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間章 グレート・ハーロット陶酔――大淫婦の告白 必然です。それ以外にいいようがありません。決定しているのです。 私によってもたらされる死は必然です。神になった気さえします。 殺人は生きた肉体を一瞬のうちに物体に変える行為です。 人の夢も希望も思考も永遠に消し去ります。人外、まさに神の領域なのです。 私はこの地で多くの人を殺しました。すべて私が殺したのです。 この事実に気づいている者は誰もいません。 冬木にはもちろん日本中でもいない筈です。彼女(マスター)は疑ってさえいない。 サクラは優秀だといいます。その通りでしょう。優秀すぎるのかもしれません、 私のような悪女はかえってやりやすいです。 私のような悪。非常識で発作的でありながら、なおかつ計画的で慎重。そのうえ破廉恥(はれんち)。 私は普通の生活を営んでいます。男か女か、いわぬが花というものでしょう。 年齢もしかり。冬木市で皆と同じように食べて寝て遊んで、働いてまたは勉強して毎日を過ごしています。 ただし、いわゆる普通の社会人からは少しずれているかもしれません。 会社勤めのサラリーマンやOLではなく、警察や教員などの公務員ではありません。 「全体の奉仕者」たる公務員など虫酸(むしず)が走ります。 「全体」って何でしょう。 国民全体か、社会全体か。しかし……社会等というものが今の日本にあるのでしょうか。 かつての日本はムラ社会だったといいます。知り合い同士の社会。そこでは人間関係が最も重要でした。 今はどうでしょう。関係などというものが基本に存在していますか? 他人との関係どころか自分のテリトリー、「場」さえ確保できないのが現代なのではないでしょうか。 私の……私だけの場所などどこにもない……許されているのは、生きるのに精一杯の身の回りだけ。 最小限。でも、守らねばならない。でないと生きていけません。 自分だけの極小の場所に他人が入ってはいけないのです。不可侵領域があるのです。 鈍感な人間が入ってくるとたちまち爆発する。地雷です。私たちは身の回りに地雷源を持っているのです。 日常生活を送る見慣れたこの平地は、実は地雷に満ちているのです。 私があなたの……あなたが私の……地雷を踏まないと、誰が保証してくれるでしょうか。 あなたは既に、私の地雷を踏んでいるのかもしれませんよ。 私には時間があります。暗い空想を広げ、甘美で残酷な妄想を育て上げるのに十分な時間を持っています。 私は常に悪行を夢見ます。被害者が死に悶える一瞬を思い描くのです。陶然としてしまいます。 気持ちいいんです。犠牲者の日常生活を調べあげ、計画を練り、準備する期間さえ楽しくて仕方ありません。 気分を盛り上げていくと、ある臨界点に達します。決行の時です。一種突発的な瞬間、発作みたいなものです。 他人には無計画に見えることでしょう。だから理解されないのです。 犯すこと、それは快楽です。 気持ち良さに気づいたのはいつのことだったでしょう。 死のダンスです。人肉の臭いがたまらない。脳が焼けて、とてもいい気分でしょう。 こんなに可愛がっているのに、人間は意外と早く死にます。少し物足りなく、寂しい。 だからなんだというわけではないんですが。 私はおかしいんでしょうか? その通り、私は異常です。断言します。 私は異常、わかっているのです。自分の異常に気づいていれば、その人は異常者ではないといわれることがあります。 嘘です、俗説です。その証拠がこの私です。自覚があろうがなかろうが、異常は異常、悪女は悪女なのです。 私にしても殺人が罪悪であることは知っています。それなりの頭脳を持ち、日常生活を営んでいるんですから。 しかし……殺人は本当に罪悪なのか……あなたはどう思いますか? 人類は外国との戦争を行い、多数の異国民を殺してきました。 掠奪、強姦、虐殺を有史以来繰り返してきたのです。 何故でしょう。それは自分の文化圏に属さないものは「ヨソモノ」だからです。 よそ者、異人、ひょっとしたら、異物。人は違う階層、異なる文化の人間に対しては、いくらでも冷酷になります。 例えばキリスト教とイスラム教の対立、同じ宗教上の正統と異端、これらは数限りない争いを生み出しました。 人々は神の名のもとにあまたの死者を出してきたのです。 人類、国、文化、宗教などの壁を越えることは非常に困難なことです。 それどころか自分と他人の壁さえ、私たちは越えられないではないですか。 自分以外はすべて異物。異物と異物が共存し、バラバラに散っているのが現代です。 このような状況では殺人は殺物にしかなり得ない。むろんどんな生物にも生きる権利はあります。 そして、どんな人間にも。すべての人間には生きる基本的人権が保障されます。 これは社会の原則です。何故そんなものが必要なのか。 自分の生きる権利を守るためです。共同幻想を利用するんです。 でないと、真実が浮上してしまいます。 生存可能な、生存に適した、強い生物だけが生きていける、という自然の鉄則が。 もはや社会の原則や共同幻想は崩壊し、ヒトは原初の状態に戻りつつあるのかもしれません。 だから殺人も許される……とはさすがに私もいいませんよ。 殺人は被害者の人権を奪い、未来を消し去ってしまいます。 周囲の人々を悲しませ、時には恐怖を与えます。社会の歯車を狂わせることもあるでしょう。 むろん法で罰せられます。人が人を殺すなどということは許されません。禁じられているのです。 絶対に許されない。殺人が罪悪であることは間違いないんです。 ただし……ただし、楽しいのです。快楽なのです。人は快楽を求めます。 他人の快楽を奪っても、自分の快楽を求めるのです。当たり前です。私だけが例外ではないですよね。 ジル・ド・レエ、憧(あこが)れます。 ジャンヌ・ダルク麾下(きか)の元帥にして幼児殺戮者。ユイスマンスやバタイユが彼について書いてます。 ジルは若くして戦功を立てましたが、錬金術に凝り悪魔を礼拝し、嬰児(えいじ)を虐殺して、処刑されました。 死刑になるまでの八年間に、百四十から二百、あるいは八百もの子供を殺したんです。 彼は幼児の腹を割き、手足をばらばらにし、目をえぐり、頭蓋骨(ずがいこつ)を打ち砕いたといいます。 断末魔の苦悶(くもん)と痙攣(けいれん)を楽しみ、瀕死の被害者に向かって射精したとか。 若かりし頃に少女将軍にかしずいた彼は、今度は子供をかしずかせたくなったのかもしれませんね。 本当にゾクゾクする。 きっと彼とは、良い酒が飲めるに違いありません。 むろん私は快楽のためだけに他人を犯すわけではありません。 私は異常だが狂ってはいない、……いないですよね? 悪行に理由がないわけではないんです。 でも本来、動機なんてなくてもかまわないのかもしれません。 私の動機は積み重ねによって徐々に出来上がりました。 一言でいってしまうことも可能でしょうが、――憎悪、復讐、嫉妬、利欲、信仰……言葉に置き換えたとたんに、 何かが失われてしまうような気がします。 悪行の動機はジグソーパズルです。 一つ一つのピースは特別重要ではありませんが、それが百、千と組み合わされることによって、明快な画像を結びます。 出来上がった全体の絵がや「憎悪利欲」という言葉に当てはまるのだと思います。 しかし、動機の実態は、常に一つ一つのピースそのものなのです。 ところで私は今、二千ピースのパズルをやっています。 パズルは目の前のテーブルに置いてあります。たくさんのピースが散らばっている。 台紙の四隅の方から、およそ四分の一が埋まってきているんです。 当てはまるピースを捜します。画面左下の部分ならすぐに見つかるでしょう。 人物の一団がいます。ここに、ピースがありました。 王の顔です。ニムロデ王なんでしょう。彼はバベルの塔の建造を命じたといわれています。 私は今、「バベルの塔」のパズルで遊んでいるんです。 意味不明の断片を組み合わせながら、徐々に塔の形が露(あらわ)になっていくのを見ています。 塔そのものを建てているような気分です。レンガを一片ずつ積み重ねるようにピースを組んでいくのです。 やがて塔は完成するでしょう。 パズルを買った時、私は十人騙した。 パズルを始めた頃、二十人目を犯した。 パズルを続けながら、五十人目も殺した。 五十人目を殺したのが二月八日。もう2週間が過ぎました。 私はまた一人侵すでしょう。 あっ、船のピースがありました。どこに当てはまるんでしょう。 右の、ここか? 違う、合いません。ピースを放り投げました。ぼんやりと思いを巡らします。 ……そうです。 始まりの犠牲者。 子供、女の子、少女。私のもの。 舞台は、聳え立つ螺旋状の涜神の塔でいかがでしょうか?
