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ギーシュの奇妙な決闘 第一話 祭りの後 第二話 決闘の顛末 第三話 『平賀才人』 第四話 『決闘と血統』前編 第四話 『決闘と血統』中編 第四話 『決闘と血統』後編 第四話 『決闘と血統』完結編 第五話 『灯(ともしび)の悪魔』 第六話 『向かうべき二つの道』前編 第六話 『向かうべき二つの道』後編 第七話 『フェンスで防げ!』 第八話 『STAND BY ME!』 第九話 『柵で守る者』前編 第九話 『柵で守る者』中編 第九話 『柵で守る者』後編 第十話 『Shall We Dance?』 第十一話 『星屑の騎士団』 第十二話 『香水の乙女の誇りに賭けて』前編 第十二話 『香水の乙女の誇りに賭けて』後編 第十三話 『魂を蝕む毒』前編 第十三話 『魂を蝕む毒』後編 第十四話 『暴走! 惚れ薬バカップル!』前編 第十四話 『暴走! 惚れ薬バカップル!』後編 第十五話 『三つのタバサ』(前編) 第十五話 『三つのタバサ』(後編)
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朝早く、まだ生徒達が目覚める前。 ルイズとギーシュは馬に鞍をつけ出発の準備をしていたが、ギーシュはなぜか地面を気にしている。 「何キョロキョロしてるのよ」 「いや、実はだね…僕の使い魔を連れて行きたいんだ」 と、ギーシュが言ったとたんに、ルイズの足下が持ち上がり、ジャイアントモールが現れた、ギーシュはそれに抱きいて「僕の可愛いヴェルダンデ!」とのたまっている。 「臭いを嗅ぐなッ!」 ルイズは顔を真っ赤にして、ヴェルダンデの頭をべちん、と叩いた。 地面に降りたルイズは、連れて行っちゃダメだと告げた。行き先が『アルビオン』だからだ。 話を聞いているのかいないのか分からないがヴェルダンデは突然、ルイズを押し倒した。 「何なのよこのモグラ!やめなさいったら!」 鼻で体をまさぐり始めたヴェルダンデは、ルイズの右手の薬指に光るルビーを見つけると、それに鼻をすり寄せた。 アンリエッタ姫から預かった水のルビーを見ながら、ギーシュは「なるほど」と呟く。 「なるほど、指輪を見つけて喜んで居るんだね。ヴェルダンデは宝石が大好きだからねぇ」 「感心してないで助けなさいよ!」 そんな風にモグラとルイズが戯れていると、一陣の風が舞い上がり、モグラだけを吹き飛ばした。 「誰だッ!」 ギーシュが怒りを隠しもせずわめく、風の吹いた方向を見ると、朝もやの中から長身の貴族が現れた。 羽帽子をか被ったその男は、グリフォンから降りてギーシュを一別した。 「貴様、ヴェルダンデになにをする!」 ギーシュが杖を掲げようとすると、それより一瞬早く、長身の貴族が杖を引き抜いて、風の魔法でギーシュの杖を吹き飛ばした。 「僕は敵じゃない。姫殿下より同行を命じられていてね…。君たちだけでは心許ないらしい。」 そう言いながら帽子を取る。 「お忍びの任務であるゆえ、部隊つけるわけにもいかぬ、そこで僕が指名された…ってワケだ」 帽子を胸の前に置き、長身の貴族が一礼した。 「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ」 ギーシュは魔法衛士隊と聞いて、相手が悪いと知った。 魔法衛士隊とは、家柄だけでは決して与えられない、実力がなければその地位には決して就くことができない、若きメイジ達のあこがれの地位なのだ。 「あのジャイアントモールは君の使い魔かね? だとしたら、すまない。婚約者がモグラに襲われているのを黙って見ているわけにはいかないのでね」 「ワルドさま……」 立ち上がったルイズが、震える声で言った。 「久しぶりだな!ルイズ!僕のルイズ!」 ワルドはルイズを抱き上げた。 そんな人物がルイズの婚約者だと知って、ギーシュはあんぐりと口を開けた。 「ワルド様、この間馬車の中で『またすぐ会える』と言っておられたのは、この事だったのですね」 「ああ、…ふふ、相変わらず、きみは羽のように軽いな」 ワルドは抱きかかえていたルイズを地面に下ろすと、朝靄の向こうから聞こえてくる蹄の音に耳を傾けた。 「お取り込み中失礼致しますわ、ミス・ヴァリエール」 馬に乗って現れたのは、ミス・ロングビルだった。 そして簡単な自己紹介が始まった。 封書と、水のルビーを預けられたルイズ。 アルビオンに入るまでの間、護衛を任せられたロングビル。 道中の護衛をつとめるワルド。 おまけのギーシュ。 ギーシュは『自分よりはるかに腕の立つ男』と、『学院長の秘書になるほど腕の立つメイジ』に挟まれ、この任務を手伝うことが出来た幸運に体を震わせた。 ロングビルは生徒に魔法を見せたことは無いが、学院長の秘書になるぐらいだから実力があるのだろう…などと、生徒達の間で噂されているのだ。 顔見せが終わった後、ワルドはグリフォンに跨り、膝の上にルイズをのせた。 「では諸君! 出撃だ!」 グリフォンが駆け出して、ギーシュとロングビルの馬が後に続き、アルビオンに向けて走り出した。 そんな出発の様子を見ている者が居た。 学院長室の窓から、アンリエッタ姫がルイズ達を見ていたのだ。 アンリエッタは目を閉じて祈る。 「彼女たちに、加護をお与えください。始祖ブリミルよ…」 その隣ではオスマンが鼻毛を抜いていた、アンリエッタは緊張感のないオスマンが気になり、オスマンの方に振り向いた。 「見送らないのですか?」 「ほほ、ワシは友達のお願いを聞いた生徒が勝手に出かけていくとしか聞いておりませんでな」 意地悪そうに呟くオスマンに、アンリエッタは少し嫌そうな顔をした。 オスマンではなく、自分が嫌になる。 自分は、どれだけ『おともだち』に迷惑をかけたのだろうか。 今までのアンリエッタであれば、王族の不始末は貴族がぬぐって呵るべき、と考えていたかもしれないが、今は『王族』と『友達』の間で苦しんでいる。 ただ、今はこの任務を引き受けてくれたルイズに感謝し、無事を祈るほか無かった。 「ところで、オールド・オスマン」 「はい、なんでございましょうかな」 「このミス・ロングビルを派遣して、学院に不都合はないのですか?」 「ほっほっほ、ワシの秘書と言っても大して仕事はありませんでな、それに彼女は土のトライアングル、実戦慣れもしておりますからのう」 「そうですか…ミス・ロングビルを信頼なさっているのですね」 「生徒のことも信頼しておりますじゃ」 その返事に、アンリエッタは少しだけ笑顔を見せた。 「それにしても、実戦慣れしている方を秘書に着けられるだなんて、オールド・オスマンの人脈には驚かされますわ」 「なぁに!それほど大したことでもありませんでな、酒場でワシがお尻を触っても嫌とも何とも言わない、いやこれは実に出来たお嬢さんだと思いスカウトした訳ですじゃ!」 「ハァ?」 「しかも雇ってから彼女がメイジだと分かりまして、大したことは出来ないと謙遜しておりましたが、滲み出る実力はトライアングルで上の方だと感じまして……あっ」 オスマンは自分がよけいなことまで喋ってしまったことに気づき、慌てて口をつぐんだ。 「…あ、あの、今のは冗談! あのー、なんちゃって! ハハハハ…」 ぼけ老人のふりをしようと思ったが、もう遅い。 「…そ、そんな人物を護衛に…ああ、ルイズ…」 アンリエッタは、ルイズに謝りながら気を失った。 ---- #center{[[前へ 奇妙なルイズ-16]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-18]]}
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ジョジョとサイトの奇妙な冒険-1 ジョジョとサイトの奇妙な冒険-2
