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【僕とリカルド 1】 リカルド 「ミルダ」 ルカ 「ん、何?」 リカルド 「お前らとセレーナとの関係を知りたい」 ルカ 「依頼主の周囲を警戒してるって事?」 リカルド 「そういう事だ 場合によっては、お前らから セレーナを引き離す、というのも 手段の一つだな」 ルカ 「そんな手段、アンジュが納得するかなぁ?」 リカルド 「せんだろうな。 だが、彼女を守るためなら 俺はどんな手段でも取る」 ルカ 「聞き様によっては、 すっごい情熱的なセリフだね」 リカルド 「フン、茶化すな それで? 俺の質問の内容を覚えているか?」 ルカ 「もちろんだよ。 でも答えにくいなぁ 前世の縁で最近知り合っただけで、 説明が必要なほどの人間関係を まだ築いていないし」 リカルド 「全員がそういう関係なのか?」 ルカ 「全員がそういう関係だよ」 リカルド 「どうりで打ち解けていない 雰囲気だと思った」 ルカ 「そうかな? 結構みんな親しくなってると 思うけど」 リカルド 「いや、ミルダ。 お前が、だ」 ルカ 「………」 【僕とリカルド 2】 ルカ 「リカルドって銃を使うんだね」 リカルド 「ああ、自分を傷つけず 相手を無力化出来る。 便利な武器だ」 ルカ 「鎌は使わないの?」 リカルド 「当たり前だろう」 ルカ 「え!? なんで当たり前なの? だって前世で使ってたじゃない」 リカルド 「前世で使っていた武器を なぜ今使わねばならんのだ?」 ルカ 「だって、それは…、その…、 そういうものじゃないの?」 リカルド 「俺はこれまで一度も鎌を武器として 扱った経験が無い お前は前世で大剣を扱っていたから 今も使っているのか?」 ルカ 「もちろんそうだよ!」 リカルド 「フン…、まあ、好きにすればいい」 ルカ 「……… リカルド…、 鎌が嫌いだったのかなぁ?」 【僕とリカルド 3】 ルカ 「はぁ…、イリア…」 リカルド 「これみよがしに溜息なんて つきおって… フン、いいだろう。 聞いてやるから話せ」 ルカ 「え? いや、ぼ、僕は…、 そんなつもり全然…」 リカルド 「なら話は終わりだ」 ルカ 「あ、待ってよぉ~」 リカルド 「………」 ルカ 「せっかくだから聞いてもらおうかな… 実は…イリアと仲良くしたいんだけど なかなか上手く行かなくて 悩んでいるんだ」 リカルド 「気持ちを伝えればいい。 だがな、お前の好意なんて アニーミはとっくに承知済みだろうよ」 ルカ 「でも鈍感かもしれないじゃない! 僕の気持ちなんてさ、 きっと気がついてやしないよ」 リカルド 「気がつきながらも 無視しているのかもしれんとは 考えないのか?」 ルカ 「だったら…、なぜそんな イジワルをするんだろう…。 僕、悪い事をして怒らせたのかな?」 リカルド 「違うな」 ルカ 「違うよねぇ」 リカルド 「ああ、違う。 鈍感なのはアニーミではなく ミルダ、お前だ」 ルカ 「え…? そ、それってどういう…?」 リカルド 「自分で考えてみろ。 大人に頼るなぞ、ガキの甘えだ」 ルカ 「う…ん………」 リカルド 「やれやれ、マセガキかと思ったら、 本当にただのガキだったとはな…」 【僕とリカルド 4】 ルカ 「ねえ、リカルド」 リカルド 「どうかしたか?」 ルカ 「前、話聞いてもらったでしょ? その…、イリアの事」 リカルド 「ああ、その話か。 結局お前が鈍感なガキだ、と いう話に落ち着いたな」 ルカ 「そう…だね」 リカルド 「それで、 結局どうするつもりなのか?」 ルカ 「何もしない」 リカルド 「フム、それもいいだろう」 ルカ 「もし気まずい関係になったら…、 一緒にいるのも辛くなる。 それなら今のままでいいと思うんだ」 リカルド 「消極的だな。 明日死ぬかもしれんのだぞ?」 ルカ 「リカルドなら、僕らを守ってくれる。 そうでしょ?」 リカルド 「前にも言ったはずだ。 大人に頼るのはガキの証拠だ」 ルカ 「ガキの特権だよ」 リカルド 「フン…、言うようになったな」 ルカ 「僕もいつまでも ガキじゃないって事さ!」 リカルド 「……… 守る…、か。 守ってやりたい、とは思うが…」 【僕とリカルド 5】 リカルド 「………」 ルカ 「ねえ、リカルド」 リカルド 「………」 ルカ 「ねえ、リカルドってば!」 リカルド 「!!」 リカルド 「なんだ…、お前か。 一体何のようだ?」 ルカ 「珍しいね、ボンヤリしてるなんて。 ここが戦場なら確実に 命を落としていたろうね」 リカルド 「…そうだな。 戦場じゃなくて…、 お前が敵でなくてよかった」 ルカ 「…リカルド、やっぱ変だよ? どうしちゃったの?」 リカルド 「大人には大人の事情があるのさ。 ガキにはガキの悩みがあるようにな」 ルカ 「僕がガキなのは事実だけど、 でも仕方ないじゃないか。 ガキだから話も聞かせないってわけ?」 リカルド 「ああ、到底聞かせられない内容さ。 俺の事は気にするな」 ルカ 「……… 何だろう…、嫌な予感がする…」 【僕とリカルド 6】 ルカ 「ともかく、またリカルドと 一緒にいられて嬉しいよ」 リカルド 「俺が前世で討ち取られた恨みを 晴らそうとした…」 リカルド 「などと考えた事はないのか?」 ルカ 「まさか。 リカルドに限って そんな事をするはずがないよ!」 リカルド 「…そうか」 ルカ 「まあ、僕ならわからないけどね…」 リカルド 「………」 【僕とリカルド 7】 ルカ 「リカルドって どんな子供だったの?」 リカルド 「なんだ? 唐突だな…」 ルカ 「唐突に気になったのさ。 ねぇ、教えてよ」 リカルド 「フン…、ごく普通の真面目な…」 ルカ 「嘘でしょ!」 リカルド 「なぜ決め付ける!」 ルカ 「でも…、嘘なんでしょ?」 リカルド 「まあ、嘘なんだがな」 リカルド 「俺はガラム地方の山岳民族の出だ。 そこは傭兵となって身を立てる者が 多く、俺もまた同じくそうなった」 ルカ 「じゃあ学校に行ったりは しなかったの?」 リカルド 「読み書きと算術は教わったがな。 学校とやらには行った事がない」 ルカ 「じゃあ、友達とか恋愛は?」 リカルド 「…級友を得る機会は無かった。 だが戦友なら事欠かない。 そして恋愛は戦場では不要な感情だ」 ルカ 「恋をした事が無いんだね。 そんなの寂しい…」 リカルド 「フン、ガキの感傷だ。 女に惚れたり惚れられたりした 経験なぞ腐るほどある」 リカルド 「だが長続きしないのさ。 俺の稼業は明日をも知れぬ傭兵だ。 また会おう、なんて口が裂けても言えん」 ルカ 「やっぱり寂しいと思う…」 リカルド 「少々の小金があれば寂しさなんて 紛らわす事が出来るものだがな」 ルカ 「え? それってどういう意味?」 リカルド 「…ガキには早かったか。 お前が18歳になったら 教えてやる」 ルカ 「??」 ルカ 「う、うん、なんだかわかんないけど 楽しみにしてるよ」 【僕とリカルド 8】 リカルド 「………」 リカルド 「プハァ」 ルカ 「あ~、リカルド! お酒なんか飲んでる!」 リカルド 「ほう? この携帯用容器には ラベルも何もついていないぞ? 何故酒と断定する?」 ルカ 「…でもお酒なんでしょ?」 リカルド 「まあ、そうなんだがな」 ルカ 「どうせ僕には飲ませて くれないんだよね」 リカルド 「当たり前だ、ガキめ。 お前らは砂糖水でもなめてろ」 ルカ 「なんだか悔しいなぁ。 僕がガキなのは しょうがないじゃないか」 リカルド 「ガキはそうやって大人への恨みを 溜め込むものさ」 リカルド 「そして自分が大人になって、 ソックリ同じ仕打ちをガキにする。 こうして恨みが循環していくわけだ」 ルカ 「ぼ、僕はしないよ! そんな事」 リカルド 「フン、俺も手ぬるい。 ガキに恨みの一つも抱かせられんとはな」 リカルド 「これはもっと性根を据えて ミルダをいびってやらんといかんか…」 ルカ 「…リカルド、ひょっとして酔ってる?」 【僕とリカルド 9】 ルカ 「………」 リカルド 「ミルダ。 なぜ俺を無言で見つめる?」 ルカ 「背が高くてうらやましいなぁって 思ってさ…」 リカルド 「お前の歳ならまだまだ伸びるだろう。 大樹の苗えお見て「まだ育っていない」 と嘆くようなものだ」 ルカ 「でも伸びる保証はないよ。 両親も背が高い方じゃないしさ」 リカルド 「俺の故郷では民族ぐるみで 傭兵をしていると以前話したな?」 ルカ 「うん、聞いたよ」 リカルド 「ガキの頃から優秀な戦士の 育成の一環として、毎日吐くまで 腹一杯食わされ続けたものだ」 ルカ 「そんな事されちゃあ 太ってしまわない?」 リカルド 「太る暇なんてなかったな。 まばたきも億劫になるぐらいに、 ハードな訓練を毎日させられるからな」 ルカ 「それって何歳ぐらいから そうさせられるの?」 リカルド 「…確か、五つは六つの頃だな。 おかげで多少は戦士として 使い物になる身体に育つ事が出来た」 ルカ 「本ばっかり読んでて、 ずーっとごろごろしてるだけの僕は、 やっぱり貧弱なままなのかなぁ…」 リカルド 「言っただろう? お前の歳ならまだ伸びる」 リカルド 「いいか?食え。 そして食っただけ運動しろ。 そうすれば見違える身体になるだろう」 ルカ 「うん…、わかったよ」 リカルド 「そうか」 ルカ 「リカルドって、 やっぱり体育会系だね。 …僕なんかとは大違いだ」 【僕とリカルド 10】 リカルド 「ミルダ、体調は万全か?」 ルカ 「うん、悪くないよ」 リカルド 「回復アイテムや食材は 足りているか?」 ルカ 「そ、そうだね、 後で確認しておくよ」 リカルド 「武具の点検はしているか? 肝心な時に破損して、 事態が急変する事もあるんだぞ?」 ルカ 「わ、わかったよ。 それも後で見ておくよ でもどうしちゃったの? 突然神経質になってさぁ」 リカルド 「フン、間もなく最後の戦いだ。 抜かりがあっては困る お前が死ぬような事になれば 全員が動揺するだろう。 そうなっては全滅必死だな」 ルカ 「リカルドが 守ってくれるんじゃないの? それともアンジュ以外は どうでもいいのかな?」 リカルド 「確かに契約者はセレーナだ。 だが先ほど言ったように、 誰かの死に動揺すれば全員死ぬ お前を守る事がセレーナを守る事に 繋がる、というわけだ。 安心しろ、ついでに守ってやる」 ルカ 「ふふ、苦労性だね」 リカルド 「ああ、ガキの面倒を見るのが 大人の責任という物だ。 俺はまあまあ責任感が強い方でな」 ルカ 「じゃあ、リカルドの責任感に 期待させてもらうよ」 リカルド 「任せておけ。 では先に進むぞ」 ルカ 「うん、行こう!」
