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ミス・ロングビルは手鏡を見つめていた。 手鏡に映るのは自分の姿ではなく、トリスティン魔法学院の廊下、それも女子寮の廊下だ。 一通り見終わると、今度はルイズの部屋が映し出される。 理由は分からないがルイズの部屋には誰もいない。 ロングビルは手鏡を懐にしまうと、サイレントの魔法で足音と扉の音を消しながら、女子寮に向けて歩いていった。 ロングビルは、ルイズの部屋の扉に魔法が仕掛けられていないかを慎重に確認し、ドアを開けようとした。 だが、背後から扉の開く音が聞こえ、慌て手を引っ込めた。 「…ミス・ロングビル?な、何でこんな時間に」 開かれたのはキュルケの部屋、顔を出したのは、ネグリジェの上にマントを羽織ったキュルケだった。 幽霊騒ぎ以来、ルイズとタバサの二人を連れてトイレに行く習慣がついたキュルケは、予想外の人物が廊下にいたため、焦りを感じていた。 『微熱』どころか『情熱』とも呼ばれるキュルケは、生徒たちの嫉妬と羨望のまなざしを受けることを喜びに感じている。 しかし、もし目の前にいるロングビルに、『自分は一人でトイレに行けない女』などとバレてしまえば、キュルケのイメージを転落させる弱みを握られたことになる。 キュルケはかつて無い程に、頭を悩ませた。 しかし、ミス・ロングビルもまた、不味いところを見られたと言わんばかりに狼狽えていた。 オールド・オスマンの秘書であるロングビルが、魔法の手鏡でルイズの部屋をのぞき見したり、夜中に忍び込むなどという行為は、明らかに職権の乱用だった。 そもそも国内外から貴族の子供を集めた学院では、授業こそ非常に高度であり、しかも厳しいが、生徒の私生活にふれることはある種のタブーだ。 全寮制の教育機関ではあるが、何らかの規則に違反した者がいない限り、教師も学生寮にはあまり入らない。 それについてオールド・オスマンは『生徒の自主性を尊重する』という教育方針だと説明することが多い。 実際は、自堕落な生徒や、問題を起こす生徒を早々にあぶり出す『罠』であり、生徒の親が学校の規則を権力でねじ曲げようとする前に退学させる『罠』なのだ。 キュルケは『トイレに一人でいけない女』という弱みを見せずにどうやって誤魔化すかを考え、ロングビルに『生徒のプライバシー侵害』という弱みをどうやって誤魔化そうかと考えていた。 十分後、見つめあう二人を発見したタバサが 『ルイズは夜中一人でトイレに行くことが出来ない』 と説明することで、キュルケは難を逃れることになる。 「処分しておけ」 「はい」 地下牢から出ると、モット伯はルイズを捕まえたメイジに命令した。 処分しろ、ということは、モット伯はあの二人への興味を失ったのだろう。 グレーのマントを身にまとったメイジは、命令を頭の中で反芻しつつ、静かにため息をついた。 「静かだな」 地下牢に降りたメイジが、素直な感想を呟く。 モット伯の希望した通り、オークに嬲り殺されたのだろうか、それとも二人とも気絶したのだろうか。それを確認するため牢屋の明かりを灯す。 ルイズの入っていた牢屋の奥、鉄格子の向こう側で、オークが宙に浮いているのだ。 メキッ、メキッ、と、オークの首が見えない何かに締め付けられるように細くなっていく。 オークは鳴くこともできずに口から泡を吹き、白目をむいていた。 「オラァッ!」 ルイズの声と共に、オークの体が蛙のように飛び跳ね、天井にぶつかった。 メイジには多少混乱はあったが、数々の経験から、攻撃呪文で手当たり次第を攻撃するしかないと判断した。 ウインド・カッターの魔法で、鉄格子の隙間から風の刃をぶち込み、牢屋の中にいる者をすべて切り刻もうとした。 しかし、杖を持った右手に激痛が走り、杖を落としてしまった。 「っ!な…」 右手を見ると、手の甲に突き刺さった牢屋の鍵が、手のひらまで貫通している。 よそ見をする間もなく、ベキベキと音を立てて鉄格子が開かれる。 開くと言っても扉ではなく、鉄格子の隙間が力づくで開かれているのだ、メイジは悲鳴を上げそうになったが、慌てて杖を拾い階段を駆け上がった。 牢屋から、長い髪の毛を心底邪魔そうにかき上げつつ、ルイズが姿を表した。 ルイズは隣の牢屋を見ると、牢屋に向けて手を向ける。 何かを引っ張るように手を振ると、それに併せて鉄格子が根本から引きちぎられていった。 ルイズは鉄格子の隙間から牢屋に入ると、気絶しているシエスタを担ぎ上げようとしたが、体力のないルイズではシエスタを担ぎ上げることはできない。 「…やれやれ」 ルイズが小さく呟くと、シエスタの体は宙に浮き、ルイズの背中に乗せられた。 バタン!と音を立てて開かれた扉は、モット伯私室の扉、そこにはモット伯と、服を脱ごうとしている10歳ぐらいの少女がいた。 「な、何だね!」 「すぐにお逃げ下さい!」 モット伯は男の無礼をとがめようとしたが、男が右手から血を流しているのを見て、考えを変えた。 グレーのマントを羽織るこのメイジは、モット伯に長年仕えている。 特に汚れ仕事は任せることも多く、信頼も厚い。 その男が負傷し、血相を変えて飛び込んできたのだ、彼の態度がかつて無い緊急事態であることを告げていた。 モット伯はベッドの脇に置かれたバッグを掴むと、杖を振って壁の絵画を回転させた。 すると額の下の壁がゴゴゴと音を立て、隠し扉が開く。 狭い入り口に頭をぶつける程慌てながら、モット伯は隠し通路の中へと入っていった。 服を脱ごうとしていた使用人の少女は、何がなんだか分からず狼狽えていた。 メイジは使用人に「君も逃げなさい」と告げて、モット伯の部屋の扉を閉めた。 廊下の奥から危険な気配が近づいてくる。 牢屋に通じる階段から、恐るべき『気配』が近づいてくる。 風のトライアングルであるメイジは、地下牢への通路を塞ぐため、エアハンマーで通路の周囲を破壊する。 壁や天井から落ちる石材が、地下牢へと続く階段に降り注ぎ、階段を埋めてしまう。 少しは時間が稼げるかと思いこんだメイジの目の前で、轟音と共に石で出来た床が吹き飛んだ。 爆発後のような煙が立ちこめる通路の中、メイジは、煙の向こうにいる人影に気づき、冷や汗を流した。 煙の奥から見える人影は、少女のもの。 しかし風が伝えてくる情報は『オークとは違う種類の亜人』だった。 大きさは2メイル(m)、強靱な筋肉に包まれ、長い頭髪を無造作に流している。 それだけなら人間と同じだが、風を通して伝わる『迫力』は、およそ人間のものとは思えなかった。 だからメイジは『亜人』と判断したのだ。 地下牢でオークを持ち上げて天井にぶつけた存在も、床を砕いて地下から出てきたのも、その『亜人』が行ったのだろう。 だとしたら『亜人』は、あの少女の使い魔なのか? とにかく、今は魔法で時間を稼ぐしかない、そう考えたメイジの目の前に、人間よりも二回りは大きい煉瓦の固まりが飛んできた。 とっさに詠唱中のエアハンマーを自分に当て、体を吹き飛ばす。 全身に強い衝撃が走るが、煉瓦の固まりが衝突するよりはずっとマシだ。 メイジは足をふらつかせながら着地すると、廊下の窓に向けてマジックアローを放ち、窓を砕く。 続けてウインドブレイクの魔法を放ち、ガラス片を土煙の向こうにいるルイズに向けて飛ばした。 ルイズは、突風と共に襲い来るガラス片を見て、巨大なタンカーの中でも似たような事があったなと思い出した。 「スタープラチナ!」 ルイズの声と共に、筋肉の鎧に包まれた青白い肌の戦士『スタープラチナ』が現れる。 グレーのマントを身につけたメイジには、陽炎のように空間が揺らめいた程度にしか見えなかったが、風がその存在感を伝えた。 「オラァッ!」 ルイズの声に反応するかのように、スタープラチナは恐るべき速度でルイズの周囲に連続して拳を放つ。 シュバババババババババババ、と風を切る音が聞こえ、次の瞬間には宙を舞うガラス片がすべてスタープラチナの手に握られていた。 メイジの混乱はピークに達した、自分の魔法が全く通じない。 ふと、軍にいた当時、演習試合でマンティコア隊隊長と対決し、手も足も出なかった。 メイジは、完全に萎縮していた。 森の奥にある館から、爆音が聞こえ来るのが分かる。 タバサの使い魔シルフィードの背で、タバサ、キュルケ、ロングビルの三人は焦りを感じていた。 トイレの話題はルイズに押しつける事が出来たが、ロングビルがルイズの部屋を開けようとしていた事実は変わらない。 だが、ロングビルは事前に、ルイズがマルトーと何か話をしていたのを見ていたのだ。 ロングビルの持つ手鏡は『遠見の手鏡』というマジックアイテムだった。 オスマン氏から渡されたもので、不在の間に異常事態が起こった時にこれで調査しなさいと言われていたのだ。 とにかく、ルイズがどこに行ったのかを問いつめるために三人は料理長のマルトーの元へと赴いたのだ。 ちなみに、タバサとキュルケは何食わぬ顔でトイレに立ち寄った。 マルトーを問いつめ、ルイズが何処に行ったのかを聞いた三人は、予想以上の事態に驚いた。 「それで、ミス・ヴァリエールはモット伯の別荘に行くと、確かに言ったのね」 「は、はい、確かにその貴族の別荘へ行くと言ってました」 ロングビルは驚きを隠せなかった、典型的な貴族であるルイズが、メイドを助けに行ったなどと、にわかには信じられない。 キュルケとタバサは、ルイズが空を飛んだと聞いて、別の意味で驚いていた。 とにかく、ルイズの後を追わなければならない。 もしルイズがモット伯に喧嘩を売っていれば大問題になり…自分の給料も危ういのだから。 ルイズは、シエスタを背負ったまま、メイジと対峙していた。 距離は約五歩。 メイジは呪文を詠唱し、自分の周辺に強力なつむじ風を起こした。 ガラス片、石、廊下の絨毯、壁に掛けらた調度品、それらが渦を巻いている。 メイジは敗北を覚悟していたが、せめて時間稼ぎだけはすると決意していた。 不意に、ルイズが一歩足を進める。 それを合図にして、渦を巻く風が一直線にルイズへと襲いかかった。 「オラオラオラオラオラオラオラ オラオラオラオラオラオラオラ オラオラオラオラオラオラオラ」 宙を舞う調度品や石が弾ける。 「オラオラオラオラオラオラオラ オラオラオラオラオラオラオラ オラオラオラァーーーーッ!」 すべての障害物をたたき落とした後、最後の障害物であるメイジを殴り飛ばし、メイジは近くの部屋の扉を破壊しながら吹っ飛んでいった。 「ゲブゥッ!?」 メイジは血まみれになった肺から、血を吐きだした。 ルイズはメイジに近づくと、手のひらより少し大きいぐらいの絵を見せた。 殴り飛ばしたメイジの懐から落ちたものだ。 「…! ぞ、ぞれはっ」 よほど大事なものなのか、絵を見たメイジは目を見開き、手を伸ばす。 「か、かえし、て、くれ」 「答えな…この絵の女は何だ、それと…おめー程のメイジが、なぜ主人に忠義を尽くす…?」 ルイズは絵を見せたまま質問する。 「…それは、娘、だ」 「人買いの真似をして、自分の娘の写真を返せってか?やれやれ…ずいぶん虫のいい話だ」 「も、モット伯は、昔は、本当に、身寄りの、無い、子供を、助けていたんだ…」 ゴホゴホと血を吐きつつ、メイジは話を続けた。 「俺は、実力で、軍に、抜擢、されたんだ…。だが、娘の病気を、治したくて、魔法薬を横流して、金を手に入れた…、 もちろんバレたよ…俺は、処刑確実だったから、逃げたんだ……傭兵になった俺のせいで娘を、人質に取られたんだ……娘は、人買いに買われ、モット伯の所へ売り込まれた…、 一人前のメイドになって、アルビオンの王族に、仕えることになった、娘を見て、うれしかった……だから。俺は恩返しをしようと思ったんだ、でも、モット伯は…ごホッ」 「おめーは、変わっていくモット伯を止められなかったって訳か…」 「そ、そうだ、だから…その絵が、残って…いると、娘に迷惑を…かける、だから、それを…焼き捨てて…くれ…」 ルイズは、近くに落ちていた杖と、絵を渡して、こう行った。 「ケジメは自分でつけな」 メイジは写真を懐に仕舞うと、ファイヤボールの魔法を唱えて火球を作り出す。 そして…微笑みながら、火球を自分に落とした。 燃えさかる火炎の中、メイジは満足したかのように、微笑みを浮かべていた。 「オメーは人買いの片棒を担いだ、それは決して許されねぇ」 ルイズは帽子を深く被り直そうとして、帽子のつばを探した。 「だが…娘は別だろうな」 手が宙をきり、帽子を被っていないことに気づいた。 ---- #center{[[前へ 奇妙なルイズ-12]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-14]]}
