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ナナリーは光の中に包まれていた。 しかし彼女の目は光をとらえることができない。 ナナリーは自分の身に何がおこっているかすら、わからないまま、 この世界から姿を消した。 「あんただれ?」 声が聞こえた、女性の声だ。 歳はまだ若く、おそらく自分の二、三上程度だとおもう。 「私ですか?」 返事をしてみる。 声の近さからして、おそらく自分に話かけてきているのだと思う。 「そう、あんたよ!」 どうやら本当に自分に話しかけているようだ。 「私は、名前は、ナナリー・ヴィ・ブリタニアです。」 ルイズは焦っていた。 やっとのことで召喚した使い魔が、まさかの人間の少女(車椅子付き)。 しかも、あきらかに貴族が着ていそうなドレスを身にまとっていたのだ。 これにたいしては教師のコルベールも驚き、対応に困っていた。 「とりあえず、身元の確認をしてみてはどうですか?」 コルベールの提案にルイズも頷く、 この少女が本当に貴族なのか、確認する必要があったからだ。 少女に近づき声をかける。 「あんただれ?」 相手が貴族かもしれないというのに大きな態度だ。 しかしそれもそのはぜ、彼女、ルイズ・フランソワーズ・ラ・ヴァリエールは このトリステインの公爵家の娘なのだ。 「私ですか?」 この少女は、目の前に面と向かっているというのに わざわざそんな確認をとってくる。 ルイズは少し不機嫌になった。 「そうよあんたよ!」 少し語調が強くなってしまう。 それにたいしても、目の前の少女は動じず、胸をはって答た。 「私の名前は、ナナリー・ヴィ・ブリタニアです。」 聞いたことのない名だが、 それは、明らかに平民のそれとは違うものだった。 どうして?なんでこうなるの? 今、召喚された少女とコルベール先生が話をしている。 貴族とわかった以上、このまま召喚の儀式をするわけにはいかないからだ。 試験はやはり不合格なんだろうか? それはそうだろう、貴族の使い魔が貴族なんて聞いたことがない。 そんなことを考えてるうちに、 コルベール先生と少女の会話が終わったようだ。 コルベール先生は複雑そうな表情をしている。 やはり、駄目なんだろう。 「ミス、ヴァリエール」 「は、はい!」 試験の不合格の知らせだろうか。聞きたくない。 「彼女、ミス・ブリタニアは、貴女が思っているより複雑な状況のようなのです。」 「どういうことですか?」 「彼女は、私達の知らない国から召喚されたとのことです」 「はい?」 つまり、この少女は、トリステインでもガリアでもあの憎きツェルプストーの国の貴族でもない。 私の知らない国の貴族…… 「あと、彼女は貴族ではないらしいのです…」 貴族でない?それなら少しは安心… 「彼女は皇族。 帝政の国の……ようするにお姫様です。」 なんだお姫様か……ん? 「お姫様ぁああああ!?」 目の前が真っ暗になった。 コルベールという人と話しているうちに、 ここは日本ではないということがわかった。 それどころか地球ですらないかもしれない。 なにより、魔法や召喚など、 普段は聞き慣れない言葉が当然のように飛び交っていく。 普段ならこんなことを信じれるはずはない。 だが、その前にあった状況が状況だ。 一つの結論に達することができた。 (私、死んでしまったんですね。) 目の見えないナナリーにも周りの状況はわかる。 とてつもない轟音、そして悲鳴。 (ということは、ここは天国なのでしょうか?) 「あ…あの…」 コルベールに話かける。 コルベールは自分が皇族だということに戸惑っているようなのだ。 もうひとりの女性はその場に倒れるほどに驚いていた。 ここでナナリーは、ある決心をした。 「先程のことは嘘です。私はただの一般市民です、」 (私は既に死んでしまったのだ。 ここが何処であろうと、もう皇族という身分もない。) ナナリーはこの見知らぬ世界で、ただひとりの人間として生きることを決めた。 コルベールの困惑は続く、 先程まで皇族と名乗っていた少女が、 こんどは平民だと言い出したのだ。 もちろん信じられるはずもない。 ちなみに信じられないのは平民ということのほうだ。 なぜなら、その身にまとっている衣類はもちろん。 高貴な血筋が出す独特の雰囲気というものがあらわれていたからである。 ナナリーは短いながらも皇族として生きてきた期間があり、それも仕方のないことなのだが。 「ミス・ブリタニア、私には貴女が平民だということが信じられないのですが。」 「私は平民です。名前もナナリー・ランペルージといいます。」 その後、何度問い掛けて彼女は引こうとはしなかった。 おそらく、何か重大なことを隠しているのだろう。 コルベールはそう思った。 「わかりましたミス・ランペルージ。 この件は他の者には伏せておきます。 しかし学園長には報告せねばなりませんよ。」 まだナナリーは不服そうな表情だったが、 「わかりました」 と頷いた。 ルイズは目を覚ました。 あたりは既に暗くなっており、 そして、いつの間にか自分の部屋にいる。 おそらくは、倒れた自分を誰かがレビテーションで運んでくれたのだろう。 「そういえば…あの娘は!?」 ナナリーはその場にはいない。 いや、まともに考えればいるはずはない。 なぜなら彼女はお姫様なのだから。 「…そうか、試験は落第なのね」 使い魔を召喚したとしても契約できなければ意味のないことだ。 「お家に帰ろうかな…」 ルイズはある意味ふっきれていた。 お姫様を召喚したんだ。 これはある意味すごいことなんだ。 誇らしくさえ思える。 そんなことを考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。 誰だろうかこんな遅くに。 「私です。ナナリーです。」 ナナリー、それは自分の召喚したお姫様の名前だ。 「お部屋にいれてもらってもよろしいですか?」 お姫様を待たせるなんて言語道断だ。 ルイズは慌てて扉をひらく。 「こんばんわ、えっと……」 ルイズはまだ自己紹介もしていないことに気づいた。 「私はルイズ・フランソワーズ・ラ・ヴァリエール。 ヴァリエール家の三女でございます。」 最上級の敬意を表して挨拶をする。 「ルイズさんですね。」 「いえルイズとおよび……」 ルイズはこの時はじめて気づいた。 ナナリーは足だけでなく目も不自由なことが。 今までは気づかなかった。 最初は召喚できたということに舞い上がり。 彼女が皇族とわかったときには、すぐ気絶してしまったからだ。 ナナリー「あ、目のことですか? 気にしないで下さい。」 「すいません…今までお気づきできないで」 「いえ、ですから気にしないで下さい。」 「あ……ところで、どのようなご用件でしょうか?」 まさか、お姫様を勝手につれだした罰だろうか? 「そのことですが…」 何故かナナリーは嬉しそうだった。 「私を使い魔にしていただけませんか。」 ルイズの意識は再び遠退いた。 ナナリーはルイズが先程気絶している間に、 トリステイン魔法学院学院長、オールド・オスマンの部屋を訪ねていた。 「ようこそ、ミス・ブリタニア。 いや、ランペルージのほうがよろしいですかな?」 「はい、ナナリー・ランペルージです。」 ナナリーはその後、実際に体験した事実を話した。 コルベールにしろオスマンにしろ 嘘では通用しないと思ったからだ。 なによりナナリー自身が嘘を言うことが嫌だったからである。 「ふむ、いささか信じがたいことじゃの。」 「私もこればっかりは……」 当たり前の反応だ。 異世界などまず信じられることではない。 ナナリーも、自身の身におきたことは把握しきれていない。 視覚が遮断された状況では仕方のないことだが。 「では、この車椅子を見てください。 おそらくは、 この世界の技術力ではつくることはできないでしょう。」 コルベールは車椅子を見て彼女を信じることを決めた。 ルイズが再び目をさました後、 ナナリーは学院長室でのことを話した。 ルイズも彼女が異なる世界の住人だなんて 簡単に信じることはできない。 ……だが、彼女が嘘を言ってるとも思えない。 「オスマン学院長から、ルイズさんの使い魔になる許可はえました。 もしルイズさんが良ければ…私を使い魔にしていただけませんか?」 ちなみに、そのことがオスマンに通ったのは、 コルベールの熱烈なプッシュによるものだ。 「この世界では、私に身寄りはありません。 このような何もできない私で良ければ、お願いします。」 ルイズにとっては願ってもないことだ。 これで試験も合格できる。でも…… 「使い魔というのは、そんな良いものではありません。 姫様、お考えなおしたほうがよろしいのでは?」 それにたいし、ナナリーは一呼吸おいとこたえた。 「私が使い魔になることが迷惑ならそういって下さい。 正直、私が使い魔になったところで ルイズさんには迷惑しかかけれないかもしれません。 ですが、ほんの少しでも私が必要なのでしたら。 お願いします。どうか私を使って下さい。」 その時ルイズは思った。 この娘は、何もできない自分に決別したいのだと、 人のために役に立ちたいのだと。 ルイズも覚悟を決めた。 「わかりました姫様、あなたを私の使い魔にさせていただきます。」 「え~…敬愛なる姫殿下、ナナリー・ヴィ・ブリタニアの名において…」 ルイズは契約時の言葉を考えていた。 使い魔にするのは世界が異なるとはいえ、お姫様なのだ。 他の使い魔と同じわけにはいかない。 「あの…その言葉というのはそんなに大切なものなんでしょうか?」 「いえ、ルーンをえがけば特に必要ありません。 ただ、姫様に失礼のないように考えていただけです。」 「でしたら、そのように特別な言葉はいりませんよ。 私はルイズさんの使い魔になるのですから。」 ルイズはそれを聞いて少し考えた。 たしかに、使い魔にする時点で十分失礼なことなのだ。 今更言葉を変えても仕方がない。 ここはさっさと儀式をすませたほうが良いのではないか、と。 「わかりました。さっさとすませちゃいますね。」 ルイズは立ち上がり、 ナナリーの前までくると、ルーンをえがいた。 「姫様、失礼します。」 「はい?何をですか?」 ルイズはナナリーに口づけをした。 唇が離れてから数瞬の間、ナナリーは固まっていた。 「え!?えぇええー!」 そして、驚いた。 ルイズもその様子をみて驚く。 「あ…あの、もしかして…姫様。 契約の手順を知らなかったのですか?」 ナナリーは顔を真っ赤にして何度も頷く。 「も、もうしわけありません! 手順も説明せず!その、勝手にせ…せせ、接吻を」 ルイズはかなり取り乱していた。 姫様に粗相を働いたのである。 「い…いえ、気にしないで下さい。 その…私…あうっ!?」 ナナリーが突如、車椅子の上でうずくまる。 「ひひひひ姫さま!姫さまだだだだ大丈夫ですか!」 ルイズの取り乱しも、レベルアップしていた。 なんてことはない、契約のルーンが刻まれてるだけなのだが。 「姫さまぁ!姫さまぁ!気をたしかに!」 相手がお姫様というだけでかなりの焦りようだ。 これで相手が平民なら、そのへんに転がしておくのだろうが。 やがてルーンも完全に刻まれた。 「はぁ…ふぅ……もう大丈夫ですよ。」 「よ…よかったぁ…」 ルイズは涙目になっていた。 ナナリーは、ルーンの刻まれた左手をさする。 「ふふっ、これで私はルイズさんの使い魔なんですね。」 ルイズも相槌をうつ。 「はい、姫様」 それを聞いて、ナナリーの眉毛が釣り上がる。 「ダメですよ。私はルイズさんの使い魔なんです。 これからはナナリーと呼んで下さいね。」 眉毛が釣り上がったとはいえ、もともと穏やか表情のナナリーだ まったく迫力は無い。 「で…ですが姫様…」 間髪いれずにナナリーが言う。 「な・な・りぃーです」 「わかりました。な…ななりぃ?」 「敬語もなしです。ルイズさんのほうが年上ですよね?」 「あ…あぅ…」 貴族としての教育を受けてきたルイズにはかなりの苦痛だった。 「いいですかルイズさん」 「は、はい!」 「だから敬語はだめです。」 異様な風景だった。 魔法使いが使い魔にかしこまっている。 主従が完全に入れ代わっていた。 「私は使い魔なんです。 ルイズさんはその主人、 もっと堂々として下さい。」 「…う…うん」 「その調子です。」 ルイズのストレスは限界のところまでたっしている。 皇族、いわば王族にこのような態度をとるなんて、それほどありえないことなのだ。 ナナリーもそれを察したのか、 「では、私のことは妹とでも思って下さい。」 「妹?」 「はい、嫌ですか?」 ルイズには妹はいない。姉妹の中でも末っ子なのだ。 「わ、わかった!ナナリーは私の妹ね!」 だからこのことが、とても嬉しかった。 「ところで、使い魔とは何をすればよろしいのですか?」 「あ…そういえば教えてなかった…」 使い魔の仕事 「まず、主人の…」 主人の目となること、 ナナリーには不可能なことだ。 「えっと…」 秘薬の材料をとってくること。 車椅子ではまず不可能なことだ。 「たしか…」 主人を守ること。 ルイズよりもか弱い彼女にできるわけがない。 「あ…ごめん…忘れちゃった。」 ルイズは嘘をついた。ナナリーを傷つけないために。 しかし、ナナリーにはそれがわかってしまう。 今まで、多くの人に気をつかわれ生きてきたのだ。当たり前といえば当たり前だろう。 「すいません…私が何もできないばっかりに……」 「あ、あ、勘違いしないでね!本当に忘れただけなんだからね!」 ナナリーを必死に励まそうとするが、ルイズだった。 ナナリーが今にも泣きだしそうなので、 ルイズは急いで就寝の準備をする。 「じゃあナナリー、ベットに移すからね。」 車椅子の上で着替えさせるよりは広いところのほうがいいだろう。 「大丈夫ですか?」 ナナリーは心配そうな顔をしていた。 ルイズに自分を持ち上げることができるのだろうか? 「あ…うん、残念なことに腕っ節には少し自信があるのよ」 普通の魔法使いなら、ここでレビテーションを使うだろう、 しかしルイズにはそれができない。 だからこそ、普段魔法に頼っていないルイズには自信があった。 「ナナリー、しっかりつかまっててね。」 「はい」 「うんしょっ……あれ?」 ナナリーは思ったよりずっと軽かった。 それこそルイズにも簡単に持ち上げることができた。 「重く…ないですか?」 「え?いえ、全然、むしろ軽いくらいよ。」 ルイズが思ったよりもスムーズにベットに移すことができた。 ルイズ「さて、ナナリーをこのまま寝かすわけにはいかないわよね。」 ナナリーはドレス姿のままだった。 たしかにこのまま寝かせるわけにはいかない。 「んー…私の寝巻でいいかしら?」 「あ、貸していただけるんですか?ありがとうございます。」 当たり前だが、裸のまま寝かせるわけにもいかない。 「はい、手を下げてもいいわよ。」 「ありがとうございます。」 貴族が人の着替えの手伝いをするなんてありえないことなのだが、 ナナリーを妹として考えてみると、なかなか良いものだと思った。 「…あ、でもこれ…なんていうか」 ナナリーがなぜかそわそわしている。 「ネグリジェがどうかしたの?」 「や…やっぱりそうなんですか! というより、ルイズさんってそんなもの着ていたんですか!」 「…そ、そうだけど」 ルイズにはナナリーが何を恥ずかしがっているのかわからない。 二つの世界にはそれだけの文化の違いがあった。 もちろんだが、ナナリーを床に寝かせよう等と、ルイズは考えもしなかった。 これが平民なら、話は変わっていたのかもしれない。 「ナナリー、寝心地はどう?」 「はい、とてもふかふかです。」 「じゃあおやすみ。ナナリー。」 「おやすみなさい。ルイズさん。」 ルイズが寝てしまった後もナナリー眠れないでいた。 まぁ、このような急激な環境の変化がありながらも、 普通に眠れる人間もすごいのだが。 二つの月、異なる星座。 あきらかに異なる夜空なのだが、ナナリーには見ることはかなわない。 「お兄様…」 おそらくは元の世界にいる兄。 「佐世子さん…」 自分と同じく光につつまれていったであろう、メイド。 ナナリーは孤独であった。 それはある意味元の世界でも同じである。 夜もふけていき、ナナリーも眠りについていった。
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ブルドンネ街。それはトリステインで一番大きな通りだ。 「とても賑やかな場所ですね」 人々の会話や足音はナナリーにも聞こえていたいた。 「ええそうね。ちなみに、この先に宮殿があるのよ」 「宮殿に行くのですか?」 「女王陛下に拝謁してどうするよ」 ここでルイズは思った。 そういえばナナリーもお姫様なのだ。 挨拶くらいはしておいてもおかしくないのではないだろうか? 「そうね"平民"のナナリーには関係の無い話よね」 キュルケは意味深な笑顔でナナリーの頭を撫でた。 「この辺りはスリが多いから気をつけないとね」 「そうね、特に魔法の使えないルイズは気をつけないとね」 「なんですってぇ!」 ルイズとキュルケの言い争いも日常的なものだ。 ナナリーもその光景に馴れたのか、落ち着いた様子だ。 そんななか、タバサがナナリーに近寄ってきた。もちろん無言でだ。 「あら?タバサさんどうしましたか?」 タバサは驚く。目の見えないはずのナナリーが自分の接近に気づいたからだ。 「タバサさんの足音はもう覚えました」 ナナリーは足音でその人物が誰かがわかる。 「タバサさんは体が小さいので足音も小さいんですよね」 タバサはナナリーに驚かされっぱなしだった。 口論もようやく終わり、ナナリー達は通りを歩いていた。 「ところで、何のために街まできたの?」 キュルケがルイズに問い掛ける。 「そこに行くためよ」 「そこって……」 ルイズが指したのは裏路地だった。 「そんなとこ、武器屋くらいしかないじゃないの」 キュルケは呆れた、てっきりナナリーの服でも買いにきたのだと思っていたからだ。 「知ってるわ。武器屋に用があるんだから」 「武器屋ぁあー!」 素っ頓狂な叫び声が響く。 キュルケが驚くのも無理はないだろう。 それは魔法使い、貴族にとってそれは必要の無いものなのだから。 「な、なんで武器なんて!」 「魔法が使えない私じゃナナリーは守れないでしょ!」 「だからって武器なんてあんたに使えるわけないでしょ! だいたい……」 「ルイズさん!」 ナナリーが二人の会話に割って入った。 「あの、私のためになんて、その、危険なことしないで下さい」 「ナナリー…」 ルイズの固い決意もナナリーの一声で揺れる。 ルイズにとって、ナナリーは今一番の存在なのだ。 「そうよ、生兵法は怪我のもと。 あんたが怪我でもしたら一番悲しむのは誰だと思ってるの?」 キュルケの言葉はルイズの胸に突き刺さる。 こうなってはもう言い返す言葉はない。 「見ていくだけ」 タバサが急に口を開いた。 「ん?そうねぇ、見ていくだけなら」 キュルケはタバサの提案に同意した。 結局、何も買わないという条件付きで武器屋行きは了承された。 武器屋の親父はふて腐れていた。 上客だと思っていた貴族達は「見ていくだけ」 と初めてから冷やかしを決め込んでいたからだ。 「まぁ、武器屋なんてきても面白いことなんてないわよねぇ」 キュルケがいかにも退屈そうに言った。 武器屋の親父はルイズ達を無視することを決めた。 ルイズとキュルケが壁にかけてある剣などを眺めていると ナナリーと誰かの話し声が聞こえてきた。 「そうなんですか、デルフリンガーさんは物知りなんですね」 「おうよ、ただ物忘れが激しいけどな」 「ふふふっ、デルフリンガーさんったら」 楽しそうなナナリーの笑い声だ。 ルイズはその会話相手が気になり声のするほうを振り向いた。 「な………」 驚くことに、ナナリーの話し相手とは…… 「剣じゃない!?」 そう、ナナリーの話し相手は剣だったのだ。 「インテリジェンスソード」 タバサが正式名称を言う。 インテリジェンスソードとは、精神をもった剣。 人と会話することができるものだ。 「さすがナナリーね。そこらの奴らとは一味違うわね」 キュルケは苦笑気味だ。 「おそらく彼女は話し相手が剣だと気づいてない」 キュルケにしかわからない変化だが。 普段無表情なタバサも少し笑っているようだ。 「ナナリー、ナナリー!」 「あ、はい」 ルイズの呼びかけにナナリーがこたえる。 