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サモン・サーヴァントに『爆発して』失敗するルイズは、学院長の取り計らいによりトリスティン魔法学院の二学年として授業を受けている。 本来ならサモン・サーヴァントすら成功しないルイズは、使い魔を召喚するまで進級できないはずだが、オールド・オスマンはルイズの『爆発』に目を付けた。 『彼女はすでに新種の使い魔を呼び出しているのではないか?』 そう言って、オスマンはルイズの進級に反対する教師達を黙らせていた。 実際には、土塊のフーケと戦った時の痕跡から、何らかの使い魔を呼び出していることは予想していたが、その確証はない。 温情と言えば聞こえは良いが、オスマン氏はルイズに、執行猶予を与えているとも言えるのだ。 ルイズは自分部屋で、腕から伸びる半透明の『腕』を見た。 おそらく自分の使い魔であろうこの『腕』は、五体が揃っているのは感覚で理解している、しかし今はまだ『腕』だけしか自由に動かせない。 ベッドに座ったまま、エルフの使う『先住魔法』のことを思い出した。 エルフは杖も使わずに魔法を使うとか…もしかしたら、これはエルフの使う『先住魔法』なのではないだろうか。 この腕は、障害物をすり抜けられるくせに、ものを掴むことができる。 しかも精神を集中すれば、半透明な状態で人に見せることが出来る、これはキュルケとタバサが確認した。 これを使い魔だと主張するにあたって二つの問題がある。 一つは、前例のない『これ』が使い魔として認められるのか分からないこと。 もう一つは幽霊騒ぎの件だ、キュルケとタバサが目撃した幽霊は明らかにこの『腕』だ。 幽霊騒ぎは、トリスティン魔法学院を一時混乱に陥れ、キュルケとタバサ(と自分)を驚かし、ちょっと人には言えないような恥ずかしい目にあわせのだから。 マリコルヌを全力でブチのめした後、二人にこんな事を言われた。 「幽霊の正体があんたの使い魔だってバレたら…全生徒から恨まれるでしょうねぇ~♪」 「…使い魔の不始末は主人の責任」 キュルケはルイズの弱みを握って気分を良くしていたが、タバサからはシャレにならない殺気を感じた。 とにかく、今のルイズには、部屋でため息をつくことしか出来なかった。 その晩、ルイズの部屋を誰かがノックした。 間を置いて叩かれる回数に、誰が訪問したのか気づき、客を迎えた。 「こんばんは、ルイズ」 「姫様、今日、ここに来られたということは…」 アンリエッタはいつものようにディティクト・マジックで部屋を調べてから、フードを脱いだ。 子供の頃のように、ルイズの隣に座る。 「ゲルマニアの皇帝に、書簡が届き、その返答が送られてきました。内容は私を正室(正妻)として迎えるとの事です」 「………そう、ですか…」 しばらく、沈黙が流れた。 「…思い過ごしならば良いのですが、一つだけ腑に落ちないのです。わたくしの婚約だけではなく、軍事的な提携に関しての要求書も添えられていたはずなのです、それはトリスティン側に有利な内容です。本来なら…わたくしの婚約だけでは見合わない内容でしょう」 ルイズはじっとアンリエッタ姫の話を聞いていた。 姫が言うには、トリスティン側が望む婚約の条件が、かなり高い状態であること、それにより婚約を引き延ばしできると考えたが、ゲルマニアは条件をすべて呑むということ。 アルビオン貴族派がトリスティンへ侵攻を開始した場合、おそらくゲルマニアは何か理由を付けてトリスティンを見捨て、国力が低下したところでトリスティンに介入、そして王族と貴族をゲルマニアの支配下に置く… アンリエッタとマザリーニ枢機卿は、ゲルマニアにすら不信感を抱いていた。 ルイズは知らなかったが、アンリエッタはマザリーニのことを嫌っている、しかし今回の出来事はアンリエッタに危機感を抱かせ、図らずしてアンリエッタとマザリーニの政治的信頼は強くなっていたのだ。 一通り政治の話をしてから、アンリエッタはベッドから立ち、懐からトリスティン王家御用達の紙を取り、ルイズのペンを借りて書状を書き始める。 そのときのアンリエッタの表情は恋する乙女のそれでありながら、どこか陰のある姿で、胸の奥の悲痛な思いを一文字一文字に込めているようだった。 「ルイズ、この手紙をアルビオンのウェールズ皇太子に届けて欲しいのです、アルビオンの貴族派は王都を囲む準備を整えたと言われています、王城に攻め込まれる前に…」 「しっ!」 ルイズはアンリエッタの言葉を遮った。 扉の外から気配を感じ、誰かが扉の外で聞き耳を立てているのが分かる、これはルイズの感覚ではなくスタープラチナの聴覚だが、ルイズはまだ自覚できない。 アンリエッタをカーテンの後ろに立たせてから、ルイズは扉を勢いよく開けた。 「どわっ!?」 ごろん、と転がり込んできたのは、青銅のギーシュ、正しくは『ギーシュ・ド・グラモン』だった。 転がりつつも薔薇の造花を手に持つ根性は見上げたものだが、ルイズは扉を閉めながら(二股のギーシュがのぞき見のギーシュに格上げね)などと考えた。 「何やってんのよあんた」 ルイズの質問に答えようともせず、ギーシュは立ち上がり、薔薇の花を両手に持ち直してこう言った。 「薔薇のように麗しい姫さまのあと追っておりますれば、こんな所へ……、下賤な学生寮などで万が一のことがあってはと、鍵穴から様子をうかがっておりましたところ…」 「ふーん、要はのぞき見? 重罪よね」 そう言ってルイズはアンリエッタを見る、アンリエッタは困ったような表情でルイズを見たが、『とても楽しそうな』笑顔を見せていたので、アンリエッタはルイズの意図を汲んだ。 「そうですね…公式な訪問ではないとはいえ、先ほどの貴方の言葉を借りれば、私をアンリエッタと知りながら後を追い、そして部屋を覗き見したと言うことになります」 「姫さま、非公式とはいえ姫殿下訪問の御席は、王宮に準じると聞いています、故意に不作法を働いたのであれば侮辱にあたると存じ申し上げます」 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの進言、この部屋の主たる責を負ってのものとして真摯に受け取ります、ではこの者に一級以上の罰を与えねばなりませんね」 ギーシュは顔を真っ青にした。 この世の終わりのような顔とは、こういうのを言うのだろうか、二股がバレた時とは比べものにならない。 ルイズは内心で「やりすぎたかな?」と考えたが、たまには良い薬だろうと思って何も言わなかった。 「ルイズ、この者の名は?」 「グラモン元帥のご子息、ギーシュ・ド・グラモンでございます」 「では…」 アンリエッタはギーシュの前に手を出した、貴族の作法で言えば、手に口づけを許すという事だ。 呆然としていたがギーシュだったが、差し出された手の意味に気づくと、さっきまで死にそうに震えていた男とは思えない程うやうやしく、手の甲に口づけをした。 「では貴方に罰を与えます、私の…アンリエッタ姫としてではなく、ルイズの友人としてのアンリエッタに、力を貸して頂きたいのです」 「任務の一員にくわえてくださるなら、これはもう、望外の幸せにございます」 ギーシュの言葉にアンリエッタは微笑む。 「ありがとう。貴方のお父さまも立派で勇敢な貴族ですが、あなたもその血を受け継いでいでおられるのですね。…この不幸な姫をお助けください、ギーシュさん」 「姫殿下がぼくの名前を呼んでくださった! 姫殿下が! トリステインの可憐な『薔薇の微笑みの君』が、このぼくに微笑んでくださった!キャッホー!」 感動のあまり、立ち上がってわめき散らし、後ろにのけぞって転び、後頭部を打つギーシュ。 それを見たアンリエッタは「ルイズの友人もおもしろい人ばかりね、うらやましいわ」と心底うらやましそうに言った。 ルイズは、まるで看守にマスターベーションを見られた徐倫のように、嫌そ~~~~~な顔をしていた。 アンリエッタ姫を見送った後、ギーシュは股のあたりを気にしながらヒョコヒョコと部屋に帰っていったらしい。 「そりゃ怖かったでしょうね…」 ルイズは、誰に言うわけでもなく呟いた。 ---- #center{[[前へ 奇妙なルイズ-15]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-17]]}
