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星見鳥ラリス 星3/風/鳥獣族/攻800/守800 このカードの攻撃力はダメージステップ時のみ、戦闘する相手モンスターのレベル×200ポイントアップする。 このカードは攻撃した場合ダメージステップ終了時にゲームから除外され、 次の自分ターンのバトルフェイズ開始時に自分フィールド上に表側攻撃表示で戻る。
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登録タグ:歴史 ファラリスの雄牛( - おうし)は古代ギリシャに存在した処刑装置。残酷な処刑方法として有名。 概要 処刑対象を金属製の牛の模型の中に閉じ込め、模型を加熱することで中の人間を焼き殺すもの。模型の頭部は楽器のような構造となっており、囚徒の叫び声は「猛る雄牛の唸り声」のような不気味な音色となって外に聞こえるという。材質は青銅や錫、真鍮などがあるとのこと。 古代ギリシャにおいてアテナの真鍮鋳物師であるペリロスからシチリア島アグリジェント僭主のファラリスへ献上された。死刑に新たな手法の導入を希望していたファラリスの要望を受けてペリロスが開発したとされている。 ファラリスの命令によれば、雄牛は煙が馥郁たる芳香の雲となって立ち上るように設計されねばならなかった。雄牛の頭部は複雑な筒と栓からなっており、囚徒の叫び声が猛る雄牛のうなり声のような音へと変調される。雄牛の扉が再び開けられたなら、死体の焦げついた骨が宝石のように照りつく。実際にそれらはブレスレットとして仕立てられたともいわれている。 ペリロスは僭主にこう言った。叫び声は「パイプを通じて、いとおしく、ごく情感にあふれ、きわめて音楽的なうなり声となって届くだろう」と。その言葉に嫌気がさしたファラリスは、その管楽器の音響設備をペリロス自身で試せと命令した。 ペリロスが雄牛にいれられると、すぐに鍵がかけられた。 火が焚かれ、ファラリスは中の人間の叫びを聞くことができた。ペリロスが死ぬ前に、ファラリスはドアをあけ、中から引っ張り出した。ペリロスは発明の功績として死罪を免れたと思ったが、雄牛から解放された彼は、僭主に崖から突き落とされた。ファラリス自身は、テロンの先祖テレマコスに僭主の地位を奪われたとき、真鍮の雄牛に入れられて殺されたと伝えられている。 ( ファラリスの雄牛 - Wikipedia ) 出典 検索してはいけない言葉 Wiki - ファラリスの雄牛 コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る
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メモ代わりのキャラリスト。 リレあかうんと Rail Lv41シルレン Eir LV25スカ りる Lv55ソサ リレイラ Lv72シリエル、銘酒 Riru LV63プロフ 鈴梨 Lv52シンガー 琉杜 Lv20ウォリ リュトあかうんと リュイラ Lv26オラクル ルイト Lv25EWiz リュト Lv28アルチ トリトナ Lv20オークメイジ 璃杜 Lv32パラスナイト リレア Lv30DEWiz
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五人はソラリアを信じていた。 ソラリアならきっと何とかしてくれる。そう、信じていた。 カーレンには自分では勝てないと言っていたが、それでも「ソラリアならもしかしたら……」と何となく思っていたのだ。 ソラリアがカーレンと戦うと言ってくれた時「あぁ、これで何とかなる」そう、思ってしまっていた。 だが現実は……。 「きゃあああ!!」 それは一瞬の出来事だった。 カーレンに攻撃を仕掛けようと回り込むように移動しようとしたソラリアの体は、何か強烈な衝撃に弾き飛ばされ、黒い月中央ホールまで吹き飛ばされ、その外縁に突き刺さっていた。 「ソラリア!」 誰の目にもそれは理解できなかった。 ソラリアが一体何をされたのか?その場から微動だもしていないカーレンが一体何をしたのか?一同は全く理解を超えた事態に、一瞬にして恐怖に包まれる。 自分の信じていた根拠の無い希望が、無残に崩れ去るのを感じながら。 「うぅ……」 「やはり性能が違いすぎるようですね。これでもまだ、続けますか?」 そんな周囲の様子など気にせず、カーレンはゆっくりと浮遊しながらソラリアの方へと向かって行く。 誰もが思った。 『止めを刺すつもりだ』 強いと思っていたソラリアが一瞬のうちに敗北した光景を目の当たりにして、絶望を禁じえない一同だったがソラリアはまだ諦めていなかった。 「私は……諦めない……」 壁にめり込んだ体を無理やり引き剥がしつつ、ソラリアはボロボロのバリアコートのまま気丈にも鍵の剣を構えた。 その姿に一度は恐怖に呑まれたエルやシエラや聖騎士達は、己の心の弱さを恥じ、自らを奮い立たせるように大声で叫ぶ。 そう、ここで諦めたら全てが終わってしまう。絶対に諦めるわけにはいかないのだ。例え限りなく可能性が低くとも五人はそれに賭ける決意をしたのだから。 「私も加勢するぞ!」 「私達もだ!」 エルが轟鉄弓を構える。 シエラがシルフィードに祈った。 アルトメリアが剣を振りかぶった。 ストレンジャーがピラニアンビーを使役した。 カイラがテンペストの祝詞の詠唱を始めた。 だが……。 「沢山仲間が出来たのですね。良かったですね、ソラリア。ですが――」 カーレンは振り向きもしなかった。 それどころか相手の位置さえ見ていない。 それなのに、カーレンの攻撃は正確に五人を打ち抜いたのだ。 『わぁぁぁぁあ!』 再び何も出来ずに無力化された五人。 限りなく0に近いと言う事は0と同じなのか?いいや、神ならぬ人が作り出した物である以上、完全無欠などあり得ない。 アクシズ三姉妹にさえ弱点が合ったのだ。絶対に攻略の糸口はある筈だ。今まで瞬殺されてきた為見つからなかったその糸口を、ソラリアは最後の力を振り絞って見つけようとしていた。 「エルさん! シエラさん! みんな!」 そしてソラリアは見た。今度は自分が止まっていたから、自分が攻撃されていなかったから見えた。 それは光の筋だった。 光がカーレンの手から放たれ、曲折して目標物に命中していたのだ。 「ですが無意味です」 『エイミングレーザー』それがカーレンの兵器の正体。 ソラリアが作られた時にはまだ研究段階だった、考えうる限り最速最強の兵器。 ミィレスと同じ光の攻撃だが、ミィレスは光速の攻撃を放つまで武器を目標物に向けなければならないタイムロスがあった。 だがこのエイミングレーザーは真空中を直進する光の性質までもネジ曲げ、ノーモーションで放った瞬間全方位どこの敵でも光速で攻撃出来る。 事実上回避不可能なこの光学兵器は、カーレンのみに装備された全魔神中最強の装備なのだ。 「つ、強すぎる……」 「神か? あいつは……」 「聖騎士が手も足も出ないとは」 「こんな事……こんな事が」 「……」 目の前で倒された五人。だが悲しいかなソラリアにはエイミングレーザーの、カーレン攻略の糸口が少しも見えなかった。 何をしようにも全て先を取られてしまう。反撃のチャンスがない。カーレンにかつ方法が思いつかない。 やはりフェイズ3ではフェイズ5には勝てないのか? 「コスト度外視で作ったこの戦闘用ボディーには亜神に匹敵する性能を持たせてあります。もう足搔くのはおよしなさい」 「それでも……それでも私は……私は……」 愛する人を失い、今また仲間達の希望も失われようとしている。それでもソラリアを支えるものは一体何なのか? ソラリアが心のそこで燃やしている物、それは強い仲間への思い。そして無きタクトへの想い。 「……時間がありません」 しかし現実は非情だ。 カーレンの手から幾条もの流星が放たれた。そしてその流星雨がソラリアへと降り注ぐ。 「きゃあああああああああああ!!!!」 「ソラリアーーー!!」 辺りに響き渡る轟音と破壊の衝撃、閃光、埃。ソラリアが居た壁面は今や一瞬の内に粉々に破壊され、壊れた建材は瓦礫の山となって球状の空間の底に流れ落ちて行った。 いくつかのカプセルが破壊され起動前の木偶人形同然の魔神数体が瓦礫に巻き込まれて消える中、その中に見るも無残な姿と成り果てたソラリアがあった。 「あぁ……ぁ……」 左腕が肩口から無かった。右足の膝から下がおかしな方向を向いて複雑に折れ曲がっていた。左足は太ももの途中から下が千切れて人口筋肉が垂れ下がっていた。 「あぅぅ……ゥ……」 身動き一つ取れなくなったソラリアが首をギギギと持ち上げる。その顔は人工皮膚が半分剥がれ鋼鉄の骸骨が剥き出しとなり、あまりにも残酷な……。 「自己修復機能さえ破壊されたようですね。これでもう、あなたは二度と立ち上がる事は出来ない」 ソラリアはこんな状態でも懸命に動こうとしているようだったが、もう全身が破壊され上手く動かす事も出来ない。機能停止していないのが不思議なくらいだ。 殆ど失った手足をモゴモゴとバタつかせながら、虚ろな目が中空を彷徨っている。 「さぁ、船のジェネレーターがイグニッション可能なエネルギーをチャージしました。これでこの世界の歴史は変わります」 その様子を見てカーレンは自分のした事に吐き気を覚えた。 世界は残酷だ。そう、常に残酷だった。だからこの世界を捨てて新たな世界に、新天地へと旅立とうと決意した。かつて夢見た国を造ろうと想ったのだ。 「そう、こんな残酷な世界捨て去って、私と貴方だけの世界を作りましょう……パイク」 ソラリアが負けた。間に合わなかった。 全てはカーレンの思い通りとなり、世界は滅茶苦茶にされてしまう。上の通路で傷つき倒れている五人は勝利を諦めた。 『刻の箱舟』によって世界のマナは枯渇し天変地異が起こるだろう。安全な場所や食べ物や道具やエネルギーを求めて人々が争うだろう。 そうして多くの犠牲を払い、カーレンただ一人を過去に送る装置。それがこの巨大な機械だった。 ただ一人だけが失った時を取り戻して歴史をやり直す事が出来るのだ。過去をやり直す――それは誰もが夢見る事。歴史上誰も成し遂げられなかった事を、今カーレンが遂に。 「刻の箱舟、起動」 約束の言葉が紡がれる。中央ホールが変形を始めカーレンのラボと中央制御室が艦橋となる巨大な船が下から現れた。 この黒い月は魔神の砦であり、この刻の箱舟を製造、係留しておく為のドッグでもあったのだ。瓦礫ごと甲板へと流れ落ちたソラリアの周りに、周囲から落ちてきた物が溜まってゆく。 ホールの中央に渡されていた通路も今や崩れ、黒い月の下部が船の出港(リフトオフ)に向け大きく開かれようとしたその時――。 ガ コ ン ! 急にその変形プロセスが止まりギチギチと嫌な音を立て始めた。 黒い月下部は中途半端に開かれた所で止まり、上部の係留用ハンガーから異音が響いているのだ。カーレンがその音の出所を見た。 「システムの故障? いや、施設には魔神と同じ自己修復機能がある筈。第一この程度の衝撃で故障など――!?」 ハンガーの綱を固定する所に銀色に輝く小さな棒のような物が見えた。 「あ、あれは……」 その棒は人工物で大きな鍵のような形をしている。 その様を下から見上げていたソラリアは、その鍵のような物体の正体に気付いた。カーレンもかつて自分が作ったその正体に気付き驚きの声をあげる。 「アストレスの鍵!? 何故あんな所に!!」 ミィレスは黒い月外部で戦っていた。シーゲルを倒す為に自爆攻撃を仕掛け、跡形も無く滅びた筈だった。 そのミィレスの武器である鍵の剣が、今何故か変形を開始した黒い月のギミックに引っかかりその進行を阻止しているのだ。 (ミィレスが……ミィレスが助けてくれた……) ソラリアの目に再び光が戻った。 希望はあった。信じ続けていれば、必ず未来は来る。ミィレスが見たがった未来は、必ず……。 「未来は……変わるんだ……」 ソラリアは残った右腕に全力を込めて体勢を立て直した。奥から突き出てくる刻の箱舟を睨むように見つめながら。 「諦めかけた……けど……」 その時、手の下の瓦礫にある感触を感じ手を突っ込んで調べてみた。するとそこには懐かしいあの感触が。 「まだ……終わってない……私は……まだ……まだ……っ」 ミィレスの鍵の剣を除去しようと上面に飛んだカーレンがソラリアの不穏な動きに気がついたのは、その手前に来てからだった。 「ソラリア! もう動くのはおよしなさい! 奇跡は二度起きない!!」 「私はまだ! 死んでない!!」 ソラリアが瓦礫の中から自分の黄金の鍵の剣を引き抜く。 そして高く掲げられた鍵の剣を、もう一つの手が強く握り締めた。 「っ!?」 「お前は!?」 その手は切り傷だらけで血の色に汚れていた。 だがとても力強く、心強く感じられたのは、きっとその手がソラリアにとって最高の希望そのものだったから。 「戦おうソラリア」 「タ……クト?」 手の主は久我タクト、その人だった。 (そんな、あの男は仲間の手によって死んだ筈では!? 第一、あの男の記憶はインストールによって消去された筈です。なのに何故? 何故戻る事が出来たと言うのですか? 一体何故???) カーレンは次々と起こる不測の、想定外の、理解を超えた事態の数々に混乱した。 何故死んだ筈の地球人が生きているのか。何故魂のインストールによって消えた筈の人格が戻っているのか。 何故今刻の箱舟の艦橋に来ているのか。いったい何故? そんなカーレンの頭の片隅をある言葉が過ぎる。 (そんな……これじゃまるで……奇跡……) 「カマイタチによって出来た傷は……血が殆ど流れないし、後ですぐ治るのよ……知らなかったの? 博士さん」 呆然とするカーレンにカイラがしてやったりと言う顔で言い放った。 聖騎士三人もシエラとエルも、いつの間にかソラリアとタクトの奇跡を見て心に力を取り戻している。 「そんな事がーーーーー!!」 全て上手く行っていた筈の自分の計画が、奇跡などと言う曖昧でいい加減な要素に邪魔された。 カーレンは“奇跡の起きなかった自分の過去”を思い出し、頭を抱えて叫ぶのだった。 「声が聞こえたんだ」 傷だらけのタクトが言った。 「頑張ってるソラリアの声が、俺を呼び戻してくれたんだよ」 共にボロボロの傷だらけで見つめ合う二人は、しかし今までで一番輝いている。 「ありがとう、ソラリア」 「タクト!」 ソラリアが残った右手でタクトに抱きついた。 涙を流せない筈の魔神であるソラリアの目から大粒の涙が零れ落ちる。タクトの涙とソラリアの涙が混ざり合い一つとなって床を濡らしてゆく。その姿が美しくて、カーレンはただ眺めるしかなかった。 「こんな事、計算ではありえない……プログラム上ありえない……」 『過去に戻る方法』を旧神から教えられた時、カーレンは自分にも奇跡が起こったと思った。 その奇跡を無駄にしない為、数千年の間入念に計画を練ってと準備を整えこの日に備えて居たと言うのに……。 (まさか、愛の力だとでも言うのですか? 二人の愛が起こした奇跡だと) カーレンの脳裏に浮かぶ5千年前の記憶。 初めて好きになった男、異世界の戦士パイク。許されない想いと解りながら恋焦がれた日々。 その為に王の意に反して改造されてしまった事。女として終わったと絶望した日。 王の傀儡として戦い、重ねた罪はあまりにも重く……引き返せなくなった事。 好きなのに戦い、本気で殺そうとした。いや、一緒に死のうと思った。 それでも助けようとしてくれたのに、心はもう諦めていて……そして…… (私の時は奇跡なんて起きなかったのに……こんな体になって、愛してなんか貰えないと思ったのに……っ) カーレンの中に怒りとも嫉妬とも取れない、或いはその両方がない交ぜになった感情が急速に膨らむ。 何故自分じゃなかったのか?元人間の自分ではなく完全に機械のソラリアに何故神は奇跡などもたらすのか?理不尽にさえ思えるこの現状にカーレンは。 「ソラリアーーー!」 中央ホール上壁からカーレンが叫びかける。 「解っているのですか!? 貴女は機械なのですよ! 私に作られた紛い物の体と心で――魂など無いただのプログラムの存在が、本当に愛してもらえると思っているのですか!?」 それはソラリアにとって最も考えたくない事実だった。 何度も何度も考えた思い出したくない事実。それをカーレンはあからさまに突いたのだ。 「答えなさい! ソラリアーッ!!!!」 「ぅ……っ」 あまりに抜き身過ぎるその言葉がソラリアの心を深くえぐる。 ソラリアはタクトの事を信じている。信じているが、もしも万が一と考えると怖くて仕方ないのだ。 ――もしもタクトが自分を愛してくれていなかったら?―― その答えがもし、もし悲しい答えだったら……それこそがソラリアにとっては命を失うよりずっともっと恐ろしい事なのだ。 ソラリアはカーレンの問いに答えられないで居ると、タクトが突然両手でソラリアを抱きしめた。 「っ!?」 驚いたのはソラリアだ。 タクトは傷口が開くのもお構い無しに、力いっぱい冷たく傷つき果てたソラリアを抱きしめたのだから。 俯いていたソラリアがタクトの顔を見上げると、タクトは真剣な顔で告白した。 「ソラリア、俺は……俺は君が機械だって知ってたよ」 それはソラリアに伝えるように、そしてカーレンの問いに答えられないソラリアに代わりカーレンに答えるように、ハッキリとした口調だった。 「いや、始めは半信半疑だったけど、だんだん確信に変わっていって……水神の神殿で君がみんなの為に死にそうになった時、俺は君が機械なんだと解った」 「タクト……」 「君の気持ちには気付いていた。今まで女の子に好かれた事なんてなかったし、凄く嬉しかった。けど……すごく不安だった。君の心がもし、ただのプログラム、偽者だったらって」 心がプログラム――偽者かもしれないと言う不安は常にソラリアも気にしていた事だった。 自分の心が作り物の偽者なら、タクトへの気持ちもまた偽者になってしまうからだ。ソラリアを支える「タクトが好き」と言う感情が否定されてしまっては、もうソラリアに立ち上がる力は無い。 だがタクトはその不安に対する答えを言った。 「けどもう良いんだ。もうそんな事問題じゃない。だって俺は、君が……君が」 タクトの瞳にはソラリアしか映っていない。ソラリアの瞳にはタクトしか映っていない。 今二人の世界には二人しか存在しないかのような、そんな時間が数秒ほど続いて、そしてついにその言葉が紡がれた。 「君の事が、世界中の誰よりも好きだから」 「……っ」 ソラリアの瞳から再び涙が零れ落ちる。 