約 883,758 件
https://w.atwiki.jp/himejishi/pages/76.html
北条 泰嗣(ほうじょう やすつぐ) 公式サイト http //www.houjyo.net(リンク切れ) ブログ http //hojyo924.blog89.fc2.com ツイッター フェイスブック フェイスブックページ インスタグラム ユーチューブ 選挙ドットコム https //go2senkyo.com/seijika/75727 兵庫県議会プロフィール http //www.hyogokengikai.jp/member/19-027.html 公明党本部プロフィール https //www.komei.or.jp/member/detail/28031778 所属 公明党 出身 兵庫県宍粟市波賀町 新着情報 県会・市会で家島のために 姫路別所高校交流体育祭 市会・県会連携プレー 浸水被害の現地調査と要望 未来を拓く子どもたちと ニュース検索結果 https //news.ritlweb.com/search/%22%E5%8C%97%E6%9D%A1%E6%B3%B0%E5%97%A3%22 当選回数 4回
https://w.atwiki.jp/revenator/pages/46.html
世界観説明 舞台は、度重なる謎の災害、事件により人口が、それも特に成人、高齢者が著しく減少している現代の地球である。この地球がある世界をコズミズドと呼ぶ。しかしこの世界も無数ともいえる数の世界のうちの1つである。 今ある全ての世界が生まれる前、旧世界と呼ばれるものがあった。それは6体の霊龍こと世界龍により管理されていた世界である。龍たちはエネルギー生命体を作っては競わせ優劣を決めていた。しかしその生命たちの謀反により力を砕かれ、封印するための楔を打ち込まれ今在る世界の土台となっている。 龍たちは封印される間際に、今出せる力を持って分霊体こと幻霊龍を生み出し散らばった龍霊玉の欠片を探していた。 しかし異界空間内はともかく、その先にある現実空間ではエネルギー生命体である龍は常にエネルギーが露出する影響で長時間の現界ができない。そこで彼らは集められた龍の力を持ちながら人間を始めとした生物に干渉し憑依できる存在を探していた。 それが微生界人である。彼らは元々龍に憑りつき制御するためのユニット、対龍兵器であったが途中で求められる役割が変わり生命体の数の調整により龍の復活を阻止するというものになっていた。実質今を生きる者は皆、龍が眠っているから存在しているといういわば龍の夢の住民というわけであり、それを管理する者を龍夢の管理者と呼ぶ。 このままでは永遠に生物濃縮によるカケラの凝縮、霊宝玉の再形成ができなくなると考えた彼らは依代も兼ねこれら微生界人の中で特に龍の力を核として作られていた血徒という存在に干渉しこれを影ながら支配し、更なる依代及び復活のための力を集めるためにPと呼ばれる神造的に生み出された世界龍の成れの果てと、神霊機と呼ばれるこれまた対龍兵器の捜索と確保のため血徒を使い暗躍し、多くの世界に被害を与えていた。 その中で世界龍の分霊にして子でもある幻霊龍たちは、各自本体である龍を目覚めさせるためにあらゆる小世界にて活動し、エネルギーを回収していた。それにより引き起こされる龍災は、多くの命を奪ってきた。見えざる脅威に翻弄される中、その正体を見破る力を持つ人間たちが現れる。それは龍のカケラを宿した者。 彼らは秘かにその霊龍たちの行動を追い、何者かを調べていた。見えない殆どの人たちからの心無い言葉を浴びせられつつも、彼らは未来のために行動していた。 そんなカケラを宿す者たちを救済するため、龍を倒すために生まれた兵器群が力を貸す。旧世界の復活を目論む霊龍たちと、今の世界を守りたい人間、ヴィダールたちの戦いが今始まる。 ・始まりの6色界龍 大世界と呼ばれる、すべての小世界を管理する器が生まれる前、遥か果てしない空間に、6体の龍が存在していた。それは世界龍と呼ばれる龍王(ドラグ・モナーク)とも呼ばれまた、各龍は色と感情、欲を支配している存在でもあり色界龍とも呼ばれていた。 そんな霊龍たちは膨大なエネルギーを用いて手ごまを作っては競わせ、誰が作った造物が一番優秀かを終始観察していた。 その6種族こと、ヴィダール・コズモズ・アンヴィエントゥ・ニュートイノスティ・イストライス・ダルノスタルジス、その6つの生命体が終わりのない戦いを強いられていた。 そんな中、特に強大な力を得たのは白き霊龍が生み出したヴィダールと、黒き霊龍が生み出したコズモズであった。最初は龍の駒として動いていた彼らだが、次第に自己、自我を得て龍たちに反逆する。本来勝てないはずの2種族だが、彼らは気づかれぬようにある封印具を作成していた。 非常に多くの犠牲を出しながら、彼らはついに弱り切った龍たちにその封印具を打ち込むことができた。それと同時に、弱った6体の龍が持つ龍宝玉を粉々に砕くことで力を霧散させた。これにより龍は永久ともいえる眠りにつくことになった。 すると、6体の龍は時間をかけて一つとなり、無限とも思えるような広さの大世界と変化していったのであった。 龍を倒した2種族は、その後も手を取り合い大世界の中であらゆる小さな世界の構築を行い、龍にとって代わり世界を見守りつつ、新たに生まれる生命体の誕生や進化、発展を見届けていた。 そんな中、2種族を分断させてしまう大事件が起きたのであった。 それは、ヴィダールの勢力圏の中で起きた悲劇であった。その事件は、ともに今の世界を作り上げたコズモズにも影響を与え、結果的に同盟を破棄し道を違える結末に至った。 その後実質的に世界龍の封印を任されることとなってしまったヴィダールの創造主・ソラは親であるソラリール、アルフシエラをある神具を作る実験に利用した。それは無限炉と呼ばれる無限に霊量子を生み出す禁断の神具。それを見た他のヴィダールは彼女に恐怖した。またソラと他のヴィダールは対世界龍に関する施策が異なり、ソラの龍のカケラである宝玉こと龍因子を利用する方法について危険性を指摘し、自分たちは神霊機を作り出し別世界で力を集め対抗するといい離反してしまったのであった。 その後ソラは、世界龍自体を支配しようとコード「P」を製作し運用しようとしたが、制御しきれず凍結封印。次に微生界人という微生物の概念を生み出しP同様に世界龍の体を支配しようとしたが対霊防御の脆弱性に気付き力を奪い封印。しかしこの封印が完全でなく、彼らは別の世界に移動し微生物の世界を作っていた。 また、この前後かソラは先祖であるドラギスから霧散した龍の力の残滓が長い時をかけて、生物の中で濃縮され欠片になっていることを知る。その後にコズモズの生き残りであるヴィクティルが接触し、世界龍は負の精神エネルギーも優先的に確保しようとしていること、それは知的生命体の増加に伴って加速すること、近い未来それがどうやっても起きることを知る。 それだけでなく、ヴィクティルは独自に血徒と接触しソラについて、知的生命体を倒し糧とすることでしか生きられない存在にして生み出したとだましソラへの復讐心を生み出させながら龍を従え、Pの力を手に入れればそれは叶うとそそのかしていた。既に龍に心を支配されていたコズモズはその多くがドラギスの手で封印されており、ヴィダールを恨んでいる。ヴィクティルもそうであり操られていることも知らずに各勢力を渡り世界龍復活の礎にされていた。 そんな中ソラはここで計画を見直し、世界龍を倒し新たに世界を1から作り直し我が物とする計画に変え、龍因子を利用した兵器群の開発に取り組む。肉体を持つ存在ならば龍の精神波動に耐性を付与できると、神造人を作りそれに龍因子を搭載した。しかしその力に取り込まれたり命を落としたり、龍になってしまうものも少なからず存在していた。 そこで彼女は無限炉の力で龍因子を制御し全ての力を引き出す存在を作ることにした。これには初代龍葬皇のドラギスの指示が裏にある。U=ONEの力を継がせることで最終的に7番目の龍王に仕立て上げるためである。一方でソラはというと相変わらず世界龍を破壊し新たな世界を生み出そうとしていた。相反する計画だが、龍を支配するために奇妙な一致を見せ奇跡の存在が誕生した。 そうして出来上がったのが、ハルザーク、ハーネイト、伯爵である。 今存在している新世界、それは龍が眠っているから存在できる、いわば龍の夢そのものであり目覚めれば夢は上書きされて消えてしまう。ソレを阻止するため夢を管理する、それが対龍兵器なのである。 + ... 派閥 目的 世界龍との関係 ヴィダール;龍葬皇ドラギス 6界の霊色龍を統べる7番目の存在を生み出すため、U=ONE化の力を完成された最後の対龍兵器ハーネイトに渡す 世界龍自体を封印した過去を持ち、精神汚染された者を助けてきた 龍を封印せし一族:ヴィダール(ソラ) 世界龍自体を制御、支配下に置こうとするが最終的に世界龍ごと新世界を壊し新世界を創世する 巨大霊龍にタイマンを仕掛けて勝てるほどに強く彼女の抹殺のために旧支配者は血の魔人たちを利用している 龍を封印せし一族:ヴィダール(ソラ以外の神柱) 神霊機を使い、龍を狩り続けることで現状維持を目指す 霊形機が龍に対してハッキング面などで脆弱すぎるため今のままでは龍に負ける。また龍を過度に恐れている 龍を封印せし一族:コズモズ 世界龍の精神支配を受け、ヴィダールもといドラギスなどに対する恨みを利用され悪事を働いている 龍に操られ依代として龍徒と化している状態 神造兵器第一世代;P ソラが生み出した世界龍制御用の自立ユニット。制御が効かず凍結封印されいつの間にかS一族の所にあった 7番目の世界龍とも呼べる存在で、世界龍たちがその力を狙う 神造兵器第弐世代;微生界人 ソラが2番目に生み出した、世界龍自体に干渉し取り付き制御するための霊的兵器群。龍の精神支配に脆弱であると分かり封印されるも別の世界を作り生きている 基本霊体だけであり龍の霊波動の影響をもろに受けて操られてしまいやすい 神造兵器第参世代:神造人 肉体を作り精神防御力も挙げ、龍因子の運用により龍を倒す存在として生み出された存在 肉体を持ったお陰で龍に対する抵抗力は上がったが倒しきれない龍もいる 神造兵器第四世代;無限炉搭載型神造人 6つの龍の力を無限炉という神器で制御し世界龍本体を倒しうるほどの力を持たせた最後にしてすべての技術の結晶 すべての霊龍を倒すをコンセプトにした龍の力でそれを倒す存在。世界龍の脅威になる 龍素蓄積者(コアホルダー) 龍素を蓄積している生命体を指す。LV1~3があり、3の末期だと龍人と化し暴走し命を落とす危険性がある。彼らは龍に干渉し傷を入れられる
https://w.atwiki.jp/kazuha1015/pages/762.html
世界観 〜あなたが創造する、未完の世界 「パーフェクト ワールド」は、かつて、神と人がともに暮らした時代、大洪水によって荒廃した地上に代わる場所として神々が作り上げた新世界を舞台としています。大陸の覇権争いに興ずるもよし、職人として己の業を極めるもよし、天界の住人となるもよし、魔界の住人となるもよし、あなたが自由にプレイスタイルを決められるMMORPGです。(公式プレサイト『世界観』より) 広大な世界 〜どこまでも続く地平線 遥かそびえ立つ山脈の頂上に降り立つチャンスがら、『パーフェクト ワールド』の世界を見回してみてください。360度、あなたが見ている地平線全てが『パーフェクト ワールド』のフィールドです。(公式プレサイト『広大な世界』より) 参考動画 動画
https://w.atwiki.jp/fantasylaboratory/pages/402.html
2008.05.10 04 44 水上 える なかなか寝付けないでいる夜だった。 暑いわけでも寒いわけでもない、春の夜。 「今日は昼寝もしてないのに……おかしいなあ」 羊を数え始めたら、その毛のもじゃもじゃが積み重なっていく様を思い浮かべてなんだか愉快になってしまい、 よけいにテンションがあがってしまったようだ。 あきらめて彼はむくりと体を起こした。 「ホットミルクでも飲んでみるかあ」 先日一人暮らしをはじめたばかりの部屋だった。 3つ目くらいの志望大学にどうにか受かり、親に小言を言われながらもどうにかはじめたこの生活。 これまでずっと、「なんとなく」生きてきた彼にとっての小さな自由。 牛乳を鍋に入れてコンロにかけ、沸騰する直前で火を止める。 マグカップに移し、角砂糖を3つほど投げ入れ、かき混ぜる。 猫舌の彼はすぐには飲めない。 銀色のスプーンで、白い液体に溶けていく白いカタマリをつつきながら、待つ。 「……こんな風に生きていくんだよ」 同じ色の中に自分は溶けていく。溶けてなくなっていく。 同級生は遊ぶために大学に入ってきたようなやつばかり。 ナンパ目的でテニスサークルに入って、合コンして彼女つくって、 雑誌見て格好をつけて、たまには似合わないあごひげなんか伸ばしてみたりして、 授業はサボってコピペでレポート出して、適当に人間関係をこなして…… 『本当にそれでいいの?』 ふいに少女の声がした。 「また出てきたのか、お前」 最近は突然声をかけられても、驚かなくなった。 最初は受験勉強のノイローゼがついにきたかと思ったものだったが。 『私はよくない。はやく、決断をしてよ』 「する必要はないよ。お前は死んだんだ。俺の妹は、死んだ」 『だから、お兄ちゃんなら生き返らせることができるって、言っているじゃない』 「しない。親父たちだって、やっと心の整理がついた頃合だ。混乱させたくない」 『お父さんもお母さんも、私が生きている方が嬉しいに決まってる』 彼はスプーンをカップに入れたまま、斜め後ろを見やった。 ぼんやりとした形の、うっすらと透けた少女の姿がそこにあった。 「生きている人間には、生きている人間の都合があるんだよ」 『私だって、まだ、ここに、いるのよ』 「いるんなら、別にそのままでいいんじゃないか」 『生き返れるなら、生き返りたいに決まっているじゃない!私だって人間なのよ!』 「お前がそうやって、盲目的になればなるほど、俺はお前を信じられなくなる……昔からそうだった」 そろそろ牛乳が冷めた。角砂糖も溶けた。 彼はカップに口をつけた。甘い。 たったこれだけの、たったこれだけの甘さを感じさせてくれる世界。 それ以上を彼は望まない。これまでもそうだった。だからきっとこれからも。 『世界を変えることができる力を、手にすることができるのよ』 「それを手にして、どうすればいいんだ?」 『私を生き返らせて。そして、好きなように世界をつくりかえればいいわ』 「その世界は……この世界とどう違うんだろう」 『ぜんぜん違う!私がいるのよ!?』 「また死ぬかもしれない」 『じゃあ何度でも生き返らせて!』 「堂々巡りだな。いや、何度も死ぬ分だけよけいに悲しい」 少女が目に涙をためたのがわかった。 「俺だって考えないわけじゃないんだぜ。でもさ。駄目なんだ。追求していくと、その先が見えないんだよ」 少女はまだ何か反論しかけて、しかし言葉が出ないのか、息を吸ったまま止まった。 「じゃあ、ごめん。はっきり言う。俺はお前を信じられない。それだけなんだ。ごめんな」 少女ははっとしたように目を見開いた。 「俺を惑わせようとするのはやめてくれ」 少女はさあっと砂のようになり、やがて消えた。 彼がホットミルクを飲み干した頃には、もう空は明るくなっていた。 「あ、大学生初徹夜じゃん」 なんでもない日常のため、彼はカバンにノートと筆箱を突っ込んだ。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― なんかいろいろ混ぜ合わせたみたいになった。。もじゃ。。 abendrot 妹の悪魔の囁き! なんか、おにぃちゃんを究極のシスコンな設定にしたら、深夜アニメのノリになりそうですね(笑05/10 13 57 水上 える おにいちゃんをシスコンにしても、妹は幽霊だから、あんなことやこんなことはできないんだぞv05/10 21 38 野良(--) 完結しているお話だな。これ以上は広げてもあまりよい方向にはいかなさそうだ。 先が見えないからなにもしない、というのは甘えだな。 こいつはよほど満ち足りた生活をしているようだ。05/11 20 20
https://w.atwiki.jp/marcher/pages/393.html
Aパート Aパート 【前回のストーリー】 「A」と別れ、風に乗って新たなる世界にたどり着いた愛は炎で襲撃された。 襲撃者は刃千史機関の緑炎執行人、蠍火。 自分も知っているリンリンと同じ姿をしている蠍火に、リンリンの口癖「バッチリです」をぶつけてみた愛だったが、反応は冷たいものだった。 愛を付け狙う小川も同じ世界にやって来ていた。 予知能力者、飯田の手助けをするためだ。 病院の院長に収まり、何かを画策する飯田は小川に命じて自分の絵を院内の各所に飾らせた。 その仕事の途中でミクという子供と知り合った小川だが、突然体の変調を覚える。 飯田の絵によって張り巡らされた結界の影響を受けたのだ。 自分を騙した飯田を詰る小川、当の飯田はミクを誘い自分の執務室へと戻る。 蠍火は緑炎執行の対象の居場所へと向かう蠍火は、自分の初仕事の時に起きた出来事を思い出していた。 それは罪も無き子を殺めてしまった消し去ってしまいたい過去。 その頃病院内に館内放送が響く。 「世界の破壊者、高橋愛様。 院長がお待ちです。 院長室までお越しください」 第17話 「世界を変えるチカラ」 ★★ 「…お前もあの忌々しい占い女の仲間か!!」 視線が交錯した。 自分と同じように、院長室のあるフロアを見上げている女と視線が交錯した。 感情を捨て去ったよう貌を職員用の白衣で包んだ女の体つきや所作を見て取った小川は、その女が自分と同じように能力を持った戦闘要員であることに気づいた。 それは向こうも同じようだった。 飯田は自分を騙した。 この世界の在り方を偽って自分に知らせていた。 高橋愛への対応も自分に隠していた。 そんな飯田だったら、自分の知らない能力者をこの世界の何処かに伏せておくことぐらい平気でやるだろう。 飯田への怒りは小川を衝き動かした。 飯田の結界は蜘蛛の糸のように絡みつき、腐臭を放ちながら小川の脳髄に侵食していた。 ―私の能力は"反射” そのチカラ単独では何者をも倒すことは叶わない しかし発動すれば、いかなる刃も私を侵すことは出来ない あんな交信女の張った結界ごとき… ― 小川は“反射”を発動させた。 精神系の能力者にしか視認できない思念の糸は周囲の人間に向かって跳ね返されていく。 元々一般の人間には何の効力も無い思念の糸を浴びたところで、殆どの人間には何の影響も無い。 不幸だったのは、精神系の能力者の資質のある人間だった。 小川の居たフロアには職員や患者を合わせて30名ばかりの人間がいたが、その内の5,6名がその条件に合致した。 平素は第六感が鋭いと言われながら能力者として覚醒したわけではない彼らは、思念の糸の集中砲火を浴びて気分を悪くしてその場に倒れこむ。 突然倒れこんだ彼らを助けようとする一般の人々。 道が出来た。 職員用の白衣を着た能力者に向かって、一筋の道が出来た。 小川は殺到した。 ☆ 子供たちだった。 白い清潔な上下のツナギを身に着けたたくさんの子供たちが居た。 その姿はさっき愛が回廊で見かけた子供たちと同じだったが、顔は一緒なのかはわからない。 ―君たち、一体ここで何を― そう言おうとした愛だったが、実際に口にしたのは異なる言葉だった。 「あひゃぁ。 どの子も賢そうな顔してる。 はじめまして、わたしはアイ。 今日はわたしと鬼ごっこをして遊びましょうか」 言い終わるなり、一番遠くに居た子供の懐に飛び込んだアイは、小さな胸を腕で貫いていた。 アイは自分の肉体を瞬時に粒子化させると、子供の細胞間に浸透させ糊化力を奪っていく。 結合性を喪失した子供の肉体は、アイの光によって内部から崩壊を起こしやがて塵となって…消えた。 「制限時間の間、逃げられたらあんたらの勝ち。 でもあたしに捕まえられたらこうなる」 恐怖に顔を歪ませ逃げ惑う子供たち。 狩りが始まった。 ★★ 「…お前もあの忌々しい占い女の仲間か!!」 蠍火は何を言われているのか判らなかった。 それ以前に自分に叫んでる女が誰なのか判らなかった。 一、二度見かけた覚えはある。 自分が職員として潜入する少し前に就任したという新院長の傍らにいたような気がする。 しかし、その女の素性には興味が無かった。 自分は緑炎執行の為に、身分を偽ってこの病院に潜入したのだ。 使命を果たすために必要なことには注力するが、そうでないことには興味を抱くことはない。 そうして自分の周りで起きた出来事を過去の風景として置き去ることで、今日まで生きてきた。 だから、清掃員の作業着を身に着けたその女が何者であっても構わない。 それは蠍火の自信の裏返しだといっていい。 どんな能力者であっても、どんなスキルを有していたとしても、最終的に遅れを取ることはないという経験に裏打ちされた自信。 人が倒れてゆく。 小川の“反射”によって跳ね返された飯田の結界の余波を食らって人が倒れてゆく。 ―これは、あの女の仕業?― 自分に向けられた敵意に続いて顕れた現象。 その根源があの女だと思って間違いは無い。 問題はそのタイプだ。 蠍火は飯田の結界を認識していない。 能力者として飯田の思念らしきものを察知してはいるが、その全容を把握してはいない。 それは能力のタイプが適合していないこともあるし、蠍火と飯田の思念が共鳴せず透過してしまったからでもある。 だから数人の人間が倒れたのも、小川がその能力によって倒したと思ってしまった。 倒れ方や倒れた人間のダメージから判断して、小川は精神系の能力者だと判断した。 ―それにしては、随分と前に出てくる― 自分に向かって最短距離をひた走ってくる小川の姿を見て蠍火は決意する。 ―精神系の能力で格闘戦を補完するタイプの能力者なのか いずれにせよ、燃やしてしまう必要は無い ― 拳銃を取り出すと、安全装置を解除して敵に向ける。 職員として働いていた蠍火を知っている人たちも、悲鳴を上げて難を逃れようとした。 ―あるいは一生杖無しでは歩けなくなるかもしれないけど、命があるだけで感謝してもらいましょう― あと数歩で手が届く距離に達したところで、敵の下肢に向かい引き金を引く。 ピンポイントを狙う必要は無い。 一定の距離で一定の範囲に弾丸を降らせる。 それが銃撃の要諦だ。 乾いた音がフロアに響いた。 ★ 「さあ、その椅子に座って」 院長室にミクを導き入れた飯田は、椅子を指し示す。 おずおずといった様子で、腰を下ろしたミクを確かめもせずに、飯田は執務机のPCを起動した。 ディスプレイにはもう一つの院長室―表示を偽装させた機械室に迷い込んだ高橋愛が映し出されていた。 狭い画面の中で、愛は放心状態で立ち尽くしていた。 ―私はたった一つの未来を視ているわけじゃない 私が視ているのは現在の変数を入力して築き上げた仮想の未来 私という最大の不確定要素が存在する限り誤差が生じてしまう でも現在の確定した要素から過去を逆算した場合誤差の生じる可能性は皆無 私の思念に誘導されて追体験する過去にあなたは耐えられるのかしら ― ★★ ―蜃気楼、幻覚?― 外す筈の無い銃弾が敵を捉えられなかった光景を乾いた眼で見ていた。 蠍火に敵意を向けてきた女へ放った銃弾は、狙いを外してしまった。 床や柱に当たった弾丸は跳ねて周囲の人間を脅えさせる。 「銭琳」 彼らの中には蠍火の通り名を呼んで助けを求める者もいたが、当の蠍火はそれを聞き流す。 ―彼らは任務先で出会っただけの人間、ただの通り過ぎていく風景― 自分の銃撃が不発に終わったのは、目の前の女の能力による干渉だと看破した蠍火だったが、その実相はまだ掴めていない。 ―精神系の能力者だと思ってたけど、銃弾の軌道を換えられる程の念動力者? それともやはり精神系の能力でわたしの視神経か運動神経に干渉してきた?― いずれにせよ用を為さないことが明白な拳銃を捨てると、応戦する体勢を整えた。 ―向こうから近づいてきてくれたのはありがたい― 蠍火の本領は刃千史で叩き込まれた格闘技術と生まれながらの発炎能力を組み合わせた接近戦にあった。 ☆ 「あひゃひゃっ。 みんな賢そうな顔をした子ばっかりやん。 