約 698,398 件
https://w.atwiki.jp/uyoku310/pages/41.html
はじめから強い奴なんていねぇよ。そう言って俺は一平んちを出て行った。 イライラしてて今日は誰とも話したくないと思っているとベルがなった。この番号は格さんだ。 渋々電話ボックスを探して電話すると、電話の向こうからは脳天気な声。 格さんの空気の読めなさは異常だ。 「今日、イーグルの追悼らしいんだけど、俺達も参加するから人数集めといて!」 イーグルはウチの地元からちょっと離れた町に昔からあるチームで最近頭が変わったばかりだ。このチームは、代々一番強い奴が頭を張るってルールがあって、今の頭はハーフのマイク先輩だ。冬でも雪駄はいて、上は常にタンクトップと言うファンキーな先輩。先月やられた前の頭はいまだに病院から出られないらしい。 正直、あんまり気分が乗らないし、なんか嫌な予感がするから行きたくなかった。でも俺達は新しくできたチームで今は近くに敵はつくりたくない。 俺が答えに悩んでると、 「9時にクイーンに集合な!」 って言って電話を切られた。 自己中だ。 俺はとりあえず信義に電話して、9時にクイーンって伝えた。 クイーンってのはパチンコ屋で、俺達の集合場所。国道に面していて、それでいて出口が何ヶ所もあり、いつ警察が来ても逃げられる様になっていて、俺達のために作られた様な場所だった。 真也はベルを鳴らしたらまだ一平んちにいたらしく、一平も連れてくるって言ってた。ちょっと気まずい。あと、マッキーとかにも連絡しといてくれるって言ってたから、俺は香織に電話した。夜は香織んちに行く予定だったからちょっと遅れるって言った。やっぱり香織はいい顔はしなかったけど、条件付きで許してくれた。条件は、いまから会いに来る事と、絶対に帰ってくる事。時間はまだ5時。全然余裕はある。姫のかわいい願いだ。聞いてやるほかあるまい。俺は一回家に帰って特攻服に着替えて香織んちに向かった。 今日がどれだけ大変な夜になるか、俺は全然想像もしてなかった。
https://w.atwiki.jp/uyoku310/pages/67.html
「もしもし。」 格さんは寝起きだったのかちょっとダルそーだ。 「俺だけど、陸が見つかった。」 「…あの馬鹿どこにいたの?」 「…残念ながらいま阿弥陀の世話になってるってよ。」 「はぁ!?なんで?意味がわかんねーんだけど。ちょっと説明してくれ。」 俺は今までの経緯を格さんに説明した。 「…話はわかった。ウチのケツモチ(ヤクザ)には俺から話通しておくから。無理矢理にでも引っ張ってきてくれ。」 「多少無茶するかもしんねーけどそん時はよろしく。」 「…無理はすんなよ。」 そー言って格さんは電話を切った。 ウチの弟が情報持ってくるまでは待ちになる。 めんどくせーな。 陸の話より先に香織の話が入ってきた。どーやらジローが香織に告るらしい。 前からジローが香織の事気に入ってたのは知ってた。ジローはわざわざちゃんと俺にことわりにきた。 「香織ちゃんと別れたらしいじゃん?」 「あぁ、振られた。」 「俺、告っちゃってもいいかな?前から好きだったんだよね。」 「…ダメって言っても言うんだろ。いいよ。ってか俺に聞くなよ。もー彼氏じゃないし。俺にそんな権利はないよ。」 「わかった。ありがとう。恨みっこなしな。」 「…なんか複雑だけどがんばれよ。アイツいい奴だから絶対泣かせんなよ。」 正直、心の中は穏やかじゃない。精一杯の強がりだ。香織が他の男と付き合う。考えたくもない。 なるべく俺は他の事考えるよーにした。不幸中の幸いでいまは考える事は山の様にある。
https://w.atwiki.jp/uyoku310/pages/53.html
