約 1,036 件
https://w.atwiki.jp/eirei/pages/586.html
サンペット8世(スリエーンタラーティボーディー)アユタヤ朝タイ????~1709統率:C 武力:C 政治:C 知力:C 文化:C 魅力:C--------------------------------------------------------------------------------アユタヤ王朝第32代国王。気性が荒く『虎王』と呼ばれた。古式ムエタイと釣りを趣味とした。 サンペット9世(プーミンタラーチャー)アユタヤ朝タイ????~1733統率:C 武力:C 政治:B 知力:B 文化:C 魅力:C--------------------------------------------------------------------------------アユタヤ王朝第33代国王。釣りが好きで池端宮に好んで住み、『池端王』と呼ばれた。鎖国を行なっていたがイギリス東インド会社との通商を開いた。クメールの地域を保護と称して版図に組み込んだ。 タークシン(鄭昭)トンブリー朝タイ1734~1782統率:B 武力:C 政治:C 知力:C 文化:B 魅力:C--------------------------------------------------------------------------------トンブリー王朝の創始者。国王。潮州系中国人の子。ビルマとの戦いで、王の許可を待たず大砲を発射したことで謹慎となったため出奔する。後に、崩壊したアユタヤに王朝を建設し、ラオスやカンボジアを支配下に置いた。また、文献を編纂し、『ラーマキエン』を残し、仏教を保護し、“暁の寺”の修復を行なった。 ペートラーチャー(マハーブルット)アユタヤ朝タイ(バーンプルールワン)????~1703統率:A 武力:A 政治:C 知力:C 文化:C 魅力:C--------------------------------------------------------------------------------アユタヤ王朝第31代国王。ラーマティボーディー3世に仕え、軍事面で活躍した。前王の死後、国王に即位する。国策としては鎖国を推進した。 ボーロマラーチャー3世(スリヤートアマリン、エーカタット、ライ)アユタヤ朝タイ????~1767統率:C 武力:C 政治:C 知力:B 文化:B 魅力:C--------------------------------------------------------------------------------アユタヤ王朝第36代にして最後の国王。ボーロマラーチャーティラート3世の子で、ボーロマラーチャーティラート4世の兄。ビルマとの戦いで、王の許可を待たず大砲を発射したプラヤー・ターク(後のタクシン王)を謹慎処分にする。アユタヤが陥落するとバーンパインまで逃げるが捕らわれてしまう。 ボーロマラーチャーティラート3世(ボーロマコート)アユタヤ朝タイ????~1758統率:C 武力:C 政治:C 知力:C 文化:C 魅力:C--------------------------------------------------------------------------------アユタヤ王朝第34代国王。サンペット9世の息子で、副王を務めた。アパイ王子と王位を争い勝利する。上座部仏教の宗派サヤームニカーイを設立する。 ボーロマラーチャーティラート4世(ウトゥムポーン)アユタヤ朝タイ????~1758統率:C 武力:C 政治:B 知力:B 文化:C 魅力:C--------------------------------------------------------------------------------アユタヤ王朝第35代国王。ボーロマラーチャーティラート3世の第七子。国王に即位後、僅か2ヶ月で出家し、王位を兄に譲ったことから『求寺王』と呼ばれる。
https://w.atwiki.jp/amaya_st/pages/151.html
作者:えすぺらんさぁ タイトル:こちら白夜行! 第七話 まだ明けぬ時間。暗い部屋の中で、二人はただひとつ明るい画面を見つめていた。しばらく眺め、映像が途切れ、部屋に灯りが無くなった時、初めて、一人が口を開く。 「なるほど。では彼女は魔女ではないと」 「ええ」 どこからか溜息が毀れる。不意に電灯が点り、部屋の暗闇が纏めて消える。 「まだ魔女だった方がマシだったわ」 溜息の主、ソロモンが言葉を続ける。 「隠レ蓑の地点で違和感はあったんだけど、七つの魔弾は有り得ない」 「有り得ない、とは?」 「Frelkugel。確かに魔弾ってのはある」 「悪魔と契約して、七発の決して外れることのない弾丸を貰うってヤツですね」 「そう、でも実際それは創作のお話であって、実際に術としての再現なんて不可能って言われてる。あんなのは魔術じゃない」 口調を荒げ、不満をあらわにする。 「呪文だけで血液から不可避の弾丸を作り出すなんてそんな都合のいい式、それこそ魔女の存在を冒涜してるようなもんじゃないの」 「なるほど」 魔女とは、文字通りに魔術に特化した異形である。とは言えそれは、魔術・式のルール枠内におけるものであり、決してデタラメなモノではない。ソロモンの言う冒涜とは、その枠から外れたまさにデタラメな魔術――もはや、この表現があたうかどうかも怪しいらしいが――に、そしてそれを扱った明本人に対する苦言であった。 「しかし、あなたでも彼女の正体は掴みかねますか」 しばし、部屋が静まる。そうしてしばらく後 「仕方ないですね」 ため息と微笑混じりに彼女、天城は答えた。 「蔵野明については、『保険』を放って保留。予定より早いですが、計画を実行に移しましょう」 休日となると、蕎麦屋『白杉』の朝は特別早い。饅頭などに使う餡、洋菓子用のクリームなどの仕込みが遅れては、休日の客入りでは致命傷となりえるからだ。店主、そしてバイトである明も例外なく、早くから甘物担当である奥さんの指示に従い、餡とクリームの香りの中、作業にいそしむ。もはや、ここが何の店だったかを問う者はいない。日本、いや世界広しと言えど、こんな光景の見られる蕎麦屋はこの白杉ただ一軒だろう。 「ふぁ……」 思わず大きく口を開き欠伸をすれば、むせ返るような甘い香りが口腔内に容赦なく流れ込む。 「あら、明ちゃん寝不足?」 「あは、ちょっとだけ」 「あんまり無理しないでいいのよ?」 明はたはは、と軽く笑ってごまかす。実際のところ、生活費を稼ぐのに必死で、睡眠時間はやや薄めになっている。昼はバイト、夜は退魔士。今までバイト以外のスケジュールは適当だった明にとって、キッチリと詰まった仕事は意外にも応える。 手元の仕込が完了したところで、またしても大きな欠伸が毀れる。 「おや」 入り口の向こうから、覗き込むようにする人影に気づき、慌ててその口を手で覆い欠伸を噛み殺す。眼が合う。とりあえず微笑んでごまかせば、相手も微笑み返し、がらりと引き戸を開いた。 入ってきたのは男。歳は二十代後半、背丈はそこそこ高く百八十前後だろうか、がっちりとした、ではなくどちらかと言うと線の細い体格だ。髪は金色、染めているらしい。革のコートに、ネックレス、ピアス。それぞれは結構な値のするものなのだろうし、見てくれが悪いわけでもないのだが、その男の格好は『どうだチャラいだろう』と言わんばかりの物にも見えた。 男に次いで、今度は小柄で黒髪の女性が入ってくる。そして、明や奥さんらの方へぺこり、と小さくお辞儀をする。女性の格好は、髪はセミロング、藍色のスーツ姿で、男とは対照的に、簡素すぎるくらいにすら見える。また、小柄のせいかスーツに着られている感がぬぐえない姿だ。 「すみません、まだ仕込み中です。開店は十時半からになっておりま……」 「あらぁ、門ちゃんじゃないの!」 営業スマイルで応対する明の言葉を遮るように、奥さんが歓喜の声を上げる。 「この人はねぇ、五年位前にここでバイトしてたのよ」 ああ、と明が少し納得する。と同時に何故か男が得意げな顔をする。 「久々にこっちに戻ってきたからね。ところで……」 男はちらりと、クリームの用意をしてる店主に目をやり、首をかしげる。 「ここは蕎麦屋じゃなかったっけ?」 「蕎麦屋よ?」 「蕎麦屋ですよね?」 何がおかしいんだろう、というような表情を向ける奥さんと明に対し、男は諦めたらしくまぁいいか、と少し笑った。店主の心がすこし傷を負ったが、それを感じ取れる者は、ここにはいなかった。 「そっか、いや懐かしいな」 男は少し店内を歩き、最後に、明の目の前で立ち止まった。 「そっか、君が今のバイト君、いや、バイトちゃん」 明はええまぁ、と苦笑いしながら返す。こういうのはやりづらい。自分は相手のことを知らないのに、相手にとってはホームグラウンドにいるようなものなのだ。 男はしばらく明を眺めやがて何かをたくらんだらしい表情で、ふぅん、と呟いた。 「ねぇ、ちょっとバイトちゃん借りていいかい?」 「へ?」「はぁ?」 明と奥さんが、同時に気の抜けた声を上げる。 「いや変なことじゃないよ? 話し相手にさ。代わりに今日一日、秘書置いていくからさ」 「若……」 今まで一言も喋らなかった小柄な女性が、苦言を呈すように溜息混じりに言葉をこぼす。 「秘書・若、というと、へぇ社長……門ちゃん、偉くなったねぇ。ボロアパートで食うや食わずやだって言ってた子が」 「やぁまだまだ」 愛想笑いで済ませる男を尻目に、奥さんは明の肩を叩いた。 「息抜きしておいで。ちっとは疲れも取れるだろうからさ」 そして少し声をひそめ、 「それに、これはチャンスだよ? 社長だってよ社長」 耳打ちした。 「はぁ……? よく分からないけど、分かりました」 「よし、交渉成立!」 ポンと背を叩かれる。状況は飲み込めなかったが、とりあえず話し相手になればいいらしいことだけ、明には理解できた。 ただふたつ、奥さんになにやら頑張って、と応援されたこと、そして秘書らしい小柄な女性に何故か睨まれたことが、少し気にかかった。だがおそらく、明がそれの意味を察することはない。 男はしばらく、入り口で手を振り見送る奥さんに、手を振り替えしながら歩いた。そして店が見えなくなった頃、その視線を、初めて明に移した。 「さて、バイトちゃん」 「あの、バイトちゃんはちょっと……」 「あれ、嫌? それじゃ……やっぱ明ちゃんかな」 「じゃ、それで」 あははと笑って済ませ数歩後、明はふと歩みを止める。 「あれ?」 そういえば、名前教えてたっけ? 思わず振り返り、男を見る。 「蔵野明、平成十五年に解体された蔵野の家系の生き残りとされている。現在天夜市内外れの三階建廃ビルに居住ね」 「え」 「なになに、月に二~三回公園を利用し身体を洗っているらしい、動物性たんぱく質の確保源は盗み食いにやってきた鼠や犬などの動物、ん、スリーサイズ上から……」 「ストップストップストップ! それ以上はいけない、というより何その紙!」 にやけた表情で、手にした紙―おそらくはカンペのようなものだろう―に目を通す男。それを奪い取ろうとする明をからかう様に、高く上げる。 「まぁこのとおり、お兄さん怪しくないから安心してお茶でも」 「怪しい、てっぺんからつま先まで怪しさしか詰まってない感じがする」 男がにじり寄り、明が離れる。 「そう言わずに。ケーキでも奢るから」 その言葉に、明がピクリと反応する 「……いや、ケーキくらいで釣られると思うのはさすがに失礼じゃない?」 「んじゃ、何なら釣れる?」 「え」 明は、その質問にしばらく言葉をにごらせた後、やや控えめに呟いた。 「う……牛」 結果、行き先は焼肉屋となった。 統括組織。内装は白を基調に整えられ、今は柔らかな朝日が廊下を照らす。そんな中で、葵はぐったりとした背を伸ばし、大きく欠伸ひとつついた。 「あー……さすがにダッルいな」 書類とにらみ合い数時間、いつしか書類の山は消え去ったが、同時に、先日晩からの作業も気づけば昼も過ぎというなんともいえない脱力感。結局、葵は金策のため、二日ほど書類処理に向う羽目になった。さすがに、徹夜での作業は応えるらしく、焦点がぶれる様な感覚が葵を襲っている。 だが、価値はあった。その尊い労働の対価として、三人分、一ヶ月の食事を確保する約束を取り付けたのだ(つまるところは、単なる統括組織食堂食券一か月分三人前というだけだが)。自販機で買った熱い缶コーヒー(微糖)をチビチビと啜り、とりあえず一息つく。一仕事終えた後の一服をゆっくりと味わい、葵の口から思わず溜息がこぼれる。ベンチに腰掛け、少し前かがみに姿勢を移す。意識せずともうつら、うつらと眠気が身をゆする。瞼が重い。 不意に近くの扉が開き、睡魔に閉じられかけた瞳に人影が映る。それが、一瞬葵の眠気を掻き消す。 「ソロモン?」 扉から出てきたソロモンは、キョロキョロと辺りを窺い、挙動不審に、そしてやや足早にその部屋から離れる。何かを焦っている様子で、葵に気づく事もない。 そんな姿に疑問を持ちながら、しばらく葵はソロモンの行動を見守っていたが、彼女の姿が見えなくなると、再びウトウトと身体を睡魔に預ける。 どこからか聞こえてくる、カチカチという時計が秒を刻む音のリズムが心地よく、安眠へといざない―― 不意に、ピ、という機械音、そして即後を追うように、耳を劈く轟音と爆風が、眠気ごと葵を吹っ飛ばした。 「状況は?」 桜花の声は不機嫌を露にしたものだった。葵と同じく―もっとも、仕事量は彼よりずっと少ないのだが―デスクワークに珍しくも精を出し、その幸福な達成感と共に惰眠を貪ろうとしている最中だった。その心地よいはずの時間は、鈍く響く轟音とその知らせによって掻き消された。 「資料館、研究室、それに通信室など、細かいモノを含め十五箇所、吹っ飛ばされましたね。ご丁寧に電話線などもやられています」 「んで、どう思うこれ」 「客観的に見るならば、テロですかね」 淡々と、桶屋が答える。桜花はより一層不機嫌を極めたような表情で溜息をついた。桜花にとって、一番面倒となるはずの答えだろう。 「動かせる人員で警戒強化。施設復旧は連絡系統を優先して」 立ち上る煙と油の飛沫、なんとも言えない濃厚な香りが広がる。 ゆっくりと箸を扱い、緊張した面持ちで持ち上げる。その圧力で、鉄板へと肉汁が滴る。