「もしかして……あなた誰と話してるかわかない?」 「デルフリンガーさんというかたですよね? この店の従業員さんじゃないんですか?」 「面白くねぇな。もうネタばらしか」 デルフリンガーがガチャガチャと音を立てて不満をはいた。 どうやら デルフリンガーもナナリーが自分の正体をわからないことを面白がっていたようだ。 「あのねぇ…まぁ説明するより実際に持ってみたらわかりやすいかな」 そう言い、ルイズはナナリーにデルフリンガーを手渡した。 「嬢ちゃん、刃には気をつけろよ」 「刃?ですか?」 ナナリーは手元からするデルフリンガーの声を不信に思いつつも掴んだ。 「え?これって…」 剣、ナナリーにはあまり馴染みのないものだが、 何故かナナリーにはそれが剣であることがわかった。 「もしかして…デルフリンガーさんって…」 「おでれぇた!」 ナナリーの疑問うんぬんはデルフリンガーの一言で遮られた。 「な、なんなのよ!いきなり大声だして。 ナナリーがビックリするでしょ」 「ビックリしたのは俺のほうだ。 まさか、こんな嬢ちゃんが『使い手』だったとはな」 「はぁ…使い手ですか?」 ナナリーは困惑していた。 先程まで話していたデルフリンガーが剣だったと思えば、 今度は使い手などと言い出すのだ。 「ああ、でも残念だ。 なんで嬢ちゃんが使い手なんだろうな。」 「はぁ…すいません」 ナナリーはわけもわからず謝った。 「ねぇルイズ」 「なによ」 ルイズとキュルケはナナリーとデルフリンガーの様子を見ていた。 「買ってあげたら?」 「なにをよ」 「あれ」 キュルケはデルフリンガーを指差した。 「はぁ!?なんでよ」 キュルケは溜息をついた。 「まったく…さっきのナナリーの楽しそうな声が聞こえなかったの? こういうときに、さりげなくプレゼントをあげるのが良いご主人様ってものよ」 「…そうね、それも一理あるわね」 ナナリーとデルフリンガーの知らないうちに、 デルフリンガーの購入が決定された。 「いや、別に嬢ちゃんが悪いわけじゃねえんだ。 ただな、嬢ちゃんに俺を使うことは難しいってことをだな」 「…すいません」 ナナリーが本当に申し訳なさそうなので、 デルフリンガーは対応に困っていた。 「ナナリー、行くわよ」 ルイズの声だ。デルフリンガーには思わぬ助け舟となった。 「らしいな、じゃあな嬢ちゃん」 「は?何言ってるのよ。あんたは私が買ったのよ」 「は?」 デルフリンガーは思わず声をもらす。 「今日からあんたはナナリーのものだからね」 助け舟はどうやら泥船だったらしい。 「はぁああああ!?」 デルフリンガーの叫びは武器屋の外まで響いた。 「デルフリンガーさん、これからよろしくお願いします」 ナナリーはぺこりと頭を下げた。 「まぁ…仕方ねえな。 ここにいるよりはましか」 デルフリンガーは、剣としてではなく、ナナリーの話し相手として購入された。 その後、ナナリーの服を買うために服屋をまわることになった。 「いいんですよ。わざわざ私の服なんて」 悪いと思い、ナナリーは遠慮をする。 「良くないわ。だってナナリーの服ってあのドレスしかないじゃない」 「…それはそうですが」 結局押し切られてしまった。 「で、どんな服がいいの?」 目の見えないナナリーに聞くルイズ。 正直どうかと思う。 「可愛いのがいいです」 「可愛いのねぇ」 「はい、お姫様みたいな感じのがいいです」 思わず、お前お姫様やないんかい!と三人はつっこんでしまいそうになった。 「こんなんでいいんじゃない?」 「そんな露出が多いのナナリーに着せれないわよ」 「そう?似合うと思うんだけど」 「あの…できれば控えめで」 会話でしか状況を把握できないナナリーは少し不安になっていた。 「これ」 タバサがルイズに服を手渡す。 「ん?なかなかいいんじゃないの」 「ネコミミがポイント」 「み…耳がついてるのはちょっと」 ナナリーの不安は大きなものへとなっていく。 ルイズ達に任せるのを不安に思ったナナリーは、 店員と話をしながら自分で選ぶことにした。 「はい、あとネクタイと」 「色のほうは?」 「えっと…たしか…」 ナナリーの目指してるものは、 アッシュフォード学園にいたころの自分の服装であった。 「あの…ルイズさん、お願いがあるんですが」 服を選び終わったナナリーがルイズに話かける。 「ん?もう服はいいの?」 「できれば、パジャマも欲しいんですが…」 ナナリーは今だにキャミソールというものに馴れることができないでいた。 「いいわよ。なんでも買ってあげちゃう」 ルイズは二つ返事で了承した。 気持ちは孫になんでも買ってあげたい、 おじいちゃんのそれと同じだろう。 「じゃあキャミソールでいいのね」 「ま、まってください!」 ナナリーは再び店員を呼んだ。
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謙虚な使い魔 「やったわ!あのゴーレムを、わたしの魔法で。もう、『ゼロ』・・・・・・もう、わたしは『ゼロ』じゃないんだわ」 ゼロと呼ばれ続けたルイズは、皆の助けを借りつつも、初めて自分の『魔法』で何かを成し遂げられた事で感極まってその目に涙を軽く浮かべていた。 「でも、最後の大爆発は今までわたしがやってきた『爆発』じゃなかったわ。一体何が・・・・・・まさか!『破壊の杖』!?」 ルイズはハッと気づいた、ブロントが『破壊の杖』を持っていた。もしかするとその大爆発はルイズではなく、ブロントが最後に唱えかけたものだったのでは? マジック・アイテムらしき道具の数々の使い方を知っているブロントならばその可能性が高いかもしれないとルイズは一瞬思った。 その時ルイズは横から声を掛けられた。 「見事な仕事だと関心はするがどこもおかしくはない」 爆風を避けるために飛びのいたが、しこたま土埃を被っていたブロントだった。 「おう!あれは確かに正真正銘お嬢ちゃんの魔法だ!魔法を併せての<スペル・チェイン>だなんて久しぶりに見たぜ!」 デルフリンガーがブロントに続けて嬉しそうにカチカチと鍔を鳴らした。 「え?<スペル・チェイン>?」 ルイズはきょとんとした。 「ああ、魔法はなんでも同時に重ねればいいわけじゃねーんだ。少し間を挟みながら一定の順番で異なる属性の魔法を繋げる事によって さっきのお嬢ちゃんがやった大爆発の<フュージョン>や相棒の、ええとなんて言ったかな?ディア・・・?ディセ・・・?あ、そうだそうだ、<ディストーション>とかが出来るわけよ!」 「ブロントも魔法を使ったの!?」 ブロントは首を横に振り、デルフリンガーが代わりに答えた。 「いやー、相棒のはちょっと違うな!武器の扱いが熟練された達人なら、魔法じゃなくてもその技一つで<スペル・チェイン>が起こせるんだ。おっと、この場合厳密に言えば<スキル・チェイン>って言った方がいいのか?」 「学院の本も調べたりしたけれど、<スペル・チェイン>なんて言葉聞いた事もなかったわ」 「そりゃそうだろうな。<スペル・チェイン>を起こすのに使う属性の順番とかがとにかくややこしーんだ。俺だってよくはわかってねー。俺が最後に<スペル・チェイン>を見たのも何百年も前だったかな?ん、あれ?<スペル>じゃなくて<スキル>の方だったかな?んー、まあ良いや。とにかくこの知識を持っている奴の数が極端に少ねえんだわ、これが。ましてや相棒みたいに<スキル>でやる奴なんてよ。もうおでれーたってなんのってよ!さすがエル・・・」 そんな剣の達人の相棒になれた事がよっぽど嬉しかったのか、デルフリンガーはカチカチと鍔を止めずに饒舌になり過ぎていたので、 ブロントはデルフリンガーを鞘に押し込んだ。 「俺がいたところの魔法ではできないんだが。ここの魔法は根本的に何かが違うようだった」 「系統魔法と先じゅ・・・・・・いえ、精霊魔法の違いかしら?ってこんな事話している場合じゃないわ!ゴーレムは倒せたけれど肝心のフーケがまだだわ!フーケは一体どこ?」 吹き飛んだゴーレムの跡の前に立つ四人は顔を見合わせた時、辺りを偵察に行っていたミス・ロングビルが茂みの中から現れた。 「皆さん大丈夫ですか!?フーケのゴーレムが現れたのを見たあと、私ではどうする事も出来ないのでフーケ本人が近くにいないか探したのですが・・・」 そう語り、歩み寄ってくるミス・ロングビルを静止するようにタバサは自分の杖ミス・ロングビルに向けた。 「探す必要は無い。貴女がフーケ」 「あら?どうしてそう思います?」 ミス・ロングビルは自分がフーケであると肯定はしないものの、強くも否定せずタバサに聞いた。 「最初会った時から怪しかった。学院でゴーレムを焼いた事を誰も話していないのに貴女は知っていた」 「そうでしたでしょうか?でも土のメイジならあの土の塊見たら何となくわかりますよ」 すっとぼけるミス・ロングビルをよそにタバサは続けた。 「それと貴女はブロントの芸をする姿を見ていなかった。あの時学院の者であの場を離れていた者はフーケとしか考えられない」 「そうですか?先ほど馬車でも言いましたがちゃんと観ていましたよ?そこの彼が竪琴を『演奏』するところを」 「他には?」 タバサは目を鋭く細めた。 「他にと言われましても・・・・・・ああ、彼の演奏で他の使い魔達までも歌い出してましたね。後は・・・鎧姿に竪琴は意外と絵になっていたと言う事ぐらいでしょうか・・・?」 それを聞いてルイズとキュルケもバッと身構えた。 「ミス・ロングビル、貴女はブロントさんの芸を『聞いて』いたけれど、『見て』いないのね」 キュルケは杖を構えた。 「あの時そんな状況にいたのは会場から離れていたフーケぐらいしかいないわ」 ルイズも咄嗟に杖を出した。 「なんだい、他にも何かしてたのかい、あの使い魔。あの竪琴の演奏一つだけでも立派な芸だって言うのに」 ミス・ロングビルと呼ばれていた女性はメガネを外し、優しそうだった目が猛禽類の様な鋭い目へと吊り上った。 そしてフーケは再びルイズ達に歩み寄った。 「動かないで!」 ルイズは杖をフーケに向けた。 「おっと。動かないで貰うのはそっちの方になるわ」 そう言ってフーケは素早くびゅっと杖を振るとルイズ、タバサ、キュルケの足元からゴーレムの腕の形に似た<アース・ハンド>が伸び、三人のを掴み、動きを拘束した。 「流石に今日一日でゴーレムを三回も召喚して、四体目を召喚する力は残っていなかったわ。でもこうして長々と話に付き合ってくれたお陰で、貴方達を握り潰す事ぐらいは出来る『手』を召喚する力ぐらいは残ってるわ」 ルイズはがっちりと掴まれた手の中でもがいた 「どうしてわざわざこんな事を!?」 ルイズがそう怒鳴るとフーケは、 「『破壊の杖』奪ったのはいいけれど、使い方がわからなかったのよ。だからこうして貴方達魔法学院の者を連れてきて使い方を知ろうと考えたのよ。 結局はよくわからずじまいだったけれど、その代わりあなたの使い魔の持っているマジック・アイテムを頂こうと思ったのさ」 「ブロントの!?」 「あの声を送り届ける真珠や持った途端に身が軽くなってゴーレムをも切り崩せる剣なんてそれぞれ一つが国宝級さね。そういう事なんで使い魔さん!早くその宝をよこしな!そうしたら主人の命だけは助けてやるよ!」 『破壊の杖』を含むほかのアイテムを握り潰したくなかったので敢えて<アース・ハンド>が掛けられていなかったブロントに向かってそうフーケは叫んだ。 「おっと、剣は足元に置いておきな!まずはその真珠と『破壊の杖』をよこして貰おうか!」 ブロントは何も言わず、腰のデルフリンガーを外し、地面に置いて、かばんから『破壊の杖』を取り出した。 「こんなものがいるのか?」 ブロントは手に持った『破壊の杖』をヒラヒラと振って、フーケに見せた。 「使い方がわからなくても、せっかく盗ったものだ。こうして何人か学院の連中だまして連れてくればいつか使い方が分かるかもしれないしさ!さあ早くしな、貴方を<アース・ハンド>で握りつぶしてから取ってもいいんだからさ」 「そうか」 そうブロントは言うと、その左手の篭手から強く光が漏れ出して、手に持った杖を高く掲げ、上空に投げた。 フーケは咄嗟に上空に飛んだ杖を目で追った。そしてその杖は見えない軸に支えられたかのように激しく回転し始めた。 そこへブロントが続いた。 「口で語るひまがあるなら手を出すべきだったな」 「な!?」 ブロントは両手をフーケに向けて押し出した。 フーケがその場の状況理解する前に、回転した杖が凄い速さで滑空して、フーケに激しくぶつかり、吹っ飛んだ。 同時にルイズ達を掴んでいた<アース・ハンド>もただの土となって崩れ落ちた。 「調子に乗ってるからこうやって『天罰』にあう事になる」 ブロントは気を失ったフーケにそう言葉をかけて、地面に落ちた『破壊の杖』を拾い、デルフリンガーを再び腰につけた。 「ブロント!」 <アース・ハンド>から抜けたルイズがブロントに駆け寄った。 遅れてタバサとキュルケも駆け寄った。 タバサはすかさず杖を振るい、気を失っているフーケを風のロープで縛り上げた。 「あーあ、どっちがフーケを捕まえられるかで決着付けたかったのに、これじゃまた勝敗がうやむやね」 キュルケがぼやいた。 「あんたまだそんな事言っているの?呆れたわ。とにかくわたし達で無事フーケを捕まえられたのだからいいじゃない」 ルイズは腕を組み、ふんと鼻を鳴らしながらそっぽを向いて言った。 「ま、良いわ。また次の時まで勝負はお預けって事で。それより夜が遅くなる前に戻りましょう、早くこの土に塗れた体を水で流したいわ」 一同はキュルケのその言葉に賛成して、拘束したフーケを運んで学院へと戻った。 その日の夜、学院長室でオスマン氏は机の上に『破壊を杖』を置き、戻った四人の報告を聞いていた。 「ふむ・・・・・・。ミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとはな・・・美人だったもので、なんも疑いもせずに採用してしまった・・・ああ、いやいや、すまんの、こんな夜遅くまで頑張ってもらったんじゃ、これ以上は時間はとらせんよ」 オスマン氏はコホンと咳払いをして、 「とにかくフーケは城の衛士に引き渡した。そして『破壊の杖』も無事戻ってきた、これで一件落着じゃ」 オスマン氏は、ルイズ、キュルケ、タバサの三人の頭を撫でた。 「君達の『シュヴァリエ』の爵位申請を、宮廷に出しておいた。追って沙汰があるじゃろう。といっても、ミス・タバサはすでに『シュヴァリエ』の爵位を持っているから、精霊勲章の授与を申請しておいた」 オスマン氏の爵位申請を聞いて驚いた三人だったが、ルイズは今回一番の功績者であるブロントを見つめた。 「・・・・・・・オールド・オスマン。ブロントには、何もないんですか?」 「残念ながら、彼は貴族ではない」 ブロントは言った。 「既にナイトである俺に隙は無かった。爵位が欲しくてなるんじゃない。人を守ってなってしまう者がナイト」 オスマン氏はふむ、と頷いた。 「確かにその心構えが重要じゃの。さてと、無事盗賊騒動も片がついたので、明日は予定どおり『フリッグの舞踏会』を執り行う」 キュルケの顔がぱっと輝いた。 「そうでしたわ!フーケの騒ぎで忘れておりました!」 「明日の舞踏会の主役は間違いなく君たちじゃ。それに備えて今日はもうゆっくり休みたまえ。舞踏会の主役が体調不良で出られない、ではつまらないからの」 三人は礼をするとドアに向かった。 その場を動かないブロントをルイズはチラッと見つめ、部屋を出るのを止めた。 「ブロントどうしたの?」 「少しオスマんに聞きたい事があるんだが」 キュルケとタバサが部屋を出るのを確認した後、ブロントは机の上に置いてある『破壊の杖』に近寄った。 ルイズは何も言わず静かにブロントの後ろで聞いていた。 「なんでこのトリートスタッフが『破壊の杖』何て呼ばれているんだ?ミミズすらも叩き倒せないものなんだが」 「なんと、この『破壊の杖』が何であるのか知っておるのか!?幾ら調べてもその正体が判らなかったので私が暫定的に『破壊の杖』と名を付けたんじゃが」 「俺が元いた世界で祭事の時に配られた杖なんだが。このトリートスタッフは俺が知っている物とは少し違うところもあるが」 「ふむ、トリートスタッフか。ところで元いた世界とは?」 「ヴァナ・ディールと言う別の世界からルイズに召喚でこの世界に呼ばれたんだが」 「なるほど・・・そうじゃったか・・・そうじゃな、君ならこの杖の元の持ち主の事が判るかもしれないな・・・」 「・・・この杖は俺が召喚されてから始めて見るヴァナ・ディールの物なんだが。誰が持ってきた訳?」 オスマン氏はトリートスタッフと呼ばれた『破壊の杖』を手に取った。 「その杖は元の持ち主であった私の命の恩人が置き忘れていったものでの、いつか返そうと思って命の恩人の事を調べ続けてもう三十年程経つのかのう・・・」 「そいつがどうしたかわからにいのか?」 「最後に会ったときが、私を助けてくれたその時限りなんじゃよ。三十年前、森を散策していた私は、ワイバーンに襲われた。そこを救ってくれたのが・・・」 ――ハルケギニア 三十年前―― 一人の幼児程の体躯で、獣の様な鼻をした耳長の亜人は森の中で悪態をついていた。 「まったく!冒険者の活動を促進する為に交霊祭で配るためだかわたくしの知ったこっちゃありません事ですけど、手の院の連中は杖一本もまともに作れず、つくづく無能ですこと。この多忙なわたくしがわざわざ貴重な時間を割いて協力してあげてらっしゃるのに」 その手には蝙蝠の杖頭が装飾された杖を持っていた。 「『月の力を借りて、いつでも誰にでも帰還魔法の<デジョン>を何度でも使用できる杖の試作品です!』何て口上は叩いて作ったはよろしいですけど、『発動の条件は月一つで半分までは満たせられる』何て月が一つ以上に増える事一生ありえないと言う重大な問題に事に気づかず作ってしまうお馬鹿さん達には困ったものですわね」 亜人は更に杖に語る様に文句を続けた。 「肝心の帰還魔法自体を込めるにもわたくしの魔力の十分の一も受けきれず、そのまま魔法を漏らして暴走してわたくしを飛ばしてしまうだなんて、杖の方としても気合が足りません事よ・・・あら?」 その亜人は森の奥で一人の男の姿を見かけた。一匹のワイバーンに襲われていた。 「オーホホホホ!そこのあなた、助けが欲しいのではなくて?」 亜人は高笑いを上げた事によって、ワイバーンの注意は目の前の男よりもか弱そうで小さい亜人の方へと向けられた。 「子供!?危ない!ここは危険だ!」 深手を負い、その場から動けなかった男が叫んだ。 「オホホホ!麗しき淑女を捕まえて『子供』だ何て心外ですわよ。確かにわたくしは身も心も何時までも若々し・・・・・・」 亜人が語る途中、ワイバーンが問答無用に突進してその頭で亜人を弾き飛ばした。 弾き飛ばされた、と怪我をしていた男は思ったのだが亜人はワイバーンの突進によりほんの一、二メイル押されただけであった。 「あら! わたくし、ブチ切れますわよ。ただでさえ今機嫌が悪いところですの。人の話を最後まで聞け・・・・・・」 ワイバーンは雄たけびを上げ、続けざまにその巨大な尾を亜人に叩きつけた。 しかしその尾が亜人に触れた瞬間、ワイバーンの尾は業火に焼かれたように触れた部分だけが焦げていた。 激痛で困惑したワイバーンは自分が叩いたはずの亜人を見た瞬間、その亜人の目が一方的にワイバーンを食い殺す存在である捕食者の目で睨まれていた。その亜人を取り囲む殺気にワイバーンは丸々と飲み込まれてしまっていた。 「・・・・・・ぶっ殺す!」 そう亜人が漏らし、『ブリザド』と唱えた亜人の手から小さな氷の塊が発せられた。 戦慄で動けなくなったワイバーンはなす術も無くその氷の塊に当たった瞬間、その巨体なワイバーンの体が氷と化した。 「・・・・・・ぶっ壊す!!」 続けざまに亜人は手に持った杖を空に浮かせ、浮いた杖は上空で横に激しく回って、亜人が両手を突き出すと。 回転する杖が目の前に新しくできた巨大な氷の彫像にぶつかり、そして飛竜の跡形も無く無数の氷の破片として粉砕されて辺りに散らばった。 「オーホホホホ!脆弱な生物がこのわたくしに歯向かおうなんて百万年は早いことですわよ。あら、これほど散らかしてしまって、ごめんあそばせ」 小さな亜人は手の甲を口に当てて高笑いした。 「そこのあなた・・・あら、気を失ってらっしゃるの?」 ワイバーンが粉砕されたときの迫力で深手を負っていた男は意識を手放していた。 