約 1,264,717 件
https://w.atwiki.jp/fadv/pages/339.html
『自由に至る旅 ~オートバイの魅力・野宿の愉しみ』 自由に至る旅 ―オートバイの魅力・野宿の愉しみ (集英社新書) 題名:自由に至る旅 ~オートバイの魅力・野宿の愉しみ 作者:花村萬月 発行:集英社新書 2001.06.20 初版 価格:\740 萬月氏と一度だけ話をしたとき、自然に北海道の旅の話になった。彼は野宿をしながらバイクで日本中を旅する人だってことがわかっていたし、作品からも、北海道にこの種の旅をした人でなければわからないような記述があって、それなりに北海道ファンとしてはそのあたりの共鳴音を聴いていたのだ。同席していたファンが、ぼくも昔ボーイスカウトをしていて……などと話を合わせようとしてくるのが実に鬱陶しかったのを覚えている。 バイクと登山という違いはあれ、自前のプラン(あるいはノープラン)で独り旅を愉しむということに関しては、気が合う、合わないではなく、そうした行動を理解できるかできないかというだけの話なので、作家と読者という枠とは別の領域で、それはまた別の話ができるということである。 この本を手に取るときは、あの花村萬月氏が、一方で、別趣味としての旅という領域でも文章を書いてくれているという愉しみに、個人的に動機付けられてしまっているのに過ぎないので、関心のない方やただ花村小説ファンだという人には、この本は決してオススメしない。この本を手に取ったからと言って花村文学の何かを理解するための一助になるとかそういう種の添え本ではない、ということだけは言っておきたい。 あくまで野宿の価値観、旅というものを味わう心、孤独と自由をきちんと楽しめる能力、などが備わっていないと、この本はいったい何を書いているんだろう、で終わってしまうと思う。そう、読者を選ぶ本なのである。 そのくらい、ツアーガイドや旅行本とは外れたところで書かれた本なのである。新書というと実用書と文芸書の間に位置するような気がするが、文芸としての楽しみもなく、実用書というほど機能しない、限られた読者だけを狙い撃ちしたような極めて狭い範囲の趣味本であるという風に割り切って読んだ方がいいと思う。その意味では、この本はまさにそういう部類だ。 オートバイには乗りたい、乗りたいと思っていたのだが、免許を取るのが面倒くさくって、周囲のバイク・ブームにも関わらず、16歳になっても、ついぞ免許を取らなかった。それを後々まで後悔した。中学時代に、無免許でオヤジの通勤用カブを乗り回し、水田に突っ込んで泥まみれになった思い出くらいしか、ぼくにはない。 しかしオートバイは乗らなくても、私は山登りに目覚めたわけで、高校を卒業した途端に山に登り始め、三十代半ばまでこれに没頭することになった。そのせいか、終電を恐れない人間になってしまい、駅前ロータリーの花壇や、公園のベンチや、住宅地の空地、駐車した2トン・トラックの荷台など、どこでも眠れる体になった。つきあっている彼女を送り、そのまま近所のどこかで野宿、っていうことを普通にやり、翌朝一緒に彼女と電車に乗ることが自分にとっての自然なスタイルだった。 山に出かけてもテントがあり、皆がその中で眠るのに、自分だけ外でツエルトを被って星空を見上げながら眠った。寒いという代償を払ってでも星の下で眠ることがたまらなく好きだった。雨の夜はテントで寝ることがさすがに多かったが、それでも頭だけ外に出して、びしょ濡れになって寝てたことなどもある。昼間はどこの岩に転がってもそのまま眠ることができた。岩に張り付いて眠ってしまうことを山用語でトカゲといって、それを好んでいた。さすがに、皆からは眠る天才だとすら言われた。 日常生活から用意に切り離した自由を謳歌できる精神はありがたいものだ。本書はそのあたりの手続きのようなもの、自由の価値について、より具体的に、地域的に、必要な道具のアドバイスなども添えて、比較的忍耐強く書かれた萬月氏にしては珍しいタイプの新書である。萬月文学の解読に役に立つわけではないと書いたが、唯一「たびを」には相当重複す原点行動が本書内に散在しているようである。何よりも、著者の豊富な髪の毛のある若かりし写真などは、この本を置いては他に拝見する機会がないかもしれない。と、ある意味で、とても貴重な一冊である。 (2007/02/25)
https://w.atwiki.jp/nenohitohatiue/pages/595.html
≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠ カード名 . ..: 果てに至る滅亡 無 [エンディング]≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡ レアリティ...: L≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡ カードスキル : [最果ての悪魔]をリアライズする/残響:[最果ての悪魔]を忘却する≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡ ステータス. . : コスト:5 【代償(8)】【残響】≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡ フレーバー .: 嫌だ。嫌だ、終わらせてたまるか、諦めてたまるか!≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠ +口上 閉じる事すら忘れた最果ての物語よ……我が呼びかけに応え、今一度、繰り返せッ!ここ、にッ! 結末を失った物語を顕現する!その繰り返しが、例え無念に終わろうと――!今度こそ……!離された手を、繋ぐことを、願うならば……!―― レジェンド・"リライズ"……![果てに至る滅亡]ッ! by海野雅
https://w.atwiki.jp/akatonbowiki/pages/5490.html
このページはこちらに移転しました DoDoDo! 作詞/しょたきのこ 作曲/ちくわみそ Eiya! Shock, kick, shut! Will I take again? So still you must show your Ollie. Pick the key, and Don't forget it, or you may lose yourself. Wait, step, break! If I were what you're on watching out I could be willing to sail. Dividing your own world, yet avail yourself and wait on. "leave me alone" such a phrase have you spent a lot. Handle a vehicle, and decide in a direction. Open your heart, release. Raise your face at a deep blue sky. little remained for you to do So at once do it. and do, do! Raise your face,and can see vast land. a lot you've got ever in this world So at once by it, do and do! 音源 DoDoDo!
https://w.atwiki.jp/orirowavr/pages/235.html
コンピューターの誕生。 それは人類の歴史における一つの技術的特異点(シンギュラリティ)であることは間違いないだろう。 コンピューターの齎した恩恵は数知れないが特筆すべきはネットワーク技術の開発である。 ネットワークは世界を繋げた。 その発展は目覚ましく、あっという間に世界の在り様を塗り替え情報化社会を到来させた。 情報、通貨、それこそ人の命まで、ネットワークに存在しない物はないと言っても過言でないだろう。 今や電脳空間(サイバースペース)は陸海空宙に続く第五の戦場と定義されている。 その電脳空間に作り上げた世界。 それが仮想現実(バーチャルリアリティ)である。 仮想現実は人工的に五感を刺激することによって疑似的に世界を体感させる技術である。 それは人間の視覚と聴覚をコンピューターによって再現することから始まった。 次に再現されたのは匂い、続いて感触、触り心地と続き、そして果てには味までも再現可能としたのである。 だが技術の発展に限界はなく、人間の想像に果てはない。 仮想現実における五感の再現を実現した人類が、次に取り掛かったのが「意識」の再現である。 それはアバターをコントローラーによって操作するのではなく、脳波によって動かせるようにするというものだ。 これにより、現実の感覚に近い、より深い没入感を得られる事となる。 苦痛や痛みなどといった不快な感覚をどこまで再現すべきか。 現実と仮想世界の区別がつかなくなり危険な行動を起こす可能性がある。 などの倫理的な懸念いくつか挙げられたが、そう言った物を除けばとりわけ技術発展は順調であったと言えるだろう。 そのモデルケースとして開発されたのが、この『New World』である。 現実に変わる新たな世界を創り上げる事を目的として、電脳空間に生み出されたその名の通りの新世界である。 最先端技術の粋と、技術者の情熱と夢によって作り上げられた人類の未来だ。 だが没入感を高めていったところで、その行き着く果ては、現実の模倣でしかない。 新たに世界を創るからには現実よりも優れていなければならない。 仮想現実は現実と違い世界を自在にデザインできるのだから。 気候、災害、天変地異、エネルギー問題。 人間の生きる世界はあろうことか人間が生きる事を想定して創られてはいない。 その世界に異議を唱え『新世界』を望む者がいたのならば。 それは神を否定し、挑む者なのだろう。 ■ 仮想世界における殺し合いは1日を待たずして佳境を迎えていた。 電子妖精により電脳世界に導かれた40名の勇者たち。 彼らは愚かにも死を加速させていった。 生き残りは5人。 その5人もまた、それぞれの目的にために殺し合うのだろう。 殺し合いの螺旋は続く。 殺し合う理由も分からぬまま。 ■ 諸島エリアに点在する島々。 最北に位置する小島にその教会はあった。 古びたその佇まいからは、教会の重ねてきた年月が感じられるだろう。 丁寧に教会の手入れする神父、日々の祈りを捧げる人々。 目を閉じれば、そこに生きる人々の姿が幻視できるようだ。 