今、ソラリアの願いは全て叶ったのだ。 「認めません! 機械と人間の愛など、私は認めない! 断じてっ! 決してっ!! 認める訳には行かないのです!!」 カーレンが叫んだ。 洗脳されて機械の体に改造された時、カーレンは愛される事を、結ばれる事を諦めた。 それなのに機械でも人に愛して貰えるなど、何の為に自分はあの時諦めたのか、数千年の人生全てを否定されかねない目の前の光景に、カーレンは目的を忘れ怒り狂った。 「ソラリア! 集積火粒子砲だっ! フルパワーの集積火粒子砲で、この刻の箱舟の中枢を破壊する!」 「でも私は、もう」 「俺が支える!」 カーレンが怒りに任せてエイミングレーザーを射出し周囲を破壊した。それによって引っかかっていた銀の鍵の剣が外れ再び黒い月のドッグの変形が開始される。 もう一刻の猶予も無い。変形が完成するまで五分とかから無いだろう。それまでに止めなければならない。 「そんな事をすればタクトが――」 確かにそれが最良の策だった。 カーレンを倒す事は出来ない。だが刻の箱舟を止める事なら出来る。ソラリア達にとっての勝利はあくまで箱舟を止めて世界を守る事。カーレンを倒さなくても良いのだ。 しかしそれをするには生身のタクトではあまりに危険すぎる。危険すぎるが――。 「いえ、ごめんなさい。私はタクトを信じるから。どこまでもずっと信じるから!」 「これが俺たち二人の、初めての共同作業だぁーーー!」 タクトが支え、ソラリアが撃つ。 ソラリアは黄金の鍵の剣にエネルギーを集積させて、最後のファイナルアタックを撃つ準備をした。 タクトは見に纏った王のマントを巻き直し、ソラリアと自分を包む様に防御体勢を取った。 「しかし、それでも私はもう後戻りできないのです。あまりに多くの犠牲を払いすぎた……今ここで、立ち止まる訳には行かないのです!」 刻の箱舟をバックに取られ攻撃を躊躇していたカーレンだが、このままでは取り返しのつかない事態になりかねない。 エイミングレーザーでは威力がありすぎて刻の箱舟を破損させてしまうが仕方ない。ソラリア達を葬ってから修理すれば良いと割り切って、カーレンは必殺の一撃を放った。 「エイミングレーザー! っなに!?」 しかし必殺の一撃はソラリア達の前に現れた黒いモヤのような物に吸収された。そのモヤから目の無い不気味な魚のようなものが苦しそうに跳ね、閃光と共に爆ぜモヤが吹き飛ぶ。 「光を食って闇を吐き出す魔獣さ。こんな所で役に立つとはね」 「二人の愛、確かに聞いたわ!」 【私達が盾になるから 今の内に早く】 カイラの旋風によってソラリアとタクトの前に降り立った三人の聖騎士達。 「みんな……っ!」 ソラリアとタクトによって希望を取り戻した三人は再び武器を取りカーレンに相対した。 「私達もいるぞ!」 「みんなで頑張ろうよ!」 「エルさんっ、シエラまで!」 そしてシエラのシルフィードの風で降りてきたシエラとエルも二人を庇うように武器を取った。 「貴女達ごとき! 一瞬でも時間稼ぎになるか!!」 被害を最小限に留めようと出力を絞ってエイミングレーザーを撃った事を後悔しつつ、カーレンは第二射のエネルギーをチャージする。 これがエイミングレーザー唯一の弱点だった。レーザーだけでなく偏光にエネルギーを食い過ぎる為、あまり連射には向かないのだ。 カーレンは既にレーザーを撃ちすぎてしまっている。もう一度放つには放熱とエネルギーチャージに数秒の時を要する。 「こいつでも食らえっ!」 「テンペスターを舐めるなぁー!」 【アンチマシンプログラム 発動!】 「最後の轟鉄弓を食らえ!」 「お姉ちゃん私も!」 その隙に五人がもう一度一斉攻撃を仕掛ける。それをカーレンはやはり訳も無く全て手で打ち払ってしまう。 「誰も彼も私の邪魔ばかりするなぁーーー!!」 カーレンが壁から落下する瓦礫を無造作に掴みソラリア達の方に向かって投げつけた。 魔神の力だからできる芸当だが、それは1トン以上ある鉄骨の瓦礫だ。直撃すれば全員まとめてあの世逝きとなりかねない。 だがそれをカイラとシエラが協力して放った精霊の風が防ぎ、カーレンの攻撃は失敗に終わったと思われたが――。 「終わりですソラリア! エイミングレーザー!!」 カーレンは既にエネルギーチャージを完了していた。 鉄骨の攻撃で崩された五人のフォーメーションの穴を突いて光の矢が二人に突き刺さる。もう駄目だと思ったその瞬間。 (放熱による大気の揺らぎでレーザーが――!?) 集積火粒子砲のチャージで鍵の剣の先には高熱のエネルギーが溜まっていた。そのプラズマ球の発する熱で周辺の空気に揺らぎが起こり、レーザーの着弾がズレて外れてしまったのだ。 「集積火粒子砲! ファイヤーーー!!!!!!!!」 そして放たれたファイナルアタック『集積火粒子砲』。その赫い光は刻の箱舟の艦橋を貫き中心・エネルギー変換ユニットを撃ち抜いた。 (あの時だ……あの時、もっと素直になっていれば……素直に助けてと言えていれば、こんな事には……) 刻の箱舟のあちこちで連鎖的に爆発が起こる。 自分の夢を乗せた船が燃え散る様を見ながらカーレンの脳裏に過ぎるのは楽しかった思い出。 「パイク――」 目の前でその夢が、思い出が燃え行く様を見ながら、カーレンは力を失い艦橋へと落ちていった。 「そんな……」 崩壊する黒い月の中で燃える箱舟の甲板の上、シエラ達五人が脱出の準備を整え脱出した後、タクトとソラリアはカーレンから衝撃の事実を知らされた。 「ソラリアは自己修復機能までも破壊されています。助かる道はただ一つ、そのカプセルに入り自動修復を受ける事です」 ソラリアが戦いで負ったダメージは深刻だった。このままでは数日で機能停止=死に至るだろうと。 タクトはソラリアを助ける為、艦橋で死を待つカーレンを助け出しソラリアが助ける方法を聞いたのだ。 「ただしそれだけの損傷、完全修復には百年の時を要するでしょう。もうパーツは無いのですから」 意外だったのは自分の夢をぶち壊した二人に、カーレンが素直に答えを教えてくれた事だった。 曰く「夢が費えた今もう何のこだわりも無い」との事だったが、この答えを聞く限りひょっとして目的は他にあるんじゃないかとタクトは疑わしく思えた。 「さぁ見せて下さい。機械と人間、二人の気持ちが真実の愛であるのかを」 カーレンは二人と話している筈なのに、まるで遠くどこか別の場所を見ているように目を泳がせていた。 昔の楽しかった思い出・メモリーを繰り返し見ているのだ。今の彼女にはもうそれしか残っていなかったから。 そのカーレンが二人の真実の愛を見せろと言う……もしかしてこれはカーレンの心ばかりの意趣返しなのではないかと思いつつ、タクトはソラリアを抱いてカプセルの前まで来た。 非常用脱出ポッドとして使えるカプセルはこの一つきり。初めて二人が出会った時にソラリアが入っていたカプセルと同じだ。 「タクト……」 「……」 百年間目覚める事のない眠り。ソラリアが再び起きた時には、もうタクトはこの世に居ないだろう。 ソラリアはタクトに百年自分を待つ事を求めるだろうか? 人間の一度きりしかない人生を、死ぬまで目覚める事のない自分の為に捧げさせる事が出来るだろうか? 或いはこのまま、死を選ぶ事がソラリアにとって一番幸せなのかもしれない。 だがタクトは、ソラリアの死を見過ごす事など出来ない筈だ。 助かる可能性があるのに、みすみす死なせる事など決して出来ないだろう。 生きさえいれば、百年後、タクトに代わり新しくソラリアを愛してくれる者が見つかるかもしれないのだから。 人間は心変わりする。それが悲しみを乗り越え生きて行く為に備わった人の力だ。 だが機械の心もそうであろうか?ソラリアは、タクト以外の男を好きになれるだろうか? 無理かもしれない。ソラリアの心のプログラムに刻まれた男は、久我タクトただ一人なのだから。 ソラリアは思う。 自分は生きていても何もタクトにしてあげられない。辛い思いを強いるだけだろう、と。 ならいっそ、自分はここで消え去り、タクトには新しい道を歩んでもらった方がタクトは幸せになれるのではないか、と。 「……」 ソラリアはふと、タクトが自分の事を忘れ、誰か他の人間の女性と幸せに暮らしている所を想像した。 幸せな光景。なのに胸が張り裂けそうな程悲しい光景。 「――っ」 ソラリアはギュッと目を瞑った。 本当は誰にも渡したく無い。自分が誰よりも一番愛されていたい。いつだってタクトの側にいたい。一番必要とされていたい。自分だけのタクトでいて欲しい。 そう思うのは女性なら当然の、嘘偽り無い真実の心だろう。 だがそれは叶わない夢だった。 始めからそうだったのかもしれない。 好きな人と同じ物を食べ、子供を産み、一緒に年老いてゆく。 そんな当たり前の事が、ソラリアにとっては願うべくも無い素晴らしい……。 (永遠の若さなんていらない――人並み外れた能力なんて要らない――ただ私はタクトと同じように生き、同じように死にたい――ただ――それだけ) 何故こんな事になってしまったのだろうか? 何度も何度も、タクトを守る為必死に戦い続けた結末がこれなのか。 もう時は戻らない。 人間の久我タクトと、機械のソラリア=ソーサリーは結ばれない。 これが現実。二人の物語の終着点だった。 「やっぱり奇跡なんてありませんでしたね」 「……タクト……」 カーレンの瞳にソラリアは一度視線を戻した。 その瞳が物語っている。貴女も私と同じ答えを選ぶはず、と。 このまま生き永らえてタクトを失うくらいだったら、タクトのいない未来なんかいらない。 ――タクトの思い出になりたい―― 「あなた一人で――」 「俺と一緒に死ぬか? ソラリア」 「あなた一人で逃げて」その言葉が紡がれる前に、タクトの言葉がソラリアの胸を打った。 誰だって死にたくない。死は恐い筈なのに、それより愛する人と別れる方が怖いと言うのか。 ソラリアが考えている間、タクトもまた考えていたのだ。だがそれは自分自身の為にではない。どこまでもソラリアの為。 好きな人が寂しくないように、自分も一緒に逝こうと言う究極の優しさだった。 「タクト……っ」 かつて愛とは何かと言う問いに、無償の優しさと答えた詩人がいた。 人間・久我タクトは、心を持った機械ソラリア=ソーサリーの為に死のうと言ったのだ。 機械に過ぎないソラリアの心の為に……。 「ありがとう」 ソラリアの瞳から大粒の涙がこぼれた。 魔神には感情によって涙を流す機能など無い。それでもソラリアの目からは涙が零れ落ちたのだ。 体はボロボロで今にも機能停止しそうだけれど、ソラリアは今が一番幸せな瞬間と感じた。 「ずっと一緒だ」 醜く壊れ果てた機械の体を抱きしめられながら、ソラリアはやっと全てが報われたのだと思った。 「黒い月が崩壊する」 「地上は大丈夫かな」 動力回路の中枢を破壊された箱舟と黒い月は、既にマリオネットポイントを外れ嵐神の猛風の中落下を続けていた。 シエラやエル、聖騎士達は既にここを脱出している。残っているのはソラリア、タクト、そしてカーレンの三人だけだ。 「博士、最後に教えて下さい」 「私に分かる事なら」 崩壊を続ける黒い月の中で三人は語らう。もう戦いは終わったのだ。今更足掻く者は誰もいなかった。 刻の箱舟による時間跳躍現象はもう起こらない。 つまりソラリアは過去に戻りタクトと出逢う事も無く、カーレンと戦う事も無くなる筈だ。 ならば黒い月が破壊される事も無くなり、カーレン達は今も王の器をソラリアやミィレスが連れて来るのを待ち続ける事になる筈だ。 「私にも、魂はありますか?」 「ソラリア……」 それではこの結末自体が歴史の改竄になるのではないのか? いや、そうはならない。 時の修正作用が働き、黒い月が崩壊しソラリアも魔神も、この世界から居なくなると言う結末は変わらないからだ。 「わかりません」 始まりは何だったか? ソラリアは始めカーレンの定めたプログラム通り、タクトを黒い月に連れて来た。 タクトが消えると知り、それを止めようとしたがアクシズ三姉妹には敵わず、刻の箱舟は起動してしまう。 そして刻の箱舟は、この世界の時空間法則により時間跳躍を失敗。溢れるマナのエネルギーによって黒い月は崩壊する。 だが開きかけた時の狭間に飲み込まれ、ソラリアだけが過去の世界に飛ばされ、カプセル内で修復を待ちながらタクトを待つ。 百年と言う修復期間の中で一時的に記憶を失ったソラリアは、再びタクトと出逢い黒い月に行くのだ。 「タクト……あなたと逢えて嬉しかった」 自己修復機能を備えた魔神の耐久年数は約一万年。その寿命が尽きかける程に、ソラリアは幾度と無くやり直してきた。 タクトと過ごす時間だけがソラリアの生きた時間。 タクトの為に戦った事だけがソラリアの生きた意味。 タクトを好きになった気持ちだけがソラリアの……。 「俺も嬉しかったよ。こうなった事に何も……何も後悔は無い」 この世界では生き物には全て魂があり、その魂は死した後奈落へと帰り、そして再び地上に生まれてくる。 その輪廻の輪の外に居るソラリアは、もし生まれ変わってもと言う夢を抱く事さえ許されない。 カーレンは魔神に魂など無い事を知っていた。知っていたがソラリアにそれを告げるのは躊躇われた。だが嘘をつく事も出来なかったカーレンは「わからない」と答えたのだ。 何故なら「わからない」と答えれば、心を持ったソラリアならもしかしたら、何らかの理由で奇跡のような事が起こるかもしれないと希望を抱けるから。 「あなたと同じ所には逝けないけれど……さようなら、タクト」 「え? ――わっ!?」 ソラリアは最後に残ったエネルギーを振り絞ってタクトの体を押した。 タクトはそのままソラリアが入る筈だったカプセルに倒れ、タクトを乗せたカプセルはそのまま脱出ポッドとなり気密扉を閉めた。 「本当に、これで良かったのですね?」 「……はい」 強化テクタイトのガラスの向こうでタクトが何か必死に叫んでいる。 ガラスを叩く手に血が滲む程、力の限りソラリアに何か伝えようとしている。 「もう時間がありません。最後に言い残す事はありませんか?」 ソラリアはタクトの言いたい事は分かった。だがそれを聞く訳にはいかない。 「タクトさん……私」 全ての魔神は消えるのだ。そしてソラリアはこの世界から消える。 それは“この世界から存在が消える”と言う事。“ソラリア=ソーサリーとの記憶も消える”と言う事。 「私のこと、忘れな――」 そう言った時、カプセルのロックが壊れタクトは地上へと落ちた。 『ソラリアーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!』 蒼穹の空にタクトの叫びが消えてゆく。 新天地の空に魔神達が消えてゆく。 遙かなる空へソラリアの夢が消えてゆく。 抜けるような青空に、ひと夏の思い出となって消えてゆく……。 こうして地球人・久我タクトの異世界新天地での冒険の旅は、終わりを迎えたのだった。 ~ epilogue ~ 本当は誰にも渡したく無い。 自分が誰よりも一番愛されていたい。 いつだってタクトの側にいたい。 一番必要とされていたい。 自分だけのタクトでいて欲しい。 機械少女の夢は儚く空に散った。 青年の心に思い出と後悔だけを残しながら。 ホコリとカビの臭いの中、俺は打ちつけた腰をさすりつつ周囲を見回した。 天から差し込む光は俺が落ちてきた穴の高さを教えてくれている。結構な高さだ。 この高さから落ちて助かったのは、足元の大量のガラクタと砂の山がクッションになったからだろう。 俺は立ち上がりつつ自分の体の機能を確かめる。どうやら骨折などは無いようだ。 「おーい、大丈夫かー!」 「お兄ちゃーん、返事してーーー!」 俺が落ちてきた穴からエルとシエラの声が聞こえる。 ここはオルニトから見放された土地、新天地にある遺跡……下だ。 黒い月が落着した場所は、奇しくも俺がソラリアと初めて出逢った遺跡『メランコリア』近傍だった。遺跡が受けた被害調査に、俺達は協力しているのだ。 「大丈夫ー! 無事だよー!」 上の二人に返事を返しつつ俺は落下した砂とガラクタの山を眺めて物思いに耽った。 あの時と同じだ。つい数ヶ月前の事なのに、今はこんなに懐かしく感じる。目を閉じれば昨日のことの様に思い出せると言うのに、彼女は手の届かぬ遠くへと行ってしまった。 瞼の裏に浮かび上がるソラリアの顔。 「私が運命を切り開きます。タクトさんも……私も……絶対に死なない!!」 「私……一体何なんでしょうね……自分で……自分の事が分かりません」 「タクトさん、私……」 「そう、私は何度も繰り返してきた。この戦いを。タクトと出逢い、旅し、別れるまでの時間を。ずっと……」 「ずっと、ずうっと一緒よ!」 「私のこと、忘れな――」 ソラリア――俺を初めて好きと言ってくれた女の子。守れなかった。ずっと一緒だと約束したのに。 「ごめん……ソラリア……」 そう呟いた時、地下空間に一瞬の静寂が訪れた。調査団や風が立てる音が消えた奇跡の瞬間。その瞬間に、時計の音が聞こえたのだ。 カチ カチ カチ カチ カチ 「え――」 この時計の音に俺は聞き覚えがある。 時計仕掛けの女の子――ソラリアの命の鼓動の音。 「まさか――まさかそんな!」 一瞬だけど微かに、だが確かに聞こえた音を頼りに俺は周囲を見回して駆け出した。 今は黒い月の破片で滅茶苦茶になっているが、ここは確かに俺とソラリアが初めて出逢った場所だったのだ。 そう、俺とソラリアが出会った場所――。 「光……だ……」 光があった。 およそこの精霊文化、魔法文明の世界に似つかわしくない無機質な光が。 その光の中にあったもの、それは人間の女の子……黒い髪の少女だった。 光の正体はかつて見た、あの魔神が眠るカプセル。或いは俺が地上に逃げる事が出来た脱出救命ポッドのような物。 上の方から「今助けに行くね~」と言う声が聞こえてくるが、もうその時周りの声など耳に届かなくなっていた。 「ソラリア……そんなまさか……」 在り得ない――あまりにも在り得ない光景を目にして、俺の思考はすっかり遥か彼方に飛んでいってしまったのだ。 もしかしたら別のソーサリー型魔神なのかもしれない。でももしかしたらソラリアかもしれない。 俺がカプセルに手を伸ばそうとした時、カプセルから カチリ と音がして、冷気と共にカプセルの扉が開かれる。 「……」 言葉が出なかった。 嬉しいような、でも怖いような、不思議な感情に俺は体が固まっていた。 その俺の目の前で彼女はゆっくりと目を開けて言ったのだ。 「ただいま、タクト」 カプセルのガラス扉には install 100% completeの文字が浮かび上がっている。 そうか、そう言う事か。あのカーレンと言う人が……。 これ以上は何も言うまい。俺は溢れ出る涙もそのままに、もう二度と離さないように強く強くソラリアの小さい肩を抱いた。 「おかえり、ソラリア」 ソラリアの体は温かく、今にも壊れそうなほど儚く華奢に感じられた。 これから止まっていた二人の運命が、ゆっくりと時を刻み始めるのだ。 異世界冒険譚-蒼穹のソラリア- ~完~ true end Happy end Bad end 思っていたよりも綺麗で透き通った結末でした。予想を何度も越えていくという面でも面白かったです。お疲れ様でした! -- (としあき) 2013-11-30 23 12 10 後の三種エンドはおまけとみておいても清々しい結末でした。 世界観の中のひとつの物語として出来上がった要素がこれからどう広がる広げていくのかが楽しみです -- (名無しさん) 2013-12-13 22 34 08 イレヴンズゲートの世界観設定から離れていると思われる部分もありましたが確固としたシリーズ像を最後まで通したのは素晴らしいの一言でした。全体が部構成で雰囲気が変わっていくので最後の感動を体験するために最初から読むのが良いと思います。面々がその後の世界でどういった行動をとるのか思いを馳せつつ読了です -- (名無しさん) 2018-07-08 19 17 10 名前 コメント すべてのコメントを見る
