約 1,325,039 件
https://w.atwiki.jp/onirensing/pages/1133.html
アーティスト:B z レベル:6 登場回数:1(レギュラー版第40回(B zオンリーモード)) 挑戦結果 挑戦者なし
https://w.atwiki.jp/retoruto/pages/62.html
オリジナル 下絵があったが、素晴らしくかけ離れた作品 でも女のカン慧音ぇ! ハイ!オーシャンパシフィックピース!!
https://w.atwiki.jp/storytellermirror/pages/1565.html
FRAGILE(フラジール) ~さよなら月の廃墟~ part45-362~373,375~382,386 362 :FRAGILE◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 05 55 29 ID x5giWo3G0 FRAGILE(フラジール)~さよなら月の廃墟~ ※解説 ジャンルは廃墟探索RPG 登場する廃墟は昭和30年代っぽいレトロな雰囲気 昭和30年代に人類が滅亡して、それから何十年も経っている、といった感じ 短い夏が終わる頃 一緒に暮らしていたおじいさんが死んだ 長い間一緒にいたのに、ぼくはおじいさんの名前を知らない 夕暮れ、家の前の庭に、小さな穴を掘って、おじいさんをそこに埋めた それから、ぼくは 本当に、ひとりぼっちになった 一. おじいさんが暮らしていた天文台の中は、暗かった ぼくは壁にあるハンドルを回した 天窓が開いて、月明かりが入って、少し明るくなった あっ、自己紹介がまだだった ぼくは、セト、だよ おじいさんが残した物がないかどうか、調べてみよう ベッドの上に懐中電灯があったから、右手で持った ちなみに左手には武器を持ってる ぼくはお箸は左手で持つんだ だから武器は左手 探索を続けよう 本がたくさん置いてある資料室の中へ入る 机の上に、おじいさんが書き残した手紙があった 封筒に、セトへ、って書いてある さっそく読んでみる お前がこれを読んでいるころには もう私はいないのだろう 生きることも、死ぬことも、私にとって大した意味は無かった そもそも生きる資格など無かったのだ ただ長い間、日々を無為に過ごし、終わりを目の前にして 初めてこんな気持ちになるとは お前と過ごした日々そのものが私にとっての宝石だった なぜもっと親しく言葉をかけなかったかと、今になって後悔している 愚かな私を許してほしい ここから東へ向かうと、大きな赤い鉄塔が建っている そこにはお前以外の誰かが生き残っているかも知れない 私が死んだら、東へ向かうのだ 今までありがとう、セト 363 :FRAGILE◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 05 57 27 ID x5giWo3G0 手紙のそばに、不思議な青い石があった ぼくは、青い石を、おじいさんの写真が入ったロケットに入れて、首からさげた そしてぼくは、東へ向かった 旅の途中で出会った人たちは、みんな、さわろうとするとすり抜けてしまった その人たちは、思念体、とか、幽霊、とかいう人たちなんだって 青い石を手にしてから、ぼくは、そういう人たちが見えるようになっていた 夜、開けた場所にやってきた 遠くに赤い鉄塔(どう見ても東京タワーですね)が見える 舗装された交差点は大きな水たまりになっていて、蓮の花が浮かんでいた そこに彼女がいた 銀色の髪の女の子 だれ? 女の子はぼくに驚いて仰向けに転んだ 死んでないよね? ぼくは、目を閉じたままの女の子の側に行って屈んで、頬にさわった その頬は暖かかった この子はちがう、すり抜けない あっ、さわった 女の子は目を覚ました うん、あの、生きてるかなって思って あの、ぼくは 名前を言おうとしたぼくから逃げるように、女の子は地下鉄の駅へを続く階段を降りていった 待ってよ ぼくも急いで後を追った .。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+. 私がまだ十五歳だった、あの夏の終わり 私たちは黄色に光る塔の下で出会った それは、ひとりぼっちだった私の世界を大きく変え そして彼女と一緒にいた束の間の時は、私自身を大きく変えた 今でも昨日のことのように思い出すことが出来る 夏の名残を残した息苦しい空気 風の中なびく彼女の銀の髪 白くて丸い月 .。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+. 364 :FRAGILE◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 05 58 54 ID x5giWo3G0 二. 階段を降りたけど、彼女の姿は見当たらない 代わりに変な声がする 助けてください このままでは機能停止してしまいます 声のする部屋へ入ってみる 声の主は機械だった 背中に背負うのにちょうどいい感じにストラップがついている 私はパーソナルフレーム、通称PFです 私が安全な旅をナビゲートいたします 女の人の声で、PFはしゃべった うん、こちらこそよろしく ぼくはPFを背中に背負った PFに、銀の髪の女の子を探していることを話した PFは、女の子は地下商店街に行ったのではないかと予測した でも、地下商店街に行くには鍵を探さなければいけないらしい とにかく改札口のあるフロアまで降りていく そこには、紙でできた、鳥を象ったものが落ちていたので拾った それは折り鶴というものだと、PFが教えてくれた それから、たき火が出来る場所を見つけた たき火はせーぶぽいんととかいうものなんだって 体力も回復できるし、拾ったアイテムに残った残留思念を読むことができる ぼくは、折り鶴をたき火にかざして、残留思念を読み取った その折り鶴は、お母さんが小さな女の子にあげたものらしかった だけど、女の子は迷子になってしまって、お母さんが探しているうちに、終わりが来たらしい 終わりっていうのはなんだかわからないけど、それがあったから、みんないなくなってしまったんだろう 地下鉄の改札からホームに出て線路に下りる 線路沿いに歩くと、地上に出た 空が赤い 朝焼けだった 赤くて、綺麗ですね ぼくはしばらく、PFと一緒にその景色に見とれた さらに線路をたどると、線路は途中でなくなっていた その先には倉庫があった PFが、倉庫の中には地下商店街の鍵があると予測した 倉庫の中に入ると、女の子の幽霊が姿を現した 女の子から、かくれんぼ勝負を持ちかけられたのでつきあうことにした 鬼はぼくだ 勝負に勝つと、女の子は地下商店街の鍵をくれた ぼくは女の子に折り鶴を渡した 女の子は喜んだ やっぱりこの子のものだったんだ お母さんの幽霊が女の子を迎えに来た ふたりは手をつないで、天に昇っていった 365 :FRAGILE◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 06 01 15 ID x5giWo3G0 地下鉄の駅まで戻って、鍵でシャッターを開けて、地下商店街に行く 結構広い 隅から隅まで探したけど、銀色の髪の女の子はいなかった 地上への出口に着いたとき、PFがしゃべり出した バッテリーの残量がありません どうやら、ご同行できるのはここまでのようです どういうこと? ぼくは混乱した PFを背中から下ろした PFのランプが消えかかっている 私はお役に立てませんでしたでしょうか ううん、いてくれて助かったよ そうですか、それならよかったです あなたいらっしゃらなければ、私はあの崩れた駅の中で一人、機能停止していた事でしょう ほんの少しの間でしたがご一緒できてとてもうれしかった データベースの中にはあなたにお伝えしなければならないことがたくさんあるのですが ひとつだけ・・・ありがとう そういえばあなた様のお名前をお聞きするのを忘れて PFのランプが完全に消えた ぼくの名前は、セト、だよ PFは死んでしまった PFから落ちたねじをロケットにしまった ぼくは、穴を掘って、PFを埋めた .。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+. 夢を見た 聞き覚えのある声が私を呼んでいる 私が歩くたび 心配そうに、楽しそうに話しかけてくれるあの声 一緒に見た赤い空 強い風に飛んでいくたくさんの雲 ふたりでいた宝石のような限定された時間 また一緒にいたいなどという願いは永久に叶わないことは解っている それでも生きている者は生き続けなければならない 死んだ者は土の中でただ死に続ける .。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+. 366 :FRAGILE◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 06 02 08 ID x5giWo3G0 三. 地上に出る そこは誰もいない遊園地だった いや、ひとりだけ、男の子がいた ぼくと同じくらいの年かな 黒くてかっこいい、軍服みたいなのを着ている まず自分から名乗るのが礼儀ってもんだろ ぼくは、セト、だよ 俺様はクロウだ ねぇ、クロウ・・・ 気安く話しかけんな クロウはちょっと意地悪な性格らしい 気が付くと、クロウにロケットを取られてしまっていた 返してよう!大切なんだよ! ほらほら!返してほしかったらつかまえてみな! それからクロウを追いかけて遊園地じゅうを駆けまわった ジェットコースターのレーンを渡って行ったりもした やっとクロウに追いついた そんなに大切なものなのか?これ よーし、中を見てやれ もうちょっとでクロウをつかまえられると思ったとき、ぼくは落とし穴に落ちた 落ちた先は地下道だった 途中の部屋に海賊の本が落ちていたので、拾って読んだ 気安く話しかけんな、と海賊は言った (中略) また会えるかな、と私は海賊に言った 会えるさ、なんてったって俺たちは友達だからな、と海賊は答えた 367 :FRAGILE◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 06 05 33 ID x5giWo3G0 どうやら、クロウはこの本を読んだことがあって、海賊の真似をしているみたいだ 地下道を抜けて、壊れた観覧車の前へ出た クロウは、ロケットをちらつかせながら、観覧車の真ん中の辺りに登っていた 返してよう クロウは足を滑らせた 落ちてメリーゴーランドの屋根を突き破った 慌ててクロウに駆け寄った 目を開かない クロウ、死んじゃったの? 返事をしてよ ぼくは泣き出した あーもう、うるさいなー そんなピーピー泣くなっつーの 俺なんか生まれてこの方一回も泣いたことがないんだぜ クロウは起き上がった どうやらどこも怪我していないみたいだ よかった、生きてたんだね お前の勝ちだ クロウからロケットを返してもらった 俺、お前の大事なもの見ちゃったからさ、俺のを見せてやるよ 古ぼけた写真だった これ、クロウ? 病院のようなところで、検査着を着ている子供の頃のクロウ 隣には白衣を着たおじさんが写っている 俺、本当のこと言うと、子供の頃のこととかぜんぜん覚えてないんだよ だから、この写真に写ってるところに行けば、なんかわかると思ってさ 結構長い間探してんだぜ ぼくは銀色の髪の女の子を探してるんだ 見かけたこと無いかな クロウはしばらく考えた後、答えた しらね あー、まてまて、ときどき、ホテルの方で生意気な女に会うんだ ひょっとしたら、そいつがなんか知ってるかもしれないな うん、じゃあ、その人に会いに行ってみるよ おうよ 俺は、写真の場所を探しに行くぜ なんかお互いとんだ道草だったな 368 :FRAGILE◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 06 15 26 ID x5giWo3G0 ぼくは海賊の本の内容を思い出して、言った あの、また、会えるかな おうよ、会えるさ なんてったって、俺たちは友達だからな そうだ、友達と言えば、プレゼントを交換するもんだぜ っつっても、俺はお前の物を取って、さんざんいじわるしたから・・・ クロウは指から指輪を外して、ぼくに差し出した これ、やるよ お前のロケットに入れとけよ それはドクロの指輪だった ぼくはそれを受けとった うん、ありが・・・ ありがとう、と言いかけたぼくの口を、クロウの唇がふさいだ ゆっくり三つ数える間、そのまま クロウの唇が離れると、ぼくは慌てて尻もちをついた それから、友達ってキスしたりするんだぜ 本で読んだんだ クロウは、なんでもない調子で言った キスって・・・ぼく、初めてで・・・ じゃあ、俺様はお前の、いっとう最初の、友達だ うん、友達だね じゃあ、行くよ ああ、またな .。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+. 自分がひとりぼっちだと感じているとき 他の誰かも、ひとりぼっちだって思って きっとそんな奴は、今だって世界中にごまんといるんだ ほんの少し、秘密を見せ合えば、友達になれるのに ほんの少し、ほんのちょっと 私は君の秘密を今まで誰にも話していない これからも、永遠に守り続ける 約束する 傾いた観覧車から覗く、青い月に誓って .。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+. 369 :FRAGILE◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 06 16 08 ID x5giWo3G0 四. 遊園地を出てしばらく、山道を歩くと、ホテルに着いた ホテルの中に入ると、女の人の声がする こっちに来たらダメよ、とか言っている クロウが言っていた生意気な女なのだろうか 声をたどって、三階の301号室のドアを開ける だからダメだって言ったのに ぼくより少し年上の女の人の幽霊がプカプカと浮かんでいた 眼帯をしていて、いかにも怪我してますっていう感じだった そして、ベッドの上には、同じ格好の女の人が横たわっていた ぼくは、その女の人をシーツで覆ってやった 人間って、まだ生き残ってたのね しぶといわねぇ 女の人の幽霊はぼくを見て驚いている あれ、そのロケット うん、おじいさんのだよ 生きてたのね 今も元気なの? 死んじゃった そう言うと女の人はがっかりしたようだった ま、しょうがないか あれから、ずいぶん経ってるもんね ぼくは女の人に、銀の髪の女の子を探していることを説明した その子のこと、あたし、知ってるかも 本当?どうすれば会えるの? 知らないわよ 自分でなんとかしなさいよ、男の子でしょ 決めた、あたし、あなたについていってあげる あたしは、サイ よろしくね 勘違いしないでよ、暇つぶしよ、暇つぶし こうしてサイがついてくることになった 370 :FRAGILE◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 06 17 52 ID x5giWo3G0 201号室の前に行くと、和服を着た女の子の幽霊が立ちはだかった ここから先は通さないから サイが言うには、この子は一度言い出したら聞かない、強情な子なんだって お星さまがほしいな たぶん、地下商店街にあったと思う 女の子のいうとおり、地下商店街に戻る クリスマスツリーが倒れていて、星の飾りが落ちていたので拾う 女の子の元に星の飾りを持って行く 無理だよう あんな高いところのお星さまを取れっこないよう 女の子はぼくを信じようとはしない 今度はお月様がほしいな 遊園地に戻って月の飾りを見つける 壁にしっかり取り付けられているように見えたけど、引っ張ったら簡単に外れた 女の子のもとに月の飾りを持っていく 嘘だよう あんなに固いのに取れっこないよう 女の子はまたぼくを信じない じゃあ、無くした指輪を見つけてきて たぶん、レストランに落ちてると思う ホテルの三階のレストランには、恐ろしい思念体がいた 思念体を倒したあと、指輪が落ちているのを見つけた 小さな宝石が入った指輪だった 指輪を女の子の元へ持っていく この指輪は、間違いなく女の子のものらしい 今度こそ、女の子はぼくを信じてくれた どうしてわたしのこと信じたの 信じたいから 信じたい、か あの人のようなことを言うじゃないか わたしはチヨ、だよ お入り ぼくとサイは201号室に入った そこにはチヨと同じ格好のおばあさんがいた チヨは、おばあさんが指輪を取り返したい気持ちが形になったものらしかった 本当に見つけてくれたのね ありがとうねぇ おばあさんはそう言った 371 :FRAGILE◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 06 19 56 ID x5giWo3G0 チヨは語りだした あなたもいつか、旅が終わる日が来るでしょう 心を震わせる冒険を終えて、家路につく日が でも、そのあともずっとずっと毎日は続いていくの うんざりするくらい長く、退屈な毎日が続いていくのよ 新しいことは本当に何も起きない 朝日を見て、夕日を見て、タダそれを繰り返していく毎日 そのとき、初めて気が付くのさ やわらかな木漏れ日、草原を渡る風 仲間たちとの他愛も無い会話がどんなに素敵な宝物だったか そして、心は風に吹かれて、吹かれて、吹かれて・・・ 石のように固く、冷たくなってしまう でもわたし、この指輪を見れば思い出せるのよ 懐かしいあの人の笑った顔 ごつごつして、でも長くて綺麗な指 だからずっと欲しかった、取り戻したかった わたしはもう、きっと長くはないのでしょう でもあなたには、たくさんの明日が待っているのよ お行きなさいな そして、生きて、生きて、いつか終わりが来る日まで うーんと生きてね おばあさんは棚の上を指差した そこの・・・ わたしのつけてるかんざしと同じ、ブローチ それ、持っていってくれないかね ぼくは、花の形の小さなブローチを受け取った うん、可愛い花だね ありがとう 指輪、取ってきてくれて、ありがとうね わたしのこと信じてくれて、ありがとうね 行きましょう、と、サイがぼくを促す でも、ぼくはまだ去りがたかった この人はもう助からないわ それに、あなたには明日があるんだって言われたでしょ ぼくは201号室を後にした .。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+. 年老いた瞳にはやんちゃな少年が棲んでいる 窪んだ猜疑の目の中に おびえた少女が立っている 人が長い年月で出会う、怒りや、憎しみ、怖れ でも裏切られても、どこかで信じたいのだ 自分を信じて欲しいように、誰かを 先か後かは関係ない 私は、誰かを信じる そして誰かが私を信じてくれることを、信じる .。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+. 