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真実が紡ぐ歴史 帝都とは違う湿気を含んだ大気に思わず頬を撫でた。 そして、目の前の苔むした建物を見た。蔦で覆われ、注意深く見なければ人工物だとは思えない石造りの建物。 「では、行こうか」 一瞬のうちに場所を移動する魔法などあっただろうか。 イザークは知識を探るが思い当たらず、コーディネーターとやらの能力に顔を顰めた。 ドクター・クルーゼの後をついて、蔦を手で払いのけて建物の中に入っていく。ひんやりとした壁に手を這わせ細い通路を抜けた先、イザークの目に入ったもの。 なんだ、ここは? 「君には知っておいて貰った方がいいと思ってね」 「ここは・・・!?」 伽藍とした空間では岩肌がむき出しになり、建物の一部が大きく抉られていた。 壁は壊され、天井から床から根こそぎごっそりなくなっている。 「種石があった場所だ」 種石!? この状態は、誰かが持ち出したのか。だとしたら、一体誰が。まさか・・・。 「今はすっかり、連邦に持っていかれてしまったがな」 「連邦も種石の研究をしていると・・・いや、当然だな」 それは予想してしかるべきであって、今更驚くべき事柄ではない。この異端のコーディネーターが見せたいものは別にあるのだと、イザークは瓦礫とかした空間を見渡す。地肌が露出した床に、崩れた壁や天井が散らばり、無残にも荒らされた遺跡。 民俗学に造詣が深いイザークにはこの光景は目も当てられぬものであった。 詳しく調査すればどれだけの事が明らかになっただろう。種石を安置していた稀有な遺跡として、歴史に大きく貢献しただろうに。開戦の事は別として、臍を咬む思いだった。 「奴らは、戦争に利用するだけしか脳がないのか」 辛うじて残った奥の壁だけが空しい。 「おかげで、君に見せたいものを残してくれたよ」 瓦礫の山を歩き出すドクターの後ろを歩く。不思議な文様や文字が刻まれた瓦礫を見るに付け、イザークは眉を顰め舌打ちする。奥の壁にも同じように文字が刻まれていた。 「読めるかね」 「ふん」 扉らしきものにびっしりと文字が刻まれている。 イザークは直接はその文字を知らなくても、遥か昔の古代文字だと言う事は分かった。崩れた瓦礫からおおよその年代を探って、現在発見されている文字を当てはめる。 だが、それ以上に、文末に刻まれた模様に見覚えがあった。 「覇王の刻印・・・!?」 「ほほう」 と言う事は、これはグレン王が書き記したものなのか・・・。 イザークは顔を上げ文頭へと視線を投げる。 種石を求める者よ 真実を手にする覚悟あるなら この扉を押して奥へ進むがよい その力の意味と使い方を知るであろう 種石を求める者よ 真実を手に入れるならば シード弾ける時 蒼穹への門が開かれん 覇王ジョージ・グレン 「流石は殿下。博識であらせられる」 ドクターが感嘆するのを一瞥して、考え込む。 文言が意味する所は簡単である。だが、具体的に何がどうなのかと言う点はさっぱり見えてこない。この奥へと進むしかないのだろうが、それにはイザークは些か躊躇する。 いや、危険も何も今更ではないか。 現にここにはドクターと自分の2人しおらず、何か魂胆があれば今までに何度でもチャンスはあった。 「とにかく、奥へ進めばよいのだろう」 扉へと手を触れる。 触れたと思った。 硬い石造りの扉の表面に波紋が広がり、いきなり視界が切り替わる。自分は動いていないのに、扉が後へと移動したかのようだった。 「凝った仕掛けだ。俺は種石を持っていないのだがな」 「そこは大目に見てくれ」 続く部屋はずっと小さな部屋で、側面の壁にぎっしりと彫られた文字があった。 微妙に行や列が曲がっている所を見ると、誰かが自力で掘ったものらしい。くせのある古代文字が延々と綴られている。 「今度は何・・・だ・・・」 試しに目に入った文字を解読していく。 はじめは怪訝な表情で読み進め、ぶつぶつと独り言が混じる。 次第に文字をなぞる指先が震えて、解読する早さがどんどん早くなる。 記されていたのは、古代の王国の歴史。 歴史と言うよりは知っていることを書き記した昔語りに近い。 「これを記したのは覇王か」 所々に覇業が絡んでくる所を見ると、時代はジョージ・グレンが大陸の覇を成し遂げた時代。一介の小国の青年が大陸の数々の国を平定した原動力は、今まで種石だといわれていた。神から授けられた力によって大陸に平和をもたらした。 「罪悪感か、罪滅ぼしのつもりか、こんな事がーーー」 そう伝えられていた。 大筋では間違ってはいない。 けれど、ここに記されている王国を誰も知らないとはどう言う事だ。 「この部屋はどちらかと言えば、我らの空間なのでね」 最後の一行に記されている。 我が記憶が消される前に 我が友、我が戦友、彼らの国の歴史を記しておく。 「これが我らのやり方だ。存在そのものを消し去るのだよ」 忽然と全ての記録から消え去った国。 風化した人々の記憶からも、歴史書からも、存在そのものがきれいさっぱりなくなっていた。歴史や民俗学を専門にする自分が知らないのだから、ドクター・クルーゼの言う通りなのだ。 ここに記されたことは真実なのだと。 ジョージ・グレン王が成し遂げた大陸統一に隠された真実の歴史。 大陸が纏まる前に数あった国の中でも最大の国、最後までグレン王と争った大国の存在を、今では誰も知らない。 種石の力をもって、グレン王は覇を成し遂げた。 ただ、そう伝えられるのみの歴史の裏に、血で血を洗う壮絶な争いと、当時、歴史の紡ぎ手に抗った国の存在。 「貴様達はっ!!」 振り返ってドクター・クルーゼに一歩踏み出す。 振り上げた拳は、最後に覇王が書き記す手を止めたであろう壁に叩きつけた。 「だからこそ、私はここにいるのだよ」 彼らの調停とは、誤った歴史を根底から書き換える。 今までそこにあった国の、王の、国民の生き様をきれいさっぱり洗い流してしまう。 帝国の歴史も、そこに生きる民の毎日の喜怒哀楽も、涙一つ、消されてたまるものか。 中央で難題を前に頭を捻る官僚達、下町の幼児の鳴き声も、辺境で汗を拭う農夫もなかったことにされてしまう。奴らに見初められて命を落とした弟も、苦渋の決断を強いられた父や兄の想いさえ。 コーディネーターだと言う彼を睨みつける、イザークの瞳は鋭いほどの青い燐光を宿す。 瞬時に場所を移動し、記憶を操り、大陸中から一国の情報を消し去るほどの力を持つものがイザーク達の敵なのだ。 「帝国は絶対に負けるわけにはいかん」 握り締めたこぶしの中で爪が食い込む。 どこか負けなければいいのだと、軽く考えていた。 だが、これで絶対に負けられないのだと、絶望的な危機感が急き立てる。 遺跡の外に出れば、鬱陶しい大気さえ、手で払う余裕もない。 「君の部下は中々優秀だな」 目の前に小型の高速飛空艇が停まっていた。 中から出てきたのは、帝国第3軍副官のシホ。 「勝手に出歩かないで下さい、殿下」 「なぜ、ここが・・・」 シホはあっさりと種明かしをした。 「ギルバート殿下からお伺いしました」 「一言断っておいたほういいと思ってね」 「それで、何があった?」 ただ、居場所を押さえる為にシホが自らで向くことはない。イザークの問いかけに、シホは姿勢を正して報告用のプレートを構える。 「連邦軍の侵攻を確認しました」 飛空艇のブリッジで報告を受けるイザークは、連邦の領土を見下ろした。砂漠を挟んだコスモス連邦は大まかな所で帝国の風土は変わらない。 「7時の方向に敵影を発見」 タイミングが悪い。 ドクター・クルーゼはシホと入れ替わりに一足先に帝都に戻り、イザークはシホとともに前線の帝国軍を視察して戻る予定だった。低空を飛び、もう少しで連邦の領空を抜けようと言う所で、連邦の哨戒機に見つかってしまった。 こんな事なら、ドクターに付いて行けばよかったと思っても今更遅い。 「逃げ切れるか?」 「分かりません。単機なのか、それよりも国境沿いの方が問題でしょう」 今はまだ連邦の領空であるから、これから向かう連邦との国境沿いにむしろ大軍が控えており、哨戒機の連絡で網を張られているだろう。 「殿下。陸路を行きます」 前方の煙を吐く火山を避けて、山間に飛空艇を隠す。 製造元が分からないようにカモフラージュされているが、万が一のこともある。シホはある程度飛空艇から遠ざかると、自動操縦で飛空艇を火山湖に沈めた。 「足を手に入れねばならんな」 「この位置ですとオーブを抜けねばなりません」 地図を確認するシホはともかく、イザークは陸路を進む装備を何一つ持っていなかった。辛うじて腰に下げた軍用の剣で身を守ることはできるが、旅装束には程遠い。 「私が調達して参ります。しばしお待ちを」 一瞬でシホが姿を消す。 彼女の腕を信用しているが、イザークは自分だけがのんびり待っているわけにもいかず、手じかな草花でまず衣服を汚す。王宮で着ていた服のままでは襲ってくださいと言わんばかりだ。 流れる風が熱を持ったのが感じられ、腰の剣に手をかけた。 「厄介な事になったな」 取り囲む気配が複数。 冷静に数を探り、開いた手で魔法を唱えた。防御と白魔法の回復呪文を自らに掛ける。 「いつまで隠れているつもりだ」 言うが早いか、火を纏ったマジックアローが降り注いだ。 バサバサと鳥が森から飛び立ち、木の葉が舞い散る。 鬱蒼した森がざわざわと音を立てて風を遮る。動物達の音に混じって何かが高速で動く音に、シン達は馬の足を止めた。 「連邦軍だな」 崖下に隠れて一団をやり過ごす。 かなりの人数が森を駆け抜けて行ったが、狙いはラクス達ではないようだった。 「どうする?」 「行くしかない。二手に分かれよう」 「二手って、どうする気?」 キラが発案者のアレックスを問いかける。 