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Top 創作してもらうスレまとめ 1 1-368 「a night -牧-&-繊-」 「a night -牧-&-繊-」 作者:本スレ 1-091様 368 :オリキャラと名無しさん:2012/05/29(火) 20 51 07 1-091です。 》366を受けて、繊→←牧×エイシアさんの妄想を拡げちゃったので晒します ・やたらと長文です。エロなし ・繊は人の名前を覚えません (白髪→エイシアさん、王子→アル様、ロン毛→ウィル様です) ・二人ともgdgdです ・各キャラクター設定の詳細は、本スレ1-866 と、設定スレ 1-036へ 369 :a night -牧-:2012/05/29(火) 20 53 09 昼間は散々だった。 変な言いがかりはつけられるし、そいつからは迫られるし、そのせいで長々と説教されるし、 繊のやつは部屋から出てこねえし。 くっそ、休日だっていうのになんでこんな疲れなきゃならねんだ。なんなんだ今日は。厄日か? 正直顔をあわせづらいところだが、あいつに後ろめたいことは何もない……はず……だし、 話したいことも話すべきこともたくさんあるし、いつもどおり缶ビール一本持って繊の部屋の前に立った。 「……繊……入るぞ」 返事を待つ必要はない。 いつもそうしているようにドアを開け、部屋の隅に座っている繊の隣に腰を下ろした。 こいつはアルコールの類は一切飲まないが、隣で黙って座って、俺に付き合った。 俺はそれを心地良いと感じていたし、こいつも居心地の悪さは感じていないようだった。 いつからか、夜はこうしてこいつの部屋で並んで一杯飲むのが習慣になっていた。 だが、いざ座ってみると、何から切り出していいのか思いあぐね、何も話すことができなかった。 「あいつ……あの白髪、17だってよ」 しばらく黙っていた繊の口から、ぽつりと、静かな声が洩れた。 「お前のさ、半分にも満たねんだけど」 辛辣な物言いに、思わず俺は繊の方に目を向けた。 繊の顔はこちらを見てはいない。 多分、何も見てはいないんだろう、前方を見据えたまま動かない。 もともと整ってる顔だとは思っていたが、無表情でまばたきもしない横顔は、まるで人形のようだった。 「まあ、お前も男だし……まだ涸れちゃいねえだろうから、さかるなとは言わねえけどよ……」 「……だから……」 「本気だろうが遊びだろうがどっちから誘おうが、そんなん正直どうだっていいんだ。 無理矢理だろうが双方合意の上だろうが、それだってどうでもいい」 「いや、待て……!」 待て待て!あの状況で!俺から誘うってのはあり得ねえだろ! 「ただよ、未成年に手ェ出して新聞沙汰にはならないでくれ、近所歩けねえ」 「いや、だから……何もしてねえだろって!」 「……王子とロン毛が止めてなきゃ……するつもりだったんだろ」 「……っ……!」 これには、即座に否定できなかった。 誘ってきたエイシアに多少恥をかかせることになっても、はっきりきっぱり突っぱねて尚且つ諭すのが、 俺の責務でベストな判断だったんだろうが……ご無沙汰な体は正直なんだぞ!? もしあそこでドアが開けられていなければ……繊の言うとおりになってた……かもしれない……。 たとえ相手が男であろうが、自分の子供でもおかしくない年代であろうが。 俺もまあ、身持ちの固いほうではないし、流れ次第ではそうなっていただろうな。 だがそれはあくまで可能性の話であって、何も起きなかった、これが事実だ! 「お前の性欲は否定しねえけど、発散する相手選べよ。たまってんなら、そのへんの風俗にでも行って 適当に抜いてこいや」 「……お前いい加減にしろよ!……ちょっとおかしいぞ?」 何がこうまで繊の気に障ったのか正直わからねえが、いつになく語気の荒いトゲのある言い方に、 思わずかっとなって繊を畳の上に組み敷いていた。 「……ってぇな……」 怯えて揺れる視線にぶつかって、後悔した。 「……俺のことも犯すのか?」 手の下にある薄い肩が、小さく震えているのがわかる。 違う……。 こんなんじゃだめなんだ。俺はこいつを不安にさせたかったわけじゃない。 ただ、何を話しても何をしても傷つけることしかできないような気がして、少しだけ胸が疼いた。 こいつがこんなふうに怖がったりするのは、俺が怒鳴ったり手を上げたりするときだけだ。 俺だけを怖がるようになったのは、もちろん俺のせいだ。昔、手酷い仕打ちを与えた。そのせいだ。 「悪い。……怖がらせて悪かった……」 俺は繊を抱き起こすと、その背中を擦った。まだ、強張ったままだ。 「寝るわ。邪魔したな」 空き缶を持って立ち上がる。なるべく繊の方は見ないようにした。 視線が合うとまた怯えさせそうで、それを見るのもそうさせるのも願い下げだ。 部屋を出てドアを閉めようとしたとき、背中で声がした。 「俺も言い過ぎた……ごめん」 俺は振り返ることはせずにそのまま自室へ向った。 明日、もう一度落ち着いて話そうか。 ▲ 370 :a night -繊-:2012/05/29(火) 20 54 08 畳の目を数えていたら、いつの間にか部屋の中が真っ暗だった。 4,300を過ぎたあたりから、何度数えてもうまくいかない。 数えてる間は、忘れていられた。 白髪が誘ったのか、それとも牧の方から誘ったのか、本気だったのかふざけてたのか、無理矢理なのか 二人とも乗り気だったのか、キスだけで済んだのか、とか、そんなことを考えずに済んだ。 でもやっぱり思い出してきて、苛ついて、数えられなくなる。 我ながら馬鹿らしくなって、部屋の明かりを点けた。 明かりを点けたからといって、何するわけじゃない。もともと暗さに不便を感じるわけでもない。 今日はさすがに来ねえだろうと思いながらも、内心では牧のことを待っているんだということに気付いて、 そんな自分に呆れた。 「……繊……入るぞ」 鍵なんてかかってない。別に俺がいちいち許可しなくても、勝手に入ってくる。 いつもどおりに俺の部屋にやってきて。いつもどおりに隣に座って。いつもどおりに一人でビール飲んで。 どのツラ下げてやってきてんだよって、俺も勝手にそう思って。 そもそも、牧と白髪が二人で何しようが、俺のでしゃばっていいところではなくって。 それでもやっぱり苛ついて。 「あいつ……あの白髪、17だってよ」 気にもしてなかった年齢を口実にして、牧を責めた。 「お前のさ、半分にも満たねんだけど」 自分勝手な嫉妬だっていうのはわかってる。 「まあ、お前も男だし……まだ涸れちゃいねえだろうから、さかるなとは言わねえけどよ……」 「……だから……」 一度口にしてしまうともう止められなくなった。 「本気だろうが遊びだろうがどっちから誘おうが、そんなん正直どうだっていいんだ。 無理矢理だろうが双方合意の上だろうが、それだってどうでもいい」 どうでもいいのかどうでもよくないのか、それすらもうどうでもいいわ。 いきさつがどうであれ、牧の上に白髪が乗っかってキスしてた、それが事実だ。 「いや、待て……!」 「ただよ、未成年に手ェ出して新聞沙汰にはならないでくれ、近所歩けねえ」 嫉妬する立場じゃないってのもよくわかってる。俺が勝手にひとりでこいつに惚れてるだけだ。 その気持ちはこいつにはまったく関係ないっていうのもよくわかってる。 「いや、だから……何もしてねえだろって!」 「……王子とロン毛が止めてなきゃ……するつもりだったんだろ」 「……っ……!」 ……クソ、当たりかよ……! 「お前の性欲は否定しねえけど、発散する相手選べよ。たまってんなら、そのへんの風俗にでも行って 適当に抜いてこいや」 こんな言葉で牧を詰って、困らせたいわけじゃない。ますます嫌われるだけだってわかってるのに。 わかってるのになんで、こんなこと言ってんだろ……自分のウザさに腹が立つ……! 「……お前いい加減にしろよ!……ちょっとおかしいぞ?」 背中と頭に鈍い痛みを覚えて、床に叩きつけられたのだと知った。 俺の肩を抑える腕に容赦はなかった。 怒らせてしまった。 「……ってぇな……」 目が合った。怖かった。 「……俺のことも犯すのか?」 俺はずるい。自分が傷つくフリをして、牧を揺さぶってる。 ほんとはそうしてこいつとやりたいくせに、そこから入ってくるこいつの底意は知りたくなくて、 自分の願望を批難に隠してわざと地雷踏んで、傷を抉って自分を刻んで、そんなことしかできない自分が 卑怯で情けなくて女々しくて大嫌いだ。 「悪い。……怖がらせて悪かった……」 牧の手が俺を起こした。背中をはらってくれた手つきが優しくて、もう怒ってないのかと思ってしまう。 でも、俺の方を見ようとしないから、まだムカついてんだろうな。 いっそ、こいつがこんなに優しくなくて、他の人間がそうであるように邪険にしてくれてたら、そうだったら こんなふうに勘違いして好きになんてなってなかったかもしれない。 でも、今更どうしようもないほど好きになっていて。 「寝るわ。邪魔したな」 立ち去っていく背中を見て、急に寂しくなって、とりあえず謝んなきゃって思って、声をかけた。 「俺も言い過ぎた……ごめん」 誰かを好きになるって苦しいことなんだな。 【END】 拙文にて失礼! 改めまして、1-710姐さんありがとう その後のエイシアさんがお仕置きされてるところとか(もちろん性的な)、 ひとり何事かわかってないシルヴィアさんとかも 勝手に妄想して楽しかったですww ページ最上部へ