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ロングビルを助けたギーシュ達は、ロングビルの治療のためシルフィードに乗ってトリスティン魔法学院に急いだ。 学院に到着する頃、遠くから昇る朝日を見て、キュルケはルイズの身を案じていた。 「早く帰ってきなさいよ…」 ギーシュ達が魔法学院に到着した頃。 ルイズは夢を見ていた。 使い魔品評会の日に、アンリエッタがルイズに会いに来た、その時の夢だ。 メイジの常識で言えば、使い魔の居ないルイズはメイジとして失格だと思われても仕方がない。 そんな自分に、アンリエッタは重要な任務を任せた。 他のメイジ達が聞けば、アンリエッタは気が狂ったのかとでも思われるだろう。 なぜ自分だったのか? おそらく、アンリエッタの周囲には、心から信頼できる人が居ない。 この手紙の件を話せる人が居たとしても、アンリエッタの周囲にいる貴族が『政治』を担っている以上、決して話すことは出来ない。 アンリエッタは、この手紙を交渉の材料として使われることを恐れたに違いない。 だから、『おともだちのルイズ』に任せたのだろうか。 もし、アンリエッタが自分を利用しているとしたら? …関係ない、自分は貴族なのだから、王女の命令に従うのは当然だ。 もし、アンリエッタが自分を利用しているとしたら? …関係ない、アンリエッタになら騙されていてもいい、そう思って引き受けたのだから。 アンリエッタが『おともだち』として自分を信頼してくれているのなら、絶対に生きて帰らなければならない。 でなければ、アンリエッタは友達殺しの罪に、一生苛まれる事になるだろうから。 ルイズの意識が、朝焼けと共に覚醒してくる。 わずかに暗い空に流れ星が流れ、あの時名付けた名前を思い出す。 「スタープラチナ…」 ルイズが呟くと、ルイズの手からもう一本の手が現れた。 その手を握りしめ、開き、また握りしめて、その『感触』を確かめた。 「アルビオンが見えたぞ!」 鐘台の上に立った見張りの船員が大声を上げた。 ルイズは起きあがり、船員の指さす方を見ると、雲の切れ目からアルビオンの大陸が見えていた。 周囲をきょろきょろと見回すと、右舷の方向に何かの影が見えた。 「…?」 雲の切れ目から何かが現れたような気がしたので、その方向に向かって集中力を高める。 するともう一つの目が景色を拡大させる、遠見の鏡で遠くを見るかのように、雲の切れ目がクッキリと拡大されていく。 雲の切れ目から見えたのは、大砲を備えた船であり、輸送船や客船には見えない。 「あの船は何?」 ルイズが船員に聞いたが、船員にはその船が見えないらしく、 「何もありませんぜ」 としか返事は帰ってこなかった。 しかし、その船員はルイズの言葉を嫌でも信じるハメになる。 「右舷上方の雲中より、船が接近してきます!」 ルイズが見た船は、いつの間にか輸送船の死角となる雲中から現れ、大砲の照準を向けてきたのだ。 後甲板で、ワルドと船長は、見張りが指差した方角を見上げ驚いていた。 黒くタールが塗られた、いかにも戦艦だと思わせる船体からは、二十数個も並んだ砲門をこちらに向けていた。 「アルビオンの貴族派か?それとも…」 見張り員が輸送船の副長に合図を送る、すると青ざめた顔で副長が船長に駆け寄り、見張り員からの報告を伝えた。 「あの船は旗を掲げておりません!」 船長の顔も、みるみるうちに青ざめる。 「してみると、く、空賊か?」 「間違いありません! 内乱の混乱に乗じて、活動が活発になると予測されていましたが、既に…」 「逃げろ! 取り舵いっぱい!」 船長は輸送船を空賊から遠ざけようとしたが、既に空賊の船は輸送船と併走していた。 ボン!と音を立てて空賊の船から砲弾が発射され、輸送船の進路上にある雲に砲弾の穴が開く。 「船長!停船命令です…」 空賊の船から手旗での停船命令を受けると、船長はワルドを見た。 ワルドはこの船を浮かすために魔力のほとんどを傾けていたため、戦っても勝ち目はない。 ワルドは短く「私も打ち止めだよ」と言った。 船長は、停船命令を受ける旨を、見張り員に伝えた。 空賊に捕らえられたルイズ達は、船倉に閉じこめられていた。 輸送船の船員達は、船の曳航を手伝わされているらしく、ここには居ない。 ルイズはワルドから「チャンスを待とう」と言われ、ワルドの隣に座ってじっとしている。 がちゃりと扉が開き、船室に空賊の男が入ってきた。 「飯だ」 ルイズはじっと黙ってその男を見ていた。 ワルドが受け取ろうとしたとき、男はその皿をひょいと持ち上げた。 「質問に答えてからだ…お前たち、アルビオンに何の用なんだ?」 「旅行よ」 ルイズは床に座ったまま答えた。 「トリステイン貴族が、いまどきのアルビオンに旅行だって?いったい、なにを見物するつもりだ?」 「そんなこと、あなたに言う必要はないわ」 「へっ、随分と強がるじゃねえか」 ルイズが顔を背けると、男は皿と水の入ったコップを床に置いた。 ワルドが皿を取り、ルイズに先食べるよう薦める。 「食べないと、体がもたないぞ」 しかしルイズはそのスープを飲もうとしない。 仕方なくワルドは半分だけ飲み、しばらくしてからルイズもスープを飲んだ。 「あんなやつらの出したスープを飲むなんて…」 ルイズが悔しそうに呟くと、ワルドはルイズの肩に手を回した。 「今は体力を温存するんだ、僕のルイズ…きっとどうにかしてみせるさ」 いつものルイズなら、恥ずかしがって顔を赤らめていたかもしれない。 しかし、今は違う。 ルイズは自分の思考が恐ろしい程冷めているのを実感していた。 ワルドに『毒味』させたのだ、悔しがるような台詞はそれを誤魔化すための演技だった。 私はこんな性格だっただろうか、そんな事を考えながら、ワルドに身を預けていた。 その時再びドアが開かれ、今度は別の男が船倉に入ってきた。 「おめえらは、もしかしてアルビオンの貴族派かい?」 男の質問には答えない。 「おいおい、だんまりじゃ困っちまう、貴族派だったら失礼したな。俺らは貴族派の皆さんのおかげで、商売させてもらってるんだ。」 「…じゃあこの船は、貴族派の軍艦なのね?」 「おめえらには関係ねえことだがな。で、どうなんだ? 貴族派なのか? そうだったら、きちんと港まで送ってやるよ」 ルイズは、悩む仕草をしているワルドを差し置いて、立ち上がった。 そして空賊を見据え、言い放った。 「誰が貴族派なものですか。バカ言っちゃいけないわ。わたしは王党派への使いよ!し、正統なる政府は、アルビオンの王室ね。わたしはトリステインを代表してそこに向かう貴族なのだから、つまりは大使ね。だから、大使としての扱いをあんたたちに要求するわ」 「………」 ワルドはじっと黙っていた、ルイズにはそれが気になったが、決して勝算が無くてこのような事を言ったワケではない。 ルイズの右腕からもう一つの腕が伸びる。 いざとなれば、この使い魔を使って何とかしようと考えていた。 この船が貴族派のものだとして、これから拷問にかけられるのならば、何かの道具を使って拷問しようとするだろう。 それを奪えるだけの力があるはず、そう考えての発言でもあった。 「ハッハッ!こいつは驚いた、お嬢ちゃん正直なのはいいが、ただじゃ済まないぞ」 「あんたたちに嘘ついて頭を下げるぐらいなら、死んだほうがマシよ」 「頭に報告してくる。その間にゆっくり考えるんだな」 そう言って空賊の男はは去っていった。 ワルドはルイズを抱き寄せて、耳元でささやいた。 「君は昔からそうだったなぁ…いいぞ、さすがは僕の花嫁だ」 しばらくして、再び扉が開き、先ほどと同じ空賊が入ってきた。 「頭がお呼びだ」 狭い通路を通って連れていかれた先は、空賊にしては上品に過ぎると思えるほどの部屋だった。 後甲板の上に設けられたその部屋は、空賊船の船長室らしい。 大きな水晶のついた杖をいじる空賊の頭、杖をいじっていることから、メイジであることが理解できる。 その周囲では、ガラの悪そうな空賊たちがニヤニヤと笑いながら、ルイズたちを見ている。 「おい、お前たち、頭の前だ。挨拶しろ」 自分たちを連れてきた空賊がそう言っても、ルイズは頭をにらむばかりで、頭を下げようとはしなかった。 「気の強い女は好きだぜ。子供でもな。さてと、名乗りな」 「大使としての扱いを要求するわ」 ルイズは、先ほどと同じセリフを繰り返した。 そして、ゆっくりとスタープラチナの腕に意識を向ける。 三歩、いや二歩前に出られればそれでいい。 空賊の頭が杖を振り、こちらに向けてくれば好都合だ。 この『腕』は、自分の腕から更に2メイル(m)の距離まで伸ばせるはず。 二歩前に出られれば、空賊の頭から杖を取り上げることも可能なはずだ。 ルイズが悩んでいる間にも、空賊の頭は話を進めていく。 「王党派か…なにしに行くんだ? あいつらはもう風前のともし火だ。それよりも貴族派につく気はないかね?来るべき革命に向け、戦力となるメイジを欲しがっている。たんまり礼金も弾んでくれるだろうさ」 「死んでもイヤよ」 「もう一度言う。貴族派につく気はないかね?」 ルイズはきっと顔を上げ、腕を腰に当てて胸を張る。 「無いわ」 ルイズの言葉を聞いて、空賊の頭は大声で笑った。 「トリステインの貴族は、気ばかり強くって、どうしようもないな。まあ、どこぞの国の恥知らずどもより、何百倍もマシだがね」 空賊の頭は笑いながら立ち上がり、杖を納めた。 そして縮れた黒髪と、付けひげと、眼帯を外す。 「失礼した。貴族に名乗らせるなら、こちらから名乗らなくてはいけないな」 周りに控えた空賊達が、一斉に整列する。 その中央には、凛々しい金髪の若者。 「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官、本国艦隊といっても、すでに本艦『イーグル』号しか存在しない、無力な艦隊だがね。まあ、その肩書きよりこちらのほうが通りがいいだろう」 金髪の若者は威儀を正して名乗った。 「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」 ルイズは驚き、そして緊張が解けたせいか、膝の力が抜けてその場にへたり込んでしまった。 「アルビオン王国へようこそ。大使殿」 そう言ってウェールズは、ルイズとワルドに席を勧めた。 あまりのことに驚いたルイズだったが、ワルドがルイズを立たせて、ルイズの代わりに申し上げた。 「アンリエッタ姫殿下より、密書を言付かって参りました」 「ふむ、姫殿下とな。きみは?」 「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵」 ウェールズが「ほう」と呟く。 「そしてこちらが姫殿下より大使の大任をおおせつかったラ・ヴァリエール嬢でざいます。殿下」 「なるほど!きみ達のように立派な貴族が、私の親衛隊にあと十人ばかりいたら、このような惨めな今日を迎えることもなかったろうに!して、その密書とやらは?」 ルイズは慌てながらアンリエッタの手紙を取り出す。 ウェールズに近づき手紙を渡そうとしたが、その前に、確認することがあった。 