約 1,324,878 件
https://w.atwiki.jp/under18gazo/pages/24.html
https://w.atwiki.jp/touhoukashi/pages/3466.html
【登録タグ 3L rythmique そ それじゃ、さよなら 曲 無何有の郷 ~ Deep Mountain】 【注意】 現在、このページはJavaScriptの利用が一時制限されています。この表示状態ではトラック情報が正しく表示されません。 この問題は、以下のいずれかが原因となっています。 ページがAMP表示となっている ウィキ内検索からページを表示している これを解決するには、こちらをクリックし、ページを通常表示にしてください。 /** General styling **/ @font-face { font-family Noto Sans JP ; font-display swap; font-style normal; font-weight 350; src url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/10/NotoSansCJKjp-DemiLight.woff2) format( woff2 ), url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/9/NotoSansCJKjp-DemiLight.woff) format( woff ), url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/8/NotoSansCJKjp-DemiLight.ttf) format( truetype ); } @font-face { font-family Noto Sans JP ; font-display swap; font-style normal; font-weight bold; src url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/13/NotoSansCJKjp-Medium.woff2) format( woff2 ), url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/12/NotoSansCJKjp-Medium.woff) format( woff ), url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2972/11/NotoSansCJKjp-Medium.ttf) format( truetype ); } rt { font-family Arial, Verdana, Helvetica, sans-serif; } /** Main table styling **/ #trackinfo, #lyrics { font-family Noto Sans JP , sans-serif; font-weight 350; } .track_number { font-family Rockwell; font-weight bold; } .track_number after { content . ; } #track_args, .amp_text { display none; } #trackinfo { position relative; float right; margin 0 0 1em 1em; padding 0.3em; width 320px; border-collapse separate; border-radius 5px; border-spacing 0; background-color #F9F9F9; font-size 90%; line-height 1.4em; } #trackinfo th { white-space nowrap; } #trackinfo th, #trackinfo td { border none !important; } #trackinfo thead th { background-color #D8D8D8; box-shadow 0 -3px #F9F9F9 inset; padding 4px 2.5em 7px; white-space normal; font-size 120%; text-align center; } .trackrow { background-color #F0F0F0; box-shadow 0 2px #F9F9F9 inset, 0 -2px #F9F9F9 inset; } #trackinfo td ul { margin 0; padding 0; list-style none; } #trackinfo li { line-height 16px; } #trackinfo li nth-of-type(n+2) { margin-top 6px; } #trackinfo dl { margin 0; } #trackinfo dt { font-size small; font-weight bold; } #trackinfo dd { margin-left 1.2em; } #trackinfo dd + dt { margin-top .5em; } #trackinfo_help { position absolute; top 3px; right 8px; font-size 80%; } /** Media styling **/ #trackinfo .media th { background-color #D8D8D8; padding 4px 0; font-size 95%; text-align center; } .media td { padding 0 2px; } .media iframe nth-of-type(n+2) { margin-top 0.3em; } .youtube + .nicovideo, .youtube + .soundcloud, .nicovideo + .soundcloud { margin-top 0.75em; } .media_section { display flex; align-items center; text-align center; } .media_section before, .media_section after { display block; flex-grow 1; content ; height 1px; } .media_section before { margin-right 0.5em; background linear-gradient(-90deg, #888, transparent); } .media_section after { margin-left 0.5em; background linear-gradient(90deg, #888, transparent); } .media_notice { color firebrick; font-size 77.5%; } /** Around track styling **/ .next-track { float right; } /** Infomation styling **/ #trackinfo .info_header th { padding .3em .5em; background-color #D8D8D8; font-size 95%; } #trackinfo .infomation_show_btn_wrapper { float right; font-size 12px; user-select none; } #trackinfo .infomation_show_btn { cursor pointer; } #trackinfo .info_content td { padding 0 0 0 5px; height 0; transition .3s; } #trackinfo .info_content ul { padding 0; margin 0; max-height 0; list-style initial; transition .3s; } #trackinfo .info_content li { opacity 0; visibility hidden; margin 0 0 0 1.5em; transition .3s, opacity .2s; } #trackinfo .info_content.infomation_show td { padding 5px; height 100%; } #trackinfo .info_content.infomation_show ul { padding 5px 0; max-height 50em; } #trackinfo .info_content.infomation_show li { opacity 1; visibility visible; } #trackinfo .info_content.infomation_show li nth-of-type(n+2) { margin-top 10px; } /** Lyrics styling **/ #lyrics { font-size 1.06em; line-height 1.6em; } .not_in_card, .inaudible { display inline; position relative; } .not_in_card { border-bottom dashed 1px #D0D0D0; } .tooltip { display flex; visibility hidden; position absolute; top -42.5px; left 0; width 275px; min-height 20px; max-height 100px; padding 10px; border-radius 5px; background-color #555; align-items center; color #FFF; font-size 85%; line-height 20px; text-align center; white-space nowrap; opacity 0; transition 0.7s; -webkit-user-select none; -moz-user-select none; -ms-user-select none; user-select none; } .inaudible .tooltip { top -68.5px; } span hover + .tooltip { visibility visible; top -47.5px; opacity 0.8; transition 0.3s; } .inaudible span hover + .tooltip { top -73.5px; } .not_in_card span.hide { top -42.5px; opacity 0; transition 0.7s; } .inaudible .img { display inline-block; width 3.45em; height 1.25em; margin-right 4px; margin-bottom -3.5px; margin-left 4px; background-image url(https //img.atwikiimg.com/www31.atwiki.jp/touhoukashi/attach/2971/7/Inaudible.png); background-size contain; background-repeat no-repeat; } .not_in_card after, .inaudible .img after { content ; visibility hidden; position absolute; top -8.5px; left 42.5%; border-width 5px; border-style solid; border-color #555 transparent transparent transparent; opacity 0; transition 0.7s; } .not_in_card hover after, .inaudible .img hover after { content ; visibility visible; top -13.5px; left 42.5%; opacity 0.8; transition 0.3s; } .not_in_card after { top -2.5px; left 50%; } .not_in_card hover after { top -7.5px; left 50%; } .not_in_card.hide after { visibility hidden; top -2.5px; opacity 0; transition 0.7s; } /** For mobile device styling **/ .uk-overflow-container { display inline; } #trackinfo.mobile { display table; float none; width 100%; margin auto; margin-bottom 1em; } #trackinfo.mobile th { text-transform none; } #trackinfo.mobile tbody tr not(.media) th { text-align left; background-color unset; } #trackinfo.mobile td { white-space normal; } document.addEventListener( DOMContentLoaded , function() { use strict ; const headers = { title アルバム別曲名 , album アルバム , circle サークル , vocal Vocal , lyric Lyric , chorus Chorus , narrator Narration , rap Rap , voice Voice , whistle Whistle (口笛) , translate Translation (翻訳) , arrange Arrange , artist Artist , bass Bass , cajon Cajon (カホン) , drum Drum , guitar Guitar , keyboard Keyboard , mc MC , mix Mix , piano Piano , sax Sax , strings Strings , synthesizer Synthesizer , trumpet Trumpet , violin Violin , original 原曲 , image_song イメージ曲 }; const rPagename = /(?=^|.*
https://w.atwiki.jp/odenfan/pages/529.html
第75話「さよならはダンスの後に」 【登録タグ】 ゲーム プレイ動画 無双 おでんの人の貂蝉軍 おでんレーダー電池切れ 多分ペヤングに釣られた 復讐鬼馬謖 シム無双 DJ-TONNY 陸遜の罠
https://w.atwiki.jp/hshorizonl/pages/468.html
← “ひかるちゃん…!” 脳裏に響く念話を聞いて。 キュアスター…星奈ひかるは申し訳ない気持ちになった。 あぁ、心配かけちゃったなぁ。 また泣かせちゃうなんて。 わたしはほんとにダメなサーヴァントだ。 もっと頑張らないと。 “えへへ…ごめんなさい、真乃さん。ちょっとドジしちゃいました” “ドジしちゃいました、じゃないよ…! 今すぐこっちに来て! そしたら皆で逃げることも――” “真乃さん。…ほんとにごめんなさい。それはできないんです” 星奈ひかるはちゃんと理解していた。 自分が背負う役割の重要さを。 自分が持ち場を離れれば、当然"彼"もそっちに向かってくることになる。 そうなったらいよいよもう取り返しがつかない。 真乃が令呪を使えば話は違うだろう。 令呪を使ってただ一言、自分を連れて逃げろとそう命じれば。 ひかるは真乃を連れてこの場を離れる。 そしたらもしかしたら…本当に低い確率ではあるけれど。 致命傷を負ったひかるが一命を取り留めることもあり得るかもしれない。 でも。 “…真乃さんは。それ、できないですもんね。 わたしは真乃さんがそんな人だからこそ、大好きになったんですから” 念話ではない、本当の心の声でひかるは独りごちる。 櫻木真乃にその選択はきっとできない。 にちか達や摩美々を、彼女達のサーヴァントを見捨てて逃げるなんて。 そんなことをできる筈がないのだ、あの優しい人が。 あんなに優しいアイドルが。 “わたしは…真乃さんと、真乃さんの大事な人たちのために最後まで戦いたいんです。心配かけてごめんなさい。でも、わかってほしいな” “っ――最後だなんて言わないで! 最後なんかじゃない、最後なんかじゃないよ、ぜったい…!” 拳と拳を交わし合いながら。 血を撒き散らし踊りながらひかるは小さく笑う。 そして思った。 ああそうだ。 これは最後なんかじゃない。 これを最後になんてしてやるもんか。 “…わかりました。わたしはちゃんと真乃さんのところに帰ります” わたしは真乃さんのサーヴァントで。 真乃さんを最後まで見届ける責任がある。 だから負けられない。 これは、最後なんかじゃないんだと。 そう自分に言い聞かせて――時間経過と共に少しずつ尽き始める自分の命運(リソース)から目を背けて。 “だから…応援してください真乃さん。そしたらわたし、どれだけだって戦えます!” “……なら!” 瞬間。 ひかるの消えかけの霊基に光が灯る。 熱が宿る。 戦いの最中だというのに思わず目を伏せてしまった。 しかしその迂闊を誰が責められるだろう。 いいや誰にも責めさせない。 ひかるにとってそれは、この世界の何よりも暖かくて眩しいエールだったから。 “令呪を以って、命ずる――勝って、帰ってきて。ひかるちゃん” “…はい。はい、はい……!” “令呪を以って――っ、重ねて、命ずる!” 片目を潰されて。 腹を不意討ちで貫かれて。 全身余す所なく痛くて苦しいのに。 なのにひかるはこう思わずにはいられなかった。 ああ、なんてわたしは幸せなのだろう。 こんなに優しくてあたたかいマスターに恵まれて。 ただでさえあんなに楽しくて素敵な、キラやばな人生を過ごせたのに。 わたしばっかり。 こんなにたくさんもらって、いいのかなぁ。 “勝って――帰ってきて。帰ってくるの、ひかるちゃん……!” …令呪二画で重ねがけされた命令。 それは精神論の領域を飛び越えて現実の利益となってひかるの霊基を満たす。 イマジネーションにすら依らない増幅。 覚醒――誰かが誰かのために流す涙と。 誰かを大切に思うこと、それを起爆剤に起こす奇跡の結実。 たとえこの世界に令呪というシステムがなくとも。 それでも星奈ひかるは、キュアスターは輝いただろう。 何故ならプリキュアは全ての人の味方で。 全ての人々の願いと応援を受けてこそ真に輝く戦士なのだから。 「はあぁあぁああああ――!」 「ッ…!」 あなたのサーヴァントでよかった。 あなたのサーヴァントでいたい。 この先もずっと、もっと! “馬鹿な…何故まだ動ける。何故この期に及んで強くなれる! 貴様の霊核は既に……現界を保てる状態ではないというのに!” 猗窩座の猛追を全て打ち払う。 力ずくで押し返して、キュアスターは吠えていた。 もしかしたらその姿はヒーローとして褒められたものではなかったかもしれない。 けれど今この時キュアスターは既にヒーローではなかった。 櫻木真乃という、この世界で出会ったお姉さん。 優しくて明るくて。 一緒にいるだけで心がぽわぽわしてくるあの人のために。 あの人と過ごす最後の思い出をどうか涙で終わらせないために。 あの人と、もっと一緒にいるために! それだけのためにキュアスターは今戦っていた。 生きるということ。 生き続けるということ。 生物の本能にも繋がる執着が引き起こす異次元のイマジネーションが令呪二画分の命令と共鳴して輝き猛る。 「破壊殺――鬼芯八重芯ッ!」 猗窩座、躍動。 両手を起点に繰り出す怒涛の拳連撃はキュアスターの矮躯など易々覆い隠す規模であったが。 「こんな…もの、っ!」 キュアスターはそれを力ずくで突破する。 そう、文字通りの力ずくでだ。 そこに小難しい理屈や術技は存在しない。 ありったけブーストされた拳の一撃で打ち払う。 そして拳撃の激流に逆らいながら猗窩座へ駆ける。 猗窩座はこの時初めて――その背筋に冷たいものを覚えた。 “何だ、これは…?” 一秒二秒と時間が経過する毎に目前の敵が進化していく。 次から次へと先の段階へ足を進めていく。 その度増していく輝きは。 彼女を打ち砕き進まんとする猗窩座という名の闇が見えなくなる程に眩い光であった。 「破壊殺――ぐ、がァッ…!?」 キュアスターの拳に触れた猗窩座の拳が砕けた。 それだけに留まらず彼の体が襤褸切れのように吹き飛ぶ。 受け身を取るなりやって来る"次"に猗窩座は逃げの一手を選ぶしかない。 今にも消えかけていた瀕死の相手を前にだ。 そんな消極的な手を打たねばならない程に、猗窩座は追い詰められていた。 “真乃さん…わたし、わたしっ……!” それは修羅には臨めない輝きだった。 彼らは何かを切り捨てることで前に進んでしまうから。 何かを大事に思うが故の。 誰かとずっと一緒に居たいが故の強さに辿り着けない。 あるいはそれこそが猗窩座とキュアスターの間にあった一番の違い。 それが此処に来て克明に浮き出てくる。 “わたし…まだあなたと――さよならしたくありません!” 何かを切り捨てる強さと何かを守る強さ。 自分さえも蔑ろにする強さと自分の幸せも視界に含めた強さ。 どちらが強いと一概に決め付けることはできないだろうが。 その二つが競い合った一つの結果は今こうして現出していた。 キュアスターの拳に光が灯る。 これまでで最大の輝きを放つそれは、まさしく星の光と呼ぶべきもので。 猗窩座は確信する。 これが最後の激突になると。 破壊殺・終式――最早口上など要らぬ。 出せる限り全ての力を尽くして猗窩座は舞った。 そして突き進む。 目前の光を消し去るため。 目前の星を落とすため。 花火の煌めきをその身に帯びながら押し迫る躯の霊基に。 “勝ちます! 帰ります! だから…だから!” キュアスターは只吠えた。 「わたしに力を貸してください――真乃さんッ!」 その輝きはまさに超新星(スーパーノヴァ)。 爆光とすら化した光で以って。 