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著者:太田光 発行所:楓書店 初版:2006年12月14日 あとがき: 感想(2011/01/27) 短いエッセイがこってりたっぷり同方向に。 しばらくすると、なんか読んだことがあるなという気がしてきて、おしまいのほうになるとそれは確信になった。 一時期新聞を取ってなかった時期があって、その当時コラムの充実していたTVブロスというテレビ番組雑誌を買っていたのですが、そこで読んだことがあったんだ。 いろんなコラムの中でもバランサー的な役割を果たしていて、そして文章が面白かった。 薬味を主食みたいにこってりと食った気分です。 胸焼けしたけど、何とか消化できたよ。 名前 コメント
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天使だと思っていたのに 基本情報 アーティスト 鬱P 配信日 2018/10/03 ジャンル ボーカロイド 原曲 ・天使だと思っていたのに(戦闘摂理解析システム #コンパス) 解禁方法 解禁条件なし BPM 200 難易度 S2/N5/H8 特徴 SIMPLEは基礎練習に最適「16分ズレ」に注意 アップデートに伴う特記事項 特記事項なし 特徴 「#コンパス」では†13†(サーティーン)のテーマソング。 ▶︎「速さ」を感じない譜面 BPM200というテンポの割に、ターゲットの密度は異様に低い。 アバターの移動速度も「問題なく目で追える」レベルの速さ。 アドリブの注意点 ▶︎隠し方の主な傾向 曲全体にまんべんなく散っていて数が多い。 「4拍子」のリズムで空白を総当たりすれば簡単に100%は取れるが、譜面密度の異常に低いSIMPLEでは開幕と終盤のアドリブで取りこぼしが起きやすい。 【アップデート年表へ戻る】 【トップページへ戻る】
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音楽室の扉を開けた瞬間、私は何か違和感に襲われた。 先輩方の雰囲気がどこかおかしい。妙によそよそしいのだ。 若干不審がりながらも、挨拶をしながら鞄を置き席に着いた。 ふう、と一息ついて、ムギ先輩のお茶をゴクリと飲むと、高揚感のある唯先輩の 声が聞こえてきた。 「あずにゃん、眼鏡買ったよ!」 両手をぱっと広げて、子供のように見せびらかす唯先輩。 そこで私は、この部屋に入ったときに感じた違和感の正体を突き止めた。 「唯先輩、それ眼鏡じゃなくてブラジャーですよ」 この一言が、どうしても言えなかった。 そしてそれは、先輩方の様子を見る限り、今のこの空間ではタブーとなっている 言葉だと気づいた。 「どうどう? 似合う?」 満面の笑み(目は見えないけど)でこちらの様子をうかがう唯先輩。 私はどうしていいかわからなかった。 「本当は赤がよかったんだけどね~」 そう言いながら、フロントホックをクイっとする。 「き、黄色もなんだか唯先輩らしくていいと思いますよ」 私のその言葉に、唯先輩は表情をパァっと明るくした。 「そうかな? えへへ~」 頬を少しだけ赤らめながら、恥ずかしそうな仕草をする。 「あ、あの、律先輩」 「いやー! やっぱムギのお菓子はうまいなー!」 「澪先輩」 「あ、梓も食べないともったいないぞ!」 「あ、はい……ところでムギ先輩」 「持ってきた甲斐があったよりっちゃん!」 ……なるほどね。 我関せずですか。そうですか。 「ねえねえあずにゃん私は~? 私の名前だけ呼ぶの忘れてるよ!」 「ゆ、唯先輩……」 「どうしたのあずにゃん!」 「……なんでもないです」 「え~」 なんだこれ。どうすればいいんだろう。 え? 何これ? なんで唯先輩はブラを眼鏡だと思ってるの? 「ウルトラマンみたい……」 思わずボソッと口に出してしまった。 その瞬間、ブフォッ! と律先輩がお茶を吹き出した。 「あ、梓!」 すみませんごめんなさいでも仕方ないです。 「ジュワッチ! ブシュ! ジョワ!」 「唯ちゃん、くしゃみ?」 「最近ちょっと風邪気味で……」 絶対わざとだ。 あれ? なんかこの人楽しんでない? だって不自然だもん。怪しいよ。ウルトラマンっぽくくしゃみしてたもん。 「なんかあずにゃんの目が怖いよぅ」 どうやって私の目見たんですか? 見えないでしょ? だってそれ眼鏡じゃなくてブラですよ。透き通ってませんよ。 「ぷくく……」 駄目だ。澪先輩が笑いを必死に堪えてる。 「見て見てあずにゃん! ……だらーん」 「ぶふぉっ!」 うわあこの人フロントホック外しちゃったよ。 すごいだらーんとしてるよもう眼鏡のめの字もないよ完全にブラだよそれ。 そして澪先輩敗北です。 「視力は1.5です」 関係ないし真顔で言うのはやめてください。 というかそんなに目がいいなら眼鏡いらないじゃないですか……。 もう何がなんだか……。 「唯、それ眼鏡じゃなくてブラよ?」 それはあまりに唐突で、刹那の出来事だった。 そこに立ちたるは、半フレームの紅眼鏡、和先輩だった。 「私は普段眼鏡かけてるから気づいたけど、それは間違いなくブラだわ」 固まる空気、皆の表情。 余りにもイレギュラーな分子に、全員がどうすればいいのかわからなくなってい た。 「……あ、あはは! そうだね! これ眼鏡じゃなくてブラだったよ! あれ~? なんで間違えたんだろう?」 「知らないわよ。じゃあ私、生徒会行くね」 和先輩はそう言い放つと、さっそうと音楽室から出ていった。 「……」 誰ひとりとしてしゃべろうとしない。 完全な静寂がそこにはあった。 「……マ、マンボウ!」 何を思ったのか、ガタッと勢いよく席を立つムギ先輩。 いつぞやのマンボウの物まねをしている。 しかし、全員から困惑した表情で見つめられていることに気づいたムギ先輩は、 少しだけ涙目になりながらまた静かに席についた。 「……」 再び訪れる静寂。 私はただただ願っていた。 もうなんでもいい……誰でもいいからこの空気をどうにかしてほしい、と。 すると、とうとう唯先輩が苦しそうな表情で口を開いた。 「あ、あずにゃん、あのね……」 耳に引っ掛かったままのブラがプラプラと揺れる。 「和ちゃんはね……」 「いや、大丈夫です」 一体何が大丈夫なのかさっぱりわからない。 「……」 せっかくこの沈黙から抜け出すチャンスが見えたのに、 私は咄嗟にでた「大丈夫」という謎の言葉でそれを台なしにしてしまった。 澪先輩はひたすらに俯き、律先輩はカタカタと震えている。 ムギ先輩は顔を両手で覆い、私はただただ周りをキョロキョロと見回すだけだ。 そんな中、唯先輩が耳に引っ掛かっている黄色いブラを、とうとう取り外した。 ファサッ、と柔らかな音を立て、静かに机の上に落ちる。 よくよく見ると、ブラの裏側には赤いペンで大きく 「ドッキリ大成功」 と書いてあった。 当初の予定から大きく外れたであろう現在と、その文字がマッチしてなんとも形 容しがたい哀愁を漂わせていた。 そんなテンションの高いブラとは裏腹に、私達は地獄のような気分を味わってい た。 「……練習、するか」 ポツリと澪先輩が呟いた。 私は、このチャンスを逃さなかった。 「そ、そうですね! 練習しましょう!」 続いて律先輩もそれに便乗してくる。 「あ、ああ! そうだな!」 「わ、私、早くキーボード弾きたかったの!」 パァっと顔を輝かせるムギ先輩。 「私もギー太に触り……」 今までの修復の流れが、唯先輩により突然断ち切られた。 今度はなんだ、頼むからもうやめてほしいと切に願いながら 私は恐る恐る唯先輩の方に視線を向けた。 そこには、 ブラジャーを身にまとったギー太の姿があった。 一瞬の沈黙の後、澪先輩が叫んだ。 「無駄な二段落ちを用意しておくんじゃないっ!」 「あいたっ!」 それは、澪先輩が律先輩以外の頭を叩いた初めての瞬間だった。 終わり。 戻る
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母がこのあいだ、ネットで買った石鹸をいっしょに使っています。 ガミラシークレットの石鹸です。 ガミラシークレットは有名なので、しっていたけど、なんか今更って気もしないでもないけど。。 とりあえず、美肌効果が高いから、いいかなって思って、。 美白にもいいって聞いたので、ちょっと期待しています。 ガミラシークレットは、実は芸能人の間でも結構愛用している人が多いんですよ。 私の知っているところで、梨花さん、平子理沙さん、イッコーさんとか。。。 他にもいると思うけど。 まぁ、それだけ使ってみていいっことだし、そろって美容には一家言持っている人ばかりだから 信用できると思うし。。。 なので、このまま使い続けてみようと思います。それにしても母も美肌狙っていたんですよね。 びっくりしたけど。。。 参考サイト ガミラシークレットは梨花さんも愛用!ニキビや美肌におすすめです