372 :FRAGILE◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 06 20 42 ID x5giWo3G0 五. ホテルの屋上にて、昼ごろ 蝉の大合唱が聞こえる ねぇ、前から聞きたかったんだけど、あなた、あの子に会ってどうするの サイがぼくにそう尋ねた わからない、わからないけど あそこにさ、白い月が見えるよね それがとても綺麗で、でもどんなに綺麗だと思っても そのことを誰にも言えないと、ぼくの中でその想いは泡みたいに消えてしまう 本当に綺麗だと思ったかどうかさえ怪しくなってしまう だからぼくは、ぼくの話を聞いてうなずいてくれる誰かに、そばにいてほしい たくさんの言葉を重ねなくても、一言、そうだねって言ってくれる人に、そばにいてほしいんだ ぼくがそう言うのを聞いて、サイは笑った ふーん、そう 恥ずかしげもなくさらっと言うわね ま、そういうところもかわいいかも 猫の鳴き声が聞こえる 猫はぼくを誘っているようだった 猫についていく ホテルの裏庭にあるマンホールから中に入って、共同溝へ 共同溝には猫が何匹かいる また猫についていって、共同溝から細い通路に入ってしばらく進む 鉄格子のある部屋に着いた 鉄格子の向こうには銀色の髪の女の子がいた 鉄格子の手前は猫たちの集会だ あのときはごめん ぼくは女の子に謝った いいよ、悪い人じゃないってわかるもの 猫たちは女の子になついているようだった 名前は? セト 短いね、セト そのとき、どこからともなく男の人の声がした もうすぐグラスケイジが起動する 戻れ! その声にはじかれるように、女の子は鉄格子の向こうに行ってしまった 猫の集会もそれで終わりになった 373 :FRAGILE◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 07 07 02 ID x5giWo3G0 女の子を追って、貯水槽を抜けて外へ そこはダムの上だった 水の力で発電するのだと、サイが教えてくれた エレベーターに乗って下へ降りていく銀の髪の女の子の姿を見た ダムに沿って作られたキャットウォークを進みながら下へと降りて、発電所へ入った 発電所の中の小部屋には、壊れた人形たちの残骸が積み上がっていた 壁には穴がいくつか開いていた この部屋はたぶん、ダストシュートに捨てられた人形たちの終着点なんだろう その人形たちの中に、クロウがいた クロウ! ぼくはクロウに駆け寄った よく俺がどれかわかったな もうバッテリーが切れかかってるみたいだ カッコ悪いぜ 俺は人間なんかじゃない ここに捨ててある人形と同じだ ぼくはクロウに抱きついて、泣いた でも、君はぼくの友達だよ 人間じゃない 友達だよ とうとうクロウが折れた ああ、友達だ 泣けるってなんだかうらやましいな イットウサイショノ、オレサマノ、トモダチダ ありがとうな、セト クロウは動かなくなった もう、機能停止したわ サイがそう言うけどぼくは否定した 違うよ、死んだんだ .。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+. 傷つき、疲れ、倒れこみ 暗闇をじっと見つめてしまうとき 暗闇に魅入られてしまうとき ふいに笑い声がする 不思議で、意地悪で、やさしい、あの声が、私を呼ぶ 共に過ごした日々は遠く 流れていく雲のように記憶は形を変えても 目を閉じればすぐに思い出せる 懐かしい、君の横顔 .。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+. 375 :FRAGILE◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 09 04 26 ID x5giWo3G0 六. 発電所の奥の、機械が置いてある部屋に来た この機械は無線機だとサイが教えてくれた 適当にダイヤルを回すと、人の声が聞こえてくる 誰か返事してください、とか、君はどこにいるの、とか言っている ぼくはここにいるよ ひょっとして、生きているのは、ぼくひとりだけじゃないかって思ってたんだ 発電所を出てダムに戻る ねぇ、本当に、本当に、あの子に会いたいの? サイがそう聞いてきたけど、答えはもちろん決まってる わかったわ、本気なのね だったら、あの子の居場所を教えてあげる 鉄格子があった部屋、覚えてる? 猫が集会してたところ、あそこから研究所に行けるわ きっと、研究所にあの子はいる 鉄格子の部屋に戻った 1004よ、暗証番号 誕生日らしいわよ ああ、もう、意外とロマンチストなんだから 鉄格子のドアの電子ロックに番号を入力すると、ドアは開いた 研究所に行く道の途中、背後で扉がロックされた 行く手は瓦礫の山になっている どうやら閉じ込められたようだった ねぇ、昔のこと、ちょっと話していいかな サイが話す 昔ね、偉い科学者の人が、話さなくてもお互いの心がわかるようになる力が、 もともと人間に備わっていることを発見したの きっと、ずっと昔、人はそういう力でわかりあっていたのかもね それでね、たくさんの頭のいい科学者の人が相談して、 みんなに、もう一度その力を持たせれば、世界中がもっと良くなるかもっていう結論になったの その頃、世界は戦争(第二次世界大戦のことですね)とか、 大きなこと、小さなこと、いろんなことで対立したり、ケンカしたりで、 みんないい加減うんざりしてたから、もう全世界的に大賛成ってことになって、 グラスケイジ計画っていうのを考えたの グラスケイジっていう機械を使って、信号を発信して、 みんなの頭の中の共感性能力、つまり、自然とお互いわかりあえる能力を発現させようとしたの それから、どうなったの? 誰もが新しい時代の幕開けを信じて、信じて、信じて、微笑みながら眠りに就いて 次の日、目を覚ました人は誰もいなかったの みんな、眠りに就いて、そのまま死んでしまったのよ もう一度、それが起こるんだね そう 376 :FRAGILE◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 09 05 14 ID x5giWo3G0 そして、あの子は触媒になるの 触媒? あの子の心を透して、世界中の人たちの心をつなぐのよ うまく行けば、だけど うまくいかなかったら? 今度こそ本当に、この星には誰もいなくなるわ あのね、そういうあたしも触媒だったのよ どうしてサイは触媒になったの? えっ、知らないわよ 割と普通に暮らしてたんだけどね 知らないうちにあたしに決まってたの ヘンな施設に連れてこられて、毎日いろんな実験させられて、 でもみんなちっとも優しくないの でもね、研究室の中に、ひとりだけ優しい男の子がいたんだ その子はね、あたしに時々、チョコレートとか飴玉をくれるのよ それでね、大丈夫って聞いてくれて、それから、ありがとうって言ってくれたんだ そっか その人とサイは友達だったんだね もう!この子ったら・・・ あたしとシンは友達っていうんじゃなくて、どっちかというと サイの話は猫の声に遮られた 猫がいるということは、ここは密室ではないということだ 探してみると、瓦礫の隙間に狭い通路が延びているのが見つかった 這っていけばなんとかいけそうだ 377 :FRAGILE◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 09 06 01 ID x5giWo3G0 研究所に着いた そこは病院のようでもあった クロウが持っていた写真に写っていた場所のようだった 研究所の奥に進む 途中に歩くだけで体力が減る部屋とか、モーションセンサーがある部屋があった 一番奥の、丸くて広い部屋に、シンが待っていた シンはメガネをかけた若い男の人だ 足元を見ると床から浮いている けど幽霊とも違う 後から聞いた話だけど、シンはAIっていって、人格だけをコピーしてて実体が無いんだって 上を見上げると、高いドーム状の天井に、青く光る不思議な鳥かごのようなものが取り付けられていた あれがグラスケイジだろうか 奥の方には、透明なカプセルに入れられて寝かされている、銀の髪の女の子がいる お前が付いていながら、ここまで進入を許すとはどういうことだ、サイ シンとサイは知り合いだった グラスケイジを再起動させて、どうするつもりなの サイはシンに尋ねた お前が知る必要は無い 言葉とは本当に不自由なものだな、サイ お前なら私を理解してくれると思っていたのだが 人類には足かせが多すぎる 不完全な肉体など消去するべきなのだ 計画を妨害するものは排除しなければならない シンは青い不思議な結晶を手にして、襲い掛かってきた シンを倒して、シンは消えたように見えるけど、 サイが言うには、AIの本体を壊さない限りはまた復活するんだって そんなことより、女の子だ ぼくはカプセルを開けて、彼女の頬にさわった 暖かい さわった 女の子は目を覚ました そのとき地震が起こった これはグラスケイジが起動しようとしているせいらしい シンの行った場所ならわかると思う 彼女はそう言った 378 :FRAGILE◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 09 07 21 ID x5giWo3G0 七. 女の子の言った通りに、黄昏の塔のふもとに来た この塔の上にシンがいるらしい あ、黄昏の塔っていうのは、おじいさんの手紙にあった赤い鉄塔のことだよ みんなはここで待ってて 女の子とサイに言う あ、ちょっと待ってて、動かないで サイの唇がぼくのおでこに押し当てられる おまじないよ 幽霊のあたしがおまじないって言うのもヘンかしら 無事に戻ってくるのよ それから、シンを止めて、セト うん、わかってる ぼくはふたりをふもとに残して、階段をグルグルと昇っていった 途中で、PFの、クロウの、チヨの励ましの声が聞こえてきた もしかしたら気のせいかもしれないけど、でも、たしかに聞こえたんだ 第一展望台の上に、満月をバックにシンがいた やっぱり青い結晶を持っている あれがAIの本体らしい ぼくが持っている青い石と関係があるのかな 前より強くなっていたシンだったけど、倒すことが出来た 銀の髪の女の子とサイがいつの間にか来ていた どうして世界を滅ぼそうとするの ぼくはシンに聞いた 拒絶されたからだ 私は人類共感性拡張実験の開発者として、密かに自ら最初の被験者となった その結果、言葉に頼ること無く、周囲の思考や感情が読み取れるようになった だが、私の周りの人間は、言葉の裏に悪意を潜ませていたのだ そして考えていることは、自分、自分、自分だ 他者への共感など、自己への偏愛にたやすく押しつぶされてしまう 世界は憎しみで満ち溢れている 人類は偽りの社会を形成しているに過ぎなかったのだ 世界は、自己という牢獄の中に閉じ込められた、さもしい獣たちが悪意を抱えて群れている地獄だった 私の両親ですら、私を怪物と嫌悪して・・・ 私は誰からも理解されず、愛されもせずに それを終わらせて、何が悪い 379 :FRAGILE◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 09 08 20 ID x5giWo3G0 サイが進み出て言う あたしは違う! あたしはただ、あなたのそばにいたかっただけ あなたの近くで、あなたを見ていたかっただけなの ひとりぼっちだったあたしに、ぎこちなく微笑んでくれたり 頑張って、って言ってくれたり こっそりあなたがお菓子をくれるとき、 あなたの大きくて、でも痩せた手が、あたしの手に触れるとき、あたしがどんなにうれしかったか シン、あたしはあなたを アイシテイル シンは驚いた表情をしている どうして気が付かなかったのか・・・ やっぱり、こういう大事なことって、言葉にしないとダメなのね シンは、AIの本体である青い結晶を下に投げ捨てた サイとシンは、手を取り合って空中に浮かんでいる 結晶コンピュータは投げ捨てた じきに我々は消える 我々がいなくなれば、グラスケイジが起動することはないだろう 最後に、サイの声が聞こえた あのね、本当にありがとう、セト ふたりは消えた .。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+. それから私たちは一緒に旅をして それから、何度目かの夏が過ぎて 私は、本当にひとりになった 本当に、ひとりになった .。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+. ぼくと女の子は塔から降りて来た すごーい、月がもうまんまるだね 女の子ははしゃいでいる あのさ、まだ君の名前を聞いてなかったと思うんだ レン 彼女は答えた まだ、世界には生き残った人がいるんだ その人たちを探そう ぼくは彼女の手を握った ありがとう、セト、ここにいてくれて レン、ここにいてくれて、ありがとう ぼくはしっかりと言葉にして、言った -了- 380 :FRAGILE◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 09 10 56 ID x5giWo3G0 ※補足 ・おじいさん=シンと考えるとかなりの辻褄が合うので、この説が有力です おじいさんの若い頃の人格を移したのがシンでしょう そうすると、青い石はやっぱり結晶コンピュータと関係があるでしょうね ちなみにキャスト表を見るとおじいさんとシンの声優は同じでした ・.。゚+..。゚+..。で囲ったところはセトの回想らしい キャスト表を見ると セト(青年)となっているけど、セトと同じ声優でした 381 :ゲーム好き名無しさん:2009/05/15(金) 10 15 44 ID 58z0RflhO 乙。 おじいさん=シンだとすると若い頃の不始末セトに丸投げかよ。 ちなみにグラスケイジ計画が起きたの何年前ぐらい? 382 :FRAGILE◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 11 17 33 ID x5giWo3G0 381 不明としか言いようが無い 全体的に説明不足 雰囲気さえ良ければ細けぇことはいいんだよ(AA略 という製作者の声が聞こえてきそうです 上にあるとおり、廃墟の壊れ具合からして数十年は経ってると予測 サイがおじいさんが死んだと聞いて仕方ないと思うくらいには時間が過ぎていると思ってくれ 386 :ゲーム好き名無しさん:2009/05/15(金) 18 49 26 ID bnfU48GP0 381 電撃のインタビューによると、おじいさん=シンらしい ttp //news.dengeki.com/elem/000/000/148/148898/
https://w.atwiki.jp/ohshio/pages/3257.html
第2回 さよならサッカー大会 日時 2020/03/21,22(土日) 学年 6年 会場 サンブロスポーツフィールドしんぐう 詳細 ご案内
https://w.atwiki.jp/gcmatome/pages/3640.html
本項目ではPSP用ソフト『スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園』と、カップリング移植版であるPS4/PSV用ソフト『ダンガンロンパ 1・2 Reload』に加え、PC移植のSteam版『Danganronpa 2 Goodbye Despair』とDMM.com版の紹介をしています。 スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園 概要 ストーリー 特徴・評価点 基本システム ADVパート 学級裁判パート キャラクター シナリオ 賛否両論点 癖の強いキャラクター システム面・世界観など シナリオ 問題点 総評 余談 その後の展開 ダンガンロンパ1・2Reload 概要(1・2) 特徴(1・2) Danganronpa 2 Goodbye Despair(Steam) 概要(Steam) 特徴(Steam) スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園 / ダンガンロンパ1+2(DMM.com) 特徴(DMM.com) スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園 【すーぱーだんがんろんぱつー さよならぜつぼうがくえん】 ジャンル ハイスピード推理アクション(ADV) 対応機種 プレイステーション・ポータブル 発売・開発元 スパイク・チュンソフト 発売日 2012年7月26日 定価 パッケージ 6,279円超高校級のスーパー限定BOX2 9,429円ダウンロード 5,200円(各税5%込) レーティング CERO C(15才以上対象) 判定 良作 ポイント 前作のネタバレ満載の続編議論要素が増え、更に白熱する「学級裁判」本シリーズならではの終盤の急展開は逸品推理要素や演出も本格化して没入感アップおまけモードややり込み要素も増加 ダンガンロンパシリーズ 概要 独特な世界観と個性的な登場人物などが口コミを通じて話題になった前作『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』の続編。 ジャンルは前作と同じ「ハイスピード推理アクション」で、学園内で起こる殺人事件の謎を解く「学級裁判」パートでは、シューティング・リズムアクション・パズルなど、様々なジャンルが融合した推理を行う。 本作のデザインテーマは「サイコトロピカル」であり、テーマが示すように前作に比べ開放的な舞台になり、全体的な雰囲気に明るさが増した。 ストーリー 各分野において優れた才能を持つ超高校生級の少年少女のみが入学できる「私立 希望ヶ峰学園」 新入生として第一歩を踏み出そうとしていた主人公・日向創は、急なめまいに襲われて意識を失ってしまう。 目の前に現れた扉を開くとそこは教室で、日向と同じ15人の新入生が集まっていた。 そして、突如現れた喋る謎のヌイグルミ「ウサミ」から奇妙な課題を言い渡される。 「新入生たちは、リゾート地として有名な南の島・ジャバウォック島で修学旅行をしなければならない。 島から帰還する唯一の方法は、この島で友情を深め、希望のカケラを集めること。」 ハリボテだった教室が壊れたかと思うと、現れたのは南国の風景。 こうして、島からの帰還を目指しつつ、希望を育む「ドッキドキ修学旅行」が始まった……かに思われた。 特徴・評価点 変更点・新要素を中心に記述する。基本的な部分は前作と同様なので、併せて参照のこと。 基本システム 島内を歩き回るADVパートと、事件の犯人について議論する学級裁判パートの二本柱からなる。 変更点 チャプターセレクトの選択肢追加 前作ではチャプターの冒頭か学級裁判の冒頭のどちらかから開始できたが、本作はさらに捜査パートの冒頭から開始可能になった。 また前作ではクリア済みのパートの冒頭からしか始められなかったが、本作では進行中のパートの冒頭から始めることも可能となっている。 新要素 おまけモードの追加 アドベンチャーゲームという体裁上「一周すれば終わり」であった点を改善すべく、やりこみ要素という意味も含め追加された。 本作ではシナリオを進めるとおまけモード「魔法少女ミラクル☆モノミ(アクションゲーム)」「だんがんアイランド どきどき修学旅行で大パニック?(アイランドモード)」が遊べるようになる。これらも本編と密接に関わっている背景が存在しているものの、ネタバレになるので詳細は伏せる。 アイランドモードでは「モノクマメダル」やキャラの好感度を稼ぐことが可能。前作のようにストーリーを周回プレイして稼ぐ必要は無くなっている。 さらに、前作のIFストーリーが読める「ノベルモード」が存在する。執筆を担当したのは、『バッカーノ!』などで知られるライトノベル作家の成田良悟氏。 舞台の異なるおまけモードである都合上、完全なノベル形式で演出は殆どないが、それなりのボリュームをもって書かれている。 前作では序盤で退場してしまったキャラクターにも見せ場が与えられているのも嬉しい。 ウサミフラワーの追加 いわゆる実績システムの実装。シナリオをクリアする、ノーミスでクリアするなど諸条件を達成すると実績が解除され、ページで解除実績を確認できる。 