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宣戦布告(後編) ◆uBMOCQkEHY氏 「ふざけるなっ!」 この直後、黒崎が机を叩き、小太郎に問い詰める。 「今まで黙っていたが我慢ならないっ!これのどこが本質だっ!こんな・・・」 しかし、ここで黒崎の音声が途切れる。 小太郎がキーボードの隣にあるボタンを押していた。 「部外者はゲームが終わるまで、黙っていてね☆」 小太郎は和也たちに顔を向ける。 「黒崎さんにはゲームが終わるまで消音設定にしてもらったよ・・・! 彼が口を挟むと、ゲームが興ざめしちゃうからね♪」 「勝手にしろ・・・」 和也はノートパソコンを奪うように掴み、持ち上げた。 「解くぞっ!村上っ!」 「は・・・はいっ!」 和也と村上は金庫の前に座り込む。 和也は村上にノートパソコンを持たせると、“うむっ・・・”と声を唸らせ考え込む。 あまり当てにならないとは言え、まずはヒントから切り込んでいく。 小太郎が示したヒントは“このゲームの本質”。 ――『ハングマン』の本質か・・・ 『ハングマン』で求められていることは英単語を推理し、その単語を言い当てること。 ――いや、そもそも・・・ 「なぁ・・・村上・・・」 和也は村上の方を振り向き、見据える。 「あの・・・なんでしょうか・・・?」 引き込まれそうな和也の眼力に、村上は思わず息を呑む。 “何か思いついたのか・・・”と村上の直感が告げる。 和也の口から飛び出たのは意外な言葉だった。 「悪いが・・・オレ・・・英語・・・苦手なんだっ・・・! スペル・・・一緒に考えてくれないか・・・?」 「は・・・ハァッ!?」 村上の語尾が上ずる。 これは問題を考える以前の問題だ。 たとえ解答が分かったとしても、その単語を知らなければ答えようがない。 村上の不満げな反応に、和也はムッとふて腐れる。 「こっちはまだ、学生なんだっ! 分からない英語があったって、しょうがねぇじゃん!」 「えっ・・・学生って・・・和也様って、もしかして、未成年だったんですかっ!」 「ハァ!?オレをいくつぐらいに思っていたんだっ!お前は!?」 「・・・25、6歳くらい・・・少なくとも一条様より年上・・・」 「お前の目は節穴かっ!!」 ギャンブルが始まって早々のまさかの仲間割れ。 痴話喧嘩のような二人のやり取りに、在全も小太郎もケラケラと腹を抱えて笑い転げる。 在全と小太郎の様子を目の当たりにした村上はばつが悪そうに、和也を諌める。 「と・・・とにかく、今は言い争いをしているときではございません・・・ 答えを解きましょう・・・!」 ここで村上は場の空気を変えるため、ある提案をする。 「アルファベットはよく使われるものとあまり使われないものがございますっ! 確率上、よく使用されるアルファベットを当てはめて、ある程度埋まってから推理するんですっ!」 和也は“ほう・・・”と唸る。 「つまり、初めに入力するアルファベットは・・・」 「・・・「A」「I」「U」「E」「O」です・・・」 村上の言っていることは正しい。 ハングマンにはETAOIN SHRDLUの法則が存在する。 この法則に挙げられた12文字はアルファベットでも使用頻度が高いものであり、 これらのアルファベットを選択すれば、自ずと正解率が上がるのだ。 もちろん、村上はこの法則のことなど知る由もない。 しかし、村上が挙げた「A」「I」「U」「E」「O」――日本語の母音にあたる五つの単語はいずれも該当している。 「アルファベットは26文字・・・解答チャンスは7回・・・1/4ぐらいの確率か・・・」 枠に当てはまるアルファベットがかぶれば確率は若干変わってくるが、それでも確率だけで考えれば決して低くはない。 ――でたらめにアルファベットを選んでも何とかなるかもな・・・ 和也はそんな楽観的な考えを胸に秘めながら、村上の意見に頷く。 「よし・・・それでいこう・・・!」 和也は覚悟を決めると、金庫の「A」のボタンを強く押した。 パソコンに表示されたのは―― 『不正解』 ブーという耳障りな音と画面いっぱいに現れた赤いバツの印。 それと同時に、ピ・・・ピ・・・と、和也の首輪から警告音が時計の秒針の間隔で木霊する。 「何だと・・・!」 和也は思わず首輪を抑える。 慌てふためく和也の様子を見て、小太郎は愉快そうに馬鹿笑いする。 「言い忘れていたけど間違うたびに、首輪の警告音の間隔が短くなっていくよっ! あと、パソコンの絞首台のイラストを見てくれたまえっ!」 絞首台のイラストには人間の頭を連想させる円が書き込まれていた。 「このイラストはハングマンの肝・・・解答制限を表すイラストさっ! 間違うごとに身体が書き込まれ、最後に首輪が描かれた時が和也君の最後さっ!」 ――頭、胴体、右腕、左腕、右足、左足、首輪・・・ だから解答チャンスが7回なのか・・・ 和也は首輪をさすりながら、吐き捨てる。 「爆破するか、吊るかの違いはあるが、首を賭けたゲームであることには変わりねぇ・・・ えげつねぇよ・・・まったく・・・」 「それはとってもホメ言葉・・・!ありがとうね・・・和也ちん☆」 「・・・どういたして・・・」 小太郎の言葉に突っ込む気にもなれず、和也はそっぽを向く。 「時間がない・・・残りの母音を選択する・・・!」 和也は「I」「U」「E」「O」のボタンを押していく。 しかし、いずれもその答えは―― 『不正解』『不正解』『不正解』『不正解』 「はぁ!?」 二人とも開いた口が塞がらない。 理屈上は完璧だった。 それだけに反動の失望感も大きい。 和也はわなわなと拳を震わせたまま、村上に詰め寄った。 「おいっ・・・ちっともかすりもしねぇじゃねぇか・・・!」 「でも・・・それ以外、思い付かなくて・・・!」 あまりに理不尽な和也の問い詰めに、村上は半泣きになりながら意見する。 心なしか語尾も潤んでいる。 「・・・すまない・・・」 村上に噛みついたのは所詮、苛立ちを紛らわすための八つ当たりでしかない。 それを理解しているだけに、和也は黙って村上を突き放した。 二人がそうこうしている間にも、絞首台のイラストには胴体、右腕、左腕、右足が次々と書き込まれる。 気がつくと、警告音の間隔は時計の秒針から早足の歩調にまで短くなっていた。 チャンスは後2回。 ――何が何とかなるだっ! 「くそっ!」 和也が悔しさに任せて、金庫の壁を叩く。 先程まであれほど大口を叩いていた男が見せた、ある種の醜態。 加虐心が満たされるのか、在全は満足そうな笑いで和也に忠告する。 「兵藤和也、安心せい・・・! 今回の問題は英語が分からぬ類人猿でも分かるような解答となっておる・・・!」 「あぁ?類人猿でも分かるような解答だと・・・?」 和也は眉を曇らしながら、ハッと気づいた。 「・・・アルファベットは答えに含まれていない・・・って、ことか・・・!」 「え・・・どういうことですか・・・?」 村上の問いに、和也は手短に答える。 「さっき在全は“英語が分からぬ類人猿でも分かるような解答”と言った・・・ 英語を知る必要なない・・・答えは英単語ではない・・・ じゃあ、ローマ字で表示する日本語かと言えば、それも違う・・・ 何せ、ローマ字を成立するために必要な母音は全て枠に該当しなかったからな・・・ つまり・・・」 和也は金庫のアルファベットの隣にあるボタンを凝視する。 「枠に入るのは・・・数字だっ・・・!」 やっとここで黒崎が激怒した理由が分かった。 答えが数字の羅列だからこそ、黒崎は小太郎のヒントを理解することができなかったのだ。 ――あの頭が働く黒崎でさえ分からないってのはかなり厄介だな・・・ 「なかなかの着眼点・・・」 在全はいいものを見せてもらったと言わんばかりに手を叩く。 「多少は知恵があるようなじゃの・・・ 類人猿から赤子ぐらいには評価を上げてやろう・・・! じゃが・・・残り時間はあと5分を切ったぞっ・・・!」 確かにパソコンの画面上の時間は5分と表示されている。 ――数字でかつ、『ハングマン』の本質・・・ 和也は頭をかきながら、思考をめぐらす。 しかし、どんなに悩み抜いたところで、決定打が見つからない。 「おいっ!村上っ!」 和也から飛び出した言葉はとんでもないものだった。 「お前の好きな数字を言え・・・!」 「えっ・・・エェ!?」 村上はめまいを覚える。 村上の提案のせいで、解答権を5つも失っている。 その人間に選択権を与えるのだ。 正気の沙汰とは思えなかった。 「え・・・えっと・・・」 ここで間違えたら、今後誤答が許されない。 重圧が村上の心を蹂躙していく。 しかし、どんなに避けたいことであったとしても、命令である以上、答えざるを得ない。 ――オレなんかが当てられるはずがないっ! 激流のように掻き乱れた思考から導き出された解答を村上は唇から漏らした。 「「3」・・・「3」はどうでしょうか・・・?」 「「3」・・・だと・・・?」 「あの・・・ゲームの主催者は帝愛、在全、誠京の3グループで、 和也様、利根川様、一条様も3人だから・・・ 「3」は我々にとって、とてもなじみ深い数字で・・・」 パニック状態故にしょうがないことだが、村上の論理はこぎつけでしかない。 普通の人間なら、パートナーの無様な姿を目の当たりにして絶望を覚えることだろう。 しかし、和也はそれに当て嵌まることはなかった。 「確かに、「3」って数字はよく絡んでくるよな・・・」 村上の言葉を受け入れ、「3」のボタンへ指を動かし始めたのだ。 「え・・・」 まさか、失態を重ねた男の言葉を素直に受け入れるとは思わず、村上は防衛本能から理性を取り戻す。 「やめてくださいっ!私の言ったことは支離滅裂っ!もし、間違えたら・・・」 和也の指が「3」のボタンの手前で止まる。 「確かに・・・お前の言ったことは間違っているな・・・」 和也の言葉に、思い留まってくれたかと村上は安堵を覚える。 「そうですよ・・・だから、もっと冷静になって・・・」 和也は呆れたような溜息をつくと、“どうも・・・オレとお前の認識は少しずれているようだ・・・”と呟く。 「お前が間違っていることは・・・お前も含めて、オレ達は「4」人ってところだっ!」 和也の指が弾かれたように移動し、「4」を力強くプッシュした。 「なんですかっ!その理屈はっ!」 村上は和也が目上の人間に当たることも忘れ、金切り声で叫ぶ。 先ほどの村上の選択理由も半ば投げやりなものであったが、和也の理由も負けず劣らず、いい加減極まりない。 サイコロの目のような運だめしで正解を当てられるはずがない。 “終わった・・”と、心の中で村上が嘆いたその時だった。 『正解』 ピンポンという軽い機械音とともに五つの枠の最後の欄に「4」が浮かび上がる。 ちょうど、画面で見ると、 □□□□4 このように表示されている。 「う・・・うそ・・・」 村上は口を中途半端に開いたまま、画面を見つめる。 しかし、枠の中に4という数字が入っていることと、イラストに線が追加されていないことから、 これが現実であることを認識する。 「や・・・ヤッター!!!」 村上は喜びを体現するが如く、雄叫びをあげる。 今まで不正解が続いていただけに、負のスパイラルから抜け出した解放感は格別である。 それを横目で見ながら、和也は緊張を緩めたような吐息を漏らす。 ――やっと、オレ達に流れが来たかっ! 村上に大事な局面を委ねたのは特に理由はない。 しいて理由を問われれば、ヒントが当てにならない状況下で、誰が数字を選択しても同じこと。 ならば、あえて自分ではなく、村上に選ばしたら正解を当てるかもしれない・・・という 直感が働いたからとも言うべきだろうか。 和也はこうしたら事態が大きく動くかもしれない、面白い展開になるかもしれないという直感が恐ろしく働き、 それを形として生み出すことに長けている男である。 それを表わすように、和也が考えた拷問ショーが日夜開催される会員制レストランは常に客が絶えることがない。 また、その才能は「愛よりも剣」などの展開が読めない小説においても遺憾無く発揮されている。 その直感が今、勝利を確信している。 ――この波に乗って、オレは這い上がるっ! 「村上っ!次の数字を指定するんだっ!」 「はいっ!では「1」とかどうでしょうか!」 村上も流れがあると感じているのか、張りのある声で返答する。 「構わないが・・・どうして・・・?」 「それは・・・」 村上の心に一条とともに、働いてきた裏カジノの日々。 一条が黒服によって、地下王国へ連れて行かれる瞬間が走馬灯のようによみがえる。 「・・・私を導いてくださった数字ですから・・・」 ――“一”条だからか・・・ 「いいぜ・・・!」 和也は金庫の「1」のボタンを押した。 何も考えない方が上手くいくときもある。 何より、村上の言葉に秘められた意志の強さが更なる前進の予感を覚えさせた。 そして、パソコンの画面に現れたのは―― 『不正解』 ここまでだった。 運命は和也の予感、村上の希望をもろくも決壊させた。 「あ・・・あぁ・・・」 村上の視界が水の上を漂う油のように、ぐにゃあと歪む。 画面のイラストに左足が追加された。 村上は立ち眩みにも似た感覚を覚え、額に手をやる。 「もう・・・チャンスは・・・」 「キャハハハハハ!」 