約 2,051,507 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2335.html
「でも、いちおう忠告しておくわよ」 ゴーレムに体を開放されたマリコルヌが駆け足で戻ってくるのを確認して、モンモランシーは言い含めるように言葉を紡ぐと、ちらり、とマリコルヌに圧し折られそうだった足を押さえてヒイヒイ言っているギーシュを一瞥して強く言い放った。 「自分の身は自分で守ること。そっちのシエスタってメイドと違って、あんたを助けてくれるやつなんてここには居ないわよ?危なそうならすぐに逃げる。それを約束できるなら、連れて行ってあげるわ」 シエスタと同じく、マリコルヌの身の危険もあるが、もうモンモランシーは心配するのも馬鹿馬鹿しくなってきていた。 それに、マリコルヌは仮にもメイジだ。授業で戦いに用いる魔法は習得させられているはずだし、外見に似合わず逃げ足は速いという噂もある。魔物に襲われる心配はきにするほどではないだろう。むしろ、変態であることに気をつけたほうがいいくらいだ。 「約束する!約束するとも!はははっ!やった!僕はやったぞ!家族以外の女性とお出かけなんて初めてだ!生まれてきて良かったあぁー!」 両腕を振り上げ、全身で喜びを表現する自称ぽっちゃりさんに生暖かい視線を投げかけ、モンモランシーは心のどこかで、やっぱり止めときゃよかったかな、と呟いた。 それも、もう今更だ。考え直して、やっぱり連れて行かない、なんて言えば、ギーシュの代わりにマリコルヌの異常で執拗な攻めを自分が受けることになる。それだけは、勘弁願いたい。 「とりあえず、これでメンバーは全員かしらね」 「集合地点でしかなかったのに、なんでこんなに時間がかかるのよ。出発前から疲れちゃったわ……」 メンバー全員を見回して呟いたキュルケに、ぐったりした様子でモンモランシーは呟き、その肩に手を乗せる。苦笑したキュルケは、そんなモンモランシーの背中を、ぽん、と軽く叩くと、先導するように学院の出入り口である門を一足先に越えた。 「さー、行くわよ、みんな!まずは東に向かって、呪いの仮面を手に入れるわよ!」 腕を振り上げてやる気を見せるキュルケの背中を追って、才人たちは足進める。 いきなり不吉そうな物の名前が出てきたことに若干のしり込みはあったが、どうせ噂話を追い求めるくだらない旅だ。こちらの方が盛り上がるだろうと、才人やマリコルヌは意気揚々と出発を始めていた。どこからとも無くギーシュやキュルケの使い魔も姿を現し、鳴き声を上げて行進する様子が見える。 突然顔色を悪くしたタバサを、空から舞い降りたシルフィードがマントを口に咥えて飛び上がり、それを追って、マリコルヌの使い魔である白いクヴァーシルという鳥が舞い上がった。 「元気なものねえ」 こういうイベントにはあまり縁が無い、所謂生真面目なタイプであるモンモランシーは、悪戯グループの異様な体力を前に、早速着いていけないような気分になりつつある。 はあ、と今日何度目かの溜め息を吐き、着いて行かなければと足を動かしたところで、ふと、地面で悶えていたはずのギーシュの姿が無いことに気が付いた。 趣味の悪いシャツや無駄に派手な造花の薔薇は目立つ。見失うはずが無いと、視線を彷徨わせるモンモランシーは、晴れた空に唐突に影が降りたことで、視線を上に持ち上げた。 身長の高さから見上げる位置にあるギーシュの横顔。それが、なんとも情けない笑顔を浮かべてこちらを見ている。そこにあるのは、バカがいつものように格好をつけているときの目だ。 ただ、ほんのちょっとだけ、真剣な色がそこにはあった。 手が一回り大きな手に包まれて、引っ張られる。ギーシュが、モンモランシーの手を握って早足で歩いていた。 一体どうしたのかと尋ねるべく、モンモランシーは口を開く。 だが、それよりも一瞬早く振り返ったギーシュは、モンモランシーの顔を見つめた後、いつも通りに造花の薔薇を構えて、なんと無しに言った。 モンモランシーは僕が守るよ、と。 耳元で囁くわけでもなく、ムードのある雰囲気で語るわけでもなく、才人の言葉に触発されて言いたくなっただけの言葉だろう。 「ハア?なに言ってるのよ、アンタ」 「いやあ、こういう台詞、一度言ってみたかったんだよ」 そう言って、いつものように軽く笑うギーシュに、やっぱり、と心の中で言葉を溢して、モンモランシーは頬を膨らませる。 こういう台詞は、もうちょっと雰囲気のあるところで言うべきだろう。そうすれば、もっと効果があるはずだ。 言うタイミングを間違えてるわよ、このバカ。 そう言おうとして、手に感じる温もりに口を閉ざす。 普通なら間違いなく言うタイミングを間違えているが、どうやら、自分は例外だったらしい。 なんでこんな馬鹿に惚れちゃったのか。 自分で自分を情けなく思いつつも、なんだかドキドキする胸の鼓動が嬉しくなって、モンモランシーは繋いだ手に力を込めて早足のギーシュを追いかけるように小走りになる。 いつの間にかキュルケを追い越して、二人が先頭に歩く格好になったところで、金髪の少女はちょっとだけ金髪の少年に体を寄せて呟いた。 バカ。 聞こえているかどうかは知らないが、どっちでもいいだろう。どうせ、いつも言っている言葉だ。 ただ、そこに乗せた意味が聞こえてなければいい。 聞こえていたのなら聞こえていたで、それでもいいかと思って、モンモランシーは笑う。 意外と楽しい旅になるかもしれない。そんな予感と共に。 黒い帽子を飾るリボンが風に揺れ、それに合わせるようにドレスのフリルもふわふわ揺れる。 高い場所を飛んでいるからだろう。暑いはずの夏場でも肌を冷やすのには十分過ぎる風が絶え間なく吹き続け、ちょっとした身震いを呼び起こす。 トリスタニアを昼頃に出発したエルザたちは、現在、出発点と目的地を繋ぐ街道の上を風竜に乗って移動中である。一番先頭に竜を操るカステルモールが、その後ろにジェシカやエルザが続く形で騎乗している。 本来なら朝方に出発し、昼前にトリステイン魔法学院に到着することで用事を済ませ、そのままタルブの村に帰還する予定だった。だが、ホル・ホースが昼間で寝ていたことや、朝からエルザが出かけたことに加え、想像以上に前日に地下水がやった無茶がカステルモールの体を痛めつけており、全ての準備が整うまでに時間がかかったのである。 訪ね先にあらかじめ連絡がしてあるわけでもないので別に急ぐ必要も無いのだが、地下水がせっせと急かすためにやむを得ず忙しない行動をしているのだ。 とはいえ、世の中の人から見れば、十分にのんびりとしているのだろうが。 風竜の背中で風に吹かれること二十分。そろそろ、魔法学院の姿が青く染まる空気の向こうに浮かび上がってくる。ゆっくりと飛んでいても、馬による移動時間の半分もかからないのだから、竜というものは便利なものだ。 少しずつ近づいてくる学院の姿にカステルモールが、経験から推測したおおよその到着時間を知らせる。 後十分前後。目に見える距離に収めれば、到着は早いらしい。 そろそろ到着か。と、短い空の旅に感慨も沸かなかったエルザは、その場で振り向いて後ろに居るはずのホル・ホースに視線を向けた。 「……よく眠るわねえ」 先ほどまで起きていたはずなのに、ホル・ホースはいつの間にか寝息を立てていた。 かくん、かくん、と頭が上下に揺れているのに、体だけは妙に安定している。馬に乗ることが得意だというから、馬の上でも居眠りできる訓練でも積んでいるのかもしれない。 ふむ、と言葉にならない声を漏らしたエルザは、体ごと振り返ってホル・ホースに対面するように座ると、目の前にある間抜けな寝顔を見上げて首を傾けた。 身長に差があり過ぎるために、ホル・ホースの首が下を向いてもエルザの頭に当たることは無い。かくん、と落ちた頭の位置にエルザが手を伸ばすことで、やっと指先が届くか届かないかといったところだ。 そのことを実践して確かめたエルザは、普段ホル・ホースの腕に抱えられている状態が一番顔が近かったのだと改めて思い、なんとなく寂しくなった。 自分の身長はこんなにも小さいのに、相手の体はこんなにも大きい。なのに、この差が埋まるのは百年近くも先のことだ。 その頃には、この指先に触れる暖かさは冷たく変わっているだろう。 残酷な現実に、エルザは目の前にある大きな胸の中にそっと身を寄せる。 種族の違いは思いの他大きくて、乗り越えようにも乗り越えられないものらしい。なら、今だけは、こうしていられる間だけは、ちょっとくらい甘えてもいいはずだ。 自分は子供で、相手は大人。心の形はそうではなくても、見た目の関係だけなら何とかなる。 それは望んだ関係ではないけれど、きっと最大の妥協点だ。 これでいい。これで。 悲しそうに眉の形を歪めて、エルザは膝立ちになって背伸びをする。 伸ばした手が、ホル・ホースの頬を挟み込む。 精一杯我慢するのだから、このくらいの役得はあってもいいだろう。 乾いた唇に自分の唇を重ねようと、残ったほんのちょっとの距離を詰めて目を閉じる。 互いの呼吸が肌を撫でて、少しだけくすぐったかった。 暖かい感覚が、唇に触れる。いや、触れる前に、すっと遠ざかった。 「……?」 膝立ちの足を伸ばして、足の裏を風竜の鱗に触れさせる。 今の体勢では、目的の場所まで届かなかったようだ。引き寄せたはずの手は遠退いて、いつの間にか肘が伸びている。 接触する少し前に閉じた目を開けてみれば、何のことは無い。相手がちょっと遠ざかっていただけだ。 居眠り中だったのだから、頭が動くのは仕方が無い。もうちょっと背を伸ばせば、今度こそ届くだろう。 心持ち唇を伸ばして更に前に進む。 だが、やっぱり唇はもう一つの唇に辿り着かなかった。 「……あ、あれ?ちょ、ちょっと!」 こっちは近づいているというのに、向こうは更に遠くなっている。 なんで逃げるのか。 そんな疑問を抱くエルザだったが、理由なんて考えなくても分かっていた。ちょっと真実から目を逸らしていただけだ。 唇に固定されていた視線を僅かに上に向けてみれば、そこにはちゃんと疑問の答えが用意されている。青く染まった顔に、怯えたような目をした真実が。 何時の間に目を覚ましたのか、近づくエルザからホル・ホースが背中を反らして逃げていたのだ。 「……お、おいおいおい、おっかねえなあ。とうとう寝込みを襲うようになったのかよ、この変態幼女は。犯罪者になる気はねえって言ってるのに、あくまでもオレをペド野郎に仕立て上げたいわけか。か、勘弁して欲しいぜ……、ヒ、ヒヒヒ、ひぃ」 馴染みの引き攣った笑いも、いつものような切れが無い。無防備なところを襲われたのが相当にショックだったようだ。 ずりずりと腰を滑らせて後退するホル・ホースの目に映るエルザの姿は、飢えたケダモノに他ならない。涎を垂らし、後一歩のところで獲物を捕らえることが出来たはずなのにと、悔しげに獲物を睨む猛獣の幻像が重なっているのだ。 「あ、え、いや、ちょっと……、違うのよ?これは、その……」 弁解する言葉も見つからず、もごもごと口を動かすエルザに、ホル・ホースは更に後退すると、帽子で顔を隠して視線を逸らす。言い訳を聞く気もないらしい。 その態度にカチンときたのか、戸惑っていたエルザの態度が急変し、のんびりと空の旅を楽しんでいたジェシカや地下水が驚くような怒声を上げた。 「な、なな、なによ、その態度!こんなに可愛い女の子が迫ってるんだから、嬉しそうな顔をするのが普通でしょ!?なのに、怯えるって何よ?受け流しなさいよ!素直にキスされて、唇を離したところで余裕の笑みの一つも浮かべればいいじゃない!どうしてそんな本気で怯える必要があるわけ!?ちょっとは受け入れてよ!!」 心の叫びが口から飛び出し、空回りする気持ちをぶつけてやろうとホル・ホースを攻め立てる。キスを拒まれた乙女の心は、深く入った亀裂によって張り裂ける寸前だ。 