慎重に運び、琥珀色のタレへと下ろす。あまり染み過ぎないように引き上げ、口へと―― 「ふぉぉ……」 「美味いだろ? 少し値は張るけど、ここは良い肉を使っててね――」 返事がない、ただ恍惚としているようだ。 明はしばらく、焼肉一枚一枚にこの動作を繰り返していた。肉牛もここまでありがたがられれば本望だろうか、とにかく一口一口が仰々しい。 男はその様子を半ば呆れながら眺めた。 「あの、話に移ってもいいかい?」 「ふぉぉ……」 「おおい、戻ってこーい」 結局、明が戻ってくるのはロース肉を一皿、ゆっくり時間をかけて食べ終え、ご飯のお代わりと追加の肉を注文した後だった。 「まぁ話を戻すとして」 男が、わざとらしく咳払いしてみせる。 「蔵野 明、で間違いないんだよね?」 「うん」 「そうか、それなら本題だ」 男は、それまでのややおちゃらけたものから一転、その表情を真剣なものに切り替えた。 「オル――」 「お待たせしました、こちらご飯のお代わりとネギタン塩、上カルビです」 「……あ、はーい」 ……ひとまず、肉を焼く作業に入る。ジワーっと油の広がる音が心地よい。 「気を取り直して」 再び、男が神妙な表情を取り戻す。 「あの星見えるかい?」 「え」 窓ガラスの外、男の指し示す方向の空を凝視する。 「か、ろうじて……でもあれって星?」 明には、それが星と呼ぶには遠いものに思えた。光ってはいない。薄昏の赤みがかった空に、黒く、まるでそこだけがぽっかりと切り抜かれているような空間がある。例えるなら真っ黒な月のようなものだろうか。 「オルトレイシス」 「オレイ……」 「違う違う異形だよ。地球周回軌道上にいるんだ」 あまり知られてはいないが、宇宙でも異形が確認されることがある。その代表的なものが、オルトレイシスである。その大きさはほぼ月と等しく、現在確認されている異形の中では最大。夜間のみ、地球上からもその姿を――地上からでは月と同程度の大きさでしか見えず黒いため、難しくはあるが――確認することが出来る。 もっとも、確認『出来る』だけであり、衛星軌道上のそれに干渉する手段はほぼない。また直接的な影響も確認されておらず、それらから特に意識されることもない、『いてもいなくても問題ない』とさえ言われることさえある異形である。 そこまで説明を聞いた地点で、明は首をかしげた。 「えっと、なんだか大きい異形がいることは分かったんだけど……それで?」 「オルトレイシスは今眠ってるんだ」 男が微笑む。しかし、眼差しだけは真剣さを保ったまま、静かに明を見据える。 「今夜――」 しかし 「――待て、何をやってる!」 「え」 「ネギタン塩は裏返さないんだ、ネギが落ちるだろう!? ああほら、これなんかもういい頃合だ、レモンダレのほうにつけて……ほら」 「ふぁぁ……は、歯ごたえがあって……」 「だろ? じゃんじゃん食べようじゃないか。あ、お姉さん、ホルモンとハラミ追加で――」 シリアスは焼肉の前に完敗し、跡形すら残らなかった。 天夜市内、住宅街の外れにある一角、特に大きく区切られた区間に、その屋敷はある。高い敷居に囲まれたそれは、かつての白夜行、蔵野家の屋敷……今、主はなく、ここは統括機関が管理する施設となっている。 「エマージェンシーです」 その旧蔵野屋敷の門扉を守る警備に、天城が告げる。 「統括が何者かにより襲撃を受けました。藤原桜花の命により、しばらくこの屋敷の警備指揮は私天城が受け持ちます。通してください」 こうして天城、そしてソロモンの二人は、難なく屋敷の警備を潜り抜けることに成功する。それどころか、あまりにもあっさりと警備は掌握されてしまった。 門を潜り抜け、警備の人目がなくなったところで、ソロモンが感心したように語り掛ける。 「存外にあっさりといくもの、ね」 「警備と言うのは、所詮は対外敵用ですから。統括に確認も取れませんし」 ふぅん、と呆れ交じりの溜息をこぼす。 暮れかかった空も相まって、人気のない屋敷の気配は重い。枯山水の庭もその姿形こそ殆ど変えないものの、静寂と吹き抜ける冷たい風を持って、招かれざる客人に精一杯の拒絶をしめす。 「変わらないのになぁ」 呟くソロモンは、瞳にどこか郷愁を含んだ、悲しげな瞳で庭を眺めていた。 「進みますよ」 「……はいはい」 やはり火と人の気のないせいか、吹き抜けで風の往来を止めるもののない屋敷は、涼しげを通り越して、身震いを起こすような冷たい空気が漂う。 広い屋敷を進んではしばらく、二人が記憶を頼りにたどり着いたのは、また広い座敷だった。 「ここですね?」 「ええ」 「では、失礼します」 天城は、人のいない上座に向って深々と頭を下げた。 床の間を背にした上座、おそらくは家主が踏ん反り返って構えていたであろう席。数年間、人の手どころか、殆ど人目に触れもしなかったであろうはずのそこは、山水画の掛け軸に、青々とした菖蒲の生け花。枯れた風景の中で、不自然なほどに彩を持つその空間、そしてそれを背後に置く主無き後の上座だけが、凛とした空気を保っていた。 「ここですね確かに」 掛け軸に触れてみれば、何ということはない、その空間だけ、実物ではないまやかし、ただそれだけのことだ。 「光術でのカムフラージュか……確かに、これで上座に居座られてたんじゃ分からないわ」 「さて、この先は分かりますね?」 ソロモンが頷く。しかしその表情は、心なしか力ないものだった。 「では、お願いします。私は――少し用事が出来ました」 「そうみたいね」 ソロモンが床の間を潜り抜けてしばらく、天城は広い座敷の上座の横にちょこんと腰掛け、待った。屋敷の入り口あたりだろうか。そこに魔力の流れを感じ取った。侵入者、そうとって差し支えないだろう。 天城の表情は浮かなかった。彼女はここまで、統括、または桜花に感付かれないよう、やりすぎとも言えるほどにカムフラージュを施したはずだ。たとえ見抜かれるにしても……これは早すぎる。 だとすれば? 彼女が事態を探る中、不意に、座敷の襖が乱暴に開かれた。侵入者は全体的に煤けていて、天城はそれが葵 恵だと判別するのに数秒を要した。 「うちの馬鹿はどこだ? ……なんでお前がここにいる、天城」 「こっちの台詞です。なにやら随分薄汚れていますね」 部屋に飛び込んできた葵を、丸眼鏡の奥から不機嫌そうに睨む。いや、実際彼女は不機嫌を通り越し、この無粋な来訪者に退場願う算段を練っていた。 「現在、統括本部襲撃にともなう桜花直々の指示により、この施設の警備は私に任されています。この状況を見るかぎり、貴方が襲撃の関係者と見て間違いなさそうですが」 「俺はこの屋敷に何があるのかすら知らないって」 葵はここまでの経緯――ソロモンを追いかけてきただけだが――を説明しようかとも思ったが、即座にその考えを引っ込めた。代わりに、ひとつ聞いてみることにした。 「桜花の指示だって言ったな」 「ええ」 「どうやってだ? 直接聞いたにしては早すぎるし、統括からの連絡手段は全部切られたはずだろ」 葵は実際に応援要請のため統括に連絡をとろうとし、失敗している。つまりは連絡手段が無いのは実体験済みである。また、彼が見た、いや巻き込まれたのは通信室の爆発だった。 「今は携帯電話という文明の利器がありますから」 にこやかな、あからさまな作り笑い。天城のそれに余裕はまだあったが、 「アイツの執務室。未だに手書きなんだよ。今時パソコンどころか電子レンジもまともに使えなんだ、桜花のやつ」 その表情から、笑みが消えた。俯き加減に顔を伏せ、葵からジリジリと距離をとり始める。 「だから携帯なんか持ってねぇんだよ」 「そういうところは見ていませんでしたね。それにしてもあなたは……相変わらず邪魔です、ね……!?」 懐に伸ばした手を、氷の拳が打ち払う。うずくまる身の細く白い手から、拳銃が零れ落ちる。すかさず、葵の氷術は彼女を畳へと沈め、縛り付ける。対人専用、裁定者の名は末席といえど伊達ではない。 葵は銃を拾い上げ、彼女の頭へと銃口を突きつけるように構えた。 「どういうつもりで何が目的だ」 「今に分かることですけど」 天城の顔には、再び笑みがあった。それは今までとは別物の、歪んだ表情。ほんの一瞬だが、それは人を外れたモノだった。 バキン、と乾いた音が響く。 「おいおい……人間じゃねぇ」 葵は思わず絶句する。重い氷の拘束を、女性に力技でこじ開けられたのは彼にとって初めてのことだった。凍りついた白衣を脱ぎ捨てゆっくりと立ち上がる。現れた白い肌が、見る見るうちに人のものではない黒色へと姿を変え、その背には異を誇張するような翼が現れた。 「出来れば穏便に済ませたかったんですが」 そして既にその表情、気配は人間を逸した。ニィ、と口元が笑みに歪む。その姿はまさに、悪魔そのものだった。 「しばらく、あなたは私に付き合ってもらいますね?」 「はー……」 牛肉を腹いっぱい食べる。そんな少し時代錯誤な夢を果たした明は、満足げな表情で恍惚と、その達成感を噛み締めていた。 「満足したかな」 「はー……」 「……聞くまでもないか」 向かいの席で〆のバニラアイスをつつく男は、しきりに時計を気にしている。 「そろそろかな」 「う?」 不意に、男が立ち上がる。時計の針は九時。窓の外を覗けばもう暗く、いくらか星の瞬くのが見える。 「え……あれって、何?」 「さっきも見ただろう?」 星。それも瞬くような、小さく見えるものではなく月。まだ頂点へは届いていない半月の丁度向いの方角に、三日月が見えた。三日月と言っても、その形も、色も、本来のそれとは大きく違う。弓なりの弦を上に、下に傾いた、青い三日月。それが、ゆっくりとその面積を広げていく。三日月から半月へ、半月から―― それは不気味な光景だった。だが目を奪われる。重苦しく不快、しかし荘厳で優雅。その場では、明のほかに、その存在に気づいているものは彼女の目の前にいる男の他にはいない。それはあの青ざめた月が、異形であることを、そして目の前で笑う男にそれが『見えている』ことを裏付けている。 「歴史的瞬間だとは思わないかな」 男は得意げに微笑んで見せる。 「これは異形が退魔士に、いや、人間に伝える敵意だ。そして!」 男が、おもむろにビシッと明を指差し 「それに対するのは、ずばり君しかいない!」 大げさに叫ぶ。 明は、自身が高揚していることに気が付いた。しかしそれが、恐怖や危機感ではなく、ましては男の話に対する好奇心でもない、かつてない感覚であることには気づきようがなかった。 「ねぇおかーさん、あの人たち何してるの?」 「こらこら、気にしちゃいけないの」 「……とりあえず行こうか」 「うん……」 とりあえず、場所はわきまえる物だと学んだ二人だった。 一覧に戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1693.html
伊藤組の朝は早い。 起床は朝の5時半。 これは、組長である伊東観柳斎の起床時間でもある。 「……む」 観柳斎は年齢を感じさせない逞しい男だった。 盛り上がった筋肉を和服で隠し、蓄えた髭と総髪は堅気の者とは一線を画す雰囲気をかもし出している。 「……組長、おはようございます」 「辰由か」 観柳斎は、重々しい声で襖の向こうに傅く忠臣の声に答える。 「いつも通り、朝礼は6時丁度に……」 「応」 午前6時丁度の朝の朝礼は、ここ伊藤組の伝統であった。 「……時に辰由」 「はっ」 襖越しの忠臣は、観柳斎の言葉に短く答える。 「……今日のワシは如何か?」 「……今日の組長は『絶好調』だと存じます」 「そうか、やはり『絶好調』であったか……」 うむ。と一つ頷き、観柳斎は身を起こした。 清々しい朝の始まりである。 鋼の心:番外編 ~Eisen Herz~ 伊藤組のとある一日(前編) 伊藤組の一室。 20畳を優に超える畳敷きの大広間に、朝礼に参加する組員たちが勢揃いしていた。 アットホームをウリにするのどかな極道一家ではあるが、序列の上下ははっきりと決まっている。 上座から下座まで、2列に向き合い列を作り座する組員達。 組長の座までの距離が、そのまま組内の序列となる。 その中でも最も組長の座に近い場所に、永倉辰由の姿があった。 「では、これより朝礼を始めます」 雑談に興じていた組員達も、彼の一言で静寂に還る。 「……」 すっ、と辰由は深呼吸をし、言った。 「貴様らの特技は何だぁ!?」 『警邏、清掃、老人介護っ!!』 「貴様らの目的は何だぁ!?」 『防火、防犯、町内美化ぁ!!』 「貴様らは極道を愛しているか、伊藤組を愛しているかぁ!?」 『ガンホー、ガンホー、ガンホォーッ!!』 「では、組長からの挨拶です」 先程の熱狂を何事も無かったかのように流し、辰由は上座を見る。 「うむ」 一同の視線を一身に受け、観柳斎は重々しく口を開いた。 「今日のワシは、『絶好調』であるっ!!」 『おぉーっ!!』 沸き立つ伊藤組の組員達。 これが伊藤組の朝礼であった。 「……何なのよ一体……」 上座、辰由の対面であきれ返る美空。 組長の娘である彼女は、立場上辰由よりも上位に位置する。 まあ、さり気無くその横(上座側)に、フェータ用の小さな座布団(組員手製)が置かれているのは愛嬌。 なお、客員であるリーナとレライナの席も美空のすぐ横に置かれていた。 「お嬢、そしてちっこい姐(あね)さん。おはよう御座います!!」 組員達が続々と、美空とフェータに挨拶をしに訪れる。 「おはよう御座います芦屋さん」 「はい、今日もお元気そうで何よりです、ちっこい姐さん!!」 芦屋と呼ばれた組員が、フェータに微笑まれ強面を綻ばせる。 「おはよう、芦屋」 「はい、お嬢」 美空相手だと割りと軽い。 「あ、芦屋さん目の下に隈が出来てますよ?」 フェータの指摘に芦屋は照れたように頭を掻いた。 「申し訳ありやせん。実は新作のRPGに嵌まってまして、徹夜を……」 「ダメです!! 皆さんは体が資本なのですよ!? 風邪でも引いたら如何するのです。……私も心配しちゃいます!!」 「はっ、申し訳ありやせんでした、ちっこい姐さんっ!!」 「もう、めっ!! ですよ」 「ははぁーっ!!」 フェータの小さな指でおでこを突つかれ、平伏する芦屋。 伊藤組において、フェータは『ちっこい姐さん』として組員達のアイドルと化していた。 「羨ましいぞ、芦屋ぁ!!」 「畜生~っ。俺もちっこい姐さんに『めっ!!』してもらいてぇ~!!」 「ああ、俺もだ。あのちっこい指で『めっ!!』ってしてもらった時の恍惚感は忘れられん!!」 「くそう、明日は俺が『めっ!!』してもらうんだぁ!!」 