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Enter、Enter、Enter、↓、Enter…… キーボード万歳。 やっぱりこっちのが、マウスいじってるより全然楽だって。 ……はいはい、Enter、Enter、っと。っと? 「おおぅ」 びっくりした。 でも携帯って、スカートのポケットとかでブルブルしてもらわないと気づかないんだよね。いまヘッドホンだし。 件名:もうすぐ帰ります 本文:こなちゃん、お仕事おわりました。あと十五分くらいで着くと思います つかさって、こうゆうとこ丁寧でいいな。 私が送ったメールなんて、件名に全部Re とかついてるよ。ああ、あと『無題』。 「てことで、転送」 マイPCのつかさフォルダがまた1つ成長しました。 つかさメールがスパムに埋もれて消えるなんてあり得ないし。 「んじゃあ、そろそろ切り上げるかな」 ごはんとか、あっためなおさないとね。 最後にぽちんとな。えんたー、っと。 あ。攻略中の女の子だ。顔あかくしてモジモジしてて、うん、大画面(20インチ)だとなかなか、刺激、てき… ……この、カッコ。 基本だ、基本的すぎる。だがそれはいい。 2年間も一緒に住んでるってーのに、私こんな大事なイベントスルーしてた? むぅ。いっしょーの不覚だっ! ―― 縁側世界 ―― う、ちょっとさむ。 つかさ、どんな顔するかなー。 やっぱ顔なんて真っ赤にして、わ、わとか言ってパニくってさ、それから、 いやちょっとま、もうこれ、ちょ、も、ああああ! ぴん、ぴんぽーん つかさリズムだ。インターホン、1秒でゲット。 『はい、ひーらぎです』 『こなちゃん、ただいまー』 『おかー』 我らが2DKも1秒で横断、これは記録更新しちゃったか? ここでイベント発動です。 玄関のノブに手をかけて、向こう側でつかさが待っていて。 やっぱり、ちょいと緊張するかも。ええい、いざっ! がちゃり、と。 「つかさ、おまたせー」 「こなちゃん! ただい」 笑顔のままストップするつかさ。可愛すぎるんですけど。 「ま……」 ぱさっとカバンおとしたつかさだけど、なんとかつないだみたい。 「……」 どきどき。つかさのリアクション待ちも楽しいなあ。 「こ、こなちゃん……どしタの、そのカッコ」 「ふっふっふ……よく聞いてくれました」 ふつう聞くだろーけど。 「私としたことが、基本中の基本を忘れてたんだよ!」 同棲とか新婚とか、この手のイベントはやっぱ必須だよ。 こほんっ、 「『おかえりなさい、ア・ナ・タ(はーと)。ご飯にしますか?お風呂にしますか?それともワ・タ・』」 「こなちゃんで」 「シ、なーんて」て、て、て。 あれ? 「……あの、つかささん?」 「こなチゃんで」 つかさ、なんか上半身ゆらゆら揺れてるんだけど。あ、玄関鍵しめるの? うん、最近物騒だし、施錠は大事だよね。 「あれだよホラ、定番ネタっていろいろあるじゃん? 裸エプロンなんてさ、もーギャグだよ、ね?……ね?」 「裸えぷろん。あ、裸にエプロンだから、そーいうんだね。そのまんまなんだ」 しまった。つかさには通じないネタだった。 鍵かけ終えたのか、つかさがこちらに振り向いた。もう目がヤバい。 焦点あってないよ。なんか私の肩ずっーとみてるけど。なんで肩? 「か、からかいすぎちゃった、かな? 着替えてく」 言い終わるより先に、つかさの手のひらが、私の肩に、ふれた。 そこ、かた、むき出しだから。なんだか、あたまがだんだん、くらくらしてきた。 だって、顔ちかいし。つかさ、息かかってるよ。なんか体重かかってきてる、よ? 「まだ、夕方だし、せめて荷物おいてからとか……っ」 「わ、わかってるんだけど……こなちゃんそれ、わたしもういろいろ無理で、その、ご、ごめんね?」 限界早っ!? 「ん、ぅ」 つかさの、小さな唇。 柔らかい。おいしい。きもち、いい。 あー、だめだ。もう足ちから入らない。舌とか反則だか、ら。 かくん、って膝が折れた。おしりに床の感触が、つ、冷た…… あれ、肩紐ほどけてる? つかさ、いつの間に。 そのまま肩から滑り落ちてくるつかさの手、を――なんとか押さえた。 「つ、かさ、ちょいまちっ」 「こ、こなちゃん、ちょっと、ちょっとつまむだけだからっ」 っておつまみじゃないんだから。 でもまあ。もういっか。ここは玄関だし、まだ夕方だね。でっていう。 「いやいやつかさ。せっかくの裸エプロンなんだから。エプロンはそのままっていうのが通なんだよ」 「あぅ、そーなんだ。うん、がんばってみる」 …… ちょっとつまむだけだって。はいレナさんお願いします。 『嘘だッ』 ……。玄関の電球、切れかけてるなー。明日あたり、換えの買ってくるかなー あー、背中、すこし冷たい。冬場の床にぺったりだし、あたりまえか。 うん、もー全然、寒くはないんだけど。 エプロン越しのつかさの体重があんまりに気持ちよすぎて、動く気がしない…… 「こなちゃん……」わ。 むねの中でもごもご言われたから、ちょっとびっくりした。 「んー?」 「いいにおい」 「ごはんできてるよー。そろそろたべよっか。お腹すいたっしょ」 つかさのと意味違うんだろーけど、はずかしいし。べつの方向でいこう。 「……うん、おなかすいた」 「……手、洗ってからね」 「それでは」 「うん!」 う、この笑顔とか、すこし赤い頬とかみてると、なんだかぽーっとなってくるなぁ。 ふたりのアパートで、つかさと……いやいや、いい加減なれようよ。もう2年だよ? でも、こんなちいさな食卓で。 明かりは強すぎないオレンジ色だし。 そんで、ふたりきりとか。もう、ああああ、もう、 「……こなちゃん?」 「あわ、ごめん、では」 だめだ、見つめすぎた。つかさの頬がさっきより赤い気がする。 「い、いただきますっ」「いただきまーす」 本日の献立: ごはん 鶏肉と野菜の甘辛煮(ピーマン抜き) ジュンサイ入り冷やしスープ 適当なフルーツポンチ etc 「こなちゃん、どんどんお料理すごくなってる……」 「まーねー、プロに下手なもの出す気にはなんないよん」 つかさは、お皿の鶏肉をつんつんしはじめた……あ、テレてる? 「あ、あはは、プロっていうか、まだ見習いみたいなものなんだけどね」 「でも、お金もらってるでしょ。じゃ、プロじゃん」 「うーん、そう、なのかな?」 そーなのです。 「しかも今年までなんでしょ? 見習いって」 「そうゆうわけじゃ、ないんだけど……でもちゃんと調理師受かれば、いろいろと違ってくるみたい」 もうすぐ調理師つかさ、かー。 でもつかさの料理、いつも食べてるけど、アレよりおいしい料理作れる人なんてホントにこの世に存在するの? 口の中の甘辛煮をもぐもぐしてみる。うん、結構おいしいよね。けど、ぶっちゃけレベルが全然違う。 「あの、こなちゃん」 「ほむ?」 つかさは、ぱくぱくフルーツポンチを減らしてるけど…… なんだか、目あわせてこない。なんか言いにくいこと、なんだろか。 「日曜日の午後って、時間ある、かな?」 日曜。んーと。たしか大学の友達と遊びにいってから飲み会、だったような。ああそうそう、忘年会だ。 「別になかったと思うけど」 それ以前に、つかさの用事に優先するような予定って想像つかない。 「でもつかさって、日曜仕事だったよね」 「うん、そうなんだけど……」 土曜もね。休みがあわないって私結構耐えられないんだけど、つかさは平気なん? ってうわ、ウザい女じゃん私。 「午後だけお休みもらったの。その、こなちゃんと居たいなって思って」 それは、そうなのかもしれないけど。 でも大事な、なにか話したいことがあるんだ。つかさ。なんだろ? 「こなちゃん、なんか、うれしそうだね」 「つかさもね」 お腹の奥が、くすぐったくなるような。そんな感じがする。 そっか、つかさ、日曜お休みもらったんだ。 そうだね。つかさの思ってるとおりだよ。 つかさの用事に優先するような予定なんて、私ぜんっぜん想像できないよ。 「とコろで、こなちゃん」 「ん?」 なんでお箸もって立ってるの、つかさ。 「着替えないの?」 ああ、そいえば、裸エプロンのままだった。 「ここストーブ近くて、びみょーに暑いんだもん。まーさっきあれだけ」っと、とと。 「……だし、つかさもさすがにへーきでしょ?」 いかん、顔赤くなる。キャラじゃないって。 「あの、うん、あと5秒くらいなら、なんとか……」 「でしょ、まあどうしてもつかさが困っちゃうってなったら、着替えてくるよ」 明日も仕事学校あるしね。あんまりしすぎるのもね。 5秒て。 「え、それもう詰んでない?」 「そうだね」 ■縁側世界(中編) に進む ■作者別保管庫(1スレ目)に戻る コメントフォーム 名前 コメント こなたww逃げてwww -- 名無しさん (2008-04-04 13 29 46)
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ep.SP ゲストスペシャル R-1チャンピオン 中山功太さん襲来!前編 放送内容 ゲスト 中山功太 参加メンバー Tomo Kimura K-suke その他 名前 コメント すべてのコメントを見る
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Sneak Attack!!(前編) ◆PJfYA6p9PE 闇が薄らぎ、少しづつ陽の差す世界に、不安げな女の子が一人。 大きなお城の扉に小さな体を預け、アルルゥは外の方をじっと見つめていました。 丸い瞳を涙で潤ませ、いつもはきちんと立っているお耳も、今はしゅんと垂れ下がり気味。 冷たい風が吹き付けて、小さなお手手がぶるぶる。 こんなところにいるよりも、暖かい宿のベッドにいる方が余程いいのに、 アルルゥは一体、何をしているんでしょう? 「おにーちゃん……」 そう、アルルゥはレックスお兄ちゃんを待っているのです。 自分のせいでお城を飛び出していってしまったヤムィヤムィをお兄ちゃんは連れてきてくれると言いました。 泣きじゃくるアルルゥをぎゅっと抱きしめ、そっと頭をなでなでしてくれた後、 魔法のカードを使って、冷たい水の中まで追いかけていったのです。 レックスお兄ちゃんはとても頼りになるお兄ちゃんです。 剣も上手いし、魔法だっていろんなのを使えます。 優しいし、かっこいいし、本当のお兄ちゃんだったらいいのにと思うくらい。 だから、きっと、無事にヤムィヤムィを連れてきてくれることでしょう。 アルルゥはそう信じています。 だから、寒いのも我慢して、たった一人でこうして待っているのです。 「ヤムィヤムィ……ごめんね、ヤムィヤムィ」 アルルゥの心はごめんなさいの気持ちで一杯でした。 嫌な気分にしてごめんなさい。誤解させてしまってごめんなさい。 ヤムィヤムィに一秒でも早くそう伝えたくて。 みんなで一秒でも早く暖かくなりたくて。 だから、眠い目をこすって待っているのです。 帰ってきた二人と一番早く会えるこの場所で。 「ううう……」 びょうと何度目かのつむじ風が小さな体を叩きます。 まるでアルルゥのことを責めているかのように。 細かい砂が巻き上げられて、目の中に入って痛い痛い。 堪らず目蓋をぎゅっと閉じ、奥から涙が沸いて出て―――― カツン…… その音は突然、アルルゥの耳に飛び込んできました。 何か固いものが床に当たるような乾いた音。 いったい、何の音でしょう? 「?」 不思議そうな顔でくるりと後ろを振り向いて、 垂れてた耳をピンと立て、ぴくりぴくりと動かします。 一生懸命聞き耳をたてると、また一つ、もう一つ。 暗い廊下の向こう側、先の見えない角の方、それは確かに鳴っています。 「だれ? べるかな?」 カツン…… 心当たりの名前を呼んでも、返ってきたのはやっぱり変な音。 これにはアルルゥも困ってしまってお目目をぱちくり。 「……ん」 首をかしげて考えて、ちょっと悩んで、すぐ決めました。 分からない変なものは見に行くのが一番です。 そうと決まればてくてくと、廊下の奥へと進みます。 「……おう」 角を曲がったアルルゥは変なものを見つけます。 ひんやり冷たい石の床にぽつんと置かれた変なモノ。 走って寄って覗いてみると、黒いお板に光る点。 何個かピカピカ輝いて、まるで夜空のお星さま。 これは一体、何でしょう? 「?」 拾って近くで見てみます。 すべすべ板の真ん中に白く光ったポッチが一つ。 下からぐんぐんやってくる別のポッチがもう一つ。 ゆっくりゆっくり近づいて、 点と点とが重なって―――― ◆ 指向性の光の束がまだ薄暗い石段を照らす。 「……全く、便利なものですわね」 ベルカナは懐中電灯を神妙な顔で眺めながら、ひとりごちた。 ただ、スイッチを押すだけで光を放つ細長い投光器。 光晶石より光量は劣るが、オンオフが自在であり、回数制限が無い分、使い勝手はいい。 こんなマジックアイテムを全員に配布するとは、今さらながら、ジェダも随分、太っ腹なものだと思う。 最も、こういったものが貴重なのはフォーセリアに限ったことであって、 別の世界、例えば、梨々やヤムィヤムィが元いた世界などでは、ごくありふれたものなのかもしれない。 あの電話という装置同様に。 不意に齎されたレベッカ宮本との通話。 そこに含まれていた情報はベルカナにとって多分に頭を悩まされるものだったが、 持ち前の卓越した思考力で話すべき部分とそうでない部分を選別し、概ねの整理を終えていた。 今は睡眠を少しでも取り戻すため、再び寝室へ向かっているところだ。 (それにしても、今回の冒険は懸念事項が多いですわ) 思わず溜め息が漏れる。 冒険者として、複雑に入り組んだ事件に出会ったことは一度や二度ではないが、 正直、今回の一件と比べれば、たいしたことのないものばかりと言わざるを得ないだろう。 住み慣れたロマールの地から拉致され、一転、魑魅魍魎たちが群がる魔の島へ。 実家の財力も、せっかく苦労して築き上げた盗賊ギルドのコネも当然使えない。 異世界から来たと思しきモノたちは、大きな建物から小さな物品まで ベルカナの賢者としての知識を殆ど寄せつけず、謎また謎のオンパレード。 主犯格と思われる魔人に関しても、何ら有効な情報はなく、居場所の見当すらつかない始末。 そして、何より痛いのは、気心の知れた仲間と引き離されたこと。 本当に大切なものは失ってから初めて分かると言うが、まさにそのとおり。 ここに至り、ベルカナは元の世界でパーティを組んでいた仲間達に、 どれほど助けられていたかを痛烈に思い知らされていた。 別に今の仲間を嫌っているわけではないが、何せ彼らとはつい数時間前に初めて出会ったばかりの仲。 能力についても性格についても、十分に分かり合っているとは言いがたく、 やりやすさの点からいえば、お互いのことを熟知していた元の世界のメンバーとは比べるべくもない。 それから、全体的に情報の真贋や他人の悪意を見抜く能力に欠けているのも辛いところだ。 今のパーティで取り越し苦労をする役に一番向いているのは、明らかにベルカナである。 だが、集団全体に降りかかる案件を一人で処理するというのは、やはり負担だ。 ぺらぺらーずの中においても、彼女は苦労人役をすることが多かったが、 一人で抱え込まねばならない事態にはなりにくかった。 他の仲間が必要に応じて、考えを巡らせてくれていたからである。 (ま、ないものねだりをしていても仕方がないですわ。 今のメンバーでやれるだけのことをするしかありませんものね。 ……しかし、お互いの能力の把握と有事の際の役割分担については、きちんとしておいた方がいいかもしれません。 どのみち、もうすぐ放送ですし、そのときにでも改めて話し合って…… ……!?) 階段を下りきったところで、ベルカナはびくりと体を震わせた。 思考の海に没入していたせいで、正面の人影に気がつかなかったのだ。 「……まったく、びっくりさせないでくださいませ。 どうかしましたの、アルルゥ」 薄明けの光に浮かび上がったのはアルルゥだった。 何か嫌なことでもあったのか、俯き気味に立っている。 「…………」 だが、問いかけに対する返事は何故か返ってこない。 「アルルゥ?」 おかしい、と感じる。 答えが返ってこないこともそうだが、別の、何かもっと決定的な違和感があるような…… 「!!」 だが、その正体に思い至るよりも、アルルゥがアクションを起こす方が速かった。 不意に、糸が切れるがごとく全身の力が抜け、前のめりに倒れこんだのだ。 「アルルゥ!! どうしましたの!?」 突然のことに動揺するベルカナ。 慌てて倒れた体に手をかけ、助け起こして介抱しようとして……目が合った。 「ん」 おかしい。 何故目が合う。 アルルゥは前向きに倒れた。 今、上を向いているのは背中。 背中に目はない。 それでも目が合うというのなら 「…………」 急速に頭が冷える。 思考が事態に追いつく。 推論を確かめるため眼球を動かすのにコンマ数秒。 思ったとおりだ。 「……くっ」 ――アルルゥの首は無残にねじ折られ、醜く捩れていた。 「ッッッ!!」 頭が真っ白になる。 多数の思考が同時に駆け巡る。 瞬間、脳が凍りつく。 だが、幸運はあった。 体は動いた。 冒険のために身につけた狩人《レンジャー》の勘が、 反射的に行動をとらせた。 だから、彼女は助かった。 ベキョグチ ベルカナが飛びのいた一瞬後。 何かが振り下ろされていた。 それはふわりと揺れる栗毛を掠め、地上のアルルゥへと直撃。 骨と、肉の砕ける音がする。 「ち」 「ッ!」 襲撃者の舌打ち。 すかさず追い討ちの気配。 だが、次に動いたのはベルカナ。 「ぐ!」 爆音と閃光が狭い廊下を満たす。 投擲された爆弾石が破裂したのだ。 敵の姿は見えない。 だが、襲撃者は確実にいる。 だとすれば。 敵は姿の見えない襲撃者。 標的が見えないなら、 範囲攻撃を仕掛けるしかない。 このベルカナの試みは、果たして一定の成果を得た。 爆発の残滓が晴れたとき、そこには明らかになった敵の姿があった。 白銀の外套を纏った怪人の姿が。 どちらからともなく、 ぎりりと歯軋りの音がした。 ◆ 打撃、打撃、打撃、打撃、打撃、打撃、打撃、打撃また打撃。 嵐のような乱打が吹き荒れていた。 (ちいィッ!) 右上からの振り下ろしを杖の首で弾く。 額に汗が滲む。 間髪入れぬ横薙ぎを杖の腹で受ける。 武器を持つ手に衝撃が走る。 ひと息おいての突きを体捌きで流す。 カッ! カッ! カッ! 木と木のぶつかる小気味よい音が響く。 されど猛攻は止まらない。 疾風に揉まれる木の葉のように、やっとさっとで 攻撃を受け流しながらベルカナは内心舌を巻いた。 (油断しましたわ! こいつ、こんな動きができましたのね) 先刻の城での戦いにおいて、彼女はこの白銀の敵の中身について、 戦闘慣れしていない一般人であるという推測を立てていた。 動きのぎこちなさ、判断の遅さなどを根拠に導いた結論。 確かに、それは半分は当たっていた。 だが。 「ウオオオオオオオオオオオオオオ!!!」 「ッ!」 裂帛の気合とともに放たれた一撃をステップでかわす。 相手を捕らえそこなった杖は空を切り、床の石板を砕いた。 直撃していれば、間違いなく肩の骨を持っていかれていただろう。 それほどのパワーと、スピードの乗った打撃だった。 ベルカナの読み違えていた残り半分。 それは怪人の身体能力。 石板を木の杖で粉砕する敵の筋力と敏捷力は一般人の枠に収まるものではない。 おそらく、専業のファイターと同じか、それ以上。 少なくとも、ぺらぺらーずの前衛、マロウよりも上を行っていることは確かだ。 (今にして思えば、さっき爆弾石で相手が怯んだ隙に、さっさと古代語魔法で先制しておくべきでした。 