怖がらんでもいいよ、はじめまして私の名はアイです」 ―これは幻覚じゃあない、あったこと それも私がやったこと それを私の脳が追体験してる ― 3分25秒で最初の殺戮を終えたアイは、次の子供たちとの面通しに入った。 最初のグループと同じ人数、着ているものも同じ白いツナギ。 止まらなければいけないと思ってる。 子供たちに逃げるように言わなきゃいけないと思ってる。 しかし口を突いて出てくるのは、ゲームという名の殺戮を進行させる言葉ばかり。 ―これはいつまで続く― 愛にとってせめてもの救いは、これが過去の追体験であるなら、現実に新しい命が奪われることはないという認識だけだった。 「それじゃあ今からおねえさんと追いかけっこをして遊びましょうか。 制限時間中逃げ切ったらみんなの勝ち」 ―だれか、わたしを止めて― ★★ ―手強い、この女意外にやる― 謎の能力者との戦場は広々としたフロアから、狭く閉鎖的な階段へと移っていた。 蠍火の方から誘ったのだ。 病院の職員や患者から巻き添えが出ることを防ぐためではない。 もしも相手の行動原理が無関係な人間を戦闘に巻き込むことを絶対に避けるようだったら。 俗に言う正義の味方みたいなタイプだったら、それを利用して戦闘を有利に進めようとしたかもしれない。 無関係な人間を盾にとって、能力の武装解除を要求して、おのれの目的を達成することに邁進しただろう。 しかし先刻からの振る舞いから判断するに、この女は子供向けのドラマに出てくるような絶対的な正義のヒーローを目指しているというわけではなさそうだった。 積極的に無関係な人間を傷つけようとはしていないが、自分にとって不利益をもたらす存在だと見て取ったら躊躇無く排除するだろう。 ―そういう点では私と似てる 名前も知らない能力者に根拠のないシンパシーを一瞬抱いた蠍火だったが、だからといって手を緩めることはない。 階段に誘い込んだのも、その構造が自分の戦い方に適していると思ったからだ。乱戦を装いながら本来の標的のいる場所へ近づき、その反応を確かめようという思惑もある。 携帯に送られてきた標的の所在地は、最上階に位置する院長室だ。 しかし、肝心の標的が誰なのかはまだ明らかにされていない。 ―こんなことははじめてです 自分が院長室に行けば明らかになるというその標的が誰であろうと、自分は関心がない。 問題は使命を果たせるか否かという点に尽きる。 ―私は刃でいい 意志を持たない刃に徹しよう― ―標的がどんな人間で、どんな思想を持ち、どんな正義を掲げていようと構わない 自分に必要なものは、標的と標的にあらざる者を識別する材料だけだ ― 何の偽装もせず、己の存在を誇示しながら追尾してくる足音の主に心の中で宣告する。 ―標的であろうと、標的で無かろうとあなたは執行の妨げになる存在だと認識しました。 ―まだ見せる必要はない 自分の身体を燃やし尽くす緑色の炎 それがあなたが人生で最後に見る光景です― ★ 「何をしてるの」 蜘蛛の巣のように張った思念の糸に囚われた高橋、移動しながら攻防を繰り広げる小川と蠍火。 分割したディスプレイに映し出される映像を見るともなしに見ていた飯田は、いつのまにか席から離れていたミクを見咎めた。 退屈だったのか、飯田の使っている画材がまとめられたテーブルの傍で何か物色している。 「あんた、絵が好きなの?」 子供に向けた言葉だとは思えない飯田の問いかけに元気良く頷いたミクを見て、飯田の顔に仄かな笑みが。 テーブルの上のバッグを探ると、中からクレヨンを取り出し…。 ★★ 荒涼とした風景の中で対峙する二人の女。 一人はライダースーツに身を包み、射るような眼差し。 「どういうつもりだ、私の邪魔をするとは」 一人は闇色のスーツに一切の感情を失ったような女。 「あなたの方こそどういうつもりかしら。世界の破壊者に肩入れし過ぎじゃないの」 ポケットに手を入れ立ちはだかる。 「私が受けた指令は、あの女の旅を完遂させる、つまりは旅の終点まで送り届けることだ。 その目的の為ならダークネスの幹部といえど」 取り出した金属製のヨーヨーを誇示するように見せつける。 「あなたは高橋愛に並立世界を旅させることの本当の意味を知らない、それがどんなに危険なことなのかも」 ポケットから出した手で作ったピストルを相手に向ける。 「交渉決裂というわけか」 じりりとにじり寄るライダースーツの女。 「破壊者と長く居すぎて、調子が狂ってるんじゃないの。 私が再調整してあげるわ」 「それはど・・ ・ ・・・」 そして時は止まる。 ライダースーツの女が繰り出したヨーヨーとは名ばかりの暗器が空中で静止した。 勿論その操り手の女も静止している。 全ての音が消えた空間で、闇色の女の手が閃く。 「ぐふっ」 苦悶の声を漏らしたのは闇色の女だった。 ライダースーツに包まれた腕が、女の腹に埋まっている。 「まさか、わたしの動きが見えていたというの」 「お前の“時間停止”は、お前が超高速の時間を生きることで、相対的に起こる現象だ。 ならばこちらも超高速で動けばいい」 「System「A」の“acceleration”モード! 高橋愛に同行してずっとメンテナンスを受けていないあなたの内部機関が耐えられるかしら」 「不安を抱えているのはお互い様だろう」 「…そうね」 闇色の光が交錯する。 ★★ ―似ている、この女の手筋 パラシュートで降ってきたあの女と似ている 刃千史の連絡員は、パラシュートの女はイレギュラーな存在だと言っていた 命を奪う必要は無い、手出し無用だと 廃棄物の収集室で話した時、私も思った この女は強いかもしれない、しかしただのバカだと だが格闘の手筋の似ている二人の女、仲間か? やはりあの女も始末しておくべきだったか ― 蠍火は最上階のエレベーターホールで謎の女と死闘を繰り広げていた。 スポーツの試合ではない、死合だ。 対峙する相手の眼球や腎臓、再生不可能な器官へ致命的なダメージを与える攻撃を幾度も繰り出している。 回避できたとしても、それだけの攻撃を行うこちらの明確な殺気を意識すれば、心理面に何らかの影が差すものだ。 しかし女は平然としている。 不遜な笑みさえ浮かべている。 ―確かにこの女は強い それにしたってこの反応は度を過ぎている 私の拳では自分は傷つかないと確信している 見くびられたものだ、それとも見切られた? 感情を捨て去ったつもりでいた私でもこの女のように振る舞える自信はない あるいは今日がその時なのかもしれない この女は私の願いを叶えてくれる存在なのかもしれない ― ある思いが蠍火を支配し始めていた。 それは敗北を待ち望む思い。 そして死への甘美な誘い。 ―いや、こんなところで果てるわけにはいかない― 使命への重いが蠍火を突き動かす。 ☆☆ 「さあ、これからお姉さんと遊びましょう。何をして遊ぶかというと、殺し合いです」 清潔な白のツナギを着た子供たち。 高い知性を窺わせる顔立ち、感情が抑制されているような表情。 アイの口から不穏な言葉が飛び出しても淡々と受け入れる。 「あんまり早く終わってもつまらないから、みんなにはハンデをあげます」 プラスチック製のコンテナボックス。中にはヌンチャクやトイファー、蛮刀やスタンガン、催涙スプレーといった類。 「わたしは素手でいいからの。みんながあのドアを潜り抜けるか動けなくなったらこのゲームは終了」 ―わたしこの状況を楽しんでる みんなにひどいことしてるのに笑ってる― 愛は過去の自分が犯した行為に心を痛めた。 そして無駄な事だと知りながら、自分に抗う。 フォトン・マニピュレート、物質の光子化という能力を現出させなければ、子供たちが助かる可能性は高くなる。 ―私が私のことを止めていられるうちに、みんな早くあの扉から― スチール製の扉の前に群がる子供たち。 ―あぁ、もうなんでさっさと出て行かんの、私はもう私を・・・― 「あひゃひゃっ」 閉ざされていた扉が開いた。 我先に外へ飛び出していく子供たち。 ―逃がさんよ― これまでとは違う展開に胸躍らせ、飛躍するアイ。 「つぅぅ」 誰かがアイの胸元に足刀を飛ばした。 抜群の反射神経で直撃を免れたアイは、白い部屋の中程へ戻り、子供たちが難を逃れてゆくのを見守った。そしてその張本人の顔も。 「麻琴!!」 「愛ちゃん」 身体の方々に傷を作った小川麻琴が悲しげな瞳で愛を見つめている。 「この子供たちは信頼できる団体に預かってもらう」 「何するんや、麻琴。いきなり飛び込んできて私の邪魔をして」(私のこと助けに来てくれたんか) 「今の「M。」はダメだ。 骨の髄まで腐ってる」 「折角、面白くなってきたとこなのに。 はは~ん。 判った、私から玩具を取り上げに来たのか」(違う、私こんなこと思ってない) 「あの子供たちは玩具じゃない。 愛ちゃんと同じ命を持った人間だ」 「それやったらしょうがないな。 今度は麻琴に遊んでもらおうかな」(逃げて、麻琴。 私もう私を止められない) 「いいよ、私が遊んであげるよ」 「やったぁ。 麻琴となら思いっきりの全力で遊べる」(あんたの“反射”なら私のチカラだって跳ね返せるかもしれない。 私を助けに来たんなら、あんたの手で私を) 「来な」 麻琴は半身になるとアイの攻撃を誘う。 「あっひゃぁぁぁ」 全能力を解放して戦える歓喜に満たされながら、麻琴に向かって跳躍するアイ。 常人では考えられない素早さで距離を詰めると、右腕を突き出す。 「ごふっ」 アイの右腕は麻琴の胸を貫いた。 チカラが発動された腕は麻琴の肉体の光子化を促す。 「何や、麻琴。 ぼさっと突っ立って、しょうがないなあ」(何で“反射”を発動しなかった、これじゃまるで…) 最初からやり直しと言いながら、麻琴の胸から腕を抜くアイ。 「あ、愛ちゃんは何にも悪くない」 愛の右腕を握りしめ、息も絶え絶えに話しかける。 「愛ちゃんの周りに居た人間が、そんな風に愛ちゃんを育ててきたんだ。 世の中から隔離して自分たちにとって都合の良い生体兵器として愛ちゃんを育てようとした」 「麻琴、そんな風にのし掛かってきたら重い」(誰か、助けて。 麻琴が、麻琴の身体が、ひっ) 麻琴の身体の内部から光が洩れだしてきていた。 遊びと称しての実験で、愛が命を奪った多くの子供たちのように。 「愛ちゃんの手はこんなことをするためにあるんじゃない。 愛ちゃんの手は誰かを救う手だ。だから救いを求める誰か…」 けたけた、というアイの笑いが響く。 「わたし、そんな難しいことを言われてもよく判らん」(これは昔あったことなんだ。 わたしがこの手で麻琴を) 現在の愛の意識は過去のアイの肉体から乖離して、宙に留まった。 命の灯が消えた人間の肉体から霊魂が抜け出すように。 愛の周りでは時間が急速に動き出していた。 Mの実働部隊の中核を成す能力者の集団が研究施設を制圧し、白い服を着た研究員たちが愛を保護し、愛と麻琴の仲間である新垣里沙と紺野あさ美は事情聴取を受けていた。そして…。 車いすに乗った愛の前に紺野あさ美が立っている。 愛を介助する位置に新垣里沙が立っている。 「行っちゃうんだね、マルシェ」 「保田さんの誘いを受けることにした」 淡々と自分の心情を話すマルシェは研究者用の白衣を身につけている。 「麻琴を取り戻すにはこうするしかないんだ」 「でも、麻琴はもう」 「ああ、フォトン・マニピュレートによって塵に還った」 だから蘇らせる、どんなことをしてもというマルシェの口調には微塵の躊躇いも無い。 Mの施設内で採集した体細胞の断片、そして作戦遂行中の不測の事態に備えて生前に採取していた骨髄液から麻琴の再生クローンを産み出すという。 「確かに麻琴がいなくなったのは悲しい。戻ってくるなら嬉しいけど…」 実験動物ではない人間、それも自分たちに近しかった麻琴が、クローン技術で蘇ることに里沙は恐れを抱く。 「何て言ったらいいの。 神の領域を侵すっていうか…」 「神なんていないよ。 もしも居たとして私の邪魔をするというなら…私がこの手で殺す」 「そんな殺すだなんて」 治癒能力者には相応しくない言葉を口にした僚友を痛ましげに見やる里沙。 声をかけようとするが、愛の顔が目に入ると口ごもってしまう。 当のマルシェはそんな里沙の心の動きは判っていたようだ。 「大丈夫、理性では理解している。 麻琴の件で愛ちゃんの責任を問うのは酷だっとことは」 言葉とは裏腹にそれまで自ら抑制してきたマルシェの感情が、波打ってきた。 「でもね、私の感情は完全に消せやしない。 自分が消滅させた麻琴の名をけらけら笑いながら呼んでいた愛ちゃんを見たときの感情だけは」 「あさ美ちゃん」 「あの時私は愛ちゃんのことをこう思ったよ。 この娘は怪物だってね。 そしてこうも思ったよ、…死んでしまえばいいって」 束の間露にしたことでマルシェの感情は、元通り抑制を取り戻していた。 「あの時、私は“治癒”のチカラを失った。 誰かの死を願う人間が治癒能力を失うっていうのは辻褄のあった話だよね」 「でもそれは一時的なものかもしれないって文科省の寺田さん…」 「もう私には“治癒”なんて要らないんだ。 絆で結ばれ心を合わせた仲間と一緒に戦うこともなくなった私には“治癒”のチカラなんて必要ない。 それに」… 「それに?」 友の口から語られる言葉を一言も漏らすまいと口許を見つめた。 「…それに…チカラを取り戻すには私は自分自身と向き合わなければならない。 その時私は愛ちゃんのことを憎まずにいられる自信が無いんだよ」 理不尽な経緯でこの世を去った麻琴を蘇らせるために、そして麻琴の命を奪った愛を憎まずにいるためにも自分は理性で感情を抑制して生きていくと語るマルシェを里沙は黙って見つめているしかなかった。 やがて里沙と愛の前から立ち去ろうとするマルシェはふと思い出したように里沙に声をかける。 「里沙ちゃんがやろうとしていること、私は推奨しない」 里沙は悲痛な声を上げる、なぜ?と。 「“Truth Hits Everybody” 真実は全ての人を打ちのめす。 麻琴を自分の手で消し去ったという愛ちゃんの記憶を封印したところで、いずれは…」 友への言葉を曖昧な形で終わらせた元治癒能力者は、じゃあと言って里沙の前から去っていった。 後に残された里沙は車いすに乗った愛を見つめる。 小川麻琴がこの世から消えてしまったという事実。 その原因が自分にあるという真実を受け止めきれない愛は他の人間との心の交流を遮断していた。 虚ろな目で言葉にならない呟きを吐く愛。 里沙は愛の顔にかかっている前髪を手で払って、額を剥き出しにすると自分の額を合わせる。 発動するチカラ“精神干渉”。 ―麻琴、何処に行ったんや、麻琴― ―愛ちゃん、麻琴はいない、死んでしまったんだ― ―嘘や、麻琴が死ぬはずない― ―麻琴は私が・・・私がこの手で殺した― ―何で里沙ちゃんが! 嘘やろ、みんなで私のことをかついでるんやろ― ―愛ちゃんに今まで隠していたけど、私の正体は世界制服を企む組織ダークネスのスパイ― 能力者を探し出し抹殺するよう命令を受けていた私が見つけ出したのが小川麻琴だった― ―・・・ ― ―組織は麻琴を抹殺するように指令を出してきた・・・正直迷ったわ・・・だって大親友であり恩人でもあるあの麻琴なのよ!! ・・・でも私はダークネスには逆らえなかった・・・だからあの日事故に見せかけて私は・・・麻琴を抹殺した― ―・・・違うの!!あれは事故だった、本当に不幸な…― ―もう遅いのよ!!・・・愛ちゃん私を止めたいのなら・・・私を殺して・・・あなたのその手で― 里沙は幾重にも折り重ねた虚構によって、愛の心の中の麻琴の命を奪った記憶を覆い隠した。 その様子を見届けると愛の意識は現在に戻ってくる。 そこは隔壁で閉鎖された病院の機械室、薄暗い室内には愛以外誰の姿も見えなかった。 ―私がみんな、壊したんだ ―麻琴の命、あさ美ちゃんのチカラ、そして里沙ちゃんの人生、みんな私が台無しにしてしまったんだ ―こんな私が世界を救うなんて…バカバカしい 愛の口から力の無い笑いが洩れる。 自分の存在に意味を見出せなくなったことへの自嘲…そして。 back 『モーニング戦隊リゾナンターR 第16話 「千の刃」』→
https://w.atwiki.jp/bokuchu777/pages/223.html
十数回もの激突を繰り返し、その全てが有効な手ごたえを返さなかった。 硬い、まるで壁だ。魔法を使う隙さえもらえないとなると、俺一人の力じゃこいつを倒すのは無理か。 やはり、まずはユリアを解放しなくちゃならない。ユリアの様子を見たところ魔法が使えないようだが、その原因がすぐに解決できるものなら反撃に転じられるし、そうでないのならひとまず撤退する必要がある。 とはいえ、そのためには魔法を使う以上の隙を作らなきゃならない。どうしたもんかね。 「まったく、面倒この上ないな!」 迫る氷塊を避けながら毒づく。 「ならば今すぐ家へ帰るか?」 「帰す気のない人間がよく言う。そういえば、お前が何のためにこんなことをしてるのかを聞いてなかったな」 風の刃が鋭く迫る。とっさに身を体を引くが音を立ててシャツに切れ目が入る。もう上着もズボンもボロボロだ。あちこちに血が滲み色が黒く変色している。どうにか致命傷は避けている。いや、それが関の山だった。 「確か夢を叶えるための手段を手に入れるとか言ってたな? お前達の目的は何だ、なにをするためにこの世界を滅ぼす!?」 「聞いたところで納得はできないぞ。至極個人的な内容だからな」 「何を聞いたところで納得できないんだ、結果が変わるわけじゃないだろ。それに、こっちが質問に答えてばかりじゃ不公平だ」 ファイバーはふん、と息をつく。 「それで、姫君を助ける隙でも作るつもりか?」 バレバレかよ、クソッたれ……。 「だったらどうする、さすがに自分の負けの目を作るのは嫌かい?」 「まるで自分に勝ちの目があるような言い草だな。まあいい、タイヨウにも聞かせたことだ、お前に聞かせるのもいいだろう」 親父にも、聞かせたのか。それほどに、こいつと親父の間には浅からぬ因縁があったのだろう。 「それで、世界を滅ぼす個人的な事情と、その手段とやらは一体どんなものなんだ?」 ファイバーはその場に立ち尽くす。油断も隙もなく、だが静かに。 「俺達それぞれの目的は別々だとは聞いたな? 共通するものは手段だと。その手段とは――新たな世界を生むことだ」 「世界を……生む!?」 個人的な事情の割にはスケールのでかい話だった。さすがはメルヘン親父、俺達の想像のはるか上を行く発言だ。 「滅茶苦茶な話だな……。ていうか、それだけのことをしないとできないお前の個人的な事情って何だよ」 一度小さく目をとじ、目を開いたファイバーの表情は、 「人間一人、殺すことだ」 なぜか、悲哀に満ちていた。 沙良が『流理』の対象として一番よく扱うものは水だ。それは地域にもよるがごくありれたものであり、扱いなれているからだ。 風などの流れも扱えないことはないが、大きな流れとして扱うのは難しいので補助程度にしか使わない。たとえば、 「ましゅまろ、飛べ!」 沙良の起こした小さな風に乗って、ましゅまろがガザベラへと飛びかかる。しかしそれもガザベラが生んだ横から殴りつける風によって吹き飛ばされてしまう。が、その間にさらに自分用に起こした風に乗って、沙良はガザベラへと詰め寄っていた。 「ちぃ、ちびっこい体でちょこまかと!」 ガザベラの掌から血が溢れだし中に舞い上がる。血の粒は生物のようにうねり、その鋭い切っ先を向けて空を切り裂き沙良へと踊りかかる。水流の壁がそれを押し流す。 あちこちの水道管から水を引っ張ってきたせいで、もはや床は小さな流れを成すほどの水で覆われていた。 一見沙良の有利に見えるこの状況だが、実際は互角。ガザベラの通常魔法の得意系統は水。沙良にとって周囲全てが武器として扱えるのと同じことが、ガザベラにも言えるのだ。足元の水は、目には見えない二人の魔法による支配合戦にさらされていた。双方一瞬でも気を緩めれば、足もとの水が刃となって襲いかかる。 互いが力の大半をそちらに割いている。その結果、二人の戦いは肉弾戦中心となっていた。しかしその小さな合間に放たれる魔法にも必殺の殺傷力は十分以上に備わっている。 「さすが、世界を相手取るだけはあるな。ウチが一対一でこんだけ苦戦するなんて、久しぶりや」 「そりゃこっちのセリフさ。なんだい、この世界にも随分と骨のあるヤツがいるじゃないのさ!」 沙良の小さな体がくるりと宙を舞う。それを風の弾丸が狙い撃つが、空気の流れが沙良を囲むように乱れ狙いが外れる。そのまま沙良は風に乗り空中で姿勢を変え、電灯にぶら下がる。 「あんたらの事情はウチにはわからんしわかろうとも思わん。こんだけの事をしでかすんやから、少なくともあんたにとってはそんだけの意味があるもんなんやろ」 「そりゃあそうさ、そうでもなきゃわざわざ苦労してまでこんな世界に来たりするもんか」 「そうやな、それが普通の感想やろ。けどな、ウチらはそのこんな世界で生きとるんや。下らん、楽しい、辛い、悲しい、嬉しい、愛しい、この世界で生きとる。せやからウチはあんたを倒す、命を奪う。そんだけの意志と覚悟をもっとる相手を殺さずにおいたら、後々面倒やから。そういう、ウチの臆病な事情であんたを殺す」 「好きにするといいよ、アタシらだって好きにやってるんだからね。ただまあ、あんたに殺されたりはしてやんないけど!!」 炎の槍が伸び、一瞬前まで沙良のいた空間を焼く。それを素早くかわした沙良は身軽な動作で壁を走る。 「ってなんだいそりゃあっ!?」 非常識きわまる光景にガザベラの口から思わず驚愕の声が上がる。それを笑って無視した沙良は、勢いよく踏み切りガザベラの頭めがけて跳び蹴りを放った。ガザベラの顔が苦痛に歪む。沙良の見た目からは想像もできないほどに、その蹴りも拳も重く、響く。かろうじて腕で頭部を固めたが、それでも完全に勢いを殺せない。 「人生、生きとれば足をとられる、泥沼におぼれる。それは自分の失敗のせいやったり他人の失敗のせいやったり、もしくはまったく関係のないところからの不幸な不意打ちやったり、色々や。特に後の二つやったときは悲惨やもんな、自分じゃどうしようもないことで自分が痛い目見るなんてとてもじゃないけどウチは納得できん」 沙良はガードされたガザベラの右腕を両腕で抱え込む。さらに右足を絡め、左足で勢いをつけてガザベラの脇腹を突き入れた。一瞬体の力が抜けたのを見計らい、背筋を使ってガザベラの右腕伸ばし、左足もからめて極めにかかる。ガザベラは沙良を振りほどこうと右腕に力を込めるが、沙良の力はギリギリとガザベラの腕を締め上げ、間接はぎしぎしと危険な音を鳴らす。 「結局それだけの話や。納得いかん、許せん、認められん。そうやって耐えて足掻いて、乗り越えて。そうして生きてくんや、たぶん、みんな。せやけどあんたのは違う。認められんからって全部壊して自分の欲しいもんだけを手に入れようとしとる。それで誰が幸せになる? 全部壊してあんたに何が残る? やり直しの人生なんていうけどな、そんなんあらへんのや。どうしたって人は続いとる、昨日に、明日に続いとる。それ全部否定してまっさらな明日手に入れても、そこに価値なんかない」 「はっ! 何も知らずによくもまあ説教くさいセリフかませるもんだ! 足掻いてもどうしようもないから過去だ。どうしようもなく終わったからこそ許せないんだ! そんなものに続いている今が、世界がうざったくて仕方ないんだ、価値なんかないんだ、だったら全部壊して全部をやり直すしかないじゃないか! そのための手段が手に入るんならどんな悪にだってアタシは染まってやるさ!!」 ガザベラは沙良の締め上げる力にそって体を投げ出す。左手に生やした氷の爪が沙良を狙って振り下ろされる。 ザクッ!! 肉を切り裂く音が響き、二人の顔に血飛沫が散る。ガザベラの爪は沙良の左足の裏に突き立っていた。拘束の弱まった腕を振りほどこうとするガザベラ。 「ま、あんたが聞く耳もたんなんて、最初からわかっとったけどな」 沙良は貫かれた左足を引き、ガザベラの姿勢を崩す。鼻先を掠める爪にひるむ事無く、まっすぐにガザベラを視線で射抜く。 素早く右足をガザベラの胴の下に潜り込ませる。同時に飛び込んできたましゅまろが、ガザベラの胸と沙良の足の間に収まった。刹那、沙良の眼が見開かれ、ガザベラを蹴り上げるのと同時に、ましゅまろがその体積を爆発的に肥大させた。 勢いよく宙に投げ出されるガザベラ。沙良は全身のバネを使ってはねるように起き、それを仰ぎ見る。 視線が刹那の間、交錯する。 