約 1,185,360 件
https://w.atwiki.jp/himejenne_memo/pages/39.html
autolink 通常採取 ミルク 属性限定 クレマミルク?(クレマ属性?の森のみ) 期間限定 なし 備考 2010年5月現在、2時~6時に採取することは出来ません コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/toriko-database/pages/1480.html
名前 カキミルク 分類 不明 初出 アニメ98話 捕獲レベル 不明 生息地 人間界 概要 アニメオリジナルの食材。 第2ビオトープの海中レストランでカキミルクのクリームスパゲッティとして出された。 関連項目 猛獣・食材図鑑(アニメオリジナル)
https://w.atwiki.jp/sentakushi/pages/157.html
作品名 ミルクナイト 作者名 ◆M14FoGRRQI 連載開始 選択形式で進めるスレIN型月板part08 273 あらすじ 変態すぎる慎二が楽しいギャグ小説。 本文 第一章 しいて言うなら臓硯編ミルクナイト 第1話 ミルクナイト 第2話 ミルクナイト 第3話 ミルクナイト 第4話 ミルクナイト 第5話 ミルクナイト 第6話 第二章 セイバー編ミルクナイト 第7話 ミルクナイト 第8話 ミルクナイト 第9話 ミルクナイト 第10話 ミルクナイト 第11話 ミルクナイト 第12話 ミルクナイト 第13話 ミルクナイト 第14話 ミルクナイト 第15話 ミルクナイト 第16話 ミルクナイト 第17話 ミルクナイト 第18話 第三章 桜編ミルクナイト 第19話 ミルクナイト 第20話 ミルクナイト 第21話 第四章 アインツベルン編ミルクナイト 第22話 ミルクナイト 第23話 ミルクナイト 第24話 ミルクナイト 第25話 ミルクナイト 第26話 ミルクナイト 第27話 ミルクナイト 第28話 第五章 士郎→士郎子編ミルクナイト 第29話 ミルクナイト 第30話 ミルクナイト 第31話 ミルクナイト 第32話 ミルクナイト 第33話 ミルクナイト 第34話 ミルクナイト 第35話 ミルクナイト 第36話 ミルクナイト 第37話 ミルクナイト 第38話 ミルクナイト 第39話 ミルクナイト 第40話 ミルクナイト 第41話 ミルクナイト 第42話 ミルクナイト 第43話 ミルクナイト 第44話 ミルクナイト 第45話 ミルクナイト 第46話 ミルクナイト 第47話 ミルクナイト 第48話 ミルクナイト 第49話 ミルクナイト 第50話 ミルクナイト 第51話 ミルクナイト 第52話 ミルクナイト 第53話 ミルクナイト 第54話 ミルクナイト 第55話 ミルクナイト 第56話 ミルクナイト 第57話 ミルクナイト 第58話 ミルクナイト 幕間58-59話 ミルクナイト 第59話 ミルクナイト 第60話 ミルクナイト 第61話 ミルクナイト 第62話 ミルクナイト 第63話 ミルクナイト 第64話 ミルクナイト 第65話 ミルクナイト 第66話 ミルクナイト 第67話 ミルクナイト 第68話 ミルクナイト 第69話 ミルクナイト 第70話 ミルクナイト 第71話 ミルクナイト 第72話 ミルクナイト 第73話 ミルクナイト 第74話 ミルクナイト 第75話 ミルクナイト 第76話 ミルクナイト 第77話 ミルクナイト 第78話 ミルクナイト 第79話 第六章 ライダーブラック編ミルクナイト 第80話 ミルクナイト 第81話 ミルクナイト 第82話 ミルクナイト 第83話 ミルクナイト 第84話 ミルクナイト 第85話 ミルクナイト 第86話 ミルクナイト 第87話 ミルクナイト 第88話 ミルクナイト 第89話 ミルクナイト 第90話 ミルクナイト 第91話 ミルクナイト 第92話 ミルクナイト 第93話 第七章 藤村編ミルクナイト 第94話 ミルクナイト 第95話 ミルクナイト 第96話 ミルクナイト 第97話 ミルクナイト 第98話 ミルクナイト 第99話 ミルクナイト 第100話 ミルクナイト 第101話 ミルクナイト 第102話 ミルクナイト 第103話 ミルクナイト 第104話 ミルクナイト 第105話 第八章 おっぱい桜編2 第九章 最終編前夜ミルクナイト 第106話 コメントフォーム コメント すべてのコメントを見る 備考 ミルクナイト 第67話時点登場人物解説 ミルクナイト 連載百回突破記念
https://w.atwiki.jp/meidaibungei/pages/146.html
2006年04月29日(土)23時18分-鴉羽黒 ◇(ショートサイズ・コーヒー) * 黒い水面に死神の顔が映っている。 少し考えてそれが自分の顔だと気づき、星名速水はため息をついた。 私鉄駅に隣接するコーヒーショップは立地の良さからか普段から繁盛しているのだが、今は平日の夕方、つまり学生の下校時刻というだけあって、客席は八割以上埋まっていた。 窓に面したカウンター席では一人身のサラリーマンがノートパソコンを開いている。中央にサンスベリアの並ぶ六人がけのテーブルは四つ置かれているが、それらはほとんど制服の群れに占領されていた。いずれも二、三人で構成されたグループで、なおかつ制服がばらばらだった。奥の多人数用テーブル席は四組あったが、二組が主婦の集団に埋められていた。星名の座っているのは、主婦らとひとつテーブルを置いて離れた、隅のテーブルだ。一人の星名がそんな席に座れるのは混み始める直前に来店できるからだ。もっとも、星名の所為で席につけなかったらしい女子高生グループから、あからさまな敵意の視線を向けられることも多い。 ここ数年で一挙に数を増やしたこのコーヒーショップ・チェーンを、星名はあまり評価していない。コーヒーは不味いし、サイドメニューは少ない量で高い。それでもバイト前の空き時間を必ずといっていいほどの率でこの店で済ますのは、ひとつには一般的な喫茶店よりは安くコーヒーが飲めるということと、コーヒーの味に関してはすでに諦観をもっているから、だった。どれだけ評判の喫茶店に行ったとして、星名を満足させる店はもう存在しないだろう、という諦観だ。それならば、どれだけ薄かろうがコーヒーの体裁が整っていれば構わないと、そう星名は割り切っている。 というわけで、何度目かの諦めを脳裏によぎらせてから、星名はショートサイズのコーヒーに口をつけた。 