「しょうがないですことねぇ、あなたの帰るべき場所に特別に送り届けてさしあげましょう」 そういって亜人は<デジョン>の上位魔法を唱え、気絶した男を魔法で送還した。 「あの使いようが無いトリートスタッフ、いえ、トリートスタッフ-1と名づけた方がよろしいかしら?は何処まで飛んでいったでしょう? ま、でもあんな火打石程の価値もないゴミを探すほどわたくしも暇ではなくてよ。わたくしもこんな所で油売ってる場合ではないざます」 そういい残して亜人は自分自身に帰還の魔法の<デジョン>をかけた。 「・・・・・・なんてこと!<デジョン>の分際で、時空を開く事に抵抗するなんてナマイキですことよ!オーホホホホホ!」 亜人はふん!とほんの少しだけ本気を入れて自身の魔力をさらに魔法に注ぎ込み、力ずくで無理やり空間をねじ開け、元いたヴァナ・ディールへと帰っていった。 そして森にはこだまする小さな亜人の高笑いだけが残った・・・・ ――ハルケギニア 現在―― 「・・・・・・と気を失ったうちに私は学院まで運んで貰ったようなのじゃ。怪我が回復してから再び恩人と出会った場所に赴いたんじゃが、落ちていた恩人の杖以外に手がかりは無くての。 学院まで運ばれた時も誰も恩人の姿を見ておらず、何でも私が怪我した姿で自分の部屋で倒れていたそうでの」 オスマン氏は手に持ったトリートスタッフを撫でた。 「森に残されていたこの杖を拾った私は氷漬けになったワイバーンを破砕した所から『破壊の杖』と名づけたんじゃが、実際には私にはその使い方は遂にわからんかった。ああ、もちろん別に自分で使おうと思ったのではなく、あくまでも恩人に返すための何らかしらの手がかりが無いかと思って調べただけの事なんだがね」 「その杖を空で回すのって、もしかしてブロントがフーケにぶつけた時の?」 ルイズは今日見たことを思い出して言った。 「何と!君はこの使い方を知っているのかね!?」 オスマンはブロントに詰め寄った。 「杖を回す<レトリビューション>はただの両手棍の技。俺は別にどんな杖でも出来るんだが。トリートスタッフの本当の使い方はそこではない、むしろ武器としては地位の低い雑魚。少し持たせてもらってもいいか?」 そう言ってブロントはオスマン氏の方へと手を差し出して、オスマン氏は杖をブロントに渡した。 トリートスタッフを手に持ったブロントは左手の篭手から光が漏れ出して、そしてその『ヴァナ・ディールでは重大な欠陥を持つ試作品』であるトリートスタッフに関する事の情報全てがブロントの頭の中に流れた。 「これは帰還魔法が込められたアイテムなのは確定的に明らか。俺がいたところでは本来全く使えないが、ここなら月の力が二つそなわる事によって何度でも使える最強の帰還用アイテムになったように見える」 「本当かね?」 オスマン氏は長年かけても判らなかった杖の謎をいとも簡単に解いてしまったブロントに驚いた。 ブロントは続けて左手の篭手を外した。その手に刻まれていたルーン文字が光り輝いていた。 「武器を持つとこれが光るんだが。光ると体もひゅんひゅんと素早くなるだけでなく手にした武器の扱い方も判る」 オスマン氏は光るルーン文字をしげしげと見つめた。 「ふむ、伝説の使い魔ガンダールヴの印の効果じゃな、なるほど」 「ガんダルブ?」 「そうじゃ。その伝説の使い魔はありとあらゆる『武器』を使いこなしたそうじゃ。手に持った武器の扱い方がわかるのもそのお陰じゃろう」 「そうか。それより頼みたい事があるんだが・・・・」 ブロントは目を手に持ったトリートスタッフに目をやった。 「なんじゃ?君に爵位は授ける事はできないが、せめてもの礼に出来る限り力になろう」 「この杖を譲って欲しいんだが」 ルイズは慌てて口を挟んだ。 「ちょ、ちょっとブロント!オールド・オスマンのとても大事なものを譲ってだなんて!」 オスマン氏は少し自分の髭をいじりながら考え込んだ。 「俺は元々冒険者なんだがこの辺りの事はよく知らない。周辺を調べたいが必要な時にすぐにルイズの元に帰れないと使い魔の役目を果たす事をできない」 ブロントが続けた説明を聞いてオスマンはうむと頷いた。 「いいじゃろう。そもそも私の杖ではないのだからそれを決める権利は私にはないじゃろうて。危険な杖では無いとわかったし、それにここ三十年眠らせた宝物庫に保管しておくより、ヴァナ・ディールから来たという君ならその杖の本来の持ち主を探し出せるじゃろう」 「その特徴的な高笑いをする持ち主とやらはおそらく連邦のシャントットなのは絶対」 「なんと!恩人の心当たりもあるのか。それならばぜひとも君に貰って欲しい!そうか、恩人の名前はシャントット殿であったか・・・彼女は今でも息災かの?」 ブロントは苦笑いをしながら答えた。 「俺が思うにシャントットは隕石を落とされても死なないと思うが」 「そうかそうか、フーケ恩人の杖が盗まれて一時は肝を冷やしたが、逆にこうして功を奏して長年わからず終いだった恩人の事を知る事になるとはなんとも奇妙な縁じゃの。もし彼女にまた会う事があればその杖を彼女に返して欲しいが、それまでは君が自由に使っていいじゃろう」 オスマン氏はそういうと、ブロントを抱きしめた。 「よくぞ、恩人の杖を取り戻し、更にその恩人の事を教えてくれた。改めて礼を言うぞ」 「それほどでもない」 「君がした事は君にとって些細な事だったかもしれないが、私にとってはとても大きな意味を持つんじゃよ。今後何か困った事があったら是非頼りたまえ、力になろう」 うんうんと頷くオスマン氏に抱きしめられたブロントが少し困った顔をしたのを見つめていたルイズは少しその光景が面白く感じたのか軽く微笑んでいた。 次の日の晩、アルヴィーズの食堂の上の階にある大きなホールで毎年恒例のフリッグの舞踏会が行われていた。 中では着飾った生徒や教師達が、豪華な料理が盛られたテーブルの周りで歓談していた。 ホールの中では、綺麗なドレスに身を包んだキュルケがたくさんの男に囲まれ、黒いパーティドレスを着たタバサは、一生懸命にテーブルの上の料理と格闘している。 それぞれがパーティを満喫している中、ホールの壮麗な扉が開き、ルイズはブロントにエスコートされながら姿を現した。 門に控えた呼び出しの衛士がルイズの到着を告げた。 「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~~~り~~~!」 ルイズは長い桃色がかった髪を、バレッタにまとめ、ホワイトのパーティドレスに身を包んでいた。肘までの白い手袋が、ルイズの高貴さをいやになるぐらい演出し、胸元の開いたドレスのつくりの小さい顔を、宝石のように輝かせていた。 一方ルイズに付き従うブロントはルイズに『パーティで甲冑姿は無粋だから何か他のものに着替えなさい』と言われたので、 幸い自分でも持っていた礼服一式に着替えていた。丈夫な霊牛のなめし革製のインナーの上に、白銀色のアルジェントコートを羽織っていた。 コートの所々に簡素な刺繍細工が施されており、その白く、謙虚なデザインはブロントという人物をうまく象徴していた。 主役が全員揃った事を確認した楽士達が、小さく、流れるように音楽を奏で始めた。 ルイズの周りには、その姿を美貌に驚いた男たちが群がり、さかんにダンスを申し込んでいた。今までゼロのルイズと呼んでからかっていたノーマークの女の子の美貌に気づき、いち早く唾を付けておこうと言うのだろう。 使い魔であるブロントに直接的にダンスを申し込む者はいなかったが、キュルケを含む何人かの女の子も群がり整然な礼服できめた長身で端整なブロントの姿をうっとり眺めていた。 ルイズは誰の誘いを断わり、ブロントの手を掴み、貴族たちがダンスを踊り始めているホールへと群がる男たちから逃げるように引っ張っていった。 そこでルイズはドレスの裾を恭しく両手で持ち上げると、膝を曲げてブロントに一礼した。 「わたくしと一曲踊ってくださいませんこと。ジェントルマン」 真顔で見つめ返すブロントの反応に何か照れくさくなってルイズは顔を真っ赤に赤らめた。 ブロントは軽く微笑むと右手を自分の胸の前に当て、礼を返した。 「俺でいいのか?」 こくりとルイズが頷くと、ブロントはルイズの手を取り、ルイズをリードし踊り始めた。 ルイズが見た事も無いブロントの軽快なワルツのステップに少し戸惑ったが、徐々にルイズも合わせて踊りだし始めた。 しばらく二人とも無言で踊り続けていたが、先にルイズの方から思い切ったように口を開く。 「ありがとう」 ブロントは不思議そうな顔で見つめ返した。 「そ、その・・・・・・、フーケから二回も助けてくれたじゃない。それに・・・・・・戦う時はわたし一人じゃないって教えてくれて・・・」 ルイズはそう言うと下を俯きながらブロントと踊り続けた。 ブロントはルイズが顔を上げざる得ない様にステップを取り、その手を引っ張った。 「気にしないでいい。俺は当然の事をしただけなんだが」 「どうして?」 「俺はお前のナイトだろ」 ブロントはそう言ってルイズに静かに微笑んだ。 二つの月がルイズとブロントの白い衣装を照らすように月明かりを送り、奏でられていた一曲の最後に相応しい幻想的な雰囲気をつくりあげていた。 そんな様子をブロントの腰から観察していたデルフリンガーが、こそっと呟いた。 「おでれーた!人間である主人のダンスの相手をつとめる亜人の使い魔なんて、久しぶりに見たぜ!」 第10話[前編] 「ゴーレムのまなざし」 / 各話一覧 / 外伝・タバサと仮面 「森の仲買人」
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前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました 03.明日ハレの日、ケの昨日(*1) その年の召喚の儀式は、初めは例年のように進行していた。生徒達の召喚呪文に よって、普通に使い魔として見かける生き物達が召喚される。猫やカラス、蛇に フクロウ。特殊なところでは風竜が呼び出され、周囲を驚かせたくらいだ。 しかし、ある男子生徒の召喚から状況が一転する。彼のところに現れたのは、 何と妖精だった。身長七十サントほどのそれは透明な羽を持ち、何より人間の 言葉で挨拶をしてきたのだ。 初めはエルフの類かとも思われたのだが、その愛らしい笑顔が周囲を魅了した(*2)。 聞けば、特別なことは何も出来ない(*3)という。それでも、召喚した男子生徒は 得意満面で妖精とコンタクト・サーバントを行った。風竜には敵わないけれど、 それでも十分特殊な生き物だ。メイジの力を見るなら使い魔を見ろ、というでは ないか。今はただのドットクラスだけれど、きっと自分には秘められた力があるに 違いない――。 残念ながら彼のその希望は儚くも砕かれることになる。次々と呼び出される 妖精達。先ほどの妖精を羨ましそうに見ていた生徒達が一転、今度は嬉しそうに 契約をしていく。 そして毛色の変わった生き物が呼び出されはじめた。基本的に人間の姿をして いるものの、鳥の様に翼があったり、虫の触角が生えていたり、猫の尻尾が二本 生えていたり、捻れた角が生えていたりと様々である。ただ共通しているのは、 みな女性――それも少女と言っても良いような年頃の姿をしていること。そして みな知り合いだということだ。 彼女たちは自分たちのことを『ヨーカイ』なのだと話した。妖精とは比べものに ならない力を持っており、契約すれば使い魔として働くという。 「まあ妖怪って基本的に、人を襲って食べたりするんだけどね。でもそれはそこの 大きいの(*4)だってそうでしょ? 大丈夫大丈夫、使い魔として呼び出されたん だから、ちゃんと使い魔をするよ」 角の生えた少女――自らを伊吹萃香と名乗った――は笑顔でそういうと、腰に ぶら下げた奇妙な形の入れ物を口につけた。ゴクゴクと喉が動き、プハァと息を 吐き出す。酒臭い。それを見た召喚主は、コンタクト・サーバントしただけで 酔っちゃいそう、と現実逃避気味に考えていた。本当は考えなければならない ことは他に沢山ある。どういう種の生き物なのか。何が出来るのか。自分の 専門属性は何になるのか。そして、コンタクト・サーバントをすべきか否か。 彼女は助けを求めるように、引率の教師を振り返った。 召喚の儀式は神聖なものであり、契約は絶対のもの、とはいうものの、引率の 教師であるコルベールは内心頭を抱えていた。敵意はない。自分たちから進んで 使い魔をやるという。その点はとても望ましいことだ。しかし、自分の中の何かが 危険信号を発している。これは危険な生き物だ、と。 結局彼は、召喚と契約の続行を決めた。召喚の儀式で使用される、魔法に対する 信頼があるからだ。また今までの記憶にも記録にも、召喚した生き物が制御 できなかったということはない。 彼女は諦めて、自分の呼び出した酒飲みとコンタクト・サーバントを行った。 案の定、酒臭い。眉をしかめる様に気づいた様子もなく(*5)、萃香はどこから ともなく取り出した茶碗に酒をつぐと、召喚主に向かって差し出した。萃香達の ところでは、主従関係を結ぶ場で酒を飲むしきたりがある(*6)、という。匂いを 嗅いだだけでも、かなりアルコール度数が高いことが分かった。彼女たち貴族も 一応普段からワインを嗜んでいるが、それは様々な香料を入れたり甘みをつけたりと アルコール度を薄めたものを少し飲むだけだ。ここまで度数の高いものをそのまま 飲んだことはない。それでも彼女は、その酒を一息に呷った。使い魔になめられる わけにはいかない、と思ったのかどうか。しかし彼女は茶碗を手から取り落とし、 目を回して倒れ込んだ。地面にぶつかる前に、彼女の使い魔となった萃香が軽々と 彼女を抱え、ゆっくりと地面に寝かせてやった。そして手を叩き笑う。 その心意気は見事、と。 それを見ていた他の妖怪や妖精も、手に手に湯飲みや茶碗を取り出した。 そして自分の召喚主に対して笑いかけた。さあ、私たちも、と。こうして召喚の場が 宴会場へと変わっていくのであるが、未だ召喚を行っていない者達には それどころではない。なにしろ次に呼び出された生き物は、今までとは段違いに 危険だったのだから。 背格好自体は十歳に満たない少女の様。日傘を差し、背中には蝙蝠のような羽、 笑った口元には牙のような犬歯が見える。彼女は辺りを見回すと、威厳に満ちた 口調で言い放った。 「私はレミリア・スカーレット、誇り高き吸血鬼の貴族。 さあ、私を召喚した幸運な子は誰?」 「吸血鬼!」 コルベールは油断なく杖を構えると、レミリアに相対した。彼の知っている限り、 吸血鬼などといった人間に敵対する知性体が召喚されたことはない。 「吸血鬼が一体どうして召喚されたのだ?」 「もちろん、使い魔をするためよ」 そこの連中と同じよ、と酒を飲んでいる妖怪を指さした。指された方は笑って 手を振り返す。 「いや、私が聞きたいのはそういうことではなく……」 「何故、こんな得体の知れない連中が大量に召喚されてるのか、ってこと?」 「……まあ、そんなところだ」 明らかな敵意を向けられてなお、レミリアは悠然と笑い言い放った。 「後に召喚される妖怪の中には、説明が得意なのもいるわ。 彼女達に聞いてちょうだい」 知識人っぽいのとか、家庭教師っぽいのとか、と含み笑いをするレミリア。 「後に……ということはまだ君たちのような人外が呼び出されるというのか?」 「そうよ。まあ、その中でも私が一番(*7)だけど」 何が一番(*8)なのやら、と妖怪連中から戯れ言が飛ぶが、一睨みで黙らせる。 「むやみに人間を傷つけるつもりはないわ。貴族の誇りにかけて、ね」 貴族の誇りを出されてしまっては、人間達も黙るしかない。それに納得も していた。人間にも平民と貴族がいるように、吸血鬼にも普通の吸血鬼と高貴な 吸血鬼がいるのだ、と。粗野な平民と違い、貴族には礼儀と誇りがあるものだ。 それは、吸血鬼でも変わらないのだろう。 コンタクト・サーバントを終わらせると、レミリアはニヤリと牙を見せて笑った。 「吸血鬼に相応しい主人にしてあげるわ」(*9) レミリアを呼び出した女生徒は、顔色を青くしながらも頷いた。普通の下級貴族で ある自分にそんなことが可能なのか。いや、やるしかないのだ。吸血鬼を使い魔に した貴族など、きっと後世にも名前が残るだろう。貴族にとってそれはこの上も ない名誉なことである。 こうして召喚の儀式は継続された。レミリアの言ったように、それからも様々な 妖怪が呼び出される。中には、どう見ても人間にしか見えない者達もいた。 例えばキュルケが呼び出した者は、自らを蓬莱人だと名乗った。それが何を 意味するかは不明だったが、少なくとも彼女は炎を操ることが出来た。呪文も なしに火を生み出す様に精霊魔法なのか、と騒然となったが、当の本人は至って 平然と答えた。 「そこの大きいのだって火を吐くんだろ(*10)? まあそれと同じようなもんさ」 それに精霊魔法は、その地に存在する精霊と契約して発動する魔法。逆に言えば、 契約をしなければ発動できない。召喚されたばかりの彼女に、そんな時間や呪文の 詠唱はあったか。答えは否だ。 それでも、いきなり彼女のような存在が呼び出されていれば、また話は違った だろう。魔法を使わずに特殊なことが出来る者に対する偏見は大きい。だが今回の 召喚の儀式では、妖精に始まり吸血鬼まで、特殊な生き物が数多く呼び出されている。 さすがに人間達も感覚が麻痺してきていた。慣れてきた、とも言える。 その最たる例として、自らを神と称する者が召喚されたが、比較的スムーズに コンタクト・サーバントまで至っていることがあげられるだろう。 「神って言うけど、こっちの世界じゃ精霊みたいなものかね」 背中に縄を結ったような飾りを付けた(*11)女性は、そう言いつつどっかりと 腰を下ろした。 「なにしろ今までいたところには、神様が八百万もいたからね。こっちは神様は 一人なんだろ?」 彼女を召喚した男子生徒は、どう返答したらいいのか分からず、とりあえず頷いた。 この世界の神と言えば始祖ブリミルということになるのだろうか。もちろん、 神聖な存在であり、威厳があって厳かな存在なのだろうと思っている。しかし……。 ちらりと横を見る。そこではやはり神を自称する少女が、召喚主の女生徒に後ろから 抱きつかれて困っていた。 「あーうー、私は神なのだぞー」 「か~わい~」 蛙を模した帽子をかぶった少女は手足をばたばたさせるが、威厳の欠片もない。 どういう経緯でこうなったのかは彼にも分からなかったが、可愛いことは確かだ。 「あははは、土着神の頂点も形無しね、諏訪子」 「そう思っているなら助けてよ、神奈子」 それも親交(*12)よ、と取り合う様子もなく、神奈子はどこからともなく盃を 取り出した。同じく、どこからともなく取り出した瓶から何かを注ぐ。言うまでも なく、酒だ。 「さあ、私たちもやろうじゃないの」 確かにもう辺りは、酒を飲まない方が不自然な状態にまでなっている。 楽器ごと宙に浮いた三人組が音楽を奏でると、翼を持った少女が歌を歌う。 やたら偉そうな妖精が空中にダイアモンドダストを発生させると、別の妖精が 輝きを集めて虹を作る。幻の蝶(*13)や見たこともない赤い葉っぱが辺りを舞い、 どこかに消えていく。ついでにコルベールはしきりに頷きながら、奇妙な帽子を かぶった者から話を聞いている。制止役がこれでは、騒ぎが収まるわけがない。 これは酒でも飲まないとやってられない。彼は神奈子から杯を受け取ると一気に 呷った。奇妙な味だが悪くない。 最初の爆音が響いたのは、ちょうどその位だった。 生徒達はその音に振り返り、ああ、あいつか、と呟いた。ゼロがまた魔法を 失敗した、と。 「ゼロ?」 その声に一人の少女が反応した。紫色のゆったりとした服(*14)に身を包んだ 自称魔女は、視線を自分の召喚主の男子生徒へと向ける。その全てを見通すかの ような視線にたじろぎながらも、彼は問いに答えた。 「あいつは魔法を成功したことがないんだ。だからゼロ」 彼が指さす先で、一人の女生徒が杖を構える。他の生徒に比べ、幾分幼い感じが する少女は真剣な面持ちでサモンサーバントの呪文を唱え杖を振った。が、 二度目の爆音が響いただけで、何も召喚されない。 なるほど、と彼女は頷くと感想を述べる。 「ふーん。零点ね」 「そうさ。零点――」 しかし魔女は召喚主の口をふさぐかのように指を伸ばした。 「零点なのはあなたよ」 「は?」 