問われたアレックスがミーアと頷き会って、森の様子を探る。 「俺達が囮になるから、その間にロドニアへ向かうんだ」 「おいおい、お前ら2人で大丈夫かよ」 アレックスとミーア。たった2人で逃げ切れるのか、ハイネの心配はもっともな事だったが、アレックスは事も無げに腰を上げる。 「元々俺達は空賊だ。心配はないさ」 「大丈夫よ、シン」 キュッと抱きしめられて、『しっかりしなさい』と注意された。アレックスにいたっては『ヘマするなよ』と頭をポンポン叩かれる。 2人はあっという間に森の中へと向かい、男達の声があちこちで聞こえた。足音や銃声が聞こえるたびに身体が硬くなるが、その音も徐々に遠ざかっていく。 耳を澄ましていたハイネとキラが、おもむろに立ち上がる。 「行くよ」 キラが道を切り開き、ハイネが後を守る。その中にあって、シンの位置はキラの後でラクスを守ることだった。剣を抜き、周囲を警戒しながら馬を進める。垂れ下がる蔦を切り、枝を打つ。慎重に馬を進め、幸運な事に連邦の兵士とは出くわさなかった。森の木々は徐々にまばらになり、一本の道に出た。 「警備兵だ・・・」 シンが気がついた時には、ハイネがその兵士の口を押さえて森の中へと引きずっている。短剣を米神に当てて、研究所のありかを吐き出させていた。ラクスが目を背けたが、昏倒した兵士を置いて馬を進める。道の先、木々の間に建物が見えた。 木々に迷彩シートで巧妙に隠された入り口。 「あれが研究所の入り口だね」 シン達は内部へ侵入するチャンスを待った。 しかし、囮となったアレックスとミーアは予想外に多い連邦軍に、今だ逃走を余儀なくされていた。沸いて出る連邦軍の中には、雑魚のように弱い兵士と中々の手繰を持った兵士が入り混じっている。 「妙ね・・・」 「ああ。誰かを追っているようだが、作戦にしてはあまりにちぐはぐだ」 連邦軍が翻弄されているのだろうが、数が多く、標的も逃げおおせてはいないと言ったところか。 「どうやら、標的はあちらの方角だわ」 耳を澄ましたミーアが呟く。 チラリとアレックスを横目で見るから、どうするのかと暗にアレックスに聞いているらしかった。連邦軍がシン達が逃げた方向とは反対に終結するなら、もはやアレックス達の役目も一先ず終わりである。 ここでシン達を追うか、それとも。 その時、森の木々からシードが立ち昇る。 何者かが魔法を使うのだ、広範囲に影響を及ぼす魔法を。 「やばいっ!」 慌てて防御の魔法を唱えるミーアとアレックス。 森の奥から吹き抜ける冷気を含んだ風が木々を凍らせていた。 「これはどうやら・・・わざわざ行くまでもなかったようだな」 一瞬にして冬景色となり、樹氷を纏って凍りついた森。 「でも、こっちに向かっているみたい」 「そいつはまずい」 同じように、難を逃れた連邦軍も退散を始めている。アレックス達は彼らを相手にしながら、徐々にこの魔法を放った主を恨み始めていた。容赦なく魔法を放ち、森全体を戦闘フィールドにして戦う大馬鹿者。 「これじゃ、敵も味方もないじゃないか」 「仕方ないじゃない。アタシ達だって似たようなものでしょ」 この森に味方の部隊はいないから、それを気に掛ける必要はない。 そんな戦い方に舌打ちして、連邦軍の兵士を殴り倒す。 「来るわ」 ミーアの咄嗟の一言からやや遅れて、強大なシードの流れをすぐそばに感じた。 アレックスはシードの流れの中心に視線をやって、そのエメラルドの瞳を目いっぱい見開くことになった。 森の濃密な大気を利用して、イザークは魔法で一掃する作戦に出ていた。仮にシホがここにいたとしても、十分に身を守る術を心得ている。とにかく数を減らさなければこの森から出られない。 シードが十分に集まったのを感じて、イザークはそれを解き放つ。 広域を氷結する魔法が自身を中心に放たれる。 白い氷の粒となったシードが吹雪となって森を抜ける。 木漏れ日に反射して、キラキラとオーロラ色に輝いた。 「ふん。連邦にも身を守れる奴がいるか」 凍りついた樹木の向こうに動く影があった。 それは、今までの連邦兵とは違って、ひどく場違いな格好をしていた。 一人はキャンベラで、もう一人は若い男。 晴れていく氷の世界で、イザークは一瞬、彼と目が合った。 まだ距離があって顔を判別できるはずがないのに、はっきりと見える。氷の霧のベールの向こうで見開かれる瞳は、記憶に残る色。 あれは。 ―――アスラン。 向こうもこちらを見つけたのか、驚いている。 他人の空似か。 もう7年前の記憶だ。 いや、俺がアイツを間違えるはずがない。 「お下がり下さい!」 2人の間に割り込んだ声とともに、降り注ぐ炎の矢とそれを打ち消す風の防御壁。 同時に上空から切り込んできた連邦の兵士の一撃をイザークは剣で受け止める。背後に隠れていた兵士の胴を貫いて、力任せに振り落とす。血飛沫とともにまた一人。 「滅殺っ!」 「邪魔するなよっ」 声を張り上げて突っ込んできた一人を、イザークはそのまま横凪に払って絶命させ、さらに横から迫る連邦兵を返す刀で切り上げる。 「ぐはっ」 ちっ、しぶとい。 明らかに致命傷となる傷を押して、血を吐きながら魔法を唱え始める。 しかし、身体が浮き上がった所で、連邦の兵士は横から来た衝撃に頭を撃ち抜かれていた。森の中を銃声が木霊して慌ててイザークは森の奥を探す。 表情の読めないエメラルドの瞳と、射抜くようなサファイアの瞳。 視線が合ったのは瞬きよりも短い時間で、求める姿はすぐに踵を返した。 一瞬の邂逅は終わりを告げる。 けれど、イザークはうっすらと笑みが浮かぶのを止められなかった。 ディアッカが言っていたのはこの事か。 シンが乗り込んでいるという飛空艇を操る空賊は、見目麗しいキャンベラをパートナーにしていると言う。 確かに似ている。 違うな。似ているわけではない、あれは、アスランだ。 「シホ、遅いぞ」 「申し訳ありません。少し手間取りました」 視線を戻せば、木々の向こうに気配は消えている。ここで深追いする必要はないと、当初の目的を思い出す。 「戻るぞ」 たどり着いた町で待っていた帝国の間者の手引きで無事連邦を脱したイザークは、国境沿いで防衛に当たる帝国軍の飛行戦艦の艦橋に上がる。侵攻して来た連邦の艦隊をなんなく沈めて考え込む。 折角、装備を換装した艦隊だったのだが、その実力を発揮する間もなかった。 「先方の所属は割れたか?」 「は、推測ですが、第5艦隊の一部ではないかと・・・」 「ジブリール理事か」 連邦は帝国とは違う国体だが、民主主義を謳うその内部は決して纏まりのあるものではない。連邦議会、安全保障理事会と数々の思惑が絡み合っているのは帝国と同じである。なまじ、民の合意を国の基本に上げているから動きが鈍い。 その中でジブリール理事はアズラエル理事とならぶタカ派で知られていた。 「この程度で侵攻してくるとは、何か隠し玉でもあったのか?」 もう少しであわや開戦となる事態に、連邦も帝国もこれ以上の動きを見せない。帝都からは帰還命令が出て、イザークは迎えに来たカガリの指揮する艦で帝都へと戻ることになる。 「間に合わなくて残念だったな」 「まだこれからです、殿下」 その通りだ。 まだ、何も始まっていないのだ。 イザークは、見えてきた帝都を前に硬く瞳を閉じる。 帝国の未来に立ちはだかっているあまりに大きな壁に、もう逃げられないのだと思う。 俺は、俺の為すべきことをするだけだ。 もうあの頃のように何も知らなかった自分ではない、そして、それは、お前も同じなのだろう? あの一瞬、目があった顔を思い出して。 「随分と、ましな顔になったじゃないか」 一人呟く。 カガリが怪訝そうな顔を寄せるのに、唇の端を上げて笑い返した。帝都でイザークを待っていたもの、それは、編成された大艦隊と、ギルバートのいる執務室への呼び出しであった。 兄と弟で、引けない一線の駆け引きが始まる。 「プラントの名を持つ者が先頭に立たずして、なんとする」 「まさに帝国の脅威。陛下身罷った今、我らが立つのは当然のことです」 執務室で集う帝国の重鎮達は、ギルバートとイザークのやり取りを固唾を呑んで見守っていた。事は帝国の総司令官を誰が勤めるかが焦点であった。 「しかし・・・ここは私が引き受けるが筋だと思うが?」 頷く議員達にとって、議会の採決権限を持つ独裁官は目の上のたんこぶであった。 「独裁官殿がお出になるには及びません」 イザークは何が何でも是を引き出さなければならなかった。 プラント帝国のために。 作戦中のレイを除いたフェイスマスターと議会の議員達を前に言い放つ。 組織された防衛艦隊は、各フェイスマスターが持つ艦隊をあわせれば、5個軍団はくだらない大編成となる。あわよくば、開戦を思いとどまらせたい帝国にとって、連邦に戦えばただではすまないぞと知らしめるに十分な数を揃えたつもりであった。 「ですが、帝国の舵取りは誰がなさるのです」 フェイス達が頷き、また、議員達が頷く。 邪魔者ではあるが、誰も本気で帝国の舵取りなどできないのだ。それだけの責務を背負う覚悟も、技量もない。 イザークは兄を出陣させるわけにはいかなかった。 何が何でも帝都に押し込めて、危険から遠ざけなければならない。ここで兄を失えば間違いなく、帝国が内部から瓦解する。それを防ぐ為に自分が最前線に出ると進言する。 「どうか、わたくしにその任を」 膝を折り、頭を垂れる。 臣下の礼を取った弟に、ギルバートは否を唱えることができなくなった。 自分が帝国の最高位にいるのだと言う事を暗に示してみせたのだ。頂点に立つものが帝都を離れて防衛戦に出ることは許されない。元老院なき今、機能不全の帝国議会を前にして国を取りまとめ、国政を導く責があるからだ。 皆の見ている前で、イザークの決意を無為にできない。 