小太郎がふんぞり返って呵々大笑する。 「さっきから村上の馬鹿の意見を聞いてチャンスを無駄に消費してばかりだね♪ 不憫だよね・・・!か・ず・や・ち・ん☆」 ――そうだ・・・その通りだ・・・ 村上は拳を震わせ、歯をぐっと噛みしめる。 小太郎が言葉を発するたびに、村上の胸には刃が突き刺さるかのようだった。 その刃は自分への不甲斐なさであり、一条や和也への罪悪感であった。 村上はその場で土下座をせんばかりに深々と頭を下げる。 「和也様、私が至らぬばかりに申し訳・・・」 「謝る必要はねぇ・・・」 「えっ・・・」 全員が和也を見つめる。 和也は彼らと目線を合わせることなく、武器庫のテンキーを見入ったまま、口だけを動かす。 「言っておくが、お前に選択権を委ねたのも、それを了解したのもオレだ・・・ だったら、お前の選択はオレが責任をとる・・・当然だろ・・・?」 「か・・・和也様っ!申し訳・・・ござ・・・いませんっ・・・!」 ――オレの失態なのに・・・ 村上は膝を屈し、声もなく嗚咽する。 責められる立場のはずの村上を庇う一言。 村上は改めて和也の懐の深さを思い知ると同時に、今の和也がヨーロッパを統治した伝説のアーサー王や シリア、エジプトを破竹の勢いで征服したアレクサンドロス大王などの英雄に匹敵するように思えてならなかった。 「自分で責任を負う・・・かっこいいね☆」 小太郎は舞台の役者が感動を表現するかのように両手で胸を押さえ、白々しい感嘆の声をあげる。 「僕・・・そんな和也ちんに心打たれちゃった☆ だから、特別にヒントあげちゃおうかな~♪」 「なんだって・・・!」 小太郎の甘い誘惑に村上は思わず食いつく。 小太郎は“教えてあげてもいいんだけど~”と勿体ぶると、ここが重要と指を左右に振ってジェスチャーする。 「土下座してくれたら、教えてもいいよ・・・和也ちんがね☆」 この屈辱的な言葉に、村上の胸に殺意が沸き起こる。 「ふ・・・ふざけるなっ!」 村上は画面を叩き割らんばかりの勢いでノートパソコンに掴みかかる。 しかし、悲しいかな、目の前にいる小太郎は所詮、液晶画面に映し出された映像でしかない。 いかに村上が力で訴えたところで何の意味も持たなかった。 小太郎は“カカカ・・・”と、弱者の無駄な足掻きに対する憐憫と嘲笑がこもった声でせせら笑う。 「だって、部下を守るんだろ・・・それくらいしてもらわなくっちゃ・・・☆」 村上は小太郎に牙を剥きながら叫ぶ。 「土下座なら、いくらでも私が・・・!」 「村上っ!」 煙毒によって淀んでしまった空気をなぎ払うような、和也の低く力強い声。 嫌な予感に駆られて、村上が振り返ると、そこには膝と手を床についた和也の姿があった。 「ヒントを・・・教えてくれ・・・」 「和也様・・・」 これまでの和也は常に覇者としての貫録を見せつけながら、このゲームを先導してきた。 その貫録を一人の部下のためにあえて投げ出したのだ。 村上は目の前の光景がもやに浮かび上がる幻のように現実から乖離したもののように思えた。 「キャハハハッハ!!!」 この直後、小太郎は鬼の首を取ったような高笑いを響かせる。 「さっすが、和也ちん・・・☆どう?どう?どんな気分っ?」 和也が下手に出たと分かるや否、小太郎はここぞとばかりにプライドを粉砕するような心無い質問を浴びせてくる。 「き・・・貴様ぁ・・・!これ以上の屈辱を・・・!」 怒りが沸点に達した村上はいよいよ画面を叩き割らんと、ノートパソコンを握りしめた。 その時、和也があの唯我独尊を体現したような尊大な笑みで顔を上げた。 「頭下げてやったんだから、早くヒントを出せよ・・・このパシリがっ・・・!」 「なっ・・・!」 小太郎はガクガクと歯を震わせる。 和也は無意識に“パシリ”という言葉を使ったが、 小太郎にとっては不良にこき使われ、辛酸を舐めてきた学生時代の象徴である。 思い出したくもない屈辱の過去が嘔吐のように胃から逆流する。 「何それ、土下座したから悔しいんでしょ!とっても見苦し・・・」 「オレは別に何とも思っちゃいねぇよ・・・」 和也は小太郎の雑言に横やりを入れる。 「オレは優勝するためなら、何だってするって決めている・・・殺人だって辞さない・・・ 頭を下げたのも、オレと村上の生存率を上げるため・・・ 土下座は目的のための手段でしかない・・・」 ――そうきたか・・・ 小太郎はかつての経験から知っている。 いじめなどで精神的に痛めつけられた人間は己の心を守るために、 標的にされたのはたまたま自分がその場に居合わせただけなどと自己弁解をして己を慰める。 先ほどの和也の高言も弁解でしかないのだと。 「強がりはよくないなぁ・・・やっぱり見苦しいっ!僕には分かっちゃうんだからっ!」 「そうだ・・・いいこと教えてやるぜ・・・」 和也は小太郎の言葉を無視するように立ちあがると、椅子に座り、足を組む。 「お前さ、ヒントを与えるために、あえて土下座を要求したよな・・・ それは言われた相手がどんだけ腹立たしさを覚えるのか知っているから・・・ つまり、経験・・・いじめにあった経験がある・・・ この状況でそれを望むのも、自分より下の人間がいるっていう優越感に浸かりたいからなんだろ・・・ かつて粉々に砕けたプライドを満たすために・・・」 小太郎の息が過呼吸の如く荒々しく乱れる。 和也の言葉は小太郎の過去を見透かしているかのように的を突いてくる。 ――こいつに何が分かるっ! 「和也ちんの想像力は貧困だなぁ! 自慢じゃないけど、僕が卒業した高校は地元じゃ超有名なワルの巣窟ヤンキー高校っ! 僕はその不良グループの中核・・・! 舎弟もいたっ・・・! この頭も中核だからこそのステータスっ!」 小太郎は和也達に後頭部を見せる。 そこには「城」を逆さにした文字が髪の毛で書かれていた。 「皆、この文字を入れた僕を恐れ、傅いたっ・・・! そんな僕がいじめられていたなんて、とってもおかし・・・」 「墓穴を掘ったな・・・」 小太郎の悲痛とも言える否定を、和也は失笑ひとつで一蹴する。 「何が中核だ・・・! 普通、後頭部に文字を入れるっていう格好悪い事、誰がする! 本当は強要させたんだろ・・・!お前だけ・・・!」 「や・・・やめろ・・・」 小太郎は和也の言葉から逃れるために耳を塞ごうとする。 しかし、和也は“まだまだ、証拠があるぜっ!”と、その暇を与えることなく、更なる追撃をする。 「お前の芝居じみた態度! 素顔が分からなくなるほどのメイク! 奇抜すぎる衣装っ! それは素の自分を否定する過程で生まれた虚栄の結果だっ! 弱い自分はもういない・・・! 今、いるのはゲームの司会者として輝いている自分・・・! そう己に言い聞かせ、事実から目をそらす・・・! 己の傷を抉らないようにするためになっ!」 尋問するかのごとく、小太郎の暗部の記憶を暴き続ける和也。 小太郎にとって、今の和也の行為は胸をかっさばかれ、 臓物という名の過去を引きずり出されていると言ってもよい。 抉られた傷にもがき苦しむ小太郎に対して、和也は止めを刺す。 「なんだ図星か・・・赤いぜ・・・顔が・・・!」 「がはっ・・・!」 殺意の念が旋風のように頭の中で吹き荒れる。 やがて、その旋風は心の殻を破り―― 「があ~~~~っ!」 小太郎は頭を押さえながら、テーブルに何度もぶつける。 かつての己を否定するが如く。 ――兵藤和也っ!殺すっ!殺すっ!殺すっ! 小太郎は最終手段に出る。 「今のでお前のイメージ、超ダウンっ!超ダウンっ! 僕に暴言を吐いちゃうと、貰えるヒントも貰えなく・・・」 「兵藤和也・・・その洞察力・・・気に入ったぞっ!特別にワシからヒントをやろう・・・」 在全が朗らかに小太郎の言葉を遮った。 小太郎は戸惑いながら在全に申し立てる。 「けど、こいつは僕に対して暴言を・・・」 在全から年と不釣り合いな無邪気な笑みが消える。 「こやつはお前の約束通り、土下座をした・・・ 今更、お前の感情で反故にする気か・・・ 貴様は自分をこの場を支配する神とでも思っておるのか・・・」 氷片を散りばめたような在全の嗄れ声。 小太郎は体中から汗をだらだら流しだす。 これ以上、逆らえば命がないかもしれない。 そんな直感から押し黙ってしまった。 在全はその沈黙を肯定と受けとると、再び朗笑を浮かべ、それを和也たちに向ける。 「ヒントは・・・嫌なヤツと嫌なヤツが出会うと起こること・・・と言えばよいかの・・・」 「え・・・嫌なヤツ・・・」 村上は在全のヒントに困惑の色を見せる。 答えの数字とまったく結びつかないからだ。 ――のらりくらりとかわされているだけじゃ・・・ 在全たちに疑心を抱いたその時だった。 和也は村上に手を差し出した。 「メモ帳を貸してくれ・・・それとペンも・・・」 「え・・・はい・・・」 ――こんな時に突然・・・ 村上は和也の意図が分からないが、時間が押し迫っているため、 テーブルにあったメモとボールペンを急いで渡す。 和也はそれに何かを書き、睨みつける。 「確かに・・・本質だな・・・」 「和也様・・・?」 村上は謎めいた呟きを問い質したくなる衝動にかられるも、 メモを一刀両断するかのような和也の鋭利な眼光に、言葉が竦んでしまった。 時間が1分を切った時だった。 和也がその重い口を動かした。 「答えは分かったが・・・確証はない・・・」 和也はドアの方へ指差す。 「今すぐお前は外へ逃げろ・・・そうすれば、爆発からは免れる・・・」 突然の和也からの提案。 万が一、和也の首輪と金庫内の時限式爆弾が同時に爆発したとしても、外に逃れれば致命傷を避けることはできる。 「そ・・・それは・・・」 死へ恐怖か、生への執着か。 迷いが村上の身体をガチガチと震わせる。 ――今、逃げ出せば・・・助かる・・・ 甘い言葉が村上の心をくすぐるように囁きかける。 しかし、その甘い言葉に覆いかぶさるように一条の言葉が脳裏に浮かび上がる。 ――翼は・・・両翼が揃わなければ、飛翔できない・・・ 共に生き抜き・・・このゲームから飛び立とう・・・ 「嫌ですっ!」 村上は奥歯の震えをかみ殺すと、キッと顔をあげた。 「私は黒服っ・・・このギャンブルルームを守るのが仕事ですっ! それに・・・」 村上の表情が凛然と輝く。 「これから戻られる一条様に・・・誰がコーヒーを淹れるのですかっ!」 ――こいつの一条への崇拝ぶりはオレの範疇を超えているな・・・ 呆れながらも、和也は村上の意志の強さに感服を覚える。 「なら・・・一緒に死んでくれっ!」 和也は指を動かした。 「答えは「3」「5」「6」「7」だっ!」 ――爆発するっ! 主君のために殉死する決意を固めたところで、生きたいと願っている部分も存在する。 その思いが村上の耳を塞がせ、目を瞑らせる。 ――ああ・・・死にたくはない・・・むしろ、死ぬならひと思いに・・・ 人間故にしょうがないことではあるが、俗物的な考えが頭をよぎる。 早鐘のような鼓動を身体で感じながら、やがて村上はあることに気づく。 ――あれ・・・痛みを感じない・・・ 村上は薄く眼を開ける。 事務室は黒こげになった様子もなく、あの無機質さと無個性さを維持している。 和也が生気に溢れた瞳で村上を見上げていた。 「村上・・・武器庫、開いたぜ・・・」 「えっ・・・」 武器庫の扉が重厚な金属音を響かせ、ゆっくり開いていく。 村上は耳から手を離す。 いつの間にか、和也の首輪の警告音も消えていた。 「まさか・・・正解・・・」 「そうだ・・・正解だ・・・」 「正解・・・」 様々な感情が交錯しすぎたあまり、村上の思考は半ば停止している状況に近い。 しかし、それが現実だと理解すると、霧が晴れていくように心の中が澄み渡り、 勝利した喜びが全身に伝わっていく。 「か・・・和也様っ!!!!」 嬉しさのあまり、村上は叫びながら和也に抱きつく。 “オレはそんな趣味持ってねぇよ・・・”と苦笑するも、 村上の気持ちも分からなくもないため、あえてなすがままに受け入れる。 「どうして・・・どうして・・・分かったのですか・・・!」 「ああ・・・決定打は在全からのヒントだな・・・」 嬉し涙を流しながら問う村上に和也はメモ帳を見せる。 そこには―― 18782 +18782 ――――― 37564 という計算式が記入されていた。 「正解は37564・・・“皆殺し”だっ!」 「正解は“皆殺し”!皆殺しなんですねっ!・・・・・・って、これ、語呂合わせ・・・ですよね・・・」 あまりに突拍子もない解答に、村上はほとばしる熱き感動が急速に冷めていくのを感じる。 「だから、確証がないって言っただろ・・・馬鹿馬鹿しすぎて・・・」 「馬鹿馬鹿しいとは何じゃい・・・!」 在全が画面から憤慨だと言わんばかりに拗ねた表情で和也たちを睨みつける。 「ワシはヒントで言ったじゃろ・・・ 嫌なヤツ(18782)と嫌なヤツ(18782)が出会う(+)と起こることと・・・ わざわざ“英語が分からぬ類人猿”と言って、日本語の解答であると暗に示しておるし、 何より、小太郎が冒頭で言ったわい・・・ ヒントは“このゲームの本質”――“バトルロワイアルの本質”とな・・・それが・・・」 在全の細い眼球に針のような光が宿る。 