「あ、あの……」 「なんだね?」 「その、失礼ですが、ほんとに皇太子さま?」 ウェールズは笑った。 「まあ、さっきまでの顔を見れば、無理もない。僕はウェールズだよ。正真正銘の皇太子さ。なんなら証拠をお見せしよう」 ウェールズはルイズの指に光る、水のルビーを見つめて言った。 自分の薬指に光る指輪を外すと、ルイズの手を取り、水のルビーに近づけた。 二つの宝石が共鳴しあい、虹色の光を振りまく。 「この指輪はアルビオン王家に伝わる風のルビーだ。君がはめているのは、アンリエッタのはめていた、水のルビーだ。そうだね?」 ルイズは頷いた。 「水と風は、虹を作る。王家の間にかかる虹さ」 「大変、失礼をばいたしました」 ルイズは一礼して、手紙をウェールズに手渡すと、ウェールズは愛おしそうにその手紙を見つめ、花押に接吻した。 その様子を見たルイズは、やっぱり恋文だったのねと、心の中で呟いた。 その後、ウエールズは手紙の内容を見て驚き、そして、今自分たちの置かれている状況を話した。 表向きには知られてないが、一月ほど前から既に王党派は何人も暗殺され、静かに革命が始まっていた。 アルビオンの所有する戦艦の殆どは貴族派に押さえられており、王党派は既に政治の実権どころではなく、地下に潜伏して逃げ隠れている状態なのだ。 それを聞いたルイズは、トリスティンに伝わっている情報がほんのごく一部だったことを思い知らされた。 アンリエッタからの手紙には、昔の手紙を返して欲しいと書かれていた。 そのため、アルビオンの城、ニューカッスル地下にある秘密港にまで来て欲しいと言われ、ルイズ達はそれを承諾した。 アルビオンの日陰になる雲の中は、暗闇といって差し支えないほどの空間で、周囲は何も見えない。 そんな中でも、熟練の船員達は船を秘密港まで移動させている。 その技術にワルドも驚きを隠せないようだった。 秘密港に到着すると、ルイズ達はウェールズに促されるままタラップを降りた。 そこに、背の高い年老いたメイジと、20代半ばのメイドが近寄ってきて、ウェールズの労をねぎらつた。 「ほほ、これはまた、大した戦果ですな。殿下」 年老いたメイジは、軍艦『イーグル』号に続いて現れた輸送船を見て言った。 「喜べ、パリー。硫黄だ、硫黄!」 ウェールズの言葉に、その場にいる者達が歓声を上げる。 硫黄は火の秘薬として用いられ、使い方によっては恐るべき破壊力を生む。 戦争を避けられぬ彼らにとって、待ち望んだ物だった。 「戦を前にしてお客様が来られるとは、思っても見ませんでした」 パリーと呼ばれた老メイジと共に、ルイズ達を迎えたメイドを見て、ルイズは息を呑んだ。 『……一人前のメイドになって、アルビオンの王族に、仕えることになった、娘を見て、うれしかった…………』 この女性(ひと)だ…! ルイズの頭の中に、モット伯の別荘でメイジと戦った記憶がよみがえる。 なぜ今まで忘れていたのだろう? あの時、私は、この女性の父親を、見捨てて… そこまで考え、ルイズは、気を失った。 ---- #center{[[前へ 奇妙なルイズ-21]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-23]]}
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ジョジョの奇妙な歌い手 新手のスタンド使いたちのジャケット紹介ページ 絵:スタンド描きさん ※スタンド名あいうえお順に表示 現在のジャケット状況 スリーピング・ベイビー ライト・ザ・リリックス スレイヴ・トゥ・ザ・ドゥーン追加いたしました!! 兄スイさん/アニスイ・ブラザーダウン【Annisui Brotherdown】 曲リスト 「コッペパン」でザ・ワールド-歌ってみた 「青春いいじゃあないかッ!」(5部三人組)-歌ってみた? ふたりのぼすぴったん-歌ってみた じょ☆すた もってけ!レクイエム-歌ってみた アンインストール ver.ジョジョ五部(アバッキオ)二番煎じ-歌ってみた God knows..ジョジョ5部ver.ブチャラティ-歌ってみた うぇるかむASSASSINO(ジョジョ5部暗殺チーム替え歌)全員集合ゥッ!! ロマンティックあげるよ-吉良&しのぶ- ハイな挨拶のおにーさん/アルティメット・ハイ【Ultimate High】 曲リスト ジョジョ2部でエアーマン 柱の男が倒せない ジョジョ1~2部でみくる ストレイツォ伝説 ジョジョ二部(シュトロハイム)で 創聖のアクエリオン ジョジョ五部の三人で 青春いいじゃないか ジョジョ五部で 夢・覚悟・ネアポリスにて ジョジョ五部で ”Roman” 朝と夜の物語 ジョセ伝とか(ryさん/ウィッシングウェル【Wishing Well】 曲リスト 恋のジョセフ伝説(ジョジョ ハルヒ) 恋のジョセフ伝説(ジョジョ ハルヒ 歌ってみた) 恋のジョセフ伝説(ジョジョ ハルヒ 修正版) ミクル伝説シーザー版(ジョジョ ハルヒ)歌ってみて 仗助&億泰なら大丈夫(ジョジョ) エアーマンが倒せないver.SPWの愚痴に画像をつけてみた 空気さん/エアークイーン【Air Queen】 曲リスト 恋のヨシカゲ伝説(歌ってみた) 典明忘れちゃレロレロよ!歌ってみた(かきょーん成分含有) 階段がのぼれない(FULL版)歌ってみた ザ・ワールドが倒せない 歌ってみた(DIO様混入?) 卑し系魔法中年チョコラータ歌ってみた ニコニコ組曲『黄金の風』歌ってみた 跪いてWRYYYYYYYY歌ってみた うぇるかむASSASSINO(ジョジョ5部暗殺チーム替え歌)全員集合ゥッ!! 素敵な鈴美さん 改めギンボさん/エコーズ・イン・ハート【Echoes in Heart】 曲リスト きしめんで替え歌(ドッピオ時々ボス) 「歌ってみた」 究極生物カーズさま☆「歌ってみた」 God knows..ver.5部 「歌ってみた」 鈴美さんで[なみだがとまらない] 「歌ってみた」 amp;quot;You amp;quot; ver.ジョジョ4部(川尻しのぶ)「歌ってみた」 amp;quot;You amp;quot; ver.ジョジョ4部(川尻早人)「歌ってみた」 スタンドのうた 「歌ってみた」 闇の紳士録(吉良吉影)「作って歌ってみた」 ハンサムさん/オー・ハンサム・ミー【Oh! 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ECHOES?/広瀬康一(ジョジョ+ハルヒ 替え歌) 「かえして!トーキング・ヘッド!」を歌った? ペッシさん/スレイヴ・トゥ・ザ・ドゥーン【Slave to the Dawn】 曲リスト God knows...5部Verブチャラティ歌ってみたVerペッシ God knows...5部Verブチャラティ歌ってみた(修正版)Verペッシ God knows..verジョジョ5部(ブチャラティ) リベンジVerペッシ ハレ晴レユカイ~ジョジョ第3部ver~歌ってみたVerペッシ ナランチャで青春いいじゃないか 歌ってみたVerペッシ ミクル伝説シーザー版(ジョジョ ハルヒ)歌ってみたVerペッシ 刑務所Days(ジョジョ6部 替え歌)歌ってみたVerペッシ 敵、覚悟、イタリアにて。歌ってみた(削除やっぱやめ)Verペッシ 敵、覚悟、イタリアにて。歌ってみたVerペッシ(歌いなおし) WRYYYYYY EDISIONジョジョ3部偽キャラソン 歌ってみたVer.ペッシ 典明忘れちゃレロレロよ!を歌ってみたVerペッシ 勝手にながら創世のアクエリオンジョジョ2部(シュトロハイム)Ver.ペッシ 柱の男が倒せないを歌ってみたVerペッシ DIOぴったん歌ってみたVerペッシ ブラ晴ラユカイVerペッシ(未完成) ブラハレユカイ(完成版)Verペッシ ハレ晴レユカイ~ジョジョ第2部ver~歌ってみたVerペッシ ポル窓辺にて。歌ってみたVerペッシ 創世のジョースター歌ってみたVerペッシ 「作ってみた」ツェペリの魂Verペッシ 大スタンド峠歌ってみたVerペッシ(DIO崩壊注意) お知らせ ~ペッシver.~ 各部についてのお知らせ ~ジャイロとジョニィver.~ うぇるかむASSASSINO(ジョジョ5部暗殺チーム替え歌)全員集合ゥッ!! ピャー太郎さん/セブンズボイス【Sevens Voice】 曲リスト ハレ晴レユカイ~ジョジョ第3部ver~歌ってみた ハレ晴レユカイ~ジョジョ第3部ver~歌ってみた 修正版 まっがーレロレロ↓スプラッシュ~ジョジョ3部偽キャラソン vol.1~ 見つけてHapPolnareff ~ジョジョ3部偽キャラソン vol.2~ 策士のジョセフ・リターンズ!~ジョジョ3部偽キャラソン Vol.3~ WRYYYYYY EDISION~ジョジョ3部偽キャラソン vol.4~ WRYYYYYY EDISION~ジョジョ3部偽キャラソン vol.4~ 歌ってみて プラチナDays ~ジョジョ3部偽キャラソン vol.5~ 小指でぎゅっ!ver.DIO様と朝倉さん(ジョジョ替え歌) 歌ってみた ハレ晴レユカイ~ジョジョ3部 花京院典明ver.(vol.1 c/w)~ のりあキッス ~レロレロだも~ん~ 歌ってみた じょー☆すた ~ジョジョ3部ver.~ 歌だけFULL作ってみた 階段がのぼれないFULL版(歌ってみた) 私はアヴドゥル ~ジョジョ3部偽キャラソン 幻のvol.6~ 組曲でジョジョ3部敵キャラを紹介する(歌ってみた?) 跪いてWRYYYYYYYY【歌ってみた】 【ジョジョ】ハイエロファント外伝 すごいよ!!ノリアキさん うぇるかむASSASSINO(ジョジョ5部暗殺チーム替え歌)全員集合ゥッ!! ジョジョからの奇妙なお知らせ 各部についてのお知らせ ~叔父と甥ver.~ 懲りずに~の人さん/プライムパワーズ【Prime Powers】 曲リスト God knows..ジョジョ5部ver.ブチャラティ+歌ってみた+ God knows..ジョジョ5部ver.ブチャラティ+懲りずに歌ってみた+ アンインストール ジョジョ5部Ver.アバッキオ+歌ってみた+ アンインストール ジョジョ5部Ver.アバッキオ+懲りずに歌ってみた+ WRYYYYYY EDISIONジョジョ3部 +歌ってみた+ WRYYYYYY EDISIONジョジョ3部 +懲りずに歌ってみた+ +吉良 吉影、杜王町にて+ (雨、無音、窓辺にて。verジョジョ4部) 吉良 吉影、杜王町にて。 verジョジョ4部 +自分でハモってみた+ 跪いてWRYYYYYYYY +歌ってみた+ 『杜の歌』+歌ってみた+ 妹さん/ティンクル・リトル・シスター【Twinkle Littele Sister】 曲リスト 時のパズルver.エリナ イギー・哀愁のボレロ~コーヒーガムよこせ ロマンティックあげるよ-吉良&しのぶ- 【ジョジョ】一部 Phantom・Imitation~歌わせて頂いた~ 本家さん/ライト・ザ・リリックス【Write the Lyrics】 曲リスト ハレ晴レユカイver.ジョジョ1部作ってみた ハレ晴レユカイ~ジョジョ第2部ver~『作ってみた』 ハレ晴レユカイ~ジョジョ第3部ver~作ってみた ハレ晴レユカイver.ジョジョ3部『作ってみた』修正版 創世のアクエリオンver.ジョジョ2部(シュトロハイム)『作ってみた』 創世のジョースター『歌ってみた』ver.リリックス God knows..verジョジョ5部(ブチャラティ)『作ってみた』 GodKnows..ver.ジョジョ5部『作ってみた』ナチスのマイク編 God knows...verジョジョ5部『一緒に歌ってみた』 勝手にオールスター Godknowsverジョジョ5部 組曲「ニコニコ動画」ver.