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5、浮浪者/Guttersnipe 英雄は不運な環境の中から生まれることもある。 中でも厳しい非情な都市の一文無しの路上生活の浮浪児としての人生の始まりよりも 不運なものというのは、滅多にないと言えるだろう。 親を亡くしたか、捨てられたか、あるいは虐待を受けたか、 浮浪児は結果として冷厳で皮肉屋の大人に育つことが多い。 下層階級のふるまいと貧民街特有の話し方が染み付いた浮浪児の英雄は 自身が社会の底辺の存在であると見られないよう苦心する。 浮浪児は常に世界中の彼らよりも幸運に恵まれた者たちからの 疑惑の視線を受けながら生きている。 たいていは銀貨数枚のために人を殺すような強欲な者、嘘つきのスリ、 追いはぎ、ごろつきなどのように見られている。 一般人は彼らに対する不信感を隠しもせず、 景観や衛兵たちは当たり前のように彼らに嫌がらせをしたり、尋問を行ったりするし、 貴族階級の者たちは油断のない護衛や参事官に囲まれて、 きまって下層民、中でも特に危険な下層民を遠ざけておく。 この不信のとばりの下で、浮浪児の中には、この他者からの期待に応えて "恵まれた者たち"に対する辛辣な憎しみを育む者も少なくない。 あるいは慎重に練習した見せかけの上品ぶった作法によって路上の作法と教育の欠如を隠し、 ひたすら自分の仮面の下を見透かす者が出てくる日が来ることを恐れながら、 必死にその貧しい出自から逃げようとする者たちもいる。 楽天的な者たちは、他人の悪評による判断の決め付けを拒絶し、 疑いの視線や侮蔑を気にすることを止めることにしている。 最後に、彼らの中に可能性を見出した後援者が 幸運な少数の浮浪児を道端から引き抜き、彼らに自己実現の機会を与えるのである。 強力な魔法使いは道端の浮浪児の中に大いなる閃きを感知して その少年や少女にいくつかのわざを教えるかも知れないし、 慈悲深い僧侶は貧しい子供に教会で侍者となる道を示す。 いくつもの伝説で物語られている通り、 浮浪児はしばしば王族や上級貴族によって路上から拾われ、 何か大きな働きを成し遂げた後、あるいは大いなる勇気を証明した後に 養子となることもある。 皮肉めいた理性を持って人生を過ごすか、あるいは利己的な策謀家として生きるか、 いずれにせよ、浮浪児たちは機会を見つけて捉えることに長けた、卓越した生存者だ。 幸運に恵まれて、あるいは厳しい仕事を乗り越えて路上を離れて 魔法使いや神官や、貴族の保護下に入った浮浪児は かつてのような物乞いの子供には見えなくなるが、 その内には今でもなお、 彼らが最初に目に留まるきっかけとなった素早い知性と向こう見ずな勇敢さを持ち合わせている。 ○浮浪児を作成する 当然のことながら、ローグの大半は浮浪児である。 路上で生まれ育つのは、ローグのわざを身に着けるには最適なのだ。 ファイター、特にスレイヤーもこのテーマにうまく適合するだろう。 特別な才能を持った浮浪児は、時に魔法に転向し、 力によって尊敬を集めようと、ウォーロックのわざを身につける。 それ以外にも、どのクラスのキャラクターであっても、 路上から拾われたり、自身の周囲の状況を変える努力に成功したことは有り得るだろう。 浮浪児はヒューマン、ドワーフ、ハーフリング、ドラウ、もしくはティーフリングであることが多い。 これらの種族の下層階級の生まれのものは 浮浪児の出自となる貧しく絶望的なスラムのような場所にたむろすることが多いためだ。 ○開始時の特徴 都市の最もひどい一角では、 野生動物に近いとすら言える浮浪児の群れは うかつな通りすがりにとって脅威である。 路地裏から飛び出し、人ごみをの山を走りぬけ、 彼らはまるで急降下する鷹のように襲いかかり、 財布をスリ取ったり荷物をひったくると、影の中へと姿を消してしまう。 自分たちの荷物を守ろうと武器を抜くのが遅かった犠牲者たちにとって、 ふくらはぎや足の腱への素早い一太刀はあらゆる行動を鈍らせる。 君はこの技に精通しており、安全な距離に逃げるまでの間に このすばやい攻撃を一発お見舞いする技を用いる。 君は「ランニング・スラッシュ」のパワーを修得する。 ランニング・スラッシュ/Running Slash (走りながらの斬撃) ~君は敵の傍を走りすぎ、通り過ぎなら攻撃する。 遭遇毎、[武勇][武器] 標準アクション、近接1 効果:君は移動速度までの移動を行い、その移動の途中の任意の地点で次の攻撃を行う。 この移動は目標からの機会攻撃を誘発しない。 目標:クリーチャー1体 攻撃:最も高い能力値修正 vs 反応 ヒット:1[W]+最も高い能力値修正のダメージ、目標は君の次のターンまで減速状態。 ○追加の特徴 5レベル 出所の不確かな貴重品を売り買いするのは、君の天賦の才だ。 たとえどの地へ行こうとも、君は最も意欲的な買い手や売り手とつなぎをつけることができる。 ダンジョンで発見した小像を売るのであれ、呪文書に記載する儀式を購入するのであれ、 君は他の誰よりも良い値段でやり取りすることができる。 利益: アイテムを購入する時、君は表記された金額の90%でそれを購入することができる。 アイテムを売却する時、君は通常そのアイテムを売却することによって得られる金額に追加で10%を得ることができる。 10レベル 君は個人的な経験から、町でどれくらいの浮浪児や物乞い、スリ、 それにちっぽけな犯罪が起きているかを知っている。 それだけではなく、君の貧しい出自の英雄という評判のおかげで、 貧しい人々は君を探し出して常に君に情報を提供してくれる。 君にはどこへ行こうとも、出来合いのスパイ網があるのだ。 利益:君は事情通判定に+5のパワー・ボーナスを得る。君は町や都市にいる限り、1日に一度、1回のフリー・アクションとして事情通判定を行うことができる。 ○追加の汎用パワー 路上で生まれ育ったことにより、 君は厄介事からすばやく逃れ、当局の手から離れる方法を身に付けた。 君を追い詰めることはほぼ不可能であり、 敵が君を取り囲んだ時には、逆に君は彼らをまるで道化のようにしてしまう技を持っている。 いまや君は成長し、昔のように子供の姿によって危険を回避することはできない。 しかし君はいまでも辛辣な言葉と自身の素早い反応速度によって 敵をおびき寄せて誤らせることができる。 2レベル汎用 どの都市の衛兵に聞いたとしても、浮浪児というものは 挑発と侮辱によって自分たちより優れた者を激怒させる能力に長けていると答えるだろう。 君は突き刺すような侮辱や無礼な身振り、そして相手を馬鹿にする笑い方に精通している。 敵が君に対する攻撃を外した時、君は全員にそのことをしっかりと知らせてやる。 君が自分をまるで無防備のように見せかければ、 知能を持たない敵ですらも釣られてその攻撃は粗く不正確なものとなるだろう。 インフューリエイティング・トーント/Infuriating Taunt (激怒させる挑発) ~君は敵の失敗をあざ笑うことによって、その怒りに火を注ぐ。 遭遇毎、[武勇] 即応・対応、近接範囲・爆発5 トリガー:君から5マス以内の1体の敵が君に対する攻撃をミスする 効果:遭遇の終了まで、目標は君に対して攻撃を命中させるまでの間ずっと、全ての攻撃ロールに-2のペナルティ (このペナルティは君に対する攻撃にも適用される)。 6レベル汎用 君が学んだことがひとつあるとすれば、それは自分よりも大きく、手ごわい敵を ──中でも特に敵が数において君に勝るときに、笑いものにする方法である。 奴らが君の足取りを追うことは難しく、 そして君は振り下ろされる剣の下から矢の様に逃れたり、 あるいは敵の味方の背後に身を隠してそれを防ぐことができる。 フールズ・ダンス/Fools Dance (愚か者の踊り) ~敵の多勢に圧倒された時、君はその数を逆手に取る。敵に近ければ近いほど、君は危険から遠ざかる。 遭遇毎、[武勇] マイナー・アクション、自分自身 効果:君の次のターン終了まで、君が攻撃されるたびに、君はその攻撃に対する全防御値にパワー・ボーナスを得る。ボーナスは攻撃が行われた時に君に隣接している敵の数に等しい。 加えて、君の次のターン終了まで、君への攻撃がミスするたびに、君は1回のフリー・アクションとして1マスのシフトを行うことができる。 10レベル汎用 君が捕まってしまったかのように見える時、君はどうやってか、抜け出してしまう。 脱力し、腕を袖から抜き、外套や上着を裂き、急に上体を跳ね上げ、けりだしてあらゆる拘束から君は脱出する。 まばたきする間に、君は10~15フィートほど離れた場所で、自分の足でしっかりと立っている。 いつでも逃げ出せる状態で───あるいは、戦いを再開できる状態で。 アンライクリィ・エスケープ/Unlikely Escape (予期せぬ脱出) ~体を軽く捻り、君は自分の動きを邪魔している状況から抜け出して自由になる。 遭遇毎、[武勇] 移動アクション、自分自身 必要条件:君は拘束状態、減速状態、動けない状態、もしくは敵から挟撃されている 効果:君は自分にかかっている動けない状態、拘束状態、もしくは減速状態の効果をひとつ終了させ、3マスまでのシフトを行う。