純情な気持ちを踏み躙られたと悲鳴を上げれば、流石にホル・ホースといえども逃げ続けることは出来なくなる。女の涙は男の退路を断つ最強の武器。抵抗の術は無い。 ポロリと落ちた滴に、ホル・ホースもエルザに目を向けた。 「女のアプローチを受け止めるのも男の甲斐性でしょ!?いいじゃない、減るもんじゃないんだから!全然相手してくれないから、夜も寝るのが大変なのよ!?分かる?体力ばっかり有り余って発散する機会が無いのって地獄なのよ?鼻先に感じる男の匂いに身悶えするしかないわたしの気持ちを察してよ!端的に言えば、襲わせろー!」 高く上げた両手を鉤爪状に曲げて目を光らせたエルザが、荒い息を吐いてホル・ホースに詰め寄る。先程落ちた落ちた滴も涎だ。まさにケダモノ。まさに変態。 純な乙女の気持ちを吐いていれば別の結果を導き出せた筈なのに、こういう場面で欲望に塗れた本音が出てくるところがエルザのダメなところだった。 「じょ、冗談じゃねえぞテメー!本気でオレを性犯罪者にする気か!?」 爛々と目を輝かせて荒い息と共ににじり寄って来るエルザから逃れようと、ホル・ホースは徐々に風竜の尻尾の方へ移動する。足場は既に座れるほどの幅が無いため、鱗に捕まっている状態だ。 「性犯罪者どころか、二度と帰って来れないマニアな道に引きずり込んでやるわよ!めくるめく禁断の愛の情動に、いろんな意味で足腰立たなくしてあげるわ!!」 きっと、エルザの脳内ではアレやコレなどのネチョッとした粘膜のすり合わせが行われているのだろう。血走った目には理性の光は無く、ただ肉欲だけが渦巻いている。 素手による肉弾戦は、体の大きさに違いがあるとはいえ、ほぼ同等。ホル・ホースのスタンドであるエンペラーの汎用性の無さを考えれば、先住の魔法が使えるエルザが有利だろう。 取っ組み合いになれば、そのまま夜のプロレス講座に持っていかれる。 それだけはなんとしても避けなければと、ホル・ホースは更に後退して風竜の尻尾の先端を目指す。現状において、もはや、逃げ場所はそこしかないのだ。 「ま、待て!話し合おうぜ!な?一方的な愛情ってのは、お互いに不幸になるだけだ。こういうことは、もうちょっとお互いを知ってからだな……」 「年頃の初心な少女みたいなこと言ってないで、大人しくわたしのものになりなさい!心配しなくても、ちょっと下半身がイケナイことになるだけだから!大丈夫!!」 一体何が大丈夫なのか。尻尾にしがみ付いて少しずつ先端へ向かうホル・ホースを追うエルザは、口持ちに手を添えて艶かしく笑い、丸い尻尾の上を軽い足取りで歩く。 風竜の尻尾は、飛行姿勢を安定させるために常時動いている。だが、そんな場所でも危なげなく歩くエルザの足は、確実にホル・ホースとの距離を詰め、眼前に迫ろうとしていた。 もう少しで、あの小さくも禍々しい手が届く。 もはや退路の無いホル・ホースは、なおも逃げようと尻尾の先端へと這い進み、もはや片手で掴める程度しかない太さの部分にぶら下がった。 「さて、そこからどうするのかしら。逃げ場所は、もうどこにも無いわよ?」 先住の魔法を使い、風を味方につけたエルザがゆっくりと尻尾の上を歩いてホル・ホースに近寄る。自分の腕の太さほども無い場所でも、バランスを崩す気配は無かった。 「て、テメェ、今回はホントにキレてやがるな……」 「そうねえ、自分でもちょっとやり過ぎかな、って思うのよ?でも、体の熱さがどうしても抜けないの。最低でも一度は発散しないと、流石に止まりそうにない気がするわ」 しゅる、と衣擦れの音を響かせて、ドレスの胸元を飾るリボンを解く。その下からドレスを体に縛っている編み上げられた紐が露出すると、エルザはそれにも指をかけて解き始めた。 太陽の光を浴びていない、白い肌が少しずつ露出していく。 幼い少女を思わせる衣装の中から、火照った肌があらわになっていく姿は、その手の趣味の人間にはたまらない光景かもしれない。だが、ホル・ホースにその趣味はないし、尻尾の先を掴む手が痺れてきていて、エルザを見ている余裕もなくなってきていた。 このままでは、握力が無くなって地面に落ちてしまう。 しかし、エルザは焦った様子も無く、緩めた胸元をそのままに怪しく微笑んだ。 「あら、落ちるのかしら?それもいいわねぇ。空を飛びながら激しく交じり合うのも、意外と良い思い出になるかもしれないわ」 魔法を使えば、高さなんて関係ない。いや、むしろ完全にホル・ホースの行動を支配化におけるだけ有利とさえいえるだろう。 怪しく輝くエルザの目は、ホル・ホースに落ちろと念じているかのようだった。 「チッ!この状態はなんともなんねえか……」 進むことも退くことも封じられ、待っていても相手から来てしまう。 チェスで言うならチェックメイトだ。敗者は大人しく、勝者の言い分に従うしかない。 「んふふふふふふふ……、ああ、なんか幸せな気分になってきたわ……、人生の絶頂ってこういうものなのかもしれない……、あは、あはは、あははははははははははッ!!」 サディスティックなエルザの本性に、ホル・ホースは頬を引き攣らせ、背筋を凍らせる。 狂ってる。 その一言に全ての意味を乗せて呟くと、僅かに残る希望に期待を寄せて、ホル・ホースは痺れる手から力を抜いた。 一瞬の落下の後、浮き上がった体が重力を見失う。 これが、落下の感覚なのか。 そう思ったホル・ホースは、すぐにそれが違うものだと判断した。 風に体が持ち上げられたのは確かだ。だが、自然の風ではない。ホル・ホースが手を放した瞬間にエルザが生み出した、精霊の風によって浮いているのだ。 ニヤリと口元に笑みを浮かべたエルザは、自らにかけられた風の魔法がホル・ホースに移されたことでバランスをとり続けられないことさえ好都合と、スカートの端を摘んで尻尾の上から飛び降りようとする。空中に滞空するホル・ホースの上に降りるつもりらしい。涎をじゅるりと飲み込む姿は、変態以外の何者でもない。 だが、それを簡単に許すホル・ホースでもなかった。 「調子の悪いオレのエンペラーなら、こういうことも出来るんだぜ?」 突き出した右手が、通常の人間には見えない特異な力によって生み出された銃を握る。 間髪入れずに人差し指が引き金を引き、銃口から飛び出したどこか弱弱しい弾丸がエルザ目掛けて放たれた。 「きゃあっ!?」 額に激突した弾丸にエルザが悲鳴を上げる。 額の一点がじわりと赤く染まり、そこから潰れたエンペラーの弾丸がポロリと落ちた。 少女の柔肌を貫くことすら出来ないスタンドは、殺すことは出来なくとも、エルザの集中を乱すことくらいは可能。ホル・ホースの目的は、エルザの魔法を解くことにあった。 「悪いな、エルザ。オレは、ガキに好きなようにされるくらいなら、死を選ぶ。そういう男なんだ」 魔法の効果が途切れ、浮いていたホル・ホースの体が再び自由落下を始める。 その一方で、不意の攻撃にバランスを崩したエルザの体が、風竜の尻尾の先端から滑り落ち てしまう。痛みに額を押さえていた手は、動きが出遅れて尻尾を掴むことが出来なかった。 もう一度、魔法を。 そう思ったが、一度にかけられる魔法は一人だけだ。風の魔法で浮いていたホル・ホースの上に飛び乗れば落ちることは無かったが、今は違う。 落下するホル・ホースか、自分か。救えるのは一人だけ。 究極の選択だ。だが、悩んでいる時間は無い。 悩む気も、エルザには無かった。 自分を拒んだ男を瞳に映して、エルザは悲しげに笑った。 「何を遊んでいるんだ、お前らは」 草原に尻餅をついたホル・ホースとその隣に両足で着地したエルザに、風竜の背中から降りようとしているジェシカに地上から手を貸していたカステルモールが、呆れた表情を浮かべて問いかけた。 足元に広がる芝生はトリステイン魔法学院の中庭のものだ。しっかりと手入れがされ、実にふみ心地の良いものに仕上がっている。 ホル・ホースたちは、既にトリステイン魔法学院に到着していたのだ。落下がどうとか言う以前に、そもそも地面はすぐそこにあった。つまりはそういうことである。 立ち上がったホル・ホースはひょいとエルザを持ち上げて、いつものように片手で胸の高さまで抱き上げると、互いに顔を見合わせてヒヒと笑う。 悪戯が成功して喜ぶ子供のような笑みだった。 「移動中ってやつは退屈だからよ。まあ、いいじゃねえか。ただの冗談なんだし」 「わたしは半分くらい本気だったけどね。激しく責めるのも悪くないかも、なんて。いやん」 ポッと赤く染まった頬に手を当てて体ごと首を振るエルザに、ちょっとだけホル・ホースの顔色が悪くなる。今まではあまり気にしていなかったが、うっかりしていると、本当に眠っている間に性的な意味で食べられる可能性があることに、今頃気が付いたのだ。 じとっとした湿気の強い視線をエルザに向けてみると、視線を反らしてワザとらしく口笛などを吹き始める。 この幼女、ヤる気満々だ。 危険物を排除すべくエルザを放り出したホル・ホースが、謝りながら追いかけてくるエルザと鬼ごっこを始めたのを横目に、カステルモールはジェシカと共に学院の中央に聳え立つ塔を眺めた。 白亜というには古臭い、高く聳える塔。巨大ではあるが、魔法だけでなく、建造物においても一歩先を行くガリアの出身であるカステルモールにしてみれば、驚くには値しない建物だ。 「ここが、シャルロット様の学び舎……か」 己の主を思い、しみじみと呟く。 思えば、こうして奇妙な連中の下らない提案に乗ったのは、この場所に来る理由を作るためだったのかもしれない。周辺の安全を確認するためにも、本来ならもっと早くこの場所に訪れて情報を集めたかったのだが、シャルロット本人がそれを拒んでいたために、今の今まで実現しなかったのだ。 今回は無理矢理な来訪だが、気に入っているらしい変人達に無理矢理連れて来られたと言い訳すれば、責められはしないだろう。 これも全て主を思うための行動だと、カステルモールは青い髪の少女とその父親への忠誠に酔っ払いながら心の中で呟いた。 「で、姉ちゃんよ。ここに用があるんじゃなかったのか?」 品の無い言葉がジェシカの口から飛び出す。それに驚いたのは、隣に居たカステルモールよりも、むしろ、言った本人だっただろう。 口を押さえて、なんでこんなことを言ったのかと戸惑ったジェシカは、ふと腰に下げた背の低い刃物のことを思い出して、怒ったように眉の形を変形させた。 「地下水!あんた、出発する前に人の体を勝手に使わないでって言ったでしょ!?」 「おおう、すまねえ。どうも癖でな。人の体に接していると、どうしても操りたくなるんだ」 万が一風竜から体を滑らせて落っこちてしまったときのために持っていたのだが、時折こうして嫌がらせ紛いのことをする。本人に悪気はないらしいのだが、その癖が厄介過ぎるために笑って許すことも出来ない。 まったく、と胸を持ち上げるように腕を組んだジェシカは、気を落ち着かせて先ほどの地下水の質問の返事をした。 「確かに、ここに用事はあるよ。でもね……」 言葉を止めて、どこまでも真っ青な空に視線を向けると、遠い目で呟いた。 「竜ってのがこんなに早く移動できるものだと思わなくてさ。トリスタニアで時間を潰したのに、予定より三日も早く到着しちゃったんだよねえ」 つまり、用事を済ませるには早く来過ぎたということだ。 「だったら、トリスタニアでゆっくりしていれば良かったんじゃないか!」 「そうは言うけどさ、この地下水が急げ急げって煩くて、言う暇が無かったんだよ」 「え、マジで?俺のせい?」 昨夜の騒動で筋肉痛の取れていないカステルモールが責めるように言うと、その責任をジェシカは無機物に反らし、地下水が呆然と呟く。 このまま責任を被ってもいいが、急いだ理由を聞かれると困る地下水は、更なる責任の所在を探して意識をあちこちに視線を向ける。視線を向ける、とはいっても、目が無いために実際にどうやって認識しているのかは永遠の謎だ。 探しているにしては具体的な目標を見定めている地下水が、追いかけっこをしている変人二人を槍玉に挙げてやろうと周囲を探っていると、その途中で懐かしい気配を感じてカタカタと金属音を鳴らした。 