後述の『ダンガンロンパ1・2Reload』ではトロフィーの追加に従い廃止された。 特に獲得報酬などはない。 超スキップの追加 ×ボタン押しっぱなしでメッセージを飛ばせるが、本作は同時に方向キー↓を押すことでスキップ可能になった。メッセージのみならずイベントシーンまでも高速でスキップ可能。 ADVパート 変更点 三人称視点による移動 前作では常に3Dの一人称視点でマップを移動していたが、本作ではマップ間の移動は2Dの三人称視点となり、施設内でのみ3D一人称視点となっている。 スキルの習得方法 前作では自由行動時間におけるキャラとの交流で直接スキルを習得していたが、本作ではキャラとの交流後に「希望のカケラ」を取得、これを消費してスキルを購入する形になった。 これにより、キャラが途中で死亡してそのキャラのスキルを取得できない、という前作での欠点を克服している。 冒頭のプロローグでキャラ紹介イベントがあるが、そこである程度の希望のカケラを確保出来るため最初からある程度のスキルを所有したまま学級裁判に挑めるようになった。 この他、交流イベントの各キャラコンプリート特典や電子ペットの報酬でも固有スキルが習得でき、習得方法が多様化している。 また、希望のカケラ収集に特化したモードが追加されたため、キャラ死亡による影響はかなり薄くなっている。 新要素 レベル制の導入 移動や会話など各種行動で経験値が貯まり、一定数貯めるとレベルアップする。 レベルは前作でいうスキルポイントにあたり、レベルが上がるほど学級裁判における発言力ゲージが上昇し、スキルのセット可能数も増える。 電子ペット 生徒手帳で電子ペットを育成することができるようになった。ペットは時間経過ではなく、マップ移動中の歩数で成長する。 高速移動やワープを使うと歩数はカウントされない。また、放置プレイ防止のためか、一度にカウントされるのは2000歩まで。 希望度と絶望度のパラメータがあり、アイテムをペットに与えることで数値が変動し、成長に変化が現れる。糞を放置すると絶望度が上昇していき、最悪死亡してしまう。更に放置するとペットは幽霊となり、死体は骨と化している。 最後まできちんと育て上げると、ペットからプレゼントを貰える。ものによってはスキルも入手可能。 カクレモノクマ マップの各所にモノクマの人形が隠されており、調べると入手できる。 カクレモノクマは△ボタンで使える「観察眼」(調べられる場所が丸で囲まれて表示される)には反応しないようになっている。 設置数は1章につき5つ。その章で新たに行けるようになった場所にのみ設置されており、過去の場所に遡って設置されることはない。 入手すると報酬のモノクマメダルが貰えるほか、人形が部屋に飾られていく。実績要素の一つでもある。 これにより、前作にあった特定の場所を調べるとモノクマメダルが得られる要素は廃止された(*1)。 アイテム入手方法の追加 前作はプレゼント用のアイテムはガチャガチャ形式のモノモノマシーンから手に入るランダムのものだけだったが、本作は同じガチャ形式のモノモノヤシーンに加えて確実にアイテムが手に入る自販機も登場。 自販機からモノクマメダル1枚で手に入るミネラルウォーターはプレゼントにもペットにも使いやすい。汎用性が増している。 前作同様、あるタイミングで特定アイテムを所持しているとミニイベントが発生するようになっている。イベント用アイテムは自販機で入手できるため、前作よりもイベントを発生させやすくなった。また、イベント数も前作より増えている。 学級裁判パート 学級裁判は本シリーズの目玉であり、仲間を殺した生徒1人「クロ(真犯人)」とそれ以外の無実の生徒全員「シロ」の、生き残りと卒業を賭けた戦いである。 シロ側がクロの特定に成功すればシロの勝ち、失敗すればクロの勝ち。負けた方は処刑される。 変更点 結果画面の削除 前作では各議論、各ミニゲームのクリア後すぐに結果画面が挟まれていたが、本作では削除。学級裁判クリア後に一括で結果が表示されるようになった。 二部構成に変更 本作の学級裁判は二部構成になっており、前半終了後にセーブするかどうかが問われる(セーブそのものは裁判中でも自由に行える)。その後モノミの会話パートをはさみ、後半へ突入するようになった。 前作と比べ、学級裁判のボリュームが増したことによる配慮と思われる。 ミニゲームのシステム変更 「ノンストップ議論」に新要素が追加。 前作における「マシンガントークバトル」「閃きアナグラム」がリニューアル。「パニックトークアクション」「閃きアナグラム(改)」になった(変更点は後述)。 「クライマックス推理」の仕様変更。前作では初めから全てのピースが与えられたが、本作では何回かに分けて与えられるようになった。 本作では、マンガの穴だけでなくはめるコマにもヒントが表示されるようになった。 前作は再現パート中に選択肢の正誤が判定されていたが、本作はコマをはめた段階で正誤が判定され、全て正解して初めて再現パートへ進める。 新要素 ノンストップ議論に発言への「同意」が追加 本作では、発言に含まれた矛盾を指摘する「論破」の他に、逆に発言を証拠で補足して正しいと証明する「同意」が可能となった。 「同意」の方法は「論破」と同様で、発言に根拠となる言弾を当てることで同意成功となり議論が進む。 発言が「論破」できるか「同意」できるかは各々決まっており、色分けされて区別される。 論破箇所と同意箇所が同時に出現する議論パートもあり、論破すべきか同意すべきかは推理して判断しなければならない。 ちなみに、アイランドモードにおいては、特殊なパターンである「ココロンパ」というものも存在する。 これにより「新しい方向性を提案する」「提案や思いつきを補強、証明する」ということがプレイヤーの手でできるようになったことで、「『発言の矛盾を指摘する』ことが基本」という推理ADVのイメージを脱却し、「議論をしている」臨場感も大きく増すことになった。 パニックトークアクション(PTA) 前作のように各マーカーに対して○ボタンを断続的に押すのではなく、○ボタンを押し続けて次々にマーカーを反応させる仕様となり、よりスピード感が増している。 最後のトドメの場面は、4つのボタンに対応する4つの断片的な言葉を並べて、事件のキーワードを完成させ相手に撃ち込むことで勝利となる。 閃きアナグラム(改) 前作ではキーワードの欠落した部分を補完する穴埋め形式だったが、本作では問題文と文字数から推理して必要なキーワードを一から完成させなければならない。 文字入れの仕様も大幅に変更。本作では流れてくる文字をそのまま解答欄に送ることはできず、まず同じ文字と合体させる必要がある。 画面の上下左右から流れてくる文字は○ボタンでストックでき、任意のポイントでもう一度○ボタンを押すとそこに落とせる。これによって場所を調整する。 同じ文字が接触した場合はその文字がくっつき大きな文字となって停止し、○ボタンで消すか△ボタンで解答欄にはめ込むことができる。文字の接触を待たずとも、ストックした文字を同じ文字の上に落とせば任意にくっつけることができる。 異なる文字同士がぶつかる、大きくなった文字が使われず一定時間放置される、あるいは間違った文字を解答欄にはめ込んだ場合はダメージを受けてしまう。そのため、ノーダメージを達成するためには単に正解の文字を順番に解答欄に当てはめていくだけではなく、「不要な文字は消去したり場所を調整して画面外に流れるようにするなど、工夫して衝突を防止する」というテクニックも必要となる。 同じ文字を複数くっつけることが可能で、くっつけた文字の数が多いほど(前述の時間制限などでリスクは上がるが)高得点が得られる。得点は画面左上にスコア形式で表示されるが、裁判成績には一切関わらない。 前作では物語の進行に伴う難易度の上昇はほとんど推理面のみだった(*2)が、こちらは物語が進むにしたがって同時に出現する文字が増えることで文字が接触しやすくなり、アクション面でも大幅に難易度が上がっていくようになった。 反論ショーダウン 推理を進めていると他の登場人物が「反論」を仕掛けてくることがあり、ミニゲーム「反論ショーダウン」に突入する。 反論ショーダウンでは、画面内を流れる相手の発言を次々と方向キーかスティックの入力による剣撃で「斬る」ことで破壊していく(回数制限あり)。 画面にはラインが引いてあり(初期位置は中央)、それぞれの発言を消えるまでに破壊すれば相手側に、破壊できず時間経過で消えてしまった場合は自分側に移動する。 ラインを相手側の特定地点まで押し込めば成功となり、次の議論に発展する。わずかに届かない場合はボタン連打による「鍔迫り合い」勝負になる。 逆に、自分側にラインを完全に押し切られると「逆発展」が発生して一つ前の議論に戻される。議論が発展していない状態で「逆発展」が発生すると、発言力にダメージを受けてしまう。 議論が発展すると相手の発言内に黄色の「ウィークポイント」発言が発生する。このウィークポイントはノンストップ議論で発生するものと同様であり、「論破」するための証拠(*3)を△ボタンで提出し斬り裂くことで勝利となる。なお、ウィークポイントは方向キー・スティックでの剣撃で斬ってはいけない発言であり、斬ってしまうとラインを大幅に自分側に押し込まれてしまう。 「反対意見を切り崩さないと自分の意見を通せない」という場面で効果的に使われており、めいめいが自分の意見を言い合うノンストップ議論との対比としても機能している。 ロジカルダイブ スノーボードを模したレースゲーム形式のミニゲームで、パイプ状のコースを加速やジャンプを駆使して進んでいきゴールを目指す。 コースにはチェックポイントがあり、コースアウトした場合はダメージを受けチェックポイントからやり直し。壁・ジャンプ台・穴などのギミックもある。 途中で事件に関する問題が出題され、2~3択内の分岐を選んで進む。正解のコースならそのまま進めるが、間違った答えの場合はコースが途中で切れているため強制的にコースアウトとなり、チェックポイントからやり直しとなる。 スポットセレクト 事件現場などの一枚絵の中から、怪しい場所を選択して指摘する。 また、前作で登場した人物指名も続投している。前作では犯人を指摘する時くらいにしか発生しなかったが、今作では犯人以外でもその時の議題で怪しい人物を指摘するようになった。 キャラクター 今回も、主要人物はいずれも一癖も二癖もある魅力的な面々ばかりである。 本作でも全員が「超高校級」と賞賛される才能の持ち主達。「料理人」「体操部」「保健委員(知識はほぼ医者レベル)」など才能として普通の肩書きから、「王女」「飼育委員」「極道」「ゲーマー」などといった変り種もまた豊富。 前作の主要人物の一人「超高校級の御曹司」十神白夜も登場するが、なぜか体重130キロの巨漢に激太りしており、前作そのままの尊大な口調も相まってプレイヤー達に笑いと様々な想像を抱かせた。 キャラクター造形のパロディ要素も健在。「超高校級の飼育委員」田中眼蛇夢(タナカ ガンダム)(*4)、「超高校級の軽音楽部」澪田唯吹(*5)など、もはや固有名詞の引用と捉えられてもおかしくないものもある(*6)。 もっとも前作の大神さくらもそうだが、パロディなのは一部の設定面だけであり、むしろキャラクターの性格や描写といったパロディ以外の点で人気は高い。 前作で主人公・苗木誠を演じて主題歌を歌った緒方恵美氏は、今作では主要人物の一人である狛枝凪斗を演じるとともに、引き続き今作の主題歌も歌っている。 また、狛枝も苗木と同じ「超高校級の幸運」という肩書きを持つ。「真っ直ぐな少年」といった印象であった前作の苗木に対し、どこか謎を秘めた今作の狛枝との演じ分けにも注目されたい。 前作で「邪悪なマスコットキャラ」としての立ち位置を確立したモノクマが続投していることに加え、今作では 「モノクマの妹」という触れ込みのキャラクター「モノミ」 も登場。 前作ファンの期待を煽りつつも、「ただのモノクマの二番煎じキャラなのでは?」という心の中の疑念が拭えないプレイヤーも多かったと思われるが、そういった不安を見事に裏切り、居るべき位置に収まっている。 他にも、前作の登場人物に深く関わる人物も登場する。 前作同様、CVには豪華なキャストが起用されている。 もちろん、モノクマは先代『ドラえもん』の大山のぶ代氏が引き続き担当。今回もドラえもんネタは豊富。 スタッフの遠慮が薄れてきたのか、ボイスは前作以上に弾けている。大山氏の特徴的なボイスで「うっふーん、おねがーい!」なんてのが聞けるのは本作ぐらいだろう。「慎みたまえ、君はジャバ王の前に居るのだ!」や「バルス!(*7)」といった別の意味でアブナイボイスもある。 そしてモノクマの「妹」である、モノミのCVを担当しているのは国民的アニメ『サザエさん』のタラちゃん(フグ田タラオ)で有名な貴家堂子氏(*8)。 貴家氏がゲームで声を当てたのは本作が初であり、スタッフは断られたらキャラごと変えるつもりだったとコメントしている。 ちなみに、大山氏は以前に『サザエさん』の磯野カツオの声を当てて貴家氏と共演していた縁がある。 相変わらずのモノクマと敵か味方かわからないモノミのやり取りは昭和的なギャグタッチで描かれ、妙な愛嬌を醸し出している。 また、主人公・日向創の声は『名探偵コナン』でおなじみの高山みなみ氏。そちらではまずお目にかかれない、人前で率先して推理に参加するコナン君が見られる(*9)。 結果、外道ドラえもん、いじめられ役のタラちゃん、積極的なコナンというなかなか豪華且つカオスな有様が展開される。 生徒役に関しては20代~30代の声優が増え年齢層はやや下がったが、演技面の評価は前作に勝るとも劣らない。 特に罪木蜜柑役の茅野愛衣氏と西園寺日寄子役の三森すずこ氏はともに当時芸歴3年目(*10)であり、平均して長いキャリアを持つ他の声優陣と比較すると浮きがちではあったが、茅野氏は前年の『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』で既に高い評価を得ており、三森氏も翌年の『ラブライブ!』で頭角を現し現在は人気声優としての地位を確立している。 シナリオ 「続編」としての性質がやや強く、前作プレイヤーを意識した展開が繰り広げられていく。 場所については記さないが、前作で起きた事件内容や物語の結末といった、前作の核心部分に関わるネタバレも出てくる。 このゲーム自身前作で未回収だった伏線、「超高校級の御曹司」十神白夜の存在、モノクマのセリフなど、「前作をプレイした前提」でのネタがあったりもするので、前作『ダンガンロンパ』を先にプレイしておくことが推奨される。 前作なしでは意味不明だということはなく、一応単体でも理解できるように作られてはいるが、やはり前作をやる・やらないでは、相当な差がある。 とは言え、この前作のストーリーを意識した展開こそが本作の評価された部分のひとつであり、後付け感はほぼ無く、前作の展開を正統に昇華したものとなっている。 シナリオ自体の評価も、前作に負けず劣らず高い。 公式からネタバレが許可されているチャプター1は、前作をはるかに凌ぐ超展開でプレイヤーを驚愕させるだろう。その他にも、舞台設定を活かした数々の印象的なエピソードが待ち受けている。 特に推理要素については前作と比べかなり強化されていて、事件段階で容易に犯人や犯行の手口がわかってしまうというほどでは無くなっている。 詳細は伏せるが、本作の終盤には 『ダンガンロンパ』だからこそとも言える特徴的な動機やトリック も存在する。シリーズ内での学級裁判における名シーンでも真っ先に挙げられることの多い本作屈指の見所であり、評価は極めて高い。 パロディや引用系の小ネタも、おまけモード追加も相まって前作以上に増えている。また、かなり元ネタの対象世代も広がっている(*11)。 前作では、せっかくの「超高校級の才能」が事件内容に無関係であったり、逆に「超高校級の才能」を使ったトリックであるために犯人をすぐに特定できてしまうといったケースがあり、その点が不満点としてもあげられることがあった。 今作ではその反省を踏まえてか、「犯人の持つ超高校級の才能が何らかの形で犯行に関係しており、なおかつ核心に迫るまでは犯人が誰であるか分かりにくい」という絶妙なバランスの配慮がなされている。 終盤部分は今までの伏線や謎が徐々に明らかになり、前作以上の絶望から這い上がる希望のストーリーはプレイヤーを燃えさせてくれる事必見。また、あるキャラクターの信念や意思を継ぐ展開に涙を流すユーザーも多く、泣きゲーと評価されることもある。 また、前作では苗木と黒幕の因縁が薄いという指摘もあったが、今回日向と黒幕は因縁が強化されている。 演出についても目立つ場所・目立たぬ場所それぞれに工夫が凝らされており、前作以上の洗練がみられる。 裁判前には、各キャラのカットインが画面の分割を埋める形で差し込まれていくシーンが追加された。 シリアスな曲調の中、カシャンカシャンというシャッター音と共にカットインが現れる演出は単純に恰好いいと高評価。死亡したキャラクターは背景含め赤色で表示されるため、ストーリーが進むに従って徐々に赤色の割合が増えていくのも悲壮感の演出に役立っている。 裁判中のカメラワークも、地味ながらパターンがかなり増えている。 高田雅史氏の手による新規追加曲も、高い質でまとまっている。 「モノミ先生の教育実習」のようないい意味で緩い、舞台に合わせた南国っぽい曲も増えた一方で、「絶望トロピカル」のような緊迫感を煽るシリアスな曲も増え、より緩急の激しいものとなった。 前作と比べて裁判中の曲にもテンションの高いものが多く採用され、議論が紛糾した際の盛り上がりを強めてくれる。 終盤の調査パートで流れるBGM「エコロシア」は、その展開もあって極めて強烈なインパクトがあり、プレイヤーの驚愕を更に盛り立ててくれている。 賛否両論点 欠点というものではないが、シリーズを通して世界観や描写からやはり人を選ぶ要素はある。 昨今の流行におけるアニメや漫画のビジュアル、世界観や設定などに馴染めないプレイヤーにはあまり合わないだろう。 癖の強いキャラクター 本作は前作よりもキャラゲーとして特化している節があり、男性キャラは女性ファン受け、女性キャラは男性ファン受けを意識したキャラ付けがされていると評される事がある。 システム面・世界観など 裁判結果の表示方法が「最後に一括」方式に変更されたことで、パーフェクトを狙う際の手間が増えている。 前作では「議論・ミニゲームの開始直前にセーブ→終了後に結果を確認してミスがあれば即やり直し」という手順で比較的簡単にパーフェクトが取れた。しかし、今作では学級裁判終了後に一括で結果が表示されるため、ライフにダメージを受けない小さなミス(*12)に気付かなかった場合はそのまま最後まで裁判を進めてしまうこととなり、やり直しが面倒になっている。 今作の裁判結果の表示方法は、前作で「いちいち結果画面を挟んでいるため議論のテンポが崩れている」という指摘があったための変更であり、裁判結果の表示が一括になったことでテンポが良くなっているのも確かである。この点は意見が分かれるところであろう。 前作同様、ミニゲーム関連はいずれも賛否両論。 特に否定的な意見が多いのは「ロジカルダイブ」と「閃きアナグラム(改)」で、どちらもパーフェクト狙いのプレイヤーにとってはかなりきつい仕様である。 「ロジカルダイブ」ではミスした場合もすぐにはリトライできず一旦クリアするしかない(ロジカルダイブ中はメニュー画面を表示させることができない)ので手間がかかる。1回あたりにかかる時間が長いこともあって、面白さという観点で評価が分かれやすい。また、アクション要素も強く、あまりアクションに慣れないライトゲーマーは苦戦するであろう難易度である。 