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奇妙杜王道 1 「メリー…メリー!」 騒がしい声でメリー――マエリベリー・ハーンは目を覚ました。 左を見ると見事な海景色、右には通路と座席を挟んで綺麗な山の景色。そして正面には。 「ちょっとメリー…寝るのはいいけど私が喋ってる最中に寝ないでくれるかな…?」 呆れた様な口調の自分の相棒――宇佐見蓮子。そこまで見渡してようやく自分が列車の中にいることを思い出す。 そうだった。自分達は秘封倶楽部の活動で出かけている所なのだった。行先はM県S市のとある町。何でも不思議が詰まった不思議な町なのだとか。 「でも眠くなって当然だと思うわ蓮子。私たち何時間列車に乗ってるのよ…」 口を尖らせて抗議するメリー。彼女たちが普段使っているヒロシゲは東京でしか止まらないため、東京で乗り換えての移動である。 しかし悲しいかな、貧乏大学生である彼女たちは東京からは普通の列車に乗って移動しているのだった。 結果、京都―東京間よりも短い距離であるはずの東京―S県間は数時間かけての旅となってしまっている。 移動費をケチったツケは時間という形で払わされている事になる。 「だから寝るのはいいっていってるでしょ。けど、私が喋ってる最中は止めてほしいなぁ…気付かずに喋ってた私が馬鹿みたいじゃない。」 「気付かずに喋ってた事は多分私のせいじゃないと思うわ…ふぁあぁ…」 大きなあくびをするメリー。どうやら眠り始めてからそんなに時間は経っていないようだ。さっきまで蓮子と何を話していたっけ…確か、これから行く町の話だ。 M県S市の…何て町だったかしら? 「杜王町よ杜王町。もぅ、まだ寝惚けてるの?」 「あ、そうそうその杜王町。で、何が不思議なんだっけ…?」 「やっぱりまだ寝惚けてるねメリー?それを説明しようとしたら寝ちゃうんだから!」 一通り抗議した後、ひとつ溜息をつき説明する蓮子。なんだかんだでこの子は優しい。こういうところが好きなのだ、私は。 「褒めたって何もでないよ?で、杜王町の話だけど。」 蓮子が話した杜王町という町はまとめるとこんな感じの町だった。 人口は約5万人。S市の中心から少し外れた大規模なニュータウン。町の花はフクジュソウで、特産品は牛タンのみそづけ。 そこまでなら普通にどこにでもある町なのだろうけれど、この町は10年ほど前に、住人が次々と行方不明になる事件が起こり、全国的に有名となった。 しばらくは行方不明者全国一位という不名誉な称号を持っていたのだが、最近その名前を返上したらしい。 「ってそれ不思議っていうよりもホラーじゃないの。私、その行方不明者のリストに入るのは嫌よ?」 「そうそう事件に巻き込まれるような事はないと思うよ?それに何かあっても私たちが【場所を見失う】ってことはまずないでしょ?」 悪戯っぽく笑う蓮子。彼女は【星を見ただけで今の時間がわかり、月を見ただけで今いる場所がわかる】特技を持っている。 つまり、屋外にいる限り彼女たちが迷うことはまずない、ということだ。 「そりゃあそうでしょうけど…でもその神隠しが不思議なの?」 行方不明者、だと怖いのであえて【神隠し】と表現するメリー。単に気分の問題だ。神隠し、の方が被害にあう確率が下がる…気がする。 「そんな訳ないじゃない。不思議なのは町の中にあるオブジェとか噂話よ。」 「オブジェ?」 「そ。誰がいつ作ったのかわからない大きな岩でしょ、生きた本に当たったら跳ね返る岩…あと鉄塔に十何年も住んでる男の人とか。」 「なにそれこわい。」 やっぱりホラーじゃないか。しかも不気味、とか世にも奇妙な、とかそういう枕詞が前につきそうなレベルの。 私たちが探している不思議は決してホラータイプの不思議ではないはずだ。ならばどんな不思議がいいのかといわれると返答に困るが。 メリーはどちらかといえば、SFチックな不思議の方が好きなのだ。 「ちなみにメリー。そのSFチックってどんな不思議よ?」 「(S)すこし(F)ふしぎ。」 「それ藤子不二雄の短編集じゃないの…」 本当に同い年なのかしらメリーって…と呟く蓮子。しかしメリーは知っている。彼女が藤子不二雄のファンでグッズもこっそり集めていることを。 まぁなんだかんだで似た者同士なのだろう、自分たちは。現に自分もそのホラー混じりのオブジェや噂話に惹かれつつあるのだし。 妖怪、幽霊、怪談、都市伝説。名称こそ違うものの、こういった存在が有り続ける場所というのはとかく何らかの形で不思議が残り続ける場所であるということだ。 現実と虚構の【境界】が曖昧な世界にメリーは惹かれる。蓮子も【そう】だろうと思う。 大学のある京都、蓮子の実家である東京、そしてこれから向かう杜王町。そこには【リアル】だけでは語れない【何か】が存在する。 それを探すのがメリーと蓮子であり、秘封倶楽部の活動なのだ。 「それで、話を戻すけどそのホラースポットは杜王町のどのあたりにあるの?」 「杜王町中にあるみたいよ?かなりバラけてるみたい。」 「まさか一日で回るんじゃあないでしょうね…?」 「それこそまさか、よ。駅前にあるホテルで安く泊まれるみたいだから1泊2日で回るわよ。」 「それはそれで無茶なような気がするわ蓮子…」 私たち車運転できないのよ?と、呆れる蓮子。この友人は時計いらずの特技を持っている癖に時間や予定にルーズな性格をしている。 彼女が建てる計画に沿って物事が進んだことはただの一度もない。毎度のことながら絶対どっかで狂いが生じるなぁ…と自分の頭の中の手帳にチェックを入れるメリーだった。 きっと1日か2日は延長するだろう、と。 『次は~、杜王町駅~杜王町駅~、お降りの方はお忘れ物のないよう~…』 どうやらやっと着いたらしい。 蓮子とメリーはそれぞれの鞄とゴミ袋を引っ掴むとそれぞれの席で食べ散らかしたお菓子を仕舞い込み、列車の出口へと足を運ぶのだった。
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ルイズ達が目指しているのは、港町ラ・ロシェール。 トリステインから馬を走らせれば二日、空に浮かぶ大陸『アルビオン』への玄関口として知られている。 港町とは言っても海に面しているわけではない、いや、空を海に例えれば間違いではないが。 そのラ・ロシェールの酒場で、アルビオンへ行こうとする傭兵達が集まり、前祝いをしていた。 「アルビオンの王さまはもう終わりだね!」 「ガハハ!『共和制』ってヤツの始まりなのか!」 「では、『共和制』に乾杯!」 そう言って乾杯しあう傭兵達、彼らは元はアルビオンの王党派についていた傭兵達だが、王党派よりも良い待遇で貴族派が雇ってくれると知って、王党派を裏切った。 彼らは王党派を離脱すると、貴族派に付いて各地の傭兵達を集めた、この酒場に残っている傭兵達は、言わば連絡役なのだ。 ひとしきり乾杯が済んだとき、酒場に仮面を付けた男が現れた。 男は傭兵達に近づき、料理の並ぶテーブルの上に重そうな袋を置く、すると重みで口が開き、金貨が顔を見せた。 「働いて貰うぞ」 傭兵達はその男を不審に思ったが、袋に書かれているマークがアルビオン貴族派のものだったので、にやりと笑って頷いた。 一方、魔法学院を出発したルイズ達は、ワルドの乗るグリフォンの早さに驚いていた。 ロングビルとギーシュの乗る馬は、途中で二回も交換した、しかしワルドのグリフォンは疲れを見せずに走り続ける。 長時間馬を駆るのは乗り手にとっても大きな負担だが、ワルドとグリフォンはまったく疲れた様子を見せない。 「ちょっと、ペースが速くない?」 ワルドの前に跨ったルイズが言った。 ルイズはワルドと雑談を交わすうちに、学院で見せるようなくだけた口調に変わっていった、ワルドがそれを望んだためでもある。 