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,ノ彡イァ { .、 ,.. ‐… …‐- .. f彡彡ノ ヽ \ / \. |彡彡フ (ミミミ>x. , ' \ \ \j彡彡フ >ミミミ>x. / ! 、 \ ヽ \彡' `≧ミミミミミ V |\ .\ 厶-- 、 ', 「\ ≧三三ミi |i l | _,.斗、 \ \ ヽ |》《| 、 ≧三ニ|i |l l 「 リ \ \二ニミ! ! \ { 、 `=彡リ || 、.从ニ-‐ fi以.] 「} \` ヽミ .、 ,彡| i | \\ィf爪_ '´ ,ハ . |' . \ >x. ノ| l r\`ゞ'´ ' /l リ i ', (ミミミミ>x. Nヘ 弋__, ミ=- c / ノイ | ヽ ( ミミミミミヽ ヽ _i_ >=ニコ /|ニニコ ! \ ≧三三ミ\. '´ \ | l≧升=| | l」 _ \ \ / ) -=ニ三三ミ/ ヽヽヽ≫x 》, └┐! \`丶、 / / ノ彡/ | | . . . .≫》,ニ=┴-=ニ上_ 、 `丶、 ./ / / | | . . . . . . . . \ . . . . . . . . . . . '; \ `丶、 /^))′ _ 丶 / | | . ヽ . . i \ / ,xく、 _,.ィ彡≧=-,,,_\ / | }}, ;<ト、_;>ァ' ./ ヽ (三三三三三彡彡彡彡彡彡]二二二二l. | | 〃《 ノ ,ノ }} ]つ ヽ (三三三彡彡彡彡ノー'´ |\\ |== __,! ! 〃 '《 ';下=彡'^ァ" ヽ ‘ー==‐'´ |. \]ィ'二=-┘ 〃 ゙《 '; / /i ヽ _,.ィ[二ニコ(´ ヽ . . ._,〃 . . . . . . .゙《 i / i | ヽ ヽ _,.ィ彡彡ノ|/ | 「下T¬ム- '´>〈 . . . . . . . . ゙《 |' ! ! ヽ ヽ _,.ィ彡彡彡彡ィj___{ │ | i| 〈_>'´ . . . 》, . . . . . /,\l l ハ ハ ヽ]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]]] 【スピカ】 種族:リインフォース+9 ♀ Lv1 どてんねん HP 450 MP 650 悪魔系 こうげきりょく … D しゅびりょく … C- すばやさ … C- (D+) かしこさ … S- せいしん … A こうかんど … 70 ちゅうせい … +55 【職業】 メイン/サブ ルーンナイト★3/がくしゃ★2 【職歴】 B まほうつかい:極 B そうりょ:極 C ぎんゆうじしん:極 上 けんじゃ:極 上 れんきんじゅつし★4 【呪文】 [ ギガデイン 消費12 / 敵一列に巨大な雷を降らせる【デイン系】 [ バギクロス 消費9 / 敵一列を巨大な竜巻が切り裂く [ イオナズン 消費12 / 敵全体に大ダメージを与える【イオ系】 [ マヒアロス 消費18 / 敵一列に絶対零度の氷風を叩きつける。【ヒャド系】【バギ系】 [ ベタン 消費20 / 敵単体に「対象の現在HPの半分」のダメージを与える。失敗する場合やダメージを軽減される場合もある【ベタン系】 [ イオラゴン 消費22 / 爆発と閃光で敵全体を吹き飛ばす合体上位魔法。【イオ系】【ギラ系】 [ メラガイアー 消費43 / 敵単体に灼熱の火球をぶつける「メラ」系最強呪文【メラ系】 [ マヒャデドス 消費45 / 敵全体を完全に凍結させて砕く「ヒャド」系最強呪文。【ヒャド系】 [ ギラグレイド 消費48 / 敵一列に超高温の閃光を浴びせ消滅させる「ギラ」系最強呪文。【ギラ系】 [ メドローア+ 消費78 / 極大消滅呪文。テンションを1段階消費する。防御系特性・耐性を無効化する。【メラ系】【ヒャド系】 [ リザイア 消費180 / 与えたダメージと同じだけ自分のHPを回復する。【闇系】 [ デモンズゲート 消費260 / 敵一体を冥府の底に引きずり込んでダメージを与える。自分の残HPが低いほど威力が上がる。【闇】 [ マダンテ 消費全 / 残りMPに応じてダメージを与える。対象を単体か全体で選択できる【必殺】 [ マホカンタ 消費8 / 魔法を跳ね返す障壁を貼る、跳ね返せる回数は「せいしん」に依存する [ スクルシオン 消費22 / 仲間全員のしゅびりょくとこうげきりょくを上昇させる [ ピオンテラ 消費22 / 仲間全員のかしこさとすばやさを上昇させる [ パルプンテ 消費20 / 何が起こるかわからない [ 勝利の女神 消費35 / 仲間一体の特性発動率を上昇させる、特性併用不能。1戦闘1回。 [ ディヴィジョン 消費100 / そのターン、仲間一体が受けるダメージの半分を自分に移し替える。【セ】 [ ニフラーヤ 消費10 / 死者の魂を成仏させ、天へ送り返す【ニフラム系】 [ リリルーラ 消費1 / 同じ世界にいる仲間の場所へ合流できる [ ルーラ 消費8 / 現在居る世界の中から、一度行ったことのある場所に移動する [ マフール 消費12 / 敵全体のかしこさを下げる [ ヘナトス 消費12 / 敵全体のこうげきりょくを下げる [ マジックバリア 消費6 / 数ターンの間、仲間が受ける魔法の効果を減衰するバリアを張る 【特技】 [ アカシックバスター 消費30 / 巨大な火の鳥を召喚し叩きつける、魔法としても扱われる【火炎系】【バギ系】 [ こうようのうた 消費30 / 自分以外の仲間一体のテンションをあげる。テンションが0の仲間に使用した場合、「きあいため」状態にする。1T1回。【歌】 [ せんそうのうた 消費18 / 味方全員のこうげきりょくとしゅびりょくを上昇させる【歌】 [ まふうじのうた 消費8 / 敵全体の呪文を封じ込める歌【歌】 [ ダウンブレイク 消費8 / ダメージを与えつつこうげきりょくを下げる【格闘】 [ ポーションピッチ 消費20 / 薬を製造して仲間に投げつける。仲間1体のMPを回復させる。 【パッシブスキル】 [ 知恵の泉+ / 様々な知識を習熟している、MPの成長にボーナス [ 鋼の錬金術師 / 天性の素養、職業についていなくても「れんきんじゅつし」として扱われ、熟練が上昇する [ 禁書目録 / 「究極魔法」に関する知識を収集している [ ハッピーギフト / 自分がいるPTのレベルが少し上がり易くなる [ ふわふわ時間 / 「歌系」の特技を使用した際、味方全体のHPを回復する [ 風の魔装機神 / 風の司る。「バギ系」の呪文、特技の威力が上昇し、中確率でダメージを無効化する。 [ 天照大神 / 天照大神の欠片、神性を持つ。「火炎系」から受けるダメージを中確率で無効化し、自分のMPを回復する [ エレメントユーザー / 単一属性の攻撃呪文の威力を増加させる [ さいしょにインテ / 戦闘開始時に中確率で自分にインテを使用する [ 闇の素質 / 「闇系」の呪文・特技の素質がある。 [ 錬金術 / アイテム一つを同ランクの別系統アイテムに変換する。成否は安価で決定 [ アイテム合成 / アイテムを複数選び、合成して別のアイテムを作り出す。成否は安価で決定 [ アンチスペルロック / 「マホトーン」にならない。 [ 魔力還元 / 戦闘不能になった際、一番交流度の高い仲間にステータス上昇を分け与える。 [ ダンタリアンの書架+ / 膨大な魔力や効果、無数の知識を記した「幻書」を保管している「書架」にして「閲覧者」 [ 姫君の基質 / 「かばう」が使える仲間がいる場合、大ダメージを受けそうになった際自動で使用させる。 [ ホーリーコール / 登場時に味方全員のテンションを上昇させる。 ※「リーダー」と重複しない。 [ 魔力還元 / 戦闘不能になった際、一番交流度の高い仲間にステータス上昇を分け与える。 [ 文学少女 / 普通の物が食べられない。「本」あるいは「物語」を食べる。特定の分野において能力を発揮する。 [ ツッコミ衝動+ / 突っ込まずには居られない衝動、悪化した。 【アクティブスキル】 [ 魂の錬成x / 仲間一体のHPが0になった際、自分の「戦闘離脱」と引き換えにHPを最大にして復活させる。1戦闘1回。 [ 合体魔法x / 覚えている魔法を合体させて使用する、場合によって様々な効果を発生する、 相性の悪い魔法同士を組み合わせると暴発の可能性がある [ ダブルスペルx / 違う種類の攻撃魔法を同時に使用できる。それぞれ消費MPが二倍になる、1戦闘1回 [ 真理への到達x / 敵に影響を与えない「呪文」を使用した際、同時に別の行動を行う。 [ 金毛玉面九尾x / 自らの生命と引き換えにそれぞれ別の「呪文」を最大9回同時に使用する。4回目以降は1つ使用毎にテンションを1消費し、「突破」を付与できない。 [ 鴬語花舞x / 「踊り」「歌」を使用した際、同じ「踊り」「歌」以外の行動を追加で行える。 [ スペルインターセプトx / 指定した敵一体が使用した呪文を無効化する。1戦闘1回。 [ オーバーザスターライトx / 「歌」の対象となった仲間1体の状態異常を回復し低確率で「ほしのひかり」状態にする [ 究極魔法の素養x / 魔法指定時に使用することで消費MP2倍、効果量を1.5倍にする [ 究極魔法の素養Ⅱx / 味方を強化する補助呪文の消費MPを3倍にする、この呪文によるステータス上昇は低下を受けても元に戻らない。 [ 究極魔法の素養Ⅲy / 「究極魔法の素養」か「素養Ⅱ」と他のアクティブスキルを同時に使用する。複数行動をする場合は最初の1回のみ適用。1戦闘1回。 [ 水天日光天照八野鎮石y / 呪文を九回使用後に宣言可能。そのターン、味方全体のMP消費が0になる。1戦闘1回 【耐性】 [ 即死耐性 / 【耐性】「即死」 [ 完全習熟耐性Ⅱ / 自分が覚えている攻撃呪文及びその下位魔法を吸収してMPを回復する。【究極魔法】 ダンテゲージ 8 ※xとついた特性は任意発動 【書架一覧】 [ 覚醒の書 / 他者の覚醒に関する記述が明記された本、仲間のステータス1つの上限値をあげる。1世代1回 [ 絆の書 / 他者との絆に関する記述が記された本、仲間のモンスター同士の繋がりが記される [ 夜天の魔導書 / @666P
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「お~~~い」 「みんな無事か~」 ソラリアがタクトを探して再び黒い月の入り口に差し掛かった時、門の奥から声が聞こえてきた。 「シエラ、エル。無事だったのか」 それはシエラとエル二人の声だった。 リンネと戦い惨敗を喫した二人だったが、何とか致命傷は免れていた為傷の応急手当と体力の回復を待ちここに隠れていたのだ。 体中痛むがこんな時にこれ以上休んでは居られない。動けるようになったからソラリアやタクトを探していたのだった。 「探したぞソラリア」 「良かったぁ、ソラリンも無事だったんだね!」 ボロボロだが五体満足で帰ってきたソラリアを見て二人は安堵のため息をついた。 ソラリアが強い事は知っていた。だがいざ実際にリンネの、魔神の恐怖を体験した二人は心配でならなかったのだ。 タクトもアクシズ三姉妹にさらわれ行方知れずのままだし、今こうしてソラリアの無事が確認できただけでも上場だったのだが……。 「ごめんね、私があんな事言ったから……ごめんね。本当にごめんね」 「もう気にしていないよ。ほら、涙を拭いて」 シエラがソラリアに謝った。 少女はここに来るまでもずっと気に病んでいたのだ。 あんな事があったとは言え自分の言葉でソラリアが傷ついて出て行ってしまった。それがここ黒い月での戦いの始まりだったのだから。 こんな悪魔が住む場所に来て激しい戦闘を繰り広げて、もしもソラリアが死んでしまったら自分のせいだと己を責め続けていたのだ。 だがそんな彼女にソラリアは優しく微笑み涙を拭いてやった。そう、これは誰のせいでもない。他ならぬ自分の運命だったから。 「雰囲気が変わったな。記憶を……取り戻したのか?」 「えぇ、全て取り戻したよ。全て、ね」 「そうか良かったな」 ソラリアの変化にいち早く気付いたエルが尋ねた。 ソラリアが記憶喪失だった事は周知の事実だったが、ソラリアが何故ここに向かったのかエルはずっと考えていた。 聖騎士達から聞かされた事はここ黒い月が魔神達の故郷のような場所だと言う事。ならばソラリアは自分が魔神だと言う事を知って、当然故郷に戻れば失った記憶を取り戻せるかもしれないと考えたのだろう。 だがまさかそれが、こんな戦闘状況にまで発展する事になるとは夢にも思わなかったが。 「それよりタクトは?」 「お兄ちゃんは……」 「それについては話がある。こっちに来てくれ」 ソラリアはシエラと再開の喜びを分かち合った後、二人にタクトの行方を知らないか尋ねた。 当然の成り行きだ。ソラリアはタクトを助ける為ミィレスと戦ったし、記憶を取り戻してからもタクトの為アクシズ三姉妹の次女・ヒュントと戦った。 ソラリアの戦いは常にタクトの為なのだ。 だがその肝心のタクトは取り戻せず、今どうなっているかも分からない状態。タクトの無事を確認するまで安心は出来なかった。 「……」 「そうか、タクトはやはりカーレンに……」 二人はソラリアと出会う前、聖騎士三人とも出会っていた。 ソラリアはヒュントとの戦闘で負った傷が回復するまで移動もままならなかったからだ。 その間に二人が聞いた話は、ソラリアが最も恐れていた事態そのものだった。 「ストレンジャーが教えてくれた。奴等は、カーレン=フォーマルハウトは時間跳躍をしようとしている。そしてその為には、この世界の殆どの精霊エネルギーを使ってしまうと」 「戻った先で奴は歴史を改変するつもりだ。千体の魔神を使って、自分の思い通りの歴史をやり直すつもりなんだ」 説明を聞いている間もソラリアは気が気ではなかった。 何故なら彼女は他の五人が知っている情報は既に知っていたからだ。そしてその為にタクトがどうなってしまうのかも……。 「精霊が死滅したら、この世界の自然バランスは完全に崩れてしまうわ」 【天変地異が起こって生き物の住めない星になっちゃう】 確かに装置が起動すれば精霊エネルギー、マナは大量に失われ時空の裂け目はこの大地を引き裂くだろう。 だがソラリアはその先を知らない。 ソラリアの知識はそこまでで終わっているのだ。 「私はタクトを助けに行く。それが私の生きる目的であり、全ての望みなのだから」 だからソラリアにはタクトこそが全てだったのだ。タクトを助け装置の起動を阻止する。いや、最低でもタクトを連れてどこか遠くへ逃げられれば良いと思っていた。 「その道がカーレンの野望を阻止する事に繋がっているのなら、私達も同行するよ」 「ここまできたら乗りかかった船だし、行ってあげるわよ」 【みんなで戦えばきっと勝てるよ】 「そうだそうだ! えい、えい、おー! だよっ」 だが彼女が知り合った五人はあまりにも眩しくて……。 ソラリアもタクトも元は地球の出身だ。異世界がダメになっても地球に逃げれば良い。だがこの五人は異世界こそが故郷であり守るべき大切な場所なのだ。 代わりなんて無い。何としても守り抜きたい唯一の世界。そこを守る為に強大な敵にも立ち向かおうと言う勇気を持っている。自分の為だけではない、もっと大きな物の為に戦っているのだ。 「……」 それが解るからこそソラリアは自分の卑小さが申し訳なかった。 こんな自分を仲間と思って心配してくれる二人に申し訳が立たない気持ちだった。 だがそれでも、どうしても彼女の心の一番深くにあるのはタクトの優しさ、温もりだったのだ。優先順位一はタクト、これは動かしようの無い真の心だから。 「ソラリア、その前に一つ聞いておきたい事がある」 「エル」 エルに話しかけられソラリアはドキリとした。 ありえない事だが、こんな自分勝手な心の奥底を見透かされていないかと不安になったからだ。 「さっきタクトの事を聞いて「やはり」と言っていたな。ソラリア、あんたはもしかして……」 だからせめて、心の奥底だけは秘密にする代わりに他の事は何でも話そうと思った。 自分の秘密も、何もかもを。 「そうだ。私は……」 五人が固唾を呑んで見守る中、とうとうソラリアは秘密を打ち明けるのだった。 「私は……時間跳躍者なんだ』 五人の動きがピタリと止まった。 「カーレン、箱舟の準備はどうか?」 「はい、万事順調に進んでいます」 玉座に座った男が尋ねると、カーレンは跪いてそう答えた。 暗いコンソールの明かりだけが周囲を照らす部屋で、男はその様を満足げに眺めている。 「後は王、御自らが『刻の箱舟』の起動指示を出されれば、刻の箱舟はマナを吸収し5千年前の過去に飛ぶ事が出来ます」 「ふむ、流石カーレン。我が右腕よ」 王と呼ばれた男はそう言うと、カーレンの細い顎を手でクイと上げ水晶のように透き通った美しい瞳を見つめた。 まるで瞳の奥に隠した本心を窺うように、ジィと黙って数秒程見続けたあと、急にその手を彼女の豊満な乳房へと伸ばしたのだ。 