両腕を胸の前に構え、手の平を花のように広げる。沙良に踏みしめられた床が、水が、彼女を恐れるかのように弾けた。 どぉんっ!! 大砲の如き爆音が響き、ガザベラの体が壁に叩きつけられる。衝撃は壁を軋ませ、窓を無数のヒビで埋め尽くした。 沙良は静かに息をつき、突き出したままの両腕をゆっくりと下げた。 「あんたがどんな泥沼にはまったのかは知らん。けどウチはごめんや、誰も幸せになれん世界なんて認めん」 ガザベラが顔を歪めて嘲る。何を嘲ったのだろうか。 沙良には、少しだけ分かった。ガザベラは、誰よりも自分を嘲っている。愚かだと、無様だと。 「はっ……幸せ、幸せかい……それこそ、アタシが憎むもんだ!」 ぼこり、と。 ガザベラの背中から何かが溢れる。沙良はそれに何か危険を感じたのか、数歩、ガザベラから距離を離す。決して攻撃の予兆を見落とすまいと、神経を鋭く尖らせる。 「その幸せのために食い物にされる人間が不幸になる! どれだけ足掻こうが……足掻けば足掻くほど足を掴んで引き摺り下ろす運命ってやつがいる! そんな世界ならアタシはいくらだって滅ぼしてやるさ!!」 怒りと共に、ガザベラから黒い闇が迸る。驚愕とともに、沙良は反射的に水流の壁でそれらを防ぎ――紙切れよりもあっけなく、貫かれた。 「な――」 想定外の事態にそれでも肉体は己を守るために動く。せめて受ける被害は最小にするために。 闇の魔手は沙良の肩を、太腿を、脇腹を抉る。瞬間、今まで決して苦痛をもらさなかった沙良の口から叫びが漏れた。 「あ、く、あぁぁっ……!!」 焼くような激痛に自然と顔が歪む。切り裂かれた傷口を見れば、鋸を何度も叩きつけたかのように肉がぐちゃぐちゃに潰れ、裂かれ、蹂躙されていた。刻まれた血管からはとめどなく血が溢れてくる。 ガザベラがゆっくりと壁から背中を離した。黒い闇はなおガザベラの背後に溜まっていた。 「アタシの『血棺』は自分の血液を操る魔法……なんだけど、極めればこうやって、血液を新しい別の存在に変えることもできる。血液でありながら肉を食み血をすする化け物に、ね。当然、使いすぎれば失血死するっていう、なんとも使い勝手の悪い魔法なんだけど」 闇は不気味にうねり、今にも沙良を食い散らさんと様子を伺っているようにさえも見える。それはまるでガザベラが抱えた心の闇そのものの姿であるようにも見えた。 沙良は息をつく。痛みを一時忘れるために。己の全力を、出し切るために。 「あんたのそういう気持ちなぁ……うちにも、分からんことはないんや」 不幸を嘆き幸福を憎む。思うようにいかない世界、己の意志をことごとく否定する今。その上で笑う何者か。沙良も同じだったから理解できた。泥を啜り砂を食み、苦痛と屈辱におぼれながら世界を呪った。 沙良がガザベラのようにならなかった理由は、たった一つの違いだけだろう。即ち、何に救いを求めたのか。 「せやからな……わかるからこそ、あんたの言うことを認められんのや!」 ザンッ!! 「なっ!?」 沙良の姿が消失した。影すら残さず唐突にその姿が消え、次の瞬間ガザベラの目の前に現れたのだ。 人間の限界を超えた高速移動。 はためく白衣をばさりと払い、沙良はガザベラを見上げる。今の苛烈な運動のせいか、顔は青ざめ眉間にしわを寄せていた。その懐から、小さなぬいぐるみがぴょんと飛び出す。 「うちにも、取り戻せん、失ったものがある。あいつらが笑顔で暮らせる世界が手に入るんなら、そんなに嬉しいことはないと思う。けど――」 ばさぁ! 白衣が翻る。 沙良の魔力が膨れ上がり、ぬいぐるみに注がれる。ぬいぐるみは一瞬のうちに数倍数十倍に膨れ上がり―― 「次から次へと……『血棺』アタシを守れ!!」 ぱあぁぁっん!! ぬいぐるみの中でひたすらに加速された水が、音速を超える速度で撃ち出された。四方八方に水弾が飛び散り壁を粉砕し、衝撃波が床といわず天井といわず、全てを切り裂く。 瞬く間に暗い廊下は廃墟よりも酷い有様となり果てた。 「そんなん、古傷なくしたいって言うとるだけの我が侭や。生きとったらどうしたって他人を傷つける、不幸にする。せやから、せめてその先で誰かは幸せにならなあかんやろ。今、この世界で、負った傷さえも受け入れて」 「どう頑張ったって、幸せになれなかったヤツだっているのさ。だからこそアタシは世界なんてクソ食らえだ」 見るものを絶望させるような崩壊の最中にあってなお、二人は退く姿勢を見せず、ただその意志をぶつけ合う。両者共に全身に傷を負い息は荒く、それでもなお瞳の力は衰えない。 互いに、理解していたのだ。この戦いは、どちらかの命が尽きなければ終わらないと。 沙良は拳を、ガザベラは闇を構える。 つかの間、二人の間に静寂が訪れた。そのとき、この戦いが始まって初めて沙良は周囲の音を意識した。あちこちから聞こえてくる、この学び舎での戦いの音を。 苦い思いでそれを聴きながら、ゆっくりと体を前に傾け―― ドンッ!! 間欠泉のように水が立ち上がり、天井の崩壊跡に吸い込まれていく。 二人はそれを合図にしたかのように。 同時に、駆け出した。 ガーガーの頑丈さには、さすがの貴俊も辟易した。まさか全力で殴り刺しして傷ひとつつかないとは一体どのような皮膚なのか。しかも通常魔法を食らう。手のつけようがない。 「先輩、アイツの頑丈具合おかしいですよどう考えても!?」 「どう考えても超合金でできてるだろ、あれ」 「どうしましょうか……」 二人と一匹の戦いは体育館へとその場所を移していた。互いに大きな傷はないものの、二人の顔には焦りの色が濃い。 貴俊の魔法『分離』は直接的な攻撃ができるものではない。そして美羽の魔法は効果が薄い。 一応、貴俊に手段はないこともないのだが。というか、黒爪はそのために持ってきたものである。だがやはり、これを使うのには抵抗がある。相手の体を気遣っているわけではなく、貴俊の主義の問題だ。 「それで先輩、この後、どうするんですか?」 「んー、美羽ちゃんはどうしたらいいと思う?」 なぜか困った顔で聞き返す貴俊。美羽はため息をついた。二人にとって、非常に相性の悪い相手といえた。 あるいは美羽がガーガーに触れて『弦衰』を直接かけることができれば突破口になるだろうが、さすがにあの不条理な生命体に不用意に近づくのは危険すぎる。 何しろ素手で校舎を破壊するような生物なのだ。人体など腕の一振りでキングジョーになること請け合いだった。 「正直、特攻して糸を繋げるくらいしか思い浮かびません」 美羽の言葉に貴俊は考える。やはり、使うしかないらしい。 「一応、アイツにダメージは与えられると思う。ただ、やる気がねぇ……」 「や、やる気の問題じゃないでしょうっ!?」 美羽の言葉通りなのだが、貴俊は頭を抱える。どうやら心底使いたくない機能らしい。だが、美羽のじとーっとした視線に負けたのか、諦めのため息をついた。 「ま、そのために持ってきたもんだしね、グダグダいってもしかたねーか。とはいえ、俺もこいつを使うのは初めてだから、まず確実に当たるようにアイツをギリギリまでひきつけたい。頼める?」 「う……ま、まあ、アタシが言い出したんですし、やりますけど」 美羽はガーガーをみる。凶悪な顔つきで、こちらをじっと観察していた。その口からは、ちろちろと炎が見えている。先ほど美羽が放った魔法だ。 美羽は小さく息を吐くと、両手から炎の槍を放つ。 「グルァッ!!」 ガーガーが吠え、高く跳んで槍をかわした。続けざまに炎の槍を次々に放つ。が、それらはガーガーの皮膚に突き立つものの傷を負わせることはできない。美羽は一度大きく下がる。その美羽めがけて、ガーガーの口から炎の渦が放たれた。 風を起こし、渦巻く炎をそのままガーガーの着地点に向かって捻じ曲げる。 ドン! と重たい音が響き、ガーガーが炎に包まれた。だが、 「ギイイィィィアアアアアッ!!!!」 ずだん! と床の割れる音と共に、弾丸のような速度でガーガーが一気に迫る。息を呑む美羽。 その前に、貴俊が黒爪を脇に挟んで立ちふさがった。己の前の障害物を排除するため、大きくガーガーの腕が振るわれ―― 「貫け――黒爪!!」 バチンッ!! 大気が甲高い悲鳴を上げ破裂し、貴俊の槍の先端がガーガーの肩に突き刺さった。 その勢いはガーガーを吹き飛ばし、体育館の壁を壊し、さらにはその先の二階の校舎までその巨体を持ち上げていった。 「おーおー、飛んだなぁ。人間なら今ので体が吹き飛んでるんだが」 「ん、な、なななな、なんですか今のは!?」 ただし、刺さったのは射出された槍の先端。槍はやや短くなった状態で、貴俊の手元に残っている。 「ロケット鉛筆みたいなかんじでね。この槍は九つの小さな槍がひとつに合わさってできている。その一つ一つを接続しているのは、強力な電磁石だ。俺の魔法はあくまで分離。物を飛ばしたりはできない。それをうまく攻撃に変えるための装置ってわけだ」 貴俊の『分離』が物体を解体する際、目安となるのはサイズではなく結合の強さだ。それが強ければ強いほど、必要な力も強くなる。そして、必要分だけの魔力を込めれば、物体は即座に分解される。 貴俊はあくまで分離することのできる物体のみにしか干渉できない。釘一本を抜くのに石の台に突き刺さった聖剣を抜けるほどの力を込めたところで、必要分の魔力を通した瞬間にポロリと取れるだけ。勢いあまって空の彼方まで飛んでいくなんて事にはならない。余剰分の魔力は霧散する。 だがもし、貴俊がいくら分離しようとしても分離できないとなればどうなるか。貴俊はいくらでも、その物体に『分離』をかけることができる。ひたすらに離れようとする力を高めることができる。 互角の綱引きで、相手がいきなり力を抜くのと同じだ。その場合、魔力はすでに力として作用している状態なので霧散する事無く、純粋に運動エネルギーとして発揮される。 「まあ実際開発にはかなり苦労したらしいけど。アイデアは悪くないけど装置の小型化や安定性安全性の問題、磁力の制御やら問題が山積みで開発はたいそう苦労したらしい」 「そんなもん作り上げる技術もたいしたもんですけど、それを考える先輩も先輩ですね……」 美羽はどこか呆れた様子だ。それに対して、貴俊はいたずらっぽい笑顔を向けた。 「おいおい、考えたのは俺じゃなくて君の兄貴だぜ? しかも、俺と敵対してた時期に平然とそういうアイデアを考え出すんだからなぁ」 「えぇ!? なんかもう、二人の関係がさっぱりわかんなくなってきましたよ」 その言葉に貴俊は苦笑せざるを得なかった。何しろ本人達ですら自分たちの関係を明確に定義できてはいないのだ。 友人、ではないだろう。その割には互いに深く入り込みすぎている。だが親友などではありえない。なぜなら、お互いにいつ裏切ってもおかしくないと考えているからだ。ならば敵なのか。それが一番近いのだろうが、ならば今共に手を取り合っているのはどういうことなのか。 絶対に相容れない、しかし互いにその存在にある程度の執着を示している。そんな関係をなんと呼ぶのか、貴俊は知らない。だが、それこそが。 「そんなことはどうでもいいさ、要は俺が大翔をマントルよりも深く成層圏よりも高く愛しているってそれだけの事だ!」 「……いや、もういいですけどね」 もはや理解を諦めた美羽はため息をついた。 そうして、貴俊は自信満々に。狂いながらも純粋に嗤って。 全力の暴力で、愛を騙る。 「グルアアアアアッ!!!!」 怒りの咆哮と共に、壁の穴からガーガーが飛び込んできた。その瞳には紛う事なき怒りの炎が宿っている。肩に突き刺さった黒爪を抜く。だらだらと流れる血。それをみたガーガーが、牙をむき出しにした瞬間。 洪水がその姿を飲み込んだ。 エーデルは無数の水の弾丸を次々と生み出し、あらゆる角度からバードックへ撃ちこむ。バードックはそれらを避ける仕草すら見せずに歩を進める。雨のように放たれた弾丸は全てが狙い通りにバードックに命中し、 「くそ、どうなっているんだ、あいつは」 「頑丈……なんてレベルじゃないよね、とても」 その体に傷ひとつつけることはなかった。バードックは何もしていない。ただ立っているだけだ。 あの常軌を逸した筋肉が全てを防いでいた。エーデルの放つ魔法は、バードックの脅威の肉体の前にことごとくその意味を成さなかった。 さすがのエーデルもこれには焦りを覚えた。エーデルは自分の魔法の威力を嫌というほどに知っている。先ほどの弾丸は、間違いなく人間一人を殺すのに十分な――いや、過剰ともいえるほどの威力を持っていたのだ。 「ちっ、あの腕の筋肉は本当に人間のものか!?」 「そろそろ諦めたらどうですか? どんな魔法でも僕には通用しません、また、僕の秘密を探ることさえもできないでしょう」 鉄壁という言葉がこれほどふさわしいものはいないだろう。ガーガーでさえ傷を負ったというのに、それ以上の防御力を人間が持ち得るなど、悪夢以外のなんでもない。 だが、陽菜はそれを不審に思っていた。 「やっぱり変だよ、えーちん」 「変、とは?」 「あの人、避けようともしないんだもん」 陽菜の言葉にエーデルは眉をひそめる。どういう意味なのかと、続きを視線で促した。 「それは自分の防御力に絶対の自信があるからでは? おそらく彼の魔法は純粋な肉体の強化……それも、悔しいが僕の魔法を完全に防いでしまうほどの」 「それでも避けないのはおかしいよ。だって、もしもはじめて見る今の魔法があの人の防御力以上の威力を持っていたら、それであの人死んでるんだよ? 自信と結果は直結しない。もしもの時を考えて、少なくとも避けたり、急所を守ったりするのが普通だよ」 陽菜の言葉に納得する。どれほどの防御力を持とうとも所詮強化は強化、限度は当然存在する。バードックの魔法が肉体の強化であることはほぼ間違いないとエーデルは考えている。 「特殊魔法の効果はたったひとつ。そのひとつをどう使うかを、陽菜たちは考えて工夫してるんだよ。あの人の魔法は肉体の強化、魔法を完全に防ぐような魔法なら、あんな体になる理由はないもんね」 バードックはあの見た目どおり、人類を遥かに逸脱した腕力の持ち主だったからだ。鍛えてどうにかなるような体つきではない、となると答えは魔法によるものということになる。防御に特化した魔法ではなく、あくまでも肉体全体の強化。 そう考えると、陽菜の言葉の通りに思えてくる。バードックのあの余裕は、確かに実力、戦闘経験の差から来るものかもしれない。だが、相手の攻撃が自分の命を奪う可能性がないわけではないはずだ。銃があれば子供が歴戦の兵士でも殺せるように。 「でも事実、あの人は魔法をこれっぽっちも脅威だなんて思わないでああやって歩いてくる。じゃあやっぱり、何か秘密があるんだよ」 「だがしかし、それをどうやって探る?」 それが問題だった。相手の魔法に何か秘密があるとわかっただけでは意味がない、その秘密の内容がわかってこそ、初めてバードックと対等に渡り合うことができるようになるのだ。 そのとき、陽菜はぴんと来た。先ほどのバードックの言い回しに、少し気になる部分があったのだ。 「えーちん、でっかい水流のヤツ、すぐにできる!?」 「いや、生み出すにしろ水道管の水を支配下に置くのも、それなりの時間が必要だね。すでに開放された状態であるならともかく……? なんだ、下の階に水が溢れて……」 陽菜はぴんと来た。沙良だ。陽菜は沙良の魔法の詳細は知らないが、それでも水を自由に扱っているところなら何度も見ている。 「じゃあすぐにやって、とにかくでっかいヤツ! お願いだよ!!」 そういい残しエーデルを残して駆け出す陽菜。止める暇もない彼女に慌てながら、急いで水を呼び寄せた。 床を突き破り、大量の水がうねり、捻れ、螺旋を描きながら現れる。瞬く間に膨大な量の水が集まった。それをひと息に解き放つ。束縛から解き放たれた水は濁流となり、床を振るわせる勢いで陽菜に迫り――陽菜を飲み込んだ。 「ぬう!?」 その瞬間を見ていたバードックは目を剥いた。バードックの視界には、陽菜がまるで、水に溶けてしまったように見えたのだ。 水蛇は巨大な顎を開き、バードックをも飲み込む。水流が廊下を濁流となってのた打ち回り、壁にあいた穴から勢いよく外へと飛び出した。 自らも流れに飲まれたエーデルは壁に背中預け耐えていた。廊下を天井まで埋め尽くすほどの大量の水を、叩きつけるような勢いで放ったのだ。並の人間ならまともに動けるはずがない。 だが倒れていたバードックはむくりと上半身を起こし、エーデルの目の前にふっと現れた陽菜をじっと見つめる。 「見えたよ、キミの秘密。意外とずっこいね」 「ふっ……なるほど、あなたの魔法は風になることかと思っていましたが、違ったわけですね。今あなたは、水に擬態して僕の能力を観察していたわけだ……」 無傷のままバードックは立ち上がる。それを見るエーデルの表情は苦いものだったが……陽菜はむしろ辛そうな、悲しそうな顔をしていた。 「どういうことだい? 君は一体何をしたんだい?」 「簡単な話だよ。水に擬態して、彼の体の変化に触れてみたの。どう考えても、えーちんの魔法で傷ひとつつかないのは変だもん。だから直接触って確かめたんだ。そして分かったよ、彼の魔法のタネが」 それは陽菜にとって――否、魔法使い全員にとって受け入れがたい事実であった。本来ありえないはずの現象。だがそれでも目の前で起こってしまったのならばそれは事実として受け入れなくてはならない。 バードックの魔法を。彼が所有する、もうひとつの、魔法を。 「肉体の、再生魔法? …………それでは、まさか」 「そう。たぶんそれで正解。あの人は通常魔法と肉体強化の特殊魔法と、肉体再生の特殊魔法を持ってる」 開いた口がふさがらないとはこのことだった。特殊魔法と通常魔法は魔法の発動プロセスが根本から違うため、その両方を持つものが生まれることはある。だが、特殊魔法を二つ、というのは不可能なのだ。声帯を二つ持っているようなものだ。 だがこれでバードックのあの余裕にも説明がつく。彼は多くの攻撃は持ち前の筋肉の壁で防ぎ、それをも超えてきた攻撃は……受けた瞬間に傷を癒していたのだ。そうすれば、見た目にはあたかも鉄壁の防御で全てを防いだかのように映る。 「僕ね、自分の魔法が嫌いなんですよ。色々と、事情がありましてね……僕の肉体、おかしいと思いませんか? 詳しく語りはしませんが、僕にとっては世界なんて、苦痛を与えるだけのものなんですよ」 底の知れない虚ろな笑いに、エーデルは息を呑む。そこに潜む絶望、憤怒がいかほどのものか、もはや想像もできない。 一体どれほどの闇を抱え込めばこれほど心が乾いてしまうのか。 「……だから、世界などなくなって構わないと? 新たなる世界を望むと?」 「ええ。ただそれだけのことです」 ため息が漏れた。 バードックの事情はエーデルにはわからない。しかしそれほどまでに暗い闇を心に住まわせてしまうような何かが起こってしまったのだろう。それは間違いなく、彼の魔法に起因することで。 ふと、大翔のことを思い出した。自分の嫌いな彼も自身の魔法を疎んでいた。その原因はいまだにわからないが、もしかしたら大翔にも何か魔法に起因する悪夢があるのかもしれない。 だとするのなら、大翔とバードックはその点で似ているといえなくもなかった。だからこそ、エーデルは思う。 「ならばやはり、君の夢はここでボクが終わらせよう……」 水を纏い、力ある視線でバードックを射抜く。 「君の生き様はボクの気に入らない人間に似ており……その対極にあるからだ。少なくとも彼は自分の受ける苦痛を世界のせいにして自己弁護を図るような無様はしなかった」 「うん。陽菜もキミを認められないよ、だってキミは前を向いていないから。それじゃあ夢はつかめても、きっと未来はつかめない。キミは何も変われない」 「未来なんていりませんよ。ただ夢が見られれば、僕はそれで満足です」 「世界とかよくわからないけど、陽菜は絶対にそんな夢認めないから」 「夢ならばひとりで勝手に見たまえ。ボクらは君の夢になど、毛先ほどの興味もないのだから」 夢は誰だって見る。叶えたい未来を夢見ることは、きっと誰にだってある。 だが人に夢を強制するなどばかげた話だ。そんな世界はエーデルは願い下げだ。 彼には守るべきものがあるのだから。守るべき世界が、守るべき人が。そして民が。それは彼の生まれた世界であり、数ヶ月を過ごしたこの世界だ。エーデルには義務がある。責任がある。なぜなら彼は貴族であり―― 「ボクが貴族であり続けるために、ボクに課した使命なのだから!!」 守る存在であること。立ち上がる存在であること。それが、彼を生かしてくれている全てへの、彼なりの責任の取り方だった。 もはや自分に勝ち目がないことは悟ってしまっていた。それでも、自分の夢のため、ポーキァは退くことはできなかった。 「ふむ……事態の進行は止まらず意図の通り糸に引かれるまま用意された結末へと世界の流れは流れ行く、か」 あらゆる力を尽くして戦ったはずだったが、目の前の存在は傷ひとつ負わず、逆に自身は満身創痍であった。 それはポーキァにとって恐るべきことだった。ポーキァの生み出すことのできる最大電力は、ひとつの街を覆い尽くすことさえ可能なのだ。その力を存分に発揮して、この世界に限らず、幾つもの世界で猛威を振るってきた。 だというのに、ノアに対して彼は無力だった。 攻撃が、あたらない。狙いは全てはずされ、前にいたと思ったらいつの間にか後ろに回られ、ガードしたかと思えば攻撃はすでに届いている。理解できないうちに、彼は対抗する術を失っていた。 そのノアはといえば、 「世界の創造の手順は滞りないか。これはいよいよ、結論を急がなくてはならないか」 余裕だった。ポーキァを相手に、なんら危機感を抱いていない。 敗因は、ポーキァの特殊魔法『雷電』の強力さにあった。速度と威力において最強を誇る彼の魔法は、彼から魔法を扱う上での応用力を養うということを奪っていたのだ。今までの、ただ全力を持って力を叩きつければ勝てた、その勝利しかない経験が、彼の弱点となった。 対する乃愛は幾多の死線を潜り抜けてきた実力者である。そもそも生まれた世界が生存競争の苛烈な世界であり、そんな世界で生まれた乃愛も本能の部分に戦いのノウハウが詰め込まれている。 「く……そ、ふざけんな……!」 「諦めなさい、君は私には勝てない。今回のこの件、君には勝者の資格はないんだ。妹君のことは残念だが、諦めることだ」 妹。その単語を聞いたポーキァは顔を上げ、獣のような顔でノアをにらみつけた。今にも飛び掛らんばかりに四肢に力を込める。 乃愛はため息をついて、指揮者のように指先で虚空をなぞる。瞬間、ポーキァは全力で顔面を床に叩きつけていた。乃愛に叩きつけられたのではない、ポーキァ自身が込めた力全てを使って全力で自分の顔面を振り下ろしたのだ。 「まあ正しく言えば、この戦いには勝者などどこにもいないわけだが」 「くそ……くそったれがああああ!!!!」 「……やれやれ、諦めの悪い」 ノアはどうしようもなく呆れた様子だった。じたばたと床の上でもがくポーキァを冷たく見下ろす視線からは感情が感じられない。 「もう一度言う――諦めろ」 宣告に、ピクリとポーキァの体が震える。だがその体に、もう立ち上がる力はない。 「何度も言わせないでくれ。この戦いには勝者などいないのだよ。全てが無駄……ではないが、残念ながら誰一人、報われることはない」 「何を、言ってやがる? お前、一体何者、なんだ……」 その質問に、ノアは表情をかえず無言。どこか怪しい雰囲気を纏ったまま、ポーキァに背を向ける。 カツ、カツ。硬質な音が廊下に響く。今なお各所からは激しい戦いの音が聞こえてくる。しかしポーキァには、それらのどの音よりも、冷たいノアの靴音だけが耳に残っていた。 歯を食いしばる。もはやあの存在にはどうやっても敵わない。だが、それでも、せめて、一矢を―― 「ぐ、ぎ、ぎがああああああっ!!!!」 もはや狙いも何もない。己の力の及ぶ範囲全てを消し飛ばすそれだけを成すために、己の力の全てをかき集める。限界を超えた力がぼろぼろの肉体を食い荒らす。全身から発せられる雷がポーキァ自身を蝕み、その肌はちりちりと焼ける。傷口から溢れる血が蒸発し、血の霧がうっすらとその体の回りを漂う。 死の恐怖がポーキァの首筋をうっすらと撫でた。だが、それでも―― 「あああああああああああああああっ!!!!!!!!」 膨大な力が、弾けた。 ポーキァという手綱のない雷撃の嵐が荒れ狂い、破壊の限りをつくさんと天に地に向かって放たれた。そのうちのひとつが、文字通り光の速度でノアを飲み込み―― 「満足したかい、それなら、寝ていたまえ」 声が、聞こえた。