第14話:逆転の潮騒が聞こえる 日本テレビ:17時30分〜 成歩堂龍一:梶裕貴/綾里真宵:悠木碧/綾里春美:久野美咲/綾里キミ子:津川祝子/綾里千尋:中村千絵/親父:佐久間元輝 2019年2月2日 第15話:始まりの逆転 - 1st Trial 日本テレビ:17時30分〜 綾里千尋:中村千絵/神乃木荘龍:平田広明/御剣怜侍:玉木雅士/糸鋸圭介:岩崎征実/無久井里子:佐藤利奈/美柳勇希:水沢史絵 尾並田美散:松田健一郎/裁判官:樋浦勉 2019年2月9日 第16話:始まりの逆転 - Last Trial 日本テレビ:17時30分〜 成歩堂龍一:梶裕貴/綾里千尋:中村千絵/神乃木荘龍:平田広明/御剣怜侍:玉木雅士/美柳ちなみ:佐藤利奈/美柳勇希:水沢史絵 尾並田美散:松田健一郎/裁判官:樋浦勉 2019年2月16日 第17話:華麗なる逆転 - 1st Trial 日本テレビ:17時30分〜 成歩堂龍一:梶裕貴/綾里真宵:悠木碧/綾里春美:久野美咲/天流斎マシス(矢張政志):奈良徹/御剣怜侍:玉木雅士 葉桜院あやめ:佐藤利奈/毘忌尼:林りんこ/天流斎エリス:森本73子 2019年2月23日 第18話:華麗なる逆転 - 2nd Trial 日本テレビ:17時30分〜 成歩堂龍一:梶裕貴/天流斎マシス(矢張政志):奈良徹/御剣怜侍:玉木雅士/狩魔冥:弓場沙織/糸鋸圭介:岩崎征実 葉桜院あやめ:佐藤利奈/毘忌尼:林りんこ/裁判官:樋浦勉 2019年3月2日 第19話:華麗なる逆転 - 3rd Trial 日本テレビ:17時30分〜 成歩堂龍一:梶裕貴/綾里春美:久野美咲/天流斎マシス(矢張政志):奈良徹/御剣怜侍:玉木雅士/狩魔冥:弓場沙織 糸鋸圭介:岩崎征実/ゴドー:平田広明/裁判官:樋浦勉 2019年3月9日 第20話:華麗なる逆転 - 4th Trial 日本テレビ:17時30分〜 成歩堂龍一:梶裕貴/綾里春美:久野美咲/天流斎マシス(矢張政志):奈良徹/御剣怜侍:玉木雅士/狩魔冥:弓場沙織 糸鋸圭介:岩崎征実/葉桜院あやめ:佐藤利奈/毘忌尼:林りんこ/天流斎エリス:森本73子/綾里キミ子:津川祝子 2019年3月16日 第21話:華麗なる逆転 - 5th Trial 日本テレビ:17時30分〜 成歩堂龍一:梶裕貴/綾里真宵:悠木碧/綾里春美:久野美咲/御剣怜侍:玉木雅士/ゴドー:平田広明 美柳ちなみ、葉桜院あやめ:佐藤利奈/裁判長:樋浦勉 2019年3月23日 第22話:華麗なる逆転 - 6th Trial 日本テレビ:17時30分〜 成歩堂龍一:梶裕貴/綾里真宵:悠木碧/綾里千尋:中村千絵/ゴドー:平田広明/美柳ちなみ、葉桜院あやめ:佐藤利奈 係官:藤井隼/裁判長:樋浦勉 2019年3月30日 第23話:華麗なる逆転 - Last Trial終 日本テレビ:17時30分〜 成歩堂龍一:梶裕貴/綾里真宵:悠木碧/綾里千尋:中村千絵/綾里春美:久野美咲/御剣怜侍:玉木雅士/狩魔冥:弓場沙織 矢張政志:奈良徹/糸鋸圭介:岩崎征実/葉桜院あやめ:佐藤利奈/ゴドー:平田広明/裁判長:樋浦勉 第1期→逆転裁判 ~その「真実」、異議あり!~ 第2期→逆転裁判 ~その「真実」、異議あり!~ Season2