呆れ顔の美空が一言。 「……この変態どもめ」 と呟いても。 「ああ、いえ。別にお嬢の『めっ!!』では、そういう事無いんで」 「あれはちっこい姐さんだから良いんですよ」 「お嬢じゃなぁ……」 はぁっ、と溜息を付く始末だった。 「お嬢、宜しいでしょうか?」 「……ん、辰由?」 誰から殴ろうか考えていた美空は、辰由の声で振り返る。 「組長がお呼びです。奥の間へどうぞ……」 「……げっ」 美空は、とても嫌そうな顔をした。 もう、お見せできないのが残念なくらい、嫌そうな表情だった。 「組長。お嬢をお連れしやした」 「ご苦労、辰由」 観柳斎は床の間の奥で鷹揚に頷く。 「で、何の用よ?」 「うむ」 若本さん張りの渋い声で答え、立ち上がる観柳斎。 「美空たぁ~ん。今日はパパと遊ぼぉ~」 「ダメ」 「そ、即答だとぉ!?」 「組長、気をしっかり!!」 よろめく観柳斎をすかさず支える辰由。 「な、何故だ……? 今日は美空たんとオセロでもしようと思っていたのにぃ!?」 「……って言うか、なぜオセロ?」 「だってワシ、囲碁も将棋も出来んもん」 「胸張って言う事か!?」 「……ぅうっ……。辰由ぃ~、美空たんが冷たいよぉ~」 「組長が子分に泣き付くなぁ!!」 「だってぇ~、美空たんが冷たいんだも~ん」 「お嬢、今日は何か用事がおありなので?」 「うん」 美空は頷く。 「今日は祐一を家に呼ぼうと思って」 「―――何?」 伊藤観柳斎が固まった。 「お昼までに落ち合って、家に招待するのよ」 「まっ、待て、美空たん!?」 「ん?」 「わ、ワシ、初耳」 「何が?」 「ゆ、ゆういちって、誰じゃ?」 「友達」 「……何と言うか、男の子みたいな名前じゃが、ちゃんと女の子なんじゃろうな?」 「あん? 何言ってるの? 祐一は男の子よ?」 「いあかぁ~ん!! 良いか、美空たん。世の中の男なんて物はな、み~んな美空たんのプリティボディを淫らな目で見る変態ばかりなんじゃ!! そんな不埒な輩を美空たんに近づける訳には行かん!! どうせワシの可愛い美空たんをあんな事して、こんな事して、あまつさえ、せ、せ、せ、接吻を試みたりする淫獣なんじゃ、そんな奴は敵じゃ、敵。パブリックエネミー発生に付き世界の防衛機構がブギーポップとかエクセレントウォーリアーとか英霊エミヤとか絢爛舞踏とか呼び出して大惨事になるんじゃ~」 「組長。既にお嬢が居ません」 「なっ、何じゃと!?」 『変態ばかり』の辺りで既に姿が消えていた。 「いかん。いかんぞ辰由。組員を召集しろ、伊藤組臨戦態勢じゃぁ!!」 伊藤観柳斎の暴走が始まった。 「へぇ、お嬢が男を……」 「やるなぁ、お嬢」 「俺、一生男に縁が無いかと思ってた」 「いやあ、目出度い目出度い」 「まさか『あの』お嬢が男連れ込むとは~」 組員の反応はこんなものであった。 「貴様らぁ~、ワシの可愛い美空たんの一大事に何事かぁ!? 緊張感を持て、緊張感を!!」 「でも組長。ここらで男捕まえとかないと、お嬢一生行かず後家ですよ?」 「いいんじゃ、美空たんは嫁になど出さん!! 幼い頃の約束どおりワシのお嫁さんになるんじゃぁ~!!」 「流石にそれは問題があるような気が……」 暖簾に腕押し、観柳斎の怒りも組員達には伝わらない。 「組長、ここはこの辰にお任せを……」 「おお、辰由、言ってやれ、言ってやれ」 「はっ!!」 ここで辰由、コホンと一つ咳払いをして小さな声で呟いた。 「実は……。お嬢から聞いた話によりますと。その島田祐一とか言う少年。フェータさんを裸に剥いて弄り回した事があるとか……」 ……………。 ……………。 ……………。 ……………。 ……………。 ……………。 ……………。 ……………。 「……んだとぉ?」 ポツリと、静寂の中に声が漏れる。 「ちっこい姐さんを、剥いただとぉ!?」 「お嬢はともかく、ちっこい姐さんに不埒な事かましたのか、そのガキャぁっ!!」 「だぁぁっ!? 島田とか言ったな、ごらぁ。落とし前付けさせてやらぁっ!!」 「おう、新井ぃ!! 俺の長ドス出せやぁっ!! そのガキャ斬り刻んで天海の海に沈めてやらぁっ!!」 「チャカだせ、チャカ。蜂の巣じゃそのガキャぁっ!!」 組員全員大激怒。 気の早い者は既に懐からドスやら拳銃やらを抜いて臨戦態勢を整えている。 伊藤組に、にわかに不穏な空気が立ち込めた。 「あれ~、皆さん集まってどうかしましたか?」 「あっ、ちっこい姐さん!?」 フェータの声にさっと武器をしまう組員一堂。 「あれ? 今拳銃とか、ナイフとか……」 『気のせいです、ちっこい姐さん!!』 組員の声が一つに揃う。 「でも、確かに……」 『気のせいです、ちっこい姐さん!!』 「そ、そうなんですか……?」 「フェータさん。そろそろ剣術の稽古のお時間かと……」 辰由が咄嗟に話題を切り替えた。 「あら、もうそんな時間ですか……」 「はい、今日も抜刀の練習をなさるのでしょう? 久々にこの辰が巻き藁を作らせて頂きやす」 「まぁ、ありがとうございます。辰由さんの作る巻き藁は、斬り心地抜群なんですよぉ~」 こうしてフェータは辰由に連れられ道場へ。 組員達は、島田祐一対策会議を開始した。 『島田祐一対策委員会本部』 達筆な筆(観柳斎直筆)でそう書かれた、木の看板の架けられた一室で組員達が頭を寄せあう。 会議開始から1時間。 結論として、島田祐一は全殺し。 屍骸はバラしてコンクリに詰め、天海の海の底に沈める事で話が付いた。 だがしかし、会議は紛糾する。 「いいか、よく聞け。俺なんかちっこい姐さんにナデナデしてもらった事があるんだぞ!? その恩義に報いる為にも俺が止めを刺すっ!!」 「馬鹿なっ!? 俺はちっこい姐さんに『いつもお疲れ様です』と栄養剤の差し入れを貰った事があるんだ!! その借りをお返しするチャンスを棒に振れと言うのか!?」 「お、俺なんかちっこい姐さんに『サングラスが素敵ですね』と言われた事があるんだぞっ!?」 「なんだと、許さーん!!」 まあ、こんな感じで、誰が島田祐一に止めを刺すかで揉めていたのだ。 各々既に、ライフルやら刀やらダイナマイトやらを装備し、これから他所の組か警察にでも殴りこむ気だと言わんばかりの重武装。 デフコン的には既に『2』だ。 「あら皆さん、また集まって。今日は仲良しさんですね」 「あっ、ちっこい姐さん!?」 フェータの声にさっと武器をしまう組員一堂。 「あれ? 今ライフルとか、刀とか……」 『気のせいです、ちっこい姐さん!!』 組員の声が一つに揃う。 「でも、確かに……」 『気のせいです、ちっこい姐さん!!』 「だって、そこに一つ落ちてますよ?」 フェータの指の先にはAK47、俗にカラシニコフと呼ばれるアサルトライフルが落ちていた。 こんなの。 世界に銃は数あれど、このカラシニコフほど普及した銃は皆無である。 ソ連で開発されたこの銃は、安価で信頼性も高く、異常と言っても過言では無い生産性が特徴だ。 ちょっとした知識があれば、町工場程度の設備でコピー生産できる程である。 もちろん、ここ伊藤組でも愛用されていた。 「それ、AK47なんじゃ……」 『……………』 流石に現物を前にしては誤魔化しきれないか……。 組員達が覚悟を決めようとした瞬間、彼が言った。 「こ、これ。お菓子ッス!!」 「や、山南!?」 奴の名は山南三郎。通称サブ。 若手ながら辰由の信頼も厚い出世頭だった。 「え、でも、これって……」 「お菓子ッス!!」 山南。それは流石に苦しいだろう? 組員達の視線がそう告げる中、彼はAK47を手に取った。 全長90cm弱、重量4kg強。 ずっしりとした鉄の塊を―――。 「ほら、お菓子なんッス!!」 ―――山南はバリバリ食べ始めた!! ごりゅ、ごりゅ、ごりゅ、ごりゅ。 銃身を咀嚼し。 めきょ、ばきっ、めりっ、もぎゅ。 銃握を噛み千切り。 べきき、べきっ、ばきょ、ごぎゃ。 マガジンを飲み込んだ。 ……言っておくが、普通アサルトライフルは食べられない。 (耐えろ。耐えるッス。自分!! ここで負けたらちっこい姐さんの信頼がパァッス!!) 山南三郎は顔面を紫色に変色させながらも、金属と硬木で構成されたライフルを平らげる。 (そうッス、自分は『あの』お嬢の料理も完食できた数少ない“漢”ッス!!) 山南、カッと目を見開き、カラシニコフを食べる速度を上げる。 (そう考えれば楽ッス!! お嬢の料理に比べたらこれは結構イケルッス!!) 銃床を嚥下し、トリガーガードを飲み込むと、AK47が一丁、この世から消滅した。 なお、刑事事件の証拠隠滅の方法に『食べてしまう』と言う物がある。 だがしかし、今までの古今東西、銃を食べて証拠隠滅した者は居ない。 ……いや、居なかった!! そう。 彼こそが!! 山南三郎こそが、その最初の一人であるっ!! まあ多分、最後の一人でもあると思うが……。 「ほ、ほらちっこい姐さん。お菓子だったッスよ?」 「はへ~、そうでしたか。わたし、勘違いしちゃいました」 「い、いえ。お分かりいただけて何よりッス……」 山南、脂汗だらだら。 って言うか、密かに死相出てる、死相出てる。 「あっ!! でもダメですよ、山南さん!?」 「な、なんッスか?」 「それ、皆で食べる筈だったのでしょう? 独り占めはいけません!! めっ!! です」 フェータの指が山南のおでこを突っつく。 「は、はひ。すみませんッス。ちっこい姐さん」 (うぬぅ、三郎、羨ましい奴……) (耐えろ、今は奴の所業を称える時だ……) (山南、なかなかやるな……) こうしてまた、山南三郎は伊藤組での評価を上げた。 「フェータさん、訓練お疲れ様です。あちらの部屋に『三直屋』のタイヤキを用意してあります。どうぞお召し上がりを……」 「あら、ありがとう御座います辰由さん。―――皆さんもご一緒に如何ですか?」 微笑むフェータに組員達が相好を崩す。 「はい、是非ご一緒に!!」 「光栄です!! ちっこい姐さん!!」 「ありがたや、ありがたや~」 「うぅ、ちっこい姐さんとティータイムなんて、これは夢か?」 沸き立つ組員を前に、フェータは三郎に向き直る。 「でも、山南さんはお菓子を独り占めしてしまったので、ダメです。私が一個では多いので、私と半分こだけですよ?」 むしろその方が嬉しい。 「流石にそれは許さ~ん!!」 「このやろ、このやろ」 「山南~っ!!」 山南三郎はタコ殴られた。 「注進、注進!!」 と、その場に駆け込んでくる組員が一人。 「あっ、これはちっこい姐さん!! 失礼いたしやす!!」 急いでいてもフェータへの礼は忘れずに、それが伊藤組組員のルール。 「何がありました、服部?」 辰由が落ち着いた声で問う。 「それが、島田祐一が現れやした。お嬢も一緒です!!」 「あら、祐一さんもう来たんですね」 ててて、と出迎えに走るフェータ。 途端に殺気立つ組員を、辰由が抑えた。 「……判っているとは思いますが、お嬢とフェータさんの前で荒事は禁止ですよ?」 「はっ、承知してやすアニキ」 「お嬢はともかく、ちっこい姐さんの前で不埒な真似は出来やせん!!」 「だが見てろ。島田祐一~っ」 「生きて伊藤組の敷地から出られると思うなよぉ~」 『おーっ!!』 組員は、それぞれに武装を隠し持ち、島田祐一の出迎えに赴いた。 続く 鋼の心 ~Eisen Herz~へ戻る
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1865.html
わたしたちは、痩せた空賊の男に部屋から連れ出された。 甲板の上の部屋に通されると、ガラの悪い空賊たちがニヤニヤと笑っていた。 立派な部屋に豪華なテーブル、一番の上座に派手な男が座っていた。 どうやら、こいつが頭のようね、杖をいじってる所をみるとメイジなのか。 水晶の付いた良い杖ね……。 わたしたちを連れてきた男が、わたしをつついた。 「おい、お前たち、頭の前だ挨拶しろ」 わたしは、頭を睨んでやったが、頭はにやっと笑った。 「気の強い女は好きだぜ。ガキでもな。さてと、名乗りな。」 「大使としての扱いを要求するわ」 誰が、こんな奴等に恐がってやるもんですか。 「馬鹿かお前?空賊を相手に何を言っているのやら」 頭は静かに、わたしの言葉を跳ね除けた。 「……王党派と言ったな?」 頭がわたしの瞳を覗きこんでくる。 「そうよ」 「目的はなんだ?あいつら、明日にでも殺されちまうのによ」 頭の台詞に焦りが募る。 そうなる前に、ウェールズ様に会わないといけないのに。 「あなたたちには関係ないわ」 「貴族派につく気はないか?あいつら、メイジを欲しがってる。 たんまり礼金も弾んでくれるだろうよ」 こいつ等、そんなにお金が欲しいの? 「わたしは、大使だって言ってんでしょ」 「『大使』……それだ、そこが良いんだよ」 頭は杖を、わたしに向け囁いた。 「何を言ってるの?」 「大使なら労せずに、ウェールズ皇太子に会えるだろう…… そこで、斬るなり焼くなり好きにできる。『大使』なら簡単に出来るだろう?」 「この外道!死んでもイヤよ」 わたしの言葉をまったく気にしない頭。 「もう一度言う。貴族派につく気はないかね?」 まだ言うか……わたしの肩にプロシュートの手が置かれた。 「つかねえって言ってんだろ」 「貴様はなんだ?」 頭がじろりとプロシュートをにらんだ、人を射すくめるのに、なれた眼ね。 プロシュートは真っ向から睨み返す、こちらは視線だけで人が殺せそうな眼だ。 「使い魔さ」 「使い魔?」 「そうだ」 頭は笑った。大声で笑った。 「トリステインの貴族は、気ばかり強くって、どうしようもないな。 まあ、どこぞの国の恥知らずどもより、何百倍もマシだがね」 頭は立ち上がり黒髪を剥ぎ取り、たくわえたヒゲを毟り取った。 変装してたのね、そこに立っているのは凛々しい金髪の若者だった。 「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」 まさか空賊の頭がウェールズ様だったなんて。 わたしは手紙を返して貰うために、城に向かう。 途中、貴族派に邪魔されること無く無事に手紙を手に取ることができた。 一番困難だと思っていたウェールズ様との接触…… 思いもよらぬ形で出会い、簡単に手紙も返して貰った。 後は手紙を姫さまに届けるだけね……なんだか拍子抜だわ。 だから、この時。まさかあんな事に成るなんて夢にも思わなかった。
https://w.atwiki.jp/maniac_theater/pages/15.html
