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シャーク・ガールvs怪人ヘッジホッグ サメ映画には無限の可能性がある 『ジョーズ』を超えること以外は──── 知的風ハット著『サメ映画大全』帯より ◆ 怪盗ナイトシャークは草を踏み締め夜天の下疾走する。まっすぐ東へ、東へと向かって。 目指すは夜闇にもはっきりと見える炎。突如として東の森で 燃え上がった業火を目指してひた走る。 あの炎を誰が放ったかは判らない。 ただ一つだけ確信を持って言える事は、東の森で誰かが戦っているという事だげだ。 それが赤崎愛奈────セイントヴァルキリー・フレイヤかどうかは判らない。けれども、フレイヤが近くにいれば、きっとあの業火を目指して走る。あそこで襲われている人を助けに行く。 そう確信しているからこそナイトシャークは走っている。真っ直ぐに、炎を目指して。 もしもフレイヤが居なければ?その時はその時だ。あの規模の炎を出せる人物を確認。危険性を確かめて、もしも自分やフレイヤに危害を加えそうならば、不意を突いて撃破する。 そんな算段を胸に抱いて、彼処にフレイヤが居るのでは?という焦燥に焼かれつつ、ナイトシャークは夜道をひた走る。脇目も振らず。真っ直ぐに。炎へと。真っ直ぐに。 戦うことになるかもしれない。きっっと戦うことになるだろう。走りながら支給品を探り、肘から先を覆う鋼の籠手を見つけ出し、装着する。 その間も脚を止めない。疲労しない程度に余力を残しながら、炎を見据えて走る。 だからこそだろう。 だからこそ、怪盗ナイトシャークともあろう者が、近付いてくるあからさまな害意に気付けなかったのだ。 ◆ ナイトシャークが最初に感じたのは、激しい空気の鳴動だった。荒れ狂う暴風が、自分に向かって吹き付けて来ている。 鍛えられた感覚でその事を察知したナイトシャークが、視線を風が迫って来る方向へと向けると、案の定土煙を巻き上げながら、暴風が迫っていた。 咄嗟に両腕を上げて顔を庇った直後、暴風が全身を打ち、衝撃にナイトシャークは大きくよろめいた。 微風すら全く吹いていなかったというのに、この狂風。明らかに害意を持った何者かによる攻撃である。風と土煙から顔を庇う為に両腕で顔を覆い、更に風を受けて体勢が大きく崩れて現状で、動かずにいるのは殺してくださいといっている様なものだった。 危険を悟ったナイトシャークは、跳躍してその場から離れようとして愕然となった。 ────身体が、鈍い!!? いつもの────どころか遂数秒前のキレも精彩も急に欠いた四肢に愕然とする。 俊敏な動きは出来そうもない。そう判断したナイトシャークは、地面に倒れ込むと、そのまま数mを転がった。 その行動が正しかったとナイトシャークは直後に知る事となる。 ナイトシャークの立っていた位置を、唸りを立てて過ぎる鉄の杭。あの位置に立ち続けていれば、杭はナイトシャークの胴を薙いでいただろう。 いきなり強襲してきた敵に、ナイトシャークは戦意を込めた視線を送り、愕然となった。 「な、何よコイツ!?」 ナイトシャークの瞳に映るのは異形の人影。胴や腕の長さに対して、脚が異様に長く、しかも膝がが一つ多く、二つある。 胴や頭から推察できる身長は、凡そ170cmを超える程度。しかし、脚を含めた全体の身長は、軽く3mを越す。 「竹馬?」 一瞬呆然としたナイトシャークは、眼前の異形が、杭の上に立っている事を見てとった。成る程コレなら異形の影の説明もつく。 あの杭は創造武具なりスキルなりなのだろうが、どういうものなのか判別出来ない。足裏から生えるだけなのか?他の箇所からも生えて来るのか? そこまで考えたナイトシャークは、異形の状態に気付いて戦慄した。杭の上からナイトシャークを見下ろす異形の全身は、手と言わず足と言わず赤黒く染まっている。 ナイトシャークはむせ返るような血臭を嗅いだ。 「月女に熊女。キワモノばっかりだったけどよう。ようやっとマトモな雌(オンナに出会えたぜ」 黙り込んで一言も話さないナイトシャークを、高みから見下ろして獰悪に笑うのは、つい先刻まで平凡な大学生だった秋月に他ならない。 しろくママとルナティの支給品を改めた秋月は、手早く移動する為に足裏から杭を生やし、歩幅を大きく伸ばして移動速度を上げたのだ。 「…………」 ナイトシャークは無言。赤黒く染まった秋月の状態と、口にした言葉から、秋月が既に二人もこの短期間で殺害している事を識り、自分を三人目にしようとしている事を知った。 秋月の全身を染める赤黒いものは、何度も何度も杭を突き立てられては引き抜かれたルナティの身体から噴出した返り血であり。秋月を抱擁した状態から全身を杭で穿たれたしろくママの返り血であった。 全身を紅に染めた秋月を見たナイトシャークは、秋月の杭は全身から生えて他者を殺傷する極めて攻撃性の高いものだと認識。その認識に基づいて秋月を無力化する方法を考える。 ナイトシャークの怪盗としての活動は、この様な鉄火場にあっても、この様な凶人を眼前にしても、冷静な思考と判断を可能としていた。 「急いで走ってた様だが、お前も彼処へ行くつもりなんだろ?」 夜空を紅く染める炎を指差して、秋月は嗤う。 突如として降りかかった凶運に、偶発的な出逢いを経て、最早以前の秋月を知るものですらが同一人物と判別する事は叶わないだろう。 そして初対面であるナイトシャークは、当然の事ながら以前の秋月を知らないし、いきなり襲われた事もあって、秋月を只の凶人として認識した。 「急ぎのようだが付き合えよ。月女は初めてだったから…狂乱(あが)っちまってなぁ。熊女の方はイマイチ気分が乗らなかった。なにせ獣姦趣味は無ぇもんでなぁ」 杭を体内に収めて地に降りた秋月が膝を撓める。襲いかかる意図を隠そうともしない。 杭から降りたのは、動き難さを嫌っての事だろう。 「だから…よ」 秋月の口元がだらしなく緩む。悪意と情欲を隠そうともしない凶笑を浮かべたその顔にナイトシャークは 赤崎愛奈を嬲りものにした者達を幻視して、反吐を吐きそうになった。 「あのセイントヴァルキリー・フレイヤみたいに、惨めに泣き叫んで、無様にヨガリ倒して愉しませろやぁ!!!」 「────え?」 凶人の口から出た言葉に、ナイトシャークの意識が一瞬漂白される。ほんの秒にも満たない時間は、致命的な隙となって秋月の接近を許した。 ◆ 奇声と共に繰り出される秋月の拳を、我に返ったナイトシャークは回避、腹に前蹴りを入れて距離を取る。 数歩後ろに退がった秋月は、続いて右の前蹴りを出す。明らかに距離が離れ過ぎているこの動き、秋月の脚は虚しく宙を泳ぐだけ────だが、何を感じたのか、ナイトシャークは大きく後ろに飛び退った。 瞬間。さっきまでナイトシャークが立っていた空間を抉る杭。足裏から生やした杭で、間合いを伸ばしたのだ。 「おあああああ!!!」 杭を収めた右足を地に下ろした秋月が雄叫びと共にナイトシャークに飛び掛かる。4mは有った距離を只の一飛びで詰めたのは、秋月の脚力などでは無く、足裏から杭を生やして歩幅を稼いだが為だ。 引き離したと思った矢先に、一気に距離を詰められて動揺したナイトシャークの顔面目掛けて繰り出される秋月の右掌。 ナイトシャークが回復しようとした矢先に、秋月の右手首から上下左右に杭が生える。これではナイトシャークが如何なる方向へと回避しても、その身体を杭が薙ぐ。 「────!!!」 回避する空間を潰されたナイトシャークは咄嗟に両腕を眼前で交差させて受け止める。 鋼と鋼の激突する響と共に、ナイトシャークの身体は後方へとよろめいた。 「ああ…失敗するところだった。顔面抉ってツラ潰したら萎えちまうし、何より死んじまうもんなぁ」 「………厄介な相手ね」 秋月の攻撃は打撃ではなく刺突。手首から生やした杭で回避を封じた上で、掌から伸ばした杭でナイトシャークの顔面を貫く算段だったのだ。 この悪辣な攻撃をナイトシャークが受けられたのは、危険人物が居るであろう場所へと赴くに際して、身に付けていた支給品のお陰だった。 「すまねぇなぁ。『まだ』嬲り殺しに慣れてねぇんだ。技巧(うまい)こと受けてくれて助かった」 秋月は凶相を更に凶悪に歪めて笑う。その顔を見て、ナイトシャークは秋月を殺す事を決めた。 殺人という行為をナイトシャークは経験している。已むを得ない状況であり、相手は紛れも無い外道であったが、それでも『人を殺した』という経験は、ナイトシャークの心に澱みとなって残っている。 だが、秋月にはそういったものが何一つとして存在しない。人の命を奪う。他者より圧倒的な優位を占め、その命を、生殺与奪を恣にする。その事に酔っている。酔いしれて歓喜している。最早秋月は止まらないし、悔いて改めることも無いだろう。 死ぬまで他者を嬲り、虐げ、殺戮する凶人。それが今の秋月だtら。 この男は危険過ぎる。生かしておけばどれだけの人を殺し、害する事か想像もつかない。それに────。 「フレイヤを嬲る時の良い練習台になりそうだ」 明らかにセイントヴァルキリー・フレイヤを、赤崎愛奈を知っていて、危害を加える気でいるこの男を、放置などしておける筈がない。 決意を籠めて、ナイトシャークが黒い手甲に覆われた両腕を胸元に上げて構える。武道や格闘技の経験のない秋月には何の構えか判らなかったが、ナイトシャークの身につけている技術が、そこいらの護身術の比ではないことは感じ取れた。 「おもしれぇ」 秋月は獰悪に嗤う。ナイトシャークがどれだけ高度な技術を身に付けていても、秋月の創造武具は、徒手空拳の戦いに於いては無類────どころか反則と言って良い威力を発揮する。 ナイトシャークが身に付けた技術と、それに支えられた自身とを諸共に打ち砕き、踏み躙る。 その時にナイトシャークが浮かべる表情、示す反応。きっとどれもが愉しいものだろう。 そんな邪悪な考えを、凶笑として表出させ、秋月はナイトシャークに襲い掛かった。 ◆ 秋月の創造武具である『串刺し公(カズィクル・ベイ)』は、身体から杭を生やす能力だ。 実に単純(シンプル)。殺傷能力こそ高いが、広範囲を薙ぎ払えるわけでもなく、遠距離攻撃が出来るわけでもない。 だが、それだけの能力であっても、互いが五体を駆使して戦う肉弾戦では無類の強さを発揮する。 杭による攻撃範囲の拡大。間合いの伸長。一歩の距離を伸ばす事による踏み込みの広さ。 武道の達者であったとしても対処のできぬ変幻と、人体程度ならば容易に損壊せしむる殺傷性は、脅威の一言だろう。 だが────。 だが、しかし────。 これ程の有利を持ちながら、戦局は秋月の一方的な不利にあった。 ◆ 胸目掛けて繰り出された秋月の右掌打を、ナイトシャークは後ろに退がって回避。伸びてきた杭を手甲で跳ね上げ、ガラ空きになった秋月の右頬目掛けて手甲に覆われた左拳で フックを放つ。 秋月はナイトシャークの左拳を迎撃するべく右頬から杭を生やすが、ナイトシャークの左拳は秋月の眼前を通過。間髪入れずに左の裏拳へと変化して秋月の左頬を打つ。 「ガッ!?」 よろめいた秋月に、ナイトシャークは右のローキックで追撃。左脚から杭を生やして対応した秋月を嘲笑うかの様に、ナイトシャークの脚はハイキックへと変化。秋月の左側頭部に爪先蹴りが入る。 秋月が『串刺し公(カズィクル・ベイ)』という圧倒的な優位を保証する武器を持ちながら、ナイトシャークに対して一方的な不利を強いられているのは何故か? 答えは単純明快。秋月自身が弱いからに他ならない。 攻撃の際の予備動作が大き過ぎる。目線は攻撃する位置へと必ず向けられる。フェイントを入れることも、攻撃に緩急をつけることも出来ない。 杭による間合いの伸長や攻撃範囲の拡大が有っても、これでは宝の持ち腐れというものだ。 怪盗として活動する為に積み重ねた鍛錬が、怪盗としての活動で潜った修羅場が、それらにより身体に蓄積された技術と経験値とが、秋月の攻撃を放たれる前に予測を可能とし、精製される杭の長さや精製速度すら想定に入れて回避し、反撃する。 最初の方こそ、秋月の創造武具の為に勝手を掴めなかったが、慣れて仕舞えばナイトシャークの優位は覆らない。 秋月は一方的に打たれ蹴られて徐々に動きが鈍り、ダメージと疲労とで杭の精製すらままならなくなった秋月は、遂にナイトシャークのアッパーを受けて仰向けに地に倒れた。 「グア…ガァッ……、」 「悪いけれど、お前はここで殺す」 倒れながらも、殺意に満ちた視線で睨め上げてくる秋月を見下ろし、ナイトシャークは冷然と告げる。 ナイトシャークの思考と心情は、秋月をここで殺すという事で定まって変わらない。 年齢不相応な、苛烈極まりない眼差しを秋月に向け、頭を踏み砕くべく足を上げた。 「まだだ!!」 秋月が吠える。まだだ。まだ、終われないと。もっと抉り、もっと嬲り、もっと殺したいと。まだまだ血を見たいと。満たされていないと。 暴性が、殺意が、秋月の内で沸騰する。 だが────意志による覚醒を迎えるより早く、ナイトシャークの足が秋月の顔目掛け踏み下ろされ────。 ◆ 「オラッ、もっと楽しませろよ!もっと刺激的なことしようぜ、月女ァ!!」 穿ち、貫き、串刺す。秋月の最初の相手(ヴァージン・ブレイク)であるルナティは、常人ならば────常人でなくとも泣き叫ぶ程の苦痛の中で笑っていた。 「……いいわ…私は貴方の最初の殺人(オンナ)。私の初めて(生命)をあげたんだもの……コレも、あげる」 「何だよ?寄越すんならさっさとしろや」 「私の創造武具を貴方にあげる……これで…私達はずっと…一緒ね」 ────嗚呼。月女。テメェは最高の女だぜ。 ◆ 叫べ 本能のままに 折り合えぬ 宿命抱いて 獣の血 滾る銀の夜 月だけが知る慟哭 この爪で絆 裂いて ◆ ナイトシャークの脚が踏み下ろされ────。派手な土煙を巻き起こし、秋月の身体は宙に舞っていた。 「嘘ッ!?」 有り得ない。あれだけのダメージを受けて、これ程の俊敏に動ける訳が無い。 それに何よりも、あの体勢から出来る動きでは無い。 だが、現に秋月の身体は宙を舞い。ナイトシャークに踏み殺される運命を脱している。 「オオオオオオオアアアアアアアアアアッッッ!!!」 秋月が空中で咆哮する。ナイトシャークに向けた瞳は鮮血で染めあげたかの様な真紅に染まっている。 ルナティの創造武具『今夜は月が綺麗ですね(ゲッコウジョウレイ)』 。使用すると見た者を狂乱させる月光を放つというもの。 だが、この創造武具は頭が満月であるルナティのアバターあってこそだ。ルナティ以外の者では、この創造武具の使用など出来はしない。 現に秋月からは月光はおろか如何なる光も放たれてはいない。 否。光は確かに放たれている。秋月の瞳の中で、秋月にしか見えぬ真紅の月光として。 今の秋月はその結果。 秋月の瞳の中で輝く紅月は、秋月の瞳を真紅に染め上げ、その暴性を理性を保ったままで極限にまで引き出す。 その結果、肉体は痛みを忘れ、神経の伝達速度と直感が向上し、痛みを忘れて駆動する秋月の身体能力は大幅に増し、創造武具『串刺し公(カズィクル・ベイ)の性能を劇的に強化される。 これこそが秋月が得た第二の力。『月下に捧げよう屠りし贄』秋月の瞳の中で輝く偽りの月は、秋月を魔人と変える。 身の内に煮え滾る凶猛な衝動に、秋月が面貌を更に凶悪に歪めて咆哮する。 そのあまりの悍ましさにナイトシャークの身が竦んだ。 「シャアアアアアアアア!!!!」 最早人のものとは言えない雄叫びを上げ、秋月がナイトシャークへと空中から杭を伸ばす。 ────さっきよりも速い!!? 先刻の四倍の速度で、今までの攻防の中で見切っていた杭の最長を超えて杭が伸びる。 後ろに飛び退ったナイトシャークを追って、杭が地面を抉りながら迫る。秋月が足裏から生やした杭で長射程の蹴りを放ったのだ。 鋼で覆われた両腕で受け止めたナイトシャークの身体が、大きく後方に飛ばされる一撃。杭の精製速度や長さだけでは無い。肉体を駆使(つか)った攻撃の威力速度も比較にならない程に増している。 倒れる事だけは避けたナイトシャークが立て直す暇もなく、秋月が迫る。その速度もまた、ナイトシャークの記憶に有るものより遥かに速い。 続け様に繰り出される秋月の両手足。相変わらず稚拙の極みだが、その一撃の重さと速度、そして何よりも攻撃の回転率が桁違いに上昇している!! それでもその稚拙さからくる読み易さを活かして、ナイトシャークが攻撃を回避し続けるが、秋月の衰えを知らない────どころか時間が立つごとに、より勢いを増してくる猛攻に攻撃を完全に避けきれず、次第に身体に秋月の攻撃が掠り出す。 拙い流れだった。このままでは、そう遠く無いうちに、ナイトシャークは秋月に削り殺される。 「ハッ!!」 ナイトシャークは不利になった流れをを止める為に、秋月の右膝目掛けて右の前蹴りを放つ。前方からの攻撃に弱い膝への前蹴りは、まともな格闘技の試合では反則とされているほどだ。 反応した秋月が膝から杭を生やすがコレはフェイントも兼ねた攻撃。膝への前蹴りを変化させ、顎を蹴り上げる────筈が、右の脛を強かに撃たれてバランスを崩す。 「何時迄もちょこまかやって通じると思ってんのか!!