突然に中庭に降り立った竜を見るためにいつの間にか集まった無数の学生達の間から、緑色の髪を纏めた妙齢の美女が足音を鳴らして近づいてくる。 緑の髪で地下水の知り合いといえば、一人しか居ない。フーケことマチルダだ。 「あなた達、こんなところで何をしているのですか!」 妙に似合う伊達眼鏡を軽く持ち上げ、杖を振るって強く言い放つ姿は女教師という風貌らしさが出ていて実に似合う。口調が若干丁寧なのは、生徒達の目があるために演技を継続しているからだろう。 適度に距離を詰めて話し声が他の人間に聞こえない位置に立つと、ふっと雰囲気が一変して粗野な印象が強まった。 こっちこそ、フーケの本来の雰囲気だ。 「えっと、あんた確か、タルブ村に居たガリアの騎士だね?元、が付くけど。地下水はどうでもいいとして……、そっちのお嬢ちゃんは初めてか」 「俺の扱いがヒデェな」 小さく文句を垂れる地下水を無視して、マチルダはジェシカに手を差し伸べる。 「隠しても、どうせ口の軽いヤツラが喋っちまうだろうから先に教えておくよ。あたしはロングビル。学院長付きの秘書……、というか、学院長の代行をやってる。ま、その名前は実は偽名で、本当はマチルダって言うんだ。好きに呼べって言いたいところだけど、一応正体を隠してるから、出来ればロングビルの名前を使っておくれ」 「じぇ、ジェシカです。ええっと、その、本日はお日柄も良く、御目出度い席にお呼びいただき蟻が、ありが、アリ?」 差し出された手を取り握手をしたジェシカが、なぜか慌てた様子で奇妙なことを口走る。 どうやら、マチルダの肩書きの学院長代行という部分にビビッたらしい。そこらの貴族相手では物怖じしないジェシカも、従兄弟の勤める職場のトップ同様の相手ではいつもの調子が保てないようだ。 平民相手にそういう態度をとられた事のあるカステルモールは、すぐにジェシカの様子が変化した原因に気付いたが、あまり馴染みの無い地下水やマチルダは首を傾けて頭上に疑問符を浮かべていた。 ぷ、と誰かが噴出したことで、緊張が緩んだ。 「あっははははは!なんか、変なお嬢ちゃんだね。まあ、普通の子みたいだし、歓迎くらいはしてあげるよ。と言っても、さっきも聞いたように、ここに来た理由を教えてもらってからだけどね」 学院内に不審者を入れるわけにはいかない。そういう後で面倒になる部分はきちんと聞いておくつもりのようだ。 しかし、唐突な訪問でも怒らないというのは、実に珍しい。 マチルダは絶対に厄介事を嫌うタイプだと思っていた地下水としては、なんだか不気味で仕方がなかった。 「フーケの姐さん、いったいどうしたんだ?なんか、いつもと調子が違うじゃねえか」 「ふ、あたしは生まれ変わったのさ。あのクソッたれの大小コンビが運んでくる面倒ごとに比べれは、日常に存在するあらゆる出来事は取るに足りないことだって理解したんだよ。どうでもいいことで怒っていても仕方が無い。適度に受け入れて、笑っていたほうが幸せに慣れるんだってね」 かなり老け込んだ人間の考え方である。 外面では分からなかったが、大小コンビことホル・ホースとエルザの二人組みに関わっている間、密かにストレスを溜めていたらしい。うっかり悟りを開いてしまうほどに。 これからは、もうちょっと優しく接してやろう。 そう思った地下水だったが、さっそく優しくない報告をしなければならないことを思い出す。 マチルダは気付いていないようだが、ここに来たのはカステルモールや地下水、ジェシカだけではないのだ。 だが、ジェシカたちを客間に案内しようと動き出したマチルダにどう切り出したものかと地下水が迷っている間に、騒動の火種は向こうからやってきた。 どこまで走り回っていたのか。中央に聳える塔と周囲を囲む五つの塔を結ぶ渡り廊下の向こうに姿を消していたホル・ホースとエルザが、何かを手にして姿を現した。 「小汚ないテントの中漁ったら、なにか変なもの拾ったわ!」 「柄は違うが、トランプだよな、これ?こっちの世界にもあったんだなあ」 硬そうな薄っぺらい長方形の板の束を両手で運ぶエルザに、ホル・ホースが懐かしそうに目を細めている。時折、だーびーに魂がどうのこうのと口走っているが、それがどういう意味か理解できるのは、一人も居ない。多分、故郷の思い出話だろう。 「地下水……」 「は?うおおぉぉッ!?」 底冷えする声に反応する間もなく、ジェシカの腰から掴み上げられた地下水は、憎々しげに歪んだマチルダの表情に驚いた声を上げた。 「こ、これは、どういうこと!?あいつらが居るじゃないか!なんで連れて来てるって言わないんだい!!」 「一緒じゃないなんて一言も言ってないだろ!?姿が見えないからって、かってに居ないものと勘違いしたのは姐さんだぜ!」 「最初に言うんだよ、そういうことは!」 地下水を地面に叩きつけ、踏みつけるように蹴りを数発繰り出すと、マチルダは頭を抱えて蹲った。 「絶対、なにか厄介で面倒なことを運んできているに違いないんだ。嫌だ!せっかく安住の地を見つけたんだ!セクハラも無くなって、それなりの肩書きだって手に入れたんだ!あの子達を養っていける真っ当な職なんだ!手放したくない!!」 心の内を声高に叫んで、駄々っ子のように首を左右に激しく振る。 拒絶しても、多分、ダメだろう。そんな確信がマチルダにはあった。最低でも、何か一つを失う。そんな確信が。 「お、フーケじゃねえか。なにを苦悩してるんだ?あの日か?」 「フーケのお姉ちゃん、頭痛いの?お薬飲む?座薬だけど」 マチルダの存在に気付いたホル・ホースとエルザが、蹲るマチルダの様子を確かめようと顔を覗き込む。本人達には悪意は無いのだろうが、その行動はほとんど嫌がらせだ。 必死に手で追い払おうとするマチルダになにかを感づいたのか、纏わり付く勢いが増したホル・ホースとエルザを冷めた目で眺めていたカステルモールは、ふと、今が夏だったことを思い出して空を見上げ、明るく輝く太陽の光に目を細めた。 「これが……平和か」 絶対に違うと訴える主の姿を太陽の中に映し見て、カステルモールは最近増えてきた溜め息の回数を、また一つ増やしたのだった。
https://w.atwiki.jp/nostradamus/pages/2405.html
『ラングドックのヴァンサン・オカーヌによりその年の初めに国王アンリ4世に献上された、1600年からの世紀に向けたミシェル・ノストラダムス師の予言』(Predictions de Me Michel Nostradamus Pour le siecle de l'an 1600 Pntees au Roy Henri 4e au commencement de l'Annee par Vincent Aucane de Languedoc.)は、フランス国立図書館に現存する予言書の手稿である。 17世紀初頭に書かれた手稿と考えられており、ここに収められた54篇の六行詩は、それから間もなくノストラダムス『予言集』に収録されるようになった六行詩集58篇の、より初期の特色を保持する手稿と見なされている。 所蔵先 フランス国立図書館に所蔵されている 『主に16世紀末から17世紀初頭のフランス史に関する断片集成』(Recueil de pièces concernant l'histoire de France, principalement à la fin du XVIe siècle et au commencement du XVIIe .)の第76葉から第78葉の3葉(=6ページ)分がこの文書に該当している。この文書集は17世紀ごろの雑多な手稿の寄せ集めなので、前後に収録されている文書などは、この予言書と直接の関連を持たない。 蔵書番号(cote)を FF 4744 としている関連書籍もあるが、フランス国立図書館の公式サイトでは Département des manuscrits, Français 4744(直訳だと「手稿部門、フランス語4744」) とされている。 題名 題名を手稿の通りに区切ると以下のようになる。 Predictions de Me Michel Nostradamus Pour le siecle de l'an 1600 Pntees au Roy Henri 4e au commencement de l'Annee par Vincent Aucane de Languedoc. Pntees が Presentees の略だという点に異論はない。 アンリ4世については、上記の転記はGallicaで公開されているものを元に、ジャック・アルブロン(*1)、パトリス・ギナール(未作成)(*2)の転記も参照したが、ダニエル・ルソ (*3)、ロベール・ブナズラ(*4)は Henri 4° としている。確かにルソの著書のフォトコピーは4の右肩の文字が潰れていたが、フランス語で「第四」を意味する略記は e を右肩に載せるのが普通だし、Gallicaのフォトコピーでは鮮明に e が見えるので、4°とする転記に正当性はない。 著者名についても異読があるが、それについては次の節で扱う。 著者 手稿が読み取りづらいため、著者名の読み方に揺れがある。ルソはヴァンサン・オカーヌ(Vincent Aucane)としていたが、フランス国立図書館の書誌データではヴァンサン・オケール(Vincent Aucaire)となっている。ブナズラは著書ではオカーヌとしていたが、その後、インターネット上で公表している書誌では両論併記している。ギナールも両論併記である。 【画像】手稿の署名部分(*5)。Aucaire か Aucane か。 そのように名前すら確定していない人物であるから、どのような素性であったかも、もちろん明らかになっていない。 ルソは、六行詩54篇を収めたこの手稿と、58篇の印刷版とで2人の詩人が関わっているとして、テオフィル・ド・ヴィオー(Théophile de Viau, 1590年 - 1626年)とジャン・メレ(Jean Mairet, 1604年 - 1686年)の2人を挙げ、前者が手稿を書き、後者が引き継いだとしている。 フランス南西部クレラック(Clairac)出身のバロック詩人テオフィル・ド・ヴィオーは、1619年にラングドックに18か月滞在していたときに、モンモランシー公の庇護を受けていた。ルソは、ヴィオーがそれ以降にシャンティイ城の図書室でノストラダムス作品に接し、刊行も献上も想定せずに六行詩を試作したのではないかとしている。 フランス古典劇の草創期の劇作家ジャン・メレは、1620年代にモンモランシー公の庇護を受け、1626年以降、作品を公刊することとなった。ルソは、メレが詩人と予言者の関係に触れた一節などを引用しつつ、メレの予言への関心を紹介している。 メレはともかく、ヴィオーは恋愛詩をまとめ、1622年に刊行した作品集の猥褻性と反宗教性を理由に処罰された人物であり、ノストラダムス予言との接点は、あくまでもシャンティイ城に滞在していたことがあったというだけなので、希薄と言わざるをえない。 (そもそもシャンティイ城は、アンリ4世に予言が献上されたとされる場所であり、執筆された場所とは主張されていない) そして何より、ルソの仮説が成立するためには、1605年版が偽版であることはもちろん、1611年の刊行とされるピエール・シュヴィヨ版も、実際の刊行が1620年代後半以降でなければならない。 ルソはそれを1630年ごろの刊行と見なしていたので、彼の中では整合していた。もっとも、モンモランシー公に庇護されていた2人の文人を著者とするのであれば、モンモランシー公の名前が削り落とされた1611年版が初出というのは、いかにも不自然なことである。