かつて、コーヒーなど飲んだことのなかった星名が、口をつける前から魅了されてしまったコーヒーがあった。星名のコーヒー好きがその一杯から始まったのは疑いようもないが、そのコーヒーを飲んだときの記憶は当時からなぜだか曖昧で、どこの喫茶店で飲んだのか、星名にはどうしても思い出せなかった。覚えているのはそのコーヒーの味と香りだけで、わかってるのはいまだにそれらを越えるコーヒーには出会えていないということだけだった。 それでも、長年飲み続けてしまった習慣からか、星名はコーヒーをやめるつもりはなかった。もっとも、家族をはじめ、たいていの人間はそのことを良く思っていない。なぜなら、一度コーヒーの飲みすぎで胃を悪くして、食べるより吐く量のほうが多い一週間をすごしたことがあるからだ。以来、自宅ではコーヒーが飲めない、というか飲ませてもらえない。自宅でコーヒーが飲める環境を得るためだけに、他県の大学を受験しようかとも思ったほどだ。まあ、さすがに馬鹿らしくてやめたが。 実を言えば、星名の胃は再び限界を超えようとしている。星名自身そのことわかっていたが、かといってコーヒーをやめるつもりはなかった。そもそも、星名の思うに、原因はコーヒーばかりではない。 (…ストレスで胃をやられるなんて、うだつのあがらないサラリーマンか、俺は…) 胸中で自嘲気味につぶやく。三年前、あれほど時間と神経と自分を削り、消費してまで得た結果が今の自分だと思うと、いまさらながら世の理不尽を嘆きたくなる。薬にも毒にもならない老人の長話を延々と書きとめ、最後に紙一枚にまとめて卒業資格を貯めて行く。道理も知らない子供に使い捨ての知識を与えて金を得て、それを使って自分はまた使い捨ての知識を得る。いつまでこんなことを続けなければいけないのか。 気楽なのは親だ。公立の高校を出て国立の大学へ入り、国家試験を通るために勉強する息子の姿を見て、充実して幸せな人生だと喜んでいる。阿呆か。…それは確かに、そう悪い人生ではないのだろうとは、星名も思っている。自分と同じ努力をしていても結果が異なってしまった人もいるだろうし、そもそも境遇から同じ土俵に立てない人もいるだろう。だが所詮、人の苦労はその人だけにしかわからない、だから星名の苦労も星名にしかわからない。自分の苦労が他人よりも大きいのだと自慢するつもりはないが、同じように他人から評価されるのはまっぴらごめんだ。たとえそれが、親であっても。 なのに、人も苦労も知らないで、唯一のストレス解消手段であるコーヒーを辞めろという。冗談じゃない。 もっとも、それが悪循環なのは星名自身わかっている。コーヒーを飲むことで胃に負担がかかり、そのこと自体がストレスを生み、その解決にコーヒーを求める。ただし、そこでコーヒーを回避したとして、そのことがまたストレスを増やすことは目に見えている。それに、星名はコーヒーを飲まないとどうにも作業能率があがらないのだ。 そうしてジレンマが生まれ、またストレスになる。なんというか、どうしようもない気がしてくる。 濁流のように流れる思考がずるずると底無し沼にはまっていく予感を感じて、星名はかぶりを振った。どうにか思考をとめる。見ると、星名のテーブルにいつの間にかサイドメニューのサンドイッチが置かれていた。いつの間に運ばれてきたのか、まるで覚えがない。 どうにも、こうしてコーヒーを飲んでいると悪いほうへ暗いほうへ考えが引きずられていく。コーヒーが悪いわけではなく、星名自身の性格の問題だ。それに、実家暮らしのせいで、自宅にいるときはなんだかんだで一人になれない。あるいは、一人になったとしても、勉強なり家事なり、やることがある。大学にいるときも、一人でいることは多いけれど、そこには常に仕事があり、そういうときは星名はそれに集中している。 だから、この店で一人でコーヒーを飲んでいる時間が唯一、星名は自由で、一人になる時間だった。益体もない考え事をしてしまうのはそのせいだろう。 店内にかけられた時計を見て、そろそろ頃合だろうと思い、星名は席を立った。と、そこで、星名はあることに気づいて手帳を開いた。その勘はあたっていて、手帳には今日のバイトの時間がいつもより一時間遅いことがメモされていた。ため息をつく。 コーヒーはすでに空になっているが、対照的にサンドイッチは手付かずだった。まあちょうど良かったのだろうと思い直し、星名はカウンターでもう一杯コーヒーを頼んだ。ほぼ毎日来ているので店員の顔も大体覚えてしまっているのだが、向こうのほうはどうなのだろう、ふと星名はそんなことを思う。週に五日は現れて、ショートサイズのコーヒー、それに時々チーズ・サンドを頼んで一時間近くなにをするでもなく居座っている、モノクロス-ツ姿の客。客観的に言って怪しい。だがまあ、正確には覚えていないが、曜日ごとに店員にも入れ替わりがあるし、客も多い時間だからそう覚えてはいないだろう。 二杯目のコーヒーに口をつけたとき、星名の胃が悲鳴を上げた。無視しても構わない程度のものだったが、これ以上悪化して、それがバレると面倒なことになると思い、星名は手付かずだったサンドイッチを申し訳程度にかじった。とあるアドバイスを思い出したから、でもある。 星名家には星名速水以外にコーヒーを飲む人間はいなかったが、親族に一人だけ、星名に理解のある人間がいた。彼は星名の従弟に当たり、星名の見るところでは、彼はいつも缶コーヒーを飲んでいる。星名より何歳か年下の高校生だったが、彼が親戚勢の中で唯一、気の置けない友人のような存在だった。 胃を悪くして以来身内の中ではコーヒーを飲んでいないことになっている星名だが、彼はあるとき、 「…量を飲むのは別に問題ないけどな、胃は空にしとかないほうがいいぞ」 と星名に言った。その内容がどうというよりは、コーヒーを飲み続けていることをなんなく見抜いていたことに星名は感心してしまった。いわく、そんなんわかるだろ普通、とのことだったが。 わかりそうでわからないその従弟の名前を思い出そうとして、星名は視線を宙に泳がせた。ふと、その視線がカウンターの奥の店員のそれとぶつかる。すぐに彼女は気まずそうに視線をずらした。 一瞬だったのではっきりとはわからなかったけれど、その視線はなんというか、敗者に向けられる哀れみのそれだった。被害妄想だなと、星名はまたひとつため息をつく。ため息をつくことで幸せが逃げるのなら、星名は年間1000以上は幸せを逃しているだろう。 知らず、星名はまた暗い考えに陥っていた。あの従弟も、自分の苦しみのほんの一握りしか知らない。家族ですら気づかないような苦しみを、はたして消せる日は来るのだろうか。