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「……あいつが……」 「……くっ」 放送が終わっても、愕然とした気持ちが抜けない。 まさか、後輩が殺されるとは……自分のお守りで、ノコギリ男に殺されずに済んだと言うのに。 こんな、下らない実験なんかで、命を落としてしまうなんて。一体、何故こんなことに? どうして、何の罪も無い人間が、殺されなければならないのだろうか。 (……なおさら、この実験を壊す気になってきたぜ) 良く知る人間の死。 その事実は、自分の主催者への怒りの炎を大きくするには、十分すぎるほどだった。 しかし、ここで我を忘れる程怒るのは、何の意味も持たない。そこまで、自分は愚かではない。 どれだけ悲しんでも悔やんでも、死んでしまった人間は、もう生き返らない。こればかりは、どうしようもない。 しかし、悲しい気持ちだけはどうしようもない。こればかりは、いくら自分でも、割り切る事は出来ない。 (……表情から察するに、もう1人の俺も同じようなことを考えているようだな) やっぱり、自分が考えつきそうな事は、もう1人の俺も考えると言う事なのだろうか? 2人に増えたとはいえ、やはり自分は自分。同じ人物なのだから、考えが似てくるのも不思議では無い。 (後輩……お前の無念、俺は無駄にはしない……) これ以上、落ち込んでいて2人に迷惑をかけても、いいことは1つもないだろう。 自分がやるべき事は、1秒でも早くこの実験を壊す事だ。こんな下らない物のせいで命を落とした、後輩のためにも。 ……しかし、現時点では、実験を壊すに至る力や奴の所に辿り着く方法が、何一つないのだ。 特に、自身の首に取り付けられている、忌わしい首輪をどうにかしなければ。これがある限り、どうしようもない。 あの最初の実演で、遠隔操作でこの首輪を爆破する事ができる、と言う事だけが、唯一分かっている事実だ。 つまり、あっち側にとって都合の悪いことが起こると、すぐに参加者を殺害することが出来ると言う訳だ。 (待てよ……?こっちの動きが分かると言う事は、奴らには、こちらを監視する手段があると言う事だ……) こちらの動きが分かるような物。隠しカメラや、小型マイクのような物なのだろうか?それとも、何か別の物? その「何か」が一体何なのか分からないが、こちらの動きを知ることのできる物が仕掛けられているのだろう。 やはり、首輪を外すことは必須だ。実験を破壊するには、避けては通れない。 しかし、前にも言ったが、現時点では首輪を解除することはできない。それを言葉にするだけでも危険だ。 紙に書いて伝える方法もあるが、もしカメラのような物があったら、このことを奴らに知られてしまう。 伝えたいのに、伝える事ができない。このもどかしさ、どうすればいいのだろうか? (こればかりは、もう1人の俺も考えついているかどうか……俺と違う結論を出しているかもしれないが) 「……Tさん、大丈夫ですか?さっきから、ずっと黙ったままですけど」 「あ……ああ、別に何でも……道具も手に入れたし、そろそろ病院を出るか」 「ああ、そうしよう」 道具を入れたデイパックを背負い、全員が立ち上がったのを確認してナースステーションから出る。 通路は、来た時と同じくひんやりとしていて人気がない。所々、非常灯が辺りを照らしているだけだ。 病院独特の薬品のような臭いと、ひんやりとした空気が、鼻をつく。やはり、病院は何となく妙な感じだ。 しかし、出ようとは言ったものの、何処に行くかなんて決めていなかった。我ながら、無責任だと思う。 (ま、ここでじっとしているよりいいか……) その時、僅かだが殺気を感じた。どこから発せられているのか確かめようにも、よく分からない。 とにかく、殺気を感じた以上、一瞬たりとも油断はできない。いつ、どこから敵が飛び出してくるか分からないのだ。 廊下の曲がり角の影から飛び出してくるかもしれないし、近くの病室から飛び出してくる可能性もある。 (……感じてるか?お前も) (ああ……どこか分からないが) (え?感じてるって、何を……) やはり、今の状況をイマイチ把握出来ていないようだ。何の変哲も無い普通の一般人なのだ、無理もない。 ここは、無理に自分たちの傍にいさせるより、隠れさせといた方がいいかもしれない。 (ナースステーションに隠れていろ。