だが、そんなものありはしない。 この世界は全てが幻想の作り物である。 積み重ねられた年月もそう在ったと作り込まれているだけにすぎないのだ。 視野を広げて見れば、端の小島に建てられた教会の周囲には民家もなく便利性の悪さが目に留まる。 積雪地帯と隣接しているにも関わらず、快適な気温が保たれているこの島もそうだ。 異常な気候、異常な立地、異常な世界。 少し視野を広げれば歪みはどこにでも目に留まるだろう。 全てがありながら、あるはずのものがない。 酷く歪で、それでもなお成立する理想の世界であると見て取れる。 だが、そこからでも感じられる確かなものが一つだけあった。 これほどの世界を創り上げるために、注ぎ込まれた時間と情熱だ。 そこには積み重ねられた人類の技術と、作り手の矜持が詰め込まれていた。 それは素晴らしいものであるはずなのに。 それを恐ろしいと感じてしまうのは人間が臆病だからか。 積雪エリアが除外され北への道筋が絶たれた事により、その島は行く先のない最果ての袋小路となっていた。 そんな最果て島の東端には小高い丘がある。 この教会が立っていたのはそんな丘の上だった。 教会のすぐ裏手には海が広がっており、大きく息を吸えば潮の香りが鼻孔をくすぐる。 古びた白い石造りの小さな教会で、正面玄関の上に掲げられた十字架が太陽の光を浴びて輝く。 その脇にある小さな花壇では、色とりどりの花々が咲き誇っていた。 潮の匂いを含んだ風がそよぎ、花弁と共に少年の前髪を揺らす。 十字の影が落ちるその下で、瞑想するような静かさで正義は時を待っていた。 待ち人は、気の置けない友人などではない。 これより行われるのは血で血を洗う決闘である。 決闘相手は幼い同行者の命を奪った悪鬼である。 そして一度敗北した相手だ。 まともにやれば勝ち目のないほどの強敵だろう。 そんな相手との決闘を間近に控えながら、その心中は驚くほど穏やかだった。 乱れる事のないまるで凪。 それは明鏡止水のスキルによるものか、それとも既に心が決まっているからか。 迷う必要などない。 揺れる余地などない。 覚悟とはそういう物なのだろう。 決闘に向け、出来うる限りの準備は既に終わらせている。 人事は尽くした後は天命を待ちつのみ。 正義は目を閉じ、心静かに敵を待つ。 ■ 果ての見えぬほど広い海。 その上に一人漕ぎの小さなボートが波に揺れながら浮かんでいた。 命無き海を静かに漂うのは命を奪う事を旨とした殺し屋である。 殺し屋は海中戦にて海の王者を退けた。 電子の海にはプランクトン一匹いなくなった。 生命の源たる母なる海に今ある命は一つだけ。 全て殺し尽くす彼が通った後には生命は残らない。 本名不明、経歴不明。ただ殺すという行動そのものがこの男の存在を証明していた。 殺(シャ)。 殺し屋はそう呼ばれていた。 ボートに仰向けに倒れ込んでいたシャが体のバネで跳ねるように身を起こす。 小さな波を立てる事もなくボートに起立するとコキリと首を鳴らした。 減圧症による疲労感や体の痛みは気功スキルの効果によって幾分か緩和されている。 体調は万全とまではいかずとも動ける程度には快復したと言っていいだろう。 船上に直立した状態で周囲を見る。 風景は変わらず海ばかりだが、水平線の先には諸島エリアの島々が見えた。 まともに操舵もできず潮流に流されるしかない状況だったが、潮目がよかったのか目的地からはそう外れてはいないようである。 大和正義より送られてきた決闘状。 シャはそこに指定された、諸島エリアにある教会に向かっていた。 決闘状の中には時間の指定はないが、シャ自らが敷いた逃亡禁止ルールがあるため、これを無視して他に向かう事もできない。 もっとも、そんなものがなくとも売られた喧嘩を無視するなどありはしないのだが。 右腕を強く握り締める。 金属が軋むような硬い音がした。 その右腕は生身ではなく義手である。 幻肢痛などはなく、それどころか神経が通っているかのように自在に動かせる。 現実ではありえないほど精巧な義手である。 この義手の機能に不満はない。 だが、その原因を作った相手には報復をせねばならない。 殺し損ねた相手がいるとなっては殺(シャ)の名折れである。 わざわざ決闘状なんてものを送り付けたのだ。 余程死にたいのだろう。 死にたいのなら殺してやるのが情けである。 死にたくなくても殺すのだが、それはそれ。 殺す事こそシャの存在意義。 因縁はその瞬間を味わい深くするスパイスだ。 ボートが波に揺れる。 楽しみで仕方がない。 その心境を示すように、愛しき仇敵の元に向かって船は少しばかり加速した。 ■ 海は太陽を照り返し、光り輝く波間が見える。 風が澄んでいるのかひときわ高い橋の上からは遠くまでが見て取れた。 橋の上から見える風景はどこまでも美しいのにどこか物悲しい。 それはまるで一人取り残された彼女の心情を表しているようだ。 誰もいない孤独の橋上で強い風に吹かれて漆黒の堕天使の片翼が揺れる。 有馬良子は打ちひしがれていた。 ソーニャは電脳世界で育まれた友情よりも元の世界のアイドルとしての絆を選んだ。 ソーニャにとってアイドルはそれだけ大事なモノだったのだろう。 それ自体は仕方のない事だったのかもしれない。 選ばれなかったことは素直に悲しいが、半日程度の絆では繋ぎ止める事は出来なかったのだろう。 だがそれでも、死を選ぶという選択は良子には理解できない。 死は当たり前に忌諱する物である。 ごく普通の女子中学生でしかなかった良子には、どのような覚悟や絶望があれば自らそれを選ぶことができるのか想像もつかなかった。 これまで連れ立った友人の死は、支えを失ったに等しい。 ここまで強がってこられたのは彼女が居たからだ。 何の力もない自分は助けられてばかりだった。 この世界にきてここまでの静寂を感じるのは初めての事だ。 それは一人きりになるのが初めてだからと言うのもあるのだろうが、それだけではない。 ずっとそばでソーニャが騒がしくしていてくれたから。 あれは良子の心を慮った彼女の気遣いだったのだと今更ながらに気づかされた。 失ってから気付く、なんて漫画でよくある展開をまさか自分が味わう事になるなんて思わなかった。 悲しいことが嫌いで、自分と周囲を楽しませることを追い求めた少女。 人見知りな良子の心を解かせたのは彼女だった。 友人を失った時に傍にいてくれたのは彼女だった。 彼女はどこまでもアイドルだった。 だが希望(アイドル)は失われた。 いつまでもこうして嘆いていてもその事実は何も変わらない。 そんな事は分かっている。 死にたくないのならば、すぐに気持ちを切り替えて立ち上がらなければならない。 今すぐにでも道を戻って正義を頼るでも、自分一人できる何かを探すでもいい。 立ち上がって、やるべきこと、出来ることはあるはずだ。 だが、それでも、今は。 この一時、悲しみに身を窶す事を許してほしい。 すぐに立ち上がれるほど有馬良子は強い人間ではないのだ。 ■ 陣野愛美は欠伸を噛み殺していた。 二つに分かれた運命の姉妹による血で血を洗う骨肉の争い。 あの時に感じた高揚は遠く、退屈が彼女を支配していた。 だが、彼女の退屈は完全なる力を得た今に限った話ではない。 電脳世界の殺し合いも、異世界における魔王討伐も。 彼女にとっては最初から勝つと分かっている退屈な戦いばかりであった。 2度にわたる異世界召喚という数奇な出来事に巻き込まれ、運命はここに集約した。 それは偶然ではなく必然。 世界が陣野愛美を祝福するためのお膳立てに過ぎないのだ。 陣野愛美は自身を疑わない。 陣野愛美は自身を愛している。 世界が自身を祝福していると確信していいる。 その確信こそが彼女を彼女足らしめる根本である。 生まれ落ちた瞬間から別れてしまった己の運命。 それを得るための戦いに比べれば全ては取るに足らない些末事。 既にこの世界で成すべきことは終わっている。 後はこの完全なる魂を持ち帰るだけで終わる話だ。 半身を取り込んだ時点で、既に彼女の勝利は確定している。 完全なる魂を得た彼女に勝てる存在はこの世界にいない。 生き残り全てが同時にかかってきたとしても、手傷も負わず全滅せしめるだろう。 これから始まるのは残った虫を潰してゆくだけの、面白くもないただの作業である。 せめて暇つぶしになる程度には面白ければいいのだが。 ■ 「ハァ―――――ッ!」 少女の雄叫びが草原に響く。 拳を握りしめ飛びかかる。 美空善子は挑んでいた。 相手は同行者であるアイナを喰らった仇であり。 幼い彼女を殺しておいて何の罪悪感も抱かぬ怪物である。 そんな相手に挑んだのは善子の方だ。 相手は善子の事など歯牙にもかけていなかった。 あのままどこか遠くに逃げてしまうことだってできただろう。 だが、そうしなかった。 逃げるなんて、美空善子らしくない。 挑まないだなんて、美空ひかりではない。 勝ち目など見いだせないほどの強敵。 だが彼女が勝ち目のない戦いを挑むのは初めての事ではない。 秋葉レイ。 たった一人で何年もアイドル界を引っ張ってきた伝説のアイドル。 そんな相手に果敢にも善子は挑んだ。 若さゆえの無謀さだったことは否定しない。 けれど、決して勝てないなどとは思わなかった。 挑むからには勝つつもりでいた。 それこそ善子が道場で叩きこまれた不屈の精神だ。 どういう経緯でそうなっているのか、奇しくもその強敵は嘗ての強敵と同じ格好をしていた。 伝説のアイドル秋葉レイのステージ衣装。 それが尚の事、彼女の負けん気を刺激し燃え上がらせる。 実力では勝てない。 そんなことは戦う前から分かっている。 だからと言って勝ち目がない訳じゃない。 挑まなければそれこそ0だ。 だからこそ気持ちだけは負けないように気を吐いた。 「レイさんの方がカッコよかったっての!」 少女は常に挑戦し続ける。 ■ 理想を求めた新世界。 穢れなき大地は血に塗れる。 何を求めて、どこに向かって。 人は血を流し続けるのか。 新世界における最初にして最後の殺し合いが始まろうとしていた。 ■ 殺し屋は海より現れた。 小舟を島の西端に接岸させると、トッと軽く跳躍して目的地となる小島へと音も無く上陸する。 取り残された小舟が波間にちゃぷちゃぷと揺れていた。 踏み出す足元には雫が垂れ落ち砂浜を滲ませる。 これまでの船路の険しさを示すように濡れた漆黒のチャイナ服が体にへばりついていた。 手の平の雫を払うように殺し屋が手を振るった。 すると、周囲にくすんだ黄色い風が吹き荒れ、濡れた服を一瞬で乾かす。 それは炎と砂の気による乾燥機だ。 手に入れた力を恐ろしいまでに使いこなしている。 装いも新たに殺し屋は悠然と草原を進んでゆく。 そして小高い丘を越えた先に、古めかしい教会と色とりどりの花が見えた。 その前には静かに佇む白い制服に身を包んだ少年が一人。 落ちる十字の影を挟んで神の家の前で二人の男が向かい合う。 