「ギーシュもミス・ロングビルも、へばってるわ」 ワルドが後ろを向くと、ギーシュはまるで倒れるような格好でへばっている、ロングビルは明らかに表情に疲れが出ている 「ラ・ロシェールの港町まで、止まらずに行きたいんだが……」 「普通は馬で二日かかる距離なのよ、無理があるわ」 「へばったら、置いていけばいい」 「そういうわけにはいかないわ」 「ほう、どうしてだい?」 ルイズは、困ったように言った。 「だって、仲間じゃない。それに……」 何かを思い出そうとして、結局そこで口をつぐんだ。 ルイズの頭に、古い宮殿での記憶が引き出される。 ある目的を持って二手に分かれたが、それが二人を見た最後だった。 三人いるはずの別チームが、再会したときは一人に減っていた。 炎の使い手と、砂の使い手、その二人を助けられなかったことをずっと悔やんでいる。 その記憶に引きずられたルイズもまた、仲間と離れるのは怖いのだ。 「やけにあの二人の肩を持つね。もしかして、彼はきみの恋人かい?」 「あ、あれが…? 冗談じゃないわよ」 ルイズは苦虫をかみつぶしたような顔をした。 「ならよかった。婚約者に恋人がいるなんて聞いたら、ショックで死んでしまうからね」 「お、親が決めたことじゃない」 「おや?ルイズ!僕の小さなルイズ!きみは僕のことが嫌いになったのかい?」 過去の記憶と同じおどけた口調で、ワルドが言った。 「何よ、もう、私、小さくないもの。失礼ね」 ルイズは頬が熱くなるのを誤魔化すように、頬を膨らませた。 グリフォンの上でワルドに抱きかかえられながら、ルイズは先日見た夢を思い出していた。 生まれ故郷の、ラ・ヴァリエールの屋敷で、困っているときは、いつもワルドが迎えにきてくれた。 だが、そこに現れる白金の光、光は徐々に人型をして、屈強な戦士を思わせる姿に変わる。 薄いブルーの色をしたその戦士に抱きかかえられ、ワルドと対峙するルイズ。 その夢が何を意味するのか、今のルイズには分からなかった。 途中、何度か馬を替えたので、ルイズ達はその日の夜中にラ・ロシェール付近にまでたどり着くことができた。 町の灯りが見えたので、ギーシュとロングビルは安堵のため息をついた。 「待って!」 不意にルイズがワルドを制止した。 「どうしたんだい?」 「誰かいるわ…2……3人…」 そのとき、不意にルイズ達めがけて、崖の上から松明が投げこまれ一行を照らした。 「な、なんだ!」 「馬から下りなさい!」 慌てて怒鳴ったギーシュに、ロングビルは指示を飛ばす。 突然の事に驚いた馬が前足を上げたので、ギーシュは馬から落ちてしまう、そこに何本かの矢が飛んできた。 もの矢が夜風を裂いて飛んでくる。 「奇襲だ!」 「伏せなさい!」 ギーシュがわめくと同時に、ロングビルは地面を練金して泥の壁を作った、スカッと軽い音を立てて矢が突き刺さる。 ワルドは風の魔法を唱えて身の回りにつむじ風を起こし、矢を防いてでいたが、攻撃に転じようとしたときに別方向から一陣の風が吹いた。 同時に、ばっさばっさと羽音が聞こえた、その音に聞き覚えのあったルイズが崖の上に目をこらすと、六人ほどの男達が風の魔法に巻かれて崖から転がり落ちてきた。 「ほう」 感心したようにワルドが呟くと、がけの上から落ちた男達は地面に体を打ち付けてうめき声を上げた。 そして空には見慣れた幻獣…タバサの乗るシルフィードが姿を見せていた。 「シルフィード!」 ルイズが驚いて声を上げると、シルフィードは地面に降り、その上からキュルケが地面に飛び降り髪をかきあげた。 「お待たせ」 ルイズもグリフォンから飛び降りキュルケに怒鳴る。 「お待たせじゃないわよ! 何しにきたのよあんたたち!」 「あーら、助けにきてあげたんじゃないの。朝がた、あんたとギーシュが馬に乗って出かけようとしてるもんだから、急いでタバサを叩き起こして後をつけたのよ」 キュルケはシルフィードの上に乗ったままのタバサを指差した。 寝込みを叩き起こされたとは言え、パジャマ姿は何か面妖だ。 「キュルケ、あのねえ、これはお忍びなのよ?」 「お忍び? …まさかギーシュと駆け落ち?」 ルイズは笑顔になりながら杖を抜いた、その仕草にキュルケが冷や汗を流す、やばい、怒ってる。 こんな場所で爆発を起こされてはたまったものではない、これにはキュルケも謝った。 「ま、まあ冗談よ!勘違いしないで。あなたを助けにきたわけじゃないの」 キュルケはグリフォンに跨ったままのワルドににじり寄り、しなを作った。 「おひげが素敵なお方ね、あなた情熱はご存知?」 ワルドは、側に寄ろうとするキュルケを手で押しやる。 「あらん?」 「助けは嬉しいが、婚約者に誤解を受けると困るのでね、これ以上近づかないでくれたまえ」 そう言ってルイズを見つめる。 「こ、婚約者?…ふーん、ルイズにねぇ…」 キュルケはルイズを冷やかしてやろうかと考えたが、気が乗らない。 ルイズに微妙な戸惑いがある、と感じたからだ。 しばらくしてから、男達を練金の手かせで拘束し、尋問していたロングビルとギーシュが戻ってきた。 「子爵、あいつらは物取りだと言っていましたが」 「ふむ……、なら捨て置こう」 ギーシュの報告を受けて 先を急ごうとグリフォンに跨るワルドをルイズが制止する。 「ルイズ、どうしたんだ?」 「あいつら、グリフォンに乗ったワルドを見ていたはずだわ。それなのにたった三人で襲ってくるなんて…ねえ、キュルケ、上空から見ても三人だった?」 「あたしが見た限りじゃ三人よ、ね、タバサ」 タバサは無言で頷く。 「何か気になることでも?」 ロングビルの質問に、メイジ4人をたった3人で襲う野党がいるだろうか?と、ルイズが答える。 「貴族派に嗅ぎつかれているのかもしれんな…どちらにせよ、ラ・ロシェールに一泊するしか無い、朝一番の便でアルビオンに渡ろう」 ワルドは一行にそう告げた。 ルイズは腑に落ちないものを感じながらワルドに手を引かれ、グリフォンに跨った。 キュルケはシルフィードの上に乗り、本を読んでいたタバサの頬を突っつく、出発の合図らしい。 目の前の峡谷には、ラ・ロシェールの街の灯が怪しく輝いていた。 そしてルイズの中にいる『誰か』が、ワルドに対する警戒心を強めていた。 ---- #center{[[前へ 奇妙なルイズ-17]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-19]]}
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夕方になり、ワルドとギーシュが女神の杵に戻ってきた。 ギーシュは、あっちを見てこいこっちを見てこい等と、一日中こき使われたらしい。 「魔法衛士隊は、ばけものだ…」 酒場のテーブルでへばっていたギーシュが、そう呟いた。 「馬鹿ねえ、朝は『魔法衛士隊隊長のお供が出来るなんて幸せだ!』とか言ってたクセに」 「ううう…」 キュルケに言われても何の反論も出来ない、それを見たタバサは相変わらずパジャマ姿のまま読書していた。 しばらくしてから、ワルド、ロングビル、ルイズも酒場へ集まり、明日の予定が話し合われた。 今日ギーシュとワルドが交渉したおかげで、朝一番に出航する輸送船でアルビオンに行けることになった。 明日は朝が早いので、遅れたら置いていくと語るワルドに、ギーシュは今日何度目か分からない冷や汗を流した。 そろそろ部屋に戻ろうと、ワルドが立ち上がった時に、酒場の外からガヤガヤと声が聞こえてきた。 ラ・ロシェールの町は宿場町でもあるので、夜中でも人通りはある、しかし何か雰囲気がおかしい。 ワルドに続き、キュルケとタバサもそれに気づいた。 次の瞬間、扉が吹き飛ばされ、軽装鎧を着込んだ男がルイズ達に弓矢を向けた。 突然の事に驚いたのはルイズ達だけではない、この酒場には他の客もいるのだ。 慌てて逃げようとした客達は、弓矢におびえてカウンターの下に隠れている。 ラ・ロシェール中の傭兵が集まっているのではないかと思えるほどの傭兵を前にしては、キュルケ達でも分が悪かった。 テーブルを盾にして矢をしのぎ、魔法で応戦していたが、どうにも勝手が悪い。 傭兵たちは魔法の有効な範囲になかなか入ってこない。 