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ファルコ配下の武闘派神官、四元魔将を相手に戦った激闘から1ヶ月、街はまだ多くの人を失った悲しみから覚めないまま居た。 しかしここ新天地の暮らしは楽ではない。生きている者はこれからも生きて行かなければならないのだ。 嘆き悲しんでいる暇も無く、街は復興の為忙しい毎日を過ごしているのだった。 そんな中、街の人々はソラリア達を英雄として温かく迎えてくれ、闘いの傷と疲れを癒すまで、この街でゆっくり休んで行く事を許してくれた。 前の街ではすぐに追われたソラリア達にとって、この街の対応は温かく、とても心救われる思いだった。 「ソラリン、もう体の方はすっかり良くなったみたいだね」 「はい、皆さんのおかげです」 会話の主はソラリアとシエラ。二人はバイト帰り市場で食材を調達して来た所だった。 ソラリアの怪我はあの時の言葉通り、ほぼ一週間で完治してしまった。だがエルの怪我はそう簡単に直らない。 あの後医者に診て貰ったら、スワン蹴られた鼻の骨が曲がってしまっていたらしい。 他にも顔の腫れが引き、瓦礫で挫いた足の治療の為、この街で暫し休養を取っていたのだった。 その間タクトの仕送りだけでまかなえない分は、シエラやタクトが手分けして働きながらどうにかしていたのだ。 「でもソラリンって意外と不器用だったんだね。割ったお皿の弁償でバイト代がパァだよ」 「ほ、本当にすみません……力仕事なら得意なのですが……」 「最初は仕方ないよ。私だって慣れてるから出来るだけだし。大丈夫! 何とかなるなる!」 「シエラさん……はいっ! 私、頑張ります!」 そう言ってソラリアは可愛らしく小さなガッツポーズをとった。 今日も街の食堂でバイトをしてきた帰り道二人話しながら宿に帰っている途中だ。 二人は調理は出来ないので皿洗いやウェイターの仕事なのだが、何でもそつなくこなすシエラと違い、ソラリアは毎日失敗の連続だった。 唯一得意なのが力仕事。その為こうして、早朝の買出しから始まる早番のシフトに入って居たと言う訳だが…… (え?) その時、いつもの路地を歩いていて、ふと視界を遮った影にソラリアは目を奪われた。 影の人物の頭に、自分と同じような大きなバイザーが見えたからだ。服装もこの辺りでは浮いた格好をしていたように思う。 「あっ、あの」 ソラリアは急に胸騒ぎがして、その人物を探したくなった。 もしかしたら自分と同じ仲間かもしれない。そんな希望があったからだ。 「私、急用が出来ましたので、その……ちょっと行ってきます!」 「あ、ソラリア?」 ソラリアは事情説明も碌にしないまま、買い物袋をシエラに渡し先程の影が消えていった路地裏に走り出した。 「……どうしたんだろう」 その光景を、シエラは渡された買い物袋を支えるのに必死になりながら、不思議そうに見送ったと言う。 【異世界冒険譚-蒼穹のソラリア-】 「やっぱり私、ソラリンの事探してくるね」 そう言ってシエラが腰掛けていたベッドから立ち上がった。 ソラリアが単独行動をするなんて珍しい事だが、たまにはそう言う事もあるかと思い軽い気持ちで分かれた事を、今は後悔している。 時刻は丁度午後5時を回った所。シエラが宿について1時間が経過していた。 「そうだな……うん、頼むよシエラ」 エルはまだ取れない顔の包帯を擦りながら言った。 エルがあの戦いで怪我をして以来、シエラは本当によくエルの世話をしていた。 少し遠慮がちに恥ずかしがるエルに、シエラは良いから良いからと手厚く世話を焼きたがるのだ。 それは何だか世話をすると言うより、妹が大人ぶって姉にじゃれ付く様な、そんな雰囲気の光景。その姿に、タクトとソラリアは癒されていた。 (ソラリンどこ行ったんだろう) シエラが市中に出た頃、空は徐々に夕暮れに向け空が朱色にわ染まり始めていた。 もうすぐ訪れる夕焼けの空、人々は心穏やかに空が美しく変わり行く時を待つのだ。 「あ、おじさん。ちょっと聞いていい?」 「おう、何だい嬢ちゃん?」 昼間訪れた市場からシエラは捜索を始めた。まずは手近な店に居た店主に声をかけてみる。 こう言った時に物怖じしないのがシエラの良い所だ。ソラリアは人見知りだからそう言った事が苦手だ。その点、時々シエラの方がお姉さんのように見える事もあった。 「長い黒髪に青い瞳の……えっと、人間の女の子見なかった?」 「人間? さぁ、見なかったねぇ」 「ありがとーおじさん」 最初の聞き込みは収穫なし。 シエラは少しガッカリしながら、まだ最初だから仕方ないと割り切りすぐ次の捜索に移ろうとした、その時―― 「シエラ?」 「え?」 突然背後から声がかかった。 シエラを呼ぶその声は、彼女にとってとても懐かしい声。3年前に離れ離れになって以来、一度も聞けなかった待ち焦がれた人の声。 「やっぱりシエラだ。久しぶりね」 「カイラ……お姉ちゃん……」 振り向いたその先に居たのは、シエラとそっくりな鳥人の女性。 カイラ=ウィンザード。シエラ=ウィンザードの実の姉だった。 シエラは思い出していた。3年前、カイラが家を出る前にした最後の会話を。 それは雲一つ無い、蒼穹の空を見上げながら、浮遊島の芝で話した事だった。 『ねぇシエラ。神様は何で私達に空を飛ぶ翼を与えてくれたのかって……考えた事ある?』 カイラは優しい顔でシエラに問いかけた。 唐突な質問だったが、当時から活発で、どこに行ってもすぐ友達を作って帰ってくる明るい子供だったシエラは、さして疑問を持たずにこう答えた。 『どこにでも自由に行けるように?』 カイラはそれを聞いて、妹の頭を撫でながら嬉しそうに、でも少し悲しそうに笑った。 『ふふ、シエラらしい答えね』 カイラは立ち上がると翼を広げて風に晒した。 浮遊大陸であるオルニト本土では風が止む事はない。上空に浮かぶ奇跡の島は、風神と風精に愛されているのだ。 そんな場所で、その時不意に風が止んだ。 『でもね、私はこう思うんだ』 風の音が消え、静寂に包まれた二人だけの会話。カイラの表情は太陽と逆光になって見る事が出来ない。 『世界中にいるめ色んな種族の中で、私達が一番高く空を飛べるのはきっと――』 シエラはこの時、言い知れぬ不安感に襲われていた。 カイラが、自分の姉が、手の届かない所に行ってしまうような気がして…… 『きっとこの空が、私達だけの物だからなんだ、って』 逆光で見えない筈のカイラの顔。なのに瞳だけは爛々と輝いていたのが、シエラには恐かった。 「シエラ?」 「え? あ、ごめんなさい。ボーっとしてた」 シエラはカイラと一緒に市内を歩いていた。 目的地など無い。ソラリアを探して行く当ても無く歩き回っているだけだ。 「もお、大丈夫? 一人で暮らすようになったからしっかりしたと思ってたのに。お姉ちゃん心配だわ。あ、すいません長い黒髪の人間の女の子見ませんでしたか?」 「人間の? あ、そう言えばさっき見かけたなぁ。確かあっちに行ったような……」 「ありがとうございます、おじ様」 カイラはシエラの事情を聞くと、自分も一緒に探してあげると言い出した。 シエラからソラリアの特徴を聞き出すと、カイラが率先して聞き込みを始めたのだ。そしてその成果はすぐに現れた。 「う~~~、大丈夫だよ。私一人でもしっかり暮らせてるもん」 シエラは、久しぶりに会った姉だったが昔と変わらない様子で安心していた。妹の事を可愛がるカイラは少し過保護なくらいシエラの世話を焼くのだ。 それがシエラにとってくすぐったくもあり、こっ恥ずかしくもあり、そして嬉しかった。 「……ごめんね。あの時勝手に出て行ったりして」 「お姉ちゃん?」 黄昏時の路地裏で、二人並んで歩く姉妹。 シエラは姉の言葉に顔を見返したが、夕暮れの暗さからその表情を読み取る事は出来ない。 しかしカイラの口調はとても穏やかで、シエラは優しい姉の言葉にすっかり心を許していた。 一時は姉を恨んだ事もあった。自分一人残して出て行った姉に、幼いシエラは憎悪を向ける事でしか、心の痛みを誤魔化す術を持ち合わせていなかったからだ。 「あの時、私ちょっとおかしくなってたのよ……だけど、これからはちゃんと守ってあげるから。ね? 許してシエラ……」 「お姉ちゃ――っ!?」 だがそれも過去の事。こうして再び出逢えた事の方が何倍も大切だと思った矢先、シエラはいきなりカイラに体を引っ張られ、背中に隠されるような形となった。 「危ないなぁ、そんな物を人に向けたら」 若い女性の声だった。 声の主は夜の帳に溶け込むように黒い格好をしている。まるでこれから葬式にでも行くような格好だ。 カイラその人物を鋭く睨み、自慢の美しい翼腕に握った短刀を向けていた。 「血生臭い奴に近づいて来られたら誰だってそうする」 「獣臭いとか埃臭いとはよく言われるが、血生臭いとは初めて言われたよ」 その黒尽くめの人物は、短刀を向けられながら余裕の表情を見せている。 精気の感じられない顔に奈落のように深く暗い瞳。シエラにも一目でその人物が尋常でない事がんかった。 「お姉ちゃん、この人……」 「シエラは下がって」 不安気に姉の肩に隠れるシエラを庇うように、姉のカイラは雄々しくその翼を広げた。 すると途端に路地裏に風が吹き込み始める。風精の仕業だ。 演唱も舞も捧げ物も無しに精霊が力を貸すなど、信じ難い光景だ。 だが世界には居るのだ。精霊に愛され、精霊と心通わせる者が。 「少し話を聞きたかっただけなんだが、こりゃ飛んだ大物に出くわしちまったね。今日はついてない」 そんな『風に選ばれし者』を前にしても、黒衣の女は困ったなと肩をすぼめるジェスチャーをするだけだ。 その様は、よほど自分の実力に自信が有るか、死なない保証でも有るかのようだったが、恐るべき事にこの女にはその両方が備わっていた。 「カイラ=ウィンザード。『テンペスター』の称号を持つ最上級風使い。そっちの妹さんに用があったんだが……まぁ、君でも同じ事か」 黒衣の女がずいと一歩踏み出した。 カイラの構えた短刀の先が胸先に食い込む。 「一体何の用なの? カタギの人には見えないけれど」 「正体を言ったらきっと仲良く出来ないから言わないよ。ただ害意は無いとだけ言っておく」 黒衣の女性は両手を広げて見せた。武器を持っていない事のアピールだ。 だがそんなものがここ異世界で如何程の意味を持とうか。この世界には武器無しで、猛獣を殺せる猛者が山と居るのだから。 「あなた……まさか元老院の聖騎士!!」 カイラが何かを察してそう叫んだのと、路地裏に小規模の竜巻が発生したのはほぼ同時だった。 「キャーー!」 「お前達何やってるんだ!? こんな所で!」 街は突然路地裏に発生した竜巻に騒然となっていた。 幾千のシルフの光がカイラとシエラを包み暴風から守っている。 そして、それ以外の全てを竜巻は砕き、飲み込み、天高く舞いあげて行った。 「これはシルフ!? お姉ちゃん何するの!?」 「シエラはもっと下がって隠れてて!」 カイラはシエラにそう指示すると、また真っ直ぐに黒尽くめの女の方を睨んだ。 相手は建物の間に渡された洗濯用のヒモに掴まって風に抗っている。 体が浮く程の強風に、何故あんな細腕で耐える事が出来るのか?カイラには疑問だったがじっくり考えている余裕もない。 これ以上風を強くすれば黒衣の女を吹き飛ばせるかもしれない。だがそれは同時に周囲の建物まで一緒に破壊してしまう事を意味した。それは出来ない。 「詠唱も無しに精霊魔法とは恐れ入る。では私も――」 その時、黒衣の女の体がうねった。 まるで、やがて訪れる解放の時を、服の下で何かが待っているように。 「アルトメリア=リゾルバの名において命ず! 出でよワイバーン!!」 そして唱えた。 聖騎士アルトメリアが、獣魔術の演唱を。 「キャーーーー!!」 「うわーーー! ドラゴンだー!」 「何でこんな所にぃ!?」 次の瞬間、ヒモに掴まり絶体絶命の体だったアルトメリアは、竜巻をも切り裂いて飛ぶ、翼竜ワイバーンの背に跨り空を駆けていた。 「お前、“獣魔術師”アルトメリア!?」 「この術はいちいち名乗らなきゃならないのが欠点だな。正体がバレてしまう」 肉体ごと魂を己が体に封印する事で隷属 させる忌まわしの術。 「人を食べたくない」ただその思い一点から生じたこの術は、欠損した身体を補う為の行為から、いつしかより強い力を身につける為の行為へと変わっていた。 時刻は丁度夕刻を回った頃、鳥目のカイラには不利な時間帯。そしてスラヴィアンの宴の時間でもあった。 (どこ? どこに行ったの?) ソラリアは昼間見た影を追って街外れの方まで来ていた。 そこは穀物や香辛料などの食料を多く備蓄してある倉庫が立ち並ぶ所で、人影が殆ど無い寂しい場所だった。 それまで道の曲がり角を曲がる度、進む先が分かる程度に一瞬だけ見えていた影。その影をここに来て全く見失ってしまったのだ。 (見失った……) ソラリアが追跡を諦めかけた時、その影は現れた。 