俺達がいいと言うまで、出てくるんじゃない) (……分かりました) xzがちゃんと隠れたのを確認した後、もう1人の俺と背中合わせになって臨戦体勢を取る。 自分が非常口の方向、もう1人の俺が階段方面。こうすれば、何処から来ても必ずどちらかが迎撃出来る。 もし気づくのが遅れても、もう片方がカバーすることだって出来る。無論、絶対ではないが。 (どこから来るんだ……罠、ってことはないだろうが) (ああ……殺意を出す罠なんて、聞いたことがない) しかし、いくら待っても、敵は一向に現れない。 このまま待っていても、埒があかないのではないか……。そう思いだした所だった。 こちらの方を向き直して、もう1人の俺が話しかけてきた。 「……どうする?このままじゃ、埒があかないぞ」 「ああ……やはり、注意しながら非常口を通って外に……」 その時だった。 階段方面……つまり、もう1人の俺がさっきまで向いていた方。 その曲がり角から、人が飛び出してきた。……銃らしき物を、構えながら。 「……危ねえ!!」 「うおっ!?」 反射的にもう1人の俺を壁方面に突き飛ばし、自身は相手に向けて光弾を撃つ。 ……光弾が、相手の持つ銃を弾き飛ばしたのと同時に、自身の体を何か熱い物が貫通して行く。 間違い無い――銃弾を、モロに食らってしまったようだ。銃弾が発射される前に、銃を弾き飛ばせなかった。 「うぐっ……」 「大丈夫かっ!?」 「俺の事はいい!あいつを……」 「あいつはお前の光弾にビビって逃げた!しっかりしろ!」 「ああ……そうか……」 敵は逃げ出した。 それなら、もう大丈夫だ。もう、襲われることはない……。 「何があったんですか……!!」 「……出て来るなと言っただろう!!」 2人の声が、何だか聞き取りづらい。意識が、確実に遠のいている。このままでは、死ぬだろう。 だが、自分の傷を今の状況で治療するのは、不可能だろう。設備はあるが、技術がないからだ。 もう1人の自分も、xzにも、医術の心得はないだろう。あったとしても、もう間に合いそうにない。 全身にある銃創からは、既に大量の血が失われている。傷も、多分酷い物だろう。 「…………うぐ」 「動くんじゃない、出血が酷くなるだろ!」 「いいや……もう、無理だ……」 どこにどれくらいのダメージを負っているのかまでは分からないが、到底治療出来ない程の傷を負っている。 前にも思ったとおり、2人では治せないだろう。 「……最期に、1つ……首輪に、は……」 「首輪……?首輪が、どうしたんだ!?」 どうせ死ぬなら、と思い首輪の事を話そうにも、もう声を出す力も残っていない。もう少しなのに……。 「首輪には爆発物以外の何かがある」と、伝えておきたいのに。 意識の最後のひと欠片に、必死でしがみついてはいるが、もう掴まっていられそうにない。 (……………親父……………俺……………何も、出来ずに…………) そして、かろうじて掴まっていた意識も、塵となって消えた。 【Tさん@オカルト(Tさんシリーズ) 死亡】 死因:射殺 ◇ 吹原和彦は、走っていた。暗い病院の1Fを、ただ走って逃げていた。 双子みたいな男の片方を倒したと思ったら、もう片方が妙な物を当てて来て、銃を落としてしまった。 銃を回収してから逃げたかったが、そんなことをしていたら今度はあの光の弾を直接当てられてしまう。 あれが一体何なのかは分からないが、とにかく当たるとマズいと言うことだけは分かった。 (前に殺した男の銃を回収しておいてよかった……) 今度の銃は、さっきとは違って拳銃のような形状をしている。 さっきの物とは違って、連射が効かないタイプだろう。連射が効かないのは気に入らないが仕方無い。 それでも、武器があるだけ、まだいい。武器が無かったら、自分は終わりだ。 参加者を全員殺す。それが、自分の目標だからだ。そのためにも、武器は失えない。 (……絶対に、生き残るんだ。そして、来美子さんを救うんだ) 【一日目・黎明/E-6:病院・1F】 【吹原和彦@クロノス・ジョウンターの伝説】 [状態]:健康 [装備]:ワルサーP99(15/15) [所持品]:支給品一式、不明支給品×1、イングラムのマガジン×3、P99マガジン×3 ボロボロのお守り@オカルト(Tさんシリーズ) [思考・行動] 基本:最後まで生き残って、来美子さんを救う。 1:今は、病院から離れる 2:絶対に、来美子さんを救うんだ ◇ 「おい……しっかりしろ!