ああ!!!」 比較にならない程に向上した秋月の動体視力と反応速度。その二つが、ナイトシャークの動きを捉え、迎撃することを可能とした。 「オラァ!!」 「ゴヒュッ!?」 間髪入れず秋月の右の爪先で股間を蹴りあげられ、ナイトシャークは息をすることもできずに悶絶した。 内臓にも喩えられる脆い器官である睾丸は、無論の事女性であるナイトシャークには存在しない。だが、睾丸はなくとも男女に共通する急所である恥骨は当然存在する。 秋月の股間蹴りは偶然ナイトシャークの恥骨に直撃していたのだ。 「テメェは杭じゃ殺さねぇ…さっき見たフレイヤみてぇに、噴水でもやらせやるよ。かなりきついからなぁ……何回目でくたばるか」 凶笑を浮かべた秋月は、ナイトシャークの腹に、爪先が半分以上食い込程に蹴りを入れて蹴り飛ばすと、地面に転がって呻くナイトシャークの口に、デイバッグから取り出したしろくママの血で染まった、血塗れの500mlのペットボトルをねじ込んだ。 「ゴエっ!オブッ!オボ!?」 因みにこのペットボトルは一日分の水が入っているので、見た目不相応の量が収まっている。VRならではの仕様である。 ナイトシャークがもがく度に殴りつけ、胃液混じりの水が口から溢れ出したところで、漸くペットボトルを口から引き抜く。 「さっきは人の顔踏もうとしてくれたよなぁ」 もう一度爪先蹴りを入れてナイトシャークを仰向けにすると、限界以上に水を飲まされて膨らんだナイトシャークの腹に目を向ける。 「三ヶ月ってところかぁ……ハハッ。フレイヤみたいな顔してるぜぇ」 秋月の意図を察したナイトシャークの血の気の引いた顔を見て嘲笑した秋月は、見せつけるようにゆっくりと膝を曲げ、跳躍すると、落下の勢いに全体重を乗せたストンピングをナイトシャークの腹に叩き込んだ。 「ぶおええええええええええええええ!!!」 「ギャハハハハハハハハハハアア!!!次行くぞ次ィ!!!!」 転げ回りながら、鼻と口から勢いよく胃液の混じった水を噴き出すナイトシャークに、先刻までの威勢は微塵も存在しない。 苦痛と、秋月の獰悪振りに怯える無力な少女がいるだけだ。 秋月の凶猛と悪虐は、怪盗ナイトシャークを夜鮫里菜へと引き戻すには充分だった。 吐瀉物に塗れてのたうち回るナイトシャークを観て秋月は心の底から快笑する。 一度は完膚なきまでに自分を打ちのめした女がの惨めな姿は、秋月の心に深い充足感を齎した。 これだ。と、秋月は思う。 この快感を得る為ならば、他人なんて知った事ではないと、秋月は心の底からそう思う。 「フレイヤは三度は持ったんだぜ、四回目で泣きながら全裸で土下座したけどな」 ひとしきり笑って、笑い終えた秋月の言葉を聞いたナイトシャークは、赤崎愛奈を想った。 愛奈は、こんな目に遭い続けていたの? それでも、セイントヴァルキリー・フレイヤとして、正義の味方でいるの? ならば────。私が此処で折れて良いはずがない。 怪盗ナイトシャークなどでは無く、赤崎愛奈の友人として、赤崎愛奈のヒーローとして。 こんな奴に負けて良いわけが無い!! 此処で折れてしまったら、私はもう赤崎愛奈のヒーローどころか、友人としてもいられない!!! 身体の中で荒れ狂う苦痛を、歯を食いしばって耐える。力の入らない四肢を、筋力では無く意志力で強引に動かして立ち上がる。 「まだだ!!!」 決意を、戦意を、闘志を燃やして、眼前の凶人を睨め付ける。 「まだやろうってのか?テメェはマゾかよ!!」 秋月の嘲りを無視してナイトシャークは両手を左右に大きく広げた。 「あ?」 ナイトシャークの意図を理解出来ず、間の抜けた声を秋月が出したのに構わず、ナイトシャークはその場で時計回りに回転する。 「風に乗り、嵐と共に来い!!」 キッチリと三回転すると同時、ナイトシャークの右手からから巨大なサメが放たれた!! 「はぁあ!!!?」 これこそが怪盗ナイトシャークがスキル『無限のサメ映画製(Unlimited SharkMovie Works)』 ナイトシャークの記憶にあるサメ映画のサメを召喚する能力。 「シャークネード!!!」 シャークネード。数多のアホ映画を擁するサメ映画界の象徴(レジェンド)。 竜巻により吸い上げられたサメが、強風に乗って陸の人々を襲う全5作のSFディザスター映画……もとい、アホ映画。 成層圏はおろか宇宙すら泳ぐサメは、常識など当然通用しない。 召喚されたサメは、空中を泳いで秋月へと迫る。 「月女にクマ女と来て、次はサメ女かよ!!」 広げた両腕と胸から杭を伸ばし、迫るサメの頭部を三方から貫いて仕留める。 「キワモノだがまぁ見た目まともだなぁ!!」 足裏から斜めに杭を伸ばし、脚を動かす事なくナイトシャークへと襲い掛かる秋月を、地中から現れ襲撃するのは、地中の湖で現代まで生き残った古代生物シャークサウルス。 「ウゼェ!!」 再度足裏から杭を伸ばした秋月は、サメの上にまで一気に上昇。足元のサメの脳天目掛けて杭を撃ち込み黙らせる。 サメへの対処で秋月の動きが止まった隙にナイトシャークは距離を取り、走る際に邪魔になるのでデイバッグに仕舞っていた支給品を取り出す。 「ケルベロス!!トリプルヘッドシャーク!!!」 取り出したのは、一つの柄に三条の鞭身を持つ魔鞭ケルベロス…を模したもの。 元ネタの鞭は三条の鞭身がそれぞれ所有者の意思のままに動く機能を持つが、この支給品にはそんな機能は存在しない。しかし、所有者が自身の魔力を纏わせていたところが反映されて、スキルを鞭身から発現させることが出来る。 これによりナイトシャークは、自律行動させられず、鞭の長さが行動限界とはいえ、本来一匹しか召喚できないサメを三匹まで召喚することが可能となる。 今回ナイトシャークが三条の鞭身に発現させたサメは、トリプルへッドシャーク。その名の通り三つの頭を持つサメ。 三条の鞭の先端にそれぞれトリプルヘッドシャークを出現させ、計九つのサメの顎を秋月へと殺到させる。 「九頭鮫閃!!!」 「ケエエエエエエエエエエエエ!!!!」 全身から杭を伸ばしその悉くを穿ち抉り貫き殺す秋月だが、計9つのサメの頭部を一度に貫いた為に、一時的に行動不能となってしまう。 それをこそ狙っていたナイトシャークは、秘奥の一手とも言うべきサメを召喚する!! 「シャークジラ!!!」 『シャークネードワールドタイフーン』に登場したサメを超えたサメ(シャークス・シャーク)。中国で核廃棄物を取り込んだ事により、突然変異を起こしたシャークネード。無数のサメが集まって出来たサメの怪獣。 無数のサメで構成されてはいるが、数としては「1」である。 無数のサメからなる荒れ狂う怪獣は、秋月を飲み込んだだけでは留まらず、狂乱に任せて侵攻方向にあるものを破壊しながら消えて行った。 ◆ 「はあ…は…あ……。流石に、死んだでしょ」 戦闘によるダメージと、シャークジラという大技を使った甚大な疲労により、倒れて動けなくなったナイトシャークは、息も絶え絶えに呟いた。 「彼処…に行かない……と」 最初に目指していた場所へ向かおうとするものの、極限に疲労により、四肢はおろか、指先一つ動かせない。 「ゴメン……愛奈」 友への詫びを口にして、ナイトシャークは意識を失った。 【D-6/一日目/黎明】 【怪盗ナイトシャーク】 [状態]:疲労(極大) 気絶中 全身吐瀉物で汚れている [道具]:基本支給品、ランダム支給品1~お [装備]: 手甲。ケルベロス [思考・状況] 基本:殺し合いの打破、あとお宝(極秘情報)はゲットする 1:悪どい運営連中にはきつ~いお灸を据えてあげる 2:フレイヤ(愛奈)を探す。今度こそ、愛奈を守る。 【備考】 『無限のサメ映画製(Unlimited SharkMovie Works)』 でサメを召喚すると、召喚したサメに応じて体力を消耗します。シャークジラの様な強力なサメは、連発する事が出来ません。 籠手: 某ソシャゲのメイド長の専用装備に似た物品。オリジナルは弾消し効果のある斬撃を飛ばせるが、こちらにそんな機能は無い 防具としての性能が高く砲撃レベルの威力にも耐える。 魔鞭ケルベロス: 2D夢ノベルズのヒロインの一人が持つ鞭。 元ネタの鞭は三条の鞭身がそれぞれ所有者の意思のままに動く機能を持つが、この支給品にはそんな機能は存在しない。しかし、所有者が自身の魔力を纏わせていたところが反映されて、スキルを鞭身から発現させることが出来る。 あくまでもスキル限定であり、例えば閻魔が持ったとしても、炎を纏わせるという事は出来ない。 ◆ 故に恋人よ枯れ落ちろ 死骸を晒せ ◆ 「オオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」 無数のサメに周囲を覆われてありとあらゆる方向からからサメに襲われながらも、秋月は生きていたい。 全身から全方位に杭を生やし、襲い来るサメの悉くを貫き殺し、それでもなお、サメが尽きる事は無い。 「月女ァ!!俺にもっと力を寄越せえ!!!!!」 ────ええ。良いわ。 秋月の瞳がより一層、より濃く紅く染まっていく。極限の域を突き破り、無限に膨れ上がる狂気が、暴意が、秋月に更なる力を与える。 「オオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」 秋月の全身から凄まじい勢いで杭が伸び、サメを貫く。 だが、これでは何も変わらない。杭の延びる勢いとその総数が悍ましいと言える程に向上したが、周囲のサメを殺すには圧倒的に不足している。秋月がサメの群れに削り殺される運命は変わらない この数のサメを短期間に殺し尽くすには、閻魔の創造武具『夜摩判決』でもなければ不可能だろう。 そう、本来の秋月には不可能なのだ。 「オオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアア!!!!」 しかし、今の秋月にはルナティが居る。秋月にルナティが献上し、秋月の内で変質した創造武具により、秋月の能力は、本来の域を超えて発揮される!!! 秋月の杭に貫かれたサメから杭が生え、新たなサメを貫く。更にそのサメから杭が伸び、新たなサメを。 穿ち抉ったモノからも杭を生やす。秋月の創造武具『串刺し公(カズィクル・ベイ)』の本来の性能を遥かに超えた暴虐の杭が、サメ達を殺し尽くす。 「やってくれたじゃねぇかよ、サメ女」 無数のサメの死骸に囲まれ、秋月は殺意で出来た声を出す。 「次は殺す。絶対に」 そう呟いた秋月は、自分の隣にルナティの姿が見えた気がした。 【C-6/一日目/黎明】 【秋月】 [状態]:全身に打撃によるダメージ(中) [装備]:串刺し公(カズィクル・ベイ)@創造武具 エア・アンカー [道具]:基本支給品×3、血の付いたビデオカメラ、ランダム支給品2~7 [思考・状況]基本方針:殺し合いに乗る。 1:己の本能に従い、嬲り、犯し、殺害する。 2:セイントヴァルキリー・フレイヤは己の手で殺害する。 3:北にいる参加者を殺害する。 4:サメ女(怪盗ナイトシャーク)は次遭ったら殺す。 [備考] ※ビデオカメラに内蔵された映像をいくつか確認しました。 ※セイントヴァルキリー・フレイヤの正体は女子高生集団輪姦殺人事件唯一の生存者である赤崎愛奈と考えています。 支給品解説 エア・アンカー 空気の塊を発射する銃。当たると衝撃でよろめく他、二秒間動きが鈍る。射程はあるが弾速が遅い。 FF6?何の事かな。 『月下に捧げよう屠りし贄』 秋月の瞳の中で輝く偽りの月は、秋月を魔人と変える。 ルナティの創造武具が秋月に譲渡され、変質したもの。 痛みを忘れさせ、身体能力や神経の伝達速度、杭の生成速度や長さを比較にならないほどに向上させる。 使うと瞳が真紅に染まる 前話 次話 019 追跡する者達 投下順 021 アサルトリリィ -猫に寄りそう乙女の作法- 019 追跡する者達 時系列順 021 アサルトリリィ -猫に寄りそう乙女の作法- 前話 登場人物 次話 カタハネ 怪盗ナイトシャーク 深淵 秋月
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【 第2幕 】 ≪第1場≫ 公園の泉水 (ペレアスとメリザンド登場) ペレアス 何処へ連れてきたか御判りに成らないでしょう? 私はよく来ます、お午近くなると、ここで座っています、 庭が暑くなりますとね。 今日は木蔭におっても呼吸づまるようです。 メリザンド まあ綺麗な水ですこと。 ペレアス 冬のように冷たい。 古い荒れた泉水です。 言い伝えによると不思議な泉で、 盲の眼が開いた、 で今でも「盲人の泉」と呼んでいます メリザンド もう盲目の眼は開かないのでしょうか? ペレアス 国王が殆ど盲目に近いので、 誰もここへはきません。 メリザンド 何んという淋しさでしょう、物音一つもしません。 ペレアス いつでも不思議にしんとしていますよ。 水の眠っているのが聞えるようです。 貴女は大理石の池の縁へ御座りなさいませんか? 太陽の透らぬ菩提樹かありますから。 メリザンド わたし大理石の上に横になろうとしていますよ。 水の底を見たいで御座いますの。 ペレアス 見えた事がありません。 海のように深いんです。 メリザンド 何か底の方で光って出て居たらきっと見えるでしょう。 ペレアス そう出ては不可ません。 メリザンド 水にさわってみたいのです。 ペレアス 滑らぬように気を御付けなさい、 手をつかまえてあげましょう。 メリザンド いいえ、いいえ、わたし両手共浸けたいんですの。 私の手は今日病気のように見えますわ。 ペレアス ああ、気をつけなさい、気をつけなさい、 メリザンド、メリザンド、おお、髪が。 メリザンド (身体を引上げて) 駄目、届かない。 ペレアス 髪が水に浸りましたよ。 メリザンド ええ、私の腕よりも長いんですの、 私の背より長いんですの。 ペレアス 兄さんが、貴女に逢ったのも泉の辺でしたね? メリザンド ええ。 ペレアス どう言いました? メリザンド 何も、私記憶しておりませんわ。 ペレアス 貴女のすぐ傍に居りましたか? メリザンド ええ、私に接吻なさろうとなさいましたわ。 ペレアス それで貴女がいけないって? メリザンド ええ。 ペレアス 何うしていけないんです? メリザンド ああ、ああ、 水の底に何か知らちらと見えましたよ。 ペレアス 気をつけなさい、気をつけなさい、落しますよ、 何をいじって居らっしゃるんです。 メリザンド くださった指環。 ペレアス そういじらないで、こんな深い水の上で。 メリザンド 私の手はしっかりしています。 ペレアス 太陽によく光りますね。 そう高く投げ上げちゃいけませんよ。 メリザンド ああ。 ペレアス 落ちて? メリザンド 水の中へ落ちましたわ。 ペレアス 何処に?何処に? メリザンド 沈んで行くのが見えませんわ? ペレアス 光っているのが見えるようです。 メリザンド 指環が? ペレアス ああ、ああ、あすこに。 メリザンド ああ、ああ、あんな深い所に。 いえ、それじゃ有りません?それじゃ有りません? 失くなりましたわ、失った。 水の上に大きい波紋を残したきり。 どうしましょう? ペレアス 指環一つ位でそう心配してはいけません。 気にしないで。又きっと見つかるでしょう。 でなければ他のを見つければ。 メリザンド いいえ、もう二度と手に入りませんでしょう。 外のも見つからないでしょう。 しっかり、手の中に受け止めたと思ったのです。 手を握ってしまったのです。 そしてそれっきり落ちて仕舞いました。 余り太陽の方へ高く投げすぎたのでしたね。 ペレアス さあさあ、又いつか来ましょう。 さあ、時刻です。尋ねているでしょう。 指環の落ちた時にお午の時が鳴つていました。 メリザンド 何処へやったと聞かれたら、ゴローに何う申しましょう。 ペレアス 本当を、本当を。 (退場) (間奏) ≪第2場≫ 城内の一室 (ゴロー、寝床に横臥している、 メリザンドその側に) ゴロー ああ!ああ!万事都合よく行く。 大した事は無いだろう。 だがどうしてこんなになったのか私には判らない。 森の中で静かに狩をしていた。 乗馬が不意に訳も無く狂い出した。 何か異様な物でも見たのか? 私は丁度お午の十二時が打ったのを聞いた。 十二時が鳴ると共に急に驚いて 盲目か狂人のようになって立木へ走りかかった。 まあ何うなったのかも知らない。 私が落馬してその上に馬が倒れたのだろう。 私は森林のことごとくが自分の上へ落かかったように思われた。私の心臓は潰されたと思った。 しかしそれは大丈夫だった。 何あに大した事は無いらしい。 メリザンド 水を少し召上りませんか? ゴロー 有難う、私は飲みたくない。 メリザンド 外の枕がよくは御座いませか? これには少し血がついて居ます ゴロー いや、いや、構わない。 メリザンド 大丈夫で御座いますか?大して苦しくは御座いませんか! ゴロー いえ、そんな事位。 血と鋼繊の味はよく知っている。 メリザンド 眼をつむって眠ろうとして御覧なさいませ。 私は夜通し此処に居ります。 