メイジとの戦いに慣れているのか、キュルケ達が応戦しているうちに射程を見極められているようだった。 他の客たちはカウンターの下で震えているのが見える。 「参ったわね…」 ロングビルの言葉に皆がうなずく。 「いいか諸君、このような任務は、半数が目的地にたどり着ければ成功とされる」 非常事態にもかかわらず本を読んでいたタバサは、ワルドの言葉を聞いて本を閉じた。 そして、ワルドとルイズとロングビルを指さした。 「桟橋」 そしてキュルケと自分とギーシュを指さし 「囮」 と呟く。 ワルドがタバサにタイミングを尋ねると、タバサは今すぐと答えた。 「聞いてのとおりだ。裏口に回る、行くぞ!」 ルイズははキュルケ達を見ると、キュルケはご自慢の赤髪をかきあげ、つまらなそうに唇を尖らせていた。 「危なくなったら逃げなさいよ!」 「何言ってんのよ、もう十分危ない目に遭ってるじゃない」 ルイズがキュルケを心配するが、キュルケは余裕の表情を崩さない。 タバサがルイズを見つめた。 「行って」 ギーシュも薔薇の形をした杖を手に持ちつつ、ルイズを見た。 「こ、これも姫様のため、そして友人のためさ!」 緊張か恐怖のあまり、微妙にろれつが回っていなかったが、そんな虚勢がルイズの心を解きほぐした。 「ねえ、ルイズ。勘違いしないでね?あんたのために囮になるんじゃないんだからね」 「わ、わかってるわよ、か帰ってきたら決着を付けるんだからね!」 ルイズはそう言ってから、キュルケたちにぺこりと頭を下げた。 そんなちぐはぐな態度がおかしくて、震えていたギーシュにも少し余裕が戻る。 ロングビは転がっていた椅子をバリケード状の金属板に練金し、ワルドとルイズを連れて裏口へ急いだ。 通用口から出る頃には、酒場から爆発音が聞こえてきた、陽動が始まったのだろう。 「……始まったみたいね」 先行するワルド、しんがりのロングビルに挟まれて、ルイズが言った。 裏口の方へルイズ達が向かったのを確かめると、キュルケはギーシュに厨房の油をもってくるように命令した。 「じゃあおっぱじめますわよ。ねえギーシュ、厨房に油の入った鍋があるでしょ」 「揚げ物の鍋のことかい?」 「そうよ。それをあなたのゴーレムで取ってきてちょうだい」 「お安い御用だ」 ギーシュはテーブルの陰で杖を振りワルキューレを出す。 ワルキューレは矢を体にめり込ませながら厨房に走り、油の入った鍋を運び出した。 「ギーシュ、それを入り口に向かって投げて」 そう言いながらもキュルケは化粧を直している。 「こんなときに化粧するのか。きみは」 呆れ気味のギーシュがワルキューレを操り、油を酒場の入り口に向かって投げる。 「だって歌劇の始まりよ? 主演女優がすっぴんじゃ、しまらないじゃないの!」 まき散らされた油に向かって、キュルケは杖を振る、油は一気に引火して、酒場の入り口とその周辺に炎を振りまいた。 「花びら」 タバサが短く言うと、風の呪文を詠唱して床に風を起こす。 ギーシュは言われるままに、薔薇の形をした杖から花びらを放ち、風に舞わせた。 「練金」 タバサの指示にハッと気づいたギーシュは、花びらを油に練金する。 色気たっぷりの仕草で呪文を詠唱するキュルケが、再び杖を振るう。 タバサの風が花びらを巻き込み、花びらは油となる、そこにキュルケの放った火球が混ざり、地面を炎が覆い尽くした。 炎は酒場の外にいるる傭兵達にまでからみつき、つい先ほどまで統制のとれていた傭兵達は、一瞬で混乱状態に陥った。 ギーシュは驚いていた、キュルケとタバサの使った魔法はごく基本的な魔法だ。 しかし、火、油、風の三つが、酒場の外を覆う傭兵達を混乱させ、何割かを戦闘不能に陥いらせている。 ルイズは自分の失敗魔法をコントロールすることで、ギーシュとの決闘に勝った。 ギーシュは使い方次第で驚くべき効果を発揮する魔法と、それを効果的に操るキュルケとタバサに尊敬のまなざしを向けた。 そして、自分の無知を恥じつつ、ルイズの無事を案じていた。 その頃ルイズ達は桟橋へ向けて走っていた。 とある建物の間にある長い階段へと駆け込み、脇目もふらず駆け上る。 長い階段を上りきって丘の上に出ると、そこに生えた巨大な樹が四方八方に枝を伸ばしていた。 山ほどもある樹の枝に、船が吊されているのを見て、ロングビルは「急ぎましょう」とルイズに言う。 この樹は内側が空洞になっており、いくつかの階段があった。 ワルドが階段にかけられているプレートから目当てのものを探し、そこを駆け上がる。 途中の踊り場で、ルイズは後ろから近づいてくる何者かの気配に気づいた。 後ろを見ると、ロングビルの後ろに黒い影が近づいている。 ばっ、とロングビルとルイズの頭上を飛び越して、その影はルイズの前に立った。 「ヴァリエール嬢!」 ロングビルの声に反応したルイズが、後ろに飛ぶ。 男はルイズを捕まえようとしたが、ルイズが予想外の反応速度で跳んだのでからぶってしまう。 その隙にロングビルが仮面を付けた男の足下を練金し、足を鉄で拘束する。 「行きなさい!」 ロングビルが叫ぶ、ルイズは無言で頷き、仮面を付けた男の脇を走り抜けようとした。 男は杖を振り呪文を唱えたが、それより一瞬早くルイズの周囲に金属のドームが作られた。 仮面の男が持つ杖から電撃が放たれたが、ドーム状の金属に吸収されて、あっけなく霧散してしまった。 仮面の男は、ロングビルを見た、いや、仮面に隠されてはいるが、その目は明らかにロングビルを睨んでいるのだと分かる。 「土くれのフーケ…貴様、裏切ったか…やはり盗賊は盗賊だな」 「ふん、あんたが何者なのか知らないけどね、あたしは一匹狼が似合ってるのよ」 そう言いながらロングビルは男の周囲を練金し、男を土で包み込んだ。 「貴様!後悔することになるぞ」 「おあいにく様、狙われるのは慣れっこよ」 男は、ベキベキベキベキと嫌な音を立てながら、土の中に消えた。 「ふう…あたし、何やってんだろ」 そう呟くロングビル…いや、土くれのフーケの表情は、貴族をからかっていた時の笑顔とはまるで違う、和やかなものだった。 「まったくだな」 「!?」 ロングビルは、背後から突然聞こえた声に驚いた。 慌てて後ろを振り向くと、そこには今死んだはずの、男が杖を向けていた。 呪文を詠唱する間も無いと悟ったロングビルは、踊り場の窓を突き破って外に飛び出す。 フライの呪文で体勢を立て直そうとするが、仮面の男はそれよりも早く外に飛び出て、ロングビルに杖を向ける。 「『ライトニング・クラウド』!」 バチン、と男の周囲で空気が弾ける音が鳴り、次の瞬間、ロングビルの体を電撃が走っていた。 「ッあああァァあァアアあッ!」 電撃による衝撃で意識を失い、ロングビルは地面に落ちるかと思われたが、仮面の男はロングビルをゆっくりと地面に着地させた。 そして、ふと『女神の杵』の方を見る。 既に傭兵達を倒したであろう三人が、ロングビルの後を追ってくるのは想像に難くない。 仮面の男は、懐から掌に収まる程度の箱を取り出すと、うつぶせに倒れたロングビルと地面の間に挟み、短く練金の呪文を唱えた。 小さな箱から、カチリ、と不吉な音が鳴った。 ---- #center{[[前へ 奇妙なルイズ-19]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-21]]}