おい!」 もう1人のTさんが必死に呼びかけてはいるが、もう顔からは生気が全く感じられない。 ――目の前が、真っ暗になっていく……Tさんが、死んだ。 何故、Tさんが殺されなければならないのか? どうして、Tさんが死ななければならないのか? 一体、何でこんなことになっているのか? 「……くそっ!!」 (――どうして、こんなことに) 頭の中で、いろんな事がぐるぐる回転している。思考が、全く定まらない。正常な思考が、できない。 しかし、そんな中、ある1つの考えが頭の中に浮かんでくる。とても恐ろしく、狂気じみた考え。 「俺が、油断していなければ……俺が……!」 (いや、これなら……別に……いけるかもしれない……) ――今からでも、ゲームに乗って、願い事でTさんを蘇生する。自分にそれができるかは分からないが。 しかし、できるかどうかはやってみない事には分からない。成功する可能性もあるし、失敗する可能性もある。 もしかしたら、自分は壊れてしまったのかもしれない。いきなり、こんなことを思いつくなんて。 (別に壊れたっていいんだ……自分は) 例え自分が壊れようと、必ずやり遂げてみせる。参加者全員を、敵に回したとしても。しかし、焦りは禁物だ。 上手く立ち回らなければ、必ずやられてしまう。人目に付き過ぎると、警戒されてしまう。 とはいえ、奥手に回っても、強者が残ってしまう可能性もある。そんな相手は、倒せそうにない。 (やってやる………でも、もう1人のTさんだけは……殺せない) やはり、もう1人のTさんは殺せない。こっちも、また本物のTさんなのだ。 とはいえ、最後に残れるのは1人だけ……いつかは、Tさんを殺めなければならなくなってしまうだろう。 「Tさん」を助けるために、「Tさん」を犠牲にする……自分に出来るかどうかは分からない。 「遺体をこのままにはしておけないな……もう1人の俺の持ってた物は、俺のデイパックに入れて持って行こう」 「……Tさん、申し訳ありませんが、今から僕1人で行動させてもらいます」 「何を言ってるんだ、危険だぞ!」 「分かってますよ、それくらい。それでは……」 「あっ、おい待て!」 Tさんの制止を振り切り、非常口から外に出た。 追いかけてくるであろうTさんを振り切るために早足で非常階段を駆け降り、一気に下まで降りる。 そして後ろを振り返るが、Tさんは追いかけて来ていなかった。心の底から、ほっとする。 自分の考えを話したら、絶対制止させられるのが目に見えていた。だから、あえて単独行動を取った。 (ごめんなさい、「Tさん」。自分は……もう、Tさんの傍にいることはできません……) 自分でも気づかぬ内に、心の中を闇と狂気が満たして行く。 その中にはもう――光は存在していなかった。 【一日目・黎明/E-6:病院・非常階段付近】 【◆xzYb/YHTdI@非リレー書き手】 [状態]:健康? [装備]:ウージー(25/25)、ネコ耳@絶体絶命都市2 [所持品]:支給品一式、鼻ヒゲメガネ@絶体絶命都市2、ウージーマガジン×3 [思考・行動] 基本:ゲームに乗り、優勝してTさんを蘇生する 1:……ごめんなさい、Tさん 2:書き手さん達も……倒すしかない。Tさんも……いつか…… ◇ 「あっ、おい待て!……行っちまった」 止める間もなく、xzは非常口から外に飛び出して行った。最初は、引きずってでも連れてこようかとも思っていた。 だが、あいつの目を見た瞬間、やる気が無くなってしまった――あの襲撃してきた奴と、同じ物を感じたからだ。 これは推測でしか無いが、おそらくもう1人の俺を生き返らせでもしたいのかもしれない。 (……そんな事しても、もう1人の俺は喜ばない。絶対にな) 今頃、この病院を離れどこかに向かっているのだろう……参加者を探しに。 誰かを殺めてしまう前に、光弾を撃ち込んででも止めたい。だが、何処にいるかが分からなくなってしまった。 (誰も、殺めずにいてくれればいいんだが……) xzの事も気になるが、もう1人の俺が最期に言い残した言葉も、気になる。 ―――『……最期に、1つ……首輪に、は……』 首輪に、何があるんだろうか。もしかして、もう1人の俺は、自分が気づかなかった何かに気づいていたのか? しかし、それを最後まで言えずに、もう1人の俺は、力尽きてしまった。 (何があるんだ、首輪に……分からない……) せめて、首輪を外せれば。 