「あなたを探していた」 突然ソラリアは背後から声をかけられ、反射的に飛び退った。 そこで見たものは、ソラリアと同じようなバイザーを頭に付け、この辺りでは見た事の無いタイプの服を着た、ソラリアと同い年くらいの少女だった。 「あ、あの……私」 「自分と同じだと思った」 (っ!?) ソラリアは自分の考えを言い当てられドキッとする。 心を読まれているのだろうか?いや、そんな筈がないと頭を切り替え、屹然と目の前の少女に向き直った。 「私はミィレス=アストレス。あなたと同じ魔神(マシン)の一体」 「マ……シン……?」 そう言えばスワンと言う人にもマシンと呼ばれた事をソラリアは思い出した。 『マシン』それが自分の種族なのだろうか。ソラリアが疑問を感じ、難しい顔をしていると、ミィレスがそれを聞いてきた。 「あなたもしかして記憶を?」 ソラリアは黙って頷いた。 今にして思えば、つい衝動的に追いかけてきてしまったが、この追跡は始めからおかしい物だったと気付いたからだ。 まるでこのミィレスと名乗った少女は、ソラリアが追いつけず、また、見失わない距離を保ちながら歩いていたように思える。 そして人気の無い街外れまで誘導して、姿を表したようだった。 ソラリアは身構えた。 自分の事は知りたい。仲間にも会いたい。しかし今の状況は危険すぎる。 ソラリアがそう思っていた時、ミィレスは意外な事を打ち明けたのだった。 「私は感情を失っています。あなたは記憶、私は感情、似ています」 「似……てる……」 この少女も自分と同様に大切な物を失っているのか。そんな思いがソラリアの心を駆け巡った。 自分と同じ種族、大切なものを失った者同士、その事がソラリアの中で親近感となり、急速に信用を増して行った。 「取り戻したいですか?」 ミィレスが語る。ソラリアの望みを知っているかのように。 タクトの事が好き。絶対に守る。その想いと同じように、ソラリアは自分が何者か知りたかった。 だからソラリアはミィレスの言葉が、最早真実でも嘘でも、それにすがるしか無かったのだ 「取り戻す方法があるんですか!?」 「黒い月まで行く事が出来れば取り戻せます。私の感情も、あなたの記憶も」 とうとうミィレスは黒い月の名を口に出した。 ミィレスの今のマスターはファルコだ。そのマスターが黒い月に行きたがっている。 だが黒い月の門を開くには『鍵』が二つ必要だった。 そう、ミィレスの任務はもう一つの鍵を持つ、ソラリアを黒い月に連れて来る事だったのだ。 「一緒に行きませんか?」 ミィレスは抑揚の無い声で語りかける。 ただ命令に従うだけのロボットのように。 「黒い月まで……」 二つの鍵が揃った。 数千年誰も辿り着けなかった黒い月の確信への道が、今、開かれようとしていた。 「切り刻めシルフ! そのデカブツを片付けろ!!」 「お~恐いね~」 あの後、カイラとアルトメリアは交戦状態に突入していた。 ワイバーンのブレスをカイラはシルフの風で防御する。 竜巻を切り裂いて飛翔し、狭い路地に建物を砕きながら突撃してくるワイバーンを、負けじとカイラも華麗な飛行テクニックでかわす。 やがて戦いは空中戦となり、月明かり照らす街の夜空に、巨大な翼竜と風の妖精が舞い踊った。 「お姉ちゃん!」 「シエラは下がって!」 カイラはワイバーンとのすれ違いざま、手にした短刀をアルトメリアに振った。 「ファルコの軍は倒す。だがそれより百倍魔神はヤバイ存在でね」 「……」 それをアルトメリアはいつの間にか召喚していた大亀の甲羅で弾き返す。 「君は分かっているのか? 魔神がどれほど危険な存在かを」 アルトメリアが次々に大きな鳥を召喚し始める。 戦場はいつしか竜巻から離れ始めており、体の大きな鳥なら飛行出来る位の風速になっていたのだ。 「そんな事……言われなくても痛い程……!!」 大きな鳥が獰猛にカイラに襲いかかる。そのクチバシと爪で獲物の肉を引き裂き、殺してしまう大鳥だ。 カイラはそれらの突撃を紙一重で交わしながら、手にした短刀で次々と大鳥を無力化していった。 「シルフッ!」 一見互角のやり取りが続いているかに見えるこの戦いだが、実際はカイラが不利だった。 今は夜、スラヴィアンの時間帯だ。しかもカイラは鳥目の為、今まで風の流れを読んで戦っていたのだ。 それもシエラが戦いに巻き込まれないよう計算しながら。 アルトメリアの召喚獣も有限だが、それよりカイラが神経をすり減らせてミスを犯す方が先だろう。 現に、既にカイラは防戦に回る事が多くなり始めていたのだ。 「むっ!?」 だがそんな状況を理解していないカイラではない。 その時、突然一陣の風が三人を襲った。 「……逃げられたか」 するとどうだろう。 先程までアルトメリアと激闘を繰り広げていた筈のカイラとシエラの姿は、風が吹き抜けた後の空にはもうなかったのだ。 実に鮮やかな逃げっぷりだ。カイラは冷静に戦況を判断した上で、撤退の街を選んだのだ。 「さて、どうやって魔神を探そうかねぇ」 戦いが激しくなる程、撤退の決断は難しくなる。 それをあっさり行ったカイラの柔軟さに、アルトメリアは逃げられれば追跡は無理と判断し、残りの獣魔を体に戻した。 空を見上げる人々の喧騒に、アルトメリアは頭を抱えるのだった。 「な、何!?」 「あれは……翼竜」 一方、ソラリアとミィレスの方も、二人の戦いに気付いていた。 「シエラさん!? 襲われてる!」 ソラリアは目を凝らし、暗い中、遥か遠くのシエラの姿を発見する。 仲間の危険にもう黙っているソラリアではない。即座に自分も飛んで助けに行こうとするが、それを制したのはミィレスだった。 「今行ったら駄目」 「どうして!?」 「とにかく駄目。私を信じて」 「でも……」 ソラリアはミィレスの言葉の意味する所が分からず困惑する。 何故今はダメなのか?ミィレスは自分の知らない何を知っているのか?そうしている内にも戦いは激しさを増し、破壊音と街の喧騒は一層大きくこだましてくる。 「私達魔神はこの世界の敵。居ればみんなを不幸にする」 「どう言う事? 何でそんな事分かるの?」 ミィレスの言葉を聞き、ソラリアはスワンに言われた事を思い出していた。 『悪魔』たしかにそう呼ばれていた。マシンとは何なのか?何故悪魔などと呼ばれるのか?それをこのミィレスは知っている。 そしてソラリアの記憶を戻す方法も。 「何故なら私達は――」 ミィレスが何か言おうとした時、大鳥の死骸が落ちてきて、倉庫の天上を破った。 「きゃあ!」 「っ!?」 辺りに響く大音響に驚いたのも束の間、いつの間にかカイラとアルトメリアの戦いは、二人の方に移動してきていたのだ。 カイラとアルトメリアは戦いの被害を抑える為、意識的に人気の少ない方に移動してきたのだろう。 だがそこには丁度二人が居た。 このまま此処に居れば戦いに巻き込まれる事は必至だった。 「明日の夜明け、町の西の外れで待ってる」 「待ってミィレス! 待ってー!」 ミィレスはそう見るや、スッと建物の影に消えてしまった。ソラリアも追うが、ミィレスの姿はもう遥か先。 低空飛行で飛ぶミィレスをソラリアがまた追ったとしても、今度は追いつけまい。 「……」 そう思いつつ、少しの望みにかけて倉庫地帯を進んだソラリアだったが、ミィレスは完全に姿を消してしまった。 「居ない……」 ミィレスの残した言葉。「明日の夜明け、町の西の外れで待ってる」。 ソラリアが彼女に会うには、もうこれを信じて行くしかなかった。 (私の記憶……タクトさん、私……) 罠かも知れない。でも少しでも可能性があるなら行ってみたい。 ソラリアは未だ揺れる心の中で、タクトの事だけを思い出した。 「遅いぞタクト! こっちだ!」 「ま、待って……ちょ、速すぎ……!」 その頃、カイラとアルトメリアの騒ぎを聞きつけ、タクトとエルは夜の街を疾走していた。 エルは街を進む内耳に入ってくる断片的な情報から、何と無くシエルの身に何かが起こっているような、嫌な予感がしていた。 「シエラ!」 「あ、エル」 そして傷の癒え切らぬ身体でタクトがへばる程ダッシュを続け、ようやくシエルを見つける事が出来たのだが…… 「大丈夫だったか? さっきこっちの方で騒ぎがあったようだが」 「うん、もう平気。お姉ちゃんが守ってくれたから」 「お姉ちゃん?」 その言葉にエルは我が耳を疑った。 話には聞いていたのだ。生き別れの姉が居ると言う事は。ただ、シエルがもう会えないかもしれないと言っていたのを、エルは間に受けていた。 いや、そう思いたかったのだ。 何故なら、本当の姉がいない間は、自分がシエラの姉で居られるから。 「私はカイラ=ウィンザード、シエラの姉です。妹がお世話になっています」 「あなたが……」 だがエルは、自分がそんなショックを受けている事など悟られたくなかった。 シエラに変に思われたくなかったからだ。 そうしてエルが必死で感情を隠している間にも、話は続いていた。 「私はエル=カレナ。ダークエルフで、今はこの男の用心棒をやっている」 「久我タクトです。人間です。はじめまして」 タクトはそんなエルの微妙な気持ちに全く気づかなかった。 「さっき偶然お姉ちゃんと出会ったの。それで怪しい人から守ってくれたんだよ」 「つまり先程の戦闘はあなたの……」 「獣使い(ビーストテイマー)に襲われて。理由はよく分からなかったけれど」 「……そうか」 エルはまたしてもショックを受けた。遠目に見えた戦闘は、自分などでは到底太刀打ち出来の化け物同士の戦いだった。自分がもしあの場にいても、シエラは守れなかった、それがハッキリ分かったからだ。 今度は感情を隠し切る事が出来なかった。 「立ち話もなんだし、みんないったん宿に戻ろうよっ。お姉ちゃんにお礼もしなきゃいけないし、ね?」 「そうだな。そうしよう」 「ありがとうシエラ。同行させてもらうわ」 暗い顔で何も言わないエルにタクトは気付いたが、姉との再開にはしゃぐシエラは気付かなかった。 「へぇ、あなたも傭兵を」 「傭兵と言っても、町の自警団とかそう言うのだけどね」 宿に帰ってからタクトとエルは、カイラにパンとバターとエール酒を出して歓迎した。 「お姉ちゃんすっごかったんだよー! 詠唱も無しにシルフ使ったり!」 「へぇ、そりゃ凄い。私も見てみたかったよ」 「別にそれ程の事では……」 謙遜するカイラだったが、シエラは宿に帰ってから姉は凄いと言うばかりだ。 それを聞いてエルは笑いながら、握った拳を震わしていた。 (ソラリアどこに行ったんだろう) そんな和やかなムードの中、タクトはソラリアの事を考えていた。 元々シエラはソラリアを探しに行った筈だったが、生き別れの姉と再開し、敵に襲われ、怪獣大決戦のような戦闘に巻き込まれて、色々な事が起こりすぎてすっかり当初の目的を忘れているようだ。 ソラリアは強い。それはタクトのみならず今や皆の知る所であった。 だからソラリアに限って大丈夫と言う気持ちはあったが、それでも記憶喪失の女の子にも違いは無い。 タクトがソラリアの身が心配だから探しに出たいと言おうとした時、宿の部屋のドアが開いた。 「あの、ただいま……」 「あ、ソラリン!」 そこでようやっとシエラは自分がソラリアを探していた事を思い出したようだった。 バツが悪そうに頭を掻くシエラとやれやれと安心して嬉しそうな顔のエル。 そしてタクトは扉の前まで来るとソラリアの肩をポンと叩いた。 「ごめんなさい、勝手に一人になってしまって」 「無事帰ってきたから別に良いさ。気を付けてくれれば」 「はい」 これで全員が揃い再び部屋に安心が戻ってきた、その時ーー 「……」 「どうしたのお姉ちゃん?」 カイラがソラリアを見た途端、一瞬目を見開いて驚愕の表情を浮かべた。 「シエラ、その人は?」 「彼女はソラリア=ソーサリー。前の町で仲間になったんだ」 「ソラリアです。宜しくお願いします」 「……カイラです。宜しく」 カイラはすぐに表情を作り直すと、ソラリアに対して至って普通に挨拶をした。 だがその時、カイラは思い出していたのだ。忘れもしない、幼い頃魔神と出会った日の忌まわしい記憶を…… (人間の様な外見。あの頭の飾り。間違いない、こいつが……) それはカイラだけではない、シエラにとっても辛過ぎる過去であった。 「あ~~~ん! あぁ~~ん!!」 幼い鳥人の子供が泣きじゃくっていた。 場所は空中にある巨大な建造物の表面、入り口と思しき門がある所だった。 「カイラ……シエラを連れて逃げろ……」 「やだよぉ! パパも一緒じゃなきゃやだぁ!!」 「お願いカイラ……妹を連れて逃げて」 「ママァ~! あーーーーん!」 今、子供ーーカイラの目の前には彼女の両親が横たわっている。 その大きな両翼はズタズタに裂かれ、身体も血塗れで、最早子供の目にも、この二人が助からぬ事は明白だった。 それでも、幼い子供にどうして親を捨てて逃げる事が出来よう。 カイラはただただ、何も出来ず、死を待つばかりの両親を前に絶望するしかなかったのだ。 