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事務官にアポなしの来客を告げられて、狩魔 冥は来客の素性を尋ねる。 上級検事室に不似合いな、サンダル履きで現れた成歩堂龍一は、脇に抱えていた書類封筒を冥に差し出した。 「はい、これ」 デスク越しに受け取って、中を確認する。 「先週までに提出してもらうはずだったけれど」 「うん、ごめん。でもね」 デスクに肘を突いて、前に立つ成歩堂を見上げた。 「言い訳は聞かない。次に不手際があったらもう“キサマ”は使わないわよ」 パーカーのポケットに手を入れて、成歩堂は肩をすくめる。 「キサマ、か。ひさしぶりに呼ばれたねぇ」 冥は手早く書類をめくって、内容に目を走らせた。 「でしょ?そういえば、倉院には行って来たの?」 「うん。先月ね」 勝手にソファに腰を下ろして、成歩堂はぼんやりと窓の外を見た。 「真宵ちゃんも春美ちゃんも元気だったよ。向こうは山だから、もうこっちよりずっと涼しくってね。そのうちみんなで遊びに来ればいいって言ってた」 「そう」 「まったく、君も人使いが荒いよ。みぬきはぼくが無職でも、文句なんか言わないけどな」 「・・・バカバカしい父親ね」 音を立てて書類をデスクに放り出す。 成歩堂はまったくお構いなしに目尻をさげた。 「最近、霧緒さんにみぬきのマネージメントをお願いしたら、とてもいいみたいだよ」 成歩堂の言葉に、冥はイラっとした。 もう半月も前になる。 自宅で資料を探していて、御剣の部屋にあった判例が見たくなった。 先に電話すると、御剣は家にいなくても戻って用意してくれるだろうから、直接行ったほうが早いと思ったのが間違いだった。 インターフォンを鳴らしてみると、やはり出てこない。 もらっている合鍵でドアを開けると、玄関に見覚えのある靴があった。 いつだったか、華宮霧緒が履いていたハイヒール。 冥はそのまま引き返した。 御剣は、追ってこなかった。 「まったく、なにがみぬきみぬきよ。体よく押し付けられただけの子育てのクセに」 言ってから、しまったと思ったが、飛び出した言葉はもう戻せない。 冥は唇を噛んでうつむいた。 成歩堂がソファから立ち上がり、デスクに近づいてくる気配がした。 …ぶたれる。 そう思って、ぎゅっと目を閉じた。 ふわりと、肩に暖かい重みを感じて、冥が顔を上げる。 「どうしたの、冥?」 成歩堂が、自分を覗き込んでいる。 泣き出してしまいそうだった。 「あ、成歩堂さん」 客に不親切なことこの上ない店構えの喫茶店。 ドアを開けると、王泥喜がカウンターでコーヒーを飲んでいた。 「よう」 相変わらず、マスターがそっけなく迎えてくれた。 「最近どう、王泥喜くん。早い時間にこんなトコにいるなんて、仕事ないの?」 隣に座って、成歩堂が聞く。 事務所の所長とも思えない、無責任さである。 「はあ、ちょっとずつは。なかなかうまくいかないですけど」 「ふうん」 「なんか、相手が悪いっていうか。なんでオレの裁判って、毎回狩魔検事とか御剣検事とか、無敗だの天才だのって人ばっかり出てくるのかなぁ」 マスターが挽いたコーヒー豆にお湯を注ぐと、豆がふっくらと膨らんで、いい香りが広がる。 「あっはっは、あんまり負けつづけると、茜ちゃんに愛想つかされるかもね」 王泥喜が飲みかけていたコーヒーを噴出した。 「あ、なんか昔、法廷でそういうことしてた人を知ってる気がするなあ」 慌てふためく王泥喜をまったく気にせず、成歩堂はそう言ってカウンター越しにマスターからカップを受け取った。 王泥喜が店を出て行くと、マスターは自分のコーヒーをカップに注いだ。 