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ーガラガラー 人気の無い図書室に静かに歩み寄る少年 制服のポケットに手を突っ込みながらいつもどおりにだらけた格好 辺りをキョロキョロ見渡しながら、図書室内の周りを歩く 「…ヤミ?」 そう彼は呟き、そう呼ばれた少女は彼に振り向く 持っていた本を片手に持ち替え、少しだけ表情を変えた 「結城…リト…」 とくに驚いたような声色はなく逆に、いつも通りの軽い声だった そして友達ですら見抜けないヤミの表情は、この少年結城リトだけには見抜けた 安心と喜び……笑顔… 「…何の本?」 その少女を後ろから抱きしめながら、耳元で囁く ビクッ …ヤミは少しだけ体を強張らせた だがそれはリトに対しての喜びを伝えようと、彼女なりの精一杯の動作であった 勿論それはお見通し、それさえも分かってヤミは行為を行ったのかもしれない 「…見られると恥ずかしいので…」 「充分恥ずかしい事してると思うよ?俺達」 図書室で抱き合っているカップルを見て、周りの生徒は居ずらくなったのか いや、羞恥…或いはこの二人に対しての劣等感等の所為だと捉えた方が多いだろう 「…ん?…「会話術…デート偏」?…はは!そういうとこも気にするんだ」 本が取られるやいなや、リトはすぐさま読み出した 自分の体を巻きつけている腕を少しだけ強く握り、顔をブンブンと四方八方に動かすヤミ 「別に気にしなくても…。俺はヤミと一緒にいるだけで、それで充分だ」 「………(かぁぁ~~///)」 今度はリトだけではなく、そこらにいる一般人にも分かるような表情の変化だった 今のヤミがリトと睨めっこ勝負をしたらたった一秒以下で棄権するだろう それ程の羞恥だったに違いない 「…なぁヤミ?…俺探してほしい本があるんだ」 「貴方が探したい本?…興味深いですね」 「うん。実は、この頃まったく授業に集中できないんだ。 ある好きな娘が頭から離れなくて…授業中もずっとその娘の事考えてて…」 「!」 「どうすれば良いか…解決できる本を探してるんだけど…無い?」 そんな本ある訳がない 途中からリトの本意を悟ったヤミだが、あえて口には出さない …その方がヤミにとって好都合と認識したからだ 「…そ、そんな事より…そろそろ授業が始まりますよ? 貴方が居ないとなれば、プリンセスが校内を駆け回って探し出しますけど」 ギュ… 「!!」 「うんそうだな」 流すような返答 先程より強く抱きしめるリト ヤミの顎を片手でクイッと、斜め後ろに反らせ 「チュッ…」 「チュッ…!?」 リトはヤミの豊潤な唇を奪い、そのまま静止した ヤミは先方目を見開いていたが……自然とゆっくりと目を閉ざしていく… 「(柔らかい…といつも思う…。時折見る結城リトのキス顔…。 目が合うと笑顔を見せられ焦りながら目を閉じてしまう…自分。 恥ずかしい…けど嫌じゃない…違う…もっと違う言い方が…)」 初めてキスをした時、恥ずかしさのあまり一瞬だけで終わらせてしまった ヤミは自分がキスは苦手で嫌いなのだと思った…その時は… だけど…今は… 「ん…ふぅ…」 自分はキスが好きではないが、今自分を愛してくれる人とのキスなら 「んん…(…大好き…です…)」 いつしかキスは終わり、向かい合って抱き合うようになっていた リトの抱きしめは力強さは微塵も無く、優しさで一杯だ 「……(ヤミはほんっと柔らかい。髪もサラサラで…素直に甘えてくる仕草も愛らしい)」 「…ん…(…温かい…)」 ヤミはリトの胸元に両手を置き、顔を埋める リトもそれに合わせてなるべく全身で抱擁するような感じで抱いた 「…貴方に出会ったから…。貴方に出会うまで私は知らない事がありすぎました」 「…」 「このように、誰かに必死で甘えること…や。 誰かに愛されること…愛すること…。そして…シアワセを…」 「…俺もヤミに教えられた。…好きな娘が頭から離れない時は、 ずっとこうしていれば良いんだってことをな!」 「…斬りますよ?」「わ、悪かったって!」 久しぶりのやり取りに、ふと笑みがこぼれる あんな事(いわゆる命掛けのバトル)があったのに、二人でイチャイチャしているなんて 「…好きです」 「…え!?(ドキ)」 あまりにも唐突なヤミの告白 いつもは仕掛け人のリトもこれにはさすがに驚きを隠せない 「不意打ちです。 たまには私からも言っておかないと…、気持ち…伝わっているかどうかが…」 「か、(可愛すぎる)…」 優しさの中で最大限に力を込めて抱きしめるリト 普通の少女として育ってこなかったヤミなりの正直な純粋な想いに心を奪われたのだ 「大丈夫…。充分に、充分すぎるほど伝わってきてるから…。 俺も…好きだ。…ヤミ」 リトもまた純粋な想いでヤミを愛していた そしてこれからもこの想いはずっと途切れることはない 闇と光は意外と相性が良いと言われるらしいから…
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とりあえず見つめる 嘗め回すように見つめましょう。やたら愛着が沸いてきます。むしろギターが喜んでいるように見えたら病気です。 間違えても我慢できずに飛びついたり舐めまわしたりしないようにしましょう。 一緒にご飯を食べる ご飯を食べるときもギターは離しません。間違えてもトーンノブ外した穴にポテトサラダ詰め込むことはしないようにしましょう。 名前をつける とりあえず名前を付けてあげましょう。名前を付けるのはあなたの自由です。でもサンバーストのストラトを買った場合は自動的に名前が和子(かずこ)になります。 お風呂に入る 気持ちはわからんでもないですが電気系統が壊れます。絶対やめましょう。 悩みを相談してみる 思春期さながらの悩みをぶつけてみましょう。きっと紳士的かつ優しいアドバイスをくれるでしょう。あまりの紳士っぷりに惚れてしまうこともあるかもしれませんが現実を見ましょう。所詮ただの木材です。 一緒に寝る ちゃんと枕も用意してあげましょう。寝てるときにネックが頭に当たってキレないようにしましょう。次の日にネックがヘシ折れていることがありますが、そのときはフリーザに殺されたクリリンばりに叫びましょう。 みんなも愛情を持ってギターと接しようぜ!!
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「うらやま死ーーーーーーーーーーーーーー!!」 胡瓜は砕け散った。 「胡瓜くーーーん!!」 クマ吉は物言わぬ友の骸を抱いて涙を流す。 早苗さんの胸の奥の奥にしまわれるバナナを見て、ついに胡瓜の嫉妬レベルは自らの体を砕くほどに限界を超えてしまったのだ。 「おのれ……おのれビッチ巫女……!!」 クマ吉は憤怒の相で立ち上がる。 「このクマ吉は…… いわゆる処女厨のレッテルをはられている…… 攻略していた子が非処女と知ってディスクをブチ割り速攻でゴミ箱送りになったエロゲーもある…… ヒロインが非処女だと発覚したんでネットで叩いてやった漫画家はもう2度と連載を再開しねえ そういう事をやりすぎたせいで警察に捕まるなんてのはしょっちゅうよ だがこんな俺にも!吐き気のする『ビッチ』はわかる!! 『ビッチ』とは清純派のふりをして童貞を煽り!ふみつけるやつのことだ!! ましてや巫女がーっ! ゆるさねえッ!あいつは今再びッ!俺たちの心を『裏切った』ッ!」 (※あくまでクマ吉の感想です) スタンガンを持って早苗さんを追いかけようとするクマ吉。 しかし、そんな彼の前を全裸の男が走り抜けていった。 「ユー!どいてくれ!あの女に追いつかれる!」 「すごく……大きいです……」 その全裸の男の股間にあるブツの巨大さ、翻って自分のモノの貧弱粗末さ。 それを考えた時、クマ吉は燃え尽きた灰のように真っ白になった。 そして虚脱状態のクマ吉は 「邪魔だクソ獣がぁー!!」 全裸の男・上田教授を追ってきた怪物・右代宮楼座のハイキックをくらって肉片となって果てた。 ◇ 一体走り始めて何時間経つのか、上田教授の人並みはずれた体力も限界に達しようとしていた。 「待ってあなた!どうして逃げるの!待って!待てっつってんだよこのダラズがァァァァッ!!!!!」 追いかける楼座との距離はだんだんと狭まってきていた。 ちなみにこの右代宮楼座、巨根を追いかけるのに夢中で先の放送で自分の娘の名が何度も呼ばれたことに全く気付いていない。ひどい母親である。 「はぁ……あ゙ぁ……諦めるな私……なぜベストを尽くさない……」 その時不幸が起こった。上田教授は落ちていたバナナの皮を踏んで転んでしまったのだ。 尻を擦りながら起き上がった上田が恐る恐る振り向くと、そこには狂喜の笑みを顔に貼り付けた楼座が立っていた。 「ゆ、ユー、待て、話し合おう。話し合えばわかる」 尻餅をついたまま後退しようとする上田を、楼座は満面の笑みで見下す。 「あなた、私をこんなに引きずり回らせたんですもの。その何十倍も何百倍も、私を愛してくれるわよね?」 じりじりと楼座は上田に近づく。 「だ、誰か助けてくれー!!ヘループ!!」 上田の悲痛な叫びに応えるように、飛びかかろうとしていた楼座と上田の間に謎の光が現れた。 その光から現れたのは、胡散臭い微笑みを浮かべた男。 「申し訳ありません、このような登場で」 ゾフィーと融合して甦った海東純一ニーサンだった。 「てめぇはあのクソどもの仲間かッ!!」 楼座はニーサンに向けてライフルをぶっ放す。だがニーサンは高速移動でその弾丸を全て避ける。 ゾフィーだって痩せても枯れてもウルトラマンの一員、ゆえにゾフィーと融合したニーサンは超人的な身体能力を手に入れていたのだ。 「他人が夫婦間の問題に口出ししてくんじゃねぇッ!! あんたにわかる!?愛した男に逃げられてッ!子供にパパはどこに行ったのなんて(省略) 仕事も軌道に(省略)新しい恋も(省略)そんな(省略)あんた(省略) 私の(省略)!!!私は(省略)!!!うオオぉオオッ!くたばれやこの(省略)野郎ォォォォオ!!!」 「いい台詞だ、 感動的だな。 だが無意味だ」 次の瞬間、右代宮楼座の腹にニーサンの腹パンがめり込んでいた。 「うがああああああああアアアアアアアアアァァァァァアアアアアア!!!!!」 