されど猗窩座を殺すと意気込むことは一切せず。 ただ勝つために。 ただ生きて帰るために。 …ただ、ずっと一緒にいるために。 彼女のサーヴァントであるために、キュアスターは輝いた。 そこに挑むは猗窩座、修羅。 顔は鉄面皮など保てない。 鬼気を浮かべた形相で迫る姿は鬼どころか鬼神の如し。 度を越した熱量に肉体が蒸発する感覚すら覚えながらも足は止めず。 光と闇、ヒーローと修羅の最後の激突が起こるその刹那に。 ◆ ◆ ◆ “令呪を以って重ねて命ずる――勝て、ランサー” 誰かの。 誰かの、声がして―― ◆ ◆ ◆ 次の瞬間――戦いは終わっていた。 猗窩座の総身は八割方が焼失。 残ったのは腕の肉を除けばほぼ全てが骨格という有様。 それでも彼の腕は。 土壇場にてキュアスターに捧げられたのと同画数の令呪の加護を得るに至ったその凶手は、確かに。 「…獲ったぞ、アーチャー」 アーチャー、キュアスターの胸を。 半壊状態にあったその霊核を確かに今一度。 類稀なる精度で以って貫いていた。 再生が始まり猗窩座は元の形を取り戻していく。 しかしキュアスターはいつになっても回復しない。 潰れた目も腹の大穴も、砕け散った霊核も。 どれ一つとして…、蘇ることはない。 「…これで終わりだ。貴様は敗れた」 「…、……」 「――目障りだ」 腕を抜けば。 キュアスターは崩れ落ちた。 いつしかその姿はキュアスターから星奈ひかるのそれへと戻り。 血の海に倒れ伏した彼女に、猗窩座は言う。 「戦士が泣くな」 「…っ。ぁ……。泣いて、なんか…ないです」 「…そうか。ならば……俺の見間違いだったか」 少女は泣いていた。 その目から滂沱の涙をぼろぼろと流して。 もう立ち上がるどころか指一本すら動かせない状態で。 猗窩座にも余力はもうほぼないが。 それでも彼女にとどめを刺すくらいはできる。 にも関わらず彼は踵を返した。 負けて泣く哀れな娘のことを謗ることすらしなかった。 「安心した。泣き味噌の小娘に敗れかけるようでは俺も立つ瀬がない」 猗窩座は確かに死にかけていた。 紙一重だった。 プロデューサーの令呪の援護があって、その御蔭で勝てたのは確かだ。 だがそれでも…それだけであの局面を確実に勝てていたかと言われれば答えは否になる。 勝算は良くて五分五分。 ともすればそれを下回っていた。 敗北し地に臥していたのは猗窩座だったかもしれない。 むしろその可能性の方が、高かった。 “――何をしている? 俺は。これが…これが、サーヴァントの在るべき姿だとでも言うのか?” 自分と互角に立ち回った娘に。 猗窩座は結果的に、ある種の敬意を示したことになるのだろう。 そのことをわずかに遅れて理解して、猗窩座は煩悶の中に放り込まれた。 もはや敗者を振り返るつもりなどない。 ないが。 今の言葉は、いや振り返らぬというその姿勢そのものが。 勝利を求める身にあるまじき贅肉ではないのかと。 そう自問せずにはいられなかった。 ああなぜ。 今此処であの男の顔が脳裏をよぎるのか。 町のごろつきでしかなかった盗人の己を叩きのめし、一から鍛え上げてくれたあの男(ひと)の顔が。 あの人ならば…どうしただろうか。 あぁ。 考えなくても分かる。 きっと――同じようにしただろう。 “…反吐が出る” それは不要だ。 それは要らない、今の己には。 そう分かっていても結果猗窩座は後ろを振り向けず。 修羅の鬼によるキュアスターとの戦いは…苦味の残る勝利という形で幕を下ろした。 そして敗者は。 ただ這い蹲っていた。 もはや指の一本も動かせない。 泣いてない。 泣いてなんかいません。 わたし、わたし。 そう強がっても瞳から流れるのは涙で。 体は嗚咽に合わせてわななくばかりで。 説得力など欠片もなくて。 “わたし…負けちゃったんだ……” 否応なくそう理解させられる。 分かってしまう。 立ち上がろうにも足が動かない。 這って追い縋ろうにも腕が動かない。 当たり前だ、もう体の中の何処もかしこも壊れている。 とどめとばかりに霊核を砕かれて。 キュアスターは、星奈ひかるは。 後はただ消えるのを待つだけのサーヴァントになりさらばえた。 “――ひかるちゃん! ひかるちゃんっ!” …わたしの名前を、よんでる。 真乃さんが、よんでる。 あぁ。やくそく、守れなかったな。 勝ってって言われたのに。 帰ってきてって言われたのに。 どっちも、守れなかったや。 “ごめん、なさい…真乃さん。わたし……真乃さんとの約束、守れませんでした” “…っ。うそ……だよね。嘘、だよね……!? ひかるちゃん……ひかるちゃんっ……!” 真乃さんが、ないてる。 わたしのせいだ。 真乃さんはアイドルなんだから。 わらってる顔が、一番かわいいのに。 “わたし…とっても。とっても、たのしかったです。 真乃さんと一緒にいられて、すごく。 まるでお姉さんができたみたいで、新鮮で。ずっとこんな時間が続けばいいのになぁ、って……” “続くよ…ずっと続くよっ……! わたしもひかるちゃんと一緒にいられてすごく楽しかった……! だから変なこと言わないで、まるで……まるでこれから居なくなっちゃうみたいなこと、言わないでっ……!” 真乃さんの声は聞いているだけで辛くなってくるような涙声で。 だからわたしも自然と、ただでさえ溢れていた涙の勢いが強くなってしまいます。 ――やだ。 ――やだ、やだよ。 さよならなんてしたくない。 わたしはまだ。 真乃さんのために何もできてない。 真乃さんのこと、何も知らない。 もっとたくさんおはなししたかったのに。 もっとたくさんいっしょにいたかったのに。 なのに。 これで終わりなんて、あんまりじゃないですか。 あんまりだよ。 だけど。 そう思うけど。 でも…自分の体のことは自分が一番よく分かっていて。 もう何をどうしたってわたしは"この先"には行けないんだって分かっていたから。 “真乃さん。どうか…どうか、幸せになってください” だからせめて。 心の声だけは気丈に。 真乃さんを悲しませてしまわないように。 あんなに優しくて素敵な人をこれ以上泣かせないように。 努めて明るく、お別れなんて平気みたいな声色にしようと。 “わたしは…真乃さんの隣から、いなくなっちゃいますけど。 真乃さんにはまだたくさんの味方がいます。その人たちと一緒に、幸せになって” “そんなの…そんなの……ずるいよ、ひかるちゃん。 ひかるちゃんは――私のサーヴァントなのに。 私に……サーヴァントのあなたを置いて、幸せになれなんて……っ” 頑張ってるんだから。 頑張ってるんですから、分かってくださいよ。 もう言わないで。 これ以上は我慢できなくなっちゃうから。 うぐ、えぐ…なんて情けない嗚咽を漏らして。 わたしはそれでも。 がんばって、お別れの言葉を紡いで。 “わたしは…真乃さんを悲しみや辛さから守ってあげることもできなくて。 おまけに、一足先にいなくなっちゃうようなダメなサーヴァントでしたけど” これが最後だから。 せめて意味のある言葉を残そうとがんばって。 “でも…真乃さんの人生は、こんなところじゃきっと終わらないはずですから。 生きて――生きてください。生きて、こんな狭い世界からは早く飛び出して……真乃さんのキラやばを見せてください。 その時わたしは、きっと真乃さんの隣にはいられないけれど。 真乃さんのサーヴァントでは、いられないけれど……きっと、必ず。世界の何処かから真乃さんのことを見てますから” “――やだ。…やだよ、そんなの……!” がんばって。 がんばって……。 “ひかるちゃんが…見届けてよ。 私が元の世界に帰るまで、最後まで……! そうじゃなきゃ、やだよ……私、私っ……!” がんばって、がんばって。 “ひかるちゃんと一緒じゃなきゃ、やだよぉ……!” ――あぁ。 もうやめてください。 そんなこと言わないで。 そんなこと言われたら。 あなたに、そんなこと言われたら。 わたしだって…。 わたしだって、我慢できなくなっちゃうじゃないですか。 “だいじょうぶ” やだ。 やですよ、嫌ですよ。 わたしだって、嫌ですよ。 真乃さんを置いていくなんて。 最後まで真乃さんのサーヴァントでいられないなんて。 “だいじょうぶです。真乃さんは、きっと” 最後まで真乃さんのサーヴァントでいたかった。 お姉さんみたいなあなたの隣にいたかった。 辛いこと、悲しいこと、全部いっしょに乗り越えて。 あなたが元の世界に帰る最後の最後までを見届けたかった。 “真乃さんは…わたしがいなくても幸せになれます。 だって真乃さんはとってもかわいくて、とっても綺麗で…とっても優しくて強い人ですから!” 行かないで。 行きたくない。 まだ、此処にいたい。 もっと此処にいたいです。 わたしだって。 わたしだって此処にいたい。 あなたと、いたい。 “だから――” ああでも。 それを口にしたらきっと。 それは、真乃さんへの呪いになってしまうから。 “だから、心配しないで! わたしのことは…あはは、忘れてほしくはないですけど。 真乃さんはこの先も、わたしの大好きな真乃さんのままで頑張ってください!” 言えない。 言えるわけなんてありません。 わたしは所詮サーヴァント。 一度死んだ人で。 生きている人間にはどうやったってなれないんだから。 “わたし――どこに居たって真乃さんのことを忘れません! ずっとずっと…応援してますから!” “…ひかる、ちゃん” わたしはプリキュアなんだから。 キュアスターなんだから。 誰かを泣かせるようじゃダメなんです。 わたしがいなくなった後も、真乃さんが前を向いて歩けるように。 いつかこの世界を後にして…真乃さん自身の人生に戻れるように。 “だから――さようなら、真乃さん! あなたは…わたしにとって、とってもキラやばな、最高のマスターさんでした!” せめて呪いだけは。 傷だけは残さないように旅立ちます。 …。 ……。 ………。 “ひかる…ちゃん。 ありがとう――今まで…本当に、ありがとうっ……!” …。 ……。 ………。 “私も…ひかるちゃんのこと、あなたのこと、絶対に忘れないよ。 この先何があっても、どんなことがあっても……ひかるちゃんと過ごした日々のこと、絶対に忘れたりなんかしない! だから…だから、っ……!” …。 ……。 ………。 “見てて――ひかるちゃん。わたしのこと、みんなのこと。ずっと、ずっと…!” ――なんで。 なんでわたしは、この人の隣にいられないんでしょう。 この人のことを置いていかなきゃいけないの。 もっと真乃さんといたいよ。 テレビを見たりお菓子を食べたり。 なんてことのない時間を一緒に過ごして、笑い合いたかった。 笑っていたかったよ。 “――はい。もちろんです! ずっと見てますから…わたしが!” だけど。 わたしがどれだけ願っても時間は来てしまう。 顔中涙と鼻水でぐちゃぐちゃで。 とても格好なんてつかないけれど。 それでも…真乃さんの前では最後まで格好つけられた。 何一つ呪いを残さず。 心を傷つけることなく。 プリキュアらしく、さよならできた。 真乃さん。 いっしょにいられたのは少しの間だけだったけど。 それでも…わたしのお姉さんみたいだったあなた。 どうかずっとあなたはそのままでいてください。 あなたはあなたのままで、誰もに愛されるアイドルになって。 わたしもきっと、何処かでそれを見てるから。 だからどうか。 生きて。 わたしがいなくなっても生きてください。 あなたがあなたの人生に戻って、あなたとして生きられることを。 わたしはずっとずっと…心の底から祈っています。 「――さよなら」 さよなら、真乃さん。 わたしの最高のマスターさん。 わたしの一番大好きな、アイドルさん。 わたしにとってあなたは。 初めて会った時からずっと。 これからも、ずっと…。 「あなたはずっと。最高にキラやばでしたよ――真乃さん」 【アーチャー(星奈ひかる)@スター☆トゥインクルプリキュア 消滅】 ◆ ◆ ◆ 空に。 太陽が浮かんでいた。 黒く昏い太陽には貌があって。 それは地に群れる衆生全てを等しく嘲弄していた。 悪意と憎悪に淀み狂った怨霊の魂が。 かつて都を転覆させんと詛呪の限りを尽くした悪霊左府が。 光の代わりに呪いと災いを降り注がせる闇の太陽としてそこにある。 「ふ、ふふふ、ふふはははははは、あはははははァ――」 一人呵々大笑するはアルターエゴ・リンボ。 リディクールキャットは地獄へ通ずる穴を常世に穿って愉快愉快と手を叩いている。 事実この戦場は既に八割方決着を迎えていた。 身も蓋もない理由。 彼らでは、リンボという脅威に対応できない。 捨て駒の式神相手ならばいざ知らず。 宝具の解放すら厭わない捕食者としてのリンボを相手に勝利を勝ち取るのは彼らには荷が重すぎた。 唯一の頼みの綱はこの中で最も戦闘に特化したスペックを有するアシュレイ・ホライゾンだが。 その彼がリンボへ加勢しようとすれば、彼の呪を受けたチェス兵達がそれを阻む。 「くそッ…!」 思わず苦渋の声が漏れた。 降り注ぐ呪いの嵐は致死的であり、事実溢れた呪詛に掠りでもすればマスターの少女達は死毒にも似た呪いに蝕まれるだろう。 にも関わらず未だそうなっていない理由は一つ。 リンボはこの圧倒的優位な状況を嗜虐の観点から愉しんでいる。 逃げ惑う姿を、絶望に青褪める姿を。 心底面白がっているからすぐには殺しにかかっていないというだけのことなのだ。 アシュレイの剣が裂帛の気合を載せ振り抜かれた。 チェス兵一体の魂魄を両断し、残骸も残さず燃やし尽くすが。 次の瞬間真横から振るわれた剣閃がアシュレイの胴に一直線の斬傷を刻んだ。 反撃を繰り出して押し返しながらアシュレイは歯噛みする。 “一番厄介な手を取られた。質の伴った物量での力押しは、こっちが最も避けたい事態だったんだ。 ――人の嫌がることを考えるのなら誰より得意ってワケか…!” ひかるの手を借りられればもっと楽だったのは間違いない。 だが果たして彼女でも、この水準の敵を四体も瞬殺できるかは怪しいだろう。 そして苦戦を強いられるアシュレイの耳朶を陰陽師の粘つく声が撫ぜた。 「おやおや残念。猶予は差し上げたつもりだったのですが…」 ぞわりと背筋を這う悪寒。 でかいのが来ると悟るや否やアシュレイの行動は速かった。 光との和解。 燃え盛る太陽の制御と調和。 界奏に至り烈奏を鎮めた彼が、その死後にようやく成し遂げられた偉業。 光も闇も受け止める灰色に辿り着いた男が示す優しい答え。 癒やしの炎により肉体の負傷を即座に回復させつつ、寄せ来る呪いに備えるべく劫炎の津波を生じさせたが。 「残念、時間切れでございます! ――急々如律令ォ!」 「がッ――!」 永久機関化された炎はしかし決して突出をしない。 暴走もせずそれによる自傷も起こらない只人の炎。 故にこそ火力上限を超えた制圧攻撃に対する免疫は格段に落ちた。 その欠点を示すようにリンボの呪詛は暗黒の魔力という形で彼へ降り注ぎ。 放っていた攻防一体の火炎流を蒸発させながら、アシュレイの総身を押し潰して地面に這わせた。 「便利な力ですなァ芥虫のように死ににくい! 力を込め押し潰しても拙僧としては一向に構いませんが…丁度いい!」 反撃しようにも立ち上がれない。 炎を発動体から絶え間なく生じさせているが片っ端から掻き消される。 仮ににちかが令呪を使ってアシュレイの能力値を底上げしたとしても、果たして彼我の差を埋められるかどうか。 それ程までの出力差の前に地へ押し潰され続けるのを余儀なくされるアシュレイ。 リンボの言う通り、身動きは取れずとも生命活動だけは星辰光の性質のおかげで続行できていたが。 「そこで黙って見ていなさい。 貴方の使い道はそれから考えますのでね」 損傷と再生を繰り返すアシュレイを前に悠然と踵を返したリンボ。 その眼は彼に比べて格段に戦闘能力で悖るアイドル達と、それを守るメロウリンク・ウィリアムの二人へ向けられていた。 そしてそれに呼応するように空の太陽がぎょろりと瞳を動かす。 次に呪い殺すべき獲物達を。 滅ぼすべき都の民達を。 「ン、ン、ンンンン――というわけでお待たせ致しました役立たずの皆様方」 嬲るような眼差しだった。 リンボも、そして太陽も。 「現実とは斯くも無情なもの。 罠を張り巡らせ策を張り巡らせ! 持たざる者なりに小癪に裏を掻こうと尽力していたのに、こうして白日の下に引っ立てられてしまうとは」 そして視線の先の彼らはどうしようもない程に詰んでいる。 機甲猟兵メロウリンクが得意とする戦場が此処に今更生まれてくれる余地はなく。 犯罪卿ウィリアムの策謀も交渉術もリンボという名の圧倒的暴力の前には何の意味も持たない。 アイドルの少女達は論外だ。 令呪を駆使したとしても…そもそもからして英霊としての霊格が低い彼らが果たして命令通りに逃げ切れるかどうか。 何しろ彼らが相対しているのは美しき肉食獣。 弱者を追い詰め、甚振り、弱りに弱った所を喰らい貪ることを生業とした生き物なのだから。 「あちらの彼はやたらと死ににくく、ついつい拙僧芥虫などと謗ってしまいましたが…」 弧を描く口から鋭利な牙が覗いた。 「その点あなた方はそれにも劣る。無力で惨めで何にもならない…蠢くばかりの蛆虫のようですな?」 もはや一方的に虐殺するだけで事は足りる。 勝利を確信するが故にリンボの舌もよく回る。 光り輝く少女達と、それを尊いと思ったサーヴァント達を虫になぞらえ嗤う獣に。 「…じゃあ。さしずめあなたは、誰にも評価されない"害虫"ですか」 声の震えを押し殺しながら言葉を吐きかけた少女が、一人。 声の主は、田中摩美々というアイドルだった。 悪い子を自称し笑った彼女が今目の前にしているのは正真正銘本物の悪。 誰かを踏みつけ痛めつけ、大切なものを奪われた人の悲しみや憤りを肴に笑う邪悪。 「リンボさんでしたっけー。あなた…なんていうか、可哀想なヒト――なんですね」 「ははは。愛らしいですなァ。大切なご同輩を侮辱されて腸でも煮やしましたかな」 「たまにいるんですよー、アイドルやってるとー…」 二人のにちかの視線が摩美々へ向かう。 何を言ってるんですか。 余計怒らせてどうするんですか。 言葉には出さなかったが、口に出されたら摩美々も文句の一つも言い返せなかっただろう。 「新曲が好きじゃなかったーとか。SNSで返信してもらえなかったとか。 流石に私はそこまではなかったですケドー、握手会でやらかして出入り禁止にされて逆恨みで…とか。 そういうほんのちょっとした理由でファンからアンチに変わっちゃう人って多いんです」 彼女のサーヴァントであるウィリアムもそうだった。 だが彼は敢えて何も言わなかった。 何も言えなかった、に近いかもしれない。 合理的に考えればどう考えても得策とは思えない行為なのにも関わらず。 「リンボさんってー。そういう人たちに、すっごい似てますよ」 「…ほう?」 「人の嫌がることばかりして。人の悪口ばっかり思い付いて。 でもー…自分がどういう人なのかってことは誰にも伝えようとしない。 一人で歪んで腐って、その結果みんなに煙たがられて嫌われてしまう。 そういう人って……私みたいな駆け出しでも覚えがあるくらい、現代にはいっぱいいるんですよー」 摩美々は決してリンボに同情しているわけではない。 そんなわけがない。 そこには怒りがあって嫌悪がある。 したり顔で戦場に現れて。 恥も外聞もなく全てを横取りしていくような男に対し、優しい心を持てる程田中摩美々という少女は"いい子"ではなかった。 「拙い言葉ですねェ。詰まるところ何を仰りたいので?」 「…リンボさんってー」 震えは今も止まっていない。 恐怖が心を焦がし削る。 絶望の二文字を極力見ないようにしているだけだ。 でも。 「つまんない人なんですね。私の知ってるサーヴァントさん達とはー、大違いです」 「――ンン」 それ以上に腹が立っていた。 だから言わずにはいられなかった。 そして摩美々の紡いだ勇気ある言葉は。 勝者を気取り嘲笑うアルターエゴ・リンボの本質の一端を確かに射抜いていた。 「耳を貸すまでもありませんでしたな。どのような愉快な遺言を吐いてくれるものかと拙僧密かに期待していたのですが」 「…じゃあ"愉快"ではなかったんですねー。摩美々さんの言ったことって」 顔を不織布マスクで半分覆った方のにちかが、何を思ったか追い打ちをかけた。 摩美々が驚いたように彼女を見る。 にちかはそれに対して困ったように笑ってみせた。 「全く以って下らない。苦し紛れの戯言を唱えている暇があるなら、いっそ令呪に頼って逃走でも図っていれば良かったものを…」 アルターエゴ・リンボ。 真名を蘆屋道満。 彼はまさに田中摩美々が言うように、誰かの存在を苦にして魔道に堕ちた存在であった。 通常の法師を基準で考えれば十二分に天才であるとの評価を下されていた道満を。 遥かに置き去り燦然と輝く才能があった。 蘆屋道満があらゆる努力を費やしても届き得なかった。 その肩に手をかけることすら叶わなかった神才。 リンボの誕生のプロセスにおいて彼の存在は欠かすことのできないもので。 だからこそ摩美々は彼を言い負かしたと言える。 悪魔のように嗤う美しき獣の奥底にある真実を、たとえ一部なれど彼女は確かに射止めてのけたのだから。 「お喋りはもう良いでしょう。では現実を見せて差し上げる」 しかし、しかし。 口ではこの男は止められない。 横溢する魔力/呪力。 破滅的な一撃が数秒と経たない内にやってくると分かったからこそ、犯罪卿ウィリアム・ジェームズ・モリアーティは即座に行動していた。 “我々に勝率はない。七草にちかのアーチャーの存在を勘定に含めても、アルターエゴ・リンボを討ち斃すには遠すぎる” 頼みの綱はアシュレイ・ホライゾン。 そして彼方の地で奮戦する星奈ひかるだった。 しかし前者はリンボによって無力化されている。 残るはひかるのみ。 だが彼女も…時間を増す毎に気配と魔力反応が弱まっていた。 櫻木真乃の様子を見るに彼女も彼女で死力を尽くしてくれているようだが――果たして間に合うか。 “出し惜しみをしていられる状況ではない” ウィリアムは懐から取り出した少量の紙片を口に含んだ。 その名は地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)。 この地で手に入れた、ウィリアムをして驚く程の効能を持った合成麻薬だった。 通常のサーヴァントが服用してもきっと意味はないだろう。 しかしウィリアムはこの界聖杯に集められたサーヴァント達の中でも最も非力であり…最も人間に近い。 だからこそ。 英霊でありながらその薬効の効き目に与ることができた。 これより数時間の間は、ウィリアム・ジェームズ・モリアーティは超人の領域に爪先だけでも踏み込むことができる。 “もしも万一。星奈ひかるが敗れ去り、あの修羅のランサーがリンボに加勢するような事態になれば…” とはいえそれは事態の好転を意味しない。 クーポンを服用(キメ)たウィリアムでも、リンボには間違いなく敵わない。 希望はもはやひかるだけだ。 彼女が猗窩座に敗れたならその時点で…283プロダクションに起因する主従の連合軍の完全敗北は確定する。 “…私は。マスターに……彼女に、最悪の決断を迫らなければならないだろう” 己一人で何処まで逃げられるかは分からない。 しかし残りのマスターやサーヴァントを囮に使えるならば話は変わる。 犯罪卿ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ。 彼はマスターとその縁者がこの界聖杯を脱せることを最善としそのために尽力していたが。 それでも――彼の中には確かな優先順位が存在していて。 もしもこれまでの現状が"維持できる"という大前提が崩れたなら、その時は。 己がマスターのために悪に徹することさえも辞さない構えでいた。 