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最初にそれとわかったのは、女木戸市の全景だった。 私は高い場所から女木戸市内を見下ろしていた。天気は良く、雲ひとつない青空からはいかにも 暖かそうな陽光が降り注いでいるのが見て取れた。 私は水晶玉から視線を外し、八意に尋ねる。 「これはいつ頃の私の視界ですか?」 「ベッドに運び込まれる約12時間前だ。世界の差異は極小に留めてあるから、 この世界の過去とのズレはせいぜいがまばたきの回数くらいだろう」 私はまた水晶玉を見た。この風景は知っている。 (織星山の展望台だ……) またあの場所か、という思いが頭をよぎる。 そのとき、私のそばで八意が動いたのがわかった。 「私はしばらく席を外させてもらう。終わったころに戻ってくるからな」 「え、それはどうして?」 しかし私が彼の方を振り向いたときには彼はすでにこちらに背を向けていた。 「他人のプライベートを覗き見する趣味はないのだよ」 そのまま部屋の闇の中に溶け込んでいく八意。 私はとりあえずまた水晶玉を覗く。 私の視界はひとしきり風景を眺めたあと、後ろから名前を呼ばれて振り向いた。 その声には聞き覚えがあり、私は心がズキリと傷んだ。 (耕平の声だ……) 振り向くと、三脚付きのカメラをかまえてこちらを狙っている天照耕平の姿が見えた。 彼と私の間にはハーレーも停まっていて、その構図から、私はかつて見た写真撮影のシーンだと気づく。 視界の中で耕平は私に笑顔で話しかけ、私も楽しげな声で応えている。それは私の記憶にもある会話だった。 胸がシクシクと痛みだし、私は床に膝をかかえて座り込んだ。 (これは……そうだ……この日、私は彼と……) 「久しぶりのデートだったんだ……」 ぽつりとつぶやく。 ぼんやりだが思い出してきた。 この日私は久しぶりのデートということで、いつもより気合を入れていたんだ。 (事前に新しい服を買って、メイクも頑張って、朝早く美容院に行って……) ひとつの記憶を取り戻すたびに胸の痛みが強くなる。 私は目が潤っていくのがわかった。 水晶玉の中の私は耕平とキスをしていた。きっと抱きしめられていたはずだ。 肩と背中に彼の腕の感触を思い出そうとして、私はそこに触れた。 私はその後彼の運転するバイクの後ろにまたがって移動していた。どこへ行こうと話していたんだっけ。 (ああそうだ、このあと隣の市まで行ったんだ) そのことを思い出した直後、映像が乱れ、シーンがとんだ。 すっかり見入っていた私は少しびっくりしたが、続けて映し出された映像のほうが気になった。 映像の時刻は周囲の暮れなずむ風景から察するに夕方だろう。 沈みゆく夕陽に照らされてオレンジ色に染まった街並みが見えた。 私はそれがカラオケを終えて街へ出た直後の光景だと思い出した。 そしてそのころから、私の頭蓋の前方からかすかな痛みが感じられるようになってきたのだった。 2人きりのカラオケを終えて外へ出た私と耕平は街をあてもなくさまよいつつ、完全にペース間違えた、 だとか、腹減った、だとかのたわいない会話を楽しんでいた。 ときどき街かどの古着屋であったり、小さいが小洒落た雑貨屋を見て回ったりしているうちに陽もとっぷり と落ち、濃い紫色の空の下で街灯がぽつぽつと点き始めてきた。 耕平がどこか食いにいくかと言って、私が何かあるのと返すと、彼はイタズラっぽく笑って中華に行こうと 言った。その言葉で彼が私が以前に中華料理を食べたいと言ったのを覚えてくれていたのだ、と嬉しくなった。 それから彼が予約していた少し高めの中華料理屋でひとしきり食べて、飲んで、それから店を出て3時間ほど 休憩すると、門限があるから家に帰らなければと私は彼に伝えた。 耕平はとても残念そうな顔をし、私は彼にもういちど長いキスをした。それから彼が家まで送るよ、 と言ったので、私は彼のハーレーの後ろに乗った。 酒も入っていたためにやや乱暴な運転だったが、心地よい風の吹く夜だったので私たちはますます気分が 高揚していた。そのとき私は彼にわがままを言って、家に帰る前に街から外れたある場所を目指してほしいと お願いした。 そこは女木戸市の南東、畑の真ん中にぽつりと浮島のようにある駐車場と自販機コーナーだった。 この場所のことは彼も知っていた。私はここからの街の夜景が好きだった。 そのときの私はアルコールの作用と胸いっぱいの幸福感、そして彼と別れなければならない一抹の寂寥感に 頭がふわふわとしていて、そのために彼の身体にぎゅっとしがみついていた。 離れたくなかった。私たちはバイクに寄りかかって女木戸市の夜景を眺めていた。 まもなく真夜中になるところだった。門限までもまもなくだった。私が帰りたくない、 とぽつりというと、耕平は強く私の肩を抱きすくめた。 私を包む彼の体温が心地よく、彼の胸に頭を預け、私は目を細めた。 私の腕に最初の雨粒が当たったのはその直後だった。 「ぎゃあああああああああああああッ!! 」 私はあらん限りの絶叫をあげていた。 部屋の床にのたうちまわり、両手で額を抑え込む。 映像の途中から始まった小さな頭痛は映像とともに徐々に強さを増していて、 今ではまるで太い釘を何本も打ち込まれているかのような耐え難いものにまでなっていた。 全身の筋肉がひきつり、鼻や口から体液がだらだらと流れ出ても、しかしそれでも私は目からあふれる涙を 拭い続けた。 この激痛には覚えがあった。 かつて天照の家で耕平の名前を見つけたときと同じものだ。 きっと私はまた何か大切なことを思い出そうとしているんだ――その確信が私を水晶玉から目を反らさせずにいた。 水晶玉の中では雨が降り始めている―― 突然振り始めた夕立はあっという間に女木戸市を覆った。 私たちは駐車場の道路を挟んだ向かいにある自販機コーナーまで走り、そこの小さなトタン屋根の下に 立って雨宿りをしていた。 耕平が買ってくれたホットココアで手を温めつつ、雨粒にけぶる道路を見ると、 夜中で大雨とあってまるで視界がきかなかった。 天気予報じゃ言ってなかったのに、と不満をもらすと彼は肩をすくめて私にどうすると訊いてきた。 意味がわからなかったので訊き返すと、このまま夕立がやむまで待つか、無理やりバイクで帰るか、 ということだった。 私は少し迷ったが、すぐに帰るほうを選んだ。雨宿りをする前にも少し雨に降られてしまったので 服が少し濡れていたのが不快だったのと、はやく帰らないと父に小言を言われると思ったからだった。 耕平はじゃあ帰ろうと言い、自販機コーナーの屋根の下から飛び出した。ジャケットを傘のようにして 道路を横切り、バイクの元へたどり着くと、エンジンをかけようとポケットをまさぐり始めたが、 どうにも様子がおかしい。私がなんとなく足元に視線を落とすと、そこの砂利の上にバイクのキーが落ちて いるのを見つけた。私はそれを拾い上げる。 キー落としてるよ、と私は声をかけ、それを届けようと屋根の下を飛び出す。 視界は夜闇と雨粒に覆われ、聴覚は強い雨音に奪われていた。 ――私は叫んでいた。 私の視界は道路に飛び出した直後に横に大きく揺れ、直後、暗転した。 ……静かな研究室の床に倒れている自分自身を見つけたのはしばらく経ってからだった。 床に手をついて体を起こすと、節々が痛む。かなり長い間意識を失っていたらしい。 目の前には例の水晶玉が放置されていて、その中に虹色のもやをたたえていたが、もう映像は見えなかった。 それから私は額を撫でる。頭痛は嘘のように消え去っていて、そのために私はあの激痛とともに 目にしたものも夢のような気がした。 ――いや、夢であってほしいのかもしれない。 「でも……私は知っている……」 つぶやいて私は立ち上がり、天を仰いだ。無機質な地下室の天井にはパイプが張り巡らされているほかには 蛍光灯がいくつかついているだけで、光が泣きはらした目に痛かった。 深呼吸をし、胸に手をあてる。心臓の鼓動は激しくはなかった。意外なほどに落ち着いている。 「大丈夫なようだな」 背後から声が聞こえたので振り向くと、八意司が機材によりかかり、メガネを布で拭いていた。 「苦痛に耐えられず発狂するのが66%、真実を認められず逃避するのが29%というところだったが…… どうやらこの志野真実は5%だったようだ」 彼は機材から離れ、私の前に立つ。じろりと見下ろす彼の目を見つめ返して私は言った。 「思い出しました」 「ほぅ、それは結構なことだ」 彼はあごを撫でる。 「いいか、志野真実。貴様が手にした記憶はまがい物でなく、貴様自身が手にした『真実』だ。 嘘も偽りも無いことは何よりも貴様が知っているだろう。だがそれゆえに逃げることは許されない。 どのような奇々怪々なことでも、どのような理不尽であっても、貴様は認めなければならない」 私は頷く。 八意は私の目をまっすぐ覗きこんだ。 「ならば聞こうではないか、貴様はいったい何を思い出したのだ?」 「私は――」 私は再び胸に手をあて、それから喉につかえるその言葉を、口にした。 「私は、あのベッドに運ばれる前に――」 私は思い出す―― 「――交通事故で、死んでいたんですね」 「BINGO」 八意はにやりと笑った。