「駄目だ……もう奴らが来た……あの悪魔が」 やがて、巨大建造物の輪郭に三人の人影が降り立った。その人影に翼は無い。翼無しでここまで飛んできたのだろうか? だが幼いカイラにとって今そんな事はどうでも良かった。 ただただ奇跡が起きるのを願っていたのだ。 貧しいながらも家族四人幸せな日々が戻ってきますようにと。 こんな酷い夢早く覚めますようにと。 だが現実は残酷にも、そんな現実逃避する暇は与えてはくれない。 三人の悪魔は建造物の絶壁を重力を無視した角度で歩いてくる。 カイラとしエラにも死が迫っていた。 「ママとパパはもう助からないわ。だからお願い、お姉ちゃんとしてシエラを連れて逃げて」 「嫌だ~~~~~! いやぁ~~~!」 「あ~~~ん! あぁ~~ん!!」 やがて気絶から目を覚ましたシエラも、カイラと一緒になって泣き始める。 その光景を見て思うのだ。 二人の両親はこんな地獄に幼い我が子を巻き込んでしまった事を、己が死ぬ事より遥かに強く悔いていた。 「やっぱり言い伝え通り黒い月には触れてはいけなかったんだ。これは禁忌を犯した罰か」 「でも子供達だけは、せめて子供達だけでも……」 カイラの両親は最後の力を振り絞って叫ぶ。 もう悪魔はそこまで来ているのだ。子供など一溜まりもなく殺されてしまう。 一刻の猶予も無い、一秒でも早くこの場から逃げて欲しかった。 「カイラ行くんだ! 行きなさい!」 「行ってカイラ! お願い!!」 悪魔達が迫る。 三人の美しき、清廉なる悪魔が今…… 「ママー! パパー!」 三人の一人が囁いた。両親の息の根が止まる、その時にーー 「ッ!?」 カイラはそこで目を覚ました。 「はぁ……はぁ……はぁ……」 夢はいつもそこで終わる。その後、自分がどうやって助かったのか、何故殺されなかったのか、両親の遺体はどうなったのか、何も覚えていない。 (アクシズ……三姉妹……) ただ一つ覚えている事、それは頭に大きなバイザーを乗せた女達の一人が言った言葉。 (そうだ、私が魔神からシエラを守らなきゃ。あの、パパとママを殺した悪魔から) カイラは流れ落ちる汗も気に留めず、上着を引っつかんでベットから立ち上がった。 もうあの頃の無力な自分とは違う。 カイラは翼に力を込めた。 「本当の姉……か」 エルは珍しく酒をあおっていた。 昼間の事が忘れられず、飲まずにはいられなかったのだ。 (何をバカな事を……シエラは本当の妹じゃない) エルには妹がいた。血を分けた実の妹だ。 歳の離れた人懐こい妹をエルは溺愛した。身体を壊していた母に代わって、愛情を注いだ。 今はもういない。 「身勝手な代償行為だ……我ながら情けない」 自然の厳しさ、或いは抗い様の無い運命。そんな物に妹も母も奪われ、エルは怒りや悲しみのぶつけ場所もわからぬまま、一人生きるしかなかった。 「罪滅ぼしをしているつもりで……結局、私はただ逃げているだけなのかもな……」 声が似ていた。性格も似ていた。初めてシエラに会った時、エルは運命を感じたのだ。 まるで妹が帰ってきたような。楽しかった時を取り戻したような。 「自分の力で守る事も出来ず、自分の力で得た訳でもなく、そしてまた……私は……」 エルは再び自らに訪れる運命を受け入れようとしていた。抗う事なく、ただ流されるままに。 ※後篇に続く 元は一つであった?と思わせるようなソラリアとミィレスですね。安息は短く計画は次の段階へ進むだけでなく様々な思惑も絡み合って複雑な状況になってきました -- (名無しさん) 2015-11-23 22 38 51 名前 コメント すべてのコメントを見る
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ブラリス用
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【福岡】本当に友達がいない人のためのオフ Part5 - 定期OFF板@2ch http //yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/offreg/1256182019/l50 http //unkar.org/r/offreg/1256182019 http //mimizun.com/log/2ch/offreg/1256182019/ 238 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2009/11/28(土) 02 02 38 ID 6kw6iDaX 週末だけど夜釣りオフとかやってないの? 明日は天神で接続テスト予定w 239 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2009/11/28(土) 02 50 26 ID k54oOQDU またあんたか 夜釣りオフやってるかどうかは見ればわかるだろ 240 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2009/11/28(土) 21 58 57 ID 26yNqawZ 天神ソラリア前からWiFiで接続成功w 人が溢れててスゲええ、てか俺は怪し過ぎww 誰かPCとか無線LAN詳しい奴いない? 241 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2009/11/28(土) 22 21 21 ID WhxIuofL 誰もいないのかWWW 242 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2009/11/28(土) 22 44 33 ID 26yNqawZ ソラリア内から怪しい俺が接続中w 少し人減ってきたな 243 : 名無しさん@お腹いっぱい。 [sage] : 2009/11/28(土) 23 02 02 ID WhxIuofL ソラリア閉館&電池切れで撤収 お騒がせしますた 244 : 名無しさん@お腹いっぱい。 [sage] : 2009/11/29(日) 01 18 15 ID sb2VlGwI そもそも、接続テストって何? 245 : 名無しさん@お腹いっぱい。 [sage] : 2009/11/29(日) 02 12 54 ID BY//UWc8 オフ完全生実況への布石w 246 : 名無しさん@お腹いっぱい。 [sage] : 2009/11/29(日) 16 40 04 ID jjYQkNXt ネットにつながった時点で接続完了なんじゃない?書き込む必要ないと思うけど 247 :名無しさん@お腹いっぱい。 :2009/11/29(日) 21 22 05 ID bbffs953 極度の構ってちゃんなんだから放置しとけ
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私はソラリア 永遠の旅人 時計仕掛けの牢に囚われながら それでも私は明日を夢見る 異世界冒険譚-蒼穹のソラリア- act.5 『いつか蒼穹の空で』 「目が覚めましたか?」 ソラリアが目を覚ました場所は無機質で殺風景な白い部屋の中だった。 首を回し周囲を確認すると自分はカプセルの中にいる事が分かる。そして微かに体を動かすと何かに引っ張られるような感覚――全身に繋がったケーブルが感じられた。 「ここは……」 不思議な感覚だが、ソラリアはこの部屋に懐かしさを感じていた。記憶にも無い場所なのにとても落ち着く……そんな奇妙な感覚を。 ソラリアがボーっと天井を眺めると、少し遅れて、その問いに答える声が聞こえてきた。 「ここは私のラボです。あなたとミィレスの修理をしてあげたのです」 「ミィレスさんっ!?」 ミィレスと言う名を聞いてソラリアはカプセルのベッドから飛び起きた。 全身のケーブルがブチブチと音を立て体から外れたが気に止める余裕は無い。ソラリアは何故自分が寝ていたのか、寝る前に何があったのか思い出したのだ。 「確か私の集積火粒子砲と彼女のパルスメーサーカノンがぶつかって……それから」 一瞬の目眩。 ソラリアは思い出される記憶のフィードバックに立ち眩みを起こし、頭を抑えふらついた。 その肩を、いつの間にかソラリアのすぐ隣まで来ていた声の主――カーレン=フォーマルハウト博士が、優しく手を添えて支えてあげる。 「可哀想に……あの娘は心が戻ってしまった。目覚めてからずっと、ああして泣いています」 カーレンがソラリアの肩を押してある方向を向かせる。 その先に居たのは、前までの感情を表さない機械のようだった少女ではなく、両手で顔を覆い床に泣き崩れるように座っているミィレスの姿だった。 「ミィレスさん……うっ!」 ミィレスはマスターであるファルコが好きだった。だが感情回路が壊れていた彼女にはそれが分からなかった。 そして今、カーレンの手によって感情を取り戻したミィレスは、失った想いの大きさに心痛め、普通の少女のように泣いているのだ。 酷い男だったかもしれない。でもミィレスにとっては自分を起こし、一番のコマとして重宝し、望みの場所にまで連れて来てくれた男だった。 (私は感情回路が壊れているようです。しかし黒い月までの道案内には支障ありません) (そうか。……よし、ならば俺が王になった暁には、お前を真っ先に直してやる。お前が我が右腕となって魔神達の陣頭指揮を取るのだ) (しかし、黒い月には私より指揮に向いた、情報支援型の魔神も――) (お前は俺が手に入れた最初の魔神だ。記念すべき特別な一体だ。だからお前が良いのだ) (イエス……マイマスター) ミィレスはファルコとの記憶(メモリー)を反芻し、涙は止め処なく溢れてとまらない。心を取り戻した彼女は、同時に悲しみや苦しみや寂しさをも取り戻してしまったのだ。 そしてソラリアもカーレンによって記憶回路の修理と記憶(メモリー)のサルベージが完了していた。 ソラリアは頭の中に湧き上がってくる膨大な記憶の奔流に、頭を抑え蹲ってしまう。 「ソラリア、貴女もすぐに記憶が戻るでしょう。貴女の記憶(メモリー)……とても信じがたい事です……」 「あぁ……ああああっ!!」 そんなソラリアの肩をカーレンは強く握り語りかける。 彼女の記憶を取り戻させる過程でカーレンは知ってしまったのだ。ソラリアと言うイレギュラーな存在を。そしてその全ての秘密を。 『タクト、逢いたかった』 『私の事、嫌いにならないで』 『こんなに悲しいのに、涙が出ない』 『誰かを大切に思うから、戦えるんです』 『私にも、魂はありますか?』 『タクト……タクトに逢いたい……』 記憶のリフレインが終わり、ソラリアはゆっくりとその場で立ち上がった。 これから起こる運命を、ソラリアもカーレンも知っているのだ。二人は部屋の中央でお互い真っ直ぐに相手を見据える。 向かい合ったまま二人は暫し何も言わず、カーレンのラボを沈黙が支配した。 これから起こる事に覚悟を決めているのか、それとも……。鉛のように重苦しい雰囲気の中、先に口を開いたのはカーレンだった。 「ソラリア……貴女だったのですね。私の願いを邪魔する存在は、私が作った貴女だったのですね」 「ありがとう博士……おかげで全て……全て思い出したよ」 お互い不思議なほど穏やかな口調だった。 今知ったばかりの事なのに、まるでずっと何年も前からこうなる事が運命付けられていたかのような。その運命を受け入れるしかないと理解しているかのような。 不思議な覚悟がお互いの胸の内に、自然と生まれていた。 「やはり戦いますか。背徳の螺旋に囚われてまで」 ソラリアが鍵の剣を手にするのをカーレンは止めなかった。 何故なのかはカーレン自身も解らない。だがただ一つ言える事は、ソラリアは今やカーレンの望みを妨げる障害になったと言う事。 「シーゲル! ヒュント! ソラリアを止めなさい! この際、破壊しても構いません!」 「分かりましたわ、カーレン様」 「へへっ、やっと歯応えのある奴と戦えるな」 ソラリアが鍵の剣をカーレンに向けた時、カーレンの指令で瞬時の内にアクシズ三姉妹の長女と次女、シーゲルとヒュントがその両脇に現れた。 シーゲルが自慢の縦ロール髪を手で払い戦闘体勢を取る。ヒュントも鍵の拳を構え同様に戦闘体勢を取った。 「私の野望を邪魔すると言うのなら、例えわが子同然の魔神でも容赦しません」 カーレンが下がると同時にソラリアとの間に立ちはだかる様に移動する二人の魔神。 シーゲルとヒュント――第四世代・次世代型魔神と位置づけられるこの二人の性能は、第三世代魔神であるソラリアやミィレスを軽く凌駕する。 機体性能、戦闘プログラム、武装、燃費に至るまで、その性能を徹底的に見直され、それまでの魔神から別物と言って良い程の性能アップが図られている。 にも拘らず、カーレンの顔二余裕は無かった。 (あれはソーサリー型とは言え最早特別……しかし、アクシズ三姉妹とて特別製。