認知されない苦しみは救われることはないだろう。結局のところ、自分で何とかするしかないのだ。もっとも、それができたら苦労しないし、そんなこと誰もがそう思っている。あるいは積極的にそれを知らせようとしない自分が悪いのかもしれない、しかし、自分が苦しいんだと叫ぶのは、それはもっと苦しい――見苦しいことのような気もする。あるいはプライドが高いのかもしれない。けれど、感情をありのままに表に出すことがいいことだとは、どうしても思えない。 二杯目のコーヒーがなくなる。 チーズ・サンドがどうにも喉を通らなくて、結局半分近く残してしまった。ここのところ、こういうことが多いような気がする。トレーを回収棚に運ぶその途中、さっきの店員をこっそり横目で覗いてみる。見慣れた店員の一人で、背中まである髪をフィッシュボーンに編んだ、カッターシャツの似合う女の子だ。もっとも星名はその髪型がフィッシュボーンという名であることは知らないから、複雑な髪型の子と覚えているのだが。 予想通りというべきか、彼女はもうこちらを見てはいなかった。まあ、当たり前だ。さっきのはやはり被害妄想だったのだと、星名は結論付けた。 のだけれど、店を出て数歩歩いたところで、星名を呼び止める声がかけられた。振り向くと、そこにさっきの店員がいて、星名は困惑する。 「あ、あの…これ、わ、忘れ物ですっ!」 そういって彼女が差し出したのは紙のカバーのされた文庫本だった。本など新書か参考書くらいしか読んだことのない星名に、当然心当たりなどあるはずもなく、困惑は増すばかり。 そんな星名に彼女は本を押し付けて、「では、またのご来店を、」と言って踵を返し、お待ちしていますと叫びながらすごいスピードで店に戻っていった。 後に残されたのは、呆気にとられて「いや、俺のじゃないし…」と呟く星名と、その手に渡された文庫本だけだった。 文庫本は、『紅茶日和』という、どうやら小説のようだった。星名にとっては読む気のしないタイトルだが、そんなことより、どうもこの文庫本はどこかの図書館の本らしかった。これってまずいんじゃないかと星名は思ったが、考えようによってはむしろ好都合だと気づいた。要は、持ち主を探すまでもなく、この図書館に返せばいいのだから。 もう一度本を確認しようとしたとき、頁の間から紙が一枚零れ落ちた。拾ってみると、それはさっきの店においてある紙ナプキンだった。 「…ん?」 みると、そこになにか文章が走り書きしてある。 『最近食欲ないみたいですが あまりムリせずに がんばってくださいね』 星名は我知らず、店のほうに視線を向けていた。 「…視野が狭いってことか、俺も」 一人で勝手に落ち込んで、見ず知らずの店員に心配されているとは、なんとも情けない話だ。 「………」 とりあえずまあがんばってみようか、星名はそんな風に思った。 バイト先へ向かう足取りは、いつもよしほんの少し軽い。 * ◇(シュークリーム・ティーセット) * 落し物を見つけたら、拾ってあげましょう。 持ち主が分かっているなら、届けてあげましょう。 そう、もし目の前で誰かが何かを落としたら、拾って追いかけていって、そうして手渡してあげましょう。 いつか誰かが教えてくれたこと。何となく、わたしはそれを思い出した。 …彼は、何度も落し物をしている。 溜息一つこぼせば、しあわせが一つ逃げていくという。 それが本当なら、彼はもう、両手で数え切れないほどの幸せを落としてしまっている。 それも、わずか一時間もしないうちに。ほとんど、毎日。 わたしはそれを知っている。目の前で、それを見ている。 でも、どうしたらその幸せを拾ってあげられるのか、その術をわたしは知らない。 どうしたら、いいのだろう。 放課後、紅坂美湖は寄り道もせずに最大速度でバイトに直行する。仕事時間に間に合うこと自体は真面目だろうけれど、高校生という身分を考慮に入れると、バイト自体あまり褒められたものではないのかもしれない。紅坂の通う御戸代北高校は特に進学校というわけでもないが、公立校の性質なのか、原則はバイト禁止だ。それでも紅坂が働けているのは、バイト先が高校のある地域から遠く離れているのと、店長が大らか、あるいはいい加減なおかげだろう。もっとも、紅坂のように校則に反して反してバイトをしている生徒は、そう少なくはないと推測されるが。 電車にして数駅分の距離を、紅坂は自転車で駆け抜けた。 スター・フォワード・カフェ。ここ数年で一挙に数を増やしたこのコーヒーショップ・チェーンを、紅坂はあまり気に入ってはいない。コーヒーの味は、よくわからない。単に、紅坂が紅茶党だからというだけの評価基準だ。もっとも紅茶が置いていないわけではない、ただし種類が少ない。ティー、それだけ。バリエーションはサイズのみ。ミルクティーにしたければコーヒーに入れるのと同じクリームを入れろとのことだし、レモンティーともなると、レモンを持参してくださいとしか言えない。紅茶といえばレモンティーな紅坂としては、ならいっそティーなんぞやめてしまえと思う。客としては絶対に入らない店だが、むしろだからこそ紅坂はバイト先にこのスタカを選んだ。万一気まずい辞め方をしても問題ないからだ。 店の奥にロッカー・ルームがある。裏口から店へ入った紅坂は、そこで手早く制服を着替えた。スタカの制服は白のカッター・シャツに黒のキュロット・スカートというシンプルなもので、そこだけは紅坂も気に入っていた。 曇り硝子の窓から夕暮れの光が差し込んでいる。冬の陽はどこか弱々しいが、夕陽になるとそれは特に顕著だ。灯りであるべき光が、明るさよりもむしろ暗さを目立たせている。端々に落ちる影がどうにも不気味で、紅坂はなんとなく勤労意欲をそがれてしまう。もう帰るべき時間だと、その影が訴えてきているような気がするのだ。 お金をもらっている身だと割り切って、紅坂はその訴えを振り切った。わざわざ自分で選んだことだし――それに、気になることもある。 ドアに備えられた姿見でもう一度自分の姿を見、ネクタイが曲がっていないことを確認して、紅坂は仕事を開始した。 学生の下校時刻ということもあり、客は多かった。もっとも、もう少し経つとさらに増えるのを紅坂は経験的に知っている。しばらくの間、紅坂は淡々と、表面的には愛想良く仕事をこなしていく。 そうして半刻ほど過ぎた頃、その客はやってきた。 レジに立ったのは、紅坂の仕事上での先輩にあたる大学生だった。紅坂は指示を受けてサイドメニューの調理にかかる。そのかたわら、紅坂は今来た客がいつもの席に座るのを確認した。最奥・壁際のテーブル席、通称「城」。