ゴロー いいや、そんな事をして御前を疾らしてはならぬ。 何も要らない。 私は子供のように眠るよ。 どうしたの、メリザンド? 出し抜けに何故泣く? メリザンド (涙を流して泣く) 私も、私も悪いのでございます。 ゴロー 気分が悪いって? 何うして悪い、何うして悪い?メリザンド。 メリザンド 存じません。此処に居りますと悪くなりますの。 今日は申上げた方がいいと存じます。 貴方、私は此処でそんなに楽しくないのです。 ゴロー 一体何うしたと言うんだ? 誰かいらぬ事でもしたのか? 誰かお前を怒らせでもしたのか? メリザンド いいえ、誰方も何もなさいはしません。 そうじゃ無いので御座います。 ゴロー 私に何か隠しているね? メリザンド、すっかり聞かしてくれ。 国王か?母か?ペレアス? メリザンド いえいえ、ペレアス様では御座いません。 誰でも御座いません。 私の事は貴下は御判になりません。 私よりも力の強いもので御座います。 ゴロー これ、よく聞いてくれ、メリザンド。 私が何うしたらいいんだ? 子供見たいだね。 私と居りたくないから出て行くのか? メリザンド 決して、そうじゃ御座いません。 貴下と一緒に出て来きとう御座います。 此処におっては私もう暮して行けません。 もう長く生きていられそうにもない気がするので御座ります。 ゴロー 然しそれには何か訳がなくてはならぬ筈だ。 人は気が狂ったと思うだろうな。 子供見たいな夢を見ていると言うよ。 ね、もしかしたらペレアスじゃないのか。 余り御前と話もしないようだが。 メリザンド ええ、時々御話しをします。 彼方は私を好きでないらしいのです。 眼の中にそう言う様子が見えます。 けど会えば話を致します。 ゴロー 思い違いしてはいけない。 いつも彼はそうなんだ。 一寸変わった人間でね。 今に変るよ、見ていて御覧、若いんだからね。 メリザンド でもそんな事じゃないんで御座います。 そんな事じゃないんです。 ゴロー じゃ何んだ? 此処で暮しているような生活に御前、慣れる事が出来んと言うのか。此処が御前には陰気すぎるのか? 成程、この城は非常に古くって陰気で 非常に冷たくって奥深い。 此処に住んでいる者は年を取っている。 そして土地は皆古い光のささぬ森で陰気くさく見えるだろう。 けど新しくしようと思えば新しく出来る。 それから、楽しみだ、楽しみだと言った所で、毎日楽しめる訳ではない。がまず、何事か話してくれ。何んな事でもいい。 御前の望み通に何んでもするから。 メリザンド ええ、本当に。此処では空が見えません。 今朝初めて見ただけです。 ゴロー それで泣くのか? 可哀そうに、メリザンド。 それだけなのか? 空が見えぬからって泣いたのか? ね、ね、そんな事位で 泣く齢ではなかろう。 それから此処は夏が来ないと思うかい? すぐ毎日空が見えるようになるよ。 そして又翌年… さあ、手を御貸し、 その小さい手を双手共ね。 (手を把る) おお、この小さい手 花を握っているようだ… おや、私のやった指環は何うした? メリザンド 指環? ゴロー ああ、結婚の指環、何処へやったの? メリザンド そうね、多分落ことしたので御座いましょう。 ゴロー 落とした、何処へ落した? 失くしはしなかったろうね? メリザンド いいえ、落としたのです、落としたに違い御座いません。 けど何処へ落としたかは知っていますの。 ゴロー 何処? メリザンド そら、そら 海の所の洞穴ね。 ゴロー ふむ。 メリザンド ええ、其処で、彼処に違いない、 ええ、ええ、憶ていますわ。 今朝私イニョルドにやろうと思って貝殻を拾いに行ったのです。 可愛いらしいのが御座いましてね。 指から抜けましたの。それから海が満ちてきて、 そこで見付ける前に逃げましたの。 ゴロー 確かに彼処に居たのか? メリザンド ええ、本当に、抜けたと思う。 ゴロー すぐ行って取ってくるがいい。 メリザンド 今?すぐ、暗いのに? ゴロー 今、すぐ、暗いのに。 あれを失う位なら一切の 所持品を失った方が増しだ。 何んな品だか御前は知らない。 何処から来たのかも知らない。 海は今夜は荒いだろう。浪が上って来て 御前の行く前に掠って行くかもしれぬ。急いで取って御出で。 メリザンド 私行けませんもの、独りじゃ行けませんもの。 ゴロー 御出で、御出でなさい。誰とでもいい。 すぐ行かぬといけない、判ったか? 急いでね。ペレアスに頼んで行って御貰い。 メリザンド ペレアス、ペレアスと。 でも彼方は御嫌でしょう。 ゴロー ペレアスは御前が頼めば何んでもするよ。 御前よりも私はよくペレアスを知っている。 御出なさい、御出、急いで、 指環の来ない内は眠らない。 メリザンド ああ、ああ。 私悲しい、 私悲しい。 (泣きながら退場) (間奏) ≪第3場≫ 洞穴の前 (ペレアスとメリザンド登場) ペレアス (非常に心配して話す) そう、これがその場所です。そこへ来たのです。 真暗で、何所が入ロだか 看分けがつかぬ。 その方角には星一つ無い。 月があの大きな雲を離れるまで待ちましょう。 そしたら洞穴中が明るくなって 危なくなく入れるでしょう。 段々危ないところがあって、道が非常に狭い。 両側の湖水は深さが知れないと言うんです。 松明か提灯を持って来るのに気がつか無かった。 然し空の明りで行けるでしょう。 貴方はこの洞穴へ入った事は無いでしょう? メリザンド ええ。 ペレアス 入りましょう、さあ、 指環を失った所を聞かれて、 説明出来ぬではいけない。 立派なそして美しい洞穴ですよ。 青い陰で一杯です。 小さい火を灯すと天井が星で一杯になって 空のようです。 手をおかしなさい、そう考えなさいで。 ちっとも危険じゃ有りませんよ。 海の光が見えなくなったら すぐよしましょう。 窟屋の響が怖いのですか? 後の方で海の嗚るのが聞えますか? 今夜は面白くない夜だ。 (月が入口と泪の一部を隈無く照らす。片側のやや奥に三人の白髪の老乞食が御互にもたれ合いつつ岩の棚によりかかり眠っている。) おお、明るくなった。 メリザンド おお。 ペレアス 何。 メリザンド 彼処に。 (三人の乞食を指す) ペレアス ああ、私にも見えました。 メリザンド 帰りましょう、帰りましょう。 ペレアス 三人の老乞食が眠っているのです。 世の中は飢餓で。 何うして此処へ眠りにくるのかしら? メリザンド 行きましょう、さあ、さあ、行きましょう。 ペレアス 気をつけて、そう大きな声をしてはいけない。 眼をさまさせちゃいけません。 未だよく眠っている。さあ。 メリザンド 御先に入らして下さい。一人で歩く方がいいんです。 ペレアス 又いつか参りましょう。 (退場) DEUXIÈME ACTE SCÈNE 1 Une fontaine dans le parc Entrent Pelléas et Mélisande. PELLÉAS Vous ne savez pas où je vous ai menée? Je vien souvent m asseoir ici vers midi, lorsqu il fait trop chaud dans les jardins. On étouffe aujourd hui, même à l ombre des arbres. MÉLISANDE Oh! L eau est claire! PELLÉAS Elle est fraîche comme l hiver. C est une vieille fontaine abandonnée. Il paraît que c était une fontaine miraculeuse, elle ouvrait les yeux des aveugles. On l appelle encore "la fontaine des aveugles". MÉLISANDE Elle n ouvre plus les yeux des aveugles? PELLÉAS Depuis que le roi est presque aveugle lui-même, on n y vient plus. MÉLISANDE Comme on est seul ici - on n entend rien. PELLÉAS Il y a toujours un silence extraordinaire. On entendrait dormir l eau. Voulez-vous vous asseoir au bord du bassin de marbre? Il y a un tilleul où le soleil n entre jamais. MÉLISANDE Je vais me coucher sur le marbre. Je voudrais voir le fond de l eau. PELLÉAS On ne l a jamais vu. Elle est peut-être aussi profonde que la mer. MÉLISANDE Si quelque-chose brillait au fond, on le verrait peut-être PELLÉAS Ne vous penchez pas ainsi! MÉLISANDE Je voudrais toucher l eau. PELLÉAS Prenez garde de glisser. Je vais vous tenir par la main. MÉLISANDE Non, non, je voudrais y plonger les deux mains. On dirait que mes mains sont malades aujourd hui. PELLÉAS Oh! Oh! Prenez garde! Prenez garde! Mélisande! Mélisande! Oh! votre chevelure! MÉLISANDE se redressant Je ne peux pas, je ne peux pas l atteindre! PELLÉAS Vos cheveux ont plongé dans l eau. MÉLISANDE Oui, ils sont plus longs que mes bras, ils sont plus longs que moi. PELLÉAS C est au bord d une fontaine aussi qu il vous a trouvée? MÉLISANDE Oui. PELLÉAS Que vous a-t-il dit? MÉLISANDE Rien; je ne me rappelle plus. PELLÉAS Etait-il tout près de vous? MÉLISANDE Oui, il voulait m embrasser. PELLÉAS Et vous ne vouliez pas? MÉLISANDE Non. PELLÉAS Pourquoi ne vouliez-vous pas? MÉLISANDE Oh! Oh! J ai vu passer quelque chose au fond de l eau. PELLÉAS Prenez garde! prenez garde! Vous allez tomber! Avec quoi jouez-vous? MÉLISANDE Avec l anneau qu il m a donné. PELLÉAS Ne jouez pas ainsi au-dessus d une eau si profonde. MÉLISANDE Mes mains ne tremblent pas. PELLÉAS Comme il brille au soleil! Ne le jetez pas si haut vers le ciel. MÉLISANDE Oh! PELLÉAS Il est tombe! MÉLISANDE Il est tombé dans l eau! PELLÉAS Où est-il? Où est-il? MÉLISANDE Je ne le vois pas descendre. PELLÉAS Je crois la voir briller. MÉLISANDE Ma bague? PELLÉAS Oui, oui; là-bas. MÉLISANDE Oh! Oh! Elle est si loin de nous! Non, non, ce n est pas elle, ce n est plus elle. Elle est perdue, perdue! Il n y a plus qu un grand cercle sur l eau. Qu allons-nous faire maintenant? PELLÉAS Il ne faut pas s inquiéter ainsi pour une bague. Ce n est rien. Nous la retrouverons peut-être. Ou bien nous en retrouverons une autre. MÉLISANDE Non, non, nous ne la retrouverons plus, nous n en trouverons pas d autres non plus. Je croyais l avoir dans les mains cependant. J avais déjà fermé les mains, et elle est tombée malgré tout. Je l ai jetée trop haut du côté du soleil. PELLÉAS Venez, nous reviendrons un autre jour. Venez, il est temps. On irait à notre rencontre. Midi sonnait au moment où l anneau est tombé. MÉLISANDE Qu allons-nous dire à Golaud s il demande où il est? PELLÉAS La vérité! La vérité! Ils sortent. Interlude SCÈNE 2 Un appartement dans le château On découvre Golaud étendu sur un lit; Mélisande est à son chevet. GOLAUD Ah! Ah! Tout va bien, cela ne sera rien. Mais jene puis m expliquer comment cela s est passé. Je chassais tranquillement dans la forêt. Mon cheval s est emporté tout à coup sans raison. A-t-il il vu quelque chose d extraordinaire? Je venais d entendre sonner les douze coups de midi. Au douzième coup, il s effraie subitement et court comme un aveugle fou contre un arbre! Je ne sais plus ce qui est arrivé. Je suis tombé, et lui doit être tombé sur moi; je croyais avoir toute la forêt sur la poitrine. Je croyais que mon coeur était déchiré. Mais mon coeur est solide. Il paraît que ce n est rien. MÉLISANDE Voulez-vous boire un peu d eau? GOLAUD Merci, je n ai pas soif. MÉLISANDE Voulez-vous un autre oreiller? Il y a une petite tache de sang sur celui-ci. GOLAUD Non; ce n est pas la peine. MÉLISANDE Est-ce bien sûr? Vous ne souffrez pas trop? GOLAUD Non, non, j en ai vu bien d autres. Je suis fait au fer et au