首輪を外してしまえば、中身を調べられるだろうに。 (しかし、自分には首輪は外せない……遺体も、このままにはしておけないしな) もし霊安室があるなら、そこにもう1人の俺の遺体を安置しておきたい。そこなら、遺体を荒らされる心配も少ない。 ……まあ、全く安全と言う訳でも無いが。こんな状況だからこそ、誰かが遺体を荒らす可能性もある。 (……自分で自分の遺体を背負うなんてな……こんな所でなんだが、安らかに眠れよ) 【1日目・黎明/E-6:病院・2F】 【Tさん@途中参加者】 [状態]:健康、血濡れ [装備]:なし [所持品]:支給品一式、不明支給品×2、Anabiotics@S.T.A.L.K.E.R.×5 [思考・行動] 基本:この実験とやらを壊す。 1:……もう1人の俺を、霊安室まで持って行く 2:xzが心配だが……首輪のことも気になる ※病院2FにイングラムM10が落ちていて、Tさんの血の海が広がっています
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▲【テンプレ優先能力の壁】 ◆03(あらゆる全てが書いてある系無限後退の壁) 所属テンプレ数『30』 01 >黒紫(完全体) 02 >博麗霊夢(シミュレーションゲーマー) 03 >Strong Person 04 >Sealer 05 =名もなき虚銃使い 06 >千載無意 07 >Upper Male 08 >最短の神 09 >Eternal-winner 10 >JIN(であったはず) 11 >Tiger King 12 >-星謳祭- 13 >概念超越者 14 >意味をねじまげる人 15 >マイケル少年 16 >♂+♀=X=♂または♀ 17 > ナマの事実 18 >「決定者」 19 >正午子夜 20 >「A」 21 >不可算無限 22 >王の挑戦 THE NEXT GL 23 >The Last Ordeal 24 >ルシフェル 25 >Logical-radical 26 >Acess WordExel 27 >日天 28 >ガンダム・バエル 29 >範馬勇次郎_2008 30 >俺たち無敵のDチーム ▼【あらゆる全てが書いてある系の壁】 UP!03【あらゆる全てが書いてある系無限後退の壁】・03番艦「犬神(いぬがみ)」 モチーフ:とあるSNSより「AKASHAと呼ばれる「表現の自由を守る」マーク」 ■選定理由: あらゆる全てが書いてある系の壁から変化 ■壁画に入れた台詞: 壁名
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光るものの全てが黄金とは限らない ◆jbLV1y5LEw 「ああ、クソ……! どうにも噛み合ってねえな……」 D-8に位置する山小屋の傍で、スパイクは一人でスコップを手に穴を掘っていた。 ジンはちょっと確認したいことがある、といって山小屋を離れ、 カレンはスコップの他に何か山小屋の中で役に立つ物がないか探している。 必然的に余ったスパイクが一人でマタタビを埋葬するための穴を掘っているのだ。 「噛み合ってねえな……」 スパイクはまた呟く。 今日一日の経緯を思い出した彼の感想はこれに尽きた。 最初は読子とのんびり物見遊山をして帰るつもりだった。 が、そもそもここから既に状況と噛み合っていない。 (まあ、聞いていなかった自分たちが悪かったのだが) その後も協力する予定だったはやては合流直後、何故かこちらを残して出立。 放送が真実ならば、それっきり死んだらしい。 次いで襲ってきた傷面の男に同行者だった読子は殺され、新しい同行者の一人はやたらとこちらを敵視している。 主催者に反抗する仲間を募っているジンと出会えたのはよかったが、ここでもケチがついた。 彼らに保護されていた喋る猫、マタタビが死んでしまったのだ。 はやてたちに何が起きたのか知っているだろう猫だったのだが、話一つ聞けなかった。 しかも、どうやらビバップ号の同居人、エドまで殺されてしまったらしい。 人生はままならないものというのは身に染みて分かっているつもりのスパイクだが、どうにも今日は巡り合わせが悪い。 本音をいえばガキなんてほっぽり出してビシャスやジェットを探しに行きたいが、そこまで薄情にはなれない。 特に、マタタビの死についてはきちんと考えておかないと、今後の身の振り方に関わる問題だ。 