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第8話 『666』 「入ります」 ドアを開く。和室へ続く引き戸は最初から開いていた。 由紀香は畳に正座し、テーブルに向かっている。右顔を見せていた。修行者のようにきっちりした姿勢だ。 文庫本を読んでいる。目を離さない。ここからでは書名も著者名も見えないが、『往生要集』だろうか。 テーブルの上には数冊の本が置かれていた。文庫が二冊、大きな画集が一冊。 勝手に部屋に上がり込み、あぐらをかいた。由紀香は微動だにしない。正面に座るのは気が引けた。 少女の右側から、横顔を見る形になった。私はいつも由紀香の横顔を見ている。彼女は決して笑わない。 そんな筈(はず)はないのだが、イメージができあがってしまっていた。 彼女は横顔で、「何?」といった。 「楽しんでるのかなと思ってさ」 無視された。柳洞さんと同じ扱いかな? テーブルの下からガラスの灰皿を取り出す。タバコに火を点ける。 何をしに来たのか、来てから考えている。テーブル上の画集が目に入った。 ビニールでラッピングされており、まだ開けていない。洋書らしい。 タイトルは『The Tower of Babel』、「バベルの塔」だ。表紙には精密なバベルの塔の絵が印刷されている。 紫煙を吐き出しながら、 「絵の本、見ていいかな」 「駄目」 読んでいる本から目を離しもしない。『往生要集』。灰皿に灰を弾(はじ)き落とした。 煙を輪にして吐き出してみる。見向きもしない。 「そういえば、いつか行った版画館でも、同じ版画を見ていたね。あれもバベルの塔だ。何故かな?」 「私……」 言葉を飲み込む。押し黙る。待つ。反応なし。タバコをもみ消す。 「陶芸教室に参加するために美術部に入ったんだってね。陶芸、好きなのかい?」 由紀香は再び、「私……」といった。 沈黙。 「今年受験だろう。大学へ行くのかい?それとも職につくのかな?」 「……私……」 沈黙、あるいは緘黙(かんもく)。 黙秘権を行使されている刑事みたいだ。らちがあかない。「私」がどうしたというのか? 何を伝えたいのだろう。はっきりいえばいいのだ。 私はゆっくりと立ち上がった。放っておいた方がよさそうだ。 背を向けて立ち去ろうとした時―― 「アヴェンジャーさん」 呼び止められた。初めて名前で呼ばれたことに軽い嬉しさを感じた。振り返る。立ったまま見下ろす。 少女の横顔、茶髪のショート、目は本に止められたまま。 四たび、「私……」という。四度めの沈黙。しかし、私は待った。 やがて少女はつぶやいた。 「タバコ、くれる?」 タバコを吸う女子高生がいても不思議ではない。善し悪しは別にして。 だが私が気になったのは、由紀香が本当に告げたいことを伏せたような気がしたことだ。たまたま出てきたセリフに聞こえた。 「吸うのかい? 吸えるのかい?学生さん?」 「みんな吸ってる」 そんなことはあるまい。しかし一本放ってやった。少女はマッチで火を点けた。 深く吸い込み、吐く。大人びた顔だ。慣れているようにも見えた。 確かに子供の頃は、タバコをふかしただけで大人の気分に浸れる時期がある。その程度とはレベルが違う。 銀幕の女優のように紫煙に目を細めながら、 「驚いた?」 「びっくりしちゃったよ」本心ではない。 「私……」 またか。でも根気よく待つことにする。しかし私を待っていたのは、真の驚きだった。 「私……私はもう一人になっちゃった。両親も、兄弟も。学校でも、家でも、町の中でも……いつも……」 ささやくような声だ。何が、始まるというのだろう。 「一人になっちゃったの」 その点では、私も――たとえ由紀香がいても。 「勉強だってしてる。家で計画を立ててやってる。時間は少し。家にいたくないから。 学校の中で成績は上のほう。しくじっても真ん中より下には落ちない。 先生に対しては素直で真面目。授業もちゃんと聞いてる。周りの子はめちゃめちゃ。 体育とか音楽もできるだけ出てる。演じてる。いつも演じている。 見る人を意識している。ちゃんとやってるって思わせようとしている。 でも、真面目すぎてもいけない。だからサボるの、遅刻するの、休むの。浮いちゃいけない。 目立たないこと、差し障りがないこと、いるかいないかわからないこと、それが大切。いつも人と溝を作っている。 壁を立てて暮らしてる。交わらないこと。安全策。事なかれ主義。空気のような存在。 でないと危険なの。危ないの。いつだって一触即発。人の領域に入らないこと。自分の領域に入れないこと。 かかわらないこと。世界を閉じること。私のクラスでもいじめがあった。いじめられてた子は死のうとした。 いじめに理由なんてない。あるのは流れだけ。他には何もない。彼女は手首を切った。でも死ねなかった。 バカね。死ぬくらいなら逃げる。いじめてるのは普通の子たち。ワルじゃない。 普通だから直らない。矯正できない。止まらない。だから逃げるの。逃げるしかないの。 私はいじめに加わらなかった。助けもしなかった。見てるだけ。それしかない。教師は無力。 話し合いは無駄。言葉が通じないもの。ムカつく、キレる、それだけ。バベル、混乱、言葉の混乱。 それが私たち。私は最初から逃走しようとしてた。逃げたかったの。でもできなかった」 ――何から? 「みんな仮面を被(かぶ)っている。役割を演じている。 彼らは自分のことで精一杯。いつも何かに追われてる。ビクビクしている。不安を感じてる。 落ち着かない。若い教師ほどそう。信用できない。親と同じ。口のうまい先生は人気がある。 人気取りばかり狙ってる奴。でもそれだけ。つけあがってる。 こっちで合わせてやってるのに。先生に合わせられない馬鹿な子も増長する。歯止めがきかない。 未成年、子供、中学生、義務教育、だから何をやってもいい。許されると思い込む。 暴れる。無茶をする。暴走する。自分を壊す、他人を壊す、人生を壊す、棒に振る。私はごめん」 ――わかった。もういいよ…… 「私はごめんなの。恭順するのも、反抗するのも。計算計算いつも計算。尻尾を振ってる。 この私も。大人は尻尾を振ればよくしてくれる。道を作ってくれる。振らなきゃ潰(つぶ)される。 見放される。知ってるの、知ってて利用してるの、私たち。でも、本当はいや。私は、いや」 ――わかっているよ。 「……私もそうなのかい?」 由紀香が話を止めた。私という他人が介入したせいだろう。彼女はふいをつかれた口調で、 「あなたは……よくわからない。嘘吐きだけど……誠実な人。私と違う」 問いに正面から答えた。由紀香と会ってから初めてのような気がした。私は彼女の中に場を得たのかもしれない。 「私――」なおも続けようとする彼女を、 「由紀香」 鋭くさえぎった。 もういいんだよ……由紀香。 少女のタバコをゆっくりとつかみとった。私も初めて彼女を名前で呼んだ。 今日は記念日。お互いの名を呼び合った最初の日だ。奪ったタバコを口に咥(くわ)える。 湿っていた。二、三度ふかす。深く吸い込んで、吐く。煙で輪を作る。一つ二つ、三つ。今度は少女も横目で見ていた。 「かっこわるい」 そうですね私はかっこわるいよ。 「三枝由紀香」 しゃがみこんでタバコをもみ消す。由紀香の目をのぞきこむ。目をそらした。 「あなたは話がしたかった。心の中をさらけ出したかった。気持ちを語る相手が欲しかった。 誰もいないんですね、あなたには。見ず知らずと変わらない、私以外に。それこそかっこわるいですよ」 由紀香の表情が凍りついた。 「何をい……」 さえぎって静かに諭す。 「我慢を止めましょう。第一に体に悪い。あなたには真実を許容できる力がある。 この世の欺瞞。偽り。全ての体験も夢も、存在する情報は全て現実であり、そして幻なのだと受け入れられる器がある」 本当に怒っているのではない。本気で怒っているのだ。少女は少しぼんやりした感じで、 「あなた……誰?」 「あなたじゃない」 「アヴェンジャー」 「反省している?」 「驚いた」 一拍おいてから、急に話題を変えて、 「私、一年下の間桐桜さんと仲がいいの」 「続けて」 「でも10日前、急におかしくなっちゃったの。桜さんだけじゃない。 マキちゃんもカネちゃんも。お父さんお母さん兄弟友達先生生徒みんなみんな少しずつおかしくなっちゃったの」 「それで?」 「みんなは私を殴るの、蹴るの、血を吐くくらい。顔よりも、体、手足を」 「たまに聞きますね」 「楽しそうに殴るの」 「珍しい」 「その後は妙に優しくなる。別の……別のいじめ」 「ひどいね」 「怖かった。怖くて、苦しくて、痛くて、つらくて、私は海に入って行った。 夜、海岸を歩いたの。毎晩、毎晩、歩いてた。家を抜け出して。 ある夜、波打ち際を歩いているうち、いつの間にか足首まで海水につかってた。 このまま奥へ。深いところへ。海の中へ。楽になりたかった。帰りたかった。一歩一歩海に入って行く。 海水が足首から膝(ひざ)へ、膝から腰へ、胸へ、顎(あご)へ、上がってくる。このまま消えてしまいたい。 二度と戻りたくない。死にたい。でも……でも、でもできないの。どうしてもできないの。 水が口までくるとどうしても浮いてしまう。死にたいのに、浮くの。駄目なの。体を浮かせちゃうの。 どうしても。何度も何度もやってみた。でも駄目。浮いてしまう。そしたら水の上に座っている淫らな女の人がいたの」 「それが、バビロンの大淫婦」 いつか少女がいっていた。自分はバビロンの大淫婦だと。水の上に座る大淫婦、私と同じだと。 大袈裟(おおげさ)な見立てと笑うことは、私にはできない。彼女は実際に世界の滅亡を見た。 それは一人の少女の狭く小さな世界だったが、いわば現代に切り崩され、バベルの塔によって完全に瓦解した。 彼女は確かに自分の内にバビロンの大淫婦を見たのだ。少女は抵抗した。 死を選ぶという形でだったが。それは究極の逃走であり、闘争だった。命を捨てて何かと戦ったのだ。 どうして笑えよう。由紀香は命を捨てて何かと戦った。そして、負けたのだ。それでよい。負けることによって生き延びたのだから。 「人に話したの……打ち明けたのは、あなただけ」 私は少し考えてから、 「冷たいようだけど、私は力になれない。 今、君がどんな状況にいようと、どんなひどい目に遭っていようと、君を救うことはできない。 私には何もできない。話を聞いてやることくらいが関の山だ。それでいいなら話してほしい。いくらでも聞きましょう。 話せば気の済むこともある。私は何でも聞いてあげる。だが、守ることはできない。 結局君を守るのは君自身だけだ。慰めはいわない。強くなる。自分自身を強くする。 明日の君は今より少し強い。一年後の君はもっと強い。本当にそうなるかはわからない。 だが、それを信じて生きる。無理をすることもない。嫌なものは断りなさい。抵抗しなさい。不可能なら逃げましょう。 ぐずぐずしてちゃいけない。逃げる時は徹底的に逃げる。 卑怯だろうが何だろうが死ぬよりはずっといい。私にいえるのはそれぐらいです」 「……ありがとう」 「礼をいわれる筋合いはないですよ。私もいつも迷ってるから」 「――争いをやめればいいのに」 「近づかなきゃいい。無視するの得意でしょう?」 ふと、作り話ではないかと思った。