「久しぶりだな。アンタがここへ来るのは」 「・・・そうですか?」 「なにかあったかい」 成歩堂が、笑った。 「なんだか、弁護士を辞めてからのほうが、いろんなことが見えてきたような気がするんですよね」 「ここにいれば、それだけで見えてくることもあるぜ」 「・・・現役って、大変だからなあ」 まったく人事のように言い、成歩堂はカップを置いた。 「で、その大変な現役の人なんですけど」 マスターが、壁の時計を見た。 法廷の終わった検事や弁護士たちが集い始めるのには、もう少し時間がありそうだった。 「なんだい」 成歩堂はカウンターに両肘をついて身を乗り出す。 「最近、冥は来ます?」 「ご令嬢?来るが、どうした?」 成歩堂はカウンターにおいてある白い陶器の器から、スティックシュガーを一本抜き取った。 「いや、どうしたのかなと思うことがあって」 スティックシュガーの端を引きちぎる。 「なに、御剣とケンカでもしたんじゃねえのか?イヌも食わないってやつだろうさ」 「ええ!?」 成歩堂がスティックシュガーを持った手を振り、カウンターは砂糖まみれになった。 「おい、師弟そろって店を汚すんじゃねえ」 「いやいや、今の、なんですか」 成歩堂には、マスターがマスクの奥で目をきょとんとさせているのが見えた気がした。 「御剣と冥って、そういうことではないでしょう?」 わずかな沈黙。 「・・・そうか。俺は、ご令嬢は御剣に惚れていると思ったんだが」 成歩堂が、スティックシュガーをわしづかみにした。 「だが、御剣の方は・・・違うのかもしれねえな」」 「・・・ものすごく、証拠不十分じゃないですか」 「クッ、ブランクが長いからな」 マスターがコーヒーカップを傾けて、ゴクゴクと飲み干す。 「それに・・・、証拠があるんですよ」 「じゃあ、提出してみな」 自称ピアニストはニット帽の中に手を入れて、髪をかきむしる。 「くらえ!・・・っていうのは冗談にして。・・・御剣のつきあっている女性を知っています」 「・・・」 「・・・」 新しく開けられたスティックシュガーが、コーヒーに落ちるサラサラという音だけが聞こえる。 「だいたい、冥は御剣の話なんかしてないですからね、一回だって!」 「・・・おい。なんでオマエさんがそんなにムキになるんだ?」 いきなりマスターが声を落とし、成歩堂はごまかすようにスティックシュガーの封を切る。 「いやいや、僕は別に」 「・・・まあ、ジャマすると馬に蹴られる、とも言うからな。がんばりな」 「ち、ちがいますよ」 砂糖を入れたコーヒーをむやみにかき回しながら、成歩堂が鼻にシワを寄せて反論したが、マスターはクッと笑った。 「結局、見えてないことはあるってことだ。俺も、オマエさんもな」 そこでいきなり店のドアが開いて、店主と客は飛び上がった。 「こんにちは、マスター!あ、パパ!」 学校の制服を着たみぬきが飛び込んできて、テーブルにカバンを投げ出す。 「今日、宿題いっぱい出ちゃったんだよ。ビビルバーでショーがあるのになぁ。霧緒さんは、宿題が終わるまでは絶対にステージに上がっちゃいけないって言うし」 カバンから、バサバサと教科書を取り出す。 「そ、そう・・・」 霧緒の名を聞いて、成歩堂はなぜか少し後ろめたく感じた。 「あ、でも今日の英語の小テスト、すっごくよくできたと思うんだけど。こないだ茜さんに教えてもらったからかな。やっぱり違うよね、キコクシジョ、っていうの?」 