誰が言いだしたのかは知らないが、よく客が長居する席としてスタッフの間でひそかにそう呼ばれている。 そして、紅坂の手のなかでチーズ・トーストができあがるまでのわずかな間に、彼はまた落し物をした。 (……最近、特に多いな) 紅坂のバイトのシフトは平日のみの週3日だ。時間はいつも同じ、夕方4時半から9時までの4時間半。 バイトを始めて一月もしない頃、5時から6時までの間、いつも同じ客が「城」に座っていることに紅坂は気づいた。他のスタッフもおそらく気づいているのだろうけど、そういう常連客は珍しいわけではなくて、だから特に話題には上らなかった。 気になったのは、彼がよく溜息をつくことだった。 いつも同じ時間に来て同じ時間に帰り、来ている服もほぼ同じで、グレーのスーツと白のカッター。ネクタイの色はまちまちだが、地味な色だということは共通している。A4サイズのブリーフ・ケースを愛用している。格好からするとまるでサラリーマンのようだが、それにしては荷物は少ないし若く見えるし、塾講師のバイトをしている大学生というのが妥当な線だろう、紅坂はそう推測している。 もっとも、彼の持つ雰囲気は、どことなく疲れた40代のサラリーマンを連想させる。紅坂は何度かレジに立ったこともあるが、その表情はいつも陰鬱なそれだった。注文する声もくぐもった感じで聞き取りづらいし、視線はいつも下だ。背は高いがいささか不健康気味な痩せ方をしているし、目つきも悪い。神経質そうな感じもする。。 正直なところ、そういうわけだから、印象はよくなかった。暗いし、冷たい感じがした。 そんな印象だったから紅坂が彼の存在を気にかけなくなるのに時間はかからなかったが、それからさらに一月が過ぎた頃、その印象は過去形に変わる。 バイトにもそろそろ慣れてきていたから、気が抜けていたのかもしれない。紅坂はレジ打ちの仕事中、ちょっとしたミスをした。大したことがないとはいえミスはミスで、忙しい時間でもあったから、紅坂は一緒にいた先輩に手酷く注意された。間の悪いことにその先輩がとびきり嫌味な人で、不覚にも紅坂は結構落ち込んでしまった。元はと言えば自分のミスの所為でもあったし、場所が場所なので客からも丸見えで、紅坂は穴にでも入りたい気分だった。 そのとき、ちょうど接客していたのが彼だった。それがまた嫌で、無表情の内側で彼が自分を嘲笑うさまを想像して、紅坂は溜息をこらえるのに一苦労だった。それでもどうにか笑顔を保ったまま、マニュアル通りに彼の前にショートサイズのコーヒーを差し出した。 そのときだった。 『…ありがとうございます』 いつもどおりの、聞き取りにくい、低い声だった。けれど、その声が紡いだ言葉は、いつもとは違った。 聞き違えたかと思った。 びっくりした紅坂は、思わず彼を見上げてしまった。一瞬眼が合った彼はすぐにうつむいてしまって、コーヒーを受け取るとそそくさとその場を去った。 普段なら何の反応もないのに、一体どういう風の吹き回しかと考えて、もしかして叱られたわたしを慰めようとしたのだろうかと、紅坂はふとそんなふうに思った。 もちろん、それは紅坂の思い違いかもしれない。けれど紅坂は、自分の持つ彼についての印象の方が思い違いなのではと、そう考えるようになった。 それから、なんとなく彼を眼で追う日々が続いている。 そして今また、彼は落し物をした。 ちょうど客足が途絶えていたせいか、つい紅坂は気を緩めていたらしい。 レジ前に客が来ていることに紅坂は気づかず、しまったと思った瞬間にその客は、 「恋・ねっ!」 などと、唐突にわけの分からないことを口走った。おかげで紅坂の顔は接客用表情を取り繕えず、代わりに困惑色を表現した。 そして今度は、それは驚きの色に変わる。 「い――らっしゃい、ませ」 それでもどうにか、顔の形は接客用の笑顔に戻した。そんな紅坂を見て、その客はにやにや笑う。 突拍子もないことをのたまった客は、よく見る制服を身に纏った女子高生だった。そしてその制服以上に、その顔はかつてよく見たものだった。中学までは同級生だった――義務教育9年間を共に過ごした、美しく表現して悪友、そんな知り合いの顔だ。 「あらあらよく見たらみーこさんじゃないですか、うふふふ」 客――九里村秋海はわざとらしくそう言った。紅坂は若干顔が引き攣るのを自覚はしつつも、接客スマイルを保ちつつ、 「ご注文は何になさいますか?」 あくまでも店員としての対応を貫いた。そして注文を聞いておきながら、紅坂の手は既にデザートの入ったショー・ケースに伸びていた。九里村の頼むものなどシュークリームしかないと、紅坂は知っている。 「あら、冷たいのね。まいいわ、ティーセットで、シュークリームね」 さして意に介した様子もなく――そしてこちらに合わせて初対面の客のフリをしてくれるということもなく、九里村は紅坂の予想通りの注文をした。進歩のない奴、紅坂は内心で呟く。 そして紅坂が手際よく紅茶を淹れている最中、 「それより――あの、隅の席のスーツの人、そうでしょ? 片思い中?」 そしてもって内緒話のポーズで・かつ大声でそんなことを彼女は言い出してくれて、それにいたって紅坂の脳はようやく最初に言われた言葉の意味を解して、すぐにごく素直な反応を顔に命じた。 「――シュークリームティーセットになりますっ!」 姓と同じ色に染まった顔で、紅坂はそう叫んだ。同時に、紅茶とシュークリームを載せたトレイをカウンターに叩きつける。 当然の結末だが、その勢いでカップが跳ねた。こぼれた紅茶が九里村にかからなかっただけ、紅坂も運がよかった。ついでに言えば、紅坂以外のスタッフが偶然店の奥に入っていたこともだ。 「ぁ、ごめん――なさいっ!」 紅坂としてはギリギリで接客言語にしたつもりなのだろうが、正解は「申し訳ありません」ではあった。いっそう顔を赤くして、それでもって今しがた謝ったばかり相手に怨恨の視線を投げる。 「相変わらず分かりやすい反応ねぇ」 九里村は気にした様子もなく笑っている。 「すぐに新しいものを淹れますので…」 口でそう言いながら、同時に「なんてこと言い出すのよアンタ」と眼で訴えかける紅坂。接客マニュアルは紅茶と一緒にこぼれてしまったらしい。 「すぐにお持ちしますので、席で、お待ちください」 「席で」を強調して、半ば追い払うように、紅坂はシュークリームだけ乗せかえた新しいトレイを彼女に手渡す。眼が怖いわよと、彼女が呟く。 「まあまあ、わたしはアンタの味方よ、みーこ」 そういう九里村は慈母のような笑みを浮かべていたが、紅坂にはどうみてもあくどいことを企んでいる笑みに見えた。 