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中村友美をお気に入りに追加 中村友美とは 中村友美の65%は覚悟で出来ています。中村友美の14%は赤い何かで出来ています。中村友美の9%は雪の結晶で出来ています。中村友美の5%は陰謀で出来ています。中村友美の5%は気の迷いで出来ています。中村友美の2%は電波で出来ています。 中村友美の報道 絶対的ピンチでなぜ菅野智之と坂本勇人は“笑った”のか? 巨人・原監督があえて「代打の神様」と満塁で勝負した本当の理由(Number Web) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 幸福学の専門家に聞いた「自分を好きになる、自己肯定感を高める」ヒント4つ|CLASSY.(magacol) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース ヤクルト・高橋がG倒!「冷静にひとりひとり」6回8奪三振(デイリースポーツ) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 119番通報の現場をスマホ映像で送信「Live119」 (2021年11月9日) - エキサイトニュース 東京、ブックバー5選 - レストラン&カフェ - Time Out Tokyo 秋の叙勲 県内から195人 /千葉 - 毎日新聞 野球がコンセプトの個性派立ち食い寿司、ブルペンが荏原にオープン - Time Out Tokyo ママのための授乳ネックレスとふろしきのギフト専門店『funfunmom(ファンファンマム)』が11月21日にオープン!オシャレと便利を兼ね備えた双方にうれしいギフトが誕生 - アットプレス(プレスリリース) 暮らすように旅する、泊まれるタイニーハウス4選 - Time Out Tokyo 板野友美の出産祝いに篠田麻里子&前田敦子 赤ちゃんを抱っこし「こんな小さかったっけ~ってもう懐かしい」(ねとらぼ) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース ビーガン豆皿定食やロースイーツが楽しめるカフェ、小春日和TOKYOが登場 - Time Out Tokyo 板野友美が第1子となる女児出産 所属事務所が発表 1月にヤクルト高橋奎二投手と結婚(ENCOUNT) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 中村福助、脳出血から復活への8年間の闘い描く 「もう一回、歌舞伎をやりたい」と強い意志でリハビリ取り組む(中日スポーツ) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 犯罪や事故がない地域へ 「全国地域安全運動」を前に香川県で出発式(KSB瀬戸内海放送) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 行動制限緩和の実証実験が本格化 「GoTo2.0」は始まる? 制度設計は選挙後?(ABEMA TIMES) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 台湾夜市の定番スイーツ、地瓜球が楽しめる東京QQ球が大久保に登場 - Time Out Tokyo 新「GoTo」トラベル 再開はどんな形態で? - テレビ朝日 駅舎を改修したレトロモダンなまちの秘密基地、Sta.神田の魅力とは - Time Out Tokyo 板野友美ほのぼの画像で夫を応援 「奎二さんがんばりましたよ」中日戦に先発し7イニングを無失点好投(中日スポーツ) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース どうなる?“行動制限緩和”の実証実験 記者解説 - テレビ朝日 蔵前に作り手の物語を伝えるグローサリー、マークトが開店 - Time Out Tokyo トラックに“祝祭の景”を盛り込む、セノ派による「移動祝祭商店街 歩く庭」(ステージナタリー) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 板野友美「中1で彼氏とキス」「浮気した」告白でも元祖AKBファンは動じない(NEWSポストセブン) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース アートの国五つの個性 地元若手芸術家が絵画展 函館で18日から「一つの物語見てるよう」:北海道新聞 どうしん電子版 - 北海道新聞 代替肉ならぬ「代替シーフード」続々登場 (2021年9月15日) - エキサイトニュース 坂本真綾25周年ライブBD/DVDティザーに内村友美、堂島孝平、土岐麻子とのコラボシーン凝縮(動画あり) - 音楽ナタリー 東京、癒やしのパークサイドカフェ9選 - Time Out Tokyo 中野の松本湯がリニューアルオープン、人気銭湯の見どころを徹底解説 - Time Out Tokyo 諦めを超えるのは“かすかな共感”ではないか?「東京芸術祭2021」開幕(コメントあり) - ステージナタリー パラボート、市川友美は決勝に進めず 混合かじ付きフォアも - 毎日新聞 - 毎日新聞 キユーピー、パスタソースとしてだけでなく調理ソースとしても使える「レシピひろがるパスタソース」2品を発売 - マイライフニュース Mylife News Network 「第4回ラララボ!1dayハイスピードマンガ賞」結果発表! - PR TIMES コロナ禍中の熱中症リスクに要注意!! 日々の生活で意識したい水分摂取のススメ(TOKYO HEADLINE WEB) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 「虫嫌いの人もぜひ」糞虫の魅力、図鑑に 奈良公園内の観察案内も - 毎日新聞 - 毎日新聞 ブルーボトルとNIGO®がコラボレーションした新店が原宿にオープン - Time Out Tokyo 7月24日(土)放送!TVアニメ「D_CIDE TRAUMEREI THE ANIMATION」第3話場面カットを公開!前島友美役として西本りみさんが出演! - ファミ通.com 東京五輪の負のレガシー?「アニマルウェルフェア」への配慮が足りない (2021年7月21日) - エキサイトニュース 元X・TAIJI 没後10年 ロックミュージシャンの非業の死を振り返る(Yahoo!ニュース オリジナル Voice) - Yahoo!ニュース 【会見レポート】テーマは“歴史のまばたき”「東京芸術祭2021」に宮城聰「トンネルの向こう側を見ながら」 - ナタリー 元燕コーチが教え子に苦言 好調だったエース小川のKO劇「原因は配球にある」(Full-Count) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 公取委が“スマホ分割販売”にメスも…額面通りに受け取れば利用者の負担増に? 新たに指摘された販売代理店の“評価制度” | 経済・IT | ABEMA TIMES - AbemaTIMES 初めてワクチンを接種した日本人アスリート? イスラエル帰りの野瀬将平に聞いた異国の感染対策と「紛争」(米虫紀子) - Number Web - ナンバー 厳しい電力需給見通し 夏は「ここ数年で最も厳しい」、冬は東京で“足りなくなる”恐れも | 経済・IT - AbemaTIMES タクシー会社廃業で住民の足をどう確保するか。千葉県いすみ市で新たな一手 (2021年5月12日) - エキサイトニュース グローバルカンパニーで「自分らしく働く」とは? [PR] (FRaU編集部) | FRaU - 現代ビジネス 麻生大臣「飲んでもなんということない」発言を中韓批判も 福島第一原発処理水の海洋放出は世界より厳しい基準? | 国内 | ABEMA TIMES - AbemaTIMES モデルとeスポーツ二刀流の大友美有、高校生活最後の大会で有終の美 - Sportiva 中村仁美がきく、トヨタ自動車が描くサステナビリティ、「幸せの量産」とは【PR】(FRaU編集部) | FRaU - 現代ビジネス 電気料金が年間1000円超値上げも 今後10年続く? - テレビ朝日 使い捨てカイロで水質改善?汚れた川や池がキレイに! (2021年2月16日) - エキサイトニュース 板野友美と入籍のヤクルト高橋奎二、成長の軌跡。父が語る結婚の影響 - Sportiva SNSには「電気料金10万円いくかも」と悲鳴も…寒波で思わぬ影響、「新電力」「市場連動型プラン」って何? | 経済・IT - AbemaTIMES 地元で、飛行機内で、オンラインで。コロナ禍の修学旅行 (2021年1月5日) - エキサイトニュース 板野友美、河北麻友子「おはよう」は好きな男性にしか送らない!?男女のLINEについて本音トーク | ラジトピ ラジオ関西トピックス - ラジオ関西 舞台「紅葉鬼」~童子奇譚~ 追加出演者解禁!! - PR TIMES 舞台「紅葉鬼」続編上演決定!ーメインビジュアル・キャスト・スタッフ・チケットスケジュール解禁!ー - PR TIMES スバル 中村知美社長に聞く、スバルの航空機とクルマづくり - Car Watch キッチンには大きな焙煎機。海の町に住む駆け出しの珈琲屋のひとり暮らし(辻堂)|みんなの部屋 - roomie 花屋でかき氷、屋形船が天丼屋?~コロナ禍で業態転換、生き残りを図る (2020年9月16日) - エキサイトニュース マスク再利用案 品薄解消せず苦肉の策 慎重な声も - テレビ朝日 【解説】熾烈!ネット通販「送料ゼロ」の裏事情 - テレビ朝日 最新号『茶の湯への道。』発売中! - カーサ ブルータス 「日韓の溝」埋まらず 輸出規制さらに強化? - テレビ朝日 カレンダーも急ピッチ!「令和元年」向けフル稼働 - テレビ朝日 成田空港で9900人が一夜明かす 機内で10時間も - 朝日新聞 カジノ解禁法案が審議入り 今国会で成立は|日テレNEWS24 - 日テレNEWS24 中村友美のウィキペディア 中村友美 中村友美の掲示板 名前(HN) カキコミ すべてのコメントを見る 中村友美のリンク #blogsearch2 ページ先頭へ 中村友美 このページについて このページは中村友美のインターネット上の情報を時系列に網羅したリンク集のようなものです。ブックマークしておけば、日々更新される中村友美に関連する最新情報にアクセスすることができます。 情報収集はプログラムで行っているため、名前が同じであるが異なるカテゴリーの情報が掲載される場合があります。ご了承ください。 リンク先の内容を保証するものではありません。ご自身の責任でクリックしてください。