その疑問を検討する間もなく、少女は話題を変えて、 「あなたが私のところに来たときのこと、覚えてる?」 「何のことにせよ、忘れたね」 「雪、止んでる」 しばらく前から止んでいる。 少女は外へ出ようとする。袖(そで)を引かれた。 広い駐車場。車は所々にしかない。薄い雲の間から少しだけ月がのぞいている。 雪明かりが微かに辺りを照らす。二人並んでしばらくぼんやりしていた。すると―― 由紀香が三歩前に出た。くるりと振り返る。 正面。初めて顔の全体を見た……見せてもらったような気がした。相変わらずの無表情だ。 電灯が少女の顔を青白く照らしている。少女は静かに聞いた。 「踊る?」 「何だって」 「踊る」 「踊れるのかい?」 「知らない」 「まねでもするのかな」 ダンスなどやったことがない。まして二人で踊れるわけがない。私には遠い世界だ。 映画かテレビドラマなら、月光のステージで「あまり踊れないんだよ」とかいいながら けっこう見事に踊ってみせたりするものだ。私じゃ駄目だ。だが、これは二人の舞台だ。 観客のいない舞台なのだ。由紀香の背に手を回す。手を組む。彼女は少し体を硬くする。形はできた。 ステップ。……わからない。踊ろうにも思いつかない。踏み出すステップが彼女の第一歩になればいいのだが。 何もしてやれないのか。由紀香は人に話すのが苦手なのだ。思いを口にできない。伝えられないだけだ。 曲がっていない。踊りか。これしか知らない。一旦組んだ手を放す。少女の横に並ぶ。 右手で右手を取り彼女の肩に持ってくる。きゃしゃな指だ。左手で左手を取って前へ。 そして一歩踏み出す。悲しみとおかしみが同時に込み上げてきた。ステップ、ステップ、回転させる。 ……足を止める。手を放す。 由紀香は前を見たまま、いった。声に少しだけ弾みがあるのは、気のせいか? 「かっこわるい」 まったくだ。議論の余地はない。しかし、私もいい返す。 「あなたこそ」 「ねえ、アヴェンジャー」 「なんですか?」 「悪者を全部やっつけて」 「仰せのままに。マイマスター」 『我は黄金(こがね)色の冠を戴く獣。この世全ての欺瞞という害悪の光を覆う、正義の闇の化身なり』 その夜、各関係者が集う秘匿コミュニティサイトに開戦の狼煙となる 一つの動画がアップされた。 『奴らの処刑を急がねばならない。それが、真実を知り その探求のためには死をもいとわぬ者に与えられた使命だ』 そこには一人、彼らが信仰する主が宛てた祝詞。 『何人たりとも真実を穢すことはできない。 たとえその権力を振りかざし、我々の心を弄ぼうと。 真実を知る者はただ一人。 それはこの私をおいて他にない。 明日だ。明日、世界は真実に目覚める』 今日までにアヴェンジャーが社会や経済の不満を問い、強硬な政治姿勢の批判を声高に貫き その都度、反体制を叫ぶ声があがり、バベルの塔と『溢れる邪淫(ルクスリア・チャリス)』 で 精神異常を起こしている人々の思考を誘導した。 そうした運動は、多感で、生きることに意義を見出そうと迷走する十代の青少年たちに特に大きな影響を与えていた。 体制を打破しようと叫ぶ声に、心躍(おど)ることもあるだろう。 何かをぶち壊す様が意味もなく格好のいいものに思えているのだ。 あらゆることに反抗することが、生きているすべての意味でもあったのかもしれない。 『奴らにあるのはただ、己の欲望の成すままに快楽を貪る欲求のみ。 だが奴らは知らない。ここに全てを知るモノがいることを。 真実を知り、なおそれを貫こうとする強固な意志が存在することを』 懐柔した冬木市市民の約半数となる18948人が今夜24時を契機に一斉蜂起を敢行する。 目標はバベルの塔、聖杯戦争参加者、および印を持たぬ障害全て。 『私の心には一片の曇りもない。 哀れな大衆のために命を捧げることを厭う気はない。 そうなったとき、真実は世界に伝わらなくなってしまう。 そうならないためにも、この情報を、真実を誰かに伝える必要がある。 真実を、解放しなくてはならないんだ。 偽りの事実を垂れ流し続けるバベルの塔。 聖杯に縋り、人の身で神の領域に踏み込む罪人共に正義の鉄槌を下す』 「そうだったんだ」 由紀香は思わず言葉を口にする。 ――もう、あの頃の生活に戻れない感じがする。 塔が現れる前の幸せな日々は一変した。 息詰まるような圧迫感と閉塞感。 そして何かに追い立てられるように、一日一日を生きていかなければならない焦燥感。 名前も、自由も、人間としての尊厳も、そして未来さえも奪われる日々。 選択の余地なく進まざるを得なかったこの聖戦も、平和のため、自らを律するため、 仲間意識を高めるためと、すべて建前のために縛られた日々だった。 そして今、身体に悪いけど寝なくてもいい。食べなくてもいい。落ち着かなくてもいい。 廊下だって走っていい。騒いでも構わない。何をしてもいい。 学校での生活も自由という強制力で束縛された、拘束生活でしかない。 ――それは君が自由を欲しているからだ。 いつの間にかテーブルの向かいの席に青年が座っていた。あのとき、会った青年だった。 ――どこで会った? ずっと昔から知っているような気がしていた。 ――随分と前から。 そう青年が答える。由紀香と同じ答えだった。 そして青年はこう告げた。 ――君はもっと自分に正直にならないといけないね。いつも君は感情を抑えている。 君はもっと正直に生きるべきなんだよ。泣きたい時は泣けばいい。笑いたいときは笑えばいい。 怒りたいときは怒ればいいんだ。感情をもっと表に出して生きていってもいいんだよ。 君はもう自分自身で歩いていけるはずなんだから。 青年が立ち上がり、手を差し伸べていた。 由紀香は自分が何をしたいのか、それを考えた。 自分は何をしていけばいいのか。何を信じて生きていけばいいのか。 ――君の内に湧(わ)く感情のままに生きればいいんだよ。 青年が囁(ささや)く。 自分の中に湧き起こるもの。 熱いものだ。 熱く滾(たぎ)る何か。 それが噴出せずに、腹の奥底で溜まっている――ちょうどマグマが噴火できずに圧力を増しているような、そんな感じだった。 『今我ら鏡もて、見る如く見るところ朧(おぼろ)なり……。 されど、かのときには顔を対(あわ)せて相見(まみ)えん……。 私は真実を解放しなくちゃならない。「リセット・ザ・ワールド」』 由紀香は、自らの意識の中に芽生え始めた何かに戸惑(とまど)っていた。 この街という閉鎖されたシステムを支配しているアヴェンジャーに、空々しさを感じてしまう。 私たちは彼の実験体であり、金のなる木なのだ。 彼は言葉ですべてを正当化する。 彼は世界中を黒く塗りつぶしちまう。 世界全てが黒ければそれでいいのか。 あなたは真実を口にしているのか。 真実を私達に伝えているのか。 彼の言う事が真実なのか。 真実だと誰が知っている。 真実は誰が決めるんだ。 それはあなたじゃない。 私が決めることだ。 私がすることだ。 何をするのか。 由紀香の思考が徐々に短絡化していく。何がそうさせるのかはわからない。ただ頭の中で何かが叫んでいるような気がしていた。 自分が何をすべきなのか。それがわかっているような気がしていた。 由紀香はただ一点を見つめていた。 何かが呼んでいた。 向かうべき場所、あの聳え立つ螺旋の塔が見えていた。 「行かなくっちゃ」 そう眩き、由紀香は家を出て行った。 白い歯がこぼれていた。 『作戦名(コード)『666』を発令……。 彼ら秋の葉のごとく群がり落ち、狂乱した混沌は吠えたけり……!!。』 翌日、母親が起床を知らせるため、部屋を回っていたとき、由紀香の姿はなく、空のベッドが冷たくなっているだけだった。 連絡を受けた私立穂群原学園にもその姿は見られなかった。 〈理由なき失踪〉という、十代によくある家出症候群の一種ということで、数日の間、様子を見るという、 珍しくもない処置がなされた。警察に捜素願が届けられることはなかった。 この日、市民たちの〈理由なき失踪〉が、近郊で同時多発的に起きていた。
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話しは遡る事2日前…安閑寺に一本の電話がかかってきた…。 内容は、涼子の友人桑田良枝が原因不明の高熱で倒れたが、医者も原因がわからず、もしかすると今巷で噂になっている、祟りによる物ではないかとの涼子からの相談であった。 杉村家は檀家でもある為、円海は断りきれず詳しい話しを聞く事になったのである。 円海「祟りという物が存在するかどうかはわかりませんが、何か手掛かりでも?」 涼子「はい…実は良枝が倒れる前の日、我が家の仏壇が突然消えてしまったのです…」 円海「仏壇が?」 涼子「その日私は大学からの帰り道だったのですが、家から妙音山に向けて光りが飛んでいくのを見たのです…。」 円海「妙音山ですか…祟り騒ぎの中心地ですね…」 涼子「その後すぐ、良枝が倒れたのですが、実は良枝の父は工事を行っている建築会社の社長なんです。」 円海「そうですか…。しかしなぜ私に?」 涼子「はい…もしかすると安閑寺になら、妙音山に関する文献があるのではと…もしあれば何か手掛かりになればと思ったのです…」 円海「そうだったのですか…わかりました、一度寺を調べてみましょう」 こうして円海と涼子は安閑寺に向かう事にした… 第1話後半の後半に続く… 神霊大戦ゴーストギア・SSに戻る back
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哀愁の守護者 第1回「人間嫌い」 『グランダーPXがまたもやプロフェッサームッキングの敵ロボットを破壊しました!パイロットの鎧 龍凱(よろい りゅうがい)君にインタビューします!』 『よぉ!テレビの前のみんな見てるか?この俺とグランダーPXがあるかぎり!世界の平和はムッキング野郎にゃ渡しやねぇぜ!これからも応援よろしくな!来週もこの時間にチャンネルスイッチオン!』 「わーい!またぼくらのヒーロー、グランダーがムッキングのわるいやつをやっつけたぞ!」 「つよいやー!さすがぼくらのヒーローだぁ!あのおおきくてつよいところがかっこいいや!」 かつて。外国の科学者ムッキングは自らをサイボーグ化しロボットを生産。世界征服を狙っていた。それを止めるため日本の研究所がこんなこともあろうかと造り上げたスーパーロボット、グランダーPXが世界を守るため活躍していた。 パイロットは父の敵を討つため自らグランダーの操縦者に志願した高校生、鎧 龍凱。グランダーと共にムッキングの野望を止めるため日夜戦い続けていた。 激闘の末、ピンチに駆けつけた他のスーパーロボット達と共にプロフェッサームッキングと地下に潜んでいた地底怪人族、宇宙からの侵略者ガイガリアを打ち破った鎧 龍凱は伝説の英雄としてマスコミに写り続けた。 しかし次第に龍凱に対する注目も消えていき時の人となりグランダーPXも政府により封印。伝説は風化していった。 それから30年後・・・ 『地球連合軍の第8人型機動兵器部隊がまたもやアフグァンのテロ組織を沈黙させました。インタビューしてみます。』 『語ることはない。』 「キャー!クールでかっこいい!」 「あのロボットの細くて顔がキリッってしてるところがたまんねぇよな。」 