そのことに関しては何も言わず、紅坂は紅茶を淹れなおすために、彼女に背を向けた。 九里村の思惑はともかく、それよりも紅坂は今の騒動を彼に気づかれたかどうかが気にかかった。ちらりと視線をやると、しかし彼はどうやら考え事に集中しているのか、気づいた様子はなかった。安心する一方で、テーブルに置かれたチーズ・トーストがまったく手をつけられていないのが気になってしまう。 そこで九里村に言われたことを思い出した紅坂は、慌ててかぶりを振った。 (…ていうか、そもそも。これは別に恋と言うわけじゃなくて、単に、そう、前にもらった恩をかえそうとか、そういうことよね) 戻ってきた先輩にレジを任せ(幸い紅坂のミスには気づいていたにようだった)、紅坂は淹れなおした紅茶を九里村の席へ運ぶ。彼女の席は、東西を区切るように観葉植物が並べられた細長いテーブルの一角だった。その席にした彼女の意図が、紅坂にはすぐに分かった。視線を横にやれば、簡単に彼が覗ける席だ。 ところで、テーブルの上のトレイには、もうシュークリームが乗っていなかった。早い。 「ふふふ、また彼のこと、見てたでしょ?」 心底楽しそうに彼女が言う。 「…それでは、ごゆっくりどうぞ」 かつてないほど無愛想な声で、紅坂は言い放った。そのままカウンターに戻ろうとする紅坂を、九里村は引きとめる。無視を決め込んだ紅坂だったが、 「まあ待ちなさいよ、恋する乙女モードみーこちゃん」 こいつトレイのカドで殴ってやろうか一瞬なら多分バレないわよね、などということ考えたために紅坂の足が止まった。 そこへ、 「そんなあなたにわたしが言ってあげられることは一つよ――とにかく押し倒しなさい」 「アンタいつもそればっかじゃないのよシュー」 つい条件反射的に、紅坂はそう答えてしまった。 「まあ怖い店員さん」 「…申し訳ありませんわねエロみさん」 手にしたトレイが軋む音を無視しながら、紅坂は言った。 「冗談よ、じょーだん。…連敗街道みーこちゃんには、いきなりレベルが高すぎるわよね?」 嫌な音を立ててトレイが折れた――のは、紅坂の心中風景のなかの話だったが。 「まあとにかく。そんな健気なみーこに、このわたしがアドバイスをあげるわ」 心中風景のなかでは紅坂が九里村にドロップキックを放っているところだったが、現実化はどうにかこらえて紅坂は丁重に断りの意を表明した。 「いりません」 「まあそう言わないで」 「仕事中ですので」 「仕事終わる頃にはいなくなっちゃうでしょ、彼」 あくまでも食い下がる九里村。そこで紅坂は、そもそもの誤解を解かなければと気づいた。わたしは別に、恋をしているわけではないのだと。 九里村の眼を見据える。 「あのですね。そもそもわたしは、彼のことを、す、好きとか…、そういうわけでは、ありません」 口に出してみて初めて、これほど嘘っぽいセリフもないなと自分で気づいた。 「………」 また顔が赤くなるのを、紅坂は自覚した。 「うふふふ」 そして当然のように、九里村はそれが嘘だと判断したようだ。というか、九里村の場合もとより疑いなど持っていなかったようだが。 紅坂も、反論する気にはもうなれなかった。 「アドバイス、ほしい?」 「……それとこれとは別だ」 「わたし、百戦錬磨よ?」 「嘘をつくな嘘を」 「あら。女子高生になってグレードアップしたわたしを甘く見ては駄目よ」 背を反らして胸を強調する九里村。紅坂は無言でそのなだらかな斜面を撫でた。スキー場で言えば、初心者用コースのような平らさだった。 「…セクハラよっ!?」 「お引き取りください」 「ぶー。いいじゃないのよぅ、どうせみーこじゃストーカーみたく眺め続けて自然消滅がオチでしょう」 「突撃と玉砕を繰り返してたシューに言われたくないわよ」 「……」 「……」 「ねえ、みーこ」 「なんだ」 「間を取ればいいと思うの、わたしたち」 「ほう」 「というわけだから、お互いの意見を聞き合うと言うのは大切なことじゃないかしら」 「……」 「ね?」 「…人の恋愛に首突っ込みたいだけでしょ、シューの場合」 「この際それは気にしないで」 そして。 九里村があまりにしつこいので、聞くだけ聞けば気が済むだろうと判断し、紅坂はアドバイスを受けることにした。 別に、期待とかは、してない。 レジに立つ先輩の様子を窺う。客足がまばらになっているのと、加えて店長も戻ってきているおかげで、カウンター内の人手は足りているようだった。紅坂は少し逡巡してから、予備のメニューを持ってきて、九里村を相手に接客をしているフリをしながら、簡単ないきさつを話した。話し終えると、九里村は満足げにうなずいた。 「ま、みーこらしいわね」 「悪かったな」 「とにかく、まず一歩踏み出さないと、ね。簡単なことからでいいの。わたしに考えがあるわ――」 確かに簡単だった。とはいえ、今の自分にできるのはこれくらいだろうと、紅坂は妙に納得した。 「あと、シュークリームもう一つね。おごってくれるんでしょ?」 「……まあ、いいわ」 落し物を、届けに行こう。それはほんの一部かもしれないし、ともすれば全然違うものかもしれない。でも、なにもしないよりは、きっとずっといい。 しばらくして。 紅坂が息を切らせて店に戻ってくると、九里村の姿はもうなかった。残されたトレイの上に紙ナプキンが置かれていて、そこには一言、 『あとは、押し倒すだけよ』 と書いてあった。 「……うん、それは無理だから」 紅坂は物言わぬ紙にツッコミをいれ、仕事を再開した。 * ◇(ガトーショコラ・コーヒーセット) * (普段の生活圏が田舎一辺倒なせいか、たまに人通りの多いところに出ると眩暈がするな…) 通り過ぎていく無数の人々を無感動に眺めながら、浩灯はそんなことを思った。 放課後、高校最寄の駅から揺られること20分弱、市の中心にして市内唯一の都会である御戸代駅前特区を、管原浩灯は訪れていた。平日にこんなところまで足を伸ばすのは珍しいのだが、贔屓にしているアーティストの新譜の発売日となれば話は別だ。 (しかし、予約しといてよかったな…。そこそこ売れてきたのに、どうしても入荷しないつもりかあのオヤジ) 南部に限っては開発が進んでいる御戸代市を、浩灯がそれでも都会とは決して認めない理由は、CD屋が市内に一軒しかないからだった。その一軒も大きい店ではないため、新譜でも入荷されない曲も多い。選考基準は、おそらく親父の趣味だ。 ともあれ。目当てのCDを手に入れた浩灯は、まっすぐ帰ろうかどうか考えながら駅への道を歩いていた。まだ日も暮れないような時間であり、あまり訪れることのない街中に来ているのだから、このまま帰るのももったいない気がする――電車代とかが。 (つっても、特に用はないなぁ…) 制服姿でデパートに入るのは気が引ける。100円ショップは消費税を取るのが気に入らないし、本屋は雑誌の発売日と言うわけでもない。結局全てを素通りし、駅まで戻ってきてしまった。さっさと帰って新譜を聞くのがいいかなと一旦は決めた浩灯だったが、駅の横にある“その店”に気づき、その考えを却下した。 スター・フォワード・カフェ。近年急速に広まりつつあるコーヒーショップ・チェーンで、市内にも数年前に一店舗目が開店し、当時ちょっとした話題になった。機会に恵まれず浩灯は未だに行ったことがないのたが、喫茶店よりは安くコーヒーが飲めると聞いていたので、興味は以前から持っていた。 普段缶コーヒーしか飲まないで、たまにはいいかもしれない。そんなふうに考えて、浩灯はスタカに足を向けた。 「あれ、先輩じゃないですか」 そんな浩灯に、声をかける人間がいた。 振り向いた浩灯は一瞬だけ眼を丸くして、すぐに眼を細くした。こめかみを押さえる浩灯。 「…誰だ?」 浩灯の眼に映ったのは、ダッフルコートを着込みマフラーを巻き、そして明らかに不似合いなサングラスをかけた不審人物の姿だった。 (………) あごまでの長さに切りそろえられたチョコレート色の髪と、浩灯のあごほどしかない身長とを考え合わせると浮かぶ人物は一人だったが、彼女が何故サングラス着用なのかが分からない。 「あ、しまった。…はい、これで分かりますよね?」 サングラスを取ったその顔は、予想通り何度か駅で顔を合わせた少女のそれだった。浩灯は溜息をつく。 「…まさかとは思うが、変装のつもりではないよな?」 「ふふ、完璧でしたね。先輩くらいなら欺けることが証明されました」 されてないけどな、と浩灯は呟く。彼女は聞いていないようだったが。 「ところで、管原先輩はどうしてここに?」 「いや、ちょっと買いたいCDがあったんで――って、あれ。僕、名乗ったっけ?」 顔見知りではあったが、浩灯は彼女の名を聞いた覚えはなかった。自分の名を教えた覚えも、だ。 「ほら、わたし、図書部ですよ?」 「それは聞いたけど」 「図書カードって、個人情報漏洩ですよね」 「…まあ、いいけどな」 公立の図書館ですらコンピュータ化されている時代だが、公立高校の図書室程度にそのレベルを望むのは無理があるらしい。 とりあえず店に入ろうと足を踏み出そうとした浩灯だったが、制服のすそを引っ張られていることに気づいて足を止めた。見ると、彼女が自分を指差してなにか言いたげな表情をしている。仕方なく、浩灯はそれに付き合ってやる。 「…それで、君――ええと、僕も図書カードで調べてこいと?」 「明冶千代子です。うお座のA型ですよ」 「星座と血液型まで書いてあるとは知らなかったな。まあいいや、で、アキヤはなんでそんなカッコでこんなとこに?」 「良くぞ聞いてくれましたねコーヒさん!」 「ヒロヒだ」 図書カードにはルビが降ってないのか。 「実はですねー、少し前からみーこの様子がおかしいんですよ。あ、みーこってのはわたしの友達で、紅坂美湖って名前です。それでちょっと、つけてみようかと」 「その発想はどうかと思うが」 かなり斬新な発想だった。 「といってもみーこは自転車通学なので、先回りしてみました。じゃん、あれがみーこのバイト先です」 そういって千代子が指差したのは、今まさに浩灯が入ろうとしていたコーヒーショップ、スター・フォワード・カフェだった。 「…まあこの際、バイトってたしか禁止じゃなかったかなんてツッコミはしないが」 「心が広いですね」 「しかしなんでまた、バイト先なんだ?」 「勘です。乙女の」 自信たっぷりに千代子が宣言したそれは、浩灯には理解の仕様がない根拠ではあった。 「時々空を見上げるみ-この遠い眼、あれは絶対恋する乙女の眼ですよ」 「いや、知らんが」 「まあそういうわけで、相手は誰かなっと思って。校内にはいないと読みましたので、バイト先まで足を伸ばして見たと言うわけです」 「はあ」 「それにしても先輩と出会えるとは、ラッキーです。これで怪しまれずに済みます」 「…なんでだ?」 浩灯の脳裏に、何となく嫌な予感がこみ上げてくる。 「というわけで、注文は頼みますね! わたし、席取っておきますから。あ、心配しなくても、ちゃんとお金は払いますよ?」 どういうわけなのか問い詰める前に、千代子に手を引っ張られ、浩灯はスタカの店内へと連行されてしまったのだった。 それはさておき。。 困惑する浩灯をよそに、千代子は一人、巡り合わせってあるのね、などとほんのり夢見心地な気分を味わっていた。具体的には、 (みーこの恋模様をひっそり観察するつもりだったけど、思わぬところでチャンスが回ってきちゃったなぁ…) ――と言った具合だ。浩灯と並んでスタカへ入った瞬間なんて、これってデートに見えたりしないかな、などと考えていたりした。本来の目的を忘れかけている千代子ではあった。 「…それで、その紅坂ってのはどいつなんだ?」 自分用にコーヒー、千代子用にガトーショコラを買った浩灯は、席に着くなりそう尋ねた。正直なところ紅坂とやらの恋模様はどうでもよかったのだが、誰の所為でこんな探偵まがいの真似をすることになってしまったのかくらいは把握しておこうという意図だ。意趣返しのためというわけではなく、単なる好奇心ではあったが。 しかし今千代子の目には、ガトー・ショコラしか映っていなかった。 「わあ、おいしそうですね」 「つか、サングラスを取れ」 「え。だって、ばれたら困るじゃないですか」 「いや、多分、関係ないと思うぞ」 それ以前に浩灯にはどうして隠れなければならないのか分からない。 スタカの店内は思ったより広く、高校の教室一つ分くらいはあった。窓に沿うように設置されたカウンター席の他に、縦長で観葉植物の置かれたテーブル席が中央に四つ、ソファに座れるタイプの席が奥に四組ある。千代子の取った席は縦長のテーブルの一角で、一列に置かれた観葉植物の隙間から、レジが覗ける席だった。 「今レジに立ってるのが、みーこです。髪を四つ編みにした子です。…あ、これおいしい」 ガトーショコラを頬張りながら、千代子が言う。 「きびきびと働いてるな。…それ、これの倍するんだからな、ちゃんと払えよ?」 ショートサイズのコーヒーをすすりながら、浩灯はぼやく。 そして千代子は、その横顔をこっそり覗いていたりする。 (いつもどおり、どことなく疲れた感じのクールな顔だなぁ…) どちらかというと貶しているような字面の感想だったが、千代子自身は褒めているつもりだ。 