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糸こんにゃくとしらたきとの相違点については、細さもさることながら、その色も関係する。糸こんにゃくには海藻やお茶、キクラゲで着色されている、しらたきは名前のとおり白い。さらに、しらたきはこんにゃくの液をところてんの様に突いて細くしてから、湯に放して固める。それに対して、糸こんにゃくは固まってこんにゃくになってから細く突く、もっとも白い糸コンもあるので加工方法が主たる相違点と言えよう。 @てるたき @てるたきを他の放送で使わないで欲しいという節をリスナーに伝えるため非リア杯負け組追加メンバー募集(一期)に凸。シラクサと旅立ちの日にをコラボした放送は神回となった。 非リア杯に参加する気はなかったてるたきであったが見事追加メンバーに合格(リスナーから圧倒的支持を得ていた) しかし、マリカーが手元にないことを理由に追加メンバーを辞退した シラ×てるコラボ回。耳が幸せ。 http //www.nicovideo.jp/watch/sm14755309
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Top 創作してもらうスレまとめ 1 1-368 「a night -牧-&-繊-」 「a night -牧-&-繊-」 作者:本スレ 1-091様 368 :オリキャラと名無しさん:2012/05/29(火) 20 51 07 1-091です。 》366を受けて、繊→←牧×エイシアさんの妄想を拡げちゃったので晒します ・やたらと長文です。エロなし ・繊は人の名前を覚えません (白髪→エイシアさん、王子→アル様、ロン毛→ウィル様です) ・二人ともgdgdです 369 :a night -牧-:2012/05/29(火) 20 53 09 昼間は散々だった。 変な言いがかりはつけられるし、そいつからは迫られるし、そのせいで長々と説教されるし、 繊のやつは部屋から出てこねえし。 くっそ、休日だっていうのになんでこんな疲れなきゃならねんだ。なんなんだ今日は。厄日か? 正直顔をあわせづらいところだが、あいつに後ろめたいことは何もない……はず……だし、 話したいことも話すべきこともたくさんあるし、いつもどおり缶ビール一本持って繊の部屋の前に立った。 「……繊……入るぞ」 返事を待つ必要はない。 いつもそうしているようにドアを開け、部屋の隅に座っている繊の隣に腰を下ろした。 こいつはアルコールの類は一切飲まないが、隣で黙って座って、俺に付き合った。 俺はそれを心地良いと感じていたし、こいつも居心地の悪さは感じていないようだった。 いつからか、夜はこうしてこいつの部屋で並んで一杯飲むのが習慣になっていた。 だが、いざ座ってみると、何から切り出していいのか思いあぐね、何も話すことができなかった。 「あいつ……あの白髪、17だってよ」 しばらく黙っていた繊の口から、ぽつりと、静かな声が洩れた。 「お前のさ、半分にも満たねんだけど」 辛辣な物言いに、思わず俺は繊の方に目を向けた。 繊の顔はこちらを見てはいない。 多分、何も見てはいないんだろう、前方を見据えたまま動かない。 もともと整ってる顔だとは思っていたが、無表情でまばたきもしない横顔は、まるで人形のようだった。 「まあ、お前も男だし……まだ涸れちゃいねえだろうから、さかるなとは言わねえけどよ……」 「……だから……」 「本気だろうが遊びだろうがどっちから誘おうが、そんなん正直どうだっていいんだ。 無理矢理だろうが双方合意の上だろうが、それだってどうでもいい」 「いや、待て……!」 待て待て!あの状況で!俺から誘うってのはあり得ねえだろ! 「ただよ、未成年に手ェ出して新聞沙汰にはならないでくれ、近所歩けねえ」 「いや、だから……何もしてねえだろって!」 「……王子とロン毛が止めてなきゃ……するつもりだったんだろ」 「……っ……!」 これには、即座に否定できなかった。 誘ってきたエイシアに多少恥をかかせることになっても、はっきりきっぱり突っぱねて尚且つ諭すのが、 俺の責務でベストな判断だったんだろうが……ご無沙汰な体は正直なんだぞ!? もしあそこでドアが開けられていなければ……繊の言うとおりになってた……かもしれない……。 たとえ相手が男であろうが、自分の子供でもおかしくない年代であろうが。 俺もまあ、身持ちの固いほうではないし、流れ次第ではそうなっていただろうな。 だがそれはあくまで可能性の話であって、何も起きなかった、これが事実だ! 「お前の性欲は否定しねえけど、発散する相手選べよ。たまってんなら、そのへんの風俗にでも行って 適当に抜いてこいや」 「……お前いい加減にしろよ!……ちょっとおかしいぞ?」 何がこうまで繊の気に障ったのか正直わからねえが、いつになく語気の荒いトゲのある言い方に、 思わずかっとなって繊を畳の上に組み敷いていた。 「……ってぇな……」 怯えて揺れる視線にぶつかって、後悔した。 「……俺のことも犯すのか?」 手の下にある薄い肩が、小さく震えているのがわかる。 違う……。 こんなんじゃだめなんだ。俺はこいつを不安にさせたかったわけじゃない。 ただ、何を話しても何をしても傷つけることしかできないような気がして、少しだけ胸が疼いた。 こいつがこんなふうに怖がったりするのは、俺が怒鳴ったり手を上げたりするときだけだ。 俺だけを怖がるようになったのは、もちろん俺のせいだ。昔、手酷い仕打ちを与えた。そのせいだ。 「悪い。……怖がらせて悪かった……」 俺は繊を抱き起こすと、その背中を擦った。まだ、強張ったままだ。 「寝るわ。邪魔したな」 空き缶を持って立ち上がる。なるべく繊の方は見ないようにした。 視線が合うとまた怯えさせそうで、それを見るのもそうさせるのも願い下げだ。 部屋を出てドアを閉めようとしたとき、背中で声がした。 「俺も言い過ぎた……ごめん」 俺は振り返ることはせずにそのまま自室へ向った。 明日、もう一度落ち着いて話そうか。 ▲ 370 :a night -繊-:2012/05/29(火) 20 54 08 畳の目を数えていたら、いつの間にか部屋の中が真っ暗だった。 4,300を過ぎたあたりから、何度数えてもうまくいかない。 数えてる間は、忘れていられた。 白髪が誘ったのか、それとも牧の方から誘ったのか、本気だったのかふざけてたのか、無理矢理なのか 二人とも乗り気だったのか、キスだけで済んだのか、とか、そんなことを考えずに済んだ。 でもやっぱり思い出してきて、苛ついて、数えられなくなる。 我ながら馬鹿らしくなって、部屋の明かりを点けた。 明かりを点けたからといって、何するわけじゃない。もともと暗さに不便を感じるわけでもない。 今日はさすがに来ねえだろうと思いながらも、内心では牧のことを待っているんだということに気付いて、 そんな自分に呆れた。 「……繊……入るぞ」 鍵なんてかかってない。別に俺がいちいち許可しなくても、勝手に入ってくる。 いつもどおりに俺の部屋にやってきて。いつもどおりに隣に座って。いつもどおりに一人でビール飲んで。 どのツラ下げてやってきてんだよって、俺も勝手にそう思って。 そもそも、牧と白髪が二人で何しようが、俺のでしゃばっていいところではなくって。 それでもやっぱり苛ついて。 「あいつ……あの白髪、17だってよ」 気にもしてなかった年齢を口実にして、牧を責めた。 「お前のさ、半分にも満たねんだけど」 自分勝手な嫉妬だっていうのはわかってる。 「まあ、お前も男だし……まだ涸れちゃいねえだろうから、さかるなとは言わねえけどよ……」 「……だから……」 一度口にしてしまうともう止められなくなった。 「本気だろうが遊びだろうがどっちから誘おうが、そんなん正直どうだっていいんだ。 無理矢理だろうが双方合意の上だろうが、それだってどうでもいい」 どうでもいいのかどうでもよくないのか、それすらもうどうでもいいわ。 いきさつがどうであれ、牧の上に白髪が乗っかってキスしてた、それが事実だ。 「いや、待て……!」 「ただよ、未成年に手ェ出して新聞沙汰にはならないでくれ、近所歩けねえ」 嫉妬する立場じゃないってのもよくわかってる。俺が勝手にひとりでこいつに惚れてるだけだ。 その気持ちはこいつにはまったく関係ないっていうのもよくわかってる。 「いや、だから……何もしてねえだろって!」 「……王子とロン毛が止めてなきゃ……するつもりだったんだろ」 「……っ……!」 ……クソ、当たりかよ……! 「お前の性欲は否定しねえけど、発散する相手選べよ。たまってんなら、そのへんの風俗にでも行って 適当に抜いてこいや」 こんな言葉で牧を詰って、困らせたいわけじゃない。ますます嫌われるだけだってわかってるのに。 わかってるのになんで、こんなこと言ってんだろ……自分のウザさに腹が立つ……! 「……お前いい加減にしろよ!……ちょっとおかしいぞ?」 背中と頭に鈍い痛みを覚えて、床に叩きつけられたのだと知った。 俺の肩を抑える腕に容赦はなかった。 怒らせてしまった。 「……ってぇな……」 目が合った。怖かった。 「……俺のことも犯すのか?」 俺はずるい。自分が傷つくフリをして、牧を揺さぶってる。 ほんとはそうしてこいつとやりたいくせに、そこから入ってくるこいつの底意は知りたくなくて、 自分の願望を批難に隠してわざと地雷踏んで、傷を抉って自分を刻んで、そんなことしかできない自分が 卑怯で情けなくて女々しくて大嫌いだ。 「悪い。……怖がらせて悪かった……」 牧の手が俺を起こした。背中をはらってくれた手つきが優しくて、もう怒ってないのかと思ってしまう。 でも、俺の方を見ようとしないから、まだムカついてんだろうな。 いっそ、こいつがこんなに優しくなくて、他の人間がそうであるように邪険にしてくれてたら、そうだったら こんなふうに勘違いして好きになんてなってなかったかもしれない。 でも、今更どうしようもないほど好きになっていて。 「寝るわ。邪魔したな」 立ち去っていく背中を見て、急に寂しくなって、とりあえず謝んなきゃって思って、声をかけた。 「俺も言い過ぎた……ごめん」 誰かを好きになるって苦しいことなんだな。 【END】 拙文にて失礼! 改めまして、1-710姐さんありがとう その後のエイシアさんがお仕置きされてるところとか(もちろん性的な)、 ひとり何事かわかってないシルヴィアさんとかも 勝手に妄想して楽しかったですww ※各キャラクター設定の詳細は、本スレ1-866 と、設定スレ 1-036へ ページ最上部へ