ジョジョ1巻~SBR8巻『作ってみた』 エアーマンが倒せないver.SPWの愚痴『作ってみた』 ダイアーさんじゃ倒せない『作ってみた』 まっじーお↓リトル・フィート歌ってみたbyリリックス お知らせ ~ホルマジオver.~ キューティーハニーver.ジョジョ5部『女がいただいてみた』 うぇるかむASSASSINO(ジョジョ5部暗殺チーム替え歌)全員集合ゥッ!! コメントがありましたらどうぞ -- (管理人) 2007-07-29 20 48 38 あいうえお順に並べた方がいいんじゃないですかね? -- (名無しさん) 2007-07-29 21 00 55 すげええええ!感動だ感動!でもスタンド発現した順に変えた方がいいと思います(一番上だと恐れ多いんで…) -- (neruko) 2007-07-29 21 15 56 あいうえお順か発現順か…は、発現順が分からないのですが教えていただけますか!?(汗 -- (管理人) 2007-07-29 21 18 50 本家→ピャー→砂女→nerukoまでは覚えてる。ペッシいつだったっけ? -- (名無しさん) 2007-07-29 21 25 23 うああああああ、マジすげぇぇぇぇぇ!!ジョジョ好きでよかった…。 -- (名無し) 2007-07-29 21 35 51 あいうえお順でいいと思いますよ -- (名無しさん) 2007-07-29 23 37 26 順番入れ替え了解です。…とりあえず歌い手さんではなくスタンド名の入れ替えでやってみます。 -- (管理人) 2007-07-30 09 07 24 リンク集つくってみました(http //www10.atwiki.jp/jojoson/pages/98.html) -- (名無しさん) 2007-08-21 22 31 39 名無し様、有難う御座います!そちらの方が綺麗にまとまってる…!有難う御座いますー!! -- (管理人) 2007-08-22 01 00 52 名前 コメント すべてのコメントを見る
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気を失ったルイズは、手近な部屋のベッドへと運び込まれた。 ニューカッスル城の水のメイジは、極度の緊張から解放されたストレスで気を失ったのだと診断した。 ウエールズの計らいで、ワルドもまた、消費しきった魔力を回復するためにルイズの傍らで体を休めていた。 ルイズは、すぐ側の椅子にワルドが座っているのを感じていた。 起きあがり声をかけようとしたが、体も動かず、声も出ない。 なんとか体を動かそうとするルイズに、誰かの声が聞こえてきた。 『………ズ』 『…ルイズ…』 しばらくその声に耳を傾けていると、少しずつハッキリと聞こえてくるようになった。 「だれ? 私を呼んでるのは」 『やれやれ、やっと気づいたか』 暗い意識の中で、ルイズの目の前には、不思議な出で立ちの男が立っていた。 五芒星の装飾をあしらった黒い服に身を包み、マントと見まがうような長いコートを着ている。 少なくともトリスティンでは見たこともない服装だったが、ルイズはその男が誰なのか知っていた。 「あんた、オークに殴られた時に助けてくれた…ええと…なんだっけ」 『空条承太郎だ』 「クゥジョー、ジョォタロー? 変な名前ね…ねえ、貴方、もしかしてあの変な円盤から出てきたの?」 ルイズが使い魔召喚の日に見つけた、銀色の円盤を思い浮かべる。 そのイメージが伝わったのか、承太郎は無言で頷いた。 「ふーん…何よ、やっぱり私、サモン・サーヴァントに成功してたんじゃない」 『やれやれ、いろんなスタンド使いと戦ったが…使い魔として呼び出されるなんてのは初めてだ』 「そりゃそうでしょうね、貴方の記憶が夢に出てきたもの、あなたの世界ってこっちとはずいぶん違…」 そこまで言ってルイズは思い出した、目の前の男は、承太郎は、時間の加速した世界の中で、仲間がバラバラにされていくのを見ていたのだ。 その中にはもちろん実の娘もいた、杉本鈴美が自分以外の幽霊の姿を見たように、彼もまた幽霊の視点で娘の死を見ていたのだろう。 『…気にするな、徐倫は、やるべきことをしたんだ』 「ごめんなさい…でも、あの時死んだ貴方がなぜDISCになって現れたの?」 『さあな、それは俺にも分からん、だが、今俺は使い魔として召喚され、お前の意識に同居している、それだけが事実だ』 ルイズは意識の中で、腰に手を当て、胸を張った。 「使い魔としての自覚はあるのね、ちょっと複雑だけど…でも、いいわ。それと私のことはルイズでいいわよ。どうせ他の人には聞こえないもの」 『わかった』 「で、突然私の前に現れたのはなぜ?ウエールズ王太子殿下に手紙を渡さないといけないのよ」 『その事だが、一つだけ言っておきたいことがある』 「何?」 『ワルド…奴には気をつけろ』 「えっ…」 そこでルイズの意識は光に包まれた。 ガバッ、と体を起こすと、そこはベッドの上だった。 近くにいたワルドがルイズを心配して駆け寄る。 「ルイズ!目が覚めたか、大丈夫か?」 「あ、ワルド…うん、大丈夫よ、ちょっと疲れたみたい、ごめんなさい」 「それならいいんだ、僕の花嫁に何かあったら、僕は気が気じゃないからね」 今まで何かの夢を見ていた、それだけは覚えている、しかもワルドに関わる夢を見ていたはずだ。 しかし、その夢の内容が思い出せない。 ルイズはベッドから降りると、ウェールズ王太子に面会するため、ワルドと共に部屋を出て行った。 ウェールズの部屋は王子の部屋とは思えない程粗末で、質素な部屋だった。 ルイズはウェールズから手紙を受け取る、確かにアンリエッタの花押が押されている。 「ありがとうございます」 ルイズは深々と頭を下げ、手紙を懐にしまった。 「明日の朝、非戦闘員を乗せた『イーグル』号が、ここを出港する。それに乗ってトリステインに帰りなさい」 ウェールズは実に爽やかに言ってのける。 しかしその言葉は、自分はそれに乗らないというニュアンスが含まれていた。 「あの、殿下…王軍に勝ち目はないのですか?」 ルイズは一瞬だけ躊躇したが、ウェールズの目を見据えて言った、それに答えるかのように、ウェールズも凛々しいまなざしをルイズに向けて答えた。 「ないよ。我が軍は三百。敵軍は五万。万に一つの可能性もありえない。我々にできることは、勇敢な死に様を連中に見せることだけだ」 ルイズは俯いた。 「殿下の、討ち死になさる様も、その中には含まれるのですか?」 「当然だ。私は真っ先に死ぬつもりだよ」 ガタン、と扉から音が鳴った。 それに気づいたウェールズは杖を振って扉を開く、すると扉の向こうには、ルイズ達を迎えたメイドが立っていた。 「きみは…」 そのメイドは、恭しく頭を垂れると、ウェールズの部屋へと入り、扉を閉めた。 「殿下、お使者の方々、失礼をお許し下さい。恐れながら申し上げたいことがございます」 「…申してみよ」 「どうかトリスティンに亡命なされませ、私どもはアルビオンの意志と血を絶やさぬために戦うのです、どうか、王太子殿下だけでも生き延びて…」 「それは、できない」 ウェールズがきっぱりと言い放つ。 「君は非戦闘員だ、女子供を無惨に殺されるわけにはいかぬ、私は名誉のために死を選ぶのではない、意志を伝えるために戦うのだ、戦わなければ、意志は受け継がれないのだよ」 「ですが…!」 「トリスティンからの使者の前だ、これ以上の無礼は私が許さん、下がりなさい」 ウェールズの固い決心を聞いてもなお、納得いかないといった表情だったが、メイドは一礼するとウェールズの部屋から退室した。 「ふぅ…メイドが失礼をした、あのように私を慕ってくれる者もいるのだ、だからこそ私は戦わなければならないのだよ」 ルイズはウェールズの言葉を黙って聞いていたが、意を決して話し出した。 「この、ただいまお預かりした手紙の内容、これは…」 ごくり、と喉が鳴る。 「この任務をわたくしに仰せつけられた際の姫さまのご様子、尋常ではございませんでした。そう、まるで、恋人を案じるような……。それに、手紙に接吻なさった際の殿下の物憂げなお顔といい、もしや、姫さまと、ウェールズ皇太子殿下は……」 ウェールズは微笑んだ。ルイズが言いたいことを察したのである。 「きみは、従妹のアンリエッタと、この私が恋仲であったと言いたいのかね?」 ルイズが頷くと、ウェールズは悩んだ仕草をしたあと、口を開いた。 「その通り。きみが想像しているとおり、これは恋文さ、彼女は始祖ブリミルの名おいて、永久の愛を私に誓ったんだ」 ルイズは「ああ」と心の中でため息を漏らした。 始祖に誓う愛は、つまり婚姻の際の誓い。アンリエッタが既にウェールズと愛を誓っていると知られれば、ゲルマニアの皇帝との結婚は重婚となる。 重婚の罪を犯したと知られれば、ゲルマニアの皇帝は、姫との婚約は取り消し、同盟の約束も反故にしてしまうだろう。 「殿下…姫様の手紙には、殿下に亡命を求める内容など一言も書かれてはいなかったと思います。 それが、それが姫様の、姫様の『覚悟』でございます、ですが、私は…私は殿下に亡命を、トリスティンへの亡命を進言致します!」 ワルドがルイズの肩を押さえる、落ち着けと言いたいのだろうが、ルイズの興奮は収まらない。 「それはできんよ」 ウェールズは笑いながら言った。 「殿下、これはわたくしだけの願いではございません!姫さまの願いでございます!姫さまがご自分の愛した人を見捨てるわけがございません!姫様の覚悟を、どうか!」 ウェールズは首を振った。 「…君は、本当にアンリエッタのことを知っているのだね、幼い頃の遊び相手の話を、アンリエッタはよく話してくれたよ、君がそうなのだろう?」 「殿下!」 ルイズはウェールズに詰め寄った。 「私は王族だ。そしてアンリエッタを愛する一人の男でもある、だからこそアンリエッタの覚悟を汲まねばならぬ。アンリエッタはこの手紙を覚悟して書いたのだろう、『この手紙に書かれていることが真実である』と『覚悟』して書いたのだろう。だからこそ、姫と、私の名誉に誓って、私はここで戦い、そしてアルビオンの意志を貴族派の者達に、世界の者達に見せなければならぬ」 ウェールズは苦しそうに言った。 王女であるアンリエッタが、どれだけの苦しみを覚悟して、残酷な手紙を書いたのか、ウェールズには痛いほど理解できたのだ。 ウェールズがルイズの肩を叩く。 「きみは、正直な女の子だな。ラ・ヴァリエール嬢。正直で、純粋な、いい目をしている」 ルイズは、寂しそうに俯いた。 「忠告しよう。そのように正直では大使は務まらぬよ。しっかりしなさい」 ウェールズの微笑みは、爽やかな、魅力的な笑みだった。 「しかしながら、亡国への大使としては適任かもしれぬ。明日に滅ぶ政府は、誰より正直だからね。なぜなら、名誉以外に守るものが他にないのだから」 そう言うとウェールズは時計を見る、決戦前夜のパーティーの時間が近づいていた。 ウェールズは、ルイズとワルドにパーティへの出席を促すと、部屋を出て行った。 パーティは城のホールで行われた。 簡易の玉座が置かれ、そこにはアルビオンの王が腰掛けて、集まった貴族や臣下を見守っていた。 とても、明日には滅びる者達のパーティとは思えない、華やかなパーティーだった。 最後の晩餐に参加したトリステイン客、ルイズとワルドの二人は、城に残った王党派の貴族達に最高のものを振る舞われた。 明日死ぬかもしれない、そんな悲観に暮れた言葉など一切漏らさず、二人に明るく料理を、酒を勧め、冗談を言ってきた。 ルイズは歓迎が一段落つくのを見計らって、ホールを離れた。 城のバルコニーへと出て月夜を眺めようとしたのだ。 しかし、そこには先客が居た。 先ほどウェールズに進言しようとしたメイドが、ウェールズに何かを訴えていたのだ。 「殿下…怖くは、ないのですか?」 「怖い?」 