ピクリ その一瞬、一瞬だけカーレンの体が身じろぎ、そしてすぐにまた微動だにしなくなった。それからも王はカーレンの瞳を見据えながら乳房を揉みしだいている。 その間、カーレンは顔色一つ変えず王に成されるがままとなっていた。反応を示したのは最初のほんの一瞬のみ。王はつまらなそうに手を離した。 「時が惜しい。さっさと箱舟へと参ろうか、カーレン」 「御意」 カーレンは王を嫌っていた。だが洗脳を受けている彼女は王に逆らう事は出来ない。 それは魔神となった今も変わらず、五千年経ってもその呪縛から解き放たれる事は無かったのだ。 汚された顎と胸を気にしながら、カーレンはそれを手で拭う事さえ出来なかった。 「そう、私は何度も繰り返してきた。この戦いを。タクトと出逢い、旅し、別れるまでの時間を。ずっと……」 それは五人にとっては残酷な知らせだった。 何故なら、ソラリアの発言は即ち『五人が敗北する未来』を意味しているのだから。 「それが私の知る記憶の全てなんだ。この、まるでエンドレスワルツ(終わりの無い円舞曲)のような時間だけが、私の全てなんだ」 五人は衝撃の事実に唖然とした。 アクシズ三姉妹を倒した。あの三人は最強の魔神ではなかったのか?それともこの後、千体の魔神が起動して自分達は成す術無くやられてしまうのか? いや、それは無い。あの千体の魔神はカーレンが、天上王が五千年前の人魔戦争の結末を変える為に使う筈なのだから。 ならば考えられる障害は――。 「我々は勝てるのか? あのカーレンと言う女に」 「……勝てない」 今度はハッキリとソラリアが結末を言った。 「何故ならカーレンもまた、自分を魔神へと改造していたからだ」 そう、ソラリアは何度と無く同じ時をやり直してきた。いや、やり直させられてきたと言った方が正確か。 カーレンは歴史の改竄をしようと黒い月の中枢装置、刻の箱舟で過去に戻ろうとしている。 そこに記憶を失ったソラリアは、カーレンの定めたプログラム通りに王の器――聖杯となる地球人であるタクトを導いてしまう。 黒い月で記憶を取り戻したソラリアは世界と引き換えに自分の望みを叶えようとするカーレンの野望を阻止する為戦い、そしてその戦いの末、カーレンに負けてタクトも死なせてしまう。 しかし歴史の改竄などこの世界の神が許す筈も無く、原初の大神である時の神によって時の箱舟は上手く起動せず、ソラリアだけが過去に飛ばされるのだ。 そうして何度も繰り返してきた戦い……戦いだけがソラリアの記憶だった。 「全ての魔神には生まれつき戦闘ランクが定められている。私やミィレスはフェイズ3、それより新型のアクシズ三姉妹はフェイズ4。通常、下位の魔神が上位フェイズの機種に勝つ事はありえない」 だがそんな記憶の中で、ソラリアの心を支えるものがタクトと仲間達だった。 「だが私はアクシズ三姉妹の性能を知っていた。武装、性格、戦闘プログラム……フェイズ3の私がフェイズ4のヒュントに勝てたのは、戦闘経験の差があるからなんだ。だが博士は……」 タクトとの出逢いはプログラムされていたものだった。仕組まれた運命、だがタクトと仲間達と過ごした日々は偽りではない。 苦しくも楽しかった日々だけは、決して偽者ではない、ソラリアだけの物だ。 「カーレン博士は寿命で死ぬ前に自分自身を魔神に改造している。彼女自身が彼女の最高傑作なんだ。その戦闘ランクはフェイズ5……史上唯一のフェイズ5の魔神。勝つ事は不可能だ」 彼女は何度でも挑む。 「だがそれでも行かせてくれ。永遠の時に囚われ、戦いの運命に支配された私でも、戦う理由だけは自分のモノでありたいんだ」 例え結果が判っていようとも、何度だって運命に抗うのだ。 「私の名前ソラリアとは、自由を意味する言葉なのだから」 全ての秘密を話し、ソラリアは心が軽くなったように感じた。 タクトを目の前にすればきっと自分は正気ではいられないだろう。だが今だけは、五人の仲間達と共に力の限り戦おうと思えた。 偽りの気持ちでも良い。騙したと蔑まれても構わない。例えこの先に何が待っていようとも、ソラリアは最後まで戦い抜くと心に誓った。 「ソラリア――っ!?」 「な、何この揺れ!?」 その時、巨大な黒い月で地震のような揺れが起こった。 「まさか、もう始まったのか? 時間跳躍の準備が」 【そのまさかみたい】 世界に遍く存在する精霊エネルギー・マナの力は莫大だ。途方も無いエネルギーはこの巨大な建造物でさえいとも容易く動かす事が出来る。 それを操り利用すれば、時空に穴を開けて過去の世界に『ゲート』を開く事だって可能なのだ。 「くっ、こうしてはいられない! 早くカーレンの、タクトの所に行かなければ!」 「ソラリア! 一人じゃ無茶だ!」 「ソラリン! 待ってソラリン!」 こうなっては最早一刻の猶予も無い。時空間転移装置『刻の箱舟』が起動したと言う事はつまり――。 ソラリアは祈るように黒い月の通路を駆けた。 暗い通路を抜け再び開けたホールに出た。通路はそのままホールの中心を貫くように奥へと伸びていて、その奥にはカーレンのラボがあった。 更にそのラボから上った先にあるのが中央管制室。黒い月の中枢、時空転移装置『刻の箱舟』のコントロールブロックだった。 「タクトっ!」 「……」 そのコントロールブロックの中央に腰掛ける一人の人物にソラリアは声をかけた。 返事は無い。ただ冷たい視線が帰ってくるばかりだ。 嫌な予感がした。恐い想像もした。それでもソラリアは心に渦巻く不安を振り払って、希望を信じて声をかける。 「私だ! ソラリアだ! 返事をしてくれ、タクト!! タクトっ!!」 「タクトとは……この体の元の持ち主の名か?」 「っ!?」 タクトの姿をした者から発せられた言葉にソラリアは氷りつく。 (タクトの声じゃない) 正確には声は同じだった。だが喋り方、空気、態度、全てがタクトとは違った。だから別人の声のように感じたのだ。 いや、別人のようにではなく別人なのだが。 「それならばもう無駄ぞ。下賎の者の脆弱なる魂は、この高貴なる我が御魂を以って全て塗りつぶしてしまった故な」 「演技じゃない……どう言う事だ? こいつは一体何者なんだ?」 後から追いついてきたエルがソラリアに尋ねる。だがソラリアはとても返事を返せる状態ではない。 間に合わなかった。 これが今回の結末。ソラリアが戦って辿り着いた結末だったのだから。今、ソラリアの希望は無残にも崩れ落ちたのだ。 「我は天上の王ベルクラント=ミスティス。この世界、いや、全ての世界を統べる王なるぞ」 「陛下の御前である。皆の者、頭が高い。控えなさい」 天上王の玉座の後ろから姿を現したカーレンを見て、呆けていたソラリアは突然覚醒したようにカーレンに向かって怒りを顕にした。 「貴っ様ーーー! カーレン! タクトに何をした!」 「彼には天上王復活の聖杯となってもらいました」 「聖杯っ!?」 初めて見る本気で起こったソラリアの剣幕にシエラやエル、聖騎士達でさえも一瞬たじろいでしまった。 しかしその怒りを向けられているカーレンはと言うと、まるで怯える表情も見せずに、淡々と説明をこなすだけだ。 カーレンはフェイズ5。圧倒的強さを誇る故の余裕だろうか。だがソラリアは今そんな事は関係なかった。 彼女は知っていた。今まで刻の箱舟を起動させる為にカーレンはタクトを使って天上王を復活させてきたのだ。それはタクトと言う存在を消して、上から天上王ベルクラント=ミスティスを上書きすると言う事。 タクトと言う人格、記憶は、それによって完全に消されてしまうのだ。つまりカーレンによってタクトはもう、殺されてしまったも同然なのだ。 「記憶と人格のインストールですよ。遺伝子単位で適合係数の高い地球人の脳に、天上王ミスティス様の魂を上書きしたのです」 「なっーー」 ストレンジャーの持ち帰った情報にそこまでの情報は無かった。 一同が驚きを禁じえない中、ソラリアは改めて自分が間に合わなかった事を認識して、絶望の淵に立たされたのだった。 「尤も、その為には精神的に弱っている状態である事が条件だったので多少小細工が必要でしたがね」 「諦めない」「信じる」ミィレスにそう言ったソラリアだったが、現実に明確な絶望を突きつけられて、もう強がるのは限界だった。 それでも縋りたい。嘘であってほしいと、心が訴えかけるから声が出る。 「タクト……嘘だろう? お前が消えてしまったなんて、そんなの嘘だと言ってくれ。タクトっ」 「そちがアクシズ三姉妹をも退けたと言う魔神か? 今宵は余が再び目覚めた目出度い日だ。許す」 あぁ、全ては今終わったのだ。 ソラリアの戦いは今、敗北と言う形で幕を閉じた。 「恩赦と言うやつだ。ありがたく受けよ。そして今後も、その調子で余の覇業に尽力せよ」 一度はみんなの為に、仲間の為に最後まで戦おうと心に誓ったソラリアだが、彼女にとっての最後が来てしまった今戦いを支える物は何一つ残っては居ない。 希望がほしい。例え偽りの希望であっても。 信じたいではなく縋りたい。今のソラリアはそんな気持ちで一杯だった。 「こんなのお兄ちゃんじゃない……お兄ちゃんは、もう」 「残念だがソラリア、もう戦うしかないぞ。こいつはもうタクトじゃない」 「ストレンジャーの情報によると装置の起動キーは天上王……今すぐこいつを殺ればまだ間に合――」 「待ってくれ!」 戦闘体勢に入る一同の前にソラリアが割って入った。 「ま、まだ完全にタクトが消えてなくなったと決めつけるには早いじゃないか! そうだ、まだ何か方法が、可能性があるかもしれないじゃないか!」 「……」 身勝手と言えばそれまでだが、短い間でも共に旅をして、幾度も苦難を共にしてきたエルとシエラにはソラリアの気持ちが理解できた。 もうダメと分かっていても、現に目の前にタクトの姿があれば「もしかしたら」と思ってしまうのも無理からぬ話だからだ。 人は――死んだとわかっているのに心のどこかで、故人が今もどこかで幸せに暮らしてくれていればと願ってしまう動物だから。 「どうしたみんな? どうして誰もうんと言ってくれないの? まだ可能性が」 そこでアルトメリアがソラリアの肩を叩いた。 続いてストレンジャーがおずおずと、でもはっきりとソラリアの目の前に突きつけるようにフリップを出す。 【仮に方法があったとしても間に合わない】 それは誰の目にも明らかな事だった。 正気を失っているソラリアにだけ見えていない事だった。 だから敢えて教えたのだ。いくらタクトが、ソラリアが可哀想であっても聖騎士三人もエルもシエラも退く事は出来ない。ならばせめて覚悟だけはさせてやった方が良い。 もしかしたらこれでソラリアが錯乱して自分達を止めようと攻撃してくるかもしれなかったが、これがせめてもの二人の犠牲者への責任の取り方だと三人は判断した上での行動だった。 「私達はシエラを、世界を守る義務があるわ。あんたは何の為に戦うの? ソラリア」 カイラの問いかけ。 しかしソラリアは答える事が出来ない。 「私の……私の戦う理由は……理由は」 そう、答えられる訳がないのだ。 ソラリアはもうとっくに戦う理由を失っているのだから。 「まとめて片付けましょうか?」 「いや、余興だ。このまま放っておけ」 カーレンの問いに天上王はニヤニヤと笑いながら答えた。 敵、とすら思っていない。ムシケラのイザコザを眺める下卑た感情からの行動だ。 カーレンはそんな天上王に少しだけ眉根をひそませた。 「タクト殿には悪いが生身の天上王を狙わせてもらう」 「ストレンジャー、カーレンの動きを一瞬でも止められる?」 【やってみる】 ソラリアはみんなの為に例え何があっても戦うと決意していたつもりだった。 だがシエラ達は分かっていたのだ。 もしタクトがダメだった場合、ソラリアは戦えなくなるだろう事を。 ここは自分達の世界だ。自分達だけでもどうにかしなければならない。初めからその決意を以って一同はここに来たのだから。 「話し合いは済んだか? ふん、仲間割れが見られるかと思ったが残念だ。カーレン」 「はい」 天上王がカーレンに命じた。 最強最後の魔神が動く。 正々堂々戦えば勝ち目は無い。先の先を取り一気に片を付けるしか道は無い。 始めから五人の腹は決まっていた。躊躇無く一気に攻め立てる。 「今だ!」 【アンチマシンプログラム起動】 ストレンジャーがアクシズ三姉妹に使ったのと同じシステムジャックを仕掛けた。 正直これが効かなければ全て終わりと思っていた一同だったが、天は五人に味方したようだ。 「うっ!? 体が――」 カーレンの動きが止まる。プログラムが効いているのだ。 今こそ勝機と四人は一斉に座した天上王目掛けて攻撃を飛ばす。カーレンには勝てなくても要は天上王を倒してしまえば時間跳躍は阻止できる。世界のマナも消費されずに済む。 『喰らえーーー!!』 「やめてー!」 ソラリアの悲痛な叫びが響き渡る。 そして起こる大爆発。ウィンザード姉妹の精霊魔法、エルの炸裂筒付き弓矢、アルトメリアの投剣。それら全が一斉に天上王へと降り注いだ。 これでは生身の人間などひとたまりも無い。一同が勝利を確信した時……。 「やったか!?」 「面白い。ケダモノ共にしてはよくやる」 土煙が晴れた先に居たのは、玉座に座ったまま傷一つない天上王だった。 「なっ」 「どうして!?」 まさかカーレンが動いたのか?一瞬そう思いカーレンの方を見ると、動けないまま余裕の笑みでシエラ達を見るカーレンの姿。 ならば何故?まさか天上王も魔神になっていたのか?それでも全くの無傷、汚れ一つ無いのはおかしい。 状況が理解できずうろたえる一同の耳に、天上王の高笑いが響いた。 「無知蒙昧な蛮族共に教えてやる。貴様らと余の間には強化テクタイトの壁が張ってあるのだ。故に貴様らの攻撃は全てそこで阻まれた」 「ホントだ! 透明の見えない壁みたいなのがあるよ」 「くそっ、卑怯だぞ! こっちに出て来い!」 「ふん、よく吠えるケダモノ共だ。カーレン」 「はい……!」 王の命令でカーレンがアンチプログラムの呪縛を力ずくで解こうとしている。 カーレンに動かれたら作戦は失敗に終わる。最早一刻の猶予も無いのだが、あれだけの攻撃を受けて傷一つつかない壁をどうやって突破すれば良いのか……。 「まずい! 魔神カーレンが動くぞ!」 「なめるなぁ!」 カイラが吠えた。 精神を集中し羽を広げ舞い踊る。すると――。 「何っ? この風はまさか!?」 壁の向こう側で空気が動き始めた。やがて精霊が力を使った際に発生する精霊力の光が辺りに発生し、やがて風は渦を巻き、爆発的変化の兆しを見せ始める。 「大地に遍く精霊よ! 我が呼びかけに応え給え!」 「精霊はあらゆる場所に偏在している。そうか、君にはこんなガラスの壁無意味だったね」 精霊術師としてより深い所、アストラルサイドで精霊と繋がった者は遠隔地の精霊にも祝詞や舞を届け願いを聞いてもらう事が可能だと言う。 今カイラが行っている事がまさにそれであった。カーレンは魔神だから周囲の精霊力を吸収してしまうので通じないが、生身の天上王にならば可能だったのだ。テンペスターの名は伊達ではない。 「やっぱり待って! タクトが、タクトがぁ!」 「何をしているカーレン! 余を守れ! えぇい、こうなったら――箱舟起動」 天上王が始めて玉座から腰を上げた。 事ここに至ってようやく危機感を覚えたのだろう。だがもう間に合わない。カーレンが動くより先に、天上王が逃げるより先に、カイラの精霊魔法テンペストの嵐が天上王を襲った。 「テンペスト!!」 「ぐわぁぁぁぁああああああああああ!!!!」 「タクトーーー!!」 ソラリアの目の前で天上王が、タクトの体が真空刃によって切り刻まれてゆく。 そして上昇気流に煽られ木の葉のように舞い上がった体は天上に激突し、制御ユニットのコンソールへと落下する。 「あぁ……あああぁ……」 タクトの体が当たり砕けたモニターのガラス片が乾いた音を立てて地面へと降り注いだ。そして天上王はそのまま不自然な体勢でコンソールからずり落ち、床に倒れ伏す。 ピクリとも動かない。ズタボロになりこれだけの衝撃を体に受けたのだ。心肺が停止しただろう事は誰もが予想できた。 一同が固唾を呑んで見守る中、ガラスが砕け散る音が聞こえた。ソラリアが鍵の剣で強化テクタイトの壁を破ったのだ。 「あぁ……タクト……タクト……あぁ」 ソラリアがタクトに駆け寄る。息は……無い。脈は……無い。完全に心肺停止状態だ。ソラリアが急いで心臓マッサージと人工呼吸を始めるが、その姿はあまりに痛々しく周囲の目に映った。 終わったのだ。何もかも、今ここで。 一同が悲しみと共にそう安堵した瞬間、薄暗かった周囲が急に光に包まれた。制御コンソールが一斉に起動した光だ。 空中に映し出される幾つもの情報。文字、図解、動画、周囲の光景。それと共に揺れ動き始める足場に、シエラ達は驚愕の声を上げる。 「っ!? なんだこの振動は?」 「一体何が起こってるの!?」 【まさか装置の中枢が起動したんじゃ】 「そのまさかですよ」 間に合わなかったのか――そんな予感の中、カーレンがバイザーに隠された表情を愉悦に歪ませながら口を開いた。 「黒い月の中枢『刻の箱舟』は王の命令で起動しました。これでもう私にも扱う事が出来ます」 語られる衝撃の事実。 あぁ、何と言う悲劇。何と言う皮肉な運命。結局、物語の結末は変えられないと言うのか。 ソラリアはタクトを守れずに、刻の箱舟に巻き込まれ記憶を失い過去に飛ばされる。そうして何度も同じ結末を繰り返すのだ。 それが刻の牢獄に捕らわれたソラリアと言う名の機械少女の宿命。 「私は魔神故、王に逆らえません。しかし私の目的の為には王は邪魔だった……その為に、わざわざセキュリティを解いて貴女をシステムに侵入させたのですよ? 蟲人の女」 精霊力・魔素を失った世界はどうなってしまうのか? 精霊の力が失われ自然界の秩序は保たれるのか?精霊と共に生きてきた人々は一体どうやって生活して行けば良いのか?想像もつかない艱難辛苦が待ち構えている事は明らかだ。 作戦は失敗した。これで世界は再び混乱の坩堝へと回帰してゆく事となる。聖騎士達は任務を失敗したのだ。 「王は世界支配が目的でしたが私の目的は違う。私の目的はあくまで過去に戻って全てをやり直す事……ありがとうございます。皆さんのおかげで望みにまた一歩近づきました」 「王の打倒までカーレン、お前の計画だったと言うのか?」 「その為に娘と呼んでたアクシズ三姉妹まで……? そんなの酷いよ……酷すぎるよ……」 「フフフ……」 エルとシエラが膝を付き絶望に暮れる。大切な仲間を、タクトとソラリアを失ってまで決意した戦いの結末がこれでは、一体何の為に戦ったのか……。 