呆けたような顔を面白くなさげに一瞥すると、魔女は少し大きな声で説明を始めた。 「費やされた魔力のうち、サモンサーバントの分は正しく消費されてるわ。 あの爆発は余剰分が行き先をなくして発生しているだけ」 「まさか。だいたい何でそんなこと――」 わかるんだよ、と続けようとして、ジロリとにらまれる。 「貴族の合間にメイジをやってるあなた方には分からないかもしれないわね。 だけど私は生まれたときから魔法使いなのよ。言葉を話すより先に魔法を 使っているの」 魔法の動きを知るなんて呼吸をするのと同じ事よ、とつまらなそうに言うと、 手に持った本に視線を落とした。この世界は発動体が必須とされるようなので、 常に持ち歩いているこの本が発動体だと言うことにしてある。別に嘘だという わけではない。上級スペルを詠唱する際には、一部の負担を本に蓄えた魔力で 代替わりしているのだ。疲れないために。 しかしこの世界の魔法は彼女の知っているそれとは全く違う。呪文はあくまで キーワードでしか過ぎない。もちろん各自が持っている魔力は消費されているが、 消費分に対して発動される内容が高度なのだ。大体、この程度の魔力消費で空間を 転移するゲートを開けるなど、彼女の常識からすれば冗談の様である。まるで、 合い言葉を唱えると、世界そのものが魔法を発動しているかのようだ。 この魔法はどのような原理で構築されているのか。これからの研究対象を考えると、 彼女は興奮を覚えるのだった。なぜなら彼女の名前はパチュリー・ノーレッジ。 知識こそが彼女の生き甲斐なのだから。 「で、でもさ、じゃあなんで何も召喚されないんだよ」 本に向かって顔を伏せたまま、上目遣いにルイズを見ると、このやり取りが 聞こえたのか当のルイズと目があった。絶対に諦めない、という眼差し。 その視線に知り合いだった人間を思い出す。彼女もよくこんな目をしていた。 普通の人間の魔法使いだったくせに。いや、だからこそ、か。 そんなことを考えていると、再び爆音が轟いた。 「ふん、やっぱり失敗は失敗だよな。あいつはゼロなんだから」 「……零点。おめでとう、これでダブルゼロね。ダブルオーの方がいいかしら」 「なにーっ」 最近流行だったみたい(*15)だし、などとよくわからない解説が追加される。 「なぜ召喚されないのか、ということを考えず失敗と思考停止するのは、 愚か者のやることよ」 「僕が愚か者だって――」 「違うというなら考えてみなさい」 ピシャリと言い切られ、歯がみをして悔しがる。なんで僕は使い魔にこんな 言い込められないといけないんだろう。こんなことなら普通の動物がよかった。 と数分前とはまったく逆のことを彼は考え始めた。そんな様子を歯牙にもかけず パチュリーの考察と解説は続く。 「サモンサーバントで発生するゲートは、強制的に相手を転送させるものではないわ。 対象となったものが触れて初めて効果を現す。逆に考えれば、触れなければ 召喚されないという事よ」 「……じゃあ、触ろうかどうしようか迷ってるっていうのか?」 「そうね。意図的に触れずにいることを選択しているのかもしれないし、 何らかの事情で触れられない状態になっているとも考えられる――」 少し離れたところでそのやり取りを聞いていた狐の妖怪、八雲藍は、口元に 笑みを浮かべ呟いた。紫様も人が悪い、と。 もうほとんどの生徒は召喚を終えている。見回したところ、幻想郷にいた妖怪は 一人を除いて全員召喚されているようだ。その残った一人こそ、八雲藍の主人であり 幻想郷の賢者といわれた八雲紫。少々戯れに過ぎるのが玉に瑕。今回もその戯れだと 思ったのだ。 「紫様を使い魔にするのだ。これくらいの苦労は越えられねばな」 早々に酔いつぶれてしまった自分の新たな主人に膝枕(*16)をしながら、藍は しみじみと呟いた(*17)。 そしてルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの召喚魔法 失敗が二十回を超え、儀式の場はますます盛り上がっていた。 「さあ、次の呪文で召喚できたら、銀貨一枚につき二枚払うよー」 頭から兎の耳が生えた妖怪が、賭け事を始めている。 「人の失敗を賭に使うなーっ!」 ルイズの怒声もなんのその。生徒達や妖怪達が、おもしろ半分に賭け金を出し 始めた。 「あんた達も賭けるんじゃないわよっ!」 手に持った杖を突きつけるルイズだったが、次で召喚すれば問題ないでしょ、 と笑って返され二の句が継げなくなる。どうやらみな、酷く酒に酔っているらしい。 一体どうしてこんなことになったのだろう? もちろん答えは決まっている。 このヨーカイといかいう連中の所為だ。でもその一人がさっき言っていた。 魔法自体は成功している、と。本当のことかどうかは分からない。けれど、 今のところ縋ることの出来る唯一にして最高の言葉だ。だから自分は魔法を 唱え続ける。続けられる。 そんなことを考えながらも呪文を唱え、杖を振った。が、爆発。また失敗だ。 賭けた者からは罵声が、賭けなかった者からは歓声があがる。 「じゃあ次は銀貨一枚で、銀貨三枚ねー」 兎の声に、先ほどより多くの賭け金が集められた。思わず怒鳴ろうとしたが、 よくよく考えれば賭けるということは、召喚の成功が、つまり魔法の成功が 期待されているということだ。酔っぱらい共の戯れだとしても少しだけ気分が良い。 詠唱、そして杖を振り……また爆発。何も現れない。汗が目にしみる。まだまだ 諦めるには早すぎる。 集中、詠唱、杖、爆発。一体何が召喚されるというのだろう。 深呼吸、集中、詠唱、杖、爆発。もう周囲が騒ぐ声も気にならない。 「そう。重要なのは集中することよ」 その様子をじっと見ていたおかっぱ頭の少女が呟いた。背中には二本の刀、 隣には半透明な物体がふわふわと浮いている。半分人間である彼女は、努力して 技術を習得するということを人の半分程度は慣行している。だから、周囲の声にも 拘わらず召喚呪文を唱え続けるルイズという少女を、彼女は内心応援していた。 もっとも、彼女の主人はそうとは思っていないようだが。 「無理だと思うんだけどな」 「何故?」 鋭い視線で見つめられ、腰が引けそうになる。背の武器で斬りつけられたら…… と思うと気が気ではない。コンタクト・サーバントは終わっているので危害を 加えられることはないだろう、とはいうものの、やはり怖い。もちろん、その前に 魔法で何とか出来るとは思うが…… 「ダメよ~、妖夢。ご主人様が怖がっているじゃないの」 「何を言うんですが、幽々子様!」 「あらあら、怖い怖い」 突然横から現れた女性は、広げた扇子で口元を隠すと含み笑いを漏らした。 「妖夢は真面目すぎるのよ」 「性分ですから」 憮然として答える妖夢。その様子はまるで教師に叱られた生徒のようであり、 現役の生徒である彼女の主人は不意に親しみを感じた。 「もっとこう、余裕を持った方がいいと思うのよ」 「幽々子様は余裕がありすぎです!」 「そうねぇ。でも『今の』ご主人様は真面目な人みたいだし、 従者が余裕を持たないとね~」 その言葉に妖夢はハッとさせられた。なるほど、従者とは主人を補う者だ。 幽々子様の下では今までの自分でよかった。しかし新しい者の従者になるという ことは、自分も変わっていかなければならないのではないか。 「……努力します」 「そうそう。変われる、というのは人間の特権ですもの」 再び口元を扇子で覆い、笑い声を漏らす。その言葉は、果たして誰に向けられた ものか。 そんな周囲の会話ももはや聞こえる様子もなく、ルイズの召喚失敗は回を重ねる。 兎の賭の倍率が十倍にもなり、辺りが夕日に包まれてもまだ召喚は成功しなかった。 肩で息をする。喉も渇いた。魔力が尽きかけていることが、自分でも分かった。 これで最後にする。そう気合いを入れ、呪文を唱えた。そしてイメージする。 自分が最高の使い魔を使役している姿を。 「!」 杖を振ると共に起きる爆発。だがその中に、人影が見えた。 「おや……?」 その姿に真っ先に反応したのは藍。なぜならその容姿が彼女の想像と違って いたからだ。片手には日傘。これはよい。髪の色は金色。これも想像通り。 だが頭には黒いとんがり帽子を被り、黒い服の上に、白いエプロン。ドロワーズも 露わについた尻餅の下敷きになった箒。これではまるで、知り合いの魔法使いの ようではないか。その人間の名前は―― 「魔理沙っ!」 何人もの妖怪が叫んだ。疑惑に満ちた声で。単純に驚きで。喜びをにじませて。 嫌そうな声色で。溜め息と共に。 静寂の中、呼ばれた本人はゆっくりと立ち上がるとスカートに付いた土埃を払う。 そして不貞不貞しく笑みを浮かべると、口調だけは残念そうに第一声を放った。 「くっそー、ついに捕まっちまったか」 「ついに……ってどういうことよ」 その魔理沙の正面に立つ少女、ルイズ。杖を構え、肩で息をする様を一瞥し、 魔理沙は納得するように二度三度と頷いた。 「ん、ああ、あんたが私を召喚したのか。よろしくな。勝負に負けたんだ。 潔く使い魔になってやるぜ」 「ししし勝負ってなんのこここことかしら?」 あくまで冷静な魔理沙に対し、ルイズは興奮のあまり口が回っていない。 「根比べさ、召喚の。あんたが私を捕まえるのが先か、魔力が切れるのが先か。 寿命まで無料奉仕してやろうってんだ。これぐらいは試させてもらわないとな」 「じじじ寿命ですって?」 「ああ、私はこいつらと違って、普通の人間だからな」 周囲に座った妖怪を指さしながらの言葉。普通の、人間。その意味をルイズが 理解できるより先に、周囲が反応した。 「普通の人間って事は平民か?」 「なんだ、これだけ大騒ぎして結局普通の平民かよ」 「これって失敗だよな!」 「やっぱりゼロのルイズね」 いつも通り巻き起こる嘲笑。肩を落とすルイズ。よりにもよってただの平民とは。 また失敗なのか。しかしそれを認めるわけにはいかない。例えそれが強がりと 見られようとも。ルイズは顔を上げ、言い返そうとした。いつものように。 しかしルイズより先に、目前に立った少女が大声を上げた。 「ああ、そうだ! 私は霧雨魔理沙! 普通の人間だ!」 ルイズに背を向け、ルイズを守るように、霧雨魔理沙は立っている。 「だがなっ!」 だからルイズだけは気がついた。他の人間から隠すよう背に回した右手に、 光が集まっていることに。 「普通の人間の……魔法使いだぜ!」 そういうなり、右手の光――魔力塊を真上に向かって打ち出した。 一瞬の静寂。そして閃光。 まるで花火のように、光り輝く星屑が夜空に広がる。きらきらと輝くそれは 幾何学的な模様を徐々に変えながら、ゆっくりと広がっていく。 「わぁ……」 其処此処から感嘆の声があがる。四つの系統のどれにも属さない魔法。しかし 誰もそのことを言い出さない。 それほどに美しかったのだ。 そして何が起こるかうすうす感づいている妖怪連中は、にやにやと笑っていた。 人に馬鹿にされてただで済ますほど、霧雨魔理沙という人間は温厚ではないのだ。 「おっと、ちょっと魔力を調整しそこなったぜ」 わざとらしい声とともに、上空に広がった七色の星屑が一斉に地面目がけて 落ちてきた。(*18) そりゃあもう、唐突に。 「うぉあっあたる、あたる!」 「馬鹿っこっちくるな!」 「いやーっ」 「ブリミル様、お救いをーっ」 右往左往した挙げ句、互いにぶつかって倒れてみたり。地面に伏して祈ってみたり。 そんな様子を、魔理沙の召喚主であるルイズは唖然として眺めていた。 普通の人間? 魔法使い? 先住魔法? 星屑? 自分は一体、何を呼び出したんだろう? 「あー、別に危険じゃないぜ。ちゃんと消えるし」 その声にルイズが顔を横に向ける。いつの間にかルイズの横に並んだ魔理沙は、 困惑したという口調で嘯いてみせた。 事実、それは地面に一つも届いていない。流星の様に落ちてきた星屑は、最初から 幻であったかのように、中空で溶け込み消えていく。その様子もまた幻想的で、 混乱していた生徒達は徐々に呆けたように空を見上げていった。 一方妖怪達は、いつもの宴会芸に大喝采である。やはり酒の席にはこの花火が ないと始まらないとばかりに再び音楽が始まり、静寂が一転、喧噪に包まれる。 「さて、と」 そんな様子に満足したのか魔理沙は、ルイズを見るとウインクして見せた。 「契約をしなきゃなんないんだろ?」 言われて思い出す。そういえばまだコンタクトサーバントを行っていない。 「さっさとやろうぜ。せっかく注目を外したんだしな」 「注目を……?」 おうむ返しの質問。頭が混乱して、考えがまとまらない。 「いくら女の子同士でも、人の注目浴びながらキスをするのはちょっとな」 ファーストキスだからな。と帽子を目深に被りなおしながらつぶやく。 その頬が夕日の下でもそれと分かるほど赤く染まっていることに、ルイズは 気がついた。普通の人間で、魔法使いで、先住みたいな魔法を使って、でも、 中身はルイズと同じ少女なのだ。 そのことに気がついたルイズは、ようやくいつもの調子を取り戻した。 「感謝しなさい。わたしみたいな貴族の使い魔になれるなんて、名誉なことなんだからね」 胸を張り宣言する。その様子に魔理沙は、ニヤリと笑い言葉を返す。 「さすが私のご主人様だ。そうこなくっちゃな」 こうして、魔法が使えない貴族、ルイズと、魔法が使える普通の人間、魔理沙は コンタクト・サーバントを行ない、主従となったのであった。 そして二時間後。月明かりの中、ルイズは目を回して倒れていた。別にルイズに 限ったことではない。多くの生徒はルイズ同様、召喚の儀式が行われた草原に制服の まま倒れ伏している。 全ての原因は魔理沙だ。コンタクト・サーバントが終わるとルイズの手を引いて、 妖怪達の宴会に飛び込む。ここまではいい。自分が酒を飲み、ルイズにも酒を飲ます。 これもある意味当然の流れだ。だけど言ってしまったのだ。「さすが私のご主人様だ、 いい飲みっぷりだぜ」と、他の生徒を挑発するように。その結果がこれだ。 「みんななさけないわね」 余裕を装うキュルケも、目が虚ろ。手に持ったグラスは今にも滑り落ちそうだ。 ルイズより先に酔いつぶれるわけにはいけない、と半ば意地で意識を保っていた ものの、そろそろ限界らしい。自慢しようにも当のルイズはさっさと潰れている。 その使い魔は、狐っぽいのと日傘を挟んで深刻そうな話をしている。さあどうしよう。 その揺れる視線が親友の姿を捉えた。青い髪を持った小柄な少女、タバサ。 いつものように本を開いてはいるが、遠い目をして何か呪文のように呟いている。 ずりずりと膝立ちで近づいたキュルケのことも、目に入っていない。 「…………」 「なに一人でぶつぶつ言ってるのよ」 「亡霊だから幽霊じゃない…… 騒霊だから幽霊じゃない…… 半人半霊だから幽霊じゃない…… 亡霊だから――」(*19) 「ねえ、タバサ~」 反応のないタバサに業を煮やし、何気なく肩に手を掛ける。が、ビクン、 と一瞬背筋が伸び、こてんと倒れてしまった。 倒れてしまった親友を一人寝かしておく訳にはいかないわよね、とようやく 理由が出来たキュルケは、タバサを抱きしめるように横になり、自分の意識を 手放すことが出来たのだった。 一方タバサの使い魔となった風竜――もちろん実際には風韻竜なのだが―― のシルフィードは、そんな主人の事も気づかずに、他の使い魔達との会話に 夢中だった。他の使い魔とはいっても、妖怪が主である。それも特に、幼い雰囲気の 連中だ。 「きゅいきゅい!」 「へえ、一人で二百年も」 「きゅいきゅい」 「へーそーなのかー」 「きゅいきゅいきゅい」 「うんうん、その気持ち、よく分かるよ……あ、八目鰻、食べる?」 「きゅい!」 「えへへ~おだてても何もでないわよ~」 「みすちー、私のはー?」 「もうとっくに食べちゃったでしょ?」 「きゅい……」 「あー、いいのいいの、こいつが食いしん坊なだけだから」 「ひどいよー、そんな嘘、言いふらさないでー」 「そうそう、食いしん坊と言ったらやっぱり、アレよね」(*20) 「きゅい?」 まだまだ話は尽きそうもなかった。 脳天気な話をしている連中もいれば、ただ杯を傾けている連中もいる。 蓬莱山輝夜と八意永琳、そして鈴仙・優曇華院・イナバは、言葉少なに月を 見上げていた。 「イナバが二つに見せてるんじゃないの?」 波長を操作できる鈴仙なら、光を操作して一つのものを二つに見せることなど 雑作もない。 「姫様が一つ増やしているんじゃないですか?」 先日の夜が終わらない騒ぎの元凶は、輝夜が作り出した偽物の月である。 二人そろって盃を干すと、大きな溜め息をついた。そんな二人を照らす月も、二つ。 「確かに世界が違えば、月が二つあってもおかしくはないのでしょうけどね」 永琳も、遅れて溜め息をついた。 「本当にあなたたちって、違う世界から来たのね」 永琳の主人が口を挟む。言葉の意味に気がついたから。 「それにしては驚いてないのね」 「もう驚き疲れちゃったわよ」 大体なんで貴族である私が、夜の野外に酒盛りなんてしないといけないのかしら、 それも地面に座り込んで、などとブツクサ呟きつつ、盃を傾けた。そしてちらりと 斜め向こうを見る。そこでは彼女と付き合っているキザっぽい少年が、自分の呼び 出した使い魔に何かを囁いていた。あんな光景を見せられたら、酔うに酔えない。 うふふ、という笑い声にキッと使い魔を睨むが、永琳は嬉しそうに笑うばかりだ。 「若いっていいわね」 しばらく睨んだ末の言葉がこれだ。色々とやるせなくなって、永琳の主人である モンモランシーは一息に盃を干したのだった。 一方、そのキザっぽい少年の使い魔となったアリス・マーガトロイドは、安堵の 溜め息をついていた。やっと酔い潰せた、と。 基本的には悪い人間ではないと思う。選民思想が少々気になるが、まあ特権階級の 子息ならこんなものだろう。服装のセンスが悪いのも、多分なんとかできる。 だが、語彙の乏しさはなんとかならないものか。延々と同じ口説き文句を 聞かされると、最初いい気分だっただけ落差が酷い。 「?」 そうして落ち着いてみると、なにやら視線を感じる。月の姫達と共にいる少女が なにやらこっちを見ているようだ。アリス自身がそちらを向くと見ていないフリを するが、周囲の状況は腕にさりげなく抱えた上海人形により、常に把握している。 人形の目は彼女の目なのだから。もっとも、状況自体はわかっても、それが何を 意味するものなのかを推測するには、アリスには経験が足りなすぎた(*21)。 特に男女間の人間関係における心情については。こうして今しばらくの間、アリスは 据わりの悪い思いをするのだった。 一方、そんな状況を早速手帳に書き留めている者もいる。 「『三角関係勃発か?』 ……うーん、 『主人と使い魔の恋は成り立つのか?』 の方がいいですかねえ」 「アヤ、今度は何を書いてるの?」 問うたのは彼女の主人。ポッチャリとした体型の彼は、先ほどまで使い魔の 射命丸文から質問責めにあっていたのだ。律儀に使い魔からの質問に答えて いたのは、時に鋭くなる言葉の槍が、妙に心地よかったから。 「ふふふ、秘密ですよ」 そんな文の不敵な笑みもまた、彼の心を撫で上げるようである。これって もしかして恋なのかな?(*22) などと考えるマリコルヌ少年が、自身の性癖に 気がつくのはもう少し先のことである。 一方、文はそんな主人の様子よりも、目の前で起きている出来事の方が重要だった。 そこでは唯一使い魔となった人間、霧雨魔理沙と、主人達の教師であるコルベールが 興味深い話をしていたのだ。先程の藍と魔理沙の会話も興味深いものだったが、 こちらの話もまたそれに劣らず面白そうだ。 「ほう、変わったルーンだ」 「ふーん、そうなのか?」 コルベールに言われ自分の額を撫でる魔理沙。コンタクト・サーバントにより浮かび 上がる使い魔のルーンが、魔理沙は額にあった(*23)。月明かりの下、手元の本を 広げるコルベール。誰からもらったのかそれは、幻想郷縁起(*24)であった。苦労して 魔理沙のページを探すと、そこにルーンの形状を書き込んでいく。 「しょうがないなぁ」 そんな魔理沙の言葉と共に、辺りが明るくなる。見上げれば、本の上に明かりが ともっていた。星も集まれば、月よりも明るい。その輝きをしばし見つめた コルベールは頭を振ると、魔理沙に問いかけた。 「それは一体どういうものなんだね?」 「星の魔法だぜ」 さも当然だと言わんばかりの返答に、コルベールは再度頭を振った。 この世界で人間が使う魔法と言えば、四つの属性に分類されるものだ。