不思議の森 <1> そして、応接室のような部屋に通すとルーゼは一旦席を外し、代わりに執事がリリにお茶を出してくれた。 しばらくすると、 「さぁ、おもてなしの準備ができたよ」 と、ルーゼが現れ、広い食堂へリリをエスコートするように入る。 そこには大きくて長いテーブルに白いテーブルクロス、豪華でたくさんの料理が所狭しと並んでリリを待っていた。 「すごーい!」 眼をキラキラさせて素直に喜ぶリリ。 ルーゼはそれを笑顔でみつめつつ、リリに席を勧め…自分は長いテーブルの向こうの上座に座る。 「リリちゃんのために用意したんだから遠慮せずに召し上がれ」 「わーい! いただきまぁす!!」 残念ながら、リリは豪華な食事なんて見たことも食べたこともなかった。 それも、こんなにたくさん…自分のために用意してもらえるとは思ってもみない幸せだ。 元々、リリは食べることが大好きだった。 人間は元より、仲間よりも量も回数も自然と多くなっていた。 単に食い意地がはっていて、尚かつ量も食べられる…ということなのだが。 空腹も最高潮。 もちろん、遠慮する気なんてハナからない。 一瞬テーブル全体の料理を見渡したが、空腹で最強となった食欲が押さえきれないリリは、とりあえず手前から手をつけることにした。 まずは、ジュウジュウと音を立てて焼けている分厚いステーキから。 大きさは三百グラムくらいはあるのではないだろうか…? だが、そんな量なんてリリにとっては前菜にすらならない。 一口大に切り、ぱくんっとその口へ。 もぐもぐと口いっぱいに頬張りながら、ついでに山のようなピラフにも手を伸ばし、ステーキと一緒に食べ進めていく。 その表情はとろけそうな柔らかいステーキ肉同様に、幸せいっぱいの笑顔だ。 「くすっ…本当に美味しそうに食べるんだね」 リリの食べっぷりに満足そうなルーゼ。 その言葉に、リリは口の中のモノを飲み込んで、 「うん、だってすごく美味しいんだもの」 そう言って最後の一口を口に放り込むと、次の料理へ。 次は丸々一羽を使ったローストチキン。 器用に取り分けて、もも肉にかぶりつく。 「全て君のための料理だ…慌てなくていいからね」 くすくすと小さく笑いながら、ルーゼはグラスに残っていたワインを飲み干し…すかさず執事がそこへ赤ワインを注ぐ。 ルーゼの言葉が聞こえているのかいないのか…リリは相変わらず口いっぱいに頬張ってもごもごしている。 そして、三合はあっただろうピラフの最後の一口の飲み込んで、手元のジュースをこくっと飲んで再びチキンに取りかかった。 肉料理の脂っこさも量もモノともせず食べ進めていくリリ。 チキンもあっという間に食べ終わり、山盛りサラダ、野菜とソーセージをふんだんに使ったポトフと焼きたてパンを食べ始める。 ふと、リリの手が止まった。 「ん? どうしたんだい?」 「あ…ちょっと…」 恥ずかしそうにリリはそのウエストに食い込み始めていた帯を少し緩めた。 その様子に、 「…あぁ、ウエスト…苦しかったのか」 笑いをこらえるようなルーゼの呟きに、リリは頬を染めて小さくうなずいた。 元からふっくらとしたリリのおなかは、ここまでの食事でその膨らみを増していた。 だが、満腹になったわけではない。 小さく息を吐き、緩めた帯が丁度良い位のおなかを優しくさすれば…食事再開だ。 続く
https://w.atwiki.jp/game_enjyou/pages/31.html
※記事の性質上、ネタバレが非常に多いです +テイルズ オブ ゼスティリア(TOZ) ロゼ ロゼは、TOZに登場するキャラクターである。 プロデューサー馬場氏の大のお気に入りキャラでもある。 馬場氏の好きな声優がロゼ役となったため、急遽正ヒロインを追い出して真のヒロインとして登場した。 ロゼの犯した殺人は、TOZの世界では全て正当化されている。 詳細はTOZ問題点まとめwikiへ +新・光神話 パルテナの鏡(新パル) ナチュレ 自然軍のリーダーで自然王。神。中盤から出ずっぱり。 新パルは任天堂作品としては異例のアニメやグッズ展開をしてプロモーションを行っているが、それに 伴う売上げは出していない。 脚本を担当した桜井氏が「ナチュレたんマジわらわ」とお気に入り発言。 横井氏が作ったキャラクターへのsage発言を人気投票のインタビューで行った。 ナチュレを使って横井氏のキャラクターを罵倒するシーンがある。 +俺の屍を越えてゆけ2 夜鳥子 夜鳥子(ヌエコ)は『俺の屍を越えてゆけ2』に登場するキャラクターである。 夜鳥子が強制的にパーティに加入するせいで、パーティ編成の自由が制限される。 自分の一族よりも圧倒的に強い上に、何度も転生してくる。 詳細は俺屍2葬式wikiへ +戦国BASARA 石田三成 / お市 石田三成は戦国BASARAシリーズに登場するキャラクターである。 『戦国BASARA4』では全てのキャラクターが狂った彼をフォローするために 自身を犠牲にしたり、自分の信念を曲げるなどのストーリーへの多大な影響が見られた。 さらに人気投票において、公式からの「もっと三成に票を」発言など露骨な贔屓あり。 また、同ゲームではお市も同様にゴリ押しの疑いがある。 +幻想水滸伝Ⅴ リオン リオンは『幻想水滸伝Ⅴ』に登場するキャラクターである。 本来は主人公を護衛する役目のはずが、序盤から呆れるような過剰プッシュが続く上に、 主人公の王子より上座に座るなど、全てにおいて彼女が優先される世界に。 詳細は幻想水滸伝Ⅴアンチスレへ +パズドラ 曲芸師 曲芸師はパズドラに登場するキャラクターである。 本来スクエニが作成したアプリからのコラボキャラであったが、パズドラではバランスが崩壊するほど の強キャラに。 さらにスクエニの社員による「ぎりぎりまで強くした」等のツイートにより炎上。 +ペルソナ3FES アイギス 元々は『ペルソナ3』に登場する金髪碧眼のロボ娘でヒロイン。『ペルソナ3FES』では主人公に。 3のシナリオが賛否両論な中で、制作者側は「アイギスに膝枕されながら死ぬ=最高の充実の中で死ねて幸せ」 のつもりだったとインタビューで語ってしまう病気ぶり。 +クロノ・クロス キッド 前作『クロノ・トリガー』の登場人物サラの生まれ変わり。 元々クロノ・クロスの物語はサラの救済を目的として作られたが その過程で前作の主人公達はやった事を否定され、悲惨な運命を辿った。 前作は彼一人で作った訳でない事を忘れユーザーの気持ちを無視していると言わざるを得ない。 こちらで制作者本人が、キッドについて思い入れたっぷりに語っている。 ゲーム業界ごり押し三銃士 左からティファ(FF7)、夜烏子(俺屍2)、ロゼ(TOZ) http //imgur.com/g4saL8d http //imgur.com/VV9QVnM
https://w.atwiki.jp/talesrowa/pages/404.html
ZERO 氷の針衾と炎の城塞が消え行く中に、夜の黒と血の赤は聖槍の光を受けてやけに映えた。 その空間の中で、ミトスも、アトワイトも、ディムロスも、 ともすれば落日より早く光る星々さえも、この宙にある一切が静止する。 カイルの細腰を正中に射抜く一投、加減の余地も無い殺傷がこの空に滴るオブジェとなっている。 勝敗と生死を分かつ一閃。アトワイトも、ディムロスも決したと思った。 結果だけではない。ミトスとカイルを隔てる僅かにして絶対の差がそれを確かたらしめている。 マーダー、或いはシルヴァラントとテセアラの敵としてミトスと相対したならば、 今この空に飛び続けていたのはカイルだったろう。 だが、ミトスの逆鱗に触れ、四千年の深淵を覗いたのは他ならぬカイルだ。 不器用と言うよりは、馬鹿の極み。カイルらしい結末と言えば、それまでの決着だ。 『…………ミトス?』 なのに、ソーディアンを握るその手が緩まない。 「なんで」 アトワイトも――――――――――ディムロスも。 見上げたアトワイトの視界に映ったのは、瞳孔を開いて食い入るように見開かれたミトスの瞳の震え。 嬉々でも怒気でもなく、純粋な驚愕。「何故」しか存在しない感情がそこにあった。 アトワイトにはマスターの気分を完全に理解することなど出来はしない。 ただ彼女に分かるのは、その瞳の先に何かが浮いていたということだけ。 彼女は知っている。ソーディアンの意思だけでは人はこの空に留まれない。つまり。 「なんで、生き切らない?」 まだ、彼の命は終わっていない。 『カイル……お前』 「はは、言ったろ…………死なないよ、俺は」 その声に導かれたディムロスの眼に飛び込んだのは、真っ赤な飛沫の奥でくすんでいたカイルの瞳だった。 血の気の薄い顔で力無く笑うカイルの胸元、溢れ散る鮮血の源泉で槍が止まっている。 だが、そこは臓腑ではなかった。それよりも僅か三寸、彼の手がその槍を握っているように見える。 『嘘…………魔術を、手で掴んでる……?』 まるで削岩機で削り廻すように、夥しい散血が渦を巻いて彼の左の掌を真っ赤に蒸かす。 止められない英雄の意志を、その小さな手が抗している。 『まだ、やれるのか?』 剣の問いにカイルは何も答えなかった。だが、ディムロスはそれだけで全てを了解した。 生命は未だ希薄で、心音は胡乱。 でも生きていて、まだ空を飛んでいる。それだけで十二分だった。 生きて戦う。それのみがこの空に示せる唯一つの意思だ。 そして眼に湛えられたその意思がミトスを睨み付ける。 顔の蒼白さが一種の錯覚でないかと思えるほどに血走った瞳が、ミトスの心臓を圧迫した。 その瞬間、カイルの手とディムロスの炎が同時に動く。 ホーリーランスを、より正確に言えばホーリーランスと掌の間の隙間を押し上げて、 槍の切先を僅かに逸らし、それと同時にエクスプロード級の爆発力で自らを一気に加速させる。 『掴んでたのは、槍じゃない…………だったら、あの渦を巻く空間は……ミトス!?』 掌に集めた威力全てをぶつけて魔術を弾いたカイルがソーディアン二つの驚きよりも早くミトスへと肉薄する。 僅かばかりに反応で上回ったミトスの右手に氷柱が握られ、左手足の二振り合わせて三つで受け止める。 「ごっ……お前……ッ」 ミトスは驚愕と困惑に見開いた眼の中で青目をふるふると震わせた。 だが、ミトスを驚愕せしめたのは大仕掛けの後の隙とはいえ魔術の一つも撃たせずに距離を詰めた速度でもなく、 その剣威に抗するために増した足を重ねてなお五分にしか持ち込めないほどに強いこの斬撃でもない。 「何処から、湧いて出た。その力……三味線を引いてた訳じゃ、無いだろ……何処に隠してた……?」 ミトスが奥歯を真っ二つに割りかねないほどに食い縛った口から、漏れ出すように眼前に問いかける。 ここまで叩いて尚折れないモノがあるとしたら、それは一体なんなのか、興味があった。 「そんなもん、無い。でも、ここで死んだらお前の言う英雄を認めることになる。だから、死なない」 カイルは淡々と応ずる。少しでも取り扱いを誤れば爆発してしまいそうな感情を意識的に押さえ込むように。 ミトスはその答えに落胆と安堵を綯い交ぜにしたような息をついた。 「ここまで言って、分からないのか。まあ、別に分かれ――――」 「“分かるんだよ”。だから、負けられないんだ!!」 完全に止まったはずの剣が更に押し込まれ、ミトスの体が吹き飛ばされる。 「くそ、しつこいッ!」 飛ばされたミトスがアトワイトを進行方向上に突き立てると、そこに氷壁が一枚生成された。 勢いが付くよりも早く、中空に出現した足場を踏みしめてミトスは体勢を整える。 しかし体の制御は容易くとも、心はそうは行かない。 (どうして、ここまで這い上がれる? 何も知らないガキが、僕に追い縋ってくる!?) 完全に折ったはずのカイルから放たれる闘気に、ミトスの心が気圧されている。 初めて剣を交えたときには潮騒程度のざわめきだったそれが、今や津波と化して荒れ狂っている。 一体、カイルの何に引っかかっていると言うのか――――――――――― 『ミトス、ガード!!』 「!?」 アトワイトの声に首を上げたミトスの眼には、カイルが剣を今振り下ろさんとしている瞬間が写っていた。 この攻撃は幾らなんでも速過ぎる。受身を取ることまで予測していなければ成立しない。 「リジェクション!!」 避けるも払うも間に合わないミトスは咄嗟に前面に障壁を放ち、間一髪でカイルの剣を僅かに止める。 「分かってる、だと? 歯も生え揃ってないようなお前如きが、その青い嘴で何を囀る!?」 「何かを失くすことは避けられない。全部を守ろうとしたって、俺達の手は2つしかない。 守りたいものが多すぎて、そうやって苦しんで来た人たちを、知っている」 ロイド=アーヴィング。差し伸べた手をもぎ取られて、残った命の短さに追い詰められた人。 ヴェイグ=リュングベル。選択を常に突きつけられ、望まない結果を与えられながらも、迷うことを捨てなかった人。 彼らだけではない。数え切れないほどの喪失が、この空の下には溢れ返っている。 「だったら、分かるだろ。何かを求めるなら―――――」 「父さんは言ってた。英雄は多くでも、1つだけでも、かけがえのない何かを守れる人のことだって。 でも、その為に全部を犠牲にするような奴は、英雄なんかじゃない」 消えた障壁の波の向こうには、驚愕しかなかった。 目の前に現れたのはカイルではなく、屈折した軌跡を残す3本の光の矢だ。 光はその速さ故に不可避。それでいて、どこに避けても身体への接着は逃れ得ないたった3本の布陣――デルタレイは、 カイルの愚直さとは似ても似つかない精密さを持っていた。 とっさに発動した粋護陣に光はかき消えたが、代償として少しの硬直が襲いかかる。 その代償を理解しながらも、ミトスは回避ではなく防御を選んだ。 カイルにとって術は本腰を入れて撃つものではなく、単なる牽制の手段だ。ましてや下級晶術など。 ならばカイルの狙いは―――― 「たああぁぁぁぁっ!!」 視界外からの超高速奇襲攻撃! 視野から消えた部分から攻める。その考えは分かる上、結局は馬鹿さ加減を露呈する手法だ。 だが、普通ならば捌けるこの攻め手も、カイルの場合は状況が異なる。 こちらが攻撃に転じる前に、あの箒の、それこそ馬鹿げた速度で距離を詰められる。 そうなればどうなるか。もちろん、反撃することはできない。よくて手がイカれるか、最悪胴が真っ二つになるだろう。 ミトスがとった手段はどれでもなかった。選ばれた者のみが扱える完全回避――すなわち空間転移。 速度に乗って振るわれたディムロスは空を切り、転移の光と炎の残滓だけがその場に残る。 