「・・・お主の目的じゃろ・・・兵藤・・・」 ――オレの嘘ルールについて示しているのか・・・ 最終的に一条も利根川も殺すってことを・・・ 和也は在全の眼光に不快な棘を感じる。 しかし、それをぼかして和也に伝えたということは露呈する気はないらしい。 和也も“まぁ・・・間違いはねぇかな・・・”と在全と同じように濁した返答でその場を誤魔化す。 「まったく・・・ワシが一生懸命考えたのにのぉ・・・」 未だに“馬鹿馬鹿しい”という酷評が気になるのか、在全はぶつぶつと小言を呟き続ける。 ――そりゃあ・・・命をかけた問題の解答がトンチってのはあり得ないだろ・・・ ゲーム開始直後、腹を立てた黒崎の気持ちが今となってはよく分かる。 和也は複雑そうな面持ちで頬を掻いた。 「和也様・・・おめでとうございます・・・」 ゲームが終了して、やっと音声機能が回復したらしく、黒崎は深々と頭を下げる。 「あぁ・・・黒崎もお疲れ様・・・」 時間としては10分きっかりであったが、黒崎も心労が溜まってしまったのだろう。 幾分、やつれたようにも見える。 「ところでさ・・・村上の件なんだけどよ・・・」 探りを入れるかのように尋ねる和也に、黒崎は肩の力を抜いたような微笑を浮かべる。 「和也様はご自身のお力で権利を獲得されました・・・ 今更、私がとやかく言う筋合いはございません・・・ 村上の行動はマニュアルからよほど逸脱したことがない限り、目を瞑りましょう・・・」 「それってさ・・・勿論・・・」 黒崎は一瞬、キョトンとするも、和也の言いたいことをすぐに察した。 「ええ、勿論・・・ギャンブルルームの備品の貸し出しは自由・・・ 盗聴器や武器庫・・・我々からの特別支給品です・・・」 “ただ、あくまでも今回だけですから・・・”と付け加える。 「分かってるぜっ!」 弾んだ声で和也は了解する。 それだけあれば、次の戦略の幅が大きく広がるというもの。 和也の眼にはその期待が赤々と燃え上がっていた。 ――まさか、本当に当ててしまうとはな・・・ 黒崎が解答の意味に気付いた時、すでに音声が切られた後であった。 もともと和也は頭が切れるとは言え、今回の問題はあまりにもミスリードが多すぎた。 その上、和也の首輪は本当に作動していた。 もし、和也が間違った解答を選択していれば、首輪は爆破していたのだ。 ――これが・・・帝王の血というものか・・・ その逆境を撥ね退けた和也の肝勇に、黒崎は呆れと敬意を含めた苦笑をする。 しかし、苦笑しながら、すでに黒崎の心は別のことを考えていた。 ――あの男は何を考えているっ・・・! あの男とは勿論、在全のことである。 和也は殺し合いに手を染める数少ない者――バトルロワイアルの潤滑油である。 その貴重な潤滑油を、己の欲求を満たすためなら、結果的に潰れてしまっても構わないという在全に、黒崎は憤懣を覚える。 ――このゲームを早々に破綻させる気かっ! 「黒崎殿・・・随分、お疲れのようじゃの・・・」 在全が画面から覗き込むように黒崎を確認する。 “貴様が全ての元凶だ”という沸き起こる暴言をなんとか押さえると、 “予想外のことが多すぎましたので・・・”と失礼がない程度の皮肉で答える。 しかし、在全にはその意味がまるで伝わっていないらしく、 “どうやったら、黒崎殿の気力が回復できるかの・・・”とありがた迷惑なことに真剣に考えてくれている。 ――貴様がすぐにでも画面から消えてくれれば済むことだ・・・ 在全への不満が湯水のように溢れてくる。 1時間前に戻って、後藤に渡した書類を処分してしまいたいと望んだ直後だった。 在全は何かを思い付いたらしく、手をポンと叩いた。 「そうじゃ!コーヒーを今すぐ飲むのじゃっ!黒崎殿っ!」 「はぁ・・・」 大方、村上が一条のためにコーヒーを準備していることからヒントを得たんだろと、 毒にも薬にもならないアドバイスに黒崎は力のない返事で答える。 嫌気が差したことを露骨に示す黒崎の抵抗も空しく、 在全は“唾液の中のクロモグラニンAという成分がコーヒーによって低下しての・・・”と勝手に講義を始めてしまった。 「あの・・・私は明日の準備もありますので、これで・・・」 黒崎の言葉にやっとその意志を理解したのか、不平を鳴らす。 「まったくツンツンしおってのぉ・・・ワシはお主の意志を承知してこんなギャンブルを仕組んだというのに・・・!」 ――そんなこと誰が望むかっ! と、叫びそうになった時、ある考えが黒崎の脳裏をよぎった。 「・・・とにかく明日の準備がございますので・・・」 黒崎は在全の“コーヒーを飲むのじゃぞ!”という言葉を受け流すようにモニターの画面を切ってしまった。 黒崎はパソコン画面をデスクトップにすると、近くのリクライニングチェアに身を預けた。 「つかの間の休息か・・・」 しかし、黒崎はそれがすぐに終息することも理解していた。 黒崎はリクライニングチェアの近くのマイクに囁く。 「コーヒーを一杯・・・」 黒崎が全てを言い終わる前に扉をたたく音が部屋に響く。 ――やはり・・・早かったな・・・。 黒崎は在全の言葉を振り返る。 ――ワシはお主の意志を承知して、こんなギャンブルを仕組んだというのに・・・! 勿論、ギャンブルに関して、黒崎は在全に何の意志も示してはいない。 この言葉は自分勝手な在全が己を正当化するための押し付けがましい言い訳のように聞こえる。 しかし、それにしても状況上、不自然すぎる言い回しである。 ――在全が承知した私の意志とは、ギャンブルを執り行いたいという意志ではなく、 私の意志――提案に対する返答っ・・・! 黒崎は1時間程前にギャラリーへのクレームの返答文書を後藤に渡した。 その際、文章の最後にこのような内容を付け加えたのだ。 『今回のギャンブルが成功しました折には兵藤和尊を会長の座から引きずり落とし、 帝愛と在全、そして、誠京・・・その三者で手を結び、更なる発展を築きましょう』 ――もし、返答があるならば、何らかの手段で伝える必要がある・・・ 黒崎は気だるそうに身を起こし、扉を開けた。 扉の先には、普段見慣れない黒服がコーヒーの用意された盆を持って立っていた。 暗い部屋の中、壁全体を覆いつくすように配置されたテレビ画面の人工的な光だけがその男を照らし出す。 男の名は兵藤和尊。 兵藤は先ほどの和也たちのギャンブルのある場面を繰り返し確認していた。 その箇所は在全が解答を和也たちに説明した時の最後の言葉。 『・・・お主の目的じゃろ・・・兵藤・・・』 この言葉は一見、和也に向けられたものに思われる。 しかし、それまで在全は和也のことを“兵藤和也”とフルネームで呼んでいた。 この場になって、それを変えるのは不自然である。 つまり、これは和也に向けられたものではなく―― 「ワシに向けられたもの・・・ワシの計画は予想がついておると言いたいのか・・・」 ――37564・・・“鏖” 兵藤は忌々しく眉をひそめる。 兵藤の最終目的は主催者と対主催がぶつかり合い、共倒れになること。 在全がその計画をどこまで把握しているのかは分からない。 だが、これだけは言える。 今回の和也たちのギャンブルは連絡を遮断している兵藤への―― 「宣戦布告か・・・」 【E-5/ギャンブルルーム内/深夜】 【兵藤和也】 [状態]:健康 [道具]:チェーンソー 対人用地雷残り一個(アカギが所持) クラッカー九個(一つ使用済) 不明支給品0~1個(確認済み) 通常支給品 双眼鏡 首輪2個(標、勝広) [所持金]:1000万円 [思考]:優勝して帝愛次期後継者の座を確実にする 死体から首輪を回収する 鷲巣に『特別ルール』の情報を広めてもらう 赤木しげるを殺す(首輪回収妨害の恐れがあるため) 盗聴を続ける、利根川、一条に指示を出す ※伊藤開司、赤木しげる、鷲巣巌、平井銀二、天貴史、原田克美を猛者と認識しています。 ※利根川、一条を部下にしました。部下とは『和也同盟』と書かれた誓約書を交わしています。 ※遠藤、村岡も、合流して部下にしたいと思っております。彼らは自分に逆らえないと判断しています。 ※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を以って、その派閥全員を脱出させるという特例はハッタリですが、 そのハッタリを広め、部下を増やそうとしています。 ※首輪回収の目的は、対主催者の首輪解除の材料を奪うことで、『特別ルール』の有益性を維持するためです。 ※しづかの自爆爆弾はアカギに解除されましたが、そのことに気づいていません。盗聴器はアカギが持っています。 (今は和也のみ盗聴中) ※第二放送直後、ギャンブルルーム延長料金を払いました。3人であと3時間滞在できます。 ※武器庫の中に何が入っているかは次の書き手さんにお任せします。 【E-5/病院/深夜】 【一条】 [状態]:健康 [道具]:黒星拳銃(中国製五四式トカレフ) 改造エアガン 毒付きタバコ(残り18本、毒はトリカブト) マッチ スタンガン 包帯 南京錠 通常支給品×6(食料は×5) 不明支給品0~3(確認済み、武器ではない) [所持金]:3600万円 [思考]:カイジ、遠藤、涯、平田(殺し合いに参加していると思っている)を殺し、復讐を果たす 復讐の邪魔となる(と一条が判断した)者、和也の部下にならない者を殺す 復讐の為に利用できそうな人物は利用する 佐原を見つけ出し、カイジの情報を得る 和也を護り切り、『特別ルール』によって村上と共に生還する 利根川とともにアカギを追う、和也から支持を受ける ※利根川とともに、和也の部下になりました。和也とは『和也同盟』と書かれた誓約書を交わしています。 ※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を以って、 その派閥全員を脱出させるという特別ルールが存在すると信じています。(『特別ルール』は和也の嘘です) ※通常支給品×5(食料のみ4)は、重いのでE-5ギャンブルルーム内に置いてあります。 【利根川幸雄】 [状態]:健康 [道具]:デリンジャー(1/2) デリンジャーの弾(残り25発) Eカード用のリモコン 針具取り外し用工具 ジャックのノミ 支給品一式 [所持金]:1800万円 [思考]:和也を護り切り、『特別ルール』によって生還する 首輪の回収 遠藤の抹殺 カイジとの真剣勝負での勝利・その結果の抹殺 アカギの抹殺、鷲巣の保護 病院へ向かう 一条とともにアカギを追う、和也から支持を受ける ※両膝と両手、額にそれぞれ火傷の跡があります ※和也の保護、遠藤の抹殺、カイジとの真剣勝負での勝利・その結果の抹殺を最優先事項としています。 ※鷲巣に命令を下しているアカギを殺害し、鷲巣を仲間に加えようと目論んでおります。(和也は鷲巣を必要としていないことを知りません) ※一条とともに、和也の部下になりました。和也とは『和也同盟』と書かれた誓約書を交わしています。 ※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を以って、 その派閥全員を脱出させるという特別ルールが存在すると信じています。(『特別ルール』は和也の嘘です) ※デリンジャーは服の袖口に潜ませています。 ※Eカード用のリモコンはEカードで使われた針具操作用のリモコンです。電波が何処まで届くかは不明です。 ※針具取り外し用工具はEカードの針具を取り外す為に必要な工具です。 ※平山からの伝言を受けました(ひろゆきについて、カイジとの勝負について) ※計器からの受信が途絶えたままですが、平山が生きて病院内にいることを盗聴器で確認しました。(何かの切欠で計器が正常に再作動する可能性もあります) ※平山に協力する井川にはそれほど情報源として価値がないと判断しております。 ※黒崎が邪魔者を消すために、このゲームを開催していると考えております。 ※以前、黒崎が携わった“あるプロジェクト”が今回のゲームと深く関わっていると考え、その鍵は病院にあると踏んでおります。 ※E-5ギャンブルルーム前には、勝広の持ち物であったスコップ、箕、利根川が回収し切れなかった残り700万円分のチップなどが未だにあります。 【D-1/地下王国/深夜】 【兵藤和尊】 [状態]:健康 興奮状態 [道具]: ? [所持金]: ? [思考]:優勝する 黒崎の足を引っ張る 主催者達を引っ掻き回す ※次のようにスパコンの予測が出ました。 何らかの要因で予測が外れることもあれば、今後条件を満たせばさらに該当者が増えることも考えられます。 大型火災が発生したことで、高熱となった建物の内部及びその周囲にいた参加者の首輪は電池の水分が蒸発し、失われた。 それによって、0時30分現在、田中沙織は約18時間。遠藤勇次は約2時間30分後に首輪が機能停止する。 ※在全が兵藤の思惑を察していると考えております。 129 強運 投下順 131 一致 124 光路 時系列順 129 強運 124 光路 兵藤和也 136 ひとつの決着 124 光路 一条 131 一致 124 光路 利根川幸雄 131 一致 127 帝域 兵藤和尊 133 猩々の雫 124 光路 村上 144 願意 113 第二回定時放送 ~起爆~ 黒崎義裕 132 抜道 初登場 在全無量 161 巨獣 初登場 城山小太郎