ウェールズはきょとんとした顔をして、メイドを見つめた、そしてはっはっはと笑った。 「怖いさ!だがね、私を案じてくれる者がいるからこそ、私は笑っていられるのだよ」 「そんな…私だったら、私だったら、怖くてとても、殿下のように笑えません、そんな風に笑えるなんて、私には」 「いいかね? 死ぬのが怖くない人間なんているわけがない。王族も、貴族も、平民も、それは同じだろう」 「では」 「守るべきものがあるからだ。守るべきものの大きさが、死の恐怖を忘れさせてくれるのだ」 「何を守るのですか?私は、モット伯に引き取られたとき、モット伯の衛士の方から、どんなにふがいなくとも生きろと教えられました、生き残る屈辱に耐えて、伝えるべき『魂』を伝えろと、そう教わったのです」 メイドは語気を強めて言ったが、ウェールズは笑顔を崩さない、そして、言い聞かせるように優しく語り始めた。 「優しいのだな、君は、だからこそ私は君たちに生きて欲しい、語り継ぐのは君たちの役目だ、私が戦わなければ、アルビオンの貴族が勇敢に戦ったと言えなくなるのだよ」 「でも…もう、すでに勝ち目はないですのに…」 「我らは勝てずともいい、せめて勇気と名誉の片鱗を貴族派に見せつけ、ハルケギニアの王家たちは弱敵ではないことを示さねばならぬ。君は将来、誰かと恋に落ち、そして子を育てるだろう、私はその子らの為に戦いに行くのだ、無碍に民草の血を流させぬためにも、少数でも団結した者達が如何に難敵であるかを見せつけねばならんのだよ。」 「そんな…」 「これは我らの義務なのだ。王家に生まれたものの義務なのだ。内憂を払えなかった王家に、最後に課せられた義務なのだよ、君は違う、生き延びなさい」 そう言ってウェールズはバルコニーを離れた、廊下で立ち聞きしていたルイズを見つけ、ウェールズはルイズに微笑んだ。 「おやおや、聞こえてしまったが。…今言ったことは、アンリエッタには告げないでくれたまえ。いらぬ心労は、彼女の美貌を害してしまう。彼女は可憐な花のようだ。きみもそう思うだろう?」 ルイズは頷いた。それを見たウェールズは、目をつむって言った。 「ただ、こう伝えてくれたまえ。ウェールズは、勇敢に戦い、勇敢に死んでいったと。それで十分だ」 それだけ言うと、ウェールズは再びパーティーの中心に入っていった。 翌日、非戦闘員が秘密港から避難している頃。 始祖ブリミルの像が置かれた礼拝堂で、ウェールズ皇太子は新郎と新婦の登場を待っていた。 周りには誰もいない、戦の準備で忙しいのだ。 ウェールズも、すぐに式を終わらせ、戦の準備に駆けつけるつもりだ。 礼拝堂の扉が開き、ルイズとワルドが現れる。 ルイズは礼拝堂と、ウェールズの姿を見て呆然としたが、ワルドに促されて、ウェールズの前に歩み寄った。 ルイズは戸惑っていた、朝早くワルドに起こされ、ここまで連れてこられたのだだ。 戸惑いはしたが、深く考えずに、半分眠ったような頭でここまでやってきた。 死を覚悟した王子たちの様子、そして、前日に聞いたメイドとウェールズの会話が、ルイズの頭を混乱させていた。 ワルドは、そんなルイズに「今から結婚式をするんだ」と言って、アルビオン王家から借り受けた新婦の冠をルイズの頭にのせた。 新婦の冠は、魔法の力で永久に枯れぬ花があしらわれ、なんとも美しく、清楚なつくりであった。 そしてワルドはルイズの黒いマントを外し、やはりアルビオン王家から借り受けた純白のマントをまとわせた。 新婦しか身につけることを許されぬ、乙女のマントが、ルイズの背中を包んだ。 しかし、そのようにワルドの手によって着飾られたルイズは戸惑っていた。 確かにワルドはあこがれの人だ、その人から結婚を申し込まれて嬉しくないはずはない。 しかし、何かが引っかかる、ワルドの変わらぬ笑顔が、なぜかとても冷たいものに見えた。 ワルドは戸惑い恥ずかしがるルイズの様子を、肯定の意思表示と受け取った。 ウェールズの前で、ルイズとワルドは並び、一礼する。 「では、式を始める」 王子の声が、ルイズの耳に届く。 「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」 ワルドは重々しく頷いて、杖を握った左手を胸の前に置いた。 「誓います」 ウェールズはにこりと笑って領き、今度はルイズに視線を移した。 「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」 朗々と、ウェールズが誓いのための詔を読みあげる。 相手は憧れていた頼もしいワルド、自分の父とワルドの父が交わした、結婚の約束が、今まさに成就しようとしている。 ワルドのことは嫌いではない、しかし… 「新婦?」 ウェールズがこっちを見ている。ルイズは慌てて顔を上げた。 「緊張しているのかい? 仕方がない。初めてのときは、ことがなんであれ、緊張するものだからね」 にっこりと笑って、ウェールズは続けた。 「まあ、これは儀礼に過ぎぬが、儀礼にはそれをするだけの意味がある。では繰り返そう。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして夫と……」 そしてルイズは思い出す。 スタープラチナが視た映像を。 桟橋で、ルイズの前に現れた、仮面の男。 その男の背丈は、ワルドと完全に一致する。 顔に被った仮面も、ワルドの変わらぬ笑顔を象徴するかの如くだった。 そして何よりも、ワルドは風のスクエアであるという事実。 風の魔法には、偏在の魔法という、分身を作り出す魔法がある。 偏在とは、空気が『色』と『形』を持ち、見た目こそ魔法を詠唱したメイジと変わらぬ姿を出現させるが、その中身は言わば『雲』だ。 ルイズの傍らに立つ使い魔、スタープラチナの腕が、承太郎の心臓を止めた時のように、ワルドの身体に入り込んでいた。 ワルドの身体の中には、内蔵の感触が無かった。 「新婦?」 「ルイズ?」 二人が怪訝な顔で、ルイズの顔を覗き込む。 ルイズはワルドに向き直り、悲しい表情を浮かべて首を横に振った。 「どうしたね、ルイズ。気分でも悪いのかい?」 「違うの…」 「日が悪いなら、改めて……」 「そうじゃない、そうじゃないの。ワルド、わたし、あなたとは結婚できない」 いきなりの展開に、ウェールズは首をかしげた。 「新婦は、この結婚を望まぬのか?」 「そのとおりでございます。私は…分身と結婚しようとは思いません」 ウェールズは困ったように首をかしげたが、『分身』の意味するところに気づき、真剣な表情でワルドを見た。 ワルドはウェールズに見向きもせずに、ルイズの手を取った。 「……緊張してるんだ。そうだろルイズ。きみが、僕との結婚を拒むわけがない」 「さわらないで!」 ルイズがワルドの手をはねのける、するとワルドはルイズの肩を掴む。 ワルドの目はつりあがり、既に笑顔はない、まるでトカゲか何かを思わせる表情に変わった。 「ルイズ。僕は世界を手に入れる! そのためにきみが必要なんだ!」 ルイズはワルドの手から逃れようと後ろに飛ぶ、そしてウエールズがワルドとルイズの間に割って入り、ワルドを制止した。 「なんたる無礼!なんたる侮辱だ! 子爵よ、風が教えてくれている、本体は扉の外に隠れているな!」 そう言ってウェールズはウインド・カッターを唱え、ワルドの身体を切り裂く、するとワルドの身体は霧のように霧散して消えた。 それと同時に、礼拝堂の扉が開かれた、そこにはワルドと、城の衛士の死体が転がっていた。 ワルドの表情は怒りでもなく、笑顔でもない。しかし無表情でもない、言うなれば冷たい表情で、じっとルイズを見つめていた。 「君はなんたる無礼な振る舞いをしたのだ!我が魔法の刃は、きみ決して許しはせぬぞ!」 ウェールズの言葉を意に介さず、ワルドは礼拝壇に向けて歩き出した。 「この旅で、きみの気持ちをつかむために、随分努力したんだが……」 「よく言うわ」 「こうなってはしかたない。ならば目的の一つは諦よう」 ワルドは唇の端をつりあげると、禍々しい笑みを浮かべた。 「この旅における僕の目的は三つだ、その二つが達成できただけでも、よしとしなければな」 そう言いながらワルドは、ウェールズを指さした。 「まず一つはきみだ。ルイズ。きみを手に入れることだ。しかし、これは果たせないようだ」 ルイズは黙っていた、ウェールズもワルドを警戒しながら杖を向ける。 「二つ目の目的は、ルイズ、きみのポケットに入っている、アンリエッタの手紙だ」 ルイズも杖を抜き、魔法の詠唱を始める。 「そして三つ目……」 ワルドの『アンリエッタの手紙』という言葉で、すべてを察したウェールズが呪文を詠唱した。 しかし、ワルドは二つ名の閃光のように素早く杖を引き抜き、一瞬で呪文の詠唱を完成させた。 礼拝堂の入り口から、目にも止まらぬ速度でウェールズへと接近したワルド。 ウェールズの胸を、魔法をまとった杖で貫こうとした、そのとき、ルイズの身体が何かを『超えた』 『最初は幻覚だと思った、 訓練された戦士は、相手の動きが超スローモーションで見え、 死を直感した人間は、一瞬が何秒にも何分にも感じられるあれだと思った。 だけど、私は、 その静止している空間を、二歩、三歩と駆けて、ウェールズ殿下の身代わりになることができた、 幻覚では、なかったんだ…』 ---- #center{[[前へ 奇妙なルイズ-22]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-24]]}
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ゼロと奇妙な隠者・幕間劇、もしくは。 キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーの憂鬱 フリッグの舞踏会も終わり、学院には宴の後特有の弛緩した静かな空気が流れていた。 我らが『微熱』のキュルケも、そんな空気に当てられたか、深夜だというのに自室のベッドの上で一人、ヘビードールを纏って寝転んでいるだけだった。 「きゅるきゅる」 『今夜は誰かと同衾しないんですか』と暖炉の中から問いかける使い魔。明日は雨だな、とサラマンダーであるフレイムは憂鬱な気分になった。 「あー……今夜はいいかなって思ってるのよねー。ちょっと思うところあって」 月の物でないことは重々承知している。まあ月の物の真っ最中だろうがこの主人は構わず生徒を食っちまう点があるというのに、体調のいい時分に一人寝を選んでいるというのはかなり珍しいことである。 今のキュルケからは平素のように恋愛にうつつを抜かしている感情は感じられない。むしろ物憂げというか、憂鬱な気分を感じるのは初めてと言ってもいい経験だ。 この情熱的な主人でもメランコリーになる夜は存在してるのだなあ、と、妙な所で感心していた。 「きゅるきゅる」 『そう言えばヴァリエールさんところのジョセフさんを部屋にお呼びしないのはどうしてですか』と、前々から疑問に思っていた質問を聞いてみることにした。 使い魔達の中でもジョセフの人気は大したものである。特にエサをくれるわけでもないし何かをしてくれるというわけでもないのだが、何故か一緒にいたくなる雰囲気がある。 カエルからバクベアードまで幅広く人気があるというのもおかしな話ではあるが、実際そうなのだから仕方がない。 元々いい男だし、なまっちょろい学院の生徒にはないワイルドさや鍛えられた身体。ユーモアセンスは言うまでもないし、何より男にしか目が行かないというわけでは決してない。 恋愛狂と称してもいいくらいの主人がこれだけ好条件の男を部屋に呼ばない、というのは奇妙なことに思えて仕方ないのである。粉はかけているようだが、それもルイズをからかう材料にしているだけのレベル。 使い魔の疑問に、キュルケは苦笑しながら身を起こした。 