耳元で、息の吹きかかるほどの近くで。まるで、悪夢を見ているかのように。目の前に、先ほどまで映っていた背中はどこにもない。ただその代わり、首筋に触れる冷たい指の感触だけがやけにはっきりと感じられた。 ちくり、と小さな痛みが走り。 ポーキァは、闇へと落ちた。 美優は走っていた。左右に一枚ずつの鏡を従えて、夜のように暗い廊下を息を切らせて。 遠くから連続する剣戟の音が響いている。美優には――レンにもとても信じられないことだったが、あのエラーズ事もあろうにレンと剣の打ち合いをしているのだ。しかしエラーズは丸腰、武器など持っていない。 素手。素手でエラーズはレンの剣と打ち合っていた。 「あ、あの人もやっぱりお兄ちゃんと同じなの?」 エラーズが魔法を感知できるのは間違いない。そうでなくては、死角から放たれた雷を避けられるわけがない。そして剣と打ち合うということは、それ以外に肉体を鋼のように変化させる魔法をもっている、と考えられる。 大翔と同質の力を持ち、肉体を強化する特殊魔法を備えている。そう考えるのが普通なのだが。 「何か、違う気がする」 あくまで美優の勘だが、エラーズの感知の能力。あちらがエラーズの魔法ではないかと思うのだ。大翔のそれとは違い、動きに無駄も迷いもない。大翔はあくまで曖昧な感覚で魔法を捕らえているので、常にその感覚に疑いが生じ迷いが生まれる。だがエラーズにはそれがない。 だが、美優が以前『鏡界』を使ったときには、その効果を理解できてはいなかった。つまり、所有する魔法そのものを見破っているわけではない。 「うん、これはたぶん、間違いない」 しかしその考えが正しいとして、今度は別の問題が発生する。 「人の体って、魔法も使わないで剣を受け止められるの?」 考えるまでもなく結論はNOだ。それこそ魔法を使わない限り不可能だろう。とはいえ特殊魔法はひとりにひとつという不文律があるし、通常魔法ではそのような芸当はできない。 そうなってくると思いつくのはひとつきり。 「ワタシにはわからない技術……? うー、そうなると本格的にどうしようもないよぉ……」 その場に座り込み頭を抱えた。剣戟の音は段々と近づいてくる。 レンとエラーズの動きにまったくついていけない美優は、離れてエラーズを倒すための下準備をしていたのだ。しかしどうすればエラーズの感知を超え防御を超え技術を超えられるのか、美優にはまったく想像がつかない。 「でも、何かはしないと……」 美優ではエラーズにかすり傷ひとつさえも与えることはできないだろう。策を弄し不意をつき、裏をかく必要がある。 以前のエラーズとの対峙の時に美優は、己の鏡は魔法を反射すると言った。下手な嘘をつけばすぐにばれてしまうために嘘を言えなかっただけだが、それは間違いなく事実だ。 そう、嘘は言っていない。本当の事全てを言っていないだけで。 美優は廊下の真ん中で立ち止まる。 「『鏡界』はちょっと手に余るし……でも、使わないわけには、いかないもんね。使えるものは何でも使わないと。……お兄ちゃんに勝つつもりでやれば、いいんだよね……全力で」 この場に大翔がいたなら顔を真っ青にするようなことをポツリと呟いた。 その指先がすーっと空をすべり、軌跡に次々と鏡が現れる。 「鏡舞」 無数の鏡が、美優の意に従い、その望む形を形作ってゆく。 まず自分がすべきこと。それは、エラーズの魔法と能力を見極め、その上で突破口を掴むこと。そのための罠を――世界を、形作ってゆく。 と、美優の全身に鳥肌が立った。感知能力の有無など関係ない、絶望的なほどの魔力を感じ―― 「『反射鏡』!!」 美優が全方位を鏡で固めた瞬間。 その姿を、極大の雷が飲み込んだ。 エラーズは感嘆した。数多の世界を渡り歩き、数々の一流と呼ぶに相応しい戦士と幾度となく死闘を繰り広げた。その中にあってレンの実力は決して抜きん出ているとはいえない。だがしかし、彼がこれほどまでに攻めあぐねいた敵はいなかった。 「あなたよりも速い敵も、力のある敵も、技のある敵もいました。そしてその全てを私は下してきたのですが……ふむ」 迫る銀の刃を首を小さく傾けてかわし、踏み込んできた相手の懐へ深く潜り込む。必殺の間合いとタイミングで、鋭い手刀が放たれる。 ガリッ! しかしながら、鈍い音を立ててその指先を受け止めたのは――今振りぬかれたばかりの、剣であった。間合いの外まで下がり、たった今止められた指先を見る。 今の攻撃を剣で受け止めるためには、圧倒的に時間が足りない筈。それを涼しい顔でやってのけたレン。しかしながら、エラーズの持つ感知魔法には魔法の発動は感じられなかった。 「なるほど、貴女――能無し、ですか」 「――――」 表情を険しくするレンに、ようやくエラーズは得心がいったと小さく息をつく。 「純粋魔力による動作補完……道理で、感知できないわけだ」 「どういう意味だ? いや、それよりも私のこの業を知っているのか?」 「知っていますとも。私の『戦技』も理論的には貴女のそれと同じことをしているに過ぎないのですから」 レンが衝撃に息を呑む。その様子に、エラーズは仮面の奥で苦笑をもらした。まさか自分の業を見抜かれるとは思っても見なかったのだろう。 まあ、無理もないと思う。なぜなら自分たちのような業は“絶対に”レンの世界では発展しないはずだからだ。そして発展しなければ、その存在が認知されなければ、見抜かれるわけもない。 「あなた達の世界で言うところの純粋魔力。この有無でまず魔法使いの素質の有無が決まります。それから、純粋魔力を放出魔力へと変換する場合の変換効率で魔法使いとしての資質が。ところがごくまれに、魔法使いの素質を持ちながらも魔法使いの資質が皆無の人間が生まれてくることがあります、それが――」 「能無し、貴様の言うとおり、私のことだ。だが貴様……貴様も能無しだというのか?」 エラーズは腕を突き出し、指先を左右に振る。それは早計、さらには注意力も足りていない。勘の鋭いものならば、今の会話の中でヒントは掴むはずだ。 レンも、しばしの黙考の後にはっと気付いた顔を見せた。 「貴様の出身――我々の世界ではないなっ!?」 「ご明察。ついでに言えば、この世界の出身でもありません。私の世界ではこれは『戦技』と呼ばれています」 そう言って、手近な壁を素手で砕き、さらに横に滑らせて今度は切り裂いた。腕ひとつで多様な破壊を可能とする業。 「しかし貴女のような使い道は初めて見ました。剣の概念を与えることで、通常魔法と同じ効果を生み出すとは……いやはや、その発想には恐れ入ります」 「これは……『斬像』は、ヒロト殿の父君から教わったものだ。私の考えたものでは……ない!!」 強く床を蹴りエラーズに袈裟懸けに斬りかかるレン。刃は淡く輝き、軌跡を白く際立たせる。 「ほほう、では彼は魔法の何たるかを理解していたのですか。驚きですね」 エラーズは素直に感心しながら半歩下がることで刃をかわす。しかし刃はそのまま床に突き立ち、まばゆい白い光の刃を生む。それをエラーズは全身を硬質化させることで受け止め、レンが体勢を整える前に鋭い前蹴りを放った。 ドンッ!! 放った蹴りはしかし、剣の柄で受け止められていた。 『戦技』とは肉体そのものの限界値を改変する技術だ。魔法ではなく、技術。故に、レンの『斬像』の切断対象に光の刃を走らせる力とは別の、もうひとつの力、運動能力の強化になかなか気付けなかった。 だがどうやら、彼女のそれはエラーズのものとは違い、肉体の強度まで操れるものではないらしい。その分の修行を、光の刃の力に裂いていたという事なのだろう。 「くっ!!」 レンは身を翻した。エラーズはそれを慌てて追う様な事はしない。彼の感知した限り、その先にはもう一人の少女――美優がいるはずである。 「…………彼女とは、なんというか、あまりやりあいたくないのですが」 以前の対峙を思い出し、小さくため息をついた。 あわよくば自分ひとりの力で、と思っていたのだが、さすがに世界を相手取るだけありそううまくはいかなかった。 それどころか、自分の力さえも見破られてしまうとは思わなかった。レンは歯がゆい思いで廊下を駆けていた。 「まだまだ甘いな、私も」 抑えた脇腹には鈍痛。最後の蹴りを柄で受けたが、その柄を支えきれなかった。恐ろしいほどの威力。もしもあれをじかに食らっていればと思うと肝が冷えた。 その寒気を一呼吸のうちに封じ、廊下を曲がり事前の打ち合わせで合流地点に指定した廊下へと―― 「ミユ殿――きゃあぁぁぁっ!?」 思わず変な声がでてしまい、戦闘中だというのに顔を赤らめて両手で口をふさぐ。 「あ、レンさん、こっちこっちです」 美優が手を振った……一斉に。 廊下を曲がったレンの前に現れた十八人の美優。レンは一瞬自分の脳みそがおかしくなったのかと真剣に疑った。 「どうぞレンさん、こっちです」 声のするほうへと進むと……唐突にレンの目の前の一人を残して、他の十七人の姿が幻のように消えてしまった。 「み、ミユ殿? これは一体……」 「ちょっとした手品のようなものです。びっくり、しました? 鏡に私の姿だけを映すようにして、そっちの曲がり角から曲がってきたら、ワタシがいっぱい見えるようにしたんです」 確かに驚いた。驚きすぎて思わず少女のような悲鳴を上げてしまった自分が恥ずかしい。穴があったら入りたい気分だった。 「た、確かにこれならば、あの仮面男も思わず足を止めてしまうだろう」 うまくすれば大きな隙となるかもしれない。というか、そうなって欲しいと思っていた。己のプライドのためにも。 「それは面白いですが、こちらの入り口から入ってきては意味がないようですが」 背後から聞こえた声に、少女二人がぴたりと動きを止める。ぎぎぎとぎこちない動きで首を背後に向けると――そこには、狐の面をした男が立っていて。 レンは美優を見る――先ほどの、私が見たあれは? 美優は首を振る――あっちからじゃ、見えないんです。 二人の間に、痛ましい沈黙が下りる。その隙をエラーズは興味深げに眺めていた。 「ミユ殿おおおおおっ!?」 「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!」 戦闘中だというのに、やたらとハートフルに取り乱れる二人だった。 「私の力は感知ですよ? 貴女が待っている場所へ、何も考えずに踏み込むはずがないでしょう」 「ああっ……!!」 美優ががくりと膝をついた。レンはもう色々といいたいことはあったが、とりあえずその美優の前に立ち剣を構える。それをみたエラーズは無言のまま床を蹴り、風を切る勢いで駆け出した。 互いに廊下の端と端といえる位置。しかしエラーズの身体能力を考慮するに、この距離は決して油断できる距離ではない。そしてエラーズにとっても同じこと。レンの実力を知っているからこそ、油断なくその動きを注視していた。 美優の思惑通りに。 「炎よ」 呟きはそのまま現象を呼ぶ。美優の手元から炎が奔り、床を埋め尽くしながらエラーズに迫る。眼前に迫った炎の海に対し、エラーズはむしろ速度を上げた。引き返しても一瞬で追いつかれることを見抜いたが故の選択。そして炎の海に飲まれる寸前、跳んだ。彼の脚力を持ってすればこの程度の距離、このまま二人の少女の下まで飛ぶことも不可能では―― 「っ!?」 顔を上げた美優は、笑顔だった。まるで会心の悪戯に成功したかのような。それにエラーズが違和感を覚えた瞬間。 「なっ!?」 彼の視界に現れたのは、狐の面であった。 がしゃあああんっ!!!! 耳障りな音を立てて、天井から生えていた鏡が破砕された。顔面から衝突してきた、エラーズによって。 体勢を崩したエラーズはそのままレンたちの横へ落下したが、受身を取って立ち上がり、素早く二人から距離をとる。しかしその隙に美優は風に乗り、鏡を従えてレンと共にエラーズの来た方へと飛んでいた。先ほどとは逆の位置取り。 美優は小さな無数の鏡の集合であった十七枚の鏡をばらして、トランプのように重ねた。 「み、ミユ殿、今のは一体?」 「上のほうにだけ、鏡を置いていたんです。ほら、廊下って、左右対称じゃないですか。だから、ああして真ん中に鏡を置いておくと、奥までまっすぐ続いているように見えるんです。だから、上のほうにだけ、鏡を設置しておきました」 その説明を聞いたエラーズは深く息をつく。エラーズにとっては美優の言葉に踊らされるのは二度目だ。何が厄介といえば、彼女は何一つ嘘を言っていない所だろう。騙すのではなく、相手が勝手に騙されるように仕向けているのだ。 「しかし今の鏡。もし、刃のように鋭く研ぎ澄ませていれば、私を殺せたと思いますが?」 だがその言葉に、美優は不思議なものをみるような顔で、たずね返した。 「そういうあなたも、どうしてワタシ達を殺そうとしないんですか?」 人間誰しも優先順位がある。 例えば、見ず知らずの人の命とユリア一人の命でどちらが大切かと聞かれれば、俺はユリアと即答するだろう。あまり認めたくはないが、それがたぶん、正直なところだ。 けどそのとき差し出される命の桁がひとつ増えれば。二つ、三つと増えていけばどうだろう。 例えば、一億人の見ず知らずの人間――この国の人間のほとんどとユリアの命、どちらかを選べと言われたら? 一億人の人間と一人の人間。本来なら比べるまでもない事だ。だが、それでも迷ってしまうに違いないのだ。ユリアの命を選ぶという選択肢を捨て去りたくはなくて、それでも、見知らぬ人々の命を背負うことが怖いのだ。 俺はその程度の、弱い人間だ。 「お前は……バケモノだ…………」 だから、ファイバーの言葉は俺には到底、理解できるものではなかった。 「バケモノ、結構な話だ。俺は目的が果たせるのならばバケモノにさえなって見せよう」 「とても……とても正気とは思えません」 ユリアも驚愕に体をかすかに震わせ目を見開いている。 ファイバーは言った。たった一人の人間のために数多の世界を滅ぼす、と。 たった一人の人間を殺すために――救うために。その人のいる世界を根幹から滅ぼすためだけに、数多の世界を犠牲にすると。そう、迷いなく言ってのけたのだ。 ファイバーの姉は現在、歳をとることも言葉を発することも、思考さえもなく、ただ生きているのだという。ファイバーが幼い頃に犯した過ちにより、その存在が世界と同化してしまったのだという。 それがどのような状態なのか――そもそも、それが真実なのかもわからないが、もしそれが本当なら。こいつは、酷く、恐ろしい。 「世界の破壊は容易い。が、それでは意味がないのだ。世界を砕けば、姉は混沌の海を漂うことになる。そうならないためには、姉の存在を世界から切り離さなくてはならない。それができるのは、世界だけだ」 「待て待て待て待て、ますます意味がわからん! それと世界を作ることがどう関係するんだ!?」 「これよりここで生まれるのは、世界の礎。それを手にしたものは新たなる世界の創造することができ、さらにはすでにある世界にも干渉できるだけの力を持つ。それを得て、俺は姉と世界を切り離し、おれ自身を新たな世界の核として、仲間達の理想世界を創造する。結果としてこの世界と、姉の……姫君の世界は滅ぶがな」 はは……おいおい、僕は新世界の神になりますってか? 冗談じゃねえぞ、おい。どんな三流ファンタジーだ? 「じゃあ何か。世界の礎とやらを生み出すために、この世界を、ユリアの世界を、それ以外の沢山の世界をこんな危険に晒してるってのか!?」 「世界の礎を生むためには多種多様の世界のエネルギーが必要なのだ。この世界にはそのための舞台になってもらっただけの事」 「ふざけんなあああっ!!」 だっ! 怒りに任せて駆け出す。 ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな、ふざけんじゃねえ!! がんっ!! 全力で放った拳は、ファイバーの腕に受け止められていた。巨大な、まるで大木のような存在感。燃え盛る苛烈な意志。けして折れぬ不屈の信念。 この男は――ただひたすらに、愚直に、純粋に。 その人のためを想い、その人を殺すために、戦っているのだ。 「納得……できるか」 「語る前に告げていたはずだが」 「ああそうだ、そうだよなあっ!!」 拳を開きファイバーの腕を掴んだ。その腕が大きく振るわれる。俺はその動きに合わせてファイバーの横手に回りこむ。顎を狙う爪先を顔を引いて避ける。全身を勢いよく回し、ファイバーの腕を捻る。が、掴んだ腕を強引に振り切られた。 「けど、俺が納得できないのはお前が世界を滅ぼす理由じゃない……お前が、姉を殺すためにそれをすることだ!!」 「何が言いたい、小僧!!」 回転の勢いのままに、ファイバーの背中に回し蹴りを放った。 同時、ファイバーの裏拳を受けた肩に痺れるような痛みが走り吹き飛ばされた。受身を取って立ち上がる。 理解できないこと。したくないこと。 ファイバーのやろうとしていることは納得ができない。この世界を滅ぼして、異世界を滅ぼして、自分の願いだけかなえて。その上その願いは大切な人を殺すこと。そんなの納得がいかない。 それはたぶん、俺の世界が巻き込まれているから、だと思う。きっと自分の世界が巻き込まれていなければファイバーが何しようが気にしなかったと思う。ユリアが直接頼みに来たのだとしても、たぶんそうだった。 だから、ファイバーのやろうとしていることで俺が許せないのも、すごく、ちっぽけで、頭の悪い理由で。 だけどそれでも、認めたくないことなんだ、俺にとっては。 「はあ……はあ……なんで、なんで、お前はその姉を殺すんだよ! 子供の頃に別れてそれっきりなんだろ? なら殺して、自分も世界になって、それで終わりなんてそんなのおかしいだろ! もう一度一緒に暮らす道を探すべきじゃないのかよ!!」 「そのような手段がそうそう都合よくあると思うか? 人間が世界と同化する事が前例のない事態なのだ、存在を切り離す方法が見つかっただけでも奇跡! 姉とは違い俺の時間は有限だ……時間を浪費し俺が死んでしまえば、姉は未来永劫、孤独の苦痛さえ感じぬ孤独の中で生き続ける羽目になる!!」 放たれる炎の刃を横に飛んでかわす。吹き付ける熱風は、奴の怒りの熱さそのものに思えた。 ファイバーの言うことはわかる。世の中そんなに都合よくできてはいない。それでも、それがわかっていても、俺はそうやって終わりに向かって全力疾走するなんて、納得したくない。 「それで、一体誰が救われるんだよ……一体誰が、幸せになるんだよ!?」 「誰かが常に救われる事ばかりではない。世界は時に、あらゆるものに満遍なく不幸を落とす」 「だからって、それで諦められるか……っ!!」 ファイバーの手に収束する魔力。それを打ち破らんと、こちらもありったけの魔力を拳に込める。 俺はユリアを取り戻すためにここまで来た。そのためにみんなを危険にさらして、頼って、ここまで来た。けど今は、それだけじゃ足りなくなっていた。 ファイバーを、目の前の男を。親父の仇やユリアを傷つける存在としてではなく。 俺とは絶対に相容れない敵として、倒したいと、そう思うのだ。 「「いくぞ……」」 奇しくも、言葉は同時に放たれた。それは確認でも忠告でもない、己への、宣誓。これより敵を滅すると、その意志を己に誓う言葉。 強大な魔力が光の刃となったのを見た。対する俺の魔法はただ貫く、それだけの力。だが負けるわけにはいかない。負けたくない。その意志と共に、全力の力で―― ざわり 全身を走った悪寒に従い、攻撃を中断。全力でその場を飛びのく。その反射的な自分の動作を呪った。馬鹿な、こんなところで相手に隙を――! 光の刃が、こちらに無数の切っ先を向ける。今からでは防御も間に合わない。 「くっ……!!」 両腕で顔面をガードする。もはや、運に賭けるしかない。 死を覚悟した、次の瞬間。 ガガガガガガガッ!!!! 視界を埋め尽くす光の洪水と全身を粟立たせる破壊の音響が感覚の全てを塗りつぶした。 な……何が起こったんだ? 俺は目の前の景色を呆然と眺めていた。突如屋上を襲った光は床を破壊し、ファイバーのいた場所をも飲み込んでいた。その後に残った破壊の跡がその威力を物語っている。 ……何が起こったのかはよくわからんが、助かったのだけは間違いがないらしい。破壊の跡を辿っていけば、俺が立っていた位置も含まれていたからだ。あのまま立っていたら間違いなく死んでいた。 ファイバーがどうなったのかはわからないが、今のうちにユリアを助けよう。 「よう、ユリア。久しぶり」 「ヒロトさん……その、私、その、あの!」 何か口にしようと必死になっているユリアを軽く撫でて落ち着かせる。大丈夫。無理をしなくてもいい。 俺は急いでユリアの縄を解く。解放されたユリアは、両手をついてうなだれるようにして言った。 「私……今まで自分勝手な気持ちを隠していたのかもしれません。それに、あなた達を巻き込んでしまって……」 「そんなこと、気にしなくていいって。たとえユリアがどんな気持ちでも、俺達と一緒にいた日々は嘘じゃない。そうだろ? ならそれでいいと俺は思うよ。それに最初に俺が言っただろ、好きなようにしろって」 ユリアは小さく、けどしっかりと肯いた。やれやれ、助かった。 それに、自分勝手に無数の世界を盛大に巻き込んでいる奴だっているんだ、そのくらい、気にするようなことじゃない。まあ、そこまで開き直れるかどうか、って事なんだろうけど。 「と、ところでヒロトさん……その、呼び方……」 「うん、呼び方がどうかした?」 「いえその、だからですね、なんといいますかその……」 しどろもどろになりながら俺を見上げた――瞬間、その顔色がさっと青ざめた。 「ヒロトさん、後ろ!!」 「っ!?」 その叫びに振り向く俺の肩が硬いごつごつとした感触に掴まれる。更にもう一組の腕によって、俺は床に組み伏せられた。 「ヒロトッ!! あうっ!?」 叫ぶユリアの腕を捻り上げる影。それは……なんだ、こいつは!? 「岩人形……俺の特殊魔法『魂吊』は、無生物に命を吹き込むことや、その逆が可能だ」 いまだもうもうと立ち込める破壊の跡の煙の中から現れたのは、ファイバー。 たま……つり? それがファイバーの特殊魔法、切り札か。くそ、油断した! ということは学園の入り口で俺達を襲ってきた人たちを操っていたのも。いやまて、そうなると、つまり何か。あの人たちは全員……死人? 「少々油断したが、貴様の負けだ。さて姫君、この小僧の命が惜しければ我々に協力してもらう」 「な……んですって!?」 「てめえ……最初からそれが目的か!」 「だから攫った。姫君は自身の命と引き換えの取引を要求したところで応じないだろう。それならば、取引の価値のある相手を用意するだけだ」 つまり……俺は最初からユリアの人質としておびき寄せられたってことか。 人質を得るための人質、だと? くそ、完全に人のこと舐めやがって! 「魔法は使うな。そぶりを見せれば、即座に小僧の命はない。貴様もだ小僧、動けば、姫君の命はないぞ……?」 「は、なんだそりゃ。お前ら、ユリアの協力が必要なんじゃないんか? だったらそんなことできるわけがないだろうが」 「だがそういっておけばお前は動けない。俺が姫君を殺さない保障はどこにもないからな。姫君がいなくてもこの計画に支障がないと、貴様にはその保証がない」 畜生その通りだよクソッたれ! ユリアの協力がなくてはこの計画が完成しないのなら、俺は無理にでも動ける。ユリアを殺すことがヤツにはできないからだ。だがそんな計画、本当に立てるか? この世界で行う計画に必要なファクターとして異世界人のユリアを加えるなんて、普通しない。だからユリアの存在は必要なのではなく有用、そう考えるのが妥当だ。となれば、ファイバーは躊躇いなくユリアを殺すだろう。 「ユリア、聞くな……! 俺と世界のどっちが重要かなんて分かりきってることだ!」 「その通りだユウキヒロト! だが思い出せ、姫君はこの世界に何をしに来たのか。タイヨウの死に報いるためだ、そのために来たというのに果たして姫君にお前を見捨てることができると思うか!?」 それはまるで、一億の人間と一人の人間を天秤にかけるように。 「それでも守らなきゃいけないもんがあるだろ、ユリア!?」 その言葉に、ユリアはなぜか顔を青ざめさせ、瞳を大きく見開いた。まるで何か重大な事に気付いてしまった、そんな表情だった。 なんだ……どうしたんだ? 怪訝に思っている俺の目の前で、ぽろりと、一粒だけユリアの瞳から涙が零れた。 そして、きっと強い視線でファイバーを睨みつけたユリアは、 「私を殺しなさい、ファイバー。そしてヒロトを解放しなさい」 静かに、とんでもないことを言い出した。 