「―――――こんにちハ」 人好きするような温和な顔を張り付けながら、殺し屋は少年の前に立つ。 笑っているような糸のように細い目はその実、奥底に深い闇を宿していた。 その呼びかけに少年、大和正義は無言のまま視線だけを返した。 現れた待ち人に違和感を覚え僅かに眉を顰める。 観察眼を持たずしても気づくような大きな違和感。 あるはずのないものがある、それを指摘する。 「その右手、落としたはずだが」 切り落としたはずの右腕が復活している。 その指摘を受け、シャはああと呟くと見せつける様に右腕を触り。 「義手ですヨ。あの子供が丁度5人目の獲物デネ、運営からノご褒美と言うヤツサ」 「――――――貴様」 幼き同行者の死を嘲笑うような発言に正義の視線が鋭く尖る。 その殺気を涼風のように受け流しながらシャは笑う。 「逸るなヨ。ソッチから聞いたんでしょウ?」 シャは構わず、雑談でもするように言葉を続けた。 「ソレよりもキミにお礼を言っておくべきカナ? ソレとも苦言と言うべきか」 「何の話だ?」 正義からすれば礼も苦言も言われる心当たりはなかった。 因縁の炎の塔で別れて以降、二人に直接的な接触はない。 挑戦状を介して接触をしただけである。 「水の塔を支配シタのはキミだろウ? ワタシもチョウド水ノ支配者と戦っテいてネ、キミが支配権を奪イ取っタお陰で不完全燃焼に終わったヨ。 マサしく勝負ニ水を差されタ、と言うヤツだネ」 結果として命を救われる形になったが、シャからすれば余計なお世話だ。 あのような助けがなくとも勝利できた。 その自信はあるが、その証明が不可能になってしまった。 返すべき借りが増えた。 それが右手の借りと同じ相手であるのだからまったく喜ばしくて仕方がない。 殺し屋は、口端を歪めて嗤う。 「そうかい。命拾いしたようでなによりだ」 涼しい顔でさらりと皮肉を返す。 シャは表情を変えるでもなく、笑みのまま返した。 「ダガ、キミにトッテは不運だったのデハ? コウして勝ち目のナイ戦いを挑む羽目にナッタのだカラ」 「そうでもないさ。狙い通りだ。塔の支配はお前をこちらにおびき寄せるための餌なんだから」 ふむと頷く。 他者によるシャの死を良しとせず、わざわざ呼び寄せた。 それはつまり、自らの手で殺したいという事だ。 「敵討ち、トいうヤツデスカ?」 わざわざ自分の手で倒すなど不合理極まりない。 だが、借りを返すというその気持ちは理解できないでもない。 シャも受けた屈辱は必ず返す。なにより復讐は気持ちがいいモノだ。 だが、正義はそうではないとゆっくりと横に首を振る。 「そう言う気持ちがあることも否定はしない。だが、それだけではないさ」 「…………ナルホド。ソウ言う事カ」 その返答で、シャは正義の意図を正しく理解した。 「目当ては支配権ダネ?」 その問いに正義は肯定も否定もせず無言で応じた。 答えずともシャはそれを肯定と捕らえる。 ゲームヒントによればゲームクリアには全ての支配権が必要であるという。 シャが持つ3つの支配権を得れば、全ての支配権を獲得できる。 そのためには他者に奪われる前に自分でシャを倒す必要があった。 「意外ダネ。キミが優勝を目指してイルとは」 「そう言う訳ではないさ」 「デハ、何のタメに?」 「決まってる――――――守護るべきを守護るためにだ」 人間は万能ではない、全てを救う事などできない。 出来るのは手の届く範囲を守護る事。 牙を持たぬ弱者の剣となる。 その正義を貫くために。 「ワカラないデスネ。ソレがコレとドウ繋がるのカ」 「少なくとも、お前を排除すれば助かる人もいるだろう」 無差別に人を殺す、悪意無き殺意の塊。 これを排除するのは誰かを守護る事に繋がるのは間違いない。 「マァ、イイでショウ」 言って、首をコキリと鳴らし脱力するように手足を振る。 リラックスする様子とは対照的に纏う空気は張り詰め、剣呑なモノに変わって行く。 雑談は終わりとばかりに殺意を開放する。 殺気と視線がぶつかり空間が歪む。 「殺す覚悟はデキましたカ? 孩子」 腕ではなく、首を落とす覚悟。 それができたのかと、嘲笑うような表情で問う。 「言っただろう、そんなものは最初からできている、と」 答えるように刀を構える。 必要とあらば相手を殺す事に躊躇いはない。 だが、殺す覚悟を持つという事は誰彼構わず殺すという事ではない。 見誤ったのは、その線引き。 殺さずとも事を収められると己自身を過信し、敵を見誤った。 今はもうそのような余分は正義の中には存在しない。 十字を臨む神の家にて、手を祈りに塞ぐでもなく刀と拳を握り締める。 運命は己が手で切り開く物。 対極の生き方を貫く二人の男にとって、それこそが唯一共有する信念だった。 「デハ、ソロソロ始めまショウカ」 「いつでも」 正義は静かに日本刀の切っ先を下げ、相手の出方を伺うように下段に構えた。 対するシャは拳を軽く握っただけの構えを取らぬ自然体。 一見すれば隙だらけに見えるが、その立ち姿には隙らしいものが見当たらない。 ジリとどちらとも知れぬ土を踏みしめる音が響いた。 それを最後に、波の音すら消えて静寂が世界を包む。 瞬間。一際強い風が吹きつけた。 花壇の花弁が散って、空に飛んでゆく。 それを合図にするように、決闘の火蓋は切って落とされた。 ■ 「ハッ…………ハッ」 息を弾ませながら善子は草原を駆けていた。 踏み抜かれた草原の葉が千切れるように散って風に流れてゆく。 風の様に駆け抜けるその様は陸上選手もかくやと見惚れるような美しいフォームである。 だが、状況はそんな美しいものではなかった。 善子の通り過ぎた直後、すぐ後方で地面が突然弾けた。 地中から炎が噴き出し上空に土塊をまき散らす。 弾けた土塊がパラパラと降り注ぎ善子の背を汚した。 善子は走っていた。 敵に向かってではなく、敵に背を向けて逃げるように。 威勢よく挑戦状を叩きつけておきながら、無様な敗走を喫している。 善子の先制攻撃は避けられることなく直撃した。 正拳、裏拳の2重のフェイントを入れた後ろ回し蹴り。 直撃すれば大男だろうと吹き飛ばす威力を秘めた善子の得意技である。 その攻撃の直撃を受け、表情を歪めたのは攻撃を仕掛けた善子の方だった。 以前の戦いでの手応えが根を張った大樹なら、今返ったのはまるで巨大な城壁でも蹴ったような感触だった。 その一撃で理解できた。 目の前に居るのは人ではない。 それは怪物を通り越して、もはや神々しさすら感じさせる神仏の域に達していた。 つぎの瞬間には善子は踵を返して脱兎のごとく走り出していた。 そして今である。 倒れそうになる体を立て直し、再度地を蹴り駆けなおす。 反撃に転じる余裕などあるはずもない。 止まっていれば、1秒先の死に追いつかれる。 愛美の放った『魔法』は見当はずれな方向に跳んで行き周囲の木々を破壊する。 掌を見つめて、狩人はつまらなさそうに独り愚痴た。 「うーん。当たらないわねぇ。炎や氷はともかく、光や闇はイメージしづらいのよねぇ」 愛美の掌で闇が形にならずに弾けて消えた。 今の彼女の興味は目の前の獲物にはなく、魔王より手に入れた『魔法』という玩具にあった。 比喩でもなんでもなく、愛美がその気になれば善子など指一本で殺せるだろう。 それだけの歴然とした力の差がある。 今もこうして善子が生きているのは彼女の実力などではなく、愛美が魔法で遊んでいるからに他ならない。 『魔法の王』は魔王から取り出された魔王の専用スキルである。 他者が使用することは想定されていない。 彼女が使用しているのはバグの様なものだ。 神より与えられた彼女のための力である完全魔術と一般的な魔法は勝手が違う。 魔法を使う感覚という物は現実世界で育った人間にとっては存在しない三本目の腕を動かすようなものである。 直感的に理解できないものであり、彼女をしても制御が難しかった。 だとしても、愛美の才覚があれば程なくしてコツを掴むだろう。 コツを掴めばそれで終わり、善子はそれまでの命である。 愛美にとって善子のみならず、他の参加者などただの羽虫も同然である。 敵にすらなり得ない。 戦いになどなるはずもない。 羽虫相手に本気になる人間はいないだろう。 鬱陶しいから叩いて潰す。その程度の相手である。 それは自分が負けるはずがないという慢心。 その余裕は油断を生み、大きな隙となるだろう。 だが、それがどうしたというのか。 魔王ならいざ知らず、ただの人間が何をしようが今の愛美には一切通用しない。 例え目の前で眠りこけていたとしても、善子では愛美に傷一つ付けることすら叶うまい。 何より愛美は慢心をすれども、油断はしていない。 善子が敗走を装いながら、何かを狙って走っている事も当然の様に理解していた。 観察眼は善子の誘導するような動きを見逃さない。 攻撃を避けながら、時折最適な動きとは言い難い無理が見える。 どこかに誘い込もうとしている魂胆が透けていた。 加えて愛美には読心スキルがある。 他ならぬ善子の同行者であるアイナより得た力だ。 劣化した能力では思考までは読めないが相手の感情は把握できる。 インターバルがあるため常時把握することもできないが、狙いを探るだけなら一瞬で十分だった。 善子から伝わってきた感情は緊張と焦り、そして高揚と希望だ。 そこに絶望は含まれていない。 この状況においても希望を捨てていないと言う事は何かを狙っていると言う事。 何を狙っているのかと言う具体的なところまではわからないが。 不意打ちをするでもなく、わざわざ声をかけたからには導いた先に相応の準備があるはずだ。 それがどのような物であれ、愛美を害することは不可能であろうが、この状況で何を見せてくれるのか興味はある。 彼女の目的はこの完全なる魂を持ち返る事。そのためにたった一人の勝者となる。 今の愛美ならば生き残りを皆殺しにすることなどそう難しい事ではない。 むしろ簡単すぎて退屈な作業にならないよう、こうして創意工夫して遊んでいるのだ。 完全なる暇つぶし。 油断に慢心。それでも勝てるという絶対の確信である。 「こう言うのはどうかしら?」 細かな狙いをつけられないのならば大雑把に。 広範囲に放たれたカマイタチのような風の刃が周囲の地面や木々を削る。 その一陣が善子の足元を掠めた。 「くっ」 鋭利な刃物で裂かれたように足首から血が噴き出し、善子の体がバランスを崩し倒れこみそうになった。 速度を落とさぬよう片手を地面について立て直そうとしたが、突然地面が不規則に盛り上がりその足元を掬われる。 立て直すことは不可能と踏んだ善子は自ら地面を踏み切った。 前周り受け身を取って地面を転がる。 左足で地面を強かに叩き、すぐさま立ち上がろうとしたが運悪く正面には一本の大樹が在った。 勢い余って体をぶつけて足が止まる。 「あらぁ? 逃げ回るのはやめたのぉ?」 足を止めた善子の下に、愛美が悠々と追いついてくる。 