「いやー……本当なら呼んでるところよ? むしろ呼ばない理由がないというか」 「きゅるきゅる」 『じゃあなんで呼ばないんですか』という質問に、キュルケはやっと身を起こした。 「あー……呼んだらからかうとかいうレベルですまないというか。何と言うか、直感?」 「きゅる?」 常日頃からツェルプストーとヴァリエールの因縁は聞かされている(主に桃色から)。 キュルケは特に意識はしていない……というか、気にもしていない様子だが、ヴァリエールの方は意識しっぱなしで、ジョセフとキュルケが立ち話をしているだけでキレていた。 それはもう懸命にツェルプストーの家は汚いだとか成り上がりだのときゃんきゃんわめいているのだが、ジョセフは右から左でハイハイといなしている。それがまた気に入らない、とキレまくるのをフレイムも何回も見ていた。 「きゅるきゅる」 『でもあの調子なら、大体こんな感じで笑い話になるんじゃないんですか?』と、私感を述べてみるフレイム。 ①・フレイムの予想 ジョセフを部屋に連れ込んだキュルケ。ジョセフはいい年してスケベだから誘惑されようモンならホイホイとついてっちゃう。で、ベッドにいざ来ようとした段階でルイズが乗り込んできて一悶着あった上で、ルイズがジョセフを引き摺って帰る。 「きゅるきゅる」 『大体こんな感じで終わるでしょう』としめくくった。 ベッドに座ったままのキュルケは、使い魔の言葉を苦笑しながら聞き終わった。 「うーん……決闘前ならそれで終わってるはずなんだけどねぇ。あれよ、決闘終わってからちょっとギクシャクしてたでしょあの二人。その時だとねー……」 ②・キュルケの予想(決闘直後の見解) ジョセフを部屋に連れ込んだキュルケ。ジョセフはいい年してスケベだから誘惑されようモンならホイホイとついてっちゃう。で、ベッドにいざ来ようとした段階でルイズが乗り込んできて―― 「……何――してるのよ……」 どう言おうが言い訳しようもない現場を目撃したルイズ。その手に握られた杖が震える様子が、彼女の怒りだけではない様々な感情が混ざり合っているのを如実に表わしていた。 「ま、待てルイズ。落ち着け。なッ?」 危機を感じ取ったジョセフが、ルイズを宥めにかかる。 だが今のルイズに使い魔の言葉が届くはずもない。 「アンタはッ……そうよ、私を裏切ってッ……!!」 「――とまあ、ブラックルイズ化しちゃう危険性があったと踏んだわけよ。さすがにあの時のルイズとジョセフに手を出したら刃傷沙汰じゃすまないような感じもあったし」 「きゅるきゅる」 『それは確かに』と同意する。 「そもそもこの話はお気楽なラブコメをやろうと思ってたのに、いつの間にかパワフルで頼れるおじいちゃんとワガママだけどカワイイところがある孫娘のほのぼのコメディに変わってきたからそのままいっちまうかァーなんて後先考えてない作者がやってるわけだから」 何を言い出してるんだこの人は、と言いたげなフレイムの視線にも、キュルケはうむうむと頷いた。 「本当は『ゼロ奇妙にはどうにもハーレムラブコメ分が足りない! ここでジョセフ! スケベで孕ませ放題なジョセフでそれなんてエロゲ? をやろう!』とか思ってた……のに。 ギーシュに決闘挑んだ時点であれ? 方向性違う? まあいいややっちゃえーとなって今に至ってるわけで」 フレイムが(もしかして目の前にいる主人は主人の姿をしてるだけで中身が違う人なのでは?)という疑念を抱き始めてきたところで、キュルケは一つ咳払いをした。 「まあそれはさておいて。私もルイズをからかうのはやぶさかじゃないけど、本気で殺意を抱かれたり殺したり殺されたりとかは現時点では望んでないわけ。しかもそれが可能性として高かったあの時期に、ジョセフを誘惑するワケにはいかなかったのよ」 おお元の主人に戻った、と思ったフレイムは、続けて問いかけた。 「きゅるきゅる?」 『じゃあミス・ヴァリエールとジョセフさんが仲良くなった今なら、①で終わるからちょうどいいんじゃないですか? なんなら呼びに行きますよ』と。 だがキュルケは、自慢の赤毛を緩く振って苦笑した。 「だめだめ。今だときっとこんなコトになるわよ」 ③・キュルケの予想(現時点での危険性) ジョセフを部屋に連れ込んだキュルケ。ジョセフはいい年してスケベだから誘惑されようモンならホイホイとついてっちゃう。で、ベッドにいざ来ようとした段階でルイズが乗り込んできて―― 「……何――してるのよ……」 どう言おうが言い訳しようもない現場を目撃したルイズ。 彼女は怒りに満ちた目を隠そうともせず、杖を振り上げるが――その唇から魔法の詠唱が始まることはなかった。 小刻みに震えていた手はやがてゆっくりと、力なく垂れ下がり…… 魔法を唱えるはずの唇から漏れるのは、紛れもない嗚咽。 「ひっ……ひっ、ひぃっ……どうしてよぉ……えっく、うわぁぁぁぁぁああぁあん」 にっくきツェルプストーの前だと言うのに、誰憚ることなく大泣きしだすルイズ。 その姿はまるで親とはぐれて泣くしか出来ない幼子のようだった。 「ジョセフを、えぅっ、あたしのジョセフを、取らないでぇぇぇえええぇ」 泣く子と貴族にはかなわないという諺がハルケギニアにはあるが、貴族で泣いてる子となればもはや太刀打ちできる者は誰もいない。 ジョセフは慌ててルイズに駆け寄り、ルイズは泣きじゃくってバカバカと連呼してジョセフの胸をぽこぽこ叩きまくる。 キュルケはなんか言い様のない罪悪感に圧し掛かられたまま、帰っていく二人の背を見送ることしか出来ませんでしたとさ。 「きゅるー……」 うわ。なんかリアルに想像できた。とサラマンダーが呟く珍しい光景。 「でしょ? それは怖いというか、今まで挙がった①から③まで、どれも有り得そうでしょ。ただルイズをからかうだけでそんな危険な賭けが出来る段階じゃないのよねー」 はぁ、と溜息をついてから、キュルケは再びベッドに倒れこんだ。 「いい男なのよねー、スケベで浮気しそうでお調子者なのを差し引いても。年を取ってるのもダンディだし。あの年であそこまで色々スゴそうなのも普通いないわよね」 「きゅるきゅる」 『ヨダレ。ヨダレが出てますよご主人様』 手の甲で口元を拭う。 「まああれよ。部屋に呼ぶとすれば、もう決戦挑むくらいの気持ちで行かないと。生半可な気持ちでやると大火傷するから、対策はきちんと取っておかないと……!」 「きゅるきゅる」 『おお。さっきまでのメランコリーな気分がもう消えてる。何と言うかあれだな。我がご主人様ながら単純だなー』 艶かしい肢体を熱情の炎に包みながら、拳を握り締めるキュルケ。そんな主人の姿をサラマンダーなのに生暖かく見守るフレイム。 隣の部屋で燃え盛る炎など知ることも無く。 ジョセフは毛布の上で10分間寝息を吐き続け、ルイズは悪夢にうなされていた。 To Be Contined → 第二部『風のアルビオン』
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ルイズにとっての厄日を挙げろと言われたら、まず間違いなくこの日が挙がるだろう。 使い魔召喚で手間取った挙句、召喚できたのはよりによって平民の老人。 図体ばかりがデカいだけで非常に無知で、この偉大なるトリスティン魔法学院すら知らないどころか、魔法の存在さえろくすっぽ知らないと来たものだ。 あまつさえニューヨークだチキュウだなどと、ルイズが知らないような辺境から来たとのたまう。 この世界の何処に月が一つしかない場所があるというのだ。貴族を馬鹿にするにも程がある。 そのくせ随分と聞きたがりで、昼間に召喚してからというもの、日が沈むまであれやこれやと質問ばかりしてくる。 子供でも知っているような事ですら何でも聞いてくるので、ウンザリしたルイズは最後になると質問を全て「うるさいうるさいうるさい!」で全部シカトした。 しかしシカトしてしまえば、平民は大人しく黙り込んで外へ出ていった。 これからあのボケ老人を相手にし続けなければならないのかと思うと、ルイズはほとほと嫌気が差した。 しかもファーストキスまであの老人にくれてやったというのが甚だ不愉快極まりない。 とにもかくも今日は疲れた。 ルイズは寝巻きに着替えてとっとと寝ようとして、「使い魔が帰ってきたら何処で寝るか」を言い含めなければ安心して眠れないということに気付き……再び怒りを膨らませた。 ジョセフにとっての厄日を挙げろと言われたら、まず間違いなくこの日は選外だ。 命懸けの冒険が終わったかと思ったら、突然異世界に召喚されて有無を言わさず使い魔にされるというある意味屈辱的な事態を迎えることになった。 が、究極生物や超常現象との戦いを潜り抜けてきたジョセフにとっては、この程度のアクシデントなど「奇妙な」という冠言葉をつけてやるにも値しない。 むしろ美少女のファーストキスを頂いたのだから十二分に良い日だと断言してもいい、とすらジョセフは考えていた。 ひとまず元の世界に帰還することよりも、この世界でどうやって生活するか。 まずはそこから足場を固めていかなければなるまいと考えたジョセフがとった手段は、「弱者のフリをし通す」ことだった。 その為に図体が大きいだけの無知な老人を装えば、世間知らずの主人は疑うことすらせずそれを信じ込んだ。 中世貴族そのままの思考パターンで動いている人種には、とにかく「自分より立場が下の人間」だと思い込ませれば非常に都合がいい。 油断させてしまえば、後は態度次第で自分の思うがままに相手の心理を誘導させられる。 たった一代でニューヨークの不動産王に成り上がった男の処世術として初歩も初歩。 ひとまず、ルイズへの質問攻めのおかげで現状は大体把握した。 ボケ老人が質問してはおかしい事柄は、部屋から追い出された後でハーミットパープルの念視で把握してしまった。 主人がヒミツにしている宝物の隠し場所もバッチリである。 (後は役に立たんフリさえしとれば、厄介事にも巻き込まれんじゃろ。後は……自分の身体じゃな) ジョセフの波紋では骨折やらの大怪我は治せないとは言え、軽い怪我なら治癒できる。体内を流れるDIOの血も、波紋呼吸を続けていればいずれ浄化することは可能。 ただ一つ、気がかりなことがあるとすれば。 ジョセフは左手の手袋を脱ぎ、義手に刻まれた奇妙な文字……ルーンに視線を集めた。ルイズに言わせるとルイズの使い魔になったという証だということだが、ルーンが刻まれた瞬間から、この鉄の義手は明らかな奇妙さを醸し出す様になっていた。 日常生活に支障がないほど精巧な動作が出来る義手だったが、今では“義手に波紋が留まる”ようになった。 波紋は金属に留まることができず、流したとしても即座に拡散してしまう性質があるにも拘わらずだ。 教師であるU字ハゲのコルベールも「これは珍しいルーンだな。なんだキミは左手だけゴーレムなのか?」との言葉であっさり流したせいで、答えに辿り着くのは随分と後のことになりそうだ。 ひとまず校内の間取りも把握し、周囲の地形もおおよそ理解した。一番身近な自分の身体が一番不審だというのが腑に落ちないが。 部屋を出てきた時と現在の月の位置を確認し、やや時間が経ち過ぎた事に気付くと、ルイズの部屋へと戻る。 扉の前へ来るとノックしてもしもーし。 「遅いッ! どこほっつき歩いてたのよッ!」と返事が来てからドアを開けて部屋へ入る。 「いやァすいません、あんまりにも広いんで道に迷ってしまいましてのォ」 頬をポリポリかきながら事も無げに答える。 「アンタ常識ってモンがないの!? 主人が寝ようかって時に側にいない使い魔なんて聞いたことがないわ!」 それから続け様に八つ当たりめいた罵詈雑言を飛ばすルイズだが、何で怒られているのか判りませんよという顔をしているジョセフに盛大にため息をついて、床に敷かれたボロ毛布を指差した。 「もういいわ、疲れた。あんたはそこで寝なさい。あたしも寝るわ。そうそう、そこに服が置いてあるから洗濯しといてね。朝はちゃんと起こすのよ!」 言いたいことだけ言ってしまって、ルイズは指を鳴らしてランプを消し。