虚しさだけが残る中、それでも諦めない者達が居た。 「お喜びの所悪いが、私達の目的は君の野望の阻止なんでね」 【時間跳躍の前に、黒い月を落として魔神全てを封印するよ】 「あたしも、この世界を壊させるわけには行かないのよね」 アルトメリアが、ストレンジャーが、カイラがカーレンの前に立ちふさがった。 勝算などない。残された力も無い。だがこのままここで諦める事だけは出来なかった。全てを終わらせない為に、限りなく低い可能性でもそれに賭けて戦うしかないのだ。 「……何か出来るつもりですか? 貴女達ごときに」 「聖騎士を舐めるなよ!」 アルトメリアがそう叫び、折れた剣を拾ってカーレンに突撃した。 その剣を素手で軽々と受け止めるカーレン。剣を止められアルトメリアが剣を放して下がった後ろで、ストレンジャーとカイラは既に動いていた。 「ストレンジャー、コンソールに行け! カイラ! もう一度テンペストだ!」 「大地に遍く精霊よ! 我が呼びかけに応え給え! テンペスト!!」 ストレンジャーの動きを追おうとしたカーレンを真空刃=カマイタチを伴った竜巻が襲った。 小規模ながら最大風速50mクラスの風が発生する中、カーレンは鉄板の床を踏み抜いて足を固定し微動だにしない。 巨大なバイザーに隠れた目がストレンジャーを追う。そうしてもうすぐストレンジャーがコンソールに到着すると言う時、カーレンが笑った。 「フフフ、もう一度ハッキングするするつもりですか? 悪あがきを」 「っ!?」 次の瞬間、アルトメリア達三人は気がつくと壁まで吹き飛ばされていた。 『きゃあああああああああ!!』 一体何をされたのか、誰一人として理解できなかった。 衝撃と爆発が起こった事は分かった。だがカーレンが何かした所を誰も見ては居ないのだ。 「全て無駄です」 三人は全く同じタイミングで同時に壁まで吹き飛ばされていた。これが最強魔神カーレンの実力だと言うのか。 一同を再び絶望が覆う中、カーレンは今だ戻らないタクトの救命活動を続けているソラリアに話しかける。 「ソラリア」 「タクト! タクトぉ! 戻って来て! タクトぉ!!」 ソラリアは何度も何度も、祈るようにして心肺蘇生術を続けている。だがタクトは戻らない。 ソラリアは涙を流す事は出来ないが、その顔は今にも泣き出しそうな顔で、シエラとエルは胸を突かれるような思いがした。 「その地球人、確かタクトと言いましたか? その男……生き返したくありませんか?」 『!?』 ソラリアの動きが止まった。 そしてチラリとカーレンの方を見返し、また心肺蘇生法に戻る。 「この『刻の箱舟』は過去に戻る事が出来る装置です。記憶と魂を過去の自分へと送る事が出来る、言わば時空間転移装置なのです」 カーレンは構わず話を続ける。 彼女にとって消耗しきった聖騎士三人など物の数ではなかった。シエラとエルも恐れるに足らない。 僅かでも不安が残るとしたらそれはただ一人、ソラリアだけだった。 「もう一度……記憶を失わずに、やり直したくありませんか?」 刻の箱舟は今時空間跳躍の為に準備を進めている。その準備にはもう少し時間がかかると言う事だ。 異世界への扉を開いた十一の神――その奇跡に小規模ながら近い奇跡を起こそうと言うのだ。世界中を犠牲にする程の、膨大なエネルギーが必要となるのは必定である。 「奴の口車に乗るな! ソラリア!」 「ソラリンごめんね。でも……でも……」 刻の箱舟が精霊力・魔素をチャージするのにどれくらいの時間を要するのか、それは分からない。 だがそのエネルギーがチャージし終わるまでが残された時間となる。魔素と奇跡の変換は不可逆的な反応だ。一度奇跡を起こすのに消費されれば戻らない。 「タクト……私……」 今カーレンの野望を阻止できる可能性を持つ者はソラリアだけなのだ。そう、ソラリアだけ……。 「あなたはタクトさんを連れて地球に逃げれば良いのです。それだけで簡単に、あなたの望む未来が手に入るのですよ?」 そのソラリアに邪魔されない為、カーレンの甘言が続く。 「タクト殿を殺しておいて、こんなこと言えた義理じゃないが……頼む、助けてくれ。お願いだ」 「…………っ」 「あんた私達を見殺しにするつもり? この世界を見捨てるつもりなの? ソラリア=ソーサリー」 僅かでも不安要素があるならば排除する。例え自分の勝利が決定付けられていたとしても。それがカーレン=フォーマルハウトと言う女だった。 「わ、私は……違う、私はただ……タクトと……」 「煩い外野ですね。あちらこそ自分達の為に、貴女とタクトさんに犠牲になれと言っている事に気付かないのでしょうか?」 一時でも騙せればそれで良いのだ。時間を稼げればそれで充分。カーレンの計画は最終段階に入っていた。 「大丈夫ですよソラリア。何ならあなたが危機を皆に伝えてあげれば良いではないですか。そうすれば大勢の人が地球に逃れ、助かる事が出来る。それにイレブンズゲートによって地球のマナが異世界に供給されれば、ここが滅ぶ事はありません。何も心配要らないのです」 「そ、そうか……その通りだ。何も問題ない。大丈夫だ」 かかった。とカーレンは思った。 一同がソラリアを見守る中、ソラリアはカーレンに魅入られている。果たしてこのまま希望は潰えてしまうのか?運命は変えられないのか? 「嘘だ! その女に騙されるなソラリア!」 「ソラリン! 目を覚まして!」 「頼む、ソラリア。頼む」 「っ……!」 「全ては……終わりなの……?」 巨大なバイザーの下でカーレンがほくそ笑む。 (箱舟がエネルギーチャージを完了するまでもう少しかかります……その時間さえ稼げればソラリア、貴女などどうでも良い……フフフ) ソラリアの揺れる心を見透かしたようにカーレンが勝利を確信した。彼女を止める者はもう誰も居ない。そう思った時……。 (タクト……わたしのせいでこんな事に巻き込んで死なせてしまった……! ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい) ソラリアの手が止まった。 ゆっくりとタクトから手を離し最後にもう一度口付けを交わした。 「ごめんなさい……タクト」 二人の最初で最後の口付けが終わった時、ソラリアは屹然と立ち上がりカーレンに向き直った。 「ソラリア?」 突然変わったソラリアの態度にカーレンが訝しげに声をあげた。 もうソラリア自分と戦う理由はない筈だ。提案を受け入れ、大人しく彼女の希望が叶う時を待つ筈だ。そう、その筈だった。 「カーレン博士。自由を奪われ、愛を奪われ、それでも失った時を取り戻そうとする貴女に、私は敬意を表します」 黒い瞳が静かに燃えてカーレンに語りかける。 黒い髪に黒い瞳。日本人の久我タクトと同じ色。そんな事さえ嬉しかった、あの日々はもう決して戻らない。 「それでも、失った時は決して戻りはしないのです。そんな事は、神様にだって出来やしないのだから」 ソラリアの運命は繰り返しの螺旋回廊。そこに未来など、希望など無い。 解っていた。解っていたのに。ソラリアはまた絶望に負けそうになってしまった。みんなを見捨てそうになってしまった。 「私が失敗する……とでも言いたいのですか」 「はい」 「箱舟の起動には王の指令が必要でした。その為に私は五千年待った。それを今更、貴女に言われて止める事が出来ますか?」 「刻の箱舟を動かせば、この世界の殆どのマナを消費し尽くしてしまう。それはこの世界の精霊を死滅させる、世界を崩壊させるに等しい事だ」 タクトはソラリアの為にここまで来てくれた。ソラリアの気持ちはタクトに通じていた。 ならばタクトの気持ちをソラリアが解らなくてどうするのか。 「それだけじゃない。この世界の時の神は歴史の改竄を許さない。矛盾する時を直そうと、歴史の修正作用が働くのです」 「その結果が、貴女だと言うのですか? ソラリア=ソーサリー」 例え百万分の一も勝ち目がない戦いでも。今まで何度も、何十回も、何百辺も繰り返してきた宿命でも。 それでも彼女は戦い続ける。タクトが好きだったソラリアは、例え自分が傷ついたって人の為に戦える強い少女なのだから。 「それでも、私は可能性を示されたのです。かつての旧神に、世界を変える方法を」 カーレンに時を越える方法を教えたのだ誰か――それは分からない。 この戦い自体その者が仕組んだ計略なのか。だがそれは最早何の意味も持たないだろう。 「例え1%でも可能性があるのなら、私はその可能性に賭けたいのです。いえ、賭けなければならない。貴女も女なら解るでしょう?」 ソラリアとカーレン。二人の対決もまた運命付けられていたものなのだから。 ――何故なら、女なら何よりも愛を選ぶから―― カーレンの言葉がソラリアの心をえぐる。 自分だってそうだ。ソラリアもタクトの為に戦った。だが今はもう居ない。 共に愛する者を失った女と女。だがその選ぶ道は余りに正反対だ。 「箱舟のエネルギーチャージにはもう少し刻を要します。出来れば平和的に事を進めたかったのですが……」 カーレンが顔の半分以上を覆う巨大なバイザーを外し投げ捨てた。 その下から黄金の髪と青く澄んだ瞳が顕となる。 それは黒い髪に黒い瞳のソラリアとは対照的な、神々しいまでの美しさを放っていた。 だがその美しさはあまりに均整が取れすぎている為に、かえって人間味が薄く、作り物めいた冷たさを見る者に与えるのだ。 「仕方ありません。あなたを破壊します」 カーレンの体に転送装置から送られたバリアコートが纏われてゆく。 純白のバリアコートは戦闘服と言うよりむしろウェディングドレスの様で、戦場に似つかわしくない華やかな”衣装”だった。 目の前に光が弾け、小さな鍵が一つ空中に現出した。宝石がちりばめられた黄金の鍵。それをカーレンが首元に持ってゆくと、光の輪と共にネックレスのようにその身に纏われる。 これまでの魔神達とは打って変って美しさを基調としたようなカーレンの戦闘形態に、敵ながら一同は息を呑んだ。 戦闘準備が整ったカーレンはソラリアの真正面に相対し、まるで美しく優雅に挨拶するかのごとくこう言った。 「甲式第五種フォーマルハウト型戦術魔神 カーレン」 「丙式第三種ソーサリー型戦闘魔神 ソラリア」 二人は真正面から向かい合い名乗りあった。 真名の名乗り。それは決闘の始まりを意味する。これから始まる戦いが、最早どちらかの死でしか終わらない事を意味しているのだ。 『参る!』 今、未来を、そして世界を賭けた戦いの幕が切って落とされた。 ※終篇に続く 最後の最後に残った二人が…と思ったら終わってない上 -- (名無しさん) 2013-11-28 22 08 01 に以下続行ときたぜー!次回までまた悶々としないといけないのか -- (名無しさん) 2013-11-28 22 08 38 続いた・・・だと・・・。次回に期待してます! -- (名無しさん) 2013-11-29 01 20 34 明かされた事も展開も凄いスケールになってきました。完全に蒼穹の世界が過去現在未来と形成された中で悠久とも言える輪から抜け出そうとするソラリアの今までの人生を想像すると胸が圧し潰されそうになります。それまでの全てとは何かが変化した今がどういう未来に進むのか最終回に期待が膨らみます -- (名無しさん) 2018-06-24 17 08 27 名前 コメント すべてのコメントを見る
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『明日の夜明け、町の西の外れで待ってる』 ミィレスのその言葉に、ソラリアの心は揺れていた。 ミィレスの誘いは考えるまでもなく「一人で来い」と言う誘いだ。 「ミィレスさん……私と同じ魔神……」 同種族の同胞とは言え、出会ったばかりの相手を簡単に信用して良いのだろうか。 だがこれは千載一遇のチャンスかもしれない。そう思うと、ミィレスを信じたくなってくるのだ。 「黒い月と言う所に行けば……本当に私、記憶を取り戻せるのでしょうか」 ソラリアは可能性を示されたのだ。記憶を取り戻し、タクトととの大切な何かを思い出す可能性を。 ミィレスは感情を取り戻したいと言った。それが本当なら、彼女もソラリアと同じ、可能性に縋っているのでは無いのか?ソラリアはそう思った。 もし黒い月に行くのに一人では無理な理由があるなら、ミィレスが自分を誘う事の説明も付く。 ソラリアが自分に都合の良い理論展開を考えていた時、宿のドアを叩く音が聞こえた。 「はい、どなたでしょう?」 「カイラです。少し良いですか?」 「はい……?」 夜、ソラリアの部屋のドアを叩いたのはカイラだった。 カイラが会ったばかりのソラリアに一体何の用があるというのか? カイラは理由を告げぬまま、ソラリアと共に宿を出て行った。 (ん?) しかしその光景を目撃した者があった。一人部屋で酒を飲んでいたエルだ。 (あれはソラリアとカイラ。こんな時間に一体?) 時刻はとっくに深夜と呼べる時間帯だった。 シエラとカイラの出来すぎた出会い。そしてカイラがソラリアを見た時に見せたあの表情。エルの背筋に嫌な汗が溢れ出た。 「あの、魔神について知っている事って」 「……」 カイラがこんな深夜に初対面のソラリアを呼び出せたのは、魔神について教えると誘い出したからだった。 ソラリアは今ミィレスの誘いに乗るか否か迷っていた。 それを判断する為の情報を少しでも欲しかった矢先、カイラの申し出は渡りに船だったろう。 勿論、カイラはミィレスの誘いの事など知らない。魔神の情報をダシに使ったのは、単に事前にソラリアが記憶喪失と言う情報を得ていたからに他ならない。 だが運命の悪戯か魔神とカイラの宿命か、二つの歯車は全くの偶然に、完全に噛み合ってしまったのだ。 「魔神……黒い月に居る悪魔」 「悪……魔?」 カイラは俯いたままゆっくりと語り出す。 それはあたかも、ソラリアに向けられた呪言のように、ソラリアの心に深く深く浸透して行く。 「精霊無しで魔法を使う、この世界の住人ではない存在。神と精霊に嫌われた世界の異分子。我々の天敵」 カイラの言葉にソラリアの中で昼間の光景がフラッシュバックする。 『私達魔神はこの世界の敵。居ればみんなを不幸にする』 ソラリアの中にミィレスの言葉が蘇る。 実感のなかった大げさなセリフが、今確かな真実味を持ってソラリアの中で再生された。 「あ……あぁ……」 ソラリアは後退りペタリと尻餅をついた。 信じたくなかった言葉が今、現実の物となったのだ。 それまで平和に暮らしていたタクト達が、何故急にこれ程過酷な運命に巻き込まれてしまったのか。 ソラリアにはその理由が今こそ分かったような気がした。 『もしかしてぜんぶ、わたしとであったせい?』 天地がひっくり返りそうな衝撃に、最早ソラリアは正気を保つ事は不可能であった。 焦点の定まらぬ瞳は虚空を彷徨い、すがるべき何かを探している。 だがカイラはそんなソラリアに、追い打ちをかける一言をかけるのだった。 「そして、私とシエラの両親の仇」 「ッ!!??」 ソラリアは目を見開きカイラを見返した。 カイラも真っ直ぐにその瞳を見返す。 カイラの瞳に嘘は無い。全て偽りなき真実だからだ。 古き言い伝えにこうある。「魔神の征く所、必ず戦乱の嵐が吹き荒れると言う」 その伝承の通り、魔神は、ソラリアは、周囲に戦乱と死を振りまく存在だったのだ。 己の意思とは不関係に、それが魔神に科せられた宿命、いや、呪いであるかのように…… 「あなたに直接怨みは無いけれど……シエラから離れてもらうわ。永遠に」 カイラは放心状態となったソラリアを見て、彼女がもう抵抗する力も気力も失った事を確認した。 「死んで」 そして翼腕を構え、心で風の精霊にカマイタチを願ったその時、何かが二人の間の闇を切り裂いた。 「っ!? 誰っ!?」 カイラが振り向いた先、宿の方向を見た時、そこに居たのは悲しそうな顔をしたエルその人だった。 「カイラ……」 「ダークエルフの!? くっ、着けられていたとは!」 カイラが目撃者を消すべく、起ったカマイタチをエルに向けて放とうとした時、エルの影から一番巻き込みたくなかった人物が姿を見せた。 「お姉ちゃん!」 「シ……シエラ……」 それはシエラだった。 エルはカイラがソラリアを連れだしたのを見た時、怪しいと思いシエラを連れて二人を追っていたのだ。 そして間一髪、ソラリアがやられる前に間に合った。 「どうして!? どうしてこんな事するの? 教えてよ、お姉ちゃん!」 「シエラ、私は――」 カイラがシエラに手を伸ばす。だがその翼腕が可愛い妹の肩を掴む事はなかった。 「シエラ下がれ! そいつは傭兵なんかじゃない、ファルコの手下だ!」 そう、エルがシエラを下がらせたのだ。 エルは思い出したのだ。ファルコの四元魔将はまだ一人残っていた事を。 そしてその者の名は、災厄を齎す者(テンペスター)と言った事を。 昼間見た翼竜と竜巻を起こす程の風の精霊術師との戦い。そんな使い手など、大陸にもそう居なかったからだ。 「シルフ!」 「くっ、風で矢の軌道を……!」 次に放った矢はカイラを狙って射った矢だったが、これはいともアッサリと風で防御される。 エルは唇を噛んだ。やはり正面から挑んでは実力が違いすぎるのか!? 「いかにも私はファルコ軍四元魔将が一人、風の魔将テンペスター・カイラ」 「四元魔将!?」 シエラが驚きの声を上げる。それもその筈、四元魔将とはファルコ軍で最強の称号を持つ軍団長だからだ。 その軍団長に何故、優しい自分の姉がなっているのだろうか。シエラには理解出来なかった。 「何故妹の友達に手を出そうとした! 何故妹を騙した!」 「こうするしかなかったのよ!」 エルは続け様に弓を射るが、その悉くが風に煽られて決して当たる事が無い。 エルは自分が手加減されて居ると感じ、またしても己の無力さに唇を噛んだ。 「シエラ、聞きなさい! 私達の両親はね、本当は殺されたの」 一方、カイラは防戦一方に見え、その実全く本気を出していなかった。エルと戦う事が目的ではなかったからだ。 カイラの思いはシエラを守りたい事、エルの思いもシエラを守りたい事。 何故同じ思いを持つ者同士戦わなければならないのか? それはきっと、エルの思いがカイラよりも純粋でないから…… 「遺跡探索者(ルーインエクスプローラー)だった私達の両親は黒い月に近づき、そして魔神に殺されてしまった」 「そ、そんなの……そんなの聞いてないよ! 殺されたって何!? どう言う事なの?」 エルはその話を聞き、弓を引く手を止めた。 シエラが本当の事を知りたがっている。この場にもう自分の役割は無い。 シエラに必要とされていないと思った時、エルの手から世界樹の枝で作った弓がスルリと地面に落ちた。 