その一撃で、楼座の体はロケットが撃ち上がるかのごとく成層圏まで吹き飛ばされた。 「ケリをつけてあげましょう」 空に吸い込まれて豆粒のようになった楼座に向けて、ニーサンはとどめのM87光線を撃つ。 「クソがああああああああああああああああああァァァァァァ!!!!」 光線の直撃を受けた楼座は、長野上空で爆散した。 「ふふ……実はこうなる事を見越してあの女をここまで誘導していたのだよ……全て私の計算どおりだ」 「いい台詞だ、感動的だな」 「やあ君!私は日本科学技術大学教授でありベストセラー『ドンと来い、超常現象』の著者である上田次郎という者だが」 「私は海東純一、大樹の兄です」 「(大樹?)私はこの戦いを止めるために行動しているんだが、どうだい、よかったら私の助手にならないか。 いや、別に君がむちゃくちゃ強いから君の傍にいれば自分の身は安心だろうとか、そういうことを考えているわけではないんだが」 「私は誰かのおかげで命を永らえることができた。今度は私がこの世界を助けましょう」 微妙に話がかみ合っていない2人だったが、とりあえず一緒に行動することになった。 挿入歌 海東純一のうた(みんなで歌おう) いつも世界を見守って もやしが来たら 駆けつける 海東大樹の おにいさん 尊敬できる おにいさん 行くよ、大樹 畳を抜けて 来たよ、大樹 綺麗な腹パン 強い兄貴だ ニーサン ニーサン 海東兄弟 No.1 【一日目・2時35分/長野県/天候・雨】 【上田次郎@TRICK】 【状態】疲労(大)、全裸 【装備】なし 【道具】支給品一式 【思考】 基本:戦わずに生き残りたい 1:海東純一と組む 2:服が欲しい 【海東純一@仮面ライダーディケイド】 【状態】健康、ゾフィーと融合中 【装備】グレイブバックル@仮面ライダーディケイド 【道具】支給品一式 【思考】 1:世界を平和にしたい 【ゾフィー@ウルトラマン】 【状態】健康、海東純一と融合中 【装備】 【道具】 【思考】 1:純一を殺してしまったことを隠蔽 2:バトルロワイアルを止める 3:それ私のキャラソン…… 【右代宮楼座@うみねこのなく頃に 死亡確認】 【ギネスに載る胡瓜@現実 死亡確認】 【クマ吉@ギャグ漫画日和 死亡確認】
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手を洗うなら石鹸?ハンドソープ? 家で手を洗うときはハンドソープを使うようになりました。 前までは石鹸を使っていましたが、洗い終わった後石鹸を洗ってというのが面倒なので(泡が付いたままなのと、汚れたままなのが嫌なので、石鹸を洗ってきれいにしてから戻していました)、ハンドソープに変えました。 石鹸とハンドソープ、どちらが経済的なのかはわかりませんが、なんとなくハンドソープのほうが高そうです。 面倒さを考えたら、多少高くても仕方がないと思うのでこれからもハンドソープを使うことになりそうです。 http //www.bigblognetwork.info/
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桃源まで、東へ五分(第1章:待っていたサプライズ) ザッ、ザッ、と枯葉を意味も無く蹴散らしながら、小学生くらいの男の子たちが騒いでいる。サウラーは南瞬の姿で、彼らから少し離れた公園のベンチに座っていた。その右手は、相変わらず本のページに添えられている。 足を組んで本を読むスタイルは、いつもと同じ。が、彼が公園で――占い館以外の場所で読書をしているなんて、非常に珍しいことだ。 ノーザが来てからというもの、館で本を読んでいても、以前ほど集中できなくなってしまった。自分の都合だけで突然現れて、否応なしに命令してくる最高幹部。ウエスターのように真っ向から反発するほど、自分は馬鹿じゃない。が、それを不快に感じていることは、ウエスターと変わらなかった。 (無駄な外出をせず、最も効率的な仕事をしてきたこの僕が、こともあろうに、こんなところで無駄な時間を過ごすなんてね・・・。) 自嘲気味に、ふん、と鼻で笑って、サウラーは本のページをめくる。と、男の子たちの会話が、何となく耳に入ってきた。 「・・・ホントなんだよ!あそこには、すっげえもんが隠されているんだって!」 「え~?すげえもんって?」 「それ、何だよ。」 「聞いて驚くなよ?あのな・・・」 鉄棒に腰掛けて、仲間二人を見下ろしていた大柄な少年は、そこで地面に飛び降り、仲間たちに顔を寄せた。 ひそひそ話というわけだろう。が、サウラーの聴覚の前では、そんなものは意味が無い。 (馬鹿な。ラビリンスですらまだ実現できていない技術だぞ。この世界の科学力で、作れるものか。) 少年の囁き声を聞きとったサウラーが、そう思ったのとほぼ同時に、 「嘘に決まってんだろ?そんなの。」 仲間の一人が、吐き捨てるように言った。 「嘘じゃないって!オレの友達の友達が見たんだ。空中に突然、車みたいな乗り物が現れて、中にはチョンマゲを付けたお侍みたいな格好の人が乗って、きょろきょろ外を見ていたんだって。で、その乗り物は、すーっと塀の向こうに、降りていったって言うんだ。」 ギュッと拳を握る少年の声が、次第に大きくなる。 「なっ?それって、タイムマシンだと思わないかっ?」 自分の声の大きさに、まだ気付いていない少年を横目に見ながら、サウラーは、夏のある日のことを思い出す。 あれはイースがラビリンスを去って、まだひと月も経っていなかった頃。この世界の人間が、思い出をとても大切にしているらしいと知ったサウラーは、写真屋の古いカメラをナケワメーケにして、プリキュアどもを「思い出の世界」という甘美な夢の中に閉じ込めようとした。 計画通り、まずはキュアピーチを眠らせたものの、彼女は仲間たちの願いどおり、思い出の世界から戻ってきた。そして結局ナケワメーケは倒され、サウラーの計画は失敗に終わったのだ。 「絶対に来てくれるって、信じてた!」 舞い戻ったキュアピーチに、そう言って笑いかけたイースの顔。その映像が、眩しく苦く胸の中によみがえってきて、サウラーは慌てて活字に目を戻した。 (思い出の世界なんて不確かな夢でなく、本当の過去の世界にプリキュアを送ってしまうことができたら・・・。) たとえ一人でも時空の彼方へ放り出すことができれば、プリキュアどもの新しい技も封じられる。インフィニティの奪回は、もっと簡単なものになるだろう。ノーザの鼻も、少しはあかせるかもしれない。 サウラーは静かに本を閉じ、立ち上がった。 少年の下らない願望が、本当である可能性は低いだろう。だが。 (どうせこんなところで無駄な時間を過ごすなら、暇つぶしに行ってみてもよさそうだ。) 「ねえ、君たち。少し、話を聞かせてくれないかい?」 サウラーは冷ややかな目で少年たちを見据えながら、彼らにゆっくりと近づいていった。 桃源まで、東へ五分 ( 第1章:待っていたサプライズ ) 「じゃーん。どう?これ。」 目の前に突き付けられたものを見て、せつなは不思議そうに首をかしげた。 「あの・・・これは?」 ラブに宿題を教えていたせつなの元へ、あゆみが嬉しそうにやってきて、見せてくれたもの。それは、せつなの顔くらいはありそうな、大きな真っ赤なリボン。柔らかな布地で作られているのだろう。その形はやさしい丸みを帯びて、表面はつやつやしている。 (きれいなリボンだけど・・・。頭に付けるには大きいし、洋服に付けるんでもなさそうだし・・・。あ、もしかして、夏休みに漫才やったときみたいな蝶ネクタイにするのかしら。) せつなのいぶかしげな視線に、あゆみは柔らかな笑みを返す。 「せっちゃん、修学旅行に持って行くバッグ、お友達と同じになっちゃったって言ってたでしょ?旅先で間違えたら大変だから、これ、目印に付けたらどうかと思って。」 「うわーっ、さっすがお母さん!これ付けたら、きっとすっごく可愛いよ。せつな、バッグ出してみて。」 後ろから覗き込んだラブが歓声を上げる。ようやく事態が飲み込めたせつなは、嬉しさに胸を熱くしながら、自分の部屋へ、いそいそと真新しいバッグを取りに行った。 来週から、ラブと一緒に沖縄へ修学旅行。観光の時に持ち歩くバッグとして、せつなはアイボリーのミニボストンを買った。マネキンが持っているのが可愛かったので選んだのだが、どうやらそれがいけなかったらしい。 昨日、級友とのおしゃべりで、偶然、クラスであと二人も同じバッグを買っていることがわかってしまった。それでせつなは、少しだけがっかりしていたのだ。 「修学旅行かぁ。私もレミさんと同じブラウス持って行って、向こうで喧嘩になっちゃったっけ。せっかくの私服なのに誰かと一緒はイヤだなんて、レミさんが言い出すから。」 せつなのバッグにリボンを縫い付けながら、あゆみが、うふっと思い出し笑いをする。何だか自分の気持ちを言い当てられたような気がして、せつなは頬を赤く染める。同時に、そんなことを考えた自分に、少なからず驚いてもいた。 「おばさまって、美希のお母さんと幼なじみだったんですよね?ブッキーのお母さんとも?」 「尚子さんは、中学の途中で転校してきて、それから仲良くなったの。あの頃は三人、いつも一緒だったわね~。今のあなたたち四人みたいに。」 そう言って微笑むあゆみに、せつなも頬を緩める。 親子二代で友達同士、という関係が、この世界でどれくらい当たり前のことなのか、せつなにはよくわからない。でも、そうやって一人と一人の関係が、家族と家族の関係になっていくのは、とても素敵なことに思える。 「家族」も「友達」も、かつてはただやたらと眩しくて、目にも心にも痛いだけの言葉だった。