自らが破壊した地面や木々を気にも留ない優雅な足取り。 善子は答えず、切らした息を整えながら、木の幹に沿えた手に力を籠めた。 「動く的の方が練習になるんだけど」 愛美にとってはただの的でしかない。 どうせなら的は生きのいい方が楽しめるという物だ。 だが、善子はその場を動かなかった。 足の傷はそれほど深くない。 痛みはあるが、走れないと言う程の傷ではない。 感覚を掴んで来たのか、徐々に愛美の魔法の精度が高まっている。 逃げ回ったところで捉えられるのも時間の問題だろう。 だからと言って、諦めたと言う訳ではもちろんない。 走らないのではなく、走る必要がないのだ。 誘導は完了した、目的地はここだ。 睨み付けるようにしたその視線は、泰然と近づいて来る愛美の足元に向けられていた。 僅かに色の違う地面。 あと、一歩半愛美が進めばそこに辿り着く。 そこには落とし穴が仕掛けられていた。 露骨な罠だが、それは囮である。 雑に隠された囮の脇に巧妙に隠された本命が仕掛けられている二重の罠だ。 愛美が囮を避ける動作を見せた。 本命まであと半歩。 と言う所で、愛美はさらにそれをひょいと躱した。 巧妙に隠そうとも観察眼の前には無意味である。 何より善子の視線が露骨すぎた。 そんなものに引っかかる訳がない。 仕掛けられた本命の落とし穴を避け愛美が前に出る。 それでようやく、完全に狙い通りの位置に敵が来た。 善子が手を付いていた木の枝を弾いた。 その動きに連動して枝先に括りつけられたテグスが引かれ、愛美の背後の木の上に仕掛けられたボウガンが起動する。 完全なる死角から矢が放たれた。 愛美の後頭部に吸い込まれるように向かう。 それを、愛美は視線すら向けずに掴み取った。 愛美は掴み取った矢を握り、そのまま善子に投げつけるべく振りかぶる。 だが、そこで僅かに、手にした矢に違和感を覚えた。 その違和感に従い、矢の方向に愛美はようやく視線を向ける。 そこで初めて、彼女の目が僅かに見開かれた。 そこには一本の細い線が伸びていた。 それは矢尻に結ばれた一本のテグスだった。 どのような観察眼をもってしても、見なければ見つけようがない。 彼女はその超人さ故にその一手を見落とした。 テグスの先に括りつけられた何かが放たれた矢の勢いに引っ張られて飛来する。 愛美は反射的に遅れて飛来した袋のような何かを受け止めるが、それが手の平に触れた瞬間、中身が弾けた。 それは硫酸だった。 ボウガン、テグス、硫酸。 善子に支給された三つのアイテムを組み合わせたブービートラップ。 ボウガンの矢を導線に硫酸を浴びせる極悪な仕掛けである。 善子の流派は超実戦空手を謳う『無空流』である。 空手家の看板を掲げてはいるが、不意打ち、騙し討ち、武器の使用に至るまで何でもあり。 健全な精神の育成などクソ喰らえという勝利するための武道である。 実戦におけるメンタリティが違う。 一度勝利すると決めたのなら、どのような手段であろうとも実行を躊躇わない。 いかな超人とて硫酸を全身に浴びれば、ただで済むはずがない。 だが。 「――――少し、コツを掴んだかしら」 掲げられた掌の前。 球状に乱回転する風が液体を取り囲むようにして包んでいた。 この短時間で繊細な魔法のコントロールをものにした、恐るべき才覚。 「狙いはこれで終わりかしら? だとしたらガッカリね」 言って、手の平にある風球を包まれた硫酸ごと握り潰す。 わざわざ防いだ攻撃を自ら喰らうような愚挙に善子は驚愕するも、次の瞬間さらなる驚愕が襲いかかる。 開かれた手の平には僅かな火傷の様な痕が残っただけだった。 その痕も、すぐさま小さくなってゆき、あっという間に消え去った。 詰まるところ、仮に浴びせたところで無意味だったという事だ。 わざわざ防いだのは魔法のコントロールを試したかったと言うのと、新しい服が溶けてしまうのがもったいないからと言う程度の理由である。 「だったらもういいわ。暇つぶしにもならなかったわね」 酷くつまらなさそうにため息を零す。 期待外れもいい所だ。 もっとも最初から期待などしていないが、それすらも下回った。 魔法と言う玩具を習得した今、的としてしか価値がなかった目の前の相手はもういらない。 殺意ですらなく、まるで虫の命でも摘むように愛美は善子に向かって手を伸ばした。 「ひっ!」 引きつったような短い悲鳴が響く。 善子の全身に怖気が奔った。 その手に触れれば死ぬと、言いようもなく本能で理解できた。 恐怖に顔を歪めた善子が踵を返して走り出す。 逃げ込むように近くの建造物へと飛び込むと同時に、狙いを僅かに外れた水の魔法が建造物の壁を砕いた。 死に至るほどに威力は十分。走る速度が僅かでも遅ければ顔面に直撃していただろう。 善子は振り返ることなく入り込んだ建造物のトンネルのような薄暗い通路を逃げるように駆け抜ける。 まるで質の悪いホラー映画のようだ。 狭い廊下に反響するのは自分の足音だけ。 だというのに音もなく優雅に歩く愛美の方が懸命に駆ける善子よりも早いだなんて。 散歩の様な気楽さで歩きながら、優美は懸命に走る善子の背に照準を合わせる様に指先を向ける。 感覚は完全に魔法にアジャストした。 次の一撃を外すことはないだろう。 訪れるのは勝利とも呼べない当たり前の結果。 それが手に入ることを微塵も疑うことはない。 だが、この時点で気づくべきだった。 敵前逃亡を始めた善子が逃亡禁止に引っかからない事に。 いやそもそも、愛美は更新されたルールなど目を通していただろうか? 読心のインターバルは過ぎているのだからせめてもう一度確認すべきだった。 それを怠ったのは、あまりにも無様な様子に敵を見限り興味を失ったからである。 超実戦空手『無空流』。 不意打ち、騙し討ち、何でもあり 無様に逃げるふりをして敵を罠に誘い込むなど、常套手段である。 勝利を確信した相手程、嵌めやすいものはない。 狭い通路を駆け抜け、善子の視界が開ける。 これほどの怪物と化していたというのは正直想定外だが、善子では愛美を倒せない事自体は最初から分かっていたことだ。 ならば、殺せる相手の元に連れて行くまでである。 全ては最初からここにたどり着くための戦いだった。 愛美の指先からレーザーのような炎の矢が放たれた。 同時に、善子が舞台の中心で踊るようにターンして、愛美へと向き直る。 「あなたに決闘を申しこむわ!!」 その宣言をした瞬間、善子の心臓を貫くはずだった魔法の矢はシステムによって弾かれた。 僅かに遅れてたどり着いた愛美の視界に飛び込んできたのは、観客席が階段状に並ぶ円形闘技場だった。 つまりここは、地図上の中心に聳えるコロシアム。 闘技場における決闘システム。 決闘種目以外の暴力行為は受け付けられない。 決闘の申し込みが行われた瞬間からこのシステムは有効となった。 「種目は――――――」 ピンと伸ばした指を突き付け。 不敵に笑って宣戦布告を突き付ける。 「――――――アイドル!!」 ■ 「――――――シッ」 教会前の決闘。 静寂を打ち破り先手を取ったのは殺し屋だった。 明らかな間合いの外から腕を前へと振るう。 瞬間。正義の背後にあった教会の石壁が爆ぜた。 それは【気功】による不可視の遠距離攻撃である。 最高位であるSランクに達したそのスキルの威力は直撃すればそれだけで死に至る。 下手な拳銃よりも殺傷力があるだろう。 その不可視の脅威を、正義は僅かに首を傾けただけの最低限の動きで躱していた。 続いて放たれた気も半歩だけ足を引き回避する。 見切ったような的確なその動きはどう見ても偶然ではない。 全て観えている。 正義はこの決闘に備えて【観察眼】のスキルをAランクにまで引き上げていた。 気が透明であったところで、それが通る瞬間の僅かな空気のブレは存在する。 最上級の【観察眼】を持ってすれば、それが観える。 観えているのなら、ただの遠距離攻撃など避けるのは容易い。 「良きネ。コノ程度は対処してもらわないト。 小手調べで終わっタラどうしようカト思いましたヨ」 そう言って、攻撃の手を止めたシャは相手を値踏みする悪魔のように嗤う。 そしてようやくシャが構えらしい構えを取った。 左足を前へと踏み込み、両手を突き出すように開く。 象形拳における基本の構え三体式である。 あいさつ代わりの小手調べは終わり、とばかりに本格的に攻めに打って出るつもりなのだろう。 だが、その出足が挫かれた。 鼻先を掠めるように刀が弧を描く。 素手に対して武器を持つ側の有利な点は枚挙に暇がない。 一撃の殺傷力に、視覚的な圧力で相手を怯ませる精神的優位もある。 その中でも最も分かりやすいのは、間合いの有利である。 実に単純な話だ。 武器を持っている方が、攻撃できる範囲が広い。 こればかりはいかな達人の領域に至ろうとも覆しようがない事実である。 舞うように剣が飛び交った、その軌道は変幻自在にして千変万化。 見惚れるほど流麗な剣技は流れる水のようだ。 だが、それは全ての斬撃が的確に敵の急所を容赦なく攻め立てる、見惚れた瞬間に首が落ちる死を孕んだ激流である。 実戦とは間合いの潰し合いだ。 極端な話、敵の攻撃の届かぬ位置からこちらの攻撃を当て続けられるならどんな相手であろうと完封できる。 正義はその間合いの優位を生かして、入り込ませないように立ちまわっていた。 そんな瀑布の如き勢いで繰り出される斬撃を、暗殺者は涼しい表情のまま回避していた。 当たれば死ぬ真剣の斬撃も暗殺者にとっては児戯のようなものなのか、その様子はまるで遊具で遊ぶ子供のようだ。 攻撃の合間を縫って反撃とばかりに多様な属性を込めた『気』を放つ。 観察眼によって全てを見切り身を躱す、避けきれぬモノは刀で斬り落とした。 そんな離れた位置からの攻撃など当たる正義ではない。 その攻撃はシャとしても当てるつもりの攻撃ではない。 あくまで攻め込ませぬために隙を潰す牽制である。 示し合わせたように互いの動きに合わせて攻撃と回避を繰り返す。 未だに互いに傷一つ負わず、血の一滴も流れていない。 奇妙な利害の一致の様に、互いに相手を踏み込ませぬことに徹していた。 それは傍から見れば華麗な演舞のようでもあった。 だがその実、放たれているのは互いに一撃で死を齎すだけの威力を秘めた攻撃である。 一度しくじれば命を落としかねない攻防を続けながら互いに機を見計らっていた。 どのタイミングでリスクを冒して踏み込むか。 どちらかがそのリスクを侵した時点で勝負は動く。 どちらにそれを動かす主導権があるかと言うのなら、間合いを制する正義にあるだろう。 だが、その推測は容易く裏切られた。 「些か退屈ネ」 タンと、一歩。 状況に飽きた漆黒の殺し屋がその天秤を強引に動かした。 剣が舞う死の領域へ自ら踏み込んで行く。 だが、それは無謀と言う物だ。 領域を侵す侵入者に対して剣の嵐は容赦をしない。 剣士はその動きに合わせて刃を振るった。 