成歩堂が新しいスティックシュガーを取った。 「そ、そう・・・」 サラサラサラ。 「牙琉さんもキコクシジョだから教えてくれるって言ったんだけど。でもなんでかなー、みぬきが茜さんに教わってる間、ずっとオドロキさんがうろうろしてて・・・、パパ?」 サラサラサラ。 「そ、そう・・・、いや、なに?」 「お砂糖、入れすぎじゃない?」 マスターがまたクッと笑った。 「俺の淹れたコーヒーだ。飲んでもらうぜ」 霧緒とこの店で落ち合うことになっている、というみぬきを残して、成歩堂は暗くなり始めた外へ出た。 茜や牙琉響也もやって来て、店がにぎやかになってきたせいもある。 『・・・ご令嬢は御剣に惚れていると思ったんだが』 だが、成歩堂は御剣と霧緒の関係を知っている。 つまり、冥は報われないのだ。 「マスターの見解だけじゃ、物的証拠はないな。すべては状況証拠か」 ペタペタとサンダルの音をさせながら、成歩堂はつぶやいた。 「・・・苦手なんだよな。状況証拠」 『まったく、なにがみぬきみぬきよ・・・』 そう言った時の冥の顔を思い出す。 あれは、成歩堂が霧緒の名前を出した後だ。 あの時の、今にも泣き出しそうな顔。 やっぱり、放っておけないな。 成歩堂は来た道を戻り始めた。 検事局まで戻ってきたはいいけれど、どうやって冥に取り次いでもらおうかと考えていると、地下駐車場から見覚えのある車が滑り出してきた。 車が成歩堂の横で止まり、運転席の窓が開いた。 「忘れ物なの?」 成歩堂が、笑った。 右側のドアを開けて助手席のシートに体を沈める。 「左ハンドルの車だとさ、助手席に座っても運転してるような気分になるね」 両手を上げて、ありもしないハンドルを握るマネをする。 「いいかげん、運転免許くらい取りなさい」 「うん、でもあと3~4年もしたらみぬきが取ると思うんだ」 「・・・あきれた」 「怒らないの?」 冥が首を回して成歩堂を見た。 「私だって意味もなくいつも怒ってるわけではないわ」 「みぬきの話をしたからさ」 「意味がわからないんだけど」 ハザードをつけたままの車の中で、冥は肩をすくめた。 「ふうん。じゃあ、昼間はみぬきの話をしたから怒ったんじゃないんだね」 「・・・バカバカしい。あなたがみぬきの話をするのが珍しいとでも言うつもり?」 「と、すると」 今度は、片手に持った見えない書類を手で叩くマネをする。 「あの時、僕はこう言った。『最近、霧緒さんにみぬきのマネージメントをお願いしたら、とてもいいみたいだよ』」 「よく覚えてるわね」 「そうしたら、君が言ったんだ。『まったく、なにがみぬきみぬきよ』って」 「・・・」 「でも、今の話だと君はみぬきの話に腹が立つわけではないようだ。これはムジュンする」 「・・・弁護士にでもなったつもり?」 「つまり、君が怒ったのは、この部分だ。『霧緒さん』」 「・・・」 「異議は?」 検事局から何人かの人が出てきて、人が乗ったままの路上駐車に不審そうな目を向けてくる。 冥は車を出した。 御剣以外で、冥が部屋に入れた男性は成歩堂が初めてだった。 「で、話ってなによ」 気ぜわしく聞いた。 成歩堂の事務所には王泥喜がいるし、どこか食事のできる店に行こうかと思ったが、成歩堂が君の家がいいと言ったのだ。 拒否することもできたのに、冥は黙って自宅へ車を向けた。 成歩堂は勝手にキッチンへ入ると、冷蔵庫を開ける。 「なにやってるのよ!」 