「グランダーとかの骨董品より数倍かっこいいぜ。」 「グランダーって何?そんなのいたっけ?」 「グランダーはな30年前あたりにな世界を救った伝説の・・・」 「オタク黙れ。」 現代。世界各地でテロ組織が現れる中、それを鎮圧させるために世界中のエリートを集めた第8人型機動兵器部隊が活躍していた。 エリートのためパイロットも編成されている人型兵器も一級品。彼らは世界中で英雄とたたえられ注目されていた。 龍凱がどうなったか?時代が時代である。彼はついていなかったのだ。戦闘に追われてまともに勉強をしていなかった龍凱。そんな彼がリストラされた今新たな就職先が見つかるわけもない。 今じゃ彼は良家に婿入りしたものの追い出され離婚調停中となった中年男性。山田 龍凱(やまだ りゅうがい)である。この時代変な名前と罵られ、ストレスで頭もさびしくメタボに悩む日々。かつてのヒーローはもういなかった。 「はぁ・・・これからどうすればいんだ・・・。もう潮時かな・・・。」 南極。 ゴォォォォォォォォォォォォォォォ・・・・ 「うぅぅぅぅぅ・・・寒い・・・。だが・・・我々は・・・再起を待ち続けた・・・。」 「少しずつ・・・少しずつ・・・戦力を回復させこの時を待ち続けた・・・。」 「我々は・・・今よみがえる・・・!ムッキング地底怪人ガイガリア連合軍・・・復活のとき!」 連合軍基地。 「何だあれは?」 「奇妙な人型兵器だな?警告を出すか。」 ビィィィィィィィィィィ・・・ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオン! 「ぐわあああああああああああああああああああ!」 「ちぃ!人型機動部隊・・・発進せよ!」 「了解!そこの兵器!攻撃をやめ速やかに降伏しろ!われわれのほうが数は上だ。かないっこない!」 『・・・め・・・。』 「な、何!?」 『しずめといっている!人間ごときが!』 「な、うわあああああああああああああああああああああああああああ!!」 「なぞの機動兵器隊だ。我々第8機動兵器隊が止めてみせる。」 「俺たちの実力!見せてやる!」 『無駄無駄無駄無駄無駄!電磁力妨害電波・・・遮断光線発射!』 「な、動かない!」 「かくなる上は特攻あるのみ・・・」 『うるせぇよ。』 ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン! 政府。 「あれはデータによると30年前の・・・。」 「プロフェッサームッキング他による・・・襲撃・・・!」 『あの第8機動兵器部隊もやられてしまった今、我々はどうなるのでしょうか。』 「くぅ・・・国民の不安は増すばかりだ・・・。」 「30年前・・・あのプロフェッサームッキングと互角に戦えた存在・・・。」 「スーパー・・・ロボット軍団・・・!グライダーPXと鎧・・・龍凱!」 【この人を見つけた人は賞金5兆円差し上げます。 鎧 龍凱(よろい りゅうがい)】 「これは!?探せ!探せ!5兆円!」 「こいつ見つけ出して一儲けしてやる!」 「あのぉ・・・この人知りませんか?」 「(これは!)・・・いや知りません。」 「そうですか。では。」 「俺のことを探している・・・?いったい何故今更・・・。ホームレスの俺のことを・・・。」 『30年前に日本を襲った恐怖の組織が何故今再び現れたのでしょうか!日本はいったいどうなるのでしょうか!』 「この映像に写っている奴ら・・・。俺が倒したはずのムッキング野郎の邪悪ロボット軍団・・・!よみがえったというのか!」 「どけよおっさん!5兆円!5兆円!」 「ぐ・・・いててて・・・乱暴な。しかし今の俺じゃ・・・グランダーがいても・・・。」 「龍凱君・・・探したぞ。」 「あなた!」 「え?あ。お養父さん・・・。それに・・・松子。」 「探したぞ龍凱君。いったい今までどこにいたのかね?いやそんなことはどうでもいい。手短に話をしよう。」 (何だこの雰囲気は・・・?彼らは俺を散々罵り追放したはずなのに・・・見せ掛けの親愛か・・・?) 「君の旧姓は・・・鎧。」 「そうくると・・・思っていましたよ。そうなんだろ、松子。」 「今お父さんの会社は財政難で苦しんでるの!どうしてもお金がいるのよ!お願い!警察に出頭して!ほら、良子の養育費も・・・」 「お父しゃん・・・」 「離せよ。」 「ひっ!う、うええええええええええええん!」 「な、あなたこの子の父親なのよ!なんてことを!」 「何振りかまっていられるか。俺はごめんだ。あんたらにこれ以上利用されるなら。もう・・・家族でもない!」 「失望したよ・・・。龍凱君。」 カシャ・・・ 「銃・・・。どうしても俺を連れて行く気ですか。」 「私も何振りかまってはいられないのだよ。」 「私はね。もううんざりなんです。人間が・・・嫌いなんです。何もかもどうでもいいんだよ!」 バン! 「そんなの当たるか!」 バキィ! 「ゴフ!」 「キャアアアアアア!警察を!」 「チッ!」 「うええええええええええええええん!ひええええええええええん!お父しゃああああああああん!」 「聞いたか!あいつが鎧 龍凱だってよ!5兆円があそこにいるんだあああああ!」 「写真とだいぶ違うが・・・待てええええええええええええ5兆円!!」 「ちくしょう!どうしてバレたんだ!だが・・・冗談じゃない!」 「プロフェッサー。連合軍の基地は日本を除きすべて機能不能にいたしました。」 「うむ。次は・・・次は・・・わしらの・・・ふるさと・・・日本!」 「待ちやがれえええええええええええ!止まらねぇと殺すぞ!」 「どけ!5兆円は俺のもんだ!」 「こいつら・・・群れて!群れて!群れて!こんな糞みてぇな奴ら 守 っ て や る も の か ! 」 次回へ 哀愁の守護者・SSに戻る
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好きで好きで仕方がないことってあると思う。その人のことを考えるだけでばーっと脳に血が巡って、頬が熱くなってくるひと。 そうやって彼のことを考える、布団の中で、学校への坂を歩くとき、授業中にふっと。その全部がすごい幸せな時間だった。 顔を見るとそれだけで嬉しくて涙が出そうだった。わたしは涙もろいんだって、彼を好きになって初めて知った。 ―――だから、今は何も考えられなかった。 呆然と宙をさまよう視線。何かを見ているのが辛いのに、目を閉じることはもっと苦しい。広がる腕の痛みも、刺す足首の腫れも気にならない。 白衣のお姉さんが慰めるように肩をさすってくれた。お礼を言えたかどうかは覚えていない。 先生がわたしの怪我のことを言っていた。すぐに治るとか、運がよかったとか。 でも、そんなことはどうでもいい。わたしの怪我が軽かったのは当たり前だ。トラックが突っ込んできたとき、あのひとがわたしを庇ってくれたんだから。 病院の奥にある赤いランプ。彼はその先に運ばれていって、まだ戻っていない。 俺は大丈夫だよ、みこと。揺れる車の中、苦しそうな声で彼は言っていた。わたしの居ない方に向って、何度も囁いた。 先生に彼のことを訊いた。声が出るか不安だったけど、蚊が鳴くみたいな音が出てくれた。 大丈夫だよ。先生は言っていた。彼と同じように。 朝が来て、病院で別の先生の話を聞いた。 これから先、彼は起き上がることはない。目を開けることもない。そんなことを遠まわしに説明された。 迎えに来たお母さんと帰る前に、チューブに繋がれた彼を見た。 彼はよく笑っていた。苦労ばかり押し付けられても、湯たんぽみたいに温かくて、いつも優しかった。 彼のことが好きだって言うと、笑う人も居た。でも、わたしは誰よりも彼が素敵なひとだと思う。 彼は絶対に誰かを責めたりしない。叱ることも怒ることもあったけど、相手をぺしゃんこにするようなことはない。本当に強いひとなんだ。 そんなひとがもう笑えないなんて、信じたくなかった。 だから、かみさま。どうか彼を助けてください。 わたしは何日も裏手の神社で夜に祈った。風が飛ぶ中、目を閉じて、願いの橋が架かるのを待ち続けた。わたしにできることなら何でもしますからって。 『―――汝、願いの成就を欲する者か?』 地面の裏側から声が響く。 目を開けると、そこには救いの使いが待っていた。 ―――汝、聖杯の前に最強を証明せよ。されば祈りに手が届かん。 こうしてわたし、志那都みことは裏返った世界に身を投じることとなる。 日常全てがひっくり返るような道、その短く遥かな旅を共にする相棒と。 わたしの前に立っていたのは――― 1:荒野に迷う兄弟殺し 2:蓮の化身 3:祭り上げられた女王 わたしの前に立っていたのは可愛い顔をした女の子だった。線が細いっていうより、未熟で華奢な体をしている。たぶんわたしより年下だ。四つ、もしかしたら五つぐらい違うかもしれない。 何がなんだかわからないって、このことだと思う。その子は神社の拝殿の奥からきた。じゃあ本殿の中に居たってことになる。 でも、わたしはこの子を今まで見たことがなかった。神社は伯父さんたちが切り盛りしていて、わたしも時々手伝いに来る。本殿まで入れるような子が居るなら、紹介されていないのはおかしい。 「サーヴァント・アーチャー、ここに参上した。俺を呼び出したのはあなたか」 「さあばんと……ああちゃー……?」 「ああ、そうだ」 女の子は大人ぶった素振りで頷いた。しゃらん、と腕輪がきれいな音を鳴らす。 わたしが首をかしげると、女の子も一緒に首をかしげた。 「マスター。何か問題でもあるのか?」 「マスター……ねぇ。なるほど」 わたしは立ち上がって、拝殿に上がった。 女の子は口をへの字に曲げて、わたしを見上げている。結われた髪は艶があって、瞳は輝く黒曜石のよう。頬は桜の色の真珠、あごは職人技の工芸品みたいに繊細ですっきりした線だった。 やだ。この子ったら、ものすごく可愛い子だ。でも然るべきときにはちゃんと叱ってあげないといけない。 「こらっ、どうやって入ったの!」 「は?」 「勝手に入ったら駄目でしょう!」 「え……?」 「今回は大目に見てあげるけど、二度とやっては駄目よ。さ、帰りなさい。お父さんお母さんが心配してるわ」 「……はあ?」 「明日の学校が終わったら、また来なさい。そうしたら一緒に遊んであげる」 「…ああ?」 「家はどこ? 送ってあげるわ」 わたしが手を取ると、わたしが手を取ると、女の子は目を逆三角形にして、頬が真っ赤に染まった。柔らかいカーブを描く睫毛がすっと際立って、ああ、どうしよう、本当に可愛い。胸の奥がきゅーっと締めつけられる。 「ふ、ふざけるな! どういうつもりなんだ!?」 「どういうつもりも何もないわ。最近は物騒なんだから、夜遅くに女の子を一人にしておけないでしょう」 「な……俺は男子だぞ!」 「はいはい、そうね」 「後悔するぞ、マスター! 俺はアーチャーだぞ! サーヴァントなんだぞ!」 「うん、あーちゃーね」 みゃーみゃー騒ぐ女の子の言い訳を聞き流して、わたしは手を引いた。女の子はマスターとかアーチャーと連呼しながら、トテトテと付いて来る。 それにしても、一体何の『ごっこ』をしているんだろう。衣装まで用意して、すごい熱の入りようだなあ。 「俺はおまえに呼ばれて来たんだぞ!」 「女の子が俺なんて言っちゃ駄目でしょ。あと、年上の人をおまえって呼ぶのも止めなさいね」 「おーれーは男だーー!」 「夜中に騒ぐんじゃありません。めっ」 女の子は金魚みたいに口を開けて、それきり黙ってしまった。口を尖らせて、それから我慢、耐えろ、師父の教えを守らないと、なんて呟いていた。 わたしは笑いをかみ殺しながら、ぶつぶつ言う美少女を見ていた。柔らかい手がぎゅーとわたしの手を握り締めている。 あとで気付いたのだけれど、わたしはあの日以来初めて事故のことを忘れていた。事故からずっと北風が吹いて、つららが大きくなっていったわたしの胸の中。でも、このときは芯から包み込む温かさがあって、まるで冬の陽だまりの丘のようだった。