そうならないことを祈りつつ。 クーポン服用の証拠に目元へ独特の紋様を浮かび上がらせたウィリアム。 そんな彼の行動や内心など無問題とばかりに――アルターエゴ・リンボは嗤っていた。 「では。第一打と行きましょう」 その言葉と共に。 世界が揺れた、揺らいだ。 リンボの行動は実に単純。 撒き散らす呪詛の太源たる太陽から呪力を引き出し適当に叩きつけただけ。 しかしそれだけで。 水面に大岩を叩き込んで波紋が生まれるように、莫大なまでの呪いの波が生まれ。 それはまともな戦う術を持たない少女達とそのサーヴァントに容赦なく襲いかかった。 抵抗の余地などあろう筈もない。 ライフル弾を打つ? 手持ちの爆薬を使う? 策を弄してこの状況からでも生き延びられる手を探る? 無駄だ。 全て無駄だ。 そして更に。 呪詛の炸裂が起こる一瞬前。 此方の物事になどまるで意識を割けない程もう片方の戦争に意識を集中させていた少女が…櫻木真乃が。 「ぁ――」 アーチャー、星奈ひかるのマスターが。 「ぁ…あ、ああぁあぁあああああ……!!」 慟哭の声をあげて。 それを以って全ての希望は潰えた。 星は潰え境界線は地に堕し。 光(おまえ)の出番は二度とない。 嘲笑う獣の第一打が放たれ。 忌まわしき波濤が、地を覆った。 ◆ ◆ ◆ 「おや」 第一打、吹き荒れて。 悪なるリンボは驚いたように目を開いた。 「おやおや、おやおやおや…存外にしぶといですね? あるいは悪運が強いと言うべきか。兎も角、ンン――」 彼の一撃で命を落とした者は結論から述べるといなかった。 アーチャー、メロウリンクのマスターである方の七草にちかは。 己のサーヴァントに庇われながら地を転がることでどうにか押し寄せる呪いの波の安全圏に入ることができた。 そして田中摩美々ともう一人の七草にちかはウィリアム・ジェームズ・モリアーティが助けた。 神算めいた目算で安全圏を割り出し、そこに転がり込む形で二人を押し込んだ。 損傷は大きかったが地獄への回数券の効力ですぐさま再生する。 そんな彼も失意の櫻木真乃にまで手を伸ばす余裕はなかったが。 彼女は――何の幸運か。 最初から、疎らに押し寄せる呪詛の波の安全圏に座っていた。 だから地を転がり意識を失う程度で済んだ。 傷一つ許されないアイドルの体は細かな擦傷と土埃で塗れていたが…それでも命が残っているだけで僥倖だろう。 果たして彼女が無事で済んだのはもうこの界聖杯に存在しない"星"のおかげなのか。 そこの所は定かでなかったが…しかし。 事態は依然として、何も好転などしていない。 少なくとも二度目はないとこの場の全員が確信していた。 「もはや令呪を扱える者すら少なくなりましたなァ…」 サーヴァントを失った櫻木真乃とウィリアムのマスターである田中摩美々は意識を手放していた。 今や意識があるマスターは二人の七草にちかのみ。 彼女達が今此処で令呪を駆使し…よしんば逃亡が上手く行ったとしても。 それでも最低限櫻木真乃と田中摩美々の二人は見捨てることを余儀なくされる。 「さて、さて。頭を捻り策を捏ね回すしか能のない蜘蛛めは良いとして」 リンボの目が向いたのは――機甲猟兵。 メロウリンク=アリティーの方であった。 「不思議なお方だ。 敢えて安全圏を用意したのはひとえに拙僧の諧謔ですが…貴方はマスターを守りたいが余り、自らの身を呪詛の氾濫の中へ置かねばならなかった筈」 「…ならどうした。勲章でも贈ってくれるのか?」 「いえ? ただ…興味を惹かれたものですから」 ザッ、ザッ…と。 リンボは彼の方に足を進め。 「少々試してみたくなった次第」 そのまま手を翳した。 それだけで確殺の準備は整う。 神秘の残る時代の都を転覆させんと燃え盛った怨霊。 それだけに留まらず、異なる邦の二柱の神をも取り込んだ陰陽師。 その霊基及び行使できる権能の桁――土臭く泥臭い猟兵なぞとは比べ物にもならない。 「貴方はどうやら類稀なる星の元に生まれておられるらしい。 特異点とまでは行かずとも。その近似値になれる程度の素養はありましょう」 「…随分と多弁なものだ」 メロウリンク・アリティーは生きていた。 あの呪いの波状攻撃の中、形振り構わない挺身を強いられながら。 それでも全身に大小様々な擦過傷を負うのみで済んでいた。 浴びた呪詛の総量も極めて小さい。 異能じみた生存力。 特異点の近似値。 ああ、ならば? 「あぁ、あぁ、あぁ! では、では? この拙僧めが全霊で貴方という個の滅殺に注力したならば、どうなるのでしょうねェ――?」 リンボの択は正解であった。 彼は近似値。 人より多少死ににくい。 コンマ1%程度の可能性ならばモノにできる。 だが、だが。 所詮は近似値。 本家本元の異能生存体には程遠く。 この距離そしてこの状況で、圧倒的な出力差のあるサーヴァントを前にして。 それが他でもない自分個人を狙い澄まして放つという先述の確率を遥か下回る"死"を前にして奇跡を掴み取れる程――万能ではない。 「興味深い。早速試してみるとします」 リンボの魔手が伸びる。 メロウリンクの判断は速かった。 “俺に此奴と継戦できるスペックはない。此奴の攻撃を耐えられるとも思えない” ――即ち。 継戦でも耐久でもなく応戦。 対ATライフルに備え付けられた最大武装。 ATの硬い装甲すら紙のように引き裂く機甲猟兵の牙…パイルバンカー。 それを以ってリンボを撃ち抜き滅殺することを、彼は選んだのだ。 “…マスター。今から賭けに出る。令呪を使って援護を頼みたい” “わ…分かりましたけど。大丈夫なんですよね……勝算、あるんですよね?” “ある。少なくともゼロではない筈だ” 令呪一画を載せた一撃であれば。 慢心しきっているリンボの虚を突き終わらせられる可能性もある。 苦し紛れの希望的観測ではない。 メロウリンクは大真面目に、その勝利へと続くか細い糸口を見据えていた。 “ただそれで無理だった時は即座にもう一画を切ってくれ。 令呪の効力があるとはいえこの身で何処まで無理が効くか分からないが…可能な限りの人員を連れて離脱する” 七草にちか一人だけならば成功率も高いのだろうが。 摩美々や失意の真乃、そしてもう一人の自分を置いて逃げ馬に乗ることを彼女は良しとしない…できないだろう。 賭けに次ぐ賭けにはなる。 それでも元より絶体絶命の断崖絶壁。 無抵抗で殺されるよりは遥かに良い筈だとメロウリンクは信じていた。 “…不甲斐ないサーヴァントですまないな” “謝んないでくださいよ…こんな時に。誰のおかげで私達が今生きてられると思ってるんですか。 もうひとりの私のライダーさんに、摩美々さんとこのアサシンさんも確かに頑張ってくれましたけど。 それでも……その。アーチャーさんだって、いっぱい仕事してたじゃないですか” “……ふ” “なっ! なんで笑うんですかー! 今の真面目な所なんですけどー!?” “いや、すまない。笑うつもりはなかったんだが…ついな” 丁度良かった。 肩が心なしか軽くなった気がする。 良い援護を貰えたとメロウリンクはそう独りごちながら。 瞬時に――機甲猟兵メロウリンクの顔に戻る。 敵はATに非ず。戦車にも歩兵にも非ず。 敵は悪のアルターエゴ。 ATを遥か置き去る破壊力と未知の危険性を多分に含んだ害悪存在。 勝率、コンマ1%の果てしない下方。 しかしゼロではない。 ゼロではないのなら。 “令呪を以って命じます…アレ、ぶっ殺しちゃって! アーチャーさん!” 機甲猟兵は戦える。 弱者の牙、パイルバンカー。 照準――アルターエゴ・リンボへ。 「ふはははははなんと無様! そしてなんと不格好な鼠か! 今、今! このリンボめが貴様の運命を試してくれる!」 リンボの手が印を結ぶ。 そして高らかに叫ばんとした。 「死ねェ――何ッ!?」 そこでメロウリンクは発射した。 パイルバンカーを。 令呪一画で強化されたそれは初速から音に届く。 言葉はない。 勝利への確信など存在しないからだ。 無言のメロウリンクと動揺のリンボ。 パイルバンカーの穂先は反応の追い付かないリンボの顔面に迫り――そして。 爆ぜた。 メロウリンクの牙はアルターエゴ・リンボに届いた。 黒い灰のようになり崩れていくリンボの像。 しかしそれを見た瞬間。 今尚リンボの呪詛との耐久戦に束縛されているアシュレイと彼女のマスターたる七草にちかが同時に叫んだ。 「ダメだ――アーチャー!」 「まだですッ、そいつまだ死んでない!」 彼らがそれに気付けた理由。 それは昨日の夕方に彼らがリンボを一度退けていたことにある。 あの時もアルターエゴ・リンボは灰のように崩れ去った。 しかしどうだ。 リンボは悠々と生きており、跳梁跋扈し続けている。 式神――。 陰陽師の十八番であり、在り方を工夫すれば偽りの生活続命にも通ずる法術。 「 ン ン 」 声はメロウリンク達の背後からした。 空間からまろび出るアルターエゴ・リンボ。 いつ入れ替わった。 その疑問をようやく浮かべられたのはこの段階。 そして目前で起こったことに思考が追い付いたにちかは一画減った顔面の令呪にすぐさま意識を集中させる。 「あ…アーチャーさん! 令呪を以って……!」 だが。 「遅い」 既にその時、リンボは行動を終えていた。 その手から迸る呪わしき魔力。 咄嗟にライフルを向け直そうとするメロウリンクだが間に合わない。 そしてそれは、令呪の行使においてもだ。 にちかが命令を口にし終える前に、問題なくリンボはメロウリンクを抹殺できる。 完全なる詰み。 確定する死。 犯罪卿ウィリアムが増強された肉体性能に飽かして仕込み杖を投擲していたが、それも遅きに失した。 “…何か無いか。手は――” 降り注ぐ死を前に近似値はそれでもと思考する。 最後の一瞬まで考え続けた。 しかし無情。 さしもの彼もこの苦境では活路の一つも見出だせず。 死は堕ちた。 命が散った。 死臭と噎せ返るような呪詛の中で一つの命が壊れる。 …きっと。 「七草にちか」はこの時起こったことを忘れられないだろう。 全ての希望が潰えていた。 そこには何もなくて、ただ絶望だけがあって。 嘲笑う陰陽師の手から放たれた闇が機甲猟兵を貫かんと迫っていた。 令呪行使は間に合わない。 メロウリンクの反撃もやはり間に合わない。 そんな中で、全ての時間が遅滞する錯覚をにちかは覚えた。 …一ヶ月。 それは日常ならば短いが、非日常であればあまりに長い時間だ。 それだけの時間を七草にちかはメロウリンク=アリティと共に過ごしてきた。 朝起きてご飯を食べて他愛ない話をして夜が来て。 たまにはナーバスになって八つ当たりしちゃって、それでもメロウリンクは変わらず自分のサーヴァントで居てくれて。 本戦が始まれば危ない所は助けてくれて。 最初は随分と陰気臭い人を喚んでしまったと思ったものだったけど。 それでもいつの間にか。 メロウリンクはにちかにとって、唯一無二の存在になっていた。 家族を失ったばかりのにちか。 翼のないまま現実を生きることを選んだにちか。 孤独で虚ろな少女(ヴァニティーガール)の隣にふらりと現れたメロウリンクの存在は。 彼女にとってかけがえのない、少なくとも代えは利かない"パートナー"になっていた。 誰だとて人間、孤独なままじゃ生きられない。 肉体的にも社会的にもそうだし。 何より心が耐えられない。 ましてや多感な時期の少女であるなら尚のこと、そう。 別に色恋じゃなくたって。 その手の感情じゃなくたって…誰かを大切に思うということに貴賤はなくて。 もう何もかもが取り返しのつかない時になって初めて七草にちかは気付いた。 あぁ。私は――この寡黙なクセして変な所で可愛げのある猟兵のことが、思いの外好きだったらしいと。 だから。 「…アーチャーさん!」 「――にちかッ!?」 “…うわ” その時。 “何やってんだろ…私” 体が勝手に動いていた。 ◆ ◆ ◆ →
https://w.atwiki.jp/niconicokaraokedb/pages/769.html
さよならのかわりに、花束を/yusuke さよならのかわりにはなたはを【登録タグ:VOCALOID yusuke 初音ミク 曲 曲さ 曲さよ 花束P】 曲情報 作詞:花束P 作曲:花束P 編曲:yusuke 唄:初音ミク ジャンル・作品:VOCALOID カラオケ動画情報 オフボーカルワイプあり 関連曲 さよならのかわりに、花束を コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4362.html
涼宮ハルヒが泣いていた。 まっすぐ前を見つめてさびしそうに泣いていた。 ______4月19日 卒業式 おかしい。卒業式が普通に行われている。去年の朝比奈さんの卒業式では、いや朝比奈さんが出るはずだった卒業式には朝比奈さんはでれてない。ハルヒの情報改変能力のおかげ、いやせいで、朝比奈さんの成績が三学期になって急に悪くなったのだ。朝比奈さんはそれがハルヒの力だとわかるまでわけがわからず部室にも来ないで必死に勉強していた。だがハルヒのだと知ってからは「規定事項だからしょうがないですねぇ」なんて、笑顔でやけにあっさり諦めた。おかげで、いやせいで朝比奈さんは留年。ちなみに鶴屋さんは無事卒業した。ハルヒなりの遠慮のあらわれなのか?ハルヒは笑みをこらえるようなつくり悲しみ顔で「そう。・・・それは残念だったわね。でも、よかったじゃないみくるちゃん!これでもう1年SOS団でいられるわ!」「ふえぇ・・あ、はい!」 なんだか本当にうれしそうに見えたのが記憶に残っている。 それから早1年。俺達の卒業式ってわけだ。朝比奈さんは「ふえぇっ」とか「ひぐっ」とか嗚咽をもらしながら大泣きしていた。驚く事に古泉も整った顔立ちを台無しにして泣いていた。そしてもっと驚く事に長門の黒い目の下あたりが濡れていた。おい、長門それは汗か?俺には涙に見えるぞ。長門は入学当初から比べるとホントに変わった。蟻の成長ぐらいの変化なのだが俺には分かる。いつか本当に普通の人間になれる日も遠くないのかもな。長門、俺はこころからそれを望んでいるぞ。 そして俺はハルヒを見た。どうせ偉そうな顔をしてふんぞりかえってるんだろう。そう思った。 涼宮ハルヒが泣いていた。 まっすぐ前を見つめてさみしそうに泣いていた。 俺は呆然とした。俺はハルヒの前の列にいるのだが後ろを向いたまま呆然としていた。どれくらいそうしていただろうか。谷口が俺のわき腹をこずく。「何にみとれてんだ。馬鹿野郎。卒業式ぐらいシャキッとしろ。」あぁ、谷口まで泣いているのか。「うるせえな。いいから前向け」谷口はハルヒの涙にきずいてないようだ。ハルヒよ、それではまるで普通の女子高生みたいじゃないか。 卒業式が終わり俺達は今、部室にいる。部室の片付けをしなければならなかったのだ。自然とみんな無言だった。 長門によるとハルヒは昨日、情報改変能力を失ったらしい。同時に時間断層もなくなり、閉鎖空間の出現もなくなった。急なことだった。これで朝比奈さんは未来に帰る事になり、古泉のアルバイトもなくなった。長門はどうなるんだろう?まさか消えたりしないよな。ハルヒには朝比奈さんは海外に引越しすると説明したが、ハルヒは最後の最後まで絶対にゆるそうとしなかった。今も許してない。ハルヒと俺と古泉はそれぞれ違う大学だ。ハルヒは最後まで俺と古泉をを自分の志望校に入れようとした。古泉はまだしも俺が無理だとわかったら今度は自分と古泉がが俺の志望する大学に行くと言った。 まったく古泉の意見も聞かずに。まあ、イエスマン古泉は必ずいいえなどと答えないだろうが。おれは自分のために2人が志望校を落とすなんてことはして欲しくなかった。俺が真剣に説得すると。ハルヒは意外とあっさり了承した。古泉も「あなたがそういうならしょうがないですね」とそれぞれ別の学校に行く事になった。寂しいがしょうがない 俺はコンピ研から強奪したパソコンをコンピ研の部室に返すために持ち上げた。軽い。そういえば最新機種だったなコレ。今はどうか知らんが。俺の目の前にパソコンを強奪してきた遠い日の思い出がフラッシュバックしてきた。あれからもう3年か。なんだか熱いものかこみあげてきそうになった。まずい、ココで泣いたりしたらハルヒになんと言われるか。俺は必死にのんきな顔のシャミセンをイメージして涙をこらえる。 長門はハルヒに命じられてスツールに収納された朝比奈さんコスチュームを片付けていた。本棚を崩壊させんばかりに溜まっていた本は1ヶ月ぐらいまえから少しずつ長門が持って帰っていて、自分のやる仕事は片付いていたためだ。長門は朝比奈さんのいわば正装であるメイド服を持ち上げて自分にあてて鏡を見ている。長門、お前着たかったのか?長門は俺が見ているのに気がつくと首を振って見せた。否定してるのか。顔がこころなしか赤くなってるぞ。長門はメイド服をみくるちゃんと書かれたダンボールに入れた。 朝比奈さんは給湯道具一式を大事そうにダンボールにつめていた。俺が見ているのに気がつくと、微笑んでくれた。ああ、朝比奈さんのお茶も飲めなくなるな。また体のどっかから熱いものがこみ上げてくる。この野郎っ。俺はシャミセンがケツを掻いてる姿を思い浮かべ必死に涙をこらえた。 古泉はオセロ、碁、チェス、野球版、TRPGなどのボードゲームを自分の名前がかかれたダンボールにしまっていた。俺が見ているのに気がつくといつものニヤケ顔を見せてくれた。ほお、俺はこいつのニヤケ顔にまで未練があるとはな。いざ見られなくなると思うと寂しい。おっとシャミセン、シャミセン。 ハルヒは窓の外をずっと眺めていた。団員に仕事させてなにしてやがる、といつもなら言いたい所だがハルヒの涙を見た後じゃ気が引ける。よくみるとハルヒは団長と記された三角錐を両手でつかんでいた。おまけに目を閉じていたからその姿は何かを願うような姿に見えた。「何見てんのよ。はやく働きなさい」ハルヒはしかめっ面でそういうと、三角錐を自分の名前が書かれたダンボールのなかに大事そうに入れた。ハルヒのダンボールの中は物は少なかった。団長と記された腕章、三角錐、そして写真。写真にはみんなの笑顔がうつっていた。なんだ俺も笑顔じゃないか。なんだかんだいって楽しかったもんな。3年間。思えばハルヒのおかげだ。 「ありがとな。ハルヒ」 「なによ。いきなり」 「SOS団なんてわけのわからん団体に無理やり巻き込んでくれてありがとな、っていったんだ」 「・・・・・」 「お前のおかげで3年間楽しかったぞ」 ふときずくとみんなハルヒを見ていた。 「私も感謝している。」 「涼宮さんいままでありがとうございましたぁ」 「最初はびっくりしましたが、僕も楽しかったですよ。SOS団でのことはかけがえのない思い出になりました。これも涼宮さん、あなたのおかげですよ。」 最後の最後までかっこつけやがって。俺ももっとセリフを考えればよかったなどと考えてると、ハルヒが急に声をあげて泣き出した。 「うぇーん、えぐっ」 おい、ハルヒ? 「イヤだよぉ!もっとみんなと一緒にいたいよぉ。今までありがとうなんていわないでよ!」 ハルヒ・・・・。 俺は正直ハルヒにかけてやる言葉が見つからなかった。でも、残念だがハルヒの観察が終わった二人、長門と朝比奈さんはここにいることはできない。 「ハルヒ、俺の話を聞いてくれ。長門と朝比奈さんとは理由があってもう会えないだろう。俺も必死で抵抗した。そんなの嫌だからな。でも、どうしても無理だそうだ。」 数時間前 卒業式終了後――― 「長門!あっ、朝比奈さんも来てください。古泉お前もだ。」 俺たちは階段の踊り場・・そう、よくハルヒに連れてかれた階段の踊り場で集まった。 「順番に聞こう」 「まず長門だ。お前はこれからどうなる?」 「私は涼宮ハルヒの観察のために存在することが許されていた。その必要がなくなった今、私の存在意義はなくなった」 「それは違うぞ!長門・・・お前は、ハルヒの観察だけのために俺たちと一緒にいたのか?」 「それは違う。わたしは涼宮ハルヒの能力の有無に関係なく、”ここにいたい”と望んでいる。」 ”ここにいたい”その言葉がなによりも嬉しかった。 「しかし、情報統合思念体はそれを許さなかった。 涼宮ハルヒ以外にも、つまり地球以外にも観察対照はある。私はその観察任務に配属される」 「嫌だ!そんなことは俺がゆるさねえぞ。長門の意思を聞いた以上俺がなんとかして・・」 「不可能。人間個人が情報統合思念体に対立することはつまりその人間の抹消を意味する。わたしはあなたに消えて欲しくはない」 俺はあれほど悩まされたハルヒの情報改変能力が惜しいと思った。 ちくしょう。俺にはなにもできないのか・・・。 散々長門に俺が守るだの言っておいて・・・。 「あなたに一つ言いたい事がある。」 「・・・何だ」 「ありがとう。これは情報統合思念体関係なく、私個人の気持ち」 俺は涙をこらえることで精一杯だった。 「キョン君・・・」 「あのう・・・わ、わたしもこの時間に留まることはできません。わ、わたしも未来に何度も申請しました。でも、無理みたいです。わたしも別の任務にあたることになりました・・・。ひぐっホントはずっと、ずっとここに居たいんですけど、無理なんです。もうすぐ強制帰還指令コードが来ます、ひぐっあたしもっとみんなと・・・ひぐっ」 「朝比奈さん・・・もうわかりました。俺も赤ん坊じゃないんです。無理な事とそうではないことの区別はつきます」 「キョン君・・・ありがとう・・・」 「古泉、お前はどうなんだ」 「僕は超能力が失われました。そして機関も今日で解散です。でも、僕はもともとこの世界、時間にいた者ですから今までどおりここにいます。これからもあなたと涼宮さんとは仲良くして頂くつもりですよ」 「そうか・・・それはよかった・・・本当に」 俺は泣きそうだった。てっきり古泉ももといた場所に、つまり引っ越す前の場所に帰るもんだと思っていたからだ。さてハルヒにどう説明すればいいんだ・・。 ―――――― 「嫌だ!あたしは誰も離れていってほしくない!」 「ハルヒ・・・」 「嫌って言ったら嫌なんだからね!」 「ハルヒ、思えばいろんなことがあったよな」 「・・・・なによ。こんな時に」 「SOS団での活動は今日でお終いだ。だがな、俺たちの頭にはSOS団での活動が思い出となって、頭にのこるんだ。二度と忘れないような事いっぱいあったろ?それでいいじゃないか」 俺は嘘をついていた。それでいいわけない 「思い出は永遠だ。消えることなんてない」 「・・・・なによ。似合わないこといっちゃって。あんたうそついてるでしょ。」 「嘘なんかついてないさ」 「じゃあその涙はなによ!」 俺は泣いていた。そりゃそうだ。大変な事がいろいろあったが俺は正直楽しかったんだ。 「嫌だ!あたしは絶対に嫌だからね!あたしは・・・あたしは・・・・・・・」 「SOS団が大好きなんだから!」 なにか大きな力が溢れ出すような感覚を覚えた。 「涼宮ハルヒの情報改変能力が復活した」 「えっ?本当か?!」 「本当」 長門がうれしそうにしている。 今度は朝比奈さんが泣き出した。 「うぇーん!えぐっ、また時間断層が・・えぐっ・・発生しましたぁ・・えぐっ。あたしもっとここにいられます!本当によかったぁ」 「閉鎖空間が発生しました。しばらくまた忙しい日々が続きそうです。」古泉はやれやれと肩をすくめてみせた。嬉しそうじゃねぇか。 「えっ?みんな何いってんの?」 ハルヒは泣き顔でわけのわからない顔をしている。 「ハルヒ!俺たちはもっと一緒にいられるぞ!まだまだSOS団はこれからだ!」 「えっ?!ホント?・・・やったぁ!!!」 ハルヒは飛びあがって俺にアッパーを食らわせた。 「やっぱりこうなるとおもってたわ。そうよSOS団は永遠よ!」 「本当に良かったなぁ・・ハルヒ」 「わぁキョン君が泣いてるぅ」 「おやおや、めずらしいですね」 「何?キョン泣いてんの?!あははおっかしい!」 長門によると、ハルヒがこころからなにがどうなってもSOS団が続いて欲しいと願った事から、ハルヒの情報改変能力が復活したらしい。そのあとは大変だった。大学がつぶれるやら、合併するやらでみんな同じ大学に行く事になったのだ。 まあなんとハルヒ様にはかないません。 ハルヒは大喜びし、もちろん俺も大喜びした。 そして入学式――――― 桜が舞う中入学式びよりだった。 そんななか当然のように俺の後ろの席にいるハルヒは自己紹介でいうのだった。 「北高出身 涼宮ハルヒ」 まえとまったくおなじだ。いやひとつ違うハルヒは笑顔だった。そして俺も 「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたらあたしのところに来なさい。以上!」 その後の俺の生活が充実したものになるだろうということは誰でも予想できるだろう。さて、まずは学校に提出する書類を書かなきゃな。やれやれ 「キョン!SOS団発進よ!!」 ――――― 完