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唯「はー、やっと授業終わったよ~。 音楽室いこーっと」 ガチャ 唯「ちょりーっす」 梓「遅かったですね、 もう下校時刻ですよ」 唯「え?」 唯「いやいや、さっき授業終わったばっかりだよ」 梓「何言ってるんですか、 時計見てくださいよ」 唯「……あれ、5時? さっきまでは3時だったのに」 澪「何を寝ぼけてるんだ」 律「明日は遅刻するなよ」 唯「???」 紬「じゃあ今日はもう帰ろうか」 梓「はい」 澪「ほら唯、いくぞー」 唯「おかしーな……」 翌日。 唯「ふー、授業終わったー」 律「唯、部活行こうぜ」 紬「あら、唯ちゃんは今週いっぱいは掃除当番でしょう」 律「あ、そうだっけ」 紬「今日は遅刻しないできてね」 唯「あ、うん。大丈夫だよ」 律「じゃー掃除頑張れよ」 唯「はーい……」 クラスメイト「あ、平沢さん」 唯「さーて、掃除しよう掃除」 ク「何言ってるの、掃除なんてもうとっくに終わったよ?」 唯「え?」 ク「掃除サボってどこ行ってたのよ」 唯「ど、どこって……ずっとここにいたけど」 ク「嘘つかないでよ、 2時間もずっと気づかれずにここにいたっていうの?」 唯「に、2時間? まだ授業終わったとこじゃ……」 ク「はあ? 時計見てみなさいよ」 唯「ご……ご……5時……!?」 ク「はあ……嘘つくのもいい加減にしてよね」 唯「そ、そんな……」 唯「……」 律「あ、唯!」 澪「唯ー、部活サボるのもいいかげんにしろよ」 唯「え、ちが……」 梓「やる気あるんですか?」 紬「唯ちゃん……」 唯「いやその……」 ク「平沢さん、掃除だけじゃなく部活までサボったの?」 唯「ち、違うの! 授業が終わって、 気づいたら5時になってたんだよ……」 澪「そんな下らない嘘ついてないで素直に謝れ」 唯「で、でもお……」 澪「おい、唯」 梓「唯先輩!」 唯「う……」 ク「平沢さん、子供みたいなこと言ってちゃダメよ」 律「そうだぞ、掃除や部活をサボったんだから 素直にサボってゴメンナサイとだな……」 唯「サボってない! サボりたくてサボったわけじゃないよ! もういいよっ!」だだっ 澪「唯!」 紬「行っちゃった……」 平沢家。 憂「おかえり、お姉ちゃん」 唯「ういいいいい……」 憂「ど、どうしたのお姉ちゃん!」 唯「みんながあ……」 憂「みんなにイジメられたの!?」 唯「私の話を聞いてくれなくて……」 憂「みんなに無視されたの!?」 唯「放課後がなくなってすぐ下校時刻……」 憂「下校時刻まで居残りさせられたの!?」 唯「誰も信じてくれない……」 憂「私は信じるよお姉ちゃん!」 唯「ううう……ういいい……」 憂「で、何を信じてもらえないの?」 唯「あのね、6時間目の授業が終わってね、 放課後になったらね」 憂「うん」 唯「すぐ下校時刻になっちゃうの」 憂「は?」 唯「放課後になったと思ったら、 一瞬で下校時刻になっちゃうの!」 憂「……」 唯「あー、信じてない! 憂も信じてくれないんだ!」 憂「そ、そんなことないよ…… ただ話が突飛すぎて」 唯「でもほんとなんだよ、 このせいで掃除当番も部活もできなくって」 憂「そ、そうなんだ」 唯「それでみんなに怒られちゃって」 憂「大変だったね」 唯「明日もこんななのかな…… どうすればいいんだろ」 憂「うーん……放課後が一瞬で終わっちゃうのは、 お姉ちゃんだけなんでしょ?」 唯「うん、みんなは普通に放課後を過ごしてる」 憂「じゃあ、誰かと一緒にいてみたらどうかな。 他の人と一緒なら、時間間隔も共有できるでしょ」 唯「そっか、さすが憂は頭がいいね」 憂「えへへ」 翌日。 唯「ふー、授業終わった」 律「唯、今日こそ部活来いよ」 ク「今日こそ掃除当番やってよ」 唯「あ、2人とも…… 私と一緒にいてくれない?」 律「はあ?」 唯「一人でいたら、また放課後が一瞬で終わっちゃうから」 律「まだそんなこと言ってんのか」 唯「お願い……」 ク「分かったわよ、見張りも兼ねて一緒にいてあげる。 どうせ私も掃除当番だし」 律「じゃあ私も、掃除終わった唯を部室まで 連れて行くためにいてやるよ」 唯「ありがとう……」 ク「じゃあ、さっさと掃除するわよ」 唯「うん……あ」 ク「何?」 唯「手つないでもらってていい?」 ク「はあ?」 唯「な、なんか不安で……」 ク「私ら二人で手つないだら掃除しにくいでしょうが」 律「じゃあ私がつないでてやるよ、 ほれ」 唯「ありがと、りっちゃん」ぎゅっ 律「今日は逃がさないからな」 唯「うん」 律と手をつないだことによって安心した唯。 これでもう放課後が一瞬で終わったりしない、 もし終わったとしても律と時間感覚を共有できる……そう確信した。 しかし、唯が無意識のうちにまばたきをして、 まぶたをひらいたその時。 律「うおっ!」 唯「え?」 澪「ゆ、唯?」 梓「いつのまに……」 唯「え? え? ここどこ?」 澪「どこって……昇降口だけど」 梓「今から帰るとこですよ」 唯「…………」 律「唯?」 唯「一応聞くけど、今何時?」 紬「5時よ」 唯「……」 梓「また部活サボって…… 今までどこにいたんです?」 唯「……ねえりっちゃん、掃除中に…… 手つないでたよね」 律「え? ああ…… 掃除をし終えるまではな」 唯「え?」 律「そんで唯がロッカーにホウキを片付けるとき…… ちょっと目を離したら、唯がいなくなってて」 唯「……」 律「ホントに一瞬だけ目を離してたんだ、 でもそんな一瞬のうちに 気づかれず逃げるなんて……」 澪「な、なんだよ…… どういうことなんだ?」 唯「だから、放課後が一瞬で終わっちゃうんだよ」 梓「そんなことあるわけないでしょう。 バカなこと言わないでくださいよ」 紬「そうよ、唯ちゃん。 逃げたなら逃げた、サボったならサボったと 正直に言って。 別に怒ってるわけじゃないから、ね」 唯「だ、だって…… りっちゃんは信じてくれるよね……?」 律「うーん…… 何か普通じゃないって感じはするけど…… よし、じゃあこうしよう。 明日の放課後、すぐに私達のクラスに集まって、 唯を監視していよう」 澪「か、監視って……」 唯「監視でもなんでもいいよ、 誰でもいいから放課後は私と一緒にいてよ…… もうこんなの怖いよ……」 翌日。 唯「はあ、授業終わった」 律「よし唯、私たちが見ててやるからな、 逃げるスキもないくらいに」 唯「助かるよりっちゃん」 紬「私も一応……」 律「すぐ澪と梓も来るからな」 唯「うん」 ガラッ 澪「おーい、律」 律「お、早速来たな」 梓「上級生の教室って緊張しますね」 律「よし、唯を監視するぞ」 澪「じーっ……」 梓「じーっ……」 紬「じーっ……」 唯「あはは……」 ク「平沢さん、今日の掃除……って何やってんの」 唯「逃げないように監視してもらってるの」 ク「はあ……まあ、監視はいいけど 掃除はちゃんとやってもらうからね」 唯「そりゃもちろん」 律「気をつけろよ、一瞬でも目を話すといなくなるから」 澪「じーっ……」 梓「じーっ……」 紬「じーっ……」 ク「……なんかこうも監視されてると すごくやりづらいわ」 唯「ご、ごめん……」 ク「まー別にいいわよ、 逃げられるよりはマシだから」 唯「私も逃げたくないんだけどね」 律「じーっ……」 澪「じーっ……」 梓「じーっ……」 紬「じーっ……」 ク「……あれ?」 唯「どうしたの?」 ク「外が暗いような……」 唯「え……え? まさか……」 ク「あれ? もう5時?」 律「え?」 澪「あ、ほんとだ……もう5時だ。 ……って」 梓「え? さっきまで確かに3時でしたよね」 紬「嘘、こんなことって……」 唯「ほらね、一瞬で放課後終わっちゃったでしょ! 私の言うことは正しかったんだよ!」 ク「そうね、疑ってごめん…… ってそういう問題じゃないわよ」 律「ああ、確かに唯の言うことは本当だった…… 本当だったけど」 唯「けど?」 澪「なんか取り返しの付かないことに なってしまったような気がする」 唯「うーん…… 憂は誰かと一緒にいれば、 時間感覚を共有できるって言ってたんだけど」 紬「みんなが唯ちゃんの時間感覚に合わさっちゃったわね」 ク「なんだか気味が悪いわね」 律「ああ……」 澪「と、とりあえず今日はもう帰ろう……」 梓「そうですね……」 唯「いやー、みんなに信じてもらえて良かったよ」 澪「私はなんだかイヤな気分だ」 翌日。 唯「はひー、授業終わったあー」 律「私部活いくわ」 紬「私も」 唯「え? 一緒にいてくんないの?」 律「だって……なあ」 紬「昨日みたいなことになるから……」 唯「そんなあ…… 私一人だけ時の流れから取り残されろっていうの?」 律「そういうわけじゃないけど……」 唯「ひどいよ、2人とも……」 ク「平沢さーん、掃除~」 唯「はーい……」 律「…………あれ?」 紬「どうしたの、りっちゃん」 律「外がいきなり薄暗くなったような」 紬「ま、まさか……」 律「……5時……だと……!?」 唯「へ?」 ク「あっ、ほんと……5時……!」 ガラッ 澪「おい、唯、律、ムギ!」 梓「い、今、なにがなんだか……」 律「もしかしてお前らも……」 梓「はい、気づいたら5時になってて」 律「……」 2