「今日からてめぇらとは戦争だ。俺達が止まるか、てめぇらが折れるかだ。俺達は止まらない。」 格さんが掃きすてる様に言って俺達は警察署をでた。 やっと俺達は解放された。朝9時から8時間。道は帰宅する車達で渋滞を起こしてた。 「なあ、どーする?飯食って帰らねぇ?」 真也が言った。俺達はそのまま居酒屋に入った。 すきっ腹にビールが染み渡る。今日はいつもより酔いが回るのが早そうだ。 「ちょっとだけかっこよかったぜ。」 格さんが俺に言った。柔道場の時の事か。 「普通だよ。格さんの方がすげータンカ切ってたじゃん。戦争とか普通言わねーよ。」 「それにしてもあいつらしつこかったな。しかもなんで俺達だけなんだろーな。」 真也は不満そーに言った。 「幹部だと思ったんじゃん。他のチームの奴らも幹部だけファイルにとじてあったし。」 信義はめざとく見てたみたいだ。 「とにかくこれで俺達は奴らに敵って認められた訳だから、気合い入れてかないと潰されちまう。いろいろ大変だけど引退するまでがんばろーぜ。」 流石は俺達の頭だ。まとめるのはうまい。 8時過ぎた頃俺達は店を出た。 「これからどーすんだよ。もー1軒行こーぜ。」 真也はテンションがあがってる。格さんはもー出来上がってた。 「ちょっと香織んとこ行かなきゃなんねーからあがるわ。楽しんでこいよ。」 俺がそー言うと真也は不満そーだ。 「香織ちゃんによろしく言っといてくれ。こいつらの面倒は俺が見るから、心配してるだろーから早く行ってやれ。」 さすがは信義。空気の読みは抜群だ。アホ2人とは違う。 「じゃーな。」 そー言って俺達は駅で別れた。 香織が家にいるのかベルを鳴らしてみる。ソッコー返ってきた。とりあえず読めない。香織んちに電話してみる。 「もしもし、いま終わった。いまから行っていい?」 「早く来なよ。ってかアンタ酔っ払ってんの?ロレツ回ってないんだけど。」 「ちょっとだけな。じゃーいまから行くから。電車なんでちょっと時間かかるから。」 そー言って電話を切った。 香織の町の駅に着くと、改札のとこに香織が立ってた。 「迎えにきてくれたんだ。どーも。」 「酔っ払いのアホ野放しにできないでしょ。早く帰るよ。」 香織はちょっとだけ嬉しそーだった。
https://w.atwiki.jp/uyoku310/pages/40.html
仁さんが東龍会に突っ込んだ日からさらに3日。 一平はまだ学校に出てこなかった。さすがに今日は土曜日。頭不在のまま走るのはなんとも格好悪い。学校は半日で終わるから俺と真也は帰りに一平んちに寄った。ディズニーランド以来、香織は俺にあんまり口煩くなくなってきた。少しは信用されてきたらしい。 一平んちは学校と俺んちの丁度中間あたりにある。一平んちの前まで行くと、単車はあるから家にいる様だった。格さんには、自業自得だから相手にするなって言われたけど、俺達のせいで学校にこないのはなんとも気分が悪かった。 一平んちの親はすんなり俺達をあげてくれた。部屋には布団にくるまった一平。真也が、 「いつまでそんなことやってんだよ。とにかく出てこいよ!」 ってやさしく言うと、一平は見事に無視。 真也がいろいろ話してるうちに、俺は一平の態度にだんだん腹が立ってきて、一平の布団をひっぺがし、ベランダから下に投げようとした。 バタバタしながら、 必死で抵抗しようとする一平を俺はまたベッドに投げて、 「ウジウジしてんじゃねーよ!!いつまでも引き込もっててもしょうがねーだろーが!!」 って怒鳴ったけど、一平は相変わらず無言で下を見てる。さすがに真也も愛想がつきたのか、漫画を読みはじめやがった。 一平はボソッとこぼした。 「最初から強い奴に俺の気持ちはわかんないよ。」 気づくと俺は一平を殴っちまってた。 真也は止めもせずに漫画読みながらお茶菓子食ってた。
https://w.atwiki.jp/uyoku310/pages/28.html
格さんはまず、ケツモチのヤクザに話を持って言った。やはりヤクザも揉め事が多い方が儲かる。快く俺達の事を認めてくれた。ヤクザを抑えれば後は簡単だ。人数使って一人一人潰していけばいい。格さんがヤクザに話を通したりしてる頃、俺と真也と信義はウチのチームのOB達の住所を調べてた。現役でやってた先輩達だけでなく、後から出てこれない様にOBまで潰す事になったからだ。もちろんOBには拓ちゃんの兄ちゃんも含まれてる。ひとチーム4人で5チームできた。各チームごとに頭をあげて、頭が仕切ってひとりひとり潰していった。俺も頭の一人になった。俺の受け持ちには拓ちゃんの兄ちゃんが入っていた。 拓ちゃんの兄ちゃんを襲うって事は、必然的に拓ちゃんもやらなきゃならない。だけど、拓ちゃんや拓ちゃんの兄ちゃんに良くしてもらったのは、きっと俺が一番だと思う。正直悩んだ。なんでこんな事になっちまったんだろうと、たりない頭で精一杯考えたけど、結局答えは出なかった。 他の奴らに兄ちゃんを任せて、俺は拓ちゃんを潰しに一人で向かった。