失敗しましたわ) 思いのほか、アルルゥのことで落ち着きを失っていたようだ。 相手に戦士としての技能が全くなかったおかげで、防御に専念すれば、 そう容易くダメージをもらうことがないのが、不幸中の幸いか。 「ぐっ、くっ」 攻撃が中々当たらないことに業を煮やしたのか、怪人は手持ちの杖をめちゃめちゃに振り回す。 その太刀筋は傭兵の家に生まれ、戦う基礎を修めたベルカナにとってはいささか稚拙。 自分に届くものを冷静に見極め、タイミングを合わせて払っていく。 弾かれた武器が城の壁を削り、燭台を壊し、調度品を割り砕く。 しかし、打撃のほとんどを捌くことに成功しているにもかかわらず、戦況は彼女の不利に推移していた。 (はあっ、はあっ……まずいですわね……手の、感覚が……) 敵の強力な膂力を受け続けてきたベルカナの両手は徐々に痺れ、限界を迎えつつあった。 このままでは、いずれ力を失って杖の制動が乱れ、押し切られてしまう。 反撃に転じ、防戦一方の現状を打ち破れば、継戦時間が伸びる可能性もあるが、 相手が畳み掛けるように乱撃を見舞ってくる以上はそれも難しい。 (何とか……何とか、現状を打開する方法は……) 腕の感覚が失せるにつれ、焦りも高まってくる。 だが、打ち込まれる杖の嵐はその手を緩めることなく、無情に時間だけが経過する。 そして、ついに恐れていた瞬間が来てしまった。 「ああっ!」 腰だめに放たれた強烈な打突を受けきれず、尻餅をついてしまったのだ。 刹那暗転した視界が回復したとき、正面には武器を大きく振り上げる銀の影。 慌てて体を捻り、回避を試みるが、結果が出る前に彼女は理解してしまう。 敵の方が速い、と。 世界が突如、スローモーションに見える。 風切り音とともに振り下ろされた武器はそのまま吸い込まれるように ベルカナの額を捉え、頭蓋を割り、脳を潰し、目や鼻から赤白い脳漿が噴出―――― ――――しなかった。 「!!?」 視界のスローモーションが元に戻り、世界が色を取り戻す。 命を刈り取るはずだった凶器は身をかわした彼女の真横、石畳に当たり、コツンとかわいい音を立てた。 ベルカナは命を拾ったのである。 ほとんど反射で体を起こし、戦闘を継続する体勢を整えるが、頭の中はクエスチョンマークで一杯だ。 (……おかしいですわ。 今のタイミング、完全にやられたと思いましたのに) 再び打ち合いを始めると、その疑問はさらに増大した。 これまで、あれほどベルカナを圧倒していた嵐のような攻めは鳴りを潜め、 代わりに打ち出されるのは、ひょろひょろした、まるで子供のちゃんばら遊び。 右へ左へ繰り出される打撃には全くキレがなく、ただ、杖をそこにもっていくだけで容易に防げてしまう。 (これは、何かの罠でしょうか? いや、明らかに勝負が決まっていたのにそれはない……か。 いままでの無理がたたって体力が尽きたと考えるのが妥当でしょうか。 いずれにせよ、この隙に攻めない手はありませんわね) 頭を切り替えたベルカナは打って変わって反撃に出る。 相手の杖を頭上に跳ね上げ、空いたガードに向かって横薙ぎを見舞うと、 その一撃は予想以上の滑らかさで相手の腰に吸い込まれた。 「うっ」 逡巡した敵に立ち直りの機会を与えぬよう、今度はベルカナが怒涛の攻めを見せる。 首、腰、腕、それから頭。 リーチのあるマギステル・マギの杖を用いた初歩的な杖術に、怪人はほとんど反応することができない。 気持ちよく決まり始めた打撃に優勢を見て取るが……すぐにその考えを振り払う。 攻撃の決まったその先で、コートの表面、銀の六角形が弾け飛んで、即座に再生する。 その一連の動きは、杖からのダメージを完全に殺していた。 (なるほど。あのコート、そういう仕掛けになっていましたか。 私程度の打撃力ではびくともしないようですが……) それならそれでやりようがある、とでも言わんばかりに攻め手を変更する。 牽制目的の高い攻撃で相手の意識を上段に惹きつけ、 下半身のバランスが危うくなったところで得物を思い切り回転。 杖の逆端で足元を衝く。 「それっ!」 足狙い。 軸足に後ろから強い衝撃を食らわされた怪人は、たまらず仰向けにつんのめる。 と同時、背部のコートが弾け、またもダメージを無効化する。 しかし、ベルカナは焦らない。 (元々、転倒のショックで倒そうなんてセコいこと、考えていませんわ。 私が欲しかったのは……ココッ!!) 杖を立て、狙いをつけて、突き刺すように振り下ろす。 狙った先は、転んだことにより顎が上がり、剥き出しになった喉。 「……血の痰を吐きながら苦しみなさい」 人体の中でも有数の急所であるそこに、尖った杖の先端を捻じ込んで―― 「は、発射!」 ――とどめの一撃がヒットする刹那、凄まじい轟音が脳を揺さぶった。 ◆ 「……ほぇ?」 夢の中で大きな和太鼓が鳴って、さくらは突然、現実に引き戻された。 せっかく楽しい夢を見ていた気がするのに、邪魔するなんて酷いよぅと 寝惚けたことを考えながら周りを見渡すと、そこは自宅のふわふわベッドではなく、 暗い石造りの部屋の堅い寝床。 自分が置かれた状況を思い出し、急速に意識が覚醒する。 ベルカナに矢継ぎ早の状況説明をされた後、 さくらは頭を整理しようと、ベッドの中で横になったまま、あれやこれやと考えて―― ――纏らないうちに眠ってしまったらしい。 よいしょっと体を起こすと、何だかちょっと気分がいい。 思い当たって、小さな手を額にやると、すっかり熱が引いていた。 しかし、ほっ、と息をついたのも束の間、すぐに新しい不安の種を見つけてしまう。 「みんな、どこ行ったの?」 周りのベッドはさくらがいるところを除き、全て空になっていた。 さくらが眠りにつく前、この部屋にはあと四人もの人間がいた筈なのに。 どこも布団がめくれ上がり、誰かがそこで寝ていた形跡はあるものの、 本人が見当たらないばかりか、荷物まで綺麗さっぱり消えている。 これは一体、どういうことだろう。 「……置いていかれたのかな、私」 少し不安そうに、思い至ったその答えを口にする。 確かに、そう考えれば全てのつじつまが合う。 顔合わせの時は、皆、さくらを受け入れるフリをしていたが、内心は疎ましく思っていた。 それはそうだ。 さくらは自分の意思ではなかったとはいえ、雛苺と一緒に沢山の人に沢山ひどいことをした。 そんな子と一緒にいてもいいなんて子が、どこの世界にいるだろうか。 だから、みんなで示し合わせて暗い部屋にさくらを置き去りに―――― 「……ううん、そんなことあるわけない」 しかし、さくらはこの島では誰もが身を委ねてしまいそうな疑神の囁きを、そっと振り払う。 何故なら、彼らは梨々の友達で、梨々はさくらの友達だから。 何を知ってるわけじゃないけど、友達の友達は、友達だ。 友達は友達を見捨てたりなんか、しない。 ベルカナあたりが聞けば、思わず眉を顰めそうな論理。 だが、木之本桜にとってはその論理こそが、自らの信じるよすがであった。 少なくとも、この島に満ちている悪意なんかよりずっと。 「きっと、何かわけがあったんだよ」 嫌な考えはゴミ箱に捨てて、勢いよくベッドから立ち上がる。 とりあえず、服を着ようと、掛けてある梨々の服を手に取ったところで、 「!?」 さくらはその音を聞いた。 低く、お腹に響く大きな音。 「……これって」 自分を夢から覚ましたあの和太鼓を思い出す。 もしかしてこの音だったのだろうか。 「!! また」 するうち、また同じ音。 一体、何の音だろう。 大きな太鼓を思い切り鳴らしてるような、怪獣さんが足踏みしてるような、大砲を撃つときのような…… 「!!」 さくらの頭の中で何かが繋がる。 取り残されたさくら、いなくなった仲間、遠くからする大砲の音。 この符号が示すものは何か。 簡単だ。 ベルカナたちはきっと敵と戦っているのだ。 熱を出したさくらを一人安全なこの部屋に残して。 「……行かなくっちゃ」 シーツを振り捨て、足早に着替えを済ませると、音を頼りに走り出す。 行かないわけにはいかない。 もしかしたら、今、仲間達が戦っているのは、さくらを取り戻しにやってきた雛苺かもしれないのだから。 NEXT
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第六話前編 目次へ 前へ(第五話) 次へ(第六話後編) 「………、……きっついな……指で一度、イかせた、ぐらいじゃ…、やっぱり…慣らし不足か……」 麻衣の狭い内奥に剛直をゆっくりと抜き差ししながら、滝川はわずかに眉を顰めた。 彼女の隘路は幼く未熟で、侵入者を強く拒むように抵抗の気配を漂わせていたが、それと同時に さらに奥まで欲しがるように蹂躙を歓迎して促す裏腹さも見せていて、その締め付けの強さは 微かに痛みを覚える程だった。 「本当は指で、もっとじっくり、広げて、……いっぱい、舐めて…とろっとろにしてから 入れる、つもり…だったんだがなー……おまえさんがあんまり、可愛く、急かすから」 「……だって、もう…我…慢、…でき、なかったんだ…もん……それに……、…っ、こんな…… おっきいと……もっと…慣らして、ても……たぶん、痛いの…いっ、しょ…っ」 「……んー…まあ、否定は出来ない、か?………あー、……狭………」 「……ぼーさん、いたい…?……んく、……っ、……ねぇ……だい、じょ…ぶ…?」 「大丈夫大丈夫、……ただ麻衣の中の締まりが良すぎるから、すぐに出ちまいそうなだけ」 自分の痛みよりも彼のことを憂い、心配そうにそっと背中を撫でる麻衣に滝川は笑ってみせる。 「バーカ、俺よりもお前の方がつらいだろ?………ごめんな、痛いよな」 「……ん、痛いけど…、だいじょうぶ……このまま続けて、……おねがい……やめないで……」 痛くても構わない。だから自分から離れないで。 このまま貫かれていたくて、麻衣は滝川の背中を抱く指にぎゅっと力を込めた。 「わかってる。ちゃんと最後までしてやるから。……お供するって、約束したもんな」 苦痛を堪えながら、それでも懸命に自分を受け入れようとする健気な彼女がとても愛おしくて、 滝川は射精感の高まりと同時に、彼女を痛みから解放してやりたい気持ちを覚えた。 「……一度出して少し楽にしてやるよ。………ちょっとだけ我慢してろ、な」 麻衣にそう言うと、滝川は彼女の身体の横に腕をつき、快感の頂を求めて性急に腰を送り始めた。 痛みと共に強く揺さ振られ、その動きに押し出されるように麻衣の喉から小刻みな呻きと悲鳴が洩れる。 「……っ、ん…く、ぅ……、……っ、……ひ、…った、ぁ……んぅ…っ、くる、し……っ」 「…俺の、……動き、に……、合わせて、…息…して……慣れるまで、力抜いて……」 「ん…、わか…た……っ」 「……いい、子だ……」 「んぅっ、……痛、……いた…い……ねぇ…、キス…して……もっ、と……」 痛みに掠れたか弱い声で麻衣が強請ると、すぐに荒々しく唇を塞がれ舌で口内を侵される。 その奪われる勢いと、それと同じ荒々しさで腰を打ちつけて下半身を犯す烈しさが、滝川の情欲と愛情の 強さを感じさせて、麻衣は心と身体を熱く疼かせた。 「……はぁ…、あぁ……ぼーさん……すき………」 行為に汗ばんできた滝川の背中を抱き締め、息継ぎの間に呟くと、再び唇を塞がれる。 「………痛いの、……俺が……、……全部……吸い取って、やるから……もう、少し…だけ……」 その言葉の通りに唇を強く吸われ、麻衣はその甘美な心地よさに痺れた。 もっと欲しくて強請るように自ら滝川の舌に舌を絡めると、彼がそれに応えて唾液を麻衣に流し込んだ。 白い喉を鳴らしてそれを嚥下し、麻衣は蕩けた瞳でうっとりと笑う。 「……ん…ふ………ん……おいし………ね、ぼーさんにも……あげる……」 そして唾液を赤い舌先に乗せて差し出すと、その卑猥さに煽られて、滝川が彼女の舌にむしゃぶりついて 滴る甘露を舐め取った。そのまま互いの餓えと渇きを懸命に満たすように、荒い呼吸の中で性急に唾液を与え合う。 交わし合う唾液は、ぐちゃぐちゃと混ざり合って溶け合って、もうどちらのものなのかも判らない。 それがとても幸せで、ふたりは互いをさらに求め合った。 「……はぁ……あぁ……このキス…みたい、に………、……ぜんぶ……ぼーさんと……」 心も身体も全部。触れ合って繋がり合った場所全てから。 「………ああ、……おまえと…全部、どろっどろに、溶けて…ひとつに、なっちまいたいよ……」 麻衣は身体を繋ぐ行為の意味を初めて知り、滝川はその幸福を初めて知った。 「……あたし……、……今……ぼーさんと…、………セッ…クス……して、るんだ……」 「あぁ……そう…だ、な……麻衣と、中で…繋がって…擦り、合ってる……あー…夢、みたいだ……」 それを確かめるように何度も腰を打ちつけ、滝川は興奮に掠れた声で呻きを洩らす。 「………っ、すっげえ…気持ち、いい………麻衣とするの……すげえ…いい………」 「あたしも…っ、いいの…すごく……いい……熱くって………痛、くて……っ」 ぎちぎちに広げられた粘膜が、熱く怒張した凶器に幾度も擦られて、灼けるように熱くて痛い。 その痛みと熱が、繋がり合った場所と頭の中をどろどろと溶かしていくようで、けれどもそれだけが 自分と彼の存在と境界線を確かめる証のように鮮烈で、それがとてももどかしく、それなのに とても嬉しい。 「……なんで…、かなぁ…っ、いたいの、が…うれし、くって……なんか……いい…、の…っ」 律動の度に彼の愛も欲も、存在全てが痛みと共に刻み込まれることがこの上なく幸福だった。 「…あぁ、もっと…痛く……あたし、を…変え…て……全…部、全部…ちょう…だい……っ」 「……ああ、わかってる……俺は、全部……おまえのもんだ……おまえ…も……俺に……」 このままもっと溶けてしまいたい。 このままずっと確かめていたい。 矛盾した相反する望みを共に抱きながら、ふたりは互いを快楽の際へと追い詰めていった。 「ああぁ…っ、いい…っ、痛…ぁ…っ…ひ、…あぁ…っ、ぼー…さん……、すき…、すき……っ」 激しい苦悶と強い快楽に翻弄されて、その寄る辺ない思いに滝川を求めてその背を強く抱いた。 波に攫われ、溺れ死んでしまいそうな不安に駆られてその手に力を込めると、汗でぬるりと指が滑り、 麻衣は思わず彼の首に縋りつく。 「……あぁ……だめ…おね、が………はなれ、ない…で……っ」 「ああ、どこにも…いか、ない……、……っ、……絶対…、…離さ…、ない………っ」 滝川は麻衣の膝を割ると、彼女の肩にしがみつくように覆い被さり、自重を腰に乗せてさらに奥まで 剛直を突き入れた。 「……ほら…、全…部……入っ……た……っ」 「んうぅ…っ!……ふか、い……ッ、ああ…っ、もっ…と、奥、まで……っ、きちゃ、う……っ」 滝川の怒張したものを根元まで全部呑み込まされて、麻衣が悲鳴に近い喘ぎを上げる。 入口と内奥をさらに押し広げられて、ぴりりと引き裂かれるような強い痛みと熱を感じたが、それ以上に 彼女を支配したのは、血が燃えるような烈しい快楽だった。 「ああ…ぅ…っ、だめ…っ、こんな…の…っ、あぁ…は…っ、きもち、い…っ、だめっ、…や、だぁ…っ」 身体を揺さ振られる度にその勢いで麻衣の脚が跳ね上がり、恥骨がぶつかり合う。 繋がり合った場所から洩れる淫らな水音が、ぐちぐちとその量と卑猥さを増していく。 無理矢理広げられた淫唇の襞や、快感で尖った肉芽が、滝川の穿いたままの下着にざらざらと擦られながら 重みに押し潰され、麻衣の身体から汗がぶわっと噴き出した。深まった結合部ギリギリにまで布の感触がして、 それが行為の性急さと卑猥さを改めて感じさせてたまらなく気持ち良い。 「…い、やぁ…っ、あぁあっ、ああぅ、だめぇ…ッ、それ…っ、あ、はあぅ…ッ」 抉るように奥の感じる場所を幾度も突かれ、中からだらだらと粘液が湧き出るのが麻衣自身にもわかったが、 もうそれを恥じらう余裕もなく、ただただ喘いで滝川をひたすらに求め、夢中でその腰に脚を絡ませて 彼を深く抱き寄せた。 強く抱き合うと汗ばんだ裸の胸同士が密着し、麻衣のやわらかな双丘を滝川の重みが押し潰す。 滝川が腰を打ちつける度に、汗にぬめる熱く硬い胸板でそのふくらみと頂を何度も擦るように刺激され、 重みと摩擦で充血した頂がピンと尖って赤みを増した。その甘く焦れる痺れと疼きは、背筋をびりびりと 稲妻のように伝って麻衣の腰を震わせ、彼女の内奥をさらに潤ませひくつかせる。 「はぁ…、…あぅ、うん…、…んく、…あ、…やぁ…だ…め…っ、いい…っ、あふっ、んぅ、…いい、の…っ」 「………っ、……すげ……どんどん……滑り……よくな…っ、…て、………あ、やば………」 麻衣の内奥の明らかな変化に、滝川の腰もずくりと震える。 このまま熱く潤む粘膜の中で全てを溶かされてしまいたい快美な感覚と、そのうねりと締め付けをもっと長く 味わいたい強烈な悦楽が滝川の中でせめぎ合い、思わず奥歯を噛みしめた。 「……っく、……麻衣の…中……、……初めての、くせに……滅茶苦茶……良すぎだ……」 「…んぅ、そん…な…、……こと…っ、……言われ、…ても………わかん、な……っ」 けれどもそう言う彼女の喘ぎ声は淫らに甘く、その身体は滝川をさらに受け入れようと本能的に蠢く。 無垢だった身体を半ば強引に開かれて、それでも快感を覚えて懸命に享受する稚い麻衣の、無意識の痴態が さらに滝川を煽り焦がす。その全てに耐えきれず、彼は頂点をめがけて激しく腰を打ちつけた。 「……はあ…っ………麻衣、おまえ……っ、やらしすぎて…たまん、ねえ…よ……っ」 「ああぁ…っ、そん…なの…っ、…んく…っ、…はぁ…っ、…やっ、あぁ…っ」 限界まで押し広げられた粘膜の奥深くまで熱く硬い剛直を激しく打ち込まれ、その苦しいほどの熱と圧迫感に 麻衣は喘ぎながら咽び泣く。 「ひ、ううぅ、ぅあ、ああぁ、熱い、いい…っ……熱い…よぉ…っ、もぉ、やぁ…っ」 「……俺も、……おまえん中……っ、……すっご……熱………っく、ああ…出、そう…だ……っ」 「んあぁ…ッ、…も、くる、し…っ、ぼ…さんの、いっ、ぱい……っ、で、ああぁ、や、あぁ……っ」 「……はあ…、…はぁ…っ、出す、ぞ……中に………麻衣の、……中………っ、…っく、………ッ!!」 最奥まで突き入れられた滝川のものがぐっと膨れて激しく脈打つのを中に感じ、麻衣の眼裏で光が明滅した。 指で教え込まれたことを思い出すように、その身体が震えて粘膜が強く収縮する。 「ひあぁっ、も、ダメ…ッ!こわれ、ちゃ…っ、もうっ……だ、め…ッ!!」 「………っ、……っく、……麻…衣……ッ、────ッ!!」 下腹の奥底から込み上げる強烈な快感に身体の芯を引き摺られ、滝川はどろどろに煮詰まった情欲の証を 彼女の最奥に叩きつけるように放った。 「あぁあッ、んくぅ…ッ、ぼぉっ、さぁ…ッ!…あああぁぁ…ッ!!」 身体の一番深い場所を滾った粘液で灼かれて、その熱さに麻衣も一気に昇りつめた。 「……あぁ…い…く……ッ」 「………く、………っ………ぅ…………は、ぁ…………」 「ああぅ、う、あぁ…、熱…い……っ、あ、はぅ……や、あぁ………」 麻衣のきつい締め付けを味わいながら、滝川は彼女の中に己の欲望を注ぎ込み、どくどくと脈打ちながら 吐き出される滝川の精液を、麻衣は歓喜に震えて痙攣し続ける粘膜で受け止めて、奥深くに呑み込んだ。 その白さに意識を染められながら、ふたりは全身の力を抜き、共に大きく息を吐いた。 「………あー、……すっげえ………気持ち、良かった………」 脱力した身体を麻衣の上に預けて、滝川が陶然と呟く。 「……俺、すっかり夢中になっちまって…………ごめんな、大丈夫か?」 「ん……、だいじょうぶじゃないけど……だいじょうぶ……」 「……何だよそれ……どっちなんだ?」 