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――ところで私は、後年、外国商人の専横に関連して、 紬社長の日本人離れした容姿について、 その生い立ちに絡めて次のような噂を聞いたことがある。 『横浜には開港以来、外商が数多く出入りしている。 琴吹紬も、そんな外商と、それに遊ばれた町娘の間にできた私生児である』 そして、 『その容姿や血筋から、 汚い裏取引やコネでで外商の後ろ盾を得て、勢力を伸ばしたのだ』 あるいは、 『不遇な少女時代を過ごしたが、刻苦勉励して、 その身一つから大製糸家に成り上がったのだ』と。 あくまでうわさ話に過ぎない聞き取りであり、 まだ外国人への風当たりが強かった当時、 琴吹の商売敵が流したデマだったのかもしれない。 しかし、仮に後者の噂が真実とすればの話だが、 「生糸のせいで辛酸を極めた自らの生い立ちに重ねて、 せめて生糸で稼いだ金で、工女たちには白いご飯を……」 ひょっとすると、そんな思いやりがあったのではないか。 こんなエピソードもある。 「私は、琴吹で検番をしていたけれど、 工女にだけは賃金不払いはしなかったわね。 『それをしたら、次の年は工女が集まらなくて製糸ができなくなるから』って。 理由はそれだけじゃなかったと思うけれど、ね。 だから、紬社長は、影ではムギちゃんってあだ名だったけど、 どんな苦労をしても工女には給金を出したわよ」 琴吹製糸場で検番をしていた山中さわ子が述懐する。 「その分、私たちや出入りの業者が泣くわけだけど。フフフ……。 そうそう。 資金繰りに窮して、ムギちゃんがその長い金髪をかつら屋に売ったこともあったわね。 ある朝、いきなりバッサリ髪を切って 『今年は暑くなりそうだから、ちょうどいいでしょ?』なんて。 女の命である髪を切っても涼しい顔をしていたけれど、製糸の経営者は偉いものね……」 ――しかし、そのようなことは所詮、すべて後知恵である。 当時の若かった私は、製糸資本家の親玉、琴吹紬の立場を一顧だにしなかった。 「では、“生糸王の夢”とやらのために、 工女が死んでも構わないと?正義や人道など無視してもいいんですか?」 「“暴れ馬”相手に正義や人道を振りかざしても何の意味もない。それが資本主義よ。 真鍋さんの頭の中は、野ムギ峠の雪よりも赤く染まってるわね。真っ赤だわ」 溜め息混じりに、哀れむような目さえ投げかけてくる紬社長と、 私は全くかみ合わない問答を続けた。 「……質問を変えましょう。 投機的な製糸業でなく堅実な事業をしようとは考えないのですか?」 「堅実な事業? そんなものが今の日本のどこにあるの? あるとしてそれで外貨を稼げる? 工女たちに、故郷に帰って地道に農作業をして 小作料を払って雑穀を食えとでも言うの? だいたい、投機で損をしても、他のことを考えるくらいなら、 早く次の手を考えねばならないもの」 戦後になって、「貧乏人はムギを食え」と言って大臣の席を逐われた政治家がいたが、 それを先取りして、地で行くような紬社長の言葉だった。 猛烈な怒りがふつふつと、とめどもなく私の体内にわき起こる。 「わかりました。“工女は投機の種銭、 工女は事業の奴隷”と言いたいわけですね?」 「それはちょっと訂正してもらいたいわね。 工女だけでなく、製糸家自身もまた、投機の種銭、事業の奴隷なのだから。 それとも、真鍋さんが工女たちに白米を食べさせてくれるの? 私たちの生糸を買ってくれるの? 製糸業は、ただの商売じゃない。欧米列強との闘いなの。世界との戦争なの。 ……だから桜が丘では、製糸業のことを『生死業』というのよ」 冷たく輝く瑠璃のような瞳。 射抜くような視線を私に向ける紬社長に、 私は手帳を手汗で湿らせながら、憤懣を込めて睨み返した。 「……そうなんだ、じゃあ私、社に戻るね! このことはしっかり記事にさせてもらうわ!」 「なら、これ以上話すことはないわね。 私も仕事に戻るわ。せいぜい頑張って、ブン屋さん」 ごう、ごう…、ごう……。 不意に、すぐ近くの作業場から響いていた機械の音が止まった。 そして工女たちのざわめき。 いぶかしげな表情で作業場の様子を見ようと歩き出した紬社長を、呼ぶ声がする。 「社長、社長っ!水車が!天竜川の水車が!」 斎藤氏が、息を切らせてこちらに走ってくる。 「どうしたの?早く案内なさい!」 そう叫ぶよりも早く駆け出した紬社長の後ろを、私もまた追いかけた。 ───天竜川河畔、琴吹製糸場の水車場 紬社長、斎藤氏、そして私が駆けつけると、 工場の男衆が数名、冷たい天竜川に入り、 水車に引っかかった“物”を取り去る作業をしている。 しかしこれは、作業員も巻き込まれる危険のある恐ろしい作業だった。 川沿いには工女らがすでにぎっしり集まっている。 「また身投げか、クソっ」 「ええぃ、髪が引っかかって……髪を切るか?」 川に入った男衆が凍えながら相談していると、 「髪を切ってはなりませんっ!」 そう叫ぶが早いか、一糸まとわぬ姿になった紬社長は、 身を切るような晩秋の天竜川に飛び込んだ。 紬社長自ら、水車にからんだ髪をほどいていく。 ほどき終えると、その“物”を抱いてかかえ上げる。 そして、川面へ。 まず、赤い着物が目に入った。 乱れた長い黒髪の間から、女の白い顔が浮かび上がった。 紬社長は、その女のなきがらを抱き上げながら、 額にかかった黒髪をかき分け、その顔を見つめる。 紬社長の眼差しは、 天竜川の深みの水よりも、青く、そして深く、沈んでいた。 「……あ!あの黒髪!」 「ア、アヅサだ!アヅサだッ!」 そう叫んで、リツとミヲが泣き崩れた。 どこかよその工場の者であってくれと 見守っていた彼女たちの願いは、完全に裏切られた。 叫びは他の工女たちに広がり、 そのまま名状しがたい嗚咽に変わって、天竜河畔をゆさぶった。 しかし、男衆たちは、 「厄介をかける女だ。何も水車に飛び込まなくても。まったく大損だ!」 「さあ、仕事に戻るんだ!早く工場へ入れ!」 ところが誰一人、工場に戻る者はいなかった。 そして返事の代わりに、どこからともなく怒号が上がる。 「人殺し!人殺しぃッ!」 リツだ。 「アヅサはお前が殺したんだ!ユヰだってお前が殺したんだ!この金髪鬼!」 紬社長は、浅瀬でアヅサの骸を抱きあげたまま鋭くリツを睨み返すが、 リツは河原の石を投げつけながら、あらん限りの罵声を紬社長に浴びせる。 「二人を返せ!ゲジマユの毛唐もどきが! 人の皮を被った沢庵め!血も涙もねえのかよ!何とか言えっ!」 他の工女たちも、怒号を上げ、あるいは小石を投げ始める。 そしてリツの投げた石ころが、紬社長の額を打ちかすめる。 身じろぎどころか、まばたきさえせず受け止めた紬社長の額から、 つう、と一筋の血が流れる。 「……社長が危ない!仕方ない、取り抑えなさい!」 斎藤の号令一下、男衆や検番たちが工女たちを追い立てる。 工女たちの怒号は悲鳴に変わる。 中には、張り倒される者、足蹴にされる者。河原は騒然とした。 ………♪君を見てゐるとォ~ 何時も心臓 動悸 動悸ィ~」 逃げ惑う工女たちと、追いたてる工場の男衆たちの修羅場の中から、 不意に澄んだ糸引き唄が聞こえてきた。 工女たちは逃げ回る足を止め、工場の男衆たちは振り上げた拳を止める。 「♪揺れる想いは 淡雪みたいに 浮惑 浮惑ァ~」 工女たちも、工場の社員たちも、そして私も、 歌声の出どころを探し、その視線が一点に集まる。 ミヲだ。ミヲが肩を震わせつつ、目を閉じて天を仰ぎながら歌っている。 「♪何時も頑張るゥ~」 「♪何時も頑張るゥ~~」 「♪君の横顔ォ~」 「♪君の横顔ォ~~」 拍子を合わせて声が重なる。リツだ。 たった今、工場の男衆に殴られて唇の端が切れているが、お構いなしに声を張り上げる。 「「♪ずっと見てゐてもォ~ 気付かないでねェ~」」 「「♪夢の中ならァ~」」 『♪夢の中ならァ~』 『「「♪二人の距離ィ~ 縮められるのになァ~」」』 工女たちの群れの中から、にわかに糸引き唄の合いの手がわき起こり、 そして、徐々に数を増やし、勢いを得ていく。 『『♪あぁ 神様お願いィ~ 二人だけのォ~ 夢見心地下さいィ~』』 『『『♪お気に入りのうさちゃん抱いてェ~ 今夜もお休みィ~』』』 『『『『♪浮惑浮惑待務 浮惑浮惑待務 浮惑浮惑待務…………』』』』 私は、いや、工場の社員も、紬社長も含めて皆、 ただただ呆然と、その歌に耳を傾けていた。 鎮魂歌とも抵抗歌とも知れぬ、数百の工女たちの哀しき糸引き唄は、 天竜川の流れに乗って、また諏訪湖の湖面に染み渡って、桜が丘の村中に響いた。 その時、私は見た。 凍るような浅瀬に足を浸し、 アヅサの骸を抱き上げたままの紬社長の目から、一筋の雫がこぼれるのを。 そして、紬社長の口が、工女たちの糸引き唄にあわせて、かすかに動くのを。 当時は思いもよらなかったが、紬社長のその姿を今になって回顧すれば、 ただ睫毛に含まれた川水が滴っただけだったのだろうか。 ただ唇が寒さに震えただけだったのだろうか。 現在の私にはそうは思えない。 しかし、もはや紬社長の胸中を知る術はない…… 『シャッ金ガマダオワラズ 申シワケアリマセン オヤ不孝ヲオユルシ下サイ ミヲネエサン リツネエサン ヨクシテクレテ アリガトウゴザイマシタ オ先ニ ユヰネエサンニ 会ツテキマス ワタシノカラダハ モウダメデス サヨウナラ アヅサ 』 アヅサの行李の中には、稚拙なカタカナの遺書が、一通残っていた―――― 7
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Uたき能力パラメータ UTA.jpg 備考欄