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第11回トーナメント:予選② No.5394 【スタンド名】 Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!! 【本体】 仰木 健聡(オオキ ケンソウ) 【能力】 体液に衝撃を込める オリスタ図鑑 No.5394 No.6096 【スタンド名】 クワイエットブルー 【本体】 シエラ・アルカンシエル 【能力】 棘を作り出し、撃ち出す オリスタ図鑑 No.6096 Make Some Noizeee…e!!!! vs クワイエットブルー 【STAGE:ファミリーレストラン】◆UnDerlZmms 『自動 押してください』と書かれたボタンを軽く叩くと、ドアは素早く開いた。 オープンセサミ。 夜の寒気から逃れる様に、身体を内に滑りこませる。 ここは某大手ファミリーレストランの一店。 通常なら家族連れなどで賑わう店内には、ただ一人の影があるのみ。 「お姉さんが、僕の相手?」 店の一番奥の壁にもたれかかる少年は、入店者を認めると訊ねた。 それに対し、女は中指で眼鏡のブリッジを押し上げ、答える。 「はい。シエラ・アルカンシエルです。 この度はトーナメントを調査するため、調査会社『アカシャ』より派遣されて参りました」 中央まで歩いて名乗り、軽く一礼。 「ふーん。僕は仰木 健聡(おおき けんそう)。 よく分かんないだけど、お姉さんと戦えばいいんだよね?」 「ええ、そう思われますが…… 立会人は不在でしょうか。ならば今からでも始めますか?」 事実、シエラの言う通り店内には他に人の気配は無い。 電気すら消え、広い窓から差し込む向かいの店の電飾によってのみ整然と並ぶ椅子と机が照らされている。 しかも今は夜中。これなら間違えて一般人が紛れ込む事はまず無いだろう。 そして立会人はここには居ない。 今、この大勢を迎え入れるための施設は、ただ二人の異能のためだけに存在していた。 「うーん……あー、それなんだけどさぁ。 お姉さん、勝ちたい?」 「……はい?」 薄すら笑いを浮かべた健聡の突然の提案にシエラの反応が遅れる。 「僕に勝ちを譲ってくんないかなーって話。 お姉さんだって野蛮な戦いなんてしたくないでしょ? だからここは棄権してさぁ……」 「…………何のつもりですか?」 シエラが呟くと、巻貝型のヘルメットを被ったスタンドが出現し、 次の瞬間、針のようなものが健聡の頬を掠めた。 「へ?」 血が、健聡の頬を伝い顎から滴り落ちる。 シエラは静かに眼鏡を外すと、胸ポケットにしまう。 「棄権?勝ちを譲る?……笑わせないで。 私はここに『トーナメント』とは何かを調べにきた。 こんな謎だらけの存在、私達は――アカシャは認めるわけにはいかない。 戦う理由が無いのは貴方でしょう?棄権するべきは貴方でしょう? そんなに戦うのが嫌ならば、貴方が尻尾を巻いて逃げるがいい。 さもなくば…………私は貴方を潰す」 その言葉に呼応するように、シエラのスタンドが両手を前に翳す。 「『クワイエットブルー』ッ!」 そしてシエラの声に応じてその腕に刺が現れ、一斉総射、健聡へと殺到する。 射線上にあった机や椅子に刺弾が次々と刺さり、当たりどころの悪かった不運な椅子が一脚破壊された。 一方の健聡は、笑みを、薄ら笑いでは無く心からの笑みを零して言う。 「そうだよねぇ……そりゃあそうだよ……。 闘いを前にして逃げ出すなんて出来ないよね。 やっぱ僕には向いてないや。小難しい事考えるのはさぁ!」 そして彼は、足元の血を強く、二度、踏みつけた。 「『Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!』!!!!」 瞬間、健聡の身体は、蹴られたように前方に飛びあがる。 真下では目標を失った刺が虚しく壁に突き立つ。 健聡は空中で一回転し、シエラを飛び越しその2,3メートル後ろに着地。 「ごめんね、お姉さん! でも今からは全力で戦うからさ、許してよ!」 そう言って彼はスタンドを発現。 さらに自らも振り向きざまに包丁を数本投げつけた。 「包丁ッ!?」 「お姉さんが来る前に厨房から持ってきたんだ。 行けッ!『Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!』」 全身の口から涎を垂らす亜人が、シエラに殴りかかる。 それを迎え討つ、クワイエットブルー。 必然的に包丁にはシエラが自ら対応せざるを得ない。 「くっ……!」 「おっ、一個命中?」 殆どの包丁は後ろの壁へと飛んでく。 しかし避けきれなかった一本がシエラの脇腹に突き刺さり、服にうっすらと赤が滲む。 これを機に一気に攻め込もうと、健聡が包丁片手にシエラの懐に飛び込んだ。 一方スタンド同士の戦闘は、クワイエットブルーが押していた。 パワーにおいては大柄なMake Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!が有利なものの、 スピードはクワイエットブルーが段違い。 敵の攻撃を手数でいなし、高速かつ正確な攻めで致命的一撃を狙う。 とはいえ一発貰えばダメージは大きいだろう。 守りを意識した慎重な戦闘は、効果的な一撃を入れ難くする。 確かに時折、腕から刺を飛ばしたりすることで軽いダメージを与えることは出来ていた。 しかし、状況は実質硬直している。しかも、極度の緊張の中で。 その時、状況が動く。 シエラが健聡に気を取られた所為で生まれる、クワイエットブルーの動きの瞬間的乱れ。 そこを狙い、Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!が拳を振るう。 「一瞬の隙が命取りだよっ。 食らえッ!」 がら空きになったクワイエットブルーの胸元に、拳が吸い込まれる。 咄嗟に繰り出したとはいえ、破壊力-Aの決断的パンチ。 これが決まればシエラは相当のダメージを負うことになるだろう。 そして…… 「うわあああああああァァ!!!!」 血が、夥しい血が床に流れ落ちる。 その源流はシエラではなく、健聡。 クワイエットブルーの身体から突き出た刺が、健聡のスタンドの拳を貫いた。 そしてダメージをフィードバックされた健聡もまた、拳に大穴を作り血を流す。 「隙が出来た、のではなくて、隙を作ったのよ。 私のスタンド、クワイエットブルーは刺を飛ばすだけが能力じゃない。 刺を体表に作り出す所からが能力……」 拳をもう片方の手で抑え顔を苦痛に歪める健聡を、シエラは壁に叩き付けた。 「ぐぅッ……!」 「血がたくさん出たわね。 でも残念、貴方のメイク・サム・ノイジーの能力は既に調査済み。 能力の行使に必要な物が二つある。貴方の体液と、衝撃。 貴方のスタンドを私のスタンドが、貴方を私が抑えている限りどんな衝撃が与えられるというの?」 シエラは右手で健聡の両腕を抑え、壁に捻じ伏せる。 健聡の足は浮き、血だまりには届きそうも無い。 同じくMake Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!もクワイエットブルーに組み伏せられている。 「負けて死ぬ前に『棄権』しなさい。 このまま放っておくと貴方は失血死するわ」 「…………がう……」 「何?もっと大きな声で喋らないと聞こえないわよ」 「二つ違う所がある、って言ったんだよお姉さん」 健聡は附せていた顔を上げた。 満面の、笑みで。 「まず一つ目。 メイク・サム・ノイジーじゃなくてさ、『Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!!』。 『e』15個と、『!』が4つ。間違えちゃダメだよ。 そして2つ目」 「僕が負けるって事」 「……何を言っているの?今の貴方がどうやって衝撃を込めるっていうの? それとも、私の手中から逃れる方法があるとでも?」 「『今』の僕は、無理だろうね。 でも過去の衝撃はさ、まだ消えてないんだよ」 その時、背後から勢いよく飛んできた物がシエラの頭上を掠めた。 「え?」 それは、一本の包丁。 突然飛来したそれは、掲げられていた健聡の手に突き立った。 血が、吹き出し、降り注ぐ。 「ああ……あああああああああアアアアァァァ!!!!」 シエラは全身に『包丁を突き立てられた様な』衝撃を受け、吹き飛び、意識を手放した。 「あーあ……手がズタズタだよ…… 急がなきゃヤバイかな……」 血を垂れ流しながら健聡が呟く。 飛んできた包丁は、健聡が投げた内の一本である。 壁に浅く刺さっていたそれは、戦いの余波で少しずつ抜けていた。 そして健聡が壁に叩きつけられた事で完全に抜け落ちたのだ。 落下したそれは壁際の床の血――健聡が最初に飛ぶのに使った物――に当たり、同じ軌跡で飛んだ。 「死んでるかな……? ……ま、どうでもいっか」 彼がこの計画を考えて行ったと思うのは間違いだ。 何故なら彼は『考えるよりも先に動いてしまう少年』、仰木 健聡なのだから。 「やーん、健聡っちお疲れー★」 その時自動ドアが開き、一人の女が入店する。 「あ、どうも。約束通りこの人に勝ちましたよ。 だから速く治療とかしてくれませんか」 「うんうん分かってる、分かってる。 健聡っちはこのクソ女を始末してくれたんだもんねー★ もー恩に切りまくり?みたいな?」 そう言って女は血まみれで気絶しているシエラの腹を蹴る。 「トーナメントの事を調べようなんて厄介この上ないってのよ。 ま、アタシの独断だけどー、潰させて貰いましたー。キャハッ★」 この女はこの試合を担当する筈だった立会人。 シエラは『立会人が不在』と言ったが、実は彼女は初めから外で見ていた。 しかも、先に来た健聡と契約を交わして。 先ほどの『健聡は計画を考えていない』という文を覚えているだろうか。 そう。この立会人の女が、全てを考えだしたのだ。 壁に刺さるほど鋭い包丁を用意したのも、最初に挑発で血を流しておく事も、考えたのは彼女だった。 「でも大筋以外は、結構アドリブだったね健聡っち。 まあ勝てたんだし結果オーライだけどさっ★」 「ああ、ごめんなさい。 最初は言われた通りに戦おうと思ったんですけど…… 考えるより先に身体が動いてしまって」 健聡はそう答えると、静かに笑った。 女もまた、ニヤリと笑いそれに答える。 二つの影が、夜の闇に消えていった。 ★★★ 勝者 ★★★ No.5394 【スタンド名】 Make Some Noizeeeeeeeeeeeeeee!!!! 【本体】 仰木 健聡(オオキ ケンソウ) 【能力】 体液に衝撃を込める オリスタ図鑑 No.5394 < 第11回:予選③ > 当wiki内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。 [ トップページ ] [ トーナメントとは? ] [ オリスタwiki ]