アクション系に付き物な要素だが、後半になればなるほど長く、かつ難しくなりがちなため、1問1問の問題が出るまでに時間がかかりやすい。アクション慣れしているプレイヤーだと冗長に感じてしまう。 頭の中を整理するという演出故か、既に分かり切っている内容が問題文に出てくることもある。長々とそうした問題をクリアしておいて出た結論が結局最初に出ていた答えと同じと言うこともあり(*13)、学級裁判を無駄に長引かせる要素にしかなっていない。 3択問題が多いのだが解答を間違えて落下する際、他のルートも見えてしまっているため正解が分かってしまう。 全体的にはアクセントや独自性として有効に機能しているとする声は多いが、そういったプレイヤーでも改善の余地があるという意見が主流である。 高難易度における終盤の「閃きアナグラム(改)」では、異なる種類の文字2つが半分重なった状態で流れてきてしまうことがあり、その場合は運良くカーソルの位置が対象の文字の近くだったということでもない限り精神集中を使っても間に合わず、ミスが確定してしまう。要するにランダム性が強過ぎるのである。後半は文字数や大きさによって難易度がかなり上昇している。 「反論ショーダウン」「パニックトークアクション」に関しても、人によって好みに差が出ている。 「反論ショーダウン」は相手の発言を斬るのにそれなりに連打が必要な上、発展後もウィークポイントを斬ってしまったり証拠選びにもたついたりすると逆発展になり再度やり直しとなってしまうため単純に疲れる。同時押しや返し斬りで斬りやすくなるが、序盤は連打でゴリ押せてしまい説明不足感も相まって気づきにくい。 「反論」の内容に関しても「現場の違和感」等を指摘した際に(物語後半にも拘らず)「モノクマの仕業だ」といういい加減な理由で仕掛けてくるパターンが多く、テンポを削ぐ要素となっている。議論をしているというよりも単に邪魔をしているようにしか映らない。 「パニックトークアクション」は前作と同様中盤以降相手の防御力が高くテンポを損なっている。 ノンストップ議論における「同意」の追加、学級裁判中の「反論」要素の追加に関しては「みんなでクロを探す」という展開を掘り下げていると好評であり、批判意見はあまりない。 一部の実績(ウサミフラワー、Vita版ではトロフィー)が理不尽。 特にPSP版では、「総歩数99999歩達成」という非常に作業的なものがある。普通にプレイすればクリア時点では数千歩程度であり、達成ははっきり言って苦行。 上記の2000歩で打ち止めとなる仕様もあってボタンを固定したまま放置ということも出来ず、非常にダレる。 PSV版のトロフィーでは「総歩数10000歩」に大きく緩和された。 「魔法少女ミラクル☆モノミ」に「全装備を集める」という実績がある(これはPSV版でも共通)。 既に所有している装備もドロップするため、何度もステージを回らなければいけなくなり、これまた結構面倒臭い。 「500ガヤ撃墜(ノンストップ議論で雑音セリフを500個撃ち落とす)」も、個々の雑音セリフに照準を合わせて地道に撃ち落としていくしかないため、面倒に感じやすい。 撃ち落とす数自体はゲーム開始時からの累計であり、高難易度では雑音セリフそのものも多いため、意識してサイレンサーを使用していればさほど大変な実績ではないものの、ゲーム中では撃墜数が一切表示されないこともあり、実績獲得のためひたすら議論をループさせて撃ち落とすだけの作業となってしまいがち。さらに本作ではスキルを所持していない場合は2回当てないと消すことが出来ない雑音セリフもあり、1度当てても残っていると撃ち落とした判定にならない。 Vita版にも同内容のトロフィーがあるが、いちいち照準を合わせずとも背面タッチパッドを叩くだけで雑音セリフを撃墜できるようになったため、面倒さはかなり軽減されている。 2Dマップが広く、各島のワープポイントも基本1ヵ所しかないため走りだと移動に時間がかかる。クイック移動機能もあるが歩数はカウントされない。 シナリオ 閉鎖状況という点では前作と同じだが、ある人物の存在や本作の生徒達が持つ「過去」もあって人間関係の荒れ方は前作とまた違った空気となっている。 前作も現実離れした超展開はあったものの中盤から地道な伏線を張っていたが、本作は前作以上に世界観・背景の重要設定が最終盤にならなければ明かされない作りとなっている。 + ネタバレ注意! 主人公は前作と比べて心の脆さが強調して描かれているが、他のキャラにおいてはどちらかというとどんと構えた風の者が多く(例外も勿論いる)、全体的な人間関係も良好で、前作にあった生徒同士のギスギス感は弱まり、それぞれが精神的に追い詰められている描写はほとんどない(*14)。そのためか、今作は明らかに生徒たちに対してモノクマの干渉が増えている。 しかし、仲間同士の連帯感やイベントが豊富で、キャラクターに好感が沸きやすいというメリットもある。 前作もモノクマからの煽りはあったものの、犯人がもともと持っていた自身の信念や被害者との人間関係が主な殺害の動機になっていたが、今作はモノクマの干渉がなければまず起こらなかったであろう事件もある。 特に3章は謎の感染症の影響で豹変した人物が殺人を犯すというかなりいい加減な理由になっている。後述の通りその豹変には意味があることが後程分かるのだが、この事件のトリックはかなり手が込んでおり、なおかつ不測の事態が起きた際の対応もこなすなど、犯人はかなり頭の回転が速いことが窺える。手の込んだトリックを使った犯人が判明した際は納得のいく人物である場合が多かった(*15)のに対し、この事件に関してはそれまでの人物像からそこまで考えられた犯人とは思いにくく、無理やり犯人に仕立て上げた感がずば抜けて高い。 メンバーを2つに分けるなどのある程度の感染症対策は行われてはいるが、看病する側の人物含め誰もマスクの着用をしない、感染の疑いを注視しない手緩さも、人によってはシナリオにキャラクターが振り回されているように感じられる。 4章は殺人が起こるまでは食料・飲料も無い場所に監禁させるという前作からしたらあり得ないもの。前作と本作とでモノクマがコロシアイをさせる動機が違う点では納得がいくかもしれないが…。細かい話だが、こんな状態でも自由時間(会話パート)があり、(会話の進行度合いにもよるが)監禁されているのになぜか呑気に飯を食いに行こうとするキャラが出てきてしまう。 その結果、本作で殺害されてしまう相手も、その動機は一切ない。単に運悪く選ばれてしまったとしか言いようがないうえに、そのキャラの死が悲壮的に描かれる描写も少ない。 このせいで「モノクマに殺人をやらされている感」が強くなり、 そのキャラが犯人or被害者である必然性が薄くなってしまっている という意見は多い。 裏返せば『2』のメンバーの絆がそれだけ強いという証明であり、その分事件が起こった時のショックは大きい。 前作と似た展開が多い。 特に3章は被害者人数が同じで、またこの展開か…という意見も。とはいえお約束という意見もあるが 「一見不自然に見える描写の積み重ねが、実は伏線の一つであった」ということが終盤で明らかとなるのだが、それゆえに「終盤の種明かしで評価が一変したものの、序盤を初プレイした際は不自然な描写の連続についていけず楽しめなかった」という意見もある。 不自然というよりも、もはや超展開と言っていいような描写も多々ある。そのせいで、多少ハードな展開になっても『1』ほどの閉塞感・絶望感を感じられなかったというプレイヤーは多い。ただし、その超展開にもちゃんと意味がある。 おしおき 「おしおき」の内容が生ぬるい、と批判される。 学園生活の友人を殺人事件の犯人として処刑しなければならない、面白おかしく演出されつつも悲しい結末の見せ場であり、魅力の1つである。画竜点睛を欠く感覚は否めない。 主因とされるのは、大きく分けて2つ。1つは、「死」を覚悟した犯人が前作より多く、プレイヤーにも覚悟が心構えができてしまっていたこと。 もう1つは、ネタに走りすぎて、あっさり目に感じられるものが混ざっていること。「処刑の方法そのものが分かりにくい」というものもある。 + おしおきネタバレ注意 第四章の犯人のおしおきは「牛に轢かれて天国へと連れて行かれる」というもの。犯人自身がある程度望んだ死であったということもあり、「非業な死」というイメージではない。 ただし犯人は地獄に落ちて裁かれることを望んでいたので、それを踏まえるとある意味では最も望まない結末・犯人の死に対する最大の冒涜だったとも言える。 マシンガンの如く1000発のボールを撃ち込まれたり、超加速するバイクに縛りつけられバターになってしまったりという前作のおしおきに比べると、少なくともグロテスクさは薄まっている。 第三章の犯人のおしおきは「腕の形をしたロケットに乗り、ロケットに薬を射たれ、恍惚な表情を浮かべながら何処かへ飛ばされる」という、どういう状況なのかまるで分からないおしおきとなっている。 ただしこれは、薬を打ち込まれてトリップした状況の暗示だという考察意見もある。そのままの描写だとレーベルに引っ掛かるため、ぼやかしたのではないかとも言われている。 制作側も後に認識したようで、次回作『V3』の発売前インタビューにて、ライターの小高和剛氏は「『2』のおしおきはぬるかった(ので『V3』では痛々しくショッキングなものにした)」と述べている。 本作のCERO審査レーティングは、CERO D(17歳以上対象)だった前作と比べて、CERO C(15歳以上対象)に引き下げられている。 2017年に『V3』が発売された現在も、本作はシリーズ唯一のC判定である。 製作サイドの発言やシリーズの作風を見る限り、レーティングに配慮したわけではない、はずである。 前作では舞台が窓すら塞がれた学校の校舎一棟だけであり、極めて閉鎖的な空間であることが終始描写されていた。舞台が変わり、それが無くなったことを残念に思う声はある。 今作も島が舞台なので一種の閉鎖空間は成立している(*16)が、島は広く施設も充実しており、何より太陽も出ている明るすぎるほどの空間である。BGMも明るい。 ストーリー上の必要性や前作との対比・住み分け的な意味合いは明確に感じ取れるため非難される訳ではないが、「前作のほうが雰囲気はよかった」という意見もしばしば出る。少なくともダンガンロンパのテーマの一つである「絶望感」の演出は『1』の舞台の方が優れていると言えるだろう。一方でそのような明るい環境から殺人事件に突入する「上げて、落とす演出」によってより絶望感が増しているという見方もある。 終盤部分の賛否 + ネタバレ注意! 前作キャラクター 最終部で前作のキャラクターが登場するシーンがあり、『2』のキャラを食ってしまったという意見もある。 ただし、物語上の必然的なものであり、『2』キャラの存在を殺すような意図は感じられない。 また、その後の展開と『2』メンバーの存在感は逆に『1』メンバーを食っている。 生き残り 前作『1』で生き残ったキャラクターは、それまでの裁判で犯人だと疑われたり、トリックに思いっきり巻き込まれたりと存在感を示したキャラクターが多かった。一方、本作での生き残りとなったキャラクターは、詳細は記せないものの「裁判で目立った順」ではそれほど上位に来ないキャラクターも複数いる。むしろ「反論」などで邪魔ばかりしてくるキャラも複数おり、好感度を下げている。 また、本作においては仲間の誰かの死を乗り越えて改心・成長していく、というキャラクターがほとんど存在しない。申し訳程度にそれっぽい要素が入ってはすんなり忘れられたかのような展開が起きてしまう。前述の通り本作では、その人物が被害者・加害者役に相応しいとは言い難い場面が多いのも影響していると思われる。 しかし、どのキャラクターも決して終始存在感のないような印象ではないし(*17)、『ダンガンロンパ』のキャラクターらしく存在感は発揮している。途中の展開の違いによってこういう批判が生まれた面はあるが、欠点として責められるような点ではないだろう。 黒幕 「黒幕が誰か」という点についてはしばしば批判を受ける。中核のネタバレになるので少しぼかすが、本作は『1』から繋がった物語である故、黒幕も『1』の黒幕から繋がった存在である。その為がっかりしたというユーザーもいる。 一方、これにも物語上の必然性があり、「なぜ日向たち『2』のキャラクターは閉鎖空間でコロシアイをさせられたのか」という状況を成立させる伏線にもなっている。また日向と黒幕の関係は前作苗木よりは因縁の深いものになっている。 問題点 ノンストップ議論中に早送りをした場合、前作では基本的に音声も含めて滑らかに早送りされていたのだが(早送りをした際に長い台詞は途中でスキップされるが、スキップ時も次の台詞にスムーズにつながるよう調整されていた)、今作ではボリュームが大きく増えたために読み込みが追い付かないのか、長台詞がスキップされた際に音声がぶつぶつと切れたり、ほんの一瞬ではあるが画面が止まったりすることがあるなど、若干テンポが悪くなっている。 また、ノンストップ議論の進行度合いを示す表示も前作のようなデジタル表示からアナログ表示になったため、2周目でコトダマを撃ちたい場所までスキップする際の目印として見づらくなってしまっている。 ノンストップ議論では早送りを使う頻度が高いため(*18)、テンポが悪くなっているのは少々気になるところである。 前作に比べてバグがやや増えている。表示バグ、移動バグ、裁判結果のスコアバグなどなど…。 少ない例ではあるがフリーズバグや強制リセットが発生してしまう場合もあるので、セーブはマメに行った方が良い。 前作では目立たなかった誤字脱字の類も散見される。2ヶ所程度だが音声ミスもある。 非常にテキスト量の多いゲームとは言え、30ヶ所以上の誤植が指摘されているのは少々いただけない。 あろうことかOPムービーにまでキャラ名の誤字があり、PVを見たファンからの指摘で気付いたものの修正が間に合わず製品版でもそのままというとんでもないミスまで発生している。 後述のPSV移植版では、流石に他の誤字と共に修正されている。 …筈なのだが、PSV版でもまだ誤字は散見される。「犯人を"追求"する」「"早い"乗り物」等、日本語の誤用も多い。 「希望のカケラ」を集める自由行動イベントを一度全て見終えてしまうとそのデータでは自由行動のやり取りを二度と見れなくなってしまう(回想モードが存在しない)という前作の欠点は今回も解消されていない。 前作同様、終盤、本作の世界観の核心部分についての説明が少なく、やや駆け足気味の展開。 前作ほどではないが、若干シナリオを力技で締めている感はある。 豪華な声優陣も本作のウリの1つであるが、音割れしている音源が存在する。 スタッフのコメントとして「前作を未プレイでも楽しめる」という旨の発言があったが、実際に今作は前作を未プレイでも話についていけなくなることはない。しかし、その理由が「今作の終盤で、前作で起こった重要な出来事について事細かに説明されるから」というものであったため、前述のようにこの作品が前作も含めて公式でネタバレを禁止していることもあり、ファンからは疑問の声が上がった。 当然、前作でじっくり説明していた内容を終盤の限られた時間で説明するのだから、かなり駆け足で詰め込み気味である。しかも「前作で誰が生き残ったのか」「黒幕の正体とその目的」など本当に重要な部分もしっかりネタバレされてしまう。シリーズに興味があって楽しみたいのであれば、少なくとも前作はやっておくことが推奨される。 さらに、おまけ収録のノベルモード『ダンガンロンパIF』に至っては前作のIF展開ルートであるため、内容そのものも前作のプレイが前提となっている。 なお、小説版の『ゼロ』の内容に関しては本作内でほとんど触れられない。詳細は伏せるが本作の核心部分の設定は『ゼロ』が初出のものも多いので、前作をプレイしただけだといきなり新たな設定がいくつも出てきたように感じられてしまう。 設定上重要な部分だけは一応補完してくれるし、『ゼロ』の内容について詳細に触れることはないので、本作の後に『ゼロ』を読んでも楽しむことはできるし、『ゼロ』の後に本作をプレイしてもよいのは救いと言えるか。 これに近い問題だが、『ゼロ』で初出のとある設定と、前作で死亡したとあるキャラと深く関わる人物の設定が最終盤にならないと明かされないため唐突感を覚えるという意見もある。 前回同様全員分の「おしおき」が無い 犯人に対する罰である「おしおき」はファンの中でも好評なのだが、全員分のおしおきが無いことに対し残念がる声もある。 また『2』は『1』の時のようなおしおきの設定資料などが無いため、妄想するしかない状況である。 総評 前作において、15人の登場人物が殺し合いをするという壮絶な物語に一応のオチを付けて終わっただけに、「果たしてこの物語に続編を作れるのか」と不安視する声も少なからずあった。 前作の設定を引き継ぐ以上、既視感の発生と目新しさの損失というリスクが懸念されたものの、蓋を開けてみれば前作と遜色のないストーリーが出来上がっていた。 特に、それまでの伏線やお膳立てとしての設定を踏まえた終盤の衝撃的な展開は、前作を十分超える出来になっていると高く評価する意見も多い。 また、トリックがちゃちであるという批判があった前作と比べ、推理ゲームとして十分楽しめる出来になったことも大きい。 システム面でも前作で指摘されていた主な問題点を比較的解消しつつ、ボリュームアップを中心にクリア後も十分楽しめるようになっている(ある意味、クリア後が本番である)。 「スーパー」を冠するにふさわしい進化を遂げ、『ダンガンロンパ』シリーズにおける1つの到達点ともいうべき作品になったと言える。 余談 公式で第2章以降のプレイ動画配信が禁止されている。 前作は発売から時間が経ったこともあってか配信禁止は解除されたが、本作は配信禁止の措置は残っている。 PSP版では前週に発売されているレベルファイブの『TIME TRAVELERS』と他社間提携を行っており、作中に同作のポスターが張ってあったり関連するセリフがあったりする。 PSV版の『1・2Reload』では本シリーズのスピンオフである『絶対絶望少女 ダンガンロンパ AnotherEpisode』の広告に代わっている(*19)。 その後の展開 2013年10月10日にPSVで『1』とのカップリング移植『ダンガンロンパ 1・2 Reload』が発売。詳細は後述。 2016年4月19日に『Danganronpa 2 Goodbye Despair』のタイトルで、PC版の配信がSteamで開始された。詳細は後述。 2021年11月4日にシリーズのナンバリングタイトル+新作ボードゲームがまとめられた『ダンガンロンパ トリロジーパック+ハッピーダンガンロンパS 超高校級の南国サイコロ合宿』がNintendo Switchで発売された。 ダウンロード版として各タイトルを個別購入することも可能となっている。 前作以上にコミカライズが充実しており、複数のキャラの視点で語られている。 ファミ通コミッククリアで連載されている本編コミカライズ『スーパーダンガンロンパ2』(作画は黒軌キュー氏) 日向が主人公ではあるが、学級裁判を生徒全員で廻している雰囲気が上手く描かれており、キャラの心境描写も好評。 残念ながら、3回目の殺人が発生した所で連載終了してしまった。エンディングまでやりきって欲しかったという声も多い。 「狛枝凪斗」を主人公に据えた『超高校級の幸運と希望と絶望』(作画は須賀今日助氏) 本編における狛枝の動きを、彼の時系列順に描いており、一部は通信簿ネタのエピソードなども含む。 「七海千秋」を主人公に据えた『七海千秋のさよなら絶望大冒険』(作画は鈴羅木かりん氏) 基本的には本編と大筋の流れは同じだが、本編の日向の行動を肩代わりしていたりと主人公である七海の立ち位置がゲームとは大きく異なる。