https://w.atwiki.jp/vocaloidchly/pages/2978.html
作詞:びにゅP 作曲:びにゅP 編曲:びにゅP 歌:初音ミク 翻譯:cyataku 永別之歌 原來喜歡的心情已是那麼深 我都不知道 我都不知道啊 沒什麼啊 你只是做出了選擇 做出選擇了呢 無論和你的距離有多遙遠 我都無法忘記你 可你正在與我不同的道路上 愈行愈遠了呢 雖然當時沒能對你說出再見 但我們 究竟還能不能再見呢 我會擠出我全部的笑容 一直一直等著你的 原來離別的心情會是這麼苦 我都不知道 我都不知道啊 “假如”之類的 如今已不會再想 雖然不會再想 即便時光荏苒流年匆匆 你始終在我心中 現在只是想將這點 再告訴你一次而已啦 不得不和你說再見了呢 可是啊 我們真的再也不會見了嗎 如果可能的話好想說著“歡迎回來” 然後再次和你…… 原來喜歡的心情已是那麼深 我都不知道 我都不知道啊 原來離別的心情會是這麼苦 我都不知道 我都不知道啊 我知道的啊 你已經不會再回來了 可是我依然會等下去 一直一直等著你 是啊 得向你說才行 向你說那句再見 向你說那句再見 我會一直等著你 向你說出“再見”
https://w.atwiki.jp/nyaruko/pages/186.html
さよならニャル子さん ドラえもんだったり栄光の七人ライダーだったりよくあるパターン。 アニメ第2話のタイトルとまる被りな様に見えるが、ひらがなのうを抜いて一応は違いをつけている。 『さよなら、ぺとぺとさん』(木村航/ファミ通文庫)のようでもあるが、こちらは読点がついているので違うかも まだ慌てるような時間では(75p14行目) 『SLUM DUNK』より。湘北×陵南戦で押され気味の陵南の選手に、チームのゲームメーカー仙道彰が言った一言。AAでも有名。 ヾヽ' '', / 時 .あ ま ヽ ヾゝ { | 間 .わ だ | ヽ r----―‐; | | じ て | ィ f_、 、_,..,ヽrリ .| ゃ る | L|` "' ' " ´bノ | な よ | ', 、,.. ,イ ヽ い う / _ト, ‐; - / トr-、_ \ な / , __. ィイ´ | | ヽ-- '. 〃 `i,r-- 、_  ̄ ̄ 〃/ '" ! ! | | 、 . . 〃 i // ` ヽヾ / / | | ヾ,、` ´// ヽ ! ! '、` ! | | // ヾ==' ' i i' | | ', | ... // l / __ , | | .. | とニとヾ_-‐' ∨ i l ' l | 天 ヾ,-、_ .ヽ と二ヽ` ヽ、_ { ! l l ! |' 夂__ -'_,ド ヽ、_}-、_ ヽ ハメドる(75p16行目) ゲーム「ファイナルファンタジータクティクス」に登場するアビリティ やられる前にやるの言葉通り、攻撃されそうになったら逆に攻撃仕返して相手の攻撃もつぶしてしまう。元ネタの元ネタは元WBC・IBF・WBO世界フェザー級王者のナジーム・ハメド。 大事な事だから、わたし二回言ったよ?(76p4行目) ネットのよくある言いまわし「大事なことなので二度言いました」。 元ネタは小林製薬「タフデント」のCMにおけるみのもんたのセリフ、 「大事なことなので二度言いましたよ」が有力である。みのもんたのCMが元ネタです、みのもんたが元ネタです。大事なことなのでニ回言いましたよ! 言葉でなく心で理解してくれたらしい。(76p13行目) ジョジョ第五部にて、「相手を殺れる状況にあるならば、腕を飛ばされようが脚をもがれようとも決してスタンドは解除するな」という言葉を自ら行動で示す プロシュート兄貴ィの覚悟を目の当たりにして、脱マンモーニを果たしたペッシのセリフ。「兄貴の覚悟が!「言葉」でなく「心」で理解できた!」 それは紛れもなく、奴だ(81p6行目) 『スペースコブラ』OPから。「孤独な Silhouette 動き出せば それは紛れもなく 奴さ」コ~ブラ~♪ 未知の素材(Xレア)(83P8行目) TCG「バトルスピリッツ」における最高位のレアリティ。 タイアップアニメが戦隊、ライダーと同じくニチアサキッズタイムに放送されていた。 「当たらなければどうという事はないって人も」(83P8行目) 「機動戦士ガンダム」のシャア・アズナブルの台詞。 モンハンも防具は装備しなくてもプレイヤーの腕次第で討伐は可能。当たれば死ぬが。 特に最近の新種なんて異次元判定が多いから(83P10行目) モンハンをプレイしたことがある人には「ガノトトス」と言えばおわかりいただけるだろうか? そう、グラフィック的にまったく当たっていないのにダメージを食らうアレである。 ぱふぱふ(84P13行目) 「ドラゴンボール」並びに「ドラゴンクエスト」シリーズで登場する胸で顔を挟む行為。 胸で挟む……胸で挟むが……女性の胸でとは言っていない……! ドラクエで性風俗の恐ろしさを学んだ少年は多いはず。 二体合体で~合体事故で知性のないスライムにでもなってくれないだろうか。(84P15行目) 「女神転生」シリーズのお約束システム悪魔合体のこと。悪魔を合成することでより強い悪魔を生み出せる。 合体事故は文字通り合体に失敗することで、スライムとは限らないが大抵弱い悪魔が産まれてしまう。 八坂家、大地に立つ。(90P8行目) 「機動戦士ガンダム」第1話「ガンダム大地に立つ」から コンサバフォーム(90P11行目) 作者の別作品「深山さんちのベルテイン」に登場するメイドロボ・ベルさんの形態のひとつで、セルフパロディ。 「ホットドリンク、もう一本あげようか?」(91p6行目) 「モンスターハンター」シリーズに登場するアイテム「ホットドリンク」。飲むと一定時間寒さによるスタミナ消費が緩和される。 「このクサレ脳味噌固形燃料が!」(91p11行目) 敢えてクサレとカタカナ表記なのを見るに、ジョジョ第5部のパンナコッタ・フーゴの印象的な台詞か。あちらは「脳みそ」と後半ひらがなだが。連載及びコミック版では「ド低能がァ――ッ」だったが、文庫版収録時に差別用語に当たりかねないとして「クサレ脳みそがァ――ッ」に修正された。 もっと酷い言い回しになっている気がしないでもない。 なおコミック版も第38刷から修正されているが、荒木先生はこの手の修正を非常に嫌っている。この修正も苦渋の選択だったそうな。 千回迷える城(92p5行目) ローグクローンの一つである「トルネコの大冒険 不思議のダンジョン」。入るたびにダンジョンがランダム生成されるRPGで、キャッチコピーは「1000回遊べるRPG」。 「ネゴシエーターがいれば交渉能力で修理費用0にできますけど」(92p8行目) 「スーパーロボット大戦Z」シリーズに参戦する「THEビッグオー」の主人公、ロジャー・スミスの持つ特殊技能より。ステージクリア時に彼が生存していれば、味方が撃墜されていても修理費用が全額0になる。 ちなみに原作でのロジャーの交渉成功率は…。成功率は60%程度だが、交渉相手がベックやらシュバルツバルトやらアレックスのような邪神連中みたいなやつばかりだからショータイムしても仕方がない。 「涙拭けよ」(93P12行目) 掲示板でID真っ赤にしてるやつによく使われるお決まり文句。 そこら辺の壁を砕いて欠片を~アクセサリに加工して母親にあげたら喜ぶだろうか。(94p2~4行目) 滅多な事は考えない方が良い。異界の鉱物をアクセサリにして身に付けることが、どのような変異をヒトの心身にもたらすかを、 とある大学の教授がその身を以って証明している。名をロバート・ゴドラムと言ってな…。 時系列的に言えば、この後のことになる…ユゴス星で作られた「かのアーティファクト」を、 「真尋さん専用アクセサリなんですから肌身離さず装備しててください」と言われるのは。 どうあがいても絶望だ。(95p4行目) ホラーゲーム「SIREN」のキャッチコピー「どうあがいても、絶望」。 HPLシステム(96p14行目) 「機動戦士ガンダムAGE」に登場するAGEシステムから。直前の蕃神鍛冶と言う単語も、同作品の登場するMS鍛冶という単語から。 HPLの部分は、もちろんハワード・フィリップス・ラヴクラフトの頭文字から。 システムが一晩でやってくれましたぞ(97p5行目) 「DEATH NOTE」第2部のN(ニア)の台詞「ジェバンニが一晩でやってくれました」。Nの部下であるステファン・ジェバンニが「たった一晩で、人名が大量に書いてあるノートを筆跡までまねて正確に複製して、これまでどんな探りもかわしてきた主人公・夜神月を完璧に誤魔化してすり替えることに成功した」というご都合主義荒技をこなしてしまった。これにより月は正義の私刑者「キラ」としての活動に致命傷を負い、追い詰められる事に。 転じて「短時間で、ありえないほど素晴らしいものをつくる」という意味のネットスラングとなる。さすがにここまでのレベルのは無いが。 「常に世の中を動かしてきたのは、一握りの天才なのですよ」(97p8行目) 「機動戦士Zガンダム」に出てくるシロッコのセリフ「常に世の中を動かしてきたのは一握りの天才だ!」から。ノーデンスの中の人はシロッコと同じ。真尋が妙な説得力を感じたのはそのため。 RX-0二号機『バンシン』(98P16行目) 「機動戦士ガンダムUC」4話から登場した、ユニコーンガンダム2号機バンシィの事かと。(機体番号がRX-0) 『闇に群れる邪神達を一撃の光で痺れるほど豪快にゲットイットダウン』(99P1行目) 「海賊戦隊ゴーカイジャー」の「パイレーツ・ガールズ」より。「闇に群れる邪悪たちを 一撃の光で ホラしびれるでしょ ゴーカイにGet it down」 「~まるで意味がわからんぞ」(99p2行目) 遊戯王5D sより、ハラルドの迂遠すぎる説明に上官から一言。 「フレーム材質は…セプタ銀を使ってるんですか!」(99p4行目) 「スーパーロボット大戦ORIGINAL GENERATION」のラスボス「セプタギン」から。セプタギンは機動兵器の名前であって、材質の名前ではない。 「しかも従来は~フルセプタ銀フレーム機」(99p5~6行目) こちらは「機動戦士ガンダムUC」におけるバンシィ(および1号機のユニコーンガンダム)の設定と「逆襲のシャア」で初登場したサイコフレーム。「逆襲のシャア」の時点ではコクピット周りに使われていたが、ユニコーンやバンシィは全身のフレーム全てがサイコフレームで構成されたフルサイコフレーム機と呼ばれる。 「戦場に飛び交う思惟に~」もサイコフレームの特徴。 唱える度に効果がランダムの呪文(99P11行目) 「ドラゴンクエスト」シリーズに登場する呪文、パルプンテ。完全なランダムではなく、決められた効果の中からランダムで1つ発動する。敵全体を消滅させたり味方のHPを満タンにしたりする一方、敵味方全員が混乱したりはたまた何も起こらなかったりと博打の要素が強い。 ノーデンスが取りだしたのは~アナログスティックが二つ生えている。(100P6~8行目) どう見ても PS Vita です、本当にありがとうございました。ただしVitaはLRボタンが一つずつ。 普通にPS2のコントローラー、DUAL SHOCK2でしょう。 脚部が鳥類のように逆関節をしていたり、頭部といえる部分がドーム状になっていたり、腕部の先端が銃口になっていたり(100p17~101p1行目) 『フロントミッション(1995年/スクウェア)』にて、ボディ・左右アーム・レッグのパーツを全て、ドミトーリ公社製「テラーン」に統一してセットアップすると、 中々にそれっぽいシルエットのヴァンツァーが出来上がるのだがどうか。あくまで一例として。 スリー。そのコントローターから~ワン。「起動!」(101P9~14行目) 描写がかなり「仮面ライダーフォーゼ」っぽい。サンダーバードじゃないかな。 「……旧型はわたしだけが使えるテクニックで溶かし尽くしたけれど」(104P10行目) 「THE IDOLM@STER」の曲「エージェント夜を往く」の歌詞から。「貴方だけが使えるテクニックで 溶かしつくして」 計画通り(106P13行目) 「DEATH NOTE」で主人公・夜神月がLをたばかってノートと記憶を取り戻した時のセリフ。ジャンプ主人公史上最も邪悪な笑顔だった。 「二人とも~性能テストはこうあるべき」(107p10~12行目) 「新機動戦記ガンダムW Endless Waltz」から、ガンダムで出撃するときのカトル、デュオ、トロワの会話。カトル「お二人とも、準備はいいですか」 デュオ「おう、いつでも良いぜ!」 トロワ「やはりオペレーション・メテオはこうあるべきだ」 極太のシャフトのような両腕が~ものすごい速度で閉じられた。(108p6~8行目) 『刃牙』シリーズで範馬勇次郎が見せる、サンドイッチビンタのシークェンス。 「マニュアル通りにやっていますというのは、アホの言うことですよ!」(110p10行目) 「∀ガンダム」49話にて、ギム・ギンガナムのセリフ。 『デリ、デリートスル』(111p4行目) 相手を消すことを「デリートする」というのならいろいろ元ネタ候補がありそうだが、ここではおそらくPSのRPG「スターオーシャン セカンドストーリー」のラスボス・ガブリエルの戦闘開始時のボイス。本来「デリートする」なのだがよくボイスがダブって「デリートデリートする」とか「デリデリートする」と聞こえる。 「だいたいあってるんじゃないかな……」(111P8行目) 2巻の炎の転校生(だいたいあってる)を参照。 「~半端にうろうろするなら何もせずにじっと見てなさいよ! ~」(111P9~10行目) 「仮面ライダー電王」の挿入歌、『Action-ZERO』の歌詞から。 「ドリル状に火炎を放射して貫通力を~」(111p14行目) 「機動戦士ガンダムAGE」に登場する武器、ドッズライフルの仕組み。 『ビームライフルで撃ち抜けないからビームラリアットで叩き壊そう』(111P17行目) 「機動戦士ガンダムAGE」の超展開のこと。 論理・非論理認識型(113p10行目) 『ガンダム・センチネル』に登場する人工知能「ALICE」が元ネタ。Advanced Logistic In-consequence Cognizing Equipment = 発展型論理・非論理認識装置 論理では説明できない感情をパイロットから学習することで戦闘状況を自律的に判断するというもの。 ニャルラトホテプ19811003(113p13行目) 19811003は作者逢空万太の誕生日(1981年10月3日) もし、これがニャル子の生年がっ(名状しがたい冒涜的手段で筆者は抹消されました) 『マヒロサンアイシテマス~マヒロアイシ』(114p12~14行目) 「MOTHER2 ギーグの逆襲」のラスボス、ギーグのセリフからか。ギーグはとある形態から、人格の破たんしたイっちゃってる台詞ばかりを吐きだすようになる。特に主人公の名前をメッセージウインドウ全面に連呼する台詞はみんなのトラウマとして語り草となっている(気になる人は「ネスサン」で検索)。 これより前にある蕃神のセリフも、これを意識していると思われる。 クラエ、コノアイ(115p10行目) 『ハートキャッチプリキュア!』最終話「みんなの心をひとつに! 私は最強のプリキュア!!」より。 最終形態「ハートキャッチプリキュア・無限シルエット」に進化したキュアブロッサム達が、ラスボス・砂漠王デューンに最後の一撃を放った際の前口上。「くらえ、この愛…プリキュア・こぶしパ――――ンチ!!!」 技名と声だけ聞くと何とも勇ましい・・・が、実際にやった事は「ぺちん、と軽く小突いた」・・・だけ。 ともあれ、無限の愛に憎しみは浄化され、デューンは満たされた笑みを浮かべて消えて逝った。 そして砂漠化されていた地球は元に戻り、奪われた「こころの花」を大幹部に仕立て上げられていた人々も目を覚ました。…のはいいのだが、 そこに至るまでに払わされた犠牲は決して少なくなく、しかもそれが約一名にのみ集中し、あまつさえ何の救済もフォローも無かった、というのが、ファンの心に釈然としないものを残した。 絶対に許さない。絶対にだ。(116p6行目) ブボボ(`;ω;´)モワッ
https://w.atwiki.jp/nocry/pages/432.html
商業都市トルグは賑やかな町だった。 町の周囲をぐるりと石壁で囲われており、出入りは東西南北に開かれた大拱門(アーチ)だ。警備のための歩哨が門の両脇に立っていて、旅行中を示す通行許可証をロワジィが見せると、簡単に中に通された。 くぐるとそこはまっすぐに伸びた大通りがある。 簡易の露店ではなく、建物に併設された商店が軒を並べており、張りだされた看板やら、市内の案内板やらに目を奪われる。 市内のすべての道路は石畳で舗装されている。重い荷を積んだ荷車が通行するためである。 往来も多い。目につくのはやはり荷を山と積んだ馬車が大半だった。トルグには商工組合所(ギルド)がいくつも置かれている。その組合所に運び入れ、運び出す荷物だ。 その馬たちの引き綱、車の取っ手、括り付けられた荷を覆う布、ありとあらゆるところに色が氾濫していて、それが春の日差しを反射して目に飛び込み、立ちくらみを催す。 文字通り、田舎から出て来たおのぼり一行であったので、とりあえず手近の食堂に入った。行先も定まらぬままきょろきょろしていては、先を急ぐ車に轢かれてしまいそうだったからだ。 露店とは違い、石造りの壁一枚、大通りと隔てられた食堂の空間は、それだけで少し静かで落ち着けるものだった。 腰を下ろし、飲み物をたのむと、はあ、と三者三様ため息が漏れた。 「人、多いねぇ」 大通りを臨む窓を眺め、テーブルに頬杖をついたテオ少年が言った。 「そうね、多いわね」 「俺、途中の町でも多いなあって思ったけど、ここはそれ以上だね」 やっぱり組合所があるからなのかな。少年は指を折り数える。木工でしょ、革細工でしょ、製粉でしょ、俺の行く羊毛のところと、あと仕立て。 「なんかさあ、俺、羊毛持ってくるたびすごい不思議になるんだよね」 「なにが、」 ぼやく口調にロワジィは相づちを打ってやる。 「うーん。うまく言えるか判んないんだけどさ、普段、俺が上着を仕立てようとしたら、自分とこで飼ってる羊の毛を刈って、それを梳いて、糸に紡いで、染め粉で色付けて、機織って、それから型とって縫うだろ。俺、町に初めて来るまで、服ってそういうもんだと思ってたんだよね。……でもさ、町だとさ、俺が組合所の倉庫に羊毛運び込むだろ。それを梳く人間は別にいて、紡ぐのも別で、染めるのも工場(こうば)があってさ。俺の知らないところでいつの間にか服になって、しかも俺の知らない人間がその服着るわけでしょ」 「そうね」 「しかもここの町の店だけじゃなくてさ、下手すると別の町で、その俺の持ってきた羊毛を使って作った上着が売られたり、着てたりするじゃん」 「そうね」 「俺がぜーんぜん知らないところで、俺の持ってきた羊毛が使われてるっていうのが、なんか、考えたら当たり前なのかもしれないけど、すごい不思議なんだよね。叔父さんにそれ言ったら笑われて、坊主それがリュウツウだ、って言われたんだけどさぁ」 自給自足の村の暮らしと、流通することで経済が成り立っている町では、そもそも生活の基盤がまるで違う。少年もそれは理解している。理解している上で不思議と言っているのだ。 「でもさあ、そういうの考えると、なんか、元気?でるよね」 「元気……、」 「うん。俺は知らないけど、どこかで、俺が刈った羊毛の上着着た顔も知らない誰かがいるんだなって思うとさ、なんか、嬉しくなるんだよね」 「――」 「新しい上着とか、絶対嬉しいじゃん。新しいの買って、いやな気分になるヤツなんていないだろ」 「テオは、」 運ばれてきたエールに口をつけながら、ロワジィはしみじみと呟いた。 「テオはきっといい羊飼いになるわね」 「そうかな。……俺、学校も行ってねぇし、羊追うくらいしか特技ないけど」 「なる」 言いながら彼女は向かいにぐったりと伏しているギィへ目をやった。つられて少年も男へ目をやる。 「ギィ~~」 つんつんと少年が男の肩口をつつくと、男がうううう、と低く唸ってこたえる。 言葉を発する気力はないようだった。 「……ねぇロワジィ、ギィ、大丈夫?」 「大丈夫でしょ、別にどこか悪いわけじゃないんだし」 往来のあまりのせわしなさに目が回ったらしい。風景として流せばよかったところを、ひとつひとつまじまじと眺めて酔ったのだ。 心配そうに目をやる少年に肩をすくめてロワジィはこたえ、それから手にしたエールをぐいと飲み干した。 「ほら。ここに酔い覚ましのお茶頼んでおいたから、飲めるようなら飲んでね」 「うう」 「立てるようになったら、先に宿に向かっててちょうだい。あたしはテオととりあえず羊毛納品してくるから」 「うう」 「宿を決めたら、帳場に一声かけておいてね。後から行ったあたしたちに判るように」 「うう」 「外に出たら、なるべく、足元見てあるくといいかもしれないわね」 「……わかった」 唸りながらそれでも男が了承の意を示したので、テオに目配せをし立ち上がる。何度か振り返る少年をうながして彼女は店を出た。 木工組合の扉の前に立ち、看板を眺める。荷車と手斧が彫りこまれたぶ厚い一枚板のそれは、雨ざらしで色もくすんで黒光りし、まるで真鍮メッキされているようだ。 ここに来るまでに羊毛組合にも寄ってきた。少年が驢馬(ろば)に乗せて運んできた羊毛を卸し、それからまだ時間があったので、ついでに木工のほうにも足を延ばしたのだ。 男も連れてくる予定だった。だが人酔いしたのなら仕方がない。 看板を眺めながら、さてここからどうしたものかと上唇に指を当てた。 組合はある。門番が立っているわけでもないから、事務所にも簡単に出入りできる。 だが、そこでトルグの木工工場への働き口を紹介してもらうとなると、話は別だ。 組合からすれば、ギィは素性のしれない人間である。 そうして当たり前の話だが、素性のしれない人間に、おいそれと働き口は紹介してもらえない。 トルグに来るのはロワジィも初めてだった。だからツテは辿れない。できるとすれば、コネをどうにか作ることだったけれど、 「で」 なるべく見ないようにしていた看板の下あたりに、可能な限りの固く冷えた声で、ロワジィはしぶしぶ声をかける。 意地でも目は合わせなかった。 「なんで早々にあんたがいんの」 「――うわぁなにその氷のような声。なに?嬉しくない?俺に会えて嬉しくない?」 モグラ男がいる。 