ルソが1628年ごろのデュ・リュオー版もあわせて1630年ごろの刊行と見なしていたのは、デュ・リュオー版にはモンモランシー公の名が明記されている事情と無関係ではないだろう。 しかし、シュヴィヨ版を1611年から1616年ごろの刊行と見なすギナールは、ヴィオーは1600年の時点で10歳にすぎないとして、否定的に捉えている。ギナールは、オカーヌの正体について、ノストラダムスを下手に模倣したプロヴァンス出身者ではないかという程度にしか絞り込んでいない。 さて、1520年代の編者不明の予言書『ミラビリス・リベル』に、メトディウスの予言書が「ベメコブスの予言書」として再録されていたように、何の意味があるのかよく分からない名前の改変事例は他にもあるので、「ヴァンサン・オカーヌ」はヴァンサン・セーヴの手稿を筆写した何者かが、何らかの意図で名前を若干アレンジした可能性などもあるのかもしれない。 なお、オカーヌであれ、オケールであれ、そういう単語はフランス語に存在しない(DALFには Aucaire は載っているが、語義不明とされている)。 ただ、プロヴァンス人の姓には Aucano というものがあり、そのフランス語化が Aucane らしい(*6)。また、Aucaire は南仏の言葉で、「雁を見張る人」(celui, celle qui garde les oies)の意味だという(*7)。ゆえに、いずれが正解でも、南仏の人名としてありえないわけではなさそうだ。 あるいは、Aucane が Arcane (神秘、錬金術の秘法)の誤記なのだとすれば、(中期フランス語では形容詞としても使われたので)「神秘のヴァンサン」と理解できなくもない。その場合は、公表を想定しない習作でヴァンサン・セーヴ自身が戯れに名乗った、暫定的な筆名のようなものだったのかもしれない。 作成年 手稿には「1600年に献上された」とある。しかし、六行詩6番が、1602年に起こったビロン公の裏切り事件を踏まえて書かれた事後予言であることはほぼ明白であるため、ブナズラ、ギナールはいずれも1602年以降の作成であろうと推測している。 またギナールは、六行詩46番に描かれた星位が17世紀に見られるのは1614年5月5日のみとし、その詩がアンリ4世の暗殺に該当するにも関わらず、(暗殺が1610年だった史実と比べて)4年外れていることから、それ以前に作成されていると見なした。 ギナールはあまり詳しく説明していないが、もしもそれ以降の作成ならば、時期や描写についての修正を入れたはずだから、ということなのだろう。46番はかなり曖昧な詩篇なので、この推論について論評しづらいのだが、「汝の不幸が最大に」という表現は確かに、大した事件が起こっていない1614年よりも、アンリ4世が暗殺された1610年の方が似つかわしいとは言えるかもしれない。 なお、ギナールは手稿の成立年について、さらに踏み込んで1603年ごろと位置づけているが、それについての具体的根拠の提示はされていない。 ブナズラはこの手稿に比べて印刷版で増える4篇のうち3篇が1605年以前の年を明示しているため、58篇の登場は1605年のことだったと推測しており、この立場に立てば、手稿は1602年から1605年の間に位置づけることができる。 以上、ギナールのように1603年とまで絞りきれるかはともかく、1602年から1605年に位置づけることは、そう突飛な話ではないだろう。 現行の六行詩集との対応関係 手稿の六行詩は56番まで(26番と33番が欠番なので、詩篇の数は54篇)しかなく、17世紀初頭以降の『予言集』の多くの版に収録された58篇に比べて不足がある。その対照表を作ると、以下の通りである。時期や年に関する表現もあわせてまとめた(「→」があるのは、手稿から刊本で変更があったもの)。 オカーヌ セーヴ 時期・期間の表示 01 01 新たな世紀 02 02 03 03 三年 → 五年 04 04 05 06 06 05 07 07 08 08 09 09 10 10 11 六百と四 12 六百と五 11 13 六百五ないし九 → 六百と六ないし九 14 六百と五 12 15 六百と五の十月、六百と六の六月 13 16 14 17 15 18 六百と五 16 19 六百と五、六百と六と七…十七の年まで 17 20 18 21 六百と七の年 19 22 20 23 六百と七そして十 21 24 六百八と二十 22 25 六百六ないし六百九 → 六百と六、六百と九 23 26 もしも六百と六の年に…六百と十まで 27 第三の時代 24 28 千六百と十の年から十四へ → 千六百と九ないし十四の年 25 29 六百と八 27 30 ほとんど日をおかずに → ほとんど時期をおかずに 28 31 29 32 30 33 もう間もなく 31 34 32 35 34 36 35 37 36 38 六百と十五ないし十九 37 39 38 40 39 41 40 42 六百十年間 41 43 42 44 六百と十、十五の年 43 45 44 46 白羊宮で火星、土星、月が合 45 47 三年の間 46 48 47 49 48 50 少し前か後 49 51 50 52 火星が白羊宮に 51 53 六百七十まで 52 54 六百と他に (?) → 六百と十五、二十 53 55 少し後 → 少し前ないし後 54 56 55 57 その後間もなく 56 58 間もなく 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/rixyougi1234/pages/120.html
概要 幻想人種《氈羊》に変異した双子の情報屋。時々眼鏡をかける方がフランシスカ。 お喋りでまだまだ子供だが、インガノック下層でたくましく生きている。 ヴォネガット老人は彼女らの祖父である。 来歴 能力 本編での活躍 ヴォネガット老人の治療をギーへ依頼した。 その後 登場作品 赫炎のインガノック -What a beautiful people- 名前 コメント 合計: - 今日: - 昨日: -
https://w.atwiki.jp/nostradamus/pages/1443.html
六行詩集 44番* 原文 La belle rose1 en2 la France admiree, D'vn tres-grand3 Prince4 à la fin desirée, Six cens dix, lors naistront ses amours Cinq ans apres, sera d'vn grand blessée, Du trait d'Amour, elle sera enlassée5, Si à quinze ans6 du Ciel reçoit7 secours. 異文 (1) rose roze 1600Mo 1611 1627Ma 1627Di 1644Hu, Rose 1672Ga (2) en dans 1600Au (3) tres-grand tresgrand 1600Mo, tres grand 1627Ma 1649Xa (4) Prince prince 1611B (5) Du trait d'Amour, elle sera enlassée, D'vn trait d'Amour elle sera enlassée 1600Au, Et sera du traict d'amour enlassee 1600Mo, Du tract d'Amour, elle sera enlassée 1672Ga (6) Si à quinze ans S'y a 15. ans 1600Mo (7) reçoit ne reçoit 1600Mo, teçoit 1611A (注記)1行目の belle は bell e と空白入りで綴られているが、ささいなので異文として採録していない。 日本語訳 フランスで認められた美しい薔薇は 仕舞いには非常に偉大な君主によって所望される。 六百と十、そのとき彼の恋情が生まれるだろう。 五年の後、(薔薇は)ある偉人によって傷つけられるだろう。 愛神の矢によって彼女は虜になるだろう、 もしも十五の年に天からの救いを受け取るならば。 訳について 3行目「彼の恋情」は「彼女の恋情」とも訳せる。 信奉者側の見解 テオフィル・ド・ガランシエールは非常に若くして結婚したルイ13世とアンヌ・ドートリッシュのこととした(*1)。ルイ13世の婚約は1612年に成立し、1615年に結婚した。 ジャン=シャルル・ド・フォンブリュヌはフランソワ・ミッテランについてと解釈した。ミッテランは1916年の生まれで、その610ヶ月(約50年)後は1966年になる。その年の5月にミッテランは英国の「影の内閣」にならった野党による代替政府の形成を宣言した。その5年後にミッテラン主導で新生フランス社会党が出発した。その15年後の1981年にミッテランは大統領になった(*2)。 この解釈は、日本でも麻原彰晃『ノストラダムス秘密の大予言』などで紹介された。なお、麻原はオウム真理教の機関誌『マハーヤーナ』でこの詩の解釈がミッテラン政権誕生前になされていたと紹介していたが、実際には政権誕生後に発表されている。この点、単行本では政権誕生後の解釈と修正された(*3)。 マリニー・ローズは、シャルロット・ド・モンモランシーと解釈した。1609年頃にアンリ4世はシャルロットをバレエで見かけて気に入ったが、シャルロットは応じず、コンデ親王アンリと結婚した。その後もアンリ4世の恋情が消えることはなかったというが、1610年にアンリ4世はラヴァイヤックに暗殺された(*4)。 同時代的な視点 婚約の年は2年ずれたが、確かにルイ13世の結婚の年を言い当てているように見えないこともない。 ただし、この詩が偽作された1605年頃に「非常に偉大な君主」といえば、まだ幼児だったルイよりもその父親であるアンリ大王の方がふさわしいだろう。 アンリは正妃以外に名前がわかっているだけでも18人以上の女性と関係を持ち(*5)、その女性関係の奔放さは当時からよく知られていた。シャルロット・ド・モンモランシーとの出会いは時期的に言って偽作のモデルとはみなせないが、アンリ4世に新たな女性問題が生まれると予測することはそれほど難しくはなかったであろう。 その他 1600au では42番になっている。 ※記事へのお問い合わせ等がある場合、最上部のタブの「ツール」>「管理者に連絡」をご活用ください。
https://w.atwiki.jp/gods/pages/32758.html
トムクランシー(トム・クランシー) ケルトの民話に登場する人物。 ロバートケリー(ロバート・ケリー)の友人。
https://w.atwiki.jp/gununu/pages/1832.html
フランシスカ〔ふらんしすか〕 作品名:怪物王女 作者名:[[]] 投稿日:[[]] 画像情報:640×480px サイズ:183,487 byte ジャンル:メガネ キャラ情報 このぐぬコラについて コメント 名前 コメント 登録タグ メガネ 個別ふ 怪物王女
https://w.atwiki.jp/marseille/pages/36.html