でも今のせつなには、どちらもキラキラと輝く、愛おしい光に見える。 「幼なじみ」という言葉は、正直少し、せつなには眩しすぎる。でも、その眩しさも含めて大切に思えることが――そう思えるようになったことが、せつなにはとてもありがたく、そして嬉しかった。 「ハイ、できたわ。これなら誰かと間違えることもないわね。」 「ありがとう、おばさま。」 せつなはちょっとはにかみながら、さっそくバッグを肩にかけて、鏡の前に立ってみる。後ろで目を細めているあゆみに、鏡越しに笑いかけたとき、あゆみの後ろにあるドアの陰から、タルトが手招きしているのが見えた。 せつなはもう一度あゆみにお礼を言うと、表情を引き締めて、そっとラブに目配せをする。ラブもすぐに気付いて小さく頷くと、せつなと連れ立って、静かに部屋を出た。 「タルト。ラビリンスが現れたの?」 「それがやなぁ。」 ラブの問いに、タルトは少々困惑した様子で、カチャリとクローバーボックスの蓋を開ける。 「何、これ。」 七色の光の膜に現れた映像を見て、ラブとせつなの声が揃った。 そこに映っていたのは、芝生の上に立っている不気味な姿。後輪だけで立ち上がった車の化け物の頭に、不釣り合いなほど大きなアンテナが付いているような格好だ。三角につり上がった真っ赤な目の少し上、丁度おでこの辺りには、緑色のダイヤ。 「サウラーのしわざね。」 「でも・・・なんで今更、ナケワメーケ?」 シフォンはタルトの隣で、不思議そうにクローバーボックスの映像を眺めている。今日はまだ、インフィニティになりそうな気配はない。 そのうち映像の中で、ナケワメーケがアンテナからレーザーのようなものを発射して、芝生を焼き払い始めた。 「とにかく行かなくちゃ!でもこれ、どこだろう?」 せつなは映像を舐めるように注視する。すると、画面の端に、途切れなく広がる芝生を二重に囲む、並木が映っているのが目にとまった。 「ラブ。これ・・・御子柴家の中庭じゃないかしら。」 「あの、地下特訓場があった?」 せつなが力強く頷いて、もう一度映像に目をやる。 御子柴家。家電製品から宇宙ロケットまで手掛ける、世界でもトップクラスの財閥グループの長の屋敷だ。つい先日、ミユキのツテで、プリキュアたちはここの特訓場を使わせてもらった。広大な中庭の地下に作られた秘密特訓場だったのだが、庭はまだまだ広くて、もっと奥まで続いていたように思う。 「よし、行こう!せつな、ブッキーに電話して。あたし、美希にかけるから。」 「わかった。」 リンクルンを片手に家を飛び出す二人に、タルトとシフォンも続いた。 御子柴財閥に雇われたエンジニアのリーダーは、自分が今見ているものが、信じられなかった。 最先端の――ここに居る者以外、現実とは思わないであろう最先端の技術の粋を集めて、開発したマシン。それがみるみるうちに形を変え、異形の化け物となって立ち上がったのだ。 (こんなこと・・・SFじゃあるまいし!) 自分たちがまさにSFばりの研究をしていることも忘れて、彼はただ呆然と、目の前の怪物の姿を見つめた。 「ナ~ケワメ~ケ!!」 怪物は一声叫ぶと、二重の並木をやすやすと飛び越えた。それを見て、彼の背中を、たらりとイヤな汗が伝う。 「い、いかん!戻ってきてくれ!」 このままでは、怪物がお屋敷の外に出てしまう。今は怪物でも、元は手塩にかけた、我が子同然の発明品だ。 彼は意を決して踵を返すと、遥かに遠い出口を目指して、屋敷の中を一心に走り始める。その耳に、正午を告げる柱時計の音が、やけに大きく響いた。 ラブとせつなが御子柴家の門の前に着いた時、丁度、美希と祈里も向こうから走って来るところだった。屋敷の奥の方からは、時折ドーンという音が響いている。 「こっち!」 ラブを先頭に、四人は屋敷の塀沿いに駆けて行く。ほどなくして、血相を変えた人々が、彼女たちの行く手から走ってくるのが見えた。 地面にずしんと衝撃が走り、コンクリートの塀がびりびりと震える。そしてついに、クローバーボックスの映像で見たのと同じナケワメーケが、その姿を現した。 額に光る緑のダイヤ。胸に取りつけられた様々な計器。網の目のように張り巡らされたコード。そして頭の上には大きすぎるアンテナ。 「みんな、行くよっ!」 凛と響くラブの声に、少女たちはそれぞれのリンクルンを構える。 「チェインジ!プリキュア!ビートアーップ!」 桃色。青。黄色。そして赤。 地面から立ち上るような鮮やかな煌めきの後に、四人の伝説の戦士が現れる。 「ピンクのハートは愛ある印!もぎたてフレッシュ、キュアピーチ!」 「ブルーのハートは希望の印!つみたてフレッシュ、キュアベリー!」 「イエローハートは祈りの印!とれたてフレッシュ、キュアパイン!」 「真っ赤なハートは幸せの証!うれたてフレッシュ、キュアパッション!」 「Let’sプリキュア!」 「よし、始めろ。」 腕組みをして塀の上に立つサウラーは、現れた少女たちを見て、口の端だけでニヤリと笑った。 「ナーケワメーケ!フ、フ、フ、フューチャー!」 車輪のような足をフル回転させて、四人に迫るナケワメーケ。 「ダブル・プリキュア・パーンチ!」 炸裂する、ピーチとパッションの拳。 「ダブル・プリキュア・キーック!」 打ちこまれる、ベリーとパインの蹴り。 が、突然、ナケワメーケの短い腕が、ぐんと伸びる。バネの先にタイヤを付けたような腕に、弾き飛ばされる四人。そして。 「ナーケワメーケ!イマイマ、しいわ~!」 頭の上のアンテナから放たれる、強烈なビーム。 「わぁぁっ!」 「何これ・・・。」 「体が・・・痺れる!」 「・・・くっ!」 動けないプリキュアたち。ナケワメーケの胸から、しゅるしゅると伸びる黒い腕。コードのような、ベルトのような長い腕が、彼女たちに迫る。 「はぁっ!」 何とか体を起こし、拳を振るうパッション。その隙にようやく立ち上がる、ピーチ、ベリー、パイン。 「・・・このナケワメーケ、元は何なの?」 ベリーが、誰にともなく問いかける。 「わからないわ。クローバーボックスで見たときは、庭の芝生の上に立ってた。」 パッションは、ムチのようなコードを避け続ける。 「御子柴家の・・・自家用リムジンとか?きゃぁっ!」 ついに一撃を食らい、吹っ飛ぶパイン。駆け付けるピーチに迫る、伸縮自在のナケワメーケの腕。 「ピーチ!」 パッションが横っ跳び。間一髪で腕をはたき落とす。その時。 「パッション、後ろ!」 ベリーの声に振り返る間もなく、高速で伸びたコードが、彼女の体を絡め取った。 「パッション!」 宙吊りにされたパッションに向かって、仲間たちが跳ぶ。が、 「うわぁぁぁ!!」 再びアンテナから放たれるビーム。三人は、またも地面に叩きつけられる。 「みんな!」 必死で拘束を解こうとするパッション。だが、締め付けたコードはびくとも動かない。 「フフフ・・・。もう一人、道連れにしてあげようか。」 再び迫るコードの束。跳んでよける三人。と、目標を失ったコードの先には、クローバーボックスが・・・! 「わっ!こりゃあかん!」 シフォンと一緒に物陰から様子を見ていたタルトが、思わず飛び出した。クローバーボックスの前に立ちはだかるタルト。その小さな体がコードに巻き取られ、宙に舞う。 「タルト!!」 「ふん。プリキュアではなかったか。まあいい。ナケワメーケ、やれ。」 「ナーケワメーケ!カーコカッコー!」 ナケワメーケの体が、ぼうっと光り出す。大きなアンテナにびりびりと稲妻が走り、胸の計器の数字が、くるくると動き出す。 「別れの時が来たようだ。挨拶はしなくていいのかい?プリキュア。」 サウラーの楽しげな声に、凍りつく地上の三人。 「パッション!タルト!」 「どうなってるの!?」 「二人を放しなさいっ!」 ベリーは塀の上のサウラーを睨みつけると、タン、と地面を蹴る。 「たあっ!!」 サウラーに向かって放たれる、ベリー渾身の蹴り技・・・と見せかけて、サウラーが回避しようと飛び上がった瞬間。この瞬間を狙って、ベリーは全身の力を、拳に込める。 「うわぁっ!!」 空中高く飛ばされるサウラー。その体は、ナケワメーケのアンテナに、引っ掛かって止まった。 「な、なにっ!?降ろせ!」 「それは、パッションとタルトを放してからよっ!」 キッとナケワメーケを見据えるピーチ、ベリー、パイン。その目の前に、ポン、とそれぞれの相棒が現れる。 「届け!愛のメロディ。キュアスティック・ピーチロッド!」 「響け!希望のリズム。キュアスティック・ベリーソード!」 「癒せ!祈りのハーモニー。キュアスティック・パインフルート!」 起動される、それぞれのアイテム。その間にも、ナケワメーケの光は、どんどん強くなっていく。 「悪いの悪いの、飛んで行け!!!」 「プリキュア!ラブ・サンシャイン・・・」 「プリキュア!エスポワール・シャワー・・・」 「プリキュア!ヒーリング・プレア・・・」 「フレーーーッシュッ!!!」 ナケワメーケの体の輪郭がぼやけるのと同時に、三つの光弾がその体にぶつかり、溶けあってひとつになる。 「今よ、タルト!」 「はいな。」 拘束から抜け出そうとするパッション。だがそのとき、彼女は自分の体の輪郭までもが、頼りなげにぼやけているのを見て、愕然とした。 「はぁ~!!!」 三人の気合のこもった声。 「シュワ、シュワ~・・・」 既におぼろけな姿となったナケワメーケが、かすかに断末魔の叫びを上げる。 そして、額のダイヤが煙のように消え失せた次の瞬間。 ナケワメーケも、パッションも、タルトも、そしてサウラーも、三人の前から、忽然と姿を消してしまったのだった。 ☆ ☆ ☆ ゴン、と何かに頭をぶつけて、パッションは我に返った。変身は解けていない。