「嬉しくない」 本心だった。 やだわぁ、傷つくわぁ、言いながら小男イーヴがにやにや笑いながら近づいてくる。 「ロワジィ、」 小さく呟いて少年が彼女に一歩近づき、見上げてきた。宿に顔を出し言付けしたのだから面識はあるのだろうが、いまひとつ男のひととなりを把握していないので不安に思ったのだろう。 「大丈夫、おかしな真似したら、すぐ圧してやるから」 うすく微笑んで少年に答える。 「なんだよー。折角あんたにいいネタ仕入れてやったのになー。俺に会えて嬉しくないんだー、そうなんだー」 「なにその棒読み。……なんでわざわざここ来てんのよ。曰くつきのナイフは回収したんでしょ。さっさと依頼主に報告行きなさいよ」 「行ったし。もう行ったし。それに、ここ張ってたら、あんたに会えると思ったから」 「なんで会おうとしてんの。あんたとの繋がりはもう終わったでしょう」 眉をひそめてようやく小男に視線を合わせる。 睨んでやった。 えーだって、だとか可愛い子ぶっている中年男が地味に気持ち悪い。可愛くない。まったく可愛くない。 「俺、あんたのこと、反吐が出るほど嫌いなのね」 その上、頭がおかしい発言を、真面目な顔でくり出してくる。 ……ああそうか、春の陽気っていろいろ中てられるって言うし、そういうのかな。内心呟いた。 嫌いならば近づかなければいい。生きていれば一度や二度、徹底的に馬の合わない人間と出会ってしまうというのも、時にはある。 馬が合わない、それはもう仕様のないことだ。努力してどうにかなるものでもないし、結局大人としての対処法は「お互い近づかない」、これに尽きる。 それをわざわざ接触をかけてくると言うのが判らない。利害関係が一致した先だっての捕り物騒ぎはまだ仕方がなかったと割りきれるが、それで切れた縁だろうに、こうしてまたつなげてくる意義がさっぱり理解できない。 「偶然ね、あたしも大嫌いだわ」 「あいつをここに置いて行くんだろ」 その上短い言葉でロワジィの胸をえぐってくる。不意打ちに一瞬言葉を失った。 「……あんたには関係ない、」 「お別れの際には、涙、涙の、手拭いなしには見られない光景が展開されるわけでしょ。言動がいちいちムカついて、ものすごく泣かせたかったヤツの泣き顔を、苦労しないでも見れるわけで、見ない手はないっていうか」 「悪趣味」 聞いてロワジィは顔を歪めた。本当にこの男に関しては良識を疑う。 「ねぇねぇ、」 控えめに少年が上着の裾を引いた。うん、応えて彼女が目をやると、俺、知ってるよ。訳知り顔で耳打ちする。 「これ、あれだよね、気になる子にちょっかいだして嫌われるってやつだよね」 「はあ?」 少年の言葉に、耳打ちが聞こえていたらしい小男が瞬時に反応を示した。 「ロワジィが心配だから、様子を見に来たってことだよね」 「違ぇし!」 ものすごい勢いで小男が否定する。ふーん、あ、っそう。上から見下ろしながらロワジィは意地悪くにやにやと笑ってやった。優位に立てる状況は可能な限り立つべきだ。 「なんだ。ただの貧相なオッサンだと思ってたけど、可愛いところもあるじゃない」 「あのなあいいかこの際はっきりと言っとくがな俺が好きなのは十から十五くらいの天使ちゃんたちであってこんな薹がたって頭に花が咲いている年増女なんてこっちからお呼びでないわけそれに三十路なんてもうがさがさの苔の生した岸壁みたいなもんで俺の天使ちゃんたちの瑞々しくてすべらかしい膚に比べるべくもないっていうか」 「ごめん、普通に気持ち悪い」 こぶしを握って熱く語られて、ロワジィと少年はどん引いた。 娼館にはさまざまな事情で生きる女たちがいて、そこにはまだ娘と呼ぶにも気の毒なほど、若木のような少女たちもいるのは確かだ。 だが、娼館に少女らがいることと、それをおかしな熱情で語る男は、同列にしたくない気持ちのロワジィだった。 異生物を見る目を投げかけていると、さらに捲し立てようとした小男が、彼女の肩越しに後ろを見てあ、と声を上げる。 「――ロワジィ、」 呼ばれて振り返ると男が立っていた。 先よりだいぶ具合はよくなったようだが、まだ心なしか顔色が悪いように見えた。……先に宿に行っててよかったのに、彼女が呟くと、 「組合、顔を出すのだろう」 そんなように返された。 「俺の身の振り方の問題、なのに、俺がいない、おかしい」 「それはそうだけど、……、でも交渉は明日にしようと思ってたのよ。今日は場所を確認しに来たの。あんたも本調子じゃないでしょう」 「平気だ、自分の影だけ見てきた」 ロワジィが言ったとおりに足元だけ見て歩いてきたらしい。たしかに足元を見て歩けと彼女は言ったが、他のものにぶつからなかっただろうか。男が下ばかり見て歩く姿を想像して、思わずおかしくなった。 頬を緩めた彼女を見て、それから脇の少年に目をやって、そうしてそこでギィは、すこし離れて建物の影に隠れるようにして立っている小男に初めて気づいたようだった。 見やり、数瞬間を開けて、それからその痩せぎすの顔をどこで見たのか思い出したのだろう。む、と小さく息が漏れる。 男が最後にモグラを見たのは峠越えのときだ。先回の町では会っていない。そうして男の中で、モグラに対する印象はかなり悪いものであったはずだった。 しるしに、わずかに低く腰を落とし身構えている。 「ロワジィ」 声に警戒が交じる。 「なにか因縁でも」 「おつむが小さいと、そうやって無害な人間に対してすぐ攻撃的になるのかね?ああ厭だ厭だ」 「日頃の行いってやつでしょう。それよりいいから、あんたはさっさとその仕入れたとかいうネタを言いなさいよ」 いつまでたっても軽口ばかりで話が先に進まないので、うんざりしてロワジィは小男に顎をしゃくる。 「大丈夫よ、別に厄介ごとに巻き込まれてるわけじゃない」 そうしてこちらを見るギィに応えてやった。 「ええええ、なんか俺あつかいひどくない?差別じゃない?俺に会っても嬉しくないような年増に、俺がわざわざ手間暇かけたネタを披露してやらないといけないの?」 「はいはい嬉しい嬉しい」 先ごろよりさらに冷たい声で返してやると、くそ、だとか口内で悪態を垂れながら、それでもゆらりとモグラは身を起こした。話す気になったらしい。 「組合に、昨日今日のあたりで届くはずの木材が、まだ届いてないんだそうだ」 「――」 「使いをやって様子を見に行かせたが、その使いも帰ってこない。木材所はここから半日離れた山のふもとにあるらしいが、たいした距離じゃない。だったら、遅れるなら、普通連絡ぐらいよこすもんじゃあねぇかね?これは何かあったんだろうなと、まあ、これは俺のカンだが」 「襲われた、」 「或いはな。入荷が遅れてこっちも困るだとか暢気に担当者が愚痴っていたが……、本格的にひとを雇って乗り出す前に、まあ、首突っ込んどきゃ、いい点数稼ぎにはなるだろ」 実はもう話を取り付けてある、言ってにい、とモグラは笑ってみせた。 こうした稼業に身を置いているものの中には、キナ臭いことを嗅ぎつける嗅覚が優れているものがいる。小男もきっとその部類なのだろう。 なるほど、頷いてロワジィはまた唇に指を当てた。 「その半日の距離の木材所の場所は聞いてあるの」 「当然」 「あたしたちが調べてくることも伝えてあるのね」 「抜かりはねぇよ」 「ふぅん」 もう一度頷いて、それから彼女はじっと小男を見つめた。 「聞くけど」 「あ?」 「今度はなんの依頼のついでなの?」 「あ?」 彼女の言葉の意味が本気で判らなかったようで、モグラが眉間に皺を寄せる。 「点数稼ぎってことは、木材所を見てくることを、報酬交渉して依頼として受けてないってことよね。あんたに限って、無報酬や善意で仕事をするとは考えにくい。こないだみたいに、なにか、あんたに旨みのある目的があって、肉体労働の方をこっちへ振るつもりなんでしょう」 「なに、それ、俺の人格ものすごい勘違いしてない?俺、根っからの善良な人間よ?」 「ふぅん」 まるで信用のない台詞を吐くので、白い目で見てやった。 「ロワジィ」 黙ってやりとりを聞いていた男が、彼女に僅か顔を寄せて、連れて行ってくれ、静かにそう言った。言われて振り向き、彼女は顔をしかめる。 「……でも」 「俺も連れて行ってくれ。足は引っ張らない」 「もしかしたら木材所にゴロツキどもがいるかもしれない」 「判っている」 「状況次第では荒事になるかもしれない」 「判っている」 男が言ったように、たしかに男自身の身の振り方の問題だ。行くという気持ちも判るし、それが誠意というものだろう。そう思っても、ロワジィとしては、男をこれ以上暴力の場に連れ出したくない気持ちもあった。 ちらと目を合わせると、男が覚悟を決めた顔でこちらを見ている。 結局、不承不承頷くしかなかった。 木材所はトルグから北へ半日歩いた場所にあった。 所、と名前がついているのだから、なにか倉庫的なものか、作業小屋的なものがあるのかとロワジィは思っていたが、実際は木を切り倒しすこし拓けた場所に、山から切り出してきた丸太を積んであると言うだけの資材置場だった。 脇に、廃坑道を再利用したらしい作業員が休む休憩所の入り口があって、人相の悪い男が二人、入り口の付近でたむろっている。 どう見ても作業員には見えない。 「……まーそもそも作業員なら、仕事する格好しているわけで、あんな物騒な刃物下げて歩いちゃないわな」 かなり離れた藪から様子をうかがった小男が呟いた。弓を使うだけあって、めっぽう遠目が利く。日々を暮らすのにはまるで問題はないが、小男ほど目が利く自信がなかったので、その一点に関しては純粋にうらやましいとロワジィは思った。 藪の緑の中では目立つ赤毛を手巾で隠して、彼女は低く身を伏せ、小男の報告を聞いていた。ギィも同じように大柄な身を低くしている。 人間の顔かたちというものは、自然の造形の中でわりと目立つのだ。先に見つかるのは得策ではない。 毎度こちらの都合に巻き込んでしまうのは申し訳ないとは思ったが、少年は町で待ってもらっている。もしも、のことを考えると、とても連れてこられないからだ。 その「もしも」だった訳なのだけれど。 「ほかに目につくのは」 「入り口前が汚れてやがる。ありゃ血だな。ひとり分ってところか。木工組合から様子見に派遣したやつが帰ってこないって言っていたし、……、そいつのかね」 状況次第で荒事になる覚悟はしていたものの、あっさり荒事突入にすこし溜息が出た。 「入り口付近の二人は、見張り?」 「……いや、ありゃあ多分、用足しついでに煙草ふかしてるだけだろ。そのうち入る」 「作業員さんは?何人かいるのよね」 「外には見えねぇわ。とっくに始末されて林の中に転がされてなけりゃ、坑道の中じゃねぇかな」 どうする、言外にたずねられて、彼女は考え込む。 「ここになにか大金だとか、そうしたあいつらを惹きつけるものが、置かれていたのかな」 「なんで」 「ここが、組合とつながっている木材所だっていうのは、昨日様子見の人が来た時点であいつらは知っている……、のよね?」 「知ってるだろうな」 「じゃあおかしいでしょう。だって組合とつながっていて、納品が遅れたら、人が派遣されるって、普通考えたら判ることでしょう。その派遣された人間を殺してしまったら、次どうなるか、とか」 「――普通に考えたらな。あのな、普通じゃねぇんだよ。脳が足りないから、ここを占拠してるの。こんなところ乗っ取ったって、たいした金にもならないし、そのうち大掛かりに討伐されるってぇのも判らないぐらい莫迦なの」 「――」 言われて一瞬戸惑ったロワジィへ、呆れた口調で小男がため息をついた。 「あんた、こういう稼業に身を置いてるわりにゃ、そういうところオボコだよな。……年増のオボコだなんて可愛いくもなんともねぇが」 「悪かったわね」 「――口に、」 隙あらばとにかく小馬鹿にしてくるモグラにむかむかしながらこたえると、それまでじっと黙っていたギィがおそろしく低く抑えた声で呟く。 「なんだよ」 「口に気をつけろ」 「おお怖ぇ怖ぇ。ブルって金玉縮んぢまいそうだ。冗談が冗談だって判らないのはあれかね、あんたもやっぱり足りないクチかね」 「……」 頬を歪めて笑って、それでも男の不穏な無言が、かなり危険な物であるとモグラは気づいたのだろう。 それ以上の無駄口をおさめ、背に挿した矢筒から矢羽を一本引き抜くと、坑道入口へ向けながらおら行っちまえ、ロワジィに向かって囁いた。 「露払いはしてやる。突撃すんのはあんたらだ。俺はか弱いからな」 腰の鉞(まさかり)をたしかめたロワジィは応える。 それから、隣で棍棒を手にした男へ目をやった。 「あたしが切り込むから、あんたは討ち漏らした奴の始末をお願い」 「――判った、」 神妙に頷きながら、それでも顔は恐怖で真っ青だ。農場を荒らす獣退治では一度もこんな怯えは見せなかった。おのれで語ったように、男は人間が怖いのだ。 ――……ああ、あたしはまたこのひとに無理させてる。 胸が痛かった。けれど怖いのだからここで待っていてくれと頼むのは、男の自尊心をひどく傷つけてしまうと思った。 とどめる言葉を飲みこんで、ロワジィは前へ向き直り、坑道入口に向けて忍びやかに進みはじめた。 まず藪に身を隠して入口へ近づくロワジィと男に、表に出ていた二人はまるで気付くそぶりを見せなかった。彼女たちが気配を潜ませる技に特別長けていたわけではなく、ごろつきどもがあまりに無警戒にすぎたのだ。 積み上げた木材の影から勢いをつけて飛び出し、鉞を構えたロワジィに、ごろつきどもは目を剥き、あ、だとかえ、だとか声にもならない吃音を発したまま、モグラの弓に貫かれてぶっ倒れた。 迷いなく、胸中線ど真ん中。 おそらくある程度接近してきているだろうとはいえ、高所を占めているわけでもない視界のよくない藪の中から、それぞれに一矢で仕留める技量はさすがだと思う。 猟師の道を選んでいれば、腕のいい猟師になれただろうに、いったいどういう経緯で、モグラが護衛稼業へ身を置いたのか彼女は知らない。いつか機会があれば聞いてみてもいいと、ふと思った。 声らしい声も出せずに倒れた二人に、気づいて坑道内から飛び出すほかのごろつきの姿もなく、ロワジィはそのまま坑道入口の扉へ走った。男も続く。 錆付いた蝶番の扉を開ける。なるべく静かに開けたつもりだったけれど、かなりの音が坑内に響いた。ぎくりとなったが誰も様子を見に来ない。 坑内はしばらく下り階段が続いており、奥の方から人の声がする。 暗がりに目が慣れるのを待つ。それから足音を極力殺し、構えながら一歩一歩下りてゆくと、階段の終わりに死体がひとつ転がっていた。背中にひどい切り傷がある。背格好から、ごろつきどもでも作業員でもなく、遣いに出された組合の人間だろうと思われた。 おそらく、入り口の外で切り付けられ、そのまま坑内へ逃げようとして階段を転げたのだろう。 死臭がする。 空気の籠もるこうした抗窟内に、どうして死体を転がしたままにできるのか、心理が理解できないとロワジィは思う。そもそも臭くないのか。あまりに人間相手に手を汚しすぎて、臭いというものに慣れてしまったのか。 死体を踏まないように避けながらなるべく浅く呼吸して、それから顔を上げると、うねりながら奥へ続く通路が見え、脇にいくつか穴がある。小部屋があるようだ。 一番奥の小部屋から、品のないだみ声が通路に漏れてきている。酒でも入っているようで、呂律が回っていない。ごろつきの大半はおそらくあそこだと当たりをつける。 手近の部屋をひとつそっと覗くと、人の姿はなく、普段は使わない切り出し用の鋸やらショベルなどが置かれてあった。物置のようだ。 「――ロワジィ」 背後から同じように忍んで歩いてきた男がそっと声をかける。 「人の声、する」 「ああ……、奥にいるわね」 「いや、あいつらではなくて。別の、」 「別の?」 言われて彼女は前方に定めていた視線をずらし、男を振り返った。 「――どこ?」 「すこし遠くの……左」 聞こえると思われる方向へ、耳をそばだてていた男が、しばらくしてそう答えた。 「左……。あいつらの声の反響じゃなくて?」 「違うと思う。水の音……それと、低い呻き声、聞こえる」 「呻き声」 思いあたるのは姿の見えない作業員だ。 先に作業員の無事を確認するべきか、野盗を始末してから作業員を探すべきか、すこし悩んでいると、ロワジィ、と男がもう一度囁いた。 「うん、」 「悪いやつは、殺さないと、駄目か」 「そんなことはないけど、……そんなことはないけど、生け捕りにするってこと?そりゃ生け捕りの方が、いいのよ。組合に突き出すにはずっと都合がいいの。でも、加減するって結構難しいんじゃないかな」 目視したわけではないのではっきりと言い切れないが、漏れて聞こえるだみ声の感じでは七、八人はいる気配だ。声を発していないだけで、実際はまだいるかもしれない。 いくら相手に酒が入っているとはいえ、武器のあるだろう十人近くを相手に、ふたりで生け捕りにするのは不可能ではないとはいえ、だいぶん難しい。 「表に、ニガヨモギタケが生えていた」 「うん、?」 「積んだ材木の中に、オオダイコの木も、見えた。オオダイコのおが屑とニガヨモギダケを燃やして出た煙吸うと、二日は体が痺れて動けない」 「――」 「山の中で木を伐る、時々大きなハチの巣に当たる。避けていると仕事にならないから、……火を点けていぶして、動けなくなったところで巣ごと、始末する。煙、ハチだけでなく人にも効く」 「――」 「焚いて、一網打尽、……掴まえる、駄目だろうか」 「駄目じゃないわ。大合格よ」 ロワジィは驚きながらこたえる。案を採用することに何も異はない。無血で済ませられるのならばそれに越したことはないと思う。 できれば男の前でこれ以上の流血をしたくはなかった。 「じゃあ、いぶす準備、頼んでいい?外にはあいつもいるから、多分周囲は安全だと思う。あたしは作業員さんたち確認してくる。野盗どもはこの感じだと、酔っぱらったまま、出てこないし……、出せるようなら、先に作業員さんたち外に出したいから」 「……わかった」 男は短く頷き、すぐ戻ると呟いた。うん、頷き返してロワジィもちいさく笑う。 「よろしくね」 半時ほどして、煙が坑道内に流れだしたころには、五人の作業員を外に連れ出すことができた。 もとは八人いて、襲撃の際に二人が命を落とし、縛り上げられ転がされたときに、深手を負ったもうひとりがこと切れたと助け出した男の一人が語った。 「ありがとう。助けも来る見込みはねぇし、もう駄目だと思っていた。……何と言ったらいいか」 数日間飲まず食わずで弱りきってはいたが、その五人には目立った外傷はなく、縄目を解き水を飲ませてすこし休むと、存外しゃっきりとした声で礼を言われた。 これなら自力で町まで戻れると判断する。 休憩所として使っていた坑道は、いまは煙が充満しているし、なにより野盗どもが占拠していて入れない。木材所の業務を再開するにしても、今のままでは無理だ。 小男を付かせて、ひとまず五人をトルグの木工組合へ送り届けることにした。 廃坑道は、使われなくなった奥への道を発破で塞いでしまっているらしく、出入り口はひとつしかないとのことで、そのひとつきりの扉の前にはギィが陣取っている。 わりとすぐに煙の痺れは効き始めるというから、対流のない坑道内では逃げ場もなく、ごろつきどもは昏倒しているものと思われた。 「じゃあ、俺は町まで戻っていればいいわけね」 ひらひらとモグラが手を振る。 「とんぼ返りしろとか言うなよ?疲れるから厭だからな?」 「言ってないわよ。このひとたち町まできちんと送ったら好きにして頂戴」 「俺は天使ちゃんたちに会いに行くからな?可愛い少女の胸に顔をうずめて眠るからな?年増には到底太刀打ちできないぴちぴちの肌に埋もれるからな?」 「あんたの嗜好は別に聞きたくないからいちいち確認しないで」 顔をしかめてロワジィも手を振る。振る、というよりは、犬を追いやる動きに似ていたけれど。 そうして小男と作業員の姿が見えなくなると、あたりが急に静かになる。聞こえるのは鳥の鳴き声だけだ。 さえずりを聞きながら、ロワジィは黙々と野営の準備をした。 空模様は悪くはなく、朝まで雨は降りそうにはなかったが、それでも何もしなければ夜露にしっとりと濡れてしまう。 皮を敷き、夜具を置いて、その上に夜露除けの厚布を張った。 ギィは、扉の前で万一煙の効かない相手がいた場合のために抑えをしているので、彼女が二人分の支度をする。 簡易のかまどを作り、手鍋を火にかける。荷物に入れておいた干し肉と芋と、それから近辺で見つけたすこしの山菜を一口大にナイフで切って沸騰した湯の中に入れた。 さえずりと一口に言っても、よくよく耳をすませば、かなりの種類があるのだな。聞くとはなしに聞きながら、彼女は思った。 親を呼ぶ巣立ちしたばかりの雛の声。 互いに鳴きかわし位置を確かめ合う群れの声。 つがいを探す歌うような響きの声。 「……木のにおいは良い」 扉にもたれ、地面へ腰を下ろしていた男がぼつんと呟いた。声に誘われて彼女は顔を上げる。 嬉しそうな目をしていると思った。 「懐かしい?」 「そうだな、ずいぶん嗅いでなかったような気がする、……山にいるみたいだ」 深々と息を吸い、積み上げられた材木を見ている。ロワジィにとっては高く積んだもの、でしかなかったけれど、男にはその一本一本の違いが判るのだろう。 ……ああ、やっぱりこのひとは、こういう場所の方が合う。 じっと年輪を眺めている男の目は穏やかだ。あまりに穏やかで、見ていてなんだか、すとんと納得してしまった。 ……あたしの都合で振り回すわけにいかない。 つまるところは理屈でないのだった。 本当のことを言えば、すこし、ごねてみるか、の気持ちも、彼女はゼロではなかった。 多分、男は彼女が強く頼めば、トルグではなく、彼女の傍にいることを選んでくれるだろうと思う。 どれだけ人間の悪意が怖くて、どれだけ震えても、顔をこわばらせて同行してくれるのだろうと思う。 男がおのれへ好意を寄せてくれているのも判っている。そうしてそれは裏のない真っ正直なものだ。 ――あたしには勿体ないわ。 今回のこの木材所の一件は、十分恩を売れる。報酬はいらない、代わりに男へ勤め口を紹介してくれと頼めば、おそらく組合はそれで済むならと喜んで引き受けてくれるだろう。 男はきっといい職人になる。 日も暮れ、鳥たちも巣へ戻り、鳴き交わす声も聞こえなくなる。まだ虫が鳴くには早い時候なので、木材所はとても静かだった。 火の爆ぜる音だけが耳に沁みる。 坑道内からは何も出てくる気配はなく、きっと野盗の頭以下数人は、神経をやられてぶっ倒れているに違いない。 用意した簡素な食事を済ませてしまうと、あとはやることもない。朝までここで張り、それから坑道へ入ってごろつきどもを縛り上げる。段取りになにか間違いがなければ、明日の昼にはモグラが組合の人間と衛兵を連れて戻ってくるはずだ。 「静かね」 はちみつ酒をちびちび舐めながら、ロワジィは言った。とくだん飲みたい気分でもなかったけれど、手持無沙汰だったのだ。 「やることがないな」 焚火を眺めながら男も応える。暗くなったら明日に備えて眠る、それが護衛稼業を長く続けていけるコツではあったが、まだ宵の口でさすがに寝るにも早い。 「――花火、する?」 「花火、もう、ないな」 この前の夜に、すべて燃やしてしまったことを知っていてロワジィが呟くと、聞いた男がちいさく笑った。 「また祭り、あるといいのだが」 「そうね」 「玉入れの露店で。あんたは全部外して」 「そうね」 「――」 言って男が惜しそうな目をした。そのまま続けて何か言いだす雰囲気を感じたので、 「あのね」 気づかないふりをして、彼女は言葉を押しかぶせた。 「こないだの夜にね」 「――うん、」 「なんかいろいろぐちゃぐちゃになって言えなかったけど、あたしもあんたに言いたかったことがあるのよね」 「俺に、」 「そう」 言ってぐいと酒袋をあおる。 