sang. MÉLISANDE Fermez les yeux et tâchez de dormir. Je resterai ici toute la nuit. GOLAUD Non, non, je ne veux pas que tu te fatigues ainsi. Je n ai besoin de rien, je dormirai comme un enfant. Qu y-a-t-il, Mélisande? Pourquoi pleures-tu tout à coup? MÉLISANDE fondant en larmes Je suis… je suis malade ici. GOLAUD Tu es malade? Qu as-tu donc, qu as tu donc, Mélisande? MÉLISANDE Je ne sais pas. Je suis malade ici. Je préfère vous le dire aujourd hui. Seigneur, je ne suis pas heureuse ici. GOLAUD Qu est-il donc arrivé? Quelqu un t a fait du mal? Quelqu un t aurait-il offensée? MÉLISANDE Non, non, personne ne m a fait le moindre mal. Ce n est pas cela. GOLAUD Mais tu dois me cacher quelque chose? Dis-moi toute la vérité, Mélisande. Est-ce le roi? Est-ce ma mère? Est-ce Pelléas? MÉLISANDE Non, non ce n est pas Pelléas. Ce n est personne. Vous ne pouvez pas me comprendre. C est quelque chose qui est plus fort que moi. GOLAUD Voyons; sois raisonnable, Mélisande. Que veux tu que je fasse? Tu n es plus une enfant. Est-ce moi que tu voudrais quitter? MÉLISANDE Oh non, ce n est pas cela. Je voudrais m en aller avec vous. C est ici que je ne peux plus vivre. Je sens que je ne vivrais plus longtemps. GOLAUD Mais il faut une raison cependant. On va te croire folle. On va croire à des rêves d enfant. Voyons, est-ce Pelléas peut-être? Je crois qu il ne te parle pas souvent. MÉLISANDE Si, il me parle parfois. Il ne m aime pas, je crois; je l ai vu dans ses yeux. Mais il me parle quand me rencontre. GOLAUD Il ne faut pas lui en vouloir. Il a toujours été ainsi. Il est un peu étrange. Il changera, tu verras; il est jeune. MÉLISANDE Mais ce n est pas cela, ce n est pas cela. GOLAUD Qu est-ce donc? Ne peux-tu pas te faire à la vie qu on mène ici? Fait-il trop triste ici? Il est vrai que ce château est très vieux et très sombre, il est très froid et très profond. Et tous ceux qui l habitent sont déjà vieux. Et la campagne peut sembler triste aussi, avec toutes ces forêts, toutes ces vieilles forêts sans lumière. Mais on peut égayer tout cela si l on veut. Et puis, la joie, la joie, on n en a pas tous les jours. Mais dis-moi quelque chose; n importe quoi, je ferai tout ce que tu voudras. MÉLISANDE Oui, c est vrai… on ne voit jamais le ciel ici. Je l ai vu pour la première fois ce matin. GOLAUD C est donc cela qui te fait pleurer, ma pauvre Mélisande? Ce n est donc que cela? Tu pleures de ne pas voir le ciel? Voyons tu n es plus à l âge où l on peut pleurer pour ces choses. Et puis, l été n est-il pas là? Tu vas voir le ciel tous les jours. Et puis l année prochaine… Voyons, donne-moi ta main; donne-moi tes deux petites mains. Il lui prend les mains. Oh, ces petites mains que je pourrais écraser comme des fleurs… Tiens, où est l anneau que je t avais donné? MÉLISANDE L anneau? GOLAUD Oui, la bague de nos noces, où est-elle? MÉLISANDE Je crois… je crois qu elle est tombée. GOLAUD Tombée? Où est-elle tombée? Tu ne l as pas perdue? MÉLISANDE Non, elle est tombée.., elle doit être tombée… mais je sais où elle est. GOLAUD Où est-elle? MÉLISANDE Vous savez bien… vous savez bien, la grotte au bord de la mer? GOLAUD Oui. MÉLISANDE Eh bien, c est là… il faut que ce soit là. Oui, oui; je me rappelle. J y suis allée ce matin ramasser des coquillages pour le petit Yniold. Il y en a de très beaux. Elle a glissé de mon doigt.. puis la mer est entrée, et j ai dû sortir avant de l avoir retrouvée. GOLAUD Es-tu sûre que c est là? MÉLISANDE Oui, oui, tout à fait sûre. Je l ai sentie glisser. GOLAUD Il faut aller la chercher tout de suite. MÉLISANDE Maintenant? Tout de suite, dans l obscurité? GOLAUD Maintenant, tout de suite, dans l obscurité. J aimerais mieux avoir perdu tout ce que j ai plutôt que d avoir perdu cette bague. Tu ne sais pas ce que c est. Tu ne sais pas d où elle vient. La mer sera très haute cette nuit. La mer viendra la prendre avant toi - dépêche-toi! MÉLISANDE Je n ose pas, je n ose pas aller seule. GOLAUD Vas-y, vas-y avec n importe qui. Mais il faut y aller tout de suite, entends-tu? Dépêche-toi; demande à Pelléas d y aller avec toi. MÉLISANDE Pelléas? Avec Pelléas? Mais Pelléas ne voudra pas… GOLAUD Pelléas fera tout ce que tu lui demandes. Je connais Pelléas mieux que toi. Vas-y, hâte-toi. Je ne dormirai pas avant d avoir la bague. MÉLISANDE Oh! Oh! Je ne suis pas heureuse, je ne suis pas heureuse. Elle sort en pleurant. Interlude SCÈNE 3 Devant une grotte Entrent Pelléas et Mélisande. PELLÉAS parlant avec une grande agitation Oui, c est ici, nous y sommes. Il fait si noir que l entrée de la grotte ne se distingue plus du reste de la nuit. II n y a pas d étoiles de ce côté. Attendons que la lune ait déchiré ce grand nuage, elle éclairera toute la grotte et alors nous pourrons entrer sans danger. Il y a des endroits dangereux et le sentier est très étroit, entre deux lacs dont on n a pas encore trouvé le fond. Je n ai pas songé à emporter une torche ou une lanterne. Mais je pense que la clarté du ciel nous suffira. Vous n avez jamais pénétré dans cette grotte? MÉLISANDE Non. PELLÉAS Entrons-y. II faut pouvoir décrire l endroit où vo avez perdu la bague, s il vous interroge. Elle est très grande et très belle, elle est pleine de ténèbres bleues. Quand on y allume une petite lumière, on dirait que la voûte est couverte d étoiles, comme le ciel. Donnez-moi la main, tremblez pas ainsi. Il n y a pas de danger; nous nous arrêterons au moment où nous n apercevrons plus a clarté de la mer. Est-ce le bruit de la grotte qui vous effraie? Entendez-vous la mer derrière nous? Elle ne semble pas heureuse cette nuit. La lune éclaire largement l entrée et une parti des ténèbres de la grotte; et l on aperçoit trois vieux pauvres à cheveux blancs, assis côte à côte, se soutenant l un l autre, et endormis contre un quartier de roc. Oh! Voici la clarté! MÉLISANDE Ah! PELLÉAS Qu y a-t-il? MÉLISANDE Il y a… Il y a… Elle montre les trois pauvres. PELLÉAS Oui…Je les ai vus aussi. MÉLISANDE Allons-nous en! Allons-nous en! PELLÉAS Ce sont trois vieux pauvres qui se sont endormis. Il y a une famine dans le pays. Pourquoi sont-ils venus dormir ici? MÉLISANDE Allons-nous en; venez… Allons-nous en! PELLÉAS Prenez garde, ne parlez pas si haut! Ne les éveillons pas… Ils dorment encore profondément. Venez. MÉLISANDE Laissez-moi; je préfère marcher seule. PELLÉAS Nous reviendrons un autre jour. Ils sortent. Debussy,Claude/Pelléas et Mélisande+/III