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【情報文章】ジリュウよりの宣戦布告 2006年06月04日 サコンです。 先程、ジリュウ側より白装束に身を包んだ使者が到着し、マウサツに対する宣戦布告の書状が読み上げられました。 布告文を意訳した内容を以下に記しましたので、各自ご確認の上、 今後私たちの取るべき道を熟考致されますよう、よろしくお願い致します。『門出の国マウサツ御中諸兄方 貴国マウサツが、我がジリュウ領内にて新たな生活の場を築くべく 日々精進致していた元アルガ難民等を不当なる理由及び手段を用いてこれを連れ去り、 我が国に対して多大なる不利益を与えし事は、セイカグドに住まいし 万人の知る所である。 貴国よりの暴虐なる行為を目の当たりにして、我がジリュウの 勇敢なる武士たちは義憤の心を奮い立たせ、無法なる侵略者に対して 剣を取り矛を振り上げし事は当然の帰結であろう。 されど、我がジリュウは徒に流血を望むものではない。 これ以上の無益な流血を避けるべく、慈悲と寛容の心を以って対話による平和裏な解決を求めてトツカサの国の尽力によって実現した和議の席に 着きし事は、貴国も周知の通りである。 だが、その解決の場も貴国による不誠実な対応によって蔑ろにされた挙句、和議への道は閉ざされ、我がジリュウは振り上げた矛を下ろす貴重な機会を 失う事と相成った。 よって、我がジリュウは貴国マウサツに対して、領内での諸問題を他国侵攻の理由として不当に利用せしアルガ領の支配権の放棄及び諸兄方の アルガ領内からの撤退を求め、義憤を以って兵を起こすものなり。 貴国がアルガ領よりの撤退を潔しとせず、徒に流血を望むのならば是非もなし。 元より、武による暴虐に対して武を以ってこれを返すは乱世の倣い。 我がジリュウは、貴国マウサツの実質的な支配下にあるアルガ領へと軍勢を進め、 武の力を以って諸兄方をアルガ領内より排斥致す。 されど、貴国が我が勧告を潔く受け入れ、アルガ領よりの撤退を速やかに 終えし時には、我がジリュウもアルガ領への進軍を取り止める事と致し、 彼の地の有力者等と共にアルガの国の再建を目指すべく協議致して行く所存である。 重ねて申し伝えるが、我がジリュウは徒に流血を望むものではない。 願わくば、貴国が流血の道を選ばぬ事を望むものなり。 ジリュウ国国王サダツナ』
https://w.atwiki.jp/souten-siki/pages/37.html
(2006年05月28日) 序煮伊万歳帝国が風の国へ宣戦布告
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「ベルフィエルさん! 自分は負けないっすから!」 「ど、どうしたんですか急に? というかどちら様?」 「自分はマオウっす、ニャングオウさんの右腕候補っす」 「ああ、あなたが……それでどうして勝ち負けの話になるんですか?」 「あなたがニャングオウさんから目にかけてもらってるのは聞いてるっす、一番のパートナーだって話も聞いてます、でもそれは今だけだって言ってんすよ」 「確かに今の自分は未熟っすけど、絶対追い抜きますから、絶対諦めないっすから、絶対ニャングオウさんの隣は譲らないっすから」 「あ、はい。そうですか」 「随分余裕っすね、もしかして絶対負けないとか思ってます? 自分はこれからめっちゃ強くなるっすよ? もう完成されたあなたと違って、自分はこれからニャングオウさんに合わせたスタイルを目指していくんすから!」 「いや、別にそもそも競ってないというか……」 「何すか? 自分とあなたじゃ勝負にならないとでも言いたいっすか!?」 「あの、だから私はそもそも勝負するつもりないですからね?」 「もう勝利宣言っすか!? いまはそうでも――」 「ただいまー、ベル、誰かいるの?」 「えっ……?」 「あれ? マオウじゃん、ふたり知り合いだったっけ?」 「初対面です。何なんですか?」 「何って、この前助けた子だよ。言ってなかったかな?」 「それは聞きましたけど……何でこんなに敵意むき出しなんですか?」 「え? マオウが? ……ベル、何したのさ」 「知りませんよそんなこと、勝ち負けがどうとかニャングオウさんがどうとか言ってましたよ?」 「はあ、マオウ、ベルに何されたの?」 「あ、あ、いや、そんな、自分は……」 「……? どうしたの、大丈夫?」 「だ、大丈夫っす……」 「ただ、その……ニャングオウさん、さっき『ただいま』って……」 「うん、まあここも私の家みたいなところあるからね」 「迷惑ですからね、あなた家あるでしょう」 「別にいいじゃないか、それともベルがうちに来るかい?」 「まあもういいですけど……」 「ちょ、ちょっと待ってほしいっす!」 「何で『もういい』んすか? ニャングオウさんも、何で、一緒に暮らす感じなんすか?」 「ベルが一緒に居たいっていうからね、仕方なくだよ仕方なく」 「あなたが勝手に通ってるだけですからね、変な勘違いしないでください」 「うんうん、分かってる分かってる」 「はあ、またそうやってごまかすんですね?」 「……言葉にしたって、聞こうとしないじゃないか」 「…………弱気ですね、やってみないと分からないこともあるんじゃないですか?」 「っ! じゃ、じゃあ、ちゃんと聞いてよ? 言うからね、ベル――」 「そこまでっすよ! 何やってんすか!? ほら離れて!」 「え、え? 何すか? そういう? パートナーって、え?」 「……ごめんマオウ、今日は外してくれないかな」 「い、いてくれてもいいんじゃないですか? ほら、どうせ泊まるだけですし」 「ダメ、今日はそれだけにしないって決めたから」 「私はもう逃げないよ、ベル、君も逃がさないからね」 「…………」 「あ、ああ……そんな……」 「……分かったっす、邪魔して申し訳なかったっす」 あれからすぐに帰って泣いた。泣いて泣いて、気付いたら日が昇っていたけど部屋を出る気にはなれなかった。ニャングオウさんと会いたくないなんて初めてだった。 分かっている、自分は道化だ。これまでを思い出すと自分でも笑えてくる。何が『ニャングオウさんの隣は譲らない』だ、その席はもう埋まっていて、みんなも知っていたじゃないか。だから一番のパートナーだったんだ、よく聞けばよかった。 いや違う、そもそも自分はそういう意味で隣に立ちたいと言った訳じゃない。そんな恐れ多いこと思ってもいない。少しでも役に立ちたい、そうだったはずだ。何を思いあがっていたんだ。 でもニャングオウさんもひどいよ、途中から一度もこっち見ないじゃん。そんなの『君は違う』って言ってるのと同じじゃん。 あーあ、どんな顔して会えばいいんだろう。いっそ遠くに行ってしまおうか。きっと心配して探してくれるんだろうな。『一度助けた責任があるからね』とか言ってさ、じゃあ今助けてよ。つらいよ。こんなにあなたが好きなのに、こんなこと考えたくないよ。 もう一度助けてよ、ニャングオウさん。 どうしてこんなことに……。
https://w.atwiki.jp/wiki3_aoe/pages/289.html
いらねーよ ↑一応リンク貼っておくわ。 http //www.geocities.jp/vip_twec/
https://w.atwiki.jp/20100509/pages/28.html
Declare War~宣戦布告~では「プレイヤー名」「パスワード」「ホシ」を入力して頂くと自動的に初期ステータスが割り振られ、即座にゲームを始めて頂く事が出来ます。 プレイヤー名:DW内で動かすキャラクターの名前です。 キャラクターのファーストネームのみカタカナでご記入下さい。 フルネームはプロフィール(自己紹介)★★★に記載出来ます。 キャラクターとして不自然じゃない名前にして下さい。 パスワード:ログイン用パスワードです。 パスワードはログインするのに必要になりますので、忘れないようにお願いします。 ホシ:北斗と南斗のどちらかをお選び下さい。 大きな意味はありませんが、パルは別のホシの人と結成する事になります。 ショッピングモールの黒十字病院にて変更する事も可能です。 新規登録はコチラから <<新規登録>> ↓元文↓ どちらかに所属してください。大きな意味はありませんが、 パーティ(ホシ?)結成時に属した別の星の人と組む事になりますので プレイヤー名は登録するPCの名前です。ゲーム内で基本使用される愛称や通り名をご入力下さい。 パスワードはログインするのに必要になりますので、忘れないようにお願いします。 星は世代交代を行うのに必要となりますが、ショッピングモールの黒十字病院にて変更する事も可能です。 では新規登録は以下のページになります。 新規登録 ↓元文↓ プレイヤー名は登録するPCの名前です。ゲーム内で基本使用される愛称や通り名をご入力下さい。 パスワードはログインするのに必要になりますので、忘れないようにお願いします。 星は世代交代を行うのに必要となりますが、ショッピングモールの黒十字病院にて変更する事も可能です。 では新規登録は以下のページになります。 新規登録
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summary 彼を王下七武海に入れてやってよ。 麦藁一味、屋上に集結 オハラという島 あの旗、撃ち抜け アニキの賭け 滝に向かって飛べ! saying おれ達もうここまで来ちまったから!!! とにかく助けるからよ!!! そんでなァ それでも…まだお前死にたかったら そしたら その時死ね!! 死ぬとか何とか…何言っても構わねェからよ!!! そういう事はお前… おれ達のそばで言え!!!! ― ルフィ 過去がどうあれそれが人間の作った歴史ならば全てを受け入れるべきじゃ!! 恐れず全てを知れば何が起きても対策が打てる ― クローバー博士 〝歴史〟は…人の財産 あなた達がこれから生きる未来を きっと照らしてくれる あなた達の生きる未来を!! 私達が諦めるわけにはいかないっ!!! ― オルビア 正義なんてのは立場によって 形を変える ― クザン この世に生まれて一人ぼっちなんて事は 絶対にないんだで!!!! どこかの海で…必ず待っとる 仲間に会いに行け!!! ― サウロ 望んではいけない事だと思ってた… 誰もそれを 許してくれなかった 生ぎたいっ!!!! 私も一緒に 海へ連れてって!!! ― ロビン serial cover ミスGWの作戦名 "ミーツバロック" mr.2 vs.ヒナ 救出、乗っ取り、海軍留置所へ
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入手方法 スキル能力 考察 入手方法 【チュートリアル】以降のクエストハコから入手 スキル能力 無凸 1凸 2凸 3凸 4凸 5凸 HP POW 威力 CT 追加効果 考察 取り急ぎページのみ作成 名前 コメント
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#blognavi 序煮伊万歳帝国が宣戦布告をしました。 怒りのジョニー@序煮伊万歳帝国【皇帝】から大陸全土へ 「(*´゚ω゚`)全国宛失礼しますー。序煮伊万歳帝国は419年1月(5月30日20時)をもって風の国に攻撃を開始しようかなぁと思います~。・・・さて、これが最後になるわけですが、互い悔いの残らないようにしませぅ。・・・(私の場合すでに敗北したときの全国宛を用意しているという…それで良いのかじょにー!?(;´Д`) 。 んー、なんだか物足りませんが布告文はこれで終わりにいたします。それでゎー」 05/27/(Sat) 22 05 氷室鐘@序煮伊万歳帝国【相国】から大陸全土へ 「え~っと布告に当たり補足として年月優先としてお願いします。」 05/27/(Sat) 22 36 ふーすけ@風の国【君主】から大陸全土へ 「全国宛失礼します。風の国のふーすけです^^序煮伊万歳帝国様より布告(419年1月開戦の年月優先)の件、謹んでお受けさせて頂きます。国民一丸となって全力で勝負に挑みます。お手合わせの程、宜しくお願いします (_ _) 」 05/27/(Sat) 22 37 怒りのジョニー@序煮伊万歳帝国【皇帝】から大陸全土へ 「さて、一応布告はしてみたものの、人数差が凄いので厳しい戦いを余儀なくされそうです。 地球の皆!!オラに力を分けてくれ~w!!」 05/28/(Sun) 01 46 カテゴリ [宣戦布告関連] - trackback- 2006年05月28日 08 05 17 ただいま、システムのテスト中です。 -- 管理人代理の代理 (2006-05-28 08 18 52) 名前 コメント #blognavi