私の最高傑作を以ってして……あなたを屠る! ソラリア!) 魔神は次世代機を開発する際、先代の戦闘データをフィードバックして作成される。机上の空論では埋まらない、現実の穴を生めるべく実戦データを反映させるのだ。 それは実戦データが如何に重要かを示してもいる。 実戦データの蓄積が、戦闘プログラムを成長させ、戦闘性能を大きく左右する。 ソラリアがこれまでの戦いで得てきた戦いの経験で、自分より格上の相手との戦力差をどこまで埋められるか……。 「ソラリア、旧式のあなたが私達二人を相手にどれだけ持ち堪える事が出来るのでしょうね?」 「シーゲル姉ーまずはオレにやらせてくれよ。旧式相手に二人掛なんて、次世代型の名が廃るぜ?」 そう言って一歩前に出たのはアクシズ三姉妹の次女・ヒュント=ナット。一体で数千の兵力に匹敵する戦術兵器『魔神』でありながら、近接戦闘に特化した魔神。 一対多の戦闘を想定して作られる魔神の中で、唯一、一対一の戦闘を主眼に置いて作られたその性能は、言うなれば『対魔神用の魔神』とも言うべき力を彼女に与えている。 その接近戦用魔神ヒュントに、この狭所で、しかも接近された状態から、砲撃戦用魔神ソラリアがどう立ち向かうのか。 「ふふっ、良いでしょう。貴方の好きにしなさい」 「やったぜー!」 余裕を見せるヒュントに対しソラリアの表情は暗い。ソラリアは知っているのだ、この戦いの結末を。自分がヒュントに勝てるのか否かを。 (アクシズ三姉妹……博士が作った”この世界で生きてゆく為の環境対応型魔神”。それに立ち向かうと言う事は、この世界に逆らうも同然。それでも……っ!) ソラリアは鍵の剣を構えた。 例えどんな未来が待っていようとも、それでも少女は戦うしかないのだ。 「リミッターを解除して限界性能を引き出すしかない! 勝負だ、ヒュント!!」 (私の体は、あと何分持つのだろう) ヒュントの早さに少しでも対抗するにはリミッターカットしかない。己の体が己の力で壊れようとも、一瞬でもヒュントを上回る為に。 ソラリアの両肩と背中の廃熱口が開きエアダクトを吐き出した。 黒い瞳はヒュントの僅かな動きも見逃さぬよう鍵の拳に注意が注がれる。 二人の間の空間が歪んだように錯覚する程のプレッシャー……だがその時間は一瞬しか続かなかった。 「最初から手加減できる身分かよぉ!? はぁっ!」 先に仕掛けたのはやはりヒュントだった。 ラボの床が砕け爆ぜる程の強力なダッシュ力で繰り出されるボディブローは、鍵の剣で防御したソラリアの体を、空中制御不能の勢いで遠方の壁面へと叩きつける。 もしガードしたのが武器でなく腕だったなら、防御していようがいまいが関係ない程の打撃によって両腕ごと粉砕され、胸部は一撃でグシャグシャに破壊されていた事だろう。 これ程の威力を持つ攻撃だが、ヒュントはまだ武器である鍵の拳の能力を使っていない。 「部屋が汚れます。外でやりなさい」 『はーい』 ダメージにより一瞬思考が停止していたソラリアが意識を取り戻したのと、ヒュントがカーレンの言いつけにより”ソラリアの体ごと壁を突き抜けて外に出た”のは、殆ど同時だった。 再びソラリアの防御は間に合い、鍵の剣でヒュントの拳を受ける事に成功した。 だが今度の打撃はヒュントが空中推進を行いながらの攻撃。 ソラリアは打撃の衝撃で再び意識が飛びそうになりながら、背中で無理やり壁を突き破りつつヒュントの楽しそうな表情に恐怖を抱くのだった。 「さて、私は計画の最終段階に移ります」 ヒュントの攻撃で一瞬電源が落ちた暗いラボを、ヒュントのあけた穴から差し込む月明かりが怪しく照らす。 予備電源に切り替わり再び光に包まれたラボには、もうシーゲルの姿は無い。ヒュントが壁に穴を開けた後、その後ろを追ってすぐに外へ出て行ったからだ。 ラボは再びミィレスの泣き声だけが支配する空間に逆戻りする。カーレンがミィレスの居る壁の反対の壁を撫でるように触った。 すると壁がブシュと言う音と共に開き中から小部屋が現れた。そこには魔神のカプセルとよく似た椅子と、多数のケーブルが繋がれた巨大なバイザーを被った男が居た。 その男は口元だけが出ていて、その口はだらしなく開けられ口の端からは涎が垂れている。 「今日、本日、この日世界は燃え尽きるのです。そして私は、ついに……」 女の泣き声と男の呻き声だけが聞こえる部屋で、カーレンは不気味にほくそ笑むのだった。 「そんな氷、輻射熱線砲で全て薙ぎ払う!」 広い外に出て、ソラリアは後退しながらも懸命にヒュントと戦っていた。 「ハハッ! 炎と氷、相性悪いぜ! けどよぉ――」 ヒュントの鍵の拳――その能力は、空気中の気体を圧縮、液化させ放つ事。 大気の78%を占める窒素を液体窒素として放った場合、-196℃の液体は生物なら瞬時に氷結させてしまう事が出来るのだ。 だがその温度では魔神の着るバリアコート(強化繊維装甲服)の凝固点より遥かに高い。致命打を与えるにはまだ足りない。 「スピードが違いすぎるんだよスピードがぁ!」 ヒュントの鍵の拳の真価はそんな程度ではなかった。 大気に約0.0005%しか存在しないヘリウムを圧縮・液化させる事で、-272.20℃の液体ヘリウムを精製する事が出来る。 この世の全ての物質を構成する原子。その原子が完全に動きを停止する温度――絶対零度-273.15℃に限りなく近い極低温は、魔神のバリアコートでさえも一瞬の内に凝固させる。 「サドン・インパクト!」 ヒュントのファイナルアタック『サドン・インパクト』は、打撃と同時に打ち込んだ液体ヘリウムで敵を氷結させ、どんな物質をもガラスのように破砕する絶対破壊攻撃(アブソリュートブレイクショット)なのだ。 「へっ、上手く避けたな。オレのファイナルアタク『サドン・インパクト』の特性に気付いたか?」 ソラリアはギリギリの攻防の中、一瞬のチャンスを狙い続けてきた。 リミッターカットによる過剰な運動に間接部と人口筋肉は悲鳴を上げ、自己修復機能も廃熱も間に合っていない。それでもヒュントのスピードを捌くだけで精一杯で、逆転の一撃を与える隙はようとして見つけからない。 肩と背中の廃熱口から、内部の熱で機能停止したナノマシンが廃熱と共にキラキラと光を反射しながら排出された。 「だが完全にはかわし切れなかったようだぜ。ほら、ご自慢の服がボロボロだ」 ヒュントの絶対破壊攻撃を何とかかわしたソラリアだったが、かすったバリアコートは砕け散り、ナノマシンも氷結している為、再生もままならない。 もし次ぎ絶対破壊攻撃がソラリアをかすったら……その時こそ、砕け散るのは服ではなく体の方だろう。 「私は絶対に……負けない……」 「その様で言えたセリフかぁ」 再びヒュントの猛攻が始まる。 全魔神の中でも屈指のスピードを誇る運動性能で、突進と突きのラッシュによる怒涛の攻めを展開している。 その最中、ソラリアが見せたのは――。 「火粒子よ、我が剣に集え――」 ソラリアの鍵の剣に火粒子が集まってゆく。 いつもは集めた火粒子を砲撃として放つ攻撃が主体であるが、今回は全く違い、集まった火粒子は鍵の剣周囲に纏われるように集まり眩い輝きを放つ剣と化した。 「収束・火粒子刀っ!」 「へぇ、器用なもんだ。けどなぁ――」 数万度のエネルギーを持つ刀は、バリアコートをも両断する。ヒュントの絶対破壊攻撃に対するにはもってこいの武器だ。 素手vs剣の段階で剣が有利な事は明らかな事実。しかしヒュントは不敵な笑みを浮かべ、ソラリアの前から掻き消えたのだった。 「いくら砲撃が当たらないからってっ! このオレに接近戦を挑むたぁ! 判断ミスって! 奴なんじゃ! ねぇの!?」 「うっ、ぐっ、ぐぁ! くっ、うわぁ!」 そう、ソラリアがリミッターカットしたように、ヒュントもリミッターを解除すれば更なるスピードを出せるのだ。 ヒュントのリミッターカットした速度は他の魔神とは次元が違う。 単純な加速力は勿論、体の質量を人口筋肉と空中推進によって無理やり急転換する事で大気中に真空が生まれ、それが閉じた時破裂音がする。 目で追えない速度で動かれた上、音が後から付いてくる。この速度を初めて体験した敵は、視覚と聴覚のズレにより完全にヒュントの位置を見失う。所謂『初見殺し』と言う奴だ。 だが……。 「やはり接近戦は判断ミスだったなぁ! 止めだソラリアぁ!!」 「――っ!」 その瞬間! ヒュントがファイナルアタックの準備を整え狙ってくる瞬間をソラリアは狙っていた! 絶対破壊攻撃に絶大の信頼を寄せるヒュントはサドン・インパクトを打ち込む瞬間、無意識に攻撃が大振りになる。 即ち、ファイナルアタックの瞬間だけヒュントの速力は通常に戻るのだ。 「なにっ!?」 「っ……!!」 ファイナルアタック『サドン・インパクト』。この攻撃を彼女が外したのは彼女が生まれてから二度目。 そして……。 (サドン・インパクトを避けて、しかもその瞬間反撃してきただと……? バカな、奴のスピードじゃそんな芸当ありえねぇ! まぐれだ! これは偶然だ!!) ヒュントの腹部には焼損したバリアコートと焼けた人工皮膚の痕。 直撃の寸前に急制動、急加速で後ろに逃げた為両断されなかったが、あと一瞬でも反応が遅れていれば負けていた。 ヒュントは第四世代である自分が第三世代のソラリアになど、万が一にも負けるはずが無いとたかをくくっていた。しかしその格下と見ていた相手に未遂に終わったとは言えやられかけたのだ。 今や、彼女の自尊心は大きく傷つき、事実を受け入れられない状態となっていた。 「二度もまぐれがおきると思うなー!」 「しまっ――」 殆ど逆上に近い状態でヒュントが繰り出した攻撃は、今までで最速、最短の攻撃だった。 鍵の拳は使っていない。だがヒュントのスピードとパワーならただの打撃でさえ必殺の一撃となりえる。 ソラリアは避けようとしたが、リミッターカットで動き続けた反動から間接が悲鳴を上げていた。動きが一瞬遅れ、直撃は免れないと覚悟した瞬間――。 「なにぃ!?」 ヒュントの拳を遮るように二人の間に割って入った影があった。 その影は黒い月の表面に突き刺さり、主に拾われるのを待っている。 「こ、このキーブレードは……」 「私と同じ、まさか……」 それは銀色の鍵の剣。ソラリアが金色の鍵の剣なのに対して、この鍵の剣を使う魔神は現在ただ一人。 「一体何のつもりだぁ? てぇめぇ」 ヒュントが目を向けた先に居たのは、光の鍵の剣を使うもう一人の魔神。 ソラリアをここ黒い月に連れてきた張本人。そして死闘を繰り広げた結果、望みを叶え、希望を失った者。 「ミィレス=アストレス!」 感情を取り戻しファルコの死を知ってラボで泣いていた、魔神ミィレスその人だった。 「ミィレス……あなたどうして……」 「私が用があるのはソラリア、あなたにです」 ミィレスは黒い月の表面に突き刺さった自分の鍵の剣を引き抜きながら答えた。 「ソラリア、あなたは一体……どうしてそんなに戦えるのですか? 私はその答えが知りたい。あなたはどうして、一体どうして」 ミィレスは背中を向けたまま問いかけた。 ラボで聞いた断片的情報から、ソラリアが自分より遥かに過酷な運命に巻き込まれている事は知っていた。 にもかかわらず、ソラリアは諦めずに立ち向かっている。抗えない運命に、屈する事無く戦い続けている。ミィレスはそれが解らなかった。何故そこまで強く居られるのかと。 その答えを聞く為にミィレスはここに来たのだ。 「……信じているからだ」 ソラリアは答える。 真っ直ぐな視線でミィレスの背中を見つめながら、ソラリアはその黒い瞳に蒼穹の青を映しながら。 「私は明日を信じている。いや、信じたいから、信じていたいから戦うんだ」 「信じ……たい?」 ミィレスが振り向きその顔を見せた。 ミィレスは泣いていた。 「私は未来を信じている」 「未来を……」 ソラリアとミィレスの会話をヒュントは冷めた視線で眺めている。 正直ヒュントにとってはどうでも良い話だった。二人が話している間に攻撃しても良かった。だが敢えてそれをしなかった。 攻撃を邪魔された怒りは有った。だが彼女の傷つけられた自尊心を回復させるには、あくまでソラリアを一対一の決闘で倒す必要があったのだ。 そう決闘。誰にも邪魔されず正面からぶつかり合う純粋なる勝負で勝たなければならない。ヒュントは近接戦闘用魔神であり対魔神用魔神であり、そして決闘用魔神でもあるのだから。 この間にソラリアはリミッターカットによる疲労ダメージと放熱を回復させるだろう。だがそれはヒュントも同じ。 一旦勝負を仕切りなおして、次こそ自慢の絶対破壊攻撃でソラリアを粉微塵に粉砕するつもりだった。 「私も……私も未来が見たい。貴女の未来、未来と言う希望が」 ミィレスが涙を拭って鍵の剣を構えた。 その様子を遠間から眺めていたシーゲルは、妹であるヒュントの気持ちを汲んで助け舟を出す。 「貴女も裏切るおつもり? ミィレス=アストレス」 「裏切るつもりはない。ただ、ソラリアはやらせない。