だがカイルは止まらない。止まれないのだ。急停止すれば圧力で身体がひしゃげてしまう。 そしてそれを見越したミトスは、ミスティブルームの制動距離の少し先―― 『カイル、上だッ!』 ――カイルの速度が落ち始める頃合いに転移した。 上空から落ちてきた剣は、まるで未来の時空剣士の技のよう。降下の威力を上乗せしたアトワイトをミトスは振り落とす。 「っぐ!?」 しかし、声を上げたのはカイルではなくミトス当人だった。 カイルもまた、ディムロスを上に振り上げてミトスに抗戦した。 通常ならば力が入りきらない状況で、カイルはミトスの一撃を受け止めてみせたのだ。 体躯の差でもない。力の差でもない。ましてや、大剣と曲刀の差でもない。 けれども、カイルは訳の分からないもので差を埋め、力を拮抗させた。 精神論を頭から否定するつもりはないが、それを引いても今のカイルは理解の範疇外だった。 それをもみ消すように、ミトスは目を細めたまま小さく嘲笑を放つ。 「多くでも、1つだけでも、かけがえのない何かを守れるのが英雄だって? 馬鹿馬鹿しい。ならば英雄はそのために、守るもの以上のものを失う者だ。お前の父親とやらは、それを経験しなかったのか?」 剣と剣が重なり合う。お互いの表情が視野から溢れ出すほど、2人の剣はぎりぎりと軋み合っていた。 鼻先がぶつかり合ってしまうほどの距離でも、気迫だけはしっかりと感じ取れる。 「僕はそれで姉さまを失った。世界が救われても何も変わりやしない人間のせいで! 変わらない人間が作った、変わらない世界のせいで! だから、僕は姉さまの願いを叶えるために、世界の仕組みも変えてやることを選んだんだよ!」 しかし、目の前のミトスの怨嗟を耳に入れても、怯む様子はまるで見受けられない。それどころか更に強まるばかりだ。 その気圧に押されてか、カイルが持つディムロスのコアが一瞬だけ輝く。 「選んだ? 違うだろ。お前はそうするしかなかっただけだ。 大切な人を守れなかった自分の無能を棚に上げて、何が世界の仕組みだ」 上方向に弾かれた剣が、地面との摩擦ではなく晶術の力によって炎に包まれる。 「そんなもの、関係ない。お前は大切な人を亡くした理由を自分以外に押し付けて、そうやって自分を納得させてるだけだ」 レリーフの刻まれた剣身が、勢いを殺さぬ内に振り落とされる。接触した刀身から爆発が広がる。 衝撃を利用し、爆炎剣をいなしてミトスは後方へ飛んだ。 アトワイト、とパートナーの名を唱える。相方は状況と5文字の名前とその響きだけで、ミトスの意図を把握した。 コアに組み込まれた、本来は存在しないエクスフィアの力を用いて、アトワイトは主君のEXジェムを遠隔操作した。 構成を組み替えられる。それを確認してミトスはすぐさま術を編んだ。 詠唱が即座に破棄され、4本の氷の針がミトスの指揮によって規則的に向かっていく。 「お前に、お前に何が分かる!? お前だって、ここで失くしておきながら!」 具現化されたアイスニードルは、ミトスの冷徹な怒りをそのまま冷気へと変貌させ速度を増した。 反撃魔術<スペルリベンジ>。吹き飛び中、下級魔術が詠唱なしで発動する複合EXスキル。 箒の機動力を以って、カイルは向かってくるアイスニードルを、最低限の動きだけで、その場でくぐり抜けるように避けた。 3本が横を通り過ぎていく中、最後の1本だけが箒をへし折らんとばかりに柄を狙う。 機動力の要である魔導の箒。カイルは、それを手放し、折れた足で思い切り柄を“押した”。 「言っただろ。知ってるって。だから、分かるんだよ」 空中に身を投げ出せば、待っているのは無論墜落。つまりこの行動は自殺行為だ。ミトスも、ついに焼きが回ったかと思ったほどである。 だが、カイルは空中で最後のアイスニードルを見据えた。そして身体を捻り、跳躍した際の軸足ではない、もう片方の折れた足を振り上げる。 あとは重力に任せるのみ。痛みなど当に忘却の彼方で知りやしない。 足に針が突き刺さる前に、踵が氷を捉える。父は得意でも息子は得手ではない体術で、それを“叩き割った”。 残された冷気の余韻が少しだけ周囲を凍てつかせたが、それもすぐに昇華された。ディムロスが引き戻した箒の熱が、冷たさをかき消していた。 カイルは空いた片手で箒を掴み、身体の前に持っていきすぐにホバリングさせた。 距離が離れ、2人は相手の顔を見合う。片や焦燥、片や決意。 肉体的にも、精神的にも追い詰められているミトスは、張り詰めた面差しのカイルを見て焦燥せざるを得なかった。 少なくとも、昨日の夕方に戦った甘っちょろい青二才が、馬鹿げているとはいえこれほどの反撃をしてくるなど。 「世界より一人を選ぶなんて、違うんだ。間違ってるんだよ」 何より。 箒に乗りディムロスを構えるカイルは、先程まで傷つき、心を消耗させていた人間とは別人のようだ。 まるで、痛みを感じていないかのように、否“傷み過ぎて痛みを忘れてしまったかのように”。 「お前、まさか―――――」 「そんなのを選ぶ奴は、英雄になれない。なっちゃいけない」 ある可能性に思い至ったミトスの眼に、カイルの瞳が重なる。 さっきまでの痛みとは比べものにならない。 童顔に浮かぶのは、15の幼い少年のものとは思えぬ痛みに塗れた湿った表情。 ミトスは、それを識っていた。遥か昔、姉を失い、全てに諦めたあの一瞬にそれを見た。 世界よりも大切なモノを失った、愚者の絶望を。 「亡く――――――――――――――――いや、“捨てた”のか」 ミトスの問いに、カイルは無言を以って応じた。 世界と少女。どちらかを選べばどちらかを失う。 神を倒した果てに、世界を救うことを選んだ少年は、その代償としてかけがえのない存在を無くした。 すべての始まりであった、様々な時空を共に歩み、少年を英雄と認めてくれた少女を。 彼が初めて焦がれる想いを抱いた少女を、彼はその手で切り落としたのだ。 「そんなの、英雄じゃない。唯の莫迦だ。 たった一人の為に世界を犠牲にしようとしたお前も、たった一人の為に世界が壊れててもいいと思った俺も」 ミトス=ユグドラシルに想像が付いただろうか。 そんな彼女を失って、彼がどれほどの痛みを負ったか。 ただ一言「生きたい」と言ってくれれば、世界を捨ててでも選んだろう彼女をその手で殺した痛みを。 ミトスは呆然とカイルを見ていた。 失うということを知らないと思い、散々と大事なものを奪っていったのに、カイルはとっくに捨てていた。 捨てることで英雄となる道を示していたのに、それのなんて滑稽なことか。 既にカイルは、昨夜ミトスが定義した「英雄」であったのだ。 だが、彼は自分と同じミトスに向かって「英雄」ではないと否定した。 それを聞いて、ミトスが言葉を失わない訳がなかった。 「俺だって、とっくの昔に失ってる。世界と天秤にかけられて、俺は世界を選んだんだ。 そしたら、幻のように消えていっちゃった」 綴られる言葉は、15歳の子供が背負う十字架には重すぎた。 だからこそ外見に似合わぬ語りは不思議な説得力を持っていた。 この島に来る前のことなどミトスには分からない。だが、彼が述べていることは紛れもなく事実なのだと。 辛酸では足りぬほどの猛毒を、この島に来てなお彼は呷り続けてきたのだと。 「俺はあの子の――リアラの英雄だ。英雄だと、思ってた。 だから、あの子が生きれるなら、世界なんて滅んじゃってもいいって、あのときは思った」 ディムロスを両手で握り、体を丸くするカイルの背に、あのときの感触が蘇る。 彼女の体の感触だ。神を具現させていたレンズを前に躊躇い、恐れ、剣を振り上げたままの自分に寄り添ってきた。 「でも、そんなの違う。それは俺の望みだ。 リアラは、消えるのは怖くないって、神に捕らわれる世界よりも再会できる世界を、未来を望んだんだ」 そして、いつの間にか背中に残っていた感触はどこかへと、溶けるように消え去ってしまっていた。 「俺、そんなことも忘れてた」 遥か昔に見失った宝物を見つけたような懐かしみをカイルは胸に抱いた。 辛き現実の果て、今ここにカイルがいる。 その彼が見据えるのは、自分と同じく世界に大切な人を奪われ、その大切な人ひとりのために全てを敵に回した幼子。 洞窟で聞いたクラトスの言葉を思い出す。 大切な人のためならば世界すらも犠牲にする。その堅き信念は、カイルも共感し肯定はできた。 しかし、カイルは首を横に動かし、自分の心の奥底にある澱みを振り切った。 自分は、ミトスとは違うのだと。 越えるのであれば、この少年とは違う道を、 いや、この少年の道の“続き”を示さねばならぬ。 「一人のための、自分の願いよりも、もっと大事なものがあるんだ。 本当に大切な人の英雄なら、英雄なら――自分の想い以上に、譲っちゃだめなものが、あるんだ!!」 世界よりも一人を優先する。同族嫌悪、あるいはシンパシー。 カイルがミトスに抱いていた情念はそれだった。 大切な人の想いも聞き入れず、世界だけを憎み壊すなんて間違っている。 その人が世界と可能性を愛したのならば、自分も同じように信じなければならない。 そうでなければ、通じ合った想いからの声を受け入れないだけの、単なる独りよがりの願望でしかない。 そして、カイルはそれを選ばない。 「だから、俺は行く。 リアラが俺とまた会える未来を信じたなら、俺はそう信じたリアラを信じて、ずっと先に行くだけだ!」 カイル=デュナミスが望む未来は、彼女が笑顔でいられる世界の上にしか存在しないのだから。 「正気か……? お前、自分が何を言っているのか、分かってるのか……?」 掠れた声でミトスはかろうじてそれだけを紡ぐ。 リアラの死体を見ておいて、優勝の対価も跳ね除けて、犠牲さえ拒んで、 それでも再会できることを信じるというのか。 投げかけられた言葉、それはカイルの迷いそのものだった。 できるのか。無理じゃないのか。妥協したほうがいいのではないか。 だが、それでも進む。カイルには、それを打ち払う“力”を持っている!! 「無茶だって分かってる。でも俺、信じるよ。もう、それを疑わない。 信じること、信じ続けること。それが本当の強さだから!!」 自分の中の僅かな惑いさえも打ち払うようにカイルは英雄の父の、大きな背中を思い出しながら、その言葉を綴った。 とても越えられる存在ではないけれど、父から伝えられた一字一句は確かに息子の中に刻まれていた。 『ミトス!?』 カイルの大声を聞き入れていたミトスは、すっと手の曲刀を下す。 アトワイトが呼びかけるように名を唱えたが、ミトスは何の反応も示さない。 戦意が喪失したのか。カイルからは陰った表情は伺えない。ただ、戦闘態勢を解除したことはカイルにとっても驚くことだった。 自分の言葉に自信がないわけでも、偽りがあるわけでもない。 だがミトスは、自分の言葉を素直に受け入れる精根の持ち主ではないと、カイルは心のどこかで思っていた。 それは弛めぬ臨戦態勢にも表れている。ミトスの作戦の内だと、カイルはなおも相手を目から離さないでいる。 そしてその目は、ミトスの凄惨な笑みを観測した。 「そう。そう、なのか。お前の出した答えはそれか。 お前はそうやって、僕を越えて行こうとするんだね」 余裕を醸し出している笑みではない。 見下すような、嗜虐味に満ちたものではなく、馬鹿にするような軽薄なものでもなく、 この世界に存在する全ての謎が解き明かされたかのように実に晴れやかな笑顔だった。 「礼を言うよ。やっとハッキリした。お前が何者で、僕がどうするべきか、お前とどう向き合うか」 だからこそ、カイルはそれに全身を総毛立たせた。 少年の相貌でありながら常に大人の冷ややかな表情を浮かべてきた、あのミトスとはまるでかけ離れていた。 その切り離されたような感情は、いわゆる善の要素――改心とか、懺悔とか――とは、何の繋がりも見せなかった。 では、何故こうも明朗とした表情なのか。 「そんなの、認められるか」 理由はただ1つ。ミトスにとって心底“面白くない”からだ。 「潰す。お前を、全力で、叩き、潰す。 完全に、完璧に、完膚なきまでに殺す――アトワイト!!」 『ッ、了解。術式転移、凍結解除<キープスペル>――ホーリーランス!!』 アトワイトを翻してミトスが剣先を突きつけた瞬間、カイルの真下から無数の光輝の槍が顕現し、飛翔する。 先程の壁を突き破ったときの突貫型とは違い、四方から出現した槍が、交錯して真中のカイルを貫かんと迫る。 空中であるが故に、地面に接触して消滅することはない。 おまけにご丁寧なことに、本来発動させるような急な角度で発動させておらず、ベクトルに調整をかけている。 上から逃げては間に合わない、そうカイルは確信した。穂先を下方へ思い切り向ける。 しかし、一瞬の内にカイルの血は冷え切った。 剣に秘められし七色の裁きを受けよ。 その無情な、しかし荘厳な言葉の響きが目前に白光の剣を生み出した。 急降下するカイルを追尾するホーリーランス。もちろんベクトルは上から下、つまり押さえているのは縦方向の軸である。 そして、次に現れた複合上級術・プリズムソードはカイルの下ではなく背後に陣を張ることで、前方向だけではなく横軸をも制していた。 しかも詠唱のラグもなく、速急に。 「上級から上級へだと!?」 槍の雨の次は猛スピードで突っ込んでくる巨大な光の剣。 連続で繰り出される高位魔術の応酬に、ディムロスも舌を巻くしかなかった。 現れた数は6つ。ホーリーランスよりも数が多いとは、笑いたくもなる。 剣がカイルの周囲に降り注ぎ、まず逃げ場を埋める。それも高位の術であるがゆえに広範囲に展開されている。 唯一開かれた正面も、残された逃げ先というには到底及ばない。 切っ先はカイルを狙い澄ましていた。 初級術のような単発で攻めるのではなく、広範囲で発動する上級術を選ぶ。ゆえに、連続で行使するには詠唱を要するはずである。 ディムロスも言った通り、詠唱もなくいきなり上級術から上級術に繋ぐことは、どんな恩恵を受けようと不可能だ。 何の加護もなければ、初級ですら一拍の間は挟むだろう。 ミスティシンボルがあったところで、詠唱時間が初級術レベルまで縮まるわけもない。 だが、1つだけ方法がある。 複合EXスキル、遅速博打<ランダマイザー>。つまり、完全なる天運の力だ。 下手をすればかえって詠唱時間を延ばしてしまうだけの、気まぐれな拡張能力。 それを連携に組み込むこと自体が間違いの代物。しかし、ミトスはそれに頼った。 ミトスは、自分のあらゆる要素――運という偶然さえも――を力として集約させ、全てを勝利に繋げるべく機能させ始めた。 