「イザーク・ジュール・プラント。そなたにこの度の防衛の、総司令官を任ずる」 ギルバートが立ち上がって、弟に手をかざす。 その瞬間から伝令が中央を走り回り、帝都に緊張が走る。 切れ者と名高い第二王子を頂いて、ついに帝国軍が動き出すのだ。 人が出払った執務室で、肘を突いて組んだ両手に頭をつける。 「イザークを頼む」 窓の外から帝都を見ていたドクター・クルーゼが溜息を付く。 「残念ながらそれは断られたよ」 「そうか」 肩の力が抜け、ドクターに肩を叩かれる。 「私は君の傍にいるさ。彼にそう頼まれているからな」 ギルバートは、総司令官の任を拝命して辞するイザークを思い出す。 少し歳の離れた弟は真っ向から正論を唱える学者肌の人間だった。それが何時頃か、自分と同じ権謀渦巻く舞台に立っていた。持ち前の負けん気と興味への貪欲さから、瞬く間に帝国の一翼を担うようになる。喜ばしく思う反面、その力を頼ってはならないとも思っていた。 それが、気がつけば当てにしている。 弟が戻って来るのは、この戦いに勝ってからになる。分の悪い、神を相手取ったこの戦で勝利を収めるまで、お互いに言葉を交わすこともないだろう。 改めて、自らが挑んだ途方もない道の是非を問いかける。 「やはり、行かせるべきではなかったな」 だが、我らは負けるわけにはいかんのだ。 大切なものを守るために。 緩衝地帯での小競り合いは連邦、帝国、双方に何の影響を与えなかったわけではなかった。帝国では侵攻を脅威と捕らえ、防衛の為の大艦隊が用意された。 一方、連邦では。 侵攻を指示したジブリール理事を笑う人物がロドニアに通信を繋げていた。 『全く・・・ダメダメですね』 片方の眉を上げて、皮肉な笑みを浮かべる。面と向かって叱責しない変わりに、随分と持って回った言い方をする。 『侵入者には逃げられ、侵攻はあえなく失敗とは。使えないものは用済みですよ? 私はね、馬鹿は嫌いなんですよ馬鹿は。種石の力とやら、使えるようになったという話ですから? ちゃんと成果を上げてくださいよ』 通信を背後で聞いているネオは、森の中で戦死した兵達を思い出す。種石の力を取り込む実験台にされ、まだ少年だったのに、一般兵に混じって戦場に借り出されて命を落とした。 「心得ております」 上司が深く頭を下げる姿を見つめる。 ジブリールが命令を下した、国境での実験兵器も失敗に終わったらしいと聞く。この研究所で生み出されたらしい兵器は、発動する前にあっけなく艦ごと沈んだらしい。 『もっとも、これで最終兵器にゴーサインを出しやすくなりましたけれどね』 所詮は捨て駒か・・・。 次は自分か、それとも、あの子達か。 ひどい言葉であの子達を縛る自分を棚に上げて、彼らがこんな戦争で命を落とさなければいいと願う。 『頼みましたよ』 「ハッ」 敬礼をするのに習って、通信が消えるまで手を下ろせなかった。 上司がしかめっ面で振り向いた途端、非常警報が鳴り響いた。 「思ったそばから、これだ」 やるせなさを奥に隠して、ネオは至急部隊を召集するように指示を出した。 戻る 次へ 一つの山場です。さあ、ここからが大変ですよ。
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それはただほんの少し「王道からはずれて」はいるが、それでも世界を笑いながら駆け巡った奴らの物語。 状況:1話書くよ! バトロイファンタジー・アストレイ/1話?
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ファイナルファンタジーVI(召喚) ゲーム概要 作中では「幻獣」と呼ばれ、ストーリーとしても重要な位置にある。 ガストラ帝国によって力を吸い取られ乱獲されていく。 ストーリー中盤で魔石を入手し、装備してABPを集める事で魔法を覚えていく。 魔石によってはレベルアップ時のステータス上昇に補正がかかる。 幻獣を従来のように召喚獣として呼び出す事も出来るが、 装備している魔石の召喚獣しか呼び出せない上に、召喚獣を呼び出せるのは一戦闘で一人一回のみである。 召喚が強力だった従来に比べて、召喚獣としての重要性は少なくなった。 実質、魔法取得用&ステータスドーピング用に使用される事が多い。 最終決戦において三闘神が死んだ事で、エンディングでは魔法の力と共に幻獣は消滅していく……。 セイレーン その他画像 使用技 ルナティックボイス:敵全体に「サイレス」。消費MP16。 備考 ラムウの仲間で、最初にゾゾで入手出来る魔石の一つ。 取得魔法 スリプル×10 サイレス×8 スロウ×7 ファイア×6 シヴァ その他画像 使用技 ダイアモンドダスト:敵全体に冷気攻撃。消費MP27。 備考 魔導工場でイフリートと共に力を吸い取られてた幻獣の一人。 ロック達に襲い掛かるが、仲間であるラムウに認められた事を知って イフリートと共に、魔石となってロック達に力を貸す。 取得魔法 ブリザド×10 ブリザラ×5 ラスピル、アスピル×4 ケアル×3 セラフィム その他画像 使用技 エンジェルフェザー:味方全体を大回復。消費MP40。 備考 ベクタから脱出した後、ツェンでアクセサリー屋の隣にいる男から3000ギルで購入出来る。 取得魔法 ケアル×20 ケアルラ×8 リジェネ×10 レイズ×5 エスナ×4 ラクシュミ その他画像 使用技 魅惑の抱擁:味方全体を極大回復。消費MP74。 備考 崩壊後のアウザーの屋敷でチャダルヌークを倒すと貰える。 取得魔法 ケアル×25 リジェネ、エスナ×20 ケアルラ×16 ケアルガ×1 レベルアップボーナス 体力+2 ジハード その他画像 使用技 天地崩壊:三闘神が争う事で全体に大ダメージ。敵のみならず味方もダメージを受ける。消費MP96。 備考 崩壊後、各地に生息している8体の竜を全て倒すとその場で入手出来る。 取得魔法 メテオ×10 メルトン×1 レベルアップボーナス MP+50% 名前 コメント ファイナルファンタジーVI
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作品名 「ピーターパン」 出演 ジェレミー・サンプター ジェイソン・アイザックス レイチェル・ハード=ウッド 評価 ☆☆☆☆☆ 五つ星 ・ 微妙に脚色したピーターパン物語で、大人も子供も楽しめる作品。 子供は単純にファンタジーとして楽しめ、大人はいろいろと考えさせられます。 子供ならではの残酷さ、大人になるということ……などなど。 最初の飛行シーンこそ合成バレバレですが、他は綺麗です。最後の展開にそれはないでしょと突っ込み所(子供たちが!)がありますが、よく出来た悲恋物語です。 純粋なファンタジーなので、一般的な男性には評価がよくないかもしれません。注意が必要です。 しかし、世代を超えて違った色を見せるこの作品、トランスフォーマーと中身のレベルが違います。
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ワールド オブ ファイナルファンタジー マキシマ ストーリーRPG ATB 6,264円(税込)10.7GB これは、新しい「ファイナルファンタジー」の大きさ 新しい世界のはじまり たくさんの出会いの物語 2016年10月に発売された『ワールド オブ ファイナルファンタジー』のパワーアップ版、『ワールド オブ ファイナルファンタジー マキシマ』がNintendo Switchに新登場! 歴代FFキャラクターの「レジェンド」や「ミラージュ」と呼ばれるモンスターが多数登場し、冒険をより一層楽しく盛り上げてくれる! さらに今作では、主人公レェンとラァンがレジェンドになって戦える、アバターチェンジ機能を搭載! 歴代FFの英雄になってバトルを楽しもう! メーカー スクウェア・エニックス 配信日 2018年11月6日 対応ハード Nintendo Switch セーブデータお預かり対応 対応コントローラー Nintendo Switch Proコントローラー プレイモード TVモード, テーブルモード, 携帯モード プレイ人数× 1 対応言語 日本語, 英語, スペイン語, フランス語, ドイツ語, イタリア語, 韓国語, 中国語 レーティング CERO B セクシャル, 犯罪 WOFFセールで始めたんだけどノリがきつい 台詞回しと仕草が戦隊モノのギャグシーンを見てるような気分にさせる 読みにくいフォントのひらがな多用なところも含めてかなり子供向けなんだな 最初のボス倒したけどこれはダメかもしれない ストーリー自体に期待して先に進もう -- 名無しさん (2019-05-19 12 12 38) 名前 コメント