例外として コモンマジックと、伝説と言われる虚無。しかしこの魔法は、そのいずれにも該当 しないものだ。いや、少なくともコモンマジックと属性魔法には該当しない。では虚無 魔法か? いや、あれは遠い伝説のものだし、そもそもこの人間は、杖を使ってすら いない。では先住魔法か? いや、彼女は人間だ。それは間違いない。マジック アイテムを所持しているものの、自身は普通の人間であることは、ディテクトマジックで 確認済みだ。ならばそのマジックアイテムの力なのだろうか? コルベールは使い魔の印を書き写す作業に戻りながら、考えを巡らす。それを 知ってか知らずか、さらにコルベールを混乱させる事を口にする。 「他には、恋の魔法とかもあるぜ」 「は?」 「ま、星も恋も、遠くにあって憧れるものさ」 何かの聞き間違いかと思った。今、恋、と言ったのだろうか? どこか遠い目をしてのその言葉に、コルベールは聞き返せなかった。いずれ詳しい 話を聞く機会もあるだろう。彼は三度頭を振ると、本を閉じた。 「ん、終わりか?」 「うむ、これは後日、調べることにしよう。 それより一つ、聞いておいて欲しいことがある」 「あー?」 聞き返す魔理沙は十分に酔っているように見える。これから話すことを覚えて いてくれるかも怪しい。それでもコルベールには伝えておきたいことがあった。 「他でもない、君の主人となる者のことだよ」 当のルイズは、魔理沙の脇で横になり、寝息を立てている。その寝顔がどことなく 微笑んでいるように見えるのは、うがちすぎであろうか。 「もう知っているかもしれないが、彼女――ミス・ヴァリエールは、 魔法が使えないのだ」 「でも、私を呼び出したぜ?」 「ああ。だが明日以降も魔法が使えるかどうかはわからない。 今回が特別なのじゃないかとも思う」 もちろん、そうでないことを願うがね、という言葉とは裏腹に、コルベールの顔は暗い。 「ははん。だから面倒を見ろって?」 「そういうわけではないが……覚悟して欲しい、ということだ」 「ふん、覚悟か。 そんなのは、この世界に来ることを決めた時に、とっくに終わってるぜ」 魔理沙は手に持った茶碗に残った酒を一気に空けた。 「なにしろ私は、普通の人間の魔法使いだからな」 そういうと、おーい、酒が切れたぞー、と傍らの集団に声をかけた。コルベールが 何か言うより早く、新たな酒が魔理沙の茶碗に注がれる。ついでにコルベールの 手にも、コップが持たされた。 「お、おい、私が飲むわけには――」 「まぁまぁ、そういいなさんな。これからも長い付き合いになるんだしさ」 傍らに巨大な鎌を置いた女性が気軽に肩を叩き、コップに酒を注ぐ。その容姿に、 コルベールの相好も思わず崩れる。彼とて木石ではない。女性に酌をされれば それなりに嬉しい。(*25) 「昨日までの日々に別れを。明日から世界に祝福を」 生真面目な雰囲気の女性が盃を掲げると、まだ意識のあるものは自らの酒杯を 掲げた。数瞬の静寂。ある者は離れてきた家を想い、ある者は残してきた者達を想い、 ある者はそこにあった自然を想い……みな幻想郷のことを想い、そして別れを告げた。 こうして今までの昨日は終わり、全く新しい明日が始まったのである。 人間にとっても、妖怪にとっても。 *1 タイトルは、同人弾幕ゲーム「東方風神録」のBGM名より借用 *2 こうやって人間をだまして悪戯する *3 空を飛ぶのと弾幕を撃つのは、幻想郷では標準技能。 *4 大きいの談「きゅいきゅい、きゅいきゅいきゅい!」(訳:そんなことないわ! 普通の風竜と一緒にしないで欲しいのね!) *5 絶対に気がついてる。 *6 酒を飲むありがちな口実。 *7 多分カリスマ度。 *8 多分幼女度。 *9 レミリアの能力は、運命を操る程度の能力。 *10 大きいの談「きゅいきゅい、きゅいきゅいきゅい!」(訳:そんなことないわ! 野蛮な火竜と一緒にしないで欲しいのね!) *11 正装。 *12 親交=信仰。って神主が言ってた。 *13 見ているだけなら安全。 *14 実は寝間着らしい。 *15 早くも幻想郷入りしていた? *16 尻尾枕だったかもしれない。 *17 とてもこき使われたらしい。回転しながら特攻とか。 *18 この弾幕はフランからのパクリなのか? *19 現実逃避。あるいは自己暗示。もちろん、全部幽霊。 *20 ご想像にお任せします。 *21 魔法ヲタクかつ人形ヲタク。 *22 恋ではなく変です。 *23 ミョ(略)ンなルーン。 *24 妖怪にとってはイラスト付きの自己紹介本。自己アピールあり。だから信頼性は不明。 *25 それに体型的にも嬉しい。 前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました
https://w.atwiki.jp/darthvader/
銀河共和国元老院議長、いや、いまや銀河帝国の皇帝となったシスの暗黒卿、ダース・ シディアスことパルパティーンは目の前で起こったことがにわかには信じられず、彼にし ては珍しく呆けた表情を浮かべていた。 パルパティーンの新しい弟子ダース・ベイダーは死闘の末にジェダイマスターのオビ= ワン・ケノービに敗れ、四肢と大部分の循環機能を失った。 瀕死のヴェーダー卿を回収し、長時間に渡る再生手術を施して機械人間として彼をどうに か蘇らせた矢先にそれは起こった。 装甲服にヘルメットと黒マント、銀河中を恐怖させるべきダークサイドの化身として生まれ 変わったヴェーダー卿の肢体を拘束した手術台。 その手術台が水平から垂直に立ち上がる最中、突如として現れた光のゲートの中にベイ ダー卿の姿が掻き消えたのだ。 主を失った手術台だけが、仰々しい機械音と共に空しくパルパティーンの前にそびえ立っ た。 ゼロの使い魔の世界にベイダー卿が使い魔として呼び出されてしまったという設定で話は進んでゆきます。 有志で勝手に編集しちゃってね 以下スレ内ルール↓ 予測レスはNG 設定の矛盾は深く考えてはならない。感じるんだ。フォースで。 フォースと共にあらんことを・・・ 184 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 [] 2007/05/02(水) 00 51 32.36 ID 5RtRgVVd0 一応第三部「シス卿の帰還」まで構想してはいるのだが、そこまで読者を飽かせることなく ついてきてもらえるかどうか… 196 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 [] 2007/05/02(水) 00 54 29.46 ID 5RtRgVVd0 まあとりあえず今日はここまでかな。 第二部はスレが残ってたらそこに投下するけど、落ちてたらまた立てるよ。 あと、ベイダー強すぎという意見もあるけど、ゼロ魔の才人も一巻じゃ全然苦戦してないしな。 歴代スレ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1177343414/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1177502416/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1177679802/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1177862566/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1177949691/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1178026355/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1178190688/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1178298198/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1178435143/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1178621401/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1178719378/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1178896847/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1179065354/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1179223925/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1179590273/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1179756668/ 【作者は】ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです【ドS】 http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1179850267/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1180445055/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1180887325/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1181151694/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1181583845/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1182092562/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1182529992/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです 24 http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1182636495/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1183210347/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1183392330/ ベイダー卿がゼロのルイズに召喚されたようです http //wwwww.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1183902660/
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学園に帰ると、 キュルケ達と別れをつげナナリー達はルイズの部屋へと帰る。 「ナナリー、楽しかった?」 帰宅早々ルイズはナナリーに今日の感想を聞く。 「はい、とても活気のあるところで面白かったです。 それに、デルフリンガーさんまで買っていただいて、 ありがとうございます。ルイズさん」 「たいしたことじゃないわよ」 なにげなくかえしたつもりのルイズだったが、 お礼を言われたことが余程嬉しかったのか、口元がにやけている。 「ところでルイズさん」 「なぁに?」 「ルイズさんも何か買われたようですけど、 何を買われたんですか?」 その質問をした瞬間、ルイズの動きが止まった。 「る…ルイズさん?」 ルイズの様子をおかしく思い、ナナリーは声をかける。 「うふふ…聞きたい?」 怪しく笑うルイズ。 「あ……はい」 このとき、ナナリーは、正直あまり聞きたくなかった。 「じゃーん!服を買ってきました」 ナナリーは安心した。 どうやらルイズも、ただ服を買ってきただけのようだ。 「ナナリーのね」 しかし、この発言にナナリーは思わずビクッと反応した。 安心していたところに思わぬ攻撃をうけて、必要以上に驚いている。 「あの…私の服なんですか?」 「そうよ、私が選んだの」 「そうなんですか…ありがとうございます…」 お礼を言いつつもがっくりとうなだれるナナリーであった。 「あの、デルフリンガーさん」 ルイズに気づかれないように小声で呼ぶ。 「ん?どうしたんだ相棒」 デルフリンガーがいつの間にかナナリーを相棒と呼んでいた。 「ルイズさんはどのような服を買ったんですか?」 「ん、それはな…」 なぜか口ごもるデルフリンガー。 「お願いします。教えて下さい」 「まぁ、あれだ…可愛いやつだから安心してくれや」 「可愛いってなんなんで…」 「ナナリー」 ルイズの声はナナリーのすぐ後ろから聞こえていた。 とてもやさしい声なのだがナナリーは恐怖しか感じなかった。 「ど…どうしましたルイズさん」 嫌な汗が流れる。 「きっと似合うわよ」 そう言ってルイズはナナリーに何かを被せた。 「カチューシャですか…え?これって…」 ナナリーは頭の部分にあるふさふさしたものに気づいた。 「ふふふっ、子猫ちゃんよ」 ルイズがナナリーに取付けたのはネコミミであった。 「は…はぁ…」 ナナリーは以前似たようなことされたのを思い出す。 「でも…買ったのは服じゃなかったんですか?」 「安心して、お揃いの服も買ったわ」 ナナリーにとって全然安心できることではない。 「あの、せっかく買っていただいたんですが遠慮しておきます」 「遠慮しない遠慮しない」 遠回しな拒絶もルイズには通じない。 「あの…あの…」 口ごもっている間に、いつのまにかナナリーは着替えさせられていた。 ナナリーは困惑の表情を見せながらネコミミを触っていた。 「どう?」 どうと言われても何の反応もできない。 「いまいちなの? じゃあ、私はご主人様のにゃんこちゃんですにゃんって言ってみて」 ルイズもテンションのせいか少しおかしい。 「…いやですにゃん」 流石にそれは恥ずかしいので語尾だけで妥協してもらうことにした。 「かわいー!」 それでもルイズは満足したらしい。 テンションはさらにあがっているようだ。 「次はにゃーんて言ってにゃーんって」 「に…にゃーん」 ナナリーはルイズが喜んでくれてると知り、 少しサービス精神をみせる。 「相棒も大変だなぁ…」 デルフリンガーはただその光景を見ていた。 「にゃんにゃん、にゃんにゃん♪」 「にゃん…にゃん…」 いつの間にか猫の合唱が始まっていた。 ノリノリのルイズにナナリーはついていけない。 そのとき、ドアが開く。 「ナナリー、またワインを……」 キュルケだった。 その瞬間部屋の中が凍り付く。 「あ…あんた達なにやってんの?」 ナナリーは耳まで真っ赤になっている。 ルイズは固まったままだ。 「の、のののノックもしないなんてマナー違反よ!」 ようやく凍りついた状態がとけたルイズが、 キュルケにむかって叫ぶ。 やはり恥ずかしいのか顔は真っ赤だ。 キュルケはポカーンとした表情だった。 ルイズに言い返す様子もない。 そのころ部屋の隅では、 「相棒、そう気をおとすなって」 恥ずかしさのあまに丸くなっているナナリーをデルフリンガーが励ましていた。 「いいんです…こういうの… あ、猫の格好は馴れてるんです。 私も猫さんは好きですし… ただ…ただあの歌が恥ずかしかっただけですから」 「でぇじょうぶだ相棒。 人の記憶なんてすぐ消えるさ」 「ありがとうございますデルフリンガーさん」 気の抜けたような声のナナリーを心配するデルフリンガー。 キュルケはその様子を見ていた。 「あのねぇ…ナナリーはあなたのおもちゃじゃないのよ」 キュルケにそう言われ、ルイズはしゅんとなってしまった。 思い起こせば、少しやりすぎたかもしれない。 ルイズは反省した。 そんなときに、タバサが開きっぱなしのドアがらひょっこりと顔をだした。 実は、タバサもキュルケと一緒にルイズの部屋まで来ていたのだ。 タバサはナナリーをじっと見つめている。 そしてナナリーのほうへと歩いていった。 「あ、タバサさんこんばんわ」 タバサに気づき挨拶をする。 「こんばんわ」 タバサもそれにかえした。 タバサはまじまじとナナリーを見つめる。 「は、恥ずかしいんであんまり見ないでくださいね」 やはり猫の格好は恥ずかしいのだろう。 以前体験した猫パーティーとは違い猫の格好をしているのは自分だけなのだ。 「大丈夫、似合ってる」 タバサは正直な感想を言った。 「だいたいあんたはナナリーの気持ちを考えてるの?」 キュルケの説教をまだ続いていた。 「そんなんだから胸もゼロなのよ」 「な…なんですってぇ!」 いつの間にか説教はケンカへと変わっていく。 「あんたは胸だけで脳みそがゼロのくせに!」 「あ、あんた、言ったわね!」 キュルケも当初の目的を見失っている。 「決闘よ」 「望むところよ」 完全に頭に血がのぼっている二人。 それゆえナナリーとタバサが部屋からいなくなってることに気づかなかった。 「あの、タバサさん?」 急に車椅子を押されて移動したことにナナリーは戸惑っていた。 「おそらく、あのままではケンカになる」 タバサは先を見越してナナリーを移動させたのだろう。 「はぁ、そうなんですか」 「ついた」 車椅子が止まる。 「ここはどこなんですか?」 「私の部屋」 タバサはナナリーを自室へと連れてきていた。 ナナリーをベットのまえまで移動させ、 タバサ自身はベットに腰掛けた。 丁度向かい合うかたちだ。 「あなたとはもっと話をしたかった」 「そうだったんですか。 私もタバサさんとお話したかったです」 「さん付けの必要はない」 「はい?」 「私はあの二人と違ってあなたの年上ではない。 だから敬語もいらない」 ナナリーは少し考えた。 「じゃあ、タバサちゃんって呼ぶね」 そして笑顔でそう言った。 それから少しの時が過ぎるころ。 ナナリーはうつらうつらと頭をたれていた。 遠出の疲れのせいである。 「もうねたほうがいい」 「はい…ねます…」 ナナリーはやっとで返事をしているようだ。 その様子を見たタバサは、ナナリーにレビテーションをかけ自分のベットに寝かせた。 ナナリーは眠気のあまり、ここがタバサの部屋だということを忘れてたようだ。 タバサは、そんなナナリーを見て、本棚からひとつの本をとりだした。 「イーヴァルディの勇者」 タイトルを読み上げる。 そしてページをめくり冒頭を音読しはじめた。 タバサが昔、寝る前に母にしてもらったことを、そのままナナリーにした。 ナナリーは既に寝ている。 それを確認したタバサは、ネコミミをとり頭を撫でた。 そしてやさしくナナリー「おやすみ」と言った。