どうやら少しの間、ぼうっとしていたらしい。 何やら狭い空間にいる。ナケワメーケに宙吊りにされていたはずの体はソファのようなものに座らされ、腰にはさっきまで彼女を拘束していたものが、ベルトとなって一重だけ巻きついていた。 家族で出かけるときに時々乗せてもらう、圭太郎の車の中によく似ている。ちょうど、後部座席に座っているような感じだ。ぼんやりとそう思ったパッションは、隣で目を回しているタルトに気付いて、ハッとした。 「タルト!しっかりして!」 「あ、パッションはん。わいら、無事やったんか。」 気が付いたタルトが、きょろきょろと辺りを見回す。 「ここ・・・どこや?」 「どうやら、この乗り物がナケワメーケだったみたいね。」 「え!?じゃあ、わいらナケワメーケの中におるんか!?」 「ううん、もう浄化されてるんだと思う。でも、何だか様子が変ね。」 パッションは、右手にある窓から外の様子を窺った。 まず目に飛び込んでくるのは――空。 そして視線を下へやると――真下に見える景色が、ぐんぐんと迫ってくる!? 「タルトっ!これ、落下してるわ!」 パッションは、腰に巻き付いているベルトをむしり取ると、タルトを抱きかかえた。 「脱出するわ。しっかりつかまってて!」 窓の下にあるレバーを動かすと、壁に見えたドアが、カチャリと音を立てる。やっぱり車と同じ仕組みだ。風圧に押し戻されるドアを何とか開けて、パッションはタルトを抱えて跳ぶ。 着地したところは、見覚えのある風景。ここは・・・河原だ。四ツ葉町の外れを流れる川に架かっている、橋の下だ。 (どうして、こんなところに・・・。あれは、ただの車じゃないっていうの?) そのとき、頭の上の方でドーンという衝撃音が聞こえ、わずかに埃が降ってきた。少し離れて橋を見上げると、信号待ちで止まっていたらしいトラックの上に、やたら大きなアンテナをつけた黒い車が、覆いかぶさるように乗っかっているのが見える。 「うわぁ、危なかったなあ。おおきに、パッションはん。」 タルトがそう言って、パッションの腕の中から、ぴょんと地面に降り立った。 「トラックに乗っていた人は、大丈夫かしら。」 パッションは心配そうに眉をひそめる。が、その目はすぐさま、大きく見開かれた。 トラックの上から、黒い車体が発車したのだ。ガツン、とその鼻先が道路にぶつかった音が、河原まで響く。が、ほかに車がいないのを幸い、強引にスピンを決めて、車は態勢を立て直した。 驚く二人が見つめる中、車の窓が開く。そこから顔を出したのは、いつも以上に青白い顔をした、サウラーだった。 「プリキュアどもにしてやられたと思ったが・・・君が甘くて助かったよ、イース。僕が前の座席にいたのに、気付かなかったのかい?」 相変わらず辛辣な口調のサウラーに、パッションは思わず叫ぶ。 「サウラー!一体何をしたの!?」 「すぐにわかるさ。これで君たちは、この過去の世界へ置き去りだ。」 「過去の世界ですって?」 「フフフ・・・さよなら、イース。」 サウラーの笑い声を乗せて、黒い車は風のように走り去る。 「何だぁ?・・・うわっ!何だこれは。積み荷が滅茶苦茶じゃないかっ!!」 物音に気付いたトラックの運転手が騒ぎ始めたのを、パッションとタルトは、ただ呆然と眺めることしかできなかった。 「おねえちゃん!こっち、こっち。」 ふいに後ろから呼びかけられて、パッションはビクリと肩を震わせた。そっと振り向くと、自転車を押した一人の少年が、土手につながる細い道の下に立って、手招きしている。 小学校の高学年くらいだろうか。やけに短いジーパンから突き出した足はひょろりと長く、自転車も、大人用のものらしい。 「そんな格好でそんなところにいたら、目立つだろ?まだ朝早いから人がいないけど、この上の道路は、これから車が増えるんだぜ。」 「え?朝早い、って・・・」 そう言いかけて、パッションはさっきのサウラーの言葉を思い出す。 ――これで君たちは、この過去の世界へ置き去りだ。 ナケワメーケと対峙したのは、もう昼ごろだったはず。だが辺りを見回せば、今は確かに早朝のようだ。ということは、サウラーの言う通り、ここは過去の世界――違う時空の世界なのだろうか。 見渡したところ、河原の景色は特にいつもと変わらない――いや、違う。 季節が違うのだ。朝早くからこんなに力強い太陽には、しばらくお目にかかっていない。ついさっきまで目にしていた、あちこちに枯れ葉が吹き寄せられた街の景色とは違う。河原に勢いよく茂る雑草の緑の、何と生き生きとしていることか。 (ここが過去の世界なんだとしたら・・・一体、どれくらい前の世界なのかしら。) 「とにかく、こっちに来いってば。」 パッションの物想いは、再び少年の声で破られた。 「俺の家、ここからすぐ近くなんだ。俺しかいない家だし、何か食べて着替えるくらいはできるからさ。」 そう言って歩き始める少年の後ろ姿に、パッションは少し考えてから、 「ねえ。」 と呼びかける。 「変なこと訊くけど・・・今日って、何年の何月何日?」 そう質問したときの少年の顔は、パッションには予想外のものだった。 てっきり不思議そうな顔をされるだろうと言い訳まで考えていたのに、彼はパッと顔を輝かせ、キラキラした目をこちらに向けてきたのだ。今までの背伸びした物言いが嘘のような無邪気な笑顔に、パッションは一瞬、呆気にとられる。 「今日?今日はねぇ、昭和・・・あ、西暦・・・」 「昭和でいいわよ。」 こちらの心を見透かしたような少年の言葉に、パッションは警戒を強める。 「そう?今日は昭和××年の、8月・・・」 少年の自転車の後ろを歩きながら、パッションはそっと町の様子を窺う。 「昭和」という年号が、今の前の年号だったことは知っている。自分の計算が正しければ――そして少年の言葉が正しければ、ここは25年ほど前の世界だ。 四ツ葉町の地図は、完全に頭に入っているつもりだったが、さすがに様子が変わっていて、どの辺りなのか分かりにくい。明らかに、町を占める田んぼや畑の面積が広い気がする。同時に、何だかあちこちで、新しい建物を建てている現場に出くわす。 (やっぱり・・・過去の世界なのかしら。) 少年への警戒を緩めたわけではない。が、今はこの機会を利用させてもらおうと、パッションは思っていた。とにかく情報収集しないことには、動くに動けない。 「さあ着いた。ここが俺の家。」 「・・・凄いお屋敷じゃない。」 少年が無造作に自転車を止めた家の前で、パッションは目を丸くした。 「そう?まあ、入って。あ、その、イタチ?ペットも家の中に入れて構わないからさ。」 「イタチて・・・。フェレットより、まだヒドいわ。」 むくれるタルトの口を慌ててふさいで、パッションは少年の後を追った。 重厚な玄関の鍵をカチャリと開けて、少年は黙って家に入る。家の中はシーンとしていて、その静けさが、一層広さを際立たせていた。 「本当に、ここに一人で住んでるの?」 勧められたソファにそっと腰をおろして、パッションは小首をかしげる。 「ああ、正確には、夏休みの間だけね。ここ、父さんの家なんだけど、俺、普段は父さんと別々に暮らしてるんだ。夏休みの間だけ、ここで過ごす決まりなの。でも、父さんは忙しい人で、滅多に家に寄りつかないから。昼間はお手伝いさんも来てくれるし、別に不自由はしてないんだ。」 テキパキと飲み物の支度をしながら、あっけらかんと言ってのける少年に、パッションは心に浮かんだ疑問を飲み込む。 (せっかく子供が訪ねて来ているのに、この子のお父さんは、どうして家に帰ってこないのかしら。) 脳裏に浮かぶのは、父親のことを話す、美希の顔。彼女もまた、父親とは別れて暮らしているが、月に一度、美希が訪ねて行くのを楽しみにしているという。 「それよりさ、おねえちゃん。」 少年は、大人びた表情から一転、さっきのキラキラした目つきに戻る。そして、彼女の心臓の真ん中を射抜くような一言を、無邪気に発した。 「おねえちゃん、未来から来たんだろ?」 「隠さなくてもいいよ。俺、見ちゃったんだ。」 少年は相変わらず瞳を輝かせながら、真っ直ぐにパッションの目を見つめる。 「自転車で土手を走ってたら、いきなり稲妻が光ってさ。いい天気なのに、おかしいなぁって思ってたら、いきなり空に車が現れて。で、橋を目がけて落っこちてくるからびっくりして見てたら、中からおねえちゃんが飛び出して来てさ・・・。ねえ、あれってタイムマシンなんだろ?着陸に失敗したの?それに、なんであんな高いところから飛び下りて、怪我しなかったの?」 「・・・・・。」 パッションが何も言えずにいると、 「ひょっとして、その服のせい?パワードスーツ、って言うんだよね。やっぱり凄いんだなぁ、未来って。ねぇ、今からどれくらい先の未来?」 少年は勝手に納得して、羨望に満ちた眼差しで、パッションの姿を見つめた。 「あなた・・・未来の技術に、ずいぶん興味があるのね。」 「ずいぶんってほどじゃないよ。でも、タイムマシンには興味あるんだ。これでもいろんな本を読んで、研究しているんだぜ。もちろん、本物を見たのは初めてだけど。」 嬉しそうに話す少年の様子をじっと観察して、パッションは少しだけ警戒を解く。 雰囲気から察するに、この子は嘘はついていない。突然現れた未来人を助けて、あわよくば未来のことを教えてもらおう――それくらいの無邪気な気持ちで、ここへ連れて来てくれたのだろう。 それに――さっき父親のことを話したときの、何でもなさそうな話しぶり。その陰に潜むヒヤリと冷たい寂しさを、彼女は我がことのように感じていた。 「そう。助けてもらったんだから、ちゃんと説明するけど・・・その前に、どこかで着替えさせてもらえないかしら。」 