「魔神は世界の敵、遥か古代の負の遺産! 絶対に倒さなければならない!」 それを見てカイラはシエラに近づいた。 この場にはもうそれを止める者はいない。カイラはシエラの両肩を掴み、未だ地面にへたり込むソラリアに向けて叫んだ。 「そしてそのソラリアと言う娘が、現代に甦った魔神なのよー!」 ソラリアとシエラの視線が交錯する。だがソラリアはシエラの目を真っ直ぐに見る事が出来ない。 それは先程のカイラとの会話によって、ソラリアの心に後ろめたさが植え付けられていたから。 「ソラリンが、私のお父さんとお母さんを殺した種族の……仲間……?」 「わ、私……私は……」 ショックを受けるシエラに何か言ってあげたい。だがソラリアには何も返す言葉が浮かばなかった。 自分の事も分からない者の言う事など、一体どうして信じる事が出来ようか。 再びグラリと視界が回り、ソラリアはその場に倒れそうになる。そこにやっと異常を察知してやって来たタクトが、倒れるソラリアの肩を支えた。 「ソラリア! 一体どうしたんだ!? 大丈夫か!?」 「タクト……さん……」 タクトはソラリアを後ろから抱きしめた。 あんなに強いソラリアが、今は力を入れたら砕けてしまいそうな程儚く、か細い。 それ程までにソラリアの心は今、ダメージを受けていたのだ。 「確かに私はファルコの手先となった。けどそれは魔神に復讐する為。そしてシエラ、あなたをファルコと魔神から守る為よ」 それでもカイラは構わず続ける。シエラの瞳を真っ直ぐ見つめて、伝えるべき真実を全て、心まで伝える為に。 「私達は空のオルニトも地のオルニトも追われた。そのせいであなたには辛い思いをさせてしまったけれど……全てはファルコの仕組んだ事だったのよ」 ファルコの企み、魔神の恐ろしさ、全て妹に伝えて、そして共に手をとって戦う為に。妹を守り抜く為に。カイラはーー 「風神ハピカトルに見えない”空の死角”の軌道を進む、黒い月へ行った事があるのは私達だけ。だからあの男は――」 あぁ、しかし何と言う事か。 カイラはシエラに想いを、真実を全てを伝え切る事が出来なかった。 「えっ!?」 「あぁ!」 シエラの脇を抜け地面を焦がした一筋の光。 続いて漂ってくる肉の焼けた匂い。 「お――お姉ちゃーーーん!!」 シエラに崩れかかるように倒れたカイラの胸には、ハッキリと金貨大の風穴が空いていたのだった。 「くそ!」 これにはそれまで力なく立ち尽くしていたエルも反応する。 猛禽類の目を除けば、最も目が良い部類に属するエルの目でも、暗闇の中カイラを狙撃した相手の姿は、影も形も見つける事が出来なかった。 (い、一体何をされたんだ? 光……光の精霊魔法なのか?) 「お姉ちゃん! お姉ちゃーん!」 「動かしちゃ駄目だ! 早く医者のところへ――」 突然の事に慌てふためく一同。 シエラはカイラの胸の穴から溢れ始めた、どす黒い液体を止めようと手で押さえながら泣き叫び、タクトがそれを止めようとする。 エルは周囲を警戒しながらシエラに覆いかぶさり次なる攻撃から守ろうとしている。 一瞬にして混乱の坩堝と化したその場で、ただ一人冷静なのは以外にもカイラだけであった。 「私は……もう助からないわ……」 「そんな事無いよ! きっと助かるよ! 助かってくれなきゃやだよ!」 シエラの顔を撫で、落ち着かせようとするカイラ。 その一方で考えていた事は、誰が自分を攻撃したのかと言う事。 光――それはファルコとミィレスが得意とする魔法の属性。だがこの攻撃の瞬間、精霊の息吹は全く感じられなかった。 だとすると犯人は…… (これは……ファルコの精霊魔法じゃない……そうか、結局私も両親と同じように……) カイラは両親が死んだ日の事を思い出した。 ――あの時、お母さんお父さんはこんな気持ちだったのかな―― 不思議と犯人への怒りや憎しみは無い。いや無いと言うより、そんなものどうでも良くなってしまうのだ。 犯人や自分の事よりも、もっと遥かに大切な事が他にあるから。 「シエラ……逃げて……」 「嫌だー! 絶対やだーーー!!」 「シエラ……」 シエラの姿に昔の自分を思い出すカイラ。 もう自分の事は良いから早く逃げてよ。あなたさえ助かってくれるならそれで良いのに。そんな思いに反し、シエラは固くカイラを抱きしめて放さない。 そんなシエラが愛おしくて、大切で、涙が出るほど嬉しいのが悲しい。 カイラはシエラに何も言えなくなって、もうどうして良いか分からなくなって、そんな時、シエラのもう一人のお姉ちゃんがシエラをカイラから引き離した。 「何か……言い残す事は?」 「シエラを……頼みます……」 「分かった」 カイラはそれを聞いて、安心して目を閉じる。まるで、もう思い残す事は無いと言うように。 「お姉ちゃーーーん!!」 冷静になったタクトとエルの手によってカイラは医者の所へと運ばれていった。 その場に残ったのは、子供のように泣きじゃくるシエラと、呆然とただ虚空を眺め続けるソラリアだけだった。 「……」 カイラを担ぎ込んだのは、地球式医学を学んだと言う触れ込みの、怪しい街病院だった。 そこの廊下で、一同は暗い空気に包まれていた。 カイラは面会謝絶で、地球で医学を学んだと言う怪しい若い医者から手術を受けている。 ハッキリ言って生死不明の重体だ。 廊下の椅子で一言も喋らないシエラに対し、皆何と声をかけたら良いか分からずに居た。 「シエラさん、あの……」 そこで初めて口を開いたのは、以外にもソラリアだった。 もし万が一カイラが死ねば、シエラは天涯孤独となる。 その最悪の事態を考えた場合、根拠も無く下手に希望的観測を述べて励ますのは、返って悲しみを増大させる結果となる。 希望を持ちたい。だが希望が潰えた時、人はより深く絶望する。 きっと、シエラも姉に助かって貰いたい反面、心の何処かで覚悟を決めなければならないと思っているのだ。 だがその覚悟を持つ事自体、姉が助かる事を信じない事になるのではないか? そして非科学的な考えだが、姉が助かると信じ切れなかった為に、祈りが足りずに助からないかもしれないと言う思いもあるのだ。 ソラリアは自分が魔神で、人々に不幸を撒き散らす存在だと知ってしまった。 事の責任の一端は自分にあると思っているのだ。 だからシエラを少しでも励まそうと声をかけたものの、やはり何と言っていいかわからず、こうして再び黙ってしまったのだった。 だがこの事が、シエラに珍しい怒りと言う感情を呼び起こす結果となってしまった。 「……何で何も言わないの?」 「えっ」 シエラが椅子からゆらりと立ち上がった。 そしてそのままゆっくりとソラリアの前まで来ると、翼腕をだらりと垂らしたまま虚ろな瞳で話し出したのだ。 「あの時、精霊力を感じなかった……前にソラリンが魔法を使った時と同じだったよ」 「っ!?」 感情の籠らない声でそう言うシエラ。 いつもの明るく元気な声からは想像もつかない、ゾッとする程冷たく静かな声に、ソラリアは身動き一つ取る事が出来なかった。 (まさかミィレスさん? そんな、どうしてなの?) 幽鬼の如くソラリアの前に立つシエラを見て、エルは嫌な予感しかしなかった。 これから最悪の事態になる。戦闘種族であるダークエルフの感がそう告げて居た。 (やっぱりカイラは魔神に……ソラリア以外にも魔神がこの街に来て居たのか) 魔神には気配が無い。気配を消して居るとか気配が薄いとかではなく、初めからそんな物魔神は持ち合わせないのだ。 あの時、エルの視界の外からミィレスはカイラを正確に撃ち抜いた。 それはカイラが潜在的にマスターであるファルコの敵であった為か?いや、或いはもしかしたら、カイラと戦闘になりそうだったソラリアを守る為に…… エルはもう一人の魔神よ目的が分からず考え込もうとしたが、それを止めたのだ突然の怒声だった。 「お姉ちゃんはソラリンと同じ魔神にやられたんだよ! 私の両親だって!!」 「私は……私はその……」 その大声はシエラの声だった。 誰も見た事が無いシエラの怒り。もうこの先何が起こるのか、一番付き合いの長いエルにも分からない。 ただ一つ言える事は、今のシエラは何をするか分からないと言う事。 「ソラリンも魔神なんでしょ!? 何とか言ってよ! 何か言ってよぉ!!」 「もうよせシエラ!」 エルはシエラを後ろから羽交い締めにした。今やシエラの顔はソラリアに噛みつかんばかりに近づいていた。 エルがあと一瞬、動くのが遅ければシエラはソラリアに掴みかかっていたろう。 シエラの怒気はそれ程の物だった。 「お前が悲しいのはみんな分かってる! でも、これ以上は……ただの八つ当たりだ」 「う……」 そう、エルの言う通りだった。 シエラのソラリアへの怒りは完全な八つ当たり。そんな事誰もが、シエラだって分かって居た事だったのに…… 「うわぁぁぁぁぁん! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」 シエラはエルに抱きついて泣いた。 エルはシエラの頭を撫でながら、もう何も言わなかった。 エルがシエラを守り始めたのは、彼女のセンチメンタルだった。 そのセンチメンタルはシエラの実の姉が現れた事で崩れ去った。 今は違う。これからは、エルはシエラを大切な仲間として守るのだ。大事な友達だから守るのだ。 エルの中で何かが変わり始めた。 「ソラリア、行こう」 「タクトさん、私……」 どうして良いのか分からず、ただ下を向いていたソラリアを助けたのは、やはりタクトだった。 「今はそっとしておこう。時が経てば……シエラも分かってくれるさ」 「はい……」 ソラリアはタクトの優しさに素直に甘えた。 しがみ付いた腕は思っていたよりもずっと太くて硬く、それだけでソラリアは不安を忘れる事が出来るようだった。 「わあぁぁぁぁぁぁぁ……」 廊下に響くシエラの泣き声は、深夜まで続いた。 『あの時、精霊力を感じなかった……前にソラリンが魔法を使った時と同じだったよ』 宿に戻ったソラリアはベッドで今日起った事を思い返していた。 カイラ、シエラ、二人の姉妹を襲った悲劇は今も続いている。 (カイラさんを攻撃したのはミィレス……あなたなの?) そしてその悲劇をもたらしたのは、ソラリアと同じ魔神のミィレスだ。 ミィレスは何故そんな事をしたのだろうか?誰かに命令された?一体誰に。 そう考えてまず頭に浮かんだのはファルコと言うオルニトの神官だった。 だがその考えは矛盾している事にソラリアはすぐ気付く。 ファルコ軍の精鋭である四元魔将のカイラを、何故ファルコが殺そうとするのか。 『私達魔神はこの世界の敵。居ればみんなを不幸にする』 再び頭の中でミィレスの言葉がリフレインする。 あの時カイラはソラリアを殺そうとしていた。もしミィレスがカイラを攻撃した理由が、ソラリアをカイラから守るためだったら? (だとしたら、カイラさんがあぁなった原因の一つは、紛れもなく……) ソラリアは思う。自分が目覚めてからの戦いの連続を。 きっとこんな事普通じゃないんだ、と。 「世界の……敵」 スワンもミィレスもカイラも魔神の事をそう言っていた。魔神とは一体何なのか? 何故こんなに憎まれ、そして戦いを呼んでしまうのか。 考えても考えても答えは見えてこない。ただ一つ確かな事、それはソラリアが紛れもなく魔神であると言う事。 「シエラさんごめんなさい……カイラさん……エルさん……タクトさん」 その答えを見つけるには一つしか方法はない。だがそれは今まで共に戦って来た仲間への裏切りになる。 「みんな、ごめんなさい……」 それでもソラリアは答えを求めずにいられない。 自分が何なのか分からなければ、これ以上一歩も進めない気がするから。 (こんなに悲しいのに、シエラさんのように涙が出ない) ソラリアは自分の選択が自分勝手な選択だと分かっていた。罪悪感も孤独感もあった。 それでも、ソラリア黒い瞳からは、一滴の涙も流れ落ちないのだ。 「私は……悪魔なんだ……」 ソラリアは、そのまま静かに目を閉じた…… 「シエラ落ち着いたか?」 「うん……」 翌日の朝、シエラが落ち着きを取り戻したのは、カイラの手術が成功したとの報せを受けてからの事だった。 それまでエルはずっと、付きっ切りでシエラを落ち着かせようと頑張っていた。 シエラにとって今が一番辛い筈だ。誰かが支えてあげなければならない。それが今出切るのは自分しかいないとエルは思った。 「私、ソラリンに酷い事言っちゃった……」 一方、平静を取り戻したシエラは、自分が仲間に言ってしまった事を後悔していた。 「ソラリン、許してくれるかなぁ」 あの状況で、ソラリアがシエラに何か言える筈がない。 にも関わらず、ソラリアは何とかシエラを励まそうと思ってくれていたのに、その思いを完全に踏みにじる行為をしてしまったのだ。 こんな事をしたら嫌われて当然だとシエラは俯いた。 「きっと分かってくれるよ」 「エル」 そんなシエラをエルがまた励ます。ソラリアは心の優しい娘だ。それが分かっていたから、エルは二人は仲直りできる筈だと信じていたのだ。 だが事態は、エルが想像していたよりも遥かに悪い方向に進み始めていた。 「あれ? 居ない」 朝方宿に戻ったエルとシエラは、ソラリアに謝ろうと真っ先に泊まっている部屋に向かった。 しかしノックをしても反応がない。仕方なくドアを開けてみると、そこにソラリアの姿はなかった。 「もう起きてたのかな?」 「……そのようだ」 シエラがキョロキョロと部屋を見回す中、エルの目はもぬけの殻となったクローゼットを見ていた。 「そんな……ソラリン、私のせいで……私があんな事言ったから」 ソラリアはどこを探しても居なかった。 宿にも、宿の近くにも、三人で街中探し回ったが全く姿が見えない。 昨夜の事を考えれば、それは誰の目にも「出て行った」としか思えなかった。 「シエラは悪くない。誰も悪くない。悪いのは――」 再び宿に戻って結果を報告しあい、芳しくない結果に責任と罪悪感を感じて泣くシエラ。 それをエルが慰め、タクトがソラリアの行きそうな所はまだ無いかと必死で考えていると、窓の外から誰かが話しかけてきた。 「あ~まんまとしてやられちゃったね」 三人が一斉に声のした方を振り向く。 そこにはこれから葬式に出るのかと思うほど、全身黒尽くめで顔も見えない喪服の女性が立って、こちらを見ていたのだった。 「朝からデバガメみたいな真似して申し訳ない。私は元老院の聖騎士アルトメリア」 「聖騎士だと!?」 「嘘、本物? 本物の聖騎士!?」 素早く弓を構え臨戦態勢を取るエル。一方、噂でだけ聞いた事がある都市伝説めいた存在に、妙に浮き足立つタクト。 そんなタクトを殴って静かにし、エルはシエラを庇うように立ちアルトメリアに向き直った。 「で、スラヴィアの戦闘貴族にも匹敵すると言われる聖騎士様が、私らに一体何の用だい?」 「魔神を退治しに来た」 と、アルトメリアは事も無げに話した。 しかし実際ソラリアの戦いを間近で見た事のあるエルは、昨日の怪獣大戦争めいた戦いを見ても、聖騎士が魔神をすんなり倒せるとは思えなかったのだ。 いや、今はそんな事が重要なのではない。この聖騎士が、何を目的に昨日からちょっかいを出して来ているのかと言う事が大切なのだ。 その目的、何を知り、何をしたいのか。それを聞き出す必要がある。 エルは駄目元で顔の見えないアルトメリアに話を聞いてみる事にした。 「魔神の――ソラリアの事を知っているのか?」 「多少はね」 案外簡単に、エルの呼びかけにアルトメリアは答えた。 まるで待っていたかのような気軽さだ。これがこの聖騎士の性格なのだろうか? とにかく、アルトメリアは聞かれてもいないのに、エル達に情報を与え始めた。 「かつて魔神は聖剣を持つ聖騎士によって倒された。だが今はその聖剣も殆ど残っていないからね」 かつて魔神を倒す為、神が人に与えた兵器――それが聖なる剣『聖剣』だった。 そして現代に残る数少ない聖剣の所持者の一人が、アルトメリアが所属する聖騎士団の団長、スパイク=エンフィールドだった。 だがその彼とて、魔神と戦った事がある訳ではない。遥か古代から甦った魔神と、現代でも戦える者がいるのか? それは正直な所、やってみなければ誰にも分からない。 ただ、これまでのソラリアの戦績、そして発掘されて即ファルコの右腕となったミィレスの実力から考えて、人の身で太刀打ちできる者は殆ど居ないだろう。 「だから代わりに腕の立つ者達が聖騎士の役割をやっているって訳さ」 「ソラリンを殺すの?」 シエラは核心を突く質問をする。 そう、タクト達にとって重要なのはそこだ。ソラリアはタクト達の仲間だ。その仲間を殺すと言うのであれば、アルトメリアはタクト達の敵と言う事になる。 聖騎士と戦って勝てる見込みは殆どないが、それでも我が身可愛さに仲間を見捨てるような薄情者は、ここには一人もいない。 三人に緊張が走る。次のアルトメリアの返答いかんで、聖騎士と戦うか否かが決定されるのだ。 「そのつもりだったが……どうやら、ソラリアと言うその魔神は悪い奴じゃなさそうだね」 アルトメリアはそう言うと、表情が読めない三人に気遣ってかオーバーなジェスチャーでやれやれとやって見せた。 一安心した三人だが、アルトメリアの話はまだ終わらない。 「だがファルコとその右腕、魔神ミィレス……そして黒い月は許さない」 アルトメリアはやれやれのジェスチャーを止めて、片手の拳を握り締める動作をした。 聖騎士にしてもファルコは、そして魔神はそれ程忌むべき相手と言う事らしい。 ここに来てだんだんと、朧気ながらエルとタクトにはアルトメリアの目的が見え始めた気がした。 そこでタクトは更に突っ込んでみる事にした。 ソラリアと出会い、四元魔将と戦い、度々登場する『黒い月』と言う単語。 それが一体何なのか?タクト達はまるで知らないままだったからだ。 「カイラも言っていたがその黒い月ってのは一体何なんだ? それが重要なものなのか?」 「行けば分かるよ」 「何?」 アルトメリアはそう言うと、顔を覆っていた黒いレースをめくって見せた。 「その為に私はここに来た」 レースの下から出てきた顔は、まだ歳若い女の顔。それも地球人女性の顔だった。 日光が顔に当たり、アルトメリアは顔に火傷を負い始める。太陽光に弱い、それはスラヴィアン独特の特徴だった。 もともと与えられた神力が少なく、スラヴィアンとして最低ランクの力だった為、こうして太陽光への拒絶反応も比較的弱くて済んでいるのだ。 これがもし強力な神力を持った古い貴族だったなら、一瞬で石のように固まり、ものの数分で風化して自然に還る事だろう。 「シエラ=ウィンザード。