「ここで言っとかないと、なんか、最後まで言えないような気がするから言うけど、あんた、あたしにありがとうだとか言ってたけど、……あのね、あたしだって楽しかったのよ」 「――、」 「晴れただとか雨が降っただとか、どうでもいいような話したり、今日の煮ものはうまくできたとか、言える相手がいたり、宿の部屋が臭うとか言ったり、土産物の露店冷やかしたりとか、もう本当に、そういう些細なこと」 「――」 「あたしは村を出てから、あんたより先に町で暮らしてきたけど、なんだか本当にあっという間だった。寝て、起きて、請け負った仕事して、また寝て、それの繰り返し。気づいたら十年経ってて、でもまったく実感なんてなくて」 膝を抱え、また二口、三口、酒をあおり、 「ああ、」 空になった袋を振ってみせて、男をうながす。 「そっちの、頂戴」 「まだ飲むのか」 「飲むわよ?」 「また、倒れる」 「そうね、お湯中で」 肩をすくめて返すと男がやれやれと息を吐いた。呆れたように見えて、口元は笑っている。 このひとも雇った最初のクマみたいだったころに比べると、なんだかずいぶん表情豊かになったんじゃあないのかな、ぼんやり眺めてロワジィは思った。 ……まあ、今でもクマだけど。 「ツブれたら、あんたが運んでくれるんでしょう」 「町まで?」 「町まで」 「――そうだな、」 言って男は焚火に向けていた視線を彼女へ向け、それから片手をついて、彼女へ身を寄せた。 「相変わらず、怪我をしている」 「うん、?」 頬を示されて気がついた。焚きつけに使う小切れを拾いに藪に入ったときに、どこかに引っ掛けたらしい。 「気づかなかった」 言うと男が困ったように顔をかしげる。 「俺が組合に働き口を紹介してもらったら、あんたはまたどこか別のところへ行くのだろう」 「そうね、テオを叔父さんのところに送る仕事は残ってるけど」 「ひとりで」 「まあ、ひとりじゃないかな」 同道する連れも思い当たらない。男が何を言おうとしているのか読めなくて、ロワジィは曖昧に頷いた。 心配だ、と男は言った。 「心配って、なんで」 「放っておくと、あんたはどこかで傷だらけになっていそうだ」 眉を曇らせてじっと見るので、彼女も見返した。見つめる目が、思慕というよりは子供を憂う母親のものに見えて、なんだかおかしくなってしまう。母親だとしても、こんなに大きな体の母がいたらやっぱり笑ってしまうと思った。 体はふわふわしている。酒もほどよく回って、いい気分だ。 「えっと、結局あたし、いまの話の流れで、あんたにちゃんとありがとうって言ったかな?」 「どうだったか」 男は首をひねった。ひねりながら、先ごろ頬に触れた指は、頬をゆるやかに撫でて離れない。 乾いた指のあたたかさが気持ちいいと思う。 「ロワジィ」 「うん……?」 「触れてもいいか」 「うん、?触れるって、」 聞きかけた彼女に手を伸ばして、男がおのれの側に彼女の体を引き寄せた。 口では聞いておきながら、良いも悪いもこたえる前にぐいと引き寄せるのはずるいと思う。男に抱きしめられる形になって、これでロワジィが今さらやめてくれと突っぱねたら、この男は放すのだろうか。試してみたい気もした。 ただ、そこまで厭でもないのに、きつく拒むのは、さすがに大人げないと思う。思う。けれど、こうして普段より近くに他人を感じると、ひとりの期間が長かったせいか、相手との距離の取り方が判らなくなるから、困るのだ。 この子は強い、しっかりしてるから、ひとりでも大丈夫だ。 ふた親を失ったとき、持ち回りで世話を焼いてくれた村の人間は、彼女を評してそう言った。悪気はなかったに違いない。押しつけでもなかったろう。単純に身の回りのことをひと通りこなせる彼女を、誉める言葉であったはずだ。 けれどまだ十になるかならないかの子供にとって、その言葉は重かった。 それでも期待に応えようと思った。強くなろうと思った。しっかりしようと思った。けれど夜眠る前に、布団の中でおのれに何度も言い聞かせていて、本当は涙がこぼれた。 男の胸に顔ごと押し付けられてロワジィは困惑する。 要は、気恥ずかしいのだ。 「苦しいか」 「苦しくない。苦しくないけど、えっと、」 もぞもぞと居心地悪くもがいた彼女に、男がたずねた。 まず上体だけ持っていかれた体勢になっているので、今のままだと腰が痛くなりそうだ。だったら下半身も男の側へ移動させれば済む話なのだけれど、動けば動いたで、抱きしめられたことが嬉しくて、いそいそ動いているように自分で自分が思えて、なんだかそれもいただけないと思ってしまったりする。 かと言って、そのまま上だけ体を寄せていると、そのうちおかしな具合に腰をやりそうなので、結局じりじりと下肢を引き寄せた。 回された腕は固い。 以前、酔っぱらった男に抱き寄せられたことがあったけれど、あれは男にほとんど意識らしい意識もなかった。それに、抱き寄せてすぐにむにゃむにゃと男は眠ってしまったので、わりとすぐにロワジィは落ち着くことができた。 だからこの状態は以前とはだいぶんちがう。 それに自分は男より八つも年上なのだ。毎度毎度、あやすように、自分を引き寄せる男もどうかと思う。 ……もう子供じゃあないんだから。 見上げると、こちらをじっと見降ろしている男の目とかち合った。 「……あんたの目」 うっとりと見入る男の黒の虹彩。熱情の色は見えず、ひどく穏やかだ。……獣みたい、前にもどこかで思ったことを彼女は頭の中でくり返した。森の中で会う、熊や鹿の目に似ている。 「きれいな色だ」 「――あたし?」 同じように男もロワジィの目の色を見ていたらしい。頭の赤毛はさんざん馬鹿にされたけれど、目をきれい、だとか言われたこともなかったので、思わずぱちぱちと数度まじろいだ。 「きれいかな、」 「きれいだ。……緑の色、……。木の色」 「そんなこと、言われたこともなかったわ」 木の色か。聞いて彼女はうすく笑った。 男には森が似合う。山が似合う。自然の中で木に携わって仕事をしている姿がいっとうに似合う。 だったら、男に似合う木の色だと言われるのは嬉しいと彼女は思う。 「ロワジィ……、触れてもいいか」 「うん?」 触れているならもうとっくに触れているじゃあないの、言いかけておかしくなった。こうして引き寄せて抱きしめられて、また確認をとる男の意図が判らない。 「どうせ、駄目って言っても触るんでしょう」 「触る」 口の端で男も笑って、それから先よりきつく抱きしめられた。 抱きしめられる前にすこし上体を起こしていたので、今度は男の胸板ではなく肩口あたりに顎を預ける格好になる。ぶ厚い肩に遠慮なく顎を乗せて、ロワジィも男の背中へ腕を回した。 「……あんたの音がするわ」 寄せた体ごしに男の鼓動が響いた。力強い鼓動。目を閉じてその音を聞いていると、自分の心臓まで同じ律動で脈打つ気がした。 預けた頭の後ろを、男がさぐる感触があって、 「……?」 振り返ろうとする動きを押しとどめられ、そのままうなじへやわらかに噛みつかれた。 「ちょっと、」 すこし位置をずらして、何度も、何度も、鼻の頭をすりつけながら、確かめるように歯を立てられる。 不思議なことに、ぞくぞくとした痺れはおこらない。男の呼吸があまりに穏やかで、性的なものを何も感じ取れないせいかもしれなかった。 「痕が付くじゃないの」 「付けている」 「……付けたって、どうせ、すぐに消えるわ」 「消えなければいいのに」 本気でそう思っていそうな声色で男は呟いている。そうだ。どんなに強く噛みついたところで、どうせ一週間もすればうすく痣になって消えてしまう。 男との記憶もきっと噛み痕のようなものなのだ。 触れ合える近さにいる今は、互いの存在が強く鮮やかで、数日後にはそれぞれ分かれて生きてゆくことがどうにも実感がわいてこないけれど、離れて半月もすれば、すぐに日々の暮らしに忙殺されて、男のことを思い出したとしても、ああ、そんなこともあったなと思えるようになるに違いない。 手を伸ばせる今は、ひどく胸が痛いけれど。 「あんたは、」 「うん……?」 「あんたはきっと幸せになるわ」 飽きもせず痕をつける男へ、ロワジィは言った。 「間は悪いけど、根はいいひとだもの。きっと、真っ当に幸せになれる」 言うと男はじっと考える素振りを見せた。考えていることはすぐに判った。甘噛みが止まったからだ。 「……なるだろうか」 しばらくして男は口を開く。なる。ロワジィははっきり頷いてみせる。 「辻占でも預言者でもないけど、……なるわ。護衛のカンは結構当たるのよ」 「そうか、」 頷きそれから、 「ロワジィ、」 男はかすれた声で小さく続けた。 「うん、」 「ロワジィ」 「うん、」 何度も名を呼ばれて、まるで子供が母親を探すようだなと思いあたって、薄く笑いが浮かぶ。……こんな大きな図体の子供、なかなかいないわね。 笑んだ彼女を知ってか知らずか、俺は、朴訥に切々たる声色で、男は言った。 「俺は、あんたがいないと、ひとりでさびしい」 ぎゅ、といっそう強く背を抱かれた。言われた彼女は何も返せない。男の言葉に応える言葉を、いまの自分は持っていないと思うからだ。 浮かんだ笑みはこわばるかと思ったのに、そのまま残って口角は上がっている。 「――……うん、」 そのままひと晩、ロワジィと男は互いにすがるようにして、じっと抱き合っていた。 明くる日、トルグから新たに派遣された木工組合の人間と、一個分隊の衛兵が到着した。昨日モグラが町に送った作業員から話を聞いてやってきたのだ。 ひと晩見張っていた坑道入口の扉を衛兵に譲って、ロワジィとギィは町へ戻ることにする。口元を手布で覆い、中へ野盗どもの様子をうかがいに行った衛兵の一人が、 「叩き落とした蠅のようにピクリとも動かない」 と戻って報告しているのを聞きながら、荷物をまとめ、一言声をかけて木材所を後にした。 煙を吸えば二日は体が動かないと男は言った。野盗どもはあと丸一日は体が痺れているはずだ。 そうして彼らには、「叩き落とした蠅」よりも苛烈な刑が待ち受けているのである。 町へ戻り、相変わらず賑やかしい大通りを辟易しながら通り抜け、宿場へ戻ると、待っていたテオ少年に抱きつかれる。 それから三人で昼食を済ませ、目当ての組合の建物へ向かった。 入り口の扉を開け、中に入ると、カウンター向こうに腕まくりをした事務員が十数人、忙しそうに算盤をはじいたり、書類に印を押したりしている。 組合の看板を掲げるここでは、各都市の木材入荷調整やら仕入れ値の設定だのを一手に引き受けているのだ。価格計算だとか、流通相場だとか、説明されても右から左に言葉が流れて行ってしまうロワジィには、正直別次元の職場である。 自分は背丈がある。護衛でなくても、畑仕事だとか、荷下ろしだとか、ひと通りの力仕事はできると思っている。もともと、考えるより先に体を動かすのが好きだ。 それから、好きか、嫌いかで言えばたいへん苦手だが、愛想をふりまく売り子の仕事も、やってやれないことはないと思う。 けれど、こうした事務職と言うやつだけは、どうしたって無理だと思った。できそうにない。可不可でなく、たぶん机の前に腰を下ろし、一日じっと動かないというだけで発狂できそうだ。 だから、こうして淡々と事務仕事のできる面々を見ると、尊敬する。文字通り心から尊敬する。特別な能力のある人間なのだとすら思う。 そんな畏怖さえ込めた目で室内を見回していると、入った三人に気づいた事務員の一人が顔を上げ、ああ、と心得顔に頷いた。「木材所に巣食った野盗を始末した流れの人間」の話は通っているらしい。組合長、と呼びかけると、呼ばれた男が振り返る。 振り返った男を見て、ロワジィは咳払いをする態で、こっそり笑いを横へ逃がした。 書類の山に埋もれて、毛むくじゃらのクマがいた。 自分の後ろにもクマのようなギィがいて、カウンター向こうにも、縦にも横にも大きな、髭面のクマ男がいる。 クマ二匹。 まだ子供で、誰にも咎められない特権を持つ少年だけが、驚きを隠すことなく目をまん丸にして二匹を見比べ、ひえ、だとか奇声を上げている。 「ああ、あんたたちか」 言って髭面の男は腰を上げ、にこにこと邪気のない笑顔を浮かべてこちらへやってくる。組合所の事務室にいるよりも、山中で斧を振るっていた方がよほど似合う風貌だ。 思っていたことがつい顔に出たのだろう。そうなんだよ。うんうんと頷いて、親方グマは彼女たちに席をすすめ、事務員の一人に茶を持って来いとドラ声を張り上げた。 「もともとは森で木を伐ってたんだけどな。どういうわけか、組合長だとかに担ぎ上げられちまって、ガラにもねぇ書類仕事させられてるんだよ」 言って組合長も彼女たちの向かいに腰を下ろし、肩が凝って仕方がねぇ、首をゴリゴリ回して見せた。 顔に茶色く変色した古傷があり、ふとロワジィが目をやるとこれかい、聞いてもないのに彼は傷を撫で、話し始める。話好きのクマらしい。 「木を運んでいた時分に、冬眠明けの熊と出くわしっちまってな」 クマが熊に遭ったわけだ。おそらくひどく緊迫した状況だったろうに、想像して思わず口元が緩むロワジィである。 「逃げようがねェから、応戦よ。あっちの爪が、かすってな。代わりに、こっちの棍棒は、ヤツの脳天にめり込ませてやったが」 冬眠明けで気の立っているクマを、棍棒で殴り仕留めたわけである。とんでもない。思いかけて、この自分の脇に立っているもう一人のクマ男も、そう言えば岩山のようにでかい猪の骨を、へし折っていたのだっけな、そんなように思った。 クマ人間の行動は、理解を超えている。 「――話は作業員どもから聞いている。あそこいらに巣食ってたろくでなしどもを、掃討してくれたらしいじゃあねぇか」 しばらくちょっとした世間話を交わした後、茶が運ばれてくると、ぐいとそれを一気に喉へ流し込み、組合長が身を乗り出して話し始めた。 「あいつらな、前々から、ちょっかいかけてきて、こっちとしても、いっぺんガツンとやってやらにゃあと思っていたところなんだよ。お役所の方にも言ってはいたんだが、実害が出ねぇと、腰を上げない仕様になっているしな。……今回の件も、あんたらの初動が早かったおかげで、最小限の被害で済んだ。恩に着る。死なせちまったやつらには申し訳ねぇが、そいつらの家族は食いっぱぐれることがないように、組合が責任をもって生活を保証する」 ありがとう、言って彼は頭を下げる。 「……で、働き口を紹介してほしいって話らしいが」 鉞(まさかり)持ってるあんたかね?言って、彼はまずロワジィへ目をやった。 「探しているのはこのひと。あたしとこの子は付き添いよ」 促されて、ロワジィは首を振り、ギィを指し示す。示されて彼の視線は男へ移された。 「たいしたガタイしてるじゃあねぇか。面構えも悪かあない」 「えぇと……、名前はギィ。です。……山、での仕事の経験、あります、……製材、それに木工も、できる思います、」 「いい手を持っているな」 たどたどしく丁寧にあいさつするギィをじっと見つめたあと、ぽつ、と組合長は呟いた。 「どんな仕事をするか、どんな人生を送ってきたか、手を見りゃあ、だいたい、そいつの人間が判る。俺ァそう思う。口先だけが達者で、ロクでもねぇ手を持つヤツを、俺はごまんと見てきた。あんたの手は、仕事をきちんとこなす手だな。あんたはちゃんとした人間だ。それに、……、俺の若いころにそっくりだ」 呟き、椅子の背もたれへそっくり返っている。 ……あー、これが、そのうち、こうなるんだ。 豪快に笑っている髭面と、緊張にしゃちほこばっているギィを見比べて、ロワジィはそんな感慨を抱いた。わりと微妙な感慨である。 隣のテオ少年も同じだったようで、なんとも言いにくい顔をしながら、黙って交互に眺めていた。 「口利きの件だがね。今、紹介できるだけでも、三、四件はあるんだな。……先の木材所も人夫が減ったことだし、補充しなくちゃならねぇ。それから、懇意にしている木工細工の工場(こうば)も人手が足りなくて、心当たりがあったら紹介してくれと頼まれている。大口の仕入れ先の製材所はいつでも人材不足だ。どれも木工組合に加入しているところだから、福利厚生もしっかりしている。……まあ、まずは組合の社員寮を回してやる。あんたら、この町の人間じゃないんだってな?寝具だの煮炊きの道具だの、使い回しでよけりゃあいくらかあるし、そこで腰を落ち着けて、町にも慣れて、それからお前さんが一番しっくりくる先に行ったらいい」 木材所を荒らしたごろつきどもは、よほど憎まれていたと見える。正直、紹介状を書いてもらえるだけでもありがたいと思っていたので、そこまで気を利かせてくれるとは思わなかった。 「よろしくお願いします、」 ギィが髭面へ頭を下げる。続けて組合長は、社員寮の近くには安くてうまい酒場があるんだとか、そこの給仕娘の尻がきゅっと切れ上がっていい具合にたまらんだとか、益体もないことを話し始めた。 くそ真面目に相づちを打つ男とひげ面を眺めながら、この調子だと、あたしが余計な心配しなくても大丈夫そうかな。ロワジィはぼんやり思う。 実感がわかなかった。 木工組合の社員寮にちょうどよく空き部屋があったので、その日のうちに手配をしてもらえる運びになり、ロワジィと、ギィと、それからテオ少年と、案内をする事務員とで、寮のある区画へ向かう。 徒歩でも行けるがすこし遠いとのことで、乗合馬車に乗って向かうことにする。 荷台に揺られていると、宿場のある賑やかなあたりとは違って、閑静な住宅街が拓けてくる。この町に定住する人間が住む区画だ。 午後の住宅街は静かで、どこかの家から赤ん坊の泣き声が漏れてくるのが聞こえた。 「住みやすそうなところね」 「うん。俺、トルグって、もうずっと、旗が立ってて、看板並んでて、馬が行ったり来たりしているような、わちゃわちゃしてるところばっかなのかと思ってた」 ロワジィがあたりを見回し呟くと、座席の隣に座った少年がこたえる。 「大通りは、表の顔ですからね」 案内役が、座席にもたれ、のんびりとこたえた。 「こちらの区画を見ると、みなさん驚かれるんですよ」 「トルグの裏の顔を見て来たって、俺、帰ったら自慢するんだ」 「そうね。……待たせてるし、急いで戻らないと……、」 テオ少年の護衛を彼の叔父から頼まれ、そうしてまだ帰途に就いていない手前、あまり遅らせるのも無用な心配を招く。一応、彼の叔父の経営する馬宿へ向かう乗合の馬車に、じきに戻る旨を手紙で託けてはいたが、そもそもトルグでも、その前の中継の町でも、無駄に時間を食っているのだ。早いに越したことはない。 明朝トルグを発つ。 寮からほど近い停留所で車を降り、社員寮へ向かうと、入り口の前にやっぱりというべきか、いい加減にしてほしいというべきか、当然の顔をして小男が手を振っているのだった。 「……あんた、まだいたの」 うんざりした声しか出ない。そりゃそうよ、言ってモグラは肩をすくめてみせた。 「だってここでお別れでしょ?涙のさようならでしょ?ここ見逃がしたらせっかく今まで付きまとった意味がないわな」 「本っ当に、悪趣味、」 隠しから取り出した手拭いを、わざとらしくひらひら降る小男へ、心底嫌悪を抱いてロワジィは吐き棄てた。唾棄、という言葉があるが、ここに組合の人間がいるから我慢するものの、いなければ本気で唾を吐きつけていたかもしれない。 けれどその反面、突然ロワジィは動揺した。 ああ、ここで終わりなんだ。 小男の言葉で、さっと舞台の緞帳が取り払われ、はい、演目終了。みなさんどうぞおかえりください。 冷たい水を頭からぶっかけられた気分だったのだ。 明日には組合の口添えで市民登録を正式に済ませ、この街の住人になる男と、なぜかこの期に及んで、まだ町を散策できるような気がしていた。のんびりと馬車に乗り、居酒屋にでも入って、莫迦話をし、酔っぱらい、肩を組んでげらげら笑いながら歩いて、そんな日常がずっと続いて行くような気がしていた。雇われ護衛の仕事を請け負い、こなして、また次の町へ共に行けるような気がしていた。 ここで終わりなのだと口先はうそぶきながら、実際の自分はぼんやりと実感の湧かないまま流されるままにここに来てしまった。 心づもりがまるでできていなかった。 生温かい水の中にもぐり、おぼろな視界とぼやぼやとした音だけを聞いていたのに、唐突に首根っこを掴まれ引きずり上げられて、現実、というやつで横っ面をはたかれた気分だった。 そもそも、こんな場所でこんな風に別れることになるだとか、想像もしていなかった。 なんとなく夢想していたのは、たとえば町の外門で、おのれはこちらへ、男はあちら側へ立って、それではさようなら。別れの言葉を口にして、互いに背を向け歩いてゆく姿だったりした。 そうでなくてもせめて二人きりでしみじみと、別離の抱擁を交わしての最後になるものだと信じて疑わなかった。 まさか職の決まった当日に、男の居住先の玄関口で、それも案内役の事務員やら、少年やら、小男やらの目がある中で、別れを告げることになるとは思ってもいなかった。 声にもならない動揺は隠しようもなく顔に出たようで、見止めたモグラが嬉しそうに手を擦り、まー、あからさまに狼狽えちゃって、言ってにやにやと笑ってみせる。 「なに?俺たち、邪魔?お邪魔?どこかに行った方がいい?」 「……そんなこと、言ってない、」 頭が痺れて口がうまく回らない。 それでも目の前に立つ男を見上げ、ああ、このひと本当に大きいんだと、場違いなことを思う。 でかいなと思ったのがきっかけだった。それから今に至るまで、男に対して彼女は様々な思いを抱いてきたけれど、いっとうはじめは、ただそれだけの感想だった。 「あの、」 「……うん、」 ロワジィの動揺は、きっと男にも伝わっているのだろう。互いに相手の顔を直視できなくなりながら、彼女と男は、気まずい思いで口を開き、また閉じて、そわそわとなった。 思い切って顔を上げたのは、男の方が先だった。 「あの、」 言って妙にぎこちない動きで男はロワジィへ掌を差しだす。差しだされた意味が理解できなくて、数拍、彼女は男の掌を見て考えてしまった。 握手を求めているのだと気がついたのは、その少し後だ。慌てておのれの手を、男の手へ重ねる。 ――そういえばこのひと、最初、握手も知らなかった。 握手を知らず、今の彼女と同じように、不思議な顔をして差しだした手を眺めていた男が、今は別れの挨拶のためにおのずから手を出すようになった。すごい進歩じゃないの、そう思うとすこし笑えた。 重ねた掌は相変わらず温かい。 「あんたには、迷惑を、いっぱいかけた」 言って男が頭を下げる。 「世話になった。本当に、ありがとう」 「うん、」 「……どうか、元気で」 「うん、」 胸がつかえたようで頷くのが精一杯だ。あんたも元気でね、だとか、仕事がうまくいくといいね、だとか、もう少し気の利いた言葉を言えたらいいのに、こういう時に限って頭に何も浮かばない。 「……じゃあ、」 名残り惜しくはあったけれど、含み笑いをしている小男や、心配そうに見上げる少年の手前、感傷に浸っているわけにもいかず、短く相手に別れを告げる。 そうして預けていた手を、おのれの側に引こうとした。 くっ、と。 間際のほんの一瞬、するりと抜けていく彼女の手を逃すまいとするように、男が僅かに力をこめる。 言葉にならないだけ、万感がこめられていると思った。 ――行くな。 それに気づいていながら、気づかない振りをした。それが今の自分にできる全部だと思った。 男から離れ、脇の少年へ向き直り、さあ、と明るく声をかける。 「行こう。今日のうちに、買い足さないといけないものが結構ある」 「……うん、……。でも、」 ためらう少年は、ロワジィと男を見比べ、けれど見比べた男の側も、案内役の事務員が近寄り、すでに寮規定についての説明を始めている。