マルセイユの見どころ マルセイユ (Marseille) は、フランス最大の港湾都市で、地中海リオン湾に面しています。温暖で湿潤な冬と全体的に乾燥する夏を持つ、地中海性気候です。 マルセイユの歴史は古く、小アジアから来た古代ギリシア民族であるポカイア人が紀元前600年頃に築いた植民市マッサリア(マッシリア)にその端を発します。3世紀ごろにキリスト教がもたらされました。10世紀にプロヴァンス伯の支配するところとなり、1481年にフランス王国に併合されました。 [ yumariaさん作 Special Thanks ] 離宮 ギーズ公爵 フランソワ・ド・ギーズ(1519年2月17日 - 1563年2月24日) フランスの貴族・軍人でギーズ公、ジョワンヴィル公、オマール公 渾名はバラフレ(balafré:傷跡のあるという意味) フランス国王フランソワ2世の外戚として権力を握った。 しかし、王が病没すると失脚してしまった。 その後、ユグノー戦争で活躍したが、プロテスタントに暗殺された。 モンモランシー大元帥 アンヌ・ド・モンモランシー(1492年3月15日 - 1567年11月12日) ヴァロワ朝時代のフランスの軍人 数々の軍功を挙げてフランス元帥 (connétable de France) に叙せられた。 不安定な王権を支えた名臣のひとり。 1567年のサン=ドニの戦いで致命傷を負い死去。 コンデ公爵 ルイ1世・ド・ブルボン=コンデ(1530年5月7日 - 1569年3月13日) ヴァンドーム公の末子として生まれ、のちのフランス王アンリ4世は甥である。 フランス軍の将軍として、ギーズ公と共にカール5世から祖国を守りきった。 その後プロテスタントに改宗し、ユグノー派の首領で将軍となった。 1569年のジャルナックの戦いで戦死した。 教会 広場前の教会 街の中心地にある教会。 ユーザー・イベントなどで使われる事がよくある。 国別シナリオのイベントなどで訪れる事も有るでしょう。 西の教会 街外れの静かな佇まいの教会。 司祭・修道士・神学者のNPCが居て、時おりクエストで訪れる人がいる。 著名人の邸宅 【ラブレー邸】 フランソワ・ラブレー(1483年? - 1553年4月9日) フランス・ルネサンスを代表する人文主義者、作家、医師。 彼の著作には、既成の権威を風刺した内容が含まれていたため禁書とされた。 「笑いは、人類の財産である」 「楽しく生きたまえ」 「最も学識のある人間が必ずしも最も賢明な者ではない」 【ダ・ヴィンチ邸】 レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452年4月15日 - 1519年5月2日) イタリアのルネサンス期を代表する芸術家。 様々な分野に顕著な業績を残した、万能の天才。 「経験こそ立派な先生だ」 「本当に物事が分かっている人は、大声を出さないものである」 「幸せの入る場所に、嫉妬が待ち伏せしてこれをおそう」 【ノストラダムス邸】 ミシェル・ド・ノートルダム(1503年12月14日 - 1566年7月2日) ルネサンス期フランスの医師、占星術師、詩人、料理研究家。 ミシェル・ノストラダムス師の予言集の名で知られる詩集を著した。 「1999年7の月、空から恐怖の大王が舞い降りてアンゴルモアの 大王を甦らせる。その前後マルスが幸福に世界を支配するだろう。」 酒場 酒場娘:イレーヌ 大人の魅力で大人気 CV:庄司宇芽香 地理学・生態調査・美術を持っている人がお好みらしい 料理 生ハム マカロニのバター和え 魚介のピッツァ ブイヤベース 酒 果実酒 トスカーナワイン ブルゴーニュワイン グラッパ ラム酒 ソフトドリンク ミルク パリ行きの馬車 広場にはパリ行きの馬車がいる。 交易品を積んでの移動も可能で、パリを経由してカレーへの陸路移動が可能となった。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3284.html
――裏切られた。 それがルイズの偽らざる気持ちだった。 始まりは春の使い魔召喚儀式、幾度もの失敗の積み重ねの果てにルイズは初めて魔法を、サモン・サーヴァントを成功させた。 溢れ出る光のなかからは現れた同年代かそれよりやや年下かと思われる少女であった。 豊かに波打つ金髪と翡翠のような瞳、仕立ての良い絹の服を身に付けた少女は柔らかな笑みを浮かべながら車椅子に座っていた。 ゼロのルイズが平民を召喚した。 娯楽の少ない魔法学院の生徒たちにとって、家柄学業共に優秀でありながら何をやらせても『ゼロ』のルイズの失敗を見み、そして小馬鹿にすることは大切な娯楽の一つであった。 自分より下のものを見下し、その無能を笑う時ほどお手軽に気持ちよくなれる方法はない。 故に彼らは考えたのだ、ルイズが召喚したのは足の不自由なかたわの『平民』であると。 誰かがそう言い出した途端、広場中の喧騒は嘲りの笑いへと錬金された。 然り、魔法は成功したものの所詮『ゼロ』のルイズは『ゼロ』のルイズでしかない、と。 その笑いを叩き伏せたのは、少女の柔らかくも反論を許さぬ力を持った一言であった。 「お黙りなさい、歴史あるアマデウス貴族メイスン家が嫡子、このミュリエナ・パル・メイスンへの愚弄は許しません」 貴族の子弟、それも家門の継承権を持つ者を召喚するなど学園きっての不祥事だ。 下手をすると外国との国際問題になりかねないし、ヴァリエール家の家門に傷を付けることにもなりかねない。 だが少女の言葉に気圧されながら、少女の言葉を誰も真剣には受け取らなかった。 少女は”杖”を持たず、系統魔法を知らず、そしてこの学院に通うものは誰もアルマデウスなどと言う国は知らなかったのだから。 だがただ一人ルイズだけはミュリエナと名乗った少女の言葉を信じた。 杖を持たないミュリエナの境遇を貴族でありながら魔法の使えない自分と重ね合わせたのか、それとも自分がただの平民を召喚したなどとは思いたくなかったのか。 或いは同じ貴族としてミュリエナの所作から貴族独特の平民にはない気高さを感じ取ったのかもしれない。 自らの留年が掛かっていると言うのにあくまでミュリエナを異国の貴族として学院の客分として扱うことを主張し、授業を監督していた『炎蛇』のコルベールに食ってかかったのである。 オールドオスマンにも思うところがあったのか、拍子抜けするようなあっけなさでルイズの言い分は許可された。 こうしてミュリエナは学院の客分として、ルイズと寝食を共にすることとなった。 もともと友人とも言える友人を持たなかった二人である、二人の仲が深まるのにさして時間は必要なかった。 ――それが貴き二人の友情の始まりであり。 『青銅』のギーシュとミュリエナの決闘の話題に驚き、ヴェストリ広場に慌てて駆けつけた時に目にしたもの。 ――それが貴き二人が終生の敵同士となった瞬間であった。 話は、少し遡る…… 白み始めた空に輝く二つの月に零れんばかりの歓喜を讃えて、ミュリエナは手にした器具を握りしめた。 魔力に反応する特殊な金属を使って作られた円筒のなかに賢者石の針が付けられた無骨な温度計とでも言うような代物である。 この器具の名前を魔力計と言う。 文字通り魔法が使われた際発生する魔力偏差を観測し、周囲にどれほどの魔力が満ちているのかを計測する器具である。 今、普段なら『ゼロ』を差す筈の針は大きく右側に振りぬけて一向に戻る気配がない。 それをうっとりと眺めながら、ミュリエナは今度は車椅子に掛けてあった鞄から一枚の細長い紙を取り出し、口に含んだ。 「ん、ふ……」 しっかり唾液を含ませたことを確認すると空気に触れさせる、青かった紙は次第次第に真紅の色合いに変わっていった。 やがて真紅に変わりきった紙を見て、ミュリエナは笑う。 「素晴らしいですわ」 この紙は周囲の呪詛汚染を確認するためのものだ、魔力試験紙と呼ばれるこの紙は魔法で精製された特殊な薬品が使われており一度水分を含めば、魔力に反応して柘榴のような真紅の色に、呪詛に反応して闇のような黒に染まる。 考えていた仮説が立証される、このハルケギニアと呼ばれる世界には溢れんばかりの魔力がまったく汚されていない無垢なままの形で存在している。 そのことにミュリエナは陶然となった。 ミュリエナは“実験”の途中で召喚された。 ――如何に魔族になることなく魔法を使うか? それが数年に渡るミュリエナと彼女の兄の研究の内容だ。 ミュリエナは魔族の『魔力圏』に目を付けた、物理法則さえも思うままに捻じ曲げるあの力があれば…… 何体もの『生贄の羊』を用いた実験はある程度の成果を生んだ、だが此処暫く研究は暗礁に乗り上げていた。 一瞬だけならば魔力圏を発生させることが出来る、だが駄目だ、それでは駄目なのだ。 ほんの一瞬だけなんて我慢出来ない。 思うままに足を動かし、思うままに走り回りたい。 愚鈍の兄の力だけではこの先何年貴族である自分が不便な車椅子での生活を強いられることか! 「でもこの世界でなら……」 ミュリエナは呟くと、魔法の言葉を唱え始めた。 「顕れよ・見えざる鉄槌・破壊の波紋・押し寄せて砕け・純粋なる力……ウェラ・ザン・ヨーロン・クオン・マルク・マルク……」 選択したものは衝撃波を飛ばすと言う極めてシンプルな魔法――インパクト。 だがたとえどんな小さな魔法でも、魔法を使えば魔族化は免れない。 それが魔法、人が手に入れた大いなる力の代償――のはずだった。 だがこの世界の貴族たちはまるで花でも手折るように魔法を使ってみせた。 そして魔法が使えることがこの世界での“貴族”の証であると言った。 ならばと、ミュリエナは考える。 ――貴族であるこの自分にできないはずがない。 ゆっくりとミュリエナは呟いた。 「やはり今はやめておきましょうか」 近づいてくる足音に溜息を漏らすと、ミュリエナは車椅子を押していった。 自分の体で試す前に、平民〈モルモット〉でしっかりと試しておくべきだ。 ――ミュリエナは他に様々な仮説を検証した後、朝食を取りに食堂へと向かった。 ミュリエナはゆっくりとハシバミ草のサラダを飲み下す。 口の中に強烈な苦味とエグ味が広がるが、顔を毛筋一本すら動かすことなくあくまで優雅に食事を続ける。 ミュリエナのテーブルマナーや食事の際の祈りの言葉はトリステインのマナーとは少し違っていたが、それでも貴族として社交界へ出るために訓練されたものであると言うことは分かる。 なまじ生徒たちは皆貴族の子弟であるために、ミュリエナの一挙手一投足がどれほど洗練されているか分かってしまうのだ。 ただ供された料理の一部をナイフで切り取り、突き刺したフォークで唇に運び、咀嚼して飲み下す。 それだけの動作のはずなのにミュリエナの動きには気品があった、平民ではけして得ることができない貴族の品格があった。 「まさか本当に貴族……」 「馬鹿魔法が使えない貴族なんて居る訳……」 ひそひそと囁きあう声にミュリエナは思った。 ――素晴らしいこの世界にも、貴族の名を汚すゴミクズは掃いて捨てるほどいるようですわね そう考えながらミュリエナは淡々と食を進める。 事が起こったのはミュリエナが食事を口にする予定の“半分”ほどを食べ終えた頃だった。 「待ってくれ、誤解だよ愛しのモンモランシー」 突如乱入してきた金髪の巻き毛の少女と近くに座っていた薔薇を持った気障な少年が浮気しただのしていないの、と喧々囂々の言い争いを始めたのである。 どうやらモンモンランシーと言う少女がギーシュと言う少年に贈った香水をメイドが拾ってしまったが為に、ギーシュと言う少年が浮気をしているのがばれてしまったらしい。 くだらない話だ、妾を持つ事は貴族の特権である。 故にもしギーシュと言う少年の浮気の相手が平民ならばモンモランシーと言う少女は平民如き下等な存在に怒っていることになる。 逆に貴族相手に浮気をしたと言うのならば娘を傷物にされたモンモランシーと浮気相手の“家”が黙ってはいまい。 ミュリエナは興味を向けることなく、淡々と食事を進める。 「きゃっ!?」 盛大なインパクト音と、短い悲鳴。 我冠せずと言ったミュリエナの上から、グチャっと音を立てて真っ白い初雪のようなケーキが落ちてきた。 白い絹のブラウスの上に、きめ細やかに泡立てられた生クリームがへばり付く。 ミュリエナが視線を向けると、諍いの原因となったメイドがデザートを載せていた盆を持ったまま蒼白な顔で立っていた。 