絶対に」 「同じ事だわ。あなたもグランドマスターである博士の命に背くイレギュラーに過ぎませんわ」 「私のマスターはただ一人です。そして私は……私は、私自身の命令で戦う!」 「旧式が生意気ですわよ!」 ミィレス、そしてシーゲルの介入により、ソラリア対ヒュント。そしてミィレス対シーゲルの構図が鮮明となった。 魔神同士が戦う空前絶後の戦いが、今ここ魔神達の最後の砦『黒い月』で起ころうとしている。 (ソラリアは強烈に信じている。未来を……未来が来る事を) ミィレスは鍵の剣をシーゲルへと向けなおした。 それに答えるように、ゆっくりとシーゲルは白銀色の鍵の戦斧(ハルバード)を構える。 ミィレスはシーゲルの能力の一旦を知っている。雷光だ。シーゲルは、それまでの魔神には無かった属性『電気』を操る。正直、ミィレスにはその能力への対抗手段がまるで分からないままであった。 「私も、貴女の様になれるかな? ソラリア」 それでもミィレスは戦おうと思った。 例え相手が自分より強くても。勝てない・負ける運命と分かっていても。立ち向かおうと思ったのは、ミィレスが『心』を取り戻したから。 「フェイズ3の貴女が、フェイズ4の私に敵うと思ってるのかしら?」 「敵う訳ない。そんな事分かってる、でも――」 ミィレスは目を瞑りファルコの事を思い出す。ファルコは自分が魔神達の王に相応しくないと言われても諦めなかった。自分を信じて最後まで戦った。 ミィレスのただ一人のマスター……願いを叶えてあげたかった。例えそれが悪い事だったとしても。それがミィレスの願い。 「私は希望が見たいんです。その希望を、ソラリアならきっと見せてくれます」 「ならば希望を見る前にお死になさいな」 夢を叶えてあげられなかった自分が、今ここで我が身可愛さに逃げ出したらマスターにどう思われるだろう。 ミィレスはマスターへの思いを胸に、ソラリアを守る為シーゲルに立ち向かう決心をしたのだった。 「なーんだっ、三人になっても大して変わりないじゃんっ」 そう言ってリンネは鍵の笛から口を離し、三人の聖騎士を指差して笑った。 「まいったねこりゃ」 ボロボロのアルトメリアのぼやき通り、三人の聖騎士が力を合わせても魔神リンネ=サンサーラには歯が立たなかったのだ。 その理由の一つには三人はぶっつけ本番の即席チームであり、連携などまるで取れていなかったと言うのがある。 そもそも中央統制機構『元老院』直轄部隊『聖騎士団』トライアンフ所属聖騎士は、一騎当千の兵であり、他の聖騎士と協力して戦う事自体ほぼあり得ない事だった。 トライアンフの聖騎士に求められる資質は『個の強さ』であり、それはそのまま強烈な個性として表れる。つまり、強すぎる個性は協調や連携を邪魔するのだ。 その為アルトメリア、カイラ、ストレンジャーの三人は三人いながら1+1+1ではなく、1と1と1でしかなかったのだ。 【あの魔神は音、つまり大気を伝わる振動を使って攻撃してるよ】 「じゃあさっきからするこの頭痛や吐き気も毒じゃなく……」 【三半規管に影響する音で相手の状態異常を引き起こしてるみたい】 「やっと本気を出してきた、って所だね」 それでもリンネが本気を出さざるを得ない程度には、戦いはマシになって来ている。 陽が落ちた事によりアルトメリアが真価を発揮出来るようになった事、そしてカイラの風精霊がリンネの『音』に対して有効である事がその理由である。 リンネが再び鍵の笛を吹いた。 その途端、空気の壁のようなものが三人を襲い、周辺の脆い物質から崩壊させてゆく。 リンネの音波による攻撃だが、これをカイラが二人の前に立ち風の壁で軽減、防御する。もう幾たびか続くこうした光景にリンネは小さく舌打ちをした。 【地球のデータベースを検索……『衝撃波』『共振現象』『固有振動数』】 「聞いた事ない言葉ばかり……つまりどう言う事?」 「奴も風使いの一種って事さ!」 ストレンジャーがディルカカネットワークを介して得た分析の結果を二人に伝える。 異世界は精霊文明の為、地球のように科学が発達しなかった。しかし魔神達は魔術と科学を応用した魔科学兵器を使う。こちらの世界では理解できない現象も多々あるのだ。 それに対して蟲人達が使うディルカカネットは、地球の科学文明との接触からその知識を取り込んでいる。異世界の知識、そして地球の知識の両方を使えば、魔神に対抗する手段も見つかるとストレンジャーは考えたのだった。 「作戦会議は終わったかな? じゃあ君から殺しちゃうね☆」 「そう簡単にやられてたまるもんですか! 風よ!」 リンネの攻撃方法は大気を利用した振動による攻撃。ならば風の精霊を使うカイラなら、リンネの攻撃を防げるか? 答えはネガティブだった。この世界の自然現象を司るのは精霊だ。そして魔法はその精霊にお願いして奇跡を起こす事を言う。つまり風の精霊使いカイラが風を使うには精霊を介す必要がある。 だが魔神は、魔神自体が精霊のように奇跡を起こす。そしてその奇跡は精霊のそれより優先される。 加えて魔神は精霊のように自然界の秩序を考慮しない。それは連続して奇跡を起こし続ける事が出来、そして周囲の精霊が死滅する事などお構い無しに魔素を使う事ができる。 もっとも、リンネは全魔神中、最も魔素の消費が少ない環境対応型魔神の完成系。周囲の精霊に及ぼす影響はソラリア達ほど大きくは無いが。 「何これ真空波? ボクの大切なツインテールが半分になっちゃった」 「何なのその服!? どうして服も肌も無傷なのよ!!」 「その程度の攻撃じゃ、バリアコートも人工皮膚の下のネオキチン装甲も傷つけられないよ。大人しく諦めたら?」 カイラがこうして精霊魔法を使い続けられるのも相手がリンネだからなのだが、リンネはカイラやアルトメリア、ストレンジャーの攻撃では傷付けられない化け物でもある。 この魔神に勝つにはもっと他に、そんなものが存在するならばの話だが、弱点を見つけなければ不可能だった。 「風の力を舐めんじゃないわよ! 今度はトルネードテンペスターをお見舞いしてやる!」 「も~、空を飛べるボクに竜巻なんて無意味だって分からないのかなぁ? だんだん面倒になってきた」 「ムカつく~!」 カイラは頑張っているが、今の時間稼ぎがいつまでも続くとは思えなかった。 三人の体力は有限だ。疲れを感じないスラヴィアンのアルトメリアにしても夜明けが来れば即座に殺されるだろう。三人がまだ動ける内に、なんとしても魔神の弱点を突き倒すしか生き残る道は無いのだ。 「今度は全員で同時にかかるんだ。息を合わせて」 【うん】 「分かったわよ!」 アルトメリアは二人に呼びかけ、その牙は岩をも削ると言われる異世界の凶暴魚フライソードフィッシュを召喚した。 ストレンジャーは岩にも刺さる針を持つピラニアンビーを、カイラは再び風精霊に頼んで真空波をリンネに向けて放った。だが……。 「きゃーーーーーー!!」 その全てがリンネの鍵の笛の一吹きで跳ね返されてしまう。 リンネの衝撃波はそのまま三人を襲い、黒い月の表面に叩きつけダメージを与えた。 「ふぅ……パワーもスピードも防御力も、能力まで全て奴が上、普通に考えたら勝ちようが無いねぇ」 「だったらどうするのよ! このままじゃ殺されるだけよ!?」 月明かりを背中にリンネの表情は見えない。 だが先程までのおどけた様な軽口が無くなっている所を見ると、リンネはとうとう三人に飽き、本気で戦いを終わらせようとしている事が分かる。 ガラス玉の様に綺麗で冷たい瞳だけが、月明かりの闇の中爛々と輝き聖騎士達を睨みつけていた。 「フッ、見下してるよ。私らの事なんかムシケラとしか思ってないんだろう」 アルトメリアは空から見下すリンネに対して毒づいた。 彼女は思い出した。三百年前、自分をこんな体にしたスラヴィアンとしての生みの親を。そのスラヴィアンも生者だった自分を自分の所有物、オモチャのようにしか思っていなかった。 弄ばれた彼女が自分のマスターを殺した時、彼女は自由と同時に夢も希望も失い、国を出る事になったのだ。 「だが完全無欠の存在などいない。必ず弱点はある筈さ。そして奴は……」 彼女は知っている。 全て失い放浪した三百年の間、時間を潰す為に読み続けた本が与えてくれた知識――神は星や宇宙でさえも、始まりがあり終わりがあると言う事。 神同士が戦い、勝つ神と破れる神があった事。神が生み出した数々の発明や生命の中にも、失敗作が存在する事。理想とはかけ離れた神や亜神の存在を。 【解った。やってみる】 「ちょっとどう言う事よ? 私にも説明しなさいよ!」 魔神は人に、地球人に作られた存在だ。古代の高度な科学力によって生み出されたモノだ。機械であり、コンピューターであり、魔道具であり、人格を持った人形だ。 ならばその攻略、一か八か地球流の方法でやってみる他無いであろう。 「カイラ、お前さん誰よりも風に愛されてるっていってたよな?」 「当然よ! この空で私に敵う鳥は一人もいないわ!」 「なら、お前さんに任せようかね」 「え?」 アルトメリアは黒い月の表面に立ち、両手を広げ二人の前に出た。 そして己の全てを晒す決意を込めて約束の言葉を詠唱するのだ。 「アルトメリア=リゾルバが命ず! 出でよ眷属 我が血肉 混沌なりし闇の住人 我が力 我が威となりて 共に滅びの道を歩まん 神々の魂すらも打ち砕き」 「ちょっと!? 一体何をするつもり!?」 二人の見る前でアルトメリアの体がモゾモゾとありえない動き方をした。 「私これで死ぬかもしれないから。後の事は宜しくな、ストレンジャー、カイラ」 「え?」 次の瞬間、体の隅々至る所から不規則に絶え間なく、どす黒い何かが細い体を突き破って出て来た。 その形は大小さまざまな獣の形で、数は数百に及んでいる。 これこそがアルトメリアが不死身だった理由。永い年月を生きる内に己の体の欠損部を補う為、喰らい続けた生ある物の数だけ、体内にその魂と血肉を蓄積していったのだ。 「うえー、気持ち悪ーい。……けど、これで分かったよ。君が不死身だった理由」 屍喰い(グール)は生者から生気を吸収できない。吸収するには同じアンデッドを食べるしかないのが屍喰いだ。アンデッドを食べるアンデッド。出来損ない。それが屍喰い(グール)だった。 だがアンデッドであってもヒトを食べる事を拒絶するアルトメリアは獣を食し己の血肉とする事で、食べた物を身代わりに外界からのダメージを受けないようにしているのだ。 生気を吸収しない。故にアンデッドとして成長できない。そんな彼女が死なない為に取った生存戦略がこれだったのだ。 「私がここまで見せたんだ……今そのニヤケ面を消してやるぜ、木偶人形!」 そのアルトメリアが全魂を体外に開放し、全使い魔を攻撃に使う。 全使い魔を一度にけしかけて数で圧倒し敵を倒そうと言う、原始的ながら強力な戦法。ネタをばらし弱点を晒し防御を捨てた捨て身の作戦。これがアルトメリアの最終奥義だった。 最終奥義を破られればアルトメリアの命は無い。彼女は決死の覚悟をしていた。 「君、もう謝っても許さないから。絶対に殺す!!」 リンネが黒い月の表面に降り立ち鍵の笛を構える。 今までリンネを傷つけられた使い魔は一体もいない。アルトメリア最後の戦いの幕が切って落とされたのだった。 ※中篇に続く バトル基調でという流れが見所のソラリア。イレゲでの屍喰の登場はサプライズで次に期待してしまう -- (名無しさん) 2013-11-10 19 10 28 大きくSF面とストーリー面を進めてきた!と感じた前篇。戦闘と進行を混ぜずに戦闘は一色でドンと見せたほうがすっきりしそう?ともちょっと思った -- (としあき) 2013-11-12 22 53 14 核心に向かって!という勢い感じずにはいられない。すでに方々無事ですみそうもない雰囲気だけどせめてハッピーエンドで…! -- (とっしー) 2013-11-15 22 31 04 シリーズ通して確固たる世界観とタクトとソラリアの進む道が作者の中に存在しているのだと感じます。劇中劇とも未来とも思うことはありますが未踏破の空気やレアなネタを絡めていく展開は正にイレヴンズゲート -- (名無しさん) 2018-03-11 18 24 54 名前 コメント すべてのコメントを見る