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「…それで、その『ゼロのルイズ』が平民を助けたと言うのか」 「ええ、そうよ」 城下町の小さな劇場に、サイレントの魔法で包まれた二人組がいた。 一人は仮面を被った男、もう一人はミス・ロングビルである。 ロングビルが男に話したのは、ルイズに関することだった。 昨日、モット伯の別荘に平民が連れて行かれたのを知った『ゼロのルイズ』は、単身でモット伯の別荘に乗り込んだ。 それを知ったロングビル、タバサ、キュルケの三人は、タバサの使い魔シルフィードに乗り、モット伯の別荘へと急いだ。 途中、馬で逃げようとしたモット伯を発見し、ロングビルが保護。 別荘に向かったルイズはシエスタを背負って屋敷から出てきたが、キュルケとタバサを見るなり気を失った、現在シエスタが看病している。 モット伯を魔法学院で保護しようとしたが、そこにマンティコア隊が現れ、モット伯のバックを没収し、モット伯の身柄は拘束されてしまった。 翌日オールド・オスマンから話を聞くと、モット伯は以前から汚職の件で疑われていたのだと言う。 モット伯が持ち出した書類の中からその証拠が発見され、最低でも身分剥奪は免れないとか。 「…腑に落ちん、『ゼロのルイズ』と呼ばれるメイジが、モット伯に仕えていたメイジと戦い、勝利したというのはな」 「実力を隠してたんじゃないかしら?…それにしても、ずいぶんあの娘のことが気になるのね」 ロングビル…いや、本物の『土くれのフーケ』は、宝物庫でこの男から受けた脅迫を忘れたかのように、男をからかいつつ話を進める。 男は、それがフーケの虚勢だと気づいているのだろうか、男はフーケに言い返した。 「気にしているのはお前の方だろう、平民を助けようとするメイジに、心を乱されているようだな」 「………」 フーケは、何も言い返せなかった。 さて、場面は移り、ここはトリスティン魔法学院の女子寮。 ルイズが目を覚ますと、すでに日は高かく昇り、午後の授業が始まる頃の時間だった。 驚いたルイズはベッドから飛び起き、ベッドから降りようとすると、なぜかベッドの脇に置かれている小さな机に足を引っかけ、盛大に転んでしまった。 どべちーん、と音を立てて、おでこから床に落下したルイズ。 「ルイズ様!」 それを見て驚いたのはメイドのシエスタ。 なぜかルイズの部屋にいたシエスタは、ルイズを助け起こすと、こんな所に机を置いた私が悪いんですと謝り始めた。 そんな事はどうでも良いから、なんでシエスタがここに居るの?と問うルイズ。 謝り続けるシエスタ。 何がなんだか分からずシエスタを慰めるルイズ。 授業が終わり、夕食前にキュルケとタバサがルイズの様子を見に来るまで慰め合戦は続いた。 「それにしてもあんた、凄いじゃない、タバサが感心してたわよ」 「……」 キュルケの言葉に無言で頷くタバサ。 だが、当のルイズは何の話なのか分からず、頭にクエスチョンマークを浮かべた。 何の話なのか質問しようとした時、シエスタがルイズに頭を下げた。 「あの…ルイズ様、助けて頂いて、本当にありがとうございました」 「助けて?…って、あ、そっか、シエスタ!あの変態に何かされてない?大丈夫?」 ルイズはシエスタの一言で、モット伯の別荘で起こったことを思い出した。 「呆れた!ルイズ、あんた今まで自分が何をしたのか忘れてたの?」 キュルケが両手を左右に開き、ジェスチャアを交えつつ、心底呆れたように言う。 そしてタバサはルイズの若年性痴呆症を疑っていた。 ルイズには地下牢でオークに殴られてからの記憶がはっきりしていない。 タバサが言うには、ミス・ロングビルはオールド・オスマン不在の間、学院に異常がないか監視するように言われていた。 夜間外出したルイズを見たロングビルが、マルトーに話を聞き、キュルケとタバサの二人に頼んでルイズを追いかけたそうだ。 破壊された別荘のテラスにルイズとシエスタを発見し、すぐさまシルフィードで助け出したが、ルイズは気を失っていた…という事らしい。 窓から別荘の廊下を見たタバサは、風を使うメイジとルイズが戦ったのではないかと分析した。 キュルケは、ルイズは前兆のない『爆発』を起こせると知っているので、タバサの考えに異論を挟まなかった。 ほかの生徒たちはルイズが何をしたのかまでは知らされていないが、おそらくルイズがほかのメイジと戦えば惨敗すると思っているだろう。 何よりも驚いたのは、オークに立ち向かうルイズの話だ。 杖のないメイジがオークに立ち向かうのは自殺行為と言える、しかし、シエスタを守ろうと自ら危険な役を引き受けたという。 キュルケにとって、ルイズを含むヴァリエール家は宿敵だが、ルイズに対しては友情に近い感覚が芽生えている、すでに彼女は『ヴァリエール』ではなく『ルイズ』と呼んでいるのだから。 もっとも、本人はそれを否定するだろう、素直になれない友人に、少しだけ苦笑いするタバサだった。 「…いけない」 突然、タバサが立ち上がった。 タバサの表情は変わらなかったが、いつになく緊迫した雰囲気が漂っている。 その様子に驚いた三人は、タバサから目が離せなかったが、遠くから響く夕食終了の鐘の音を聞いて、慌てて食堂へと移動した。 「あちゃー、片づけられちゃったわね」 そう言いながらテーブルを見渡すキュルケ。 タバサは誰かが食べ残した食事を見て、自分の好物が無惨にも残されているのに気づき、少し腹が立った。 ルイズも空腹感はあったが、ちょっと疲れているので、いつものコッテリとした夕食を思いだし、食べなくても別に良かったかなと考えた。 そんな三人にシエスタは、おそるおそる話しかける。 「あの、私、料理長に掛け合ってみます」 「いいわよ、遅れたのが悪いんだし、規則は守らなきゃね」 ルイズはシエスタを庇うように言う、そうでもなければシエスタは自分のせいだと思いこんでしまうからだ。 「あら、いいじゃない、たまにはぬるいスープじゃなくて作りたてを食べたいわよ」 「ハシバミ草大盛り」 キュルケとタバサの遠慮のない言葉に苦笑いするルイズだったが、シエスタは嬉しそうに微笑んでいた。 シエスタが交渉する間もなく、ルイズが来たと聞いた料理長によって、三人は厨房へと招かれた。 料理人たちの食事である『まかない』を作っている最中だったが、その香りにキュルケとタバサは鼻をひくつかせた。 「美味しそう」 グー… タバサが小さく呟くと、タバサのお腹がグーと鳴った。 「何よ、タバサったら食いしんぼ…」 グー… 続いてキュルケのお腹も鳴る。 「二人ともお腹すいてるんじゃない」 グーー そしてルイズのお腹がひときわ盛大に鳴り響いた。 「あんたが一番」「食いしん坊」 ルイズは、キュルケとタバサに言い返すことも出来ず、顔を真っ赤にした。 「ほっほっほ、お前たちもつまみ食いに来たか?」 厨房の奥から出てきた意外な人物は、三人を見ると嬉しそうに声をかけた。 オールド・オスマンである。 オスマンは三人を厨房の奥のテーブルへと招くと、そこには厨房で働くメイドや料理人達がいた。 オスマンはテーブルの端に座ると、キュルケ、タバサ、シエスタ、ルイズの席を々席に着くように促す。 貴族嫌いのマルトーが仕切る、普段の厨房の様子からは考えられないほど、ルイズ達は好意的に迎えられた。 「ええと、ヴァリエール公爵嬢様、シエスタを助けてくれて、本当に、ありがとうござい…ます」 「ほっほっほ、マルトー、お前が敬語を使ったら雨が降るわい」 オスマンが笑うと、マルトーは頭を振って、少し恥ずかしそうにした。 「ミス・ヴァリエール、魔法学院で学ぶ生徒達は、国家の宝であるとは何度も申しておるな。ここに居る料理人達やメイド達も、魔法学院にとっての宝であることに代わりはない。貴族の横暴によって損なうことなど、決してあってはならん」 料理人やメイド達、そしてルイズ達もオスマンの話を神妙に聞いている。 「魔法学院の長として、ワシからも礼を言わせてもらうぞ、ミス・ヴァリエール。『身分に応じた責任を負う』それがメイジを貴族たらしめる理由じゃ。今回の件は国家預かりになっておるが、ワシは勇気ある行動を尊敬するぞ」 ルイズはオスマンの言葉に驚いた。 ほかの料理人、メイド達までルイズにお礼を言い始めたので、更に驚いた。 今までに感じたことのない、むず痒い気持ちに困惑してしまう。 子供の頃から魔法が使えず、メイジとして失格とまで言われてきた。 しかし今はどうだ、『貴族』として尊敬を受けているのだ。 「さあ、お友達の二人も食べていってくれ、腕によりをかけたんだ!そうだ、おいシエスタ、34年もののワインがあったな、あれを三人に出してくれ」 マルトーが威勢の良い声で料理を作り、そして運ぶ。 