それ故に七海は序盤から日向や狛枝を信頼し、仲間達の中に溶け込んでおり、ある種のIFとも言える。 『だんがんアイランド ココロ常夏、ここロンパ♪』(作画は要龍氏) アイランドモードのコミカライズで、コロシアイとは無縁の展開が描かれている。1話につき1人のキャラにクローズアップしたエピソードを展開している。本編のネタに基づいたギャグも多いが、「いい話」への持ち込み方も好評。生徒5人のエピソードを描いて1巻で完結したが、早期完結を惜しむ声も多い。 『南国ぜつぼうカーニバル!』(作画はあららぎあゆね氏) 同人誌に近いギャグパロディ。なお『絶対絶望少女』のPVにおいて没企画「だんろん部」の絵を描いた人物である。 「左右田和一」を主人公に据えた『絶望的因果律の中の左右田和一』(作画は星トマジロウ氏) 本編を左右田の視点から描いており、各エピソードにおいて左右田を始めとするキャラクターたちがどのように動いていたかも描かれている。 『1』のアニメ版の最終話で本作のとある登場人物が最後の最後に顔見せしており、「早く会いたい」という意志を見せていた。 その後2015年末、ついにアニメ化が決定!…かと思いきや続編『ダンガンロンパ3』の制作発表であった。 しかし更にその後の2016年3月、『ダンガンロンパ3』は2の後日談『未来編』と前日譚『絶望編』の二部構成となることが発表。『2』本編のアニメ化は未定のままだが、違う形で展開されることになった。 『3』の詳細発表PVは「クマでもわかるダンガンロンパ」というタイトルで1・2双方のネタバレが満載。『絶望編』は設定そのものが『2』のクリア・ネタバレ前提になってしまうため、未クリア者は注意。 だが、このダンガンロンパ3はゲーム本編との致命的な矛盾、無理のある後付け、大幅なキャラ改変が大量にあり、最終話である『希望編』の内容も相まって本作の評価は決していい物ではない。特に前日譚を行った『2』はこの傾向がかなり強いため、そういった意味でも視聴には注意が必要である。 後に発売された『ニューダンガンロンパV3 みんなのコロシアイ新学期』の限定版には本作の後日談であり『ダンガンロンパ3』とのミッシングリンクとなるOVA『スーパーダンガンロンパ2.5 狛枝凪斗と世界の破壊者』が同梱された。 ダンガンロンパ1・2Reload 【だんがんろんぱ わんつーりろーど】 ジャンル ハイスピード推理アクション(ADV) 対応機種 プレイステーション・ヴィータプレイステーション4 発売元 スパイク・チュンソフト 開発元 シェード 発売日 PSV 2013年10月10日PSV(Best)/PS4 2017年5月18日 定価 PSV ・パッケージ 4,980円・ダウンロード 4,476円・the Best版 2,980円PS4(共通) 3,800円(各税別) レーティング CERO D(17才以上対象) 判定 良作 概要(1・2) 前作『1』とカップリングする形での、PSVへの移植版。 特徴(1・2) 移植にあたっての変更点は、『1』と同様に高画質化とタッチパネルへの対応、細かなバランス調整とバグ・誤字修正など。 前作『1』と異なり、こちらは元々クリア後のおまけ要素が複数存在するため、カップリング移植に際しての追加要素は特にない。 前述の通り、『タイムトラベラーズ』の広告が本作の外伝『絶対絶望少女』に変えられた。 『2』部分は最初から解放されており、前作『1』部分をクリアしなくてもプレイ可能。 だが、前述の通り本作は『1』をクリアするか最低でもアニメなどの媒体で大まかな流れを把握してからプレイするのが好ましい。 2017年5月18日にPS4版が発売。同日にPSV版の廉価版も発売。 2019年4月24日にPS4で『1・2』と『V3』のセット商品である『ダンガンロンパ トリロジーパック』が発売。 Danganronpa 2 Goodbye Despair(Steam) 【だんがんろんぱつー ぐっばいでぃすぺあ】 ジャンル ハイスピード推理アクション(ADV) Steam版 対応機種 WindowsMac OS XLinux + SteamOS 発売元 スパイク・チュンソフト 開発元 スパイク・チュンソフトAbstraction Games 発売日 2016年4月19日 定価 3,600円(税込)⇒ 2,138円(税込) 判定 良作 概要(Steam) 2016年4月19日に『Danganronpa 2 Goodbye Despair』のタイトルで、PC版の配信がSteamで開始された。 Steam版は『ダンガンロンパ 1・2 Reload』の『2』の単体移植にあたる。 特徴(Steam) 配信当初は前作同様UIと字幕は英語のみで、ボイス吹き替えのみ日本語と英語を選択可能となっていた。 しかし、2016年8月5日に前作も合わせ、アップデートで日本語&中国語テキスト追加パッチが無償配信され、これにより事実上日本語版としてのプレイが可能になった。 前作とセットで買うと割引になるお得なバンドルセットも存在するため、未プレイの人は充分購入候補になるだろう。 2017年6月29日には『絶対絶望少女 ダンガンロンパ Another Episode』発売に伴い定価が値下げされ、同作との3本セットバンドルも販売開始された。 スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園 / ダンガンロンパ1+2(DMM.com) ジャンル ハイスピード推理アクション(ADV) 対応機種 WindowsMac OS X 発売元 スパイク・チュンソフト 開発元 スパイク・チュンソフトAbstraction Games 発売日 2017年7月28日 定価 単品 2,138円(税込)1+2 4,104円(税込) 判定 良作 特徴(DMM.com) DMM.comで『1』と共に配信。起動に使用するゲームクライアントが異なることを除いてはSteam版とほぼ同内容。
https://w.atwiki.jp/ln_alter2/pages/200.html
FRAGILE ~さよなら月の廃墟~ ◆MjBTB/MO3I 少女達は、温泉に到着した。 そして入り口近くで、無残な姿に成り果てた人間らしきものを発見した。 嫌な予感が過ぎった。櫛枝実乃梨の友人である北村という名の学生のことが気になったのだ。 今すぐ室内へと突入し、現状を知るべきだろう。 シャナとアラストールはこの温泉には生きている人間の気配が無いと言い、木下秀吉と櫛枝実乃梨は頷く。 そして遂にいざ突撃。と言わんばかりにそれぞれが一歩踏み込んだときである。 放送が始まった。 放送では、人名が十も並んだ。 その中には少女達が知る者の名が含まれていた。 吉田一美。高須竜児。北村祐作。 最後の名は、今まさにやっと会えると思った相手である。 他の二人とて、ここにいる二人の少女にとって、絶対に欠けてはならぬ存在であった。 茨の道を突き進もうと意気込んでいた最中に出鼻を挫かれたばかりか、親愛なる仲間かつ恋敵である少女を失い、動揺するシャナ。 故に何がなんだかわからない、といわんばかりに呆けたまま放送を聞き終わった櫛枝実乃梨。 学園のクラスメイトの名が並べられなかったことに安堵はするも、だが周りの少女二人の反応を見たことで迷い、沈黙する木下秀吉。 三者三様。反応多々。 だがこうしてはいられないのが現実。 少女達は室内へと飛び込んだ。 シャナは櫛枝実乃梨と共に北村祐作の遺体を目撃した。入り口の"あれ"と比べ綺麗なのが救いか、と考えるのが精一杯であった。 櫛枝実乃梨は沈黙し、遺体を眺めるばかり。 木下秀吉は居なかった。思うところがあったのか、シャナと櫛枝実乃梨には着いてきてはいなかったのだ。 ここでの反応も、三者三様。 そしてシャナは櫛枝実乃梨に自分をしばらく一人にするよう懇願され、承知する事となる。 奇しくも民家での会話の後の如く、一つの施設の中で再び離れ離れとなった少女達。 物語は、そこから始まる。 ◇ ◇ ◇ 温泉に到着した途端、私達はとんでもないものを見た。 そしてそれを見た瞬間、私達はとんでもない放送を聴いた。 そして急いで建物の中に入ったとき、信じられないものを、見た。 もう、いつもの櫛枝実乃梨としての私は、ここで既に崩れてた気がする。 混乱するしかなくて、もう何もいえなかった。唐突過ぎて涙すら流れなかった。 何もかもが嘘だと信じていたかったけど、そうはいかなかった。 なんで? どうして? いつ? なにが? 一体? 色々な疑問系の言葉が浮かぶけれど、喉から向こうには出て行かない。 本当にショックなことが起こるとさ、言葉って出ないものなんだね。 今やっと実感したよ。おかげでわかったよ。 だからさ……ねぇ、誰か教えてよ。 今から私に答えを。誰でも良いから、答えを聞かせて。 なんで、どうして、北村くんは死んでるの? 放送とかいうやつでそう言われて、そんで温泉についてみたら中で倒れてて。 いや、それだけじゃなくて、温泉の入り口には誰か知らない人が血を流して倒れてて。 その人、もう体中傷だらけで、その所為でどんな姿してるのかも解り辛くなってて。 北村くんはお腹刺されて痛そうで、放送でも呼ばれて。 どうしてこんな事になってるの? ここってさ、何なの? それに……それだけじゃ、ない。 「高須……くん、まで……っ!」 どうして高須くんの名前まで呼ばれちゃってるの? どうして今? よりによって今? あのさ、放送で呼ばれたって事は、死んでるって事だよね? そういう事だったよね? 駄目だよもう。北村くん、駄目だよ。最初は放送が嘘かもしれないって望みもあったのに。 それなのに、北村くんが放送の言うとおり死んでたんなら、信じるしかないじゃん。 大丈夫大丈夫、って言えないじゃん。 どうして一気に居なくなるの? どうして一緒に消えちゃったの? 大河が泣くよ? あいつ泣き虫なの知ってるよね? それなのになんで死ぬの? お前らそんなことがわからないような馬鹿じゃねえだろ……! 駄目だ、もう駄目だ。 あんなに言い聞かせてたのに、誰も欠けちゃ駄目なんだって解ってたはずなのに。 出鼻を挫かれたとか、そんなレベルじゃない。最初から駄目だったんだ。 もう駄目だ。あの時の私は、もうどこにも居ない。 ねぇ、北村くん、お願い。また名前を呼んでよ。 櫛枝! って、元気良くさ、呼んでよ……呼んで! 呼べよ! いつもみたいに……ねぇ、解るよね!? そうじゃないと、さっきも言ったけど、高須くんまで死んじゃったんだって余計に実感しちゃうじゃんか! 起きてよ、死んだなんて嘘だって立ち上がって言ってよ! あんたクラスのボスだろ!? 大丈夫だって、言ってよ。 起き上がって、何事もなく、さ。名前、呼んでよ……。 ◇ ◇ ◇ 櫛枝実乃梨の懇願に合わせ、シャナと我は共に別の場所に移動した。 とは言え室内であることには変わりは無く、彼女の見えぬ場所に移動しただけの事である。 因みに木下秀吉も何か思うところがあったのか、全員での死体発見後には外へと退出していた。 その行動に至ったのは、櫛枝実乃梨に気を使った事も起因しているであろう。 同時に先刻の櫛枝実乃梨の如く、独りで整理するためか。 まあ、そんな事は良いのだ。 さて。 我等がこの温泉という施設に到着した時刻、あの"人類最悪"と名乗りし男の"放送"が開始された時刻。 これは正しく同刻。一点のずれも無い、ある種"偶然の無駄遣い"とでも言えるものであった。 ではその放送などと言う悪趣味かつ不愉快極まりない催しの開始と 目の前に存在する亡骸との邂逅までもが同刻であったのも、偶然というものなのであろうか。 シャナが辺りを警戒する中、放送を聴いたことで激しく動揺したらしい櫛枝実乃梨が無防備にも建物に突入し あまつさえ知り合いであったという少年の遺体をも発見してしまったのも、偶然と呼ぶべき事象なのであろうか。 ではその放送で他に高須竜児という名と、この我とも深い関わりを持つ少女、吉田一美の名が同時に呼ばれたのは? よりにもよってこの様な悲劇が、"間髪入れず"という言葉が良く似合う程に重なったのは? 悩ましいことに、実に腹立たしい事にそれらすらも是。偶然であろう。 何もこうまで重なる事は無いのではなかろうか。 入り口には誰とも知れぬ人間の骸。 放送で流れしは、事実であると認めるにはあまりにも酷であろう名の羅列。 建物の中に隠されていたのは、櫛枝実乃梨の友人らしき少年。これもまた骸。 更には鷹の屍骸と何者か……の、骸。 ここまで連続して事件が起こるとは我も想定外であった。正しくこれは"まさかの出来事"である。 結局は我も油断、もしくは楽観視に近いものを抱いていたのだ。今更の事ながら理解する事が出来た。 何たる失態か。これでは天罰神の、アラストールの名が泣くというものではないか。 放送を聴いたシャナは沈黙を貫いていた。否、沈黙せざるを得なかったという表現が正しいであろう。 無理も無い。あの吉田一美が死んだという信じ難き悲報が届いたのだ。 シャナの"友人"という言葉には収まりきらぬ程に関わった人間。 一人の調律師との邂逅によって、この世界における"我々の領分"にまで踏み込まざるを得なくなってしまった人間。 だがそれでも強く生きていた。シャナと遜色無き程に堅き決意に満ちたあの眼は、美事な宝石とも呼べよう。 我も認めた、坂井悠二も認めた、"蹂躙の爪牙"や"不抜の尖嶺"も、そしてシャナも認めた強き少女。 そして同時に、ある種"あのシャナの最大の宿敵"と化して立ち塞がる事ともなった人間。 その様な、我々にとっては云わば"特別の存在"の内の一人であるあの吉田一美が、我々の及び知らぬ場所で命を落とした。 腹立たしい。と同時に、哀しく思う。吉田一美の死自体にも、そしてシャナがそれに心傷める姿を見せられる事にも。 "人類最悪"よ、やはり貴様の名は貴様に相応しい。全く以って最悪である。 「アラストール……」 シャナが、ようやく口を開いた。だがその声色からして宜しくない。 何を言おうとしているかは想像がつかぬが、だが内容が正負どちらに傾いたものかは想像がつく。 「最低だね、私……最低だ」 やはり、そうか。自分をそう責め立てようと言うのか。 その様な姿は見たくは無い。炎髪灼眼の名に似合わぬぞ。 責めるにはまだ早い。一つも取りこぼさぬ様に茨の道を進むという姿勢は確かに見た。 何、決して仕方が無かったとは言わぬ。互いに覚悟は足りなかったのだ。 次回からは気をつけよ、という言葉は不適切であろう。故に今は何も言わぬ。 笑えなどという無理難題を押し付けるつもりも無い。 正直我も今、何を言うべきか言葉に詰まっておるのだが……。 お前があの覚悟を表現したあの言葉をお前自身が嘘にする事を、我は望んでおらぬだけなのだ。 もう何も言うな。シャナよ、あの時の民家での事は何…… 「違う!」 違う? 「違う……私、もっと醜いこと、凄く酷いこと考えた! 最低なこと、考えたの……。 私、一美が死んだって言われたとき……一瞬だけど、少し、安心した自分が居た……! 一美とは正々堂々勝負するって、闘うって言ったのに、そんな事考えた! そんな事で勝っても誰も嬉しくないのに……これなら私の元に来てくれるんじゃないかって……そんな……!」 湧き上がり吐露された感情は、我の予期せぬものであった。 シャナがフレイムヘイズとは違う、"人間"へと近づいている事は理解していた。 だが、それ自体は決して間違ったものだとは我は思っておらぬ。 近づいた事を否定一辺倒で台無しであると考えようとは露にも思わん。 だが人間に近づく事が、シャナにこれ程の感情を抱かせるものであったとは予測出来なかった。 「軽蔑、した……? って、聞くまでも無い、か。 ねぇ、私って、こんなのだったかな? もう、自分が解らない……!」 否。そんなことは無い、と我は全力でそう考える。 シャナよ、少し気が動転しているだけなのだ。何も自分を傷つけることは無い。これは一時の気の迷いではないだろうか。 恐らくは吉田一美も、遠くでそう考えているであろう。あの少女は人の心を理解する事に長けた人間であると我は認識している。 問題ない。何も、問題はないのだ。 だが、それをどう伝えれば良いものか。 我は最近、口下手だと思い知らざるを得なかった。 千草殿も居らぬ今、果たしてどの様な言葉が適切であるのかがどうにもわからぬ。 話し方次第では、相手と自身の抱く感情に齟齬が発生するかもしれん。それが、今の我には怖い。 嗚呼、正にここに千草殿さえ居れば。 ◇ ◇ ◇ どうにも中に入る気にはなれんし、かと言ってあの無残な姿にされた誰かを見る気にもなれん。 故に結局、仕方が無いので玄関に留まっておった。これが木下秀吉の限界、と言ったところ……か。 温泉の奥まで進んでいったのは櫛枝とシャナ、そしてアラストールのみ。 情けなくも、ついていく気にはなれんかった。流石に入り口で"あれ"なら、嫌な予感もする。正直見たくはない。 あの二人もなかなか戻ってこん時点で、大方察せられるというもの。 おったのであろうな……仏さんが。 なめておった。 ああ、全く、本当に自分は馬鹿じゃったな。 皆には心配せんでも良いと思っておった。自分はどうにかなると、思っておった。 危機感が無かった。楽観視しかしておらんかった。なんという痴れ者か、ワシは。 自分で自分に腹が立つ。放送曰く、今は現にあの女子らの仲間が死んだのだ。 ……それを確認する勇気は今はないのじゃが。駄目人間じゃな……全く。 不幸中の幸いというか、地獄に仏とも言える事といえば、明久と姫路が死んでおらぬらしい事か。 ……それ故にシャナと櫛枝から離れたいと思ってしまう部分もあるのじゃが。 何故だか後ろめたく感じてしまうが……それは明久と姫路に対する最低な罵りじゃな。 すまぬ二人とも。これでは"どちらかでも死んだ方が良かった"と戯言を発すると同義であった。 ……全く。十分に心乱されておるな、ワシも。 しかし、明久と姫路は大丈夫じゃろうか。今回の出来事は他人事とは思えぬ。いや、思ってはいかん。 心配じゃ。居場所さえわかっておったらすぐに駆けつけたいのが本音と言わざるを得ぬ。 二人が存命である事自体は判明しておるが、二人がどの様な状況に立たされているかは解らんのだ。 今頃何をしておるのだろうか。悪意ある人間に追われてはいないか。 ここでは文月学園での様においそれと召喚も出来ぬし、苦戦は必至であろう。 いや、そもそも明久が使役するもの以外の召喚獣は常人に対しても何の意味も成さぬ。 戦力にならんのだ、最初から。 学園の外では、教師が居らぬ場ではワシらはただのヒト。こんな悪意に満ちた場では、もしやすると……。 じゃが、明久は苦境に立たされた際には、常に知恵と勇気で乗り越えておった。 あやつには天稟がある。いざというときの大胆な行動と閃きはまさにそれじゃ。 断言しよう。テストの得点だけでは表現出来ぬ何かを、あの男は持っておる。 何せその姿には男のワシでも惚れ込んでしまいそうになるものじゃ。女子達もまんざらではなかった様じゃしな。 ……それでも今回ばかりは不安を抱くしかないのが現実なのじゃが。 しかし、それよりも更に心配なのは姫路じゃ。 あやつは優しい。優しすぎる。こんな場所では悪い虫に纏わり付かれるのではなかろうか。 明久も心配なのは確か。しかし姫路の場合は更に上を行く。嫌な予感すらする。 稀に暴走する事はあれど心は澄んでおる。そんな女子がこんな場所に放り込まれては……。 …………やめよう。もうやめじゃ。きりが無い。無さ過ぎる。 相変わらず入り口からは、もうシャナと櫛枝の姿は見えぬ。 かなり奥の方まで進んでいったのであろう。もしくは見えぬ角度に存在する部屋にでも入ったか。 暫く戻ってこんという事は、やはり……。 いっそ温泉に入って気分転換でもしていた、とかいうことであれば良いのじゃが。 いや、流石に緊張感に欠けるか。 