そこに誰かの作為が入っているならば、仲間の中に他人に殺意を持った奴が潜んでいる、ということなのだから。 『考えるな。感じろ!』とはスパイクが尊敬するブルース・リーの名言であるが、この場では直観と思考、どちらも必要になる。 それだけでも頭がいっぱいになりそうなのに、同行者のカレンははた目で見ても精神的に不安定だ。 (やれやれ、こんなのはお前の役目だろうがよ、ジェット…… 正直、俺は推理や子守りなんてガラじゃあないぜ……) 子供と女、そして動物が嫌いだと標榜する彼が、動物のために穴を掘り、女の子供の子守りをしなければならない。 (せめて、煙草でもありゃな……) どうにも噛み合わない状況に、スパイクは小屋の中で手に入れたライターを見てため息をついた。 ふと、何か視線を感じて振り向く。 だが、そこには誰もいなかった。 ■ スパイクの感じた視線は気のせいではない。 彼の背中を物陰からじっと見つめる人影があった。 ゼロによって『スパイクを殺せ』と命令されたカレン・シュタットフェルトである。 事実、穴を掘るスパイクの背中は無防備に見えた。 今、カレンが持っている銃で狙えばあっという間に始末できそうなほどに。 カレンには先代ゼロを守れなかったという自責の念がある。 それだけに、ゼロに障害を与える可能性のある人物は何としても排除したかった。 それがゼロ本人からの命令となればなおさらである。 ジンがどこかへ行っている今はチャンスのようにも思えたが…… (ダメだ。ゼロは『悟られないように始末しろ』と言ったんだ) 今すぐスパイクを銃で撃ち殺したくなる気持ちを何とか自制する。 ここで撃てばスパイクは殺せるかも知れないが、流石にそれをジンに悟らせないのは無理だろう。 (チャンスを待たなきゃ……) 銃を仕舞い、カレンは山小屋の中へと戻っていく。 ■ 数十分後、三人の乗った消防車はジンの運転で山道を降りていた。 「これから図書館に向かうんだったな。どういうルートでいくつもりだ?」 助手席に座ってざっと地図を眺めたスパイクは、運転席のジンに尋ねた。 見たところ、図書館へはいくつもの行き方がある。 大まかに分けて飛行場や豪華客船の停泊地のある離れ小島を通るルートと、 病院や映画館などが集まる町の中心を通るルートだ。 「そうだね。まずはデパートへ行って、そこで今後の観光ツアーの道行を考えようと思ってるよ」 「また随分適当ね」 呆れたようにつぶやく後部座席のカレンに、ジンはルームミラー越しに、笑って見せる。 それを聞いたスパイクがつぶやいた。 「ん? デパートっていやあ、ちょっと前……」 「そ。やたら大きなキャンプファイアーをしてたと思ったら、せっかちな誰かさんが消防士の到着前にでっかい爆弾で消したみたいでね。 あのお姫様やビクトリームによると、そこに何人かいたらしいし、調べてみるつもりだよ」 「ニアの? 信用できるのかしら……?」 「さあね。でも、さっき木の上から確認したら、デパートの辺りだけスッパリ光が盗まれてたよ。 何かあったのは間違いないだろうね。どの道、左回りで行くならデパートは通らなきゃいけない。 怪我人がいるようなら、病院へエスコートしてあげなくちゃ」 「なるほど。ついでに光を見て寄ってきた人にも会えるかもしれない、か」 「そういうこと。ま、この消防車ならすぐに着くよ」 ジンがそういうのを聞いて、スパイクはシートにもたれた。 ほんの少しだろうが、暇ができた。 カレンの相手はジンがしてくれるだろうし、ここらでもう一度、考えておく必要がある。 つまり、マタタビの毒殺について、だ。 ■ ニアがマタタビを殺した。 この事実はもはや疑う余地はあるまい。 問題はそれが単なる過失なのか、それともニア本人を含む誰かの悪意によるものなのか、この点だ。 単なる過失、つまりうっかりの可能性はもちろんある。 だが、状況に不自然なものを感じるのも事実である。 いくら不注意でも、怪我人に得体の知れない薬を飲ませるだろうか。 ニアは相当常識に欠けるようだが、そこまで致命的な人間がいるとは正直、スパイクとしては考えにくい。 となると、やはり誰かが彼女を彼女自身にも気付かれないように誘導した可能性が高い。 万一、ただのうっかりならこれ以上何も起きはしないだろうからそれはそれでいい。 なら、悪い可能性についても考えておいて損はないだろう。 では、誰かの故意だと仮定する。 