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7TH DAY 平等への土曜日 7TH DAY 平等への土曜日 [#wfd09570] 自由行動 [#n019e648] フリーバトル [#afa73b41] 東京との争い(BATTLE) [#pfdc3a67] 自由行動 [#bcbfff68] 旧友との決着(BATTLE) [#p58021ab] 自由行動 [#a0590f7e] 未知の脅威 [#u4446b88] 大阪との争い [#de42efac] 自由行動 [#y5b17e59] 帰還の妨害 [#q52d6001] 本局潜入 [#o1c0abb3] 終末のラッパ吹き [#yd1d1d5a] 強者との決着(BATTLE) [#h6a9bf89] 撃破数7(BATTLE) [#h8facf77] 自由行動 [#k547c563] フリーバトル [#k2f7905e] 就寝 [#nfc6931e] 自由行動 フリーバトル 東京との争い(BATTLE) 強制出撃 主人公 初期配置 ヒナコLv52(L) バイブ・カハLv49 スカアハLv49 ジュンゴLv52(L) セイリュウLv51 ゾウチョウテンLv50 女性社員Lv48(L) アバドンLv48 シルキーLv47 女性社員Lv48(L) ヤマLv48 ズェラロンズLv50 自衛隊員Lv49(L) ラームジェルグLv49 ラームジェルグLv49 会社員Lv48(L) ヤムLv47 ヤムLv47 チンピラLv50(L) トウコツLv50 ミルメコレオLv50 増援 シヴァLv76 ヤマトルート・憂う者ルートと同様のイベント。 自由行動 縁Lv4以上だと説得成功、仲間に復帰する。 3以下で失敗。 旧友との決着(BATTLE) 強制出撃 主人公 初期配置 イオLv54(L) カズフェルLv54 ヴィヴィアンLv53 →(敵1ユニット撃破後)イオLv 57 (L) カズフェルLv54 ヴィヴィアンLv53 ダイチLv53(L) トウコツLv50 クルースニクLv52 学生Lv51(L) クドラクLv50 ズェラロンズLv50 工事作業員Lv50(L) ピュートーンLv51 ゾウチョウテンLv50 女性社員Lv52(L) ヴィヴィアンLv52 ヴィヴィアンLv52 警察官Lv51(L) セイリュウLv51 セイリュウLv51 チンピラLv52(L) ヤクシャLv51 ミルメコレオLv50 青年Lv50(L) カズフェルLv50 ギリメカラLv47 ヤマトルート・憂う者ルートと同様のイベント。 自由行動 縁Lv4以上だと説得成功、仲間に復帰する。 3以下で失敗。 未知の脅威 11時に追加 強制出撃 主人公 初期配置 ベネトナシュLv60 ヤクシャLv51(L) ビャッコLv53 ビャッコLv53 ラクシュミLv51(L) セイリュウLv51 セイリュウLv51 オロバスLv49(L) ピュートーンLv51 ミルメコレオLv50 ヤクシャLv51(L) ヤクシャLv51 ヴィヴィアンLv52 増援 オロバスLv49(L) オロバスLv49 トウコツLv50 ヤクシャLv51(L) ヤクシャLv51 ヴィヴィアンLv52 ヤクシャLv51(L) ビャッコLv53 ビャッコLv53 ラクシュミLv51(L) セイリュウLv51 セイリュウLv51 オロバスLv49(L) ピュートーンLv51 ミルメコレオLv50 増援 ベネトナシュLv50 ベネトナシュLv50 ヤマトルート・憂う者ルートと同様のイベント。 大阪との争い 強制出撃 主人公 初期配置 フミLv54(L) ラクシュミLv51 アリオクLv56 ヤクシャLv51(L) ヤクシャLv51 セイリュウLv51 アンズーLv54(L) アンズーLv54 ズェラロンズLv50 アバドンLv48(L) ヴィヴィアンLv52 ヴィヴィアンLv52 ヤクシャLv51(L) ヤクシャLv51 ヴィヴィアンLv52 ラクシャーサLv55(L) ピュートーンLv51 ラクシャーサLv55 ケイタLv59(L) ゾウチョウテンLv50 ツィツィミトルLv54 マコトLv58(L) ラクシュミLv51 ビャッコLv53 増援 ヤクシャLv51(L) ヤクシャLv51 セイリュウLv51・・・×2 アンズーLv54(L) アンズーLv54 ズェラロンズLv50・・・×2 アバドンLv48(L) ヴィヴィアンLv52 ヴィヴィアンLv52 ラクシャーサLv55(L) ピュートーンLv51 ラクシャーサLv55 敵悪魔が減っている状態でフミにターンが回ると増援だが、6チームで打ち止め。 フミを倒すと悪魔ごと撤退し、人間チームが残っている場合はそのまま戦闘続行。 チーム・スキル構成は基本的に他ルートと同じだが、フミはオシリスではなくアリオク持ちなので射程4。 S狂戦士の魂持ちのケイタはテトラカーンで自滅させよう。 Sテトラカーン+物理反射+全門耐性+マカラカーンのフミをスムーズに倒すため、万能属性メインのチームを用意。 時間制限つきの戦闘なので何度も急かされるが、かなり余裕があるので間に合わない、といったことはないだろう。 自由行動 縁Lv4以上だと説得成功、仲間に復帰する。 3以下で失敗。 帰還の妨害 本局潜入 終末のラッパ吹き 強者との決着(BATTLE) 強制出撃 主人公 初期配置 ヤマトLv62(L) レミエルLv59 アリオクLv58 ラクシュミLv55(L) ラクシャーサLv55 ラクシャーサLv55 ※ デカラビアLv56(L) ヤクシャLv54 カンギテンLv54 ※ デカラビアLv56(L) トウコツLv53 ピュートーンLv54 ラクシャーサLv55(L) ラクシャーサLv55 カルティケーヤLv56 アンズーLv54(L) ビャッコLv53 ビャッコLv53 ※ ヤクシャLv54(L) ラクシャーサLv55 アンズーLv54 アンズーLv54(L) ピュートーンLv54 ピュートーンLv54 ダイチルートと同様のイベント。 ただし、ヤマトはイベントで死亡するので絶対に説得できない。 ※のチームはヤマトと隣接するように動く。 敵が減るたびにヤマトの龍脈の秘術が強化され、最終的に恐ろしいスピードで動き始める。(4チーム撃破、6チーム撃破でそれぞれ強化) 初期配置で待機して近づいてくる雑魚を倒していると速度差でヤマトが孤立し始めるので、近づいてきたところを叩こう。 ヤマトは物理反射持ちなので、魔法で攻める事。 撃破数7(BATTLE) 18時30分に強制 強制出撃 主人公 NPC トランペッターLv63 LV 種族 名称 HP MP 力 魔 体 速 物 火 氷 電 衝 魔 コマンド 自動効果 種族特有 移動 射程 60 破軍星 ベナトナシュ ??? ??? 22 22 18 14 反 弱 耐 弱 無 無 連星の炎 周極の巨砲 人間不可侵 物理反射 龍の眼光 破軍星の証 0 7 50 破軍 ベナトナシュ 408 163 15 21 18 12 ― ― 無 ― 耐 無 暗黒の雷光 再生 八相発破 耐状態異常 耐衝撃 電撃強化 破軍の芽 0 4 60 破軍星 ベナトナシュ ??? ??? 22 22 18 14 反 弱 耐 弱 無 無 主星の圧撃 破壊の星風 人間不可侵 物理反射 龍の眼光 破軍星の証 0 7 56 破軍 ベナトナシュ 456 181 16 23 20 13 ― ― 無 ― 耐 無 暗黒の雷光 再生 八相発破 耐状態異常 耐衝撃 電撃強化 破軍の芽 0 4 60 破軍 ベナトナシュ(本体) ??? ??? 18 22 22 14 反 耐 耐 弱 耐 無 アルカイド 届かない祈り 人間不可侵 物理反射 破軍の娘 4 1 60 破軍 ベナトナシュ(ドゥべ+メグレズ) ??? ??? 14 22 22 18 耐 無 ― 無 ― ― 連星の炎 破壊の星風 再生 衝撃激化 猛反撃 エクストラワン 破軍の娘 4 1 60 破軍 ベナトナシュ(メラク+フェクダ) ??? ??? 22 22 18 14 弱 反 反 反 反 無 周極の巨砲 暗黒の雷光 なぎ払い 電撃激化 双手 神速の寄せ 破軍の娘 4 1 60 破軍 ベナトナシュ(ミザール+アリオト) ??? ??? 14 22 18 22 耐 ― ― 無 吸 無 千烈突き 刻印の翼 ジオダイン 物理激化 食いしばり 獣の眼光 破軍の娘 4 1 初期配置 ベネトナシュLv60 ベネトナシュLv50 ベネトナシュLv50 増援 ベネトナシュLv50を2体撃破 ベネトナシュLv56 ベネトナシュLv56 ベネトナシュLv56 ベネトナシュLv56 ベネトナシュLv60のHP1/5?以下 ベネトナシュLv60(本体) ベネトナシュLv60(ドゥベ+メグレズ) ベネトナシュLv60(メラク+フェクダ) ベネトナシュLv60(ミザール+アリオト) 事前にある通り、仲魔の入れ替えは出来ない。 ベネトナシュLv50を二体とも撃破するとトランペッターの周りに増援4体、ベネトナシュの特性がメグレズのものに変化、 ベネトナシュLv60のHPを1/5以下にするとドゥベ+メグレズ、メラク+フェクダ、ミザール+アリオトの特性を持った3体と本体に分裂する。 更にアリオト戦での毒フィールドが其処彼処に出現。 本体の持つ届かない祈りは回復不能バステ付与で、常世の祈りor女神の恩寵なら回復&バステ除去が同時に可能。 分裂前に衝撃属性の全体攻撃が飛んでくる関係上、 邪龍+邪神で射程外から殴る場合以外、衝撃弱点の悪魔は役に立たない。 3回攻撃なので最低でも耐性以上は欲しいところ。 分裂したベネトナシュを全て倒せばMAPクリア。 自由行動 フリーバトル 就寝 LAST DAY ロナウドルートへ IP 221.32.195.98 TIME "2011-09-02 (金) 12 01 51" REFERER "http //alphawiki.net/ds2/index.php" USER_AGENT "Mozilla/5.0 (Windows NT 5.1) AppleWebKit/535.1 (KHTML, like Gecko) Chrome/13.0.782.218 Safari/535.1"
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848 名前:虚無への砲弾 ~異界の王~ 投稿日:2006/12/21(木) 23 40 13 [ e5PxrTYg ] 「大司祭様、ご再考願います。そのような手立てをすれば……危険すぎます!」 「止めるな司祭長よ、この手しか無いのだ」 半壊した、かつては荘厳であっただろう大神殿の中の祭壇。 その前で、1つの大秘儀が執り行われようとしていた。 「聖竜王が再び目覚め、あの魔王の想念を討ち滅ぼせるようになるまで後50日。だが」 白い法衣を着込んだ皺深い老婆の表情が、苦悩に歪む。 如何なる事態にも毅然として立ち向かった偉大な大司祭の表情に、年若き司祭長の表情が同じく苦悩を示した。 「それまで待とうものならば、この大陸は何一つ残らん。その後に聖竜王に魔王の想念が滅ぼされようとな」 「…………はい」 「あの魔王と呼ばれた魔法王が召喚された聖竜王に打ち倒されてはや30日」 「魔王が倒れた時、全てが終わったと思いました。ですが、まさかあのような存在が生まれるとは……」 「その30日の間にどれ程の国や街が滅ぼされたか知っておるであろう?」 「…………」 「十二賢者達は眠りについた聖竜王の覚醒に全力を挙げておる。彼等以外に、異界からの召喚を行えるのはもはや儂ぐらいしかおるまい。やるしか、無いのじゃ」 そう言うと、再度祭壇に向き直り、呪文を唱え始める。 途絶えてた呪文が紡ぎ始められると同時に、辺りに半円の陣形を組んでいた司祭と魔術師が詠唱を始める。 膨大な魔力が祭壇に集中し始め、同時に空間が歪み始めた。 (おお、見えてきた。もう少しじゃ……) 老大司祭の視界に、異なる世界の様相が映った。 無数の黒煙とその下で戦う鉄の化け物の群れが映った。 そして、彼女の世界が望む存在が。 大司祭は、ゆっくりと魔力を広げた。 戦闘はまさに佳境に突入していた。 戦闘開始からものの数分でソ連軍戦車隊はT-34/85を3両、JS-1を1両、JS-2を2両撃破されていた。 だが、彼らは損害に委細構わずE-79に砲撃を浴びせながら前進してくる。 凄まじいまでのドイツ人に対する敵意が、シュトライバーの意識にぶつかってくる。 「敵戦車、一部後退、我が車の側面へと迂回するもよう!」 「正面突進と側面への迂回戦術か、オクチャブリスキの連中と同じ目に遭わせてやれ。12時のJS-2、照準合わせ!」 「発射!」 発射ペダルを踏み込むと同時に、砲架がギシリと軋み轟音が鳴る。 一両だけのE-79が側面へ注意を回せないように正面から突進して来たJS-2の車体下部に128mm砲弾が突き刺さる。 砲塔部の避弾経始なら128mmでも上手く逸らせただろう。だが、度重なる対戦で、シュトライバー達はこの重戦車の弱点を熟知していた。 弱点を突かれたJS-2は呆気なく黒煙を吹き、122ミリ戦車砲D-25Tが項垂れるようにして砲門を地面に向けた。 849 名前:虚無への砲弾 ~異界の王~ 投稿日:2006/12/21(木) 23 41 39 [ e5PxrTYg ] 「両側面にロシア軍のエネジィが集中し始めた。地形を利用する、200Mほど後退せよ。遮蔽物として丁度良い廃墟がある」 「は、はい!」 この車長は時々周囲全ての地形と敵の配置を理解してるとしか思えない発言をするなと思いながら、操縦手はバックのギアを入れる。 彼の指示は大まか正しいからだ。それがどんな、エキセントリックな言動を包容していたにしても。 キャタピラを軋ませながら、後退していくE-79。 後退する先には、道を挟むようにして数件の廃屋が建ち並んでいる。 彼処に逃げ込めれば、側面からの攻撃を限定出来るだろう。そしてそれは、攻撃する側のソ連軍戦車隊にも解る事だ。 逃がすまいとばかりに、砲弾が飛来し車体を捉えようとする。その内の何発かは明らかにキャタピラを狙っていた。 E-79が如何に強力でも、足が止まれば装甲を備えた砲台に過ぎなくなる。 背面や側面を捉える事が容易になるし、攻撃機を呼べば直ぐさま撃破出来るだろう。 戦車は航空攻撃に弱い。これはどの国のどんな戦車にでも言える弱点なのだ。 「シャイセ! 逃がすつもりは無いみたいですよ!!」 「無駄な事だ。愚か者共に、我等の鎧を打ち砕く事など出来ぬ」 砲弾が飛び交う中必死に車体をバックさせる操縦手と、敵の攻撃など意に介さぬとばかりに喉を鳴らすシュトライバー。 不安げに振り返った装填手が、血に飢えた狼のように血走ったシュトライバーの眼光と目を合わせてしまい、慌てて目線を逸らした。 「SU-122が突っ込んで来ます!」 「愚か者め、差し違えるつもりか」 E-79が全力で後退している今なら砲撃出来ないと見たのか、一両のSU-122が全速で突っ込んで来る。 ソ連軍の対独軍重戦車戦への対策として損害に構わず全速で敵重戦車に突進肉薄、懐に飛び込んで零距離射撃を行う戦法がある。 数両のT-34/85も同調するかのように突っ込んでくる。例え途中で一両か二両喰われても結果的にE-79を撃破出来ればそれで良しだとでも言うのだろうか。 「追いすがろうとするならば打ち砕くまで。装填は済んでるか!?」 「ですが全速後退中です、命中率が著しく下がります!」 「構わぬ。目標、前方11時のSU-122、撃て!」 射手の言葉を遮るようにシュトライバーが叫んだ瞬間、異変が起きた。 戦車の中が、一瞬にして緑色の発光体に覆われたのだ。 「な、何だこの揺れは!?」 「少尉、外が真っ暗です! 上から黒い雲が……うわっ!!」 「ヴァルハラからの使いか? 我等はまだ戦える。殺す! まだ殺せる……うぉ!?」 それと同時に、E-79の上空に大きく広がっていた黒雲が、凄まじい勢いで落下してくる。 回避する余裕など無く、一瞬にして黒雲はE-79を中心に半径数百メートルを呑み込んだ…………。 数時間後、ソ連軍の偵察機が上空を通りがかった。 「なんだ、これは……?」 パイロットの眼下に広がっていたもの。 それは、巨大なすり鉢状のクレーターだった。 続く