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ニルソンは研究室で一人、苦い思いを抱きながら椅子に腰掛けていた。 それは彼が長年補佐してきた女性が、直接的な表現をすれば死んで以来、彼のみになるといつも襲ってくるものと酷似していた。 しかし、今それを感じているのは違った理由だった。 彼の前には机と、小さなテレビが置いてある。普段は殆ど使われないそのテレビだが、珍しく電源が入っていた。 画面に映し出しているのは一本の録画映像。十一人の女性が真っ直ぐ前、視線の先にあっただろうカメラを睨んでいる。 暫くの間、彼女たちには一切の動きが無かった。彫像のように、身を揺るがせもせず立っていた。 沈黙を破ったのは最前に立つ少女。両手でニルソンにも見覚えがある剣の柄を掴み、床に突き立てるようにして保持している。 『マルチアーノ十二姉妹隊隊長エイプリルより、報告』 静かな決意を固めた者がするように、彼女はゆっくりと喋った。ここまではただの連絡に聞こえる。 『我が隊は只今を持ってクリミナル・ギルドより正式に離反、独立します』 少女は言葉を切った。聞く相手が動揺することを見越した間だろう、とニルソンは推測した。 僅かな間沈黙が再来したが、すぐに打ち破られる。 『我々が仕えるのはただ一人きり、マダム・マルチアーノのみ!』 彼女は声を張り上げた。高らかに宣言した。未来永劫決して違えることはないとばかりに、声を大にした。 感情が堰を切って溢れ出し、少女は続けて言う。 『権力に肥えた豚に膝は折れません。我ら姉妹とその配下の兵は、失われたギルドとしての誇りを取り戻します。 例えそれによって全員が斃れるとしても』 口調を改め、彼女は再度、述べた。 『私は独立する。私たちは独立する。我々全員が、クリミナル・ギルドより独立する!』 演説はそこで終わり、彼女たちはカメラの視界から外れていくが、 ジュライだけは考え事をしているようで、ずっと立ち続けている。 ニルソンは彼女たちの宣戦布告に思いを巡らし、少しだけ頭を抱えたくなった。 この映像を撮ったのが二日前である。編集した映像はもうギルド上層部に届いている頃だろう。後戻りは出来ない。 勝算が無い訳ではないのだ、とニルソンは思った。無ければ、恐らくはここまでのことはしなかっただろう。 だが、彼はそのあるのかさえ朧げな勝算というものが、どれほど危うく不安定なものか十分に承知していた。 十二姉妹──今では十一姉妹に減ってしまった彼女たちは最強であるという点において、 ニルソンは髪の毛一本程度も疑いを抱いていない。彼女たちは人間の形をしながら、人間より遙かに優れている。 単純な力仕事から複雑な精密性を要求される作業まで、何の造作も無くやってみせる。それも全て人間以上の出来栄えで。 彼は誇りを抱いていた。何しろある意味では父親のようなものなのだ。 だから娘のように思っていたし、娘たちはギルドにおける他の精鋭部隊に対し、絶対に引けを取らないだろう、とも思っていた。 けれどそれは戦闘単位での話だ。戦争まで範囲が拡大されれば、損耗は当然増える。 こちらは補給も簡単には行えない。何せ、ギルドの支配は全銀河に遍く行き渡っている。 それに対しあちらは余りにも自由だ。好きな時に補給が行える。好きな時に戦闘し、撤退出来る。 ギルドは結果を急がない。求められはするが、素早く行うことより確実に行う方が良いとされる。 勿論両方揃っていればより良いのだが、多くの要求は任務の完遂を不可能にしかねない。 更に言うならギルド兵の問題だ。彼らは熱狂的な支持者と言える存在の為、離反は問題ないだろう。 欠員となったセプの隊に所属していた隊員は、いずれ来たる復讐の為に銃を取る者もあったし、 指揮官がいなくなっても姉妹への忠誠は絶えないとして銃を取る者もあった。 が、それはいいとして、戦闘での死傷者が問題なのだ。死人は蘇らない。補充など望める訳もない。 十二姉妹は精兵を選りすぐって結成した最強の部隊だ。 彼ら彼女らはギルドの官僚的社会という梯子において、一番上に立つ権利がある。 よって、ギルド所属時ですら補充はそうそう容易に行えなかったくらいだ。傭兵を雇うようなことも出来まい。 弾薬や医療品、食料へ費やす金額は小額ではない。そこに賃金までは支払えない。 当分はギルド兵の給料もカットしなければならないだろう。それでも不足なのだ。 そもそもが戦争で勝利出来る相手ではない。巨大な組織にたった一部隊で勝てるのは映画の中だけだ。 ノックの音がしたので、ニルソンは思考をそこで一度打ち切った。 テレビの向きを変え、椅子を回転させてドアの方に体を向け、鍵が開いている旨を伝える。 控えめに音を立てて入ってきたのはエイプリル、ジャニアリー、ジューン、ジュライの四人だった。 「やあ、エイプリル」 まるで今の今まで休憩を取っていたかのように振舞う。 何としても彼女たちの力にならねばならなかった。 彼女たちがその全力を発揮出来るようにサポートせねばならなかった。 断じて、断じて疑念を抱いていると感付かれてはならなかった。 故に、彼は普段通りの自分を偽装する。 「四人揃って、どうしたんだい?」 誰にも見えなかったが、その時テレビの中で、ジュライが少しだけ目を開いた。 * * * 薄暗い会議室で、十数名の男たちが椅子に腰掛け、現在の状況について話し合っていた。 ざわめきは膨張し続け、狭い部屋が言葉に埋め尽くされる。 それを、一人の男がただ二度三度手を叩く音のみで打ち消した。 「全員静粛にしてくれ。親交を深めるのは後でいいだろう」 彼は静かにそう言うと、予め用意されていた席が全て埋まったことを確認し、ディスクを一枚取り出した。 それは外見に限って言うならば、何の変哲もないただのディスクである。 二十宇宙ドルもあれば五十枚は買える、普通のディスクだ。 が、当然ながらこれはただのディスクではなかった。男は用意したノートパソコンにディスクを読み込ませると、再生を始めた。 映るのはエイプリルたち十二姉妹の姿。声が少し上がったが、男が睨むとすぐに止まった。 『我が隊は只今を持ってクリミナル・ギルドより正式に離反、独立します』 今度ばかりは声を即座に止めることは出来なかった。男は面倒臭そうに手を何度か打ち鳴らし、止めた。 席に座っているでっぷり肥った中年の男が、それを無視して憤慨を表す。 男が更に嫌な顔をして何かの行動を取る前に、次の言葉が流れた。 『我々が仕えるのはただ一人きり、マダム・マルチアーノのみ!』 言い終えると同時に、次の台詞へ。 『権力に肥えた豚に膝は折れません。我ら姉妹とその配下の兵は……』 「こいつは君のことを言っているんだぞ、ヘル・ディッカーヘン!」 ディッカーヘンと呼ばれた、先程怒りを表明した肥満中年に向かって、反対側の席から野次が飛ぶ。 彼らは笑った。ディッカーヘンも腹を揺らして大いに笑った。 そして男も笑い、内心でほっとした。やれやれ、これで俺は奴に何も言わずに済んだ訳だ! 大笑いの渦の中で映像は終了し、ノートパソコンは閉じられた。 笑い声が収まり、打って変わって厳粛な雰囲気になる。 「さて、諸君。まず、気の利いた野次のお陰で私が気の進まない仕事をしなくて済んだことに礼を言おう」 男が言うと、何人かが声を押し殺して笑った。 「しかしこれ以上の野次は今は遠慮してくれたまえ。我々は共同体として危機を迎えている」 言葉をそこで中断し、場を見渡す。誰もが至って真面目に話を聞いている。 それに満足して、話を再開した。 「このディスクが私の手に届いたのはつい昨日のことだ。届けてくれたのは近所の子供だ。 ああそうだ、私は彼に五宇宙ドルほど小遣いをやったが、君たちはこれを金の無駄遣いと咎めないだろうね?」 笑い。 「中身は今見て貰った通り、我らが精鋭部隊として擁していたマルチアーノ十二姉妹の独立宣言だ。 ふむ、宜しい。それ自体は驚くべきことではない。今は亡きマダム・マルチアーノは反乱を起こしていたしね。 問題は、彼女たちが様々な機密、秘密を胸の谷間に隠してるってことだ」 発言させて貰えることを求めて、手が何本か上がった。男はそれを見て、一人を選んだ。 「よし、プティ。君の発言を許可する」 小柄な男が立ち上がり、口を開く。 「粛清を求めます」 途端、横から複数の声が飛んだ。 どうやってやる気だ、プティ? 君の背ほど彼女たちの脳味噌は小さくないんだぞ。 対抗する兵力は何処から調達するんだ、そらそら早く言えよ、言えないのかプティ? 全く、考えてから物を言った方が恥を掻かなくて済むぞ! 男がほとほと呆れて差し止めた。 「静かに。ここは議会じゃあないぞ。罵りあいは他所でやってくれ」 真っ赤になってプティは席に腰を下ろす。 上がる手。指名。立ち上がる。 「粛清を求めます。兵力には提案が」 「いい案か?」 集まった十数名の中では最も若い提案者の男は頷き、告げた。 「幸いにも、私はマダム・マルチアーノの反乱時、彼女の邸宅に突入し反乱分子を掃討、その時大量にボディを入手しております。 以来それを研究し続け、つい先日、やっと今は亡き彼女の愛娘同様のものを手に入れました」 会議室は一転、騒然とした。 「そんなことは聞いていないぞ」 「どうなっているんだ、それは報告すべき事象だった」 「君の独断で行ったのか、もしそうならギルド裁判に掛けられても仕方ない……」 「黙りたまえ、諸君」 男はその一言だけで場を十数秒前の静けさまで戻した。 それから、尋ねる。 「やれるか」 「今すぐにでも」 提案者は自信を漲らせた表情で頷いた。 * * * 「というのが三十分前の会議の内容だ。分かったか?」 「とても良く。ちょっとした賭けですね」 会議室からそう遠く離れていない場所にある邸宅の、中心部にある小さな書斎。 仕事用に用意されたと思しき机の上に足を投げ出して、提案者は余裕を見せていた。 その傍らに、彼以上に若く見える男が佇んでいる。右手に本の山を抱え、左手で本棚に整理して片付けている。 足を机から除けて、体をぐっと前に乗り出す。 「ギルド兵とお人形を戦闘に備えさせておけ。艦からヘリを下ろし、兵員や燃料などを積み込め。奴らは遠くにいるだろう。 その本は机の上に放っておいていい。こっちは情報を回すよう色んなところに言っておく。よし、掛かれ」 二人は部屋を出ようとして、ドアにつっかえそうになり、互いに一歩引いた後、またもや同時に進んでつっかえた。 ……彼らが遊んでいる間、『目標』は惑星クーロンへと向かう航路を取っていた。 艦の作戦室に十一人の姉妹とニルソン、それに各姉妹配下ギルド兵の小隊長を集めて、 これからの戦闘と相手の行動を様々な角度から予測して対策を考慮していたのである。 考慮の上で第一に頭に入れておかねばならなかったのは、兵員の少なさ、食料、燃料、弾薬の問題であった。 兵員はどうしようもなかったが、残りの三つは、クーロンでなら何とかなる。それがクーロンへの航路を進む理由だった。 姉妹たちやギルド兵たちは思い出す。かつて戦った場所と人間だ。彼らはコヨーテだった。 打たれ強く、誇り高く、ギルドの支配に抵抗する。時にはそれが理由で死ぬこともある。 ギルドの力が弱まるコヨーテ共の巣窟なら。そこでならば、弾薬も、食料も、燃料も安全に購入可能だ。 論を俟たず、コヨーテと一戦交えることになる確率は誰もが認めていた。 特にジュライは強硬に反対した。ミスターの一味が海賊亭に戻っていないとは確認していなかったからだ。 が、これはエイプリル隊所属ギルド兵小隊長の一人が、誰かを大気圏突入用舟艇で送り込み、 確認次第連絡すると請け負った為に取り敢えず引っ込められた。 彼女らは全員の賛成でもってクーロン行きを決定し、次はクーロンでどのように調達などを行うかが主に話された。 「兎に角、最初に艦を隠さなければなりませんわ」 エイプリルが鉛筆を弄びつつ言った。 メイが同調し、ジューンが手に持ったノートに『最優先:艦を隠す』と書き付ける。 「それから、私たち十二姉妹は全員艦の外に出ないようにしなければ」 何故、と聞く者は誰一人としていなかった。 コヨーテに見られた時、ギルド兵は装甲服を脱げば分かるまいが、十二姉妹はすぐ分かる。 騒ぎになればギルドに話も流れるだろう。コヨーテと戦闘を繰り広げれば、いらぬ疲弊と危険を招くだけだ。 言わなければ分からないことではなかった。 「調達についてですけれど、ギルド兵を目的別に四隊に分けるというのはどうですの?」 ジャニアリーが一つの案を提示する。他の者は口を閉じてあれこれとその案の粗を探し、 結果、特にその案を却下するデメリットは無く、効率化の為にはそれが尤もだろうとして、採用された。 その後エイプリルはジューンの纏めたノートを一読し、告げる。 「現時点で論じられるのはここまでのようですわね。それでは、解散します。 ああ、計算によればクーロン到着は十一時間後ですので、覚えておくように」 が、ぞろぞろと出て行こうとする中から、フェブを呼び止めた。 「何ですの?」 これは考えたくありませんが、と前置きしてから、口を開く。 「クーロンの繁華街と宇宙港及びそれらの周辺において、戦闘を行うかもしれませんわ。だから」 「……地図?」 分かりのいい妹を持って嬉しいですわ、とエイプリルは言った。 * * * 昔から僕は、自分が不運だと信じている。僕の友人たちはそうではない、と頻りに否定するが、彼らこそ間違っているのだ。 だって、もしも不運な人間で無かったならば、よりにもよって自分が先行観測員に選ばれる訳がない。 畜生小隊長めと、心の中で罵ってやる。なんだってコヨーテ共の巣窟に潜入しなければならないんだ。 