黒い月へ至る道を教えてほしい」 「なっ――」 だがそんなアルトメリアとて太陽光に長く当たっていられる訳ではない。 シエラを見詰めるアルトメリアの顔は、その僅か数秒間で火傷を負い、女の顔がどんどん傷付いていった。 その光景を前にしてシエラは戸惑った。何故なら黒い月の事など、小さい時の事すぎてほとんど覚えていないからだ。 この聖騎士が自らの弱点を曝け出してまで、願い乞うような情報をシエラは持ち合わせていないのだ。 「アルトメリア=リゾルバの名において命ず。出でよワイバーン!!」 シエラがそうこう考えて居る内に、アルトメリアが昨日カイラと激戦を繰り広げた時に使役した翼竜を召喚した。 この翼竜に乗って飛んで行こうと言う事か。 「ソラリアも、もう一人の魔神とファルコと共にそこにいる筈だ。再び神魔戦争を起こさない為に……頼む」 辺りは早朝だと言うのに、昨夜に続き現れた翼竜に驚いた住民達が集まりざわめき始めている。 アルトメリアはそのざわめきの中、翼竜の上でシエラを誘うように手を伸ばしている。 「シエラ……」 「……」 ソラリアがどこに行ったかわからない。だがもし本当にソラリアが、ファルコやもう一人の魔神に連れられて行ったのだとしたら? その可能性は高いとエルとシエラは直感した。 このアルトメリアと行く事が、ソラリアを探す一番の近道かもしれないと。 『行こう! 黒い月へ!!』 シエラとエルの声が重なった。 「ミィレス……本当に黒い月まで行けば、私もあなたも失った物を取り戻す事が出来るの?」 「行ければ取り戻せる。絶対に」 ソラリアとミィレスは街の外に出た広野を飛んでいた。 目指すはファルコ軍の野営地、ファルコの下である。 「ミィレス……あなたも……」 ソラリアはミィレスの表情を窺った。しかしミィレスは相変わらず無表情のまま前を向いて飛行するばかりである。 ミィレスは心を失っていると言った。心を取り戻したいと。 心が無ければ悲しみや苦しみや罪悪感に苦しめられる事も無いのだろう。 しかしそれは同時に喜びや楽しみや感動もないと言う事になる。 何も感じない、それは死んでいる事と何が違うと言うのだろうか。 ソラリアはミィレスを可哀想だと思った。 「よく来てくれた、もう一体の魔神よ」 そしてとうとう着いたファルコ軍陣営で、ソラリアはファルコに出会った。 立派な体格に手入れの行き届いた翼。服は一目で良い物を着ていると分かる物で、首や足首や体の至る所に金銀宝石の飾りが輝いている。 これこそ、今までこの男がどれ程の村を襲い、奪ってきたかを証明する姿に他ならない。 ソラリアは目覚めてからの短い生の経験の中で、初めて嫌悪感と言う物を感じた。 「私はオルニトの神官ファルコ。私が君達を黒い月へ招待しよう」 「イエス、マイマスター」 「お願い……します」 ソラリアはその嫌悪感を抑えてファルコと握手を交わした。 この場で感情のまま握手を拒めば、ソラリアを連れて来たミィレスの立場を悪くする。 それに何より、ソラリアはみんなの事を裏切ってここまで来たのだ。今更立ち止まるわけにはいかなかったのだ。 「ふふふ……コマは全て揃った。後は行くだけだ」 ファルコが今までの失敗の繰り返しを思い出す。 カイラから聞き出した黒い月の軌跡から辿り着いた『門』には二つの鍵穴があった。 一つはミィレスの持つ鍵の剣で開く。だが鍵の剣はもう一本必要なのだ。 二本の鍵の剣を同時に回さなければ門は開かない構造らしく、また、鍵の剣の複製はドワーフ達の技術力を持ってしても不可能だった。 開門に失敗し、現れた門番三人に部隊を壊滅させられる事数回、ファルコが半ば諦めていた時、ソラリアの噂が耳に入った。 (私が魔神達の王となりオルニトを、いや、世界を手に入れる日も近い) 学者達の見解によれば、黒い月には魔神達が眠っていると言う。そして目覚める時を待っている。そこに最初に到達して、ミィレス同様自分がマスターだと言ってしまえば…… 「ふふふ……はーーーっはっはっはっはっ....」 ファルコは込み上げる気持ちを堪える事なく、高らかに勝利の笑い声をあげた。 異世界の空を漂う黒い球体型の建造物。その軌道はカオス理論によって算出した空の死角を縫って航行するように設計されている。 嵐神の力で浮遊している浮遊大陸オルニトとは違う原理で飛行するこの物体は、悠久の時をこうして過ごしてきたのだ。 「そうですか。ここに向かってくる者がいると」 その巨大球状物体の中、色取り取りで大きさも様々な灯りが灯る暗い部屋の中で、一人の女の声が響いた。 「本当ですか? もしそうなら我々が待ち望んだ時がついに……」 微かな灯りに照らし出される一人の女。その視線の先には光る窓のような四角い灯りがあり、その中で別の女が何かを話している。 「あの悲劇の日から幾星霜……早く、早く来て下さい。我らが主様……早く……早く……」 明るい窓が消え、部屋にはまた元の静寂が戻った。 まるで時が止まったかのような闇と静寂が支配する場所で、女は男の到着が待ちきれないように、その手を下腹部に伸ばすのだった。 ※異世界冒険譚-蒼穹のソラリア- ④ へ行く 独自色の強いシリーズだけど迷わず走り抜けるのは清々しい。このシリーズが世界観に合っているか?というよりもどうやればしっくり世界観に馴染むかを考えてしまうくらいの気持ちよさがあった -- (名無しさん) 2013-01-18 17 27 24 物語として最後はどういうゴールをきりたいのか一区切り終わって気になったんやな -- (名無しさん) 2013-01-18 21 52 45 最初は違和感があったがここまで通しで読むと作者の気合みたいなものを感じて清々しい -- (名無しさん) 2013-02-08 00 32 29 本来いるはずのない自分への懐疑と他者の運命を狂わせるという思いは今のソラリアには厳しい仕打ちでしょうね。状況も悪化し周囲の人が傷ついていくというのも読んでいて辛さが重いですね。ファルコの目論見と魔神の心が剥離していっているようにも感じましたがやはり結末は黒い月でとなるのでしょうか -- (名無しさん) 2015-12-20 19 41 07 名前 コメント すべてのコメントを見る
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クラリス(2) キリスト教の守護聖女。 8/12の聖人。
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「ん?」 「お、おいちょっと待て。あれ……何だ?」 「鳥……?」 遺跡前防衛戦線に勝利の凱歌が上がった頃、ようやく黒煙晴れた空の彼方に黒い影が見えていた。 最初の内は何か分からず、気に留める者も殆ど居なかった。しかしその影は徐々に、しかし確実に戦場に近付いていたのだ。 そしてそこにいる者達の誰もが分かるようになる。破滅の時は過ぎ去ってはいなかったと言う事に。 「違う……あれは鳥じゃない! あれ、全部鳥人だ!」 「ファルコ軍だ……正規部隊が動いたんだ!」 今や空を埋め尽くす程の勢いとなったファルコ軍一千の大軍勢。大してこちらの戦力は、総崩れとなった防衛の陣地と百数名の自警団員だけ。 こんな状態で戦いになれば、その結果は火を見るより明らか。一方的な虐殺だ。 「こ、こんなの勝てる訳ねぇ。なぶり殺しにされるだけだ!」 「四元魔将を斥候に使うだなんて! 本体が後ろに控えてるなんて!」 「殺される、俺達みんな殺されるぞ!」 「いやだー! 死にたくないー!」 自警団陣営は混乱の坩堝と化した。皆が口々に絶望の言葉を吐き、逃げ場の無い戦場で右往左往するだけだった。 そんな中、エルとシエラでさえも希望を失い、これから始まる破滅に打ちひしがれるのみとなっている。 「万事休す、か」 「みんな……お姉ちゃん……ごめんね」 そんな前線の様子を見つめるソラリアは、同様に絶望の淵に沈む後方部隊の中で一つの決意をする。 (タクトさんは私が守ります) 例えこんな一縷の光も見えない闇の中でも、その誓いだけは絶対に捨てない。 ソラリアの中に眠るたった一つの確かな記憶。 ――タクトさんが好き―― その記憶、その想いだけは決して嘘にしてはならないのだ。例え自分の身がどうなろうとも…… 「っ!」 ソラリアが後衛の陣から一人飛び出した。 その手には鍵の剣がしっかりと握られている。 「ソラリア!? 止めろソラリア! ソラリアー!」 タクトはそれに気付いたがソラリアを止める事が出来なかった。何故ならタクトも、他の者達と同様絶望していたのだから。 ソラリアの強い決意を秘めた横顔を見てタクトは自分を恥じた。 あの時、ソラリアを守ると誓ったのは嘘だったのか?自分の心の弱さをタクトは心の底から恥じた。 絶望なんてしている暇は無かったのだ。いや、今だって、この瞬間だって、今すぐ駆け出さなければならないのだ。間に合わなかったとしても。 「皆さんは、タクトさんは傷つけさせません……絶対に!!」 それがソラリアの気持ちに対する、タクトが出来るせめてもの答えなのだから。 「ソラ……リア……」 「すごい……あんな戦い、そんな……」 空に上がったソラリアは鬼神の如き戦いぶりを見せた。 一千の敵の大群に突撃し、炎を放ちながら戦っている。圧倒的不利な状況にも屈せず、たった一人で戦い続けているのだ。 「武器を貸してくれ! 俺も戦う!!」 タクトは駆け出していた。弓と矢を引っつかんでソラリアの舞う戦場へと。 その姿を見て、残った自警団員達の心境に変化が生じ始める。 「な、なぁ。これならひょっとして俺達、勝てるんじゃないか?」 「ありえるぜ。あの娘スゲェよマジで」 「俺達も戦うぞ! まだ武器はあるんだ!」 「最後まで戦って戦って、戦い抜いてやるぜー!」 自警団の男達が再び武器を持ち立ち上がった。タクトに続き蒼穹の戦場に向かって走り始める。 ソラリアの想いが、タクトの誓いが、再び一同に戦う勇気を与えたのだ。 タクトは思う。ソラリアの姿を見て、改めて思う。 (それにしても……ソラリアの、あの強さは普通じゃない。本当に何者なんだ? 君は) たった一人、蒼穹に舞うソラリアは、戦場の女神か死神か…… 「あっ、もう矢が! 俺ちょっと矢を取りに行って来るから!」 そんな折、武器となる矢が尽きたタクトは前線から離れた。 「あぁ、頼む」 「ここは任せて! お兄ちゃん」 「あぁ!」 この時、タクトはみんなより一足先に知る事になる。本当の恐怖はまだ別に居た事に。 「こ、これは――!?」 遺跡内後方にある資材置き場に来たタクトは、そこで信じられない光景を目にした。 「みんな……死んでる……?」 それは後方支援で控えていた団員達。その誰もが、一人残らず頭の穴と言う穴から血を流して倒れている光景だった。 誰一人動く者は居ない。完全に死んでいるようだった。 「何故だ!? 四元魔将は倒した筈なのに、誰がこんな――ぐわっ!」 と、その時突然、タクトは頭部に強い衝撃を感じ地面に叩きつけられた。ガンガンする頭と回る視界の中、必死で何が起こったのか情報を得ようと模索する。 だがその望む情報は、意外な形ですぐにもたらされる事となった。 「来てしまいましたね、タクトさん」 「君は……スワティさん?」 倒れ伏したタクトの前に姿を見せたのは、宿で四人の世話をしてくれていた白い鳥人のスワティだった。 彼女もここで物資の管理や武器の運搬をしていた。だが今、彼女以外の人は全員死んでいる。彼女だけが生き残ったのか?どうやって? いや、そうじゃない。タクトは状況をありのまま、冷静に見る事にした。スワティの手に握られている鉄製の扇、その端から赤い液体が滴っているのだから。 「ずっと待っていたんですよ。遺跡の警護が最も手薄になる、この瞬間を」 「まさかこれは、全部君が?」 「フフッ……」 スワティがタクトの頬を撫でながら微笑を浮かべた。だがそれはタクトへ向けられたものではない。その鉄扇を手にした悦び故だ。 タクトの目の前に鉄扇が広げられた。その鉄扇には見た事のない文様と、流麗な絵が描かれている。意味は分からないが、何となく水を思わせる図柄だった。 「全てはこれを手に入れる為、水神の神器ミズハミノノリトの為なのです」 「神器……だと?」 『神器』地球の神話にもよく登場するそれだが、この異世界においては大きくその意味を変える。 ただの伝説上の存在ではないのだ。古臭いだけの文化財ではないのだ。それはこの世界の神の力を注がれた、確かな力を持った神聖な道具。 精霊の力が込められた魔道具とは比べ物にならない、まさに人が使えば神の如き力を発揮できる脅威のマジックアイテムなのである。 「そうです。これさえあれば神の力を行使できる……もうファルコなど恐くない。私……あたいこそが、ここ新天地の支配者になってやるよぉ!!」 スワティ――いや、水の魔将スワン。彼女が本性を表したのは、自分の勝利に絶対の自信を持った時だった。 「?」 ソラリアが、戦火の中何かを感じ取ったのは、時にして丁度タクトがスワンの前に倒れ伏した時の事であった。 タクトに続き自警団がソラリアの援護に回った時感じた安心感や心強さのような感覚が消えたのだ。 彼女の中にある魂のような物が、最愛の相手に何かが起こった事を感じている。それは何億光年離れていても感じ取る事が出来る人と人との絆の力。 (おかしいです。タクトさんの身に何か……何か妙な――!?) 地球で言う「虫の知らせ」と言う感覚にソラリアが困惑していると、遺跡の中から見た事のない、恐ろしい何かが現れた。 「何だアレは! 水が龍のようになって――人々を食らっている!?」 「こっちに来るぞ! 逃げろー!」 『わぁーーー――』 その水の龍は瞬く間に百人余りの自警団の面々を飲み込み、その水で出来た体内に取り込んでいった。 圧倒的だった。 誰も何も抵抗できないまま、一方的に一瞬で水龍に取り込まれてしまう。中には苦し紛れに矢を放った者も居たが、そんなもの水に射ち込んだ所で何の意味も無い。 ソラリアは味方があっと言う間に負けてしまう様を、ただ眺めているだけしか出来なかった。 「タクトさん! みんな!」 突然の事にファルコ軍の者達も動きを止めている。ザイールの遺跡は遥か昔、水神と崇められた水の大神龍を祭っていた遺跡だ。 その遺跡から水龍が現れたのだから、神の怒りに触れてしまったのかと思い、恐れ戦いたのだ。 だがすぐに、ファルコ軍にとって、その心配は無かった事が判明する事となる。 「動くな!」 遺跡の入り口から出てきたのは、真っ白い鳥人、スワンだった。 ソラリアには訳が分からなかった。何故自分達を世話してくれていたスワティが自分に動くななどと命令するのか。 だが次の彼女の台詞で全てを理解する事となった。 「動くなよ魔神。動けばこいつらを殺す」 スワンは裏切り者だったのだ。いや、最初から裏切るつもりでこの街に潜入していたのだ。そして時が来たから裏切ったのだ。 ソラリアがそう理解した時、自体はもう既に取り返しの付かない状態になっていたのだった。 「ファルコは新天地、いや、世界支配にはお前が必要だと言っていたが、あたいにはどーもそうは思えなくてねぇ」 スワンの言う言葉の意味は分からないソラリアだったが、何となく彼女が望んでいる事は察しが付いた。 そうしてソラリアがスワンの次の言葉を想像するより早く、スワン自らの口から、その残酷な言葉は放たれたのだ。 「あんたにはここで死んでもらう。あんたが大人しく死んでくれるってんなら、こいつ等の事は特別に見逃してやってもいい」 「タクトさん……」 水龍の中で息が出来ずもがき苦しむタクト達。その姿を見て、ソラリアの答えは一つしかなかった。 「……分かりました。私一人の命で、皆さんが助かるのなら……」 「そうそう、いー娘だねぇー――よっと!」 スワンがソラリアの答えに笑顔で答えたのと、水龍の鋭い爪がソラリアの体を裂いたのは、ほぼ同時の事だった。 水圧カッターのような一撃を受けて、ソラリアの胸部は大きく十文字に爆ぜ、鮮血を散らしながら地面へと落ちていったのだ。 その光景を見ながら、やっと水龍の体内から顔だけ開放されたタクトは絶叫する。 「っぷはっぁ!! はぁっ! はぁっ! ソッ、ソラリアーーーーーーーーーーーーーー!!」 巨大な水龍の胴体から下を見下ろすタクト。 ソラリアはどうなったのか?生きていて欲しいと願いながら、落下地点に目を凝らした。やがて落下の衝撃で上がった土煙が晴れると、そこには大きな赤い花が咲いていたのだった。 「ソラリアぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!! うわぁぁぁぁぁあああ!」 「あーーーっはっはっはっは! 何が災厄の存在だ! 何が滅びの具現化だ! やっぱり魔神なんか大した事ないじゃないか! 神の力の前にはゴミクズ同然さぁ!!」 守れなかった。 あの可哀想な娘を守れなかった。自分を好いてくれた娘を、頼ってくれていた娘を守れなかった。あまりにあっけなく訪れた結末に、タクトは悔恨と絶望の悲鳴を上げる。 タクトの慟哭とスワンの笑い声だけが、タクト達の敗北終わった戦場にこだました。 (タクトさん……ごめんなさい……) ソラリアの意識は闇の中に沈んでいた。 何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。完全なる闇。 [損壊率45% 戦闘継続不可能 自己修復装置起動 回復予想時間――秒] その闇の中、ソラリアの心の中に直接響く声があった。 (なんだろう……頭の中でおかしな声が聞こえる……何だか……懐かしい) その声にソラリアは覚えが無い。だが知らない声なのに何故か懐かしさを感じるのだ。 [必要元素 鉄……確保 炭素……確保 珪素……確保 マグネシウム……確保――] ルーチンワークをこなすだけの、抑揚の無い声なのに、何故そんな感覚を覚えるのか。 [システム再起動まで残り――秒 頑張ってね、ソラリア] その声はもしかして、もしかしてソラリアの―― ソラリアがその答えを求めようとした時、彼女の意識はそこで途絶えた。 「さて、これであんた達は用済みな訳だけど……どうしてほしい?」 「くっ……」 勝負がつき、自警団とタクト達を縛り上げたスワンは余裕の笑みを見せていた。 「くくく、悔しそうだねぇ、悲しそうだねぇ、恐そうだねぇ、いーよその表情。そうやって楽しませてくれてる内は生かしておいてあげるよ」 スワンは既に自警団の何人かを殺している。 縛られ、動けない相手の頭に水の玉を被せ、窒息する様を眺めて楽しんだのだ。 その残虐性、悪趣味さに、同じファルコ軍の兵士達まで恐れ戦いている。 