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第18回トーナメント:予選① No.7156 【スタンド名】 ディメンション・トリッパー 【本体】 三船 重兵衛(ミフネ ジュウベエ) 【能力】 触れたものを急加速させる オリスタ図鑑 No.7156 No.6425 【スタンド名】 アストロブライト 【本体】 西獅子 星司郎(ニシシシ セイシロウ) 【能力】 描かれた星座からイメージを具現化する オリスタ図鑑 No.6425 ディメンション・トリッパー vs アストロブライト 【STAGE:廃工場】◆aqlrDxpX0s ――眠りに落ちた街を満月の青い光が淡く照らす頃、山のふもとの民家に住むひとりの少年がふと目を覚まし、窓から見える丸い月の形を見た。 まるで太陽にあこがれて夜を照らそうとしている月の姿を見ていると、その前をさっと黒い影が横切る。 少年は驚き、窓を開けて黒い影の正体を見ようとした。 その黒い影は翼を広げて夜の空を舞い飛んでいく。 電線鉄塔を二度旋回し、山の奥まで飛んで行った。 黒い影のその優美な姿から、目を離すことができなかった。 少年は、飛んでいく黒い影の背に人が跨っていたのを確かに見たである。 まるでかつて絵本で見たような、児童文学で読んだような情景が目の前にあった。 翌朝、少年は自分が昨夜見たことを両親に話した。 良い夢を見たんだねと母親は少年に微笑みを見せた。 本当に見たんだと言っても信じてはくれなかった。 父親は言った。 「その飛んで行った先にあるのは、もう使われていない廃工場だ。今は誰もいないんだよ」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 彼のもとに再びあの『赤い封筒』が届けられたのは1週間前のことだった。 中を読むと、「優勝者トーナメントへのご招待」と書かれてあった。 午前8時13分、朝の冷え込んだ空気が日の光で暖められる頃、三船重兵衛(ミフネ ジュウベエ)は快速列車から駅のプラットフォームに降り立った。 使い古されたジーンズ、スニーカーを履き、ダウンジャケットを羽織ってニットキャップを目深に被っている。 背負っているリュックは中にモノが詰め込まれてパンパンに張っている。 重兵衛は電車を降りる人の流れを避け、ホームの反対車線側に立った。 ホームから見える街並みの中には、大きなビルもなく車もたくさん行き交っているわけではないが 地方の大きな町の駅前といえるほどには栄えているように見えた。 出勤、通学時間にはやや遅いが、人の往来も多い。 「……以前はマジメに働いている人の姿や若い学生の姿を見ると、自己嫌悪したものだったけどなあ……」 重兵衛は定職に就かないのは相変わらずだったが、 周囲の目を過剰に意識し、苛まれることはなくなった。 重兵衛の背後でたった今降りた列車が出発する。 すでにホームに人はほとんどいない。 重兵衛は駅を出るためにホームの連絡橋へ歩みだした。 ただ、重兵衛はこの町に用があるわけではない。 単にこの駅からの電車の乗り継ぎのため、時間つぶしでもしようと思ったのだった。 重兵衛の目的地は、この駅から出ているローカル線から10駅ほど先の小さな町の工場だった。 小さな町の工場といっても、重兵衛の調べではかなり規模の大きい製造工場だった。 およそ40年ほど前に町が産業振興と雇用促進のために誘致したもので、その工場が操業していた当時は今の3倍以上も人口が多く、活気があったらしい。 ただし、その工場はすでに20年以上前に会社が倒産しており、それよりも前に操業が停止していた工場は25年近く放置され、廃墟と化している。 そしてその小さな町も、今やかつての栄華を公営の資料館で懐かしむだけの時の止まった場所になっているのだろう。 『優勝者トーナメント』の1回戦の会場として指定された場所が、その工場だった。 重兵衛は、そのような場所でバトルすることで立体的な戦闘を楽しめるだけでなく、一般人の介入もなく戦闘を秘密裏に行えるという利点が運営にあることは理解している。 だが実際問題として、そこへ向かうためだけにそこそこ苦労するということが重兵衛にとっては負担の大きい問題だった。 1時間に1本しか出ないローカル線、列車を何度も乗り継ぎ移動することで重なっていく運賃と疲労。 運賃に関して言えば、到着後に運営が立て替えてくれることもあるのだろうが、まず先だって必要なお金を集めることだけでも低所得者である重兵衛にはひと苦労だった。 「運営が毎回迎えに来てくれるといいんだけどな……」 重兵衛はかつて自身が参加した、スタンド使いを集めたトーナメントで優勝した。 実物を絵に変える少女、爬虫類に変身する少女、多数のリボンを操る少女と戦い、勝ち抜いた。 なにか高額な賞品をもらえたわけではない。 得られたのは言葉にできないほどわずかな充実感と、新たなる『期待』。 『あなたも……僕に期待するんですか』 かつての自分はそう呟くのが癖になるほど、期待を背負うのが嫌だった。 厳めしい名前に込められた期待も、誰彼から受ける期待も、すべてが嫌で逃げ続けていた。 それが、トーナメントを勝ち進むうちに変化があった。 言葉にできるほど大きなものでは決してない。 今でもすべての期待を受け入れることはできない。 ただ、かつて感じていた吐き気がするほどの自分への嫌悪感は無くなったように思う。 期待にこたえられるかどうかという不安はあるが、それとともにわずかに高揚感を憶えるようになった。 ただひとつ言えるならば、これまで自分を縛り、苦しめていたのは自身への劣等感だったのだと思う。 それが薄れて、自分の視界が開けてくるような気がした。 お金は相変わらず苦しいけれども、この小旅行をどこか楽しんでいる自分もあった。 駅舎を出て、駅前の広場を見渡す。 石畳の上をぱたぱた歩く小鳥、あくびをしながら歩く学生、自販機の前でコーヒーを飲むつなぎ姿のひとたち。 のどかな雰囲気と朝の冷えて澄んだ空気がとてもさわやかに感じられる。 「はあ……いい気持だなあ」 おもわずあくびをしてしまう。 ふと駐車場のほうを見れば、ゴミ拾いのボランティアにいそしむ人たちの姿も見える。 作業の傍ら、笑いあって話す様子が見える。 「いやあ今朝は爽やかですねえ! この寒いのが続いていた中で、祝福のように降り注ぐ日差しが我々を励ますようですな!」 「…………」 重兵衛はここで、自分がふと駅舎からふらりと出てみたことを後悔する。 ゴミ拾いのボランティアの中に、明らかに異様な男がひとり紛れていた。 プロレスラーのような体格にもかかわらず仕立てのいい紺のスーツを身に纏い、ウェーブがかった金髪を後ろに撫で下ろしている。 どこにそんなにゴミが落ちていたのか、男の片手にはゴミがたくさん詰まったゴミ袋が3つ掴まれている。そしてもう片方の手にはくすんだ色のトングが握られている。 重兵衛はすぐに駅舎に戻ろうとしたが、こちらを振り返ったその男に姿を見つかってしまう。 「おおーーーーーーい、ん重兵衛クーーーーーン!!」 その男の名はグレゴリー・ヘイスティングス、重兵衛を自らの所属する団体『アンカー』に加入させようとしている、 今のところ最も重兵衛に期待を寄せている男だった。 呼びとめられては仕方がないので重兵衛はグレゴリーのほうを向く。 だがグレゴリーは自分が呼びとめたにもかかわらず、重兵衛を手招きする。 もう逃げられないと観念した重兵衛は駐車場に立っているグレゴリーのもとへ向かった。 「奇遇だな重兵衛君、さあキミも一緒にゴミ拾いをしよう」 グレゴリーは爽やかというより暑苦しいほどの笑顔を見せ、さも当然のように何処からか出てくるトングを重兵衛に差し出す。 重兵衛はそれを受け取らず、グレゴリーに言った。 「何が奇遇ですか、この町はあなたの活動拠点から100キロ以上も離れている。あまりに不自然ですよ」 「ははは、なぁにただのあいさつ代わりの冗談だ。それに清掃作業はすでにひと段落したあとだ」 「相変わらずですね……それも『アンカー』の仕事ですか」 「いかにも、地球の環境を保つために小さなことからコツコツと! ってな」 グレゴリー・ヘイスティングスの所属する『アンカー』は、地球環境保全を目的とした世界規模で活動する団体である。 日本においてはグレゴリー・ヘイスティングスが日本支部宣伝室長として活動を取り仕切っている。 あくまで重兵衛の知る限りでは、だが。 ゴミ拾いをはじめとして、どんな活動をしているのかはなんとなく知っているが、団体としての最終目的など重兵衛には知る由もないし興味もなかった。 重兵衛がトーナメントの2回戦で戦った少女もアンカーの一員であり、グレゴリーもトーナメント以前に面識はあった。 だが重兵衛を執拗に勧誘するようになったのはトーナメントの後からだった。 