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前ページ次ページSnakeTales Z 蛇の使い魔 ―船尾 第二船倉 物置― 「よくここまでこれたな。さすがだよ、使い魔君。」 「脱獄は慣れているんでな。」 まるで自分が犯罪者だったかのような事を言う。 確かに迷いのないその拳は一般人ではなかったが。 「さて、脱獄したはいいが、これから何処へ行くんだね?」 「船長室だ。考えがある。」 部屋の外の杖を回収するスネーク。 先ほど殴り倒した兵士を引き摺って船倉まで運んできた。 「何をしてるの?」 「あのまま外においておいたら誰か見つけるだろう?」 そういいながら近くにあった兵士の服を脱がし、兵士をロープでぐるぐる巻きにし、箱に突っ込んだ。 部屋の隅にそれを置き、まるで元からそこにあったかのようにカモフラージュした。 「さっさと行きましょうよ。」 「そう言うな。まずどうやって潜入するか伝えてからだ。」 手に持った兵士の服をワルドに手渡し、着替えるように言う。 「なるほど。変装だね?」 「その通りだ。ルイズにはこの箱の中に入ってもらう。」 丁度先ほどスネークが入っていた箱を取り出すスネーク。 「私はお荷物って訳ね。」 「そんな事は無い。…お荷物どころか危険物だ。」 「なんですって!?」 スネークがルイズにシメられている間にワルドの着替えが終了し、いよいよ船倉の外へと歩き出した。 ―船尾甲板 上部― 船員があわただしく働いている。 先ほどの船の連中は皆捕虜としてどこかに幽閉されているらしい。 「おい、そこのお前達!」 船長室の前で呼び止められる。 ばれたか…?と身構えつつ、足を止めた。 「その箱の中身は何だ?」 「あの貴族の使い魔らしい男の持っていたものだ。 変なものばかり持っていたからな。頭が興味を持ったらしい。」 もちろん口から出任せだ。 だが、船員は忙しいらしくあまり深く考えなかった。 そのまま歩き去るのを見送ってから船長室の扉をノックする。 「誰だ?」 「ベケットです。頼まれていたものを持ってきました。」 「…?とにかく入れ。」 不審に思われながらも船長室に招き入れられる。 スネーク達が入ったのを確認して、頭が扉の鍵を閉める。 「さて…、貴様達は一体何者だ!」 頭が杖を構える。どうやら変装に騙されていないらしい。 同時に銃に手を伸ばすが、ルイズの入ったダンボールを抱えていたため、一瞬動作が遅れた。 ワルドも同じく、動く事が出来ない。 取り落としたダンボールの中からルイズの悲痛な声が聞こえた。 「とぼけなくていい。船員の事は誰よりもよく知っている。」 「ちょっとスネーク!?いきなり手を離すなんて酷いじゃない!」 箱の中からビックリ箱のように両手を上に掲げたルイズが飛び出した。 それに驚いたのか一瞬隙が生まれる空賊の頭。 スネークはその隙を逃さず、クイックチェンジでM9を装備し、ヘッドショットで頭を眠らせた。 「ナイスだ、ルイズ。」 「…え?」 自分が何をしたのか分かっていないルイズであった。 「…ん?」 どうやら自分は眠っていたようだ。 誰かに身体をゆすられている。 「わかった。いま起きる。」 目を開けるとそこには、見た事のない男たち…いや、先ほど部屋に侵入してきた連中だ! 一気に意識が覚醒し、記憶が蘇る。 「おっと、動くな。別にとって食おうって訳じゃない。」 バンダナの男が警告する。 縛られてもいないし、杖も奪われていない。 本当に危害を加えようとしているわけではないようだ。 「あんたに用があってきたんだ。プリンス・オブ・ウェールズ。」 スネークの発言でその場にいた全員が驚く。 「あ、あんた一体何言って…。」 「どういうことだね、使い魔君?」 「この船にはおかしい点がいくつかあった。 まず第一に船の大きさ。賊の船がこんなに大きく小回りのきかないものにするわけがない。 第二に船員の会話。教育は徹底するんだな、殿下。」 そしてスネークが空賊の頭の顔に手を伸ばし、その顔を拭うと、色が落ちて白い肌が顔を出した。 頭は観念したように頭を振った。 「いかにも、私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官… そして、アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ。」 頭が黒髪を剥ぎ、眼帯をとり、作り物の髭をはがした。 そこには確かに上品な皇子の顔があった。 「君たちは一体何者だね?」 「アンリエッタ姫殿下より密書を言付かってまいりました。」 ウェールズの問いにワルドが答える。 「ふむ。姫殿下とな?君は?」 「トリステイン王国魔法騎士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵です。 こちらが姫殿下より大使の大任をおおせつかったラ・ヴァリエール嬢とその使い魔にございます。殿下。」 恭しく一礼するルイズ。手紙を取り出し、ウェールズの元へ歩み寄った。 真剣な面持ちで手紙を読むウェールズ。 「ふむ…。彼女は結婚するのか。私の従妹が結婚、か。」 若干あきらめていたようなため息をつくウェールズ。 最後の一行まで読み、顔を上げた。 「手紙の件、了承した。お返ししよう。ほかでもない姫の願いだからな。 だが、ここにはない故、ニューカッスルの城まで足労願いたい。」 ルイズたちはウェールズに従い、城の中を歩いていく。 城の中は薄暗く、彼処にほこりがたまっている。 そして定期的に貴族派の攻撃によって城全体が大きく揺れる。 そんな城の天守にあるウェールズの部屋は王子のものとは思えないほど質素なものだった。 ろくに部屋で眠っていないのだろう。ここ最近ベッドが使われた様子はない。 王子は椅子に腰掛け、机の引き出しから宝石の散りばめられた小箱を取り出した。 ネックレスの鍵で小箱を開け、手紙を取り出し、ルイズに手渡す。 「この通り確かに返却したぞ。」 「ありがとうございます。」 「明日の朝、非戦闘員を乗せた『イーグル』号がここを出発する。それに乗って帰りなさい。」 ルイズは手紙を受け取り、先ほどのパリーという老メイジとウェールズの会話を思い出す。 やがて決心したように口を開く。 「あの殿下…。さきほど、殿下は栄光ある敗北とおっしゃってましたが、勝算はないのですか?」 「万に一つもないね。我々にできる事は奴らに勇敢な死に様を見せ付ける事くらいさ。」 「殿下の討ち死にも…?」 「その通り。真っ先に死ぬつもりだよ。」 あっけからんと言うウェールズの様子にいささかうんざりするスネーク。 死ぬという事がどんな事か分かっているのだろうか? 「殿下、失礼をお許しください。恐れながら、申し上げたい事があります。」 「なんなりと、申してみよ。」 「姫様と殿下は恋仲に?」 「…昔の話だ。さっき返した手紙も恋文さ。」 ルイズの目が鋭くなる。 何度か見ているがこれはいわゆる“切れる”寸前の目だ。 「姫様は…どうするのですか?」 「どうするも何も、彼女と私は今は関係ない。 このままこの国で戦い、そして死ぬさ。」 「誇り、ですか?」 ウェールズは答えない。 ルイズが拳を握り締める。 その後ルイズは、口をきゅっと一文字に結び、一礼してから外へ出て行った。 スネークもそれに従い、出て行った。 「やれやれ。嫌われてしまったかな、子爵殿?」 「どうでしょうね。」 「ところで、君は何のようだい?」 「あ…。いえ、明日頼みたい事がありましてな。」 「…!!!」 ルイズがカンカンに怒って歩く。 その三歩後ろを何も言わずに歩くスネーク。 触らぬ神にたたり無し…のはずなのだが、スネークに飛び火が飛んできた。 「あーもう!王子は何を考えてるのかしらね!」 「俺がわかるとでも思うか?」 「期待しちゃいないわよ。」 やはり先ほどのウェールズとの会話が原因のようだ。 「残された人が何を思うかなんて考えてないんだわ。」 「そう言うな。王子だって辛いはずだ。立場ってものがあるからな。」 「そりゃそうだけど!」 これは何を言っても無駄か…? など思っていたのだが、いきなり歩みを止めるルイズ。 振り向いてスネークに言った。 「あんたはどう思うの?」 「どうって、何がだ?」 「王子の言ったことについてよ。」 「…。」 メイ・リンのことわざを思い出すスネーク。 ぴったりのことわざを思い出した。 「『好死は悪活に如かず』ということわざがある。」 「またことわざ?意味は?」 「どんなにかっこいい死よりも、生きているほうが良いという言う意味だ。俺もそう思う。」 「…そうよね。」 途端に静かになるルイズ。 以前にフーケのゴーレムに潰されそうになったときの事を思い出したのだろうか? 「この世界の価値観なんて物は知らんがな。 犬死と犠牲は別のものだ。俺はそう思っている。」 再び歩き出すスネーク。 ルイズはしばらくその背中を見ていた。 前ページ次ページSnakeTales Z 蛇の使い魔
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都市が賑わっている。 露店は大通りを埋め尽くし、老若男女が構わず道を埋め尽くす。 ここは歩行専用の通りであると同時に、巨大な商業組合に登録された個人・団体が露店を出すことを許可される区域でもある。 本来なら馬車や慣らされた動物が移動手段として使われる筈の極太い道路にまで露店の勢力が広まると、圧巻だ。 幾度と無く一期一会が繰り返されながら、何処も彼処も大盛況。熱気は上り、活気が盛る。 最高として、当たり前に存在する日常。 その最たるものとして実感するものにもなり得るこの場所に、巧妙に、巧妙に、居てはいけない者が、隠れていた。 「ね、ね。今思ってること当ててあげようか」 「……ふぅん、何? 突然」 道の隅、歩道に当たる道のの更に隅に、女性の二人組が居る。 話しかけている方は黒のセミロングで、白のブラウスと紺のスラックス。そろそろ成人を迎えるのだろうと言う見た目の割にまだあどけなさの残る話し言葉で、この都市圏ではあまり見かけない黒髪であることもあり、印象は少し世間知らずのお嬢様と見られてもおかしくはない。 話しかけられている方は群青のロング。パーカーにジーンズと言う極めて凡庸で男性的な成りをしていながら、そのスタイルはそれでも際立っている。見た目の年齢から話しかけている方の姉、或いはその身のこなしと冷静な反応からお目付け役か何かと思われるだろう。 だが、それも珍しくはないだろう。何せこの大通りの露店には様々な人間が集まる。露店ではなく大道芸を行う一座が小さなショーを開かせて貰っている光景も時折見かけるし、世界的に見ても価値のある品が売られていたり。故に、様々な人間が日を問わず集まるのだ。 別段、誰も気に留めない。 「光景を視界に認識した瞬間、証人になる筈の人間は即座に死体となってしまうような大虐殺を望んでいる、でしょ?」 「そう言うなら私にも貴方の考えていることが解るわ。光景を視界に認識した瞬間、証人になる筈の人間は即座に死体となってしまうような大虐殺を望んでいる、と私が考えていると考えている……って、ね」 物騒な類の冗談だった。 白いブラウスの女性の顔は心底愉快そうだったが、青の女性は表情を全く変えることが無い。傍目に見ると、子供の冗談には付き合っていられない、と言う風にも取れる。 気にせず、白いブラウスの女性は続ける。 「へー? 否定はしないんだ?」 「そうね。一言一句、とまでは言わないけど正答に近いわ」 冗談に続く冗談は、それを更に冗談で返す役であった筈の青の女性が同意した途端。 冗談はその意味を急速に失い、真実味と言う骨子が顔を覗かせた。 「駄目だよ? 昼は私情を挟まないって私と約束したんだから」 「夜だって最近は随分制限かかってるように思えるけど。第一、先にこの話題を振ったのは貴方じゃなくて?」 「忠誠心を試す為だよー、ここで悪ノリされたらちょっと厳しくする、みたいな感じで」 最後の言葉は、真実冗談の言葉だった。何の気休めにもならない冗談だった。 彼女二人の関係を説明するのは、難しい。 主従の関係。ルームメイトの関係。雇い主と傭兵の関係。店主と店員の関係。生死を助けた・助けられた関係。共通目的を見出せる関係。 その出会いも関わりも暗いものの筈なのに、お互い〝そんなこと〟はどうでも良さそうだった。だからきっと、これだけ多様な関係を別の時間に確立させることも容易い。 それはとても崇高なものに見えながら、残酷なものを孕んでいる。 「大丈夫、そのうちいいのと戦わせてあげるから。ここの北勢力、オーダーよりもハードかも」 「それはキリサキ君よりも確上と言うこと?」 その内容の食いつきに対し、返事は素っ気無い。1ミリたりとも心動かされていない。 何故か彼女の食指はそそられなかった様だ。 「そうだね。私嘘つかないよ」 「嘘。所詮見聞の格付けで言ってるでしょう?」 黒いセミロングは、一瞬〝彼のことが好きなんだ〟と言おうとしたが、彼女には全くそのテの冗談が通じない為、ニュアンスごと言葉を修正した。 「やけにキリサキ君の肩を持つんだ?」 「そうね。彼はシークリディス近辺では五本指クラスの強者じゃないかしら? 正道すぎることを除けば悪くないわ」 「……まあ、その五本指の頂点には手も足も出ないわけだけどね」 黒いセミロングは回想した。大陸最強クラスの〝引き篭もり〟のことを。 部屋から出ない狂気の画家、途轍もない力を持つ魔術師のことを。 王国の東塔を任されていながら駄々を捏ね続け、その最上階を我が物として永遠に絵を作り続ける者のことを。 それに関連してその東塔の副長――実質の長――今目の前で話している彼女と自分にとって深い因縁を持つ純白の狩人のことを思い出そうとしたところで、返答が帰ってきた。 「五月蝿いわね。彼は部屋から出られないし、そもそも分野が違うのよ。それにまじないとの戦いはあまり面白くないの」 彼女は対魔術戦が嫌いだ。 何せ下手な相手は瞬殺なので楽しめない。かと言って上級者、極一握りの上級者は時折長引くこともある。が、決着するときははやり呆気無い。 防御にやたら容量を割いて、その余裕のうちに攻撃してくるのが魔術師の基本戦法(スタンダート)だ。つまり、防御にのみ注げば長引かせることが出来る。この〝長引く〟は彼女の望む戦いの〝長引く〟ではないく、面倒なだけのものでしかないので、瞬殺する。 が、その相手が自分にとってかなりレベルの違う上級者だったりすると、攻撃は効かないこっちの回避は追いつかないでこれもまたどうにもならない。彼女にとってそのクラスの使い手は数える程しか居ないのだがその数えるだけの一人がその〝引き篭もり〟だったりする。 「それは言い訳だよ。言い訳するなんてキミらしくないね」 「何でいきなり大陸最強クラスと私の強弱比較になるのよ」 「キミから〝自分の方が戦闘能力で劣っている〟って言葉が聞きたくなっただけだよ」 セミロングの黒髪の女性は、悪戯っぽく笑う。 日常と乖離している世界で、何でもなく日常を感じながら愉快に悪戯に人間的に笑い続ける。 「その点は、確かに認めるわ」 「……あっさりそんなこと言うなんて意外かも……」 「自分で振っておきながら驚かないで頂戴。それに貴方だからこそ、よ。気に障る質問だったわ、程度にもよるけど脆弱が問うならここらへんで息の根を止め終わってる所よ」 群青の女の目は、凍る眼差しだった。怒気は感じられない冷たさなのに、恐怖。 蒼色の眼球から発せられるものは、〝その目を見たものを凍りつかせるような眼差し〟ではない。〝その目で見たものを凍りつかせる眼差し〟だ。 人間と言う種族の本能が、危険を察知する。本能の底から震え上がる。そんな、冗談抜きの、眼差しだ。 黒のセミロングはそれを見て子供さながらにきょとんとしながら、「怖いなあ、もう」、と何時ものように笑いながら、ただそれだけの言葉を返すのだ。 日常が荒廃した世界で無垢に笑い続ける。 日常が映える世界でも無垢に笑い続ける。 白とも黒ともつかない存在。 天使であり悪魔であり。 祝福であり冒涜であり。 オモテとウラを同時に実在させる存在。 死んだ世界に笑えば、悪くて。 生きる世界に笑えば、正しくて。 背景に変わりなく等しいのに、善悪が分離してしまう存在。 その境界を理解することない道化。 その境界を理解することない賢人。 よく解らない。そう説明するしかない存在。 きっと彼女には見えている。 きっと彼女には見えていない。 おそらく常識の見地に、彼女を断言出来るものは無い。 おそらく異常の見地に、彼女を断言出来るものは無い。 Unknown。正真正銘、誰にも解らない存在。 故に彼女に明確な名前は付けられない。 代名詞で表すことを許されるダケ。 故に彼女は、自らを名乗ったのだ。 固有名詞で呼ばれることを望んだタメ。 彼女がどうして名乗り出たのかは解らない。 彼女がどうやって名前を決めたのか解らない。 彼女に元々名前があったのかも解らない。 彼女は元々名前がなかったのかも解らない。 ともかく、 解らない解らない。 そう言って指を指す人々に、彼女は何時か何処かで言ったのだ。 私の名前は×× ×××だよ、と。 だからきっと彼女は、解らない存在なんかじゃなくて。 ×× ×××という存在であることを望んでいるのだろう。 群青の女の絶対零度まで落ちた瞳が、冷えた何時もの瞳に戻っていく。 毒気を抜かれたのか、呆れたのか、単に無駄だと悟ったのかは解らない。 「くだらない話だったわね。早い所、必要なものを買ってしまいしょう?」 「ん、それもそうだね。折角都市圏まで遊びに来たんだし」 二人分だけ、不自然に人ごみが分かれていく。 別段、誰も気に留めない。 彼女達の買い物の取引相手も、彼女達のことをすぐ忘れてしまうだろう。適度に、不自然でない程度に、明確なイメージを失ってしまうだろう。 別段、誰も気に留めない。 そう別段、誰も――。