https://w.atwiki.jp/uyoku310/pages/102.html
奴らに促されるまま俺は近くの公園に連れてかれた。そこには顔中絆創膏と包帯だらけの痛々しい奴がベンチに座っていた。 「…コイツが神田か?」 「お前、誰だ?」 仲間達は無言だ。 「お前、竜って知ってるだろ?俺、アイツのツレ。」 問答無用で蹴り入れた。神田はベンチの後ろに転げ落ちる。途中、何か言ってたけど気にしない。気がすむまで神田を殴った。 「…テメーら仲間じゃねーのかよ!助けねーの?」 仲間の一人がボソッと言った。 「この人はやり過ぎた。もー誰も仲間だなんて思ってねー。俺達も無益な血なんて流したくないから終わったらさっさと帰ってくれ。」 そー言ってタバコを吸い始めた。クソ共が。仲間意識とかねーのか。俺は神田を殴り終わるとそいつらに言った。 「…次に駅で見かけたら殺す。ってかやられてる仲間見捨てるぐれーの関係なら最初からつるんでんじゃねーよ。俺達みてーのが仲間大切にできなかったらクソじゃねーか。」 奴らは何も反論しなかった。自分達のしてる事がどんだけ情けない事かはわかってるらしい。俺が帰ろうとすると公園の入口に10人ぐらいの制服着た奴らが立ってる。 「…なんだアイツら?」 そー言った瞬間、奴らが動き出した。あっという間に囲まれていきなり殴りかかってきた。俺は反射的に殴っちまった。 「おい、コイツら誰だ!?」 尋常じゃない雰囲気だ。俺は“天地”の奴を一人連れて逃げた。駅前のデッキの上を走り抜ける。俺達を追ってくる奴らの人数はどんどん増えてた。最初は5人ぐらいだったのがいまじゃ20人近くいる。捕まったらただじゃ済まない。駅の南口まで行ったら俺はバスに乗り込んでしゃがんだ。「…おい、アイツらなんなんだ!?まとまりよすぎるだろ!」 息を整えながら聞いた。 「…アイツらチョン高だよ。神田君がちょっかい出したら毎日あの調子だ。さっき神田君怪我してたろ?あれもチョン高。チョン高なんかに喧嘩売ったらどーなるかわかるじゃん。あの人はやり過ぎたんだよ。」 チョン高ってのは朝鮮高校。やたらまとまりがあって仲間が一人でもやられると100人単位で仕返しにくる武闘派高校。俺は青くなった。いくら逃げるためとは言っても殴っちまった。 「今日からアンタも奴らのマトだな。気をつけた方がいい。」 俺はバスが出発するときに“天地”の奴を表に放り出した。ワラワラとサファリパークのライオンみたいにチョン高生達が集まってきてた。ヤベェ、大変な事になった。いまはそれしか考えられなかった。
https://w.atwiki.jp/uyoku310/pages/74.html
「阿弥陀に喧嘩売ったのお前だろ。根性見せろよ。」 ここまで来たらやるしかない。開き直った。俺は鈴木を殴った。 「こいや、オラァ!!」 金属バットが襲いかかってくる。15対1の差は流石に気合いや根性だけでは乗りきれない。頭に鉄パイプを食らって倒れた。 「こいつ地元に連れて帰るぞ。人質だ。」 …目が熱い。鉄パイプが当たったのは左目だ目が開かない。立ち上がろーにも足の踏ん張りが効かなかった。 「何やってるんだ!!」 近所の駐在が近づいてきた。単車に乗り蜘蛛の子を散らす様に阿弥陀は逃げてった。助かった。 「おい、大丈夫か?救急車呼ぶからじっとしてろ!」 「…どけよ。何でもねぇから。」 不覚にも敵であるこいつらに助けられちまった。そしてホッとしてる自分が許せなかった。 「…くそったれが!」 くやしくて泣きそーだ。割られた頭がジンジンした。
https://w.atwiki.jp/uyoku310/pages/68.html
陸の居場所がわかった。阿弥陀の奴の家に寝泊まりしてるらしい。場所も聞いた。正直まだ一平とヤマトの49日も明けてないのに揉め事なんか起こしたくない。俺は平和主義者の真也と行く事にした。 阿弥陀の地元は単車で約30分。結構遠い。 「なあ、陸ってやっぱチームには戻れないんかな?」 真也が聞いてきた。 「んー。話聞かないとわかんねーけど、自分の意思で阿弥陀んとこ行ったっぽいから無理じゃね。それに一平の葬式にも出てこねーのも気にいらねーし。」 「…そっか。なんか寂しいよな。いくらあんな奴でも一緒にやってきた仲間だからな。やめるにしても話し合いでなんとかしたいな。」 「アイツ次第だな。強気で出られたらぶっ叩くしかないしな。」 そんな事を話ながら阿弥陀の地元に入って行った。 「タバコなくなったからコンビニ寄ってくわ。」 真也はそー言って駐車場に入ってく。 「ちょっと便所も済ましてくるから待っててな。」 「ついでにコーヒー買ってきて。もちろんお前のおごりで。」 真也は手をあげながら店内に入ってく。 ぼーっとしてるのもなんだからタバコに火をつけた。 「お兄さんかっこいい単車乗ってるね。地元の人?」 男が近ずいてきた。しくった。ここは奴らの地元だった。