シャの踏み込みは鋭いが、それでも先に攻撃が届くのは間合いの長い正義の刀だ。 前がかりに踏み込むシャに、その刃を避ける術はないだろう。 だが瞬間。弾けるような火花が散った。 振り抜かれた刃を拳が弾いたのだ。 刹那の見切りを見せたストリートファイターの様な絶技ではない。 これは単純に、力任せにただ弾いただけである。 それを可能としたのは、皮肉にも正義に切り落とされた右腕による恩恵だ。 シャに与えられた義手は彼のために誂えられた特別性。生半可な刃など通りはしない。 正義の返る手応えはまるで鋼鉄でも叩いたかのようだ。 渾身を籠めた斬撃が直撃していながら義手には傷一つない。 その義手の素材は鉄か、鋼か、はたまた別の合金か。 分かるのは今の正義では断ち切れないと言う事だけだ。 刃が弾かれ、止むことのなかった剣撃の豪雨が止んだ。 その一瞬。僅かに開いた空間にぬるりと黒い影が忍び込む。 間合いは、剣から拳へ。 砲弾が如き左の崩拳が放たれる。 その鋭さに驚愕しつつも、正義は何とか身を躱した。 だが、シャは止まらずさらに懐に踏み込むと拳を振り上げ劈拳を振り下ろす。 鎖骨を粉砕せんとする戦斧の一撃を正義は刀の柄で受け止めた。 「くっ」 凄まじい筋力。 攻撃は何とか受け止めたが、押し込まれるように片膝が沈む。 それを立て直すよりも早く容赦のない追撃の蹴りが放たれた。 咄嵯に正義は崩れた体制を立て直すことを諦め、むしろ自ら倒れ込むようにして身を捻った。 だが避けきれず、蹴りが脇腹を掠める。 それだけで凄まじい衝撃が突き抜け、正義の体は弾かれたように回転しそのまま地面を転がって行った。 脱輪したタイヤのように回転しながら数度地面を跳ねる。 それを静止すべく、正義は日本刀を地面に杭のように打ち付けブレーキをかけた。 なんとか停止する事に成功した正義は、息を突く間もなくすぐさま刀を振るった。 金属がぶつかりあったような甲高い音が響く。 既に目の前に迫っていた鉄の拳を弾いたのである。 立ち上がりの追撃を予測して刀を振るっていなければ頭蓋を砕かれていただろう。 「ハッハァ―――――――!」 狂気的な笑み。 片腕を弾かれた事に構わず暗殺者がさらに踏み込む。 懐に潜り込めば有利は剣士よりも拳士にある。 武器に対して素手の有利な点は手数の差だ。 武器は重く、ふり幅も長いため切り返すにも時間がかかる。 長物が2度切り返すまでに素手ならば3発は叩き込めるだろう。 次の一手が早いのは確実に武器より素手だ。 疾風もかくやと放たれる暗殺者の拳。 振り上げたまま手が放され、日本刀が空中で円を描くように廻る。 自らの腹部の中心を貫かんとする拳を正義は内受けで捌いていた。 次の一手が早いのは武器より素手だ。 故に、正義も素手で対応した。 一撃を捌いた正義はそのまま流れる様に肩関節を取り脇固めの体勢に移る。 だが、その拘束は凄まじい力で振りほどかれた。 完璧に決まった脇固めを筋力だけで振りほどくなど、幾らなんでもありえない。 その筋力は異常と言えた。 戒めを解かれた腕が伸び、そのまま正義の胸倉を強引に掴むと投手のような体制で振りかぶる。 そして、正義の体が容易く宙に放り出された。 「オッと」 頭から地面に叩きつけるつもりだったが、少し力が強すぎた。 掴んでいた服が破れて放り投げてしまったようである。 宙に放り出された正義はそのまま自ら回転して空中で体制を立て直す。 そして両足で地面に着地すると、狙ったように落ちてきた刀をキャッチした。 放り投げた刀が落ちてくるまでの一瞬の攻防だったが、正義が生き延びたのはただの幸運である。 服が破れていなければ死んでいただろう。 全てにおいてシャは正義を上回っている。 正義も決戦に備え残りのアンプルを全て使用してステータスを大幅に引き上げているが、それでも足りない。 このまままともにやりあえば、正義の敗北は必至だろう。 「つまらないデスネ。炎ノ塔の時と大差ナイようでハ」 シャは着地した正義を追撃もせず、退屈さを隠さず欠伸を噛み殺したような表情でため息を零した。 多少の強化されているのは認めるが、期待外れだ。 果たし状などという物を寄越した上に、わざわざ場所まで指定したのだ 罠でも仕掛けているのかと思い警戒していたがそういう訳でもなさそうだ。 これでは砂漠の龍や炎の格闘家や海のサメの方がまだ楽しめた。 「マサカ、コノママ無策と言う事もナイのでショウ?」 「……さて、どうかな」 正義は引かなかった。 刀を正眼に構え直し、呼吸を整える。 なにせ、引く理由がない。 「少なくとも、ここまでは予定通りだよ」 「ハッ! 減ラず口ヲ――――!」 正義の言葉を笑い飛ばすとシャは大胆な踏み込みで間合いを詰めた。 正義ではシャの義手を断つことはできない。 その事実が意味することは、全ての攻撃をシャは防ぐことができるという事だ。 今更踏み込みを躊躇う理由がない。 だが、間合いを詰めたのはシャだけではなかった。 正義も受けるのではなく、自ら攻めに転じていた。 同時に狭まる間合い。 機先を制し、義手のない左を狙った横薙ぎの一閃を放つ。 シャは咄嗟にしゃがみ斬撃を躱す。 逃げ遅れた数本の髪の毛が宙に舞った。 風切音が頭上を通り過ぎたと同時にシャが素早く反撃に転じる。 だが、立ち上がろうとするシャが気づいた次の瞬間、既に目の前に迫る刃があった。 速い。 いつの間に刃を切り返したのか? そんな疑問を抱くより早く、シャの体が反応する。 振り下ろされる刃を右腕の義手で弾くのではなくそのまま下へと受け流す。 そして、武器を押さえつけるように封じて敵の動きを制した。 攻撃が一本の刃に依存する剣士に対して、五体は手足や頭部に始まり肘、膝、肩、果ては指先に至るまで自由である。 肘、膝、そして頭突き。 ただの頭突きではない、鉄頭功によって鍛え上げられた頭突きは十分に必殺の威力を持っている。 刃を押さえつけたまま、カウンター気味に鋼すら砕く威力を持った三連打を見舞う。 迫る三つの死。 その全てを正義は冷静な眼で見極める。 そして膝蹴りに合わせて、踏み台にするように足裏で踏みつけた。 そのまま敵の力を利用し後方へと大きく宙返りをする。 距離を取って猛攻をやり過ごすと地面に着地した。 シャは僅かに切りそろえられた前髪を弄りながら、口元を釣り上げる。 「呀、ドウいう仕掛けカ」 「さて、何のことだか」 軽口を叩きながらも油断なく相手の様子を窺い合う。 先の攻防において正義は僅かに一瞬だが、シャの余裕を奪うほどの切れ味を見せた。 まぐれという事もないだろう、正義の態度からして何か仕掛けがあるはずだ。 「――――試そうカ」 その仕掛けが何なのか。 それを知るためにシャは再度仕掛けた。 正面からの突撃。 実験体は我が身である。 風を切る鋭い音とともに放たれた鋭い蹴りが正義へと迫る。 その動きは俊敏にして的確、常人であれば反応すらできずに死に至るだろう。 だが、その足刀を受け流す刀が在った。 手首を捻って刀身を滑る足を弾くと、返す刃で逆袈裟に切り返す。 シャは慌てることなく刃を右腕で受けながら、同時に逆腕で相手の後の先を取る炮拳を打つ。 五行拳における火行とも呼ばれるその一撃は文字通り炎を纏っていた。 炮拳に胴を打たれ正義が体をくの字に折り曲げた。 だが直撃ではない。上手く打点を外している。 とはいえ、なんとか倒れずに済んだものの、大きな隙を晒してしまった。 こうなっては次の一撃を避けられまい。 そこに容赦なく抉るような横拳が放たれる。 だが、その一撃は空を切った。 正義の前蹴りによってシャの体が後方に押し出されたからである。 シャは僅かにたたらを踏むが、すぐに踏み止まり立ち止まった。 すぐには攻めることはせずそこで動きを止め、平然と足跡のついた服を払う。 特にダメージを負ったという訳ではないが、攻めきれなかったのも事実である。 未だ脅威と呼ぶまでには至らないが、想定よりも対応が早い。 このゲームに合わせた言葉を選ぶなら、ステータスが上がっているのだろう。 だがどうして? ここまで使わなかったモノを急に使う理由が不明確だ。 使うのならば最初から使うか、もしくは最後の一瞬まで隠しておくべきだろう。 小出しにする理由がわからない。 尻上がりに能力の上がる類のスキルか。 それとも別の発動条件のある何かなのか。 シャは正義の力の考察を始める。 「ッ!」 だが、その思考が強制的に断ち切られる、正義が仕掛けてきたからだ。 余計な思考を許さぬ喉と両目を狙った三段突き。 シャは上体を逸らしたダッキングのような動きでその全てを避けた。 だがそれで終わりではない。 正義はそのまま流れるように下から掬い上げる軌道で刀を振り抜く。 シャはそれすらも紙一重で回避すると、自ら前へ踏み込み水月に向けて拳を打ち込んだ。 しかし正義もこれを読んでいたかのようにその一撃を躱すと、そのまま後退しつつ体勢を整える。 シャはそれを見つめながら静かに構え直した。 ゆっくりと考えている暇はなさそうだ。 相手の手の内への考察を捨て、目の前の相手に集中する。 「少しは楽しめそうネ」 ■ 「種目はアイドル――――――!!」 闘技場にて高らかに決闘が宣言された。 次の瞬間、愛美の目の前に挑戦状のようにポップアップが表示された。 『美空ひかりより決闘が申し込まれました。決闘を受けますか?』 [はい] [いいえ] してやられた。 ここにきてようやく愛美も気付く。 この女の行動は全てこの状況を作るための布石だったのだと。 わざわざ声をかけたのは、言うまでもなくこの場所に愛美を誘導したかったからだ。 あの罠は何処かに誘導しようと言う思惑を誤魔化すためのもの。 仮に硫酸を浴びてダメージとなったならそれはそれでよし。 効かなくともスタジアムの入り口まで真っ直ぐ導線を敷く位置に陣取れる。 絶対に殺せない愛美をゲームルールで殺そうというのだろう。 まったく全てが憎らしいくらいに計算尽くだ。 だが、それがどうしたと言うのか。 この決闘を受けるかどうかの選択権は愛美にある。 愛美にこんな挑戦を受ける道理などない。 速やかに[いいえ]を選択し、闘技場の中心で逃げ場のなくなった相手をそのまま殺してしまえばいい。 迷うことなく愛美の指先は[いいえ]の上に滑って行き。 「――――挑まれた勝負から逃げてはならない」 ピタリとその指が止まる。 その様子を確認しながら善子が続ける。 「ねぇシェリン。これに違反した場合どうなるのかしら?」 『逃亡禁止ルールに違反した場合、ペナルティが発生します』 示し合わせたようにシェリンが回答する。 無論、シェリンは中立である。 事前に確認した通りの機械的な応答をしたにすぎない。 そのワザとらしいやり取りを無言のまま聞いていた愛美の[いいえ]に合わされていた指が別の場所に逸れる。 空間をスワイプさせ、スクロールしていく文面をなぞるように目線を送る。 恐らく今になってようやく改定されたルールを確認しているのだろう。 