それも夜。彼らが最も活動的になる時間。僕たちも最も活動的になる時間。最悪。 彼らは目聡い。耳聡い。僕が少しだってギルドのような振る舞いをしようものなら、瞬間に未来が確定する。 唾を飲み込む。カウントダウンは三十秒前からだ。左手首に嵌めた時計を見ようとして、 この忌々しい大気圏突入用舟艇に乗り込む時、装備などを収める箱に入れさせられたことを思い出した。 僕は兵士だ。僕は兵士だ。僕は兵士なのだ。命令には従わねばならない。命令は遂行せねばならない。 早まる動悸を抑える。火照る体を落ち着かせる。震える手は無視する。 『母艦離脱三十秒前』 艇の壁に掛かっているモニターが起動し、装甲服を着込んだ同僚の姿が見えた。 平静を。平静を、だ。命令を拒否する訳には行かない。上手くやらなくては。 十二姉妹の勝利は、僕の肩にも掛かっているのだ。 『二十秒前』 そう考えると、不思議と脈動が元に戻った。手も、意思のままに動くようになった。 出来るぞ。僕には出来る。やってみせる。手抜かり無く、油断せず、やってやる。 『五秒前、四、三、二、一、ランチ』 衝撃が走り、僕は腰掛けていた椅子から転げ落ちそうになったが、シートベルトのお陰でそれは防がれた。 ただ、体は前にずれた後、言うまでも無く後ろに戻る訳だが、その時思い切り僕は後頭部をぶつけた。 白が段々と広がる。まずい。気を失うと色々とまずい。着陸後には己の痕跡を消して、すぐその場から離れねばならないのに。 左手を動かして、太腿を思い切り抓る。何も感じない。白は僕の意識を埋め尽くす。覆う。何もかもを隠 目を覚ますと、僕はどうやら生きているらしいことが分かった。辺りが暗い。 自分の手はどうにか見えるので、失明したのではないようだ。 重力の向きがおかしいことに気付く。コースに問題でもあって横倒しに着地してしまったか。僕は唾を吐いた。 吐いた方向に落下していく唾。これで向きが分かった。そろそろとシートベルトを外す。 落下しないように気をつけて、足先を下ろす。暗い中で、装備品入れの箱を探す。 あった。手探りで鍵を外し、中から時計を取り出して嵌める。 懐中電灯があったので取り出し、電源を入れてみたが、壊れていた。衝撃でどうにかなってしまったらしい。時計も危ういな。 拳銃を取り出し、ズボンに差し込む。弾倉をあるだけポケットへ。コンパスはあったが、地図が無かった。 食料はどうなっているだろう? もしここが本来の降下地点ならいいが、そうでなければ食料が必要だ。 箱を探ると、二日分の食料があった。水もそれなりにあった。 僕はコンパスだけは尻ポケットに入れて、残りは箱に入れた。この箱には取っ手が付いていて、持ち運びも容易だ。 本当に思うが、サバイバル訓練は無駄ではなかった。オーケイ、今こそそれを役立てる時だぞ。まずはドアを探そう。 壁伝いにあちこち探して、やっとのことで突起を見つけた。所謂ボタンという奴だ。動けばいいんだが。 押す。幸いにも開い……いや、途中で止まった。最初っから失敗と予想外だらけとは、泣きたくなる。 月の光でドアの位置が分かったので、出来る限り離れて、蹴りつけることにした。 左足で壁を蹴り、勢いを加えやはり左足で床を蹴り、首を屈めながら小さく跳躍して右足を伸ばす。 想像していたような重い感触は無く、突き抜けるように押し退けて、僕は外へと脱出を果たした。尻で着地。 馬鹿みたいにぼーっと、動きを止める。尻が痛む。まさかとは思うが、コンパスを破壊していないだろうな。 尻を叩き、ついでにコンパスを確かめる。生存。僕は溜め息を吐いて胸元を少し開いた。 全状況に異常無し。オール・クワイエット・オブ・ザ・ウェスタンフロント。まあここが西か東か良く分からないが。 さて、行こう。ここを本来の降下地点だと想定して動くとしよう。 しかして動くのならば静かに行かなければなるまい。ラン・サイレント・ラン・ディープだ。よし、行動開始。 * * * 「報告はまだですの?」 部下のギルド兵もいる指揮デッキで、ジャニアリーは苛立ちを隠す気がないようだった。 無理も無い。ミスターたちが海賊亭にいるのか確かめる為に送った男から連絡が途絶えて、既に四、五時間が経っていた。 それまでは返答は無いまでも生命反応と受信反応はあったのに、 大気圏突入時に何らかの予測しなかった問題が突如として発生したらしく、以来何もかもが途切れてしまっていた。 フェブの予測によれば、根拠は明らかにしなかったが、減速用のパラシュートが予備さえも開かず、 逆噴射によってのみ減速したのだろうとかだった。 彼女の計算と推測が正しければ、舟艇は降下ではなく落下のように着地することになっていた。 「落ち着きなさい、ジャニアリー。急いても報告は来ませんわ」 十二姉妹のリーダーがたしなめても、ジャニアリーは一向に態度を改めようとしない。 「エイプリル、どうしてそんなに落ち着いていられますの? 舟艇からの信号無し。生命反応無し。フェブさえ舟艇へのコンタクト不能!」 大声を出して少しは冷静になったのか、彼女は肩を落として俯く。 自分の為に用意されている椅子に座って、呟いた。 「……何も分からない。何の心配も要らないと言って彼を送り出したのは私たち、いえ、この私ですわ。 だというのに、何が起こったのかも、何故そうなったかも、何も分からない」 エイプリルは、その兵がジャニアリーの部隊から選出された男だと知っていた。 だから、仕方ない、とは言えなかった。割り切って次の手段を考えることが出来なかった。 そうして、そんなリーダーをジュライはいつも通りの奥底窺えぬ表情で、しかし何らかの意思を持って、後ろから眺めていた。 それを更にジューンがちらちらと気にしていたが、携帯電話の音でそちらに目を向けた。 「俺の携帯だ。一体誰からだ?」 兵の一人が、装甲服の脇に付けた小物入れから携帯電話を取り出し、電話の相手を見て目を見開く。 彼は呼吸を軽く整えてから、エイプリルの注意を聞かずに通話ボタンを押した。 『もしもし、僕だ。聞こえるか?』 ああ、聞こえると返してから兵はエイプリルとジャニアリーの方を向き、彼だと伝える。 慌てて近づいて来る二人を見ながら、兵は死人扱いだった彼に向かい、彼の隊長と電話を代わることを告げた。 『ジャニアリー隊特別斥候班より報告します』 漏れ聞こえてくる小さな声を逃すまいと、誰もが口を閉ざし、息を潜める。 『凡そ四十五分前、ミスターなど数名の仲間の不在を確認。彼らはグレイスランド以来一度帰って来たきりだそうです』 歓声が上がった。これで何もかもが軌道に乗り出した、という喜びだ。 エイプリルはそれを手を振って抑えた。煩くて彼の声が聞こえない。 「分かりましたわ。監視を続行し、五時間、いえ、四時間三十分後にもう一度連絡するように」 『了解』 ジャニアリーはあれだけ取り乱し情緒不安定になっていたくせをして、 いざ電話を取ると極めて無感動な声色で対応を取っていた。 けれど滲み出る喜色は隠せない。誰から見ても、それは明らかだった。 ジューンのように誰かを気にする訳でもなく、真実沈黙と無思考に埋もれていたマーチは、隠れて胸を撫で下ろす。 上手く行った。彼は様々な問題に衝突しながら、何とかやって見せた。十分に働いて見せた。流石は精鋭兵だ。 だがだからと言って、我々もが上手く行くとは限らない。マーチはこの作戦に、一抹の不安を抱き始めていた。 * * * 彼は焦っていた。自分の状況を把握出来ないでいた。自分がどうすべきかも分からないでいた。 『ヴァレーリア、速度が速すぎる。減速せよ』 手元の無線機からは管制と艦のやり取りが聞こえてくる。 が、彼の耳には全く入ってこなかった。 あちらこちらを見回し、自分以外に誰もいないことを確認する。 己の椅子にどっかと腰を掛けて、頭を抑え、ぶつぶつ呟く。 俺はこれまで何処で働いても下っ端だった。軍、一般会社三つ、特殊清掃とだ。 そうだ、そうに違いないんだ。これが、これこそが正しく、俺の『チャンス』なんだ。 マルチアーノ十二姉妹。ギルドの力はクーロンに届かないものの、話は届く。それも結構なスピードで。 元ギルドの裏切り者。造反者。反乱軍。たった一個か二個中隊そこらの戦力で、全宇宙に広がるギルドに抵抗する命知らずの一群。 ヴァレーリア号などと偽の艦名を使ってはいたが、データと照合すれば明らかだ。 俺以外の誰もがそれに気付いているだろう。誰かに先を越されてはならない。 人生における勝利者という奴は、この俺のような奴のことを言うんだろう。たった一度の機会を見逃さぬ者のことだ。 彼は唇を湿らせてから、電話機の番号を押し始める。 同刻、立てられた計画を根底から覆す出来事が起こっているとは露知らず、 エイプリルは宇宙港の責任者に連絡、艦を隠す手立てを用意していた。 「……はい。ご厚意に感謝致しますわ。では」 相手の返事も聞かずに一方的に通信を切断し、各隊の小隊長と姉妹たちを作戦室に呼び集める。 彼女たちが集まるなり、エイプリルは本題に入った。 「これより、各隊の作業と交戦規則を決定します」 皆の顔が引き締まり、小隊長たちはメモを取り出す。 エイプリルは作戦室の片隅にあるホワイトボードを引っ張って来ると、それに各隊の名前を書き込んだ。 それから、フェブに尋ねる。 「頼んだものは出来ているかしら」 「細部に自信のないところがありますけれど。これです。データは後で送信します」 十分ですわと返答し、一枚の紙を受け取って、それをボードに貼り付けた。 「ジャニアリー隊、ジューン隊、オーガスト隊は、繁華街北側で弾薬を調達すること。 その為にトラックを、そうですわね、四台使用許可を出しますわ。足りるかしら?」 「はい、問題ありません」 小隊長の言葉に頷きを返し、ホワイトボードの隊名の後に、『北側:弾薬調達』と書き込む。 「現場の指揮はジューン隊小隊長に命じます。決してコヨーテと戦闘にならないように。 次、オクト、ノヴェ、ディッセ隊。あなたたちは繁華街東側にて燃料を調達。 トラックは六台、現場指揮官はディッセ隊小隊長」 エイプリルが書く前に、ジューンが出て来て必要な事項を全て書き留めた。 「了解です。うんざりするほど手に入れてきますよ」 「なら、帰って来たらまずシャワーか風呂に入ることを命じます。次」 士官たちは笑った。エイプリルの口も緩む。 「フェブ隊、ジュライ隊、セプ隊は繁華街中央部で食料を確保。 トラックは五台。現場指揮官はジュライ隊小隊長に命じます」 「承りました。ところで、桃缶は幾つ手に入れれば?」 「いつだって、買ってきた量より一缶多めに彼女たちは欲しがりますわ」 またもや笑い。兵にも姉にもからかわれた三人の妹は頬を膨らませてその扱いに抗議するが、 実際そうなのだから仕方ないじゃないと同じ第三世代のオーガストにさえ言われて、機嫌を少し損ねてしまった。 「残りの三隊、マーチ、エイプリル、メイ隊は艦で待機。行動は自由ですが、艦から出ないように」 ジューンが書き込む。彼女を見ながら、小隊長の一人が言った。 「帰還はいつがいいでしょうか?」 「現在時刻が一五〇〇ですから、九時間後、二四○○に。さて、最後に交戦規則を決めましょう。一応決まりですから。 基本的に我々は撃たれる前に撃つ、と決めていますが、今回ばかりは撃たれてから撃つように。 但し、明らかに敵意を持って構えている場合はその限りではない、ということで」 「全て了解です。何もかも問題なく遂行してみせますよ」 「本当に、そうなることを祈りますわ」 エイプリルは神妙な顔でそう言った。 ──同刻。ギルド十二姉妹粛清部隊旗艦指揮官室。 「マルチアーノ十二姉妹の現在地を特定しました!」 ドアが開け放たれたのと同時に発されたその言葉を聞いて、 部屋の窓を開けてその傍らで吸っていた煙草をぴんと外に弾き飛ばし、粛清の提案者にして指揮官は発言者の方を向いた。 彼はどうやらその情報を何処かそれなりに遠くで手に入れたらしく、額に汗を浮かべている。 「落ち着け。深呼吸だ」 言われるがままに深く息を吸い込み、吐き、吸い込み、吐く。 それを何度か繰り返して落ち着いた男は、指揮官に言った。 「はい、間違いないそうです。クーロンの宇宙港からリークがありました。 彼は丁寧に艦を撮影までしてくれましたよ」 一枚の写真を渡す。ちらりと見て、指揮官は口元に手をやった。 男は彼が情報を疑っているのかどうか気になったが、違ったようだ。 「リークした奴に常識の範囲内でお返しをしてやれ。余り無理を言ったら宇宙を遊泳して貰うがね」 言いながら部屋を横切る。 「誰かに命じておきます。我々は出撃するのですか?」 ドアを開けて、一歩進んで外に出てから振り返り、彼は宣告した。 「そうとも、休んでなどいられない、すぐ出撃だ!」 「了解しました、大佐」 * * * 小隊長たちは宇宙港の外に出るとすぐさま、己の隊員に最後のチェックを要求した。 「武装を確認しろ。拳銃でも、強装弾なら装甲服を撃ち抜けるんだ。換えの弾倉を忘れるな。手榴弾を落とすなよ」 「水は持ったか? 向こうは人も多けりゃ熱気も凄いぞ」 「まさか、さっき配布した地図をもう失くした奴はいないだろうな」 「トラックの無線周波数は全員覚えておくんだぞ。お前以外に覚えてる奴がいなくなるかもしれないことを忘れるな」 全ての確認が終わり、小隊長たちは互いに頷き合うと、声を張り上げた。 