なにか気配を感じたらしい浩灯が振り向き、視線がぶつかると、と千代子は慌てて眼をそらした。レジのほうに眼を向けて、紅坂の観察をしているという体裁を繕う。 「む、むー、同僚はみんな女の人ですねぇ…。あ、あの人はかなー?」 とそこで、そもそもそれが本来の目的だったと思い出す千代子。 「どうでしょう、先輩の意見としては?」 「どうでしょうったってな。あれはたぶん正社員の人だろ。紅坂ってのは、年上好きか?」 「さあ? …あ、客足が途絶えましたよ。みーこさん、暇そうにしています。さてさて、どうなるでしょうか。今のうちに正社員にアタックか…!?」 「どうもならんと思うが」 「でしょうねぇ。普段は強気ですけど、どっちかっていうと遠くから見つめ続けるタイプですし」 「…なんのためにここにきたんだ?」 「だから、要は見つめ続ける先を見つけれないいんですよ」 「そんなもんか…?」 「あ、ほら。あれです、あの眼ですよ!」 仕事がなくなり、所在無げに店内を見渡している紅坂。浩灯には判断がつかなかったが、千代子に言わせるとあれが”恋する乙女の眼”らしい。 なるほど、確かにその視線はある一点を見つめたまま動かずにいるようだ。まさかねと思いながら浩灯は紅坂の視線を追ってみて、 「――ぶふっ!」 口に含んでいたコーヒーを盛大に吹いた。 「あ、もしかしてあの人じゃないですか? 隅の席のスーツ着てる――って、大丈夫ですか? 汚いですよ?」 千代子は眉をひそめる。 「い、いや、ちょっとびっくりしただけだ…」 「そですか? あの人結構カッコいいと思いますよ。背、高そうですし。まあでも、サラリーマンってのは確かにびっくりかも」 「…大学生だ」 苦虫を噛み潰したような声で呟く浩灯。 首をかしげる千代子。 「え? でも、スーツですよ?」 「講師のバイトをしてるからな。そのせいだろ」 「ああ、なるほど――じゃなくて、なんでそんなに詳しいんですか?」 不審に気づいた千代子の脳裏で、電撃のように思考がめぐる。どういう経路をたどったか、千代子は一つの結論を導き出した。 「まさか、先輩もみーこを!?」 「阿呆」 大ハズレだったが。 千代子の推論を一蹴した浩灯は、コーヒーの付いた口元を紙ナプキンで拭い、そして答えた。 「従兄弟だ。…胃痛もちの」 家ではコーヒーを止められていると聞いていたが、こんなところで飲んでいたとは。ブラックでを飲むなら何か食べてからにしろと浩灯が言ったのを覚えているのか、サイドメニューも頼んでいるようだが、手をつけた様子がない。それじゃ意味ないだろと、浩灯は頭を抑えた。 「それは、すごい偶然ですね。どんな人なんです?」 「んー、暗い、後ろ向き、口下手、卑屈、頑固、あとなんか打たれ弱い」 「…うあ、なんか駄目っぽいですね…」 ちょっと眉をひそめる千代子。 「まあでも、律儀だし真面目だし、嫌な人ではないとは思うけど。まあ、変わり者だよ」 そう言うと、千代子は笑顔になって、 「それは先輩もだと思います」 ひどく失礼なことを言う。 「いや、君も人のこと言えんだろ」 浩灯は苦笑する。 しかしあのハヤミ兄が女の子に好かれるとはねぇと思いながら当の本人を覗くと、紅坂は客の対応に追われていた。しかもなんだか無駄に力が入っているように見える。千代子もなんだかおかしいと感づいたのか、浩灯の横で首をかしげている。 「みーこ、動揺してますね。なんでしょう?」 「さあ、なんだろうな。見つかったのか?」 「そんな様子ではないみたいですけど…」 どうやら、紅坂が何かしらのミスをしたらしい。女子高生らしきその客は別段怒った様子ではなかったが、紅坂は新しい飲み物を淹れなおしていた。シュークリームだけ乗せたトレイを持ったその女子高生は、浩灯達のすぐ後ろの席に座った。 これはまずいんじゃないかなと浩灯が思っていると、案の定、紅坂が淹れなおした飲み物をトレイに乗せ、女子高生に届けるべくこちらに向かってきた。千代子が慌てて顔を隠す。 「…なんで、そうなる?」 千代子はなぜか浩灯に寄り添ってきていた。 「いえ、この方が自然なんじゃないかと」 「そうか…?」 とことん振り回されているような気はするが、浩灯は気を取り直して、残っていたコーヒーを飲み干した。 そして勢いにのって大胆な行動に出た千代子は、思ったより浩灯の反応が薄いのを不満に思っていたりした。 (むー…。もうちょっとこう、押しが足りないんだろうか。あーこんなことなら色々パターンを考えておくべきだった…) 足りないのは色気だということに気づかない千代子だった。 千代子の意図は露知らず、浩灯は紅坂と女子高生の会話に聞き耳を立てていた。まもなく、浩灯はあることに気づく。 「…なぁ、あの二人、どうも知り合いみたいなんだが」 うつぶせている千代子に、小声で話しかける。 「え、ほんとですか?」 同じく小声で答えた千代子はしばらく黙り、どうもそうみたいですねと同意の言葉を返す。 「わたしの予想、当たってましたね?」 そして得意げに微笑む千代子。背後での会話は、紅坂の片思いが前提になっていた。 「…しかし、なんかすごいこと言い合ってるな」 それほどはっきりと会話が聞こえるわけではないが、浩灯は耳に「押し倒しなさい」というような言葉が入ってきたような気がしてならなかった。聞き間違いであってほしいと願いつつ、すこしばかり従兄弟の貞操を案じたりする。でも少し考えて、そういう手段が通じそうな男でもないか、との結論に至る。 「それで、どうするんだ? もう裏は取れたんじゃないのか――」 浩灯が千代子の方を見ると、彼女はなんだかすごく真剣な耳で聞き耳を立てていた。なんでこんなに必死なんだろうと浩灯は疑問に思ったが、まあ友達思いってことなんだろうかと、好意的な解釈に落ち着けておいた。 もちろんそんなはずはなくて、千代子は聞こえてきた「アドバイス」という単語に激しく反応していただけだった。アドバイス、それはまさに、今の千代子にこそ必要なものだった。もっとも浩灯にとっては幸いと言うべきか生憎と言うべきか、千代子が「押し倒せ」というアドバイスを聞き取ることはなかったけれども。 「…なんか知らんが、話は終わったみたいだな」 「結局よく聞こえませんでした…」 肩を落とす千代子に、そもそもそれが目的ではなかっただろ、と浩灯は呟く。 浩灯はどちらかというと、従兄弟である速水のほうが気になってはいたが、横目に見ると、速水はもう席を立つところだった。見つかったらこの状況を同説明しようかと心配していたが、それは浩灯の杞憂に終わった。トレーを返却棚に戻すと、速水はうつむきがちな姿勢で足早に店を出て行った。一つ息をつく浩灯。 