ぐったりと力の抜けた麻衣の髪を撫でながら滝川が笑う。 「どっちもだよ……だって……疲れた……でもへーき……ちゃんと、生きてる……」 「おいおい、いくら俺でも殺しゃしねーだろー」 「……だって指よりも何倍も痛くて、気持ちよすぎて……死んじゃうかと思ったんだよ……」 滝川の重みと汗まみれの身体が愛しくて、麻衣はその広い背中を抱き締めた。 「でもね、……今、すごい、しあわせ。すごく…気持ち、よかった」 「……俺も。すげえ良かった。夢みたいで……でも実物の麻衣は、夢より何倍も可愛くてエロくて気持ちいーな」 幸せそうな顔で頬や瞼にキスを落としてくる滝川の言葉に、麻衣は自分の痴態を思い出して顔を赤くする。 「………あたし、そんなに……え、えろい…かな……」 「エロイ。おまえ可愛すぎだしいやらしすぎだ。おかげで俺、やっぱり加減出来なかっただろー」 「……え、ええ……そんなこと、言われても………だってあたし、夢中で……」 「麻衣、おまえ自分のことほんっとにわかってないのな。……ま、そーゆーところがまた可愛いんだがなー。 ………あーごめん、重いな俺。………これも抜いてやらないとつらいだろうし」 腕をついて麻衣から身体を起こすと、滝川は彼女の中からまだ硬さを保ったままの屹立をずるりと引き抜いた。 「んんぅ…ッ、やっ、いきな、り……っ」 身体の奥深くまで打ち込まれていた太い杭を突然抜かれ、その衝撃に麻衣が震えると、開いたままの彼女のそこから 体内に放たれた滝川の精液がごぷりと溢れ出る。 自らが分泌した体液とは明らかに異質な、白濁の粘液が自分の中からどろりと流れ出て、その淫らすぎる感触に 麻衣は強い羞恥と蕩けるような快感を覚えた。 「……あ、ああぁ……ぅ……や、……だ…め………こぼれ…、ちゃ…う………」 入口が震えてひくつく度に精液が中から溢れ、会陰を伝って彼女の尻と床を汚す。 男の欲望を受け入れた証で濡れた感触が、麻衣に自らの中の中まで全て滝川に征服されたことを強く実感させた。 「……はぁ…、…あぁ……中に……いっぱい……ぼーさんに……出されちゃった……」 その声には純粋な愉悦と陶酔だけが溢れていて、滝川はそのうっとりとした声と蕩ける瞳に至福を覚える。 「………随分と嬉しそうじゃねーの。ん?………そんなやらしい顔しちまって……」 喉の奥で笑いながら、自らが犯した彼女のそこを見下ろし眺める。 「……すっげ……麻衣のここも、滅茶苦茶やらしい……」 熱を持って赤く充血した腫れぼったい肉襞の間で、それよりもさらに赤い粘膜の色を晒してぱっくりと口を 開けている秘穴から、白く濁った己の精液がだらりと零れている様は、滝川の劣情を強烈に煽った。 引き寄せられるように手を伸ばし、そこを指でさらに広げる。 「んー、どれどれ。痛がってたわりにあんまり出血してないみたいだな」 「…やっ、広げちゃ、だめ…ッ」 「ちゃんと確かめなくちゃいけないんだからじっとしてろ。……ふーん、ちょっと血が混ざってる、か?」 淫らに溶け崩れて白濁に汚れた恥部を食い入るように見つめられて、麻衣の身体が再び熱を持って疼く。 「……やだもう…っ、……見ない、で…よ……ぅ………ん、あ……また、出てきちゃう……」 「一番奥までいっぱい出してやったからなー。あ、外に全部出したいなら手伝ってやるぞ?指で掻き出して…」 「……い、いい…っ、そんなこと、しちゃ…だめ……っ」 「あれ?なんで?」 にやにやと笑いながら問う滝川の声は明らかに揶揄の色で、麻衣は「感じてしまうから」という言葉を 慌てて飲み込んだ。 「………………………」 何も言えずに赤い顔で自分を見上げる麻衣に、滝川は満足気に頷いた。 「そっかそっかー、わかった。麻衣はまだこれを中で味わいたかったんだな」 そしていきり立ったままの肉棒の先端をあてがい、意地悪に笑う。 「………じゃ、こぼれないように、俺がもう一遍、塞いでやるよ」 そのまま腰を進め、一気に彼女の中に己を沈める。 「──ひゃああぁぅ……ッ!」 いきなりの衝撃に麻衣が高く声を上げる。 一度達してやわらかく弛緩した彼女の内奥は、中に放たれた精液のぬめりの助けもあって、あっさりと滝川の蹂躙を 許してしまった。先程よりも痛み無く、ぬるりと滑らかに犯されて、麻衣の声音に明らかな喜色が混じる。 「……やぁっ……ああぁんっ、ちょ…っ、ぼーさ…っ、やっ、だめぇ…ッ」 「ダメとか言ってもそんな嬉しそうな声出してたら全然説得力ないぞー。ほら、こっちも喜んでる」 再び熱く硬い剛直を呑み込まされた麻衣の内部は、滝川の言う通り嬉しげに震えていた。 「俺のこれも、出したやつも、ずいぶん美味しかったみたいだから、もっとたっぷり中で味わわせてやるよ」 いったんギリギリまで引き抜き、それから零れた精液を押し戻すように腰を再び沈めると、その勢いで 中に収まりきれなかった白濁が二人の接合部からぐじゅぐじゅと音を立てて溢れる。 「あー、せっかく蓋したのに出てきちまった。……仕方ないなー、また中に出してやるから、とりあえず今は この中にある分だけで我慢しろ、な?」 「……あぅ…っ、あぁ、ん…やぁ…っ」 「ほらほら、麻衣の中もこんなに嬉しそうに喜んでるし。もっと気持ち良くなろうや」 粘膜に精液を塗り込むように、内壁を何度も太く滑らかな先端で擦りつけられて、麻衣は抵抗することも出来ずに ただただ喘いだ。 「…あふ、ああぅ、……はぁ、ああぁっ、ひぅ、あ、はぅ……あぁあ…っ」 唇の端からだらしなく唾液が零れたが、そんなことを気にする余裕もなく、瞬く間に再び高みへと押し上げられる。 「……やぁ…っ、だめ、…あぁっ、また……っ」 「あれ、またイきそうか?…………そりゃちょっと早すぎるんじゃねーの、嬢ちゃんや」 麻衣が早々に昇り詰める様子に、滝川は抽送を止めてにんまりと笑う。 「こんなに早く何度もイっちまうと、この先疲れ切ってあんまり楽しめなくなるぞー」 絶頂の寸前で動きを止められて、身体の疼きと熱に焦れながら、麻衣は喘ぎに乱れる息で問うた。 「……はぁ…、…あぁ……は、あ……この…先…って、……ど…ゆう……」 「まさかこんなもんで終われると思ってたのか? ちゃんと言っただろ、今晩は泊まってけ、って」 「………まさ、か……夜通…し、とか……え…?………言わない…よ、ね……?」 微かに怯えの表情を見せる麻衣に、滝川は楽しげに笑いながら言い放つ。 「言う。だって俺こんだけじゃ全然満足出来てないもん。最後の一滴まで麻衣の中に出させてもらわないと」 「……うそ……だってさっき、……いっぱい中に……」 「あれ、俺言わなかった? 一度出して楽にしてやるって。まだ弾数残ってるよ」 「……信じ、らんない……この、エロオヤジ……破戒僧……生臭、ぼー…ず……っ」 「ハハ、髪も伸ばしてるし女犯もするしな。でもそーゆー時は絶倫って言って褒めてくんないと」 悪戯な笑みを口の端に乗せながら、彼女を決して達しさせない緩やかさで腰を送り、ぬめる内奥の粘膜を 滑らかに擦る。 「麻衣もいっぱい気持ちいいことされたいっておねだりしてたし。な?俺が元気な方が丁度いいだろ?」 「……んぅ…っ、……全、ぜ……っ、ちょう…ど、よく、ない…っ」 「そ?……でも麻衣のカラダも随分エッチだから、俺の方が保たないかもって心配なくらいなんだがなー」 その言葉と裏腹に、にやにやと笑う滝川の余裕が悔しく、麻衣は批難の眼差しを向ける。 「……そ、そんなの……ぼーさんがえっちなことばっかするからでしょ……」 「まあ俺がエロオヤジなことは否定はしない。でも、麻衣は相当エロい。エロすぎる。だって初めてなのに 中だけで感じまくりなんて実はすごい事なんだぞ? さっき指で責めてイかせた時、他のところ触る前に イッちまうから俺もちょっと驚いた」 「……そう、なの……?」 「そうなの。まあ例外はあるだろうが、大半の女の子は初めっから中イキなんて出来ないだろうな。 どっちかってーと最初はクリ責められてイッちまう方が多いんじゃないのか?」 「……なか、い…き…………く、く…り……?」 「あー、そのまんま、中だけでイクのが中イキ。…………うーん、クリトリスは…わかるか?」 「……あ……、ん、まぁ……そっちは……なん、とか………でも、そーゆー…恥ずかしい…単語は……、 できればあんまり…ハッキリキッパリ…言わないで、ほしいんだけど……」 恥ずかしい行為の最中とはいえ、さすがに具体的な名称を耳にするのは、初心な麻衣には強く羞恥を 覚えることだった。思わず顔を赤らめ、滝川から目を逸らす。 「だって仕方ねーだろ麻衣に性教育するためなんだから。で、おまえさんはその稀な特例なわけよ。わかる? これをエロいカラダと言わず何と言えばいいんだ?」 「………そん、なぁ………」 「でも俺はエロオヤジだし、麻衣が痛いだけじゃなくてちゃんと気持ち良くなってくれてるの すっげえ嬉しいから、そーゆーのは大歓迎だぞー。おじさんはそんなエッチな麻衣が大好きだ」 「………でも、でもあたし、そんなの……お、おかしいんじゃ…ないかな……」 「バカ。そんなに不安がるな。俺もおまえにだけは度を超してエロオヤジなだけで、普段はひっじょーに淡泊だ。 ぶっちゃけ女なんて面倒臭いと思ってるところもあったしな。………まあそれはともかくとして、おまえさんも 俺にだけ反応してエロくなってくれてるんだと思ったら俺はすげえ嬉しいんだけどな。……それにこーゆーのは カラダの相性っていうのもあるから。俺達の相性がバッチリだってことだろ?いいじゃん、最高じゃないか」 「………そう、……かな………」 「あーなんだよ、麻衣は俺と相性バッチリで嬉しくねーの?」 「それは嬉しいけど!……なんか…でも……」 「じゃあいいじゃん。細かいことは気にしなさんな。ここでこうしてるのは俺とおまえのふたりだけで、 ふたりとも嬉しいって言ってるんだから。こんな幸せなことはないだろう?」 「……うん、………まぁ………」 「何か問題でも?」 「…………ぷっ、………ふふ…っ………ない、ね………」 羞恥も不安も滝川の言葉に怒濤のように吹き飛ばされ、麻衣は思わず笑ってしまった。 いつだって自分の弱さを真っ正面から認めてくれて、そしてそこから優しく救ってくれるのも、 惑いを明るく吹き飛ばしてくれるのも、元気を与えてくれるのも、全て彼だった。 脳天気かもしれないが、互いが幸せならばそれでいい──彼女は強くそう思い、そう思わせてくれる 滝川を心から愛しいと思った。 「……しあわせだから、……まぁ…、いっか……」 「だろう?……じゃ、俺のこれ、もっとじっくり味わってもらわないとな。床固いし俺重いから、 背中とか腰とか結構痛いだろ?場所代わろうか」 「……ん、背中はあんまり痛くないけど、足の付け根は確かに………どうすればいい?」 「これ抜いてから交代するのと、抜かないまんまでカラダ動かすの、どっちがいい?」 「………そのまんま動かされると……その……もうイッちゃいそう、だから………、 あの……いっぺん……中から抜いてくれる?」 「りょーかい」 滝川は唇に軽くキスを落としてから身を起こし、彼女の中から己を引き抜いた。 目次へ 前へ(第五話) 次へ(第六話後編)
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レ陰謀クルーズ(前編) ◆J/0wGHN.4E 「ここにも…あったゲソ…」 深海の侵略者、イカ娘はそういって地面に落ちていた「それ」を拾う。 そして自分の触手を器用に扱い、近くの地面を掘る。 次に、自分の手で拾った「それ」―肘から先の無い人の腕をそっと穴に入れ、土を被せる。 付け足しておくとこの腕は爆☆殺されたディーノの残骸である。 最もそんな事はイカ娘にとっては知る由もない。 だが、また自分の知らない所でこうして罪も無いであろう人々が無惨に死んでいく様は、イカ娘の心を強く痛めつけた。 もうこの作業にも慣れてしまった。 海の家れもんから街へ向けて歩みだした矢先、イカ娘を迎えたのはおぞましい死屍累々であった。 最初にイカ娘が見つけたのは氷漬けになったバラバラ死体。 その死体を見るに30くらいの男性のようであり、死顔は苦しみに歪んでいた。 人は死ぬ瞬間、こんな顔をするのだろうか。 イカ娘はついそんな事を考えてしまい、背筋が凍った。 幸いデイバックを身に付けていたようなので埋葬した後で失礼ながら頂く事にした。 ついでに首輪も何かあった時に備えて回収しておく。 氷漬けの死体が土に埋まっていく瞬間、その男の死顔がどこか誇らしい表情に変わった…ような気がした。 次に見かけたのは指先や足で辛うじて人とわかる死体の残骸。 ここまで酷いともはや爆死にしか見えないのだが何故か周囲に焦げたような後が無い。 まるで内側から破裂していったようにも見える。 しかしそれでも、何とか残っていた残骸を埋めていく。 道中、血塗れた槍を見つけたので一応拾っておく事にした。 3番目にイカ娘が目にしたのは緑色の肌をした幼い少女のような死体と顔の無い猫のような動物であった。 少女の死体の方は首を折られたことが死因のようであり、死体の損壊は少ない。 年齢はあかりよりも幼いくらいであろうか。 動物の方は何らかの力によって顔から上が無惨に抉られている。 その幼い少女の死体はそれほど無惨な形ではないが、むしろイカ娘はそれに目を合わせたくなかった。 イカ娘にとってこんな幼女までこの殺し合いに参加させられているとは考えたくはない。 こういったものを見る事になるなら、まだ原型のわからないくらいバラバラ死体の方が良かった。 そして先ほど埋めた5つ目の死体。 腕だけは何とか見つかったがそれ以外は梨の礫であった。 「こんな事をする理由が…何所にあるんでゲソ…」 人だって自分だって魚や家畜を殺し、自らの糧としている。 それは自然の摂理であり、生きていく為に必要な事。 ただ殺すだけ殺して、命であったものを無為に捨てる。 人として、生物にとして、この上無い愚行である。 それを剰え人間という同族に、これだけ凄惨に殺めておいて野に捨て置く。 イカ娘は人間ではない、故に人と価値観も死生観も異なる。 だがそれでも、許せない物は許せない。 人にしろイカにしろ、このような惨い行いが許される摂理などあるのだろうか。断じてあり得ない。 自分は無力だ。 だから、誰にでもできる事を誰よりもできるようにしたい。 その怒りと悲しみは決意となり、イカ娘の歩みをより確かな物にした。 ¶ ¶ ¶ 「ここが光写真館ですね」 うさんくささに定評のある男、海東が言った。 遠目に見ると少し大きな民家程度の認識であったが、近くで見れば意外と豪華な外装であり、館と言った印象はある。 「へぇー、以外とゆっくりできそうじゃん!」 「でも大事なのは中身さ、酷かったらおっさんでも怒るからな」 何とあつかましいキチガイであろうか。 大人への態度だとか接し方という物すら何一つ録に学んでいない様だ。 育ちの問題なのか或は脳に障りでもあるのか。 そんな思いを心に抱きながらも、海東はまったくもって平静を乱さない。表情は緩み気味だが。 「こら、紹介してもらっておいてその態度はダメですよ!」 早苗がケンを宥める。 「いえいえ、構いませんよ」 何故光写真館に5人が向かったのか。 わずかに時は遡る。 § § § 「せっかくの部下なんだ、命令ぐらいしてもいいよな!」 唐突にケンが声高に言った。 「俺ちょっと疲れたからさ、休むトコとかない?」 このキチガイはどこまで自己中心的な人間であろう。 こんな戦の場において悠長にちょっと疲れたから休むなどとふざけた真似を。 貴様のような者の為に安息など毛頭も要らぬ。 首輪の解除の真偽はともかく、用が済めばこいつから真っ先に殺してやる。 「わかりました、近くに光写真館という施設があります。」 「私が知る限りではそれ也に休む空間はあるので行く価値はあるかと思われます」 「私も一応それが私の知る光写真館なのか確かめたいのです。いかかでしょうか?」 心の中で半ギレするムラクモとは対照的に海東は妙に協力的であった。 何故海東とやらはこのキチガイにここまで協力的なのか。 いや、それ以前に気になる言葉が出てきた。 「私の知る光写真館」とはどういう事なのか。 自分が地図を確認する限りでは何所にでもあるような施設と聞いた事も無いような施設の2種類しかなかった。 奴が元々この場所を知っていたのか。いや、それはないだろう。 ではなぜなのか。 こんな疑問を持つ者がもう一人。星君である。 先ほど自分が訪れた光写真館というものを、奴は知っている。 自分が訪れた時はホモ向けAVを見て一人シコシコ自慰行為に耽っているクッソ汚い野獣がいたくらいだったがあの施設に何か特別な物でもあるのだろうか。 「じゃあわかった、行ってやるよ」 「行ってやるよじゃありません!大人の人には敬語を使いなさい」 しつこく早苗が指導する。 このままでは早苗をこのキチガイから引き剥がすのは難しそうだ。 と、海東は思った。 だが、これで良い。少なくともこれで自分の目的の一つである光写真館を調べる事ができる。 首輪の取り外しの真偽だけでなくあの二人の情報についても聞いておいて損は無い。 こうして一行は光写真館に向かう運びとなったのだ。 「よし、合格!」 ケンが海東を認める。 「早速飯でも食おうぜ!」 「ってわけで早苗、何か持ってないか?」 早速ソファに座り込み、ごく自然な流れでケンは物乞いをする。 現在ケンの所持品は愛機であるエレクトリカル・スピードワゴンしかない。 デイバックなどの支給品はクッソ汚い野獣に略奪されてしまったのだ。 助けってもらった分際で何を抜かすか、とムラクモがまた心の中でキレる。 「私ので良ければどうでしょうか」 そういって海東は自分のデイバックから食料品を取り出し、ケンに見せる。 「お、じゃ遠慮なく頂くぜ!」 それに答えるようにケンは海東の食料に手を伸ばす。 が、その手は第三者によって阻まれた。 「ありがとうは?」 早苗である。 そういわれて、嫌々ながらもケンは海東に感謝する。 「はい、ありがとうございます」 「良いんですか海東さん」 「買いませんよ、それより私はここをもう少し調べたいので」 そういって海東は隣の部屋に入っていった。 「ふむ、見事な再現具合…いえ、本物でしょうね」 海東が独り言を呟く。 配置されている写真、部屋の作りや模様、調度品の位置、どれをとってもオリジナルと何ら変わりはない。 「ん?」 奇妙な違和感を感じた。 妙にイカ臭い、元々こんな匂いはなかったはずだ ふとこの部屋の片隅を見る。すると何か奇妙な跡があった。 大分乾いてはいるが何かを零したような跡である。臭いの原因はこれであろうか。 ここでまた海東はもう一つ異変に気がついた。 零し跡の側には再生機があるのだが、よくみるとDVDが差さったままなのだ。 そしてそれに接続されているテレビも電源がはいっている。 入り口に面した四人の居る部屋にもテレビはあったがあちらは電源が切れていた。 「だれかが、ここにいたんですかね。」 そういうことになる。 何のDVDかはわからないが興味を持ったので取り敢えず再生してみた。 ~真夏の夜の淫夢~ 第四章「昏睡レイプ!野獣と化した先輩」 テレビに映像が映し出され、そのようなテロップが流れた後二人の男が映し出される。 「ん~。いい時には結構いくね」 「う~ん・・・」 「結構楽だった?」 「こ↑こ↓」 「へぇ~、すっごい大きい・・・」 ガチャン!ゴドンッ! 乱暴な音を立てて映像の扉が開く。 「入って、どうぞ 「おじゃましまーす」 ギィー、ガッタン! 閉まり音も何所か乱暴である。 「いいよ上がって」 「あっ・・・」 「こっちも大きいっすね~・・・」 「まずウチさぁ、屋上、あんだけど・・・焼いてかない?」 (クッソ汚いし長いので少し中略) (なお、この間海東は普通にホモビに見入っていた模様) 「これ以上やると気持ちよくなっちゃう。もういいよ。ヤバイヤバイ」 「喉渇いた・・・喉渇かない?」 「あー、喉渇きましたね」 「何か飲み物持ってくる。ちょっと待ってて」 「はい」 何か嫌な予感がしてきた。 テロップの時点で疑わしかったがこれはもしやただの同性愛者向けのAVではないのか。 「ああ、気持ちイイ・・・。」 「イイよぉ・・・ハァ、ハァ・・・・アアッー、アッ、ンアッー、ンッ・・・ォゥ、ォウ」 「オォン!アォン! ハァ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ・・・」 「アアッー!ハァハァ、イキすぎィ!イクゥ、イクイクゥ・・・」 「ンアッー!」 「ウン、ウン、ウン、ウン、フン、ウン、ウン、ウン」 「ウンッ!ウンッ!ウンッ!ンッ!・・」 「イキそ・・・」 「いいよ、来いよ!胸にかけて!胸に!」 「アッー、胸にかけて、アッー!・・・ファッ!?」 ~二人は幸せなキスをして終了 ー ーー結局最後まで見てしまった。 「私の知る写真館には、こんなDVDはなかったはずだが・・・」 この床の零れ跡の正体も何となく理解できた。 これは恐らく映像にも映されていた体液という事になる。 余り想像したくないが、何者かがここでこれを見ながら自慰行為に耽っていたのだろう。 だからといって床を汚染したまま放置するのはいかがな物か。 心のどこかで無駄な時間を過ごしたと思う一方で気がかりなものが一つあった。 あの役者の中で遠野という人物を襲った男は田所と呼ばれていたのだ。 『野獣先輩…いや田所と言った方が良いか』 ここで海東は記憶を巡らせる。 第2回放送のたしかそのような死亡者が呼ばれていた。 田所と言った方が良いか、という呼び方をする事はつまりその呼び名が本来あるべき名である事を示す筈だ。 名字だけなら偶々という可能性もあり得るが、先ほどのテロップには「野獣と化した先輩」表示されていた。 これを略すれば参加者名簿にも記載されている「野獣先輩」となる。 憶測の域を出ないが偶然にしては奇妙な一致である。 もしこれが実際の参加者の情報であるならば他にも、参加者の情報を知る事ができる物もあるかもしれない。 ステルスマーダーとして行動する自分にはこれほど有益な物は無いだろう。 「いいヒントだ 感動的だな」 といった理由で海東は早速再生機とテレビ回りの引き出しなどを漁ってみた。 「飯の味に関しては流石にどうしようも無いか」 またしてもケンが不満を漏らす。 ムラクモはもうこんなキチガイに一々心の中でつっかかるのは面倒なのでやめる事にした。 「呑むが良い、オレンジジュースだ」 「腹の足しにはなるだろう」 割り切ったような表情で早苗がオレンジジュースに変えた水をデイバックから取り出しケンに差し出す。 あの女の事なのだから毒など入ってはいないだろうが、警戒に越した事は無い。 実際に毒がはいっていたにしてもこうして渡してしまえばキチガイも処理できるのだから一石二鳥だ。 ケンにジュースを取り出した後、ムラクモも食料品を取り出して口に運ぶ。 凡人というものはいつも周囲に流されてばかりでまったくもって芯が無い。 流石に自分もここで周りに合わせて食べておかなければこの女に妙な情をかけられてしまうだろう。 それは正直言って癪に障るのでそういう庇護念はしばらくはこのキチガイに向けてもらいたい。 『首輪の話だが、どうなった?』 食事時が一段落した所でムラクモ支給品のメモに書いた文字をケンに見せる。 所謂筆談である。 これで首輪に盗聴機能があったとしても大丈夫な筈だ。 「あ、わりぃ、ちょっと飯食った跡だからさ、食休み、休ませて」 素っ気ない返事とともにケンは寝込んでしまった。 同時にムラクモは、手に青筋を浮かべながらメモ用紙を握りつぶした。 「おや、星君どうしたんですか?」 早苗が問いかける。 その目線の先にはその場を離れようとする星君の姿があった。 「うん、気になる事があったんでちょっとこの館を調べてみたいと思ったんだDA」 そう答えると海東とは別の部屋に入っていった。 運のいい事もある物である。 海道や星君とも分断できた事だしさっさと首輪の話を聞き出したら、いっそ早苗ごとこのキチガイを殺してしまおうかとムラクモは考えていたが、ふと思いとどまった。 海東という男、おそらくは黒と見て間違いないだろうが何故こんな無力そうな女を殺さないでいるのか。 このキチガイと違って首輪の解除の話みたいな有益な情報も持っていない。 自らの手を汚したくないにしても自分が見ていない間に何時でも殺せたはずである。 何か生かす理由が? ムラクモが自らへ問いかける。 そして、その答えが出るのは比較的早かった。 ーなるほど、そういう事か。 確かに、生かしておいて得策かもしれない。 これからも、たくさんの仲間を引き入れるのならば。 あの男、実際何を考えているかは審らかではない。 が、スタンスとしては自らの手を汚さずこのゲームに乗る。 これが一番早苗を生かす理由を含めてしっくりくるという物だ。 早苗を生かす理由。 推測に過ぎないが海東はあの女を自分の潔白のシンボルにしたいのではないのか。 まず第一印象の時点で海東を心から信頼できるような人間はそう多くはないだろう。 だが早苗はそんな海東に憧れの念すら抱いている様だ。 早苗という女ははっきり言って頭の程度はそれほど高くなく、疑う事すら知らない。 騙すのもさほど難い事ではないだろう。 信頼されている人間が居れば、それだけでその人物の信頼性を大きく引き上げる事になる。 東風谷早苗、考えてみればこれほど良い駒もなかなかないというものである。 精々自分もそれに肖らせてもらうとしよう。 …ガチャリ。 「!」 「すまない、ここにスカートを履いた少年が来なかったか…あっ!」 ⌘ ⌘ ⌘ 「うん、気になる事があったんでちょっとこの館を調べてみたいと思ったんだDA」 少し面倒な事になった。 星君はそう思う一方で丁度いい余裕ができたかもしれないと感じた。 海東という男は元々ここに住んでいたような素振りは無いのにこの光写真館を知っていた。 あの男が何か特別なのか、それてもこの施設に何か彼に知り得る要素があるのか。 本来なら自分が彼に詰め寄るのが一番手っ取り早い話である。 だがあの男の表情が、星君にそれを躊躇わせた。 /. /⌒ヽ ∨,.≦三== .、ヽ. \ ,.イ. /∠⌒ヽヽ_彡' ⌒ヽ`ヽ ヽ ' , ヽ //. / /´ ⌒` ー '´ ヽミ、 ', . 丶 //. / / . . ヽミ、 ', . .丶 〃. . 〃 . . ',ミ;、 . . . ヽ 〃. . . i| . . ミハ . ヽ. . ヽ ,' . 儿_,.-='≧ . .;≦三ニ .ヽ'ミ人. . . ヽ、._ ',_ 、i . ;レ'イ'´_,..,_`ヽ. . _,..,_ `ヾ\ .≧==ニ二 > 、 ヽ._彡. リ ;'_イ'じノヘ '; . . ∠じリ>.、_ \≧==ニ ='⌒ヽ ._,.イ. ノ. . `¨¨⌒ ; ' ; . . . . ⌒ 乂 ー-=彡ヘ ' . ≧=ー . 彳. . ,' . ; . . . . 从' .、 .ヽ、)′ 三 ._彡'. 从 . .イ ;' . , 、 . |lヽヽ` .、 . 〉 /. /. ;厂ヘ. . / `'ヘ、_ , - ' \ リ ヽ \` .、 乂 . 人__八 .′ _,..,_ _,,..、 〉 从_ .ノヽ冫〉 ヽ ;' . ∧ <L.T^Y^レイ / . ////イ′ ヽ\ /. ト、 . \`'┴ イ/ . ,イ|// . / \|l ノ| ';.丶 `¨¨ ´ , , ' |/, ; ;' 〃 〈│ '; .ヽ . ,. ' / . |八 ノノ 八 、;ゝノ . ヽ、 . ._.; .;' ' . |、彡' ` 爪 . ;ハ、 ,イ│\ . . / | .\ ↑常にこんな顔をしているのだ。怪しすぎる。 何だあのいかにもうさんくささの漂う貼り付けたようなにやつき方は。 まるで『私は何か企んでいます』と書いてあるような物だ。 元々人間なんてハナから信用していないが、あの顔はその不信感に一段と磨きがかかっている。 今はこうして穏健派を装って居る以上、今あの男が本音を吐くとは思いがたい。 何か都合の悪い事でも聞かれれば適当な嘘を吐いて自分たちを混乱させてくるだろう。 できるだけ、海東に依存するのは控える。 そして、解決できる謎は自分で解決していく。 そう思ったが故の、この館の探索行動であった。 考えてみればこの人間の集まりで利用できそうな者は少ない。 ムラクモといっていた少年だが彼も少し妙だ。 海東程露骨ではないがあの目つき、産まれもって身に付いているにしては鋭すぎる。 それは非力な少年の眼というよりは獲物が隙を見せる瞬間をじっと待ち続ける蛇のそれに近い。 仕草や歩き方も気になる事がある。 背丈からしてだいたい年齢は10にも満たないであろうが、それにしては隙がない。 常に周囲に気を配り続けており、後ろに立っていても見られているような気分だった。 結果的に見れば、恐らく何らかの訓練を受けていると見て間違いない。 悟られない程度には警戒しておくべきだろう。 そんな事を考えながら星君が入った海東とは別の部屋。 少し広いが物置きの様だ。 棚にはDVDやらBDやらが仕舞われており、下の方には今では珍しいVHSなどが所狭しと敷き詰められている。 床に置かれたカゴを見るとフィルムが入っていた。 星君は直感的に匂うと思い、DVDやらBDやらがはいった棚の方から気になる物が無いか探した。 「…?」 見つけた。気になる物を。 [人造昆虫 カブトボーグ V×V]とパッケージに書かれたDVD。 問題はそのパッケージイラストである。 さっき自分が戦っていた人間ーーケンというらしいーーがこのパッケージイラストに写っている人物のそれではないか。 ケンという奴はこうして人間達の間でメディアにもよく顔をみせているのか。 となるとこの殺し合いに参加させられる人間は一定の世間への知名度を参加者の判断基準にしているのだろうか。 だがそれなら何故自分が参加させられている? 美少年の転校生という芝居書きの元で泉研に近づく予定はあったが、テレビに出た覚えは無い。 仮にそんな事をしたらかえって動きにくくなる。 自分はジュラル星人の中でも単体で見ればかなりの強さを持つエリートとと自他ともに認めている以上、そんな事をする理由も無い。 何はともあれ、内容も含めて後ほどケンに聞いてみる事にしよう。 そうして人造昆虫 カブトボーグ V×VのDVDをデイバックに入れる。 ついでに同じ物もいくつかあったのでそれも纏めていれておいた。 デイバックにDVDを入れた後、軽く外の様子を確認し、見ている人間が無い事を確かめた。 その上で星君は物置き探しを再開する。 今度は先ほどの棚とは違う棚を漁ってみた。 見るとこちらの棚の上には妙な物がある。 透明のケースの中に入れられた精巧な人形のようだ。 大きさは8センチから15センチ程であり、どれも綺麗に並べられている。 ここでまた一つ、気がかりな物を見かけた。 ケース内に並べられた人形の内の一体だが、それが早苗とか言う女の容姿と一致する。 緑の髪、白い装束、青い袴、どれをとっても大きさ以外は本人と瓜二つだ。 彼女もまた精巧な玩具が作られる程、人間共の間で著名な存在なのだろうか。 逆の考え方もある。 彼女らがこのような作品を模した服装を着ているとしたら。 となると海東も何かの人物の模倣をしているのだろうか、その割にはただのフォーマルな服で見分けがつきにくいが。 これも機会があれば早苗に聞いてみる。 早苗という人間は海東やムラクモと違って表情や目つきに一切曇りが無い。 根っからの正直者で今も穏健派として動いている。 あの女なら嘘を吐く事は無いだろう。実際駒として利用できそうだ。 早苗の人形をデイバックに入れ、星君は再び棚の中を探す。 こちらにもDVDやBDが入っている様だが、ちらほらゲームソフトの類いも見られる。 …[Fate/Zero] …[日常] …[DEAD RISING] …[HUNTER×HUNTER] …[探偵オペラ ミルキィホームズ] …[THE IDOLM@STER] …[チャージマン研] !? ハッと気付いたような顔で[チャージマン研]のDVDを見つめ直す。 星君が驚くのも無理は無い。 何故か、理由はそのDVDのパッケージイラストにあった。 見間違えようが無い。それは自らの宿敵である泉研が大きく写し出されているのだ。 何故研がここに。否、やはりと言うべきなのだろうか。 …ガチャリ。 「!」 物音。 同時に星君は部屋の扉の方に目を向けるが、異常や変化は無い。 ここではない別の部屋からの物音の様だ。恐らく入り口の広間からだろう。 扉の向こうから声が漏れる。 「…すまない、ここにスカートを履いた少年が…」 誰かが来た。 どうせ人間だろうが口ぶりからして襲撃が目的ではないだろう。 取り敢えず目欲しい物はそれなり見つけた事だし探索はもう切り上げても良い。 DVDをデイバックに入れ、来訪者を確認するために星君は部屋を出た。 ♩ ♩ ♩ 「ヴォー…」 結局こんな日暮れまで探してしまったが、未だ音沙汰はない。 麗華達と別れてから三、四時間は経っただろうか。 遊星はどこか施設に居るのかもしれないと踏んで道中ホテルや王宮も見て回っていた。 だが両方とも蛻の殻であった。 建物を見ても半壊しており、安全は保証できそうにない。 皆ここを拠点にしている可能性は低いだろう。 そういった事情の中遊星が地図で見つけたのは光写真館と呼ばれる場所であった。 写真館と言うと美術館や博物館のような施設のイメージが沸く。 人が落ちつける場所かと言われると微妙だがそういった場所にも医務室の類はあるだろう。 「ここが…光写真館…」 今、遊星の目の前にある建物こそ光写真館である。 外見としては民家が二つくっついたくらいの大きさに少し洒落の利いた外装が施されている様だ。 一見床屋のようにも見えるそれは美術館や博物館のような施設のイメージを持っていた遊星を意外に思わせた。 それなりに急いでここに来たつもりだが時計を見るともう5時15分を回っている。 次の放送はここで聞く事になりそうだ。 窓から光が漏れている。 中には人が居ると見て間違いないだろう。 遊星はDホイールから降り、入り口のドアを開ける。 「すまない、ここにスカートを履いた少年が来なかったか…あっ!」 「誰…ですか?」 東風谷早苗が素っ気なく返した。 まずい、順番が逆になってしまった。自己紹介を先にしておくべきだった。 とは言え、自分が探し求めていた人間を見つけ出す事ができたのは大きな成果である。 当のスカートをはいた少年、ムラクモにも自分の事は覚えてくれていた。 恐らく、表情からしても確実にスカートを履かせられた事をまだ怒ってはいる様だが。 ムラクモの事は権兵衛が言っていた早苗達が見つけてくれた。 今生きているかはわからないが彼には感謝しておかなくてはなるまい。 早苗達は今参加者達を味方につけ大きな集団になっている。 自分が協力しない理由は無い。 現在遊星は早苗達の中に溶け込み、情報交換を進めていた。 今までであった人物、自分の居た世界の話、この会場に対する推測。 恐らく教えても問題ないだろうと判断した範囲まで遊星は話した。 情報交換の中で泉研には気をつけてほしいと星君に教えられた。 話からして朝方出会った黄色の少年の事だろう。 確かにあれは正義の味方という割には容赦がないというか、キチガイ染みた様子だった。 やはり殺し合いに乗っていたのか。 教えても問題ないだろうという範囲を選択する、砕いていえば全部教えない事であるが端から見ればそれは妙かもしれない。 別に遊星は早苗を疑っているわけではなかった。 問題は自分がこの館に入りしばらくして部屋から出てきた男ー海東純一というらしいーだ。 『海東には気をつけてください。明確な根拠があるわけはありませんが……あの男は怪しいです」 遊星は記憶を掘り起こす。 昼頃出会った権兵衛が自分との別れ際に聞かされたセリフである。 (海東純一か…確かに怪しいな…) いわれてみれば確かに怪しい所がある。 早苗の憧れる人物だというが… __ ,.,.,. -‐==ミ x==‐- .,.,., __ /. . . . . } { . . .`ヽ . /''"´ ̄ ̄ ``` .、 〃´´´  ̄ ̄`ヽ / _, ==ミ ヽ , ==ミ,_ ヽ 〃_xく( じ )`ヽ . ,ィ ( じ )`ヾx_ ^ニ二二ニ''^ ノ . } ^ニニ二二ニ´ ⌒>‐-- 彡 . | ヾ.. --‐<⌒ / . | ヽ . | i /^ヽ. | i ヽ { 〃 . } / ー-、 .-‐ '' \ / ヽ. __ ,ノ ヽ { 、_ } __. . . . . . . .J. . . . . . . .__; ヽ i^Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y^i .ノ \!._{__|__}_.!/ 、 , `二二二二´ ↑常にこんな引きつったような笑顔をした人間を信じろと言う方が難ではないのか。 雰囲気からして、少年少女達を纏める冷静な大人、と言った印象を受けるがそれには表情が場違いである。 人は見かけによらないとは言うが、初対面の人間には正直第一印象でしか判断できない。 権兵衛もまた同じ気持ちであったのだろう。 一応本来の海東はこんな朝から晩までオリジナル笑顔を振りまくような人間ではないのだが。 このバトルロワイアル会場はニコニコ動画バトルロワイアルであるという事を忘れてはならない。 奇妙なハサンダンスが強化されていたアサシン同様、知らぬ間にニーサンにもニコニコ補正がかかっているのだ。 こんなうさんくさい表情に本人が気づかないのも、その補正の一環である。 sm162 どうしてD・ホイールと合体しないんだ・・・ 時系列順 sm163 レ陰謀クルーズ(後編) sm162 どうしてD・ホイールと合体しないんだ・・・ 投下順 sm163 レ陰謀クルーズ(後編) sm150 伏線回収した淫夢くんUC 不動遊星 sm163 レ陰謀クルーズ(後編) sm153 人探 HITO SAGA イカ娘 sm163 レ陰謀クルーズ(後編) sm149 自分から騙されていくのか(困惑) 東風谷早苗 sm163 レ陰謀クルーズ(後編) sm149 自分から騙されていくのか(困惑) 海東純一 sm163 レ陰謀クルーズ(後編) sm149 自分から騙されていくのか(困惑) ムラクモ sm163 レ陰謀クルーズ(後編) sm149 自分から騙されていくのか(困惑) 龍昇ケン sm163 レ陰謀クルーズ(後編) sm149 自分から騙されていくのか(困惑) 星君 sm163 レ陰謀クルーズ(後編)