「タイムハック用意! 五、四、三、二、一」 「ハック!」 全員の掛け声と共に、私物の腕時計の時間を合わせる。 「よし、乗り込め! 後は歩くか走るんだ!」 大型車輌の運転手はトラックに乗り込み先行、残りの兵は己の足で移動である。 宇宙港から繁華街までは十キロほど離れていたが、ギルドで精鋭と謳われた十二姉妹隊隊員にとって、 十キロとは遠い距離を表す言葉ではなく、散歩程度の距離である。 彼らの内それを面倒だと思った者は小隊長の目を盗んでトラックの荷台に乗り込んだが、寧ろ彼らは少数派で、 敢えて地を駆けて繁華街まで向かおうという男たちが過半数以上を占めていた。 「そういえば、あいつはどうなったんだ?」 走りながら、フェブ隊の一人が同僚に訊いた。 「あいつ? ああ、もしお前が言ってる男がジャニアリー隊の運が悪いあの男なら、宇宙港でもう拾われてる。 宇宙港からじゃなきゃ、連絡なんて出来なかっただろうよ。だろ? だからトラックに乗り込んでなけりゃ、何処かで走ってる筈だ」 「へえ、休み無しか。そりゃ、運が悪いな」 実のところを言えば、彼はしっかり休んでいた。 最初の連絡から次の連絡まで四時間半の時間があったし、実は今だってトラックの荷台に揺られて眠っているのである。 装甲服をつけず、銃なども持たずに走り続けた彼らは、大した疲れも感じない内に繁華街に辿り着いていた。 この繁華街というのは、クーロンという星で最も人が多く、物が多く、危険の多いところだ。 「俺たちはここでお別れだ。また後で会おうぜ」 ジューン隊を筆頭とする弾薬調達班が、太い道を曲がって行く。 仲間は互いに、ちゃんと働けよ、などと冗談を言って笑いあった。 次にジュライ隊小隊長を指揮官とする食糧確保隊が、繁華街に入って少し進んだところで止まった。 「我々はこの周辺で調達を始める。さっきも言ったが、無線の周波数は分かってるな? いつも通りだ」 さっきと同じように、軽口を返して彼らは別れる。 残ったオクト、ノヴェ、ディッセ隊は東へと進んで少ししたところにある広場で停止し、 トラックの運転手と助手席の者を除き、二時間後に一度ここへ集合することとの命令を受けて、散らばって行った。 殆ど全員が消えたことを確認して、あるトラックの運転手がシートベルトを外して尻を浮かせる。 「お前、何やってるんだ?」 意味が分からない、という顔で助手席の男が首を傾げる。 「いや、ただ待つのは苦手でね。時間を忘れられる魔法を持ってきたのさ」 そう言って彼が取り出したのは、一冊の文庫本だった。 * * * 「我が艦は指定位置にて停船中です。後三時間ほどで第一波の準備が整います。斥候は既に突入しました」 「斥候はどうでもいい。本隊の奴らの桃尻を引っ叩いて急がせるんだ。 三時間だと? 俺は短気なんだ、そんなに待てない。指揮官の言葉だぞ、副官」 「あなたは私に黒を白と言わせられますが、黒を白に変えられはしませんよ。私だって急いでるんです。急がせてるんです。 ビッグピンクからこちら、ずっと用意を進めてきたんですから。作戦の立案もやったんですよ。あなたの仕事です」 指揮官は、それだって怪しいもんだ、と嘯いて、自分の腰掛けている椅子の肘掛をとんとんと叩いた。 彼の言葉に副官は一瞬本気で憤慨しかけたが、浮かんでいる表情がからかうようなものだった為、 呆れて全身で脱力を表現してみせる。顔には薄い笑いがあるが、余裕のあるものではない。 「ま、それはどうでもいい。そこのガラス棚に入ってる缶コーヒーを一本くれないか。実は酷く眠いんだ」 「はい。しかし、眠った方が宜しいのでは? 攻撃までは時間が掛かりますし」 指を振って彼の言葉を否定する。瞼は半分まで落ちていたが、この男には眠る気は毛頭無いようだった。 分かってないな、と指揮官は言う。副官は憮然とした顔になる。 「攻撃の瞬間は興奮するだろう? 攻撃を指揮することは楽しいだろう? 勝利は正に美酒そのものだろう?」 「肯定ですが、その逆もある、ということを覚えておいて頂きたいですね。敗北は何を意味しますか?」 「可及的速やかな再起と勝利へ向かう歩みの開始。素敵だ」 沈黙が支配する。唯一の音といえば、どうしようもない一人の男が缶コーヒーを飲むものだけだ。 やっとのことで副官はそれから脱した。回れ右をして、部屋を出ようとする。 それを呼び止める。彼は足を止めたが、後ろを向こうとはしなかった。 「二時間後、第一波以外の兵員をガラガラの第一格納庫に集めろ。完全装備で。降りる準備をさせるんだ」 部屋を退出していく副官。指揮官の男は、やれやれと肩を竦めた。彼は冗談を真に受け過ぎだ。それが彼らしいのだが。 苛立ちを胸に溜め込んで、副官は廊下を歩く。このままあの指揮官とやって行けるのだろうか? 彼には時折、あの類のふざけた回答や彼の振る舞いが我慢ならなくなる時があった。 窓から見える広い宇宙に目をやる。この広さの前には自分の悩みなど小さなものだという歌があったな、などと思い出した。 「大尉、ボルツマン大尉」 自分の名前を呼ばれて、彼は声の方を振り返る。 そこには部下が一人いた。手に手に酒瓶を握り締めている。 「食堂で酒盛りでもやっているのか。特に許可のない限り、週に三度以上の酒盛りは規則違反だぞ」 「大尉、目の隈が凄いですよ。それに時計を見て下さい。今日は月曜日ですよ」 指摘されて、もう一度窓を向く。確かに凄い隈だ。私こそ寝る必要があるかもしれない。 部下の兵は心配そうに言った。 「大尉は真面目ですからね、ペトルッツィ艦長の言うことを一々本気にしてたら、疲れますよ」 「知ってたのか?」 「ドアはしっかりと閉めておくべきですね、大尉。秘密も何もありませんよ、半開きでは」 頭を掻く。どうやら、本当に私こそ眠るべきらしい、と彼は思った。 兵はちょっと赤らんだ顔を笑いで埋めて、酒を煽る。 「良ければ、私にもくれないか」 「どうぞ。まだまだありますからね、食堂に行けば幾らでも飲めますよ」 瓶を傾けて、喉を焼く液体を嚥下する。目が僅かに覚めてしまったが、時間が経てばより深い眠りに誘ってくれる。 中身を全て胃の中に流し込んでしまったことに気付いて、ボルツマンは兵に謝った。兵は大笑いをして許してくれた。 「ところで、ヴィート」 「何です?」 「今すぐ食堂に戻って、全員に伝えろ。二時間後までに三リットルの水を飲んで第一格納庫に完全装備で集合」 「了解。いよいよですね。やっちまいましょう、大尉。やっちまいましょうぜ」 彼は酒瓶を背後に放り投げようとして、目の前の人物に気付き、廊下の隅に置くだけに留めた。 これでいいんでしょ? という視線に対し、大尉は頷いて肯定を示す。 丁度彼らがそうしていた時、フェブは艦の作戦指揮室で、巨大なコンピュータを前にしながらうつらうつらと舟を漕いでいた。 コンピュータが画面に映しているのは、半径五十キロの動体情報。 プログラムによって条件に合わぬものは自動的に除外されているので、今は何の反応もない。 それ故、フェブはさっきから居眠りを始めていた。それどころか、今や本格的に眠り始めていた。 一瞬、遥か上空を表す区域で光点が一つ生まれ、発信音を出し、消えた。 「……ぅぇ?」 ぼーっとした顔でフェブは確認するが、その時にはもう完全に消えている。 彼女はもう一度目を閉じて、眠りに落ちた。 点滅する光点が発生。発信音。しかしフェブは起きない。 発信音と点滅の間隔が狭まって、画面の下へ降下していく。狭まっていく。急激に降下。 が、あるところで間隔の狭まり方が緩和した。それでも、段々と下へと降り続けている。 点滅と音の間隔がいずれ連続になり、そして、消えた。フェブは最後まで、目を覚まさなかった。 宇宙港西十五キロ。開けた土地に、一機の大気圏突入用舟艇が着陸していた。 ドアが開き、中から小さな人影が出て来る。数は三つ。 その人影は宇宙港の方向を確かめると、そちらに向かって尋常ならざるスピードで走り始めた。 * * * いやはや、警備という仕事ほど退屈なものは無い。これは俺の持論だ。 それも自分一人での警備を九時間となれば、もっと退屈になる。もう二時間近い。外は既に暗くなっているだろう。 我がエイプリル隊は自由行動の筈なのに、どうして俺だけが警備しなければならないんだ? ……分かってる。命令だからじゃあなくて、ちゃんとした理由がある。命令だからというのも十分な理由だが。 その理由というのも、下らない規則のせいだ。小隊長と来たら、端から端まで掘り返して来やがる。 戦闘になったら有能な男だが、あの性格は良くない。寝る時には靴を脱げ、だって? 酔って眠かったんだよ。 それは十日前の話だったし、非常時だから今の今まで罰は保留されていたが、丁度いいとか言いやがって。 今頃仲間は好きなことをやっているに違いない。俺の私物袋からウィスキーを出してなきゃいいんだが。 これがもう少し重要じゃない任務なら俺もすっぽかして遊んでるんだが、曲がりなりにも警備の仕事だ。 俺がいないと仲間を危険に曝すし、十二姉妹をも危険に曝す。それは避けたい。 だが、とも思う。だが、暖かい飲み物一杯を淹れて来る時間くらい、別にいいじゃないか? 辺りを確認した後、俺はこっそり艦内へと戻った。 小隊長や口煩い真面目タイプの仲間に見つからぬよう、隠密行動を心がける。 隊員食堂に行こうかと思ったが、やめた。絶対に誰かいる。あそこは誰もいない時間帯というものが存在しない。 となれば、十二姉妹専用食堂から失敬してくるか。これも駄目だな。 十二姉妹から盗む気にはとてもじゃないがならない。そんなことなら煮え滾る油を一ガロン飲み干す方がマシだ。 やっぱり隊員食堂か。乗り気じゃないが仕方ない。俺は何か飲みたいんだ。熱くても冷たくてもいいから、何かを。 足を速めて、入り口まで辿り着く。予想通りの混雑だ。結構結構。逆に隠れられるってものだ。 多大な苦労をしながらも、自動販売機群に出来ている長蛇の列へと進む。何飲もうかな。コーヒーもいいけど、紅茶もいい。 運良く列が短いところに潜り込めたので、あっさり手に入れられた。 どれを選んだかについては、商品を目にしても迷ったのでどうせだからと両方買った。 と、ヤバい。小隊長がいた。こっちには気付いてないが、バレるといけない。 帆を掛けて逃げ出そう。見つかれば、奴は俺に猛烈な懲罰とやらをくれるだろう。 そうなったら最後だ。残り一生、自分のクソの始末も出来なくなる。 努めて人を押し退けないようにしながら、俺はそこを抜け出した。後ろを振り返らずに、廊下を走って逃げる。 もう大丈夫だろう、というところまで戻り、缶コーヒーを開けた。走ったせいで喉が渇く。 暖かいそれを飲みながら歩いて警備位置まで戻る最中、年末三姉妹に会った。 彼女たちは何故か、訳有って呼ばれない限り普段は立ち入らない機関室への道を進もうとしていた。 因みに立ち入らないというより、立ち入らせて貰えない、の方が正しい。悪戯されると洒落にならないからだ。 俺が声を掛けると、彼女たちは同時に、ぴったり同時にこちらを向いた。 「そっちは立ち入り禁止ですよ」 「「「ちぇー」」」 流石三つ子だ。声もぴったり。 三人は食堂の方に歩いていった。俺はそれを何となく見ていて、ふと気付いた。 靴だ。おかしい。どういうことだ? 三人の靴には土が付着していた。床を見ると、僅かに散らばっている。 しかし仮にも姉妹の一員だ、エイプリル様の言葉を守らない訳がない。こういう状況下にもなれば、特に。 俺の混乱は、食堂とは反対側から年末三姉妹がやって来たことで余計に発展した。 目を白黒させる俺を不思議そうに見つめ、囁きあっている。 「ねえねえノヴェ、この人どうしたの?」 「知らない。ディッセは分かるー?」 「分かんなーい」 俺は、あれを幻覚と幻聴だと思うことにした。こっちに本物がいる以上、あちらは気のせいの類だろう。 「ああいえ、ただの気のせいで」 「で、警備を放棄するのも気のせいか?」 やあ小隊長。後ろに立つのは怖いから止めなよ。尾行して来たのか? 「それも気のせいですね」 更に三時間警備を延長された。 * * * フェブは、マーチによって作戦指揮室に運ばれてきた飲み物と食事に文句をつけた。 「これがフレンチロースト? この冷えたコーヒーの方がマシですわよ」 「この艦ではね。ドーナツは?」 「貰いますわ。ところで、あなたも食べる気なんですの?」 頷いたマーチの為に、椅子を一つ引っ張ってくる。 彼女はそれに腰掛けて、チョコレートでコーティングされたドーナツを一つ摘まんだ。 フェブも紙コップに満たされたやたら苦くやたら黒い飲み物を飲みつつ、口直しにドーナツをかじる。 意味も無くコンピュータを見るが、何の情報も表示されてはいない。 「敵影無しのようね」 「今のところは、ですわ。もしかしたら、もうすぐ来るかもしれませんもの。 とても、気を抜いてはいられませんわね」 さっきまで寝てたくせに、とマーチが言った。それを無視するフェブ。 が、もう一度繰り返して言われて、反撃を開始する。 「あなたは遊んでいたんじゃありませんの? 働いていた者に向かってその言い草は──」 ぞくりと、彼女の体に悪寒のような刺激が走った。 これは。これは、知っている。この感触は知っている。