「いやあ、見事に水しか入ってないね」 「わ、私が料理でもすると思ってるの?」 「思わないけど。キッチンがすごくキレイだもんね」 冥がムッとしたような顔をして、バッグを放り投げるとリビングのソファにどさりと座った。 「おっと、ポテトチップスだ。これ食べてもいい?」 「やっぱりお腹すいてるんじゃないの。だから・・・」 コンビニの袋に入ったままのビッグサイズのポテトチップスを見つけられた照れもあったが、だから食事に、と言えばまるで誘っているかのように聞こえる。 冥は言葉の途中で黙り、成歩堂が菓子袋とペットボトルの水を持って戻ってくる。 成歩堂は、冥の隣に腰を下ろして袋をバリバリと開け、冥は座りなおして距離をとった。 「真宵ちゃんが、千尋さんとお母さんのお墓を移したいらしいんだ」 冥が移動したことに構わず、ポテトチップスを音を立てて食べる。 「・・・・お墓?」 「うん。ほら、この間の命日。ぼくは君からの仕事で行けなかったろ?それで後から倉院のほうに行ったんだけど、その時にね」 そんな話をしたかったのか? 冥は手を伸ばしてポテトチップスをつまんだ。 「こっちにお墓を作ったのは、倉院の里のほうでもいろいろ分家の反対があったかららしいんだ。二人とも一度は里を出たわけだし。でもほら、今は真宵ちゃんが家元だからね。綾里家のお墓に移すことにしたんだって」 「それで?」 「ま、その時には僕も倉院に行こうと思うんだ」 「それで?」 パリっと音を立てて、組んだ冥の脚にポテトチップスの破片が落ちる。 「・・・まあ、そういう話」 「あいっかわらず、バカは仕事を変えてもバカなままね、成歩堂龍一!」 バッグの中に入っている鞭に手が届かず、冥はテーブルの上のペットボトルを投げつける。 「危ないなあ。当たったら痛いじゃないか」 投げつけられた水を受け止めて、成歩堂はキャップを開けて飲んだ。 「あんまり乱暴だと、嫁のもらい手がないよ」 「・・・ッ!」 「おっと、かんべんしてよ」 投げつけるもののなくなった冥が振り上げた手を、つかむ。 「まあ、御剣ならそれでもいいと言うかな」 「・・・バカがバカらしくバカなことを言ってないで、手を離しなさいっ」 「それは、異議?」 手を振りほどいて、冥は成歩堂をにらみつける。 「異議よ!だいたい、怜侍がそんなこと言うわけがない」 「それは、君の推理でしかない。証拠品の提出を求める」 「弁護士みたいな言い方をしない!」 たたみ掛けられて、成歩堂はポテトチップスの袋に手を伸ばした。 「あ、大きいの、見つけた」 パリッ。 冥は肩透かしをくって黙った。 「まったく、なにを考えているのかさっぱりわからないわ、あなたも」 「僕も・・・、御剣も?」 「だから、なんでそこに怜侍がっ」 「知ってるんだろ?御剣と霧緒さんのこと」 成歩堂は、冥の左手をとった。 白い手首に巻きついている、細いプラチナのブレスレットが軽い音をたてた。 「それで、妬いてる?」 冥は、手を振り払わなかった。 「私が?バカバカしい」 「そうかな」 「怜侍は、私のことなんか子供だと思ってるわよ。昔からずっと」 成歩堂は冥の指を口に含んだ。 ポテトチップスをつまんだ塩味がした。 「なにしてるのよ」 「・・・うん」 「離しなさい」 ゆっくりと冥の細い指に舌を這わせる。 一本ずつ、丁寧に。 「・・・っ」 ぞくりとする感覚に、冥が強く手を引いた。 引かれて体を乗り出した成歩堂が、そのまま冥の顎に手をかけて唇を重ねた。 