追加された逃亡禁止ルールだが、ペナルティを受け入れ断られてしまえばそれまでだ。 善子はなすすべなく殺されて終わるだけだろう。 愛美が決闘を受けるかどうか。 善子にとって一番の賭けはここからである。 ルール確認が終わったのか。 メニューを閉じた愛美がふぅと息を吐くとシェリンへと問いかける。 「ペナルティと言うのは具体的にどうなるのかしら?」 『警告としてランダムにスキルが失われます、三度目の違反をした時点でアカウントが消去されます』 つまりこの挑戦を断ったところでペナルティはスキルの消滅で済まされると言う事だ。 10を超えるスキルを持つ愛美からすれば大した痛手ではない。 一つや二つ減ったところで愛美の完全性は損なわれないだろう。 しかし、その一つが完全魔術である場合、話は変わってくる。 完全魔術が失われてしまった時に取り込んだ魂がどうなるのか。 答えは不明である。 世界全てを己がものとする彼女の運命力ならば、都合の悪い事など起こるはずもない。 完全魔術がピンポイントで消滅するなどあり得ない話なのだが。 「……………………」 彼女にしては珍しく、逡巡するように視線を空に泳がせた。 普段の彼女であれば迷いなく[いいえ]を選択できただろう。 だが、今回ばかりは天秤に乗せられた対価が重すぎる。 己が魂の片割れを代償としてようやく獲得した完全なる魂。 それを失うリスクが万が一どころか億が一でもある以上、無視はできない。 長い沈黙の後、大きく息を吐く。 愛美は己が天運を信じることはあっても運命を他者に任せる事などしない。 全て自らの手で勝ち取るまでだ。 「――――いいわ、受けましょう」 そう言って愛美は[はい]を選択した。 この瞬間、決闘は成立した。 『双方の同意を確認しました。決闘の成立をお知らせします』 【挑戦者】:美空ひかり 【対戦者】:陣野愛美 【決闘種目】:アイドル 「けどアイドル……アイドルねぇ…………?」 愛美が頬に指をやりながら悩ましそうにつぶやく。 起死回生の策として選んだからには余程自信のある種目なのだろう。 それはつまり。 「わざわざこんな種目を選んだってことは、あなたアイドルなのかしら?」 そんな今更すぎる疑問を投げかけた。 愛美には異世界召喚による1年の空白がある。 この1年で台頭したアイドルに関しては把握していない。 そのため、世間をにぎわしたアイドルランキング1位。アイドル界の頂点を知らない。 それは致命的な情報の欠如だが、愛美の人を見る目は確かだ。 他者に興味を持たず見もしないことは多々あれども、芸術の類に関しての審美眼は半端な鑑定士よりも上だろう。 そんな愛美の眼から見て、目の前の相手には魅力も脅威も感じなかった。 少なくとも、アイドルとして大したものには見えない。 愛美が決闘を受けた理由の一つである。 なによりどんな種目であろうとも負ける気がしなかった。 生まれ落ちた頃から抱えていた欠落を満たし、全身に溢れる全能感。 それほどに今の愛美は完成されていた。 「ええ。その通りよ」 アイドルフィクサーを持つ津辺縁児を攻撃した事により彼女は「アイドル」を失った。 それを理解しながら彼女は失ったアイドルで戦いを挑んだのだ。 これは善子にとってアイドルを懸けた戦いである。 その決意を示すように疑問をはっきりと肯定の言葉を返した。 「けどアイドルで戦うってなんなのぉ? まさか歌って踊って戦うって訳じゃないでしょう?」 決闘は受けたが、いざアイドルで競うと言われてもいまいちピンと来ていない。 その疑問に対して、提案者である善子は答えを用意していた。 「決闘方式は、アイドルバトル形式を提案するわ」 「何それぇ?」 愛美が首をかしげる。 いきなりアイドルバトルと言われても訳が分からなかった。 アイドルブーム自体は愛美たちが異世界に召喚される前からあったが、別段興味があったわけではない。 他者を応援するなどと言う価値観が愛美にあるはずもない。 流石に秋葉レイくらいは知っているが界隈に詳しいわけではなかった。 『外部ネットワークに接続します、検索完了しました。『アイドルバトル』の対戦ルールを展開します』 答えの先を紡いだのは善子ではなくシェリンだった。 ウィンドウが二人の目の前に表示される。 【アイドルバトル・ルール説明】 ●基本ルール アイドルランキングトップ10に入ったアイドルのみが挑戦権を持つ。 挑戦は各アイドルに1度きりとする。 挑戦者は自分よりも上位のアイドルを対戦相手に指名できる。 挑戦があったことはメディアに告知され、挑まれたアイドルは記者会見で諾否を表明する事。 挑戦者が勝利した場合、挑戦者は対戦相手のランキングまでランクを上昇でき、敗北したアイドルは1ランク降格する。 挑戦者が敗北した場合、そのアイドルはランキングから除外され、一ヵ月の活動停止とする。 活動再開後のランキングはこれまでの累計アイドルポイントを参照して決定される。 ●ライブについて アイドルバトルは特設アリーナにて行われる。 ライブのスタッフはアイドルバトル運営が中立のスタッフを用意するため、必要な演出や小道具は事前に申請する事。 対戦状況はネット配信で全世界にLive中継が行われる。 対戦方法は下記の2つから双方協議の上で決定する事。 2.パフォーマンスを同時に行う『ユニゾンデュオ』 ●パフォーマンスを行う楽曲について 『シャッフルメドレー』では各々が指定した自由楽曲によるパフォーマンスを行う。 『ユニゾンデュオ』では運営寄り指定された共通の課題楽曲によるパフォーマンスを行う。 ●勝敗の決定 審査方式は下記の3つから双方協議の上で決定する事。 1.各界の一流を審査員に取りそろえた審査員による『審査員方式』 2.ライブ会場に集まった観客によって判断する『ファン投票方式』 3.ネット投票によるリアルタイムの『全国民投票方式』 ●禁止事項 アイドルに対する暴力行為、脅迫、恐喝等の行為は即刻失格となる。 挑戦者による八百長試合は発覚次第、即時失格となり、以降の芸能活動を禁止する。 不正行為を発見した場合は直ちにスタッフへ通報し、対処を求めるものとする。 イベント期間中のいかなる理由においてもアイドル同士の私闘を禁じる。 当イベントを利用した賭博行為は禁止とする。 愛美は視線を動かし提示されたルールを読み込む。 この状況に見合わない部分は無視するとして、愛美が注目した点は。 「楽曲と言われてもねぇ、私にはそんなモノないんだけど」 アイドルとして持ち歌のある善子は問題ないのだろうが、一般人である愛美には持ち歌などという物があるはずがない。 彼女を称える吟遊詩人の唱ならばアミドラドの巷に溢れているのだが、愛美本人がそれを歌う訳にもいかないだろう。 『その場合、既存の楽曲からの選択になります。 全世界1億以上の楽曲がライブラリに登録されていますのでお好きな楽曲をご指定、又は選択してください』 「へぇ」 感心したような声を上げ、目の前に広げられた曲の一覧を眺める。 これから自らの命を懸ける事となる楽曲の選択をせねばならない。 だと言うのに、愛美は部屋で流すBGMでも選ぶような気軽さで世界中の音楽タイトルを眺めていた。 「それで、この勝負って誰がどうやって勝敗を判断するのぉ? 審査員や観客なんていないじゃない。まさかあなたが判断するわけぇ?」 そう言って、アルゴリズムで動く電子妖精を見つめる。 これほど高度な思考能力を有しているAIであれば判定もできるだろうが、アイドルライブと言った感性に左右されるものの判定まで出来るのかと言うのは疑問が残る。 『ご希望でしたらシェリンが判断することも可能ですが、必要ならば審査員はこちらで用意します』 「用意?」 シェリンの発したその言葉の意味するところが分からず、愛美のみならず二人して首を傾げた。 『観客が必要でしたら拡散した魂を元に観客を再現することも可能です。 会場を埋めるには人数が足りないため、同一個体の複製を用意することになりますが。 人間的感覚によって判断することを保証します』 「つまり、死人が判断するってことぉ?」 『厳密には異なりますが。そう捉えていただいても構いません』 その説明を聞き不愉快そうに善子は眉を顰めた。 対称的に愛美は気にした風もなく表情一つ変えることなく問い返す。 「それってぇ。死人の中に知り合いが居たらそっちを贔屓したりしないのぉ?」 『個人の関係性などは考慮されません、審査は公平に行われます。 あくまで人間的感性を引き出すための道具とお考え下さい』 つまりは死者による疑似的な観客を創り出して審査をさせる事ができるという事だろう。 「だとしてもネット投票は不可能じゃない?」 『必要ならばライブを全会場に中継し、参加者全体で投票を行うことも可能です』 その提案に懸念を示したのは善子だった。 「生存者に審査させるって……いきなりライブが流れたら邪魔になるんじゃない?」 『可能性は否定しません。考慮した上で選択頂ければよいかと』 真剣勝負の殺し合いの最中にアイドルライブが流れ始めたとして。 それに気を取られて死んでしまったなんてことになったら目も当てられない。 「生存者っていうのはどの程度いるのかしら?」 『具体的な数は回答出来ませんが、ごく少数とだけ回答いたします』 ふぅんと愛美は冷めた様子でつぶやく。 『それでは、アイドルバトルのルールに従い対戦方式と審査方式を協議の上で決定してください』 進行役のシェリンがそう指示する。 元ルールと同じく選択肢は三つ。 1.シェリンが機械的判断により審査する『AI審査方式』 2.死者の魂を再現して人間的感性で審査させる『死者審査方式』 3.ライブを会場中に流して生存者が判断する『生存者審査方式』 「協議の上で決めろって話だから一応聞いておくけど、あなたはどれがいいのぉ?」 愛美が善子に問いを投げた。 形式として意見を聞いておいてあげようという姿勢である。 「私は…………」 脳裏に浮かぶのは、彼女の運命の夜。 善子の知る最高のアイドルの姿。 伝説のアイドルに挑んだアイドルバトルの夜だ。 「…………私は観客審査方式を選びたいわ」 善子はあの日と同じ選択をした。 元よりそれに関しては同意見だったのか。 愛美も異議を唱えることなく同意する。 「そうねぇ。どうせなら観客は多い方がいいかしら。賑やかしとしてなら死者でもいいでしょう」 善子が忌諱して避けた死者という表現を躊躇いもなく使う。 両社の合意により審査方式は『死者審査方式』が選択された。 『審査方式が決定しました。それではパフォーマンスの先攻後攻を決定して下さい。 ご希望でしたらこちらでランダムに決定する事もできますので、必要であればお申しつけ下さい』 先行でインパクトを残し後攻の相手の印象を薄めるか。 後攻でより強いインパクトで相手の印象を塗り替えるか。 パフォーマンス順は戦略として非常に重要だろう。 