こんな場所で服を脱いで武器を置いて、というのも些か危険であるとも思えるしのう……うむ、そうじゃな……服、を……。 …………服? 考えないようにしておった不安が蘇る。 我慢が出来なくなって衝動的に建物から外へと出て行き、ワシは再び外の遺体の方へと向かった。 十秒も経たず現場に到着し、ワシは再びこの凄惨な現場を眺める。 目的は遺体の観察にあらず。もっと違う、目的。 「やはりか! 視界に入れておいて気付かぬとは……ワシの大馬鹿め……!」 そう、ワシは目先の衝撃に気圧された所為で気付けなかった"それ"を、思考を巡らせた事でようやく気付けた。 故に、"それ"を実際に確かめる為に、考えを確実にする為にワシは現場へと戻ってきたのだ。 そして見つけた。ワシに対し延々と不安を煽っておったものの正体。それが、改めて目の前に現れた。 しかし、これには気付かなかったほうが良かったのかもしれん、とも思ってしまう。 流石に、"これ"は……遺体の近くにあった、"これ"は! この"文月学園の制服"の存在は、あまりにも酷ではないか! 上下揃った衣服、そして何故だか一緒に置かれていた下着。 それらのサイズから体躯を想像すれば、姫路の姿が即座に浮かび上がる。嫌でも浮かび上がってしまう。 いや、もしやワシ以外にも"名簿に名が刻まれておらぬ者"がおるのやもしれん。 勿論そうだとしても由々しき自体なのじゃが……この服のサイズ等を見ては、とてもそうは言えぬ……! 日頃から姫路の姿は明久達と共に見てきたのだ。それに実際に名簿に名前が乗ってしまっておるのだ! 他の誰かの可能性を考えるなど、愚かな現実逃避以外の何物でもないではないか! しかし、そうなると…… 「何故、服だけが……?」 ハッキリ言って理解に苦しむ。これが姫路のものであるならば、何故放置されているのか。 裸で逃げたというのか。しかしその様な羞恥心の欠片も無いような行動に出る女子では決して無いというに……。 「まさか……」 まさか、この今死んでいる男が姫路を襲ったとでも言うのか。 そしてこの斧のような奇妙な形をした刃物で男を斬り、良心の責務に耐えられなくなった、とか。 いや、もしくは温泉に入っていた際に第三者に襲われた、とか。またはその第三者に……。 いや、よく考えればこの衣服は姫路の物ではあれど、姫路のものではないのではないか? 例えばこの男が、もしくは第三者がこの制服を支給品として引き当て、「必要ない」と捨てたのかもしれん。 しかしそうなるとおかしい。何故"人類最悪"はそんなものを支給するのか。 ある人物が着ていた衣服が支給されたところで、サイズが合わねば宝の持ち腐れに他ならぬ。 ワシらの支給品にはピンからキリまで種類があるといえど、不自然に過ぎる。 果たしてここまで多数にとって使えぬ可能性の高いものを支給することなど有り得るのか。 やはり、遺憾な事ではあるが……この制服は、姫路の物である可能性が……。 ええい! 結局のところワシの直感は、姫路が何か危険な領域に足を突っ込んでいると叫んでいるわけじゃな! これが姫路の着ていたものであったと認めるのは癪じゃが……しかし、もうワシもわかっておるのだろう……? もう、いてもたってもおれぬ。 袋に手を突っ込む。目当てはエルメス。あのバイク、でなくモトラド。 理由は単純。質量、重量を無視して再び出てくるこのモトラドに言伝を頼む為じゃ。 そして遂に「うおっ、まぶしっ」と呟きながら登場したエルメス。 ここに来るまでに袋に入ったままであった所為で、少し状況がわかっておらぬようだが仕方が無い。 ◇ ◇ ◇ 最初に動いたのは、木下秀吉。 ◇ ◇ ◇ アラストールには、悪いことをした。 フレイムヘイズとしても、人間としても駄目な感情を、吐き出してしまった。 こんなことは初めてだ。アラストールをここまで困らせてしまうなんて、最悪だ。 アラストールは何も言わない。やっぱり、軽蔑したのかもしれない。 どれくらい時間が経っただろう。櫛枝実乃梨がこっちに来る様子も無い。 それに今やっと気付いたのだけれど、木下秀吉は着いてきていなかったのかここにはいない。 相変わらず、アラストールと二人きり。 あんな事を言った手前、どうしよう。 本当は今すぐエルメスも含めた五人で集まって、話をするべきなんだと思う。 でも櫛枝実乃梨は今は"あんな状態"だ。 木下秀吉も、仲間が死んだわけではなかったらしいけど、それでもショックなんだろう。 かく言う私も、今はどうしても動く気にはなれない。理性では早くどうにかするべきだって、わかってるのに。 ばらばらだ。皆、心がばらばら。虚しく時間だけが過ぎていく。 …………悠二が死んでたら、私はどうなってたんだろう。 と、不吉なことを考えようとした時、変化が起こったことに私は気付いた。 足音が聞こえる。しかも間隔は短く音は大きい。まるでそう、走っているような。 聞こえたのは櫛枝実乃梨がいた方角! 「シャナ!」 「う、うん! でも何が……!?」 アラストールが叫び、それを合図に私は急いで廊下を走る。 思えば無意識に随分と気を利かせ過ぎたのか、足音の元への道のりは妙に遠い。 それでも櫛枝実乃梨の元へ急ごうと走り続けると、遂に視界の端でその本人の姿を捉えた! どこに向かっている? どうして走っている? 後者の疑問は解けないけれど、前者だけならわかる。 「櫛枝実乃梨! 独りでどこに行くの!?」 彼女は、外に出ようとしていた。 建物の奥に位置していた殺人現場から、走って、外に。 「こら! 待って! 待て!」 ソフトボールとかいうスポーツらしきものをやってると言ってた所為か、櫛枝実乃梨は人間の中では足が速い部類に位置していた。 ひ弱な人間だったら追いつけないかもしれない。でも私はフレイムヘイズだ。大丈夫。 最初に面食らった所為でかなり距離は離されている。もう相手は外に出てしまったけれど、私はまだ室内。入り口には少し遠い。 けれどこれで追いつけないわけがない。ここで足止めされたりしない限りは、必ず! ◇ ◇ ◇ 次に動いたのは、櫛枝実乃梨。 最後が、シャナ。 ◇ ◇ ◇ モトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)としては、僕を巧みに扱ってくれる人に乗ってもらうのが一番なんだけど。 いやはや。 僕を最初に引き当てた子はいなくなっちゃうし。勿論言伝はきちんと預かったし言う通りにするけど、放置はないんじゃないの? やれやれ。 北村って人はどうなったのかな。結局ここにはいなかったんだろうか。じゃあ暫くしたら、結局また手押しか袋の中か。 あーあ。 っと、あれ? 誰か出てきた。櫛枝実乃梨(注・人間。シャナを先生と呼ぶものだけを指す)か。どうしたんだろ。 あのさ、言伝預かってるんだけど。木下秀吉から。おーい。 ……あらら、聞かずに行っちゃった。凄い走ってるよ。体力持つのかな。 参ったな。早速約束を違えちゃったよ。これが"ファッションニッポンビビル"ってやつ? あ、もう一人出てきた。今度はシャナ(注・フレイムヘイズ。いざという時に髪の毛が燃えるものだけを指す)か。 こっちも走ってる。早く止めないと。って、あら? 勝手に止まってくれた。 え? 木下秀吉(注・人間。性別が秀吉のものだけを指す)? どうしていないって? ああ、それを今から言うところ。 あの子さ、ちょっと人探しに行ってるから。 しばらく見つからなかったら戻ってくるってさ。 後、勝手に行ってごめん、だって。 え? いや、何で止めなかったんだって言われてもさ。こっちにも事情があるんだって。 急に外に出されたと思ったら言伝だもの。誰が? って、だから木下秀吉が。本人が。 それにほら、そもそも人間にはそれぞれ不可侵的な自由を持つ権利があると思うしねー。 って……あらら、また行っちゃったよ。 やれやれ。 あれ? 僕今度こそ放置? ◇ ◇ ◇ 私は、我慢が出来なかった。 北村くんが死んだ理由に、一歩だけでも近づきたくて。 でもあの温泉は"全部が終わってしまった跡"だったから、じっとしてても意味が無いって、そう思った。 私は、私自身が、この櫛枝実乃梨がここまで我慢弱い人間だとは、自分でも思わなかった。 気がついたら走ってた。後ろから先生が何かを言いながら追いかけてきたけど、答える時間も惜しかった。 それに、答えたら、もう走れなくなる。皆に止められる。そう思った。 だから全部を無視して、私は今こうして走り続けるんだ。 目的はただ一つ。北村くんの事を教えてくれたあの二人に会う。それだけ。 私達の話を聞いてくれたあの二人は、北村くんと一緒にいたと言った。 皆で一緒に話をしてたと言った。なら何故、どうしてあんな事になってるの? 直球に言う。私はあの二人を疑ってる。 北村くんを、そしてあの入り口にいた"誰か"と、更に室内にいた"誰か"を"あんな風にした"犯人だと、考えてる。 勿論あの二人が犯人じゃないって考えてる部分もある。出来るならそうであった方が嬉しいとも思う。 でも、駄目だ。あの温泉からやってきた二人が、私の頭の中でどうしてもちらつくんだ。 誰もいない建物。物言わぬ死体。そんな大変な事態が起こってた場所から来た、二人。 もう、怪しすぎるよ。 ねぇ、教えてよ。あのとき私達と話してたとき、北村くんの事を教えてくれたとき、本当は心の底で笑ってたんじゃないの? 今から行っても無駄だけどな、って裏で悪態をついてたんじゃないの? ねぇ、どうなの? 二人ともいい人だと思って話してたよ? だから、あの時は何も思わなかったけど! もう、どんどん怪しく思えてって仕方が無いよ。違うんだって信じたい自分もいるけど、不甲斐無いよ。 それに、怖い。 北村くんが死んだ。高須くんが死んだ。いきなり、何の前触れも無く死んだ。死んじゃった。じゃあ次は? 大河は? あーみんは? どうなるの? こんな場所なんだよ? あの高須くん達が死んじゃったんだよ? 会いたいに……会いたいに決まってるじゃん! ちょっと無謀かもだけど、少しでも早く会いたいって思うじゃんか! じゃあどうする!? 探すよ! そりゃ探すってば! 「櫛枝実乃梨!」 唐突に声が聞こえて、振り返る。声を追って無意識に視線を向けた先はすっかり明るくなった空。 薄い蒼、なんていう目に優しい絨毯の中に、よく目立つ紅がある。あれは……先生! 逃げ切れるなんて思ってなかったけど、逃げ切りたかった。 エルメスと何か話してたようだからいけると思ったんだけど。 なんて事を考えてる内に、先生が近づいてきた。 タックルをかまされた。地面にそのまま倒れた所為でめっちゃ痛かった。 ◇ ◇ ◇ エルメスから木下秀吉の弁を聞いたとき、私は愕然としてしまった。 どいつもこいつも、なんで勝手に行動するの? 私に着いてて欲しいって言ったのはそっちなのに! 勝手に私から逃げてしまう二人には怒りを通り越して呆れの念すら生まれそうになる。 何で、どうして皆そうやって自分勝手に行動をするの? 何でも許されると思ってるの? フレイムヘイズは聖人君子じゃないのよ? なんで、勝手に、行くの。どうして、何も、言わないの。 我慢出来ないのは、こっちも、一緒なんだってば! 櫛枝実乃梨の姿が見えなくなったのは私を撒くためにどこかに入り込んだから。私はそう結論付けた。 ならもう良い。怒った。本気で鬼ごっこしてやる。問題ないわ。空から見ればどこにいたって同じ! というわけで、とっ捕まえたわ。 空を飛んで暫くして、相手の姿をどうにか目撃。それからタックルして、停止。簡単だった。 このフレイムヘイズから逃れようなんて甘いのよ。ハニートーストより甘々。 「なんで、よ」 そう、甘い。全部甘い! ……そんな甘々な考えで、どうして勝手に行くの? 「自分だけ悲しいなんて、思ってるんじゃないわよ」 我慢出来そうに無いのは、おまえだけじゃない。 現に、木下秀吉だって勝手に出て行った! 「皆が揺れてるときに、もっと揺さぶるような事……っ、するな!」 「……!」 言いたい事を全部言えた訳じゃない。けれど、言葉はここで止まってしまった。 正直、疲れた。一美が死んで、木下秀吉と櫛枝実乃梨は勝手に暴走して。 でもその理由は私も理解できるものだから、余計に"たち"が悪くて。 だから、もっとやりようはあったんだろうけど、叫んでしまったから。 次の言葉が咄嗟には出てこなくなってしまって、だから沈黙してしまった。 相手は何も言わない。私が何も言えないのも重なって、静かだ。 空気が重い。居心地が悪い。 ちょっと、何か言いなさいよ。返事ぐらい、しなさいよ。 ねぇ、早く。ちょっと。人の話聞いてるの!? 答えて櫛枝実乃梨! 「先生は! 先生はさ……今の放送聞いて、どう思った?」 「……え?」 突然、質問された。 答えは単純。"とても悔しくて腹立たしい、そう思った"だ。 けれどそれがなんだって言うの? 「吉田一美って、女の子だよね? 先生の、友達なんだよね?」 だから、それが、何。まさか男が死んだら悲しくて、女だったら別に良いっていうつもり!? 「そんな極論じゃない! でも、でもさ、じゃあ今放送でっ、吉田一美だけじゃなくて坂井悠二って人も呼ばれてたら!?」 「……ッ!?」 「私ね、なんとなくわかってたよ。先生さ、その坂井くんの話をするとき、凄く嬉しそうだった……! 自分では冷静にしてるつもりだったんでしょ!? 甘いよ、先生。女子の嗅覚なめんなよ、先生。 勿論他の知り合いの話をするときもなんやかんやでポジティブだったけど……その坂井くんって時だけは違ってた!」 「う、うるさいうるさいうるさい! そんな事……!」 「そんな事、ある!」 急にどうしたのよこいつ。なんで、そんな事言うの。 違う、そんなの知らない。なんなの、見透かしたような事ばかり喋って。 それになんでそんな突飛な質問するの!? そんなの、そんなの考えたくないのにッ! ねえアラストール! アラストールも何か言ってよ! 「すまぬ……言葉が見つからん」 「アラスト……っ!」 「しかしこれだけは言わせて貰う。冷静になるのだシャナよ。 櫛枝実乃梨の今の言葉、決して否定は出来ぬ。自らの今までの行動を顧みてみよ」 「それ、は」 「今の姿には、シャナらしさが見えぬ。どちらに向いても、奇妙な姿にしか移っておらん……!」 確かに私は、悠二が、その、えっと、好き、だけど! でも、でもだからって、でも! なんで、一美やヴィルヘルミナ、千草くらいにしか言ってないことを、今日初めて出会ったばかりの人間が、それを……! 「それを踏まえて、もう一度訊く。先生が私と同じ状況に立たされたら、どうする?」 「同じ……」 「うん、同じ状況に。私は今ね、北村くんと、好きだった人が……高須くんがいっぺんに死んで、悲しいんだよ! そう、私はね、高須くんが好きなんだよ! 先生以外にはオフレコ、大サービスで話してやるよ! 好きだよ! でもさ、私なんかよりももっと可愛くて素敵でお似合いな女の子が今いるの! その二人は絶対欠けちゃいけないって思った。より一層そう思った! 先生達と話してたときも、考えてた! でも、でももう欠けちゃった……大河の、私の、大事な存在が、いきなり、消えた……っ! それに、それに北村くんだって! 私のクラスの皆にとっても大事な奴だったんだ! 知らないだろうけどさ!」 ……でも、そうだとしても! 「だからって……! じゃあ、おまえ達を護るって決意した私の立場は……!」 「だから私は今、一番のヒントを持ってるはずのさっき会った二人を探しに行こうとしてる! 危険かもしれない! でも、行かなきゃ二度とチャンスは来ない気がする! どうしようもないの! 犯人もわからない。じゃあ北村くんと話してたって言うあの人達は何!? わからないなら……会うしかない! もう自分が止められないの……こうでもしないと、私が私じゃなくなってしまいそうで、全部失ってしまいそうで、怖いの!」 櫛枝実乃梨の捲くし立てる言葉には納得出来る部分もある。 それに言いたい事もわかる。どうしようもない状況を看破したいと思う気持ちは、わかる。 でも、だからって……! こんなの、滅茶苦茶じゃない! 「せめて北村くんの事だけは知りたいから……高須くんの助けに欠片も間に合わなかったから、せめて……。 ねぇ、これはいけない事なの? もし今の放送で吉田一美って子と一緒に坂井くんの名前が呼ばれてたら、先生ならどうしてた?」 それは、私は……私だったら……! 「で、温泉にその一美さんの死体があって、事件を解くためのカギがないノーヒントの状態だったら!? ねぇ、先生だったらどう思う!? どんなに冷静に取り繕っても……先生、結局、私と同じと思う……!」 もうアラストールは沈黙に徹してしまった。 櫛枝実乃梨の言葉には、横槍を入れるのは許さないという意志が見えていたから。 そして今、そんな強い言葉が向けられている私は……私は……私まで、言葉に詰まってしまった。 ……そうだ、結局そんな"仮"の話も考えないようにしてたんだ、私は。 急に引きずり出されてしまった。答えが出せなくて封印していた"IF"が、ここに来て私に牙を向けた。 もしかしたら、って考えてしまう。 今はともかく、これからも私は冷静に動こうと考えていた。 自分がしっかりしなくてどうするんだって、そう考えていた。 けれど、それはあくまで"考えていた"だけ。 もしものときのイメージトレーニングなんかをしていたわけじゃない。 「先生、どうなの?」 「私は……」 「答えてよ」 「私は、私も確かにそうよ! おまえに言われた通り! 悠二のことが、その……そういうことよ! だからでも、だからって私は! 私はおまえみたいに……無謀なことは、私は……そんな……しな、い」 「なんで最後自信無さげに言うの? 私を説き伏せようとしてた先生は、どこに行ったの? ねえっ!?」 「私は私よ! 私は……だって…………っ!」 相手の声が怒号に変わっても、私は声を荒げるだけで……いや、それすらも続けられなくなって答えられなかった。 私には、私には自負があった。悠二も一美も、皆護ってみせる! って意志もあった。気合もあった。自信もあった。 せめて自分が目に見える範囲の全てを護ろう。そう考えていた。だから闘えた。フレイムヘイズの力を行使して、戦った。 でも、気付けばこんな場所にいて離れ離れ。贄殿遮那まで無くなってて、頼りになるのは一振りの木刀。 けれど、それでも私は決意した。櫛枝実乃梨達と共に行くのが茨の道と解っていても、そうしようと考えた。 仲間は誰一人欠けない、そんな理想へと辿り付く為に必死に走ろうと決めた。 でも、駄目だった。少し時間が経ったら"吉田一美が死んだ"なんて報告されて、いきなり計画は無に消えた。 いきなりすぎて、出鼻を挫かれて、こんな事が今までに無さ過ぎて、どうすれば良いのか。 私は、慢心していたのかもしれない。 心のどこかで、不幸なんて全て切り伏せられると妄信していたのかもしれない。 "櫛枝実乃梨や木下秀吉にも大切な人や好きな人がいるだろうからそう決めた"? その志は結構だけど、なまじ大事な存在がいる所為でこんな暴走を起こされる可能性を考えなかったの? ……答えが出ない。はっきりとした言葉で表現が出来ない。感情の篭った問いに、全く答えられない。 そうか、アラストールもこんな感じだったのかな。それに、あの時あんな事言ったから、余計に。 「先生。いや……シャナ。今はシャナっていう。"本当のシャナ自身に言いたい"から」 櫛枝実乃梨の声が、重い。 「私は、"決めた"。立ち止まりそうになったらまず"決める"のが私のやり方だから。 そしていつでもはっきりとする。はっきりと立って、はっきりと返事する。 でも先せ、シャナは、ハッキリしてないよ。今の放送と私の質問で揺れちゃったって、わかるよ」 空気も、重い。 言い返せない。 「でも、私はその気持ちもわかる。っていうか、今の私の質問はちょっと、いや、かなり卑怯だとも自分で思う。 感情に任せてるんだなって自分でも理解してる。