「まあ遠くはるばるやってきたワケだ。私の君にかける期待の程はわかってもらえたと思うが」 「というか何で僕の行動をあなたが把握しているんですか……ゴミ拾いしてたってことは僕より先に来てたんじゃないですか」 「巡子くんからの情報でね……この日は遠出すると言っていたんだろう? LINEで」 「……ひどいな巡子ちゃん。でもどこに行くかまでは言ってませんよ、訊かれてもいないですし」 「ふ、我々にとっては『いつ』遠出するかわかれば十分なんだよ重兵衛君、深く追求しなかったのは警戒を避けるための巡子ちゃんの策略だ……。 とある情報筋から仕入れた、『遠出する日』に重兵衛君が予約した列車の切符の路線と金額が分かれば目的地などすぐに割り出せる」 「とある情報筋って明らかにJRじゃないですか……犯罪じゃないんですかそれは」 「お金のない重兵衛君が遠出する機会などそうそうないだろうから切符も新幹線だけでなくしっかりローカル線のまで買っていたようだな」 「…………余計なお世話です」 「それで、重兵衛君が乗り換えで一定の時間確実に駅近くで拘束されるところを狙って君を待っていたというわけだ」 「ストーカーですね……」 「まあ私も君がいきなり遠出しようとした理由が気になってね」 「それは……」 「まあ掛けたまえ。……ああ、このベンチはゴミ拾いの前にしっかり拭き掃除したから安心していい」 「何時からいたんですか貴方」 重兵衛はグレゴリーに促されるままベンチに座る。 グレゴリーも隣に座り、広場の時計を確認する。 「乗り換えまであと15分……少し時間はあるだろう」 「ええ、まあ……」 「で、君の目的地はどこなんだ? 金額から割り出した場所はとくに目立った観光地や温泉があるわけでもなく、君にゆかりのある地というわけでもない」 「別に……どこだっていいじゃないですか。どこにもない場所にこそ趣や風情、粋があるとは思いませんか」 「『イキ』……とは聞きなれない言葉だな、ジュードーの言葉なのか?」 「いいえ、日本古来のというか……感情のとらえ方の言い方ですよ」 「フム、そのイキ、私も感じてみたいなあ。どうだろう、私も連れてってくれないか。良ければ目的地まで我らが『アンカー』専用車のリムジンで送り届けるが」 「……山奥にリムジンが入れるわけないじゃないですか」 「フフフ……君の目的地は山奥なのだね?」 「あ……ッ」 「隠し事はムダだよ。だが一層興味がわいてきた、良く言ってもインドア派の君が何もない土地の山奥まで突然行く理由か」 「…………」 「まさか、トーナメントがらみじゃないだろうね?」 「…………はあ」 「ははは、図星か。もう観念したらどうだい」 確かに、隠しごとはできない。 重兵衛はそう思い、旅の目的を話しはじめた。 赤い封筒、優勝者トーナメント。 重兵衛と同じ大会に参加したグレゴリーは重兵衛の話す内容を易々と理解する。 「ふうん……トーナメントの優勝者の集められたトーナメント、ということか。運営の連中め、なかなか面白いことするじゃないか」 「…………」 「君にとって、辞退することなど考えてはいないだろう。何しろ君はトーナメントにて変革の機会を得た。 暗い淀みに漂っていた若葉がその身を腐らす前に、轟く荒波に揉まれ清流の水面に浮かび上がった。 ……あとは大いなる海に向かってゆくのみ、そうだろう?」 重兵衛は苦笑し、グレゴリーから視線を外す。 時計を見ると列車の時刻までのこり5分をきっていた。 「あなたはいつも言うことが大げさすぎる、日本語もずいぶん勉強していたんでしょうね」 「茶化すなよ、重兵衛君。それとも言い方が気に障ったかな?」 「僕はまだスタートラインに立ったばかり、そう言いたいんですか」 グレゴリーはベンチから立ち上がり、そっぽを向いていた重兵衛の視線の前に立つ。 「いつスタートに立ったか……それは重要ではない。大事なのは走り続けることだ。道順はどうあれ、走り方がどうあれ、走り続けていればかならずどこかへ辿り着く。 ……さあ列車の時間だよ、重兵衛君。それとも、我らが『アンカー』の専用車で目的地まで同行させていただけないかな?」 「……いいえ、このトーナメントでは、だれの力も借りたくありません。お気持ちだけいただきます」 「そうか……それは残念」 グレゴリーは両手を掲げ、大げさに感情を示す。 「……ならばせめて、この『アンカー』製のフェアトレード商品『ドライフルーツの森』を試合前と試合後にカメラの前でさりげなく食べてくれないかね!? しっかりパッケージのラベルを向けて」 「トーナメントにカメラなんてありませんよ」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 4階ほどの高さのその建物は東西の方向に長く横たわっていた。 25年ほど放置されたその工場だったものは、壁はところどころコンクリートが剥がれおちているが 建造物としての役割はまだ果たしている。 工場の核となるライン生産のための施設が全体の1階部分の中央に位置し、 そのほか2階部分やとなり合う建物が倉庫や管理施設、従業員の食堂、宿舎の役割を担っていた。 ところどころむき出しになった鉄筋は赤く錆びついており、窓ガラスはほとんどが割れている。 外壁には蔦もはっており、半ば自然の一部と化しているようだった。 そのまま永い年月をかけて朽ち果てようとしながらもどっしりとそびえるその姿は哀れにも見えた。 「……有名な星座のうちのひとつ、『カシオペア座』は古代エチオピアのケフェウス王の妃とされる。 とても美しい女性ではあったが、その自分の美しさを鼻にかける高慢ちきな性格だったということだ。 だが、とあることが原因で神様の怒りを買ってしまい、罰として椅子に座らされたまま空に貼り付けられてしまった。 そしてカシオペアはそのまま一年中夜空を漂い続けることになった……」 星の煌めく夜空の下で、西獅子星司郎(ニシシシ セイシロウ)は廃工場とその向こうの空を眺めながらつぶやいた。 西獅子星司郎はとある大学院で天文学について研究している学生である。 いずれは博士号を取得して大学教員になり、天文学の研究を続けることを夢見ている。 「…………その話がどうかしたの、星司郎ぢゃん」 ぼんやりと空を見上げる星司郎の背中を見ながら、黒スーツの『男』はそう言った。 「何、役目を終えてもずっとこの地に縛り付けられたままのこの工場を見ていたらふと思い出しただけだ。 それより立会人……そろそろ時間ではないのか?」 「……『レディ』って呼んでって言ってるでしょッ星司郎ぢゃん……揉むわよ?」 パーマがかった短髪を品よく整え、長いまつげと薄い赤紫のグロスは大人の女性らしさを垣間見させるが、体は細いとはいえ骨格は完全に男性のものだ。 「ふた晩も一緒にいた男と女の仲じゃない……そろそろ素直になんなよッ☆」 「あなたは男じゃないか……私はこの機会に星の観測でもしようと早目に来ただけだ」 「そんなコト言ってェ #65374; #65374;ほんとはステージにトラップでも仕掛けようと思ったんじゃないの?」 「あなたに会わなかったら、そうしてたかもな……まさか立会人がもう試合場所に来ているとは思わなかったが」 「当然じゃな #65374;い☆ ほかの立会人はどうか知んないけど、アタシの試合で不正は許さないわよ! 手紙を届けてから1週間の間ずっとここで見張ってるのは正直キツかったわ……星司郎ぢゃん、おヒゲの剃り残しない?」 「顔を近づけるなッ! ……立会人、時間じゃないのか!?」 「ンフフ……心配しなくても、もう来てるわよ」 「!!」 立会人を両手で押しのけ、星司郎は周囲を見回した。 廃工場の壊れた外門の方向から、一人の男が歩いて近づいて来ているのが見えた。 「……お取り込み中のところすみませんが」 「ほんとだよ! 空気読めよ!!」 「何を言ってる立会人ッ! 誤解される!」 現れた男……三船重兵衛は立会人を怪訝そうに見ながら話す。 「黒スーツの貴……女? が立会人ですか、ということは……」 「ええその通り。この試合の立会人『レディ』と申します。こちらは対戦相手の『西獅子星司郎』様です」 「どうも、よろしく」 星司郎が差し出した手を重兵衛は握り返す。 修行や力仕事でザラザラになった自分の手と比べ星司郎の手は滑らかで皮も薄いように重兵衛には感じられた。 相手もおそらく逆の感想を持っただろう。 「こちらは『三船重兵衛』様……おふたりには1回戦突破を賭けてこの廃工場で戦っていただきます」 「……ルールは?」 星司郎が訝しげに訊くが、立会人はあっさりと返答する。 「対したルールはございません……相手を戦闘不能にするか相手に負けを認めさせるか、それだけですわ。 ただし戦いはこの廃工場の建物の中のみとし、一歩でも外に出た場合敵前逃亡とみなし負けといたします」 「立会人さん、ちょっと気になるんだけど……」 「……何? 人がせっかくキャラ変えてまともに口上しているときに」 口を挟んだのは重兵衛だった。 重兵衛は星司郎の背後の方向に指をさして言った。 「あのテントは……いったいなんですか、誰のものですか?」 重兵衛の指差した方向には木陰に設置されたキャンプ用のテントがあった。 「あ、あれは……」 「ああ、あれは星司郎ぢゃんのものよ」 慌てる星司郎をそばに、立会人は淡々と答える。 「重兵衛きゅんがたった今来たのに対して星司郎ぢゃんは3日前から来てたのよね。 まあアタシは廃工場に人を近づけさせないために手紙を出した1週間前からいたワケだけど」 「3日前から……?」 「明け方、星司郎ぢゃんが現れた時には驚いたわ #65374; #65374;まさか空を飛んで……」 「立会人ッ!!」 「……おおっと失礼。とにかく重兵衛きゅん、あなたが考えているようなコトは全く心配しなくていいわ。 星司郎ぢゃんはずーーっとテントのあたりから離れなかったわ。朝は木陰で読書して、昼はカレー作って、夜は星を見てただけよ。ホントだかんね?」 