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作品概要 登場キャラクター・うらら ・モロ星人 その他 シリーズ一覧 作品概要 人類は突如、宇宙人の襲来を受ける。宇宙人が謎の光線を人間に浴びせると、 なんとその人間は体の自由を奪われ、踊りだしてしまうのだった! そんな中、事件をレポートするために危険な現場に向かったTV局「スペースチャンネル5」の 新人女性リポーター・うららは、逆に踊りをし返す事で人々の解放に成功。 意外な活躍にTVの視聴率はウナギ登り。視聴率を上げる為の賑やかな戦いが始まる。 1999年発売セガ開発の異色リズムゲーム。 独特の世界観、一般公募された主人公の声優、マイケル・ジャクソン(本物)の登場など、 今なお話題が尽きないゲームとして多くの人に愛されている。 登場キャラクター ・うらら 架空のTV局「スペースチャンネル5」で働く新人女性リポーター。 なぜかモロ星人に操られる事もなく人々をその呪縛から解放する力を持つ。 そして、なぜか「PXZ」ではスペースハリアー、オパオパなど セガのゲームキャラクター達と協力しながら攻撃をする事で戦いに臨む。 cv Herself ・モロ星人 本作の敵キャラ。 コミカルな外見と子供っぽい性格をしているが、れっきとした「地球征服をたくらむ悪の宇宙人」。 人々を強制的におどらす不思議な光線銃で、あらゆる軍事力を無効化できる。 しかしモロ星人たちは、うららのノリのいいステップを耳にすると倒れてしまうという致命的弱点を備えていたのだ… その他 「スペースチャンネル」シリーズの5作目、ではなく、「スペースチャンネル5」シリーズ、である。 以下はうららの技『テンションブラスター』の際、共に敵を攻撃するキャラクターの詳細である。PXZにおいて彼らにキャラ付け、セリフ等があるかは未だ不明。ハリアー/スペースハリアー オパオパ/ファンタジーゾーン スクーター/エイリアンストーム シリーズ一覧 ゲーム本編シリーズスペースチャンネル5 (1999 DC/PS2) スペースチャンネル5 パート2 (2002 DC/PS2/PS3/X360) キャラ出演作品ソニックライダーズ (2006 PS2/GC)
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虹の切れ端 途端に鋭い視線を送るアレックスをシンは見ていた。 ハイネもふざけてはいるが、嘘で人口種石の名を口にはしないだろう。元より彼は帝国の研究所と王宮に忍び込んだ空賊である。賊としての腕ならアレックスよりも上かもしれない。 散々俺が邪魔しちゃったからな。 シンは、今一歩の所でお宝を手に入れそこなっているアレックスを思い出す。 そのせいでハントをする羽目にもなったのに、その割に彼は財宝に執着しているように思えなかった。報酬報酬と事あるごとに口にするが、金銭にギラギラしているわけでもない。 「そんなものを手に入れても、金にならない」 「そんな事を言っていいのか。そっちの王女様は興味津々って顔だぜ?」 言うまでもなくラクスがハイネを潤んだ瞳で見つめている。今までと違うのはその表情がどこか硬いと言う事だ。 「わたくしにはもう、必要のないものですわ」 注目されて小さく笑った彼女は儚げだった。 あんなに自信に満ち、王国の独立を願っていた彼女に何があったのだろうか。婚約者の形見のように大切にしていた種石すら見向きもしない。 兄上が背中を押してくれるんじゃなかったのかよ。 シンはラクスをまじまじと見る。 王墓でラクスはアスランと再会して、アプリルを、種石を託されたじゃないか。 「諦めるのか。兄上はラクスを応援しているのに、ラクスが諦めるのかよ」 シンは俯いて零す。けれど、考え込んで次の言葉を口にしたのはシンではなくキラのほうだった。 「ラクス。君はいつも誰かを見ていたようだけど、もしかしてそれは・・・」 「いつも、アスランがわたくしを導いて下さいました」 「アスランって・・・あの前に君の婚約者だった、アスラン・ザラ・プラント?」 泣きそうだと思った。 同じ思い出を共有し、亡き人を語ることができると思っていた。困難を共にするのとはまた違う。仲間だと思っていたのにシンは少し裏切られたような気がした。 「わたくしは間違っていないのだと思いたかった」 ラクスは何も残らない地平の果てを見つめてポツリと零す。 「帝国を敵に回してでも、祖国の独立を勝ち取れと。わたくしに幻影を見せていたのかも知れません」 幻影って・・・。 じゃあ、俺に見えていたのは何だったんだよ。 違う・・・幻影なんかじゃない。ちゃんと意思を持った・・・。 「シン・・・貴方のお兄様を辱めてしまう所でした」 一歩、近寄るラクスが徐に手を上げて、シンの両手を掴む。 「ラ、ラクス!?」 「亡き人を理由に何かを為すことは止めにいたします。この時間を歩んでいくのはわたくし達ですから」 死んだ人間では何もない大地に対して責任を取ることはできない。 再び農耕ができる地をここに取り戻す為に、考え、行動するのは今を生きている自分達なのだと。力を求めた反動を受け取って初めて彼女は王国の復活を目指すという意味を悟ったのだった。 同時に、独立を阻止する側の帝国の立場を考える。 阻止する為の軍団の前に、王子たるシンがいたのだ。 「いいえ・・・。貴方はもう、ご自分の足で歩き出しているのですね」 「いや、えっと、俺はただ、兄上とラクス達が戦争するの嫌だったから」 それでは解決になっていないと分かっているし、こうしか動けなかった自分が情けなかった。ラクスが言うような立派な志があったわけじゃない。 「たいして俺考えてないよ。兄上に直談判して、駄目だったらラクス達に話を聞いて貰おうと思っただけで」 シンは罰が悪そうに言ったが、ラクスはフルフルと頭を振った。 「だからですわ」 落ち着くような笑みだった。 シンにはラクスの胸の内など測れるはずもなく、だが、もし、心の声が聞こえたならこう聞こえたに違いない。 それが貴方の選んだやり方だと。 ラクスがずっとシンの手を掴んでいるから、動くに動けずどうしたものかと思ったら。 「ステラも手、繋ぐ」 ラクスとシンの上にちょこんと乗せられた小さな手。 「種石なくても、ステラがその分頑張る」 二人の横には金色の髪を揺らすステラがにこりと笑って立っていた。 「じゃ、高貴な方々が落ち着いた所で、そろそろ出かけようぜ」 ハッとして声がした方を見れば、ハイネがアレックスの肩に手を回している所だった。強引に引き寄せてセイバートリィへといざなっているが明らかにアレックスは迷惑そうだ。 「ひっつくなよ、暑苦しい」 「いいじゃないか、空賊同士仲良くやろうぜえ」 その点、ハイネも負けておらず、肩から振り払われた手が腰に回る。 「おまっ、どこ触ってんだっ!」 「ぐふっ!?」 見事に決まった肘鉄。よろめくオレンジ色の髪の空賊の横をすり抜けるのは、長い髪と長い耳を持つキャンベラで。相変わらず目がくらむようなプロポーションだった。 「いつまで遊んでるのよ、早く行きましょ」 「ミーア!」 今度はミーアに腕を掴まれて深紅の飛空艇まで引きずられるように歩くアレックス。 アレックスとミーアを見て、妙に懐かしく感じてしまった。 また、ここに帰って来たんだな。 ステラが相変わらずほんわか笑っていて、二人の後を追いかける。 「ラクス?」 シンはその様子を見つめているラクスに気づいた。 今までは王女と空賊という関係から、傍目に見ていい印象を持っていないのだろうと思っていたのに、空賊に寄せる視線が違う。 なんだかラクス・・・感じが変わったな。 しばらく会わないうちに、本当に何かあったのだろうかと、少しばかり首を傾げることになった。 その頃、アプリル東部地帯の片隅で更地となった台地にイザークは降り立っていた。 風紋を刻んだ見渡す限りの大地は白く沈んでいて、地上を漂うシードの名残が薄緑の淡い光を放っている。吹きつける風が、イザークの銀色の髪を揺らした。 「報告します。第13艦隊全滅。第2軍の損害は軽巡3、重巡1大破。飛行戦艦への損害は軽微ですが、高密度シードによる影響と思われる新型飛空石の活性化が多くの艦で発生しています」 「原因究明を急がせろ」 視線は白い大地の彼方のまま振り返らずに聞いた。 「観測班によると膨大な量のシードがある一点に収束し、一度に蓄えられたシードが放出されたからではないかとのことです」 シードが収束。蓄える。放出する。 最近、どこかでその情報を目にしたことがある。 ああ、ドクターの研究所で報告文書に記されていた事を、イザークは思い出す。 「ある一点・・・種石か―――」 ・・・種石。また、種石か。 イザークは徐に大地に手を伸ばして小石を拾い上げる。 炭化を通り越して白くなったそれは、戦艦の破片か、民家の一部か、もしかしたら生物の骸かも知れなかった。 イザークの指が摘み僅かに持ち上がった瞬間、形を失ってポロッと砂のように零れ落ちる。そして、大地に届く前に、吹いてきた風に攫われてしまった。 ユニウスと同じ。 「散々たる光景だな。この光景をどう思う? シホ」 7年前もこうして何もない地に降り立ち愕然としたのに、また同じ思いをしている。 艦橋でサポートしてくれる優秀な部下はこの光景を目の当たりにしても、顔色一つ変えずに淡々と報告を行った。軍人としての鏡であるし、常々イザークも部下に、帝国軍人たれと檄を飛ばしていた。 だが、これが戦争か? 何も残らない地。 報告によれば、作物も育たず、水を蓄えない、死んだ地である可能性が高いという。 何の為の戦争だ。 戦争はあくまで国威の発揚であり、何らかの利益を得る為の手段である。けれど、土地も人民も何もかも吹き飛ばす兵器になんの意味がある。これでは、唯、相手を滅ぼす為のものではないか。 愚かだ。 7年前は緑豊かだった自国の領土を前にして怒りを覚えた程だ。 何かが・・・。 研究所でも感じたもどかしさを感じる。 何か目に見えないモノに踊らされているような感覚。それは全て種石が基点となって動いている。 「連邦の新兵器でしょうか」 違う。 確かに連邦は帝国を叩きたいだろうが、大地を根こそぎ吹き飛ばしたいわけではないのだ。両国は争っているように見えて天秤の微妙なバランスを保つに必死なのだ。そのバランスが崩れる時、大陸は荒れ、歴史が生まれる。 そのバランスを崩す、何か。 「新兵器などと、フェイス達や王都は何も掴んでなかったのか?」 「中央に照会しております」 兵器開発に余念のない兄やドクター・クルーゼが何も掴んでいないとは思えず、帝国の未来を憂う。