もうずいぶん長い間、この姿でいる。が、まさかこの子の前で、変身を解くわけにもいかない。 「本当!?いいよ、こっち。でも、着替えなんて持ってるの?あ、もしかして、未来では荷物なんて、こーんなにミニチュアライズされてるとか?」 少年は、相変わらず嬉しそうに一人で納得しながら、パッションを隣りの小部屋に案内する。 「じゃ、俺こっちにいるから。どうぞごゆっくり。」 少年が閉めかけたドアの隙間から、タルトがするりと部屋の中に入って来た。 「はぁ~。これからどないするつもりなんや?パッションはん。」 「しっ!」 二人になった途端に喋り出すタルトを、パッションが制する。少年が、どこかから部屋の中を窺っているかもしれないと思ったからだ。まだ雨戸が閉まった部屋の中、分厚いカーテンの陰に隠れて、彼女は注意深く、変身を解いた。 「とりあえず、この時代のことを少し知らないと。それから作戦を立てる必要がありそうだわ。サウラーがまだこの時代にいれば、彼を探すのが早道だけど・・・タルト?」 急に反応のなくなったタルトに、せつなは不思議そうな視線を向ける。 「パ・・・パッションはん。あんさん・・・!」 タルトの慌てふためいた様子に、せつなは窓に映った自分の姿を確かめ・・・そして言葉を失った。 窓ガラスの向こうから、呆然とした表情でこちらを見返している顔。それは、かつて鏡の中で見慣れた、銀髪の少女だった。 ~第1章・終~ 第2章:アドリブ勝負の一日へ続く
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桃源まで、東へ五分(第1章:待っていたサプライズ) ザッ、ザッ、と枯葉を意味も無く蹴散らしながら、小学生くらいの男の子たちが騒いでいる。サウラーは南瞬の姿で、彼らから少し離れた公園のベンチに座っていた。その右手は、相変わらず本のページに添えられている。 足を組んで本を読むスタイルは、いつもと同じ。が、彼が公園で――占い館以外の場所で読書をしているなんて、非常に珍しいことだ。 ノーザが来てからというもの、館で本を読んでいても、以前ほど集中できなくなってしまった。自分の都合だけで突然現れて、否応なしに命令してくる最高幹部。ウエスターのように真っ向から反発するほど、自分は馬鹿じゃない。が、それを不快に感じていることは、ウエスターと変わらなかった。 (無駄な外出をせず、最も効率的な仕事をしてきたこの僕が、こともあろうに、こんなところで無駄な時間を過ごすなんてね・・・。) 自嘲気味に、ふん、と鼻で笑って、サウラーは本のページをめくる。と、男の子たちの会話が、何となく耳に入ってきた。 「・・・ホントなんだよ!あそこには、すっげえもんが隠されているんだって!」 「え~?すげえもんって?」 「それ、何だよ。」 「聞いて驚くなよ?あのな・・・」 鉄棒に腰掛けて、仲間二人を見下ろしていた大柄な少年は、そこで地面に飛び降り、仲間たちに顔を寄せた。 ひそひそ話というわけだろう。が、サウラーの聴覚の前では、そんなものは意味が無い。 (馬鹿な。ラビリンスですらまだ実現できていない技術だぞ。この世界の科学力で、作れるものか。) 少年の囁き声を聞きとったサウラーが、そう思ったのとほぼ同時に、 「嘘に決まってんだろ?そんなの。」 仲間の一人が、吐き捨てるように言った。 「嘘じゃないって!オレの友達の友達が見たんだ。空中に突然、車みたいな乗り物が現れて、中にはチョンマゲを付けたお侍みたいな格好の人が乗って、きょろきょろ外を見ていたんだって。で、その乗り物は、すーっと塀の向こうに、降りていったって言うんだ。」 ギュッと拳を握る少年の声が、次第に大きくなる。 「なっ?それって、タイムマシンだと思わないかっ?」 自分の声の大きさに、まだ気付いていない少年を横目に見ながら、サウラーは、夏のある日のことを思い出す。 あれはイースがラビリンスを去って、まだひと月も経っていなかった頃。この世界の人間が、思い出をとても大切にしているらしいと知ったサウラーは、写真屋の古いカメラをナケワメーケにして、プリキュアどもを「思い出の世界」という甘美な夢の中に閉じ込めようとした。 計画通り、まずはキュアピーチを眠らせたものの、彼女は仲間たちの願いどおり、思い出の世界から戻ってきた。そして結局ナケワメーケは倒され、サウラーの計画は失敗に終わったのだ。 「絶対に来てくれるって、信じてた!」 舞い戻ったキュアピーチに、そう言って笑いかけたイースの顔。その映像が、眩しく苦く胸の中によみがえってきて、サウラーは慌てて活字に目を戻した。 (思い出の世界なんて不確かな夢でなく、本当の過去の世界にプリキュアを送ってしまうことができたら・・・。) たとえ一人でも時空の彼方へ放り出すことができれば、プリキュアどもの新しい技も封じられる。インフィニティの奪回は、もっと簡単なものになるだろう。ノーザの鼻も、少しはあかせるかもしれない。 サウラーは静かに本を閉じ、立ち上がった。 少年の下らない願望が、本当である可能性は低いだろう。だが。 (どうせこんなところで無駄な時間を過ごすなら、暇つぶしに行ってみてもよさそうだ。) 「ねえ、君たち。少し、話を聞かせてくれないかい?」 サウラーは冷ややかな目で少年たちを見据えながら、彼らにゆっくりと近づいていった。 桃源まで、東へ五分 ( 第1章:待っていたサプライズ ) 「じゃーん。どう?これ。」 目の前に突き付けられたものを見て、せつなは不思議そうに首をかしげた。 「あの・・・これは?」 ラブに宿題を教えていたせつなの元へ、あゆみが嬉しそうにやってきて、見せてくれたもの。それは、せつなの顔くらいはありそうな、大きな真っ赤なリボン。柔らかな布地で作られているのだろう。その形はやさしい丸みを帯びて、表面はつやつやしている。 (きれいなリボンだけど・・・。頭に付けるには大きいし、洋服に付けるんでもなさそうだし・・・。あ、もしかして、夏休みに漫才やったときみたいな蝶ネクタイにするのかしら。) せつなのいぶかしげな視線に、あゆみは柔らかな笑みを返す。 「せっちゃん、修学旅行に持って行くバッグ、お友達と同じになっちゃったって言ってたでしょ?旅先で間違えたら大変だから、これ、目印に付けたらどうかと思って。」 「うわーっ、さっすがお母さん!これ付けたら、きっとすっごく可愛いよ。せつな、バッグ出してみて。」 後ろから覗き込んだラブが歓声を上げる。ようやく事態が飲み込めたせつなは、嬉しさに胸を熱くしながら、自分の部屋へ、いそいそと真新しいバッグを取りに行った。 来週から、ラブと一緒に沖縄へ修学旅行。観光の時に持ち歩くバッグとして、せつなはアイボリーのミニボストンを買った。マネキンが持っているのが可愛かったので選んだのだが、どうやらそれがいけなかったらしい。 昨日、級友とのおしゃべりで、偶然、クラスであと二人も同じバッグを買っていることがわかってしまった。それでせつなは、少しだけがっかりしていたのだ。 「修学旅行かぁ。私もレミさんと同じブラウス持って行って、向こうで喧嘩になっちゃったっけ。せっかくの私服なのに誰かと一緒はイヤだなんて、レミさんが言い出すから。」 せつなのバッグにリボンを縫い付けながら、あゆみが、うふっと思い出し笑いをする。何だか自分の気持ちを言い当てられたような気がして、せつなは頬を赤く染める。同時に、そんなことを考えた自分に、少なからず驚いてもいた。 「おばさまって、美希のお母さんと幼なじみだったんですよね?ブッキーのお母さんとも?」 「尚子さんは、中学の途中で転校してきて、それから仲良くなったの。あの頃は三人、いつも一緒だったわね~。今のあなたたち四人みたいに。」 そう言って微笑むあゆみに、せつなも頬を緩める。 親子二代で友達同士、という関係が、この世界でどれくらい当たり前のことなのか、せつなにはよくわからない。でも、そうやって一人と一人の関係が、家族と家族の関係になっていくのは、とても素敵なことに思える。 「家族」も「友達」も、かつてはただやたらと眩しくて、目にも心にも痛いだけの言葉だった。でも今のせつなには、どちらもキラキラと輝く、愛おしい光に見える。 「幼なじみ」という言葉は、正直少し、せつなには眩しすぎる。でも、その眩しさも含めて大切に思えることが――そう思えるようになったことが、せつなにはとてもありがたく、そして嬉しかった。 「ハイ、できたわ。これなら誰かと間違えることもないわね。」 「ありがとう、おばさま。」 せつなはちょっとはにかみながら、さっそくバッグを肩にかけて、鏡の前に立ってみる。後ろで目を細めているあゆみに、鏡越しに笑いかけたとき、あゆみの後ろにあるドアの陰から、タルトが手招きしているのが見えた。 せつなはもう一度あゆみにお礼を言うと、表情を引き締めて、そっとラブに目配せをする。ラブもすぐに気付いて小さく頷くと、せつなと連れ立って、静かに部屋を出た。 「タルト。ラビリンスが現れたの?」 「それがやなぁ。」 ラブの問いに、タルトは少々困惑した様子で、カチャリとクローバーボックスの蓋を開ける。 「何、これ。」 七色の光の膜に現れた映像を見て、ラブとせつなの声が揃った。 そこに映っていたのは、芝生の上に立っている不気味な姿。後輪だけで立ち上がった車の化け物の頭に、不釣り合いなほど大きなアンテナが付いているような格好だ。三角につり上がった真っ赤な目の少し上、丁度おでこの辺りには、緑色のダイヤ。 「サウラーのしわざね。」 「でも・・・なんで今更、ナケワメーケ?」 シフォンはタルトの隣で、不思議そうにクローバーボックスの映像を眺めている。