成歩堂の舌が唇を割り、冥が力をこめて成歩堂の胸を押し返した。 「そんなつもりはないんだけど」 「・・・うん」 「バカじゃないの?」 「・・・うーん。好きな女の子の部屋に来た男としては、普通の反応じゃないかな」 振り上げた冥の手を、顔の横で受け止める。 「鞭がないと弱いね、冥」 「やめなさい、成歩堂龍一っ」 つかんだ冥の手を自分の頬に押し付けて、成歩堂はため息をつく。 「やめるよ。嫌われたくないからね」 「・・・・・」 ふいに、冥の目に涙が盛り上がった。 「冥?」 握ったままの手を引き寄せた。 抵抗なく成歩堂に抱きとめられた冥は、そのまま肩を震わせた。 声も立てずに泣く冥の背中を、優しく撫でる。 ずっと耐えてきたものに耐え切れなくなったかのように、冥はただ切ない想いを涙にする。 「御剣が、好きだったんだろ?」 ずっと。長いこと、ずっと。 冥は否定しなかった。 「言わなかったの?」 下唇をかみ締めてうつむいた冥の髪にそっと触れ、成歩堂はそこに唇を寄せた。 「・・・言えば、怜侍は困るわ」 ようやく、冥は言う。 『ご令嬢は、御剣に惚れていると・・・』 あのマスター、やっぱり見えていたんだな。 冥の髪から、甘い香りがする。 「嫌われたくないもの・・・」 言うと、頭に成歩堂のため息が吹きかかった。 御剣に嫌われたくない、冥。 冥に嫌われたくない、成歩堂。 すれ違う想いが、そこにあった。 成歩堂が指を冥の顎にかけると、冥はその手をそっと払った。 体を起こして、片手で頬に流れた涙をぬぐう。 「嘘よ。全部、嘘。忘れなさい」 「冥」 「嘘だって言ったでしょう。今の話は全部、嘘」 ぷい、と顔をそらせた冥を成歩堂が見つめる。 「・・・なに」 その視線に、冥がいらだったように聞く。 「ふうん。嘘なんだ」 「・・・」 「じゃあ、僕も嘘だ」 冥の肩を押すようにして、ソファに倒した。 「な・・・」 「やめるって言ったけど、嘘」 抵抗する冥の手首をつかむと、その手のひらに口付ける。 手のひらに舌を這わせ、指を順番に舐めつくす。 「やめ・・・」 冥の指を含んだまま、成歩堂は彼女の目を見つめる。 手首からひじまでゆっくり舐められて、冥はまたあのぞくりとする感覚に体を震わせた。 成歩堂の舌の感触が、ただ一本の腕から伝わる。 経験したことのない、もどかしいような痺れ。 成歩堂の視線が、痛い。 「やめなさい・・・」 「どうして?」 成歩堂が冥のスカートの上から体に触れた。 男の本気を感じて、冥が逃れようと体をよじった。 より強い力で、押さえつけられる。 「いや・・・!」 はっきりとした、拒絶。 成歩堂が手を離すと、冥はソファの端まで逃げた。 両腕で自分を抱くようにして、足を胸にひきよせるように丸くなる、防備の姿勢。 「・・・ごめん。もうしない」 「・・・」 「嘘じゃないよ。冥に嫌われたくないからね」 「・・・バカっ」 成歩堂は冥から離れて、ソファの反対側に寄る。 「あーあ。あいつには、かなわないのかな」 片手で、口元を撫でた。 「だいじょうぶだよ。あいつは、冥を嫌いになんかならない。絶対」 「なぜそんなことがわかるのよ」 成歩堂の手の中に、冥の感触が残っている。 「ごめん。帰るよ」 立ち上がった成歩堂を、冥が見上げた。 「帰るけど、・・・もう一回だけキスしていい?」 「いいわけないじゃない!」 「・・・そうだよね」 くす、と笑う。 「嫌いになんか、ならないよ。御剣も、・・・ぼくも」 冥は、見送らなかった。 