次々にテーブルの上を彩っていく料理の数々に、キュルケは素直に感心した。 「何よ、これがまかない料理って奴なの?…美味しいじゃない、あんたたち厨房でこんな美味しいもの食べてるなんてずるいわよ」 タバサも無言で食べ続ける、心なしかいつもよりペースが速いぐらいだ。 「ところでマルトー、せっかくじゃから、ワシの分もワインを…」 「ちょっと、学院長、またミス・ロングビルに怒られますぜ」 「彼女は城下町に用があって出かけておる、酒は別れによし再会によしと言うじゃろう、ここにいるヴァリエールがおらねば、シエスタと再会できなかったかもしれんのじゃぞ?野暮なことを言わずワインを出しなさい」 「そこまで言うなら、アッシも飲ませてもらいますぜ!」 「ベネ!」(良し!) 妙にノリの良い学院長の一言で、全員に振る舞われる酒。 ルイズは、自分が記憶を失っている間に何が起こっていたのか、これから先どうなってしまうのか、姫様から頼まれた用事を前にしてこんな事をして大丈夫だったのか… 等々、いろいろな事が頭を駆けめぐった。 だけど、今はとにかくこの時間を楽しもうとして、ワインをあおった。 ワインは確かに美味しいものだったが、この楽しい雰囲気と、マルトー特製の料理は、酒の肴にするには勿体ないと感じた。 そして飲み過ぎた。 翌日、シエスタは恥ずかしそうに、四人分の布団と下着を洗っていたとかいないとか。 ---- #center{[[前へ 奇妙なルイズ-13]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-15]]}
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ルイズが魔法学院から抜け出して約十分。 町からも、街道からも離れた、ある貴族の別荘が見えた。 この別荘は、トリスティンの城から見て、魔法学院から更に離れたところにある。 別荘の主を『モット伯』だが、この別荘を『モット伯の娼館』と揶揄するものもいる。 森の中にある別荘は街道からも見ることは出来ない。 しかし、街道を通る行商人たちは、年頃の娘が女衒らしき男に連れられて、森の中に入っていくのを何度も見かけていた。 ドシャッ、と音を立てて、ルイズは森の中に着地した。 別荘の周囲は壁に囲まれており、忍び込むのは容易ではないと感じさせる。 そこでルイズは思考した。 『建物の大きさ、庭の形、衛兵の位置を、空中から見た限りでは、空からの侵入がもっとも確実だが、私は空を飛ぶことが出来ない』 …ふと、ルイズを目眩が襲う。 ブルブルと頭を振って、気を確かにしようと気合いを入れる。 おかしい。何かがおかしい。自分は空を飛べないはずだ。では、どうやってここまで来た? 馬でもない。馬で来るに速すぎる。タバサのシルフィードに乗せてもらえば短時間で来ることも可能だが、そんなはずはない。 空から別荘を見た記憶がハッキリと残っている。自分は、いつの間にか空を飛んだのか!? ゴクリと唾を飲み込み、深呼吸して、考えを中断させる。 「今はシエスタを助けなきゃ」 そう呟いて、ルイズは別荘の正門へと歩いていった。 正門から堂々と入り込んだルイズは、使用人に応接室へと案内され、モット伯の歓迎を受けた。 その途中、女性の使用人を何人か見かけたが、使用人と呼ぶには幼い少女も混ざっている。ルイズはそれに嫌悪感を感じた。 それに気づいたのか、モット伯はルイズに話しかけた。 「ああ、この館の使用人が何かご無礼を致しましたかな?」 「そうとは言ってないわ」 「そうでございましたか。いやはや、彼女たちは貧しい家の出でしてな。私は彼女らに職を与え、教育を施し、生きるための場所を与えているのです。 教育は私の生き甲斐でしてな!」 そう言って高笑いするモット伯に、心底つまらなそうな目を向けると、モット伯は不敵な笑みを浮かべた。 「そうそう、あのシエスタというメイドの事でしたな。彼女は実に気だてが良いのですよ。 良い教育を受けさせれば、メイドだけでなく教育係の口もありましょう。ですから私が彼女を預かろうとしたのです。料理長も快く…」 「快く? なら、あの金貨は何?」 腹立たしさを隠しきれないルイズは、自分の声が心なしか低くなっているのに気づいたが、今更怒りを隠しても仕方ないと考えていた。 「…おやおや、ご存じでしたか。何せ優秀なメイドを引き取るのですからな。私からあの料理長…ええと、確かマルトーと言いましたか、彼へのココロザシというものです」 「そう? まあいいわ。それよりもシエスタに会わせて貰えないかしら」 「ははは、そうそう急ぐこともないでしょう。夜分にこの別荘をお尋ね頂いたのです。シャンパンでも開けましょうか、このシャンパンはなかなか珍しいものでしてな」 モット伯は、まるでルイズを無視するかのように話を続けると、使用人にシャンパンを持って来させた。 「雲が月を隠すと、雲の隙間から鈍い光が漏れます。雨が降った後であれば、月明かりが蛍のように雲を光らせるのです。このシャンパンはそれをイメージしたものです」 シャンパンを開けると、ぼんやりと輝く白い煙が出て、さながら星空のように天井を覆った。 ギーシュとは違う意味でキザったらしい態度を取るモット伯に、ルイズも我慢が出来なくなった。 「もういいわ!シエスタはヴァリエール家で引き取る約束が済んでるのよ!すぐにシエスタに会わせなさい!」 モット伯は貴族ではあるが、ヴァリエール家に比べればその格式には雲泥の差がある。 ヴァリエール家で引き取るのは出任せだが、家の名を使ってモット伯を脅かせば、少しは効果があるはずだと、ルイズは思いこんでいた。 「目も耳もありません」 だが、突如後ろから聞こえた声にルイズは背筋を凍らせた。 ルイズは腰に携えた杖を掴もうとしたが、声の主に腕を掴まれ、杖は床に滑り落ちてしまう。 「光る煙を出すシャンパンなんて悪趣味だと思ったけど、頭の中も悪趣味ね!」 気丈にも腕を掴まれたまま叫ぶルイズ。 ディティクトマジックという魔法がある。 マジックアイテムが仕掛けられていないか、誰かに魔法でのぞき見されていないかを探す魔法で、光り輝く粉が探査領域を舞うという特徴を持つ。 煙を出すシャンパンはカモフラージュだったのだ。 悪趣味なシャンパンが、何らかのマジックアイテムだったとしたら、魔法の使えないルイズでも『怪しい』と気づいただろう。 しかし、ルイズはモット伯の雰囲気に飲まれていたのだ。モット泊はメイジとして強い訳ではないが、自分のキャラクターをよく知っている。 時には人に取り入って、時には人を蹴落として、今の地位を手に入れたのだ。 「いかが致しますか」 ルイズを押さえつけているメイジは、グレーのマントの仲から杖をちらつかせ、ルイズを地面に押さえ込んだまま言った。 モット伯は短く「再教育だ」と言って、気味の悪い笑顔を見せた。 あまりの気味悪さに、ルイズはありったけの罵声を飛ばそうとしたが。 「このヘンタイ!こんな事をし…………!…………!!!…………!」 ルイズの声はモット伯に届くことはなかった。 ルイズはサイレントの魔法をかけられ、まるで荷物でも運ぶかのように地下牢へと運ばれていった。 しばらくして静かになった応接間で、モット伯はルイズの杖を拾い上げると、舌先で握りの部分を舐めた。 ルイズを取り押さえたメイジはそれを見ていたが、さしたる関心を向けることなく、事務的な口調でモット泊に声をかけた。 「先ほどの娘、ヴァリエールと申しましたが」 「ああ? あれは、あのヴァリエール家の三女だ。君は知っているかね?数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール家の三女は、ゼロのルイズと呼ばれている」 「ゼロ、ですか」 「魔法成功率ゼロ、ゼロのルイズ。何とも愉快じゃないか。彼女は魔法を使おうとすると爆発を起こすそうだ」 「爆発?」 モット伯は、オールド・オスマンの部屋にあるものより小さい『遠見の鏡』を見る。 「この別荘には空を飛んで近づいてきていた。