過剰ともいえる種石の研究でも、もしかしたら、帝国は遅れを取っているのではないか。 人工種石の研究はどこまで進んでいる? イザークは研究所でのドクタークルーゼの言葉を思い出していた。 ・・・・・・歴史は繰り返す。 種石を求めて国が覇権を争う時代が来る。 間違いない。兄上はこの事態を予測していた。 もしかしたら、天秤の支柱を揺るがす何かすら掴んでいるのかも知れない。プラント帝国とコスモス連邦の2大大国を煽って全面対決へと誘う歴史の手。 そうさせないために、どれだけ苦労していると思っている! そう思うと、苛立ちが募って拳を握りこんだ。 「唯一の穀倉地帯がこれでは、アプリルには相当は痛手だろうな」 そうとも、楽観視はできない。いつもいつも、最悪の事態を想定しておかねばならないのだ。一歩も二歩も先を見据えて置かねばならないのだ。たとえそれが誰かの思惑通りであったとしても。 『誰か』か。 不思議なことに、苛立ちの対象を形ある存在だと決め付けていた。脳裏に浮かぶのはドクター・クルーゼであり、兄であった。イザークは即座にそれを否定する。国を治める者がこの惨状を望むはずが無いのだ。だとしたら、もっと別の・・・。 俺達が立ち向かうべきは、そいつなのかも知れんな。 ふと、研究所へ忍び込む手配をしたシホの気配を思い出して、下がらない副官に何か言おうとした時、イザークは先を越されていた。 「殿下、ご報告したいことがもう一件・・・」 「なんだ」 「シン殿下の護衛を命じた部隊から『任務を完遂できず』と報告が上がっております」 「そうか」 つくづく、思い通りに行かないものだ。 反乱軍討伐などとくだらない出征に加えて、シンの帝国送還も不首尾に終わる。弟の身の安否を思えば今すぐにでも動きたい気分だったが、この状況と立場がそれを許さない。 「弟君の消息についてはこちらでも探らせております」 あの包囲を突破するだけの腕がシンにあるとは思えず、優れた助け手に感謝した。飛空艇単機であのシードの嵐を耐えられたとは思えない。その助っ人の腕に頼るしかない。 後は・・・・・・奴の運に掛けるだけだ。 ふと、そう思った自分を記憶の中に見つけてイザークは苦笑した。たしか、7年前も、今は亡き弟を助ける為に走り、無い知恵を絞って影武者を立てたりと隠蔽工作に奔走していた。しかし、結局、ユニウスは幽鬼が漂う死地となり、弟は死んだ。 また、俺は間に合わなかったのか。 まだ、そうと決まったわけではない。 「シンに天命があれば、また会えるだろう」 イザークは腰に佩いた剣の柄に手をかけた。それは、今は無き父から賜った宝剣で成人の祝いに下されたもの。シンも来年、17の年に与えられるはずだった宝剣。 一度天を仰いで、ヴェサリウスへ戻る為にイザークは飛空艇へと歩き出す。 地上を離れたヴェサリウスが高度を上げ、隊列を組んだ所属艦が一斉に移動を開始した。数を減らしたとはいえ、大艦隊であることには違いない。哨戒機が無数に飛ぶ空は一分の隙も無い程の警戒網を張り巡らしていた。 突如、艦橋に策敵クルーの声が響く。 「下方より、未確認の飛空艇接近!」 「数はっ!?」 艦橋を物凄い速さで掠めて飛ぶ去るのは、肉眼でようやく捕らえることができた飛空艇。それはあろうことか空とは正反対の色をしていて、帝国軍の飛空艇を蹴散らして突っ切っていく。 「追いかけますか・・・」 「適当にあしらっておけ」 蜘蛛の子を散らした様な空を一筋の青い光が一直線に伸びる。 「深紅の飛空艇・・・なんだあの色は」 軍の飛空艇ではありえない、と言うことは民間か、もしくは・・・空賊。 まるでいい標的だ。 だが、なるほど。速い。 狙ってくれと言わんばかりの飛空艇は、後姿に落とせるものなら落としてみろと不敵な雰囲気を醸し出して飛び去っていく。 「巷では『最速の空賊』や『深紅の空賊』と呼ばれているようですね」 「ふん。下らんな」 イザークは空の彼方に消える飛空艇を見えなくなるまで追っていた。 「帝国軍!?」 飛び立ったセイバートリィが雲を突き抜けると、そこには帝国軍の大艦隊が待っていた。 「みんな、捕まってっ」 ミーアが叫ぶと同時に、帝国軍の哨戒機が束になって押し寄せて来た。縫うように飛んで、一気に加速が掛かる。一働きしたエンジンが再び唸りを上げて青い光の糸を引く。放たれるワイヤーや銃弾を避け、速く、高く距離を取る。もはや逃走のルートを考えている暇は無かった。 「ヴェサリウス!?」 シンが叫ぶ。 包囲を抜けた所に、白銀の旗艦ヴェサリウスが居た。 そこには当然、シンの兄、イザークが佇んでいるはずで。 一瞬に接近する艦橋。そこに居るはずの姿を、見えないと分かっていても探してしまった。 その時だけ時間が止まったかのように、ゆっくりと艦橋横を過ぎ去る。 帝国軍の軍旗がはためく、その向こう。 ロールして離れていく白銀の飛行戦艦と深紅の飛空艇。 あっという間に帝国軍を後にして蒼穹に上がるセイバートリィでは、興奮も冷め遣らぬ皆が水を口にしていた。 「それにしても危なかったな」 「ちゃんと見ておいてくれよ、ヨウラン」 アレックスから注意が入るが、無事逃げおおせた安堵からか、ヨウランが頭を抱えて舌を出す。ヴィーノが水の入った水筒を奪って『笑い事じゃない』と小突く。 飛空艇は高層を安定航行に移り揺れもほとんどなかったが、ハイネの一言に一瞬にして緊張が走った。 「あそこに見えるのって・・・艦隊じゃね?」 種石の暴走によってなぎ払われた大地を抜け、眼下には砂漠が広がっていた。岩石の砂漠が作る山と山の間に身を潜めるように艦隊がいた。ミーアが早速、通信を拾う。 「どうも・・・『至急、お越し下さい』と言っているみたいだわ」 「で、どうする?」 ハイネの少々暢気な問いかけにシンは一瞬『無視する』と言う答えを用意して考え込む。 当初の目的は決起の阻止だったのだ。種石のせいで水を濁された形になっていたけれど、あれだけの数があればいつまた行動を起こすとも限らない。 「面会を申し込もう」 「わたくしもバルトフェルト侯にお話しなければならないことがありますわ」 シンに続いてラクスが声を上げた。 ミーアがアレックスを見れば、彼が苦笑して僅かに頷いた。 「仕方がないな」 セイバートリィは大きく弧を描いて、アプリル独立を目指す艦隊へと向かった。今度は接近してきた哨戒機も手荒な歓迎はなく、先導すると短く伝えてきた。前回とは違って驚くほどスムーズな着艦にややアレックスが残念がって到着を告げる。出迎えも布陣も違う。 「なんか変な感じだね」 さすがのキラも飛空艇から降りて周囲を見回した。まるで貴賓を出迎えるような対応振りに、『実際、お姫様だろ?』とアレックスからツッコミが入る。 「王子様もいるしな~」 シンの頭をわしゃわしゃとかき回すハイネがシンを引きずって、輪の中に混ざる。その様子をジロリとアレックスに見られて、慌てて頭の手を外す。 「子供扱いするなよっ!」 アイツに馬鹿にされるじゃないか。 「お前なんて十分、子供だろ」 「なっ」 ミーアとステラにまで微笑まれて余計に恥ずかしくなる。それでなくても、ラクスを出迎える為に勢ぞろいしている反乱軍兵士の前なのだ。 「そうだぞ。お前は王子じゃないだろ」 「アンタまで!」 顔だけシンのほうに向けて腕を組む。久しぶりに見たアレックスのその仕草に、シンは嫌な予感が一瞬過ぎる。 「お前は、俺の子分。弟子。半人前の空賊見習いだ。一人前になるまで、王子を名乗られてたまるか」 「な、な、な・・・」 ひどい。でも、なんだろう。ちょっと嬉しいかも。 それは紛れも無く、ここに自分の居場所がある証拠だから。 「シンだけずるい。ステラも空賊半人前ーー」 「そうね、ステラのほうがシンよりずっと一緒に居たものね、ステラの方がシンより先輩ね」 二人して何、笑い合っているんだよ。 シンはステラとミーアを恨みがましそうに横目で見て、ふと、ラクスとキラが目に留まる。キラの表情はいつもの見慣れたものだ。空をとあまりよく思っていない表情で、今もアレックスとミーアに鋭い視線を送っている。けれど、ラクスはやはり、今までとは違った。 なんだろう? そう思っていると、ざわざわとその場が騒がしくなる。 兵士達の前に進み出てきたのは、今までに幾度と無く顔を合わせてきたこの反乱の首謀者であるバルトフェルト侯であった。 「よく来たねえ。ラクス王女。そしてシン王子」 両手を広げて歩み寄る。 「それとも、空賊見習いの方がいいかな?」 「いや、えっと」 変な風に言葉を放たれてシンは戸惑う。 彼とまともに話をするなら、プラント王子の肩書きは必要なのだ。けれど、たった今、お前は空賊半人前だとアレックスに言われたばかりで。 「どっちでもいいよ、そんなの」 兵士達の笑いを一瞬で冷やしたのはキラで、バルトフェルト侯も悪ふざけを止めて本題に入ることにしたらしい。 「まあ、そうだかね。他でもない、丁重に迎えたのは、君達に会いたいという御仁が来ているからなのだよ」 通されたのは戦艦の中にしては整った部屋でシンは待っている人物をぼんやり見つめる。 ミーアと張るくらいのナイスバディの女性は茶色の髪を肩まで垂らして、ラクス王女に柔らかい笑みを向けた。 「お初にお目にかかりますわ、ラクス・クライン王女」 一同が、相手は誰だと戸惑っていると、バルトフェルトが軽く咳払いをしてから彼女を紹介した。 「彼女はコスモス連邦のハルバートン准将配下の軍人で、連邦の重鎮、ラミアス家の長女、マリュー殿だ」 コスモス連邦の軍人!? じゃ、今回の反乱は連邦がやっぱり裏で意図を引いていたのか。 シンは息を呑んだ。 「その方がなぜ?」 ラクスの問いはもっともな事だったから、マリューと紹介された女性は少しも気にすることなく唇に笑みを浮かべた。とても悪事を企むように見えない表情である。 