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ついに敵の親玉自らが出撃してきた!その名も、クライシス! 最強の敵を目の前に、最後の戦いへと臨む星王!! しかし、敵の強大な力の前についに星王は崩れ落ちてしまった! 人類はこのまま悪に蹂躙されてしまうのだろうか?! 最終回 涙星 「…」 大地に立ち尽くす星王。目の光は失われ、体の至る所から煙が噴出し、血のようにオイルが流れていった。 「ハハハ!!勝った!!勝ったぞ!!やはり望みをかなえる隕石は私が使ってこそ生きる!」 高らかに勝利宣言し、崩れ落ちる星王へと歩み寄るクライシス。 「くそっ!頼む星王!あと少しだ!あと少しでいい…」 いくらシンイチが呼びかけても星王はうな垂れたまま答えなかった。 ただ…、投げ出された右腕がわずかに動いた。 「…なぜだ」 クライシスが突然歩を止めた。 「なぜこいつは元の姿に戻らん?!ロボットとしての機能が停止したのなら、元の隕石の姿へと戻ってもいいはずだ!!」 「…教えてやろうか…?」 「なにっ?」 クライシスへと通信が入る。その通信は完全に機能を停止したはずの星王からであった。 「!!この死にぞこないがぁぁぁ!!!」 一気に間合いをつめ、星王へと殴りかかるクライシス。 すさまじい力が星王へと襲いかかる。 辺りに砂埃が舞い上がり、二体のロボットの姿を隠した。 確かに手ごたえがあった。クライシスは勝利を確信していた。 だが、星王を無事だった。 それどころかクライシスの腕を片腕で受け止めている。 「なっ…?!」 腕に力を込めても、星王はビクともしない。 それどころ星王の腕には力が戻ってきている。 「ばっ馬鹿な?!なぜ動く?!なぜ動ける?!」 「流星は持ち主の願いをかなえる…」 星王より再び通信が入る。その通信を聞いてる間にも星王の腕にはどんどん力がみなぎっている。 「つまり、俺が平和を願い続ける限り、星王はお前たちのような悪には決して負けはしない!!」 クライシスの腕をもぎ、握り砕く星王!目には光が宿る! 「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!なにが平和だぁ?!」 もがれた片腕を抑えながらふらふらと空へ舞い上がるクライシス。 「星王!いけるな!」 「勿論!!」 地を蹴り、空へと羽ばたく星王。その背中には赤く燃え上がる翼が広がっていた。 「ハァハァ…おのれこうなったら…!」 高速で飛ぶクライシスの体から火花が散る。 「すべて破壊し尽くしてやる…!!」 クライシスの体が青く青く燃え上がっていく。 青い炎に包まれながらも、クライシスは高く高く飛び上がっていった。 「星王!あれは…」 ようやく星王はクライシスへと追いついた頃、クライシスは巨大な青い太陽と化していた。 「ハハハハハ!!星王!今から俺は地上へと落下する!!!」 「なにっ?!」 「ハハハハハ!!貴様の望む平和とやらは粉々だ!俺の野望達成が不能となった今!この世界など存在する価値などない!!」 「くそっ!お前なんかにこの世界を壊させてたまるか!!」 星王はありったけの武器をクライシスに撃ちこんでいく。だがクライシスの落下速度は緩むどころかじょじょに加速している。 「…こうなったら…」 「なにか打つ手があるのか星王?!」 「ああ…しかし…」 「頼む星王!俺は…みんながいるこの世界を守りたい!」 「わかった…」 星王の体が金色に光りだした。 そして、すごい勢いで雲を突き抜けたかと思うと、今度は先ほど以上のスピードでクライシスへと向かっていった。 その凄まじい急上昇急降下でシンイチは気を失ってしまった。 「シンイチ…シンイチ…」 星王がシンイチの意識へと呼びかける 「シンイチ、私の体は先ほどの戦いでぼろぼろだ。残念ながらここでお別れだ」 「どういうことだ?!星王!!」 「私は自らの体を光の矢と変え、クライシスを貫く。この体が砕け散る前に。だから、さらばだシンイチ」 「星王!!」 シンイチの体が徐々に薄くなっていく。 「星王!お前は持ち主の願いをかなえるんだろ?!だったら帰って来い!!かならず!!」 「さよなら、シンイチ」 凄まじい轟音に気がついたとき、シンイチは戦場から少し離れた野原に、仰向けに倒れていた。 「ここは…」 目を覚まし、空を見る。 そこに広がっていたのは、幾千もの流れ星、砕け散った星王とクライシスの破片。 「星王…っ、持ち主の願い事は必ず叶えるんじゃなかったのかよ…!」 星王との思い出の数々がシンイチの頭の中を駆け巡った。 その夜、家に帰ってからシンイチは一晩中泣き続けた。 星王が、ジエンドともに散った夜、シンイチは一睡もしないまま朝を迎えていた。 一晩中泣き続けて瞼は腫れ、寝不足からか目の下にはクマができていた。 しぶしぶする目をこすり、テレビをつけてみる。 ナレーターが昨日の流星群についてコメントしていた。 「星王…っ!」 星王との別れを思い出す。さんざん泣いたはずなのに、また涙が溢れ出してきた。 エピローグ かなえ星 「いってきます…」 「シンイチー、朝ごはんはー?」 「いらない…」 母親には心配をかけたくない。 力なく母親に答える。なんとか泣いていたことはばれなかったようだ。 ふらふらと門を抜け学校を目指す。 通学路では昨日の流れ星が話題になっていた。 「ねぇー、見たー?昨日の流れ星」 「見た見た!チョーキレーだったー」 「お前昨日何祈った?!俺は腹いっぱい鯖味噌食いたいってのと、あと、頭よくなりますってのと…」 「ははは、その様子じゃ二番目の願いはかないそうもないな」 女子も男子も昨日の流星群の話題で持ちきりだった。 「よぉ、シンイチ!昨日の流れ星見たか?すごかったよな」 校門近く、後ろから声をかけられる。…こいつはまたギリギリまでテレビを見ていたのか。 「…見てないよ。」 今ここで見たと答えたら、なにかしつこく話が続きそうで嫌だった。 たとえ親友でも、今は話をしたくなかった。 星王のことはしばらく思い出したくない。 「何だよ、お前あれ見てないのかよ。ニュースでも騒いでたぜ。今世紀最大の流星群だって」 「…そうなんだ。俺テレビ見てたよ」 「勿体ねーな。今日だって美人のナレーターが…」 「ふーん…うわっ」 寝不足のせいか足元がふらふらしていた。それに朝ごはん抜きだ。 なにかに躓き、転んでしまった。 「っ痛ぇ…なんだ…?」 「おいおい大丈夫かよ?」 振り返り、自分を転ばしたものを見る。 「あ…」 …涙が出てきた。痛みからじゃない。 そこにあったのは、きらきらと緑に光る小さな石だった。 多少大きさは変わってしまったが、シンイチにはそれがなんだかわかっていた。 「お帰り…星王」 シンイチに答えるように、緑の石が一層強く光った。 「おーい、どうしたー?」 声をかけられ、緑の石をあわててポケットに押し込む。 「いや、うん。ああ…、大切なものが見つかったんだ」 「ん、落し物かなんかか。良かったな。今朝のニュースで言ってたとおりだよ」 「ニュース?」 「ああ、流れ星特集の最後、ナレーターのおねーさんが言ってたよ。」 そう言って笑顔であいつは答えた。 「この流れ星は多くの人に希望と幸せを与える、夢の流れ星…ってな」 完 お願い!お星様!!・SSに戻る
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【元ネタ】明史 【CLASS】ランサー 【マスター】 【真名】秦良玉 【性別】女性 【身長・体重】166cm・46kg 【属性】秩序・善 【ステータス】筋力C 耐久B 敏捷A 魔力D 幸運A 宝具B 【クラス別スキル】 対魔力:C 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。 【固有スキル】 忠士の相:B マスターに忠誠を誓い、同時にマスターからも信頼を寄せられる。 無実の罪で夫が投獄されたにも拘らず、彼女は明に忠義を尽くし、当時の皇帝である祟禎帝も彼女に絶大な信を置いた。 盗賊打破:B 城主として数々の盗賊を打ち破った逸話の昇華。 反英霊、特に海賊や盗賊の経歴があるサーヴァントに対して、有利な戦闘ボーナスを獲得する。 戦闘続行:C 往生際が悪い。一度一度の戦闘ではなく、籠城戦などの長期化した戦いにおいて士気向上などの優位性を保つ。 【宝具】 『崇禎帝四詩歌(むよくにしてちゅうぎのうた)』 ランク:B 種別:対人宝具(自身) レンジ:0 最大捕捉:1人 秦良玉に対し、時の皇帝崇禎帝が送った四つの詩歌。 都に召喚された秦良玉は、盗賊征伐の失敗の責任を取るものと考え、部下に私財を与えて覚悟を決めたが、彼女に贈られたのは恩賞と皇帝自らが作ったという彼女を讃える四つの詩歌であった。 なお、異聞帯での生者としての彼女はこの宝具を持たない。 『儒』は民にはあってはならないものという始皇帝の考えを絶対順守する彼女は、自らが詩に興じるという考えを持たない。 サーヴァントとして召喚された、汎人類史での彼女が持つ宝具である。 『白杆槍(はっかんそう)』 ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:2~5 最大捕捉:1人 部下と共に愛用したといわれるトネリコ製の槍。 反英雄のサーヴァントをやや畏怖させる効果を持つ。 スキルとしてのランクはBだが宝具としてのランクはD。 【解説】
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【元ネタ】史実、『椿説弓張月』など 【CLASS】アーチャー 【マスター】 【真名】源為朝 【性別】男性 【身長・体重】232cm・190kg 【属性】中立・中庸 【ステータス】筋力A 耐久B++ 敏捷B 魔力D 幸運EX 宝具A 【クラス別スキル】 対魔力:C 単独行動:B 【固有スキル】 鎮西八郎:A 為朝が号した異称。 追放された先の九州で暴れ回り、数々の逸話を残した。 常人では扱えないような大きさの弓と矢を使って、敵を二人纏めて仕留めた……という伝説もあるほど。 不屈の弓射:B 保元の乱で敗北した際、為朝は腕の腱を切られたが、不思議なことに復活。 一説によれば腕の油圧ケーブルを交換したのだと伝えられている。 いや伝えられていない。 メカニカル弓術:EX 発射シークエンスの一例は以下の通り。 ムーンシャフトチェック バスターアローシステム 96%充填 パイルドライブフットロック 接続 ……仕留める! 敵性反応を探知、ロックオンして自動追尾システムを起動。 あるいは最大効率の殺傷力を発揮できる場所に矢を放つ。 紛れもなく弓術である。 【宝具】 『轟沈・弓張月(ごうちん・ゆみはりづき)』 ランク:B+ 種別:対艦宝具 レンジ:5~50 最大捕捉:一隻(便宜上) ごうちん・ゆみはりづき。 わがゆみはりづきのもとにかんしずめたり、とも。 ただの一矢で敵方の船を沈めた逸話の再現。 なお、木造船であった頃はまだ本気を出していなかったが、サーヴァントとなった状態ではむしろ全力を出す。 また、海(水上)では神秘が増すため、現在においてはイージス艦といえども一撃で致命傷を負わせ、原子力潜水艦ですらも矢から逃れることが難しい。 宝具の連続使用にはかなりの負担と時間が必要とされるが、合間合間に連射による牽制、あるいは三本に分割しての使用など、創意工夫を凝らして相手を寄せ付けない。 【解説】