今日はまだ、インフィニティになりそうな気配はない。 そのうち映像の中で、ナケワメーケがアンテナからレーザーのようなものを発射して、芝生を焼き払い始めた。 「とにかく行かなくちゃ!でもこれ、どこだろう?」 せつなは映像を舐めるように注視する。すると、画面の端に、途切れなく広がる芝生を二重に囲む、並木が映っているのが目にとまった。 「ラブ。これ・・・御子柴家の中庭じゃないかしら。」 「あの、地下特訓場があった?」 せつなが力強く頷いて、もう一度映像に目をやる。 御子柴家。家電製品から宇宙ロケットまで手掛ける、世界でもトップクラスの財閥グループの長の屋敷だ。つい先日、ミユキのツテで、プリキュアたちはここの特訓場を使わせてもらった。広大な中庭の地下に作られた秘密特訓場だったのだが、庭はまだまだ広くて、もっと奥まで続いていたように思う。 「よし、行こう!せつな、ブッキーに電話して。あたし、美希にかけるから。」 「わかった。」 リンクルンを片手に家を飛び出す二人に、タルトとシフォンも続いた。 御子柴財閥に雇われたエンジニアのリーダーは、自分が今見ているものが、信じられなかった。 最先端の――ここに居る者以外、現実とは思わないであろう最先端の技術の粋を集めて、開発したマシン。それがみるみるうちに形を変え、異形の化け物となって立ち上がったのだ。 (こんなこと・・・SFじゃあるまいし!) 自分たちがまさにSFばりの研究をしていることも忘れて、彼はただ呆然と、目の前の怪物の姿を見つめた。 「ナ~ケワメ~ケ!!」 怪物は一声叫ぶと、二重の並木をやすやすと飛び越えた。それを見て、彼の背中を、たらりとイヤな汗が伝う。 「い、いかん!戻ってきてくれ!」 このままでは、怪物がお屋敷の外に出てしまう。今は怪物でも、元は手塩にかけた、我が子同然の発明品だ。 彼は意を決して踵を返すと、遥かに遠い出口を目指して、屋敷の中を一心に走り始める。その耳に、正午を告げる柱時計の音が、やけに大きく響いた。 ラブとせつなが御子柴家の門の前に着いた時、丁度、美希と祈里も向こうから走って来るところだった。屋敷の奥の方からは、時折ドーンという音が響いている。 「こっち!」 ラブを先頭に、四人は屋敷の塀沿いに駆けて行く。ほどなくして、血相を変えた人々が、彼女たちの行く手から走ってくるのが見えた。 地面にずしんと衝撃が走り、コンクリートの塀がびりびりと震える。そしてついに、クローバーボックスの映像で見たのと同じナケワメーケが、その姿を現した。 額に光る緑のダイヤ。胸に取りつけられた様々な計器。網の目のように張り巡らされたコード。そして頭の上には大きすぎるアンテナ。 「みんな、行くよっ!」 凛と響くラブの声に、少女たちはそれぞれのリンクルンを構える。 「チェインジ!プリキュア!ビートアーップ!」 桃色。青。黄色。そして赤。 地面から立ち上るような鮮やかな煌めきの後に、四人の伝説の戦士が現れる。 「ピンクのハートは愛ある印!もぎたてフレッシュ、キュアピーチ!」 「ブルーのハートは希望の印!つみたてフレッシュ、キュアベリー!」 「イエローハートは祈りの印!とれたてフレッシュ、キュアパイン!」 「真っ赤なハートは幸せの証!うれたてフレッシュ、キュアパッション!」 「Let’sプリキュア!」 「よし、始めろ。」 腕組みをして塀の上に立つサウラーは、現れた少女たちを見て、口の端だけでニヤリと笑った。 「ナーケワメーケ!フ、フ、フ、フューチャー!」 車輪のような足をフル回転させて、四人に迫るナケワメーケ。 「ダブル・プリキュア・パーンチ!」 炸裂する、ピーチとパッションの拳。 「ダブル・プリキュア・キーック!」 打ちこまれる、ベリーとパインの蹴り。 が、突然、ナケワメーケの短い腕が、ぐんと伸びる。バネの先にタイヤを付けたような腕に、弾き飛ばされる四人。そして。 「ナーケワメーケ!イマイマ、しいわ~!」 頭の上のアンテナから放たれる、強烈なビーム。 「わぁぁっ!」 「何これ・・・。」 「体が・・・痺れる!」 「・・・くっ!」 動けないプリキュアたち。ナケワメーケの胸から、しゅるしゅると伸びる黒い腕。コードのような、ベルトのような長い腕が、彼女たちに迫る。 「はぁっ!」 何とか体を起こし、拳を振るうパッション。その隙にようやく立ち上がる、ピーチ、ベリー、パイン。 「・・・このナケワメーケ、元は何なの?」 ベリーが、誰にともなく問いかける。 「わからないわ。クローバーボックスで見たときは、庭の芝生の上に立ってた。」 パッションは、ムチのようなコードを避け続ける。 「御子柴家の・・・自家用リムジンとか?きゃぁっ!」 ついに一撃を食らい、吹っ飛ぶパイン。駆け付けるピーチに迫る、伸縮自在のナケワメーケの腕。 「ピーチ!」 パッションが横っ跳び。間一髪で腕をはたき落とす。その時。 「パッション、後ろ!」 ベリーの声に振り返る間もなく、高速で伸びたコードが、彼女の体を絡め取った。 「パッション!」 宙吊りにされたパッションに向かって、仲間たちが跳ぶ。が、 「うわぁぁぁ!!」 再びアンテナから放たれるビーム。三人は、またも地面に叩きつけられる。 「みんな!」 必死で拘束を解こうとするパッション。だが、締め付けたコードはびくとも動かない。 「フフフ・・・。もう一人、道連れにしてあげようか。」 再び迫るコードの束。跳んでよける三人。と、目標を失ったコードの先には、クローバーボックスが・・・! 「わっ!こりゃあかん!」 シフォンと一緒に物陰から様子を見ていたタルトが、思わず飛び出した。クローバーボックスの前に立ちはだかるタルト。その小さな体がコードに巻き取られ、宙に舞う。 「タルト!!」 「ふん。プリキュアではなかったか。まあいい。ナケワメーケ、やれ。」 「ナーケワメーケ!カーコカッコー!」 ナケワメーケの体が、ぼうっと光り出す。大きなアンテナにびりびりと稲妻が走り、胸の計器の数字が、くるくると動き出す。 「別れの時が来たようだ。挨拶はしなくていいのかい?プリキュア。」 サウラーの楽しげな声に、凍りつく地上の三人。 「パッション!タルト!」 「どうなってるの!?」 「二人を放しなさいっ!」 ベリーは塀の上のサウラーを睨みつけると、タン、と地面を蹴る。 「たあっ!!」 サウラーに向かって放たれる、ベリー渾身の蹴り技・・・と見せかけて、サウラーが回避しようと飛び上がった瞬間。この瞬間を狙って、ベリーは全身の力を、拳に込める。 「うわぁっ!!」 空中高く飛ばされるサウラー。その体は、ナケワメーケのアンテナに、引っ掛かって止まった。 「な、なにっ!?降ろせ!」 「それは、パッションとタルトを放してからよっ!」 キッとナケワメーケを見据えるピーチ、ベリー、パイン。その目の前に、ポン、とそれぞれの相棒が現れる。 「届け!愛のメロディ。キュアスティック・ピーチロッド!」 「響け!希望のリズム。キュアスティック・ベリーソード!」 「癒せ!祈りのハーモニー。キュアスティック・パインフルート!」 起動される、それぞれのアイテム。その間にも、ナケワメーケの光は、どんどん強くなっていく。 「悪いの悪いの、飛んで行け!!!」 「プリキュア!ラブ・サンシャイン・・・」 「プリキュア!エスポワール・シャワー・・・」 「プリキュア!ヒーリング・プレア・・・」 「フレーーーッシュッ!!!」 ナケワメーケの体の輪郭がぼやけるのと同時に、三つの光弾がその体にぶつかり、溶けあってひとつになる。 「今よ、タルト!」 「はいな。」 拘束から抜け出そうとするパッション。だがそのとき、彼女は自分の体の輪郭までもが、頼りなげにぼやけているのを見て、愕然とした。 「はぁ~!!!」 三人の気合のこもった声。 「シュワ、シュワ~・・・」 既におぼろけな姿となったナケワメーケが、かすかに断末魔の叫びを上げる。 そして、額のダイヤが煙のように消え失せた次の瞬間。 ナケワメーケも、パッションも、タルトも、そしてサウラーも、三人の前から、忽然と姿を消してしまったのだった。 ☆ ☆ ☆ ゴン、と何かに頭をぶつけて、パッションは我に返った。変身は解けていない。どうやら少しの間、ぼうっとしていたらしい。 何やら狭い空間にいる。ナケワメーケに宙吊りにされていたはずの体はソファのようなものに座らされ、腰にはさっきまで彼女を拘束していたものが、ベルトとなって一重だけ巻きついていた。 家族で出かけるときに時々乗せてもらう、圭太郎の車の中によく似ている。ちょうど、後部座席に座っているような感じだ。ぼんやりとそう思ったパッションは、隣で目を回しているタルトに気付いて、ハッとした。 「タルト!しっかりして!」 「あ、パッションはん。わいら、無事やったんか。」 気が付いたタルトが、きょろきょろと辺りを見回す。 「ここ・・・どこや?」 「どうやら、この乗り物がナケワメーケだったみたいね。」 「え!?じゃあ、わいらナケワメーケの中におるんか!?」 「ううん、もう浄化されてるんだと思う。でも、何だか様子が変ね。」 パッションは、右手にある窓から外の様子を窺った。 まず目に飛び込んでくるのは――空。 そして視線を下へやると――真下に見える景色が、ぐんぐんと迫ってくる!? 「タルトっ!これ、落下してるわ!」 パッションは、腰に巻き付いているベルトをむしり取ると、タルトを抱きかかえた。 「脱出するわ。しっかりつかまってて!」 窓の下にあるレバーを動かすと、壁に見えたドアが、カチャリと音を立てる。やっぱり車と同じ仕組みだ。風圧に押し戻されるドアを何とか開けて、パッションはタルトを抱えて跳ぶ。 