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謙虚な使い魔 ブロントと名乗った耳長の亜人は目前の二人に聞いた。 「俺はジュノ大公国北東のクひィム島でキングベヒんもスと戦っていたんだが。どこだここ?」 独特な韻を持つ訛りがあったが、内容が聞き取れない訳ではなかった。 質問された二人には「ジュノ大公国」や「クフィム島」がどこか地方を指す固有名詞だと想像ができたが、 歴史の科目が得意であったルイズや教師であるコルベールでさえも聞いた事が無い地名であった。 「島」はともかくとしても、「大公国」と名が付けられる程の国家を地図から見逃すはずが無い。 可能性があるとすればエルフが住む地より遠く東方のロバ・アル・カイリエ周辺に、その様な国家があるのかもしれない。 「戦っていた」と聞いてこの召喚された使い魔が衛兵かまたは傭兵の様な風貌をしている事に多少は納得がいった。 もっとも二人には「きんぐべひんもす」とは何か軍団名なのか、誰かの名前かは分からなかったが、 目の前の亜人はエルフの軍人の類であろうと想像した。 ただでさえエルフの事はあまり細かい部分までは知られてはいなかったので、 研究好きなコルベールにとっては興味が尽きないことばかりであった。 「ここはトリステイン王国のトリステイン魔法学院です。ジュノ大公国ですか・・・聞いた事がない地名ですね。ああ、申し遅れました私はジャン・コルベールと言う者でこちらの学院で教鞭を取っています。」 「トリステイン?俺の知っている地名には何も無いな。」 ブロントは冒険者としてヴァナ・ディールの様々な場所を訪れた事はあったが、トリステインは初めて聞く名詞であった。 とはいえ、日ごろから『旋流する渦』や『禁断の口』等に突如吸い込まれ、 遠地、異世界、更には裏世界や過去世界にも訪れた事があったため、別段驚きはしなかった。 魔法学院と言われ、ブロントは改めてルイズの服装を観察した。 どことなくシュルツ流軍学塾生の制服に似ているような気もした。 「ええ、このミス・ヴァリエールの使い魔として、貴方は『サモン・サーヴァント』と言う魔法によってここに召喚されたのです。」 コルベールは続けて説明し、ルイズを指差した。 「『使い魔』?何だ俺はペットのようなものか?獣使いにはみえないようだが。」 「ぺ、ペットぉ!?」 端麗な顔立ちをした青年の口からさらっとでた言葉で、ルイズはバカ犬の様に振舞うブロントの姿想像して、 顔を真っ赤にして俯いてしまった。 その間ブロントは獣使いの仲間である一人のことを思い出していた。 毎日違うモンスターを引き連れており、いつも強烈な臭いがする汁を入れた瓶を持ち歩いていた。 彼に染み付いた臭いが嫌がられたのかあまり人との付き合いに関して運がある奴ではなかったが、 獣使いの彼が呼ぶと、如何なる場所であっても、主人の下に現れる籠付きのカニにはブロントも一目置いていた。 過去であろうと、裏世界であろうと、主人の下に馳せ参じるカニに、 ブロントは自分の中にある騎士道精神に通じる物があると感じ取っていた。 「いえいえ、使い魔とは召喚したメイジと生涯を共にする大事なパートナーとなる存在です。ここトリステイン魔法学院では代々伝わる『使い魔の儀式』と言うものがありまして、各生徒の魔法の傾向を見るためにも毎年春になりますと、生徒達は『サモン・サーヴァント』により召喚した生き物と使い魔の契約を交わさなければいけない決まりなのです。突然呼び出され不本意かもしれませんがミス・ヴァリエールと契約していただいてくれませんか?」 ブロントは生涯をかける契約と聞かされても、別段気にはならなかった。 すでにサラヒム傭兵派遣会社に命を丸ごと投げ捨てる契約を交わしていたり、 自分でも良く覚え切れないほど様々な所で契約していたような気もする。 交わすだけであれば、契約はとりあえずどんどんが交わしておくのが冒険者の常であった。 冒険者としての行動が束縛されなければ、誰の下に属しようがあまり関係の無いことだった。 それよりもブロントにとって気になる点があった。 「『サモん・サッヴぁんト』で召喚したと言ったが元いた所に戻る事はできにいのか?」 新天地を冒険するために、ここに残る事はやぶさかではなかった。 しかし、ベヒーモスの縄張りの雪土に挿したままで、まだ拾っていない長年共にしてきた愛剣のグラットンソードの事が気になった。 なによりも現在持っている武器は、厳密に武器と呼べるか怪しい、左手にある盾しかなかった。 『盾』の役目を最大限に引き出すためには、『武器』が無くてはなんとも心許なかった。 一方、ルイズはせっかく呼んだ使い魔が「帰る」と仄めかす事をいい始めたので、内心焦った。 「ちょっと!せっかく召喚したのにあなたにいなくなられたら困る!」 と騒いだがコルベールはルイズを諌め、話を続けた。 「残念ですが『サモン・サーヴァント』で使い魔は呼び出すことはできても、送り返す事はできないのです。ジュノ大公国でしたでしょうか?聞いた覚えがない国ですが、遠い東方のエルフの地であれば、ここトリスタニアからすぐに戻る事は難しいでしょう。代わりと言ってはなんですが、当面の衣食住は貴方の主人となるミス・ヴァリエールが負担しますので、とりあえず契約をしていただけませんか?このまま宛ても無く戻る旅をするよりも、足掛かりの拠点を作る事が貴方にとっても良いと思うのですが。」 流石のブロントでも武器も持たずに新天地を冒険する気にはならなかった。 ジュノ大公国が知られていないのであれば、手持ちのギル通貨は使えないのだろう、 となると武器を調達する事も容易ではないので、この提案はブロントにとっても都合は良い内容ではあった。 ブロントは、ふと自分のかばんの中に羊皮紙に『デジョン』の魔法が込められた呪符が入っていることを思い出した。 丸めた羊皮紙を取りだしたブロントに「なんですかな?」と聞いてきたコルベールを余所目に、 呪符に込められた魔法を開放して<デジョン>を自分に掛けた。 途端、ブロントは低く響き渡る音を立てながら、インクの塊の様なオーラに包まれて消えた様に見えた。 が、すぐまたサモン・ゲートが先ほどまであったその場にまた現れた。 「い、今一体何したの!?」 「今確認したが確かにすぐには戻れないようだが」 魔法を開放し、使い物にならなくなった羊皮紙を再び丸めてかばんの中に押し込みながら、しれっとブロントは言った。 まさかこの使い魔が、ハルケギニアにまた戻れる保証も無いのに、取りあえずデジョンで帰ろうとした、とはルイズは気付いていなかった。 自分の位置を把握するための先住魔法か何かだろうとコルベールとルイズは思っていた。 「してもいいぞその使い魔の契約」 ブロントが淡々と告げた。 その言葉を聞いたルイズは、これで学院の退学、と言う誉れ高きヴァリエール家にとっての最大の恥となる最悪の事態は免れた事に安心して、ほっと息を吐いた。 が、すぐに自分の姿を思い起こし慌てて貴族としての毅然とした態度を取って、手にした杖を振りかざしながら朗々と呪文を唱え始めた。 「――我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔と成せ!」 そう唱え終わった後、ルイズは毅然とそびえたつ200サントはある自分の使い魔を見上げ、 爪先立ちしてみても、ちっとも埋まる気配のない距離の遠さに絶望しながら、 聞こえるか聞こえないか程小さく拗ねた声で、 「・・・ちょっと・・・跪きなさいよ・・・」 と地面を指差す。 「ほう」 騎士の『肩打ち』のような事でもするのだろう、とブロントは思い、祈るような姿勢で片膝を付いた。 ようやく自分の顔が届く高さとなり、間近に真っ直ぐな眼で見つめてくるブロントの視線を受け、 ルイズはこれからする事を想像したらボンッ!と頭から湯気がでる気持ちになり、顔を真っ赤にした。 ブロントの顔は「美形」の部類に入る方である。エルフである事を除けば学院の女生徒達がこぞって黄色い声をあげてしまう様な顔立ちだった。 「かかかかか勘違いしないでよね、こ、こここれはあくまで契約の儀式であって・・・その・・・もにょもにょ」 「そのなんだ?」 ええい!ままよ!と決心したルイズは両手でがっとブロントの顔を掴み、口付けをした。 「おいィ?!なにいきなりキスしてきてるわけ?」 突然の事に語尾を上げながら高らかに叫ぶブロント。 「ちちちち違うわよ!そ、そんなのじゃ無くて契約の儀式なのっ!そんな大声で言わないでよ…き、キ…だなんて…」 と心の中で毛布を頭から被りたい気持ちになりながら、何とか言い繕うとするルイズは本日一番に顔を赤くして、 手を振り回しながらブロントの胸をガツンと叩いたが、 白い革のサーコートの下に金属の鎧が着込まれているとは思わず、 声も出せず、なんともいえない痛みにルイズは自分の手を抑えて、悶絶した。 ――そして 「おいィィィィィイイイイ!!??」 ブロントの左手に焼けるような激痛が走った。 咄嗟に盾を落とし、手の内側からその痛みが生じていると感じたブロントは左手の篭手を外した。 そこには光を発する何と書いてあるか読み取れない文字らしき文様がじりじりと浮かび上がる。 「すぐ終わるわよ!『使い魔のルーン』が刻まれているだけよ!」 ブロントは過去にも皇国の不滅隊に「何か」を埋め込まれ、タトゥーを刻まれたり、 依頼により勝手に呪いを掛けられたり、制約魔法を掛けられたりもした事もあったが、 今回もこの様なルーンが激痛を伴って刻まれるなど、つくづく冒険者とは損な役割だなと痛みをごまかすように思いながら左手を抑えていた。 (なんでしょう・・・このルーンは・・・?) 儀式の終始を傍観していたコルベールは、ブロントの左手に浮かぶルーン文字があまり見ない形をしていた事に気付いた。 ただでさえエルフと言う前代未聞の使い魔の出現に充分驚いていたが、 その手に浮かび上がったルーンも他の生徒の使い魔に現れるものとは随分と形が変わっていた。 「失礼!その手のルーンを少し私に見せてください!」 使い魔のルーンが完全に浮かび上がり、ルーンが刻み終わると同時に痛みも嘘のようにさっと消えた事を感じたブロントは、 異常がないか確認するように自分の左手を数回開いたり閉じたりした後、コルベールに見えるように手の甲を向けた。 ふーむ、と言いながらコルベールがルーンの文様を紙に書いている間、ブロントはルイズに聞いた。 「これでいいのか?」 「うん、これで私はあなたのご主人様であなたは私の使い魔よ。」 ルイズは"ゼロ"と呼ばれ苦渋をなめ続けた学園生活を送っていたが、 エルフという強力な使い魔をものにした事で"ゼロ"と呼ぶ同級生達を見返せると思っていた。 理想を言えばドラゴンとかグリフォンのような凄さがわかりやすい幻獣の使い魔がよかったが、 この使い魔も良く見れば見た目凛々しく、神聖そうで、(多分)強そうで、この使い魔もある意味呪文通りの使い魔だった。 特に代々互いに並ならぬ因縁を持つ、鼻持ちならないツェルプストー家の娘をぎゃふんと言わせそうだ。 (もう"ゼロ"だなんて誰にも言わせないわ!) そうルイズが心の中で決心したとき、 「ああ、もう終わりましたよ。もう結構ですよ―」 とコルベールはルーンを書きとめたノートをパタンと閉じた。 「―ミス・ヴァリエール、使い魔の召喚おめでとうございます・・・と言って本日は終わりにしたい所なんですが、彼をこのまま学院連れて行くのは得策では無いと思うのです・・・その目立ち過ぎると申しますか・・・」 生まれて初めて成功した魔法にうかれていたルイズは今まで思いつかなかったが、 コルベールが説明するにはエルフとすぐわかる耳長のブロントをそのまま学院に連れて、 他の生徒・教員達の目に触れさせる事は色々と問題があった。 トリステイン魔法学院には王宮に直接通じている生徒や教員達の他に、近隣諸国からの留学生も多数在学している。 特にエルフに占領された『聖地』の奪還を、国で推し進めているロマリア連合皇国の留学生に知られでもすればただ事ですまない事は明白だった。 異端審問の名で学院関係者が連行されたりしてしまうのは学院側としては非常にまずい事なのである。 幸いこの場でブロントの姿を見ているルイズとコルベールはエルフの恐ろしさを聞き及んでいるとは言え、 ルイズはせっかく呼んだ自分の使い魔を手放すような事をする気はなかったし、 研究者思考の強いコルベールも、迫る危険が無いようであれば色々未知に包まれているエルフの文化や技術の事も知りたかったので、 ブロントとは友好的に接して行きたいと思っていた。 傍から話を聞いていたブロントは半分ぐらいは状況を理解していた。 ブロントは冒険者としての生活の中で、バストゥーク共和国で似たような問題を見てきている。 女神アルタナの子と呼称される『人間』の一種族であるガルカ族は、 他の種族とかけ離れた巨体を持ち、人間離れした風貌や独特な精神文化の所為で、 同じ共和国に住む多数派であるヒューム族から度々迫害を受ける事が多々あった。 どうやらここトリステインではエルヴァーンであるブロントのように長い耳をもった『エルフ』という種族はあまり歓迎されておらず、 このままでは非常にまずい事になると察した。 「俺はエルフがなんであるかはわからないが。とにかくこの耳がまずいのか?」 「エルフが何かわからないって、だってあなたエルフでしょ?」 首を傾げていたブロントに合わせるかの様にルイズも首を傾げる。 「俺はエルヴぁーんなんだが」 『エルフ』とどことなく発音が似ている新しい単語を聞きルイズはコルベールの方へ答えを期待するように見た。 もちろんコルベールも聞いたことがない単語であったが、その言葉の響きの類似性から一つの推測を思い浮かんだ。 「もしかして彼の住む遠い地では、自分達エルフの事をエルヴァーンと呼んでいるのかもしれません。 私達ハルケギニアの人々は『エルフ』と呼んでいますが、彼らは別な方法で自分達の事を呼んでいるのかもしれません」 少し変わった発音で言葉を発するブロントであった、そこで固有名詞の些細な違いが出る事があってもおかしくない、とルイズ達は思った。 「とにかく隠せばいいんだなこの耳」 ブロントはかばんから壜を一つ取り出した。 瓶の蓋を開け、壜を傾けるとさらさらとした粉が光を乱反射しながら自分の手の上に出した。 小さじ一杯分のきらきらと光る粉をその手に載せると、徐にそのこなを自分の耳に塗布した。 ルイズは「何をしているの?」とブロントに聞こうと思った矢先ブロントの銀髪から突き出ていた耳が消えていた。 「あ、あんた、耳をどうしたの?」 「プリズんムぱうダーで耳を隠したんだが?」 恐る恐る聞くルイズに対し、ブロントはさも当たり前であるかの様に答えた。 ルイズはブロントに頼み耳を少し触らせてもらった。 手を耳があった思われる場所に伸ばすと、何かが指に触れる感触と共にうっすらと元あった耳の形に空気がピクピクと揺らいだ。 ルイズとは別にコルベールも感銘受けていた。 「おお!<フェイスチェンジ>が行えるマジックアイテムですか?」 「それほどでもない」 ブロントは二人にグラスファイバーとレンズを組み合わせて、砕いて粉にして作られたこの『プリズムパウダー』の事を簡単に説明した。 多少の知識は必要とは言え、材料さえ揃えば誰でも簡単に作れるという事。 本来は一瓶使って全身に塗る事によって完全に姿を隠す事ができるという事。 今は塗っている部分が極端に小さいため、よっぽどの強い衝撃を受けなければかなり長時間持続するという事。 もっとも態々話す必要も無いと思いクリスタル合成の事や、ヴァナ・ディール式の『錬金』の技術が使われている事をブロントは省いた。 コルベールは話を聞き、試しに<ディテクト・マジック>を粉が入っている壜にかけて見たが、 ブロントの言うとおり全く何も魔法がかかっていない事が判明した。 「その姿なら平民の使い魔として学院内では通じるでしょう。 不用意に魔法などを使わなければ感づかれる事もないし。 それと貴方は遥か東方のロバ・アル・カイリエの出身とでもしておけば大まかな話の辻褄は合うでしょう。それにしても・・・」 魔法を使わず風と水を合わせた高等魔法である<フェイスチェンジ>と似た事を成し遂げたこのアイテムに、 コルベールの研究者の血が騒いでいた。 少年のようにきらきらと輝かせた目で手にある壜をじろじろと見る頭髪が寂しい男を見て、 ブロントは少々うざいやつがいるな、と思いつつもまだかばんにはまだ他にもたくさんパウダーの瓶を持っていたので、 広い心をもってまだ自分で使う分以上に持っている事をコルベールに伝え「パウダーをおごってやろう」と、先ほど使用した瓶の残りをコルベールに手渡した。 まさか譲って貰えるとは思ってはいなかったコルベールは目を丸くして瓶を受け取ることになった。 「ほ、本当に良いのですか!?いやはや、実にありがたいです。お礼にと言ってはなんですがもし私で力になれる事がありましたらこのジャン・コルベール、力になりますぞ!実は学院内に私はちょっとした研究室みたいなものを設けていますが、必要な物がありましたら幾つか都合させて頂きましょう」 と言ったものの、コルベール自身にとっても「他にも珍しいもの見せてもらえるかもしれない」と言うささやかな下心も込められていた。 早速手に入れたプリズムパウダーを大事に手にもって<フライ>を唱え嬉々として学院へと戻っていった。 学院に向かって飛んでいくコルベールを感心した様子でブロントはつぶやいた。 「ほう空を飛ぶ魔法か」 「<フライ>を知らないって、まさか先住魔法にも似たようなものは無いの?」 「言っておくが俺は先住魔法というものを知らない」 「え?ああ、えーと何だっけ、確かエルフ達の間では『精霊魔法』と呼ばれていると聞いた事があるわ」 「そうか精霊魔法。だが俺はまったく使えないぞ精霊魔法」 「え?」 「俺が精霊魔法を使う事は無理に不可能。」 ただでさえルイズは自分が呼んだ使い魔がただの平民であると振舞わなければいけない上、 この粗野な口調で語る使い魔は実際に耳が尖っているだけの平民なのかもしれないと思い、 さきほど奮い立った「もう"ゼロ"と呼ばせない!」という決心がバラバラに引き裂かれていった。 「な・・・なんだか今日はとにかく疲れたわ・・・」 と頭を抱え学院にとぼとぼと歩き始めたルイズに、追い討ちをかける様にブロントが疑問を投げかけた。 「お前は<フライ>しないのか?」 「う、うるさいわね!今日は疲れたからちょっと歩いていきたい気分なの!」 こうして傾きかけていた太陽を背に一人の主人とその使い魔は学院へと歩いていった。 第1話 「ああ!奇跡の出会い!」 / 各話一覧 / 第3話 「若きルイズの悩み」