ただ、ドアを開けて出て行く音を聞いただけで。 冥は、成歩堂の跡が残る腕を、そっと撫でてみた。 嘘よ。全部、嘘。・・・好きだなんて、嘘。 声にならないつぶやきが、吐息となって唇からこぼれる。 成歩堂が口付けた唇。それをなぞる指は、成歩堂が口に含んだ指。 ぎりっ、と指先を噛む。 痛みで、あの感覚を打ち消してしまいたかった。 成歩堂の胸の温かさに、すがってしまいそうになったあの気持ちと一緒に。 冥はゆっくりとソファの上で膝を抱えて丸くなる。 御剣でなければ、だめなのだ。 成歩堂は、マンションの下で冥の部屋の明かりを見上げる。 いつか彼女は、御剣をあきらめられるのだろうか。 それとも、御剣が彼女を振り返る日が来るのだろうか。 抱きとめた彼女の体と口づけた指や唇が震えていたのを思って、成歩堂は胸が痛かった。
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【登録タグ T 冬炬 曲 熊倉少年 雪花ルナ】 作詞:冬炬 作曲:冬炬 編曲:熊倉少年 唄:雪花ルナ 曲紹介 「最後の時二人融けてく」 動画および絵についても冬炬氏が手掛けている。 歌詞 (動画内歌詞より転載) 穢れ無き声は何処までも 弾けて消えて夜を撃ち抜く 柵(しがらみ)に囚われた心が 声をあげて朝を待ち侘びてる 熱を帯びた瞳が閉じて行く 感情なんてもう要らない お人形のまま君は深い闇に囚われて消えた 光り放て偽りの声で 破れた夢 優しく包み込んだままで眠って 真実から逃げてく 最後の時二人融けてく 目覚めない泡沫の夢が 空虚の街を覆い尽くして 未来さえ見失う僕らは この手に掴んだ光りさえ無くして 真実は一つじゃない解ってる まるでエゴイストのように 突き刺さる棘が深く沈み込んでく 闇を超えた真実の声は 遠く近く交わり合って儚く咲く祈り 誰も邪魔はさせない 響けこの心の羽音 どんな君も愛しく思うよ 絡みついた鎖解き放ち羽ばたいてみせて 偽りに染まる真実 もう戻れないと泣いている コメント 名前 コメント
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作詞:ウタP 作曲:ウタP 編曲:ウタP 歌:鏡音レン 翻譯:cyataku(不當之處敬請指正) 連綿不斷的細雪 於夜幕之中 照耀我們的月光 尋求溫暖般 用力的抱緊了妳 嘆息化作白霧 以凍僵的手指 在雪中描下的名字 逐漸融化消失 「不會分離」 曾經的誓言也已經 在逐漸朦朧的白色視野的彼端 化歸虛無 願那連綿不斷的細雪 能將我的身姿 隱沒其中 凝視著妳消失的背影 強忍淚水 被飄落堆積的雪 吞沒的 世界和我的愛戀 內心的痛楚 直到愈合之日 融化在這雪白之中吧 與你一同渡過的時光 流轉變換的季節 相視而笑的記憶 面容如夢似幻 與腦海中熙攘的妳的身姿 「不要走啊」 思慕化作雪花一枚 願那連綿不斷的細雪 能將妳的身姿 隱沒其中 無聲無息滑落的是雪花 還是淚水 被飄落堆積的雪 吞沒的 妳和我們的過去 直到融化消失的那天之前 不要忘了我 滲出的 逐漸崩壞的 記憶的碎片 再見了 願那連綿不斷的細雪 能將我的身姿 隱沒其中 滴落的一顆是我的聲音 我的眼淚 被飄落堆積的雪 吞沒的 世界和我的愛戀 內心的痛楚 直到癒合之日 融化在這雪白之中吧 「不要忘了我」 雖然戀愛是很開心很高興的事情,但當離別到來之際,那份感情越是強烈便越是讓人痛苦。