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勇気のアイテム(前編) ◆gFOqjEuBs6 行動の果てには「結果」という答えが待っている。 例外は無い。そこに彼らの力は及ばない。 いかなる相手にでも命令を下せる絶対遵守の力を持っていようと。 いかなる相手にも屈しない、時空さえも超越した力を持っていようと。 その必然からは逃れられない。 幼い頃に失ってしまった、大切な人の仇を討つ為に。 たった一人の妹が幸せに過ごせる場所を創る為に。 同じ目的を胸に、動き出したのは二人の男。 だがしかし、世界は、人々は――― 彼らの思惑とは別に、「結果」を突き付け、その続きを求めて来る。 その続きが世界を紡いで行くというのなら、誰かが追うべき「罪」は。 受けるべき「罰」は、一体どこにあるというのだろう。 ◆ シャーリー・フェネットの父は、殺された。 シャーリーの記憶に残る父との思い出が、走馬灯のように流れては消えて行く。 記憶の中の父は、何よりも自分を愛し、大切にしてくれた。 「ゼロ」に殺される少し前、父は自分と、ルルーシュの為にチケットを手配してくれた。 二人の仲が上手く行くように。そんな淡い願いを込めて、父が用意してくれたのだ。 優しい父親だった。誰よりも、何よりも、優しい父親だった。 そんな父が、誰に。一体何故、殺されなければならなかったのか。 その答えは至って明解。 全ての元凶は、「ゼロ」。 仮面の革命家ゼロが、弱者の味方と謳いながら、殺戮を繰り返すゼロが。 何の罪も無い父を、無惨にも殺したのだ。 あの日、河口湖でゼロは言った。 「撃っていいのは、撃たれる覚悟のある者だけだ」と。 力を持つ者が、力を持たない者を傷付けることは断じて赦さないと。 自分は力無き者の味方だと、確かにそう言ったのだ。 それなのに、軍人でも無く、特別な力を持っている訳でも無い父は殺された。 それが一体何故なのか。ゼロが何故父を殺したのか。 それは誰にも解らない。 だが、一つだけ解っていることがある。 それは、“父を殺したゼロが、今自分の目の前で気絶している”という事。 無防備に、それも手負いの状態で。自分の目の前で眠りこけている。 それだけ解っていれば、今のシャーリーには十分なのかも知れない。 この男が、優しかったお父さんを殺した。 お父さんを殺した男が、今目の前で気絶している。 そして、気絶している相手の命を奪うことなど、武器さえあれば誰にでも出来る。 「お父さんの仇……私が、ゼロをッ……!!」 今なら殺せるのだ。憎きゼロを、この手で。 その一心で、シャーリーは爆砕牙を、その鞘から引き抜く。 父の仇を討つ。今なら、特別な力を持たない自分でもゼロを殺せる。 爆砕牙を握る手に力を込めて、切っ先を振り上げる。 あとは、これを振り下ろすだけ。 これを振り下ろす事で、お父さんの仇を討てるのだ。 その一心で、シャーリーは目を固く閉じ、爆砕牙を握る手をゼロへと振り下ろ―― 「んっ……んん……」 「―――ッ!?」 ――せなかった。 それは、シャーリーが爆砕牙の刃を振り下ろそうとした瞬間だった。 シャーリーの耳に入ったのは、ゼロの小さなうめき声。 それに気付いたシャーリーが、ゆっくりと目を開ける。 目の前で眠っていた筈のゼロが、苦しそうに顔をしかめ――― やがて、閉じられていた目が、うっすらと開いた。 ―――ど、どうしよう……ゼロが起きちゃう……!? 狼狽したシャーリーは、爆砕牙を握る手を緩め、その刀を畳へと落とす。 周囲をキョロキョロと見回し、自分はどうすればいいのか、思考を巡らせる。 もしもゼロが起きてしまえば、お父さんの仇を取るのはより困難になってしまう。 だがそれは同時に、何故父を殺したのか。ゼロは弱者の味方では無かったのか。 それを聞き出すチャンスでもあるのだ。 考えた末に、シャーリーが出した結論は――― ◆ 「……ここは……」 天道総司は目を覚ました。 うっすらと開いた目から見えるのは、天道にとっては見知らぬ場所。 何故自分がこんな所にいるのか。それは当の天道にも皆目見当が付かない。 状況を把握するために、天道は思考する。 これまでの自分に何が起こったのかを、寝起きの頭をフル回転させて思い出す。 自分は確か、あの青いワームを倒した後、クロックアップでフェイト達の前から姿を消した。 そこまでは天道にとってもはっきりとした記憶だ。問題なのは、その後。 その後の記憶が無いのだ。天道はただいつも通り、樹花の待つ家へと帰るつもりだった。 それなのに、気付いた時自分は、見知らぬ人々が集められた空間に束縛されていた。 やがて目にしたのは、大学生くらいの少女の、死の瞬間。 首からしたを残し、頭を爆ぜさせて、少女は絶命した。 流石の天道にも、何が何だか訳が解らなかった。 行動をしようにも、自分は動けない。 天道がいくら念じても、カブトゼクターも、ハイパーゼクターも現れる気配を見せない。 状況に流されるまま、天道の記憶はまたも暗転。 次の瞬間、天道は深夜の森の中に立たされていた。 状況を整理しようと、支給されたデイバッグの中を探る。 その時点で天道は完全に油断していた。まさかいきなり敵の襲撃を受ける事になるなんて、思いもよらなかった。 現れたのは、黒い“マスクドライダー”。 デイバッグの中に入っていた刀で応戦するも、最初に受けた一撃が致命的だった。 刀と刀を激突させる度に天道の体力は消耗していった。 それでも、ここで訳も解らないままに死ぬわけにはいかない。 天道はひたすらに黒いライダーから逃げながら、川を目指した。 そんな時、途中で聞いた電子音は、剣崎の持つ、ブレイドの電子音に酷似していた。 だが、それを認識したのも一瞬。 黒いライダーの攻撃―――恐らくはライダーキック。 それを受ける前に、自分はすぐに川に飛び込み―――そこで記憶は途切れた。 「ここはどこだ……俺は一体……」 先程言った台詞を、もう一度言う。 自分が目を覚ました時、自分の周囲は廃墟と化していた。 そこから想像するに、ここはシブヤ隕石の落下地点――所謂エリアXと呼ばれる場所だろうか? だが、何故自分がエリアXに居るのかが解らない。 まさか、今までの出来事は全て夢だったのかとすら思えて来た。 だが、夢にしてはリアルすぎる。かといって、先ほど黒いライダーに受けた傷が体に見受けられないのは明らかに可笑しい。 とすると、やはりあれは夢だったのか? それともこっちが夢なのだろうか? 天道が周囲を見渡すと、自分のすぐ側に居た、一人の男が視界に入った。 「お前……」 「やっと起きたか、天道」 刹那、天道は表情をしかめた。 目の前にいるのは、仮面ライダーガタックとして、共に戦って来た男――加賀美 新。 何故こんなところに加賀美がいる? 何故こんなところに、こいつと二人きりでいなければならない? あらゆる疑問が頭を駆け巡る。考えても考えても答えは出ないというのに。 やがて加賀美は、ゆっくりと天道の眼前まで近寄ると、地べたに座ったままの天道に手を差し延べた。 「ったく、いつまで寝てるんだよ。お前は」 「……加賀美、ここはどこだ。何故俺達はこんな所にいる」 加賀美の手を掴み、起き上がりると、天道は真っ先に質問した。 あの会場に集められ、デスゲームに参加させられた人達は。 みせしめとして殺されて、無惨にも命を散らした少女は。 俺に襲い掛かって来た黒いライダーは。 今抱いている疑問を加賀美にぶつける。 だが、加賀美は何も言わない。ただいつも通り、涼しい笑顔を浮かべるのみ。 「なぁ天道。お前、前に言ったよな」 「加賀美、質問に答え――」 「“アメンボから人類まで、地球上の全ての命を守る”って」 「…………」 天道には、何が何だかわからなかった。それ故に会話が止まる。 そもそも加賀美が何を言いたいのかがさっぱりわからない。 ただ加賀美は、天道の言葉を無視し、自分の言葉を続けるだけだ。 いつだって、加賀美は天道のペースに巻き込まれていた筈なのに、珍しく加賀美が話を続ける。 加賀美とこんなにも会話が噛み合わないのは、天道にとっても初めてだ。 「それなのに、お前はこんなところで何をしてるんだ?」 「……何だと?」 「誰かが助けを求めてるっていうのに、お前はこんな所でいつまでも寝てていいのか?」 そんなことは聞くまでも無い。 誰かが助けを求めているのならば、天道は直ぐにでも助けに行く。 それが天道のいう、“天の道”だからだ。 だが、天道は加賀美に言い返す事が出来い。 頭では解っていても、行動に移せなければ意味が無いのだ。 事実天道は、何をする事も出来なかった。 あの少女が殺された時も。 あの黒いライダーに襲われた時も。 救うことが出来なかった。戦うことも出来なかった。 「……お前はそんなに小さい奴だったのか? アメンボから人間まで、全ての命を守るって言葉は、嘘だったのか?」 「………………」 「俺は、お前がそんなでっかい奴だからこそ、お前を越えたいと思ったんだぞ?」 「………………」 天道は何も言わない。何も言えない。 ここまで言われても、何も言い返せない。 こんなことはやはり初めてだし、何よりも悔しかった。 ならば自分はどうすればいい? 答えはとっくに出ている筈だ。 天道がすることはとっくに決まっている筈だ。 自分は何がしたかった? 何を守りたかった? そんな事を考えていると、天道の耳に、怒声が響いた。 「天の道を往き、総てを司るんじゃなかったのか! 天道ッ!!!」 言われた瞬間、ハッとした。 そうだ、天道が往くべき道はただ一つ。それが天道の歩む道。 加賀美はまさか、それを俺に気付かせるためにこんなことを言いに来たのか? それは誰にもわからない。だが、天道には何故か、そんな気がした。 どちらにせよここまで言われて何も出来ないようでは、天の道を往く者として失格だろう。 気付いた時には、天道の表情には、いつもの不敵な笑みが浮かんでいた。 「全く……お前は面白い奴だ……!」 「天道……!」 「ああ、解ってる。俺は“天の道を往き、総てを司る男”だからな」 加賀美の表情にも、いつも通りの明るい笑顔が戻る。 加賀美と笑みを交わすと、天道はちらりと、天を見上げた。 太陽は今も空にギラギラと輝いている。 その光は、天道の心に、再び不屈の心を宿らせるのは十分だった。 だから天道は、自分のやるべき事を。これから自分がやることを高らかに宣言した。 「俺は全ての参加者を救い、ひよりも救ってやる!!」 「……ああ、それでこそ天道だ!」 天道の言葉を聞き届けた加賀美は、天道に踵を返し、歩き始めた。 何処へ行く気か。そんな野暮な事を聞く天道では無い。 加賀美と肩を並べて、天道も歩き始める。 大股で歩く二人の姿は、まさに戦場に赴く戦士の如く。 暫く真っ直ぐに歩いた二人は、やがて違う方向へと歩き始めた。 天道は右。加賀美は左。背中合わせに、歩いて行く。 その先に待っているのは。 二人の帰りをずっと待ち続けていたのは。 二人の“仮面ライダー”と、共に戦い続けて来た、二台のバイク。 天道の視線の先に待つのは、赤いバイク―――カブトエクステンダー。 加賀美の先に待つのは、青いバイク―――ガタックエクステンダー。 二人は同時にバイクに跨がる。 だが、どういう訳かカブトエクステンダーには鍵が刺さっていなかった。 自分のポケットを探る。だが鍵は見当たらない。 そうしていると、加賀美が天道の名を呼んだ。 天道が振り向くと同時に、加賀美が小さな鍵を天道に投げ渡した。 「忘れものだ、天道」 「……何故お前が鍵を持っている」 「さぁな? それより天道、お前はこれから何処へ向かうんだ」 「……そうだな。俺は俺の道を往く……お前は、お前だけの道を往け。」 「ああ、それでいいんだ。俺は俺のやり方で、俺の信じる道を進んで行く。 だからお前はお前らしく、お前だけの道を……天の道を往けばいい。」 加賀美の言葉を聞いた天道の顔には、小さな笑顔が浮かんでいた。 しかしそれは天道だけでは無い。加賀美にとっても同じ事だ。 二人の表情は、まさに友達同士で笑い合っているかのような。 信頼という名の絆で、堅く結ばれた者同士の笑顔であった。 「……またな、加賀美」 「ああ、またな。天道」 その言葉を最後に、二人は走り出した。 “さよなら”では無く、“またな”と。 また、一緒に戦える時が来ると信じて、二人はそれぞれのバイクに跨り、それぞれの道を歩み出した。 加賀美はガタックエクステンダーに。 天道はカブトエクステンダーに。 バイクのエンジンを入れ、アクセルを吹かす。 二人の行く道は違う。されど、二人のたどり着く場所は同じだ。 ――同じ道を往くのは、ただの仲間に過ぎない。 ――別々の道を共に立って往けるのが、“友達”なんだ。 その言葉を胸に、天道は己の道を進む。 そう誓った時であった。 カブトエクステンダーに跨がった天道の意識が、段々と揺らぎ始めた。 また、あの時と同じ感覚。いや、それよりも、どこか眠くなるような感覚だろうか。 だが、天道はその感覚に抗いはしなかった。 ただ流れるままに、天道は目を閉じ―――やがて再び、天道の意識は失われた。 ◆ 「ここは……?」 天道は目を覚ました。 今まで長い夢を見ていたような気がする。 まだ起きたばかりの頭は、夢の内容を完全には覚えていない。 だが、天道の意識が覚醒するに従って、段々とそれも思い出していった。 ――そうか……俺は……ッ!? 夢の中での加賀美との会話を思い出した天道は、ゆっくりと起き上がる。 それに伴い、脇腹への激痛が天道を襲う。 それでも何とか起き上がると、自分の脇腹にぐるぐると巻かれた包帯から、見るだけで痛々しい鮮血が滲み出ていた。 ――そうか……あの時のライダーにやられた傷か 納得すると同時に、自分のすぐ側でうろたえる少女が目に入った。 この包帯は彼女が巻いてくれたのだろうか? 措置はとても上手いとは言えないが、随分と身体が楽になった実感はある。 それだけ自分が長い間眠っていたということだろう。 それはさておき、まずは状況を把握したい。 故に天道はひとまず、少女に声を掛ける事にした。 「お前は……」 「あ、貴方が……ゼロ……!」 「……何だと?」 「どうして……どうしてお父さんを殺したの!? お父さんは、何も悪い事なんてして無かったのに!」 少女は、落ちていた刀を拾い上げ、自分へと突き付ける。 天道はただ、そんな少女を見詰めている事だけしか出来なかった。 ◆ ずっと眠っていたゼロが、ついに目を覚ました。 シャーリーは、すぐに落ちた爆砕牙を掴み、ゼロ――天道に突き付ける。 それは咄嗟に取った行動。だが、その行動にはなんの迷いも無い。 シャーリーが聞きたい事はただ一つだ。 「どうして……どうしてお父さんを殺したの!? お父さんは、何も悪い事なんてして無かったのに!」 ゼロへの憤りを、目の前の男へとぶつける。 自然と目に涙が滲むのが、自分にも解った。 だが、天道は何も言わないままに、沈黙が流れる。 天道は口を開く様子が無いし、ただ自分を睨んでいるだけ。 やがて、痺れを切らしたシャーリーは、爆砕牙を突き付けたまま、怒鳴った。 「ねぇ、何とか言ってよ……ゼロッ!」 「何の話をしているのかは知らないが、俺はお前の父親を殺した覚えは無い。人違いだ」 「嘘ッ! じゃあ、これは何なの?」 よくも抜け抜けとそんな事が言える。 彼がゼロだと言うのは、彼のかばんの中身が物語っているというのに。 どうしてもとぼけるというのなら、その証拠を突きつけてやるまで。 シャーリーは、天道の傍らに落ちていたデイバッグを引っ張り出した。 中に入っている物は言うまでもない。 彼がゼロである証拠――ゼロの仮面。 「これは俺の物じゃない。あの女が勝手に―――」 「誰がそんなことを信じるっていうのよ!?」 だが、それを見ても天道は動じない。 それどころか、冷静にいい返してくる。 天道が言葉を言い終えるのを待つ事無く、シャーリーが再び怒声を響かせた。 シャーリーの声は、恐らく温泉施設の外にまで響いたであろう。 静かなこの空間で大声で叫べば、そうなる事は簡単に想像がつく。 だが、そんなことはどうでもいい。 今のシャーリーには、最早殺し合いなどどうでもいいのだ。 今目の前に、ゼロがいる。今こうしてゼロと対峙している。 ゼロはお父さんを殺した。ならば何故殺したのか。 それだけがシャーリーの思考を完全に支配していた。 「あの時言ったのは、武器を持たない全ての物の味方だっていうのは、嘘だったの!?」 「………………」 「強い者が、弱い者を襲うことは断じて赦さないって、嘘だったの!?」 「……ああ、そうだ」 「―――なッ!?」 あっさりと嘘だと言ってのける。 だが、天道はシャーリーの質問に答えた。 それはつまり、自分がゼロだと言っているような物だった。 だが、シャーリーの返事を待つことなく、天道は続ける。 「おばあちゃんが言っていた。“強きを助け、弱きをくじけ”ってな。強い者が、生き残れるんだ」 「だから、お父さんを殺したの!? やっぱりゼロは、正義の味方なんかじゃない、ただのテロリストだったの!?」 「何度も言わせるな。俺はそのゼロって奴じゃない。人違いだ」 この期に及んで、まだ惚ける。 そんな天道に、シャーリーは余計に腹が立った。 刀を構え、天道を見据える。 強き者が生き残るというのなら、今自分がゼロを倒せば? それならばゼロには文句は言えない筈だ。ゼロも同じ事をやったのだ。 父の仇を討つ為に、シャーリーは爆砕牙を握り締める。 この手で人を殺せる自信はシャーリーには無い。恐らくは殺す勇気も無い。 だが、それでも、シャーリーはこの憤りをぶつける為に、爆砕牙を握った。 ――その時であった。 どん、と。今自分達が居る個室の襖が蹴破られた。 入口から堂々と現れたのは、一人の男と、一人の女の子。 シャーリーと天道の視線は入口に集中する。 二人が口論を続けるこの部屋に入って来たのは―― 浅倉威と、高町ヴィヴィオの二人組であった。 ◆ 「貴様……浅倉威か」 「ハハッ、俺を知ってるのか!」 天道の言葉に、浅倉が嬉しそうに笑う。 ただでさえ自分にとって有利な状況とは言えない中で、この二人が介入してくる事は、天道にとっては非常に拙いことだ。 まず天道の知る浅倉という人物は、まず間違いなくこのデスゲームに乗るだろう。 元々イライラしたからという理由で連続殺人を犯す様な人間だ。そんな事は簡単に想像がついた。 といっても、天道の知る浅倉と、今天道の目の前に立つ浅倉は厳密には別の世界の人間―――つまりは“別人”なのだが。 実際には、どちらの世界でも浅倉がして来た事に変わりはない。 故に、この状況は非常にまずい。 自分は脇腹に傷を追い、シャーリーはとてもマスクドライダーシステムを持った男と戦えるような人種ではない。 浅倉にぴったりくっついている少女については――保留だ。 ぴったりと浅倉にくっついている事からも、どうやら浅倉に懐いているらしい。 浅倉にしても、こんな女の子一人、殺そうと思えばいつでも殺せたはずだ。 それなのにここまで懐かれるまで一緒にいたという事は、恐らくは手を出すつもりは無いのだろう。 ならばこの少女については大丈夫だ。 どうする。シャーリーだけでも連れ出して逃げるか? 天道がそんな事を考えていた時だった。 浅倉が不敵な笑みを零しながら、天道とシャーリーの間に立った。 「何でもいい。どっちが俺と戦うんだ? それとも二人纏めてか?」 「……残念だったな。俺達はお前と戦ってやる程お人よしでも、暇人でもない」 言うが早いか、天道は、すぐに爆砕牙の鞘と、自分のデイバッグを回収。 天道が出した結論は、この場からの逃亡。 逃げるのはあまり好きではないが、この場合では仕方がない。 戦術的な勝利などはいくらでもくれてやる。天道が求めているのは、戦略的な勝利なのだ。 シャーリーの腕を掴むと、真っ先に部屋の入口へと向かって走り出した。 天道とシャーリーは、浅倉が蹴破った襖から飛び出し、ひたすらに廊下を走る。 だが、天道の意思とは裏腹に、脇腹の痛みが足枷となり、その歩みを遅らせる。 そもそもこれだけの傷を負いながらこれだけ動けるだけでも大したものだ。 しかし、このままで戦って浅倉に勝てる確率は無いに等しい。 それくらいの事は、天道にも解っていた。 