でもこの質問は、私の我侭かもしれないけど、シャナに"答えて欲しかった"! あやふやな、揺れてるシャナに、自己矛盾って奴に囚われそうになってるシャナには私は止められないし、止められたくない!」 いつから、私はこんな弱い奴になったんだろう。 「私を止めたいって思うなら、模範的な先生なんかじゃない"本当のシャナが決めてから"にして。 私は行くね。言ってなかったけど、大河とあーみんだって探したいんだ、私。だから、うん。それじゃ」 そう言えば私も"もう決めた!"の一点張りで、ヴィルヘルミナと言い争ったことがあったっけ。 ああ、悠二に好きって言うって決めた時だ。今の状況は、それと一緒なんだ。 今は私があの子で、ヴィルヘルミナが私。 「いつかまた……それまでさよなら、シャナ」 櫛枝実乃梨が走っていく。私は、立ち尽くすだけだ。 西へ西へと進んでいくあいつの姿が豆のようになって、消えた。 ……。 結局私は何がしたくて、本当のところ私には何が出来たんだろう。 何が間違って、何が正しいんだろう。 ああ、でも、一つだけわかる。 結局私、遠まわしに言われちゃったんだ。 「お前に私の気持ちはわからないんだ」 って。 ◇ ◇ ◇ "SIG SAUER MOSQUITO"。それがエルメスと一緒に支給されたこの銃の名らしい。 いや、一緒にとは言ったが別にセットで着いていたわけではない。 むしろセットにされてたのは予備の弾であって、そういうわけではない。 単にワシにはきちんとした武器もあったという事じゃ。うむ、それだけの事。 その拳銃を護身用として持ち、ワシは走る。射撃の経験? あるわけがなかろう。 つまりは、辺りに悪意ある何者かが潜んである可能性を考慮した上で、姫路を探しておるのだ。 そうでもせんと今は自分自身を納得させられぬ故に、ワシは独りでこうしている。 シャナに櫛枝よ、勝手をしてすまん。 そして姫路よ、もしも近くにいるならば、どうか、どうか、出てきてくれる事を望む。 本当に、望む。 ◇ ◇ ◇ 先生は……シャナは、もう追いかけてこない。 何度か後ろや空を振り返るけど、着いてきてない。 まるで試合中、いや、それ以上に走っている気がする。 いや、いつもそうか。私、騒いではしゃいでばっかだった。 楽しかったな。高須くんがビックリしてたり、北村くんが「いつも楽しそうだなあ」と一緒に笑ってたり。 大河も可愛いやつだよなー。あーみんもあれはあれでナイス。 もう、そんな"いつも"には戻れないね。 ねぇ、戻れないんだよね? だってもう、さっき言ってた四人の中でもう二人死んじゃったよ。 あの男前の二人組が、死んじゃったんだよ。 大河とあーみんだって、悲しむ。私だって悲しい。 もう戻らない。元のあの楽しいグループは、無くなった。 物を壊すのは簡単だけど、直すのは大変なんだから。 「やだ……やだ、よ……やだよお!」 そんなことはもう、解ってるのに。 だからせめて大河とあーみんは、って思ってるのに。 その為に走ってるのに……! 「あうっ、あ……うあぁああぁあ……」 なんで今更、泣いてんの? 前見えないじゃん……やめろよ、私。 走りながらそんなの、みっともないよ……前、見えないよお……。 ◇ ◇ ◇ 温泉は再び静寂に包まれる。 残ったのは暇を持て余したモトラドのみ。 もはやこの建物は、骸のみが佇む寂しげな廃墟の様。 手がかりを追う櫛枝実乃梨。 それを追えなかったシャナ。 見えざる姫路瑞希の影を追う木下秀吉。 再びの集結は、あるのだろうか。 【E-2/一日目・朝】 【シャナ@灼眼のシャナ】 [状態]:健康 [装備]:逢坂大河の木刀@とらドラ! [道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1~2個所持) [思考・状況] 基本:櫛枝実乃梨の用心棒になりつつこの世界を調査する。はずだったが。 1:??? [備考] ※封絶使用不可能。 ※清秋祭~クリスマス(11~14巻)辺りから登場。 【櫛枝実乃梨@とらドラ!】 [状態]:全身各所に絆創膏 [装備]:金属バット [道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1個所持) [思考・状況] 基本:シャナに同行し、みんなが助かる道を探す。そのために多くの仲間を集める。つもりだったのだが。 1:上条当麻、千鳥かなめを捜索。西に向かう。 [備考] ※少なくとも4巻付近~それ以降から登場。 【E-3/一日目・朝】 【木下秀吉@バカとテストと召喚獣】 [状態]:健康 [装備]:SIG SAUER MOSQUITO(10/10) [道具]:デイパック、予備弾倉(数不明)、支給品一式(確認済みランダム支給品1個所持) [思考・状況] 基本:シャナに同行し、吉井明久と姫路瑞希の二名に合流したい。 1:姫路瑞希の捜索。発見次第温泉に戻る。しばらく探して見つからない場合も温泉に戻る。 2:エルメスの乗り手を探す。 ※エルメス@キノの旅がE-2の温泉入り口前に放置されています。 投下順に読む 前:箱――(白光) 次:人をくった話―Dig me no grave― 時系列順に読む 前:箱――(白光) 次:人をくった話―Dig me no grave― 前:二輪車の乗り手 シャナ 次:行き遭ってしまった 前:二輪車の乗り手 櫛枝実乃梨 次:リアルかくれんぼ 前:二輪車の乗り手 木下秀吉 次:行き遭ってしまった
https://w.atwiki.jp/imasss/pages/3560.html
【微百合注意】可憐「さよなら、雪歩ちゃん」雪歩「え―――?」 執筆開始日時 2020/11/19 元スレURL http //imasbbs.com/patio.cgi?read=16813 タグ ^萩原雪歩 ^篠宮可憐 ^天海春香 ^秋月律子 ^所恵美 ^田中琴葉 ^島原エレナ まとめサイト wiki内他頁検索用 いちゃコメ シアターデイズ ミリオンライブ 百合 篠宮可憐 萩原雪歩
https://w.atwiki.jp/risuteril/pages/2.html
https://w.atwiki.jp/risuteril/pages/3.html
カウンター 今日 - 人 昨日 - 人 合計 - 人 現在-人が閲覧中。 更新履歴 取得中です。
https://w.atwiki.jp/storyteller/pages/1307.html
FRAGILE(フラジール) ~さよなら月の廃墟~ part45-362~373,375~382,386 362 :FRAGILE ◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 05 55 29 ID x5giWo3G0 FRAGILE(フラジール)~さよなら月の廃墟~ ※解説 ジャンルは廃墟探索RPG 登場する廃墟は昭和30年代っぽいレトロな雰囲気 昭和30年代に人類が滅亡して、それから何十年も経っている、といった感じ 短い夏が終わる頃 一緒に暮らしていたおじいさんが死んだ 長い間一緒にいたのに、ぼくはおじいさんの名前を知らない 夕暮れ、家の前の庭に、小さな穴を掘って、おじいさんをそこに埋めた それから、ぼくは 本当に、ひとりぼっちになった 一. おじいさんが暮らしていた天文台の中は、暗かった ぼくは壁にあるハンドルを回した 天窓が開いて、月明かりが入って、少し明るくなった あっ、自己紹介がまだだった ぼくは、セト、だよ おじいさんが残した物がないかどうか、調べてみよう ベッドの上に懐中電灯があったから、右手で持った ちなみに左手には武器を持ってる ぼくはお箸は左手で持つんだ だから武器は左手 探索を続けよう 本がたくさん置いてある資料室の中へ入る 机の上に、おじいさんが書き残した手紙があった 封筒に、セトへ、って書いてある さっそく読んでみる お前がこれを読んでいるころには もう私はいないのだろう 生きることも、死ぬことも、私にとって大した意味は無かった そもそも生きる資格など無かったのだ ただ長い間、日々を無為に過ごし、終わりを目の前にして 初めてこんな気持ちになるとは お前と過ごした日々そのものが私にとっての宝石だった なぜもっと親しく言葉をかけなかったかと、今になって後悔している 愚かな私を許してほしい ここから東へ向かうと、大きな赤い鉄塔が建っている そこにはお前以外の誰かが生き残っているかも知れない 私が死んだら、東へ向かうのだ 今までありがとう、セト 363 :FRAGILE ◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 05 57 27 ID x5giWo3G0 手紙のそばに、不思議な青い石があった ぼくは、青い石を、おじいさんの写真が入ったロケットに入れて、首からさげた そしてぼくは、東へ向かった 旅の途中で出会った人たちは、みんな、さわろうとするとすり抜けてしまった その人たちは、思念体、とか、幽霊、とかいう人たちなんだって 青い石を手にしてから、ぼくは、そういう人たちが見えるようになっていた 夜、開けた場所にやってきた 遠くに赤い鉄塔(どう見ても東京タワーですね)が見える 舗装された交差点は大きな水たまりになっていて、蓮の花が浮かんでいた そこに彼女がいた 銀色の髪の女の子 だれ? 女の子はぼくに驚いて仰向けに転んだ 死んでないよね? ぼくは、目を閉じたままの女の子の側に行って屈んで、頬にさわった その頬は暖かかった この子はちがう、すり抜けない あっ、さわった 女の子は目を覚ました うん、あの、生きてるかなって思って あの、ぼくは 名前を言おうとしたぼくから逃げるように、女の子は地下鉄の駅へを続く階段を降りていった 待ってよ ぼくも急いで後を追った .。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+. 私がまだ十五歳だった、あの夏の終わり 私たちは黄色に光る塔の下で出会った それは、ひとりぼっちだった私の世界を大きく変え そして彼女と一緒にいた束の間の時は、私自身を大きく変えた 今でも昨日のことのように思い出すことが出来る 夏の名残を残した息苦しい空気 風の中なびく彼女の銀の髪 白くて丸い月 .。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+. 364 :FRAGILE ◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 05 58 54 ID x5giWo3G0 二. 階段を降りたけど、彼女の姿は見当たらない 代わりに変な声がする 助けてください このままでは機能停止してしまいます 声のする部屋へ入ってみる 声の主は機械だった 背中に背負うのにちょうどいい感じにストラップがついている 私はパーソナルフレーム、通称PFです 私が安全な旅をナビゲートいたします 女の人の声で、PFはしゃべった うん、こちらこそよろしく ぼくはPFを背中に背負った PFに、銀の髪の女の子を探していることを話した PFは、女の子は地下商店街に行ったのではないかと予測した でも、地下商店街に行くには鍵を探さなければいけないらしい とにかく改札口のあるフロアまで降りていく そこには、紙でできた、鳥を象ったものが落ちていたので拾った それは折り鶴というものだと、PFが教えてくれた それから、たき火が出来る場所を見つけた たき火はせーぶぽいんととかいうものなんだって 体力も回復できるし、拾ったアイテムに残った残留思念を読むことができる ぼくは、折り鶴をたき火にかざして、残留思念を読み取った その折り鶴は、お母さんが小さな女の子にあげたものらしかった だけど、女の子は迷子になってしまって、お母さんが探しているうちに、終わりが来たらしい 終わりっていうのはなんだかわからないけど、それがあったから、みんないなくなってしまったんだろう 地下鉄の改札からホームに出て線路に下りる 線路沿いに歩くと、地上に出た 空が赤い 朝焼けだった 赤くて、綺麗ですね ぼくはしばらく、PFと一緒にその景色に見とれた さらに線路をたどると、線路は途中でなくなっていた その先には倉庫があった PFが、倉庫の中には地下商店街の鍵があると予測した 倉庫の中に入ると、女の子の幽霊が姿を現した 女の子から、かくれんぼ勝負を持ちかけられたのでつきあうことにした 鬼はぼくだ 勝負に勝つと、女の子は地下商店街の鍵をくれた ぼくは女の子に折り鶴を渡した 女の子は喜んだ やっぱりこの子のものだったんだ お母さんの幽霊が女の子を迎えに来た ふたりは手をつないで、天に昇っていった 365 :FRAGILE ◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 06 01 15 ID x5giWo3G0 地下鉄の駅まで戻って、鍵でシャッターを開けて、地下商店街に行く 結構広い 隅から隅まで探したけど、銀色の髪の女の子はいなかった 地上への出口に着いたとき、PFがしゃべり出した バッテリーの残量がありません どうやら、ご同行できるのはここまでのようです どういうこと? ぼくは混乱した PFを背中から下ろした PFのランプが消えかかっている 私はお役に立てませんでしたでしょうか ううん、いてくれて助かったよ そうですか、それならよかったです あなたいらっしゃらなければ、私はあの崩れた駅の中で一人、機能停止していた事でしょう ほんの少しの間でしたがご一緒できてとてもうれしかった データベースの中にはあなたにお伝えしなければならないことがたくさんあるのですが ひとつだけ・・・ありがとう そういえばあなた様のお名前をお聞きするのを忘れて PFのランプが完全に消えた ぼくの名前は、セト、だよ PFは死んでしまった PFから落ちたねじをロケットにしまった ぼくは、穴を掘って、PFを埋めた .。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+. 夢を見た 聞き覚えのある声が私を呼んでいる 私が歩くたび 心配そうに、楽しそうに話しかけてくれるあの声 一緒に見た赤い空 強い風に飛んでいくたくさんの雲 ふたりでいた宝石のような限定された時間 また一緒にいたいなどという願いは永久に叶わないことは解っている それでも生きている者は生き続けなければならない 死んだ者は土の中でただ死に続ける .。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+. 366 :FRAGILE ◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 06 02 08 ID x5giWo3G0 三. 地上に出る そこは誰もいない遊園地だった いや、ひとりだけ、男の子がいた ぼくと同じくらいの年かな 黒くてかっこいい、軍服みたいなのを着ている まず自分から名乗るのが礼儀ってもんだろ ぼくは、セト、だよ 俺様はクロウだ ねぇ、クロウ・・・ 気安く話しかけんな クロウはちょっと意地悪な性格らしい 気が付くと、クロウにロケットを取られてしまっていた 返してよう!大切なんだよ! ほらほら!返してほしかったらつかまえてみな! それからクロウを追いかけて遊園地じゅうを駆けまわった ジェットコースターのレーンを渡って行ったりもした やっとクロウに追いついた そんなに大切なものなのか?これ よーし、中を見てやれ もうちょっとでクロウをつかまえられると思ったとき、ぼくは落とし穴に落ちた 落ちた先は地下道だった 途中の部屋に海賊の本が落ちていたので、拾って読んだ 気安く話しかけんな、と海賊は言った (中略) また会えるかな、と私は海賊に言った 会えるさ、なんてったって俺たちは友達だからな、と海賊は答えた 367 :FRAGILE ◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 06 05 33 ID x5giWo3G0 どうやら、クロウはこの本を読んだことがあって、海賊の真似をしているみたいだ 地下道を抜けて、壊れた観覧車の前へ出た クロウは、ロケットをちらつかせながら、観覧車の真ん中の辺りに登っていた 返してよう クロウは足を滑らせた 落ちてメリーゴーランドの屋根を突き破った 慌ててクロウに駆け寄った 目を開かない クロウ、死んじゃったの? 返事をしてよ ぼくは泣き出した あーもう、うるさいなー そんなピーピー泣くなっつーの 俺なんか生まれてこの方一回も泣いたことがないんだぜ クロウは起き上がった どうやらどこも怪我していないみたいだ よかった、生きてたんだね お前の勝ちだ クロウからロケットを返してもらった 俺、お前の大事なもの見ちゃったからさ、俺のを見せてやるよ 古ぼけた写真だった これ、クロウ? 病院のようなところで、検査着を着ている子供の頃のクロウ 隣には白衣を着たおじさんが写っている 俺、本当のこと言うと、子供の頃のこととかぜんぜん覚えてないんだよ だから、この写真に写ってるところに行けば、なんかわかると思ってさ 結構長い間探してんだぜ ぼくは銀色の髪の女の子を探してるんだ 見かけたこと無いかな クロウはしばらく考えた後、答えた しらね あー、まてまて、ときどき、ホテルの方で生意気な女に会うんだ ひょっとしたら、そいつがなんか知ってるかもしれないな うん、じゃあ、その人に会いに行ってみるよ おうよ 俺は、写真の場所を探しに行くぜ なんかお互いとんだ道草だったな 368 :FRAGILE ◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 06 15 26 ID x5giWo3G0 ぼくは海賊の本の内容を思い出して、言った あの、また、会えるかな おうよ、会えるさ なんてったって、俺たちは友達だからな そうだ、友達と言えば、プレゼントを交換するもんだぜ っつっても、俺はお前の物を取って、さんざんいじわるしたから・・・ クロウは指から指輪を外して、ぼくに差し出した これ、やるよ お前のロケットに入れとけよ それはドクロの指輪だった ぼくはそれを受けとった うん、ありが・・・ ありがとう、と言いかけたぼくの口を、クロウの唇がふさいだ ゆっくり三つ数える間、そのまま クロウの唇が離れると、ぼくは慌てて尻もちをついた それから、友達ってキスしたりするんだぜ 本で読んだんだ クロウは、なんでもない調子で言った キスって・・・ぼく、初めてで・・・ じゃあ、俺様はお前の、いっとう最初の、友達だ うん、友達だね じゃあ、行くよ ああ、またな .。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+. 自分がひとりぼっちだと感じているとき 他の誰かも、ひとりぼっちだって思って きっとそんな奴は、今だって世界中にごまんといるんだ ほんの少し、秘密を見せ合えば、友達になれるのに ほんの少し、ほんのちょっと 私は君の秘密を今まで誰にも話していない これからも、永遠に守り続ける 約束する 傾いた観覧車から覗く、青い月に誓って .。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+. 369 :FRAGILE ◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 06 16 08 ID x5giWo3G0 四. 