それに、これは運よく発動すれば重畳、という程度のもの。 恐るべきほどの速さでマナが編み上がることがなければ、単に詠唱を破棄してもう一度唱えればいいだけの話なのだから。 そして天はミトスに味方した。いくら天の使いだからとはいえ、とても尋常とは思えない、身を凍えさせるような味方の仕方である。 いや、かつて誰もが不可能と笑った古代戦争を終わらせた英雄ミトスに“天が味方する確率”を問うことそのものが間違いか。 捕まればそれだけでひとたまりもないが、なにより前後から魔術の連撃が決まり――間違いなく身体を双方向から引き裂かれる! 肝を冷やすのも当然である。上下左右、そして斜方向。三次元における全方位がカイルの行く手を塞いでいるのだから! それを前に、この少年は怯まないというのだから――ああ、とてもとても恐ろしい。 2本の光の刃が中心に迫るのと同時に、周りを遮っていた光の剣の1つが消えていく。 コンマ1秒、いや1フレーム。サブリミナルすら認識するほどの速さで切れ目の糸口を直感的に見出したカイルは、両手で舵を切り横へ急転回した。 最後のプリズムソードはすぐ近くにまで迫っている。 速度が乗った状態でのカーブは当然大味になる。直角に近く曲がろうとするほど難易度は高まる。 だが、いかにその大回りの旋回を縮めるかで、結果はまるで違ってくる。 剣が身体を貫くか、腕を持っていくか、皮膚を舐め取っていくか。それだけの違いである。 相手は光だ。技術だけではなくとっさの判断力も、一瞬を大きく変貌させる。 まるで、速度と速度がぶつかり合うカーチェイス。時速が跳ね上がるスピードだけで言えばまさにドッグファイト。 そのイカれた速域のぶつかり合いに競り勝つために、カイルは思いきりハンドルを切ったのだ。 ごう、と唸る風の音が常に耳を満たす。 轟音と呼んでもいいほどのそれは、永遠に耳の奥で反響し続けるのではないかと思わせるような威力があった。 カイルは風圧で箒も身体もへし折れてしまうのではないかと思った。 しかし、こんな風よりも、襲いかかってくる剣の威圧の方がよほど強い――! それもそのはず。肌をひりつかせるそれは、すぐ真横ですれ違う光からの熱だ。 熱も、引き裂かれた烈風も、互いに譲り合うこともなくカイルの皮膚を傷つける。既にぼろぼろの身体から更に血を奪ってもまだ足りない。 だが、いくら身体を傷つけられても。その奥にある想いまでは、傷1つつけさせやしない。 箒を握り締める手に、さらに力を込める。ぎゅう、と血管が浮いて見えるのではないかというまでに。 何も聞こえない突風の中で、カイルは叫んだ。 激しい空気の流れを、すべて吸い込んでしまおうとするかのように大口を開けた。 エンジンのバーナーが熱を上げる。 そして光の剣は、カイルの目尻の横をすり抜けていって、後方から迫っていた光の槍と衝突した。 周囲に広がる、真っ白な光の波動。 カイルはそれを背に浴びながら箒を走らせた。 命中しきる前になんとか矛先を逃れ、ぎりぎりの瀬戸際で旋回しきったのだ。 力に力を重ねた、畏怖すべき光の十連撃を避けきり、ほうとカイルは息をつく。 凄まじい威力の行使を越えて、少しの気の緩みが生まれた。 ――<Turn Shift> 今度はこっちの手番だ。 目の前に、空間転移の光と純白の羽根。 その中心から現れた幼き大天使は、手に収まっている得物を迷うことなく振り抜いた。 うめき声が上がる。奥歯がぐっと無意識のうちに噛み締められた。 とっさにディムロスで防いだが、体勢は崩れきっており、とても戦闘を行うような姿勢ではない。 ミトスは絶え間なく攻撃を繰り出す。まるで舞うような剣戟だ。一連の動きに淀みは一切ない。 『……イル!』 防御と呼べるぎりぎりの境界線の上でカイルは耐え凌いでいた。 ラインを少しでも越えてしまえば、間違いなくアトワイトが身体を貫くだろう。 だがここは空中。いくらミトスとはいえ、攻撃を続けたまま風を制御することなど不可能だ。 地上にたどり着くまで守りきれば勝機は見えると、カイルは断じた。 『カイル!』 ひたすらにミトスの斬撃をいなし、降下していく。防戦一方だが誤ってはいないと思った。 それはつまり、1人で考えた結果の行動だ。 耳には全くパートナーの呼び声が入っていなかった。 『カイル、避けろッ!』 「僕を前にして、そんな守りに入ってていいのか?」 ディムロスの呼びかけに気づいて、カイルの脳はすっと冴え渡った。 交差するソーディアンはぎりぎりと軋みを立てている。 目に強い光が射し込む。前方のミトスからそれは発せられていた。 発生箇所は、右足。 「それで僕より先に行こうなんて、四千年早いんだよ馬鹿が」 既に左足でレーザーを放ち、右足でアウトバーストを放っている。負荷は掛かりきっているはずだ。 カイルの動揺をせせら笑うように、ミトスは冷笑を浮かべる。 ――そんなものは関係ない。 大切な人のために、大切な人を失って、それでまた会いに行くなんて。 そんな理合からかけ離れた馬鹿を相手にして、負荷なんてものに拘っている方がおかしい! 常識を越えた相手には、越えた常識をもって相対せねば太刀打ちできないのだから! 何より、こいつを倒すことに比べたら、足の1本や2本など惜しくはないッ! 「そうさ……僕のしてきた過去より先に行こうなんて、行こうなんて……そんなこと……」 お前は世界と大切なものを天秤にかけて、世界に心を殺されたんだ。 お前は僕と同じだ。世界に翼をもがれた、飛べない雛鳥。 大切なものを奪われて、嘆き、憎むべき存在。 そんなお前が、僕と同じ選択をしたくせに、先に進もうとするなんて。 最果ての先に、まだ道があることを示そうとするなんて。 僕は認めない。絶っ対に認めない。 もしお前がそこから更に進むというなら、僕のしてきたことは何だったんだ? 四千年もの間、世界を分離させ、人間に繁栄と衰退を繰り返させ、姉さまの固有マナに近づけさせるよう調整して。 再び逢えたこの世界でも姉さまに否定されて自棄になって。 それは、何もかも中途半端な努力でしかなかったということなのか? 心のどこかで、諦めていただけなのか? そんな筈がない。認めるか。認めてたまるか。 僕は姉さまの英雄だ。姉さまを復活させるために、数え切れないほどの犠牲を払ってきたんだ。 例え未来でロイドたちに滅ぼされ、違う道があったことを示されるとしても、僕がなくしてきたものを否定させはしない。 ましてや、カイルになんて。僕と同一の存在になんて。 僕と同じ道を歩みながら、まだ未来があるなんてことを示させはしない! 僕は姉さまの英雄として最善を尽くしてきた。限界まで、限界まで進んで、それでも駄目だったんだ。 それが、その先があるだなんて、認められるわけがない!! だからお前を倒す。お前を倒して、僕は僕の正しさを示す。 僕を越えようなんて、そんなこと―――― 自ら剣を弾き返したミトスの表情が、一瞬で怒気をはらむ。 左の軸足が空を踏み、右の爪先が光と共に蹴り抜かれた。 「そんなこと――――あってたまるかああああぁぁぁァァァァッッ!!!」 極大のレーザーがカイルの視界を包み込む。 逃れ得ぬ射程から放たれたそれは、真っ向から立ち向かうミトスの意地そのものだった。 そうだよな。やっぱり、譲らないよな。 お前だって、あんなに強い意志を持ってるんだから。 ミトスの言ったとおりだ。散々ディムロスにも言われてたじゃんか。 やっぱ馬鹿だなあ、俺って。 あの洞窟のときに、もう分かっていたんじゃないか。 リアラがいなくちゃ何もできない。 リアラがいなくちゃ駄目なんだ。 どうしようもなく、リアラが必要なんだ。 けれど、命を絶ちはしない。 死んで会いに行くことなんてしない。 この島で会えたんだから、元の世界でだって、また会える筈だろ? 奇跡なんて言うつもりはないけれど、あんなにもう会えないと思っていたのに、再会することが出来たんだから。 だから、生きて、どこまでも生きて――――もう1度あの子に会いに行くんだ。 そのためには、まずはこの壁を、お前を――世界<バトルロワイアル>を越える! ――<Turn Shift>! まだ、終わりも譲りもしない! 「魔神炎ッ!」 向かってくる光のレーザーに対して、カイルはあろうことかソーディアンの炎をぶつけた。 単純な光ならば、炎をぶつけたところですり抜けられておしまいだ。 だが、これはいわばエネルギーの塊。力と力を衝突させれば、2つの間で力の相殺が生じる。 例えその威力の差が歴然としていても、微々たるものでも、そこには僅かな歪みが生じる。 「空破……」 そして――歪みは切れ目となり、突破口となる。 「――――絶風撃!!」 カイルは裂け目に向かって、思い切りディムロスを突き立てた。 その勢いのままに箒を全速力で走らせ、更に威力を重ねる。 生じた衝撃波が防御壁となって、光の粒子を切り崩しながらも進んでいく。攻撃は最大の防御とは正にこのことだ。 力と力がぶつかり合い、互いに勢いを殺していく。更に炎の壁を構築して光を突き破る。 炎が光を喰えば、光が炎を浸食する。炎の弾丸を食い止めようと光の波濤は防壁と化す。 力量は均衡。あとはどちらの意気が持つかの背比べ。 それぞれの表情が、力を込めすぎてぐしゃぐしゃに崩れる。 エネルギーの相殺の中では互いの声も聞こえない。だからこそ、2人は力を込めて応えた。 カイルが更に剣を突き出し、ミトスが強く左足に力を重ね――――光が爆ぜる。 白光が藍色の空に広がり満ちる。まるで時が一気に逆巻いて、新しい朝が訪れたのではないかと思うほどだった。 まばゆい光がうっすらと、だんだんと消えていった。 カイルの動きが止まる。 ミトスの光が消滅する。 吹雪が吹きつけたようにまっさらな景色が色を取り戻していく中、それぞれのソーディアンは思いを馳せていた。 それも全く同じようなことだった。番いというのは嘘でもないらしい。 得てして感じていることは同様なのだと、協調とも違うソーディアン同士の“確信”があった。 この地で似たようなマスターを持ったからだろうか。 どちらも無理に無理を重ねるような攻撃の仕方をするものだから冷や汗ものである。 だが、2本――否、2人とも最早それを止めるようなこと心持ちもなかった。 むしろ、どこまでも愚直な在り方に、安堵すら心の片隅のどこかで覚えていた。 方法はこれしかないのだと、2人は分かっていた。 そうでもして勝たねばならないのだ。勝たなければ、相手を打ち倒したことにならないのだ。 意味はその一点にしか存在しない。 カイルとミトスにとって、相対する相手とはそれほどの境目に在る者なのだから。 アトワイトは分析する。 カイルは決してリアラの為に自分を蔑ろにしている訳ではない。 リアラの想いのために自分の願いを捨てているのではなく、2人で共に歩める明日を目指し、あるがままに考えている。 自分が片棒を担ぎ、殺してしまった少女のために、カイルはあるかも分からないものに向かって奔走しているのだ。 ディムロスは推察する。 ミトスは未来と自分を諦め続けるために、カイルを容認できない。 認めれば、それは自分を否定することになる。姉のために生き、それでも悲願を為せなかった今までの自分を。 その自分が、単に歩みを止め立ち止まっていただけだなど、認められる筈がない。 2人は純粋で、まっすぐだ。自分の思いを知って止めることなど出来ない。 そしてソーディアンは武器として、相棒として、そんなマスターを助けなければいけないのだ。 そう。マスターを助け、更に進まなければならない。 カイルの動きが止まる――それが“視認できる”。 ミトスの光が消滅する――五体満足の姿を“視認できる”。 大剣は光を真っ二つに切り裂いた。だが、同時に暴力的な光の壁は剣士の動きを停止させた。 剣士はなおも空中に、天使は羽ばたく力さえないかのように、ゆっくりと舞い降りていく。 「どうした……ずい、ぶん、息が上がってるぞ?」 「お前が……いうな……」 両方とも完璧な隙をさらけ出しながら、それを攻めることはなかった。 満身創痍。疲労困憊。2人とも、既に動く気力すらないのだ。 息を切らしたまま、2人は互いを見つめている。 無機生命体であるミトスですら、無意識的に息の乱れを覚えていた。 (僕が、呼吸? 馬鹿を言えよ。何のための、身体だよ) 天使の身体に、疲れも呼吸も存在しない。 だから、これは記憶だ。まだ疲れがあって、全力で動けば息が上がったころの記憶。 (息切れなんて、冗談じゃない。まるで、生きているみたいじゃないか) この身に浮かぶのは4千年前の、まだ僕が英雄でなかったころの疲れだ。 「……譲るつもりはない、か」 「そっちこそ。さっさと、俺に、倒されろ、よ」 だからこそ、言葉を吐き出す。 僅かに生まれた時間を、呼吸にあてがうかのようにして。 ぜえ、はあ、と荒い吐息の中に、子供じみた感情に満ちた声が混ざる。 カイルが身を乗り出すように敵意を放つ。 「俺は、リアラに会いに行くんだ」 しかし、カイルはそうそう動いてこないということを見抜いてか、ミトスは口元に手を当てて余裕ぶる。 「もう遅いだろ。どっちにしたってお前はここで死ぬしかない」 実際のところ、動けないのはミトスも同じだ。ぼろぼろの手を隠すように、手を固定させているに過ぎない。 だから、それはただの話題でしかなかった。 ほんの少しだけ休むために、ささやかな絶望をもう一度だけ確認する。 だが、カイルの答えはどうしようもなくカイルだった。 「知るかよ。そんなの、お前を倒してから、全力で走れば間に合うさ」 「ク、あ、っは。はっはっは、僕じゃあるまいし。馬鹿じゃないの? お前」 ミトスはたまらず吹いてしまった。何を今更、こいつの我侭っぷりに驚く必要がある。 「いや、だからか。僕の一撃を真っ正面から突き破るほど、強いのは。 それほど逢いたくて――それほど、想っているのか」 ミトスはその我侭――カイルの覚悟を口に含む。 だが、それはあまりに大きすぎて、嚥下することができない。頬を目一杯膨らませて、息をすることすら叶わない。 苦しくてたまらなかった。背反する悩みを前にしては、吐き出すことも不可能だ。 「なあ」 ミトスが既に半分を地平線に隠した夕日を見ながら、言った。 「なんだよ」 「このままだと時間切れだ。お互い、それは嫌だろ」 まるで、夕方に遊んでいたこどもが暗くなって遊びを畳まなければならなくなったような未練だった。 もう、帰らなければならない。だから、最後にもう一回。 「次で、終わりにしない?」 