「…………」 「アタシは公平さがウリの立会人だから、誓ってウソはつかないわよ? もしウソついたりしたら重兵衛きゅんの言うことなんでもきいてあげるから、ね? あなたの望むこと、アレでもソレでもなんでもしちゃるかんね」 「……わかった、もういいよ」 「話を戻すわね。 これから二人には東側の入口と西側の入口に分かれてもらって、それから試合開始とするわ。 アタシは廃工場内のモニター室から、工場内に前もって設置した監視カメラで試合を見させてもらう」 (……カメラあったよ、グレッグさん) 「試合に関して、質問は受け付けないわ。この工場の中で戦うこと以外ルールなんかないんだから。 何を持ち込んでもいいし、自ら外に出て棄権するもよし、たった2人だけのシバキ合いよ」 試合内容を純粋な戦闘と知り、星司郎の胸のつかえが下りる。 先のトーナメントを終えてから考え、編み出し、培ってきた戦術を発揮できる。 すべては、さらなる優勝のために。 重兵衛にとってもほぼ同じ気持ちだといえた。 たった小さな、それでいて大きな変化を実感した彼にとって、この初戦は成長した自らの力を試す場であった。 これからの戦いにおける自分に『期待』をかけるという、はじめての体験だった。 二人はそれから互いに言葉を交わすことなく、一度視線を合わせてから踵を返し、それぞれの入口へ向かった。 鉄製の扉が蝶番を軋ませ、大きな音を立てて閉じる。 西獅子星司郎が入った入口はいわば勝手口のようなもので、扉の向こうは細い通路が10メートルほど続いている。 外で暗闇に目を慣れさせていたものの照明のない屋内では見えるかどうか心配だったが、 満月に近い月の光のおかげかおぼろげながらも視界は保つことができた。 壁は緑色のカビがところどころ這っておりヒビ割れや表面が欠け落ちている箇所も見られる。 通路の左側にいくつか部屋が並んでおり、勝手口と同じようなくすんだ鉄製の扉がある。 床には天井を覆っていた木片がそこらじゅうに落ちており、踏むと乾いた音をたてた。 工場は東西にわたり700メートルほどの長さになる。 双方がその反対側から近づくにしてもすぐ遭遇するわけではない。 さらには工場は一番大きな生産ラインのある施設だけでも数多くの通路があり、隠れず進んでいったとしても行き違いになる可能性は高い。 (立会人は制限時間については何も話していなかった。おそらく夜が明けようが再び日が沈もうが決着がつくまで勝負は続く。 しかし、工場の屋内のみに限定した試合だから、持久戦というわけにもいかない。 メドはやはり夜明けまで……いや、夜が明けたら私に『不利』になってしまう) ここで星司郎にとっての選択肢は2つある。 「自ら向かうか」「迎え撃つか」 だが、星司郎の中ですでに答えは出ている。 通路の奥の扉を開き、中に入る。 扉の先は今いた通路よりもやや広い空間だった。 カビついたコンクリートの壁に、床面には天井の木片と割れたガラスの破片が散らばっている。 壁に月間予定表の黒板があるのを見るところ、ここは従業員用のホールなのだろうと星司郎は思った。 星司郎は月間予定表の黒板の前に立つと灰色に汚れたチョークを手に取り、ポケットから手帳を開いた。 月間予定表の等間隔にひかれた縦線を目安に、チョークで点を打っていく。 13個の点を打ち終え、星司郎は黒板から離れる。 点は一見乱雑に打たれているように見えるが、「ある知識」に長けたものであればその点の示す形が何を現すかすぐに理解するだろう。 「――――『アストロブライト』」 星司郎のそばに人型のヴィジョンが現れる。 石膏のような質感のボディ、頭部は大きな黒水晶のようなものがついており、中には星々が煌いている。 「『Gemini(ふたご座)』」 星司郎がそう呟くと、「ふたご座」の星座が描かれた黒板から2人の屈強な男が姿を現す。 黒板を異界の扉として星司郎に使役するシモベが召喚されたのだ。 (『アストロブライト』、描かれた星座からその星座のイメージを具現化する能力。 数ある星座の中から一度に具現化できるのは1つのみだが……『Gemini(ふたご座)』の場合、2人で1セットとなる) 2人のギリシャ系の顔つきをした男は星司郎の前に立ちじっと待っている。 兄カストルは馬術に長け弓矢も扱う。 弟ポルックスは剣術とボクシングの名手である。 「……私がとる手段はもう決まっている。詰将棋のように手を間違わなければ負けることはない」 東側の入口から入ってきた重兵衛は工場内を西側に向かいすいすいと進んでいた。 ここに来るまでの服はすでに着替えており、柔道着にオープンフィンガーグローブ、5本指シューズを履いていた。 「うーん、やっぱりこの5本指シューズってのはいいな……素足に感覚が近いし力も入れやすい」 星司郎に対し重兵衛には相手を待ち受けるという選択肢はなかった。 重兵衛のスタンド「ディメンション・トリッパー」は「触れたものを急加速させる能力」だが、 戦術を仕込むというよりも相手の戦術に対応することに長けていると重兵衛は考えていた。 相手のスタンド能力は不明だが自分の能力が待ち構えるタイプでない以上、相手にステージ内にトラップを仕掛けさせる時間を与えるわけにはいかなかった。 序盤の二人の様子をモニター室で見ていた立会人は満足げな表情を浮かべながらほくそ笑む。 「重兵衛きゅん……当時の立会人の話を聞くにそう積極的なコじゃなかったと思ったけど、意外と大胆に進んでいくのね。 星司郎ぢゃんは、大方予想通りだけどね……星座の形を作らなければならないという手順が必要な星司郎ぢゃんのスタンドは急な事態に対応しにくい。 できればあらかじめいくつか星座をいたるところに書いておきたいと思うはず……先手は重兵衛きゅんがとるかしらね?」 重兵衛は工場の中核である生産ラインのエリアに辿り着く。 工場の中で一番広い場所であり、アーチ状の天井は高さ10メートル程はある。 南側は一面ガラス張りとなっており(と言ってもほとんどが割れて破片が散らばっているが)、南の空に浮かぶ月の光が差し込んでくる。 北側は床にペンキで従業員が安全に通るための通路が示されており、その上3メートル程の高さにも並行して通路が設置されている。 等間隔でハシゴか階段があり、部屋の端から端までつながっている。 かつてはこの部屋中に生産のための機械が並んでいたのだろうが、今はもうすべて撤去されている。 まるで、学校の体育館のような空間となっていた。 「ここが、だいたいこの工場の中央部分……この部屋より先は相手が潜んでいる可能性が高い」 自分は大胆といえるほどこの工場を進んできた。 この部屋に相手である星司郎が自分より早く到達していることはないと断言できる。 重兵衛はそのように考えていた。 それは実際その通りだったのだが、「敵」と遭遇する機会は重兵衛の予想よりもずっと早く訪れた。 「…………奥の扉が、開く!」 西側、星司郎側の壁の扉が開いた。観音開きの大きな扉が開くと、そこからは重兵衛の見覚えのない男が現れた。 「……誰?」 190cmほどの巨体に、後ろに撫で下ろした髪、東欧系の顔つき……重兵衛はどことなくグレゴリー・ヘイスティングスに似ていると思った。 ただし服装は仕立てのいいスーツではなく、大きな布をギリシャ彫刻の石像でよく見るように纏っていたのだが。 それは、星司郎が召喚した『Gemini(ふたご座)』の弟ポルックスだった。 ポルックスは広い部屋を見回し、重兵衛の姿を見つけると一直線に駆け出した。 「あいつは……いったいなんだッ!?」 ポルックスは床面に散らばるガラクタやガラスの破片、釘やネジにもかまわず裸足で重兵衛へ向かっていく。 手には鉄パイプが握られている。 ポルックスは声もあげず、ただ重兵衛を打ちのめさんと鉄パイプを脳天めがけ振り下ろす。 「『ディメンション・トリッパァァーーー』ッッ!」 重兵衛の前に彼のスタンドヴィジョンが現れる。 主人と同じ細身の体に、深緑の装甲を纏っている。 「ディメンション・トリッパー」はポルックスが振り下ろした鉄パイプを腕を使って受け流す。 ポルックスは剣術の達人である。 仮に今の剣が鉄パイプであろうが、ポルックスは小枝をふるうがごとく得物を軽々扱う。 重兵衛に振り下ろした一撃は簡単に受け流すことができるものではないはずだったが、 鉄パイプは受け流されるどころか、「ディメンション・トリッパー」の腕を滑るように加速し床に思い切り打ちつけた。 「ディメンション・トリッパー」の能力は「触れたものを急加速させる能力」もの。 重兵衛の体に向かってくる物は、その体に触れたとき急加速される。 腕で方向を変えれば、その方向へ向かって加速される。 慣性に逆行した、常識では考えられないような動きをすることになるのである。 予想外の出来事と手のしびれからポルックスは鉄パイプから手をはなす。 その隙をついて重兵衛は攻撃を仕掛ける。 重兵衛はポルックスの胸元に左拳をあて、右の拳を左腕を這わせながら突いた。 「『砲弾(キャノン)』っ!!」 相手に向けた左腕に沿って放たれた拳は「ディメンション・トリッパー」の能力により加速され、さらに拳の回転を加えることでさながら砲弾並の威力となる。 中国拳法の形意拳劈拳の演武を見たときに重兵衛が思いついた技であった。 強烈な一撃を食らったポルックスは後方に吹き飛ばされ、仰向けに倒れる。 重兵衛は拳と肩の感触を確かめ、問題がないことを確認する。 重兵衛が工場に入ってから柔道着に着替えたことには理由があった。 「ディメンション・トリッパー」の能力は自身に対して使うことはできないのだが、靴やグローブに対しては効果がある。 劈拳を使ったときも実際は右手にはめたオープンフィンガーグローブに対してスタンド能力を発動させていた。 ただし「ディメンション・トリッパー」の急加速はヒトの力の限界を超えたパワーを持つため、普通に使っては肩が脱臼してしまう可能性がある。 重兵衛が柔道着を着てきたのは、それを緩衝するためだった。 