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凛「なんで貴方がライダーなの?」 龍馬「時代の波に乗ろうとしたからかのー。ま、乗りそこなっちまったが」 凛「でーぶいでー?」 龍馬「なんじゃ、しらんのか?まぁったく、それでもお前さん、現代人かい。これからの時代は科学じゃ。魔術師っちゅう連中は遅れとるのー」 凛「・・・(怒)」 ☆ ☆ ☆ 凛「見なさい!DVDを使いこなせるようになったわよ!」 竜馬「遅れとるのう これからはブルーレイの時代じゃき」 凛「ぶるうれい?」 アキレウスとセイバーあたりが戦っているところに、突然ミサイルが・・・ 龍馬「便利な世の中になったもんだ」 凛「・・・・・・」 混沌とした世界をかき混ぜ、秩序ある世界に変えたという矛。それを抜いたという手こそが、彼の宝具だった。 龍馬「『―――』」 古き時代は終わり、新しい時代が始まる。 どれほどの神秘をもとうと、龍馬の維新の掌はことごとくを覆す。 「神秘は神秘によって滅ぶ」、その法則を完全に無視し、古き時代を生きた英雄たちを生身の人間まで叩き落す ――― 龍馬「剣?槍?弓?お前さんがたは遅れちょるのー。これからの時代は、コレじゃ」 凛「ライダー(暫定)、どこ行ってたの?」 龍馬「ちょいと海を渡って来たぜよ」 凛「はぁ!?」 龍馬「いやー、海外との貿易は楽しいぜよ。今日だけでホレ、こんなに儲かった」 凛「・・・許す!この調子でバンバンやりなさい!」 士郎「それって、密輸・・・」 金正日「くくく、こんな見たこともない新兵器が手に入るとわ。これで朝鮮半島統一、アメリカや日本から金や資源をゆすりほうだい!がっはっはっはっは!」 名無し「報告します!先日密輸入したレーザーガンがただの拳銃に!」 金正日「アイゴーーー!」 ☆ ☆ ☆ 龍馬「・・・あー、すっかり忘れてた」 ギル「あらゆる宝具の原典を持つこの我様に勝てると・・・」 龍馬「原典?お前さんは、古いのー」 雷河「ほぅ。なかなか上等な武器じゃねぇか。気に入った。何に使うかは知らねぇが、資金の援助はまかせな。お前さんなら悪事には使わねぇだろうしな」 ☆ ☆ ☆ 龍馬「マスター、資金調達してきたぞ」 凛「ヒャッホー!」←聖杯戦争のことなど、すっかり忘れてる ダメ「?食事など、栄養補給できれば十分でしょう?」 龍馬「お前さんは、古いのー。そんな考えでは現代を生きてはいけんぞ?」 ダメ「な!?」 何処だ、なんて続けるアーチャーの前に、ぽいぽいっとホウキとチリトリを投げつける。 「――――む?」 「下の掃除、お願い。アンタが散らかしたんだから、責任もってキレイにしといてね」 「古いのー これからは機械の時代じゃきに」 ホウキとチリトリは、自動掃除機に変わった。 ニュートン「なるほど・・・科学もここまで進歩していたか」 坂本龍馬「月日が流れるのは速いぜよ。技術の進歩は、さらに速いぜよ」 ニュートン 龍馬「現代は、なんと面白いのだろう!」 龍馬「いやー、お茶は美味しいぜよ。これだけは古いも新しいも関係ないぜよ」 雷河「ふむ、そうさな」 一成「お茶請けをお持ちしました」 零観「はっはっは、ご苦労」 葛木「・・・」 兄貴「ゲイボルク!」 龍馬「槍はただの槍じゃ、因果の逆転なんぞするわけないきに。そんなん信じちょるとは、お前さん、遅れちょるの~」 グサッ 龍馬「いたたたたたたたた!!」 兄貴「そりゃ、槍が刺さったら痛いだろうよ、神秘のあるなし関わらず・・・」 龍馬「目指せ、世界一の商会ぜよ!」 アキ「とりあえず、町内の配達は俺がやるわけだな?」 龍馬「まかせるぜよ!」 メリ「なんで私は受付と電話係?」 龍馬「紅一点だし、電話といったらお前ぜよ」 アル「我が瞳に捉えられぬものなし!」 龍馬「というわけで、アルジュナはアキレウスがいないときの配達を頼むぜよ、弓矢で」 パラ「俺は研究に忙しいっつーの」 ウィン「主、楽しそう」 サラ「主、友達できてよかったな」 龍馬「商品開発は任せるぜよ」 黎利「龍馬、わくわくざぶーんの経営者が不穏な動きをしてるんだけど・・・」 龍馬「軍略もちがいると助かるぜよ」 ベル「■■■■■ーーーー!(温泉の準備ができたぞ)」 龍馬「よーし、一段落着いたら温泉で疲れを癒すぜよ!」 翌日、龍馬は船に乗り、外国との貿易のために出発した。 凛「なにしてたの?」 龍馬「ちょっとネットで遊んでたぜよ。まさか俺があんな面白鯖になるとは、思わんかった」 凛「・・・鯖?」 龍馬「現代は面白いのー。それじゃ、行こうか」 凛「ええ、宝石の用意もばっちりだし・・・貴方の戦力は不安だけど、少しくらい頼りにしてもいいわよね」 ~Fin~
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鬱蒼とした森は、数十年に一度やってくる主しか招くことは無い。 森に張ってある結界を破れば別だが、それでは相手方に襲来を悟らせることになる。 そもそも魔術の知識に疎いライダーと、魔術師ですら無い慎二では結界を破れない。 「奇襲は意表を突き、なおかつ悟らせぬ事こそが肝要」 「……だからこその待ち伏せか」 森に入るための車道は、あっさり見つかった。森から遠い冬木市街に入るためには絶対に車を使っているに違いない。アインツベルン程の財力なら当然だと推測した慎二の眼は、草が刈り込まれ新しいタイヤ跡がある道を見逃さなかった。 「通り道に間違いないようだな。一通り森の周囲を回ったがそれらしいものは見当たらぬ」 そこでライダーはふんと鼻を鳴らした。 「敵に通り道を教えるとは愚昧なり。良将を抱えても、所詮は小娘か」 枯れ草が茶色く大地を覆っている。その中に慎二とライダーは身を潜ませていた。 草を編んで作った即席の隠れ家で、大陸最高の英雄と魔術師ですら無い少年は待つ間に会話をしていた。 「でも、良くお前承伏したよな」 「何がだ」 「マスター狙いだよ。お前ってプライド高そうだからそういう作戦とりたがらないかと思ってさ」 「たわけ」 一言で返すと、ライダーの視線は車道に戻った。 「弱所を突くことこそ兵法の基本、剣士と槍兵の弱点はあの小娘よ。何せセイバーを戦わせ、ランサーを傍に置いている時点で小娘は愚昧に過ぎる」 殺してやるのが情けだ。と言うライダーに、慎二が首をかしげて反論する。 「何でだよ。最優が前衛で戦うのは当然だろ」 「最初に手の内が知られてもか?戦えば自ずと明らかになる。おまけにあの剣士は弱点まで世に広く知れ渡っておるわ」 そこまで聞いた慎二は、ああ、と頷いた。 「……なる程。いいカードを最初に使い切る可能性があるってことか」 「分かってきたではないか」 そう言うとライダーは持っていた袋からあるものを取り出した。慎二も取り出して、口に運ぶ。 「……問題は」 あんパンと牛乳を装備した状態で、慎二とライダーは待ち続けるために身を潜めた。 「いつ通りかかるか、だよな」 「待つことも兵法よ」 林道は未だ静けさを保ち、誰一人として通りかかる気配は無かった。 遠坂の屋敷はあちらこちらが傷ついていた。外見に穴が無数に開いているだけにとどまらず、家を支える柱自体が歪む程に攻撃を受けている箇所も多い。 「下手をすれば家ごと建て替えないといけないかもしれないな」 士郎がそう言う程に屋敷の損傷は大きかった。おそらくアーチャーの襲撃はこの家を拠点として使えないようにする為の意味もあったのだろう。 「そうなるにしても、とにかく役に立つ物は全部持ち帰るんだから、協力して貰うわよ。みんな」 遠坂凛がそう言った先には軍手をはめて様々な道具を持った四人がいた。 「はい!頑張ります!」 「洋館というものは一度入ってみたかったからな。期待させて貰うぞ」 「先生!拾った物は持って帰っていいですか!」 「……面倒ね。全部焼き払おうかしら」 「三枝さんありがとう。無理はしないでね。氷室さん。悪いけど今の遠坂邸は見せられるような状況じゃないわ。 却下よ蒔寺さん。小銭一枚でも拾ったら家主の私に届けること。あとキャスター、そんなことしたら最初にあんたから聖杯戦争の脱落者になってもらうわよ!?」 一気に言い終えると、遠坂凛は家のドアを開けた。 「トラップは全部解除してあるけど、良く分からないところは私を呼ぶこと。いいわね?」 家の内部も、外見が語るように相応の被害を受けていた。 「あーあ、高そうなアンティークまでぶっ壊してる。英雄なら文化も大事にしろよなー」 蒔寺楓の言葉通り、テーブルや家具なども被害を受けていた。エーテルで構成された矢はその身を残さず、テーブル上の陥没だけがその破壊を物語っていた。 「むっ。しかし妙だな」 「何がだ?氷室」 「弓矢のことは分からないが、ああいう傷にはならないのではないだろうか」 氷室鐘の指差す先には大きく亀裂が走った壁があった。確かに大きく抉れた傷や裂傷は矢では説明が付かないだろう。同じような傷は屋敷のあちこちにあった。 「それは多分バーサーカーの仕業よ」 傷ついたテーブルを片付けながら、遠坂凛が毒づくように答えた。 「あいつお構いなしに戦うもんだから、あちこちが壊れたのよ……令呪で何か恥ずかしいことを命令してやろうかしら」 突然ぼそりと妙なことを口走る遠坂凛に、思わず士郎達の背筋が冷え込んだ。猫かぶりをやめたこの少女ならやりかねない。 「ブラックキングは冷凍怪獣じゃねえぞ」 「何か言った?蒔寺さん」 「蒔ちゃんは遠坂さんと仲良しになれて嬉しいんです。遠坂さん」 三枝由紀香は倒れた椅子を元の位置に直して、微笑んだ。 「え?」 「由紀っち?」 「こんな大変なことになっちゃったけど、遠坂さんの色んな表情が見られて私嬉しいです」 「あ、あのねえ。そんなこと言ってる場合じゃないと思うけど」 「だって、遠坂さん口調がいつもと違ってるから」 「……むう。猫被る私も結構お気に入りなんだけど」 「くるくる表情が変わる遠坂さんも私好きですよ」 そう言ってほにゃっと笑う彼女に対し、周囲の目は当然言われた相手を視界に入れた、 「なっ、なっ、なっ何言って「むっは~!!由紀っちをたぶらかすかー遠坂!!ゆるさーん!!」」 「たぶらかすの意味も知らない癖にそう言うことを言うなー!!」 