遂に大地に降り立ったミトスは当てていた手を下ろし、アトワイトに添える。 抑え切れぬ感情をせき止めているかのように、ミトスの身体は闘気の光の点滅を繰り返している。 だが、地上から空に向かって吼える少年は、天使でも神でもなかった。 大地に生き、ささやかな理想のために世界に、運命に反抗を宣言した者。それは古の英雄の姿だった。 「…………ああ、いいよ」 休息は終わりだと、カイルは剣を構える。 激しい心臓の鼓動に対応するかのように、身体には赤い残像がちらついている。 カイルはミトスの気迫に無言で応じ、空中からミトスを見据えた。 決して見下しているのではない。相手は眼前にそびえ立つ、見上げても切れ端の見えない壁だった。 だが、それを今から越える。 越えなければ、リアラに逢うなんて――リアラの英雄になるなんて、先のまた先だ。 箒にエンジンをかけ、さらにミトスとの距離を取るべく飛び立つ。 小手先の攻撃など、もうレパートリーも体力もない。 なればこそ、終の札を今こそ切ろう。限界程度、魂爆ぜれば超えるは容易い!! 「俺の全てで、お前に挑む。勝負だ、ミトス=ユグドラシル。今度こそお前を超えて――――俺はリアラに会いに行く!!」 「お前がリアラと再会するなんて、認めない。それでも逢うと謳うなら――――越えてみせろ、カイル=デュナミスッ!」 紅の光を纏いし潜在の解放――スピリッツブラスター 白の光を纏いし稀少の邂逅――オーバーリミッツ 全力全開。決意の宣言をした今、ここから先はそれだけだ。 □ カツン。 硬質の音がひとつ、静かな空間の中で綺麗に響いた。 音源となったチェスの駒から伸びた指は、なめらかな曲線を描いている。 薄暗い部屋を照らす青白い光によって、色の白さは更に拍車をかけている。 空間に発せられた音はそれきりで、彼女も、対面する相手も、一言も声を漏らさない。 ただ指された一手をじっと見つめ、相手の意図を探り、次なる手を考えているだけだ。 その2人を見つめる、道化師がひとり。 闇を縫って現れたその道化師は、2人の目の前に現れるまで1つの気配も発していなかった。 いや、それともチェスを指す2人が思考の海に潜り続けていたせいなのか。 何にせよ、突然現れた道化師に対して、少なからず2人はさしたる興味を抱いていなかった。 白黒のボードをじっと見つめるだけで目を配べもしない。 しかし、道化師もまたそんな2人を――正式には2人の采配を――眺めているだけで、肩をすくめはしなかった。 顎を手でさすり、道化師は興味深く盤を俯瞰する。 面白い。 ただ試合を傍観するだけの存在、そのような立場の道化師から見ても、この戦いは実に面白いと感じさせた。 村の外れの次期禁止エリアで広げられる指し合いは、一手ごとにめくるめく展開を見せ、 両方とも一歩も譲らない、薄氷の上を渡るような攻防を続けていた。 内容の派手さとは逆に、許されるだけの時間をかけて考えた攻撃だ。 少しでも誤れば一気にチェックメイトまで攻め込まれる、それゆえの長考から成り立つ最善手。 実際の駒の顛末もさることながら、2人が一体どんな思考の上で動かしているのか? 一体どんな心境の上でそれを選択したのか? 道化師にとっては、それを考量するだけでも笑いを押し殺したくなる。 大胆だが、とても迂遠な探り合いなのだ。この2人の手合わせは。 2人は粘密に、神経質に、かつ相手の懐に潜り込む大胆さを兼ね備えた指し手を繰り出し合っていた。 「……クハハハ……了解です……下座からの…………決戦申請を承諾しました…………」 そして、遂に下座が仕掛けた。 さらに“炎剣”を北へ捩じ込み、最終決戦の一手が示される。 「上座……この決戦に応じるかどうか…………返答をお願いいたします…………」 タイムリミットが設定されていて駒の実力も差がある中、ここまで五分の戦いを繰り広げてきたのは下座の実力だろう。 これで僅かながら、勝利の光は見えてきた。 今までの流れで仕込んできた策の全てを用いた決戦。当然、敗れれば全てを失う。 だが、これを乗り越えることが出来たなら、一気に形勢は下座に傾く。 (もっとも、上座がこれに乗れば、という前提で、ですが…………) ふと、無音の空間で淀んだ空気が、微弱ながら流れを変えた。 次の手番であり盤上を眺めていた上座の男が、陰鬱な笑い声を上げていた。 始めは抑えられていた声も、次第に声量が大きくなっていった。 道化師も、下座の彼女も怪訝そうな目で見つめる。 剃刀の上をなぞるような指し合いに遂に気が狂ったか。 ただ、先ほどまでは静謐に包まれていた空間に響く、相手を馬鹿にする子供のような笑声は、 生気さえ感じさせなかったこの場所に初めて「生きたもの」をもたらした。 「な~るほっど。全力全開で最後の決戦、実に分かりやすい好手だね。陳腐過ぎるくらい」 まだ駒を動かしていない、長考の時間に上座が対戦相手に語りかけたのは初めてである。 下座の彼女は少しも眉を顰めることもなく、相手の言葉を聞き入れる。 「だが陳腐とは王道。使い古されるには、誰でも使えるほどに完成されていなければならない。 こっちだって『愛』っていう同じような手を指したからね。定石の効果は実に高い。 現にそちらの全力に対して、受けるか逃げるか、私が指せる手は狭まった」 盤上を見つめながら何度も首肯する男は、相手を讃えるように明るい調子で喋り、柏手を打った。 ぱん、ぱんと数回打ち鳴らした後、男は両手を付けたまま、俯かせた顔を手に近づける。 あまり特徴の無い、記憶に残らない類の本当に平凡な面構え。 だが、身体を小刻みに震わせて裂ける口元だけが鮮烈に視界を占領する。そうしたら後にせき止めるものはない。 黒くてぎらりとした、悪魔の目のようなものが口の中から姿を覗かせた。 まるで子供の嘲笑だった。 喉仏を揺らして溢れ出た声は大音量のサウンドとなって、この場には彼を除き2人しかいないのに、 世界中の人間全てに聞かせてやるかのような笑い方だった。 一人腹を抱えて大笑する姿は滑稽にも見えたが、あまりに子供じみた声は純粋ささえ感じさせる。 そう、純粋に相手を馬鹿にしているのだ。 息を切らし、腹痛を起こし、目元に涙まで浮かべて、それほどまで全力で貶している。 時間に圧されまんまと安易な手を指したと、彼は嗤っているのだ。 「おしまいだね、もう」 それが“神の一手”かと。随分とお安いベットじゃないかと。 だが、それでも対戦相手はびくともしない。 侮蔑に満ちた哄笑に顔をしかめていても、彼女の張り詰めた真摯な面差しは陰りもしない。 しばらく笑い転げていた男は、そんな彼女の様子を気にもかけず、腹の酸素が尽きてやっと嘲笑を喉笛の奥にしまい込んだ。 一息ついて、男は組んだ手を顎に近づけ、口を開けた。 両手を台座にし、目線だけを下方の盤面に配べ、彼は穏やかな笑みを唇に描いた。 ―――――――――――ええ、直に終わります。 「君の負けでね」 動じない相手を前にしても、彼はその一笑を絶やさない。置かれた黒いピースをひとつ取り、手元で弄ぶ。 「確かに、戦況は五分。どちらの子供が勝つかは、神様にだって読めはしない」 サイグローグは両者が承認した最終決戦の準備を整えながら、二人の会話を聞いていた。 そう、勝敗は読めない。だけど、それは“戦術レベル”に限った話だ。 「どちらが勝つにしろ、まずどちらも五体満足じゃ済まないし力も残ってない。 でも、そうなったらどうなるか分かってるだろう? タイムリミットに焦って決着を急ぎたいのは分かるけど、もう遅すぎる。 帰るための力も壊れて枯れて結局タイムオーバーさ」 一週間後のアサガオの観察日記を朗読するかのように、ベルセリオスは結末を指し示す。 「むしろ首が飛ばされるまでの時間が残されている分、もっと性質が悪いかもね! それでおあいこ痛み分け。ああ、夕日を見ながら『お前、なかなかやるじゃないか』『お前もな』 とか言いながら首がボンッってね。グフフフフ、想像したらお腹が痛くなってきた」 再び大声で笑い出す上座の男は、ぽんぽんと黒い駒を軽く上方へ投げては掴んでを繰り返す。 端から見れば乱暴な扱い様だが、そんなものは気にしない彼はとても楽しそうだ。 それでいて視線を盤の上に固定している。だが、今彼の目に映っているのは今この瞬間の盤面ではない。 彼が見据えているのは何手も先の未来で、錯綜している悲劇という名の喜劇。それを弄ぶ事に心を弾ませているのだろう。 「全力を出させたって別になーんにも困らない。だって“どうでもいい”んだから」 上座は弾ませた声で言い、宙に放っていた駒をぱしりと強く手中に収める。 擦り切れて、傷ついた天使の駒。だが、掌の内に消えた駒に対する尊厳はまるで見られない。 むしろ自分のものなのだから、と意のままに扱っているようにも見える。 「これはもう死駒だ。ここで捨てると決めてるこっちには何のリスクもない。 あるのはリターンだけ。賭駒<ベット>を取られるのはそっちの方だ」 そう、彼のこの余裕をもたらしているものこそが、上座と下座を分け隔てる差に他ならない。 ベルセリオスにとって負けても失うものは無く、下座の彼女は勝っても得るものが無い。 なぜなら、この局面において両者の目指す勝利条件は決して相反しないからだ。 「要するに、君は私が占有しているこの天使の駒を救いたいわけだ。 だが、その救いが“生”である必要性は無い。双剣がそうだったように、安らかなる死でもOKな訳で」 あと少し先の未来を見通すように、ベルセリオスは悪性を瞳より垂れ流した。 「だから、君はあの二人の精神を好きなだけ救うと良い。その代わり、肉体的な死は私が戴くよ」 やはりか、とサイグローグはベルセリオスの言葉に目を細めた。 ゼロサムゲーム。通常、この手合いのゲームは誰かの優位が誰かの不利に直結している。 下座は少なからず上座から優位を奪い取り、2人の少年を救えるように上座を追い詰めていたはずだった。 だが、それもそのはず。上座は、B3とは違う場所で得を得ようとしていたのだから。 「上げて落とす。定石じゃないか。炎剣が帰ってこない。それだけで、氷剣を落とすには十分なんだよ。 精神的にあの2人が救われようが救われまいが、帰りを待つ者たちには知りえない。 残された氷剣は自分の愚かさで現実に平伏するよ。そして無様に堕ちるんだ、前のゲームみたいにね。 得物は違うが、まあエターナルソードでも十分な働きは期待できる。 あとはもうなし崩し、そりゃ山積みの本を突き倒したみたいにね!!」 手のひらで相槌を打ちたくなる衝動を、サイグローグは辛うじて堪えた。 天使をこうも捨て駒にできるのは、既に次のマーダーを見つけていたからか。 凶剣が死んだ後は、もうエターナルソードほどの大剣を装備できるのは彼しかいない。 そして同時に、現行の生存者の中で奴を止められるものはもういない。 弓士ならば辛うじて渡り合えるだろうが、堕ちた旧友を相手にすることが“やりにくい”のは、当の本人がよく知っていることだろう。 なにより、絶望の種だけを仕込めるのが“おいしい”。上座の好きなタイミングで爆弾を爆発させることができるのだから。 「確かに、このB3という限定的なエリアだけで見れば非ゼロ和も成立する。 だけど、だからこそ君は私の勝利を止められない。 ゼロはマイナスよりも上だ。私は失っても良い駒を失い、君は決して多くない貴重な駒をドブに捨てる。 君の損は私の得。勝つのはこっち。どんな過程を通ろうが結局最後はこっちだけが点を取ってておしまいなんだよ」 そうして再び腹を捩らせる男は、唯一、1カ所だけ笑っていなかった。 細めた目から爬虫類のような、ぬるりと湿った瞳を覗かせる。 全身で笑いを表現して、その目だけが冷徹に相手を見下し、貫き通していた。 「結局救えないんだよ、君は――――――――チェック。この最終決戦、受けよう」 手に握っていた黒のポーンを指先に移し、上座の男はチェスを指す。 逃走も降参もない。下座の術策を馬鹿にした男が指した手は紛れもなく“戦闘続行”だ。 傍で成り行きを傍観していた道化師もゲームを止めることなく、男の行動を承認した。 道化師は手番が下座に移動したことを宣言するが、既に下座の彼女は同じエリアにある白い駒を手に取っていた。 ――――――――ベルセリオス。貴方は今、このゲームは“損得の和がゼロになる訳ではない”と、定義しましたね? さして考える時間も取らず、即座に動かそうとする彼女を、男は座視していた。 男――天才かつ狂的科学者であるベルセリオスの言葉は、別に相手の精神を砕き、ゲームから退場させることが目的ではない。 ただ相手の思考にノイズを与えるための布石の1つであり、同時に相手を単に見下げるためのものだ。 ――――――――ならば、わたくしにもまだ手はあります。 だからこそ、全く揺らがないこの女の、意志の消えていない双眸に興味を覚えているのだ。 ――――――――WIN・LOSEが絶対ではないのであれば、双方を勝ちに導くことも可能であるはず。 単なる夢想家の言動ではない。 恐れることなく、実際に手を打ってきているのは、この対局の記録でも明らかだ。 彼女はどれだけ憫笑を買われようが、決してその内なる炎を絶やしはしない。 未だに何も諦観していないのだ。 戦意を喪失しない相手方を見て、男は青筋を浮かばせるどころか、むしろ楽しげな笑顔を浮かばせていた。 「諦めないのか。まだ全員を救うことを。けれど、そっちの方がこっちも面白いからいいよ」 なぜなら男にとって彼女の指示は結局“どうでもいい”のだから、楽しまなければ損ではないか。 彼女の思いは貫徹されない。 諦めずに手を出してくるならば、男もその手に、愉快に非情に応えるだけなのである。 助けを求めて蜘蛛の糸を掴むのなら、それをちょきんと切ってやる。 邪悪な意思に見つめられた彼女は白い駒を静かに動かさんとする。 「何でも叶えられるって、そんな全能ぶった顔を叩き潰すの、すごく楽しみだ。来なよ、"時の紡ぎ手"」 静寂の中に秘められたその堅い意志は、敵手と同じく“戦闘続行”だ。 「それでは、両者合意を確認いたしました。B3最終フェイズ、下座の手番からです」 カツン、と音が鳴って、最後のラウンドの幕が切り落とされる。 最古の英雄、失ってきたその過去を守り通すために。 最後の英雄、失いきれないその未来を勝ち取るために。 鏡合わせにさえならない二人が、己の為だけに乾坤一擲を賭す。 宴もたけなわ。されど、楽しき祭囃子もやがては終わる。 これより先全ては終点へと続く。 その前に綴る最後の余興演目。 24時間前の再演。 延々と繰り返される惨“劇”の一幕。 それが、遂に終わる。 小細工は絶無。この黄昏の狭間の、一時の祭宴を愉しまれることを。 前 次