そのままベッドに潜り込んだ。 程無くして寝息が聞こえてくるのを確認してから、ジョセフは小さくため息をつき。とりあえず毛布の上に座り込んだ。 (んまァなんじゃ。ホントーに何処から何処まで中世貴族そのまんまじゃのォ。一晩かけて言うコト聞かせるようにしちまってもいいんじゃが) 有体に言えば手篭めにするということである。自信はあるがそれが成功するかは判らない。「勝負というのは始まった時には既に勝てるかどうか決まっているものである」を信条とするジョセフとしては、その考えはまだ非現実的だと判ずるしかない。 失敗するかも知れない手に打って出るほど窮している訳でもない。 それよりも先にやらなければならないことがある。ジョセフは呼吸を整え、波紋を練り始めた。 独特の呼吸音が静かな室内に微かに聞こえるが、ルイズは目を覚ます気配もなく昏々と眠り続けている。 まず波紋を集約させた指を壁につけ、指だけで壁を登り、天井にぶら下がって数十分そのままの体勢を維持する。 降りれば水差しからコップに水を注ぎ、逆さにしたコップから水を落とさずにそのまま維持。 水面に指をつけてコップから水を抜き取れば、プリンのようにコップの形を維持する水をかじる。 波紋を体内に流していれば食事も睡眠も必要がなくなる。これから特権階級であるルイズが自分をどういう扱いをするのかはかなり想像がつく。 (波紋やっとると老化せんからのォ。あんまりやり過ぎるとワシがスージーより年下っぽくなっちまうからあんまやりたくないが。ま、しゃーないしゃーない) ジョセフの脳裏には、ありし日のリサリサの姿が浮かんでいた。 母も結婚してから波紋呼吸を止めた(幾ら何でもずっと年を取り続けないのはおかしいのだが、リサリサは波紋を止めるのにやや未練を残していたようだ)が、それでも大概な若作りを維持していた。 母の再婚相手は、ジョセフはリサリサの弟だと思い込んだまま天寿を全うした。 いつ元の世界に帰る事が出来るかは判らないが、いつか帰る日の為に自分の体を維持し続けなければならない。 エジプトへの旅の間も、自分の老化を嫌と言うほど思い知らされた。 いつ終わるとも知れないハードな日々を潜り抜けるために、この波紋は必要不可欠なのだから。 トレーニングを一通り終えて窓の外を見ると、ほのかに空が白くなりかけてきていた。 ジョセフは脱ぎ散らかされたルイズの服を持って、下へと降りていく。 ハーミットパープルを使えば洗濯道具の在り処もすぐに判るが、勝手に出して使っていては元からここで働いている人間もいい気持ちはしないだろう。 両手で服を抱えながら水場の横で腰を下ろしてのんびりと空を見上げていると、若い黒髪のメイドが一人やってくる。ジョセフは彼女にひらりと手を挙げて、声をかけた。 「おおお嬢さん。すいませんが主人から洗濯を命じられておりましての。すいませんが洗濯道具を貸していただけると有難いんじゃが」 「洗濯道具ですか? 構いませんが……貴方はどなたですか?」 微妙に不審げな顔をする彼女に、ジョセフはニカリと笑って名を名乗る。 「ジョセフ。ジョセフ・ジョースターですじゃ。昨日からミス・ヴァリエールの使い魔となりましての。至らぬ所もあるかと思いますが、宜しくお願いしますじゃ」 ジョセフの自己紹介に、彼女はああ、と合点が行った顔をして手を叩いた。 「ミス・ヴァリエールの! 貴方が噂の平民の使い魔さんでしたか」 「ええ、わしが噂の平民の使い魔ですじゃ。宜しければお嬢さん、お名前などお聞かせ頂ければ嬉しいですがの」 ルイズの前でしていたようなボケ老人のフリではなく、普段通りの明朗快活さで会話を続け。ゆっくりと立ち上がったジョセフの背の高さに、彼女は目を見張った。 「私はシエスタと申します。シエスタとお呼びくだされば結構です」 「おおこれは御丁寧に。ではわしのことはジョセフなりジョジョなりお好きに呼んで下さって結構ですぞ、ミス・シエスタ」 ウィンクもつけて、敬称を付けて彼女の名を呼ぶ。 予想外の呼び方に、ボ、と顔を赤らめて、少しばかりモジモジしながら視線を彷徨わせるシエスタ。 「や、やですわ、そんな貴族の方々にするような呼び方なんて照れてしまいます。そんなこと言われたら、私もミスタ・ジョセフとお呼びしなければ……」 「はははは、それは失敬。他人行儀な呼び方をしてしまいましたかの。ではこれからはシエスタ、と呼ぶことにしますわい。シエスタも気楽にわしの名を呼んでもらえれば結構」 「でしたら……ジョセフさん、とお呼びいたします。年上の方ですし」 まだ赤みの消えうせないまま、そうですよね? と言いたげな顔でジョセフを見上げるシエスタ。 「ではそう呼んで下されば光栄ですじゃ。おっと、あまり立ち話で時間を取らせてしまってはいけませんな。ワシも主人の服を洗濯せねばなりませんでな」 「あ、すいません! ではこちらに……」 シエスタに道具置き場へ案内される間も、終始楽しげに会話を続けるジョセフ。 今正にこの時こそが、アメリカニューヨーク仕込の人心掌握術がトリスティン魔法学院で炸裂した、最初の瞬間であった。 To Be Contined → 戻る
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「これ、嫌いなんだけどな」 少し残念そうな言葉を漏らす女性は、我らがヴァリエール嬢。 朝食にしては豪華な料理が並んでいるが、今日のメニューは少し物足りないようだ。 ここ、トリスティン魔法学院は食事のマナーにも厳しい、が、貴族の食事は社交も兼ねることが多いため、大声で雑談しなければ特に注意されることもない。 今までは誰とも会話せず食事を進めていたが、最近ではキュルケやタバサ、モンモランシーと会話することも多い。 キュルケを見ると、既に食べ終わっている。 朝から食欲旺盛なキュルケを見て、食べた肉が腹でなく胸に行くのは何故だろうと考え、世の不公平を感じた。 しかし、キュルケと行動を共にすることの多いタバサは、ルイズよりも小柄で、胸もぺったんこ。 胸ではかろうじて勝っているルイズだが、彼女はキュルケと同程度かそれ以上の魔法の使い手だ、どっちにしろ魔法では勝てない。 食事があらかた終われば、デザートが配られる。デザートを配りに来るのは厨房付きのメイドシエスタと他数名の役目。 シエスタは平民だが、ルイズにとっては気の許せる友達でもある。 しかし、胸の大きさは明らかにルイズよりも大きく、これに関しては憎い相手であった。「ヴァリエール、ちゃんと食べないと背どころか胸も小さいままよ?フフン」 キュルケにとっては軽い冗談だったが、その言葉を聞いたルイズとタバサは意を決して苦手な料理に手を出すのだった。 しばらくしてメイド達はデザートを配り始めた。 いつものようにシエスタがルイズの右隣に立ち、ケーキの乗った皿を慣れた手つきでテーブルの上に置く…はずだったが、今回は珍しく別のメイドがデザートを置いた。 いつもいつも同じ列ばかりを担当できないのだろう、と思ったが、あたりを見渡すとシエスタの姿だけが無い。 厨房内の仕事でもしているのだろう、と思いながら、ルイズはデザートに手をのばした。 まもなく食事の終わりを告げる鐘が鳴り、生徒たちは食堂から出て行ったが、ルイズは考え事をしているのか、席に座ったままだった。 「ヴァリエール、何してるのよ。まだ食べ足りないの?」 モンモランシーの言葉に促され、ルイズは腑に落ちないものを感じつつも、席を立ち食堂を出て行った。 そんなルイズを、料理長のマルトーが、何か思い詰めたような表情で見ていた。 午前中の授業が終わり昼食の時間。 朝に続き、昼にもシエスタが顔を見せないの この学院で過ごしている生徒達の大半は、貴族だけあって人の顔をよく覚えている。 しかし、平民のメイドが一人いなくなったからといって、気にすることはない。 『ゼロのルイズ』とあだ名されるほど魔法が苦手な彼女は、そのコンプレックスから負けん気が強く、貴族の権力を傘にして威張り散らすこともあった。 シエスタを助けてから…いや、正確には奇妙な夢を見るようになってからだが、ルイズは『素の自分を見せることが出来る友達』の大切さを自覚し、シエスタをはじめとする平民に目を向けるようになったのだ。 昼食も終わり、午後の授業が始まる。そして午後の授業を終え、夕食の時間が来た。 タバサの指摘を受けて、ようやくルイズは異変に気づく。 食前のお祈りを唱和した時、タバサはルイズの隣で一言「給仕口」と告げたのだ。 ルイズが給仕口を見ると、マルトーと目があった。 それに気づいたのか、マルトーはそそくさと厨房へと隠れてしまった。 その日の夜、明かり一つない食堂のテーブルクロスがもぞもぞと動き、ルイズが顔を出した。 ルイズは鍵を開ける魔法を使えない。爆発を起こさず厨房に忍び込むため、食堂にじっと隠れていたのだ。 給仕口から厨房に行くと、そこには小さなランプが灯されており、その下でマルトーがじっと誰かを待っているようだった。 シエスタなら今のマルトーに、まるで覇気がないと気づいただろう。 「…何か用?」 「 ! …あ、貴族様でしたか。こんな夜更けに、厨房に何か」 「何言ってるのよ。じーっと見られてたら何かあると思うじゃない。今日はシエスタも顔を見せないし。私に用があるんでしょ」 「………」 しばらくの沈黙の後、マルトーは話し始めた。 「昨日学院を視察に来られた、貴族のお方なんですがね…。その貴族様が、シエスタをたいそう気に入ったらしいんでさ。」 ルイズは思わず唾を飲み込んだ。いやな予感がするせいか、少し眠気の混じっていた頭が急速に覚醒していくのが分かった。 「今朝、シエスタは連れて行かれました。『昨日はこの平民が貴族に無礼を働いた』とか言われましてね。頭が真っ白になりましたよ。昨日はさんざん褒めて、今日になったら反逆者扱い。何だってんだ!」 マルトーの拳が、ドン!と、厨房のテーブルを響かせた。 「貴族様ってのは何なんですかい!?シエスタが何をしたって言うんですか!俺は、俺は女衒じゃない!」 マルトーはテーブルの上に置かれた小さな袋を壁に投げつけた。ガシャン、という音ともに散らばったのか、10枚ほどの金貨だった。 「貴族様、ヴァリエール様!何とか出来ねえんですか!シエスタは、連れて行かれた時、ルイズ様には言わないでくれと言ったんでさ。ですがね、泣きながらそんなことを言われたら、黙ってられるわけが無いじゃありませんか!」 ルイズは、怒りと悲しみの混ざったマルトーの声に、不思議な感覚を覚えた。 怒りが一巡して、恐ろしいほど体が冷めていく気がする。 昨日視察に来た貴族は、魔法学院その他の、国の重要機関を監査する立場の貴族だ。 本当の事かどうか分からないが、平民の少女だけを集め、ハーレムを作っているという噂を聞いたことがある。 しかし、思い返してみれば、自分の姉も母も、その貴族を毛嫌いしていた。 おそらく事実なのだろう。 考えてみれば、今日はオールド・オスマンが王宮に呼ばれ、学院にいない。 その隙をねらってシエスタが連れて行かれた。 「…オールド・オスマンがお帰りになられたら、すぐにその話を伝えて」 そう告げると、ルイズは使用人通路の鍵を開けさせて、一目散にシエスタを連れ去った貴族の別荘へと走っていった。 マルトーは、シエスタの言う『おともだち』のルイズを今ひとつ信用しきれていない。 だが、ルイズ以外にこんな話が出来る相手もいなかったのだ。 ルイズは地面を『蹴り』瞬く前に空高く、そして遠くへと跳躍していった。 その姿を見たマルトーは『ゼロ』と呼ばれるメイジでも、空を飛ぶことは出来るのかと、素直に感心していた。 前へ 目次 次へ