この感触を覚えている。 彼女が感じたものを裏付けるように、コンピュータのスクリーン上に光点が一つ発生した。 「マーチ! エイプリルに連絡して警報を!」 「分かった」 マーチが通信を始めるのを確かめもせずに、フェブは己の能力たる広域レーダーを周囲に出力した。 黄緑の板が目前に広がる。赤い光点が、一つ発生している。 いや、一つではない。二つ。三つ。四つ。五つ六つ七つ八つ九つ十十一十二十三十四十五十六──目視では数え切れない! ──フェブ? 何があったんですの? エイプリルの声が響いた。答えられず、フェブは画面を凝視し、何とかして数えようとする。 十七十八十九二十二十一二十二二十三二十四二十五二十六二十七二十八二十九三十三十一三十二三十四三十五三十六三十七三十八三十九 四十四十一四十二四十三四十四四十五四十六四十七四十八四十九五十五十一五十二五十三五十四五十五五十六五十七五十八五十九六十! ──フェブ、報告しなさい! フェブラリー! エイプリルが怒鳴って、彼女はやっと我に返った。知らず噛み締めていた歯を圧力より解放する。 「ほ、報告します! 敵大気圏突入用舟艇団が広域レーダー網に侵入、いえ、侵入中! 凄い数ですわ!」 ──数はどうなっていますの? 舟艇の大きさは? 個人用ですの? 落下ルートは? フェブは叫び声を上げた。 「数は不明、数は不明ッ! レーダーを埋め尽くしてます! 繁華街の方にも……大きさは殆どが分隊用、宇宙港への直撃コース!」 ──スピードは? 到着時刻は? 「正確なスピードは不明、落下に近いと思われます! ち、地表との衝突まで残り十五秒!」 エイプリルが息を呑む音がして、やっと警報が鳴り始める。 『警報レベル五。警報レベル五。全ギルド兵は完全武装し所定の位置に付け。警報レベル五。艦内への敵の侵入の危険あり』 『繰り返す、警報レベル五。全ギルド兵は全ての職務を放棄することを認める。警報レベル五。各小隊長又は姉妹の指示に従え』 『警報レベル五。戦闘の可能性あり。装甲服を着用せよ。完全武装せよ。小隊長は艦橋にて指示を受けよ』 ──フェブ、マーチと一緒に艦橋に来なさい! 早くッ! リーダーの声も全く耳に入っていない。マーチが駆け寄って立たせ、無理矢理引っ張っていこうとする。 「あ、あ、衝突まで十、九、八、七、六、五、四、三、二、衝突、今ですッ!」 爆発にも近い音が発生し、それと共に立っていられないほどの揺れが発生した。 * * * 「一体あれは何なんだ?」 僕は知らず口に出した。横で弾薬をトラックに積んでいた仲間が振り返り、空を見上げて、同じことを言う。 ギルド兵とは知らずに先程まで値下げ交渉に臨んでいたコヨーテも同様だ。 空を埋め尽くす白。繁華街の光はそれをより見易くしてくれる。僕たちにはあれが何なのか思い当たる節があった。 「分隊突撃艇」 小隊長が歯軋りして言葉を漏らす。僕も心の中で同意した。あれはそれだ。それしかない。 本当は大気圏突入用舟艇分隊用が規定された呼び名だけれど、現場では誰もそう言わず、分隊突撃艇と呼称する。 その方が格好いいし、突撃の文字は士気も上げてくれたからだ。 今、僕たちはそれの襲撃を受けている。なるほど、これが奴らの気分か。僕たちの敵だった者の気分か。最悪だ。 周りを見る。コヨーテは姿を消していた。何処に行ったのかは知らないが、 我々が最後の調達場所に選んだ『アンディの銃器店』の中ではないらしい。好都合という奴だな。 小隊長も考えは同じだった。 「ハンス、ゴッドボルト、運転手たちに地下駐車場へトラックを隠せと言え。 シグリッド、俺たちはこの銃器店を占拠し敵の襲撃を凌ぐぞ。 トラックの無線で食料班と燃料班にそう伝えろ。地図の座標を送信するんだ」 「了解。おい、急いで残りの弾薬を積み込むんだ! ヴィンスは店の窓に重機関銃を設置しろ、全方位に向けてな。 ヴィクトール、ヴィンスを手伝ってやれ」 僕はヴィンスを手伝い、三階建て銃器店の三階から見える南の太い道路に向かって五十口径を設置し、 東西から来る細めの通路に向けて三十口径を設置した。当然ながら、北にも三十口径を置いた。 作業を終えて戻ると、銃器店から拝借した武器の配給を始めていた。 銃はコヨーテの集めるものらしく旧式が大半を占める。 まあ、十二姉妹だってルガーを使ってたりスパスだったりするし、 使えと言われたなら僕たちは先込め銃だって使って戦えるからどうでもいいんだが。 それでも、大して銃の種類がバラけてない辺りは評価しよう。 これで弾が合わないせいで棍棒にしか出来なくなるかもという心配からほぼ解放される。 僕が配給されたのは突撃銃一挺に弾薬四百二十プラス既装填の三十発、手榴弾三発だった。拳銃はもう持ってるからな。 そしてこの突撃銃、M4カービンが中々泣ける。 何が泣けるって、新品なのはいいのだが、グリースが付いてるくらいの新品なのだ。 よって、照準は調整されていない。戦いながら合わせるしかあるまい。 指揮官のジューン隊小隊長はここに来た敵に待ち伏せを掛ける気だ。銃声なんて聞こえりゃ、失敗するに決まってる。 取り敢えず僕は銃器店に入って、ダットサイトを探すことにした。あれがあれば、照準直しにも射撃にも使える。 店内を探して回る。が、見つからない。そういうアクセサリは置いていないのか? 舌打ちをして、僕は壁を蹴った。と、崩れる。周囲の視線集中。やらかしちまったか? 「何とまあ、お手柄だな」 ジューン隊の一人がそう言って僕の肩を叩いた。皮肉かと思ったが、違った。 彼が指差している先には箱が沢山あった。そこには何か書いてある。 ある一つの種類の箱の一群には『Raketenpanzerbuchse』『RPzB 54/1』とあり、 その隣にあった箱の山にはこうあった。『Panzerfaust 100』。 僕は腕組みをして感心していたジューン隊の男ににやっと笑いを見せて、 これらの対装甲攻撃手段となる素晴らしい発見物の物色に走った。 ダットサイトは後で仲間が見つけてくれた。 * * * 分隊突撃艇で降下しながら、俺は思った。リークした奴は何を考えたんだ、本当に? 彼の分隊は全員でリークした奴の言葉を録音したテープを聴き、大笑いしたものだ。 彼は十二姉妹隊を一個か二個の中隊規模だと思っていた。これが笑えるポイント一。 彼は十二姉妹隊を単なる反逆者共だと思っていた。これが笑えるポイント二。 彼は十二姉妹隊の位置を教えるだけで人生の勝利者になれると思っていたようだ。これがポイント三。 ふざけるな。 彼らがただの反逆者共だと? 一個か二個中隊ほどの規模だと? 情報を伝えるだけで人生の勝利者? 最後はどうでもいい。それは個人の価値観が関係するからどうでもいい。 出来れば彼に教えたかったものだ。十二姉妹配下のギルド兵の規模を。 彼が何を見たのか知らないし、何を知っていたのか知らないが、彼らは一個大隊に中隊一つ分くらい足りないだけだ。 そして統率者。マルチアーノ十二姉妹。今はエイプリルというお人形がリーダーらしいが、彼女たちも問題だ。 銃弾を無効化する体。恐るべきその単純な力。人間にはない特殊な能力。機械故の精密性。 どれをとっても最高級に敵にしたくない相手だ。 配下のギルド兵だって怖い。選び抜かれた精兵。衛生兵から伝令兵までがだ。 勿論、俺たちだって精鋭兵さ。その証拠に、このクソ溜めに突っ込まれても生き残る気でいる。 こいつが一級の精鋭である証拠じゃなかったら、何だってんだ? 「上陸一分前だぞ。俺たちが上陸部隊の先遣隊の最終便だ。数時間後に第二波、本隊が降下する。 俺たちは敵が腰を抜かしている隙に辺りを確保しなければならん。 確保次第、連絡し、その二分後には強力な本隊の一部が着陸する。 武装八輪装甲車を含んだ強力な部隊だ。俺たちは何としてもこの一帯を確保しなくちゃならないんだ」 「ヴィート分隊長」 シートベルトでぐるぐる巻きにされた部下が発言許可を求めた。 俺はそれを言え、の一言で許可する。 「何故一気に送り込んでしまわないんです? 兵力の逐次投入は最大最悪の愚ですよ」 「理由を教えてやろう、ティリンギャースト。 市街地に突っ込ませて無事な車輌輸送用突撃艇がスーパーマーケットで売り切れだったからだ」 「どうも」 彼の心底どうでもいい質問を終わらせて、作戦についての説明を続ける。 もう上陸四十五秒前だ。 「まず我々は、スキャンによって確認した最新のデータによる支援を受け、 繁華街北部に東部、それに中央部の敵兵を制圧する。降下地点は南部に広がる平野地帯になるだろう。 西にある母艦は既に特殊選抜隊六十名のギルド兵と特別兵七十一名が襲撃しているから心配するな。 我々十二名は降下後、第一小隊の傘下に置かれる。 近くに降下して指揮センターを設置している筈だから、まずはそれを探さなくてはならない」 手が上がる。ティリンギャーストだ。またお前か、お喋り野郎。 「コースが逸れて建物に突っ込んだ場合、大丈夫なんですか、この艇は? 二年前はそれで死に掛けましたよ」 「例えば大丈夫だったとしよう。その場合全く心配ない、だろう? そしてもし大丈夫じゃなかったら? 俺もお前もくたばるだけだ。一瞬だから痛くない。良かったな」 降下前になるといつも彼はお喋りになる。それがこいつの欠点の一つだ。 機内表示によれば、残り二十五秒で着陸するようだ。外は暗いだろうか、明るいだろうか。腕時計を見る。十七時そこら。 なら、もう暗いだろう。クーロンはそういうところだ。 「降下前最後の点検だ。マック、ヘルメットは正しく被っておけ。死ぬぞ」 「了解、サー」 「スタインベック、お前降下は何回目だ? その顔を止めてヘルメットを被るんだ。葡萄農家の怒りを表現してるのか?」 「いいえ、ただこのGが嫌いで。ヘルメットを被るともっと酷いんです」 「いいから被るんだ。死ぬよりはいい。ティリンギャースト、手を上げて発言許可を求めるな、俺が困る。 着陸まで残り十五秒だ。舌を噛み切るなよ。衝撃に備えろ。何度も言うが、ティリンギャーストはその手を下ろせ」 * * * 「フェブ、この艦橋を臨時司令室にしますわ。あなたはここで情報支援をお願いします。 作戦指揮室まで回す人員がいないんですの」 「分かりましたわ。エイプリルは?」 彼女は手に握った銃を見せた。それでフェブは理解した。 フェブと艦橋に来る途中ギルド兵に呼ばれてそちらに行ったマーチが遅れてやって来て、 自分の銃にボルトを引いて初弾を装填しながら報告する。 「四つある艦への入り口の内、南の一つは破壊した。東はメイ隊が守備中。西はエイプリル隊。北は私の隊。 報告終わり、私は北に向かうわ。メイは既に東にて警戒中。ジューンもそこにいる。ジャニアリーは北。 オーガストとオクトたちはニルソン様の保護へ向かった。ジュライは不明」 「了解。フェブ、ここのことを宜しく。私は西で指揮を──」 「それは賛成出来ない。エイプリルはここで全部隊の指揮をするべきだと思う」 エイプリルは反論に少し考え込み、その考えの方が理論的で、合理的で、つまり尤もだと結論した。 彼女は前言を撤回するとジューンに連絡し、西でそのエイプリル隊の指揮を頼む旨を伝える。 ジューンは快諾し、急いで向かうと通信した。マーチはその間に、艦橋から姿を消した。 「フェブ、艦周辺の詳細スキャンを生命反応のみに絞って行って」 「了解」 様々な表示が展開される。エイプリルは見えてこない状況に爪を噛もうとして、それは淑女のすることではないと思い直した。 エラー音が鳴り響き、フェブが舌打ちする。何度やっても、エラー音が鳴った。 「どうしたんですの?」 「分かりませんわ。分かりませんわ! せ、生命反応が、生命反応が『無い』んですの!」 「無いですって?」 その意味が少しの間分からなかった。生命反応が無い? ということは敵は空の舟艇を落としたのか? 顎に手を当てて意味を考慮する。空を落とすメリットは? ダミーにしてもすぐバレる。それこそ無意味だ。 それではなんだ? 武装? それなら壊れないようにもっとゆっくり落とす筈だからこれも違う。 と、頭の中で銃声と聞き慣れた女性の声が聞こえた。 ──エイプリル? エイプリル! こちらジャニアリーですわ! 北侵入口でマーチたちと共に交戦中! 「ジャニアリー、こちらのモニターに連絡して」 ──了解! 声と同時に、モニターに現在ジャニアリーの見ている映像が映る。彼女は遮蔽物の後ろに隠れているようだった。 『敵は多数の模様、敵は多数の模様! 頭を上げられませんわ! 敵影すら確認出来ず! 支援を!』 「フェブ?」 視線を向けるが、彼女は何が何だか分からない顔だ。 モニターの向こう側で支援を求めるジャニアリーに応答しながら、エイプリルは必死で頭脳を回転させた。 考えろ。敵がいる。それは確かだ。だが周辺に生命反応は無い。それはどういうことか? 答えは気付いてみれば簡単だった。エイプリルは拳を握り締めた。 「フェブ、私たちの反応で調べてみてくれるかしら」 「了解。けれど……ッ!」 彼女のレーダー領域に、大量の光点が発生していた。 そして、上空から新たな舟艇が降下しているようだ。通常のスピードで降下してくる。 「これが答えということね」 エイプリルとフェブは、敵が十二姉妹と同じものを投入して来たことを確信した。 それも、大量に。