フライかレビテーション程度は使えるのだろうが、風を起こそうとしても、練金しようとしても爆発するそうだ」 モット泊と、グレーのマントをつけたメイジは、応接室を出て『教室』と名付けた部屋に向かう。 「『平民』の体はさんざん味わったが、『高貴な貴族』の味も味わってみたくてねぇ。あの娘は出来損ないのメイジだが、ヴァリエール家の三女だ。血統は申し分ない」 「ヴァリエール家を敵に回すことになりますぞ」 「心配はない。魔法の使えぬメイジに貴族の価値はないのだ。そうだな…『世間知らず極まりないヴァリエール家三女は、メイドを探しに危険な森の奥へと入り込み、オークに嬲り殺された』…とういうシナリオはどうかね」 「ありきたりですな」 男は、相変わらず事務的な口調で答えていた。 ルイズは牢屋の中から、周囲を見渡していた。 牢屋は二重構造になっており、通路に面した鉄格子は細い鉄棒で作られている。 牢屋の奥にはもう一つ鉄格子がある。格子の太さは屈強な戦士の二の腕ほど、格子の幅は広く、ルイズならすり抜けることも可能だろう。 奥は暗くて何も見えないが、糞便のような不快な臭いが漂ってくる。 ルイズはやり場のない怒りを発散しようとして、鉄格子を蹴飛ばそうとした。 プギィーーーッ! おぞましい叫び声と共に、鉄格子の奥から毛に包まれた腕が伸びて、その指がルイズの鼻先をかすめる。 「…………!!!」 ルイズは悲鳴を上げたが、サイレントの魔法をかけられたままなので、その声は響かない。 ブギィーーーッ!ギィーーーーッ! 不快極まりない叫び声から、奥の牢屋にいる生き物が何なのか理解できた。 二本足で歩き、人間を待ち伏せして殺すだけの知能を持ち、木の幹を棍棒として使うどう猛な獣、オークだ。 オークは、戦争の道具としてメイジに飼われることはあるが、使い魔になることはほとんどない。 平民を使い魔にした方がマシだと言われるほど、オークは嫌われている。 人間の価値観から見てあまりにも下卑、それがオークへの評価だった。 まれに長老と呼ばれる知能の高いオークもいるらしいが、噂でしかない。 この館の主人がなぜオークを飼っているのか知らないが、ロクな理由ではないだろう。 ルイズは「お似合いね」と、呟いた。 しばらくして、『教室』と名付けた部屋にモット伯が姿を見せる。 ベッドの上に寝かされ、鎖で両手足を拘束されたシエスタは、これから何をされるか分からない恐怖に包まれていた。 「待たせてしまったね」 モット伯はわざとらしく、見せびらかすように、ルイズの杖を振る。 それを見たシエスタの表情が変わった、恐怖とは違う感情がわき上がったのだ。 「さて、シエスタ!君は困ったメイドだ、由緒あるヴァリエール家の三女をひどい目に遭わせてしまうのだからな!」 そう言って、シエスタにレビテーションの魔法をかけ、荷物を運ぶのと同じようにして地下牢へと運んでいく。 地下牢に降りると、シエスタはルイズの入った牢屋の隣に入れられた。 「ルイズ様!」 「………!」(シエスタ!) ルイズがシエスタを心配して声を出そうとするが、サイレントの魔法のせいで声が届かない。 「………!」(あんた大丈夫なの?アイツに何かされてない?) 「ルイズ様…まさか、私を助けに…」 「………!」(べっ、べつにあなたを助けに来た訳じゃないんだからね。ちょっと気になっただけよ) 「そんな、私、こんな迷惑をかけてしまったなんて…」 「………!」(だーかーらー!) 通じているのか通じていないのかよく分からない会話は、奥の部屋から聞こえてきた鳴き声に中断させられた。 ブギィィーーー! ガシャン!と、鉄格子に巨体がぶつかる音がする。 身長2m、体重は400kgを超えるであろう獣の迫力に驚き、シエスタは体を硬直させてしまう。 「さて、今日は何のお勉強をしようかね。…お友達との再会を記念して、友情のお勉強をしましょう!」 そう言うとモット伯は、ポケットの中から鍵を取り出して、牢屋の奥へと投げ込んだ。 鍵はチャリンと音を立ててオークの牢屋に落ちた。 「どちらかが囮にでもなれば、鍵も外せましょう!」 囮? 冗談じゃない。オークの実物を見たのは初めてだが、その残酷さは話に聞いている。 逃げるための魔法も使えないのに、囮になるなんて考えられなかった。 ルイズは、悩んだ。 どう考えても種絶望的な結果しか導き出せないからだ。 「…ルイズ様。マントを、できるだけ大きく、振っていただけませんか」 シエスタの言葉を聞いて、ルイズは頭にクエスチョンマークを浮かべたる。 「牢屋の前でバタバタと振って下さい。オークは、ひらひらした物を見ると、それに興味を牽かれるって、お爺ちゃんが言ってました」 一片の曇りも、迷いもなく、オークを見るシエスタに、ルイズは驚いた。 ルイズにはなるべく安全な手段で囮を任せ、自分は危険な場所へと赴こうとしているのだ。 ルイズは今、杖を持っていないし、自分の味方になるメイジもいない。 しかし今ここに、誰よりも信頼できる『仲間』がいた! 絶望的な状況には変わりないのに、絶望を絶望だと感じさせない。 シエスタの勇気は、今、貴族の誇りよりも遙かに気高く、そして崇高に輝いていた。 ルイズはマントを脱ぐとシエスタの牢屋に投げた、シエスタは驚き、ルイズを制止しようとする。 「…だめです!そんな、危険なことは、私がやります!」 幸か不幸か、シエスタの声に興味を惹かれたオークは、気味の悪い声で叫びながらシエスタの牢屋へと手を伸ばした。 鉄格子をガシャンガシャンと震える。 シエスタは、自分の言葉がルイズを死地に赴かせてしまったのだと悟って狼狽えた。 しかし今更何をすることも出来ない。ルイズから預かったマントを手に取り、闘牛士のようにオークの前へとちらつかせ、必死になってオークを煽った。 ガシャン!ガシャン!と響く鉄格子の音。そしてオークの叫び声。 生きた心地のしなかったが、死んだ気にもならなかった。 ルイズは鉄格子の隙間に体を滑り込ませると、奥に落ちている鍵へと静かに歩く。 ブギィイイイイイイーー! 吐き気のするような声が聞こえてくるが、それほど気にならない。 鍵だけを見て、静かに歩く。 あと5歩。 ギィイ!ピギー! あと4歩。 ガシャン!ガシャン! あと3歩。 ブゥィイイイーーッッ! あと2歩。 ギィィィ!! あと1歩。 きゃあっ! 突然聞こえてきたシエスタの悲鳴に驚き、シエスタを見る。 シエスタはオークの興味を牽こうとして近づき過ぎたのだ。すでに片手を掴まれ、オークの牢屋に引きずり込まれそうになっている。 「やめなさい!」 気づいたときには叫んでいた。 オークの視線がルイズを捉えると、オークはその巨体からは想像も出来ない速度でルイズに接近し、ナワバリを荒らされた怒りをルイズにぶつけた。 強烈な一撃を受けたルイズは宙を舞い、鈍い音を立てて鉄格子に衝突し、力なく崩れ落ちた。 「ほっ!いい見せ物でしたな」 モット伯はそう呟くと、すでに興味は失ったのか、牢屋を後にした。 ルイズとシエスタの体を味わってやろうと思っていたが、オークに蹂躙された後では興味も失う。 オークに触れた者はオークと同じだと言わんばかりの態度で、モット伯は二人を見捨てた。 それが彼の命取りだった。 鉄格子に叩きつけられ、気を失うまでの一瞬の間に、ルイズは意識の中で誰かと会話していた。 『やれやれ…もう少し速く気絶してくれれば助けられたんだがな』 「…誰よ、あんた」 『俺のことはいい。時間がない、少し体を貸してもらう』 「あたしの体を?」 『このままじゃ助けられないんでな』 「助けるって、オークから? あんたが何者か知らないけど、出来るの?」 『ああ、任せな』 ルイズは、見ず知らずの相手に、まるで長年戦いを共にした戦友のような奇妙な感覚を覚えた。 そして「頼んだわよ」と告げて、意識を手放した。 ---- //第六部,スタープラチナ #center{[[前へ 奇妙なルイズ-11]] [[目次 奇妙なルイズ]] [[次へ 奇妙なルイズ-13]]}
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