つまりニアが薬を毒と偽って飲ませた、もしくは周囲がニアの持っていた薬を毒とすり替えた場合である。 この場合も一番怪しいのはニアだが、これは却って不自然だ。 自分で螺旋王の娘だと明かし、それによって周囲から疑惑を受けた直後にわざわざ自分が犯人とわかる形で猫を殺し、ご丁寧に悲鳴をあげて全員に犯行を知らせる。 そしてその理由が「毒なんて知らない。薬だと思っていた」。 (アホらしい。子供でも疑われることくらいわかるだろう) そもそも殺すつもりならジンがいない間にいくらでもやりようはあっただろう。 同様に、ジン、ビクトリームにもいくらでも機会と方法はあったはずだ。 そもそもジンなら毒殺というまだるっこしい手を使わなくてもニアとビクトリームとマタタビを殺した後、何食わぬ顔でスパイクたちの前に現れればいい。 この得体の知れないところのある少年は、おそらくそれが簡単にできるだけの実力の持ち主だろう。 ビクトリームについても同様だ。 もともと彼(?)とニアがマタタビを拾い、さらにそれをジンが拾ったらしい。 つまり、二人っきりの時間が相当あったのだから、支給されていた銃を使えば一瞬で片がつく。 私怨があるとも思えない彼らがマタタビを殺すとしたら、優勝のためだろうから、他者を生かしておく必要などない。 いや、相手を信用させるためにあえて足手まといを確保するなら、いざという時に見捨てる覚悟でマタタビを生かした方が都合がいいはずだ。 結論としてはあの三人は犯人である蓋然性が低い。 もちろん、人間は論理だけで動くわけではないから言い切れないが、そこまで言い出したら誰も彼も疑わなければならない。 大体、いくら素直で世間知らずのお嬢様とはいえ、わけのわからない薬をいつ起きるともしれない怪我人に飲ませるのはリスクも難度も高いように思える。 (ああ、畜生。何を遠回しに考えてやがる) 心の中でため息をついた。 そう、実はニアのその勘違いを意図的に誘発できる要素を、スパイクは知っている。 完全に忘れていたが、順序立てて考えていくうちに思い出した。 読子が言っていたではないか、『ルルーシュ・ランペルージには催眠術のような特殊能力があるのではないか』と。 その後、あの傷面の男が襲ってきたため、あやふやになっていたが、この推測が仮に当たっていた場合、事情は一変する。 たかが催眠術と馬鹿にすることはできない。 以前、スパイクを含むビバップ号の面子全員で追い詰めた新興宗教の教祖、ロンデス。 彼は機械を通してではあるが、人を自殺へ追い込むほどの強力な催眠・洗脳術を持っていた。 生存本能を捨てさせることに比べれば、薬と信じ切っているものを毒とすり替えた後、怪我人に飲ませるくらい造作ないだろう。 (問題は……信じてもらえねえことだよなあ……) これは推測にすぎない。 こんなことを言い出して信用してもらえるかは怪しい。 読子にこの推測を伝えられた時、スパイク自身が疑ってかかったくらいだ。 ましてはやて達が突然行動を変更した場面を見てすらいないジンに信じてもらえるわけがない。 カレンなど問題外だ。 ルルーシュが怪しいと言った瞬間に銃を向けられかねない。 そもそも、スパイク自身がこの発想を少し突飛だと思わないでもない。 (やれやれ。マタタビが生きてりゃ話を聞いてもう少しはっきりしていたんだが……ん?) そこでスパイクはふと気がつく。 あの場にいた面子で生き残っているのは自分とカレンとルルーシュの三人だけであると。 あの時、自分は隠れていたからカレン・ルルーシュの視点で考えればカレンとルルーシュ二人だけである。 ■ 立場を変えて考えてみよう。 瞬間催眠のような能力を持っている人物がいるとして、その人物はその能力を公言するだろうか? ちょっと良く考えればそんな愚行は避けるだろう。 他人の意思に介在できるような人間を信用できる者は相当限られている。 特に、こんな殺し合いの舞台ではそんな能力があるというだけで疑心暗鬼の対象となって銃を向けられかねない。 とはいえ、こんな状況下にある以上、止むを得ず使うこともあるだろう。 だが、使った対象の催眠が解けるなり、催眠をかけた目的を全く遂行できない状態になったらどうだろうか? 瞬間的な催眠術は、上手くやればかけたことすら相手に気付かれないだろうが、行動を真逆に捻じ曲げられたりすれば流石に気づくだろう。 