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728: 加賀 :2020/05/10(日) 20 52 13 HOST om126161007221.8.openmobile.ne.jp マリアナ沖海戦後、山口中将の第一機動艦隊は消耗した航空隊の再編成をする事になる。だがその再編成は苦難の道なのは間違いなかった。何せ戦闘機隊はほぼ消耗していないので容易ではあったが艦爆隊は半壊、艦攻隊は壊滅状態という中であった。 「よく生きて帰れましたね……」 「奇跡としか言えんよなぁ……」 再編成の場所となった岩国飛行場に一機の天山が着陸した。三人はそのまま司令へと報告した。 「『隼鷹』艦攻隊第二分隊長森本大尉!!」 「同じく雨宮飛曹長!!」 「同じく木場一飛曹!!」 「本日付を以て第601航空隊に着任しました!!」 「ん。艦攻隊は壊滅状態だ、1日でも早くの再建を頼む」 司令の入佐中佐はそう伝えて解散となる。 「これからが大変だな……」 「岡田達がいればもう少し楽になったんですけどねぇ……」 「そうぼやくな雨宮」 「ですが次の作戦に艦攻隊は必要無いらしいじゃないですか」 「それ、何処からの情報だ木場?」 「『隼鷹』から降りる前に整備員から聞きましたよ。どうも次の作戦で空母は囮になるらしいです」 「おいおい……とすると俺達は地べたでしか行動しないのか?」 木場の言葉に雨宮は溜め息を吐いた。そして601空は内地で錬成に励みながらもレイテ沖海戦には参加しなかった。 「出番無し……か」 「腐るな雨宮。次は攻撃に参加すると思うぞ」 「本当ですか森本さん?」 雨宮の言葉に森本は深く頷いた。 「レイテで敵輸送船団は撃滅したが奴さんら、まだ諦めてはいないようだ。マリアナが再び陥落して硫黄島が連日爆撃を受けている」 「とすると……噂であった小笠原決戦ですか?」 「可能性はな」 だが601空の艦攻隊はまだ半分程しか錬成を終わらしていない。それでも彼等は準備に余念がなかった。しかし、事態は動く。 「敵艦隊が沖縄に!?」 「そうだ、そこで我々も移動だ」 「空母にですか?」 「いや、奄美大島だ。彼処に新設していた滑走路が出来たからそこに向かい、沖縄に向かう艦隊を支援する」 森本が雨宮と木場に説明する。そして601空も順次奄美大島へ向かうのであった。 奄美大島、此処に沖縄決戦に備えて航空基地が新設されていた。しかも陸海共同で使用出来る事としており4月1日の時点では飛行第5戦隊が駐屯していた。 「戸野本さん、いよいよ決戦ですか」 「あぁ……だが俺はまだ死ねんよ」 雲野曹長と戸野本中尉は新しく配備されたキ102乙を見つつそう話していた。 「海軍さんも精鋭部隊を此処に送るらしい。粗相が無いようにな」 「ひでぇや戸野本さん……」 そして沖縄決戦前に601空の進出は完了したのである。なお雲野曹長もハルマハラで御世話になった山田飛曹長と再会したりしていたりする。 739: 加賀 :2020/05/17(日) 22 13 03 HOST om126208168164.22.openmobile.ne.jp 「大和の第二艦隊が沖縄に突っ込む。我々は全力でこれを支援する」 奄美大島の航空基地で入佐司令はそう訓示する。601空は定数は揃えてはいたがその練度は史実マリアナ沖並の腕だった。 「森本さん、今度は……」 「あぁ。また米空母に雷撃が出来るぞ」 嬉しそうな表情をする雨宮に森本はニヤリと笑う。 「でも森本さん、またマラリアに掛からないでくださいね」 「言ったな木場!?」 雨宮達はそう笑いながら用意された天山に乗り込む。601空の紫電改二81機、彗星54機、天山81機は奄美大島の航空基地から離陸する。その後を飛行第5戦隊のキ102や二式複戦の戦爆連合が続く。 「折坂、今日は帰れないと思うぞ」 「いえ、自分は雲野曹長の同乗者です。命は預けていますよ」 「……馬鹿野郎……」 折坂伍長の言葉に雲野はそう言うのである。陸海の攻撃隊は沖縄近海まで飛行すると分散をする。601空は彩雲から放たれる電波を元にマケイン機動部隊へ向かうのだ。飛行第5戦隊はそのまま宜野湾沖に停泊する敵上陸船団攻撃に向かう。 「森本さん、電波は!?」 「彩雲は中波を出している。まだ生きている」 「後方から敵機!?」 不意に機銃手の木場が旋回機銃を放つ。後方の雲から数機のF6Fが飛び出してきたのだ。攻撃隊は散開するも天山数機が落とされてしまうが被害はそこまでだった。 「紫電改二です!!」 「悪いな、攻撃隊には近づけさせるわけにはいかんのでな」 紫電改二の一個区隊を率いて山田飛曹長が乱入し慌てて逃げようとする6Fに機銃弾を叩き込んで撃墜する。 「さて、何とか生き延びないとな。雲野曹長から見合いの事も頼まれたしなぁ……」 山田飛曹長はそうぼやきながらも空戦を展開するのである。助けられた攻撃隊は更に前進すると雲の隙間から航跡を発見した。 「分隊長!?」 「慌てるな、『トツレ』だ」 指揮官機から『トツレ』が発信され天山隊が高度を下げる。眼下のマケイン機動部隊は激しい対空砲火を撃ち上げるも601空に同行していた彩雲6機からの電波妨害紙である銀紙を投下して対空砲火を分散させていた。それを確認した指揮官機が『ト連送』を発信した。 「雨宮!!『突・撃・セ・ヨ』だ!!」 「行きます!!」 雨宮は速度を上げて高度3メートルを飛行する。高度5メートルでは以前のペアである秋沢が戦死したのだ。雨宮はそれを戦訓として新たに3メートルの超低空飛行で突撃をしたのである。 現に高度5メートルを維持していた指揮官機等も高角砲弾や40ミリ機銃弾に貫かれて撃墜されていた。 「隊長!?」 「構うな雨宮!! ドンドン突っ込めェ!!」 森本が叫ぶ。その直後、『アトランタ』級防巡の警戒艦を通過した。 740: 加賀 :2020/05/17(日) 22 13 37 HOST om126208168164.22.openmobile.ne.jp 「警戒艦通過!!」 「目標空母!!」 「空母ヨーソロー!!」 雨宮機は敵空母ーー『ランドルフ』を捉えた。だが敵空母は右舷へ舵を切った。それを確認した雨宮は舌打ちをする。 「畜生、奴め回頭しやがった!? 発射点に入れない!!」 「雨宮、右だ右旋回だ!!」 偵察員席に座る森本は右を確認しつつ叫ぶ。 「敵の右舷に回り込め!!」 「了解!!」 森本の指示の元、雨宮は機を右に滑らしつつ回頭した敵空母の右舷に回り込んだ。 「距離1000!!」 「まだまだ……」 「距離800!!」 「ヨーイ……」 「700!!」 「撃ェ!!」 雨宮が投下索を引く。雨宮や他の九七式艦攻に搭載された九一式航空魚雷は炸裂火薬が420kgもある改5の魚雷である。約1080kgの重量が切り離され雨宮の機は徐々にゆっくりと上昇するが急激に上昇すれば対空機銃にねらい撃ちをされるので敵空母の飛行甲板ギリギリのところを飛行して通過した。だが通過直後も対空機銃は執拗に雨宮機を銃撃する。 「皆大丈夫か!?」 「大丈夫だ!! 急速避退!! 高度を上げるな!!」 「木場!! 雷跡は……」 雨宮は木場に叫ぶ。その時、『ランドルフ』に水柱が吹き上がった。 「め、命中!! やった、当たったー!?」 機がゆっくりと旋回をすると敵空母から吹き上がった水柱が収まろうとしていた。 「秋沢……福島……見えたか……?」 波間に消えようとしていた『ランドルフ』に雨宮は一筋の涙を流すのである。彼等は列機を率いて帰還するが宜野湾では飛行第5戦隊の宜野湾への攻撃はまだ続いていたのである。 「食らいやがれ!!」 キ102乙に乗る雲野曹長は輸送船に57ミリ砲弾を叩き込む。輸送船程度なら57ミリでも十分だった。その時、雲野機の後方にいた田中曹長のキ102乙が右発動機から炎上した。 「田中!?」 『雲野さん、御世話になりました!!』 田中は機体を何とか操りながらも炎上していた輸送船に体当たりして爆発する。 「……クソッ!!」 『雲野、帰還するぞ』 そこへ長機の戸野本機が告げる。飛行第5戦隊も半数は落とされるも攻撃には成功する。 「後は頼むぞ……」 輸送船団を見つつ雲野はそう呟くのである。 741: 加賀 :2020/05/17(日) 22 20 19 HOST om126208168164.22.openmobile.ne.jp あまり良いのが浮かばないですが何とか…… とりあえずはこれで前後編で完結ですかね
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捨身飼虎 (略)北涼の法盛訳『菩薩投身餓虎起塔因縁経』に拠れば如来前身乾陀摩提国の栴檀摩提太子たり、 貧民に施すを好み所有物一切を施し余物なきに至り、自身を千金銭に売って諸貧人に施し他国の波羅門の奴たり、 たまたま薪を伐りに山に入って牛頭栴檀を得、時にその国の王癩病に罹り名医の教に従い半国を分け与うべしと懸賞して牛頭栴檀を求む、 波羅門太子に教えこの栴檀を奉って立身せよという、太子往きて王に献り王これを身に塗って全快し約のごとく半国を与うるも受けず、 その代りに王に乞うて五十日間あまねく貧民に施さしむ。王その志を感じ布施五十日の後多く銭財を附けて本国に送り還す、 太子国に帰りてことごとく銭財を貧民に施し父母と妃の止むるを固辞し、山に入って仙人に従学す、母夫人時々美膳を送りて供養す、 太子が修道する山の深谷に牝虎あり、新たに七子を生む、 時に大雪降り虎母子を抱き三日食を求むれども得ず、飢寒極めて虎母その子を噉わんとす、 五百の道士これを見て誰か能く身を捨て衆生を救わんと相勧む、太子聞きて崖頭に至り虎母子を抱いて雪に覆われたるを見、 大悲心を発し寂然定に入りて過去無数劫の事を見、帰って師に語るらく、われ昔願あり千身を捨てんと、 すでにかつて九百九十九身を捨てたれば、今日この虎のために身を捨てて満願すべしと、 師曰く卿の志願妙なり必ずわれに先だちて得道すべし、得道せばわれを遺るるなかれと、師と五百道士と涕泣して太子を送り崖頭に至れば、 太子種々その身の過悪を訶責し今我血肉を以てかの餓虎を救い舎利骨のみ余されん、 わが父母後日必ず舎利を収めて塔を建て、一切衆生の病諸薬針灸癒す能わざる者来りてわが塔を至心供養せば、即日必ず除癒を得んと誓い、 この言虚しからずば諸天香華を雨さんと言うに、声に応じて曼陀羅花降り下り大地震動と来た、 太子すなわち鹿皮衣を解きて頭目を纏い、合手して身を虎の前に投じ母虎これを食うて母子ともに活くるを得た、(略) ――――十二支考 南方熊楠/大正三年 ● 天清浄。 地清浄。 内外清浄。 六根清浄。 心性清浄にして諸諸の穢れ不浄なし。 我身は六根清浄なるが故に天地の神と同体なり。 諸諸の法は影の像に随うが如く為す処を行う処清く浄ければ所願成就。 福寿窮まりなく最尊無上の霊宝。 吾今具足して意清浄ならん――。 己は一体何者なのか――。 穴持たずポークと呼称される存在は、そんな事を考えている。 羆――ではあるのだろう。ネコ目クマ科に属する哺乳類である。 それは間違いない。 だが。 己を含むこの世界に存在する羆達は、明らかにその定義から逸脱している。 突然変異などと云うレヴェルではない。 大体、己が今こうして思考を行っている事が既に有り得ない事なのだ。 人間の言葉を理解するけだものも。 けだものの感情を理解する人間も。 現実にはいない。 いるとしたら、それは理解したつもりになっているだけだ。 動物が何を視て何を思っているのか、所詮人間には一つも理解は出来ぬのだ。 所謂愛玩動物が人に懐くのは、生きる為だ。 餌を食うために動物の方が合わせているだけだ。 人は勝手に犬や猫を人に見立てて友情や愛情を一方的に感じているが、それは間違いだ。 可愛がると云う行為は一種の虐待なのである。 動物は我慢しているだけだ。 我慢すれば糧を得られると、そう学習したから、そのようにしているだけなのだ。 それと同様に、自分が人間を殺すのも、単にそれが捕食する対象であるからに過ぎぬ。 食人の風習がある人間の民族もあると云うが、矢張り旅人を獲って食うような習慣はない。 喰うとしても食物ではなく、寧ろ死者に対しての敬意を表するが故に食する事が多いのだ。 そうでなかったとしても、例えば同族は喰ってはいけないだとかルールが定められている。 何れにせよ、そんなものはけだものには無い。 その――筈なのに。 己には、それ――感情に類するもの――があるように思えるのは。 何故だ。 脳裏に浮かぶのは、先程己が殺めた人間の事である。 ――あれは。 何のつもりだったのか。 慈悲か。命乞いか。凡てを諦めていたのか。己には迚も察せぬような何かがあったのか。 ――違うな。 問題はそんな事ではないのだ。 結局のところ、他人が何を考えて行動しているのかは、絶対に解らない。 だから。 あの人間の行動を理解しようとしている事、それ自体が問題なのだ。 そんな事を思っておき乍ら、己はあの人間を殺めている。 喰らうでもなく、只殺すために殺したのだ。それが当然の事であるかのように。 人の如く思いを巡らし、しかし人を殺さずにはいられぬ禽獣。 それは既に、イメヱジの中にしか存在し得ぬ怪物であろう。 ――そう。 怪物だ。 己は羆のカタチをした怪物怪獣化物モンスタークリーチャーなのだ。 穴持たずポークはそう結論した。 ならば――その怪物に慈悲の心を示したあの人間は、それこそ生き仏だったか。 南無帰依仏。 南無帰依法。 南無帰依僧。 南無帰命頂礼。 大日大聖不動明王。 四大八大不動明王。 ――莫迦な事を。 仏の教えなど。己からは――。 この狂気の世界からは、最も遠いものではないか。 三昧法螺声。 一乗妙法説。 経耳滅煩悩。 当入阿字門。 低い唸り声を穴持たずポークは発した。 或いは――己は、嘗ては人間だったのやも知れぬ。 その行い故に、冥府魔道へと堕ちたのやも知れぬ。 因果が為に現世にてこの姿になったのやも知れぬ。 だがそれはもう、関係がない事だ。 ――止めておけ。 考えるのは。 己の事も。あの人間の事も。 ただ喰らうのみ――それが己の存在意義だ。 それで――善いのだ。 阿毘羅吽欠縛日羅駄都鑁。 無人の街を穴持たずポークは進む。 茫洋とした月明かりが、茫洋とした景色を胡乱に浮かび上がらせる。 街には其処彼処に洞穴の如き暗闇がぽかりと口を開けている。 裂け目からひょいと覗けば、覗いた者は簡単に闇に取り込まれてしまう。 そんな危うさがある。 ただ闇雲に進む。 獲物がいれば。 ――狩るだけだ。 そして。 穴持たずポークは――自らが喰らうべきモノを視た。 黄金と紅色に彩られた様々な形の食物――クッキー。 無数に存在するそれが、宙を舞っていた。 ――あれは。 それが何なのか、穴持たずポークは即座に理解した。 災害だ。 放置すれば際限なく増え続け、星を、宇宙を、世界を喰らい尽くすモノだ。 ――関係ない。 喰らう。 喰らうのみ。 いずれ腹の中に収まるもの。 人も。鮭も。豚も。菓子も。何であろうが――喰らう。 穴持たずポークは。 翔んだ。 既に物理法則は超越した身。 喰らうべきものがあるのなら、其処に向かうだけだ。 唵。 縛日羅。 羅多耶。 吽。 唵薩縛。 怛他蘗多。 幡耶。 満耶襄。 荒れ狂う竜巻の中、穴持たずポークはクッキーと云う名の災害を只管に消費する。 オートミールレーズン。ビーナッツバター。プレーン。ココナッツ。ホワイトチョコレート。 マカダミアナッツ。ダブルチップ。シュガー。ホワイトチョコレートマカダミアナッツ。 オールチョコレート。ダークチョコレートコーティング。ホワイトチョコレートコーティング。 エクリプス。ゼブラ。スニッカードゥードル。ストロープワッフル。マカローン。 エンパイアビスケット。紅茶ビスケット。チョコレート紅茶ビスケット。丸い紅茶ビスケット。 丸いチョコレート紅茶ビスケット。ハートモチーフ付き丸い紅茶ビスケット。 ハートモチーフ付き丸いチョコレート紅茶ビスケット。 マドレーヌ。パルミエ。パレット。サブレ。カラモア。サガロン。 ショートフォイル。ウィンミント。フィググラトン。ロアオル。 唵阿莫伽毘盧遮那摩訶母駄羅摩尼鉢納摩人縛羅鉢羅韈利多耶吽――。 喰らう。 十兆を喰らった時点で内臓は機能を停止した。 喰らう。 十五兆を喰らった時点で脳が弾けた。 喰らう。 己はそう云うモノだからだ。 吾今具足して意清浄ならん。 最後の一つ迄も喰らい尽くし――。 膨張した穴持たずポークは、弾けて消えた。 目の前には何もない空間が広がっている。 虚空だ。 ――否。 穴持たずポークは、無量大数程の隔たりがある遥か彼方に、己が殺めた人間の姿を視た。 笑顔で。 こちらに皿を差し出している。 ――もう喰ったさ。 ――腹ァ……いっぱいだ。 そして穴持たずポークは思った。 仮に自分を操り、行動を取らせた者がいるのだとすれば――。 結局この台詞を云わせたかっただけなんじゃないのか、と。 【穴持たずポーク 死亡】 ※穴持たずポークの死体は消滅しました。 ※クッキートルネードは穴持たずポークに喰い尽くされました。 No.056 パラ・ユニフス 投下順 No.058 ヒグマよ、大死を抱け No.055 明日に輝かせる 時系列順 No.059 最強との遭遇 No.018 ヒグマのグルメ 穴持たずポーク 死亡