諍いの当事者たる二人は、片方が頬に紅葉を咲かせ、もう片方が渾身のビンタを振りぬいた姿勢のまま、呆気に取られたようにミュリエナのことを見ていた。 食堂に満ちる痛いほどの沈黙。 真っ先に動いたのは、件のメイド――シエスタである。 「も、もも、申し訳ありません!」 頭を地面に擦り付けるほどの勢いで頭を下げるシエスタ。 それを見て、ミュリエナは柔らかな微笑を浮かべた。 「ねぇ、貴女」 「はっ、はいっ」 微笑に癒されるように僅かばかり顔をあげたシエスタの首に突きつけられる、熱い何か。 それが今の今まで鉄板の上の血も滴るステーキ肉を優雅に切り捌いていたテーブルナイフだと気付く時間は、シエスタには与えられなかった。 「貴族のお召し物をあなたのような薄汚い平民如きが汚すなんて、本当に許されると思っていらっしゃるの?」 するりと動いた指先はあくまで上品に淑やかに。 ミュリエナは『シエスタ』にナイフを入れた。 ――今まで切っていた牛肉にナイフを入れるのと変わらないまるで『もの』を切るような手付きだったんだと、後に『風上』のマリコリヌは震えながら証言した。 誰も動けなかった。 首から血を噴出しながらのた打ち回るメイドと、それを為したのにまるで虫でも潰したかのようなルイズの使い魔。 ミュリエナ・パル・メイスンと言う少女は自分が切り裂いたメイドになどまるで気にすることなく、湿らせたタオルケットでブラウスの汚れを落とすことに懸命になっていた。 誰もが化け物を見るような目でミュリエナを見つめるなか、真っ先に呪縛から開放されたのは当事者であるギーシュ・ド・グラモンであった。 慌てて地面を転げまわるメイドへと駆け寄ると、子供の頃習ったうろ覚えの応急処置を施す。 大量に流れ出る真っ赤な血が恐怖で震える手を汚し、自慢の薔薇を汚し、真っ白な制服を汚す。 「モンモランシー、早く、早く水の魔法でてっ、手当てを!」 最早他の女がどうのこうの言っている暇などなかった。 モンモランシーは蒼白な顔をしてギーシュの隣に膝を付くと、ゆっくりと治癒を司る水の魔法を唱え始めた。 「だめ――だめよ、わたしじゃ、無理……」 モンモランシーはふるふると首を横に振る。 ついさっきまで動いていた命が失われようとしている恐怖に、ただ打ちのめされていた。 見ている者が痛々しく思えるほど無様に取り乱して泣きじゃくる。 ギーシュは自分よりも取り乱した恋人の姿を見て、逆に覚悟が固まったらしい。 思い切り息を吸い込むと、かつて戦場で父がそうしていたように思い切り叫んだ。 「くそっ皆も手伝ってくれ! このメイドを医務室に、ありったけの水の秘薬を」 その言葉が呼び水となった。 呆気に取られたほかの生徒たちも、やっとその重い腰をあげた。 水の魔法が使える者はモンモランシーに駆け寄りその施術を助け、風の魔法が得意な者は教師を呼び行くためにフライを唱え、自分が何をすればいいか分からない者はレビテーションでシエスタを医務室に運ぶのを手助けする。 平民と言えども奴隷ではない、ただの気分次第で簡単に命を奪って良いはずないのだ。 しかしそんな彼らの必死の努力を嘲笑う者が居た。 「あら、そんな平民如きを助けるんですか?」 何故そんなゴミを助けるのか? そう言いたげな顔をしてミュリエナがギーシュの隣でくすくすと笑っていた。 それがギーシュの気に障った。 確かにギーシュは浅薄で軽薄だが、誇り高きグラモン家の三男だ。 “貴族とはかくあるべし”と言う姿は父から学んだ。 ――貴族が強く在らねばならないのは自らが預かる領地の民を守るためだ。 ――貴族が貴いのは、自らの主が尊くあることを民が望むからだ。 ミュリエナの言葉の一つ一つが、そんな父の言葉を汚す。 ギーシュにとっての理想である“貴族”の名を語り、おおよそ貴いとは言えない道理を撒き散らす。 彼にはそれが、我慢ならない。 「あとは頼むよ、モンモランシー……」 「――ギーシュ?」 小康状態に陥ったメイドの後の処置をモンモランシーと他の水のメイジ達に任せ、ギーシュはゆらりと立ち上がった。 「民を治めるべき貴族でありながらの此度貴殿の狼藉は許せない。故にこのギーシュ・ド・グラモンの名に於いて、ミュリエナ・パル・メイスンに決闘を申し込む!」 確かにギーシュは浅薄で臆病で女誑しだ。 それでも彼は守るべきものを知る貴族であり、そして大切なものは何であるか知る男であったと言うことだろう。 いずれ学院によって処分を下されることになるだろうが、その前に当事者の一人として腐った性根を叩き直しておかねば気が済まなかった。 何よりもそうしなければ、目の前で青白い顔で横たわるメイドの少女は二度とまともに貴族と話すことなど出来まい。ギーシュは知って貰いたかったのだ、貴族はただ理不尽を押しつける怪物ではないことを。 それが正しいことなら平民の為にすら喜んでその力を使う、”貴き”者だと言うことを。 ――ミュリエナは自分に突きつけられた血塗れの薔薇をきょとんと見つめた後、くすくすと小馬鹿にするように笑った。 「ガッ、ガハッ……」 なにが起こったんだ? 混乱する頭のままでギーシュは立ち上がる。 カクカクと笑う膝を必死で押さえつけ、取り落とした青銅の薔薇の棘が掌に食い込むほど握り締め。 目の前でくすくす笑う敵に向かって杖を突き付けた。 「あらあら、無様ですわね。周りのみなさんも笑っていましてよ?」 否、誰も笑ってなどいなかった。 周囲に群れ並ぶ貴族の子弟たちは、皆蒼白な顔で立ち上がるギーシュの姿を見ていた。 メイジであるギーシュが歯が立たないこともそうだが、あの軽薄な軟派男と知られたギーシュが体中を血だらけにしながら立ち上がったのだ。 普通ならば自分が悪かったと謝って場を収めようとしてしまってもおかしくない。 だがギーシュには出来なかった。 グラモンの血に連なる者として、いかに相手が強大であろうとも自分の信じた正義を今更になって引っ込めるなんて真似はできるはずなどなかった。 「ふ、ふふふ、見くびらないで貰いたいね。英雄は一度危機に陥るものだよ」 「そのまま英雄になれずに死んでいった方々も、随分と多い筈では?」 「それはこれから確かめるのさ!」 ギーシュの叫びと共に花びらが舞い、再び『青銅』の戦乙女が三体出現した。 一体は遠距離攻撃用のボウガン、二体は突撃用の長槍を手に持っている。 「行け、ワルキューレたち!」 号令一下。 ワルキューレたちが突撃する。 それでもミュリエナは笑っていた。 「このような原始的な魔法で、この私を傷つけることが出来ると思いまして?」 ミュリエナは小声で何事か唱え…… 「きゃっ!?」 「錬金!」 唐突に座っていた車椅子の感触が失せ、硬い地面の上へと投げ出された。 何が起こったのか分からないミュリエナ、その思考の間隙を縫うように二体のワルキューレは間を詰め。 一閃。 「あ……」 ミュリエナは頬に走る熱い感覚に呆然と指を走らせた。 ぬるりと感触、濡れた指、見れば真っ赤なものが指の先に付着している。 「あああああああああああああああああ!」 狂ったように叫び出した。 何事かと、ギーシュも含めた広場の全員が怪訝な表情でミュリエナを見やる。 ミュリエナは血のついた指を驚愕の目で見つめながら、この世の終わりのような叫び声を上げていた。 「決まったね、続行不能で僕の勝……」 「あんたたちなにやってるの!」 ――そしてその時は訪れた。 「ミュリエナ、大丈夫ミュリエナ!?」 息を切らしながら走り寄ったルイズは、未だ叫び続けるミュリエナの肩に手を置り励ますように声を掛け続ける。 そして憎憎しげにギーシュのことを振り返った。 「卑怯者、魔法の使えないミュリエナにワルキューレをけしかけるなんて!」 「待ってくれ、ルイズこれは……」 「五月蝿い!」 宝石のようなその瞳に憎悪を滾らせたルイズは気付かない。 ギーシュの体に刻まれた夥しい数の生傷と、大量の血が誰の手によるモノであるかと言う事に。 「友人の名誉の為、ギーシュ・ド・グラモン! 此処から先はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが相手になるわ!」 失敗魔法であろうとも構わない。 ミュリエナを傷つけたギーシュは許せない! その思いに爛々と瞳を輝かせたルイズはゆらりと懐から杖を取り出した。 「さぁ、行くわよ!」 ルイズが貴族の証である杖を振るう。 次の瞬間、突如生まれた爆発がギーシュを吹き飛ばした。 「ちょ、ちょっと、ルイズあんたやりすぎよ!」 キュルケの叫びのように、確かに酷かった。 ギーシュのすぐ隣に発生した爆炎は彼の体をボロクズのように吹き飛ばしたのだから。 錐揉み回転しながら吹き飛んだギーシュは何度も地面に叩きつけられ、丸太のように転がり、やがて宝物庫である塔の壁に当たって止まった。 体中の擦り傷とおかしな方向に曲がった足、その金髪は血と泥にまみれ普段の気障ったらしい面影は欠片もない。口から大量に血を吐いたところを見ると派手に内臓を傷つけたのであろう。 「ち、違う、私はまだ……」 再び爆音。 今度は先ほどよりも弱い爆発が炸裂し、ギーシュの体を撫で上げる。 戦慄するルイズの耳に、その言葉が届いた。 「――許しません」 「ミュリエナ?」 名前を呼んだルイズにミュリエナは柔らかな微笑を返した。 ただどうしようもなくルイズはその笑顔が恐かった。 ミュリエナは言った。 「少しだけ待って下さいね、私の体に傷を付けることはいかな貴族の殿方であろうとも許せませんから」 「許せないって、ど、どうするのよ!?」 「殺します」 「なっ!?」 嗚呼、何故ルイズは気付かなかったのか。 友と呼んだその少女の瞳の奥に潜んだ狂気に。 今確信する、先ほどの爆発は間違いなくギーシュを嬲るためにミュリエナが起こしたものなのだと。 「駄目よ、貴族を殺すなんて……!?」 唐突にミュリエナは唄い出した。 穏やかな旋律がルイズの耳を叩き、そして驚愕する。 燐光がミュリエナの周りを飛び回り、ミュリエナは自らの足で地面の上に立ったのだから。 もっともそれも一瞬。 ミュリエナはまるで時間でも巻き戻すように土から現れた車椅子に腰を下ろし、夢見るように呟いた。 「やっぱり出来た、これで歩ける、私は歩ける!」 「ミュリエナ、貴女……」 ルイズはゆっくりとミュリエナに向かって杖を向けた。 「魔法が、使えたの?」 「ええ、ただこの世界でも私たちの世界の魔法が使えるかどうかは分からなかったから」 ルイズの中で聞きかじった事実の断片がすべて一本の線に繋がる。 ミュリエナは魔法が使える、そしてギーシュをあんなにしたのは…… 「平民のメイドで、実験させて貰ったわ」 シエスタを斬り付けたのはただの気分だけのものではなかった。 斬り付けた際同時に巨大な魔力を消費する魔法を発動さえ、その際発生した呪素をあのメイドの体に流し込むと言う実験も行っていた。 本来ならすぐさま魔族化がはじまるほどの量を受け入れて、あのメイドはそれでも人間として死んで行こうとしていた。 もっともギーシュと言う貴族が平民ごときのためにあれほど尽力するとは、ミュリエナにとっては予想外の出来事であったが。 「貴女、自分が何やったかわかってるの!?」 貴族への暴行、戯れ程度に平民の命を奪う、これほどのことをしてしまえばいくらヴァリエール家の威光でも庇いきれない。 愕然とするルイズを前に、ミュリエナは笑った。 「分かっていますよ、ですが平民の娘と貴族と呼ぶに値しない愚劣の命など安いものでしょう?」 「何を言って……」 「貴族の私が歩くための“貴い犠牲”となったのです、お二方もきっと喜んでいるはずですよ」 ミュリエナの吐く一言一言がルイズに吐き気を催させた。 違う、そんなものは貴族ではない。 唇をわななかせたルイズの姿をどう受け取ったのか、ミュリエナは言った。 「まぁ、出来損ない貴女に言っても貴族の何たるかは分からないかもしれませんね。『ゼロ』のルイズさん」 ギリリとルイズは奥歯を噛み締めた。 ――お前も、お前も私のことをその名で呼ぶのか! 「魔法の使える者を貴族と呼ぶんじゃない!」 ルイズは杖に魔力を籠め…… 「与えられた力を正しく使える者を“貴族”と呼ぶのよ!」 彼女たちの公式な記録は此処で途切れている。 アルビオン動乱の頃にトリステインで起きた未曾有の魔族災害によって、多くの資料がこの世から姿を消したからだ。 貴族も平民もなくなってしまった世界で吟遊詩人は子供たちに謡う。 世界を守るために戦った虚無の担い手。 世界を変えるために戦った最初の魔法士。 その二人の、苛烈にして凄まじい戦いの様子を。 吟遊詩人は語る。 はじめは、二人は友であったのだと……