空手着よりも厚く、かなり丈夫な柔道着は、『砲弾(キャノン)』を放ったときに肩が伸びきるのを防ぐ役割があった。 「『新武器』のひとつは上手く使えそうだ……でも、あの男は何だ? 何でもアリとは言ってたけど、協力者もアリなのかな?」 倒れたポルックスに追撃を加えようと重兵衛は近づこうとしたが、目の前を一本の矢が通り過ぎていった。 「……ッ!」 矢の放たれた方向にはポルックスとよく似た姿恰好の、弓矢を持った男がいた。 重兵衛に矢を放ったカストルは部屋の2階部分の連絡通路から重兵衛を見下ろしている。 「なんなんだよ、こいつら……あの人の仲間なのか? どっちもほぼ裸に近い格好だし…… あの立会人とも仲がよさそうだったところを見ると、あの人やっぱり『アッチ』系の人なのかなぁ」 ポルックスが起き上がり、再び重兵衛に向かっていく。 鉄パイプを失ったポルックスは両手の拳を構え、ボクシングのポーズをとった。 ポルックスは剣術のほかにもボクシングの名人ともされている。 ポルックスと重兵衛は双方構えて向き合い、身長の高いポルックスが重兵衛を見下ろす形となった。 「期せずして異種格闘技戦か……僕はモトは柔道だから、総合格闘技戦といったところか? でも階級が全然違い過ぎるよ」 重兵衛は両手を前に掲げ、体の力を抜いてリラックスした体勢をとった。 ポルックスは軽くジャブを放つため左拳を突き出す。 重兵衛はそれを右手で軽く弾く。 「…………!!」 だが、たったそれだけでポルックスの体は伸ばした左拳に引っ張られるようにしてバランスを崩してしまう。 「『ディメンション・トリッパー』……僕相手にジャブでリズムをつかもうなんて考えないほうがいい」 ポルックスは起き上がり、激昂して右のストレートを重兵衛に向かって放つ。 「……ッ!」 重兵衛はストレートをかわしつつ、伸びきる直前の右腕を掴んで一本背負いの形で190cmのポルックスを投げ落とす。 「体はでかいけど、技術は僕のが優れている。さながらミノワマン対ボブ・サップ……いや、チェ・ホンマンかな」 あおむけで倒れるポルックスの胸元に左手を当てながら重兵衛は右拳を自身の左腕の付け根にあてる。 「……『砲弾(キャノン)』っ!!」 右拳を左腕を滑らせ、加速して打ち下ろす。地面とサンドされて逃げ場のないポルックスの体は大きく跳ね上がった。 重兵衛は2階にいるカストルを見据える。 カストルは弓に矢をつがえたままこちらを見ていた。 ポルックスと至近距離で戦っていたため、矢を放つことができなかったのだ。 (やっかいなのはあの弓矢……飛んでくる矢はさすがに避けるしかない) カストルは重兵衛に向け矢を放つ。 しかし、さすがにカストルに注目しているときでは矢をかわすことは難しくない。 カストルにはポルックスほどの力はない。 カストルにできるのは重兵衛をけん制し続け、ポルックスが復活するのを待つことだけだった。 ――だが、重兵衛の武器は『砲弾(キャノン)』のみだけではなかった。 カストルは再び弓を引き絞る。 だが、狙いを定めようとしたとき、カストルの肩に何かが命中する。 「……!」 言葉を発しないものの、急に針を刺すような痛みが肩に走り その原因を確認した。 ひとつぶの銀色の玉が、カストルの肩から落ちて2階の鉄製の通路を跳ねたあと1階の床に落ちた。 カストルが重兵衛を見ると、重兵衛は右手をカストルに向け掲げている。 鉤型に曲げた人差し指の上にパチンコ玉をのせて、親指を人差し指の下に潜り込ませている。 「――『狙撃(ライフル)』」 コイントスのようにパチンコ玉は弾かれ、カストルの手に命中する。 それは、パチンコ玉を指ではじいたとは思えない速度と威力を持っていた。 「『ディメンション・トリッパー』、僕の指ではじくんだ、軽く弾くだけでライフル並の威力を持った銃撃になる。 狙撃と言うほど精密性はないけど……弓矢よりもずっと早く撃てて速く飛ぶッ!」 重兵衛は両ポケットからパチンコ玉を取り出し、カストルに向け弾きまくった。 狙いはあまり定めずに数を撃つ。 それだけで弓矢をひこうとするカストルに対しては効果的だった。 (まあコレは使うのは初めてではないんだけどね……名前をつけたほうがカッコいいって千景さんは言うんだけど、実際どうなんだろう) 「……ッ!」 パチンコ玉がカストルの手に命中し、カストルは弓を思わず手から放してしまった。 2階から弓が1階に落ち、カストルは唯一の武器を失う。 これがチャンスだと感じた重兵衛は、カストルに近いハシゴに向かおうとしたが背後に気配を察して振り返った。 そこには、さきほど強力な一撃を放ったばかりのポルックスが今にも掴みかかろうと立っていた。 「……こいつッ!」 立会人のいるモニター室のいくつかのモニターに重兵衛とポルックス、カストルの姿が映っている。 2人の屈強な男を相手に常に優位に立ち戦いを進める重兵衛の姿を立会人はじっと見つめていた。 「……あのポルックスって言ったかしら、ずいぶんとタフねえ。ふつうあれだけの一撃を2発もくらっちゃあどんなに鍛えてても病院送りよ」 立会人はぼそっと呟くと、モニター室にいる『もうひとりの男』がそれに答えるようにゆっくりと話しだした。 「『Gemini(ふたご座)』の双子の兄弟は実は血がつながっていない。兄カストルは人間だが、弟ポルックスは大神ゼウスの血をひく不死身の体を持っていた。 二人はともに連れ立ち戦場でも活躍していたが、あるとき兄カストルが矢を受け死んでしまった。 悲しみに暮れる弟ポルックスは自身が不死身であるがゆえにともに死ぬことができないのを嘆き、ゼウスに不死身を解いてカストルとともに死ぬことを願ったという神話がある。 ……だからポルックスを倒すには先に兄カストルを倒す必要があるんだ」 「ンフフ……シモベにだけ戦わせて自分は高みの見物……まるで悪者のボスになったみたいねえ、『星司郎』ぢゃん」 モニター室の中、立会人と並び『西獅子星司郎』は重兵衛とポルックス、カストルの戦いを眺めていた。 「このモニター室も『工場内』……ルール違反はもちろんしていない。戦いを監視するアタシに並んでモニターを眺めるのも……『アリ』。 星司郎ぢゃん、よく気が付きまちたねェ。この戦い、先手は星司郎ぢゃんがとったと言っていいでしょう」 「……『Gemini(ふたご座)』は十分時間稼ぎになった。西側の要所にはすでに星座は書き込み済みだし、相手のスタンド能力もなんとなく理解できた。 ここから詰みに行く手はいくらでも考えられる」 そう言って星司郎はモニター室を出ていった。 立会人は顔がついにやけてしまうのを止めることができないでいた。 (ずいぶんと……『ダーティ』になったわねェ。星司郎ぢゃんは試合開始直後、まず『Gemini(ふたご座)』を召喚させて重兵衛きゅんのほうへ向かわせた。 一度にひとつの星座しか召喚できないけど、ふたご座なら2人の知能をもった者を扱える。 行き違いの可能性のあるこの工場で重兵衛きゅんに遭遇する可能性を上げ、 『自分が工場内に罠を仕掛ける時間を稼ぐため』と『相手に罠を仕掛けさせないため』の一手を放った。 まあ重兵衛きゅんには2つ目の意図は意味なかったわけだけど、 ポルックスのタフネスさのおかげで星司郎ぢゃんはこのモニター室で重兵衛きゅんの戦い方を見る時間も作れた。 ……今んトコ7対3で星司郎ぢゃんが有利ね……) モニターの中で、重兵衛はポルックスとカストルの戦いを続けている。 常に重兵衛は優位に立っているものの、弓矢を失ったカストルが加勢し、なかなか決着をつけられないでいるようだった。 (……そして、星司郎ぢゃんにはひとつ気になっていることもある。星司郎ぢゃんはなぜ、『試合日の3日も前からこの廃工場に来ていたか』。 試合の前にステージの地形を把握し、トラップをあらかじめ仕掛けようとしていた……が、監視していたアタシに阻まれたってだけじゃない。 ……何か違和感があるわね) 月明かりの届かぬ、閉め切ったモニター室の中で人工的な光に照らされながら立会人は考え込む。 モニターの中では重兵衛のいる部屋に近づく星司郎の姿が映されていた。 「…………ッ!?」 重兵衛の目の前から突然ポルックスとカストルが姿を消した。 「……はあっ、はあっ。やっぱりあの2人スタンドだったか。違和感ありすぎるし喋らないし……でも一度に2人なんて。 もしかして自動操縦の群体型スタンド……とかかな?」 「惜しい! 非常に惜しいな」 重兵衛が声のした方向を見ると、2階の連絡通路、カストルが出てきた扉から西獅子星司郎が姿を現していた。 はつらつとした声で重兵衛に話す。 「その2人は私の主力だったんだけどなあ……接近戦でもかなわないとなるとちょっと作戦考えないといけないね」 「……いつからそこにいたんです?」 「……『ずっと、隠れて見ていました』よ。強烈な拳の一撃も、パチンコ玉の銃撃も。やはりあなたとは離れて戦うのがよさそうだ」 星司郎の脳裏に笑い転げる立会人の姿が浮かぶ。 何しろこの部屋にはたった今来たばかりだし、戦いを見ていたのもモニター室で、はじめから接近戦をするつもりもなかったからだ。 やはり少し「ダーティ」になったと、星司郎自身でも思った。 「それでは、私は逃げることにしようかな」 そう星司郎は言い残し、出てきた扉から工場の西側へ戻っていった。 「…………」 ひとり残された広い部屋の中で重兵衛は少し考え込む。 (本当にずっと隠れていたのか? ……その真偽はさておき、あきらかに誘い込もうとしている言動だ。 だがあの男……星司郎は離れていても戦うことができるが、僕はできない。それならばまだ距離の離れないうちに近づくべきか……) 重兵衛はハシゴに手をかけ、2階の連絡通路に向かって登りだす。 星司郎が出ていってからは1分も経っていない。 まだ追いつくはずだと、重兵衛はドアノブを握り、扉を開けた。 「…………うわあっ!!」 扉を開けた瞬間、向こう側から勢いよく水が流れ込んできた。 