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予定していた風呂の補強が早く済み、暇をもてあました僕は、その時間を休憩へと当てることにした。 屯所から一時的に借りてきた机を件の風呂場の横に置いただけの休憩所で、僕はゆっくりと与えられた時間を過ごす。 ぼーっと空を眺めていた僕はふと、テーブルを挟んだ向かいに座る、意外な客人に目を向ける。いつぞやの青い髪のちびっ子だ。 僕と接点のない彼女が、何故今、この場にいるのかということは目の前にある、厨房から借りてきたポットに入った液体と関係がある。 僕は机に置かれた木のコップに、そのポットの中の液体をなみなみと注いでいく。 ポットから出、本来の鮮やかな色を露わにした液体は、僕にとって馴染み深い良い香りを放っている。 それもそのはず、コレは僕が入れたお茶だ。 普段はこういう事はしないのだが、たまにはと思って入れてみたのだ。 僕はその、お茶をそそいだコップを目の前のちびっ子……タバサというらしい……へと進めた。 「もう一杯飲みますか?」 目の前のタバサは、僕のその言葉に、こくんとだけ頷き、僕がテーブルにおいたコップを手に取って、グイィーっと飲み干した。 そして飲み干したコップの底を、じーっと見つめる。 「おかわりなら、まだまだありますよ」 そう言いながら、僕はポットを振って、まだ中に多量のお茶が入っているということを示す。 タバサはそれを聞いて、僕の方へとコップを渡した。 僕はそのコップを受け取って、再び、そのコップになみなみとお茶を注ぎ、またタバサへと渡す。 タバサは受け取ったお茶を、またもやグイィーっと一気に飲み干す。 そして再度、僕の方へとコップを渡す。 とまぁ先程から、そんな事を何度も繰り返している。 僕は何故、こういう事になったのか、その元となった『ムラサキヨモギ』のお茶を何故作ろうと思ったのか、それについて思い起こすことにした。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 目の前にたんと積まれたムラサキヨモギを前に、これをどう処理するかについて、僕は悩んでいた。 捨てても良いのだが、何かに使えそうなので捨てるのは少しばかりもったいない。 まさしく鶏肋といった奴である。 「一応、香りはヨモギなんだが……」 最初に浮かんだ案は傷薬。 ヨモギはお灸などにも使われる植物だ。よく洗えば、消毒液にも使えるだろう。 しかしながら、調合するにしても、そのまま絞ったエキスを張るにしても、それだけでこの量を全てを消費するのは無理がある。 最悪、成分が違うかもしれないため、そういう効果は見込めない可能性もあるしな。 次に浮かんだのが料理の香り付けだが、僕らは料理を作る必要はないし、高級な食材を多く使う厨房に、こんな何処ともしれない所から摘んだ草を持っていっても、鬱陶しがられるだけだ。 ならいっそ、お茶にしてみるのも良いかもしれない。 香りはヨモギと同じで、非常によい香りだ。それに…… 「水で薄めれば、飲める様になるかもしれないな」 思い立ったが吉日。 僕は颯爽とお茶を入れる準備を始めた。 今回は葉を乾燥させている余裕はないので、煎って水分を飛ばす。 僕はその間に、ポットを借してもらいに厨房へと向かう。 火元から離れる。今になって思えば、それが不味かった。 「……」 見事に酸化、もとい焦げた。 非常に香ばしい匂いがする。食べれば満腹度が下がってしまうのは間違いないだろう。 しかし、どうやら内側の方のヨモギは無事なようだ。 僕は無事な葉をかき集め、お湯を入れた。 お湯はこぽこぽと煙を上げ、少しずつ薄紫色の液体へと変化する。 そしてその液体に、もう一度葉を通し、さらに色を濃くしていく。 僕はその作業を十回ほど繰り返した。 結果、コップの底が見えぬほど濁った、紫色の液体が完成する。 その液体から放たれるヨモギの香りが、香水のようにしつこいほどに鼻につく。 これは下手な場所には捨てられないな。 正直、見通しが甘かったとしか言えない。 焦げてしまった分、味も元よりも苦いのではないのだろうか? そこで問題だ、どうやってこの入れてしまったお茶を処分するか? 3択-一つだけ選びなさい ①ハンサムの花京院は突如、丁度いい捨て場所が思いつく。 ②誰かがきて、犠牲になってくれる。 ③飲むしかない。現実は非情である。 僕の理想は2だが、刻限になっても姿を見せない才人が、今すぐここに都合よく現れて、アメコミのヒーローの様にジャジャーン、『待ってました!』と犠牲になってくれるというわけにはいかない。 逆に、さらに厄介なことに僕を巻き込む準備をしているのかもしれない。 という事は1しかないッ! 「『ハイエロファント・グリーン』! コイツを捨てられる場所を探し出せッ!」 僕はハイエロファントを辺り一帯、100mもの距離に渡って張り巡らせる。 と決闘の時、才人の身体を洗い流した洗い場があったな。 彼処なら捨てても問題はないし、今更、匂いの一つぐらいたいした問題にもならないだろう。 それで良いのかという気もするが。 答え― ① ① ① 僕は早速ポットを持って、洗い場の方へ向かおうと立ち上がった。 「……この香り」 「……!?」 予期せぬ所から声を聞き、僕は思わず身構えた。 何時の間にか、近くにはいつぞやのちびっ子がいたのだ。 微妙に鼻をひくつかせ、このポットの匂いを感じ取っているようである。 ちびっ子は何度か辺りを確認して、匂いの発生源を僕と断定したのか、こちらへと近づいてくる。 念のため僕はスタンドを自分の守りに回し、相手の出方をうかがう。 「………」 ちびっ子が、僕の面前1mぐらいにまで寄ってきた。 そして彼女は、ゆっくりとその口を開く。 「ムラサキヨモギ」 「?」 唐突に、その香りの元である葉の名前を口にした少女は、僕の手にあるポットをじーっと見つめている。 ひょっとしてコレが、欲しいのだろうか? 処分に困っていた僕は、目の前の少女に勧めてみることにした。 「えっと……」 そういえば僕は、彼女の名前を知らない。 確かキュルケが名前で呼んでいた気もするが…… 僕が彼女の名前を思い出そうとしている間に、彼女の方が自ら名乗り出た。 「タバサ」 「タバサさんですね。僕はノリアキです。……立ったままというのも何でしょうから、どうぞここに座ってください。お茶でも飲んで、話でもしましょう」 少女はこくんと頷き、僕とテーブルを挟んだ向かい側へと座る。 僕はポットのお茶をコップに注ぎ、それをタバサの前へと出した。タバサは黙ってそのコップを受け取る。 「…………!」 「どうしました? ヌルイから飲むのは嫌ですか?」 タバサはコップを顔にまで近づけた所で、思わず顔をしかめた。 おそらく、相当に匂いがきつかったのだろう。 僕は思わず心の中で微笑んだ。 彼女にはいつぞやのチェリーの恨みがあるからだ。 さて、どうする? 僕はタバサの方を眺め、彼女の次の行動を待った。 グイィィー 彼女はなんと! 意外なことに、それを一気に飲み干した! 「なァにぃイーーーッ!?」 そしてッ! 彼女は続けて机の上に置いてあったポットの蓋を、かちゃっとずらす! コイツ、おかわりをする気だ……ッ! コイツにはおかわりをすると言ったら、絶対にやる『凄み』があるッ! 「タバサ! 貴様、このお茶を飲み慣れているなッ!」 「答える必要はない」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― そういうわけでタバサと僕は今、同席をしているというわけだ。 ちなみに今、彼女は20回目のおかわりを飲み終え、僕に21回目のおかわりを要求している。 僕は初めと比べ、大分軽くなったポットを持ち、おそらくコレが最後になるであろうお茶をコップへと注ぐ。 彼女はその、最後のお茶を顔色一つ変えずに飲み干す。 そして、またポットの蓋をずらした。 しかし、既におかわりのお茶は切らしてしまっている。 「もうありませんよ」 「そう……」 彼女は少し残念そうに顔を伏せる。まさか、気に入ったのだろうか? 「美味しかった。コレはお礼のはしばみ草」 「……あ、ありがとうございます」 「多分、合うと思う」 そういって、タバサは僕になにやら見たことのない草を渡してくる。 そして僕の礼を聞くと、そのまま彼女は校舎の方へと戻っていった。 その彼女の後ろを6mはありそうな、俗に言う竜が追いかける。 僕はその一人と一頭の後ろ姿を、じっと眺めながら、渡された草を口に放り込んだ。 「………………!?」 ヤバイほどの苦みが、口内を襲った。 全く味わったことがないタイプの苦みだ。 しかも目一杯、一気に口にしてしまった所為ではき出そうにもはき出せない。 負けたよ…… 完全…… 敗北だ…… 「大きな星がついたり消えたりしている…… 大きい…… 彗星かな? いや、違う。違うな。彗星はバアーッと動くもんな…」 僕はかろうじて意識を持ちながら、そんなことをつぶやいて、タバサの後ろ姿を見送るのであった。 To be contenued……
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「ただいま戻ったぜ、マスター。」 聖杯戦争に選ばれたケイネス・エルメロイ・アーチボルトが住む屋敷。 二階に有るは、密閉された様な作りになっている応接間。 今日の偵察を終えたランサーのサーヴァント、クー・フーリンは其処で実体化し、ソファに腰掛けて考え事をしているケイネスに声を掛ける。 「戻ったか、それで、マスターは何人程見つかった?」 やや険しげな表情で、ケイネスはランサーに問う。 聖杯戦争の本戦が始まって間も立っていない頃。 対聖杯を目指すケイネスが序盤に行うのは、まずは同盟相手を見つけること。 現状においてこのSE.RA.PHに残る主従を把握しておく偵察も兼ねて、交渉相手を探す、と言う魂胆だ。 眉間に皺を寄せ不機嫌そうな表情を見せるケイネスに対し、ランサーは相も変わらず軽い態度で、ケイネスの問いに答える。 「今夜発見できたのは5組程だな。」 ランサーは更に詳しく説明する。 何処にでもいそうな平凡な少年と、蒼い甲冑を身に纏って戦うセイバー。 まるで男のように凛々しい少女と、真紅の巨人を操るライダー。 無数の剣を召喚し操るバーサーカー。 漆黒の剣を振るい戦う、かのサンタクロースを模した格好をしたキャスター。 曲刀を振るって戦う、幻想種に近い匂いのする端正な顔立ちを持ったキャスター。 これら五組の特徴を、ランサーは己のマスターに話せる限り話す。 「この内バーサーカーは同盟を拒否した、残りの四組は考えておくと言っはくれたけどな。 残りの四人の内、二組のキャスターは学校に、セイバーとライダーのマスターには彼処のビルに集合するように伝えてある。 集めるのは面倒だが、ま、この方が秘匿するには丁度良いだろう。」 「そうか、良くやった、ランサー。」 己のサーヴァントの報告に、ケイネスはうむ、と頷く。 これで同盟を組めそうな主従は、必要な数は揃った。 パラメータこそは分からないが、それでも興味深い能力を持ったサーヴァントかと思われる。 剣を使うキャスターと言うのは、些か変だとは思うが。 勿論、今後も同盟者を集めていく方針には有る。 だが、数を成すには最低限の主従は揃った。 此処で一息つき、ケイネスは別のことに思考を移す。 (しかし、あの使い魔…一体どの様な仕組みに有ると言うのだ……) それよりもケイネスが気がかりなのは、先程ランサーが拾った謎の使い魔。 仕組みとしてはゴーレムに近いが、問題は其処ではない。 まず、この使い魔を形作る素材が不明なのだ。 (解剖してみた所幻想種の骸を使ったようでは有るが、しかし私の知るものではない素材だ……) 降霊科の人間とは言え、ケイネスは名の轟いた魔術師だ。 幻想種の種類の一つや二つぐらいなら分かる。 だが、幻想種の骸等、天下の時計塔でさえ持っている数が少なすぎる代物だ。 それを、一体どの様に調達しているというのか。 (或いは、キャスターのサーヴァントか……) しかし、ケイネスには一つの疑念が浮かぶ。 確かに、「並の」魔術師「でなら」、幻想種を扱った使い魔の作成は困難を極めるかもしれない。 だがしかし、サーヴァントでなら、可能ではないのか。 キャスターにはクラススキル「道具作成」が有る。 魔術師としての逸話によって、英霊の座に昇ったサーヴァントには、必然的に現代では作成が難しい礼装や使い魔の作成が容易に出来る者も時折存在する。 例えば、かの迷宮ラビリンスを生み出したギリシャ最大の建築者ダイダロスの様に。 それにこのランサー、クー・フーリンも、ルーン魔術を扱ったキャスターとしての適性が有るとされている。 (構造自体はゴーレムに近いが、根本的には全くの別物だな) ゴーレムに関してはある程度齧った程度の知識では有るが、ケイネスにも分からないことはない。 少なくとも、羊皮紙に刻まれたコマンドで動き出す、カバラ系統の魔術で創られた使い魔であるという程度の事ぐらいは。 (しかし、この魔術系統は……) ケイネスが解析してみた所、この使い魔の素材は、どうやら「生きている」事が判明している。 いや、生きていると一口に言っても、動物を扱った使い魔のように骸をそのまま操っている訳ではない。 この使い魔に使っている素材その物が「生きている」のだ。 (だが、生物を操ると言うのは、とてもカバラでは難しい芸当だ……いや、だがまさか……) ケイネスは思考する。 確かに、ゴーレムを操る魔術であるカバラには、生きた生物の身体を扱うと言う芸当は難しい。 ネクロマンサーにしてみても、そんなことが出来るとは聞いていない。 (しかし呪術ならば、その様な芸当が出来ると聞いているが…) ヨーロッパの魔術師であるケイネスにとって、呪術と言うのはあまり馴染みの無い魔術系統だ。 関わった魔術師も、内知っているのは冬木の聖杯戦争の運営者にして参加者であるマキリ。 もう一つは、ケイネスの偽りの記憶に有る時計塔の魔術師。 「柊」と言う日本の名門呪術師だが、其処の若者が、ケイネスの「偽られた」記憶の中で、時計塔の学部で威張り散らしていた記憶を垣間見る。 所詮フェイクの記憶であるため、顔も実力も定かに覚えてはいないが。 (だが、私の知る中でヒイラギと言った魔術師は時計塔には存在しない……まさか聖杯戦争に参加している……等という事は……) 虚構世界、SE.RA.PH。 其処には、ケイネスの知らぬ人間が腐るほど住み着いている。 もしそのヒイラギと言う若い魔術師が、其処にいたとしたら。 (何れは、決闘を申し込むことも、有り得るかもしれんな……) 此処で、思考をその使い魔の件に移す。 更に調べてみた所、この使い魔には、コマンドを打ち込むための「コネクタ」の様な式が組み込まれていたのだ。 ゴーレムで言う所の、コマンドを書き込む為の羊皮紙の様な物だ。 何かしらの礼装を媒介にしてコマンドを打ち込み、操るための物だそうだ。 穴を開けられ機能が停止している以上、動かしようは無いが。 (解析の余地はある、今後も続けるとしよう……) そう考え、ケイネスはすくっと席を立ち、使い魔の待つ魔術工房の有る部屋に行こうと、部屋のドアノブに足を向かわせる。 窓の外から見える景色を眺めていたランサーは、それに感づき、彼のいる方向に振り向く。 「おい、マスター、戻るのか。」 「工房で調べておきたい物がある、貴様は偵察に戻るが良い。」 冷たい表情で顔を振り返らせたケイネスの答えに、ランサーは、ははん、と納得する。 「まさか、昼間の使い魔の件かい?」 「然り、アレには解析の余地が山程有る、それに他の主従の手先を読む一手にも成りうる可能性が有るからな。 良いかランサー、この件は絶対に漏らすなよ。」 「良いのか?」 「敵に情報が漏れる恐れがある、何より、魔術のいろはも知らぬ者達に何故、それを教える必要がある。」 不機嫌さを顔に浮きぼらせたケイネスの表情にランサーは、おう、と頷いた。 「んじゃ、またサーヴァントが見つかったら声を掛ける、何かあったら令呪で喚べよ。」 「ああ、分かっている。」 そう言った会話を交わした後、ランサーは窓から飛び降り、外から見える屋根と屋根を足場にして飛び去る。 ケイネスはそれを確認し、窓を閉じ、再び魔術工房へと向かう。 本戦が始まって1日目が終わろうとしている。 戦いは、まだまだこれから。 【D-7/高級住宅街/1日目 夜(23 50)】 【ケイネス・エルメロイ・アーチボルト@Fate/Zero】 [状態] 健康 [令呪]残り3画 [装備] 月霊髄液(ウォールメン・ハイドラグラム) [道具] [所持金] かなり裕福 [思考・状況] 基本行動方針:他の主従と同盟を結び、この聖杯戦争に誅伐を下す。 1. 同盟相手は可能な限り増やす。 2. 自身の手の内は可能な限り秘匿する。 3.何なんだ、この使い魔は 4.昼間になったら、夜になるまで仮眠をとっておく予定に有る。 [備考] キャスター(布道レオ)の組み立てた号竜の仕組みを解析しました。 偽られた記憶においても時計塔にいたそうですが、その時柊暮人と言う生徒が在籍していた、と言う記憶を朧気に持っている。 【ランサー(クー・フーリン)@Fate/stay night】 [状態] 健康 [装備] 刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)、現在はケイネスが用意した宝具の正体を隠すための呪符が巻かれておりそれを外さなければ真名解放は不可能である。 [道具] 無し [所持金] マスターに依存 [思考・状況] 基本行動方針:マスターに従う。強者と死力を尽くして戦う。 1. 他の主従を捜す [備考] 1.同盟を申し立てた相手には、それぞれ出会ってから24時間後に出会った場所に集合するよう伝える。 2.セイバー(剣崎一真)、ライダー(フル・フロンタル)、バーサーカー(黙示録の獣)、キャスター(ラゼィル・ラファルガ―)、キャスター(ナーサリーライム)のステータスをケイネスに報告しました。 投下順で読む 前ページ 次ページ 14.目指す先はZEROランサー 時系列順で読む 前ページ 次ページ 14.目指す先はZEROランサー キャラ別で読む 前ページ 今回の登場人物 次ページ 00.初めの一捲り~「病」の章~ ケイネス・エルメロイ・アーチボルト 02.裏切りの魔女「お前らちょっとそこ座れ」 ランサー(クー・フーリン)