「まずはお互いの希望を聞きましょうか」 善子がそう提案する。 互いの要望が被っていなければ問題ないのだから、まずはそれを確認すべきだ。 「そうねぇ。私はどっちでもいいわよ」 愛美は判断を投げた。 それは投げやりなようでそうではない。 そこに在るのは己は完全であるという絶対の自信。 先に歌うか後に踊るかなど、そんなものでは何も変わらない。 そんなもので揺らぐのは不完全だからだ。 完全であれば、それだけで勝利は自ずと転がり込んでくる。 それが愛美の哲学だ。 「…………なら、遠慮なく私は後攻を頂くわ」 善子の敷いたルールに従いながらも一分も乱れのない自我。 その揺ぎ無さに僅かに気圧されながら、善子は後攻を選択する。 『基本ルールが確定しました、更新したルールを表示します』 その後、アイドルバトルのルールをベースに話し合いによって不要なルールを省いて行った。 もっともその手の実現可能かどうかシェリンに確認する作業や細かい調整は殆ど善子が行ったが。 確定し更新されたルールが再表示される。 【アイドルバトル in 『New World』・ルール説明(改訂版)】 アイドルバトルはコロシアム特設アリーナにて行われる。 各々が指定した自由楽曲によるパフォーマンスを交互に行う。 審査は死亡した勇者の魂を再現した観客によって行われる。 支給品の使用は可とするが対戦相手への攻撃や干渉は不可とする。 マイクやライトなど会場設備は用意される、衣装やメイクなどは本人に関わるものは自前で用意する事。 必要な演出や事前に申請する事、自前の支給品は小道具として使用可能とする。 決闘期間中は対戦相手に対する暴力、脅迫、恐喝等の行為は禁止とする。 不正行為が発覚した場合は直ちに失格とする。 敗北、もしくは失格となった勇者は決闘の基本ルールに従い死亡する。 『種目に合わせてテクスチャを変更します』 燃え広がるように景色が変わる。 無骨なコロシアムが華やかなスタジアムに変貌してゆく。 余りにも現実離れした光景に作り物の世界だと改めて実感させられる。 『これより拡散した魂を収集、解析、再現、複製を解析します。 処理に少々お時間頂きますので、その間お二人にはそれぞれ控室で待機していただきます。 その間に楽曲の選択、演出内容を決定してください。 特殊演出なども不公平にならない範囲であれば可能な限り対応いたしますので、希望があれば事前にご申請ください』 その案内に従い、東と西の出入口に別れ、その先にある控室へとそれぞれ向かって行った。 コロシアムの中央に残った電子妖精が宣言する。 『それではアイドルバトル in 『New World』を開始します!』 ■ 同時刻、海を臨む教会にて。 もう一つの決闘は続いていた。 何もない空間に次々と火花が散る。 鋼と鋼がぶつかり合うテンポの速い音だけが楽器みたいに鳴り響いていた。 武器と素手による激戦は苛烈を極めていた。 剣と拳、異なる武器による攻撃の応酬は、もはや眼で追う事すら困難な速度で繰り広げられていた。 その身に確実に刻まれてゆく細かな傷だけが、確かに攻防があった証である。 繰り返すのは一手誤れば死という極限の領域。 その中で防御から徐々に攻撃へと比重を傾けて行く。 その度に互いに体に刻まれてゆく傷も大きくなって行った。 刻まれた傷は正義の方が目に見えて多い。 奇跡的に致命傷こそないものの、かすり傷程度のシャとは比べるべくもなかった。 実力差を考えればその健闘を称えるべきなのだろうが、生憎と実戦においてそのような慰めに意味など無い。 勝つか負けるか、生きるか死ぬか、それだけである。 正義は速さで上回る相手に対して、動きの緩急で喰らいついていた。 流水のような動きを捉えるのは如何に速さで上回る相手であろうとも容易ではないだろう。 されど、それを捕えてこその一流の殺し屋である。 シャは正義に動きを合わせるように、足取りを流水のように流した。 同じ波なら必然、質のいい方が勝つ。 正義の動きを捉えたシャが前に出へと踏み出す。 だが、シャが足を止められる。 その動きを制する様に横合いから斬撃が放たれたからだ。 同じ波なら質のいい方が勝つ。 足運びに関しては正義の方が上だった。 ――――戦いづらい。 シャの正義に対する感想である。 強さで言えばシャの方が上だ。 正体不明の強化を加味しても脅威を感じるほどではない。 だが、正々堂々と言ったお上品な顔をしているが、意外と戦い方はイヤらしい。 先ほどの斬撃もそうだが、正義はあえて右側に攻撃を集中させている。 最大の脅威である右腕を防御に徹しさせるための狙いだろう。 これにより致命傷を避けている。 あの格闘家の様な世捨て人ならまだしも、平和な日本の若者がこれほどの立ち回りの出来る経験をどこで得たのか。 その背景をシャは朧気ながらに理解し始めていた。 拳を合わせれば相手の人生が理解できる。 殴り合いは言葉以上のコミュニケーションだ。 そこにはその人間がそれまで積み重ねてきた全てがある。 大和の家に生まれた者は幼少の頃よりあらゆる武術を叩きこまれる。 武芸百般に留まらず、世界中のあらゆる武器や武術、流派に至るまで一通りだ。 無論、武術はそう簡単に修められるものではない。 触り程度の基礎を学んでは、渡り鳥の様に次の道場へ向かう。 それを元服である15まで繰り返すのだ。 一見、不効率とも言える行為だが。 その目的は大まかに分けて三つある。 一つは武の広さを知るため。 実戦において無知ほど恐ろしいものはない。 武の多様性を知る事で実戦における想定外を無くす。 そして徹底的に武に身を浸し精神を『大和』に作り替える儀式である。 一つは己の適性を見極めるため。 必然、得意のみならず不得意も知れる。 学んだ武術の中から適性のある武術を選んで学んでゆく。 特定の流派に拘らず護国を旨とする家系だからこそ出来る手法である。 一つは敵の心理を知るため。 長物を扱う者。飛び道具を扱う者。暗器を扱う者。 その武器で何がしたくて、何をされれば嫌か。 実際に武器を取ってみないと分からない心理を理解するためである。 素手の心理はこれ以上ないほど理解している。 そこに数多の武術を学んできた経験を組み合わせれば、的確に相手の嫌がる事が出来る。 これが正義の強さの背景だ。 手合わせの中で正義の強みが何であるかシャは理解したが。 それはあくまで、これまでの人生で正義が磨き上げてきたモノだ。 そこに乗る、この世界における新たな法則までは読み取れない。 それを見極められるかどうか、そこが勝敗を分ける要素となるだろう。 拳を合わせれば相手が理解で出来る。 その価値観は正義にも共通したものだ。 だが、ここまで命を削り合いながら、正義にはシャと言う男の背景がまるで分らなかった。 正確には、分からないと言う事が分かった。 シャは特定の型を持たない。 時に武とは思えぬ獰猛な暴すらをも見せている。 形意拳をベースとしているようだが、それすらも定かではなかった。 背景も正体も不明。 ただ確かなのはその強さと、その強さが実戦において鍛え上げられたものであると言う事だけだ。 天才性を持って実戦で鍛え上げた力に、地道な努力を持って道場で鍛え上げた力で拮抗する。 修練が実戦で鍛えた力に劣るなどと言う道理はない。 こう言った手合いを想定して己を磨き続けてきたのだ、ここで負ける訳にはいかない。 義手と日本刀が幾度目かの衝突を見せた。 衝突点を中心に空気が弾ける。 だが今回に限って、弾けたのは空気だけではなかった。 弾いたシャの腕より、煙幕のような細かい砂と氷が散った。 叩いた黒板消しのように義手に込められた属性が二次的に拡散されたのである。 一瞬の目晦まし。 その隙に、腕を弾かれた勢いを利用しシャは身体を回転させる。 直撃すれば容易く下顎を吹き飛ばす威力の廻し蹴りが放たれた。 だが、正義はその蹴りを仰け反る事で紙一重で躱した。 自ら後方に跳ぶと片足で着地して、そのまま距離を取るように後退する。 その様を見て、蹴り足をプラプラとさせたままシャがシタリと笑うと自らの両目に指をやった。 「――――眼ダナ。眼がイイんダ」 先ほどの回し蹴り。 その足先には小さな氷の刃が突き立っていた。 紙一重で躱せば目が切り裂かれる仕掛けである。 それを正義は氷まで正確に見極めた上で、紙一重で躱した。 尋常な動体視力では不可能な芸当である。 スキルによって得た正義の持つ最大の強みを理解した。 それが知れれば、やり様はいくらでもある。 シャが深く構える。 するとシャを中心に渦を巻くように砂が舞い散った。 海沿いの教会に砂嵐が巻き起こり、暗殺者の姿を隠す。 正義の目を封じるための仕掛けだろう。 だが、この程度の砂嵐など最高位の観察眼をもってすれば目晦ましにもならない。 正義が砂嵐の先にあるシャの動きを追う。 砂のカーテンを突き破り、気が数発飛んで来るが、正義は苦もなくそれを躱す。 この程度のかく乱に惑わされる正義ではなかった。 周囲に舞う砂によって不可視の気はむしろ見やすくなったくらいである。 全ての攻撃がシャを基点とする以上、シャ本体を見逃さなければ攻撃に対処するのは難くない。 これまで以上の集中力で敵を凝視する。 どれだけ紛れようとも、この観察眼は決して敵を見逃さない。 むしろこの状況で不利になったのは視界を奪われたシャの方だろう。 そう確信する正義。 ステップを踏む様に攻撃を躱しながら、砂越しのシルエットに向けて攻撃を仕掛けようと刀を構え直す。 だが、そのタイミングで、想定外の方向から攻撃があった。 攻撃は上からあった。 砂嵐は太陽すら隠した。 その中でほんの僅かに罹った影 それのお蔭で気付けた。 観察眼がなければ気付くことすらできなかっただろう。 気付けば、正義の背後にあった教会が燃えていた。 正義の躱した炎の気が教会の壁に引火したのだ。 石造りの家屋はそう簡単に火の手は広るものではない。 だが、木造の屋根だけは話が別だ。 屋根は焼け崩れ、そこから巨大な十字架が倒れ落ちる。 正義は咄嗟にその場を飛び退き十字架の下敷きになるのを避けた。 如何に意表を突かれようとも、押しつぶされるようなへまはしない。 だが、その一瞬、決して見逃してはならない敵の姿を見失った。 周囲に舞う砂。教会の炎上。上からの十字架。 それら全てが注意を逸らし、この一瞬を獲得するための物だった。 観察眼でも捉えられぬ完全なる死角より一撃が放たれる。 「ッ…………ぁ!」 鋼鉄よりも硬い義手が頭部を掠め、ズルリと丸い頭蓋を滑った。 頭皮が蜜柑の皮みたいにベロンと捲れて、大量の血が流れる。 直撃は避けられた。 僅かでも反応できたのは観察眼に映らぬ相手だからこそ、死角から来ると予測していたからである。 視界が赤く染まるが構わず目を見開く。 この眼が正義の生命線だ。 閉じた時点で敗北が確定する。 体勢を崩しながら、正義が選択したのは攻撃だった。 