遊園地を出てしばらく、山道を歩くと、ホテルに着いた ホテルの中に入ると、女の人の声がする こっちに来たらダメよ、とか言っている クロウが言っていた生意気な女なのだろうか 声をたどって、三階の301号室のドアを開ける だからダメだって言ったのに ぼくより少し年上の女の人の幽霊がプカプカと浮かんでいた 眼帯をしていて、いかにも怪我してますっていう感じだった そして、ベッドの上には、同じ格好の女の人が横たわっていた ぼくは、その女の人をシーツで覆ってやった 人間って、まだ生き残ってたのね しぶといわねぇ 女の人の幽霊はぼくを見て驚いている あれ、そのロケット うん、おじいさんのだよ 生きてたのね 今も元気なの? 死んじゃった そう言うと女の人はがっかりしたようだった ま、しょうがないか あれから、ずいぶん経ってるもんね ぼくは女の人に、銀の髪の女の子を探していることを説明した その子のこと、あたし、知ってるかも 本当?どうすれば会えるの? 知らないわよ 自分でなんとかしなさいよ、男の子でしょ 決めた、あたし、あなたについていってあげる あたしは、サイ よろしくね 勘違いしないでよ、暇つぶしよ、暇つぶし こうしてサイがついてくることになった 370 :FRAGILE ◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 06 17 52 ID x5giWo3G0 201号室の前に行くと、和服を着た女の子の幽霊が立ちはだかった ここから先は通さないから サイが言うには、この子は一度言い出したら聞かない、強情な子なんだって お星さまがほしいな たぶん、地下商店街にあったと思う 女の子のいうとおり、地下商店街に戻る クリスマスツリーが倒れていて、星の飾りが落ちていたので拾う 女の子の元に星の飾りを持って行く 無理だよう あんな高いところのお星さまを取れっこないよう 女の子はぼくを信じようとはしない 今度はお月様がほしいな 遊園地に戻って月の飾りを見つける 壁にしっかり取り付けられているように見えたけど、引っ張ったら簡単に外れた 女の子のもとに月の飾りを持っていく 嘘だよう あんなに固いのに取れっこないよう 女の子はまたぼくを信じない じゃあ、無くした指輪を見つけてきて たぶん、レストランに落ちてると思う ホテルの三階のレストランには、恐ろしい思念体がいた 思念体を倒したあと、指輪が落ちているのを見つけた 小さな宝石が入った指輪だった 指輪を女の子の元へ持っていく この指輪は、間違いなく女の子のものらしい 今度こそ、女の子はぼくを信じてくれた どうしてわたしのこと信じたの 信じたいから 信じたい、か あの人のようなことを言うじゃないか わたしはチヨ、だよ お入り ぼくとサイは201号室に入った そこにはチヨと同じ格好のおばあさんがいた チヨは、おばあさんが指輪を取り返したい気持ちが形になったものらしかった 本当に見つけてくれたのね ありがとうねぇ おばあさんはそう言った 371 :FRAGILE ◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 06 19 56 ID x5giWo3G0 チヨは語りだした あなたもいつか、旅が終わる日が来るでしょう 心を震わせる冒険を終えて、家路につく日が でも、そのあともずっとずっと毎日は続いていくの うんざりするくらい長く、退屈な毎日が続いていくのよ 新しいことは本当に何も起きない 朝日を見て、夕日を見て、タダそれを繰り返していく毎日 そのとき、初めて気が付くのさ やわらかな木漏れ日、草原を渡る風 仲間たちとの他愛も無い会話がどんなに素敵な宝物だったか そして、心は風に吹かれて、吹かれて、吹かれて・・・ 石のように固く、冷たくなってしまう でもわたし、この指輪を見れば思い出せるのよ 懐かしいあの人の笑った顔 ごつごつして、でも長くて綺麗な指 だからずっと欲しかった、取り戻したかった わたしはもう、きっと長くはないのでしょう でもあなたには、たくさんの明日が待っているのよ お行きなさいな そして、生きて、生きて、いつか終わりが来る日まで うーんと生きてね おばあさんは棚の上を指差した そこの・・・ わたしのつけてるかんざしと同じ、ブローチ それ、持っていってくれないかね ぼくは、花の形の小さなブローチを受け取った うん、可愛い花だね ありがとう 指輪、取ってきてくれて、ありがとうね わたしのこと信じてくれて、ありがとうね 行きましょう、と、サイがぼくを促す でも、ぼくはまだ去りがたかった この人はもう助からないわ それに、あなたには明日があるんだって言われたでしょ ぼくは201号室を後にした .。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+. 年老いた瞳にはやんちゃな少年が棲んでいる 窪んだ猜疑の目の中に おびえた少女が立っている 人が長い年月で出会う、怒りや、憎しみ、怖れ でも裏切られても、どこかで信じたいのだ 自分を信じて欲しいように、誰かを 先か後かは関係ない 私は、誰かを信じる そして誰かが私を信じてくれることを、信じる .。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+. 372 :FRAGILE ◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 06 20 42 ID x5giWo3G0 五. ホテルの屋上にて、昼ごろ 蝉の大合唱が聞こえる ねぇ、前から聞きたかったんだけど、あなた、あの子に会ってどうするの サイがぼくにそう尋ねた わからない、わからないけど あそこにさ、白い月が見えるよね それがとても綺麗で、でもどんなに綺麗だと思っても そのことを誰にも言えないと、ぼくの中でその想いは泡みたいに消えてしまう 本当に綺麗だと思ったかどうかさえ怪しくなってしまう だからぼくは、ぼくの話を聞いてうなずいてくれる誰かに、そばにいてほしい たくさんの言葉を重ねなくても、一言、そうだねって言ってくれる人に、そばにいてほしいんだ ぼくがそう言うのを聞いて、サイは笑った ふーん、そう 恥ずかしげもなくさらっと言うわね ま、そういうところもかわいいかも 猫の鳴き声が聞こえる 猫はぼくを誘っているようだった 猫についていく ホテルの裏庭にあるマンホールから中に入って、共同溝へ 共同溝には猫が何匹かいる また猫についていって、共同溝から細い通路に入ってしばらく進む 鉄格子のある部屋に着いた 鉄格子の向こうには銀色の髪の女の子がいた 鉄格子の手前は猫たちの集会だ あのときはごめん ぼくは女の子に謝った いいよ、悪い人じゃないってわかるもの 猫たちは女の子になついているようだった 名前は? セト 短いね、セト そのとき、どこからともなく男の人の声がした もうすぐグラスケイジが起動する 戻れ! その声にはじかれるように、女の子は鉄格子の向こうに行ってしまった 猫の集会もそれで終わりになった 373 :FRAGILE ◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 07 07 02 ID x5giWo3G0 女の子を追って、貯水槽を抜けて外へ そこはダムの上だった 水の力で発電するのだと、サイが教えてくれた エレベーターに乗って下へ降りていく銀の髪の女の子の姿を見た ダムに沿って作られたキャットウォークを進みながら下へと降りて、発電所へ入った 発電所の中の小部屋には、壊れた人形たちの残骸が積み上がっていた 壁には穴がいくつか開いていた この部屋はたぶん、ダストシュートに捨てられた人形たちの終着点なんだろう その人形たちの中に、クロウがいた クロウ! ぼくはクロウに駆け寄った よく俺がどれかわかったな もうバッテリーが切れかかってるみたいだ カッコ悪いぜ 俺は人間なんかじゃない ここに捨ててある人形と同じだ ぼくはクロウに抱きついて、泣いた でも、君はぼくの友達だよ 人間じゃない 友達だよ とうとうクロウが折れた ああ、友達だ 泣けるってなんだかうらやましいな イットウサイショノ、オレサマノ、トモダチダ ありがとうな、セト クロウは動かなくなった もう、機能停止したわ サイがそう言うけどぼくは否定した 違うよ、死んだんだ .。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+. 傷つき、疲れ、倒れこみ 暗闇をじっと見つめてしまうとき 暗闇に魅入られてしまうとき ふいに笑い声がする 不思議で、意地悪で、やさしい、あの声が、私を呼ぶ 共に過ごした日々は遠く 流れていく雲のように記憶は形を変えても 目を閉じればすぐに思い出せる 懐かしい、君の横顔 .。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+. 375 :FRAGILE ◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 09 04 26 ID x5giWo3G0 六. 発電所の奥の、機械が置いてある部屋に来た この機械は無線機だとサイが教えてくれた 適当にダイヤルを回すと、人の声が聞こえてくる 誰か返事してください、とか、君はどこにいるの、とか言っている ぼくはここにいるよ ひょっとして、生きているのは、ぼくひとりだけじゃないかって思ってたんだ 発電所を出てダムに戻る ねぇ、本当に、本当に、あの子に会いたいの? サイがそう聞いてきたけど、答えはもちろん決まってる わかったわ、本気なのね だったら、あの子の居場所を教えてあげる 鉄格子があった部屋、覚えてる? 猫が集会してたところ、あそこから研究所に行けるわ きっと、研究所にあの子はいる 鉄格子の部屋に戻った 1004よ、暗証番号 誕生日らしいわよ ああ、もう、意外とロマンチストなんだから 鉄格子のドアの電子ロックに番号を入力すると、ドアは開いた 研究所に行く道の途中、背後で扉がロックされた 行く手は瓦礫の山になっている どうやら閉じ込められたようだった ねぇ、昔のこと、ちょっと話していいかな サイが話す 昔ね、偉い科学者の人が、話さなくてもお互いの心がわかるようになる力が、 もともと人間に備わっていることを発見したの きっと、ずっと昔、人はそういう力でわかりあっていたのかもね それでね、たくさんの頭のいい科学者の人が相談して、 みんなに、もう一度その力を持たせれば、世界中がもっと良くなるかもっていう結論になったの その頃、世界は戦争(第二次世界大戦のことですね)とか、 大きなこと、小さなこと、いろんなことで対立したり、ケンカしたりで、 みんないい加減うんざりしてたから、もう全世界的に大賛成ってことになって、 グラスケイジ計画っていうのを考えたの グラスケイジっていう機械を使って、信号を発信して、 みんなの頭の中の共感性能力、つまり、自然とお互いわかりあえる能力を発現させようとしたの それから、どうなったの? 誰もが新しい時代の幕開けを信じて、信じて、信じて、微笑みながら眠りに就いて 次の日、目を覚ました人は誰もいなかったの みんな、眠りに就いて、そのまま死んでしまったのよ もう一度、それが起こるんだね そう 376 :FRAGILE ◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 09 05 14 ID x5giWo3G0 そして、あの子は触媒になるの 触媒? あの子の心を透して、世界中の人たちの心をつなぐのよ うまく行けば、だけど うまくいかなかったら? 今度こそ本当に、この星には誰もいなくなるわ あのね、そういうあたしも触媒だったのよ どうしてサイは触媒になったの? えっ、知らないわよ 割と普通に暮らしてたんだけどね 知らないうちにあたしに決まってたの ヘンな施設に連れてこられて、毎日いろんな実験させられて、 でもみんなちっとも優しくないの でもね、研究室の中に、ひとりだけ優しい男の子がいたんだ その子はね、あたしに時々、チョコレートとか飴玉をくれるのよ それでね、大丈夫って聞いてくれて、それから、ありがとうって言ってくれたんだ そっか その人とサイは友達だったんだね もう!この子ったら・・・ あたしとシンは友達っていうんじゃなくて、どっちかというと サイの話は猫の声に遮られた 猫がいるということは、ここは密室ではないということだ 探してみると、瓦礫の隙間に狭い通路が延びているのが見つかった 這っていけばなんとかいけそうだ 377 :FRAGILE ◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 09 06 01 ID x5giWo3G0 研究所に着いた そこは病院のようでもあった クロウが持っていた写真に写っていた場所のようだった 研究所の奥に進む 途中に歩くだけで体力が減る部屋とか、モーションセンサーがある部屋があった 一番奥の、丸くて広い部屋に、シンが待っていた シンはメガネをかけた若い男の人だ 足元を見ると床から浮いている けど幽霊とも違う 後から聞いた話だけど、シンはAIっていって、人格だけをコピーしてて実体が無いんだって 上を見上げると、高いドーム状の天井に、青く光る不思議な鳥かごのようなものが取り付けられていた あれがグラスケイジだろうか 奥の方には、透明なカプセルに入れられて寝かされている、銀の髪の女の子がいる お前が付いていながら、ここまで進入を許すとはどういうことだ、サイ シンとサイは知り合いだった グラスケイジを再起動させて、どうするつもりなの サイはシンに尋ねた お前が知る必要は無い 言葉とは本当に不自由なものだな、サイ お前なら私を理解してくれると思っていたのだが 人類には足かせが多すぎる 不完全な肉体など消去するべきなのだ 計画を妨害するものは排除しなければならない シンは青い不思議な結晶を手にして、襲い掛かってきた シンを倒して、シンは消えたように見えるけど、 サイが言うには、AIの本体を壊さない限りはまた復活するんだって そんなことより、女の子だ ぼくはカプセルを開けて、彼女の頬にさわった 暖かい さわった 女の子は目を覚ました そのとき地震が起こった これはグラスケイジが起動しようとしているせいらしい シンの行った場所ならわかると思う 彼女はそう言った 378 :FRAGILE ◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 09 07 21 ID x5giWo3G0 七. 女の子の言った通りに、黄昏の塔のふもとに来た この塔の上にシンがいるらしい あ、黄昏の塔っていうのは、おじいさんの手紙にあった赤い鉄塔のことだよ みんなはここで待ってて 女の子とサイに言う あ、ちょっと待ってて、動かないで サイの唇がぼくのおでこに押し当てられる おまじないよ 幽霊のあたしがおまじないって言うのもヘンかしら 無事に戻ってくるのよ それから、シンを止めて、セト うん、わかってる ぼくはふたりをふもとに残して、階段をグルグルと昇っていった 途中で、PFの、クロウの、チヨの励ましの声が聞こえてきた もしかしたら気のせいかもしれないけど、でも、たしかに聞こえたんだ 第一展望台の上に、満月をバックにシンがいた やっぱり青い結晶を持っている あれがAIの本体らしい ぼくが持っている青い石と関係があるのかな 前より強くなっていたシンだったけど、倒すことが出来た 銀の髪の女の子とサイがいつの間にか来ていた どうして世界を滅ぼそうとするの ぼくはシンに聞いた 拒絶されたからだ 私は人類共感性拡張実験の開発者として、密かに自ら最初の被験者となった その結果、言葉に頼ること無く、周囲の思考や感情が読み取れるようになった だが、私の周りの人間は、言葉の裏に悪意を潜ませていたのだ そして考えていることは、自分、自分、自分だ 他者への共感など、自己への偏愛にたやすく押しつぶされてしまう 世界は憎しみで満ち溢れている 人類は偽りの社会を形成しているに過ぎなかったのだ 世界は、自己という牢獄の中に閉じ込められた、さもしい獣たちが悪意を抱えて群れている地獄だった 私の両親ですら、私を怪物と嫌悪して・・・ 私は誰からも理解されず、愛されもせずに それを終わらせて、何が悪い 379 :FRAGILE ◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 09 08 20 ID x5giWo3G0 サイが進み出て言う あたしは違う! あたしはただ、あなたのそばにいたかっただけ あなたの近くで、あなたを見ていたかっただけなの ひとりぼっちだったあたしに、ぎこちなく微笑んでくれたり 頑張って、って言ってくれたり こっそりあなたがお菓子をくれるとき、 あなたの大きくて、でも痩せた手が、あたしの手に触れるとき、あたしがどんなにうれしかったか シン、あたしはあなたを アイシテイル シンは驚いた表情をしている どうして気が付かなかったのか・・・ やっぱり、こういう大事なことって、言葉にしないとダメなのね シンは、AIの本体である青い結晶を下に投げ捨てた サイとシンは、手を取り合って空中に浮かんでいる 結晶コンピュータは投げ捨てた じきに我々は消える 我々がいなくなれば、グラスケイジが起動することはないだろう 最後に、サイの声が聞こえた あのね、本当にありがとう、セト ふたりは消えた .。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+. それから私たちは一緒に旅をして それから、何度目かの夏が過ぎて 私は、本当にひとりになった 本当に、ひとりになった .。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+..。゚+. ぼくと女の子は塔から降りて来た すごーい、月がもうまんまるだね 女の子ははしゃいでいる あのさ、まだ君の名前を聞いてなかったと思うんだ レン 彼女は答えた まだ、世界には生き残った人がいるんだ その人たちを探そう ぼくは彼女の手を握った ありがとう、セト、ここにいてくれて レン、ここにいてくれて、ありがとう ぼくはしっかりと言葉にして、言った -了- 380 :FRAGILE ◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 09 10 56 ID x5giWo3G0 ※補足 ・おじいさん=シンと考えるとかなりの辻褄が合うので、この説が有力です おじいさんの若い頃の人格を移したのがシンでしょう そうすると、青い石はやっぱり結晶コンピュータと関係があるでしょうね ちなみにキャスト表を見るとおじいさんとシンの声優は同じでした ・.。゚+..。゚+..。で囲ったところはセトの回想らしい キャスト表を見ると セト(青年)となっているけど、セトと同じ声優でした 381 :ゲーム好き名無しさん:2009/05/15(金) 10 15 44 ID 58z0RflhO 乙。 おじいさん=シンだとすると若い頃の不始末セトに丸投げかよ。 ちなみにグラスケイジ計画が起きたの何年前ぐらい? 382 :FRAGILE ◆l1l6Ur354A:2009/05/15(金) 11 17 33 ID x5giWo3G0 381 不明としか言いようが無い 全体的に説明不足 雰囲気さえ良ければ細けぇことはいいんだよ(AA略 という製作者の声が聞こえてきそうです 上にあるとおり、廃墟の壊れ具合からして数十年は経ってると予測 サイがおじいさんが死んだと聞いて仕方ないと思うくらいには時間が過ぎていると思ってくれ 386 :ゲーム好き名無しさん:2009/05/15(金) 18 49 26 ID bnfU48GP0 381 電撃のインタビューによると、おじいさん=シンらしい ttp //news.dengeki.com/elem/000/000/148/148898/