……説明するよりも、中に入って見ていただければ判ると思いますが、言われながら男も背を向け、建物へ入ってゆく。 その背は振り返らなかった。 思い切る、という言葉がある。ああこのひとは思い切ったんだろうなぁ、そんなことを思いながら、脇にいるモグラへ向かって、 「残念だったわね、」 彼女は声をかけて肩をすくめた。 「ご期待には沿えなかった」 劇的な別れにはならなかった。ありふれたような挨拶をして、ありふれた握手を交わし、そうして後を引くわけでもなく、すでに別行動だ。 ああ、うん、だとか拍子抜けしたように返す小男が、じろじろと彼女のを見て、言いたげな顔をした。 「なによ、」 「……いや、」 ごにょごにょと口ごもる小男を後にして、少年を促し、彼女も背を向け、市場へ向かう。 ひょんな勢いではじまった関係だった。まったくもののはずみだった。 こんな呆気ない終わり方が、似合うのかもしれないと思う。 トルグからの復路の道中は、何事も起きず、一度も雨に降られることもなく、快適な旅だった。 行きは羊毛組合に納める積み荷を背負っていた驢馬の背が、帰りは空いたので、そこへ少年を乗せ、ロワジィが綱を引く。それで余計に旅程が捗った。 もともと羊を追う仕事をしている少年である。野宿に音を上げることもなく、往路と同じように小旅行を楽しんでいる。 予定外だったのは、小男だ。 付きまといが相変わらず続行している。 トルグを発つことになり、どういうわけか続けられていたこのおかしな関係も、今度こそ切れるとほっとした。 もともと彼のおかしな興味で続いていたような関係だ。 ほっとして、だのに、翌朝の出立にはすでに大拱門(アーチ)の外にいて、遅いじゃねぇかずいぶん待ったぜ、だとかなんとか、当然の顔をして彼女と少年に合流したのだ。本当に訳が判らない。 不審を通り越して呆れの境地になり、はあ、だとかそんな返事しかできなかった。 初対面から今まで、こいついいやつ、だとか一度も思えない相手だったので、どうにも裏があるようにしか思えない。 ひょっとすると、仲間面をして近づき、ロワジィの気が緩んだところで、金目の物でも持ち逃げするかと警戒したが、金に困っているようには見えなかった。 小男の特殊な性癖は彼自身がひけらかしていたので、知りたくもないのにロワジィは知っているけれど、 「……まさか、……、いや、聞きたくないけど」 「何よ?」 「一応、念のために聞かせてもらうけど、あんた、若ければ少年でも少女でもかまわないだとか、そんなのじゃないのよね?」 「はあ?」 テオ少年を狙っているのではないかと、不安になって確かめたりもした。 聞くと小男はものすごく厭な顔をした。少年は射程外らしい。よかった。 金目当てでもなく、少年狙いでもないとすると、面を突き合わせているだけで互いにむかむかするのに、どうして付きまとってくるのか、理解できない。 たずねても、話をはぐらかして結局答えてくれない。 薄気味悪い。 救いと言えるかどうか、小男は同行すると言ってもさすがに隣を歩きはせず、ロワジィと、驢馬にまたがった少年が歩く後を、二百歩ほどの距離を置いて付いてきた。 ロワジィが止まると、モグラも足を止めてそれ以上はやってこない。食事の煮炊きも別。野営の場所も、もちろん二百歩ほど向こうで別。 無駄に会話をしなくて済むのはありがたいけれど、一定の距離で付かず離れずというのも、なんというか偏執狂(ストーカー)が後をついてきているようで、それはそれで気持ちが悪い。 「あんた、いったいどうして付いてくるのよ」 丸一日で我慢の限界を超えたロワジィは、距離をとって逃げようとするモグラに大股で近づき、その腕を鷲づかみにして問い詰めた。 「なんだよ」 「なんだよじゃないわよ。いい加減嫌がらせはやめて頂戴」 「別に嫌がらせじゃねぇし」 「じゃあなんであたしたちの後ついてくるの」 「行き先が一緒なんだろ」 へらへらと笑って追及を避ける。要領を得ない。 結局最後は諦めるしかなかった。 トルグを発ってから八日目に、少年の叔父が経営する馬宿へ戻った。 遅くなったことを何度も謝罪し、報酬込みで少年の護衛を引き受けて、一応はここから町までの往復を無事に戻ったが、その任も真っ当にこなせたとは言えない、前払いで支払われた報酬を半額返すと申し出るロワジィに、叔父夫婦は恐縮し、いやたしかに遅くはなったが、こうして少年自身には何事もなく戻ってきたのだし、中途中途の連絡はきちんと手紙で受けていたのだから、そこまで申し訳なく思う必要はない、どうかそのまま納めてほしい、そうした一連のやりとりが行われたりもした。 押し問答に発展した末、牧羊柵の修繕など、周り仕事をロワジィが引き受けることで話がついた。 馬宿に数日逗留し、頼まれ仕事をこなすことにする。 戻ってきた少年は、旅装を解くのもそこそこに、羊の様子を見に出て行ってしまった。日頃自分が世話をしているので、留守のあいだ群れがどうなったのか、気になったものらしい。 ……本当にいい羊飼いになる。 同じことをまた思う。 そうしてロワジィの方は、いけしゃあしゃあと宿に泊まる気らしい小男と、食堂のテーブルに差し向かいで座っている。 小さな宿なので、一階にある食堂のテーブルもひとつしかない。 そうして野外とちがって狭いので、小男と距離をとるにも限界があった。 「……そんな顔すんなよ」 思いっきり憂鬱な顔をして座っていると、にやにやとモグラが手をこすり合わせる。虐めたくなるだろ。 「女は愛嬌ってね」 「……そういうのは、あんたの好きな若い子たちに振りまいてもらって」 「そりゃなあ。俺だって、そうしたいのは山々なんだがなあ。嘆かわしいことに、ここには年増しかいないんだなあ。……ほら、なんていうの?ものすげく嫌いで、普段だったら絶対ェ口にしない食いもんとかあるじゃん?俺キノコ嫌いなんだけど、ぶっ倒れるほど腹が減っていて、キノコ以外食べるものがなけりゃあ、しかたなく食べるでしょ。そういうのあるでしょ」 「飢えて死になさいよ」 キノコが嫌いとか、子供か。呆れた。そうして本当に口が減らない。無口だったギィとは大違いだ。 そう言えば男と離れてもう十日ほどになるのだな。ふとロワジィは思った。 何をしているだろうか。勤め先は選んだだろうか。寮に入ると言っていたから、いま時分は狭い共同炊事場で大柄な図体を小さくしながら、ひとり分の夕飯でも作っているだろうか。 一人用の手鍋は小さい。 あのごつごつと節くれだった器用な太い指で、ちまちまと下ごしらえをし、ちまちまと手鍋に具材を放り込んで、ちまちまと背を丸めて作っているだろうか。 ちょうど運ばれてきたエールのジョッキをロワジィは受け取り、 「……お疲れ?」 「はいはい、お疲れお疲れ」 乾杯を催促するモグラに、軽くジョッキを上げてみせて、それからひと口ごく、と飲み下した。 ぽた。 頬を伝い、顎からしたたり落ちた雫の感触に、おや、となってロワジィは掌で水滴を拭う。夜冷えするこの時期、寒くないように食堂の暖炉に火が入れられているが、ほどよく温まる程度で、汗ばむほどがんがんに炎は熾されていない。 なにしろ、まだ長袖の上に毛物を重ねて着るほどだ。 だから汗が滴ったのではないと思う。 「……あれ、」 だったらなにか、何かのはずみで鼻血でも垂らしたのかと思った。拭った掌を見てみたが、赤黒く汚れてもいないようで、 「あれ、」 だから天井に雨漏りのような水たまりでもできていて、それがちょうど滴り落ちる場所に自分は座ったのではと思い、 「あれ、?」 そうして、汗でも鼻血でも雨漏りでもなく、ぼたぼた垂れるそれは自分の目じりからこぼれているものだということにロワジィはようやく気がついた。 「え、なんで、……?」 いま何も悲しい気分ではなかったはずだ。 「なんで、……なんであたし泣いてるんだろ、……、えー……、なにこれ」 涙だと気づくと、あふれる量が倍になった。 「ごめん、なんかちょっと、止まらない」 対面のモグラにロワジィは言った。 それからそう言えば彼は自分の泣き顔が見たいだとか、泣かせたいだとか言っていたなと思いだし、ああそれなら別に謝らなくてもいいのかと思ったりもする。 本懐ってやつかな。 「やだなあ……なんだろ……やだなあ」 「泣けよ」 向かいでつまらなさそうな顔をしたモグラが、頬杖を突き、なんとか涙を収めようとしている彼女を上目遣いにちらと眺めて言った。 「え、」 「泣きたいんだったら、泣きゃあいいんだよ。我慢して、我慢して、我慢して、我慢して、への字口引き上げて笑ったって、……、そういうの、知ってる?痩せ我慢って言うんだぜ。あのな、天使ちゃんが泣くのを一生懸命我慢してたら、そりゃそそられることこの上ねぇけどな、年増は痩せ我慢したって、可愛いく見えたりなんかしねぇんだよ」 「……、」 「あんた、本っ当に、とことん、甘えることが下手な女だな。それでも泣きゃあ、まだちょっとは可愛げあるかって見物してたけど、まあー、最後までぐっとこらえて、男らしいことこの上ないのな。感心するわ。俺、あんたに、タマでも付いてるんじゃねぇかと疑ったね」 「……、」 「あのね。泣きたいときは泣くの。悲しかったら泣くの。泣くの別に悪いことじゃないの。みっともなく泣いたっていいじゃねぇのよ?……あんた、あのうすらデカブツに惚れてたんだろ?頭おかしい赤毛殺しの囮になって、自分の命狙われたって、あいつを檻から出したいくらい、惚れてたんだろ?」 「……惚れてたとか、そんなの、判らない」 「判れよ。てめぇのことだろうがよ。あのな、惚れた相手と別れたら、普通は泣くの」 泣けよ。 ジョッキをあおり、おーい、ここにもうふたつ。厨房の奥に声をかけて、それからモグラはクソ、本当拗らせた年増は面倒くせぇ、厭そうに顔をしかめ、がりがりと頭を掻きむしる。 「だって、」 「あ?」 「……だって、泣いたって、どうしようもないじゃない」 「どうにかしたいから、泣くんじゃねぇだろ。そんなことも判んねぇの、あんた」 ……そうなんだ。 涙がこぼれる。 たぶんずっと泣きたかった。 どうにもならないと知っていながら、泣きわめいてみたかった。駄々をこねてみたかった。 あのやさしい男を困らせてみたかった。 そうしておかしな話だけれど、困らせてみたい思いと同じくらいの強さで、泣いて、男を困らせたくはないのも本心だった。 ……だって、好きだった。 ロワジィはうなだれる。 ぶ厚い肩や背も。かたい腕も。大きな掌も。つっかえつっかえ、考えながらひねり出す飾り気のない言葉も。 黙ったきりこちらを見る黒い目も。こわくて癖のある髪も。ロワジィ、と伺うように自分の名を呼ぶ唇も。 本当に好きだった。 涙と一緒に自分の中からふちを超えてこぼれて、そうしてどこかへ消えて行ってしまう。 「一緒にいたいってあのひとは言った」 ぼたぼたとテーブルの木目に吸い込まれていく涙を見つめながら、ロワジィは言った。 「でもあたし何も言わなかった。あのひとをこっちに引きずり込んだらだめだって思った。だから、何も言ったらいけないって思った。……何度も何度もあのひとは言ってくれたのに」 やさしい男が、波打ち際のように、くり返しくり返し、返ってこない言葉に傷つきながら彼女に告げた思い。 “そうです、それはこいでした。” 半月より少し前、ここで同じようにエールを飲んでいた。 行先はトルグにすると彼女が告げたとき、男はじっと考え、それからそれは決まったことなんだなと、ひどく落ち着いた声でたずねた。 “なにげないひとことできずついた、そうですそれはこいでした。” あのとき、流しの歌うたいが歌っていたバラッドを、今なぜか思い出す。 男の思いに彼女が返事をしないまま、何度もくり返させて、傷つけて、そのうちゆっくりと諦観に代わり、そうして静かに絶望させてしまった。 振り返らなかったのは、きっとそう言うことだ。 「最後に握手したときにも、行くなって、あのひとたぶん言ったのに」 傷だらけになったのはロワジィではなく、男の方だ。 “こまったようにわらうえがおのむこうがわで、ほんとうはあなたが、きずついていたのだとおもいます。” 「あたし、自分のことでいっぱいいっぱいで、あのひとのこと何も思ってやれなかった」 ごめんね。 次から次へと涙があふれる。 「ねえ、惚気ていい?」 「……もうとっくに惚気まくってて今さら何言ってんのあんた」 つまらなさそうにこちらを眺めるモグラへたしかめると、頬を歪めて返されてしまう。 「――好きだったなぁ」 言ってロワジィは腕と腕の間に顔を伏せ、嗚咽をこらえる。 「農場で、猪退治頼まれてね。ものすごい大きな猪で、……あたしひとりで始末しようとしたけど、失敗した。ああ、あたし死ぬんだなって思ったら、あのひとがいきなり猪ぶっ飛ばして……、笑えるでしょ、本当に横から突っ込んでぶっ飛ばしたの。信じられなかった。あんなでっかいのが、どーんってなるの。物理的に飛ばすって、どれだけの勢いよって思ってね。……でも格好良かった。……格好良かったなあ」 止まらない。 「すごく器用なひとだった。お祭りの的当てで、高得点だしてね。飾り紐、取って、巻いてくれた。お揃いだって言って、似合うと思うって……、……。恥ずかしかったから言えなかったけど、本当は嬉しかったの」 嬉しい、ありがとうとあのときどうして言わなかったんだろう。 「熱だして寝込んだら、ものすごく心配してくれてね。あんなでっかい図体して、ぼろぼろ泣くの。びっくりした。そのくせ、自分の体には鈍くってね……、風邪こじらせて、熱だして、歩けなくなって、だのに心配するのが、拾った仔犬のことなのよ。行けって。俺は平気だからとか言うの」 本当にやさしいひとだった。そう思う。 「それで、パン粥作れって言うのよ。小屋には他にも料理がたくさん並んでるのに、パン粥がいいって。作ってくれって。絶対あっちの方がおいしそうなのに、あんたのがいいって、おいしいって、おかわりまでするの」 いいひとだった。自分には勿体なかった、だから。 「――ああ、そうか」 鼻をすすりながら一人で合点すると、なに、と律義に小男がたずねた。 「どうにかしたいから泣くんじゃなくて、どうにもならないから、泣くのね」 これはきっと悔し涙だ。 「好きだったなあ……どうしよう。なんだかものすごく好きだった」 ずっと側にいたかった。 差しだされるままエールをあおる。 「言えばいいのに」 「無理よ、もう終わったことだもの」 言えば言うだけ涙があふれる。早いペースで酒を流し込んでいると、すぐにぐるぐると天井が回り始めて、ロワジィはテーブルへ突っ伏した。ごめんね。閉じても涙は眦から流れて止まらない。 ごめんね。声にならない思いでもう一度思う。 ……あんたに、ちゃんと、好きだって言えばよかった。 口に出したら、変わっただろうか。 (20180613)
https://w.atwiki.jp/when_they_cry/pages/346.html
さよならは冗長に(前篇) さよならは冗長に (後篇) 久しぶりに嗅ぐ欲望の匂いは、やはり栗の花の香りがした。 迷いの消えた圭一の行動は、思春期の少年らしく直接的なものだった。 襟元から手を入れて直に私の胸を掴み、その感触を愉しむ。直ぐに両手が乳房を覆い、這うように指が動くのを感じた。 私も襟をはだけて圭一の手を自由にさせる。加減を知らない圭一の愛撫は相変わらず痛みが伴うが、その荒々しさにすら胸が熱くなってしまう。 愛撫が一段落すると、圭一は乳首を口に含んで転がし始めた。頭を抱えると、夢中になって吸い続ける。 「んっ、圭一・・・。もう少し、優しく・・・」 胸元に目を向けると、圭一の顔。息を吸うために口を離す度に、唾液で濡れた私の乳首が鈍く光る。 「すげぇ、羽入の胸・・・。柔らかくて、温かくて・・・」 思うように私の胸を動かす圭一が、正直な感想を漏らす。やはり桜色の突起が気になるのか、指は常に乳首の側にあった。 もう片方の手が私の腰の辺りに伸びる。緋袴を脱がせたいのだろうか、結び目が乱暴に掴まれた。 が、それから圭一の指はせわしなく動いたものの、結び目を解くには至らなかった。 無理もない、最近では和服を身に着ける人自体が少ないのだ。圭一だって着付けのイロハも知らないだろう。 「あぅ・・・。ここはこう解くのですよ・・・」 指を結び目に絡めて、静かに戒めを解く。腰周りが軽くなり、立てば今にも袴がずれ落ちそうになる。 「い、いいのか・・・」 不安げな圭一の問いに、私は無言で頷いて答える。圭一の手が腰にかかり、袴の端を掴んだ。 するすると私の袴は腿を、脹脛を、そして足首を通り抜け、畳の上に落ちる。冷えていた素足にかかる圭一の手が、とても温かかった。 「う、うわっ」 袴が取り去られたその部分を見ていた圭一が絶句した。・・・無理もない、文字通り私のその部分は一糸纏わぬ姿だったのだから。 「見るのは、初めてですか・・・?」 「あ、当たり前だろ。こ、こんな風になっているなんて・・・」 圭一がこっそり持っているビニ本でも、女性の部分は暈されるか黒塗りで隠されているはずだ。初めて見る女性器を、圭一はしばらく凝視していた。 「ボクだけこんな格好じゃ恥ずかしいのです。圭一も、ボクに全部見せて欲しいのです」 若干の恥ずかしさもあって、私は圭一にも自分と同じ格好になることを要求した。 戸惑いながら圭一が自分の服を脱いでゆく。セーターとTシャツが取り払われると無駄肉の付いていない胸板が、ジーンズが脱ぎ捨てられると引き締まった太腿が顕になる。 最後に残ったトランクスは、前がはちきれそうなばかりに突っ張っていた。 「・・・」 顔を真っ赤にして圭一が最後の一枚を脱ぎ捨てる。布でその部分がずり下げられ、離れると同時にぴょん、と跳ねた。 「あぅあぅ、これが圭一のなのですね」 僅かに包皮で覆われたその部分は、天井を向いて雄雄しく反り返っていた。先端の部分が赤く染まり、これから起こるであろう未知の経験に震えているようでもあった。 私は上体を起こして圭一の股間に顔を近づけ、その部分に手で触れた。 「つっ!羽入っ!」 「圭一の、大きくなっているのです」 「や、やめ、そんな、汚いッ!!」 まるで女の子が言うような台詞で圭一は私に拒絶を伝えるが、腰を引こうとはしない。本当は、この先の快感を待ち望んでいるのだ。 くすりと笑い、圭一を見上げて私は最も敏感な鈴口の部分を指先で摘んだ。 その瞬間、圭一の顔色が変わった。 「つあッ!駄目だ、羽入っ!!」 瞬間。私の手の平に生温かい液体が迸った。目をその部分に向ければ、白い液体が間断なく噴き出している。 あ、イったんだ。 それは私の手で達してくれたという証拠。私が男を満足させられる存在であることの確証。 射精を終え、圭一は脱力して畳に膝を付く。息を荒げる圭一の顔は無力な子供のようで、可愛らしさすら感じてしまう。 私は指を汚した欲望の残滓を口に含むと、噎せかえるようなその香りを胸いっぱいに吸い込んだ・・・。 自分で出した時よりも遙かに強い脱力感に、俺は立つことが出来ず膝を屈した。 羽入の冷たい指に刺激された瞬間、あまりの気持ちよさに全てを出してしまった。脈打つ俺自身から飛び出た液体が羽入の指を、顔を白く汚す。 俺は両手を支えに腰を付くと、息を求めて天を仰いだ。自分でするのとは全然違い、相手が居ることで得られる満足感が全身を支配している。 途端に、強烈な眠気が襲ってきた。射精に伴う脱力のせいで、わずかに意識が遠のく。 「う、あぁっ!」 それを引き戻したのは、俺自身に再び与えられた刺激だった。敏感な部分を、指とは違う柔らかい何かで撫でられたのだ。 視線を戻す。するとそこには俺自身に顔を近づけ、精液でぬめった部分に舌を這わせる羽入が居た。 「嬉しいのです・・・。圭一は、ボクで気持ち良くなってくれたのですね」 俺の視線に気づくと、白濁にまみれた指で竿の部分を扱き、もう片方の手で、袋の部分を包み込む。 「ぐ・・・。あっ、あぁっ・・・!」 硬さを失う暇もなく、俺の分身は新たな刺激を求めていきり立った。その反応に満足気な顔をして、羽入が更に動きを強める。 刺激に弱い部分を的確に押さえ、俺を高みに導いていく・・・。 「圭一の、また大きくなったのです。」 言葉と共に、敏感な部分が何かで覆われた。舌が踊り、強く吸われる感触がある。 「や、やめっ!羽入ッッ!!汚い・・・ッ!!」 「んんっ・・・。む・・・。圭一のに、汚いとこなんて・・・。ないのですよ・・・」 羽入が俺自身を口で含んでいた。舌が、歯が、口腔が、俺自身を包み込んでいく。 まるで快楽の壺の中に放り込まれて、俺自身が解かされる。そんな妄想に囚われてしまう。 「うううっ、あ、ああぁ、羽入・・・!」 俺はおとがいを反らすと、手で羽入の頭を押さえた。更なる刺激を求めるためか、それとも程度を弱めるためなのか自分自身でも分からない。 それに、羽入は敏感に反応した。分身への刺激が弱くなり、羽入が矯声を上げる。 見ると、俺の手は羽入の角の部分を押さえていた。無意識の行動だったが、羽入は角に触られることに、悦びを感じているようだ。 自分にされているように、角を軽く扱く。 「はぁっ、あああああっ!」 同時に、羽入が高く悦びの声を上げた。そうか、ここが羽入の性感帯なんだ・・・。 高まる射精感と同時に、俺は羽入の角への刺激を強めていった。それはまるで自分の分身を扱いて絶頂へ到ろうとする、夜の営みの再現。 「くっ、羽入っ!いい、いいぞっ!!」 「あぅ、あぅ、あぅぅ・・・!け、圭一ぃ。ボ、ボクもき、気持ちよくて・・・」 「だ、だめだ。イク、イクぞっ!羽入の口で、俺・・・!!」 「ボクも、ボクもイきたい・・・!圭一、もっと、もっとボクの角を、いじめて!いじめてぇっ!!」 最後に向けて、一層扱きを早くする。すると、俺の指が羽入の角にある欠けたような部分を抉った。 「は、あ、あぅぅぅぅっっッッ!!けえ、い、ちぃ・・・」 びくりと全身を振るわせて羽入が脱力する。同時に羽入の歯が俺の雁首の部分を刺激した。 「う、うおおっ!!羽入ッッッ!!」 羽入の口の中が、俺の欲望で満たされる。一度目よりも激しい迸りが吹き出し、凄まじい快感が俺の脳髄を突き抜ける。 「あ、あぅっ・・・。圭一の、圭一の・・・んぐ、んっ、んぐっ」 絶頂感の中に居る羽入だったが、しっかりと俺の欲望を喉に送る。それでも飲みきれない俺の液体が口から零れ、畳の上に落ちていった。 「・・・圭一の、どろどろするのです」 口の中に残っていた白濁液を飲み干し、羽入が俺自身から口を離す。まだ、粘り気が残っているのか、しきりに口がもごもごしている。 「ぜ、全部飲んじまったのか・・・。その、臭くないか?」 「あぅ。圭一の匂いがたっぷりだったのですよ。ちょっと、むせちゃいました」 最後にごくり、と喉を鳴らして、羽入が微笑む。無理をしているのか、目にはうっすらと涙が光っていた。 「羽入、俺のために・・・」 女性に尽くされるということがこんなにも愛しいなんて、初めて知った。俺は羽入を引き上げるようにして胸元に引き寄せると、その唇にキスをした。 「ん・・・。圭一」 どうしようもなく羽入が欲しくて、奪うように唇を求める。それに答えて羽入も強く、強く唇を吸う。 ぴったりと俺と羽入の体が寄り添い、お互いの体温を直に感じ合う。 「あ・・・」 「圭一、元気すぎるのです。あぅ」 だから、心地よい羽入の肌に体が反応する。二回達したというのにまだ足りないのだ。羽入の全てを知りたいと、俺の体が求めているのだ。 「羽入、俺」 お前を抱きたいと告げようとした瞬間に、胸を軽く突かれた。流石に疲れているのか、上体が畳の上に仰向けになる。 煌々と灯る蛍光灯が瞼に映る。その光を遮るかのように、羽入が馬乗りのようにしてぬっと姿を現した。 「圭一は、じっとしていて欲しいのです」 羽入はお尻を俺の腰の上に動かし、十分に硬くなった俺自身を手で包んだ。相変わらず羽入の手は気持ちよくて、触れられただけで達しそうになる。 