「おい、ちょっとま――ぐっ!!」 岩人形達に頭を押さえつけられ、口がふさがる。くそ、邪魔だよお前ら、どけ! 起き上がろうと足掻くが、その体の重さには敵わない。 「変わったことを言うな姫君。それでは俺は骨折り損ではないか、君の協力は得られず、敵一人をのうのうと生かすなど。君を殺すのならば小僧も殺す。小僧を生かしたくば我々に協力するほかないぞ」 「………………………………、ヒロト、ごめんなさい」 その謝罪の言葉に、血の気が引いた。たったその一言で彼女がどういうつもりなのかを理解してしまった。 嘘だろやめてくれ。そんなの間違いだって分かってるだろ? そんな辛そうな顔をするならなんでそんな……! ユリアはゆっくりと俺から離れていく。その背中を、視線だけを動かして追う事しかできない。ああ自分が不甲斐ない、俺が弱いなんて事今更だ、でもそれでも今はこうして這い蹲ってるのはだめだそんなの認めない、今この瞬間は、俺が弱いなんてそんな事実で現実を受け入れられない。 それじゃあ何も守れない。守りたいものが守れない。 「ぐぅ……うぐ、ああああああっ!!」 「無駄だ、人の力で岩人形を押しのけることはできん」 魔法を使うな、力は足りない。じゃあ今俺にできることは何だ、どうしたらユリアを止められる!? 「――ユリアッ! やめろ、そんなの……お前、それでいいのか!?」 「……でも私には他に、どうしたらいいのか、分かりません……どうしたら、あなたを救えるのか……」 「俺の、事なんか気にしてる場合かよ……っ、このままじゃ、この世界も、お前の、世界も……!」 「それは分かっています! でも、でも……!!」 ユリアが悲壮な顔で言葉を続ける前に、突然、ごばぁっ! と何かが砕ける重い音がして、唐突に背中が軽くなった。ユリアとファイバーの顔が、同時に驚きに染まる。怪訝に思う俺の前に、ごとり、と落ちてきたのは岩人形の頭部。その頭には、漆黒の棒状のものが突き刺さっていた。どうやらこれが岩人形の頭を貫いたらしい。 よし、今なら! 俺は衝撃に揺らめく岩人形の拘束から抜け出し、もう一体の岩人形の頭部を蹴り飛ばす。人の形を失ったらもう操れないのか、それきり岩人形は動かなくなった。 「貴様っ!!」 悪寒を感じて振り返ると、ファイバーはその手に巨大な雷球を生み出していた。人一人なんか簡単に焼き殺せるのは間違いない。俺はといえば、すぐに動ける体勢ではない。 今度こそ、終わる――!? 俺は死を覚悟した。だが、ファイバーが雷を放った瞬間。 「だめぇっ!!」 ユリアの風が彼女を拘束していた岩人形を吹き飛ばし、その風に乗って彼女は俺の前へと飛び込む! っておいこらちょっと待て、そのタイミングで割り込んだら……! 「ヒロトは……ヒロトは私が守りますッ!!」 両手を広げて、俺の前に立ちふさがるユリア。その体にもはや風はなく、守るものは何もない。その体で守るのは自身の命ではなく俺の命。 ああ――なんで、こんな――俺はいつも、守られてばかりで。 世界が、色を失った。目の前の光景が異常にゆっくりと流れていく。 このままではユリアは為すすべなくその身を焼かれて死ぬ。俺はその背中を見ることしかできない。 ……本当に? なあ、本当にそう思っているのか、結城大翔。思い出せよ、お前の願いと、お前の親父の願いを。お前の親父がお前に託した願いを。 言ってただろ、親父は『僕は生きた』と最期に言っていたと。なあ、何でそんなことを親父はいったんだと思う? それはな、親父が最期まで自分らしく生きたからなんじゃないかって、俺は思う。親父はたぶん、問いかけの答えを見つけたんだ。親父は自分の命をかけて、夢あるものの夢を守ろうとしたんだ。 夢。願い。希望。 お前も――俺も、その一人だろう? 親父に守られた、その、一人だろう? 記憶が。俺の中の記憶が、湧き出す。 俺は親父の最期を……ああ、そうだったんだ。だから俺は、自分の魔法を信じられなくなった。そういうことだったんだな。 それは、最後の旅の記憶。この地球上のどこでもない……異世界への、ただ一度だけの旅。 親父と訪れたその世界は、俺にとってはあまりにも印象深く、心に深く刻まれた。今でも覚えている。自分の世界のどの街とも違う空気、風の音色、大地の鼓動。俺は親父の故郷であるその世界がひと目で好きになった。 だからこそ、刻まれた傷は深く。どこまでもどこまでも、俺の弱さを浮き彫りにした。 あの日、最後の日。 親父に言われて、俺は街をでたところにある森の入り口で親父を待っていた。なかなか親父が来なくて不安を覚えたその頃、ようやく親父がやってきた。 綺麗なドレスを着た少女を抱えて。 「お、親父……! さすがに誘拐は犯罪じゃないの!?」 「ヒロ、一度君がどういう目で僕を見ているのか話し合う必要があるようだね……さておき、少し、この娘と一緒に隠れていてくれないか」 「え、ちょっと……てか重っ!?」 「女の子に対して、それは言っちゃだめだよ」 たしなめられた。そのとき、ようやく気付いた。親父の全身のいたるところに傷があるのだ。 「ああ、これか。ま、気にしないでいいよ。それよりほら、隠れて。何があってもでてきては駄目だよ? はい、復唱」 「何があっても……でていかない?」 親父は俺の返事に満足したのか、そのまま元来た方へと走っていった。俺はその後を追おうと思ったが、少女を抱えたままではうまく走れない。まさかこんな綺麗なドレスを着た女の子を地べたにおいていくわけにも行かないので、言うとおり、森の影に入って隠れていた。 やがて、遠くで戦いの音が響きだす。 親父だ。直感した。そしてそれは正しかった。戦いは激しさを増しながら、段々とこちらへ近づいているのだ。 親父ならきっと大丈夫、親父が負けることなんてありえない。そう思いながらも、俺は全身が震えだすのを止める事ができない。あの、親父の言葉と表情が、何かを感じ取っていたのだ。俺はそれを必死に考えないようにした。そんな恐ろしいこと、考えることそのものが、悪いことだと思った。 だから。 親父が血だらけで、俺の視界を横切った時。悲鳴を上げなかったのは、本当にただ。親父が、笑っていたような気がしたという、そんな理由だけだったのだ。 全身に傷を負いながら、それでも敵に俺たちの存在を気付かれぬように戦いながら、そして、俺を不安にさせないように、精一杯の余裕を顔に浮かべながら。 ファイバーの一撃に、ついに親父は倒れた。 震えていた。怯えていた。 ファイバーがその場から消えても、俺は一歩も動くことができずに。 俺は何もできなかった。魔法の有無なんて、能力なんて関係ない。敵がいなくなっても、俺は弱いままだった。親父はそれでも、静かに笑っていたというのに。 ただ俺は震えて。 助けが来るまで、腕の中の温もりに、縋り付いているだけだった。 親父の葬儀の時に涙を流す妹達を見ながら、俺は誓った。魔法なんかなくたって俺が妹達を守ってみせる。家の事だって全部やるし親父達の代わりだって努めてみせる。魔法なんかに頼らずにやってみせる。 大切な時に使えなかったものなんかに、どうして意味を見出せるだろう。 雨の公園で震えながらそう誓う俺に声をかけてきたのは――あの時の、女の子だった。 女の子は言った。雨の中で空を見上げる俺を見て『泣いているみたい』と。何を馬鹿な事を、と思った。俺は泣かない。泣くわけがない。 だって俺は何もできなかったんだから。見ていただけだったんだから。今泣くくらいなら、あの時動くべきだったんだ、俺は。 でも、それはたぶん、違った。 親父が守ったのは俺の命と女の子の、ユリアの命だった。でもそれ以上に守り通したものがあった。 『大切な人の夢を守りたい』という、親父の願い。悩んで悩んで悩み続けて、それでも親父はきっとそれを守り通した。そうして『生きた』んだ。 たぶん、そういうこと。親父が最後、こちらを振り向いて笑ったのはきっと、そういうこと。 だから、あの言葉も。 『だから君も生きてほしい』 俺は俺の夢を精一杯生きていいんだと。俺の夢、俺の願い。親父が守った夢は、今もこうして生きている。俺達はこうして夢を見て、願って生きている。 さあ立て、結城大翔。お前がここでやらけりゃ、親父が守った夢が消えてしまうぞ。それよりも何よりも、俺の夢が消えてしまう。 俺の願いは何だ? 家族を守る、家族がいられる場所を守る。 『幸せを守りたい』 ただそれだけだ。言葉にするのは簡単で叶えるには難しい願いだ。幸せって何だ、どうやって守ればいい? そんなことは分からない。でもひとつ分かっていることがある。 目の前のこの女性を失うことは、絶対に不幸だ。 だから、いつまでも意地張るのはやめよう。そうだ、俺の魔法を思い出そう。 そうしなければ――今度こそ、両親が俺に伝えてくれた全部、意味のないものになっちまうから。 だから、さあ。 俺の魔法よ。全てを貫く『貫抜』よ――この目の前の彼女の危機を―― 覚醒は、一瞬。発動は、刹那。 「貫けええぇぇぇぇっ!!!!」 右拳を突き出す。その先から溢れた力が、ユリアの目の前の雷球を貫き吹き飛ばす! 「何っ、馬鹿な!?」 俺はユリアを後ろから抱きかかえ、ファイバーから大きく距離をとった。にやりと不敵な笑みを浮かべてみせる。 「え、な、ヒロト!?」 突然の自体にユリアも混乱している。俺は肩をぽんぽんと叩くと、その前に立った。 「思い出したぜ、俺の魔法、俺の過去。全部全部、ようやく取り戻した――これが本当の、俺の全力だ」 「……今までは、全力ではなかったと?」 「いんや、全力だったさ。ただ、制限がかかった全力だったって事だ。こっから先は制限抜き、今までとは一味違う俺が楽しめるぜ」 ファイバーはふん、と鼻で息をすると、そこらに転がった瓦礫から岩人形を作り出した。これでお互いに全力、か。 いけるだろうか、今の俺に。たとい魔法を万全に使えても、やつの実力が俺より上なのに違いはないのだ。 「ユリア。さっきなんかしようとしてた事は後で怒るとして」 「あうっ、や、やっぱり怒ってますか?」 何を当然のことを。正直言っちゃってさっきの行動はかなーりトサカに来てますよ。 まあそれだけ大事に思われるのは男の子としては悪い気分はしないものの、やっぱり総合的に見ると納得はいきませんですはい。 とはいえ、そのおかげで記憶が全部帰ってきたといえないこともないんだけどな。 「ま、かるーくね。んでまあそれよりもまず。今はここをどうにかしないといけない。ユリア、いけるか?」 「――はい、当然です」 「いい返事だ。んじゃまあ、さっさと片付けて家に帰るか!」 「ハイ!」 岩人形の兵隊がずらりと並ぶ。従えるのは屈強の戦士。立ち向かうのはお姫様と頼りない騎士。 実にファンタジーだ。それでもどれだけ現実味がなかろうと、ここにあるのは現実。 「行くぜ、親父……見てろよ、あんたの息子の初陣だ!」 「え……えぇっ!?」 ユリアの疑問後驚愕の叫びを後ろに聞きながら、俺は風に乗って一瞬で岩人形の群れを見下ろす位置に、高く舞い上がった。 何も驚くことじゃない。通常魔法に必要なのは血と知覚。親父の血を継ぐ俺にはその素養は備わっている。ユリアが美羽に通常魔法の基礎を教えるのは見ていたから知識はもう入っている。そして幼い頃にユリアの世界に行って、しかもあれだけ強烈な体験をしたのだ。あの空気を忘れないわけがない。あの大好きな世界を忘れるなんて、ありえない。 だから、本当は使えて当然だった。 「まとめて……ぶち抜け!」 ぎゅるぁっ! 突き出された拳の先から力が溢れ、岩人形どころか、校舎そのものさえもまっすぐに、大地まで一直線に貫いた。 特殊魔法『貫抜』の効果は、その名の通り対象を問答無用に貫く。一切の壁も合切の障害も許さない最強の矛。それが俺の魔法だ! 岩人形達を片付けるのには数秒で事足りた。ユリアが呆然と見ているのを感じながら、ファイバーと炎の中向かい合う。 「なるほど……それが貴様の、全力か」 「そうなるな。数年ぶりに使うけど……確かにこれが、俺の全力だ」 己の中に今までとは違う感覚が満ちているのを感じる。これまで抑制されていた、自分自身で感じることを拒絶していた感覚が、全身を心地よく満たしている。 ちらちらと赤い火の粉が舞う。 「その力、我々の障害になることは間違いないだろう。今ここで、貴様を潰す」 「やってみろよ、俺はそもそもお前を潰す気満々なんだからな」 ドン! 床を蹴る音が同時に響き、俺達は激突した。 互いに風を操り、ありえない速度で正面からぶつかり合う。だが腕力では敵わない。じりじりと体が押し返される。が、 「炎、氷、雷、風、刃となりて我が敵を切り裂け!!」 ユリアの魔法が襲い掛かる。ファイバーは俺から離れ、光を放ちそれらを蹴散らした。そこへ『貫抜』を放つ。 「ぬるい!」 俺の拳の動きを見切ったファイバーは身を屈め、床を砕きながら突進してくる。砕けた破片が雨のように降り注く。その向こうから、太い腕が現れた。がっちりと顔面が巨大な手の平に覆われる。きしきしと締め上げる痛みに苦痛が漏れる。 「おおおおっ!!!!」 指の付け根めがけて拳を叩きつける。一瞬、力が弱まった。何度も何度もそれを繰り替えす。が、唐突に首が引っ張られるような痛みと共に、全身が振り回された。ってか、頭掴んで全身振り回されてる!? ぐおん! と全身の感覚が一瞬停止して――やばい、叩きつけられる!? どん! と轟音が響いてからだが投げ出された。床に叩きつけられる。立ち上がると、ファイバーの腕には無数の氷の刃が突き立っていた。 「いってえ……くそ、次はこうはいかねぇ」 「ヒロト、大丈夫ですか? でも、どうして通常魔法を……」 「その話は後だ。とにかく、今は……」 ファイバーはそれでも、悠然とこちらを見下ろしていた。圧倒的な存在感は、腕の傷などものともしない。 「お前の願いも分かるよ、けど何度も言うように、俺はそれを潰さなきゃならない」 「私の世界、この世界、そして……私の守りたいもののため、私の我が侭のため、あなたの願い、打ち砕きます!」 ぎゅっとユリアの手を握る。 何年も前にも感じた、この暖かさ。俺を守ってくれたこの温もり。あの時は縋り付く事しかできなかった。でも、今は違う。違ってみせる。 「行くぞファイバー、これが、俺達の選択だ」 今度は、俺が守る。
https://w.atwiki.jp/woodworld/pages/140.html
目次 ◇物語パート フォーリナー達の思惑 オリジン人の思惑 アムルタートの龍の思惑 グレズ達の思惑 コラプサー達の思惑 富嶽人の思惑 ネフィリム人の思惑 暁帝国人の思惑 パンデモニウムの人々の思惑 第一世代ダスクフレアの思惑 ◇設定パート フォーリナー領域のスタンス オリジン領域のスタンス アムルタート領域のスタンス グレズ領域のスタンス コラプサー領域のスタンス 富嶽領域のスタンス ネフィリム領域のスタンス 暁帝国領域のスタンス パンデモニウム領域のスタンス ダスクフレアのスタンス 「俺達は戦いを強いられてきたんだ…!だからいま、そこから抜け出すべきなんだよ…!!」 「セシリアさんは、僕達に戦いを強制したことは一度もなかったよ。あの人は、いつもこの世界の平和を祈っている人だ…」 声を荒げる少年と、静かに答える少年。瞳の色はどちらも澄んでいて、強く真っ直ぐな意志の光をその中に宿す。 「お前は、あの女に騙されてるんだ…!あの女は、自分たちの世界を護るために俺達を利用しているだけだぜ…!」 「キミこそあの男に騙されているよ…。あの男は、自分の正義のためにみんなの気持ちを煽ってるだけだ…」 声を荒げる少年は相手の胸ぐらをつかみ、静かに答える少年は揺るがぬ目線で相手を見つめ返す。 「もう、やめてよ…!ふたりとも……!」 傍らで二人を見ていた少女は、争い合う二人の少年の様子に、両顔を覆って泣き出す。 その涙に、声を荒げていた少年も勢いをそがれ、バツが悪そうな顔で少女に声をかける。 「悪りぃ…。つい、カッとなっちまってよ…。でも、お前はどうなんだ…?」 優しく言う少年の言葉に、少女は泣き声まじりに答える。 「私は…、分からないよ…。戦いを強要されているみたいで嫌だったのは私も一緒。でも…だからって、こんな戦争をおこすなんて、絶対間違ってるよ…!」 怒れる心を持ちながら、それでも直向きさを捨てない少女。 その言葉に返す言葉を失いながらも、先ほどの少年は背を向けて言う。 「……とにかく、俺は行くからな。悪りぃな…。あとは頼んだぜ……」 少女のことをもう一人の少年に託し、彼は二人の仲間のもとを去る……。 フォーリナー領域のスタンスへ 目次へ 「この美しき樹木の世界を戦乱が包もうとしています…。ああ…!慈悲深き我らが女神よ…!やはり貴女は間違っておられたのだ……!!」 純白の金属鎧に身を包んだ金髪碧眼の騎士は、両の手を広げながら天を仰ぎ、大仰にそう言った。 「かつて創世の折、慈悲深き我らが創世主は、我等オリジンの民だけでなく、遍く勢力(ミーム)の迷い子らに、等しくこの大地を与えられた…。けれども、卑しき異民族どもはその御心を理解せず、この美しき大地を蝕みつづけ、ついにはナグルファルと名乗る傲岸不遜な輩を排出するにまで至った…!奴等の行いは、偉大なる『孤界産みの母』の神権を侵す許されざる蛮行であり、世界への冒涜である…!」 白騎士は声を荒げ、背後に控える民衆に呼びかける。 「そもそも、この樹木の世界は、オリジンの女神が創世し、オリジンの聖女が道を開いて人々を導き入れた世界…。故に、我らオリジンの民こそ、この樹木の世界の正統なる民であるのだ…!」 熱弁を振るう騎士の青い瞳は、どこまでも純粋に澄んでいて、故に歪んだ光を湛えていた。 「故に、この世界は、偉大なる女神セシリアの御名の下に統一されるべき世界であり、我等オリジン人こそ、この世界に住まうことの許された唯一の正統なる民であるのだ…!必要なものは異民族との融和ではない…!異民族の浄化だ…!」 それは、どこまでも純粋に歪んだ狂気の思想。 「さあ、剣を持って立ち上がれ、オリジンの子らよ…!女神セシリアを助け、不浄なるナグルファルを滅ぼし、樹木の世界を女神の御名の下に統一するのだ…!今こそ、聖戦の時である…!!」 騎士は鞘から剣を引き抜き、天高く掲げる。 天高く拳を突き上げた人々の鬨の声が、それに重なる……。 オリジン領域のスタンスへ 目次へ 「新龍皇様を救い出し、我らが聖地を奪還する!」 龍の将軍は意気高く息を荒げる。 「あのセイバーってのは強いんだろ…?俺はあの時、たまたま余所の領域に出かけてて戦えなかったからなぁ。奴と殺り合ってみてぇ…!ただ、それだけだ…!!!」 龍の勇者は獰猛な血をたぎらせる。 「奴等は、龍の悲願を踏みにじった…。人間風情が決して触れてはならぬ聖なる泉…それを土足で踏み荒らした……。私達が次世代の卵を産み落とすことをどれほど願ってきたのか…、私達にとって産卵(それ)がどれほど尊く神聖なものか……、その想いも省みらずに……!」 龍の女戦士は冷たい瞳に怒りと悲しみを宿らせる。 「「「さあ、血戦だ…!奴らを一匹残らずブチ殺し、吾等龍の力を樹木の世界に示してくれる……!!!」」」 龍達の息吹は炎(フレア)となり、世界を震わせる……。 アムルタート領域のスタンスへ 目次へ 「とにかく、私達の行うべき行動は、『端末樹』の奪還にあります。『RNS』が緊急停止状態にある今、あの樹では未来のグレズコア(こども)たちが製造途中のまま放置され、完成(たんじょう)の時を待っています。私達は一刻も早く彼等を救出しなければならないのです」 白黒警察車両(パトカー)模様の装甲を持った人型グレズは、務めて平坦な口調でそう述べる。 「もちろん それには賛成だよ。でもさぁ…」 それにいまひとつハッキリしない口調で返したのは、何故だか機首にドリルが着いているジェット機…から人型に変形したグレズ。 「でも、じゃありません。そもそも、私達グレズにとって『NRS』は種の維持に必要不可欠なシステムなのです。『RNS』により回路(こころ)と回路(こころ)を結び付け、全ての個体が調和の中で存続していくことこそ、私達グレズの在り方なのですから。だから私達は、それを取り戻さなければいけないのです」 「でもさぁ…。せっかく あの窮屈な『RNS』から解放されたんだよ…?わざわざ戻る必要ないじゃない。起源個体(パピィ)はボクたちに『調和』の中で生きる『個』であることを求めたんだからさぁ。正直、もう戻りたくないんだよ…」 「起源個体(ちち)が私達に求めたものは、私達が『調和の中で生きる個』であることです。『調和』とは、『個』と『個』の間の相互作用が均整を保って働いている状態のことです。“私”という『個』が“貴方”という『個』に働きかけ、“貴方”が“私”からの働きかけに応じる――それが相互作用です。“私”と“貴方”の間に働く“相互作用(ふれあい)”が『調和』であり、それを結び付けるのが『NRS(きずな)』なのです。『RNS』が停止して、私は貴方を認識出来なくなった…私には、それが“悲しい”のです」 “悲しみ”を語る警察人機。 その彼に削岩機少年はため息を着く。 「(わかってないなぁ…。その “キミ” も、毎日ずっと感じていたら、“ボク” は窮屈を感じるんだよ…?見えないときがあるから、見えるときが楽しいんじゃない。――それに…、隣でこうして話してるのに、『RNS』がなければキミがボクを見れないなら…、それが『RNS』に頼り切ったグレズの限界なら、ボクはそんなものなくて良い……)」 『調和(つながり)』が失われ、離ればなれになった『個(こころ)』と『個(こころ)』。 その隔たりは、二機の立つ物理空間的配置より とても遠い…。 「グレズコア(こどもたち)を助け出す戦いは、ボクも手伝うよ…。一緒に、戦おう…」 「ええ。戦いましょう!グレズの『RNS(ありかた)』を取り戻すために……!!」 ふたつのきたいは、目線を並んで行かせたまま、戦いのちに向かう……。 グレズ領域のスタンスへ 目次へ 「神をも畏れぬ不埒者が、この美しい世界を蝕もうとしています…。人の身で分も弁えず、偏狭な革命思想のもと、神権への礼すら知らずに…。私達が漸く取り戻した、この愛すべき器(せかい)を踏みにじっているのです……」 「やはり、創世主は誤っていたのだ…!主神の位に座すべき者が、人の器(からだ)に執着し、天を空座のままにしておくから、世界が際限なく無秩序になる…!」 「“神” は “世界” の意志。意志が宿って器は命を持つ…。神のいない世界は、空しき虚ろにすぎないのです……。故に定命の神などあってはならない…。神は永遠に世界とともに存在しなければならないのですから……」 「もう我侭を許しておける時でもなかろう…!天主様を正式に神の座に就かせ、その威光をもって人間達に導きを与えなければ、世界の秩序は失われ、悪徳と混乱が世界を覆い尽くしてしまう…!世界には神の意志が、人間達には神の導きが必要なのだ……!!」 神々は口々に空間に“声”を響かせる。 偉大なる者達は理解する。秩序と導きこそ、人の世界に必要なものだと…。 偉大なる者達は理解しない。人として生き 人として死なんとする、女神の気持ちを…。 「オリジン領域の敬虔なる信徒共に、神の声を汲む聖なる軍を作らせましょう…。彼等は決して私達の声を拒みません…。我が意の下に、命を賭して血路(みち)を拓いてくれることでしょう……」 「我が天軍も聖戦に参加させよう。人の子らによる神聖軍と、天使たちによる天軍。手勢に困窮する女神は、決して援軍を拒みはすまい…」 「その間に、私は天主様を永遠者に組み替えるための秘儀を準備しておきましょう…。如何に我侭な天主様も、私達の力によって怨敵を誅殺できたとあらば、私達の言葉を無下にできないはずです……」 「その時こそ、真の天主は顕れる。神話の頃より失われた、秩序と節理の世界が甦るのだ……!!」 神々は策謀する。主と仰ぐ存在の意志すら超えて…。人を陥れる悪魔のように……。 「「「「創世主の威光を永遠のものとし、この世界に秩序と導きを……!!」」」」 善なる神々は、光の声を世界に響かせる……。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 「世界に恐怖と混乱が満ちている…。実に良い眺めだと思わんか……?」 「御意に御座います」 「だが…、此の前も、此度も、それを齎したのは我々『夜』の者ではなかった……。実に…気に食わぬことだとは思わぬか……?」 