それ故に、天道はこの温泉から一先ず脱出する為に、シャーリーと共に出口を目指す。 だが、二人が一緒に海鳴温泉を出ることはなかった。 「ちょっと……離してよ!」 「奴は連続殺人犯だ。逃げなければ殺されるぞ!」 途中でシャーリーが、天道の腕を振り払ったのだ。 天道もすぐに、浅倉の危険性をシャーリーに伝える。 だが、天道が――ゼロがどれだけ叫ぼうが、その声がシャーリーの心に届く筈もなく。 「それなら私は一人で逃れる! ゼロと一緒は嫌!!」 「……そうか。わかった」 シャーリーの言葉に、天道は奥歯を噛み締めながらも頷いた。 翌々考えれば、天道は既に脇腹に大きなダメージを受けている。 だが、天道とは対照的にシャーリーは依然無傷だ。 既に手負いの天道と、無傷のシャーリーならば、行動範囲が随分と変わって来る。 シャーリーが一人で逃げられるというのなら、天道は居ない方がかえって良いのかも知れない。 本当なら見捨てたくはないが、お互いが助かるためには仕方がないと、天道は踵を返した。 同時に天道の足元に、一振りの刀が投げられた。 一瞬立ち止まって、刀を拾い上げる。 「この刀は……」 「それは元々貴方のだし……それに、そんな重いもの持ってたら走れないから」 「……わかった。」 天道は爆砕牙を鞘に納めると、それを杖代わりに、再び歩き出した。 どういう訳か、浅倉が追い掛けて来ない。 浅倉にも何らかの思惑があるのだろうが、今はそれを考えている場合では無い。 追いかけてこないというのならば、天道はその隙にここから離れるだけだ。 天道は、残った体力を振り絞って、ひたすらに進み続けた。 ◆ やがて天道は、温泉を出てすぐの場所に設置された、温泉客用の小さな駐車場に姿を隠した。 この駐車場には車が数台停められている。 それはつまり、敵から身を隠す物陰にもなり得るということ。 天道は一台の車の陰に隠れ、周囲を見渡した。 まだ浅倉の姿は見えない。どうやらまだ温泉施設の中にいるのだろう。 きっとどこかに隠れたであろうシャーリーを追いかけるか。 それとも手負いの自分を追いかけるか。 恐らくは後者だろう。 天道は、浅倉が来る前にデイバッグの中身をもう一度チェックする。 先ほど黒いライダーに襲われた時にも一度チェックはしたが、ひとつ気になる支給品があったからだ。 ――これは恐らくあの女が俺達参加者に与えた道具だろう。ならば…… 天道からはカブトゼクターも、ハイパーゼクターも、パーフェクトゼクターも没収されたのだ。 それに代わるだけの道具が入っていて貰わなければ困る。 刀はいいとして、こんな仮面は使い道が分からない。ならば最後の支給品に期待するだけだ。 天道はデイバッグの中に入っていた小さな封筒を取り出すと、中に入っていた紙を読み始めた。 空は随分と白みを帯びており、もうすぐ朝が来るであろう事は、明白だった。 昇り始めた太陽のおかげで、紙に書かれた図を読むのに、それほど苦労はしなかった。 紙に書かれていたのは、単なる地図。ただし、自分が今いる温泉の場所に、×印が付けられていた。 それだけではまるで意味が解らない。×印の意味を調べるべく、天道は封筒の中身を漁る。 そうして出て来たのは、一つの小さな鍵だった。 「なるほど。そういう事か」 天道は、小さく、されど不敵に微笑んだ。 天道の掌の中で、薄い太陽の光りを反射して輝く鍵は、天道にとっては見慣れた物であった。 「……感謝するぞ、加賀美……。」 言いながら、天道は立ち上がり、歩き始めた。 先程見た夢の中に出て来た加賀美は、俺に鍵を渡してくれた。 あの夢が何だったのかは分からない。 もしかしたら偶然かも知れないし、もしかしたら何か別の理由があるのかもしれない。 だが、この場所に加賀美は居ない。 ここに呼び出されたライダーは、恐らくは自分と矢車・浅倉。そしてあの黒いライダーのみだろう。 となれば、元いた世界から、それだけの戦力が居なくなったことになる。 加賀美はきっと、今も自分たちが居なくなった世界で、戦い続けている筈だ。 人々を襲う異形から、人々を守る戦士――仮面ライダーとして。 ならば、自分も戦い抜かなければならない。 「俺も戦う……天の道を往く者として。仮面ライダーとして」 天道は、昇る朝日を睨み、ぽつりと呟いた。 それは今も仮面ライダーとして戦い続けているであろう友への誓い。 手に持った鍵を、目の前の赤きバイク――カブトエクステンダーへと差し込む。 天道が跨がると同時に、カブトエクステンダーはライトを点灯させ、アクセルを吹かせる。 それはまるで、主の帰還に喜んでいるかのように見えた。 Back ちぎれたEndless Chain 時系列順で読む Next 勇気のアイテム(後編) Back ちぎれたEndless Chain 投下順で読む Back シャーリーと爆砕牙 天道総司 Back シャーリーと爆砕牙 シャーリー・フェネット Back 駆け抜ける不協和音 浅倉威 Back 駆け抜ける不協和音 ヴィヴィオ Back 残酷な神々のテーゼ(後編) キャロ・ル・ルシエ
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ベルガラックでの、ある暑い夜。 今日は戦闘がまるで無かったせいか、ゼシカは寝付けずにいた。 エイトとヤンガスはもう寝息を立てているようだ。 そしてククールのベッドはーーー今日も空だった。ククールは、滅多に自分のベッドで休まない。 行く先々で女の子に袖を引かれているから、その中から見繕ったコとそのコのベッドで楽しんでいるのかも知れない。 ーーー『オンナノコト・タノシム』 ゼシカは自分の考えに嫌悪して眉をひそめた。 『オタノシミ』というのがどういう事なのかは、ゼシカも知識としては知っていた。 若い健康な男が生理的にそれを必要とする理屈もなんとなくわかっている。 それでも、旅の中で自分をエスコートしてくれるその手が、どこの誰とも知らない、行きずりの女のからだに絡み付いていると思うと、喉に詰め物をされたかの様に息苦しくなる。 最近では町で寝具が整った宿に泊まるより、野宿のほうが気が休まるくらいだ。外には魔物はいるが女はいない。 『あーもう!何考えてるのよ。私は!』 ーーーこんなにもいらつくのは暑さのせい。胸がざわざわするのも、なんだか悲しい気がするのも、この暑さのせい。 なんとか寝直そうと頑張ってみるが、目は冴える一方だ。 『ーーー酒場にでも行ってるのかも・・・。』酒場はこの建物のすぐ下だ。 『ちょっとだけ見てこよう。』 ゼシカはベッドから降りた。 明るいピアノ曲と人のざわめき。 ククールはカウンター席にいた。右隣に座るバニーガールがしなだれかかるように誘い文句を囁いてくる。 ククールはそれに曖昧に答えながら酒を飲んでいた。 「ねぇ、私の部屋に行こうよ。」 「ダメ~」 「なんでよ~。ククールからお金取ったりしないわよぉ?」 「そういう事じゃなくてさ」 今日はずっとこのやりとりだ。面倒くさい。かったるい。今日は暑くて・・・いつものサービス精神は湧いて来ない。 ククールが河岸を変えようかと思い始めた時、背後で聞き慣れた声がした。 「マスター、お酒ちょーだい。隣の紳士と同じやつ。」 驚いてを振り向くと取り澄ました顔のゼシカが頬骨をついてこちらを見ていた。 「ゼシカ・・・なにしてんだよ。」 「お酒飲みにきたのよ。」 「ばっか・・・お前、女の子がこんな時間に一人でウロウロしてんじゃないよ。」 「そうね、ククールが居てくれて丁度良かったわ」 ゼシカは悪怯れずに笑って見せた。 ククールは脱力し、大きなため息をついた。目を見ればわかる。ゼシカはご機嫌が悪いらしい。 「お前いつも酒なんて飲まねーじゃ・・・」 「おまちどうさま」 マスターがカウンターにカクテルを置く。 「ありがとう」 ゼシカはそれを一口啜り、甘くて美味しいわ、と全て飲み干した。 「・・・ねェ、ククール・・・そのコなんなの?」 忘れられたバニーガールが存在を主張しはじめる。 「なに?オンナ付きだったの?早く言いなさいよ。こっちだって仕事あるってのに!時間、無駄にしちゃったじゃない―――バカにすんじゃないわよ!」 一瞬にしてククールの眼中から除外されてしまった事を悟ったバニーガールは、一気にまくしたて立ち上がった。 「振られちまったじゃねーか。」 足早に去って行くバニーガールを眺めながらククールがつぶやいた。 「ごめェん」 少しももすまなそうでないゼシカの前に、新しいグラスが置かれた。ゼシカはかなり赤くなって、手元も呂律も怪しくなっている。 「・・・マスター、このオンナ、何杯飲んだ・・・?」 ニヤつくマスターを睨み付け、ククールはこめかみに指をあて何度目か分からないため息をついた。 「ククールはぁ、みんなと・・・一緒にいるの、嫌い・・・なのぉ?」 「そんな事ないさ」 「じゃーあー・・・なんで・・・ククールは夜になると、そ・・・と・・・外に・・・出ちゃうのよ。じ・・・自分だけは・・心配されない・・とでも思ってンの?」 「・・・・・」 ゼシカの物言いはストレートだ。 「・・・お前酔ってるだろ。もう部屋に帰ろう。」 ゼシカの腕を掴み、立ち上がろうとすると、その手を振り払われた。 「それで・・・?ククールはさっきのバニーさんの部屋に行くわけ?」 ゼシカは気分が悪くなったのか、カウンターにうつぶせてしまった。ククールがもう一度その手を掴む。 「ククールはそんなんでいいわけ・・・?相手は誰でもいいの・・・?愛し愛される人は・・・いらないの・・・?―――メチャクチャ寂しがりやの癖に・・・!」 思わずカッとなり、ゼシカの腕を掴む手に力が入る。 ゼシカの恐い所はこういうところだ。感情に火をつけられる。ポーカーフェイスを崩される。 「好きなコがかわいーカオして寝てるのに、隣でグースカ寝れる程,出来た人間じゃないんだよ!オレは!!」 むかついた。お前は無神経だ。バカゼシカーーー言葉が止まらなくなる。 「いつか、きっと、どうにかしちゃうぜ?ゼシカの事。」 そこまで言うと突っ伏したゼシカから、すーすーと寝息が聞こえてきた。 「・・・ったく。最後まで聞けよ・・・。」 「お客さんお熱いですね。」ニヤニヤとマスターが笑った。 「いいなあ。こんな可愛いお嬢さんと・・・。」 ククールはマスターをバカヤローと心中で罵り、ゼシカを抱き抱えて店を出た。 無題10-後編-
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彼らは、ほとんど同じ境遇にあった。奇妙なことだが、文字通り世界を跨いだ先で、似たような状況に陥っていたのだ。 身も凍るような寒さは、間違いなく彼らの身体から自由を奪っていた。捕虜として最低限度の人間の扱いはされているが、指先は軽い凍傷のような症状を見せていた。食事はパンとスープのみが いつもの献立で、まれに出てくる乾燥された肉や少しばかりの野菜がひどく贅沢な一品のように思えたほどだ。餓死しない程度の、そういう食事だった。 常人なら、とっくに音を上げて降参しているところだろう。不思議なことに、彼らを捕らえた敵の者たちは、本来敵対すべき者同士であるのに、彼らにそれぞれ、似通ったような要求を突きつけ てきた。 片方の要求は「管理局の全軍に、地球への侵攻命令を出せ」というものだった。現状、時空管理局はミッドチルダ臨海空港での虐殺テロに端を発したアメリカへの報復強行派に主導権を握られて おり、しかし彼らの行き過ぎた行動は各地で反発の声を招いていた。そこで彼らは、捕らえた提督である『彼』に、自身の名で侵攻命令を出せと言うのだ。虐殺テロにまだアメリカの手によるもの だったのか疑問が残るとして報復には慎重だった一派の中でも、特に高い階級を持つ『彼』までもが報復にGOサインを出せば、全軍も従うだろうと考えたのだろう。 もう片方の要求は、「西側諸国の各国軍隊の兵士に対し、自分たちの戦争犯罪を認めるよう言え」というものだった。祖国であるはずのロシアを追われ、次元世界を漂流する身となった超国家主 義者たちは、何とかして自分たちを流浪の民へと追いやった地球の西側諸国にダメージを与えようと考えていた。こちらの『彼』は歴戦の軍人であり、出身国の英国は元より米軍でも上層部にその 名を知る者は多い。その『彼』が超国家主義者たちの要求に屈したとなれば、西側諸国の特殊作戦の指揮官たちは少なからずショックを受けるだろう。ついに『彼』までもが、超国家主義者たちの 手に堕ちたのだと。 だが、どちらの敵も、大きな過ちを放置していたことに、気付く様子はなかった。例え動きを封じられようと、苛酷な環境に放り込まれようと、彼らは歴戦の戦士だった。目的のためなら泥水を すすり、草の根を噛んでも生き延びる。そういう人種だったのだ。檻に入れ、武装した兵士の手で監視したところで、彼らの心が折れることはない。 椅子に縛り付けられ、手首に食い込む手錠の痛みに耐えながら、彼らはじっと、待っていた。 Call of lyrical Modern Warfare 2 第10話 The Gulag / 脱出 後編 SIDE Task Force141 五日目 0757 ロシア ペトロパブロフスク ゲイリー・"ローチ"・サンダーソン軍曹 人間が、飛び出してきた標的に対して銃を構え、狙いをつけ、引き金を引いて撃つと言う一連の動作を終えるのに、何秒かかるかご存知だろうか。正解は、平均で四秒と言われている。つまり、 この理論に従うのであれば、身を守る遮蔽物から遮蔽物に移動する際、四秒よりも早く辿り着ければ、撃たれないで済むと言う事だ。逆もまた然りであり、四秒よりも早く照準し、射撃すれば狙っ た標的を遮蔽物に隠れる前に撃てることになる。特殊部隊に属する兵士たちは射撃にもっとも訓練の時間を費やすのは、以上のような理由があってのことだろう。 もっとも、遮蔽物が無い、と言うような状況となれば話はまた別である。ローチたちTask Force141は、まさにそういった状況下に放り込まれていた。 「ローチ、左から来る! 撃ちまくれ、迎撃しろ!」 マクダヴィッシュ大尉の指示が飛ぶ。ローチは狭い武器庫の中、M4A1を構えて左を向いた。渡り廊下の向こう側、空になった独房の前を何人もの敵兵たちが進んでいる。間もなくそれぞれ配置に 就いて、こちらに対する銃撃を開始するに違いない。冗談じゃない、こっちは身を隠す遮蔽物なんてほとんど無いぞ。 銃口を敵に向けて、照準もそこそこに引き金を引く。M4A1の、五.五六ミリ弾が火を吹いて放たれ、敵兵たちのうち何人かを薙ぎ払うかのようにして撃ち倒す。それでもローチの銃撃を生き延び た敵兵たちは前進を続け、武器庫に立て篭もるTask Force141を取り囲むようにして布陣。隊は必死の抵抗を試みるが、敵は数的有利にあった。たちまち、銃声と跳弾の火花が空間を支配する。 うわ、あち、畜生。被弾していないのが不思議だった。悲鳴を上げながらでも、ローチは頼りない武器庫の小さな物陰に身を寄せ、近くにひっくり返っていたAK-47を拾い上げた。銃口だけを武器 庫の外に向けて、出鱈目に引き金を引く。AK-47は本来の持ち主である超国家主義者たちの手先に向けて火を吹き、弾を撒き散らした。カチン、と機械音が鳴ったところで銃を引っ込め、マガジン交 換はしないでまた新たに転がっていたAK-47を拾い、同じように撃つ。どれほど意味があるかは分からなかったが、まったくの無抵抗では敵の包囲は破れない。 「ゴースト、早く開けろ!」 同じように遮蔽物に身を寄せて銃撃を凌ぐマクダヴィッシュが、通信機に怒鳴っていた。武器庫は現在、封鎖されている。扉のロックさえ解除できれば、部隊は渡り廊下を渡って敵の布陣する独 房の前にまで移動できる。そこまで行けば、今は包囲するようにして攻撃してくる超国家主義者たちも迂闊に撃てなくなるはずだ。 ところが、先ほどから武器庫と渡り廊下を繋ぐ扉は中途半端な位置で開くのを固辞していた。前進も出来ず、後退も出来ない。 「ちょいとお待ちを…くそ、このシステムは化石かよ。古すぎるぜ!」 決して、今は監視制御室にいるTask Force141の副官ゴーストも遊んでいる訳ではない。彼は古びた監視システムを、それもロシア語で描かれたものを前に悪戦苦闘しながらどうにかして武器庫の 扉を開こうと努力していた。 マカロフが憎み、そして恐れるという囚人627号は、この収容所に捕らえられている。本来ならロシア政府の手で早々と特定され解放されるはずだったのだが、超国家主義者たちが先回りして収容 所を占拠した。Task Force141は囚人627号の確保のため収容所を襲撃し、今はこうして地下にまで潜っている。ゴーストが監視制御室に入って履歴を当たったところ、囚人627号は東の独房に移送さ れたと言う事実が判明し、隊は現在近道である武器庫を通って目的地を目指していた。そこに敵が押し寄せてきたのだ。 銃撃が激しさを増す。ローチが盾にしていたコンテナに弾が当たって、いよいよ駄目になる。代わりの遮蔽物を、と言っても周囲にそんなものはなかった。M4A1を銃口だけ突き出して引き金を 引き、抵抗を試みるがやはり敵の勢いは止まらない。くそ、せめて遮蔽物がもう少しあれば。 ふと、彼は武器庫の中にある人物の姿がないことに気付く。ティーダ・ランスター、ミッドチルダ出身の魔法使い。あいつどこ行ったんだ、まさかもうやられたのか。地面に這いつくばって、銃 弾の雨を必死の思いで潜り抜けながらティーダを探すと、いきなり目の前にドンッと、盾が置かれた。視線を上げれば、目的の人物がそこにいた。ティーダだ。盾など持って何をしている。 「遮蔽物が足りないんだろ!」 ティーダは足元で伏せているローチの視線に気付き、彼の抱いていた疑問に怒鳴って答えた。魔導師が持ち出したのは、ただの盾ではない。ライオットシールドと呼ばれる類のこの透明な盾は、 透明という見た目の割りに拳銃や短機関銃程度の弾なら防ぐ機能を持つ。そうだ、ここは武器庫。ライオットシールドが転がっていても、なんら不思議ではない。 「お前防御の魔法とか持ってないのか、バリアとかそういう便利なものは!」 「俺は当たらなきゃどうってことはない主義でよ」 なんだよ、魔法使いの癖に――そうはいっても、ティーダの持ち出したライオットシールドは、間違いなく効果を上げていた。武器庫内に降り注ぐ銃弾が、透明の盾によって明らかに弾き返され ているのだ。敵が狭い屋内ゆえに銃火器を短機関銃ばかり選択していたのも幸いした。魔導師の行動が呼び水となって、Task Force141はシールドで即席の防御陣地を築いていく。 せーの、と戦友との共同作業で決して軽くはないライオットシールドを重ねたローチは、ようやくM4A1を普通に構えた。飛び交う敵弾が盾を叩き、表面にひび割れが走るが、怖がってもいられな い。重ねたシールドの隙間から銃口を突き出し、ダットサイトに捉えた敵兵を撃つ。反撃開始、照準の向こうで敵がひっくり返る。 遮蔽物を得たことで、苦境に立たされていたTask Force141は息を吹き返した。マクダヴィッシュは片手で撃てるMP5Kを右手に、ライオットシールドを左手に持って敵弾を弾きながら移動し銃撃 し、ローチたちも続く。ティーダの拳銃型デバイスから放たれた魔力弾は正確に目標を射抜き、超国家主義者たちを蹴散らしていった。 ようやく敵の勢いが陰りを見せたところで、突如、武器庫の扉が開かれた。ゴーストからの通信が入る。 「やりました、大尉! 扉がオープンです!」 「よくやった、ゴースト! 分隊、武器庫から出るぞ!」 監視制御室のゴーストは、化石並みに古い監視システムをようやく操れたようだ。