やいのやいの騒ぎながら攻撃してくる楓に対し、凛は中国拳法の技法で抵抗する。 そんな傍目から見たらじゃれあいのような姿を見ながら三枝由紀香は―――何かに気づいた。 それは違和感だった。それは25メートルプールの中に浮かべた一つのビーチボールのように、たいしたことのない、しかしどうしても感じる違和感。 壁の一部を払いのけ、しゃがみこんでテーブルの裏側に目を向ける。 「―――?」 テーブルの裏側には、セロハンテープで固定された黒っぽい機械が貼り付けられていた。 「遠坂さん。これ何だか分かる?」 蒔寺楓を必死で捕まえ、二の腕で拘束している遠坂凛にそれを見せた。 「捕まえたわよこのバカ豹!……何それ、私そんなの知らないけど」 「ぐぐぐっ……家電とかじゃないのか?」 捕まったまま口を開いた楓の言葉に、凛は首を横に振った。 「いいえ。私の家はそういうハイテクは極力排除されてるわ」 怪訝な物を見る目で、凛は眼前の小型機械を見つめていた。 「……盗聴器に気づいたか」 拠点にしているワンボックスカーの中で、アサシンは舌打ちするまでも無く受信機のスイッチを切った。 「遠坂邸に仕掛けた機械に気づかれたぞ」 その言葉に、バゼットは視線をアサシンへ向けた。 「これで、遠坂邸への“耳”は利用価値が皆無になりましたね」 助手席に座るバゼットの言葉にアサシンは軽く頷いた。 「状況は俺達にとって―――実に素晴らしい」 そう言うと、アサシンはサブマシンガンの弾倉をガチャリと装填した。 「連中は盗聴器を仕掛けられていると気づいてはいる。だがそれだけだ。ミスリードを誘うこともせず、警戒するにとどまっている―――連中が無能なのは大いに喜ぶべき幸運だ」 仮にだが、盗聴器の存在に気づき、こちらを誘い出す罠を張られたら厄介だったろう。 狂犬や魔術師に狙撃兵が正面から勝てる筈も無いからだ。 「彼等が他のマスターに情報を流す可能性は?」 「メリットは?」 「デメリットが大きいですね。いずれの陣営ともやがては戦わなくてはならないのに、貴重な敵の情報を流すことは無い。仮に流せば……」 「俺達を低く見る連中が出てくる―――まっとうな魔術師なら科学技術は使わない。使う奴は三流、そう思う連中が魔術師には多いんだろう?」 「ええ―――そして、私達と同盟を『結んでやろう』と考える連中が出てくる。そういうわけですが」 「労せずして間抜けな同盟者(捨て駒)が手に入る」 そこでアサシンは無表情な顔を、それでも引き締めた。 「だが、ただただ低く見られては共倒れになる可能性もある。適当な兵隊が必要だな」 そこでアサシンは幾つもある受信機のスイッチの一つを入れた。 「……そろそろキルスコアも必要だ」 「……どうしよう」 間桐桜は、衛宮邸に行く道を歩き続けていた。歩数的に言えばとっくに着いている。 そうならないのは桜が衛宮邸の近くに来ては、引き返すといったことを繰り返しているからだ。 公園での一件から、衛宮士郎とは会えなかった。連絡も取れていない。 ……当然だ。自分で会わないようにしているのだから。 兄に暴力を振るわれ、魔術師同士の暗闘が行われている今の状態でも、桜は衛宮士郎に無事でいて欲しかった。 明日になればもうあの少年の生きている姿を見ることは永遠に無いかもしれない。しかも、それが自分が喚んだ英霊の手で為されるかもしれない。 ……それだけは阻止しなければならない。だが、ライダーも兄も聞く耳を持たない。 いつもこうだ。何か持っていたら奪われ、何かを守っていれば汚され、逃げることも出来ない。 結局自分は諦めるだけなのかもしれない。だけど、今度ばかりは諦めたくないという自分がいるのも確かなのだ。 眼前に目をやると、曲がり角が見えた。あれを曲がれば懐かしい衛宮の屋敷に辿り着く。 そのまま立ち尽くした時に、突然に声をかけられた。 「あれっ、間桐?」 振り返った先には、蒔寺楓と氷室鐘、そしてキャスターのサーヴァントがいた。 商店街に存在する喫茶店、その一角のテーブル上では、心配する桜と、大丈夫だと返す二人、そして無表情で茶を飲んでいるキャスターがいた。 「それで、皆さんお怪我は無いんですね?」 「心配性だな間桐は。見ての通り怪我は無い」 「常識はドンドン削られていってるけどさ」 そこで楓は注文したコーラをぐいと飲んだ。 「あのっ、本当にすいません。兄さんがあんな事をするなんて」 たまらずに謝罪する桜に、楓がばつの悪そうな表情になって問を投げかけた。 「ワカメの奴はまだあたしらを狙ってるのか?」 楓の言葉に、桜が押し黙る。それだけで答が分かった。 鐘がううむと唸って頭を抱えた。 「まずいな……いくら衛宮に匿ってもらっているとは言え、このままで良いはずが無いしな」 「え……?」 鐘の言葉に桜の目が大きく見開かれる。 「ああ、騒動が終わるまで、衛宮んちに住んでるんだよ。あたしら」 楓の言葉に、桜は今度は身を乗り出した。 「そそそ、それって同せ「んなわけあるかあ!!この美身に汚れた毒牙は指一本とて触れさせん!!」」 「言葉の意味と使い方が間違っているぞ蒔の字……それに同棲と言うが間桐、君も通い妻をせっせと行っているのではないかね?」 「か、通い妻!?そ、そんなこともありますけど」 顔を紅くした桜に鐘はにやりとチェシャ猫のように笑った。 「ふむむ。興味深いな。なあ、間桐」 「い、いじめないでください……」 赤くなった桜は目を回転させながら懇願した。その顔色が徐々に戻っていくにつれて、ぽつりと言葉を紡いだ。 「あの……お聞きしたいことがあります」 「ん?なんだ」 「……衛宮先輩は私……達のことを何か言ってませんでしたか」 桜の言葉に、楓はああ、と頷いた。 「そーいや、衛宮がぼやいてたな。ワカメに電話が繋がらないって。家にも携帯にも。やっぱり知り合いだから心配してんじゃね?」 「そう、ですか」 ようやくそれだけを絞り出した桜は、頼んだカフェオレをゆっくり口に含んだ。 「桜、だったかしら」 その言葉は、今まで何も喋らなかったキャスターから発せられていた。 「は、はい」 返事をする桜に対し、キャスターは無表情に呟いた。 「我慢、ご苦労な事ね。でも現状は悪くなるだけだと思うわ」 「―――!?」 「キャスターさん、何を言って……」 「我慢しかせずに結局は破滅した人物を知っているわ……似ているのは雰囲気くらいで良いでしょう。何でもいいから抗うくらいはやってみなさい」 そこまで言うと、キャスターは持っていたカップをテーブルに置いて席を立つ。 「―――助けを求めれば応えてくれそうな相手はいるでしょう」 それだけ言い残すとキャスターは店外に出た。外では先程から降っていた雪が積もり、静かな銀世界となっている。 「キャスターさん、何言ってるんだ?」 「……なにやらいつもと違って積極的だったが……ん?間桐?」 桜からの返事はない。本人は目を落として俯いていた。 「間桐?」 鐘の言葉に身じろぎもせず、桜はテーブル上のカップを見つめ続けていた。 喫茶店から見える景色は、既に雪が化粧を施し、この土地には珍しい銀世界を作り出そうとしていた。 枯れ草が敷き詰められていた野原は今では銀世界が広がっていた。その中からカチカチという音がするが、それに気を止める人はいなかった。 寒さで歯の根を鳴らしながら、間桐慎二はアインツベルンの主従を待ち続けている。結果は出ていないが。 枯れ草を編んだドームにも雪風は吹き込み、震えながらも慎二は悪態をついた。 「ま、ま、まだこないのかよ畜生……」 「待つのも兵法じゃい」 事も無げに言うライダーは、携帯電話(勿論慎二の物)をいじっている。古代の英雄が現代の機械を扱う姿に思わず慎二は口を開いた。 「お前大昔の人間だろ?ケータイなんかいじって何が楽しいんだよ」 ライダーは携帯電話を慎二に返し、言葉もまた返した。 「本当に便利な時代だな。儂のいた時代では連絡手段は伝令かあるいは狼煙で伝えるぐらいしかなかった」 だが、とライダーは前置きする。 「それさえあれば命令が瞬時に伝わる。時間差による状況の変化で混乱する心配は無い。人伝による間違いも心配は無い。いくらでも状況の確認が出来るからだ」 「知ってるよそれくらい。通信機器の発達が戦争の形態を変えたってのはミリタリー雑誌だかで見たことがある」 ふむ、とうなずき、ライダーは携帯電話を見つめる。 「儂の仮初めの肉を動かしているのは魔の力だが、それを使えぬ人民が研ぎ続けた科学も侮れぬ」 そう言うと、ライダーは宝具である大刀を手に取った。 瞬間、斬撃が一閃した。 周囲の枯れ草と雪が一瞬で吹き飛ばされ、ライダーと慎二の姿が露わになる。ライダーの視線は車道に立つ人影に注がれていた。 白一色の服装に身を包んだ背が低い男に対し、ライダーは一瞬たりとも気を抜かない。 ライダーは大英雄である。 普通の方法では殺せない豪傑を相手にした敵はそれでもどうにか自分を殺そうと掃いて捨てる程多数の暗殺者を送り込んできた。一人も成功しなかったが。 その自分に対し、これ程の距離までに接近するという絶技を見せたこの男の力はどれほどのものか。 警戒しすぎてもしすぎることはない。 ライダーの緊張にあてられたか、慎二もライダーの傍らに立ったまま一言も口をきかない。 少しの間の沈黙は、出現したサーヴァントによって破られた。 「警戒しなくてもいい」 「それを判断するのは儂らだ」 「そうだな。なら言い方を変えよう。少なくとも俺に戦う意思はない。君たちに接触した理由は一つだ」 「……なんだよ?」 警戒する慎二に対し、白影のサーヴァントは理由を口にした。 「同盟を組まないか?」 衛宮邸のテーブルに、中央に置かれている小型機械があった。 それを凛は渋い顔で見ている。由紀香や士郎も難しい顔で機械を手にとって観察していた。 ふすまが開き、帰ってきた客人に士郎は目を向けた。 「おかえり。どこに行ってたんだ?」 「少しね、ところでそのカラクリに関して分かったことは?」 キャスターの後から入室した鐘と楓も、機械を囲むようにテーブルに座った。 「やっぱり、盗聴器か?以前見た映画でそんな機械が使われていた気がするけど」 「盗聴器か……遠坂嬢、聞くがストーカーに悩まされているといったようなことはないのかね?」 「そうだったらまだ安心できるけどね……」 凛は機械を指でつまんで親の敵でも見るように睨み付けた。 「明らかに聖杯戦争がらみよね。コレ、私の家を監視していたのかしら」 「だとしたら、一体誰なんだ?」 「暗殺者でしょうね」 士郎の疑問に答えたキャスターは、そのまま言葉を続けた。 「彼等は常に最新の技術を取り入れて仕事に当たるものだから」 そこでキャスターは出された茶を飲み、一息ついた。 「かつて砂の国の老翁達は呪術を扱ったそうだけど、それだけ扱っていたわけじゃ無い。使える物なら何でも扱うのが暗殺者よ」 「暗殺者って……あの時イリヤを銃で狙った奴か」 セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、そしてバーサーカーとキャスター、消去法でも残っているのは一騎しかいない。 「『銃』で、『暗殺』かあ……」 「盗聴器を平気で使えるアサシンって、誰なのよ」 「……そういうことか」 頭を抱える凛に対し、楓はふむふむと頷きながらビシッと人差し指を立てた。 「何よ。