その人物が正気を取り戻せば、自分が催眠術をかけられたことを周囲に伝えるのは間違いない。 また、よくよく観察されれば言動から催眠状態にあることを知られる可能性がある。 そんなことになれば、いずれその能力を持つ人物は割り出され、周囲から孤立し、自分の生存すらおぼつかなくなる。 自分に強力な戦闘能力がないならなおさらだ。 ならばどうするか。 古人いわく、死人に口なし。 用済みの者が死んでしまえば秘密は漏れない。 スパイク自身も『レッド・ドラゴン』に所属していた時代、さんざん味わってきた非情な教訓である。 もちろん、マタタビ以外にもカレンがいるわけだが、ゼロの椅子を手に入れた今、カレンがルルーシュに不利なことをするとは考えにくい。 それくらい、カレンの中で『ゼロ』という称号が重い位置を占めているのは見れば分かる。 つまり、マタタビを殺せばこの能力の秘密を知られる恐れはない。 (とまあ、こう考えればランペルージがマタタビ殺害の黒幕って説は動機の面からも筋が通るが、証拠はないしなあ……) 証拠などこの状況では必要ないが、少なくとも周囲を納得させることは必要だ。 出会って間もないが、ルルーシュは冷静で、頭が回る人間だということは分かっている。 本当に催眠能力を持っているのだとしたら、マタタビに自殺させればいいところをニアを利用することで周囲の信用を勝ち取っていることにもなり、それなりの狡猾さも持っていることになる。 そんな奴相手に、スパイクが人望やら口論で勝てるだろうか。 スパイク自身が無理だと断言できる。 (それどころか、下手に疑いをかけたら周囲に袋叩きか、催眠術で操られてこっちが返り討ちだろうな) 読子の警告さえなければ、スパイクだって彼を「もやしっ子だが頼れる好い奴」と評価していただろう。 だが、光るものの全てが黄金とは限らない。 日常生活では好人物でも、裏で行っていた犯罪が明るみに出て賞金首になった人物など掃いて捨てるほど見てきた。 好青年のルルーシュが実は人殺しも厭わない非情な男だったとしても驚きはしない。 問題は対策だが……さっぱりわからない。 実力行使に訴えるのも手だが、この状況では無理だろう。 何か尻尾を出すまで警戒するしかない。 といっても、スパイクの側に彼はいないので、合流するまでその部下であるカレンをそれとなく気をつけるしかないが。 「ゼロ」に固執する彼女は、ルルーシュの能力の秘密など気付かなくても自棄を起こして何かするかもしれない。 突然自殺でもされたら気分が悪いことこの上ない。 (あーあ、面倒くせえ。だからガキと女と動物は嫌いなんだよ……) ■ スパイクがふと気がつくと、妙に車内は静かになっていた。 横を見ると、ジンが無言で運転している。 さらに後部座席を見ると、カレンは疲れが出たのか、うとうとと眠っていた。 「おい、カレン……」 起こそうとしたスパイクの目の前に、横から指が突き出された。 その指の持ち主を見ると、ジンはそのまま指を唇に押し当てる。 (まあ、小うるさいのが黙っててくれていいか。) 眠りは精神の疲労も和らげる。 今のカレンには必要なものだろう。 ジンの意図を察し、スパイクもジンにならって黙り込んだ。 ただ、スパイクにはひとつだけ気になることがあり、声を抑えて口を開いた。 「ジン、お前、ランペルージのこと、どう思う?」 「冷静で頼りになると思うよ。女の子にも優しいしね」 「そうか……ニアのことは?」 「……難しいね。いろいろ考えてみたけど、彼女がマタタビを殺したとしか思えないし、素性も怪しい。 ルルーシュは信用していたみたいだけど…………」 「まあ、だろうな……」 それきり、スパイクは黙り込んだ。 光るものの全てが黄金とは限らない。 だが、その輝きに騙される者は多い。 王ドロボウがその真贋を見極められるのはいつだろうか? 三人を乗せた消防車は夜の闇をかき分けながら、デパート跡地へ到着しようとしていた。 【E-6/路上/一日目/夜中】 【ジン@王ドロボウJING】 [状態]:消防車の運転席、全身にダメージ(包帯と湿布で処置)、左足と額を負傷(縫合済) [装備]:夜刀神@王ドロボウJING×2(1個は刃先が少し磨り減っている) [道具]:支給品一式(食料、水半日分消費)、支給品一式 予告状のメモ、鈴木めぐみの消防車の運転マニュアル@サイボーグクロちゃん、清麿メモ 、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿 [思考] 基本:螺旋王の居場所を消防車に乗って捜索し、バトル・ロワイアル自体を止めさせ、楽しいパーティに差し替える。 