マクダヴィッシュが歓喜の声を上げて、ただちに自身が先頭に立って渡り廊下に出る。ライオットシールドはこ こでも威力を発揮した。突進する分隊指揮官は戦車のように銃弾を弾きながら突き進み、あろうことか渡り廊下から繋がる独房への入り口にいた敵兵をドッと盾で殴り飛ばした。映画の『300』み たいだ、とローチの思考の片隅に雑念が走る。スパルタの兵士が、鍛え抜かれた肉体を駆使して盾で押し迫る敵を薙ぎ払ったように。 もっとも俺たちはスパルタ兵でもないし、得物だって槍とは違うが――雑念を捨てるようにして、空になったマガジンをチェストリグのマガジンポーチに突っ込む。弾の入ったマガジンを持ち出 して、M4A1に突っ込む。息を吹き返す銃は、再び火を吹く。包囲網さえ突破してしまえばこっちのものだった。 最後の敵兵を撃ち倒したところで、Task Force141は独房の中を見て回った。誰かが最近までいた様子はない。やはり、囚人627号は別の独房のようだ。 「ゴーストです。大尉、囚人627号の詳細な位置が判明しました。隔離独房のようです。そこからロープで地下に降りてください、それが一番近い」 「監視カメラで様子を探れないか?」 「無理です、電源が落ちてます」 通信を終えたマクダヴィッシュが、分隊に暗視ゴーグルを出せと指示を下す。地下の隔離独房はおそらく暗い。真っ暗闇の中をさ迷い歩くような真似は誰だってしたくないだろう。 「ティーダ、お前暗視ゴーグルは…」 「そんなロボコップみたいになる代物いらないよ。俺は魔法使いだぜ」 念のため予備を持ってきたのだが、ローチの差し出した暗視ゴールの受け取りをティーダは拒否した。それから格好つけるように目元を叩いてウインクなんかしやがった。何だ、こいつ。さっき は盾を持ち出して物理的に防御を図ったのに。 とは言え、魔導師が暗闇でも見えるのは本当のようだった。ロープを引っ掛けて降下した先はまさしく暗闇そのもののようだが、彼は躊躇なく、Task Force141がみんなロープで降下していく最中 に一人だけ"飛び降りた"。着地も華麗に決めたのだから恐れ入る。まったく味方でよかった。 SIDE 時空管理局 機動六課準備室 五日目 1200 第四一管理世界"キャスノー" ポール・ジャクソン 元米海兵隊曹長 果たして偶然か否か、味方でよかったと思う兵士がここにも一人。雪と氷が支配する死の世界にある収容所にて、ポール・ジャクソンは走っていた。 周囲はすでに戦争でも始まったかのように騒然としており、警報が響き渡っている。時折駆け足で進む収容所の警備兵がいて、相当慌てている様子がすぐに伝わってきた。レーダー制御室に留ま って収容所内の様子を探るギャズの報告によると、司令室も事態の掌握が出来ておらず、未だに侵入者の存在に気付いていないらしい。突然のレーダーの電源ダウンも、故障と思われているようだ った。 まぁ、そうなるのもやむを得ないだろうな――サイレンサー装備のM4A1を手に持ち、防寒装備に身を包むジャクソンは一旦壁に張り付き、走ってきた傭兵たちをやり過ごす。傭兵たちは管理局の 武装隊の装備をしていたが、ジャクソンに気付かないあたり練度はあまり高いとは言えないのだろう。報復強行派の行き過ぎた行動は、明らかに人手不足を招いている。 練度が低いことばかりが問題ではなかった。たまに上空を見上げると、桜色の閃光と金の閃光が飛び交っていた。収容所のどこかから対空砲火らしい魔力弾が撃ち上げられているが、その数はあ まりに少なく貧弱だ。そうでなくとも、二つの閃光はまるでエースパイロットの駆る戦闘機のような機動を見せ、撃ってきた対空砲火に向けて砲撃魔法を叩き込んでいる。レーダーの無力化により 探知されることなく接近できた、高町なのはとフェイト・T・ハラオウンの二人だった。高練度の空戦魔導師が、辺境の世界の収容所に襲い掛かっている。 「派手にやるなぁ、おい」 ジャクソンに同行する黒人兵士グリッグが、上空で繰り広げられるワンサイドゲームを見て呟いた。これでも彼女らは敵の注意を引くのが目的のため、ずっと手加減しているのだという。確かに 凄い。こんな化け物みたいなエースを揃えて、機動六課準備室の室長こと八神はやてはいったい何をする気だったのか。世界を破滅を防ぐ? なるほど納得だ。どんな破滅の時も裸足で逃げ出すに 違いない。釣り合わないよな俺たちじゃ、とジャクソンはひっそりと苦笑いした。 しかし上を飛び回るエースのお嬢さんたちにも出来ないことはある――どう見ても、彼女らは目立っていた。雪の降る灰色の空であっては、桜色も金も目立つのだ。その点、彼らは優れていた。 なんと言っても、移動は徒歩であるから光を放ったりしない。 行くぞ、とジャクソンはグリッグに合図して進む。ギャズの寄越した情報により、目標の囚人627号の――皮肉にも、Task Force141が求める人物と同じ番号だ――居場所はこの先六五〇メートル にある政治犯、凶悪犯罪者を収容する独房だ。さすがにこちらの方は警備が緩いということもあるまい。敵の中にはそろそろ、こちらの目的を見抜く者がいてもいい。 銃を正面に向け、曲がり角では一旦壁に寄り添い、必ず敵の有無を確認してから進む。後方のグリッグは背後をカバーし、時折位置を入れ替えてジャクソンが後ろを見張る。 前進は途中までは順調だったが、何度目かの入れ替えでジャクソンが前に立った時、雪と霧の白い視界の奥に、黒く蠢く何かがいるのが見えた。隠れろ、と彼がグリッグに合図しかけたところで 白いカーテンの向こうから、警備用の傀儡兵が姿を見せる。人間サイズのいわば魔法で動くロボットだったが、こいつもこちらを視認したに違いない。機械音が鳴って、手にしていた魔法の杖、デバ イスを構えようとする――遅い。相手が傭兵ならともかく、傀儡兵を前にしたジャクソンの動きに躊躇いはなかった。踏み込み、M4A1の銃床で傀儡兵の頭を殴る。 衝撃を受けた傀儡兵は、頭部のセンサーが狂ってしまったのだろう。目標が目の前にいるというのに、デバイスから放つ魔力弾をあらぬ方向に撃ち上げてしまった。それでも姿勢を持ち直そうとす る。ジャクソンはM4A1の銃口を突きつけ、引き金を引いた。発砲、命中、貫通、破壊。今度こそ沈黙する傀儡兵。 まずいな――雪の地面に倒れるロボットを目の当たりにして、しかし兵士の顔は晴れない。傀儡兵は目標を発見すると、自動的に周囲の仲間にその位置を発信する。倒した傀儡兵が、どうかこちら の存在を発信する前に沈んでくれたことを祈るばかりだ。 前進を再開しようとして、突如、背後で声が上がった。グリッグだ。M240軽機関銃の発砲音が、同時に響く。 「コンタクト!」 ジャクソンが振り返る。予想は的中した。祈りは届かなかった。グリッグが叩き込む銃撃の先に、西洋の騎士のような甲冑を纏った傀儡兵たちがぞろぞろと集まり始めていた。機関銃の射撃を受け て次々と倒れていくが、奴らの取り柄は数だった。どこからともなく集まり始めて、二人の侵入者の包囲を始める。 どうする、こういう時は――迷うことはなかった。M4A1を正面に構えなおしたジャクソンは、グリッグに向けて言う。強行突破だ。 M4A1の引き金を引いて、銃撃。ダットサイトに捉えた傀儡兵は、それだけで倒れていく。対抗するように放たれる魔力弾が身を掠め飛ぶが、止まってはいられない。銃撃、前進。ガン・パレード。 至近距離に迫った傀儡兵を強引に殴り飛ばして、二人は進む。目的地の独房まで、あと三〇〇メートル。決して遠くはない。 そのはずは、突如として側面から浴びせかけられた魔力弾によって潰えた。足元の数センチ先に光の弾丸が弾けて飛び、たまらずジャクソンはたたらを踏んでブレーキし、無様に転ぶ。ただちに グリッグが助け起こし、目に付いたトラックの陰へと引きずり込んだ。その間にも魔力弾が浴びせかけられ、盾になるトラックはあっという間に穴だらけになっていく。被弾に恐れながらも様子を 伺うと、白く染まりがちな視界の向こうに人影が見えた。目を凝らせば、傀儡兵ではなく生きた人間、傭兵であることが分かる。こいつらはロボットとは違う。練度が低いと言っても、プログラム された通りの動きしか出来ない人形に比べればずっと、判断力も状況への対応力も持っていた。 人を撃つ。それ自体に、躊躇はもう無かった。あの娘は――彼らに射殺許可を出した八神はやては、そのくらいの覚悟を持ってジャクソンたちにこの任務を託した。それに応えねば、自分たちは 彼女の覚悟を無駄にすることになる。だが、問題はそうではなかった。生きた人間は彼らがトラックの陰から出てこないと見るや、回り込むような仕草を見せ始めた。 挟み撃ちは御免だな。そう思って彼らの行動の阻止にかかるジャクソンだったが、M4A1で少しばかり銃撃をしたところで、傭兵たちの動きは止まらなかった。傀儡兵が盾になっているのだ。グリ ッグが代わって機関銃の弾をありったけ叩き込むが、そうすると敵は一発に対して一〇発の勢いで撃ち返して来た。遮蔽物のトラックがあまりの被弾に揺れて、パンクした車体が車高を下げる。身 を守る盾が小さくなってしまい、たまらず二人の兵士は地面に這う。 「どうするジャクソン、この調子だと俺らも収容所に入るぞ。俺が囚人628だ、お前が629」 「何でお前の方が数字が若いんだ」 「そりゃお前、イカした男の順番ってことで」 ほざけ、"黒んぼ定食"でも食ってろ。こんな状況下でも、彼らは軽口を欠かさなかった。海兵隊は、諦めない。例え"元"であってもだ。 そんな二人の兵士に、救いの手が現れた。救いと言うほど、慈悲に満ちたものではなかったかもしれないが。傭兵たちの背後に突然、黒い影が現れて、彼らに襲い掛かった。 奇襲を受ける形となった傭兵たちは、なすすべも無かった。小柄な赤い影から振り上げられた鉄槌が一人を殴り飛ばし、もう一人に直撃。ボーリングのピンのようにして巻き添えを喰らい、次々 吹き飛ばされていく。残った者も抵抗を試みようと赤い影にデバイスの矛先を向けようとして、今度はそのすぐ傍に紫の閃光が現れる。あ、と思った時には剣が振るわれ、片っ端から傭兵たちが斬 り伏せられていった。 傀儡兵たちも、傭兵たちがさんざん全滅させられた後になってようやく、背後からの奇襲に気付いたようだった。いかにも機械を感じさせるたどたどしい足取りで方向転換し、襲来した影と閃光 に攻撃の意思を見せかけたところで、側面から振り抜かれた爪が彼らに襲い掛かる。薙ぎ払われ、悲鳴も無く沈黙する傀儡兵たち。運よく生き残った一機がデバイスを構えようとして、野獣の牙が その意思を噛み砕く。 援軍。話には聞いていたが、このタイミングでやって来るとは。ジャクソンは立ち上がり、周囲を警戒しながらトラックの陰から出る。白い視界の向こうから、見覚えのある影が出てきたのはそ の時だった。 「怪我は無いですか、ジャクソンさん?」 「やぁシャマル。怪我はない、この通りだ。よく来てくれた、ヴォルケンリッター」 戦場に似つかわしくない、ふわりとした緑の衣装。優しげな声を持つ女性こそが、彼が見た影の正体だった。名前をシャマルという。治癒と支援が主な任務の、ヴォルケンリッターの後方担当。 「遅くなってすまないな」 「おいジャクソン、あたしに挨拶はなしかー?」 続いて現れる烈火の将、剣の騎士シグナムと、一見子供のような姿をした鉄槌の騎士ヴィータ。ジャクソンが初めて会った魔法の使い手たちであり、古代ベルカの名を引き継ぐ心強い援軍だった。 「追っ手が来るぞ、気をつけろ」 最後に、雪の大地を踏みしめながら姿を見せたのは守護獣ザフィーラ。狼の姿のまま、傀儡兵の部品の一部をまだ口に咥えていた。ペッと吐き出し、敵の来る方向を睨む。 今更、ジャクソンが驚くようなことはなかった。数年前、アル・アサドによる中東での核爆発で死に掛けた自分を介抱してくれたのは彼女らであり、もはや家族と言ってもいい間柄だった。特に シャマルとは料理の味を褒めたのが契機になってか、男女の仲にまでなっている。置いてきぼりなのはグリッグで、M240の銃口を垂れ下げて、あんぐりと口を開けていた。 「なぁ、ジャクソン。お前知ってたのか? その、この女戦士アマゾネスの皆さんの強さを」 「誰がアマゾネスだ、誰が」 「まぁまぁ、ヴィータちゃん」 アマゾネス、と言われてシグナムが苦笑いし、ヴィータは露骨に口を尖らせ、シャマルがそれをなだめる。ザフィーラは興味がなさそうだった。ジャクソンはまぁな、と曖昧な返事だけをして、 それからシャマルに向き直る。遊んでいる暇は無い。高町なのはとフェイト・T・ハラオウンの二人が引き付けているのにこの襲撃は、敵の戦力が予想以上であることを証明していた。 「目標はもう少し先、ここから三〇〇メートル先になる。クロノの坊主はそこだ。負傷していたらシャマルの出番だ、悪いがついて来てくれ」 「お任せを。シグナム、ヴィータちゃんとザフィーラと一緒にここをお願いね」 「心得た」 愛剣レヴァンティンを構えてみせて、シグナムが頼もしい表情を見せる。ヴィータもザフィーラも、共に彼女に付き従った。 白い視界の向こうで、ざわざわと蠢く影が見え始める。行け、と烈火の将が剣を振り向かせて無言で言う。ここは我らに任せろ、と。ジャクソンは頷き、グリッグ、シャマルを引き連れて前進 を再開する。目的の独房まであと三〇〇メートル。足を止める理由は、どこにもなかった。 戻る 目次 次へ
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前編・後編に分かれています。 ジャンルは後編で制裁系・家族・性描写・虐待ありとなります。 『ゆっくり贅沢三昧・前編』 知り合いの飼っているゆっくり霊夢と魔理沙が子供を多く作りすぎたため 里親を募集していた。 通常、ゆっくりブリーダーの教育を受けたゆっくりは繁殖を抑制することが出来るが その親霊夢と魔理沙は2世である。 野良と比べ人間社会への協調性は高いが世代を経て伝言板ゲームの様にゆっくりとそれは失われていく。 ペットに興味があった私だが動物アレルギーがあったため飼えないでいた。 そこにゆっくりの里親を頼まれたものだから悪い話ではなった。 饅頭に対するアレルギーはなく、またペットショップで購入すると日本円で5万~20万はザラのゆっくりだ。 それをまとめて2匹も無料でわけてくれ感謝までされる。 断る理由がなかった。 それが、こんな悲劇になるだなんて誰が予想できただろう。 「ゆっくちちていっちぇね!」「ゆっきゅりー」 プチトマトサイズの赤ちゃんゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙。 えーと、ゆっくりしていってねと返せばいいんだったな。 「ゆっくりしていってね!」 ネットで聞きかじった程度のゆっくりの知識はもっている。 2匹をペット用のケージから出すと居間で自由にさせる。 「ゆっ!」「おにーさんはゆっくりできるにんげんだね!」 ゆっくりの意味が何を指すのかはわからないが、ともかく第一印象は良さそうだ。 さっそくお菓子を与えることにする。 「君たちがお兄さんのお家に来たお祝いだよ」 そう言うと2匹に柔らかい白と赤のマシュマロを盛って出してあげた。 「ゆゆっ!おいちちょーなたべものだよ」 「こんにゃのみゃみゃにももらったこちょないよ」 二匹が喜んでいるので私も嬉しい。 「「むーちゃむーちゃ、ちあわちぇー!」」 この時、最初の間違いを犯してしまった。 あまり幼いうちから美味しいものを与えると飼いゆっくりにとって後に悪影響になるのだ。 それが”普通”のごはんと認識してしまう。 「ちろいやわやわおいちーよ!」 そう言うのは赤まりさ 「あかいやわやわのがおいちーんだよ!」 どっちも味は同じで色が違うだけのマシュマロなのに、赤れいむは赤いほうが美味しいと言う。 2匹は言い争いながら白いのと赤いので分けて食べた。 「ゆっ、しろいやわやわのほうがすくないよ、おにーさんしろいのをもってきちぇね!」 「まりちゃばかりずりゅいよ、おにーさんれいむにはあかいやわやわもってきちぇね!」 どちらも同じなのに、それを主張する2匹は可愛くて ついつい言われたとおりマシュマロのおかわりをとりにいってしまった私。 この時、2つ目の間違いを犯してしまった。 言えばお兄さんはお菓子をもってきてくれる物 それが”普通”そう認識してしまうのだ。 それでも、最初のうちは何も問題は起きなかった。 プチトマトサイズの2匹では戸棚に登ることも出来ないしお皿一枚テーブルから落とす力もない。 花瓶に体当たりをしても弾かれるのは赤ちゃんの方だ。 だから、とてもゆっくりしたペットとの共同生活を送れていた。 2週間後・・・ 2匹はソフトボールサイズの子ゆっくりになっていた。 この頃、子れいむがそこら中におしっこをするようになっていた。 「しーしーでるよ、れいむのしーしーでるよ!」 トイレは新聞紙の上でやりなさいと言っているが、そもそも原因は私が飲ませたオレンジジュースだ。 2匹はジュースをたいそう気に入り、毎日のように飲んでいる。 「まにあわにゃいよ!」 じょろろろろーーーーーーー! 放物線を描いて、フローリングの床におちょこ2杯分程度の少量の砂糖水を放出する。 汚いものではなく、また量も通常の動物と比べては少ないし、饅頭であるこの子達にとっては 命に関わる問題なので注意はしても特に厳しくすることはなかった。 子まりさもオレンジジュースを好んで飲むが、水上で生きれる本能をもつまりさ種は 水の怖さを初めからある程度知っていて水分の過剰摂取を自重する。 だから、お漏らしをするのはいたって子れいむの方だ。 しかし、子まりさの方はもっとひどい。 「うんうんでるよ!まりさうんうんでちゃうー!」 これも、体内の古い餡子を排出しているだけなので汚いものではない。 だから、あまり厳しく接したことはなかった。 「すっきりー♪」 「こらこら魔理沙、うんうんがでるのは仕方がないが後始末はちゃんとしなさい」 「ゆっ!、おにーさんはまりさのうんうんたべてもいいよ! まりさはおなかすいたからおかしをもってきてね!」 まったく、れいむもまりさもしょうがないなぁ。 だが、魔理沙が霊夢のおしっこを「ぺーろぺーろ」舐めとっているので まあ別のを片付けているのだからいいか、と納得してしまう。 今日はアイスクリームのクッキーサンドを食べさせてあげよう。 「ゆゆ!おにーさんれいむをばかにしないでね!」 なぜか、れいむが怒っている。 「れいむは、ぷりん・あらもーどがいいっていったはずだよ!」 「ぷんぷん」と声に出してプクーっと膨れている。 「まりさはあいすさんどでいいんだぜ、とってもゆっくりできるんだぜ」 「むーしゃむーしゃ」 そういえば、確かにれいむにプリンアラモードを食べさせてあげるって言ったな。 間違っていたのは私の方だ。 れいむに「ごめんね」と謝ってコンビニへと走った。 プリンアラモードを買って家に帰ると荒れたれいむがお皿を割っていた。 「おそいよ!ちんたらゆっくりしないではしってね!」 ちょっとカチンときたけどペット相手に頭に来るのもなんなのでれいむに買ってきたものを与える。 すると、まりさが文句を言い出した。 「おにーさん、まりさのぶんがないよ!」 そう言って私の足にポヨンポヨンと体当たりをしてくるまりさ。 さすがに、しつけ方を間違えたかな・・・と不安になっていると 見てるそばかられいむは「しーしーでるよ!」 まりさは「うんうんでるよ!」 その後片付けに追われた。 ゆっくりが家に来て1ケ月。 2匹は十分な栄養をとっていたことでバスケットボールサイズの成体へと成長していた。 