鉄砲水のように重兵衛の体を押し流し、重兵衛は1階の床に落下する。 「ぐっ……どういうことだ……?」 2階の扉からはいまだに水が勢いよく流れ出ている。 だが、この工場は25年も前に人のいなくなった場所である。それほどの水がどこにあるというのか。 その理由は星司郎と立会人のみ知る。 星司郎の戻った先は細い通路になっており、星司郎はすでにそこに「Eridanus(エリダヌス座)」を描いていた。 エリダヌスとは川の名前であり、描かれた星座から絶えず水が流れ出ていた。 自身と重兵衛を引き離すためのトラップである。 「くそ……あそこから行くのはムリか。柔道着がずぶ濡れで重くなってしまったけど『砲弾(キャノン)』のために脱ぐわけにはいかないな……」 重兵衛は1階のポルックスが出てきたほうの観音開きの扉から先へ進むことにした。 扉の先は広い倉庫だった。 天井の高さは1階分ほどだったが、とにかく奥行きは先ほどの部屋並のものだった。 倉庫とはいってもすでに荷物はない。 床は砂ぼこりとめくれたタイルの破片が散らばっている。 等間隔に四角い柱が並んでいるだけで、奥に上り階段と扉がいくつか並んでいた。 「…………」 重兵衛は息を潜めて音に注意を傾けたあとで、自らの行き先を決めた。 星司郎は生産ラインのあった部屋の2階の扉から工場の西側に戻った後、さらに上の階に進み4階にいた。 4階は従業員のための宿舎となっていた。 廊下の壁や扉の塗装がひび割れてちぎり絵のできそこないのようになっている。 等間隔に4畳半の畳の部屋が並んでおり、布団が敷かれたままになっていたり、古いデザインの空き缶が転がっている。 窓には飛び降り事故を防ぐために鉄柵が張られており、まるで牢獄のようにも見えた。 部屋の一つに入り、窓の鉄柵の間から外を眺める。 宿舎の部屋からは電車の駅のある街が見える。とは言っても夜中なので明かりはほとんど見られない。 他に見えるのはどこまで広がっているのかわからない森とその中にそびえ立つ電線鉄塔くらいだった。 (彼をこちら側に誘い込み、さらに引き離した。ここまでは予定通り……あとは『あの場所』さえ探せば私の勝利の方程式が完成する) 再び廊下に出た星司郎は足音に注意しながら周囲を見回す。 重兵衛がどこから来るか注意を払うと同時に、彼の『勝利のカギ』となる『場所』を探すために。 「……!」 床に落ちた天井の木片を踏んだ、乾いた小さな音が鳴る。 しかしそれは星司郎が鳴らしたものではない。 星司郎がゆっくりと振り返ると、そこには三船重兵衛が立っていた。 「……何故! その場所……私が来た道は『エリダヌス川』のあった通路からしか通ることができないはずだ! 残された道は倉庫の階段から上ってくるだけなのに……」 「星司郎さん……あなたの能力、何かを召喚する能力は一度に一つのものしか出せないのではないですか。 あの川が現れたのはあの半裸の男たちが消えた後でした。僕を引き離すためのトラップだったとしても、あの男たちを消す意味はないはずです」 「…………」 「引き離しつつ誘い込もうとしていたことはわかります。 ですが僕があなたに近づくときに自分の身を守るため、あの川をずっとそのままにしておくわけにはいかなかった。 それがわかったので、僕は音に耳を傾けて水の流れる音がなくなるのを待ったんです。 そして僕は倉庫からもとの部屋に戻り、2階に上がってあなたの入った通路からここに来ました」 「そうか……私の来た道、エリダヌス川の流れていたところを来るとは、あまり予想はしていなかったな。 倉庫の階段からなら、ここに来るまでもう少し時間がかかったんだけどね。 私の仕掛けも、ここよりも3階のほうが多かったんだけどな……」 「捕まえましたよ……星司郎さん、もう決着をつけよう」 「……アストロブライト、『Cancer(かに座)』ッ!!」 宿舎の部屋の中から赤い甲羅の大きなカニが横歩きで廊下に現れ、星司郎と重兵衛の間をふさぐ。 星司郎は踵を返し、廊下の奥まで進んでいく。 「カニが邪魔で『狙撃(ライフル)』は当てられない……このカニをどかすことが先か」 重兵衛は左手をカニに向けて掲げ、静かに息を吐く。 「『砲撃(キャノン)』!!」 「ディメンション・トリッパー」を活用した一撃をカニに向けて放った。 しかし、重兵衛の拳はカニの固いハサミに阻まれてしまった。 「コイツの殻……かったいなあ!」 重兵衛の攻撃をハサミで防いだカニはそのまま攻撃に転ずる。 ハサミを振りかぶり、思い切り重兵衛に向けて突き出した。 「はあっ!!」 重兵衛は柔道着の上着を抜いて、カニのハサミ攻撃を受け止める。 「『ディメンション・トリッパー』……カニの動きを加速してバランスを崩すッ!」 カニは加速されたハサミに体を引っ張られてゴロンと転がる。 重兵衛はカニの体を蹴って宿舎の部屋に押し込み扉をしめた。 「……逃がさない!」 重兵衛は星司郎の行く先を目で追っていた。 星司郎は廊下の奥まで走って行ったが、その先には宿舎の部屋以外に階段や通路に続く扉はなかった。 つまりは『行き止まり』の方向に星司郎は走っていったのだ。 重兵衛は部屋の一つ一つを確認しながら進んでいった。 一番奥まで辿り着き、中へ入る。 そこには窓を背に立つ星司郎の姿があった。 「……追い詰めましたよ」 入口を塞ぐようにして立ち、重兵衛は言った。 「きみの言う通り……私のスタンド『アストロブライト』は召喚の能力だ」 星司郎はじっと重兵衛を見据えゆっくりと話し始める。 重兵衛はそれを止めなかった。決着の時が近いと感じていたからだ。 「だがなんでもかんでも召喚できるというわけではない。限られたもののみ召喚することができる……。 『エリダヌス川』『ふたご』『かに』……これらはほんの一部にすぎない」 (『ふたご』……『かに』?) 「ところで……三船さん、君の生まれた月と日は?」 星司郎は唐突に重兵衛に質問を投げかける。 不審には思ったが、重兵衛はあえて素直に答えた。 「11月23日……勤労感謝の日です」 「11月23日! ……なるほど運命を感じるよ」 「何のことです? 僕が定職についてないことを皮肉っているんじゃあ……」 「いや、そういうつもりはない。申し訳ない。ただ……11月23日の前日、11月22日から12月21日までに生まれた人間はある『星座』のもとに生まれたとされる」 「……『星座』だって」 「確かに皮肉なことだ、その星座の名の下に生まれた君がその星座によって屠られてしまうのだからね」 「何を言っているんですか……もうあなたに残っている手は……!!」 星司郎は続ける。 決して追い詰められて諦め、自らの能力を吐露するわけではなかった。 すべては重兵衛にとって聞く価値のある言葉を並べ、その場所にとどまらせることが目的だった。 「――『アストロブライト』、描かれた星座からその星座のイメージを具現化する能力だ。 『描かれた星座』とは紙に書かれた星座にとどまらない。 壁にあいた穴、地面に並べた石……そして、『偶然に形作られた光の集まり』でも!」 「…………?」 「君に近づかれて、思わず逃げ込んだこの部屋に入り、窓の外を見た。そして……私は運命を感じた」 「それが……! 僕の『星座』と、何が関係あるって言うんですか!!」 「……この窓から見える景色、その中に『それ』はあった。 電気を送るための電線鉄塔には……ヘリコプターや飛行機に注意を促すために点滅するライトがいくつも備え付けられている。 この部屋からはその鉄塔が2つ重なって見えている。そしてその点滅するライトはある星座の形を象っていた。それは――」 「ま、まずい! 『ディメンション・トリッパー』!」 「――『Sagittarius(いて座)』!」 廃工場から離れた所に立つ電線鉄塔のあたりから強い光が発せられ、巨大な『矢』が星司郎と重兵衛、2人のいる部屋を貫いた。 矢というよりもミサイルのような、巨大で、高速の物体が廃工場を突き抜けていった。 モニター室で星司郎と重兵衛が向き合う様子を見ていた立会人は、廃工場の外を映すモニターが激しく光るモノを映すと、そちらに目を移した。 光はすぐに消えたが、星司郎と重兵衛が映っていたモニターが何も映らなくなったことに気づいた。 おそらくは部屋のカメラが何らかの理由で壊れてしまったんだと立会人は思った。 だが、それよりも立会人が考えていたのは星司郎の行動についてだった。 立会人はハッキリとスピーカーから星司郎の言葉を聞いていた。 「Sagittarius(いて座)」と、そしてそれが『偶然』鉄塔のライトによって形作られたものだと。 「………… #65374; #65374; #65374; #65374; #65374; #65374;ッッッ!!」 立会人は思わず身震いする。 偶然が重なり、星司郎に勝機をもたらしたことか。 そうではない。 星司郎のここまでの行動の意図をすべて理解したからだ。 星司郎があの部屋で「Sagittarius(いて座)」の形を「見つけた」ことと、 星司郎が4階に行ったことと、 星司郎が試合の3日前に現れたことだ。 立会人はスマートフォンで「いて座」について画像検索した。 「……やっぱり、ね」 http //dl1.getuploader.com/g/orisuta/2285/20160228_205529.jpg 「Sagittarius(いて座)」の形は決して鉄塔の数々のライトがふたつ分重なった程度で偶然できるものではない。 鉄塔のいて座の形は、3日前に星司郎自身が鉄塔に仕込んだものだったのだ。 (3日前の明け方、星司郎ぢゃんが現れたときは驚いたもんだったわ #65374;……) ============================================================ ――3日前。 「あ゛あぁ #65374; #65374; #65374;見張りってのもヒマねぇ #65374; #65374;。