「あれ、先輩」 「ん?」 千代子が今しがた速水が出て行ったドアを指差す。見ると、紅坂が急ぎ足で外へ出て行くところだった。ちょうど、速水を追いかけるような雰囲気だった。 「それ、案外正解じゃないですか?」 「そうか? なんで」 「ほら、思い切って告白とか」 「それはないだろ」 しばらくして戻ってきた紅坂の顔は、どことなく満足げな表情だった。 「ほらぁ」 「違うと思うぞ」 だがまあしかし、と浩灯は思う。紅坂の表情は確かに、見ていてすがすがしいと言うか、そういう表情ができることをうらやましいと思わせるようなもので、 「…なにかしら、あったんだろうな」 と、浩灯はついそんなことを呟いた。 「ん? なにがですか?」 「知らんけど。そう――たとえば、二人の距離を縮めるようなこととか、がさ」 そう言って、浩灯はちょっと口の端を緩めた。 キザだな僕の阿呆、と内心で呟く浩灯ではあったけれども。 千代子のほうは珍しく見られた浩灯の笑顔(のようなもの)に、ちょっとほわっとした気分になっていたりして、 「ねえ、先輩」 「ん?」 「従兄弟さんより先に、彼女作りたいとか、思いませんか?」 上目遣いに、そんなことを尋ねてみる。 「いや、別に」 「…けちですね」 素っ気無い浩灯の反応に、千代子は頬を膨らませた。 * まずお詫び、千代子の名前が永森から明冶に変わりました。理由、明治の板チョコのほうが好きっていうかポピュラーな気がする、ので(待て)。…あとはまあ、キャラメルは森永だったことに気づいたから、ですかね。 abcd以来の続きもの、ようやく完結。推敲が甘いのは自覚しつつも、学祭ように間に合わせたので勘弁してください、と。 なお、いまさらですがjは木組お題「シュークリーム」課題作。
https://w.atwiki.jp/soundsgood/pages/20.html
#blognavi 連休中にコーヒーカップの交換をした。実家の母がちょっとした収集をしており、今借りているカップ4客を選んだ別の4客と交換。 うちの人が選んだのはイタリアのTAITUというメーカーのもの2客。サイトにも同じ形のがあるが、円柱型、とでもいうのか、地面に対し垂直に立っているタイプ、この形にひかれたらしい。 カップによってコーヒーの味は変わるのだろうか? このカップでコーヒーを飲みながら考えた。 味覚というのはその他の感覚(視覚や触覚など)に影響を受けやすいらしい。 いつも飲んでいるコーヒーをぼくはやや酸味が強い、と認識していたが今回このカップで飲むとその酸味をあまり感じなくなり、むしろ苦みを意識するようになった。 どうやらカクばったこのカップのイメージが影響しているようだ。酸味→まるいイメージ、苦み→カクばったイメージ、を持っているのかな。 形だけでなく、カップの色によってもイメージは変わるだろう。また別ので試してみよう。 (私はどっちかっつーと、紅茶党。) カテゴリ [なし] - trackback- 2006年05月08日 21 29 39 #blognavi
https://w.atwiki.jp/babywiki/pages/493.html
粉ミルク 関連Q A 粉ミルクの作るときなぜ先にお湯を少し入れ、粉ミルクを入れ、またお湯を入れるの... - Yahoo!知恵袋 粉ミルクの作り方 - Yahoo!知恵袋 乳幼児用粉ミルク、どのシリーズを使ってますか? - Yahoo!知恵袋 粉ミルクについて - Yahoo!知恵袋 粉ミルクの保存法についてお伺いしたいです。缶の粉ミルクは30日以内にお使い下さ... - Yahoo!知恵袋 ベビーカー、粉ミルク、哺乳瓶について教えて下さい。 - Yahoo!知恵袋 粉ミルクの賞味期限 - Yahoo!知恵袋 おすすめのおむつと粉ミルクは? - Yahoo!知恵袋 おすすめの粉ミルクを教えて下さい。 生後13日のベビーの母親です。 母乳で育てた... - Yahoo!知恵袋 粉ミルクでの子育て - Yahoo!知恵袋 完全母乳→完全粉ミルク→母乳 上手な切り替え方… - Yahoo!知恵袋 0か月からの粉ミルク(はぐくみ、ほほえみ、はいはい等)は何ヶ月まで飲ませられるの... - Yahoo!知恵袋 関連サイト ミルクの種類と成分|みんなの妊娠用語・出産用語辞典|-たまひよweb- ミルクの作り方|みんなの妊娠用語・出産用語辞典|-たまひよweb- 関連用語 フォローアップミルク 母乳 授乳 搾乳器 関連商品
https://w.atwiki.jp/wakures/pages/1034.html
北海道ミルク鍋台湾台北士林「トイレパーク」 牛乳とコンソメスープが味の決め手となる北海道ミルク鍋 レア ジャンル おかず 価格(一押し) 89(?) コスト(一押し) 78(?) 風味(一押し) 175(?) 品質 属性条件 色(一押し) 444(?) 包丁技 348 香(一押し) 433(?) 調味技 349 味(一押し) 448(?) 火加減 346 調理情報 習得条件 調理時間 30分 習得Lv制限 Lv75 調理費用 160ドル 特級料理習得数 24 習得数 12~18個 食材 魚Lv3 10 野菜Lv3 7 ミルクLv3 6 豆製品Lv3 4 × × × × 一押し食材 × × × × × × × × クイズ 問題 A. B. C. D. 答え(反転) 北海道ミルク鍋を編集
https://w.atwiki.jp/gods/pages/35000.html
ナーヒード アナーヒターの別名。
https://w.atwiki.jp/ryuki-sumeragi/pages/70.html
わかりました。ちょっと、待ってて下さいね。 お砂糖とかクリープとか、適当に置いておきますので、 お好みで、どうぞ~。 そういえば、ふらっと来られたとの事ですが、 何か、お悩み事でもあるんですか? 何か、お力になれるかも、しれないですし、 お伺いしてもいいですか? ・話す ・話さない
https://w.atwiki.jp/mashounen/pages/505.html
概要 続 頭の体操05に移動させました ヒント ↓下記反転↓ 答え合わせ ↓下記反転↓ 評価 選択肢 投票 ☆☆☆☆☆ (1) ☆☆☆☆ (0) ☆☆☆ (0) ☆☆ (0) ☆ (0) タグ 感想 名前 コメント あークリアできないと思ったらそう言うことか・・・俺の知識じゃ答見ないとクリアできない('・ω・`) -- 名無しさん (2012-05-20 20 15 39)