0:いい夢みなよ、カレンおねーさん。 1:デパート跡地を探索する。 2:仲間を集めつつ左回りで図書館を目指す。 3:ラッド、ガッシュ、技術者を探し、清麿の研究に協力する。 4:ニアに疑心暗鬼。 5:ヨーコの死を無駄にしないためにも、殺し合いを止める。 6:マタタビ殺害事件の真相について考える [備考] ※清麿メモを通じて清麿の考察を知りました。 【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】 [状態]:消防車の助手席、疲労(小)、全身打撲、胸部打撲、右手打撲(一応全て治療済みだが、右手は痛みと痺れが残ってる) [装備]:デザートイーグル(残弾7/8、予備マガジン×2) [道具]:デイバック、支給品一式(-メモ) ブタモグラの極上チャーシュー(残り500g程)、スコップ、ライター [思考] 0:小うるさいのが黙っててくれて助かるな…… 1:デパート跡地を探索する。 2:仲間を集めつつ左回りで図書館を目指す。 3:カレンをそれとなく守る。もちろん監視も 4:ルルーシュと合流した場合、警戒する。 5:ジェットは大丈夫なのか? [備考] ※ルルーシュが催眠能力の持ち主で、それを使ってマタタビを殺したのではないか、と考え始めています。 (周囲を納得させられる根拠がないため、今のところは他人には話すつもりはありません) 【カレン・シュタットフェルト@コードギアス 反逆のルルーシュ】 [状態]:消防車の後部座席、疲労(小)、精神疲労(中)、若干不安定、睡眠中 [装備]:ワルサーP99(残弾15/16)@カウボーイビバップ [道具]:デイパック、支給品一式(-メモ)、高遠遙一の奇術道具一式@金田一少年の事件簿 [思考]: 基本:黒の騎士団の一員として行動。ゼロの命令を実行する。 0:………… 1:デパート跡地を探索する。 2:仲間を集めつつ左回りで図書館を目指す。 3:スパイクを出来るだけ密かに始末する。 4:ゼロ(ルルーシュ)に指示を仰ぐ 5:先代ゼロ(糸色望)の仇を取る [備考] ※マタタビを殺したのはニアだと思っています。 ※ジンは日本人ではないかと思っています。 時系列順で読む Back root(後編) Next 刻無―キズナ―(前編) 投下順で読む Back root(後編) Next 刻無―キズナ―(前編) 214 ナイトメア・チルドレン(後編) スパイク・スピーゲル 230 Rising Moon the Samurai & the Gunman(前編) 214 ナイトメア・チルドレン(後編) ジン 230 Rising Moon the Samurai & the Gunman(前編) 214 ナイトメア・チルドレン(後編) カレン・シュタットフェルト 230 Rising Moon the Samurai & the Gunman(前編)
https://w.atwiki.jp/onirensing/pages/902.html
アーティスト:くず レベル:2 登場回数:2(レギュラー版第29回、第33回) 挑戦結果 エハラマサヒロ:成功(レギュラー版第33回)
https://w.atwiki.jp/kk0201kk0714/pages/2167.html
(歌詞は著作権に触れるため省略) アーティスト:くず レベル:2 地声最高音:mid2G(君のこえが聞きたいから) くずの3rdシングル。2003年世界柔道選手権大会の応援ソング等に起用され、自身初のオリコン1位を記録した。 時短での歌唱であったが、サビだけだと短いため、Bメロ+サビと仮定する。Bメロでは正確に音程を捉える能力、サビでは高音を的確に決める能力と、それぞれの箇所で異なる能力が要求される楽曲。 Bメロはキーが低め。「テレビのニュースに怒っても」等の低音には要注意。また、「許せない事があっても」等の独特なリズムに惑わされぬように。 サビでは音程は然程難しくない代わりにキーが高め。mid2Gが頻出する上に連続するため、意外と大変。「君の声が聞きたいから」の太字箇所の音程にも注意。 以上の点よりレベル2としては難易度が高めな楽曲か。