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/87.html
前ページ次ページ異世界BASARA 「まさか前田殿までこちらにきていたとは…」 「うむ!昨日キュルケ殿から話は聞いていたが、やはりお前だったかぁ!」 その頃、幸村と利家は紅茶とケーキを探して歩いていた。 「…こっちからいい匂いがするな、きっとけーきだ!」 「おお!前田殿の鼻は忍並ですな!」 「おう!まつの匂いならどんなに離れていても分かるぞ!」 匂いを頼りに走り出す2人。しかしまつの匂いまで分かる利家…もはや犬である。 そして、その匂いの元を運んでいたメイドに裸の大将が迫っていった。 「これからいい匂いがするぞぉ!娘!これをそれがしにくれ!」 「きゃああぁ!!」 突進してきた利家にメイドは驚いて尻餅をつく。 「ななな何ですか!?」 「けーき!それがしけーき食いたい!」 「ま、前田殿!落ち着きなされよ!」 空腹のあまりそのまま皿ごとケーキを食べそうな利家を止め、幸村は動揺しているメイドを見る。 「そなたがめいどでござるか?すまぬが茶を貰いたいのだが…」 「あ、ああお茶ですね?少しお待ちを…」 少し落ち着きを取り戻したのか、お茶を淹れ、ケーキを切り分けて2人に渡す。 「かたじけない!拙者、茶の心得に疎いものでな」 「いえ…あの、もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔さんですか?」 「そうであるが…なぜ拙者の事を?」 「学院中で噂になっていますよ。4人も平民が召喚されて、その内1人はいきなり逃げたしたって…」 どうやら昨日の事が「主人から逃走した使い魔」として広まってしまったようだ。 「えーと…お名前は…」 「真田幸村にござる。幸村でよい」 「私はシエスタと言います。ユキムラさんですか…フフッ、変わった名前ですね」 「拙者はお主達の名の方が変わっていると思うが…む?」 4人の使い魔…幸村が知っているのは今ケーキを貪っている前田利家と、中庭の一角で佇んでいた本多忠勝…1人足りない。 「シエスタ殿、もう1人の平民というのは?」 「え?そういえば…ミスタ・グラモンの使い魔さんは何処に…」 「ギーシュ!あなたやっぱりこの1年生に手を出していたんじゃない!」 と、もう1人の平民の事を聞いていると、1つのテーブルから怒声が聞こえてきた。 ギーシュは今、この現状に焦っていた。 自分の計画ではこの時間はモンモランシーとお茶を楽しむ筈なのに、何故か約束の時間よりも早く1年のケティが来てしまったのだ。 「お、お願いだ香水のモンモランシー、その薔薇のような顔を怒りで歪ませないでおくれ!」 「酷いですわギーシュ様!私だけとおっしゃってましたのに…」 (な、何故こんな事になってしまったんだ!?ケティとの約束はまだ先の筈じゃないか!) 事の発端を作ったのは彼の使い魔である。 「おんのれ…何でわしがあんな物を食わねばならんのじゃ…」 ギーシュが召喚した使い魔…北条氏政はイライラしながら廊下を歩いていた。 原因は今日の朝食である。彼もまた幸村達と同様に固いパンとスープしか出されなかった、それが彼にとって我慢ならなかったのだ。 仮にも自分は元の世界では一国の主である。それがあんな食事とはどういう事かとギーシュに食って掛かったのだ。 そして彼は中庭でギーシュと喧嘩分かれし、今に至るという訳なのだ。 「わしは天下の北条じゃぞ!あんな飯を用意するとは何事じゃ!」 と、文句を言いながら歩いている彼の目に1人の生徒が目に止まった。 (んん?あの娘…確か昨日の晩に若造を訪ねてきた…) ケティ・ド・ラ・ロッタ、ギーシュに好意を寄せている女性である。 「何をしておるのじゃ?」 「あ、ギーシュ様の…」 声を掛けられたケティはバスケットケースを持ってこっちに走ってくる。 「ギーシュ様と一緒じゃないんですか?今日はコミュニケーションをとる日だったんじゃ…」 「ふん!あんな奴と仲良くなる気はないわい。それが昨日話していた“すふれ”というやつかの?」 そう言って氏政は彼女の持っていたケースを見る。 実は昨日の晩、ギーシュの部屋に彼女が来たのだ。 そこで2人は彼女の焼いたスフレを食べようと約束したのである。 (しかしあやつは別の娘といたが…ほっほぅ~なるほど~) ここまで思い出し、氏政はある事に気づく。 あの男は二股をかけている…と。 「おぉ~そうじゃそうじゃ。ギーシュが言っておったぞ、もう用事が済んだから早くお前さんに会いたい!とのぉ~」 「本当ですか!?あの…ギーシュ様はまだ中庭に?」 「まだおるぞぉ~。ほれ、早く行ってやるのじゃ」 「ありがとうございます!ああ…ギーシュ様あぁ~!」 氏政の言葉を聞き、ケティはケースを抱えて嬉しそうに駆けて行った。 「…わしは知らんぞぉ~なーんにも知らんもんね~フンフンフ~~ン♪」 「ギーシュ!」 「ギーシュ様!」 そして今の状況に至る訳である。 「と…とにかく2人共落ち着こう。落ち着いて話を…」 だが、そんな彼の言葉など彼女達が聞く筈もなかった。 パチイィーン! 「嘘つきっ!!」 先ずケティの平手が右頬を引っ叩いた。 バチイイィィン!! 「最っっ低っ!!」 次にモンモランシーの一撃が左頬を襲う。 2人のビンタを受けたギーシュの頬には、綺麗な紅葉模様が2つ出来上がった。 だがギーシュは何とか冷静さを保とうとする。 「は、ははは…あのレディ達は薔薇の存在を理解してな…」 ドゴオオォォォォン!!! 「このたわけ者おぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!!」 「ぶええぇぇぇー!?」 だが、左右の頬にダメージを負った彼に予想外の拳が飛んで来たのであった。 前ページ次ページ異世界BASARA
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1949.html
戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ (17)船酔い 戦火の奏でる狂想曲。 打ち砕かれ、制御を失った船体が天から地へと叩きつけられる音が響く。 一瞬で勝敗が決した、戦場というよりも処刑場という形容こそが相応しい空域。 そこからしばしの距離を離した位置に、竜騎兵達の一団が控えていた。 「ふむ、参ったな」 月光の中を飛翔する屍竜達、その中でも一際大きな体躯を持つ一匹の背にある男が低く唸る。 照らし出された男は歳の頃は四十ほど。肉体は戦場で鍛え上げられた最上質の筋肉で覆われ、腰には時に鈍器としても使われる鉄塊の杖が下げられおり、左目は眼帯で覆われている。 男の名は白炎メンヌヴィル、生ける伝説とも呼ばれるメイジの傭兵である。 そして今の彼は、アルビオン屍竜騎士団団長として戦場に身をおいている身でもある。 「あのような埒外なフネ相手に、この程度の手勢で仕掛けるのは自殺行為か…」 戦場の高揚に脈動する心臓を押さえつけ、その頭脳は冷徹に戦況を分析する。 人を燃やす炎に暖かさを奪われた男、最も熱い炎を冷たく操る男、それがメンヌヴィルという男を最も的確に言い当てた言葉である。 そのメンヌヴィルの目から見て、今のウェザーライトⅡは己が力単独で燃やし尽くすことができるほど脆弱なフネではないように思えた。 「仕方が無い。竜殿のお手並みを拝見するとしよう」 男は好機を待つ。 炎の欲望に焦燥を感じながら、静かに待つ。 「……うぇっぷ」 ウェザーライトⅡの艦橋、そこで最初に音を上げたのはモンモランシーであった。 口元を押さえるモンモランシー、その顔面は蒼白である。 船による三次元的な接近戦を考慮して作られた飛翔艦ウェザーライトⅡ。 この船は慣性を中和することで艦内の人間が挽肉になることは避けられるよう設計されていたが、ブリッジからその光景を見た人間が酔うことまでは考えられていなかった。 この為に乗組員は多かれ少なかれは視界酔いを感じていたのだが、それを最初に口にしたのがモンモランシーだったというわけである。 「ごめん、ちょっとおトイレ……」 モンモランシーのか細い声に、ウルザが無言で後部にある扉を杖で指し示す。 「………」 必死の形相で席から立ち上がり、ふらつきながらトイレを目指すモンモランシー。 慌てて駆け寄り、手を貸そうとしたギーシュが無言のままに片手で追い払われる。 飛び掛る寸前の猛禽類と同じ目つきをしたモンモランシー、これを目にしたギーシュは震え上がってしまい、席に戻る他なかった。 乙女心とは複雑怪奇なものである。 ブリッジの中、モンモランシーの次に青い顔をしていたのはコルベールである。 だが、その心境は他の者とは大きく異なっていた。 彼の心に押し寄せていたものは……後悔の炎。 (…これでは…これではまるで、虐殺ではないか) 両手で顔を多い、恐怖に身を震わせる。 血に塗れた手、その手を再び罪に染めてしまう日が来てしまった。 己の手によって作り出された兵器が人を傷つけてしまったという、眼前の事実。 あの船の中にはどれだけの人が乗っていて、その家族達は何人いたのだろうか。自らの行いで、どれくらいの人が涙を流すのだろうか。 彼の脳裏に、自分の手で焼き払った村の光景がフラッシュバックする。 燃え盛る炎の気配、人と建物が焼ける臭い、子供が泣き叫ぶ声…… 彼の心に蟠る黒い闇が、幻覚というにはあまりにリアルなビジョンを見せる。 ここが戦場であると分かっていても止められない。 罪の意識がコルベールの心を焼き尽くそうと燃え広がっていく。 精神は絶望に覆われ、体の震えが止まらない。 「いいや、違うなミスタ・コルベール」 がたがたと震えるコルベールに、諭すような声色でウルザが話しかける。 「あの船の中には一人として生者は乗っていなかった。君はまだ、誓いを破ってはいない」 ウルザが杖で足元を叩くと、埋め込まれた球体に映像が映し出された。 遠見の映像である。 コルベールが強張った顔を上げると、そこには見たことも聞いたことも無い、おぞましい者達の姿があった。 映し出されたのは墜落した船の残骸周辺の様子。 そして、闇の中で蠢く、異形の人影達。 彼らは撃墜されたフネの乗組員達であった。 いや、元乗組員とでも呼ぶべきであろうか。 あるものは腐敗が進み蛆がたかり、あるものは首が無く、またあるものは全身を炭化させていた。 アルビオン空軍の格好をしているものもいれば、ゲルマニア帝国軍の制服の着ているものもいる、傭兵らしき鎧を着た者の姿もある。 彼らの共通点、誰もが一目見てで分かる共通点。 彼らの中に生きている者など一人としていない、それは死者達の群れであった。 誰かが問うに先じて、ウルザが答える。 「これはゾンビと呼ばれる、魔法によって仮初の命を与えられた亡者達。哀れなる被害者にして邪悪の手駒だ」 ウルザの気遣いにより、コルベール己の中の闇との決定的な対峙を避けることが出来た。 しかしコルベールとて、いつかこの船が人を殺す日が来るだろうことは分かっている。 いつか、答えは出さねばならない。そして、その日はきっと遠くないだろう。 