着地したところは、見覚えのある風景。ここは・・・河原だ。四ツ葉町の外れを流れる川に架かっている、橋の下だ。 (どうして、こんなところに・・・。あれは、ただの車じゃないっていうの?) そのとき、頭の上の方でドーンという衝撃音が聞こえ、わずかに埃が降ってきた。少し離れて橋を見上げると、信号待ちで止まっていたらしいトラックの上に、やたら大きなアンテナをつけた黒い車が、覆いかぶさるように乗っかっているのが見える。 「うわぁ、危なかったなあ。おおきに、パッションはん。」 タルトがそう言って、パッションの腕の中から、ぴょんと地面に降り立った。 「トラックに乗っていた人は、大丈夫かしら。」 パッションは心配そうに眉をひそめる。が、その目はすぐさま、大きく見開かれた。 トラックの上から、黒い車体が発車したのだ。ガツン、とその鼻先が道路にぶつかった音が、河原まで響く。が、ほかに車がいないのを幸い、強引にスピンを決めて、車は態勢を立て直した。 驚く二人が見つめる中、車の窓が開く。そこから顔を出したのは、いつも以上に青白い顔をした、サウラーだった。 「プリキュアどもにしてやられたと思ったが・・・君が甘くて助かったよ、イース。僕が前の座席にいたのに、気付かなかったのかい?」 相変わらず辛辣な口調のサウラーに、パッションは思わず叫ぶ。 「サウラー!一体何をしたの!?」 「すぐにわかるさ。これで君たちは、この過去の世界へ置き去りだ。」 「過去の世界ですって?」 「フフフ・・・さよなら、イース。」 サウラーの笑い声を乗せて、黒い車は風のように走り去る。 「何だぁ?・・・うわっ!何だこれは。積み荷が滅茶苦茶じゃないかっ!!」 物音に気付いたトラックの運転手が騒ぎ始めたのを、パッションとタルトは、ただ呆然と眺めることしかできなかった。 「おねえちゃん!こっち、こっち。」 ふいに後ろから呼びかけられて、パッションはビクリと肩を震わせた。そっと振り向くと、自転車を押した一人の少年が、土手につながる細い道の下に立って、手招きしている。 小学校の高学年くらいだろうか。やけに短いジーパンから突き出した足はひょろりと長く、自転車も、大人用のものらしい。 「そんな格好でそんなところにいたら、目立つだろ?まだ朝早いから人がいないけど、この上の道路は、これから車が増えるんだぜ。」 「え?朝早い、って・・・」 そう言いかけて、パッションはさっきのサウラーの言葉を思い出す。 ――これで君たちは、この過去の世界へ置き去りだ。 ナケワメーケと対峙したのは、もう昼ごろだったはず。だが辺りを見回せば、今は確かに早朝のようだ。ということは、サウラーの言う通り、ここは過去の世界――違う時空の世界なのだろうか。 見渡したところ、河原の景色は特にいつもと変わらない――いや、違う。 季節が違うのだ。朝早くからこんなに力強い太陽には、しばらくお目にかかっていない。ついさっきまで目にしていた、あちこちに枯れ葉が吹き寄せられた街の景色とは違う。河原に勢いよく茂る雑草の緑の、何と生き生きとしていることか。 (ここが過去の世界なんだとしたら・・・一体、どれくらい前の世界なのかしら。) 「とにかく、こっちに来いってば。」 パッションの物想いは、再び少年の声で破られた。 「俺の家、ここからすぐ近くなんだ。俺しかいない家だし、何か食べて着替えるくらいはできるからさ。」 そう言って歩き始める少年の後ろ姿に、パッションは少し考えてから、 「ねえ。」 と呼びかける。 「変なこと訊くけど・・・今日って、何年の何月何日?」 そう質問したときの少年の顔は、パッションには予想外のものだった。 てっきり不思議そうな顔をされるだろうと言い訳まで考えていたのに、彼はパッと顔を輝かせ、キラキラした目をこちらに向けてきたのだ。今までの背伸びした物言いが嘘のような無邪気な笑顔に、パッションは一瞬、呆気にとられる。 「今日?今日はねぇ、昭和・・・あ、西暦・・・」 「昭和でいいわよ。」 こちらの心を見透かしたような少年の言葉に、パッションは警戒を強める。 「そう?今日は昭和××年の、8月・・・」 少年の自転車の後ろを歩きながら、パッションはそっと町の様子を窺う。 「昭和」という年号が、今の前の年号だったことは知っている。自分の計算が正しければ――そして少年の言葉が正しければ、ここは25年ほど前の世界だ。 四ツ葉町の地図は、完全に頭に入っているつもりだったが、さすがに様子が変わっていて、どの辺りなのか分かりにくい。明らかに、町を占める田んぼや畑の面積が広い気がする。同時に、何だかあちこちで、新しい建物を建てている現場に出くわす。 (やっぱり・・・過去の世界なのかしら。) 少年への警戒を緩めたわけではない。が、今はこの機会を利用させてもらおうと、パッションは思っていた。とにかく情報収集しないことには、動くに動けない。 「さあ着いた。ここが俺の家。」 「・・・凄いお屋敷じゃない。」 少年が無造作に自転車を止めた家の前で、パッションは目を丸くした。 「そう?まあ、入って。あ、その、イタチ?ペットも家の中に入れて構わないからさ。」 「イタチて・・・。フェレットより、まだヒドいわ。」 むくれるタルトの口を慌ててふさいで、パッションは少年の後を追った。 重厚な玄関の鍵をカチャリと開けて、少年は黙って家に入る。家の中はシーンとしていて、その静けさが、一層広さを際立たせていた。 「本当に、ここに一人で住んでるの?」 勧められたソファにそっと腰をおろして、パッションは小首をかしげる。 「ああ、正確には、夏休みの間だけね。ここ、父さんの家なんだけど、俺、普段は父さんと別々に暮らしてるんだ。夏休みの間だけ、ここで過ごす決まりなの。でも、父さんは忙しい人で、滅多に家に寄りつかないから。昼間はお手伝いさんも来てくれるし、別に不自由はしてないんだ。」 テキパキと飲み物の支度をしながら、あっけらかんと言ってのける少年に、パッションは心に浮かんだ疑問を飲み込む。 (せっかく子供が訪ねて来ているのに、この子のお父さんは、どうして家に帰ってこないのかしら。) 脳裏に浮かぶのは、父親のことを話す、美希の顔。彼女もまた、父親とは別れて暮らしているが、月に一度、美希が訪ねて行くのを楽しみにしているという。 「それよりさ、おねえちゃん。」 少年は、大人びた表情から一転、さっきのキラキラした目つきに戻る。そして、彼女の心臓の真ん中を射抜くような一言を、無邪気に発した。 「おねえちゃん、未来から来たんだろ?」 「隠さなくてもいいよ。俺、見ちゃったんだ。」 少年は相変わらず瞳を輝かせながら、真っ直ぐにパッションの目を見つめる。 「自転車で土手を走ってたら、いきなり稲妻が光ってさ。いい天気なのに、おかしいなぁって思ってたら、いきなり空に車が現れて。で、橋を目がけて落っこちてくるからびっくりして見てたら、中からおねえちゃんが飛び出して来てさ・・・。ねえ、あれってタイムマシンなんだろ?着陸に失敗したの?それに、なんであんな高いところから飛び下りて、怪我しなかったの?」 「・・・・・。」 パッションが何も言えずにいると、 「ひょっとして、その服のせい?パワードスーツ、って言うんだよね。やっぱり凄いんだなぁ、未来って。ねぇ、今からどれくらい先の未来?」 少年は勝手に納得して、羨望に満ちた眼差しで、パッションの姿を見つめた。 「あなた・・・未来の技術に、ずいぶん興味があるのね。」 「ずいぶんってほどじゃないよ。でも、タイムマシンには興味あるんだ。これでもいろんな本を読んで、研究しているんだぜ。もちろん、本物を見たのは初めてだけど。」 嬉しそうに話す少年の様子をじっと観察して、パッションは少しだけ警戒を解く。 雰囲気から察するに、この子は嘘はついていない。突然現れた未来人を助けて、あわよくば未来のことを教えてもらおう――それくらいの無邪気な気持ちで、ここへ連れて来てくれたのだろう。 それに――さっき父親のことを話したときの、何でもなさそうな話しぶり。その陰に潜むヒヤリと冷たい寂しさを、彼女は我がことのように感じていた。 「そう。助けてもらったんだから、ちゃんと説明するけど・・・その前に、どこかで着替えさせてもらえないかしら。」 もうずいぶん長い間、この姿でいる。が、まさかこの子の前で、変身を解くわけにもいかない。 「本当!?いいよ、こっち。でも、着替えなんて持ってるの?あ、もしかして、未来では荷物なんて、こーんなにミニチュアライズされてるとか?」 少年は、相変わらず嬉しそうに一人で納得しながら、パッションを隣りの小部屋に案内する。 「じゃ、俺こっちにいるから。どうぞごゆっくり。」 少年が閉めかけたドアの隙間から、タルトがするりと部屋の中に入って来た。 「はぁ~。これからどないするつもりなんや?パッションはん。」 「しっ!」 二人になった途端に喋り出すタルトを、パッションが制する。少年が、どこかから部屋の中を窺っているかもしれないと思ったからだ。まだ雨戸が閉まった部屋の中、分厚いカーテンの陰に隠れて、彼女は注意深く、変身を解いた。 「とりあえず、この時代のことを少し知らないと。それから作戦を立てる必要がありそうだわ。サウラーがまだこの時代にいれば、彼を探すのが早道だけど・・・タルト?」 急に反応のなくなったタルトに、せつなは不思議そうな視線を向ける。 「パ・・・パッションはん。あんさん・・・!」 タルトの慌てふためいた様子に、せつなは窓に映った自分の姿を確かめ・・・そして言葉を失った。 窓ガラスの向こうから、呆然とした表情でこちらを見返している顔。それは、かつて鏡の中で見慣れた、銀髪の少女だった。 ~第1章・終~ 一六2へ続く