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"不正なる天秤" アウストラリス 概要 分類 造魔 所属 不定 異名 不正なる天秤 知能 命令を聞く 属性 金 危険度 C+ 備考 特になし 大種族は造魔。 縦50cm、横90cmほどの大きさの金属製の天秤のような姿をしている。 超古代文明時代に魔界でとある悪魔によって作られた魔法生物。 当時繰り広げられていた天使や人間などを相手に用いられた。 自我に乏しく、必要最低限命令を聞く程度の知能しか持ち合わせていない。 駆動には常時魔力の供給が必要で特殊な印を刻むことで契約することでそれが可能になる。 その後、時代が下って聖域に取り残され、様々な者の手を転々としながら現在に至っている。 他者の魔術や魔力に干渉する能力に特化しており、魔術のターゲットの強制変更や属性耐性の上下などを得意とする。 他方、それらの機能の搭載に手一杯で直接敵に攻撃するような能力は一切なく、味方のバックアップが専門となる。 技・魔法 一二の秤 属性耐性を上下させる。 30分ほどで効果はなくなる。 執行の秤 魔法に干渉、ターゲットを強制変更させる。 経歴 2012年5月26日 宝探しなりチャ 遺跡の地下の空間で石棲妖蠍バレオロザキスと共に登場。 ルナール、ルックらと交戦するがバレオロザキスの活動停止と同時にこちらも機能停止した。 由来 天秤座の星「キファ・アウストラリス(南の皿)」から。 アースガルド 天秤 造魔 魔界
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マップ ステージ解説 ステージも比較的狭く、通常潮以外はそこそこ稼げる良ステージ。満潮は回収率9割以上が目指せるボーナスステージ。通常潮はよっぽど湧きが良くない限りはお察しになることが多い。 満潮時の圧倒的狭さ 満潮時にはコンテナ付近以外はほとんど水没するため、全ステージ潮位中ぶっちぎりの狭さを誇ります。なのでちょっとでもオオモノを処理するのが遅れるとコンテナ周りがえらいことになって即ゲームオーバーです。 特に全身の殆どが攻撃無効化であるヘビを処理し損ねると途端に苦しくなりますし、フィールドの狭さ故に片翼ですらカタパッドが脅威になります。そのくせ、カタパッドの湧き位置が悪くてたおしても全然美味しくないのがクソなのですが、まあカタパッドとタワーさえたくさん湧かなければガンガン処理して運んでいるだけで50納品以上は手堅いです。 通常潮は湧き次第 200納品経験者が4人集まってもどうにもならないのがポラリスの通常潮です。40納品くらいであれば手堅いですが、乱獲初心者だと30~35納品になってしまうケースも多いと思います。 ポラリス通常潮がきたら「ダメ元」というのを念頭に置きつつ、40納品を安定できるように練習するのが良いでしょう。 カタパッドとタワーは基本的に回収不可能になることが多いので、どのタイミングでこのカタパッドはたおすべきか、放置するべきかのような選択を強いられます。 夢が詰まった満潮キンシャケ探し 元も子もない話ですが、ポラリスで満潮キンシャケ探し・満潮・満潮キンシャケ探しのコンボがきたらフレンド四人でプレイしているんならほぼ確実に200納品(最低でも190納品は手堅い)が達成できます。 ステージの狭さに加えてカンケツセンが4つしかないのでアタリを高速に見つけることができ、かつどのカンケツセンがアタリでも必ずコンテナ横を通るためです。 満潮ハコビヤ襲来も美味しい 納品数を増やしにくいハコビヤ襲来なのですが、満潮ポラリスにおいては突然ボーナスステージ化します。確実に・安定して稼げるので、ハイパープレッサーがあるなら全部使い切ってしまって構いません。 対して通常は微妙に稼ぎにくいのでWAVE1であれば撃つのは最初の1回だけでもいいかもしれませんね。 納品目標 通常潮のグリル・ラッシュ・キンシャケ探しは寄ってくるのに時間がかかるので40~45で頭打ちになることがほとんどです。50納品できれば相当稼げた部類になるでしょう。 ドスコイ大量発生はタワーとカタパッドがほとんど回収不可能なので全く伸びません。湧かないことを祈りましょう。 満潮 通常 干潮 イベントなし 50 40 45 ラッシュ 55 45 - キンシャケ探し 65 45 - グリル発進 65 45 - ハコビヤ襲来 70 50 55 霧 65 50 55 ドスコイ大量発生 - - 45
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ホコリとカビの臭いの中、俺は打ちつけた腰をさすりつつ周囲を見回した。 天から差し込む光は俺が落ちてきた穴の高さを教えてくれている。結構な高さだ。 この高さから落ちて助かったのは、足元の大量のガラクタと砂の山がクッションになったからだろう。 俺は立ち上がりつつ自分の体の機能を確かめる。どうやら骨折などは無いようだ。 「おーい、大丈夫かー!」 「お兄ちゃーん、返事してーーー!」 俺が落ちてきた穴から二人の声が聞こえる。 ここはオルニトから見放された土地、新天地にある遺跡の下。 遥か古代、オルニトがまだ浮遊大陸に建国される前の古代文明時代の遺跡に俺達は来ていた。 「大丈夫ー! 無事だよー!」 上の二人に返事を返しつつ俺は落下した砂とガラクタの山の周りをぐるりと回りこんだ。 特に意味のある行動じゃない。好奇心からの行動だ。何かあるかもしれない、そう思ったからだ。 そうして山を回りこむと光が見えた。天井からの光とは違う。楕円形の、もっと人工的で冷たい感じのする光だ。 こんな遺跡の地下に光る人工物が?好奇心をくすぐられた俺は急いでその光に近づいていった。 「え――」 やがてその光の中にあるものの姿に俺は衝撃を覚える。 光の中にあったもの、それは人間の女の子……に見えるものだった。 そしてその光の正体は、見た事も無い機械のようなカプセル、或いはベッドか生命維持装置のような物。 上の方から「今助けに行くね~」と言う声が聞こえてくるが、もうその時周りの声など耳に届かなくなっていた。 「ひ……と……?」 この異世界の遺跡であまりにも在り得ないものを目にして、俺の思考はすっかり遥か彼方に飛んでいってしまったのだ。 それが俺とカプセルの中の美しい少女――ソラリアとの出会い。 これから待ち受ける運命の始まりだった。 【異世界冒険譚-蒼穹のソラリア-】 「……」 ほのかに青白く光るカプセルの中で眠る少女に俺は心を奪われた。 可愛いから、と言うのもあるがそうじゃない。この異世界と言う只でさえ現実離れした世界で、なお一層現実離れした光景に出くわした事にだ。 この異世界に来る人間――バックパッカーと呼ばれる旅人達――は多かれ少なかれ皆、好奇心が強いから危険を冒してまでここに来る。 俺もご他聞に漏れず好奇心が強い方で、こうして学生の身分でありながら親の脛をかじって異世界に来ている。 史跡巡りが好きな俺は、この異世界でもまだあまり発掘されていないオルニト辺境の遺跡を見に来た訳だが、まさかこんな体験をする事になろうとは……。 「君……寝てるの? 大丈夫?」 なんてとんまな事を言ったのは、何の反応も抵抗も示さない少女とカプセルに触る免罪符が欲しかったからだろう。 ドキドキしながら俺は好奇心に従い、恐る恐るカプセルに触れてみた。すると―― 『○×△■◎★※』 「わっ!?」 カプセルから何語か分らない音声が聞こえ、上面の透明部分が開かれていった。 ゲート神の翻訳が機能していない。いったい何故?しかしその疑問の答えを考える間も無く事態は進行していく。 中からは冷気のような白いモヤが溢れ出て俺の足元をさらう。 俺は自分から触っておきながら、自分の行動が発端で起こった今の現状に驚き、情けない事に後に倒れ尻餅をついてしまった。 こんな時、人間は本能的に逃げようとするものなのかもしれないけど、俺はその場で目の前の光景に釘付けとなったのだ。 モヤの中からゆっくりと上体を起し目を開く少女。 先程から静かなこの空間にはパソコンが立ち上がる時のような音が微かに響いている。きっとカプセルからの音だろう。 遺跡の風化具合から見て、ここが数千年の時を超えた場所である事は想像に難くない。 しかし目の前にあるカプセルも名年劣化はみられるが、明らかに地球の科学力さえも超えたオーバーテクノロジーの産物である事は疑いようもない。 それが何故、どんな理由で、どう言う経緯で何の為にここに存在するのか。全く俺の理解の範疇を超えている。 俺がそんな思考の混乱、或いは凍結に陥っている間に、目の前のカプセルの少女は周囲を見回し俺の存在に気付いた。 少女がゆっくりと立ち上がりカプセルから出ようとしている。俺に向かってくる気だ。 「え……あ、待って……止めて。止めて!」 少女は何も身に着けていない生まれたままの姿だ。 その姿はどう見ても亜人ではない、頭に大きなカチューシャを付けている以外、地球人の人間の姿そのものだ。 俺は恐怖と気恥ずかしさが無い混じりになり、あわずった声で後ずさる。 自分で自分の顔を覆った手指の隙間から、生まれて初めて見た生の女性の裸を隠れ見ながら、俺は何も出来ずにその場に仰向けに倒れこんだ。 もう何も声が出ない。少女の手には大きな鍵のような形の棒が握られている。あれで俺をどうにかするつもりだろうか。 体、手と見て俺の注意がようやく少女の表情に向いた時、俺のそれまでの気持ちは一変する事になった。 少女の表情は人間で言えば、とても切ないような、嬉しいような、そんな顔をしているのだ。 「タクト……やっと逢えた」 少女の口から俺の名前が紡がれる。 どうして俺の名前を知っているのだろう? さっきの上からの声を聞いていた? いや、その時まだ彼女は眠りについていた。では何故? 「君はいったい――」 「逢いたかった」 「逢いたかった」その言葉を残して少女は俺に向かっては前向きに倒れ掛かってきた。まるで糸が切れた人形のように。 逢いたかったとはどう言う意味だろう。昔俺に会った事があるのだろうか? だが俺は彼女の事を覚えていない。全く記憶に無い初対面の筈だ。 第一、異世界に来たのだって三日前が初めてで、それ以前に異世界に来た事など、俺が物心付く前の話で親が隠してでも居ない限り無い筈なのだ。 「お兄ちゃんーん、今から縄降ろすねー」 穴から俺が落ちてきた小山に縄が降ろされた。等距離に結び目が作ってある、何かあった時用に俺が持ってきておいた縄だ。 その縄を伝って下りてくるのは、俺がお世辞にも治安が良いとは言えないここ新天地で用心棒に雇ったダークエルフのエルだ。 その後に続いて現地ガイドのハーピーのシエラが飛び込んでくる。 ひとまず助かった事に安堵しつつ、俺は次に裸の女の子を抱きかかえているこの状況を果たして二人にどう説明したものか、そんな事で頭を悩ませるのだった。 「全く破廉恥な! 人間のオスは年中発情期と聞いていたが、まさかこれ程とは!!」 「だから違うんですよエルさーん」 俺達三人――いや、今は四人か。俺達四人は遺跡の地下から脱出すると、宿を取っている近くの町まで戻ってきていた。 太陽は中天を過ぎこれから夕暮れに向かおうとしている。 今日は殆ど調査を進める事が出来なかった。俺が途中で穴に落ちてしまったからだ。三日目にして大ちょんぼだ。 と言う訳で今日は調査はほとんど出来ずに宿に帰ってきてしまった訳だが、今はそれどころじゃない。 遺跡の地下で出会った少女……他のバックパッカー達も見ているあの遺跡よりも、今はこの娘が何者なのかの方が遥かに興味深い。 風化が始まり古ぼけた遺跡群の地下にあった近未来的なカプセル。その中に眠っていた人間のような少女。 神秘的で謎に包まれて、おまけに可愛い。好奇心をそそられる。 服はエルとシエラの手でもう着せてある。ハーピーであるシエラの服は少女に適さなかったので、体の似ているエルの予備の服だ。 少女を着替えさせた二人だったが、その体を見ても少女が何の種族なのか検討もつかないと言う。いや、正確にはまるきり人間のようだと言うのだ。 頭の大きなカチューシャの様な物は何故か取れなかったらしいが、それ以外は地球人の人間としか思えないと言うのである。 しかしこの異世界の遺跡で、カプセルに入って眠って居た人物が人間だとは到底思えない。 では彼女は何の種族なのか?亜人か?人か?或いはもっと別の……。 「そんな事よりこの娘ずっと目が覚めないよ? 大丈夫なのかなぁ、お医者さんに見せた方が良いかなぁ」 「そ、そうだな一度医者に見せた方が良いかも」 少女を寝かせたベッドの横で考え込んでいると、夕食の買出しから帰ってきたシエラにそんな当たり前の事を言われた。 そうだ、俺はこの神秘的な少女に思いを馳せていて、肝心な事に考えが及んでいなかった。 宿屋に帰ってきて二時間、二人への事情説明の後もずっと少女は眠り続けている。外傷は全くないし、寝姿があまりに安らかだった為思いつかなかった。 シエラが「すやっぴーすやっぴーって寝てるよ」などと言いながら少女の頬を羽でツンツン突いているが、当の本人は一向に目覚める気配がない。 全体的に木製の宿だ、涼しさを得るには窓からの風に当たるしかない。幸い新天地は乾いた気候なので、風は故郷の蒸し暑い熱風と違って爽やかに感じられる。 風に揺らされる安い生地のカーテンの下、ベッドでは少女が汗一つかかず静かに、眠り姫のように眠りについていた。 もしこのままずっと目が覚めなかったら……そんな恐い考えが頭の片隅をよぎる。 シエラの言う通り医者に見せに行った方が良いのだろうか。改めてそう考える。