「あれは、この世界にとっても滅ぼさねばらならぬ存在だ。この世界が……この世界がブリミルが作り上げた理想の世界なのだとしたら、あれは排除されねばならぬ」 ウルザの普段と変わらぬ冷静な立ち振る舞い、普段より一層無機質な声色。 ルイズはその中に滲む憤怒と憎悪を感じ取った。 それはウルザの深層意識にまで入り込んだ、ルイズだからこそ分かった小さな差異であった。 「ねぇ、ミスタ・ウルザ。あなた、もしかして………」 怒っているの? そう聞こうとしたルイズをウルザが遮る。 「次の客がみえたようだ、もてなしをするとしよう」 飛翔艦ウェザーライトⅡに迫る二つの影。 先ほどまで学院を攻撃していたもので間違いはない。 それは全体を赤と青でカラーリングされた、五十メールほどもある巨大な何かであった。 真鍮製の三角形をした頭部、長い首に巨大な体、力強く風を打つ飛膜の翼、細い腕の先端には鋭く尖った鋼鉄の鉤爪。 瞳は青い輝きを灯し、関節部からは蒸気が噴き出している。 そう、その姿はドラゴンのそれでありながら、鋼鉄の肉体を持っていたのである。 二匹はそれぞれ左右に別れ、弧を描くようにウェザーライトⅡに接近すると、炎のブレスをクロスさせるように吐き出した。 ウェザーライトはこれをロールをうちつつ垂直上昇するという、曲芸飛行で見事回避を成功させた。 「……あーん?相棒、なんだありゃ?なーんか、見覚えがある気もするんだけどよ」 それまでウルザの背中に背負われたまま、沈黙を貫いていたデルフリンガーが主に話しかける。 「あれは……」 ウルザの脳裏に閃くのは、かつてクルーグの街を滅ぼした巨獣、そしてナインタイタンズに襲い掛かった恐るべきファイレクシアの刺客。 それはファイレクシアの戦闘機械生物ドラゴン・エンジンであった。 赤と青にカラーリングされているが、相当に古い時代年式のドラゴン・エンジンに酷似していた。 「あれはドラゴン・エンジン機械生物。ここではない別の世界で生み出された機械の体に、人ならざる技にて生命を与えたものだ」 「では、あれがミスタ・ウルザが仰っていたファイレクシアの戦争機械なのですか?」 ウルザはコルベールの問いを、攻撃をするすると回避させながら答えた。 「その通りだミスタ・コルベール。あれこそがこの世全ての悪なるファイレクシアの手先だ」 言いながらもウルザは巧みな飛行操作を繰り返し、繰り返される攻撃を難なく避け続ける。 「空間転移に死者蘇生、それにドラゴン・エンジン!これだけ証拠が出揃えれば推測は確信の域に達する。ハルケギニアにかの世界からの尖兵が紛れ込んだことは間違いないようだ!」 ウルザが裂帛の気合とともに、杖を振り下ろす。 それまで様子見の為に防御に徹していた飛翔艦が、一転して攻勢の構えに移る。 ドラゴン・エンジンの尾による攻撃を横滑りに回避しながら、勢いそのまま船首だけを回頭させる。 船の先には『反射』による力場、逆袈裟に斬り上げる一刀。 羽打ち制動をかけることでこれを紙一重で避けるドラゴン・エンジン。 斬り上げを避けられたウェザーライトⅡは、その頂点に至る瞬間、すっぽ抜けたかのように上空へと駆け上がる。 昇る際に、ウルザは力場を使い、周囲の空気を素早く攪拌させる。 突然巻き起こる風圧。このために風を掴みそこね、空中に立ち往生する機械竜。 目論見通りに動きを止めたドラゴン・エンジンの頭上、縦に薙ぐ形でウェザーライトⅡがその光条を払う。 頭上から迫る自らを真っ二つにせんとする危機、これに対して生命の危機を感じたドラゴン・エンジンが全力で回避運動を行う。 飛膜翼はその構造上、前後の移動を得意とする反面、昆虫の翅のような横への移動を苦手としている。 縦の一撃を前後の移動で避けることは難しい、滑空も間に合わないであろう。 正に王手、これが単なるドラゴン・エンジンであれば、確実に仕留められていただろう。 ファイレクシアの戦争兵器と、異世界の知識との融合で生まれた「イゼット・エンジン」。 彼の導き出した解答は、体勢を制御しながらの背面右ブースターの全力噴射であった。 背後のフレアを片方だけ灯しながら不恰好に飛行するイゼット・エンジン。 上空からの切り払いが不発に終わったウェザーライトⅡ。 両者距離を離しての仕切りなおしとなった。 奇想天外な動きを繰り返す未知の飛行船に対して、イゼット・エンジンは強い警戒心を抱いていた。 彼が目覚めてからの短い時間を含め、その生涯の中で、このような動きをする飛行物体を彼は知らなかった。 もしも彼が作られた機械生物でなければ、今感じているものがどのようなものであるかを知ることができたかも知れない。 それは――恐怖。 動揺がしこりとして残され、彼はウェザーライトが奇妙な動きを始めた時も、動くことができなかった。 ウェザーライトⅡはそれまで前方に集中させていた力場を、前後に分割して発生させた。 前後に光壁を集中させ、その間に挟まれるようにして小刻みに震え始める飛翔艦。 敵は今、目の前で何かの準備をしている。 彼の心に戦うことを躊躇わせる何かが生まれかけるが、ファイレクシアの戦闘機械としての本能がそれを許さない。 そして何より、勝機はまだ残されている。 敵艦の後方上空、そこには高速で滑空しながら奇襲を仕掛けようとする同胞の姿。 苛烈なる闘争本能によって導き出される結論は唯一つ、前後からの挟撃作戦あるのみ。 「轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟ッーーー!!!」 周囲何リーグにも響き渡るような大音量の咆哮を一声上げると、イゼット・エンジンは目の前の敵を粉砕すべく突進を開始した。 天高くからウェザーライトⅡを見下ろす竜。 彼もまたファイレクシアの戦争機械と異世界の英知との融合によって産み落とされたイゼット・エンジンであった。 暗黒次元製の闘争本能が、イゼット・コアから大量のエネルギーをくみ上げる。 そして十分に力が満ちたことを確認すると、彼は主人の命を果たすべく、風をきりながら滑空を開始する。 夜陰に紛れ、上空からの奇襲攻撃。 イゼット・エンジンが背面のバーニアを全力で焚く、フレアが赤から青、やがて白へと変化する。 みるみるうちに飛翔艦との距離が狭まり、今やその距離はブレスの攻撃範囲となった。 全てを焼き尽くす灼熱の息吹、その必中の範囲に至っても船に目だった動きを見せない。 その前方には咆哮をあげながら、注意を逸らすべく正面から突進する同胞の姿。 前後からの挟み撃ち。 絶好の位置についた両機が顎を開き、これまでで最大の爆炎を吐き出した。 勝利を確信するイゼット・エンジン達。 だが、 破壊の火が到達する直前に、 ウェザーライトⅡが奔った。 前後に配置された『反射』の力場。 その中で挟まれるようにしながら、『移動する力』のベクトル変更を繰り返す。 そうして、本来船を動かすはずだった力は行き場を失い、暴走を始める。 力が暴発する瞬間に力場は形状を変化させ、艦を包み込む筒へと変化する。 その筒の中を、ウェザーライトⅡが奔る。 速く、速く、速く! あるいはそれは、神河世界の武士であったならば「居合い」と呼んでいたかもしれない。 自らを砲弾と化したウェザーライトⅡは前方のイゼット・エンジンを轢き潰し、これを木っ端微塵に破壊した。 何のトラブルも無く設計どおりのスペックを引き出すウェザーライトⅡ。 十隻の戦艦を瞬時に葬った性能、そしてドラゴン・エンジンを一機撃墜した戦果。 そしてこれら敵の背後に感じられる、ファイレクシアの影。 こうした興奮がウルザを侵し、多少なりとも冷静な判断を失わせていたのは事実であった。 彼がこのことに気付き、今一度注意深さを取り戻していたならば、この先の展開は違ったものになったかもしれない。 「残るは一機!」 同胞を失い、怒り狂うイゼット・エンジンが周囲に炎のブレスを撒き散らしながら、猛然と突進してくる。 既にその目に理性の光などは無い、ただ只管に戦闘本能に駆り立てられた飛翔。 両者が交わる寸前、ウェザーライトⅡが翻り、その先端の白刃が機械竜の前面を切り裂いた。 イゼット・エンジンの体に、斜めの線が走り、そこから噴出すようにして火が溢れる。 噴水のような火花を一瞬放つと、それは内部から大爆発を引き起こし、自らの炎に飲み込まれた。 この時、初めて艦橋内部を激しい揺れが襲った。 「どうしましたミスタ・ウルザ!設計上はこの程度の爆発で衝撃を受けることなど無いはずでは!?」 揺れるブリッジ内、床から生えた立方体の一つに寄りかかりながらコルベールが叫ぶ。 ウルザはこれに、驚愕の声色を持って答える。 「違う、これは……まさか、敵に取り付かれているのか!?」 二匹目のイゼット・エンジン。その内部に潜んでいたのは生きた竜、赤と青の鱗を持ち額にルーンを刻まれた竜であった。 エンジンが斬激によって両断されるや否や、彼は内部から爆発を引き起こし、それを目隠しにしてウェザーライトⅡへと飛び移ったのである。 よもや竜の中に竜が潜むなどという罠が仕掛けられていたなど予想していなかったウルザはこの接触を許してしまい、その結果、力場の死角となる船との密着する距離にまで接近を許してしまったのだ。 そして、竜が船倉に取り付いた衝撃こそが、先ほどの揺れなのであった。 「実に素晴らしいアーティファクトだ。脆弱なる人の身でこれほどのものを作り上げるなど、どれほどの修練を積んだのか。全くもって、壊してしまうのが惜しい船だ」 そう呟く竜。それはかつてアルビオンの地下空間においてドラゴン・エンジンに新たな息吹を吹き込んでいた、あの韻竜であった。 「どれ、解析を始めるとするか」 竜の額に刻み込まれたルーンが光を放つ。 ウェザーライトⅡの構造を分析してそのコントロールを奪おうと、虚無の使い魔ミョズニトニルンの力が発揮される。 船の中枢に、魔法の神経を伸ばそうとする竜。 だが、その伸ばした触手を、現在主導権を握っている者の力で振り払われる。 「……ふむ、やはりこれの制御を一瞬で奪うのは無理か。ならば仕方が無い」 主導権を奪うことを諦めた竜は、その大きな口を小刻みに動かし、呪文を唱える。 そうして完成した呪文が、ウェザーライトⅡの中枢へと絡み付いたことを確認すると、彼は羽を打ち鳴らして船との距離を取った。 船に取り付いた巨大な何かとの、制御権争いに勝利したウルザ。 しかし、その直後に彼の身を唐突な痙攣が襲った。 「こ、これは……フィードバック!?」 気付いた時には手遅れであった。 「お、おおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオッッ!!」 ウルザの体に自らの魔力が逆流して流し込まれる、それも初期起動時の余剰負荷程度とは比較にならない量である。 バチバチと火花を散らしながら、ウルザの肉体を魔力のとげが駆け巡る。 彼の強大な魔力の分だけ、強大な力がウェザーライトⅡからウルザに跳ね返り、流れ込み、彼を焼く。 ウルザは自身を襲った最悪の事態を察知し、最後の手立てを打つべく、痙攣に震える指先を目の前の球体に触れさせた。 「……手動、操作に、……切り、変え る」 ウルザは、そう小さく呟くと意識を失った。 フネが、堕ちる。 絶好の機会を窺っていた男が、その顔を歪め獰猛に牙を剥いた。 「竜殿はきっちりと仕事を果たしてくれたようだな。ならば俺も相応の働きを見せねばなるまい」 男の周りには屍竜の群れ、生者など一人もいない。 男は周囲の屍者達に向かい、号令の声を上げた。誰のためでもない、それが己の習慣であったからだ。 「誰であろうと、平等に焼き尽くせ!」 男の右手に刻まれたルーンが光を放つ。 危機を迎えるウェザーライトⅡに、もう一つの脅威、虚無の使い魔ヴィンダールヴの影が迫る。 「……本当に、酷い目にあったわ」 ―――モンモランシー 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む