「貴方を連邦議会にお招きしたいと思ったからよ、ラクス王女殿下」 ますますもってシンの頭の中は混乱した。 一体全体、何がどうなったら、ラクスを連邦の議会に招く事になるのだろうか。 「人工種石・・・と言えば察しが付くかしら」 シンはついに観念していつもの通りアレックスを見た。 しかし、険しい顔をして何かを考えている横顔に、気軽に尋ねることはできなかった。その横に居たハイネですら雰囲気が違い、マリューという女性の言動に聞き入っている。 「種石の研究に精を出しているのは何も帝国だけじゃないの。連邦でも莫大な予算を組んで研究しているわ。大層な兵器になるのは分かっているから、議会も軍上層部も気が気じゃないのね」 確かにあれだけの力を持つ石で、魔法にも、シードそのモノの力としても、その威力は計り知れない。かつては大陸を平定した覇王の力である。 「でもね、それはそれで疑心に駆られるのよ。唯でさえ、帝国は7年前に実験で領土を焦土にしているでしょう? それに、ここ最近の動き・・・主戦派を焚きつけるのにちょうどいい材料になってしまった」 穏やかに話す内容はとても穏やかなものじゃなかった。 「確かに・・・不祥事が相次いだからな。それに加えて、今回のこの事態」 ハイネの呟きに渋い顔をしたのはアレックスで。 心配そうに肩に手を置くミーアの手に上からアレックスは手を重ねた。マリューの言う事が本当なら、シンにどれだけ理解できているか分からないけれど。 戦争を始める気なのだ。 「だから貴方に、連邦議会を止めて欲しいの」 「そんな事、どうしてラクスにっ!」 反論したのはキラで、マリューは顔色一つ変えずに受け流す。 「軍はもう開戦一直線だわ。申し訳ないと思うけど、貴方は国を失い帝国を恨んでいる身、その貴方が証言するから意味があるのよ」 「とても連邦を止められるとは思えない」 「ええそうね。でも、殿下にご出席頂きたいのは、種石の制御に関する公聴会なの」 帝国は自由に種石を制御できない。 「でも帝国には人工種石がある」 アレックスの言うとおり、帝国はコントロール可能な人工の種石を開発中だ。 「ではどうして、今回の事態に持ち出してこないのかしら。王子が出陣なさったのでしょう?」 種石の放つシードの嵐に為す術も無く壊滅した帝国の飛行戦艦。一部とは言え、人工種石があるのなら、それを用いた何らかの手段を講じているはずだ。自分達がその力を制御しようとしているのだから、防ぐ手段も当然あるはずである。 「だが、それは、開戦しないことが条件だ。貴方は彼女に何をさせたい?」 シンはアレックスを見る。 ラクスもキラも彼を見た。空賊にしては違いすぎる雰囲気に飲まれなかったのは隣に居るハイネとミーア、そして、バルトフェルト侯達、人生を余分に生きた者達だった。 「演説の原稿は当日お渡ししようと思っていたのよ。参ったわね、確かに私達は開戦を止めるために、ラクス王女殿下―――」 女性がラクスを見据えて、一呼吸置く。 アレックスが問いかけなければ、ここまでは引き出せなかったかもしれない。 「貴方に祖国の独立を断念すると帝国に宣言して欲しい。そしてその上で平和を訴えて欲しいのよ」 一室が静まりかえった。 バルトフェルト侯の戦艦で密談が行われている時、帝都に戻ったイザークは王宮の廊下を1人歩いていた。ギルバートには今しがた報告してきた所である。今は連邦の動き次第でどう動くか分からない情勢なので、王宮を動くなと命じられたことを思い出す。 『第13艦隊は沈んだか』 『折角兄上より賜った艦隊を、申し訳ありません』 『あれらは十分役立った。持たらされた情報、何よりお前が無事ならばよい』 執務室で顔を合わせる兄弟。 机の前にフェイス・レイを立たせて、兄は執務机で目の前のイザークの言を聞いている。 『しかし、連邦の新兵器とは』 『ラクス王女の持つ種石ではないかとの情報もあります』 イザークの推論にギルバートは笑って答える。 『だとしたら愚か者の極みだな。守るべきその地を焼くのだから』 兄の言う事はもっともだけれど、イザークはいささか件の王女に同情していた。まだ、王女の持つ暁の種石と決まったわけではない。まして、愚かだと身に沁みたのは灰と化した地で呟いた自身なのだ。 王宮は相変わらず皇帝崩御の喪中で暗く沈んでおり、その中を歩くイザークは浮き上がって見えた。 自室に戻る前に、ドクター・クルーゼの話を聞かねばならないと思っていた。 歴史は繰り返す。その意味を。 種石との関連、自身の胸の内にある推論を確認する為に。 歴史は繰り返すのではない。 歴史を、 繰り返すのだ。 明確な意思を持った何かが。 意思を持つなら、もはやそれは『何か』ではなく列記とした『存在』である。 そして、その存在と種石は密接な関係がある。 覇王が大陸統一という歴史的快挙を成し遂げたそのわけが、種石にあるとしたら・・・? その存在がジョージ・グレンを覇王に祭り上げたと言う事になりはしないか。 突拍子過ぎてイザークは自分で自分の推測を笑う。 まるでその謎の存在とは神ではないか。 自分専用の飛空艇に乗り込んで、帝都の研究所に向かう。 馬鹿馬鹿しいと思っても、一度走りだした思考が止まらない。 「神の存在など」 飛空艇から降りたところで、イザークは意外な人物に出迎えられた。 金髪を風圧で揺らして佇んでいたのは、まさに訪ねようと思っていた人物その人。 「待っていたよ、殿下」 通されたのは、あの時、散乱していた彼の研究室。今はきちんと整理されていて、足の踏み場どころか寝転ぶこともできるぐらいだった。 「君の言いたい事はわかる。何か面白い推論があるのだろう?」 持って回った言い方をするのは、目の前の仮面の男の常だが、イザークには時間が惜しい。唯でさえ、王宮を離れるなと厳命されているのだ。 「端的に言おう。種石の力が暴走し、ユニウスと同じ光景を見た」 「ユニウスと同じ、そこまで来たか」 人工種石を何に使うつもりだったのか。 考えられるとしたら・・・ぶつけるつもりなのだ。種石には種石を。その為の人工種石ではないのか。 「貴方ではないのか?」 「ほう」 「人を操る、歴史の紡ぎ手とは?」 面白そうに相槌を打つかつての師に畳み掛ける。 疑問系でしか問い正せないのは、イザークの中にも疑問点があるから。種石を封じる為の力を得る手助けをなぜ、種石を持って歴史を操ろうとする連中がするのかである。 「中々確信を付いているが、残念ながら外れだ」 立っていた彼がデスクに回りこんで、研究机の椅子に腰を下ろす。軽くため息を付いて組んだ手に顎を乗せイザークを見上げた。 「私は反逆者なのだよ」 どういう意味だ。 何から反逆したと・・・。 「聖都の中心で惰眠を貪る連中とは決別したのさ。詳しくは君の兄上から聞くといい」 一つ扉を開けたと思ったら、またその奥にも扉があった。 しかし、今度の扉は鍵は掛かっていないらしい。イザークは意を決して王宮へと急いだ。 公的な執務室ではない、パレスの一室。 イザークは壁に掛かっていた肖像画をチラリとみやって、ギルバートに切り出した。アデスには誰も通すなと厳命した上である。 「ドクター・クルーゼが兄上に聞けと」 「彼は何と言っていた」 ギルバートもイザークから問われる内容を覚悟しているようだった。 「自分は反逆者なのだと」 「そうか。ならば、お前の問いに答えねばならないようだな」 ずっと、兄の考えていることが分からなかった。 弟を一人失い、父を失った時まで、帝国の為だと言い聞かせてきたが、実は納得などできてはいなかった。 「兄上を何を考えていらっしゃる?」 皇帝の座に着くことでもない。 連邦を征服することでもない。 ギルバートはイザークからの問いに、緑の中庭に目をやって口をつぐんだままだった。イザークも同じように、かつて自分が幼い頃弟達と遊んだ庭を見やる。あの時から随分と時間が過ぎてしまった。自分が一番戯れた相手も、もういない。 「糸を断ち切りたいを思ったのだ」 糸・・・? 「こう考えたことはないか? 我らがどう足掻こうとも、超えられない壁がある。何者かの手によってこの世界の運命は決められていて、大陸に生きる全ての生命は、見えない、遥か蒼穹から垂らされる糸に操られていると」 妄想だと、笑えなかった。 「それが・・・種石をもたらす存在だと」 「知れば、後戻りできなくなる。いいのか」 「俺には知る権利、いや、義務がある」 あの日、ユニウスに居た弟は、その見えない存在に消された。 自分の懸命の行動をあざ笑うかのように、ユニウスを覆った青白い光が一瞬にして全てを吹き飛ばしてしまった。あれから7年。ようやくイザークは、歴史に隠された真実に辿り着こうとしていた。 戻る 次へ どんどん長くなる~。ちょっと間が開いてしまったから、自分でちょっと読み返してしまいました。今回と次回とで本当は1回分です。長くなりそうだったので切ってしまいました。