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謙虚な使い魔 一人は仲とに巨獣と対。 騎士取り、仲間を守るために盾となって巨獣の攻撃を一手に引き受けていた。 騎士が巨獣が繰り出す凶腕の薙ぎ払ている間騎士の仲間達は 武器を手に巨獣に向かう者、魔法を詠唱する者、呪歌を歌う者、矢を射掛ける者、傷を癒す者、と 彼ら各々に与えられた役割を果たし、「絆」で繋がれた力は一つの巨大な力となり巨獣に対し獅子奮迅していた。 追い詰められて最後の灯火を燃え上がらにその巨大な力の中心となっていつ騎士に向かい突進した。 手にした禍々しい風貌の剣で受け流そうと体を捻らせたが予想以上の衝撃により剣は騎士の手から弾た。 剣け一瞥した後、再び巨獣に目を向け盾を構えたが巨獣はすでに息絶えていた。 仲間の魔道士の古代魔法の詠唱が完了しており、巨獣の遺体とていた。 事が終わった事を確認した騎士は落とした剣を拾いに向ちでその花を土ごとそっと引き抜き、腰に充てたかばんにそっと仕舞った その瞬間、 気がした ― うしろ士きて 声を聞士 ―――くきて 彼を呼ぶ声騎士 ―私の使い魔はやて!! 少女の悲痛なると気付き辺りを見回し再び正面に振り向きなおした瞬間 騎士の前に突咄嗟に盾を構えたが甲斐も無く一人の騎士は鏡に吸い込まれていった ◆ ◆ ◆ ◆ 時同じくしてハルケギニア大陸トリステイン王国トリステイン魔法学院 ここでは学院生徒二年生による春の使い魔召喚の儀式が行われていた。 学院の側にある広場に集まった生徒たちは自分と生涯を共にする使い魔との初めての出会いに、 一人、または、 幾度となくサモンサーヴァントの呪文を唱えたが、 爆発によって地面が抉れるのみで一向に使い魔が現れてこないのだ。 「早くしろよ"ゼロ"のルイズ」 「"ゼロ"が何か召喚するまえに広場が爆風でなくなっちまう」 「何をやらせてないんだな」 皆召喚を終わらせ、ルイズ一人のために待たされている生徒達の心無い野次が飛び交いはじめた。 「…ミス・ヴァリエール、・」 ルイズの肩にそっと手をのせたのは今年の召喚儀 「ミスタ・コルベールお願いです!もう一度だけチャンスをください!」 ルイズはその目に涙を浮かべながら必死に食い下がった。 コルベールは知っていた、魔法が使えない彼女がこの日のために、 毎日幾度となく召喚の儀式に関する事を他の生徒の幾数倍も勉強していた事。 "ゼロ"と他の生徒に馬鹿にされつつも、彼女は自分ができる事を期待以上にこなしていた事。 しかし運命は残酷な事にひたむきで努力家である彼女にたった一つ肝心な要素、 「魔法」の才能を与えてくれなかったらしいのである。 コルベールとて教え子の中でも一番熱心に授業に受けていた彼女の メイジとしての未来を閉ざしてしまう事には不本意であった。 しかしまた学院の教員の一人として使い魔召喚の儀式ができない生徒は退学させなければいけないのであった。 「ではミス・ヴァリエール、深呼吸をして、気を落ち着かせてからもう一度だけ試しなさい」 そういってコルベールはルイズの肩をぽんぽんと叩いた。 「落ち着いてまだ見ぬ使い魔の事を強く念じながら呪文を唱えなさい」 そう言われル吸い、はぁーと吐き、再度杖を構え、 ―――お願い!なんでもいいから 私の使い魔はやくきて! と念じながら声を高らかにあげ呪文を詠唱した。 「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく、そし心より求め、訴える! 我が導きに、応えなさい!!」 途端、今まで以上の爆音が学園中を響き渡り広場は前が見えないほど濃い砂煙に覆われてしまった。 ルイズと共に他の生徒も咳き込み、煙を振り払ってるうちに煙が晴れ上がり、爆発した箇所の中心にきらきらと光る鏡の様なものが浮かんでいた。 (やった!サモン・ゲートよ!ついに召喚に成功したんだわ!) と砂埃で汚れた姿なっていた事も忘れて喜ぶルイズは小さく杖を持つその手をぐっと握り締めていた。 サモンゲートは使い魔を召喚した主の下へと送り届ける空間転移魔法である。 どんなメイジであれ基本中の基本であるこの魔法を唱える事自体は簡単とされていた。 しかしどういうわけか使い魔がすでにいる状態ではゲートを作る事はできず、 また主側から使い魔の所へは通れない一方通行の門なのである。 一度サモンゲートが開いたのであれば必ず使い魔が必ず現れてくると言う所まではメイジ達の間でも知られている。 しかしそれ以外の詳しい原理は謎に包まれたままで『そういうものである』と言う認識の下で使われている魔法でもあった。 学院二年生達に囲まれ、期待込められた目でルイズがゲートを見つめ佇む中 その期待に答えるようにゲートはきらきらと光るだけであった。 しばしの沈黙の間ゲートが水面のように揺らいで、「何も起きない」とルイズを含むその場に居合わせた者全員が思いはじめたとき、 ぽつりぽつりと様子を見物していた生徒達は口を開いた。 「おい、使い魔は?」 「爆風で吹き飛ばされたんじゃないのか?」 「さすが"ゼロ"のルイズ!召喚するものも"ゼロ"だ!」 「"ゼロ"は蟻んこを召喚したかもしれない、皆足元気をつけろよー」 いつもの"ゼロ"を馬鹿にする嘲笑が始まっている時、 教師であるコルベールはこの「前例が無い」事態に関して様々な考えを巡らせていた。 (ゲートは開いたと言うことは使い魔呼び出されているという事だ、しかし一向に使い魔らしき存在は見当たらない) コルベールは以前変わり無く揺らめくゲートを全方向から観察し、確かにサモン・ゲートであると確認した (だが生徒達の言うように姿が確認できぬほど小さい使い魔だとしても、 ゲー何かを召喚したのであれば役目を終えたゲートはもう閉じているはず。) そして一度開いたゲートは必ず使い魔を召喚する事である事も踏まえ、 コルベールが達した結論は『この空中に浮かんだ鏡はまさに』ということであった。 ルイズもその事に気づいたのか、それとも中々姿を現さない使い魔にあせったのか、 「も、物凄い使い魔が召喚されて…そう、ちょっと準備に時間かかっているだけなんだから!」 と周りの嘲笑に対し弁明するかの様に答えていた。 一方コルベールはこの事態の対処に悩んでいた。 サモン・ゲートが開かれたのであれば若きヴァリエール家の三女は「召喚の儀式ができなかった」訳ではなかった。 しかし使い魔との契約を済まさなければ「召喚の儀式が完了した」とも言えなかった。 とにかく使い魔が現れるまで待つしかないのだ。 「えー、とりあえず皆さん使い魔の召喚おめでとうございます。 召喚を終えた者達は自分の使い魔の事をもっと知りたいと思っているでしょうから本日の授業はここまでとし、解散して結構です。私はミス・ヴァリエールの儀式が完了するまで付き添います。」 そうコルベールが言い終えたのを聞き、 一時は面白がって見ていた生徒達も何も変化が起きない状況に飽きてきていたので、 各自<フライ>の魔法を唱え、使い魔と共に思い思 その内の一人が「お前は歩いてこいよ"ゼロ"のルイズ!」と暴言を吐く者までいた。 そうしてルイズは教師のコルベールと共に静かに煌き輝くサモン・ゲートの前に立っていた。 「ミス・ヴァリエール、気を落とさないで・ゲートが現れたのですから貴方の使い魔は必ず出てきます。」 などと残されたルイズを励まそうとするコルベールであったが、 ルイズは心中穏やかではなかった。 いままで基本的なコモンマジックでさえ『一度』も成功した事が無かったルイズである。 今日行ったサモン・サーヴァントでさえ最初の数回は明らかな失敗であった。 ならばこのサモン・サーヴァントも失敗しているのではないか? 時間が経つにつれ、ルイズの心は自分の無力さを呪う気持ちがじわじわと広がっていった。 その気持ちに対抗するかの様にルイズは無意識につぶやいた。 ――はやくきて 使い魔がサモン・ゲートから現れてくる事を願ってひたすらつぶやいた。 ――はやくきて! 四半刻も過ぎた頃、ルイズの中で不安が限界まで溜まり、そして『叫び』という名の濁流となって泣け叫んだ! 「はやくきて!私の使い魔はやくきて!!!!」 それに呼応するかの様にサモン・ゲートが眩く光り、白く輝く一人の『男』が引き摺りだされる様に現れた。 200サントは超えるであろう長身痩躯の『男』は王宮の衛兵が着ている様な白い板金鎧の上に同じく白いサーコートをかけていて、 その左手には落ちかけた太陽の光でさえ眩しく反射する金縁で彩られた蒼い金属の盾が『男』の顔を遮る様に構えられていた。 (まさか人間が召喚されちゃうなんて!?) (まさか人間が使い魔として召喚されるとは!?) 不意に現れた予想外の使い魔に二人は驚愕した。 『男』の全身が引き出されると、役目を遂に終えたサモン・ゲートは見る見ると萎み、そして消えた。 そして自分がいた場所とは違う所に連れてこられた事に気づいた『男』はその掲げた盾を降ろし、辺りを見回し、 目前にはポールのような杖を携えた頭髪がやや寂しい男性とマントを羽織った少女の姿を見た。 『男』は直感的にその少女が自分が聞こえた声の持ち主であると感じ、少女をじっと見つめた。 『男』その顔は肌色やや浅黒く、端整な顔立ちに物静かにルイズは鋭く釣り上がり、 首元まで伸びている長髪は着ているものを反映しているような煌く白い銀髪であった。 そしてその頭髪から突き出るように伸びた両の耳・・・ 「「え、エルフ!?」」 ルイズとコルベールは同時に二度目の驚愕をした。 人間が使い魔として召喚される事は今まで無かった。 ましてやハルケギニアの人々にとっては天敵とされているエルフが召喚されるなどあってはならない事である。 ハルケギニアの人々が信仰する始祖ブリミルが遂に聖地奪還を果たせなかった最大の原因とされているのが、 っていたと言われる現在は失われし「虚無」魔法でさえ梃子摺ると言われた、 「先住魔法」を自在に操る種族がエルフなのだ。 メイジが何人いようと対抗手段にすらならないエルフの力は、 ハルケギニアの人々にとっては『畏怖』を飛び超え、純粋に『恐怖』の対象とされていた。 「おいィ?一体誰だおまえ?」 『亜人』のドスが聞いた突然な発言に、生徒を守る立場であるコルベールは咄嗟に杖を構えたが、 相手がエルフであれば彼一人ではなす術も無いことは明らかだった。 必要以上に相手を刺激する事は無いとコルベールは判断し、杖を元の通りに持ち直した。 コルベールはメイジとしての経験と勘でこのエルフと直接やり合うのは無謀であるだけではなく、 傍にいる教え子を悪戯に危険へと巻き込んでしまうだけと判断した。 「ほう、俺を強いと感じてしまってるやつは本能的に長寿タイプ」 一方ルイズの方は自分が呼んだ使い魔の姿に困惑していた。 今まで実際のエルフを見た事は無かったとは言え、ルイズが座学で学んでいたエルフのイメージ像とはずいぶんかけ離れていた。 エルフが扱うとされている先住魔法の一つ、<カウンター>はいかなる系統魔法も物理攻撃をも防ぐと言われている。 その様なエルフはわざわざ重量がある金属鎧を着る必要がないのである。 確証はされていないが、金属はむしろエルフが扱う先住魔法の精霊の流れを悪くすると言われている。 なのに、目の前の『男』は武器を手に持って戦う剣士のような出で立ちで、 まるで昔読み聞かされた事とある絵本の勇者の様に勇壮なかつ純白に輝く神々しい姿をしていた。 判らない事だらけだったが、ルイズは一つだけ確信していた。 この『亜人』こそ自分が呼んだ使い魔だ、という事を。 「あなたを召喚した私の名はヴァリエール公爵家が三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。あんたは?」 「俺か?―――」 ピンク髪の少女の目をじっと見つめて『 「――――俺はブロント。ただのブロントだ。」 / 各話一覧 / 第2話 「異界の使い魔」
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食堂は空席も目立つものの随分と賑わっていた。遅かったのか、既にデザートも配られている。 ルイズは席に座ると、いつもどおりの始祖に対するお祈りを捧げていた。 床には粗末な食事が置いてあるので、霧亥は空いてる椅子に座り、それを食べだす。 「あ、こら。ちゃんとお祈りしなさいよ」 「余っている食料は無いのか」 「そりゃ厨房に行けば残飯くらいあるだろうけど……ほ、ほらっ、少しなら私のをあげるわ。感謝なさい」 「……。」 ルイズはあれこれ言い訳をして自分の行動を正当化しているが、霧亥は別にどうでもよかった。 近くのテーブルに集まった男子たちは、何やら話に華を咲かせている。 大げさなリアクションを取る生徒。そして、その拍子に小瓶が床に転がった。 そのまま食事を終えるが誰も小瓶の存在には気がついていない。 男子生徒たちは場所を移すのか立ち去ろうとしたので、霧亥は少し考えてビンを拾う。 「おい、落としたぞ」 ギーシュと呼ばれた、落とし主の生徒に呼びかける。 「うん?何だ君は――それは僕のじゃない。近くの給仕に渡したまえ」 「お前が落としたのを見ていた」 その言葉を聴いてギーシュの友人たちが騒ぎ出す。彼らにとって、ビンの中身の製作者が重要なようだ。 事態は次々に進行していく。まず少女にギーシュが叩かれ、別の少女にギーシュが叩かれた。 霧亥は席に戻ってルイズに情報収集の許可を貰うか学校を探索するのか、どちらがいいかを考えていた。 「待ちたまえ、君のせいで2人の名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」 呼び止められる霧亥。振り返ると、大仰なリアクションで霧亥に対して文句をつけてくる。 「俺には関係のないことだ」 そうだそうだと野次が飛び、ギーシュの立場はどんどん悪くなっていった。 「話を合わせるくらいの機転はきかせてもよいだろう?」 「もう手遅れだ」 「……ほう、どうやら貴族を馬鹿にしているのかね?よろしい。では教育してやる!」 事態は次々に進行していた。 ギーシュは霧亥を突き飛ばして指をさしながら、ヴェストリの広場に来いと告げて立ち去っていった。 その次に話を聞きつけていたシエスタが飛んできて、今すぐ謝罪すべきだと勧告してきた。 遅れてルイズがやってきて、メイジにかなうわけが無いから謝罪しなさいと命令してきた。 探索をしていると、少なくない割合でこういったトラブルに巻きこまれる事がある。 なぜなら小規模な人間の集落は閉鎖的であり、余所者は統治局や珪素生物と同じように見られるからだ。 助けがもらえるよりもほんの少し、銃で撃たれたり襲い掛かられることがあった。 そういうときに解決するプロセスには、プログラム言語、現地の言葉、そして肉体言語が必要だった。 「ヴェストリ広場に行く」 「あっちだぜ、平民」 ギーシュの友人が顎で教えてくれる方向に、止める2人に構わず霧亥は歩き出した。 どう立ち振る舞うにせよ、戦闘は十分に想定されていた。想定される。可能性がある。 こういう文字が網膜に映るということは、つまり確実に発生する事を指している。 違いは遅いか早いか。それだけだった。 ヴェストリ広場は薄暗い場所だった。空が青い事を覗けば、どこか超構造体に似ている部分もある。 2つの塔の狭間であり、中庭にあたる。普段は人を寄せ付けないことは容易に想像できた。 巨大な建築物には、それのみが持つ独特の空気のようなものがあるのだ。 「諸君!決闘だ!」 ギーシュが造花で出来た薔薇を掲げると、歓声があがる。 人が寄り付かないであろう広場は今、噂を聞きつけた生徒で溢れかえっていた。 「逃げなかった事だけは褒めてやろうじゃないか」 「さっさとしろ」 「クッ……いいだろう。では始めよう」 距離は13メートル。1歩を踏み出す霧亥に対してギーシュは薔薇の花を振って応える。 花びらが一枚宙に舞ったかと思うと、いきなり甲冑を着た女剣士の姿になった。 「!」 慌てて腰に手を当て銃器を探すが一つも無い。視界には『武装消失』のメッセージ。 構造を解析したところ、銅と錫の合金で形成されている。動作箇所は人体に酷似。 しかし分類には『ERROR』が表示されている。 「驚いたかい?僕はメイジだ。だから魔法で戦う。何の文句もあるまい?」 「造換塔も無しに生成できるのか」 「何だそれは?フフ…言い忘れたが、僕は『青銅のギーシュ』と呼ばれている。君の相手はその青銅のワルキューレさ」 そのワルキューレが霧亥に突進してきた。右の拳で容赦なく霧亥の腹部を殴りつけ、続いて左の拳で頭部を狙う。 だが霧亥は両手でワルキューレの右の拳を掴むと、そのまま捻りあげて銃身を崩してから、投げた。 「なッ!」 周囲にどよめきが走る。だが、霧亥はその程度の反撃では終わらない。 そのまま顔面を何度も何度も何度も何度も殴り、地面に少しめり込んで動きが鈍ったのを確認すると、ワルキューレの腕を曲げた。 「何だお前は!」 ギーシュは後退しながら慌てて薔薇を振り、さらに6体のゴーレムを形成。 そのまま数で制圧しようとするが、霧亥は動じることもなくワルキューレの腕を引きちぎる。 その腕を振り回して正面のワルキューレの頭部を破壊。同時にちぎった腕もくの字に曲がったので放棄する。 別のワルキューレが迫ってくるが、2、3度殴られた後に地面を転がって回避して、そのままギーシュに駆け出した。 あとは思い切り殴りつけるだけで戦闘不能にできるだろう。 「く、来るな!」 恐怖に顔をゆがませるギーシュとは裏腹に、霧亥の顔には何の感情も無かった。 彼にとっては『司令塔』を潰し、まだ動くようならワルキューレと戦うだけであった。 ただ敵性存在に対して淡々と処理を行う。ただそれだけのことなのだ。 ギーシュの胸倉を掴み、そのまま地面に背中から落とす。 あとはワルキューレと同じ処理を行う。 「そこまでよ!霧亥、やめなさい!」 「これは決闘だ」 握り締めて引いた左の拳を突き出す0.3秒前に停止命令が下る。 霧亥は自分の網膜の表示『enable/disable -ERROR-』を疑った。 「制御を奪われた?」 主導権を取り戻すべくノイズの発生源を捜査すると、ノイズは左手から発生していた。 『禁圧』『新規デバイス』の表示を確認して霧亥は驚愕していた。 そんなものがあるはずがないのだ。ここの技術が追いつくまでには途方も無い時間がかかるだろう。 今まで認識されなかった部分も納得がいかない。拘束させるタイプなら全身を動かせなくする筈だ。 「戦闘用追加演算ユニット…ライブラリ…不測エネルギー生成機能…なんだこれは」 『認識完了』という表示と共に左腕から拳にかけてほんの僅かに、帯電するようなエネルギーが発生していた。 霧亥は、臨時セーフガードの男が使用した内部電源の放射攻撃を思い出す。 「霧亥!もういい!ギーシュ、貴方も降参して!」 「わ、わかった……僕の負けだ……」 どよめき。そして霧亥の勝利を、見物客の一人が大声で叫ぶと、それは歓声と拍手に変わった。 霧亥はそれを認識すると、立ち上がり自分の手のひらを眺める。 デバイス認識前の状況と今の状況を比較しても、システムや心理の表層に問題は発生していないようだった。 だが念のために深層も確認する必要がある。そう判断した霧亥は自らの機能の大半を一時停止させ、診断と調整に入る。 そのまま地面に横たわり、125秒間、全身の98.4%のデバイスを停止した。 「ちょ、ちょっと霧亥大丈夫?ねえ!霧、亥……寝ちゃってる…」 「ルイズ。彼は何者なんだい?まさか僕のワルキューレがあんなになるなんて…」 「わかんないのよ、私も。ただ遠くから来たことぐらいしか知らないの」 「ただの平民に僕のゴーレムを倒せるとは思わない。それに、最後のアレは……」 「何かあったの?」 「いや…なんでもない。勝者は丁重に運ばなければならないね。誰か、手を貸してくれ!」 気絶したのだろうと思った生徒の誰かが、霧亥に『レビテーション』をかけてくれる。 「使い魔のくせに勝手なことしないでよね…心配したんだから…」 聞こえてないのをいいことに、そんなことを言ってみる。ルイズは少しだけ楽になれた。 一方、広場に残されたギーシュは霧亥への認識を改め、それを見抜けない自分を恥じた。 「(彼の左手に見えたあれは何だったんだろうか?先住魔法?それとも、幻かい?」 野次馬に混じり決闘を眺めていたキュルケはうっとりと霧亥を眺めていた。 隣にいる青い髪の少女はキュルケとは別の観点で本を読まずに霧亥の事を見つめていた。 3人は同じ事を考えている。 つまり、『彼は何者なのか?』ということだ。 霧亥の勝利は学院に住む多くの平民にやメイジに少なからず影響を与えた。 羨望であり、感動であり、希望であり、恐怖であった。 それはちょっとしたウィルスのように皆の心の中に増殖していった。 だが、それが表面に現れることの無い、あくまでも水面下での変化である。 よって本人たちにはさしあたって変化は無い。せいぜい晩の食事が増えたくらいである。 翌朝、霧亥はトリスティンの施設の探索と図書館の利用を許可されていた。 ルイズはいくらか文句を言ってきたが、文字が読めないことを告げると同情的な反応で許可をくれた。 ある程度の把握が完了すると図書室へ向かい、幾つかの文字を眺めてみる。 「言語の種類が全く異なる。意味が理解できない」 かつて自分が持っていた古いハードコピーを思い出す。あれは読むことが出来た。 今となっては永久に自分の手元に戻るわけでは無い。ただ霧亥には本に関して一つだけ鮮明な記憶がある。 『冷たく静かな大地が明るくなる頃、人影は丘の上に登った』『大地って何だ』 答えは、見つかるのだろうか。 結論から言えば、答えどころか管理者すら見つからなかった。 人影は2、3見当たるが、めいめいが自分の読みたいであろう本を手にとって没頭している。 ルイズからは勝手に持ち出すな、と注意を受けている。つまり一度戻る必要が発生していた。 「どうしたの」 振り返ると近くの青い髪をした少女が立っていた。 「ここの管理者を探している。ハードコピーについて聞きたいことがある」 「今はいない。戻るには時間がかかる」 しかたない、と判断して霧亥は踵をかえした。だが後ろから呼び止められる。 「何を探しているの?」 「文字が判読できない。ここの言語の基本的な読み方を記したものが必要だ」 「待ってて」 「これは何だ」 「クマ」 「これは何て書いてある」 「『おさるさんは、ヤギさんのかたきをうつことにしました』」 「もっと情報量の多いものは無いか」 「単語ごとに詳細が記されているのはこれ。文法については、これ」 無言で本を受け取る霧亥。どうしたことか目の前の少女から文字を教わっていた。 霧亥はパターンを見つけ出しては解析し、照合し、何度か適用しては認識率を上げていった。 あと、約43000秒もあれば簡単な文字を読み、書くことが出来るようになるだろう。 自分の中で進歩率を概算してから、青色の髪を持つ少女が部屋に戻るまで作業を続けた。 「私は戻る」 「助かるよ。だが今の俺は何も持っていない」 「構わない」 少女が部屋の外に出ると「あらタバサ、今日もここにいたの?」という声が聞こえてきた。 霧亥は本を元の位置に戻し、最後に『タバサ』という固有名詞を覚えて図書室を後にした。 ルイズに成果を報告すると色々と複雑な表情をしていた。 「ううーん……………決めた。霧亥、明日は街まで出かけるから、私と一緒に来なさい」 「街?別の集落があるのか?」 「集落じゃなくて、街は街。国の中に町や村みたいな集落があって、その中に家があるのよ。そういう意味でここは例外ね」 「そこまでの文明があるのか」 「ハァ。ホントに変なところから来たのね。今更だけど、何か呆れちゃうわね。」 「……。」 「え、あっ、そうよ!そうだわ!あ、貴方が変なことを喋って恥をかかないように、わた、私が常識を教えてあげる!」 「いや、それならこの文字の…」 「ほ、ほらっ!さっさと座る!」 「…………。」 恐らくは主観の多分に入った常識は覚えたが、なぜルイズの調子が変なのかは結局判らなかった。