https://w.atwiki.jp/uyoku310/pages/48.html
フルボッコにされてボロボロの俺と格さん。上には上がいることを思い知った。折れた鼻と風通しのよくなった前歯が少し悲しかった。 地元に帰るとコンビニのベンチの前に一平が正座してる。どーやら裁判が開かれているらしい。 仲間達はフルボッコの二人の顔みて、どーしたんだとかいろいろ聞かれたけど、答えるだけの元気が今の俺達にはない。俺は歯医者に行きたかった。 トオルが俺に聞いてきた。 「コイツどーする?」 俺はちょっと考えた。 俺を置いて逃げたのとかは正直どーでもいい。捕まらなかったし。 だけどここで甘やかしたらきっとコイツはこれから何かあったら逃げる事を覚えちまう。どーする。 「お前はどーしたいんだよ。これからチーム続けてくんならこんな事きっと何回もある。そのたびに逃げ続けんのか?そんな人生クソじゃねーか。」 一平はうつ向いたままだ。 「そんな自分が嫌いで、変わりたいから俺達と一緒にいるんじゃねーか。」 めずらしく信義がキレた。 殴りかかろうとした信義を真也が止めた。 俺は一平に聞いてみた。 「もーやめるか?」 正直俺を置いて逃げたのとかはどーでもいい。ただ、ここで甘やかしたらきっとコイツはこれから何かあったらすぐに逃げればいいと考えちまう。一緒にやってきた仲間としてケジメはちゃんとつけさせてやりたかった。 「まだみんなと一緒にやりたい。」 一平は消えそうな声で答えた。 「それならしばらくケツモチは一平がやれ。それでチャラだ。」 格さんが言った。 一平はうなずいた。 この時になんで止めなかったんだろうと俺は今でも本当に後悔してる。
https://w.atwiki.jp/uyoku310/pages/118.html
店に入ると客は俺達以外いなかった。ミチが口を開く。 「アンタ達でしょ?私の事探してんの。」 さすがに崔も酔いが覚めたらしい。こっちの手は全部筒抜けだったらしい。 「探されてるのわかっててなんで俺達の前に顔を出したんだ?そのまま逃げちまえばよかったじゃねーか。」 「ヤクザに追われたままで一生逃げるのはキツいよ。私は全然関係ないのに。」 「その前にそのしゃべり方やめろよ。なんかオカマみたいで気分悪い。男か女かはっきりしろ。」 崔がはじめて口を開いた。 「私は女だよ。心はね。体が男だけど。だから学校行くのが苦痛だった。あそこじゃ私の事を男としてしか扱ってくれなかったから辞めた。」 当時は今ほど性同一性障害ってのに理解がない世の中だった。そんな時にそれをカミングアウトするのは度胸がいる。コイツは俺なんかよりも何倍も辛い人生歩いてるかもしれない。 「なんでもいいけどさ。母ちゃんどこだ?」 崔は無理矢理でも口を割らせる気らしい。さすがに犯罪の片棒担ぐ訳にはいかない。 「ちょっと待て、落ち着け。いまそんな事言ってもしょーがねーだろ。金は母ちゃんが持ってるんだな?」ミチは頷いた。 「母ちゃんに連絡とか取れるか?」 ミチは首を横に振る。 「あの人は誰も信用してないよ。私の事も。多分、お金貰ってからは電話しても繋がらない。お金渡したのって2ヶ月ぐらい前じゃない?そのぐらいから連絡取れなくなったから。」 崔は頷いた。そんなに前からだったのか。そんだけ時間があれば逃げるな。 「ただ、あの人には彼氏がいたからもしかしたら知ってるかも。お店あがったら一緒に行ってみない?あと2時間ぐらいだし。」 「それはいいんだけどさ。母ちゃんの事売って心は痛まねーのか?仮にも親だろ?ちょっとは逃してやる気とかはないの?」 「…あの人も大人でしょ?自分のやった事に責任取らなきゃ。私の人生までメチャクチャにする権利はあの人にないし。」 もっともらしい事は言ってるけどなんか引っかかるでもいまはコイツを信用するしかない。俺と崔はミチと一緒に母ちゃんの彼氏のとこに行く事にした。