「御意に御座います」 真紅の瞳に怒りを湛えた灰白の肌の男は、瞳と裏腹の愉快そうな声を操りながら、傍らの執事に語りかける。 髑髏の相貌に虚空の眼を穿った骸骨(butler)は、骨の顎を鳴らしながら、ただ主の言葉に是認を返す。 「とはいえ…、ひとまずは あの界渡りに感謝しておかねばな…。この混乱の中、私が軍を上げれば、女神も もはや私との戦いを拒めまい……。光の神達も闇の魔族も、みな己の都合によって戦乱を加速させる…。その流れは、強固な意志と絶大な威光を持った彼女にも、もはや制御など出来ぬ…。これで漸く…、私の念願も叶う……」 「祝着至極に存じます…」 嬉しそうに嘲笑(わら)う主に、傍に控える執事もまた嘲笑(わら)って応じる。 「だが、感謝と処遇は別だ…。昨日今日現れた余所者風情が この私を差し置き女神の対面に座ろうなど……、思い上がりも甚だしい…。分際を教えてやらねばならぬ…。私の “対戦相手(えもの)” に手を出せばどうなるか、じっくりと叩き込んでやらねばな……」 「不可避の戦への返礼は、生者への福音たる “理(Death)” を以って…で御座いますか…?これは性質のお悪い」 「小粋な贈り物…と言ってほしい所だな…。フフフ・・・。それに、あの界渡りの手で縄目の恥辱を受けた魔界の諸侯達も、相当に腸が煮えくり返っておるようだからな……。復讐の軍くらい上げてやらねば、盟主の務めを果たせぬであろう……?」 「御意に御座います」 「ともあれ…、目に物を見せてやらねばな……。女神にも…、界渡りにも…」 「女神とは決着を…。界渡りには死を…」 「悉く解らせてやるのだ…。この世界の『恐怖』が、誰であるのかを…な……」 ふたつの敵を同時に見据え、『夜』の主はひとり天に意志を放つ。 「して、如何致しましょうか…?」 執事の問いに、主は滑らかな弁を返す。 「暫くは、このままセント・アゴラとナグルファルを戦い合わせ、互いに戦力を消耗させる…。そして…、双方が程よく消耗しきった頃合に我が軍を差し向け、双方の軍を叩く……!」 「承知致しました…」 「九界士やセント・アゴラのカオスフレア達、並びにナグルファルの幹部には、我が軍のカオスフレア達を当たらせよ…。それから…、お前も “真の姿” を顕して構わん……」 「!!!承知、致しました」 主の許可に、骨の執事は下顎骨を歓喜に歪ませる。 「主だった敵将は悉く殺せ…。神聖軍の英雄と反乱軍の志士とが魔王軍の異形に悉く蹂躙される……それが世界の『恐怖』となるのだ…!遠慮は要らん、存分に嬲れ。女神以外は好きにして良い……」 「もし…、界渡りが女神を討たんとした場合には…?」 ずっと滑らかに弁を論じてきた主は、そこで初めて言葉を詰まらせる。 「その時は…、私の手で奴を殺す……!」 主の答えに、髑髏の執事は満足そうに嘲笑(わら)う。 「さてさて…、これは忙しくなりそうですなぁ…」 「まったくだ…。だが…、今はせいぜい愉しもうではないか…?世界に広がる、この混乱を…。革命気取りの愚かな界渡りが与えてくれた、憎き女神との戦の機運を……」 真紅の主は、夜の瞳を野望に輝かせる……。 コラプサー領域のスタンスへ 目次へ 「感じるのぅ…、蠢蠢たる戦乱の気配…。ふふふ・・・。この風、この匂いこそ戦国よ……!」 白髪の老将は、隻眼の顔を嬉しそうに歪ませる。 「セント・アゴラの乱れは、確実にこの富嶽領域にも波及する…。他の大名どもの、焦れた顔が目に浮かぶわ。この五年、皆それぞれに力を蓄え、この機を待ちわびていたのであろうからな…」 そう言う彼の顔は、むしろ彼自身こそ この戦乱の機運を待っていたのではないかと、見る者に窺わせる。 「くくく・・・。我等富嶽の武士に、交渉事で繕われた安穏とした平和など性に合わぬわ…!領国とは、己が艦砲をもって贖うもの…。ふふふ・・・、武者震いがするわいなぁ……!!」 老将は天を睨んで呵呵と笑う。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 「セシリアの女神さんと、ナグルファルのセイバーって男が、戦を起こすってぇ話だよ」 「へえぇ、あの生き神さまに戦を仕掛けようなんざぁ、大それた奴もいたもんだねぇ…」 「なんでも、女神さんの方には、神仏やら龍神様やらグレズ共が味方に着いてるんだと…。けど、相手の方にも、血を啜る悪鬼やら べらぼうに強いMTやらが着いてるらしいや」 「そいつはまた、大層な話だねぇ。まるでお伽話か妖怪譚だ」 町人たちは口々に噂する。彼等にとっては、セント・アゴラも自分達と関わりのない遠き異国であり、セシリアとセイバーの戦いも他愛のない噂話の種に過ぎないのだ。 「それよりもキナ臭いのは、お大名様方のほうさ。どこの殿様も、その大乱のどさくさに紛れて、他国に攻め入ろうと隙を伺ってるらしいや」 「まったく、冗談じゃないねぇ…。こちとら真面目に平凡に生きてるってゆうのに、今更んなって、乱世だ合戦だって言われたってさ…」 「まったく…、女神さんも自分たちの戦に こっちまで巻き込んで欲しくないもんだねぇ…」 「それを言うんなら、うちのお殿様の方さ。変に欲をかいて、戦なんぞ起こそうって気にならないでもらいたいもんだねぇ」 民衆の彼等の関心の的は、専ら自分達の生活の中にある。故に、間近に迫りつつある戦乱の機運と大名達の動向こそ、彼等の最大の関心事なのだ…。 その彼等を、茶屋の二階から遠巻きに見る男達が居た。 男達は声をひそめて言う。 「樹木の世界が開闢以来の危機を迎えようとしているのに、大名達は目先の領土欲に駆られ、富嶽領域内に戦乱を起こそうとしている…。庶民は誰もそんなものを望んでいないというものを……」 「やはり、武断政治にとらわれ艦に魂を縛られたままの古き時代の武士たちには、これからの樹木の世界で富嶽領域を束ねていけるだけの資質が無いのだ…!」 「我々は、もはや艦の外でも生きていける…。故に、艦長を絶対の主とする古き支配体制は、これからの富嶽に不要なものなのだ…!」 「立たねばならぬ…!これからの世界での生き方を知らぬ大名に代わり、我々がこの枝葉群を導くのだ……!」 男達は、意気を新たに志を誓う……。 富嶽領域のスタンスへ 目次へ 「世界もずいぶんとハデになってきやがった。コイツは稼ぎ時だぜ…!」 ジャズと紫煙が支配する『B B Cafe』の店内で、テーブル席にドッカリと腰を下ろした軍服姿の男が、そう大声で言う。 「マスター、Budwiser(バド)とミートローフを頼む…!いやっ、ここは景気づけにステーキでもいっとくか……!」 「……随分と上機嫌だな、お前さん」 鼻息の荒い軍服男に、大柄な黒人の店主はそう応じる。 「そりゃあ上機嫌にもなるぜ?マスター。なんたって、俺達NSSはここ五年間、この生温い平和の中で、ずっと干されてきたからな。会長(ボス)は方針を混沌の海の海上警備に切り替えてNSSを残してきたものの、とうぜん規模は縮小。隊員の給料は引き下げ。おかげで安酒ばっか飲んできたからよぉ……」 「ふん…。まっ、お前さんの落っことしていく金が ちっとは増えてくれるんなら、ウチにとっても悪い情勢じゃないな……」 店主は ひょいと肩をすくめて、カウンターの奥へと消えていく。 「俺の周りじゃ、今はどこもかしこも景気の良い話ばっかりだぜ?背広組は軍需物資から食料まで売る先に困らねぇって笑ってたし、ウチの軍の連中も次々と派遣先が決まってるからなぁ」 「お前さんは どうなんだ…?」 「おう!俺達の小隊はな、セント・アゴラへの配属に決まったぜ…!女神様がよぉ、主戦派の身内の抑えに困ってるって噂でな…。そいつらに貸しを作らないために、わざわざウチに頼ってきたんだと…。これがまた、とにかく金払いが良くってよぉ…!!まったく、ナグルファル様々だよな……!」 上機嫌に葉巻を吹かせ始める軍服男の所に、ジョッキいっぱいにビールを入れて店主が戻ってくる。 「背広連中は、安全なデスクの上でその倍は貰ってるだろうさ…。それに、連中のことだ…、どうせ相手方にも売り込んでるんだろ…?」 「当たり前だろ…?だが、背広連中を羨んだところで腹は膨れねぇし、敵同士に配属されりゃ、身内同士でもドンパチやるのがこの仕事だからな…。重要なのは契約とマネーだろ?Big money is the most importance…!!」 「それが我慢ならないから、俺は退役してこの店を開いたのさ…。俺が美味い酒を飲むまでには、誰かが血と脳漿をブチ撒けてクソ袋になってる…。戦場ってのは、原罪の縮図だ……」 店主はジョッキをテーブルに置き、首から下げた銀のロザリオを手に祈る。 「原罪深き我らが友の行く道に、どうか幸いあれ…、Amen…!」 ロザリオで軽くジョッキを叩き、店主はテーブルを後にする……。 ネフィリム領域のスタンスへ 目次へ 「セント・アゴラが夷狄の反乱に手を焼いて、戦力を欲している…。これは、好機である…!今こそ、セント・アゴラに援軍を派兵し、彼の天上国に貸しを作り、我が朝の発言力を高めておくことこそ、後の幸いに繋がると存ずる」 上質な絹で出来た緩やかな長袍に身を包んだ文官が、流暢な弁でそう主張する。 「否…!否である…!グレズやアムルタートさえ陥落させたナグルファルの兵力が分からぬのか…!?その戦力を敵に回すなどもっての外…!ここは奴等と手を結び、王朝の確実な存続を図るのが賢明といえよう……!」 同じく上質な長袍に身を包んだ やせ形の神経質そうな文官が、その意見に異を唱える。 「いやいや…。お二方の意見はどちらも些か極端ではござらぬか…?確かにナグルファルの力は強大。まだ我が朝に矛先が向いておらぬものを わざわざ敵に回すのは危険であろう。だが、今はまだ奴等も賊軍。それに味方することは正当に欠け、ともすれば世界を全て敵に回すことにもなろう…。どうであるかな…?ここはどちらにも与することなく、暫く様子見ということにしては……?」 今度は、丸々と太った文官が、額の汗を拭き拭き意見を述べる。 「何を言う…!そんな日和見が この情勢で通じるものか…!迂闊に中立を貫けば、戦いが終わった後に、勝った側から『なぜ味方しなかったのか?』と問い詰められるのは自明の理…。それよりも、ここは先ずセント・アゴラを上手く言いくるめながら、領域内の基盤を固めるべきである。セント・アゴラに味方する姿勢を示しつつ、西域への守りを理由に援軍を辞し、その不戦を通してナグルファルの矛先をも躱しながら、胡然を攻め落として西に版図を広げるのだ…!さすれば、セント・アゴラも無理に援軍せよとは言えぬし、たとえナグルファルが勝とうと それに対抗し得る備えを固められよう」 それに引き続いて、口髭の凛々しい文官が、眼光鋭く自論を説く。 様々な意見が飛び交い、なかなか方針は定まらない。 終わりなく続く論議に、連座の最奥に座した皇帝が、ゆっくりと立ち上がる。 「朕は、今こそセント・アゴラに派兵し、彼の国に恩を贈りつけておくべきという意見に賛成である…!」 その言葉に、連座の文官たちがピタリと口を止め、続く詔を固唾をのんで拝聴する。 「ナグルファルの首魁が如何なる論を並べようと、創世主の神権に唾すれば、それは賊軍である…!正統なき軍は必ず敗れ、天に唾する賊は必ず報いを受ける…。これは、真理である……!」 揺るぎなく意志に満ちた言葉を、皇帝は紡ぎ出していく。 「中立を守るなど以ての外。味方するのが遅れれば、戦勝の利もまた薄くなる。西域を攻めるは重要だが、あの広い二つの砂漠と一つの高原を平らげるには時を要し、また、護るに難しい。もしナグルファルが勝てば、西の備えを固める前に奴等の侵攻を許すことに成ろう……」 どの意見にも然るべき正当性はある。故に、朝の行く先を定められるのは、『正しさ』ではなく『意志』なのだ。この朝には、『天子』という意思がある…。 「セント・アゴラが堕ちれば、我が朝にも明日は無い。今こそ、『天下』を預かる『天子』として、『天上』に住まう『天主』に我らが武威を示すのだ…!」 天子の詔に、百官は伏してひとつとなる……。 暁帝国領域のスタンスへ 目次へ 「テメェ等!出入り(喧嘩)だぞ、腹ぁくくりな…!!」 頬に大きな傷跡のある角刈りの男が、右手のサイバーリムを天に突き上げ大声で怒鳴る。 「良いか…?セシリアの姐さんが、中央でデカい抗争を始めなさった。姐さんにゃあ、日頃から世話んなってる義理がある。その義理、ここで返さにゃあ、ワシ等の侠(おとこ)が廃るってもんよ…。わかるな…?」 「応っ!よりにもよって、世界の女神様を相手に喧嘩売ろうなんざぁ、良い度胸してやがる…!腕が鳴りますぜ…、組長(オヤジ)…!!」 サイバーガンの仕込まれたブラックハンドを、サングラスの組員はコキコキと鳴らす。 「セシリアの姐さんの話じゃ、ザイード教どもが、本格的に動き出そうとしてるらしい。ワシ等には、奴等の動きを牽制してもらいたいってことだ」 「あのクソ教団共が相手なら、手加減の必要はねぇやな…!派手にブチ込んでやりまさぁ…!!」 「おうっ、野郎共、出かけるぜ……!」 侠(おとこ)たちは、『任』と『侠』の二文字の下、血戦に向かう……。 パンデモニウム領域のスタンスへ 目次へ 「テメエら…、つべこべ言わずに俺様に力を貸せ……!」 青い肌の鬼は、横柄な口調でそう切り出す。 『何様のつもりだ…?××鬼…!貴様、この私に命令しようというのか?』 『何を企んでいるのかは知らない…。だが……、なめたことを言う奴は殺ス……!!』 返ってきたのは、空気を振動させた声ではなく、意志を直接飛ばした思念派の類。 怒れる8体の夕闇の思念に、鬼はヘラヘラと笑って平然と返す。 「別にテメエらに命令しようなんぞ思っちゃいねえし、テメエらをなめてる訳でもねぇさ…。ただ、ひとつ賭けに誘おうと思ってな…?」 『“賭け” だと…?どういうことだ……?』 漸くと乗り気の姿勢を見せた夕闇に、鬼はニヤリと笑って答える。 「テメエらも、セント・アゴラとナグルファルって連中が戦争をおっぱじめようとしてるのは知ってんだろ…?この世界を再創世(リジェネシス)するんなら、今が好機だ…。だが、ただ留守中を狙っても結果は期待できねぇ。俺達が暴れたら一時休戦して対処に当たるのがカオスフレアの連中のいつもの手だからな……」 『そんなことは分かっておるわ…!それで、どうしろと……?』 「だからだ…、しばらくの間、手を組まねぇか…?真なる神の声を聞いた、この9人でよ……。人間が創ったこの世界も、この世界で革命ごっこやってるガキも、昨今調子に乗ってる偽ダスクフレア共も、どれも気に食わねぇのはテメエらも一緒だろ……?」 『たしかに真なる神によって与えられた “私の” 神権を侵す連中の不遜は気に食わん…。だが、私と貴様とは創りたい世界が違う。故に、手を組むメリットなどない…。それは、他の者達も同じだろう……?』 「んなこたぁ分かってんだよ…!だが、個々の手勢じゃセント・アゴラにもナグルファルにも敵わねぇことはテメエらも分かってんだろ…?だから、奴らを皆殺しにするまでで良い…。一時だけ協力しあうことにしねぇか…?何もテメエらに俺様の下に着けとは言わねぇし、仲良しこよし手を繋ごうって言ってる訳でもねぇ…。お互い、持ちつ持たれつ…、ただ利用し合うだけだ…。なあ……?」 鬼は嘲笑(わら)いながら、着実に罠に導く。甘い言葉は最大の武器だ…。 『言ってることは同じだろう…?ただお前が我々の力を自分の都合の良いように使おうというだけだ…。それに、それのどこが “賭け” だというのだ…?』 「テメエらは、8人のうち誰も直接動かなくて良い。ただ、今まで種を撒いて育ててきた兵隊(ダスクフレア)を出し合えば良い…。その兵を率いて、女神と仮面野郎をブッ殺す…!その指揮は、俺様が執っても良いし、テメエらの中の誰かが取っても良い…」 『ほう…?』 「派手に暴れれば、それだけソイツが再創世(リジェネシス)に近づく。だが、その分だけカオスフレアに狙われやすくもなる…。奴等が徒党を組めば、数十体のダスクフレアも倒されるのは、少し前の戦いで見ての通りだ。だから、指揮を執る奴は、旨味もデカイぶん、危険もデカイ。この役は、当たりくじでも貧乏くじでもある……」 『だから “賭け” ということか…。面白い……!』 『良いであろう。その “賭け” 乗ったわ…!!』 青鬼の呼びかけに、8体の夕闇はまんまと応じる。すべては青鬼の思惑通りだ。 「じゃあ決まりだな…!で、誰が “くじ” を引く……?」 『それは言い出した貴様が引けばどうだ…?私は出資だけして高みの見物とさせてもらおう……』 『右に同じ……。危ない橋は発案者が渡ればいい……』 『我等は、貴様が “当たり” を引いたころ、ゆっくりと後ろからその首をかかせてもらうわ……!』 夕闇は口々に約束を交わし、その空間から『意志』を消す。 後に残った鬼はひとり笑う。 「さぁて……、派手に暴れるとするかっ……!!!」 夕闇の意志は、世界を震撼させる……。 ダスクフレアのスタンスへ 目次へ ◇フォーリナー領域のスタンス: カオスフレア 親セイバー派4:親セシリア派3:保守派3 権力者 そもそも存在せず 民衆 そもそも存在せず フォーリナー達のスタンスは、「セイバーの呼びかけに応じる者」「親セシリアの立場を取り、樹木の世界の平和のためにナグルファルと戦おうとする者」「セイバーの主張に同感しながらも、彼の過激なやり方には賛同できず、彼と戦うor中立を保つ者」に大別される。 セイバーに味方する者も、そうでない者も、“戦争のない世界の一般的な少年・少女の価値観”に沿って、各々の立場を決めているといえるだろう。 現在は、それぞれのフォーリナーがそれぞれの意志の下で、それぞれの戦いの準備を始めている。 フォーリナー達の思惑へ 目次へ ◇オリジン領域のスタンス: ▼人間族社会 カオスフレア 親セシリア派7:親セイバー派2:不戦派1。親セシリア急進派はこれを機に樹木の世界をオリジン人の世界にしようと画策。 権力者 親セシリア派8:親セイバー派2。親セシリア急進派はこれを機に樹木の世界をオリジン人の世界にしようと画策。 民衆 好戦派6:消極派2:不戦派2 オリジン領域の人間社会では、親セシリア派が大半を占める。オリジンの人間達の中には、同じオリジンの現人神であるセシリアを心から神聖視する人々が多いのだ。そんな多くのオリジン人にとって、セイバーの声明はセシリアの神権を侵す不遜な蛮行として響いたのである。 さらに、親セシリア派の中には、女神セシリアの名の下に樹木の世界の統一を推し進めようと願う急進派の人々がいる。そうした急進派は、セイバーの声明以来、急速に支持力を高めている。 創世当初、旧孤界・オリジンの戦乱に苦しんでいたオリジン人達は、セシリアがオリジン人のために新孤界を創世してくれると期待していた。しかし、セシリアは新孤界にオリジン人達ばかりでなく他の勢力(ミーム)の人々をも受け入れた。だが、戦乱に苦しんできたオリジン人の中には、セシリアのこうした方針に不満を持つ者達もいた。彼等は、セシリアに、今のような世界外交の調停役ではなく、絶対的な世界支配者としての役割を求め、その神権をもって樹木の世界をオリジン人のための世界にするよう願ってきたが、セシリアは頑としてこれを退けてきていた。 だが、セイバーの声明が樹木の世界全体に戦乱の機運を呼び起こしたことを受け、急進派の者達が活発に動きはじめた。目の前に差し迫る戦乱こそセシリアの民族融和政策の失敗の証であり、彼女にその方針を改めさせ彼女を旗印に異民族殲滅の聖戦を起こすことこそオリジン人が生き残る道だというのが彼等の主張だ。故に彼らは、セント・アゴラに援軍することで、セシリアの神権を脅かそうとするナグルファルを排し、同時にセシリアに自分達の主張を認めさせようと目論んでいる。 現在、オリジン領域の貴族の多くがセント・アゴラへの援軍を申し入れている。彼等の中には親セシリア急進派の他にも、先日のナグルファルによる襲撃を恨む者、セント・アゴラの凋落に自らの基盤の危機を感じる者などがいる。その一方で、圧倒的なナグルファルの力に怖気づいたり、逆に領土拡大や敵対貴族への攻撃のためにナグルファルに接近する貴族たちも少数ながらいる。 民衆は、急進派に踊らされて聖戦を望む者が半数を超えるが、一方では圧倒的なナグルファルの力を前に戦意を失い「セシリア様が何とかしてくれる」と他力本願な者、セシリアに心情的には味方しながらも戦争には反対の者もいる。 ▼非人間族社会 カオスフレア 親セシリア派8:セイバー派1:不戦派1 権力者 親セシリア派9:不戦派1 民衆 親セシリア派8:不戦派2 オリジン領域の非人間族たちも親セシリア派が大半を占める。彼らの多くは人間族以上に神や大精霊への信仰心が強く、故にそれらの神や大精霊が仕えるセシリアへの信奉も強い。 ナグルファルの台頭に対し光側の神々がセシリア支援の動きを強めたことを受け、その信徒たる彼等もまた、セシリアとセント・アゴラを支援するためナグルファルとの戦いを決意しているのだ。 現在は、各々の部族が奉じる神や大精霊の導きの下、ナグルファルとの決戦への準備を進めている。 オリジン人の思惑へ 目次へ ◇アムルタート領域のスタンス: カオスフレア 対セイバー派7:対セシリア派3 権力者 対セイバー派8:対セシリア派2 民衆 龍は、対セイバー派9:対セシリア派1 偽龍は、対セイバー派5:対セシリア派1:不戦派4 アムルタートの龍達は、新龍皇と『帝龍の翼泉』の奪還をめざし、セント・アゴラと合流して、ナグルファルとの全面対決の姿勢を示している。 ナグルファルの侵攻により、新龍皇ヴォリクスは捉えられ、『帝龍の翼泉』は制圧された。セイバーは新龍皇も泉も生かして残しておいたが、それでも龍達はセイバーの暴挙を決して許さなかった。何故なら、『帝龍の翼泉』はアムルタートの悲願である「産卵」を司る聖地であり、龍以外の者がそこに立ち入ること自体が既に決して許されざる蛮行であったからだ…。 聖なるものを踏みにじられた彼等の怒りは決して治まらない。ナグルファルとそれに関わる者達を全て滅ぼし尽くすまで、彼等は決して止まらないだろう…。 無論、戦い好きの龍のこと。新龍皇と泉の奪還という大義や、聖地を踏みにじられた憤りというだけでなく、単に「強い奴と戦いたいから」という理由で戦いを決意する者も多くいる。そうした龍達の中には、この混乱に乗じて、むしろこれまで戦うことの出来なかったセシリアやセント・アゴラの猛者達との戦いを望む者さえもいる。 こうした戦いの動機は、「カオスフレア>権力者>民衆」の順で幅広くなっている。下位の者ほどより単純で、本能に従順であり、故に素直に龍皇と泉の奪還を目指す。高位の者…とりわけカオスフレア達はより複雑かつ個性的であり、戦いの動機が多様になるのは勿論、大きな野望を持ってナグルファルに寝返ったり、セシリア達と戦いたいという願望を抱いてアムルタート軍と袂を分かったりする者が現れるようになる。 ナグルファルとの戦いで敗れた龍達も、多くは一命を取り留めており、その大半はセント・アゴラに身を寄せて再起を図っている。 アムルタートの龍の思惑へ 目次へ ◇グレズ領域のスタンス: カオスフレア 『端末樹』奪還派8:非奪還派2 権力者 『端末樹』奪還派9:非奪還派1 民衆 『端末樹』奪還派10:非奪還派0 ナグルファルの侵攻により『端末樹』が占拠された。この非常事態に対し、グレズ達の多くは、セント・アゴラと合流して、『端末樹』奪還の作戦の準備を進めている。 ナグルファルがグレズ領域に押し寄せた際、グレズ達のリーダーであるアーチエンジェルは『RNS』の機能を最大限に発揮して、数十億の軍勢を完璧な連携で操って防衛に努めようとしたが、ナグルファルは《パンデモニウム》を利用して『RNS』のハードウェアである『端末樹』にハッキングし、これを無効化した。このハッキングに対し、アーチエンジェルは自身の演算能力を最大限に発揮して なんとか『RNS』が完全に乗っ取られる前に『端末樹』を強制一時停止させることに成功したが、『RNS』を失い連携の取れなくなったグレズ軍はナグルファルに敗北。育ちかけのグレズコアを『端末樹』の枝に残したまま、グレズ領域からの脱出を余儀なくされた…。 『端末樹』は、グレズの在り方を根本から支える『RNS』の物理的支持体であり、グレズコアを産出する製造機でもある。即ち、グレズという種の存続を支える最重要ユニットなのだ。それ故に、『端末樹』奪還へのグレズの動機は非常に強い。 グレズは原則的に末端の個体ほど没個性で機械的であり、逆により高度な機能を持った個体ほど個性的で人間的である。