赤い瞳で敵を見据え刀を振り上げる。 シャも当然、防御など取らない。 悪魔の右腕から防御も回避不能な絶対の死を秘めた一撃が放たれた。 互いの必殺が交錯する。 日本刀と義手が衝突した。 だが、正義に義手は断ち切れない。 それはこれまでの衝突で証明された事実である。 「什麼(なに)…………!?」 だが、驚愕は暗殺者の喉から漏れた。 鋼鉄よりも固いはずの義手は斜めに切り裂かれ、竹槍のように鋭利な断面を見せていた。 振り抜かれた刀の刃先は義手ごと胴を切り裂き、暗殺者から血飛沫が散る。 何らかの要因によって、正義は先ほどまで切り裂けなかった腕を切り裂いたのだ。 その瞬間、シャは理解した。 正義の獲得したスキルと、その発動条件を。 スキル【背水(A)】 それは追い込まれれば追い込まれる程、攻撃力が増加するスキルである。 ロレちゃんより託されたGPを使用し、この決闘に備えて正義が獲得した奥の手がこれだ。 先の戦闘で正義は自らの力がシャに劣ることは理解していた。 故に、勝負が劣勢になることは目に見えていた。 だからこそ、このスキルが適格だった。 背水、明鏡止水、そして水の支配権。 全ては水に通ずる。 逃げ場のない袋小路の小島を指定したのも背水の陣を敷くためか。 だが、殺し屋に動揺はなかった。 背水の一撃は義手を切り裂き胴体を切り裂いたが、薄皮を一つ裂いただけだ。 肉にも骨にも届いてはいない。 素手の有利。 踏み込みを止めずさらに前へ。 振りぬいた刀を返すよりも、拳の方が圧倒的に早い。 だが、刃より拳より早いものがあった。 言葉だ。 「その腕、まるで凶器のようだな」 その矛盾を指摘する。 瞬間、全てがひっくり返った。 「!?」 拳を放つシャの動きが目に見えてガクンと落ちた。 それは『武器を持つと弱体化する』という【素手格闘】のデメリット。 ゲーム開始時のアバター作成。 正義は実に1000超える選択可能な汎用スキルに一通り目を通し、その効果を全て記憶していた。 とりわけ格闘に関するスキルはよく覚えている。 その中でこれまでの戦いで得た情報からシャのスキルを推測していた。 決め手となったのは日本刀を手放した際に発揮された異常なまでの筋力だ。 これにより正義はシャの持つスキルが【素手格闘】であると言う確信を得た。 義手は体の一部だと主張することはできるだろう。 気功も体の内から生じたものであると言い張ることもできるだろう。 だが、ここまで鋭利な金属を装備していては言い訳できない。 この刹那。 ステータスの上昇補正が下降補正にひっくり返る。 その落差に然しもの暗殺者も戸惑いがあった。 戸惑いは瞬きにも満たぬ一瞬。されど勝負を分けるに十分な致命的な一瞬である。 拳よりも早く切り返された刃が、再び暗殺者を切り裂いた。 深く踏み込んだ一撃は胴を深く切り裂き、シャワーのように鮮血が噴き出す。 致命の一撃を喰らったシャの体が力なく沈んでゆく。 刀を振り抜いた正義は残心を忘れず、油断なく相手を見つめる。 その広い観察眼が、倒れ行く暗殺者の瞳を捉えた。 その瞬間、正義の背筋が氷の様に凍った。 暗い光を宿した虚のような瞳が、カッと見開かれた。 胸元から噴き上げる自らの血の雨を浴びながら、振り子のような勢いで上体を引き戻す。 「―――――――――――ハハッ!」 口元には亀裂の様な笑み。 斬撃の当たる直前、シャは咄嗟に体を捻って致命傷を避けていた。 これはスキルなどではない、殺し屋として多くの経験を重ねてきた純粋な技量によるものだ。 加えて【素手格闘】とは違う、もう一つのSランクスキル【気功】。 その全てを防御に回して致命傷を防いでいだ。 隠し玉の【背水】、相手の【素手格闘】を逆手に取った二重の奇襲でも仕留めきれなかった。 シャは瞬時に装備から義手を外し、マイナス補正から脱却する。 「尓輸了,尓不能用兩撃殺死(二撃で殺せなかったお前の負けだ)!!!」 叫び。踏み込む。 攻撃を振り下ろした直後の正義には反応できない。 鉄板すらも容易く貫くシャの抜き手が正義の腹部へと深々と突き刺さった。 瞬間。直接体内に送り込まれた炎の気が風船の様に膨らんで、腹部の肉を吹き飛ばしながら爆発した。 白に至る 後編
https://w.atwiki.jp/df_another/pages/145.html
神々に至る階段 キトス=タートス領地にて発見された、神々がおわしますという地へと続くと言われている場所。地下深くまで続いており、その中に天使(?)がいた。そこから先は封印されたために、調査不可能。 -- GOGH (2006-01-15 22 36 54) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/cardxyz/pages/1351.html
* 絶対者に至る力 サポートカード コストN2 全知全能をデッキから手札に加えてもよい。 合計ステータス30以上の自分のキャラクターカードを選ぶ そのキャラクターが全知全能を使用する時、発動コストを半分にし 発動から5ターン後に得る効果を4ターン後に得る事にする。
https://w.atwiki.jp/verseir/pages/21.html
現在に至る歴史
https://w.atwiki.jp/testest-umigamedb/pages/2538.html
2022年5月9日 出題者:aka_suteneko タイトル:「死に至る祈り」 【問題】 男は多くの人に祈られたため、病んでしまった。 一体どういうこと? 【解説】 + ... 男は就活生で不採用通知、いわゆるお祈りメールをたくさんもらったため病んでしまったのだ。 《知識》《瞬殺》 配信日に戻る 前の問題 次の問題
https://w.atwiki.jp/imas/pages/311.html
dodoP(げぼくのかがみ) 'ヽ,_ァ' ,ィ'/⌒ヽ .┌ i !'/'"`"i │伊織派PVの第一人者といえば、dodoPね♪ |!(l ^ヮ゚ノ!< シンクロもさることながら、ストーリー性の高い演出も注目! ノ'⊂rハlつ │祭りにも積極的に参加するとは下僕の鑑ね、にひひっ♪ ( くノ_),)ノ └ し'ノ 俺ランキング 1周年記念 最新作 MMD春香さん \かわいい/ 代表作 +07年代表作一覧 切り抜きの一枚絵を主体としたストーリー性の高い作品。 「別れ」を二つの曲を組み合わせて表現しており、その相乗効果は計り知れない。 伊織様の表情に、dodoPの深い愛を見た。 DLCジェバンニながら、演出と曲補正で最大再生数を誇る。 +08年代表作一覧 誕生日当日投下の本命作。いおりんの魅力を最大限に引き出す選曲とシンクロ。伊織派のエースdodoPの面目躍如。 +連日投下した誕生祭動画一覧 ロリトリオでモモーイな第四弾。 釘宮繋がり。アップ多用で表情変化とリップシンクロで魅せる。伊織派のdodoPに隙は無かった。 原作を意識した配役で、さりげなく衣装違いデュオ。 im@s MAD Survival Championship II参加作品。 亜美真美誕生祭動画。モキュモキュモキュモキュモキュモキュモキュモキュ 公式トレーラーを使ってのまさかのジェバンニ ReProduction 懐かしきデジタルワールドの香り こういうのもあります 合作「Medley For You!」(代表18P) [01 Labyrinth]ネタ満載のハラヘリやよい 映像制作 合作「七色のニコニコ動画」(代表一九P) [45 時報]おやすみ前の最後の仕事 合作「MASTER SPECIAL MEDLEY」(代表二十P) [Track 02 乙女よ大志を抱け!!]!?なぜ●●したし ニコ動一覧 タグ-dodoP マイリスト ニコニコ大百科-dodoP 使用ソフト Premiere Elements 3.0 メインの動画編集ソフト Photoshop 6.0 静止画加工等に使用 Illustrator 10 タイトルなどの作成 aviutl 0.99 リサイズなど VirtualDub 1.6.0 主に字幕入れに使用 SEffect 1.53 ちょっとしたマスクがけや、静止画切り抜き flvenc エンコ用 その他細々した物 最終更新:2010/04/18 Sun 16 06 当ページの訪問者数 合計 - 人 本日 - 人 昨日 - 人 タグ一覧: KAKU-tail3 P名 P名_D im@sMSC2 im@sMSC3 デビュー2007.8上旬 合作「MASTER SPECIAL MEDLEY」参加P 合作「Medley For You!」参加P 合作「七色のニコニコ動画」参加P 大百科収録P 投稿数50作品以上
https://w.atwiki.jp/hmiku/pages/55128.html
【検索用 けついにいたるみちしるへ 登録タグ IA VOCALOID け 初音ミク 曲 獅子神 秋月堂】 + 目次 目次 曲紹介 歌詞 コメント サークル『ゆずぽんれぎおん』 作詞:秋月堂(Twitter) 作曲:獅子神 編曲:獅子神 唄:IA 曲紹介 曲名:『決意に至る道標』(けついにいたるみちしるべ) 歌詞 (動画より書き取り) 聞こえてたんだ 過去からの金切り声 いつも 悲しそうな言葉 並べ 寂しいんだと 同情を誘ってたんだ みっともないと 判りながら 違う可能性は 何も無い筈だと 決め付けて 躊躇して 未熟すぎる迷い 断ち切れる筈だと 持て余す程の 想いをかざして 繰り返した 愚かの先 満たされない 不幸の渦に 不釣り合いな 希望が舞い込む まるで 蜘蛛の糸のように 「アキラメズニ ススミナサイ」 不確かな 神様のお告げ 到底 信じる気になれずに 衝動的に 切り捨てた 沈む闇で 時間が止まった終末 涸れ果てるまで 泣き叫んだ 失った全てを 取り戻すためなら 何もかも 変えていい 久遠に霞む空 示す世界の為 戦いを見据えて 今 歩き出せ この迷路の 行き止まりを 突き破る力は 無いけど 遠回りで進むと 胸に秘め 孤独の荒れ地 果てなく 「アキラメレバ ラクニナルゾ」 嘲笑う 悪魔の囁き 到底 信じる気になれずに 衝動的に 切り捨てた I can reach my desire if you are by my side. Don't be afraid to go on our brightness gate of tale. 決意を揺るがす 昏い声が まだ弱い 自分を呼ぶ まだ終わらない 今 始まる かき消すための 道しるべは 「さあ この手を取るんだ」と 差しのべた 出会いと 別れの合図 「諦めるな これからだろう?」 奇跡にも似た 君の願い 今ならば 信じる気になれたよ もう迷うことはないから いざ 戦いへの序章へ―― コメント 名前 コメント