しかし俺の中の何かがそれを固く止めていた。 古代遺跡のカプセルの中から目覚めた少女――只者である筈がない。 その正体は自分には想像も付かなかったが、この少女の事をあまり他言しない方が良いような気がして、こうして宿屋に帰って大人しくしていた。 しかしこうも目が覚めないといい加減心配になってくると言うのも事実だ。やがて俺は思考の堂々巡りに陥っていく。 外傷こそ無いものの、見えない所で何か悪い所がないとも限らない。それに医者に見せれば何か分かるかも知れない。 「うう~ん」 エルの冷たい視線に晒されながら悩んでいると、ベッドに寝かせていた少女が軽いうめきと共に寝返りをうった。 俺とエルの注意が一気に少女に向く。 シエラに見守られていた少女はそのまま再び反対側に寝返りをうちなおし、ゆっくりと閉じられていた両の眼からスカイブルーの瞳を覗かせた。 美しい黒髪にスカイブルーの瞳。もし俺と同じ地球人ならハーフと言う事になるのだろうか。 ただ、亜人だった場合そう言った常識は一切通用しない。外見的特徴だけでは何とも判断が付かない。 「お、起きたのか?」 「大丈夫? どこも痛くない?」 上半身を起しベッドから周囲を見回す少女にエルとシエラが声をかける。 少女はまだ意識が覚醒していないのか、ボーっとした様子で俺達を眺め、そして最後に俺の方をジッと見ながら止まった。 気まずい……少女は何故か初対面である筈の、俺の事を知っていた。もしかして俺が忘れているだけなのだろうか? 異世界に来たのは初めてなのに以前に出会っている筈がない。 そう思いながらも忘れているだけと言う可能性は否定できず、或いは他の理由だったらと俺はドキドキしながら無難な挨拶だけをした。 「や、やぁ」 「タクト……」 再び俺の名を呼ぶ少女。しかし俺は少女にどう返していいか分らずやぁと言ったきり次の言葉が続かない。 本当なら体は大丈夫かとか、名前はとか、どうしてあんな所にいたのかとか、色々と聞くべき事はあったのだが、それらの言葉が出てこない。 エルやシエラが少女の言動を固唾を呑んで見守る中、暫し訪れた沈黙の後、始めに口を開いたのは少女だった。 「ここは……どこ? 私は……だれ?」 少女は記憶喪失だった。 「君、ひょっとして記憶喪失なのか?」 「記憶……喪失?」 俺の言葉にシエラが疑問符を浮かべて聞き返してくる。 こちらの世界でもきっとそう言った現象はある筈だろう。エルが俺の言葉に黙って頷いている事からもそれは分る。 目覚めた少女は俺やシエラやエルの顔を交互に眺めてオドオドと戸惑っていた。無理もない、何も思い出せない上知らない人三人に囲まれているのだから。 俺は不安そうな少女に出来るだけ優しく話しかけた。 「俺の名前は久我タクト。地球、あ~……ここから言えば異世界から来た人間だ。君の名前は?」 「ソラリア……ソラリア=ソーサリーです」 少女の名はソラリア=ソーサリー。とりあえず自分の名前は覚えているようだ。 ではそれ以外の事は何を覚えているだろうか。自分が何人か、どこに住んでいたか、何をしていたか、そして何故俺の名前を知っていたか。 色々と聞きたい事はある。だがその問いに対してソラリアは、俺が質問する前に答えを提示してくれた。 「私は……何故、ここにいるのでしょう? どこに行けばいいのでしょう? 私は……私は……分からない。何も分らない」 「どうやら本当に記憶喪失らしいな」 ここでエルが話の輪に入って来る。 彼女を着替えさせ服を貸したのはエルだ。ソラリアが目覚める前、エルはソラリアの体を見て「人間のようだ」と言っていた。 亜人は皆人間とは大なり小なり違った所を持っている。それは身体的特徴から明らかだ。 ダークエルフのエルは褐色で耳が長い。ハーピーのシエラは両腕が翼だ。他の種族も鱗だったり尾っぽだったり皆特徴を持っている。 だがソラリアにはそう言った種族的特徴が一切何も見受けられなかったと言うのだ。スラヴィアの人間素体のゾンビにしても体温で分る筈なのにだ。 ソラリアは人間なのだろうか? 「ソラリン何も覚えてないの?」 「そ、ソラリン?」 と、今まで後で大人しく話を聞いていたシエラが、ひょこりと顔を出し話に加わってくる。 突然あだ名で呼ばれ戸惑ったソラリアは、質問に答える事も忘れ鸚鵡返しに聞き返した。 「あぁ、この娘はハーピーのシエラ。俺の仲間だ。ソラリンってのは……あ~、この子なりの親愛の証だよ」 「よろしくねっ、ソラリン」 シエラがソラリアの両手を握って笑顔で挨拶する。ソラリアは戸惑いながらもシエラの邪心の無さを分ったのか、悪い気はしていないようだった。 そんな二人の様子を見届けてから、エルは落ち着いた様子で自己紹介と質問をした。 やはりこんな時、一番冷静沈着なのは数々の修羅場を潜り抜けてきた彼女なのだろう。 エルは冷静に、だが口調が冷たい印象にならないようゆっくりとソラリアの目を見て話しかけた。 「私はダークエルフのエルと言う。彼に雇われて用心棒をやっている者だ。名前以外、何か他に覚えている事は無いか?」 「はい、何も思い出せません……記憶喪失……私、いったいどうしたら」 今度はちゃんと質問に答えられたソラリアだったが、その答えはあまり芳しいものではなかった。 ソラリアは本当に自分の名前と、そして何故か俺の名前以外何も覚えていないようだった。 「そうだ! 少し外に出てみようよ」 「外に?」 その答えを聞いて一同の空気がまた重く変わり始めた時、シエラが外に行こうと提案した。 それがどんな意味を持つのか、本人が言わずとも俺とエルはシエラの考えている事が何となく分る。 外にでも出て気分転換すれば、気持ちも落ち着いて何か少しは良い方向に道が開けるかもしれないと思っての発言なのだ。 「うん。実は香辛料買い忘れちゃって……一緒に歩いて色々見てるうちに何か思い出すかも」 シエラはペロリと舌を出して、おどけた様子でそう言った。優しい心のある娘なのだ。 「そうだな、少し外の風に当たりに行こうか」 その提案を受け入れ、俺もみんなに外に行くよう提案した。 エルも同じ気持ちなのか、何も言わなかったがスッと立ち上がり部屋のドアを開けた。 「ここでじっとしてても仕方が無い。行こう。その……ソラリア」 俺はベッドのソラリアに手を伸ばした。ずっと寝たきりだったなら起き上がるのも辛かろうと思っての行動だ。 しかしその行動に別の意味を感じ取ったのか、ソラリアは頬を染めながら躊躇しつつ俺の手にソッと自分の手を重ねてきた。 その手は白く、細く、力を込めて握ったら壊れてしまいそうで。慎ましく照れる少女の所作に、俺の方まで恥かしくなってしまった。 そして俺は触れるか触れないかの距離に重ねられたソラリアの手を、優しく握って照れ隠しにこう言った。 「こ、これで立てるかな?」 視線を外し照れながら言った俺を見て、ソラリアはまるでその手を取るのが初めてでは無いかのように、不思議と落ち着いた様子で返事をした。 「はい。タクトさん」 「もぅ、結局香辛料以外の余計な物まで買って」 「エヘヘヘ、ごめんなさーい。でもこれ楽しいよ~ほらほら~」 市場での買い物も済ませ、一同は宿屋に帰ってきていた。 シエラとエルが泊まっている部屋はベッドが二つしかなかったが、うら若き乙女であるソラリアを男と一緒のベッドに寝かせる訳にも行かず、結局ベッドを二つピタリと並べて、三人雑魚寝のような形で眠る事となった。 三人は寝巻きに着替え思い思いの夜の時間を過ごしている。 シエラは市場で衝動買いした地球のおもちゃ、丸めた長い紙を振って伸ばす物をエルに当ててちょっかいを出している。 その紙による可愛い攻撃を受けて、鏡の前で髪を梳いていたエルは、寝る前のお手入れも途中にシエラを叱った。 「ちょっ、止めなさいってこら。シエラー!」 「アハハハハッ、エルが怒った~」 そんな、このパーティを組んでから珍しくなくなった光景を見て、ベッドで一人楽しそうに微笑んでいるのはソラリアである。 「どうだい? 何か思い出せた事はあった?」 そんなソラリアのリラックスした姿を確認して、エルは市場に行った目的の一つ、ソラリアが何か思い出せなかったかを訊ねてみた。 一緒に市場を巡る内、シエラのお陰もあって少しは打ち解けたソラリアだからこそ、今一度「思い出したか」と言う質問をする事が出来たのである。 そしてソラリアの答えも行動を起した甲斐あって、少しは何かのヒントになるようなものだった。 「いえ……でも、何だかとても懐かしい感じがしました。前にもこうしていた事があるような気がします」 「そっか」 具体的に何か思い出したわけではない。しかし懐かしい感じがしたと言うなら、ソラリアがタクト達と一緒に居る事は間違いではないのだろう。 ソラリアが前居た環境に似ていれば、それだけ思い出せる確率も上がる筈だからだ。 無理に思い出そうとしても仕方が無い。 焦らずゆっくりと、ソラリアが記憶を取り戻し一人でも大丈夫になるまで、シエラはソラリアを自分の所に置いてもいいと思っていた。 そしてエルもタクトとの契約が切れても暫らくここに滞在して、二人を守ってもいいと思っていたのだった。 だが肝心のタクトがどう考えて居るのかまだ分らない。タクトは学校の研究が終われば地球に帰るだろう。そうなった時いったいどうするのか。 ソラリアはタクトの名前だけ覚えていた。きっと何かその事には深い因縁がある事は確かだろう。 始めにソラリアを見つけたのはタクトだ。地球に帰るにしても、何らかの形でその責任は取るべきだろうと、今日半日、エルは考えていたのだ。 「さ、そろそろ寝ようか」 「うん」 とは言うものの、こればかりは当人同士の意思が大切な問題だ。タクトがソラリアを見捨てるのか、はたまた異世界に残り面倒を見るか、地球に連れて帰るか……。 エルはランプの明かりを消すのをシエラに任せ、一足先にベッドに寝転がり先の事に思いを巡らせていた。 「じゃあランプの火は消しておくね」 そう言ってシエラがランプの火を消そうとカバーを取った時、俄かに小さな火は炎となり、とても自然の燃え方とは思えない勢いを見せた。 「わっ!?」 その炎の明るさに驚いたシエラは急いで火を弱めようと、思い切り息を吹きかけた。 だが炎はその風の向きに一瞬流れただけで、シエラの息が止むと今度はまるで炎の蛇のように、ソラリアに向かって伸びていったのである。 「なっ、何だ急に!?」 「え? え? えぇ?」 炎は今や完全に魔法で操られている時の、不自然な動きをしている。しかしこの部屋には火の精霊にそんな事を呼びかけた者は居ない。 第一、森の民であるエルは火の魔法は嫌いで使いたがらないし、シエラにしても風以外の魔法は苦手で、こんな火を動かすような真似は出来ない。 ならばこれは火の精霊自身の意思なのか。 元がランプの火と言えども触れれば火傷はする。それが今や赤い蛇となってソラリアに噛み付こうとしていた。 「危ないソラリア!」 「きゃーーーー!!」 寝ていたため対処が間に合わないエルの眼の前で、火はソラリアに襲い掛かるように向かって行き、そして当たる前に無数の火の粉に変わって爆ぜた。 「た、助かった……の?」 「何だったんだ今のは?」 目を瞑って頭を覆っていたソラリアは、自分の身に何も起こらなかった事を認識すると、ゆっくりと目を開けて周囲を見回した。 部屋の中は空中の火の粉が消えて行くと共に、窓からの月明かりのみが頼りになる闇に飲まれていく。 三人は今起こった少々やり過ぎとも思える火の精霊の悪戯に驚いた心を、夜の闇と共に静まるまで待って互いの顔を見合わせた。 「火の精霊の悪戯だったのかな? こんなの初めて見るよ~」 「驚きました。私、火の精霊さんに嫌われるような事してしまったのでしょうか?」 シエラとソラリアは羽と手を合わせて良かった良かったと落ち着き合っている。 しかしエルは一人、今の勝手に精霊が起こした悪戯以上の事を思い、何か不穏な事が起こるような気がして眉根を曇らせた。 「悪戯……なら良いんだがな」 再びベッドに入り夏掛けを被ったエルは、そう誰にも聞こえないくらいの声で呟いた。 その夜…… 「シエラ……シエラ」 「ん~~……なーにー? エルゥ」 ベッドを二つくっつけた即席のダブルベッドで眠る三人。 その内の一人、エルが隣で眠るシエラの耳元でその名を呼んだ。 時刻は地球で言う所の草木も眠る丑三つ時。ここ異世界の新天地の町では、外で微かに聞こえる虫の声以外、何も聞こえない静寂が支配していた。 その暗闇と静寂の中、エルはぐっすり寝ていたシエラを起して、自分が起された原因――音について話しかけたのだ。 「何だか時計の音がしないか? ほら」 そう言って耳を澄ますと、確かにカチ、カチ、と規則的な音が微かに聞こえてくるのだ。 外で鳴く虫の声が生命のメロディーを織り成しているのに比べ、ただ機械的に規則的に同じ音を刻み続けるそれは、虫の声で無い事は明らかだった。 「ホントだ……お兄ちゃんの腕時計って言う小さい時計の音じゃない?」 