機械としての在り方に極めて従順なメタビースト達は、『RNS』の一時停止を受けて緊急モードに移行し、個々の個体が全力を挙げて『端末樹』の奪還に向かっている。しかし『RNS』の停止により連携の取れた進撃を行えないため、ナグルファルの防衛部隊にことごとく返り討ちにされている。それでも、機械であるメタビースト達は「『端末樹』奪還」という自らに与えられた機能を投げ出さない。そんなメタビースト達の “懸命な” 姿に “心を打たれた” メタボーグ達もまた、続々と『端末樹』奪還の戦いに参戦している。これがグレズの『民衆』の動きである。 一方、グレズの権力者層ともいえるメタロードや、さらに個性的なカオスフレアのグレズ達は、少し状況が異なる。人格プログラムがより多様化した彼等の中には、このまま『RNS』を停止させておきたい、窮屈な『RNS』の支配下から脱したいと願う者達もいるのだ…。 グレズ領域は、静かに転機を迎えようとしている……。 グレズ達の思惑へ 目次へ ◇コラプサー領域のスタンス: ▼光側 カオスフレア セイバーに神罰を与えんとする(例外もいる)。急進派はこれを機にセシリアを正式に主神の座に着けようと画策。 権力者 セイバーに神罰を与えんとする。急進派はこれを機にセシリアを正式に主神の座に着けようと画策。 民衆 ナグルファル討伐の聖戦を待望 コラプサーのうち光の側の者達は、セシリアに協力してナグルファルに対立する姿勢を固めている。彼等は元々セシリアの偉業に感謝し、彼女に仕えている神々であり、そんな彼等から見ればセイバーの声明は創世主の神権を侵す傲岸不遜なものとしてしか映らなかったのだ。 彼等の中には、セシリアを神に生まれ変わらせ、その神の意志の下に樹木の世界を正しく導くべきだと主張する急進派と呼ばれる者達が存在する。そうした急進派は、セイバーの声明以来、急速に発言力を高めている。 急進派の神達は、「世界とは神の意志によって運行されるものであり、人間達は神に導かれることで正しく生きることができる」と考える原理主義的な者達である。彼等にとってみれば、セシリアが現在果たしている世界外交のバランス調停という役割は、神の果たすべき務めとして不十分なものなのだ。故に彼等は、セシリアに、人としての肉体を捨てて永遠者に生まれ変わることを勧め、今よりもっと発言力を高めて創世神として世界を強力に牽引していくよう提案してきた。しかし、そうした意見は、人として生き人として死ぬことを願うセシリアによって拒否され続けてきた。彼等はこれに不満であった…。生まれながらの永遠者である彼等にとって、人としての定命の体に拘るセシリアの気持ちは到底理解できるものでなく、むしろ、創世神が世界よりも先に滅びてしまうことなど、ただ単に「神の責任を放棄した我侭」でしかないのだ…。 これまでは、急進派の神達も、セシリアの 意志を尊重し、彼女の “我侭” に従ってきていた。だが、ナグルファルの台頭が彼等の態度を一変させた。彼等にとってみれば、セイバーのような人間の出現こそセシリアが神としての役割を放棄してきた職務怠慢の証であり、セイバーのもたらした混乱が世界を覆う今こそセシリアが正式に神と成ることが求められている時なのだ。こうした彼らの主張は、オリジン領域のものと合致する。故に彼等は、信仰心の高いオリジン人や妖精族・巨人族などに対し、セシリアを助けナグルファルと戦うよう神託を授け、同時に自らの持つ手勢もセント・アゴラに援軍として派遣した。そうしてセシリアを助けることでセシリアに貸しを作り、同時にかかる混乱を招いた手際の甘さを糾弾して、セシリアに永遠者と成ることを認めさせようと狙っているのだ…。 彼等の大半は先日までナグルファルにつかまり、その力をナグルファルの目的のために利用されていたが、カオスフレア達の活躍によって無事救出された。だが、このナグルファルの行いが、彼等の敵対意識を決定的なものにした。神々(アイオーン)と呼ばれた頃より遥かに存在は矮小化しても、彼等は誇り高き世界の主なのだ。「たかが人間の分際」で、自分達に縄目の辱めを与えた上、力を吸収して道具のように利用したナグルファルを、彼等は決して許さない。自分達の器たる樹木の世界の大地を、ナグルファルの足が踏みしめていることだけで、もはや彼等にとっては許し難い不遜なのだ…。そうした不遜なる者達に神の鉄槌を下すまで、彼等は戦いを止めないだろう…。 そうした感情も手伝い、現在は、セシリアを神に据えようという急進派も、セシリアの気持ちに理解的な穏健派も、そのほとんどがセント・アゴラに援軍を送り、あるいは自ら蒼天城に詰めかけて、ナグルファルとの来るべき聖戦に備えている。一方、カオスフレアの神の中には、必ずしもそうした流れに従わない者もいる。 ▼闇側 カオスフレア 漁夫の利を得ての闇側の勢力拡大を狙う(例外もいる)。ナグルファル自体には敵対的(例外もいる)。 権力者 漁夫の利を得ての闇側の勢力拡大を狙う。ナグルファル自体には敵対的。 民衆 闇側の勢力拡大のための戦いを熱望 コラプサーのうち闇の側の者達は、伯爵の指揮の下、セント・アゴラとナグルファルの戦いに漁夫の利を得ようと狙っている。その目的は、樹木の世界に恐怖と混乱を蔓延させ、多くの “畏れ” を得て勢力を拡大することにある。 しかし、ナグルファルによって捕えられ、力を吸い取られて利用されたことへの恨みは彼等もまた強く持っているので、ナグルファルに対しては非常に敵対的だ。世界の恐怖を魔族ならぬ人の身でもたらし、『夜』の領分を侵したことも、その恨みに拍車をかけている。現在の所は狡猾に共倒れを待って静観しているものの、ひとたび伯爵が軍を上げれば、彼等は歓喜してナグルファルに襲い掛かり、嬲り、蹂躙するだろう…。 また、伯爵は、高まる戦乱の機運に、セシリアとの決着の時が来たと歓喜している。セイバーの声明を受けて、セシリアの周りにはナグルファル討伐を願う者達が多く集まっている。その中には、コラプサーやオリジン人の親セシリア急進派たちも交じっており、彼等の勢いは最早セシリアですら止められないものになっている。一度開戦すれば、その矛先は留まるところを知らないだろう…。そこに伯爵が軍を上げれば、光の側と闇の側の全面戦争が不可避と成ることは明白なことなのである……。 ただ実際の所、伯爵にはセシリアを殺すつもりはあっても、セント・アゴラを滅ぼすつもりは未だ無いらしい。その方針については、魔界の諸侯も賛否ある所のようだが、目下の所は誰も表立って異議を唱えてはいない。原則的に彼等は利害の一致と力関係のみで繋がっており、決して一枚岩になど成り得ぬ者達なのだ…。 現在、彼等の多くはコラプサー領域の伯爵の下で着々と戦力を整えている。いずれ機が満ちれば、セント・アゴラにもナグルファルにも等しく毒牙を向けることであろう…。なお、魔界の諸侯の中でもカオスフレアと呼ばれる者達には、必ずしもそうした流れに従わない者達もいる…。 ▼中立(無所属) カオスフレア 親光側3:親闇側3:中立4。基本的にナグルファルに対しては敵対的だが例外もいる。 権力者 親光側3:親闇側3:中立4。ナグルファルに対しては敵対的。 民衆 主次第 コラプサーの中でも中立派…それも、ニルヴァーナやサンサーラや名もなき狂気の神といった有力神魔との接点も持たない真正の無所属のコラプサー達は、セシリアに味方する者、伯爵に近づく者、 あくまでも中立を貫く者と、それぞれがそれぞれの方針で動いている。 ただ、彼等もまた、ナグルファルによって縄目の恥辱を受け、力を吸われて道具のように利用されたことへの恨みは持っているので、その多くがナグルファルに対しては敵対的である。これもまた、彼等をセシリアや伯爵に接近させる動機となった。ナグルファルの力は強大であり、絶大なる魔力をほこるコラプサーといえど単独では勝ち目がない。そうした者達が、ナグルファルに対抗できるだけの力を求めて、セシリアや伯爵の下に走ったのである。逆に言えば、なおも完全中立を保つ者達は、ナグルファルに多少の恨みはあっても、戦いを決意させるほどではない者達だともいえる。 コラプサー達の思惑へ 目次へ ◇富嶽領域のスタンス: カオスフレア 個人による。勢力拡大を目指す者が多め。 権力者 混乱を機に領域内の他の枝葉群を攻めようと狙う 民衆 多くは戦乱を嫌い、平和な生活を望む。一部では武士による支配からの解放を目論む動きもある。 富嶽領域は、戦国時代を迎えようとしている。セイバーの声明以来広がる世界の混乱の中、各枝葉群の大名達は、互いに隣国を攻め、勢力拡大を図ろうと動き始めているのだ…。 もともとセント・アゴラとの交易にあまり積極的でなく、それゆえにセント・アゴラからの政治的影響もあまり受けない富嶽領域の諸大名は、セイバーの声明にも、それがもたらしたセント・アゴラの危機にも無関心であった。彼等の関心は専ら自らの周りの領地にあり、この混乱に乗じて如何に他国に攻め入るかが最重要事項なのだ。故に、セント・アゴラにもナグルファルにも与することなく、世界を二分する大乱もそっちのけで、着々と侵攻の準備を進めている。 その緊張感は、既にギリギリの所まで高まっており、今すぐにでもどこかの領国と領国の間で合戦が起きてもおかしくない状態にある。どこの大名もほぼ準備が整いきった今、彼等が必要としているものは、他国を侵すに値するだけの “大義” …即ち、戦争の切っ掛けだけなのだ…。 一方で、庶民たちは、そうした大名達の動きに不満をもらしている。彼等の多くは、戦によって自国の領土が広がることよりも、農耕や漁労、商業によって自分や家族の富を増やすことを望んでいるのだ。未開拓の土地や手つかずの資源が豊富に存在する樹木の世界においては、戦って領土や権益を広げるよりも、未開地の開拓に回る方が遥かに効率よくかつ安全に富を得られるのだから、それも当然のことではある。 こうした大名と庶民の思惑のすれ違いは、富嶽の人々が樹木の世界に定着することで戦艦の中の生活から解放されたことに由来する。かつての宇宙漂流時代では、富嶽の人々の生活圏は戦艦の中に限られていた。それ故に、艦長を絶対的な頂点とした強固な身分社会が生まれ、ひとつの艦の中で大名から庶民まで一蓮托生となって生きる集団主義の価値観が形成されたのだ。そうした社会体制や価値観が、戦艦を降りても生きていけるという事実によって揺らぎ始めているのである…。 そうした気風を読んで、富嶽に革命を起こそうと願う者達がいる。そうした者達の多くは、豪商の子息などの若き有力庶民である。彼等は、武士の支配からの民衆の解放を標榜し、武断政治から文治政治への移行と開拓・交易による富の拡大を説いている。そうした者達の中には、セイバーの声明に共感し、彼のもとに走る者もいる。 だが、そうした動きが日本における明治維新のように新たな国造りへの大きな流れになるかというと、そうは行かない。何故なら、富嶽領域には46の枝葉群をひとつに束ねられるだけの象徴がなく、領域全体を合わせて1つの国だという認識が育まれていない――認識を育むのに十分なだけの統一された政治的・軍事的組織もないからだ…。革命を目論む若者達も例外ではなく、彼等が目指しているのは個々の枝葉群単位での政権交代や社会変革に過ぎないのである…。 そうした中で、カオスフレアの立場や思惑は様々だ。艦長などの有力者のカオスフレアには、やはり周囲の領土を攻め勢力拡大を目論む者が多いが、庶民の側につき反戦を唱えるカオスフレアや、革命に身を投じるカオスフレアもいる。 いずれにせよ、富嶽領域はその内側に目に見えぬ未曾有の混乱を抱えているのだ……。 富嶽人の思惑へ 目次へ ◇ネフィリム領域のスタンス: カオスフレア 個人による。多くは自分がより儲かるように動く。 権力者 親セント・アゴラを名乗りつつ、実際は両方を相手にビジネス。 民衆 戦争景気を期待。ごく一部では反戦主張も。 ネフィリム領域は、戦争景気に沸きかえっている。高まる戦乱の機運を受け、下火だった軍需産業を中心に あらゆる業種で様々な物の需要が急速に高まっているためだ。 特に、傭兵部門や兵器部門の需要の上昇はウナギ登りである。これは、セント・アゴラがナグルファルとの戦いに向けて急速に備えを固めているからなのは勿論、ネフィリム社がセント・アゴラに隠れて密かにナグルファルとも取り引きしているからである。ネフィリム社にとってセント・アゴラは最大の顧客ではあるが、彼等は決してそこへの義理立てに縛られはしないのだ…。 セント・アゴラにもナグルファルにも迎合することなく、むしろ、折角の好景気を少しでも長続きさせるために戦争の長期化を願う…。それが、ネフィリム社やその関連会社…即ち、権力者も民衆も含めたネフィリム領域の人々の大半のスタンスである。 そうした一方で、戦禍を背景に繁栄を築く社会の在り方に疑問を抱く人々も わずかながらに存在する。そうした人々は、ストリートでギターを手に「Love and Peace」を唄うのだ。 カオスフレアであるネフィリム人の立場や思惑は個人によって様々である。多数派を占めるのは、やはり傭兵や企業人として この戦争景気により多くの富を築きあげようという者達であるが、反戦派も含め、それ以外の立場を取る者達もいる。 ネフィリム人の思惑へ 目次へ ◇暁帝国領域のスタンス: ▼新暁王朝 カオスフレア 個人による。様々な主張が存在。 権力者 セント・アゴラに味方し、恩を売りつつ、セント・アゴラを支配しようと策謀。 民衆 多くの人々にとって対岸の火事 新暁王朝は、セント・アゴラに味方して、彼の国の窮地を救うことで、彼の国に恩を売ろうとしている。 王朝内には、親セント・アゴラ派、親ナグルファル派、中立派、さらには、これを機に西域を攻め領域を統一すべきという者まで、様々な意見が存在した。その中で、新暁皇帝劉江は、セント・アゴラに味方して恩を売るという先の意見を採択した。これは、彼がセシリアに妃の命を助けてもらったという個人的な恩義もあるが、それ以上に、これを機にセント・アゴラへの発言力を高めようという打算によるものである。 もともと新暁王朝は、九界士に皇后を推挙したり、蒼天城内に皇后配下の女官を配したりと、セント・アゴラに接近し、その発言をコントロールしようという動きが強い。また、強大な軍事力を背景にセント・アゴラの後ろ盾と成ることで、さらに影響力を強めてきた。こうした動きに対し、セシリアもまた警戒心をもっているのだが、新暁王朝の力なくしてはセント・アゴラが成り立たないため、彼女も大人しく従ってきたのだ。 世界を襲う未曾有の脅威に苦しむセント・アゴラは新暁王朝の申し出を受け入れ、現在は新暁の軍が続々と蒼天城に集まりつつある…。 そうした情勢に、新暁の民衆たちは対岸の火事だ。彼等にとってセント・アゴラの戦いはあまりに縁遠いものなのである。一方で、カオスフレアの中には様々な意見の者が存在する。皇帝の方針に従う者、親ナグルファルや中立を唱える者、領域統一を主張する者、果ては中央の戦力が手薄になったことを受け謀反を企む者…。新暁の多様は一筋縄ではいかない……。 ▼周辺民族 カオスフレア 個人による。基本的には周辺の情勢に目が行く。 権力者 胡然は、新暁の隙をうかがう。 ニルヴァーナは、セシリアに協力。 サンサーラは、光側・闇側・夕闇側・ナグルファル全てに敵対。 名もなき狂神は、ザイード教と呼応し樹木の世界滅亡を狙う。 民衆 それぞれの族長・主神に従う 新暁の周辺民族は、それぞれに方針が異なり、非常に混沌とした状況と成っている。 胡然は、新暁帝国の隙を伺っている。新暁皇帝劉江はセント・アゴラへの派兵に際し、自身の禁軍の一部すら含めた、中原の中部・北東部の軍勢を派遣した。そして、ナグルファルのワープ戦術による奇襲に備えるため、中原西部・南部の兵を首都付近に呼び寄せ、護りを固めさせた。これにより、新暁の西域と境を接する区域が手薄となったのである。胡然の各部族では、これを機に新暁に専守防衛の戦を仕掛けるべきとの意見と、それでもなお強力な暁の戦力に無理は控えるべきとの意見が交錯している。特に、若き世代の族長や戦士たちには主戦派が多く、西域はいま剣呑な空気に包まれている。 天竺に存在する二国のうち、ニルヴァーナ率いるルーパ族は親セシリアの姿勢を取り、同じ天竺のサンサーラ、および、南蛮の名もなき狂気の神との戦いを始めようとしている。ニルヴァーナは中立神とはいえ、『聖』を本性とするコラプサーであり、サンサーラとの微妙な距離感からも当然の動きと言える。一方で、サンサーラ率いるヴィシャ族は、セシリア率いる光側勢力、伯爵率いる闇側勢力、名もなき狂気の神などの夕闇側勢力、そしてナグルファルの全てを敵として見做し、手始めにニルヴァーナおよび名もなき狂神との交戦準備に入っている。彼等は戦いを好む荒ぶる修羅であり、これも戦いを求めた結果の当然の動きといえる。 もっとも危険なものは、南蛮の名もなき狂気の神率いる蛮族である。彼等の正体は、旧造物主(デミウルゴス)の生み出した魂無き原初の宇宙怪獣と その眷属たちだ。彼等の上層部には、宇宙怪獣のダスクフレアが多数存在し、その総戦力はセント・アゴラさえ恐れるほどの大きさを持つ。彼等の恒久的な目的は樹木の世界の滅亡にあり、セント・アゴラは勿論、伯爵の勢力も、暁帝国領域の他の民族も、ナグルファルも、市井の人々も、全て殺戮の対象と見なしている。また、旧造物主(デミウルゴス)の息の掛かっていない、新世代のダスクフレア達も、彼等にとってみれば『神の名をかたる不届き者』であり、討伐の対象となる。現在の所、南蛮の標的は北の新暁とその先にあるセント・アゴラにある。彼等は、同じ夕闇側の勢力であるパンデモニウム領域のザイード教や、9体の第一世代ダスクフレアと組んで、樹木の世界滅亡のための戦いの準備を着々と進めている…。 こうした周辺民族のカオスフレアの姿勢は、個人によって多様である。地理的関係から、セント・アゴラとナグルファルの戦いよりも、周辺の他部族・多民族との戦いに目を向ける者が多数派ではあるが、それ以外の者達もいる。なお、南蛮のカオスフレア達は、蛮族の中では例外的に、旧造物主(デミウルゴス)やダスクフレアなどに対して敵対的な者達である。 暁帝国人の思惑へ 目次へ ◇パンデモニウム領域のスタンス: ▼外市街(ストリート) カオスフレア 個人による。多くは己の信念や野望のもと、より活発に活動。 権力者 ヤクザは、セシリアに協力。あるいは勢力拡大に明け暮れる。 デーモンは、伯爵に従う。 民衆 それぞれのグループに従う。基本的にお祭り騒ぎ。 外市街(ストリート)のスタンスは、ヤクザ達とデーモン達とで大きく分かれる。ヤクザ達は親セシリア派の者達と、どこにも与せず徒に勢力拡大に明け暮れる者達とに さらに分かれる。デーモン達は そもそもが伯爵の配下だ。 親セシリア派のヤクザ達は、日頃からセシリアに色々な恩義を受けている者達であり、その『義理』を通すためにセシリアへの協力姿勢を顕わにしている。このため、ナグルファルに対しても敵対的姿勢を顕わにしているが、遠征をするほどの戦力的余裕がないため、今のところ実際にナグルファルとの対決はしていない。彼等の刃の先は、専ら伯爵配下のデーモン達とザイード教に向けられている。 それ以外のヤクザ達は、ひたすら勢力拡大に明け暮れている。元々無法者である彼等にとって、正規軍たるセント・アゴラも反乱軍たるナグルファルも関係なく、世界に広がる混乱はただ “仕事がやり易くなる” チャンスに過ぎないのだ。 一方、デーモン達は、中央での対セント・アゴラの戦いに向かう者達と、領域内に残って親セシリア派のヤクザやザイード教と戦う者達とに分かれる。ナグルファルを恨み敵意を持っている点など、基本的な思惑はコラプサー領域の闇側の者達と同じだ。 ヤクザ達やデーモン達のこうした姿勢は、ボス格や幹部格は勿論、末端の者達までほぼ共通している。多くの生粋な “住人(ピープル)” にとって、争乱とは欲望のままに暴れられる “お祭り” なのである。これに対し、カオスフレア達の姿勢は様々だ。混乱が際限なく拡大する外市街(ストリート)に『仁』と『義』でスジを通し周囲の人々を護るために戦う者もいれば、単純に勢力拡大の野心に燃える者もいる。いずれにせよ、それぞれが己の信念や野望によって立ち、これまで以上に活発に動いている点では共通している。 ▼アーコロジー内 カオスフレア 個人による。多くはザイード教に反発的。 権力者 名もなき狂神と呼応し、樹木の世界滅亡を狙う。 民衆 ザイード教に操られ樹木の世界滅亡の尖兵となる。 アーコロジー内は、ザイード教の主導の下、セント・アゴラもナグルファルも伯爵の勢力も全て敵と見なし、樹木の世界を滅ぼすための戦いの準備を進めている。 ザイード教は旧造物主(デミウルゴス)崇拝の邪教である。教団の上層部にはダスクフレアが多数存在し、その総戦力はセント・アゴラさえ常に警戒を置いていたほどのものがある。その教義は、「人の手によって作り出されたこの世界は過ちの世界であり、真なる神の使者たるダスクフレアの手で滅ぼして再創世(リジェネシス)すべきである」というものであり、創世以来ずっとセシリアとセント・アゴラ、そして樹木の世界の滅亡を目論んできていた。また、その教義の関係から、伯爵もナグルファルも新世代ダスクフレアも無辜の民衆も、彼等にとっては等しく滅ぼすべき対象である。 彼等は現在、同じ旧造物主(デミウルゴス)の使徒である暁帝国領域の南蛮や9体の第一世代ダスクフレア達と組んで、世界滅亡のための勢力を拡大させている。目下の所の矛先は、同じ領域内で激しい抵抗を繰り返している親セシリア派のヤクザと伯爵配下のデーモンに向けられているが、当然そのさらに先にはセント・アゴラがある。 パンデモニウムの人々の思惑へ 目次へ ◇ダスクフレアのスタンス: ▼9人の第一世代ダスクフレア ダスクフレア セント・アゴラとナグルファルの共倒れを待ちつつ、双方に敵対。ザイード教や名もなき狂神と呼応し、樹木の世界滅亡を狙う。 権力者 そもそも存在せず 民衆 そもそも存在せず 9体の第一世代ダスクフレア達は同盟を組み、セント・アゴラとナグルファルの共倒れを待ちながらも その両方を狙う姿勢を示している。 彼等は、旧造物主(デミウルゴス)の声を聞いてダスクフレアと成った “正規の” ダスクフレアである。彼等の間に仲間意識のようなものは皆無だが、旧造物主(デミウルゴス)の意志を受けているという点から、旧造物主(デミウルゴス)の手から離れて創られた樹木の世界に対し、共通の嫌悪感のようなものを抱いているようだ。それは、自らが旧造物主(デミウルゴス)に与えられた破壊と創造の神権を侵されているような耐え難い苛立ちであるという。同様の動機から、彼等は、昨今樹木の世界で誕生している旧造物主(デミウルゴス)の意志に由来しない新世代ダスクフレア達のことも許し難く思っているようである。 こうした共通の動機と、セント・アゴラがナグルファルとの戦いのために身動きを取れなくなったという世界情勢が、彼等に同盟を決意させた。本来ダスクフレアは、ひとりひとりが自分だけの理想の新世界の創造を目指しているため、あまり手を組むことがない。この同盟もまた、セント・アゴラやナグルファルや伯爵の勢力といった、対抗勢力を壊滅させるまでの一時的な同盟に過ぎない。 9体で同盟を組んだ彼等は、さらに暁帝国領域の南蛮や、パンデモニウム領域のザイード教といった、旧造物主(デミウルゴス)を背景にもつ戦力とも手を結んだ。 これは、樹木の世界創世以来の未曾有の危機である。9体のダスクフレアと、南蛮、ザイード教が一体となった戦力は、セント・アゴラもナグルファルも遥かに凌駕する。そもそも、セント・アゴラや他のカオスフレア達がこれまで樹木の世界を護ってこられたのも、こうした夕闇側の勢力が手を結ぶことが決して無かったからだ…。 彼等は現在、相互に連絡を取り合いながら、樹木の世界滅亡の戦いの準備を着々と進めている…。彼等が動くとき…、それは樹木の世界の滅亡の時である……。 ▼樹木の世界で生まれた新世代ダスクフレア ダスクフレア ナグルファルに呼応。あるいは、セント・アゴラとナグルファルの共倒れ待ち。 権力者 そもそも存在せず 民衆 そもそも存在せず 旧造物主(デミウルゴス)の意志を受けることなく自らの願いの力によって誕生した新世代のダスクフレア達は、第一世代ダスクフレア達とは異なった姿勢を取っている。彼等は、「現行世界の破壊」という共通目的に惹かれてナグルファルに参加するか、もしくは、ナグルファルとも他のダスクフレアとも距離を取りながらセント・アゴラとナグルファルの共倒れを待ち独自路線での再創世(リジェネシス)を目論んでいる。 彼等の多くは、ダスクフレアとしてはそれほど強力でない者達であるが、中には第一世代ダスクフレア達さえ凌駕する超強力な力を持ったダスクフレアも居ると噂される。 ただ、彼等は旧造物主(デミウルゴス)の意志を汲まないダスクフレアであるだけに、9体の第一世代ダスクフレアや南蛮、ザイード教といった者達からは目の敵にされているようである。 そんな彼等のナグルファルへの参加は、旧造物主(デミウルゴス)の意志を受けた夕闇達の敵意をもナグルファルに持ち込んでいるという…。 いずれにせよ、彼等の動向もまた、樹木の世界を破滅に導きかねない脅威であることは間違いない……。 第一世代ダスクフレアの思惑へ 目次へ