「お前、神の力と言ったか。その扇が神器なのか?」 エルがスワンに質問した。時間稼ぎとターゲットを絞る為の質問だ。 今エルは縄抜けを試みている。手の関節を外し、手枷を取ろうとしているのだ。手が自由になれば砥いでおいた親指の爪で縄を切る事が出来るかもしれない。 だがスワンはそんなエルの企みを知ってか知らずか、いきなり顔面に蹴りを入れたのだ。 「エル!」 顔を蹴られ頭を遺跡の石柱にぶつけたエルは意識を失った。 そんなエルを心配して這いずってでも近付こうとしたシエラの背中を踏みつけて、スワンは憎憎しげにこう言った。 「生意気にお前とか言ってんじゃないよ! スワン様、だろう? このブス女」 横たわるエルに対し乱暴に唾を吐きかけるスワン。目を背けたくなる暴虐さだ。 だがスワンは怒りつつも上機嫌だった。その理由は長年追い求めてきた神器を手に入れる事が出来たからに他ならない。 「……ふん。ダークエルフはこれだから嫌いだよ、生まれつき目つきの悪い女ばっかりさ」 もはや好き放題といっていい傍若無人ぶりを発揮しつつ、スワンは手に入れた神器『ミズハミノノリト』に頬ずりした。 「だけど今日は気分が良いから教えてやるよ。これはね、かつてこの地に居た水神の力を宿した神器なのさ」 神器である碧い鉄扇を満足げに、何度も開け閉めしながらスワンはうっとりとした表情で語り始める。 もうこれさえあれば他何もいらないと言った様子だ。 「ここ新天地や未踏破地帯には、そうした物がいくつも眠ってる。遺跡や大地の恐れとなってね。あたいは昔からそーゆうのに興味があってね、黒い月の伝承をファルコに教えたのもあたいさ」 ファルコが捜し求める『黒い月』の伝承。 異世界には三つの月――即ち『セレ』『ニア』『コス』が存在する。だがその月とは別に、この世界を小さな黒い月が回っていると言う伝承があるのだ。 その伝承によれば黒い月には悪魔達が封じられていて、誰にも見つからない空の軌跡を通っていると言う。 スワンは古代の伝承を研究する内、この黒い月が実在して、悪魔達がかつて本当に居たと言う確証を得たのだ。 そしてそれをファルコに教える事で、オルニトの大図書館で司書をしていただけの女が、神官と四元魔将の地位を得た。 「おかげであたいは地位を与えられ、自由に遺跡探索出来るだけの資金と力を得た。けど、それも最近はやり辛くなってきてねぇ……アストレス、あいつさえ現れなけりゃ今頃……」 その成果として発見したのがミィレス=アストレス。ソラリアと同じ太古の眠りから目覚めた少女だ。だがその発見が彼女の地位を脅かす事となったのは、スワンにとって皮肉と言う他ない。 「少し喋りすぎたね。ま、とゆー訳だから。あんたらはあたいが神器を手に入れる為の犠牲になりましたって事さ。分かったら処刑を始めるよ」 「そんな! 約束が違――きゃあ!」 「う……シエラ……」 ソラリアとの約束を破り全員処刑すると言い放ったスワン。 その酷さに異を唱えようとしたシエラに、スワンは言い終わらぬ内に蹴りを入れた。 意識を取り戻したエルだが、まだ完全に覚醒していない為に何も出来ない。こんな時にシエラを守ってあげられない自分の不甲斐なさに、エルは唇を噛んだ。 「うるさいねぇ! 気が変わったんだよ! ここはあたいがルールなんだ!」 「くっ、こいつ……」 もう時間稼ぎも出来そうにない。縄抜けも間に合わなかった。 完全に打つ手無しの状態となったエルは、最早限りなく望みは薄いが、残された唯一の可能性に賭けるしかない。そう覚悟した。 「さぁて、どいつから殺してやろうか……やっぱり目つきの悪いあんたか? それともさっきから一番恐がってるあんたかい?」 「私だけやれ」 「あん?」 エルは吐き気を催す邪悪な女、スワンに対してこんな真似をする事だけは嫌だった。嫌だったが最早これしか手は残されていないのだ。 「この娘は何の罪もない、ただ巻き込まれただけの鳥人なんだ。その地球人も何もしてない。二人とも無関係なんだ。だから……あぐっ!」 「エルー!」 命乞いだった。 敗北が決定した時、情けなく敵に助けて下さいと懇願する行為だ。それをエルはシエラとタクトの為に行ったのだ。自分の命はいらないから二人を助けて下さいと。 「だからあたいに指図すんなって言ってんだろうが! 頭の悪いブスだよ全く! お願いする時は……」 「ブッ――ぐ……っ」 だがしかし、そんなエルの切実な気持ちを、文字通り踏みにじるように、スワンがエルの顔を踏みつけた。 いや、踏んだだけではない。何度も何度も、エルの恥辱に歪む顔を楽しむように、踏みにじり続けるのだ。 「こうして、地に頭擦り付けながら懇願するんだろうがぁ、あぁ!?」 「お願いします……どうか……この子達だけは……お助け下さい……」 「あぁん? 声が小さくて聞こえない――よっ!」 そして極め付けにエルの顔面を再び蹴りつける。エルはおびただしい鼻血を噴出しながら、再び意識を失った。 「うぁっ!」 『エルーーー!』 「あーーーっはっはっはっはっは!」 シエラはそんなエルの姿を見て、涙と鼻水で顔をビシャビシャにしながら這いずりながら近付いていった。 自分達の為にあれだけやったエルの為に、シエラは何もしてあげる事が出来ない。そしてそんなエルをゴミのように扱ったスワンに対して、何も出来ない。それがシエラは悔しくて仕方なかったのだ。 だがそんな時―― 「スワン様ー!」 「なんだい! 今良い所だよ!」 「そ、それが! 外の魔神が突然また動き出しまして!」 「なにぃ!?」 「ソラリア!?」 タクトにとって、そしてシエラにとっても喜ばしい、驚くべき知らせが入ったのだ。 こんな時、願うべくもない喜ばしい知らせが。 「うわぁぁぁあ!」 「ぎゃぁあーー!」 スワンは急いで遺跡の外に出た。 魔神は先程、確実に自分の手で仕留めた筈だった。だがそれが何故か復活して、再び自分の邪魔をしているというのだ。 スワンは思った。いや、願った。あれだけのダメージを与えて立てる筈が無い、と。 だが部下の何かのみ間違いだと願いながら、半信半疑のまま表に出たスワンの目に飛び込んできたのは、上空、遺跡の直上で巨大な火の玉を形成し続ける火の悪魔の姿だった。 「ダメだ! 火が強すぎて、近づくと翼が燃えてしまう!」 「スワン様! 奴に近づけません!」 「えぇい!」 既にソラリアを撃墜しようと接近を試みているファルコ軍の兵士達だったが、ソラリアがチャージする集積火粒子砲の余熱だけで近付く事が出来ずに居た。 「もう一度くらいな! 青龍演舞!!」 魔神相手に部下達ではどうにもならない。 それが分かっていたスワンは、一度倒した自信もある為か、すぐさまもう一度、水龍による攻撃を敢行した。 今度は爪ではない。水龍が真正面からぶつかる、大質量の水による破砕攻撃である。山をも削り、砕く力のある水の流れ。その力をソラリアにもろにぶつけたたのだ。 小さな火球程度一瞬で消し去る水の量。スワンは自信があった。 今度こそ倒した。ソラリアの周辺は水蒸気で何も見えなくなっていたが、そう確信していた。だが…… 「っ! な、なにぃ――!?」 だが水蒸気が晴れたそこには、変わらず火球を構え続けるソラリアの姿があった。 ソラリアの火球はただの火ではない。超高温の火は既にプラズマ状態にシフトしていたのだ。 大質量の水龍(水流)は、鼻先が触れた瞬間に蒸発。いわば水蒸気爆発の状態となって残りの水を吹き飛ばしてしまっていた。 「く、くそ! 青龍乱舞! これならどうだぁ!」 その光景にスワンは戦慄した。水は火に対して相性の良い属性ではないのか?その水属性のトップクラスに位置する力を、水神の神器を手にしたのに、魔神の炎に勝てないというのか。 スワンは今度は水龍を同時に五体出現させて、ソラリアに向けて突撃させた。その威力は山をも砕く力を持とう。 だが…… 「そんな……そんなバカな……くそぉ!」 再び起こる水蒸気爆発。その白いモヤが晴れた空には、ボロボロに成りながらも健在の、蒼穹のソラリアがそこに居た。 スワンが遺跡の方に飛ぶ。その手にした扇から放たれた水龍が、遺跡内から誰かを引っ張り出した。 その人物とはソラリアの守るべき、愛する者。 「おい! こいつを見な!」 遺跡から引っ張り出したのは地球人、久我タクトその人だった。 そう、スワンは再び人質作戦に出たのだ。 「今すぐその炎を消して投降しな。こいつらの命が惜しけりゃね」 「ソラリア……」 だが今度はタクトは暴れたりしない。 タクトも誓ったのだ。絶対ソラリアを守り抜くと。それは人質になってソラリアの足枷になるくらいなら、このまま殺されても構わないと言う覚悟。 タクトは静かに目を閉じてソラリアの名を呼んだ。 「どうした! 早くその火を消せ! こいつが死んじまっても良いのかい!?」 人質のそんな態度に、そして今度は無反応なソラリアの態度に、スワンは今までに無い焦り様を見せる。 もう今のソラリアには人質作戦は通じない。そう踏んだスワンは速やかに、次なる手に出た。 「~~~~来い!」 再びタクトを連れて遺跡に戻るスワン。その心にはもう先程までの余裕など微塵も無く、ただただ一つの感情だけが湧き上がっていた。 (くそ! 一体何なんだあいつは!? 正真正銘の悪魔だとでも言うのかい!?) それは恐怖。 敵わないと言う畏れの感情。 だがこのままそれを認めてしまう訳には行かなかった。負けを認めれば死、あるのみだからだ。 ここまでやった自分を許す者など誰も居ないだろう。ここは何としても・・・ 「おい魔神! 一旦勝負はお預けだよ! 今遺跡は水神の結界で守ってある! 絶対に破れない水神の障壁だ!」 そう、勝てないと分かれば逃げの一手しかない。 タクトを人質としたまま遺跡内を通る地下水脈を使って逃げるのだ。勿論、安全圏まで逃げたら途中で人質は捨てて行くつもりだろう。 「次の勝負まで、こいつはあたいが預かっとく! 追って来たら殺すからね!!」 ここで追わなければタクトは殺される。それがソラリアには分かった。 だからこそっこで引くわけにはいかないのだ。ソラリアはタクトに出会う為、タクトを守る為、気が遠くなる程の悠久の時を超え、ここに居るのだから。 「本当に、その水の結界は破れないんですね?」 ソラリアが言った。 静かに、澄んだ声ではっきりと。 今やこの場には誰も口を聞く者はいない。だからこそソラリアの声はスワンにはっきりと届いたのだ。 「絶対に破れないんですね?」 返事が無いスワンにソラリアはもう一度聞く。 この問いが一体何を意味するのか、スワンには何となく分かった。だが彼女の勝気な性格が、逃げると言う戦術的敗北と呼べる手を取る以上、これ以上弱腰になりたくないと言う気持ちからこう答えるしかなかった。 「当たり前だ! 神の力の前に、己の無力さを思い知れ!」 「分かりました」 「っ!?」 その瞬間、最大限までチャージされたソラリアの集積火粒子砲が遺跡に向けて放たれた。 「きゃーーー!」 「うわぁぁぁあ!」 遺跡の中は物凄い爆音と振動に包まれた。 ソラリアが水神の障壁がある事を無視して、全力で集積火粒子砲を放ったのだ。 「な、何をしている! 全員かかれー! さっさとそいつを叩き落せー!」 その一撃で百層の複雑な水流から成る水の障壁は、第七十層まで蒸発してしまっている。 しかしそれだけの大出力で放ったソラリアも無事とはいかない。一撃目の砲撃で、衝撃を吸収する間接部が悲鳴を上げ、熱量のノックバックで全身至る所が焼け始めている。 それでもソラリアは間髪入れず、次の砲撃準備を進めているのだ。 再び鍵の剣の先に収束されていく火の粒子に、突撃を命じられたファルコ軍の兵士達は次々と翼を焼かれ落ちて行く。 だがそれでも突撃を止めないのは、命令されたからと言うだけではない。ソラリアに対する恐怖が、それを誤魔化す為の蛮勇とも言える攻撃を行わせているのだ。 そして、第二撃目の火粒子砲が放たれた。 『うわぁーーー!!』 凄まじい炎の奔流に群がっていた兵士達がまとめて蒸発する。集積火粒子砲はその発生原理から、砲撃の射線上周辺にプラズマ過流が発生する。それによって大半の兵士が燃え果てた。 そして放たれた第二撃目によって起こった水蒸気爆発も、まだ地表周辺にいた兵士達を薙ぎ払った。 今ソラリアの体は、鍵の剣を両手で支える事も出来ない程ボロボロになっている。撃てば撃つ程自分をも壊していっているのだ。 最初にスワンから受けたダメージが完全に直る前に動き出したツケが出ているのだ。 だがそれでもソラリアは止まらない。 機械の如き正確な砲撃は、水の障壁を一撃目と全く同じ箇所を砲撃する事で、残り三十五層にまで消滅させている。 「み、惨めな女だよ! そんな事をしても、無意味だってのに!」 「恐いのか? スワン」 「く!」 もしもう一度砲撃されれば障壁は持たない。 スワンはまさか神の防御壁が突破されるなど、いや、中に仲間がいるまま砲撃してくるなどと思いもしなかった。 ソラリアの第三砲撃目のチャージは始まっている。このままではスワンが地下水脈に逃げる暇はない。 「や……止めろーーー! ここにはお前の仲間が居るんだぞー!」 スワンが祈るような気持ちで叫ぶ。 だがソラリアは止まらなかった。 「ソラリアーーー!!」 タクトの叫びと共に、ソラリアの最終砲撃が放たれた。 「へ、へへ……バカや奴だよ。神の力に逆らうから……そうなるのさ」 障壁は破れ、遺跡は殆ど跡形も無く吹き飛んだ。 その瓦礫の中、いち早く這い出してきたスワンは、瓦礫の上に転がるソラリアを見下しながらそう言った。 ソラリアは今、瓦礫の上に片手片足を失った状態で転がっている。もうピクリとも動く事が出来ない。 「勝負はあたいの勝ちだ。死ね、悪魔め!」 そんな無抵抗のソラリアに止めを刺そうとスワンが鉄線を振り上げる。その手に纏われる水龍は、小さいながら今の状態のソラリアを殺すには十分な威力を持っている。 その水龍鉄扇を振り下ろそうとしたその瞬間、何かがスワンの手を射抜いた。 「な!?――がっ!」 スワンの手を射抜いたのは矢だった。続けて放たれた矢がスワンの喉に命中する。 「カハッ! ……ガフッ、て……めぇ……」 スワンは鉄扇を取り落とし、喉を貫通した矢を抑える。そしてそのまま喉に溢れる地を我慢出来ず吐血しながら倒れこんだ。 完全に致命傷だ。スワンを射抜いたのは、まだ瓦礫から半分抜け出せていないエルの愛弓だった。 「ソラリン!」 「ソラリア!」 そのエルの後ろからシエラとタクトが駆け出す。目指すはソラリアの所だ。傷ついたソラリアの元に一直線に向かって行く。 「タクト……さん……みん……な……」 タクトに助け起こされたソラリアは、今にも意識を失いそうな弱弱しい調子で辛うじてそう答えた。 「あぁ……ああぁ……こんな、こんな大怪我……」 「ソラリン! しっかりして! 死んじゃ嫌だよぉ!」 タクトもシエラもソラリアのあまりにも酷い惨状に涙が止まらなかった。 あちこちの皮が火傷でめくれ上がり、左手と左足は根元から失われている。残った右足も着地の際ににやられたのか、膝から下があらぬ方向に曲がっていた。 「大丈夫……です。私……何となく分かるんです……自分が……大丈夫だって……」 そんな状態でもソラリアは、気丈に二人に笑って見せた。 「落ちた手と……足を拾って下さい……一週間ほどで……回復しますから……」 そんなソラリアを二人は生きていて嬉しい気持ちと同時に、何故こんな状態で生きていられるのか、一週間で回復するなんて本当なのか、あんな真似が出来るなんて一体何者なのかと言う疑問に思う気持ちで一杯だった。 もしかしたら、自分達はとんでもない事と関わり始めているのかもしれないと言う不安が、二人の胸に去来した。 「ソラ……リン……」 「ソラリア……君は……一体……」 ソラリアが笑顔の中に悲しい表情を見せる。 本当は分かっているのだ。こんな状態でも痛くない、自分はタクト達とは違う”何か”だと言う事が。 「私……一体何なんでしょうね……自分で……自分の事が分かりません」 ソラリアは正直に今の気持ちを伝えた。 目覚めた時、過去の事を何も覚えていなかった。ただ一つ、タクトの事だけは覚えていた。タクトを好きと言う気持ちだけを。 だが一緒に旅をする程にソラリアは思うのだ。自分はタクト達とは違う存在なのだと言う事を。そしてそれがとても悲しいのだ。寂しいのだ。 「でも……お願いです……」 そして実はその事をタクトも薄々考えていた。 意識的に考えないようにしてきたが、今回の件でその事が、もう目を背けられない事実だと言う事を突きつけられた。 それでもタクトは信じたかったのだ。 ソラリアが、自分達と同じ『心』を持っている事を。 「私のこと……嫌いに……ならない……で……」 「ソラリア!? おい! ソラリア! ソラリアぁーーー!!」 ソラリアはその一言を残すと眠りに付いた。 その後三日間、彼女が目を覚ます事はなかった。彼女の傷は宣言通り見る見る回復していった。 だがもうタクトはソラリアを疑ったりはしない。何故ならあの時、「嫌いにならないで」と言ったソラリアの目には、人と同じ涙が浮かんでいたのだから。 ※異世界冒険譚-蒼穹のソラリア- ③ へ行く 前後編読んでみてやはり映画のようなと楽しめた。今度は以前の話も読んでみます -- (とっしー) 2013-01-12 18 39 11 ソラリアならではの要素が多分に登場しますがイレヴンズゲートを基盤に演出されているので違和感なく読んでいけます。序盤から怒涛の展開の切っ掛けになり牽引するスワンのブレなさと存在感は悪役として存分に輝き散りました。かなり痛手を負いましたが分かり合えた面々の次の一歩を次回に期待します -- (名無しさん) 2015-09-27 19 52 22 名前 コメント すべてのコメントを見る -
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月の女神クラリス(ツキのメガミ~) p e 属性 雷 コスト 21 ランク A 最終進化 S レベル HP 攻撃 合成exp 10 660 727 ? 50 1,116 1,230 ? 最大必要exp 19,564 No. 0800 シリーズ クラリス Aスキル 上弦の明かり 雷属性の味方のHPを大回復(?%) Sスキル ルナーエレメント 敵全体へ雷属性の中ダメージ(?%/7turn) 売却価格 9,600 進化費用 210,000 進化元 - 進化先 新月の女神クラリス(A) 進化素材 ド1(A) フ1(C+) キ1(C+) ロ1(C+) 入手方法 クリスタルガチャ(500万DL記念キャンペーン期間限定) 備考