その音を聞いてシエラは、部屋の向こうにある机の上に置き去りにされた、まだ蓄光塗料がぼんやりと光り続ける腕時計のほうを指差してみせた。 腕時計の針の動きは確かに、エルとシエラが聞く音とリズムが合っているように見える。 懐中時計くらいなら普通にあるものの、こんな小さな時計は異世界では珍しい。 エルはその珍しい小さな時計の音が、今彼女が聞いている小さな時計のような音の正体だと納得した。 「そうか……きっとそうだな」 そう言ってエルは再び布団を被り直し瞳を閉じる。 「もう眠いから寝るね……おやすみぃ……」 「起して悪かったな。お休み、シエラ」 その様子を確認してシエラも寝惚け眼を擦りながら再び寝る体勢に入った。 エルとシエラは再び夢の世界へと入っていったのだった。 次の日、俺達四人は朝食の後、遺跡に向かって歩みを進めていた。目的は遺跡の調査とソラリアの記憶のヒントになる物を探しに行く事。 その道すがら、少々遠回りにはなるが昨日ソラリアが懐かしいと言った市場をもう一度通ってみる事にした。 朝から市場は大変な賑わいで、昨日と変わらず楽しかった夕方の空気そのものだった。 「おじちゃんこんにちはー。今日も暑いけど良い天気だねっ」 「おっ、シエラちゃん今日は早いね。ほら、これ持っていきな」 小さな町とは言え市場は流石活気に満ち溢れている。道を埋め尽くすのは地球では見慣れないものばかりで好奇心をツンツン刺激された。 ガヤガヤと混雑する道を所狭しと行きかう人々。その中を俺達も雑踏に揉まれながら歩いていた。 「にーちゃん人間かい!? こりゃ珍しい、おまけしとくよ!」 「何か珍しい物持ってたら買い取るぜ~! こっちの珍しい物も買ってきなぁ!」 「お姉さん方今日は日差しが強いよ! 俺っちんとこの日焼け止めでも買ってもらいなって!」 そんな声が通る先々から聞こえてくる。勢いに圧倒されながらも、周囲のパワーが自然に自分の中にも染み込んで来るようだ。 立ち並ぶ商店の数々は実に多種多様であり何度来ても飽きさせない。市場の活気だけはどこの世界でも変わらないなと俺は感心した。 そんな太陽の光よりも明るい市場の空気の中、真っ白なシーツに垂れた一滴のインクのように浮いた空気の少女が一人。 シエラの横に並んで歩く記憶喪失の少女だった。 ソラリア=ソーサリー、それが少女の名前。タクトとソラリアと言う自分の名前以外、少女は何も覚えていない。遺跡地下で目覚めた時の事さえも…… 少女の過去に何があったのか、少女が何者なのか、暗い話になりそうだった俺達を市場に誘ったのはまたしてもシエラだった。 「おぉ、シエラちゃん新しいお友達かい? 人間のお友達かな、良かったねー」 「は、はじめまして。ソラリアと言います」 店屋のおっちゃんの微笑みにさえ押され気味のソラリアは、おずおずと少し照れくさそうに挨拶した。 そんなソラリアの態度を見て、シエラは前に出てフォローするように会話を進める。 「ソラリンは記憶喪失なんだよ。だから何か思い出す為に、こうして歩き回ってるんだー」 「それは可哀想に……ほら、これでも食べて元気をお出し」 そう言っておっちゃんが差し出した赤い果物を、シエラは「ありがとー! はい、ソラリン良かったね」と言って細く白いソラリアの手に渡す。 実はこうした光景は初めてではない。シエラは市場に出ると大抵何かしら貰って帰ってくるのだ。 飛べる鳥人なのに飛べない鳥人の町で愛される。 そんなシエラの姿を見ていると、いつか鳥人達も分かり合える日がきっと来るような気がしてくるのだ。 「人がいっぱい……楽しいです」 「そうか、それは良かった」 そんなシエラの明るさに触れたおかげか、ソラリアも次第に「これは何ですか?」「あれは何ですか?」と色々と尋ねるようになってきた。 しかしその問いに答えたのは殆どがシエラで、俺はここ異世界の事についてあまりソラリアに答えてあげる事が出来ない。 シエラは有翼種の鳥人でありながら地上で暮らしている珍しいハーピーの娘だ。勿論、立派に空も飛べる。 何でも幼い時に両親を亡くし、浮遊大陸の下に広がる飛べない鳥人達の村で拾われ育てられたのだそうだ。 そんな暗い過去を持っていながらシエラは明るく、独特の人懐こさでここ新天地の市場でも、仲良くなった気の良いおじさん達に食べ物を分けてもらっている。 頼りになるガイドだ。 それに引きかえ俺は……。 「しっかりしろ」 「エルさん」 そんな年下のシエラと自分との対比に落ち込みかけた時、ふと背中を叩かれて声を掛けられたのはダークエルフのエルだ。 エルは詳しい事情は知らないが、故郷のエリスタリアを離れ、ここ新天地で傭兵や用心棒のような仕事をして生計を立てているそうだ。 シエラが俺より年下なのに対してエルは年上、身長も男の俺とそう変わらないくらい高いし、おまけに弓の名手で強い。 あまり自分から何か発言する方ではないが、みんなの事はしっかり見ていて戦闘以外の事でも助けてくれる良い人だ。怒ると恐いけど。 「お前が暗い顔をしていると、その娘も心細くなるぞ」 そう言われてソラリアの方を見ると、ソラリアはぱっとにこやかな笑顔を作って俺に見せてくれた。 こんな雑踏の中でも彼女は俺を見ているんだ。 自分の事は名前以外何も覚えていないのだ。今は唯一覚えていた俺だけが心を支えるものなのかもしれない。 こんな不憫な娘を放っておけないと思い、力になりたいと外に連れ出したが俺に出来る事はこれっぽっちの事しかないのだろうか。 何か大義の為でもない。仕事でもない。勉強の為にここに来て現地の案内も身の安全も他人に頼る俺が出来る事なんか……。 「お、お止め下さい!」 「うるせー! ケチケチすんじゃねー!」 「俺達ゃ十個も買ってやってるんだぜ? これくらいおまけしろ!」 「しかしいくらなんでもそれは……」 そうして俺が悩んでいると、市場の向うから大きな声が聞こえてきた。 「何だ? 向こうが騒がしいけど」 「あまり近づくんじゃない。巻き込まれるぞ」 そう言ってエルに止められた先では人々が囁きあい異様な喧騒が起こり始めていた。 少し先を行っていたシエラとソラリアも立ち止まっている。 一体何が起こっているのかと耳をそばだてて聞いていると、それはどうやら物騒な客が店の主人にいちゃもんをつけて暴れているようだった。 「嫌ね、軍隊だからってあぁして威張って」 「飛べる奴らは昔っからあーさ」 「ここはもう独立したんだ。なのにまだ主人面かよ」 鳥人の軍人と呼ばれていた荒くれ者達を囲うように眺める観衆は次々にそんな悪口を言い合っている。 遠目に見えるのは果物屋台で老主人に絡む屈強の軍人五人。きっとあの五人の後ろには数十人の部隊が控えているのだろう。 だからこんな理不尽に腹が立っても、町人達はそう容易には手が出せなかった。 ここはかつて飛べる鳥人達にとって奴隷のように扱われていた、下層階級の飛べない鳥人達によって独立した土地だ。 多種族の力も借りて勝ち取った土地だが、まだ歴史は三十年あまりと浅い。その為、飛べる鳥人達への感情もまた、独立当時のものが根強く残っていたりもする。 「何だてめーら、何見てやがる!」 「俺達はファルコ様の軍勢だぞ! おめーら下級鳥人とは身分も生まれも違うんだ、あぁーん!?」 そんな新天地の辺境で今、オルニトの戦闘神官ファルコの軍勢が暴れ回っていると言う話は、ここ新天地に来た時すぐ耳に入った事だった。 これだけコケにされて手が出せないのは、彼ら飛べない鳥人が弱いからじゃない。 落ちぶれたとは言えかつて軍事国家として名を馳せたオルニトにあって、未だに軍勢を持ち続ける神官ファルコ。 戦闘神官と呼ばれるこの鳥人の悪逆非道ぶりを耳にしたら、とても物を取られたとか殴られた程度の事で逆らおうなどと思わなくなる。 浮遊大陸に住む他の飛べる鳥達や神官達が、地上の事に興味が無い事は広く知られた事だった。 飛べる者にしか辿り着けない浮遊大陸は、上流階級の鳥人達にとって神の奇跡が生み出した聖地であり、絶対的な安住の地でもある特別な土地だ。 その浮遊大陸さえ無事ならば、その下に広がる荒野の大地など、彼らにとってどうでも良かったのだ。 そんな中、地上の鳥人達の叛乱を面白く思わない人物が居た。戦闘神官ファルコだ。 聞く所によれば彼は皆が地上に無関心なのを良い事に、領地を奪還する名目で新天地の各地で軍勢を使い略奪の限りをつくしていると言うのだ。 大義名分の下略奪行為が許されるとあっては、荒くれ者どもはいくらでも集まってくる。 今やファルコの軍勢は、飛べる鳥人に多種族の傭兵も合わさって千人規模にまでなっていると言う話だった。 「おっ?」 誰も逆らえず果物を十個分の値段で五十個も奪われていった帰り、取り巻きの群衆の中から荒くれ男が一人の鳥人の娘を見てそんな気持ち悪い声を上げた。 「ねーちゃん田舎者にしちゃ可愛いじゃねーか」 「俺達と一緒に来いよ。良い思いさせてやるぜぇ?」 そう言って軍人の一人が鳥人の娘の腕を掴んで連れて行こうとした。 「い、いや! 放して下さい」 娘は羽を撒き散らしながら激しく抵抗するが、男の腕力には到底敵わず引っ張られていく。 それを見て先程大切な商品を奪われた店の老主人が、男達に取り縋る様にして許しを請おうとしている。だが男達はそんな声聞こえていないようだ。 「お止め下さい! どうか、どうか孫だけは……!」 「放して下さい、だってよ。可愛い~」 こんなモノを見せられて黙っていると言うのか。 新天地は治安が悪いとは聞いていたが、今、目の前で繰り広げられる光景の酷さは聞きしに勝る理不尽なものだ。 だが俺はただの学生、あいつらの一人にも勝つ自信は無い上、揉め事を起して責任を取る力もない。 その気持ちは周りのギャラリーも同じのようで、皆一様に悔しそうな顔をしている。 「んださっきから? おらジジイ離れろ!」 そしてとうとう孫娘を助けようと一人立ち向かっていた老主人が男の一人に殴り飛ばされた。 「いやーーーっ! おじいちゃん! おじいちゃーーん!! 誰か助けて下さい! 誰か! 誰かー!」 男達に連れ去られようとしている娘が、それを見て悲鳴にも近い助け声を上げた。 もう限界だ、後先なんか考えていられない。 俺が怒りを辛抱する為に握り締めていた両拳を、ついに胸の前まで持ち上げたその時、俺より先にこの状況に戦いを挑んだ者が居た。 「止めなよっ!」 その場に響き渡る鈴のように澄んだ声。 古来より、その歌声は魔性の美しさと言われ海の魔女セイレーンと並び称される一族の末裔。 飛べる鳥人の軍人に真っ先に立ち向かったのは、なんとハーピーであるシエラだった。 「その娘嫌がってるよ? 女の子に乱暴な事するの良くないよ」 「なんだぁお譲ちゃん」 「有翼種なのになんで下級種の味方してんだ?」 いかにも柄の悪いそうなのが二人、シエラの方にメンチを切りながら近づいてきた。 どうしてこう言う類の連中は世界共通でメンチを切るのだろう。何か遺伝子以上にそうした情報を伝えるものが体に入っているのだろうか。 何れにせよ仲間は娘を捕まえたまま、残りの二人は目一杯シエラを威嚇するように睨み付けているのだが、シエラはそんな視線にも屈せず反論した。だが――。 「人種とか関係ないよ。悪い事は悪い事だよ。だから放してあげ――キャァ!」 シエラが反論している途中、突然それは襲ってきた。 予告も警告も無しの裏拳による張り手だ。その大きな毛むくじゃらの手はシエラの顔を大きく弾いて、自分より遥かに小さい少女の体を地面に倒れこませた。 「シエラ! あいつ――」 俺がもう考え無しにギャラリーの列から飛び出した瞬間、腕を抱くように止めた者がいた。 「ソラリア!?」 「戦っちゃ駄目……タクト……」 それはソラリアだった。 ソラリアは怯え切った表情で俺の腕を力いっぱい掴んでいる。 それは何かを酷く恐がるように、だがその何かが今目の前に居る相手ではなく、もっと抗いようのない何か巨大なモノのような……そんな表情だ。 一体何故、この状況を目の前にしても止めに入る何かなのか。俺は振り上げた拳の行方を失いながら、憎き相手の意外な声を聞く事となった。 「ぎゃああぁ!!」 「だ、誰だ!? いま弓を射った奴は!」 悲鳴の方向を向いてみると、さっきシエラを叩いた男の手を一本の矢が貫いている。 そして後から声が聞こえた。静かに怒りを燃やす声だ。 「その娘を放しな。さもなきゃ次はあんたの両の玉をぶち抜くよ」 放たれた矢は弓の名手、エルが放った物だった。軍人達は総毛立ってエルに剣や槍を向ける。 それに対してエルは既に第二射の準備が整っており、横に構えた複合弓(コンポジットボウ)につがえた二本の矢の先は、正確に先頭の二人の眉間を狙っている。 「駄目……戦っちゃ駄目です……戦っちゃ……」 震えるソラリアの願い空しく、鳥人軍人の怒号が開戦の合図となった。 ※後篇に続く
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アストラリスト 遊戯王ZEXALのヒロイン