まあ公平さをウリにしてるからには仕方ない業務なんだけど…… ひとりでやるっつーのはツライわ……もう日が昇る時間だし。 ん? なにこの音、ヴァッサヴァッサって……」 「……た、立会人か!? もう来ていたのか」 「せ、星司郎ぢゃん!? どんだけ早く来てんだよ……それに……」 『ギエーーーーーーーーーーッ!!!!』 「ワシに乗って飛んでくるなんざ、どんだけロマンチックなんだよ!!」 「い、いやこれは……」 「乗せやがれ! アタシを一緒に乗せやがれ! そんで朝の日ざしを背に一緒にランデブーしようぜ!!」 「断る!!」 ============================================================ まるで、数千数万の星の中からひとつの星座を見つけたように、点と点が線につながるような思いがした。 (……きっと、あの前の夜に星司郎ぢゃんは『Aquila(わし座)』の背に乗って鉄塔にスポットライトを設置したのね…… スポットライトが『Sagittarius(いて座)』の形になるように。思えばあの晩は満月だった、作業のための明かりには事足りるわね……。 対戦場所の書かれた手紙が届いた1週間前に、星司郎ぢゃんはその地理を調べて、遠くから星座の形が見えるような場所を調べた。 3日も前に来ていたのは、もしその鉄塔が何らかの理由で設置できなかった場合、別の場所に設置するためだった。 近隣住民に見つからないようにするためには夜しか動けないしね。 いくらアタシでも、廃工場の敷地外のことまでは把握することはできない。 重兵衛きゅんには、『廃工場の中には1週間の間誰も入れてない』とアタシは言った。 そのことが重兵衛きゅんに試合前に仕掛けられたトラップの懸念を無くさせてしまった……。 星司郎ぢゃんが重兵衛きゅんに『Sagittarius(いて座)』の形が『偶然』できたものだと言った以上、 アタシが星司郎ぢゃんに対し『試合前に罠を仕掛けた』として反則負けにすることはできない。 ルールは『なんでもあり』だし、試合前に仕掛けたことを気付けなかったのはアタシのミスになる) 「 #65374; #65374; #65374; #65374; #65374; #65374;くくくくっっ、星司郎ぢゃんっ! アタシも巻き込んで流れをつくっちまうなんてよォ!! ますます……『ダーティ』になったなあッッ!!」 立会人はモニター室を出て、4階の宿舎に向かった。 立会人の予想が正しければ決着はまだついてないはずだからだ。 (アタシは……見てしまった。期せずして星司郎ぢゃんと過ごした甘い3日間……その中でうっかり見たもの。 星司郎ぢゃんの『背負った覚悟』を……) 「『Sagittarius(いて座)』は……本当の切り札じゃあないッ!!」 ――4階、宿舎エリア。 廊下の一番奥は、そこまでの風化と腐食によってゆっくり朽ちていった景色とは一変していた。 まるで丸い形の何か大きな物体が、その道をふさぐものをすべて食らいつくしてしまったような、きれいにえぐられた跡が残っていた。 部屋の中で星司郎は壁に背を預けて立っていた。 足のすぐ数センチ先の床は『Sagittarius(いて座)』の矢によってえぐられている。 星司郎が鉄塔に象ったいて座の星座は10メートル程の大きさのものだった。 かなりの大きさになることは予想していたが、まさかここまでの威力の攻撃を放つとは想像以上だった。 部屋の大きさと同じくらいの矢が貫き、反対側の壁はおろか廊下の壁までくっきりと円形の跡を残している。 星司郎の視界の中に重兵衛の姿はない。 威力が予想もできなかったため、星司郎自身は『Sagittarius(いて座)』をあくまで『勝利の布石』としか考えていなかった。 だが、これほどまでの威力となると、これで決着していてもおかしくはない。 たとえば矢の攻撃をモロに喰らい、「こなみじん」になっているとか。 星司郎は慎重に壁を伝って部屋の外に出る。 廊下にも重兵衛の姿はない。 もし決着していれば、立会人が現れて勝利宣言を告げるはずである。 遠くから響いてくる足音。 コツコツと鳴るヒールの音。 その音の正体は明らかだった。 廊下の奥から、立会人「レディ」が現れた。 「……立会人」 「か、勘違いしないでよねッ……私が来たのは、試合が終わったからではないわ」 「……え?」 その瞬間、星司郎のいた部屋の「隣の部屋」から星司郎に飛びかかってくる者がいた。 「今度こそ……捕まえたッ!!」 三船重兵衛は「Sagittarius(いて座)」の攻撃を免れていた。 巨大な矢が迫る直前、攻撃を察知した重兵衛は廊下のほうへ後ずさり、 側方へ思い切り跳んだ。 「ディメンション・トリッパー」の能力により5本指シューズの反発力に急加速を重ねがけして 高速で迫る矢をぎりぎりでかわしたのである。 攻撃を察知することができたのは、星司郎が自らのスタンド能力を話した中で、 星司郎のスタンドがの「召喚」できるモノが、星座に限られるということに重兵衛が勘付き、 さらに星司郎が重兵衛の星座である『いて座』に運命を感じたと言ったからだった。 そうすれば重兵衛の中にもおのずと答えが導き出せる。 星司郎の切り札となる、「Sagittarius(いて座)」の攻撃が来ることを。 「――ッ! 『アストロブライト』、『Gemini(ふたご座)』!!」 重兵衛が現れ、星司郎に飛びかかると同時に廊下の壁にマジックの点で描かれた「Gemini(ふたご座)」からカストルとポルックスが再び姿を現し、星司郎をかばう。 「『砲撃(キャノン)』!!」 すぐさま重兵衛が放った一撃はポルックスの顔面をとらえ、「Sagittarius(いて座)」の空けた穴から廃工場の外へ飛ばされていった。 だがそのスキにカストルが重兵衛を捕まえる。 星司郎は重兵衛から離れようとするが、床に落ちていた破れたカーテンに足をとられたのか転んでしまう。 重兵衛はカストルにも一撃を放ち、引き離す。 すぐに立ちあがって、星司郎に向かっていった。 その様子を見ていた立会人はほくそ笑む。 星司郎が決着を予期して重兵衛に自らのスタンド能力を明かし、 切り札の「Sagittarius(いて座)」を放ち、 それを重兵衛にかわされて、 さらに重兵衛につかまりそうになり、 万策尽きて重兵衛に背を見せて逃げようとする。 ――が、廊下で転び、その背に重兵衛が迫る。 それらすべてが、星司郎の「詰将棋」の範疇、『芝居』だったと立会人は知っていたからである。 (アタシは知っている……星司郎ぢゃんがその『背に負う』覚悟を……) =============================================================== ――2日前、廃工場屋外。 「……健全な男子なら、3日もアレしないなんてこと耐えられるはずがない……真っ昼間にテントにもぐり込んだ理由……アレ以外考えられないわ! んもうっ、言ってくれたらアタシがいろいろアレコレしてあげるのにィィ……」 バサッ 「オラァ! 星司郎ちゃん水臭いじゃないノォ! 暮らし安心クラシアン! アッチの水漏らせはアタシに任せんしゃ……」 「ッ! ……立会人、体を拭いている最中に入ってこないでほしいんだが」 「な、な、なによ……その『背中』は……」 「……この優勝者トーナメント、どうしても勝たなくてはならない理由が私にはあるんだ。『切り札』なくして、トーナメントを勝ち抜いた猛者には敵わない」 「でも、そこまでしちゃうワケぇ?」 「きっと、普通はしなくていいだろう。だが、本当に強い相手は、こちらが考えうる最大の切り札をも破ってくるだろう。 ……そのとき、最後の砦が必要になる。それがこれなんだ」 「星司郎ぢゃん……」 「……立会人、1週間もここを張っているあなたなら、公正に立会をしてくれることだろう。 決して、この背中のことを言わないでほしい。そして、私に肩入れすることもしないでもらいたい」 =============================================================== (……星司郎ぢゃん、アナタが重兵衛きゅんに自らのスタンド能力を話したのは、決して『Sagittarius(いて座)』の攻撃によって決着を予期したからではなかった。 『そう相手に思わせること』が狙いだった。 重兵衛きゅんにそう思わせておけば、『Sagittarius(いて座)』の攻撃をかわした時、重兵衛きゅんは星司郎ぢゃんが『万策尽きた』と思うはず。 それから星司郎ぢゃんがあわててすでに見せた『Gemini(ふたご座)』をけしかけて、背を向けて逃げる姿を見せれば、 ……なおかつ滑って転んですぐに追いつくチャンスを与えれば、『敵は警戒することなく星司郎ぢゃんの背中を追う』。 その状況をつくることが、星司郎ぢゃんの描いた『詰将棋』だった) 廊下のガレキを踏む足音で、星司郎は重兵衛が転んだ自分の背中を追って近づいてくるのがわかる。 そしてタイミングを見計らい、星司郎は呟いた。 「アストロブライト――『Perseus(ペルセウス座)』」 西獅子星司郎が、優勝者トーナメントを迎えるにあたり『背に負った覚悟』は、ペルセウス座を象った星座の『刺青』だった。 http //dl1.getuploader.com/g/orisuta/2286/20160228_223508.jpg ――ペルセウスはギリシャ神話に登場する英雄である。 右手には輝く剣が握られ、左手には怪物メデューサの頭を掴んでいる。 そして、そのメデューサの目を見た者は、恐怖のあまり石化するという―― 星司郎のシャツの背中を破り、英雄ペルセウスとメデューサの首が現れる。 ペルセウスは主人である星司郎の命を受け、メデューサの首を掲げた。 「…………えっ?」 声をあげたのは立会人だった。 あまりに意表を突かれたような声に星司郎は違和感を抱く。 