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謙虚な使い魔 「生徒は使い魔を召喚した後の最初の授業は使い魔のお披露目もかねて連れて行くことになっているの」 ルイズはそうブロントに説明しながら教室へ入った。 教室と呼ばれたその部屋はブロントが知っているウィンダス連邦にある耳の院の魔法学校の教室よりはるかに広く、 許容人数がおよそ三倍はあった。 そして何よりブロントが気付いた点は、魔力の扱いに関してもっとも長い歴史を持つタルタル族の姿が、 食堂にいた時も、教室にいる時も見かけなかった。 魔法学院と言うぐらいであるから、タルタル族が主であると思っていたが、 この教室にヒューム族しかいないという事実を前にして、トリステインはヒューム族による完全なる単一種族国家であるのだとブロントは分析した。 耳長であると言う点だけで国家問題に発展する恐れがあると騒ぐ位なのであれば、 バストゥーク共和国以上に、深刻な種族間の間に大きな亀裂が在るのだろうと、思案しながら不可視の己が耳を意識した。 「俺はどこにいればいいんだ?他の使い魔と共に立っていればいいのか?」 「普通の使い魔ならそうだけど、アンタは椅子に座れるんだから特別に私の隣に座らせてあげる。 といってもどうせいつも空いてるし。」 ルイズの言葉最後の部分だけ、少しだけふて腐れた感情が込められいた事にブロントは気づいて何かを言おうとしたが、 考え直して黙ってルイズの隣の席へと座った。 やがて残りの生徒達も使い魔を連れて教室に集まり、先ほどまで広いと思った教室も生徒と使い魔でいっぱいになった。 最後にふくよかな風貌をした中年女性が席に座る生徒達の前に位置する教壇に立った。 「皆さん。春の使い魔召喚は皆大成功だったようですね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔を見るのがとても楽しみなのですよ」 「先生!まだ一人使い魔を召喚できてない生徒がいます!ルイズは誰も見ていなかったのをいいことにただの平民を雇って自分の使い魔と言い張っています!」 待っていたかの様に飛び出した言葉と同時に、ブロントは無数の視線が向けられている事に感じた。 その中の一部はブロント自身にも向けられたものだったが、一番ブロントの癇に障ったのがルイズに向けられた無数の気分の悪いじっと見つめる視線だった。 シュヴルーズと名乗った教師はゴホンと咳を払って 「いえいえ、召喚に多少時間はかかったようですが、最後まで立ち会ったミスタ・コルベールから少し変わった使い魔をミス・ヴァリエールはちゃんと召喚したと言う事を聞いています」 「"ゼロ"が魔法で成功するもんかよ!」 「きちんと召喚したもの!こいつが来ちゃっただけよ!」 と『コイツ』と席にだまって座っているブロントをルイズは指差した。 「見た目だけ立派に着飾らしても平民は平民だぞ"ゼロ"!」 「"ゼロ"などと学友を悪く言う事は許しませんよ」 「でも"ゼロ"は"ゼロ"以外に呼びようがありま・・・」 そう小太りの生徒の少年が言い切る前に、シュヴルーズは杖をひゅっと振りかざすと"ゼロ"と囃し立てていた声がぴたりと止まった。 耳障りな言葉を発していた少年の口には赤い土がびったりと張り付いていた。 「貴方はしばらくその格好で授業を受けなさい、では授業を始めますよ。」 そうして黒板に書かれた文字は読めなかったが、授業を聞いていたブロントはハルケギニアに関する幾つかの事学んだ。 ヴァナ・ディールとは違い「火」「土」「風」「水」の四属性で魔法の系統が分かれている事。 (氷雷光闇は使わないのか?) メイジの等級が四つのクラスに分かれている事。 (突破した限界の壁の数みたいなものか) 『貴族』とは魔法が使える者であるという事。 (ウィンダス連邦以上に魔法が主なのか) そして授業の内容は『錬金』に関する内容に移ったが、ブロントが知る『錬金術』とは少し違っていた。 ハルケギニアの『錬金』は、ブロントが知る職人による機材を使った調合で薬品を作る技術を指すものではなく、 むしろブロントの様な冒険者が一般的に行ってきた『クリスタル合成』の技術そのものに意味は近かった。 活動先で機材を持ち運べない冒険者達は、クリスタルという八属性の力が込められた結晶を使用する事によって、 切削や接合と言った行為を手持ちの素材に掛け、錬金術を含む調理から鍛冶まで様々な技術を自分のイメージ力の強さによって行う事ができた。 ハルケギニアの『錬金』ではクリスタルは用いない様だが、その代わりメイジ自身の扱う魔法がクリスタルの代わりになっていた。 又、『クリスタル合成』とは違い、『錬金』では完成品となる物の素材は全て揃わずともメイジの力量によってはある程度材質が似ていれば違うものも作りだせるとのことだった。 「・・・の以上が『錬金』の概要です。では誰かに実演して貰いましょう・・・ではミス・ヴァリエール貴方にこの小石に簡単な『錬金』でいいのでやって頂きましょう」 先ほどの一騒動の名誉挽回の機会をルイズに与えてみようとシュヴルーズは親切心でルイズを指名した。 「ミセス・シュヴルーズ、それはやめたほうが良いかと思います」 待ち受けている悲劇を予測しているキュルケはシュヴルーズの余計な『おせっかい』を思い留めるように言ったが、シュヴルーズは首を横に振る、 「どうしてですか?」 「危険です。」 「何が危険なのですか?」 「ミセス・シュヴルーズはルイズを教えるのは初めてですよね?」 「ええ、そのためにもミス・ヴァリエールの『錬金』も見ておきたいのです」 シュヴルーズは、キュルケがルイズに意地悪を言っているのだと思い、せっかくの警告を無視してルイズに『錬金』を行うように促した。 「私やりますっ!」 ルイズはすくっと立ち上がりと教壇へと向かった。 「ちょっと、ルイズやめて!」 キュルケの制止を振り切り教壇に向かうルイズを中心として、他の生徒達は距離をとり始めた。 教壇に近い者は机の下に隠れ始めた。 (この騒ぎが広範囲魔法の前兆なのは確定的に明らか!) 尋常じゃない周りの反応を見たブロントは、席から立ち上がり教室を離れる生徒達の間を縫うようにして自分も教壇へと向かった。 「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を強く心に思い浮かべるのです」 シュヴルーズの言葉を聞いたルイズは目を瞑り、呪文を唱え、目を見開き手に持った杖を振った瞬間 閃光に包まれる小石との間にガシャと鎧の音を立てたブロントの姿が割り込んできた。 「ちょ・・ブロンうきゃぁ!?」 とルイズは両肩をガシッと掴まれブロントに抱えられると ドグァァァァアアアアアアン!!! 小石が爆発した。 ブロントは爆風を背中で受ける様な形でルイズを両手抱え上げ、両足を開き踏ん張っていた。 ぱらぱら、と吹っ飛んだ教壇の破片が辺りに落ち、教室中からは生徒達の悲鳴や非難の声が上がった。 爆風で吹き飛ばされ、黒板にぶつかった哀れシュヴルーズは床に倒れ気絶していた。 「ちょっと、もういいからブロント離しなさいよ!」 両肩を掴まれ宙に浮くように抱え挙げられたルイズは足をバタバタさせながら言い、ブロントはパッと手を離した。 教室中が阿鼻叫喚の騒ぎとなった。 自分の両足で再び立ったルイズは、まったく気にしてないといった態度を装いながら、スカートに付いた粉塵を払った。 「ちょっと失敗したみたいね」 大した事では無かったかの様に言った。 「おい、『ちょっと』じゃないだろ"ゼロ"のルイズ!」 「やっぱり魔法成功率"ゼロ"じゃないか!その使い魔もどうせ自分の親に頼んでつれて来たんだろ」 ルイズは飛び交う愚痴をものともしない毅然とした態度で、自分の席に戻り座った。 一方、ブロントは飛び散った教壇の跡を見て、自分の背中を手で触り確認した。 ブロントの爆風を受けた背中は熱を帯びてなかった。だが爆風の衝撃は鎧をすり抜け直接ブロントの体に響いていた。 (火属性じゃにいのか?光や闇でもないようだが・・・それとも無属性か?) しかしあまりにも瞬間的な事であったので、ブロントはそれ以上の考察をするための検証数が足りなかった。 それよりもまずは主人のルイズの事が気になった。ルイズは平気な顔をしていたが杖を持つ手が小さく震えていた事をブロントは見逃さなかった。 教師が気絶した事で生徒達は自主的に授業に終わらせ、早めの休み時間へと入った。 ただルイズ一人残して。 惨状を作った原因として、ルイズは罰として散らかった教室を一人で片付ける事となった。 黙々と教室を掃除していた使い魔とその主人だったが、沈黙に耐え切れなかったルイズの方から口を開いた。 「どうしてわたしが"ゼロ"呼ばれるかわかったでしょ?アンタもどうせ私の事を無能だと思っているんでしょ?わたしはお姉さま達と違って・・・」 とルイズの目には涙が浮かび始めた。ブロントは箒を動かしていた手を止め、鎧をガチャと鳴らした。 「――お前はそれでいいのか?」 「え?何よいきなり」 「持っていないものばかりを見てお前の手元にあるものを見てもいない。お前はそれでいいのか?」 「だって私は貴族なのよ!魔法が使えない貴族なんていないわ!私は何もできない"ゼロ"の無能なのよ!」 「ほう俺にはよくわからなかったんだがさっき起きたのはなんだ?」 「『錬金』を失敗して爆発したのよ!それだけじゃないわ他の魔法をやろうとしてもどれもこれも爆発しちゃうのよ!」 「それは"ゼロ"と言わないんだが」 「え?どういう事よ?」 ブロントは掃除して集めた破片の中から、教室の一部か何かであると思われる石の破片を手の平に載せた。 「俺が今から『錬金』をしてやろう」 「え?」 そうルイズがきょとんとブロントの手の中にある石片を見た。ブロントはその石を宙に投げ、 左手に持っていた盾で石の欠片を叩くと石は空中で粉々になった。 「どうやら『錬金』は失敗したようだが・・・」 「当たり前じゃない、アンタその盾で叩いただけなんだから魔法ですらないわよ」 少し期待があっただけに、何かとっても呆れたルイズ 「俺は持っていたこの『盾』を使って石をバラバラに砕いた。じゃあルイズは何を使って爆発させたさっきの石?」 「呪文を唱えて杖を・・・あっ」 「どうみても魔法なのは確定的に明らか」 「でも成功できなきゃやっぱり"ゼロ"じゃない」 「俺が持っている盾は本来ああいう使い方はしない守るために使うもの。ルイズも本来の使い方をしていないだけで俺の盾よりも凄い何かを確かに持っている。 だからルイズは"ゼロ"ではない。完全に論破して終了したので会話は終了」 ルイズは少し考え込み、何かに気づいたかの様に答えた 「・・・うん、そうよね。確かに私の爆発は平民も他のメイジもできない私にしか出来ない事よ。簡単な魔法には向いてないだけで私向きの魔法で頑張ればいいんだわ」 そういって杖を持つ自分の手を見つめながら、ルイズは両手をぐっぐっと握り締めた。 「そうだ、もう"ゼロ"じゃなくて"何か"のルイズだな」 「ちょっと・・・何よ、その"何か"って。回りくどい仕方をしてご主人様私をやっぱり馬鹿にしてるんじゃない!"ゼロ"よりなんか響きが悪いじゃないの"何か"って!」 「それほどでもない」 「悪いわよ!もういいわ!あんたが今散らかした分は一人で片付けなさい!私は先に食堂行ってるから少し反省してなさい!」 そう吐き捨ててるルイズは大足でずんずんと教室を出てバタンと扉を閉めてから小さく呟いた、 「でも・・・さっきは守ってくれてありがとう・・・」 ブロントは何も言わずガチャと鎧を鳴らして箒を履いた。 教室の掃除を終わらせたブロントは取り合えず食堂へと向かっていた。 何時食事ができるかわからない冒険者として、空腹感に対しては強い耐性を持っていたが、ずっと何も食べないわけには行かなかった。 しかしパンとスープと言う最悪の食い合わせのために、使い魔は本来入ってはいけないという食堂に態々行く理由もなかった。 そう思案しながら歩いていたブロントは途中、声をかけられた。 「ブロントさん、こんなところでどうかしましたか?」 「ああ、ルイズが先に食堂で昼食をしているようなんだがその間何をしようかと考えていたんだが」 「今朝ミス・ヴァリエールに『使い魔の餌』として頼まれてパンとスープをお出ししたのですが、 片付ける時食されてなかった様なので、もしかしてと思いますがブロントさんはまさか朝から何も食べてないのでは?」 「そうだな」 「では是非こちらにいらしてください!」 と言ってシエスタはブロントを食堂の裏にある厨房へと連れて行った。 厨房の中はブロントが知るウィンダスの調理ギルドの様に様々な調理器具が並べられ、コック達が忙しそうに鍋やオーブンを前に奮闘していた。 「ここでちょっと待っててくださいね」 シエスタはブロントは厨房の一角の椅子に座らせ、厨房の奥から皿に盛られた湯気立つ具材がゴロゴロ入ったシチューを持ってきた。 「貴族の方々にお出しする料理の余りモノで作った私達の賄い用のシチューですけど、よかったら食べてください。」 「む?この匂い・・・もしかして魚介類か!?」 「ええ、海に慣れ親しんでいない貴族の方々も多いので何かと海の食材が余るんです。あの・・・もしかしてブロントさんは魚介類が苦手でした?」 ブロントはニコッと微笑みガチャと鎧の肩当を鳴らし、スプーンを手に持ち立てると 「俺は魚介類が大好物なんだが」 そう言いブロントは一口シチューを口に運んだ。 「この感じ・・・甲殻類がふんだんに使われているな。食べた者の生命力を上げ、更に体を頑丈にしてくれるとてもうまいシチューだ」 「ふふ、ブロントさんってとても面白い表現をするんですね。お口に合うようでよかったです」 最初にした味見の一口の後、ブロントは目にも止まらない物凄い早さでシチューを平らげた。 「ああ、まだお代わりありますから、ゆっくり食べていってください・・・」 シエスタはおろおろとして言った。 「俺はどこでも食事できるように早飯が特技なんだがすまない。だがこのうまい一杯で三日は食べなくても平気な事になった。俺の体力はしばらくおさまる事を知らない」 「ちょっと大げさですよブロントさん、でもその賄いを作ったコック長が聞いたら喜ぶと思います。もしお腹が空いたらまたいつでもきてくださいな。私達が食べるもので良かったらお出ししますから」 「とてもありがたい。俺が何か出来る事はないか?」 「そうですね、私これからデザート運ぶのでそれを手伝ってくださいな」 シエスタは微笑んで言った。 ブロントは右手にデザートのケーキを沢山載せた大きなトレイを持ち、シエスタが一つずつ配った。 食堂で昼食をとっていたルイズは使い魔が中々こないのでどうしたのか気になり始めていた頃、その使い魔がいつの間にか目立つ白い鎧姿で給仕の真似事をしていた。 ルイズは口に含んでいたワインを噴出しそうになったが、それを堪え、飲み込んだ後ブロントの所へつかつかと歩み寄り、 「ちょっと返してもらうわよ」とシエスタに一言残して食堂の端までブロントの腕を引っ張った。 「ブロント!あんた一体何やってるのよ!掃除から中々やってこないと思ったら、私の使い魔が何でケーキを給仕しているわけ?」 「あのメイドに世話になったから少しの礼にでもと手伝っているだけなんだが?」 「まったく、今回はいいけどくれぐれも私の恥となる様な勝手な事だけはしないで―」 そう説教し始めたルイズを中断するように、騒がしい声が食堂中に響いた。 ざわめきの中心では一人の貴族が二人の女性から頬を引っぱたかれていた。 そして頬を腫らした気障な格好をした貴族は近くにいたシエスタに指を指した。 「君のおかげで二人のレディの名誉が傷ついた、どうしてくれるんだね!?」 気障ったらしい風貌の貴族が頭を垂れるシエスタの前で凄んでいた。 「あ、あ、あの。申し訳ありません!」 只管に震え、謝る事しか出来ないシエスタ。 「いいかい?僕は香水の壜を渡された時、知らない振りをしたじゃないか。貴族に奉仕する平民なら話に合わせる位の機転があってもよかろう?」 「申し訳ありません!申し訳ありません!」 「いいや、貴族として僕は平民の君に一つ罰を与えないといけない―」 「おいィ?」 ブロントはガチャと鎧を鳴らしながら二人の合間に割り込んだ。 「何だね!君は!?僕はこの教養が行き届いてないメイドに罰を与えなければ―」 「何か粘着がいつまで立っても鬼の首みたいに粘着してるが時代は進んでるここで一歩引くのが大人の醍醐味」 「いや、今のうちに躾けて置かないと平民どもはすぐに付け上がるからな、それより・・・ああ・・・君は・・・"ゼロ"のルイズが連れてきた平民だったな。 まったく主人が"ゼロ"なら使い魔の程度もたかが知れているな」 ブロントは体を大きく揺すり、鎧をガチャン!と大きく鳴らした。 「お前勝手に"ゼロ"と呼ばれる奴の気持ち考えたことありますか?マジでぶん殴りたくなるほどむかつくんで止めてもらえませんかねえ・・?」 先ほどまで騒動の中心となっていた貴族とメイドに対する注目の目がいつの間にか貴族と使い魔へと移り変わっていた。 「まったくこのギーシュ・ド・グラモンに敵意を見せる野蛮人がいるとは、ルイズはどうしようもない平民を連れているようだ」 「キッシュとグラタン?そもそもその安易な名前に寒気すら感じる始末」 「貴様!よくも我が名誉あるグラモン家の名を侮辱したな!よかろう、この平民に少し礼儀を教えてやろう、決闘だ!」 周りで傍観していた貴族の生徒達が『おお、決闘だ!』『ギーシュが平民と決闘するぞ!』とどよめいた。 「勝てるとでも思った浅はかさは愚かしい俺はなんでもいいんだがそれはタイマンか?」 ギーシュを顔を歪めてブロントを睨む 「何だタイマンとは?」 「タイマンは真剣な喧嘩の意味だ」 「いいだろう!だがここではやらない。平民の血で貴族の食卓を汚すわけにいかないからな。ヴェストリ広場で待ってる!」 ギーシュはくるりと体を翻すと、ギーシュの友人達は「いい見ものができた」と言う顔でギーシュの後を追った。 シエスタはブロントの後ろでぶるぶると震えていた。 「あ、あなた、殺されちゃう・・・貴族を本気で怒らせたら・・・」 シエスタは、だーっと走って逃げてしまった。 「ブロント!あんたまったく何しでかしているのよ!さっき勝手な事をしないでって。何勝手に決闘の約束なんてしてるのよ!」 「何かルイズが"ゼロ"とか言ってる奴はバカとしか思えないであわれになる」 ルイズはため息をついて肩を竦めた。 「あんたがどれだけ強いか知らないけど魔法も使えないのにメイジ相手に無事ですむわけ無いでしょ。いいから謝っちゃいなさいよ」 「断るそれこそルイズの名に恥が付く事になるのは確定的に明らか」 「こんな事で意地張ってる場合じゃないの!あんた怪我するわ。最悪怪我だけじゃすまないわ魔法も使えないあんたじゃメイジには絶対勝てないの!」 ブロントは左手を挙げ盾をルイズに見せた。 「ルイズ。俺は教室でお前の『爆発』は小石を砕く程度の事しかできなかった俺よりも凄いと論破したのは覚えているな?」 「え?ええ、覚えているわ、ついさっきのことだもん。」 「つまりあいつの魔法が実は砕けた小石程度だとこの盾で簡単に叩き落として論破可能」 「へ?」 ブロントはテーブルに残っていたギーシュの連れと思われる一人に話しかけた 「ヴぇソつリ広場はどこだ?」 「こっちだ。平民」 「・・・ああもう!ほんとに勝手な事ばかりする使い魔なんだから!」 少し遅れてルイズはブロントを追いかけた。 第4話 「正しいあいさつ」 / 各話一覧 / 第6話 「守るべき何か」