蒔寺さん」 「アサシンの真名が分かったぞ」 その言葉に、全員の目が楓を注視した。 「本当か!?」 「まかせたまへ天才工兵。アサシンの真名は―――リチャード・ニクソンだ!!」 「……根拠は?」 断言する楓に対し、鐘が尋ねた。楓はふふんと鼻を鳴らす。 「世界で最も有名な盗聴事件、ウォーターゲート事「銃を使う根拠は?」……む、わからんちんめ。奴は海軍に入り、戦闘要員とはならず補給士官に任命され、アメリカ海軍でも最高のポーカーの腕を……あれ、狙撃関係無くない?」 「機械を扱えるのだから、近い時代の人物だな……暗殺……リー・ハーヴェイ・オズワルドなどどうだ?」 「三枝さんは姿を見たのよね?どんな格好だったか覚えてる?」 「シカト?ひょっとしてあたしいじめられてる?」 楓は泣くぞこらー、といいながら、士郎に梅干し攻撃をしかけた。当然士郎は抗議する。 「イダダッ、なんで俺なんだよ?」 「遠坂は怒らせると怖い。メ鐘も怒らせると怖い。由紀っちも怒らせると怖い」 「消去法かよ。だからって梅干しはやめろ!それより他に意見は無いのか!」 その言葉に楓は攻撃を止め、うーむむ、と背伸びをして考えた。 「銃で暗殺……狙撃……狙撃兵ならいっぱいいるけど……」 「狙撃兵?特定できそうか?」 「できるわけねーだろ。第一次世界大戦の頃から数えてウィキっても著名な狙撃兵なんて、世界中で三十人以上はいるぞ」 「そりゃそうか……なあ、三枝が見た人影はどんな格好していたんだ?」 話を振られた由紀香は、思い出しながら口に出した。 「えーっと、何かこう、白っぽい格好していたと思う」 「白色?」 狙撃兵は隠れ潜むことが役目の筈だ。必然的に服装も目立ちにくくなる。だが、白などという光を反射しやすい色の服装をしていたら逆効果ではないだろうか。 「―――いや、ちょっと待て。由紀香。そいつは雪国の兵士かもしれない」 いつになく真面目な表情で、楓が口走った言葉に全員が反応した。 「蒔寺?」 「ちょっと待ってろ衛宮。今頭が冴えてるんだ。あんにゃろに呑まされた宝具だかの効果かもな」 「―――大丈夫か!?」 聞き捨てならない言葉に血相を変えた士郎に、楓は無言で頷いた 「頭が冴えてる以外に特に変わったところは無い。それよりキャスターさん、サーヴァントだかは基本的に服装は召喚された当初から変わらないんだったな?」 「ええ。アインツベルンのお嬢さんは従者に現代の服を着せていたようだけど、基本的な姿は変わらないわ……なる程、雪国なら白い服でも頷けるわね」 「北欧やロシアのスナイパーかもな。それも冬期迷彩が必要な程の極寒の戦場で名を馳せた英雄か……それならかなり絞り込める。あたしの推察によれば―――」 自身気に言う楓に、いつになく驚いた様子で鐘と由紀香が見ていた。 「凄い……蒔ちゃんが輝いてる」 「うむ。これが宝具の効果とやらかもな……いや、あるいはこれが蒔の字の本気……?」 驚く二人に対し、楓は再び力説する。 「つまり―――西から昇ったお日様が東に沈むのでこれでいいのだと言う訳だよ!」 「あっ、元に戻った」 楓はそこまでで、オーバーヒートをおこしたように、ぷしゅーと頭から湯気を出して机に突っ伏した。キャスターが頭に手を当て、納得いった表情で呟いた。 「宝具の効果で軍略に関する閃きと洞察力が強化されたようね。この様子だとあまり無理はしない方が良いわ」 「やはり宝具の力だったか……」 「普段使ってないだけあって、衛宮君の無茶より酷いかもしれないわね」 「言い方が酷いですよ……」 「俺さりげなく引き合いに出されてるし……」 「こ……これでいいのだはんたいのさんせい~」 楓は反論する気力も無く、目を回しながら意味不明のうわごとを呟き続けていた。 曇天の空の下、森中に存在するアインツベルンの出城は、戦場となっていた。 「ッ!!!!!!!!!!!」 ライダー=関羽雲長が大刀を振りかぶり、霊馬の疾駆によってランサー=ブリュンヒルドに接近した。 美貌を曇らせるまでも無くランサーは槍を構え、吠える。 「させると思うか!」 「おうよ。できんでどうする」 大刀が横薙ぎに走る。直撃すればランサーの細い腰はあっという間に輪切りにされるだろう。 瞬間、虚空に炎が生まれた。それは空中をなめるように霊馬に騎乗しているサーヴァントと、その背後に捕まっている少年に向かっていく。 「どわちちっ!ライダー!」 「おっと、まずいな」 赤兎馬が後方に撤退し、火焔は地面を焼くに止まった。そのままライダーとランサーは睨み合う。 「何やってるのよ。ランサー」 僅かな沈黙はランサーの小さな主によって破られた。小さな頬を膨らませている姿は愛らしくもあり、微笑ましいとも言える。 「そいつは大した英雄じゃ無いわ。多分マスターが無能なんでしょ。ステータスは平均よりちょっと上回るぐらいよ」 「な、なんだとこのガキ「ほっとけ、油断させておけば楽で助かる」」 慎二をなだめるライダーの目は、イリヤスフィールの傍らに佇む青年に向けられる。 視線に気がついた剣の英霊は、怪訝な表情でライダーを向いた。 「何か用か?」 「いや、ようやく自分の弱さを理解したかと思ってな」 激昂は剣の英霊では無く、槍の英霊だった。ルーンが彫刻された大槍は神速の突きを持ってしてライダーの喉元を狙った。それをライダーは大刀で受け止める。 戦乙女は瞳を怒りに燃やし、ライダーとの鍔迫り合いをしながら気炎を吐いた。 「我が夫への侮辱は槍の一撃で返してやろう。ここでその小僧もろとも串刺しにしてくれる!!」 ライダーは無言で大刀に力を込める。ランサーが僅かに体勢を崩した瞬間、赤兎馬が跳躍し、更に後ろに下がった。それを見てランサーの瞳が嘲りの色に変わる。 「達者なのは口だけか!キーナの英霊!」 「やめるんだ。ブリュンヒルド」 挑発する戦乙女を諫めたのは少女に付き添う魔剣の主だった。 「そいつの言い分に俺は今何も返せない」 瞬間、セイバーの手が動き、中空を飛ぶ『何か』をつかみ取った。拡げた掌にはひしゃげた鉛弾が鎮座していたが、それはエーテルの塵に雲散霧消する。 「あの暗殺者の攻撃から俺はイリヤの側を離れない程度のことしか出来ない」 アサシンは間違いなく殺しに長けた英霊だ。そして殺されないことにも長けている。 数回の攻撃は数回とも失敗したが、発射した場所が判らないだけではなく、判ったとしてもセイバーには為す術が無かった。イリヤの側を離れれば間違いなくアサシンはイリヤを殺すだろう。あの飛翔によって空を切り裂く音以外何も感知できない弾丸は恐るべき脅威だ。 そして、イリヤを連れて探し回れば隙を見せた瞬間にイリヤを殺すだろう。こんな時程自分の獲物である帯剣を恨めしく思ったことは無かった。飛び道具ならばまだ戦い方もあったろうに。 セイバー=シグルドにできる事は、その身体を盾にすることだけだった。 「―――そんなこと「ハッ、ざまあないね。古代人の英霊ごときが調子に乗るなよ」―――!!!」 慎二の侮辱は戦乙女の炎を容易に燃え上がらせ、その槍はライダーの主従に向いた。 「こ、言葉に武器向けるなんて大人げないな。文句があれば口で言えよ」 「言葉が少ないのだ。何せヨーロッパとか言う化外の化外にある地の野人じゃからのお。顔は良いのに残念」 慎二の言葉に乗るようにライダーが侮辱し、それが更にランサーの怒りに油を注いだ。歯を食いしばって怒りの表情に変貌するランサーを前に、ライダーは鼻息も荒く言葉を出した。 「何か文句あるか?わしは当時から続く超大国で文化の中心、中国の英霊。お前らは洞穴で踊って生肉かじってたゲルマンだかフン族だかの英霊。高等文明人と猿くらい差があるわい」 長々としたイヤミに、慎二がとどめを刺した。ランサーをなるべく見ないようにしながらだが、 「や、や、や~い。エテ公」 「―――いいだろう。肉片に変えてやる」 表情から感情の全てが欠落した状態で、ランサーが槍を構える。それは炎を纏っていた。 ライダーは一瞬後の攻撃を前に、少しも表情を変えずにこう言った。 「間抜け」 鉄板の上に無数の小石を落とすような音が響いた瞬間、幾多の火線が殺到した。 英霊にとっては豆鉄砲、しかし少女一人を殺めるには十分過ぎる攻撃に、ランサーはライダーへの攻撃態勢をすぐに解く事が出来ずに、自らの良人が身体でマスターを庇う光景を見ることしかできなかった。 「シグルド!」 思わず叫んだ真名に、セイバーは全身に銃弾を浴びせられながら笑って返す。 「この程度屁でも無い。それより、頭を冷やせ。まんまと乗せられてるぞ」 「―――」 その通りだ。返す言葉もない。火線の発射場所と思われる城の屋根の上には、撃ち手を失ったマシンガンとか言う現代の武器が転がっている。自分がライダーに乗せられている隙にいつの間にか城まで接近した暗殺者は、好きなだけ弾丸をバラ撒くと、さっさと撤収したらしい。 ―――シグルドがいなければ、イリヤは殺されているところだった……!! 自らの醜態に自分自身に怒りそうになるが、その暇も惜しいとばかりにイリヤの位置まで跳躍し、槍を構えた。 「来るならば……」 来い、と言い終わる前に目を丸くした。敵である騎乗兵の姿は影も形も無い。 暗殺者が奇襲に失敗したことでさっさと退却した。 それだけの事だが、非常に腹だたしいことに違いは無く、溜め込んでいた剛力を、地面に鬱憤と共に突き刺す。 地面が陥没し、亀裂が放射状に拡がったところで、息をついた。ホムンクルスの少女に顔を向けた。 「すまないイリヤ、私の落ち度だ」 「気にしなくてもいいわ。どんな敵が来ようとセイバーとランサーの二人がかりに勝てる英霊なんていないもの」 事も無げにイリヤはふふんと笑った。 「それにしても中国最大級の英雄も本当に零落れたわね。鼠の攻撃が失敗したら簡単に逃げちゃった」 イリヤの言葉に、ランサーとセイバーは顔を見合わせた。二人とも怪訝な表情をしている。 そして、口には出さないが思っている事も同じだった。セイバーが口を開く。 「なあ、イリヤ。あいつらどうもあっけない割に手際が良すぎる。少し用心しておいた方がいいかもしれない」 「平気よ」 有無を言わせない調子で断言するイリヤは、二英霊への信頼で満ちあふれていた。 「悲願を叶えるのは私達アインツベルンよ」 でも、と句切る。 「城に居るのも飽きたわね」 「もしもし、あんたか?『仕込み』は終わったよ……本当にアレでいいのか?」 森林から脱出したライダーと慎二は、奇襲を『予定通り』に失敗した後で、アサシンのマスターである魔術協会の執行者に連絡をしていた。 携帯電話から聞こえる声はうら若い女性のものだがそれがかなりの武力を持つ存在であることをライダーはとうに見抜いていた。当然慎二にもその事は伝わっている。余程のことを除いては直接接触するべきではない。このような時に携帯電話とやらは非常に役に立った。 『協力感謝します。マキリのマスター、それでは次に備えて今は休んでいてください』 「OK」 そこまでで通話は終わった。携帯をしまいながら、慎二はライダーに話しかけた。 「あれでうまくいくと思うか?まあ、最優と最速を順当に始末するならあの方法が一番だとは納得するけどさ」 「今はあやつらの好きにさせておいてやろう。暗殺者の手練手管を見る事が出来るからな」 ライダーの表情には油断は欠片も無く、これからの作戦を確認し始めた。