もう、すでに教育は不可能な段階である。 これも、私が仕事に追われてしまいここ数週あまり相手を出来ないでいたからであった。 「ゆっ、れいむたちとあそんでくれないおにーさんはのうなしだね!」 「おにーさんがのうなしだから、まりさがれいぞうこまでかりにいってるんだぜ!」 いつの間にか2匹はつがいになっていて まりさは冷蔵庫へ狩を行っていたんだそうだ。 私があげる餌以外にも冷蔵庫の中身がちょくちょく消えていたのはこれが原因であったことを知った。 私が家にいない時間が多かったため2匹は大いに退屈をして それを解決するために”スッキリ遊び”というのを覚えたそうだ。 2匹は私の目をはばからずに「すーりすーり」とほおずりをするやいなや 粘着質の体液が放出され息を荒げていく。 「まりしゃぁぁ、れいみゅのまむまむがきもちいーよ!」 「れいみゅぅぅ!ぺにぺにからなにかくるぅ!でちゃうー!んほぉぉぉぉぉぉおおお!!」 「「すっきりー」」 あっけにとられていた私を横目に2匹は性交を果たす。 れいむの頭からニョキニョキと茎が伸びてきて5つの実をつけた。 居間の隅をみると新聞紙や雑誌を口でちぎり重ねた巣が出来ている。 妊娠したれいむのためのものだろう。 まりさは「かりにいってくるんだぜ!」と言って勝手に私の冷蔵庫へ れいむは 「おにーさんはれいむがあかちゃんをうむしごとをして まりさはかりにいってるんだから、なにかしごとをしてね!ばかなの?にーとなの?」 と罵声を浴びせてくる。 舌が肥えてしまったれいむは、すでに一流店のスイーツでなくては食してくれず。 コンビニ製なんてもってのほか 私はそのためにたびたび隣町まで買出しに行かされた。 多めに買っておいても冷蔵庫から勝手に魔理沙がひっぱりだして勝手に食べてしまう。 赤ちゃんが生まれたら、この苦労は2匹から7匹へと3倍以上になるのか・・・ そう思うと表情が曇りため息がでた。 隣町からの帰路、トボトボと歩いていた。 「もし、そこのお兄さん、ゆっくりの事でお困りじゃないですか?」 突然、声をかけられた。 その男、名を虐待という。 その男に全てを見透かされているような気になった私は つい、これまでのいきさつを男に話した。 「ふむふむ、つまり2匹に教育を行う・・・それと、去勢に不要な子の駆除」 「あの・・・おいくらになるんでしょうか?」 ゆっくりブリーダーが手がけると無料同然のゆっくりでもペットショップで数万円で売れる。 つまり、プロへの依頼はそれなりに値段と期間がかかるものなのだ。 特に成体な上に我侭三昧となると難易度は隠しモード級であろう。 去勢にしても病院へ行かなくてはいかない。 しかし・・・ 「いいえ、お代は結構です!」 その瞳に、いっぺんの曇りなく 金色の野に降り立った救世主のようであった。 『ゆっくり贅沢三昧・後編』に続く 過去の作品:ゆっくり繁殖させるよ! 赤ちゃんを育てさせる 水上まりさのゆでだこ風味 作者:まりさ大好きあき このSSに感想を付ける
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180 望まれないもの(前編) ◆MoMtB45b5k エドワード・エルリック、ジョセフ・ジョースター、佐倉杏子、サファイア、マオらとの束の間の情報交換を終えた狡噛慎也とタスク。 2人は彼らと別れたあと、焼け落ちたコンサートホールを探索していた。 コンサートホールの探索を提案したのは、狡噛だった。 狡噛の最大の使命は槙島聖護を殺害することであるが、この場ではそれよりも最も重要なこととして、まず殺し合いからの脱出ということがある。 北部を目指して進んでいる時から、狡噛はコンサートホールのことが気になっていた。 小泉花陽らスクールアイドルと、本田未央らプロのアイドル。この場には2種類のアイドルが呼ばれている。 戦う力を持たない少女であり、どう考えても血みどろの殺し合いには似つかわしくない彼女たち。 歌や踊りを披露する場であるコンサートホールには、彼女たちがここに連れてこられた理由を解く鍵があるはず。 さらには、彼女たちの存在そのものがこの殺し合いそのものを打破する鍵になると考えたのだ。 「何か見つかったか」 「……、いえ」 だが、狡噛の問いかけに、慎重な足どりでコンサートホールから出てきたタスクが力なく首を振る。 ここが焼け落ちたのは第二回放送の以前に遡る。 今では火は全くといっていいほどない。 危険な場所での業務の経験もある狡噛とタスクならば、注意をすれば火傷などを負うことなく中を調べることは可能だった。 だがいかんせん燃え尽きて崩れてしまった後であり、またエリアの半分近くを占める大きさであることもあり、探索は捗らない。 ……二人は知る由もないが、この時探索が不自由だったことが、逆に彼らには幸運だった。 なぜなら、スタンド能力を持ち、この場では制限が加えられているものの、手にした者の精神を乗っ取る剣、アヌビス神。 花京院に支給されたそれが、瓦礫の中に埋もれていたからだ。 もしももっと詳しく探索していれば、二人のうちどちらかがそれに触れていたかもしれなかった。 (……くそ) 焦りを表出させるように、タスクは首を振る。 コンサートホールでは何も得られず。 エドワードから預かった前川みくの首輪も、解析をしようにもそのための道具すら見つからない。 だが、タスクとて何もできないままではない。 思考を必死で巡らす中で、あることに気付いていた。 この殺し合いの会場に関することだ。 それは、職務として戦闘機を操りって大空を飛び回る彼だから気付けたのかもしれない。 確認した通り、この島は空の高い場所に浮いている。 それだけでも十分すぎるほど異常なことなのだが、本当にそうだとすると妙な点があるのだ。 一つは、風だ。 空の上というのは、地上とは違い山脈などの遮蔽物が全くない。 それゆえに、常に強い気流が渦巻いており、風速は場所によっては100キロを超すことすらある。 二つ目には、温度。 上空というのは、地上よりも気温がぐっと下がる。それは高い場所に行けば行くほど低くなり、マイナス何十度という極寒にもなる。 これらを考えてこの会場を見てみる。 風は、ほとんどそよ風程度の風しか感じられない。気温に至っては極寒どころか心地よいほどだ。 本当にこの島が上空にあるのならば、これはどう考えてもおかしい。 では、これらの事実は一体どういうことなのか。 その結論は、出なかった。 平行世界の存在を元から知り、今もこうして「シビュラシステム」なる機構に管理された国家に暮らす平行世界の住人と共に行動しているタスクとしては。 「何らかの理由により、自分たちの今いる場所は物理法則が通用していない」と考えるのが限界だった。 天才的な科学者であるエンブリヲならば、今ごろこの程度の疑問にはとうに答えを出しているかもしれない、と考え、タスクは歯噛みする。 『ごきげんよう。最早お馴染みとなっているかもしれないが、放送の時間だ』 そんなタスクの思考を遮るように、放送が流れてきた。 身構える。 御坂美琴との遭遇以来、強く感じていた悪い予感。 それが本当のものなのか否かを、ついに知ることになる。 隣を行く狡噛慎也も足を止めている。 放送はまず、首輪交換機が修復されたこと、そして禁止エリアを伝えてきた。 首輪は一つ手にあるが、交換機は使うつもりはない。 また、これから向かう先にも禁止エリアはない。 『続いて死亡者だ』 タスクの体が、ドクン、と跳ねあがる。 狡噛も同時に身構える。 『セリュー・ユビキタス』 狡噛が撃ち殺したはずが生きていた女。 マスタングの話では、彼女は正義狂だったらしい。 撃たれてなお執念で生きていたのかもしれない。 結局、その真実を知ることはなかった。 『アンジュ』 ――その瞬間、タスクの呼吸が止まった。 「タスク!」 がくりと膝をついたタスクに、狡噛が寄り添う。 「大丈夫か」 「……はい」 ふらふらと立ち上るが、その顔は青く、呼吸は荒い。 この殺し合いが始まった時から、すでに覚悟はしていたのかもしれない。 気の強い彼女のことだ。 思惑が渦巻くこの場所で、長生きができるタイプではなかったのかもしれない。 それでも。 いざその名前が告げられたら、そんな覚悟などは何の役にも立たなかった。 アンジュが死んだ。 彼女の笑顔も、怒った顔も、もう見ることはできない。 全てが終わった後、約束していた喫茶店を開くことも、もうない。 「……それでも……」 ゆっくりと前を向く。 「……俺は」 今は、立ち止まってはいけない。 行かなければならない。 アンジュだけではない。 同時に名を呼ばれたサリア、モモカ、そしてアレクトラ、自分の両親たち古の民。 この会場で出会ったプロデューサーや光子、ジョセフ。 散っていった、数多くの命たち。 彼らの犠牲を無駄にしてはいけない。 まだ、同士であるヒルダがいる。 ここで膝を折ったら、アンジュと同じくらい気の強い彼女には、殴られるだけでは済まない。 宿敵・エンブリヲは、未だこの会場を跳梁している。 彼を討ち取らない限り、リベルタスは果たされていない。 「行きます!」 気持ちの整理など付けられるはずもない。 ただ使命感だけを胸に、青年は歩き出す。 その姿に、狡噛は何も言わず、黙って後を追った。 ☆ 会話もないまま、前に進む。 狡噛を守り、エンブリヲを討つ。 そのことだけを考える。 そうしていれば、余計なことを考えずに済んだ。 コンサートホールの回りを反時計回りに進み、どれほどの時間がたっただろうか。 気がつけば、日はもうほとんど暮れている。 同時に、自分たちが2つの島をつなぐ橋を渡っていることにも気付く。 ここを渡りきって真直ぐ行けば、目的である潜在犯隔離施設に到着する。 もうすぐ渡り終わるかというところで、――前を行く狡噛の足がふと、止まった。 何か――と言いかけて、はっとする。 橋のたもとに見える、白い人影――。 「やあ、待ちくたびれたよ」 ☆ タスクには、分かった。 狡噛の纏う空気が変わったのを感じるまでもない。 美しさを通り越し、恐怖を与えるほど整った顔。 雪と氷が交わったような肌。 間違いなどありえない。 この男こそが―― 「お前は、槙島聖護だ……!」 「――お前は狡噛慎也だ」 橋のたもとの電燈だけが三人を照らす中、二人の男は見つめ合う。 「――『僕たちは皆、絶壁が見えないように目をさえぎったあと、安心して絶壁のほうへ走っている』」 「――っ!」 「――悪いが、俺は」 槙島の言葉に動揺するタスクをかばうように、狡噛が前に出る。 「誰かがパスカルを引用したら用心すべきだと、かなり前に学んでいる」 「ははは、そう来ると思ってたよ。オルテガだな。 もしも君がパスカルを引用したら、やっぱり僕も同じ言葉を返しただろう」 「貴様と意見が合ったところで、嬉しくはないな」 そう言いながら、狡噛はタスクへ目を向ける。 「行け。ここは俺に任せろ」 「……でも」 「行くんだ!」 逡巡するタスクを、狡噛は叱咤する。 「お前には、俺なんかよりも大切な人間がいるだろう! それに、」 言葉を切って続ける。 「――それに、これは、俺とあいつだけの問題なんだ……!」 タスクは、はっとして顔を上げる。 狡噛の顔を見、決して譲れない、という意志をその表情に感じ取り――。 「くっ!……」 迷いを振り切るように、駆け出す。 「君の部下かい」 その背中をちらりと槙島が見やる。 「部下じゃない。仲間だ」 「へえ、君に仲間なんて言葉は似合わないと思ってたよ」 「何とでも言え。どんな最悪の人間だろうと、味方にするなら貴様よりはマシだ」 橋の上には電燈に照らされる二人の姿だけ。 言葉を交わすたびに、緊張感が膨れ上がっていく。 「あることないこと、随分と触れて回ってくれたようじゃないか。 君のようないい大人のやることじゃないと思わないのかい」 「ほざいていろ。貴様こそ、悪の伝道師ごっこはもう終わりだ。 ――この場で殺してやる」 「ふ……刑事の言葉とは思えない」 ☆ ――この瞬間、対面して分かった。 彼がたとえ御坂美琴やキング・ブラッドレイのような、超常の力を持っていなかったとしても。 狡噛慎也にとって最大の敵、最大の危険人物は、この男なのだ。 狡噛慎也はこの男を殺さずにはいられないし、殺さなければならない。 脳裏で揺らいでいた天秤。 それはどちらに揺らぐこともなく、土台ごと砕け散った。 ――この瞬間、対面して分かった。 槙島聖護は、狡噛慎也に固執しすぎるつもりはなかった。 やたらと悪評を垂れ流されるのは嫌だ。そんなある種わがままじみた気持ちだった。 だが、その感情は今、はっきりした害意、そして殺意に変化した。 狡噛慎也こそ自分にとって最大の不確定要素――いや、敵だ。 『『この男だけは、自分がこの手で殺す』』 この時二人は全く同じことを思考していて、 当然の帰結として、戦端は開かれた。 ☆ 「――!」 狡噛が拳銃を構える。 狙うのは、目の前の男の心臓。 躊躇いなどない。 これから行うのは、果たし合いなどではない。 殺し『合い』ですらない。 求めるのは槙島の死のみ。すべきは、一方的な虐殺、屠殺。 引き金を引こうとして――それより速く、槙島が何かを懐から投げつけた。 銃口はそれに引きつけられ、その何かが二人の間で破裂する。 (――酒?) 投げられたのは、狡噛にも馴染みのある酒――スピリタスの瓶。 強いアルコールの臭気に、狡噛の意識に僅かな戸惑いが生じる。 それこそが、槙島の狙い。 酒の飛沫に隠れるように、低い体勢で狡噛に肉薄し―― 「――セイッ!」 ビシッ、という音の後、リボルバーがくるくると宙を舞う。 それは橋の上、狡噛から数メートルの距離の場所に落ち――槙島はそれとほぼ同時に追撃をかける。 「!」 連打。 狡噛の顔面に拳が浴びせられる。 「く――」 最初の目論見が外れたことで、狡噛の対応は必然的に後手に回る。 腕を目の前に回し、拳打から身を守る。 だが、防げているのは3割ほどか。 起死回生の一撃を――ダメージに耐えながら機会を伺い、遂にパンチを見舞う。 「ふ」 だが、それも槙島の予想の範囲内。 回避しながら伸びきった腕を掴み、関節を取って投げる。 「この殺し合いの真実が――知りたくはないのか」 狡噛の体がばしゃりと音を立ててアルコールの水たまりの中に落ちる。 それでも受け身を取って、全身にダメージが及ぶのは何とか避ける。 「そんなもの――後回しでいいんだよ!」 怯まず、槙島へ向かう。 槙島の頭を挟むような形でチョップを見舞い――掴まれる。 お互いが手を掴み合う形になる。 先にバランスを崩したのは狡噛。 槙島はそのまま足払いをかけ、またも投げる。 「――」 橋の際まで転がった狡噛の目に入ったのは、自分めがけて飛びかかろうとする槙島の姿。 ――ちょうどいい。 今いる場所の数十センチ先に広がるのは、無限の虚空。 このまま槙島の勢いを利用し、巴投げの要領で――突き落とす。 「!」 体勢を構え――槙島の懐で何かがぎらりと光った。 槙島に格闘を行うつもりは、ない。 このまま刺し殺される――。 そう気づき、墜落を回避しながらぎりぎりのところでナイフを交わし――きれない。 狡噛の体に鋭い痛みが走った。 「――ふ」 「ぐ……」 再び数メートルを挟み、両者は向い合う。 (どこをやられた) 槙島から目を離さず、流血の元を探る。 左胸――いや、左腋。 腋下動脈。 がら空きになったそこを、抉られた。 止血している暇は――ない。 ならば。 (……) 懐にある、鞘に入ったその固い感触を確かめる。 マスタングから譲り受けた、火炎の刃。 これを使うしか、道はない。 このまま槙島に肉薄し、密着する。 そして火炎刃を抜き――起爆させる。 幸か不幸か、自分の衣服には多量のスピリタスが付着している。 よく燃えるはずだ。さんざん転がされた甲斐もあったものだろう。 そんなことをすればもちろん、自分は死ぬだろう。 動脈からの出血による失血死を待つまでもない。 命と引き換えに一人の男を殺す。 人はこんな自分を笑うのだろう。 蛮勇。自己犠牲。ヒロイズム。 何とでも呼ぶがいい。 何と言われようと、狡噛慎也は槙島聖護を殺すことを止められない。 それはすでに、正義感とも、かつての同僚のための復讐とも違う。 ただ自分のために。 狡噛慎也が狡噛慎也として生き抜き、狡噛慎也として死ぬために。 この身が文字通り、燃え尽きてでも。 狡噛慎也は槙島聖護を、殺す。 ――動いたのは、槙島が先だった。 狡噛は、ナイフを振りかざす彼に組み付く構えを取り―― 瞬間、その背後の人影に驚愕する。 (タスク!) アンジュを弔いに走ったはずの彼が、橋のたもとにいた。 「狡噛さん!」 なぜ戻ってきたのかは、タスク自身にも理解できていなかった。 二人の間にどんな因縁があるのかは知らないし、知ることも許されないのだろう。 だが、アンジュに先立たれ、騎士の役目がもはや打ち切られてしまった今。 もう誰にも死んでほしくない。 彼の心中にあるのは、それだけだ。 だから彼は戻ってきた。 そして血を流し追い詰められる狡噛の姿を認識したときには、同時にスペツナズナイフを発射していた。 「――ふふ」 だが、イレギュラーな事態に――槙島は、嗤った。 狡噛の体まで、あと1メートルという所で。 槙島の体が、ひらりと回転した。 そして、発射されたナイフは、その射線上のもう一人の人物。 ――狡噛慎也の胸に突き刺さった。 「あ……」 タスクの顔が絶望に染まり―― その時にはすでに、槙島は彼との距離を詰めている。 乱れきった思考では対応する構えすら取ることができない。 槙島の手刀が、タスクの首筋に叩きこまれる。 「――がはっ」 タスクがよろめき、その場に倒れ伏す。 立ち上ろうにも、全身をからめとるような痺れがそれを許さない。 「1分間は立ち上がれないだろう」 槙島は、狡噛の同行者、タスクがこの場に現れる可能性があることを察知していた。 戦闘が始まる前の短い問答。 そこからは、彼らの間に、信頼関係――と呼ぶに足りるものがあることを見てとった。 それゆえに、青年は執行官の命が失われることを、黙って見ていることはできないだろう。 その予見は結果、的中することとなった。 皮肉にも、狡噛はタスク自身と、彼のアンジュへの想いを信頼し。 ――それゆえに、彼の帰還を予測できなかった。 倒れるタスクに一瞥をくれると、槙島は改めて狡噛に向き直る。 「……思っていたより拍子抜けの結末だが、それでも久々に退屈を忘れた。感謝してるよ」 荒い息をつきながら、狡噛は槙島を見る そしてデイバッグから取り出したものを見て、驚愕に目が見開かれる。 なぜだ。 なぜおまえがそんなモノを持っている。 「猟犬がこれで逝くというのも、皮肉なものだろう」 執行官、そしてシビュラシステムそのものの象徴。 限られた人間にしか扱えないはずのそれを、なぜよりにもよってこの男が。 『犯罪係数――』 そんな疑問に答えなど出るはずはないし、そもそも疑問に意味などない。 もっとも胸にナイフを食らい、即死していないのが奇跡だ。 最後の意識の中で、狡噛は歯噛みする。 ここまでなのか。 槙島をこの手で殺すことはできず、自分は死んでいく。 自分を助けに来たタスクも、次に殺される。 この男ははこれから先もこの殺し合いの場に、そして自分たちの世界に、悪意と混乱の波紋を広げ続けるのだろう。 自分が逝き、もはや槙島を止められる者はいなくなる。 もう時間がない。 ドミネーターにエネルギーが集まっていくのを感じる。 慣れた感触だ。 葬ってきた潜在犯たちの顔が次々に浮かんでくる。 彼らと同じように全身をぶちまけ、自分も死ぬ。 きっと間もなく全身を襲うのであろう膨張感を予期しながら、狡噛は目を閉じた。 「――葬る」 →