https://w.atwiki.jp/maid_kikaku/pages/406.html
(投稿者:神父) エントリヒ帝国皇室親衛隊本部の地下深くに、一部の将校のみが入る事のできる一室が存在する。 今その部屋は厳重に鍵をかけられ、室外には何も知らされていないMAIDが歩哨に立たされている。 皇帝がこの国の表向きの意思決定者であるとすれば、ここに集う人々は裏の意思決定者と言えよう。 いつの世も、国を動かす人間は政治家と軍人の二種類しか存在しないものだ。 軍事とはすなわち、洗練された政治の更なる延長である。 「さて諸君、私を呼んだからには相応の理由があるのだろうな」 会議卓の上座に陣取った男が声を発し、各々の前に一部ずつ置かれた書類を示した。 注意深く調整された照明のために彼らの手元は見えても、顔や、あるいは身につけた階級章が見える事はない。 だが、彼ら自身は誰がこの会議に参加しているのか完全に把握していた。先ほどの声に、別の男が答える。 「もちろんですよ、閣下。我々としても閣下の頭越しに戦争をするわけにはいかない」 「皇帝の頭越しにはやるのだろう?」 「陛下は……あまりに散漫すぎる。閣下が一番よくご存知なのでは?」 「ふん、私の額を見て口さがない連中が笑っているのはよく知っている。これもあの皇帝のせいだ」 エントリヒ皇帝は帝国軍最高司令官という事になっているが、将軍たちは皇帝の口出しをこの上なく嫌っていた。 戦線から遠のくと、楽観主義が現実に取って代わる。そして最高意志決定の場では、現実なるものはしばしば存在しない。 贅を極めた生活を送り毎日を好き放題に過ごす皇帝にあっては特にそうだ。 それでなくとも皇帝の性格はエキセントリックに過ぎる。 MAID開発は間違いではなかったが、しかし皇帝が推進して成功した新技術の裏には一ダースからの徒労が残されている。 物的あるいは人的資源の浪費において皇帝は飛びぬけていた。 もっとも、国民の虚栄心を満たし、人心を掴み取るという点においてはこれ以上ないほどの逸材ではあるのだが。 「それで長官、君は何をしようと言うのかね?」 「今からご説明しましょう。さて、わが国の現在の国家戦略についてですが……」 長官と呼ばれた彼の言葉と同時に、卓の中央に置かれた世界地図に照明が当てられた。 戦略規模での人間とGの戦力分布が示され、地図に引かれた線は何段階かに描き分けられている。 「黒の線が五年前、赤の線が現在の戦線ですな。見ての通り我々は彼らを押し戻しつつあるが、動きが遅すぎる。 この戦争の先行きについて国民は不安に感じ始めているし、我々の資源も枯渇しつつあります」 「知っている。皇帝が何と言おうとザハーラはこれ以上石油を出さんつもりらしい」 閣下と呼ばれた男の言葉に、周囲がざわついた。 「陸軍は機械化部隊が主力ですからなあ。正直に申し上げて、あと二年も保てばいい方です」 「ザハーラは我々の支援を何だと思っているのだ……」 「十年近くも全力操業で原油を汲み出していれば残りの埋蔵量が不安になるのだろう。 ……それに、不足しているのは石油資源だけではない」 「希少金属ですな。代替鋼でタービンを作るから稼働率が落ちると空軍総司令が嘆いていた」 「空軍は陸軍以上に困窮しているのかね?」 「SSのMAID飛行隊のおかげでどうにか命脈を保っている有様です」 SS飛行隊―――少数の空戦MAIDと飛行翼を装備したMAIDで構成される飛行隊である。 特設MAID部隊の下部組織であり、主に帝都防空を担当しているが、空軍の戦力不足を埋めるために派兵される事も少なくない。 「海軍はどうかね、元帥?」 「……」 その質問に対し、下座に近い席から暗い沈黙が返ってきた。 Gが海へまともに進出していない現状では、帝国海軍には大した仕事がない。せいぜいが輸送船団の護衛程度である。 確かに困窮する事もそうそうないのだが、国防三軍の中では立場がないという事でもある。 「……悪かった、元帥。長官、続きを頼む」 「承知しました。……さて、我々にとって、これ以上戦争を続行する事は難しい。MAIDとて万能ではありませんからな。 それに、Gが人間に化けて我々の社会に侵入しているという情報もあります。 ……いや、あるいはGに協力している人間すらいる事でしょう。恐らくは、この中にも。 内憂、外患の両面で我々が動けなくなる前に、Gを根こそぎにしなければならんわけです」 「そんな事はわかりきっている。問題はその方法だ」 「閣下、その方法があると言ったら、どうされますかな?」 上座から、微かに動揺の気配が伝わってきた。 「……長官、君は今まで私に隠し事をしていたようだな」 「ほう、閣下、今の一言でおわかりになりましたか」 「永爆か。でなければ、それに準ずるものか」 永爆という一言に、席のいくつかから息を呑む音が聞こえた。 もっとも、永核力爆弾の開発は国際協定で禁止されているのだから当然ではある。 「一応確認しておくが、皇帝はこれを知っているのか?」 「もちろんご存じないでしょうな。陛下はMAIDを単なる兵器だとは考えておられない」 「ふん、困ったものだ……まあいい。それで君らは永爆を完成させたのかね」 「完成したかどうかを確かめるために試射が必要なのですよ、閣下」 「それで?」 「国内での試射は不可能です。空輸して、ザハーラ東部国境戦線の適当な場所で行おうかと。 ザハーラ政府内部に潜り込ませた工作員が飛行場の手配を済ませております。 そこまでは結構なのですがね、問題は爆発した後です。国際世論は大騒ぎになるでしょう」 「その後始末を私にやらせようと言うのかね?」 「心苦しいのですが、その通りです、閣下。我々もできるだけ外に漏れぬよう努力はしますが」 「まったく、皇帝の後始末だけで苦労させられているというのにな。まあよかろう、戦争の早期終結に役立つのならば。 ……それに、アルトメリアやクロッセルを出し抜くいい機会でもある」 「特にアルトメリアは強硬ですからな。自由と民主と正義を標榜するのは結構だが、押し付けられるのはありがたくない。 この戦争が終わった後に彼らとやり合うのは、正直なところぞっとしませんな」 「アルトメリアの国力は尋常ではない。MAID戦力だけで言えばまだ我々に分があるかも知れんが」 「その上、対G戦争が長期戦になればなるほどその後の戦争では彼らが有利になるでしょう。 そのためにも、我々はできうる限り早期に戦争の決着をつけねばならない。そのための永爆です」 「よろしい。皇帝には一部の愛国者が先走った結果とでも言えばよかろう……自身の熱烈な信奉者相手に厳罰は下せまい。 無論、私からも口添えをする。安心して事に当たりたまえ」 「ありがとうございます、閣下。……ああ、どうしたのかね、技術大尉?」 末席からの身振りに気付いた長官が技術大尉の発言を促した。 「長官、空輸についてはどうなさるおつもりで? Si387は確かにファルマン半島まで無給油で着陸できましょうが、我が軍にそれに追随できる直掩機は存在しない。 さりとて給油のために他国の飛行場を借りようものならば、たちどころに我々の企みは暴露されるでしょう」 「SS飛行隊から何名か引き抜けばよい。MAIDならば一昼夜でも飛び続けられるからな」 「飛行隊員は通常のMAIDです。彼女らを永爆の護衛につけるのは得策ではないでしょう」 「ふむ……その口ぶりからすると何かいい案があるようだな、大尉?」 「その通りです。護衛に相応しいMAIDが一名おります……そう、そのつもりになれば永爆に転用する事も可能なMAIDが」 「ほう、瘴炉搭載型か。名前は?」 技術大尉―――ブルクハルト・マイネッケは暗闇の中で笑みを浮かべた。 「―――サバテ」 冥途回廊 BACK NEXT
https://w.atwiki.jp/kairi_asa/pages/60.html
20村 Schwarzes・Meteor #ref error :画像URLまたは、画像ファイル名を指定してください。 研究生 エーリッヒ (人狼) 「…必至に足掻いて。見つけて。 ――求めた物を掴んだ先に、この道しか残されてないのなら、 他に、どの道を選べって言うんだ!」 ■名前:Erich=Heisenberg エーリッヒ=ハイゼンベルク ■年齢:19歳 ■通り名:- (データ未登録) ■武装:投げナイフ5本をベースとした遠距離攻撃、防衛専用で組立式三節棍 ■特殊能力:鈴の音を鍵にした、金属物質の操作能力 ■その他情報:ここ近年内様々な組織争いの場に、時折顔が見られるようになった人物。 まだまだ公に顔が通っている訳では無く、通り名などは未確認。 「漆黒流星」に属し上座へと上り詰めたい義父の指示の元、代理として遊戯に際する参加を命じられた。実際に義父が遊戯に参加すべき理由となったのは、遊戯を盛り上げる為か、失敗を贖う為かは不明。 何処か達観した思考の持ち主。己も含め、人を駒としか思っていない節がある。 音を媒介とした物質操作系能力者。 組紐に連なる鈴を鳴らし、投げナイフを同時に遠隔操作する攻撃が主体。 連結式三節棍も持ち歩いているが、そちらは攻撃よりも防衛主体で使用される。 義父の妻である女が、夜遊びに偶然一晩共にした、何処とも知れない男との間に出来た子供。 自分とは似つかない金髪と翡翠の瞳に義父は見向きもせず、また母親は再び夜遊びに走り、 愛情を与えられた事は一度として無かった。 しかし異能の力を持ち合わせていると判った途端、義父は態度を急変させ、エーリッヒを自らの元で働かせ始める。実際のところ、義父自身は組織的にも人間的にも、大した能力を持ち合わせておらず、現在の地位もエーリッヒを利用して獲た手柄を全て自分のものにしただけの、威を狩る狐。 その事を承知しつつもこの道を選んでいるのは、自らの意思だと思い込もうとしている節がエーリッヒ自身にはあるが、プライドや立場的なものではなく、見捨てられるという恐怖心から。 負けられないという気負いも同様の理由。 自らの感情に見て見ぬ振りをして、親に求められたいが為だけにこの状況を受け入れている。 ユリアンとはご近所付き合い。親とは暮らしていないので、恐らく一人暮らし先の近所。 友人云々の会話をしていたときに、「一応、友人をやっている」と称したのは エーリッヒ自身は、あくまで友人としての演技で付き合っていると思っていた為。 「変なところで控えめだな」との言葉に、エーリッヒは首を傾げていたものの 実際には友人として付き合っていた部分もあっただろうし、利用しようとしている事に 無意識に負い目を感じて出た言葉だと思われる。 最終戦闘では負けたものの、勝っていたらいたで、恐らく使い物にならなくなるまで、 ずっと義父のペット状態だったと思われるので離別の切欠として考えると、結果オーライ。 ユリアンに拾われた後は、恐らく義父をの関係を切って、漆黒流星から抜けるのかと。 何だかんだで今までで一番平和に過ごせる気がします。 編集中 戻る Powerd by ツカエルサイト
https://w.atwiki.jp/sengokujidai/pages/7.html
泳げよ宇喜多秀家 1 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2006/08/04(金) 22 26 44 ID ABoTNshR 八丈島から秀家が泳いで大坂城に入ったら 大坂の陣は大坂方が勝っていた 根性が足りん という無茶なことを言い出す1から全ては始まった・・ 慶長14年、関ヶ原の勝者家康は天下統一の仕上げとして豊臣に戦を仕掛ける 太閤秀吉がその力を全て込めた居城大坂城 そこにはかっての栄光を取り戻すため、豊臣のため多くの浪人、武将が集まっていた かっては土佐22万石の主 長曾我部盛親 秀忠3万を足止めした昌幸の子 [[真田信繁]] 宇喜多家57万石の筆頭家老であった 明石全登 黒田家では1万6千石を拝領した男 後藤基次 豊臣へ為、1千石をなげうち馳せんじた 毛利勝永 豊臣家臣筆頭大野治長の弟 大野治房 秀頼の乳兄弟、弱冠22の美男子 木村重成 かれら七将の他、薄田兼相、塙直之等の歴戦の強者達 しかし、大坂城の最高権力者は秀頼の母淀とその取り巻き達であり、 七将らの発言力は弱かった 又、この七将達も思惑はそれぞれ。 真に豊臣の為に戦うは毛利、木村、大野くらいか… その時、浪人で溢れかえる大坂城の人だかりを掻き分けて 本丸に向かう男が一人 全身に水を滴らせ、息も絶え絶えだが、 眼光鋭く人々は気押され、彼のために自然と道が出来ていた しかし、一介の城兵を城内に入れるわけにはいかぬと彼を遮る門番。 しかし、そのずぶ濡れの男は一喝した その頃、殿中では真田、後藤らの野戦出兵策は退けられ、 籠城と戦いの方針は決まっていた 「真田殿、後藤殿の策を取れば勝てようものを……」 歴戦の武将達はこの大坂城の首脳陣を嘆くと共に、彼等を押さえ、 七将すら束ねる強い指導力と実績を持つ男が居れば…と思わずにはいられない 初めはそれを、秀吉の遺児、秀頼に期待したものだが、 もはや望むべくもない…そんな時だった ――バタン!! ふすまを開き、ずんずんと上座に進む男。 それはさっき、大坂城に現れたずぶ濡れの男だった 「何者ぞ!!」 叫んだのは若き秀頼の忠臣、木村重成 しかし、彼の後ろの淀殿や治長、 いや、彼らだけでなく後藤や真田ですらその顔に驚きを浮かべ、 ただ呆然とその闖入者の顔を見ていた 「殿……」 明石全登がようやくといった感じで放った言葉に、 重成を初め、その場に居た武将達は皆、驚きの声をあげた 「宇喜多備前中納言八郎秀家、豊臣家の御危機を聞き、八丈島より 泳 い で 参 っ た !!!」 秀吉に実の子、いやそれ以上の愛情を受け育ち、 豊臣政権の五大老であっ た男が再び豊臣の為に戦うため帰った来た… 泳 げ よ 宇 喜 多 秀 家 http //hobby9.2ch.net/test/read.cgi/sengoku/1154698004/ 当然関連スレが乱立した もし関ヶ原の西軍の大将が宇喜多秀家だったら? http //hobby9.2ch.net/test/read.cgi/sengoku/1162194325/ 大阪の陣に宇喜多秀家が参加してたなら? http //hobby9.2ch.net/test/read.cgi/sengoku/1162480852/