ふと、視線を背後に向ける。 「……なっ!?」 そこにいたはずの、星司郎の背中に迫ろうとしていたはずの重兵衛の姿がなかったのである。 星司郎は発現していたペルセウス座を消した。 「立会人、どういうことだ?」 星司郎は立会人に問いかける。 立会人の表情は困惑そのものだった。 「……事実だけを言うと」 立会人はある方向に指差した。 「星司郎ぢゃんがペルセウス座を出す直前、そばの部屋の中に飛び込んでいった」 「何だって……?」 何故。 何故。 何故。 立会人も、星司郎も思考がその2文字だけに支配される。 だが、それをもっとも頭の中で繰り返してしていたのは重兵衛自身だった。 重兵衛は立会人が指差した先の部屋の中で、壁の陰にしゃがみこんでいた。 (何故? 何故? 何故? 何故? 何故?) 膝を抱える手が震えている。 (何故、僕はあのまま向かわなかった?) (星司郎さんの切り札はあのミサイルのような攻撃だったはずだ。 星司郎さんが召喚しようとしたのは『いて座』だと予感して、攻撃をぎりぎり避けることができた) (なのに何故僕は、最後の最後あのまま向かわなかった?) 重兵衛自身がその答えを示すのには、この言葉しか出てこなかった。 (突然……怖くなった) (背中に触れるほど近づいたとき、急に恐怖に襲われた。 危険を察知したとか、歴戦の勘とかじゃなく、ただの言葉にできない大きな恐怖だった) 重兵衛はふと思い出す。 もう決別していたと思っていたはずの昔の自分。 期待を寄せられるのが怖くて、失望されるのが怖くて、そうなる前に逃げだした自分。 たった今自分がとった行動は、まさにその時の自分そのものだった。 最後の最後に、何かが怖くなり逃げ出してしまう自分だ。 先のトーナメントで僕は、期待を寄せられることに喜びを感じる自分を見つけることができた。 自分は変わったと思った。 だが、 だが、 それまで自分を蝕んでいたかつての弱い僕は、まだ僕の心の奥底に潜んでいた。 消しきれずにいたんだ。弱くて、嫌味な自分の本性が。 ――そうでなければ、とどめをためらう理由が僕には、ない。 「……立会人、私の負けだ」 星司郎ははっきりと言った。 その声は重兵衛の耳にも届いている。 立会人も重兵衛もその言葉を疑ったが、星司郎は続けた。 「私は入念に策を練った。そして、それを実行するためにうまく立ち回ったつもりだ。 『Sagittarius(いて座)』も、私の最後の切り札と見せかけるために手の込んだ仕掛けをした。 三船さんが、私が偶然鉄塔のライトの中に『いて座』を見つけたのだと信じたとしても、 万が一『いて座』の形を知っていて、偶然にできるものではないと感づいたとしても。 まさかそのあとでさらに切り札を隠していたとは思わないだろう……この『Perseus(ペルセウス座)』を」 星司郎の背中には一面に描かれたペルセウス座の星座が彫られている。 ペルセウス座の持つメデューサの目を見た者は石化する。これが星司郎の真の切り札だった。 「単純にペルセウス座をけしかけても、トーナメントの優勝者ほどのスタンド使いなら、簡単にメデューサの目を見てくれないだろうと思った。 そのための御膳立てに私は努力を惜しまなかった」 「星司郎ぢゃん……」 「だが、結局私の真の切り札もかわされてしまった。 ……三船さんはきっと、私のさらに上を行ったんだろう。 無様に背中を晒して逃げようとする私の姿を不審に思い、切り札が一つでないことを悟って追撃をしなかったんだ」 違う。 僕はただ、怖くなって逃げただけだ。 ただの、偶然だったんだ。 重兵衛はそう言いたかった。だが、そう言うことすら恐ろしくてたまらない。 まるで自分が情けない人間だと主張するようなもので……弱いくせにそんな自尊心だけは卑しく持っていた。 「……違う!」 そう言ったのは、立会人だった。 「それは違うわ、星司郎ぢゃん……だってまだ勝負は終わっていない! まだ二人とも……」 「立会人!」 遮るように星司郎が叫ぶ。 「言ったはずだ、肩入れするなと……そして聞いただろう、私の負けだと。降参しても決着となる……そのはずだ」 「せ、星司郎ぢゃん……」 「うっ……うっ……」 重兵衛の嗚咽がかすかに聞こえてくる。 だが星司郎はそれを聞かなかった。 「三船さん……言ってくれ、『すべてお見通しだった』と。 そうでなければ……そうでなければ…………俺の覚悟も、報われない……」 ―――――――――――――――――――――――――――――― ―――――――――――――――――――― ―――――――――― 柔道着とグローブ、シューズを詰めたリュックを背負い、来た時と同じ恰好で三船重兵衛は廃工場の敷地を出た。 勝利の余韻など全くない。 むしろ負けよりも重い何かを抱えたような気分になっている。 「……やあジューベーくん、1回戦突破おめでとう」 敷地を出てすぐ、『アンカー』のリムジンとそばに立つグレゴリー・ヘイスティングスの姿があった。 「……よくリムジンでここまで来れましたね」 「なぁに、何度も道を訊いて辿り着いたさ」 「そういう意味で聞いたんじゃないですけど」 「とにかく、試合を終えた君をで迎えたくてな。改めて、おめでとう」 「……僕が勝ったように見えますか」 「ああ、グレッグおじさんはなんでもお見通しだよ。君がどう勝ったのかも、そして……君が今何を考えているのかも」 グレゴリーはにこやかな表情で重兵衛の肩をポンポンと叩く。 「たった3回そこらの試合で何か変わったなんて思わないことだ……。君はまだ病巣をみつけただけにすぎない。 期待をかけられてうれしいなんてのはフツーのことなんだよ」 「……そう、僕は何も変わっちゃいなかった。そうなんです」 「あぁーっ、でも卑屈になっちゃあダメだよー? これからの戦いは、弱い自分とホントに決別するための戦いなんだ! そういうコトだよ」 「ヘイスティングスさん……あなた何しに来たんですか。僕は帰りますよ」 「ああっ、待ちたまえ! 君が私の車に乗るつもりなんてないことはわかってる! ……ただ、一言いわせてくれ」 重兵衛はグレゴリーの顔を見る。 いつになく、真剣な表情だった。 「きみがこのトーナメントで優勝したら……きっと君は本当に変わることができるだろう。 だが……もし途中で負けてしまった場合、その時は『アンカー』に入りたまえ」 「……本気で言ってるんですか?」 「私が言いたいのはだね、トーナメントの途中で負けてしまったキミが、その後自分の力だけで変わることなんてできやしないってコトだ。 もしそうなったら、『アンカー』が……いや私がキミに変わるきっかけを与えてやる。それが『アンカー』にはできる」 「ようは、負けたらあきらめて『アンカー』に入れ……ということですか」 「そう……でも勘違いするな。私は純粋にキミのことを応援しているんだよ。もちろん巡子くんもね。 今は自分の力だけで試すといい。本当に変わることができるのかを……」 重兵衛は少し考え込み、グレゴリーに体を向きなおして答えた。 「……わかりました、ヘイスティングさん。僕は負けたら『アンカー』に入る。そこで何をするかも、あなたに任せます。 でも敢えて言わせてもらう。僕は負けない。かならず勝ち進んでみせます」 「……青年、その『イキ』だ。人間、変わろうとすることに早いも遅いもない……」 夜を照らした月は沈み、朝日が昇る。 戦いの舞台となった廃工場はたった一夜の壮絶な戦闘を誰にも知らせることなく、 再び過去の遺産として、古の廃城としての役割に戻った。 ★★★ 勝者 ★★★ No.7156 【スタンド名】 ディメンション・トリッパー 【本体】 三船 重兵衛(ミフネ ジュウベエ) 【能力】 触れたものを急加速させる オリスタ図鑑 No.7156 < 第18回:予選② > 当wiki内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。 [ トップページ ] [ トーナメントとは? ] [ オリスタwiki ]
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(表記例) レ〇ド ミュウツー カイオーガ グラードン ナタネ ホウオウ ライコウ エントリーの仕方 -雛形- 自分の名前 使用ポケモン(6匹) -雛形- 1.まずは上にある[このページを編集する]を開いてください 2.エントリーの仕方の下にある-雛形-の間の部分をコピペしてください 3.そのまま上のコード表の下部にペーストして、お名前とポケモン書き込んでください 4.[投稿]ボタンをカチッとクリックしてください 以上で追加完了になります。 長文になると表示おかしくなることがありますので気になる人は、再編集してください。 ※ちゃんと投稿できるか不安な人は投稿する前にプレビューで確認するのも良し。 ここで登録した使用ポケモンは大会が始まる前まで何度も変更して構いません。 ニックネームではなく、ポケモン名でお願いします。
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ペンダントロケット 商品ページ L:ペンダントロケット = { t:名称 = ペンダントロケット(アイテム) t:要点 = 写真が入るペンダントトップ,宝石なし,どの写真を入れようか迷っている姿 t:周辺環境 = 工房 t:評価 = なし t:特殊 = { *ペンダントロケットのアイテムカテゴリ = ,,,着用型アイテム。 *ペンダントロケットの着用箇所 = ,,,首に着用するもの。 *ペンダントロケットの形状 = ,,,ネックレス。 *ペンダントロケットの特殊能力 = ,,,握ると心が少しだけ落ち着く。 *ペンダントロケットの特殊能力 = ,,,一度だけ写真を入れることができる。 *ペンダントロケットに使用した宝石 = ,,,なし。 } t:→次のアイドレス = 写真の入れ替え(技術) }