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終末の序曲 霊峰のかなり高い位置にあるというのにマルキオ教の本山の辺りだけは雪が積もっていなかった。それなのに礼拝堂はしんと冷えて、目に見えない空気に閉じ込められたかのようにシンは動けなかった。 うまく息ができない。 ディアッカは何を言っている? 父上が死ん・・・・・・どうして。なぜ。 礼拝堂のある一点を見つめたまま、ただ呆然と立ち尽くした。 真っ先に反応を見せたのはアレックスで、一歩踏み出してフェイス・ディアッカに向き合って問い質す。 「本当か?」 「冗談でこんなことを言うと思うか?」 面識のあるラクスも信じられない思いで言葉を繋ぐ。 記憶にあるかの人の父は皇帝らしく威風堂々とした男だった。誰かに寝首をかかれたり、毒殺される程甘い人物ではないことくらい分かっているつもりだ。直接先頭に立つわけではないとしても、仇敵の頂点に君臨するその人なのだから。 「プラントのパトリック皇帝がお亡くなりに・・・いつ・・・」 フェイス・ディアッカは答えず、いまだ反応のないシンにもう一歩近づいて膝を折って臣下の礼を取る。 「できるだけ火急、且つ速やかに帝都へお連れするよう、兄君より仰せつかっております」 「できるだけ早くだ」 「分かってるさ」 ディアッカにシンを帝都に連れ戻すよう命じたイザークも、知らせを俄かには信じられなかったのだ。この大事な時期にどんな冗談だと、もう少しで使者を張り倒す所だった。 父上が急死しただと? どういうことだ。 今、皇帝を殺害しても何の利も無い。誰にも、帝国内には。連邦が帝国の混乱を狙ったのだとしたら、これは下策も下策だ。あの嫌みったらしい連邦のアズラエルがこのような手段に出るはずがない。 だとしたら敵対しているジブリールか? いや、奴にそんな度胸はない。 まさかレジスタンス・・・・・・バルトフェルト侯が暴挙を許すはずがない。 イザークは帝都への帰路、この死の背景に頭を巡らしていた。 飛行戦艦の中から砂漠の彼方に帝都が見えた時、王宮に翻る弔旗に、イザークは初めて父親の死を実感した。 黒い半旗。 黒いタペストリー。 官吏も宮殿にいる者も議員達も全て礼服を着ていた。緑溢れ花のような王宮が黒一色で埋め尽くされた光景に、イザークは足早に回廊を通り過ぎる。 いるはずの顔が足りない。 老獪で議会を裏で操り、皇帝を意のままに操ろうという輩達の姿が見えないことに、イザークは皇帝の死以外に何かが起こったのだと確信する。 自分の予想通りなら、恐らく・・・。 パレスの大きな扉の前で立ち止まり、微かに指先に力が入っていることに気がついた。 身構えているのだ。 この先に待っている光景を。 あの部屋にもう父はいない。 もう二度とイザークの青い瞳に映ることはないのだ。 そこにいるのは、兄。 何を企んでいる? 扉の向こう、一家の主の部屋でイザークは予想通り、壁に掛けられていた絵画を見ていた兄を見つけた。7つ上の兄、ギルバート・デュランダル・プラント。 「兄上! どういうことですか!?」 「早いな、イザーク。とんできたのか?」 「当たり前です! シンもすぐに」 絵から目を離した兄が机を回りこんで庭を見る。 ゆっくりとした動作にイザークは内心舌打ちした。問い質したい事が山程あるのに、兄ははやるイザークの気勢を削ぐのに長けていた。 「当然だろう。『見聞を広める為にアプリリウス滞在中』と連絡を寄越したのは誰であったかね」 イザークもつられて部屋から見渡せる庭を見る。家出同然で出奔したシンが、空賊に弟子入りしている、などと言うことが公になるわけにはいかない。当然、この大事に帝都にいないことは許されない。 「言いたいことは分かっているよ。元老院どものことだろう」 「・・・はい」 「皇帝暗殺の疑いで元老院議員を全員逮捕した。事実上、元老院は解散だな」 皇帝暗殺の疑いだと?! 奴らがそんな度胸のある事をするものか。 喉まで出掛かって、イザークは拳を握り締めた。急死ではない、明確な他殺。その犯人を巡って帝国は揺らぐだろう、そのリスクを差し引いても兄は犯人を吊し上げた。 なぜだ。 「皇帝1人死んだ所で帝国は揺るぎはせんのだよ」 まさか・・・兄上。 振り向いた兄の瞳が昼の光を差し込んで琥珀色に光る。家族が減った事実を前にして、こうも平然としていられる男をイザークも見つめ返す。真意の読めない兄の心の奥底を覗いてみたいと、このとき初めて思った。 アプリル反乱の兆しと連邦との緊張が高まるこの大事な時期に、なぜ父上は殺された。 他ならない、息子の手に掛かって。 それが帝国の為だと言うのか。 「せめて盛大に送ってやろうではないか」 お前が殺ったのだろう! 皇帝の座を手に入れるために、自らの父でさえ手に掛けるのか。イザークの青い瞳は氷よりもなお冷たい光を宿して、目の前の男に視線を返した。 「そんな事で親孝行できるならよいのですが」 言い捨てて主の変わったばかりの部屋を出ると、侍従長がイザークを待っていた。いつもの服に黒の腕章をつけている。 「殿下、シホがお待ちでございます」 言葉少なくほとんど感情を露にすることもない、この肉付きのよい男はどう思っているのだろう。ふと、そんな事を思ったが、私情を口に出すはずあるまいと、止めかけた足をそのまま踏み出して歩き出す。 「そうか、すぐ行くと伝えてくれ」 「承知いたしました」 旗という旗は黒く半旗となり、帝都は鎮魂に沈んでいた。 と言えば、少し大げさだろうか。 国民には必ずしも優しい皇帝ではなかった。アプリルを始め周辺諸国を併合した武断の皇帝というのが恐らく彼らの印象だろう。だがそれでも、帝国にとっては比類なき皇帝であり、帝国の強さの象徴でもあった。 後継者がなかなか決まらない程君臨していて、歳を取って威光に陰りが見え、ようやく代替わりが行われるかと言う矢先の出来事だった。 イザークは個人的に所有している小型飛空艇を自ら駆って、帝都の空路を急いでいた。銀色に光る白いボディに水色のラインの入った飛空艇は一見、帝都の貴族達が所有しているプライベートリムジンのようでいて、中身は全く違うもの。シホから受け取ったものを手に、建物の間をすり抜ける。 「確かに・・・皇帝が死んでも帝国は止まらない」 悲嘆にくれるけれど、人々は止まらない。 何事もなく帝都には日が昇り、経済活動が動き出す。市場で売買が始まり、建物を覆う緑は花を咲かせる。 「シンが戻ってくるまでか、時間がない」 帝都の中央部から少し外れた高い建物で飛空艇を降り、イザークはとても帝国の王子とは思えない格好をして建物の中に消える。振る舞いや滲み出るオーラが只者じゃないと暴露してしまっていたが。 昇降機を操作しようと手を伸ばした時、突然、所内にサイレンが響き渡った。 緊急性を告げるそれは、明らかに何か良くないことが起こった証でイザークはすばやく辺りを見回した。 そう言えば、警備の者はどうした? 本来なら各階に配置されているはずの警備担当者がいない。どこかの企業、高級住宅ならともかく、ここは帝国でも最高機密を扱う種石の研究所なのだから。シホから手に入れた研究所の極秘キーに何か不首尾でもあったのかと一瞬頭を過ぎったが、ディアッカとは違い彼女は優秀だ。 ミスがあるとは思えない。 だとしたら、自分以外の誰か・・・そう思い当たった所で、バタバタと走る足音が聞こえてきた。近づくにつれ、微かな鎧の音を聞きつけ眉を寄せる。 なぜ、帝国兵が? フェイスまで。 見つからないように咄嗟に物陰に隠れて、その場をやり過ごすと彼らの口走ったことが頭を巡る。 どうやら招かれざる者が俺以外にもいるようだ。 侵入者を探せ、生きて返すなと指示を出していたフェイス。物騒な事だと昇降機に乗り、最上階を目指す。狙いが同じものだとしたら、ぐずぐずするわけにはいかなかった。 シホに渡された2枚の鍵の残りの鍵を取り出して、目的の部屋に入った途端イザークは唖然とした。 先を越された・・・か。 物音を立てないように部屋の中を動こうにも、こう物が散乱していては無理と言うものだ。床やデスクには書類が散乱し、書棚は荒らされ、引き出しという引き出しが開いていた。家捜しでもここまで派手にはやらないのではないか。 その中で、目に付いた書類を拾い上げる。 人工種石の硬度に関するデータ。 人工種石の耐久性に関する考察。 シード最大容量を決定付ける要素。 グラフと表が載っている書類のタイトルにそう記されていた。曲線と細かい数字の載った紙を数枚捲って、散乱したものが山のようになっている机の上に置いた。 「まさか、人工種石とは」 一度は手にした王家の証、黄昏の種石はジョージ・グレン王が大陸の覇業を成し遂げる原動力となった神授の種石の一つだった。当初、イザークが知っているのはそれだけだったのに、ラクス達が王墓へと出向き、第8艦隊が消滅したことでまた別の種石の存在を知らされた。この調子なら覇王が持っていたとされる3つの種石の残りの一つもどこかにあるのだろう。 過去の遺物はただの伝説だと思っていたが、その力を目の当たりにして思うのだ。 世の王が欲しがらないはずがない。 だが、手に入れさえすれば即使えるものではないということも、第8艦隊の件で当たりを付けていた。なんらかの制御が必要なのだ。おそらく通常のシードを含んだ石とは比べ物にならない量のシードを溜めている。魔法を扱うのとは違う、何か別の制御法があって、覇王はそれを知ったから大陸を統一できた。 研究所が開発しているものは、そんな所だろうと考えていたのに。 ここで行われていたのは種石を制御するのではなく、制御できる種石を作り出す事だったのだ。 崩れそうな書類の山を掻き分けてみるが、同じような報告資料ばかり。 イザークはため息をついて部屋を改めて見回す。荒れ果てた光景には、かつての恩師の部屋を髣髴とさせるものは何もなかった。 「狙いは人工種石、それとも・・・」 ドクター・クルーゼなのか。 イザークの中でクルーゼはそのような大それた事をしでかす人物ではなかった。いつも落ち着いていて、やや慇懃と取れるほど冷静に物事を観察する目を持っていた。 現実的だったのだ。 イザークの思いついた歴史に隠された真実に耳を貸してくれることはあっても、覇王の遺産の軍事転用を実行に移すことなど有り得ない。 何かがイザークの知らない所で起こっている。 それは父の死であり、人工種石の研究も、だ。 イザークはそのピースの間を埋める決定的な何かをまだ手にしていない。 ドクター・クルーゼや兄なら、それを持っているというのか。苦虫をかみ締めるように顔を顰めて、拳を握る。 