わずかに腰を浮かして、羽入は俺自身を自分の真ん中、根元の部分へと導いていった。 コツ、コツと敏感な部分が柔らかい部分に触れる度、夢見ていた初体験が現実のものになるのだという緊張が走る。 「怖がらなくても、いいのですよ」 こわばった顔をしていたのか、羽入が俺にリラックスするように声をかける。返事をするが上ずった声になり、何を言ったのかも定かではない。 だって次の瞬間、俺自身は今までとは全く違う感触に包まれていたのだから・・・。 「んあ、あ、ああっ・・・」 ずぶずぶと何かにめり込んでいく様な感覚が、全身を包んだ。羽入の中に身も心も埋めてゆくという表現が相応しい、内面という内面が重なった気分だ。 何度もねじ込むように、羽入は俺の腰の上で踊った。大きいとはいえない体に、そそり立った男の欲望は辛いのか、時折表情が歪む。 「く、む、無理するなッ!痛いんだろ・・・?」 「だ、大丈夫なのです。体を引き裂かれる痛みに比べたら、これくらい・・・」 健気にも、羽入は俺の手に指を絡めて体重を更にかけてきた。徐々に俺自身が羽入に飲み込まれ、気がつけばいつの間にか全て埋没していた。 万力で締め付けられるような刺激が俺自身に走る。敏感な部分だけじゃなくて、全体がその刺激で覆われているのだ。 「け、圭一。動いてほしいのです。ボクで気持ちよくなって欲しいのです」 裸身に長い髪を乱し、羽入が俺を求める。年下の少女であるはずなのに、この成熟した女性のような仕草。たまらない・・・ッ!! 「羽入ッッ!!」 俺は思い切り腰を上下に動かした。最初から強く突き上げられ、羽入がもう一度俺の上で、踊る。 「け、圭一っ!圭一ぃっ!!」 何度も突き上げていると、逆に上から来る別の動きがあった。羽入も俺を求めているのか、自ら腰を打ち付けてきたのだ。 「うっ、うあっ、うあぁッ!羽入、す、すげえっ!!」 「あぅ、あぅっ!ああぅぅッッ!!圭一の、圭一のが大きく、なってぇ・・・」 バラバラだった俺たちの腰の動きが、数を重ねるたびに拍子を合わせて一つになってゆく。シンクロするごとに快感が二乗、三乗されていき、邪魔な思考が薄れてゆく。 いつしか、俺たちはお互いを求めて抱き合う形になっていた。俺は上体を起こし、羽入は首に両手を、腰に両足を回して必死にしがみ付いている。 「くうっ、羽入、羽入っ、羽入っ!羽入ぅぅッ!!」 「圭一、圭一っ。圭一ぃぃぃっ!!」 名前を呼び合い、より深く繋がる為に激しく腰を打ち付けあう。羽入の嬌声はまるで媚薬のように俺の脳髄を刺激し、底なしの欲求を与える。 「羽入、好きだ。俺、羽入が、好きだ・・・っ! 「ボクも、ボクも圭一が、好きです。好きなのですッッ!」 いつまでも続くことを願う恋人達の時間。しかし、終わりというものは確実に訪れてしまう。 「ふ、ふああぁっ!あぅ、あぁぁうぅぅっ!!」 絶頂の直前、羽入の角を口に含む。コンプレックスに感じているこの角も、自分を悦ばせるためのスパイスだと知った羽入が敏感に反応した。 「う、うおおおっ!羽入、俺、もう・・・!」 「ああっ、圭一、イクのですね。ボクで、イッてくれるのですね・・・!!」 「ああ、俺、羽入でイク、イクぞっ!!」 「ボ、ボクももうすぐ、あ、あ、ああああああああっっ!!」 全身を震えさせて、羽入が頂点に達した。ほぼ同時に俺も最後となる迸りを羽入の中に放つ。 愛しい女性の中を自らの欲望で満たすということは、最高の幸せ。 力尽きるまで俺は羽入の体を抱きしめ、離れなければいけないその温もりを、記憶の中に刻み込んでいた。 暖かい炬燵の布団に包まれ、私達は並んで寝転んでいた。 時折視線が合わさると、お互い恥ずかしそうに目を伏せる。 さっきまで力強く私を抱いていたはずの圭一の腕は思ったよりも細くて、まるで違う人に抱かれていたような錯覚すら覚える。 しかし体に残る口付けの後と、女性の部分に走る甘い痺れが、先程までの情事が夢ではないことを教えてくれた。 そう、これは現実。私が望んでいた願いが叶った喜ぶべき現実のはずだった。 だが、喜びも現実ならば、後に待っている私の消滅も待ち受ける残酷な現実なのだ。 「羽入・・・?」 圭一が私の顔を覗き込んで怪訝な顔をする。 いつの間にか私の瞳は濡れていた。どうして、最後の最期で私の願いは叶ったというのに、どうして私は泣いているのだろうか。 理由は分かっている。分かっているけれども、改めて考えてしまうとまた辛くなるから考えたくないのだ。 別れたくないのだ。圭一と、私の愛しい人とさよならをすることが嫌でたまらないのだ。 なんということだろう。未練を断ち切るために思いを遂げたというのに、抱かれてみてますます圭一への想いが募ってしまったのではないか・・・!! 「け、圭一ぃ。圭一ぃ。う、うああ、うああああぁぁぁぁ・・・」 堰を切ったように、私の瞳から涙が溢れ出した。 圭一が好きだ。圭一が好きだ。圭一が、大好きだ・・・! その圭一の前から消えないといけないというのは、なんと悲しいのか。 かつて私が愛したあの人にもここまでの感情は抱いたことがない。見えなくとも、話せなくとも、圭一を見ていた時間はあまりにも長かったのだ。 濃密な時間が生み出した恋心は、私の想像以上に育っていたのだ。 「別れたくない、圭一と離れたくないのです。うっ、ううっ。ひっく・・・!」 子供のように、私は泣きじゃくった。圭一はそんな私を黙って見ていたが、一頻り泣いた後の私を胸に抱いてくれた。 「俺だって、羽入と離れたくない。順番が逆になっちまったけど、俺、羽入のことが好きだから」 言葉と共に強く抱きしめられる。この抱擁が失われるのが惜しくて、私も圭一の背中に手を回した。 「ごめんなさいなのです。圭一」 しかし、いつまでも甘い夢に浸っているわけにはいかない。圭一に告げなければいけない言葉が残っているのだ。 「圭一、ボクがいなくなったら、ボクを忘れてほしいのです」 「えっ・・・!?」 圭一が驚愕に目を見開く。一生の思い出となる初めての経験を終えた直後に告げられた別離の言葉、無理もない。 「ボクが『転校』したら、みんなといつものとおりに部活をして、笑って、楽しんで下さい。そして、ボクの、古手羽入の全てを忘れてください」 「な、何でそういうことを言うんだよッ!俺にとって、羽入は!!」 「それが一番良い事なのです。ボクにとっても、圭一にとっても、みんなにとっても」 何のことはない、本来在るべきでない異質のものの退場。私の存在が消えても、圭一たちには私が居なかったあの日々に戻るだけの話だ。 「忘れる前に一度、ボクのためにシュークリームを食べて欲しいのです。それだけでボクは、幸せなのですよ・・・」 私が元の存在に戻った時には、直ぐに圭一の許へ行こう。圭一は私の最後のお願いを叶えてくれるのだろうか。 いや、必ず叶えてくれるだろう。言葉が終わらない内から声を殺して泣いている圭一ならば、心に深く刻まれているに違いない。 ああ、私は残酷だ。圭一を深い悲しみに突き落としてしまうというのに、圭一が私のことで悲しんでくれている姿に悦びを感じているのだから・・・。 翌日の昼下がり、私は知恵の住む学校近くのアパートを尋ねていた。 「何もない部屋ですが、まぁ、上がって下さい」 日曜日にも関わらず、自分の都合で来訪の電話を架けた私を、知恵はいつもどおりの飄々とした笑顔で迎えてくれた。黒のタートルネックに茶色のロングスカートといった出で立ちで、知恵らしく落ち着いた格好である。 「寒かったでしょう?今ストーブを焚きますから」 言葉通り、知恵の部屋はテーブルといくつかの棚以外はほとんど何もない殺風景な部屋だった。生活感の感じられない、まるで私自身の存在のような部屋。 その中で、棚の上に置かれている十字架と数冊の聖書が目に付く。知恵は基督教徒なのだろうか、オヤシロさま信仰が根付いている雛見沢では珍しいことだ。 「はい、チャーィです。温かい内に飲んで下さいね」 リビングの食卓に着くと、甘く、良い匂いのするミルクティーが運ばれる。寒くなってから知恵がよく飲んでいるインドの紅茶だ。 「どうしたんですか?お休みの日に先生に用事だなんて。何か、あったのですか?」 半分ほど飲んだところで、知恵が来訪の目的を尋ねてきた。私の雰囲気から察したのか、何時になく真剣な眼差しである。 知恵は良い教師だ。生徒の変化には敏感だし、それに対応しようという心意気もある。 ・・・惜しむらくは解決に繋がるまでの力が無いということか。まぁ、私が抱えている問題を解決出来る人間などいないのだけれども。 「知恵。これを読んで欲しいのです」 「ん?何ですかこれは・・・?」 私は鞄から書類を取り出して知恵に手渡した。 内容はあって無いようなもの、問題は書類を読む時点で使う私の『力』だ。読むということに集中しようとしている人間の脳に直接働きかけ、さもそれが完璧な書類であろうと思いこませる一種の催眠術。 この世界に受肉して、『転校』する際も使った手だ。あの時も知恵を欺くことに成功し、私は違和感なくクラスに溶け込むことが出来たのだ。 知恵が険しい顔で書類を覗き込む。彼女が読んでいるのはセブンスマートのチラシだが、その脳裏には何が映っているのだろうか。 「羽入さん」 読み終わって、知恵が私の顔を覗き込む。 怒っていた。そう、表情はにっこりとしているが、背後から妖気にも近い怒気が立ち上っている。 まるでカレーを馬鹿にされたその時のように・・・ッ!! 「これは一体どういうつもりですか?私に電話したのは、スパゲティ麺大安売りのチラシを見せるためだけだったというのですかッ!!」 どん、とチラシがテーブルの上に叩き付けられる。馬鹿な、私の催眠術が、効いていない・・・? 「あの時もそうでしたね、転校してきた時も。書類の代わりに見せられたのは、営林署からの広報でしたね。校長先生は騙せても、私は騙されないんですよ・・・」 「な・・・!知恵は気づいていたのですか!?」 「私も教師になる前は色々ありましてね・・・。催眠術のイロハもかじったことはあるのですよ、だからあなたの力は効きません」 「何、ですって・・・」 「転校してくるということは、何かしらの事情があるということ。私はその理由を深くは問いません。他人には知られたくない理由があるのかもしれないからです」 知恵が遠い目をして語る。まるで自分も理由のある転校をしたことがあるかのように。 「だから、あなたを受け入れることを拒まなかった。そんなリスクを冒してまでこの学校にくる理由があなたにはあると思ったからなのです」 そうだった。私は梨花を、部活のみんなを、雛見沢を、そして圭一を救うためにこの学校に『転校』してきたのだった。 強い意志で、今度こそ運命を打ち破ると言う決意で望んだあの時。私は何としても梨花と圭一の傍で戦いたかった。 だから絶対に『転校』してくる必要があった。催眠術による書類偽造という不正手段に訴えてでも。 「それなのに、今度は転校ですか?羽入さんに何があったのかは分かりません。羽入さんが学校に居辛くなったというならば、私にも責任があるのかもしれない。しかし、また不正な手段で転校するなんて、そんな卑怯な手を二度も許すほど、私は甘くありませんよ!」 正論だった。 教師という立場では、生徒の不正は揺るすべかざること。知恵の怒る理由は充分に分かる。 しかし、私の場合は違う。必然である消滅を他のクラスメイトに納得させる最良の手段と言うことで、『転校』という別離を絵に描いたのだ。 私は宇宙人です。もう、地上にいるエネルギーがありません。だから消滅します。さようなら。 事実を告げれば私は精神病院行きだ。だからこういう形を取ろうと思ったのに・・・。 「どうせ、知恵には分からないのです」 「なっ・・・!羽入さん!!」 投げ遣りな言葉が口から漏れる。 皆殺しにされた世界で梨花が暴言を吐いた気分が良く分かってしまった。自分には全て分かっているのに、それを説明できないのに、無理解な反応を示す周囲の人間。 ああ、疎ましいったらありはしない。もう、どうにでもなれという気分だった。 「ボクだって、『転校』なんてしたくない。この世界が愛しい。梨花が、部活の、クラスのみんなが、雛見沢のみんなが大好きなのです!」 「・・・・・・」 「好きな食べ物も、この風景も、村で起こる全ての出来事も大好きです!好きな人だって出来ました!!・・・誰が好き好んでこの世界から消えようと思うもんか!!」 椅子から立ち上がり、知恵に迸る感情をぶつける。まるで自らの演説に酔う独裁者のように、私は思いの丈をぶちまけていた。 「でも仕方ないのです!ボクにはもう力が無いのです!!この世界がこんなに愛しいのに、ボクに残された時間は無いのです!!」 「知恵は余命告知を受けた事がありますか!?ボクはそんな気分なのですよ!死を待つだけの末期患者。消滅が間近に迫っているのに何をすることも出来ない!嫌だ。嫌だああああぁぁぁ・・・!!」 全てを吐き出した私は、嗚咽して食卓に手を付いた。涙が零れ落ち、卓上を濡らす。 「・・・落ち着きましたか」 私の嗚咽が止まるまで、知恵は口を挟まずに居てくれた。先程までの怒気は掻き消えて、悲しみと慈しみを含んだ目で私を見つめている。 「はい、ごめんなさいなのです、知恵」 深く溜め息を付き、私は椅子に座り直した。溜め込んだ感情を吐き出したためか、不思議と気分は落ち着いていた。 「・・・その、羽入さんが病気か何かで、ここに留まる事が出来ないというのは分かりました。それは、どうにもならない事ですか?」 「居るだけで、留まろうというだけで力を失うのです。今、こうしているだけでもきついのです」 「薬か、栄養の付く物は無いのですか?」 「あれば、もう使っているのです。莫大な力を得る物を取るか、それともボクの力を底上げするかしかないのです」 自分でも馬鹿なことを言っていると思う。どんな食品・薬品でも私の力の補充には及ばないというのに。 「なるほど、そうですか。・・・似ていますね」 だが、知恵はその言葉に敏感に反応した。まるで同じような事を知っているかのように。 「私の古い友人の妹さんに、同じような事がありました。その人は特殊な血筋の方でして、自分の力が弱くなると、自我を保てなくなると言う病を抱えていたのです」 「・・・病気ですか、ボクのとは違うケースなのです」 「まぁまぁ、話は最後まで聞いて下さい。その妹さんがある日、発病してしまったのです。友人はあらゆる方法を試したのですが、結局病気は最終段階にまで発症してしまったのです」 最終段階まで発症というのは、まるで雛見沢症候群のようだ。私はわずかに興味を抱き、知恵の話を最後まで聞くことにした。 「その病気を押さえるには、妹さんの力を元に戻す必要がありました」 遠い昔を懐かしむかのように、知恵の目が細くなる。きっと、知恵の目の前にはその時の光景が浮かんでいるのだろう。 「実は、妹さんの力が弱まったのは、その友人が瀕死の重傷を負った時に自分の力を分け与えたためだったからです。つまり、妹さんを直す鍵は友人自身という、近いから見つかりにくい盲点にあった訳なのです」 何か、知恵の話に何かが引っかかる。近いから、当たり前にあるから見つかりにくい物・・・。 「まあ、結論としては友人が妹さんに力を返して、自力で重症を治したので、両方とも助かったのですけどね。私も少しは骨を折ったんですよ。分け与えたエネルギーを一時的にせよ空にするのは危険な賭だったのですから・・・」 あ、あ、あ、あああああっ!! どん、とテーブルを叩いて、私は立ち上がった。 近くにある。分け与えたエネルギー。 「ど、どうしたんですか、羽入さん?」 「ち、知恵っ!ありがとう、本当にありがとうございますなのですっ!!転校は止めなのです!!心配を掛けてごめんなさいなのですッ!!!」 「は、はぁ・・・。それは、どうも」 「急用を思い出したのですっ!し、失礼するのです!お邪魔したのですッッ!!」 私は文字通り風のような早さで知恵に頭を下げると、踵を潰したままで玄関から飛び出した。 行かなければならない。盲点であったあの場所にある、あの品物を手に入れなければならないのだ・・・!! 「思い当たることがあったようですね。あれで良かったのですか?」 「くすくす、ごめんなさいね、知恵。あなたを巻き込んでしまって」 「可愛い生徒のためですから。こんなことくらいお茶の子です」 「それに私も入っているのかしら」 「勿論です。どんなになっても、どんな姿になったとしても、私の生徒は生徒に変わりないのですから。」 「・・・ありがとう、知恵。こんな性悪な人間になってしまったけど、私はあなたの生徒であったことを誇りに思うわ」 「私の方こそ。生徒が誇りに思ってくれること、それが教師としての最高の喜びなのですから・・・」 「あら、遅かったわね。先にやっているわよ。」 古手神社の祭具殿の中で、ワイングラスを片手にした性悪な魔女は待っていた。 もう一方の手に握られているのは、古ぼけた木箱。しばらく前に梨花の手によって封印された古手神社の秘宝、『フワラズの勾玉』が入った木箱だ。 「・・・ッ、梨花ぁぁぁ・・・」 感情の高ぶりに、梨花ではない存在であることを知りながら、いつもの調子で呼びかけてしまう。 その反応も楽しいのか、ベルンカステルはくすくすと笑いながらグラスに口付けをしている。 「最初から知っていたのですね!ボクが作った『フワラズの勾玉』。それでボクの力が補充出来るって・・・!!」 知恵の話があるまで忘れていた。人と人を強制的に結びつけるこの秘宝に込めた私の力は、それはそれは強力なもので、私の体を現世に留めるのには充分なものだったのだ。 その時間は、最低でも通常の人間の寿命ほどはある。力だけは有り余っていた昔の自分に感謝感激だ。 「そんなに怒らないでよ」 文字通り角を突き立てて怒る私に対し、魔女は何処までもクールだった。ひらりと祭壇から降りると、私に木箱を投げ渡す。 胸元で受け止めたそれには、中身を見なくても強い力が込められていていることが感じられた。 「私は最初から答えを言っていたんだから」 「え、答え・・・?」 急に答えを言っていたと言われても、思い浮かばない。それらしき言葉を聞いていただろうか? 「『ベルンカステルには早すぎる』」 「あ・・・」 「『杯を空にすると言うことは、それまでの終わりとこれからの始まり』ということ。この二つの言葉を組み合わせたらどうなるか。おつむの弱いあなたでも流石にわかるでしょ?」 そういえば最初、ベルンカステルはそんな言葉で私を煙に巻いていたはず。この言葉に答えが隠されていたとでもいうのか、私はベルンカステルがワインの銘柄ということを考えてから、慎重に答えを探った。 「お酒には早すぎる。そしてお酒が無くなるのは終わりと始まり、あっ!!」 「・・・さよならには早いということ。古典のハードボイルドを読んでいたら、直ぐに分かると思ったのだけどね、くすくす」 本を読んだ方が良いと言っていたのはそういうことだったのか。 だが、やはりこの魔女は性悪だ。ハードボイルドなんて、普通の女の子は読まないジャンルなのに。 「ふふ、スリルがあって良かったでしょ」 「こ、この、梨花はぁ・・・!ボクがどんな気持ちで・・・!!」 「結果オーライじゃない、圭一とヤレたんだから。三回も出させるなんて羨ましいわねぇ・・・」 一気に顔が紅に染まる。おのれ、私達の情事を高い所から見ていたというのか。 「くすくす。怒らない、怒らない。ほら、圭一が神社の前に来ているわよ」 「えっ!?」 私は思わず振り向いた。無論、ここは祭具殿なので外の様子は見えないが、圭一が境内に入っていこうとする気配を感じる。 「久しぶりに会えて楽しかったわ。幸せにね、羽入」 背後に、消え入りそうな声が聞こえた。祭壇の方向に振り向き直すと、さっきまでそこにいたベルンカステルの姿は無い。 「あ、ああっ?り、梨花?梨花ぁッ!?」 完全にベルンカステルの、いや、梨花の気配は消えていた。何度も祭具殿の中を見渡すが、影も形も無い。 いきなり過ぎる。もっと話したかった。憎まれ口ばかり叩かれたけど、梨花を見ても分かるように、あれは梨花の照れ隠しなのだ。 そうでなければ、私の元に現れて、私がこの世界に留まる方法を教えてくれることなんてあるものか・・・。 宮澤賢治の小説に出てくる転校生のように強烈な印象を残して去っていった彼女。もう一人の梨花。 私は彼女との再会が出来るだけ早く訪れる事を祈って、祭具殿を後にした。 「あっ、羽入!」 神社の境内に、圭一は居た。 駆け寄ってくるその手には、エンジェル・モートの紙袋。中には沢山のシュークリームが詰められていた。 「どうしたのですか、こんなに、沢山・・・」 あまりの量に目を丸くする。半端な量では無い、百個はあるかないか、そんな勢いだ。 「ほら、昨日羽入は『ボクのためにシュークリームを食べて下さい』って言っていただろ?」 情事の後にそうお願いしたのは覚えている。しかし、それはあくまで圭一だけへのお願いだったはずだ。 「俺、考えたんだけど。こういうのって、二人で食べた方が楽しいと思うんだ。羽入が自分の事を忘れて欲しいといった気持ちは分かるけど、俺、羽入の事忘れたくないから」 「け、圭一・・・」 「だからさ、転校するまで一緒に食べていこうぜ。ほら、いっぱいあるから梨花ちゃんや沙都子とも食えるぜ。あ、そうそう。勿論レナや魅音と詩音も一緒だぜ。最後まで、良い思い出を作って行きたいんだ」 胸が熱くなる。 私は圭一を悲しませないためにあのお願いをしたのに、圭一はそれでも私を忘れず、最後まで楽しい記憶を作ることを選択してくれたのだ。 この人を好きになって、結ばれて良かった。 「ありがとうなのです。圭一」 圭一の体を抱きしめる。愛しい人、もう話すものか。勾玉で得た力が失われる限り、私はあなたの傍にいることを誓おう。 「羽入・・・」 圭一も私を抱きしめ返す。紙袋が落ちるのも構わず、強く抱きしめられた。 「俺、手紙書くから、電話もするから。羽入のこと忘れない。どこへ羽入が行っても、俺、必ず会いに行くから。羽入を、誰よりも愛しているから・・・」 「圭一、嬉しいのです」 その覚悟は尊いもの。転校しなくなったことを私が告げれば、どんな顔をするのだろうか。 願わくば、満面の笑みを見せて欲しいものだ。 「実はですね、圭一・・・」 圭一を安堵させるべく、笑顔で転校の中止を告げようとする。その瞬間、意外な声に私の発言は遮られてしまった。 「みぃ~☆こんなところにシュークリームなのです~♪」 ざっ、と砂利を擦る音と共に、シュークリーム入りの紙袋が消えた。 視線の先には制服姿の梨花が、嬉しそうにこちらを見つめている。 「げっ、梨花ちゃん!?」 電気が走ったかのように、私と圭一の体が離れる。それを見て梨花はくすくすと笑うと、「わーぃ、今日はご馳走なのです~☆」と走り去ってしまった。 「あぁっ!?ま、待ってくれ梨花ちゃん!それは俺達の・・・!!」 圭一が紙袋を奪い返すべく、駆け出す。 だが、おかしい。梨花は今日の夕方まで沙都子と詩音の家に居るはずだ。 その時、振り向いた梨花が私を見て意地悪く笑った。こ、こいつはまさか・・・! 「みぃ~♪圭一も羽入も捕まえてごらんなさいなのです~☆」 くそぅ、性悪魔女め。なんだかんだ言っても、あんたは私にちょっかいを出したいだけではないか。 さっきのさよならは何だったのかと思う。これではまるで冗長なさよなら、居座りに等しい。 でも、まだ彼女と話すことが出来るのだと思うと嬉しい。舞台で言えばアンコールに応えてくれて、私好みの演技をしてくれたようなものだ。 私は一歩踏み出した。これから圭一と待つ日々を始めるため、そして、今しか味わえないこの瞬間を楽しむため。 「あうあうあぅ~!シュークリームにはまだ早すぎるのですよ~!!」 <終わり>