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ルイズ、タバサ、モンモランシー、ギーシュ。 この四名は学院長室で『土くれのフーケ襲撃事件』について、事細かに質問された。 暗くじめじめとした場所で涼んでいたカエル、モンモランシーの使い魔ロビンが、不審な人物を発見したのが事件の切っ掛けだった。 主人に異変を知らせたロビンは主人の到着を待ったが、ここで困ったことが起きた。 使い魔は主人の目となり耳となる。しかし、それはメイジが実力で使い魔を従えている場合と、メイジと使い魔がお互いを信頼している場合である。 使い魔品評会の日、モンモランシーは気が気ではなかった。 香水のモンモランシーの名の通り、彼女は水系統のマジックアイテムを調合する技術に優れたメイジだが、使い魔にさせる芸はとんと思いつかない。 ロビンが異変を伝えたのは、使い魔品評会が始まって間もない時だった。 使い魔のロビンが姿を見せないので、不機嫌だったモンモランシーには「ロビンが何かを伝えようとしている」程度にしか分からなかったのだ。 急いで宝物庫周辺にいるロビンを探しに行ったが、そこに居たのはフードを被った怪しい男。 モンモランシーはロビンを探していたので、不審な男に気づきはしたが気には止めなかった。 だが、男は、自分が盗賊であると気付かれた、と思いこみ、モンモランシーを拘束したのだ。 男は小型のゴーレムでモンモランシーを殴って気絶させ、手足を錬金した鉛で拘束した。いざという時の人質になると考え、ゴーレムでモンモランシーを運ぼうとしたときに、モンモランシーを追ってきたギーシュに発見されたのだ。 ギーシュは焦っていた。 何せ下級生女子のメイジに声を掛けられ、少し話し込んでいただけなのに、偶然横を通りかかったモンモランシーが血相を変えてで走り去って行ったからだ。 モンモランシーは使い魔のロビンを探しに行っただけだが、ギーシュは『また嫌われた』と思いこみ、慌ててモンモランシーを追いかけた。 そして、後はルイズの知るとおりである。 大怪我した者もおらず、一件落着かと思われたが、オールド・オスマンは神妙な面持ちを崩さなかった。 「だいたいの事情はわかった。しかし災難じゃったのう」 「いえ、このギーシュ・ド・グラモン、薔薇の刺が花を守るように、当然のことをしたまでです」 キザったらしい態度を、隣に立つモンモランシーに見せつけつつ、ギーシュが答える。 「………」 隣に立つモンモランシーは赤面し、目をウルウルさせている。キザったらしい態度は逆効果な気がしたが、どうやらモンモランシーにはストライクだったらしい。 ルイズはモンモランシーの隣で、心底嫌そうな表情をした。 オスマン氏は、ほっほっほと笑い、話を続けた。 「ミス・ヴァリエール、そしてミス・タバサ、君たちもご苦労じゃった。 危険を顧みずに立ち向かう行為は、誇り高い行為と言えるじゃろう。 しかし、貴族は魔法で領民を守るだけでなく、領地を治めることも意識せねばならん。 死を覚悟するのはかまわんが、無謀と勇気をはき違え、領民を混乱させるようなことがあってはならんのじゃぞ」 「「「「はい」」」」 四人は同時に答えた。 「さて、もう一つ、土くれのフーケが処刑されたという話じゃが…あれは偽物じゃ」 モンモランシーは驚いたが、他三人は特に驚きもしなかった。 土くれのフーケ操る巨大ゴーレムを破壊したのは、他ならぬ”本物の”土くれのフーケだ。 土くれのフーケは有名になりすぎ、既に二名の偽物が逮捕されている。 オスマン氏の話によると、今回の事件で逮捕された男は『鉛のゴーゾ』という男らしい。 その男が『土くれのフーケ』という名前を使い、一連の盗難事件を起こしたとして、処刑されたというのだ。 偽物を本物として処刑する。何かの作戦なのか、貴族達の面子からなのか、おそらく両方の思惑が絡んでいるのだろう。 不意に、オスマン氏が杖を振った。 バタン!と扉が開かれ、聞き耳を立てていたキュルケが、ごろんと転がり込んできた。 「ミス・ツェルプストー、盗み聞きはいかんぞ」 オスマン氏は呆れたように言った。 キュルケはばつが悪そうにしていたが、開き直って、オスマン氏に詰め寄る。 「このまま本物の土くれのフーケを放っておいて良いとは思えませんわ」 「…ほう?この部屋はサイレントの魔法で包まれておる。ミス・ツェルプストーはそれを打ち消せると言うのかね?」 オスマン氏の疑問に答えるかのように、タバサが「私がもう一体のゴーレムの話をしました」と言った。 オスマン氏は「なるほど」と言って頷くと、ここに集まった五人意外には口外無用だと伝えた。 「それにしても喧嘩するほど仲が良いとは、よく言ったものじゃのう。持つべき者は親友じゃわい」 そう言ってルイズとキュルケを見比べるオールド・オスマン、それに気付いた二人が 「誰がこんな奴と!」「誰がこんな奴に!」 と同時に叫んだ。 その様子を見たモンモランシーとタバサが「仲が良いじゃない」「類は友を呼ぶ」などと言って、 ゼロ(爆発)vs微熱の、学院史に残る戦いの火ぶたは切って落とされたのだった。 オスマン氏が「うまく誤魔化せた」とほくそ笑んでいたのは秘密だ。 かくして、土くれのフーケ事件も終え、一応の平穏が戻ったトリスティン魔法学院だが。 とても『魔法』学院とは思えないような奇妙な噂に、教師は頭を抱えていた。 幽霊騒ぎである。 事の起こりはこうだ。ある日の夜、お手洗いに行こうとした女生徒が、廊下を歩く幽霊を見たのだ。 最初は誰も相手にしなかったが、目撃者が増えるにつれ、その噂は信憑性を増していった。 もう一つは、謎の『小物紛失事件』である。 夜眠っている間に、部屋にある道具が移動している。 最初は使い魔の悪戯かと思われていたが、 魔法も唱えていないのに宙に小物が動いたとか。 魔法の気配もないのに扉が開いたとか。 誰もいないはずの廊下で何かにぶつかったとか。 そんな体験談を話す生徒が増え、ついに幽霊退治の話が持ち上がった。 「で、何で私が手伝わなきゃいけないのよ」 ルイズの部屋には二人の客が居た、キュルケとタバサである。 「得体の知れない相手には得体の知れない魔法が聞くかもしれないじゃない」 「な、何よその言いぐさはぁ!」 タバサは喧嘩の始まりそうな二人を制止してから、ルイズに頼んだ。 「貴方の力を借りたい」 タバサの言い分ではこうだ。キュルケのファイヤーボールは相手に向かって飛んでいく。自分の風の魔法は小型の竜巻も起こせるが、発生の予兆を関知されるおそれがある。 それに比べてルイズの魔法は、杖を持って呪文を唱えるだけで、突然爆発する。 爆発の予兆は他の魔法に比べて判別しづらい…らしい。 「それにこの子、幽霊とか苦手なのよ」 キュルケが言うと、普段感情を見せないタバサにしては珍しく、キュルケを恨めしそうに見つめた。 黙っていて欲しかったらしい。 ルイズにしても幽霊には良い思い出はない。 アンリエッタ姫と遊んでいた頃、姫を驚かそうとシーツを被り、幽霊のフリをしたことがある、 困ったことに姫も同じ事を考えており、シーツを被った二人は廊下で鉢合わせして、仲良く気絶してしまったのだ。 そんな負い目もあるので、ルイズは幽霊退治を引き受けることにした。 「で、どうするのよ」 ルイズが質問すると、体より大きい杖をカツッと地面に突き立て、タバサが答えた。 「三人で行動、幽霊を発見したら全力で殲滅」 「ちょ、ちょっと…」 さすがのキュルケも焦る。こんな過激なことを言うとは思わなかったからだ。 それにタバサの実力もある程度は知っている。覚悟を決めたタバサと、ルイズが全力を出したら、建物が半壊、いや全壊してしまうのではないかと危惧した。 「そ、その前に、本当にそれが幽霊なのか確かめてからにしなさいよ」 ルイズも冷や汗をかきながら提案する。それぐらいタバサの覚悟には迫力があった。 タバサはしばらく考えてから、渋々頷いた。 そんなわけで、その日の夜から、ルイズ・タバサ・キュルケによる見回りが始まった。 タバサは風の魔法で周囲を探知、キュルケは日の魔法で暗がりを照らし、ルイズはその後をついていくだけだった。 見回りの最中、半裸の女生徒と男子生徒、頬を染めて抱き合う女子生徒二人、頬を染めて抱き合う男(略等々、余計な者を発見してしまうことも多かった。 ただ、見回りが功を奏したのか、見回りを始めてから幽霊を目撃したという話は出なかった。 一週間目のことだ。ルイズは半ば呆れていたが、キュルケとタバサは至って真面目に幽霊を探していた。 タバサは幽霊が苦手なだけでなく、幽霊を見たと言っていたので、意地になるのは分かる。 しかしキュルケが毎晩タバサと行動を共にするのを見て、少しばかり羨ましく感じていたのも事実なのだ。 呆れながらも行動を共にしてくれるルイズに、言葉にはしなかったものの、キュルケとタバサは感謝していた。 「ふわ……」 最後尾で欠伸したルイズに、キュルケが気づき、今日は終わりにしようと提案した。 タバサは無言で頷くと、部屋に戻るための最短距離を選び、歩いていった。 ルイズは廊下から外を見た。空には月が二つ浮かんでいる。 月を見ると思い出す。加速した世界の中で闘っている自分…いや、自分ではない誰かを。 不意に、頭を真っ二つに切り裂かれる瞬間が思い浮かぶ。 その時は、自分の精神エネルギーも一緒に切り裂かれていたはずだ。 真っ二つに切り裂かれたそのエネルギーの名前は、確か『スタープラチナ』 ギーシュとモンモランシーが潰されそうになった時、不意に叫んだ名前と一緒だ。 ルイズは背筋が寒くなり、歩みを止めた。 「ルイズ?」 ルイズが歩みを止めたのに気付き、キュルケが後ろを振り向く。 タバサもそれにつられて振り向いた。 「…あ、何でもない。ちょっと考え事してただけよ」 そう言ってキュルケとタバサに近づこうとしたが、どうも二人の様子がおかしい。 キュルケは褐色の肌が黒く見えるほど顔を青ざめ、 タバサは白い肌が真っ白になるほど呆然としている。 そして、二人とも、ルイズではなく…ルイズの後ろを見ていた。 ルイズが後ろを振り向いてカンテラを掲げると… 顔を真っ二つに切り裂かれた大男が ルイズの持ったカンテラに照らされて 半透明でぼやけた姿を漂わせていた ドカン! 突然の爆音と共に、使用人部屋の扉が吹き飛ばされ、シエスタは飛び起きた。 それと同時にシエスタの体に、何かがぶつかってきた。 「 ! ? !!!! ??? !?」 突然体を拘束されてパニックに陥りそうになるたシエスタだが、 月明かりによって、ルイズと他二人の貴族に抱きつかれているとすぐに気が付いた。 ガクガク、ブルブルと震えてた三人に抱きつかれたまま、シエスタは朝を迎えることになる。 翌日 厨房付きのメイド、シエスタは ルイズ・タバサ・キュルケ三人の貴族の極秘命令により 三人の下着を洗濯することになったとか。
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・奇妙滝 2009 9.21 米子大瀑布を存分に楽しんだ後は、さらに歩くこと数十分。「奇妙滝」へ向かいました。 こちらの落差は60m。こちらでも人がいないことをいいことにパンツ1枚に!! そして飛び込む滝壺へ。(こっちはあまり人が来ませんでした。滝行狙いやすいかも。) あまりの冷たさ、滝壺の深さに絶命寸前。 我に返り、滝行断念!!(写真はないですが、動画はあります。) 薄暗い道を駐車場までかなりの急ぎ足で帰りました~。 クマ出没注意!! 名前 コメント
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作者:羔羊ユク 闇に似た森の中 「森はあたしの隠れ家の筈だった。 それなのに、どうして此処から出られないの?」 問いも答えも、全ては奇妙の中へ。 2020/05/04投稿。読み切り。 「ダーク」及び「グロテスク」タグが表す通り、欠片も救いの存在しない内容。 彼らを襲った『奇妙』の真相は個人サイト掲載の完全版にて垣間見られる。 因みに世界設定はこの為に作られたものではなく、元からあったものをヨメール用に最適化したもの。 ジャンル 作品を読む