また、あの時と同じだ。 「どこにいる、ドクター・・・」 手に入れなければならない。 それもできるだけ早く、手遅れにならない内に。 倒れたスタンドをおこし、割れた本をいくつか拾って書棚へと仕舞う。自分が立てた音以外が耳に届いてイザークは部屋の入り口を見た。 紙が踏みしめられる音。 「探しているのは、私かな? 殿下」 適当に散乱したものをどけて、デスクの椅子に腰掛ける最重要人物は、相変わらず変な白い仮面で顔の上半分だけを隠して唇の端を上げた。対して、イザークはほとんど本のない書棚に腕を組んで凭れている。 得体の知れなさが増大していた。 兄とは根本的に違う不気味さは目が見えないからだと、まだ学業に従事していた時分は無理やり納得していた。 「さて、ご用件は何かな? このように散らかっていて殿下をお迎えするには心苦しいが」 目の前の男の一挙一同から伝わるのは明らかな壁なのだ。 彼は目の前に帝国の王子が居るというのに、畏怖もなければ動じる所もない。表面上は敬う言葉遣いだが、本当に心からそう思っていれば自然と空気が変わるものだ。 イザークとて無駄に王子として帝都の中枢で生きてきたわけではない。 それくらいの判別はつく。 俺は取るに足らない存在ってことか? だが、自尊心に縛られるわけにはいかなかった。 「人工種石は完成しているのか? そんなものを作って何に使う」 この研究所に侵入した者の狙いもそれだ。 それを知る人物か、現物を探しているに違いない。 「聡明な君が分からないかな?」 「帝国は今でも大き過ぎて、辺境に目が届かず軋みが蓄積している。大陸全土を統一して軋轢を抱え込むのは懸命じゃない」 「よろしい。統治者として合格だ」 「お褒め頂き、ありがとうございます」 小さい頃はこんなやり取りを良くしたものだ。 入れ替わり立ち代り講義をする帝王学講師の1人、授業でともすれば熱くなり理想を追うイザークを嗜めたのも彼だった。 「ではなぜ、種石の力を今になって求めるのです。帝国にとってそれは絶対必要な力ではない」 ドクターは背もたれに凭れていた身体を起こして、デスクに肘を突いて頭を支えた。 少しの沈黙が降りる。 「歴史が繰り返すからだ」 「・・・歴史?」 大陸に現れては消えていった数多くの国家達。現在の2大国家睨み合いは比較的長く続いている方ではないだろうか。歴史が繰り返すならば、このあと訪れるのは小国が乱立する群雄割拠の時代か、巨大な統一国家か。 兄はプラントによる大陸統一を考えているのか? それは有り得ないと即座に否定しつつも、まさかと言う不安がどうしても拭えない。 「始まりは7年前」 何っ! 銀色の髪が広がった。 温めていた書棚からイザークは背を離し、ドクター・クルーゼを見る。 どういう意味だ。 7年前。それは弟を1人失った時。偶然か、それともあの争いに種石が絡んでいた・・・。 イザークは一瞬、頭の中が恐慌状態に陥った。ただの跡目争いではないという情報が追加されただけで、幾つも構成を変えて推測が出来上がっていく。青い瞳は仮面のドクターを映していたけれど、現実には捕らえていない。歴史に埋もれた真実を捉えることに必死になっていたのだが。 くそっ、あと一歩届かない。 「君はもう王宮へと戻ったほうがよいのではないかな」 ドクターの声が、もどかしさに悶えそうになったイザークの意識を現実に引き戻した。 「賊にも逃げられてしまったようだし。殿下からも、もう少し警備を増やしてもらえるよう進言して頂けないかな」 人工種石を狙うのは反帝国レジスタンスか、アプリルか、連邦のスパイか。 どちらにせよ帝国にとって好ましくない相手であり、イザークが否やを唱える理由はなかった。ドクター・クルーゼに飛空艇を泊める所まで付き添われ、研究所を後にする。 「もうすぐイザークがそこへ行くぞ、ギルバート」 クルーゼの独り言は誰にも聞かれることなく、彼は踵を返した。 こんな時でもなければ王宮の聖堂が隅から隅まで磨かれることはない。 3番目の王子が亡くなった時以来で、王宮の聖堂では着々と皇帝パトリックの為の葬儀の準備が進められていた。皇帝の貴色である紫の布で覆われ、香が焚かれ、いつしか王宮全体がその香りで満ちていた。 イザークは纏わり憑く香りに死の匂いを感じて、王宮の自分の宮にとって帰すとそのまま王宮の別の建物へ足を向ける。ずっしりとした木の扉を二つも開けた薄暗い部屋の匂いの方が、たとえかび臭くともイザークには馴染みのあるもの。 明かりをつけると奥が見えないほどの部屋にはぎっしりと書物が詰まっている。 帝国の歴史がそこにある。 帝立の図書館にもかなりの蔵書があるが、ご禁制の記録はここにしかない。 「歴史は繰り返すだと?」 上等だ。 ならば、真実をこの手で掴んでやると、イザークは過去の海へと飛び込んだ。種石の記録、覇王の記録、時間がないからその二つに絞って書物を漁る。こんなに本に埋もれたのは久方ぶりだと軽い感動を覚えていた。 公式記録の次に民間伝承を集めた書物に手をかけた時、王宮の官吏が自分を呼ぶ声が聞こえた。気がつけばかなりの時間が経っていて、長時間姿を晦ます事の失態を悟った。 一瞬、引っ張り出した本を元に戻そうかと考え、自分以外にここに入るものは居ないだろうと推測して蔵書室を出る。途中の頁で開きっぱなしになった革張りの書物がアラバスタの机の上に広げられていた。 しかし、自分が呼ばれている理由が単に行方が分からないからではないことを、イザークは兄のギルバートの口から聞かされた。 アプリリウスの南にアプリル復興艦隊が集結しつつある。 皇帝の死に動揺する帝国の隙を突いてアプリリウスを奪還するのか、先頭に立つのは空中都市の侯爵バルトフェルト。用心深く様子を伺っていた奴が動くなら、勝算ありと踏んでのことなのだろう。 「皇帝崩御の時を狙うとは、人道にもとる!」 「このような時だからこそなのだよ」 分かっている。分かっているが、怒りが収まらない。 冷静になれと強く心の内で念じて、自らのやるべきことを弾き出す。 アプリリウスを統治する執政官としてすべき事。 プラント帝国治世の安定にこの決起が与える影響を。 「例え反乱軍を1人残らず殲滅したとしても、このような反乱を見過ごしたというだけで帝国の負けです」 表情の動かないギルバートも微かに頷いた。 「こんな時ではあるが、鎮めてくれるな」 「分かっております」 「第8艦隊を穴埋めする為に急遽編成を進めていた第13軍がある。急造だが、持って行くといい」 イザークは軽く頭を下げる。 兄やドクターが何を考えていようとも、自らにできることをするしかないと瞳を閉じる。降りかかる火の粉を払わなくてはイザーク自身身動きが取れない。 父の葬儀に出席できないことが心残りだったが、弟の葬儀を思い出して、あんな思いをするのはもう勘弁だと自らを奮い立たせた。 イザークが自分が指揮を取る第3軍と第13軍を伴って帝都を出る日、シンが父の死を知ることとなる。 ディアッカに見上げられて、シンは浅い呼吸を繰り返していた。 どういう事態になっているのか、説明されなくても分かっている。子供子供と甘やかされたシンにだって、ここでシンが取るべき行動は決まっている。 それが分かっていてもなお、ディアッカに返事ができない。 「あっ、でも、俺、まだ」 何もやってない。 あんな野菜のモンスター倒しただけで、他には何も。 だけど、父上が。 でも、空賊としてまだ全然。 「いいからお前は帝都へ戻れ」 肩に手を置かれて、反射的に横に立つ人物を見上げる。 アレックスを見るシンは、泣く寸前をギリギリ耐えてるような顔をしていたに違いない。口にした彼の名が震えた。 「アレックス」 「父親との別れだろう。息子が傍に居ないでどうする」 立ち上がったフェイスの鎧の音が鳴る。 押し出されるように礼拝堂の扉へ数歩進むと、ディアッカが付き従った。自分の足音、鎧の音、どれも小さく耳に届いて足がちゃんと床についているかどうか分からなかった。 どうしてここで後ろを見ようと思ったのだろう。 もうここには戻れないのに。 冒険はこれで終わりなのに、シンは振り返ってしまっていた。 ―――あ 目が合う。アレックスが去る自分をじっと見つめていた。彼のエメラルドの瞳が揺れているように見えて、シンは思わず視線を逸らしてしまった。 「殿下、お急ぎ下さい」 ディアッカに促されて、足早に礼拝堂を出ると霊峰に吹き付ける冷たい風が頬を切る。飛空艦隊がそこに控えているのを見て驚愕した。ここは飛空艇が飛べない山だと聞いていたのに、ディアッカは飛空艇で乗り付けているのだ。 シンを見送りに来た者は誰も居なくて、自分がいかに皆と相容れない存在かを思い知った。マルキオ教の霊峰を見下ろして零れそうになる涙を堪えている時、シンはイザークが帝都を発ったことを知らなかった。 勿論、シンの居なくなった礼拝堂でマルキオ教の教祖がラクスに種石に対抗する切り札の存在を明かしているなど知るはずもなかった。 「覇王の遺産は種石だけではありません」 突然舞い込んだ皇帝崩御の知らせに、ここまで来た目的を一時的に失念していたラクス達は、教祖の声に我に帰る。 「それは・・・一体!?」 繋がった希望の糸にラクスでなくても身を乗り出した。 「覇王は3つの種石と一振りの剣を残したのです。覇王の剣を」 降って沸いた剣の存在に、皆戸惑った。 種石はあの小さな石の中に未曾有のシードを持つ未知の物体であるのに対し、それに対する切り札が剣とは。 「今のあなたにお話するべきか迷いますが、それをどう使うかは殿下がよく考えて下さい。ラクス・クライン殿下、覇王の剣は種石を砕くことができるのです」 戻る 次へ 念願のイザークオンステージです。でも、思ったほど動かせなくて残念、いつかリベンジを。