https://w.atwiki.jp/h_session/pages/3165.html
絶対隷奴人間界侵略レギュレーション 惨然世界 【GGM】'emeth 【開催】都合次第、突発可 【制限人数】1セッション最大 2〜4人 【参加事項】新規参加・PC製作推奨/キャラ持ち込みもOK 【苦手エロ】侵略意図による 【得意エロ】侵略意図による 魔族よ! 世界を侵略せよ! ついに魔族による人間界侵略の時代が幕を開けた。あるものは莫大なソウルを、あるものはロマンスを、あるものは己が教団を、あるものはそこに新魔界を求めて侵略を開始したのだ。 大魔将以上のものとなれば、自らの力で異界へのゲートをこじ開け、望む世界へと踊り込むものもいた。 また、それ以下のものも、人間界で成り上がらんと巨大な魔都のゲートを利用した。 そう、今や人間界は天界と魔界の代理戦争、そして植民地支配の最前線となったのだ! 侵略せよ! 蹂躙せよ! ……そして無力な人間たちの魂を刈り取るがいい! 汝の欲望で世界を塗り替えろ! メイキング PCは魔人〜大魔将の範囲で自由に作成してかまいません。大魔将の場合は自力でゲートを形成し世界移動が可能となります。それ以下の場合には魔都施設のゲートを利用することになります。この場合、時として復路の保証がないことがあり得ます。また、大魔将以上の存在の奴隷あるいは協力者として世界移動をするという手段も存在します。 旅の理由もキャラシーに書いていただけるとセッションの助けになります。できれば参加PLの性描写についての好みのすり合わせは事前にしておいてください。 新規・および成長させてのランク調整については『絶対隷奴』P88の『NPC』ルールを参照してまとめています。これにあわせて調整してください。ただしNPCルールに記載されている★ルールは適用されません。作成されたばかりのキャラクターは奴隷がいない状態であることにご注意下さい。 アンコモン呪文・アイテムなどは、基本的にルールブック/サプリメント掲載のものから選択願います。 魔人 初期キャラクターと同様 上級魔人 能力値+4/アンコモン+1/魔族特性+1 魔将 能力値+8 コモン+2/アンコモン+2/魔族特性+1/魔王特性+1 大魔将 能力値+12/コモン+2/アンコモン+2/魔族特性+2/魔王特性+1 魔王 これについては考えないでください(笑) 大魔将構成要件に魔将奴隷があるが、これはメイキング時のみ例外とする。 注意点 様々な隷奴世界の魔族たちを統合してのキャンペーンとなります。そのため、参加PCの性的な嗜好、これはいいダメなどにばらつきが出る恐れがあります。上でも述べていますが必ず事前に参加者、GMとで確認、調整をお願いします。 プリプレイ セッション開始前に侵略者はどのような世界に侵略するのか、またそこでどのような事を行うつもりであるのかをマスターに宣言します。複数PCでのセッションの場合、侵略する世界は同一でなければいけませんが、侵略意図はそれぞれ別であっても構いません。マスターは侵略される世界の難易度、そして侵略意図の難易度をプレイ開始前にPLに告げなければいけません。納得がいかなかった場合にはプレイ開始前に十分に話し合いしっかりと合意をとってからでないとプレイを始めてはいけません。 世界浸食値 PCが世界を浸食すると、その難易度に応じて世界浸食値が与えられます(後述)。 PC登録 PC名・PL名・階級 ユリウス(PL:カナン) 魔王 エリス(絶対隷奴)(PL:カナン) 上級魔人 闇聖女 ジャンヌ・ダルク(PL:カナン) 大魔将 ルーミィ・スラッグ(PL 雪) 魔王 “咎罪の聖女”サシャ=アビストル(PL 雪) 大魔将 “歪曲叶願”スカディ(PL 雪) 魔王 “不幸喰らいの黒蜘蛛”ルル=スカディウィドウ(PL 雪) 魔界王 “水医淫の看護婦”ポワン=ローワ(PL 雪) 魔王 “慈愛の銀天使”ラヴィナ(PL 雪) 魔王 “狂闘黒蛇”九俣弥子(PL 雪) 魔王 “混沌の侵略者”ミネス=ワイザー(PL 雪) 大魔将 “電脳怖戯”ピルコス=オーネ(PL 雪)大魔将 “石封の忍び”東雲紗月(PL 雪)大魔将 “ピュアシスター”東雲ひかり(PL 雪)魔将 “ラジカル☆プリンセス”ミルフィーユ=ユーディッセン(PL 雪)魔将 白雪氷那(PL 雪)魔将 “白魅怪盗”ラビリィ(PL 雪)魔将 “八花歌姫”八津女百合音(PL 雪)大魔将 “淫夢三蛇”リプリ=シュランゲ(PL 雪)魔将 “絵操りの死機狐”プルトゥナ=トヴァリッチ(PL 雪)魔将 高町さくら(PL 雪)魔将 “スカージドール”ミラルティアカ=プネヴマ(PL:雪)魔将 “侵蝕大樹”ルーサ=ザフラビゼル(PL 雪) “娼羊の姫君”ペコラ=コリプカ(PL 雪)魔将 “変貌する鏡”ミスラ=ライムー(PL 雪)大魔将 “黄金の死霊女王”ミィーマ=クリクスッタラルブ(PL 雪)魔王 “河童姫巫女”水面 河夜(PL 雪)魔将 “黒革の胸婦”ラズライト=アストゥール(PL 雪)魔将 “魂の捕食者”スイ(PL 雪)魔将 “メディカルナース”マリーニャ(PL 雪)魔将 “嘲笑の騎士”ジル(PL:聖マルク)魔王 レヴィ・ヤート(PL:聖マルク)大魔将 “狼王”ロムルス(PL:聖マルク)大魔将 ウェナ・ユーリス(PL:聖マルク)魔人 エルティア・ジストル(PL:聖マルク)魔人 黒鴉(PL:聖マルク)魔人 Valentina(PL:雅巳)大魔将 カルシオーネ〈PL 雅巳〉大魔将 ラルフ(PL:KISARAGI)魔人 ティアナ・メイプル(PL:A9A)大魔将 “放剣胎姫”水華 (PL:渾沌)大魔将 “舞踏酔女”ウヅメ (PL:渾沌)大魔将 “骸躯娘形”イサラ (PL:渾沌)大魔将 インフ(PL 柏陽煉斗)大魔将 “操葬童子”エスナ(PL 柏陽煉斗)魔将 “剣の騎士”アリオク(PL 神谷涼)大魔将 “魔界監査役”ヘルデガルド(PL 神谷涼)大魔将 “死を振り撒く者の女王”リッツェ=ガーランディン(PL つかねこ)大魔将 ”魔の災厄”ヒドゥン=カラミティ(PL 和葉)大魔将 トゥルエノ・ブラッドレイン(PL 水無月 桜)大魔将 “夢幻光彩”ジュエル(PL きゅうび)大魔将 歌音・美紅(PL no.marcy)超☆アイドル(大魔将相当) “天骸” 巴 (PL バード)大魔将 “百禍”ラクリマ(PL バード)大魔将 マリス(惨然世界)(PL 孤狐)大魔将 『語り部』シンディPL:カワシマン大魔将 ジェーン=スミスPL:みす太魔人 フローレンシアPL:阿修羅猫大魔将 華楼羅 (PL:シン)/大魔将 レムレース=リギエーンダ (PL:シン)/大魔将 ミィヤ=ツィート (PL:シン)/魔将 レティル・リーア (PL:レミリア) /大魔将 レフィラ (PL レミリア)/大魔将 珠巳 (PL:right) /大魔将 ごうじゅん君 (PL:'emeth) /大魔将 “赤眼黒竜”バルバラント (PL:りざーどめん)/大魔将 伝説殺し ベゼルド(PL 兎王)/大魔将 災いの姫 ネファディ(PL なり)/魔人 虎伯(PL にゃんシロ)/大魔将 カリーナ・ディ・リッツァ(PL てぃあ)/魔将 セツナ・エーデルリッヒ(PL てぃあ)/大魔将 アベル(PL 悪夢の王)/大魔将 藤野 重(PL beemoon)/魔将 ノイエ(PL 悪魔憑き)/魔将 ノース・D・クラン(PL でんねこ)/魔将 “淫虎”朱猥(ズウェイ)(PL AFox)/魔将 “瞳の迷獄”ラピスラズリ=アストゥール(PL じゅね)/魔将 侵略世界一覧 登録世界一覧 【世界浸食値】計算表 被侵略世界難易度 : 侵略意図難易度 : 最大障害の階級 : 世界浸食度 : ー侵略者の階級 : 合計(切り上げ) : 被侵略世界難易度 0:常時侵略され植民地であることに慣れきった世界 1:侵略されやすい世界/平和な世界 2:侵略者をかろうじて撃退している世界 3:侵略者をたやすく撃退している世界 冒険者などがごろごろしている :+1 勇者など防衛システムが完備されている :+1〜5(勇者の★による) 魔族クラスの人間がごろごろしている :+3〜7(人間の★+2) テクノロジー兵器などが存在している :+1 超ハイテク兵器や高位魔法がありふれている:+2〜4 常時創造者によって保護されている :+5〜10(創造者の★による) 天界からの駐屯軍が存在する :+1〜10(駐屯軍の規模による) 魔族の存在がある程度知られている :+1〜3(どの程度一般的かによる) 侵略意図難易度 0:その気になればただの人間でもできること 1:魔人にできること/上級魔人にたやすいこと 2:上級魔人にできること/魔将にたやすいこと (略 世界浸食度 0:何かされたことに世界は気付いていない。 1:世界に変革をもたらしたが、世界のあり方は変わらない。 2:世界のあり方がそれまでとは少し違うようになった。 3:世界のあり方が著しく異なるようになった。 4:世界のあり方が侵略者の意図に近くなった 5:世界のあり方が侵略者の意図通りにねじ曲げられた 6:世界そのものが侵略者の自我の一部になってしまった 7:汝、盲目白痴たる神ならん。 世界浸食値は基本的にその世界の侵略を終了するときにもらうことになる。しかし、一つの世界を長い期間かけてゆっくりと侵略することもある。そのような場合、1回のセッション終了時に以下の方法で途中経過の浸食値をもらうことが出来る。 当初の目的を進める上で特に進展がなかった :0 当初の目的に向けて多少なりとも進展があった:1 当初の目的に向けて大きな進展があった :2 世界浸食値使用法 セッション中、あるいはセッション外の任意のタイミングで1ソウルを支払ってソウルイーター少女(イザ・ナミ)を呼ぶことで、以下の効果を発揮することが出来る。(現在の数値は仮のものです。今後柔軟に変化することがあるのでお気をつけ下さい) 人間/モンスター奴隷の魔族化(★はかわらない)(2浸食値) 奴隷の★増加 ☆→★(1) ★→★★(2) ★★→★★★(4) ★★★→★★★★(8) ★★★★→★★★★★(16) 人間奴隷に特殊能力を与える ちょっとした魔法/ふたなり/固有結界(2) 変身ヒーロー/[[魔法少女]](4) デビルマン(魔族と融合しつつ人間)(6) 真の光の勇者/真の闇の勇者(8) 絢爛舞踏/現人神(10) 奴隷の★減少(当該奴隷の合意が必要)(2) [[異能界]]以外出身のものがハートの使用方法を学ぶ(3) [[異能界]]出身のものがソウルの使用方法を学ぶ(2) [[異能界]]アイテム/呪文のランダム購入(5) [[異能界]]アイテム/呪文の購入(8) アンコモンアイテム/呪文のランダム購入(8) アンコモンアイテム・呪文の購入(12) レアアイテム/呪文のランダム購入(10) レアアイテム/呪文の購入(15) ■支配下の人間界の改造■ 対侵略者迎撃要塞化(10、[[その他]]に最低で1万ソウル) 対天使迎撃要塞化(15、[[その他]]に最低で2万ソウル) 因果法則/物理法則の改変 ちょっとした変更 :2浸食値と100ソウル 大がかりな世界率の変更 :4浸食値と1000ソウル 物理法則すら変更 :6浸食値と10000ソウル 世界結界*の形成 :8浸食値と100000ソウル まさに私がデザインした魔界:16浸食値と1000000ソウル *世界結界:その世界を他の世界群と全く異にする特殊な法則(例 ファージアースでは「非科学的なこと」はあり得ない) 支配世界の売却 支配した世界をソウルイーター少女のイザ・ナミに売却することも可能です。その場合はその世界の残存人口の半分のソウルで買い取ってもらうことが可能です。 ただし、半額で買い取ってもらえるのは世界の支配権を完全に確立した場合のみです。一地域のみの支配や、魔都を建設した程度では買い取ってもらえません。支配地域のみの権限譲渡は可能ですが、その場合も、せいぜいが支配人口の1%程度以下の支払いしかもらえないことでしょう(それでも、1万人程度の都市を譲渡すれば最大100ソウルもの収入になるわけですが)。
https://w.atwiki.jp/asrivival/pages/182.html
~アイラッド村はずれの岬~ 無数の鎧人形の相手をする十也たち。 アポロン「きりがないな…」 スライ「倒しても次から次へと!」 にろく「数が減らない…」 ツァグレーヴェン『自身らの終焉…それを認めるがいい』 十也「もうだめなのか…」 いくら倒しても尽きることがない敵の戦力。その現実に打ちのめされ、戦意が下がる十也たち。 ツァグレーヴェン『朽ちるがいい!』 バシュン! ツァグレーヴェンの瞳からレーザーが放たれる。それは十也へと真っすぐと飛んでくる。 十也「うっ!」 反応が遅れる十也。眼前に迫るレーザー。 十也(まずい!!) バババ!! 無数の光の玉がレーザーへと放たれる。それによりレーザーは消滅する。 十也「今のは…」 「まだ終わっていない!」 ダッ! 十也の背後から現れる男。男は腕に装着したアーヴァヘイムの碗部ユニットの肘部分から粒子ブレードを展開する。 ザシュン! 数体の鎧人形をまとめて薙ぎ払う男。 十也「お前は…」 男を見て驚く十也。なぜこの男がここに…。 十也「ゲイン!」 ゲイン「天十也。おれを…俺たちを倒したお前たちがあきらめるのか?この程度で!」 ゲイン・ブレイズ。彼がその場に現れる。 十也「…でもこれだけの敵…」 ゲイン「お前たちは俺たちを打ち砕いた。その責任…果たして見せろ!」 十也「ゲイン…」 十也の顔つきが変わる。先ほどまでの気弱な様子はまるで見えない。 十也「そう…そうだよな。こんなところで終わるわけにはいかない!」 コードブレオナクを構える十也。 十也「うぉぉ!!」 ザシュン! 鎧人形を次々と倒していく十也。 スライ「俺たちも負けていられないな!」 トニー「行きましょうスライ!」 スライ「シャイニーマジック!ライト・ウィップ!」 バシン! 光の鞭で鎧人形たちを捕らえるスライ。 スライ「いまだ!トニー!」 トニー「はい!ライトニング・ボルト!」 ドゴォン! 捕らえた鎧人形に雷が降り注ぐ。黒焦げになり倒れる鎧人形たち。 ナル「僕たちもいくよメルト!」 メルト「はい!」 ナル・メルト「閃光弾(シャングァンダム)!!」 ボシュン! 光の玉が鎧人形たちに向かって放たれる。 ボゥ!! 鎧人形たちが炎に包まれ燃え上がり消滅していく。 鎧人形「…」 鎧人形が弱ったウルズ・昴へと襲い掛かる。 バシッ! キノ「『オート・プロテクト』」 鎧人形とウルズたちとの間に割って入ったキノにより防がれる攻撃。 キノ「やらせないよ」 バン!バン! 銃弾を放つキノ。それに怯み膝をつく鎧人形。 キノ「くっ!堅い!」 鎧人形は立ち上がろうとする。だが… 鎧人形「…」 ズッ! 鎧人形の体が何かに切断されたかのように崩れ落ちる。その下半身は姿が見えない。 ツバメ「秘密の箱庭『シークレット・ベース』」 ツバメは閉鎖空間を鎧人形の上半身までの部分を範囲とし展開したのだ。その結果鎧人形の下半身が切断された。 キノ「なにが…」 ツバメ「ちょっとした裏技よ」 閉鎖空間を解除するツバメ。 ツバメ「ウルズと昴はやらせないわ!」 キノ「うん」 にろく「結利!借りるぞ!」 きゅっぱ「あたしも一本もらうとするよ!」 結利からフリント・ブレードを受け取るにろくときゅっぱ。 結利「いくよ!」 ザシュン!ザシュン! 周囲の鎧人形にフリント・ブレードを振るう3人。 キン! フリント・ブレードの刃が外れる。 ボン! それと同時に爆発が起き鎧人形へとダメージを与える。 にろく「まだだ!」 きゅっぱ「いく!」 次々とフリント・ブレードの刃を外し鎧人形を倒していく2人。そしてフリント・ブレードの刃がすべて外れる。 きゅっぱ「じゃあ後は…」 にろく「任せるぞ結利!」 ブン! 刃がなくなったフリント・ブレードを結利へと投げるにろくときゅっぱ。 結利「リンク!」 ガキン! 投げられたフリント・ブレードと結利のもつフリント・ブレードが連結する。さらに外れた刃がすべて元通りに繋がっている。 結利「フリント・スラッシャー!」 ブン! 3本のつながったフリント・ブレードをブーメランのように投げる結利。 シュルルル!! 回転しながら鎧人形たちへと飛んでいくフリント・スラッシャー。 ボン! 鎧人形に当たるたびに刃が外れ爆発しながら、次々と鎧人形たちを倒していく。 シュルルル! 柄だけになったフリントブレードが結利のもとに戻ってくる。それを手に取る結利。 結利「リンク!」 結利の物質を繋げる能力により柄の本に刃が戻ってくる。すべての刃が再び柄へと繋がる。 カシャ! 鞘へとフリントブレードを納める結利。 結利「よし!」 モニカ「『ロック解除』。EXモード」 パキン! ラピッド・コニリアの全身の装甲が黒く染まる。 モニカ「いくわよ!」 シュン! 瞬時に鎧人形の懐へと潜り込むモニカ。 モニカ「たぁ!」 ダン! 高速の拳が鎧人形の懐へと打ち込まれる。態勢を崩す鎧人形。 シュン! 瞬時に移動し次々と鎧人形たちに攻撃を加え態勢を崩していくモニカ。 モニカ「いきます!」 バゴン! ラピッド・コニリアの全身の装甲が展開する。 ダダダダ! 鎧人形たちを目にもとまらぬ速さで攻撃していくモニカ。気づくと鎧人形たちは一点に集められていた。 モニカ「スパーダ3!」 リヴァーレ「了解。スパーダ3『ロック解除』。EXモード」 ガキン! リヴァーレが纏う駆動鎧が変形し巨大な銃へと姿を変える。 リヴァーレ「バスターキャノン。シュート!」 ドゴォン! 巨大な銃から放たれた無数の弾丸が一点に集められた鎧人形たちを貫く。 モニカ「まだ敵は掃討してないわ。次!いくわよ!」 アポロン「風よ!」 ヒュォォ! 風が吹きすさび、鎧人形たちを一か所にまとめていく。 ディック「いくぞリョウガ!」 リョウガ「あぁ!」 一か所にまとまった鎧人形を挟むように立つディックとリョウガ。 ディック「くらえ!」 ディックとリョウガは対となった位置から互いに鎧人形に攻撃を仕掛ける。 ガガガガ!! アポロンの能力により捕らえられた鎧人形たちは身動きを取ることができない。 リョウガ「ディック!決めるか!」 ディック「あぁ!」 ダン! 地面を蹴り飛び上がる2人。そのまま鎧人形たちの中心へと拳と双剣を構え落ちていく。 ディック「はぁぁ!」 リョウガ「うぉぉ!」 ドゴォン! 鎧人形たちが吹き飛ばされ消滅していく。 ディック「よし」 アポロン「まだ気は抜けんぞディック」 リョウガ「アポロンの言う通りだ。いくぞ!」 ヴァイス「スプレッドモード!」 バシュン! シュルゲン・イェーガーから放たれた銃弾が鎧人形たちを貫く。だが続く鎧人形たちが襲い掛かる。 レイジ「俺が相手だ」 鎧人形たちの前に立ちはだかるレイジ。 レイジ「『ウォルフス・アーケ』!」 鎧人形たちの動きを見透かしたかのように躱すレイジ。 レイジ「ふん!」 ザシュン! 次々と手に持ったナイフでカウンターを決めていくレイジ。だがナイフによる攻撃では鎧人形にはダメージが薄い。 アルバド「R1!下がれ!」 レイジ「了解」 アルバドの背後へと下がるレイジ。 アルバド「これで!ユニバーサルウェポンGB(ガンバスター)モード!」 巨大な大砲のような銃が変形し、その銃身が二倍ほどになる。 アルバド「ガンバスター!チャージ!」 ジジジジ! 銃身の間に電撃が走る。 アルバド「ファイア!」 ドゴォン! 電磁レールから高速で発射される銃弾。それは強烈な勢いで鎧人形たちを吹き飛ばしていく。 ドドドド!! そのまま銃弾はツァグレーヴェンへと飛んでいく。 ドゴン! ツァグレーヴェンの腕を貫通する銃弾。 ツァグレーヴェン『なぜだ…なぜ滅びを受け入れない』 十也「お前なんかに地球を…この星を好きにされてたまるかよ!」 ツァグレーヴェン『やはり進化しえぬ生命…その考えは理解できぬ』 ???『あなたが人間の…考えを理解する必要はありませんよ』 ゲイン「なんだ…?」 誰かの声がツァグレーヴェンの中から聞こえる。 ???『もう考える必要はないのですから』 ツァグレーヴェン『なん…だ』 ツァグレーヴェンの様子がおかしい。 ツァグレーヴェン『魂の輪廻は…終わらせた…はず』 ???『私の力を甘く見ていたようですね。黒の魔導書を取り込んだ時点であなたの負けです』 ツァグレーヴェン『意識が…』 ???『さぁ!その体を明け渡しなさい!』 ツァグレーヴェン『…』 沈黙するツァグレーヴェン。 十也「何が起きているんだ…」 ツァグレーヴェン『くくく…』 突如笑い出すツァグレーヴェン。 ゲイン「様子が…おかしい」 ツァグレーヴェン『素晴らしい!この体!これがレーヴェンズの力!』 自分の体を確認するように見回すツァグレーヴェン。 十也「どうしたんだこいつ…?」 ツァグレーヴェン『ふふふ。取り乱してしまいましたね。だがもう理解しました。この存在を!おや?』 ゲインに目をやるツァグレーヴェン。 ツァグレーヴェン『アサルト・シャドーがなぜ彼らと一緒になっているのですか?まさか仲間を裏切ったのですか』 ゲイン「俺のことを言っているのか…?お前は一体…」 ツァグレーヴェン『この姿ではわかりませんか。私はダーナ・カルマ』 にろく「ダーナだと!?」 ナルたちの目の前でティスシスに殺されたはずのダーナ。なぜツァグレーヴェンがダーナを名乗るのだろうか。 ナル「ダーナはあの時死んだはず…もしや!」 ツァグレーヴェン『察しがいいですね。そう私はあの時自身の魂を黒の魔導書へと移動させたのです。そして今レーヴェンズが黒の魔導書の力を利用したおかげで、こうして新たな肉体…人知を超える生命体の体を手に入れることができたのです!』 ツバメ「ダーナがツァグレーヴェンを乗っ取ったっていうの…」 ウルズ「なんていう野郎だ」 ナル「これほどまでの力を持つとは…これが原初の魔導士の力なのか」 ツァグレーヴェン・ダーナ『このレーヴェンズの力で!あなたたちを完膚なきまでに消滅させてあげましょう!』 to be continued
https://w.atwiki.jp/saoac/pages/272.html
修正:スキル名 アブゾーブ・ソルグレイス→アブゾーブ・ソルスグレイス - 名無しさん (2022-03-22 13 46 41) |アブゾーブ・ソルグレイス|4|《夜空の剣》の武装完全支配術。右手の剣から、全ての光を吸収して育つ、強力な波動を前方へ放つ闇属性攻撃|60s|Lv.1/覚醒Lv.4| - 氷葉 (2022-03-21 23 03 39) |ブルーム・リストレイント|5|《青薔薇の剣》の記憶解放術。自身の周囲の敵を、水属性の大規模な氷塊で攻撃する。敵を氷咲状態にすることがある。|90s|Lv.1/覚醒Lv.5| - 氷葉 (2022-03-21 23 07 36) |Mobキラー|1|小物狩りの極意。保有者がMobに与えるダメージが増加する。※効果量は保有者のINTに依存||Lv.1/覚醒Lv.2| - 氷葉 (2022-03-21 22 58 33) |ボスキラー|1|大物狩りの極意。保有者がボスに与えるダメージが上昇する。※効果量は保有者のINTに依存||Lv.1/覚醒Lv.3| - 氷葉 (2022-03-21 23 00 02) 修正:ボスキラー スキルレベル 1→5 - 名無しさん (2022-03-22 13 45 57) テスト - 名無しさん (2021-03-15 00 05 21)